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関連審決 無効2016-800104
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事件 平成 29年 (行ケ) 10200号 審決取消請求事件

原告 ヴァレオカペックジャパン 株式会社
同訴訟代理人弁護士 北原潤一 佐志原将吾
同訴訟代理人弁理士 加藤志麻子 黒川恵
被告 シェフラーテクノロジーズ アクチエンゲゼルシャフト ウント コンパニー コマンディートゲゼルシャフト
同訴訟代理人弁護士 松永章吾 坂井健吾
同訴訟代理人弁理士 二宮浩康 上島類 永島秀郎
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2019/02/18
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1 特許庁が無効2016−800104号事件について平成291年10月4日にした審決を取り消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
3 この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30日と定める。
事実及び理由
請求
主文同旨。
事案の概要(後掲証拠及び弁論の全趣旨から認められる事実)
1 特許庁における手続の経緯等 (1) 被告は,名称を「回転数適応型の動吸振器を備えた力伝達装置および減衰 特性を改善するための方法」とする発明に係る特許権(特許第547393 3号。国際出願日 平成20年11月17日(パリ条約による優先権主張 平 成19年11月29日 ドイツ。(以下「本件優先日」という。)),設定 登録日 平成26年2月14日。請求項の数12。以下,「本件特許権」と いい,同特許権に係る特許を「本件特許」という。)の特許権者である(甲 32)。
(2) 原告は,平成28年8月15日,本件特許につき特許庁に無効審判請求を し,特許庁は上記請求を無効2016-800104号事件として審理した。
(3) 特許庁は,平成29年10月4日,審判請求は成り立たない旨の審決(以 下「本件審決」という。)をし,その謄本は,同月13日,原告に送達され た。
(4) 原告は,平成29年11月10日,本件審決の取消しを求めて本件訴訟を 提起した。
2 特許請求の範囲の記載 本件特許の特許請求の範囲の請求項1〜12の記載は,次のとおりである。
以下,各請求項に係る発明を請求項の番号に従い「本件発明1」,「本件発明 2 2」などといい,「本件発明」と総称する。本件特許の明細書(甲32)を, 図面を含めて「本件明細書」という。また,本件明細書の図面の一部は,別紙 本件明細書図面目録記載のとおりである。
【請求項1】 駆動装置と被駆動装置との間で出力伝達するための力伝達装置(1) であって,少なくとも1つの入力体(E)と,出力体(A)と,少なくとも部 分的に運転媒体である油で充填可能な室内に配置された振動減衰装置(3,4) とが設けられており,該振動減衰装置(3,4)が,回転数適応型の動吸振器 (5)に連結されている形式のものにおいて,回転数適応型の動吸振器(5) が,油影響に関連して,駆動装置の励振の次数qよりも所定の次数オフセット 値qFだけ大きい有効次数qeffに設計されていることを特徴とする,駆動装置 と被駆動装置との間で出力伝達するための力伝達装置。
【請求項2】回転数適応型の動吸振器(5)の共振が,励振の次数qに合致しな いように,次数オフセット値qFが選択されている,請求項1記載の力伝達装置。
【請求項3】回転数適応型の動吸振器(5)の有効次数qeffが,駆動装置の励振 の次数qを0.05〜0.5の範囲内の次数オフセット値qFだけ上回っている, 請求項1または2記載の力伝達装置。
【請求項4】回転数適応型の動吸振器(5)の有効次数qeffが,駆動装置の励振 の次数qを0.05〜0.4の範囲内の次数オフセット値qFだけ上回っている, 請求項3記載の力伝達装置。
【請求項5】回転数適応型の動吸振器(5)の有効次数qeffが,駆動装置の励振 の次数qを0.05〜0.3の範囲内の次数オフセット値qFだけ上回っている, 請求項3記載の力伝達装置。
【請求項6】回転数適応型の動吸振器(5)の有効次数qeffが,駆動装置の励振 の次数qを0.14〜0.3の範囲内の次数オフセット値qFだけ上回っている, 請求項3記載の力伝達装置。
【請求項7】回転数適応型の動吸振器(5)が,遠心振り子装置として形成され 3 ており,該遠心振り子装置が,慣性質量体支持装置(10)を有しており,該 慣性質量体支持装置(10)が,該慣性質量体支持装置(10)に対して相対 的に運動可能に該慣性質量体支持装置(10)に配置された慣性質量体(9, 9.1,9.2,9.11,9.12,9.13,9.14)を備えており, 個々の慣性質量体(9,9.1,9.2,9.11,9.12,9.13,9. 14)の重心間隔Sが,駆動装置の励振の次数qの関数として規定され,有効 次数qeffへのqFだけの次数オフセットが,次数オフセット値qFに関連した 重心間隔の変化を規定するように,回転数適応型の動吸振器(5)が形成され ていて,設計されている,請求項1から6までのいずれか1項記載の力伝達装 置。
【請求項8】次数オフセット値qFの量が,駆動装置の励振の次数qの変化に比例 して変化するようになっている,請求項1から7までのいずれか1項記載の力 伝達装置。
【請求項9】力伝達装置(1)が,ハイドロダイナミック式の構成要素と,該ハ イドロダイナミック式の構成要素を跨ぐための装置とを有しており,ハイドロ ダイナミック式の構成要素が,ポンプホイール(P)として機能する少なくと も1つの一次ホイールと,タービンホイール(T)として機能する二次ホイー ルとを備えており,両ホイールが,作業室(AR)を互いに形成しており,タ ービンホイール(T)が,少なくとも間接的に力伝達装置(1)の出力体(A) に相対回動不能に結合されており,ハイドロダイナミック式の構成要素と,該 ハイドロダイナミック式の構成要素を跨ぐための装置とが,それぞれ出力分岐 路に配置されており,回転数適応型の動吸振器(5)を備えた振動減衰装置(3, 4)が,少なくとも出力分岐路の一方に直列に接続されており,少なくとも部 分的に運転媒体である油で充填可能な室が,力伝達装置(1)の内室によって 形成されるようになっており,該内室が,ハイドロダイナミック式の構成要素 の運転媒体によって通流されるようになっている,請求項1から8までのいず 4 れか1項記載の力伝達装置。
【請求項10】少なくとも1つの入力体(E)と,出力体(A)と,少なくとも 部分的に運転媒体である油で充填可能な室内に配置された振動減衰装置(3, 4)とが設けられており,該振動減衰装置(3,4)が,回転数適応型の動吸 振器(5)に連結されている,駆動装置と被駆動装置との間で出力伝達するた めの力伝達装置(1)の減衰特性を改善するための方法において,回転数適応 型の動吸振器(5)を,油影響に関連して,駆動装置の励振の次数qよりも所 定の次数オフセット値qFだけ大きい有効次数qeffに設計することを特徴とす る,駆動装置と被駆動装置との間で出力伝達するための力伝達装置の減衰特性 を改善するための方法。
【請求項11】前記室が,ハイドロダイナミック式の構成要素の運転媒体によっ て通流されるようになっている,請求項10記載の方法。
【請求項12】前記方法が,以下の方法ステップ:すなわち, ・原動機の励振次数qを規定し, ・該励振次数qに対する回転数適応型の動吸振器(5)のジオメトリを確定し, ・必要となる次数オフセット値qFを規定し, ・該次数オフセット値qFの関数としての動吸振器(5)のジオメトリを検出す る: を有している,請求項10または11記載の方法。
3 本件審決の理由の要旨 (1) 原告は,@ 無効理由1として本件発明1〜7及び9〜12について,下 記の甲4文献に記載された発明(以下「甲4発明」という。)及び技術常識に 基づく進歩性欠如,A 無効理由2として本件発明1〜7及び9〜12につ いて,甲4発明,下記の甲5文献に記載された発明(以下「甲5発明」とい う。 , ) 下記の甲6文献に記載された事項及び技術常識に基づく進歩性欠如, B 無効理由3として本件発明1〜7及び9〜12について,甲4発明,下 5 記の甲7文献に記載された発明(以下「甲7発明」という。),甲6文献に記載された事項及び技術常識に基づく進歩性欠如,C 無効理由4として本件発明1〜7及び9〜12について,下記の甲8文献に記載された発明(以下「甲8発明」という。),甲5発明,甲4文献に記載された事項,甲6文献に記載された事項及び技術常識に基づく進歩性欠如,D 無効理由5として本件発明1〜7及び9〜12について,甲8発明,甲7発明,甲4文献に記載された事項,甲6文献に記載された事項及び技術常識に基づく進歩性欠如,E 無効理由6として,請求項1及び請求項8の記載についてのサポート要件違反,F 無効理由7として請求項7及び請求項12の記載についての明確性要件違反を主張した。
本件審決の理由は,別紙審決書(写し)記載のとおりであり,要するに,@ 無効理由1〜3につき,下記(2)の相違点1に係る構成を当業者が容易に想到することができたとはいえないから,特許法29条2項に該当しない,A 無効理由4,5につき,下記(2)の相違点2に係る構成を当業者が容易に想到することができたとはいえないから,同項に該当しない,B 無効理由6につき,請求項1〜12の記載は,同法36条6項1号の規定に違反しない,C 無効理由7につき,請求項7及び12の記載は,同項2号の規定に違反しないとして,原告の無効審判請求は成り立たないというものである。
なお,文献中の図面の一部は,文献の番号に応じた別紙図面目録記載のとおりである。
甲4 米国特許第6026940号明細書。
: 登録日平成12年2月22日。
甲5 米国特許第6450065号明細書。
: 登録日平成14年9月17日。
甲6:米国特許第5295411号明細書。登録日平成6年3月22日。
甲7:Vibration Reduction in a Variable Displacement Engine Using Pendulum Absorbers, Tyler M. Nesterほか。平成15年5月発行。
甲8:国際公開第2004/018897号明細書 6 (2) 本件審決が認定した引用発明は次のとおりである。
ア 甲4発明 「 駆動装置と被駆動装置との間で出力伝達するための流体式トルク・コン バータ100であって, ベアリングジャーナル1と, タービン・ハブ15と, 運転媒体である油で充填可能な室内に配置された駆動側駆動手段39, 弾性要素41及び従動側駆動手段43とが設けられており, 駆動側駆動手段39,弾性要素41及び従動側駆動手段43が,補償フ ライホイール質量体54を切欠き53で案内するキャリア51に連結され ている流体式トルク・コンバータ100。」 イ 甲5発明 「 内燃機関のクランク軸が,回転数適応型の動吸振器に連結されている形 式のものにおいて,回転数適応型の動吸振器が,kが0.8から0.99 9,又は1.001から1.2の範囲のうち,0.8から0.999の範 囲では,内燃機関の励起振動の次数xよりも「1-(1/√k)」だけ大 きい有効次数に設計されている,回転数適応型動吸振器。」 ウ 甲7発明 「 クランクシャフトが,振子式アブソーバに連結されている形式のものに おいて,振子式アブソーバが,エンジンの振動次数n=2よりも0.15 だけ大きい幾何学的な次数に設計されている振子式アブソーバにおいて, アブソーバを支持する孔は,孔を覆うエンドキャップによりローラを定位 置に保持し,クランクケースが油を噴射されることにより,十分な潤滑を もたらす,振子式アブソーバ。」 エ 甲8発明 「 駆動装置と被駆動装置との間で出力伝達するための流体式トルク・コン 7 バータ30であって, ハウジング31と, ブッシュ32と, 運転媒体である油で充填可能な室内に配置されたタービントーションダ ンパ40,43とが設けられており, タービントーションダンパ40,43が,可変的な固有振動数を持つス プリング・マス・システム22に連結されている流体式トルクコンバータ 30。」(3) 本件発明と引用発明の対比 ア 本件発明1と甲4発明 両発明は以下の[一致点]で一致し,[相違点1]について相違する。
[一致点] 駆動装置と被駆動装置との間で出力伝達するための力伝達装置であって, 少なくとも1つの入力体と,出力体と,少なくとも部分的に運転媒体であ る油で充填可能な室内に配置された振動減衰装置とが設けられており,該 振動減衰装置が,回転数適応型の動吸振器に連結されている形式の,駆動 装置と被駆動装置との間で出力伝達するための力伝達装置。
