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追加

関連審決 無効2017-800004
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事件 平成 30年 (行ケ) 10064号 審決取消請求事件

原告 株式会社ウイングターフ
訴訟代理人弁理士 実広信哉
同 塩尻一尋
同 浜井英礼
被告株式会社シーライブ
訴訟代理人弁理士 小池晃
同 河野貴明
同 村上浩之
同 北原明彦
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2019/02/28
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1 特許庁が無効2017−800004号事件について平成30年3月27日にした審決を取り消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
請求
主文第1項と同旨
事案の概要
1 特許庁における手続の経緯等 1 ? 被告及び株式会社ノベルト(以下「ノベルト」という。)は,平成24年 3月19日,発明の名称を「核酸分解処理装置」とする発明について特許出 願(特願2012-62880号。以下「本件出願」という。)をし,平成 26年1月24日,特許権の設定登録(特許番号第5463378号。請求 項の数4。以下,この特許を「本件特許」という。甲21)を受けた。
? 原告は,平成29年1月17日,本件特許について特許無効審判を請求(無 効2017-800004号事件)した(甲22,44)。
被告及びノベルトは,同年11月30日付けの審決の予告(甲35)を受 けたため,同年12月27日付けで,請求項1ないし4からなる一群の請求 項について,請求項2ないし4を訂正し,請求項1を削除する,本件出願の 願書に添付した明細書(以下,図面を含めて「本件明細書」という。)につ いて訂正する旨の訂正請求(以下「本件訂正」という。甲37)をした。
その後,特許庁は,平成30年3月27日,本件訂正を認めた上で,「本 件審判の請求は,成り立たない。」との審決(以下「本件審決」という。) をし,その謄本は,同年4月5日,原告に送達された。
この間に被告は,ノベルトから本件特許に係る特許権の持分の譲渡を受け, その旨の移転登録(受付日平成30年1月5日)を受けた(甲44)。
? 原告は,平成30年5月2日,本件審決の取消しを求める本件訴訟を提起 した。
2 特許請求の範囲の記載 本件訂正後の特許請求の範囲の請求項2ないし4の記載は,以下のとおりで ある(以下,請求項2に係る発明を「訂正発明2」,請求項3に係る発明を「訂 正発明3」及び請求項4に係る発明を「訂正発明4」という。甲37)。
【請求項2】 メタノールタンクから供給されたメタノールを霧状に噴射するノズルを備 え,該ノズルを介して噴射されたメタノールを気化してメタノールガスを発生 2 させるメタノールガス発生部と,上記メタノールガス発生部の上方に位置して,熱反射可能な多孔質金属材料で互いに隔てられた上部と下部とからなり,該上部には空気を供給する空気供給部が連結されており,該メタノールガス発生部から発生したメタノールガスを自然対流により上方に移行させる流路となるとともに,上記メタノールガスに該空気供給部から供給された空気を所定の割合で混合させる筒体部と,上記筒体部の上方に位置し,該筒体部において上記所定の割合で空気が混合したメタノールガスを触媒反応によりラジカル化する触媒部とを有し,上記触媒部は,金属薄板をハニカム構造に成形してなるラジカル反応触媒より構成され,該ラジカル反応触媒を複数積層してなり,空気が混合したメタノールガスを触媒反応によりラジカル化して少なくともメタノールに由来する活性種を含み生成される複合ガス(以下「バイオガス」という)を発生するバイオガス発生部と, 上記バイオガス発生部における生成ガス量を供給空気量とメタノール量で制御する生成ガス量制御手段と, 上記バイオガス発生部により発生したバイオガスが供給される暴露部と, 上記暴露部の暴露空間内の温度を制御する温度制御手段と, 上記暴露部の暴露空間内の湿度を制御する湿度制御手段と, 上記暴露部に供給されたバイオガスを排気する排気処理部と, 上記排気処理部により上記暴露部から排気するバイオガスの排気量を制御するバイオガスの排気量制御手段と, 上記暴露部におけるバイオガスのホルムアルデヒド成分の濃度を測定するホルムアルデヒド成分濃度測定手段と, 臭いを検出又は測定する手段を備え, 上記ホルムアルデヒド成分濃度測定手段による測定結果として得られるガス濃度情報が上記生成ガス量制御手段に帰還され,上記バイオガス発生部において,一定の触媒の自己反応温度と濃度のバイオガスとなるように,上記生成 3 ガス量制御手段により上記バイオガス発生部における生成ガス量が供給空気 量とメタノール量で制御されるとともに,上記排気量制御手段により上記暴露 部から排気するバイオガスの排気量を制御することにより,上記暴露部の庫内 ガス濃度を一定にし, 上記排気量制御手段により制御される排気処理手段による上記暴露部の暴 露空間内のバイオガスの排気処理に起因して生じる庫内差圧を検出する庫内 差圧検出手段を備え, 上記庫内差圧検出手段による検出結果から得られる庫内差圧情報が上記排 気量制御手段に帰還され,上記排気量制御手段により上記暴露部から排気する バイオガスの排気量を制御することにより,上記暴露部の庫内差圧を一定にす ることを特徴とする核酸分解処理装置。
【請求項3】 上記バイオガス発生部は,メタノール,ホルムアルデヒド,一酸化炭素,二 酸化炭素,水素,酸素の成分を少なくとも含有した活性酸素とフリーラジカル からなる複合ラジカルガスを発生することを特徴とする請求項2に記載の核 酸分解処理装置。
【請求項4】 上記バイオガス発生部は,上記自己反応温度が400℃〜500℃の範囲内 に制御されることを特徴とする請求項3記載の核酸分解処理装置。
3 本件審決の理由の要旨 (1) 本件審決の理由は,別紙審決書(写し)のとおりである。
その要旨は,請求人(原告)の主張する訂正発明2ないし4に係る無効理 由1(本件出願前に頒布された刊行物である甲1(特開2010-5169 2号公報)を主引用例とする進歩性の欠如),無効理由2(サポート要件違 反),無効理由3(実施可能要件違反)及び無効理由4(明確性要件違反) は,いずれも理由がないというものである。
4 (2) 本件審決が認定した甲1に記載された発明(以下「甲1発明」という。 , ) 訂正発明2と甲1発明の一致点及び相違点,無効理由1についての判断の要 旨は,以下のとおりである。
ア 甲1発明 メタノールタンクから供給されたメタノールを霧状に噴射するノズル を備え,該ノズルを介して噴射されたメタノールを気化してメタノールガ スを発生させるメタノールガス発生部と,上記メタノールガス発生部の上 方に位置して,熱反射可能な多孔質金属材料で互いに隔てられた上部と下 部とからなり,該上部には空気を供給する空気供給部が連結されており, 上記メタノールガス発生部から発生したメタノールガスを自然対流によ り上方に移行させる流路となるとともに,上記メタノールガスに該空気供 給部から供給された空気を所定の割合で混合させる筒体部と,上記筒体部 の上方に位置し,該筒体部において上記所定の割合で空気が混合したメタ ノールガスを触媒反応によりラジカル化する触媒部とを有し,上記触媒部 は,金属薄板をハニカム構造に成形してなるラジカル反応触媒より構成さ れ,該ラジカル反応触媒を複数積層してなり,空気が混合したメタノール ガスを触媒反応によりラジカル化して,MRガスを発生するMRガス発生 装置と,上記MRガス発生装置における生成MRガス量を供給空気量とメ タノール量で制御する生成MRガス量制御手段と,上記MRガス発生装置 から発生したMRガスによって滅菌処理を施す滅菌タンクを備えた滅菌 処理装置であって,DNAを破壊することが可能な滅菌処理装置。
イ 訂正発明2と甲1発明の一致点及び相違点 (一致点) 「メタノールタンクから供給されたメタノールを霧状に噴射するノズル を備え,該ノズルを介して噴射されたメタノールを気化してメタノールガ スを発生させるメタノールガス発生部と,上記メタノールガス発生部の上 5 方に位置して,熱反射可能な多孔質金属材料で互いに隔てられた上部と下部とからなり,該上部には空気を供給する空気供給部が連結されており,上記メタノールガス発生部から発生したメタノールガスを自然対流により上方に移行させる流路となるとともに,上記メタノールガスに該空気供給部から供給された空気を所定の割合で混合させる筒体部と,上記筒体部の上方に位置し,該筒体部において上記所定の割合で空気が混合したメタノールガスを触媒反応によりラジカル化する触媒部とを有し,上記触媒部は,金属薄板をハニカム構造に成形してなるラジカル反応触媒より構成され,該ラジカル反応触媒を複数積層してなり,空気が混合したメタノールガスを触媒反応によりラジカル化して,MRガスを発生するMRガス発生装置と,上記MRガス発生装置における生成MRガス量を供給空気量とメタノール量で制御する生成MRガス量制御手段と,上記MRガス発生装置から発生したMRガスが供給される滅菌タンクを備えたDNA破壊処理装置。」である点。
(相違点1) 訂正発明2は,滅菌タンク内の温度を制御する温度制御手段と,滅 菌タンク内の湿度を制御する湿度制御手段と,滅菌タンクに供給されたMRガスを排気する排気処理部と,上記排気処理部により滅菌タンクから排気するMRガスの排気量を制御するMRガスの排気量制御手段と,滅菌タンクにおけるMRガスのホルムアルデヒド成分の濃度を測定するホルムアルデヒド成分濃度測定手段と,臭いを検出又は測定する手段を備え,上記ホルムアルデヒド成分濃度測定手段による測定結果として得られるガス濃度情報が生成MRガス量制御手段に帰還され,MRガス発生装置において,一定の触媒の自己反応温度と濃度のMRガスとなるように,生成MRガス量制御手段によりMRガス発生装置における生成MRガス量が供給空気量とメタノール量で制御されるとともに,上記排気量制御手段により 6 滅菌タンクから排気するMRガスの排気量を制御することにより,滅菌タ ンクの庫内ガス濃度を一定にするという構成を備えるのに対し,甲1発明 は,かかる構成について記載されていない点。
(相違点2) 訂正発明2は,上記排気量制御手段により制御される排気処理手段によ る滅菌タンク内のMRガスの排気処理に起因して生じる庫内差圧を検出 する庫内差圧検出手段を備え,上記庫内差圧検出手段による検出結果から 得られる庫内差圧情報が上記排気量制御手段に帰還され,上記排気量制御 手段により滅菌タンクから排気するMRガスの排気量を制御することに より,滅菌タンクの庫内差圧を一定にするという構成を備えるのに対し, 甲1発明は,かかる構成について記載されていない点。
ウ 無効理由1についての判断の要旨 本件審決は,無効理由1について,@相違点1の容易想到性は認められ るが,相違点2の容易想到性は認められないから,甲1発明に甲2(国際 公開第01/026697号の再公表公報)に記載された発明及び周知技 術を組み合わせることにより,当業者が訂正発明2を容易に発明をするこ とができたということはできない,A訂正発明2を引用する訂正発明3, 訂正発明3を引用する訂正発明4についても,同様に当業者が容易に発明 をすることができたということはできない旨判断した。
当事者の主張
1 取消事由1-1(甲1を主引用例とする訂正発明2の進歩性の判断の誤り) について ? 原告の主張 ア 相違点2の容易想到性の判断の誤り (ア) 訂正発明2の「庫内差圧検出手段」の意義等 本件審決は,@本件明細書の【0143】ないし【0147】の記載 7 事項によれば,訂正発明2の「庫内差圧検出手段」は,「滅菌タンク内がタンク外よりも陰圧であることを検出する庫内差圧検出手段であって,滅菌タンク内のMRガスの排気処理に起因して生じる庫内差圧を検出するものである」と認められる,A滅菌タンク内の圧力は,訂正発明2では,陰圧を維持するように制御するのに対して,甲2には,陽圧を維持するように制御することが記載されており,滅菌タンク内の圧力を陰圧に維持するように滅菌タンクからのMRガスの排気量を制御して,滅菌タンクの庫内差圧を一定にしようとすることは,甲2の記載から導き出せる事項ではないから,甲1発明に甲2に記載された発明を適用しても,相違点2に係る訂正発明2の「庫内差圧検出手段」の構成を当業者が容易に想到することができたということはできない旨判断した。
しかしながら,訂正発明2の特許請求の範囲(請求項2)には,「上記排気量制御手段により制御される排気処理手段による上記暴露部の暴露空間内のバイオガスの排気処理に起因して生じる庫内差圧を検出する庫内差圧検出手段」との記載があるが,「庫内差圧検出手段」とは暴露空間内が「陰圧」であることを検出するものであるとの限定は存在せず,暴露空間内を陰圧に維持するように制御するとの限定も存在しない。
