関連審決 | 異議2016-700688 |
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事件 |
平成
30年
(行ケ)
10032号
特許取消決定取消請求事件
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原告 ヘクセルランフォルセマン 訴訟代理人弁護士 浅村昌弘 同 松川直樹 同 和田研史 同 和田嵩 訴訟代理人弁理士 金井建 同 浅村皓 同 池田幸弘 同 井上洋一 同 亀岡幹生 同 下村克彦 被告 特許庁長官 指定代理人木村敏康 同 佐藤健史 同 佐々木秀次 同 河本充雄 同 阿曾裕樹 |
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裁判所 | 知的財産高等裁判所 |
判決言渡日 | 2019/03/26 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
11 特許庁が異議2016−700688号事件について平成29年11月1日にした決定を取り消す。 2 訴訟費用は被告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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請求
主文第1項と同旨 |
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事案の概要
1 特許庁における手続の経緯等 ? 原告は,発明の名称を「直接法による複合材料部品の製造のための一定の 幅を有する新規の中間材」とする発明について,平成21年11月23日(優 先日平成20年11月28日(以下「本件優先日」という。),優先権主張 国フランス)を国際出願日とする特許出願(特願2011-538026号。 以下「本件出願」という。)をし,平成27年12月18日,特許権の設定 登録(特許第5854504号。請求項の数20。以下,この特許を「本件 特許」という。甲10)を受けた。 ? 本件特許について,平成28年8月5日,特許業務法人朝日奈特許事務所 から特許異議の申立て(異議2016-700688号事件)がされた(甲 31)。 原告は,同年10月13日付けの取消理由通知(甲17)を受けた後,さ らに,平成29年3月31日付けの取消理由通知(甲24)を受けたため, 同年7月3日付けで,@請求項1ないし16からなる一群の請求項について, 請求項1,3ないし6,8ないし11,14ないし16を訂正し,請求項1 1に係る発明の一部を独立形式で記載した請求項として新たに請求項21 を追加し,請求項2,7,12及び13を削除する,A請求項17ないし2 0からなる一群の請求項について,請求項17ないし19を訂正し,請求項 20を削除する旨の訂正請求(以下「本件訂正」という。甲26)をした。 2 その後,特許庁は,同年11月1日,本件訂正を認めないとした上で,「特 許第5854504号の請求項1〜20に係る特許を取り消す。」との決定 (以下「本件決定」という。)をし,その謄本は,同月9日,原告に送達さ れた。 ? 原告は,平成30年3月6日,本件決定の取消しを求める本件訴訟を提起 した。 2 特許請求の範囲の記載 ? 設定登録時(本件訂正前) 本件特許の設定登録時の特許請求の範囲の請求項1ないし20の記載は, 次のとおりである(以下,請求項の番号に応じて,請求項1に係る発明を「本 件発明1」などという。甲10)。 【請求項1】 両端部を有すると共に, 両側に面を有し,端部間にてリボンの幅を確定する二つの端部を有する前 記リボンを含む,中間材を製造するための方法であって, 前記リボンは,リボンの長さに平行な方向に伸長する強化ストランド又は 長繊維を含み,その全長にわたり本質的に一定な所与の幅を有し, a)リボンの幅がその全長にわたり本質的に一定であるような端部を有す るリボンを提供する工程; b)リボンの各面に不織布又は布材料を適用する工程であって,不織布又 は布材料の幅はリボンの幅より広く,その結果,不織布又は布材料はリボン の端部を超えて外側に伸びて,リボンの両側にて各端部に沿って不織布又は 布材料がはみ出している工程, c)リボンの各端部に沿って位置する不織布又は布材料のはみ出し部分に 沿って,リボンを封入するように不織布又は布材料を共に接着する工程,及 び 3 d)端部に沿って位置する不織布又は布材料のはみ出し部分を切断し,リボンの端部に切断を及ぼすことなく,はみ出し部分の一部分を除去することで,リボンの幅をその全長にわたり本質的に一定であるように維持する工程であって,不織布又は布材料の総重量が中間材の総重量の15%未満であり,はみ出し部分の切断済み端部が中間材の端部を構成する工程を含む,上記方法。 【請求項2】 不織布又は布材料の適用に先立って,リボンの幅を調整する追加の工程を含む,請求項1に記載の方法。 【請求項3】 はみ出し部分の一部分が,フィードローラー又は吸引によって除去される,請求項1又は2に記載の方法。 【請求項4】 その全長にわたるリボンの幅の標準偏差が,0.25mm未満であることを特徴とする,請求項1から3までのいずれか一項に記載の方法。 【請求項5】 その全長にわたるリボンの幅の標準偏差が,0.22mm未満であることを特徴とする,請求項4に記載の方法。 【請求項6】 その全長にわたるリボンの幅の標準偏差が,0.20mm未満であることを特徴とする,請求項5に記載の方法。 【請求項7】 リボンが,長繊維の集合体に相当する単一のストランドから作製されることを特徴とする,請求項1から6までのいずれか1項に記載の方法。 【請求項8】 リボンが複数のストランドから作製されることを特徴とする,請求項1に 4記載の方法。 【請求項9】 少なくとも2つのリボンが,不織布又は布材料の適用のために同時に提供される,請求項1から8までのいずれか1項に記載の方法。 【請求項10】 ストランド又は長繊維の材料が,次の材料,すなわち,炭素,ガラス,アラミド,シリカ,セラミック及びこれらの混合物の中から選択されることを特徴とする,請求項1から9までのいずれか1項に記載の方法。 【請求項11】 不織布又は布材料が熱可塑性繊維を含む,請求項1から10までのいずれか1項に記載の方法。 【請求項12】 前記はみ出し部分に沿って不織布又は布材料を共に接着する工程,及び前記の切断工程が,はみ出し部分に沿って不織布又は布材料をホットカットすることによって同時に行われる,請求項11に記載の方法。 【請求項13】 加熱によって,リボンの表面に不織布又は布材料を接着する工程を含む,請求項11に記載の方法。 【請求項14】 不織布又は布材料が,ポリアミド繊維,コポリアミド繊維,又はそれらの組み合わせを含む,請求項11から13までのいずれか1項に記載の方法。 【請求項15】 不織布材料が熱可塑性繊維のベールである,請求項1から14までのいずれか1項に記載の方法。 【請求項16】 熱可塑性繊維のベールが,ポリアミド繊維,コポリアミド繊維,又はそれ 5 らの組み合わせを含む,請求項15に記載の方法。 【請求項17】 両端部を有すると共に, 両側に面を有し,端部間にてリボンの幅を確定する二つの端部を有する前 記リボンを含む,中間材であって, 前記リボンは,ストランド又は長繊維が,リボンの長さに平行な方向に伸 長する,その各面上で不織布又は布材料と結合した強化ストランド又は長繊 維のリボンであって,リボンの所与の幅がその全長にわたり本質的に一定で あり,標準偏差が0.25mm未満であり,不織布又は布材料の総重量が, 中間材の総重量の15%未満であり,リボンの各端部に沿って位置する不織 布又は布材料のはみ出し部分の切断端部が中間材の端部を構成することを 特徴とする,上記中間材。 【請求項18】 リボンの所与の幅の標準偏差が0.22mm未満であることを特徴とする, 請求項17に記載の中間材。 【請求項19】 リボンの所与の幅の標準偏差が0.20mm未満であることを特徴とする, 請求項18に記載の中間材。 【請求項20】 その長手方向の端部に沿って切断された繊維を有しないことを特徴とす る,請求項17から19までのいずれか一項に記載の中間材。 ? 本件訂正後 本件訂正後の特許請求の範囲の請求項1,3ないし6,8ないし11,1 4ないし19及び21の記載は,次のとおりである(下線部は本件訂正によ る訂正箇所である。甲26)。 【請求項1】 6両端部を有すると共に, 両側に面を有し,端部間にてリボンの幅を確定する二つの端部を有する前記リボンを含む,熱硬化性マトリックスを含有する複合材料部品を直接法で製造するための材料である中間材を製造するための方法であって, 前記リボンは,リボンの長さに平行な方向に伸長する強化ストランド又は長繊維を含み,その全長にわたり本質的に一定な所与の幅を有し, a)拡幅バーを有する拡幅器,次いで複数のストランド又は長繊維に寸法取りをする開口部を規定する寸法取りコームの寸法取り器に,複数のストランド又は長繊維を通過させることによって,複数のストランド又は長繊維間に間隔が存在しないようにし,リボンの幅がその全長にわたり本質的に一定であるような端部を有するリボンを提供する工程; b)リボンの各面に,加熱により軟化して粘着性を有し,加熱後に冷却されるときリボンの均一な密着を確実にする不織布又は布材料を,予備加熱後に1超から10の圧縮比で適用する工程であって,加熱及び圧縮された不織布又は布材料の幅はリボンの幅より広く,その結果,不織布又は布材料はリボンの端部を超えて外側に伸びて,リボンの両側にて各端部に沿って不織布又は布材料がはみ出している工程, c)リボンの各端部に沿って位置する不織布又は布材料のはみ出し部分に沿って,リボンを封入するように不織布又は布材料を共に接着する工程,及び d)工程c)と同時に,端部に沿って位置する不織布又は布材料のはみ出し部分を加熱された切断器で切断し,リボンの端部に切断を及ぼすことなく,はみ出し部分の一部分を除去することで,リボンの幅をその全長にわたり本質的に一定であるように維持する工程であって,不織布又は布材料の総重量(1m?あたり)が中間材の総重量(1m?あたり)の(6/132)×100%未満であり,はみ出し部分の切断済み端部が中間材の端部を構成する工 7程を含む,上記方法。 【請求項3】 はみ出し部分の一部分が,フィードローラー又は吸引によって除去される,請求項1に記載の方法。 【請求項4】 その全長にわたるリボンの幅の標準偏差が,0.25mm未満であることを特徴とする,請求項1又は3に記載の方法。 【請求項5】 その全長にわたるリボンの幅の標準偏差が,0.22mm未満であることを特徴とする,請求項4に記載の方法。 【請求項6】 その全長にわたるリボンの幅の標準偏差が,0.20mm未満であることを特徴とする,請求項5に記載の方法。 【請求項8】 リボンが複数のストランドから作製されることを特徴とする,請求項1に記載の方法。 【請求項9】 少なくとも2つのリボンが,不織布又は布材料の適用のために同時に提供される,請求項1,3,5及び6のいずれか1項に記載の方法。 【請求項10】 ストランド又は長繊維の材料が,次の材料,すなわち,炭素,ガラス,アラミド,シリカ,セラミック及びこれらの混合物の中から選択されることを特徴とする,請求項1,3,4,5,6,8及び9までのいずれか1項に記載の方法。 【請求項11】 不織布又は布材料が熱可塑性繊維を含む,請求項1,3,5,6及び10 8までのいずれか1項に記載の方法。 【請求項14】 不織布又は布材料が,ポリアミド繊維,コポリアミド繊維,又はそれらの組み合わせを含む,請求項11に記載の方法。 【請求項15】 不織布材料が熱可塑性繊維のベールである,請求項1,3,4,5,6,8,9,10,11及び14までのいずれか1項に記載の方法。 【請求項16】 熱可塑性繊維のベールが,ポリアミド繊維,コポリアミド繊維,又はそれらの組み合わせを含む,請求項15に記載の方法。 【請求項17】 両端部を有すると共に, 両側に面を有し,端部間にてリボンの幅を確定する二つの端部を有する前記リボンを含む,熱硬化性マトリックスを含有する複合材料部品を直接法で製造するための材料である中間材であって, 前記リボンは,ストランド又は長繊維が,リボンの長さに平行な方向に伸長する,その各面上で,加熱により軟化して粘着性を有し,加熱後に冷却されるときリボンの均一な密着を確実にする不織布又は布材料と結合した強化ストランド又は長繊維のリボンであって,複数のストランド又は長繊維間に間隔が存在しないリボンの所与の幅がその全長にわたり本質的に一定であり,標準偏差が0.25mm未満であり,1超から10の圧縮比で圧縮済みである不織布又は布材料の総重量(1m?あたり)が,中間材の総重量(1m?あたり)の(6/132)×100%未満であり,リボンの各端部に沿って位置する不織布又は布材料のはみ出し部分の切断端部が中間材の端部を構成し,中間材はその長手方向の端部に沿って切断された繊維を有しないことを特徴とする,上記中間材。 9【請求項18】 リボンの所与の幅の標準偏差が0.22mm未満であることを特徴とする,請求項17に記載の中間材。 【請求項19】 リボンの所与の幅の標準偏差が0.20mm未満であることを特徴とする,請求項18に記載の中間材。 