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関連審決 無効2015-800129
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事件 平成 28年 (行ケ) 10174号 審決取消請求事件

原告 テレフオンアクチーボラゲット エルエム エリクソン(パブル)
同訴訟代理人弁護士 岡田淳
同 飯塚卓也
同 弁理士 大塚康徳
同 大塚康弘
同 高柳司郎
同 江嶋清仁
同 坂本隆志
被告 アイピーコムゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハ フツング ウント コンパニー コマンディートゲゼルシャフト
同訴訟代理人弁護士 村田真一
同 弁理士 穐場仁
同 岡部憲昭
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2018/12/25
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1 原告の請求を棄却する。
12 訴訟費用は原告の負担とする。
3 この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30日と定める。
事実及び理由
請求
特許庁が無効2015-800129号について平成28年3月30日にした審決を取り消す。
事案の概要
1 特許庁における手続の経緯 ? 被告は,発明の名称を「ディジタル有効データの伝送方法」とする発明に係る特許権者である(平成11年7月23日国際出願(優先権主張外国庁受理1998年7月24日,ドイツ),平成19年10月5日設定登録特許第4021622号。請求項の数15。以下「本件特許」という。)。
? 原告は,平成27年5月29日,特許庁に対し,本件特許の請求項1〜4,7〜10,13〜15について無効審判請求をし,無効2015-800129号事件として係属した。
? 特許庁は,平成28年3月30日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との別紙審決書(写し)記載の審決(以下「本件審決」という。)をし,その謄本は,同年4月7日,原告に送達された(なお,出訴期間として90日が附加された。)。
? 原告は,同年8月2日,本件審決を不服として,本件訴えを提起した。
2 特許請求の範囲の記載 本件特許の特許請求の範囲請求項1〜4,7〜10,13〜15の記載は,以下のとおりである(以下「本件発明1」のようにいい,これらを併せて「本件各発明」という。なお,「/」は改行部分を示す。以下同じ。)。その明細書(図面を含む。
甲25)を「本件明細書」という。
2 【請求項1】 第1の移動局から第2の移動局へディジタルデータを伝送する方法において,/第1の通信ネットワーク内での伝送のため,第1の移動局により第1段階でディジタルデータを符号化し,次に第2段階で該ディジタルデータをチャネル符号化し,/前記の第1段階および第2段階で符号化されたディジタルデータを前記第1の通信ネットワークの伝送チャネルを介して中間局へ伝送し,/該中間局により,前記第2段階で符号化されたディジタルデータチャネルを復号し,/第2の通信ネットワーク内での伝送のため,前記中間局により前記ディジタルデータをチャネル符号化し,前記第2の通信ネットワークの伝送チャネルを介して,チャネル符号化された前記ディジタルデータを第2の移動局へ伝送し,/該第2の移動局へ前記中間局からシグナリングデータを伝送し,該シグナリングデータは,前記第1段階でのディジタルデータの符号化形式に関する情報を含み,/前記第2の移動局により,前記中間局において符号化されたディジタルデータチャネルをチャネル復号し,/前記第2の移動局により復号されたディジタルデータチャネルを,該第2の移動局が受信した前記シグナリングデータに依存して,該第2の移動局により情報源復号することを特徴とする,/第1の移動局から第2の移動局へディジタルデータを伝送する方法。
【請求項2】 前記の第1段階および第2段階において符号化されたディジタルデータを前記中間局へ伝送する,請求項1記載の方法。
【請求項3】 前記中間局において,復号されたディジタルデータチャネルに対し前記シグナリングデータを付加して,前記第2の通信ネットワークにおける伝送のためにビット流を生成し,/前記ビット流におけるディジタルデータとシグナリングデータを,前記中間局によりチャネル符号化し,/前記ビット流におけるディジタルデータおよびシグナリングデータを,前記第2の通信ネットワークにおける伝送チャネルを 3 介して前記第2の移動局へ伝送し,/該第2の移動局により,前記ビット流におけるディジタルデータおよびシグナリングデータをチャネル復号し,/該第2の移動局により第2段階でチャネル復号されたディジタルデータを,該第2の移動局が復号したシグナリングデータに依存して,該第2の移動局により情報源復号する,/請求項1記載の方法。
【請求項4】 第1の通信ネットワークにおけるディジタルデータを第1の移動無線規格に従い伝送し,該ディジタルデータをそれぞれ第1段階および第2段階で情報源符号化およびチャネル符号化し,/第2の通信ネットワークにおけるディジタルデータをチャネル符号化し,第2の移動無線規格に従いシグナリングデータといっしょに伝送し,該シグナリングデータは,前記第1の移動無線規格による前記第1段階でのディジタルデータの符号化形式に関する情報を含み,/前記第2段階で符号化され前記第2の移動局により復号されたディジタルデータを,前記シグナリングデータの評価に応じて前記第1の移動無線規格に従い復号する,請求項1記載の方法。
【請求項7】 第1の移動局から第2の移動局へディジタルデータを伝送する方法において,/第1の通信ネットワーク内での伝送のため,第1の移動局により第1段階でディジタルデータを符号化し,次に第2段階で該ディジタルデータをチャネル符号化し,/前記の第1段階および第2段階で符号化されたディジタルデータを前記第1の通信ネットワークの伝送チャネルを介して中間局へ伝送し,/該中間局により,前記第2段階で符号化されたディジタルデータチャネルを復号し,/第2の通信ネットワーク内での伝送のため,前記中間局により前記ディジタルデータをチャネル符号化し,次に前記第2の通信ネットワークの伝送チャネルを介して,チャネル符号化された前記ディジタルデータを第2の移動局へ伝送し,/該第2の移動局へ前記中間局からシグナリングデータを伝送し,該シグナリングデータは,前記第1段階でのディジタルデータの符号化形式に関する情報を含み,/前記第2の移動局により, 4 前記中間局において符号化されたディジタルデータチャネルをチャネル復号し,/前記第1段階で符号化されたディジタルデータを,該第2の移動局が受信した前記シグナリングデータに依存して,該第2の移動局により復号することを特徴とする,/第1の移動局から第2の移動局へディジタルデータを伝送する方法。
【請求項8】 前記の第1段階および第2段階において符号化されたディジタルデータを前記中間局(15)へ伝送する,請求項7記載の方法。
【請求項9】 第2段階でチャネル符号化され前記中間局において復号されたディジタルデータに対し前記シグナリングデータを付加して,前記第2の通信ネットワークにおける伝送のためにビット流を生成し,/前記ビット流におけるディジタルデータとシグナリングデータを,前記中間局により符号化し,/前記ビット流におけるディジタルデータおよびシグナリングデータを,前記第2の通信ネットワークにおける伝送チャネルを介して前記第2の移動局へ伝送し,/該第2の移動局により,前記ビット流における第2段階で符号化されたディジタルデータおよびシグナリングデータを復号し,/第1段階で符号化され前記第2の移動局により第2段階でチャネル復号されたディジタルデータを,該第2の移動局が復号したシグナリングデータに依存して,該第2の移動局により復号する,/請求項7記載の方法。
【請求項10】 第1の通信ネットワークにおけるディジタルデータを第1の移動無線規格に従い伝送し,該ディジタルデータを第1段階および第2段階で情報源符号化およびチャネル符号化し,/第2の通信ネットワークにおいて符号化されたディジタルデータをチャネル符号化し第2の移動無線規格に従いシグナリングデータといっしょに伝送し,該シグナリングデータは,前記第1の移動無線規格による前記第1段階でのディジタルデータの符号化形式に関する情報を含み,/前記第2段階でチャネル符号化され前記第2の移動局によりチャネル復号されたディジタルデータを,前記シ 5 グナリングデータの評価に応じて前記第1の移動無線規格に従い該第2の移動局により復号する,請求項7記載の方法。
【請求項13】 前記シグナリングデータを1回または複数回,別個のコントロールチャネルを介して中間局から第2の移動局へ伝送する,請求項1または7記載の方法。
【請求項14】 前記第1段階におけるディジタルデータ符号化形式に関する情報を含む前記シグナリングデータとともに,前記第1の移動局の呼出番号を伝送する,請求項1,3,7または9記載の方法。
【請求項15】 前記ディジタルデータとしてビデオデータ,オーディオデータ,テキストデータ,音声データのうち少なくとも1つのデータを伝送する,請求項1または7記載の方法。
3 本件審決の理由の要旨 ? 本件審決の理由は,別紙審決書(写し)記載のとおりである。要するに,本件各発明は,特開平6-6295号公報(甲2。以下「引用例」という。)記載の発明(以下「引用発明」という。)及び甲1,3,5〜8記載の発明により容易に発明をすることができたということはできず,特許法29条2項には該当しない,などというものである。
