運営:アスタミューゼ株式会社
  • ポートフォリオ機能


追加

元本PDF 裁判所収録の全文PDFを見る pdf
元本PDF 裁判所収録の別紙1PDFを見る pdf
元本PDF 裁判所収録の別紙2PDFを見る pdf
元本PDF 裁判所収録の別紙3PDFを見る pdf
事件 平成 30年 (行ケ) 10096号 審決取消請求事件

原告吉川化成株式会社
同訴訟代理人弁護 士朝野修治 鈴木章
同訴訟代理人弁理 士森治
被告 ミサワホーム株式会社
被告城東テクノ株式会社
上記両名訴訟代理人弁護士 岩坪哲 速見禎 溝内伸治郎
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2019/02/21
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
請求
特許庁が無効2017-800137号事件について平成30年6月12日にした審決を取り消す。
事案の概要
本件は,特許無効審判請求に対する不成立審決の取消訴訟である。争点は,進歩性判断(相違点の容易想到性の判断)の誤りの有無である。
1 特許庁における手続の経緯 被告らは,名称を「台輪,台輪の設置構造及び設置方法」とする発明について,平成12年8月30日(以下, 「本件出願日」という。,特許出願(特願2000- )261372号)をし,平成22年9月17日,その設定登録を受けた(特許第4589502号。請求項の数5。以下,「本件特許」という。甲15)。
被告らは,平成29年6月2日,明細書(特許請求の範囲の記載を含む。)を訂正する訂正審判請求をし(訂正2017-390041。以下, 「本件訂正」という。, )特許庁は,同年7月18日,本件訂正を認める審決をし,同審決は,そのころ確定した(甲14,弁論の全趣旨)。
原告が,平成29年10月13日付けで本件特許の請求項1〜5に係る発明についての特許無効審判請求(無効2017-800137号)をしたところ(甲16),特許庁は,平成30年6月12日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,その謄本は,同月20日,原告に送達された。
2 本件発明の要旨 本件訂正後の本件特許の請求項1〜5に係る発明(以下,請求項の番号に従って「本件発明1」のようにいい,本件発明1〜5を合わせて「本件発明」という。)の特許請求の範囲の記載は,次のとおりである(甲14,15。なお,本件訂正後の本件特許の明細書及び図面〔甲14,15〕を「本件明細書」という。) (1) 本件発明1【請求項1】 基礎上端に複数接続されて敷き込まれることで,基礎と基礎上に構築される建造物本体との間に介在される台輪において, 複数の台輪のそれぞれは, 前記基礎の長手方向に沿って配置される台輪本体と, この台輪本体の長手方向の両端部にそれぞれ設けられた接続部とを備え, 前記台輪本体の両端部の接続部には,それぞれ嵌合部と当該嵌合部に嵌合可能な形状の被嵌合部とが幅方向に並んで配置され, 前記両接続部の嵌合部と被嵌合部は,長手方向に隣接する他の台輪本体の接続部の被嵌合部と嵌合部に幅方向へ移動しないようにそれぞれ嵌合して接続するように構成されており, 前記嵌合部と前記被嵌合部との形成位置が前記台輪本体の長手方向の向きを逆にしても接続可能となっていること を特徴とする台輪。
(2) 本件発明2【請求項2】 基礎上端に複数接続されて敷き込まれることで,基礎と基礎上に構築される建造物本体との間に介在される長尺板状に形成されたプラスチック製の台輪において, 複数の台輪のそれぞれは, 前記基礎の長手方向に沿って配置される台輪本体と, この台輪本体の長手方向の両端部にそれぞれ設けられた接続部とを備え, 前記台輪本体の両端部の接続部には,それぞれ嵌合部と当該嵌合部に嵌合可能な形状の被嵌合部とが幅方向に並んで配置され, 前記両接続部の嵌合部と被嵌合部は,長手方向に隣接する他の台輪本体の接続部の被嵌合部と嵌合部に幅方向へ移動しないようにそれぞれ嵌合して接続するように構成されており, 前記嵌合部と前記被嵌合部との形成位置が前記台輪本体の長手方向の向きを逆にしても接続可能となっており, 前記嵌合部は台輪本体の上下面に渡って形成された上下方向に延在する溝部を備え, 前記被嵌合部は前記溝部に嵌る突部を備えることを特徴とする台輪。
(3) 本件発明3【請求項3】 請求項1又は2に記載の台輪において, 前記台輪本体には,換気孔が前記台輪本体の幅方向に貫通するようにして形成されていること を特徴とする台輪。
(4) 本件発明4【請求項4】 請求項1〜3のいずれかに記載の台輪が基礎上端に基礎の長手方向に沿って複数接続されて敷き込まれ,基礎と基礎上に構築される構造物本体との間に介在された台輪の設置構造であって, 隣接する台輪どうしは接続部どうしを嵌合することで接続され, 嵌合した接続部のうちの一方が前記基礎に固定されていること を特徴とする台輪の設置構造。
(5) 本件発明5【請求項5】 基礎上端に請求項1〜3のいずれかに記載の台輪が基礎の長手方向に沿って複数接続して敷き込まれ,これら複数の台輪を隣接する台輪の接続部どうしが互いに嵌合し接続された状態で,基礎上に設置する台輪の設置方法であって, 嵌合する接続部のうちの一方を前記基礎上面に固定すること を特徴とする台輪の設置方法。
3 審判における請求人(原告)の主張(無効理由) 本件発明は,その出願前に頒布された刊行物である甲1〜3に記載された発明及び周知技術(甲2〜13)に基づいて,当業者が容易に発明することができたもの であるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものであり,本件特許は,同法123条1項2号に該当し,無効とすべきである。
甲1:実願昭58-74578号(実開昭59-181103号)のマイクロフィルム 甲2:実願平4-55570号(実開平6-10413号)のCD-ROM 甲3:実願昭56-59783号(実開昭57-172810号)のマイクロフィルム 4 審決の理由の要点 (1) 本件発明1について ア 甲1発明の認定 甲1には,次の発明(以下,「甲1発明」という。)が記載されている。
「ポリプロピレン,硬質ポリエチレン等の合成樹脂より成る方形若しくは長方形基盤1の板面中央部に,平面略太十字状をなすアンカーボルト2の挿通孔Hを穿ち且つ基盤1の片側壁に突部tを突設すると共に反対側壁には該突部tと係合する凹部hを形成し,前記挿通孔Hの周辺に釘孔rを穿設したコンクリート基礎と土台間に介装する通気用の台座であって, 予め基盤1の挿通孔Hよりアンカーボルト2をその下端の向きに応じて挿入して該下端をコンクリート基礎3中等間隔に埋設して,基盤1をコンクリート基礎3の長手方向に沿って間隔を空けて複数配置した後,その各釘孔rより釘を打込んで固着し,該基盤1上面に突出したアンカーボルト2の上部を土台4に予め穿設してあるボルト孔より挿入して上方に突出せしめて,該台座上に突出したアンカーボルト2の上端に座金8を介在してナット7で締着することにより,コンクリート基礎3と土台4間に等間隔の通気孔を介して強固安定的に固着せられ, 突部t,凹部hのサイズは略同一であり,突部t,凹部hはそれぞれ係合面に沿って並んで配置されており, コンクリート基礎3及び土台4が長間であったり,或はこれらが平面鍵形若しく はT字形に構成されてある場合は上記突部tと凹部hを順次係合して接続することにより耐荷力を増大したり各形状に順応して介在固着せられる,通気用の台座。」 イ 一致点の認定 本件発明1と甲1発明とを対比すると,次の一致点1で一致する。
(一致点1)「基礎と基礎上に構築される建造物本体との間に介在される台輪において, 複数の台輪のそれぞれは, 前記基礎の長手方向に沿って配置される台輪本体と, この台輪本体の両端部にそれぞれ設けられた接続部とを備え, 前記台輪本体の両端部の接続部には,嵌合部と当該嵌合部に嵌合可能な形状の被嵌合部とが配置され, 前記両接続部の嵌合部と被嵌合部は,隣接する他の台輪本体の接続部の被嵌合部と嵌合部に嵌合面に沿う方向へ移動しないようにそれぞれ嵌合して接続するように構成されている, 台輪。」 ウ 相違点の認定 本件発明1と甲1発明とを対比すると,次の相違点1〜3で相違する。
(ア) 相違点1 本件発明1は「基礎上端に複数接続されて敷き込まれる」台輪であるのに対し,甲1発明はそのような特定がなされていない点。
(イ) 相違点2 本件発明1は,接続部が「台輪本体の長手方向の両端部にそれぞれ設けられ」ているのに対し,甲1発明は,接続部が台座の長手方向の両端部に設けられているのか明らかでない点。
(ウ) 相違点3 接続部に関して,本件発明1は「台輪本体の両端部の接続部には,それぞれ嵌合 部と当該嵌合部に嵌合可能な形状の被嵌合部とが幅方向に並んで配置され,「嵌合 」部と前記被嵌合部との形成位置が前記台輪本体の長手方向の向きを逆にしても接続可能となっている」のに対し,甲1発明はそのような特定がなされていない点。
エ 相違点についての判断 (ア) 相違点1について 甲2には,土台保護板を基礎の長手方向に沿って複数接続することが記載されている(以下,「甲2事項」という。。
) しかし,甲1発明は,台座を間隔を空けて配置し「基礎3と土台4間に等間隔の通気孔」を形成させることが前提となっている通気用の台座であるから,甲2事項のように台座間に間隙を生じないように複数接続することには阻害要因があるというべきであり,甲1発明に甲2事項を適用する動機付けはない。
また,甲1発明の「基礎3及び土台4が長間であったり,或はこれらが平面鍵形若しくはT字形に構成されてある場合は上記突部tと凹部hを順次係合して接続する」点は,上記のように甲1発明は台座を間隔を空けて配置することを前提としつつ,耐荷力を増大したり形状に順応するために台座を部分的に隣接させるものであるから,本件発明1の「布基礎の長手方向に沿って複数隣接して配置される」ものではないし,また,あくまで部分的に台座を隣接させるにとどまる以上,甲1発明のこの構成から本件発明1の「布基礎の長手方向に沿って複数隣接して配置される」構成を得ることは,当業者が容易に想到し得る事項であるともいえない。
布基礎の直線部分において台座を長手方向に隣接して配置することが設計事項であるということもできない。
(イ) 相違点2について 甲1発明の台座は「方形若しくは長方形」であるから,長方形の態様を含んでおり,長方形の台座に対して,突部,凹部をその長手方向の両端部に設けることは,台座の配置方向等を勘案して当業者が適宜選択しうる事項にすぎない。
そして,突部,凹部が長手方向の両端部に設けられることにより,一致点1に係 る「嵌合面に沿う方向」は,本件発明1の「幅方向」と一致することになる。
したがって,甲1発明において,相違点2に係る本件発明1の構成とすることは,当業者が容易に想到し得たことである。
(ウ) 相違点3について 甲1発明は,「基礎と土台間に介装する通気用の台座に関するものであってアンカーボルトによる締着並に釘打ちを自在ならしめ確固安定的に固着せられると共に・・・側壁の突部はラス等の下地材張設に際しその下端部を当接することにより該下地材の張設作業を常に容易に然も正確に遂行せしめるようにしたもので」あり,「基礎上端に隣接して設置される複数の台輪の設置作業を容易に行うことができる」(本件明細書【0005】, )「台輪の接続部に他の台輪の両接続部のうちのどちらでも嵌合部と被嵌合部とを嵌合接続することで,台輪どうしを接続することができる」(同【0013】【0063】 , )との本件発明の課題は何らの記載も示唆もない。
