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関連審決 無効2017-800095
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事件 平成 30年 (行ケ) 10054号 審決取消請求事件

原告ネオケミア株式会社
同訴訟代理人弁護士 高橋淳
同訴訟代理人弁理士 伊藤晃 新田昌宏 坂田啓司
被告 株式会社メディオン・リサーチ・ ラボラトリーズ
同訴訟代理人弁護士 山田威一郎 松本響子 柴田和彦
同訴訟代理人弁理士 田中順也 水谷馨也 迫田恭子
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2019/02/04
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
請求
1 特許庁が無効2017-800095号事件について平成30年3月12日 にした審決を取り消す。
事案の概要(後掲証拠及び弁論の全趣旨から認められる事実)
1 特許庁における手続の経緯等 (1) 被告は,名称を「二酸化炭素含有粘性組成物」とする発明に係る特許権 (特許第4659980号,平成23年1月7日設定登録。請求項の数1 3。国際出願日平成10年10月5日(優先権主張 平成9年11月7日 日本国。以下「本件優先日」という。)。以下,「本件特許権」といい,同 特許権に係る特許を「本件特許」という。)の特許権者である。
(2) 原告は,平成29年7月18日付けで,本件特許の請求項1〜13に係る 発明について特許を無効とすることを求めて,特許庁に無効審判請求をし, 特許庁は上記請求を無効2017-800095号事件として審理した。
(3) 特許庁は,平成30年3月12日,審判請求は成り立たない旨の審決(以 下「本件審決」という。)をし,その謄本は,同月23日,原告に送達され た。
(4) 原告は,平成30年4月20日,本件審決の取消しを求めて本件訴訟を提 起した。
2 特許請求の範囲の記載 本件特許の特許請求の範囲の請求項1〜13の記載は,次のとおりである。
以下,各請求項に記載の発明を,請求項の番号に従い「本件発明1」,「本件 発明2」などといい,「本件発明」と総称する。また,本件特許の明細書(甲 63)を,「本件明細書」という。
【請求項1】 部分肥満改善用化粧料,或いは水虫,アトピー性皮膚炎又は褥創の治療用医 薬組成物として使用される二酸化炭素含有粘性組成物を得るためのキットであ って, 2 1)炭酸塩及びアルギン酸ナトリウムを含有する含水粘性組成物と,酸を含む 顆粒(細粒,粉末)剤の組み合わせ;又は 2)炭酸塩及び酸を含む複合顆粒(細粒,粉末)剤と,アルギン酸ナトリウム を含有する含水粘性組成物の組み合わせ からなり, 含水粘性組成物が,二酸化炭素を気泡状で保持できるものであることを特徴と する, 含水粘性組成物中で炭酸塩と酸を反応させることにより気泡状の二酸化炭素を 含有する前記二酸化炭素含有粘性組成物を得ることができるキット。
【請求項2】 得られる二酸化炭素含有粘性組成物が,二酸化炭素を5〜90容量%含有す るものである,請求項1に記載のキット。
【請求項3】 含水粘性組成物が,含水粘性組成物中で炭酸塩と酸を反応させた後にメスシ リンダーに入れたときの容量を100としたとき,2時間後において50以上 の容量を保持できるものである,請求項1又は2に記載のキット。
【請求項4】 含水粘性組成物がアルギン酸ナトリウムを2重量%以上含むものである,請 求項1乃至3のいずれかに記載のキット。
【請求項5】 含有粘性組成物が水を87重量%以上含むものである,請求項1乃至4のい ずれかに記載のキット。
【請求項6】 請求項1〜5のいずれかに記載のキットから得ることができる二酸化炭素含 有粘性組成物を有効成分とする,水虫,アトピー性皮膚炎又は褥創の治療用医 薬組成物。
3 【請求項7】 請求項1〜5のいずれかに記載のキットから得ることができる二酸化炭素含 有粘性組成物を含む部分肥満改善用化粧料。
【請求項8】 顔,脚,腕,腹部,脇腹,背中,首,又は顎の部分肥満改善用である,請求 項7に記載の化粧料。
【請求項9】 部分肥満改善用化粧料,或いは水虫,アトピー性皮膚炎又は褥創の治療用医 薬組成物として使用される二酸化炭素含有粘性組成物を調製する方法であって, 1)炭酸塩及びアルギン酸ナトリウムを含有する含水粘性組成物と,酸を含む 顆粒(細粒,粉末)剤;又は 2)炭酸塩及び酸を含む複合顆粒(細粒,粉末)剤と,アルギン酸ナトリウム を含有する含水粘性組成物; を用いて,含水粘性組成物中で炭酸塩と酸を反応させることにより気泡状の二 酸化炭素を含有する二酸化炭素含有粘性組成物を調製する工程を含み, 含水粘性組成物が,二酸化炭素を気泡状で保持できるものである,二酸化炭素 含有粘性組成物の調製方法。
【請求項10】 調製される二酸化炭素含有粘性組成物が,二酸化炭素を5〜90容量%含有 するものである,請求項9に記載の調製方法。
【請求項11】 含水粘性組成物が,含水粘性組成物中で炭酸塩と酸を反応させた後にメスシ リンダーに入れたときの容量を100としたとき,2時間後において50以上 の容量を保持できるものである,請求項9又は10に記載の調製方法。
【請求項12】 含水粘性組成物がアルギン酸ナトリウムを2重量%以上含むものである,請 4 求項9乃至11のいずれかに記載の調製方法。
【請求項13】 含有粘性組成物が水を87重量%以上含むものである,請求項9乃至12の いずれかに記載の調製方法。
3 本件審決の理由の要旨 (1) 原告は,本件特許の請求項1〜13に係る発明は,本件優先日前に公開さ れた特開昭63-310807号公報(甲1。以下「甲1文献」という。)に 記載された発明,特開平6-179614号公報(甲2。以下「甲2文献」と いう。)及び甲3〜17の文献に記載された発明及び技術常識に基づいて当 業者が容易に発明をすることができたものであるとして,進歩性欠如を主張 した。
本件審決の理由は,別紙審決書(写し)記載のとおりであり,要するに, 本件発明は,下記(2)のとおりの甲1文献に記載の各引用発明に下記(4)のと おりの甲2文献に記載された技術事項など甲1〜17の文献に記載の事項を 組み合わせて当業者が容易に想到することができたとはいえないから,原告 の無効審判請求は成り立たないというものである。
(2) 本件審決が認定した各引用発明は次のとおりである。以下,下記の引用発 明1及び引用発明2を「引用発明」と総称する。
ア 引用発明1 「(1)約80℃にてPEG4000の一部を溶解し,熱時アルギン酸ナト リウム,炭酸水素ナトリウムを加え均一に混合した後,室温まで冷却し, 粉末としたものと,(2)約80℃にてPEG4000の残部を溶解し, 熱時クエン酸を加えて均一に混合した後,室温まで冷却し粉末としたもの とを均一に混和したものであって,用時,水に溶解して使用する1剤式発 泡エッセンス」 なお,このうち,(1)の工程で形成される,アルギン酸ナトリウムと 5 炭酸水素ナトリウムとの混合物がポリエチレングリコールで被覆された粉 末を,「アルギン酸ナトリウム・炭酸塩含有PEG被覆粉末1」と,(2) の工程で形成される,クエン酸がPEGで被覆された粉末を「酸含有PE G被覆粉末2」という。) イ 引用発明2 「炭酸ガスによる血行促進作用によって皮膚を賦活化させるための粘性を有 する化粧料を調製する方法であって,PEG4000により被覆された炭 酸水素ナトリウム及びアルギン酸ナトリウムと,PEG4000により被 覆されたクエン酸とが均一に混和された1剤式発泡エッセンスに水を加え て,炭酸水素ナトリウムとクエン酸とを反応させることにより気泡状の炭 酸ガスを含有し粘性を有する化粧料を調製する工程を含み,該粘性を有す る化粧料が炭酸ガスを気泡状で保持できるものである,化粧料の調製方法。」(3) 本件審決が認定した本件発明と引用発明の一致点及び相違点は次のとおり である。
