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事件 |
平成
29年
(ワ)
18184号
特許権侵害行為差止請求事件
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5原告 オリンパステルモバイオマテリアル 株式会社 同訴訟代理人弁護士 古城春実 堀籠佳典 同訴訟複代理人弁護士 岡田健太郎 10 被告 HOYATechnosurgical 株式会社 同訴訟代理人弁護士 北原潤一 佐志原将吾 |
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裁判所 | 東京地方裁判所 |
判決言渡日 | 2018/12/21 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 民事訴訟 |
主文 |
15 1 被告は,別紙物件目録記載の製品の生産,貸渡し又は貸渡しの申出をしてはならない。 2 被告は,前項記載の製品を廃棄せよ。 3 訴訟費用は被告の負担とする。 4 この判決は,第1項及び第3項に限り,仮に執行することができる。 20 事 実 及 び 理 由第1 請求主文同旨第2 事案の概要1 本件は,名称を「骨切術用開大器」とする特許権(登録番号特許第473625 091号)を有する原告が,被告が製造,貸渡し及び貸渡しの申出をしている骨切術用開大器が,上記特許の請求項1に係る発明の技術的範囲に属し,上記1特許権の侵害行為に当たると主張して,被告に対し,特許法100条1項に基づく別紙物件目録記載の製品の製造,貸渡し及び貸渡しの申出の差止め並びに同条2項に基づく同製品の廃棄を求める事案である。 2 前提事実(当事者間に争いがない事実又は文中掲記した証拠及び弁論の全趣5 旨により認定することができる事実)(1) 当事者原告は,医療材料,医療用具及び医療機器の製造,販売,修理及び賃貸業務等を業とする株式会社である。 被告は,医療機器及び医療用機械器具の製造,販売,賃貸,修理及び輸出10 入業務等を業とする株式会社である。 (2) 原告の特許権ア 原告は,以下の特許権(以下「本件特許権」といい,これに係る特許を「本件特許」という。)を有している。(甲1,2)発明の名称 骨切術用開大器15 登 録 番 号 特許第4736091号出 願 日 平成18年6月30日登 録 日 平成23年5月13日イ 特許庁審査官は,本件特許に係る出願に対して,平成22年12月15日付け拒絶理由通知書(以下「本件拒絶理由通知書」又は「本件拒絶理由20 通知」という。乙1)を発出し,出願当初の特許請求の範囲の請求項1及び2に係る各発明は,特許法29条2項,36条の規定により特許を受けることができない旨通知した。 「引用文献1(判決注:特表2004−524098号公報,甲8の1。 以下「引用文献1」といい,同文献に記載された発明を「引用発明1」と25 いう。)には,脛骨に形成された切込みに挿入され,切込みを拡大して骨グラフト材料を挿入可能なギャップを形成する開創器アセンブリであっ2て,ピン112で回転可能に連結された上ジョー104及び下ジョー106(「揺動部材」)と,ジョーを開閉させる駆動部材114(「開閉機構」)とを備えた開創器アセンブリが記載されている。…2つの開創器アセンブリを単に「着脱可能」に組み合わせることは,当業者が適宜なし得る設計5 的事項である。」引用文献1の図9A及び9Cは以下のとおりである(甲8の1)。 ウ これに対し,原告は,平成23年2月18日付け意見書(以下「本件意10 見書」という。乙2)において,以下のとおり主張するとともに,同日付け手続補正書(乙3)をもって手続補正(以下「本件補正」という。その内容は後記エの下線部のとおり)の手続をした。 「本発明は,2組の揺動部材を備える点,および,揺動部材の一方に,他方に係合する係合部を備える点において,引用文献1に記載された発明15 …と相違しています。このような構成によれば,2組の揺動部材を同時に開かせることにより,骨に形成した切り込みの拡大作業を容易にし,また,切り込みの切断面に局所的に過大な押圧力が作用することを防ぐことができるという効果を奏します。 一方,審査官殿がご指摘のように引用発明1には,回転可能に連結され20 た一対のジョーを備えた開創器アセンブリが開示されています。しかしながら,この開創器アセンブリを2組着脱可能に組み合わせたとしても,こ3れらが同時に開かれなければ骨への局所的な押圧力を低減することはできません。すなわち,2つの開創器アセンブリを単に着脱可能に組み合わせただけでは本発明の構成を導くことはできません。また,引用発明1には,切り込みの切断面に作用する押圧力を低減するという課題,および,5 2つの開創器アセンブリを一体で開動作させるという係合部の作用に対する示唆がありませんので,当業者であっても引用発明1から本発明の構成および効果を想到することは困難です。」エ 本件補正後の特許請求の範囲請求項1及び請求項2(以下,それぞれ単に「請求項1」,「請求項2」といい,同請求項1及び2に係る発明をそ10 れぞれ「本件発明1」,「本件発明2」といい,両発明に妥当する場合は特に区別せず「本件発明」という。下線部は,本件補正により補正された部分である。)は,以下のとおりである(なお,以下,本件補正後の明細書及び図面等を併せて「本件明細書等」という。)。 「【請求項1】15 変形性膝関節症患者の変形した大腿骨または脛骨に形成された切込みに挿入され,該切込みを拡大して移植物を挿入可能なスペースを形成する骨切術用開大器であって,先端に配置されたヒンジ部により相対的に揺動可能に連結された2対の揺動部材と,20 これら2対の揺動部材をそれぞれヒンジ部の軸線回りに開閉させる2つの開閉機構とを備え,前記2対の揺動部材が,前記ヒンジ部の軸線方向に着脱可能に組み合わせられており,前記2対の揺動部材の一方に,他方の揺動部材と組み合わせられたと25 きに,該他方の揺動部材に係合する係合部が設けられている骨切術用開大器。 4【請求項2】前記2対の揺動部材が,それぞれ,閉じられた状態で先端側から漸次厚くなる略楔形状に形成されている請求項1に記載の骨切術用開大器。」(3) 構成要件の分説5 本件発明1及び2を構成要件に分説すると,次のとおりである(以下,分説した構成要件をそれぞれの符号に従い「構成要件A」などという。)。 【請求項1】A 変形性膝関節症患者の変形した大腿骨または脛骨に形成された切込みに挿入され,該切込みを拡大して移植物を挿入可能なスペースを形成する骨10 切術用開大器であって,B 先端に配置されたヒンジ部により相対的に揺動可能に連結された2対の揺動部材と,C これら2対の揺動部材をそれぞれヒンジ部の軸線回りに開閉させる2つの開閉機構とを備え,15 D 前記2対の揺動部材が,前記ヒンジ部の軸線方向に着脱可能に組み合わせられており,E 前記2対の揺動部材の一方に,他方の揺動部材と組み合わせられたときに,該他方の揺動部材に係合する係合部が設けられている骨切術用開大器。 【請求項2】20 F 前記2対の揺動部材が,それぞれ,閉じられた状態で先端側から漸次厚くなる略楔形状に形成されている請求項1に記載の骨切術用開大器(4) 被告の行為被告は,別紙物件目録記載の製品(以下「被告製品」という。)を業として生産し,これを医師等に無償で貸渡し,又は貸渡しの申出をしている。 