[相違点1] 本件発明1では,「回転数適応型の動吸振器(5)が,油影響に関連し て,駆動装置の励振の次数qよりも所定の次数オフセット値qFだけ大きい 有効次数qeffに設計されている」のに対し,甲4発明では,補償フライホ イール質量体54を切欠き53で案内するキャリア51が,どのように設 計されているか不明である点。
イ 本件発明1と甲8発明 両発明は以下の[一致点]で一致し,[相違点2]について相違する。
[一致点] 8 駆動装置と被駆動装置との間で出力伝達するための力伝達装置であって, 少なくとも1つの入力体と,出力体と,少なくとも部分的に運転媒体であ る油で充填可能な室内に配置された振動減衰装置とが設けられており,該 振動減衰装置が,固有周波数が可変的である動吸振器に連結されている形 式の,駆動装置と被駆動装置との間で出力伝達するための力伝達装置。
[相違点2] 「固有周波数が可変的である動吸振器」に関して,本件発明1は,「回 転数適応型の動吸振器(5)」であり,「回転数適応型の動吸振器(5) が,油影響に関連して,駆動装置の励振の次数qよりも所定の次数オフセ ット値qFだけ大きい有効次数qeffに設計されている」のに対し,甲8発 明では,スプリング・マス・システム22が可変的な固有振動数を持つも のであり,スプリング・マス・システム22がどのように設計されている か不明である点。
4 取消事由 取消事由1:無効理由1〜3につき,本件発明1と甲4発明との相違点1の 認定,判断の誤り 取消事由2:無効理由4,5につき,本件発明1と甲8発明との相違点2の 認定,判断の誤り 取消事由3:無効理由1〜5につき,本件発明10〜12と甲4発明との相 違点1及び甲8発明との相違点2の認定,判断の誤り 取消事由4:無効理由6につき,サポート要件違反に関する判断の誤り 取消事由5:無効理由7につき,本件発明7及び12に関する明確性要件違 反に関する判断の誤り
原告主張の取消事由
1 取消事由1(無効理由1〜3につき,本件発明1と甲4発明との相違点1の 認定,判断の誤り)について 9 (1) 相違点1の認定について ア 本件審決は,本件発明における「油影響に関連して,」「設計されてい る」との要件(以下「油影響要件」という。)が本件発明1の発明特定事 項であることを前提に,本件発明1に油影響要件が存在することを相違点 1として認定したものであるが,誤りである。
イ 動吸振器のチューニングについての技術常識 (ア) 動吸振器の遠心振り子の固有振動数が駆動装置の励振の振動数と一 致したときに,ねじり振動を最も効果的に減衰できるということが,古 くから知られた動吸振器の基本原理であり,このことからすれば,動吸 振器の遠心振り子の「実際の次数」が「駆動装置の励振の次数」と一致 したときに,ねじり振動を最も効果的に減衰できる。
? (イ) 動吸振器のチューニングとは,「動吸振器の幾何学的次数」(√ ?(た だし,Lは回転中心から遠心振り子の支点までの長さ,lは遠心振り子 の中央位置での長さ)。本件発明1にいう「有効次数」のこと。)を決 定することである。この決定は,通常,上記の動吸振器の基本原理を念 頭に置いて行われる。
? N (ウ) 「動吸振器の幾何学的次数」(√ ? )と「駆動装置の励振の次数」 2 ) ( との大小関係は,理論上も実際上も, @ アンダーチューニング([動吸振器の幾何学的次数]<[駆動装 置の励振の次数]) A イーブンチューニング([動吸振器の幾何学的次数]=[駆動装 置の励振の次数]) B オーバーチューニング([動吸振器の幾何学的次数]>[駆動装 置の励振の次数]) 10 の3通りしか存在しない。
ウ 本件発明1は,その文言上は,動吸振器の構成として,オーバーチュー ニング([動吸振器の幾何学的次数]>[駆動装置の励振の次数])され たものであることに加え,オーバーチューニングが油影響要件を満たすこ とを規定しているが,油影響要件は「物の発明」たる本件発明1の発明特 定事項,すなわち,同発明に係る物と他の物とを区別する機能を有する要 素であるとは認められない。
(ア) 本件審決は,油影響要件について,「少なくとも部分的に油で充填可 能な室内で回転する油による作用を考慮して設計されたものであること」 と解した上で,これを本件発明1の発明特定事項とした。
しかし,オーバーチューニングされた動吸振器において,「回転する 油による作用を考慮して設計された」ものと,このような考慮をしない で設計されたものとを,物の構造又は特性の点で区別することは不可能 である。例えば,励振の次数が2である駆動装置に対応する動吸振器が 2.15という幾何学的次数(有効次数)でオーバーチューニングされ たものである場合,当該動吸振器は,回転する油の作用を考慮して設計 されたものであるか否かにかかわらず幾何学的寸法(回転中心から遠心 振り子の支点までの長さLと遠心振り子の長さlとの関係)は異ならな い。このように,設計に当たって,「回転する油による作用を考慮」す る点は,動吸振器の構造又は特性を区別する要素になり得ない。
以上のように,本件審決の解釈による油影響要件は,本件発明1にお ける動吸振器について,オーバーチューニングされた動吸振器という構 成以上の限定を加えるものではないから,発明特定事項とはいえない。
(イ) また,油影響要件についての本件審決の解釈以外の解釈をとるとして も,「油影響に関連して」との要件を,オーバーチューニングされた動 吸振器をさらに構造又は特性で特定(限定)するものと解釈することは 11 できない。
最高裁平成24年(受)第1204号平成27年6月5日第2小法廷 判決は,物の発明について,特許請求の範囲にその物の製造方法の記載 がある,いわゆるプロダクト・バイ・プロセス・クレームの発明の要旨 認定について,製造方法の要件は発明特定事項にならない(発明は当該 製造方法によって製造された物に限定されない)とする。そして,この 判決の説示するところは,本件発明1のように,物の発明でありながら, クレームにその物の設計にあたっての考慮事項の記載がある場合(いわ ばプロダクト・バイ・「設計」・プロセス・クレーム)の要旨認定にも 当てはまる。
上記(ア)のとおり,本件発明1について,油影響要件を充たす動吸振器 とこれを充たさない動吸振器はいずれもオーバーチューニングされた動 吸振器として構造又は特性を区別することができないのであり,油影響 要件は動吸振器の構造又は特性を特定する機能を有しない。
したがって,油影響要件をどのように解釈しても,本件発明1の要旨 認定において,同発明が備える動吸振器は,オーバーチューニングされ た動吸振器として客観的に特定されるのであり,油影響要件を発明特定 事項とみることはできない。
エ 以上のとおり,油影響要件は,その解釈にかかわらず,本件発明1の発 明特定事項とはいえないから,油影響要件があることをもって本件発明1 と甲4発明との相違点と認定するのは誤りである。
そうすると,本件審決は,本件発明1と甲4発明との相違点の認定に際 し,存在しない油影響要件に係る相違点を相違点と認定した上で,かかる 相違点の容易想到性を否定したものであるから,上記相違点の認定誤りは, 審決の結論に影響を与えることが明らかであり,取消事由となる。
(2) 相違点1の容易想到性について 12 ア 技術常識に基づく容易想到性(無効理由1に対応) (ア) 動吸振器のチューニングについての技術常識 上記(1)イのとおりの動吸振器のチューニングについての知見は,本件 優先日以前から技術常識であった。
(イ) オーバーチューニングについての技術常識 a 動吸振器を理想条件下(例えば,真空下)でなく,現実の環境,す なわち,非理想条件下で動作させた場合,遠心振り子の固有振動数(1 秒当たりの振動の数)が理想条件下における固有振動数に比して様々 な要因により低下することは,多くの文献(単振り子の固有振動数の 低下について甲12〜14,20,動吸振器の固有振動数の低下につ いて甲16〜18,21〜24)に記載されており,本件優先日当時 の技術常識であった。このような固有振動数の低下は,例えば,動吸 振器が油のような液体中で動作する場合に振り子の動きが浮力等の影 響で遅くなることや,振り子の振幅が大きくなる場合にその動きが遅 くなることにより,換言すれば,「復元力の低下」によって,生じる ものである。
b 非理想条件下における動吸振器の固有振動数(1秒当たり振動の数) や「実際の次数」(1回転当たりの振動の数)が,理想条件下におけ る固有振動数や「実際の次数」と比べて低下し,それにより駆動装置 の励振の振動数(1秒当たりの振動の数)や「励振の次数」(1回転 当たりの振動の数)と一致しなくなることを補償するために,動吸振 器の幾何学的次数を駆動装置の励振の次数よりも大きく設定すること (オーバーチューニング)は,本件優先日当時の技術常識であった。
c さらに,オーバーチューニングの具体的手段については,動吸振器 の遠心振り子の長さlをLに対して相対的に短くすればよいことは, 13 ? 幾何学的次数の定義自体(√ ? )から自明であり,多数の文献(甲5〜 7,15〜18,30)にも,動吸振器のオーバーチューニングが開 示されている。
(ウ) 容易想到性 甲4発明には,動吸振器のチューニングの態様が上記(1)イ(ウ)@〜B のいずれになるか記載されていないが,当業者が甲4発明を実施するた めに動吸振器を設計するに際しては,必ず動吸振器の幾何学的寸法を決 定する必要があるから,上記@〜Bのいずれかが選択される。
そして,上記(ア),(イ)の技術常識に照らせば,当業者において,甲4 発明の動吸振器のチューニングに際してオーバーチューニングを選択す ることが困難であろうはずがなく,本件優先日当時の当業者が,上記の 技術常識に基づき,甲4発明における動吸振器をオーバーチューニング することを容易に想到し得たことは明らかである。
イ 甲5発明を副引用例とする容易想到性(無効理由2に対応) (ア) 甲5発明の認定について 本件審決の甲5発明の認定(上記第2の3(2)イ)は,甲5発明がオー バーチューニングされた動吸振器の発明であることを認定している点に おいては正しいが,次の点に誤りがある。
すなわち,@ 「内燃機関のクランク軸」は,甲5文献の第1欄5〜 6行(甲26・段落【0001】も参照)に「本発明は軸の周りを回転 可能なシャフト用の回転数適応式振動吸収装置に関する。」と記載され ているとおり,「回転可能なシャフト」と認定すべきであり,A 「1 -(1/√k)」は,次の計算式のとおり,「x((1/√k)-1)」 と認定すべきである。
14 L L x2 ? ? 1-√? 1 R=kx2 ⇔ R = k ⇔√? = = x + x( ) = x + x( - 1) √? √? √? そうすると,甲5文献からは,次の発明を認定することができる(下 線部が本件審決と異なる。)。
「回転可能なシャフトに回転数適応型の動吸振器が連結されている形 式のものにおいて,回転数適応型の動吸振器が,kが0.8から0. 999,又は1.001から1.2の範囲のうち,kが0.8から0. 999の範囲では,内燃機関の励起振動の次数xよりも「x((1/ √k)-1)」だけ大きい有効次数に設計されている,回転数適応型 動吸振器。」(イ) 甲4発明の動吸振器に甲5発明を適用することの容易想到性 a 上記ア(ア),(イ)のとおり,本件優先日当時,@ 甲4発明を実施す るに際して,その動吸振器をチューニングすることは必要不可欠な作 業であること,A 動吸振器のチューニングは,アンダーチューニン グ,イーブンチューニング,オーバーチューニングという3つの選択 肢しか存在しないこと,B 動吸振器のチューニングにおいて,非理 想条件下ではオーバーチューニングが望ましいことは技術常識であっ たことがいえる。
b そして,甲4発明と甲5発明は同一の技術分野に属し,甲4発明の 動吸振器と甲5発明の動吸振器は,いずれも回転シャフトに生じるね じり振動を減衰するという周知の共通の課題を有するとともに,回転 数適応型の遠心振り子式動吸振器である点において,共通の課題解決 原理を有している。
c また,甲5発明の動吸振器の適用対象はクランクシャフトに限定さ れるものでなく,エンジンに連結されるその他の回転シャフトにも及 ぶから,甲5発明の適用範囲には甲4発明の動吸振器が含まれる。
15 d 以上によれば,本件優先日当時,当業者が,甲4発明の動吸振器を 設計するにあたって甲5発明を適用し,甲4発明の動吸振器をオーバ ーチューニングすることの動機付けがあるといえる。これによれば, 本件優先日当時の当業者が,甲4発明に甲5発明を適用して,相違点 1の構成に容易に想到し得たものといえる。
(ウ) なお,仮に,油影響要件が発明特定事項であるとの本件審決の前提に 立ったとしても,相違点1に係る構成は容易に想到し得たものというべ きである。