ア 本件発明1と引用発明1の対比 両発明は以下の[一致点]で一致し,[相違点A]及び[相違点B]に ついて相違する。
なお,本件発明1の,炭酸塩及びアルギン酸ナトリウムを含有する含水 粘性組成物のことを「アルギン酸ナトリウム 炭酸塩含有含水粘性組成物」 ・ という。) [一致点] 化粧料或いは医薬組成物として使用される二酸化炭素含有粘性組成物を 得るためのものであって,炭酸塩とアルギン酸ナトリウム,酸を含み,気 泡状の二酸化炭素を含有する前記二酸化炭素含有粘性組成物を得ることが できるもの [相違点A] 6 二酸化炭素含有粘性組成物の具体的な用途が,本件発明1では,部分肥 満改善用化粧料,或いは水虫,アトピー性皮膚炎又は褥創の治療用医薬組 成物としての使用であるのに対し,引用発明1では,炭酸ガスによる血行 促進作用によって皮膚を賦活化させるための化粧料としての使用である点。
[相違点B] 二酸化炭素含有粘性組成物の具体的な構成が,本件発明1では,「1) 炭酸塩及びアルギン酸ナトリウムを含有する含水粘性組成物と,酸を含む 顆粒(細粒,粉末)剤の組み合わせ;又は2)炭酸塩及び酸を含む複合顆 粒(細粒,粉末)剤と,アルギン酸ナトリウムを含有する含水粘性組成物 の組み合わせ,からなり,含水粘性組成物が,二酸化炭素を気泡状で保持 できるものであることを特徴とする,含水粘性組成物中で炭酸塩と酸を反 応させることにより,気泡状の二酸化炭素を含有する前記二酸化炭素含有 粘性組成物を得ることができるキット」であるのに対し,引用発明1では, 「PEG4000により被覆された炭酸水素ナトリウム及びアルギン酸ナ トリウムと,PEG4000により被覆されたクエン酸とが均一に混和さ れた,用時,水に溶解して使用する1剤式発泡エッセンス」である点。
イ 本件発明9と引用発明2の対比 両発明は以下の[一致点]で一致し,[相違点C]及び[相違点D]に ついて相違する。
[一致点] 化粧料或いは医薬組成物として使用される二酸化炭素含有粘性組成物の 調製方法であって,炭酸塩と酸を反応させることにより気泡状の二酸化炭 素を含有する二酸化炭素含有粘性組成物を調製する工程を含み,該二酸化 炭素含有粘性組成物が二酸化炭素を気泡状で保持できるものである,二酸 化炭素含有粘性組成物の調製方法。
[相違点C] 7 調製方法の目的物である二酸化炭素含有粘性組成物の具体的な用途が, 本件発明9では,部分肥満改善用化粧料,或いは水虫,アトピー性皮膚炎 又は褥創の治療用医薬組成物としての使用であるのに対し,引用発明2で は,炭酸ガスによる血行促進作用によって皮膚を賦活化させるための化粧 料としての使用である点。
[相違点D] 調製方法の具体的な内容が,本件発明9では「炭酸塩と酸を反応させる ことにより気泡状の二酸化炭素を含有する二酸化炭素含有粘性組成物を調 製する工程」において「1)炭酸塩及びアルギン酸ナトリウムを含有する 含水粘性組成物と,酸を含む顆粒(細粒,粉末)剤;又は2)炭酸塩及び 酸を含む複合顆粒(細粒,粉末)剤と,アルギン酸ナトリウムを含有する 含水粘性組成物;を用いて,含水粘性組成物中で炭酸塩と酸を反応させ」 るものであるのに対し,引用発明2では,「PEG4000により被覆さ れた炭酸水素ナトリウム及びアルギン酸ナトリウムと,PEG4000に より被覆されたクエン酸とが均一に混和された1剤式発泡エッセンスに水 を加えて,炭酸水素ナトリウムとクエン酸とを反応させ」るものである点。
(4) 本件審決が認定した甲2文献に記載された技術事項は次のとおりである (以 下「甲2文献記載の技術事項」という。)。
「 アルギン酸塩類と該塩類と反応する二価以上の金属塩類とを配合した粉 末を使用時に水と混合してペースト状とし,皮膚に塗布し乾燥させて皮膜 を形成させ,その後,手で剥がされるパック化粧料において,水との混合 に際してアルギン酸水溶性塩がダマになるのを防ぐとともに,経時的に安 定とするために,アルギン酸水溶性塩類を含有するゲル状パーツからなる 第1剤と,前記アルギン酸水溶性塩類と反応し得る二価以上の金属塩類を 含有する粉末パーツからなる第2剤との2剤からなるパック化粧料とする こと」 8 4 取消事由 相違点Bに関する容易想到性判断の誤り
原告主張の取消事由(相違点Bに関する容易想到性の判断の誤り)
1 引用発明1と甲2文献記載の技術事項は,アルギン酸ナトリウムの難溶性と いう点について同じ課題を有しているとはいえないとして,引用発明1に甲2 文献記載の技術事項を組み合わせる動機付けはないとした本件審決の判断は誤 りである。
2 引用発明1には,アルギン酸ナトリウムを含む粉末を水に溶解させようとす る場合にダマが生じるという問題(以下「ダマ形成問題」という。)と,粉末 を均一に溶解するために攪拌しなければならず,それが不便かつ煩わしいとい う問題(以下「攪拌問題」という。)の課題が存在し,これは甲2文献記載の 技術事項と共通する。
(1) ダマ形成問題について ア アルギン酸ナトリウムを含む粉末を水に溶解させようとする場合に一般 にダマ形成問題があることは技術常識である。
また,特開昭61-252231号(甲44。以下「甲44文献」とい う。)には,先行技術として,「ママコを生じ易い粉末糊料については, この粉末をママコを生じにくい粉末糊料(ポリビニルアルコール等)でコ ーティングすることによりママコの形成を防ぐとともに溶解時間を短縮す る方法も行われている。しかしながら,・・・粉末糊料を別のママコを生 じにくい糊料でコーティングする方法は,主成分(ママコを生じ易い糊料) の特性が阻害されたり,糊液粘度も変動する等の問題点を抱えており,い ずれにしてもママコの形成防止ないし消失法として効果的ではなかった。」 との記載があり(甲44文献2頁左上欄),この「ママコを生じ易い粉末 糊料」の具体例としてアルギン酸ナトリウムも明示されている(甲44文 献3頁左上欄〜右上欄)から,以上を総合すれば,アルギン酸ナトリウム 9 を「ママコを生じにくい粉末糊料(ポリビニルアルコール等)」でコーティングすることによりダマ形成問題を解決する試みがなされたが,効果的ではなかったことが理解できる。
そして,ポリビニルアルコールとポリエチレングリコールは,本件優先日当時,いずれも高分子糊料として認識されていた(甲45,46)ものであるから,上記「ママコを生じにくい粉末糊料(ポリビニルアルコール等)」の中にポリエチレングリコールが含まれることは自明である。
以上によれば,アルギン酸ナトリウムをポリエチレングリコールでコーティングしてもダマ形成問題は解決されないといえる。
被告は,PEG4000(以下「PEG」という。)でアルギン酸ナトリウムを被覆した引用発明においては,ダマ形成問題が生じないと主張するが,被告がその根拠とする甲37〜40の文献は,いずれも引用発明とは異なる技術に関するものである。すなわち,引用発明1は,アルギン酸ナトリウムと炭酸塩とを固体のポリエチレングリコールにて被覆したものであり(甲37〜40の技術。以下「被覆型」という。),アルギン酸ナトリウム等の水溶性高分子を液体のポリエチレングリコールに分散させたもの(以下「分散型」という。)ではない。被覆型と分散型の間には,ポリエチレングリコールが固体であるか液体であるかの相違があり,その相違は,以下のとおり,ダマ形成軽減のメカニズムに相違をもたらすものである。すなわち,分散型は,液体のポリオールにアルギン酸ナトリウムを入れて攪拌すると,ポリオールに溶けないアルギン酸ナトリウムがポリオールとの反発力によってポリオール中で微粒子となって分散し,表面積が増えるため,アルギン酸ナトリウムの微粒子が水に接する表面積が多くなることから水に溶けやすくなり,ダマの形成が軽減される。これに対し,被覆型は,まずPEGが水に溶けて,その後,その下にあるアルギン酸ナトリウムが徐々に溶けることにより溶解速度が遅延し,アルギン酸ナトリ 10 ウムが凝集する可能性が低下し,ダマの形成が軽減される。したがって, 仮に,分散型においてダマの形成を抑制できることが周知であったとして も,当業者が,被覆型においてダマの形成が解消されるとの認識を有する ことはない。また,被告が,常温で固体のポリエチレングリコールによる 被覆によりダマの形成を抑制できることの根拠とする乙1の文献は,本件 優先日から17年以上経過後に公開された文献であり,本件優先日当時の 技術常識を示すものではない。