また,「庫内差圧」は,暴露空間内の温度の上昇による空気の体積膨脹や暴露空間へのバイオガス(MRガス)の供給量と暴露空間からのバイオガスの排気量との相対的バランスなどの様々な要因によって生じることは,当業者にとって自明である。例えば,バイオガスの供給量がバイオガスの排気量を上回れば庫内差圧は「陽圧」となる傾向があるのに対し,バイオガスの供給量がバイオガスの排気量を下回れば庫内差圧は「陰圧」となる傾向があり,バイオガス(MRガス)の排気処理は,必ず暴露空間内を「陰圧」とするわけではない。
したがって,請求項2の「庫内差圧」が「上記排気量制御手段によ 8 り制御される排気処理手段による上記暴露部の暴露空間内のバイオガス の排気処理に起因して生じる」との文言は,「庫内差圧」がバイオガス の排気状況に依存して生じることを意味するに過ぎず,「庫内差圧」 が「陰圧」と同義であることを意味するものとはいえないから,本件 審決における訂正発明2の「庫内差圧検出手段」の解釈には誤りがあ る。
以上によれば,本件審決の上記判断は,その前提において,誤りが ある。
(イ) 甲2の開示事項 甲2の記載事項(14頁11行,15頁26行〜16頁9行,16頁 18行〜26行,17頁13行〜15行,図1及び2)によれば,甲2 記載の「第2の実施の形態」(図2)は,MRガスの濃度を制御する「第 1の実施の形態」に,微差圧検出器56を備えた室圧調整装置6を付加 したものであり,微差圧検出器56によって検出されたMRガスによる 処理が行われる室内と室外との気圧差の情報に基づいて,この気圧差が 一定となるように,室圧調整装置6のコントロールユニット58,排気 量調整電磁弁74及び送風機82によってMRガスの排気を制御するも のであり,また,MRガスの濃度と上記室内外の気圧差とを同時に一定 の値に制御している。
もっとも,甲2記載の「第2の実施の形態」では,MRガスの濃度の 制御はホルムアルデヒドガス供給排出装置4の制御器24によって行わ れ,庫内差圧の制御は室圧調整装置6のコントロールユニット58によ って行われ,両制御は別々の装置によって行われているところ,訂正発 明2の特許請求の範囲(請求項2)には,庫内ガス濃度の制御と庫内差 圧の制御とを同一の装置で行うのか,別の装置で行うのかについて何ら 規定されておらず,ましてや両制御を同一の装置で行うとの限定は存在 9 しないこと,本件明細書記載の訂正発明2の実施態様(図1)において も,庫内ガス濃度の制御はバイオガス発生部110で行われる一方で, 庫内差圧の制御は排気処理部140で行われており,各制御は別々の 装置で実施されていることからすると,「第2の実施の形態」におけ るMRガスの濃度と上記室内外の気圧差の制御は,訂正発明2の庫内ガ ス濃度の制御及び庫内差圧の制御に含まれるというべきである。
そうすると,甲2記載の「微差圧検出器56」,「コントロールユニ ット58」及び「排気量調整電磁弁74及び送風機82」は,それぞれ, 訂正発明2の「庫内差圧検出手段」,「上記庫内差圧検出手段による検 出結果から得られる庫内差圧情報が…帰還され」る「上記排気量制御手 段」及び「上記排気量制御手段により制御される排気処理手段」に相当 するものといえるから,甲2には,相違点2に係る訂正発明2の構成が 開示されている。
これに反する本件審決の認定は誤りである。
(ウ) 相違点2の容易想到性 本件審決が認定するように,当業者は,甲1発明の滅菌処理装置と甲 2記載の殺菌装置は,いずれも同様のガスにより殺菌ないし滅菌を行う 装置であると理解し,甲1発明に甲2に記載された技術的事項の適用を 試みることに何らの困難性は認められないから,甲1及び甲2に接した 当業者は,甲1発明に甲2記載の「第2の実施の形態」に係る技術的事 項を組み合わせることにより,相違点2に係る訂正発明2の構成を容易 に想到することができたものである。
イ 小括 以上のとおり,本件審決における相違点2の容易想到性の判断には誤り がある。また,相違点1が容易想到であることは本件審決の判断のとおり である。
10 そうすると,訂正発明2は,甲1発明及び甲2に記載された発明及び周 知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるか ら,これと異なる本件審決の判断は誤りである。
(2) 被告の主張 ア 相違点2の容易想到性の判断の誤りの主張に対し (ア) 訂正発明2の「庫内差圧検出手段」の意義等について 訂正発明2は,「核酸分解処理装置」という機械(装置)の分野に属 する発明であり,かつ,訂正発明2の「庫内差圧検出手段」という語は, 一般通念としてはもとより,技術概念として定着しているものではない。
したがって,本件審決が,本件明細書の発明の詳細な説明参酌して, 訂正発明2の「庫内差圧検出手段」は,「滅菌タンク内がタンク外より も陰圧であることを検出する庫内差圧検出手段であって,滅菌タンク内 のMRガスの排気処理に起因して生じる庫内差圧を検出するものであ る」と解釈したことに誤りはない。
このように訂正発明2の「庫内差圧検出手段」は,滅菌タンク内がタ ンク外よりも陰圧であることを検出するものであるのに対して,甲2記 載の微差圧検出器は,滅菌タンク内がタンク外よりも陽圧に維持されて いることを検出するものであり,訂正発明2の庫内差圧検出手段と甲2 記載の微差圧検出器とは,圧力差の制御手法が正反対のものであるから, 甲2記載の微差圧検出器は,訂正発明2の「庫内差圧検出手段」に相当 するものとはいえないとした本件審決の認定判断に誤りはない。
また,甲2に,「排気量制御手段により制御される排気処理手段によ る滅菌タンク内のMRガスの排気処理に起因して生じる庫内差圧を検出 する庫内差圧検出手段」についての示唆はないとした本件審決の判断に も誤りはない。
(イ) 甲2の開示事項について 11 本件審決が認定するように,訂正発明2の特許請求の範囲(請求項2)の記載によれば,訂正発明2は,庫内ガス濃度情報を生成MRガス量制御手段に帰還し,当該生成MRガス量制御手段により生成MRガス量を制御し,かつ,排気量制御手段により排気量を制御することにより,滅菌タンクの庫内ガス濃度を一定にし,かつ,庫内差圧情報を排気量制御手段に帰還し,当該排気量制御手段により排気量を制御することにより滅菌タンクの庫内差圧を一定にするという2つの組み合わせた制御,すなわち,庫内ガス濃度情報及び庫内差圧情報という2つの情報を基に,生成ガス量及び排気量を調整し,庫内ガス濃度と庫内差圧の両者を一定にするという制御を行うものである。
これに対し甲2に記載された発明では,MRガスの濃度の制御はホルムアルデヒドガス供給排出装置4側の制御器24で,処理室内外の気圧差の制御は室圧調整装置6側のコントロールユニット58で,別の装置で,別々に制御が行われているから(7頁17行〜8頁5行,15頁1行〜8行,図2),庫内ガス濃度と庫内差圧の両者を同時に一定の値にするという制御を行う訂正発明2と構成が異なるものである。
また,甲2には,庫内ガス濃度と庫内差圧の両者を同時に一定の値にするという制御を行うことについて記載も示唆もなく,その技術思想の開示はない。もっとも,甲2には,「なお,上述の第2の実施の形態においては,室圧調整装置6にエアー処理装置76が設けられているが,ホルムアルデヒドガス供給排出装置4の排ガス処理器46を用いてホルムアルデヒドガスの処理を行うことも可能である。との記載があるが, 」上記記載は,単に,第2の実施の形態において,ホルムアルデヒドガスの処理をホルムアルデヒドガス供給排出装置4の排ガス処理器46でも行うことができることを記載しているに過ぎず,ホルムアルデヒドガス供給排出装置4側の制御器24により庫内差圧の制御を行うことができ 12 ることまで示唆するものではない。
したがって,甲2には,相違点2に係る訂正発明2の構成の開示はな い。
(ウ) 相違点2の容易想到性について 前記(ア)及び(イ)のとおり,甲2には,相違点2に係る訂正発明2の 構成の開示はない。
そうすると,当業者は,甲1発明に甲2に記載された発明を適用して も,相違点2に係る訂正発明2の構成を容易に想到することができたも のではない。
これと同旨の本件審決の判断に誤りはない。
イ 小括 以上のとおり,本件審決における相違点2の容易想到性の判断に誤りは ないから,訂正発明2は,甲1発明に甲2に記載された発明及び周知技術 を組み合わせることにより,当業者が容易に発明をすることができたとい うことはできないとした本件審決の判断に誤りはない。
したがって,原告主張の取消事由1-1は理由がない。
2 取消事由1-2(甲1を主引用例とする訂正発明3及び4の進歩性の判断の 誤り)について ? 原告の主張 ア 訂正発明3について 訂正発明2は,甲1発明及び甲2に記載された発明及び周知技術に基づ いて,当業者が容易に発明をすることができたものであることは,前記1 (1)イのとおりである。
訂正発明3は,訂正発明2のバイオガス発生部から発生するガスを,メ タノール,ホルムアルデヒド,一酸化炭素,二酸化炭素,水素,酸素の成 分を少なくとも含有した活性酸素とフリーラジカルからなる複合ラジカ 13 ルガスと特定したものである。
しかるところ,甲12の記載事項(【0006】〜【0009】)に照 らすと,訂正発明2において,空気が混合したメタノールガスを触媒反応 によりラジカル化して生成するガスを,訂正発明3のように特定すること は,当業者にとって格別の創意を要する事項とは認められない。
したがって,訂正発明3は,甲1発明に甲2及び甲12に記載された発 明を組み合わせることにより,当業者が容易に発明をすることができたも のである。
イ 訂正発明4について 訂正発明4は,訂正発明3の触媒の自己反応温度が400℃〜50 0℃の範囲内に制御されることを特定したものである。
しかるところ,甲1には「ラジカル化触媒反応の温度を約450〜5 00℃の範囲で変化させることが可能となる。」(【0042】)との記 載があるから,上記特定事項は,訂正発明4と甲1発明との相違点では ない。
したがって,訂正発明4は,甲1発明,甲2に記載された発明及び周知 技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。
ウ 小括 以上によれば,訂正発明3及び4は当業者が容易に発明をすることがで きたということはできないとした本件審決の判断は誤りではある。
? 被告の主張 前記1(2)イのとおり,訂正発明2は,甲1発明に甲2に記載された発明 及び周知技術を組み合わせることにより,当業者が容易に発明をすることが できたということはできないから,訂正発明2の発明特定事項を直接又は間 接に引用する訂正発明3及び4も,当業者が容易に発明をすることができた ということはできない。
14 したがって,これと同旨の本件審決の判断に誤りはないから,原告主張の 取消事由1-2は理由がない。
3 取消事由2(サポート要件の判断の誤り)について ? 原告の主張 訂正発明2ないし4は,暴露部の空間内における温度,湿度及びバイオガ ス濃度の3つの要素をフィードバック制御することにより,短時間で効率的 な核酸分解処理を行うという課題の解決を意図するものであるから,訂正発 明2ないし4がサポート要件(特許法36条6項1号に規定する要件)に適 合するというためには,本件明細書の記載に基づいて上記課題を解決できる と認識できることが必要となる。
しかし,訂正発明2ないし4の核酸分解処理装置の試験結果を示す本件明 細書の図19B及び図19Cには,「90min」の時点で,核酸の分解が 目的とするレベルまで行われていない状態が示されており,「短時間で効率 的な核酸分解」を実現できない場合がある以上,本件明細書の記載に基づい て,訂正発明2ないし4がその課題を解決できるとは直ちに認識することは できない。
したがって,訂正発明2ないし4は,本件明細書の発明の詳細な説明に記 載したものであるとはいえないから,訂正発明2ないし4がサポート要件に 違反するものではないとした本件審決の判断は,誤りである。
? 被告の主張 本件明細書の図19B及び図19Cの「90min」の時点でのスペクト ル図は,核酸の分解が目的とするレベルまで行われていない状態や外部空間 に漂う核酸が暴露空間内に混入している状態に相当するのではなく,何らか の理由により測定がうまくいっていないか,あるいはノイズが生じているも のといえる。
図19B及び図19Cの他の時間のスペクトル図を見れば明らかなよう 15 に,図19Bの45℃,2μlの場合には,「1min」のスペクトル図か ら核酸が完全分解されており,図19Cの37℃,2μlの場合でも,「5 min」のスペクトル図から核酸が完全分解されていることを見て取ること ができる。
このように,「1min」ないし「5min」のスペクトル図において, 核酸が完全分解されているスペクトル図が観測されている以上,その後,2 μlという少ないサンプル量で「90min」という長時間後のスペクトル 図の1条件において正確に測定できていなかったとしても,それは測定条件 の問題であり,訂正発明2ないし4が「短時間で効率的な核酸分解」を実現 できないということにはならない。
以上によれば,訂正発明2ないし4は,本件明細書の発明の詳細な説明に 記載したものであるといえるから,訂正発明2ないし4がサポート要件に違 反するものではないとした本件審決の判断に誤りはない。
したがって,原告主張の取消事由2は理由がない。
