関連審決 | 異議2001-72123 |
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関連ワード | 進歩性(29条2項) / 容易に発明 / 一致点の認定 / 相違点の判断 / 容易に想到(容易想到性) / 実施 / 構成要件 / 設定登録 / 請求の範囲 / 訂正明細書 / 取消決定 / |
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事件 |
平成
14年
(行ケ)
485号
特許取消決定取消請求事件
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原告 大日本インキ化学工業株式会社 訴訟代理人弁理士 棚井澄雄,高橋詔男 被告 特許庁長官今井康夫 指定代理人 佐野整博,一色由美子,林栄二,大橋信彦,井出隆一 |
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裁判所 | 東京高等裁判所 |
判決言渡日 | 2004/04/28 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
原告の請求を棄却する。 訴訟費用は原告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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原告の求めた裁判
「特許庁が異議2001-72123号事件について平成14年8月6日にした決定を取り消す。」との判決。 |
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事案の概要
1 特許庁における手続の経緯 原告は,本件特許第3131947号「不飽和ポリエステル樹脂組成物,防水材組成物,それを用いる防水被覆構造体及び防水被覆工法」発明(平成3年1月30日出願,平成12年11月24日にその特許の設定登録)の特許権者であるが,特許異議の申立てがあり(異議2001-72123),平成14年6月25日に訂正請求をした。 平成14年8月6日,「訂正を認める。 特許第3131947号の請求項1ないし4に係る特許を取り消す。」との決定があり,その謄本は同月26日原告に送達された。 2 本件発明の要旨(上記訂正請求に係る発明の要旨)【請求項1】 下記 (イ)及び(ロ)からなることを特徴とするハンドレーアップ,スプレーアップ施工防水被覆用であり,建築物の屋根,屋上,開放廊下,ベランダ,外壁,地下外壁,室内及び水槽類の防水材用不飽和ポリエステル樹脂組成物(但し,大日本インキ化学工業株式会社製造,商品名ポリライトFR-200を除く)。 (イ)(イ-1)(イ-1-1)イソフタル酸,テレフタル酸から選択されるメタ,及び/又はパラ位置にカルボキシル基を有する飽和二塩基酸と(イ-1-2)α,β-不飽和二塩基酸とからなる酸成分と,(イ-2)式-(1),(2)のnが1〜2のジエチレングリコール,トリエチレングリコール,ジプロピレングリコール,トリプロピレングリコールから選択されるグリコールを主たるアルコール成分として用いてなる 二重結合力価が600〜1400である不飽和ポリエステル,(ロ)重合性モノマー【請求項2】下記 (イ)及び(ロ)からなるハンドレーアップ,スプレーアップ施工防水被覆用であり,建築物の屋根,屋上,開放廊下,ベランダ,外壁,地下外壁,室内及び水槽類の防水材用不飽和ポリエステル樹脂組成物(但し,大日本インキ化学工業株式会社製造,商品名ポリライトFR-200を除く)と(ハ) 繊維補強材とを特徴とする防水材組成物。 (イ)(イ-1)(イ-1-1)イソフタル酸,テレフタル酸から選択されるメタ,及び/又はパラ位置にカルボキシル基を有する飽和二塩基酸と(イ-1-2)α,β-不飽和二塩基酸とからなる酸成分と,(イ-2)式-(1),(2)のnが1〜2のジエチレングリコール,トリエチレングリコール,ジプロピレングリコール,トリプロピレングリコールから選択されるグリコールを主たるアルコール成分として用いてなる 二重結合力価が600〜1400である不飽和ポリエステル,(ロ)重合性モノマー【請求項3】下記 (イ)及び(ロ)からなるハンドレーアップ,スプレーアップ施工防水被覆用であり,建築物の屋根,屋上,開放廊下,ベランダ,外壁,地下外壁,室内及び水槽類の防水材用不飽和ポリエステル樹脂組成物(但し,大日本インキ化学工業株式会社製造,商品名ポリライトFR-200を除く)と(ハ) 繊維補強材とからなる防水材組成物を防水層とし,この上にフッ素系,アクリル系,ウレタン系,又はアクリルシリコン系上塗り塗料を塗布してなることを特徴とする建築物の防水被覆構造体。 (イ)(イ-1)(イ-1-1)イソフタル酸,テレフタル酸から選択されるメタ,及び/又はパラ位置にカルボキシル基を有する飽和二塩基酸と(イ-1-2)α,β-不飽和二塩基酸とからなる酸成分と,(イ-2)式-(1),(2)のnが1〜2のジエチレングリコール,トリエチレングリコール,ジプロピレングリコール,トリプロピレングリコールから選択されるグリコールを主たるアルコール成分として用いてなる 二重結合力価が600〜1400である不飽和ポリエステル,(ロ)重合性モノマー【請求項4】下記 (イ)及び(ロ)からなるハンドレーアップ,スプレーアップ施工防水被覆用であり,建築物の屋根,屋上,開放廊下,ベランダ,外壁,地下外壁,室内及び水槽類の防水材用不飽和ポリエステル樹脂組成物(但し,大日本インキ化学工業株式会社製造,商品名ポリライトFR-200を除く)と(ハ) 繊維補強材とからなる防水材組成物を構造体の防水層とし,この上にフッ素系,アクリル系,ウレタン系,又はアクリルシリコン系上塗り塗料を塗布してなる建築物の防水被覆工法。 (イ)(イ-1)(イ-1-1)イソフタル酸,テレフタル酸から選択されるメタ,及び/又はパラ位置にカルボキシル基を有する飽和二塩基酸と(イ-1-2)α,β-不飽和二塩基酸とからなる酸成分と, (イ-2)式-(1),(2)のnが1〜2のジエチレングリコール,トリエチレングリコール,ジプロピレングリコール,トリプロピレングリコールから選択されるグリコールを主たるアルコール成分として用いてなる 二重結合力価が600〜1400である不飽和ポリエステル,(ロ)重合性モノマー 3 決定の理由の要点 (1) 訂正は適法であるので,訂正を認める。 (2) 決定が引用した刊行物 刊行物1:特開平2-150456号公報(甲4), 刊行物2:「ポリエステル樹脂ハンドブック」,昭和63年6月30日,日刊工業新聞社,29〜44頁,262〜274頁(甲5) 刊行物3:特公昭63-12895号公報(甲6) 刊行物4:特開平1-131703号公報(甲7) 刊行物5:特開昭48-38386号公報(甲8) 刊行物6:特開昭48-16418号公報(甲9) 刊行物7:「コンパック工法」総合カタログ,大泰化工株式会社,昭和61年改訂版(甲10) 刊行物8:「防水ジャーナル」,1987年12月号,72〜75頁(甲11) (3) 対比・判断 刊行物1には,本件発明1の組成に該当する不飽和ポリエステル樹脂組成物が記載され,また,屋上防水材としての用途も記載されているから,本件発明1と刊行物1に記載された発明とを対比すると,両者は,イソフタル酸,テレフタル酸から選択されるメタ,及び/又はパラ位置にカルボキシル基を有する飽和二塩基酸とα,β-不飽和二塩基酸とからなる酸成分と,ジエチレングリコールを主たるアルコール成分として用いてなり,その二重結合力価において重複する不飽和ポリエステルと重合性モノマーからなる建築物の屋根の防水材用不飽和ポリエステル樹脂組成物である点で一致し,本件発明1では,ハンドレーアップ,スプレーアップ施工防水被覆用とするのに対し,刊行物1では,そういったことの記載がない点で相違するものと認められる。 