イ 引用発明1の「PEG一部を溶解し,熱時アルギン酸ナトリウム,炭酸 水素ナトリウムを加え均一に混合した後,室温まで冷却し,粉末としたも の」は,アルギン酸ナトリウムをPEGで被覆したものであるが,上記ア によれば,引用発明1において,ダマ形成問題という課題があることが明 らかである。
また,甲2文献には,アルギン酸水溶性塩類と二価以上の金属塩類を配 合したパック化粧料に関し,ダマになり易いことが明記されている(【0 003】)。
(2) 攪拌問題について ア パック剤は,その性質上均一に溶解する必要がある。しかし,アルギン 酸ナトリウムには水に溶けにくいという特徴(難溶解性),すなわち,水 を加えると徐々に溶解し,水溶液は高粘度であり,急いで溶解させようと 一挙に水を投入するとダマが発生するという特徴があり,均一なパック剤 の調製には素早く徹底的な攪拌操作が必要とされ,これは不便かつ煩わし い(米国特許第3,164,523号明細書(甲3-5。以下「甲3-5文 献」という。)参照)。
また,アルギン酸ナトリウムは水を加えると徐々に溶解し,PEGによ る被覆はアルギン酸ナトリウムの溶解を遅らせる(甲1文献・3頁左上欄 5行目)。そして,アルギン酸ナトリウム水溶液の粘度は濃度の増加に対 11 してほぼ対数的に増加する(甲19・87頁)。
イ 上記アによれば,PEG被覆したアルギン酸ナトリウムを水に溶解する 引用発明1において,アルギン酸ナトリウムの水溶液濃度の上昇に伴って 粘度は飛躍的に上昇するが,これと並行して炭酸塩と酸により二酸化炭素 を発生する反応が進行する。アルギン酸ナトリウム水溶液の高粘度化が, 炭酸水素ナトリウムと酸の反応による二酸化炭素の発生と競合するため, 少しでも多くの二酸化炭素を化粧料に取り込んで経皮吸収の効率を高め, 炭酸塩と酸の反応効率を低下させないためにも,アルギン酸ナトリウムの 溶解及び均一化をできる限り短時間で行うことが求められ,アルギン酸ナ トリウムの難溶解性に伴う攪拌問題が重要な解決課題となる。
また,甲2文献記載の技術事項においても,アルギン酸ナトリウム水溶 液の高粘度化が,アルギン酸カルシウム生成によるゲル化と競合し,アル ギン酸ナトリウムの難溶解性に伴う攪拌問題が重要な解決課題となる。
3 引用発明1に甲2文献記載の技術事項を組み合わせることは,当業者が容易 に想到し得たこと (1) 引用発明1と甲2文献記載の技術事項は,いずれもアルギン酸ナトリウム を基剤とするパック化粧料に関する技術であるから,技術分野は共通する。
(2) アルギン酸ナトリウムは水に徐々に溶解するものであることが周知であり (甲48〜50),アルギン酸ナトリウムを事前に溶解させた水溶液として 利用することが慣用技術であったことは,複数の論文(甲51〜54)から も明らかである。
(3) エントロピー増大の法則から,水溶液中に発生した気泡状の二酸化炭素は 空気中に拡散しようとする傾向があるところ,水溶液に高分子化合物を溶解 させると,高分子化合物が結合することにより形成される三次元の網目構造 が気泡状の二酸化炭素を水溶液中に閉じ込めて空気中に拡散することを防止 できること(閉じ込め効果)も明らかである。仮にこの点が明らかでないと 12 しても,甲55,94から,水溶液に高分子化合物を溶解させることにより, 気泡状の二酸化炭素を水溶液中に閉じ込めて空気中に拡散することを防止で きることは公知であるといえる。
(4)ア 甲1文献には,「炭酸ガスの泡が徐々に発生すると共に水溶性高分子及 び/又は粘土鉱物の粘性によって安定な泡を形成し,炭酸ガスの保留性が高 まる」との記載がある(甲1文献・1頁右欄)。この記載は,特許請求の 範囲記載の第2剤をPEGで被覆することにより,炭酸ガスの急激な発生 を抑止するとともに,アルギン酸ナトリウム等の高分子により水溶液に与 えられる「粘性」が気泡状の二酸化炭素の持続性をもたらし,その相乗効 果により「炭酸ガスの保留性が高まる」ことを示しているが,この点は, 「炭酸ガスの保留性」が実施例と同等と評価されている引用発明にも妥当 する。
そして,気泡膜を形成する媒質の粘性が増大すると気泡の安定性が高ま る(安定化効果)ことが古くから知られている(甲56・27頁)から, 「粘性によって安定な泡を形成し」との記載は,水溶液の粘度を高めて, 気泡状の二酸化炭素の気泡の持続性を高めることを示唆するものである。
また,特開昭62-16409号(甲57・(2)右下欄7〜9頁)には, 酸と炭酸塩を含む固形の美容剤が開示され,炭酸水素ナトリウム,炭酸ナ トリウム及び有機酸を含む実施例(2)及び(3)について,固形であっても液 体に入れると同時に炭酸ガスが発生するとの記載があり,酸と炭酸塩の反 応速度が非常に速いことが明らかである。
引用発明においてはアルギン酸ナトリウムもPEGで被覆されていると ころ,@ 気泡が崩壊しやすいものであること,A アルギン酸ナトリウ ムが徐々に水に溶解すること,B 水の存在下における酸と炭酸塩の反応 が急激であることという技術常識参酌すると,引用発明の構成のままで は酸と炭酸塩の反応がアルギン酸ナトリウムの水全体に対する溶解よりも 13 速く発生するであろうことが容易に想到できる。そうすると,当業者は, 引用発明において,気泡状の二酸化炭素の持続性を高めるため(ガスの保 留性を高めるため),水に事前にアルギン酸ナトリウムを溶解させて粘度 を高めておくという発想に至ることは容易である。
イ 本件審決は,甲1の実施例2と比較例1を対比し,アルギン酸ナトリウ ムおよび炭酸水素ナトリウムのPEG被覆が,発泡性やガス保留性の向上 に寄与しているから,そのPEG被覆を除去するような技術変更はその適 用を阻害されると認定しているが,誤りである。
すなわち,甲1文献の実施例2から比較例1への技術変更は,PEG被 覆を全て除去することを意味するのに対し,引用発明1では,「アルギン 酸ナトリウム及び炭酸水素ナトリウム」と「クエン酸」とが,それぞれP EG被膜されているのであるから,これに甲2文献記載の技術事項を適用 してもクエン酸のPEG被覆は残存する。そうすると,実施例2と比較例 1との対比のみを根拠として,引用発明1に甲2文献記載の技術事項を適 用することに阻害要因があると判断することはできないし,事前に粘性組 成物を調製することによる閉じ込め効果と安定化効果による気泡状の二酸 化炭素の持続性(ガス保留性)の向上を無視して,結論を出すことは誤り である。なお,原告は,念のため,実際に比較試験を実施して,甲1比較 例10のクエン酸のPEG被膜,又はアルギン酸ナトリウム及び炭酸水素 ナトリウムのPEG被膜を除いた被験試料を調製し,発泡性及び気泡保持 性を比較したが,いずれも大きな相違がないことを確認している(甲7)。
また,被告は,酸のみをPEG被覆した場合に炭酸ガスの発生速度を調 整できるか類推すらし得ないと主張するが,固形製剤において有効成分の PEG被覆によって任意の速度で有効成分を放出する徐放製剤技術は当業 者にとって周知である(甲65・1頁左欄8〜19行)し,本件発明にお ける反応は,粘性組成物中における炭酸塩と酸の反応であるため,PEG 14 による酸の徐放効果に加え,粘性組成物の粘性によって酸の放出速度が抑 制されるから,炭酸塩との反応速度の抑制は容易である。
(5) 本件審決は,顆粒等と水とを組み合わせたキットとすることは記載も示唆 もされていないと認定したが,甲1文献の比較例4〜10についての「用時 に10倍量(重量)の水と混合した」(5頁右下欄)との記載からすれば, 引用発明はキットの要素として位置づけられているし,少なくとも,「顆粒 等と水とを組み合わせたキット」とすることの示唆はあるというべきである。