25 (5) 被告製品の構成被告製品の外観は別紙写真目録記載の各写真のとおりであり,被告製品は,5以下の構成(以下「構成a」などという。)を有する(なお,下線部については当事者間に争いがあるが,後記判示のとおり,被告製品は構成要件C及びDを充足するので,下記構成を備えるものと認められる。)。 【請求項1に関し】5 a 被告製品は,変形性膝関節症患者の変形した大腿骨又は脛骨に形成された切込みに挿入され,該切込みを拡大して移植物を挿入可能なスペースを形成する骨切術用開大器である。 b 上側揺動部及び下側揺動部からなる揺動部材1と上側揺動部及び下側揺動部からなる揺動部材2とを有しており,それぞれの揺動部材は先端のヒ10 ンジ部で上側揺動部と下側揺動部とが揺動可能に連結されている。 c 揺動部材1は,揺動部材1の上側揺動部と下側揺動部をヒンジ部の軸線回りに開閉させるネジ機構1を有しており,揺動部材2は,揺動部材2の上側揺動部と下側揺動部をヒンジ部の軸線まわりに開閉させるネジ機構2を有している。 15 d 揺動部材1及び揺動部材2はヒンジ部の軸線方向に着脱可能に組み合わされている。 e 揺動部材1,2の各下側揺動部には後部に開口部が設けられ,各上側揺動部にはその後部側に角度調整器のピンを挿通させるためのピン用孔が設けられている。揺動部材1と揺動部材2が組み合わせられたときに,開口20 部に留め金の突起部がはめ込まれ,ピン用孔に角度調整器の2本のピンを挿通された状態で揺動部材2の上側揺動部と下側揺動部を相互に開いていくと,留め金の突起部と角度調整器のピンがそれぞれ揺動部材1の下側揺動部と上側揺動部を押圧して,揺動部材2と一緒に開くようになっている。 25 【請求項2に関し】f 揺動部材1及び揺動部材2は,それぞれ,閉じられた状態で先端側から6漸次厚くなる略楔形状に形成されている。 3 争点被告製品が構成要件A,B及びFを充足することについては,当事者間に争いがないので,本件の争点は次のとおりとなる。 5 (1) 被告製品が本件発明の技術的範囲に属するか(争点1)ア 被告製品が構成要件Cを充足するか(争点1−1)イ 被告製品が構成要件Dを充足するか(争点1−2)ウ 被告製品が構成要件Eを充足するか(争点1−3)(2) 被告製品による均等侵害の成否(争点2)10 (3) 無効の抗弁(サポート要件違反)の成否(争点3)第3 争点に関する当事者の主張1 争点1(被告製品が本件発明の技術的範囲に属するか)について(1) 争点1−1(被告製品が構成要件Cを充足するか)について〔原告の主張〕15 被告製品は「2対の揺動部材をそれぞれ…開閉させる2つの開閉機構」を備えているので,構成要件Cを充足する。 被告は,被告製品の揺動部材1のネジ機構1は「開閉機構」に該当しないと主張するが,同製品のネジ機構1は,揺動部材1の下側揺動部材に形成されたネジ孔と,これに締結され,揺動部材1の上側揺動部材を開方向に押圧20 する押しネジとにより構成されている(下掲写真参照)。ネジ機構1の押しネジを長手軸回りに回転させて,押しネジの先端を上側揺動部材に接触させると,押しネジが上側揺動部材を開方向に押圧し,揺動部材1を「開いた」状態とし,また,押しネジを逆方向に回転させることにより,上側揺動部材と下側揺動部材が閉じる方向に変位させられて「閉じられた」状態とするも25 のである。このように,ネジ機構1は揺動部材1の開閉に関する機構であるから,構成要件Cの「揺動部材を開閉させる…開閉機構」に該当する。 7被告は,2対の揺動部材が組み合わせられた状態においてネジ機構1を回転させても,揺動部材1の開閉動作をすることができないと主張するが,構成要件Cは,2対の揺動部材のそれぞれが「開閉機構」を備えることを規定5 しているのみであり,2対の揺動部材の動作の相互の関係は構成要件Cの規定するところではない。被告製品において,開口部に留め金の突起部がはめ込まれ,ピン用孔に角度調整器の2本のピンを挿通された状態となったときに揺動部材1の動作が揺動部材2の動作に制限されることは,構成要件Cの充足性を否定する理由にならない。 10 以上のとおり,揺動部材1は,揺動部材1の上側揺動部と下側揺動部をヒンジ部の軸線回りに開閉させるネジ機構1を有しており,揺動部材2のネジ機構2と併せ,「2対の揺動部材をそれぞれヒンジ部の軸線回りに開閉させる2つの開閉機構」を備えているから,構成要件Cを充足する。 〔被告の主張〕15 被告製品のネジ機構2が構成要件Cの「開閉機構」に該当することは認めるが,ネジ機構1は「開閉機構」に該当しないから,被告製品は開閉機構を1つしか備えておらず,構成要件Cが規定する「2つの開閉機構」を備えていない。 すなわち,被告製品は,揺動部材1及び2が組み合わされた状態において,20 その上側揺動部が角度調整ピンにより組み合わされ,下側揺動部が留め金に8より互いに組み合わされており,この状態でネジ機構1を回転させても,揺動部材1の動作が揺動部材2の動作に制限されるため,揺動部材1を開閉することはできない。 したがって,被告製品のネジ機構1は,「開閉機構」に該当せず,構成要5 件Cを充足しない。 (2) 争点1−2(被告製品が構成要件Dを充足するか)について〔原告の主張〕被告製品は,2対の揺動部材が「ヒンジ部の軸線方向に着脱可能に組み合わせられて」いるので,構成要件Dを充足する。 10 構成要件Dの「軸線方向に着脱可能」との要件は,第1対の揺動部材と第2対の揺動部材とを,ヒンジ部の軸線が軸線方向に揃うように重ねて組み合わせることができ,分離することもできることを意味する。 被告は,構成要件Dは,各揺動部材に設けられた突起及び凹部によって着脱可能に組み合わせられていることを規定していると主張するが,構成要件15 Dにはそのような文言は存在しない。被告の解釈は,特許請求の範囲に記載のない要件を付加する限定解釈であり,失当である。 被告製品は,骨の切込みに挿入するために組み立てた状態では,揺動部材1と揺動部材2がそれぞれのヒンジ部の軸線が軸線方向に揃うように,上下にぴったりと重ね合わされ(甲3の写真1,2),揺動部材2対を組み合わ20 せて骨の切込みに挿入することができる。また,同製品では,このように2対の揺動部材を重ね合わされた状態から一方の揺動部材を分離することもでき(甲3の写真3@,3B),これにより一対の揺動部材を取り出して移植物を挿入するためのスペースを確保することができる。 以上のとおり,被告製品は「軸線方向に着脱可能」な構成を有するもので25 あるから,構成要件Dを充足する。 〔被告の主張〕9被告製品の各揺動部材は「着脱可能」に組み合わされていないので,同製品は構成要件Dを充足しない。 本件明細書等の段落【0015】及び【0022】には,2対の揺動部材が,各揺動部材に設けられた突起9及び凹部10により「幅方向に密着した5 状態で一体的に組み合わせられ」「幅方向に容易に分離することができる」,ことが記載されている。このような記載を参酌すると,構成要件Dは,各揺動部材に設けられた突起及び凹部により幅方向に密着した状態で一体的に組み合わせられ,幅方向に容易に分離することができることを規定していると理解することができる。 10 被告製品の揺動部材には,本件発明の突起9及び凹部10に相当する突起及び凹部は設けられていないので,揺動部材1及び2が「着脱可能」に組み合わせられているとはいえず,構成要件Dを充足しない。 (3) 争点1−3(被告製品が構成要件Eを充足するか)について〔原告の主張〕15 被告製品は,以下のとおり,角度調整器のピン状突起部及び留め金の突起部を備え,これらは2対の揺動部材が同時に係り合うことを可能にする部分であって,構成要件Eの「係合部」に該当するので,被告製品は構成要件Eを充足する。 ア 本件発明は,揺動部材2対を組み合わせて骨の切込みに挿入して開いた20 後に,一対を取り出して移植物を挿入するためのスペースを確保することによって移植物の挿入を容易にしたことに特徴がある。構成要件Eは,骨の切込みに挿入された2対の揺動部材を開くことに関する要件であり,同要件の「係合」は,2対の揺動部材が同時に開くように係り合うことを意味し,2対の揺動部材がそのように係り合うことを可能にする部分が「係25 合部」である。 構成要件Eの「係合」のかかる意義に照らすと,同構成要件の「係合部」10は,2対の揺動部材が同時に開くように係り合うことを可能とする部分を意味し,特定の形状のものに限定されるものではないし,「揺動部材の一方」の一部であるか否かを問うものではない。 そして,構成要件Eは,2対の揺動部材について,どちらが「一方」で5 どちらが「他方」かを特に指定することなく,各揺動部材が「組み合わせられたとき」に着目して規定しているのであるから,同構成要件の「係合部」とは,2対の揺動部材が組み合わせられて使用されるときに,一方の揺動部材に取り付けられて2対の揺動部材を係合するが,普段は取り外して保管できる形態のものを含むというべきである。 10 イ これに対し,被告は,「部」と「部材」の一般的な用語の意味を根拠として,「係合部」は一方の揺動部材の一部であることを要すると主張するが,「部材」 「構造の一部となる材料」とは という意味であって(甲14),通常の意味においては,「部材」と「部」とは大きく異なるわけではなく,「部」の意味のみに依拠して,本件発明の構成要素である揺動部材と係合15 部の関係を導くことはできない。 本件明細書等においては,「部材」と「部」を使い分けており,両者を次元の異なる概念として用いているので,次元の異なる「部」と「部材」について,「部」は「部材」の一部分でなければならないといった相互の関係は導かれない。 20 ウ 被告は,「係合部」は一方の揺動部材の一部であると解さないと,係合部が設けられた揺動部材と,そうでない揺動部材を区別することができなくなると主張するが,本件発明の構成要件は,2つの部分があって成り立つ「係合」の概念を前提に,「2対の揺動部材の一方」に「他方の揺動部材と係合する係合部を設けた」と規定しているのであり,単に2対の揺動25 部材を区別する趣旨で「一方」と「他方」としているにすぎず,どちらを「一方」に当てはめ,どちらを「他方」に当てはめるかを限定しているも11のではない。 エ 被告は,係合部が一方の揺動部材の一部分であることを要すると解すべき根拠として,請求項4の記載を指摘するが,請求項4は,係合部に「前記他方の揺動部材の開閉方向の内側に係合する」という限定を加えた請求5 項3を前提に,内側に係合する係合部が設けられている側とそうでない側を区別する記載となっているにすぎず,請求項1のような限定のない本件発明における「係合部」の解釈とは関係がない。 オ 被告は,係合部は係合前,係合中及び係合解除時の全ての時点において揺動部材に設けられている必要があると主張するが,「設けられている」10 とは,その物がある物に対して存在することを意味し,常時取り付けられることは意味していない。 カ 被告製品は,必ず角度調整器及び留め金を取り付けた状態に組み立ててから使用される。このような状態においては,揺動部材2の下側部材から,揺動部材1に向けて,角度調整器のピンが突設された状態となり,このピ15 ンは,揺動部材2と対向する揺動部材1の下側部材のピン用孔に挿入される。また,揺動部材2の上側部材の開口部は,留め金の突起部が嵌め込まれた状態になっており,当該突起部は,揺動部材2に対向する揺動部材1の上側部材の開口部にも挿入される。このように,揺動部材2のピン状突起部及び留め金の突起部は,それぞれ,揺動部材1のピン用孔及び開口部20 に対して,揺動部材2が開かれようとする力を伝達し,揺動部材2を開く動作によって揺動部材1を一体的に開くものであるから,被告製品には,本件発明の「揺動部材の一方に,他方の揺動部材と組み合わせられたときに,該他方の揺動部材に係合する係合部」が備わっている。 12キ 以上のとおり,被告製品は,2対の揺動部材が同時に開くように係り合うことを可能とする部分である角度調整器のピン状突起部及び留め金の突起部が存在し,「係合部」の構成を備えているから,構成要件Eを充足す5 る。 〔被告の主張〕構成要件Eにおける「係合部」は,以下のとおり,揺動部材の一部として構成される必要があるから,被告製品において,揺動部材とは別の部材である角度調整器のピン状突起部及び留め金の突起部は,「係合部」に該当しな10 い。 ア 係合部にかかる「部」との用語は,一般に,「全体をいくつかに分けた13それぞれの部分」を意味し,本件明細書等においても,「〜部」という表現を用いる場合には揺動部材の一部分であることを意味し,「〜部材」という表現を用いる場合には揺動部材とは独立した部品を意味しているものと理解される。 5 そうすると,「揺動部材の一方に,他方の揺動部材に係合する係合部が設けられていること」を規定する構成要件Eにいう「係合部」とは「揺動部材の一方」の一部分として構成されることを要するものと理解され,いずれの揺動部材に設けられているか区別できないような部材(例えば,いずれの揺動部材からも独立した部材)は,揺動部材の一方に設けられてい10 る「係合部」とはいえない。 イ 構成要件Eは,「2対の揺動部材の一方に」「他方の揺動部材に係合する係合部が設けられている」と規定し,係合部が設けられている揺動部材と,設けられていない揺動部材とを明確に区別している。2対の揺動部材を,それらとは独立した第3の部材により組み合わせた場合には,「係合15 部」がいずれの側に設けられているか区別できず,「係合部が設けられた一方の揺動部材」 係合部が固定される相手方であると, 「他方の揺動部材」とを区別して規定する構成要件Eは,揺動部材の構成を限定する意味を有しなくなる。 ウ 本件特許の請求項4に記載の発明は,「前記2つの開閉機構のうち,前20 記係合部が設けられていない側の開閉機構が,…ネジ孔と…押しネジとにより構成されている請求項3に記載の骨切術用開大器。」であるところ,仮に原告が主張するように,「係合部」が,突起とこれに対応する部分(例えば凹部)のどちらか一方に限定されず,そのいずれもが「係合部」に該当すると解釈すると,「係合部が設けられていない側」が存在しないこと25 になり,請求項4を規定した意味がなくなる。 エ 本件発明の技術的意義は,2対の揺動部材を一体的に開大させる点のみ14ならず,係合を解除した場合に一方の揺動部材に加わる力が他方の揺動部材に伝わらないようにする点にもあると理解できるから,揺動部材の一方に設けられている係合部は,係合前,係合中及び係合解除時の全ての時点において揺動部材の一方に設けられている必要がある。被告製品は,係合5 を解除するためには,角度調整器及び留め金を取り外さなければならず,これら係合部は,係合解除時において,揺動部材に設けられていない。 