【請求項21】 両端部を有すると共に, 両側に面を有し,端部間にてリボンの幅を確定する二つの端部を有する前記リボンを含む,熱硬化性マトリックスを含有する複合材料部品を直接法で製造するための材料である中間材を製造するための方法であって, 前記リボンは,リボンの長さに平行な方向に伸長する強化ストランドを含み,その全長にわたり本質的に一定であり,標準偏差が0.25mm未満である所与の幅を有し, a)拡幅バーを有する拡幅器,次いで複数のストランドに寸法取りをする開口部を規定する寸法取りコームの寸法取り器に,複数のストランドを通過させることによって,複数のストランド間に間隔が存在しないようにし,リボンの幅がその全長にわたり本質的に一定であり,標準偏差が0.25mm未満であるような端部を有するリボンを提供する工程であって,少なくとも2つのリボンが不織布又は布材料の適用のために同時に提供される工程; b)リボンの各面に,加熱により軟化して粘着性を有し,加熱後に冷却されるときリボンの均一な密着を確実にする不織布又は布材料を,予備加熱後に1超から10の圧縮比で適用する工程であって,加熱及び圧縮された不織布又は布材料の幅はリボンの幅より広く,その結果,不織布又は布材料はリボンの端部を超えて外側に伸びて,リボンの両側にて各端部に沿って不織布又は布材料がはみ出している工程, 10 c)リボンの各端部に沿って位置する不織布又は布材料のはみ出し部分に 沿って,リボンを封入するように不織布又は布材料を共に接着する工程,及 び d)工程c)と同時に,端部に沿って位置する不織布又は布材料のはみ出 し部分を加熱された切断器で切断し,リボンの端部に切断を及ぼすことなく, はみ出し部分の一部分を除去することで,リボンの幅をその全長にわたり本 質的に一定であり,標準偏差が0.25mm未満であるように維持する工程 であって,不織布又は布材料の総重量(1m?あたり)が中間材の総重量(1 m?あたり)の(6/132)×100%未満であり,はみ出し部分の切断 済み端部が中間材の端部を構成する工程を含み, 不織布又は布材料が,熱可塑性繊維を含む,上記方法。 3 本件決定の理由の要旨 本件決定の理由は,別紙異議の決定書(写し)のとおりである。 その要旨は,下記のとおり本件訂正を認めないとした上で,平成28年10 月13日付けの取消理由通知及び平成29年3月31日付けの取消理由通知で 通知した取消理由1(外国語書面出願に係る原文新規事項),取消理由2(サ ポート要件違反),取消理由3(明確性要件違反)及び取消理由4(本件優先 日前に頒布された刊行物である甲1(特開2004-256961号公報)を 主引用例とする進歩性の欠如)は,いずれも理由があるから,本件発明1ない し20に係る本件特許は取り消されるべきであるというものである。 記 (1) 訂正事項 本件訂正は,訂正事項1ないし28からなり,このうち,訂正事項2ない し4,20,23及び24の内容は,以下のとおりである(甲26)。 ア 訂正事項2 請求項1の「a)リボンの幅がその全長にわたり本質的に一定であるよ 11 うな端部を有するリボンを提供する工程」 本件訂正後の請求項1の を, 「a) 拡幅バーを有する拡幅器,次いで複数のストランド又は長繊維に寸法取り をする開口部を規定する寸法取りコームの寸法取り器に,複数のストラン ド又は長繊維を通過させることによって,複数のストランド又は長繊維間 に間隔が存在しないようにし,リボンの幅がその全長にわたり本質的に一 定であるような端部を有するリボンを提供する工程」に訂正(以下,この うち,本件訂正後の請求項1の「複数のストランド又は長繊維間に間隔が 存在しない」という事項を「事項A」という場合がある。)。 イ 訂正事項3 請求項1の「b)リボンの各面に不織布又は布材料を適用する工程であ って,不織布又は布材料の幅はリボンの幅より広く,その結果,不織布又 は布材料はリボンの端部を超えて外側に伸びて,リボンの両側にて各端部 に沿って不織布又は布材料がはみ出している工程」を,本件訂正後の請求 項1の「b)リボンの各面に,加熱により軟化して粘着性を有し,加熱後 に冷却されるときリボンの均一な密着を確実にする不織布又は布材料を, 予備加熱後に1超から10の圧縮比で適用する工程であって,加熱及び圧 縮された不織布又は布材料の幅はリボンの幅より広く,その結果,不織布 又は布材料はリボンの端部を超えて外側に伸びて,リボンの両側にて各端 部に沿って不織布又は布材料がはみ出している工程」に訂正(以下,この うち,本件訂正後の請求項1の「布材料を…1超から10の圧縮比で適用 する工程」という事項を「事項B」という場合がある。)。 ウ 訂正事項4 請求項1の「d)端部に沿って位置する不織布又は布材料のはみ出し部 分を切断し,リボンの端部に切断を及ぼすことなく,はみ出し部分の一部 分を除去することで,リボンの幅をその全長にわたり本質的に一定である ように維持する工程であって,不織布又は布材料の総重量が中間材の総重 12 量の15%未満であり,はみ出し部分の切断済み端部が中間材の端部を構 成する工程」を,本件訂正後の請求項1の「d)工程c)と同時に,端部 に沿って位置する不織布又は布材料のはみ出し部分を加熱された切断器で 切断し,リボンの端部に切断を及ぼすことなく,はみ出し部分の一部分を 除去することで,リボンの幅をその全長にわたり本質的に一定であるよう に維持する工程であって,不織布又は布材料の総重量(1m?あたり)が中 間材の総重量(1m?あたり)の(6/132)×100%未満であり,は み出し部分の切断済み端部が中間材の端部を構成する工程」に訂正(以下, このうち,本件訂正後の請求項1の「不織布又は布材料の総重量(1m? あたり)が中間材の総重量(1m?あたり)の(6/132)×100%未 満であり」という事項を「事項C」という場合がある。)。 エ 訂正事項20 請求項1,4,8及び9を引用する請求項11に係る発明を独立形式で 記載した請求項として,新たに本件訂正後の請求項21を追加。 オ 訂正事項23 請求項17の「リボンの所与の幅がその全長にわたり本質的に一定であ り,標準偏差が0.25mm未満であり」を,本件訂正後の請求項17の 「複数のストランド又は長繊維間に間隔が存在しないリボンの所与の幅が その全長にわたり本質的に一定であり,標準偏差が0.25mm未満であ り」に訂正。 カ 訂正事項24 請求項17の「不織布又は布材料の総重量が,中間材の総重量の15% 未満であり」を,本件訂正後の請求項17の「1超から10の圧縮比で圧 縮済みである不織布又は布材料の総重量(1m?あたり)が,中間材の総重 量(1m?あたり)の(6/132)×100%未満であり」に訂正。 (2) 訂正の適否についての判断の要旨 13 本件決定は,訂正事項2ないし4,20,23及び24による訂正は,本 件特許の願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面(以下,これらを 併せて「本件特許明細書等」といい,また,明細書及び図面を併せて「本件 明細書」という。)に記載した事項の範囲内においてしたものではなく,新 規事項の追加に当たり,特許法120条の5第9項において読み替えて準用 する同法126条5項の規定に適合しないこと,訂正事項1〜20による本 件訂正は,本件訂正後の請求項1〜16及び21に係る一群の請求項を訂正 するものであり,訂正事項21〜28による本件訂正は本件訂正後の請求項 17〜20に係る一群の請求項を訂正するものであることからすると,その 他の訂正事項の適否にかかわらず,請求項1〜16及び21に係る一群の請 求項の訂正並びに請求項17〜20に係る一群の請求項の訂正を認めること はできない旨判断した。 |
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当事者の主張
1 取消事由1(訂正要件の判断の誤り)について ? 原告の主張 ア 訂正事項2に係る訂正の判断の誤り (ア) 本件決定は,本件特許明細書等の記載を総合しても,訂正事項2に 係る「複数のストランド又は長繊維間に間隔が存在しない」という事項 (事項A)を導くことができるとはいえないから,訂正事項2(請求項 1)に係る訂正は,新規事項の追加に当たり,訂正要件に適合しない旨 判断した。 しかしながら,本件明細書の【0027】には,「複数の長繊維」が リボンの材料となる場合と「複数のストランド」がリボンの材料となる 場合があることが記載されており,この記載は,【0012】の記載と も整合する。 そして,本件明細書の【0028】には,リボンが「複数のストラン 14 ド」を材料とする場合に,その材料となるストランドが接近して配置さ れることが記載され,それに続けて,リボンの材料となる「複数の長繊 維」及び「複数のストランド」中の間隔(英語で「gap」)を最小に しさらに回避すること,つまり,「複数の長繊維」及び「複数のストラ ンド」中の間隔を存在しない状態とすることが開示されている。 このように,本件明細書には,事項Aが明示されているから,事項A の導入は新規事項の追加に当たるということはできない。 したがって,本件決定の上記判断は誤りである。 (イ) 被告は,本件明細書【0031】の「層の内側のストランド間に緩 い空間が存在しない。」という表現によれば,複数のストランド間には 「緩くない空間(狭い空間)が存在」する場合を排除するものではなく, また,図7には,「複数のストランド」が十分な間隔を置いて配置され ていることが示されているから,本件明細書に事項Aの開示はない旨主 張する。 しかしながら,本件明細書【0031】の「緩い空間」との表現は, 単に「空間」を表現したものであり,同段落が「緩くない空間(狭い空 間)」の存在を示唆するものとはいえないし,甲7は,「複数のリボン」 を同時に作製する様子を示した図であり,図示されているのは,「複数 のリボン」であって,「複数のストランド」ではない。 したがって,被告の上記主張は理由がない。 イ 訂正事項3に係る訂正の判断の誤り 本件決定は,本件特許明細書等の記載を総合しても,訂正事項3に係る 「布材料を…1超から10の圧縮比で適用する工程」という事項(事項B) を導くことができるとはいえないから,訂正事項3(請求項1)に係る訂 正は,新規事項の追加に当たり,訂正要件に適合しない旨判断した。 しかしながら,本件明細書の【0033】は,「ポリマー接着剤が布又 15 は不織布,特に熱可塑性材料の場合」の記載から始まるから,ポリマー接 着剤が熱可塑性の布又は不織布の場合について述べた段落であると理解で きる。そして,その後の「不織布をリボンとの結合に先立って加熱段階に かけて,ポリマーを軟化及びさらに融解させる」との記載は,「軟化及び さらに融解させる」対象が「ポリマー」であることを明示している。熱可 塑性の「ポリマー」製であれば,必ずしも不織布である必要はなく,熱可 塑性の布材料についても同段落の内容が妥当することは,当業者にとって 自明であり,熱可塑性の「ポリマー」製の不織布又は布材料を適宜の圧縮 比で適用することは技術常識である。 また,本件明細書において,「布材料」という用語又は「布」という用 語が単独で使用されることはなく,常に「不織布又は布」,「布若しくは 不織布」等の表現で使用されており,「布材料」が「不織布」と相互に適 宜交換可能なものであることが本件明細書全体から読み取れる(請求項1, 2,9,11ないし14及び17,【0007】,【0014】,【00 15】,【0032】,【0033】)。 このように事項Bは,本件明細書の【0033】の段落全体から読み取 ることができ,少なくとも本件明細書の全ての記載を総合するときに容易 に導くことができる事項であるから,本件明細書には,事項Bが開示され ている。 したがって,事項Bの導入は新規事項の追加に当たるということはでき ないから,本件決定の上記判断は誤りである。 ウ 訂正事項4に係る訂正の判断の誤り 本件決定は,本件特許明細書等の記載を総合しても,訂正事項4に係る 「不織布又は布材料の総重量(1m?あたり)が中間材の総重量(1m?あ たり)の(6/132)×100%未満であり」という事項(事項C)を 導くことができるとはいえないから,訂正事項4(請求項1)に係る訂正 16は,新規事項の追加に当たり,訂正要件に適合しない旨判断した。 しかしながら,本件明細書の【0062】の記載から,加工前のリボンの面密度は,「126g/m?」であることが分かり,不織布の面密度については,【0052】に「3g/m?」の「コポリアミドの不織材料1R8D03」との開示がある。 そして,本件明細書の「この本質的に一定な幅により,本件特許に係る発明によるリボンは,面密度のばらつきも非常に小さいことを示す。( 」【0019】)との記載に照らすと,本件発明1により得られるリボンの面密度のばらつきは非常に小さいことが分かる。 そうすると,リボン(一方向シート)と不織布がサンドイッチ状となった本件発明1により得られるリボンの面密度は,加工前のリボンの面密度と不織布の面密度両面分を加算した値となり,不織布の適用前後において厚みが変化しない場合(不織布を圧縮比1で適用した場合),「126g/m?の一方向シートと2つの不織材料(注:3g/m?)を結合させたリボン」の面密度は,「126g/m?+(2面×3g/m?)=132g/m?」となることが自明である。 また,不織布を1超から10の圧縮比で適用するとき,適用後における不織布の厚みは圧縮されて当初よりも薄くなり,加工後のリボンにおける不織布の面密度は,最初の面密度である3g/m?未満の値となることは明らかであるから,不織布を1超から10の圧縮比で適用した場合に,不織布の総重量(1m?あたり)の中間材の総重量(1m?あたり)に対する百分率が「(6/132)×100%未満」の値となることは自明である。 さらに,本件明細書の【0062】の実施例では1本のストランドが用いられているが,事項Cは,ポリマー接着剤である不織布又は布材料の1m?あたりの総重量と中間材の1m?あたりの総重量との割合に関するものであり,この割合がリボンの材料が「複数の長繊維」(1本のストランド) 17 であるか,「複数のストランド」であるかによって影響を受けないことも 自明である。 以上によれば,事項Cは,本件明細書の【0062】の実施例の記載を 含む本件明細書の全ての記載を総合するときに容易に導くことができる事 項であるから,本件明細書には,事項Cが開示されている。 したがって,事項Cの導入は新規事項の追加に当たるということはでき ないから,本件決定の上記判断は誤りである。 