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審判番号(事件番号) データベース 権利
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令和2ワ4332 特許権侵害行為差止請求事件 判例 特許
平成29ワ24210 特許権侵害差止等請求事件 判例 特許
平成29ワ10742 特許権侵害差止等請求事件 判例 特許
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事件 平成 28年 (ワ) 7536号 特許権侵害差止等請求事件
5原告 株式会社湯山製作所
同訴訟代理人弁護士 飯島歩
同 藤田知美
同 真鍋怜子
同訴訟代理人弁理士 横井知理 10 同吉田昌司
被告 株式会社ネクスト
被告株式会社ヨシヤ
上記両名訴訟代理人弁護士 蜑コ彰彦
同 高瀬亜富 15 主文 1 被告株式会社ネクストは,原告に対し,415万6644円及びこれに対す る平成28年9月6日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 被告株式会社ネクスト及び被告株式会社ヨシヤは,原告に対し,連帯して, 71万6378円及びこれに対する平成28年9月3日から(被告株式会社ネクス 20 トについては同月6日からの限度で)支払済みまで年5分の割合による金員を支払 え。 3 原告の,商標権に基づく差止め等の請求及びその余の主位的請求をいずれも 棄却する。 4 被告株式会社ネクストは,原告に対し,82万7818円及びこれに対する 25 平成30年10月6日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 5 被告株式会社ヨシヤは,原告に対し,47万4242円及びこれに対する平 1成30年10月6日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 6 原告のその余の予備的請求をいずれも棄却する。 7 訴訟費用は,これを20分し,その1を被告らの負担とし,その余は原告の 負担とする。 58 この判決は,第1,第2項及び第4,第5項に限り,仮に執行することがで きる。 事実及び理由 第1 請求の趣旨 1 被告株式会社ネクストは,別紙被告ネクスト製品目録記載の物件に別紙標章 10 目録記載の標章を付し,又は同標章を付した別紙被告ネクスト製品目録記載の物件 を販売し,若しくは販売のために展示してはならない。 2 被告株式会社ヨシヤは,別紙被告ヨシヤ製品目録記載の物件に別紙標章目録 記載の標章を付し,又は同標章を付した別紙被告ヨシヤ製品目録記載の物件を販売 し,若しくは販売のために展示してはならない。 15 3 被告株式会社ネクストは,別紙標章目録記載の標章を付した別紙被告ネクス ト製品目録記載の物件及び半製品を廃棄せよ。 4 被告株式会社ヨシヤは,別紙標章目録記載の標章を付した別紙被告ヨシヤ製 品目録記載の物件及び半製品を廃棄せよ。 5 被告株式会社ネクストは,別紙標章目録記載の標章を付した別紙被告ネクス 20 ト製品目録記載の物件の製造に供する製造設備を廃棄せよ。 6 被告株式会社ヨシヤは,別紙標章目録記載の標章を付した別紙被告ヨシヤ製 品目録記載の物件の製造に供する製造設備を廃棄せよ。 7 (主位的請求)被告株式会社ネクストは,原告に対し,金5000万円及び これに対する平成28年9月6日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払 25 え。 8 (主位的請求)被告株式会社ヨシヤ及び被告株式会社ネクストは,原告に対 2し,連帯して,金5000万円及びこれに対する平成28年9月3日から(被告株 式会社ネクストについては同月6日から)支払済みまで年5分の割合による金員を 支払え。 9 (第7項及び第8項の予備的請求)被告株式会社ネクストは,原告に対し, 5 金1179万3600円及びこれに対する平成30年10月6日から支払済みまで 年5分の割合による金員を支払え。 10 (第8項の予備的請求)被告株式会社ヨシヤは,原告に対し,金335万6 640円及びこれに対する平成30年10月6日から支払済みまで年5分の割合に よる金員を支払え。 10 第2 事案の概要 本件は,薬剤分包用ロールペーパに関する商標権を有し,特許権を有していた原 告が,被告株式会社ネクスト(以下「被告ネクスト」という。)及び被告株式会社 ヨシヤ(以下「被告ヨシヤ」といい,被告ネクストと合わせて「被告ら」という。) に対し,被告らの製造・販売する製品が原告の特許権及び商標権を侵害したと主張 15 し,@商標法36条1項,2項に基づく販売等の差止め及び製造設備等の廃棄,A 特許法102条2項,商標法38条2項,民法709条,719条2項に基づく損 害賠償として,主位的に,被告ネクストについて,被告ネクストの販売した製品に 関し5676万円の一部として5000万円及びこれに対する本件訴状送達の日 (平成28年9月5日)の翌日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の 20 支払,B被告ネクスト及び被告ヨシヤについて,被告ヨシヤの販売した製品に関し 1億1352万円の一部として5000万円及びこれに対する本件訴状送達の日 (被告ネクストにつき平成28年9月5日,被告ヨシヤにつき同月2日)の翌日か ら支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の(重なり合う部分の) 連帯支払を求め,C上記各損害賠償金の予備的請求として,民法704条,703 25 条に基づき,被告ネクストについては不当利得金1179万3600円,被告ヨシ ヤについては335万6640円の返還及びこれらに対するそれぞれ平成30年8 3月28日付け訴えの変更申立書送達の日(同年10月5日)の翌日から支払済みま で民法所定の年5分の割合による金員の各支払を求める事案である。 1 前提事実(当事者間に争いのない事実又は後掲の各証拠及び弁論の全趣旨に より容易に認められる事実) 5? 当事者等
原告は,保健医療機械器具類の製造及び販売等を業とする株式会社である。
被告ネクストは,医療機器の販売及び賃貸,医療用消耗品の販売等を業とする株 式会社である。
被告ヨシヤは,介護保険法に基づく指定訪問介護事業,インターネットを利用し 10 た情報提供サービス業,通信販売業等を業とする株式会社である。被告ネクストの 現代表者は平成27年4月1日まで,被告ヨシヤの代表者でもあった。 白馬三洋加工紙株式会社(以下「白馬三洋」という。)は,ポリエチレン加工紙 製造等を業とする株式会社であり,P1は,白馬三洋から依頼を受けて,中空芯管 に薬剤分包用シートを巻き付ける作業を行っていた。 15 ? 原告の有していた特許権(甲1,2) ア 原告は,以下の特許(以下「本件特許」といい,本件特許の請求項1に係る 特許権を「本件特許権」,本件特許権の目的たる特許発明を「本件発明」といい, 本件特許に係る明細書及び図面をまとめて「本件明細書」という。)を有していた。 本件明細書の記載は,本判決添付の特許公報のとおりである。本件特許権の存続期 20 間は,平成29年9月21日をもって終了した。 登録番号 特許第4194737号 発明の名称 薬剤分包用ロールペーパ 出願日 平成12年6月2日 (原出願日 平成9年9月22日) 25 優先日 平成8年9月20日,平成9年9月19日 出願番号 特願2000−166273 4登録日 平成20年10月3日 イ 無効審判及び訂正請求(甲25,26) 平成29年7月10日,本件特許につき無効審判(審判番号2017−8000 89)が請求され,原告は,同手続において,同年10月6日に,本件特許の請求 5 の範囲及び明細書につき訂正請求を行った。訂正内容は,請求項1の以下の下線部 分である。 訂正前「ロールペーパの回転角度を検出するために支持軸に角度センサを設け,」 「その角度センサによる検出が可能な位置に磁石を配置し,」 訂正後「ロールペーパの回転角度を検出するために支持軸の片端に角度センサを 10 設け,」「その角度センサによる検出が可能な位置に複数の磁石を配置し,」 ? 本件発明の構成要件の分説 本件発明の構成要件は,次のとおり分説される。 A 非回転に支持された支持軸の周りに回転自在に中空軸を設け,中空軸にはモ ータブレーキを係合させ,中空軸に着脱自在に装着されるロールペーパのシートを 15 送りローラで送り出す給紙部と,2つ折りされたシートの間にホッパから薬剤を投 入し,薬剤を投入されたシートを所定間隔で幅方向と両側縁部とを帯状にヒートシ ールする加熱ローラを有する分包部とを備え,ロールペーパの回転角度を検出する ために支持軸に角度センサを設け,上記中空軸と上記支持軸の固定支持板間で上記 中空軸のずれを検出するずれ検出センサを設け,分包部へのシート送り経路上でシ 20 ート送り長さを測定する測長センサを設け,ロールペーパを上記中空軸に着脱自在 に固定してその固定時に両者を一体に回転させる手段をロールペーパと中空軸が接 する端に設け,角度センサ及び測長センサの信号に基づいてシート張力をロールペ ーパ径に応じて調整しながら薬剤を分包するようにし,さらに角度センサの信号と ずれ検出センサの信号との不一致により上記中空軸に着脱自在に装着されたロール 25 ペーパと上記中空軸とのずれを検出するようにした薬剤分包装置に用いられ, B 中空芯管とその上に薬剤分包用シートをロール状に巻いたロールペーパとか 5ら成り, C ロールペーパのシートの巻量に応じたシート張力を中空軸に付与するため に,支持軸に設けた角度センサによる回転角度の検出信号と測長センサの検出信号 とからシートの巻量が算出可能であって,その角度センサによる検出が可能な位置 5 に磁石を配置し, D その磁石をロールペーパと共に回転するように配設して成る E 薬剤分包用ロールペーパ。 ? 原告の登録商標(甲4〜8)
原告は,別紙商標権目録Tの商標(以下「本件商標1」という。)及び同Uの商 10 標(以下「本件商標2」といい,本件商標1及び同2に係る権利を「本件各商標権」 という。)の登録商標権者である。本件商標1及び同2の出願日,登録日,指定商 品等は,上記別紙商標権目録T及びU各記載のとおりである。 ? 被告らの行為(甲9,10,15,乙22,40) ア 被告ネクストは,遅くとも本件特許の登録日である平成20年10月3日以 15 降,別紙被告ネクスト製品目録記載の薬剤分包用ロールペーパ(以下「被告ネクス ト製品」という。)を,ウェブサイト「ネクスト Total Medical supporter」(甲 9。以下「被告ネクストウェブサイト」という。)を通じて販売していた。 イ 被告ヨシヤは,遅くとも平成20年10月3日以降,別紙被告ヨシヤ製品目 録記載の薬剤分包用ロールペーパ(以下「被告ヨシヤ製品」という。)を被告ネク 20 ストから購入し,ウェブサイト「ネットショップ YOSHIYA」(甲10。以下「被告 ヨシヤウェブサイト」という。)を通じて販売していた。 ウ 被告ネクストは,被告ネクスト製品及び被告ヨシヤ製品(以下,両者を合わ せ「被告製品」という。)の製造を,当初は訴外株式会社ベストに,その後は白馬 三洋に委託し,白馬三洋は,中空芯管に薬剤分包用シートを巻き付ける工程を, P 25 1に委託した。 ? 被告ネクスト製品及び被告ヨシヤ製品(甲19,乙15,16,20) 6ア 被告ネクスト製品及び被告ヨシヤ製品の構成は,それぞれ別紙被告ネクスト 製品説明書及び別紙被告ヨシヤ製品説明書のとおりであり,これを,本件発明の構 成要件の記載に沿って整理すると,以下のとおりとなる。 a 被告製品は,中空芯管(原告製の使用済み芯管)とその上に薬剤分包用シー 5 トをロール状に巻いたロールペーパとから成り(被告ネクスト製品説明書図1,被 告ヨシヤ製品説明書図1), b 上記中空芯管(被告ネクスト製品説明書図2,被告ヨシヤ製品説明書図2) においては,原告製の薬剤分包装置に設けられた上記中空軸への挿入方向とは逆の 端部プラスチック内部に,円周上に3個の磁石が配設され(被告ネクスト製品説明 10 書図3符号9,被告ヨシヤ製品説明書図3符号9), c 上記磁石は,中空芯管を構成するプラスチックの内部に配設されており(被 告ネクスト製品説明書図3符号9,被告ヨシヤ製品説明書図3符号9),巻き回さ れたロールペーパと共に回転する。 d 薬剤分包用ロールペーパである。 15 イ 被告らは,本件商標1については遅くとも平成20年10月3日以降,本件 商標2についてはその登録日である平成24年4月27日以降,被告製品の中空芯 管の外端面のプラスチック先のリングに,型押しにより刻印していた。 2 争点 ? 被告製品は本件発明の技術的範囲に属するか(争点?)。 20 ? 本件特許は,特許無効審判により無効にされるべきものか。 ア 補正の際の新規事項の追加に当たるか(争点?ア)。 イ サポート要件違反に当たるか(争点?イ)。 ウ 明確性を欠くか(争点?ウ)。 エ 分割要件違反に当たるか(争点?エ)。 