また,甲1発明の突部t,凹部hは,本件発明1のように「それぞれ嵌合部と当該嵌合部に嵌合可能な形状の被嵌合部とが幅方向に並んで配置され」ているものではないし,さらに,突部tは「下地材の張設に際しては基盤側壁の突部が測定具の用を兼ねる」ものであるから,基盤の一方側に突部tを実施例のように並べて設ける必要性があり,突部tと凹部hを並べて配置することは想定できない。
そして,甲6は型枠ブロックの組積みに関するものであり,甲7は芝生保護材に関するものであり,甲8は鉄道,高速道路等で使用する情報ケーブル等各種の配線を収容保護する配線路を構築敷設するための配線路用ブロックに関するものであり,甲10は乗用玩具とともに用いられる乗用玩具用レールに関するものであり,甲1発明の建築における基礎と土台間に介装する台座と比較して,それぞれ,その適用箇所,技術分野が大きく異なるものである。さらに,甲6(図2),甲7(平面図),甲10(図3,10)に記載された接続形式(凹凸の形状や嵌合の形態など)は,甲1発明にどのように適用できるのか,あるいは,仮に甲1発明に適用したとしても接続形式として機能するのか定かでないほど,甲1発明の接続形式とは異なるも のとなっている。これらのことから,甲6〜8,10に記載された技術を,甲1発明に適用する動機付けはないというべきである。
甲2は,土台保護板に関するものであり,本件発明1の台輪と共通する技術分野であるが,係合突片13,係合凹所14は「向きを逆にしても接続可能」となっておらず,相違点3に関する技術事項は記載されていない。甲9には,2分割タイプの金具の噛み合い部として切欠,突起が記載されており,切欠,突起の形状は本件発明1と似通っている部分はあるものの,二つの金具の1か所の接合に関するものであり, 「向きを逆にしても接続可能」とはなっていないし,そのようにする必要性もないから,相違点3に関する技術事項とはいえない。
その他の証拠である甲3〜5,11〜13においても,相違点3に相当する構成は開示されていない。
嵌合部,被嵌合部の形成については,凹凸の数を含めて様々な態様があり得るから,原告主張のように2種類に集約できるものではない。
(エ) 結論 本件発明1は,前記(ア)(ウ)のとおり,相違点1,3に係る本件発明1の構成にすることは当業者が容易に想到し得たことではないため,甲1〜13に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(2) 本件発明2について ア 相違点の認定 本件発明2と甲1発明とを対比すると,相違点1〜3に加えて,次の相違点4で相違する。
(相違点4) 嵌合部に関して,本件発明2は「嵌合部は台輪本体の上下面に渡って形成された上下方向に延在する溝部を備え」るのに対し,甲1発明はそのような特定がなされていない点。
イ 相違点についての判断 (ア) 相違点4について 例えば,甲2に係合凹所14は保護板11の上下面に渡って形成されていることが記載されているように,嵌合,被嵌合形状として,部材の上下面に渡る溝部を形成することは一般に広く用いられている周知技術にすぎず,このような周知技術を採用することは当業者が通常行い得る行為であり,また,この周知技術を甲1発明の「凹部」に適用することに格別の阻害要因は見受けられず,当業者が容易に想到し得る程度のことにすぎない。
(イ) 結論 本件発明2は,前記(1)エ(ア)(ウ)のとおり,相違点1,3に係る本件発明2の構成にすることは当業者が容易に想到し得たことではないため,甲1〜13に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(3) 本件発明3について ア 相違点の認定 本件発明3と甲1発明とを対比すると,相違点1〜3及び相違点4(請求項2を引用した場合)に加えて,次の相違点5で相違する。
(相違点5) 本件発明3は「台輪本体には,換気孔が前記台輪本体の幅方向に貫通するようにして形成されている」のに対し,甲1発明はそのような特定がなされていない点。
イ 相違点についての判断 (ア) 相違点5について 甲3には, 「台輪本体をその幅方向に貫通するようにして形成された換気孔」を設けることが記載されている(以下,「甲3事項」という。。
) しかし,甲1発明は,台輪を間隔を空けて複数配置し,その間隙を換気孔(通気孔)としていることから,台輪本体にさらに換気孔を設ける必要性はなく,甲3事項を適用する動機付けはないというべきである。また,甲1発明の実施例となる甲1の第1図,第4図等の基盤1の形状を参照しても,方形状であることや,凹部, 突部の存在から,幅方向を貫通するように換気孔を改めて設けるためには比較的大きな構成の変更が必要となることが予測され,そのような意味からも,甲1発明において台輪そのものに改めて換気孔を設けることは想定されていないというべきである。
その他の証拠である甲2,4〜13には,相違点5に相当する構成は開示されていない。
甲11,12に開示されたパッキン(台座)は,台座部分は換気機能は有するものの,甲3事項のような貫通する孔ではなく「溝」が形成されており,甲12は,間隔を空けて配置される台座であるのか明らかではない。また,甲13に開示されたものは,アルミ合金枠体2が換気機能を有するのか,貫通する孔を有するのかが明らかでない。したがって,甲3事項のような貫通する孔を「一定の間隔を空けて配置される台座においても」適用する証拠として十分なものとはいえず,甲3事項を甲1発明に適用する動機付けはない。
(イ) 結論 本件発明3は,前記(ア)及び(1)エ(ア)(ウ)のとおり,相違点1,3,5に係る本件発明3の構成にすることは当業者が容易に想到し得たことではないため,甲1〜13に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(4) 本件発明4について ア 一致点の認定 本件発明4と甲1発明(ただし, 「コンクリート基礎3と土台4間に配置された台座の設置構造」と限定したもの。(4)において,以下同じ。)とを対比すると,一致点1に加えて,次の一致点2で一致する。
(一致点2)「基礎と基礎上に構築される構造物本体との間に介在された台輪の設置構造」 イ 相違点の認定 本件発明4と甲1発明とを対比すると,相違点1〜3及び相違点4(請求項2を 引用した場合)並びに相違点5(請求項3を引用した場合)に加えて,次の相違点6,7で相違する。
(ア) 相違点6 本件発明4は「基礎上端に基礎の長手方向に沿って複数接続されて敷き込まれ」,「隣接する台輪どうしは接続部どうしを嵌合することで接続され」た「台輪の設置構造」であるのに対し,甲1発明はそのような特定がなされていない点。
(イ) 相違点7 本件発明4は「嵌合した接続部のうちの一方が前記基礎に固定されている」のに対し,甲1発明はそのような特定がなされていない点。
ウ 相違点についての判断 (ア) 相違点6について 相違点6は,相違点1と実質的に同じであるから,前記(1)エ(ア)のとおりである。
(イ) 相違点7について 甲1には「その各釘孔rより釘を打込んで固着」する旨の記載はあるものの, 「嵌合した接続部のうちの一方が前記基礎に固定されている」ようにすることを示唆する記載はなく,その他の証拠である甲2〜13においても,相違点7に相当する構成は開示されていない。
甲1の上記記載から見て,釘孔を選択的に使うことまで想定されていない。
(ウ) 結論 本件発明4は,前記(ア)(イ)並びに(1)エ(ア)(ウ)及び(3)イ(ア)のとおり,相違点1,3,5〜7に係る本件発明4の構成にすることは当業者が容易に想到し得たことではないため,甲1〜13に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(5) 本件発明5について ア 一致点の認定 本件発明5と甲1発明(ただし, 「コンクリート基礎3上に配置された台座の設置 方法」と限定したもの。(5)において,以下同じ。)とを対比すると,一致点1に加えて,次の一致点3で一致する。
(一致点3)「基礎上に設置する台輪の設置方法」 イ 相違点の認定 本件発明5と甲1発明とを対比すると,相違点1〜3及び相違点4(請求項2を引用した場合)並びに相違点5(請求項3を引用した場合)に加えて,次の相違点8,9で相違する。
(ア) 相違点8 本件発明5は「基礎の長手方向に沿って複数接続して敷き込まれ,これら複数の台輪を隣接する台輪の接続部どうしが互いに嵌合し接続された状態」であるのに対し,甲1発明はそのような特定がなされていない点。
(イ) 相違点9 本件発明5は「嵌合する接続部のうちの一方を前記基礎上面に固定する」のに対し,甲1発明はそのような特定がなされていない点。
ウ 相違点についての判断 (ア) 相違点8について 相違点8は,相違点1と実質的に同じであるから,前記(1)エ(ア)のとおりである。
(イ) 相違点9について 相違点9は,相違点7と実質的に同じであるから,前記(4)ウ(イ)のとおりである。
(ウ) 結論 本件発明5は,前記(ア)(イ)並びに(1)エ(ア)(ウ)及び(3)イ(ア)のとおり,相違点1,3,5,8,9に係る本件発明5の構成にすることは当業者が容易に想到し得たことではないため,甲1〜13に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
原告主張の審決取消事由
1 取消事由1(本件発明1に係る甲1を主引例とする進歩性判断の誤り) 審決は,相違点1,3に係る本件発明1の構成にすることは当業者が容易に想到し得たことではないと判断したが,以下のとおり,いずれも誤りである。
(1) 理由1-1(相違点1の容易想到性判断の誤り) ア 甲1の第4図には,基礎が交わる角部の施工に関する記載ではあるが,布基礎の直線部分において台座を長手方向に隣接して配置することが記載されている。
また,甲1には「基盤1の片側壁に楔状突部t,反対側壁に該突部と係合する楔状凹部hが形成されてあるので基礎3及び土台4が長間であったり,或はこれらが平面鍵形若しくはT字形に構成されてある場合は第4図に示したように上記突部と凹部を順次係合して接続することにより耐荷力を増大したり各形状に順応して介在固着せられる利点をも具有するものである。 と記載されているように, 」 台座の支持力が不足する場合は,当然に,複数の台座を隣接して配置することになるから,台座を長手方向にどのように配置するかは,アンカーボルトの位置に加え,台座の支持力を考慮して行う設計的事項であると認められる。
したがって,甲1発明は,「布基礎の長手方向に沿って複数隣接して配置される」構成を備えるものであって,相違点1に係る本件発明1の構成である「基礎上端に複数接続されて敷き込まれる」との構成を備えたものであるか,少なくともこれを排除しないものである。