エ 小括 以上のとおり,訂正事項2ないし4に係る訂正は,新規事項の追加に当 たるものではないから,訂正要件に適合し,訂正事項2ないし4を含む訂 正事項20,23及び24も,これと同様に,訂正要件に適合する。 したがって,本件訂正を認めなかった本件決定の判断は誤りである。 ? 被告の主張 ア 訂正事項2に係る訂正について 本件明細書には,「拡幅器,次いで寸法取り器に,複数のストランドを 通過させる」ことで「複数のストランド又は長繊維間に間隔が存在しない」 ようにすることについての直接的ないし明示的な記載は存在しない。 一方,本件明細書の【0031】には,「寸法取り段階は…図7に示す ように,並行して複数のリボンを作製する場合における,複数のストラン ドに寸法取りをする開口部を規定する寸法取りコームの寸法取り器上で, 層又はストランドを通過させることによって行われる。 との記載があり, 」 図7には,複数の「ストランド1」が十分な間隔を置いて配置されている ことが図示されている。 また,本件明細書の【0039】には,「複数のリボンを同時に製造す ることも同様に可能であり,その場合,リボンを構成する各ストランド又 はストランドの集合体は,必要ならば拡幅され,個々に寸法取りがなされ, 18切断を可能にするために各ストランド間に十分な間隔を置き,異なるリボンが互いに間隔をあけて配列される。ストランドと間隔を覆う単一の不織材料が,次に,図8に示すように,リボンの各面上で全てのリボンと結合される。」との記載があり,図8には,複数の「ストランド1」の間に間隔が存在することが図示されている。 このように,本件明細書において「複数のストランド」を通過させる「寸法取り器」に相当する構成は,【0039】及び図7に示されているものにほかならない。 もっとも,本件明細書の【0028】には,@「リボン」が複数のストランドの一方向層から成る場合について,各「ストランド」が「接近して配置される」こと,A「リボン作製の前に,幅の標準偏差が最小で,一方向層の全幅を一定にするように調整する場合,層の幅は,材料中のいかなる間隔(英語で「gap」)又は重なり部分(英語で「overlap」)をも最小にし,さらに回避することによって調整」されることが記載されているが,上記@は,【0038】の複数の「ストランド1」の間に,図7に示されるような間隔が存在することについて述べたものであり,上記Aは,「リボンの作製前」に「層の幅」を調整する場合の「材料中の間隔」を記述するものであるから,上記@及びAの記載は,「複数のストランド又は長繊維」について「間隔が存在しない」ことの根拠となるものではない。 また,【0028】の「いかなる間隔(英語で「gap」)をも回避する」との記載は,日本語表現として「隙間(すきま)を回避する」ということを意味するに過ぎないから,事項Aの「間隔が存在しない」という事項が記載されていることの根拠となるものではない。 さらに,【0031】中の「緩い空間が存在しない」という日本語表現の内容は,緩い空間以外の空間の存在を排除するものではなく,しかも, 19 日本語の一般的な表現として「緩い空間」が「間隔」と同義であるともい えないから,【0031】の記載は,事項Aの記載の根拠になるものでは ない。 したがって,本件特許明細書等の記載を総合しても,事項Aを導くこと ができるとはいえず,訂正事項2(請求項1)に係る訂正は,新規事項の 追加に当たるから,訂正要件に適合しないとした本件決定の判断に誤りは ない。 イ 訂正事項3に係る訂正について 本件明細書の【0033】には,「熱圧着の段階」を「不織材料の溶融 温度の-15℃から+60℃の範囲の温度及び0.1から0.6MPaの 圧力下」で行う結果,不織布について圧縮比を1から10に達成できるこ とが記載されているが,布については,そのような圧縮比が達成できるこ とについての記載はない。 また,不織布は,大きな繊維間距離を確保した嵩高な構造を有している ため(乙2の【0015】,図3),所定の圧力で圧縮された場合に容易 に広がることができ,また,容易に圧縮可能な構造を持つのに対し,布材 料は,経糸と緯糸が密に織り込まれた構造を有しており(乙3の【002 3】,図2),繊維間に緩い空間が存在しないため,不織布と比べて圧縮 されにくい構造であることは技術常識である。かかる技術常識に鑑みると, 当業者は,本件明細書の【0033】の上記記載が専ら不織布に向けられ ているものと認識するものといえる。 このような材質の布材料について,「予備加熱後に1超から10の圧縮 比」で適用する工程を達成できるものであること(事項B)が本件明細書 に記載されているとはいえない。 したがって,本件特許明細書等の記載を総合しても,事項Bを導くこと ができるとはいえず,訂正事項3(請求項1)に係る訂正は,新規事項の 20 追加に当たるから,訂正要件に適合しないとした本件決定の判断に誤りは ない。 ウ 訂正事項4に係る訂正について (ア) 本件特許明細書等には,「接着剤の総重量が得られるリボンの総重 量の15%未満である」(【0012】)との記載があるが,1m?当た りの総重量に基づく重量百分率を用いた数値範囲については,明示的な 記載はなく,「(6/132)×100%未満」という数式で表現され る数値範囲を明示する記載もない。 本件明細書の実施例(【0062】)の記載から,当該実施例のリボ ンが,1本のストランドと2つの不織材料を結合させて構成されており, そのストランドが「126g/m?」であり,2つの不織材料がそれぞれ 「3g/m?」のものであることが読み取れるものの,本件発明1に係る リボンの「不織布又は布材料」と「中間材」の1m?あたりの総重量の比 が「(6/132)×100%」未満という数値範囲を満たすものであ ることまで導き出せるものではない。 また,【0062】の実施例は,1本のストランドについてのもので あるから,本件訂正後の請求項1の「複数のストランド」における数値 範囲の根拠となるものではない。 さらに,【0062】の記載は,圧縮後の不織布の面密度を開示する ものではなく,圧縮後に切断除去されるはみ出し部分の不織布又は布材 料の重量は明らかにされていないことからすると,中間材の総重量や不 織布又は布材料の総重量を具体的に計算できる程度に十分に記載されて いるものとはいえない。 (イ) 以上のとおり,本件特許明細書等のすべての記載を精査しても,事 項Cの「不織布又は布材料の総重量(1m 2あたり)が中間材の総重量 (1m2あたり)の(6/132)×100%未満であり」という重量 21 百分率について,その「(6/132)×100%」という上限値未満 の連続的な数値範囲を導き出し得る根拠となる記載は見当たらない。 したがって,本件特許明細書等の記載を総合しても,事項Cを導くこ とができるとはいえず,訂正事項4(請求項1)に係る訂正は,新規事 項の追加に当たるから,訂正要件に適合しないとした本件決定の判断に 誤りはない。 エ 小括 以上によれば,訂正事項2ないし4に係る訂正は,新規事項の追加に当 たり,訂正要件に適合しないとした本件決定の判断に誤りはない。訂正事 項2ないし4を含む訂正事項20,23及び24も,これと同様に,訂正 要件に適合しないとした本件決定の判断に誤りはない。 したがって,請求項1〜16及び21に係る一群の請求項の訂正並びに 請求項17〜20に係る一群の請求項の訂正を認めることはできないとし た本件決定の判断に誤りはないから,原告主張の取消事由1は理由がない。 2 取消事由2-1(甲1を主引用例とする本件発明1の進歩性の判断の誤り) について? 原告の主張 本件決定は,本件発明1は,甲1(本件決定・刊行物1)に記載された発 明(以下「引用発明」という。)と甲2(米国特許第6503856号明細 書,本件決定・刊行物3)及び甲4(特開平3-243309号公報,本件 決定・刊行物2)に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をする ことができたものである旨判断したが,以下のとおり誤りである。 ア 相違点の看過 (ア) 本件決定認定の引用発明,本件発明1と引用発明との相違点は,以 下のとおりである。 (引用発明) 22(A)引出工程:たて糸を引き出し,(B)狭幅工程:たて糸は糸条幅を3mmに狭め,(C)拡幅工程:熱可塑性樹脂をメルトブローにて不織布化した13g/m?の樹脂材料を,引き揃えた強化繊維糸条の両面に貼り合わせたものを離型紙に挟み,プレスロールを通過させ,糸条幅を5.2mmに拡幅すると同時に,(D)固定工程:樹脂材料を表面に接着して強化繊維糸条の幅を固定する,強化繊維糸条の目付が190g/m?で,糸条幅の変動率が5%の強化繊維基材の製造方法。 (相違点(α)) リボンに接着される不織布に関して,本件発明1においては「不織布又は布材料の幅はリボンの幅より広く,その結果,不織布又は布材料はリボンの端部を超えて外側に伸びて,リボンの両側にて各端部に沿って不織布又は布材料がはみ出して」おり「リボンの各端部に沿って位置する不織布又は布材料のはみ出し部分に沿って」リボンが「封入」されるのに対して,引用発明においては,不織布(不織布化した樹脂材料)の幅とリボン(引き揃えた強化繊維糸条)の幅の関係が不明である点。 (相違点(β)) リボンの端部の処理に関して,本件発明1においては「d)端部に沿って位置する不織布又は布材料のはみ出し部分を切断し,リボンの端部に切断を及ぼすことなく,はみ出し部分の一部分を除去することで,リボンの幅をその全長にわたり本質的に一定であるように維持する工程であって,…はみ出し部分の切断済み端部が中間材の端部を構成する工程」という切断工程がなされているのに対して,引用発明においては当該切断工程がなされていない点。 (相違点(γ)) 不織布又は布材料の総重量に関して,本件発明1においては「不織布又は布材料の総重量が中間材の総重量の15%未満」であるとされてい 23 るのに対して,引用発明においては「不織布化した13g/m?の樹脂 材料」を強化繊維糸条の両面に貼り合わせた著に煮「プレスロール通過」 させて「強化繊維糸条の目付が190g/m?」の強化繊維基材となっ たものであるとされ,最終的な中間材(不織布化した樹脂材料を強化繊 維糸条の両面に貼り合わせてプレスロール通過させた後の強化繊維基 材)の総重量を基準とした重量百分率の数値が不明である点。 (イ) しかしながら,本件発明1と引用発明との間には,相違点(α)な いし(γ)のほかに,次のとおりの相違点があるから,本件決定は,相 違点を看過した誤りがあり,その結果,本件発明1の容易想到性の判断 を誤ったものである。 (相違点(ア)) 本件発明1においては,「a)リボンの幅がその全長にわたり本質的 に一定であるような端部を有するリボンを提供する工程」から「d)端 部に沿って位置する不織布又は布材料のはみ出し部分を切断し,リボン の端部に切断を及ぼすことなく,はみ出し部分の一部分を除去すること で,リボンの幅をその全長にわたり本質的に一定であるように維持する 工程…」を経て得られたリボンの幅が「その全長にわたり本質的に一定」 となるのに対し,引用発明には,リボンの幅が「その全長にわたり本質 的に一定」となる工程は設けられておらず,強化繊維基材における糸条 幅の変動率は5%であり,「本質的に一定」ではない点。 (相違点(イ)) 本件発明1においては,得られたリボン(中間材)は「その全長にわ たり本質的に一定な所与の幅を有し」ており,「a)リボンの幅がその 全長にわたり本質的に一定であるような端部を有するリボンを提供す る工程」において与えられた幅が,「d)端部に沿って位置する不織布 又は布材料のはみ出し部分を切断し,リボンの端部に切断を及ぼすこと 24 なく,はみ出し部分の一部分を除去することで,リボンの幅をその全長 にわたり本質的に一定であるように維持する工程…」を経て最終的に得 られたリボン(中間材)の幅と同一であるのに対し,引用発明により得 られた強化繊維基材の糸条幅は狭幅工程によって与えられた3mmと は異なる点。 イ 相違点の容易想到性の判断の誤り 本件決定は,相違点(α)ないし(γ)は,実質的な差異であるとは認 められない,また,仮に実質的な差異であるとしても,これらの相違点に 係る本件発明1の構成とすることは,当業者にとって通常の創作能力の発 揮の範囲にあり,容易に想到することができた旨判断したが,以下のとお り誤りである。 (ア) 相違点(α)について 甲1には,引用発明における不織布化した樹脂材料が強化繊維糸条の 端部からはみ出しているか否かについての開示も示唆もない。 したがって,引用発明において,「はみだし部分」を「封入」する構 成(相違点(α)に係る本件発明1の構成)とする動機付けは存在しな い。 (イ) 相違点(β)について 前記(ア)のとおり,甲1には,「はみだし部分」についての開示も示 唆もなく,ましてや,それを切断することに関する開示も示唆もない。 したがって,引用発明において,甲2及び甲4を適用して端部を切断 する構成(相違点(β)に係る本件発明1の構成)とする動機付けは存 在しない。 (ウ) 相違点(γ)について 甲1の【0034】の記載から,引用発明においては,強化繊維基材 100重量%に対して樹脂材料が20重量%を超えなければ,複合材料 25 を得る際にマトリックス樹脂の含浸を妨げるという問題が発生しない ことが理解できる。 したがって,引用発明において,「不織布又は布材料の総重量が中間 材の総重量の15%未満」の構成(相違点(γ)に係る本件発明1の構 成)とする動機付けは存在しない。 ウ 小括 以上によれば,本件発明1は,甲1,2及び4に記載された発明に基づ いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから,こ れと異なる本件決定の判断は誤りである。 ? 