25 ? 本件各商標権の侵害が成立するか。 ア 視認可能性があるか(争点?ア)。 7イ 指定商品の同一(争点?イ) ウ 商標法26条1項6号の抗弁(争点?ウ) エ 実質的違法性(争点?エ) ? 本件各商標権に基づく差止めの必要性(争点?) 5? 原告の損害 ア 特許法102条2項,商標法38条2項による損害額の推定(争点?ア) イ 消滅時効の成否(争点?イ) ウ 推定の覆滅(争点?ウ) ? 被告らの共同不法行為の成否(争点?) 10 ? 不当利得の存否及びその額(争点?) 第3 争点に関する当事者の主張 1 争点?(被告製品は本件発明の技術的範囲に属するか。)について 【原告の主張】 ? 構成要件Aの「用いられ」の意義 15 ア 本件発明がサブコンビネーション発明であること 現行の特許・実用新案審査基準(甲22)は,複数の装置の組み合わせから なる全体装置に対し,それを構成する各装置を「サブコンビネーション」と呼ぶ。 本件において薬剤分包装置は薬剤分包装置本体とロールペーパとからなるから,薬 剤分包装置本体とロールペーパとはそれぞれがサブコンビネーションに該当する。 20 そして,ロールペーパは,「ロールペーパのシートの巻量に応じたシート張力を 中空軸に付与するために,支持軸に設けた角度センサによる回転角度の検出信号と 測長センサの検出信号とからシートの巻量が算出可能であって,その角度センサに よる検出が可能な位置に磁石を配置し,その磁石をロールペーパと共に回転するよ うに配設して成る」(構成要件C,D)との構成を有しているところ,「中空軸」, 25 「支持軸」,「角度センサ」,「測長センサ」及び「検出信号」といった事項は薬 剤分包装置本体の構成要件Aに関する事項によって特定されており,構成要件Aの 8「ロールペーパの回転角度を検出するために支持軸に角度センサを設け」との記載 によって,構成要件Cの「その角度センサによる検出が可能な位置に磁石を配置し」 の意味が特定される関係にある。 よって,ロールペーパに係る発明である本件発明は,他のサブコンビネーション 5 に相当する薬剤分包装置本体に関する事項によってその構造,機能等が特定されて いるものといえる。すなわち,構成要件Aに開示された他のサブコンビネーション たる薬剤分包装置本体の記載が,構成要件Cと相まって本件発明の物としての構成 を特定するものである。
被告らは,本件発明は「用途発明」又は「用途限定発明」であると主張する 10 ようであるが,用途発明とは,物の属性から当然に用途を導くことのできない物質 等の物について,既知の物の新規の用途を発見した場合に,その用途に関して物の 発明と認める考え方であり,通常,化合物や組成物等の発明に適用されるものであ るから,本件発明がこれに該当しないことは明らかである。 また,用途限定発明とは,既知の物の本来的・一般的属性を用途とするのではな 15 く,ある用途に適した状態に構成し,または,そういう特質を有する構成の物を選 択することに創作性があるという発明類型であるところ,本件発明は,単に公知の 芯管をある用途に適した状態に構成したものではなく,前記のとおり,物の具体的 構成により特定される発明であるから,用途限定発明にも該当しない。
原告は,平成19年10月1日付け手続補正書による補正(乙8。以下「本件補 20 正」という。)により,構成要件Aの薬剤分包装置の構成を明細書の記載の範囲内 でより具体化するよう補正したのであって,本件発明の用途を限定したのではない。
同一の技術思想のもとで装置の構成を詳細化することをもって用途の限定というこ とはできないのは当然である。 イ サブコンビネーション発明の技術的範囲について 25 一つのサブコンビネーションの技術的範囲に属するためには,他のサブコンビネ ーションにのみ用いられることは要件とされない。 9そもそも,物の発明において,特許発明の技術的範囲に属するか否かは請求の範 囲の記載に基づき定められるものであって,具体的な実施行為に際して常に作用効 果を奏することは要件とされていない。サブコンビネーション発明も物の発明の一 類型である以上,その技術的範囲は物の静的・客観的な構造ないし特性によって特 5 定されるべきであり,それを超えて用途を考慮すべきではない。
上記アのとおり,サブコンビネーション発明における「用いられ」等の記載は, 他のサブコンビネーションとの関係で特許発明の構造,機能を特定するものであっ て特許発明の要旨を認定するために必要となる記載ではあるが,物の発明である以 上,現実の使用を構成要件とするものではなく,まして他の用途の存在を排斥する 10 ものではない。 本件特許請求の範囲や本件明細書には,本件発明にかかるロールペーパが他の用 途等に使用されることを排除する記載も,他の用途等に使用できることにより発明 の技術的意義を損なうことをうかがわせるような記載もなく,また,他の用途等に ついて意識的に除外したという事情もない。 15 ウ まとめ 以上によれば,被告製品であるロールペーパが,構成要件Aを充足する薬剤分包 装置に使用することが可能であれば,被告製品は構成要件Aの「用いられ」を充足 するというべきである。 ? 構成要件Aを充足する薬剤分包装置の存在 20 ア 被告らの主張について
被告らは,現実に構成要件Aを充足する薬剤分包装置が存在し,被告製品がこれ に使用されていることが必要であると主張する。 しかしながら,構成要件Aを充足しない薬剤分包装置における被告製品の使用が 特許権侵害に当たらないという考え方は, 「使用」の解釈においては適切であるが, 25 「生産」や「譲渡」の実施行為との関係では採用されるべきではない。 仮に,被告製品が現に構成要件Aを充足する薬剤分包装置において用いられるこ 10 とが必要だとしても,構成要件Aを充足する薬剤分包装置に被告製品を用いること が可能であることについては争いがない。 イ ダブルタイプのロールペーパを使用する薬剤分包装置であっても構成要件 Aの該当性は否定されないことについて 5 被告らは,本件発明の出願時の請求項1及び出願の際に添付された明細書 (乙6。以下「出願時明細書」という。)の記載,並びに本件明細書に記載された 本件発明が解決しようとする課題から,構成要件Aには,あらかじめ折り畳まれて いないロールペーパ(以下「シングルタイプ」という。)を使用する薬剤分包装置 のみが該当し,あらかじめ折り畳まれたロールペーパ(以下「ダブルタイプ」とい 10 う。)を使用する薬剤分包装置は含まれないと主張する。 しかし,構成要件Aにいう「2つ折り」とは,ロールペーパ中心部に長手方向に 設けられた折り目に沿い,薬剤を投入するのに適した空隙を設けた状態に折り曲げ ることと解され,ダブルタイプのロールペーパとシングルタイプのロールペーパの いずれであっても生じる状態である。また,本件明細書【0005】に記載された, 15 いわゆる耳ずれの防止は,上記のような過程を経る以上,シングルタイプとダブル タイプのいずれのロールペーパを使用する薬剤分包装置でも生じる課題である。 したがって,上記被告の主張には理由がない。 また,被告らは,本件特許権の原出願当時,ダブルタイプのロールペーパは 存在しなかったと主張する。しかし,同主張は本件の争点に何ら関連性がないし, 20 原告は,昭和53年には既にダブルタイプのロールペーパ及びこれを使用する薬剤 分包装置を製造・販売していたし,他の薬剤分包機メーカーもダブルタイプのロー ルペーパを1980年代から製造・販売していたので,上記被告の主張には理由が ない。 ウ 構成要件Aを充足する原告製薬剤分包装置の存在について 25 原告製の薬剤分包装置のうち,ダブルタイプのロールペーパ用の装置である 「TWIN−RV」,「93SRz(カセット機構付)」,「Mini−R45」 11 及び同カセット機構付,「シャルティV」,「CPX−Vs」(プリンタ有り及び なし),「260〜520FDSU」,「130〜160FDXU SE」は,い ずれも構成要件Aを充足する。 また,シングルタイプのロールペーパ用の装置である「63−VR−S」,「6 5 3−VR−TS」,「WR279」,「330FDS〜520FDS」は,いずれ も構成要件Aを充足する。 なお,平成25年4月以降にモデルチェンジされた原告製の薬剤分包装置には本 件特許が実施されておらず,被告製品を使用することができない。よって,これら の薬剤分包装置が構成要件Aを充足するか否は問題にならない。 10 被告らは,原告製の薬剤分包装置は,ロールペーパを中空軸に装着しなくて も支障なく薬剤を分包できるから,構成要件Aの「角度センサ及び測長センサの信 号に基づいてシート張力をロールペーパ径に応じて調整しながら薬剤を分包するよ うにし,」,「さらに角度センサの信号とずれ検出センサの信号との不一致により
上記中空軸に着脱自在に装着されたロールペーパと上記中空軸とのずれを検出する 15 ようにした薬剤分包装置に用いられ, との要件を充足しないと主張する。 」 しかし, ロールペーパを中空軸に装着せずに原告製の薬剤分包装置において使用した場合に は,張力制御が行われないまま動作し続けることとなり,被告らの実験結果(乙3 2〜35(各枝番号を含む。以下同じ。))によっても明らかなように,たるみや 皺といった明確な分包異常を生じることとなるから,「何らの支障なく薬剤を分包 20 できる」とはいえず,被告らの主張は誤っている。 【被告らの主張】 ? 本件特許権の侵害が成立するのは,被告製品が構成要件Aを充足する薬剤分 包装置で使用され(「用いられ」)る場合のみであること ア オールエレメントルールについて 25 特許法36条5項によれば,被告製品が本件発明の技術的範囲に属するというた めには,被告製品が本件発明の全ての構成要件を満たす必要がある(オールエレメ 12 ントルール)。すなわち,被告らによる被告製品の「生産」や「譲渡」が本件特許 権侵害となるのは,被告製品の「生産」や「譲渡」が構成要件Aを充足する装置で 使用されることを前提とした場合に限られる。 したがって,原告は,構成要件Aを充足する薬剤分包装置が現実に存在すること 5 及び被告製品がそのような装置に用いられていることを主張・立証をする必要があ る。 イ 本件補正について 本件特許は平成12年6月2日に出願されたが,平成19年7月26日付けの拒 絶理由通知書(乙7)において進歩性の欠如を指摘されたため,原告は,出願時の 10 請求項1中の構成要件Aを補正し(乙8),意見書(乙9)において拒絶理由書中 の引用文献記載の発明と補正後の構成要件Aに記載された薬剤分包装置の構成の差 異を強調した。同意見書においては,本件発明が構成要件Aの構成を有する薬剤分 包装置に用いられることを前提とするロールペーパについての発明であることが明 言されている。 15 このような出願経過からすれば,被告製品が本件発明の技術的範囲に属するか否 かの判断をするに当たっては,構成要件Aを充足する薬剤分包装置が現実に存在し,
被告製品が当該薬剤分包装置に使用されていることが必須となる。これに反する原 告の主張は,禁反言の法理に照らし許されない。 ウ 本件発明が用途発明であること 20 原告は,被告製品が構成要件Aを充足する薬剤分包装置に使用することが可能で ありさえすれば,需要者が被告製品をそのような薬剤分包装置に使用するか否か, あるいはそのような薬剤分包装置が現実に存在するか否かを問わず,構成要件Aを 充足する旨を主張するが,失当である。 本件発明に係る薬剤分包用ロールペーパは,新規な用途(構成要件Aを充足する 25 薬剤分包装置での使用)を根拠に進歩性が認められたものであるから,構成要件A を充足する薬剤分包装置で使用される場合に限り特許権侵害となり得る用途発明で 13 あるところ,被告らは,被告製品がどのような薬剤分包装置において使用されるか を問題とすることなく被告製品の生産,使用,譲渡をしていたに止まるのであるか ら,本件特許権の侵害は成立しない。 ? 原告が構成要件Aを充足する薬剤分包装置の存在を主張・立証していないこ 5と ア ダブルタイプのロールペーパを使用する薬剤分包装置について
