関連審決 |
不服2017-12281 |
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事件 |
平成
30年
(行ケ)
10075号
審決取消請求事件
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原告 アーシャニュートリション サイエンシーズ インコーポレイテッド 同 訴訟代理人弁理士園田吉隆 石岡利康 三國修 被告特許庁長官 同 指定代理人紀本孝 山崎勝司 井上哲男 原賢一 板谷玲子 |
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裁判所 | 知的財産高等裁判所 |
判決言渡日 | 2019/02/28 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
1 原告の請求を棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 3 この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30日と定める。 |
事実及び理由 | |
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請求
特許庁が不服2017-12281号事件について平成30年1月25日にした審決を取り消す。 |
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事案の概要
本件は,特許出願拒絶査定に対する不服審判請求を不成立とした審決の取消訴訟である。争点は,補正要件の適否(新規事項の追加,独立特許要件〔進歩性〕の有無)である。 1 特許庁における手続の経緯 原告は,名称を「最適化された栄養処方物,それらから目的に合わせた食事を選択するための方法,およびその使用法」とする発明につき,平成23年10月14日を国際出願日として特許出願(特願2013-534055号。請求項の数52。 以下「本願」という。 をし ) (パリ条約による優先権主張 平成22年10月14日,平成22年11月18日・米国,国際公開WO2012/051591号,国内公表 特表2013-541108号,甲1,2),平成26年8月26日に手続補正をし(請求項の数31。甲39),さらに,平成28年1月27日に手続補正をした(請求項の数34。甲4)。その後,原告は,平成28年11月30日に手続補正をした(請求項の数34。甲6)が,平成29年3月14日付けで,平成28年11月30日の手続補正を却下する決定(甲8)及び拒絶査定(甲7)を受けたので,平成29年8月18日,拒絶査定不服審判請求(不服2017-12281号)をするとともに(甲9),手続補正をし(請求項の数34。甲10),平成29年10月4日,審判請求書につき手続補正をした(甲28)。 特許庁は,平成30年1月25日,平成29年8月18日の手続補正を却下した上, 「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決(以下「本件審決」という。)をし(甲29),その謄本は,平成30年2月6日,原告に送達された。 2 本願発明 (1) 平成29年8月18日の手続補正による補正(以下「本件補正」という。)前の本願の特許請求の範囲の請求項1〜34に係る発明(平成28年1月27日の手続補正による本願の特許請求の範囲に係る発明。請求項の数34。以下,これらを総称して「本件補正前発明」といい,そのうち請求項1に係る発明を「本件補正前発明1」という。)は,次のとおりのものである(甲4)。 【請求項1】 ファイトケミカル供給源,ω-6脂肪酸供給源,抗酸化剤供給源を含有する少なくとも1種の処方物を含む栄養処方物であって,前記少なくとも1種の処方物は,1〜40gのω-6脂肪酸と,25mg〜10gの抗酸化剤と,5mg超のポリフェノールを提供する1種以上のポリフェノールを含む1種以上のファイトケミカルとを含む投薬量を集合的に提供するよう包装され,消費の適合性を示すよう表示されることを特徴とする栄養処方物。 【請求項2】〜【請求項34】(省略) (2) 本件補正による補正後の本願の特許請求の範囲請求項1〜34に係る発明(以下,これらを総称して「本願補正後発明」といい,そのうち請求項1に係る発明を「本願補正後発明1」という。)は,次のとおりのものである(甲10)。 【請求項1】 複数の異なる供給源に由来するファイトケミカル,ω-6脂肪酸,及び抗酸化剤の混合物を含有する少なくとも1種の処方物を含む,個体のための栄養処方製品であって,前記少なくとも1種の処方物は,1〜40gのω-6脂肪酸と,5mg超の1種以上のポリフェノールを含む25mg〜10gの抗酸化剤の投薬量がまとめて提供されるよう包装され,消費の適合性を示すよう表示されることを特徴とする製品。 【請求項2】〜【請求項34】(省略) 3 審決の理由の要点 (1) 本件補正について 本件補正を却下する。 ア 新規事項(特許法17条の2第3項)について 本件補正により請求項1に記載されることになる「5mg超の1種以上のポリフェノールを含む25mg〜10gの抗酸化剤の投薬量がまとめて提供されるよう包装され」との技術的事項は,国際出願日における国際特許出願の明細書若しくは図面(図面の中の説明に限る。)の特許法184条の4第1項の翻訳文,国際出願日における国際特許出願の請求の範囲の同項の翻訳文又は国際出願日における国際特許出願の図面(図面の中の説明を除く。(以下「翻訳文等」という。 ) )に記載した事項の範囲内のものではなく,上記技術的事項を導入する本件補正は,特許法17条の2第3項に規定する要件を満たしていない(同法第184条の12第2項参照)。 イ 独立特許要件について 本願補正後発明1は,次のとおり,@甲13(国際公開2009/131939号。訳文は,特表2011-518223号公報〔甲21〕を参照した。)に記載された発明に基づいて,また,A特開2003-313142号公報(甲14,27)に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項により,特許出願の際独立して特許を受けることができない。 (ア) @について a 甲13に記載された発明 甲13には,次の発明(以下「甲13発明」という。)が記載されていると認められる。 「1日最適量の脂肪酸および植物性化学物質を含む哺乳動物対象のための脂質含有組成物であって,ω-6脂肪酸およびω-3脂肪酸を含む脂質含有組成物。」 b 相違点 本願補正後発明1と甲13発明とは,次の点で相違する。 [相違点1] 本願補正後発明1は,ファイトケミカルについて「複数の異なる供給源に由来する」と特定されているのに対し,甲13発明の植物性化学物質の由来は特定されていない点。 [相違点2] 本願補正後発明1は,少なくとも1種の処方物が「抗酸化剤」を含むと特定されているのに対し,甲13発明は,「抗酸化剤」を含むとされていない点。 [相違点3] 本願補正後発明1は,少なくとも1種の処方物が「1〜40gのω-6脂肪酸と,5mg超の1種以上のポリフェノールを含む25mg〜10gの抗酸化剤の投薬量がまとめて提供されるよう包装され,消費の適合性を示すよう表示される」のに対し,甲13発明は,そのように包装され,表示されるものとはされていない点。 c 相違点についての判断 (a) 相違点1について 甲13には,組成物に植物性化学物質全般を種々含むことや,異なる供給源を使用して,特定の植物性化学物質の高濃度での送達を回避することが示唆されているから,甲13発明の植物性化学物質を複数の異なる供給源に由来するものとすることは,上記甲13の示唆も踏まえて当業者が適宜になし得た設計事項にすぎない。 (b) 相違点2について 甲13には,組成物がポリフェノールや抗酸化物質を含むことが示されているから,相違点2に係る本願補正後発明1の構成は,甲13発明に基づいて当業者が容易に想到し得たものである。 (c) 相違点3について 甲13には,ω-6脂肪酸含有量の範囲として,1〜35gの範囲内がふさわしい旨が示されているから,1日最適量の脂肪酸を含む甲13発明の組成物について,ω-6脂肪酸の含有量を1〜40gとすることは,当業者が普通になし得たことである。 また,甲13には,組成物がポリフェノールや抗酸化物質を含むことが示されているところ,ポリフェノールが抗酸化作用を有することは周知であるから,甲13発明の組成物に,抗酸化物質としてポリフェノールを含ませることは当業者が容易に想到し得たことである。 このとき,甲13に,特定の植物性化学物質の高濃度での送達を回避すべき旨や,抗酸化物質を含めて均衡のとれた組成物とすべき旨が示唆され,また,栄養成分や有効成分の含有量を適量に設定すべきことは当然ともいえるから,甲13発明の組成物に含ませるポリフェノールの含有量を適量に設定することは,当業者が普通に考慮すべき設計事項である。そして,具体的な含有量を25mg〜10gとすることも,通常の範囲内の設計事項にすぎない(例えば,甲14〔甲27〕に100kcal当たりポリフェノール0.48g(茶カテキン0.24g及びプロアントシアニジン0.24g)を含む栄養組成物が記載されており,この栄養組成物を仮に1日当たり1000kcal摂取するとしても,ポリフェノールは4.8gである。。 ) そして,甲13発明の組成物に「ポリフェノールを25mg〜10g」含ませることは,「5mg超の1種以上のポリフェノールを含む25mg〜10gの抗酸化剤」を含ませることに相当する。 加えて,甲13には,脂質配合物を1日用量で包装することや,製品の使用,リスク,警告量,推奨される用量,回数,最適化についての提案を含む取扱説明書を提供することが示されているから,甲13発明の組成物を,1日分の用量がまとめて提供されるよう包装し,消費の適合性を示すよう表示することは,当業者が容易に想到し得たことである。 したがって,甲13発明において,相違点3に係る本願補正後発明1の構成となすことは,甲13の開示を考慮すると,当業者が容易になし得たことである。 (d) 効果について 本願補正後発明1が,甲13から予測できない格別顕著な効果を奏するものとは認められない。 ポリフェノールや抗酸化剤も含め,いかなる栄養成分であれ,過剰に摂取すれば有害であることは,技術常識であり,上記技術常識を踏まえると,ω-6脂肪酸及びポリフェノールを含む抗酸化剤の用量を適量に限定して所望の効果を得ることは,当業者が普通に予測することであるし,本願に係る明細書には,ω-6脂肪酸及びポリフェノールを含む抗酸化剤の用量について,種々の値が網羅的に記載されているにすぎず, 「1〜40gのω-6脂肪酸と,5mg超の1種以上のポリフェノールを含む25mg〜10gの抗酸化剤」とした場合の効果について具体的に確認したことの記載はないから,当該用量に格別の臨界的意義は認められない。 (イ) Aについて a 甲14(甲27)に記載された発明 甲14(甲27)には,次の発明(以下「甲14発明」という。)が記載されていると認められる。 「栄養成分として,脂質,茶由来のカテキン類又はブドウ種子由来のポリフェノール類,を含有し,脂質中の構成脂肪酸組成がω3系脂肪酸3〜20重量%及びω6系脂肪酸10〜40重量%であり,且つω3系脂肪酸/ω6系脂肪酸の重量比率が1/6以上であり,カテキン類又はポリフェノール類の含有量が全固形分あたり0.1〜2重量%である,特に高齢者もしくは要介護者への栄養補給の際に使用される栄養組成物。」 b 相違点 本願補正後発明1と甲14発明とは,次の点で相違する。 [相違点4] 本願補正後発明1は,「複数の異なる供給源」に由来するファイトケミカルを含むのに対し,甲14発明は, 「茶由来のカテキン類又はブドウ種子由来のポリフェノール類」を含むものの, 「複数の異なる供給源」に由来するファイトケミカルを含むことまでは特定されていない点。 [相違点5] 本願補正後発明1は,少なくとも1種の処方物が「1〜40gのω-6脂肪酸と,5mg超の1種以上のポリフェノールを含む25mg〜10gの抗酸化剤の投薬量がまとめて提供されるよう包装され,消費の適合性を示すよう表示される」のに対し,甲14発明は,そのように包装され,表示されるものとはされていない点。 c 相違点についての判断 (a) 相違点4について 甲14(甲27)には,茶由来のカテキン類又はブドウ種子由来のポリフェノール類以外にも,大豆油やシソ油等,種々の植物由来成分を配合した組成物の例が示されているから,甲14発明に,複数の異なる供給源に由来するファイトケミカルを含ませることは,普通に想定されていることといえる。 したがって,相違点4に係る本願補正後発明1の構成は,甲14発明に基づいて当業者が容易に想到し得たものである。 (b) 相違点5について 甲14発明の組成物は,ヒト成人一人当たり一日800kcalから2500kcalを経口的または経管・経腸的に投与することを想定したものであり,このような1日分量をまとめて包装し,使用に資する情報を表示することは,普通に行われることであって,当業者が適宜になし得たことである。 そして,1日分量の甲14発明の組成物に含み得る成分量については,甲14(甲27)に例示された組成が参考になるところ,製造例1に示された組成によると,100kcal当たりに含まれるω-6脂肪酸,ポリフェノールの量を,およそ以下のように見積もることができる。 ・ω-6脂肪酸について 大豆油0.699g,シソ油0.18g,中鎖脂肪酸トリグリセライド0.75g,パーム油0.334g,高純度大豆リン脂質0.14g,グリセリン脂肪酸エステル0.07gを配合し,脂肪酸組成はリノール酸25.9%であることから,ω-6脂肪酸は,約0.563g(=(0.699+0.18+0.75+0.334+0.14+0.07)×25.9%)と見積もることができる。 ・ポリフェノールについて 茶カテキン0.24g,プロアントシアニジン0.24gを配合していることから,ポリフェノールは,約0.48gと見積もることができる。 したがって,一日800kcalから2500kcalを投与することを踏まえると,1日分量の甲14発明の組成物には,ω-6脂肪酸を4.5g〜14.1g,ポリフェノールを3.8g〜11.5g含み得る。 ここで,4.5g〜14.1gのω-6脂肪酸は,本願補正後発明1の「1〜40gのω-6脂肪酸」に相当する。 また,ポリフェノールを11.5g含む場合には,本願補正後発明1の25mg〜10gの抗酸化剤の量を超えることとなるが,上記3.8g〜11.5gは,大部分の範囲で25mg〜10gの範囲と重複しているから,1日分量の甲14発明の組成物に含まれるポリフェノールを3.8g〜10gとして,本願補正後発明1の25mg〜10gの抗酸化剤の範囲内とすることは,当業者が容易になし得たことであるし,本願補正後発明1が抗酸化剤の上限量を10gとした点に格別の臨界的な意義も認められない。そして,3.8g〜10gのポリフェノールは,本願補正後発明1の「5mg超の1種以上のポリフェノールを含む25mg〜10gの抗酸化剤」に相当する。 したがって,相違点5に係る本願補正後発明1の構成は,甲14発明の組成物について,ω-6脂肪酸を4.5g〜14.1g,ポリフェノールを3.8g〜10gを含む量を1日分の量として,これをまとめて包装し,使用に資する情報を表示することにより,当業者が容易に想到し得たものである。 (c) 効果について 本願補正後発明1が,甲14発明から予測できない格別顕著な効果を奏するものとは認められない。 (2) 進歩性について ア 本件補正は,前記(1)のとおり却下されたので,本願の特許請求の範囲に係る発明は,前記2(1)の本件補正前発明のとおりとなる。 本件補正前発明1は,本願補正後発明1から「複数の異なる供給源に由来する」という限定事項を省いたものである。 そうすると,本件補正前発明1の発明特定事項を全て含み,他の限定を付加したものに相当する本願補正後発明1は,前記(1)イのとおり,@甲13発明に基づいて,また,A甲14発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本件補正前発明1も,同様の理由により,@甲13発明に基づいて,また,A甲14発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。 イ したがって,本件補正前発明1は,特許法29条2項により特許を受けることができないので,本願の他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,本願は拒絶すべきものである。 |
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原告主張の審決取消事由
1 補正要件の存否(新規事項の追加の有無) 本件審決が,「5mg超の1種以上のポリフェノールを含む25mg〜10gの抗酸化剤の投与量がまとめて提供されるよう包装され」た「処方物」については,翻訳文等に記載されていないと判断したのは,誤りである。 (1) 「5mg超の1種以上のポリフェノール」について 本件補正前の請求項1には,「5mg超のポリフェノールを提供する1種以上のポリフェノール」という「5mg超の1種以上のポリフェノール」と実質的に同一の記載が存在する。 また, 「5mg超の1種以上のポリフェノール」は,本願に係る明細書(甲1。訳文は甲2による。以下「本願明細書」という。)に明示的に記載された技術的事項である(【0037】【0144】【0158】。 , , ) したがって,本件補正により, 「5mg超の1種以上のポリフェノール」との記載が新たに導入されたわけではない。 (2) 「25mg〜10gの抗酸化剤」について 本件補正前の請求項1には,「25mg〜10gの抗酸化剤」と記載されている。 また,1日当たり「25mg〜10gの抗酸化剤」は,明示的に本願明細書に記載された技術的事項である(【0159】。 ) したがって,本件補正により, 「25mg〜10gの抗酸化剤」との記載が新たに導入されたわけではない。 (3) 「5mg超の1種以上のポリフェノールを含む25mg〜10gの抗酸化剤」について ア 本願明細書の記載を踏まえると, 「25mg〜10gの抗酸化剤」は,ポリフェノールを含み得るものであり(【0080】等),その場合のポリフェノールは「5mg超の1種以上のポリフェノール」であり得る(【0037】等)と理解するのが自然な解釈であるから,本件補正前の請求項1の記載は, 「5mg超の1種以上のポリフェノールを含む25mg〜10gの抗酸化剤」と実質的に同一の記載である。 イ(ア) 「ポリフェノール」は「抗酸化剤」の一例であり,当業者は, 「5mg超の1種以上のポリフェノールを含む25mg〜10gの抗酸化剤」は,本願明細書に明示的に記載された事項と理解するはずであって,「5mg超の1種以上のポリフェノールを含む25mg〜10gの抗酸化剤」は,本願明細書に記載された事項である。 (イ) 本願明細書の実施例1〜4及び6〜14は,食事性の抗酸化剤/ファイトケミカルという文脈におけるω-6脂肪酸の重要性を教示しており,実施例8.2及び11は,ω-6脂肪酸の投与量の重要性を教示している。 また,表5〜表8(【0187】【0193】【0199】【0204】 , , , )は, 「食事処方物は1つ以上の以下の表・・・に列挙した構成要素を含み,各食品品目中の微量養素[原告注:抗酸化剤]の存在レベルおよび食品品目の感受性に基づいて上限を設定する」と記載しており,表5〜表8は, 「1〜40/35gのω-6」を記載している。 さらに,「健康に有益な投薬量のポリフェノールを含むように調製された処方物」(例えば,【0044】, )「ポリフェノールの投与量は,5mgよりも多くすることができる」 (例えば, 【0037】【0152】及び【0158】, , )「ポリフェノールは,影響を受けやすい栄養素である」 (例えば, 【0041】及び【0152】, )「したがって処方物は,ポリフェノールの過剰を防止するように微調整されるべきである」 (例えば, 【0025】【0041】【0045】及び【0152】, , , )「抗酸化剤は影響を受けやすい栄養素であり」(例えば【0020】【0021】【0084】 , ,及び【0088】, )「抗酸化剤は,ポリフェノールを含む」(例えば,【0080】, )「抗酸化剤の投薬量は,25mg超,または10g未満であることができる」【0 (159】)という記載がある。 これらを総合すると,本願明細書に記載された一つ以上の処方物において, 「25mg〜10gの抗酸化剤」は「5mg超の1種以上のポリフェノール」を含むものであるから,「5mg超の1種以上のポリフェノールを含む25mg〜10gの抗酸化剤」が本願明細書に記載されているといえる。 ウ したがって,本件補正後の「5mg超の1種以上のポリフェノールを含む25mg〜10gの抗酸化剤」との記載は,本件補正前の記載に対して新たな事項を加えるものではない。 エ 被告は,ポリフェノールの量については,具体的な数値が羅列されているものの,事実上は何ら限定されていないに等しい旨主張するが,@本願明細書の【0037】には,(または未満) 「 」との記載はなく,A「超(または未満)」は,本願明細書の他の記載を参照して理解されなければならないため,上記主張は誤りである。 (4) 「まとめて提供されるように包装され」について ア(ア) 本件補正前の請求項1には,(前記少なくとも1種の処方物は, 「 ・・・とを含む投薬量を)集合的に提供するよう包装され」と記載されている(下線は原告が付した)「集合的に提供されるよう」との記載の意味するところは, 。 「まとめて提供されるよう」との記載の意味するところと相違しない。 (イ) 例えば,本願明細書【0037】には, 「栄養プランは,本明細書中に記載の一定の微量養素のバランスを取るために相互に補完する2〜約20(または2〜約10)種の栄養処方物を含む。一定の実施形態では,栄養プランは,4〜約12または4〜約10種の相互補完された(例えば,微量養素に関して補完された)処方物を含む。一定の実施形態では,1,2,または3つのこれらの処方物が(集合的に)一連の微量養素の少なくとも50%,少なくとも75%,または少なくとも90%を送達し,・・・」(下線は原告が付した)と記載されている。 上記記載によると, 「処方物が,集合的に一連の微量養素・ ・を送達する」 ・ とは,「処方物が一連の微量養素をまとめて送達する」 (下線は原告が付した)との意味であって,本願明細書では,「集合的に・・・する」との文言は,「まとめて・・・する」と同義で用いられている。 したがって,本件補正前の請求項1における「集合的に提供するように」と本件補正後の請求項1における「まとめて提供されるよう」との記載は,相違するものではない。 (ウ) 以上のとおり,本件補正は, 「まとめて提供されるよう包装され」との記載に関して新規事項を追加するものでない。 イ 本件補正後の請求項1の「まとめて提供されるよう包装され」との記載は,本願明細書の内容から自明な技術的事項である(【0017】【0037】及び ,【0042】並びに当初の請求項51)。 また,本願明細書【0132】には,以下の記載がある。 「いくつかの実施形態では,本明細書中に開示の組成物/処方物を,任意の経口で許容される形態で個体に投与することができる。