4 取消事由3(実施可能要件の判断の誤り)について ? 原告の主張 前記3?のとおり,訂正発明2ないし4には,「短時間で効率的な核酸分 解」を実現できない場合があるため,訂正発明2ないし4を用いて核酸分解 処理を行うには,所定の処理条件を満たすことが必要であるが,本件明細書 には,そのような条件の記載がないから,当業者は過度の試行錯誤を強いら れる。
そうすると,本件明細書の発明の詳細な説明の記載は,当業者が訂正発明 2ないし4を実施可能な程度に明確かつ十分に記載したものといえないか ら,実施可能要件(特許法36条4項1号に規定する要件)に適合しない。
したがって,本件明細書の発明の詳細な説明の記載が実施可能要件に違反 するものではないとした本件審決の判断は,誤りである。
16 ? 被告の主張 前記3?のとおり,本件明細書の図19B及び図19Cの「1min」な いし「5min」のスペクトル図において,核酸が完全分解されているスペ クトル図が観測されている以上,その後に,2μlという少ないサンプル量 で,「90min」という長時間後のスペクトル図の1条件において,正確 に測定できていなかったとしても,それは,測定条件の問題であり,訂正発 明2ないし4が「短時間で効率的な核酸分解」を実現できないことを示すも のではない。
したがって,本件審決における実施可能要件の判断に誤りはないから,原 告主張の取消事由3は理由がない。
5 取消事由4(明確性要件の判断の誤り)について? 原告の主張 訂正発明2の「臭いを検出又は測定する手段」が,訂正発明2の目的との 関連で,どのような役割を果たすのかが不明であり,その結果として,訂正 発明2の全体が不明確である。
また,訂正発明3の「酸素の成分を少なくとも含有した活性酸素」との記 載は,一般に,「活性酸素」にはスーパーオキシドアニオンラジカル等のフ リーラジカルも含まれるものと理解されているので,「フリーラジカル」と は別の「活性酸素」とは何かが不明瞭である。また,訂正発明3では「…か らなる複合ラジカルガス」と記載されているが,かかる表現は,「複合ガス が…のみからなる」という意味なのか,「複合ガスが…を含む」という意味 なのかが不明瞭である。
したがって,訂正発明2及び3の特許請求の範囲の記載は明確性要件(特 許法36条6項2号に規定する要件)に適合しないから,これと異なる本件 審決の判断は,誤りである。
? 被告の主張 17 本件明細書の【0192】ないし【0195】の記載に照らすと,訂正発 明2の「臭いを検出又は測定する手段」とは,庫内エアレーションの終了判 断やガス漏れ検出用の安全装置として用いられるものであり,その役割は明 確である。
また,活性酸素は,大気中に含まれる酸素分子が,より反応性の高い化合 物に変化したものの総称であり,活性酸素とフリーラジカルとは一方が他方 を完全に包含するような概念ではないことは,技術常識であるから(乙1), 訂正発明3の記載内容は明確である。
したがって,本件審決における明確性要件の判断に誤りはないから,原告 主張の取消事由4は理由がない。
当裁判所の判断
1 取消事由1-1(甲1を主引用例とする訂正発明2の進歩性の判断の誤り) について ? 本件明細書の記載事項等について ア 訂正発明2の特許請求の範囲(請求項2)の記載は,前記第2の2のと おりである。
本件明細書(甲21,37)の発明の詳細な説明には,次のような記載 がある(下記記載中に引用する「図1ないし3,8ないし10」について は別紙1を参照)。
(ア) 【技術分野】 【0001】 本発明は,メタノールに由来する活性種を含むバイオガスにより核酸 分解処理を行う核酸分解処理装置に関する。
【背景技術】 【0003】 メタノールから触媒反応により発生するラジカル性(メタノールラジ 18 カル:MR)ガスを利用した滅菌システムは,これまで医療器具等の滅 菌に用いるガスとして多用されていたエチレンオキサイドガス(EO G)やオゾン等以上の殺菌力を持ち,残留性,腐食性がないことが確認 されており,浸透性や拡散性も優れていることから現在多くの分野にお いて注目されている。
【0004】 バイオガスとは,メタノールから触媒により生じた強力な殺菌効果を もつラジカル性複合ガスのことであり,浸透性が高く,大気圧のままで も被滅菌物の内部まで殺菌ができる。接触性殺菌のミストでないことか ら,金属の腐食やプラスチック等の劣化(腐食性)が無く,非滅菌物の 素材を選ばず,さらに,被滅菌物に残留しない(残留性)などの優れた 特質があり,拡散性も広く隅々まで満遍なく暴露が可能であり,細かな 隙間まで浸透し,精密機器や電子機器等の通電稼動状態においても暴露 が可能であり,高い安全性を有する。
【0009】 また,液相以外の状態(非ウェット状態)で,核酸を有効に分解する 方法として,ヒドロキシメチルラジカル,ヒドロペルオキシラジカル, 水素ラジカル,ヒドロキシルラジカルを少なくとも含むラジカル種メタ ノール由来の気相物質(MRガス)を用いて,核酸が存続可能な温度条 件下において,非可逆的に核酸を分解し,不活化する方法が提案されて いる(例えば,特許文献3参照)。
(イ) 【発明が解決しようとする課題】 【0011】 しかしながら,特許文献3で提案されている非ウエット型の核酸分解 剤を用いて核酸を分解する従来の方法では,50℃以上の温度領域にお いて,60分以上の暴露時間を要し,且つ,ホルムアルデヒド成分の濃 19 度が2000ppm以上での効果効能が発揮されるものであった。
【0012】 しかし,現実的な実用としては,常温〜体温領域が求められており, 且つ,短時間での効果効能を発揮することが求められていた。
【0013】 そこで,上述の如き従来の実情に鑑み,本発明の目的は,検体の種類 によっての短時間で高効能を発揮する条件を定義することが可能な核酸 分解処理装置を提供することにある。
【0014】 この核酸分解処理装置は,空間に漂う核酸(DNA・RNA)もコン タミネーションとして暴露対象とする。
(ウ) 【課題を解決するための手段】 【0017】 本発明は,核酸分解処理装置であって,メタノールタンクから供給さ れたメタノールを霧状に噴射するノズルを備え,該ノズルを介して噴射 されたメタノールを気化してメタノールガスを発生させるメタノール ガス発生部と,上記メタノールガス発生部の上方に位置して,熱反射可 能な多孔質金属材料で互いに隔てられた上部と下部とからなり,該上部 には空気を供給する空気供給部が連結されており,該メタノールガス発 生部から発生したメタノールガスを自然対流により上方に移行させる 流路となるとともに,上記メタノールガスに該空気供給部から供給され た空気を所定の割合で混合させる筒体部と,上記筒体部の上方に位置し, 該筒体部において上記所定の割合で空気が混合したメタノールガスを 触媒反応によりラジカル化する触媒部とを有し,上記触媒部は,金属薄 板をハニカム構造に成形してなるラジカル反応触媒より構成され,該ラ ジカル反応触媒を複数積層してなり,空気が混合したメタノールガスを 20 触媒反応によりラジカル化して少なくともメタノールに由来する活性種を含み生成される複合ガス(以下「バイオガス」という)を発生するバイオガス発生部と,上記バイオガス発生部における生成ガス量を供給空気量とメタノール量で制御する生成ガス量制御手段と,上記バイオガス発生部により発生したバイオガスが供給される暴露部と,上記暴露部の暴露空間内の温度を制御する温度制御手段と,上記暴露部の暴露空間内の湿度を制御する湿度制御手段と,上記暴露部に供給されたバイオガスを排気する排気処理部と,上記排気処理部により上記暴露部から排気するバイオガスの排気量を制御するバイオガスの排気量制御手段と,上記暴露部におけるバイオガスのホルムアルデヒド成分の濃度を測定するホルムアルデヒド成分濃度測定手段と,臭いを検出又は測定する手段を備え,上記ホルムアルデヒド成分濃度測定手段による測定結果として得られるガス濃度情報が上記生成ガス量制御手段に帰還され,上記バイオガス発生部において,一定の触媒の自己反応温度と濃度のバイオガスとなるように,上記生成ガス量制御手段により上記バイオガス発生部における生成ガス量が供給空気量とメタノール量で制御されるとともに,上記排気量制御手段により上記暴露部から排気するバイオガスの排気量を制御することにより,上記暴露部の庫内ガス濃度を一定にし,上記排気量制御手段により制御される排気処理手段による上記暴露部の暴露空間内のバイオガスの排気処理に起因して生じる庫内差圧を検出する庫内差圧検出手段を備え,上記庫内差圧検出手段による検出結果から得られる庫内差圧情報が上記排気量制御手段に帰還され,上記排気量制御手段により上記暴露部から排気するバイオガスの排気量を制御することにより,上記暴露部の庫内差圧を一定にするものとすることができる。
【0019】 21 また,本発明に係る核酸分解処理装置において,上記バイオガス発生 部は,メタノール,ホルムアルデヒド,一酸化炭素,二酸化炭素,水素, 酸素の成分を少なくとも含有した活性酸素とフリーラジカルからなる複 合ラジカルガスを発生するものとすることができる。
【0020】 さらに,本発明に係る核酸分解処理装置において,上記バイオガス発 生部は,例えば,上記自己反応温度が400℃〜500℃の範囲内に制 御されるものとすることができる。
(エ) 【発明の効果】 【0021】 本発明に係る核酸分解処理装置では,フィードバック制御により暴露 部の暴露空間内における温度,湿度,濃度の定量的制御を行うことがで き,検体の種類によっての短時間で高効能を発揮する条件を定義するこ とができる。
【0022】 この核酸分解処理装置は,核酸分解の効果効能を発揮する環境温度を 37℃の体温域とし,15分以内の短時間で,且つ,ホルムアルデヒド 成分濃度100ppm以内において,二重螺旋のDNA核酸を有効に分 解(10bp以下のバラバラ状態)する能力を有し,気相の核酸分解法 として核酸分解99.99%〜100%を達成することができる。
【0023】 また,この核酸分解処理装置では,非ウエットで99.99%,ウエ ット(100μl)で95%の効能を発揮する。
(オ) 【発明を実施するための形態】 【0026】 以下,本発明の実施の形態について,図面を参照して詳細に説明する。
22 なお,本発明は以下の例に限定されるものではなく,本発明の要旨を逸脱しない範囲で,任意に変更可能であることは言うまでもない。
【0027】 本発明は,例えば図1に示すような構成の核酸分解処理装置100に適用される。
【0028】 この核酸分解処理装置100は,メタノールに由来する活性種を含むバイオガスにより核酸分解処理を行うものであって,バイオガス発生部110,暴露部120,排気処理部140及び,これら各部の動作を制御する制御部150を備える。
【0029】 この核酸分解処理装置100において,バイオガス発生部110は,空気が混合したメタノールガスを触媒反応によりラジカル化して少なくともメタノールに由来する活性種を含むバイオガスを発生するものである。
【0030】 このバイオガス発生部110は,例えば,図2に示すように,原料となるメタノールを供給する着脱式のメタノール供給タンク1にソレノイドバルブからなる直動式オンオフ弁2を介して接続されたメタノールサブタンク3からメタノールがメタノールポンプ7により吸い上げられてメタノール制御弁17を介して供給される気化器10が内筒体12Aの下部に設けられ,上部に触媒カートリッジ18が装着されたメタノールガス発生部11を外筒体12B内に設けてなる。
【0042】 上記バイオガス発生部110におけるバイオガスの生成ガス量は,上記メタノールガス発生部11に供給する空気量(エアポンプ9)とメタ 23 ノール量(燃料ポンプ7)で制御することができる。
【0044】 すなわち,上記バイオガス発生部110は,図3に示すように,上記メタノールサブタンク3から供給されたメタノールを霧状に噴射するノズル23を備え,該ノズル23を介して噴射されたメタノールを気化してメタノールガスを発生させるメタノールガス発生部11の気化器10と,上記気化器10の上方に位置して,熱反射可能な多孔質金属材料で互いに隔てられた上部と下部とからなり,該上部には空気を供給する上記エアポンプ9が連結されており,該メタノールガス発生部11から発生したメタノールガスを自然対流により上方に移行させる流路となるとともに,上記メタノールガスに該エアポンプ9から供給された空気を所定の割合で混合させる上記内筒体12Aと,上記内筒体12Aの上方に位置し,該内筒体12Aにおいて上記所定の割合で空気が混合したメタノールガスを触媒反応によりラジカル化する触媒部を有し,上記触媒部は,金属薄板をハニカム構造に成形してなるラジカル反応触媒より構成され,該ラジカル反応触媒を複数積層した触媒カートリッジ18からなる。
【0049】 より具体的に説明すると,気化器ヒータ20への通電が開始され,上記メタノールサブタンク3から図4のメタノール供給用連通管24を通って供給されたメタノールを導通する熱媒体21がその気化器ヒータ20からの熱によって100〜200℃に加熱され始める。そして,上記メタノールサブタンク3から供給されたメタノールが熱媒体21を通過すると,メタノールは熱媒体21に生じている熱によって温められて気化し,メタノールガスが発生する。このようにしてメタノールガスが発生すると,メタノールガスは気化ノズル22及び図3の気化カバ 24 ー14を通って分散し,内筒体12A中を自然対流を利用して,触媒カ ートリッジ18へと移行する。