? 引用発明及びこれと本件各発明との一致点・相違点 本件審決は,引用発明及びこれと本件各発明との一致点・相違点を,以下のとおり認定した。
ア 引用発明 網側で両無線端末の使用可能な音声符号化方式に応じて両無線端末が同一の無線符号化音声信号を用いるように,発着両無線端末のコーディックの種類を整合させ,更に網内のコーディックを切り離して通話路の設定をし,無線符号化音声信号を変 6 換せずに中継を行い,通信を行う方法であって,/本無線通信システムにおいて,無線端末3-1と無線端末3-2が音声通信する場合は,交換局5において制御回路9によりセレクタ8-1,8-2を制御してコーディック6-1又は6-2を切り離し,各々の無線符号化音声信号AまたはBを変換せずに中継を行うものであり,/無線端末3-1が発信し,無線端末3-2に着信する場合は,/無線端末3-1からの音声符号化方式:無線符号化音声信号B,着信端末:無線端末3-2で設定された“呼設定”信号を交換局5における制御回路9が無線制御回線16-1を通じて受信すると,“呼設定”信号情報を音声符号化方式制御回路20に引き渡し,/音声符号化方式制御回路20は“呼設定”信号内に含まれる発信情報を分析し,発信端末は無線符号化音声信号Bを使用要求し,着信端末が無線端末3-2であることを認識して,無線端末3-1,無線端末3-2間の音声通信に使用する音声符号化方式を決定するため,音声符号化方式判定回路19を起動し,/音声符号化方式判定回路19は,無線端末情報蓄積メモリ18内の無線端末情報を検索し,無線端末3-1,3-2の使用可能な音声符号化方式が両無線端末とも無線符号化音声信号A,Bであることを音声符号化方式制御回路20に通知し,/音声符号化方式制御回路20は,両無線端末が使用可能な音声符号化方式を比較し,無線端末3-1,無線端末3-2間通信で同一の無線符号化音声信号であり,且つ,高能率な音声符号化方式である無線符号化音声信号Bを使用することに決定して,先の音声符号化方式の決定結果に基づき,制御回路9を起動して,無線端末3-2に対して無線制御回線16-2を通じ,無線符号化音声信号Bの“呼設定”信号を送出し,/交換局5において制御回路9は無線制御回線16-2を通じ,無線端末3-2からの“応答”信号を受信するとセレクタ8-1,8-2を制御して,今まで,コーディック6-1,6-2に接続していた状態からコーディックを切り離した後,制御回路9は無線端末3-1に対して無線制御回線16-2を通じ,“応答”信号を送出し,無線端末3-1と無線端末3-2の間で無線通話回線15-1と無線通話回線15-2を通じて無線符号化音声信号Bによる音声通信が開始される,/方法。
7 イ 本件発明1との一致点・相違点 (ア) 本件特許の「通信ネットワーク」につき,「所定の移動無線規格に従って構成されている」ものであるとした場合(主位的判断) a 一致点 第1の移動局から第2の移動局へディジタルデータを伝送する方法において,/通信ネットワーク内での伝送のため,第1の移動局により第1段階でディジタルデータを符号化し,/前記の第1段階で符号化されたディジタルデータを前記通信ネットワークの伝送チャネルを介して局へ伝送し,/通信ネットワークの伝送チャネルを介して,前記ディジタルデータを第2の移動局へ伝送し,/該第2の移動局へ前記局からシグナリングデータを伝送し,該シグナリングデータは,前記第1段階でのディジタルデータの符号化形式に関する情報を含み,/前記第2の移動局によりディジタルデータチャネルを,該第2の移動局が受信した前記シグナリングデータに依存して,該第2の移動局により情報源復号することを特徴とする,/第1の移動局から第2の移動局へディジタルデータを伝送する方法。
b 相違点1 通信ネットワークについて,本件発明1は「第1の通信ネットワーク」と「第2の通信ネットワーク」が存在するのに対し,引用発明は1つの「通信ネットワーク」である点。
c 相違点2 「局」について,本件発明1は「中間局」であるのに対し,引用発明は「交換局」であり,該局が行う処理として,本件発明1は「第2段階で符号化されたディジタルデータを復号」するとともに,「ディジタルデータをチャネル符号化」するのに対し,引用発明は,チャネル符号化処理を行わない点。
d 相違点3 移動局の処理に関し,本件発明1は,移動局において,ディジタルデータを第2段階でチャネル符号化し,中間局において符号化されたディジタルデータチャネル 8 を復号するのに対し,引用発明はチャネル符号に関する記載は無い点。
(イ) 本件特許の「通信ネットワーク」につき,移動局から基地局,基地局から移動局がそれぞれ「ネットワーク」であるとした場合(予備的判断) a 一致点 第1の移動局から第2の移動局へディジタルデータを伝送する方法において,/第1の通信ネットワーク内での伝送のため,第1の移動局により第1段階でディジタルデータを符号化し,/前記の第1段階で符号化されたディジタルデータを前記第1の通信ネットワークの伝送チャネルを介して中間局へ伝送し,/第2の通信ネットワーク内での伝送のため,前記第2の通信ネットワークの伝送チャネルを介して,前記ディジタルデータを第2の移動局へ伝送し,/該第2の移動局へ前記中間局からシグナリングデータを伝送し,該シグナリングデータは,前記第1段階でのディジタルデータの符号化形式に関する情報を含み,/前記第2の移動局によりディジタルデータチャネルを,該第2の移動局が受信した前記シグナリングデータに依存して,該第2の移動局により情報源復号することを特徴とする,/第1の移動局から第2の移動局へディジタルデータを伝送する方法。
b 相違点2’ 中間局において,本件発明1では,「第2段階で符号化されたディジタルデータチャネルを復号」するとともに,「第2の通信ネットワーク内での伝送のため」に「ディジタルデータをチャネル符号化」するのに対し,引用発明は,処理を行わない点。
c 相違点3’ 本件発明1では,第1の無線端末において「第2段階で該ディジタルデータを符号化」し,第2の無線端末において「中間局において符号化されたディジタルデータチャネルをチャネル復号」するのに対し,引用発明は,「第2段階」の符号化及び復号化に関して記載が無い点。
ウ 本件発明2〜4との一致点・相違点 9 (ア) 本件発明2〜4は,相違点1〜3を含む。
(イ) 本件発明3は,さらに,「中間局において,復号されたディジタルデータチャネルに対し前記シグナリングデータを付加」する相違点(相違点4)を含む。
(ウ) 本件発明4は,さらに,「第2の通信ネットワークにおけるディジタルデータをチャネル符号化し,第2の移動無線規格に従いシグナリングデータといっしょに伝送」する相違点(相違点4’)を含む。
エ 本件発明7との一致点・相違点 (ア) 本件特許の「通信ネットワーク」につき,「所定の移動無線規格に従って構成されている」ものであるとした場合 a 一致点 第1の移動局から第2の移動局へディジタルデータを伝送する方法において,/通信ネットワーク内での伝送のため,第1の移動局により第1段階でディジタルデータを符号化し,/前記の第1段階で符号化されたディジタルデータを前記通信ネットワークの伝送チャネルを介して局へ伝送し,/通信ネットワークの伝送チャネルを介して,前記ディジタルデータを第2の移動局へ伝送し,/該第2の移動局へ前記局からシグナリングデータを伝送し,該シグナリングデータは,前記第1段階でのディジタルデータの符号化形式に関する情報を含み,/前記第1段階で符号化されたディジタルデータを,該第2の移動局が受信した前記シグナリングデータに依存して,該第2の移動局により復号することを特徴とする,/第1の移動局から第2の移動局へディジタルデータを伝送する方法。
b 相違点 相違点1〜3に同じ。
(イ) 本件特許の「通信ネットワーク」につき,移動局から基地局,基地局から移動局がそれぞれ「ネットワーク」であるとした場合 a 一致点 第1の移動局から第2の移動局へディジタルデータを伝送する方法において,/ 10 第1の通信ネットワーク内での伝送のため,第1の移動局により第1段階でディジタルデータを符号化し,/前記の第1段階で符号化されたディジタルデータを前記第1の通信ネットワークの伝送チャネルを介して中間局へ伝送し,/第2の通信ネットワーク内での伝送のため,前記第2の通信ネットワークの伝送チャネルを介して,前記ディジタルデータを第2の移動局へ伝送し,/該第2の移動局へ前記中間局からシグナリングデータを伝送し,該シグナリングデータは,前記第1段階でのディジタルデータの符号化形式に関する情報を含み,/前記第1段階で符号化されたディジタルデータを,該第2の移動局が受信した前記シグナリングデータに依存して,該第2の移動局により復号することを特徴とする,/第1の移動局から第2の移動局へディジタルデータを伝送する方法。
b 相違点 相違点2’及び3’に同じ。
オ 本件発明8〜10との一致点・相違点 (ア) 本件発明8〜10は,相違点1〜3を含む。
(イ) 本件発明9は,相違点4を含む。
(ウ) 本件発明10は,さらに,「第2の通信ネットワークにおいて符号化されたディジタルデータをチャネル符号化し第2の移動無線規格に従いシグナリングデータといっしょに伝送」する相違点(相違点4’’)を含む。
カ 本件発明13〜15との一致点・相違点 本件発明13〜15は,相違点1〜3を含む。
4 取消事由 ? 取消事由1(本件発明1に係る進歩性判断の誤り) ? 取消事由2(本件発明2,7,8及び13〜15に係る進歩性判断の誤り) ? 取消事由3(本件発明3,4,9及び10に係る進歩性判断の誤り)
当事者の主張