オ 以上を前提に,被告製品が揺動部材の一部分として構成される「係合部」との構成を有するか検討するに,被告製品の揺動部材には,各揺動部材を互いに繋ぎ合わせるために配置された部分が存在せず,留め金と角度調整10 器が揺動部材と別部材であることは争いがないから,被告製品には一方の揺動部材の一部分を構成する「係合部」は存在しない。 カ 以上のとおり,被告製品には「係合部」が存在しないから,構成要件Eを充足しない。 2 争点2(被告製品による均等侵害の成否)について15 〔原告の主張〕仮に,被告製品の角度測定器のピン及び留め金の突起部が構成要件Eの「係合部」に該当しないとしても,これらの部分は本件発明の「係合部」と均等であるから,被告製品について本件特許権の均等侵害が成立する。 (1) 第1要件(非本質的部分)について20 本件発明の本質的部分は,着脱自在な揺動部材2対を組み合わせた状態で骨の切込みに挿入し,両者一体で切込みを拡大した後,その拡大状態を維持しつつ,1対を取り出して移植物を挿入できるようにするとともに,切込みの拡大作業時には一方の揺動部材を開く操作をすることで他方の揺動部材も一体的に開かれていくようにした構成にある。このように,揺動部材の一部25 を構成する係合部を備えていないという相違点は本件発明の本質的部分ではないので,第1要件を充足する。 15これに対し,被告は,本件意見書の記載を根拠に,上記相違点が本件発明の本質的部分に当たると主張するが,同意見書における「本発明は,…揺動部材の一方に,他方に係合する係合部を備える点において,引用文献 1 に記載された発明…と相違しています。」との説明は,特許請求の範囲の記載の5 うち,引用文献1と相違する部分を指摘し,進歩性の問題として,当該相違点が容易想到とはいえないことを主張したものにすぎず,被告のいう「係合部」が本件発明の特徴的部分(本質的部分)であることを述べたものではない。 (2) 第2要件(置換可能性)について10 本件発明に係る骨切術用開大器は,2対の揺動部材の一方を開いていくと,当該揺動部材に加わった外力が他方の揺動部材に伝達されて,両者が一体的に開かれるようにするものであるところ,被告製品のように,揺動部材1と揺動部材2を組み合わせた状態で,ピン用孔に角度調整器の2本のピンを挿通し,開口部に留め金の突起部をはめ込むようにした場合も,同様の作用効15 果を奏するから,被告製品は第2要件を充足する。 被告は,係合が自動的に解除されることも本件発明の作用効果に含まれることを前提として,被告製品は本件発明と同様の作用効果を奏しないと主張するが,係合が自動的に解除されることは,係合部を「他方の揺動部材の開閉方向の内側に係合する」構成に限定している請求項3の発明の有する効果20 ではあり得ても ,係合部を「…内側に係合する」構成に限定していない本件発明の効果ではない。 (3) 第3要件(置換容易性)について被告の主張を前提とすれば,本件発明の係合部と被告製品の違いは,本件発明の係合部が突起9であるのに対し,被告製品では,揺動部材とは別の部25 材である角度調整器の「ピン」と留め金の「突起部」であるということになるが,突起9を,ピン用孔に挿通された状態で揺動部材2から揺動部材1側16に突き出たものとなっている「ピン」及び留め金の「突起部」という構成に変更することは,機械的な構造物を扱う当業者にとっては極めて容易に想到されるものである。 すなわち,本件明細書等の段落【0007】 【0009】 【0016】, , ,5 【0025】〜【0027】等の記載及び図面に接した当業者は,本件発明の係合部は,一方の揺動部材を開くように操作することで当該揺動部材に加わった外力を他方の揺動部材に伝達し,これにより,2対の揺動部材を同時に開いていく動作を可能にすればよいものであることを理解する。そして,本件発明の実施形態を示している図面において,上記のような「一体に開く」10 動作を可能にしているのは,一方の揺動部材から他方の揺動部材に向けて突出した部分が,これを受け入れる他方の揺動部材の凹部の内側面を押圧する構造にあるから,当業者であれば,これと同様の「突部」を一方に設け,他方にこの突部を受け入れる穴や開口部を設ければ,本件発明と同じ動作原理により,2つの揺動部材の「開」動作を実現できることを容易に理解する。 15 このように,被告製品は,実施例の突部9とこれを収容する凹部10という構成を,ピンとピン用孔,留め金の突起部と突起部を収容する開口部という構成に変更しただけのものであり,当業者が本件発明と被告製品の相違点に係る構成を被告製品のように変更することに想到するのは容易であるから,被告製品は第3要件を充足する。 20 これに対し,被告は,本件明細書等に示された実施例の構造からの置換容易性を論じているが,均等論において検討されるべき問題は,被告製品のような角度調整器や留め金といった特定の構造物を採用することの容易想到性ではなく,「係合部」の有する作用・効果に着目したときに,「係合部」を「ピン」(これを受け入れるピン用孔)と留め金の「突起部」(これを受け25 入れる開口部)とすることの容易性であり,この意味で被告製品に係る相違点が容易に想到されるものであることは上記のとおりである。 17(4) 第5要件(特段の事情の不存在)について本件補正においては,「前記2対の揺動部材の一方に,…該他方の揺動部材に係合する係合部が設けられている」という構成を追加したものであるが,これは,本件拒絶理由通知書に記載された引用文献1には,2つの揺動部材5 を一体で開動作させることの示唆はなかったからであり,係合部が揺動部材の一部分となっているか否かは,拒絶理由の解消とは全く関係がない。本件意見書その他の書面には,原告が,本件補正にあたって,「係合部」が2対の揺動部材の一方の「一部分」でなければならないか否かにまで着目したことや,「係合部」として2対の揺動部材の一方の「一部分」である形態と「他10 の部材」である形態が考えられることを認識していたことを示す記載は一切存在しない。 このような補正の客観的経緯に照らすと,構成要件Eを追加する本件補正において,被告製品のピン(ピン用孔),留め金の突起部(揺動部材の開口部)といった構成を明確に認識したうえで,これを特許請求の範囲から除外15 したと外形的に評価し得る行動がとられたとはいうことはできないので,第5要件を充足する。 〔被告の主張〕本件発明1と被告製品は,構成要件Eにおける「揺動部材の一方に,他方に係合する係合部を備える」点において相違しているところ,かかる相違点につ20 いては,以下のとおり,均等侵害の要件を充足しないから,均等侵害は成立しない。 (1) 第1要件(非本質的部分)について原告は,本件意見書の中で,「本発明は,2組の揺動部材を備える点,および,揺動部材の一方に,他方に係合する係合部を備える点において,引用25 文献1に記載された発明…と相違しています。」と述べている。このことからすれば,本件特許の特許請求の範囲の記載のうち,従来技術(引用発明1)18に見られない特有の技術的思想を構成する特徴的部分は,「揺動部材の一方に,他方に係合する係合部を備える点」にある。そして,このような係合部の具体的構成としては,本件明細書等に開示された突起9以外に存在しないから,本件発明の特徴的部分は「突起」である。これに対し,被告製品の揺5 動部材2にはそのような「係合部」あるいは「突起」は存在しないから,本件発明と被告製品は本質的部分において異なるということができる。 