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関連審決 不服2017-10094
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事件 平成 30年 (行ケ) 10114号 審決取消請求事件

原告 アングロプラチナム マーケティング リミテッド
訴訟代理人弁護士 宮嶋学
同 高田泰彦
同 柏延之
同 砂山麗
訴訟代理人弁理士 永井浩之
同 中村行孝
同 末盛崇明
被告特許庁長官
指定代理人中澤登
同 大橋賢一
同 河本充雄
同 阿曾裕樹
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2019/04/18
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
3 この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30日と定める。
1事 実 及 び 理 由第1 請求特許庁が不服2017−10094号事件について平成30年3月27日にした審決を取り消す。
第2 事案の概要1 特許庁における手続の経緯等(1) 原告は,平成22年7月2日(優先日平成21年7月2日,優先権主張国英国)を国際出願日とする特許出願(特願2012−516869号)の一部を分割して,平成27年8月21日,発明の名称を「有機物質由来の揮発性有機化合物の吸着」とする発明について,特許出願(特願2015−164024号。以下「本願」という。)をした。
原告は,平成28年7月28日付けの拒絶理由通知(甲3)を受けたため,同年10月28日付けで特許請求の範囲について手続補正(甲5)をしたが,特許庁は,平成29年3月7日,上記補正を却下した上で,拒絶査定(甲6)をした。
(2) 原告は,平成29年7月6日,拒絶査定不服審判(不服2017−10094号事件)を請求するとともに,同日付けで,特許請求の範囲について手続補正(甲7)をした。
原告は,同年12月20日付けの拒絶理由通知を受けたため,平成30年2月16日付けで特許請求の範囲について手続補正(甲2。以下「本件補正」という。)をした。
その後,特許庁は,平成30年3月27日,本件補正を認めた上で,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決(以下「本件審決」という。)をし,その謄本は,同年4月6日,原告に送達された。
(3) 原告は,平成30年8月6日,本件審決の取消しを求める本件訴訟を提起した。
22 特許請求の範囲の記載本件補正後の特許請求の範囲は,請求項1ないし24からなり,その請求項1の記載は,次のとおりである(以下,請求項1に係る発明を「本願発明」という。甲2)。
【請求項1】パラジウムドープされたZSM−5の使用であって,有機物質由来の揮発性有機化合物(VOC)を吸着するものであり,前記ZSM−5のSi:Alの比が,100:1以下であり,前記パラジウムドープされたZSM−5が,1vol%,2vol%,3vol%または4vol%の酸素を含む環境で使用される,パラジウムドープされたZSM−5の使用。
3 本件審決の理由の要旨(1) 本件審決の理由は,別紙審決書(写し)記載のとおりである。
その要旨は,@本願発明は,本願の優先日前に頒布された刊行物である「引用文献1」に記載された発明(以下「引用発明」という。)と同一であるから,特許法29条1項3号に該当する,A本願発明は,引用発明及び「引用文献2」記載の周知技術に基づいて,当業者が,容易に発明をすることができたものであるから,同条2項に該当するとして,その余の請求項に記載された発明に言及するまでもなく,本願は拒絶すべきであるというものである。
引用文献1及び2は,以下のとおりである。
引用文献1(甲10) 特表2009−513344号公報引用文献2(原文甲11・訳文乙1,甲11)Effects on Fruit and Vegetables,M.V.Rama et al.,ENCYCLOPEDIA OF FOOD SCIENCES AND NUTRITION,Second Edition,ACADEMIC PRESS,BENJAMIN CABALLERO et al.,32003,Vol.3,P1607〜1615(2) 引用発明,本願発明と引用発明の一致点及び相違点は,以下のとおりである。
ア 引用発明パラジウムドープされたZSM−5の使用であって,バナナ,モモ,トマト由来のエチレンを吸着するものであり,前記ZSM−5のSiO2:Al2O3比が23であるパラジウムドープされたZSM−5の使用。
イ 本願発明と引用発明の一致点及び相違点(一致点)「パラジウムドープされたZSM−5の使用であって,有機物質由来の揮発性有機化合物(VOC)を吸着するものであり,前記ZSM−5のSi:Alの比が,100:1以下である,パラジウムドープされたZSM−5の使用。」である点。
(相違点)本願発明では「パラジウムドープされたZSM−5が,1vol%,2vol%,3vol%または4vol%の酸素を含む環境で使用される」ものであるのに対して,引用発明では使用される環境が明らかでない点。
第3 当事者の主張1 取消事由1(本願発明の新規性の判断の誤り)(1) 原告の主張ア 引用発明の認定及び相違点の認定の誤り本件審決は,本願発明では「パラジウムドープされたZSM−5が,1vol%,2vol%,3vol%または4vol%の酸素を含む環境で使用される」ものであるのに対して,引用発明では「使用される環境が明らかでない」点を相違点として認定したが,以下のとおり,本件審決の上4記認定は誤りである。
(ア) 引用文献1には,大気の気体組成とは異なる組成のガスを用いて実験を行う場合には,酸素10%である「例2」(【0028】)や「例6」(【0040】)のようにその気体組成が明確に記載されているのに対し,本件審決が引用発明の認定の根拠とした「例5」については,単にバナナなどの果実を「気密容器」に入れることのみを記載し(【0036】,【0038】),「気密容器」中の気体組成の記載がない。
そうすると,「例5」における気体組成は,大気中のものと同じであり,酸素が約20体積%含まれていると解釈するのが合理的である。
また,引用文献1の【0011】及び【0019】の記載は,引用発明の「バナナ,モモ,トマト由来のエチレン」のような腐敗しやすい有機商品(食品および園芸産物)は,大気ないしはそれと同じ組成のガスに接する環境下で保管することを当然の前提としたものといえる。
さらに,医薬品の収納容器について説明した「登録販売者.com」のホームページ(甲16)に,「固体と液体の進入を防ぐことができる容器で,密閉容器よりも保存性に優れています。」,「内容物の風解,潮解,蒸発も防ぐため液体医薬品の容器としても用いられていますが,気体の進入を防ぐことはできないため空気中の酸素による酸化に弱い医薬品にはあまり適していません。 との記載があることからすると,」 「気密容器」は,通常,固体と液体の進入を防ぐことができても,酸素などの気体の進入を防ぐことはできないものを意味するから,「低酸素の状態」を維持する用途に適さないものといえる。
(イ) 以上によれば,本件審決認定の引用発明のうち,「バナナ,モモ,トマト由来のエチレンを吸着するものであり, との部分は,」 「バナナ,モモ,トマト由来のエチレンを大気と同じガス組成の容器中で吸着するものであり,」と認定すべきであったといえるから,この点において,5本件審決における引用発明の認定に誤りがある。
その結果,本件審決認定の相違点のうち,引用発明では「使用される環境が明らかでない」点との部分は,引用発明では「大気と同じ酸素を含む環境で使用されるものであり,酸素濃度が約20vol%である」点と認定すべきであったといえるから,この点において,本件審決における相違点の認定に誤りがある。
相違点の判断の誤り本件審決は,果物や野菜は,保存や輸送に際し,特定の酸素濃度雰囲気におくことで品質が長持ちすることは,本願の優先日当時の周知技術であること(引用文献2のTable1) 引用文献2には,, 「Banana」,「Peach」,「Tomato」について酸素濃度雰囲気がそれぞれ「2−5%」,「1−2%」,「1−5%」であることが示されており,これらは,本願発明の「酸素を含む環境」の酸素濃度に一致すること,引用文献1の記載事項(【0001】,【0009】,【0016】,【0017】)によれば,引用発明は「果物および/または野菜」の品質を長持ちさせるために,「果物および/または野菜」から発生する「エチレン」等の「VOC」を吸着除去するものであることからすると,引用発明と同じ目的の上記周知技術を踏まえれば,引用発明においても,酸素濃度を1〜4%の範囲に当然に維持しているということができるから,相違点は実質的な相違点ではなく,本願発明は引用文献1に記載された発明(引用発明)と同一である旨判断した。
しかしながら,引用文献1には,酸素濃度を特定の濃度範囲に設定することについての記載はないから,引用文献1に記載された発明は,酸素濃度を1〜4%の範囲に当然に維持しているものとはいえない。むしろ,前記アのとおり,引用文献1に記載された発明では,バナナなどの果実を大気と同じガス組成の気密容器に入れて,酸素濃度が20体積%の環境下で6保存しているといえる。
また,引用文献2で推奨される空気条件として規定されているのは,温度,酸素濃度及び二酸化炭素濃度の3点であり,このうちの酸素濃度のみが,引用文献1に記載された発明において引用文献2記載の値に設定されているということはできない。
さらに,引用文献1の記載事項から,引用文献1に記載された発明は,大気ないしはそれと同じ組成のガスに接する環境下で保管することを想定し,酸素濃度を変更するのではなくパナジウムドープされたZSM−5を使用することのみを解決手段として,有機物質に由来するエチレンなどの揮発性有機化合物(VOC)を吸着し,食品や園芸産物が早期に劣化するのを防止することを技術的思想としていることが理解できるのに対し,本願発明は,パナジウムドープされたZSM−5を使用することと1vol%,2vol%,3vol%または4vol%の酸素を含む環境で使用されることを必須の構成とし,エチレンの吸収能をさらに高めることを技術的思想としているから,引用文献1に記載された発明と本願発明とは根本的に技術的思想が異なるものである。