上記?イのとおり,原告は,出願時,請求項1において,構成要件Aの分包 部に関する記載を「シートを2つ折りし」としていたところ,拒絶理由通知を受け, 「2つ折りされたシート」と補正した(本件補正)。原告は,本件補正の根拠を出 10 願時明細書【0018】に求めたところ,同段落の「三角板4で2つ折りにされた」 という記載は,分包装置においてロールペーパを2つ折りにすることを前提とした ものである。また,補正の前後を通じて上記2つの文言は同義でなければならず, これらがシングルタイプのロールペーパを分包装置において2つ折りにすることを 指すことは字義的意味からも明らかである。 15 また,本件発明の技術的思想は,分包部でシートを2つ折りした際にシート の縁部が正確に重ならない,いわゆる耳ずれを防止することにあるが,ダブルタイ プのロールペーパにおいてこの問題は生じない。 さらに,本件特許権に関する原出願当時(平成9年9月22日)において, ダブルタイプのロールペーパは存在しなかったため,これを使用する原告製の薬剤 20 分包装置(特に,本件発明が前提とする高度な張力調整を行う薬剤分包装置)も製 造・販売されていなかった。本件明細書(乙6)及び原出願の際の明細書(乙12。 以下「原出願明細書」という。)に,ダブルタイプのロールペーパに関する記載が 一切ないこともこの事実を裏付ける。 したがって,構成要件Aを充足する薬剤分包装置に,ダブルタイプのロール 25 ペーパを使用する分包装置(原告製の「TWINR−V」等)が含まれないことは 明らかである。 14 イ 個別の原告製薬剤分包装置について 「TWINR−V」には,「上記中空軸と上記支持軸の固定支持板間で上記中空 軸のずれを検出する「ずれ検出センサ」が存在しないため,構成要件Aを充足しな い。また,「CPXVs」は,送りローラに備えられた駆動源によりロールペーパ 5 のシートを送り出すという構成の給紙部を有していないこと,また,加熱ローラの 軸先に設けられたセンサが「測長センサ」として機能しないことから,構成要件A を充足しない。 さらに,「COMPACT45U」,「CPX−21V」は,紙管抵抗(張力) を紙管つまみにより手動で設定する構造であり,「角度センサ及び測長センサの信 10 号に基づいてシート張力をロールペーパ径に応じて調整しながら薬剤を分包するよ うにし」という構成を備えていないため,構成要件Aを充足しない。 他にも,原告製の薬剤分包装置の中には構成が明らかにされていないものが多数 存在し,これらが構成要件Aを充足するか否かは不明である。 ウ 仮に,原告が主張するように,構成要件Aのうち,ロールペーパとの関係で 15 必要な構成要件の充足のみの立証で足りるとの前提に立ったとしても,構成要件A 中の「角度センサ」,「測長センサ」の構成は,ロールペーパ側の構成を特定する 構成要件Cが充足されることにより初めて得られるものであるから,原告製の薬剤 分包装置は,構成要件Cを充足するロールペーパを使用して初めて,「シート張力 をロールペーパ径に応じて薬剤を分包」し得,それにより「シートに耳ずれや裂傷 20 が生じたりせずに分包シートで薬剤を分包すること」(本件明細書【0011】) が可能となるはずである。 しかし,被告らによる実験の結果(乙32〜35),原告製の薬剤分包装置(C PXVs,YS−63VR−ST)は,芯管の中空軸への装着の有無にかかわらず (ロールペーパが構成要件Cを充足しない場合でも)正常に薬剤を分包できること 25 が明らかとなった。 したがって,原告製の薬剤分包装置は,構成要件Aの「角度センサ及び測長セン 15 サの信号に基づいてシート張力をロールペーパ径に応じて調整しながら薬剤を分包 するようにし,」「さらに角度センサの信号とずれ検出センサの信号との不一致に より上記中空軸に着脱自在に装着されたロールペーパと上記中空軸とのずれを検出 するようにした薬剤分包装置に用いられ,」との要件を充足しない。 5エ 以上より,被告製品は,現に構成要件Aを充足する薬剤分包装置に用いられ ないというべきである。 2 争点?(本件特許は,特許無効審判により無効にされるべきものか。)につ いて 【被告らの主張】 10 ? 争点?ア(補正の際の新規事項の追加に当たるか。)について
原告は,平成19年10月1日提出の手続補正書(乙8)において,補正前の特 許請求の範囲における「シートを2つ折りにし」という記載(乙6)を,出願時明 細書【0018】における記載を根拠として,「2つ折りされたシート」という記 載へ変更する補正を行った(本件補正)。 15 しかし,上記【0018】の「三角板4で2つ折りにされた際」との記載は,@ 給紙部において,(あらかじめ折り畳まれていない)ロールペーパから包装シート が引き出されて分包部へ供給され,A分包部において,包装シートが三角板で2つ 折りにされた,と理解すべきである。また,本件明細書【0002】,【0003】, 【0005】及び【0012】の記載からは,従前はシートの張力変動による分包 20 部でシートを2つ折りにした際にシートの縁部が正確に重ならないという「耳ずれ」 が発生する技術的課題があったことに鑑み,これを解決するために本件発明が創作 されたと解される。このように,本件発明は,あらかじめ折り畳まれていないロー ルペーパを,分包部で2つ折りにすることを前提とする発明である。 そうすると,上記のとおり,特許請求の範囲の記載が,「シートを2つ折りし」 25 から「2つ折りされたシート」へと補正されたことにより,薬剤分包機外であらか じめ折り畳まれたシートという新たな技術的事項が導入されたことになる。 16 したがって,原告が当初の出願における請求項1を本件特許のとおり補正したこ とは新規事項の追加に当たり,本件特許は特許法123条1項1号の無効事由を有 する。 ? 争点?イ(サポート要件違反に当たるか。)について 5 本件明細書に記載されているのは,分包部でシートを2つ折りにすることを前提 とする発明であり,それ以外の態様,つまりロールペーパの状態で2つ折りにされ ている態様(ダブルタイプ)は記載されていない。一方,特許請求の範囲において はシートを2つ折りにするタイミングに限定がないため,ロールペーパの状態で2 つ折りにされている態様も含んでいる。 10 したがって,本件特許請求の範囲は本件明細書によりサポートされていない。 ? 争点?ウ(明確性を欠くか。)について
原告の主張によると,「2つ折りされたシート」に「あらかじめ2つに折り畳ま れたシート」が含まれるところ,こうした態様のシートは本件特許の明細書の発明 の詳細な説明に記載がなく,当事者が発明を明確に把握できないから,明確性を欠 15 く。 ? 争点?エ(分割要件違反に当たるか。)について ア 本件特許に係る特許出願(特願2000−166273)は,特願平9−2 57175号を原出願(以下「本件原出願」という。)とする分割出願(特願10 −340008号)を分割した分割出願(特願2000−33185)をさらに分 20 割出願したものである(乙11)。ところが,本件明細書の発明の詳細な説明に記 載された実施形態は,原出願明細書の発明の詳細な説明(乙12,13)に記載さ れた事項の範囲内となっていない。 すなわち,原出願明細書には,@段落【0028】〜【0042】において記載 された,ロールペーパの外径と内径との差を単純に4で割り,この4段階に応じて 25 モータブレーキを変化させる(シート張力を変化させる)という実施形態(以下「第 1の実施形態」という。)と,A段落【0043】〜【0081】において記載さ 17 れた,ロールペーパの回転時の単位長さあたり検出されるパルス数を4段階に分け て,この4段階に応じてモータブレーキを変化させるという実施形態(以下「第2 の実施形態」)が記載されており,両者は張力調整の方法が異なっている。なお, 第2の実施形態は,【0046】〜【0052】に記載された,ホール素子センサ 5 24が67.5°の間隔で配置されている芯管を使用する場合と,【0053】〜 【0081】に記載された,8個のホール素子センサ24が45°の間隔で配置さ れている芯管を使用する場合の2つの場合に分けられる(以下,それぞれ「第2− 1の実施形態」等という。)。 他方,本件明細書【0032】及び【0033】には,「ロールペーパRの直径 10 を単純に(機械的に)4段階に分けて,この直径が各段階に達した段階でモータブ レーキを変化させて張力を調整する」方法(第1実施形態に近い。)が記載されて いる。一方で,同【0038】の後半から【0039】においては,「一定の長さ である包装シートの操出量1を繰り出す際に磁石24が検知するホール素子センサ 25の数(パルス数)を4段階に分けて,この段階ごとにモータブレーキを変化さ 15 せて張力を調整する」方法(第2実施形態に近い。)が記載されている。また,同 【0025】には,ホール素子センサ24が67.5°の間隔で配置されている芯 管を使用する場合が記載されているが,第2−1の実施形態とは異なり,「モータ ブレーキ20のブレーキ力を4段階に制御してロールペーパRの直径の変化に応じ て張力調整を行う。」(同【0032】)ものとされている。 20 よって,本件明細書に記載された実施形態は,第1の実施形態の張力調整方法と 第2の実施形態の張力調整方法が混在したものとなっているから,原出願明細書の 範囲内にない。 イ 加えて,本件特許に係る特許出願は,「発明の属する技術分野」,「発明が 解決しようとする課題」及び発明の作用効果について,原出願に係る明細書に加筆 25 し,内容を拡張するものとなっている。 すなわち,「発明の属する技術分野」について,原出願明細書の段落【0001】 18 では,「シートの張力をロールペーパ径の変化に応じて段階的に調整する」とされ ていたのに対し,本件明細書【0001】では,「シートの張力を調整しながら」 となっており,シートの張力の調整方法に関する限定が削除され,発明の対象が広 がっている。 5 また,「発明が解決しようとする課題」について,本件明細書【0008】〜【0 010】の記載は,原出願明細書には存在しない。また,本件明細書【0011】 も,原出願明細書の段落【0009】から加筆されている。 さらに,発明の作用効果について,原出願明細書にない作用効果が,本件明細書 【0015】に加筆されている。 10 ウ そうすると,本件特許に係る特許出願は,「分割出願の明細書等に記載され た事項が,原出願明細書等に記載された事項の範囲内であること」という要件を満 たさないので,出願日が原出願の出願日まで遡るとの効果を得ることができない。 したがって,本件発明に係る特許出願日はその現実の出願日である平成12年6 月2日となり,本件発明は,本件原出願が平成11年6月15日に公開されたこと 15 によって新規性を失うので,新規性違反の無効理由を有する。 【原告の主張】 ? 争点?ア(補正の際の新規事項の追加に当たるか。)について 出願時明細書【0018】の「三角板4で2つ折りにされた際」という記載は, 実施例に関する記載にすぎない。また,同構成は,薬剤投入時に薬剤を投入しやす 20 いよう薬剤分包シートを搬送方向にV字状に折り曲げた状態をいうから,あらかじ め折り畳まれていない薬剤分包シートに薬剤分包装置内で折り目を付けてV字状に する場合のみならず,あらかじめ折り畳まれた薬剤分包シートを開いてV字状にす る場合にもあてはまる。本件補正前の明細書に本件発明の技術的範囲を前者に構成 に限定する旨の記載はない。また,上記「三角板4で2つ折りにされた際」という 25 記載は,本件補正の前後を通して変更されていないところ,薬剤分包装置外であら かじめ折り畳まれていないロールペーパのみを指すものではなく,あらかじめ折り 19 畳まれたロールペーパにもあてはまる内容である。 また,本件補正は,分割出願により,発明が原出願時のシートの張力調整方法か らロールペーパという物に変わったことに伴い,経時的記載を状態的記載に補正し たものにすぎない。 5 よって,本件補正の前後において本件発明の技術的範囲に変化は生じていないか ら,新規事項が導入されたとはいえない。 ? 争点?イ(サポート要件違反に当たるか。)について。 「2つ折りされたシート」とは,薬剤分包装置に装着される前にあらかじめ2つ に折り畳まれたシート(ダブルタイプのロールペーパ)のみを意味するものではな 10 い。前記1のとおり,「2つ折り」とは,薬剤分包シートをV字状に折り曲げた状 態を指すのであり,この点についてサポートを欠くことはない。 ? 争点?ウ(明確性を欠くか。)について あらかじめ折り畳まれているかどうかはそもそも本件特許請求の範囲に限定がな く,また,前記2のとおり,「2つ折り」とは,薬剤投入時に薬剤を投入しやすい 15 よう薬剤分包シートを搬送方向にV字状に折り曲げられた状態をいうところ,本件 明細書を参酌すれば,「2つ折り」がそのような状態を指すことは明確である。 ? 争点?エ(分割要件違反に当たるか。)について ア 本件特許の原出願においては,@第1実施形態を実施例とする測長センサを 用いたシート張力調整方法と,A第2実施形態を実施例とする測長センサと角度セ 20 ンサを用いたシート調節方法が特許請求の範囲として記載されていた。本件特許出 願は,第2実施形態に基づき分割出願されたものであって,実施例としても,第2 実施形態に基づく実施例のみが記載されている。