しかしながら,防水材用不飽和ポリエステル樹脂組成物をハンドレーアップ,スプレーアップ施工用とすることは刊行物1の従来例としても記載され,また,刊行物4〜6及び8にも記載されるように,通常の方法にすぎないものである。 そうであるならば,当業者であれば,刊行物1に記載の建築物の屋根の防水材用不飽和ポリエステル樹脂組成物をハンドレーアップ,スプレーアップ施工用とすることに格別困難性はないというべきである。 また,そのことによる作用効果も刊行物1〜8の記載から容易に想到し得るものと認められる。 よって,本件発明1は,刊行物1〜8に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 本件発明2は,本件発明1と同一の防水材用不飽和ポリエステル樹脂組成物と繊維強化材とからなる防水材組成物であるが,刊行物1には,繊維強化材を使用することも記載されているから,本件発明1と同様の理由により,刊行物1〜8に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 本件発明3は,本件発明2と同一の防水材組成物を防水層とし,この上にフッ素系,アクリル系,ウレタン系,又はアクリルシリコン系上塗り塗料を塗布してなる建築物の防水被覆構造体であるが,刊行物8にも記載されるように,防水層に上塗り塗料を塗布することは通常のことにすぎず,また,これらの上塗り塗料自体よく知られたものにすぎないものであるから,本件発明1と同様の理由により,刊行物1〜8に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 本件発明4は,本件発明2と同一の防水材組成物を防水層とし,この上にフッ素系,アクリル系,ウレタン系,又はアクリルシリコン系上塗り塗料を塗布してなる防水被覆工法であるが,刊行物8にも記載されるように,防水層に上塗り塗料を塗布することは通常のことにすぎず,また,これらの上塗り塗料自体よく知られたものにすぎないものであるから,本件発明1と同様の理由により,刊行物1〜8に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 (4) 決定のむすび 以上のとおり,本件発明1〜4は,刊行物1〜8に記載された発明に基づいて当業者が容易にすることができたものであるから,本件発明1〜4についての特許は,特許法29条2項の規定に違反してされたものである。 よって,特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第14号の規定に基づく,特許法等の一部を改正する法律の施行に伴う経過措置を定める政令(平成7年政令205号)4条2項の規定により,結論のとおり決定する。 |
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原告主張の決定取消事由
1 取消事由1(本件発明1と刊行物1に記載された発明との相違点の判断の誤り)について (1) 刊行物1に係る発明は「繊維強化プラスチックシート」であり「樹脂+繊維強化材」のシート状硬化物であるのに対し,本件発明1は「防水材用不飽和ポリエステル樹脂組成物」であり液状の未硬化物である点で,両者は異なる。刊行物1に係る発明が「繊維強化プラスチックシート」である以上,刊行物1に記載の不飽和ポリエステル樹脂組成物は,「繊維強化プラスチックシート用不飽和ポリエステル樹脂組成物」にすぎない。また,刊行物1に記載された屋上防水材としての用途は「繊維強化プラスチックシート」の用途にすぎず,「繊維強化プラスチックシート用不飽和ポリエステル樹脂組成物」が「建築物の屋根の防水材」として用いられるとの記載はない。したがって,決定が,刊行物1に「建築物の屋根の防水材用不飽和ポリエステル樹脂組成物」の記載があると認定したのは,誤りである。 