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事件 |
平成
30年
(行コ)
10004号
手続却下処分取消請求控訴事件
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控訴人 (第1審原告) ユニバーシタ’デグリスタディ ディ フォッジャ 同 特許管理人宮川美津子 高梨義幸 小勝有紀 被控 訴人(第1 審被 告)国 同 代表者法務大臣山下貴司 処分行政庁特許庁長官 同 指定代理人松本亮一 長島佑樹 近野智香子 小野和実 木原理沙 |
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裁判所 | 知的財産高等裁判所 |
判決言渡日 | 2019/03/18 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
1 本件控訴を棄却する。 2 控訴費用は控訴人の負担とする。 3 この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30日と定める。 1事 実 及 び 理 由第1 控訴の趣旨1 原判決を取り消す。 2 特願2015−533705について,特許庁長官が,平成29年5月24日付けでした,平成28年6月17日付け提出の出願審査請求書に係る手続を却下する処分を取り消す。 第2 事案の概要(略語は特に断らない限り原判決の例による。)1 事案の要旨本件は,特願2015−533705の特許出願(本件特許出願)について,特許法48条の3第1項に規定する出願審査の請求をすることができる期間(出願審査請求期間)内に出願審査の請求をしなかったため,同条4項により本件特許出願が取り下げられたものとみなされた控訴人が,特許庁長官に対し,期間内に出願審査の請求をすることができなかったことについて同条5項所定の「正当な理由」があるとして,平成28年6月17日付け出願審査請求書(本件出願審査請求書)を提出して,出願審査の請求をしたところ(本件手続),特許庁長官から,平成29年5月24日付けで,本件手続を却下する処分(本件却下処分)を受けたため,本件却下処分の取消しを求める事案である。 原判決は,本件特許出願につき,本件期間内に出願審査の請求をすることができなかったことについて,特許法48条の3第5項所定の「正当な理由」があったとは認められないとして,控訴人の請求を棄却した。 そこで,控訴人は,原判決を不服として本件控訴を提起した。 2 前提事実原判決2頁19行目から21行目までを「控訴人は,イタリアに住所を有する在外者であり,平成27年,28年当時,特許法8条の規定による特許管理人としてA国際特許事務所(以下「本件国内事務所」という。)に所属する弁理士(以下「本件弁理士」という。)を選任していた。」と改めるほかは,原2判決「事実及び理由」第2の1(原判決2頁17行目から4頁11行目まで)に記載のとおりであるから,これを引用する。 3 争点及び争点に関する当事者の主張次のとおり改め,後記4のとおり,当審における当事者の主張を補充するほかは,原判決「事実及び理由」第2の2(原判決4頁12行目から9頁11行目まで)に記載のとおりであるから,これを引用する。 (1) 原判決5頁20行目から6頁6行目までを削る。 (2) 原判決7頁25行目の「本件国内事務所」から26行目の「できない。」までを削る。 4 当審における当事者の補充主張[控訴人の主張](1) 特許法48条の3第5項所定の「正当な理由」の判断基準特許法48条の3第5項は,世界知的所有権機関(WIPO)において,各国により異なる国内出願手続の統一等により出願人の負担軽減を図ること,及び,一定の要件の下,手続期間の徒過による特許権の失効を回復することで出願人等の救済を図ること等を目的とする特許法条約の採択を受けて規定された。そして,我が国の特許法においては,手続期間を徒過した場合の救済を認める要件として「Due Care(いわゆる『相当な注意』)を払っていた」を採用した上で,「その責めに帰することができない理由」に比して緩やかな要件である「正当な理由があるとき」と定めることとされた。 したがって,同項が規定する「正当な理由がある」,すなわち,「特段の事情のない限り,特許出願人として,相当な注意を尽くしていたにもかかわらず,出願審査請求期間の徒過に至ったとき」に当たるかどうかの判断は,出願人に帰責性がない場合に限らず,柔軟かつ緩やかにされるべきである。 (2) 控訴人には特許法48条の3第5項所定の「正当な理由」があることア 「正当な理由」の有無の判断において,本件国内事務所と,控訴人及び3本件現地事務所とは区別されるべきであること後記イのとおり,本件期間の徒過は,控訴人及び本件現地事務所としては到底予測し得ない,本件国内事務所における特別の事情により生じたものである。 したがって,控訴人及び本件現地事務所が「相当の注意」を尽くしたこと,又は少なくとも「特段の事情」が存することについては,本件国内事務所と同列に判断されるべきではなく,別個の判断がされるべきである。 イ 本件国内事務所における特別の事情(ア) 特許管理人弁理士に通常期待される対応を得られなかったこと特許法8条1項により,在外者たる特許出願人は,自ら特許出願に係る手続等を行うことが法律上制限されており,特許管理人による以外に,特許出願に係る手続等を行う術はない。