1 取消事由1(本件発明1に係る進歩性判断の誤り) 11 〔原告の主張〕 ? 「ネットワーク」の解釈の誤り(一致点・相違点の認定の誤り) ア 本件審決は,本件発明1と引用発明との対比にあたり,本件発明1における「第1の通信ネットワーク」と「第2の通信ネットワーク」につき,それぞれ異なる移動無線規格に従って構成されなければならないものと解釈しているものと考えられるが,このような解釈は,以下のとおり,本件発明1に係る請求項1の構成要件及び本件明細書の各記載に反するのみならず,関連する侵害訴訟での被告自身の主張とも矛盾する。「ネットワーク」とは単に移動局から基地局,基地局から移動局の伝送チャネルを提供するものであり,「中間局」とは第1の移動局と第2の移動局の間に存在する局を指すにすぎない。
構成要件の記載との不整合 本件発明1に係る請求項1の構成要件のうち,「ネットワーク」及び「中間局」に関する記載を見ると,「第1の通信ネットワーク」と「第2の通信ネットワーク」がそれぞれ異なる移動無線規格に従って構成されなければならないことをうかがわせる記載は見当たらない。むしろ,本件特許に係る各請求項を比較すれば,請求項1では単に「通信ネットワーク」と記載されているのに対し,例えば従属項である請求項4では「移動無線規格」,請求項5では「GSM」(Global System forMobile Communications。以下「GSM」ないし「GSM規格」 という。),「UMTS」(Universal Mobile Telecommunications System。以下「UMTS」ないし「UMTS規格」という。)といった限定的な文言が用いられていることからも明らかなとおり,単なる「ネットワーク」との用語を「所定の移動無線規格に従って構成されている」ものに限定解釈すべきではない。
ウ 本件明細書の記載との不整合 本件明細書【0022】によれば,第1の通信ネットワークと第2の通信ネットワークが「同一」であってもよいことが明確に許容されている。さらに,【0021】には,第1の通信ネットワークと第2の通信ネットワークのそれぞれを同じ無 12 線規格(GSM及びUMTSの両方)に従うものとして構成できることも具体例として記載されている。
以上のとおり,本件明細書では,第1及び第2の通信ネットワークと移動無線通信規格の異同とは全く関係のない問題であることが明記されている。
エ 被告自身の主張との不整合 被告は,平成21年5月29日,第三者の実施する伝送方法が本件特許を侵害するとして提訴したところ,そこで対象とされた通信ネットワークは,3GPP規格(W-CDMA=UMTS)という1つの移動無線規格に従って構成されていた。
そこでの被告(当該訴訟では原告)の主張は,発信側の移動端末が送信する無線信号から当該無線信号を受信する局までの無線区間が本件発明1の「第1の通信ネットワーク」であり,着信側の移動端末に無線信号を送信する局から着信側の移動端末までの無線区間が本件発明1の「第2の通信ネットワーク」であり,発信側の移動端末が送信する無線信号を受信する局から着信側の移動端末に無線信号を送信する局までが本件発明1の「中間局」であり,本件発明1においては,「第1の通信ネットワーク」と「第2の通信ネットワーク」の移動無線規格の異同は問わないというものであった。
? 相違点2(の一部)及び3に係る判断の誤り ア 本件審決は,相違点2(の一部)及び3につき,甲1,3,5〜8のいずれにも,中継を行う局において,誤り訂正符号を一度復号化し,再度符号化して送信することは記載されていないとするが,以下のとおり,この判断は誤りである。
イ 「チャネル符号」の概念(ア) 「チャネル符号」の一般的な概念 「チャネル符号」とは,伝送路等で生じるデータの誤りの検出や訂正を行うための符号であり,「チャネル符号」のうち,誤り訂正を目的としたものは「誤り訂正符号」とも呼ばれるところ,甲14には,「誤り訂正符号」の概念が更に「ブロック符号」と「畳み込み符号」に分けられることが記載されている。また,本件明細 13 書【0015】等においても,「チャネル符号」の例示として「畳み込み符号」と「ブロック符号」が記載されている。
以上のとおり,「誤り訂正符号」,「畳み込み符号」,「ブロック符号」といった概念が「チャネル符号」を構成することは明らかである。
(イ) 甲1,3,5〜8の記載 甲1(図7)には,基地局2Aの畳み込み復号化部で畳み込み符号の復号を行うことと,基地局2Bの畳み込み符号化部で,畳み込み符号化して送信することが記載されている。そして,基地局2A,基地局2Bは移動機1A,移動機1Bと無線チャネルで接続されているから,基地局2Aから基地局2Bまでが「中間局」に相当する。
甲3(11頁,17頁)には,基地局-交換機間の伝送路構成として,基地局側で無線区間の誤り訂正を行って冗長ビットを取り除くこと,基地局変復調装置で畳み込み符号/復号化を行うことが開示されている。そして,基地局は移動局と無線で接続されているから,一方の移動機が接続されている基地局から他方の移動機が接続されている基地局までが「中間局」に相当する。
甲7(図1,2)には,基地局14で畳み込み符号化/復号化などの処理を行うことが記載されている。そして,基地局14は移動局11と無線で接続されているから,一方の移動機が接続されている基地局から他方の移動機が接続されている基地局までが「中間局」に相当する。
上記のとおり,「畳み込み符号」は「チャネル符号」の一例であるから,甲1,3及び7には,中継を行う局において,チャネル符号を一度復号化し,再度符号化して送信することが明確に記載されている。
また,前記のとおり,「ネットワーク」の正しい解釈を前提とすれば,「中間局」は第1の移動局と第2の移動局の間に存在する局を指すものと理解できる。
よって,甲1,3及び7のいずれにも「中間局」における「チャネル符号」処理が記載されていることは明らかである。加えて,甲5,6及び8においても,無線 14 区間でチャネル符号化することは開示されている。
? 小括 以上のとおり,本件審決は,本件発明1と引用発明との対比にあたり「ネットワーク」の解釈を誤っており,この点についての正しい解釈を前提とすれば,「ネットワーク」(及び「中間局」)についての引用発明との相違点(相違点1,相違点2(の一部))はいずれも解消され,存在しないことになる。
その結果,残る相違点は,引用発明において,移動局及び中間局の処理としての「チャネル符号」に関する記載が存在しないこと(相違点2(の一部),相違点3)のみである。しかし,この点についても本件審決は,甲1,3,5〜8の認定を誤っており,これらについての正しい認定を前提とすれば,引用発明に「チャネル符号」を適用することは極めて容易であった。
したがって,本件発明1は,引用発明を主引用発明とし,甲1を副引用例とする進歩性欠如により無効とされるべきであって,本件審決の認定,判断は誤りである。
? 予備的判断の誤り 本件審決は,「ネットワーク」について,移動局から基地局,基地局から移動局がそれぞれ「ネットワーク」である,とした場合につき予備的に判断するとした上で,相違点2’(中間局における「チャネル符号」処理)について,甲1,3,5〜8のいずれにも,中継を行う局において,誤り訂正符号を一度復号化し,再度符号化して送信することは記載されていないなどと認定,判断した。
しかし,前記?のとおり,本件審決のこの認定,判断は誤りであり,かかる正しい認定を前提とすれば,引用発明に中間局における「チャネル符号」処理を適用することは極めて容易であった。
したがって,本件審決の予備的判断における進歩性についての判断は誤りである。
〔被告の主張〕 ? 「ネットワーク」の解釈の誤り(一致点・相違点の認定の誤り)について ア 構成要件の記載との不整合について 15 本件明細書の記載(【0001】〜【0004】,【0007】,【0009】〜【0012】,【0014】〜【0017】,【0020】,【0021】,【0024】)によれば,本件発明1は,第1の通信ネットワークを経て第1の移動局から中間局が受信したデータが,中間局において,第1段階では復号されずに第2段階だけでチャネル復号化,符号化され,第2の移動局において,受信されたデータの第1段階での復号を,中間局からデータと一緒に伝送されたシグナリングデータを評価することにより行うことを可能とすることで,第2の通信ネットワークにおけるデータ伝送のための中間局における第1段階での復号化及び符号化を不要とすることにより,計算の煩雑さが抑えられ,符号変換時に生じる有効データの損失を避けることができる,という技術的意義を有するものであること,このデータの「復号化」,「符号化」は,GSM規格やUMTS規格等の移動無線規格に従って行われるものであること,本件発明1における「通信ネットワーク」は,GSM規格やUMTS規格等の所定の移動無線規格として構成されるものであることが明らかである。
また,「第1の通信ネットワーク」と「第2の通信ネットワーク」が同じ移動無線規格に従っているのであれば,そもそも,中間局において,第2の通信ネットワークにおけるデータ伝送のための第1段階でのデータ復号化や符号化を行う必要はなく,それを省略することにより,計算の煩雑さを抑え,符号変換時に生じる有効データの損失を避ける必要もない。
さらに,本件特許の請求項4は通信ネットワークが移動無線規格に従うことを明記し,請求項5は通信ネットワークが移動無線規格の1つであるGSMやUMTSに従うことを規定しているにすぎず,本件発明1の「通信ネットワーク」を所定の移動無線規格に従って構成されているものと解釈することに何ら支障はない。
したがって,本件発明1の構成要件において,「第1の通信ネットワーク」と「第2の通信ネットワーク」がそれぞれ異なる移動無線規格に従って構成されなければならないことを窺わせるような記載がないということはできない。