イ(ア) 本件発明1は,「基礎上端に複数接続されて敷き込まれる・・・台輪」と特定しているだけで,台輪間に通気孔となる間隙を一切設けない構成を特定したものではないと認められるが,仮に,上記構成を特定するものであるとしても,上記構成は,甲2〜5に記載されているように,周知の技術であり,また,甲1発明(特に,突部と凹部を順次係合して接続することで複数の台座を隣接して配置する構成)とこの周知技術とを組み合わせ,台輪間に通気孔となる間隙を一切設けない構成とすることに阻害要因はない。
(イ) 被告らは,本件発明1の相違点1に係る構成の「敷き込まれ」は, 「隙間を空けないように並べる」の意味で用いられていると主張するが,被告らが引用する乙1と同じ「建築用語集」には,「建て込み」の意義として,「柱や型枠など部材を縦にして,所定の位置に据え付けることを一般に建て込みといい,水平に据え付ける敷き込みに対する言葉である。」と記載されている(甲22)から,「敷き込まれる」の意義は, 「(隙間なく)敷き並べること」という狭義の意義に限定されず,「所定の位置に水平に据え付ける」の広義の意義がある。そして,被告らが示した被告城東テクノ株式会社の本件発明1の実施品の施工現場写真(被告第2準備書面2頁)を見ても,基礎上端面には台輪が敷かれていない部分が存在するから,相違点1に係る本件発明1の構成の「敷き込まれる」 「 は,(隙間なく)敷き並べること」という狭義の意義ではなく, 「所定の位置に水平に据え付ける」の広義の意義で解釈すべきである。
また,被告らは,相違点1に係る本件発明1の構成の「敷き込まれる」は,本件発明1の特許請求の範囲の文言からすると,基礎と建造物本体の間に「隙間を空けないように敷き並べる」意味であると明確に理解できるし,本件明細書【0001】 (〜【0003】【0038】【図8】【図16】 , , , )の記載を参酌すると,「隙間を空けないように並べる」という意味であると理解できると主張するが,敷き込まれる」 「は,一般的に用いられている技術用語とはいえないし,本件明細書の記載を参酌しても,「敷き込まれる」の意義が「隙間を空けないように並べる」ことに限定され,「所定の位置に水平に据え付ける」という広義の意義が排除される理由はない。
(ウ) 被告らは,甲1発明の台座は,土台とコンクリート基礎との間にあえて空間(通気孔部分)を設けることにより,通気を確保するものであるから,甲2の土台保護板における,土台となる角材をコンクリート基礎からの湿気から保護し,コンクリート基礎と土台の間に侵入する雨水を排除するという課題は,意図されていないと主張する。
しかし,甲1発明は,台座を間隔を空けて配置することによって基礎3と土台4 の間に通気孔を設けるようにするものである一方で,当然に,甲2記載のコンクリート基礎から角材への湿気の到達の防止等の課題(台輪〔台座〕の基本的な課題)を意図しているといえる。
甲1発明や甲2等に記載された技術は,コンクリート基礎と建物本体との間に介在させる台輪という極めて限定された用途に用いられるものであって,明細書中に課題等が明記されていないとしても,当業者(極めて限られた製造業者数社)は,文献記載の構成を適宜取捨選択して採用することに困難性はないといえる。このことは,古くから用いられている比較的短尺の台輪と,それより後から開発された長尺の台輪との間における構成についても同様である。
したがって,甲1発明に甲2事項を適用する動機付けはある。
(エ) 被告らは,甲3〜5には,相違点1に係る本件発明1の構成は開示されていないと主張するが,甲3〜5に記載された長尺の台輪は,甲1発明の比較的短尺の台座の使い勝手を改善するために,布基礎の長手方向の全長にわたって配置することを前提とするものであるから,布基礎の長手方向の寸法に合わせて,台輪を複数隣接して配置するようにすることは,必然の事項にすぎないものといえる。
そして,比較的短尺の台輪と,長尺の台輪との間における構成について,適宜取捨選択して採用することに困難性はない。
したがって,相違点1に係る本件発明1の構成は,周知技術である。
ウ 以上によると,甲1発明において,相違点1に係る本件発明1の構成とすることは,当業者が容易に想到し得たことである。
(2) 理由1-2(相違点3の容易想到性判断の誤り) ア(ア) 種々の相互に接続して用いられる部材の端部にそれぞれ設けられた嵌合部と被嵌合部とからなる接続部を備え,その接続部を幅方向へ移動しないようにそれぞれ嵌合して部材同士を接続するようにすることは,接続構造として一般的なものであって,その接続部の嵌合部と被嵌合部の形成位置に関しては, (a)部材に方向性を持たせる形成位置とする,具体的には,部材の一端部に「凸,凸」の嵌合 部を設け,他端部に「凹,凹」の被嵌合部を設けるようにするか, (b)部材の方向の向きを逆にしても接続可能となる形成位置とする,具体的には,部材の一端部に「凸,凹」の嵌合部及び被嵌合部を設け,他端部に「凹,凸」の被嵌合部及び嵌合部を設けるようにするかの2通りしかなく,また,上記(a)の接続方式と同様に,上記(b)の接続方式も,技術分野に関係なく,嵌合部と被嵌合部とからなる接続部の構造として,本件出願日前に一般的に行われていた周知の技術にすぎない(例えば,甲6〜10)。また,この周知技術は,部材の向きを逆にしても接続可能とすることを目的として,部材や適用箇所等にかかわらず,転用可能な技術であるといえる。
上記(b)の接続方式は,技術分野に関係なく汎用されているものであるが,甲6〜9は,土木・建築業界に関する技術であるから,技術分野が大きく異なるものとはいえない。むしろ,土木・建築業界に従事する作業者(当業者)にとっては,課題が共通するごく当たり前の技術にすぎないし,甲1発明の接続形式(凹凸の形状や嵌合の形態など)は,単なる凹凸嵌合であって何ら特段のものではないから,甲1発明に甲6〜9に記載された技術を適用することに困難性があるとはいえない。
(イ) 被告らは,甲1発明の台座は通常,単独で敷設されるものであることからすると,接続・係合方法を積極的に改変する動機付けは乏しいと主張するが,前記(1)のとおり,甲1発明は,複数の台座を隣接して配置する構成を備えるものであるから,接続方法を部材の方向の向きを逆にしても接続可能となるようにするために,甲1発明に甲6〜8,10に記載された技術を適用する動機付けはある。
イ 「基礎上端に隣接して設置される複数の台輪の設置作業を容易に行うことができる」「台輪の接続部に他の台輪の両接続部のうちのどちらでも嵌合部と被 ,嵌合部とを嵌合接続することで,台輪どうしを接続することができる」との本件発明の課題は,甲1発明の台座を含む,種々の相互に接続して用いられる部材に内在する課題にすぎないから,甲1に本件発明の課題が記載も示唆もされていないとしても,甲1発明の台座にも上記課題は存在しているといえる。
ウ 甲1発明の突部tが「下地材の張設に際しては基盤側壁の突部が測定具の用を兼ねる」という作用効果や下地材を支持できるという作用効果は,任意付加的な機能にすぎないし,接続方法を相違点3に係る本件発明1の構成のように改変しても,突部tは間隔を空けて複数必ず存在するから,その技術的意義を減殺するものでもない。
エ 本件発明1は,嵌合部及び被嵌合部の態様について何ら特定されていない。
オ 以上によると,甲1発明において,相違点3に係る本件発明1の構成とすることは,当業者が容易に想到し得たことである。
2 取消事由2(本件発明2に係る甲1を主引例とする進歩性判断の誤り) 相違点1,3に係る本件発明2の構成にすることは当業者が容易に想到し得たことではないとの審決の判断は,前記1のとおり,いずれも誤りである。
3 取消事由3(本件発明3に係る甲1を主引例とする進歩性判断の誤り) 相違点1,3,5に係る本件発明3の構成にすることは当業者が容易に想到し得たことではないとの審決の判断は,相違点1,3については前記1のとおり,相違点5については次のとおり,いずれも誤りである。
甲1発明の台座のように,一定の間隔を空けて配置される台座においても,間隔を空けることなく配置される台座と同様に,通気部を設けて通気性を持たせるようにする要請は存在し,一般的に行われていることである(例えば,甲11〔除湿溝13〕,甲12〔通風溝〕,甲13〔アルミ合金枠体2〕。甲3には,第2図に通気 )部を「孔」にした実施形態が記載され,第3図に通気部を「溝」にした実施形態が記載されているように,通気部を「孔」にするか, 「溝」にするかは,その目的や構造から,適宜選択可能な設計上の事項にすぎない。
また,甲1の実用新案登録請求の範囲に「基盤1の片側壁に突部tを突設すると共に反対側壁には該突部と係合する凹部hを形成し」と記載されているとおり,突部t及び凹部hを形成する側壁は,二方の各側壁に限定されず,一方の各側壁の場 合もあるし,さらに,突部t及び凹部hを形成する側壁が二方の側壁であるとしても,突部t及び凹部hにかからないように換気孔を形成することに何ら困難性はない。
したがって,甲1発明の台座に,甲3に開示された換気孔を更に設ける動機付けは存在するから,甲1発明において,相違点5に係る本件発明3の構成とすることは,当業者が容易に想到し得たことである。
4 取消事由4(本件発明4に係る甲1を主引例とする進歩性判断の誤り) 相違点1,3,5〜7に係る本件発明4の構成にすることは当業者が容易に想到し得たことではないとの審決の判断は,相違点1,3については前記1のとおり,相違点5については前記3のとおり,相違点6,7については次のとおり,いずれも誤りである。
(1) 理由4-1(相違点6の容易想到性判断の誤り) 相違点6は,相違点1と実質的に同じであるから,前記1(1)(理由1-1)のとおりである。
(2) 理由4-2(相違点7の容易想到性判断の誤り) 甲1には, 「方形若しくは長方形基盤1の板面中央部に,平面略太十字状をなすアンカーボルト2の挿通孔Hを穿ち・・・前記挿通孔の周辺に釘孔rを穿設した建築における基礎と土台間に介装する台座」 (甲1発明)が記載されており,どの釘孔rに釘を打ち込んで基盤1をコンクリート基礎3に固着するか(その場合,隣接する基盤1と嵌合するため,コンクリート基礎3に固着しない基盤1を設けること)は,単なる設計上の事項(施工上の選択事項)にすぎない。実際の施工現場において,この種の釘孔が設けられた基盤(台輪)を使用するに当たっては,必ずしも釘孔のすべてに釘を打ち込んで使用されてはいない。
したがって,相違点7の「隣接する台輪どうしは接続部どうしを嵌合することで接続され,嵌合した接続部のうちの一方が前記基礎に固定されている」ことは,甲1発明から,当業者が容易に想到し得たことである。
5 取消事由5(本件発明5に係る甲1を主引例とする進歩性判断の誤り) 相違点1,3,5,8,9に係る本件発明5の構成にすることは当業者が容易に想到し得たことではないとの審決の判断は,相違点1,3については前記1のとおり,相違点5については前記3のとおり,相違点8,9については次のとおり,いずれも誤りである。
(1) 理由5-1(相違点8の容易想到性判断の誤り) 相違点8は,相違点1と実質的に同じであるから,前記1(1)(理由1-1)のとおりである。
(2) 理由5-2(相違点9の容易想到性判断の誤り) 相違点9は,相違点7と実質的に同じであるから,前記4(2)(理由4-2)のとおりである。
被告らの主張
1 取消事由1(本件発明1に係る甲1を主引例とする進歩性判断の誤り)に対し 本件発明1は,相違点3の構成を備える点で容易に想到できるものではなく,相違点1の点でも進歩性が肯定される。
