関連審決 | 無効2017-800007 |
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事件 |
平成
30年
(行ケ)
10036号
審決取消請求事件
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原告 サンファーマ グローバル エフゼットイー 同訴訟代理人弁護士 城山康文 出野智之 同訴訟代理人弁理 士小野誠 川嵜洋祐 金山賢教 坪倉道明 重森一輝 安藤健司 被告 ジェネンテック インコーポレイテッド 同訴訟代理人弁理士 実広信哉 堀江健太郎 廣戸健太郎 櫻井大雄 岩橋和幸 |
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裁判所 | 知的財産高等裁判所 |
判決言渡日 | 2019/03/19 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
1 原告の請求を棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 3 この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30日と定める。 |
事実及び理由 | |
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原告の求めた裁判
特許庁が無効2017-800007号事件について平成29年11月15日にした審決を取り消す。 |
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事案の概要
本件は,特許無効審判請求に対する不成立審決の取消訴訟である。争点は,@新規性,A進歩性,B明確性要件,Cサポート要件,D実施可能要件の各判断の誤りの有無である。 1 特許庁における手続の経緯 被告は,名称を「IL-17産生の阻害」とする発明について,平成15年10月29日(以下,「本件出願日」という。)にした国際出願(特願2004-550229号,パリ条約に基づく優先権主張〔平成14年10月30日(以下, 「本件優先日」という。,米国〕 ) )の一部を新たな特許出願として,平成22年9月21日に出願し(特願2010-210980号),平成27年3月6日,その設定登録を受けた(特許第5705483号。請求項の数17。以下, 「本件特許」という。甲33)。 原告が,平成29年1月23日に,本件特許の請求項1〜10に係る発明についての特許無効審判請求(無効2017-800007号)をしたところ(甲34),特許庁は,同年11月15日, 「本件審判の請求は,成り立たない。 との審決をし, 」その謄本は,同月24日,原告に送達された。 2 本件特許発明の要旨 本件特許の請求項1〜10に係る発明(以下,請求項の番号に従って「本件特許発明1」のようにいい,これらを総称して「本件特許発明」という。)の特許請求の範囲の記載は,次のとおりである(甲33。本件特許の明細書及び図面〔甲33〕を「本件明細書」という。。 ) (1) 本件特許発明1【請求項1】 T細胞によるインターロイキン-17(IL-17)産生を阻害するためのインビボ処理方法において使用するための,インターロイキン-23(IL-23)のアンタゴニストを含む組成物。 (2) 本件特許発明2【請求項2】 前記阻害が,哺乳動物被験体中で実施される,請求項1に記載の組成物。 (3) 本件特許発明3【請求項3】 前記哺乳動物被験体が,ヒトである,請求項2に記載の組成物。 (4) 本件特許発明4【請求項4】 前記T細胞が,活性化T細胞である,請求項1に記載の組成物。 (5) 本件特許発明5【請求項5】 前記T細胞が,記憶細胞である,請求項1に記載の組成物。 (6) 本件特許発明6【請求項6】 前記アンタゴニストが,抗IL-23または抗IL-23レセプター抗体である,請求項1に記載の組成物。 (7) 本件特許発明7【請求項7】 前記抗体が,抗体フラグメントである,請求項6に記載の組成物。 (8) 本件特許発明8【請求項8】 前記抗体フラグメントが,Fv,Fab,Fab’,およびF(ab’ 2フラグメ )ントからなる群より選択される,請求項7に記載の組成物。 (9) 本件特許発明9【請求項9】 前記抗体が,全長抗体である,請求項6に記載の組成物。 (10) 本件特許発明10【請求項10】 前記抗体が,キメラ抗体,ヒト化抗体またはヒト抗体である,請求項6に記載の組成物。 3 審判における請求人(原告)の主張(無効理由) (1) 無効理由1(明確性要件) 本件特許の請求項1の「T細胞によるインターロイキン-17(IL-17)産生を阻害するためのインビボ処理方法において使用するための・・・組成物」との記載につき,当該組成物の用途が不明瞭である。 また,仮に当該組成物が医薬用途に係るもの又は医薬用途を包含するものであったとしても,それにより治療されるべき具体的な疾患が不明瞭である。 したがって,本件特許の請求項1の記載は全体として不明瞭であり,また,同項に従属する請求項2〜10の記載も不明瞭である。 よって,本件特許の特許請求の範囲の記載は,特許法36条6項2号に違背する。 (2) 無効理由2(サポート要件) 前記(1)のとおり,本件特許の請求項1〜10の記載は,その用途につき不明瞭であるが,仮にそれらの請求項に記載された発明が医薬用途発明に係るものである場合,本件特許の発明の詳細な説明の欄には, 「T細胞によるインターロイキン-17(IL-17)産生を阻害する」ことにより何らかの疾患を治療し得ることは示されておらず,また,そのことが本件出願日前の技術常識ともいえない。 したがって,本件特許発明が,発明の詳細な説明に記載された発明で,発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者がその発明の課題を解決できると認識できる範囲のものということはできないから,本件特許の特許請求の範囲の記載は,特許法36条6項1号に違背する。 (3) 無効理由3(実施可能要件) 前記(2)と同じ理由により,本件明細書の発明の詳細な説明の記載は,特許法36条4項1号に違背する。 (4) 無効理由4(産業上利用可能性) 前記(1)のとおり,本件特許の請求項1〜10の記載は,その用途につき不明瞭であるが,仮に本件特許発明1〜10に係る組成物が医薬用途に係るものでない場合,この組成物はどのようにして産業上利用可能であるのか不明であるから,本件特許発明1〜10は,特許法29条1項柱書に該当しない。 (5) 無効理由5(新規性) ア 無効理由5-1 本件特許発明は,甲1に記載された発明(以下,「甲1発明」という。)であるから,特許法29条1項3号に該当し,特許を受けることができない。 甲1:国際公開第01/18051号 イ 無効理由5-2 本件特許発明は,甲3に記載された発明(以下,「甲3発明」という。)であるから,特許法29条1項3号に該当し,特許を受けることができない。 甲3:国際公開第01/085790号 ウ 無効理由5-3 本件特許発明は,甲5に記載された発明(以下,「甲5発明」という。)であるから,特許法29条1項3号に該当し,特許を受けることができない。 甲5:国際公開第00/56772号 (6) 無効理由6(進歩性) 前記(5)のとおり,本件特許発明は,甲1,3及び5に記載されたものである。 仮に,甲1,3及び5には, 「T細胞によるインターロイキン-17(IL-17)産生を阻害するためのインビボ処理方法において使用するための」(本件特許発明1)との点が記載されていないことを相違点と見たとしても,本件特許発明は,甲1発明,甲3発明及び甲5発明のいずれか又はそれらの組合せに基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項に違背する。 4 審決の理由の要点 (1) 無効理由1(明確性要件)について 本件特許発明1における「インビボ処理方法において使用するための・・・組成物」の用途が, 「T細胞によるインターロイキン-17(IL-17)産生を阻害する」こと自体であることは,請求項1の記載から明らかであり,また,IL-17がT細胞により産生されるサイトカインの一つであることはこの技術分野における技術常識であるから(本件明細書【0002】,その産生を阻害するという本件特 )許発明1の用途が当業者にとって不明確であるとは認められない。 そうすると,本件特許の請求項1における記載は不明瞭ではなく,同請求項は,特許を受けようとする発明が明確なものであり,また,同請求項に従属する請求項2〜10の記載についても同様のことがいえるから,これらの請求項も,特許を受けようとする発明が明確なものである。 (2) 無効理由2(サポート要件)について 本件特許発明1〜10は,抗IL-23抗体又は抗IL-23レセプター抗体(以下,これらを総称して「抗IL-23抗体等」ということがある。)といったIL-23アンタゴニストを含む,インビボ処理方法において使用するための組成物に係るものであり,その発明の課題は,前記(1)のとおり,T細胞によるIL-17の産生を阻害することである。 そして,本件明細書の記載によると,IL-23によりT細胞からのIL-17の産生が促進されることが理解でき(【0071】〜【0081】【図2A】【図2 , ,B】【図2C】,上記産生促進は,抗IL-12p40抗体により阻害されること , )が理解できる(【0083】【図4A】。p40は,IL-12及びIL-23に共 , )通するサブユニットであり(【0030】,本件明細書の【0012】には,IL- )23アンタゴニストの例として「天然シーケンスのIL-23ポリペプチドサブユニット(例えばp40サブユニット)に対する中和抗体」が示されているから,本件明細書では,前記抗IL-12p40抗体を抗IL-23抗体,すなわちIL-23のアンタゴニストとして用いている。 また,IL-23欠損マウスにおいて,T細胞によるIL-17の産生が減衰していることが記載されており(【0089】〜【0108】【図12】,IL-23 , )の機能を抑制することにより,T細胞によるIL-17の産生を抑制できることが理解できる。 以上によると,抗IL-23抗体等のIL-23アンタゴニストにより,IL-23により誘導されるT細胞のIL-17の産生を阻害可能であることは,本件明細書の記載及び本件出願日当時の技術常識から当業者が認識できるものである。 したがって,本件特許発明1は,本件明細書に記載されたものであり,同発明に従属する本件特許発明2〜10についても同様のことがいえる。 (3) 無効理由3(実施可能要件)について 本件特許発明1〜10は,抗IL-23抗体等のIL-23アンタゴニストを含む,インビボ処理方法において使用するための組成物に係るものであり,その用途は,前記(1)のとおり,T細胞によるIL-17の産生を阻害することである。 本件特許発明1〜10が特許法36条4項1号を満たすためには,発明の詳細な説明の記載及び本件出願日当時の技術常識から,抗IL-23抗体等のIL-23アンタゴニストを含む組成物が,T細胞によるIL-17の産生を阻害し得ることを,当業者が理解できる必要がある。 前記(2)のとおり,本件明細書には,IL-23欠損マウスにおいてT細胞によるIL-17の産生が減衰していること,及び,IL-23によりT細胞によるIL-17の産生が促進されることが開示され,この産生促進を抗IL-23抗体で阻害できることも示されていることから,IL-23アンタゴニストによりT細胞を処理することでIL-23の作用を阻害し,それによりT細胞によるIL-17の産生を阻害可能であることは,本件明細書の発明の詳細な説明の記載から当業者が理解できるものといえる。 したがって,本件明細書の発明の詳細な説明は,当業者が本件特許発明1及び同発明に従属する本件特許発明2〜10の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されている。 (4) 無効理由4(産業上利用可能性)について T細胞によるIL-17の産生を阻害するという用途から,その組成物が医薬,診断薬などの産業に利用可能であることは明らかであり,本件明細書にも,本件特許発明1〜10における組成物について,IL-17の濃度の上昇が見られることを特徴とする炎症性疾患の治療に利用できることが一貫して記載されているから,本件特許発明1〜10は産業上利用可能な発明である。 (5) 無効理由5(新規性)について ア 無効理由5-1(甲1による新規性欠如)について (ア) 甲1発明の認定 甲1の記載によると,甲1発明は,次のとおりである。 「T細胞を処理するための,p40/IL-B30のアンタゴニストを含む,哺乳動物被検体に投与される組成物。」 (イ) 相違点の認定 本件特許発明1と甲1発明とを対比すると,甲1発明の「IL-B30」は,そのアミノ酸配列から「p19」と同じものであり(甲7,8),同様に「p40/IL-B30」は, 「p40」及び「p19」の複合体である「IL-23」と同じものであると認められるから,甲1発明の「p40/IL-B30」は,本件特許発明1の「インターロイキン23(IL-23)」に相当する。 そこで,本件特許発明1と甲1発明とは,次の相違点1で相違する。 (相違点1) 本件特許発明1は,T細胞を処理するための組成物によるT細胞の処理が「T細胞によるインターロイキン-17(IL-17)産生を阻害する」ためであるとの用途が特定されているのに対し,甲1発明にはそのような特定がない点。 (ウ) 相違点の検討 a 本件特許発明1は,T細胞を処理するための組成物の用途が「T細胞によるインターロイキン-17(IL-17)産生を阻害する」ことである旨を規定したものであるが,この用途に関し,本件明細書には,T細胞刺激とサイトカイン発現量との関係が示されており(【0071】〜【0081】【表1】,具体的 , )には,IL-12及びIL-4によるT細胞の処理,すなわち,従来から知られていたTh1誘導及びTh2誘導によるT細胞刺激ではIL-17産生が増加しなかったのに対し,IL-23でT細胞を処理した場合にはIL-17産生が増加したことに加え,Th1誘導によるT細胞刺激に比してIFN-γ産生が著しく低かったことが記載されている。これらの事実によると,本件特許発明1における「T細胞によるインターロイキン-17(IL-17)産生を阻害する」なる用途は,従来から知られていたTh1誘導やTh2誘導によるT細胞刺激とは異なる,IL-23によるT細胞の処理により引き起こされる,別異のサイトカインであるIL-17の産生を阻害するものである。 これに対し,甲1発明は,甲1の「このサイトカインは,Th1表現型(例えば,IFN-γ(IL-4またはIL-5ではない)を産生する細胞)を含む活性化記憶細胞を選択的に支持するようである。 , 」 「p40/IL-B30融合タンパク質は,IFNγを産生し,IL-4を産生しない(Th1細胞に特徴的なサイトカイン発現プロフィール)T細胞の増殖および分化を支持した。」という記載(43頁23行〜44頁11行)から明らかなとおり,従来から知られていたTh1誘導によるT細胞刺激の阻害を対象とするものと認められる。 このように,両発明の用途は明確に異なり,相違点1は,実質的にも相違する。 b 相違点1に関し,請求人は,甲1発明は,要するに抗IL-23抗体を患者に投与することにより,炎症を治療するとの医薬用途に係る医薬発明であるところ,本件特許発明1における「前記T細胞によるインターロイキン-17(IL-17)産生を阻害するため」なる用途は,炎症を治療するという医薬用途につき,新たに発見した作用機序で表現したものにすぎず,結局のところ「炎症を治療するため」と解すべきものであり,実質的に相違しないと主張する(以下, 「請求人の主張α」という。。 ) しかし,本件特許発明の組成物の用途は, 「T細胞によるインターロイキン-17(IL-17)産生を阻害する」ことであり,本件明細書にも,IL-23がT細胞におけるIL-17の産生を上昇させるという新しい知見を見出したことに基づいて,IL-23アンタゴニストを用いてT細胞によるIL-17の産生を阻害することが一貫して記載されていることから明らかなとおり,本件特許発明の組成物を炎症等を治療するという医薬用途に利用する場合も,当然にIL-17濃度の上昇が見られる炎症等の治療に対して選択的に利用されるものである。 そして,甲17〔審判乙1〕によると,慢性リウマチの患者であっても,IL-17の上昇した発現がみられなかったものがいたことが認められ,全ての炎症がT細胞によるIL-17の産生と関連しているわけではないことから,本件特許発明1における「T細胞によるインターロイキン-17(IL-17)産生を阻害する」ことが「炎症を治療する」ことと同義であるとは認められない。 c 請求人は,本件明細書の実施例3に,IL-23の欠損がIL-17産生の抑制をもたらすとともに,DTH反応等のT細胞依存的免疫反応を減衰することを見いだしたことや,その表現型がIL-17欠損マウスと類似する旨記載されているところ(【0104】〜【0108】【図11】,甲15のとおり,IF , )NγもDTH反応に極めて重大な関与を有し,IFNγ欠損マウスにおいてDTH反応が減衰することが知られていたのであるから(709頁右欄5行〜20行) た ,とえ生体内においてIL-17とIFNγの活性経路が異なっていたとしても,これらの抑制はいずれもDTH反応の減衰をもたらすものであり,生体内に複数の活性経路が存在することは,炎症として明確に別異のものが存在する裏付けとはならないと主張する(以下,「請求人の主張β」という。。 ) しかし,本件特許発明1の用途が「炎症を治療する」ことと同義でないことは,前記bのとおりであるし,IL-23欠損マウスとIFNγ欠損マウスにおいてDTH反応が抑制されたとしても,これはマウスの遺伝子を欠損させた結果を示したものにすぎず,このことから,DTH反応を有する患者において,Th1誘導によるIFNγの産生と,IL-17を産生させるIL-23によるT細胞刺激の両方が常に引き起こされていることを示すものではない。 他方,本件特許発明は,T細胞によるIL-17の産生を阻害することを用途とする発明であり,これは,IL-17の発現とは関係しないTh1誘導によるT細胞刺激の阻害を対象とする甲1発明とは,その対象が明確に区別されることは,前記aのとおりであるから,請求人の主張βにかかわらず,本件特許発明1は,甲1発明と明確に区別されるものである。 d 以上によると,本件特許発明1は,甲1発明ではない。 このことは,本件特許発明1をさらに限定した発明である本件特許発明2〜10についても同様である。 イ 無効理由5-2(甲3による新規性欠如)について (ア) 甲3発明の認定 甲3の記載によると,甲3発明は,次のとおりである。 「T細胞を処理するための,p40/IL-B30レセプターサブユニットに対する抗体を含む,哺乳動物被検体に投与される組成物。」 (イ) 相違点の認定 本件特許発明1と甲3発明とを対比すると,本件特許発明1の「インターロイキン23(IL-23)のアンタゴニスト」は,本件特許発明4に規定されるように「抗IL-23レセプター抗体」を包含するものであり,甲3発明の「p40/IL-B30」は,前記ア(イ)のとおり, 「インターロイキン23(IL-23)」に相当するから,甲3発明の「p40/IL-B30レセプターサブユニットに対する抗体」は,本件特許発明1の「インターロイキン23(IL-23)のアンタゴニスト」に相当する。 そこで,本件特許発明1と甲3発明とは,次の相違点3で相違する。 (相違点3) 本件特許発明1は,T細胞を処理するための組成物の用途が「T細胞によるインターロイキン-17(IL-17)産生を阻害する」ためであると特定されているのに対し,甲3発明にはそのような特定がない点。 (ウ) 相違点の検討 a 本件特許発明1は,T細胞を処理するための組成物の用途が「T細胞によるインターロイキン-17(IL-17)産生を阻害する」ことである旨を規定したものであるが,この用途は,前記ア(ウ)aのとおり,従来から知られていたTh1誘導やTh2誘導によるT細胞刺激とは異なる,IL-23によるT細胞の処理により引き起こされる,別異のサイトカインであるIL-17の産生を阻害するものである。 これに対し,甲3発明は,甲3に,当該アンタゴニストを用いて細胞の生理機能又は発達を調節するに当たり,その細胞が「慢性TH1媒介性疾患の徴候もしくは症状を示す;多発性硬化症,慢性関節リウマチ,変形性関節症,炎症性腸疾患,糖尿病,乾癬もしくは敗血症の症状もしくは徴候を示す;または同種異系移植を受けている宿主由来である」ものであることが記載されていること(6頁7行〜12行)から明らかなとおり,従来から知られていたTh1誘導によるT細胞刺激の阻害を対象とするものと認められる。甲3には,IL-17に係る言及は何らされておらず,T細胞によるIL-17産生を阻害することなどは記載されていない。甲3は,ただ漠然と,種々の炎症疾患に対する治療の可能性を示すに留まるものである。 このように,両発明の用途は明確に異なり,相違点3は,実質的にも相違する。 b 相違点3に関し,請求人は,請求人の主張α及びβと同様の主張をするが,前記ア(ウ)b,cのとおり,本件特許発明1の用途は「炎症を治療する」ことと同義ではなく,本件特許発明1と甲3発明とは,その対象が明確に異なるものであるから,請求人の主張は誤りである。 c したがって,本件特許発明1は,甲3発明ではない。 このことは,本件特許発明1をさらに限定した発明である本件特許発明2〜10についても同様である。 ウ 無効理由5-3(甲5による新規性欠如)について (ア) 甲5発明の認定 甲5の記載によると,甲5発明は,次のとおりである。 「T細胞を処理するための,p40サブユニットを中和することができる抗体を含む,哺乳動物被検体に投与される組成物。」 (イ) 相違点の認定 本件特許発明1と甲5発明とを対比すると,本件特許発明1の「インターロイキン23(IL-23)のアンタゴニスト」は,本件特許発明4に規定されるように「抗IL-23抗体」を包含するものであるところ,甲5発明の「p40」が本件特許発明の「インターロイキン23(IL-23)」のサブユニットに相当することは,前記ア(イ)のとおりであるから,甲5発明の「p40サブユニットを中和することができる抗体」は,IL-23に対する抗体,すなわち,本件特許発明1の「インターロイキン23(IL-23)のアンタゴニスト」としても機能し得るものといえる。 そこで,本件特許発明1と甲5発明とは,次の相違点5で相違する。 (相違点5) 本件特許発明1は,T細胞を処理するための組成物の用途が「T細胞によるインターロイキン-17(IL-17)産生を阻害する」ためであると特定されているのに対し,甲5発明にはそのような特定がない点。 (ウ) 相違点の検討 a 本件特許発明1は,T細胞を処理するための組成物の用途が「T細胞によるインターロイキン-17(IL-17)産生を阻害する」ことである旨を規定したものであるが,この用途は,前記ア(ウ)aのとおり,従来から知られていたTh1誘導やTh2誘導によるT細胞刺激とは異なる,IL-23によるT細胞の処理により引き起こされる,別異のサイトカインであるIL-17の産生を阻害するものである。 これに対し,甲5発明は,甲5の記載(請求項94〜96,1頁24行〜2頁4行,108頁11行〜109頁最終行,154頁20行〜155頁3行)から明らかなとおり,従来から知られていたTh1誘導によるT細胞刺激の阻害を対象とするものと認められる。 このように,両発明の用途は明確に異なり,相違点5は,実質的にも相違する。 