被告の主張 ア 相違点の看過の主張に対し (ア) 相違点(ア)について 引用発明は,その糸条幅の変動率を正確かつ安定に制御することを目 的の一つとするものであるから(甲1の【0048】,【0049】), 引用発明の「糸条幅」は,その幅が「本質的に一定」になるよう制御さ れたものであり,相違点(ア)は存在しない。 (イ) 相違点(イ)について 本件発明1は,b)の工程(不織布又は布材料を適用する工程)の前 に,「リボンの幅が「調整」されて変動する工程が追加される」ものを 含んでいる。 したがって,b)の工程の前段にあるa)の工程(本質的に一定であ るような端部を有するリボンを提供する工程)における「リボンの幅」 と,b)の工程の後段にあるd)の工程(本質的に一定であるように維 持する工程)における「リボンの幅」とは,請求項2の「追加の工程」 によって調整されて変動し得るので,一貫して同じ幅になると解し得な いことは明らかであるから,相違点(イ)は存在しない。 26イ 相違点の容易想到性の判断の誤りの主張に対し (ア) 相違点(α)について 当業者であれば,技術常識(甲4)に則り,引用発明において,その 樹脂材料がプレスロールの加圧により強化繊維糸条の端部を超えては み出し部分を形成し,封入状態になることを普通に認識するから,相違 点(α)は実質的な差異とは認められない。 (イ) 相違点(β)について 本件優先日前に,複合材料の技術分野において,プリプレグの耳部を 切断・除去してその幅を一定であるように維持することは,常套手段に 過ぎず,普通に知られていた(甲3,4,乙5,6)。 したがって,当業者にとって,引用発明において形成されることが明 らかな耳部の切断を,常套手段といえるリボンの端部に切断を及ぼさな い位置で行うこと(甲4の第3図)は,適宜なし得ることである。 (ウ) 相違点(γ)について 引用発明は,「熱可塑性樹脂をメルトブローにて不織布化した13g /m?の樹脂材料」を用いて「目付が190g/m?」の「強化繊維糸条」 を製造するものである。 そうすると,本件発明1の「不織布又は布材料」に相当する引用発明 の「不織布化した樹脂材料」の「総重量」は,本件発明1の「中間材の 総重量」に相当する引用発明の「強化繊維糸条」の総重量に対して,1 3÷190=6.84%と計算され,本件発明1の「不織布又は布材料 の総重量」が「中間材の総重量」の15%未満の範囲に含まれる数値で ある点で一致するから,相違点(γ)は実質的な差異ではない。 ウ 小括 以上によれば,本件発明1は,甲1,2及び4に記載された発明に基づ いて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本件決定 27 の判断に誤りはなく,原告主張の取消事由2-1は理由がない。 3 取消事由2-2(甲1を主引用例とする本件発明2ないし16の進歩性の判 断の誤り)について ? 原告の主張 本件決定は,本件発明2ないし16は,甲1,2及び4に記載された発明 に基づいて,又はこれらの発明と本件優先日当時の技術常識に基づいて,当 業者が容易に発明をすることができたものである旨判断した。 しかしながら,本件発明2ないし16は,請求項1を直接又は間接的に引 用し,本件発明1の発明特定事項を含むところ,前記2(1)のとおり,本件 発明1は,甲1,2及び4に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発 明をすることができたものといえない以上,本件発明2ないし16について も,同様に,当業者が容易に発明をすることができたものといえない。 したがって,本件決定の上記判断は誤りである。 ? 被告の主張 本件発明2ないし16において,本件発明1に追加された発明特定事項は, 本件優先日前に周知慣用の常套手段(甲6,8,9,乙7,8等)又は設計 事項に過ぎない。 したがって,本件発明2ないし16は,甲1,2及び4に記載された発明 に基づいて,又はこれらの発明と本件優先日当時の技術常識に基づいて,当 業者が容易に発明をすることができたものであるとした本件決定の判断に 誤りはなく,原告主張の取消事由2-2は理由がない。 4 取消事由2-3(甲1を主引用例とする本件発明17の進歩性の判断の誤 り)について? 原告の主張 本件決定は,本件発明17は,甲1の「実施例4」に記載された発明(以 下「甲1の実施例4の発明」という。),甲2及び4に記載された発明,本 28件優先日当時の技術常識に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである旨判断したが,以下のとおり誤りである。 ア 相違点の看過 (ア) 本件決定認定の甲1の実施例4の発明,本件発明17と甲1の実施 例4の発明との相違点は,以下のとおりである。 (甲1の実施例4の発明) プレスロールを通過させて糸条幅を5.2mmに固定した強化繊維基 材であって,たて糸として強化繊維糸条であるPAN系炭素繊維糸条を 用い,13g/m?の不織布状の樹脂材料を強化繊維糸条の表面に接着し た,強化繊維糸条の目付が190g/m?,糸条幅の変動率が5%の糸条 幅が長手方向および幅方向に安定した強化繊維基材。 (相違点(δ)) 標準偏差が,本件発明17は「0.25mm未満」であるのに対して, 甲1の実施例4の発明は「0.26mm」である点。 (相違点(ε)) 中間材の端部が,本件発明17は「リボンの各端部に沿って位置する 不織布又は布材料のはみ出し部分の切断端部が中間材の端部を構成」し ているのに対して,甲1の実施例4の発明は「不織布又は布材料のはみ 出し部分の切断端部」により構成されていない点。 (イ) しかしながら,本件発明17と甲1の実施例4の発明との間には, 相違点(δ)(ただし,甲1の実施例4の発明の標準偏差は「0.51」) 及び相違点(ε)のほか,次のとおりの相違点があるから,本件決定は, 相違点を看過した誤りがあり,その結果,本件発明17の容易想到性の 判断を誤ったものである。 (相違点(ζ)) 不織布又は布材料の総重量に関して,本件発明17においては「不織 29 布又は布材料の総重量が中間材の総重量の15%未満」とされているの に対して,甲1の実施例4の発明においては「不織布化した13g/m? の樹脂材料」を強化繊維糸条の両面に貼り合わせた後に「プレスロール 通過」させて「強化繊維糸条の目付が190g/m?」の強化繊維基材と なったものであるとされ,最終的な中間材の総重量を基準とした重量百 分率の数値が不明である点。 (相違点(ウ)) 本件発明17においては「リボン…幅がその全長にわたり本質的に一 定」であるのに対し,甲1の実施例4の発明の強化繊維基材における糸 条幅の変動率は5%であり,「本質的に一定」ではない点。 (相違点(エ)) 本件発明17においては「リボンの所与の幅がその全長にわたり本質 的に一定」とされ,リボンの幅は所与の幅であるのに対し,甲1の実施 例4の発明の強化繊維基材における糸条幅が所与の幅であることは記 載されていない点。 イ 相違点の容易想到性の判断の誤り 本件決定は,相違点(δ)及び(ε)に係る本件発明17の構成とする ことは,当業者にとって通常の創作能力の発揮の範囲にあり,容易に想到 することができた旨判断した。 しかしながら,甲1には,相違点(δ)に係る本件発明17の構成の開 示も示唆もない。 また,相違点(ε)及び(ζ)に係る本件発明17の構成が容易想到と いえないことは,前記2?イと同様である。 したがって,本件決定の上記判断は誤りである。 ウ 小括 以上によれば,本件発明17は,甲1,2及び4に記載された発明と本 30 件優先日当時の技術常識に基づいて,当業者が容易に発明をすることがで きたものとはいえないから,これと異なる本件決定の判断は誤りである。 ? 被告の主張 ア 相違点の看過の主張に対し 前記2?アのとおり,相違点(ア)及び(イ)は存在せず,これと同様 の理由により,相違点(ウ)及び(エ)も存在しない。 イ 相違点の容易想到性の判断の誤りの主張に対し 相違点(δ)については,甲1の記載(【0049】)から,甲1の実 施例4の発明の糸条幅の変動幅を0%(標準偏差0mm)程度とすること は,当業者が適宜なし得る程度のことである。 また,前記2?イ(イ)と同様の理由により,相違点(ε)に係る本件発 明17の構成とすることは,当業者が適宜なし得る程度のことである。 さらに,前記2?イ(ウ)と同様の理由により,甲1の実施例4の発明の 「不織布化した樹脂材料の総重量」が「強化繊維糸条の総重量」の6.8 4%より少ない所定の値であることを理解できるから,本件発明17と甲 1の実施例4の発明との間に相違点(ζ)は存在しない。 ウ 小括 以上によれば,本件発明17は,甲1,2及び4に記載された発明と本 件優先日当時の技術常識に基づいて,当業者が容易に発明をすることがで きたものであるから,本件決定の判断に誤りはなく,原告主張の取消事由 2-3は理由がない。 5 取消事由2-4(甲1を主引用例とする本件発明18ないし20の進歩性の 判断の誤り)について? 原告の主張 本件決定は,本件発明18ないし20は,甲1,2及び4に記載された発 明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである旨判断し 31 た。 しかしながら,本件発明18ないし20は,請求項17を直接又は間接的 に引用し,本件発明17の発明特定事項を含むところ,前記4(1)のとおり, 本件発明17は,甲1,2及び4に記載された発明と本件優先日当時の技術 常識に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものといえない以 上,本件発明18ないし20についても,同様に,当業者が容易に発明をす ることができたものといえない。 したがって,本件決定の上記判断は誤りである。 ? 被告の主張 本件発明18ないし20において,本件発明17に追加された発明特定事 項は,本件優先日前に周知慣用の常套手段(甲2等)に過ぎない。 したがって,本件発明18ないし20は,甲1,2及び4に記載された発 明と本件優先日当時の技術常識に基づいて,当業者が容易に発明をすること ができたものであるから,本件決定の判断に誤りはなく,原告主張の取消事 由2-4は理由がない。 6 取消事由3(外国語書面出願に係る原文新規事項の判断の誤り)について ? 原告の主張 本件決定は,外国語書面出願である本件出願の外国語書面(以下「本件外 国語書面」という。原文甲36,訳文甲36の2,乙1)に記載された「得 られるリボン(ruban obtenu)」(3頁27行)は,バインダ ー(liant)が結合して得られたものであって,当該「得られたリボン にバインダーが結合したもの」が「はみ出し部分」を切断する前の段階で得 られた「材料」を意図していることは明らかであると認定した上で,本件発 明1及び17は,「はみ出し部分」を切断した後の「中間材」の総重量を基 準として接着剤(adhesif)としての「不織布又は布材料」の総重量 の重量百分率を特定しているという点において,本件発明1及び17の特許 32 請求の範囲(請求項1及び17)に記載した事項が本件外国語書面に記載し た事項の範囲内にないから,本件発明1及び17並びに請求項1又は請求項 17を直接又は間接に引用する本件発明2ないし16,18ないし20に係 る本件特許は,原文新規事項(特許法113条5号)に当たる旨判断した。 しかしながら,ポリマー接着剤として不織布又は布材料を使用した場合に 関する「ruban obtenu」との記載は,本件外国語書面中に他に 4箇所(6頁16行,21行,12頁5行,17頁3行)あるところ,その 全ての箇所において「はみ出し部分」の切断後のリボンを指した表現として 使用されていることに照らすと,本件決定のいう「ruban obten u」も「はみ出し部分」の切断後のリボンを意味することは明らかである。 したがって,本件決定の上記判断は誤りである。 ? 被告の主張 本件外国語書面に記載のある「15%未満」という重量百分率は,そのb) の工程,すなわち,リボン(ruban)の各面をバインダー(liant) に結合(association)させた段階における重量百分率(バイン ダー総重量/リボン総重量の重量百分率)を特定しているものであって,封 入工程や切断工程を経ていないものを基準とした重量百分率で特定してい る。 また,本件外国語書面に記載された事項(3頁16行〜27行。本件明細 書の【0012】に対応)は,本件出願の出願当初の旧請求項(乙1)に記 載されていたa)とb)の工程からなる方法の発明について記載するもので あって,本件発明1のc)の工程(リボンの封入工程)及びd)の工程(は み出し部分の切断除去工程)を含まないものであるから,本件外国語書面の 「得られるリボン(ruban obtenu)」(3頁24行〜27行) は,「はみ出し部分」の切断後の「リボン」を意味するものでないことは明 らかである。 33 したがって,本件外国語書面に本件発明1及び17の「不織布又は布材料 の総重量が中間材の総重量の15%未満」が記載されているといえないから, 本件発明1ないし20に係る本件特許は,原文新規事項に当たるとした本件 決定の判断に誤りはなく,原告主張の取消事由3は理由がない。 7 取消事由4(サポート要件の判断の誤り)について ? 原告の主張 本件決定は,請求項1及び17に記載された「不織布又は布材料の総重量」 が「中間材の総重量の15%未満」であるという事項は,本件明細書の発明 の詳細な説明に記載されているとは認められないから,請求項1及び17並 びにその従属項である請求項2ないし16,18ないし20の記載は,特許 を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものとはいえず,特許 法36条6項1号に規定する要件(サポート要件)に適合しない旨判断した。 