【0063】 なお,バイオガス発生部11における温度を制御し,安定的にバイオ ガスを生成して供給するために,図2の異常温度センサ14Aが上記内 筒体12Aの下部に設けられているとともに,触媒温度センサ15が上 記内筒体12Aの下部に設けられている。上記異常温度センサ14A及 び触媒温度センサ15により得られる各温度情報を上記制御部150 に供給することにより,温度を管理・制御することにより,メタノール の着火等を防止して,安全性を向上させることができる。
(カ) 【0080】 このバイオガス発生部110では,空気の供給量を変化させることに よりラジカル化触媒反応の温度を制御できる。メタノールガスのラジカ ル化触媒反応に必要な反応温度は約400〜500℃であり,このバイ オガス発生部110では,約3.0ccのメタノール供給量に対して, 筒体上部12aから供給される空気の供給量を約3.5〜6.0L/m inの範囲で変化させる。これにより,ラジカル化触媒反応の温度を約 400〜500℃の範囲で変化させることが可能となる。したがって, 上記エアポンプ9からの空気の供給量を変化させることにより,容易に ラジカル化触媒反応の温度を制御することができる。
【0081】 このように,このバイオガス発生部110によれば,ラジカル化触媒 反応温度を維持させるための随時の加熱を必要とせず,安定した自己反 応によりラジカル化反応を起こすことができることから,空気の供給量 を変化させるだけで,容易にラジカル化反応温度を制御することができ る。また,発生するバイオガスの濃度はラジカル化触媒反応温度に依存 25 することから,上述のように空気の供給量を変化させて反応温度を制御することで,バイオガスの濃度を容易に制御することができる。これにより,暴露対象によって容易にバイオガスの濃度を変化させることができ,種々の暴露対象に対して滅菌処理を施すことが可能となる。
【0097】 また,この核酸分解処理装置100において,上記暴露部120は,例えば,図8に示すように,庫内ヒータ130Aと庫内冷却器130Bとにより温度と湿度の制御が可能な恒温恒湿槽からなる。
【0101】 また,この暴露部120には,外気導入バルブ125からヘパフィルタ124を介して外気(空気)が導入され,また,外部ガス導入バルブ131を介して窒素N2や炭酸ガスCO2等の外部ガスが導入できる。
上記ヘパフィルタ124を介して上記暴露部120に導入される外気(空気) 空気加熱ヒータ24Aにより加熱できるようになっている。
は,【0103】 また,この暴露部120には,ガス濃度センサ129,庫内圧力センサ132,湿度センサ133,温度センサ134,暴露センサ(核酸センサ)135,臭いセンサ136A,136B,などの各種センサが設けられている。上記ガス濃度センサ129,庫内圧力センサ132,湿度センサ133,温度センサ134,暴露センサ135,臭いセンサ136A,136Bにより得られる暴露空間内のガス濃度情報,圧力情報,湿度情報,温度情報,暴露(核酸への効果効能など)情報,臭い情報(内外)が上記制御部150に供給されるようになっている。当然に暴露部120の外の温度(室温)情報も制御部150に供給する。
【0104】 さらに,上記暴露部120に供給されたバイオガスは,排出側開閉バ 26 ルブ128を開くことにより排気することができるようになっている。
【0107】 また,この核酸分解処理装置100において,上記排気処理部140 は,上記暴露部120に供給されたバイオガスを排気するものであって, 例えば,図9に示すように,ガス導入管アタッチメント141を介して 上記暴露部120の排出側開閉バルブ128に接続される排気ブロア 143,上記排気ブロア143により上記暴露部120から排気ガスが ガス整流槽144を介して送られてくる排気ガスを分解する排気分解 触媒部145を備え,上記排気分解触媒部145において排気ガスを触 媒反応により無害化して排気管149から排気する。
【0108】 この排気処理部140は,上記外気導入バルブ142を介して外気(空 気)を導入できるようになっている。
(キ) 【0111】 そして,この核酸分解処理装置100において,上記制御部150は, 図10に示す制御系により,上記バイオガス発生部110,暴露部12 0,排気処理部140を次のように制御する。
【0140】 暴露部120の庫内の圧力を監視しながら,庫内が陰圧(-0〜-0. 01MPa)になるように排気処理部140により排気吸引する。
【0141】 その後,庫内圧力センサ132にて陰圧を確認の後に,上記制御部1 50は,上記バイオガス発生部110,暴露部120の庫内温度,排気 処理部140の各温度が規定値に達し起動準備が整った時に,上記バイ オガス発生部110に対してメタノール供給ポンプ7の起動を指示す る。
27 【0142】暴露部120の庫内は,ガス導入,撹拌,排気状態を維持する。
【0143】そして,暴露部120の庫内の濃度が一定になるように,ガス濃度センサ129により得られるガス濃度情報に基づいてバイオガス発生部110の制御を以下のように行う。
【0144】 上記バイオガス発生部110におけるバイオガスすなわち核酸分解ガスの発生量は,上記バイオガス発生部110のエア量とメタノール量の混合割合で決まる。エア供給量は,暴露部120の庫内の容積と発生時間の兼ね合いで定める。また,暴露部120の庫内が陰圧になる吸気と排気のバランス範囲で定める。また,メタノール量は,触媒の自己反応温度の適正範囲内で定める。
【0145】 また,暴露部120の陰圧制御において,供給エア量と排気ブロアの吸引量のバランスは-0〜-0.01MPaの範囲とする。試料のパラメータ(濃度,時間,温度,湿度)により最適な陰圧バランスに調整する。
【0146】 暴露部120の庫内のガス濃度制御では,暴露対象のパラメータ情報にて濃度が一定になるように陰圧バランスを調整する。
【0147】 排気処理部140の排気ブロア143の吸入量を減らすと濃度は上昇し,吸入量を増やすと濃度は低下する。上記排気ブロア143の吸引量は,暴露部の120の庫内の陰圧範囲で制限する。陰圧バランス範囲内で調整できない場合は,メタノール供給量を制御する。バイオガス発 28 生部110におけるメタノール供給量を増やすと濃度が上昇し,減らすと低下する。この範囲は,触媒の自己反応温度域で制限する。
【0148】 例えば,上記暴露部120の庫内のガス濃度制御では,ガス濃度センサ129により得られるガス濃度情報をプロセス値PVとし,庫内濃度の閾値SPと上記プロセス値PVを用いて,図12に示すような制御系により,暴露部120の庫内の濃度を一定にする制御を行う。
【0150】 そして,上記メタノールポンプ7によるメタノールの供給量GP1とエアポンプ9による空気の供給量に決まるガス濃度が暴露部120における外乱要素とともにガス濃度センサ129により検出され,このガス濃度センサ129により得られるガス濃度情報GFが上記プロセス値PVとして帰還されることにより,暴露部120の庫内の濃度を一定にする制御が行われる。
【0153】 例えば,暴露部120の庫内の湿度制御では,湿度センサ134により得られる庫内湿度情報をプロセス値PVとし,庫内湿度の閾値SPと上記プロセス値PVを用いて,図13に示すような制御系により,暴露部120の庫内湿度を一定にする制御を行う。
【0155】 そして,上記冷却ゾーン121又は庫内冷却器130Bによる除湿機能により制御される暴露部120の庫内湿度が外乱要素とともに温度センサ134により検出され,この温度センサ134により得られる庫内湿度情報GFが上記プロセス値PVとし帰還されることにより,暴露部120の庫内湿度を一定にする制御が行われる。
【0157】 29 また,暴露部120の庫内温度制御では,温度センサ134により得 られる庫内温度情報をプロセス値PVとし,庫内温度の閾値SPと上記 プロセス値PVを用いて,図14に示すような制御系により,暴露部1 20の庫内の温度を一定にする制御を行う。
【0159】 そして,上記庫内ヒータ130Aと庫内冷却器130Bの制御に応じ た庫内温度が暴露部120における外乱要素とともに温度センサ13 4により検出され,この温度センサ314により得られる庫内温度GF が上記プロセス値PVとし帰還されることにより,暴露部120の庫内 温度を一定にする制御が行われる。
(ク) 【0161】 また,暴露部120の庫内気圧制御では,庫内気圧又は差圧及び排気 反応温度の目標値への追従運転を行う。この庫内気圧制御では,比例 (P)制御と積分(I)の組み合わせによるPI制御により排気量を制 御する。陰圧範囲内を目標値とした庫内気圧制御を行う。目標値は排気 反応温度により自動的に定める。
【0162】 例えば,暴露部120の庫内差圧制御では,差圧センサ134により 得られる庫内差圧情報をプロセス値PVとし,庫内差圧の閾値SPと上 記プロセス値PVを用いて,図15に示すような制御系により,暴露部 120の庫内差圧を一定にする制御を行う。
【0163】 すなわち,庫内差圧の閾値SPに応じた第1の制御量C11と上記庫 内差圧の閾値SPと上記プロセス値PVとの差分を第2の制御量C1 2として加算した第3の制御量C13で排気処理部140の外気導入 バルブ142の開閉度を制御するとともに,上記庫内差圧の閾値SPに 30 応じた第4の制御量C21と上記庫内差圧の閾値SPと上記プロセス 値PVとの差分を第5の制御量C22として加算した第6の制御量C 23で上記排気処理部140の排気ブロア143の回転数を制御する。
【0164】 そして,上記排気処理部140の外気導入バルブ142の開閉度と排 気ブロア143の回転数の制御に応じた庫内差圧が暴露部120にお ける外乱要素とともに庫内差圧センサ132により検出され,この庫内 差圧センサ132により得られる庫内差圧GFが上記プロセス値PV とし帰還されることにより,暴露部120の庫内差圧を一定にする制御 が行われる。
【0182】 また,上記制御部150は,上記バイオガス発生部110によるバイ オガス発生時に,排気処理部140を次のように制御する。
【0183】 すなわち,上記制御部150は,バイオガス発生時には,上記暴露部 120の庫内圧力センサ132により得られる庫内圧力情報により示 される庫内圧圧力より陰圧になるよう排気ブロア143の回転を制御 する。また,排気触媒温度センサ147により得られる排気触媒温度情 報に基づいて,排気触媒ヒータ温度が規定値(300℃)に達している ように排気触媒ヒータ146を制御する。
(ケ) 【0196】 このような構成の核酸分解処理装置100では,フィードバック制御 により暴露部110の暴露空間内における温度,湿度,濃度の定量的制 御を行うことができ,暴露対象の種類によっての短時間で高効能を発揮 する条件を定義することができる。
イ 前記アの記載事項によれば,本件明細書の発明の詳細な説明には,訂正 31 発明2に関し,次のような開示があることが認められる。
(ア) ラジカル種メタノール由来の気相物質(MRガス)を用いて核酸分 解処理を行う従来の方法には,50℃以上の温度領域において,60分 以上の暴露時間を要し,かつ,ホルムアルデヒド成分の濃度が2000 ppm以上での効果効能が発揮されるものがあったが,現実的な実用と しては,常温〜体温領域が求められており,かつ,検体の種類に対応し た短時間での効果効能を発揮することが求められていたという課題が あった(【0009】,【0011】,【0012】)。
(イ) 「本発明」は,検体の種類に対応した短時間で高効能を発揮する条 件を定義することが可能な核酸分解処理装置を提供することを目的と するものであり(【0013】),前記課題を解決するための手段とし て,メタノールガス発生部と,空気が混合したメタノールガスを触媒反 応によりラジカル化して少なくともメタノールに由来する活性種を含 み生成される複合ガスを発生するバイオガス発生部と,バイオガス発生 部における生成ガス量を供給空気量とメタノール量で制御する生成ガ ス量制御手段と,バイオガス発生部により発生したバイオガスが供給さ れる暴露部と,暴露空間内の温度を制御する手段と,暴露空間内の湿度 を制御する手段と,暴露部に供給されたバイオガスを排気する排気処理 部と,暴露部からのバイオガスの排気量を制御する手段と,暴露部にお けるバイオガスのホルムアルデヒド成分の濃度を測定する手段と,臭い を検出又は測定する手段を備え,ホルムアルデヒド成分濃度測定手段に よる測定結果として得られるガス濃度情報が生成ガス量制御手段に帰 還され,バイオガス発生部において,生成ガス量制御手段により生成ガ ス量が供給空気量とメタノール量で制御されるとともに,排気量制御手 段により暴露部からのバイオガスの排気量を制御することにより,暴露 部の庫内ガス濃度を一定にし,上記排気量制御手段により制御される排 32 気処理手段による暴露空間内のバイオガスの排気処理に起因して生じ る庫内差圧を検出する手段を備え,庫内差圧検出手段による検出結果か ら得られる庫内差圧情報が上記排気量制御手段に帰還され,上記排気量 制御手段により暴露部からのバイオガスの排気量を制御することによ り,暴露部の庫内差圧を一定にする構成(訂正発明2の構成)を採用し た(【0017】)。