(6) 以上のとおり,引用発明1及び甲2文献記載の技術事項は,いずれもアル ギン酸ナトリウムを基剤とする2剤混合型のパック化粧料で技術分野が共通 又は関連することは明らかであり,いずれも粉末状のパック剤キットである から,使用時に水で均一に溶くことが必要であるため,ダマ形成問題及び攪 拌問題という課題を共通して有するものである。
したがって,引用発明1について,閉じ込め効果及び安定化効果を向上さ せることも念頭に置きつつ,引用発明1と技術分野及び課題を共通にする甲 2文献記載の技術事項を引用発明に適用することにより,相違点Bを解消す ることは容易である。
4(1) 二酸化炭素が部分肥満改善効果及び一定の治療等の効果を有するとすると, その効果は血行促進効果に由来するもので,先行文献(甲8〜17,66, 67)に記載されているから,相違点Aを解消することは容易である。
(2) そして,本件発明1についての容易想到性の判断が誤りである以上,本件 発明2〜13が容易想到ではないとの判断も誤りである。
よって,本件審決は誤りであるから,取り消されるべきである。
被告の反論
1 原告の指摘する課題について (1) ダマ形成問題について ア 粉末状のアルギン酸ナトリウムを水に添加すると,分散し難く,ダマを 15 形成し易いという問題点は,本件優先日の時点で,ポリエチレングリコー ル等のポリオールにアルギン酸ナトリウムを分散させるという手法によっ て解決可能であることが広く知られている。これは,甲37〜40及び乙 1の文献に,ポリエチレングリコール等のポリオールにアルギン酸ナトリ ウムを分散させた後に水に添加すると,ダマの形成を抑制しつつポリオー ルにアルギン酸ナトリウムを溶解できることが記載されていることから明 らかである。
甲1文献にはアルギン酸ナトリウムのダマ形成を問題視する記載は存在 せず,当業者は,上記技術常識に照らし,アルギン酸ナトリウムがPEG に被覆された状態になっている引用発明1においては,既に水添加時のダ マ形成の問題も改善されていると認識する。
また,常温で固体状のポリエチレングリコールでアルギン酸ナトリウム を被覆することにより水添加時のダマの形成を抑制できることは,乙1に 開示されており,このことからも,ダマの形成が問題とならないことは明 らかである。
イ よって,引用発明1について,当業者がダマ形成を問題視することはな い。
なお,原告が指摘する甲44文献は,コーティングされた糊料の特性が 失われることや糊液粘度の変動という点において,コーティングという手 段によるママコ形成防止策には不都合があることを示唆しているに過ぎず, コーティングしてもママコが生じるということを示すものではなく,むし ろ,アルギン酸ナトリウムをPEGでコーティングすることでママコ形成 を防止できることが周知であったことを示している。
(2) 攪拌問題について 原告が「粉末成分と水とを混合して含水粘性組成物(ペースト)を用時調 製することは不便かつ煩わしい」ことについての記載があるとする甲3-5 16 文献は,甲2文献と同様に,アルギン酸ナトリウムとカルシウム塩との硬化 反応を利用する皮膚美化組成物に関する技術文献である。この記載は,「パ ウダー形状のアルギン酸水溶性塩とカルシウム塩の組み合わせを含むゲル形 成組成物」において,水の存在でアルギン酸塩とカルシウム塩との反応によ るゲル形成が急速に進むので,滑らかなペースト状のゲルとするためには素 早く徹底的な攪拌が必要であり,この素早く徹底的な攪拌操作が不便かつ煩 わしいことを示すものであって,引用発明1には妥当しない。
引用発明1は,アルギン酸ナトリウムと炭酸水素ナトリウムとの混合物が PEGで被覆された粉末を用いるものであるところ,甲1文献には,用時, 水に溶解させるに当たりダマが形成されることが問題であったことを示す記 載はない。
原告がダマになり易いことを追試により確認したとして提示する甲7では, 甲1文献の実施例9(「鐘紡発明を利用した二酸化炭素発生パック剤」)に ついて,1秒当たり1回転の条件で攪拌操作を1分間行い,攪拌操作終了か ら1分後に外観性状を評価したところ「ダマの発生が認められた。」とされ ている。しかし,仮に,特定の実験条件でダマが形成されることが出願後に 示されたとしても,そのことをもって,引用発明1におけるダマになり易さ が本件優先日時点において当業者にとって自明又は周知の課題であったとい えるわけではないことは明らかである。しかも,上記は甲1文献の実施例9 の追試であって,引用発明1自体の追試ではないから,このような実験結果 から,引用発明1においてダマになり易さが自明又は周知の課題であったと 認めることはできない。
(3) 以上のとおり,引用発明1には,原告が主張するようなダマ形成問題及び 攪拌問題の課題は存在せず,引用発明1と甲2文献記載の技術事項との間に 課題の共通性がないことは明らかである。
2 容易想到性について 17 (1) 原告は,アルギン酸ナトリウムは,水に徐々に溶解するものであることが 周知であり,アルギン酸ナトリウムを事前に溶解させた水溶液として利用さ れることが慣用技術であったと主張しているが,この主張と引用発明1に対 して甲2文献記載の技術事項を適用できるとの主張との関連性が不明である。
(2) 原告は,エントロピー増大の法則等に関する主張をするが,仮にその主張 のとおりであったとしても,引用発明1に甲2文献記載の技術事項を適用す る動機付けが認められることになるものではない。
(3) 原告は,引用発明1において,水溶液の粘性が高まる前に崩壊する二酸化 炭素が存在することに着目し,粘性により生じる安定化効果によって気泡状 の二酸化炭素の持続性を高めるため(ガスの保留性を高めるため),水に事 前にアルギン酸ナトリウムを溶解させて粘度を高めておくという技術思想に 至ることは容易であると主張するが,甲1文献にはアルギン酸ナトリウムを 増粘させた状態で提供する製剤形態については開示も示唆もないから,引用 発明1を「炭酸塩及びアルギン酸ナトリウムを含む含水粘性組成物」を含む 2剤型の製剤形態に変更する動機付けは与えられない。
また,甲1文献は,ガス保留性,経日安定性,官能特性等に優れた発泡性 化粧料に関して,「酸性物質を水に溶解して得られる水溶液を第1剤とし, 水溶性高分子及び/又は粘土鉱物と炭酸塩とをポリエチレングリコールで被 覆した固型物を第2剤とする用時混合型発泡性化粧料」を開示しているが(特 許請求の範囲,実施例1〜11参照),引用発明1は,経日安定性の点で実 施例に記載の発明に劣る結果になっている(甲1文献の第3表) そのため, 。
仮に,当業者が引用発明1に着目して設計変更しようと試みる場合,「酸と 水を含む水溶液からなる第1剤」と「炭酸塩及びアルギン酸ナトリウムがポ リエチレングリコールで被覆された固型物からなる第2剤」とからなる2剤 型の発泡性化粧料(甲1文献の実施例1〜11の態様)に設計変更すること が強く動機付けられ,「炭酸塩及びアルギン酸ナトリウムを含む含水粘性組 18 成物」を含む2剤型の製剤形態(相違点Bに関する本件発明1の構成)に設 計変更することが動機付けられるはずがない。
さらに,甲1文献の記載(3頁左上欄5〜8行)から明らかなとおり,甲 1文献に記載の発明において,炭酸塩とアルギン酸ナトリウムをPEGで被 覆することは,アルギン酸ナトリウムのダマ形成を抑制するだけでなく,炭 酸塩の溶解速度を制御し,水溶液状態の酸との反応速度(=発泡性及び泡持 ち)を適切にコントロールする上で不可欠な技術要素になっており,この点 は,引用発明1にも妥当する。また,甲1文献の比較例1(炭酸塩,アルギ ン酸ナトリウム及びポリエチレングリコールを単に混合した粉末状第2剤を 使用する)はガス保留性が著しく劣るから,引用発明1の「アルギン酸ナト リウム・炭酸塩含有PEG被覆粉末1」を「炭酸塩及びアルギン酸ナトリウ ムを含む含水粘性組成物」に変更すると,引用発明1が有していたガス保留 性が損なわれることが懸念される。したがって,当業者は,引用発明1の炭 酸塩とアルギン酸のPEG被覆を失わせるような改変は,発泡性及びガス保 留性の低下が懸念されるため,行うべきではないと認識するはずである。