b 相違点5に関し,請求人は,請求人の主張α及びβと同様の主張をするが,前記ア(ウ)b,cのとおり,本件特許発明1の用途は「炎症を治療する」ことと同義ではなく,本件特許発明1と甲5発明とは,その対象が明確に異なるものであるから,請求人の主張は誤りである。 c したがって,本件特許発明1は,甲5発明ではない。 このことは,本件特許発明1をさらに限定した発明である本件特許発明2〜10についても同様である。 (6) 無効理由6(進歩性)について ア 甲1に基づく進歩性欠如について 甲1には,抗IL-23抗体によりT細胞によるIL-17の産生の阻害が可能であることについて記載も示唆もないから,甲1発明を「T細胞によるインターロイキン-17(IL-17)産生を阻害する」ために用いる動機付けはないし,それが可能であることを当業者が想到し得たとも認められない。 そして,本件特許発明1は,IL-23アンタゴニストによりT細胞によるIL-17の産生を阻害するという,甲1の記載から予測困難な効果を発揮するものである。 したがって,本件特許発明1は,甲1発明から容易に発明をすることができたものではない。 このことは,本件特許発明1をさらに限定した発明である本件特許発明2〜10についても同様である。 イ 甲3に基づく進歩性欠如について 甲3には,抗IL-23レセプター抗体によりT細胞によるIL-17の産生の阻害が可能であることについて記載も示唆もないから,甲3発明を「T細胞によるインターロイキン-17(IL-17)産生を阻害する」ために用いる動機付けはないし,それが可能であることを当業者が予測し得たとも認められない。 そして,本件特許発明1は,IL-23アンタゴニストによりT細胞によるIL-17の産生を阻害するという,甲3の記載から予測困難な効果を発揮するものである。 したがって,本件特許発明1は,甲3発明から容易に発明をすることができたものではない。 このことは,本件特許発明1をさらに限定した発明である本件特許発明2〜10についても同様である。 ウ 甲5に基づく進歩性欠如について 甲5には,抗IL-23抗体によりT細胞によるIL-17の産生の阻害が可能であることについて記載も示唆もないから,甲5発明を「T細胞によるインターロイキン-17(IL-17)産生を阻害する」ために用いる動機付けはないし,それが可能であることを当業者が想到し得たとも認められない。 そして,本件特許発明1は,IL-23アンタゴニストによりT細胞によるIL-17の産生を阻害するという,甲5の記載から予測困難な効果を発揮するものである。 したがって,本件特許発明1は,甲5発明から容易に発明をすることができたものではない。 このことは,本件特許発明1をさらに限定した発明である本件特許発明2〜10についても同様である。 エ 甲1,3,5に基づく進歩性欠如について 前記ア〜ウのとおり,甲1,甲3及び甲5のいずれにも,IL-23アンタゴニストによりT細胞によるIL-17の産生の阻害が可能であることについて記載も示唆もないから,これらを併せて見ても,甲1発明,甲3発明又は甲5発明を「T細胞によるインターロイキン-17(IL-17)産生を阻害する」ために用いる動機付けはなく,それが可能であることを当業者が想到し得たとも認められない。 そして,本件特許発明1は,IL-23アンタゴニストによりT細胞によるIL-17の産生を阻害するという,甲1,甲3及び甲5の記載から予測困難な効果を発揮するものである。 したがって,本件特許発明1は,甲1発明,甲3発明及び甲5発明から容易に発明をすることができたものではない。 このことは,本件特許発明1をさらに限定した発明である本件特許発明2〜10についても同様である。 |
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原告主張の審決取消事由
1 取消事由1(甲5に基づく新規性判断の誤り) (1)ア 審決は,甲5発明を「T細胞を処理するための,p40サブユニットを中和することができる抗体を含む,哺乳動物被検体に投与される組成物。 と認定し 」たが,誤りである。 甲5には,抗体が実際に乾癬患者に投与され,病巣の消失という効果が得られたことが記載されているから,甲5記載の抗体含有組成物の用途は,乾癬等の疾患の治療である。 「T細胞の処理」は,この抗体含有組成物の使用により乾癬の病巣消失に至るまでの作用機序であり,これを抗体含有組成物の用途としたことは誤りである。 したがって,甲5には, 「T細胞の処理による乾癬治療のための,p40サブユニットを中和することができる抗体を含む,哺乳動物被検体に投与される組成物。 の 」発明(以下,「甲5X発明」という。)が記載されている。 イ 甲5X発明に係る抗体含有組成物の用途は,「T細胞の処理による乾癬治療」であるが,乾癬患者について格別の限定又は選別をすることなく, 「T細胞の処理による乾癬治療」を実施すると,以下のとおり,当然に, 「T細胞によるインターロイキン17(IL-17)産生阻害」も生じるから,甲5X発明の「T細胞の処理による乾癬治療」と本件特許発明1の「T細胞によるインターロイキン17(IL-17)産生阻害」とは,用途として同一であり,甲5X発明と本件特許発明1との間に相違点はない。 (ア) 客観的な事実として,多くの乾癬患者には,IL-17濃度の上昇が見られる。甲42,43は,いずれも,本件出願日後の文献ではあるが,このことを裏付けている。 (イ) 甲5には,IL-17への言及はないが,上記のとおり,多くの乾癬患者においてIL-17濃度が上昇している客観的事実を前提とすると,「T細胞の処理による乾癬治療のため」の甲5X発明においても,甲5X発明に係る抗体含有組成物の投与によりIL-17の産生が阻害されることは当然の結果である。 (ウ) そして, 「T細胞の処理による乾癬治療のため」に甲5X発明に係る抗体含有組成物を患者に投与した結果として,IL-17の産生が阻害されたことは,本件優先日前の当業者の技術水準に基づいて分析すれば容易に明らかとなるものであった(甲44,49,50)。 しかも,本件特許発明1は,産業上の実施としては,乾癬等の疾患の治療等をその用途としている(本件明細書【0017】。 ) (エ) なお,審決は,本件特許発明1は,乾癬等の炎症を生じている患者群すべてを対象とするのではなく,その中からIL-17濃度の上昇が発現した者のみを選択するステップを経ることが本件特許発明1の用途の特徴であるかのように述べるが,特許請求の範囲の記載は,そのようなステップが必須であることについて,明確ではないし,本件明細書にも,選択又はその方法についての記載はないから,審決の認定に根拠はない。 ウ 被告は,甲5には,IL-23アンタゴニストによって,T細胞によるIL-17産生を阻害することは,何ら記載されていないなどとして,本件特許発明は甲5X発明と同一であるとはいえないなどと主張する。 しかし,甲5X発明は,「p40サブユニットを中和することができる抗体」(これは,本件特許発明のIL-23アンタゴニストである。)を,「T細胞の処理による乾癬治療のため」に,この抗体を含む組成物として,哺乳動物被検体に投与する方法(用途)の発明である。 他方,本件明細書の【0060】には, 「IL-23がIL-17を産生する作用を抑制してその結果IL-17濃度を減少させるIL-23アンタゴニストは,様々な(慢性)炎症状態並びに炎症疾患の治療の有益な候補である。 ・ ・ ・乾癬, ・ ・ ・発熱が含まれるがこれらに限定されない。 として, 」 本件特許発明の治療対象が乾癬であることが記載されている。また,本件明細書の【0062】には, 「IL-23あるいはIL-23受容体に特異的に結合する抗体は, ・・・特に炎症性疾患あるいは細胞性免疫反応の誘導による疾患等様々な疾患の治療のために薬学的組成物の形態で投与することができる。 として, 」 抗体を含む薬学的組成物として投与することが記載されている。さらに,本件明細書の【0022】には,『被験体』は脊椎動 「物であり,望ましくは哺乳類,より望ましくはヒトである。」と記載されている。 そうすると,本件特許発明は,甲5に記載された方法(用途)と実質的に同一である。本件特許発明は,せいぜい,IL-23アンタゴニストに備わった「T細胞によるIL-17産生を阻害する」という性質又は機序を明らかにして,これを説明する構成要件を付加したにすぎないから,甲5X発明と異なる新規な方法(用途)とはいえない。 (2) 審決は,甲5発明の抗体含有組成物の用途を「T細胞を処理するため」と認定したにもかかわらず,本件特許発明1との対比においては,甲5発明の抗体含有組成物の用途が「Th1誘導によるT細胞刺激の阻害」に限定されるものとして,相違点5を認定しており,そもそも矛盾している。 この点からだけでも,審決の相違点5の認定は誤りである。 2 取消事由2(甲5に基づく進歩性判断の誤り) (1) 前記1のとおり,甲5X発明と本件特許発明1との間には,相違点はないが,仮に,乾癬等の患者の中からIL-17濃度の上昇が発現した者を選択するステップを経ることが本件特許発明の用途の特徴であり,その点が甲5X発明との相違点であるとしても,この相違点は本件特許発明の進歩性を基礎付けるものではない。なぜなら,乾癬患者の中の一部の者(IL-17濃度の上昇がみられない者)に対して抗体含有組成物を使用しないことが,乾癬の治療効果を高めることはないからである。甲5には,IL-17濃度の上昇が発現した者を格別排除することなく乾癬患者に抗体含有組成物を使用することが開示され,それによる病巣消失の効果までもが既に開示されており,その効果は,選択するステップを経るか否かによって,変わることはない。 加えて,本件特許出願後の文献ではあるが,甲49,50は,甲5の「J695」抗体による乾癬患者の治療に際し,IL-17の産生阻害が確認されたとしていることも考慮すると,少なくとも乾癬に関して,本件特許発明に係る組成物は,甲5により開示されていたか,少なくとも甲5X発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたというべきである。 (2) 仮に,本件特許発明における「T細胞によるIL-17産生を阻害する」ことを,甲5X発明との相違点としたとしても,この相違点は,以下のとおり,本件特許発明の進歩性を基礎付けるものではない。 ア たとえ乾癬患者の全てがIL-17濃度の上昇を伴うわけではないとしても,多くの乾癬患者においてIL-17濃度の上昇が見られるのであるから,甲5X発明のとおりに「p40サブユニットを中和することができる抗体」を乾癬患者に投与すれば,それらの患者の中に,T細胞によるIL-17の産生が阻害される者が存在することは明らかである。また,被告によると,健康な被験体の平均値よりも高い者がIL-17濃度の上昇した者とされているから,たとえIL-17濃度の上昇が見られない(健康な被験体の平均値よりも低い)乾癬患者であっても,「p40サブユニットを中和することができる抗体」の投与により,IL-17産生が阻害されることにはなる。 他方,被告によると,本件特許発明は, 「IL-17濃度の上昇が見られる炎症等の治療に対して選択的に利用されるもの」ではないから,その治療対象となる乾癬患者の中にはIL-17濃度の上昇を伴っていない者も存在するところ,そのような患者ではIL-17産生が阻害されることはないから,本件特許発明において必ずしもIL-17濃度が上昇した乾癬患者のIL-17産生が阻害されるわけではない。 イ 前記1のとおり,本件特許発明の用途は,甲5に記載された用途と実質的に何ら相違せず,本件特許発明の「T細胞によるIL-17産生を阻害する」との点は,単に甲5X発明の「p40サブユニットを中和することができる抗体」 (IL-23アンタゴニスト)の性質又は機序を記載したにすぎず,本件特許発明と甲5X発明が実質的に異なることを示すようなものではないから,「T細胞によるIL-17産生を阻害する」との点により,本件特許発明の進歩性が基礎付けられるものではない。 (3) 被告は,甲5においてJ695が投与されたのはわずか1人であると主張するが,甲5の「実施例9」には,J695の1回目の投与後から乾癬による病的皮膚状態の改善(病巣の平坦化と板状鱗屑の減少等)が現れ,2回目の投与後には,局所治療を全く行わずに,乾癬病巣が完全に消失したこと,投与されたJ695が排泄等により体内から消失(クリアランス)すると予想された期間を経過後には,そのようなJ695の消失に伴って,乾癬症状が再び現れたことが記載されているから,当業者は,J695を投与したことで乾癬症状が完全に消失したこと(及びJ695のクリアランス後には乾癬症状が再発したこと)を明確に理解することができる。 3 取消事由3(甲1に基づく新規性判断の誤り) (1)ア 審決は,甲1発明を「T細胞を処理するための,p40/IL-B30のアンタゴニストを含む,哺乳動物被検体に投与される組成物。」と認定したが,誤りである。 甲1には,抗体含有組成物の投与対象として,表皮肥厚や潰瘍などの皮膚における炎症(その代表的なものが乾癬)を起こしたマウス(哺乳動物被検体)が記載されているから,甲1記載の抗体含有組成物の用途は,乾癬等の炎症の治療である。 「T細胞の処理」は,この抗体含有組成物の使用により乾癬等の炎症の治療に至るまでの作用機序であり,これを抗体含有組成物の用途としたことは誤りである。 したがって,甲1には, 「T細胞の処理による乾癬治療のための,p40/IL-B30のアンタゴニストを含む,哺乳動物被検体に投与される組成物。」の発明(以下,「甲1X発明」という。)が記載されている。 イ 甲1X発明に係る抗体含有組成物の用途は,「T細胞の処理による乾癬治療」であるが,乾癬患者について格別の限定又は選別をすることなく, 「T細胞の処理による乾癬治療」を実施すると,当然に, 「T細胞によるインターロイキン17(IL-17)産生阻害」も生じるから,甲1X発明の「T細胞の処理による乾癬治療」と本件特許発明1の「T細胞によるインターロイキン17(IL-17)産生阻害」とは,用途として同一であり,甲1X発明と本件特許発明1との間に相違点はない。 その理由は,前記1(1)イと同様である。 ウ 被告は,甲1には,IL-23アンタゴニストによって,T細胞によるIL-17産生を阻害することは,何ら記載されていないなどとして,本件特許発明は甲1X発明と同一であるとはいえないなどと主張する。 しかし,甲1X発明は,「p40/IL-B30のアンタゴニスト」(これは,本件特許発明のIL-23アンタゴニストである。)を,「T細胞の処理による乾癬治療のため」に,このアンタゴニストを含む組成物として,哺乳動物被検体に投与する方法(用途)の発明である。 他方,前記1(1)ウのとおり,本件明細書 【0060】 ( , 【0062】, 【0022】)には,本件特許発明の治療対象が乾癬であること,IL-23アンタゴニスト(抗体等)を含む薬学的組成物として投与すること,被験体は望ましくは哺乳類であることが記載されている。 そうすると,本件特許発明は,甲1に記載された方法(用途)と実質的に同一である。本件特許発明は,せいぜい,IL-23アンタゴニストに備わった「T細胞によるIL-17産生を阻害する」という性質又は機序を明らかにして,これを説明する構成要件を付加したにすぎないから,甲1X発明と異なる新規な方法(用途)とはいえない。 (2) 審決は,甲1発明に係る抗体含有組成物の用途を「T細胞を処理するため」と認定したにもかかわらず,本件特許発明1との対比においては,甲1発明の抗体含有組成物の用途が「Th1誘導によるT細胞刺激の阻害」に限定されるものとして,相違点1を認定しており,そもそも矛盾している。 この点からだけでも,審決の相違点1の認定は誤りである。 4 取消事由4(甲1に基づく進歩性判断の誤り) (1) 前記3のとおり,甲1X発明と本件特許発明1との間には,相違点はないが,仮に,乾癬等の炎症患者の中からIL-17濃度の上昇が発現した者を選択するステップを経ることが本件特許発明の用途の特徴であり,その点が甲1X発明との相違点であるとしても,この相違点は本件特許発明の進歩性を基礎付けるものではない。なぜなら,乾癬等の炎症患者の中の一部の者(IL-17濃度の上昇がみられない者)に対して抗体含有組成物を使用しないことが,その治療効果を高めることはないからである。甲1には,IL-17濃度の上昇が発現した者を格別排除することなく抗体含有組成物を使用することが開示されており,それにより得られる効果は,選択するステップを経るか否かによって,変わることはない。 (2) 仮に,本件特許発明における「T細胞によるIL-17産生を阻害する」ことを,甲1X発明との相違点としたとしても,この相違点は,以下のとおり,本件特許発明の進歩性を基礎付けるものではない。 ア たとえ乾癬患者の全てがIL-17濃度の上昇を伴うわけでないとしても,多くの乾癬患者においてIL-17濃度の上昇が見られるのであるから,甲1X発明のとおりに「p40/IL-B30のアンタゴニスト」を乾癬患者に投与すれば,それらの患者の中に,T細胞によるIL-17の産生が阻害される者が存在することは明らかである。また,被告によると,健康な被験体の平均値よりも高い者がIL-17濃度の上昇した者とされているから,たとえIL-17濃度の上昇が見られない(健康な被験体の平均値よりも低い)乾癬患者であっても, 「p40/IL-B30のアンタゴニスト」の投与により,IL-17産生が阻害されることにはなる。 他方,被告によると,本件特許発明は, 「IL-17濃度の上昇が見られる炎症等の治療に対して選択的に利用されるもの」ではないから,その治療対象となる乾癬患者の中にはIL-17濃度の上昇を伴っていない者も存在するところ,そのような患者ではIL-17産生が阻害されることはないから,本件特許発明にしたところで,必ずしもIL-17濃度が上昇した乾癬患者のIL-17産生が阻害されるわけではない。 イ 前記3のとおり,本件特許発明の用途は,甲1に記載された用途と実質的に何ら相違せず,本件特許発明の「T細胞によるIL-17産生を阻害する」との点は,単に甲1X発明の「p40/IL-B30のアンタゴニスト」 (IL-23アンタゴニスト)の性質又は機序を記載したにすぎず,本件特許発明と甲1X発明が実質的に異なることを示すようなものではないから,「T細胞によるIL-17産生を阻害する」との点により,本件特許発明の進歩性が基礎付けられるものではない。 5 取消事由5(甲3に基づく新規性判断の誤り) (1)ア 審決は,甲3発明を「T細胞を処理するための,p40/IL-B30のレセプターサブユニットに対する抗体を含む,哺乳動物被検体に投与される組成物。」と認定したが,誤りである。 甲3には,治療対象疾患として,他の疾患と並んで,やはり「乾癬」が明示されているから,甲3記載の抗体含有組成物の用途は,乾癬等の炎症の治療である。 「T細胞の処理」は,この抗体含有組成物の使用により乾癬等の炎症の治療に至るまでの作用機序であり,これを抗体含有組成物の用途としたことは誤りである。 したがって,甲3には, 「T細胞の処理による乾癬治療のための,p40/IL-B30のレセプターサブユニットに対する抗体を含む,哺乳動物被検体に投与される組成物。」の発明(以下,「甲3X発明」という。)が記載されている。 イ 甲3X発明に係る抗体含有組成物の用途は,「T細胞の処理による乾癬治療」であるが,乾癬患者について格別の限定又は選別をすることなく, 「T細胞の処理による乾癬治療」を実施すると,当然に, 「T細胞によるインターロイキン17(IL-17)産生阻害」も生じるから,甲3X発明の「T細胞の処理による乾癬治療」と本件特許発明1の「T細胞によるインターロイキン17(IL-17)産生阻害」とは,用途として同一であり,甲3X発明と本件特許発明1との間に相違点はない。 その理由は,前記1(1)イと同様である。 ウ 被告は,甲3には,IL-23アンタゴニストによって,T細胞によるIL-17産生を阻害することは,何ら記載されていないなどとして,本件特許発明は甲3X発明と同一であるとはいえないなどと主張する。 しかし,甲3X発明は, 「p40/IL-B30のレセプターサブユニットに対する抗体」 (これは,本件特許発明のIL-23アンタゴニストである。)を, 「T細胞の処理による乾癬治療のため」に,この抗体を含む組成物として,哺乳動物被検体に投与する方法(用途)の発明である。 他方,前記1(1)ウのとおり,本件明細書 【0060】 ( , 【0062】, 【0022】)には,本件特許発明の治療対象が乾癬であること,IL-23レセプター(IL-23受容体)に対する抗体を含む薬学的組成物として投与すること,被験体は望ましくは哺乳類であることが記載されている。 そうすると,本件特許発明は,甲3に記載された方法(用途)と実質的に同一である。本件特許発明は,せいぜい,IL-23アンタゴニストに備わった「T細胞によるIL-17産生を阻害する」という性質又は機序を明らかにして,これを説明する構成要件を付加したにすぎないから,甲3X発明と異なる新規な方法(用途)とはいえない。 (2) 審決は,甲3発明に係る抗体含有組成物の用途を「T細胞を処理するため」と認定したにもかかわらず,本件特許発明1との対比においては,甲3発明の抗体含有組成物の用途が「Th1誘導によるT細胞刺激の阻害」に限定されるものとして,相違点3を認定しており,そもそも矛盾している。 この点からだけでも,審決の相違点3の認定は誤りである。 6 取消事由6(甲3に基づく進歩性判断の誤り) (1) 前記5のとおり,甲3X発明と本件特許発明1との間には,相違点はないが,仮に,乾癬患者の中からIL-17濃度の上昇が発現した者を選択するステップを経ることが本件特許発明の用途の特徴であり,その点が甲3X発明との相違点であるとしても,この相違点は本件特許発明の進歩性を基礎付けるものではない。 なぜなら,乾癬患者の中の一部の者(IL-17濃度の上昇がみられない者)に対して抗体含有組成物を使用しないことが,その治療効果を高めることはないからである。甲3には,IL-17濃度の上昇が発現した者を格別排除することなく抗体含有組成物を使用することが開示されており,それにより得られる効果は,選択するステップを経るか否かによって,変わることはない。 (2) 仮に,本件特許発明における「T細胞によるIL-17産生を阻害する」ことを,甲3X発明との相違点としたとしても,この相違点は,以下のとおり,本件特許発明の進歩性を基礎付けるものではない。 ア たとえ乾癬患者の全てがIL-17濃度の上昇を伴うわけではないとしても,多くの乾癬患者においてIL-17濃度の上昇が見られるのであるから,甲3X発明のとおりに「p40/IL-B30のレセプターサブユニットに対する抗体」を乾癬患者に投与すれば,それらの患者の中に,T細胞によるIL-17の産生が阻害される者が存在することは明らかである。また,被告によると,健康な被験体の平均値よりも高い者がIL-17濃度の上昇した者とされているから,たとえIL-17濃度の上昇が見られない(健康な被験体の平均値よりも低い)乾癬患者であっても, 「p40/IL-B30のアンタゴニスト」の投与により,IL-17産生が阻害されることにはなる。 他方,被告によると,本件特許発明は, 「IL-17濃度の上昇が見られる炎症等の治療に対して選択的に利用されるもの」ではないから,その治療対象となる乾癬患者の中にはIL-17濃度の上昇を伴っていない者も存在するところ,そのような患者ではIL-17産生が阻害されることはないから,本件特許発明にしたところで,必ずしもIL-17濃度が上昇した乾癬患者のIL-17産生が阻害されるわけではない。 