16 イ 本件明細書の記載との不整合について 上記のとおり,本件発明1における「通信ネットワーク」は,GSM規格やUMTS規格等の所定の移動無線規格として構成されるものである。
また,本件明細書【0021】,【0022】の前に記載されている【0020】には,例えば第1の移動局がGSM規格に対応し,第2の移動局がGSM規格及びUMTS規格に対応している場合であっても,第1の通信ネットワークがGSM規格に従い,第2の通信ネットワークがUMTS規格に従うこと,すなわち第1の通信ネットワーク及び第2の通信ネットワークがそれぞれ異なる移動無線規格に従う場合を考慮して,本件各発明の効果が説明されている。これに続いて【0021】,【0022】があることに鑑みると,両段落の記載は,【0020】の記載を受けて,「GSM規格によってもUMTS規格によっても実現されている移動局」による,いずれの規格にも従うデータ転送を可能とする通信ネットワークとして,ハイブリッドGSM/UMTSネットワークを例示し,第1の通信ネットワークと第2の通信ネットワークのそれぞれをハイブリッドネットワークとすることが可能であること(【0021】),第1の通信ネットワークと第2の通信ネットワークのいずれをも同一のハイブリッドネットワークとすることが可能であること(【0022】)を述べているにすぎないことがわかる。
したがって,本件明細書【0021】及び【0022】の記載は,本件発明1の「通信ネットワーク」を「『GSM』,『UMTS』のように『所定の移動無線規格に従って構成されている』ものである」とすることと矛盾しない。
ウ 被告自身の主張との不整合について 原告指摘に係る被告の主張は,過去に第三者に対して提起した特許権侵害訴訟におけるものであって,本件において本件発明1と引用発明との対比に直接影響を及ぼすものではない。
? 相違点2(の一部)及び3に係る判断について ア 甲1について 17 本件審決は,甲1の移動機でのCRCビットを用いたチェックと,畳み込み符号化と,インタリーブの3つにより得られる符号が,本件発明1における「チャネル符号」に該当すると認定した上で,本件発明1と引用発明1の相違点2を認定している。これによれば,本件審決は,移動機すなわち移動局において行われるチャネル符号化の一部だけでは本件発明1の中間局における「チャネル符号」処理を構成しないと認定しているものと理解される。
また,本件発明1に係る請求項1の構成要件においても,中間局で行う「チャネル符号」処理が第1の移動局で行われる「チャネル符号」処理の一部でもよいとはされていない。
甲1の基地局において「畳み込み復号化」と「スロットデインタリーブ」を行う目的は,基地局2と交換局3の間の伝送路の有効活用のために,基地局で畳み込み復号化とスロットデインタリーブを行うようにした(マルチレートでの伝送を実現した)ものであって,本件発明1のように移動無線通信を実現するためではない。
したがって,本件発明1の中間局における「チャネル符号」処理について,甲1に記載がないとする本件審決の認定に誤りはない。
イ 甲3について 甲3における基地局変復調装置での畳み込み符号/復号化について,本件発明1の「チャネル符号」処理の一部にすぎない点は,甲1と同様である。
また,この畳み込み符号/復号化は,誤り訂正に必要な情報部分を制御局と基地局間の伝送路中から削除するためのものであり,本件発明1の中間局における「チャネル符号」処理とは技術的意義が異なる点も,甲1と同様である。
したがって,本件発明1の中間局における「チャネル符号」処理について,甲3に記載がないとする本件審決の認定に誤りはない。
ウ 甲7について そもそも,甲7には「他方の移動機」は存在しない。そのため,一方の移動機から他方の移動機が接続されておらず,甲7には中継を行う局における「チャネル符 18 号」処理についての記載もない。
また,基地局14での畳み込み符号/復号化は,基地局-交換局間での伝送路誤りが少ないため,その間の通信容量を減らすべく行われるものであり,本件発明1の中間局における「チャネル符号」処理とは技術的意義が異なる点は,甲1と同様である。
したがって,本件発明1の中間局における「チャネル符号」処理について,甲7に記載がないとする本件審決の認定に誤りはない。
エ 甲5,6及び8について 甲5,6及び8のいずれにも,中間局における「チャネル符号」処理について記載はなく,本件審決の認定に誤りはない。
? 予備的判断の誤りについて 本件審決による甲1,甲3,5〜8の認定に誤りがないことは,前記?のとおりである。
2 取消事由2(本件発明2,7,8及び13〜15に係る進歩性判断の誤り) 〔原告の主張〕 取消事由1と同様である。
〔被告の主張〕 取消事由1と同様である。
3 取消事由3(本件発明3,4,9及び10に係る進歩性判断の誤り) 〔原告の主張〕 ? 後記?を加えるほかは,取消事由1と同様である。
? 相違点4及び4’に係る容易想到性の判断について 本件審決は,さらに,シグナリングデータとディジタルデータの送信タイミングにつき,引用発明の「呼設定」信号は,呼設定後のデータ転送において使用するコーデックの選択に使用されるのであるから,「データ転送の前」に伝送する必要があり,送信するディジタルデータに対して「付加」することや「いっしょ」に伝送 19 することはできないなどと認定している。
しかし,本件明細書には,ディジタルデータにシグナリングデータを「付加」して送信することや,ディジタルデータとシグナリングデータを「いっしょ」に送信することの技術的意義や効果について,何らの記載も存在しない。本件発明3,4,9及び10も,本件発明1と同様に,シグナリングデータにより発側の移動端末が使用する符号化形式を着側の移動端末に通知し,これにより,着側の移動端末においてスイッチ105を制御して復号器の選択を行わせるものであり(【0017】),シグナリングデータとディジタルデータの送信タイミングは単なる設計事項にすぎない。
また,引用発明は,複数種類のコーデックを有する移動端末が存在するときに,着側の移動端末に発側の移動端末が使用する符号化方式をシグナリングデータである「呼設定」信号により伝え,着側の移動端末にコーデックを選択させるものであり,その本質は本件発明3,4,9及び10と同様であり,着側の移動端末に符号化形式を通知するタイミングの変更・修正は,やはり当業者が容易に行うことができる。
以上のように,引用発明が「呼設定」信号により符号化形式を通知することをもって,音声符号化形式を通知する信号を送信するディジタルデータに対して「付加」することや「いっしょ」に伝送する構成には当業者は容易に想到することができないとした本件審決の容易想到性の認定,判断は誤りである。
〔被告の主張〕 ? 後記?を加えるほかは,取消事由1及び2と同様である。
? シグナリングデータとディジタルデータの送信タイミングについて 本件発明3,4,9及び10においては,ディジタルデータにシグナリングデータを「付加」して送信したり,ディジタルデータとシグナリングデータを「いっしょ」に送信することで,ディジタルデータ及びシグナリングデータに対してそれぞれ「チャネル符号」処理をする必要がなく,2回の「チャネル符号」処理をする必 20 要がなくなる。
他方,引用発明においては,通信を開始する前に,交換局において,呼信号に基づいてコーデックの切り離しをすることが必要となる(【0012】,図4)。また,引用発明は,呼信号を用いて,最適な符号化方式を通信開始前に選択する構成を採用している(【0018】)。そのため,引用発明は,呼信号を,移動端末間のディジタルデータの送信より前に送信することが必須の構成となっている。このため,引用発明における呼信号の送信タイミングは,本件発明3,4,9及び10に規定されるタイミングとは異なり,単なる設計事項ではない。むしろ,引用発明の符号化形式を通知するタイミングを本件発明3,4,9及び10のように変更・修正することについては阻害事由がある。
したがって,引用発明から本件発明3,4,9及び10を創作することは容易ではない。
当裁判所の判断
1 本件各発明 ? 本件特許に係る特許請求の範囲の記載は,前記第2の2のとおりである。また,本件明細書の発明の詳細な説明の記載は,以下のとおりである(なお,図面は別紙図面目録の1参照)。