原告は,クエン酸のPEG被覆が残存すると主張するが,酸と炭酸塩の水 に対する溶解度は大きく異なり(例えば,クエン酸の水(常温)への溶解度 は73g/100mlであるのに対し,炭酸水素ナトリウムの水(常温)へ の溶解度は9.6g/100mlであり,両者の溶解度には7.6倍もの差 があり,水への溶解速度も大きく異なる。),水への溶解速度も大幅に異な るから,引用発明1において酸だけをPEGで被覆するように設計変更して も,炭酸ガスの発生速度を所望の範囲に調整できるかについては類推すらし 得ない。
(4) 原告は,引用発明1について「顆粒等と水とを組み合わせたキット」とす ることの示唆はあるとの主張をしているが,引用発明1はあくまで「用時, 水に溶解して使用する1剤式発泡エッセンス」の発明であり,水を含めたキ 19 ットの発明であるとはいえず,水をキットの一要素であるとする原告の主張 には理由がない。
(5) 以上のとおり,引用発明1に甲2文献記載の技術事項を組み合わせて本件 発明1とすることは,当業者が容易に想到し得たこととはいえない。
3(1) 「部分肥満改善用化粧料,或いは水虫,アトピー性皮膚炎又は褥創の治療 用医薬組成物」に使用されるという本件発明1の用途について,甲1文献に は何らの記載も示唆もない。また,甲11〜17のいずれにも二酸化炭素を 利用することについて記載はなく,相違点Aについて容易に想到し得たとは いえない。
(2) 以上によれば,本件発明1は当業者が容易に想到し得たものではない。ま た,これによれば,本件発明2〜13についても容易に想到し得たものとは いえない。
当裁判所の判断
1 本件発明について (1) 特許請求の範囲の記載 本件発明の特許請求の範囲の記載は,上記第2の2に記載のとおりである。
(2) 本件明細書の記載 本件明細書(甲63)には以下の記載がある。
ア 技術分野 本発明は,水虫,虫さされ,アトピー性皮膚炎,貨幣状湿疹,乾皮症, 脂漏性湿疹,蕁麻疹,痒疹,主婦湿疹,尋常性ざ瘡,膿痂疹,毛包炎,癰, せつ,蜂窩織炎,膿皮症,乾癬,魚鱗癬,掌蹠角化症,苔癬,粃糠疹,創 傷,熱傷,き裂,びらん,凍瘡などの皮膚粘膜疾患もしくは皮膚粘膜障害 に伴うかゆみ;褥創,創傷,熱湯,口角炎,口内炎,皮膚潰瘍,き裂,び らん,凍瘡,壊疽などの皮膚粘膜損傷;・・・などを副作用をほとんどと もなわずに治療あるいは改善でき,また所望する部位に使用すれば,その 20 部位を痩せさせられる二酸化炭素含有粘性組成物とそれを用いる予防及び 治療方法に関する。
イ 背景技術 痒みの治療に対して,局所療法として外用の抗ヒスタミン剤や抗アレル ギー剤などが一般に使用される。これらは痒みが発生したときに使用され, 一時的にある程度痒みを抑える。湿疹に伴う痒みに対しては外用の非ステ ロイド抗炎症剤やステロイド剤の使用が一般的であり,これらは炎症を抑 えることにより痒みの発生を防ごうとするものである。
しかしながら,外用の抗ヒスタミン剤や抗アレルギー剤はアトピー性皮 膚炎,水虫や虫さされの痒みにはほとんど効果がない。外用の非ステロイ ド抗炎症剤やステロイド剤は,痒みに対する効果は弱く,即効性もない。
また,ステロイド剤は副作用が強いため,使用が容易でない。
本発明は,水虫,虫さされ,アトピー性皮膚炎,貨幣状湿疹,乾皮症, 脂漏性湿疹,蕁麻疹,痒疹,主婦湿疹,尋常性ざ瘡,膿痂疹,毛包炎,癰, せつ,蜂窩織炎,膿皮症,乾癬,魚鱗癬,掌蹠角化症,苔癬,粃糠疹,創 傷,熱傷,き裂,びらん,凍瘡などの皮膚粘膜疾患もしくは皮膚粘膜障害 に伴う痒みに有効な製剤とそれを用いる治療及び予防方法を提供すること にある。
また本発明は,褥創,創傷,熱傷,口角炎,口内炎,皮膚潰瘍,き裂, びらん,凍瘡,壊疽などの皮膚粘膜損傷;・・・及び部分肥満に有効な製 剤とそれを用いる予防及び治療方法を提供することを目的とする。
ウ 発明の開示 本発明者らは鋭意研究を行った結果,二酸化炭素含有粘性組成物が,外 用の抗ヒスタミン剤や抗アレルギー剤,非ステロイド抗炎症剤,ステロイ ド剤などが無効な痒みにも有効であることを発見し,更に該組成物が抗炎 症作用や創傷治癒促進作用,美肌作用,部分肥満解消作用,経皮吸収促進 21 作用なども有することを発見して本発明を完成した。
即ち,本発明は,下記の1〜48に関する。
1. 増粘剤の1種または2種以上を含む含水粘性組成物に気泡状の二酸化炭素を含有してなる二酸化炭素含有粘性組成物であって,増粘剤がアラビアゴム,・・・アルギン酸ナトリウム,・・・からなる群より選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする二酸化炭素含有粘性組成物。・・・4. 二酸化炭素が酸と炭酸塩の反応により得られることを特徴とする,項1〜3のいずれかに記載の二酸化炭素含有粘性組成物。・・・6.炭酸塩と酸と増粘剤と水が実質的に二酸化炭素を発生しない状態でなるキットであって,炭酸塩と酸と増粘剤と水を混合することにより気泡状の二酸化炭素を含有する二酸化炭素含有粘性組成物を得ることができるキット。
7.炭酸塩含有粘性組成物と酸を含む項6記載のキット。
8.酸含有粘性組成物と炭酸塩を含む項6記載のキット。・・・18.項1〜58のいずれかに記載の二酸化炭素含有粘性組成物または項6〜17のいずれかに記載のキットから得ることができる二酸化炭素含有粘性組成物を有効成分とする医薬組成物。・・・26.項1〜5のいずれかに記載の二酸化炭素含有粘性組成物または項6〜17のいずれかに記載のキットから得ることができる二酸化炭素含有粘性組成物を含む化粧料。・・・ 本発明には,例えば以下のキットが含まれる。
1)炭酸塩含有含水粘性組成物と酸とのキット;2)酸含有含水粘性組成物と炭酸塩とのキット;3)炭酸塩含有含水粘性組成物と酸の顆粒(細粒,粉末)剤とのキット;4)酸含有含水粘性組成物と炭酸塩の顆粒(細粒,粉末)剤とのキット;5)炭酸塩含有含水粘性組成物と酸含有含水粘性組成物のキット; 22 6)炭酸塩と酸の複合顆粒(細粒,粉末)剤と含水粘性組成物のキット; ・ ・・エ 発明を実施するための最良の形態 実施例を示して本発明を更に詳しく説明するが,本発明はこれらの実施 例に限定されるものではない。尚,表中の数字は特にことわらない限り重 量部を表す。実施例1〜84 炭酸塩含有含水粘性組成物と酸との組み合わ せよりなる二酸化炭素含有粘性組成物を表1〜表7に示す。
製造方法〕 増粘剤と精製水,炭酸塩を表1〜表7のように組み合わせ,炭酸塩含有 含水粘性組成物をあらかじめ調製する。酸は,固形の場合はそのまま,又 は粉砕して,又は適当な溶媒に溶解又は分散させて,液体の場合はそのま ま,又は適当な溶媒で希釈して用いる。炭酸塩含有含水粘性組成物と酸を 混合し,二酸化炭素含有粘性組成物を得る。
〔二酸化炭素含有粘性組成物の評価〕 <発泡性> 炭酸塩含有含水粘性組成物50gと酸1gを直径5cm,高さ10cm のカップに入れ,その体積を測定する。これを10秒間に20回攪拌混合 し二酸化炭素含有粘性組成物を得る。攪拌混合1分後の該組成物の体積を 測定し,攪拌混合前の体積からの増加率をパーセントで求め,評価基準1 に従い発泡性を評価する。
<評価基準1> 増加率 発泡性 70%以上 +++ 50%〜70% ++ 30%〜50% + 30%以下 0 体積の測定は,各々の測定時点での二酸化炭素含有粘性組成物の高さを 23 カップに記し,該組成物を除去した後でそれらの高さまで水を入れ,それ らの水の体積をメスシリンダーで測定する。
<気泡の持続性> 炭酸塩含有含水粘性組成物50gと酸1gを直径5cm,高さ10cm のカップに入れ,10秒間に20回攪拌混合し二酸化炭素含有粘性組成物 を得る。攪拌混合1分後の該組成物の体積を測定し,その2時間後の体積 を測定して体積の減少率をパーセントで求め,評価基準2に従い,気泡の 持続性を評価する。