しかしながら,請求項1及び17に記載された「不織布又は布材料の総重 量」が「中間材の総重量の15%未満」であるという事項は,本件明細書の 【0012】,【0038】,図4及び8等に記載されている。 したがって,本件決定の上記判断は誤りである。 ? 被告の主張 前記6(2)のとおり,本件明細書の【0012】は,本件発明1のc)の 工程(リボンの封入工程)及びd)の工程(はみ出し部分の切断除去工程) を含まない発明について述べたものであり,【0012】中の「得られるリ ボン」が,加熱バーで不織布又は布材料と結合後に「はみ出し部分」を切断 する連続した一連の工程を経た「リボン」(「中間材」)を意味しないこと は明らかである。 したがって,本件特許がサポート要件に適合しないとした本件決定の判断 に誤りはないから,原告主張の取消事由4は理由がない。 8 取消事由5(明確性要件の判断の誤り)について 34? 原告の主張 本件決定は,本件明細書の発明の詳細な説明の記載及び本件優先日当時の 技術常識を参酌しても,請求項1及び17の「不織布又は布材料の総重量が 中間材の総重量の15%未満」という「重量百分率」の算出方法を明確に把 握することができないので,「不織布又は布材料の総重量が中間材の総重量 の15%未満」という発明特定事項は明確ではないから,請求項1及び17 並びにその従属項である請求項2ないし16,18ないし20の記載に係る 本件特許は,特許法36条6項2号に規定する要件(明確性要件)に適合し ない旨判断した。 しかしながら,中間材の重量,適用前の不織布又は布材料の総重量,及び 切断により取り除かれた不織布又は布材料の総重量を秤などで測定すること により,「不織布又は布材料の総重量」及び「中間材の総重量」を把握し, 「中間材の総重量」に対する「不織布又は布材料の総重量」の割合を算出す ることができるから,「不織布又は布材料の総重量が,中間材の総重量の1 5%未満」という発明特定事項は明確である。 したがって,本件決定の上記判断は誤りである。 ? 被告の主張 請求項1及び17並びにその従属項である請求項2ないし16,18ない し20には,「不織布又は布材料の総重量」は「不織布又は布材料のはみ出 し部分」を「切断」する「d)」のステップ後の総重量を意味すると断定的 に解釈できる記載は存在しない。 また,本件明細書の【0012】の記載を参酌して,当該記載中の「接着 剤の総重量」が本件発明1の「不織布又は布材料の総重量」を意味すると解 した場合には,【0012】の接着剤は切断されるものではないから,本件 発明1の「不織布又は布材料の総重量」を切断前の総重量を意味するものと 解さざるを得なくなる。 35 このように,請求項1及び17の「不織布又は布材料の総重量」は,「製 造に供された総重量」を意味するのか,あるいは「はみ出し部分の切断後の 総重量」を意味するのかを,一義的に把握することができない。 したがって,本件特許が明確性要件に適合しないとした本件決定の判断に 誤りはなく,原告主張の取消事由5は理由がない。 |
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当裁判所の判断
1 取消事由1(訂正要件の判断の誤り)について ? 本件明細書の記載事項等について ア 本件発明1の特許請求の範囲(請求項1)の記載は,前記第2の2?の とおりである。 本件明細書(甲10)の発明の詳細な説明には,次のような記載がある (下記記載中に引用する「図1,2及び5ないし8」及び「表1ないし3」 については別紙を参照。)。 (ア) 【技術分野】 【0001】 本発明は,複合材料部品の作製に適合する強化材の技術分野に関する。 より具体的には,本発明は,熱硬化性樹脂の後続の射出又は注入による 複合材料部品の作製のための新規の中間材,そのような材料の積層から 複合材料部品を作製する方法,並びに得られる複合材料部品に関する。 【背景技術】 【0002】 複合材料部品又は物品,すなわち一方では1つ又は複数の強化材又は 繊維層を含有し,他方で,熱可塑性樹脂を含めることができる主として 熱硬化性マトリックス(「樹脂」)を含有するこれらの部品又は物品の 作製は,例えば,「直接的」又は「LCM」(英語では「Liquid Composite Moulding(液体複合材成形)」)と呼ば 36れる方法により達成することができる。直接法は,1つ又は複数の繊維強化材が「乾燥」状態(すなわち最終マトリックスが無い状態)で調製され,樹脂又はマトリックスが,別に調製されるという事実によって規定され,例えば,繊維強化材を含有する金型に射出すること(「RTM」法,英語では「Resin Transfer Moulding」(樹脂トランスファ成形))による,繊維強化材の厚さを通して注入すること(「LRI」法,英語では「Liquid Resin Infusion(液体樹脂注入)」若しくは「RFI」,英語では「ResinFilm Infusion」(樹脂フィルム注入))による,又は別法として金型上に連続して塗布された繊維強化材の各単位層上に,ローラー若しくはブラシにより手作業で交互に被覆/含浸することによる方法である。 【0004】 RTM,LRI又はRFI法では,一般に,所望の完成品の金型の繊維プリフォームを作ることが最初に必要であり,次に,このプリフォームに樹脂を含浸させる必要がある。樹脂を温度による差圧により射出又は注入し,次いで必要な樹脂の量の全てをプリフォーム中に含めると直ちに,この集合体をより高温とし,重合/網状化サイクルを完了して,これにより集合体を硬化させる。 【0005】 自動車,航空又は造船産業で使用される複合材料部品は,非常に厳密な要件,とりわけそれらの機械的特性に関して特に制約される。したがって,一方で一貫性が高く,他方で取扱い及び加工が容易な材料を使用することが特に重要である。 【0006】 これらの分野では,多数のプリフォームが,補強材,主に炭素繊維, 37 とりわけ一方向のものから作製される。とりわけ航空分野で要求される 品質及び生産性の高い基準に対処するためには,オートメーションプロ セスを実施することがますます必要である。したがって,ドレープ成形 若しくは自動蒸着においては,2つの隣接する強化材の材料間隔(英語 で「gap」)又は重なり部分(英語で「overlap」)をできる 限り回避するために,規則的な構造を有し特に幅のばらつきの少ない一 方向材料に対する需要がある。 【0007】 従来技術は,ストランド間の密着が,強化ストランドに対して横断し て伸びる熱可塑性の接着ストランド又はガラス/熱可塑性織布若しく は不織布によって確実なものにされる,強化ストランドの一方向層を提 示している。そのような層は,例えばPW-BUDとして,SIGMA TEX UK Limited,Runcom Cheshire W A7 1TE,英国から販売されている。 【0008】 これらのリボンに関しては,ストランド間の接着は接着点だけに限定 され,強化繊維は,接着ストランド間で緩くなっている。結果として, 大きな幅のばらつきが特に接着ストランド間に存在し, 40から1. 0. 00mmの範囲にある標準偏差が幅に生じてしまう。 【0009】 その上,所望の幅を得るために,そのような一方向層を強化ストラン ドの方向(従来より,0°軸と呼ばれる)に対して平行に切断した場合, 切断した端部がきれいに揃っておらず,長繊維の断片でほつれている。 これらの切断繊維は,一般に,束の作製,コイル(「リング」と呼ばれ る)上での材料の巻き取りなどの後続のプロセスに非常に不便である。 (イ) 【発明が解決しようとする課題】 38 【0010】 したがって,本発明は,材料の損失を限定しながら,1つ又は複数の ストランドから複合材料部品を製造する直接法に適合し,一貫性の高い 所与の幅を有する一方向層を達成する方法を提供することを目的とす る。 【0011】 本発明の別の目的は,主要な方向に沿って切断された繊維のない一方 向層を製造する方法を提供することである。 (ウ) 【課題を解決するための手段】 【0012】 この態様において,本発明は,その各面上で,ポリマー接着剤と結合 した強化ストランド又は長繊維のリボンを調製する方法であって,前記 リボンは,その全長にわたり実質的に一定な所与の幅を有し,ストラン ド又は長繊維はリボンの長さに平行な方向に伸長する方法において,次 の a)寸法取り器により,リボンの幅を所望の幅に調整するステップ b)その各面上で,リボンをポリマー接着剤と結合して,リボンの均一 な密着を確実にし,その結果,接着剤の総重量が得られるリボンの総重 量の15%未満となるステップ を含むことを特徴とする方法を提供することを目的とする。 【0013】 ポリマー接着剤は,例えば,1つ又は複数の熱可塑性及び/又は熱硬 化性ポリマーの粉体,又は1つ又は複数の熱可塑性及び/又は熱硬化性 ポリマーの不織布である。リボンの両側に不織布を使用することが特に 好ましい。 【0014】 39ポリマー接着剤が,ポリマー接着剤としての熱硬化性若しくは好ましくは熱可塑性繊維の不織布又は布である場合,調整後に得られる幅を維持するために,これをリボンの幅の調整後にリボンと結合することが有利である。したがって,リボンをこの全長にわたり本質的に一定な所望の幅の寸法に合わせて作り,繊維のリボンがポリマー接着剤と粘着により結合することによって得られる寸法を一定に固定することができ,そのため幅のばらつきが最小にされる。 【0015】実施変形形態の1つによると,繊維のリボンを,その各面上で,リボンの幅より大きい幅の不織材料又は布に結合させ,不織材料又は布をリボンの各端部でホットカットする。そのような方法により,切断がストランド上でなされずにストランドの端部及びストランド外部に沿って行われるので,特に,ほつれていないきれいに揃った端部を得ることが可能になる。さらに,不織材料は,ポリマー接着剤の少なくとも部分的な溶融が達成されるまで,切断中に加熱される。冷却されるとすぐに,ポリマーによりさらにリボンの寸法取りを維持することが可能になる。 とりわけ不織材料又は布がリボンの端部を超えて切断のために十分はみ出る場合,及び切断がリボンの端部にあまり近づいて行われない場合,ストランド又は長繊維のリボンを接着剤の膜内に本質的に封入するように,リボンの各面上の2つの接着剤が接着されるのが理想的である。 【0016】この最後の変形形態の一部として,きれいに揃った端部及びリボン幅の良好な制御の達成をさらに促進するために,一方でリボンを,他方でその各端部から切断される部分を,フィードローラー又は吸引などの手段で取り出す。 【0017】 40 本発明による方法により,材料の長さに平行な方向に沿って伸長する単一の強化ストランド又は複数の強化ストランドから材料の所与の幅を作製することが可能になる。 【0018】 本発明の文脈において,本質的に一定の幅を有するリボン,すなわち,この全長にわたり幅のばらつきが非常に小さいリボンが得られる。長さは,最低でもおよそ数百メートルの意味と理解される。リボン又はストリップは,この幅よりはるかに大きい長さを有する材料の層の意味と理解される。概して,本発明の方法によって調製されるリボンは,非常に大きい長さを有し,特に市場で利用可能な長さのストランドに合わせることができる。本発明による方法によれば,その全長にわたるリボンの幅は,特に0.25mm未満,好ましくは0.22mm未満,及び優先的には0.20mm以下の標準偏差を有する。リボンの幅及び標準偏差は,表3の結果の例に記載した方法に従って決定することができる。…【0019】 この本質的に一定な幅により,本発明によるリボンは,面密度のばらつきも非常に小さいことを示す。 【0020】 本発明による方法を,それぞれ単一のストランド(長繊維の集合体に相当する)からリボンを作製するために,並びにそれぞれ複数のストランドからリボンを作製するために,実行することができる。 【0021】 複数のリボンを同時に作製するために,本発明による方法を実行することが同様に可能である。 【0022】 本発明は,ストランド又は長繊維がリボンの長さに平行な方向に伸長 41 する,その各面上でポリマー接着剤と結合した強化ストランド又は長繊 維のリボンであって,前記リボンがその全長にわたり本質的に一定の所 与の幅を有し,特に0.25mm未満,好ましくは0.22mm未満, 及び優先的に0.20mm以下の標準偏差を有することを特徴とするリ ボンもまた目的とする。 【図面の簡単な説明】 【0025】 【図7】単一のストランドをベースにして複数のリボンを同時に作製す る場合の,ポリマー接着剤との結合前の寸法取り要素に対応する図3の アイテムDを表す図である。 (エ) 【発明を実施するための形態】 【0026】 本発明による方法により,一方向繊維のリボンの幅を寸法取り制御す ること,及び一方向の強化繊維にポリマー接着剤を結合することにより リボンのサイズを設定することが可能になり,均一な接着が確実にされ る。そのようなリボンは,特に3から600mmの幅を示すことができ, したがって,長繊維の集合体から成る1つ又は複数のストランドから得 ることができる。1つ又は複数の非常に微細な1K又は3Kのストラン ドを使用する場合,より細いリボンでさえ得ることができる。 【0027】 図1に示すように,本発明の文脈で作製されるリボンIは,長さIと 幅Lを有している。これらのリボンは,リボンの幅に平行に伸長する長 繊維の集合体(単一のストランド1の場合)又はストランド1の集合体 (各々が長繊維の集合体から成る)から成る。図2に示すように,リボ ンは概して長方形の形状であり,この広い面1a及び1bの各々にポリ マー接着剤が結合する。図1及び図2は,ポリマー接着剤が2つの不織 42材料2a及び2bである場合を示し,図3は,ポリマー接着剤が,リボンIの2つの面にわたって分布する粉体3である場合を示している。 【0028】 強化長繊維又は繊維は,リボンの全面にわたり準完全被覆を確実にするように配置される。