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事件 平成 29年 (ワ) 9201号 特許権侵害差止等請求事件
5 当事者の表示別紙当事者目録記載のとおり
裁判所 大阪地方裁判所
判決言渡日 2019/06/20
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1 被告らは,別紙物件目録記載1及び2の各製品を販売し,又は販売の申出をしてはならない。
2 被告サラヤ株式会社は,前項の各製品を製造してはならない。
10 3 被告サラヤ株式会社は,原告に対し,683万6000円及びこれに対する平成31年1月18日から支払済みまで年5分の割合による金員(ただし,うち341万8000円及びこれに対する平成31年1月18日から支払済みまで年5分の割合による金員の限度で,被告東京サラヤ株式会社と連帯して)を支払え。
4 被告東京サラヤ株式会社は,原告に対し,被告サラヤ株式会社と連帯し15 て,341万8000円及びこれに対する平成31年1月18日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
5 原告のその余の請求をいずれも棄却する。
6 訴訟費用は,原告と被告サラヤ株式会社との間においては,これを10分し,その3を原告の負担とし,その余を被告サラヤ株式会社の負担とし,原告と20 被告東京サラヤ株式会社との間においては,これを10分し,その3を原告の負担とし,その余を被告東京サラヤ株式会社の負担とする。
7 この判決は,第3項及び第4項に限り,仮に執行することができる。
事実及び理由
請求
25 1 主文第1項及び第2項と同旨。
2 被告らは,別紙物件目録記載1及び2の各製品を廃棄せよ。
1 3 被告サラヤ株式会社は,原告に対し,被告東京サラヤ株式会社と第4項の限 度で連帯して,1464万円及びうち1220万円に対する平成29年10月12 日から,うち244万に対する平成31年1月18日から,各支払済みまで年5分 の割合による金員を支払え。
5 4 被告東京サラヤ株式会社は,原告に対し,被告サラヤ株式会社と連帯して, 732万円及びうち610万円に対する平成29年10月12日から,うち122 万円に対する平成31年1月18日から,各支払済みまで年5分の割合による金員 を支払え。
事案の概要
10 1 本件は,発明の名称を「シリコーン・ベースの界面活性剤を含むアルコール 含有量の高い発泡性組成物」とする発明に係る特許権(特許第5891575号。
以下「本件特許権」といい,これに係る特許を「本件特許」という。)を有する原 告が,被告サラヤ株式会社(以下「被告サラヤ」という。)が製造し,同被告及び 被告東京サラヤ株式会社(以下「被告東京サラヤ」という。)が販売する速乾性手15 指消毒剤である別紙物件目録記載1及び2の各製品(以下,同記載1の各製品を 「被告製品1」と,同記載2の各製品を「被告製品2」とそれぞれ総称し,また, これらを併せて「被告各製品」という。)がいずれも,本件特許の請求項1,5及 び6に係る各発明(以下,請求項の番号に従って「本件発明1」のようにいい,ま た,これらを併せて「本件各発明」という。)の技術的範囲に属するとして,被告20 らに対し,以下の各請求をする事案である。
(1) 差止請求 ア 被告らに対する請求 本件特許権に基づく被告各製品の販売等の差止請求(特許法100条1項) イ 被告サラヤに対する請求25 本件特許権に基づく被告各製品の製造の差止請求(同項) (2) 廃棄請求(被告らに対する請求) 2 本件特許権に基づく被告各製品の廃棄請求(同条2項) (3) 損害賠償請求 ア 被告サラヤに対する請求 本件特許権侵害不法行為に基づく損害賠償金1464万円及びうち1220万 5 円に対する不法行為後の日である平成29年10月12日(訴状送達の日の翌日) から,うち244万円に対する平成31年1月18日(訴えの変更申立書送達の日 の翌日)から,各支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払請 求(なお,次項記載の限度で,被告東京サラヤと連帯しての支払を請求するもので ある。)10 イ 被告東京サラヤに対する請求 本件特許権侵害不法行為に基づく損害賠償金732万円及びうち610万円に 対する不法行為後の日である平成29年10月12日(訴状送達の日の翌日)から, うち122万円に対する平成31年1月18日(訴えの変更申立書送達の日の翌 日)から,各支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払請求15 2 前提事実(当事者間に争いがないか,後掲書証〔なお,枝番のあるものは, 枝番を含むことがある。〕及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実) (1) 当事者 ア 原告 原告は,手指消毒剤の製造販売等を主たる事業とする「デブ グループ リミテ20 ッド」のグループ会社であり,同グループの知的財産権の保有・管理を行う外国法 人である(弁論の全趣旨)。
イ 被告ら 被告サラヤは,業として,手指消毒製品を含む衛生関連製品等の製造及び販売等 を行う株式会社である。また,被告東京サラヤは,業として,手指消毒製品を含む25 衛生関連製品等の販売等を行う株式会社である。被告らは,同一の企業グループに 属し,被告サラヤの代表取締役であるP1が被告東京サラヤの代表取締役でもある 3 こと(甲19,20),被告サラヤが製造した被告各製品について,同被告が九州, 中国,近畿及び東海地方における販売等を,同被告から仕入れた被告東京サラヤが 関東,東北及び北海道地方における販売等をそれぞれ担当していることに表れてい るように,経済的に密接な関係にある。
5 (2) 本件特許権 特許番号 第5891575号 発明の名称 シリコーン・ベースの界面活性剤を含むアルコール含有量の高い発 泡性組成物 登録日 平成28年3月4日10 出願日 平成25年8月13日 出願番号 特願2013-167939(なお,本件特許に係る出願は,平成1 8年3月7日に特許出願に基づく優先権優先日:平成17年3月7日,優先基礎 出願:米国仮出願60/658580〕を主張してされた特許出願〔特願2008 -500017号,以下「親出願」という。〕の一部を新たな特許出願〔特願2015 13-141342号〕とした後,更にその一部を新たな特許出願としたものであ る。) 特許請求の範囲 別紙特許公報記載のとおり なお,本件特許の出願願書に添付された明細書及び図面を,以下「本件明細書」 という。
20 (3) 特許無効審判請求等 被告サラヤは,本件特許の請求項1,5及び6等に係る発明について,@明確性 要件違反,A実施可能要件違反,Bサポート要件違反,C進歩性欠如等の無効理由 があるとして,特許無効審判を請求したところ,特許庁が請求不成立とする審決を したことから(甲23。以下「本件審決」という。),審決取消訴訟を提起した25 (知的財産高等裁判所平成29年(行ケ)第10113号)。これに対し,同裁判 所は,平成30年10月25日に請求棄却判決をし(甲37),同判決はその後確 4 定したことから,本件審決は確定した(弁論の全趣旨)。
(4) 構成要件の分説 本件各発明を構成要件にそれぞれ分説すると,別紙構成要件目録に各記載のとお りである。
5 (5) 被告らの行為 被告サラヤは,平成27年10月ないし同年11月頃,被告製品1の製造を開始 し,被告らは,それぞれ,同年11月25日頃〜平成31年1月10日頃までの間, 上記(1)イで指摘した商流に従って,被告製品1を販売及び販売の申出をした。
また,被告サラヤは,平成28年5月頃,被告製品2の製造を開始し,被告らは,10 それぞれ,同年6月1日頃〜平成31年1月10日頃までの間,上記(1)イで指摘 した商流に従って,被告製品2を販売及び販売の申出をしていた。
3 争点 (1) 技術的範囲の属否(構成要件1A及び1C〔5B,6B〕の充足の有無。争点 1)15 (2) 無効理由の存否(争点2) ア 明確性要件違反の有無(争点2-1) イ 実施可能要件違反の有無(争点2-2) ウ サポート要件違反の有無(争点2-3) エ 進歩性欠如の有無(争点2-4)20 (3) 原告の損害額(争点3)
争点に関する当事者の主張
1 争点1(技術的範囲の属否〔構成要件1A及び1C{5B,6B}の充足の 有無〕)について (原告の主張)25 (1) 被告各製品の構成は,別紙被告各製品の構成に各記載のとおりである。
(2) 被告各製品は,本件発明1の構成要件1B及び1D,本件発明5の構成要件5 5 A及び本件発明6の構成要件6Aをそれぞれ充足する。
(3) 被告各製品は,以下のとおり,構成要件1A及び1Cを充足する。
ア 「発泡性アルコール組成物」(構成要件1A)及び「泡が形成される発泡 剤」(構成要件1C)について 5 (ア) 被告各製品は,いずれも,その製品情報等に「泡」状の手指消毒剤であること が明記され,また,実際にポンプ式のディスペンサー(無加圧ディスペンサー)か ら吐出されることにより泡が生成されることから,発泡性組成物である。
したがって,被告各製品は,「発泡性アルコール組成物」(構成要件1A)及び 「泡が形成される発泡剤」(構成要件1C)に当たる。
10 (イ) 被告らは,本件明細書の実施例20及び34の各組成物が泡を生成しなかった ことを前提に,上記各組成物の構成と被告各製品の構成とを比較して,被告各製品 が「発泡性アルコール組成物」,「泡が形成される発泡剤」に当たらないと主張す る。
しかし,本件明細書の実施例20については,その記載のとおり「泡の生成」欄15 の記載は「有」で正しく,他方,実施例34の同欄の記載は「有」の誤記であり, 当業者は,本件明細書の他の記載と併せ,そのように理解する。このことなどから, 被告らの主張はその前提を欠く。
イ 「低い圧力で空気と混合されるときに発泡性」(構成要件1A)及び「組成 物を空気と混合するディスペンサーポンプを有する無加圧ディスペンサーから分配20 されるときに,該発泡性アルコール組成物が空気と混合されて泡が形成される」 (構成要件1C)について 本件明細書の記載(【0040】等)によれば,「低い圧力」(構成要件1A) とは,「無加圧容器から泡を分配するときのような大気圧付近又はそれ以下の圧 力」をいう。また,本件明細書の記載(【0066】等)によれば,「ディスペン25 サーポンプを有する無加圧ディスペンサー」(構成要件1C)とは,噴射剤等によ り圧力がかかっている加圧容器ではなく,ポンプ式等のディスペンサーを意味して 6 おり,吐出の際に手で圧力を加えることにより内容物を分配するポンプ式のディス ペンサーもこれに該当する。したがって,「ディスペンサーポンプを有する無加圧 ディスペンサーから分配される」場合に加えられる圧力と「低い圧力」は同義であ る。
5 被告各製品には,いずれも容器内が加圧されていない手動ポンプ式ディスペンサ ーが用いられており,当該ディスペンサーから分配されるときに泡状となるもので ある。すなわち,被告各製品は,「低い圧力で空気と混合されるときに発泡性」で あり(構成要件1A),「組成物を空気と混合するディスペンサーポンプを有する 無加圧ディスペンサーから分配されるときに,該発泡性アルコール組成物が空気と10 混合されて泡が形成される」発泡剤である(構成要件1C)。
ウ 「生理的に許容される」(構成要件1C)について 本件明細書の記載(【0035】)によれば,「生理的に許容される」(構成要 件1C)とは,「皮膚に適用したときに刺激又は毒性を通常生じることがなく…ユ ーザーによって受け入れられる」ことをいう。
15 被告各製品は,いずれも,滑らかなシリコーンの感触を付与するものであること などに照らせば,「生理的に許容される」(構成要件1C)シリコーン・ベースの 界面活性剤を含む発泡剤である。
(4) 構成要件5B及び6Bについて 被告各製品は,本件発明1の構成要件を充足することから,構成要件5B及び620 Bを充足する。
(被告らの主張) (1) 被告各製品につき,これらが発泡性組成物であること(a1,a2)及びbis- PEG-12ジメチコーンの量(c1,c2)は否認する。その余は認める。
bis-PEG-12ジメチコーンの量は,被告各製品ともに1.00重量%である。
25 (2) 被告各製品が本件発明1の構成要件1B及び1D,本件発明5の構成要件5A 及び本件発明6の構成要件6Aを充足することは認める。
7 (3) 被告各製品は,以下のとおり,構成要件1A及び1Cを充足しない。
ア 「発泡性アルコール組成物」(構成要件1A)及び「泡が形成される発泡 剤」(構成要件1C)について 本件明細書の実施例20の組成物は,本件明細書上,泡が生成しなかった旨が記 5 載されていると解される。この組成物と比較して,被告各製品は,いずれもエタノ ール濃度が近似し,起泡剤であるbis-PEG-20ジメチコーン濃度が大幅に低いことに 照らせば,発泡性組成物ではない。また,本件明細書の実施例34の組成物は,本 件明細書上,「泡の生成」欄が「無」とあるとおり,泡が生成しなかったとされて いる。この組成物と比較して,被告各製品は,いずれも消泡剤であると考えられて10 いたエタノール濃度が高く,起泡剤であるbis-PEG-20ジメチコーン濃度が近似する ことに照らせば,発泡性組成物ではない。