<評価基準2> 減少率 気泡の持続性 20%以下 +++ 20%〜40% ++ 40%〜60% + 60%以上 0 体積の測定は,各々の測定時点での二酸化炭素含有粘性組成物の高さを カップに記し,該組成物を除去した後でそれらの高さまで水を入れ,それ らの水の体積をメスシリンダーで測定する。
(3) 本件発明の特徴 上記(2)によれば,本件発明の特徴は次のとおりと認められる。
ア 技術分野 本発明は,水虫,アトピー性皮膚炎等の皮膚粘膜疾患又は皮膚粘膜障害 に伴うかゆみ及び褥創等の皮膚粘膜損傷を副作用をほとんど伴わずに治療 又は改善でき,また所望する部位に使用すれば,その部位を痩せさせられ る二酸化炭素含有粘性組成物とそれを用いる予防及び治療方法に関する。
イ 背景技術 かゆみの治療に対して,局所療法として外用の抗ヒスタミン剤や抗アレ 24 ルギー剤などが一般に使用される。これらはかゆみが発生したときに使用 され,一時的にある程度かゆみを抑える。湿疹に伴うかゆみに対しては外 用の非ステロイド抗炎症剤やステロイド剤の使用が一般的であり,これら は炎症を抑えることによりかゆみの発生を防ごうとするものである。しか し,外用の抗ヒスタミン剤や抗アレルギー剤はアトピー性皮膚炎,水虫や 虫さされのかゆみにはほとんど効果がない。外用の非ステロイド抗炎症剤 やステロイド剤は,かゆみに対する効果は弱く,即効性もない。また,ス テロイド剤は副作用が強いため,使用が容易でない。
ウ 発明が解決しようとする課題 本件発明は,水虫,アトピー性皮膚炎などの皮膚粘膜疾患又は皮膚粘膜 障害に伴うかゆみ並びに褥創及び部分肥満に有効な製剤とそれを用いる予 防及び治療方法を提供することを目的とする。
エ 課題を解決するための手段 発明者らは,二酸化炭素含有粘性組成物が,外用の抗ヒスタミン剤や抗 アレルギー剤,非ステロイド抗炎症剤,ステロイド剤などが無効な痒みに も有効であることを発見し,更に該組成物が抗炎症作用や創傷治癒促進作 用,美肌作用,部分肥満解消作用,経皮吸収促進作用なども有することを 発見して本件発明を完成した。本件発明は,増粘剤の1種又は2種以上を 含む含水粘性組成物に気泡状の二酸化炭素を含有してなる二酸化炭素含有 粘性組成物であって,増粘剤がアルギン酸ナトリウムであることを特徴と する二酸化炭素含有粘性組成物であり,二酸化炭素が酸と炭酸塩の反応に より得られることを特徴とする医薬組成物又は化粧料であり,以下のキッ トが含まれる。
炭酸塩含有含水粘性組成物と酸の顆粒(細粒,粉末)剤とのキット; 酸含有含水粘性組成物と炭酸塩の顆粒(細粒,粉末)剤とのキット; 炭酸塩と酸の複合顆粒(細粒,粉末)剤と含水粘性組成物のキット 25 2 引用発明について (1) 甲1文献の記載 甲1文献の特許請求の範囲の記載は,次のアのとおりであり,発明の詳細 な説明にはイ〜コのとおりの記載がある。
ア 特許請求の範囲 (1)酸性物質を水に溶解して得られる水溶液を第1剤とし,水溶性高分 子及び/又は粘土鉱物と炭酸塩とを常温固型のポリエチレングリコールで 被覆した固型物を第2剤とする用時混合型発泡性化粧料。
イ 技術分野 本発明は,炭酸ガスによる血行促進作用によって皮膚を賦活化させる, ガス保留性,経日安定性,官能特性及び皮膚安全性に優れた発泡性化粧料 に関する。
ウ 従来技術 血行促進などの目的で炭酸ガスを配合した化粧料が従来から提案されて いる。・・・しかし,これらの化粧料は,容器を耐圧性にしなくてはなら ない為,コストが高くなるという欠点を有していた。
エ 発明の開示 ・・・後記特定組成の発泡性化粧料は,2剤型である為経日安定性に優 れ,炭酸塩と水溶性高分子をポリエチレングリコールで被覆してなる第2 剤と酸性物質である第1剤を用時混合する際に,炭酸ガスの泡が徐々に発 生すると共に水溶性高分子及び/又は粘土鉱物の粘性によって安定な泡を 生成し,炭酸ガスの保留性が高まる事を見出し,本発明を完成するに至っ た。
オ 発明の目的 本発明の目的は,ガス保留性,経日安定性,官能特性等に優れた発泡性 化粧料を提供することにある。
26 カ 発明の構成 即ち,本発明は,酸性物質を水に溶解して得られる水溶液を第1剤とし, 水溶性高分子及び/又は粘土鉱物と炭酸塩とを常温固型のポリエチレング リコールで被覆した固型物を第2剤とする用時混合型発泡性化粧料である。
キ 構成の具体的な説明 本発明に於ける前記の酸性物質としては,水溶性のものが使用され,例 えばギ酸,酢酸,プロピオン酸,酪酸,吉草酸等の直鎖脂肪酸;シュウ酸, マロン酸,コハク酸,グルタル酸,アジピン酸,ピメリン酸,フマル酸, マレイン酸,フタル酸,イソフタル酸,テレフタル酸等のジカルボル酸; ・ ・・ が挙げられる。本発明ではこれらの一種または二種以上が適用され,特に クエン酸及び酒石酸が好適である。・・・ 第2剤に使用される炭酸塩としては,常温で固型のものであって例えば 炭酸水素ナトリウム,炭酸ナトリウム,・・・等が挙げられ,これらの一 種又は二種以上が適用される。特に本発明では,炭酸水素ナトリウムが好 ましい。
第2剤中に占める炭酸塩の割合は,10.0〜90.0wt%である。
10.0wt%より少ないと発泡性が十分でなく,90.0wt%を超す と泡の外観(キメ)やガス保留性が悪くなる。
第2剤に使用される水溶性高分子としては,天然高分子,半合成高分子 及び合成高分子が適用される。
天然の高分子のうち,多糖類及びその誘導体としては,例えば,アルギ ン酸及びその塩類,・・・などが挙げられる。・・・ 第2剤中に占める水溶性高分子及び/又は粘土鉱物の割合は,1.0〜 50wt%である。1.0wt%より少ないと増粘性が十分でなく,50 wt%を超すと,べたつき感が出たりして官能特性が劣る。
本発明に使用する常温で固型のポリエチレングリコールは分子量100 27 0以上のもので通常分子量1000〜10,000,好ましくは2000 〜6000のものが適用される。
第2剤中に占めるポリエチレングリコールは,5.0〜50.0wt% である。5.0wt%より少ないと反応が早すぎる為,泡のもちが十分で なく,50.0wt%を超すと泡の発生が遅すぎる。
本発明の第2剤を調製するには,種々な方法が用いられるが,例えば, 融点以上で融解したポリエチレングリコールの中へ水溶性高分子と炭酸塩 を加え冷却する事による練合造粒法や水溶性高分子と炭酸塩にポリエチレ ングリコール水溶液を噴霧し,水を蒸散さす流動造粒法などが挙げられる。
この様にして得られた第2剤の粒径は0.01〜1mmである。0.0 1mmより小さいと反応が早すぎ,1mmより大きいと使用時第2剤が異 物感として感じられる為好ましくない。
第1剤と第2剤の使用割合は,重量比で100:1〜1:1である。特 に反応後の混合液がpH4.5〜6.5になる様に第1剤と第2剤を混合 する事が好ましい。
発泡性化粧料を使用するには,第1剤を容器に入れ,第2剤を加え,数 十秒間攪拌した後適宜使用する。
本発明の目的を達成する範囲内で香料,着色剤,防腐剤,界面活性剤, 油性成分などを適宜配合する事が出来る。
また,当該発泡性化粧料は,ローション,エッセンス,ミルク,パック, ソープ等に適用する事が出来る。
実施例 以下実施例及び比較例の記載にて本発明を詳細に説明する。
尚,実施例に記載する,発泡性試験,経日安定性試験,ガス保留性試験, 官能特性及び皮フ安全性試験の各方法は下記の如くである。
(1) 発泡性試験 28 試料5gを透明ガラス製シリンダー(直径5cm,高さ50cm)に入れ常温にてタッチミキサーで30秒間振盪混和し,1分後のあわの高さを測定する。
泡の高さ 発泡性 30cm以上 | ◎ 30〜20cm | ○ 20〜5cm | △ 5cm未満 | ×(2) 経日安定性試験 1剤,2剤の試料を各々密封しない状態で45℃1ケ月間保存した後,再度発泡性試験を行なう。