ア 従来の技術 本発明は,請求項1の上位概念に記載のディジタル有効データの伝送方法に関する。(【0001】) 第1の移動局から第2の移動局へのディジタル有効データの伝送方法についてはす で に 知 ら れ て お り , た と え ば G S M ( Global System for MobileCommunications)規格に従い実現されている。(【0002】) イ 本発明の利点 これに対し,請求項1の特徴部分に記載の本発明による方法は以下の利点を有する。すなわち,有効データが,第1の通信ネットワーク内での伝送のため第1の移 21 動局により第1段階で符号化され,たとえば情報源符号化され,さらに第2段階で符号化され,たとえばチャネル符号化され,第1段階および第2段階で符号化された有効データが,第1のビット流のかたちで前記第1の通信ネットワークの伝送チャネルを介して,たとえば少なくとも第3の通信ネットワークを介して,中間局へ伝送される。該中間局により第1のビット流の有効データが第2段階で復号され,たとえばチャネル復号され,第2の通信ネットワーク内での伝送のため前記中間局により有効データが第2段階で符号化され,たとえばチャネル符号化され,前記第2の通信ネットワークの伝送チャネルを介して有効データが第2の移動局へ伝送され,該第2の移動局へ前記中間局からシグナリングデータが伝送され,該シグナリングデータは,第1段階での有効データの符号化形式に関する情報を含み,前記第2の移動局により有効データが第2段階で復号され,たとえばチャネル復号され,前記第2の移動局により第2段階で復号された有効データが,該第2の移動局により受信されたシグナリングデータに依存して,該第2の移動局により第1段階で復号され,たとえば情報源復号される。(【0003】) このように,中間局の受信した有効データは第2段階だけで復号されるが,第1段階では復号されない。このため,第2の通信ネットワークにおける有効データ伝送のための第1段階での符号化は不要となる。この場合,第2の移動局において受信された有効データの第1段階での復号を,中間局からいっしょに伝送されたシグナリングデータの評価により行うことができる。したがって,個々の通信ネットワークにおける伝送のための第1段階での符号化のための種々の符号間での符号変換を行う必要がなくなり,そのことで計算の煩雑さが抑えられ,符号変換時に生じる有効データの損失を避けることができる。(【0004】) 殊に有利には,第1の通信ネットワークにおける有効データが第1の移動無線規格に従い,たとえばGSM規格…に従い,第1段階および第2段階で符号化されて伝送され,たとえば情報源符号化およびチャネル符号化されて伝送され,第2の通信ネットワークにおける有効データが第2の移動無線規格に従い,たとえばUMT 22 S規格(Universal Mobile Telecommunications System)に従い,シグナリングデータといっしょに第2段階で符号化されて伝送され,たとえばチャネル符号化されて伝送され,前記シグナリングデータは,第1の移動無線規格による第1段階での有効データの符号化に関する情報を含み,前記第2の移動局により第2段階で復号されたとえばチャネル復号された有効データが,第1の移動無線規格についてのシグナリングデータの評価に応じて該第2の移動局により第1段階で復号され,たとえば情報源復号される。(【0006】) このようにすれば,それぞれ異なる移動無線規格に従い実現されている無線インタフェースにより,各移動局間で有効データを伝送することができる。そしてこれによれば,有効データを受け取る第2の移動局が第1の規格に従い第1段階での受信有効データを復号できることを前提として,第1段階での符号化のための符号に関する有効データの符号変換が不要となる。(【0007】) ウ 実施例 図1には参照符号1により第1の移動局が表されており,これは第1の移動無線規格に従って実現されている。ここで第1の移動無線規格を,たとえばGSM…とすることができる。第1の移動局1は,以下ではGSM移動局として構成されているものとする。…この場合,第1の移動局1は,第1段階の符号化のために情報源符号化器として構成された符号化器25を有しており,これは第1の移動無線規格この実施例ではGSM規格に従って構成されている。情報源符号化器25は,第2段階の符号化のためにチャネル符号化器として構成された第1の符号化器35(これも第1の移動無線規格に従って実現されている)を介して,第1の送受信ユニット40と接続されており,このユニットに送受信アンテナ45が接続されている。
第1の送受信アンテナ45から無線信号を第1の移動無線規格に従い,この実施例ではGSMネットワークとして構成されている第1の通信ネットワーク10を介して,中間局15の第2の送受信アンテナ45(判決注:「第2の送受信アンテナ50」の誤りと認める。)へ伝送することができる。(【0009】) 23 ここで中間局15は第2の送受信ユニット55を有しており,このユニットには第2の送受信アンテナ50が接続されている。第2の送受信ユニット55は,第2段階における復号のためにチャネル復号器として構成された第1の復号器60と接続されており,この復号器は中間局15の制御部65と接続されている。制御部65は,第2段階の符号化のためにチャネル符号化器として構成された第2の符号化器(判決注:「第2の符号化器70」の誤りと認める。)を介して,中間局15の第3の送受信ユニット75と接続されており,このユニットには第3の送受信アンテナ80が接続されている。第3の送受信アンテナ80からは無線信号が,第2の無線規格に従い第2の通信ネットワーク20を介して第2の移動局5へ伝送される。
この場合,第2の移動無線規格をたとえばUMTS規格…とすることができる。
(【0010】) 第2の移動局5…は送受信アンテナ85を介して中間局15から無線信号を受け取る。第2の移動局5は第4の送受信ユニット90を有しており,このユニットには第4の送受信アンテナ85が接続されている。さらに第4の送受信ユニット90は,第2段階の復号のためにチャネル復号器として構成された第2の復号器95をと(判決注:「第2の復号器95と」の誤りと認める。)接続されており,この復号器には評価ユニット100が接続されている。第2のチャネル復号器95は評価ユニット100により制御可能なスイッチ105を介して,第1段階の復号のために情報源復号器として構成された第1の復号器30と,あるいは第1段階の復号のために情報源復号器として構成された第2の復号器110と接続可能である。その際,第1の情報源復号器30は第1の移動無線規格に従って実現され,第2の情報源復号器110は第2の移動無線規格に従って実現されている。以下では,第2の移動無線規格について実例としてUMTS規格を採用する。したがって第2の移動局5は少なくとも部分的に,GSM/UMTS移動局として構成されている。
(【0011】) 情報源符号化器25にはディジタル有効データが供給され,そのようなデータは 24 ビデオデータ,オーディオデータ,テキストデータ,音声データおよび/またはその他の任意のデータとすることができる。以下では,第1の移動局1と第2の移動局5との間の有効データの伝送について,音声データの伝送に基づき説明する。この場合,情報源符号化器は第1の移動無線規格による音声符号化器として構成されており,この実施例ではGSM規格による音声符号化器として構成されている。…音声符号化器25は,GSM規格に従い音声データとして形成されてそこへ供給される有効データの情報源符号化を行う。このようにして情報源符号化された音声データは第1のチャネル符号器35へ供給され,これは音声データのチャネル符号化たとえば折り畳み符号化およびブロック符号化をGSM規格に沿って実行する。そしてこのようにして情報源符号化ならびにチャネル符号化された音声データは,第1の送受信ユニット40によって第1の送受信アンテナから第1のビット流として,GSMネットワークとして構成された通信ネットワーク10の伝送チャネルを介して中間局15へ伝送される。第2の送受信アンテナ50により受信されたビット流は,次に第2の送受信ユニット55により第1のチャネル復号器60へ供給される。
この場合,第1の送受信アンテナ45は,第2の送受信アンテナ50とともにいわゆるGSM無線インタフェースを成している。情報源符号化ならびにチャネル符号化された第1のビット流の音声データは,ついで第1のチャネル復号器60においてGSM規格に従いチャネル復号される。このようにしてチャネル復号された音声データは,さらに情報源符号化されて制御部65へ供給される。(【0012】) この音声データとともに第1の移動局1から中間局15へ呼出識別データも伝送され,このデータにより第2の移動局5が,伝送すべき音声データのための宛先加入者として識別される。なお,この呼出識別データはたとえば,第1の移動局1における図示されていない制御部において生成され,第1のチャネル符号化器35によりチャネル符号化され,第1のビット流において音声データとともに中間局15へ伝送される。そしてこの呼出識別データは音声データといっしょに第1のチャネル復号器60によってやはりチャネル復号され,同様に制御部65へ供給される。
25 呼出識別データを音声データとは別個に1回または複数回,独立したコントロールチャネルを介して伝送することができ,また,この呼出識別データに宛先局としての第2の移動局5の呼出番号を含めることができる。制御部65によりこの呼出識別データが検出され,そのデータから,第1の移動局1にによって(判決注:「第1の移動局1によって」の誤りと認める。)伝送すべき音声データのための宛先加入者として第2の移動局5が確定される。これにより制御部65では,中間局15から第2の移動局5へ音声データを伝送するために,第2の通信ネットワーク20内で伝送チャネルを確立すべきであることがわかる。ここで第2の通信ネットワーク20内での音声データの伝送は第2の移動無線規格に従い行われ,この実施例ではUMTS規格に沿って行われる。したがって,第3の送受信アンテナ80おおび(判決注:「および」の誤りと認める。)第4の送受信アンテナ85はUMTS無線インタフェースを成す。さらに制御部65では,第2の移動局5はGSM規格に従って情報源符号化された有効信号もUMTS規格に従って情報源符号化された有効信号も復号できることがわかる。このため制御部65はUMTS規格に従いデータ伝送サービスを選び出し,チャネル符号化されているがGSM規格に従い情報源符号化された音声データが,UMTS規格に従い第2のビット流中に埋め込まれる。