特に,リボンが複数のストランドの一方向層から成る場合,ストランドは,接近して配置される。リボン作製の前に,幅の標準偏差が最小で,一方向層の全幅を一定にするように調整する場合,層の幅は,材料中のいかなる間隔(英語で「gap」)又は重なり部分(英語で「overlap」)をも最小にし,さらに回避することによって調整する。 【0029】 ストランドは,概してストランド又は長繊維の集合体から成り,一般に,炭素ストランドの場合,1,000から80,000本の長繊維を含み,12,000から24,000本の長繊維を含むのが有利である。 …【0030】 リボンは,1つ又は複数のストランドから作製される。リボンが複数のストランドから成る場合,これは,所与の幅の層を製造するために寸法取りされるストランド(それぞれが個別のストランドではない)の集合体である。ストランド(単数又は複数)は,スプールから紡ぎ取ることができ,寸法合わせの段階の前に拡幅することができる。この目的を達成するために,ストランド(単数又は複数)は,例えば,図6に示すように1つ又は複数の拡幅バー12を備える拡幅器に入れることができる。この拡幅ステップは,単位面積当たりの所望の重量に依存して,寸法取りの後に所望される幅より広い層若しくはストランドの幅を寸法取りの前に得るためにも,また必要となり得る。この寸法取りシステ 43ムは,図6に示すように,寸法取り器13のすぐ前方にあるバー10及び11の出口に位置し,その長さに沿って振動するバー12によって補完され得る。…【0031】寸法取り段階は,所与の幅の開口部,特に,ローラーに切れ込む平底の溝の形状にある開口部とすることができる寸法取り器,又は1つ又は複数のストランドをベースにした単一のリボンの場合における,2個の歯の間の開口部の寸法取り器,又は図7に示すように,並行して複数のリボンを作製する場合における,複数のストランドに寸法取りをする開口部を規定する寸法取りコームの寸法取り器上で,層又はストランドを通過させることによって行われる。複数のストランドからなる層を作製する場合,実際,厳密に言えば,層の幅の寸法取りは外側の2本のストランド上においてのみ行われ,他のストランドは拡幅ユニットの前方に配置されたコームにより案内され,その結果,層の内側のストランド間に緩い空間が存在しない。 【0032】寸法取り器の出口では,寸法取りされた一方向層は,この全長にわたり準一定の幅を有し,この幅は最終リボンが得られるまでプロセスの間中保持されることになる。…【0033】また,ポリマー接着剤が布又は不織布,特に熱可塑性材料の場合,寸法取り器の出口において得られた寸法取りされた一方向層は,例えばローラーで駆動するコンベヤーベルト上で,この各面上で熱可塑性布又は不織布と結合する。寸法取り器の出口と,層をポリマー接着剤に結合する機器(図示した例におけるコンベヤーベルト)の間の距離は,得られた寸法取りを保持するために,およそ数ミリメートルの非常に短い距離 44となることが好ましい。冷却後にストランド又は長繊維とのこれらの接着を可能にするためには,不織布をリボンとの結合に先立って加熱段階にかけて,ポリマーを軟化及びさらに融解させる。不織布の幅は,一方向層の両側を超えて広がるように選択される。加熱及び圧力条件を,不織布を構成する材料及びこの厚さに適合させる。ほとんどの場合,熱圧着の段階は,Tf nonwoven -15℃からTf nonwoven +60℃の範囲の温度(Tf nonwoven は,不織材料の融解温度を表す)及び0.1から0.6MPaの圧力下で行われる。したがって,結合の前後で,不織布に関して圧縮比を1から10に達成することができる。炭素の一方向材料上への不織材料のラミネート加工段階は,中間製品の最終的な厚さを正確に制御するために,同様に決定的に重要である。実際,温度及び圧力,特にラミネート加工中の温度及び圧力条件に依存して,中間製品の各側の不織材料の厚さを変更し,それゆえ調整することが可能である。 【0034】 一方向層と結合する前の不織材料の厚さは,これが一方向繊維の層と結合する様式に依存して選択される。ほとんどの場合,この厚さはリボンの所望される厚さに非常に近いものになる。所望する厚さに到達するように,結合段階中の温度下でラミネート加工されるより厚い不織材料の使用を選択することもまた可能である。好ましい様式では,完全に対称形の中間製品を得るために,一方向繊維の層は,この広い面の各々上で2つの本質的に同等な不織材料に結合される。一方向層と結合する前の不織材料の厚さは,0.5から200μmの間,好ましくは10から170μmの間で変化する。本発明による中間製品において,各不織材料の厚さは,0.5から50ミクロンの範囲,及び好ましくは3から35ミクロンの範囲にある。結合前の異なる不織材料の厚さは,方法Aを 45用い,2827mm?の試験範囲(60mm直径のディスク)及び0.5kPaの付加圧力で,標準規格NF EN ISO9073-2により決定される。 【0035】 次に,リボンはフィードローラー(3つの延伸ローラー)を用いてコンベヤーベルトから引き出され,ホットカット器及び特に加熱したナイフを用いて,この長手方向の端部の各々に沿って切断される。ほつれを避けるために,切断はストランド内では行われず,ストランドの端部のすぐ隣で行われる。リボンの各端部における不織材料のホットカットは,後で特定の収縮を引き起こす。2つの不織材料は一方向層の幅より広いので,これらは互いにスポット付着することを示し,優先的には炭素の端部において一方向層を捕捉する。したがって,得られたリボンは,図4に示すように,切断された長繊維の断片のない非常にきれいな端部4を有している。 【0037】 図5は,その広い面の各々上で不織材料,特に熱可塑性材料に結合した,ストランドの一方向層,特に炭素の一方向層を使用して,本発明によるリボンの作製を可能にする装置の簡易概略図である。 【0038】 炭素ストランド又は複数のストランド1は,クリール101に装着された炭素スプール100から巻き戻され,コーム102を通過し,ガイドローラー103によって機械の軸中に誘導される。炭素ストランドは,次に,加熱バー11及び拡幅バー12により拡幅され,次に,寸法取り器で寸法取りをされ,所望の幅を有する一方向層が得られる。不織材料104a及び104bのロールは,伸張されずに巻き戻され,自由回転ローラー106a,106b,106c,106dと加熱バー107a, 46107bの間に装着されたコンベヤーベルト105a及び105bにより移送される。不織材料2a及び2bは,炭素ストランド1と接触する前に区域108a及び108b内で予備加熱され,空隙が制御された2つの加熱バー107a及び107bの各側でラミネート加工される。 次に,冷却可能な艶出し機108が,両側に不織材料を有する一方向層に圧力を加え,この層は,次に切断器109へ誘導される。リターンローラー110により,リボンIは,巻き取りローラー112が後に続く,3つの延伸ローラー111から成るけん引システムへ向きを変えることができ,リボンIから成るロールを形成する。 【0039】 複数のリボンを同時に製造することも同様に可能であり,その場合,リボンを構成する各ストランド又はストランドの集合体は,必要ならば拡幅され,個々に寸法取りがなされ,切断を可能にするために各ストランド間に十分な間隔を置き,異なるリボンが互いに間隔をあけて配列される。ストランドと間隔を覆う単一の不織材料が,次に,図8に示すように,リボンの各面上で全てのリボンと結合される。次に,図8に示したような機器,及び平行で,リボンの幅ごとに間隔をあけられ片寄らされた切断器120の複数(図示した例では2つ)のラインを用いて,切断間に不織材料の屑を生じることなく各リボンの間で切断を優先的に行うことができる。 【0044】 本発明による方法は,寸法取りされたストランド又は乾燥繊維の一方向シートの作製,すなわち,「直接的」と呼ばれる方法を目的とする作製に関する。また,ポリマー接着剤の重量は,リボンの総重量の15%未満であり,好ましくは,0.1から10%であり,リボンの総重量の3から10%が有利である。 47 【0045】 本発明の文脈では,不規則及び等方性の被覆を与える粉体接着剤又は 不織接着剤の使用が好ましいものとなり,そのため,間隔を置いたスト ランドの作製とは違い,全ての方向で均一な密着を確実にすることが可 能になる。ポリマー接着剤と一方向リボンの間の接着は,ポリマー接着 剤の高温で粘着性である性質を利用して加熱し,その後冷却することに より達成される。取扱いの容易さと繊維との結合前に密着性を提供する ので,不織接着剤の使用が特に好ましい。 (オ) 【0050】 以下の実施例により本発明が説明されるが,制限性はない。 【0051】 炭素ストランド,AS7 J,GS 12K及びIMA GS 12 Kは,企業,HEXCEL Corporation,Stamfor d,CT,米国により販売されている。 【0052】 3g/m?のコポリアミドの不織材料1R8D03は,企業,Pro technicにより販売されている。 【0053】 参照として,寸法取りをせず,50mmごとの横断性のホットメルト ストランド以外はポリマー接着剤が結合していない,一方向層(面密度 321g/m?には208本のストランド,面密度250g/m?には1 58本のストランド,及び面密度125g/m?には78本のストラン ド)の幅を,5mごとに手動測定で500mの長さにわたって測定した。 得られた結果を以下の表1に示す。 【0055】 本発明による方法を,次に実施した[訳者注:原本では不完全文]。 48図5に示すような機械を使用した。加熱される切断器のカタログ番号は,企業,LOEPFE BROTHER,LIMITED,Wetzikon,スイスのThermocut TC-1である。 【0056】 運転条件は,表2に示す。 【0057】 得られたリボンの特性を,表3に提示する。 【0058】 幅の平均及び標準偏差は,以下の機器で測定した。リボンは,200から400cNの一定の張力で,この支持具から1分当たり1.2mの一定速度で巻き戻し,次に,支持の無いその位置で,焦点距離20mm,1624×1236ピクセルで,モデルBaumer Optronic タイプFWX20のカメラ(Baumer Optronic Gmbh,ドイツ)の前の265mmの距離に運んだ。カメラの設定は,1ピクセルが0.05mmに等しくし,これは1640ピクセル×0.05=82mmのフォトサイズに相当する。最低で1315個の幅の測定値に対応する50mの最小長さにわたり,38mmごとに写真を撮った。 【0059】 次に,プログラム,NEUROCHECK 5.1(Neurocheck,Gmbh,ドイツ)により画像を分析し,幅の値をファイルに保存し,プログラム,MINITAB(Minitab,Inc,米国)で統計処理する。 【0060】 標準偏差は,0.12から0.21mmの間で変動し,リボンの幅には依存しないと思われる。 49 【0061】 図9A,9B及び10では,(幅64.7mmの,446テックス, IMA GS 12 Kの28本のストランドで得られた)本発明によ る193g/m?のリボンの平均幅と標準偏差を,同じであるが寸法取 りを行わないストランドと同じ不織材料で製造されたリボンと比較す る。本発明によるリボンの場合,得られた標準偏差は0.12mmであ り,一方,寸法取りを行わないリボンの標準偏差は0.57mmである。 【0062】 図11,12A及び12Bでは,(6.21mmの平均幅にわたり7 85テックス,AS7JK 12Kの1本のストランドで作製された) 126g/m?の一方向シートと2つの不織材料を結合させた本発明に よるリボンを,同じであるが寸法取りを行わないストランドと同じ2つ の不織材料で作製されたリボンと比較する。本発明によるリボンの場合, 得られた標準偏差は0.18mmであり,一方,寸法取りを行わないリ ボンの標準偏差は0.44mmである。 イ 前記アの記載事項によれば,本件明細書の発明の詳細な説明には,本件 発明1に関し,次のような開示があることが認められる。 (ア) 自動車,航空又は造船産業で使用される「複合材料部品」は,1つ 又は複数の強化材又は繊維層と,熱可塑性樹脂を含めることができる主 として熱硬化性マトリックス(「樹脂」)とを含有し,機械的特性に関 して非常に厳密な要件が求められており,2つの隣接する強化材の材料 間隔又は重なり部分をできる限り回避するため,規則的な構造を有し, 特に幅のばらつきの少ない一方向材料に対する需要がある 【0001】 ( 〜【0006】)。 しかるところ,1つ又は複数の繊維強化材が「乾燥」状態(すなわち 最終マトリックスが無い状態)で調製され,樹脂又はマトリックスが, 50 別に調製されて,「複合材料部品」を作製する「直接法」の技術分野で は,従来,強化材として,一方向の強化ストランドに対して横断して伸 びる熱可塑性の接着ストランド又はガラス/熱可塑性織布若しくは不織 布によってストランド間の密着を確実なものにするリボンが提案されて いるが,これらのリボンに関しては,ストランド間の接着は接着点だけ に限定され,強化繊維間で緩くなる結果として,接着ストランド間に大 きな幅のばらつきが存在し,また,所望の幅を得るために,そのような 一方向層を強化ストランドの方向に対して平行に切断した場合,切断し た端部がきれいに揃っておらず,長繊維の断片でほつれており,束の作 製などの後続のプロセスに非常に不便であるという問題があった(【0 002】,【0007】〜【0009】)。 (イ) 「本発明」は,材料の損失を限定しながら,1つ又は複数のストラ ンドから複合材料部品を製造する直接法に適合し,一貫性の高い所与の 幅を有する一方向層を達成する方法を提供すること及び主要な方向に 沿って切断された繊維のない一方向層を製造する方法を提供すること を目的とし,上記課題を解決するための手段として,「a)寸法取り器 により,リボンの幅を所望の幅に調整するステップ」及び「b)その各 面上で,リボンをポリマー接着剤と結合して,リボンの均一な密着を確 実にし,その結果,接着剤の総重量が得られるリボンの総重量の15% 未満となるステップ」を含むことを特徴とする方法を採用した(【00 10】〜【0012】)。 