したがって,被告製品は第1要件を充足しない。 (2) 第2要件(置換可能性)について本件明細書等の記載からすれば,揺動部材の一方に,他方に係合する係合10 部を備えることにより,一方の対の揺動部材を閉じていくと,他方の対の揺動部材(の凹部)との係合が自動的に解除され,2対の揺動部材を容易に分離することができることは,本件発明の作用効果に含まれるということができる。 これに対し,被告製品の場合,一方の揺動部材(揺動部材2)を閉じてい15 くだけでは他方の揺動部材(揺動部材1)との係合(ただし,2本のピンと留め金による係合)を自動的に解除することができず,揺動部材2を閉じる前に,少なくとも角度調整器のピン又は留め金の一方を外す必要があるので,被告製品は本件発明と同一の作用効果を奏しない。 したがって,被告製品は第2要件を充足しない。 20 (3) 第3要件(置換容易性)について本件明細書等には,「係合部」の構成として突起9以外に具体的な記載はなく,被告製品のように,揺動部材の上側揺動部の後部に角度調整器のピンを挿通させるためのピン用孔を設けることや,揺動部材の下側揺動部の後部に開口部を設けて留め金の突起部をはめ込む構成とすることについては,い25 ずれも開示も示唆もされていない。「突起」を,角度調整器の「ピン」及び留め金の「突起部」に置き換えることは,骨切術用開大器を構成する部品点19数が増えることを意味し,構造としてより複雑になるのであって,そのような構成を当業者において容易に想到し得たということはできない。 したがって,被告製品は第3要件を充足しない。 (4) 第5要件(特段の事情の不存在)について5 「係合部」にかかる構成要件Eは,本件補正によって追加されたものであり,本件意見書において,原告自身,「本発明は,2組の揺動部材を備える点,および,揺動部材の一方に,他方に係合する係合部を備える点において,引用文献1に記載された発明…と相違しています。」と明確に述べている。 本件補正は,2対の揺動部材を着脱可能とする具体的手段について限定がな10 い構成,つまり被告製品のように角度調整器及び留め金によって着脱可能とする構成を含み得るものから,揺動部材の一方の一部分に係合部を設けることで着脱可能とする構成に減縮するものである。 かかる出願経過によれば,原告は,構成要件Eにおける「2対の揺動部材の一方に,他方の揺動部材に係合する係合部が設けられている」との構成に15 関し,外形上,かかる「係合部」を備えない構成,すなわち,被告製品のように係合部を別部材とする構成を特許発明の対象から意識的に除外したと解されるような行動をとったものというべきである。 したがって,被告製品は第5要件を充足しない。 3 争点3(無効の抗弁(サポート要件違反)の成否)について20 〔被告の主張〕本件発明に係る骨切術用開大器においては,揺動部材の一方の上側及び下側揺動部の両方に突起(係合部)が設けられ,他方の揺動部材の上側及び下側揺動部に,これらの突起(係合部)が他方の揺動部材の開閉方向内側に係合する凹部が設けられている。 25 本件発明にかかる特許請求の範囲の記載上,「係合部」の構造が特定されていないため,揺動部材2の下側揺動部にのみ突起を有する構成も特許請求の範20囲に包含される。被告は,このような構成の樹脂モデルを作成した(乙7)ところ,同樹脂モデルは,1つの開閉機構のみを操作するだけでは揺動部材1及び揺動部材2を同時に開くことができず,本件発明の「切込みの切断面をより広い面積で押圧して接触圧力を低減して切断面を損傷させることなく拡大する」5 という課題を解決できない。このように,本件発明にかかる特許請求の範囲には,本件発明の課題が解決されない構成が含まれており,発明の詳細な説明の記載及び本件発明の出願時の技術常識に照らしても,当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものということはできないから,サポート要件に違反し,本件特許は無効にされるべきものである。 10〔原告の主張〕本件発明は,本件明細書等の段落【0006】【0007】にあるように,切込みを開いていくときには,2対の揺動部材が一体的に開方向に動いて,広い面積で切込みを開いていくことができるようにしたことに特徴を有するもの15 である。このように,発明の技術的課題とその解決手段が明細書の開示から明らかであるときに,あえて発明の特徴を有し得ないような内容に特許請求の範囲の記載を解釈しようとするのは相当ではない。本件発明の技術思想からして,「係合部」とは,2対の揺動部材が同時に開くように係り合うものとして規定されているから,揺動部材2の下側揺動部材にのみ突起が設けられ,2対の揺20 動部材が同時に開くようになっていないものが特許請求の範囲に含まれないこ21とは明らかであり,サポート要件違反をいう被告の主張は理由がない。 第4 当裁判所の判断1 本件発明の内容(1) 本件明細書等(甲2)には次の各記載がある。 5 ア 技術分野「この発明は,変形性膝関節症患者の変形した大腿骨または脛骨に形成された切込みに挿入され,該切込みを拡大して移植物を挿入可能なスペースを形成する骨切術用開大器に関するものである。」(段落【0001】)イ 背景技術10 「従来,変形性膝関節症患者の変形した大腿骨または脛骨の角度を矯正するために高位脛骨骨切術が行われている(例えば,特許文献1および特許文献2参照。)。この高位脛骨骨切術は,変形性膝関節症患者の膝関節の一方を構成する脛骨の上部から楔形状の骨片を切除し,その切除面どうしを接合するものである。一方,高位脛骨骨切術として,膝関節を構成す15 る大腿骨または脛骨に骨鋸を用いて切込みを形成し,該切込みを矯正角度まで拡大する方法もある。」(段落【0002】)ウ 発明が解決しようとする課題「大腿骨または脛骨に設けた切込みを拡大する方法の場合には,拡大されて形成されたスペースに移植骨や人工骨を挿入するために,挿入の際に20 切込みを拡大された状態に維持しておく必要がある。 しかしながら,拡大器を用いて切込みを拡大した場合には,拡大器が移植骨や人工骨等の移植物の挿入の妨げとなる。また,挿入時に拡大器を切込みから取り外した場合には,切込みが拡大された状態に維持されず,閉じてしまって移植物の挿入が困難になるという不都合がある。 (段落」 【025 003】)「本発明は上述した事情に鑑みてなされたものであって,切込みを拡大22した状態に維持しつつ,移植物の挿入を容易にすることができる骨切術用開大器を提供することを目的としている。」(段落【0004】)エ 課題を解決するための手段「上記目的を達成するために,本発明は以下の手段を提供する。 5 本発明は,変形性膝関節症患者の変形した大腿骨または脛骨に形成された切込みに挿入され,該切込みを拡大して移植物を挿入可能なスペースを形成する骨切術用開大器であって,先端に配置されたヒンジ部により相対的に揺動可能に連結された2対の揺動部材と,これら2対の揺動部材をそれぞれヒンジ部の軸線回りに開閉させる2つの開閉機構とを備え,前記210 対の揺動部材が,前記ヒンジ部の軸線方向に着脱可能に組み合わせられており,前記2対の揺動部材の一方に,他方の揺動部材と組み合わせられたときに,該他方の揺動部材に係合する係合部が設けられている骨切術用開大器を提供する。」