したがって,本件審決の上記判断は誤りである。
ウ 小括以上によれば,本願発明は,引用文献1に記載された発明(引用発明)と同一であるとした本件審決の判断は誤りである。
(2) 被告の主張ア 引用発明の認定及び相違点の認定の誤りの主張に対し引用文献1には,引用発明の酸素濃度についての明記はない。
しかし,引用文献1の【0036】,【0037】及び図4には,引用発明のうち,バナナを用いた場合について,容器中のCO 2及びエチレンの経時増加をガスクロマトグラフィーで測定し,吸着剤の存在によりエチ7レンは増加しなかったが,呼吸によりCO 2は増加したことが記載されている。
このように容器中の気体濃度の経時測定ができるということは,引用発明が実施された「気密容器」は,気体の進入を防ぐことができないようなものではなく,文字通り「気密」すなわち「気体を通さないこと。気体に対して密閉されていること」(広辞苑第六版)を意味するものといえる。
また,「呼吸によりCO2が増加した」ということは,酸素が消費されていることになるから,引用発明においては,バナナを「気密容器」に入れた時点の酸素濃度が,原告が主張するように大気中と同じ約20体積%であったとしても,直ちに大気中より低酸素の状態へと変化したものと認められる。
したがって,本件審決における引用発明の認定及び相違点の認定に原告主張の誤りはない。
相違点の判断の誤りの主張に対し前記アで述べたとおり,引用文献1には,引用発明の酸素濃度についての明記はないが,「気密容器」に入った各果物(バナナ,モモ,トマト)の呼吸に伴い,「気密容器」の中は,大気中より低酸素の状態になっていることは明らかであり,各果物が,酸素を消費する呼吸(好気呼吸)をする限りは,酸素濃度が低下していくものと認められる。
次に,引用文献2の記載事項(訳文c),d),図1)及び甲17の記載事項(89頁左欄13行〜16行,90頁右欄23行〜26行)によれば,好気呼吸を維持し,腐敗を防ぐために必要な「最小酸素濃度」は,通常は2〜5%であることは,本願の優先日当時,周知の技術的事項であり,また,引用文献2の表1に記載された保存や輸送に適した酸素濃度は,各果物の好気呼吸が維持される最小酸素濃度として周知である。
上記周知技術に照らすと,引用文献1に接した当業者は,引用発明の環8境も,最小酸素濃度である2〜5%まで低下していくものと理解するものといえるから,引用文献1には,引用発明においても,1〜4vol%の酸素を含む環境でパラジウムドープされたZSM−5を使用していることの開示があるといえる。
したがって,本願発明は,引用文献1に記載された発明と同一である。
ウ 小括以上によれば,本願発明は,引用文献1に記載された発明と同一であるとした本件審決の判断に誤りはないから,原告主張の取消事由1は理由がない。
2 取消事由2(本願発明の進歩性の判断の誤り)(1) 原告の主張本件審決は,果物や野菜の品質を長持ちさせるという目的のために,引用発明に,引用文献2記載の周知技術を適用して,1〜4%の低酸素環境でエチレンを吸着することで,より長期間のバナナ等の果物の品質の維持を図ろうとすることに何らの困難性も見いだせないから,本願発明は,引用文献1に記載された発明及び上記周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである旨判断したが,以下のとおり,本件審決の上記判断は誤りである。
周知技術の認定の誤り引用文献2記載の「Banana」,「Peach」,「Tomato」の酸素濃度雰囲気がそれぞれ「2−5%」,「1−2%」,「1−5%」であることが周知技術であることを示す証拠はない。
また,甲12ないし15は,食品の品質を維持するために特定の酸素濃度の環境に置くという技術が開示されているとはいえても,具体的にどのような酸素濃度にするのがよいかの開示はない。
したがって,「Banana」,「Peach」,「Tomato」に9ついて上記酸素濃度とすることが周知である旨の本件審決の認定は誤りであるイ 相違点の容易想到性の判断の誤り(ア) 引用文献1の【0001】の記載によれば,引用発明は,あくまでもパラジウムドープされたZSM−5を使用することのみを解決手段として揮発性有機化合物(VOC)を吸収することを目的とする発明であり,【0011】,【0016】及び【0019】の記載は,引用発明の「バナナ,モモ,トマト由来のエチレン」のような腐敗しやすい有機商品(食品および園芸産物)は,大気ないしはそれと同じ組成のガスに接する環境下で,特別な温度管理や気体組成の管理をすることなく保管することを当然の前提とするものである。
一方,仮に引用文献2記載の酸素濃度が周知技術であるとしても,引用文献2で推奨される空気条件として規定されているのは,温度,酸素濃度及び二酸化炭素濃度の3点であり,引用文献2には,酸素濃度の条件のみに着目すべきであることについての記載も示唆もない。
そして,引用文献1には,引用文献2記載の技術を適用することについて記載も示唆もない。
また,引用発明の技術は,非常に簡便であり,どのような環境下でも利用できることを特徴としているから,引用文献2のように温度や酸素,二酸化炭素などの気体組成を青果物の種類に応じて厳密に管理しなければならない技術とは全く相容れないものである。
さらに,引用文献1の【0048】によれば,引用発明において揮発性有機化合物(VOC)の吸収にはパラジウムが重要であり,その濃度に応じて吸収能が変化することが示されているから,引用発明において揮発性有機化合物(VOC)の吸収能を向上させたいと考えるのであれば,まずパラジウムの濃度などの諸条件を検討するのが当業者の通常の発想10であり,引用発明に1〜4%の低酸素環境を組み合わせるという発想には想到し得ない。
したがって,引用発明に引用文献2記載の周知技術を組み合わせる動機づけは存在しない。
(イ) 甲17の記載事項(89頁ないし90頁,図2及び図3)によれば,低酸素貯蔵環境においてバナナ,トマトなどの青果物を一定期間保管すると,アセトアルデヒドやエタノールなどの有害な揮発性成分の蓄積による低酸素障害が,どの種類の青果物についても発生し,貯蔵中経時的に著しく大きくなっていくこと,バナナ,トマトについては,酸素濃度が1〜5%(3%付近)において呼吸活性が最小となり,この付近の濃度において呼吸が好気呼吸から嫌気呼吸へ切り替わり,異臭,変色などの低酸素障害による劣化が生ずることを理解できる。
このように低酸素による貯蔵は,単に酸素による品質劣化を抑えるのみでなく,低酸素障害による品質の劣化と隣り合わせの技術である。
したがって,本件審決がいうように果物や野菜の品質を長持ちさせることを目的とするのであれば,低酸素障害による異臭の発生が懸念される保存条件は,当然に避けることになるから,引用発明において,相違点に係る本願発明の構成(「1vol%,2vol%,3vol%または4vol%の酸素を含む環境」で使用)とすることには阻害要因がある。
(ウ) 以上のとおり,引用文献1に接した当業者において,本件審決認定の周知技術を適用する動機づけは存在せず,かえって阻害要因があるから,当業者が引用文献1及び上記周知技術に基づいて,相違点に係る本願発明の構成を容易に想到することができたとした本件審決の判断は誤りである。
ウ 顕著な効果に関する判断の誤り11本件審決は,引用文献1には,本願の願書に添付した明細書(以下,図面を含めて「本願明細書」という。甲1)の「実施例2」と同様の湿潤条件下で「O2 10%」で,「粒子径250〜355μm」の「2.5重量%Pd/ZSM−5(23)」にエチレンを吸着させた場合に,「4162μl/g」,「3753μl/g」の相応の吸着能力があったことが記載されているから,本願明細書の「表1」に記載されたO2濃度「1vol%」,「2vol%」,「4vol%」の吸着能力(3600〜3800μl/g)が,引用文献1の上記記載から予期し得ないものとはいえない旨判断した。
しかしながら,本願明細書の「表1」によれば,酸素濃度が1vol%,2vol%,4vol%の場合の吸着能力は,酸素濃度10vol%の場合と比べて高い数値になっている。このことは,原告が行った実験結果(甲18)においても同様である。
このように酸素濃度を低くして本願発明の範囲に設定することによって,エチレン吸収能力が向上し,その結果,パラジウムドープされたZSM−5のエチレン吸収能が向上することは,引用文献1の記載から読み取ることができないから,本願発明の予想し難い顕著な効果であるといえる。
したがって,本件審決の上記判断は誤りである。
エ 小括以上のとおり,本件審決は,相違点の容易想到性の判断及び本願発明の奏する予想し難い顕著な効果の判断を誤った結果,本願発明は,引用文献1及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたとの誤った判断をしたものである。
(2) 被告の主張ア 周知技術の認定の誤りの主張に対し本願の優先日当時,低酸素状態において吸着剤を用いてエチレンを除去12することにより,果物の輸送や貯蔵時の熟成が防止できることは,周知であった(例えば,甲12ないし15)。
そして,引用文献2,乙2,乙3及び甲17の記載事項によれば,果物の貯蔵に適した酸素濃度,すなわち,好気呼吸が維持される最小酸素濃度が存在すること,バナナ,モモ及びトマトの上記酸素濃度がそれぞれ「2−5%」,「1−2%」,「1−5%」であることは,本願の優先日当時,周知であった。
したがって,本件審決における周知技術の認定に原告主張の誤りはない。
イ 相違点の容易想到性の判断の誤りの主張に対し(ア) 引用文献1の図4によれば,時間経過とともに,CO 2濃度は増え続けるのに対して,エチレン濃度は0のままであるから,引用発明において,パラジウムドープされたZSM−5が,果物の呼吸により大気中より低い酸素濃度になっても,果物に由来するエチレンを吸着していることを認識できる。