・・・処方物を,1,2,3,4,またはそれを超える相互補完する1日投薬量で包装することができる。いくつかの実施形態では,処方物を,いくつかの例においてキャリア(デンプン,糖,希釈剤,造粒剤,潤滑剤,結合剤,崩壊剤,および顆粒剤など)を使用して調製した任意の1つ以上の単回投薬量または徐放性または制御放出カプセル,ソフトゲルカプセル,硬カプセル,錠剤,粉末,ロゼンジ,または丸薬(しかし,これらに限定されない)中に含めることができる。(下線は原告が付した。 」 ) 処方物は,1又は複数の要素の投与量がまとめて提供されるよう包装され得る(【0037】)ところ,包装される1又は複数の各要素の投与量が,1日当たりの投与量であり得ることも,【0132】等に明示的に記載された事項である。 (5) 小括 したがって,本願補正後発明1は,本件補正前の特許請求の範囲及び本願明細書に明示的に記載されているか,本願明細書に記載されていた事項から自明であって,新たな事項を加えるものではない。 なお,本願に係る平成28年1月27日付けで補正された特許請求の範囲に係る発明は,特許庁審査官により,翻訳文等に記載した事項であると既に認定された発明であるから,平成29年8月18日付けの手続補正書により補正された特許請求の範囲に係る発明が,平成28年1月27日付けで補正された特許請求の範囲に既に存在する技術的事項の範囲であれば,平成29年8月18日付けの手続補正により特許請求の範囲に新規事項が追加されたという判断はあり得ないはずである。 また,補正の際に積極的に又は優先的に選択すべき事情があるか否かは,補正により新規事項が追加されたか否かの判断に関係がない。 2 補正要件の存否(独立特許要件の存否〔進歩性の有無〕) (1) 構成の容易想到性について ア 相違点1について (ア) 相違点1の認定について a(a) 本願補正後発明が解決すべき課題は,ω-6脂肪酸と,1種以上のポリフェノールを含む抗酸化剤の投薬量を制限することである。ポリフェノールを含む抗酸化剤はω-6の所要量に影響を及ぼすからであり,また,これらの物質は影響を受けやすい栄養素であって,その投与量を調節する必要があるからである(【0002】〜【0004】【0008】【0012】【0041】【0044】 , , , , ,【0045】【0096】【0144】【0152】。 , , , ) この課題は,本願補正後発明によって解決する。 なお, 「本願明細書には,ω-6脂肪酸を『1〜40g』とし,抗酸化剤を『25mg〜10g』とすべきことの根拠や,当該範囲の内外における効果の相違等については記載されておらず」との被告の主張は,根拠がない。なぜなら,本願明細書の【0172】には「栄養プログラムに従ったω-6脂肪酸の平均1日量は1〜40gの範囲である。実施形態では,ω-6脂肪酸の1日量は,1,2,5,10,15,20,25,30,35,または40g超(または未満)である」と明確に記載されており,これは,本願明細書の様々な段落に記載された連続的な範囲の理解に関する例示であるからである。したがって, 【0159】における連続的な範囲は, 「25mg〜10gの抗酸化剤」と理解できる。さらに,本願明細書の実施例1〜4及び表5〜8のそれぞれは,ω-6について「1〜40g」, 「1〜35g」, 「1〜40g」「1〜40g」と明確に記載しており,実施例2〜4のそれぞれは,そ ,の導入箇所において,「影響を受けやすい栄養素のレベルが最適化されるように表・・・中の構成要素を選択する」「各食品品目中の微量養素の存在レベルおよび ,食品品目の感受性に基づいて上限を設定する」と明確に記載し, 「以下の表・・・に示す範囲内で個体の食事バランスをとるための栄養処方物を個体に提供」と明確に記載している。 (b) 甲13発明が解決すべき課題は,ω-6脂肪酸は健康に良くない(【0006】〜【0007】,抗酸化剤,ポリフェノールを含むファイトケミカル )が,ω-6脂肪酸の必要量を増加させ,ω-3脂肪酸の必要量/忍容性を減少させる(【0023】,他のいくつかの要因がこれらの代謝に影響し,したがって必須脂 )肪酸の必要量に影響する(【0004】〜【0005】)という,誤解を正すことである。 この課題は,処方物中及び/又は対象の食餌中の抗酸化剤及びファイトケミカルに基づいて,ω-6脂肪酸の適正な用量を投与し,用量及び/又はω-6脂肪酸対ω-3脂肪酸の比を調整することと,対象の他の要因に基づいてω-6及びω-3の送達をカスタマイズすることによって,解決される(表5〜20及び実施例11〜27)。 このように,甲13発明は,ポリフェノールがω-6脂肪酸の必要量とω-3脂肪酸の必要量/忍容性に影響することを開示しているにすぎない(【0023】。 ) (c) ポリフェノールが影響を受けやすい栄養素であり,その用量を管理する必要があること(本願明細書【0041】 【0044】【0045】【00 , , ,96】及び【0152】)は,甲13発明には教示も示唆もされていない。 本願明細書は,ポリフェノールを含む抗酸化剤が,単なる抗酸化剤というだけではなく,複数の生物学的効果を有することも,教示している(例えば,【0084】〜【0088】及び【0096】。 ) 甲13発明は,全般的に,抗酸化作用以外の作用を心配することなく,また,用量の上限を教示することもなく,ポリフェノールを含む抗酸化剤の使用について記載しているにすぎない。 したがって,本願補正後発明の課題は,甲13発明の課題と異なる。 b ω-6脂肪酸,抗酸化剤,及びポリフェノールの含有量は,食品供給源によって,同種の食品供給源の中でも,作物ごと,また産地ごとに異なることは,当業者によく知られた技術的事項である。複数の異なる供給源に由来する,ω-6脂肪酸,及びポリフェノールを含む抗酸化剤の特定の量を維持しながら,異なる供給源に由来するファイトケミカルを利用することは,技術的に困難である。 それにもかかわらず,本願補正後発明では,複数の異なる供給源に由来する特定の投薬量のω-6脂肪酸,及び特定の投薬量のポリフェノールを含む抗酸化剤をまとめて提供する前提で,複数の異なる供給源に由来するファイトケミカルを使用することにより,ω-6脂肪酸と,ポリフェノールを含む抗酸化剤の投薬量を具体的に制限するという課題を解決しており,ω-6脂肪酸と,ポリフェノールを含む抗酸化剤の投薬量を具体的に制限するという技術思想に基づいている。 本件審決は,当業者が,甲13発明に基づいて,ω-6脂肪酸,及び,ポリフェノールを含む抗酸化剤の特定の投薬量を維持しながら,異なる供給源に由来するファイトケミカルを利用することに容易に想到し得たことについて具体的な根拠を示していない。 そして,ファイトケミカルが本願補正後発明と甲13発明で「複数の異なる供給源に由来する」か否かのみが相違点であるかのように誤った認定をした。 c したがって,本件審決の相違点1の認定は誤りである。 (イ) 相違点1の判断について a 本件審決が引用する「ω-3脂肪酸に対して比較的高率のω-6脂肪酸」「抗酸化剤及び植物性化学物質[原告注:ファイトケミカル]全般を含む組 ,成物」という教示(1b),又は,「ファイトケミカルの高濃度での送達が回避される」という教示(1d)は,特定の量のω-6脂肪酸及び特定の量のポリフェノールを含む抗酸化剤をまとめて提供する前提で,複数の異なる供給源に由来するファイトケミカルを使用することを教示するものではない。 b 本願補正後発明1は,甲13発明とは異なる課題に対する異なる解決方法を提示するものである。 本願補正後発明に想到するには,まず,ω-6脂肪酸と,ポリフェノールを含む抗酸化剤の投薬量を制限するという本願補正後発明の課題を把握する必要があり,その上で,十分に機能を果たす解決法を得なければならない。 前記(ア)のとおり,甲13発明の教示から,本願補正後発明の課題は,把握できないし,その解決法である本願補正後発明も把握できない。 c 本願補正後発明の技術思想は,甲13発明とは異なるものであり,甲13発明では教示も示唆もされていない。 d したがって,相違点1が当業者によって容易に克服できたとの本件審決の判断は誤りである。 e なお,被告は,本願補正後発明は,実施可能要件違反であるとの主張をするが,実施可能要件違反は,本件審決の理由として挙げられていない。また,実施例1〜4及び表5〜8のそれぞれは,ω-6について「1〜40g」 「1〜3 ,5g」「1〜40g」「1〜40g」と明確に記載しており,実施例2〜4のそれ , ,ぞれは,その導入箇所において, 「影響を受けやすい栄養素のレベルが最適化されるように表・・・中の構成要素を選択する」 「各食品品目中の微量養素の存在レベル ,および食品品目の感受性に基づいて上限を設定する」と明確に記載している。この記載は,例えば,本願明細書の【0037】【0158】【0159】における敏 , ,感な栄養素の所望の範囲を教示するものである。したがって,本件補正後発明を本願明細書の記載に基づいて実施できないという主張は,妥当ではない。 イ 相違点2について (ア) 相違点2の認定について 本願補正後発明の技術的特徴は,前記ア(ア)bのとおりである。 したがって,本件審決で認定された相違点2は,正しく把握された相違点とはいえない。 本件審決は,甲13発明に含まれない抗酸化剤を本願補正後発明が含むという点だけが相違点であるかのような誤った認定を行っている。 (イ) 相違点2の判断について 本件審決が引用する甲13の「ピーナッツ」 (1c)は,異なる供給源に由来するファイトケミカルを使用した「処方物」ではなく,さらに項目(1b)(1c)(1 , ,e)及び(1g)は, 「抗酸化剤」自体を教示しているにすぎず,特定の量のω-6脂肪酸,及び特定の量のポリフェノールを含む抗酸化剤をまとめて提供することや,当該提供を維持したまま,複数の異なる供給源に由来するファイトケミカルを使用することを教示するものではない。 したがって,相違点2が当業者によって容易に克服できたとの本件審決の判断は誤りである。 ウ 相違点3について (ア) 甲14(甲27)に記載された事項の認定について a 甲14(甲27)の実施例1の表1の組成には,大豆油,シソ油,パーム油が含まれているが,これらの中には,ポリフェノールが存在している。 また,甲14(甲27)発明には,上記表1の100kcal当たり0.60gのミネラル類中に存在する特定のミネラル,又は上記表1の100kcal当たり0.06gのビタミン類中に存在する特定のビタミンの具体的な量は列挙されていない。 したがって,本件審決の甲14(甲27)には, 「100kcal当たりポリフェノール0.48g(茶カテキン0.24g及びプロアントシアニジン0.24g)を含む栄養組成物」が記載されているとの認定は誤りである。 b 甲14発明は,組成物中のポリフェノール総量も組成物中の抗酸化剤の総量も絶対値として開示していない。甲14発明においては,組成物は,1日当たり800kcal〜2500kcal投与される(【0023】)ところ,1日当たり2500kcal投与されると茶カテキンとアントシアニンのみでも12gとなるから,ポリフェノールのみの用量さえ10gを大きく超過する可能性があり,ポリフェノールを含む抗酸化剤の総用量は,さらに10gを大きく超過し得る。 したがって,「5mg超の1種以上のポリフェノールを含む25mg〜10gの抗酸化剤の投薬量」は,甲14発明には開示されておらず,また,甲14発明の開示から推論もできない。 c 以上からすると,対象が一日1000kcalに相当する量でこの栄養組成物を摂取した場合,ポリフェノールの総一日用量は4.8gになるという,甲14発明の栄養組成物に関する本件審決の認定は誤りである。 