被告らは,原出願の第2実施形態には,原出願明細書の段落【0046】〜【0 052】に記載された第2−1実施形態と,段落【0053】〜【0081】に記 25 載された第2−2実施形態があり,後者のみが4段階に分けて張力調整するものと いう前提に立った上で,本件明細書【0032】に4段階に分けて直流電圧を張力 20 レベルごとに対応させて変化する旨記載されていることについて,新規事項の追加 であると主張する。 しかし,原出願の第2実施形態(本件明細書の実施形態)は,その全体が,原出 願明細書【0057】並びに本件明細書【0042】及び【0043】に記載され 5 ているとおり,4段階で張力調整する実施形態であるから,上記の本件明細書【0 032】の記載は新規事項の追加にならない。また,原出願明細書【0033】は, 第2実施形態に相当する実施例を説明するための前提知識として例示的説明を記載 したものにすぎない。 イ 「発明の属する技術分野」の記載について,原出願明細書【0001】の「シ 10 ート張力をロールペーパの径の変化に応じて段階的に調整する」との記載と,本件 明細書の「シートの張力を調整しながら」との記載について,本件明細書において もシート張力はロールペーパの径の変化に応じて段階的に調整されることが前提と されているので,原出願と本件特許においてシート張力の調整方法について変更は ない。 15 「発明が解決しようとする課題」の記載について,本件明細書【0008】〜【0 010】及び【0011】の一部の記載は,本件特許が薬剤分包用ロールペーパの 発明を対象とするものであることから,分割出願に伴い加筆された背景技術につい ての記述である。これらの背景技術は,シート張力調整方法の発明である原出願の 明細書に接した当業者であれば,出願時の技術常識に照らして,そこに記載されて 20 いるのと同然であると理解するものであることから,「当初明細書等の記載から自 明な事項」といえる。 「発明の作用効果」の記載について,本件明細書【0015】の記載の内容は, 原出願の明細書の段落【0005】及び【0017】にそれぞれ記載されていたの であるから,「当初明細書等に明示的に記載された事項」といえる。 25 ウ 以上より,分割要件違反はない。 3 争点?(本件各商標権の侵害が成立するか)について 21 【原告の主張】 ? 視認可能性について(争点?ア)
被告らは,被告製品には需要者が認識可能な状態で本件各商標が付されていない と主張するが,通常の観察力を有する需要者であれば,被告製品の芯管部に刻印さ 5 れた商標を認識することが可能である。 ? 指定商品について(争点?イ)
被告らは,被告製品の薬剤分包シートと芯管とは別個の商品であって,購入者も これを認識しているから,被告らは本件各商標を指定商品である「紙類」や「薬剤 分包機用分包紙」に該当する商品には使用していないと主張する。 10 しかし,薬剤分包紙の購入者が芯管と分包紙につき所有権及び出所の区別を行っ ているとは考え難い。 また,薬剤分包機用分包紙は,芯管に巻かれた状態でなければ利用できず,すべ ての薬剤分包装置メーカーが芯管に分包紙を巻き付けた状態で薬剤分包用ロールペ ーパを販売しているのであるから,芯管と一体となった薬剤分包紙が薬剤分包用ロ 15 ールペーパという1つの商品であり,かつ,「紙類」や「薬剤分包機用分包紙」に 該当すると考えるのが社会通念に合致する。 ? 商標法26条1項6号の抗弁について(争点?ウ)
被告らは,被告製品を非純正品であることを明示して販売していたことから,需 要者にとって誤認混同のおそれがなく,本件各商標の商標的使用には当たらないと 20 主張する。 しかし,仮に非純正品であることを明示していたとしても,被告製品の芯管には 本件各商標が刻印されており,その他に出所が被告らであることを示す標章は一切 付されていないことに照らせば,本件各商標は「需要者が何人かの業務に係る商品 又は役務であることを認識することができる態様により使用」されているといえる。 25 また,顧客が被告製品を購入した後で,薬局内部において購入担当者とは異なる調 剤担当者や転売先の需要者が被告製品に触れる場合には,被告製品が非純正品であ 22 ることが把握されていない可能性が高い。 したがって,需要者が,被告製品を原告の製品であると誤認するおそれは十分に あるといえる。 ? 実質的違法性について(争点?エ) 5 被告らは,顧客は被告製品が非純正品であることを正確に認識していたから,被 告らの行為には実質的な違法性が認められないと主張する。 しかし,被告製品は,ウェブサイトを通じた通信販売のほか,電話やFAXを用 いた販売も行われており,その際に非純正品であることをどの程度告知していたの かは不明である。また,被告らは,顧客から預かった芯管そのものに分包紙を巻き 10 直すのではなく,以前に入手した芯管に分包紙に巻き直した製品を販売したり,芯 管を預かることなく製品のみ販売したりしていた。さらに,被告製品には,本件各 商標の出所表示機能を打ち消す表示は全くない。 よって,被告らが被告製品を製造販売する行為は,需要者に被告製品が原告及び そのグループ会社を出所とするものであるとの誤認混同を生じさせるといえ,被告 15 らの行為に違法性がないといえないことは明らかである。 【被告らの主張】 ? 本件各商標は視認可能な状態で使用されていないこと(争点?ア)
被告製品の芯管に付されている本件商標1及び同2の刻印(以下「本件刻印」と いう。)は極めて小さくて不鮮明であり,通常人の普通の注意をもって被告製品に 20 目を向けた場合,全体像からは本件刻印を識別できない。さらに,出荷時の被告製 品はビニールで包装されているから,本件刻印の視認可能性は皆無である。 よって,本件各商標は「使用」されておらず,商標権侵害は成立しない。 ? 本件各商標は指定商品に使用されていないこと(争点?イ)
原告は,顧客に原告製のロールペーパを販売するにあたり,芯管についてのみ所 25 有権を留保していた。被告らは,その原告製の芯管を顧客から預かり,これに非純 正の分包紙を巻き付けて販売することをウェブサイト上で明示し,顧客もそれを認 23 識していた。特許庁の商標登録実務において,「芯管」と「紙類」は別の指定商品 として扱われており,原告の競業他社も両者につき別々に商標登録を受けている。 したがって,このような取引の実情を考慮すれば,被告製品において売買の対象と されるのは分包紙部分のみであって,芯管に配された本件刻印が,分包紙部分(「紙 5 類」や「薬剤分包機用分包紙」に該当する部分)の出所を識別する表示として機能 することはない。 ? 商標法26条1項6号の抗弁(争点?ウ)
被告製品の販売態様は,被告らのウェブサイトを通じた通信販売のみであって,
被告製品の購入者があらかじめ被告製品の芯管の現物や画像を確認する機会はない 10 し,芯管に小さく視認困難な態様で刻印された表示によってその出所が判断される ことは考えられない。 また,被告らは,上記ウェブサイトにおいて,被告製品が非純正品であることを 明示して販売している。かかる表示を見て被告製品を購入する者は,当然,被告製 品が非純正品であることを正確に認識しているものと推認できる。 15 なお,購入者が被告製品をいったん購入した後に,購入先において購入担当者で はない者が混同したり,転売先において混同が生じたりすることは,被告らの責任 に係る事情とはいえない。 したがって,被告製品の分包紙部分について出所の混同は生じておらず,商標法 26条1項6号の適用により商標権侵害の成立は否定される。 20 ? 被告らの行為には実質的違法性がないこと(争点?エ)
被告らは,ウェブサイトを通じた通信販売により,エンドユーザである薬局に対 して被告製品を販売していた。同ウェブサイトには,被告製品が非純正である旨を 明示している。顧客は,原告製のロールペーパの分包紙を使い切った後の芯管(原 告に所有権が留保されている。)を被告らに預け,「注文書兼使用許可書」(乙2 25 5)を交付する。被告らは,これに非純正の分包紙を巻き付け,「※分包紙はお客 様からお預かりした芯で作りました。」との表示のある納品書(乙26)と共に顧 24 客に対して納品する。被告製品は,原告製のロールペーパに比べて相当程度安価に 販売されている。 以上の販売態様からすると,顧客は被告製品が非純正品であることを明確に認識 していたのであり,被告製品が原告を出所とするものであるとか,原告の品質保証 5 が及ぶ商品である等と誤解することはあり得ない。 したがって,本件各商標の出所表示機能や品質保証機能は何ら害されておらず,
被告らの行為につき実質的な違法性は認められない。 4 争点?(本件各商標権に基づく差止めの必要性)について 【原告の主張】 10 被告製品の生産や販売に供する設備や部材が廃棄されたことの証明がなく,いつ でも生産及び販売を再開できる状況にあると考えられるから,少なくとも侵害のお それは認められ,被告らに対し,標章使用等の差止め,及び製品,製造設備等の廃 棄を求める必要はある(請求の趣旨1項ないし6項の関係)。 【被告らの主張】 15 被告らは,被告製品を平成26年11月より後に販売しておらず,被告ネクスト は平成27年2月ころ,被告ヨシヤは平成26年10月ころ,それぞれのウェブサ イトを削除した。よって,原告の本件各商標権侵害行為も侵害のおそれもない。 5 原告の損害について ? 特許法102条2項,商標法38条2項による損害額の推定(争点?ア) 20 【原告の主張】 ア 被告製品の販売数について 平成25年度に,白馬三洋が被告ネクストに対して販売した被告ネクスト製品の 数量は3623巻,売上総額は1314万1830円である。平成20年ころ以降,
被告ネクストの競業者が少なかったことを考慮すれば,同年10月3日から訴え提 25 起に至るまでの期間の平均売上は各年3623巻を下回ることはなく,同期間に少 なくとも2万8380巻を販売したものと認められる。 25
被告ヨシヤ製品の具体的な販売量は明らかではないが,被告ネクストと被告ヨシ ヤは,いずれも同種の事業を行い,平成27年4月1日までは代表取締役も共通で あったことから,被告ヨシヤについても被告ネクストと同程度の経済活動を行って いるものと推認される。 5 したがって,被告ヨシヤ製品の販売数も,上記期間に少なくとも2万8380巻 であったと考えられる。 イ 被告ネクストの利益について
被告ネクスト製品を製造・販売する際の,被告ネクストの利益は1巻あたり20 00円を下回らない。 10 よって,被告ネクストは,上記期間に,被告ネクスト製品に関し,少なくとも5 676万円の利益を得たと考えられるから(2000円×2万8380巻=567 6万円),原告は,被告ネクストに対し,その内金5000万円及び訴状送達日の 翌日からの遅延損害金について支払を求める(請求の趣旨7項の関係)。 さらに,被告ネクストは,被告ヨシヤ製品を白馬三洋から購入して被告ヨシヤに 15 販売したことにより利益を得ており,その利益の額は1巻あたり2000円を下回 らない。また,被告ヨシヤ製品の同期間における販売数は,上記のとおり,少なく とも2万8380巻と考えられる。 よって,被告ネクストは,被告ヨシヤ製品に関し,少なくとも5676万円の利 益を得た。 20 ウ 被告ヨシヤの利益についての認否
被告ヨシヤ製品を被告ネクストから購入し,これを販売したことによって被告ヨ シヤが得た利益は,1巻あたり2000円を下回らないから,これに前記期間中の 前記販売数を乗じ,被告ヨシヤは,少なくとも5675万円の利益を得たものと考 えられる。 25 エ 被告らの主張について
被告ネクスト製品の仕入額,運賃については争わない。被告ヨシヤ製品の売上高, 26 運賃については争わない。その他の金額については争う。 【被告らの主張】 ア 被告らが商標権侵害に基づく損害賠償責任を負わないこと 仮に,被告らに本件各商標権の侵害が成立するとしても,原告に推定される損害 5 額は0円であるため,被告らは損害賠償責任を負わない。 なぜなら,商標法38条2項の定める「利益」とは,侵害者による侵害行為と相 当因果関係のある利益を意味するところ,前記3のとおり,需要者は本件刻印を見 て被告製品を購入するのではなく,被告らは,芯管に配された本件刻印によって何 らの利益も得ていないからである。 10 イ 被告らの売上高及び利益について
被告ネクストの売上高及び利益
被告ネクストの被告製品に関する平成25年8月3日以降平成26年11月まで の売上高は2021万7848円であり,控除すべき変動費は,仕入額1554万 6385円,運賃51万4819円,広告宣伝費2万6539円であるから,被告 15 ネクストの利益は,413万0105円となる。
被告ヨシヤの売上高及び利益
被告ヨシヤの被告製品に関する上記期間の売上高は582万6200円であり, 控除すべき変動費は,仕入額491万8720円,運賃19万1102円,販売人 件費25万0891円であるから,被告ヨシヤの利益は,46万5481円となる。 20 ? 消滅時効の成否について(争点?イ) 【被告らの主張】
原告は,平成24年10月5日,被告らに対し,特許権侵害の警告書(甲16, 17)を送付した。よって,原告は,遅くとも同日時点で,本件特許及び本件商標 に関する損害及び加害者を知っていた。しかるに,本件訴訟が提起されたのは平成 25 28年8月2日である。 以上の経緯に鑑みれば,本件訴訟が提訴された同日から3年を遡った平成25年 27 8月2日より前の原告の被告らに対する不法行為に基づく害賠償請求権にいては, 消滅時効が成立している。 【原告の主張】 争う。 5? 推定の覆滅について(争点?ウ) 【被告らの主張】 ア 本件においては,被告らによる被告製品の販売がなかったとしても,被告ら の顧客である薬局の需要を全て原告が取り込むことはできず,本件における原告の 損害は,上記?の被告らの利益の10%に限られるべきである。 10 イ 本件刻印の寄与率(商標権について)