すなわち,甲5文献には,0.8から0.999の範囲でkを選択す ること,すなわちオーバーチューニングを含む甲5発明の構成により, 「・・・例えば,慣性質量部材(原告注:遠心振り子のおもりのこと。) の非線形性の往復運動に加え,潤滑剤に起因する流体静力学上,及び流 体動力学上の効果が大幅に補償可能となる。」(甲5文献・第2欄下か ら2行ないし第3欄2行。)ことが記載されている。
この記載によれば,甲5発明におけるオーバーチューニングをするに 当たり,潤滑剤に起因する流体静力学上の効果(浮力など)や流体動力 学上の効果(粘性抵抗など)を考慮することは容易になし得ることであ る。
他方,甲4発明の力伝達装置における運転媒体としての油(オートマ チック・トランスミッション・フルード=自動変速機液)は,動吸振器 に対する潤滑剤としての機能も有しており,潤滑剤に起因する流体静力 学上の効果や流体動力学上の効果を及ぼすことは自明である。
したがって,当業者が,甲4発明の動吸振器のチューニングにおいて, 甲5発明のオーバーチューニングされた動吸振器を適用する(かかる適 用が容易であることは上記イのとおり。)に当たり,甲5文献の上記記 載に基づき,甲4発明の力伝達装置における油,すなわち,「少なくと 16 も部分的に油で充填可能な室内で回転する油」による作用を考慮するこ とは,容易に想到し得たというべきである。
ウ 甲7発明を副引用例とする容易想到性(無効理由3に対応) (ア) 甲7発明の認定について 本件審決の甲7発明の認定(上記第2の3(2))は争わない。
(イ) 甲4発明の動吸振器に甲7発明を適用することの容易想到性 a 本件優先日当時の技術常識については,上記イ(イ)と同様である。
b そして,甲4発明と甲7発明は同一の技術分野に属し,甲4発明の 動吸振器と甲7発明の動吸振器は,いずれも回転シャフトに生じるね じり振動を減衰するという周知の共通の課題を有するとともに,回転 数適応型の遠心振り子式動吸振器である点において,共通の課題解決 原理を有している。
c また,甲7発明はクランクシャフトに直接連結されるものであるが, 甲7発明と共通の課題解決原理を有する動吸振器を開示する甲6文献 には,動吸振器の適用範囲として,クランクシャフトだけでなくトル クコンバータも含まれることが明示されているから,当業者は甲7発 明に係るオーバーチューニングされた動吸振器の技術思想をクランク シャフトだけでなく,トルクコンバータにおける動吸振器にも適用可 能であると理解する。
d 以上によれば,本件優先日当時,当業者が,甲4発明の動吸振器を 設計するに当たって甲7発明を適用し,甲4発明の動吸振器をオーバ ーチューニングすることの動機付けがあるといえる。これによれば, 本件優先日当時の当業者が,甲4発明に甲7発明を適用して,相違点 1の構成に容易に想到し得たものといえる。
エ 本件発明2〜7及び9について(無効理由1ないし3に共通) 無効理由1〜3に関する本件発明2〜7及び9についての本件審決の判 17 断は,本件発明1についての判断と同様,相違点1についての容易想到性 を否定したものであるから誤りであり,その誤りは,審決の結論に影響を 及ぼすものである。
2 取消事由2(無効理由4,5につき,本件発明1と甲8発明との相違点2の 認定,判断の誤り)について (1) 本件審決が相違点2の認定に際し,存在しない油影響要件に係る相違点を 相違点と認定し,容易想到性を否定したものであり,この相違点2の認定が 誤りであり,これが取消事由となることについては,上記1に述べたところ が妥当する。
(2) 無効理由4,5に関する本件発明2〜7及び9についての本件審決の判断 は,本件発明1についての判断と同様,相違点2についての容易想到性を否 定したものであるから誤りであり,その誤りは,審決の結論に影響を及ぼす ものである。
3 取消事由3(無効理由1〜5につき,本件発明10〜12と甲4発明との相 違点1及び甲8発明との相違点2の認定,判断の誤り)について (1) 本件審決は,本件発明10〜12についても,油影響要件が発明特定事項 であることを前提として,存在しない油影響要件に係る相違点を相違点と認 定し,これに基づいて容易想到性を否定したものであるから誤りであり,こ の誤りが審決の結論に影響を及ぼすことは上記1,2と同様である。
(2) 本件発明10〜12は「力伝達装置の減衰特性を改善するための方法」で あるから,単純方法の発明(特許法2条3項2号)である。そして,方法の 発明であっても,発明の構成要件は客観的に特定されることが必要であり, 構成要件の解釈として,主観的目的が含まれるような解釈は許されない(知 財高裁平成25年(行ケ)第10347号平成26年10月9日判決)。
本件発明10〜12において方法を客観的に特定する要件は,力伝達装置 が備える動吸振器をオーバーチューニングすることだけであり,オーバーチ 18 ューニングが「油影響に関連して」行われることを規定する油影響要件はオ ーバーチューニングを客観的に限定する要件にはなり得ない。
4 取消事由4(無効理由6につき,サポート要件違反に関する判断の誤り)に ついて (1) 本件審決は,本件明細書の【0038】,【0039】及び図3には,本 件発明の実施例が記載されているとしてサポート要件違反を否定したが,誤 りである。
(2) 本件明細書【0038】,【0039】及び図3はいずれも本件発明の実 施例を開示するものではない。
ア すなわち,本件明細書の【0038】は,その記載から明らかなように, 「回転数適応型の動吸振器5が原動機による励振の次数qに設計されてい る場合」(動吸振器がイーブンチューニングされている場合)の記載であ って,回転数適応型の動吸振器5が,「駆動装置の励振の次数qよりも所 定の次数オフセット値qFだけ大きい有効次数qeffに設計されている」動 ( 吸振器がオーバーチューニングされている)場合の記載ではない。【00 38】の「同じ設計の場合,動吸振器5の次数のオフセットは油下でより 低い次数値に行われる。」にいう「同じ設計の場合」とは,「回転数適応 型の動吸振器5が原動機による励振の次数qに設計されている場合」(動 吸振器がイーブンチューニングされている場合)を意味し,また,同文に いう「次数のオフセット」とは,動吸振器を取り囲む油の影響により固有 振動数が低下し,動吸振器の「実際の次数」(1回転当たりの振動の数) が,見かけ上,低下することを意味するものであり,動吸振器のオーバー チューニングを意味するものではないことは,その文脈から明らかである。
イ また,本件明細書の【0039】は,次数オフセット値qFを選択すると 結果的に油影響が考慮される旨の記載にとどまり,油影響を考慮して次数 オフセット値qFを選択する旨の記載,すなわち,次数オフセット値qFの選 19 択に先立ち油影響を考慮する旨の記載ではない。
ウ さらに,図3中の実線は,回転する油環なしである室内に配置されてい る回転数適応型の動吸振器5が原動機による励振の次数qに設計された力 伝達装置の特性を示し,同図中の破線は,同じ設計,すなわち,回転数適 応型の動吸振器5が原動機による励振の次数qに設計された油の影響下で の力伝達装置の特性を示しており(【0038】),いずれも動吸振器が イーブンチューニングされている場合の記載であって,動吸振器がオーバ ーチューニングされている場合の記載ではない。
エ 本件明細書の記載のみからでは「次数オフセットさせた油有りのグラフ を想定すること」はできないし,また,「動吸振器の共振を,励振の次数 qに合致しないようにすること」と「次数オフセットさせた油有りのグラ フを想定してその振幅比の極大点を,油なしのグラフの振幅比の極大点に 近づけるようにすること」は無関係である。本件明細書の図3中の実線及 び破線を比較することで分かるのは,同じ幾何学的次数に設定された動吸 振器を備える力伝達装置であっても,油影響下にある場合には「振幅比- 励起の次数」グラフにおいて左方向にシフトすること(「実際の次数」が 低下すること)のみであって,これは本件審決も認める本件優先日当時の 技術常識(非理想条件下では動吸振器の周囲環境等の影響により動吸振器 の固有振動数,また,「実際の次数」が低下すること。)以上のことを開 示するものではない。本件明細書には,特定の力伝達装置について,当該 力伝達装置に使用される油の特性(回転する油の特性を含む。)に応じた オーバーチューニングの程度を計算するための計算式についての記載もな い。
オ このように,本件明細書の【0038】,【0039】及び図3は,本 件発明の実施例を記載したものではなく,また,本件明細書のその他の記 載を見ても本件発明の実施例の記載は存在しないから,これを前提とする 20 本件発明1〜12に関するサポート要件違反についての本件審決の判断は 誤りである。
(3) さらに,本件発明8について,本件審決がサポート要件を充足することの 根拠として引用する本件明細書の【0025】の記載は,単に駆動装置の励 振の次数qについてq=2の場合とq=4の場合を本件発明8の「次数オフ セット値qFの量が,駆動装置の励振の次数qの変化に比例して変化するよう になっている」という要件に当てはめただけであって,本件発明8の対象物 である1つの力伝達装置において,次数オフセット値qFの量が,駆動装置の 励振の次数qの変化に比例して変化する回転数適応型の動吸振器の具体的な 構成を開示するものではない。また,本件明細書には,本件発明8の対象物 である1つの力伝達装置において,駆動装置の励振の次数qが変化(例えば 励振の次数が2から4に変化)するような駆動装置の構成についても記載が ないし,本件発明8の対象物である1つの力伝達装置において,駆動装置の 励振の次数の変化に比例して次数オフセット値qFの量を変化させたとしても, それによって本件発明の課題が解決されるか否か,本件明細書の記載からは 明らかではない。
よって,この点からも,本件発明8はサポート要件を充足せず,本件審決 の判断は誤りである。
5 取消事由5(無効理由7につき,本件発明7及び本件発明12に関する明確 性要件違反に関する判断の誤り)について (1) 本件発明7について 本件発明7における「関数として規定され」との記載に関し,一般に「Y がXの関数として規定される」との用語は,通常,「あるXが与えられれば, そのXに対応してYが定まること」を意味する。
本件審決が次数オフセット前の関数であると述べる数式「S=l 2+1) (q 」 を見ると,あるqが与えられたとしても,未だlがパラメータとして残って 21 おり,あるqに対応して直ちにSが定まらないから,本件発明7が規定する 「個々の慣性質量体の重心間隔Sが,駆動装置の励振の次数qの関数として 規定され」るとの事象は想定できない。
これによれば,本件発明7はその特許請求の範囲技術的意義が不明であ り,明確性要件に違反する。
(2) 本件発明12について 本件発明12の特許請求の範囲技術的意義が明確であることについて, 本件審決は,「動吸振器(5)のジオメトリ」との用語を「L(慣性質量体 の枢着点と回転軸線との間隔)/l(枢着点に対する慣性質量体の間隔)の 値」と認定するようであるが,「ジオメトリ」との用語の一般的な意味から も,本件明細書の記載からもそのように理解することはできず,その根拠は 明らかではない。
また,仮に「動吸振器(5)のジオメトリ」との用語を「L(慣性質量体 の枢着点と回転軸線との間隔)/l(枢着点に対する慣性質量体の間隔)の 値」と理解したとしても,本件発明12の特許請求の範囲の記載においては, 動吸振器(5)のジオメトリについて,一旦,「確定」されたにもかかわら ず,その後,これを「検出する」とされ,本件明細書の記載を検討しても, その意味するところは不明である。
したがって,本件発明12は,特許請求の範囲技術的意義が不明であり, 明確性要件に違反する。
被告の反論
1 取消事由1(無効理由1〜3につき,本件発明1と甲4発明との相違点1の 認定,判断の誤り)について (1) 相違点1の認定について ア 原告は,油影響要件は本件発明1の発明特定事項とはいえないと主張す るが,誤りである。
22 イ 回転数適応型の動吸振器の幾何学的寸法は,動吸振器の次数が決まって 初めて設定できるものであるから,特許請求の範囲の「油影響に関連して, 駆動装置の励振の次数よりも所定の次数オフセット値qFだけ大きい有効次 数 qeffに設計されている」との記載は動吸振器の幾何学的な寸法を決定 する動吸振器の次数を特定する構成要件であり,回転数適応型の動吸振器 を構造において特定するものであることは明らかである。上記記載を動吸 振器の「設計プロセス」を意味するものと解釈する余地はない。
よって,相違点1についての本件審決の認定に誤りはない。