そして,引用文献1の【0017】に「パラジウムドーピングされたZSM−5を使用してエチレンを吸着することにより,果物のそれ以上の熟成が防止される」ことの記載があることに照らすと,引用文献1に接した当業者であれば,果物の輸送や貯蔵時の熟成の防止を目的として,引用発明に前記アの周知技術を適用する動機づけがあるといえるから,1〜4vol%の酸素を含む環境において,パラジウムドープされたZSM−5を使用して果物に由来するエチレンを吸着する構成とすること(相違点に係る本願発明の構成)は,容易に想到し得たものである。
したがって,本件審決における相違点の容易想到性の判断に誤りはない。
(イ) 原告は,引用発明に引用文献2に記載された酸素濃度の条件を適用することには阻害要因がある旨主張する。
13しかしながら,引用文献2には,温度や二酸化炭素濃度を特に限定することなく,酸素濃度を低下させた場合の果物の呼吸への影響についての記載があり(訳文c),d)),当業者であれば,上記記載から,温度や二酸化炭素濃度の調整とは区別して,酸素濃度を引用文献2の表1に記載された範囲に調整することの技術的意味を理解することができる。
また,仮に引用文献2の表1の記載を温度や二酸化炭素濃度をも同時に調整するものと解したとしても,引用文献1には,引用発明で使用した吸着剤(パラジウムドープされたZSM−5)が,低温においても使用できること(【0016】),呼吸によりCO2が増加してもエチレンを吸着すること(図4)が開示されていることに照らすと,引用発明に前記アの周知技術を適用することの阻害要因になるものではない。引用文献2に記載された酸素濃度の条件は,好気呼吸が維持される最小酸素濃度であると解されるから,嫌気呼吸により低酸素障害が起こることが周知であるとしても,引用発明に引用文献2に記載された酸素濃度の条件を適用することの阻害要因になるものではない。
したがって,原告の上記主張は理由がない。
ウ 顕著な効果に関する判断の誤りの主張に対し本願明細書に記載された実施例2の試験結果である「表1」は,パラジウムドープされたZSM−5のエチレン吸着能力が,10vol%の酸素を含む環境(3500μl/g)と比べて,0vol%の酸素を含む環境(6050μl/g)において顕著な能力の向上を示したといえても,本願発明が特定する1〜4vol%の酸素を含む環境(3600〜3800μl/g)において顕著な能力の向上を示したとはいえない。
また,本願発明の特許請求の範囲(請求項1)には,酸素濃度以外の環境やパラジウムの量についての特定はないから,引用文献1記載の「例4」と本願明細書記載の「表1」との実験条件の違いは問題とならない。仮に14実験条件の違いから,引用文献1に記載された「例4」のエチレン吸着容量の測定値をそのまま本願明細書の「表1」の測定値と対比することが適切でないとしても,本願明細書の記載からは,パラジウムドープされたZSM−5が,引用文献1の「例4」に開示された使用環境と比べて,本願発明が特定する1〜4vol%の酸素を含む環境において顕著な作用効果があると認められないことに変わりはない。
したがって,本願発明の効果が予期しえない顕著な効果であるとはいえないとした本件審決の判断に誤りはない。
エ 小括以上によれば,本願発明は,引用発明及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるとした本件審決の判断に誤りはない。
第4 当裁判所の判断1 取消事由1(本願発明の新規性の判断の誤り)について(1) 本願明細書の記載事項等についてア 本願明細書(甲1)の発明の詳細な説明には,次のような記載がある(下記記載中に引用する「図1」,「表1」については別紙1を参照)。
(ア) 【技術分野】【0001】本発明は,低酸素を含むかまたは酸素を含まない環境において,有機物質(有機物)由来の揮発性有機化合物(volatile organic compounds,VOC)の吸着に関する。より詳細には,有機物質は,食品のような,腐敗しやすい有機物品であり得る。
【背景技術】【0002】生鮮製品のCA(controlled atmosphere)貯15蔵は,製品の保存期間を長くするために高水準の二酸化炭素および減少した酸素を使用する。MAP包装(modified atmosphere packaging)は,空気と比べて大気内の酸素の量を減少させることにより,食品の寿命および/または品質を向上させるために用いられる。生鮮製品は,高水準の二酸化炭素および減少した水準の酸素を使用し,呼吸速度(respiration rate)を減少させる,変更された大気下で包装される。
【0003】揮発性有機化合物は,有機物質から誘導される化合物を含む。有機物質から誘導される揮発性有機化合物の一例としては,熟成をもたらす植物ホルモンのエチレンがあり,他の例としては,魚が変質する際に一般的に放出されるガスのトリメチルアミンがある。
【0004】有機物質由来の揮発性有機化合物の除去は,多様な分野に適用される。
エチレンの吸着は,果物および野菜から発生する,所望しない変質,変色,葉の損傷および発芽を防止することができ,他の食品と園芸作物が早期に腐るのを防止可能であることが知られており,不快な匂いを除去することができる。
(イ) 【発明が解決しようとする課題】【0005】Al2O3またはKMnO4上のPtを使用する揮発性有機化合物を酸化および燃焼させるために多様な方法が用いられている。しかし,このようなシステムは,揮発性有機化合物の除去に効果的であるとはいえ,その使用において欠点がある。Al2O3上のPtは,触媒反応を起こしてエチレンを燃焼させることにより上昇した温度で作用するため,揮発性有機化合物の原料から分離された,加熱したユニットで使用される必16要がある(例えば,GB2163637AおよびUS4,331,693参照)。KMnO4は,湿った環境では揮発性有機化合物を効率的に除去するには及ばない。食品のような有機物質は,加熱したら性質が変化し湿気を発散するため,このようなシステムは,有機物質由来の揮発性有機化合物の除去に用いるのには好適でない。
【0006】低い温度で用いるのに好適な別の揮発性有機化合物の除去方法があるが,これらの方法は,揮発性有機化合物の吸着のために,一般的に促進剤において高表面積支持体の使用を含む。例えば,JP2−261341は,冷凍貯蔵室からのエチレン吸着に関するものであり,JP2−233381は,エチレン吸着フィルムに関するものであり,JP2000−004783は,冷蔵庫で使用するための,結合されたエチレン吸着剤,防臭剤および殺菌剤に関するものである。特定の支持体物質はこれらの公報には開示されておらず,代わりに,活性炭と金属酸化物が支持体としての使用に一般的に好適であると言及されている。GB2252968は,ゼオライトと結合されたセピオライトと,白金族金属,鉄族金属,族I金属,族VII金属および希土類金属から選択される金属を含む吸着剤に関するものである。GB2252968で説明された,本発明で使用するのに最も好適なゼオライトはシリカライトであるが,これは,そのアルミナ含有量がほぼ0であるからである。
【0007】WO2007/052074は,有機物質由来の揮発性有機化合物を吸着するためにパラジウムドープされたZSM−5を使用することに関するものである。しかし,WO2007/052074は,低気体酸素の環境または気体酸素がない環境において,パラジウムドープされたZSM−5を使用することについては言及していない。
17(ウ) 【課題を解決するための手段】【0008】本発明の第1態様によれば,有機物質由来の揮発性有機化合物(volatile organic compounds,VOC)を吸着するための,パラジウムドープ(処理)されたZSM−5の使用が提供され,このとき,前記ZSM−5のSi:Alの比は,100:1以下であり,前記パラジウムドープされたZSM−5は,10vol%未満の酸素を含む環境で使用される。選択的に,ZSM−5のSi:Alの比は,22:1から28:1である。
【0009】吸着された揮発性有機化合物の少なくとも一部は,ドープされたZSM−5上に吸着された後に第2化合物に変換可能である。
【0010】一実施形態において,有機物質は,食品および園芸作物のように,腐敗しやすい有機物品を含む。食品は,果物および/または野菜を含むことができる。園芸作物は,植物および/または切り花を含むことができる。
【0011】他の実施形態において,有機物質は,ゴミを含む。前記ゴミは,腐っていく間に悪臭が発生する食品廃棄物のような生ゴミを含む。
(エ) 【0012】揮発性有機化合物が誘導される有機物質は,貯蔵容器または包装内に貯蔵され,ドープされたZSM−5は,揮発性有機化合物を吸着するために閉鎖または半密閉された環境に置かれる。腐敗しやすい有機物品の場合に,貯蔵容器または包装は,製品が保管される貯蔵容器または包装のようなものであるが,例えば,運送時に製品の保管に用いられる木箱,18または販売前の陳列時に製品が保管される包装がある。他の実施形態において,ドープされたZSM−5は,貯蔵容器または包装の内部またはその一部の内部に注入される。他の実施形態において,ドープされたZSM−5は,貯蔵容器または包装内の注入および保存用基質を有するラベルに注入される。
【0015】一般的に,ドープされたZSM−5は微粒子となり,小袋の内部などに緩く包装可能である。これとは異なり,微粒子は,貯蔵容器内に注入されるか,包装物質(例えば,PETのようなプラスチック)内に注入されるか,インク内に注入されるか,触媒担体として使用される,例えば,セラミックまたは金属モノリスのような他の物体上またはその内部に単にコーティングされ,他の物質と結合可能である。触媒担体として一般的に使用される,他の形態の低圧降下基質も使用できる。他の実施形態において,ドープされたZSM−5は,押出成形物,ペレット,錠剤,グレインまたはグラニュールの形態である。ZSM−5は,このような形態への形成前または後にドープ処理可能である。