イ 前記5のとおり,本件特許発明の用途は,甲3に記載された用途と実質的に何ら相違せず,本件特許発明の「T細胞によるIL-17産生を阻害する」との点は,単に甲3X発明の「p40/IL-B30のレセプターサブユニットに対する抗体」 (IL-23レセプターに対する抗体)の性質又は機序を記載したにすぎず,本件特許発明と甲3X発明が実質的に異なることを示すようなものではないから, 「T細胞によるIL-17産生を阻害する」との点により,本件特許発明の進歩性が基礎付けられるものではない。 7 取消事由7(明確性要件の判断の誤り) (1) 審決は,本件特許発明に係る抗体含有組成物の用途は,炎症が生じている患者群すべてではなく,その中からIL-17濃度の上昇が発現した者を選択するステップを経ることが本件特許発明に係る抗体含有組成物の用途の特徴であると解釈する。 しかし,本件特許に係る特許請求の範囲の記載は,IL-17濃度の上昇が発現した者を選択するステップが必須であることについて,必ずしも明確に表現していない。仮に,このように不明確な特許請求の範囲の記載のまま特許登録が維持されることとなれば,IL-17濃度の上昇が発現した者を選択するステップを経ない乾癬等の疾患治療のための組成物の利用についても,あたかも本件特許発明の技術的範囲に属するかの如き外観を呈し,第三者に不測の不利益を及ぼすおそれが非常に高い。 したがって,本件特許に係る請求項1〜10の記載は,明確性要件を満たさない。 (2) 用途発明は,用途を構成要件に含むとはいっても,あくまでも物の発明であるから,用途の実現方法が明細書の記載や技術常識を考慮しても明らかではない場合には,物としての特定が不十分であって,特許請求の範囲の明確性要件を満たさないものと解すべきである。 そこで,審決のように,本件特許発明は,炎症が生じている患者群すべてを対象とするのではなく,その中からIL-17濃度の上昇が発現した者を選択するステップを経ることが本件特許発明に係る抗体含有組成物の用途の特徴であることを前提とするのであれば,本件特許発明においてIL-17濃度の上昇が発現した者を選択する方法が本件明細書の記載や技術常識から明らかでない限り,本件特許に係る特許請求の範囲の記載は,物を具体的に特定することができておらず,明確性要件を満たさない。 しかし,本件明細書には,IL-17濃度の上昇が発現した者を選択する方法について,格別の記載はない。 また,本件特許の親出願に係る特許第5477998号(以下, 「原出願特許」という。甲45)の特許請求の範囲の請求項1は, 「インターロイキン-23(IL-23)のアンタゴニストを含む,健康な被験体と比較して,インターロイキン17(IL-17)発現の上昇したレベルを有することが測定された哺乳動物被験体における炎症疾患の処置のための組成物であって,前記アンタゴニストが抗IL-23または抗IL-23レセプター抗体である,組成物。」であるから,本件特許発明において, 「IL-17発現レベルが上昇している対象を選択」して治療することを実現するための手段として, 「健康な被験体と比較して,IL-17発現の上昇したレベルを有することが測定された疾患ないし患者を選択」すること以外のものを,本件出願日当時に当業者が認識することができなかったのであれば,たとえ本件特許に係る特許請求の範囲にはそのことが明示的に記載されていないとしても,原出願特許に係る発明と本件特許発明とは,実質的に同一といわざるを得ないことになり,本件特許発明は分割要件を満たさないものとなる。したがって,本件特許発明における「IL-17発現レベルが上昇している対象の選択」が, 「健康な被験体と比較して,IL-17発現の上昇したレベルを有することが測定された疾患ないし患者を選択」することにより実現されるものと解することはできない。 よって,本件特許に係る特許請求の範囲の記載は,用途(本件特許発明においてIL-17濃度の上昇が発現した者を選択する方法)の実現方法が明細書の記載や技術常識を考慮しても明らかではないから,物として特定されておらず,明確性要件を満たさない。 (3) 審決は,本件特許発明が,IL-17濃度の上昇が見られる患者の選択がされることを条件とした,IL-23アンタゴニストの利用方法(用途)に係るものと認定した。 他方,被告の主張によると,本件特許発明に係る組成物は,必ずしもIL-17濃度の上昇が見られる者の選択がされることを条件とした,IL-23アンタゴニストの利用方法(用途)に係るものではないことになる。 このように,審決の認定と被告の主張とでは,本件特許発明の用途,したがって,特許発明の技術的範囲の解釈が実質的に相違する。技術的範囲が異なって解されることになるような本件特許の特許請求の範囲の記載は,不明瞭である。 8 取消事由8(サポート要件の判断の誤り) (1) 審決が「本件特許発明の組成物を炎症等を治療するという医薬用途に利用する場合も,当然にIL-17濃度の上昇が見られる炎症等の治療に対して選択的に利用されるものであることが明らかである。 としていることからすると, 」 本件特許発明の課題解決のためには,IL-17発現レベルが上昇している者のみを対象として選択できることも要すると解すべきである。したがって, 「IL-17発現レベルが上昇している対象の選択」を実現することについても,本件明細書に具体的に記載されているか,又はそのことを本件出願日当時の技術常識から当業者が理解し得なければ,サポート要件は満たさない。 IL-17発現レベルが上昇している者のみを対象として選択することが,従来の技術において容易でなかったことは明らかであるが,本件明細書にはその方法についての具体的な記載はない。また,原出願特許との関係で,そのような対象の選択が, 「健康な被験体と比較して,IL-17発現の上昇したレベルを有することを測定する」ことにより実現し得るものと解し得ないことは,前記7(2)のとおりである。 加えて, 「健康な被験体におけるIL-17の発現レベル」自体が技術常識的にも明確ではなく,本件明細書においても具体的な基準が示されていない。例えば,血糖値のように,一定の基準値が広く認められており,それを上回っているかどうかにより,糖尿病の有無や重篤度が容易に判定できるのならばともかく,IL-17発現レベルと乾癬患者の関係では,そのような基準値が一般に認められているわけではない。そこで,ある乾癬患者のIL-17発現レベルが上昇しているといえるかどうか,すなわち,その患者を,本件特許発明に基づいて,IL-23アンタゴニストを投与する対象として選択すべきかどうかを判断するために,医師は,例えば,自ら多数の健康な被験体のIL-17発現レベルを測定し,その値と比較してみることなどを余儀なくされるはずである。しかし,まず,健康な被験体におけるIL-17のレベルは,健康なボランティアの集団から選択され,選択された集団のサイズに応じて測定されるものであり,その最低レベルと最高レベルの範囲と平均値によって特徴付けられるから,健康な被験体におけるIL-17レベルの平均値及び範囲は,少なくとも健康な被験体の集団の大きさに依存して変化する。また,本件特許発明に係る患者は,健康な被験体群の「平均値」と比較して,IL-17発現レベルの上昇を有するものを意味しているのかどうかが不明である。すなわち,ある患者のIL-17発現レベルが,健康な被験体群の「平均値」と比較すれば上昇していたとしても,その患者よりも高いIL-17発現レベルを示す健康な被験体が相当数存在し得るから,それにもかかわらず,本件特許発明に係る患者のIL-17発現レベルが,健康な被験体のレベルと比較して上昇しているといえるのかどうかが明らかではない。IL-17発現レベルは,体重値のように,単にその大小が問題とされているのではなく,炎症等の疾患を引き起こす原因として着目されているところ,健康な被験体群の中にも平均値よりも高いIL-17発現レベルを示す者がかなりいるということは,たとえ平均値より若干高いIL-17発現レベルであっても,その程度の発現レベルでは,必ずしも炎症等が引き起こされるわけではないことを示しているとみるべきである。そこで,健康な被験体群の平均値を多少上回るIL-17発現レベルを示す乾癬患者がいたとしても,その乾癬が必ずしもIL-17濃度の上昇に起因したものということはできないから,直ちに本件特許発明の組成物の投与により治療され得る患者とはいえないはずである。さらに,健康な被験体のIL-17発現レベルが,健康な被験体群の「平均値」でないとすると,本件特許発明に係る患者群は,健康な被験体群における「最低レベル」と比較して,IL-17レベルの上昇を有する患者群のことを意味しているのかどうかも不明である。すなわち,健康な被験体群内の最も低いIL-17レベルと比較すれば,それよりも高いレベルを有する患者が相当数存在し得るが,その患者のレベル上昇の程度自体は,相当数の健康な被験体におけるレベル上昇の程度より低いこともある(甲46,3頁の表1参照)。 以上のとおり, 「IL-17発現の上昇したレベル」の技術的意味やその確認方法自体も,本件明細書において明確にされているとはいえないし,技術常識を考慮してもそれが明らかであるとはいえない。 (2) 審決は,無効理由4(産業上利用可能性)に関し,本件明細書にも,本件特許発明1〜10における組成物について,IL-17の濃度の上昇が見られることを特徴とする炎症性疾患の治療に利用できることが一貫して記載されている旨認定したが,そうであれば,産業上利用することができる発明をした者に対して特許権を付与する特許制度の趣旨に照らして,本件特許発明の解決課題は,上記炎症性疾患の治療に利用できる医薬組成物を提供することにあるとみるべきである。具体的には,本件明細書の【0017】には,本件明細書で使用される「炎症性疾患」の定義と疾患の例が記載されているから,本件特許発明の解決課題は,上記炎症性疾患の治療に利用できる医薬組成物を提供するものと解されるべきである。 そして,上記解決課題との関係において,本件特許の請求項1の「T細胞によるインターロイキン-17(IL-17)産生を阻害するためのインビボ処理方法」は,その課題を解決するための手段の一部とみるべきであり,本件特許発明は,IL-23のアンタゴニストを投与することによって,生体内(インビボ)でのT細胞によるIL-17産生を阻害することで(解決手段) 上記の炎症性疾患を治療す ,るもの(解決課題)と解すべきものである。 したがって,本件特許がサポート要件を満たしているというためには,IL-23アンタゴニストにより,生体内でT細胞によるIL-17産生が阻害されることが示されるだけでなく,本件出願日当時において,当業者が, 「T細胞によるIL-17産生を阻害する」ことにより,上記炎症性疾患のいずれもが治療ができることを認識できなければならなかったというべきところ,本件明細書の記載及び本件出願日当時の技術常識を参酌しても,当業者がこれを認識できたとはいえない。 本件明細書の記載及び本件出願日当時の技術常識に基づくと,IL-23アンタゴニストの投与により,生体内でT細胞によるIL-17の産生を阻害したとしても,せいぜい,慢性関節リウマチ及び対宿主性移植片反応が治療できることが認識できたにすぎないから,それ以外の広範な炎症性疾患に係る本件特許発明の課題が解決できることを,当業者が認識できたとはいえない。 (3) 被告によると,本件特許発明は, 「IL-17濃度の上昇が見られる炎症等の治療に対して選択的に利用されるもの」に限定されないから,本件特許発明の組成物の投与対象者の中には,IL-17濃度の上昇を伴っていない者が存在する。 そうすると,本件明細書に「抗IL-23抗体等のIL-23アンタゴニストにより,IL-23により誘導されるT細胞のIL-17の産生を阻害可能であること」が記載されていても,IL-17濃度の上昇を伴わない(IL-17産生が誘導されていない)者においても,IL-17産生を阻害するという方法が実施され得ることを理解できるものではない。そして,そのような者でさえも炎症等が治療され得ることを理解できるものではない。 したがって,本件特許の請求項1〜10の記載は,本件明細書及び本件出願日当時の技術常識から,本件特許発明の全般にわたってその課題を解決できるものと当業者が認識できる範囲を超えているから,サポート要件を満たしていない。 9 取消事由9(実施可能要件の判断の誤り) (1) 前記のとおり,本件特許発明に係る組成物が「T細胞によるIL-17の産生を阻害する」ためのものであるならば,その用途は, 「IL-17発現レベルが上昇している者のみを対象として選択する」ステップを必然的に含むと解すべきものであるが,そのような対象の選択を実現することが,従来の技術において容易でなかったことは明らかであるし,本件明細書には,IL-17発現レベルが上昇している者のみを対象として選択することに関する具体的な記載は何もない。また,仮に,そのような対象の選択が「健康な被験体と比較して,IL-17発現の上昇したレベルを有することを測定する」ことにより実現し得るとしても,原出願特許との関係で,本件特許発明をそのようなものとして解することはできない。 そうすると,本件特許発明1において, 「IL-17発現レベルが上昇している者のみを対象として選択」するステップを必然的に伴うとみるべき「T細胞によるインターロイキン-17(IL-17)産生を阻害するためのインビボ処理方法」につき,当業者に期待し得る程度を超える試行錯誤が要求されることは明らかである。 (2) 前記8(2)のとおり,本件特許発明に係る組成物が,炎症性疾患の治療のためのものであるとしても,本件出願日当時の技術常識から,生体内でT細胞によるIL-17産生を阻害することにより治療可能と認識できたのは,せいぜい,慢性関節リウマチや対宿主性移植片反応程度であって,それ以外の炎症性疾患が治療できることは,本件明細書の記載を参酌しても理解することはできない。 (3) 被告によると,本件特許発明は,IL-17濃度の上昇がみられる者を選択することは場合によってはありえるかもしれないというものであり,IL-17濃度が上昇した者を選択して投与することは単なる1態様にすぎないから,IL-17濃度が上昇した者を選択せずに投与することを含む。 しかし,本件明細書には,IL-17濃度が上昇した者を選択しない場合でも,本件特許発明の組成物が使用可能であることは示されていない。 |
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被告の主張
1 取消事由1(甲5に基づく新規性判断の誤り)に対し (1) 原告は,審決の甲5発明の認定は誤りであると主張する。 しかし,甲5には,p40サブユニットを中和することができる抗体である「J695」が記載されているが,甲5の記載によると, 「J695」は,Th1誘導を阻害するために抗IL-12抗体として使用されている。すなわち,IL-12がTh1誘導をもたらすことは本件優先日当時の当業者に周知であったところ(乙6),「J695」は,IL-12のアンタゴニストとして,IL-12によるTh1誘導を阻害するために使用されている。 そして,Th1誘導は,ナイーブT細胞へのIL-12の作用によって生じるが,「J695」は,これを阻害するために使用されているから,T細胞を処理するために使用されている。 したがって,審決の甲5発明の認定に誤りはない。 (2) 原告は,審決の相違点5の認定は誤りであると主張する。 しかし,本件特許発明は,IL-23アンタゴニストによってT細胞によるIL-17産生を阻害することを技術思想とするものであるが,IL-23がT細胞によるIL-17産生を誘導すること,及び,IL-23アンタゴニストがT細胞によるIL-17産生を阻害することは,被告が初めて見いだしたことである。本件特許発明のもたらした新たな知見は,Th17細胞及びその関連物質をターゲットとする疾患治療に応用されており,例えば,乾癬はその一例である。本件特許発明前は,乾癬はTh1細胞が主に関連する免疫性の疾患であると考えられていたが(乙4),乾癬にはTh17細胞も関連していることが判明し,本件特許発明によって,IL-23を阻害することによってTh17細胞の活性を阻害するという新たなアプローチによる乾癬治療の選択肢が示された。このように,本件特許発明は,乾癬治療に大きな進歩をもたらした画期的なものである。 本件特許発明の用途が,インターロイキン23(IL-23)のアンタゴニストを含む組成物によって, 「T細胞によるインターロイキン17(IL-17)産生を阻害する」ことであるのに対し,甲5発明の用途は,従来から知られていたTh1誘導によるT細胞刺激の阻害である。 そして,本件明細書 【0071】 【0108】 ( 〜 , 【図2A】, 【図2B】, 【図2C】,【図4A】【図12】 , )記載のとおり,本件特許発明の用途である「T細胞によるインターロイキン17(IL-17)産生を阻害する」は,本件優先日前に知られていたTh1誘導及びTh2誘導のいずれとも異なる,T細胞へのIL-23の作用によって生じるIL-17の産生を阻害するものであるから,T細胞によるIL-17産生の阻害は,従来から知られていたTh1誘導によるT細胞刺激の阻害とは実質的に異なる。 (3) 審決の甲5発明の認定に誤りがないことは,前記(1)のとおりであるが,仮に,甲5には,甲5X発明も記載されているとしても,以下のとおり,本件特許発明が甲5に対し新規性を有するとの審決の結論に影響するものではない。 ア 甲5には,IL-23アンタゴニストによって,T細胞によるIL-17産生を阻害することは,何ら記載されていない。このように,甲5は,本件特許発明の技術思想を何ら開示していない。 甲5には,J695等の抗IL-12抗体を用いてIL-12を阻害することが一貫して記載されており,T細胞によるIL-17産生の阻害についてすら,何らの記載も示唆もされていない。 そうすると,この点だけでも,本件特許発明が甲5X発明と同一であるとはいえない。 イ 原告は,甲5X発明の「T細胞の処理による乾癬治療」と本件特許発明1の「T細胞によるインターロイキン17(IL-17)産生阻害」とは,用途として同一であり,甲5X発明と本件特許発明1との間に相違点はないと主張する。 しかし,原告も自認するとおり,乾癬患者の全てがIL-17濃度の上昇を伴うわけではないから,甲5X発明における「T細胞の処理による乾癬治療」が,必ずIL-17の産生を阻害するとはいえない。 また,仮に,甲5X発明において必ずIL-17の産生が阻害されるとしても,甲5には,IL-23アンタゴニストによってT細胞によるIL-17産生を阻害することは何ら記載されておらず,IL-23がT細胞においてIL-17を産生させること,及び,IL-23アンタゴニストによってT細胞によるIL-17産生を阻害できることは,本件特許発明において初めて明らかになったことであり,本件優先日当時の技術常識ではなかったことからすると,IL-17産生の阻害がIL-23アンタゴニストによるものであることを,本件優先日当時の当業者が甲5から把握できたとはいえないから,IL-23アンタゴニストによってT細胞によるIL-17産生を阻害する本件特許発明が甲5に開示されているとはいえない。 なお,本件優先日後に刊行された甲42,43,49,50等に開示された知見を用いて,本件特許発明の新規性を議論することはできない。 ウ 原告は, 「T細胞の処理による乾癬治療のため」に甲5X発明に係る抗体含有組成物を患者に投与した結果として,IL-17の産生が阻害されたことは,本件優先日前の当業者の技術水準に基づいて分析すれば容易に明らかとなるものであったと主張する。 しかし,本件優先日当時,IL-23がT細胞においてIL-17を産生させることは全く知られていなかった(もとより,技術常識ではなかった)から,仮に,甲5X発明においてIL-17産生の阻害が必ず生じるものであり,かつ,そのIL-17産生の阻害を本件優先日当時の当業者が確認できたとしても,本件優先日当時の当業者は,そのIL-17産生の阻害がIL-23の阻害によるものであることを把握することはできなかった。 したがって,IL-23アンタゴニストによってT細胞によるIL-17産生を阻害する本件特許発明が,甲5に開示されているとはいえない。 エ ある刊行物に記載されたある性質を有する物質の中に,たまたまそれとは別の性質をも有するものが記載されていたとしても,それにより,直ちにその刊行物がその別の性質に係る物質まで記載したものと把握することはできない。 甲5は,p40サブユニットを中和することができる抗体(以下,「p40抗体」という。)を,あくまでIL-12のアンタゴニストとして取り扱っているので,p40抗体がIL-23のアンタゴニストとして機能し得るとしても,IL-23のアンタゴニストを使用することが甲5に開示されていることにはならない。 オ 原告は,乾癬等の疾患の治療が本件特許発明の構成要件又は発明特定事項であるかのように主張し,IL-17濃度の上昇がみられる者を選択するステップが本件特許発明の構成要件又は発明特定事項であるかのように主張する。 しかし,本件特許発明は,IL-23のアンタゴニストを使用してT細胞によるIL-17の産生を阻害することを構成要件又は発明特定事項としているのであって,乾癬等の治療又はIL-17濃度の上昇がみられる者の選択は,本件特許発明の構成要件又は発明特定事項ではない。 本件特許発明は,乾癬等のある種の疾患の治療に利用可能であるし,その利用にあたってIL-17濃度の上昇がみられる者を選択することは,場合によってはあり得るかもしれないが,それらは,本件特許発明の効果又は実施関連事項に関することであって,本件特許発明の構成要件又は発明特定事項とは別である。 2 取消事由2(甲5に基づく進歩性判断の誤り)に対し 原告は,仮に,乾癬等の患者の中からIL-17濃度の上昇が発現した者を選択するステップを経ることが本件特許発明の用途の特徴であり,その点が甲5X発明との相違点であるとしても,この相違点は本件特許発明の進歩性を基礎付けるものではないと主張する。 しかし,前記1(3)オのとおり,本件特許発明は, 「乾癬等の患者の中からIL-17濃度の上昇が発現した者を選択するステップ」を構成要件又は発明特定事項とはしていない。 また,原告は,甲5には,IL-17濃度の上昇が発現した者を格別排除することなく乾癬患者に抗体含有組成物を使用することが開示され,それによる病巣消失の効果までもが開示されていると主張するが,甲5においてJ695が投与されたのはわずか1人であり,しかも乾癬患者の全てがIL-17濃度の上昇を伴うものではないところ,J695が投与された乾癬患者のIL-17濃度が高かったのかは不明であって,この乾癬患者におけるIL-17産生の阻害は確認されていない。 なお,本件優先日後に発行された甲49,50等を用いて本件特許発明の進歩性を議論することはできない。 そして,前記1(3)イのとおり,仮に,甲5X発明においてIL-17産生の阻害が必ず生じるとしても,甲5に接した本件優先日当時の当業者は,甲5の記載からIL-23アンタゴニストがIL-17産生を阻害していることを,把握することはできない。 そうすると,本件優先日当時の当業者が,本件特許発明の技術思想を何ら開示していない甲5に基づいて,本件特許発明を容易に想到できたとはいえない。 3 取消事由3(甲1に基づく新規性判断の誤り)に対し (1) 原告は,審決の甲1発明の認定は誤りであると主張する。 しかし,甲1には,IL-23に相当するp40/IL-B30を抗体等のアンタゴニストにより阻害することが,実施例を伴わずに記載されているが,甲1の記載によると,p40/IL-B30のアンタゴニストはTh1誘導を阻害するために使用されているから,T細胞を処理するために使用されている。 したがって,審決の甲1発明の認定に誤りはない。 (2) 原告は,審決の相違点1の認定は誤りであると主張する。 しかし,本件特許発明の用途が,インターロイキン23(IL-23)のアンタゴニストを含む組成物によって,T細胞によるインターロイキン17 「 (IL-17)産生を阻害する」ことであるのに対し,甲1発明の用途は,従来から知られていたTh1誘導によるT細胞刺激の阻害である。 