(【0013】) 中間局15は,GSM規格による受信有効データの情報源復号も行える。その場合に有用であるのは,たとえば発呼側である第1の移動局1の呼出番号も呼出識別データによって中間局15へ伝送し,この呼出番号の検出に依存して制御部65において,中間局15での受信有効データの情報源復号を省くことである。(【0014】) さらに制御部65により第2のビット流中にシグナリングデータが埋め込まれ,このシグナリングデータには有効データの情報源符号化の形式に関する情報が含まれている。このようにしてシグナリングデータによって,この実施例では音声データとして生じる有効データがGSM規格に従い情報源符号化されていることが表さ 26 れる。第2のチャネル符号化器70において,第2のビット流における音声データおよびシグナリングデータは,第2の通信ネットワーク20において伝送するためUMTS規格に従いチャネル符号化され,これはたとえばやはり畳み込み符号化やブロック符号化により行われる。(【0015】) 第3の送受信ユニット75において,このようにしてチャネル符号化された第2のビット流の音声データおよびシグナリングデータは,この実施例ではUMTSネットワークとして構成されている第2の通信ネットワークの伝送チャネルを介して,第2の移動局5へ伝送される。UMTS規格に従い制御部65により選択されたデータ伝送サービスにおいて,さらにGSM規格により情報源符号化される音声データを伝送するため,伝送品質や伝送データレートが適切に選定されていなければならない。UMTS規格に従いチャネル符号化された音声データならびにシグナリングデータをもつ第2のビット流は,第4の送受信アンテナ85により受信され,第4の送受信ユニット90を介して第2のチャネル復号器95へ供給される。第2のチャネル復号器95はUMTS規格に従い,第2のビット流における音声データならびにシグナリングデータのチャネル復号を実行する。その際,評価ユニット100はチャネル復号されたシグナリングデータを検出し,このデータには周知のように,第2のビット流における受信音声データの情報源符号化の形式に関する情報が含まれている。(【0016】) この実施例では評価ユニット100はチャネル復号された第2のビット流のシグナリングデータから,第2のビット流の音声データはGSM規格に従い情報源符号化されていることを抽出する。このため評価ユニット100は,第2のチャネル復号器95がGSM規格による音声復号器として構成されている第1の情報源復号器30と接続されるよう,スイッチ105を制御する。評価ユニット100が受信されチャネル復号された第2のビット流のシグナリングデータから,第2のビット流における音声データがUMTS規格に従い情報源符号化されていることを抽出した場合,評価ユニット100は,破線で図示されているように第2のチャネル復号器 27 95が第2の情報源復号器110と接続されるよう,スイッチ105を制御する。
この実施例によれば第2のビット流の音声データはGSM規格に従い情報源符号化されているので,第2のチャネル復号器95は第1の音声復号器30と接続され,第2のチャネル復号器95においてチャネル復号された音声データは,第1の音声復号器30において情報源復号される。次に,第1の音声復号器30もしくは第2の音声復号器110の出力側に生じるチャネル復号および情報源復号された音声信号は,図示されていないさらに別の機能ブロックに供給されて引き続き処理される。
(【0017】) このように本発明による方法によればたとえば,GSM規格に従って情報源符号化された有効データをUMTS規格(裁判所注:「UMTS規格に」の誤りと認める。)よるデータコネクションを介して伝送することができる。このようにすれば,第3世代の移動無線規格であるUMTS規格に対する要求を満たすことができ,第2世代の移動無線規格である既存のGSM規格に対する後方互換性が保証され,これによってGSM規格による移動局とUMTS規格による移動局との間で有効データを交換できるようになる。本発明による方法によれば,GSM規格に従い実現されている移動局とGSM規格によってもUMTS規格によっても実現されているような移動局との間での有効データ伝送が簡単になる。その際,相応の通信ネットワークからGSM規格によってもUMTS規格によっても実現されている移動局へのデータ伝送の一部分のために,UMTS無線インタフェースが利用される。これによればGSM規格によってもUMTS規格によっても実現されている移動局において,GSM規格による情報源符号化とUMTS規格による情報源符号化との間の符号変換によっても劣化しない品質で有効データが生じる。(【0020】) 第1の通信ネットワーク10および第2の通信ネットワーク20をそれぞれ,GSMネットワークの機能とUMTSネットワークの機能を合わせもつハイブリッドGSM/UMTSネットワークとして構成できる。(【0021】) また,第1の通信ネットワーク10と第2の通信ネットワーク20が同一である 28 ようにすることもできる。(【0022】) ? 本件各発明の特徴 本件明細書の前記各記載によれば,本件各発明の特徴は,以下のとおりのものと認められる。
ア 本件各発明は,第1の移動局から第2の移動局へのディジタル有効データの伝送方法に関するものであるところ(【0001】),そのような伝送方法については既に知られており,例えばGSM規格に従い実現されている(【0002】)。
これに対し,本件各発明においては,中間局の受信した有効データは第2段階だけで復号され,第1段階では復号されないため,第2の通信ネットワークにおける有効データ伝送のための第1段階での符号化は不要となる。これにより,個々の通信ネットワークにおける伝送のための第1段階での符号化のための種々の符号間での符号変換を行う必要がなくなり,計算の煩雑さが抑えられ,符号変換時に生じる有効データの損失を避けることができる(【0003】,【0004】)。換言すれば,本件各発明は,ディジタル有効データを,第1の移動局から中間局へ伝送するために,第1の移動局において,第1段階の符号化が行われ,さらに第2段階のチャネル符号化が行われ,第1の通信ネットワークの伝送チャネルを介して伝送されたデータを,中間局から第2の通信ネットワークの伝送チャネルを介して第2の移動局へ伝送する際に,個々の通信ネットワークにおける伝送のための第1段階での符号化のための種々の符号間での符号変換を行う必要をなくして,計算の煩雑さを抑え,符号変換時に生じる有効データの損失を避けることを課題とするものと理解される。
イ このような課題を解決する方法として,本件発明1においては,有効データが,第1の通信ネットワーク内での伝送のため第1の移動局により第1段階で符号化(例えば情報源符号化)され,更に第2段階で符号化(例えばチャネル符号化)され,第1段階及び第2段階で符号化された有効データが,第1のビット流の形で前記第1の通信ネットワークの伝送チャネルを介して,例えば少なくとも第3の通 29 信ネットワークを介して,中間局へ伝送され,該中間局により有効データが第2段階でチャネル復号され,第2の通信ネットワーク内での伝送のため前記中間局により有効データが第2段階でチャネル符号化され,前記第2の通信ネットワークの伝送チャネルを介して有効データが第2の移動局へ伝送され,該第2の移動局へ前記中間局からシグナリングデータが伝送され,該シグナリングデータは,第1段階での有効データの符号化形式に関する情報を含み,前記第2の移動局により有効データが第2段階でチャネル復号され,前記第2の移動局により第2段階で復号された有効データが,該第2の移動局により受信されたシグナリングデータに依存して,該第2の移動局により第1段階で復号(例えば情報源復号)されるようにしたものである(【0003】)。
このように構成することにより,中間局の受信した有効データは第2段階だけで復号されるが,第1段階では復号されないから,第2の通信ネットワークにおける有効データ伝送のための第1段階での符号化は不要となる(【0004】)。
殊に,第1の通信ネットワークにおける有効データが第1の移動無線規格(例えばGSM規格)に従い,第1段階及び第2段階で符号化(例えば情報源符号化及びチャネル符号化)されて伝送され,第2の通信ネットワークにおける有効データが第2の移動無線規格(例えばUMTS規格)に従い,シグナリングデータと一緒に第2段階で符号化(例えばチャネル符号化)されて伝送され,前記シグナリングデータは,第1の移動無線規格による第1段階での有効データの符号化に関する情報を含み,前記第2の移動局により第2段階で復号(例えばチャネル復号)された有効データが,第1の移動無線規格についてのシグナリングデータの評価に応じて該第2の移動局により第1段階で復号(例えば情報源復号)されるようにすることで,それぞれ異なる移動無線規格に従い実現されている無線インタフェースにより,各移動局間で有効データを伝送することができる。これによれば,有効データを受け取る第2の移動局が第1の規格に従い第1段階での受信有効データを復号できることを前提として,第1段階での符号化のための符号に関する有効データの符号変換 30 が不要となる(【0006】,【0007】)。
2 引用例の記載及び引用発明 ? 引用例の記載(甲2。なお,図面は別紙図面目録の2参照) ア 産業上の利用分野 本発明は無線通信システムにおいて異なる音声符号化方式を用いる無線端末間通信時の音声符号を整合する方法に関するものである。(【0001】) イ 従来の技術 図2に従来の音声通信制御方式を用いた無線通信システム構成を示す。…このような従来のシステムでは,無線端末が1種類の無線符号化音声信号しか使用しないため,交換局5内には複数の種類のコーディックは存在しない。従って,交換局5において制御回路9は無線端末2-1,2-2と固定端末1との間の通信か,或いは無線端末2-1と2-2との間の通信かに応じてセレクタ8-3,8-4を制御し,無線端末2-1,2-2と固定端末1との通信の場合は,コーディック7-1,7-2を接続し無線符号化音声信号Aを有線符号化音声信号に変換する。又,無線端末2-1と無線端末2-2との間の通信の場合は,コーディック8-3,8-4を切離して無線符号化音声信号Aを変換せずに中継し,音声通信を行う。(【0002】) 次に,従来の音声通信制御方式を用いた無線通信システムに,従来よりも高能率な音声符号化方式である無線符号化音声信号Bを含む,複数の種類の無線符号化音声信号を用いる無線端末を導入した場合の無線通信システムの一例を図3に示す。