(2) 容易想到性について ア 相違点1における油影響要件の意義について 「油」とは「振動減衰装置の配置された室内に充填可能な,運転媒体で ある油」であることは明らかであり,ここにいう「室内」とは,以下に示 す本件明細書の図1bにつき色付けされた部分に相当する。運転媒体であ る油は,この部分に充填され,かつ,力伝達装置の動作時には高速に回転 する。
これによれば,回転数適応型の動吸振器が受ける油影響とは,上記室内 23 を通流する油に起因する様々な要因を含む概念であることは,当業者なら ば当然に理解できることである。
さらに,本件明細書の【0015】,【0018】,【0020】,【0 021】,【0039】,【0044】の記載によれば,本件発明におい て,次数オフセット値qFおよび有効次数 qeffが,動吸振器の個々の慣性 質量体への回転する油の影響,油の浮力による影響,油の遠心力による影 響,慣性質量体と回転する油との間の相対運動により生じる影響など,駆 動装置の駆動によって回転する油に基づく様々な要因による影響に関連し て客観的に設計されるものであることは,当業者にとって明らかである。
以上によれば,「油影響要件」とは,駆動装置の駆動に基づいて,少な くとも部分的に油で充填可能な室内で回転する油が動吸振器に作用するこ とを考慮した設計をいうものといえる。
技術常識に基づく容易想到性(無効理由1について) (ア) 技術常識について a 原告は,甲4発明における動吸振器をオーバーチューニングするこ とが容易であるとして,相違点1の構成が容易想到であると主張する が,相違点1に係る構成は,動吸振器を油影響に関連して駆動装置の 励振の次数よりも所定の次数オフセット値qFだけ大きい有効次数qe ff に設計するというものであり,動吸振器のオーバーチューニングの 構成ではないから,原告の主張は前提において誤っている。
上記アのとおり,本件発明1の「油影響」は,油による浮力のみな らず,動吸振器の幾何学的な構成による影響,油の遠心力による影響, 慣性質量体と回転する油との間の相対運動により生じる影響など,様々 な要因による影響を総合的に指す。そして,これらの要因は,動吸振 器の慣性質量体の揺動角及び揺動速度に関連して変化するものである から,それぞれの要因ごとに動吸振器の有効次数のオフセット値を算 24 出することは極めて困難でありかつ手間がかかる。本件発明1は,異 なる要因により生じる動吸振器の有効次数のオフセット値をただ1つ の次数オフセット値qFによって補償することを提案するものであり, 単に動吸振器のオーバーチューニングを選択したものではない。
b 原告は,チューニングが,イーブンチューニング,オーバーチュー ニング,アンダーチューニングの3通りしか存在しないと主張するが, 動吸振器のチューニングに際し,その励振次数の取り得る値は無数に 存在するから,オーバーチューニングという手法が知られていたとい う事実は本件発明の進歩性を否定する理由にはなり得ない。当業者は, イーブンチューニング,オーバーチューニング,アンダーチューニン グをランダムに選択するわけではなく,動吸振器のチューニングに際 しては,対象となる製品が何であるか(DMF,クランクシャフト, トルクコンバータなど) どのような環境で運転されるか , (空気環境, 油環境など),振動の要因は何か(製造公差,摩耗,過負荷など)等 を必ず考慮するはずであり,オーバーチューニングを選択した個別の 事情を無視するのは相当ではない。
c 原告は,動吸振器を理想条件下(例えば真空下)でなく,現実の様々 な周囲環境である非理想条件下で動作させた場合,遠心振り子の固有 振動数が理想条件下の固有振動数より低下することは,本件優先日当 時の技術常識であった旨主張する。
しかし,原告が指摘する文献は,本件発明を認識した後に個々の文 献における文脈を無視して文章の一部のみを拾い集めてきたものであ り,後知恵にすぎない。すなわち,甲12〜14及び甲20は,単振 り子に関するものであり動吸振器に関するものではない。単振り子の 固有振動数は,f=1/2π・√(g/l)で表されるのに対し,動 吸振器の固有振動数は,f=ω/2π・√(L/l)で表されること 25 から分かるように,単振り子と動吸振器に生じる影響は単純に比較できるものではない。本件発明のような力伝達装置では,動吸振器は運転中回転し続ける振動減衰装置に接続され,例えば遠心振り子の形態で円周方向に複数設けられており,その挙動は極めて複雑であるし,動吸振器は力伝達装置の室内に充填された回転する運転媒体である油の影響を極めて強く受けるため,振り子質量にかかる力の大きさが全く異なる。甲21〜23は,振り子が空気環境下にあるものであり,本件発明のように動吸振器が運転媒体である油で充填可能な室内に配置されているものではない。また,これらは,非線形挙動に対応することを目的としており,本件発明のように,線形挙動を主に対象としているものとは異なる。
かえって,本件優先日前には,振動が過大であり振り子が非線形挙動になるときはオーバーチューニングが有効になる場合もあるが,振動が小さく振り子が線形挙動の範囲内にある場合はイーブンチューニングが最適であるというのが技術常識であった。
(a) 甲5には,「動吸振器は回転数に比例する固有振動数fabsorberをも ち,ねじり振動は同様にシャフトの回転数n(毎秒当たりの回転数) に比例する振動数をもつので,広い回転数領域においてねじり振動 減衰することができる。 (第1欄32〜37行) 」 との記載があり, 通常の挙動の場合にはイーブンチューニングが有効であることが記 載されているといえる。
(b) 甲7には,「アブソーバは支配的な二次モードの振動に対処する ようにチューニングされ,そして,非線形効果を補償するようにわ ずかにオーバーチューニングされる。」(1頁左欄6〜8行)「試 験結果により,アブソーバを有する車両で,V4モードにおいて振 動レベルが低く,そのためV4モードでの動作時に負荷がかかるこ 26 とによって一般車両で最も激しい振動が生じる状況において,アブ ソーバが特に効果的であることが実証された。)」(1頁右欄20 〜25行)(ここでいうアブソーバとは,非線形効果を補償するた めにオーバーチューニングされたアブソーバと考えられる。 , ) 「チ ューニングは,アブソーバの固有振動数を,ωをエンジン速度,n を打ち消そうとするエンジンの振動次数としたときに,nωに近く なるようにすることによって達成される[2]。・・・このチュー ニングは,アブソーバの小さい振幅運動には有効であるが,エンジ ンの振動によりアブソーバが大きく振動するようになると,非線形 性により振動が大きくなり得るようにチューニングがシフトされる。」 (2頁左欄12〜15行)との記載があり,アブソーバの振幅運動 が小さい場合にはイーブンチューニングが有効であるが,振動が大 きくなり非線形振動になるとオーバーチューニングが有効であるこ とが記載されているといえる。
(c) 甲15には,「したがって,振幅が小さい振動における2本吊り 遠心振り子について知られた原理によれば,振り子の長さrはn2= R/rの式から得られ,ここでnは振動の次数,又は1回転当たり 10トラックである。」(第4欄38行〜46行),「振り子の振 幅が大きい場合に振り子の使用を可能とするために,わずかなオー バーチューニング(n2 甲15は,「振り子の振幅が大きい場合に振り子の使用を可能と するために,わずかなオーバーチューニング(n2(d) 甲16には,「ダンパの働く次数は図245 (a), (b)と7・2・3・ bにより,ダンパ振幅が微小な場合の線形特性値ν0を算出できるが, 小質量のダンパによって大トルクを処理する方針をとると振幅は有 限となり,振り子の非線形復原性がダンパ固有周期を増大させるの で,方針の場合にはν0をあらかじめ大きく設計し,・・・」(14 6頁左欄6〜11行)との記載があり,ダンパの振幅が小さく線形 挙動の場合にはイーブンチューニングが有効であるが,振り子が非 線形挙動をする場合にはオーバーチューニングが有効であることが 記載されているといえる。
甲16には,「小質量のダンパによって大トルクを処理する方針 をとると振幅は有限となり,振り子の非線形復原性がダンパ固有周 期を増大させるので,この方針の場合にはν0をあらかじめ大きく 設計し,」(146頁左欄8〜11行)と記載されているにすぎな い。本件発明に係る力伝達装置は,小質量のダンパによって大トル クを処理する方針をとるものではないし,原告もこの点について何 ら言及していない。また,油影響については何ら記載されていない。
(e) 甲30には,「ミスチューニングの絶対等級が大きくなるほど局 所化が強くなることも明らかである。これは,3つのアブソーバが 効果的に動作することを大きなミスチューニングが妨げており,そ の一方,第4のアブソーバは,そのミスチューニングが比較的小さ い場合(すなわち,グラフの右側で),事実上全ての吸収を行って いるという事実に起因する。」(6頁右欄2〜7行)との記載があ 28 り,ミスチューニングが大きくなるとアブソーバが効果的に動作し ないことが記載されているといえる。
(f) 甲31には,「これらの特性は,アブソーバの2つの基本的な特 性:(1)アブソーバの固有振動数が励振周波数または強制的周波 数と等しいとき,最適な有効性が達成される。のために有益である。」 (第4欄16〜20行)との記載があり,アブソーバのイーブンチ ューニングが最適であることが記載されているといえる。
d また,動吸振器の振り子が潤滑油による影響を受けることが技術常 識であるとしても,潤滑油は力伝達装置の「運転媒体」にはなり得ず 力伝達装置によって回転させられないという点で,運転媒体である油 とは異なるから,潤滑油に関する技術常識は,運転媒体である油で充 填可能な室内に配置される本件発明の振動減衰装置には当てはまらな い。
(イ) 甲4文献は,回転する油が動吸振器に与えうる影響や励振次数の変化 については言及しておらず,本件優先日以前には,運転媒体である油で 充填可能な室内に配置された動吸振器に生じ得る現象は着目されていな かった。
本件優先日当時,当業者は,甲4発明を実際の条件下で稼働させた場 合,その動吸振器の固有振動数が理想条件下での固有振動数に比して低 下するため,動吸振器の基本原理に基づき効果的な振動減衰を実現する には,当該固有振動数の低下を補償しなければならないという課題を容 易に認識できたとはいえず,甲4発明における動吸振器を,油影響に関 連して,駆動装置の励振の次数よりも所定の次数オフセット値qFだけ大 きい有効次数qeffに設計する構成を容易に想到し得たとはいえない。
ウ 甲5発明を副引用例とする容易想到性(無効理由2について) (ア) 甲6文献の「この回転シャフト24(ねじり振動アブソーバシステム 29 が採用される回転シャフトのこと。 は, ) エンジンのクランクシャフト, フライホイール,クラッチ,トルクコンバータ又はクランクシャフトに よって回転自在に動かされるその他の構造のいずれかの形式をとること ができる。」という記載は,甲6文献に記載の「ねじり振動アブソーバ システムが採用される回転シャフト」が,クランクシャフトやトルクコ ンバータに適用可能であることを述べているに過ぎず,クランクシャフ トに取り付けられる振動吸収装置一般にまで広げて解釈することはでき ない。
(イ) 原告は,甲4発明はトルクコンバータの基本的な構成を開示する発明 であり,甲5発明を甲4発明における動吸振器に適用できると主張する が,甲5発明はクランクシャフト上の振動吸収装置に係る発明であり, 本件優先日当時の当業者は,甲4発明に係るトルクコンバータに,甲5 発明に係るクランクシャフト上の振動吸収装置を適用することはない。
エ 甲7発明を副引用例とする容易想到性(無効理由3について) (ア) 甲4発明に係る補償フライホイール質量体54は油で充填された室内 に配置されているのに対し,甲7発明に係るアブソーバは単に潤滑油が 噴射されているだけであり,共通の課題解決原理を有しているとはいえ ない。
(イ) 甲7発明に係るアブソーバの構成と甲4発明に係るトルクコンバータ における補償フライホイール質量体54の構成とは全く異なるものであ って容易に組み合わされるものではないし,仮に甲4発明と甲7発明と を組み合わせても,本件発明1の構成に想到することはない。
2 取消事由2(無効理由4,5につき,本件発明1と甲8発明との相違点2の 認定,判断の誤り)について 上記1において述べたのと同様に,相違点2についての本件審決の判断に誤 りはなく,本件審決の判断に誤りはない。
30 3 取消事由3(無効理由1〜5につき,本件発明10〜12と甲4発明との相 違点1及び甲8発明との相違点2の認定,判断の誤り)について 上記1及び2において述べたところが妥当する。