(段落【0005】)「本発明によれば,変形性膝関節症患者の変形した大腿骨または脛骨に15 形成された切込みに,組み合わせた状態の2対の揺動部材を先端のヒンジ部側から挿入し,開閉機構を作動させて揺動部材を相対的に開く方向にヒンジ部の軸線回りに揺動させることにより,切込みの切断面を揺動部材により押圧して切込みを拡大することができる。このとき,組み合わせられた2対の揺動部材により広い面積で切込みの切断面を押圧するので,切断20 面に対する接触圧力を分散して低減し,切断面を損傷させることなく拡大することができる。」(段落【0006】)「また,切込みが拡大された後には,一方の開閉機構を作動させて,いずれか一対の揺動部材を閉じる方向にヒンジ部の軸線回りに揺動させる。 これにより,残りの一対の揺動部材により切込みを拡大した状態に維持し25 つつ,閉じられた一対の揺動部材を取り外して,切込みに移植物を挿入可能なスペースを確保することができる。そして,移植物を挿入した後には,23残りの一対の揺動部材を閉じる方向にヒンジ部の軸線回りに揺動させることにより,挿入された移植物により,切込みを拡大した状態に維持しつつ,閉じられた揺動部材を取り外して,移植物を挿入可能なスペースを確保する。これにより,拡大された切込みの全体に移植物を容易に挿入すること5 が可能となる。 また,係合部が設けられている側の一対の揺動部材に備えられた開閉機構を作動させて,当該一対の揺動部材を相互に開いていくと,係合部が他方の揺動部材に係合して押圧するようになる。したがって,一方の開閉機構のみを操作することにより,2対の揺動部材を同時に開いていくことが10 可能となり,切込みの拡大作業を容易にすることができる。」(段落【0007】)オ 発明の効果「本発明によれば,切込みを拡大した状態に維持しつつ,移植物の挿入を容易にすることができるという効果を奏する。」(段落【0012】)15 カ 発明を実施するための最良の形態「本実施形態に係る骨切術用開大器1は,図1および図2に示されるように,第1,第2の2対の揺動部材2a,2b,3a,3bと,該揺動部材2a,2b,3a,3bを開閉させる第1,第2の開閉機構4,5とを備えている。」(段落【0013】)20 【図1】24「2対の揺動部材2a,2b,3a,3bは,それぞれ,先端に配置されたヒンジ部6,7により,その軸線回りに相対的に揺動可能に連結されている。各対の2つの揺動部材2a,2b,3a,3bは,それぞれ相互に接触するまで閉じられた状態で先端に向かって漸次先細の楔形になる楔5 形部8を備えている。楔形部8は,十分に薄く形成されており,大腿骨または脛骨に骨鋸により形成された切込み(図示略)に比較的容易に挿入することができるようになっている。」(段落【0014】)「第2対の揺動部材3a,3bには,図3に示されるように,その幅方向の側面から,幅方向外方に延びる突起(係合部)9が備えられている。 10 また,第1対の揺動部材2a,2bには,2対の揺動部材2a,2b,3a,3bが幅方向に密着状態に並べられたときに,前記突起9を収容する凹部10が設けられている。2対の揺動部材2a,2b,3a,3bは,突起9を凹部10に挿入することにより,図2に示されるように,幅方向に密着した状態で一体的に組み合わせられるようになっている。また,215 対の揺動部材2a,2b,3a,3bは,凹部10から突起9を抜き出すことにより,図3に示されるように,幅方向に容易に分離することができるようになっている。」(段落【0015】)【図2】 【図3】20 「また突起9を凹部10に挿入すると,図1に示されるように,突起9は凹部10の開閉方向の内側面10aに突き当たるように配置される。その結果,突起9が設けられている第2対の揺動部材3a,3bを相対的に25広げるように外力を加えることで,突起9を介して,該突起9に係合する凹部10の内側面10aに外力が伝達され,凹部10が形成されている第1対の揺動部材2a,2bが相対的に広げられるようになっている。 」(段落【0016】)5 「第1対の揺動部材2a,2bに設けられている第1の開閉機構4は,図1に示されるように,一方の揺動部材2aに形成されたネジ孔11と,これに締結される押しネジ12とにより構成されている。押しネジ12の先端は半球形に形成され,2つの揺動部材2a,2bの相対角度が変化しても,揺動部材2bに安定して接触することができるようになっている。」10 (段落【0017】)「第2対の揺動部材3a,3bに設けられている第2の開閉機構5は,図4に示されるように,各揺動部材3a,3bに,開閉方向に沿って貫通形成された貫通孔15と,該貫通孔15の長手方向の途中位置に配置され,前記ヒンジ部7の軸線に平行な軸線回りに回転自在に支持されたコマ部材15 16と,該コマ部材16に設けられたネジ孔16aを貫通して締結されるボルト部材17とを備えている。ボルト部材17の雄ネジは,長手方向の中央において方向が逆転している。ボルト部材17の逆ネジの関係にある各雄ネジが,各揺動部材3a,3bに設けられた前記コマ部材16のネジ孔16aに締結されている。」(段落【0019】)20 【図4】「このように構成された本実施形態に係る骨切術用開大器1の作用につ26いて以下に説明する。」(段落 【0022】)「本実施形態に係る骨切術用開大器1を用いて大腿骨または脛骨に設けられた切込みに移植物を移植するには,まず,図2に示されるように,2対の揺動部材2a,2b,3a,3bを,その突起9と凹部10とを嵌合5 させて隣接状態で一体的に組み合わせる。そして,2つの開閉機構4,5の押しネジ12およびボルト部材17をそれぞれの長手軸回りに回転させて,図1に示されるように,2対の揺動部材2a,2b,3a,3bを閉じた状態にする。 さらに,この状態で2対の揺動部材2a,2b,3a,3bの後端に形10 成されるアリ状の突起20に打撃用ブロック19のアリ溝19aを嵌合させ,打撃用ブロック19を取り付ける。これにより,2対の揺動部材2a,2b,3a,3bがさらに強固に一体化される。」(段落【0023】)「この状態で,揺動部材2a,2b,3a,3bの先端の楔形部8が薄く形成されるので ,楔形部8の先端を切込みに宛がって挿入していく。こ15 の場合に,後方からハンマー等により打撃ブロック19を打撃することで,衝撃力によって楔形部8が容易に切込み内に挿入されていくことになる。」(段落【0024】)「楔形部8が十分に切込み内に挿入された状態で,打撃ブロック19を取り外し,図5に示されるように,第2の開閉機構5を構成しているボル20 ト部材17を長手軸回りに一方向(例えば,右回り)に回転させる。ボルト部材17には逆ネジの関係の雄ネジが設けられ ,各雄ネジは2つのコマ部材16のネジ孔16aにそれぞれ締結されているので,ボルト部材17を長手軸回りに一方向に回転させることで,コマ部材16をボルト部材17の長手軸方向に沿って相対的に離れる方向に移動させることができる。」25 (段落【0025】 )【図5】27「これにより,コマ部材16が取り付けられている第2対の揺動部材3a,3bのヒンジ部7の軸線回りの相対角度が拡大されていく。このとき,第2対の揺動部材3a,3bとボルト部材17との相対角度も変化するが,5 コマ部材16は,各揺動部材3a,3bにヒンジ部7の軸線と平行な軸線回りに回転自在に設けられているので,各コマ部材16の回転により,2つのコマ部材16のネジ孔16aにボルト部材17の雄ネジが締結された状態に維持される。」