被告らは,前記3の通りの販売態様により被告製品を販売していたのであり,購 入者である薬局等の担当者は,事前に被告製品の芯管に付された本件刻印を確認す ることはなく,自己が保有する原告製の薬剤分包装置で使用できること,純正品よ りも廉価であること等を理由に被告製品を購入していたのであるから,本件刻印は 15 被告らによる被告製品の販売と結びつかない。 したがって,商標法38条2項に基づく推定はそのすべてが覆滅されるべきであ る。 ウ 被告製品と原告の製品との価格差,取引慣行等(特許権について)
被告製品は,原告の製品のそれぞれ65%ないし75%程度の価格で販売されて 20 いる。薬剤分包紙業界においては,薬剤分包装置メーカーが他社装置用のロールペ ーパを販売することが慣行として行われており,購入者は,品質に大きな差がない 限り,純正品と非純正品の別なく購入することが通例であった。また,被告製品の 購入者は,被告らのウェブサイトを見つけ,使用済み芯管を送付し,これに薬剤分 包紙を巻き付けたものを購入するという迂遠な方法を敢えて選択していた。 25 以上より,被告製品の購入者は,より安価なロールペーパを求めて敢えて被告製 品を選択していたのであるから,仮に被告らによる被告製品の販売がなかったとし 28 ても,その需要の大部分は他の非純正品に向けられていたはずであり,原告の製品 に向けられた需要は全体の1割程度にすぎないというべきである。 【原告の主張】 ア 被告らの主張は,いずれも逸失利益の不存在を基礎付けるものではなく,損 5 害推定の覆滅が認められる余地はない。 イ 商標権について
被告製品を購入するのは原告の薬剤分包装置のユーザであるから,被告製品に本 件刻印が付されていることにより出所表示機能を生じ,顧客誘引力を高めているこ とは明らかである。 10 ウ 特許権について
原告の薬剤分包装置のユーザは,同装置を使用するためには分包紙が必須なので あるから,被告製品が存在しなければ原告の製品を購入したものである。
被告は,他にも非純正品を販売する業者が存在すると主張するが,薬剤分包装置 メーカーが他社の分包紙を製造販売することが慣行になっているということはなく, 15 現在販売されている原告の製品の他の非純正品も被告製品とは構成が異なる。 したがって,損害賠償額の推定の覆滅は認められない。 6 争点?(被告らの共同不法行為の成否) 【原告の主張】
被告ネクスト及び被告ヨシヤは,いずれも同種の事業を行うとともに,その代表 20 取締役は,平成27年4月1日まで共通であり,被告ヨシヤ製品は,被告ネクスト が白馬三洋やP1から仕入れて被告ヨシヤに販売していたものであるから,被告ヨ シヤ製品の販売行為について共同不法行為を構成する。 よって,被告らは,被告ヨシヤ製品の販売による前記?イの被告ネクストの利益 5676万円及び同ウの被告ヨシヤの利益5676万円の合計額について,不真正 25 連帯債務を負うから,原告は,被告らに対し,その内金5000万円及び訴状送達 の日の翌日からの遅延損害金の連帯支払を求める(請求の趣旨8項の関係)。 29 【被告らの主張】 争う。被告ネクストは平成26年11月までは主として薬剤分包紙の販売を行っ ていたが,被告ヨシヤの主たる業務は一貫して介護サービスの提供であり,主たる 業務が異なるため,両社は実質的に一体の企業ではない。 57 争点?(不当利得の存否及びその額)について 【原告の主張】 ? 予備的に,特許権及び商標権の侵害について,不当利得の返還を請求する。 ア 被告らは,平成25年8月1日以前の本件特許権及び本件各商標権侵害行為 により,法律上の原因なく利得を得ている。被告ネクストは遅くとも平成17年こ 10 ろから,被告ヨシヤは遅くとも平成14年ころから,被告製品の販売を行っていた ものであるから,その得た利得を返還すべき義務を負う。 イ 被告ネクストの主張する平成25年8月3日から平成26年11月までの売 上高からすれば,被告ネクスト製品の1か月当たりの売上は少なくとも130万円 であるから,平成18年8月2日から平成25年8月1日までの84か月間の売上 15 は少なくとも1億0920万円となる。また,薬剤分包紙の実施料率は10%を下 回らない。 したがって,被告ネクストは,原告に対し,平成25年8月1日以前の侵害行為 について,少なくとも,1億0920万円の10%である1092万円に消費税を 加えた額(1179万3600円)の不当利得を返還する義務を負う(請求の趣旨 20 9項の関係)。 ウ 被告ヨシヤの主張する平成25年10月3日から平成26年11月までの売 上高からすれば,被告ヨシヤ製品の1か月当たりの売上は少なくとも37万円であ るから,平成18年8月2日から平成25年8月1日までの84か月間の売上は少 なくとも3108万円となる。また,薬剤分包紙の実施料率は10%を下回らない。 25 したがって,被告ヨシヤは,原告に対し,平成25年8月1日以前の侵害行為に ついて,少なくとも,3108万円の10%である310万8000円に消費税を 30 加えた額(335万6640円)の不当利得を返還する義務を負う(請求の趣旨1 0項の関係)。 ? 被告らの主張についての認否 ア 売上高について 5 被告らの主張する平成18年8月2日から平成25年8月1日までの被告製品の 売上高は,平成25年の売上に比して不自然に低額であること,被告ヨシヤの売上 が被告ネクストの被告ヨシヤに対する売上を大きく下回ることが不自然であること から,信用性を欠く。 また,特許法102条3項の実施料相当額の損害については,被告らが取引関係 10 にあってもそれぞれ個別に算定した実施料率を請求できると解すべきであり,これ は不当利得であっても同様である。特に,本件はライセンスを許諾することがあり 得ない事案であるから,被告ネクスト及び被告ヨシヤ双方との関係で原告は損失を 被っており,二重に利得することにはなり得ない。 よって,被告ヨシヤの売上から被告ネクストからの仕入額を控除した額を算定の 15 基礎とすることは認められない。 イ 実施料率について 本件は,特許権及び商標権のいずれもライセンスを許諾することがあり得ない事 案であるから,被告らの主張する実施料率・使用料率は当てはまらない。 【被告らの主張】 20 被告らは,原告による不当利得に関する主張を争うが,仮に同主張が認められる としても,以下のとおり金額について争う。 ? 不当利得の基礎となる売上高 ア 被告ネクストによる被告ネクスト製品の売上高は,以下の通りである。なお, 平成18年及び平成19年については客観的な資料が存在しないため,平成20年 25 の売上高からの推定値である。 平成25年(8月2日より前) 753万5670円(うち被告ヨシヤに対す 31 る売上額242万7200円) 平成24年 1178万8150円(同534万1000円) 平成23年 461万9294円(同442万2200円) 平成22年 476万4960円(同347万6560円) 5 平成21年478万3277円(同478万3277円) 平成20年 412万1700円(同367万6900円) 平成19年 412万1700円 平成18年(8月2日以降) 171万6433円 イ 被告ヨシヤによる被告ヨシヤ製品の売上高は,以下の通りである。なお,平 10 成18年ないし平成21年については客観的な資料が存在しないため,被告ネクス トの売上推移等からの推定値である。 平成25年(8月2日より前) 266万3830円 平成24年 489万3614円 平成23年 251万7945円 15 平成22年 112万4796円 平成21年 112万4796円 平成20年 30万3695円 平成19年 30万3695円 平成18年(8月2日以降) 12万6470円 20 ウ 被告ヨシヤは被告ヨシヤ製品を被告ネクストから仕入れているところ,被告 ヨシヤが被告ネクストに支払った被告ヨシヤ製品の代金相当額は,被告ネクストに 対する不当利得返還請求により解決済みである。したがって,被告ヨシヤに対する 不当利得返還請求は,被告ヨシヤ製品の売上から被告ネクストに対して支払った代 金相当額を控除した金額のみが対象となる。すなわち,各年度につき,上記被告ヨ 25 シヤの売上高から被告ネクストの被告ヨシヤに対する売上高を控除した額が被告ヨ シヤに対する不当利得返還請求権の対象となるところ,計算の結果はいずれの年も 32 マイナスの値となる。 エ 実施料率について 本件特許権に関する実施料率は,機械部品,消費財,パルプ・紙等に関する実施 料率の相場を考慮すれば,高くても4%を超えることはない。 5 本件各商標権の売上に対する寄与は限りなく0に近く,使用料率が0.1%を超 えることはない。また,本件各商標の視認可能性を考慮すれば,本件商標1(図形) の寄与は0.01%,本件商標2の寄与は0.09%と按分すべきである。 オ 不当利得の額
被告ネクストは,@本件商標1のみを使用していた時期(平成20年10月 10 2日以前)は実施料率0.01%,A本件商標1及び本件発明を使用していた時期 (同月3日〜平成24年4月26日)は実施料率4.01%,B本件商標1及び2 並びに本件発明を使用していた時期(同年27日以降)は実施料率4.1%を負担 することとなる。 そうすると,被告ネクストの負担する不当利得返還義務の額は,以下のとおり, 15 高くとも120万1071円を超えることはない。 @ 平成18年〜平成20年10月2日(小計:865円) 平成18年(推定):171万6433円×0.01%=171円 平成19年(推定):412万1700円×0.01%=412円 平成20年1月〜同年10月2日:282万1200円×0.01%=282円 20 A 平成20年10月3日〜平成24年4月26日(小計:71万8577円) 平成20年10月3日〜同年12月31日:130万0500円×4.01%= 5万2150円 平成21年:478万3277円×4.01%=19万1809円 平成22年:476万4960円×4.01%=19万1074円 25 平成23年:461万9294円×4.01%=18万5233円 平成24年4月26日以前:245万1666円×4.01%=9万8311円 33 B 平成24年4月27日〜平成25年8月1日(小計:48万2310円) 平成24年4月27日〜同年12月31日:933万6484円×4.1%=3 8万2795円 平成25年8月1日まで:242万7200円×4.1%=9万9515円 5 被告ヨシヤの売上額は被告ネクストからの仕入れ額を下回っているため,被 告ヨシヤは一切の不当利得返還義務を負わない。 第4 当裁判所の判断 1 被告製品の製造,販売等 前記前提事実,証拠(甲9,10,13〜18,21,27,53,乙4,5, 10 16,17,20,22〜26)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実を認定す ることができる。 ? 原告は,薬局等の顧客に,原告製の薬剤分包装置を販売するとともに,これ に適合する原告製のロールペーパを顧客に販売するものであるところ,原告は,そ の際,ロールペーパの中空芯管については所有権を原告に留保しており,顧客がロ 15 ールペーパの薬剤分包用シートを使い切れば,顧客から中空芯管を回収して,新た なロールペーパを顧客に販売することを予定している。 ? 被告ネクストは,平成29年7月時点の被告ネクストウェブサイトでは,非 純正分包紙を販売している旨を表示しているが,平成24年9月の時点では,原告 の純正分包紙の販売もしているとしてその価格の表示をした上で,被告ネクスト製 20 品について,より廉価な価格を表示した上で,原告製薬剤分包装置に対応する分包 紙である旨を表示して,販売を行っていた。
被告ヨシヤは,平成25年4月,平成29年7月のいずれの時点でも,被告ヨシ ヤ製品について,非純正分包紙の商品カテゴリの中で紹介しつつ,個別の製品には,
原告製薬剤分包装置対応の分包紙である旨を表示して,販売を行っていた。 25 ? 被告らは,被告製品を販売する前提として,顧客から,原告製ロールペーパ の使用済み中空芯管の提供を求め,被告ネクストにおいて中空芯管を白馬三洋に送 34 付して被告製品の製造を委託すると(平成23年7月までは訴外ベストに委託。 ,) 白馬三洋の委託を受けたP1が中空芯管に薬剤分包用シートを巻き付け,白馬三洋 がこれにビニール包装を施して被告ネクストに送付し,被告らにおいて顧客に販売 するという方式を行っていた。 5? 被告製品においては,上記のとおり,原告が製造,販売したロールペーパの 中空芯管がそのまま使用されているため,中空芯管の端部プラスチック内部には, 円周上に3個の磁石が配設されており,これらがロールペーパと共に回転するため, 検出機構を有する薬剤分包装置に使用すると,ロールペーパの回転を検出すること ができた。 10 また,被告製品の中空芯管の端部プラスチックリングの表面には,円周に沿って, 本件商標1が1箇所,本件商標2が2箇所,型押しにより立体的に表示されており, 白馬三洋が被告製品に包装を施した段階でこれらは視認できなくなるが,顧客がロ ールペーパを使用しようとして包装を解くと,これらは視認可能な状態となった。 ? 被告ネクストは,説明上は,顧客から預かった中空芯管に分包紙を巻いて届 15 けるとして,顧客からの注文書に,顧客が,被告ネクストに対し,中空芯管の使用 を許可する旨の記載欄を設けていたが,実際にはそのような対応関係が常にあるわ けではなく,従前の顧客が提供した中空芯管により製造済みであった被告製品が, 顧客に交付される場合もあった。 ? 原告は,平成24年10月5日付で,被告らに警告書を送付したが,被告ら 20 は,その後も被告製品の製造,販売を継続していたところ,平成26年11月,商 標法違反の被疑事実により,被告ネクストの事務所に対する捜索差押えが行われ,