(1) 理由1-1(相違点1の容易想到性判断の誤り)に対し ア 原告は,甲1発明は, 「布基礎の長手方向に沿って複数隣接して配置される」構成を備えるものであるか,少なくともこれを排除しないものであると主張するが,次のとおり,誤りである。
(ア) 「敷き込む」とは, 「板状の材料を敷き並べること」の意味であり(乙1),乙1において,タイルや畳が例に挙げられているように,単に敷設するだけではなく,隙間を空けないように並べるという意味が加味されている。本件発明1の相違点1に係る構成の「敷き込まれ」も,本件明細書の【図5】に示されているように,「隙間を空けないように並べる」の意味で用いられている。
甲1発明の台座は,甲1の第3図のように,通常,「複数接続して敷き込まれる」 ことなく,通気孔部分の間隔を空けて施工されるものであり,甲1の第4図は,布基礎の直線部分における施工状態ではなく,あくまで「角部」における特殊な施工状態にすぎない。
したがって,甲1の第4図に関する記載から,相違点1に係る本件発明1の「基礎上端に複数接続して敷き込まれる」との構成を認定することはできない。
原告は,相違点1に係る本件発明1の「敷き込まれる」は, 「所定の位置に水平に据え付ける」の広義の意義で解釈すべきであると主張するが,本件発明1の特許請求の範囲の文言からすると,単に所定の位置に据え付けるだけではなく,基礎と建造物本体の間に「隙間を空けないように敷き並べる」意味であると明確に理解できるし,仮に特許請求の範囲の文言から一義的に理解できないとしても,本件明細書(【0001】〜【0003】【0038】【図8】【図16】 , , , )の記載を参酌すると,単に「所定の位置に水平に据え付ける」という意味ではなく, 「隙間を空けないように並べる」という意味であると理解できる。また,原告は,被告らが示した被告城東テクノ株式会社の本件発明1の実施品の施工現場写真(被告第2準備書面2頁)を見ても,基礎上端面には台輪が敷かれていない部分が存在するとも主張するが,原告主張の「台輪が敷かれていない部分」は,台輪の長手方向ではなく,幅方向の部分であるところ,本件発明1の接続部の構成等から,隙間なく並べるのは台輪の長手方向であって,幅方向ではない。
(イ) また,主引例が副引例の記載を排除しないだけでは,副引例の記載を主引例に適用する動機付けがあるとはいえない。
イ 次のとおり,甲1発明の台座に甲2事項を適用する動機付けはない。
甲2の土台保護板は,土台となる角材をコンクリート基礎からの湿気から保護し,コンクリート基礎と土台の間に侵入する雨水を排除することを解決課題として,コンクリート基礎上に隙間なく連設されることにより,コンクリート基礎から角材への湿気の到達の防止,角材・コンクリート基礎間の雨水の排除という効果を奏するものである(【0004】【0007】【0011】【0012】。
, , , ) 他方,甲1発明の台座は,土台とコンクリート基礎との間にあえて空間(通気孔部分)を設けることにより,通気を確保するものであるから,甲2記載の上記課題は意図されていない。甲1には,甲2事項を適用する契機となる課題が開示されておらず,これを適用する動機付けがない。
また,甲2の開示に接した当業者が甲2記載の上記課題に着目したとすれば,甲1発明の台座のような間隔を空けて通気孔を確保することが前提となっているものを改変して,上記課題を解決しようとは考えない。
ウ 次のとおり,甲3〜5には,相違点1に係る本件発明1の構成は開示されていないから,この構成が周知技術であるとはいえない。
甲3には,台輪2を「基礎上端に複数接続されて敷き込まれる」構成についての開示がなく,甲5にも,プラスチック台輪3を「基礎上端に複数接続されて敷き込まれる」構成についての開示がない。甲3の台輪2及び甲5のプラスチック台輪3のいずれの形状を見ても「基礎上端に複数接続されて敷き込まれる」ものであると認識する根拠がない。
甲4の第2図からは,土台1を布基礎の長手方向に複数(2本)配置することが読み取れるが,第2図を含め,甲4には,これらの土台1を「接続されて敷き込まれる」構成については何ら記載されていない。
(2) 理由1-2(相違点3の容易想到性判断の誤り)に対し ア 甲1発明に原告主張の周知技術を適用して,相違点3に係る本件発明1の構成にする動機付けはない。
(ア) 甲1発明の台座は,甲1の第3図記載のとおり,通常,等間隔に埋設されるアンカーボルトの挿入部分に設置されることが想定されている。これは,基礎3と土台4間に等間隔の通気孔を設けるためである(甲1の明細書3頁4行〜5行)。
甲1の第4図には,布基礎の「角部」において,甲1発明の台座が3個順次係合されている図が記載され,甲1の明細書には「基礎3及び土台4が長間であったり,或はこれらが平面楔形若しくはT字形に構成されてある場合は第4図に示したよう に上記突部と凹部を順次係合して接続することにより耐荷力を増大したり各形状に順応して介在固着せられる利点をも具有する」 (3頁12行〜19行)と記載されているが,甲1発明の台座が接続して使用されるのは「角部」など例外的な部分に施工する場合に限られる。
このように,甲1発明の台座は通常,単独で敷設されるものであることからすると,接続・係合方法を積極的に改変する動機付けは乏しい。
(イ) 甲1発明の台座は,側壁に突部tを設けることにより,壁の下地材となるラス等を柱に張設するに際して,下地材の下端部を当接させ,測定具としても使えるという機能を有する。
このような甲1発明の台座の機能に鑑みると,側壁に突部tが並列している方が下地材の張設や測定という観点で有用であり,あえて,この接続方法を相違点3に係る本件発明1の構成のように改変して,甲1に明示されている技術的意義を減殺する動機付けはない。
原告は,突部tの上記機能は,一方の突部tのみでも十分に達せられるものであるから,その技術的意義を減殺するものでもないと主張するが,甲1の第1図のように側壁に突部tを二つ並列すれば,突部tにより下地材を安定して支持することができるが,これが一つになれば,下地材の支持が不安定になる。
イ 原告は,部材の端部の接続部の嵌合部と被嵌合部の形成位置に関しては,(a)部材に方向性を持たせる形成位置とする,具体的には,部材の一端部に「凸,凸」の嵌合部を設け,他端部に「凹,凹」の被嵌合部を設けるようにするか,(b)部材の方向の向きを逆にしても接続可能となる形成位置とする,具体的には,部材の一端部に「凸,凹」の嵌合部及び被嵌合部を設け,他端部に「凹,凸」の被嵌合部及び嵌合部を設けるようにするかの2通りしかないと主張するが,部材の端部の接続構造には様々な種類があり,区分するとしても嵌合部と被嵌合部の形状,位置,接続方法等様々な観点があり得る。それにもかかわらず,あえて上記(a) (b)の2通りの分類方法に着目する技術上の必然性が,甲1その他の証拠に照らしても存 在しない。
ウ 甲6〜10には,次のとおり,相違点3に係る本件発明1の構成の開示がなく,また,各号証に記載の接続構造はそれぞれの技術分野に特有の課題解決のために採用されたものであって,甲6〜10によって,相違点3に係る本件発明1の構成が,技術分野を問わない周知技術であると認めることはできないし,甲1発明の台座のような部材に関する周知技術であるとも認められない。
(ア) 甲6の型枠ブロックは,甲1発明の台座と全く異なる部材であって,あらかじめ接着剤を用いて組み上げておくものであり,甲1発明の台座のように現場において突部tと凹部hを係合することで接続するものとは,接続方法が全く異なる。
また,甲6には,前板部及び後板部の各両端(計4か所の部分)は,いずれも「階段状の凹凸条」が設けられると記載され,各凹凸条が「噛み合う」と記載されているだけであって(【0017】,相違点3に係る本件発明1の構成のように「嵌合」 )する構成が開示されているとは認められない。
(イ) 甲7の芝生保護材は,甲1発明の台座と全く異なる部材であって,正方形状であり,「四辺に設けた連結部により順次連結して面を構成」するものである。
したがって,甲1発明の台座のように長手方向にのみ接続するものではなく,甲7の接続構造としては,芝生保護材の四辺に設けた連結部による連結構造を把握するのが自然である。
(ウ) 甲8の配線路用ブロックは,甲1発明の台座と全く異なる部材であって,甲8の配線路用ブロックがこのような構成を採用するのは「形成された配線路全体として上下動も左右動も前後動もしなくなるから,地盤が軟弱であったり,低下したりするようなことがあっても,所要の限度内ではあるが,その配線路が上下左右に蛇行し,あるいはその接続部分に隙間を開けてしまうことがなく,そのために,収容した情報ケーブル等の配線を断線させるというようなことがないとの効果を奏する」(8欄19行〜26行)からである。
甲8の記載から,相違点3に係る本件発明1の構成が,技術分野に関係なく,上記課題を必要としない場合にも適用されるような周知技術であるとは認められないし,甲1発明の台座のような部材に関する周知技術であるとも認められない。
(エ) 甲9の金具25は,2分割の二つのL形の金具26,27を接続するだけのものであり,金具26も金具27も同じ形をしており,一端面に切欠と突起を有するが他端面は切欠も突起も有さない側部を有するのみであって,相違点3に係る本件発明1の構成(「前記嵌合部と前記被嵌合部との形成位置が前記台輪本体の長手方向の向きを逆にしても接続可能となって」いる構成)を備えない。
(オ) 甲10の乗用玩具用レールは,甲1発明の台座と全く異なる部材であって,甲10の乗用玩具用レールがこのような構成を備えるのは,着脱可能とし,また,限られたレールユニットでコースレイアウトを変更しやすくする必要があるからである(【0018】。
) 甲10の記載から,相違点3に係る本件発明1の構成が,技術分野に関係なく,上記課題を必要としない場合にも適用されるような周知技術であるとは認められないし,甲1発明の台座のような部材に関する周知技術であるとも認められない。
2 取消事由2(本件発明2に係る甲1を主引例とする進歩性判断の誤り)に対し 相違点1,3に係る本件発明2の構成にすることは当業者が容易に想到し得たことではないとの審決の判断に誤りがないことは,前記1のとおりである。
3 取消事由3(本件発明3に係る甲1を主引例とする進歩性判断の誤り)に対し 相違点1,3,5に係る本件発明3の構成にすることは当業者が容易に想到し得たことではないとの審決の判断に誤りがないことは,相違点1,3については前記1のとおり,相違点5については次のとおりである。
(1) 相違点5に係る本件発明3の構成は, 「台輪本体をその幅方向に貫通するようにして形成された換気孔」であって,「溝」ではないから,甲11や甲12には, 相違点5に係る本件発明3の構成は開示されていない。したがって,甲11や甲12の記載は,甲1発明に甲3事項(甲3記載の相違点5に係る本件発明3の構成)の適用を動機付ける根拠たり得ない。
(2) 仮に,甲3に記載された,相違点5に係る本件発明3の構成とは異なる構成について,甲11や甲12に関連する記載があることを根拠として,甲1発明に適用する動機付けがあるというのであれば,甲1発明に適用されるのは,その「相違点5に係る本件発明3の構成とは異なる構成」(原告の主張によると甲3の第3図)であり,これを更に相違点5に係る本件発明3の構成に再度改変する理由も動機付けもない。原告の主張は,いわゆる「容易の容易」の論理と同種のものである。