【0017】本発明にかかる一つの利点は,揮発性有機化合物が相対的に低い温度,例えば,−10℃〜50℃の温度範囲,より一般的には,0℃〜40℃で吸着できることである。例えば,温度範囲は,約0℃〜約35℃,または約0℃〜約30℃であり得る。これは,ドープされたZSM−5が,複雑な加熱およびガス再循環装置を要することなく,冷蔵庫のように有機物質が一般的に置かれる環境または周辺温度で使用できるようにする。
にもかかわらず,加熱およびガス再循環装置が許容される場所(例えば,ガス制御システム)では,ドープされたZSM−5が,上昇した温度,例えば,60℃以上で作動することもできる。
19【0018】一実施形態において,揮発性有機化合物は,エチレンを含む。エチレンは,植物から分泌される気体ホルモンであって,植物を萎れさせ,果物を熟成させる。植物から放出された揮発性有機化合物の除去は,食品と園芸作物が運送および/または長期間の貯蔵で発生し得る,このような過程を遅延させることができる。したがって,本発明は,食品および園芸作物に対する生産,運送,輸出および購買産業などに応用できる。
最初の試験によれば,従来の方法とは異なり,本発明にかかる吸着器を用いると,クリマクテリック後(post−climacteric)の果物の保存期間が延長可能である(Terry L,Ilkenhans T,Poulston S,Rowsell EおよびSmith AWJ,Postharvest Biology and Technology45(2007)214−220)。すなわち,クリマクテリック呼吸の増加が始まった後も,果物はエチレン吸着のためにパラジウムドープされたZSM−5を用いてさらに熟成するのを防止するか,少なくとも熟成速度を低下させることができる。
【0020】また,水分に晒され,パラジウムドープされたZSM−5の活動性がやや低下しても,濡れた際にも引き続き効率よく機能を果たすことができる。食品および園芸作物は,通常は湿った環境で貯蔵されるため,このような特徴は関連産業において有用である。
【0022】パラジウム自体は,ZSM−5の総重量を基準として0.1wt%〜10.0wt%,選択的には,0.5wt%〜5.0wt%を含む。
(オ) 【0023】ドープされたZSM−5は,調整された大気または変更された大気の20環境にで便利に使用されることが可能になる。一実施形態において,このような環境内の酸素の水準は,0.5vol%以上,10vol%未満である。例えば,酸素の水準は,約1vol%,約2vol%,約4vol%,約5vol%,約6vol%,約7vol%,約8vol%,または約9vol%であり得る。他の実施形態において,酸素の水準は,実質的に0vol%である。気体混合物の残部は,(窒素のような)非活性気体,選択的には,二酸化炭素および/または一酸化炭素を含むことができる。
【0024】一実施形態において,ドープされたZSM−5は,0.10ppm以下,選択的には,0.05ppm以下の水準である揮発性有機化合物を吸着するのに効果的である。他の実施形態において,ドープされたZSM−5は,実質的にすべての揮発性有機化合物を吸収するのに効果的である。
【0025】本発明の他の利点は,ドープされたZSM−5が延長された期間,例えば,数日(実際の時間は使用される環境に従属する)間,揮発性有機化合物の除去のために連続的に使用できることである。また,使用後に,ZSM−5は,ZSM−5に吸着された揮発性有機化合物および第2化合物を放出するために,空気中において,30分間,250℃にて加熱可能であり,それにより,再使用のためにパラジウムドープされたZSM−5を再生する。これは,パラジウムドープされたZSM−5が延長された期間に使用できるようにし,揮発性有機化合物原料から除去され,再生されて,再使用される。再生過程が長いか,費用がかかるわけではないことから,ドープされたZSM−5は,費用において揮発性有機化合物の除去用として効果的である。これに対し,KMnO 4は,加熱時21にK2Oとマンガン酸化物を分解するため,再生が不可能である。
【0028】…【図1】約8.4vol%の酸素を含む環境において,パラジウムドープされたZSM−5による,時間に応じたエチレン吸着を示すグラフである。
(カ) 【発明を実施するための形態】【0029】実施例1ドープされた支持体の用意吸着剤として知られている,ドープされた支持体が,初期湿気浸透方法を用いて用意される。支持体(例えば,ゼオライトの水素形態)には,パラジウムの硝酸塩または塩化物塩が侵透し,空気中において,2時間の間,500℃でか焼される前に,110℃にて乾燥する。
【0030】実施例2エチレン吸着測定測定は,21℃で,250−355μm粒径の0.1gドープされた支持体,多様な酸素濃度の50ml/minの気体流量,200ppmのC2H4,〜80%の相対湿度およびバランス窒素を有する栓流反応器で行われた。この実験の結果は,次のとおりである。
【0031】【表1】【0032】実施例3エチレン吸着測定22測定は,21℃で,250−355μm粒径の0.1gドープされた支持体を有して行われた。1リットルの瓶が部分的に真空となり,残留する空気と混合された窒素内に500ppmのエチレンで満たされ,初期のO2濃度は8.4vol%であった。
【0033】図1は,Pdドープされた支持体が,約12時間にわたって,すべてのエチレンを実質的に吸収することを示している。
イ 前記アの記載事項によれば,本願明細書の発明の詳細な説明には,本願発明に関し,次のような開示があることが認められる。
(ア) 有機物質由来の揮発性有機化合物(VOC) 例えば,, エチレンは,熟成をもたらす植物から分泌されるホルモンであり,エチレンの吸着ないし除去は,所望しない変質,変色,葉の損傷および発芽を防止することができ,他の食品と園芸作物が早期に腐るのを防止可能であることが知られており,不快な匂いを除去することができる(【0003】,【0004】)。
(イ) 従来,有機物質由来の揮発性有機化合物の吸着ないし除去する方法として,パラジウムドープされたZSM−5を使用することが知られていたが,低気体酸素の環境または気体酸素がない環境において,パラジウムドープされたZSM−5を使用することについては言及されていなかった(【0007】)。
「本発明」は,10vol%未満の酸素を含む環境において,有機物質由来の揮発性有機化合物を吸着するために,ZSM−5のSi:Alの比が100:1以下であるパラジウムドープ(処理)されたZSM−5の使用を提供するものである(【0008】)。
(2) 引用発明の認定の誤りの有無等についてア 引用文献1(甲10)には,次のような記載がある(下記記載中に引用23する「図1」ないし「図4」については別紙2を参照)。
(ア) 【請求項1】パラジウムドーピングされたZSM−5の使用であって,有機物質に由来する揮発性有機化合物(VOC)を吸着するものであり,前記ZSM−5のSi:Al比が100:1以下である,使用。
(イ) 【発明の分野】【0001】本発明は,有機物質に由来する揮発性有機化合物(VOC)の吸着に関する。より詳しくは,有機物質は,腐りやすい有機商品,例えば食品,でよい。
【0002】VOCは,環境汚染物,例えば自動車排ガスの特定成分,溶剤およびエーロゾルガス,を含む広範囲な区分の化合物であるが,有機物質に由来する化合物群も含む。有機物質に由来するVOCの一例は,エチレン,すなわち熟成を引き起こす植物ホルモンであり,もう一つの例は,トリメチルアミン,すなわち魚が分解する時に一般的に放出されるガスである。
【0003】有機物質に由来するVOCの除去は,様々な用途で重要である。エチレンを吸着することにより,好ましくない熟成および軟化,色あせ,葉の損失や芽吹きが果物や野菜に起こるのを阻止することができ,他の食品や園芸産物が早期に朽ちるのを阻止すること,および不快臭の排除に役立つことも分かっている。
(ウ) 【0004】VOCを酸化または燃焼させるのに,Al2O3またはKMnO4上のPtを使用する様々な方法が使用されている。しかし,これらの方式は,24VOCの除去には効率的であるが,それらの使用に関連する欠点がある。
Al2O3上のPtは,エチレンを高温で触媒作用により燃焼させることにより機能し,従って,Al2O3上のPtは,VOCの供給源から分離した,加熱された装置で使用する必要がある(英国特許第2163637A号明細書および米国特許第4,331,693号明細書参照)。KMnO4は,湿った環境からVOCを効率的に除去することができない(例4参照)。有機物質,例えば食品, 変質させずに加熱することはできず,は,本来,湿分を放出するので,そのような方式は,有機物質に由来するVOCの除去に使用することには適していない。
【0005】VOCの除去に使用される,低温で使用するのに適している他の方法としては,通常は助触媒と併用する,VOC吸着用の高表面積担体の使用がある。例えば,日本国特許第2−261341号明細書は,冷凍保存室からのエチレン吸着を開示しており,日本国特許第2000−004783号明細書は,冷蔵庫で使用するための,エチレン吸着剤,脱臭剤および抗菌製品の組合せを開示している。これらのどの文献にも,具体的な担体材料は開示されてなく,代わりに,活性炭および金属酸化物がこれらの担体に一般的に好適であるとして記載されている。英国特許第2252968A号明細書は,セピオライトをゼオライト,および所望により白金族金属,鉄族金属,I族金属,VII族金属および希土類金属から選択された金属と組み合わせて含んでなる吸着剤に関する。英国特許第’968号明細書に記載されている発明に使用するのに最も好ましいゼオライトはシリカライトであるが,これは,アルミナ含有量がほとんどゼロであるためである。
(エ) 【0006】ここで我々は,先行技術で開示されている方式よりも該ガスをより効25率的に吸着することにより,常温で,または有機商品,例えば食品,を冷却または冷蔵して貯蔵寿命を延長する温度で,有機物質に由来するVOCを除去することができる触媒系を開発した。
【0007】本発明の第一の態様により,有機物質に由来するVOCを吸着するためのパラジウムドーピングされた,Si:Al比が100:1以下であるZSM−5の使用を提供する。所望により,ZSM−5のSi:Al比は22:1〜28:1である。
【0008】吸着されたVOCの少なくとも一部は,ドーピングされたZSM−5上に吸着された後,二次化合物に転化される。