イ 「低い圧力で空気と混合されるときに発泡性」(構成要件1A)及び「組成 物を空気と混合するディスペンサーポンプを有する無加圧ディスペンサーから分配 されるときに,該発泡性アルコール組成物が空気と混合されて泡が形成される」15 (構成要件1C)について 「低い圧力で空気と混合されるときに発泡性」(構成要件1A)の「低い圧力で 空気と混合」とは,薬液と空気を大気圧付近以下の圧力を加えて混合することを意 味すると解され,これは「ディスペンサーポンプを有する無加圧ディスペンサーか ら分配される場合」に加えられる圧力よりも低い。しかるに,被告各製品には手動20 ポンプ式ディスペンサーが用いられており,吐出の際に手で圧力を加えることによ り内容物を分配されている。そうすると,被告各製品は,「低い圧力で空気と混合 されるときに発泡性」(構成要件1A)を示すものとはいえないし,「無加圧ディ スペンサー」が用いられているとはいえないことから,「組成物を空気と混合する ディスペンサーポンプを有する無加圧ディスペンサーから分配されるときに,該発25 泡性アルコール組成物が空気と混合されて泡が形成される」(構成要件1C)発泡 剤でもない。
8 ウ 「生理的に許容される」(構成要件1C)について 被告各製品が「生理的に許容される」シリコーン・ベースの界面活性剤を含む発 泡剤であることは否認する。ある界面活性剤が「生理的に許容される」か否かはそ の用いられ方によって異なり,bis-PEG-12ジメチコーンそのものが滑らかなシリコ 5 ーンの感触を付与するものではない。
(4) 構成要件5B及び6Bについて 被告各製品は,本件発明1の構成要件1A及び1Cを充足しないから,構成要件 5B及び6Bを充足しない。
2 争点2-1(明確性要件違反の有無)について10 (被告らの主張) 本件各発明に係る特許請求の範囲の記載は,以下のとおり,特許法36条6項2 号の要件(明確性要件)を満たしていない。
(1) 「低い圧力で空気と混合されるときに発泡性」における「低い圧力」について は,本件明細書上,「無加圧容器から泡を分配するときのような大気圧付近又はそ15 れ以下の圧力」を意味するとされている。
しかし,そのような大気圧付近又はそれ以下の圧力で発泡性アルコール組成物と 空気をどのように混合するのかは,技術的に理解し難く,本件明細書にも記載がな いため,不明確である。
(2) 「発泡性」については,泡を生じる性質を意味すると理解されるところ,本件20 明細書上,「泡」とは,「混合されて,可変長の時間持続する構造を有する小さい 気泡のマスを形成する液体及び気体」を意味するとされている。
しかし,「小さい気泡」とはどの程度の大きさのものをいうのか,「泡」と「気 泡」の違いは何か,「可変長の時間」がどの程度の時間をいうのかなどがいずれも 不明確であるため,どのような気泡のマス(集団)が「発泡性」に該当するのかが25 不明確である。
(原告の主張) 9 (1) 本件明細書の記載(【0040】等)を考慮すれば,「低い圧力で空気と混合 されるときに発泡性」とは,泡を分配するために噴射剤や加圧容器等といった「高 い圧力」を発生させるシステムを使用するときではなく,それと比べて相対的に 「低い圧力」,すなわち,手動ポンプ又は機械的手段等による無加圧ディスペンサ 5 ーから分配されるときに発泡性であることを意味する。そのことは,本件明細書を 参照した当業者にとって当然に理解可能である。
(2) 本件明細書や本件特許出願当時の技術的常識を参照にした当業者であれば, 「小さい気泡」とは,代表的用途である消毒用途において,目視により識別し易く なる程度の大きさの気泡をいうことを当然に理解する。このことなどから,「小さ10 い気泡」との用語を用いて定義される「泡」ないし「発泡性」との用語は,第三者 が不測の不利益を受けるほどに不明確とはいえない。
また,本件明細書(【0036】,【0037】)では,「泡」は「混合されて, 可変長の時間持続する構造を有する小さい気泡のマスを形成する液体及び気体」を いい,「気泡」は「液体のフィルムで取り囲まれた気体のセル」をいうとされてお15 り,両者を混同する余地はない。しかも,本件明細書の記載(【0002】,【0 041】等)を考慮すれば,本件各発明に係る「泡」は,従来,消毒用途に使用さ れてきた液体製剤やゲル製剤のようなものと比較して,薬剤の存在を目視により識 別しやすくなるものであるか否かという観点から,「気泡」と判別可能である。
さらに,本件明細書の記載を考慮すれば,無加圧ディスペンサーから分配された20 際に少なくとも数秒持続する,少なくとも相当程度の数の気泡が生成された場合に, 泡は生成されたといえる。そうすると,「可変長の時間」とは少なくとも数秒程度 の時間を意味するということは,当業者にとって理解可能である。
(3) したがって,本件各発明に係る特許請求の範囲の記載は,特許法36条6項2 号の要件(明確性要件)を満たす。
25 3 争点2-2(実施可能要件違反の有無)について (被告らの主張) 10 本件明細書の発明の詳細な説明の記載は,以下のとおり,特許法36条4項1号 の要件(実施可能要件)を満たしていない。
(1) 上記2(被告らの主張)(1)のとおり,本件明細書には,大気圧付近又はそれ 以下の圧力で発泡性アルコール組成物と空気をどのように混合するのかについて, 5 当業者が本件特許に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載さ れていない。
(2) 本件明細書の実施例33〜36の各組成物(エタノール:約69.6%v/v=62.00 重量%)について,「泡の生成」欄には「無」と記載されているところ,他の実施 例に係る記載等を併せ考慮すれば,「泡の生成」欄の記載と「泡の評価/記述/特10 性」欄の記載との間に一定の関係はない。このため,後者の欄に泡が生成したこと を前提とするかのような記載があるからといって,これを根拠に泡の生成があった とはいえない。
また,実施例17〜19の各組成物に係る「泡の評価/記述/特性」欄の記載を 比較すると,エタノール濃度の上昇に伴って生成する泡の質が低下して持続時間も15 短くなる傾向が見て取れることに,本件明細書の記載(【0060】,【008 7】)を併せて参酌すると,エタノール濃度が実施例17〜19の各組成物よりも 高い実施例33〜36の各組成物において,泡の生成があったとは直ちにはいえな いことなどに照らせば,同実施例に係る「泡の生成」欄の「無」の記載は「有」の 誤記ではない。
20 また,実施例20の組成物については,「泡の評価/記述/特性」欄が「…」と 記載されているところ,同実施例のエタノール濃度が実施例17〜19の各組成物 よりも高いことに鑑みると,泡は生成されなかったと解釈される。さらに,実施例 32の組成物は泡が生成されないことに,実施例13及び14の各組成物を比較す ると,bis-PEG-20ジメチコーンよりも3-(3-ヒドロキシプロピル)-ヘプタメチルトリ25 シロキサン,エトキシレーテッド,アセテートの方が泡の質及び持続時間を向上させる ことが見て取れることに鑑みると,実施例32の組成物と異なり発泡剤がbis-PEG- 11 20ジメチコーンである実施例20の組成物において泡の生成があったとはいえない。
以上の事情等に照らせば,実施例20の「泡の生成」欄の「有」の記載は「無」の 誤記である。
このように,本件明細書には,低級アルコールを約81.3%v/vより高い濃度で含有 5 する場合には本件特許に係る発明の課題が解決できないことが示されている。また, 低級アルコールを約67.7%v/vより高い濃度で含有する場合に本件特許に係る発明の 課題が解決できることを示す実施例は,記載されていない。
したがって,本件明細書には,当業者が本件特許に係る発明を実施することがで きる程度に明確かつ十分な記載はない。
10 (3) 上記2(被告らの主張)(2)のとおり,どのような気泡のマス(集団)が「発 泡性」に該当するのかについて,当業者が本件特許に係る発明を実施することがで きる程度に明確かつ十分な記載はない。
(原告の主張) 被告らが実施可能要件違反の根拠として指摘する点は,以下のとおりいずれも誤15 っており,本件特許に実施可能要件違反の無効理由は存しない。
(1) 上記2(原告の主張)(1)のとおり,本件明細書には,「低い圧力で空気と混 合されるときに発泡性」の意味について,当業者が本件特許に係る発明を実施する ことができる程度に明確かつ十分に記載されている。
(2) 本件明細書の実施例33〜36の各組成物は,「泡の生成」欄には「無」と記20 載されているものの,「泡の評価/記述/特性」欄には生成した泡に関する具体的 な記載がされている。また,実施例19の組成物は泡が生成したとされているとこ ろ,本件明細書には,評価が好ましく所望の持続時間の泡を得るには,高アルコー ル濃度では,bis-PEG-20ジメチコーン濃度を高める必要性がある旨の記載がある (【0087】等)。さらに,実施例33〜36の各組成物が,実施例19の組成25 物と比較して,エタノール濃度は近似する一方,bis-PEG-20ジメチコーン濃度は高 いことに照らせば,泡が生成したものであって,「泡の生成」欄の「無」の記載は 12 「有」の誤記である。
また,実施例20の組成物は,「泡の評価/記述/特性」欄には「…」と記載さ れているものの,本件明細書には,シリコーン・ベースの界面活性剤を使用するこ とにより,アルコール濃度が約90%v/vという高濃度である場合であっても,発泡性 5 組成物を得ることができるという記載がある(【0043】等)。しかも,本件明 細書には,評価が好ましく所望の持続時間の泡を得るには,高アルコール濃度では, bis-PEG-20ジメチコーン濃度を高める必要性があるとの記載もある。これらの記載 によれば,bis-PEG-20ジメチコーンを大量に含む実施例20の組成物は,泡が生成 したものであって,「泡の生成」欄の「有」の記載は正しい。
10 これらの記載を参照した当業者もそのように理解することから,本件明細書には, 当業者が本件特許に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分な記載が されている。
(3) 上記2(原告の主張)(2)のとおり,本件明細書には,「発泡性」の意味につ いて,当業者が本件特許に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に15 記載されている。
4 争点2-3(サポート要件違反の有無)について (被告らの主張) 本件特許に係る発明の課題は,これまで消泡剤と考えられていた低級アルコール (C1-4アルコール)を高い濃度(少なくとも40%v/v)で含有するにもかかわらず,20 噴射剤を用いることなく大気圧付近又はそれ以下の圧力で表面上に容易に広がる泡 として分配できる,低級アルコール高含有組成物を提供することにある。
しかし,上記3(被告らの主張)(2)のとおり,本件明細書の実施例33〜36の 各組成物に係る「泡の生成」欄の「無」という記載は「有」の誤記であるとは理解 されず,実施例20の組成物に係る同欄の「有」という記載は誤記と理解される。
25 そうすると,本件明細書には,低級アルコールを約81.3%v/vより高い濃度で含有 する場合には本件特許に係る発明の課題が解決できないことが示されている。また, 13 低級アルコールを約67.7%v/vより高い濃度で含有する場合に本件特許に係る発明の 課題が解決できることを示す実施例は,記載されていない。
したがって,本件明細書の発明の詳細な説明に開示されている内容は,本件特許 に係る発明の課題を解決できると当業者が認識できる範囲のものとはいえない。
5 (原告の主張) 上記3(原告の主張)(2)のとおり,本件明細書の実施例33〜36の各組成物に 係る「泡の生成」欄の「無」という記載は「有」の誤記であり,他方,実施例20 の組成物に係る同欄の「有」の記載は正しいと理解される。したがって,本件明細 書の発明の詳細な説明に開示されている内容は,本件特許に係る発明の課題を解決10 できると当業者が認識できる範囲のものである。
5 争点2-4(進歩性欠如の有無)について (被告らの主張) (1) 本件発明1 ア 本件特許は,平成18年3月7日に特許出願に基づく優先権(優先日:平成115 7年3月7日,優先基礎出願:米国仮出願60/658580)を主張してされた 親出願の一部を新たな特許出願(特願2013-141342号)とした後,更に その一部を新たな特許出願としたものである。
しかし,本件発明1には,「bis-PEG-[10-20]ジメチコーン」と記載されていると ころ,上記仮出願の出願書類には「bis-PEG-[10-20]ジメチコーン」に相当する記載20 はなく,これに包含される物質に関する記載は「bis-PEG-20 dimethicone」だけで ある。
したがって,本件発明1は上記仮出願を基礎とするパリ条約上の優先権の利益を 受けることはできず,本件発明1の進歩性の判断基準日は,親出願の出願日である 平成18年3月7日である。
25 イ 本件発明1は,C1-4アルコール,気泡剤及び水を必須成分として含み,更に任 意の成分を含み得るものであり,また,本件明細書には,その発泡性アルコール組 14 成物がフッ素化界面活性剤を含むことが好ましい旨記載されている。