そして,前記1(2)のとおり,本件特許発明の用途である「T細胞によるインターロイキン17(IL-17)産生を阻害する」は,本件優先日前に知られていたTh1誘導及びTh2誘導のいずれとも異なる,T細胞へのIL-23の作用によって生じるIL-17の産生を阻害するものであるから,T細胞によるIL-17産生の阻害は,従来から知られていたTh1誘導によるT細胞刺激の阻害とは実質的に異なる。 (3) 審決の甲1発明の認定に誤りがないことは,前記(1)のとおりであるが,仮に,甲1には,甲1X発明も記載されているとしても,以下のとおり,本件特許発明が甲1に対し新規性を有するとの審決の結論に影響するものではない。 ア 甲1には,IL-23アンタゴニストによって,T細胞によるIL-17産生を阻害することは,何ら記載されていない。このように,甲1は,本件特許発明の技術思想を何ら開示していない。 甲1には,p40/IL-B30のアンタゴニストを用いてTh1誘導を阻害することが一貫して記載されており,T細胞によるIL-17産生の阻害についてすら,何らの記載も示唆もされていない。 そうすると,この点だけでも,本件特許発明が甲1X発明と同一であるとはいえない。 イ 原告は,甲1X発明の「T細胞の処理による乾癬治療」と本件特許発明1の「T細胞によるインターロイキン17(IL-17)産生阻害」とは,用途として同一であり,甲1X発明と本件特許発明1との間に相違点はないと主張する。 しかし,前記1(3)イと同様の理由により,甲1X発明においてIL-17の産生が必ず阻害されるとはいえないし,また,仮に甲1X発明においてIL-17の産生が阻害されるとしても,本件優先日当時の当業者は,そのIL-17産生阻害がIL-23アンタゴニストによるものであることを把握できなかったから,そのことをもって本件特許発明の新規性を否定することはできない。 4 取消事由4(甲1に基づく新規性判断の誤り)に対し 原告は,仮に,乾癬等の患者の中からIL-17濃度の上昇が発現した者を選択するステップを経ることが本件特許発明の用途の特徴であり,その点が甲1X発明との相違点であるとしても,この相違点は本件特許発明の進歩性を基礎付けるものではないと主張する。 しかし,前記1(3)オのとおり,本件特許発明は, 「乾癬等の患者の中からIL-17濃度の上昇が発現した者を選択するステップ」を構成要件又は発明特定事項とはしていない。 また,前記3(3)イのとおり,甲1X発明においてIL-17の産生が必ず阻害されるとはいえないし,仮に,甲1X発明においてIL-17産生の阻害が必ず生じるとしても,甲1に接した本件優先日当時の当業者は,甲1の記載からIL-23アンタゴニストがIL-17産生を阻害していることを,把握することはできない。 そうすると,本件優先日当時の当業者が,本件特許発明の技術思想を何ら開示していない甲1に基づいて,本件特許発明を容易に想到できたとはいえない。 5 取消事由5(甲3に基づく新規性判断の誤り)に対し (1) 原告は,審決の甲3発明の認定は誤りであると主張する。 しかし,甲3には,p40/IL-B30レセプターのサブユニットを抗体等のアンタゴニストにより阻害することが,実施例を伴わずに記載されているが,甲3に「記憶T細胞を標的とするために」と記載されているとおり,上記アンタゴニストは,T細胞を処理するために使用されている。 したがって,審決の甲3発明の認定に誤りはない。 (2) 原告は,審決の相違点3の認定は誤りであると主張する。 しかし,本件特許発明の用途が,インターロイキン23(IL-23)のアンタゴニストを含む組成物によって,T細胞によるインターロイキン17 「 (IL-17)産生を阻害する」ことであるのに対し,甲3発明の用途は,従来から知られていたTh1誘導によるT細胞刺激の阻害である。 そして,前記1(2)のとおり,本件特許発明の用途である「T細胞によるインターロイキン17(IL-17)産生を阻害する」は,本件優先日前に知られていたTh1誘導及びTh2誘導のいずれとも異なる,T細胞へのIL-23の作用によって生じるIL-17の産生を阻害するものであるから,T細胞によるIL-17産生の阻害は,従来から知られていたTh1誘導によるT細胞刺激の阻害とは実質的に異なる。 (3) 審決の甲3発明の認定に誤りがないことは,前記(1)のとおりであるが,仮に,甲3には,甲3X発明も記載されているとしても,以下のとおり,本件特許発明が甲3に対し新規性を有するとの審決の結論に影響するものではない。 ア 甲3には,IL-23アンタゴニストによって,T細胞によるIL-17産生を阻害することは,何ら記載されていない。このように,甲3は,本件特許発明の技術思想を何ら開示していない。 甲3には,p40/IL-B30レセプターサブユニットのアンタゴニストを用いてTh1誘導を阻害することが一貫して記載されており,T細胞によるIL-17産生の阻害についてすら,何らの記載も示唆もない。 そうすると,この点だけでも,本件特許発明が甲3X発明と同一であるとはいえない。 イ 原告は,甲3X発明の「T細胞の処理による乾癬治療」と本件特許発明1の「T細胞によるインターロイキン17(IL-17)産生阻害」とは,用途として同一であり,甲3X発明と本件特許発明1との間に相違点はないと主張する。 しかし,前記1(3)イと同様の理由により,甲3X発明においてIL-17の産生が必ず阻害されるとはいえないし,また,仮に甲3X発明においてIL-17の産生が阻害されるとしても,本件優先日当時の当業者は,そのIL-17の産生阻害がIL-23アンタゴニストによるものであることを把握できなかったから,そのことをもって本件特許発明の新規性を否定することはできない。 6 取消事由6(甲3に基づく進歩性判断の誤り)に対し 原告は,仮に,乾癬等の患者の中からIL-17濃度の上昇が発現した者を選択するステップを経ることが本件特許発明の用途の特徴であり,その点が甲3X発明との相違点であるとしても,この相違点は本件特許発明の進歩性を基礎付けるものではないと主張する。 しかし,前記1(3)オのとおり,本件特許発明は, 「乾癬等の患者の中からIL-17濃度の上昇が発現した者を選択するステップ」を構成要件又は発明特定事項とはしていない。 また,前記5(3)イのとおり,甲3X発明においてIL-17の産生が必ず阻害されるとはいえないし,仮に,甲3X発明においてIL-17産生の阻害が必ず生じるとしても,甲3に接した本件優先日当時の当業者は,甲3の記載からIL-23アンタゴニストがIL-17産生を阻害していることを,把握することはできない。 そうすると,本件優先日当時の当業者が,本件特許発明の技術思想を何ら開示していない甲3に基づいて,本件特許発明を容易に想到できたとはいえない。 7 取消事由7(明確性要件の判断の誤り)に対し 原告は,本件特許に係る特許請求の範囲の記載は,IL-17濃度の上昇が発現した者を選択するステップが必須であることについて,必ずしも明確に表現していないなどと主張する。 しかし,IL-23のアンタゴニストを含む組成物に係る本件特許発明の用途が,インビボにおいて,T細胞によるIL-17産生を阻害することであることは,本件特許の請求項1の記載から文言上明らかであり,本件特許発明は明確であるとの審決の判断に誤りはない。 また,前記1(3)オのとおり,本件特許発明は, 「乾癬等の患者の中からIL-17濃度の上昇が発現した者を選択するステップ」を構成要件又は発明特定事項とはしていない。 原告は,原出願特許の特許請求の範囲の請求項1を根拠として,本件特許発明における「IL-17発現レベルが上昇している対象の選択」が, 「健康な被験体と比較して,IL-17発現の上昇したレベルを有することが測定された疾患ないし患者を選択」することにより実現されるものと解することはできないなどと主張するが,本件特許発明は「IL-17発現レベルが上昇している対象の選択」を構成要件又は発明特定事項とするものではないことは,上記のとおりである上,いわゆる二重特許の禁止(特許法39条)と特許請求の範囲の明確性要件(同法36条6項2号)は趣旨が異なるから,二重特許の議論をもって明確性要件を満たさないとすることはできない。 8 取消事由8(サポート要件の判断の誤り)に対し (1) 原告は,本件特許発明の解決課題は,炎症性疾患の治療に利用できる医薬組成物を提供することにあるとみるべきである,また,本件特許発明の課題解決のためには,IL-17発現レベルが上昇している者のみを対象として選択できることも要すると解すべきであるなどと主張する。 しかし,本件特許発明の用途は,T細胞によるインターロイキン-17(IL-17)産生を阻害することであるから,審決認定のとおり,本件特許発明の課題は,「T細胞によるインターロイキン-17(IL-17)産生を阻害する」ことである。本件特許発明が「乾癬等の患者の中からIL-17濃度の上昇が発現した者を選択するステップ」を構成要件又は発明特定事項とはしていないことは,前記1(3)オのとおりである。 そして,本件明細書の実施例1(【0071】〜【0088】)及び【図2A】【図 ,2B】【図2C】【図4A】には,IL-23の添加によりT細胞によるIL-1 , ,7産生が促進されること,IL-23アンタゴニストによってIL-17の産生が阻害されたことが実証されており,実施例2(【0089】〜【0108】)及び【図12】には,IL-23ノックアウトマウスにおいて,IL-17産生が減衰していることが実証されているから,IL-23アンタゴニストによってIL-17産生が阻害可能であることが示されている。 したがって,本件特許発明がその課題を解決できることは,本件明細書の記載及び本件優先日当時の技術水準から当業者が認識できるものである。 (2) 原告は, 「IL-17発現の上昇したレベル」の技術的意味やその確認方法自体も,本件明細書において明確にされているとはいえないし,技術常識を考慮してもそれが明らかであるとはいえないと主張する。 しかし,本件優先日当時,当業者は,被験体のIL-17の発現レベルを測定することに何らの困難を伴うものではなく,また,健康な被験体におけるIL-17の発現レベルと比較して,ある被験体におけるIL-17の発現レベルが「上昇した」か否かを決定することも可能であった(甲10,11,17〜20)。このように,本件優先日当時,当業者は,IL-17の発現レベルが「上昇した」か否かを適宜決定することができたから,「IL-17濃度の上昇が発現した者を選択するステップ」を実施する場合に何らの困難を伴うものではない。 また,原告は,ある患者のIL-17発現レベルが,健康な被験体群の「平均値」と比較すれば上昇していたとしても,その患者よりも高いIL-17発現レベルを示す健康な被験体が相当数存在し得るから,それにもかかわらず,本件特許発明に係る患者のIL-17発現レベルが,健康な被験体のレベルと比較して上昇しているといえるのかどうかが明らかではないなどと主張するが,健康な被験体の平均値よりも高いIL-17発現レベルを有する患者は,IL-17発現レベルが「上昇」したというべきである。健康な被験体の母集団に含まれる,何らかの理由で例外的にIL-17の発現レベルが高い者を判定の基準とすべきではない。 さらに,原告は,健康な被験体のIL-17発現レベルが,健康な被験体群の「平均値」でないとすると,本件特許発明に係る患者群は,健康な被験体群における「最低レベル」と比較して,IL-17レベルの上昇を有する患者群のことを意味しているのかどうかも不明であるなどと主張するが,健康な被験体群の最低レベルと比較することなどあるはずがない。 9 取消事由9(実施可能要件の判断の誤り)に対し (1) 本件明細書の記載が実施可能要件を満たすためには,本件明細書の記載に基づいて本件特許発明に係る組成物を作製可能であることが必要であるが,本件明細書にはIL-23及びそのアンタゴニストの調製について十分に記載されているし,IL-23自体は本件優先日前に周知であり,そのアンタゴニストを作製することも本件優先日当時の技術水準であったから,本件優先日当時の当業者にとって本件明細書の記載に基づいて本件特許発明に係る組成物を作製することは可能である。 また,本件明細書の記載が実施可能要件を満たすためには,本件明細書の記載に基づいて本件特許発明に係る組成物をT細胞によるIL-17の産生阻害に使用可能であることが必要であるが,前記8(1)のとおり,この点についても,本件明細書に示されている。 したがって,本件明細書の記載が実施可能要件を満たすとの審決の判断に,誤りはない。 (2) 原告は,本件特許発明1において, 「IL-17発現レベルが上昇している者のみを対象として選択」するステップを必然的に伴うとみるべき「T細胞によるインターロイキン-17(IL-17)産生を阻害するためのインビボ処理方法」につき,当業者に期待し得る程度を超える試行錯誤が要求されることは明らかであるなどと主張する。 しかし,前記1(3)オのとおり,本件特許発明は, 「IL-17発現レベルが上昇している者のみを対象として選択するステップ」を構成要件又は発明特定事項とはしていない。 (3) 原告は,本件特許発明に係る組成物が,炎症性疾患の治療のためのものであるとしても,本件出願日当時の技術常識から,生体内でT細胞によるIL-17産生を阻害することにより治療可能と認識できたのは,せいぜい,慢性関節リウマチや対宿主性移植片反応程度であって,それ以外の炎症性疾患が治療できることは,本件明細書の記載を参酌しても理解することはできないなどと主張する。 しかし,本件特許発明は,「T細胞によるインターロイキン-17(IL-17)産生を阻害する」ためのものであるから,原告の主張は前提を欠く。 |
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当裁判所の判断
1 本件特許発明について (1) 本件明細書には,以下の記載がある。 ア 技術分野【0001】(発明の背景)(発明の分野) 本発明は,インターロイキン23(IL-23)のアンタゴニストを用いた,炎症誘発性サイトカインであるインターロイキン17(IL-17)のT細胞による産生の抑制に関係する。さらに本発明は,IL-17濃度の上昇がみられることを特徴とする炎症性疾患の治療において,IL-23アンタゴニストを使用することに関係する。 イ 背景技術【0002】(関連技術の説明) IL-17はT細胞由来の炎症誘発分子であり,上皮細胞及び内皮細胞,線維芽細胞性細胞を刺激して,IL-6,IL-8,G-CSF,MCP-1等他の炎症性サイトカイン及びケモカインを産出させる(S.Aggarwal,A.L.Gurney,J Leukoc Biol71,1(2002)〔判決注・本件甲10〕;・・・)。 【0003】 またIL-17は,TNF-α及びIL-1βを含む他のサイトカインと共同して作用し,さらにケモカインの発現を誘導する(・・・)。慢性関節リウマチ-(RA)の滑膜(・・・及び M.Chabaud et al.,Arthritis Rheum 42,963(1999)〔判決注・本件 甲 1 1 , 1 7 〕) 並 び に 同 種 異 系 移 植 拒 絶 反 応 中 ( ・ ・ ・ ;H.G.Hsieh,C.C.Loong,W.Y.Lui,A.Chen,C.Y.Lin,Transpl Int 14,287(2001)〔判決注・本件甲19〕,多発性硬化症を含む他の慢性炎症疾患(・・・) ) ,乾癬(C.Albanesi et al.,JInvest Dermatol 115,81(2000)及び B.Homey et al.,J Immunol 164,6621(2000))で,IL-17の濃度が著しく上昇することが認められている。活性化T細胞によって産出されることは明らかであるが,これまでの報告類ではTh1並びにTh2偏向サイトカインプロファイルの範例内におけるIL-17の明確な分類は提供されていない。 【0004】IL-23はヘテロ二量体のサイトカインであり,インターロイキン12(IL-12)と共通するp40と名付けられているサブユニットがp19という独自のサブユニットと結合している(B.Oppmann et al.,Imuunity 13,715(2000)〔判決注・本件甲7〕。IL-23はT細胞,特に記憶T細胞の増殖を促進することが報告されて )いる(・・・)。最近p19形質転換マウスが深部全身性炎症及び好中球増加症を示すと報告されている(・・・)。 IL-17並びにIL-23サイトカインの発現と生物学的役割との関連性はこれまでのところ確立されていない。 ウ 発明が解決しようとする課題【0006】(発明の概要) 一側面では,本発明はT細胞によるインターロイキン17(IL-17)産生を抑制する方法に関するものであり,この方法にはインターロイキン23(IL-23)のアンタゴニストでT細胞を処理することが含まれる。 エ 課題を解決するための手段【0007】 別の側面では本発明は,哺乳類被験体における,インターロイキン(IL-17)の発現の上昇を特徴とする炎症性疾患の治療のための方法に関するものであり,この方法にはインターロイキン23(IL-23)のアンタゴニストを有効量哺乳類被験体に投与することが含まれる。 【0008】 また別の側面では,本発明は以下の過程から成る抗炎症剤同定のための方法に関するものである:(a)T細胞にIL-23を加え,候補薬の有る無しで培養する;(b)培養物中のIL-17濃度を追跡測定する;(c)当該候補薬分子が存在しない場合よりも存在する場合の方がIL-17の濃度が低ければ,候補薬分子が抗炎症剤であると確認される。 【0009】 さらに別の側面で本発明は,哺乳類被験体内でIL-17産生を誘導するための方法に関するものであり,この方法には前記被験体にIL-23アンタゴニストを投与することが含まれる。すべての側面において,望ましいアンタゴニストあるいはアゴニストは抗IL-23抗体もしくは抗IL-23受容体抗体であり,これには抗体フラグメントが含まれる。望ましい炎症性疾患は,例えばリウマチ様関節炎(RA) 異系移植拒絶反応を引き起こす恐れのある移植片対宿主反応, , 多発性硬化症(MS),乾癬等の慢性炎症状態である。IL-17産生の誘導は一般的に,例えばMycobacterium tuberculosisの感染等,細菌感染を被った被験体に有用である。 オ 発明を実施するための形態【0011】(好ましい実施形態の詳細)(A.定義) 他に定義されていない限り,ここで使用されている科学技術用語は,本発明が属する分野の普通の技術者によって一般に理解されているものと同じ意味を持つ。 ・ ・・本発明の目的のため以下の用語を下記に定義する。 【0012】 「アンタゴニスト」はこの明細書では最も広い意味で使用されている。IL-23「アンタゴニスト」は分子であり,作用の基となるメカニズムを問わず,部分的にあるいは完全にIL-23の生物学的活性を遮断あるいは抑制,中和,防御,干渉するものである。本発明の目的のため,生物学的活性とは望ましくは活性化T細胞においてIL-17産生を誘導する活性である。例えばIL-23アンタゴニストは,活性化T細胞(例えば記憶T細胞)集団において,IL-23を介するIL-17産生を抑制あるいは遮断,転換する活性に基づいて同定される。例えば,培養活性化T細胞にIL-23を加えて試験化合物の有る無しで培養し,細胞培養物上清のIL-17濃度を,例えばELISAによって,追跡測定することができる。 試験化合物が無い場合よりも有る場合の方がIL-17濃度が低ければ,その試験化合物はIL-23アンタゴニストである。他の方法として,試験化合物による処理前後にリアルタイムRT-PCRを用いて組織中のIL-17mRNAの発現並びにIL-23mRNAの発現を測定することもできる。試験化合物存在下でIL-17mRNAが減少すれば,その化合物はIL-23アンタゴニストである。IL-23アンタゴニストの例には天然シーケンスのIL-23ポリペプチドサブユニット(例えばp40サブユニット)に対する中和抗体,免疫グロブリン定常部シーケンスと融合するIL-23サブユニットから成る免疫付着因子,小分子,天然シーケンスのIL-23ポリペプチドのサブユニットをコードする遺伝子の翻訳と転写の両方あるいは一方を抑制する作用のあるアンチセンスオリゴヌクレオチド,例えばIL-23遺伝子の遺伝的おとり等のおとり,その他が含まれるがこれらに限定されない。同様にIL-23アンタゴニストには例えばIL-12Rβ1あるいはIL-23R等の天然IL-23受容体のサブユニットに対する中和抗体,免疫グロブリン定常部シーケンスと融合するIL-23受容体サブユニットから成る免疫付着因子,小分子,天然シーケンスのIL-23受容体ポリペプチドのサブユニットをコードする遺伝子の翻訳と転写の両方あるいは一方を抑制することのできるアンチセンスオリゴヌクレオチド,例えばIL-23受容体遺伝子の遺伝的おとり等のおとり,その他が含まれるがこれらに限定されない。 【0017】 この明細書で使用されている「炎症性疾患」あるいは「炎症性疾病」という用語は,炎症を引き起こす病理学的状態を指し,この状態は典型的には好中球の化学走性によって引き起こされる。当該疾患の例には,乾癬並びに皮膚炎を含む炎症性皮膚疾患,汎発性強皮症及び全身性硬化症,炎症性腸炎(IBD)に伴う反応(クローン病並びに潰瘍性大腸炎等) 外科的組織再潅流による損傷並びに心筋梗塞, , 心停止,心臓手術後の再潅流,経皮経管冠動脈形成手術後の狭窄等の心筋虚血状態,並びに卒中並びに腹部大動脈瘤を含む虚血性再潅流疾患,卒中に続発する脳水腫,頭蓋外傷,血液量減少ショック,仮死,成人呼吸窮迫症候群 急性肺損傷,ベーチェット病,皮膚筋炎,多発性筋炎,多発性硬化症(MS),皮膚炎,髄膜炎,脳炎,ブドウ膜炎,変形性関節炎,ループス腎炎,リウマチ様関節炎(RA)等の自己免疫疾患,シェーグレン症候群(Sjorgen’s syndrome),血管炎,白血球の血管外漏出を伴う疾患,中枢神経系(CNS)炎症疾患,敗血症あるいは外傷に続発する多臓器損傷症候群,アルコール性肝炎,細菌性肺炎,腎炎を含む抗原抗体複合体媒介疾患,敗血症,サルコイドーシス,組織・臓器移植に対する免疫異常反応,並びに胸膜炎並びに肺胞炎,脈管炎,肺炎,慢性気管支炎,気管支拡張症,びまん性汎細気管支炎,過敏性肺炎,特発性肺線維症(IPF),嚢胞性線維症を含む肺の炎症,その他が含まれる。望ましい適用には,慢性炎症,自己免疫性糖尿病,リウマチ様関節炎(RA),リウマチ性脊椎炎,痛風性関節炎等の関節炎症状態,多発性硬化症(MS),喘息,全身性エリテマトーデス(systhemic lupus erythrenatisys),成人呼吸窮迫症候群,ベーチェット病,乾癬,慢性肺炎症性疾患,対宿主性移植片疾患,クローン病,潰瘍性大腸炎,炎症性腸疾患(IBD),アルツハイマー病,発熱が含まれ,さらに炎症が関係するあらゆる疾患・疾病および関連する異常状態が含まれるがこれらに限定されない。 【0025】(B.発明を実施するための形態) 本発明を実施するには,他に指定のない限り,分子生物学(組換え技術を含む。, )微生物学及び細胞生物学,生化学,免疫学の通常の手法を使用することとなり,これらは当分野の技術の範囲内である。・・・【0026】 ・・・本発明は活性化T細胞,特に記憶T細胞において,IL-23がIL-17を産生し,IL-23アンタゴニストがこの過程を抑制するこが〔判決注・ 「抑制することが」の誤記と認める。〕できるという認識に基づくものである。従って,IL-23アンタゴニストはIL-17濃度の上昇を特徴とする炎症状態を治療するための有望な候補薬である。逆にIL-23アゴニストは,例えばMycobacterium tuberculosis(M.tuberculosis)感染等のマイコバクテリア感染を含む多様な感染に対する防御免疫反応を誘導するのに有用である。 