この構成により,「本発明」は,フィードバック制御により暴露部の 暴露空間内における温度,湿度,濃度の定量的制御を行うことができ, 検体の種類に対応した短時間で高効能を発揮する条件を定義すること ができるという効果を奏する(【0021】,【0196】)。
? 甲1の記載事項について ア 甲1(特開2010-51692号公報)には,次のような記載がある (下記記載中に引用する「図1,2及び13」については別紙2を参照)。
(ア) 【技術分野】 【0001】 本発明は,メタノールから触媒反応により発生するラジカル性のメタ ノールラジカルガス(以下,「MRガス」という。)により対象物を滅 菌する滅菌処理装置に適用される,滅菌ガス発生装置及びその滅菌ガス 発生装置に交換可能に設けられる触媒カートリッジ,並びに滅菌処理装 置に関する。
【背景技術】 【0002】 メタノールから触媒反応により発生するラジカル性(メタノールラジ カル:MR)ガスを利用した滅菌システムは,これまで医療器具等の滅 菌に用いるガスとして多用されていたエチレンオキサイドガス(EOG) やオゾン等以上の殺菌力を持ち,残留性,腐食性がないことが確認され 33 ており,現在多くの分野において注目されている。
【0003】 MRガスとは,メタノールから触媒により生じた強力な殺菌効果をも つラジカルガスのことであり,浸透性が高く,大気圧のままでも被滅菌 物の内部まで殺菌ができる。金属の腐食やプラスチックの劣化が無く, 非滅菌物の素材を選ばず,さらに,被滅菌物に残留しないなどの優れた 特質があり,高い安全性を有する。
(イ) 【発明が解決しようとする課題】 【0006】 しかしながら,従来のMRガス発生装置においては,直径方向の大き さとして,例えば150〜180mm程度もの大きさを有する触媒部を 備えていたため,この触媒部においては,メタノールガスのラジカル化 反応に必要な温度を一定に維持させることは難しく,電熱ヒータを触媒 内部に備えるようにし,ラジカル化反応に必要な温度を維持するために 随時加熱しながら温度を制御することが必要となっていた。
【0007】 このような従来のMRガス発生装置では,触媒反応時における温度の 変動が激しく,その結果,一定の濃度を有するMRガスを発生させるこ とができなかった。さらに,150〜180mm程度もの大きさを有す る触媒部を備えるとともに,さらに上述したように加熱用の電熱ヒータ を備える必要があったため,触媒部は必然的に大きくなってしまい,利 便性を高めるためのMRガス発生装置自体の小型化を困難にしていた。
【0008】 本発明は,このような従来の問題点に鑑みて提案されたものであり, ラジカル化のための触媒反応温度を一定に保ち,安定した濃度の滅菌ガ スを発生させるとともに,小型化が可能な滅菌ガス発生装置,その滅菌 34 ガス発生装置に用いられる触媒カートリッジ,並びに滅菌処理装置を提 供することを目的とする。
(ウ) 【課題を解決するための手段】 【0009】 本件発明者らは,上述した課題を解決するために,様々な観点から鋭 意研究を重ねてきた結果,ハニカム構造を有する触媒を使用することに より,ラジカル化のための触媒反応温度を一定に維持することが可能に なることを見出し,本発明を完成するに至った。
【0010】 すなわち,本発明に係る滅菌ガス発生装置は,メタノールを気化して メタノールガスを発生させるメタノールガス発生部と,上記メタノール ガス発生部の上方に位置し,該メタノールガス発生部から発生したメタ ノールガスを自然対流により上方に移行させる流路となるとともに,上 記メタノールガスに所定の割合で空気を混合させる筒体部と,上記筒体 部の上方に位置し,該筒体部において上記所定の割合で空気が混合した メタノールガスを触媒反応によりラジカル化する触媒部とを備え,上記 触媒部は,金属薄板をハニカム構造に成形してなるラジカル反応触媒よ り構成される。
(エ) 【発明の効果】 【0013】 本発明によれば,金属薄板をハニカム構造に成形してなるラジカル反 応触媒を使用しているので,触媒部における表面積が増加して反応効率 が向上し,触媒反応温度を一定に維持した自己反応を生じさせることが でき,安定した濃度のMRガスを発生させることができる。また,触媒 部における反応効率の向上により,触媒部を小型化することができると ともに,滅菌処理装置自体を小型化することを可能にし,利便性を高め 35 ることができる。
(オ) 【発明を実施するための最良の形態】 【0015】 図1は,本実施の形態に係るMRガス発生装置を概略的に示した模式 図である。この図1に示すように,本実施の形態に係るMRガス発生装 置10は,メタノールタンク(図示せず)からメタノールが供給され, そのメタノールを気化することによってメタノールガスを発生させる メタノールガス発生装置11と,そのメタノールガス発生装置11の上 方に位置してメタノールガス発生装置11から発生したメタノールガ スを空気と混合させるとともに,発生したメタノールガスを自然対流を 利用して上方に案内する流路を形成するために設けられた筒体12と, メタノールガスの流路上方に取り外し可能な状態で筒体12に連続し て設けられ,メタノールガスを触媒反応によりラジカル化してMRガス を発生させる触媒カートリッジ13とから構成されている。以下,各構 成について具体的に説明していく。
【0016】 先ず,本実施の形態に係るMRガス発生装置10を構成するメタノー ルガス発生装置11について説明する。メタノールガス発生装置11は, メタノールを気化することによって,ラジカル化反応の反応物質である メタノールガスを発生させ,筒体12へと供給する。
【0017】 図2は,メタノールガス発生装置11を概略的に示す模式図である。
この図2に示すように,メタノールガス発生装置11は,原料となるメ タノールを収容するメタノールタンク(図示せず)が連結されており, 少なくとも,メタノールを加熱気化させる電熱ヒータ20と,メタノー ルタンクから供給されたメタノールを気化するに際して温度を制御する 36 焼結金属等の温度安定化金属からなる熱媒体21と,気化したメタノー ルをMRガス発生装置10の上方部に導通させる気化ノズル22と,さ らにメタノールタンクから供給されるメタノールを霧状に噴射して熱媒 体21の方へ移行させるノズル23とから構成されている。
【0018】 このメタノールガス発生装置11では,メタノールタンクから供給さ れたメタノールが,熱媒体21による温度制御の下,電熱ヒータ20に よって加熱されて気化され,気化して生成したメタノールガスが気化ノ ズル22から発生する。発生したメタノールガスは,気化カバー14を 通り,自然対流を利用してMRガス発生装置10の上方,すなわち触媒 カートリッジ13へ分散して移行する。
(カ) 【0023】 また,このメタノールガス発生装置11は,メタノールタンクからメ タノール供給用連通管24を通って供給されるメタノールを,ポンプ等 を利用して霧状にして熱媒体21の方へ噴射させるノズル23を備え ている。メタノールタンクから供給されたメタノールをノズル23より 霧状にして噴射し,霧状のメタノールを上述した電熱ヒータ20によっ て熱媒体21を介して加熱させることで,温度を一定に保ち,安定した 状態でメタノールを気化させることができる。
【0024】 このように,温度一定の安定した状態でメタノールガスを発生させる ことにより,メタノールガス発生装置11における温度のふらつきを抑 制して,上述したように,以下で詳述する触媒カートリッジ13におけ る触媒反応の温度変動をより効果的に抑制し,安定したMRガスの発生 を可能にしている。
【0026】 37 ここで,滅菌処理においては,滅菌環境を所定の湿度に保った状態とすることが必要なことが知られており,例えばウイルス等のDNAを破壊してDNAフリーの環境とする場合には,約75%程度の湿度を維持した滅菌環境で滅菌処理を行わなければならない。しかしながら,MRガス滅菌処理を行うにあたって,そのようにMRガスの暴露環境を所定の湿度条件(例えば約75%程度)に整えようとすると,ある程度の環境調整時間が必要となるとともに,所定の湿度環境を一定に管理することも必要となり,また一定の湿度環境を維持することは極めて難しい。
【0027】 そこで,上述したように,メタノールガスを発生させる段階において,メタノールタンクから供給されたメタノールに所定の水を混合させて,所定の割合で水を含有したメタノールを生成し,このメタノールからメタノールガスを発生させてMRガスを生成させる。これにより,滅菌環境の湿度を事前に調整しなくとも,効果的な滅菌処理を行うことが可能となる。このとき,上述した他の実施形態におけるメタノールガス発生装置11によれば,メタノールと水とを混合し,所定の割合で水を含有させたメタノールを霧状にして供給することができる混合ノズル23’を備えているので,所定の湿度を保持した最適なメタノールガスを効率的に生成させて触媒カートリッジ13に供給することができる。そして,このメタノールガスから触媒反応によって発生したMRガスを使用することで,効果的な滅菌処理を行うことができ,所定の湿度環境を一定に管理維持させる必要もなくなる。
【0028】 このように,メタノールガス発生装置11は,ノズル23を備えているので,メタノールを霧状に噴射して,温度のふらつきのない一定範囲の温度条件でメタノールを気化することができるとともに,触媒カート 38 リッジ13において安定したラジカル化触媒反応を生じさせることが できる。また,このノズル23は,例えばメタノールと水とを混合させ て,所定の割合で水を含有させたメタノールを霧状に供給することがで きる混合ノズル23’として構成することもできるので,所定の湿度を 保ったメタノールガスを効率的に生成させるとともに,効果的な滅菌処 理が可能なMRガスを発生させることができる。
(キ) 【0031】 次に,本実施の形態に係るMRガス発生装置10を構成する筒体12 について説明する。筒体12は,メタノールガス発生装置11から供給 されたメタノールガスのラジカル化触媒反応の場となる触媒カートリッ ジ13に案内する流路になるとともに,メタノールガスに所定の割合の 空気を混合させる。
【0037】 ここで,この筒体上部12aにおける空気の供給について詳細に説明 する。本実施の形態に係るMRガス発生装置10では,筒体上部12a における空気の供給量を変化させることにより,後述する触媒カートリ ッジ13での自己反応によるラジカル化触媒反応の温度を制御すること ができる。
【0038】 このMRガス発生装置10における触媒カートリッジ13は,詳細は 後述するが,金属薄板をハニカム構造に成形してなるラジカル反応触媒 30から構成され,メタノールガスとの接触表面積を増やして反応効率 を向上させるようにしている。これにより,触媒カートリッジ13では, 作動開始直後十数分間の230〜250℃程度の加熱のみで,その後は 安定した自己反応(メタノールガスの触媒燃焼反応)によってラジカル 化反応に必要な450〜500℃まで温度を高め,その反応温度を維持 39 させることができ,従来の装置とは異なり随時反応温度を維持させるために加熱し続けることを要しない。このように,このMRガス発生装置10によれば,反応温度維持のための継続的な加熱を必要とせず,安定した自己反応により必要な温度に高めるとともに一定に維持できることから,そのラジカル化反応に必要な温度を,筒体上部12aにおける空気の供給量を変化させることによって容易に制御することができる。
【0039】 また,金属パイプと珪藻土等を無秩序に混合させて形成した触媒を備えた従来のMRガス発生装置とは異なり,本実施の形態に係るMRガス発生装置10では,金属薄板をハニカム構造体に成形した触媒カートリッジ13にメタノールガスを通過させてラジカル化触媒反応を起こすようにしているので,メタノールガスの触媒反応にばらつきを生じさせず,供給する空気量を変化させることで,容易に触媒反応温度を制御することができる。
【0040】 具体的には,ラジカル化触媒反応に必要な450℃程度の温度を自己反応により発生させる場合には,上述したように,メタノールの供給量に対して略正比例するように空気を供給する。具体的には,メタノール供給量を3ccとした場合には,空気の供給量を約3.5L/minとする割合で供給する。
【0041】 一方,ラジカル化触媒反応に必要な450℃より高めの,約500℃近い温度を自己反応により発生させる場合には,空気の供給量をメタノールの供給量に対して正比例する量よりも多く供給する。これにより,自己反応による燃焼温度が高まり,ラジカル化反応において500℃近い温度とすることができる。具体的には,上述の450℃程度の温度を 40 発生させる場合の空気の供給量の割合(メタノール供給量を3ccとし たときに,空気の供給量を約3.5L/minとする割合)よりも多い 量の空気を供給する。