他方,国際公開第2005/030917号公報(2005年(平成17年)4 月7日国際公開。以下「乙1公報」という。)には,以下の発明(以下「乙1発 明」という。)が開示されている。
5 (a) 組成物全体の約40%v/vを超える量のC1-4アルコール又はその混合物; (b) 組成物全体の少なくとも0.001重量%の量で存在している湿潤及び起泡に有効 なフッ素化界面活性剤;及び (c) 組成物全体を100重量%とする量で存在している水; を含む,発泡性組成物。
10 したがって,本件発明1と乙1発明との間の相違点は,構成要件1Cの構成を備 えるか否かという点のみである。
この点,特開2005-289994号公報(平成17年10月20日公開,以 下「乙2公報」という。)には,身体洗浄又は皮膚保護のために用いる発泡組成物 が開示されているところ,当該発泡組成物に配合する化粧品等に添加される泡安定15 剤としてビスアルコキシル化シリコーン化合物が記載され,このうち好ましいもの としてbis-PEG-12ジメチコーン及びbis-PEG-20ジメチコーンが記載されている。
他方,乙1公報には,乙1発明につき,化粧品,トイレタリー及びパーソナルケ ア等に添加される泡安定剤を10重量%までの量で配合してフッ素化界面活性剤の量 を低減することが,発明を商業的に適した処方にする1つのアプローチであること20 とともに,そのような泡安定剤の1つとしてシリコーンワックスが記載されている。
そして,シリコーンワックスがbis-PEG-[10-20]ジメチコーンと同様にシリコーン化 合物に該当することは,当業者にとって技術常識である。
これらのことなどに照らせば,乙1発明の発泡性組成物に,フッ素化界面活性剤 の使用量を低減する目的で,フッ素化界面活性剤とともに泡安定剤としてシリコー25 ン化合物を用いようとすること,そのような泡安定剤として,乙2公報及び本件特 許出願時の技術常識に基づき,本件発明1に係るbis-PEG-[10-20]ジメチコーンを組 15 み合わせて用いようとすることの動機付けは十分にあったといえる。
また,本件発明1は,乙1組成物と比較して格別な効果を奏するものではない。
したがって,本件発明1は,乙1発明及び乙2公報記載の事項(以下「乙2記載 事項」という。)に基づき,当業者が容易に想到し得たものである。
5 (2) 本件発明5及び6 ア 本件発明5は,C1-4 アルコール濃度がより限定されている点(少なくとも 40%v/v〜90%v/v。構成要件5A)を除けば,本件発明1と同じ構成であり,構成要 件5Aに係る構成は,乙1発明に係る構成と同一である。したがって,本件発明5 と乙1発明との間の相違点は,本件発明1と乙1発明との間の相違点と同様,構成10 要件1Cの構成を備えるか否かという点のみである。
そうすると,上記(1)と同様に,本件発明5と乙1発明の相違点に係る構成は当業 者が容易に想到し得たものである。
イ 本件発明6は,C1-4アルコールの種類がエタノールに限定されるとともに,そ の濃度も限定されている点(少なくとも60%v/v。構成要件6A)を除けば,本件発15 明1と同じ構成である。構成要件6Aに係る構成は,乙1発明とは異なるものの, 乙1公報に記載された別の発明(エタノールを約67.7%v/v含有するもの(実施例1 4)。以下「乙1’発明」という。)に係る構成と同一である。このため,本件発 明6と乙1’発明との間の相違点は,結局,本件発明1と乙1発明との間の相違点 と同様に,構成要件1Cの構成を備えるか否かという点のみである。
20 そうすると,上記(1)と同様に,本件発明6と乙1’発明の相違点に係る構成は当 業者が容易に想到し得たものである。
(原告の主張) (1) 本件発明1 ア 判断基準日につき,bis-PEG-20ジメチコーンを用いる発明については,優先25 基礎出願である米国仮出願に明示的に記載されており,少なくともbis-PEG-20ジメ チコーンを用いる発明は,優先基礎出願に基づくパリ条約上の優先権の利益を受け 16 ることができる。
したがって,少なくともbis-PEG-20ジメチコーンを用いる発明についての進歩性 の判断基準日は,上記仮出願の米国への出願日である平成17年3月7日となる。
これは,乙1公報及び乙2公報の公開日より前であることから,少なくとも上記発 5 明との関係では,乙1公報及び乙2公報は公知文献ではない。
イ 乙1発明は,その解決課題として,無加圧容器によって発泡可能である,低 級アルコール含有量の高い組成物の提供を含み,その解決手段として,特定のフッ 素化界面活性剤を使用することが開示され,また,そのようなフッ素化界面活性剤 系により生成される泡の量と持続性を増大させる添加剤として泡安定剤を添加でき10 ることが記載されている。もっとも,乙1公報には,泡安定剤として本件発明1に 係るbis-PEG-[10-20]ジメチコーンを用いることは記載も示唆もされておらず,また, 乙1発明の一次的な用途等に鑑みれば,生成された泡の持続時間はせいぜい数秒〜 数分程度で足りる。これに対し,乙2記載事項の解決課題は,少なくとも発泡後1 週間〜6か月以上保持されるような「永続発泡性」の泡を生成する発泡組成物であ15 って,速く動く攪拌機等の装置を使用して発泡可能である,低級アルコールを含ま ないか,またはその含有量の低い(1~30重量%)組成物の提供であり,その解決手 段として,特定のシリコーン化合物を泡安定剤として使用することが開示されてい る。
このように,乙1発明と乙2記載事項とでは,その解決課題や解決手段は根本的20 に相違しており,乙1発明において,乙2公報記載のbis-PEG-12ジメチコーン(及 びbis-PEG-20ジメチコーン)を配合するための合理的な動機付けは存在しない。む しろ,生成された泡の持続時間との関係で,乙1発明において,乙2公報記載のbis- PEG-12ジメチコーンを採用することには阻害要因があったというべきである。
また,本件発明1は,乙1公報及び乙2公報から予測し得ない顕著な作用効果を25 奏する。
したがって,本件発明1の進歩性は,乙1公報及び乙2公報によって否定されな 17 い。
(2) 本件発明5及び6 本件発明5及び6は,本件発明1の構成を限定したものであるところ,上記(1)の とおり,本件発明1と乙1発明の相違点に係る構成につき当業者が容易に想到し得 5 たものではない以上,本件発明5及び6と乙1発明の相違点に係る構成も当業者が 容易に想到し得たものではない。
6 争点3(原告の損害額) (原告の主張) (1) 実施料相当額10 ア 被告各製品の売上高(平成28年3月4日〜平成31年1月10日の間) (ア) 被告サラヤによる販売分(被告東京サラヤに対する販売分は除く。) a 被告製品1 600万円 ・平成28年3月4日〜平成29年9月20日の間 500万円 ・平成29年9月21日〜平成31年1月10日の間 100万円15 b 被告製品2 3840万円 ・平成28年3月4日〜平成29年9月20日の間 3200万円 ・平成29年9月21日〜平成31年1月10日の間 640万円 (イ) 被告東京サラヤによる販売分 a 被告製品1 600万円20 ・平成28年3月4日〜平成29年9月20日の間 500万円 ・平成29年9月21日〜平成31年1月10日の間 100万円 b 被告製品2 3840万円 ・平成28年3月4日〜平成29年9月20日の間 3200万円 ・平成29年9月21日〜平成31年1月10日の間 640万円25 イ 実施料率 本件各発明の特徴的な用途は消毒剤であり,また,本件特許の実施品は第2類医 18 薬品に,被告製品1は指定医薬部外品に,被告製品2は第3類医薬品にそれぞれ分 類されている。これらの事情に鑑みると,本件特許が属する技術分野については 「医薬品・その他の化学製品」(イニシャル無)とされるべきところ,当該技術分 野における実施料率の平均値は7.1%とされている。
5 しかし,本件各発明は,特定の界面活性剤を使用するという極めてシンプルな解 決手段を採用することにより,加圧容器を用いたり,噴射剤及び界面活性剤以外の 成分を用いたりすることなく,低級アルコール含有量の高い発泡性組成物を提供で きることを初めて見いだしたものであり,その技術的価値は極めて優れたものであ る。しかも,「泡状」であるという特質に伴うメリットから,速乾性手指消毒剤の10 市場で泡状の製品の占めるシェアが年々向上していることから,本件特許の価値は 経済的にも極めて高い。
こうした事情に加え,特許法102条3項の趣旨からは,特許発明を無断実施し た者との関係では交渉によりライセンスを受けた者よりも実施料率を高くすべきこ となどに鑑みれば,本件における実施料率は15%とするのが相当である。
15 ウ 小計 以上によれば,実施料相当額(特許法102条3項)は,以下のとおりとなる。
(ア) 被告サラヤによる販売分(被告東京サラヤに対する販売分は除く。) 666 万円 ・平成28年3月4日〜平成29年9月20日の間 555万円20 ・平成29年9月21日から平成31年1月10日までの間 111万円 (イ) 被告東京サラヤによる販売分 666万円 ・平成28年3月4日から平成29年9月20日までの間 555万円 ・平成29年9月21日から平成31年1月10日までの間 111万円 (2) 弁護士費用及び弁理士費用相当額25 ア 被告サラヤによる販売分(被告東京サラヤに対する販売分は除く。)との関 係 66万円 19 ・平成28年3月4日〜平成29年9月20日の間 55万円 ・平成29年9月21日〜平成31年1月10日の間 11万円 イ 被告東京サラヤによる販売分との関係 66万円 ・平成28年3月4日〜平成29年9月20日の間 55万円 5 ・平成29年9月21日〜平成31年1月10日の間 11万円 (3) 合計 ア 被告サラヤにつき 1464万円 ・平成28年3月4日〜平成29年9月20日の間 1220万円 ・平成29年9月20日〜平成31年1月10日の間 244万円10 イ 被告東京サラヤにつき 732万円 ・平成28年3月4日〜平成29年9月20日の間 610万円 ・平成29年9月21日〜平成31年1月10日の間 122万円 (被告らの主張) (1) 実施料相当額15 ア 被告各製品の売上高 平成28年3月4日〜平成31年1月10日の間の被告各製品の売上高につき, 被告サラヤによる販売分(被告東京サラヤに対する販売分は除く。)が,被告製品 1につき600万円,被告製品2につき3840万円であること,被告東京サラヤ による販売分が,被告製品1につき600万円,被告製品2につき3840万円で20 あることは,いずれも認める。
実施料率 本件特許が属する技術分類(「健康;人命救助;娯楽」)に係る実施料率の平均 値は5.3%とされている。
平成17年4月7日の時点において,ゲルであるか又はフォームとして分配され25 ることが可能で,所望の表面上に容易に広げられるアルコール含有量の高い組成物 であって,個人衛生用の起泡性組成物を提供する発明は存在していた。このことに 20 照らせば,本件各発明は,平均的な発明に比して技術的に優れた発明ではない。ま た,製品のシェアは直接的には当該製品の販売事業者の営業努力によって拡大する ものであり,シェアの拡大をもって特許の経済的価値が高いと判断することはでき ない。さらに,被告各製品を含む医療分野の手指消毒剤の市場価格は低価格であり, 5 かつ,量産品であるために利益率が低い結果,実施料率も低額とならざるを得ない。
これらの事情を考慮すれば,本件各発明の実施料率は5.3%とすべきである。
(2) 弁護士費用及び弁理士費用相当額 否認ないし争う。
当裁判所の判断
10 1 無効理由の存否について 事案に鑑み,まず無効理由の存否について判断することとするが,当裁判所は, 後記2〜6のとおり,本件特許につき,特許無効審判により無効にされるべきもの とは認められないと判断する。理由は以下のとおりである。
2 本件各発明について15 (1) 本件各発明に係る特許請求の範囲は,別紙特許公報の【特許請求の範囲】の 【請求項1】,【請求項5】及び【請求項6】記載のとおりである(第2の2(2))。
また,本件明細書には,以下の記載がある(なお,表については別紙本件明細書表 目録参照。)。
ア 技術分野20 本発明は,エアゾール包装システムを用いて達成される,無加圧容器及び加圧容 器の両者から低い圧力で泡として分配され得る,低級アルコール(C1-4)含有量の高 い組成物に関する。泡として分配されるべき組成物は,シリコーン・ベースの界面 活性剤を含有しており,そして空気と混合されるときに個人的洗浄用又は消毒目的 のために使用できる安定なアルコール泡を与える。(【0002】)25 イ 背景技術 少なくとも60%v/v(約52重量%)を含むエタノール及び/又はイソプロピルアル 21 コール及び/又はn-プロピルアルコールの組成物は抗菌性であることがよく知られ ており,従って消毒目的のために広く受け入れられている。それにもかかわらず, アルコールの固有の特性のために,その含有量が高いほど生成物は良好であり,そ してアルコール含有量が60容量%より高い溶液がより望ましい。(【0003】) 5 アルコール消毒液は,無駄をなくし,かつ組成物を所望の範囲全体に塗るのを容 易にするために,一般的に増粘される。ゲル化剤以外には,アルコール含有量の高 い溶液の増粘を達成するためにパラフィン又はワックスを使用できることも知られ ている。…ゲル及び上記タイプの濃厚なアルコール含有組成物の欠点の一つは,… アルコール消毒液の使用を続ける前に増粘剤を最終的に洗い落とす必要があること10 である。(【0004】) 洗浄目的のため以外の界面活性剤は,1種又はそれ以上の活性物質を含有する水 性組成物をそれらの湿潤特性により表面上に急速かつ均一に塗布するためにも使用 される。(【0006】) 使用が容易かつ安全である40%v/vより多いアルコールを含む泡製品は,従来の液15 体,ゲル又は軟膏タイプの組成物製品よりも望ましい。このアルコール濃度は既に それ自体が危険を及ぼすが,泡として分配できるならば,認められたリスクを減少 し得る多くの用途がある。皮膚消毒剤として有用であることが意図される泡は,一 様な稠度,塗布性,洗浄能力を持たねばならず,そして快適な感触を持たねばなら ず,すなわち,加圧したときに急速な破壊力を持たねばならず;それらの全ては低20 級アルコール含有量の高い組成物にとって課題を提示する。(【0008】) これまでに利用されている泡形成剤は,液相が高いアルコール含有量を有する場 合には他の成分を用いないで安定な泡を形成することができなかった。更に,低級 アルコールは,泡促進化学物質というよりはむしろ消泡剤と考えられている。