(3) 甲13には,アルミ等の金属の枠体2が記載されているが,枠体の形状は不明であって,相違点5に係る本件発明3の構成である「台輪本体をその幅方向に貫通するようにして形成された換気孔」が設けられているとの事実自体が開示されていない。甲13の第2図によると,ネコ1は基礎コンクリート4に埋め込まれるように設置されており,手前側は基礎コンクリート4の端部とネコ1の端部が揃った位置であるが,奥側はネコ1の端部は基礎コンクリートの幅方向の途中に埋め込まれており,およそ通気・換気を意図したものとは思えない使用方法がされている。
(4) 甲1の明細書には, 「側壁の突部はラス等の下地材張設に際しその下端部を当接することにより該下地材の張設作業を常に容易に然も正確に遂行せしめるようにしたものである」と記載されているが,「下地材」は壁の下地となる材料であり,壁は基礎に沿って設けられるから,基礎と水平方向の側壁(甲3に開示されている換気孔を設けるべき側壁)に必ず突部が形成されていることが前提とされている。
他方,甲3に開示されている換気孔は,甲3の第2図にあるとおりの形状で, 「長手方向に沿って所定間隔をおきながら」「複数個形成」されている。
甲1発明の台座に甲3に開示されているような換気孔を設けようとすれば,一見して,上記側壁の突部及び凹部と換気孔とが重複してしまうこととなるので,通常の当業者であれば,これを組み合わせようとする動機付けを有しない。
原告は,突部t及び凹部hにかからないように換気孔を形成することに何ら困難性はないと主張するが,甲1発明の台座に甲3の換気孔を設けるために,更に突部t及び凹部h及び/又は換気孔の形状を開示されているものとは異なる形状に改変することを前提としており,これもまた「容易の容易」の論理の一種である。ましてや,甲1発明の台座は,間隔を空けて配置することで通気孔を確保できる構成となっているのであるから,相当の形状改変を行ってまで甲3の換気孔を甲1発明に適用するという動機付けは乏しい。
4 取消事由4(本件発明4に係る甲1を主引例とする進歩性判断の誤り)に対し 相違点1,3,5〜7に係る本件発明4の構成にすることは当業者が容易に想到し得たことではないとの審決の判断に誤りはないから,取消事由4は理由がない。
5 取消事由5(本件発明5に係る甲1を主引例とする進歩性判断の誤り)に対し 相違点1,3,5,8,9に係る本件発明5の構成にすることは当業者が容易に想到し得たことではないとの審決の判断に誤りはないから,取消事由5は理由がない。
当裁判所の判断
1 本件発明について (1) 本件明細書(甲14,15)には,以下の記載がある。
ア 発明の属する技術分野【0001】【発明の属する技術分野】本発明は,基礎上端に敷き込まれて,基礎と基礎上に構築される建造物本体との間に介在される台輪に関し,詳細には隣接して配置される他の台輪と接続可能な接続部を備えた換気孔付き台輪,台輪の設置構造及び設置方法に関する。
イ 背景の技術 【0002】【背景の技術】一般に建造物を構築する場合,地盤上に基礎を構築し,その基礎上に上部構造である建造物本体を構築する。上部構造からの荷重は下部構造である基礎によって地盤に伝えられる。
この例を框材を枠組みするとともに,その間に補強桟材を組み付けて成る枠体の,両面または片面に面材を取り付けて形成した床パネル,壁パネルおよび屋根パネルなどの建築用パネルを組み立てることにより建造物本体を構築する木質パネル工法を例にとって説明する。
まず地盤上に布基礎,独立基礎などの基礎を構築し,次に基礎上に複数の床パネルを敷設し,床パネル端部外方側に半土台を取り付けて床部を構成する。そして,床部上に複数の壁パネルを立設して,基礎から突出し床パネルおよび半土台を挿通するアンカーボルトにて壁パネルを固定して壁部を構築し,さらにこの壁上に複数の屋根パネルを敷設して屋根部を構築するようにしている。
【0003】ここで,基礎上端に木質の床パネルを直接敷き込む際,基礎上端の平坦面の確保,基礎上端の透水防止を目的として,本出願人などにより,図16に示すようなプラスチック製の台輪110を基礎上端に敷き込み,この台輪110を介在させて,基礎上端に床パネルを敷設していく提案(例えば特開平8-74367号公報「台輪および台輪を介在させた床パネルの敷設方法」)がされている。台輪110は,図16に示すように,所定間隔をおいて複数形成されたアンカーボルト挿通用の貫通穴115を有する梯子状の形状をしている。
【図16】 ウ 発明が解決しようとする課題【0004】【発明が解決しようとする課題】ところで,上記特開平8ー74367号公報に示す台輪110では,基礎上端に複数並べて敷き込む際に,基礎上面に並べられた台輪はそれぞれ基礎上で動かないように,1ピース毎に両端部等の離間した箇所を釘で基礎に止着する必要がある。
よって,台輪を基礎上面に固定する際に,台輪毎に2カ所釘を打ち込む作業を減らすことで作業の容易化及び工期の短縮化を図ろうという要望があった。
【0005】本発明は,上記問題点に鑑みなされたものであって,その課題は,基礎上端に隣接して設置される複数の台輪の設置作業を容易に行うことができる台輪,台輪の設置構造及び設置方法を提供することである。
エ 課題を解決するための手段【0006】【課題を解決するための手段】 以上の課題を解決するため,請求項1記載の発明は,基礎上端に複数接続されて敷き込まれることで,基礎と基礎上に構築される建造物本体との間に介在される台輪において,例えば,図1及び図2に示すように, 複数の台輪1のそれぞれは, 前記基礎7の長手方向に沿って配置される台輪本体2と, この台輪本体2の長手方向の両端部にそれぞれ設けられた接続部3,3とを備え, 前記台輪本体2の両端部の接続部3,3には,それぞれ嵌合部32と当該嵌合部32に嵌合可能な形状の被嵌合部31とが幅方向に並んで配置され, 前記両接続部3,3の嵌合部32と被嵌合部31は,長手方向に隣接する他の台輪本体2の接続部3の被嵌合部31と嵌合部32に幅方向へ移動しないようにそれぞれ嵌合して接続するように構成されており, 前記嵌合部32と前記被嵌合部31との形成位置が前記台輪本体2の長手方向の向きを逆にしても接続可能となっていることを特徴とする。
【図1】【図2】 【0007】前記接続部3は,長手方向に隣接する他の台輪本体の接続部に嵌合して接続した際,幅方向に移動しないように形成されていれば,どのような形状でもよい。
例えば,一方の接続部に上下に延在する溝部を設け,他方の接続部に上下に延在し且つ前記溝部に嵌合する突部が設けられた形成〔判決注・「形状と」の誤記と認める。〕してもよい。このように形成すれば,隣接して接続される台輪どうしを,一方の台輪の凸状の接続部に,他方の台輪の凹状の接続部を嵌合することにより接続することができ,これら接続された台輪どうしは幅方向に移動することがなくなる。
【0008】請求項1記載の発明によれば,基礎上端に複数接続されて敷き込まれる台輪1のそれぞれの接続部3,3が,長手方向に隣接する他の台輪本体2の接続部3,3に,幅方向へ移動しないように嵌合して接続するように形成されているので,前記基礎上端に複数接続して敷き込んだ際に,隣接する台輪どうしが互いに接続部3,3で嵌合して接続され,互いに幅方向に移動することがなくなる。
したがって,前記基礎7上端に複数連続して敷き込まれた際に,嵌合して接続された接続部3,3の一方の接続部3を基礎上に固定するだけで,前記一方の接続部に 嵌合して接続された他方の接続部3も前記基礎7に固定することができる。つまり,隣接する台輪の接続部どうしを嵌合して接続した状態で複数の台輪を前記基礎上に接続して敷き込んだ際に,嵌合して接続される接続部どうしにおいて一方の接続部を固定するだけで,敷き込まれた複数の台輪それぞれを幅方向に動かないように固定することができる。
よって,基礎上に台輪を複数敷き込んで設置する際に,従来と異なり,敷き込まれた複数の台輪を台輪毎に基礎に固定する作業,つまり複数の台輪毎に2カ所釘を打ち込んで基礎に固定する作業の必要が無くなり,台輪の敷き込み作業の容易化及び工期の短縮化を図ることができる。
【0011】 また,前記台輪本体2の両端部の一方の接続部3には嵌合部31が設けられ,他方の接続部3には,前記嵌合部31に嵌合可能な形状の被嵌合部32が設けられているので,請求項1記載と同様の効果を得ることができるとともに,基礎上端に複数接続して敷き込む際に用いる台輪を全て同じ形状の台輪とし,それぞれを接続する際に,前記嵌合部と前記被嵌合部とを嵌合して,前記複数の台輪を前記基礎上に幅方向に移動しないように接続することができる。
したがって,基礎上に複数敷き込む際に,同一形状の台輪を複数用意すればよく,接続部が異なる異形状の台輪を制作する必要が無くなり,コストの低廉化を図ることができる。
【0013】 さらに,前記台輪本体の両端部の接続部3,3には,長手方向に隣接する他の台輪本体2の接続部3の被嵌合部31と嵌合部32にそれぞれ嵌合して接続する前記嵌合部32と前記被嵌合部31とが幅方向に並んで配置されているので,台輪の接続部3に他の台輪の両接続部のうちのどちらでも嵌合部と被嵌合部とを嵌合接続することで,台輪どうしを接続することができる。
オ 発明の実施の形態 【0025】図1〜図3に示す台輪1は,後述する基礎上端に敷き込まれて,基礎と基礎上に構築される建造物本体との間に介在され(図4参照),台輪本体2と,この台輪本体2の長手方向両側にそれぞれ形成された接続部3,3と,台輪本体2に,台輪本体2の長手方向に沿って,台輪本体2の幅方向に貫通するように所定間隔を開けて設けられた換気孔4等とを備える。なお,換気孔4は,台輪1の両側面1a,1bに面した開口部41と,開口部41に連通し台輪本体2内を貫通する換気通路部42とを有し,換気孔4の開口部41は,開口縁に向かって,つまり台輪1の両側面1a,1bに向かって拡がるように形成されている。
また,換気孔4の断面形状は四角形状,ここでは縦長の長方形となっている。
このように換気孔4の断面形状が四角形状であるので,換気孔4を上下幅が同じの断面円状に形成した構成より,角部分の通気量が多くなり,その分の換気効率の向上を図ることができる。
【図3】【0026】 詳細には,台輪本体2は,長尺板状に形成され,後述する基礎(図4〜図6中,符号7で示す)の長手方向に沿って配置されるものである。
また,台輪本体2は,台輪1の上下面を構成し,互いに離間して対向するように配置された板状の上面部材21及び下面部材22と,これら上下面部材21,22の間で,且つ上下面部材21,22に直交するように設けられた複数の仕切り壁部23と,前記台輪本体2を基礎(図4〜図6で示す基礎7)に固定する釘孔5と,台輪本体2の長手方向に細長い形状に形成されたアンカーボルト挿通用の貫通穴6等とを備える。
【図4】 【図5】【図6】【0031】前記台輪本体2の両端部に設けられた接続部3は,互いに接続可能に構成されており,台輪1を長手方向に連続して嵌合して接続される形状となっている。
また,接続部3には,互いに嵌合可能な形状の被嵌合部31と嵌合部32とが幅方向に並んで設けられている。