…このようなシステムでは,無線端末2-1,2-2,4と固定端末1との間の通信の場合には,発信無線端末に応じたコーディックを接続することにより,従来と同様に無線符号化音声信号A,Bを有線符号化音声信号に符号変換し音声通信を行う。又,無線端末2-1と2-2間の通信の場合には,コーディックを切り離して無線符号化音声信号Aを変換せずに中継し音声通信を行うことが可能である 。
(【0003】) 31 ウ 発明が解決しようとする課題 図3に示した従来の例では,無線端末2-1又は2-2と無線端末4との間の通信の場合には,無線端末4が無線符号化音声信号Bを指定して発信してきた場合は,交換局5において,無線端末4に対してはコーディック6-1,無線端末2-1,2-2に対してはコーディック7-1,7-2を接続することにより,無線符号化音声信号Bを一旦有線符号化音声信号に変換し,さらに無線符号化音声信号Aへ再変換することにより音声通信は可能であるが,コーディックの2段接続による接続遅延,符号化歪みによる通話品質の劣化が生じ,更に,従来の無線端末間での通信時の音声制御方式のように交換局5内でコーディックを切り離すと無線符号化音声信号Aを使用する無線端末2-1,2-2と無線端末4との間で使用する無線符号化音声信号が一致しないため通信は不可能となる欠点があった。(【0004】) 本発明はコーディックの2段接続による接続遅延と符号化歪みによる通信品質の劣化を生ずることなく,異なる無線符号化音声信号を用いる無線端末間での通信を実現する新規な符号整合方法を提供することを目的とする。(【0005】) エ 課題を解決するための手段 本発明は,1又は複数の種類のコーディックを有する複数の無線端末と複数の種類の符号変換を行う複数のコーディック,無線端末との情報を送受する制御回路を有する複数の交換局と,各無線端末のもつコーディック種別を蓄積した記憶装置で構成され,無線端末と交換局を無線通話回線及び無線制御回線で接続し,交換局間を通話回線及び通話制御回線で接続し,交換局と記憶装置を制御回線で接続した無線通信システムにおいて,無線端末に,コーディック種別を交換局に対し通知する第一の手段と複数のコーディックのうちコーディックを切り換える第二の手段を設け,交換局に無線端末からのコーディック種別を分析する第三の手段と,該記憶装置を検索して無線端末が使用可能なコーディックの種別を判定する第四の手段と,無線端末に対して無線端末が使用すべきコーディックの種別を指定する第五の手段を設け,発信側の無線端末から交換局に他の無線端末への通信要求があった場合に, 32 無線端末が第一の手段により使用するコーディックの種別を交換局に通知し,その交換局は,第三の手段により発信無線端末が要求してきたコーディックの種別を認識した後,第四の手段により得た発信側及び着信側の無線端末が使用可能なコーディックの種別とを比較し,共通に使用できるコーディック種別を決定し,第五の手段により両無線端末に対してその決定したコーディックの種別を通知し,通知を受けた両無線端末は,第二の手段により無線端末のコーディックを選択することにより,そのコーディックを同一にし,無線端末間で通信を行うことを特徴とする。
(【0006】) オ 作用 本発明では,異なる無線符号化音声信号を用いる無線端末間通信時に,網側で両無線端末の使用可能な音声符号化方式に応じて両無線端末が同一の無線符号化音声信号を用いるように,発着両無線端末のコーディックの種類を整合させ,更に網内のコーディックを切り離して通話路の設定をし,無線符号化音声信号を変換せずに中継を行い,通信を行うことにより,符号化歪み・接続遅延による通信品質の劣化を防ぐことが可能であるという利点を有する。(【0007】) カ 実施例 (ア) 図1に本発明の符号整合方法の1応用システム例である無線通信システム構成を示す。…3-1,3-2は2種類の無線音声符号化信号A,Bのうちいずれかの無線符号化音声信号を用いて固定端末1及び無線端末間で音声通信を行う無線端末,17-1,17-2は無線端末3-1,3-2で使用する無線符号化音声信号の選択制御を行うためにセレクタ13-1,13-2の制御を行うコーディック選択制御回路であり,交換局5における10は各々の無線端末が使用可能な音声符号化方式の判断を行い,各々の無線端末に対して音声符号化方式の指定をする音声符号化整合回路である。…無線端末2-1と無線端末2-2及び無線端末3-1と無線端末3-2が音声通信する場合は,交換局5において制御回路9によりセレクタ8-1,8-2,8-3,8-4を制御してコーディック6-1又は6-2,7 33 -1又は7-2を切り離し,各々の無線符号化音声信号AまたはBを変換せずに中継を行う。一方,無線端末2-1と無線端末3-1とが音声通信を行う場合は,発信無線端末3-1が無線符号化音声信号Bを指定してくると,交換局5において音声符号化整合回路10により両無線端末が使用可能な無線符号化音声信号A及びA,Bに応じて,両端末が同じ無線符号化音声信号Aを用いるように無線端末3-1に対し,使用する無線符号化音声信号の変更させる要求を送出する。無線端末3-1においては,コーディック選択制御回路17-1が動作し,無線端末3-1におけるコーディックは11-1から12-1へ接続変更される。更に,交換局5において制御回路9によりセレクタ8-1,8-3を制御しコーディック6-1,コーディック7-1を切り離し,両無線端末との通話路14のみを接続する。こうして,無線端末2-1と無線端末3-1との間では,無線符号化音声信号を変換しないで同一の無線符号化音声信号により音声通信を行う事ができる。(【0008】) (イ) 無線端末3-1が発信し,無線端末3-2に着信する場合 まず,無線端末3-1からの音声符号化方式:無線符号化音声信号B,着信端末:無線端末3-2で設定された“呼設定”信号を交換局5における制御回路9が無線制御回線16-1を通じて受信すると,“呼設定”信号情報を音声符号化整合回路10における音声符号化方式制御回路20に引き渡す。音声符号化方式制御回路20は“呼設定”信号内に含まれる発信情報を分析し,発信端末は無線符号化音声信B(判決注:「無線符号化音声信号B」の誤りと認める。)を使用要求し,着信端末が無線端末3-2であることを認識する。次に,音声符号化方式制御回路20は無線端末3-1,無線端末3-2間の音声通信に使用する音声符号化方式を決定するため,音声符号化方式判定回路19を起動する。音声符号化方式判定回路19は,無線端末情報蓄積メモリ18内の無線端末情報を検索し,無線端末3-1,3-2の使用可能な音声符号化方式が両無線端末とも無線符号化音声信号A,Bであることを音声符号化方式制御回路20に通知する。音声符号化方式制御回路20は,両無線端末が使用可能な音声符号化方式を比較し,無線端末3-1,無線端末3-2 34 間通信で同一の無線符号化音声信号であり,且つ,高能率な音声符号化方式である無線符号化音声信号Bを使用することに決定する。音声符号化方式制御回路20は,先の音声符号化方式の決定結果に基づき,制御回路9を起動する。制御回路9は無線端末3-2に対して無線制御回線16-2を通じ,無線符号化音声信号Bの“呼設定”信号を送出する。又,交換局5において制御回路9は無線制御回線16-2を通じ,無線端末2-1(判決注:「3-2」の誤りと認める。)からの“応答”信号を受信するとセレクタ8-1,8-2を制御して,今まで,コーディック6-1,6-2に接続していた状態からコーディックを切り離す。この後,制御回路9は無線端末3-1に対して無線制御回線16-2を通じ,“応答”信号を送出し,無線端末3-1と無線端末3-2の間で無線符号化音声信号Bによる音声通信が開始される。(【0012】) ? 引用発明 引用発明が本件審決の前記認定(第2の3?ア)のとおりであることについては,当事者間に争いがない。
3 取消事由1(本件発明1に係る進歩性判断の誤り)について ? 本件発明1と引用発明との対比 ア 本件発明1の「ネットワーク」の意義 (ア) 請求項の記載 本件発明1に係る請求項1には,「ネットワーク」に関し,第1の移動局から「第1の通信ネットワーク」の伝送チャネル,中間局,「第2の通信ネットワーク」の伝送チャネルを介して第2の移動局へディジタルデータを伝送すること,第1の移動局において伝送のためディジタルデータの符号化(第1段階)及びチャネル符号化(第2段階)されたディジタルデータを中間局へ伝送すること,中間局において,前記第2段階で符号化されたディジタルデータチャネルを復号した後,「第2の通信ネットワーク」内での伝送のため,前記ディジタルデータをチャネル符号化し,「第2の通信ネットワーク」の伝送チャネルを介して伝送されたディジタルデ 35 ータを,第2の移動機においてチャネル復号し,さらに,前記第1段階でのディジタルデータの符号化形式に関する情報を含むシグナリングデータに依存して情報源復号することが記載されている。もっとも,「ネットワーク」を直接的に定義する記載はない。