被告らは,同月以降,被告製品の製造,販売を中止した。被告ネクスト及びその代 表者は,平成28年3月,山口地方裁判所岩国支部において商標法違反による有罪 判決を受け,控訴棄却及び上告棄却を経て,平成29年9月26日,最高裁判所に 25 おいて刑が確定した。 2 争点?(被告製品は本件発明の技術的範囲に属するか。)について 35 ? 本件発明の性質 ア 本件発明は,「薬剤分包用ロールペーパ」に係る発明であるところ(構成要 件E),構成要件Aには薬剤分包装置に関する事項が,構成要件B及びDにはロー ルペーパに関する事項が,構成要件Cにはその両者に関する事項がそれぞれ記載さ 5 れ,構成要件Aにおいて,ロールペーパと薬剤分包装置の関係につき,前者が後者 に「用いられ」るものとして記載されていることから,被告らは,要旨,構成要件 B〜Dを充足するロールペーパの製造・販売が,現実に存在する,構成要件Aを充 足する薬剤分包装置において使用されることを前提とした場合にのみ,本件特許権 の侵害が成立する旨主張する。 10 イ そこで検討するに,本件発明は,前記第2の1?のとおり,構成要件Aない しEに分説されるものであり,構成要件BないしDには,中空芯管とロールペーパ と複数の磁石(以下「本件ロールペーパ等」)に係る特定が,構成要件Aには,構 成要件BないしDにより特定される本件ロールペーパ等が用いられる薬剤分包装置 に係る特定がなされている。 15 しかしながら,本件発明は,「薬剤分包用ロールペーパ」という物の発明であり, 直接には構成要件BないしDから構成されるところ,構成要件Aの薬剤分包装置に 係る特定は,本件ロールペーパ等が「用いられ」るという前提のもと,本件ロール ペーパ等の構造,機能等を特定するものとして把握すべきものであり,本件ロール ペーパ等の用途又は用法を定めたものと解すべきではない。 20 ? 構成要件Aの「用いられ」の意味 ア 前記?を前提に検討すると,構成要件Aのうち「ロールペーパの回転速度を 検出するために支持軸に角度センサを設け」との記載は,本件ロールペーパ等の「複 数の磁石」につき,そのような位置に配置されることを特定するものと理解でき, また,構成要件Aのうち「ロールペーパを上記中空軸に着脱自在に固定してその固 25 定時に両者を一体に回転させる手段をロールペーパと中空軸が接する端に設け」と の記載は,本件ロールペーパ等について,そのような態様で回転させられることを 36 特定するものと理解できるし,構成要件Cの「測長センサ」も,構成要件Aの記載 によって特定されると理解できる。 そうすると,本件発明に係る薬剤分包用ロールペーパの技術的範囲は,構成要件 BないしDと,構成要件Aによる本件ロールペーパ等の上記特定に係る事項とから 5 画されるものと解されるから,被告製品が上記技術的範囲に属すれば本件発明の構 成要件を充足するものであって,被告製品が構成要件Aを充足する薬剤分包装置に 実際に使用されるか否かは,上記構成要件充足の判断に影響するものではないと解 される。 イ 被告らは,被告製品が構成要件Aの「用いられ」を充足するためには,被告 10 製品は構成要件Aを充足する薬剤分包装置に用いられて初めて作用効果を奏するも のであるから,現実に構成要件Aを充足する薬剤分包装置に用いられることが必要 であると主張する。 しかしながら,構成要件Aを充足する薬剤分包装置に使用可能な構成を有し,そ の他の構成要件をも充足するものとして薬剤分包用ロールペーパが生産,譲渡され 15 れば,その時点で本件特許権の侵害は成立するのであって,その後に構成要件Aを 充足する薬剤分包装置に当該ロールペーパが使用されるか否かは,特許権侵害の成 否を左右するものではない。
被告らは,本件発明の出願経過に照らし,構成要件Aを充足する薬剤分包装置に
被告製品が使用されることが本件特許権侵害に係る必須の要証事実であると主張す 20 るが,原告が,手続補正の際に提出した意見書(乙9)において,本件発明は構成 要件Aを充足する薬剤分包装置に現実に用いられることを必須とする旨を述べた も のと解することはできない。 ウ 被告らは,ダブルタイプのロールペーパを使用する薬剤分包装置は構成要件 Aを充足しないと主張し,その根拠として,本件発明が解決しようとする課題であ 25 る耳ずれ防止はダブルタイプのロールペーパにおいては生じないこと,また,本件 特許の原出願当時に,ダブルタイプのロールペーパ及びこれを使用する薬剤分包装 37 置が存在しなかったことを挙げる。さらに,被告らは,原告製の薬剤分包装置につ き,構成要件Aのうち, 「測長センサ」 「シートを送りローラで送り出す給紙部」 ,, 「上記中空軸と上記支持軸の固定支持板間で上記中空軸のずれを検出するずれ検出 センサ」,「角度センサ及び測長センサの信号に基づいてシート張力をロールペー 5 パ径に応じて調整しながら薬剤を分包する」といった要件を充足しない旨を主張し, また,構成要件Cを充足しない分包シートであっても使用可能であるから,構成要 件Aのうち,「角度センサ及び測長センサの信号に基づいてシート張力をロールペ ーパ径に応じて調整しながら薬剤を分包するようにし,」,「さらに角度センサの 信号とずれ検出センサの信号との不一致により上記中空軸に着脱自在に装着された 10 ロールペーパと上記中空軸とのずれを検出するようにした薬剤分包装置に用いら れ,」という要件を充足しない旨主張する。 しかし,これらの被告らの主張は,いずれも特定の薬剤分包装置が構成要件Aを 充足しないことをいうものであり,構成要件Aと構成要件B以下との関係を前述の とおり解する以上,意味のない主張といわざるを得ない。 15 ? まとめ ア 以上検討したところによれば,本件発明においては,構成要件Aの「用いら れ」は,構成要件Aの記載によって構成要件B以下の内容が特定されることを意味 するものとして使われているというべきであるから,そのように特定された構成要 件B以下を被告製品が充足する場合には,構成要件Aの「用いられ」を充足すると 20 解され,これ以上に,構成要件Aの「用いられ」が,被告製品が現実に構成要件A を充足する薬剤分包装置に使用されることを前提として製造・販売されることを要 件として定める趣旨と解することはできない。 イ 被告製品は,前記第2の1?アのとおりの構成を有するところ,被告らは, 構成要件Aに関し,争点?のとおり主張して争うものの,構成要件B以下の充足性 25 について,争う理由を明示しておらず,弁論の全趣旨によれば,被告製品の構成a は本件発明の構成要件Bを,構成bは構成要件Cを,構成cは構成要件Dを充足す 38 ると認められ,被告製品は構成要件Aを充足する薬剤分包装置において使用される ことが可能な構成を有すると認められる。 ウ 以上によれば,被告製品は,構成要件AないしEをすべて充足するから,本 件発明の技術的範囲に属すると認められる。 53 争点?(本件特許は,特許無効審判により無効にされるべきものか。)につ いて ? 争点?ア(補正の際の新規事項の追加に当たるか。)について ア 本件補正の経緯 平成12年6月2日付けの出願時明細書(乙6)の請求項1には,「中空軸に着 10 脱自在に装着されるロールペーパのシートを送りローラで送り出す給紙部と,シー トを2つ折りしその間にホッパから薬剤を投入し,薬剤を投入されたシートを所定 間隔で幅方向と両側縁部とを帯状にヒートシールする加熱ローラを有する分包部と を備え,」という記載がある。原告は,平成19年7月26日付けの拒絶理由通知 書(乙7)を受けて,請求項1の該当部分を「中空軸に着脱自在に装着されるロー 15 ルペーパのシートを送りローラで送り出す給紙部と,2つ折りされたシートの間に ホッパから薬剤を投入し,薬剤を投入されたシートを所定間隔で幅方向と両側縁部 とを帯状にヒートシールする加熱ローラを有する分包部とを備え,」と補正し(乙 8),同年10月1日付けの意見書(乙9)において,この補正が出願時明細書【0 018】の文言に基づくものであると述べた。同段落には,「分包部は,三角板4 20 で2つ折りにされた際にホッパ5から所定量の薬剤が投入された後,ミシン目カッ タを有する加熱ローラ6により所定間隔で幅方向と両側縁部とを帯状にヒートシー ルするように設けられている。」という記載がある。 イ 判断 本件発明における「2つ折りされたシート」との構成は,あらかじめ薬剤分包シ 25 ートが装置外で2つに折り畳まれていたか(ダブルタイプ) (シングルタイプ) 否か に関わらず,薬剤分包シートが搬送方向にV字状に折り曲げられた状態を指すので 39 あって,出願当初の特許請求の範囲の「シートを2つ折りし」という記載と同一の 意味を有する。
被告らは,出願当初の特許請求の範囲の「シートを2つ折りし」における薬剤分 包用シートはシングルタイプのみを指すと主張し,その根拠として,出願時明細書 5 【0018】の記載は,給紙部においてシングルタイプのロールペーパから薬剤分 包用シートが引き出されて分包部に供給され,三角板で2つ折りにされた,と理解 すべきであること,本件発明は「耳ずれ」という技術的課題を解決するために創作 されたところ,同課題はシングルタイプのロールペーパにおいてのみ生じ得ること を挙げる。 10 しかし,本件明細書【0011】の記載によれば,本件発明は,一定の張力を保 ったままシートを分包部に供給することにより,シートに耳ずれや裂傷が生じるこ となく薬剤を分包することを可能とするものであり,この課題に関しては,給紙部 から分包部に送られてくるシートがあらかじめ2つに折り畳まれたダブルタイプで あっても,折り畳まれていないシングルタイプであっても差は生じないし, 「三
上記 15 角板4で2つ折りにされ」という記載も,実施例を記載したものであって,三角板 4以前にシートが2つ折りにされている構成を排除したものとも解されない。 また,本件明細書【0005】の「(従来のシート張力調整装置ではバイブレー ション現象が生じるため,)張力変動により分包部でシートを2つ折りした際にシ ートの縁部が正確に重ならない,いわゆる耳ずれが生じ」るという問題は,シング 20 ルタイプのロールペーパを分包部において2つ折りにしてできた空隙に薬剤を投入 した後シートの両側縁部と幅方向に加熱融着する場合であっても,ダブルタイプの ロールペーパを分包部において折り目を広げてその空隙に薬剤を投入した後同様に 加熱融着する場合であっても同様に生じ得ると考えられ,これに反する証拠はない。 したがって,本件補正が新規事項の追加に当たるということはできない。 25 ? 争点?イ(サポート要件違反に当たるか。及び争点?ウ ) (明確性を欠くか。) について 40
上記のとおり,本件明細書にはロールペーパを使用する態様につき,シングルタ イプとダブルタイプの区別なく記載されており,同【0012】及び【0018】 には,薬剤を投入しやすいように薬剤分包シートを搬送方向にV字状に折り曲げた 状態にすること,すなわち2つ折りにすることの記載がある。また,当事者であれ 5 ば,この記載を参酌すれば,「2つ折り」がどのような状態を指すかは明確に理解 することができる。 したがって,本件発明の「2つ折りされたシート」については,本件明細書の発 明の詳細な説明に記載されているから,サポート要件違反に当たらず,明確性を欠 くこともない。 10 ? 争点?エ(分割要件違反に当たるか。)について ア 原出願明細書に記載された実施形態について 原出願においては,@測長センサを用いたシート張力調整方法(請求項1,2。 第1実施形態。 及びA測長センサ及び角度センサを用いたシート張力調整方法 ) (請 求項3〜5。第2実施形態。)が請求の範囲とされていた。第1実施形態について 15 は原出願明細書【0028】〜【0042】に,第2実施形態については,同【0 043】〜【0081】に,詳細な説明がある。 これらの説明によれば,両実施形態は,いずれも,「ロールペーパの直径を単純 に(機械的に)4段階に分け,この直径が各段階に達した時点でモータブレーキを 変化させて張力を調整する。」方法である点で共通するものの,直径が各段階に達 20 した時点を計測するのに,第1実施形態は,測長センサのみで計測するのに対し, 第2実施形態は測長センサと角度センサで計測するものであって,両実施形態の直 径を計測する構成は混在し得ないものである。 イ 本件明細書に記載された実施形態について 本件特許は,原出願の請求項3〜5に基づき分割出願されたものである(乙11)。 25 本件明細書【0024】〜【0031】には,「測長センサの信号と,上記回転 角度センサの信号とからロールペーパRの包装シートSの繰出量を正確に算出して 41 ロールペーパRの巻直径の変化に対応したブレーキ力の調整をし張力調整を適正に 行」う(同【0024】)という形態が記載されており,原出願の第2実施形態に おける張力調整方法と同じである。 本件明細書では,これに続いて,同【0032】〜【0038】(「なお,図8 5 では」より前)に,ロールペーパの直径を4段階に分け,この直径が各段階に達し たことを計測するのに測長センサのみで行う態様が記載されているところ,これは, 原出願の第1実施形態に対応するものである。そうすると,この記載は,上記の本 件明細書【0024】〜【0031】における構成(原出願の第2実施形態)とは 異なる,参考的な計測の構成を記載したものと理解できる。そして, 【0038】