【0009】一実施態様では,有機物質は,腐敗しやすい有機商品,例えば食品および園芸産物,からなる。食品は,果物および/または野菜を含んでなることができる。園芸産物は,植物および/または切り花を含んでなることができる。
【0010】別の実施態様では,有機物質は,廃棄物を含んでなる。そのような廃棄物は,分解の際に不快臭を発生する台所の廃棄物,例えば生ゴミ,が挙げられる。
(オ) 【0011】VOCを発生する有機物質は,ドーピングされたZSM−5が,閉鎖された,または半分閉じ込められた環境を有し,その中でVOCを吸着するように,貯蔵容器または包装物の中に収容することができる。腐敗しやすい有機商品の場合,貯蔵容器または包装物は,商品を収容する容器または包装物,例えば輸送の際に商品の貯蔵に使用される箱,または26購入前の展示する時に商品を保管する包装物,でよい。別の実施態様では,ドーピングされたZSM−5は,貯蔵容器または包装物自体の中に,あるいはその一部の中に配合する。さらに別の実施態様では,ドーピングされたZSM−5を,貯蔵容器または包装物の中に挿入または保持するための基材を備えてなるラベルの中に配合する。
【0012】腐敗しやすい有機商品が食品を含んでなる場合,ドーピングされたZSM−5は,食品との直接接触を防止する様式で,例えばガス透過性バリヤー層の背面に包装することができる。ガス透過性バリヤー層は,粉末状のドーピングされたZSM−5を収容する香料袋またはラベルの一部を形成するか,またはガス透過性層は,ドーピングされたZSM−5を含んでなるインク層の上に取り付けることができよう。インクは,貯蔵容器または包装物の内側表面に,印刷,キャスティング,ローラー塗布,ブラシ塗り,スプレーまたは同等の技術により,固定することができる。さらに,ドーピングされたZSM−5の吸着能力は,水の存在にある程度敏感なので(例4参照),ドーピングされたZSM−5は,吸水性材料,例えばシリカゲル,と共に包装することができる。
【0014】一般的に,ドーピングされたZSM−5は,粒子状であり,例えば香料袋(上記参照)の中に,バラで包装することができる。あるいは,これらの粒子を,別の物体と,例えば貯蔵容器中に配合することにより,インクの中に配合することにより(上記のように),あるいは単に別の物体,例えば触媒担体として使用されるようなセラミックまたは金属モノリス,の上に塗布することにより,結合させることもできる。例えば触媒担体として一般的に使用されるような,他の圧力低下が少ない基材の形態も使用できる。別の実施態様では,ドーピングされたZSM−5は,押出27物,ペレット,錠剤,粒子または顆粒の形態にある。ZSM−5は,そのような押出物,ペレット,錠剤,粒子または顆粒に形成した後に,ドーピングすることができる。
【0016】本発明に関連する利点の一つは,VOCを比較的低い温度,例えば−10℃〜50℃,より一般的には0℃〜30℃,で吸着させることができることである。これによって,ドーピングされたZSM−5を,有機物質が一般的に見られる環境,例えば冷蔵庫,で,または常温で,複雑な加熱および空気循環装置の使用を必要とせずに,使用することができる。それにも関わらず,加熱および空気循環装置(例えば空調装置)を使用できる特別な用途の場合,ドーピングされたZSM−5を,例えば60℃を超える高温で操作することもできる。
【0017】一実施態様では,VOCはエチレンを含んでなる。エチレンは,植物から放出され,植物をしおれさせ,果物を熟成させることができる気体状ホルモンである。植物から発生するVOCを除去することにより,これらの過程を遅延させ,食品および園芸産物を,腐敗を促進することなく,長期間,移動および/または貯蔵することができる。従って,本発明は,特に食品および園芸産物を生産,輸送,輸出および購入する産業に応用される。初期の試験では,先行技術の方法と異なり,本発明の吸着剤を使用することにより,完熟後の果実の貯蔵寿命延長できることが示唆されている(Terry L, Ilkenhans T. Poulston S,Rowsell EおよびSmith AWJ,Postharvest Biol. and Tech.−提出)。すなわち,完熟呼吸増加が開始された後でも,パラジウムドーピングされたZSM−5を使用してエチレンを吸着することにより,果物のそれ以上の28熟成が防止される(あるいは,少なくとも熟成速度が遅くなる)。
【0019】もう一つの重要な点は,パラジウムドーピングされたZSM−5は,水に露出されると,活性がある程度失われるが,「湿った」場合でも効果的に機能し得ることである。食品および園芸産物は,通常,湿った環境中に保存されるので,この特徴も関連する産業には有利である。
【0021】パラジウム自体は,ZSM−5の総重量に対して0.1重量%〜10.0重量%,所望によりZSM−5の総重量に対して0.5重量%〜5.0重量%を構成することができる。
【0022】一実施態様では,ドーピングされたZSM−5が,VOCを0.10ppm以下のレベルに,所望により0.05ppm以下のレベルに吸着することができる。
【0025】本発明の第二の態様により,ZSM−5のSi:Al比が100:1以下であり,パラジウムが,ドーピングされたZSM−5の総重量に対して0.1重量%〜10.0重量%を構成する,パラジウムドーピングされたZSM−5を提供する。所望により,ZSM−5のSi:Al比は,22:1〜28:1である,および/またはパラジウムが,ドーピングされたZSM−5の総重量に対して0.5重量%〜5.0重量%を構成する。
(カ) 【0026】本発明をより深く理解できるようにするために,添付の図面を参照しながら,下記の非限定的な例を例示のためにのみ記載する。
【0027】29例1ドーピングされた担体の調製吸着剤とも呼ばれるドーピングされた担体は,初期湿潤含浸処理方法(incipient wetness impregnationmethod)を使用して調製した。典型的には,担体(例えば,ゼオライトの水素形態)20gを,適切な金属の(例えばパラジウム)の硝酸塩または塩酸塩で含浸させ,次いで110℃で乾燥させてから,空気中,500℃で2時間か焼した。
【0028】例2エチレン吸着測定測定は,21℃の栓流反応器中で,粒子径250〜355μmのドーピングされた担体0.1gを使用し, 210%, 2H4200ppm,O C水約1%(存在する場合),残部He/Arを含んでなるガスの流量50ml/分で行った。
【0029】例3様々な担体上にドーピングしたPdによるエチレン吸着4.0重量%Pdドーピングされた活性炭および2.5重量%Pd/ZSM−5(23)の試料を,例1により(塩化パラジウム塩および硝酸パラジウムをそれぞれ使用する),様々な活性炭で調製した。これらの試料を,それらのエチレン吸着容量に関して,例2により試験した。結果を以下に示す。
【0030】30【0031】この実験は,Pd/ZSM−5が,Pdドーピングされた活性炭よりも,遙かに高い吸着容量を有することを示している。
【0032】例4金属ドーピングされたZSM−5およびAl2O3上のKMnO4による「湿潤」エチレン吸着例1により製造した2.5重量%Pd/ZSM−5(23)の試料,およびAl2O3上5重量%KMnO4(Condea,140m 2/g)を,それらのエチレン吸着容量に関して,例2により試験した。これらの材料を,乾燥時に,および水を含むデシケーター中に常温で設定時間置くことにより,水に露出した後で,試験した。この実験の結果を下記の表に示す。
【0033】【0034】31さらに,2.5重量%M/ZSM−5,M=Pt,Co,Ni,Rh,Ru,Ir,Mo,Cu,W,V,およびAu(全てSiO2:Al2O3比23による)を例1により製造し,上記のように水に露出した後,それらのエチレン吸着容量に関して試験した。測定したエチレン吸着容量は,全ての試料で60μlg−1であった。
【0035】この実験は,パラジウムドーピングされたゼオライトが,湿った時に,その乾燥エチレン吸着容量を約10%しか失わないことを示している。
試験した他の全ての金属は,湿った時に無視できる程度のエチレン吸着を示したのに対し,Al2O3上のKMnO4は,湿った時に,そのエチレン吸着機能を完全に失う。
【0036】例5果物からのエチレン吸着バナナ(重量約150g)を容積1.15リットルの気密容器中に入れ,約 1 日放置した。CO2およびエチレン濃度の経時増加を,ガスクロマトグラフィーを使用して測定した。次いで,容器中に吸着剤(2.5重量%Pd/ZSM−5)0.2gを入れ,この実験を繰り返した。
【0037】図4から分かるように,バナナ単独では,CO 2およびエチレン濃度が大体直線的に増加したのに対し,吸着剤が存在する場合には,エチレン濃度は検出できる程の増加を示さないが,CO 2は前とほぼ同じ速度で増加し,同等の呼吸速度を示した。
【0038】さらに実験を,同じ気密容器中に様々な果物を入れて約20時間放置して行い,下記の結果を得た。
32【0039】(キ) 【0048】【図1】図1は,パラジウムドーピングされたZSM−5およびドーピングされていないZSM−5によるエチレン吸着と時間の関係を示すグラフ(供給ガス中に水が存在する,および存在しない,湿潤または乾燥)であり,該グラフは,エチレン吸着を可能にするのはパラジウムの存在であることを立証している。
【図2】図2は,SiO2:Al2O3比が23であり,パラジウムドーピングレベルが異なり,0.5重量%〜5重量%である,および比較用に銀ドーピング2.5重量%であるZSM−5によるエチレン吸着を示し,該グラフは,他の金属に対するパラジウムドーピングの効果,およびドーピングレベルの変化によるエチレン吸着容量の変化を立証している。
【図3】図3は,様々なパラジウムドーピングされたゼオライト(SiO2:Al2O3比を括弧内に示す)によるエチレン吸着を示し,Pd装填量は全ての場合で2.5重量%であり,該グラフは,パラジウムドーピン33グされたゼオライトによるエチレン吸着は,SiO 2:Al2O3比が比較的低いZSM−5の方が,より大きいことを立証している。