【0043】 このように,本実施の形態に係るMRガス発生装置10によれば,ラ ジカル化触媒反応温度を維持させるための随時の加熱を必要とせず,安 定した自己反応によりラジカル化反応を起こすことができることから, 空気の供給量を変化させるだけで,容易にラジカル化反応温度を制御す ることができる。また,発生するMRガスの濃度はラジカル化触媒反応 温度に依存することから,上述のように空気の供給量を変化させて反応 温度を制御することで,MRガスの濃度を容易に制御することができる。
これにより,滅菌対象によって容易にMRガスの濃度を変化させること ができ,種々の対象に対して滅菌処理を施すことが可能となる。
(ク) 【0056】 そこで,本実施の形態に係るMRガス発生装置10においては,上述 したように,触媒カートリッジ13を,金属薄板をハニカム構造に成形 してなるラジカル反応触媒30によって構成し,メタノールガスとラジ カル反応触媒30との接触表面積を増加させるとともに,メタノールガ スが一定の通路を通過するようにしている。
【0057】 このようにしてラジカル反応触媒30をハニカム構造に成形してメ タノールガスとの接触表面積を増加させることによって,触媒反応の反 応効率を高め,ラジカル化反応に必要な触媒カートリッジ13の大きさ を最小限に抑えることを可能にしている。具体的に,触媒カートリッジ 13におけるラジカル反応触媒30の直径方向の大きさを,50〜70 mm程度の大きさにすることができ,この大きさで反応効率の高いラジ 41 カル化反応を起こすことができる。そして,触媒カートリッジ13の大 きさを最小限に抑えることで,容易に交換が可能な形態とすることが可 能となっている。また,一定の通路をメタノールガスが通過するように することで,ラジカル化反応のばらつきを抑えて一定にし,反応温度の 変動を抑制させることを可能にしている。
【0077】 そしてまた,上述のように,この触媒カートリッジ13では,安定し た自己反応によるラジカル化触媒反応を可能していることから,筒体1 2に接続された空気供給部からの空気の供給量を任意に制御すること により,自己反応によるラジカル化触媒反応温度を容易に変動制御する ことができ,発生させるMRガスの濃度を容易に変化させることが可能 となる。これにより,メタノールガスに混合させる空気に供給量を変化 させるだけで,滅菌対象によって適した濃度のMRガスを簡単に発生さ せることができ,種々の対象に対して効率的な滅菌処理を行うことがで きる。また,このように,適した濃度のMRガスを任意に発生させるこ とができることから,メタノールの供給量を必要最小限に抑えることが 可能となり,より安全に装置を使用することができるだけでなく,環境 にも適した滅菌処理を実現することができる。
(ケ) 【0079】 図13は,本実施の形態に係るMRガス発生装置10を適用した滅菌 処理装置40の一例を概略的に示した模式図である。この図13に示す ように,滅菌処理装置40は,メタノールタンク41と,MRガス発生 装置10’と,滅菌対象物を保持してMRガス発生装置10’から発生 したMRガスによって滅菌処理を施す場となる滅菌タンク42とから構 成されている。
【0089】 42 また,本実施の形態に係るMRガス発生装置10によれば,筒体上部 12aにおける空気の供給量を変化させることにより,触媒の自己反応 によるラジカル化反応温度を容易に制御することができるので,発生す るMRガスの濃度を容易に変化させることができる。
これにより,例えばウイルス等のDNAを破壊することを目的として MRガスを暴露させる場合には,空気の供給量を増やしてラジカル化反 応温度を高め,濃度の高いMRガスを発生させるといったように,滅菌 対象によって空気の供給量を変化させて,発生させるMRガスの濃度を 変化させることができる。
イ 前記アの記載事項によれば,甲1には,次のような開示があることが認 められる。
(ア) 150〜180mm程度の大きさを有する触媒部を備えた,従来の MRガス発生装置では,メタノールガスのラジカル化反応に必要な温度 を一定に維持させることが難しく,一定の濃度を有するMRガスを発生 させることができなかったため,加熱用の電熱ヒータを備える必要があ ったが,触媒部は必然的に大きくなってしまい,利便性を高めるための MRガス発生装置自体の小型化を困難にしていたという問題点があっ た(【0006】,【0007】)。
(イ) 「本発明」は,このような従来の問題点に鑑みて提案されたもので あり,ラジカル化のための触媒反応温度を一定に保ち,安定した濃度の 滅菌ガスを発生させるとともに,小型化が可能な滅菌ガス発生装置を提 供することを目的とする(【0008】)。
本件発明者らは,ハニカム構造を有する触媒を使用することにより, ラジカル化のための触媒反応温度を一定に維持することが可能になるこ とを見出し,「本発明」を完成するに至った(【0009】)。
「本発明」は,金属薄板をハニカム構造に成形してなるラジカル反応 43 触媒を使用する構成を採用したことにより,触媒部における表面積が増 加して反応効率が向上し,触媒反応温度を一定に維持した自己反応を生 じさせることができ,安定した濃度のMRガスを発生させることができ, さらには,触媒部における反応効率の向上により,触媒部を小型化する ことができるとともに,滅菌処理装置自体を小型化することを可能にし, 利便性を高めるという効果を奏する(【0013】)。
? 甲2の記載事項について ア 甲2(国際公開第01/026697号の再公表公報)には,次のよう な記載がある(下記記載中に引用する「図1及び2」については別紙3を 参照)。
(ア) 「技術分野 本発明は,ホルムアルデヒドガスにより被殺菌空間の殺菌を行うホル ムアルデヒドガス殺菌装置に関するものである。」(4頁2行〜4行) (イ) 「技術背景 従来,バイオクリーンルームや手術室等の空間内を殺菌処理する目的 でホルムアルデヒドガスを用いる方法は,この被殺菌空間を閉空間とし, その中にホルムアルデヒドガス発生器を設置してホルムアルデヒドガス を発生させるものが知られている。
しかし,ホルムアルデヒドガスによる殺菌(以下,本明細書では「滅 菌」をも意味する)効果は,被殺菌空間内のホルムアルデヒドガス濃度, 湿度,温度により大きく依存することから,十分保証可能な殺菌効果を 得るためには,単にホルムアルデヒドガスを特定の時間被殺菌空間に充 満させるということでは十分ではない。
…また,被殺菌空間内は,密閉された空間(室)となることから室内 圧力を制御する必要も生じる。」(4頁5行〜21行) (ウ) 「発明の開示 44 …また,この発明のホルムアルデヒドガス殺菌装置は,ホルムアルデ ヒドガスを発生させるホルムアルデヒドガス発生器と,前記ホルムアル デヒドガスの湿度を調節する湿度調節器と,前記ホルムアルデヒドガス の温度を調節する温度調節器と,前記ホルムアルデヒドガスを被殺菌空 間内へ搬送して導入するガス搬送器と,前記被殺菌空間内からの排ガス を処理する排ガス処理器と,前記排ガスを排出するガス排出器と,前記 ホルムアルデヒドガス発生器において前記ホルムアルデヒドガスを所定 の範囲の濃度で発生させ,前記湿度調節器により前記ホルムアルデヒド ガスの湿度を所定の範囲に制御し,前記温度調節器により前記ホルムア ルデヒドガスの温度を所定の範囲に制御し,前記ガス搬送器によるガス 搬送量を所定の範囲に制御し,前記排ガス処理器による排ガス中のホル ムアルデヒドの量を所定の範囲に制御し,前記ガス排出器による排ガス 排出量を制御する制御器を有する。
この発明のホルムアルデヒドガス殺菌装置によれば,制御器により被 殺菌空間内のホルムアルデヒドガス濃度,湿度,温度をそれぞれ,所定 の濃度,所定の湿度,所定の温度に制御するため,十分に保証可能な殺 菌効果を得ることができる。」(4頁22行,5頁17行〜6頁3行)(エ) 「また,この発明のホルムアルデヒドガス殺菌装置は,密閉された 室内にホルムアルデヒドガスを供給すると共に排出するホルムアルデヒ ドガス供給排出装置と,前記室内の圧力を調整する室圧調整装置とを備 え,前記ホルムアルデヒドガス供給排出装置は,前記ホルムアルデヒド ガスを発生するホルムアルデヒドガス発生器と,前記ホルムアルデヒド ガスの湿度を調節する湿度調節器と,前記ホルムアルデヒドガスの温度 を調節する温度調節器と,前記ホルムアルデヒドガスを室内へ搬送して 導入するガス搬送器と,前記室内からの排ガスを処理する排ガス処理器 と,前記排ガスを排出するガス排出器と,前記室内のホルムアルデヒド 45 ガスの濃度,湿度及び温度を所定の濃度,湿度及び温度に制御する制御 部とを有し,前記室圧調整装置は,前記室内に室外の空気を給気する給 気ユニットと,前記室内の空気を前記室外に排気する排気ユニットと, 前記室内と前記室外との圧力差を検出する圧力差検出手段と,前記圧力 差検出手段により検出された検出値に基づいて前記給気ユニット及び前 記排気ユニットを制御する制御手段と,前記圧力差検出手段による前記 検出値に基づいて前記室圧の制御状況を出力する制御状況出力手段とを 有することを特徴とする。
…この発明のホルムアルデヒドガス殺菌装置によれば,室圧調整装置を 備えるため,室内温度の上昇により室内の空気が膨張したような場合に おいても室圧を一定に保つことができる。
また,この発明ホルムアルデヒドガス殺菌装置は,前記排気ユニット が前記室内から排気される空気を処理する処理装置を備える。
この発明のホルムアルデヒドガス殺菌装置によれば,室圧を調整する ために室内の空気の排気を行った場合においても,処理装置により室内 の空気に含まれるホルムアルデヒドガス等を処理するため,ホルムアル デヒドガスを処理した後に室外に排出することができる。」(6頁4行 〜7頁6行)(オ) 「発明を実施するための最良の形態 以下,図1を参照して,本発明の第1の実施の形態の説明を行う。図 1は,第1の実施の形態にかかるホルムアルデヒドガス殺菌装置2の構 成図である。このホルムアルデヒドガス殺菌装置2は,ハウジング10 を有しバイオハザード安全キャビネットの外側に取り付けて容易にキ ャビネット内の空間(以下被殺菌空間100とする)を殺菌することが できるものである。この際,キャビネット内はダンパ等を閉じて閉空間 とする。キャビネットには,ホルムアルデヒドガス殺菌装置2からホル 46 ムアルデヒドガスを供給するためのホルムアルデヒドガス入口102 と,ホルムアルデヒドガスを排出するための排気ガス出口104が設け られている。
被殺菌空間100には,ホルムアルデヒドガス濃度センサ12,湿度 センサ14,温度センサ16が設けられ,それぞれモニタされた値は制 御ライン18,20,22を介して制御器24へ伝達される。
ポンプ26により外気をホルムアルデヒドガス入口102より被殺 菌空間100内に導入し,さらに排ガス出口104よりポンプ28を通 じて外気へ排気する。または,ポンプ28から出た排気ガスを環流通路 30を介して再びポンプ26に導入することで,被殺菌空間100内の 空気を循環させる。」(7頁7行〜23行) 「…このため濃度センサ12,湿度センサ14,温度センサ16によ り被殺菌空間100内のホルムアルデヒドガス濃度,湿度,温度のそれ ぞれをモニタし,得られた値に基づいて制御器24で必要な計算を行い, 制御ライン38,40,42,44を通じてホルムアルデヒドガス発生 器36,温度調節器34,湿度調節器32,ポンプ26を制御する。… 所定の時間経過後,ホルムアルデヒドガス発生器36を停止し,排ガ ス処理器46による処理を被殺菌空間100内のホルムアルデヒド濃度 が所定の値より低くなるまで実施する。即ち,ポンプ28から出たガス を還流通路30を介して再びポンプ26に導入し,被殺菌空間100内 の空気を循環させることにより,ホルムアルデヒド濃度を徐々に低下さ せ所定の濃度よりも低くする。」(8頁1行〜12行)(カ) 「本発明において使用可能なホルムアルデヒドガス発生器には特に 限定はないが,湿度,温度の制御の下で高い濃度のホルムアルデヒドガ スを発生可能であればよい。」(8頁19行〜21行) 「ホルムアルデヒドの発生量の制御については,触媒の温度の制御, 47 及び供給するメタノールの量,又は気化量に依存する。反応条件の最適化は,実際にホルムアルデヒドを発生させ,かつ適当なホルムアルデヒド濃度測定を行うことにより可能である。」(9頁4行〜7行) 「本発明において,適当な濃度のホルムアルデヒドガス濃度を,適当な温度の範囲内で長時間維持するために,被殺菌空間内の温度を調節することが好ましい。この目的で設けられる温度調節手段は特には,制限はなく,通常公知の加熱,または冷却装置が使用可能である。」(9頁27行〜10頁1行) 「本発明において,適当な濃度のホルムアルデヒドガス濃度を,適当な湿度の範囲内で長時間維持するために,この閉空間内の湿度を調節することが好ましい。この目的で設けられる湿度調節手段は特に制限はなく,通常公知の加湿,または除湿装置が使用可能である。」(10頁6行〜9行) 「本発明においては,被殺菌空間内の温度,湿度及びホルムアルデヒド濃度を所定の範囲で,所定の時間維持する必要がある。被殺菌空間内ホルムアルデヒドガスの濃度は,被殺菌空間内で殺菌反応などの種々の反応により減少する。従って,ホルムアルデヒドガスの濃度を一定に維持するためには,設定時間内において,温度,湿度,ホルムアルデヒド濃度データを取込み,かつ特定範囲になるように,ホルムアルデヒド発生手段を制御する必要がある。この目的のための制御方法,制御器については特に制限はないが,手動による方法,又はコンピュータプログラムを用いた制御器が挙げられる。本発明においては,高いホルムアルデヒド濃度を長時間維持する必要があることから,オンタイムに最適化しつつホルムアルデヒド発生装置,ポンプ,温度調節器,湿度調節器に信号を送り,制御する機能を有するものが好ましい。」(11頁19行〜末行) 48 (キ) 「次に,図2,図3を参照して,本発明の第2の実施の形態にかか るホルムアルデヒドガス殺菌装置ついて説明する。この第2の実施の形 態にかかるホルムアルデヒドガス殺菌装置は,第1の実施の形態にかか るホルムアルデヒドガス殺菌装置2と同一の構成であるホルムアルデ ヒドガス供給排出装置4に,更に密閉された室として形成された被殺菌 空間内の圧力を調整する室圧調整装置6を備えるものである。