これにより,「本発明」は,材料の長さに平行な方向に沿って伸長す る単一の強化ストランド又は複数の強化ストランドから材料の所与の幅 を作製することが可能になり,全長にわたり幅のばらつきが非常に小さ く,面密度のばらつきも非常に小さいリボンが得られるという効果を奏 する(【0017】〜【0019】)。 51? 訂正の適否についてア 訂正事項2に係る訂正について (ア) 訂正事項2は,請求項1の「a)リボンの幅がその全長にわたり本 質的に一定であるような端部を有するリボンを提供する工程」を,本件 訂正後の請求項1の「a)拡幅バーを有する拡幅器,次いで複数のスト ランド又は長繊維に寸法取りをする開口部を規定する寸法取りコーム の寸法取り器に,複数のストランド又は長繊維を通過させることによっ て,複数のストランド又は長繊維間に間隔が存在しないようにし,リボ ンの幅がその全長にわたり本質的に一定であるような端部を有するリ ボンを提供する工程」に訂正するものである。 本件決定は,本件特許明細書等には,本件訂正後の請求項1の「複数 のストランド又は長繊維間に間隔が存在しない」という事項(事項A) についての直接的ないし明示的な記載がなく,この事項が具体的にどの ような技術的事項を意図しているのかを明確に把握するために必要な記 載も見当たらないため,本件特許明細書等の記載を総合しても,事項A を導くことができるとはいえないから,訂正事項2に係る訂正は,本件 特許明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものとは認められず, 新規事項の追加に当たり,訂正要件に適合しない旨判断した。 (イ) そこで検討するに,本件明細書には,@「本発明」の「リボン」は, 1つ又は複数のストランドから成り,1つのストランドから成る場合は, リボンの幅に平行に伸長する長繊維の集合体から成り,複数のストラン ドから成る場合は,「所与の幅の層を製造するために寸法取りされる」 ストランドの集合体(各々が長繊維の集合体から成る)から成ること【0 ( 027】,【0028】,【0030】,図1及び2),A「一般に, 炭素ストランドの場合, 000から80, 1, 000本の長繊維を含み, 12,000から24,000本の長繊維を含むのが有利である」こと 52(【0029】),B「特に,リボンが複数のストランドの一方向層から成る場合,ストランドは,接近して配置」され,「リボン作製の前に,幅の標準偏差が最小で,一方向層の全幅を一定にするように調整する場合,層の幅は,材料中のいかなる間隔(英語で「gap」)又は重なり部分(英語で「overlap」)をも最小にし,さらに回避することによって調整する」こと(【0028】),C「ストランド(単数又は複数)」は,「寸法合わせの段階」の前に拡幅器によって幅が拡幅され(【0030】,図6),「寸法取り段階」(寸法合わせの段階)では,「所与の幅の開口部,特に,ローラーに切れ込む平底の溝の形状にある開口部とすることができる寸法取り器」,又は「1つ又は複数のストランドをベースにした単一のリボンの場合における,2個の歯の間の開口部の寸法取り器」,又は「図7に示すように,並行して複数のリボンを作製する場合における,複数のストランドに寸法取りをする開口部を規定する寸法取りコームの寸法取り器」上で,「層又はストランドを通過させることによって行われ」ること(【0031】,図7),D「複数のストランドからなる層を作製する場合,実際,厳密に言えば,層の幅の寸法取りは外側の2本のストランド上においてのみ行われ,他のストランドは拡幅ユニットの前方に配置されたコームにより案内され,その結果,層の内側のストランド間に緩い空間が存在しない」こと(【0031】),E「炭素ストランド又は複数のストランド1は,クリール101に装着された炭素スプール100から巻き戻され,コーム102を通過し,ガイドローラー103によって機械の軸中に誘導」され,「炭素ストランドは,次に,加熱バー11及び拡幅バー12により拡幅され,次に,寸法取り器で寸法取りをされ,所望の幅を有する一方向層が得られる」こと(【0038】,図5)の記載がある。 これらの記載事項によれば,本件明細書には,「本発明」の実施の形 53 態として,1つのストランド(長繊維の集合体)又は複数のストランド (各々が長繊維の集合体)から成る「リボン」を作製するに当たり,1 つ又は複数のストランドを,拡幅バーにより幅を拡幅し,次いで,拡幅 したストランドを所与の幅の開口部を規定する寸法取り器(ローラーに 切れ込む平底の溝を有する寸法取り器,寸法取りコーム,又は2個の歯 を有する寸法取り器)上を通過させることによって,所望の幅を有する 一方向層が得られること,これにより一方向層の層の幅は,材料中のい かなる間隔又は重なり部分をも最小にし,さらに回避することによって 調整することができ,その結果,層の内側のストランド間に緩い空間が 存在しないことの開示があることが認められる。 そして,複数のストランドの集合体(各々が長繊維の集合体)が,「接 近して配置され,間隔又は重なり部分をも最小にし,さらに回避する」 とは,「間隔が存在しない」ことと同義であると解されるから,「複数 のストランド又は長繊維間に間隔が存在しない」ようにして,「複数の ストランド又は長繊維」を所望の幅に作製しているものと理解すること ができる。 そうすると,訂正事項2に係る訂正は,本件明細書のすべての記載を 総合することにより導かれる技術的事項との関係において,新たな技術 的事項を導入するものではないものと認められるから,本件特許明細書 等に記載した事項の範囲内においてしたものというべきである。 したがって,これと異なる本件決定の判断は誤りである。 (ウ) これに対し被告は,@本件明細書には,「拡幅器,次いで寸法取り 器に,複数のストランドを通過させる」ことで「複数のストランド又は 長繊維間に間隔が存在しない」ようにするという事項についての直接的 ないし明示的な記載は存在しない,A本件明細書において「複数のスト ランド」を通過させる「寸法取り器」に相当する構成は,【0039】 54及び図7に示されているものにほかならず,これら複数のストランドの間には間隔が存在する,B本件明細書の【0028】の記載は,「複数のストランド又は長繊維」について「間隔が存在しない」ことを記載するものではないため,本件特許明細書等の記載を総合しても,事項Aを導くことができるとはいえず,訂正事項2(請求項1)に係る訂正は,新規事項の追加に当たる旨主張する。 しかしながら,上記@の点については,本件明細書に直接的な記載はないが,前記(イ)のとおり,複数のストランドの集合体(各々が長繊維の集合体) 「接近して配置され, が, 間隔又は重なり部分をも最小にし,さらに回避する」とは,「間隔が存在しない」ことと同義であると解されるから,「複数のストランド又は長繊維間に間隔が存在しない」ことについての開示があるものと認められる。 次に,上記Aの点についてみると,図7は,「単一のストランドをベースにして複数のリボンを同時に作製する場合」(【0025】)を示した図であり,図示されているのは,「単一のストランドから成る複数のリボン」であって,複数のストランドではないから,複数のストランドの間に間隔が存在することを示すものではない。 また,本件明細書の【0039】の「複数のリボンを同時に製造することも同様に可能であり,その場合,リボンを構成する各ストランド又はストランドの集合体は,必要ならば拡幅され,個々に寸法取りがなされ,切断を可能にするために各ストランド間に十分な間隔を置き,異なるリボンが互いに間隔をあけて配列される。ストランドと間隔を覆う単一の不織材料が,次に,図8に示すように,リボンの各面上で全てのリボンと結合される。次に,図8に示したような機器,及び平行で,リボンの幅ごとに間隔をあけられ片寄らされた切断器120の複数(図示した例では2つ)のラインを用いて,切断間に不織材料の屑を生じること 55 なく各リボンの間で切断を優先的に行うことができる。」との記載中の 「各ストランド間に十分な間隔を置き」とは,複数のリボンを同時に製 造する場合に,複数のラインを用いて各リボンと結合した不織材料の切 断を可能にするために,各リボンが互いに間隔をあけて配列されること を意味するものであり,リボンを構成するストランドそのものについて 述べたものではない。 さらに,上記Bの点については,前記(イ)のとおり,本件明細書の【0 028】の記載は,リボンが複数のストランドの一方向層から成る場合 に,当該ストランドが接近して配置され,リボン作製の前に,ストラン ド間の間隔が存在しないように調整することが記載されているものと 認められる。 したがって,被告の上記主張は採用することができない。 イ 訂正事項3に係る訂正について (ア) 訂正事項3は,請求項1の「b)リボンの各面に不織布又は布材料 を適用する工程であって,不織布又は布材料の幅はリボンの幅より広く, その結果,不織布又は布材料はリボンの端部を超えて外側に伸びて,リ ボンの両側にて各端部に沿って不織布又は布材料がはみ出している工 程」を,本件訂正後の請求項1の「b)リボンの各面に,加熱により軟 化して粘着性を有し,加熱後に冷却されるときリボンの均一な密着を確 実にする不織布又は布材料を,予備加熱後に1超から10の圧縮比で適 用する工程であって,加熱及び圧縮された不織布又は布材料の幅はリボ ンの幅より広く,その結果,不織布又は布材料はリボンの端部を超えて 外側に伸びて,リボンの両側にて各端部に沿って不織布又は布材料がは み出している工程」に訂正するものである。 本件決定は,本件訂正後の請求項1に導入された「予備加熱後に1超 から10の圧縮比」で適用する工程は,本件明細書の記載 【0033】 ( ) 56 にあるとおり,「不織布」に関してのみ達成することができる工程とし て認識されるものであり,本件訂正後の請求項1に記載された「不織布 又は布材料」のうち「布材料」(特に熱可塑性材料でないもの)につい ては,「予備加熱後に1超から10の圧縮比」という圧縮比で適用する 工程を達成できるものとして本件特許明細書等に記載されていないこと は明らかであり,また,不織布に関する圧縮比を布材料にも適用するこ とが明らかであるとする技術常識もないから,本件特許明細書等の記載 を総合しても,「布材料を…1超から10の圧縮比で適用する工程」と いう事項(事項B)を導くことができるとはいえないから,訂正事項3 に係る訂正は,本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてした ものとは認められず,新規事項の追加に当たり,訂正要件に適合しない 旨判断した。 (イ) そこで検討するに,本件明細書には,@「ポリマー接着剤と一方向 リボンの間の接着は,ポリマー接着剤の高温で粘着性である性質を利用 して加熱し,その後冷却することにより達成される。 ( 」 【0045】 , ) A「ポリマー接着剤が布又は不織布,特に熱可塑性材料の場合,寸法取 り器の出口において得られた寸法取りされた一方向層は,例えばローラ ーで駆動するコンベヤーベルト上で,この各面上で熱可塑性布又は不織 布と結合する。寸法取り器の出口と,層をポリマー接着剤に結合する機 器(図示した例におけるコンベヤーベルト)の間の距離は,得られた寸 法取りを保持するために,およそ数ミリメートルの非常に短い距離とな ることが好ましい。冷却後にストランド又は長繊維とのこれらの接着を 可能にするためには,不織布をリボンとの結合に先立って加熱段階にか けて,ポリマーを軟化及びさらに融解させる。不織布の幅は,一方向層 の両側を超えて広がるように選択される。加熱及び圧力条件を,不織布 を構成する材料及びこの厚さに適合させる。ほとんどの場合,熱圧着の 57段階は,Tf nonwoven -15℃からTf nonwoven +60℃の範囲の温度(Tf nonwoven は,不織材料の融解温度を表す)及び0.1から0.6MPaの圧力下で行われる。したがって,結合の前後で,不織布に関して圧縮比を1から10に達成することができる」(【0033】)との記載がある。 これらの記載事項から,ポリマー接着剤と「一方向リボン」(一方向層)の間の接着は,ポリマー接着剤の高温で粘着性である性質を利用して加熱し,その後冷却することにより達成されるものであり,ポリマー接着剤としては,「布又は不織布,特に熱可塑性材料の場合」があること,「寸法取りされた一方向層」は,「例えばローラーで駆動するコンベヤーベルト上」で,「熱可塑性布又は不織布」と結合すること,冷却後にストランド又は長繊維とのこれらの接着を可能にするためには,「不織布」をリボンとの結合に先立って加熱段階にかけて,ポリマーを軟化及びさらに融解させること,熱圧着の段階で,加熱及び圧力条件を,「不織布」を構成する材料及び厚さに適合させることにより,結合の前後で,「不織布」に関して圧縮比を1から10に達成することができることの開示があることが認められる。 上記開示事項によれば,「不織布」に関して,「結合の前後で,圧縮比を1から10に達成することができる」のは,熱可塑性材料のポリマー接着剤である「不織布」における加熱段階にかけてのポリマーの軟化及び融解という性質に基づくものと理解できるから,ポリマー接着剤が「熱可塑性布」である場合においても,これと同様に,加熱段階にかけて,ポリマーを軟化及び融解させ,圧縮比を1から10に達成することができるものと理解できる。 