【図4】図4は,エチレンを放出する有機物質としてバナナを使用する例で測定したCO2およびエチレンの濃度を示す。
イ 前記アの記載事項によれば,引用文献1には,以下のとおりの開示があることが認められる。
(ア) 有機物質に由来する揮発性有機化合物(VOC)の除去は,多様な分野で適用され,VOCの一例である,熟成をもたらす植物から分泌されるホルモンのエチレンの除去は,好ましくない熟成および軟化,色あせ,葉の損失や芽吹きが果物や野菜に起こるのを阻止することができ,他の食品や園芸産物が早期に朽ちるのを阻止すること,および不快臭の排除に役立つことも分かっている(【0003】,【0004】)。
Al2O3又はKMnO4上のPtを使用する従来の有機物質に由来するVOCの除去の方法には,VOCの供給源から分離した,加熱された装置で使用する必要があったり,湿った環境からVOCを効率的に除去することができないなどの問題があった 【0003】 【0004】 。
( , )(イ) 我々は,先行技術で開示されている方式よりも該ガスをより効率的に吸着することにより,常温で,有機商品,例えば食品を冷却または冷蔵して貯蔵寿命を延長する温度で,有機物質に由来するVOCを除去することができる触媒系を開発した(【0006】)。
「本発明」は,有機物質に由来するVOCを吸着するためのパラジウムドーピングされた,Si:Al比が100:1以下であるZSM−5の使用を提供するものである(【0007】)。
「本発明」に関連する利点の一つは,VOCを比較的低い温度,例えば−10℃〜50℃,より一般的には0℃〜30℃,で吸着させることができることであり,これによって,ドーピングされたZSM−5を,34有機物質が一般的に見られる環境,例えば冷蔵庫で,または常温で,複雑な加熱および空気循環装置の使用を必要とせずに,使用することができる(【0016】)。もう一つの重要な点は,パラジウムドーピングされたZSM−5は,水に露出されると,活性がある程度失われるが,「湿った」場合でも効果的に機能し得ることである(【0019】)。
ウ(ア) 前記アの記載事項によれば,引用文献1には,本件審決認定の引用発明(「パラジウムドープされたZSM−5の使用であって,バナナ,モモ,トマト由来のエチレンを吸着するものであり,前記ZSM−5のSiO 2:Al2O 3比が23であるパラジウムドープされたZSM−5の使用。」)の開示があることが認められる。
(イ) これに対し原告は,本件審決が引用発明認定の根拠とした引用文献1の「例5」は,単にバナナなどの果実を「気密容器」に入れることのみを記載し(【0036】,【0038】),「気密容器」中の気体組成の記載がないことからすると,「例5」における気体組成は,大気中のものと同じであり,酸素が約20体積%含まれていると解釈するのが合理的である,「気密容器」は,通常,固体と液体の進入を防ぐことができても,酸素などの気体の進入を防ぐことはできないものを意味する(甲16)などとして,本件審決認定の引用発明のうち,「バナナ,モモ,トマト由来のエチレンを吸着するものであり,」との部分は,「バナナ,モモ,トマト由来のエチレンを大気と同じガス組成の容器中で吸着するものであり,」と認定すべきであったといえるから,この点において本件審決における引用発明の認定に誤りがあり,その結果,相違点の認定にも誤りがある旨主張する。
そこで検討するに,引用文献1には,「例5」について,「バナナ(重量約150g)を容積1.15リットルの気密容器中に入れ, 1 日放置約した。CO2およびエチレン濃度の経時増加を,ガスクロマトグラフィ35ーを使用して測定した。次いで,容器中に吸着剤(2.5重量%Pd/ZSM−5)0.2gを入れ,この実験を繰り返した。」(【0036】),「図4から分かるように,バナナ単独では,CO 2およびエチレン濃度が大体直線的に増加したのに対し,吸着剤が存在する場合には,エチレン濃度は検出できる程の増加を示さないが,CO 2は前とほぼ同じ速度で増加し,同等の呼吸速度を示した。」(【0037】)との記載があるが,「バナナ(重量約150g)」を入れた「容積1.15リットル」の「気密容器」中の酸素濃度に関する記載はない。
一方で,図4には,@「気密容器」中の「CO2−吸着剤無し」及び「CO2と吸着剤」のCO2濃度が実験開始時は0%であったのが,時間の経過とともに「大体直線的に増加」し,「CO2−吸着剤無し」のCO2濃度は21時間21分経過時点で,「CO2と吸着剤」のCO2濃度は23時間45分経過時点でいずれも25%を超えていること,A「気密容器」中の「エチレン−吸着剤無し」のエチレン濃度が実験開始時は0ppmであったのが,時間の経過とともに「大体直線的に増加」し,18時間57分経過時点で,4ppmを超えているのに対し,「エチレンと吸着剤」のエチレン濃度は2時間9分経過時点で0ppmであり,その後も検出できる程の増加はなく,23時間45分経過時点でも0ppmであることが示されている。
しかるところ,例5の「気密容器」中の気体組成が大気と同じ(「空気」とは「地上から高度80キロメートルまでの水蒸気を除いた組成はほぼ一定で体積比で酸素20.95,窒素78.08,…二酸化炭素0.039…。大気。」(広辞苑第六版))であり,しかも,「気密容器」が酸素等の気体の進入を防ぐことができない容器であるとすれば,同時に,気体の排出も防ぐことができない容器であるといえるから,容器内のバナナの呼吸(好気呼吸)による酸素の消費と二酸化炭素の増加が起36こる一方で,容器内への酸素の進入と容器外への二酸化炭素の排出も併せて起こり,最終的には,酸素と二酸化炭素が平衡状態となり,一定濃度になるものと考えられる。
しかし,図4には,「CO2−吸着剤無し」及び「CO2と吸着剤」のCO2濃度のいずれもが時間の経過とともに「大体直線的に増加」していることが示され,酸素と二酸化炭素が平衡状態となっていないから,これと整合しない。むしろ,図4の「CO2−吸着剤無し」及び「CO2と吸着剤」のCO2濃度の経時的増加は,「気密容器」が気体に対して密閉されていることを示すものであるとともに,「気密容器」中の酸素が呼吸(好気呼吸)により消費されていることを示すものと理解できる。
そうすると,「気密容器」中の吸着剤によるエチレンの吸着は,当初は大気と同じガス組成(気体組成)の環境で行われたとしても,酸素の消費と二酸化炭素の増加によって,大気と異なるガス組成(気体組成)の環境で行われるようになったものと認められる。
また,上記CO2濃度が大気中の酸素濃度の割合(20.95体積%)を超えて増加しているのは,「気密容器」中の酸素が消費し尽くされた後に嫌気呼吸を開始し,これによって二酸化炭素が生成された分が含まれているものと考えられる。
したがって,原告の上記主張は,その前提を欠くものであり,採用することができない。
(ウ) 以上のとおり,本件審決における引用発明の認定に誤りはない。
そして,引用文献1には,「例5」の「気密容器」中の酸素濃度はもとより,引用発明が使用される環境の酸素濃度に関する記載はないから,本件審決が,「本願発明では「パラジウムドープされたZSM−5が,1vol%,2vol%,3vol%または4vol%の酸素を含む環境で使用される」ものであるのに対して,引用発明では「使用される環37境が明らかでない点」を,本願発明と引用発明の相違点と認定したことに誤りはない。
(3) 本願の優先日当時の周知技術についてア 引用文献2引用文献2(原文甲11,訳文・乙1,甲11)には,次のような記載がある(下記記載中に引用する「表1」及び「図1」については別紙3参照)。
(ア) 「CA貯蔵/果物と野業への影響」(1607頁表題。訳文a))(イ) 「商業上の利用でのガス雰囲気…種々の果実(表1)と極々の野菜(表2)に対する貯蔵における推奨される調整雰囲気条件が与えられる。
…多くの果実や野菜は2%までの低さの酸素濃度と5−10%の高さの二酸化炭素濃度を許容できる。 」(1607頁右欄20〜37行。訳文b))(ウ) 「呼吸作用への影響低酸素の影響いくつかの種類の果実や野菜においては,温度の影響下で,酸素濃度を3%で貯蔵していると,呼吸率が低下する。貯蔵雰囲気の酸素濃度が特に8%より下がると,呼吸率は酸素濃度の関数として減少する(図1)。
酸素濃度が終息点まで下がると細胞組織内で嫌気呼吸が開始される。嫌気呼吸は,さらに酸素濃度が減少すると呼吸の多くを占めるようになり,二酸化炭素は,臨界酸素濃度で,その最も低い濃度に達した後で,その放出が増加を始める。酸素濃度がさらに減少して臨界酸素濃度を下回ると,呼吸代謝の交代をもたらし 解糖の最終生成物であるピルビン酸は,;もはやKrebsのサイクルでは酸化されないが,アセトアルデヒド,二酸化炭素,エタノールに変換される。このことは細胞組織の分解と異38臭発生の原因となる。このように,好気呼吸を維持し腐敗を防ぐために必要な最小酸素濃度は貯蔵雰囲気として適するだろう。この濃度は通常は2−5%であり,農産物の種類や,温度,貯蔵期間によって影響を受ける。」(1609頁左欄下から16行〜右欄下から9行。訳文c))(エ) 「図1 図は,果実や野菜における酸素の吸収と二酸化炭素の放出への酸素濃度の影響を示している。図中で「E」は終息点(好気呼吸が停止する最小の酸素濃度) ; 「C」 は臨界酸素濃度 (二酸化炭素の生成が最小となるときの酸素濃度) 」(1609頁右欄。訳文d))イ 甲12甲12(特開昭63−317039号公報)には,次のような記載がある。
(ア) 「特許請求の範囲SiO2/Al2O3のモル比が約25以上の結晶性高シリカゼオライトと脱酸素剤とを必須の有効成分とする青果物及び花き類の鮮度保持剤。」(1頁左欄)(イ) 「問題点を解決するための手段本発明者等は,このような事情に鑑み水分濃度の高い密閉包装状態の青果物類におけるエチレンを除去し,且つ青果物類の呼吸作用の抑制及び雑菌による青果物類の腐敗を抑制することによって,鮮度保持効果を高めることを意図して,種々の試験を繰り返した結果,結晶性ゼオライトのうち,特にSiO2/Al2O3のモル比が約25以上のものにエチレンを吸着する優れた性質があり,且つ水分が高濃度で共存する条件下においてもエチレンの吸着除去機能を維持できることを知見し,さらにこれに脱酸素剤を併用することによって,これが青果物類の呼吸作用を抑制し且つ雑菌の繁殖による腐敗劣化を抑制する機能を付加しうることを見い出し,本発明を完成するに至った。」(2頁右欄2行〜16行)39ウ 甲13甲13(特開2001−212418号公報)には,次のような記載がある。