d なお,被告は,甲14(甲27)の表1に示された栄養組成物について,茶カテキン0.24g,プロアントシアニジン0.24gに比べれば,他に含まれる抗酸化剤はごく微量であると主張するが,植物中のポリフェノールの量は,作物ごと及び産地ごとに異なるものであり,甲14(甲27)に記載された組成物が対象に対して一日当たり800〜2500kcal投与された場合における実際のポリフェノールの投与量の詳細は不明としかいいようがない。 (イ) 相違点3の判断について a 前記(ア)の誤認に基づく「甲14(甲27)に基づけば抗酸化剤の量を設定することは通常の範囲内の設計事項にすぎない」との判断は誤りである。 甲14(甲27)の記載に基づいて,抗酸化剤の量を設定し,本願補正後発明とすることは不可能である。 b 本件審決は,相違点3について,甲14を挙げて,通常の設計事項であると述べているが,実質的には,甲14発明を甲13発明に適用している。このような場合には,甲13発明に甲14発明を適用する動機付けが必要である。 c 甲13発明と甲14発明とでは,解決すべき課題が異なる。 甲13発明の解決すべき課題は,前記ア(ア)a(b)のとおりであり,甲14発明の解決すべき課題は,便通の改善,脂質異常症の防止,腸内フローラの最適化,腸粘膜へのエネルギー供給,ラジカルによる消化管組織への損傷の低減,及び高齢者の便臭の低減(【0004】【0013】, , )「消化管でのラジカルによる組織損傷等の障害を防御する作用を有し,かつ便臭を軽減する効果を有する栄養組成物」の提供【0 (023】)であるから,甲13発明と甲14発明の課題は異なる。 そして,本願補正後発明の課題は,甲13発明とも甲14発明とも異なる。 したがって,当業者は,甲13発明に甲14発明を組み合わせて本願補正後発明に至る動機付けがない。 d また,甲13発明は, 「ω-3脂肪酸の補給を用いた医学的状態の予防及び治療についての証拠が示され,ω-6脂肪酸の摂取を減らすことが推奨されている」ということを開示した上で,ω-6脂肪酸の総用量が重要な役割を果たすことを教示しており,いかにしてω-6脂肪酸の適正な用量を実現するかについて教示している。一方,甲14発明は,従来から使用されてきた油脂には,リノール酸(ω-6脂肪酸)が多く含有されている一方で,α-リノレン酸(ω-3脂肪酸)はごく少量しか含まれていないことを開示した上で,ω-6脂肪酸に対するω-3脂肪酸の比率が比較的高い配合(製造例)を教示している。 このように,甲13発明と甲14発明は,ω-6脂肪酸とω-3脂肪酸の作用と機能について全く逆の教示を行っているのであって,当業者は,甲13発明に甲14発明を組み合わせようとする動機付けを得ることはない。 e さらに,甲14発明を基に算出されるポリフェノール及び抗酸化剤の用量が本願補正後発明に係るポリフェノール及び抗酸化剤の用量の範囲と全く異なり,仮に甲13発明に甲14発明を適用しようとすれば,ポリフェノール及び抗酸化剤の用量は,「5mg超の1種以上のポリフェノールを含む25mg〜10gの抗酸化剤」という範囲を大幅に逸脱することになる。 当業者がこのような甲14発明を参照した場合,甲13発明に対して「5mg超の1種以上のポリフェノールを含む25mg〜10gの抗酸化剤」という特定の用量を設定する合理的な成功の期待が得られるとはいえず,そのように設定する動機付けがあるとはいえない。 エ 相違点4について (ア) 相違点4の認定について 本願補正後発明の技術的特徴は,前記ア(ア)bのとおりであるから,本件審決で認定された相違点4は,正しく把握された相違点といえない。 (イ) 相違点4の判断について a 本願補正後発明は, 「低レベルの酸化生成物(例えば,脂質過酸化(LPO)生成物,フリーラジカル)は,細胞機能に必要である。( 」【0084】)ことを示し,ポリフェノールを含む抗酸化剤が影響を受けやすい栄養素であってその投薬量を管理する必要があることを教示している(例えば,【0041】【0045】 ,及び【0144】)が,甲14発明には,そのような認識は開示されていない。 甲14発明は,ミネラルとして,Na,K,Ca,Mg,P,及びCl,Fe,Zn,Cu,Mnなどの無機塩若しくは有機塩を,また,ビタミンとしてはビタミンA,D,E,B1,B2,C,B6,B12,パントテン酸,ナイアシン,ビオチンなどを添加することを具体的に教示している(【0023】。 ) その一方で,甲14発明は,ポリフェノール,抗酸化剤の総量やその上限,警告等について,あるいはこれらの酸化促進/抗酸化性について何ら教示していない。 また,甲14発明は,ω-3対ω-6の均衡のとれた比が,1/6以上であることと,ω-6脂肪酸がリノール酸であることを教示している(【0014】【001 ,6】【0025】【0028】【0029】。例えば, , , , ) 【0032】の表3では,栄養剤Eのω-3対ω-6比が10/1である(なお,表3の栄養剤Dではω-3対ω-6比は1/67となっているが, 【0029】ではこの処方物のω-3対ω-6比は1/1.67であり,誤記の可能性がある。。 ) したがって,本願補正後発明は,ω-6脂肪酸と,ポリフェノールを含む抗酸化剤の合計の量を具体的に制限するという技術思想に基づくものであるところ,このような技術思想は甲14発明とは異なるものであり,かつ,甲14発明では教示も示唆もされていない。 b 食品供給源が異なれば,ω-6脂肪酸,抗酸化剤,及びポリフェノールの含有量も異なるのであるから,複数の異なる供給源に由来するファイトケミカルを使用しつつ,ω-6脂肪酸,抗酸化剤,及びポリフェノールの具体的な投薬量を維持することは,技術的に困難である。それにもかかわらず,ω-6脂肪酸,抗酸化剤,及びポリフェノールの具体的な投薬量を維持しつつ複数の異なる供給源に由来するファイトケミカルを用いることで甲14発明を変更することが当業者にとって容易であったと判断する根拠を,本件審決は何ら示していない。 c したがって,相違点4を克服することが当業者にとって容易であったとの本件審決の判断は誤りである。 オ 相違点5について (ア) 本願補正後発明の解決すべき課題は,ω-6脂肪酸と,ポリフェノールを含む抗酸化剤の量を制限することである。 一方,甲14発明の解決すべき課題は,消化管でのラジカルによる組織損傷等の障害を防御する作用を有し,かつ便臭を軽減する効果を有する栄養組成物の提供をすることである。 本願補正後発明の解決すべき課題と,甲14発明の解決すべき課題とは全く異なる。本願補正後発明の解決すべき課題が主引用発明に見いだされるかどうかは,甲14発明に対する当該発明の容易想到性の論理付けの困難性に強く影響する。本願補正後発明とは課題が大きく異なる主引用発明を選択した場合には,論理付けは困難といえる。 (イ) 甲14発明は,ω-6脂肪酸やポリフェノールを含む抗酸化剤の投与量について具体的な教示をしていない。甲14(甲27)は,ω-6及びポリフェノールを含む抗酸化剤の総量を,有効な変数として,又は,技術的特徴として特定できていないので,甲14(甲27)の栄養組成物を参照した上で, 「引用発明1(判決注:引用発明2,すなわち,甲14発明の誤記と認める。)の組成物に含ませるポリフェノールの含有量を適量に設定することは,当業者が普通に考慮すべき設計事項である。具体的な含有量を25mg〜10gとすることも通常の範囲内の設計事項にすぎない」とする本件審決の判断は適切ではない。 カ 阻害要因について (ア) 本願の出願当時に開示されていた技術(甲12の参考資料4〜6,甲20)によると,当業者は,脂質やポリフェノール等の健康上有効な必要量又は摂取量は容易に知り得るものとはいえず,また,安全性が必ずしも確保できるとはいえなかった。 したがって,当業者は,本願補正後発明の課題である,ω-6脂肪酸と,ポリフェノールを含む抗酸化剤の適切な投薬量を設定することについて,容易に想到できないし,そのような設定は実際上容易ではないから,阻害要因が存する。 (イ) なお,仮に栄養素を過剰に摂取すれば有害であることが技術常識であったとしても,健康上有効な必要量又は摂取量を(定量的に)容易に知り得たといえない。 「過剰に摂取すれば有害である」というだけでは,安全性の確保について定量的な基準を提供できていない。甲12の参考資料6(甲20)を含む,本件出願当時の技術水準を考慮すると,具体的にどのような投薬量を使用することが好ましいのか,全く理解できる状況ではなかった。 したがって,これらの技術常識を理解すると,当業者は本願補正後発明の課題である,ω-6脂肪酸と,ポリフェノールを含む抗酸化剤の適切な投薬量を設定することについて,容易に想到できないし,そのような設定は実際容易ではない。 キ 二次的考察について ω-6及びポリフェノールを含む抗酸化剤の適正な用量の課題は解決しておらず,長年にわたる重大な解決されてこなかったニーズとなっていた。 このことは,進歩性が存在することを立証している。 (2) 顕著な効果について 本願補正後発明には,予想を超える優れた効果があり,当業者が予期し得ない顕著な効果がある。 ア 甲13発明及び甲14発明は,抗酸化剤/ポリフェノールの「過剰量」が意味するところを教示していない。他のポリフェノール及び抗酸化剤を添加することなしにポリフェノールのサブセットの用量のみで,組成物2500kcal中で優に12gを超過し得るからである。甲14発明は,その処方物内に存在する全てのポリフェノール及び抗酸化剤さえ,開示していない。 したがって,ポリフェノールを含む抗酸化剤の適正な用量に辿り着くための方法が,先行技術では分からなかった。 イ 「本願明細書には,ω-6脂肪酸及びポリフェノールを含む抗酸化剤の用量について,種々の値が網羅的に記載されているにすぎず, ・・・本願発明で特定した場合の効果について具体的に確認したことの記載はない」という本件審決の判断も,誤りである。 例えば,本願明細書【0037】は,ポリフェノール,葉酸,セレンの範囲について明示的に教示しており,抗酸化剤(ポリフェノールを含む)の(用量)範囲は,請求項1及び20で「25mg〜10mg」と明示的に定められており,ポリフェノールの(用量)範囲は,請求項13及び29で「300mg未満」と明確に定められており,請求項14で「140mg未満」と明確に定められている。 さらに,本願明細書の表1は抗酸化剤の供給源のリストを提示しており,表4は様々な供給源から栄養素を計算する方法を教示しており,表5〜8 【189】 【2 ( 〜07】)は,「食事処方物は1つ以上の以下の表・・・に列挙した構成要素を含み,各食品品目中の微量養素の存在レベルおよび食品品目の感受性に基づいて上限を設定する」として,「1-40/35gのω-6」を記載している。 ウ 本願明細書【0084】 「抗酸化剤は強力な性質を有し, は, したがって,健康上有益な効果が得られる範囲が狭い。低レベルの酸化生成物(例えば,脂質過酸化(LPO)生成物,フリーラジカル)は,細胞機能に必要である。」と, 【0086】は, 「活性酸素種産生の過剰な増加および/または増加の維持は,多数の疾患(癌,真性糖尿病,アテローム性動脈硬化症,神経変性疾患,慢性炎症,関節リウマチ,虚血/再灌流障害,閉塞性睡眠時無呼吸が含まれる)の病理発生に関与している。」と記載している。 また,本願明細書の実施例8.1及び8.2が,神経疾患におけるω-6脂肪酸及び抗酸化剤の投与効果に関する,顕著な効果を示している。 本願補正後発明によって,上記のような効果が奏されることは,甲13,甲14(甲27)には記載されていないのはもちろんのこと,甲13発明,甲14発明から予測できる範囲のものでもない。 エ 当業者は,本願に係る請求項及び明細書に記載されている,ポリフェノールを含む抗酸化剤の用量内で,請求項に係る医学的状態の顕著な効果を理解することができる。本願明細書から,複数のタイプの対象者層,及び全処方物又は補助的処方物に対応する代替の用量が開示されているのは,明らかである。 オ 甲38(US2008/0213239〔甲37〕の訳文)によると,30g/日を超過する投薬量の抗酸化剤が教示されていることは事実である。 |