同 10 (「なお,図8では」以降)〜【0081】は,原出願の第2実施形態に即した記 載であり,全体として,本件明細書に記載された実施例は,原出願の第2実施形態 と把握できる。 よって,本件明細書に記載された実施形態において,新たな技術的事項は導入さ れていない。 15 ウ 「発明の属する技術分野」について 原出願明細書【0001】には,「シートの張力をロールペーパの径の変化に応 じて段階的に調整する」と記載され,本件明細書【0001】には,「シートの張 力を調整しながら給紙部からシートを送り分包部で薬剤を分包する」と記載されて いる。被告らは,原出願の「ロールペーパの径の変化に応じて」という部分が本件 20 明細書では削除されており,シート張力の調整方法の限定がなくなり,発明の対象 が広がったと主張するが,本件明細書においても,【0004】の「上記シートロ ールの径の変化が生じても張力がほぼ一定となるように調整する」という記載や , 【0011】 「ロールペーパの直径に応じた適正な張力を安定して給紙部に与え」 の という記載等から,本件発明がロールペーパの径の変化に応じてシートの張力を段 25 階的に調整する発明であることは明らかであるから,被告らの主張は採用できない。 エ 「発明が解決しようとする課題」について 42
被告らは,本件明細書【0008】〜【0011】につき,原出願明細書にはな い記載が加筆されていると主張する。しかし,これらの段落は,薬剤分包装置に用 いられるロールペーパに関する背景技術についての記述であり,薬剤分包用ロール ペーパの発明である本件発明を分割出願するに当たり加筆された部分であるところ, 5 シート張力調整方法の発明である原出願明細書に接した当業者であれば,当然に理 解可能であり,原出願明細書の記載から自明な事項といえるから,被告らの主張は 採用できない。 オ 「発明の作用効果」について
被告らは,原出願明細書にはない作用効果の記載が,本件明細書【0015】に 10 おいて加筆されていると主張するが,同段落及び同【0014】に記載された,ブ レーキ力のランク切替えを巻量に応じて行うことにより,ブレーキ力の各ランクが 急激に上下するような不都合を防ぐという作用効果は,原出願明細書【0005】, 【0017】からも読み取ることができ,原出願明細書に明示的に記載された事項 といえるから,被告らの主張は採用できない。 15 カ まとめ 以上より,分割要件違反をいう被告らの主張はいずれも採用することができない。 4 争点?(本件各商標権の侵害が成立するか。)について ? 本件各商標の使用形態について ア 視認可能性について(争点?ア) 20 本件各商標は,前記1?のとおり,被告製品を構成する原告製の中空芯管に刻印 されており(本件刻印),いずれも被告製品を取り扱う需要者にとって視認可能で ある(甲21)。また,被告製品は,原告製のロールペーパの使用済み中空芯管に 薬剤分包用シートを巻き付けたものであるから,その視認状況は,原告製のロール ペーパにおける本件各商標の視認状況とほぼ同じである(ただし,原告製のロール 25 ペーパは,分包紙部分にも本件商標1が配されている。乙5)。
被告らは,本件刻印は小さく不鮮明であるとか,出荷時の原告の製品及び被告製 43 品はビニールで包装されており,刻印の視認可能性はないなどと主張する。 確かに,ビニールで包装された状態では原告の製品も被告製品も,本件刻印を視 認することは困難であるが(乙5,16,20),包装によって商品に付された商 標が一時的に隠れることは商標の使用を否定する事情にはならないし,需要者が被 5 告製品を使用しようとして包装を外し,芯管に付された本件刻印が視認できる状態 になることは前記1?で述べたとおりである。 前記1?で認定したとおり,被告らは,被告製品をウェブサイト上で販売する際 に,原告製薬剤分包装置に対応する製品である旨を表示して顧客を誘引しており, 購入した顧客は,被告製品の包装を解いた段階で本件刻印を視認することで,原告 10 製薬剤分包装置に適合するものであることを確認した上で使用することにより,そ の後の購入にもつながると考えられるから,本件刻印に表示された本件各商標は, 商標としての機能を発揮し得る程度に,顧客から視認可能であったというべきであ る。 イ 指定商品の同一について(争点?イ) 15 本件各商標の指定商品は,「紙類,文房具類」(本件商標1),「紙類,薬剤分 包機用分包紙,包装用プラスチックフィルム」(本件商標2)であるところ,被告 らは,芯管はこの指定商品に当たらないと主張する。 しかし,原告が顧客に対して原告製のロールペーパを販売する際に芯管について のみ所有権を留保していたこと,被告らが顧客から送付を受けた原告製の芯管に新 20 たに薬剤分包紙を巻き直して販売していたことを前提としても,「薬剤分包用ロー ルペーパ」という製品は,芯管と薬剤分包紙が一体となったものとして販売される ことが通常であり,その状態以外で使用することは想定されないから,需要者にお いて,芯管部分と薬剤分包紙部分の所有権や出所が別であると認識することはなく, これらを一体として一つの製品ととらえるのが通常である。 25 したがって,芯管に付された本件刻印は,被告製品である薬剤分包用ロールペー パ全体の出所を表示するものとして機能しており,これは上記本件各商標の指定商 44 品に含まれると解するのが相当である。 ? 商標的使用(商標法26条1項6号の抗弁)について(争点?ウ)
被告らは,被告製品を販売するに当たり,それぞれのウェブサイトにおいて非純 正品であることを明示しており,顧客が被告製品を購入する手段は同ウェブサイト 5 のみであるから,被告製品について出所の混同は生じないと主張する。
被告らのウェブサイトにおいて,非純正分包紙の記載があることは前記1?のと おりであり,被告らのウェブサイトに被告製品の画像等は掲載されておらず,顧客 が事前に本件各商標を確認した上で,被告製品を購入することはなく,さらに,被 告ヨシヤ及び被告ネクストの従業員は,顧客からの電話による注文に際し,被告ら 10 の製品は原告の純正品ではなく,非純正品であることを伝えていたと認められる(乙 4,22)。 しかし,前記1?のとおり,被告らのウェブサイトでは,被告製品が,原告製薬 剤分包装置に対応する分包紙であることを明示してその販売がなされており,前述 のとおり,被告製品の需要者である薬局等においては,実際に使用する際に,本件 15 刻印を視認することで,被告製品が原告製分包装置に使用可能な商品であることを 確認することができるのであるから,商標として使用されているというべきであり, 商標法26条1項6号の抗弁は成立しないと解するのが相当である。 ? 実質的違法性について(争点?エ)
被告らは,被告製品の販売態様からすれば,顧客は被告製品が非純正品であるこ 20 とを明確に認識していたのであるから,本件各商標の出所表示機能や品質保証機能 は害されていないと主張する。 しかし,既に検討したとおり,被告らは,被告製品について,原告の純正品では ない旨を表示しつつ,原告製薬剤分包装置に対応する分包紙である旨を表示し,本 件各商標の刻印のある中空芯管を使用した被告製品を販売したのであるから,原告 25 の許諾を得ずに,本件各商標の出所表示機能及び品質保証機能を冒用したというべ きであり,違法性がないということはできない。 45 よって,被告らの主張は採用できない。 ? まとめ 以上より,被告らの行為は,原告の本件各商標に係る権利を侵害するものと認め るのが相当である。 55 争点?(本件各商標権に基づく差止めの必要性)について
被告らが,平成26年11月ころに被告製品の販売を中止したことは,前記1? 認定のとおりである。また,被告らは,被告ネクストが平成27年2月ころに,被 告ヨシヤが平成26年10月ころに,それぞれ被告ネクストウェブサイト及び被告 ヨシヤウェブサイトを削除したことを主張するところ,原告はこれについて具体的 10 な反論をしないため,上記の事実を認めるのが相当である。
原告は,被告らが被告製品をいまだ保有していることについて具体的な主張立証 をせず,被告製品の販売中止から4年以上が経過したことを考慮すれば,現在,被 告らが被告製品の在庫及び半製品を保有している可能性は極めて低いといわざるを 得ない。 15 また,被告らは,第三者(訴外ベスト,白馬三洋及びP1)に被告製品の製造を 委託していたのであるから,製造のための設備等は所有していないと考えられ,前 記1?のとおり,被告ネクスト及びその代表者が商標法違反による有罪判決を受け たのであるから,本件各商標を違法に使用するおそれは低いと考えられる。 以上より,原告による差止め及び廃棄請求(請求の趣旨1項ないし6項)は,い 20 ずれもその必要性が認められない。 6 争点?(原告の損害)について ? 被告製品の販売時期及び消滅時効について ア 被告製品の販売時期について
被告らは,被告ネクストが平成20年10月3日ころから平成26年11月ころ 25 まで,被告ヨシヤが平成20年10月3日ころから平成26年11月ころまで,そ れぞれ被告製品を販売していたことを認める。 46 一方,原告は,被告ネクストが平成17年ころから現在に至るまで,被告ヨシヤ が平成14年ころから現在に至るまで,それぞれ被告製品を販売していると主張す るが,これを裏付ける証拠を提出しない。 したがって,被告らが被告ネクスト製品を販売した時期は,平成20年10月3 5 日から平成26年11月までと認めるのが相当である。 イ 消滅時効について(争点?イ) 次に,被告らの主張する消滅時効の成否について検討する。
原告は,平成24年10月5日,被告らに対し,被告らの販売する製品が原告の 本件特許権を侵害することを警告する通知文書を送付し,被告らはこれを認識した 10 ことが認められる(甲16,17)。同通知文書には,一部の被告製品の商品番号 が侵害品の例示として挙げられており,被告製品に関する警告書であることが明ら かである。 したがって,原告は,遅くとも同日には,本件特許権の侵害及び本件各商標権の 侵害に係る損害及び加害者を知ったと認めるのが相当であるから,平成28年8月 15 2日の本件訴え提起の日から遡って3年を超える期間の損害(平成25年8月1日 以前の損害)については消滅時効が成立し,被告らは,不法行為に基づく損害賠償 責任を負わないというべきである。 ? 特許法102条2項,商標法38条2項に基づく損害額の推定(争点?ア) ア 被告製品の売上高 20 証拠(乙71,75,94)及び争いのない事実によれば,平成25年8月2日 から平成26年11月までの期間において,被告ネクスト製品の売上高は2021 万7848円(うち被告ヨシヤに対する売上が491万8720円),被告ヨシヤ 製品の売上高は582万6200円であることが認められる。 イ 控除すべき費用 25 証拠(乙66,72,73,76,88,95)及び争いのない事実によれば,
上記期間において,被告ネクスト製品に係る仕入額は1554万6385円,運賃 47 は51万4819円であり,被告ヨシヤ製品に係る仕入額は491万8720円, 運賃は19万1102円であることが認められる。
被告は,運賃のほかにも,被告ネクストにおいて顧客に対するダイレクトメール の送付に要した広告宣伝費(乙74)及び被告ヨシヤにおいてロールペーパ販売業 5 務に専従していた従業員の人件費のうち被告製品の販売に対応する分(乙77)に ついても控除すべきであると主張する。しかし,被告らは,被告製品以外にも,原 告製以外の薬剤分包装置に対応するロールペーパの販売を行っていたことから,上 記広告宣伝費及び人件費については,被告製品の販売がなくとも必要であったと認 めるのが相当である。 10 ウ 被告らの利益の額 以上より,上記期間において,被告ネクストが被告ネクスト製品の販売により得 た利益の額は,415万6644円(2021万7848円−1554万6385 円−51万4819円)であり,被告ヨシヤが被告ヨシヤ製品の販売により得た利 益の額は,71万6378円(582万6200円−491万8720円−19万 15 1102円)となる。 エ 原告の主張について