【0027】(1.IL-23のアンタゴニストあるいはアゴニストを同定するためのスクリーニングアッセイ) 本発明はIL-23のアンタゴニストを同定するためのスクリーニングアッセイを含み,このアッセイではIL-17濃度の上昇がみられることを特徴とする炎症状態の治療における有効性を確認する。さらに本発明はIL-23アゴニストを同定するためのスクリーニングアッセイを含み,このアッセイではMycobacterium tuberculosis による感染等感染に対する防御免疫反応の促進における有効性を確認する。 【0028】 候補アンタゴニストに対するスクリーニングアッセイは,IL-23(これのサブユニットあるいはフラグメントを含む。 もしくはIL-23受容体 ) (これのサブユニットあるいはフラグメントを含む。 と結合するもしくは化合する, ) さもなくは〔判決注・「さもなくば」の誤記と認める。〕IL-23と他の細胞性タンパク質との相互作用を干渉し,これによってIL-23の産生あるいは機能を干渉する化合物同定を目的として立案することができる。この明細書で提供されるスクリーニングアッセイには,化学薬品ライブラリーのハイスループットスクリーニングに基づいたアッセイが含まれ,これによってアッセイが特に小分子候補薬の同定に適するようになる。一般には結合分析と活性分析とが提供される。 【0030】 アンタゴニスト並びにアゴニストに対するあらゆるアッセイは,候補薬にIL-23ポリペプチドあるいはIL-23受容体ポリペプチドあるいは当該ポリペプチド(特にIL-23及びIL-23受容体のサブユニットを含む。 のフラグメント )に,二つの成分が相互作用することができる条件下で十分な時間接触することを必要とする点で共通している。例えばヒトIL-23p19サブユニットはアミノ酸189個のポリペプチドであり,そのアミノ酸配列はAccession Number(受け入れ番号)AF301620(NCBI 605580;GenBank AF301620;上記Oppmanet al.)でEMBLデータベースか ,ら知ることができる。IL-23ポリペプチドであるp40サブユニットのアミノ酸配列も判明している(IL-12p40サブユニットとしても知られる。。IL )-23が結合するIL-12Rβ1のアミノ酸配列はAccession Number NCBI 601604で知ることができる。抗体あるいは当該ポリペプチドに結合する小分子の作製は,当業者の通常技術の範囲に十分収まる。 【0033】 IL-23と他の細胞内並びに細胞外成分,特にIL-17との相互作用を干渉する化合物は,以下のように試験することができる。通常,IL-23と細胞内もしくは細胞外成分(例えばIL-17)とを含む反応混合物を,これらの二つの物が相互作用できる条件下で十分な時間調製する。候補化合物がIL-23とIL-17との相互作用を抑制する作用を調べるために,試験候補化合物の存在が有る無しで,反応を進める。加えて,第三の混合物に儀薬を加えて陽性コントロールとすることもできる。IL-23はIL-17産生を誘導することが示されており,試験化合物がIL-23とIL-17との相互作用を抑制する作用は,例えば,試験化合物の有る無しでIL-17量を測定することによって試験される。IL-17の量が,候補化合物が無い場合の方が有る場合よりも少なければ,本発明の定義によりその候補化合物はIL-23のアンタゴニストである。 【0034】 IL-23によるIL-17産生誘導を抑制する作用に基づいて同定されたIL-23アンタゴニストは,IL-17濃度の上昇がみられることを特徴とする炎症状態の治療のための候補薬である。 【0037】(2.抗IL-23抗体と抗IL-23受容体抗体) 特定の実施例において,IL-23アンタゴニストあるいはアゴニストはIL-23(例えばIL-23のサブユニット)に対するモノクローナル抗体であり,これには抗体フラグメントが含まれる。別の特定の実施例では,IL-23アンタゴニスト並びにアゴニストにはIL-23受容体(例えばIL-23受容体のサブユニット)に対するモノクローナル抗体が含まれる。そのサブユニットを含め,IL-23についてはこの明細の前記に記述している。IL-23受容体はIL-12Rβ1及び,最近発見されたIL-23Rと名付けられたサブユニット(・・・)の,2つのサブユニットから構成される。いずれのサブユニットに対する抗体も,本発明の範囲に明確に収まる。アンタゴニストの場合,IL-23Rに特異的に結合する抗体はIL-23が介する生物学的活性を特異的に遮断するため,IL-23Rに特異的に結合する抗体が特に望ましい。 【0046】 さらに本発明の抗IL-23抗体並びに抗IL-23受容体抗体はヒト化抗体あるいはヒト抗体であることができる。非ヒト(例えばマウス)抗体のヒト化形態はキメラ免疫グロブリン,もしくはこれの免疫グロブリン鎖,あるいはそのフラグメント(Fv,Fab,Fab’,F(ab’,その他の抗原結合サブシーケンス等) )であり,これらは非ヒト免疫グロブリン由来の最小のシーケンスを含む。・・・【0054】(3.標的となる疾患) IL-17はリウマチ様関節炎(RA)を含む様々な炎症性疾患に関係している。 RAの基本的な特徴の一つは,関節周囲の骨の侵食である。骨吸収では破骨細胞が鍵となる役割を果たしているが,破骨細胞が前駆細胞から形成されるメカニズムは完全には理解されていない。最近 Kotake et al.,(J.Clin.Invest.103:1345(1999))は,マウス造血細胞と1次骨芽細胞との共培養物において,インターロイキン17(IL-17)が破骨細胞様の細胞の形成を誘導する可能性がみられたことを報告している。このIL-17に誘導される破骨細胞形成は,シクロオキシゲナーゼ2(COX-2)の選択的阻害剤であるインドメタシンによって抑制されることが示されている。RA患者の滑液には,変形性関節症患者と比較して著しく高濃度のIL-17が含まれることが認められている。さらに免疫染色を用いて,RA患者の滑液膜組織にてIL-17陽性単核細胞が検出されたが,OA患者の組織からは検出されなかった。これらの結果は,RA患者ではIL-17が骨侵食と関節の損傷に寄与している可能性があり,抑制のための標的となり得ることを示唆すると解釈されている。 【0055】 また,ベーチェット病患者でも健康な被験者と比較して,IL-17の血清濃度の著しい上昇がみられる。・・・【0056】 IL-17濃度の上昇は喘息患者気道内でも見受けられ,これはIL-17がアルファ-ケモカイン等他の炎症誘発性化学伝達物質の放出を通じて炎症反応を増幅している可能性のあることを示唆している。・・・【0057】 IL-17濃度の上昇は,全身性エリテマトーデス患者で報告されている。 ・・・【0058】 I L - 1 7 は 乾 癬 に 関 係 し て い る と 記 載 さ れ て い る 。 Homey etal.,J.Immunol.164(12):6621-6632(2000)。 【0059】 多発性硬化症において血液及びCSF単核細胞で,IL-17mRNAが増加していることが報告されている。・・・【0060】 これらの報告及び多数の同様の報告に基づくと,IL-23がIL-17を産生する作用を抑制してその結果IL-17濃度を減少させるIL-23アンタゴニストは,様々な(慢性)炎症状態並びに炎症疾患の治療の有益な候補である。当該状態並びに疾患には,慢性炎症,自己免疫糖尿病,リウマチ様関節炎(RA),リウマチ様脊椎炎,痛風性関節炎並びに他の関節炎状態,多発性硬化症(MS),喘息,全身性紅斑性狼瘡(systhemic lupus erythrematosus),成人呼吸窮迫症候群,ベーチェット病,乾癬,慢性肺炎症疾患,移植片対宿主反応,クローン病,潰瘍性大腸炎,炎症性腸疾患(IBD),アルツハイマー病,発熱が含まれるがこれらに限定されない。 【0062】(4.薬学的組成物) IL-23あるいはIL-23受容体に特異的に結合する抗体は,この明細の前記で記載されているスクリーニングアッセイによって同定された他のIL-23アンタゴニスト分子あるいはアゴニスト分子も同様に,特に炎症性疾患あるいは細胞性免疫反応の誘導による疾患等様々な疾患の治療のために薬学的組成物の形態で投与することができる。 カ 実施例【0071】(実施例1) インターロイキン23(IL-23)は,インターロイキン17(IL-17)の産生を特徴とする,第三のCD4 T細胞活性化状態を促進する。 【0072】 活性化T細胞によって産生することは明らかであるが,従来の報告ではTh1並びにTh2偏向サイトカインプロファイルの例証内でIL-17の明確な分類は提供されていない。この実施例にて記載される最初の実験の目的は,IL-17がTh1あるいはTh2応答に伴うシグナルとは異なるシグナルに応答して発現している可能性を調べることであった。 【0079】 マウスIL-23構成成分は,ヒト胚性腎細胞(細胞数293)中でC末端His標識p19とFlag標識p40と共発現させて作製し,分泌されたタンパク質をニッケルアフィニティ樹脂を使用して精製した。内毒素は0. EU/μg以下 2であり,検出されなかった。培養脾細胞にIL-2(100U/ml)とConA(2.5μg/ml)を加え,Th1誘導条件(IL-12 + 抗IL-4)下,あるいはTh2誘導条件(IL-4 + 抗IFN-γ)下,あるいは精製IL-23(100ng/ml)存在下で3〜4日間培養した。その後培養物を洗浄し,ConAでさらに24時間再刺激した。様々なサイトカイン濃度をELISAを使用して測定した。ELISAの標準曲線範囲の最低稀釈に満たない濃度は, 「検出不能(N. ) と記録した。 D.」 以下は,別々に実施した3回の実験結果の典型例である。 【0080】 IL-12刺激Th1誘導条件下で培養した脾細胞によるIL-17産生は明確なものではなかった。一方Th2誘導条件下では,コントロールと比較してIL-17の増加はなかった。結果は以下にある表1に示す。 【0081】【表1】 IL-23を加えた培養物では,投与量に応じて高濃度のIL-17産生がみられた(図2)。またIL-23では,Th1誘導条件下で観察されたものよりも高い濃度のGM-CSFがみられた。対照的に,IFN-γ濃度は,Th1誘導条件下で観察されたものよりも著しく低かった。TNF-α濃度はTh1条件と同程度であった。IL-12p40単独ではIL-17産生がみられなかった(データは示していない。。IL-23はIL-17mRNA濃度の上昇を促進した(図2B) ) 。 IL-17mRNA濃度はIL-23を暴露した6時間のあいだに数百倍増加し,IL-23が存在し続けると高い濃度が維持された。この効果は抗IL-17抗体の存在によって抑制されなかった。これは,IL-17自体はこのプロセスに関与していないことを示唆している(データは示していない。。さらに,最近IL-1 )7群の一員と同定されたIL-17FのmRNAも,IL-23に応答して上方制御されたことが認められた(図2C)。 【図2A】【0083】 IL-23が介在するIL-17産生は,IL-23と共通するp40と相互作用する,IL-12の中和抗体の存在によって完全に遮断された(図4A左側)。無関係の抗体存在下でIL-17産生が変化しなかったことから,この効果は抗体提示細胞上のFc受容体が連結したことが原因ではない。また,この抗体は,LPS活性化樹状細胞の馴化培地に応答して観察されるIL-17の産生を50%以上抑制した(図4A右側)。IL-12p40欠損マウス(系:B6.129S1-IL12btmlJm)の培養脾細胞で,野生型マウスあるいはIL-12p35欠損マウス(系:B6.129S1-IL12atmlJm)と比較して,ConA刺激に応答するIL-17産生の著しい減少が見られた(図4B)。但し,全くなくなったわけではない。 【図4A】【0086】(考察) まとめると,これらのデータはエフェクターサイトカインとしてIL-17を発現する,第三のT細胞活性化状態の促進におけるIL-23の役割を示唆している。 Th1及びTh2系は体液性免疫反応に対して細胞性免疫を促進するものとして記載されている。これらの反応によって,それぞれ細胞内外の病原体に対する重要な防御が提供され,これらの反応のうちの一方でも欠損すると特定の病原体に対する感染性が上昇する。対照的にIL-23は,本質的に先天性免疫反応の媒介体として機能すると考えられている細胞に大きく依存することを特徴とする病原体に対する適応免疫反応を促進する。IL-17はこの反応の主要なエフェクターサイトカインとして,ケモカイン産生を誘導して単球及び好中球のより迅速な動員を促進することができる。さらに,IL-23に応答して高濃度のGM-CSFが観察されたことは,骨髄細胞が増産されたことを支持する。これはさらにIL-17刺激間質細胞からG-CSFが産生することによって増強される。しかしながら,IL-17がIL-17によるICAM誘導を促進し,その結果続いて起こるT細胞応答の重要な共同誘導を提供することがわかっていることから,この適応反応の特性は骨髄系反応の食細胞に排他的に依存するものではない。 【0088】 多数の重篤な炎症性疾患にIL-17の発現が伴うことは,当該疾患の治療においてIL-23アンタゴニストが有望な候補薬と成りうることを示唆している。 【0089】(実施例2)(インターロイキン23(IL-23)欠損マウス) インビボでIL-23とIL-17の関係をさらに調べるため,IL-23欠損マウス表現型をIL-17欠損マウスの表現型と比較した。 【0105】 IL-23p19-/-樹状細胞がT細胞を刺激する能力。IL-23p19 -/-マウスにみられる異常がIL-23欠損抗原提示細胞による有効性のないT細胞初回抗原刺激によるものである可能性を除外するため,我々は次にIL-23p19-/- DCがbalb/cマウスの脾臓から単離したアロタイプ未刺激CD4 +T細胞を刺激する能力を調べた。DCがない状態で,これらのT細胞は増殖せず,検出できる量のサイトカインの分泌もなかった(図12A) それぞれの遺伝子型にDC 。 を加えると,両遺伝子型とも強健に増殖し,IL-17を産生した。これまでにIL-23がIL-17の強力な誘導物質であることを示したので,我々は次に,強力なトール様受容体2アゴニストでありIL-23産生誘導物質である細菌性リポペプチドを用いてDCによるIL-23産生を誘導した。これらの条件下でwtDCはT細胞によるIL-17産生を強力に誘導し(図12A下) IL-23p19 ,-/- DCで刺激されたT細胞によるIL-17産生量は著しく少なかった。これらの実験結果をより生理学的な条件下で確認するために,我々は次に8個体のマウスからなるグループを完全フロイントアジュバント(CFA)に加えたキーホール リンペットヘモシニアン(KLH)で免疫し,インビボでT細胞反応を誘発させた。 5日後に流入領域リンパ節(LNC)を採取してインビトロにてKLHで再刺激した。これもまた,IL-23p19 -/-マウスから採取したLNCによるIL-17産生量は著しく少ないことが認められた(図12B下) LNC増殖は双方の遺伝 。 子型で同程度であり(図12B下),これはwtマウスとIL-23p19 -/-マウスの双方とも抗原に対する強健なT細胞応答を上昇させていることを示している。 要するに,IL-23欠損によって樹状細胞の誘発的能力が著しく損なわれているのではなく,T細胞によるIL-17産生が減衰している。 【図12】【0106】(考察) IL-23p19欠損マウスを用いて,IL-23のインビボでの非重複性機能を分析し,IL-23の欠損が,体液性免疫反応やDTH反応等のT細胞依存的免疫反応を減衰することを見出した。 【0107】 体液性免疫反応の著しい減衰がIL-23p19 -/-マウスでみられ,全ての免疫グロブリンアイソタイプに影響を与えていた。同時にIL-12p40 -/-マウスの反応も,同程度かあるいはやや高い程度に抑制された。これらの結果はIL-23が有効な体液性免疫反応に絶対的に必要であるという結論を支持するものであるが,一方,IL-12p35 -/-マウスを使用してIL-12が存在しない状態での正常な体液反応にIL-23が必要十分なものであるか否かは,今後判定すべきで点である。 【0108】 まとめると,IL-23p19-/-マウスでは,DHT〔判決注・ 「DTH」の誤記と認める。 の抑制及び体液性免疫反応で生じる, 〕 インビボT細胞応答が減衰しており,表現型的にはIL-17欠損マウスと類似する。我々の結果は,IL-23もしくはそのアゴニストの臨床的投与が,免疫処方において,並びに免疫無防備状態にある患者において,T細胞機能を支えるのに有益である可能性を示している。 (2) 前記(1)によると,本件特許発明について,次のとおり認めることができる。 ア 本件特許発明は,インターロイキン-23(以下,IL-23」 「 という。)のアンタゴニストを用いた,炎症誘発性サイトカインであるインターロイキン-17(以下,「IL-17」という。)のT細胞による産生の抑制,さらには,IL-17濃度の上昇を特徴とする炎症性疾患の治療において,IL-23アンタゴニストを使用することに関するものである。 IL-23は,ヘテロ二量体のサイトカインであり,IL-12と共通するp40と名付けられるサブユニットが,p19という独自のサブユニットと結合している。各サブユニットのアミノ酸の配列は判明している。 IL-17及びIL-23サイトカインの発現と生物学的役割との関連性は確立されていない。 (【0001】【0004】【0030】 , , ) イ 本件特許発明は,活性化T細胞,特に記憶T細胞において,IL-23がIL-17を産生し,IL-23アンタゴニストがこの過程を抑制することができるという認識に基づくものである。したがって,IL-23アンタゴニストは,IL-17濃度の上昇を特徴とする炎症状態を治療するための有望な候補薬である。 (【0026】【0034】【0088】 , , ) ウ 候補アンタゴニストに対するスクリーニングアッセイは,候補薬と,IL-23ポリペプチド若しくはIL-23受容体ポリペプチド又は当該ポリペプチド(特にIL-23及びIL-23受容体のサブユニットを含む。 のフラグメント )との,二つの成分が相互作用することができる条件下で,十分な時間接触することを必要とする。 IL-23は,IL-17産生を誘導することが示されており,試験化合物がIL-23とIL-17との相互作用を抑制する作用は,例えば,試験化合物がある場合とない場合とのIL-17の量を測定することによって試験される。IL-17の量が,候補化合物がない場合の方がある場合よりも少なければ,本件特許発明の定義によりその候補化合物はIL-23のアンタゴニストである。 (【0027】【0028】【0030】【0033】 , , , ) エ IL-23受容体は,IL-12Rβ1と,最近発見されたIL-23Rと名付けられたサブユニットとの二つのサブユニットから構成される。いずれのサブユニットに対する抗体も,本件特許発明の範囲に含まれる。アンタゴニストの場合,IL-23Rに特異的に結合する抗体は,IL-23が介する生物学的活性を特異的に遮断するため,特に望ましい。 本件特許発明の抗IL-23抗体並びに抗IL-23受容体抗体は,ヒト化抗体又はヒト抗体でもよい。非ヒト(例えばマウス)抗体のヒト化形態は,キメラ免疫グロブリン,これの免疫グロブリン鎖又はそのフラグメントであり,これらは非ヒト免疫グロブリン由来の最小のシーケンスを含む。 (【0037】【0046】 , ) オ IL-17は,リウマチ様関節炎(RA)を含む様々な炎症性疾患に関係しており,それらの疾患においてIL-17濃度の著しい上昇が見られる。 乾癬において,IL-17の濃度が著しく上昇することが認められており,IL-17は,乾癬に関係していると文献に記載されている。 IL-23がIL-17を産生する作用を抑制してその結果IL-17濃度を減少させる,IL-23アンタゴニストは,様々な(慢性)炎症状態及び炎症疾患の治療の有益な候補である。当該状態及び疾患には,慢性炎症,自己免疫糖尿病,リウマチ様関節炎(RA),リウマチ様脊椎炎,痛風性関節炎及び他の関節炎状態,多発性硬化症(MS),喘息,全身性紅斑性狼瘡,成人呼吸窮迫症候群,ベーチェット病,乾癬,慢性肺炎症疾患,移植片対宿主反応,クローン病,潰瘍性大腸炎,炎症性腸疾患(IBD) アルツハイマー病, , 発熱が含まれるが,これらに限定されない。 (【0003】【0054】〜【0060】 , ) カ IL-23又はIL-23受容体に特異的に結合する抗体は,特に炎症性疾患又は細胞性免疫反応の誘導による疾患等様々な疾患の治療のために薬学的組成物の形態で投与することができる。【0062】 ( ) キ IL-23を加えた培養物では,投与量に応じて高濃度のIL-17産生がみられた。IL-23が介在するIL-17の産生は,IL-23と共通するp40と相互作用する,中和抗体の存在によって完全に遮断された。 実験データは,エフェクターサイトカインとしてIL-17を発現する,Th1及びTh2系に続く第三のT細胞活性化状態の促進におけるIL-23の役割を示唆している。IL-23は,病原体に対する適応免疫反応を促進し,IL-17はこの反応の主要なエフェクターサイトカインとして,ケモカイン産生を誘導して単球及び好中球のより迅速な動員を促進する。 (【0081】【0083】【0086】 , , ) ク IL-23p19-/-DCで刺激されたT細胞によるIL-17産生量は著しく少なかった。また,IL-23p19 -/-マウスから採取した流入領域リンパ節(LNC)によるIL-17産生量は著しく少なかった。IL-23欠損によって,T細胞によるIL-17産生が減衰している。【0105】 ( ) 2 取消事由1(甲5に基づく新規性判断の誤り)について (1) 甲5の記載事項 甲5には,以下の記載がある(なお,甲5の対応日本出願の公表特許公報である甲6〔特表2002-542770号公報〕の対応段落番号を付記する。。 ) ア 請求項94〜96「94.ヒトIL-12活性を阻害するようにヒトIL-12と請求項44に記載の抗体とを接触させる工程を包含する,ヒトIL-12活性の阻害法。 95.ヒト対象におけるヒトIL-12活性が阻害されるようにヒト対象に請求項44に記載の抗体を投与する工程を包含する,IL-12活性が有害な障害を有するヒト被験体におけるヒトIL-12活性の阻害法。 96.前記障害が,慢性関節リウマチ,変形性関節炎,若年型慢性関節炎,ライム関節炎,乾癬性関節炎,反応性関節炎,脊椎関節症,強直性脊椎炎,全身性紅斑性狼瘡,クローン病,潰瘍性大腸炎,炎症性腸疾患,多発性硬化症,インスリン依存性糖尿病,甲状腺炎,喘息,アレルギー性疾患,乾癬,皮膚炎,強皮症,甲状腺炎,移植片対宿主疾患,臓器移植拒絶,臓器移植に関連する急性もしくは慢性免疫疾患,サルコイドーシス,アテローム性動脈硬化症,血管内凝固症候群,川崎病,グレーブス病,ネフローゼ症候群,慢性疲労症候群,結節性多発性動脈炎,ヴェグナー肉芽腫症,ヘーノホーシェーンライン紫斑病,腎臓の微視的脈管炎,慢性滑動性肝炎,シェーグレン症候群,ブドウ膜炎,敗血症,敗血症性ショック,敗血症症候群,成人呼吸窮迫症候群,悪液質,感染症,寄生虫症,後天性免疫不全症候群,急性横断性脊髄炎,重症無筋力症,ハンチントン舞踏病,パーキンソン病,アルツハイマー病,脳卒中,原発性胆汁性肝硬変,線維性肺疾患,溶血性貧血,悪性腫瘍,心不全,および心筋梗塞からなる群から選択される,請求項95に記載の方法。」 イ 発明の背景「 機能的には,IL-12は,抗原特異的Tヘルパー型(Th1)と2型(Th2)リンパ球との間の平衡調節における中心的役割を果たす。