【0002】【従来の技術】腐りやすい果物,野菜および菌類,花等のような植物は,その貯蔵および搬送中に,進行する成熟の進行を最小限にし,腐敗を避けるために,特別な環境条件を必要とする。
【0003】他の要因の中で,特に最高に熟した果物および野菜の場合に,成熟および腐敗の進行中に形成されるエチレンがこれらの成熟および腐敗の進行を促進する原因となっている。従ってエチレン形成を最小にするために,貯蔵されたまたは搬送された腐りやすい物品を一般に冷却する。更に貯蔵容器または搬送容器中に種々の手段により,例えば決められた大気湿分含量および/または決められた減少した酸素含量を調節することにより,しばしば所定の大気組成が形成される。
【0004】これらの手段(冷却およびCA:調節した大気)は植物の物質代謝を遅らせ,これにより長い貯蔵能力を生じる。
エ 甲14甲14(特開平3−280827号公報)には,次のような記載がある。
「[従来の技術]植物は,一般に収穫後も一個の生命体として呼吸作用,蒸散作用,その他種々の物質代謝を継続し,植物体としての生理作用を活発に営んで生命を長らえている。この呼吸作用が盛んであると他の生理作用も活発となり鮮度低下が起こる。
この代謝物質の一つに植物ホルモンの一種であるエチレンがある。このエチレンには種々の生理作用があるが,その中に呼吸促進作用,成熟促進作用があり,植物の成熟,ひいては鮮度低下に大きく関わっている。この40鮮度低下は特に青果物や花卉類において,その貯蔵あるいは流通上大きな問題となっており,鮮度を維持するための方法が切望されており,現在のところ大きく分けて次の四つの方法が行われている。一つ目は,特開昭63−198938号公報に代表されるように,青果物や花卉類の貯蔵において,冷却状態,減圧状態,低酸素状態等貯蔵雰囲気を制御することにより上述の生理作用を抑制する方法〔このような低酸素状態による貯蔵をCA(Controled Atmosphere)貯蔵という〕であり,二つ目は,特開昭49−108177号公報に代表されるように,有機高分子から成るフィルムで青果物や花卉類を包装することにより,包装内雰囲気を低酸素状態(簡易CA貯蔵)にする方法であり,三つ目は,特開昭62−138175号公報に代表されるように,青果物や花卉類を,活性炭やゼオライト等のエチレン吸着能を有する無機多孔質材と一緒に包装し,青果物や花卉類から発生するエチレンを無機多孔質材に吸着除去させる方法であり,四つ目は,特開昭64−31838号公報に代表されるように,青果物や花卉類を,活性炭やゼオライト等のエチレン吸着能を有する無機多孔質材を練り込んだ有機高分子から成るフィルムで包装し,包装内雰囲気を低酸素状態(簡易CA貯蔵)にし,なおかつ,青果物や花卉類から発生するエチレンをフィルムに練り込んだ無機多孔質材に吸着除去させる方法である。」(1頁右下欄8行〜2頁右上欄5行)オ 甲15甲15(特開昭64−31838号公報)には,次のような記載がある。
「[従来の技術]従来,青果物の保存方法としては,活性炭やゼオライト等の多孔質材料の吸着力を利用する方法と,ポリオレフィンフィルムによって青果物を包む方法とが広く行われている。この2つの方法は,次に記すエチレンガスに関する特性に根拠を置いている。
41即ち,エチレンガスに関しては,青果物の成熟を促進するとともに,また青果物自身がエチレンガスを生成することが知られている。従って青果物を貯蔵する場合,その保存性能は,青果物から発生するエチレンガスの除去能力,または,エチレンガスの発生抑制能力に左右されることとなる。
活性炭やゼオライト等の多孔質材料を使用する青果物の保存方法は,その吸着力によるエチレン除去能力を利用するのである。
また,ポリオレフィンフィルムによって青果物を包む方法は,低酸素状態による青果物の呼吸抑制作用によって貯蔵効果(このような低酸素条件による貯蔵をCA貯蔵という)を発揮させ,エチレンガスの発生を抑制しようとするものである。」(1頁右下欄6行〜2頁左上欄8行)カ 甲17甲17(今堀義洋「低酸素貯蔵環境における青果物の品質保持と代謝調整機構に関する研究」2006年)には,次のような記載がある(下記記載中に引用する「図1」については別紙4を参照)。
(ア) 「青果物が低酸素や高二酸化炭素の貯蔵ガス環境にさらされると,それらのガス濃度やさらされる期間によって有益な場合と有害な場合がある。青果物のCA(Controlled Atmosphere)貯蔵やMA(Modified Atmosphere)貯蔵は,低酸素や高二酸化炭素の貯蔵ガス環境に青果物をさらすことにより青果物の鮮度維持や品質保持期間を延長させる有効な貯蔵方法である。低酸素貯蔵ガス環境が青果物に及ぼす生理的影響として,青果物の呼吸速度やエチレン生成の抑制,クライマクテリック上昇や追熟の遅延などがある。
しかし,長期間著しく低い酸素濃度環境に青果物がさらされると,成熟の異常,組織の褐変,組織中のアセトアルデヒドやエタノールの蓄積といった弊害を招くことになる。多くの青果物では呼吸が嫌気呼吸へ変わることを避けるために,CA貯蔵やMA貯蔵の貯蔵酸素濃度は,最低142〜3%が必要であるとされている。一般的に,植物細胞では酸素濃度が0.2%を下回ると,代謝が好気代謝から嫌気代謝へと変化する。嫌気代謝ではピルビン酸からアセトアルデヒドがピルビン酸脱炭酸酵素(PDC)の作用によって生成される。さらに,アルコール脱水素酵素(ADH)がNADHを利用して,アセトアルデヒドをエタノールへと変える。
エタノールは低酸素環境下でのこれら代謝の最終生成物であり,これら一連の代謝経路はアルコール発酵と呼ばれている(図1)。」(89頁左欄1行〜24行)(イ) 「1.青果物の低酸素障害発生と貯蔵酸素濃度との関係青果物の低酸素障害は,呼吸が好気呼吸から嫌気呼吸に変わり,アセトアルデヒドやエタノールなどの有害な揮発性成分が組織内に蓄積して,それらが青果物に害を及ぼすと考えられている。しかし,これら揮発性成分が生成する条件や低酸素障害の発生にどのように作用しているのかについてはまだ明らかでない点が多い。そこで,青果物の低酸素障害発生の様相について各種青果物を20℃下で貯蔵酸素濃度を変えて貯蔵して調べた。調査した青果物すべてで一定の酸素濃度以下で低酸素障害が発生した。また,その障害の程度は貯蔵中進行した。低酸素障害の症状として果皮のピッティング,組織の変色,組織の水浸状化および異臭が認められた(表 1)。組織の変色は…バナナ果実にそれぞれ発生した。…しかし,異臭は調査したすべての青果物に発生し,その程度は貯蔵中経時的に著しく大きくなった(図2)。」(89頁右欄4行〜90頁左欄末行)(ウ) 「2.青果物の低酸素障害発生と呼吸活性との関係数種青果物を20℃下で0%,1%,3%,5%,10%O2 および空気の貯蔵ガス条件で貯蔵し,経時的に二酸化炭素排出量を測定して,呼吸活性と低酸素障害の発生状況との関係を調べた。低酸素による呼吸抑制は,ピーマン,ニホンナシおよびトマト果実で緩やかであったのに対43し,ナス,カキおよび追熟処理バナナ果実では強く現れた。異臭が発生した日とその前日の呼吸活性は,いずれの青果物も貯蔵酸素濃度が低いほど低下した(図3)。しかし,ピーマン,ナス,ニホンナシおよびカキ果実では1%O2 で呼吸活性が最小となり,異臭が認められた0%O2 では増加に転じるという傾向を示した。追熟処理バナナやトマト果実でも同様に3%O2 で呼吸活性が最小となり,異臭が認められた1%O2 では増加に転じるという傾向を示した(図3)。また,このような傾向は貯蔵開始直後も同様であった。
呼吸活性が最小となる酸素濃度は,BOERSIGらやLESHUKらによって嫌気的補償点と呼ばれている。この嫌気的補償点は,青果物の代謝が好気代謝から嫌気代謝へ変わるスイッチを表しており,それより以下の酸素濃度では,呼吸が好気呼吸から嫌気呼吸へ変わったことを示している。このことから,CA貯蔵やMA貯蔵を行うにあたり,呼吸活性が最小となる嫌気的補償点から青果物の低酸素障害が発生する酸素濃度域を予察することが可能となった。さらには,この嫌気的補償点は青果物の適正貯蔵酸素濃度を決定するうえでの有用な指標となりうることが明らかとなった。」(90頁右欄5行〜末行)キ 乙2乙2(「修整空気システムCA貯蔵装置の改良・自動化」日本食品低温保蔵学会誌,VOL.18,No.1,1992年)には,次のような記載がある。
(ア) 「CA(Controlled Atmosphere)貯蔵法は,青果物の鮮度保持に極めて有効であるが,設備や運転経費が高くなる欠点がある。」(18頁左欄2行〜4行)(イ) 「貯蔵品目によってCA貯蔵の最適酸素濃度が異なるが,ほとんどの場合2〜5%であることを考慮すると,得られた結果は,CA貯蔵の44酸素濃度として十分満足すべきものと考えられる。」(19頁右欄15行〜18行)(ウ) 「修整空気の酸素濃度をCA貯蔵で頻繁に利用される酸素濃度1%と5%の間で変更する際の簡便な予備運転時間短縮法について検討した。」(20頁右欄16行〜18行)ク 乙3乙3(「低濃度酸素環境がモモとバナナ果実のエチレン生合成に及ぼす影響」日本食品低温保蔵学会誌,VOL.22,No.2,1996年)には,次のような記載がある。
(ア) 「低濃度酸素(低酸素)条件はCA(Controlled Atmosphere)条件を構成する重要な要素の一つであり,貯蔵環境中の最適酸素濃度の研究は青果物の種類ごとに数多くなされてきた。低酸素環境が青果物に及ぼす生理学的影響は,呼吸代謝に対する影響を中心に研究が進められており,最適酸素濃度の決定の重要な指標の一つとして限界酸素濃度が提唱されている。