「繊維強化プラスチックシート用不飽和ポリエステル樹脂組成物」を開示しているにすぎない刊行物1に,ハンドレーアップ,スプレーアップ施工について記載した刊行物4〜6,8を組み合わせるべき根拠も見当たらないから,「刊行物1に記載の建築物の屋根の防水材用不飽和ポリエステル樹脂組成物をハンドレーアップ,スプレーアップ施工用とすることに格別困難性はない」との決定の判断も,誤りである。 (2) 被告は,刊行物4(甲7)を引用して,繊維強化プラスチックシートによる施工とハンドレーアップ,スプレーアップ施工とが選択容易である旨主張する。しかしながら,刊行物4における,繊維強化熱硬化性樹脂層として使用される不飽和ポリエステル樹脂は,刊行物1(又は本件請求項1)に記載の特定の不飽和ポリエステル樹脂組成物ではないし,刊行物4の「樹脂含浸マット状繊維強化材を敷設する方法が,刊行物1に記載の繊維強化プラスチックシートを使用する方法に相当するもの」であったとしても,これは,繊維強化プラスチックシートを使用する方法にすぎないから,「特定の不飽和ポリエステル樹脂組成物をハンドレーアップ,スプレーアップ施工する」という構成を導出できない。また,刊行物4は,防水床版舗装構造体に関するものであり,防水層上に舗装材が載らない本件発明1とは構成もその用途も異なるから,本件発明1の契機となるものが何も存在しない。 (3) 被告は,刊行物1に,直接FRPをコンクリート上に施工することが記載されているから,不飽和ポリエステル樹脂組成物をコンクリートに使用できることは明らかである旨主張する。しかしながら,FRPは,不飽和ポリエステル樹脂組成物に繊維強化材を添加したものであり,FRPから繊維強化材を除いた不飽和ポリエステル樹脂組成物がコンクリートに使用できるという証明はない。 (4) 防水被覆をするためには,プライマーを用いて基体との接着力を高めることが必要(原告担当者の実験証明書=甲12)であり,本件発明1の不飽和ポリエステル樹脂組成物は「プライマー層を介するハンドレーアップ施工防水被覆用」なのである。しかし,刊行物1にはプライマーと共に用いることについて記載がない。 2 取消事由2(本件発明1の顕著な効果の看過)について 本件発明1は,二重結合力価が600〜1400の不飽和ポリエステルを含有する不飽和ポリエステル樹脂組成物をハンドレーアップ,スプレーアップ施工という用途に用いるという点に特徴を有するものであり(全文訂正明細書=甲2【0011】),全文訂正明細書の実施例及び比較例を比較すると,二重結合力価600及び1400付近で「駆体追従性」に臨界点があることが明らかで,二重結合力価が600〜1400の不飽和ポリエステルを用いた不飽和ポリエステル樹脂組成物は,従来の不飽和ポリエステル樹脂組成物と比較して,ハンドレーアップ,スプレーアップ施工用として有用であることが理解できる。 本件発明1の「特定の不飽和ポリエステル樹脂組成物をハンドレーアップ,スプレーアップ施工用とする」という構成は,「刊行物1の従来例(及び刊行物4〜6,8)の不飽和ポリエステル樹脂組成物をハンドレーアップ,スプレーアップ施工用とする」という構成に,「刊行物1に係る発明に用いる組成物」を適用することにより,得られるのであるから,本件発明1の上記構成による作用効果は,刊行物1の従来例,及び4〜6,8に記載の不飽和ポリエステル樹脂組成物を用いた場合の作用効果と比較して判断しなければならない。そして,本件発明1の特定の不飽和ポリエステル樹脂組成物をハンドレーアップ,スプレーアップ施工用として用いた場合の作用効果は,刊行物1の従来例,及び刊行物4〜6,8に記載の不飽和ポリエステル樹脂組成物を用いた場合の作用効果と比較して優れたものである。 また,刊行物2,3,7には,ハンドレーアップ,スプレーアップ施工防水被覆用不飽和ポリエステルに関する記載も示唆もない。 したがって,「そのことによる作用効果も刊行物1〜8の記載から容易に想到し得る。」との審決の認定は,誤りである。 3 取消事由3(本件発明3,4と刊行物1に記載された発明との相違点の判断の誤り)について 刊行物8(甲11)の上塗塗料は「不飽和ポリエステル樹脂」(75頁の7)と記載されており,本件発明3,4の「フッ素系,アクリル系,ウレタン系,又はアクリルシリコン系上塗り塗料」とは異なる。こうした上塗り塗料を本件請求項1のスプレーアップ,ハンドレーアップ施工防水被覆用の特定の不飽和ポリエステル樹脂組成物によって形成された硬化物の上に用いることは,刊行物1〜8からは容易に想到し得ない。 |