4 取消事由4(無効理由6につき,サポート要件違反に関する判断の誤り)に ついて (1) 本件優先日以前から,油なしの環境における回転数適応型の動吸振器につ いて,駆動装置の励振の次数に動吸振器の励振の次数を一致させることによ り,振幅比が極小,すなわち極小点を得られること,ゆえに,動吸振器の励 振の次数を駆動装置の次数に一致させることで,最も効果的な振動減衰がも たらされることは,当業者にとって周知の技術であった。
本件明細書の【0038】,【0039】,【0043】及び図3によれ ば,油ありの場合,次数q=2のときには,0.14だけ極小点をとる励振 次数が低下することが読み取れる。振幅比が極小となる動吸振器の励振の次 数(励振の次数の極小点)を駆動装置の次数に一致させることにより駆動装 置から伝わる振動を最大に減衰できることは技術常識であるから,図3のグ ラフの実線と破線の各極小点に着目し,励振次数の当該低下分を次数オフセ ット値q(なお, F 本件審決においては「振幅比の極大点」に着目しているが, 振動を減衰する観点からは,「振幅比の極小点」に着目する。)とし,回転 数適応型の動吸振器を,駆動装置の励振の次数qよりも次数オフセット値q Fだけ大きい有効次数qeffに調整することが理解できる。
このように,本件特許発明実施例は【0043】に記載されているから, サポート要件違反に関する本件審決の判断に誤りはない。なお,本件発明1 0〜12(方法に係る発明)の実施例は,本件明細書【0046】に記載さ れている。
(2) 本件発明8の特許請求の範囲の「次数オフセット値qFの量が,駆動装置 の励振の次数qの変化に比例して変化するようになっている」との記載は, 31 異なる励振の次数qを有する力伝達装置に対して,励振の次数qの変化に比 例する異なる次数オフセット値qFを有する各力伝達装置を摘示するものであ る。原告の主張する,「1つの力伝達装置」において,次数オフセット値qF の量が駆動装置の励振の次数qの変化に比例して変化する回転数適応型の動 吸振器という原告主張のものが想定できないことは,駆動装置の励振の次数 が駆動装置のタイプ(気筒数)に基づいて決まる固定値であることから,明 らかである。本件発明8についてのサポート要件違反に関する本件審決の判 断に誤りはない。
5 取消事由5(無効理由7につき,本件発明7及び12に関する明確性要件違 反に関する判断の誤り)について (1) 本件発明7について 原告は,本件審決が次数オフセット前の関数であると述べる数式「S=l (q2+1)」によれば,あるqが与えられたとしても,未だlがパラメータ として残っており,あるqに対応して直ちにSが定まらない旨を主張するが, 自動車に搭載される力伝達装置の設計に当たり,S,Lまたはlの値を仮に 設定することは,通常の設計手法である。ここで,lの値を仮に設定したと すれば,数式S=l(q2+1)に基づいて,Sを定めることができるから, 明確性に欠けることはない。
(2) 本件発明12について 「ジオメトリ」との語は,@ 幾何学,A 配置,配列,B 形状といっ た意味であり(乙7),本件明細書【0020】及び【数1】の記載によれ ば,ジオメトリについて,「L(慣性質量体の枢着点と回転軸線との間隔) /l(枢着点に対する慣性質量体の間隔)の値」と解することができる。
本件発明12の「確定」と「検出」のステップは,次数オフセット値qF, ひいては有効次数qeffを求めるために,最初に,振動減衰装置が油なしの室 内に配置された力伝達装置を用意して,駆動装置の励振次数に対する慣性質 32 量体の振幅変化を求め,力伝達装置における回転数適応型の動吸振器(5) のジオメトリを「確定」し,ジオメトリが確定された力伝達装置を用いて, 本件明細書の段落【0038】および図3で説明するような実験を実施する ことによって,次数オフセット値qFを規定し,動吸振器が油影響下にある動 吸振器のジオメトリを,qFの関数として「検出」するというものである。し たがって,動吸振器(5)のジオメトリを一旦「確定」し,その後,次数オ フセット値qFを規定した後に,最終的に動吸振器(5)のジオメトリを「検 出する」ことに,何ら不明確な点は存在しない。
当裁判所の判断
1 本件発明について (1) 特許請求の範囲の記載 本件発明の特許請求の範囲の記載は,上記第2の2に記載のとおりである。
(2) 本件明細書の記載 本件明細書には以下の記載がある(甲32)。
【0001】本発明は,駆動装置と被駆動装置との間で出力伝達するための 力伝達装置であって,少なくとも1つの入力体と,出力体と,少なくとも 部分的に運転媒体,特に油で充填可能な室内に配置された振動減衰装置と が設けられており,該振動減衰装置が,回転数適応型の動吸振器に連結さ れている形式のものに関する。
【0002】さらに,本発明は,少なくとも1つの入力体と,出力体と,少 なくとも部分的に運転媒体,特に油で充填可能な室,特にハイドロダイナ ミック式の構成要素の運転媒体によって通流される室内に配置された振動 減衰装置とが設けられており,該振動減衰装置が,回転数適応型の動吸振 器に連結されている,駆動装置と被駆動装置との間で出力伝達するための 力伝達装置の減衰特性を改善するための方法に関する。
【0005】原動機の広域の回転数範囲,有利には回転数全範囲にわたる励 33 振の作用を抑制するためには,・・・パワートレーンに回転数適応型の動 吸振器が設けられる。この回転数適応型の動吸振器は,固有周波数が回転 数に比例していることによって,ねじり振動をより大きな回転数範囲,理 想的には,原動機の回転数全範囲にわたって抑制することができる。回転 数適応型の動吸振器は,遠心力場における円錐振り子もしくは遠心振り子 の原理により作業する。この円錐振り子もしくは遠心振り子は,公知の形 式ですでに内燃機関に対するクランクシャフト振動を抑制するために使用 される。・・・【0006】ハイドロダイナミック式の回転数/トルクコンバータと,この ハイドロダイナミック式の回転数/トルクコンバータを介した出力伝達路 を跨ぐための装置とを有する始動ユニットが,・・・公知である。この公 知の始動ユニットは少なくとも1つの付加質量体を有している。この付加 質量体の重心は,伝動装置エレメントの相対的な位置に関連して,モーメ ント伝達経路の回動軸線に対して遠心力影響下で半径方向に変位可能であ る。
【0007】・・・自動車のパワートレーンに設けられた,原動機と被駆動 装置との間でのトルク伝達するためのトルク伝達装置が公知である。この 公知のトルク伝達装置は,切換可能なクラッチ装置のほかに,少なくとも 1つのねじり振動減衰装置を有している。このねじり振動減衰装置には, 遠心振り子装置が対応配置されている。この遠心振り子装置は複数の振り 子質量体を有している。これらの振り子質量体は走行ローラによって振り 子質量体支持装置に対して相対的に運動可能にこの振り子質量体支持装置 に枢着されている。
【0008】ハイドロダイナミック式の構成要素と,回転数適応型の動吸振 器が連結された,組み込まれた振動減衰装置との力伝達装置の構成も同じ くすでに公知先行技術に基づき公知である。しかし,回転数適応型の動吸 34 振器の配置によって本来意図された絶縁効果が十分に得られないことが判 った。
【0009】したがって,本発明の課題は,冒頭で述べた形式の力伝達装置, 特にハイドロダイナミック式の構成要素と,回転数適応型の動吸振器を備 えた少なくとも1つの振動減衰装置とを備えた力伝達装置を改良して,大 きな回転数範囲にわたって回転むらを最適な形式で抑制することができ, したがって,まさに車両のパワートレーンへの使用時に原動機と協働する このような形式の力伝達装置の全運転範囲にわたって,最適な走行特性, 特に高い走行快適性を力伝達装置の伝達挙動によって保証することができ るようにすることである。
【0010】この課題を解決するために本発明の力伝達装置では,回転数適 応型の動吸振器が,油影響に関連して,駆動装置の励振の次数qよりも所 定の次数オフセット値qFだけ大きい有効次数qeffに設計されているよう にした。
【0011】本発明の力伝達装置の有利な態様によれば,回転数適応型の動 吸振器の共振が,励振の次数qに合致しないように,次数オフセット値q F が選択されている。
【0012】本発明の力伝達装置の有利な態様によれば,回転数適応型の動 吸振器の有効次数qeffが,駆動装置の励振の次数qを0.05〜0.5, 有利には0.05〜0.4,特に有利には0.05〜0.3,全く特に有 利には0.14〜0.3の範囲内の次数オフセット値qFだけ上回っている。
【0013】本発明の力伝達装置の有利な態様によれば,回転数適応型の動 吸振器が,遠心振り子装置として形成されており,該遠心振り子装置が, 慣性質量体支持装置を有しており,該慣性質量体支持装置が,該慣性質量 体支持装置に対して相対的に運動可能に該慣性質量体支持装置に配置され た慣性質量体を備えており,個々の慣性質量体の重心間隔Sが,駆動装置 35 の励振の次数qの関数として規定され,有効次数qeffへのqFだけの次数 オフセットが,次数オフセット値qFに関連した重心間隔の変化を規定する ように,回転数適応型の動吸振器が形成されていて,設計されている。
【0014】本発明の力伝達装置の有利な態様によれば,次数オフセット値 qFの量が,駆動装置の励振の次数qの変化に比例して変化するようになっ ている。
【0015】本発明の力伝達装置の有利な態様によれば,力伝達装置が,ハ イドロダイナミック式の構成要素と,該ハイドロダイナミック式の構成要 素を跨ぐための装置とを有しており,ハイドロダイナミック式の構成要素 が,ポンプホイールとして機能する少なくとも1つの一次ホイールと,タ ービンホイールとして機能する二次ホイールとを備えており,両ホイール が,作業室を互いに形成しており,タービンホイールが,少なくとも間接 的に力伝達装置の出力体に相対回動不能に結合されており,ハイドロダイ ナミック式の構成要素と,該ハイドロダイナミック式の構成要素を跨ぐた めの装置とが,それぞれ出力分岐路に配置されており,回転数適応型の動 吸振器を備えた振動減衰装置が,少なくとも出力分岐路の一方に直列に接 続されており,少なくとも部分的に運転媒体,特に油で充填可能な室が, 力伝達装置の内室によって形成されるようになっており,該内室が,ハイ ドロダイナミック式の構成要素の運転媒体によって通流されるようになっ ている。
【0016】さらに,前述した課題を解決するために本発明の方法では,回 転数適応型の動吸振器を,油影響に関連して,駆動装置の励振の次数qよ りも所定の次数オフセット値qFだけ大きい有効次数qeffに設計するよう にした。
【0017】本発明の方法の有利な態様によれば,原動機の励振次数qを規 定し,該励振次数qに対する回転数適応型の動吸振器のジオメトリを確定 36 し,必要となる次数オフセット値qFを規定し,該次数オフセット値qFの 関数としての動吸振器のジオメトリを検出する。
【0020】次数オフセットによって,より低い次数への動吸振器の次数の オフセットを招く個々の慣性質量体への回転する油の影響が一緒に考慮さ れ,有利には完全に補償され,これによって,有効に作用する遠心力が, 運転の間に回転する油なしの構成に比べて不変となり,原動機の励振次数 における回転むらの所望の絶縁が完全に保証されている。手間のかかる制 御手段が不要となり,動吸振器だけがそのジオメトリに関して,次数オフ セット値だけ高められた次数に対して相応に設計される。この場合,幾何 学的な調和次数は,公知先行技術の構成のように,励振の調和次数に相当 しておらず,所定の次数オフセット値だけ高い値に相当している。
【0021】次数オフセット値qFは,回転数適応型の動吸振器の共振が,励 振の次数qに合致しないように選択される。次数オフセット値は,油充填 された室内の油が遠心力影響下で動吸振器に作用することを考慮している。
この作用は無視することができない。この場合,回転数適応型の動吸振器 の有効次数qeffは,駆動装置の励振の次数qを次数オフセット値qFだけ 上回っている。この次数オフセット値qFは,0.05〜0.5,有利には 0.05〜0.4,特に有利には0.05〜0.3,全く特に有利には0. 14〜0.3の範囲内にある。この場合,この範囲は,構成部材の精度に 関する誤差規定の範囲外にあり,明らかな有効次数オフセットを生ぜしめ る。
【0022】回転数適応型の動吸振器は遠心振り子装置として形成されてい る。この遠心振り子装置は慣性質量体支持装置を有している。この慣性質 量体支持装置は,この慣性質量体支持装置に対して相対的に運動可能にこ の慣性質量体支持装置に配置された慣性質量体を備えている。回転数適応 型の動吸振器は,個々の慣性質量体の重心間隔Sが,駆動装置の励振の次 37 数qの関数として規定されるように形成されていて,設計されている。 ・ ・・ すなわち,有効重心間隔Seffは,油影響が考慮されない同じ幾何学的な状 況および同じ設計での重心間隔と,回転する油を考慮して生ぜしめられる 偏差との総和に相当している。