(【0010】)25 今日までになされた研究にもかかわらず,どのように泡が反応して形成されるの かについての具体的な知識は殆どなく,そして驚いたことに,発泡性でないと思わ 22 れた処方が泡を生成する最も良い処方であるという結果をもたらす一方,調製中で さえ泡を生成すると思われた他の処方は幾つかの非エアゾール泡ディスペンサーで は全く機能しなかった。(【0013】) シリコーン・ベースの界面活性剤は,表面張力の低下及び湿潤特性の上昇を必要 5 とする用途,特に水以外の溶剤系と適合性であり,かつ組成物の他の成分と反応し ない材料を必要とする用途に使用されている。シリコーン界面活性剤は,それらが 興味ある組成物において比較的低い濃度で比較的低い表面張力を達成し得るので望 ましい。(【0014】) 低い圧力下で及び/又はエアゾール包装システムにより泡として分配し得る,シ10 リコーン・ベースの界面活性剤を含有するアルコール・ベースの消毒製剤があるこ とは,極めて有利であろう。更に,適用された部分に留まることができ,そして蒸 発後に残る残留物の量が少ないために洗い流し又は拭き取りを必要としない生成物 における使用を可能にする濃度で使用し得る発泡剤を見出すことは,極めて有利か つ望ましいだろう。(【0015】)15 ウ 発明が解決しようとする課題 本発明は,ユーザーの皮膚又は手の乾燥を殆ど全く引き起こさず,そして加圧及 び無加圧分配システムから泡として分配できる界面活性剤/洗浄剤,並びに消毒剤 /洗浄剤/溶剤/担体を含有するアルコール含有量の高い組成物を提供する。
(【0017】)20 本発明は,特定用途のために表面上に容易に広がる泡として分配できる,アルコ ール含有量の高い組成物を提供する。本発明の組成物は抗菌性アルコール泡として 処方することができる。これらの発泡性組成物は,適切なディスペンサーから分配 されるときに安定であり,そして噴射剤及び加圧容器の使用を必要としないが,使 用しても同様に発泡するだろう。(【0018】)25 エ 課題を解決するための手段 従って,本発明は,下記の成分; 23 a)全組成物の40%v/vより多い量で存在する,C1-4アルコール又はその混合物; b)全組成物の少なくとも0.01重量%の量で存在する,湿潤及び発泡のための, シリコーン骨格を含有する親油性鎖を含む生理的に許容される有効なシリコーン・ ベースの界面活性剤を含む発泡剤であって,ディスペンサーから分配されるときに, 5 該発泡性アルコール組成物が空気と混合されて泡が形成されるように選択された発 泡剤;及び c)全組成物を100重量%とする量で存在する水 を含む発泡性アルコール組成物を提供する。(【0019】) 本発明の一態様において,有効なシリコーン・ベースの界面活性剤は,全組成物10 の約0.001%〜約10.0重量%の量で存在し,この量は生理的に許容されるので,それ はパーソナルケア型製品に使用することができる。(【0020】) 本発明の好ましい実施形態において,シリコーン・ベースの界面活性剤はBis- PEG-[10-20]ジメチコーン,3-(3-ヒドロキシプロピル)-ヘプタメチルトリシロキサン エトキシレーテッドアセテート,エトキシル化シリコーン・ベースの界面活性剤,15 Bis-PEG/PPG 18/6ジメチコーン,ポリエーテル改変ポリシロキサン又はポリシロキ サンベタイン,又はその混合物であってよい。(【0021】) オ 発明を実施するための形態 本明細書で用いられる「生理的に許容される」という用語は,皮膚に適用したと きに刺激又は毒性を通常生じることがなく,そしてヒトに適用するためにユーザー20 によって受け入れられる材料を意味する。(【0035】) 本明細書で用いられる「泡」は,混合されて,可変長の時間持続する構造を有す る小さい気泡のマスを形成する液体及び気体を意味する。(【0036】) 気泡は,液体のフィルムで取り囲まれた気体のセルである。(【0037】) 本明細書で用いられる「エアゾール」という用語は,分配のために製品を強制的25 に追い出すために加圧気体が用いられる包装及び送出システム,並びに送出された 製品を意味する。(【0038】) 24 本明細書で泡を生成するという文脈で用いられる「低い圧力」というフレーズは, 無加圧容器から泡を分配するときのような大気圧付近又はそれ以下の圧力を意味す る。典型的には,泡がエアゾール容器から分配されるとき,この泡は高い「圧力」 条件下で分配されると考えられる。(【0040】) 5 本発明は,無加圧容器から低圧条件下で,又はエアゾール包装システムにより, 泡として分配することのできる,シリコーン・ベースの界面活性剤を高い低級アル コール(C1-4)含有量と共に含む発泡性アルコール組成物を提供する。本発明の発泡 性組成物は,空気と混合されるときに安定な泡を送出してアルコール性溶液を与え, この泡は,個人的洗浄用又は消毒目的のために使用でき,そして加圧時に,例えば10 ユーザーが両手をこすったとき又は表面上に塗布されたときに壊れる。(【004 1】) 本発明に用いられるアルコールは低級炭化水素鎖アルコール,例えば,メタノー ル,エタノール,プロパノール,ブタノール等のC1-4アルコールである。…最も好ま しくはエタノールであり,適正濃度で十分な消毒作用があるとして衛生管理職員に15 より良く受け入れられている。…本組成物には単一のアルコールを用いてもよく, 又は上記のように2種又はそれ以上のアルコールのブレンドが組成物のアルコール 含有量を構成してもよい。(【0042】) 一実施形態では,前記アルコールは約40%〜約90%v/vの範囲で存在することがで きる。(【0043】)20 本発明の重要かつ驚くべき成果は,消毒に適する組成物が40%v/vより多量のアル コールを含有するようにされていること,そしてシリコーン・ベースの界面活性剤 が低圧容器及びエアゾール包装容器の両者から化粧品として魅力的な泡として分配 され得ることである。(【0044】) シリコーン・ベースの界面活性剤の使用は,発泡するように考案された組成物に25 おける主発泡剤として重要な成分である。シリコーン界面活性剤は,例えば残渣を 殆ど残さないこと,過酷な化学的及び熱的環境において機能し得ることのような種 25 々の興味深い特性を有し;それらは比類なき湿潤力,すなわち伝統的な界面活性剤 よりも一般的に良好であるという特性を有し,有機溶剤中でより良い界面活性特性 を示し,そしてそれらをコーティング,油田,材料仕上げ剤,クリーニング,塗料, 農薬施用等における用途に広く使用されるようにしている。(【0045】) 5 異なる界面活性剤を試した一方で,確認し得る何らかの相乗作用が存在して用法 及び泡性能を最適化するかどうかを見出すために,2種又はそれ以上の混合物を評 価した。若干の相乗作用が確認された一方で,特に二官能性のシリコーン界面活性 剤Bis-PEG[10-20]ジメチコーンは単独で使用するときに最良であることも見出され た。…具体的には,Bis-PEG12ジメチコーン及び/又は Bis-PEG-20ジメチコーン10 及び/又はBis-PEG-17ジメチコーンは,3-(3-ヒドロキシプロピル)-ヘプタメチルト リシロキサンエトキシレーテッドアセテート,ポリエーテル改変ポリシロキサン及 びポリシロキサンベタインと並んで好ましく,後者は有望な結果を示したが,ジメ チコーンの結果ほどには良好ではなかった。(【0048】) 本組成物の好ましい実施形態において,有効なシリコーン・ベースの界面活性剤15 は,全組成物の約0.01%〜約10.0重量%の,生理的に許容されるBis-PEG[10-20]ジ メチコーン,3-(3-ヒドロキシプロピル)-ヘプタメチルトリシロキサンエトキシレーテ ッドアセテート,ポリエーテル改変ポリシロキサン,ポリシロキサンベタイン又は その混合物であってよい。(【0049】) 更に,加圧容器又は噴射剤を使用しない場合でも泡を生成することができるアル20 コール含有量の高い生成物を得るためには,表面張力はできるだけ低いことが必要 である。そうすれば,手動ポンプ又は機械的手段により,このような泡を生成する ために必要な圧力で足りる。(【0051】) 本発明を開発する間に,80%v/wほどにも高いエタノールのみ及びシリコーン・ベ ースの界面活性剤を用いた場合に比較的安定な急速破壊性の泡が得られたが,伝統25 的な界面活性剤をより高いパーセンテージで使用すると少しも類似しない結果を与 え,そして泡は全く得ることができなかったことを見出したことは,予想外であっ 26 た。(【0052】) アルコールに水を添加することは,製品を発泡させるために必要なシリコーン・ ベースの界面活性剤の量の減少を可能にする一方で,より安定な泡を生じさせる。
例えば,50〜60%v/vアルコール水溶液と共に0.5〜1.0%のシリコーン・ベースの界 5 面活性剤を使用すると安定な泡を生成し,この泡は容易に壊れず,そして逆さにし たときでさえ落ちず,また圧力を加える(例えば両手で又は表面上でこするとき に)まで壊れない安定なひと吹き…を生じてアルコール性溶液を与える一方で,ア ルコールの使用パーセンテージが65%w/wより多い場合には5%以下のレベルを必 要とする。(【0060】)10 本組成物は,組成物を空気と混合し,そしてそれから泡を分配するためのディス ペンサーポンプを有する無加圧ディスペンサーから泡として分配されるように処方 される。(【0066】) 本発明は,上記のような手動式低圧分配システムから泡として分配できる点で独 特である…。(【0067】)15 一方の界面活性剤又は他方(フルオロ界面活性剤に対してシリコーン界面活性 剤)の使用における主な相違の一つは,フッ素化界面活性剤が表面張力をシリコー ン・ベースの界面活性剤だけを用いて達成されるレベルよりも低いレベルに低下さ せ得るとい事実であり,従ってシリコーン・ベースの界面活性剤だけを含む組成物 が同様の結果を達成するためにはより高いパーセンテージのシリコーン・ベースの20 界面活性剤を一般的に必要とすることにも注目すべきである。(【0076】) カ 実施実施例17〜32は,異なるシリコーン・ベースの界面活性剤を用いて泡を生成 するためのエタノール濃度の上昇を示す。実施例33〜36は,62%エタノールで 許容される泡を生成するためのシリコーン・ベースの界面活性剤濃度の上昇を説明25 する。(【0081】) (2) 本件明細書の上記各記載によれば,本件各発明の概要は,おおむね以下のとお 27 りのものと認められる。
本発明は,エアゾール包装システムを用いて達成される,無加圧容器及び加圧容 器の両者から低い圧力で泡として分配され得る,低級アルコール(C1-4)含有量の高 い組成物に関する。(【0002】) 5 アルコール消毒液は,無駄をなくし,かつ組成物を所望の範囲全体に塗るのを容 易にするために,一般的に増粘されるところ,これらの濃厚なアルコール含有組成 物の欠点の一つは,アルコール消毒液の使用を続ける前に増粘剤を最終的に洗い落 とす必要があることである。(【0004】) 低い圧力下で及び/又はエアゾール包装システムにより泡として分配し得る,シ10 リコーン・ベースの界面活性剤を含有するアルコール・ベースの消毒製剤があるこ とは,極めて有利である。適用された部分に留まることができ,そして蒸発後に残 る残留物の量が少ないために洗い流し又は拭き取りを必要としない生成物における 使用を可能にする濃度で使用し得る発泡剤を見出すことは,極めて有利かつ望まし い。(【0015】)15 本発明は,ユーザーの皮膚又は手の乾燥を殆ど全く引き起こさず,そして加圧及 び無加圧分配システムから泡として分配できる界面活性剤/洗浄剤,並びに消毒剤 /洗浄剤/溶剤/担体を含有するアルコール含有量の高い組成物を提供する。
(【0017】) 本発明は,特定用途のために表面上に容易に広がる泡として分配できる,アルコ20 ール含有量の高い組成物を提供する。本発明の組成物は抗菌性アルコール泡として 処方することができる。これらの発泡性組成物は,適切なディスペンサーから分配 されるときに安定であり,そして噴射剤及び加圧容器の使用を必要としない。