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当裁判所の判断
1 取消事由1(本件発明1と刊行物1に記載された発明との相違点の判断の誤り)について (1) 原告は,刊行物1に記載の不飽和ポリエステル樹脂組成物は「繊維強化プラスチックシート用」であり,刊行物1に記載された「屋上防水材」は刊行物1に係る発明である「繊維強化プラスチックシート」の用途であって,「繊維強化プラスチックシート用不飽和ポリエステル樹脂組成物」が「建築物の屋根の防水材」として用いられるとの記載はないから,決定が,刊行物1に「建築物の屋根の防水材用不飽和ポリエステル樹脂組成物」の記載があると認定したのは誤りであると主張する。 (2) 決定は,本件発明1と刊行物1に記載された発明との一致点の認定の前提となる刊行物1の記載事項として,「このような本発明のシートは,寒冷地での屋上防水材,床被覆材,各種塔槽類のライニング材等に適している。」を挙げ,一致点の認定の直前において「刊行物1には,・・・屋上防水材としての用途も記載されているから」と認定していることから,決定における「建築物の屋根の防水材用不飽和ポリエステル樹脂組成物である点で一致し,」は,「建築物の屋上の防水材用不飽和ポリエステル樹脂組成物である点で一致し,」との趣旨を認定したものと理解すべきである。 そして,刊行物1(甲4)には,以下の記載のあることが認められる。 ア.「(a)二重結合力価750〜2600の被架橋ポリマー,架橋用重合性モノマーを少なくとも含有し,架橋用重合性モノマーを25〜40重量%を含有する重合性モノマー架橋型熱硬化性樹脂組成物と, (b)繊維補強材の(a)(b)成分について(a)成分を75〜98重量%,(b)成分を2〜25重量%含有する組成物を成形硬化させシート状にしたことを特徴とする繊維強化プラスチックシート。」(特許請求の範囲(1),3頁左上1〜12行) イ.「本発明における重合性モノマー架橋型熱硬化性樹脂組成物としては,不飽和ポリエステル,ビニルエステル樹脂等に架橋用重合性モノマーを少なくとも含有するものが挙げられ,そのほかに硬化剤,硬化促進剤その他の添加剤を含有するものも好ましく用いられる。不飽和ポリエステルに架橋用重合性モノマー等を含有させた重合性モノマー架橋型熱硬化性不飽和ポリエステル樹脂組成物としては,α,β-不飽和二塩基酸又はその酸無水物と,芳香族飽和二塩基酸又はその酸無水物と,グリコール類の重縮合によって製造され,場合によって酸成分として脂肪族或いは脂環族飽和二塩基酸を併用して製造された不飽和ポリエステル60〜75重量部を,α,β-不飽和単量体25〜40重量部に溶解して得られるものが挙げられる。」(3頁左上欄13行〜右上欄8行) ウ.「樹脂組成物D:アルコール成分DEG3.5;不飽和及び飽和二塩基酸OPA0.8,AA0.5,TPA1.2,MA1.0;スチレン含有量(%)35;二重結合力価780」(7頁第3表) エ.「このような本発明のシートは,寒冷地での屋上防水材,床被覆材,各種塔槽類のライニング材等に適している。」(6頁左下欄17〜19行)」 上記イ.に記載された不飽和ポリエステル樹脂組成物の具体例を示した上記ウ.の記載において,DEG(エチレングリコール),TPA(テレフタル酸),MA(マレイン酸),スチレンは,それぞれ,本件発明1における(イ-2)の成分,(イ-1-1)の成分,(イ-1-2)の成分,(ロ)の成分に該当することから,刊行物1には,本件発明1の特定の不飽和ポリエステル樹脂組成物が記載されていると認められる。