原告は,平成25年度に白馬三洋が被告ネクストに対して販売した被告製品の数 量(3623巻。甲14)と同数量の被告製品を,平成20年10月3日から本件 訴え提起に至るまでの間,それぞれ被告ネクスト及び被告ヨシヤが毎年販売したと 20 推計するが,これを裏付ける具体的な証拠はない。むしろ,被告ヨシヤは,白馬三 洋らの製造した被告ヨシヤ製品を被告ネクストから購入していたと認められるとこ ろ,白馬三洋の被告ネクストに対する被告製品の販売数量と同数量の被告ヨシヤ製 品を,毎年,被告ネクストから購入していたということは考え難い。 また,原告は,被告ネクスト製品及び被告ヨシヤ製品に係る利益について,それ 25 ぞれ1巻当たり2000円を下らないと推定するが,これに関する客観的な証拠も ない。 48 したがって,原告の主張を採用することはできない。 ? 推定の覆滅について(争点?ウ) ア 薬剤分包装置の利用者は,同装置を業務上使用するためには薬剤分包紙が必 須であるから,定期的に自己の保有する薬剤分包装置に適合したロールペーパを購 5 入することとなる。そして,被告製品は,原告製の芯管に分包紙を巻き回したもの であり,原告製の薬剤分包装置において使用できることを前提として販売されてい たのであるから,需要者は,原告製のロールペーパの代替として被告製品を購入し ていたものと考えられる。被告らは,薬剤分包紙業界においては非純正品の販売が 一般的であることを主張するところ,被告ら以外にも非純正のロールペーパを販売 10 する企業があることは認められる(乙78)が,原告製のロールペーパ又は被告製 品以外で,原告製の芯管を持つロールペーパが市場に存在すると認めるべき証拠は ない。 したがって,被告製品が市場に存在しなければ,需要者は値段に関わらず原告製 のロールペーパを購入したものと考えられるから,被告製品の価格が有利であるこ 15 とは,前記?の推定を覆滅する事由とはならない。 イ 被告らは,本件各商標権につき,需要者が事前に本件刻印を確認することは ないから,商標権侵害に基づく損害はないと主張する。しかし,本件刻印に出所表 示機能があることは前記4?のとおりであるから,被告の主張は採用できない。 ? まとめ 20 したがって,原告は,被告ネクスト製品につき415万6644円,被告ヨシヤ 製品につき71万6378円の損害を負ったものと推定される。 7 争点?(被告らの共同不法行為の成否)について ? 被告ネクスト及び被告ヨシヤは,いずれも,ウェブサイトを通じて,原告や 他の分包機メーカーの販売する薬剤分包用ロールペーパの使用済み芯管を顧客から 25 回収し,それぞれの芯管に対応する幅や長さの薬剤分包紙を巻き回して販売すると いう態様の事業を行っていたことが認められる。また,被告ヨシヤは,被告ネクス 49 トからのみ被告ヨシヤ製品を仕入れており,平成27年4月1日まで被告らの代表 者は共通であったこと(裁判所に顕著な事実),被告ヨシヤの従業員が被告ネクス トにおけるロールペーパの販売業務にも従事していたこと(乙4,22,77)等 から,取引的・人的に密接な関連性があったものと認められる。 5 そうすると,被告らは,一体となって被告ヨシヤ製品の販売事業を行っていたも のと認められるから,被告ヨシヤ製品の販売につき原告に対する共同不法行為の成 立を認めるのが相当であり,被告ヨシヤ製品に関し原告が被った損害額全額につい て,連帯して損害賠償責任を負う。 ? したがって,被告ネクストは,被告ネクスト製品につき415万6644円 10 の損害賠償責任を負い,被告らは,連帯して,被告ヨシヤ製品につき71万637 8円の損害賠償責任を負う。 8 争点?(不当利得の存否及びその額)について ? 被告らは,平成25年8月1日以前の被告製品の販売により,原告の有して いた本件特許権及び本件各商標権を侵害し,法律上の原因なく利得を得たものと認 15 められ,また悪意の受益者であると認められるので,その利得に利息を付して原告 に対して返還すべき義務を負う。 ? 被告製品の売上高について ア 被告ネクスト製品の売上高 証拠(乙72,87,90)によれば,平成20年10月3日から平成25年8 20 月1日までの期間において,被告ネクスト製品の売上高は,合計3479万185 1円(うち被告ヨシヤに対する売上高は、合計2163万5537円。)であり, 各年の売上高は以下のとおりであることが認められる。 平成20年10月3日〜同年12月31日 130万0050円(うち被告ヨシ ヤに対する売上高118万5300円) 25 平成21年 478万3277円(同478万3277円) 平成22年 476万4960円(同347万6560円) 50 平成23年 461万9294円(同442万2200円) 平成24年 1178万8150円(同534万1000円) 平成25年1月1日〜同年8月1日 753万5670円(同242万7200 円) 5イ 被告ヨシヤ製品の売上高 平成22年から平成25年8月1日までの期間における 被告ヨシヤ製品の 売上高は合計1120万0185円である(乙91)。ここで,上記の平成20年 及び平成21年における被告ネクストの売上状況をみると,平成22年の売上状況 と大きな差はないものと考えられる。そうすると,被告ヨシヤについても,平成2 10 0年及び平成21年について平成22年と同程度の売上があったとみるのが妥当で ある。よって,被告の主張のとおり,平成21年の売上高は112万4796円, 平成20年における10月3日以降の売上高は30万3695円と認めるのが相当 であるから,平成20年10月3日から平成25年8月1日までの期間における被 告ヨシヤ製品の売上高は合計1262万8676円となり,各年の売上高は以下の 15 とおりである。 平成20年10月3日〜同年12月31日 30万3695円 平成21年 112万4796円 平成22年 112万4796円 平成23年 251万7945円 20 平成24年 489万3614円 平成25年1月1日〜同年8月1日 266万3830円
原告は,乙91の信用性について,平成24年以前の被告らの売上高が平成 25年の売上高に比べて相当低額であること,被告ヨシヤの売上高が被告ネクスト の被告ヨシヤに対する売上高を大きく下回ることが不自然であると主張する。しか 25 し,被告らのような小売業において売上高が年によって変動することは取り立てて 珍しいものではないし,乙91によれば平成25年と平成24年との間だけではな 51 く,平成24年と平成23年の売上にも相当の開きがある。また,被告ネクストも
被告ヨシヤも,複数の取引先に対して被告製品以外のロールペーパも販売している のであるから,被告ヨシヤ製品について,平成20年から24年までの期間,仕入 値が売上高を上回ったとしても不自然とまではいえない。 5? 使用料相当額について ア 本件特許について 本件発明は,薬剤分包装置において使用するロールペーパの構造に関する発明で あること,被告製品の利益率が約15〜20%であること(前記5?参照),「実 施料率〔第5版〕」(平成15年9月。社団法人発明協会研究センター編)におい 10 て,「パルプ・紙・紙加工・印刷」に関する実施料率別契約件数について最頻値が 3%であるとされること(乙93),「ロイヤルティ料率データハンドブック〜特 許権・商標権・プログラム著作権・技術ノウハウ〜」(平成22年8月。経済産業 省知的財産政策室編)において,「機械部品」に関するロイヤルティ料率の平均値 が3.4%,「その他消耗材」に関するものが4.3%とのアンケート結果が示さ 15 れていること(乙92)等を総合考慮すると,本件特許の実施料率は3%と認める のが相当である。 イ 本件刻印について 本件刻印は,前記4?のとおり,被告製品の一部である原告製の芯管の表面にあ って視認可能であり,出所表示機能を有する。また,原告が競業他社の製品に本件 20 刻印のような態様で本件各商標の使用を許諾することは極めて考えにくい。 一方で,被告製品の需要者は,被告らのウェブサイトに表示される情報(原告製 の薬剤分包装置に対応可能であること,分包紙の長さや幅,材質等)を重視して被 告製品を注文する場合がほとんどであると考えられ,上記ウェブサイトには本件刻 印の写真や画像等は掲載されていないことや,被告製品全体の外観から本件刻印が 25 取り立てて目立つとはいえないことから,本件刻印の顧客吸引力はそれほど高くは ないものと解される。 52 よって,本件刻印が被告らの事業に影響した程度は相当低いというべきであるが,
被告らが商標権侵害を免れるために支払うべき許諾料相当額は,算定の基礎となる
被告らの売上高の1%(本件商標1につき0.5%,本件商標2につき0.5%) と認めることが相当である。 5? 不当利得の額について ア 被告ヨシヤの不当利得の額 以上より,各期間(本件商標1及び本件特許は平成20年10月3日以前より登 録,本件商標2は平成24年4月27日登録)において被告ヨシヤが返還義務を負 う不当利得の額は以下のとおりであり,合計は47万4242円となる。 10 平成20年10月3日〜同年12月31日 30万3695円×3.5%=1万 0629円 平成21年 112万4796円×3.5%=3万9368円 平成22年 112万4796円×3.5%=3万9368円 平成23年 251万7945円×3.5%=8万8128円 15 平成24年1月1日〜同年4月26日 110万9581円×3.5%=3万8 835円
同月27日〜同年12月31日 378万4033円×4%=15万1361円 平成25年1月1日〜同年8月1日 266万3830円×4%=10万655 3円 20 なお,被告らは,被告ヨシヤの売上高が被告ネクストからの仕入額を下回るため,
被告ヨシヤは一切の不当利得返還義務を負わないと主張する。しかし,本件におい て,使用料相当額としての不当利得の額を算定するに当たり,その計算の基礎とな る売上額から仕入額その他の経費を控除すべき事情は特に見当たらないから,上記
被告らの主張を採用することはできない。 25 イ 被告ネクストの不当利得の額 各期間において被告ネクストの売上高から算定される使用料相当額は以下のと 53 おりであり,合計は130万2060円となる。 平成20年10月3日〜同年12月31日 130万0050円×3.5%=4 万5502円 平成21年 478万3277円×3.5%=16万7415円 5 平成22年476万4960円×3.5%=16万6774円 平成23年 461万9294円×3.5%=16万1675円 平成24年1月1日〜同年4月26日 245万1666円×3.5%=8万5 808円
同月27日〜同年12月31日 933万6484円×4%=37万3459円 10 平成25年1月1日〜同年8月1日 753万5670円×4%=30万142 7円 前記?アのとおり,被告ネクストの売上高には,被告ヨシヤに対するものも 含まれるところ,被告ヨシヤは,被告ネクスト以外から被告ヨシヤ製品を仕入れて おらず,その売上高に対する使用料相当額は上記アのとおり不当利得として返還義 15 ト製品の売上高に対する使用料相当額(130万2060円)から,被告ヨシヤが 返還義務を負う不当利得の額(47万4242円)を控除した額(82万7818 円)を,自らの不当利得として返還義務を負うと解すべきである。 ウ したがって,被告ネクストは,82万7818円の不当利得返還義務を負い, 20 被告ヨシヤは47万4242円の不当利得返還義務を負う(原告は,被告らは不当 利得に消費税を付して返還すべきであると主張するが,その根拠は明らかではなく,
同主張を採用することはできない。)。 9 結論 以上によれば,原告の請求は,特許法102条2項,商標法38条2項,民法7 25 09条,719条2項に基づき,被告ネクストに対し,損害賠償金415万664 4円及びこれに対する不法行為の後の日である平成28年9月6日から支払済みま 54 で民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求め,被告ヨシヤ及び被告ネ クストに対し,損害賠償金71万6378円及びこれに対する不法行為の後の日で ある平成28年9月3日から(被告ネクストについては同月6日からの限度で)支 払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の連帯支払を求め,民法70 5 4条,703条に基づき,被告ネクストに対し82万7818円及びこれに対する 利得の後の日である平成30年10月6日から支払済みまで民法所定の年5分の割 合による金員の支払を求め,被告ヨシヤに対し47万4242円及びこれに対する
同日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による金員の支払を求める限度で理 由があるからこれを認容し,その余はいずれも理由がないからこれを棄却する。 10 よって,主文のとおり判決する。 大阪地方裁判所第21民事部 15 裁判長裁判官 谷有恒 20 裁判官 野上誠一 25 55 裁判官 島村陽子 56
裁判所 大阪地方裁判所
判決言渡日 2019/03/05
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
事実及び理由
全容