(【0018】) 本発明は,下記の成分;25 a)全組成物の40%v/vより多い量で存在する,C1-4アルコール又はその混合物; b)全組成物の少なくとも0.01重量%の量で存在する,湿潤及び発泡のための, 28 シリコーン骨格を含有する親油性鎖を含む生理的に許容される有効なシリコーン・ ベースの界面活性剤を含む発泡剤であって,ディスペンサーから分配されるときに, 該発泡性アルコール組成物が空気と混合されて泡が形成されるように選択された発 泡剤;及び 5 c)全組成物を100重量%とする量で存在する水 を含む発泡性アルコール組成物を提供する。(【0019】) 3 争点2-1(明確性要件違反の有無)について (1) 特許法36条6項2号の趣旨は,特許請求の範囲に記載された発明が明確でな い場合に,特許の付与された発明の技術的範囲が不明確となることにより生じ得る10 第三者の不測の不利益を防止することにある。そこで,特許を受けようとする発明 が明確であるか否かは,特許請求の範囲の記載のみならず,願書に添付した明細書 の記載及び図面を考慮し,また,当業者の出願時における技術的常識を基礎として, 特許請求の範囲の記載が,第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるか否 かという観点から判断すべきものと解される。
15 (2) 「発泡性」について ア 証拠(甲37)及び弁論の全趣旨によれば,泡には,形態的に区別される気 泡と泡沫とがあり,気泡は,気体が液体又は固体に包まれた状態を指し,ただ1つ の界面を有するのに対し,泡沫は,気泡が多数集まって薄膜を隔てて密接に存在し, 2つの界面を有するものであることは,親出願の出願日当時における当業者の技術20 常識であったと認められる。
他方,本件明細書には,本件各発明に係る「泡」に関し,「本明細書で用いられ る「泡」は,混合されて,可変長の時間持続する構造を有する小さい気泡のマスを 形成する液体及び気体を意味する。」(【0036】),「気泡は,液体のフィル ムで取り囲まれた気体のセルである。」(【0037】)との定義が記載されてい25 る。また,本件各発明の発泡性組成物の作用効果に関しては,本件各発明の組成物 は,発泡性であるために,適用された部分に留まることができる(【0015】) 29 とともに,表面上に容易に広がる泡として分配できる(【0018】)ものである こと,空気と混合されるときに安定な泡を与え,この泡は,個人的洗浄用又は消毒 目的のために使用でき,例えばユーザーが両手をこすったとき又は表面上に塗布さ れたときに壊れること(【0041】),消毒に適する組成物が40%v/vより多量の 5 アルコールを含有するようにされており,かつ,低圧容器及びエアゾール包装容器 の両者から化粧品として魅力的な泡として分配され得ることが本発明の重要かつ驚 くべき成果であること(【0044】)も,それぞれ記載されている。
これらの記載に鑑みると,本件各発明における「泡」との語は,親出願の出願日 当時における当業者の技術常識である上記意義と異なるものでないことは明らかで10 ある。
そうである以上,「発泡性」なる文言との関係において,本件各発明に係る特許 請求の範囲の記載が第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるとはいえな い。すなわち,当該文言との関係において,本件各発明に係る特許請求の範囲の記 載に明確性要件違反はない。
15 イ 被告らの主張について この点につき,被告らは,本件明細書【0036】の「可変長の時間」の程度, 「泡」と「気泡」の違い,「小さい」とされる大きさの程度がいずれも不明である から,本件各発明に係る特許請求の範囲の記載が不明確であると主張する。
しかし,上記のとおり,当業者は,本件各発明における「泡」との語が泡沫を意20 味し,泡沫とは,気泡が多数集まって薄膜を隔てて密接に存在するものであるから, これはすなわち気泡のマスであること,そして,本件明細書【0036】における 「構造」とは気泡のマスであることをそれぞれ理解できる。
また,「可変長の時間持続する」については,本件各発明の発泡性組成物の作用 効果に関する本件明細書の上記記載からすると,適用された部分に留まることがで25 き,かつ,表面上に容易に広がる泡として分配できるものである本件各発明の組成 物につき,例えばユーザーが両手をこすったとき又は表面上に塗布されたときに壊 30 れる程度の安定性を有するほどに,泡の持続時間が様々であることを示すものと理 解できる。
さらに,「小さい」とはも,やはり本件各発明の作用効果に関する上記記載に照 らせば,化粧品として魅力的な泡といえる程度の大きさをいうものと解するのが相 5 当である。
したがって,この点に関する被告らの主張は採用できない。
(3) 「低い圧力で空気と混合されるときに発泡性」について ア 本件明細書【0040】において,「低い圧力」は,「無加圧容器から泡を 分配するときのような大気圧付近又はそれ以下の圧力」と定義され,また,「典型10 的には,泡がエアゾール容器から分配されるとき,この泡は高い「圧力」条件下で 分配されると考えられる」とも記載されている。ここで,本件明細書における「エ アゾール」とは,分配のために製品を強制的に追い出すために加圧気体が用いられ る包装及び送出システム,並びに送出された製品を意味するものとされている (【0038】)。また,本件各発明は,無加圧容器から低圧条件下で,又はエア15 ゾール包装システムにより,泡として分配することのできる,シリコーン・ベース の界面活性剤を高い低級アルコール(C1-4)含有量と共に含む発泡性アルコール組成 物を提供する発明であることが記載されている(【0041】)。
このような本件明細書の記載に鑑みると,本件各発明における「低い圧力」との 語は,エアゾール容器のような加圧容器を用いない程度の圧力を意味するものであ20 ることは明らかである。このことと,上記「泡」ないし「発泡性」の意味を併せ考 えると,「低い圧力で空気と混合されるときに発泡性」との語は,加圧容器を用い ない程度の圧力で発泡性アルコール組成物と空気を混合したときに,泡沫を生成す ることを意味することもまた,本件明細書の記載から明らかである。
したがって,「低い圧力で空気と混合されるときに発泡性」との文言との関係に25 おいて,本件各発明に係る特許請求の範囲の記載が第三者に不測の不利益を及ぼす ほどに不明確であるとはいえない。すなわち,当該文言との関係において,本件各 31 発明に係る特許請求の範囲の記載に明確性要件違反はない。
イ 被告らの主張について この点につき,被告らは,「低い圧力」とは「無加圧容器から泡を分配するとき のような大気圧付近又はそれ以下の圧力」を意味するとされているものの,そのよ 5 うな大気圧付近又はそれ以下の圧力で発泡性アルコール組成物と空気をどのように 混合するのかについては,技術的に理解し難く,本件明細書に記載がないため,不 明確であると主張する。
しかし,上記アのとおり,「低い圧力」とは加圧容器を用いない程度の圧力を意 味することは,本件明細書に明確に記載されているから,この点に関する被告らの10 主張は採用できない。
(4) 小括 以上のとおり,本件各発明に係る特許請求の範囲の記載は,明確性要件に違反す るものとはいえない。
4 争点2-2(実施可能要件違反の有無)について15 (1) 明細書の発明の詳細な説明の記載が実施可能要件に適合するというためには, 物の発明にあっては,当業者が明細書及び図面の記載並びに出願当時の技術常識に 基づいて,その物を生産でき,かつ,使用できるように,具体的に記載されている ことが必要であると解される。
(2) 本件各発明に係る発泡性アルコール組成物の生産可能性20 ア シリコーン・ベースの界面活性剤に着目すると,本件明細書には,アルコー ルの濃度とシリコーン・ベースの界面活性剤の濃度に関し,「50〜60%v/vアルコー ル水溶液と共に0.5〜1.0%のシリコーン・ベースの界面活性剤を使用すると安定な泡 を生成し,」「アルコールの使用パーセンテージが65%w/wより多い場合には5%以 下のレベルを必要とする。」(【0060】)との記載がある。また,実施例1725 〜19に係る「泡の評価/記述/特性」欄の記載からは,bis-PEG-20ジメチコーン の濃度が同じ(0.01重量%)場合,エタノールの濃度が40重量%,50重量%,60重 32 量%と高くなるほど泡の評価が下がり,泡の持続時間も短くなる傾向があること, 実施例33〜36に係る「泡の評価/記述/特性」欄の記載からは,エタノールの 濃度が同じ(62重量%)場合,bis-PEG-20ジメチコーンの濃度が0.50重量%,1.00 重量%,2.0重量%,5.00重量%と高くなるほど泡の評価や持続性が向上することが, 5 それぞれ読み取れる。さらに,界面活性剤の濃度と表面張力低下作用の関係につき, 一般的に,シリコーン・ベースの界面活性剤だけを含む組成物が表面張力をより低 いレベルに低下させるとの結果を達成するためには,より高いパーセンテージのシ リコーン・ベースの界面活性剤を必要とするとの記載もある(【0076】)。
そうすると,これらの記載に接した当業者は,アルコール濃度が高い発泡性組成10 物を得るためには,bis-PEG-[10-20]ジメチコーンを多く配合しなければならないこ とが理解できる。
以上によれば,本件明細書に接した当業者は,アルコール濃度が高いとの理由に より,組成物が発泡しなかったり,良好な泡の性質が得られなかったりした場合に は,上記記載内容に基づき,bis-PEG-[10-20]ジメチコーン又はその混合物の含有量15 を増やすことによって発泡性や泡質を改善できることを,格別の困難を伴うことな く理解し得るというべきである。このことは,bis-PEG-[10-20]ジメチコーン又はそ の混合物の含有量が,請求項1に特定されている下限値の全組成物の0.01重量%で ある組成物,ひいては本件発明5及び6についても同様である。
したがって,本件明細書の発明の詳細な説明には,本件各発明の発泡性アルコー20 ル組成物について,当業者が,本件明細書の記載に基づき,その組成物を生産でき, かつ,使用できるように,具体的に記載されていると認められる。
イ 被告らの主張について (ア) 被告らは,本件明細書の実施例20及び33〜36では泡が生成されていない との理解を前提に,本件明細書には,低級アルコールを約81.3%v/vより高い濃度で25 含有する場合には本件特許に係る発明の課題が解決できないことが示されていると ともに,低級アルコールを約67.7%v/vより高い濃度で含有する場合に本件特許に係 33 る発明の課題が解決できることを示す実施例は記載されていないなどと主張する。
(イ) 前記3(2)及び(3)のとおり,本件明細書には,大気圧付近又はそれ以下の圧力 で発泡性アルコール組成物と空気をどのように混合するのか,また,どのような気 泡のマス(集団)が「発泡性」に該当するのかについて,当業者が理解し得る程度 5 に明確に記載されている。したがって,この点について,本件明細書には,その記 載に基づき,当業者が本件各発明に係る組成物を生産でき,かつ,使用できるよう に,具体的に記載されていると認められる。
(ウ) 本件明細書において,実施例20では「泡の生成」欄は「有」とされる一方で, 「泡の評価/記述/特性」欄は「…」と記載されている。また,実施例33〜3610 では「泡の生成」欄はいずれも「無」とされながら,「泡の評価/記述/特性」欄 には,「急速に次々と壊れる泡は1分間より長く持続する」(実施例33),「良 いクリーミーかつソフトな泡は1分間より長く持続する」(同34),「極めて良 いクリーミーかつソフトな泡は1分間より長く持続する」(同35),「極めて良 いクリーミーかつソフトな泡は数分間持続する」(同36)と記載されている。
15 まず,実施例33〜36に係る上記各記載について,その「泡の評価/記述/特 性」欄の記載はかなり具体的なものといってよく,しかも,他の実施例のうち「泡 の生成」欄が「有」となっているものの「泡の評価/記述/特性」欄の記載と対比 すると,実施例33〜36の「泡の生成」欄が「無」とされていることはむしろ不 合理というほかない。このような事情は,上記各実施例に係る「泡の生成」欄の記20 載が誤記であることを強くうかがわせるものである(なお,上記他の実施例の「泡 の評価/記述/特性」欄の記載が誤りであること,実施例33〜36の「泡の評価 /記述/特性」欄の記載が他の実施例に関するものを誤って記載したものであるこ とをうかがわせる証拠は,いずれも見当たらない。)。
また,本件明細書は,シリコーン・ベースの界面活性剤の含有量を増加させるこ25 とが発泡性の向上ないし泡の質の増強につながることを示唆している(【006 0】,【0087】。なお,このような理解は,甲18の発泡試験結果及び甲31 34 の再現試験の結果とも符合する。)。たとえ,エタノール濃度が高くなるに従って 泡が生成されにくくなる傾向が認められるとしても,実施例33〜36は,「泡の 生成」欄が「有」とされる実施例19と比較して,エタノールの濃度はわずか2重 量%しか増加していない(約1.03倍)のに対し,bis-PEG-20ジメチコーンは5 5 0倍以上もの量を含有していることに鑑みると,これらの実施例において泡が生成 されないとは考え難い。
そうすると,実施例33〜36については,「泡の評価/記述/特性」欄の記載 及びその組成に照らし,泡が生成したと考えるのが合理的である。このため,当業 者は,本件明細書全体の記載を踏まえ,実施例33〜36に係る「泡の生成」欄の10 「無」の記載は誤記である可能性が相当に高いものと理解すると見られる。