そして,刊行物1に記載された不飽和ポリエステル樹脂組成物は繊維強化プラスチックシートの構成材料であり(ア.の記載),このシートの用途の一つとして屋上防水材があること(エ.の記載)も認められる。そうすると,刊行物1に記載された不飽和ポリエステル樹脂組成物は,直接的には繊維強化プラスチックシートに用いられるものであるが,当該シートが屋上防水材として用いられるのであるから,結局のところ,不飽和ポリエステル樹脂組成物は最終的に屋上防水材として用いられるものであるということができる。 したがって,決定の上記認定に誤りはない。 (3) 原告は,刊行物1に刊行物4〜6,8を組み合わせるべき根拠がないから,「刊行物1に記載の建築物の屋根の防水材用不飽和ポリエステル樹脂組成物をハンドレーアップ,スプレーアップ施工用とすることに格別困難性はない」との決定の判断は誤りであると主張する。 刊行物4(甲7)には,引張り伸び率5〜200%の繊維強化熱硬化性樹脂層((C)層)を有する防水床版舗装構造体が記載され,この(C)層について「本発明の熱硬化性樹脂とは,例えば,不飽和ポリエステル樹脂,・・・等が挙げられるが,施工性から,好ましくは不飽和ポリエステル樹脂,ビニルエステル樹脂である。・・・FRP層(C)の形成法は,何れの方法でも良いが,例えばハンドレーアップ法,スプレーアップ法,・・・などが挙げられる。」(3頁右上欄6行〜左下欄4行)と記載されている。また,刊行物5(甲8)には,不飽和ポリエステル樹脂組成物と繊維状物からなる防水積層物の施工法について「まず織布を用いる場合には,コンクリート,モルタル建造物の屋根,屋上などの場所へ,織布を敷き,その上へ不飽和ポリエステル樹脂組成物を,ゴムヘラ,ハケ,コテなどを用いて織布上へ全面塗布し,防水構造物を形成させる方法がとられる。」(3頁右下欄5〜10行)と記載されており,刊行物8(甲11)には,軟質ポリエステルFRP防水工事について「5)ガラスマット積層 不飽和ポリエステル樹脂のゲルタイムを30分とし,ローラー刷毛で0.8kg/m2塗布。ガラスマットを積層した後,上から不飽和ポリエステル樹脂をローラー刷毛で0.8〜1.0kg/m2塗布した。このあと脱泡ローラーを使用し完全に脱泡を行なった。ガラスマットは,ラップが5〜6cmになる様に重ね合わせて張りつけた。」(75頁左欄4〜11行)と記載されており,刊行物5,8に,ハンドレーアップ施工について記載されていることは,原告も認めるところである。これらの刊行物の記載から,繊維補強材を含有する不飽和ポリエステル樹脂を使用して防水被覆を形成する技術として,ハンドレーアップは当業者によく知られた方法であったと認めることができ,刊行物1に記載された防水材用の特定の不飽和ポリエステル樹脂組成物を,刊行物4,5又は8に記載されたハンドレーアップ施工用とすることは,当業者が容易になし得ることというべきである。 原告は,刊行物4と刊行物1とは,不飽和ポリエステルが異なり,舗装材の有無の点で構成も用途も異なるなどと主張するが,刊行物1と刊行物4に記載されているのは,繊維補強材を含有する不飽和ポリエステル樹脂を使用して防水被覆を形成する技術の点で共通であり,両者を組み合わせる十分な動機付けがあると認めることができる。 (4) 原告は,本件発明1はプライマー層が必要である点で,刊行物1に記載された発明と異なる旨主張するが,本件発明1はプライマーの使用を構成要件としていないから,原告の主張は理由がない。 2 取消事由2(本件発明1の顕著な効果の看過)について (1) 原告は,二重結合力価が600〜1400の不飽和ポリエステルを含有する樹脂組成物を,ハンドレーアップ,スプレーアップ施工用として用いた場合の「駆体追従性」の効果は,刊行物1の従来例,及び刊行物4〜6,8に記載の不飽和ポリエステル樹脂組成物を用いた場合と比較すると優れたものであるなどとして,「作用効果も刊行物1〜8の記載から容易に想到し得る。」