このように,在外者には重大な制限が課されていること,特許管理人は特許出願に関する手続等について包括的な代理権限を有するとされていることを踏まえると,特許管理人は,自己が管理する特許出願について,包括的な管理責任を負っている。 また,特許管理人として弁理士が選任される場合には,在外者に対し,日本国特許法に基づく手続に関して,十分な説明義務を負うとともに,自己が管理する特許出願について慎重に管理することが求められる。特に,在外者たる特許出願人が外国人である場合には,特許出願人が日本国特許法の制度を十分に理解しているとは到底いえないから,特許管理人には,各種の期限管理も含め,より慎重な配慮を行うことが強く求められる。 本件において,控訴人は,特許管理人として本件弁理士を選任していた。したがって,本件弁理士及び本件国内事務所は,本件特許出願に係る手続等について包括的な管理責任を負っていた。また,出願審査請求4についても,控訴人(及び本件現地事務所)に対し,その期限について適宜リマインドをするとか,本件期間の満了が迫っているにもかかわらず控訴人又は本件現地事務所から出願審査請求の指示が確認できない場合には,自ら積極的に,控訴人及び本件現地事務所に対し,出願審査請求を行うか否かを確認すべきであった。 (イ) コンピュータウイルス感染という特殊な状況に応じて当然に期待される対応を得られなかったこと本件弁理士及び本件国内事務所によれば,本件国内事務所がコンピュータウイルスの一種であるランサムウェアに感染したことに起因して,本件現地事務所が本件国内事務所に送信した,本件特許出願に係る出願審査請求を指示した平成28年4月1日付け電子メール(甲6の1,甲10)を受信できなかったとのことであるが,そのような事態が生じていたのであれば,本件弁理士及び本件国内事務所としては,控訴人又は本件現地事務所からの指示の有無の確認について,より慎重な対応を講ずることが期待されていた。 すなわち,ランサムウェアは平成28年3月頃から特に流行したウイルスであり,個々のウイルスによってその影響範囲が大きく異なるところ,本件国内事務所においても,同所のサーバーがランサムウェアに感染したとされる平成28年3月の時点において,電子メールの送受信を含め,同所のサーバーにどのような影響を与えたかを正確に把握することは極めて困難であったと思われる。 そのような状況を踏まえれば,本件国内事務所は,本件特許出願の出願審査請求の指示に関する電子メールが受信できていない可能性を考慮し,控訴人や本件現地事務所に対し,その旨を報告するとともに,電子メールを受信できなかった可能性のある期間中に本件現地事務所が出願審査請求を指示する電子メールを送信したか否かを確認する等の対応を5行うべきであった。 ウ 控訴人には「正当な理由」があること本件現地事務所は,本件国内事務所に対し,本件期間が満了する約1か月前に出願審査請求を指示する電子メールを送信した。このように,本件現地事務所は,本件国内事務所が出願審査請求の準備をするのに適当な時期に,出願審査請求を指示したのであるから,本件現地事務所(及び控訴人)として出願審査請求について必要な措置を講じたことは明らかである。 そして,上記イのとおり,本件期間の徒過が本件国内事務所における特別の事情に基づくものであって,控訴人及び本件現地事務所には到底予測できず,回避するための対応策を講じることが極めて困難であったことに照らせば,控訴人及び本件現地事務所にこれ以上何らかの措置を講ずることを求めるのは酷に過ぎる。 したがって,控訴人には,特許法48条の3第5項所定の「正当な理由」がある。 [被控訴人の主張](1) 代理人が選任されている場合,原則として,代理人は出願人と同視されるべきであり,このことは,平成23年改正法による救済要件緩和後の「正当な理由」の有無の判断においても同様である。 控訴人は,特許法8条を根拠に特許管理人が特許出願に係る包括的な管理責任を負っているなどと主張する。しかし,いかなる者を特許管理人とするかや,特許管理人に包括的な代理権を付与するか否かは,在外者が自由に選択できる事柄である。したがって,特許管理人のみが特許出願に係る包括的な管理責任を負っているなどとは到底いえないし,特許管理人の注意不足に起因して「正当な理由」があると認められないとしても,それは在外者自らの選択の結果にすぎない。 (2) そして,電子メールの送受信に問題が生ずる場合があり得ることは明らか6であるところ,控訴人の主張によれば,本件現地事務所は,本件国内事務所に出願審査の請求を指示する電子メールを本件期間満了前の約1月前に送信した以外に何もしておらず,本件国内事務所から当該請求が完了した旨の連絡がないにもかかわらず,漫然とこれを放置していたというのである。そうすると,ランサムウェア感染も含め,控訴人が主張する事情があったとしても,控訴人等が相当な注意を尽くしていたとか,本件期間徒過について「特段の事情」があったと評価することはできない。 (3) 控訴人が本件特許出願に係る一切の手続を行わせるため,特許法8条に基づく特許管理人として本件弁理士を選任していた以上,原判決が判示し,また,控訴人が自ら認めているとおり,本件期間徒過に至るまでに本件弁理士又は同人が所属する本件国内事務所が相当な注意を尽くしていたとはいえないし,また「特段の事情」があったともいえないから,特許法48条の3第5項所定の「正当な理由」があるとはいえない。 第3 当裁判所の判断1 当裁判所も,本件却下処分に違法があるとは認められず,控訴人の請求は理由がないものと判断する。 