また,以上に鑑みれば,エタノール濃度が高くなっても,bis-PEG-20ジメチコー ンの濃度を高くすることにより(ただし,本件各発明に係る組成物において,アル コールのほか,bis-PEG-[10-20]ジメチコーン等及び水が必須の成分として含有され ることなどを考えると,アルコール濃度には事実上の上限が想定されていると考え15 られる。),本件各発明に係る発泡性アルコール組成物はなお生産可能であると考 えるのが合理的である。そうである以上,実施例20についても,実施例19と比 較してエタノール濃度は15重量%高いものの,bis-PEG-20ジメチコーンは800 倍もの量を含有していることを踏まえると,本件明細書に接した当業者は,「泡の 評価/記述/特性」欄の記載が「…」であってもなお,「泡の生成」欄記載のとお20 り,同実施例の溶液により泡が生成された可能性は高い(その意味で,「泡の評価 /記述/特性」欄の記載は誤記である可能性が高い)と理解するというべきである。
(エ) その他被告らがるる主張する事情を考慮しても,この点に関する被告らの主張 は採用できない。
(3) 小括25 以上より,本件明細書の発明の詳細な説明の記載は,実施可能要件に違反するも のとはいえない。
35 5 争点2-3(サポート要件違反の有無)について (1) 特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するか否かについては,特許請求 の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し,特許請求の範囲に記載された 発明が,発明の詳細な説明に記載された発明で,発明の詳細な説明の記載又はその 5 示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか 否か,また,その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発 明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべき ものと解される。
(2) 本件発明1においては,bis-PEG-[10-20]ジメチコーン又はその混合物の含有10 量につき下限値(0.01重量%)及び上限値(10.0重量%)がいずれも明示されると ともに,アルコール濃度は下限値(40v/v%)が明示されており,かつ,水は全組成 物を100重量%とする量と特定されている。また,アルコール濃度が高いとの理由に より,組成物が発泡しなかったり良好な泡の性質が得られなかったりした場合,当 業者は,本件明細書の記載に基づき,bis-PEG-[10-20]ジメチコーン又はその混合物15 の含有量を増やすことによって発泡性や泡質を改善できると理解し得ることは,前 記4(2)のとおりである。
そうすると,本件特許に係る特許請求の範囲の記載と本件明細書の発明の詳細な 説明の記載を併せ考慮すると,当業者は,本件発明1の組成の範囲において,高い 蓋然性をもって発泡性の組成物が得られる,すなわち,発明の課題を解決し得ると20 認識できると認められる。なお,本件発明1はアルコールとしてC1-4アルコールを含 有するものであるところ,このことは,エタノール以外のC1-4アルコールについても 同様である。
そして,上記は本件発明5及び6についても妥当する。
したがって,本件各発明は,発明の詳細な説明に記載された発明で,発明の詳細25 な説明の記載から,当業者が本件各発明の課題を解決できると認識できる範囲内の ものというべきである。
36 (3) 被告らの主張について この点につき,被告らは,本件明細書の実施例33〜36の各組成物に係る「泡 の生成」欄の「無」という記載は誤記ではなく,他方,実施例20の組成物に係る 同欄の「有」という記載は誤記であるとの理解を前提に,本件明細書の発明の詳細 5 な説明に開示されている内容からは,本件特許に係る発明の課題を解決できると当 業者が認識できる範囲のものとはいえないと主張する。
しかし,前記4(2)のとおり,本件明細書の実施例33〜36の各組成物に係る 「泡の生成」欄の「無」の記載は誤記であり,実施例20の組成物に係る同欄の 「有」の記載は誤記ではないと理解されるから,被告らの主張はその前提を欠く。
10 そうである以上,この点に関する被告らの主張は採用できない。
(4) 小括 以上より,本件特許に係る特許請求の範囲の記載は,サポート要件に違反するも のとはいえない。
6 争点2-4(進歩性欠如の有無)について15 (1) 引用例について ア 乙1公報には,おおむね以下の記載がある(訳は乙5による。)。
(ア) 組成物であって, (a) 該組成物全体の約40%v/vを超える量で存在しているアルコールC1-4又はその混 合物;20 (b) 該組成物全体の少なくとも0.001重量%の量で存在している湿潤及び起泡に有 効なフッ素化界面活性剤; 及び (c) 該組成物全体を100重量%とする量で存在している水; を含んでいる,前記組成物。(請求項1)25 前記組成物を空気と混合させたときに,該組成物と空気の混合物がフォームを形 成する,空気を含んでいる請求項1に記載の組成物。(請求項2) 37 アルコール消毒用組成物であって, (a) 該組成物全体の約60%v/v〜約80%v/vの量で存在しているアルコールC1-4又は その混合物; (b) 該組成物全体の約0.01重量%〜約2.0重量%の量で存在している生理学的に許 5 容されるフルオロ界面活性剤; (c) 約0.01重量%〜約12.0重量%の量で存在しているフォーム安定化剤; (d) 約0.05重量%〜約5.0重量%の量で存在している保湿剤,軟化剤及びその組合 せのいずれか一つ; 及び10 (e) 該組成物全体を100重量%とする量の水; を含んでいる,前記組成物。(請求項46) 非加圧式ディスペンサーの中に収容されている請求項46〜63のいずれか1項 に記載のアルコール消毒用組成物であって,該ディスペンサーが該消毒用組成物を 空気と混合させてそのディスペンサーからフォームを分配するためのディスペンサ15 ーポンプを有している,前記アルコール消毒用組成物。(請求項64) (イ) 本発明は,ゲル様組成物であり得るか,又は,フォーム(泡)として分配可能 な溶液であり得る,高含有量の低級アルコール(C1-4)を含んでいる組成物に関する。
フォームとして分配される該組成物は,フルオロ界面活性剤(fluorosurfactant)を 含んでいて,空気と混合されたとき,個人の清浄又は消毒(disinfecting)用として20 使用し得る安定なアルコールフォームを提供する。(2頁9行目〜13行目) 本発明の目的は,アルコール含有量の高い液体組成物を提供することであり,こ こで,該液体組成物は,界面活性剤/清浄剤,及び,消毒剤/クリーニング/溶媒 /担体を含み,使用者の皮膚又は手を殆ど乾燥させることがなく,加圧システム及 び非加圧システムの両方からゲル又はフォームとして分配され得る。(6頁下から25 5行目〜1行目) 本発明は,ゲル又はフォームとして分配され得る,低級アルコール(C1-4)含有量 38 が高い組成物を提供する。該起泡性組成物は,空気と混合されると,アルコール性 液体溶液を提供するための安定なフォームを送達する。この安定なフォームは,個 人清浄用又は消毒用として使用可能であり,また,使用者が自分の手を擦り合わせ る場合や,表面全体に塗布される場合などのように,加圧用途に際しては,当該フ 5 ォームの泡は破裂して消える。(14頁7行目〜12行目) フルオロ界面活性剤の使用は,本明細書で開示している起泡するように意図され た組成物における主要な起泡剤として重要な成分である。(15頁9行目〜10行 目) 商業的に適した製剤を得るために,他の成分,例えば,化粧品,エアゾール,…10 などで用いられる第二界面活性剤,乳化剤,フォーム安定化剤及び芳香剤などの成 分を用いて補助しながら,フルオロ界面活性剤の使用量を低減するということが, 次に行ったアプローチの1つである。(16頁下から3行目〜17頁2行目) 上記アルコールに水を添加することによりさらに安定なフォームが生成されるが, 同時に,生成物を起泡させるのに必要とされるフルオロ界面活性剤の量を低減する15 ことができる。(18頁14行目〜15行目) イ 乙2公報には,おおむね以下の記載がある。
(ア) 発明の名称 耐久性ある発泡組成物 (イ) 特許請求の範囲20 水および下記の化合物の種類の一つ以上に属する少なくとも一種のアルコキシル 化シリコーン化合物を含む発泡組成物で, -ビスアルコキシル化シリコーン化合物 -アルコキシル化シリコーンワックス -脂肪酸およびアルコキシル化シリコーン化合物からのエステル25 -水不溶性アルコキシル化シリコーン化合物, 空気または不活性ガスで発泡され,持続性よく0.8g/cm3以下の密度を有すること 39 を特徴とする組成物。(【請求項1】) 適切な包装材料に入れた請求項1ないし14いずれか1項の永続発泡性の組成物 または請求項15ないし18いずれか1項の薬剤の,整髪,ヘアスタイリング,洗 髪または身体洗浄または皮膚保護への使用。(【請求項19】) 5 (ウ) 背景技術 使用の直前に発泡させた一時的な不安定な泡の形の化粧用毛髪処理製品は公知で ある。この場合,燃料ガスを使った圧力容器からの取り出しによって不安定な泡に 発泡させるエアゾル製品か,または泡ヘッドに接続した機械的なポンプによって包 装材から取りだすことによって不安定な泡をつくるいわゆるポンプフォームが問題10 となる。そのような一時的な数分間で崩壊する泡を作る製品は,それぞれの使用の 前にまず泡を作らねばならず,これは使用者にとっては面倒なことであるという欠 点をもつ。そのうえ,製品販売システムの渋滞の危険が存在するので,必要な包装 材はコストがかかり,間違いが起こりやすい。さらに,処方の自由度が制限され, すなわち全ての希望の皮膚保護および整髪効果が一時的な泡製品で実現可能ではな15 い。(【0003】) (エ) 発明が解決しようとする課題 永続発泡性の化粧用既製調剤の製造のための種々の手がかりは,…公知である。
また,高温で特に貯蔵安定性がよく同時に皮膚または毛髪に使用したときに良い使 用特性をもつ発泡製品の製造は,まだ全ての点で満足できるようには解決されてい20 ない。したがって,使用しやすい化粧用または皮膚病用の向上した感覚的性質(例 えば,触感,外観,聴覚)をもつ皮膚保護剤および整髪剤を提供するという課題が 存在する。この場合,主要な皮膚保護性および整髪性を受容できないほど損なって はならず,その薬剤はコストがかかり,間違いが起こりやすい包装材を必要として はならず,また高い貯蔵安定性で永続発泡(耐久性ある発泡)の形で存在しなけれ25 ばならない。(【0004】) (オ) 課題を解決するための手段 40 この課題は,永久泡沫のための泡安定剤として,一定のシリコーン化合物を使用 することによって解決される。(【0005】) 本発明の組成物により,既製調合の泡製品として適切な包装材中に存在し,これ は取り出すことができ,その場合,室温(20℃)で少なくとも一週間保存したあと 5 の発泡度がなお少なくとも10%またはそれ以上であり得るような化粧用,医薬用ま たは皮膚病用の皮膚または毛髪の処理剤が製造できる。(【0007】) 水のほかに,親水相にはさらに水溶性の化粧品に適した有機溶媒を1ないし30重 量%または5ないし20重量%の量で含ませてもよい。そのような溶媒は,例えばエ タノールやイソプロパノールのような低級一価アルコールまたは例えばエチレング10 リコール,ジエチレングリコール,ブチレングリコールまたはグリセリンのような 多価のC2-ないしC4-アルコール である。(【0009】) [アルコキシル化シリコーン化合物] アルコキシル化シリコーン化合物は,未発泡の組成物に基づいて0.1ないし30重量 %,または0.2ないし20重量%,特に好ましくは1ないし10重量%の量で含まれるの15 が好ましい。アルコキシル化シリコーン化合物は,ポリアルコキシル化シリコーン 化合物,すなわちポリ酸化アルキレン基をもつものである。シリコーンワックスは, 室温でワックス状の固体である物質,すなわち25℃より高い融点または滴点を有す るものである。(【0010】) 好ましいシリコン化合物は,INCI名で…ビス-PEG-12ジメチコーン,ビス-PEG-20 20ジメチコーン…である。…特に好ましいのは,脂肪酸でエステル化したビス-エ トキシル化シリコーンワックスである。(【0013】) 「永続発泡」または「永久泡」の概念は,その中に気体物質が気体の小さい泡の 形で均一に分散しており,この均一な分散物が室温(20℃)で,少なくとも1週間, 好ましくは1ケ月,特に好ましくは6ケ月含まれたままであること,すなわち発泡25 度がなお少なくとも10%,なお特に好ましくは少なくとも20%であることで示 される製品塊をいう。(【0038】) 41 (2) 本件発明1と乙1発明との対比 ア 乙1公報には,以下の発明(乙1発明)が記載されていると認められる。