との決定の判断は誤りであると主張する。 (2) 訂正明細書(甲2)には,「本発明の構成要件,メタ及び/又はパラ位置にカルボキシル基を有する飽和二塩基酸と式-(1),(2)のnが1〜2のグリコ-ルとからなること,更には,二重結合力価600〜1400のものであること。 この要件を満たさない不飽和ポリエステル樹脂は,種々の物性値が低下する。種々の物性値が低下した場合次のような問題が生じて来る。すなわち,引張り強さが100kgf/cm2より小さいと駆体亀裂追従性に劣り,引張り伸び率が20%より小さいと駆体亀裂追従性に劣るものとなり,更に硬度(ショアーD)が68より小さいと耐水性,遮塩性に劣るものとなるので好ましくない。」(【0011】)と記載されている。そして,比較例として,実施例と施工方法は同じであるが,不飽和ポリエステルを構成する酸成分,アルコール成分,二重結合力価のいずれかが,本件発明1で特定されたものでない場合に,駆体追従性に劣ることが,訂正明細書に示されている。そうすると,本件発明1の「駆体追従性」の効果は,ハンドレーアップ,スプレーアップといった施工方法による効果ではなく,特定の不飽和ポリエステル樹脂を用いることによって奏される作用効果であると認められる。 (3) ところで,刊行物1(甲4)には,「本発明は,例えばコンクリート,金属製等の土木建築材補強に有用な駆体追従性に優れた繊維強化プラスチックシート,その補強土木建築材及びこれを用いた土木建築物の補強工法に関する。」(1頁右下欄5〜8行)と記載され,第3表にDとして記載された本件発明1に該当する樹脂組成物が追従性試験において良好な結果をもたらすことも,第5表の実施例11に示されている。そうすると,本件発明1で使用されているのと同じ不飽和ポリエステル樹脂組成物が,従来使用されていた不飽和ポリエステル樹脂組成物に比べて優れた駆体追従性をもたらすものであることは,本件出願前に,刊行物1によって公知であったということができる。 したがって,原告主張のように,本件発明1の「駆体追従性」の効果が,刊行物1の従来例,刊行物4〜6,8に記載されたものに比べて優れているとしても,上記刊行物1の教示によれば,それは特定の不飽和ポリエステルを用いることにより当然にもたらされる効果にすぎないと解されるのであり,「作用効果も刊行物1〜8の記載から容易に想到し得るものと認められる。」とした決定の認定判断に誤りはない。 3 取消事由3(本件発明3,4と刊行物1に記載された発明との相違点の判断の誤り)について 原告は,刊行物8(甲11)の上塗塗料は,本件発明3,4の「フッ素系,アクリル系,ウレタン系,又はアクリルシリコン系上塗り塗料」とは異なるから,こうした上塗り塗料を特定の不飽和ポリエステル樹脂組成物によって形成された硬化物の上に用いることは,刊行物1〜8からは容易に想到し得ないと主張する。 しかしながら,訂正前明細書(甲13)に,「本発明の防水材組成物は,目的によってこの上に種々の材料と組み合わせて使用される。即ち,防水材として用いられる場合,この片の上に耐候性に優れるフッ素,アクリル,ウレタン,アクリルシリコン等公知慣用の上塗り塗料を塗布してもよい。」(【0031】)と記載されていることからすると,本件発明3,4で用いられる上塗り塗料は,原告自身が認識していたように公知慣用のものにすぎないことが明らかである。これを適用することにより当業者の予想を超える効果が奏されるとも認められないから,原告の主張は理由がない。 |
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結論
以上のとおり,原告主張の決定取消事由は理由がないので,原告の請求は棄却されるべきである。 |
裁判長裁判官 | 塚原朋一 |
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裁判官 | 塩月秀平 |
裁判官 | 野輝久 |