Th1およびTh2細胞は,自己免疫疾患の発症および進行を支配し,IL-12はTh1-リンパ球分化および成熟の制御に重要である。Th1細胞によって放出されたサイトカインは炎症性であり,これにはインタフェロンγ(IFNγ),IL-2,およびリンホトキシン(LT)が含まれる。Th2細胞は,ヒトの炎症,アレルギー反応,および免疫抑制を促進するIL-4,IL-5,IL-6,IL-10およびIL-13を分泌する。 自己免疫疾患およびIFNγの炎症促進活動におけるTh1応答と一致して,IL-12は,慢性関節リウマチ(RA),多発性硬化症(MS),およびクローン病などの多数の自己免疫疾患および炎症疾患に関連する病理の主要な役割を果たし得る。(1頁24行〜2頁4行;甲6【0003】【0004】 」 , ) ウ 好ましい選択的変異誘発位置,接触位置および/または過変異位置に対する修飾「 当業者は,選択的変異誘発法が,当分野で知られている標準的な抗体操作技術において使用できることを認識している。例として,CDRグラフト化抗体,キメラ抗体,scFVフラグメント,全長抗体のFabフラグメント,および他の供給源(例えば,トランスジェニックマウス)に由来するヒト抗体が挙げられるが,これらに限定されない。(73頁15行〜19行;甲6【0189】 」 ) エ 薬学的組成物および薬学的投与「XT.薬学的組成物および薬学的投与 本発明の抗体および抗体の一部は,患者への投与に好適な薬学的組成物に配合することができる。典型的には,薬学的組成物は,本発明の抗体または抗体の一部と,薬学的に許容可能なキャリアとを含む。本明細書中で使用されている「薬学的に許容可能なキャリア」には,生理学的に適合し得る任意のすべての溶媒,分散媒体,コーティング剤,抗菌剤および抗真菌剤,等張剤および吸収遅延剤などが含まれる。 薬学的に許容可能なキャリアの例には,水,生理食塩水,リン酸塩緩衝化生理食塩水,デキストロース,グリセロール,エタノールなどの1つまたは2つ以上,ならびにそれらの組合せが含まれる。多くの場合,等張剤,例えば,糖類,マンニトールなどのポリアルコール,ソルビトールまたは塩化ナトリウムを組成物に含めることは好ましい。薬学的に許容可能なキャリアはさらに,抗体または抗体の一部の保存寿命または有効性を高める,湿潤化剤または乳化剤,保存剤または緩衝剤などの補助物質を微量含むことができる。(105頁1行〜16行;甲6【0266】 」 )「 インターロイキン12は,様々な免疫因子および炎症性因子を含む様々な疾患に伴う病理学において重要な役割を果たしている。このような疾患を下記に挙げるが,それらに限定されない:慢性関節リウマチ,・・・痛風,・・・,急性リウマチ熱,・・・および白斑」(108頁11行〜109頁32行;甲6【0274】) オ 実施例3:抗hIL-12抗体の機能的活性「T.新規IL-12分子への結合 p35サブユニットが新規p19分子で置換された代替的なIL-12ヘテロダイマーが記述されている。p19は,IL-6/IL-12ファミリーメンバーに関する3D相同性検索を用いて同定されたもので,活性化樹状細胞によって合成される。p19はp40に結合して,IL-12様活性を持つp19/p40ダイマーを形成するが,IFNγ誘導におけるp35/p40ヘテロダイマーほど強力ではない。p40だけを認識する抗体であるが,好ましくはp70分子(例えばJ695及びY61,実施例3H参照)に関連して,p35/p40分子とp19/p40分子の両方を中和することも予想される。」 (151頁22行〜29行;甲6【0363】) カ 実施例4:抗hIL-12抗体のin vivo活性「 J695はまた,マウスp35サブユニットをヒトIL-12p40サブユニットと結合した分子である,キメラIL012〔判決注・ 「キメラIL-12」の誤記と認める。〕で処置したマウスにおいてIFN-γの産生を予防する上でも有効であった。マウスでは生物学的に不活性なヒトIL-12と異なって,このキメラIL-12はIFN-γの誘導を含めてマウスにおいて生物学的機能を保持する。 さらに,ヒトp40サブユニットは,この分子がJ695によって結合され,中和されることを可能にする。(154頁20行〜155頁3行;甲6【0373】 」 ) キ 実施例7:マウスインターロイキン-12に対するラットモノクローナル抗体C17.15の特性と中和活性「 マウスIL-12の活性及び細胞表面レセプタへの結合を中和する上でのC17.15の観察された活性,ならびにマウスIL-12へのC17.15の結合の動態は,J695-rhIL-12相互作用についての同様の測定と相関する。これは,オン速度,オフ速度,Kd,IC50及びPHA芽細胞アッセイに基づくと,ラット抗マウスIL-12抗体CD17.15と抗ヒトIL-12抗体J695の作用機序がほとんど同じであることを示唆している。それ故,炎症と自己免疫疾患のマウスモデルにおいて,これらのモデル動物における疾患の初発と進行へのIL-12の遮断作用を検討するために,C17.15をJ696〔判決注・ 「J695」の誤記と認める。〕の相同抗体として使用した(実施例8参照)」 。(161頁14行〜22行;甲6【0389】) ク 実施例8:α-マウスIL-12抗体の投与によるマウスでの自己免疫又は炎症に基づく疾患の治療「 図4に示す結果は,関節炎スコアがC17.15処置マウスでは処置後50日目から初めて測定可能になったこと,そしてC17.15処置マウスで得られたピーク平均関節炎スコアはIgG処置マウスで測定されたものよりも少なくとも5倍低かったことを示している。これは,ラット抗マウスIL-12抗体C17.15がマウスにおいて膠原誘発関節炎の発現を予防したことを明らかにしている。(1 」62頁10行〜14行;甲6【0392】)「 C17.15モノクローナル抗IL-12を,総量0.1mg/マウス又は0.05mg/マウスを1日の間隔をおいて2回の分割用量で投与すると,結腸の消耗と肉眼的外観によって評価したとき,大腸炎の完全な逆転を導いた。さらに,この投与スケジュールは,固有層T細胞のIFN-γ産生及びマクロファージのIL-12産生の有意の下方調節を導き,後者はTNBS-大腸炎のない対照エタノール処置マウスで見られたレベルと同等であった。従って,TNBS大腸炎に関するマウスモデルへのC17.15の投与は用量依存的に疾患の進行を逆転した。」(163頁表12,同頁19行〜164頁3行;甲6【0396】)「 α-IL-12抗体は,自己抗原であるミエリン塩基性タンパク(・・・)で免疫したマウスにおいて急性EAEの発症を阻害し,発症後の疾患を抑制し,再発の重症度を低下させうることが認められた。 マウスにおけるα-IL-抗体〔判決注・「α-IL-12抗体」の誤記と認める。〕処置の有益な作用は,治療停止後2ヵ月以上持続した。また抗IL-12抗体が,養子免疫伝達による脳炎誘発性T細胞のレシピエントであるマウスにおいて疾患を抑制することも明らかにされた ・ 。(164頁24行〜31行;甲6 (・ ・) 」 【0398】【0399】 , ) ケ 実施例9:J695の臨床薬理「 J695投与の1週間後,被験者は,病巣の平坦化と板状鱗屑の減少を含めた皮膚状態の改善を報告した。J695の2回目の投与(5mg/kgTV)後まもなく,局所治療を全く行わずに,被験者の皮膚から乾癬病巣が完全に消失した。抗体の2回目の投与後,予想されたJ695のクリアランスに付随して,白色鱗屑でおおわれた紅斑性プラークが再発現した。(165頁18行〜23行;甲6【04 」02】) (2) 甲5に記載された発明の認定 ア 前記(1)によると,甲5には,ヒトp40サブユニットに結合して,このサブユニットを中和することができる「J695」と称される抗IL-12モノクローナル抗体が記載されている(前記(1)カ)。また,IL-12が関与する障害の例として,上記「J695」抗体を乾癬を罹患していた患者に投与した際に病巣が消失したことが記載されており(前記(1)ケ),さらに,上記抗体を哺乳動物被検体である患者に投与可能な組成物に配合することができることが記載されている(前記(1)エ)。 そして,上記「J695」抗体は,IL-12のp40サブユニットと結合することによって,p40サブユニットとT細胞における受容体との結合を阻害するものであるから,このようなp40サブユニットの中和は,IL-12のアンタゴニストとして,IL-12によるTh1誘導(T細胞の刺激)の阻害を行うものであり,「T細胞の処理」にほかならない。 したがって,甲5には,審決認定のとおり, 「T細胞を処理するための,p40サブユニットを中和することができる抗体を含む,哺乳動物被検体に投与される組成物。 の発明である甲5発明が記載されていると認められ, 」 審決の甲5発明の認定に誤りはない。 イ もっとも,前記アのとおり,甲5には,IL-12が関与する障害の例として,上記「J695」抗体を乾癬を罹患していた患者に投与した際に病巣が消失したことが記載されているから(前記(1)ケ),甲5には,このような用途が記載されていることを考慮した上で,本件特許発明1について新規性・進歩性の判断をすべきであるということはできる。 (3) 本件特許発明1との対比 ア 甲5発明の「p40サブユニットを中和することができる抗体」は,本件特許発明1の「インターロイキン-23(IL-23)のアンタゴニスト」に相当する(本件明細書【0012】。 ) また,甲5発明の「哺乳動物被検体に投与される」は,本件特許発明1の「インビボ処理方法において使用する」に相当する。 イ 本件特許発明1と甲5発明とは,審決認定のとおり,相違点5(本件特許発明1は,T細胞を処理するための組成物の用途が「T細胞によるインターロイキン-17(IL-17)産生を阻害する」ためであると特定されているのに対し,甲5発明にはそのような特定がない点)で相違する。 (4) 相違点の検討 ア 甲5発明には,T細胞を処理するための組成物の用途が, 「T細胞によるインターロイキン-17(IL-17)産生を阻害する」ためであるとの特定がないが,前記(2)アのとおり,甲5発明の「T細胞を処理する」とは,IL-12によるT細胞の処理,すなわちTh1誘導によるT細胞刺激を阻害することを指すものであって,甲5には,記載も示唆もされていない「T細胞によるインターロイキン-17(IL-17)産生を阻害する」ことを指すものではないことは明らかである。 他方,本件特許発明1におけるIL-23のアンタゴニストを含む組成物の用途は, 「T細胞によるインターロイキン-17(IL-17)産生を阻害するため」であるが,本件明細書(【0071】〜【0081】【0083】【表1】【図2A】 , , , ,【図4A】には, ) 従来から知られていたTh1誘導条件(IL-12+抗IL-4)下及びTh2誘導条件(IL-4+抗IFN-γ)下では,いずれもIL-17産生が増加しなかったのに対し,IL-23存在下ではIL-17産生が増加したことに加え,Th1誘導条件下に比べIFN-γ産生が著しく低かったこと,IL-23が介在するIL-17の産生は,IL-23のp40サブユニットの中和抗体によって遮断されたことが記載されている。 これらの記載によると,本件特許発明1における「T細胞によるインターロイキン-17(IL-17)産生を阻害するため」という用途は,IL-23によるT細胞の処理によってT細胞におけるIL-17の産生が増加するという知見に基づき,IL-23によるT細胞の処理により引き起こされるIL-17の産生を阻害することを用途とするものであり,上記知見は,従来から知られていたTh1誘導やTh2誘導によるT細胞刺激とは異なるものであると認められる。 したがって,本件特許発明1における「T細胞によるインターロイキン-17(IL-17)産生を阻害するため」という用途は,従来から知られていたTh1誘導によるT細胞刺激とは異なる,IL-23によるT細胞の処理により引き起こされるIL-17の産生を阻害することを用途とするものであるから,甲5発明の「T細胞を処理するため」とは明確に異なるものであり,相違点5は,実質的な相違点であると認められる。 イ 原告は,審決は,甲5発明の抗体含有組成物の用途を「T細胞を処理するため」と認定したにもかかわらず,本件特許発明1との対比においては,甲5発明の抗体含有組成物の用途が「Th1誘導によるT細胞刺激の阻害」に限定されるものとして,相違点5を認定しており,そもそも矛盾していると主張する。 しかし,甲5発明の抗体含有組成物の用途を「T細胞を処理するため」と認定したことにより,甲5発明の「T細胞を処理する」の意義を甲5の記載を離れて解釈してよいことになるものではないから,審決が,本件特許発明1との対比に当たり,甲5発明の「T細胞を処理する」の意義を甲5の記載に基づいて解釈することは正当であって,何らの誤りもない。 ウ 原告は,甲5X発明に係る抗体含有組成物の用途は, 「T細胞の処理による乾癬治療」であるが,乾癬患者について格別の限定又は選別をすることなく, 「T細胞の処理による乾癬治療」を実施すると,当然に, 「T細胞によるインターロイキン17(IL-17)産生阻害」も生じるから,甲5X発明の「T細胞の処理による乾癬治療」と本件特許発明1の「T細胞によるインターロイキン17(IL-17)産生阻害」とは,用途として同一であり,甲5X発明と本件特許発明1との間に相違点はないなどと主張する。この主張を,甲5発明について,甲5に記載されている用途も考慮して本件特許発明1の新規性を判断すべき旨の主張と解したとしても,次のとおり理由がない。 (ア) 前記アのとおり,本件特許発明1は,IL-23によるT細胞の処理によってT細胞におけるIL-17の産生が増加するという知見に基づいて,「IL-23のアンタゴニストを含む組成物」について「T細胞によるIL-17産生を阻害するための(インビボ処理方法において使用するための) という用途の限定を 」付したものであると認められるところ,慢性関節リウマチの患者であってもIL-17濃度の上昇がみられなかった者がいるように(甲17〔審判乙1〕,すべての )炎症性疾患においてIL-17濃度が上昇するものではないし,特定の炎症性疾患においてもすべての患者のIL-17濃度が上昇するものではないと認められるから,本件特許発明1の組成物を医薬品として利用する場合には,特にIL-17を標的として,その濃度の上昇が見られる患者に対して選択的に利用するものということができる。 (イ) 他方,前記(1)のとおり,甲5には,IL-23のアンタゴニストによりT細胞によるIL-17産生の阻害が可能であることは,記載も示唆もされていないから,甲5発明が, 「IL-23のアンタゴニストを含む組成物」を,T細胞によるIL-17産生を阻害するために,IL-17濃度の上昇が見られる患者に対して選択的に利用するものではないことは,明らかである。このことは,甲5発明の「IL-23のアンタゴニストを含む組成物」を乾癬治療のために使用することができるという甲5に記載されている用途を考慮しても,左右されるものではない。 (ウ) そうすると,本件特許発明1の「T細胞によるインターロイキン-17(IL-17)産生を阻害するため」という用途と,甲5発明の「T細胞を処理するため」という用途とは,明確に異なるものということができる。そして,このことは,本件優先日当時,IL-17の発現レベルを測定することが可能であったことによって左右されるものではない。 エ 原告は,本件特許発明は,せいぜい,IL-23アンタゴニストに備わった「T細胞によるIL-17産生を阻害する」という性質又は機序を明らかにして,これを説明する構成要件を付加したにすぎないから,甲5X発明と異なる新規な方法(用途)とはいえないなどと主張する。この主張を,甲5発明について,甲5に記載されている用途も考慮して本件特許発明1の新規性について判断すべき旨の主張と解したとしても,前記ウのとおり,本件特許発明1の「T細胞によるインターロイキン-17(IL-17)産生を阻害するため」という用途と,甲5発明の「T細胞を処理するため」という用途とは,明確に異なるのであるから,本件特許発明1の用途が,甲5発明の用途を新たに発見した作用機序で表現したにすぎないものとはいえないことは,明らかである。 オ 以上のとおり,本件特許発明1は,甲5発明ではない。 本件特許発明2〜10は,本件特許発明1を更に限定した発明であるから,同様に,甲5発明ではない。 よって,取消事由1は,理由がない。 3 取消事由3(甲1に基づく新規性判断の誤り)について (1) 甲1の記載事項 甲1には,以下の記載がある(なお,甲1の対応日本出願の公表特許公報である甲2〔特表2003-510038号公報〕の対応段落番号を付記する。。 ) ア 発明の要旨「 本発明は,部分的に,IL-B30(これはまた,本明細書中でIL-B30タンパク質といわれる)の生理学的役割,ならびに免疫応答における役割,の発見に基づく。特に,IL-B30の役割は,炎症,感染性疾患,造血の発達,およびウイルス感染に関係する経路において,説明されている。本発明は,特に,インターロイキン-B30(IL-B30)とのIL-12p40サブユニットの組み合わせを含む組成物およびそれらの生物学的活性に関する。これは,ポリペプチドまたは融合タンパク質の両方の核酸コードならびにそれらの産生および使用の方法を含む。本発明の核酸は,部分的に,本明細書中に開示される相補的DNA(cDNA)配列に対する相同性により,および/または機能的アッセイにより特徴付けられる。また,ポリペプチド,抗体,およびそれらの使用の方法(核酸発現方法を使用することを含む)も提供される。増殖因子依存性生理学または免疫応答の制御における調節または干渉の方法が,提供される。 本発明は,IL-12のp40サブユニットがまた,天然形態におけるIL-B30サイトカイン(以前に,例えば,USSN08/900,905および09/122,443において記載される)ともまた関連する発見に,部分的に基づく。 従って,2つのポリペプチドと一緒の同時発現が,機能的レセプター結合およびシグナリングを生じる。(3頁2行〜17行;甲2【0007】【0008】 」 , ) イ 好適な実施形態の詳細な説明 (ア) 抗体「 抗体は,例えば,レセプターに対する結合を立体的にブロックすることによる,アゴニスト性またはアンタゴニスト性であり得る。(22頁8行〜9行;甲2【0 」075】)「 さらに,抗体結合フラグメントを含む,本発明の抗体は,抗原に(例えば,生物学的応答を惹起し得るレセプターに)結合しそして機能的結合を阻害する強力なアンタゴニストであり得る。(22頁22行〜24行;甲2【0077】 」 ) (イ) 使用「 記憶活性化細胞のp40/IL-B30刺激は,付着分子を含む表現型変化を生じる。p40/IL-B30での刺激後,CD69Lは高度に発現され,そして,CD54は劇的に減少する。付着分子の発現におけるこれらの変化は,第1および第2のリンパ節のT/DC細胞リッチ領域に侵入する記憶細胞の調節を可能にし得る(例えば,高い内皮細静脈(HEV)を介して)。記憶細胞はまた,IL-12刺激に対して感受性となるように初回刺激される。従って,迅速なおよび高度なIFN産生が,抗原によるIL-12産生後すぐ後に続く。従って,p40/IL-B30は,応答速度を増加することによって,記憶細胞数を増加することによって,または,両方によって,記憶細胞による免疫応答を促進し得る。p40/IL-B30は,未処理の細胞に対してより効果を与えないかまたは全く与えないかで,記憶細胞について特異的な差次的な効果を有し得る。逆に,多数の慢性炎症状態において(例えば,関節炎リウマチ,慢性腸疾患,乾癬など)活性病変は,記憶CD45Rblow細胞に依存している。このように,アンタゴニストは,このような炎症性状態の慢性局面を効果的に阻害し得る。(32頁17行〜29行;甲2【011 」8】)「 IL-12p40/IL-B30サイトカイン複合体,アンタゴニスト,抗体などは,精製され得,次いで(獣医学のまたはヒトの)患者に投与され得る。(3 」3頁3行〜4行;甲2【0120】) ウ 実施例 (ア) p40/IL-B30に対して特異的な抗体の調製「 合成ペプチドまたは精製タンパク質は,モノクローナル抗体またはポリクローナル抗体を産生するために免疫系に提示される。・・・免疫選択または除去方法は,得られた抗体が,個々の成分自体によって提示される抗体決定と異なる,ポリペプチドの複合体によって提示された抗原決定基に対して特異的であることを保証するように適用され得る。ポリクローナル血清,またはハイブリドーマが,調製され得る。適切な状況において,この結合剤は,上記(例えば,蛍光など)のように標識されるか,またはパニング法のために基質に固定されるかのいずれかである。免疫選択,免疫除去,および関連する技術は,例えば,2個のサブユニット間の複合体に対して所望される場合,選択薬剤を調製するために利用され得る。(41頁19 」行〜29行;甲2【0158】) (イ) 生物学的機能の大きさの評価「A.細胞増殖の効果 種々の細胞型の増殖の効果を,種々の濃度のサイトカインを用いて評価する。投薬応答分析を,関連するサイトカインIL-6,G-CSFなどと組合せて実施する。サイトセンサーマシン(cytosensor machine)が使用され得,これにより細胞の代謝および増殖を検出する(Molecular Devices,Sunnyvale,CA)。 ヒトPHA芽細胞の増殖を増強したヒトp40/IL-B30融合タンパク質を,抗-CD3または抗-CD3と抗-CD28の両方を用いて刺激した。抗-CD3刺激は,必須であるようである。ヒトp40/IL-B30融合タンパク質はまた,活性化したTh1またはTh2細胞クローンの増殖を増強するが,活性化していないTh1またはTh2細胞クローンはそうではない。 マウスまたはヒト融合タンパク質のいずれも,マウス標的細胞上で作用した。融合タンパク質は,抗-CD3で刺激した場合に,CD4+CD45Rb lowCD62LlowCD44hi細胞(記憶/活性化したT細胞)の増殖を支持した。融合タンパク質による刺激は,抗-CD28同時刺激によって増強されない。これは,IL-2の存在にほとんど依存しない。このことは,p40/IL-B30が,記憶表現型を有する細胞群を増殖させ,そして/または免疫性記憶を生成するかまたは維持するための重要な因子であり得ることを示唆する。このサイトカインは,Th1表現型(例えば,IFNγ(IL-4またはIL-5ではない)を産生する細胞)を含む活性化記憶細胞を選択的に支持するようである。 B.ネイティブT細胞の分化に対する効果 ヒト臍帯血細胞を収集し,そしてネイティブCD4+T細胞を単離した。これらを,抗CD3および抗IL-2の存在下で,そしてCD32,CD58,およびCD80を発現する照射した線維芽細胞とともに例えば,2週間培養し,それによってT細胞を活性化し,かつ増殖した。T細胞培養物を,増殖または分化に対する種々のサイトカインの効果について評価した。個々の細胞を,FACS分析によってサイトカイン産生について評価した。p40/IL-B30融合タンパク質は,IFNγを産生し,IL-4を産生しない(Th1細胞に特徴的なサイトカイン発現プロフィール)T細胞の増殖および分化を支持した。」 (43頁23行〜44頁11行;甲2【0167】〜【0170】) (ウ) 遺伝的に改変した動物の作製および分析「IL-B30トランスジェニックマウスの組織学的分析 IL-B30トランスジェニックマウスから収集された組織の顕微鏡試験によって,複数部位(肺,皮膚,食道,小腸および肝臓(胆管),大腸,および膵臓を含む)における最少から中程度の炎症が,明らかになった。炎症性浸澗〔判決注・ 「炎症性浸潤」の誤記と認める。〕は,好中球,リンパ球,および/またはマクロファージからなった。皮膚における炎症は,数匹のマウスにおいて,表皮肥厚および/または潰瘍と関連した。