低酸素環境は青果物のエチレン生成を抑制することが知られており,CA効果の一側面であると考えられてきた。」(79頁左欄1行〜右欄1行)(イ) 「CA貯蔵で推奨されている酸素濃度は,青果物の種類,品種,収穫時期(熟度),栽培条件,貯蔵温度等によって異なるが1〜5%の範囲に入る場合が多い。本研究では,その中間である3%酸素を選び,エチレン生合成系の挙動についてモモとバナナを中心に検討した。」(80頁左欄9行〜14行)ケ 周知技術について前記アないしクの記載事項を総合すると,本願の優先日(平成21年7月2日)当時,@青果物を低酸素状態で保存(CA貯蔵やMA貯蔵)する45ことによって,青果物の呼吸作用を抑制し,雑菌の繁殖による腐敗劣化を抑制することができるため,鮮度維持効果があり,また,低酸素状態において吸着剤を用いてエチレンを除去することで,青果物の輸送や貯蔵時における熟成を防止できること,A一方で,青果物の呼吸活性が最小となる貯蔵酸素濃度を下回ると,青果物の呼吸が好気呼吸から嫌気呼吸に変わり,アルコール発酵によってエタノールが蓄積され,異臭の原因となるなどの低酸素障害が発生するため,青果物には最適な貯蔵酸素濃度(最小酸素濃度)が存在すること,B青果物のCA貯蔵における最適な貯蔵酸素濃度は,青果物の種類,品種,収穫時期(熟度),貯蔵温度等によって異なるが,通常は,2〜5%(前記ア,キ及びク)であることは,周知であったものと認められる。
これに反する原告の主張(前記第3の2(1)ア)は,前記アないしクの記載事項に照らし,採用することができない。
(4) 本願発明と引用発明の同一性についてア 前記(2)ウ(ウ)認定のとおり,引用文献1には,「例5」の「気密容器」中の酸素濃度はもとより,引用発明が使用される環境の酸素濃度に関する記載はない。
また,前記(2)ウ(イ)認定のとおり,引用文献1の図4の「CO2−吸着剤なし」及び「CO2と吸着剤」のCO2濃度の経時的増加は,「気密容器」中の酸素が呼吸(好気呼吸)により消費され,二酸化炭素が増加していることを示すものといえるが,一方で,上記CO 2濃度が大気中の酸素濃度の割合(20.95体積%)を超えて増加しているのは,「気密容器」中の酸素が消費し尽くされた後に嫌気呼吸を開始したことによるものと考えられるから,「例5」の「気密容器」中の酸素濃度は,前記(3)の青果物のCA貯蔵における最適な貯蔵酸素濃度の範囲(通常は2〜5%)に一時的に達したとしても,これを維持しているものと認めることはできない。
46以上によれば,引用文献1には,引用発明のパラジウムドープされたZSM−5が「1vol%,2vol%,3vol%または4vol%の酸素を含む環境」で使用されること(相違点に係る本願発明の構成)が開示されているものと認められないから,本願発明は引用発明(引用文献1に記載された発明)と同一の発明であるものと認めることはできない。
イ これに対し被告は,好気呼吸を維持し,腐敗を防ぐために必要な「最小酸素濃度」が,通常は2〜5%であることは,本願の優先日当時,周知の技術的事項であることなどに照らすと,引用文献1に接した当業者は,引用発明の環境も,最小酸素濃度である2〜5%まで低下していくものと理解するものといえるから,引用文献1には,引用発明においても,1〜4vol%の酸素を含む環境でパラジウムドープされたZSM−5を使用していることの開示がある旨主張する。
しかしながら,前記ア認定のとおり,引用文献1には,引用発明が使用される環境の酸素濃度に関する記載はないし,また,図4のグラフが示すCO2濃度が大気中の酸素濃度の割合(20.95体積%)を超えて増加しているのは,「気密容器」中の酸素が消費し尽くされた後に嫌気呼吸を開始したことによるものと考えられ,青果物のCA貯蔵における最適な貯蔵酸素濃度の範囲(通常は2〜5%)を維持しているものとは認められない。
したがって,被告の上記主張は採用することができない。
(5) 小括以上によれば,本願発明は,引用文献1に記載された発明(引用発明)と同一であるとはいえないから,これと異なる本件審決の判断は誤りである。
2 取消事由2(本願発明の進歩性の判断の誤り)について(1) 相違点の容易想到性についてア 引用文献1には,引用発明が使用される環境の酸素濃度に関する記載は47ない。
一方で,引用文献1には,引用発明は,「先行技術で開示されている方式よりも該ガスをより効率的に吸着することにより,常温で,有機商品,例えば食品を冷却または冷蔵して貯蔵寿命を延長する温度で,有機物質に由来するVOCを除去することができる」(【0006】)有機物質由来の揮発性有機化合物の除去方法を提供することを目的とするものである旨の開示がある。
そうすると,前記1(3)ケ認定の本願の優先日当時の周知技術に照らすと,引用文献1に接した当業者においては,引用発明のパラジウムドープされたZSM−5について,青果物の呼吸作用を抑制するとともに,有機物質由来の揮発性有機化合物であるエチレンをより効率的に除去するために,最適な貯蔵酸素濃度(最小酸素濃度)の環境で使用することの動機づけがあるものと認められる。
そして,青果物のCA貯蔵における最適な貯蔵酸素濃度は,通常は,2〜5%であることは,本願の優先日当時周知であったこと(前記1(3)ケ)に照らすと,当業者は,引用発明が使用される環境の酸素濃度の範囲を「1vol%,2vol%,3vol%または4vol%」(相違点に係る本願発明の構成)に含まれる構成とすることを容易に想到することができたものと認められる。
イ(ア) これに対し原告は,@引用文献1には,引用文献2記載の技術を適用することについて記載も示唆もない,A引用発明の技術は,非常に簡便であり,どのような環境下でも利用できることを特徴としているから,引用文献2のように温度や酸素,二酸化炭素などの気体組成を青果物の種類に応じて厳密に管理しなければならない技術とは全く相容れないものである,B引用文献1の【0048】によれば,引用発明において揮発性有機化合物(VOC)の吸収能を向上させたいと考えるのであれば,48まずパナジウムの濃度などの諸条件を検討するのが当業者の通常の発想であり,引用発明に1〜4%の低酸素環境を組み合わせるという発想には想到し得ないなどとして,引用発明に本願の優先日当時の周知技術を組み合わせる動機づけは存在しない旨主張する。
しかしながら,引用文献1に接した当業者において,引用発明に本願の優先日当時の前記1(3)ケ認定の周知技術を適用して,最適な貯蔵酸素濃度(最小酸素濃度)の環境で使用することの動機づけがあることは,前記ア認定のとおりであるから,原告の上記主張は採用することができない。
(イ) また,原告は,甲17の記載事項によれば,低酸素貯蔵環境は,単に酸素による品質劣化を抑えるのみでなく,低酸素障害による品質の劣化と隣り合わせの技術であること,バナナ,トマトについては,酸素濃度が1〜5%(3%付近)において呼吸活性が最小となり,この付近の濃度において呼吸が好気呼吸から嫌気呼吸へ切り替わり,異臭,変色などの低酸素障害による劣化が生ずることを理解できることからすると,果物や野菜の品質を長持ちさせることを目的とするのであれば,低酸素障害による異臭の発生が懸念される保存条件は,当然に避けることになるから,引用発明において,相違点に係る本願発明の構成「1vol%,(2vol%,3vol%または4vol%の酸素を含む環境」で使用)とすることには阻害要因がある旨主張する。
しかしながら,引用文献1に接した当業者において,引用発明に本願の優先日当時の前記1(3)ケ認定の周知技術を適用して,最適な貯蔵酸素濃度(最小酸素濃度)の環境で使用することの動機づけがあることは,前記ア認定のとおりである。そして,甲17には,「多くの青果物では呼吸が嫌気呼吸へ変わることを避けるために,CA貯蔵やMA貯蔵の貯蔵酸素濃度は,最低1〜3%が必要であるとされている。一般的に,植49物細胞では酸素濃度が0.2%を下回ると,代謝が好気代謝から嫌気代謝へと変化する。」,「追熟処理バナナやトマト果実でも同様に3%O2で呼吸活性が最小となり,異臭が認められた1%O2 では増加に転じるという傾向を示した(図3)。」(前記1(3)カ(ア)及び(ウ))との記載があることに照らすと,甲17の記載から,酸素濃度が「1〜5%(3%付近)」の場合に直ちに好気呼吸から嫌気呼吸へ切り替わるものと理解することは困難であり,また,少なくとも3vol%または4vol%の酸素を含む環境とすることに阻害要因があるとはいえない。
したがって,原告の上記主張は採用することができない。
(2) 顕著な効果に関する判断の誤りの有無について原告は,本願明細書の「表1」によれば,酸素濃度が1vol%,2vol%,4vol%の場合の吸着能力は,酸素濃度10vol%の場合と比べて高い数値になっているところ,このように酸素濃度を低くして本願発明の範囲に設定することによって,エチレン吸収能力が向上し,その結果,パラジウムドープされたZSM−5のエチレン吸収能が向上することは,引用文献1の記載から読み取ることができないから,本願発明の予想し難い顕著な効果である旨主張する。
しかしながら,本願明細書の「表1」には,本願発明の特許請求の範囲(請求項1)記載の酸素濃度の数値範囲に含まれる4vol%の場合のエチレン吸着能力は,3600μl/gであることが示されているが,一方で,その数値範囲外の10vol%の場合のエチレン吸着能力は3500μl/gであることが示されており,そのエチレン吸着能力の差は,100μl/gに過ぎないことからすると,本願発明の効果は,10vol%の場合と比べて高いといえるにしても,顕著であるとまで認めることはできない。
したがって,原告の上記主張は理由がない。
(3) 小括50以上によれば,本願発明は,引用発明及び前記1(3)ケ認定の周知技術に基づいて,当業者が,容易に発明をすることができたものと認められるから,特許法29条2項に該当する。
したがって,これと同旨の本件審決の判断に誤りはないから,原告主張の取消事由2は理由がない。
3 結論以上のとおり,原告主張の取消事由1は理由があるが,取消事由2は理由がないから,結局,本件審決にこれを取り消すべき違法は認められない。
したがって,原告の請求は棄却されるべきものである。
知的財産高等裁判所第4部裁判長裁判官 大 鷹 一 郎裁判官 古 河 謙 一裁判官 関 根 澄 子51別紙1【図1】【表1】52別紙2【図1】【図2】53【図3】【図4】54別紙3【表1】55【図1】56別紙4【図1】57
事実及び理由
全容
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