(イ) 本件明細書の記載 本件明細書記載の実施例(【0009】〜【0017】,【0020】)においては,第1の通信ネットワーク10は第1の移動無線規格(GSM)に従って,第2の通信ネットワーク20は第2の移動無線規格(UMTS)に従ってそれぞれ構成されており,第1の通信ネットワークのGSM規格に従って,第1の移動局1により情報源符号化され,チャネル符号化された音声データのビット流を,第2の通信ネットワークを介して第2の移動局5に伝送するために,中間局15において,GSM規格に従ってチャネル復号を行い,UMTS規格に従ってチャネル符号化を行うものが示されている。そして,第2の移動局5が,GSM規格に従って構成された第1の情報源復号器30と,UMTS規格に従って構成された第2の情報源復号器110とを備えている場合には,中間局15において,GSM規格に従う情報源復号とUMTS規格に従う情報源符号化とを行うことに代えて,情報源符号化の形式に関する情報を含んでいるシグナリングデータをビット流に埋め込んで第2の移動局5に伝送し,第2の移動局5においてシグナリングデータに従って第1の情報源復号器30を用いて情報源復号を行う構成とされている。
他方,本件明細書には,「第1の通信ネットワーク」と「第2の通信ネットワーク」とが移動無線規格の異同を問わないことをうかがわせる記載は見当たらない。
かえって,「第1の通信ネットワーク」は,第1の移動局が中間局にディジタルデータを伝送するための伝送チャネルを提供するものであり,「第2の通信ネットワーク」は,中間局が第2の移動局にディジタルデータを伝送するための伝送チャネルを提供するものであるところ,仮に「第1の通信ネットワーク」と「第2の通信ネットワーク」が同じ移動無線規格に従っているのであれば,そもそも,中間局 36 において,第2の通信ネットワークにおけるデータ伝送のための第1段階でのデータ復号や符号化を行うことを省略することにより,計算の煩雑さを抑え,符号変換時に生じる有効データの損失を避けるという,本件各発明の課題(【0004】)が生じないこととなる。
そうすると,本件明細書に記載された「第1の通信ネットワーク」と「第2の通信ネットワーク」とは,それぞれ「所定の移動無線規格に従って構成されたネットワーク」であり,GSM規格とUMTS規格のように,それぞれ異なる移動無線規格に従って構成された通信ネットワークを意味するというべきである。
(ウ) したがって,本件発明1と引用発明の対比にあたっては,本件発明1の「第1の通信ネットワーク」及び「第2の通信ネットワーク」は,それぞれ「所定の移動無線規格に従って構成されている」ものとして対比するのが相当である。
(エ) 原告の主張について 原告は,本件発明1に係る請求項1の記載や本件明細書【0021】,【0022】の記載等から,本件審決が,本件発明1の「第1の通信ネットワーク」と「第2の通信ネットワーク」につき,それぞれ異なる移動無線規格に従って構成されなければならないとしたことは誤りであるなどと主張する。
しかし,「第1の通信ネットワーク」と「第2の通信ネットワーク」が同じ移動無線規格に従っている場合に本件各発明の課題を生じないことは前記のとおりである。また,請求項1及び7には,第1の通信ネットワーク内での伝送のために行われた第2段階のチャネル符号化について,中間局において復号し,第2の通信ネットワーク内での伝送のために第2段階のチャネル符号化を行うことが記載されているから,本件各発明における「第1の通信ネットワーク」と「第2の通信ネットワーク」とは,第2段階のチャネル符号化及び復号手順が互いに異なることが前提となっていると理解される。
さらに,本件明細書【0021】及び【0022】の記載は,両段落が【0020】から続く一連の説明の一環をなすものと位置付けられることに鑑みると,第1 37 の通信ネットワークと第2の通信ネットワークとがいずれもGSMとUMTSとのハイブリッドネットワークである場合にあって,第1の移動局がGSM規格に従ってネットワークに収容され,第2の移動局がUMTS規格に従ってネットワークに収容されているような環境下においても,本件各発明によれば,中間局において必要となる第1段階の復号と符号化とを省くことができる旨を記載しているものと解すべきである。
なお,原告は,被告が第三者との訴訟における主張と本件における主張との整合性に言及するけれども,事案を異にする上,両者が明らかに整合性を欠くとまではいえない。
以上より,この点に関する原告の主張は採用できない。また,そうである以上,予備的判断における本件審決の誤りを指摘する原告の主張についても,前提が異なることから,その余の点を論ずるまでもなく採用できない。
イ 本件発明1と引用発明の一致点・相違点 (ア) 前記認定に係る引用例の各記載を踏まえると,引用発明は無線端末3-1,交換局5,無線端末3-2で構成される1つの通信ネットワークに関する発明であるといえる。
(イ) このことと,前記?,前記認定に係る本件明細書の各記載,引用例の各記載及び弁論の全趣旨を踏まえ,本件発明1と引用発明とを対比すると,引用発明の無線端末3-1・2,無線通話回線15-1・2は,それぞれ本件発明1の第1・第2の移動局,通信ネットワークの伝送チャネルに相当する。また,引用発明における「コーディック」は,本件発明1における「第1段階でディジタルデータを符号化」に相当する。さらに,引用発明の「呼設定」信号は,シグナリングデータであり,引用発明においては,「第1の移動局により第1段階でディジタルデータを符号化」し,「第2の移動局が受信した前記シグナリングデータに依存して,該第2の移動局により情報源復号」しているということができる。
他方,本件発明1における「中間局」は,「第1の通信ネットワークの伝送チャ 38 ネル」から受信して「第2の通信ネットワークの伝送チャネル」へ送信する局であるのに対し,前記のとおり,引用発明は1つの通信ネットワークに関する発明であり,2つの通信ネットワークは存在しないため,引用発明の「交換局5」は,本件発明1の「中間局」に該当しない。
以上によれば,本件発明1と引用発明の一致点・相違点は,本件審決の前記認定(第2の3?イ(ア))のとおりのものと認められる。
? 甲1,3,5〜8について ア 原告は,甲1,3,5〜8に関する本件審決の認定の誤りを主張するところ,これらの文献の記載については,「中間局」ないし無線区間における「チャネル符号」処理が記載されているものとして言及している。
しかし,この主張は,「第1の通信ネットワーク」と「第2の通信ネットワーク」につき,異なる移動無線規格に従って構成されるものである必要はなく,「ネットワーク」とは単に移動局から基地局,基地局から移動局の伝送チャネルを提供するものであるなどとする原告の主張を前提とするものである。その前提を採用できないことは前記?のとおりであるから,この点に関する原告の主張も,その前提を欠くものとして採用できない。
イ その点をおくとしても,甲1は,パーソナルデジタルセルラーテレコミュニケーションシステム(PDC)を示した図4のシステム構成例に基づき従来技術の課題を指摘し(【0018】),同文献記載の発明はその課題解決を目的とする(【0019】)としていることなどに表れているように(他の記載として,【0001】,【0002】,【0010】,【0011】,【0020】,【0048】),その発明の詳細な説明においては一貫して上記システムを前提としており,1つの移動無線規格を前提とした発明を記載したものと理解される。また,甲3も,「NTT DoCoMo では携帯電話の需要増加に対応するため,PDC方式のハーフレート化を進めてきた。本稿では,その一環として開発したハーフレート方式携帯機の技術概要及び導入する携帯機について述べる。」(19頁)などの記載から, 39 「PDC方式」に関する技術について論じたものと理解される。
さらに,甲5〜8については,各移動機又は移動局と基地局との無線接続が異なる移動無線規格に従ったものであること,又は異なる規格に従った場合をも想定したものであることの記載も示唆もない。
これらのことから,上記各文献に示された技術は,いずれも送信側移動機によるチャネル符号化手順と,受信側移動機によるチャネル復号手順とは同じ規格に基づくものであり,2つの基地局を結んだ経路の途中で行われる復号と符号化手順も,同じ規格に基づくものであると解される。
他方,本件発明1は,前記のとおり,第1の移動局により符号化されたデータを伝送する第1の通信ネットワークと,第2の移動局により復号されるデータを伝送する第2の通信ネットワークとは,異なる移動無線規格に従った通信ネットワークであるから,第1の通信ネットワーク内での伝送のために行われるチャネル符号化と,第2の通信ネットワーク内での伝送のために行われるチャネル符号化とは,異なる移動無線規格に従って行われるものといえる。
そうすると,本件発明1において中間局が行う,第1の通信ネットワークの規格に従うチャネル復号と第2の通信ネットワークの規格に従うチャネル符号化は,甲1,3,5〜8のいずれにも記載されていないこととなる。
ウ したがって,引用発明に甲1,3,5〜8の各記載事項を適用しても,相違点1〜3に係る本件発明1の構成を容易に想到することはできない。この点に関する原告の主張は採用できない。
? まとめ よって,本件発明1に係る本件審決の進歩性判断に誤りはなく,取消事由1は理由がない。
4 取消事由2(本件発明2,7,8及び13〜15に係る進歩性判断の誤り) 前記3と同様の理由から,本件発明2,7,8及び13〜15に係る本件審決の進歩性判断に誤りはなく,取消事由2は理由がない。この点に関する原告の主張は 40 採用できない。
5 取消事由3(本件発明3,4,9及び10に係る進歩性判断の誤り) 前記3と同様の理由から,本件発明3,4,9及び10に係る本件審決の進歩性判断に誤りはなく,そうである以上,その余の点を論ずるまでもなく,取消事由3は理由がない。この点に関する原告の主張は採用できない。
6 結論 よって,原告の請求は理由がないからこれを棄却することとし,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 高部眞規子
裁判官 杉浦正樹
裁判官 片瀬亮