肺において,気管支周囲の単核細胞浸潤は,ときどき顕著であり,肺胞壁は,増化した〔判決注・「増加した」の誤記と認める。〕数の白血球を含み,そして内皮の内層気道は,過形成であった。最小の門脈周囲の単核細胞浸潤がまた,肝臓において一般的であった。リンパ節の皮質は,しばしば,散在した細胞性かつ欠損した小胞性の発達であった。(48頁38行〜49頁9行;甲2【0196】 」 )「IL-B30トランスジェニックマウスのサイトカインプロフィール IL-B30トランスジェニックマウスに見出される全身性炎症がプロ炎症性サイトカインの変更された発現と関連するか否かを試験するために,本発明者らは,末梢血中のIL-1,TNFα,IL-6およびIFNγの濃度を決定した。試験された全てのIL-B30トランスジェニックマウスにおいて,TNFαおよびIFNγのレベルが増加した。さらに,IL-1のレベルは,試験されたIL-B30トランスジェニックマウスの25%で増加した。IL-B30トランスジェニックマウス中で見出されたIL-1およびTNFαの濃度は,LPSによる急性炎症応答の誘導と関連したレベルに達した。驚くべきことに,IL-6の発現が炎症状態下で高度に誘導され(・・・)そしてTFNα,IL-1およびIFNγによって直接誘導され得る(・・・)のにも関わらず,IL-6は,IL-B30トランスジェニックマウスの末梢血中に検出されなかった。(50頁1行〜12行;甲2 」【0201】) (2) 甲1に記載された発明の認定 ア 前記(1)によると,甲1には,インターロイキン-B30(IL-B30)と称されるサブユニット分子が記載されており(前記(1)ア) IL-B30がIL- ,12のp40サブユニットと複合体(p40/IL-B30)を形成すること,p40/IL-B30がインビトロにおいて記憶/活性化したT細胞の増殖を促進したこと(前記(1)ア,ウ(イ)),並びに,IL-B30トランスジェニックマウスにおいてTNFα及びIFNγの発現レベルの上昇が確認されたことが記載されている(前記(1)ウ(ウ))。 また,甲1には, 「p40/IL-B30が,記憶表現型を有する細胞群を増殖させ,そして/または免疫性記憶を生成するかまたは維持するための重要な因子であり得ることを示唆する。このサイトカインは,Th1表現型(・・・)を含む活性化記憶細胞を選択的に支持するようである。 , 」 「p40/IL-B30融合タンパク質は,IFNγを産生し,IL-4を産生しない(Th1細胞に特徴的なサイトカイン発現プロフィール)T細胞の増殖および分化を支持した。(前記(1)ウ(イ))と 」の記載があり,p40/IL-B30がTh1誘導(T細胞刺激)を行うことが記載されている。 さらに,甲1には,p40/IL-B30を抗体等のアンタゴニストにより阻害することが記載され(前記(1)イ,ウ(ア)),上記アンタゴニストを哺乳動物被検体であるヒトの患者に投与され得ることが記載されている(前記(1)イ(イ))。 そして,上記アンタゴニスト(抗体)は,p40/IL-B30と結合することによって,p40/IL-B30とT細胞における受容体との結合を阻害するものであるから(前記(1)イ(ア)),p40/IL-B30を抗体等のアンタゴニストにより阻害することは,p40/IL-B30によるTh1誘導(T細胞刺激)の阻害を行うものであり,「T細胞の処理」にほかならない。 したがって,甲1には,審決認定のとおり, 「T細胞を処理するための,p40/IL-B30のアンタゴニストを含む,哺乳動物被検体に投与される組成物。 の発 」明である甲1発明が記載されていると認められ,審決の甲1発明の認定に誤りはない。 イ もっとも,前記(1)のとおり,甲1には,「多数の慢性炎症状態において(例えば,関節炎リウマチ,慢性腸疾患,乾癬など)活性病変は,記憶CD45Rblow細胞に依存している。このように,アンタゴニストは,このような炎症性状態の慢性局面を効果的に阻害し得る。」との記載があり(前記(1)イ(イ)),p40/IL-B30のアンタゴニストを乾癬の治療に使用することが記載されているから,甲1には,このような用途が記載されていることを考慮した上で本件特許発明1について新規性・進歩性の判断をすべきであるということはできる。 (3) 本件特許発明1との対比 ア 甲1発明の「p40/IL-B30」は,IL-23に相当するから,甲1発明の「p40/IL-B30のアンタゴニスト」は,本件特許発明1の「インターロイキン-23(IL-23)のアンタゴニスト」に相当する。 また,甲1発明の「哺乳動物被検体に投与される」は,本件特許発明1の「インビボ処理方法において使用する」に相当する。 イ 本件特許発明1と甲1発明とは,審決認定のとおり,相違点1(本件特許発明1は,T細胞を処理するための組成物によるT細胞の処理が「T細胞によるインターロイキン-17(IL-17)産生を阻害する」ためであるとの用途が特定されているのに対し,甲1発明にはそのような特定がない点)で相違する。 (4) 相違点の検討 ア 甲1発明には,T細胞を処理するための組成物の用途が, 「T細胞によるインターロイキン-17(IL-17)産生を阻害する」ためであるとの特定がないが,前記(2)アのとおり,甲1発明の「T細胞を処理する」とは,従来から知られていたTh1誘導によるT細胞刺激を阻害することを指すものであって,甲1には,記載も示唆もされていない「T細胞によるインターロイキン-17(IL-17)産生を阻害する」ことを指すものではないことは明らかである。 他方,前記2(4)アのとおり,本件特許発明1における「T細胞によるインターロイキン-17(IL-17)産生を阻害するため」という用途は,従来から知られていたTh1誘導によるT細胞刺激とは異なる,IL-23によるT細胞の処理により引き起こされるIL-17の産生を阻害することを用途とするものであるから,甲1発明の「T細胞を処理するため」とは明確に異なるものであり,相違点1は,実質的な相違点であると認められる。 イ 原告は,審決は,甲1発明に係る抗体含有組成物の用途を「T細胞を処理するため」と認定したにもかかわらず,本件特許発明1との対比においては,甲1発明の抗体含有組成物の用途が「Th1誘導によるT細胞刺激の阻害」に限定されるものとして,相違点1を認定しており,そもそも矛盾していると主張する。 しかし,甲1発明に係る抗体含有組成物の用途を「T細胞を処理するため」と認定したことにより,甲1発明の「T細胞を処理する」の意義を甲1の記載を離れて解釈してよいことになるものではないから,審決が,本件特許発明1との対比に当たり,甲1発明の「T細胞を処理する」の意義を甲1の記載に基づいて解釈することは正当であって,何らの誤りもない。 ウ 原告は,甲1X発明に係る抗体含有組成物の用途は, 「T細胞の処理による乾癬治療」であるが,乾癬患者について格別の限定又は選別をすることなく, 「T細胞の処理による乾癬治療」を実施すると,当然に, 「T細胞によるインターロイキン17(IL-17)産生阻害」も生じるから,甲1X発明の「T細胞の処理による乾癬治療」と本件特許発明1の「T細胞によるインターロイキン-17(IL-17)産生阻害」とは,用途として同一であり,甲1X発明と本件特許発明1との間に相違点はないなどと主張する。この主張を,甲1発明について,甲1に記載されている用途も考慮して本件特許発明1の新規性を判断すべき旨の主張と解したとしても,この主張は,次のとおり理由がない。 (ア) 前記2(4)ウのとおり,本件特許発明1の組成物を医薬品として利用する場合には,IL-17濃度の上昇が見られる患者に対して選択的に利用するものということができる。 (イ) 他方,前記(1)のとおり,甲1には,IL-23アンタゴニストによりT細胞によるIL-17産生の阻害が可能であることは,記載も示唆もされていないから,甲1発明が, 「IL-23のアンタゴニストを含む組成物」を,T細胞によるIL-17産生を阻害するために,IL-17濃度の上昇が見られる患者に対して選択的に利用するものではないことは,明らかである。このことは,甲1発明の「IL-23のアンタゴニストを含む組成物」を乾癬治療のために使用することができるという甲1に記載されている用途を考慮しても,左右されるものではない。 (ウ) そうすると,本件特許発明1の「T細胞によるインターロイキン-17(IL-17)産生を阻害するため」という用途と,甲1発明の「T細胞を処理するため」という用途とは,明確に異なるものということができる。そして,このことは,本件優先日当時,IL-17の発現レベルを測定することが可能であったことによって左右されるものではない。 エ 原告は,本件特許発明は,せいぜい,IL-23アンタゴニストに備わった「T細胞によるIL-17産生を阻害する」という性質又は機序を明らかにして,これを説明する構成要件を付加したにすぎないから,甲1X発明と異なる新規な方法(用途)とはいえないなどと主張する。この主張を,甲1発明について,甲1に記載されている用途も考慮して本件特許発明1の新規性を判断すべき旨の主張と解したとしても,前記ウのとおり,本件特許発明1の「T細胞によるインターロイキン-17(IL-17)産生を阻害するため」という用途と,甲1発明の「T細胞を処理するため」という用途とは,明確に異なるのであるから,本件特許発明1の用途が,甲1発明の用途を新たに発見した作用機序で表現したにすぎないものとはいえないことは,明らかである。 オ 以上のとおり,本件特許発明1は,甲1発明ではない。 本件特許発明2〜10は,本件特許発明1を更に限定した発明であるから,同様に,甲1発明ではない。 よって,取消事由3は,理由がない。 4 取消事由5(甲3に基づく新規性判断の誤り)について (1) 甲3の記載事項 甲3には,以下の記載がある(なお,甲3の対応日本出願の公表特許公報である甲4〔特表2003-532408号公報〕の対応段落番号を付記する。。 ) ア 発明の要旨「 さらに,本発明は,レセプターサブユニットDCRS5およびIL-12Rβ1とのp40/IL-B30リガンドの適合を提供し,この対形成は,アゴニストおよびアンタゴニストに対する試薬に基づいた,アゴニストおよびアンタゴニストの使用のための指標の洞察を提供する。(3頁2行〜4行;甲4【0009】 」 )「 治療的使用としては,細胞の生理機能または発達を調節する方法であって,この細胞を,以下と接触させる工程を包含する方法が挙げられる:霊長類DCRS5の細胞外部分および/または霊長類IL-12Rβ1の細胞外部分を含む複合体である,p40/IL-B30のアンタゴニスト;霊長類DCRS5および/または霊長類IL-12Rβ1を含む複合体を結合する抗体である,p40/IL-B30のアンタゴニスト;DCRS5に結合する抗体である,p40/IL-B30のアンタゴニスト;IL-12Rβ1に対する抗体である,p40/IL-B30のアンタゴニスト;DCRS5もしくはIL-12Rβ1に対するアンチセンス核酸である,p40/IL-B30のアンタゴニスト;または霊長類DCRS5および/もしくは霊長類IL-12Rβ1を含む複合体を結合する抗体である,p40/IL-B30のアゴニスト。1つの型の方法では,この接触させる工程は,アンタゴニストとであり,そして,この接触させる工程は,IL-12,IL-18,TNFまたはIFNγに対するアンタゴニストとの組合せにおいてである;あるいはこの細胞は,慢性TH1媒介性疾患の徴候もしくは症状を示す;多発性硬化症,慢性関節リウマチ,変形性関節症,炎症性腸疾患,糖尿病,乾癬もしくは敗血症の症状もしくは徴候を示す;または同種異系移植を受けている宿主由来である。 (5頁 」35行〜6頁12行;甲4【0019】) イ 治療有用性「 本発明は,顕著な治療的価値を有する試薬を提供する。 ・・・サイトカインレセプター(天然に存在するかまたは組換え体),そのフラグメント,ムテインレセプターおよび抗体は,このレセプターまたは抗体に対する結合親和性を有すると同定された化合物とともに,このレセプターまたはそれらのリガンドの異常な発現を示す状態の処置において有用であるはずである。このような異常は代表的に,免疫学的障害によって症状が発現する。本明細書中に参考として援用される,WO01/18051〔判決注・本件甲1〕を参照のこと。さらに,本発明は,このリガンドに対する応答の異常な発現または異常な誘発に関連した種々の疾患または障害において治療的価値を提供するはずである。例えば,p40/IL-B30リガンドは,細胞媒介性免疫(例えば,抗腫瘍活性)の発達,体液性免疫および細胞性免疫の上昇,ならびに抗ウイルス効果に関与することが示唆されている。特に,このリガンドは,NK細胞およびT細胞を活性化するようである。治療は,IL-18,IL-12,TNF,IFNγ,放射線治療/化学療法,アジュバントまたは抗腫瘍化合物,抗ウイルス化合物もしくは抗真菌化合物と組み合わされ得る。 逆に,TNF,IFNγ,IL-18もしくはIL-12のアンタゴニストと,またはIL-10もしくはステロイドと組み合わされ得るアンタゴニストは,慢性Th1媒介性疾患,自己免疫または移植および/もしくは拒絶状態,多発性硬化症,乾癬,慢性炎症状態,慢性関節リウマチ,変形性関節症あるいは炎症性腸疾患において示され得る。アンタゴニストは,このレセプターサブユニットに対する抗体,可溶性レセプター構築物,またはこのレセプターサブユニットのうちの1以上に対するアンチセンス核酸の形態をとり得る。p40/IL-B30リガンドとレセプターサブユニットDCRS5およびIL-12Rβ1との適合は,このアゴニストおよびアンタゴニストの使用のための指標についての洞察を提供する。 治療的には,記載されるp40/IL-B30活性に基づいて,このサイトカインのアンタゴニストが,例えば,可溶性IL-12Rβ1を伴うかもしくは伴わない可溶性DCRS5またはいずれかのレセプターサブユニットに対する抗体によってもたらされ得る。アンタゴニストは,望ましくない免疫応答もしくは炎症応答のインヒビターとして,記憶T細胞を標的とするために,またはIL-12/IL-12Rアンタゴニスト,または他の抗炎症剤もしくは免疫抑制剤との組合せにおいて有用であり得る。臨床的指標は,慢性の炎症または移植状態であり得る。種々の多型は,レセプターの機能を増強または減少させ得,そして有性〔判決注・「優性」の誤記と認める。〕の場合,治療剤として有用であり得る。このような改変体の同定は,応答性または非応答性の患者のプールのサブセット化を可能にし得る。試薬は,検出試薬もしくは標識試薬または記憶T細胞および/もしくはNK細胞についての除去試薬として有用であり得る。」 (39頁30行〜40頁24行;甲4【0124】〜【0126】)「 サイトカインレセプター,そのフラグメント,ならびに抗体またはそのフラグメント,アンタゴニストおよびアゴニストは,処置されるべき宿主に直接投与され得るか,または,その化合物の大きさに依存して,それらの投与前にそれらをキャリアタンパク質(例えば,オボアルブミンまたは血清アルブミン)に結合体化することが所望され得る。治療処方物は,多くの従来の投薬処方物において投与され得る。活性成分を単独で投与することは可能であるが,活性成分を薬学的処方物として提示することが好ましい。処方物は,上記に規定されるような,少なくとも1つの活性成分を,その1以上の受容可能なキャリアと一緒に含む。各キャリアは,他の成分と適合性であり,かつ患者に対して有害でないという意味で薬学的かつ生理学的の両方で受容可能でなければならない。処方物としては,経口投与,直腸投与,鼻腔内投与または非経口投与(皮下投与,筋肉内投与,静脈内投与および皮内投与を含む)に適切な処方物が挙げられる。処方物は,単位投薬量形態で便利に提示され得,そして製薬分野で周知の方法によって調製され得る。・・・本発明の治療は,他の治療剤(特に,他のサイトカインレセプターファミリーのメンバーのアゴニストまたはアンタゴニスト)と組み合わされ得るかまたはそれとともに使用され得る。」(42頁6行〜25行;甲4【0132】) (2) 甲3に記載された発明の認定 ア 前記(1)によると,甲3には,DCRS5サブユニット及びIL-12Rβ1サブユニットから成るレセプター分子が記載され,このレセプター分子がp40/IL-B30リガンドと結合すること(前記(1)ア) 上記レセプター又はそのリ ,ガンドの異常発現により免疫学的障害が起こること,上記レセプターに対するアンタゴニストが,T細胞を標的とし,望ましくない免疫応答や炎症応答のインヒビターとして作用して,慢性炎症や移植状態の処置に有用であること(前記(1)イ)が記載されている。 また,上記アンタゴニストが上記レセプターサブユニットに対する抗体であり,哺乳動物被検体に治療目的で投与可能な組成物として提供されることが記載されている(前記(1)イ)。 さらに,甲3には, 「治療的使用としては,細胞の生理機能または発達を調節する方法であって,この細胞を,以下と接触させる工程を包含する方法が挙げられる ・・ :・1つの型の方法では,この接触させる工程は,アンタゴニストとであり,そして,この接触させる工程は,IL-12,IL-18,TNFまたはIFNγに対するアンタゴニストとの組合せにおいてである;あるいはこの細胞は,慢性TH1媒介性疾患の徴候もしくは症状を示す;・・・乾癬・・・の症状もしくは徴候を示す」との記載があり(前記(1)ア) DCRS5サブユニット及びIL-12Rβ1サブユ ,ニットから成るレセプター分子とp40/IL-B30リガンドとの結合がTh1誘導(T細胞刺激)を行うことが記載されている。 そして,上記アンタゴニストは,DCRS5サブユニット又はIL-12Rβ1サブユニットに結合することによって,p40/IL-B30とT細胞におけるレセプターとの結合を阻害するものであるから,上記アンタゴニストを投与することは,p40/IL-B30によるTh1誘導(T細胞刺激)の阻害を行うものであり,「T細胞の処理」にほかならない。 したがって,甲3には,審決認定のとおり, 「T細胞を処理するための,p40/IL-B30レセプターサブユニットに対する抗体を含む,哺乳動物被検体に投与される組成物。 の発明である甲3発明が記載されていると認められ, 」 審決の甲3発明の認定に誤りはない。 イ もっとも,前記アのとおり,甲3には,治療的使用としてp40/IL-B30レセプターサブユニットを接触させる細胞が乾癬の症状もしくは徴候を示すことが記載されているから(前記(1)ア),甲3には,このような用途が記載されていることも考慮した上で,本件特許発明1について新規性・進歩性の判断をすべきであるということはできる。 (3) 本件特許発明1との対比 ア 甲3発明の「p40/IL-B30」は,IL-23に相当するから,甲3発明の「p40/IL-B30レセプターサブユニットに対する抗体」は,本件特許発明1の「インターロイキン-23(IL-23)のアンタゴニスト」に相当する(本件明細書【0012】。 ) また,甲3発明の「哺乳動物被検体に投与される」は,本件特許発明1の「インビボ処理方法において使用する」に相当する。 イ 本件特許発明1と甲3発明とは,審決認定のとおり,相違点3(本件特許発明1は,T細胞を処理するための組成物の用途が「T細胞によるインターロイキン-17(IL-17)産生を阻害する」ためであると特定されているのに対し,甲3発明にはそのような特定がない点)で相違する。 (4) 相違点の検討 ア 甲3発明には,T細胞を処理するための組成物の用途が, 「T細胞によるインターロイキン-17(IL-17)産生を阻害する」ためであるとの特定がないが,前記(2)アのとおり,甲3発明の「T細胞を処理する」とは,従来から知られていたTh1誘導によるT細胞刺激を阻害することを指すものであって,甲3には,記載も示唆もされていない「T細胞によるインターロイキン-17(IL-17)産生を阻害する」ことを指すものではないことは明らかである。 他方,前記2(4)アのとおり,本件特許発明1における「T細胞によるインターロイキン-17(IL-17)産生を阻害するため」という用途は,従来から知られていたTh1誘導によるT細胞刺激とは異なる,IL-23によるT細胞の処理により引き起こされるIL-17の産生を阻害することを用途とするものであるから,甲3発明の「T細胞を処理するため」とは明確に異なるものであり,相違点3は,実質的な相違点であると認められる。 イ 原告は,審決は,甲3発明に係る抗体含有組成物の用途を「T細胞を処理するため」と認定したにもかかわらず,本件特許発明1との対比においては,甲3発明の抗体含有組成物の用途が「Th1誘導によるT細胞刺激の阻害」に限定されるものとして,相違点3を認定しており,そもそも矛盾していると主張する。 しかし,甲3発明に係る抗体含有組成物の用途を「T細胞を処理するため」と認定したことにより,甲3発明の「T細胞を処理する」の意義を甲3の記載を離れて解釈してよいことになるものではないから,審決が,本件特許発明1との対比に当たり,甲3発明の「T細胞を処理する」の意義を甲3の記載に基づいて解釈することは正当であって,何らの誤りもない。 ウ 原告は,甲3X発明に係る抗体含有組成物の用途は, 「T細胞の処理による乾癬治療」であるが,乾癬患者について格別の限定又は選別をすることなく, 「T細胞の処理による乾癬治療」を実施すると,当然に, 「T細胞によるインターロイキン-17(IL-17)産生阻害」も生じるから,甲3X発明の「T細胞の処理による乾癬治療」と本件特許発明1の「T細胞によるインターロイキン-17(IL-17)産生阻害」とは,用途として同一であり,甲3X発明と本件特許発明1との間に相違点はないなどと主張する。この主張を,甲3発明について,甲3に記載されている用途も考慮して本件特許発明1の新規性を判断すべき旨の主張と解したとしても,次のとおり理由がない。 (ア) 前記2(4)ウのとおり,本件特許発明1の組成物を医薬品として利用する場合には,IL-17濃度の上昇が見られる患者に対して選択的に利用するものということができる。 (イ) 他方,前記(1)のとおり,甲3には,IL-23アンタゴニストによりT細胞によるIL-17産生の阻害が可能であることは,記載も示唆もされていないから,甲3発明が, 「IL-23のアンタゴニストを含む組成物」を,T細胞によるIL-17産生を阻害するために,IL-17濃度の上昇が見られる患者に対して選択的に利用するものではないことは,明らかである。このことは,甲3発明の「IL-23のアンタゴニストを含む組成物」を乾癬治療のために使用することができるという甲3に記載されている用途を考慮しても,左右されるものではない。 (ウ) そうすると,本件特許発明1の「T細胞によるインターロイキン-17(IL-17)産生を阻害するため」という用途と,甲3発明の「T細胞を処理するため」という用途とは,明確に異なるものということができる。そして,このことは,本件優先日当時,IL-17の発現レベルを測定することが可能であったことによって左右されるものではない。 エ 原告は,本件特許発明は,せいぜい,IL-23アンタゴニストに備わった「T細胞によるIL-17産生を阻害する」という性質又は機序を明らかにして,これを説明する構成要件を付加したにすぎないから,甲3X発明と異なる新規な方法(用途)とはいえないなどと主張する。この主張を,甲3発明について,甲3に記載されている用途も考慮して本件特許発明1の新規性を判断すべき旨の主張と解したとしても,前記ウのとおり,本件特許発明1の「T細胞によるインターロイキン-17(IL-17)産生を阻害するため」という用途と,甲3発明の「T細胞を処理するため」という用途とは,明確に異なるのであるから,本件特許発明1の用途が,甲3発明の用途を新たに発見した作用機序で表現したにすぎないものとはいえないことは,明らかである。 