45℃1ケ月後の発泡性/ 試作直後の発泡性 経日安定性 0.9以上 | ◎ 0.8〜0.9 | ○ 0.7〜0.8 | △ 0.7未満 | ×(3) ガス保留性試験 試料5gを透明ガラス製シリンダー(直径5cm,高さ50cm)に 入れ常温にてタッチミキサーで30秒間振盪混和し,30分後のあわの 高さを測定する。
泡の高さ ガス保留性 25cm以上 | ◎ 25〜15cm | ○ 15〜5cm | △ 5cm未満 | × 29 (3)(判決注:原文のまま) 官能特性及び皮フ安全性試験 試料を20名の女性被検者が評価し,(イ)泡の外観(キメ) (ロ) べたつき感 (ハ)粘性 (ニ)皮フ安全性に関して評価した。試験結 果は各項に対して(イ)泡の外観(キメ)が良い (ロ)べたつき感が 少ない (ハ)粘性が丁度良い (ニ)皮フ刺激を感じる,と回答した 被検者の人数で示した。
実施例1〜11 〔発泡性エッセンス〕 第1表の組成の如く,発泡性エッセンスを調製し,前記の諸試験を実施 した。
〔調製方法〕 <第1剤>水にクエン酸を加えて攪拌し,均一に混和する。尚,クエン 酸が溶け難い場合は適宜加熱する。
<第2剤>約80℃にて,ポリエチレングリコール(分子量4000) を溶解し,熱時,炭酸水素ナトリウム,アルギン酸ナトリウムを加え, 均一に混合した後室温まで冷却し,ポリエチレングリコールで被覆した 粉末とした。
〔特性〕 第1表に示す如く,本発明の発泡性エッセンスは,発泡性,ガス保留 性,経日安定性に優れ,また,官能特性等諸試験の総てに優れており, 本発明の効果は,明らかであった。
<第1表>別紙甲1文献図表目録のとおりケ 比較例 (比較例1〜3) 〔発泡性エッセンス〕 第2表の組成の如く発泡性エッセンスを調製し,前記諸試験を実施し, 30 その特性を下段に示した。
〔調製方法〕 <第1剤> (比較例1〜3) 水にクエン酸を加えて攪拌し,均一に混合溶解する。尚,クエン酸 が溶け難い場合は,適宜加温する。
<第2剤> (比較例1) 常温でポリエチレングリコール(分子量4000),炭酸水素ナト リウム,アルギン酸ナトリウムを均一に混和し,粉末とした。
(比較例2) 常温で炭酸水素ナトリウム,アルギン酸ナトリウムを均一に混和し 粉末とした。
(比較例3) 約80℃にてポリエチレングリコール(分子量4000)を溶解し, 熱時,炭酸水素ナトリウムを加え,均一に混合した後,室温まで冷却 し,粉末とした。
〔特性〕 第2表に示す如く,第2剤調製時,炭酸水素ナトリウム及びアルギン 酸ナトリウムをポリエチレングリコールで被覆することなく単に混和し ただけの比較例1は,実施例2に比べ発泡性はまずまずであったがガス 保留性に著しく劣り,経日安定性にも劣った。
ポリエチレングリコールを用いなかった比較例2も同様の特性を示し た。
第2剤に水溶性高分子を配合しなかった比較例3は,発泡性,経日安 定性は良好であったがガス保留性に著しく劣り,泡の外観(キメ)も悪 31 く粘度も不足していた。
<第2表> 別紙甲1文献図表目録のとおり比較例4〜10〔1剤式発泡エッセンス〕 第3表の組成の如く,用時,水に溶解して使用する1剤式発泡エッセンスを調製し,用時に10倍量(重量)の水と混合した。前記諸試験を実施し,その特性を下段に示した。
〔調製方法〕(比較例4,5) 約80℃にてポリエチレングリコール(分子量4000)を溶解し, 熱時,炭酸水素ナトリウム,クエン酸,アルギン酸ナトリウムを加え, 均一に混合した後,室温まで冷却し粉末とした。
(比較例6) 約80℃にてポリエチレングリコールを溶解し,熱時,炭酸水素ナト リウム,クエン酸を加え均一に混和した後室温まで冷却し,粉末とした。
(比較例7) 常温にて,炭酸水素ナトリウム,クエン酸,アルギン酸ナトリウムを 均一に混和した後粉末とした。
(比較例8) 常温にて,炭酸水素ナトリウム,クエン酸,アルギン酸ナトリウム, ポリエチレングリコール(分子量4000)を均一に混和し,粉末とし た。
(比較例9) 約80℃にてポリエチレングリコール(分子量4000)を溶解し, 熱時,アルギン酸ナトリウム,炭酸水素ナトリウムを加え均一に混合し た後,室温まで冷却し,クエン酸を加え均一に混和し,粉末とした。
32 (比較例10) (1) 約80℃にてポリエチレングリコール(分子量4000)の一 部を溶解し,熱時アルギン酸ナトリウム,炭酸水素ナトリウムを加え 均一に混合した後,室温まで冷却し,粉末とした。
(2) 約80℃にてポリエチレングリコールの残部を溶解し,熱時ク エン酸を加えて均一に混合した後,室温まで冷却し粉末とした。
(1)に(2)を加え均一に混和した。
〔特性〕 第3表に示す如く,実施例2より水を除いた組成とほぼ同一な組成で ある比較例4,8〜10は発泡性,ガス保留性試験においては実施例2 同様良好であったが,経日安定性に著しく劣った。
配合比率を変えた,比較例5及びアルギン酸ナトリウムをのぞいた比 較例6,ポリエチレングリコールを除いた比較例7でも経日安定性の改 善にはいたらなかった。
<第3表>別紙甲1文献図表目録のとおり ・・・ コ 発明の効果 以上,記載の如く,本発明の発泡性化粧料は,発泡性,ガス保留性,経 日安定性に優れ,また,官能特性及び皮フ安全性においても優れた,皮フ 化粧料を提供することは明らかである。
(2) 以上によれば,甲1文献には,前記第2の3(2)のとおりの引用発明が記 載され,引用発明と本件発明1及び9の一致点及び相違点は,同(3)記載の各 [一致点]及び[相違点A]〜[相違点D]のとおりであると認められる。
3 取消事由(相違点Bに関する容易想到性判断の誤り)について (1) 本件優先日当時の文献の記載について ア 甲2文献には次の記載がある。
33 (ア) 本発明はアルギン酸水溶性塩類およびこれと反応しうる二価以上の金 属塩類を配合した使用性の良好な反応タイプのパック化粧料に関する【0 ( 001】)。
(イ) 従来からパック化粧料には使用後に洗いおとすタイプおよび剥がすタ イプの二つがある。……剥がすタイプの基剤は,ゼリー状またはペース ト状であって皮膚に塗布し乾燥させて皮膜を形成させ,その後,手で剥 がされるものである。ところで,剥がすタイプに属するものの一つにア ルギン酸塩類と該塩類と反応する二価以上の金属塩類とを配合した粉末 を使用時に水と混合してペースト状とし,パック化粧料としたものが知 られている(特開昭52-10426号公報,特開昭58-39608 号公報)。このパック化粧料は,従来のように皮膚上での皮膜形成が, 水分の蒸発・乾燥によるものとは異なり,配合物同士の反応によって水 分を含んだまま行われるので肌に対する使用感が良く,従来のものより, 乾燥時間が早いという特徴がある。
しかしながら,上記のアルギン酸塩類を含む粉末状のパック化粧料は, 次のような問題点があった。
(1)水を加えてかきまぜる際,ダマになりやすく,顔に塗布する際,均 一な膜になりにくい。これは,アルギン酸水溶性塩類が一般に水に溶け にくいためである。・・・(5)反応タイプのため,保管時には水分透過の少ない外装とするなど, 経時の保管に注意を必要とする。
本発明は,このような従来の課題を解決して,使用性が良好で,かつ経 時的に安定な反応タイプのパック化粧料を提供することを目的とする。