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被告の主張
1 補正要件の存否(新規事項の追加の有無)について (1) 「5mg超の1種以上のポリフェノール」について ア 補正が特許法17条の2第3項に規定する要件を満たしているか否かは,補正後の技術的事項が翻訳文等に記載した事項の範囲内のものか否かによって判断されるべきものである。 したがって,補正前の請求項に記載されていたから,新規事項を導入するものではない旨の原告の主張は失当である。 イ 本願明細書【0037】には,ポリフェノールの量に関し,最小値の約5mg/日から最大値の約165mg/日まで,10もの数値が羅列され,しかも,「mg/日超(または未満)」と記載され,これらの数値より多くても少なくてもよいとされている。 そうすると,ポリフェノールの量については,具体的な数値が羅列されているものの,事実上は何ら限定されていないに等しいというべきである。 そして,5mg/日という数値は記載されているものの,上記のとおり,事実上はポリフェノールの量が限定されておらず,5mg/日未満でもよいことが記載されているのであるから, 「5mg超」という範囲を積極的又は優先的に選択すべき事情はない。 (2) 「25mg〜10gの抗酸化剤」について ア 前記(1)アと同じ。 イ 本願明細書【0159】には,抗酸化剤の量に関し,最小値の25mg/日から最大値の10g/日まで,14もの数値が羅列され(ただし,1000mg/日と1g/日は重複),しかも, 「g/日超(または未満)」と記載され,これらの数値より多くても少なくてもよいとされている。 そうすると,抗酸化剤の量については,具体的な数値が羅列されているものの,事実上は何ら限定されていないに等しいというべきである。 そして,25mg/日や10g/日という数値は記載されているものの,上記のとおり,事実上は抗酸化剤の量が限定されておらず,25mg/日未満や10g/日超でもよいことが記載されているのであるから, 「25mg〜10g」という範囲を積極的又は優先的に選択すべき事情はない。 (3) 「5mg超の1種以上のポリフェノールを含む25mg〜10gの抗酸化剤」について ア 前記(1)アと同じ。 イ 本願明細書【0080】には,抗酸化剤としてポリフェノールが例示されているものの,それ以外にも多数の例が示され,しかも,これらは「非限定的な例」にすぎない。 そうすると,抗酸化剤の種類は,特に限定されていないというべきであり,ポリフェノールを含むものを積極的又は優先的に選択すべき事情はない。 また,前記(1)イ及び(2)イのとおり,ポリフェノールの量について「5mg超」,抗酸化剤の量について「25mg〜10g」の範囲を積極的又は優先的に選択すべき事情もない。 以上の本願明細書の記載を踏まえると,抗酸化剤の量として25mg〜10gの範囲を選択し,その抗酸化剤としてポリフェノールを含むものを選択し,更に,そのポリフェノールの量として5mg超の範囲を選択するという具体的な技術的思想を抽出することはできない。 したがって,「5mg超の1種以上のポリフェノールを含む25mg〜10gの抗酸化剤」は,本願明細書のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項であるとはいえず,同技術的事項を導入する補正は,新規事項を追加するものである。 2 補正要件の存否(独立特許要件の存否〔進歩性の有無〕)について (1) 構成の容易想到性について ア 相違点1について (ア) 相違点1の認定について a(a) 本願明細書の【0004】〜【0012】【0041】【004 , ,4】【0045】【0096】【0152】を見ても,原告の主張する「本願補正 , , ,後発明が解決すべき課題」や「技術思想」のような記載はない。 本願明細書には,ω-6脂肪酸を「1〜40g」とし,抗酸化剤を「25mg〜10g」とすべきことの根拠や,当該範囲の内外における効果の相違等については記載されておらず,むしろ,本願明細書には,ω-6脂肪酸が40gを超えてもよいこと(【0172】,抗酸化剤が10gを超えてもよいこと( ) 【0159】)が記載されているから,本願明細書の記載からは,ω-6脂肪酸や抗酸化剤の量に具体的な上限を設定すべき旨の技術思想は把握できない。 本願補正後発明が解決すべき課題は,抽象的に栄養バランスの取れた製品を提供するという程度のものとしかいえない(本願明細書【0020】。 ) (b) 栄養処方製品において,栄養バランスの取れた製品を提供すべく,栄養成分の量を決定することは一般的な課題にすぎないし,この課題は,甲13に,「完全な食餌は,脂肪酸,抗酸化物質,植物性化学物質,ビタミンおよびミネラルに関して均衡のとれた組成物である」 (甲21【0035】)と記載され,甲14(甲27)に,「栄養成分として,乳蛋白質,大豆蛋白質,脂質,食物繊維,オリゴ糖,カテキン類又はポリフェノール類,ビタミン,ミネラル,微量元素を含有し・・・脂質中の構成脂肪酸組成がω3系脂肪酸3〜20重量%及びω6系脂肪酸10〜40重量%であり, ・・・カテキン類又はポリフェノール類の含有量が全固形分あたり0.1〜2重量%である栄養組成物」(甲14【請求項1】)と記載されているように,甲13発明,甲14発明にも内在する課題といえる。 (c) 引用発明の課題が本件発明の課題と共通であることは,本件発明の進歩性を否定する要素の一つとなり得るものではあるが,課題が共通でなければ,本件発明の進歩性を否定できないというものではない。 b 本願補正後発明に係る請求項1は,「複数の異なる供給源に由来するファイトケミカル」と「ω-6脂肪酸」と「抗酸化剤」とを読点で区切って記載しているのであるから,複数の異なる供給源に由来する」 「ファイトケミカル」 「 のはであると解釈される。 また,本願明細書には,抽象的に「栄養素」に関し異なる供給源を使用する旨は記載されている(【0135】【0179】 , )が,ω-6脂肪酸及び抗酸化剤が複数の異なる供給源に由来することについては明記されていない。なお,異なる供給源に由来する栄養素を使用するという程度の抽象的な事項であれば,甲13にも「異なる供給源に由来する補完的な栄養素間の相乗作用が組み込まれていてもよい。」(甲21【0031】)と記載されているから,この点が甲13発明との相違点となり得るものではない。 c 相違点1〜3に係る技術事項は,特に分けられないほどの密接な関係性はない。 本願補正後発明に係る「複数の異なる供給源に由来するファイトケミカル」 「ω と-6脂肪酸」と「(ポリフェノールを含む)抗酸化剤」は,それぞれ,所定の原料からの抽出成分でも構わないことを勘案すると,それぞれ,ほぼ独立に含有量を調節することができるのであるから,相違点1〜3に係る各事項を採用することが,他の事項によって妨げられるようなものではない。 したがって,相違点1〜3を個別に検討することに何ら不合理な点はない。 (イ) 相違点1の判断について a ファイトケミカルの供給源であって,ω-6脂肪酸の供給源となるものや,ポリフェノール等の抗酸化剤の供給源となるものは,それぞれ当業者によく知られている(甲14,15)。上記供給源を適切に組み合わせて各成分の量を調節することは可能であるし,また,各供給源から,必要な成分を抽出して配合することもできるのであるから,ω-6脂肪酸,及びポリフェノールを含む抗酸化剤の量を特定の量に調節しつつ,異なる供給源に由来するファイトケミカルを利用することは技術的に何ら困難ではない。 b 本願明細書には,複数の異なる供給源に由来する,ω-6脂肪酸及びポリフェノールを含む抗酸化剤の特定の量を維持しながら,異なる供給源に由来するファイトケミカルを利用する旨の記載はないし,技術的に困難な配合を可能にした旨の記載もない。そして,この配合が,真に技術的に困難であるならば,本願明細書には本願補正後発明に係る具体的な配合が記載されていないのであるから,そもそも本願補正後発明は実施可能要件すら満たしていないこととなる。 c 前記(ア)のとおり,引用発明の課題が本件発明の課題と共通でなければ,本願補正後発明の進歩性を否定できないというものではないし,本願補正後発明が,ω-6脂肪酸と,1種以上のポリフェノールを含む抗酸化剤の投薬量を制限することを課題とするものであるともいえない。 もっとも,いかなる栄養成分であれ,過剰に摂取すれば有害であることは技術常識である(甲15,16)から,栄養処方製品において,栄養成分の量を適切な範囲に設定すべきことは,一般的な課題にすぎず,甲13発明においても,この程度の一般的な課題は内在している。 イ 相違点2について (ア) 相違点2の認定について 前記ア(ア)cのとおり。 (イ) 相違点2の判断について 前記ア(イ)aのとおり。 甲13発明の組成物について,ポリフェノールや抗酸化物質を含むことが甲13に示唆されていることを踏まえて,相違点2が容易想到であると判断した本件審決の判断に誤りはない。 ウ 相違点3について (ア) 甲14(甲27)に記載された事項の認定について a 本件審決は,甲13発明に甲14(甲27)に記載された事項を適用することにより,相違点3が容易想到であると判断したものではない。 本件審決は,ポリフェノールの含有量を25mg〜10gとすることが「通常の範囲内の設計事項」であることを示すため,上記数値範囲内となる配合が公知であることの例示として甲14を示したにすぎない。 b 甲14(甲27)の表1に示された配合によると,大豆油,シソ油,パーム油にもポリフェノールが含まれ,ビタミンやミネラルも抗酸化作用を有する可能性があるため,抗酸化剤の量を計算することはできないが,茶カテキン0.24g,プロアントシアニジン0.24gに比べれば,他に含まれる抗酸化剤はごく微量であって無視し得るのであり,本願補正後発明の抗酸化剤の量と対比し得る程度には計算が可能である。 甲14(甲27)の表1に示された栄養組成物において, 「100kcal当たりポリフェノール0.48g(茶カテキン0.24g及びプロアントシアニジン0.24g)」以外の抗酸化剤の量を最大に見積もっても,0.0736gであり,茶カテキン0.24g,プロアントシアニジン0.24gに比べれば,他に含まれる抗酸化剤はごく微量である。 そして,甲14発明の表1に記載された栄養組成物において,茶カテキン0.24g及びプロアントシアニジン0.24g以外の抗酸化剤も考慮すると,含まれ得る抗酸化剤の量は,100kcal当たり0.5536gとなる。 この栄養組成物を1日当たり1000kcal摂取するとすれば,抗酸化剤は5.536gとなるので,本願補正後発明の「25mg〜10g」の範囲内であり,本件審決の「具体的な含有量を25mg〜10gとすることも,通常の範囲内の設計事項にすぎない」との判断には影響しない。 (イ) 相違点3の判断について a 甲14(甲27)には, 「本発明の栄養組成物は年齢や症状などにより異なるが,ヒト成人一人当たり一日800kcalから2500kcalを経口的または経管・経腸的に投与することが好ましい。( 」【0023】)と記載されているのであるから,800kcal〜2500kcalの範囲内である1000kcal当たりのポリフェノールの含有量が25mg〜10gであることを示せば,公知の配合の例示としては十分である。