【0025】2次における励振を伴う駆動装置,たとえば4気筒内燃機関で は,有利には約0.14の次数オフセット値qFが選択される。励振の次数 が,たとえば6気筒内燃機関への原動機の変更によって変化する場合には, 次数オフセット値qFの量が駆動装置の励振の次数qの変化に比例して変化 する。
【0031】図1aには,直列に接続可能な2つのダンパ3,4の間に設け られた回転数適応型の動吸振器5を備えた力伝達装置1の第1の構成が示 してある。この場合,ダンパ3,4は,少なくとも一方のパワーフロー方 向,ここでは,両パワーフロー方向で直列に接続されていて,振動を減衰 するための装置,すなわち,個々のダンパ3,4が実際にどのように形成 されているかに関係なく,いわば弾性的なクラッチとして作用する。これ に対して,図1bには,本発明により形成された別の力伝達装置が示して ある。しかし,この場合,ここでは,両ダンパ3,4がその機能において, それぞれ一方の出力分岐路I;IIにおける一方のパワーフロー方向でし か弾性的なクラッチとして直列に接続されていない。この場合,図1bに よれば,直列に接続された両ダンパ3,4から成るアッセンブリが,入力 体Eと出力体Aとの間のパワーフロー方向におけるパワーフローで見て, 機械的な出力分岐路IIに常に後置されており,両ダンパ3,4が弾性的 なクラッチとして作用するのに対して,ハイドロダイナミック的な出力分 岐路では,第1のダンパ3が動吸振器として作用する。
【0032】図1bには,回転数適応型の動吸振器5が組み込まれて配置さ れて,高い機能集中を伴ったダンパアッセンブリ2が形成された特に有利 38 な構造上の構成が示してある。回転数適応型の動吸振器5は遠心振り子装 置8として形成されていて,1つ,有利には複数の慣性質量体を有してい る。これらの慣性質量体は,慣性質量体支持装置10に対して相対的に運 動可能にこの慣性質量体支持装置10に支承されている。この場合,たと えば走行ローラ11を介した支承が行われる。
【0037】本発明により形成された回転数適応型の動吸振器5は,その幾 何学的な調和次数が誤差を考慮して原動機の励振次数に直接相当しておら ず,回転数適応型の動吸振器5がより高い次数にオフセットされているよ うに設計されていて,形成されている。すなわち,回転数適応型の動吸振 器5が,励振の次数qよりも高い次数に設計されている。この場合,設計 は,運転状態において機関の励振次数が遠心振り子の共振に合致しないよ うに選択される。このことは,所定の次数オフセット値qFだけの次数オフ セットによって行われる。
【0038】仮に次数オフセットが与えられておらず,回転数適応型の動吸 振器5が原動機による励振の次数qに設計されている場合,このことは, 4つの気筒を備えた内燃機関では,たとえば2次に相当している。振動を 減衰するための装置,特に減衰アッセンブリ2が,運転媒体,特に力伝達 装置1の回転時の運転の間,回転する油環なしである室内に配置されてい る力伝達装置1では,図3に示した線図によれば,そこに実線によって示 した曲線が得られる。これに対して,同じ設計でハイドロダイナミック式 の構成要素6内の油の影響下での回転数適応型の動吸振器5の絶縁は破線 によって示してある。ここから明らかであるように,同じ設計の場合,動 吸振器5の次数のオフセットは油下でより低い次数値に行われる。この場 合,動吸振器5の共振は,最も不利な事例では,機関の励振次数,ここで は,2次に合致する。さらに,一点鎖線によって,回転数適応型の動吸振 器5なしのデュアルマスフライホイールの挙動が示してある。
39 【0039】発明者は,運転の間,それを介した出力伝達が行われようと行 われまいと,運転媒体,特に油によって遠心的にまたは求心的に通流され るハイドロダイナミック式の構成要素を備えた力伝達装置において,回転 する油質量体の油が動吸振器5,特に遠心振り子の機能に著しく作用する ことを認識した。この場合,特に慣性質量体と,回転する油との間に相対 運動が生ぜしめられる。次数オフセット値qFだけの抑制次数のオフセット に相当する,より高い次数値への幾何学的な調和次数の次数オフセットは, 遠心力に抵抗する油影響から結果的に生じる作用を考慮している。
【0043】いま,回転数適応型の動吸振器5を,特に油充填された室に設 けられたハイドロダイナミック式の構成要素としてのハイドロダイナミッ ク式のクラッチまたはハイドロダイナミック式の回転数/トルクコンバー タを備えた力伝達装置1への配置に対して設計したい場合には,次数オフ セットが考慮されなければならない。この次数オフセットはqFで表される。
この次数オフセットqFから,有効に調整しかつ有効に設定したい次数qe ff =q+qFが得られる。この次数qeff=q+qFは,本発明によれば, 0.05〜0.5の間の範囲内に規定される。この場合,次数オフセット qFは,自由に選択可能な値として規定されていてもよいし,励振の個々の 次数に対して,それぞれ固定の値が設定されていてもよい。
【0045】油内,たとえばハイドロダイナミック式の構成要素内での回転 数適応型の動吸振器の所望の絶縁が達成されるようにするためには,この 回転数適応型の動吸振器が,より高い次数に設計されなければならない。
すなわち,油,特に油圧による抑制次数のオフセットと,このオフセット から生じる力とが,設計時に一緒に考慮されなければならない。油による 抑制次数のオフセットは,慣性質量体もしくは振り子質量体の重心のオフ セットで表現することができるので,慣性質量体ジオメトリおよび重心の 変化時には,油によるオフセットを十分に補償することができる。
40 【0046】本発明による方法は,以下に説明するように実現することがで きる。まず,励振の次数の検出が第1のステップで行われる。この検出に 関連して,出発点として,0.05〜0.5の範囲内にあるより高い次数 へのオフセットが選択されることが重要となる。この場合,運転形式の間 に一緒に運転される系では,設計が,乾いた遠心振り子の相応の理想状況 に基づき行われる。この場合,0.05〜0.5の範囲内にある次数オフ セットが設定される。この次数オフセットに関連して,慣性質量体9.1 1〜9.14のジオメトリの認識時に結合点ひいては重心軌道が油影響を 考慮して検出される。これに基づき,有効重心間隔Seffが得られる。その 後,この有効重心間隔Seffで重心の枢着が行われる。その後,必要となる 別の幾何学的な特性量,たとえば重心軌道の有効半径,重心軌道中心点の 有効半径および走行ローラの軌道半径が規定可能になる。この場合,重心 軌道は円軌道と異なって形成されていてよい。
(3) 本件発明の特徴 上記(1)及び(2)によれば,本件発明の特徴は次のとおりと認められる。
ア 技術分野 本件発明は,駆動装置と被駆動装置との間で出力伝達するための力伝達 装置であって,少なくとも1つの入力体と,出力体と,少なくとも部分的 に運転媒体,特に油で充填可能な室内に配置された振動減衰装置とが設け られており,該振動減衰装置が,回転数適応型の動吸振器に連結されてい る形式のものに関する。
さらに,本件発明は,少なくとも1つの入力体と,出力体と,少なくと も部分的に運転媒体,特に油で充填可能な室,特にハイドロダイナミック 式の構成要素の運転媒体によって通流される室内に配置された振動減衰装 置とが設けられており,該振動減衰装置が,回転数適応型の動吸振器に連 結されている,駆動装置と被駆動装置との間で出力伝達するための力伝達 41 装置の減衰特性を改善するための方法に関する。(【0001】,【00 02】)イ 背景技術 原動機の広域の回転数範囲,有利には回転数全範囲にわたる励振の作用 を抑制するために,パワートレーンに回転数適応型の動吸振器が設けられ るが,この回転数適応型の動吸振器は,固有周波数が回転数に比例してい ることによって,ねじり振動をより大きな回転数範囲,理想的には,原動 機の回転数全範囲にわたって抑制することができる。回転数適応型の動吸 振器は,遠心力場における円錐振り子又は遠心振り子の原理により作業す るが,この円錐振り子又は遠心振り子は,すでに内燃機関に対するクラン クシャフト振動を抑制するために使用されるものである。
ハイドロダイナミック式の回転数/トルクコンバータと,このハイドロ ダイナミック式の回転数/トルクコンバータを介した出力伝達路を跨ぐた めの装置とを有する始動ユニットが公知であり,この公知の始動ユニット は少なくとも1つの付加質量体を有している。この付加質量体の重心は, 伝動装置エレメントの相対的な位置に関連して,モーメント伝達経路の回 動軸線に対して遠心力影響下で半径方向に変位可能である。
自動車のパワートレーンに設けられた,原動機と被駆動装置との間での トルク伝達するためのトルク伝達装置が公知であり,この公知のトルク伝 達装置は,切換可能なクラッチ装置のほかに,少なくとも1つのねじり振 動減衰装置を有している。このねじり振動減衰装置には,遠心振り子装置 が対応配置され,この遠心振り子装置は複数の振り子質量体を有している。
これらの振り子質量体は走行ローラによって振り子質量体支持装置に対し て相対的に運動可能にこの振り子質量体支持装置に枢着されている。
ハイドロダイナミック式の構成要素と,回転数適応型の動吸振器が連結 された,組み込まれた振動減衰装置との力伝達装置の構成も同じく公知で 42 ある。しかし,回転数適応型の動吸振器の配置によって本来意図された絶 縁効果が十分に得られないことが判った。(【0005】〜【0008】)ウ 発明が解決しようとする課題 本件発明の課題は,上記アの形式の力伝達装置,特にハイドロダイナミ ック式の構成要素と,回転数適応型の動吸振器を備えた少なくとも1つの 振動減衰装置とを備えた力伝達装置を改良して,大きな回転数範囲にわた って回転むらを最適な形式で抑制することができ,車両のパワートレーン への使用時に原動機と協働する上記形式の力伝達装置の全運転範囲にわた って,最適な走行特性,特に高い走行快適性を力伝達装置の伝達挙動によ って保証することができるようにすることである。(【0009】)エ 課題を解決するための手段 この課題を解決するために本発明の力伝達装置では,回転数適応型の動 吸振器が,油影響に関連して,駆動装置の励振の次数qよりも所定の次数 オフセット値qFだけ大きい有効次数qeffに設計されているようにした。
さらに,前述した課題を解決するために本発明の方法では,回転数適応型 の動吸振器を,油影響に関連して,駆動装置の励振の次数qよりも所定の 次数オフセット値qFだけ大きい有効次数qeffに設計するようにした。
具体的には,駆動装置と被駆動装置との間で出力伝達するための力伝達 装置(1)であって,少なくとも1つの入力体(E)と,出力体(A)と, 少なくとも部分的に運転媒体である油で充填可能な室内に配置された振動 減衰装置(3,4)とが設けられており,該振動減衰装置(3,4)が, 回転数適応型の動吸振器(5)に連結されている形式のものにおいて,回 転数適応型の動吸振器(5)が,油影響に関連して,駆動装置の励振の次 数qよりも所定の次数オフセット値qFだけ大きい有効次数qeffに設計さ れていることを特徴とする,駆動装置と被駆動装置との間で出力伝達する ための力伝達装置とし(請求項1), 43 その回転数適応型の動吸振器(5)の共振が,励振の次数qに合致しないように,次数オフセット値qFが選択されるようにし(請求項2), 回転数適応型の動吸振器(5)の有効次数qeffが,駆動装置の励振の次数qを0.05〜0.5の範囲内の次数オフセット値qFだけ上回っているものとし(請求項3), 回転数適応型の動吸振器(5)の有効次数qeffが,駆動装置の励振の次数qを0.05〜0.4の範囲内の次数オフセット値qFだけ上回っているものとし(請求項4), 回転数適応型の動吸振器(5)の有効次数qeffが,駆動装置の励振の次数qを0.05〜0.3の範囲内の次数オフセット値qFだけ上回っているものとし(請求項5), 回転数適応型の動吸振器(5)の有効次数qeffが,駆動装置の励振の次数qを0.14〜0.3の範囲内の次数オフセット値qFだけ上回っているものとし(請求項6), 回転数適応型の動吸振器(5)が,遠心振り子装置として形成されており,該遠心振り子装置が,慣性質量体支持装置(10)を有しており,該慣性質量体支持装置(10)が,該慣性質量体支持装置(10)に対して相対的に運動可能に該慣性質量体支持装置(10)に配置された慣性質量体(9,9.1,9.2,9.11,9.12,9.13,9.14)を備えており,個々の慣性質量体(9,9.1,9.2,9.11,9.12,9.13,9.14)の重心間隔Sが,駆動装置の励振の次数qの関数として規定され,有効次数qeffへのqFだけの次数オフセットが,次数オフセット値qFに関連した重心間隔の変化を規定するように,回転数適応型の動吸振器(5)が形成されていて,設計されているものとし(請求項7), 次数オフセット値qFの量が,駆動装置の励振の次数qの変化に比例して変化するようになっているものとし(請求項8), 44 力伝達装置(1)が,ハイドロダイナミック式の構成要素と,該ハイドロダイナミック式の構成要素を跨ぐための装置とを有しており,ハイドロダイナミック式の構成要素が,ポンプホイール(P)として機能する少なくとも1つの一次ホイールと,タービンホイール(T)として機能する二次ホイールとを備えており,両ホイールが,作業室(AR)を互いに形成しており,タービンホイール(T) 少なくとも間接的に力伝達装置 が, (1)の出力体(A)に相対回動不能に結合されており,ハイドロダイナミック式の構成要素と,該ハイドロダイナミック式の構成要素を跨ぐための装置とが,それぞれ出力分岐路に配置されており,回転数適応型の動吸振器(5)を備えた振動減衰装置(3,4)が,少なくとも出力分岐路の一方に直列に接続されており,少なくとも部分的に運転媒体である油で充填可能な室が,力伝達装置(1)の内室によって形成されるようになっており,該内室が,ハイドロダイナミック式の構成要素の運転媒体によって通流されるようになっているものとした(請求項9)。