「非加圧式ディスペンサーの中に収容されているアルコール消毒用組成物であっ て,該ディスペンサーが該消毒用組成物を空気と混合させてそのディスペンサーか 5 らフォームを分配するためのディスペンサーポンプを有しており,前記アルコール 消毒用組成物が, a)該組成物全体の約60%v/v〜約80%v/vの量で存在しているアルコールC1-4又は その混合物; b)該組成物全体の約0.01重量%〜約2.0重量%の量で存在している生理学的に許容10 されるフルオロ界面活性剤; c)約0.01重量%〜約12.0重量%の量で存在しているフォーム安定化剤; d)約0.05重量%〜約5.0重量%の量で存在している保湿剤,軟化剤及びその組合せ のいずれか一つ; 及び15 e)該組成物全体を100重量%とする量の水; を含んでいる,前記アルコール消毒用組成物。」 イ そうすると,本件発明1と乙1発明とは,界面活性剤が,本件発明1では 「bis-PEG-[10-20]ジメチコーン」であるのに対し,乙1発明では「フルオロ界面活 性剤」である点で相違する。
20 (3) 相違点に係る構成の容易想到性 ア 乙1発明の組成物と乙2公報の組成物は,アルコール,水及び界面活性剤を 含有する発泡性の組成物である点で共通する。
しかし,乙1発明の組成物は,本件発明1と同様に,約40%v/vを超える高濃度の アルコールを含み,使用時に一時的に発泡させて用いる水性組成物である。他方,25 乙2公報の組成物は,既製調合の泡製品として包装材中に保存可能な永続発泡性の 組成物であり,その中に気体物質が気体の小さい泡の形で均一に分散しているとこ 42 ろ,この均一な分散物は,室温(20℃)で,少なくとも1週間,好ましくは1か月, 特に好ましくは6か月含まれたままであることとされている。また,乙1発明にお ける界面活性剤であるフルオロ界面活性剤(フッ素化界面活性剤)は,水性組成物 を一時的に発泡させるための発泡剤として添加されているのに対し,乙2公報の組 5 成物における界面活性剤であるアルコキシル化シリコーン化合物は,永久泡沫のた めの泡安定剤として添加されているものである。したがって,乙1発明と乙2記載 事項は,同じく発泡性の組成物に係る発明であるとはいえ,その発泡性の持続性に 係る技術的思想はおよそ異なるものというべきである。
そうすると,乙1公報及び乙2公報に接した当業者において,乙1発明の組成物10 に乙2公報記載の組成物に用いられるシリコーン・ベースの界面活性剤を更に配合 することに対する動機付けがあるとはいえない。
また,乙2公報において,好ましいシリコーン化合物のうち,特に好ましいのは, 脂肪酸でエステル化したビス-エトキシル化シリコーンワックスであるとされてい るところ,当業者が,同段落に掲記された多数のシリコーン化合物の中から,bis-15 PEG-[10-20]ジメチコーンに該当する界面活性剤であるbis-PEG-12ジメチコーンや bis-PEG-20ジメチコーンに特に着目すると認めるに足りる事情はうかがわれない。
その意味でも,乙1公報及び乙2公報に接した当業者において,乙1発明の組成 物にbis-PEG-[10-20]ジメチコーンを更に配合しようとする動機付けがあるとはいえ ない。
20 以上より,当業者が相違点に係る本件発明1の構成を容易に想到できたというこ とはできない。
イ 被告らの主張について 被告らは,化粧品等に添加される泡安定剤としてはbis-PEG-12ジメチコーンや bis-PEG-20ジメチコーン等が好ましい旨が乙2公報に開示されていることなどに照25 らせば,起泡剤であるフルオロ界面活性剤を含有する乙1発明の発泡性組成物に, 乙2公報から導かれる泡安定剤であるものの,永久泡沫のために特に好ましいとさ 43 れているわけではない(逆に言えば,可変長の時間持続する構造を有する泡沫を形 成する上では好ましい)bis-PEG-[10-20]ジメチコーンを更に配合する動機付けはあ ると主張する。
しかし,上記アのとおり,乙2公報において,bis-PEG-12ジメチコーンやbis- 5 PEG-20ジメチコーンは,「永久泡沫のため」の泡安定剤として好ましいものとされ ている以上,これを,水性組成物を「一時的に発泡させるため」の発泡剤として界 面活性剤であるフルオロ界面活性剤を添加する乙1発明の組成物に添加する動機付 けがあるとはいえない。
その他被告らがるる主張する事情を考慮しても,この点に関する被告らの主張は10 採用できない。
(4) 本件発明5及び6の進歩性について 本件発明5と乙1発明との相違点は,本件発明1の場合と同様であることから, 本件発明5の進歩性についても,本件発明1の場合と同様である。
他方,本件発明6との関係で対比すべき乙1公報記載の発明は乙1’発明(前記15 第3の5(2)イ)であると認められるところ,本件発明6と乙1’発明との相違点は, やはり本件発明1と乙1発明との相違点と同様である。したがって,本件発明6の 進歩性についても本件発明1と同様のことが妥当する。
(5) 小括 以上より,その余の点を検討するまでもなく,本件各発明は,いずれも乙1発明20 に基づいて容易に相当し得たものとは認められない。
7 争点1(技術的範囲の属否〔構成要件1A及び1C{5B,6B}の充足の 有無)について (1) 被告各製品が本件発明1の構成要件1B及び1D,本件発明5の構成要件5A 並びに本件発明6の構成要件6Aをそれぞれ充足することは,当事者間に争いがな25 い。
(2) 「発泡性アルコール組成物」(構成要件1A),「泡が形成される発泡剤」 44 (構成要件1C)について ア 前記3(2)のとおり,本件各発明における「泡」は,泡沫を意味するものであ るところ,被告各製品が「泡状」の手指消毒剤であることは被告サラヤのホームペ ージや製品情報等にうたわれていること(甲5〜11)に加え,被告各製品の試験 5 結果(甲36)及び弁論の全趣旨によれば,被告各製品はいずれも泡沫を生成する ものであることが認められる。
したがって,被告各製品は「発泡性アルコール組成物」,「泡が形成される発泡 剤」に当たる。
イ これに対し,被告らは,本件明細書の実施例20及び34の各組成物が泡を10 生成しなかったとの理解を前提に,上記各組成物の構成と被告各製品の構成とを比 較して,被告各製品は「発泡性アルコール組成物」,「泡が形成される発泡剤」に 当たらないと主張する。
しかし,上記のとおり,被告各製品が本件各発明における「泡」を生成するもの である以上,この点に関する被告らの主張は採用できない。
15 (3) 「低い圧力で空気と混合されるときに発泡性」(構成要件1A),「組成物を 空気と混合するディスペンサーポンプを有する無加圧ディスペンサーから分配され るときに,該発泡性アルコール組成物が空気と混合されて泡が形成される」(構成 要件1C)について ア 前記3(3)のとおり,「低い圧力で空気と混合されるときに発泡性」とは,加20 圧容器を用いない程度の圧力で発泡性アルコール組成物と空気を混合したときに泡 沫を生成することを意味する。また,本件明細書には,加圧容器又は噴射剤を使用 しない場合でも泡を生成することができる手段として「手動ポンプ又は機械的手 段」が想定されていることがうかがわれる(【0051】)とともに,本件各発明 の組成物が,泡を分配するためのディスペンサーポンプを有する無加圧ディスペン25 サーから泡として分配されるように処方されることが記載されている(【006 6】)。これらを併せ考えると,「ディスペンサーポンプを有する無加圧ディスペ 45 ンサー」とは,吐出の際に手で圧力を加えることにより内容物を分配するポンプ式 等のディスペンサーを意味すると解される。他方,証拠(甲6,9,36)及び弁 論の全趣旨によれば,被告各製品には,加圧容器ではない,手動ポンプ式ディスペ ンサーが用いられていることが認められる。
5 したがって,被告各製品は,「低い圧力で空気と混合されるとき」に泡を生成し, 「組成物を空気と混合するディスペンサーポンプを有する無加圧ディスペンサーか ら分配されるときに,該発泡性アルコール組成物が空気と混合されて泡が形成され る」発泡剤であるということができる。
イ これに対し,被告らは,「低い圧力」が「ディスペンサーポンプを有する無10 加圧ディスペンサーから分配される場合」に加えられる圧力よりも低いこと,吐出 の際に手で圧力を加えることにより内容物を分配するポンプ式等のディスペンサー が「ディスペンサーポンプを有する無加圧ディスペンサー」に当たらないことを前 提に,被告各製品は,「低い圧力で空気と混合されるとき」に泡を生成するもので はなく,また,「組成物を空気と混合するディスペンサーポンプを有する無加圧デ15 ィスペンサーから分配されるときに,該発泡性アルコール組成物が空気と混合され て泡が形成される」発泡剤ではないなどと主張する。
しかし,前記3(3)及び上記アのとおり,被告らの主張はその前提において誤りが あるから,この点に関する被告らの主張は採用できない。
(4) 「生理的に許容される」(構成要件1C)について20 本件明細書の記載によれば,「生理的に許容される」(構成要件1C)とは, 「皮膚に適用したときに刺激又は毒性を通常生じることがなく…ユーザーによって 受け入れられる」ことを意味し(【0035】),「生理的に許容される」有効な シリコーン・ベースの界面活性剤の量は,「全組成物の約0.001%〜約10.0重量%の 量」である(【0020】)。他方,被告各製品に存在するシリコーン・ベースの25 界面活性剤であるbis-PEG-12ジメチコーンの量については,原告と被告らで主張を 異にするものの,被告らの主張を前提としても「全組成物の0.01%〜10.0重量%の 46 量」(構成要件1C)の範囲内にある。さらに,弁論の全趣旨によれば,被告各製 品は,速乾性手指消毒剤として特段の問題もなく販売されていたことがうかがわれ る。
これらの事情に照らせば,被告各製品は,「生理的に許容される」シリコーン・ 5 ベースの界面活性剤を含む発泡剤であると認められる。これに反する被告らの主張 は採用できない。
(5) 小括 以上によれば,被告各製品は,いずれも構成要件1A及び1C,ひいては構成要 件5B及び6Bを充足する。
10 したがって,被告各製品は,いずれも本件各発明の技術的範囲に属する。
8 差止請求・廃棄請求の可否 以上のとおり,被告各製品の製造,販売等は,本件各発明に係る本件特許権の侵 害行為を構成する。
もっとも,証拠(乙8〜10)及び弁論の全趣旨によれば,被告らは,被告各製15 品については処方変更をしたこと(なお,変更後の製品が被告各製品と実質的に同 一の処方によるものであるといった事情をうかがわせる証拠はない。),平成30 年12月4日時点で被告各製品の在庫が存在しないことが,それぞれ認められる。
この点をも踏まえると,まず,被告各製品の製造,販売等の差止めについては, 被告らの応訴態度に鑑み,被告らが被告各製品を製造,販売等するおそれは依然と20 して残っているというべきである。したがって,被告各製品の製造,販売等の差止 めはなおその必要性が認められる。
他方,被告各製品の在庫は既にないことから,被告各製品の廃棄については,も はやその必要性が認められない。
したがって,被告各製品の製造,販売等の差止請求は理由があるものの,その廃25 棄請求は理由がない。
9 争点3(原告の損害額)について 47 (1) 実施料相当額 ア 被告各製品の売上高 平成28年3月4日〜平成31年1月10日の間における被告各製品の売上高が 以下のとおりであることは,当事者間に争いがない。
5 (ア) 被告サラヤによる販売分(被告東京サラヤに対する販売分は除く。) a 被告製品1 600万円 b 被告製品2 3840万円 (イ) 被告東京サラヤによる販売分 a 被告製品1 600万円10 b 被告製品2 3840万円 イ 実施料率について (ア) 特許法102条3項は,「特許権者…は,故意又は過失により自己の特許権 …を侵害した者に対し,その特許発明実施に対し受けるべき金銭の額に相当する 額の金銭を,自己が受けた損害の額としてその賠償を請求することができる。」旨15 規定する。そうすると,同項による損害は,原則として,侵害品の売上高を基準と し,そこに,実施に対し受けるべき料率を乗じて算定すべきである。
ここで,特許法102条3項については,「その特許発明実施に対し通常受け るべき金銭の額に相当する額」では侵害のし得になってしまうとして,平成10年 法律第51号による改正により「通常」の部分が削除された経緯がある。また,特20 許発明の実施許諾契約においては,技術的範囲への属否や当該特許の効力が明らか ではない段階で,被許諾者が最低保証額を支払い,当該特許が無効にされた場合で あっても支払済みの実施料の返還を求めることができないなど,様々な契約上の制 約を受けるのが通常である状況の下で,事前に実施料率が決定される。これに対し, 特許権侵害訴訟で特許権侵害に当たるとされた場合,侵害者は,上記のような契約25 上の制約を負わない。これらの事情に照らせば,同項に基づく損害の算定に当たっ て用いる実施に対し受けるべき料率は,必ずしも当該特許権についての実施許諾契 48 約における実施料率に基づかなければならない必然性はなく,むしろ,通常の実施 料率に比べておのずと高額になるであろうことを考慮すべきである。
したがって,特許法102条3項による損害を算定する基礎となる実施に対し受 けるべき料率は,@当該特許発明の実際の実施許諾契約における実施料率や,それ 5 が明らかでない場合には業界における実施料の相場等も考慮に入れつつ,A当該特 許発明自体の価値すなわち特許発明の技術内容や重要性,他のものによる代替可能 性,B当該特許発明を当該製品に用いた場合の売上げ及び利益への貢献や侵害の態 様,C特許権者と侵害者との競業関係や特許権者の営業方針等訴訟に現れた諸事情 を総合考慮して,合理的な料率を定めるべきである。