一日分を2500kcalとした場合に,ポリフェノールの含有量が10gを超えるとしても,ポリフェノールの含有量が25mg〜10gとなる配合が公知であることに変わりはなく,本件審決の判断に影響しない。 b 甲13には, 「ω-6脂肪酸対ω-3脂肪酸の前記比率が,4:1〜45:1」 (甲21【請求項4】, )「ω-6脂肪酸対ω-3脂肪酸の前記比率が,1:1〜10:1」 (甲21【請求項5】)と記載され,甲14(甲27)には, 「ω3系脂肪酸/ω6系脂肪酸の重量比率が1/6以上」 (甲14【請求項1】 と記載され, )重複する部分もあるから,両者が,ω-6脂肪酸とω-3脂肪酸の必要性や実際の配合について全く逆の教示を行っているということはない。 エ 相違点4について 相違点4についての原告の主張は,相違点1についての原告の主張と,実質的に同じであるから,前記アの主張を援用する。 オ 相違点5について (ア) 一般論として,請求項に係る発明とは課題が大きく異なる主引用発明を選択した場合には,論理付けが困難な場合があるとしても,本件審決のとおり,相違点5に係る本願補正後発明の構成に至る論理付けができる。 (イ) 甲14(甲27)には,【請求項1】 栄養成分として,乳蛋白質, 「大豆蛋白質,脂質,食物繊維,オリゴ糖,カテキン類又はポリフェノール類,ビタミン,ミネラル,微量元素を含有し,乳蛋白質/大豆蛋白質の重量比率が0/1〜4/1であり,脂質中の構成脂肪酸組成がω3系脂肪酸3〜20重量%及びω6系脂肪酸10〜40重量%であり,且つω3系脂肪酸/ω6系脂肪酸の重量比率が1/6以上であり,水溶性食物繊維及び/又はオリゴ糖の含有量が全固形分あたり2〜6重量%であり,カテキン類又はポリフェノール類の含有量が全固形分あたり0.1〜2重量%である栄養組成物。」と記載されているから,甲14(甲27)は,ω-6脂肪酸,及び,ポリフェノールの量を技術的特徴として開示している。 したがって,ω-6脂肪酸,及び,ポリフェノールを含む抗酸化剤の投与量について,甲14(甲27)が開示していない, 「有効な変数として,又は,技術的特徴として特定できていない」旨の原告の主張は失当である。 カ 阻害要因について (ア) ポリフェノールや抗酸化剤も含め,いかなる栄養成分であれ,過剰に摂取すれば有害であることは,技術常識である。 また,甲12の参考資料4〜6には,甲13発明又は甲14発明に基づいて,当業者が本願補正後発明に想到することを妨げるような記載はない。 (イ) 本願明細書には,ω-6脂肪酸が40g/日を超えてもよく,抗酸化剤が10g/日を超えてもよいことが記載されていて(【0172】【0159】, , )ω-6脂肪酸の上限を40gとし,抗酸化剤の上限を10gとすべきことの根拠や,当該上限値の前後における効果の相違等については記載されていない。 したがって,本願補正後発明によって,初めて,ω-6脂肪酸及びポリフェノールを含む抗酸化剤の適正な用量の課題が解決されたかのような原告の主張は失当である。 (2) 顕著な効果について ア 本願明細書には, 「1〜40gのω-6脂肪酸と,5mg超の1種以上のポリフェノールを含む25mg〜10gの抗酸化剤」を処方した実施例の記載はないのであるから,その効果が具体的に確認されておらず,上記用量に臨界的意義があるといえない。 イ 本願明細書の【0037】, 【0041】, 【0075】, 【0083】 表1, ,表4,表5〜8 【0189】 【0207】, ( 〜 )【0084】【0086】 実施例8. , ,1及び8.2には, 「1〜40gのω-6脂肪酸と,5mg超の1種以上のポリフェノールを含む25mg〜10gの抗酸化剤」を処方した具体例により効果を確認したことは記載されていない。 甲30及び31も, 「1〜40gのω-6脂肪酸と,5mg超の1種以上のポリフェノールを含む25mg〜10gの抗酸化剤」を処方した具体例を示すものではない。 ウ 甲31の[0020]には,本願明細書の【0038】で参照するWO2009/131939号(甲13)の表20に列挙されている抗酸化剤が「25mg〜10gの…投薬量の抗酸化剤」という請求項の限定を満たしている旨が記載されている。しかし,甲13の和訳に相当する甲21の【0075】に, 「投与された脂質組成物を含めた食餌全体に由来する栄養素(天然供給源)を,下記のとおり表20に示す。」と記載されていることから,上記表20に示されているものが,本願補正後発明のような「製品」といえるかは明らかでない。また,本願明細書の【0038】はWO2009/131939号を参照しているものの,特に表20に言及しているわけではなく,また,他の文献を参照していることをもって,その文献の記載内容が本願明細書に開示されているとみなせるわけでもない。 したがって,本願明細書の【0038】の記載からは,本願補正後発明の効果を具体的に確認することはできない。 |
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当裁判所の判断
1 本願発明について 本件補正前発明1及び本願補正後発明1は,前記第2の2記載のとおりであるところ,本願明細書(甲1,2)の記載によると,本願に係る発明(以下「本願発明」という。)について,次のとおり認められる。 (1) 技術分野,背景技術 本願発明は,最適化されたレベルの栄養素を含む組成物を提供する処方物及び食品に関する(【0002】。 ) ヒトの健康のためのファイトケミカル,脂質及びいくつかの他の栄養素の所要量は,非常に繊細である。脂質,抗酸化剤,ファイトケミカル,ビタミン,ミネラル,微生物,又はその組合せを含む処方物は,伝統的にはサプリメントとして提供されるか,栄養処方物又は局所処方物に無作為に添加される。これらの栄養素が不均衡又は過剰に消費される現在のアプローチでは,疾患の重荷を緩和しない。 相互作用,量及び消費者の見解での好みを保持するように適合させた天然に存在する食品を消費者が消費するように導かれる目的に合わせた栄養プログラム又は送達系を開発することが好ましい。現在まで,目的に合わせたプログラムは,特にファイトケミカル及び脂質の相互作用及び量に関して考案が困難であった。 最適なレベルの栄養素(ファイトケミカル,抗酸化剤,ビタミン,ミネラル,脂質,タンパク質,炭水化物,プロバイオティクス,プレバイオティクスなど)を提供する構成要素ベースの栄養処方物,目的に合わせた食事及び食事プランが必要である。【0003】〜【0008】 ( ) (2) 課題を解決するための手段 本願発明は,構成要素ベースの食事処方物及びプログラムの新規の開発ストラテジーに関する。特に,最適な効果が得られるように栄養素レベルのバランスが取れている消費者のための目的に合わせた食事の作製に関する。 本願発明は,個体(ヒト)のために栄養処方物又は栄養プランをカスタマイズ又は選択する方法を提供する。この態様における発明は,食事型(「コホート」)に関して個体を決定するか個体を分類する工程を含む。例えば,コホートは,高植物食,高肉食又は高魚介類食であり得る。個体は,痛風,糖尿病,心疾患,糖血症,インスリン血症,代謝症候群,加齢関連疾患又は感染症から選択される慢性病状の徴候又は症状を示し得,かかる症状を,バランスの取れた食事によって改善することができる。【0009】〜【0014】 ( ) 本願発明の目的は,脂質,抗酸化剤,ファイトケミカル,ビタミン,ミネラル,プロバイオティクス,プレバイオティクス及び/又は微生物の補足に基づいて栄養のバランスを取ることである(【0020】。 ) 本願明細書中で使用する用語「ファイトケミカル」 (植物栄養素) 果物, は, 野菜,豆類,穀物及び他の植物中に見いだされる,植物起源の任意の天然分子をいう。一般的には,抗酸化剤, ・・・,ポリフェノール, ・・・,脂質, ・・・が含まれる(【0025】。 ) (3) 発明を実施するための形態 ファイトケミカルは,蓄積効果を有し,食事中の狭い量の範囲内で健康上有益な効果を得ることができる。一般に,ファイトケミカルは,(a)抗酸化剤の性質を有し,(b)酸化促進剤に変化し得,(c)遺伝子発現を調整し,(d)ゲノムの完全性を維持し,(e)細胞シグナル伝達経路を調整し,(f)細胞の過剰増殖及び活動亢進を低下させ,(g)細胞膜の調整を引き起こし,(h)炎症を阻害し,(i)炎症を過剰に抑制し, (j)ミトコンドリア機能を阻害でき, (k)ω-3 と共に消費された場合にアシドーシスに導くことができ,(l)脂質の代謝及び活性を変化させることができ,(m)ω-6 を増加させることができ, (n)ω-3 の所要量を軽減できる。 (【0057】〜【0059】) 細胞膜の最適な機能並びにω-6 及び ω-3 脂肪酸から産生されたエイコサノイド(必須脂肪酸代謝産物)間のバランスのためにヒト栄養法において ω-6 及び ω-3脂肪酸のバランスを取ることが重要である(【0069】。 ) 脂質代謝に関して,脂肪酸は,摂取後に,(1)エネルギー産生のための主なミトコンドリアの β 酸化, (2)フリーラジカル媒介酸化, (3)フリーラジカル非依存性の非酵素的酸化,又は(4)長鎖脂肪酸など生理活性脂質産物を産生するための酵素的酸化等のうちの1つを受け得る。各酸化型から特定の生成物が形成され,各反応型を阻害するために特定の抗酸化剤が必要である。抗酸化剤は強力な性質を有し,健康上有益な効果が得られる範囲が狭い。 【0080】【0084】 ( , ) 多数の要因が脂肪酸代謝に影響を及ぼし得るが(他の脂肪酸,抗酸化剤,ファイトケミカル,ビタミン,ミネラル,ホルモン及び微生物の存在,各消費者の性別,遺伝学及び年齢並びに最高の体温など) 本願発明は, , 個体の脂肪酸所要量の簡潔であるが正確な決定方法及び都合が良くかつ有効な栄養補足プログラムを提供する(【0052】。 ) 1つの態様では,栄養プランの特定の態様を補助するパッケージ及びキットを提供する。パッケージ及びキットは,野菜,果物,穀物,シリアル,マメ科植物,食肉,魚介類,堅果,種子,ハーブ,脂質,ミルク及びヨーグルトなど,並びに,その任意の組合せを含む構成要素又は調整系を含む。いくつかの実施形態では,各パックは,バランスが取られ,かつ最適化された食事に適切な特定の栄養素含有量を含む。例えば,穀物又はシリアルのパックは,ポリフェノール,抗酸化剤,ω 脂肪酸及び/又は飽和脂肪酸を各範囲が特定の食事性コホートに適切な特定の範囲内で含むことができる。【0130】【0133】 ( , ) いくつかの実施形態では,食品由来の栄養素を抽出し,液体,乾燥粉末,又は,局所用クリーム又はパッチ中の栄養処方物に組み込む(【0150】。 ) (4) 実施例実施例1:一般的な食事処方物 25%〜45%の脂肪由来のカロリーを含み,この脂肪が本願明細書記載の脂質組成物によって供給される食事プラン。 実施例2:コホートのための食事処方物 魚介類から2%〜40%のカロリーを得るコホートのための食事プラン(高魚介類)。 実施例3:コホートのための食事処方物 食肉から10%〜50%のカロリーを得るコホートのための食事プラン(高食肉)。 実施例4:コホートのための食事処方物 マメ科植物,野菜及び果物から20%〜80%のカロリーを得るコホートのための食事プラン(高野菜食)。 実施例5:食事性モジュールの包装およびラベル付け 各パッケージを,日/週/月あたり25%未満のカロリーが得られるようにデザインし,パッケージに添付して示す。 実施例6〜14:症例研究(高コレステロール血症〔心血管疾患〕,気分変動〔精神機能〕,神経障害〔進行性核上性麻痺,筋萎縮性側索硬化症〕,体重増加〔肥満〕,消化器系障害,排卵〔生殖障害〕,歯科疾患,筋膜疼痛及び胸郭出口症候群,免疫,自己免疫並びに感染症及び炎症性疾患)(【0186】〜【0221】) 2 補正要件の存否(独立特許要件の存否〔進歩性の有無〕)について 事案に鑑み,まず,補正要件の存否(独立特許要件の存否〔進歩性の有無〕(取 )消事由2)のうち,甲13に基づく進歩性の有無について検討する。 (1) 甲13発明 ア 甲13(国際公開第2009/131939号)には,次の記載があると認められる(訳文は甲21〔特表2011-518223号公報〕による。 。 )「【特許請求の範囲】【請求項1】 1日最適量の脂肪酸および植物性化学物質を含む哺乳動物対象のための脂質含有組成物であって,以下の群:前記対象の年齢,前記対象の性別,前記対象の食餌,前記対象の体重,前記対象の医学的状態,および前記対象の生活圏の気候から選択される 1 つまたは複数の要素に基づく組成物。 ・・・【請求項3】 ω-6 脂肪酸および ω-3 脂肪酸をさらに含み,ω-6 脂肪酸対 ω-3 脂肪酸の比率およびその量が,前記群から選択される1つまたは複数の要素に基づいて制御される,請求項 1 に記載の組成物。」「【0010】 本開示の全般的な一実施形態は,最適量の脂肪酸,抗酸化物質,ミネラルおよび植物性化学物質を含む哺乳動物対象のための脂質含有組成物であって,該対象の年齢,性別,食餌,体重,身体活動,医学的状態および該対象の生活圏の気候を含む群から選択される 1 つまたは複数の要素に基づく組成物である。・・・【0022】 脂質配合物 一態様では,本開示は,ω-6 脂肪酸および ω-3 脂肪酸両方の最適な 1 日送達量を維持しながら,ω-3 脂肪酸に対して比較的高率の ω-6 脂肪酸を組み込む。高率を維持する 1 つの理由は,配合物の不可欠な構成要素として,抗酸化物質,ミネラルおよび植物性化学物質の含有量が多く,過剰な ω-3 を不要にすると考えられる他の特性を有するナッツ,種子およびナッツ油が組み込まれているからである。 ・ ・・この配合物は,測定され最適化された量のナッツおよび種子を油と共に送達する。 【0023】 本開示の一定の実施形態は,以下のうち 1 つまたは複数の補給を含む組成物を提供する:ビタミン A,B9(葉酸),C,D,E;β カロテン,リコペン,アスタキサンチン,ルテイン,ゼアキサンチンなどの,アルカロイド,カロテノイド;モノフェノール;ケルセチン,ケンフェロールおよびレスベラトロールなどの,ポリフェノール,・・・ならびに,抗酸化物質および植物性化学物質全般。・・・一定の実施形態では,前述の栄養素のそれぞれは,油,バター,ナッツ,種子,ハーブ,甘味料および他の食品などの天然の供給源により最適化される。 ・・・【0026】 ピーナッツも,抗酸化物質の食餌性摂取に著しく貢献し,ブラックベリーおよびイチゴの抗酸化物質含有量に匹敵し,リンゴ,ニンジンまたはビートより抗酸化物質にはるかに富む。ピーナッツは,ビタミン E(γ-および α-トコフェロール),ナイアシン,葉酸,タンパク質およびマンガンの良好な供給源である。ピーナッツは,高濃度の植物性化学物質ポリフェノール(レスベラトロールなど)も含有する。 ・・・【0031】 いくつかの実施形態では,異なる供給源に由来する補完的な栄養素間の相乗作用が組み込まれていてもよい。例えば,in-vivo 酸化は異なる経路をとる場合があり,抗酸化物質の最適な混合を用いると,異なる経路の管理においてより有効であり,生理機能にとって必要な適度なレベルの酸化をもたらすと考えられる。さらに,ナッツおよび種子は,良くも悪くも強力な結果を有することが公知であることから,異なる供給源を使用すると,過剰な場合には有害と考えられる特定の抗酸化物質および植物性化学物質(例えばある種のフィトステロール)の高濃度での送達が回避される。 ・・・【0035】 ・・・一定の実施形態では,完全な食餌は,脂肪酸,抗酸化物質,植物性化学物質,ビタミンおよびミネラルに関して均衡のとれた組成物である。・・・・・・【0037】 投与 いくつかの実施形態では,本明細書中で開示する脂質配合物を含む組成物は,経口的に許容される任意の形態で個体に投与できる。この脂質配合物は,1,2,3,4またはそれを超える相互補完的な 1 日用量で包装してもよい。・・・【0038】 本明細書中で開示する均衡のとれた脂質組成物を使用して,いくつか例を挙げれば脂質,植物性化学物質,抗酸化物質,ビタミンおよびミネラルの均衡のとれた成分を含有する組成物を食餌の成分としての食品中に加えることにより,完全に均衡のとれた食餌計画を構築してもよい。・・・【0039】 各個体には,任意の医薬製品,栄養補給製品,または,摂取を意図した任意の製品の場合に通常見られるように,製品の使用およびリスクおよび警告量についての取扱説明書を提供してもよい。油,ナッツ,種子およびハーブは強力であることから,取扱説明書には,推奨される用量,回数,および,最適化についての提案を含めてもよい。・・・・・・【0060】・・・ (実施例5) ω-3 脂肪酸含有量を変えた配合物 表12は,ヒト対象が自身の食餌に最もふさわしい組成物を選ぶことができる(この場合,その選択は,食餌中の抗酸化物質および植物性化学物質のレベルおよび/または医学的素因に基づいてもよい)ように ω-3 の強度を低,中および高に増やした場合の,年齢および性別により設計された,総脂肪酸内容物についての用量範囲(単位:グラム) 一価不飽和脂肪酸対多価不飽和脂肪酸の比率範囲および一価不飽和脂 ,肪酸対飽和脂肪酸の比率範囲,ω-6 脂肪酸含有量の範囲(単位:グラム),ω-9 脂肪酸対 ω-6 脂肪酸の比率範囲,ω-6 脂肪酸対 ω-3 脂肪酸の比率範囲,ω-3 脂肪酸含有量の範囲(単位:グラム)を示すものである。」 なお,【0061】【表12】には,「年齢および性別に基づく脂質用量」として,ω6 の範囲1〜35gが示されている。 イ 前記アの甲13(甲21)の記載によると,甲13には,前記第2の3(1)イ(ア)aのとおり,次の甲13発明が記載されていると認められる。 「1日最適量の脂肪酸および植物性化学物質を含む哺乳動物対象のための脂質含有組成物であって,ω-6 脂肪酸および ω-3 脂肪酸を含む脂質含有組成物。」 (2) 対比 ア 本願補正後発明1と甲13発明とを対比すると,甲13発明の「植物性化学物質」「哺乳動物対象」は,それぞれ,本願補正後発明1の「ファイトケミカ ,ル」「個体」に相当し,甲13発明の「脂質含有組成物」は,本願補正後発明1の ,「少なくとも1種の処方物」及び「栄養処方製品」に相当するから,次のとおりの一致点及び相違点が認められる。 【一致点】 「ファイトケミカル,ω-6 脂肪酸の混合物を含有する少なくとも1種の処方物を含む,個体のための栄養処方製品」である点【相違点】<相違点1> 本願補正後発明1は,ファイトケミカルについて「複数の異なる供給源に由来する」と特定されているのに対し,甲13発明は植物性化学物質の由来が特定されていない点。 <相違点2> 本願補正後発明1は,少なくとも1種の処方物が「ポリフェノールを含む抗酸化剤」を含むと特定されているのに対し,甲13発明は,これを含むとされていない点 。 <相違点3> 本願補正後発明1は,少なくとも1種の処方物が「1〜40g の ω-6 脂肪酸と,5mg超の 1 種以上のポリフェノールを含む 25mg〜10g の抗酸化剤の投薬量がまとめて提供されるよう包装され,消費の適合性を示すよう表示される」のに対し,甲13発明は,そのように包装され,また,表示されるものとはされていない点。 イ 原告は,本願補正後発明は,複数の異なる供給源に由来する,特定の量のω-6脂肪酸,及び,特定の量のポリフェノールを含む抗酸化剤をまとめて提供する前提で,複数の異なる供給源に由来するファイトケミカルを使用することにより,ω-6脂肪酸と,ポリフェノールを含む抗酸化剤の合計の量を具体的に制限するという課題を解決しており,ω-6脂肪酸とポリフェノールを含む抗酸化剤の投与量を具体的に制限するという技術思想に基づいていると主張する。 本願明細書の【0008】には, 「最適なレベルの栄養素(ファイトケミカル,抗酸化剤,ビタミン,ミネラル,脂質,タンパク質,炭水化物,プロバイオティクス,プレバイオティクス,微生物,および繊維など)を提供する構成要素ベースの栄養処方物」が必要であること,【0020】には,本願補正後発明の目的が,「脂質,抗酸化剤,ファイトケミカル,ビタミン,ミネラル,プロバイオティクス,プレバイオティクスおよび/または微生物の補足に基づいて栄養のバランスを取ること」であることが記載されている。 そして, 「ファイトケミカル」は,本願明細書上「植物起源の任意の天然分子」と定義されており,「抗酸化剤,フラボノイド,フラボン,イソフラボン,カテキン,アントシアニジン,イソチオシアナート,カロテノイド,硫化アリル,ポリフェノール,テルペン,リモノイド,脂質,植物ステロール,βカロチン,アスコルビン酸(ビタミン C),葉酸,およびビタミンE」がこれに含まれ,しかし,これらに限定されないと説明されている(【0025】。 ) このように,脂質や抗酸化剤等もファイトケミカルに含まれるとされていること、 本願明細書には,実施例として,植物由来ではない栄養素が含まれる例が挙げられていること(【0187】〜【0207】)に鑑みると,上記のように, 「ファイトケミカル」が,脂質や抗酸化剤等のファイトケミカルに含まれるとされる栄養素と並記されている場合の意味は,単に,植物由来の栄養素が栄養処方物に含まれることを意味するものと解するほかない。 本願明細書の記載をみても,上記のとおり,脂質,抗酸化剤,ビタミン,ミネラル,プロバイオティクス,プレバイオティクス,微生物等の栄養のバランスをとることの記載はあるが,全体としてバランスを取るという以上に,特に,ω-6脂肪酸とポリフェノールを含む抗酸化剤という特定の栄養素のみを,他の栄養素とは別途に取り上げて,これを特定の量に固定することにより,ω-6脂肪酸とポリフェノールを含む抗酸化剤の合計の量を具体的に制限するということについての技術的意義が記載されているとはいえない。また,本願明細書には,ω-6脂肪酸とポリフェノールを含む抗酸化剤という特定の栄養素を特定の量に固定するに当たり,当該栄養素が,植物由来のω-6脂肪酸とポリフェノールを含む抗酸化剤のみを意味し,それ以外のω-6脂肪酸とポリフェノールを含む抗酸化剤は除外されることを裏付けるに足りる記載も見当たらない。 そうすると,本願補正後発明は,処方物が,複数の異なる供給源に由来する,特定の量のω-6脂肪酸,及び,特定の量のポリフェノールを含む抗酸化剤をまとめて提供する前提で,複数の異なる供給源に由来するファイトケミカルを使用することにより,ω-6脂肪酸と,ポリフェノールを含む抗酸化剤の合計の量を具体的に制限するという技術思想に基づくものであるとは認められない。 したがって,本願補正後発明1は,上記技術思想に基づく点で,甲13発明とは,相違している旨の原告の主張は,理由がない。 (3) 相違点の判断 ア 相違点1について (ア) 前記(1)のとおり,甲13には,最適化されたナッツ,種子及びナッツ油といった複数の供給源による脂肪酸や抗酸化物質,ポリフェノールなど,それぞれの栄養素の量を最適化すること(【請求項3】【0022】 , )や,異なる供給源を使用することにより,過剰の場合は有害な特定の植物性化学物質の高濃度での送達を回避すること(【0031】)が示唆されている。 そうすると,甲13発明において,植物性化学物質を,複数の異なる供給源に由来するものとすることは,当業者が適宜採用することができる設計事項であると認められる。 (イ)a 原告は,甲13の「ω-3脂肪酸に対して比較的高率のω-6脂肪酸」「抗酸化剤及び植物性化学物質[原告注:ファイトケミカル]全般を含む組成 ,物」という教示,又は, 「ファイトケミカルの高濃度での送達が回避される」という教示は,特定の量のω-6脂肪酸及び特定の量のポリフェノールを含む抗酸化剤をまとめて提供する前提で,複数の異なる供給源に由来するファイトケミカルを使用することを教示するものではない旨主張する。 