オ 以上のとおり,本件特許発明1は,甲3発明ではない。 本件特許発明2〜10は,本件特許発明1を更に限定した発明であるから,同様に,甲3発明ではない。 よって,取消事由5は,理由がない。 5 取消事由2(甲5に基づく進歩性判断の誤り)について (1) 前記2(1)オによると,甲5には,甲5発明の「p40サブユニットを中和することができる抗体」が,「p35/p40分子」であるIL-12と,「p19/p40分子」であるIL-23の両方を中和することが予想される旨が記載されている。また,本件明細書には,本件優先日前の文献を引用して,IL-17は,リウマチ様関節炎を含む様々な炎症性疾患に関係しており,それらの疾患においてIL-17の濃度の著しい上昇が見られること,乾癬においてIL-17の濃度が著しく上昇することが認められ,IL-17は乾癬に関係していると文献に記載されている旨が記載されており(【0003】【0054】〜【0060】,本件優先日 , )当時,乾癬等の炎症性疾患とIL-17との関連性が報告されていたことが認められる。 しかし,前記2(4)アのとおり,甲5には,IL-23のアンタゴニストによりT細胞によるIL-17産生の阻害が可能であることは,記載も示唆もされておらず,甲1,3を含む本件で提出されたその余の証拠によっても,本件優先日当時,当業者において,IL-23のアンタゴニストによりT細胞によるIL-17産生の阻害が可能であることを認識していたとは認められないから,甲5に接した当業者において,甲5発明の「p40サブユニットを中和することができる抗体」 (IL-23のアンタゴニスト)を,T細胞によるIL-17産生を阻害するために,IL-17濃度の上昇が見られる患者に対して選択的に利用する動機付けがあったとは認められない。 (2)ア 原告は,乾癬患者の中の一部の者(IL-17濃度の上昇がみられない者)に対して抗体含有組成物を使用しないことが,乾癬の治療効果を高めることはないし,甲5には,IL-17濃度の上昇が発現した者を格別排除することなく乾癬患者に抗体含有組成物を使用することが開示され,それによる病巣消失の効果までもが既に開示されており,その効果は,乾癬等の患者の中からIL-17濃度の上昇が発現した者を選択するステップを経るか否かによって,変わることはないなどと主張する。 しかし,前記2のとおり,甲5には, 「J695」と称される「p40サブユニットを中和することができる抗体」を乾癬を罹患していた患者に投与した際に病巣が消失したことが記載されているが,甲5に接した当業者において,この「p40サブユニットを中和することができる抗体」を,T細胞によるIL-17産生を阻害するために,IL-17濃度の上昇が見られる患者に対して選択的に利用する動機付けがあったとは認められないことは,前記(1)のとおりであり,原告の上記主張は,この判断を左右するものではない。 イ 原告は,本件特許出願後の文献ではあるが,甲49,50は,甲5の「J695」抗体による乾癬患者の治療に際し,IL-17の産生阻害が確認されたとしているなどと主張する。 しかし,甲49(Changhai Ding ら“ABT-874, a fully human monoclonal anti-IL-12/IL-23 antibody for the potential treatment of autoimmune diseases”,Current Opinionin investigational Drugs 2008 Vol.9 No.5,pp515-522,平成20年)及び甲50(ChunleiTang ら“Interleukin-23: as a drug target for autoimmune inflammatory diseases ”,Immunology 135,pp112-124,平成23年)は,本件優先日(平成14年10月30日)から5年以上後に刊行された文献であり,本件優先日当時の技術常識を示すものではないことは明らかであるから,甲5に記載された発明に基づく新規性・進歩性判断に当たり,これを考慮することは許されない。 ウ 原告は,たとえ乾癬患者の全てがIL-17濃度の上昇を伴うわけではないとしても,多くの患者においてIL-17濃度の上昇が見られるのであるから,「p40サブユニットを中和することができる抗体」を乾癬患者に投与すれば,それらの患者の中に,T細胞によるIL-17の産生が阻害される者が存在することは明らかであるし,被告によると,本件特許発明は, 「IL-17濃度の上昇が見られる炎症等の治療に対して選択的に利用されるもの」ではないから,その治療対象となる乾癬患者の中にはIL-17濃度の上昇を伴っていない者も存在するところ,そのような患者ではIL-17産生が阻害されることはないから,本件特許発明において必ずしもIL-17濃度が上昇した乾癬患者のIL-17産生が阻害されるわけではないなどと主張する。 しかし,前記2(4)ウのとおり,本件特許発明1の組成物を医薬品として利用する場合には,IL-17濃度の上昇が見られる患者に対して選択的に利用するものということができるのであって,被告の主張は採用できないから,本件特許発明1がIL-17濃度の上昇が見られるか否かを問わずに利用されることを前提とした原告の上記主張は,前提において失当である。 エ 原告は,本件特許発明の用途は,甲5に記載された用途と実質的に何ら相違せず,本件特許発明の「T細胞によるIL-17産生を阻害する」との点は,単に甲5X発明の「P40サブユニットを中和することができる抗体」 (IL-23アンタゴニスト)の性質又は機序を記載したにすぎず,本件特許発明と甲5X発明が実質的に異なることを示すようなものではないなどと主張する。 しかし,前記2(4)のとおり,本件特許発明1の「T細胞によるインターロイキン-17(IL-17)産生を阻害するため」という用途と,甲5発明の「T細胞の処理による乾癬治療のため」という用途とは,明確に異なるものであり,本件特許発明1の用途は,甲5発明の用途を新たに発見した作用機序で表現したにすぎないものではないから,原告の上記主張は,理由がない。 (3) 以上によると,本件特許発明1は,甲5発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものとは認められない。 本件特許発明2〜10は,本件特許発明1を更に限定した発明であるから,同様に,甲5発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものとは認められない。 よって,取消事由2は,理由がない。 6 取消事由4(甲1に基づく進歩性判断の誤り)について (1) 前記3(4)アのとおり,甲1には,IL-23のアンタゴニストによりT細胞によるIL-17産生の阻害が可能であることは,記載も示唆もされておらず,甲3,5を含む本件で提出されたその余の証拠によっても,本件優先日当時,当業者において,IL-23のアンタゴニストによりT細胞によるIL-17産生の阻害が可能であることを認識していたとは認められない。 そうすると,前記5(1)と同様の理由により,甲1に接した当業者において,甲1発明の「p40/IL-B30のアンタゴニスト」(IL-23のアンタゴニスト)を,T細胞によるIL-17産生を阻害するために,IL-17濃度の上昇が見られる患者に対して選択的に利用する動機付けがあったとは認められない。 (2) 原告は,@乾癬等の患者の中の一部の者(IL-17濃度の上昇がみられない者)に対して抗体含有組成物を使用しないことが,その治療効果を高めることはないし,甲1には,IL-17濃度の上昇が発現した者を格別排除することなく抗体含有組成物を使用することが開示されており,それにより得られる効果は,乾癬等の患者の中からIL-17濃度の上昇が発現した者を選択するステップを経るか否かによって,変わることはない,Aたとえ乾癬患者の全てがIL-17濃度の上昇を伴うわけでないとしても,多くの乾癬患者においてIL-17濃度の上昇が見られるのであるから, 「p40/IL-B30のアンタゴニスト」を乾癬患者に投与すれば,それらの患者の中に,T細胞によるIL-17の産生が阻害される者が存在することは明らかであるし,被告によると,本件特許発明は, 「IL-17濃度の上昇が見られる炎症等の治療に対して選択的に利用されるもの」ではないから,その治療対象となる乾癬患者の中にはIL-17濃度の上昇を伴っていない者も存在するところ,そのような患者ではIL-17産生が阻害されることはないから,本件特許発明において必ずしもIL-17濃度が上昇した乾癬患者のIL-17産生が阻害されるわけではない,B本件特許発明の用途は,甲1に記載された用途と実質的に何ら相違せず,本件特許発明の「T細胞によるIL-17産生を阻害する」との点は,単に甲1X発明の「p40/IL-B30のアンタゴニスト」 (IL-23アンタゴニスト)の性質又は機序を記載したにすぎず,本件特許発明と甲1X発明が実質的に異なることを示すようなものではないなどと主張する。 しかし,前記5(2)と同様の理由により,原告の上記主張は,いずれも理由がない。 (3) 以上によると,本件特許発明1は,甲1発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものとは認められない。 本件特許発明2〜10は,本件特許発明1を更に限定した発明であるから,同様に,甲1発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものとは認められない。 よって,取消事由4は,理由がない。 7 取消事由6(甲3に基づく進歩性判断の誤り)について (1) 前記4(4)アのとおり,甲3には,IL-23のアンタゴニストによりT細胞によるIL-17産生の阻害が可能であることは,記載も示唆もされておらず,甲1,5を含む本件で提出されたその余の証拠によっても,本件優先日当時,当業者において,IL-23のアンタゴニストによりT細胞によるIL-17産生の阻害が可能であることを認識していたとは認められない。 そうすると,前記5(1)と同様の理由により,甲3に接した当業者において,甲3発明の「p40/IL-B30レセプターサブユニットに対する抗体」 (IL-23のアンタゴニスト)を,T細胞によるIL-17産生を阻害するために,IL-17濃度の上昇が見られる患者に対して選択的に利用する動機付けがあったとは認められない。 (2) 原告は,@乾癬患者の中の一部の者(IL-17濃度の上昇がみられない者)に対して抗体含有組成物を使用しないことが,その治療効果を高めることはないし,甲3には,IL-17濃度の上昇が発現した者を格別排除することなく抗体含有組成物を使用することが開示されており,それにより得られる効果は,乾癬患者の中からIL-17濃度の上昇が発現した者を選択するステップを経るか否かによって,変わることはない,Aたとえ乾癬患者の全てがIL-17濃度の上昇を伴うわけではないとしても,多くの乾癬患者においてIL-17濃度の上昇が見られるのであるから,「p40/IL-B30のレセプターサブユニットに対する抗体」を乾癬患者に投与すれば,それらの患者の中に,T細胞によるIL-17の産生が阻害される者が存在することは明らかであるし,被告によると,本件特許発明は,「IL-17濃度の上昇が見られる炎症等の治療に対して選択的に利用されるもの」ではないから,その治療対象となる乾癬患者の中にはIL-17濃度の上昇を伴っていない者も存在するところ,そのような患者ではIL-17産生が阻害されることはないから,本件特許発明にしたところで,必ずしもIL-17濃度が上昇した乾癬患者のIL-17産生が阻害されるわけではない,B本件特許発明の用途は,甲3に記載された用途と実質的に何ら相違せず,本件特許発明の「T細胞によるIL-17産生を阻害する」との点は,単に甲3X発明の「p40/IL-B30のレセプターサブユニットに対する抗体」 (IL-23レセプターに対する抗体)の性質又は機序を記載したにすぎず,本件特許発明と甲3X発明が実質的に異なることを示すようなものではないなどと主張する。 しかし,前記5(2)と同様の理由により,原告の上記主張は,いずれも理由がない。 (3) 以上によると,本件特許発明1は,甲3発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものとは認められない。 本件特許発明2〜10は,本件特許発明1を更に限定した発明であるから,同様に,甲3発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものとは認められない。 よって,取消事由6は,理由がない。 8 取消事由7(明確性要件の判断の誤り)について (1) 前記2(4)ア,ウのとおり,本件特許発明1は,IL-23によるT細胞の処理によってT細胞におけるIL-17の産生が増加するという新しい知見に基づいて, 「IL-23のアンタゴニストを含む組成物」について「T細胞によるIL-17産生を阻害するための(インビボ処理方法において使用するための) という用途 」の限定を付したものであって,本件特許発明1の組成物を医薬品として利用する場合には,特にIL-17を標的として,その濃度の上昇が見られる患者に対して選択的に利用するものということができる。 本件特許発明1に係る特許請求の範囲の請求項1には,「炎症が生じている患者群の中からIL-17濃度の上昇が発現した者を選択する」旨の文言は記載されていないが,上記のとおり, 「T細胞によるIL-17産生を阻害するための(インビボ処理方法において使用するための) という用途を限定した文言により, 」 本件特許発明1の組成物を医薬品として利用する場合には,IL-17濃度の上昇が見られる患者に対して選択的に利用されるものであることを一義的に理解することができる。 また,前記1(1)のとおり,本件明細書には,IL-17が慢性関節リウマチ,同種異系移植拒絶反応中,多発性硬化症を含む他の慢性炎症疾患,乾癬,ベーチェット病,喘息,全身性エリテマトーデスにおいて,IL-17の濃度が上昇することが先行技術文献(甲11,17,19を含む。)を引用して記載されており(【0003】【0054】〜【0057】,炎症が生じている患者群の中からIL-17 , )濃度(IL-17の発現レベル)の上昇が見られる者を特定することが可能であることは,本件出願日当時の技術常識であったと認められる。 そうすると,本件特許発明1に係る特許請求の範囲の請求項1の記載は,不明瞭であるとはいえず,特許を受けようとする発明が明確であるということができる。 また,上記請求項1に従属する請求項2〜10の記載も,同様に,特許を受けようとする発明が明確であるということができる。 (2)ア 原告は,本件特許に係る特許請求の範囲の記載は,IL-17濃度の上昇が発現した者を選択するステップが必須であることについて,必ずしも明確に表現しておらず,仮に,このように不明確な特許請求の範囲の記載のまま特許登録が維持されることとなれば,IL-17濃度の上昇が発現した者を選択するステップを経ない乾癬等の疾患治療のための組成物の利用についても,あたかも本件特許発明の技術的範囲に属するかの如き外観を呈し,第三者に不測の不利益を及ぼすおそれが非常に高いから,本件特許に係る請求項1〜10の記載は,明確性要件を満たさないと主張する。 しかし,本件特許の請求項1の記載により,請求項1に記載された組成物を医薬品として利用する場合には,IL-17濃度の上昇が見られる患者に対して選択的に利用されるものであることを一義的に理解することができることは,前記(1)のとおりであるから,原告の上記主張は,理由がない。 イ 原告は,本件特許に係る特許請求の範囲の記載は,用途(本件特許発明においてIL-17濃度の上昇が発現した者を選択する方法)の実現方法が明細書の記載や技術常識を考慮しても明らかではないから,物として特定されておらず,明確性要件を満たさないなどと主張する。 しかし,前記(1)のとおり,炎症が生じている患者群の中からIL-17濃度(IL-17の発現レベル)の上昇が見られる者を特定することが可能であることは,本件出願日当時の技術常識であったと認められる。 また,原出願特許との併存登録が適法であるか否かは,本件特許の特許請求の範囲の記載が特許法36条6項2号の明確性要件に適合するか否か(同法123条1項4号)とは別個の無効理由(同項2号)の存否の問題であり,上記技術常識によりIL-17濃度(IL-17の発現レベル)の上昇が見られる者が特定可能であることを否定するものとは認められない。 ウ 原告は,審決の認定と被告の主張とでは,本件特許発明の用途,したがって,特許発明の技術的範囲の解釈が実質的に相違するところ,技術的範囲が異なって解されることになるような本件特許の特許請求の範囲の記載は,不明瞭であると主張する。 しかし,前記(1)のとおり,本件特許の請求項1の記載は,請求項1に記載された組成物を医薬品として利用する場合には,IL-17濃度の上昇が見られる患者に対して選択的に利用されるものであることを一義的に理解することができ,二つの意義に解釈できるものではなく,このことは,審決の認定や被告の主張によって左右されることはないから,原告の上記主張は,理由がない。 (3) 以上によると,取消事由7は,理由がない。 9 取消事由8(サポート要件の判断の誤り)について (1)ア 前記第2の2のとおり,本件特許発明1は, 「T細胞によるインターロイキン-17(IL-17)産生を阻害するためのインビボ処理方法において使用する」という用途を特定した「インターロイキン-23(IL-23)のアンタゴニストを含む組成物。」という物の発明であり,本件特許発明2〜10は,本件特許発明1を更に限定した物の発明である。 そして,本件特許発明1に係る特許請求の範囲の請求項1の記載に加え,本件明細書には,「発明が解決しようとする課題」として,「本発明はT細胞によるインターロイキン17(IL-17)産生を抑制する方法に関するものであり,この方法にはインターロイキン23(IL-23)のアンタゴニストでT細胞を処理することが含まれる。 ( 」 【0006】)と記載されていること(前記1(1)ウ)からすると,本件特許発明の課題は,生体内におけるT細胞によるIL-17産生を阻害することであると認められる。 イ 本件明細書の実施例1の記載(前記1(1)カ)によると,IL-23によりT細胞からのIL-17の産生が促進されること,上記の産生促進はIL-23のアンタゴニストである抗IL-12p40抗体により阻害されることを理解することができる。 また,本件明細書の実施例2の記載(前記1(1)カ)によると,IL-23欠損マウスにおいて,T細胞によるIL-17の産生が減衰していることが示されており,IL-23の機能を抑制することにより,T細胞によるIL-17の産生を抑制できることを理解することができる。 そうすると,当業者は,本件明細書の記載から,IL-23アンタゴニストにより,IL-23により誘導されるT細胞によるIL-17産生を阻害することができること,すなわち,本件特許発明の課題を解決できることを認識することができる。 (2)ア 原告は,審決のように,本件特許発明の組成物を炎症等を治療するという医薬用途に利用する場合,当然にIL-17濃度の上昇が見られる炎症等の治療に対して選択的に利用されるものであるとすると,本件特許発明の課題解決のためには,IL-17発現レベルが上昇している者のみを対象として選択できることも要すると解すべきであるが, 「IL-17発現の上昇したレベル」の技術的意味やその確認方法自体も,本件明細書において明確にされているとはいえないし,技術常識を考慮してもそれが明らかであるとはいえないなどと主張する。 しかし,前記8(1)のとおり,炎症が生じている患者群の中からIL-17濃度(IL-17の発現レベル)の上昇が見られる者を特定することが可能であることは,本件出願日当時の技術常識であったと認められる。 また,原出願特許との併存登録が適法であるか否かによって,上記技術常識によりIL-17濃度(IL-17の発現レベル)の上昇が見られる者が特定可能であることが否定されるものではないことは,前記8(2)のとおりである。 さらに,本件特許発明1の組成物をIL-17濃度の上昇が見られる特定の炎症等の治療に利用するに当たっては,適切な対照集団の選択,測定試料(血清,病変部皮膚等)の選択等の測定条件の設定,信頼性の高い統計処理,対照集団におけるIL-17濃度との比較に基づく上記炎症等の患者におけるIL-17濃度の上昇の有無の判定等を行う必要があるが,これらは,当業者に通常期待し得る事項であると解され,特段,そのことに困難性があるというべき事情も認められない。 イ 原告は,本件特許がサポート要件を満たしているというためには,IL-23アンタゴニストにより,生体内でT細胞によるIL-17産生が阻害されることが示されるだけでなく,本件出願日当時において,当業者が「T細胞によるIL-17産生を阻害する」ことにより,本件明細書の【0017】記載の炎症性疾患のいずれもが治療ができることを認識できなければならなかったところ,本件明細書の記載及び本件出願日当時の技術常識を参酌しても,当業者がこれを認識できたとはいえないなどと主張する。 しかし,前記アのとおり,本件特許発明は, 「T細胞によるインターロイキン-17(IL-17)産生を阻害するためのインビボ処理方法において使用する」という用途を特定した「インターロイキン-23(IL-23)のアンタゴニストを含む組成物。」の発明であり,本件明細書の【0017】に列挙された具体的な疾患・疾病の治療剤ではないから,これらの疾患・疾病のいずれもが治療できることを認識できなければならないということはない。本件特許発明が炎症性疾患の治療に利用できることにより,産業上利用することができるといえることは,前記(1)アの本件特許発明の課題の認定を左右するものではない。 ウ 原告は,被告によると,本件特許発明の組成物の投与対象者の中には,IL-17濃度の上昇を伴っていない者が存在するから,本件明細書に「抗IL-23抗体等のIL-23アンタゴニストにより,IL-23により誘導されるT細胞のIL-17の産生を阻害可能であること」が記載されていても,IL-17濃度の上昇を伴わない(IL-17産生が誘導されていない)者においても,IL-17産生を阻害するという方法が実施され得ることを理解できるものではないし,そのような者でさえも炎症等が治療され得ることを理解できるものではないなどと主張する。 しかし,前記2(4)アのとおり,本件特許発明1の組成物を医薬品として利用する場合には,IL-17濃度の上昇が見られる患者に対して選択的に利用するものということができるのであって,被告の主張は採用できないから,原告の上記主張は,前提において失当である。 (3) 以上によると,取消事由8は,理由がない。 10 取消事由9(実施可能要件の判断の誤り)について 取消事由9に係る原告の主張は,@IL-17発現レベルが上昇している者のみを対象として選択することは,当業者に期待し得る程度を超える試行錯誤が要求される,A本件明細書の記載及び本件出願日当時の技術常識を参酌しても,慢性関節リウマチや対宿主性移植片反応以外の炎症性疾患が治療できることを理解することはできない,B本件明細書には,IL-17濃度が上昇した者を選択しない場合でも,本件特許発明の組成物が使用可能であることは示されていないというものであるが,これらはいずれも取消事由8に係る原告の主張(前記9(2)ア〜ウで判断した原告の各主張)と同旨であるから,これらにいずれも理由がないことは,前記9(2)ア〜ウの説示から明らかである。 よって,取消事由9は,理由がない。 11 結論 以上によると,取消事由1〜9は,いずれも理由がなく,原告の請求は,理由がないから,これを棄却することとして,主文のとおり判決する。 |