その理由は,次のとおり補正し,後記2のとおり当審における控訴人の補充主張に対する判断を付加するほかは,原判決「事実及び理由」第3の1及び2(原判決9頁13行目から12頁4行目まで)に記載のとおりであるから,これを引用する。 (1) 原判決10頁1行目の「甲6の2」を「甲6の1」と改める。 (2) 原判決10頁16行目の「他方で,」から20行目の「していたこと,」までを削る。 (3) 原判決11頁10行目の「認める」の後に「に」を加える。 (4) 原判決11頁14行目から15行目にかけての「通常の運用がどうであれ,」を削る。 72 控訴人の主張について(1) 控訴人は,本件現地事務所は,本件国内事務所に宛てて,本件期間が満了する約1か月前に出願審査請求を指示する電子メールを送信し,本件現地事務所(及び控訴人)として出願審査請求について必要な措置を講じていたにもかかわらず,控訴人及び本件現地事務所には到底予測し得ない本件国内事務所における特別の事情により本件期間の徒過が生じたのであるから,控訴人には,特許法48条の3第5項所定の「正当な理由」があると主張する。 (2) そこで検討するに,控訴人は,本件現地事務所と本件国内事務所との間では,従来から,特許の出願審査請求手続に関し,本件現地事務所から本件国内事務所に宛てて出願審査の請求手続を指示するメールを送信した後,当該メールの到達を確認する手順を踏まない運用をしていたところ,かかる運用でも特段の問題は生じていなかったと主張する。 しかし,電子メールは,相手方への到達が保証されておらず,かつ,送信者が他の手段によることなく相手方への到達を確認することが困難な連絡手段であることは周知の事実である。そして,控訴人の主張によれば,出願審査請求の要否の連絡は,特許権の得喪に関わる極めて重大な手続に係るものであるにもかかわらず,本件現地事務所と本件国内事務所との間では,本件現地事務所から本件国内事務所に出願審査の請求手続を指示するメールを送信した後,当該メールの到達を確認する手順を踏まない運用をしていたというのである。そうすると,結局のところ,本件国内事務所においても本件現地事務所においても,上記の電子メールの特性が考慮された,期間徒過に至ることを防止するための措置は,何ら講じられていなかったというべきである。 したがって,本件国内事務所においても本件現地事務所においても,期間徒過に至らないよう相当な注意を尽くしていたと認めることはできない。 (3) なお,控訴人が指摘するとおり,仮に本件国内事務所のサーバーがランサ8ムウェアに感染したとの事象が生じていたのであれば,本件現地事務所は,通常,そのような事象が生じていることを知り得ないであろうことは事実である。しかし,本件国内事務所は,本件現地事務所からの出願審査請求指示を電子メールで行うとの運用が採用されていることを踏まえ,本件特許出願の出願審査請求の指示に係る電子メールが受信できていないとか,又はランサムウェア感染それ自体や復旧作業の過程で消失したなどの可能性を考慮して,控訴人や本件現地事務所に上記事象の発生を報告するとともに,出願審査請求を指示する電子メールを受信できなかったなどの可能性がある期間内に本件現地事務所が当該電子メールを送信したか否かを確認する等の対応を行うべきであったといえるところ,このような配慮を欠いたことは,相当な注意を欠いたものというべきであるし,このような控訴人の代理人である本件国内事務所の事情は,控訴人本人が相当な注意を欠いたかどうかを判断するにあたっても考慮すべきものである。 また,控訴人の主張によっても,本件国内事務所において,ランサムウェア感染によりメールの送受信ができなかった期間は1週間ほどにすぎず,その後,出願審査請求期間満了日まで1か月弱の猶予があったというのである。 そうすると,本件現地事務所において,出願審査請求手続の重要性と電子メールの特性を考慮して,例えば,出願審査請求を指示するメールについては,本件国内事務所からこれを受信したことの連絡や,実際に出願審査請求をしたことの報告を求める運用を採用するなどの何かしらの措置を講じていれば,本件国内事務所のサーバーがランサムウェアに感染したとの事象が生じていたとしても,本件特許出願の審査請求につき,期間徒過に至ることを容易に回避できたというべきである。 したがって,仮に,本件国内事務所のサーバーがランサムウェアに感染したという事情があったとしても,控訴人に正当な理由が認められないことには変わりがない。 9(4) 控訴人は,特許法48条の3第5項所定の正当な理由の判断において,本件国内事務所と,控訴人及び本件現地事務所とは区別されるべきであると主張するが,特許管理人も控訴人の代理人であることに変わりはないのであるから(特許法8条),本件国内事務所と本件現地事務所とを区別する理由はない(また,本件現地事務所の対応に限定してみても,期間徒過に至らないよう相当な注意を尽くしていたと認めることができないことは前示のとおりなのであるから,控訴人の主張は,いずれにせよ失当である。)。 第4 結論以上によれば,控訴人の請求を棄却した原判決は相当であり,本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし,主文のとおり判決する。 知的財産高等裁判所第3部裁判長裁判官鶴 岡 稔 彦裁判官高 橋 彩裁判官間 明 宏 充10 |
事実及び理由 | |
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全容
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