(段落【0026】)「この場合において,本実施形態に係る骨切術用開大器1によれば,第10 2対の揺動部材3a,3bに設けられた突起9が第1対の揺動部材2a,2bに設けられた凹部10の内側面10a接触するように嵌合されているので,第2対の揺動部材3a,3bの第2の開閉機構5を操作して当該第2対の揺動部材3a,3bを開いていくだけで,突起9および凹部10を介して第1対の揺動部材2a,2bも一体的に開かれていくことになる。 15 したがって,切込みの拡大作業が容易である。 」(段落【0027】)「このようにして,組み合わせられた状態の2対の揺動部材2a,2b,3a,3bを同時に開くことにより,切込みの切断面が広い面積で2対の揺動部材2a,2b,3a,3bにより同時に押圧されることになる。その結果,切込みの切断面に局部的に過大な押圧力が作用することが回避さ20 れ,大腿骨や脛骨を損傷させることなく健全な状態に維持しつつ切込みを拡大していくことができる。」(段落【0028】)「次に,移植物を挿入するための十分なスペースが確保されるまで,切28込みが拡大された状態で,第1の開閉機構4を構成する押しネジ12を長手軸回りに回転させて,図6に示されるように,押しネジ12の先端を他方の揺動部材2bに接触させる。これにより,当該第1の開閉機構4が設けられている第1対の揺動部材2a,2bもそれ自体で開いた状態に維持5 されるようになる。」(段落【0029】)【図6】「この状態で,前記第2の開閉機構5のボルト部材17を,前記とは逆方向に回転させる。これにより,第2対の揺動部材3a,3bが閉じる方10 向に変位させられる。このとき,凹部10とその内側面10aに接触していた突起9との係合が解除され,第2対の揺動部材3a,3bのみが閉じられる。第1対の揺動部材2a,2bは第1の開閉機構4の作動により開いた状態に維持されているので,第2対の揺動部材3a,3bが閉じられても,切込みは第1対の揺動部材2a,2bによって開かれた状態に支持15 される。」(段落 【0030】)「そして,閉じられた第2対の揺動部材3a,3bを切込み内から取り出すことにより,第2対の揺動部材3a,3bが配置されていた空間に,移植物を挿入するための十分なスペースが確保される。 この状態で,スペースに合わせた形状の人工骨または移植骨等の移植物20 をスペース内に挿入する。 」(段落【0031】)「次いで,第1対の揺動部材2a,2bの第1の開閉機構4の押しネジ12を前記とは逆方向に回転させる。これにより,第1対の揺動部材2a,292bが閉じる方向に変位させられる。このとき,前記スペースに挿入された移植物により切込みが開かれた状態に維持される。そして,閉じられた第1対の揺動部材2a,2bを切込み内から取り出すことにより,第1対の揺動部材2a,2bが配置されていた空間に,移植物を挿入するための5 十分なスペースが確保される。 このスペースに合わせた形状の人工骨または移植骨等の移植物を挿入することにより,切込み内に移植物を容易に挿入することができる。」(段落【0032】)(2) 本件発明の意義10 上記(1)によれば,本件発明は,@変形性膝関節症患者の変形した大腿骨又は脛骨に形成された切込みに挿入され,当該切込みを拡大して移植物を挿入可能なスペースを形成する骨切術用開大器を技術分野とするものであり,A拡大器を用いて切込みを拡大した場合,拡大器が移植物の挿入の妨げになり,また,挿入時に拡大器を取り外した場合,切込みが拡大された状態が維持さ15 れず,移植物の挿入が困難になるという課題を解決するため,B請求項1及び2に係る構成を採ることにより,2対の揺動部材で切込みを拡大した後,一対の揺動部材を閉じ,一対の揺動部材により切込みを拡大した状態に維持しつつ,閉じられた一対の揺動部材を取り外して,切込みに移植物を挿入可能なスペースを確保することを可能にし,Cこれにより,切込みを拡大した20 状態を維持しつつ,移植物の挿入を容易にすることができるという効果を奏するものであると認められる。 2 争点1(被告製品が本件発明の技術的範囲に属するか)について(1) 争点1−1(被告製品が構成要件Cを充足するか)について被告は,被告製品の2対の揺動部材の上側揺動部を角度調整ピンにより組25 み合わせ,下側揺動部を留め金により組み合わせた状態においてネジ機構1を回転させても,揺動部材1を開閉できないので,被告製品は,構成要件C30が規定する「2つの開閉機構」を備えていないと主張する。 しかし,「開閉機構」に関し,請求項1は「2対の揺動部材をそれぞれヒンジ部の軸線回りに開閉させる2つの開閉機構とを備え」と規定しているにすぎず,また,本件明細書等を参酌しても,特に「開閉機構」の構成や作動5 条件を特定又は限定する旨の記載は存在しない。そうすると,本件発明に係る「開閉機構」は,ヒンジ部の軸線回りに開閉することが可能な構成を備えるもので足りると解すべきである。 証拠(甲3,乙6)によれば,被告製品の揺動部材1のネジ機構1は,揺動部材1が揺動部材2と組み合わされていない状態では,押しネジの先端が10 揺動部材1を押しつける方向に回転させることにより,揺動部材1を開くことが可能なものであり,また,押しネジを前記とは逆方向に回転させることにより,揺動部材1を閉じることも可能なものであることが認められる。 したがって,被告製品の揺動部材1のネジ機構1は「開閉機構」に該当するから,構成要件Cを充足する。 15 (2) 争点1−2(被告製品が構成要件Dを充足するか)について被告は,構成要件Dの「着脱可能」とは,各揺動部材に設けられた突起及び凹部によって2対の揺動部材が軸方向に一体的に組み合わされ,容易に分離することができることをいうとの解釈を前提とした上で,被告製品の揺動部材にはそのような突起及び凹部が設けられていないので構成要件Dを充足20 しないと主張する。 しかし,本件発明に係る「着脱可能」に関し,請求項1は「前記2対の揺動部材が,前記ヒンジ部の軸線方向に着脱可能に組み合わせられており」と規定されているにすぎず,着脱可能に組み合わせる部分や構成について特定又は限定されていない。また,本件明細書等には,突起9と凹部10とを嵌25 合させることにより2対の揺動部材を隣接状態で一体的に組み合わせる旨の記載はあるが(段落【0023】等),これは実施例として示されているに31すぎず,こうした記載をもって,構成要件Dの「着脱可能に組み合せられて」との記載が,各揺動部材に設けられた突起及び凹部によって2対の揺動部材が軸方向に一体的に組み合わされることを意味すると解することはできない。 証拠(甲3)によれば,被告製品の揺動部材1及び揺動部材2は,それぞ5 れのヒンジ部が軸線方向に揃うように重ね合わされ,分離することができることが認められるので,被告製品の2対の揺動部材は,ヒンジ部の軸線方向に「着脱可能」に組み合わされているということができる。 したがって,被告製品は,構成要件Dを充足する。 (3) 争点1−3(被告製品が構成要件Eを充足するか)について10 ア 構成要件Eは「前記2対の揺動部材の一方に,他方の揺動部材と組み合わせられたときに,該他方の揺動部材に係合する係合部が設けられている骨切術用開大器。」というものであるところ,原告は,ここにいう「係合」とは,2対の揺動部材が同時に開くように係り合うことを意味し,2対の揺動部材がそのように係り合うことを可能にする部分が「係合部」である15 ので,同構成要件の「係合部」は揺動部材の一方の一部であることを要しないと主張する。 