原告の上記主張は,本願補正後発明1が「特定の量のω-6脂肪酸及び特定の量のポリフェノールを含む抗酸化剤をまとめて提供する前提で,複数の異なる供給源に由来するファイトケミカルを使用する」との技術思想に基づくものであることを前提とするものであると解されるが,その主張を採用することができないことは,前記(2)のとおりであるから,原告の上記主張は,理由がない。 b なお,原告は,ω-6 脂肪酸,抗酸化剤及びポリフェノールの含有量は,食品供給源や,作物,産地によって異なり,複数の異なる供給源に由来する,ω-6 脂肪酸及びポリフェノールを含む抗酸化剤の特定の量を維持しながら,異なる供給源に由来するファイトケミカルを利用することは技術的に困難である旨主張する。 ファイトケミカルの供給源であって,ω-6 脂肪酸の前駆体であるリノール酸を含有するピーナッツ油,コーン油,ヒマワリ油等(甲21の【0004】 【表1】【0 ,033】 【表2-1】【0034】 , 【表2-2】)や,ポリフェノールを含有するオリーブ油(甲21の【0084】,アーモンド・クルミ・ペカン・クリ・ピーナッツ )等の抗酸化物質を含有するナッツ類(甲21の【0024】〜【0026】)は,いずれも当業者によく知られたものである。そして,ポリフェノールは,抗酸化剤の例である(甲15,弁論の全趣旨)。 また,証拠(甲1,2,13,14,21)によると,供給源そのものや複数の供給源から製造される組成物に含まれる ω-6 脂肪酸,ポリフェノールの含有量は,それぞれ測定可能であることが認められる。 そうすると,ω-6 脂肪酸,抗酸化剤及びポリフェノールの含有量が,供給源によって異なるとしても,目的とするω-6 脂肪酸,抗酸化剤の配合量とするために植物由来の栄養素の供給源を適切に組み合わせて各成分の合計量を調節することは,技術的に困難であるとはいえない。 また,ω-6 脂肪酸,抗酸化剤及びポリフェノールの含有量が,作物,産地等によって異なるとしても,それは単一の供給源でも生じ得る問題であって,異なる供給源を組み合わせる場合に固有の問題ではなく,上記のとおり,供給源のω-6 脂肪酸,ポリフェノールの含有量が測定可能であることからすると,上記認定を左右するものではない。 したがって,原告の上記主張は理由がない。 c 原告の相違点 1 に係るその余の主張は,いずれも,本願補正後発明1が「特定の量のω-6脂肪酸及び特定の量のポリフェノールを含む抗酸化剤をまとめて提供する前提で,複数の異なる供給源に由来するファイトケミカルを使用する」との技術思想に基づくことを前提とするものであると解されるところ,前記(2)のとおりであって,採用することができない。 イ 相違点2について (ア) 前記(1)のとおり,甲13には,甲13発明に係る組成物に抗酸化物質(【0022】【0023】【0031】【0035】,ポリフェノール( , , , ) 【0023】が含まれることが示唆されており, ) ポリフェノールが抗酸化剤であることは,本願出願時における技術常識であった(甲15,弁論の全趣旨)から,甲13発明に係る組成物において,少なくとも一種の処方物をポリフェノールを含む抗酸化剤を含むものとすることは,当業者が適宜採用することができる設計事項であると認められる。 (イ) 原告は,「ピーナッツ」は,異なる供給源に由来するファイトケミカルを使用した「処方物」ではなく,甲13は, 「抗酸化剤」自体を教示しているものであって,特定の量のω-6脂肪酸及び特定の量のポリフェノールを含む抗酸化剤をまとめて提供することや,当該提供を維持したまま,複数の異なる供給源に由来するファイトケミカルを使用することを教示するものではないと主張する。 原告の上記主張は,本願補正後発明1が「特定の量のω-6脂肪酸及び特定の量のポリフェノールを含む抗酸化剤をまとめて提供する前提で,複数の異なる供給源に由来するファイトケミカルを使用する」との技術思想に基づくことを前提とするものであると解されるところ,前記(2)のとおりであって,採用することができない。 ウ 相違点3について (ア) 数値の限定について a 前記イ(ア)のとおり,甲13には,甲13発明に係る脂質含有組成物にポリフェノール,抗酸化物質が含まれることが示唆されている。 甲13には,甲13に係る組成物を,脂肪酸,抗酸化物質を含めて最適量の又は均衡のとれた組成物とすべき旨記載されていること(甲13の【0023】【00 ,35】,栄養成分であっても,過剰に摂取すれば有害であることが技術常識である )こと(甲13の【0031】,甲15,16,弁論の全趣旨)も考慮すると,目的や投与対象に応じて有効成分の含有量を適量に設定することは当業者に当然求められる事項である。 b 前記(1)アのとおり,甲13には,脂質含有組成物における ω-6 脂肪酸含有量の範囲を1〜35gとする旨が示されており,本願補正後発明1の ω-6の投与量「1〜40g」は,上記甲13の ω-6脂肪酸含有量の範囲とほとんどの部分において重複する。 c 甲14には,脂質(ω-6 脂肪酸を含む)を含有するとともに,カテキン類又はポリフェノール類(タンニン,プロアントシアニジン等)を0.1〜2重量%になるように配合した組成物が開示されており 【0014】 0022】, ( 【 , )製造例1として,100kcal 当たりポリフェノールとして0.48g(茶カテキン0.24g 及びプロアントシアニジン0.24g)を含む栄養組成物が記載されている(【0025】【0026】 , ,甲15,16)ところ,甲14では,製造例1の組成物を成人一人当たり一日800kcal から2500kcal を投与することが想定されている(【0023】)から,製造例1の組成物に含まれるポリフェノール類の摂取量は,約3.8g〜12g と概算され,本願補正後発明1に係る抗酸化剤の投与量の範囲25mg〜10g と多くの部分で重複している。なお,原告は,上記製造例1の組成である大豆油,シソ油,パーム油にはポリフェノールが含まれており,また,ミネラル類及びビタミン類に含まれている特定のミネラル又はビタミンの量が不明である旨主張するが,@大豆油,シソ油,パーム油にはポリフェノールはほとんど含まれておらず(乙1〜3),A甲14には,「セレンとして10μgとなるように配合した。( 」【0025】)と記載されていて,ミネラル類のうち,抗酸化剤であるセレンの量は,0.00001gであり,Bビタミン類については, 「ビタミン類」の全てが抗酸化剤に該当するとしても,0.06gであるから,製造例1の処方物に含まれるポリフェノール類の量が上記認定の量と大きく異なるとは考えられず,本願補正後発明1に係る抗酸化剤の投与量の範囲と多くの部分で重複しているとの上記認定が左右されることはない。 また,甲14の製造例1に係る組成物を組成する物のうち,脂質と解されるものの100kcal 当たりの配合組成は,大豆油0.699g,シソ油0.18g,中鎖脂肪酸トリグリセライド0.75g,パーム油0.334g,高純度大豆リン酸脂質0.14g,グリセリン脂肪酸エステル0.07g であり 【0026】, ( ) リノール酸(ω6系脂肪酸。【0017】【0025】 , )が25.9%である(【0025】)ことからすると,ω-6 脂肪酸含有量は,100kcal 当たり約0.56g と概算され,一日800kcal から2500kcal を投与する場合は約4.5g〜14g となり,この数値は,本願補正後発明1の「1〜40g」の範囲に含まれる。 d そして,本願明細書には,ω-6 脂肪酸の投与量を「1〜40g」,ポリフェノール等の抗酸化剤の投与量を「25mg〜10g」とすること(特にこれらの範囲に上限を設けること)の技術的な意義について何ら説明されておらず,これらの数値範囲を実現することに技術的な困難性があることを認めるに足りる証拠もない。 e 以上によると,甲13発明において,ω-6 脂肪酸の投与量を「1〜40g」,ポリフェノール等の抗酸化剤の投与量を「25mg〜10g」とすることは,当業者が適宜採用することができる設計事項であると認められる。 また,本願明細書における上記数値範囲の技術的な意義についての記載は,上記のとおりであって,本願明細書の記載から,上記数値範囲に係る構成を採用することによって格別の効果を奏することを認めることはできず,他にそのことを認めるに足りる主張・立証はない。 (イ) 処方物がまとめて提供されるように包装され,消費の適合性を示すように表示されることについて 甲13には,脂質配合物を 1 日用量で包装すること(【0037】)や,製品の用量,回数等を含めた取扱説明書を提供すること(【0039】)が記載されているから,甲13発明に係る組成物を,投薬量をまとめて提供されるよう包装し,消費の適合性を示すよう表示することは,当業者が適宜採用することができる設計事項であると認められる。 (ウ) 小括 したがって,甲13発明において,相違点3に係る本願補正後発明1の構成を採用することは,設計事項である。 (エ)a 原告は,本件審決は,実質的には,甲14に記載された事項を甲13発明に適用しているから,甲13発明に甲14に記載された事項を適用する動機付けが必要である旨主張するが,前記(ア)の認定は,甲14に記載された事項を甲13発明に適用するものではなく,甲13発明において本願補正後発明1の構成要件であるω-6 脂肪酸の投与量とポリフェノール等の抗酸化物の投与量の数値とすることが,設計事項にすぎないかどうかを判断するに当たって,甲14に記載された数値を参照したものであるから,原告の上記主張は,前提を欠くものである。 b 原告は,@甲13発明と甲14発明とでは,解決すべき課題が異なり,A甲13発明と甲14発明では,ω-6脂肪酸とω―3脂肪酸の作用と機能について逆の教示を行っており,B甲14発明を基に算出されるポリフェノール及び抗酸化剤の用量は,本願補正後発明1のそれと異なることを理由として,甲13発明に甲14発明を適用して本願補正後発明1に至る動機付けがない旨主張する。 しかし,これらは,甲13発明に甲14に記載された事項を組み合わせて適用することを前提とした主張であると解されるところ,上記aのとおりであって,採用することができない。また,前記(ア)のとおり,甲13発明において,その目的や投与対象に応じて,有効成分の含有量を適量に設定することは当業者に求められる事項であるところ,甲13や甲14の記載を参照すると,本願補正後発明1の範囲の数値とすることは,当業者が適宜採用することができる設計事項であると認められるものであって,上記@〜Bの各点は,この認定を左右するものということはできない。 したがって,原告の上記主張は,前記認定を左右するものではない。 (4) 結論 以上によると,本願補正後発明1は,甲13発明に基づいて容易に発明をすることができたものであり,独立特許要件を満たさないから,本件補正を却下した本件審決の判断に誤りはない。 そして,原告の主張する取消事由は,本件補正に係る判断の適否を問題にするものであるから,甲13発明を主引用発明とする進歩性の有無に係る独立特許要件の欠缺により,本件補正が却下されるべきであると認められる以上,その余の点を判断するまでもなく,本件審決を取り消すべき理由はない。 |
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結論
よって,主文のとおり判決する。 |
裁判長裁判官 | 森義之 |
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裁判官 | 森岡礼子 |
裁判官 | 古庄研 |