(【0002】,【0003】)(ウ) 本願発明者は,水とまざりにくい原因として,アルギン酸水溶性塩類 の溶解性が挙げられることから,アルギン酸塩類についてはあらかじめ 34 水に溶解させてゲル状とさせ,また反応が進行しないように,ゲル状パ ーツと粉末パーツの2パーツに分けることにより,使用性が良好で,経 時で安定なパック化粧料が得られることを見出し,本発明に至った。す なわち,本発明は,アルギン酸水溶性塩類を含有するゲル状パーツから なる第一剤と,前記アルギン酸水溶性塩類と反応しうる二価以上の金属 塩類および前記反応の遅延剤を含有する粉末パーツからなる第二剤との 二剤からなることを特徴とするパック化粧料である。(【0004】) 本発明のパック化粧料は,洗い落とす面倒のない,剥がすタイプのも のでありながら,乾燥時間が短く,しかも皮膚に適度な緊張感があり, 剥がすとき肌に残りにくく,とりやすい特色を有するほか,使用性が良 好で,経時的にも安定であるという特徴がある。本発明のパック化粧料 にあっては,使用直前にゲル状パーツと粉末パーツを混合する。この際, ゲル状パーツに含まれるアルギン酸水溶性塩類(例えばアルギン酸ナト リウム)と,粉末パーツに含まれる二価以上の金属塩(例えば硫酸カル シウム)とが水の存在下で化学式1に示すような硬化反応を起こして皮 膚形成能のあるアルギン酸金属塩(例えばアルギン酸カルシウム)とな り,この結果,弾力性のある凝固体が与えられる。その時,遅延剤(例 えばリン酸三ナトリウム)の働きにより化学式2に示すような遅延反応 も同時に起こって上記硬化反応の急激な進行が阻止される。
硬化反応:Na・nAlg+n/2CaSO4→n/2Na2SO4+Ca・n/2Alg (【0004】〜【0006】)(エ) ゲル状パーツにはアルギン酸水溶性塩類のほか,保湿剤を配合するこ とができる。保湿剤としてはダイナマイトグリセリン,1,3-ブチレ ングリコール,ジプロピレングリコール,プロピレングリコール,マビ ット,ソルビット,ポリエチレングリコール,ポリプロピレングリコー ル,グルコースおよびその誘導体,ムコ多糖等が挙げられる。(【00 35 09】) イ これによれば,甲2文献には,前記第2の3(4)記載のとおりの甲2文献 記載の技術事項が記載されているといえる。
(2) 容易想到性について ア 原告は,本件発明1は,引用発明1に甲2文献記載の技術事項を組み合 わせることにより,当業者が容易に想到することができたものであると主 張する。
イ そこで検討するに,甲1文献における「比較例4,8〜10は発泡性, ガス保留性試験においては実施例2同様良好であったが,経日安定性に著 しく劣った。」(上記2(1)ケ)との記載から,引用発明1には経日安定性 に問題があることが理解され,当業者は,経日安定性の改善を課題として 見いだすといえる。
そして,@ 甲1文献に「後記特定組成の発泡性化粧料は,2剤型であ る為経日安定性に優れ,」(同エ)との記載があり,経日安定性試験の結 果が◎又は○である実施例1〜11(第1表)は2剤型の構成であること (同ク),A 経日安定性が○である比較例3(第2表)は,同様の第1 剤と炭酸水素ナトリウムのみをPEGで被覆した粉末の2剤型の構成であ ること(同ケ)から,炭酸塩と酸とを2剤に分ければ経日安定性が向上す ること,及び酸を水溶液とし,炭酸塩をPEG被覆すればアルギン酸ナト リウムが存在せずとも経日安定性は十分となることが理解できる。そうす ると,これらの甲1文献に開示された事項に基づき,引用発明1の経日安 定性を改善しようとした場合,炭酸塩と酸との反応で経日安定性が低下す ることを避けるため,引用発明1において,「アルギン酸ナトリウム・炭 酸塩含有PEG被覆粉末1+酸含有PEG被覆粉末2の混合物」という構 成を,「アルギン酸ナトリウム・炭酸塩含有PEG被覆粉末1」と「酸含 有PEG被覆粉末2」との2剤に分けることは,当業者であれば容易に想 36 到するといえる。
このように,甲1文献の記載から,経日安定性の改善のために引用発明 1の構成を2剤に変更するという解決手段を読み取れるにもかかわらず, さらに,甲2文献記載の技術事項を組み合わせる動機付けは見当たらない。
また,引用発明1は二酸化炭素による血行促進作用によって皮膚を賦活 化させるための化粧料で,アルギン酸ナトリウムは安定な泡を生成し,二 酸化炭素の保留性を高めるために配合されているのに対し,甲2文献には 二酸化炭素の発生についての記載はなく,甲2文献記載の技術事項におけ るアルギン酸ナトリウムは二価以上の金属塩類との反応により皮膜を形成 するためのものであって,化粧料の使用目的もアルギン酸ナトリウムの配 合目的も異なるものである。そして,甲1文献及び甲2文献には,引用発 明1に甲2文献記載の技術事項を組み合わせた場合に引用発明1における 発泡性及びガス保留性を維持することができることを示唆する記載もない から,このことからも,引用発明1に甲2文献記載の技術事項を組み合わ せる動機付けがあることは否定される。
ウ 以上によれば,本件発明1について,当業者が,引用文献1に甲2文献 記載の技術事項等を適用することによって容易に想到することができたと いうことはできない。
また,以上に述べたところは,本件発明9における相違点Dについても 妥当する。これによれば,本件発明2〜8,10〜13についても,同様 に,容易に想到することができたとはいえない。
(3) 原告の主張について ア 原告は,引用発明1にはダマ形成問題及び攪拌問題が存在するから,こ れらの課題を解決するために,甲2文献記載の技術事項を組み合わせる動 機付けがあると主張する。
(ア) ダマ形成問題について 37 ダマとは粉末の水和が早いことにより起こり,粉末の回りを水分子が 取り囲んで塊となり,粉末の内部まで水が浸透していかず,粉末が均一 に水に分散しない状態をいうと解され,アルギン酸ナトリウムを水に溶 解する際にダマが生じる問題があることが認められる(甲2,59〜6 2)。
しかし,甲1文献にはこのような問題について記載も示唆もない。そ して,引用発明1のように炭酸塩とアルギン酸ナトリウムの混合物がP EGで被覆された粉末においては,アルギン酸ナトリウムは少しずつ水 に溶解することが容易に理解され,このような炭酸塩とアルギン酸ナト リウムとの混合物がPEGで被覆された粉末と,被覆のないアルギン酸 ナトリウム粉末では水和のし易さが異なるから,引用発明1において, アルギン酸ナトリウムを水に溶解する際の一般的な問題が同等に当ては まるということはできず,当業者が,引用発明1につきダマ形成問題の 課題を見出すとは認められない。
また,原告は,甲44文献の記載によれば,PEGの被覆によりダマ 形成問題は解消しないと主張するが,原告の指摘する「主成分(ママコ を生じ易い糊料)の特性が阻害されたり,糊液粘度も変動する等の問題 点を抱えており,ママコの形成方法ないし消失法として効果的でなかっ た」との記載は,PEGの被膜によりママコが消失したとしても,異な る問題が生じ得ることを示したものと解され,引用発明1においてダマ 形成問題があることの根拠とはならないのは明らかであるから,原告の 主張は採用できない。
以上によれば,当業者は,引用発明1においてダマが形成されるとい う問題が生じるとは理解しないというべきである。
(イ) 攪拌問題について 原告は,引用発明1において,アルギン酸ナトリウムがダマを形成し, 38 また,アルギン酸ナトリウムの水溶液濃度の上昇に伴って粘度が飛躍的 に上昇し,これと並行して炭酸塩と酸の反応が進行するから,少しでも 多くの二酸化炭素を取り込むためには難溶解性のアルギン酸ナトリウム の溶解及び均一化をできる限り短時間で行うことが求められ,そのため の徹底的な攪拌が不便かつ煩わしいという問題があると主張する。
しかし,このような問題は甲1文献に記載も示唆もなく,かえって, 発泡性及びガス保留性は◎という引用発明の試験結果に照らせば,引用 発明の構成において,少しでも多くの二酸化炭素を取り込むために,素 早く徹底的な攪拌操作をする必要があり,これが煩わしいという課題が あるとは解し得ない。
イ 以上のとおり,引用発明1において,当業者が原告の主張する課題を見 いだすとは認められないから,引用発明1に甲2文献記載の技術事項を組 み合わせることの動機付けがあるということはできず,原告の主張は採用 できない。
(4) 以上によれば,本件発明1〜13について容易想到性が認められないとし た本件審決の判断に誤りはなく,取消事由は理由がない。
4 以上のとおり,原告が主張する取消事由は理由がないから,原告の請求を棄 却することとし,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 鶴岡稔彦