被嵌合部31は,台輪1の長手方向に向かって突出するように設けられ,台輪1の 上下方向に延在する突条部(突部)31aを備える。
また,嵌合部32は,台輪の上下方向に延在し,前記突条部31aが嵌るように形成された溝部32aを備える。
台輪1では,一方の接続部3の被嵌合部31と同一直線上に他方の接続部3の嵌合部32が配置され,一方の接続部3の嵌合部32と同一直線上に他方の接続部3の被嵌合部31が配置されている。
つまり,接続部3に設けられている被嵌合部31と嵌合部32は,基礎上面において同形状の台輪1どうしを接合する際に,隣接する他の台輪1の接続部3の嵌合部32と被嵌合部31にそれぞれ嵌合して接続され,台輪1どうしを同一直線上に延在するように接続可能な(図5参照)ものである。
【0032】このように構成された台輪1によれば,同形状の台輪1を長手方向に接続する際に,一方の接続部3の被嵌合部31が他方の接続部3の嵌合部32と,また,一方の嵌合部32が他方の被嵌合部31と嵌合する。そして,これら被嵌合部31と嵌合部32とが嵌合することにより,突条部31aと溝部32aとが嵌合し,基礎上において一方の台輪が他方の台輪に対して台輪の幅方向への移動が抑制される。
また,基礎上面に複数接続して敷き込む際に,接続部を介して接合される一方の台輪1の接続部に他の台輪の接続部が対応しない場合でも,上下面を変更してこれら接続部どうしを嵌合接続することができる。よって,台輪1の設置作業の際に,先に基礎に固定された台輪1の接続部に対応させて,他の台輪の接続部を前記固定された台輪の接続部に嵌合して接続することができる。
【0035】図4は,台輪1が基礎上端に敷き込まれて,基礎と基礎上に構築される建造物本体との間に介在された状態を示す図である。なお,この構造物本体(住宅)は,壁パネルにより壁が構築され,床パネルにより床が構築され,屋根パネルにより屋根が構築されており,いわゆるパネル工法で構築された耐力壁構造の住宅となっている。
図4に示すように,台輪1の上部には,建物の1階の床部8を構成する床パネル81の端部81aと,該床パネル81aの側端面に当接するように配置された半土台82とが載置され,床パネル81の端部81a及び半土台82の上部には1階の壁部9を構成する壁パネル91が立設されている。
この床パネル81の端部81a及び半土台82には,アンカーボルト10が挿通され,このアンカーボルト10は壁パネル91の下端部91aに止着されている。これにより壁パネル91及び基礎7どうしは,該壁パネル91及び基礎7の間で,台輪1,半土台82及び床パネル81の端部81aを挟持した状態で固定される。
【0036】また,台輪は,図5〜図8に示すように基礎上面に基礎の長手方向に沿って複数が接続された状態で敷き込まれている。
図5〜図7に示すように,基礎7上端に複数接続されて敷き込まれることで,基礎と基礎上に構築される建造物本体との間に介在される台輪1では,それぞれ接続部3が,長手方向に隣接する他の台輪本体2の接続部3に,幅方向へ移動しないように嵌合し接続されている。
つまり,嵌合して接続された接続部3の嵌合部32と被嵌合部31は,溝部32aに突条部31aが嵌ることで,長手方向に隣接する他の台輪本体2の接続部3の被嵌合部31と嵌合部32にそれぞれ嵌合して接続されている。
また,嵌合した接続部3のうちの一方がスクリュー釘11により前記基礎7に固定されている。
【図7】 【図8】【0037】上記構造によれば,台輪1には,台輪本体2をその幅方向に貫通する換気孔4が設けられ,この換気孔4によって換気を行うことができるため,通常は基礎部分に設けられる床下換気孔を省略することができる。よって,基礎工事の手間が簡略化される。
また,隣接する台輪1どうしは接続部3どうしを嵌合することで接続され,嵌合した接続部3のうちの一方3が前記基礎に固定されているので,嵌合した接続部3のうちの他方が基礎に固定された状態となっている。したがって,従来と異なり,基礎7上に複数接続されて敷き込まれたそれぞれの台輪を別個に基礎に固定する必要がなくなり,台輪の設置作業を容易に且つ短期間で行うことができる。
カ 発明の効果 【0061】【発明の効果】請求項1記載の発明によれば,前記基礎上端に複数接続して敷き込んだ際に,隣接する台輪どうしが互いに接続部で嵌合して接続され,互いに幅方向に移動することがなくなり,前記基礎上端に複数連続して敷き込まれた際に,嵌合して接続された接続部の一方の接続部3を基礎上に固定するだけで,前記一方の接続部に嵌合して接続された他方の接続部も前記基礎に固定することができる。つまり,隣接する台輪の接続部どうしを嵌合して接続した状態で複数の台輪を前記基礎上に接続して敷き込んだ際に,嵌合して接続される接続部どうしにおいて一方の接続部を固定するだけで,敷き込まれた複数の台輪それぞれを幅方向に動かないように固定することができる。よって,基礎上に台輪を複数敷き込んで設置する際に,従来と異なり,敷き込まれた複数の台輪を台輪毎に基礎に固定する作業,つまり複数の台輪毎に2カ所釘を打ち込んで基礎に固定する作業の必要が無くなり,台輪の敷き込み作業の容易化及び工期の短縮化を図ることができる。
【0062】 また,基礎上端に複数接続して敷き込む際に用いる台輪を全て同じ形状の台輪とし,それぞれを接続する際に,前記嵌合部と前記被嵌合部とを嵌合して,前記複数の台輪を前記基礎上に幅方向に移動しないように接続することができ,基礎上に複数敷き込む際に,同一形状の台輪を複数用意すればよく,接続部が異なる異形状の台輪を制作する必要が無くなり,コストの低廉化を図ることができる。
【0063】 さらに,前記台輪本体の両端部の接続部には,長手方向に隣接する他の台輪本体の接続部の被嵌合部と嵌合部にそれぞれ嵌合して接続する前記嵌合部と前記被嵌合部とが幅方向に並んで配置されているので,台輪の接続部に他の台輪の両接続部のうちのどちらでも嵌合部と被嵌合部とを嵌合接続することで,台輪どうしを接続することができる。
(2) 前記(1)によると,本件発明1について,次のとおり認めることができる。
ア 本件発明1は,基礎上端に敷き込まれて,基礎と基礎上に構築される建造物本体との間に介在される台輪,台輪の設置構造及び設置方法に関する 【000 (1】。
) イ 台輪を基礎上面に固定する際に,台輪毎に2カ所釘を打ち込む作業を減らすことで作業の容易化及び工期の短縮化を図ろうという要望があり,本件発明1の課題は,基礎上端に隣接して設置される複数の台輪の設置作業を容易に行うことができる台輪,台輪の設置構造及び設置方法を提供することである(【0004】,【0005】。
) ウ 以上の課題を解決するため,本件発明1は,例えば,図1及び図2に示すように,複数の台輪1のそれぞれは,前記基礎7の長手方向に沿って配置される台輪本体2と,この台輪本体2の長手方向の両端部にそれぞれ設けられた接続部3,3とを備え,前記台輪本体2の両端部の接続部3,3には,それぞれ嵌合部32と当該嵌合部32に嵌合可能な形状の被嵌合部31とが幅方向に並んで配置され,前記両接続部3,3の嵌合部32と被嵌合部31は,長手方向に隣接する他の台輪本体2の接続部3の被嵌合部31と嵌合部32に幅方向へ移動しないようにそれぞれ嵌合して接続するように構成されており,前記嵌合部32と前記被嵌合部31との形成位置が前記台輪本体2の長手方向の向きを逆にしても接続可能となっている(【0006】。
) エ 隣接する台輪の接続部どうしを嵌合して接続した状態で複数の台輪を前記基礎上に接続して敷き込んだ際に,嵌合して接続される接続部どうしにおいて一方の接続部を固定するだけで,敷き込まれた複数の台輪それぞれを幅方向に動かないように固定することができる。よって,基礎上に台輪を複数敷き込んで設置する際に,従来と異なり,敷き込まれた複数の台輪を台輪毎に基礎に固定する作業,つまり複数の台輪毎に2カ所釘を打ち込んで基礎に固定する作業の必要が無くなり,台輪の敷き込み作業の容易化及び工期の短縮化を図ることができる(【0008】, 【0037】【0061】。
, ) また,基礎上端に複数接続して敷き込む際に用いる台輪を全て同じ形状の台輪としても,幅方向に移動しないように接続できるから,接続部が異なる異形状の台輪を制作する必要がなくなり,コストの低廉化を図ることができる(【0011】【0 ,062】。
) さらに,台輪どうしを接続する際に,一方の台輪の接続部に接続させるのが他の台輪の両接続部のうちのどちらであっても,台輪どうしを接続することができる(【0013】【0032】【0063】。
, , ) 2 取消事由1(本件発明1に係る甲1を主引例とする進歩性判断の誤り)について (1) 甲1発明について ア 甲1には,以下の記載がある。
(ア) 実用新案登録請求の範囲「 方形若しくは長方形基盤1の板面中央部に,平面略太十字状をなすアンカーボルト2の挿通孔Hを穿ち且つ基盤1の片側壁に突部tを突設すると共に反対側壁には該突部と係合する凹部hを形成し然して前記挿通孔の周辺に釘孔rを穿設した建築における基礎と土台間に介装する台座。(1頁5行〜11行) 」 (イ) 考案の詳細な説明「 本考案は基礎と土台間に介装する通気用の台座に関するものであってアンカーボルトによる締着並に釘打ちを自在ならしめ確固安定的に固着せられると共に基礎及び土台が長間であったりこれらが平面鍵形若しくはT字形の場合各台座を自由に接続して介在固着し得られ然して側壁の突部はラス等の下地材張設に際しその下端部を当接することにより該下地材の張設作業を常に容易に然も正確に遂行せしめるようにしたものである。
即ち実施例の図面に示したように,ポリプロピレン,硬質ポリエチレン等の合成樹脂より成る略方形の基盤1の板面中央部に平面略太十字状をなすアンカーボルト2 の挿通孔Hを形成し且つ該基盤の片側壁に楔状突部tを突設すると共に反対側壁に該突部と係合する凹部hを形成し然して前記挿通孔の4辺に釘孔rを穿設して成るものであって,なお図面中3はコンクリート基礎,4は土台,5は土台4上に設立した柱,6はラス等の下地材,7は締着用ナット,8は座金を示した。
本案は以上のように構成したので今本台座を使用する一般の場合は,第3図に示したように予め基盤1の挿通孔Hよりアンカーボルト2をその下端の向きに応じて挿入して該下端をコンクリート基礎3中等間隔に埋設して基盤1を載置した後その各釘孔rより釘を打込んで固着し次で該基盤上面に突出したアンカーボルト2の上部を土台4に予め穿設してあるボルト孔より挿入して上方に突出せしめ然る後該台座上に突出したアンカーボルト2の上端に座金8を介在してナット7で締着すれば基礎3と土台4間には等間隔の通気孔を介して強固安定的に固着せられ次で土台4端部に立設した柱5の外側にラス等の下地材6を張設する場合は第3図右端に示すように該下地材の下端を基盤1側壁の突部t上に順次当接することにより常に容易且つ正確に張設せられ従って作業を極めて能率的に遂行せられるものである。
然して又本案は以上のほか基盤1の片側壁に楔状突部t,反対側壁に該突部と係合する楔状凹部hが形成されてあるので基礎3及び土台4が長間であったり,或はこれらが平面鍵形若しくはT字形に構成されてある場合は第4図に示したように上記突部と凹部を順次係合して接続することにより耐荷力を増大したり各形状に順応して介在固着せられる利点をも具有するものである。