図2は,第2の実施の形態にかかるホルムアルデヒドガス供給排出装 置4及び室圧調整装置6を備えて構成されるホルムアルデヒドガス殺 菌装置の構成図である。ここで室圧調整装置6は,室壁50に接した状 態で設けられ,室壁50により密閉された室内の圧力を調整するもので ある。室圧調整装置6は,室内に室外の空気を給気する給気ユニット5 2,室内の空気を室外に排気する排気ユニット54,室内と室外との圧 力差を検出する微差圧検出器56,微差圧検出器56により検出された 検出値に基づいて給気ユニット52及び排気ユニット54を制御する コントロールユニット58を備えて構成されている。
給気ユニット52は,室外の空気を取り込むための給気グリル60を 有し,この給気グリル60の下流側に,室外から室内に供給される空気 量を調整するための給気量調整電磁弁62が3つ設けられている。また, 給気量調整電磁弁62の下流側の空気通路64内には,送風機66,H EPA(high efficiency particulate air)フィルタ68が順次設けられている。
排気ユニット54は,給気通路70内にHEPAフィルタ72を有し, HEPAフィルタ72の下流側に室内から室外に排気される空気量を 調整するための排気量調整電磁弁74が3つ設けられている。また,排 気量調整電磁弁74の下流側には,白金触媒およびヒータを備えて構成 されるエアー処理装置76が設けられている。ここで,このエアー処理 49 装置76には,電磁弁78を介して室外の空気が供給される。この室外 の空気の供給により触媒の温度を一定に保つことができる。
更に,排気量調整電磁弁74の下流側には,エアー処理装置76を通 過した空気および給気グリル80から取込んだ空気を室圧調整装置6 外に排気するための送風機82が設けられている。 (13頁末行〜1 」 4頁末行)(ク) 「微差圧検出器56は,室壁50に設けられ,信号線を介してコン トロールユニット58に接続されており,この微差圧検出器56により 検出された室内と室外との圧力差がコントロールユニット58に入力 される。
コントロールユニット58は,信号線を介して給気ユニット52の給 気量調整電磁弁62及び送風機66に接続されていると共に,排気ユニ ット54の排気量調整電磁弁74,電磁弁78及び送風機82に接続さ れている。コントロールユニット58は,微差圧検出器56の検出値に 基づいて,給気量調整電磁弁62,送風機66,排気量調整電磁弁74 及び送風機82等の制御を行う。なお,コントロールユニット58には, 微差圧検出器56による検出値を常時記憶する記憶装置84及び記憶 装置84に記憶されている検出値を出力するプリンタ等の出力装置8 6が接続されている。」(15頁1行〜11行) 「このホルムアルデヒドガス殺菌装置においては,ホルムアルデヒド ガス供給排出装置4のポンプ26により外気をホルムアルデヒドガス 入口102より室内に導入し,さらに排ガス出口104よりポンプ28 を通じて外気へ排気する。湿度センサ14,温度センサ16により得ら れた室内の温度及び湿度がそれぞれ所定の温度20〜40℃,および湿 度の範囲50〜90%(相対湿度)の範囲になるように制御器24にて 湿度調節器32及び温度調節器34で調節する。さらに,ホルムアルデ 50 ヒドガス発生器36およびポンプ26にて所定のホルムアルデヒドガ ス濃度160ppm以上を維持するように調節し所定の時間維持する。
このため濃度センサ12,湿度センサ14,温度センサ16によりホル ムアルデヒドガス濃度,湿度,温度のそれぞれをモニタし,得られた値 に基づいて制御器24で必要な計算を行い,制御ライン38,40,4 2,44を通じてホルムアルデヒドガス発生器36,温度調節器34, 湿度調節器32,ポンプ26を制御する。」(15頁12行〜23行)(ケ) 「ここで所定時間,室内の温度,湿度,ホルムアルデヒドガスの濃 度がそれぞれ温度20〜40℃の範囲,湿度50〜90%(相対湿度) の範囲,ホルムアルデヒドガス濃度160ppm以上を維持している間, 室圧調整装置により室内の圧力を陽圧力に維持する。即ち,図3に示す フローチャートに示す処理により,室内を陽圧力(10〜20Pa)に 維持する。なお,このフローチャートに基づく制御は,コントロールユ ニット58により微小時間間隔ごとに繰り返して行われる。 (15頁 」 26行〜16頁3行) 「まず,コントロールユニット58は,微差圧検出器56により検出 された室内と室外との圧力差を取得し(ステップS10),記憶装置8 4に記憶する(ステップS11)。次に,圧力差が10〜20Paの場 合には(ステップS12)正常な圧力であることから,ステップS10 の処理に戻って,圧力差検出(ステップS10),検出値記憶(ステッ プS11)等の処理を続行する。
一方,微差圧検出器56により検出された室内と室外との圧力差が1 0Pa以下の場合には(ステップS12)室圧が低すぎることから室内 への給気を行う(ステップS14)。即ち,給気量調整電磁弁62及び 送風機66に制御信号を送り給気量調整電磁弁62を所定時間開くと 共に送風機66の運転を行う。これにより室外の空気が…室内に供給さ 51 れ,室内の圧力が給気量調整電磁弁62の開時間に対応する値だけ上昇 する。… また,微差圧検出器56により検出された室内と室外との圧力差が2 0Pa以上の場合には(ステップS12)室圧が高すぎることから室外 への排気を行う(ステップS13)。即ち,排気量調整電磁弁74及び 送風機82に制御信号を送り排気量調整電磁弁74を所定時間開くと 共に送風機82の運転を行う。これにより室内の空気がHEPAフィル タ72,排気量調整電磁弁74,エアー処理装置76を介して室外に排 気され,室内の圧力が排気量調整電磁弁74の開時間に対応する値だけ 降下する。」(16頁4行〜24行) 「この室圧制御装置6によれば,室内と室外との圧力差を常時10〜 20Paに維持することができるため,ホルムアルデヒドガスを用いて 室内の殺菌を行う場合に,室内温度の上昇により室内空気の体積が増加 した場合においても,ホルムアルデヒドガスがエアー処理装置76で処 理された後に排出されるため,ホルムアルデヒドガスが未処理のまま室 外に漏れ出すのを防止することができる。また検出された室内と室外の 圧力差は時系列的に記憶装置84に記憶されていることから,記憶装置 84に記憶されている検出値を出力装置86により出力することによ り,この出力結果に基づいて室内の圧力が常に所定の陽圧に維持できて いたことを保証することができる。従って,ホルムアルデヒドガスが未 処理のまま室外の漏れ出していないことの保証を行うことが可能にな る。」(16頁27行〜17頁7行)(コ) 「なお,上述の第2の実施の形態においては,室圧調整装置6にエ アー処理装置76が設けられているが,ホルムアルデヒドガス供給排出 装置4の排ガス処理器46を用いてホルムアルデヒドガスの処理を行 うことも可能である。」(17頁13行〜15行) 52 (サ) 「また,本発明にかかる装置によれば,室内温度の上昇により室内 の空気の体積が増加したような場合においてもホルムアルデヒドガス が未処理のまま室外に漏れるのを防止することができ,また十分に保証 可能な殺菌効果を得ることができる。」(17頁28行〜18頁2行) (シ) 「産業上の利用可能性 以上のように,この発明のホルムアルデヒドガス殺菌装置は被殺菌空 間を十分に保証可能な程度に殺菌することに適している。 (18頁3 」 行〜5行)イ 前記アの記載事項によれば,甲2には,次のような開示があることが認 められる。
(ア) ホルムアルデヒドガス殺菌装置において,十分に保証可能な殺菌効 果を得るためには,被殺菌空間内のホルムアルデヒドガス濃度,湿度, 温度を制御し,また,被殺菌空間は密閉された空間(室)となるため, 室内圧力を制御する必要も生じる(前記ア(イ),(ウ))。
「本発明」は,上記課題を解決するための手段として,密閉された室 内にホルムアルデヒドガスを供給すると共に排出するホルムアルデヒド ガス供給排出装置と,室内の圧力を調整する室圧調整装置とを備え,ホ ルムアルデヒドガス供給排出装置は,ホルムアルデヒドガスの発生器と, ホルムアルデヒドガスの湿度調節器と,ホルムアルデヒドガスの温度調 節器と,ホルムアルデヒドガスを室内へ搬送して導入するガス搬送器と, 室内からの排ガスの処理器と,排ガスの排出器と,室内のホルムアルデ ヒドガスの濃度,湿度及び温度を所定の濃度,湿度及び温度に制御する 制御部とを有し,室圧調整装置は,室内に室外の空気を給気するユニッ トと,室内の空気を室外に排気するユニットと,室内と室外との圧力差 を検出する手段と,これによる検出値に基づいて給気ユニット及び排気 ユニットを制御する手段と,前記検出値に基づいて前記室圧の制御状況 53 を出力する手段とを有する構成を採用した(前記ア(エ))。
この構成により,「本発明」は,被殺菌空間内のホルムアルデヒドガ ス濃度,湿度,温度をそれぞれ所定の値に制御し,かつ,室内温度の上 昇により室内の空気が膨張したような場合においても室圧を一定に保つ ことができるので,十分に保証可能な殺菌効果を得られるという効果を 奏する(前記ア(ウ),(エ),(サ))。
(イ) 「本発明」の第2の実施の形態(図2)は,ホルムアルデヒドガス 供給排出装置4及び室圧調整装置6を備えて構成されるホルムアルデ ヒドガス殺菌装置であり,ホルムアルデヒドガス供給排出装置4は,濃 度センサ12,湿度センサ14,温度センサ16により得られた被殺菌 空間100内のホルムアルデヒドガス濃度,湿度,温度の値に基づいて, ホルムアルデヒドガス発生器36,温度調節器34,湿度調節器32, ポンプ26及び28を制御する制御器24を備え,また,室圧調整装置 6は,室内と室外との圧力差を検出する微差圧検出器56により検出さ れた検出値に基づいて給気ユニット52及び排気ユニット54を制御 するコントロールユニット58を備えている(前記ア(オ)ないし(キ))。
第2の実施の形態に係るホルムアルデヒドガス殺菌装置は,「所定時 間,室内の温度,湿度,ホルムアルデヒドガスの濃度がそれぞれ温度2 0〜40℃の範囲,湿度50〜90%(相対湿度)の範囲,ホルムアル デヒドガス濃度160ppm以上を維持している間」 室圧調整装置6 , のコントロールユニット58により室内の圧力を陽圧力に維持してい る(前記ア(ケ))。
? 相違点2の容易想到性について ア 訂正発明2の「庫内差圧検出手段」の意義等について (ア) 訂正発明2の特許請求の範囲(請求項2)の記載によれば,訂正発 明2の「庫内差圧検出手段」は,「上記排気量制御手段により制御され 54 る排気処理手段による上記暴露部の暴露空間内のバイオガスの排気処理に起因して生じる庫内差圧を検出」する検出手段であり,訂正発明2においては,「上記庫内差圧検出手段による検出結果から得られる庫内差圧情報が上記排気量制御手段に帰還され,上記排気量制御手段により上記暴露部から排気するバイオガスの排気量を制御することにより,上記暴露部の庫内差圧を一定にする」ことを理解できる。
また,訂正発明2の特許請求の範囲(請求項2)中の「上記排気処理部により上記暴露部から排気するバイオガスの排気量を制御するバイオガスの排気量制御手段」との文言によれば,訂正発明2の「排気量制御手段」は,「上記排気処理部により上記暴露部から排気するバイオガスの排気量を制御」する制御手段であることを理解できる。
そして,訂正発明2の特許請求の範囲(請求項2)の記載によれば,訂正発明2の核酸分解処理装置は,「暴露部」の「バイオガスのホルムアルデヒド成分の濃度」の「ガス濃度情報」が「生成ガス量制御手段」に帰還され,「上記生成ガス量制御手段」及び「上記排気量制御手段」により「バイオガス発生部」における「生成ガス量」及び「暴露部」から排気する「バイオガスの排気量」を制御することにより,「暴露部」の「庫内ガス濃度」を一定にし,かつ,「庫内差圧情報」が「排気量制御手段」に帰還され,「上記排気量制御手段」により「暴露部から排気するバイオガスの排気量」を制御することにより,「暴露部」の「庫内差圧」を一定にすること,すなわち,「暴露部」の「ガス濃度情報」及び「庫内差圧情報」を基に,「生成ガス量」及び「バイオガスの排気量」を制御し,「暴露部」の「庫内ガス濃度」及び「庫内差圧」の両者を一定にする制御を行うものであることを理解できる。