10 (イ) 実施料の相場(@) 「実施料率〔第5版〕」(社団法人発明協会研究センター編,平成15年発行。
甲38)によれば,「医薬品・その他の化学製品」(イニシャル無)の技術分野に おける平成4年度〜平成10年度の実施料率の平均値は7.1%であり,昭和63 年度〜平成3年度に比較して上昇しているところ,その要因として,「実施料率全15 体の契約件数は減少しているものの,8%以上の契約に限れば件数が増加しており, この結果,…実施料率の平均値が高率にシフトしている。」,「この技術分野が他 の技術分野と比較して実施料率が高率であることと,実施料率の高率へのシフト傾 向は,医薬品が支配的であるが,これは近年医薬品の開発には莫大な費用が必要と なってきており,また,代替が難しい技術が他の技術分野と比較して多いためであ20 ると考えられる。」との分析が示されている。また,同時期の実施料率の最頻値は 3%,中央値は5%であることも示されている。
他方,「平成21年度特許庁産業財産権制度問題調査研究報告書 知的財産の価 値評価を踏まえた特許等の活用の在り方に関する調査研究報告書〜知的財産(資 産)価値及びロイヤルティ料率に関する実態把握〜本編」(株式会社帝国データバ25 ンク,平成22年3月作成。乙11)によれば,「健康;人命救助;娯楽」の技術 分野における実施料率の平均は5.3%,最大値14.5%,最小値0.5%とさ 49 れている。また,「バイオ・製薬」の技術分野においては,平均6.0%,最大値 32.5%,最小値0.5%とされている。
(ウ) 本件における実施料率を考えるにあたり考慮すべき事情(A〜B) a 原告は,本件各発明の技術的価値は極めて優れたものであり,また,速乾性 5 手指消毒剤の市場における泡状の製品の占めるシェアの動向から,経済的にもその 価値は高いなどと主張する。
泡状の速乾性手指消毒剤である被告各製品に係る宣伝広告(甲5,7,8),製 品情報(甲6,9)及び医薬品インタビューフォーム(甲10)では,液状の速乾 性手指消毒剤では手に取ったときにこぼれやすく,ジェル状の速乾性手指消毒剤で10 は増粘剤が配合されているためにポンプのノズルの詰まりや繰り返し塗布したとき の使用感が問題になることがあったところ,被告各製品は,これらの問題点を解決 する製品である旨がうたわれていることが認められる。
また,本件各発明の実施品である泡状の速乾性手指消毒剤(平成23年6月発売。
甲39,41の1〜41の5,弁論の全趣旨)の販売業者が医療関係者向けに開設15 したウェブサイト(甲40)には,泡が目に見えるので消毒範囲が確認できるとと もに,泡が消えるまで塗り広げることが消毒時間の目安にもなる点や,増粘剤が入 っていないので,ポンプが詰まらず,手に擦り込んでもヨレ(増粘剤入りの消毒剤 や化粧品を手に擦り込んだ際に出る糊状の剥離物)が出ないことがうたわれている。
さらに,平成30年9月26日付け薬事日報ウェブサイトの新薬・新製品情報に関20 する記事(甲44)においては,第三者の販売に係る「医薬品として日本で初めて 承認された低アルコール濃度72vol%の手指殺菌・消毒剤」の出荷開始予定について 報じる中で,「同品の登場によって,手指消毒剤の課題であったアルコールによる 手肌への刺激が低減され,…このほか,▽きめ細かく弾力のある泡で,手からこぼ れるリスクを軽減する▽泡が目でしっかり見えるため,手指消毒の状態を確認でき25 る-といった使用感も特徴。」,「現在,医療分野における手指消毒剤市場は約1 60億円とされ,構成比は液状が6割,ジェル状が3割,泡状が1割という状況。
50 ただ,液状の構成比は年々減少しており,今後はジェル状と共に泡状も伸びていく ことが見込まれている。」とされている。
加えて,被告サラヤが実施したアンケートによれば,アンケート対象者である医 療従事者の施設で使用されている速乾性手指消毒剤の種類は,平成25年にはジェ 5 ルタイプ67%,液タイプ27%,泡タイプ6%であったものが,平成27年には それぞれ66%,24%,10%となっている(甲42,43)。
以上の事情を総合的に見ると,被告各製品と本件各発明の実施品に加え,第三者 の製品も,本件各発明の奏する作用効果(前記3(2)ア)と同趣旨と見られる効果を 利点としてうたっていることなどに鑑みれば,泡状の手指消毒剤において本件各発10 明が持つ技術的価値は高いものと見られる。また,手指消毒剤の市場において,泡 状の製品のシェアが徐々に高まっていることがうかがわれることに鑑みると,本件 各発明の経済的価値も積極的に評価されるべきものといえる。もっとも,後者に関 しては,ジェル状の製品のシェアはなお維持されているといってよいことに鑑みる と,その評価は必ずしも高いものとまではいえない。実施料率の決定要因としては,15 当該特許発明の技術的価値よりも経済的価値の方がより影響力が強いと推察される ことに鑑みると,このことは軽視し得ない。
これに対し,被告らは,本件各発明は平均的な発明に比して技術的に優れた発明 ではなく,また,泡状の手指消毒剤のシェアの拡大は直接的には当該製品の販売事 業者の営業努力によるものであり,シェア拡大をもって特許の経済的価値が高いと20 はいえないなどと主張する。
しかし,進歩性が認められる本件各発明の奏する作用効果と同趣旨と見られる効 果が実際の製品の利点としてうたわれていることなどに鑑みれば,上記のとおり本 件各発明の技術的価値は高いものと評価するのが相当である。また,販売事業者が 営業活動に当たって相応の営業努力を行うことは当然である上,泡状の手指消毒剤25 に係る営業方法等が,ジェル状ないし液状のものに係る営業方法等と比較して,格 別のものであると見るべき事情もない。
51 これらのことから,この点に関する被告らの主張は採用できない。
b 被告各製品は,被告製品1(500mLの泡ポンプ付が定価1760円,3 00mLの泡ポンプ付が1200円,80mLの泡ポンプ付が670円,600m Lのディスペンサー用が2000円。甲5,28,乙13),被告製品2(500 5 mLの泡ポンプ付が1760円,300mLの泡ポンプ付が1200円,200m Lの泡ポンプ付が930円,80mLのものが670円,600mLのディスペン サー用が2000円。甲8,29,乙14)いずれも比較的低価格である。反面, これを踏まえて被告各製品の売上高を見ると,その販売数量は多いといえるから, 被告各製品はいわゆる量産品であり,利益率は必ずしも高くないと合理的に推認さ10 れる。この点は,本件各発明を被告各製品に用いた場合の利益への貢献という観点 から見ると,実施料率を低下させる要因といえる。
(エ) 小括 上記(イ)及び(ウ)の各事情を斟酌すると,特許権侵害をした者に対して事後的に定め られるべき,本件での実施に対し受けるべき料率については,7%とするのが相当15 である。これに反する原告及び被告らの各主張は,いずれも採用できない。
ウ 「特許発明実施に対し受けるべき金銭の額に相当する額」 以上によれば,原告が被告らによる本件各発明の実施に対し受けるべき金銭の額 に相当する額は,売上高に7%を乗じて算定すべきこととなる。具体的には以下の とおりである。
20 a 被告サラヤによる販売分(被告東京サラヤに対する販売分は除く。) 合計 310万8000円 ・ 被告製品1 42万円 ・ 被告製品2 268万8000円 b 被告東京サラヤによる販売分 合計310万8000円25 ・ 被告製品1 42万円 ・ 被告製品2 268万8000円 52 エ 弁護士費用及び弁理士費用相当損害額 また,上記ウの額その他本件に現れた一切の事情を考慮すると,被告らの特許権 侵害行為と相当因果関係に立つ弁護士費用及び弁理士費用相当損害額は,被告サラ ヤによる販売分(被告東京サラヤに対する販売分を除く。),被告東京サラヤによ 5 る販売分それぞれにつき31万円と認めるのが相当である。
被告製品2の販売に関する共同不法行為責任について 被告ら相互の関係(第2の2(1)イ)や被告各製品の流通過程(同(5))に照らせば, 被告東京サラヤによる被告各製品の販売行為については,被告らの間に客観的関連 共同にとどまらず主観的関連共同も認められるから,被告らによる共同不法行為が10 成立し,被告サラヤは連帯して損害賠償責任を負うと解するのが相当である。
遅延損害金の起算日について 原告は,平成28年3月4日〜平成29年9月20日までの間に販売された被告 各製品に係る損害分については平成29年10月12日(訴状送達の日の翌日)を, 平成29年9月21日〜平成31年1月10日までの間に販売された被告各製品に15 係る損害分については平成31年1月18日(訴えの変更申立書送達の日の翌日) を遅延損害金の起算日として主張する。
不法行為に基づく損害賠償請求権の遅延損害金の起算日は不法行為の日以後でな ければならないところ,被告各製品の販売は,遅くとも平成31年1月10日まで に行われたことは明らかであるものの,それ以上の詳細は証拠上明らかではない。
20 そうすると,本件における被告らの損害賠償債務の遅延損害金の起算日は,原告の 上記主張の趣旨も併せ考慮し,平成31年1月18日とするのが相当である。
結論
以上のとおり,原告の請求は,主文第1項〜第4項記載の限度で理由があるから, その限度で認容し,その余はいずれも理由がないから棄却することとして,主文の25 とおり判決する。なお,主文第1項及び第2項について,仮執行の宣言を付すのは 相当でないから,これを付さないこととする。
53
追加
5裁判長裁判官杉浦正樹1015裁判官野上誠一20裁判官25大門宏一郎54 (別紙)当事者目録原告デブアイピーリミテッド5同訴訟代理人弁護士岡田春夫同中西淳同駒木寛隆同訴訟代理人弁理士大ア勝真同補佐人弁理士岡本篤史10同佐藤浩司被告サラヤ株式会社被告東京サラヤ株式会社上記両名訴訟代理人弁護士小原正敏同原井大介15同山澤満同訴訟代理人弁理士林雅仁同中野睦子同北野善基以上2055 (別紙)物件目録1下記の商品を含む,販売名に「サニサーラフォームH」を含む消毒剤。
記5(1)品名速乾性手指消毒剤サニサーラフォームH内容量/規格500mL泡ポンプ付(2)品名速乾性手指消毒剤サニサーラフォームH内容量/規格300mL泡ポンプ付(3)品名速乾性手指消毒剤サニサーラフォームH10内容量/規格80mL泡ポンプ付(4)品名速乾性手指消毒剤サニサーラフォームH内容量/規格600mLディスペンサー用2下記の商品を含む,販売名に「サニサーラフォーム」を含む消毒剤(ただし,販売名に「サニサーラフォームH」を含む消毒剤を除く。)。
15記(1)品名速乾性手指消毒剤サニサーラフォーム内容量/規格500mL泡ポンプ付(2)品名速乾性手指消毒剤サニサーラフォーム内容量/規格300mL泡ポンプ付20(3)品名速乾性手指消毒剤サニサーラフォーム内容量/規格200mL泡ポンプ付(4)品名速乾性手指消毒剤サニサーラフォーム内容量/規格80mL(5)品名速乾性手指消毒剤サニサーラフォーム25内容量/規格600mLディスペンサー用以上56 (別紙)構成要件目録1本件発明11A発泡性アルコール組成物であって,低い圧力で空気と混合されるときに発5泡性であり,下記の成分;1Ba)全組成物の少なくとも40%v/vの量で存在する,C1-4アルコール又はその混合物;1Cb)全組成物の0.01重量%〜10.0重量%の量で存在する,発泡のための,シリコーン骨格を含有する親油性鎖を含む生理的に許容されるシリコーン・ベース10の界面活性剤を含む発泡剤であって,bis-PEG-[10-20]ジメチコーン,又はbis-PEG-[10-20]ジメチコーンの混合物であり,組成物を空気と混合するディスペンサーポンプを有する無加圧ディスペンサーから分配されるときに,該発泡性アルコール組成物が空気と混合されて泡が形成される発泡剤;及び1Dc)全組成物を100重量%とする量で存在する水を含む151A発泡性アルコール組成物。
2本件発明55A上記アルコールが少なくとも40%v/v?90%v/vの範囲で存在する,5B請求項1に記載の組成物。
203本件発明66A上記アルコールが少なくとも60%v/vの量で存在するエタノールである,6B請求項1に記載の組成物。
以上2557 (別紙)被告各製品の構成1被告製品1a1エタノールを含む発泡性組成物であり,下記のb〜dの成分を含む;5b1全組成物の約78.6%v/vのエタノール,c1全組成物の約1.66重量%の量で存在するbis-PEG-12ジメチコーン,d1全組成物の約25.6重量%の量で存在する水このほか,被告製品1は,保湿剤としてグリセリン,ミリスチン酸イソプロピル及びアラントインを含有する。
102被告製品2a2エタノールを含む発泡性組成物であり,下記のb〜dの成分を含む;b2全組成物の約78.7%v/vのエタノール,c2全組成物の約1.81重量%の量で存在するbis-PEG-12ジメチコーン,15d2全組成物の約25.1重量%の量で存在する水このほか,被告製品2は,保湿剤としてグリセリン,ミリスチン酸イソプロピル及びアラントインを含有する。
以上58 (別紙)本件明細書表目録559 60 以上61
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