本案は以上のようであるから基礎と土台間に介在する台座を強固安定的に固着せられるのと基礎及び土台の長さや構成に応じて耐荷力を増大したり順応介在せられ然も下地材の張設に際しては基盤側壁の突部が測定具の用を兼ねるので常に容易且つ正確に張設せられ従って作業を能率的に遂行し得られる利益をも具有し然も本案台座はその構造上堅牢安価に量産せられる実益も具有しこの種台座として至極有益な考案である。(1頁13行〜4頁10行) 」 (ウ) 図面 第1図第3図第4図 イ 前記アによると,甲1には,審決認定のとおり,次の甲1発明が記載されていると認められる。
「ポリプロピレン,硬質ポリエチレン等の合成樹脂より成る方形若しくは長方形基 盤1の板面中央部に,平面略太十字状をなすアンカーボルト2の挿通孔Hを穿ち且つ基盤1の片側壁に突部tを突設すると共に反対側壁には該突部tと係合する凹部hを形成し,前記挿通孔Hの周辺に釘孔rを穿設したコンクリート基礎と土台間に介装する通気用の台座であって, 予め基盤1の挿通孔Hよりアンカーボルト2をその下端の向きに応じて挿入して該下端をコンクリート基礎3中等間隔に埋設して,基盤1をコンクリート基礎3の長手方向に沿って間隔を空けて複数配置した後,その各釘孔rより釘を打込んで固着し,該基盤1上面に突出したアンカーボルト2の上部を土台4に予め穿設してあるボルト孔より挿入して上方に突出せしめて,該台座上に突出したアンカーボルト2の上端に座金8を介在してナット7で締着することにより,コンクリート基礎3と土台4間に等間隔の通気孔を介して強固安定的に固着せられ, 突部t,凹部hのサイズは略同一であり,突部t,凹部hはそれぞれ係合面に沿って並んで配置されており, コンクリート基礎3及び土台4が長間であったり,或はこれらが平面鍵形若しくはT字形に構成されてある場合は上記突部tと凹部hを順次係合して接続することにより耐荷力を増大したり各形状に順応して介在固着せられる,通気用の台座。」 (2) 本件発明1と甲1発明との相違点 本件発明1と甲1発明とを対比すると,審決が認定するとおり,下記アの一致点1で一致し,下記イの相違点1〜3で相違する。
ア 一致点1「基礎と基礎上に構築される建造物本体との間に介在される台輪において, 複数の台輪のそれぞれは, 前記基礎の長手方向に沿って配置される台輪本体と, この台輪本体の両端部にそれぞれ設けられた接続部とを備え, 前記台輪本体の両端部の接続部には,嵌合部と当該嵌合部に嵌合可能な形状の被嵌合部とが配置され, 前記両接続部の嵌合部と被嵌合部は,隣接する他の台輪本体の接続部の被嵌合部と嵌合部に嵌合面に沿う方向へ移動しないようにそれぞれ嵌合して接続するように構成されている, 台輪。」 イ 相違点 (ア) 相違点1 本件発明1は「基礎上端に複数接続されて敷き込まれる」台輪であるのに対し,甲1発明はそのような特定がなされていない点。
(イ) 相違点2 本件発明1は,接続部が「台輪本体の長手方向の両端部にそれぞれ設けられ」ているのに対し,甲1発明は,接続部が台座の長手方向の両端部に設けられているのか明らかでない点。
(ウ) 相違点3 接続部に関して,本件発明1は「台輪本体の両端部の接続部には,それぞれ嵌合部と当該嵌合部に嵌合可能な形状の被嵌合部とが幅方向に並んで配置され,「嵌合 」部と前記被嵌合部との形成位置が前記台輪本体の長手方向の向きを逆にしても接続可能となっている」のに対し,甲1発明はそのような特定がなされていない点。
(3) 理由1-2(相違点3の容易想到性判断の誤り)について ア 原告主張の周知技術について (ア) 甲6(特許第2533417号公報)について 甲6には,次のa,bの記載があり,これらの記載によると,相違点3に係る本件発明1の構成に関し,次のcのとおり,認められる。
a 産業上の利用分野【0001】・・・この発明は,型枠ブロックの施工方法に関し,型枠ブロックを組積みして壁や塀等の構造物を建造するに際し,建設現場における型枠ブロックの積み上げ作業 を少なくして工期の短縮を可能にするための施工方法を提供するものである。
b 実施例【0016】図2および図3は,上記図1のパネル10を形成するのに適した型枠ブロックの一例を示す。この型枠ブロック20において,前板部21および後板部22の内面には,その下縁に沿ってそれぞれ段状凹部23および24が形成され,また左右の縁に沿ってそれぞれ段状の凹部25および26が形成される。したがって,この型枠ブロック20を組積みした際,前板部21,21の上下の隣接部内面に横方向の凹溝27が,また左右の隣接部内面に上下方向の凹溝28がそれぞれ形成される。また,後板部22,22の上下の隣接部内面に横方向の凹溝29が,また左右の隣接部内面に上下方向の段状凹部30がそれぞれ形成される。
【図1】 【図2】【図3】【0017】しかして,前板部21および後板部22の左右の端面に互いに嵌合する高さ方向の凹凸条が型枠ブロックの中心Mに対して点対称に,かつ幅方向の中心線Nに対して非対称に形成される。すなわち,図2に示すように,前板部21の左端部および後板部22の右端部にそれぞれ外側で突出し内側で窪む階段状の凹凸条が,また前板部21の右端部および後板部22の左端部にそれぞれ外側で窪み内側で突出する階段状の凹凸条がそれぞれ高さ方向に形成され,前者の凹凸条と後者の凹凸条とが噛み合うようになっている。
【0020】上記の図2,3に示す型枠ブロック20は,前板部21および後板部22の左右の端面に互いに嵌合する高さ方向の凹凸条を備えているので,組積みの際の位置決めが容易である。そして,上記の凹凸条が型枠ブロックの中心Mに対し て点対称に,かつ幅方向の中心線Nに対して非対称に形成されているので,組積みの際に型枠ブロックの天地を間違えない限り,表裏を間違えても支障がない。
c 検討 前記a,bの記載によると,甲6には, 「前板部21及び後板部22を含み,前板部21及び後板部22の左右の端面により他の型枠ブロックと接続する型枠ブロック20であって,型枠ブロック20の両端部(前板部21及び後板部22の左右の端面)には,それぞれ, 「外側で突出し内側で窪む階段状の凹凸条」 (以下, 「外優位型凹凸条」という。)と,これと噛み合う形状の「外側で窪み内側で突出する階段状の凹凸条」 (以下, 「内優位型凹凸条」という。)とが幅方向に並んで配置され,外優位型凹凸条と内優位型凹凸条との形成位置が型枠ブロック20の長手方向の向きを逆にしても接続可能となっている型枠ブロック20」が開示されている。
もっとも,甲6には,前記bのとおり,外優位型凹凸条と内優位型凹凸条が「互いに嵌合する」【0017】【0020】 ( , )と記載されているものの,@一般に, 「嵌合」とは,「はめあい」の意であり,「はめあい(嵌合)」とは,「軸が穴にかたくはまり合ったり,滑り動くようにゆるくはまり合ったりする関係をいう語。かんごう。」を意味するから(広辞苑第七版) 穴状や溝状の凹部とそれに適合する凸部とがはま ,り合うことを指すこと,A本件明細書を参酌すると,本件発明1は,前記1(2)ウのとおり,嵌合接続により幅方向への移動を規制するものであることからすると,本件発明1にいう「嵌合」に,それのみでは幅方向への移動を規制することができない,穴状や溝状の凹部とそれに適合する凸部とがはまり合っていないものが含まれると解することはできない。そうすると,外優位型凹凸条と内優位型凹凸条は,いずれも「階段状の凹凸条」であって,穴状や溝状の凹部を有せず,それのみでは幅方向への移動を規制することができないから,相違点3に係る本件発明1の構成にいう「嵌合部」及び「被嵌合部」に当たらないと認められる。
(イ) 甲7(意匠登録第1044570号公報)について 甲7には,意匠に係る物品である「芝生保護材」について,次のa,bの記載が あり,この記載によると,相違点3に係る本件発明1の構成に関し,次のcのとおり,認められる。
a 説明「本物品は,芝生を保護するために用いられるもので,合成樹脂により一体的に成形される。本物品は,その四辺に設けた連結部により順次連結して面を構成し,公園等の芝生植生地に敷設される。・・・」 b 平面図 c 検討 前記a,bの記載によると,甲7には, 「芝生保護材の両端部の接続部には,それぞれ嵌合部と当該嵌合部に嵌合可能な被嵌合部とが幅方向に並んで配置され,嵌合部と被嵌合部との形成位置が芝生保護材の両接続部を結ぶ方向の向きを逆にしても接続可能となっている芝生保護材」が開示されている。
(ウ) 甲8(実用新案登録第2586977号公報)について 甲8には,次のa〜cの記載があり,この記載によると,相違点3に係る本件発明1の構成に関し,次のdのとおり,認められる。
a 産業上の利用分野 「 本考案は,鉄道,高速道路等で使用する情報ケーブル等各種の配線を収容保護する配線路を構築敷設するための配線路用ブロックに関するものである。(3欄2 」4行〜26行) b 課題を解決するための手段「・・・第1図において,符号aはブロック本体で,底板1と左右側壁2,3とで凹溝形をなして構成されている。
そして,その底板1の長手方向一端面1’,他端面1”及び左右側壁2,3のそれぞれの長手方向一端面2’,3’,他端面2”,3”に,互いに噛合する関係に設計され,嵌まり合う関係とされた突起部4’,4”,6’,6”と受入凹部5’,5”,7’,7”を格別に形成している。もって両端面に各々4カ所の噛合部が形成される。
また,符号b,cはブロック蓋板で,それは,平板形長方形状をなすと共に,長手方向両端面b’,b”あるいはc’,c”に互いに噛合し,嵌まり合う関係に設計された突起部10’,10”,12’,12”と受入孔11’,11”,13’,13”を各々形成してなる。
よって,前記ブロック本体aの噛合部4か所とあわせ,配線路用ブロックの接続面となる端面に合計6か所の噛合部が形成される。
ここで,配線路の施工に際して,ブロック蓋板は前記bあるいはcのいずれを使用しても構わないものである。
上記において,ブロック本体aの底板1の長手方向一端面1’に所要の間隔をおいて形成した突起部4’及び受入凹部5’と,両長手方向〔判決注・「同長手方向」の誤記と認める。〕他端面1”に形成する受入凹部5”及び突起部4”を互いに対応させるとともに,左右側壁2,3の長手方向一端面2’,3’に形成した突起部6’あるいは受入凹部7’に同長手方向他端面2”,3”に形成する受入凹部7”あるいは突起部6”を互いに対応させておく。
さらに,ブロック蓋板b,あるいはブロック蓋板cの長手方向一端面b’,c’に所要の間隔をおいて形成した突起部10’12’及び受入孔11’,13’と,長手 方向他端面b”,c”に形成する受入孔11”,13”及び突起部10”,12”を対応させておく。そしてこれらを噛合させ,配線路用ブロックを接続する。
これによって,これらブロック本体a及びブロック蓋板b,あるいはブロック蓋板cは,いずれもその前後方向に動くことがなく一体のものとなる。(5欄5行〜 」42行)【第1図】 c 作用「 さらに,ブロック本体及びブロック蓋板は,長手方向で向きを反転させたときにも同一形状となるから,いずれもその前後に方向性がなく共通になり,接続に至便である。(6欄21行〜24行) 」 d 検討 前記a〜cの記載によると,甲8には, 「ブロック本体aの底板1,ブロック蓋板b又はブロック蓋板c(以下,「各部材」という。)について,各部材の両端部の接続部には,それぞれ嵌合部(受入凹部5’ 5” 受入孔11’ 11” 13’ 13” , , , , , ) と当該嵌合部に嵌合可能な被嵌合部(突起部4’ 4” 10’ 10” 12’ 12” , , , , , )とが幅方向に並んで配置され,嵌合部と被嵌合部との形成位置が各部材の長手方向の向きを逆にしても接続可能となっている各部材」が開示されている。