しかるところ,訂正発明2の特許請求の範囲(請求項2)には,「庫内差圧検出手段」及び「排気量制御手段」の具体的な構造や装置構成に 55 ついて規定した記載はなく,また,「暴露部」の「庫内差圧」をいかな る数値又は数値範囲で一定にするのかについて規定した記載もない。
(イ) 次に,本件明細書の発明の詳細な説明には,「本発明」の実施形態 として,核酸分解処理装置100の制御部150が,暴露部120に設 けられたガス濃度センサ129から供給された暴露空間内のガス濃度 情報に基づき,バイオガス発生部110へのエア供給量及びメタノール 供給量の制御及び排気処理部140の排気ブロア143の吸入量の制 御により,暴露部120の庫内の濃度を一定にする制御を行うとともに, 暴露部120に設けられた庫内圧力センサ132から供給された暴露 空間内の圧力情報に基づき,排気処理部140の外気導入バルブ142 の開閉度及び排気ブロア143の回転数の制御により,陰圧範囲内を目 標値とした暴露部120の庫内差圧を一定にする制御を行うことが記 載されている(【0028】,【0103】,【0111】,【014 0】〜【0148】,【0150】,【0161】〜【0164】,【0 182】,【0183】,図10)。これらの記載は,制御部150に より暴露部120の庫内差圧を陰圧の数値範囲に制御することを開示 するものと認められる。
他方で,本件明細書の「本発明の実施の形態について,図面を参照し て詳細に説明する。なお,本発明は以下の例に限定されるものではなく, 本発明の要旨を逸脱しない範囲で,任意に変更可能であることは言うま でもない。」(【0026】)との記載に照らすと,本件明細書には, 「本発明の要旨を逸脱しない範囲」であれば,「本発明」の実施形態が 上記実施形態に限定されるものではないことの開示がある。
しかるところ,本件明細書には,「庫内差圧検出手段」及び「排気量 制御手段」を特定の構造や装置構成のものに限定する記載はないし,ま た,「暴露部」の「庫内差圧を一定にする」にいう「一定」の数値範囲 56 を定義した記載もない。
また,訂正発明2の特許請求の範囲(請求項2)の記載から,訂正発 明2の核酸分解処理装置は,「暴露部」の「ガス濃度情報」及び「庫内 差圧情報」を基に,「生成ガス量」及び「バイオガスの排気量」を制御 し,「暴露部」の「庫内ガス濃度」及び「庫内差圧」の両者を一定にす る制御を行うものであることを理解できること(前記(ア)),本件明細 書の発明の詳細な説明には,「本発明」は,訂正発明2の構成を採用し たことにより,フィードバック制御により暴露部の暴露空間内における 温度,湿度,濃度の定量的制御を行うことができ,検体の種類に対応し た短時間で高効能を発揮する条件を定義することができるという効果を 奏すること(【0021】,【0196】)の開示があること(前記(1) イ(イ))を総合すると,訂正発明2は,フィードバック制御により暴露 部の暴露空間内の温度,湿度,「庫内ガス濃度」及び「庫内差圧」の定 量的制御を行うことにより,検体の種類に対応した短時間で高効能を発 揮する条件を定義することができるようにしたことに技術的意義がある ことが認められる。
そして,訂正発明2の上記技術的意義に照らすと,「庫内差圧」を陰 圧の数値範囲に制御する必然性は見いだし難い。また,本件明細書全体 をみても,「庫内差圧」を陰圧の数値範囲に制御することによって,陽 圧の数値範囲に制御することと比して有利な効果を生じるなどの技術的 意義があることについての記載も示唆もない。
(ウ) 以上の訂正発明2の特許請求の範囲(請求項2)の記載及び本件明 細書の記載に鑑みると,訂正発明2の「庫内差圧検出手段」の検出の対 象となる「庫内差圧」は,「庫内」(暴露部の暴露空間内)の圧力と暴 露空間外の圧力との差圧であれば,特定の数値範囲のものに限定される ものではなく,陰圧の数値範囲のものに限定されるものでもないと解す 57 べきである。
したがって,訂正発明2の「庫内差圧検出手段」は,「滅菌タンク内 がタンク外よりも陰圧であることを検出する庫内差圧検出手段」であっ て,滅菌タンク内のMRガスの排気処理に起因して生じる庫内差圧を検 出するものであると限定解釈した本件審決の判断は誤りである。
イ 甲2の開示事項について (ア) 前記?ア及びイ(イ)の記載事項を総合すると,甲2には,「本発明」 の第2の実施の形態(図2)として,@ホルムアルデヒドガス供給排出 装置4及び室圧調整装置6を備えて構成されるホルムアルデヒドガス殺 菌装置であって,Aホルムアルデヒドガス供給排出装置4は,ホルムア ルデヒドガス発生器36,湿度調節器32,温度調節器34,排ガス処 理器46,外気を被殺菌空間内に導入するポンプ26,被殺菌空間から 外気へ排気するポンプ28,ホルムアルデヒドガス濃度センサ12,湿 度センサ14,温度センサ16及び制御器24を備え,制御器24は, 上記各センサにより得られた被殺菌空間100内のホルムアルデヒドガ ス濃度,湿度,温度の値に基づいて,これらの値が所定の値となるよう に,ホルムアルデヒドガス発生器36,湿度調節器32,温度調節器3 4,ポンプ26及び28を制御し,B室圧調整装置6は,室内に室外の 空気を給気する給気ユニット52,室内の空気を室外に排気する排気ユ ニット54,室内と室外との圧力差を検出する微差圧検出器56,コン トロールユニット58を備え,コントロールユニット58は,微差圧検 出器56により検出された検出値に基づいて給気ユニット52及び排気 ユニット54を制御し,排気ユニット54には排気量調整電磁弁74及 び送風機82が設けられ,室内から排気される空気に含まれるホルムア ルデヒドガス等を処理した後に室外に排出することができ,給気ユニッ ト52及び排気ユニット54の上記制御により,室内の圧力を「陽圧力」 58 に維持するものであることが開示されている。
このように,甲2における「本発明」の第2の実施の形態は,ホルム アルデヒドガスの給排気状況に依存して生じる被殺菌空間の室内と室外 との圧力差を検出する微差圧検出器56を備え,微差圧検出器56によ り検出された検出値がコントロールユニット58に帰還(フィードバッ ク)され,コントロールユニット58により被殺菌空間内の室内から室 外に排気される空気に含まれるホルムアルデヒドガス等の排気量及び室 内に給気する空気の給気量を制御することにより,被殺菌空間の室内の 圧力を一定にするという構成を備えるものである。
そうすると,甲2における「本発明」の第2の実施の形態の「微差圧 検出器56」,「コントロールユニット58」及び「排気量調整電磁弁 74及び送風機82」は,それぞれ,訂正発明2における「庫内差圧検 出手段」,「上記庫内差圧検出手段による検出結果から得られる庫内差 圧情報が…帰還され」る「上記排気量制御手段」及び「上記排気量制御 手段により制御される排気処理手段」に相当するものと認められる。
したがって,甲2には,相違点2に係る訂正発明2の構成が開示され ているものと認められる。
(イ) これに対し被告は,@訂正発明2の「庫内差圧検出手段」は,「滅 菌タンク内がタンク外よりも陰圧であることを検出する庫内差圧検出手 段であって,滅菌タンク内のMRガスの排気処理に起因して生じる庫内 差圧を検出するもの」であり,訂正発明2の庫内差圧検出手段と甲2記 載の微差圧検出器とは,圧力差の制御手法が正反対のものであるから, 甲2記載の微差圧検出器56は,訂正発明2の「庫内差圧検出手段」に 相当するものとはいえない,A訂正発明2は,庫内ガス濃度情報及び庫 内差圧情報という2つの情報を基に,生成ガス量及び排気量を調整し, 庫内ガス濃度と庫内差圧の両者を一定にするという制御を行うものであ 59 るのに対し,甲2に記載された発明では,MRガスの濃度の制御はホルムアルデヒドガス供給排出装置4側の制御器24で,処理室内外の気圧差の制御は室圧調整装置6側のコントロールユニット58で,それぞれ別の装置で,別々に制御が行われており,庫内ガス濃度と庫内差圧の両者を同時に一定の値にする制御を行う訂正発明2の「排気量制御手段」と構成が異なるものであるから,甲2には,相違点2に係る訂正発明2の開示はない旨主張する。
しかしながら,上記@の点については,前記ア(ウ)のとおり,訂正発明2の「庫内差圧検出手段」の検出の対象となる「庫内差圧」は,特定の数値範囲のものに限定されるものではなく,陽圧の値のものも含むと解すべきであるから,甲2記載の微差圧検出器56は,訂正発明2の「庫内差圧検出手段」に相当するものと認められる。
次に,上記Aの点については,訂正発明2の特許請求の範囲(請求項2)には,訂正発明2の「排気量制御手段」の具体的な構造や装置構成について規定した記載はなく(前記ア(ア)),本件明細書の発明の詳細な説明にも,「排気量制御手段」を特定の構造や装置構成のものに限定する記載はないこと(前記ア(イ))に鑑みると,訂正発明2は,「暴露部」の「ガス濃度情報」及び「庫内差圧情報」を基に,「生成ガス量」及び「バイオガスの排気量」を制御し,「暴露部」の「庫内ガス濃度」及び「庫内差圧」の両者を一定にする制御を行う構成のもの(前記ア(イ))であれば,庫内ガス濃度の制御と庫内差圧の制御を同じ装置で行うものに限られるものではない。また,甲2に記載された第2の実施の形態に係るホルムアルデヒドガス殺菌装置は,「所定時間,室内の温度,湿度,ホルムアルデヒドガスの濃度がそれぞれ温度20〜40℃の範囲,湿度50〜90%(相対湿度)の範囲,ホルムアルデヒドガス濃度160ppm以上を維持している間」,室圧調整装置6のコントロールユニット 60 58により室内の圧力を陽圧力に維持しているから(前記(3)イ(イ)), 甲2には,庫内ガス濃度と庫内差圧の両者を同時に制御することが開示 されていると認められる。
したがって,被告の上記主張は,その前提において,採用することが できない。
ウ 相違点2の容易想到性の有無について (ア) 前記(2)イ(イ)のとおり,甲1には,ラジカル化のための触媒反応温 度を一定に保ち,安定した濃度の滅菌ガスを発生させる滅菌ガス発生装 置を提供することを目的とすることについての開示があり,また,前記 (3)イ(ア)のとおり,甲2には,甲2記載のホルムアルデヒドガス殺菌装 置の構成を採用することにより,被殺菌空間内のホルムアルデヒドガス 濃度,湿度,温度をそれぞれ所定の値に制御し,かつ,室内温度の上昇 により室内の空気が膨張したような場合においても室圧を一定に保つこ とができるので,十分に保証可能な殺菌効果を得られるという効果を奏 することの開示がある。
そうすると,甲1及び甲2に接した当業者は,甲1発明において安定 した濃度の滅菌ガスを発生させるとともに,十分に保証可能な殺菌効果 を得るために,甲2記載の被殺菌空間内のホルムアルデヒドガス濃度, 湿度,温度をそれぞれ所定の値に制御し,かつ,被殺菌空間の室圧を一 定に保つための構成(前記イ(ア))を適用する動機づけがあるものと認 められる。
したがって,当業者は,甲1及び甲2に基づいて,甲1発明に甲2記 載の上記構成を適用して相違点2に係る訂正発明2の構成を容易に想到 することができたものと認められる。
(イ) これに対し被告は,甲2には,相違点2に係る訂正発明2の構成の 開示はないから,当業者は,甲1発明に甲2に記載された発明を適用し 61 ても,相違点2に係る訂正発明2の構成を容易に想到することができた ものではない旨主張する。
しかしながら,前記イ認定のとおり,甲2には相違点2に係る訂正発 明2の構成の開示はあるものと認められるから,被告の上記主張は,そ の前提を欠くものであり,理由がない。
? 小括 以上のとおり,相違点2に係る訂正発明2の構成は,当業者が容易に想到 することができたものと認められる。
したがって,甲1発明に甲2に記載された発明を適用しても,相違点2を 当業者が容易に想到することができたということはできないとして,訂正発 明2は,当業者が容易に発明をすることができたものではないとした本件審 決の判断は誤りであるから,原告主張の取消事由1-1は理由がある。
2 取消事由1-2(甲1を主引用例とする訂正発明3及び4の進歩性の判断の 誤り)について 本件審決は,訂正発明3は訂正発明2を引用する発明であり,また,訂正発 明4は訂正発明3を引用する発明であるところ,訂正発明2が当業者が容易に 発明をすることができたということはできないので,訂正発明3及び4につい ても当業者が容易に発明をすることができたということはできない旨判断し た。
しかしながら,前記1?のとおり,本件審決のした訂正発明2の容易想到性 の判断に誤りがあるから,訂正発明3及び4の容易想到性を否定した本件審決 の上記判断は,その前提を欠くものであって,誤りである。
したがって,原告主張の取消事由1-2は理由がある。
3 結論 以上によれば,原告主張の取消事由1-1及び1-2は理由があるから,そ の余の取消事由について判断するまでもなく,本件審決は取り消されるべきで 62 ある。
裁判長裁判官 大鷹一郎
裁判官 山門優
裁判官 筈井卓矢