また,少なくとも1つの入力体(E)と,出力体(A)と,少なくとも部分的に運転媒体である油で充填可能な室内に配置された振動減衰装置(3,4)とが設けられており,該振動減衰装置(3,4)が,回転数適応型の動吸振器(5)に連結されている,駆動装置と被駆動装置との間で出力伝達するための力伝達装置(1)の減衰特性を改善するための方法において,回転数適応型の動吸振器(5)を,油影響に関連して,駆動装置の励振の次数qよりも所定の次数オフセット値qFだけ大きい有効次数qeffに設計することを特徴とする,駆動装置と被駆動装置との間で出力伝達するための力伝達装置の減衰特性を改善するための方法とし(請求項10), 前記室が,ハイドロダイナミック式の構成要素の運転媒体によって通流されるようになっているものとし(請求項11), 前記方法が,以下の方法ステップ:すなわち, 45 ・原動機の励振次数qを規定し, ・該励振次数qに対する回転数適応型の動吸振器(5)のジオメトリを確 定し, ・必要となる次数オフセット値qFを規定し, ・該次数オフセット値qFの関数としての動吸振器(5)のジオメトリを検 出する: を有しているものとした(請求項12)。(【特許請求の範囲】,【00 10】〜【0017】) オ 発明の効果 次数オフセットによって,より低い次数への動吸振器の次数のオフセッ トを招く個々の慣性質量体への回転する油の影響が一緒に考慮され,有利 には完全に補償され,これによって,有効に作用する遠心力が,運転の間 に回転する油なしの構成に比べて不変となり,原動機の励振次数における 回転むらの所望の絶縁が完全に保証されている。手間のかかる制御手段が 不要となり,動吸振器だけがそのジオメトリに関して,次数オフセット値 だけ高められた次数に対して相応に設計される。この場合,幾何学的な調 和次数は,公知先行技術の構成のように,励振の調和次数に相当しておら ず,所定の次数オフセット値だけ高い値に相当している。(【0020】)2 取消事由1について (1) 甲4文献の記載 甲4文献には,「ねじり振動ダンパの補償フライホイール質量体を有する ロックアップクラッチ」に関し,以下の記載がある。
ア 「図1は,ベアリングジャーナル1を有する流体式トルク・コンバータ 100を示している。ベアリングジャーナル1からは第1フランジ3が径 方向外側に延出している。第1フランジ3は,インペラ・シェル5に固定 的に接続されている。インペラ・シェル5は,その径方向内側端部にコン 46 バータハブ7を有している。第1フランジ3とインペラ・シェル5は,ト ルク・コンバータ100のコンバータ・ハウジング9を形成している。
インペラ・シェル5は,トルク・コンバータ100のインペラ・ホイー ル11を形成するための羽根配列を有している。インペラ・ホイール11 は,同じく羽根配列を有するタービン・ホイール13と協働する。タービ ン・ホイール13は,内側歯部16を有するタービン・ハブ15に固定さ れている。タービン・ハブ15は,内側歯部16を介して従来の構造を有 する従動シャフトに接続可能である。例えば,この種の従動シャフトとし て上記で引用したDE4121586A1に記載のものを使用することが できる。」(第3欄25〜41行)イ 「タービン・ハブ15は,軸方向軸受17と軸方向軸受19との間にク ランプされている。軸方向軸受17は,第1フランジ3からタービン・ハ ブ15を分離している。軸方向軸受19は,別の軸方向軸受21とともに, ステータ・ホイール23を固定している。軸方向軸受21は,コンバータ・ ハウジング9におけるコンバータハブ7の領域に支持されている。ステー タ・ホイール23は,インペラ・ホイール11及びタービン・ホイール1 3とともに,流体式コンバータ回路24を形成している。
ロックアップ・クラッチ25は,第1フランジ3とタービン・ホイール 13との間に軸方向に設けられている。ロックアップ・クラッチ25はピ ストン27を有しており,このピストン27はタービン・ホイール15に 回転可能且つ軸方向に変位可能に取り付けられている。ピストン27の径 方向外側端部は,第1フランジ3の摩擦表面31と協働する摩擦面29を 有している。コンバータ回路24によりピストン27の背部に圧力がかけ られると,ピストン27の摩擦面29が摩擦表面31に接触し,コンバー タ・ハウジング9に導入されたトルクがピストン27に伝達され得る。第 1フランジ3とピストン27との間に軸方向に位置するチャンバ35は, 47 第1フランジ3からピストン27を上昇させるよう軸方向軸受17内の溝 33を介して圧力媒体の供給を受けることができる。」(第3欄42行〜 63行)ウ 「ピストン27は,カバープレートの形体の駆動側駆動手段39を有す るリベット連結部37を有している。ピストン27は駆動側駆動手段39 とともに,駆動側伝動要素40を形成している。駆動側駆動手段30(判 決注:原文のまま)は,複数の弾性要素41を介して内側歯部45を有す るハブ・ディスクの形体の従動側駆動手段43において作動する。弾性要 素41は好ましくは周方向に配設されたバネである。内側歯部45により, 駆動側駆動手段30(判決注:原文のまま。)はホルダ49の外側歯部4 7に係合する。タービン・ハブ15は,補償フライホイール質量体54用 のキャリア51を固定的に受容している。この補償フライホイール質量体 54は,従動側駆動手段43及びホルダ49とともに,従動側の伝動要素 52を形成している。したがって,コンバータ・ハウジング9からピスト ン27を介して導入されるねじり振動は,このねじり振動の作用方向に対 抗する補償フライホイール質量体54のたわみを生じさせ,これにより補 償フライホイール質量体54の補償機能が有効となる。ねじり振動ダンパ における補償フライホイール質量体54の基本的な動作態様は,例えば上 述のDE19618864A1に記載されている。」(第4欄4行〜24 行)エ 「図2は,切欠き53の延長部の領域にあるキャリア51の構造を示し ている。切欠き53は,補償フライホイール質量体54用の案内路55と して径方向外側領域において動作する。周方向中央部からのたわみの増大 にともなって,補償フライホイール質量体54は径方向内側にますます押 圧される。補償フライホイール質量体54の内側への移動は,補償フライ ホイール質量体54に作用する遠心力に抗して発生するため,たわみが増 48 大するにつれて,より剛性の高いバネに抗してたわみが生じるような印象 となる。
図1に戻ると,補償フライホイール質量体54は中央ピン57を有して おり,この中央ピン57によって補償フライホイール質量体54は切欠き 53内へと案内される。中央ピン57の両側において固定フランジ59が 軸方向に隣接している。固定フランジ59はその直径が切欠き53の径方 向延長部より大きいように構成されており,これにより補償フライホイー ル質量体54が切欠き53から脱落しないようになっている。」(第4欄 25行〜41行)(2) 甲4発明の認定及び本件発明との対比 上記(1)の記載によれば,甲4文献には前記第2の3(2)ア記載の発明が記 載されていると認められ,これによれば,本件発明1と甲4発明の一致点及 び相違点は,同(3)ア記載の[一致点]及び[相違点1]のとおりであると認 められる(本件審決の甲4発明及び一致点の認定については当事者も争わな い。)。
(3) 技術常識に基づく容易想到性(無効理由1に関し)について ア 本件出願前の刊行物及び本件出願時の技術常識に関し,次の事実が認め られる。
(ア) 本件優先日以前から,遠心振り子及び動吸振器について次の点は技術 常識であった(甲3,弁論の全趣旨)。
a 理想条件下(少なくとも,真空下で動作し,かつ,一定の条件を満 ? たす場合。)における,1回転当たりの遠心振り子の振動の数は, √ ? (L:回転体の半径,l:遠心振り子の腕の長さ)に等しい。
また,遠心振り子の原理を応用した回転数適応型の動吸振器におい ても,理想条件下において,動吸振器に固有の幾何学的寸法である, 49 ? √ は,遠心振り子の1回転当たりの振動の数と等しい。
? b 回転数適応型の動吸振器において,理論上最も効果的に駆動装置側 の振動を減衰できるのは,遠心振り子の固有振動数が駆動装置の励振 の振動数と一致する場合である。
これによれば,必ずしも理想条件下にあるとは限らない動吸振器を 用いて振動を低減しようとする際には,動吸振器の幾何学的寸法によ って算出される固有振動数(又は次数),すなわち,理想条件下での 固有振動数(又は次数)ではなく,動吸振器の実際の固有振動数(又 は次数)と低減しようとする振動数(又は次数)を合致させることが 原則である。
c 動吸振器のチューニングについては,「動吸振器の幾何学的次数」 ? N (√ ? )と「駆動装置の励振の次数」( 2 )との大小関係に応じ,次のと おり分類することが可能である。
@ 動吸振器の幾何学的次数<駆動装置の励振の次数 A 動吸振器の幾何学的次数=駆動装置の励振の次数(以下「イーブ ンチューニング」という。) B 動吸振器の幾何学的次数>駆動装置の励振の次数(以下「オーバ ーチューニング」という。)(イ) 次のとおりの文献の記載からすれば,液体の存在する中においては, 振り子の固有振動数(又は次数)が,幾何学的に計算される固有振動数 (又は次数)よりも低下することが,本件優先日以前からよく知られて いた事項であったものということができる。
a A pendulum experiment on added mass and the principle of equivalence(甲20。平成19年3月)には,@ 「真空中の単振り 50 子の振動周期は,重力質量と慣性質量が一致するため,その質量には 依存しない。これに対し,流体中では浮力と付加質量が周期に影響す る。」(226頁9行ないし11行),A 「もし浮力及び付加質量 を加味して訂正するならば,方程式(9)から という,浮力及び付加質量を加味した非減衰の振動の振動数を示す式 を得る。 (228頁右欄下から11行ないし7行) 」 との記載がある。
(ρは流体の密度,ρbはおもりの密度であり ρb-ρ √ρb+kρ<1 〜 となるから,ω<ωaとなる。)b 米国特許第6358153号明細書(甲22。平成14年3月19 日登録)には,「加えて,このようにして引き起こされる振動子の固 有振動数は,軌道に沿って動く偏向質量体が媒体中を動かなければな らず,また,増加した抵抗に反して動かなければならないという事実 に影響され得る。」(第3欄1行ないし5行),「すなわち,流体8 2bは偏向質量体50bの動きに抵抗を加える。したがって,個々の振 動子の固有振動数は,流体82bによる動作に対する抵抗によって影響 される。」(第8欄下から15行ないし11行)との記載がある。
c 独国特許公開第10005544号明細書(甲23。平成13年8 月16日公表)には,「この従来技術における偏向質量体は,粘性媒 体に十分浸されており,偏向軌道に沿った動作中,結合ピンは粘性媒 体,すなわち潤滑剤に浸されている。しかしながら,これは,偏向質 量室にかなりの量の潤滑流体を充填することを必要とするため,この ことは,潤滑に貢献するだけではなく,同時にそれらに必要となる変 51 位による減衰にも貢献する。しかし,そのような減衰効果は振動減衰 装置のデチューニングにつながり得るため,意図された振動数の範囲 における必要な振動減衰をもたらすことが出来なくなり得る。」(第 1欄30行ないし44行)との記載がある。