(エ) 甲9(特開平11-100911号公報)について 甲9には,次のa,bの記載があり,これらの記載によると,相違点3に係る本件発明1の構成に関し,次のcのとおり,認められる。
a 特許請求の範囲【請求項1】 布基礎上に載置されアンカボルトの挿通孔が設けられたパッキンと,端面視U字状形をなし前記パッキン上に載置され,底部に前記アンカボルトの挿通孔が設けられると共に側部に釘孔が設けられ,土台を受け且つ釘固定する金具と,前記アンカボルトに螺合して前記金具と前記パッキンとを前記布基礎に固定するナットとを備えたことを特徴とする土台の締結装置。
b 発明の実施の形態【0024】図7は,金具の他の実施例を示す。図7において金具25は,2分割タイプとされ,2つのL形の金具26と27とから成り,金具26,27は,底部26a,27aに各対抗〔判決注・「対向」の誤記と認める。〕する端面に開口する略半円状の切欠26b,27bが設けられ,これらの切欠26b,27bの両側に互いに噛み合うように,櫛状の突起26cとスリット27d,突起27cとスリット状の切欠26dとを設け,対抗〔判決注・「対向」の誤記と認める。〕する側部26eと27eとの間隔を任意に調節可能としたものである。そして,中央の対抗〔判決注・「対向」の誤記と認める。〕する半円形状の切欠26bと27bとによりアンカボルトの挿通孔が形成される。これにより土台の幅寸法に応じて側部26eと27eとの間隔を自由に調節することができ,土台の両側面に確実に側部26e,27eを当接することができる。また,汎用性があり,土台の寸法毎の金具を備える必要がなくなり,在庫品を少なくすることができる。
【図7】 c 検討 前記a,bの記載によると,甲9には, 「2つのL形の金具26,27の接続部には,嵌合部(スリット27d,スリット状の切欠26d)と被嵌合部(突起26c,27c)とが幅方向に並んで配置された金具26,27」が開示されている。
しかし,金具26,27の接続部は両端部になく,したがって,嵌合部と被嵌合部の形成位置が金具の長手方向の向きを逆にしても接続可能となっている構成も開示されていない。
(オ) 甲10(特開平10-113475号公報)について 甲10には,次のa,bの記載があり,これらの記載によると,相違点3に係る本件発明1の構成に関し,次のcのとおり,認められる。
a 発明の属する技術分野【0001】・・・この発明は,乗用玩具とともに用いられる乗用玩具用レールに関するものである。
b 発明の実施の形態【0029】図3ないし図5は,1つの直線レールユニット2を示すもので,図3は平面図,図4は正面図,図5は左側面図である。直線レールユニット2は,その幅方向中心線に沿って位置し,かつ直線状に延びるガイド凸部16aを有している。
このレールユニット2の一方端部であって,ガイド凸部16aの一方側には,第1形式の連結部17が設けられ,同じく他方側には,第2形式の連結部18が設けられる。他方,レールユニット2の他方端部であって,ガイド凸部16aの一方側には,第2形式の連結部18が設けられ,同じく他方側には,第1形式の連結部17が設けられる。これら第1形式および第2形式の連結部17および18の詳細については後述するが,第1形式の連結部17と第2形式の連結部18とは,互いに着脱可能に係合され得る構造を有している。
【図3】【0032】たとえば,2つの直線レールユニット2を連結する場合,この連結にあたっては,各々のレールユニット2をどの方向に向けようと,連結が可能である。
なぜなら,前述したように,各レールユニット2の一方端部であって,ガイド凸部16aの一方側には,第1形式の連結部17が設けられ,同じく他方側には,第2形式の連結部18が設けられ,また,各レールユニット2の他方端部であって,ガイド凸部16aの一方側には,第2形式の連結部18が設けられ,同じく他方側に は,第1形式の連結部17が設けられているからである。
c 検討 前記a,bの記載によると,甲10には, 「直線レールユニット2の両端部の接続部には,それぞれ嵌合部(第1形式の連結部17)と被嵌合部(第2形式の連結部18)とが幅方向に並んで配置され,嵌合部と被嵌合部との形成位置が直線レールユニット2の両接続部を結ぶ方向の向きを逆にしても接続可能となっている直線レールユニット2」が開示されている。
(カ) 周知技術についての小括 前記(ア)〜(オ)によると,甲7,8,10には,それぞれ, 「部材の両端部の接続部には,それぞれ嵌合部と被嵌合部とが幅方向に並んで配置され,嵌合部と被嵌合部との形成位置が部材の両接続部を結ぶ方向の向きを逆にしても接続可能となっている部材」という技術事項(以下,「本件技術事項」という。)が開示されていると認められるが,甲6,9には,本件技術事項は開示されていない。
そして,甲7に開示された本件技術事項は,芝生保護材に関するものであり,甲8に開示された本件技術事項は,配線路用ブロックに関するものであり,甲10に開示された本件技術事項は,乗用玩具用レールに関するものであるから,台座(台輪)に関する甲1発明とは,属する技術分野が大きく異なり,属する技術分野の関連性がほとんどないし,甲7,8,10相互の属する技術分野も大きく異なる。
そうすると,台座(台輪)に関する甲1発明の属する技術分野において,本件技術事項が周知技術であるとは認められないし,わずか3件の知的財産権の公報における開示のみによって,本件技術事項が技術分野を問わず周知技術であるとまでは認められない。
イ 相違点3の容易想到性について (ア) 甲1には,長手方向の向きを逆にしても,接続部を接続可能とすることについては,記載も示唆もない。また,甲1発明は, 「基礎と土台間に介装する通気用の台座」であって,基盤1の板面中央部にアンカーボルト2の挿通孔Hを形成し, 一般の場合は,挿通孔Hより挿入したアンカーボルト2の下端をコンクリート基礎3中等間隔に埋設するなどして,この台座を使用することにより,基礎3と土台4間に等間隔の通気孔を形成するものであるから,基盤1が方形の場合はもちろん,長方形の場合であっても,いわゆる長尺物の台輪のように,長手方向の向きを変えることに手間がかかるような長さのものは想定し難く,そのような長手方向の向きを変えることが容易な台座(台輪)において,長手方向の向きを逆にしても,接続部を接続可能とすることが,周知の課題であると認めるに足りる証拠もない。さらに,前記アのとおり,甲7,8,10には,本件技術事項が開示されているが,いずれも,台座(台輪)に関する甲1発明とは,属する技術分野が大きく異なり,属する技術分野の関連性がほとんどないし,また,本件技術事項は,台座(台輪)に関する甲1発明の属する技術分野においても,技術分野を問わないものとしても,周知技術であるとは認められない。そうすると,甲1発明に甲7,8,10に開示されている本件技術事項を適用する動機付けがあるとはいえない。
(イ) また,仮に,本件発明1の「嵌合」が甲6の外優位型凹凸条と内優位型凹凸条とが噛み合うことを含むものと解しても,甲1発明が上記(ア)のようなものであって,上記の甲1発明の側壁に設けられた突部t及び凹部hと,甲6の前板部及び後板部の各端面に設けられた外優位型凹凸条及び内優位型凹凸条とは,その形状が相当に異なるものであり,甲1発明の接続部において,前者に代えて後者を適用すべき理由も見当たらないことに照らすと,甲1発明に甲6の接続部に係る技術事項を適用する動機付けがあるとはいえない。
(ウ) 甲2〜5及び甲11〜13には,相違点3に係る本件発明1の構成は開示されていないから,甲1発明に,甲2〜5及び甲11〜13に開示された技術事項を組み合わせても,相違点3に係る本件発明1の構成には至らない。
(エ) 以上によると,甲1発明及び甲2〜13に基づいて,相違点3に係る本件発明1の構成を容易に想到することができたとはいえない。
ウ 原告の主張について 原告は,種々の相互に接続して用いられる部材の端部にそれぞれ設けられた嵌合部と被嵌合部とからなる接続部を備え,その接続部を幅方向へ移動しないようにそれぞれ嵌合して部材同士を接続するようにすることは,接続構造として一般的なものであって,その接続部の嵌合部と被嵌合部の形成位置に関しては, (a)部材に方向性を持たせる形成位置とする,具体的には,部材の一端部に「凸,凸」の嵌合部を設け,他端部に「凹,凹」の被嵌合部を設けるようにするか, (b)部材の方向の向きを逆にしても接続可能となる形成位置とする,具体的には,部材の一端部に「凸,凹」の嵌合部及び被嵌合部を設け,他端部に「凹,凸」の被嵌合部及び嵌合部を設けるようにするかの2通りしかなく,また,上記(a)の接続方式と同様に,上記(b)の接続方式も,技術分野に関係なく,嵌合部と被嵌合部とからなる接続部の構造として,本件出願日前に一般的に行われていた周知の技術にすぎない(例えば,甲6〜10)などと主張する。
しかし,前記アのとおり,上記(b)の接続方式が,技術分野を問わない周知技術であると認めることはできない。また,接続部の嵌合部と被嵌合部の形成位置が原告が主張するとおり2通りしかないとしても,甲1発明に甲6,7,8,10に開示されている技術事項を適用する動機付けが認められないとの前記判断を左右するものではない。
(4) 小括 以上によると,理由1-2(相違点3の容易想到性判断の誤り)は理由がないから,その余の点について判断するまでもなく,取消事由1(本件発明1に係る甲1を主引例とする進歩性判断の誤り)は理由がない。
3 取消事由2(本件発明2に係る甲1を主引例とする進歩性判断の誤り)について 本件発明2と甲1発明とを対比すると,少なくとも,相違点3で相違する。
したがって,前記2と同様の理由により,取消事由2は理由がない。
4 取消事由3(本件発明3に係る甲1を主引例とする進歩性判断の誤り)につ いて 本件発明3は,本件発明1又は本件発明2を更に限定したものであるから,甲1発明とは,少なくとも,相違点3で相違する。
したがって,前記2と同様の理由により,取消事由3は理由がない。
5 取消事由4(本件発明4に係る甲1を主引例とする進歩性判断の誤り)について 本件発明4は,本件発明1〜3のいずれかの台輪を発明特定事項に含むものであるから,甲1発明(台座の設置構造として認定したもの)とは,少なくとも,相違点3で相違する。
したがって,前記2と同様の理由により,取消事由4は理由がない。
6 取消事由5(本件発明5に係る甲1を主引例とする進歩性判断の誤り)について 本件発明5は,本件発明1〜3のいずれかの台輪を発明特定事項に含むものであるから,甲1発明(台輪の設置方法として認定したもの)とは,少なくとも,相違点3で相違する。
したがって,前記2と同様の理由により,取消事由5は理由がない。
7 結論 以上によると,原告の請求は,理由がないから,これを棄却することとして,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 森義之
裁判官 森岡礼子
裁判官 古庄研