そうすると,訂正事項3に係る訂正は,本件明細書のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において,新たな技術 58 的事項を導入するものではないものと認められるから,本件特許明細書 等に記載した事項の範囲内においてしたものというべきである。 したがって,これと異なる本件決定の判断は誤りである。 (ウ) これに対し被告は,@本件明細書の【0033】には,「熱圧着の 段階」を「不織材料の溶融温度の-15℃から+60℃の範囲の温度及 び0.1から0.6MPaの圧力下」で行われる結果,「不織布に関し」 ては「圧縮比を1から10に達成することができる」ことが記載されて いるのであり,布について上記の圧縮比が達成できることについては記 載されていない,A不織布は,大きな繊維間距離を確保した嵩高な構造 を有しているため,所定の圧力で圧縮された場合に容易に広がることが でき,また,容易に圧縮可能な構造を持つ(乙2)のに対し,布材料は, 経糸と緯糸が密に織り込まれた構造を有しているため,圧縮されにくい 構造であること(乙3)は技術常識であることに鑑みれば,当業者は, 【0033】の記載が専ら不織布に向けられているものと認識するから, 本件特許明細書等の記載を総合しても,事項Bを導くことができるとは いえず,訂正事項3(請求項1)に係る訂正は,新規事項の追加に当た る旨主張する。 しかしながら,上記@の点については,本件明細書に直接的な記載は ないが,前記(イ)のとおり,本件明細書の記載から,「布」(「熱可塑 性布」 についても, ) 加熱段階にかけて,ポリマーを軟化及び融解させ, 圧縮比を1から10に達成することができるものと理解できる。 次に,上記Aの点については,乙2(特開2003-204993号 公報)は,使い捨ておむつや生理用ナプキンなどの吸収性物品として用 いるために,意図的に繊維をランダムに三次元配向させて「嵩高」とし た場合の不織布について述べるものであり 【0001】 【0015】 , ( , ) 不織布の構造は,用途,製法等に影響を受けると考えられるから,乙2 59 から直ちに不織布が常に「嵩高」で容易に圧縮可能な構造であるとはい えない。また,乙3(特開2006-265805号公報)は,衣類の 形状保持用又は体型補正用として使用する衣類仕立用テープの発明に 関するものであり(【0001】),製品の性質上「嵩高」としない場 合の織物に関するものであって,布材料の構造も,用途,編織法等に影 響を受けると考えられるから,乙3から直ちに布材料が常に「嵩高」で はなく,圧縮されにくい構造であるとはいえない。 したがって,被告の上記主張は採用することができない。 ウ 訂正事項4に係る訂正について (ア) 訂正事項4は,請求項1の「d)端部に沿って位置する不織布又は 布材料のはみ出し部分を切断し,リボンの端部に切断を及ぼすことなく, はみ出し部分の一部分を除去することで,リボンの幅をその全長にわた り本質的に一定であるように維持する工程であって,不織布又は布材料 の総重量が中間材の総重量の15%未満であり,はみ出し部分の切断済 み端部が中間材の端部を構成する工程」を,本件訂正後の請求項1の 「d)工程c)と同時に,端部に沿って位置する不織布又は布材料のは み出し部分を加熱された切断器で切断し,リボンの端部に切断を及ぼす ことなく,はみ出し部分の一部分を除去することで,リボンの幅をその 全長にわたり本質的に一定であるように維持する工程であって,不織布 又は布材料の総重量(1m?あたり)が中間材の総重量(1m?あたり) の(6/132)×100%未満であり,はみ出し部分の切断済み端部 が中間材の端部を構成する工程」に訂正するものである。 本件決定は,本件特許明細書等の一般記載及び実施例の記載からは, 「不織布又は布材料の総重量(1m?あたり)が中間材の総重量(1m? あたり)の(6/132)×100%未満であり」という数値範囲を把 握することはできないから,本件特許明細書等の全ての記載を総合して 60 も,「不織布又は布材料の総重量(1m?あたり)が中間材の総重量(1 m?あたり)の(6/132)×100%未満であり」という事項(事項 C)を導くことができるとはいえず,訂正事項4に係る訂正は,本件特 許明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものとは認められず, 新規事項の追加に当たり,訂正要件に適合しない旨判断した。 (イ) そこで検討するに,本件明細書には,@「本発明による方法」の実 施例として,「炭素面密度(g/m?)」(表2)が「126g/m?」 の「平均幅 6.21mm 785テックス AS7J 12K」 「1 の 本の炭素ストランド」を素材として,図5に示すような機械を使用して, 「一方向シート」とその両側に「不織材料」を結合させた「リボン」が 得られたこと(【0055】ないし【0057】,【0062】,表2, 表3),A実施例に使用される「不織材料」の素材は,面密度が「3g /m?」の「コアポリアミドの不織材料1R8D03」であること(【0 052】),B図5の機械(装置)を使用してリボンを作製する場合, 不織材料は,炭素ストランドと接触する前に予備加熱され,空隙が制御 された二つの加熱バーで炭素ストランドにラミネート加工され,次に, 冷却可能な艶出し機が,両側に不織材料を有する炭素ストランドの一方 向層に圧力を加え,この層が,次に切断機へ誘導されること(【003 7】,【0038】),Cホットカット器及び特に加熱したナイフを用 いて,長手方向の端部に沿って位置する不織材料が切断されることによ り得られたリボンは,切断された長繊維の断片のない非常にきれいな端 部を有していること(【0035】,【0039】),D一方向層と不 織布との結合の前後で,不織布に関して圧縮比を1から10に達成する ことができること(【0033】)が記載されている。 上記記載から,「1本の炭素ストランド」で作製される「一方向シー ト」の両側に結合される「不織材料」の面密度の和は「3g/m?×2= 616g/m?」となること,この面密度の和と「1本の炭素ストランド」「A (S7J 12K」 の面密度( ) 「126g/m?」)とを加算すると,「132g/m?」となること,圧縮比1で(圧力を加えずに)「不織材料」を「1本の炭素ストランド」(「AS7J 12K」)に結合させて「リボン」(中間材)を作製した場合には,「不織布の総重量(1m?あたり)」の「中間材の総重量(1m?あたり)」に対する百分率は「(6/132)×100%」となることを理解できる。 そして,@炭素ストランドと結合される前に,加熱によりポリマーが軟化及び融解され,艶出し機により圧縮された不織材料は,面方向へと拡張され,不織材料の総重量(1m?あたり)は,圧縮比1の場合よりも減少し,「6g/m?」よりも小さくなることは自明であること,A一方,炭素ストランドは,不織材料と異なり,軟化及び融解される工程を経るものではなく,得られた「リボン」(中間材)の平均幅(「6.21mm」。表3の「AS7J 12K」)は,素材である炭素ストランドの平均幅(「6.21mm」。表2の「AS7J 12K」)と同じであって,一方向層と不織布との結合の前後を通じて,炭素ストランドの面密度に変動はないことから,図5に示すような機械を使用して得られた「平均幅 6.21mm 785テックス AS7J 12K」の「1本の炭素ストランド」で作製された「一方向シート」とその両側に「不織材料」を結合させた「リボン」(中間材)においては,「不織布の総重量(1m?あたり)」の「中間材の総重量(1m?あたり)」に対する百分率は「(6/132)×100%未満」になることを理解できる。 もっとも,切断機により,リボンの端部に沿って位置する不織材料の一部が切断されるが,これは,不織材料のはみ出し部分を切断するものであるから(【0035】),これによって,「1本の炭素ストランド」で作製された「一方向シート」の両面に圧縮適用された不織材料の面密 62 度(1m?あたり)が影響を受けるものではないことを理解できる。 また,【0062】の実施例は,炭素面密度が「126g/m?」の1 本の炭素ストランドから中間材を作製する方法に関するものであるが, 炭素面密度が「126g/m?」の複数の炭素ストランドから1本の中間 材を作製する場合にも,複数の炭素ストランドの炭素面密度が「126 g/m?」となることは自明であるから,図5に示すような機械を使用し て,「炭素面密度(g/m?)」が「126g/m?」の「平均幅 6. 21mm 785テックス AS7J 12K」の複数の「炭素ストラ ンド」を素材として作製された「一方向シート」とその両側に「不織材 料」を結合させた「リボン」(中間材)においては,「不織布の総重量 (1m?あたり)」の「中間材の総重量(1m?あたり)」に対する百分 率は「(6/132)×100%未満」になることを理解できる。 そうすると,訂正事項4に係る訂正は,本件明細書のすべての記載を 総合することにより導かれる技術的事項との関係において,新たな技術 的事項を導入するものではないものと認められるから,本件特許明細書 等に記載した事項の範囲内においてしたものというべきである。 したがって,これと異なる本件決定の判断は誤りである。 (ウ) これに対し被告は,@本件明細書の実施例の記載(【0062】) からは,当該実施例のリボンが,1本のストランドと2つの不織材料を 結合させて構成されており,そのストランドが「126g/m?」であ り,2つの不織材料がそれぞれ「3g/m?」のものであることが読み 取れるのみであって,当該記載からは,本件特許発明に係るリボンの「不 織布又は布材料」と「中間材」の1m?あたりの総重量の比が「(6/ 132)×100%」未満という数値範囲を満たすものであることまで 導き出せるものではない,A【0062】の実施例は,1本のストラン ドについてのものであるから,本件訂正後の請求項1の「複数のストラ 63ンド」における数値範囲の根拠となるものではない,B【0062】の記載は,圧縮後の不織布の面密度を開示するものではなく,圧縮後に切断除去されるはみ出し部分の不織布又は布材料の重量が明らかにされていないから,本件特許明細書等の記載を総合しても,事項Cを導くことができるとはいえず,訂正事項4(請求項1)に係る訂正は,新規事項の追加に当たる旨主張する。 しかしながら,上記@の点については,本件明細書に直接的な記載はないが,前記(イ)のとおり,本件明細書の記載から,「不織布の総重量(1m?あたり)」の「中間材の総重量(1m?あたり)」に対する百分率が「(6/132)×100%未満」となることを理解できる。 次に,上記Aの点については,本件明細書の実施例(【0062】)は,1本の炭素ストランドから中間材を作製する方法に関するものであるが,前記(イ)のとおり,上記実施例と同一の炭素面密度の複数の炭素ストランドを素材として作製された「一方向シート」とその両側に「不織材料」を結合させた「リボン」(中間材)においても,「不織布の総重量(1m?あたり)」の「中間材の総重量(1m?あたり)」に対する百分率は「(6/132)×100%未満」になることを理解できる。 さらに,上記Bの点については,前記(イ)のとおり,【0062】の実施例である中間材を作製するに当たり,圧縮後の不織布の面密度は,圧縮比1の場合よりも減少することになるのは明らかであり,また,加熱された切断機により切断されるのは,不織材料のはみ出し部分に過ぎず,これによって,リボンの両面に圧縮適用された不織材料の面密度が影響されることはないから,【0062】において,圧縮後の不織布の面密度が開示されておらず,圧縮後に切断除去されるはみ出し部分の不織布又は布材料の重量が明らかにされていないからといって,前記(イ)の認定を左右するものではない。 64 したがって,被告の上記主張は採用することができない。 エ 訂正事項20,23及び24に係る訂正について 前記アないしウのとおり,訂正事項2ないし4に係る訂正は,本件明細 書のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係にお いて,新たな技術的事項を導入するものとはいえない。 そして,訂正事項20,23及び24に係る訂正は,訂正事項2,3又 は4と重複するものであるから,本件明細書のすべての記載を総合するこ とにより導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入 するものとは認められない。 オ 小括 以上のとおり,訂正事項2ないし4に係る訂正は本件明細書のすべての 記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において,新たな 技術的事項を導入するものとはいえない。また,訂正事項20,23及び 24は,訂正事項2,3又は4と重複するものであるところ,訂正事項2 ないし4と同様の理由(前記アないしウ)により,本件明細書のすべての 記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において,新たな 技術的事項を導入するものとはいえない。 したがって,訂正事項2,3,4,20,23及び24に係る訂正は, いずれも新規事項の追加に当たらないから,特許法120条の5第9項で 準用する同法126条5項の規定に適合する。 ? まとめ 以上によれば,本件訂正を認めなかった本件決定の判断は誤りであり,こ の判断の誤りは,発明の要旨認定の誤りに帰することになるから,本件決定 の結論に影響を及ぼすことは明らかである。 したがって,原告主張の取消事由1は理由がある。 2 結論 65以上のとおり,原告主張の取消事由1は理由があるから,その余の取消事由について判断するまでもなく,本件決定は取り消されるべきである。 |
裁判長裁判官 | 大鷹一郎 |
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裁判官 | 山門優 |
裁判官 | 筈井卓矢 |