イ 本件発明1の「油影響に関連して…設計されている」について (ア) 相違点1に係る,本件発明1の「回転数適応型の動吸振器(5)が, 油影響に関連して,駆動装置の励振の次数qよりも所定の次数オフセッ ト値qFだけ大きい有効次数qeffに設計されている」ことの意義につい てみると,本件発明1の特許請求の範囲には,「所定の次数オフセット qF」をいかに設定するかについて,「油影響に関連して」されるもので あること以上に特定する記載はないから,「油影響」について何らかの 関連を有し,何らかの次数オフセットqFだけ大きい有効次数qeffに設 計されているという程度の意味であると理解できる。
さらに,本件明細書についてみると,@ 図3に関する【0038】 〜【0039】の記載から,同じ設計の動吸振器であれば,回転する油 質量体の下では次数値が低くオフセットされるため,その抑制次数qFに 相当する分だけ高い次数値への次数オフセットをすることが,遠心力に 抵抗する油影響から結果的に生じる作用を考慮することになることが示 されているといえる。また,A 【0043】によれば,qFは自由に選 択可能な値として規定されていてもよいし,励振の個々の次数に対して, それぞれ固定の値が設定されていてもよいとされているから,次数オフ セットqF自体は,任意に設定し得る値であることが読み取れる。
(イ) 以上によれば,qFは,@のような実験的な測定に基づき設定される ものに限られず,Aのような任意の値も採り得るものであるといえる。
そして,動吸振器の幾何学的次数が,駆動装置の励振の次数(q)より も任意の値(qF)の分だけ大きい数値(qeff)になるように設計され 52 ているということは,オーバーチューニングに当たるといえる。そうす ると,本件発明1の「回転数適応型の動吸振器(5)が,油影響に関連 して,駆動装置の励振の次数qよりも所定の次数オフセット値qFだけ大 きい有効次数qeffに設計されていること」は,「油影響」を受ける状況 下においては,動吸振器の次数が低下することから,任意の値の次数オ フセットにより,動吸振器をオーバーチューニングしたという程度の意 味と解される。
ウ 「油影響に関連して…設計されている」構成の容易想到性 上記ア(イ)の技術常識によれば,油中に浸漬され,油という液体の影響を 受ける遠心振り子のような動吸振器にあっても,回転する油中であるか否 かにかかわらず,その固有振動数(又は次数)に何らかの影響,特に,そ の固有振動数(又は次数)が低下するような影響が生じるであろうことは, 当業者にとって当然に予測し得ることといえる。
そして,回転数適応型の動吸振器において,理論上最も効果的に駆動装 置側の振動を減衰できるのは,遠心振り子の固有振動数が駆動装置の励振 の振動数と一致する場合なのであるから(上記ア(ア)),油の影響を受ける 回転数適応型の動吸振器において,効果的に駆動装置の振動を減衰させる ためには,油の影響によって固有振動数(又は次数)が低下することから, 動吸振器の固有振動数(又は次数)について,任意の値の次数オフセット によりオーバーチューニングするという,相違点1に係る構成を採用する ことは,当業者が容易に想到し得たことであるといえる。
よって,相違点1に係る構成は,甲4発明及び技術常識から容易に想到 することができたものである。
(4) 被告の主張について 被告は,上記(3)の容易想到性に対し,@ 「油影響要件」とは,少なくと も部分的に油で充填可能な室内で回転する油が,様々な機序に基づいて動吸 53 振器に作用することを考慮した設計をいうものであるから,相違点1に係る構成は,単にオーバーチューニングすることをいうのではなく,上記の点を考慮した設計をいうものであること,A 液体の存在する中においては,振り子の固有振動数(又は次数)が,幾何学的に計算される固有振動数(又は次数)よりも低下することが,本件優先日以前からよく知られていた事項であったとはいえず,むしろ,本件優先日前には,振動が過大であり振り子が非線形挙動になるときはオーバーチューニングが有効になる場合もあるが,振動が小さく振り子が線形挙動の範囲内にある場合はイーブンチューニングが最適であるというのが技術常識であったこと,B 動吸振器の振り子が潤滑油による影響を受けることが技術常識であるとしても,潤滑油に関する技術常識は運転媒体である油で充填可能な室内に配置される本件発明の振動減衰装置には当てはまらないことを主張する。
ア @について,本件明細書の記載を考慮すると,「油影響要件」は「油影 響」を受ける状況下においては,動吸振器の次数が低下することから,(任 意の値の)次数オフセットにより,オーバーチューニングしたという程度 の意味に解されるのは上記(3)イのとおりである。
イ Aに関し,被告は,甲13及び甲20は単振り子に関するものであり, 動吸振器に関するものではないところ,動吸振器の挙動は極めて複雑であ り,振り子質量にかかる力の大きさ等が異なるから,動吸振器が運転媒体 である油で充填可能な室内に配置されて場合の固有振動数の低下を示唆す るものではないことを主張するが,動吸振器として用いられる遠心振り子 の錘に作用する力は遠心力であり,単振り子の錘に作用する力は重力であ る点に違いはあるものの,振り子の錘の振れにより周期的な運動をする点 では両者は共通するものであるから,例えば甲13や甲20に示されるよ うに,単振り子の錘が液体中に浸漬される場合において固有振動数が低下 することによれば,当業者であれば,同じく振り子の錘の振れを用いる動 54 吸振器においても,液体中においては固有振動数が低下する可能性がある ことを予測するものといえる。
また,被告は,甲20,22,23は振り子が空気環境下にあるもので, 本件発明のように動吸振器が運転媒体である油で充填可能な室内に配置さ れたものではないと主張するが,上記各文献は,いずれも空気環境下での 振動減衰装置の挙動を示すものではない。
さらに,被告は,甲5,7,15,16,30,31によれば,本件優 先日前には,振動が小さく振り子が線形挙動の範囲内である場合は,イー ブンチューニングが最適であるというのが技術常識であった旨主張するが, 被告が挙げる証拠は,液体中における振り子の錘の挙動を示すものではな いから,これらの文献に基づいて,液体中に浸漬される場合であっても, 振幅が小さく,振り子が線形挙動する範囲内にあればイーブンチューニン グをするのが最適であるということはできない。
ウ Bについて,上記アのとおり,振り子の錘が液体中に浸漬される場合に 固有振動数が低下することからすれば,当業者は,同じく振り子の錘の振 れを用いる動吸振器においても,液体中においては固有振動数が低下する 可能性があることに想い到るといえるところ,このような事情は,振り子 の錘が浸漬される液体が,運転媒体である油であるか潤滑油であるかには 関わらないものである。
(5) 以上のとおり,相違点1の容易想到性を否定し本件発明1につき無効理由 1の成立を否定した本件審決の判断は誤りである。また,本件審決は,本件 発明1につき無効理由1の成立が否定されることを前提として,本件発明1 の記載を直接又は間接に引用する本件発明2〜7及び9についての無効理由 1の成立を否定したものであるから,本件発明1についての容易想到性の判 断の誤りは本件審決の結論に影響を及ぼすものであり,取消事由1には理由 がある。
55 3 取消事由3(無効理由1〜5につき,本件発明10〜12と甲4発明との相 違点1及び甲8発明との相違点2の認定,判断の誤り)について (1) 本件発明10は,本件発明1の「駆動装置と被駆動装置との間で出力伝達 するための力伝達装置」の発明に対応する,「駆動装置と被駆動装置との間 で出力伝達するための力伝達装置の減衰特性を改善するための方法」の発明 であるところ,相違点1の認定及びその容易想到性について上記2に説示し たところは,本件発明10についても妥当するといえる。
(2) したがって,本件発明10についての無効理由1の成立を否定した本件審 決の判断には誤りがある。また,本件審決は,本件発明10についての無効 理由1の成立が否定されることを前提として,本件発明10を直接又は間接 に引用する本件発明11及び12についての無効理由1の成立を否定したも のであるから,上記の誤りは本件審決の結論に影響を及ぼすものであり,取 消事由3には理由がある。
4 取消事由4(無効理由6につき,サポート要件違反に関する判断の誤り)に ついて (1) 特許請求の範囲の記載が,明細書のサポート要件に適合するか否かは,特 許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し,特許請求の範囲 に記載された発明が,発明の詳細な説明に記載された発明で,発明の詳細な 説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲の ものであるか否か,また,その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術 常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか 否かを検討して判断するのが相当である。
(2) 上記を前提に,サポート要件違反について検討する。
ア 上記2(3)イのとおり,本件発明1の特許請求の範囲には,「所定の次数 オフセットqF」について,「油影響に関連して」設定されるものであるこ とのほかに具体的な設定の手法等についての特定はないから,「回転数適 56 応型の動吸振器(5)が,油影響に関連して,駆動装置の励振の次数qよ りも所定の次数オフセット値qFだけ大きい有効次数qeffに設計されてい る」とは,「油影響」を受ける状況下においては,動吸振器の次数が低下 することから,任意の値の次数オフセットにより,動吸振器をオーバーチ ューニングしたという程度の意味に解される。
そして,本件明細書の発明の詳細な説明には,@ 図3に関連する【0 038】,【0039】の記載から,同じ設計の動吸振器であれば,回転 する油質量体の下では,次数値が低くオフセットされるから,その抑制次 数に相当する分だけ高い次数値への次数オフセットをすることが,遠心力 に抵抗する油影響から結果的に生じる作用を考慮することになることが示 され,この記載の対応する限度では,当業者は,本件発明の課題(上記1 (3)ウ)を解決できるものと認識できるといえる。
しかし,上記のとおり,特許請求の範囲には,次数オフセットqFについ ての具体的な設定の手法等を特定する記載はなく,A 本件明細書【00 43】のとおり,任意に設定された次数オフセットqFだけ高い次数値への 次数オフセットをする場合も含まれるというべきであるが,このような任 意に設定した次数オフセットqFをとった場合については,本件明細書の記 載から当業者が本件発明の課題を解決できるものと認識できるとはいえな い。
そうすると,本件発明1は,当業者が発明の課題を解決できると認識で きる範囲のものであるとはいえないから,サポート要件に適合するとはい えない。
イ 本件発明2〜9についても,上記アに説示したところが妥当するから, 本件発明1と同様の理由により,サポート要件に適合するものではない。
ウ 本件発明10は,本件発明1の「駆動装置と被駆動装置との間で出力伝 達するための力伝達装置」の発明に対応する,「駆動装置と被駆動装置と 57 の間で出力伝達するための力伝達装置の減衰特性を改善するための方法」 の発明である。本件発明1と本件発明10とは,発明のカテゴリーが異な るのみで,その特定事項は実質的に相違するものではないから,本件発明 1について上記アに説示したところは,本件発明10についても妥当する といえる。本件発明11及び12についても同様の理由により,サポート 要件に適合するとはいえない。
エ 被告は,本件明細書【0038】,【0039】,【0043】,【0 046】及び図3の記載を挙げて,本件発明はサポート要件を充足すると 主張するが,上記に照らし採用できない。
(3) 以上のとおり,本件発明1〜12についてサポート要件に反しないとした 本件審決の判断は誤りであるから,取消事由4には理由がある。
5 以上のとおり,本件発明1〜12は無効理由1及び6によって無効とされる べきところ,これを否定した本件審決の判断には誤りがあるから,取消事由1, 3及び4には理由があり,本件審決は取り消されるべきである。
よって,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 鶴岡稔彦
裁判官 高橋彩
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