しかし,請求項1の「前記2対の揺動部材の一方に,…係合部が設けられている」との記載は,その一般的な意味に照らすと,「係合部」が揺動部材の一方の一部を構成していると解するのが自然であり,原告の主張す20 るように,揺動部材とは別の部材が係合部を構成する場合まで含むと解するのは困難である。 また,請求項3は「前記係合部が,前記他方の揺動部材の開閉方向の内側に係合する請求項1または請求項2に記載の骨切術用開大器」,請求項4は「前記2つの開閉機構のうち,前記係合部が設けられていない側の開25 閉機構が,ヒンジ部により連結された一方の揺動部材に設けられたネジ孔と,該ネジ孔に締結され,他方の揺動部材を開方向に押圧する押しネジと32により構成されている請求項3に記載の骨切術用開大器」とそれぞれ規定しており,これらの規定も,2対の揺動部材のうち,係合部が設けられている側と設けられていない側が区別可能であることが前提となっていると解するのが自然である。 5 この点について,原告は,請求項4は,係合部に「前記他方の揺動部材の開閉方向の内側に係合する」という限定を加えた請求項3を前提に,内側に係合部が設けられている側とそうでない側を区別する記載となっているにすぎないと主張するが,請求項1の前記文言に照らすと,請求項3及び4は,むしろ,請求項1の「係合部」が揺動部材の一方の一部を構成し10 ていることを前提とした上で,その構成を限定しているものと解するのが相当である。 以上のとおり,本件特許に係る特許請求の範囲の記載によれば,本件発明の「係合部」は揺動部材の一方の一部を構成するものであると解される。 イ 次に,本件明細書等を参酌して,同明細書等における「部材」と「部」15 の意義についてみると,「部材」については,「揺動部材」の他に「コマ部材16」及び「ボルト部材17」が「部材」とされている(段落【0019】等,【図4】参照)のに対し,「部」については,「係合部」の他に,「凹部10」(段落【0015】等),「ヒンジ部6」(請求項1等)及び「楔形部8」(段落【0014】等)について「部」という語が用い20 られている。 このような記載によれば,本件明細書等において,「部材」という語は独立した部分を意味するものとして,「部」は部材の一部を構成するものとして用いられているということができ,係る用法に照らしても,「係合部」は一方の揺動部材の一部分を構成すると解することが相当である。 25 また,本件明細書等に開示された実施例に関する記載である段落【0015】には,「第2対の揺動部材3a,3bには,…幅方向外方に延びる33突起(係合部)9が備えられている。また,第1対の揺動部材2a,2bには,…前記突起9を収容する凹部10が設けられている。 と記載され,」第2対の揺動部材に設けられた突起9が「係合部」に当たると説明されている一方で,第1対の揺動部材に設けられた凹部10が「係合部」に当た5 るとの説明はされていない。こうした実施例の記載も,本件発明の「係合部」は揺動部材の一方の一部を構成するとの上記解釈と整合するものということができる。 以上のとおり,本件明細書等に照らしても,本件発明の「係合部」は揺動部材の一方の一部を構成すると解するのが相当である。 10 ウ これに対し,原告は,構成要件Eの「係合」は2対の揺動部材が同時に開くように係り合うことを意味し,2対の揺動部材がそのように係り合うことを可能にする部分が「係合部」であるので,「係合部」は揺動部材とは別の部材や普段は取り外して保管できる形態のものも含むと主張する。 しかし,原告の「係合部」に関する解釈は,請求項1の「前記2対の揺15 動部材の一方に,…係合部が設けられている」との記載や請求項3及び4の記載と必ずしも整合するものではなく,前記判示に係る本件明細書等の記載に照らしても,採用し得ない。 エ 証拠(甲3)によれば,被告製品の角度調整器及び留め金は,各揺動部材とは独立した部材と認められ,一方の揺動部材の一部分として構成され20 ているとは認められないので,被告製品は,構成要件Eを充足しない。 (4) 小括以上のとおり,被告製品は構成要件Eを充足しないので,本件特許の文言侵害に基づく原告の請求はいずれも理由がない。 3 争点2(被告製品による均等侵害の成否)について25 (1) 特許請求の範囲に記載された構成に,相手方が製造等をする製品又は用いる方法(対象製品等)と異なる部分が存する場合であっても,@当該部分が34特許発明の本質的部分ではなく(第1要件),A当該部分を対象製品等におけるものと置き換えても,特許発明の目的を達することができ,同一の作用効果を奏するものであって(第2要件),Bそのように置き換えることに,当業者が,対象製品等の製造等の時点において容易に想到することができた5 ものであり(第3要件),C対象製品等が,特許発明の特許出願時における公知技術と同一又は当業者が当該出願時に容易に推考できたものではなく(第4要件),かつ,D対象製品等が特許発明の特許出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの特段の事情もないとき(第5要件)は,当該対象製品等は,特許請求の範囲に記載された構成と10 均等なものとして,特許発明の技術的範囲に属するものと解するのが相当である(最高裁平成6年(オ)第1083号同10年2月24日第三小法廷判決・民集52巻1号113頁,最高裁平成28年(受)第1242号同29年3月24日第二小法廷判決・民集71巻3号359頁参照)。 本件発明と被告製品との相違点は,本件発明では,係合部が一方の揺動部15 材の一部分を構成するものであるのに対し,被告製品では,揺動部材2から揺動部材1に力を伝達する部分である角度調整器のピン及び留め金の突起部が揺動部材2とは別部材である点にあるところ,被告は,原告の均等侵害の主張に対し,第4要件を充足することは争わないものの,その余の要件の充足性を争うので,以下検討する。 20 (2) 第1要件(非本質的部分)についてア 均等侵害が成立するための第1要件は,特許請求の範囲に記載された構成と対象製品に係る相違点が特許発明の本質的部分ではないことを要するとするものである。特許法が保護しようとする発明の実質的価値は,従来技術では達成し得なかった技術的課題の解決を実現するための,従来技術25 に見られない特有の技術的思想に基づく解決手段を,具体的な構成をもって社会に開示した点にあることに照らすと,特許発明における本質的部分35とは,当該特許発明の特許請求の範囲の記載のうち,従来技術に見られない特有の技術的思想を構成する特徴的部分であると解すべきである。 イ そこで,本件発明と被告製品の相違点に係る構成が本件発明の本質的部分に該当するかどうかについて検討する。 5 (ア) 本件発明は,前記のとおり,一対の拡大器を用いて切込みを拡大した場合には,拡大器が移植物の挿入の妨げとなり,また,挿入時に拡大器を切込みから取り外した場合には,切込みが拡大された状態に維持されず,移植物の挿入が困難になるという課題を解決するため(本件明細書等の段落【0002】,【0003】),開閉可能な2対の揺動部材を10 着脱可能に組み合わせるとともに,揺動部材が組み合わされた状態で一方の部材が他方の部材に係合するための係合部を設けることにより,2対の揺動部材が同時に開くことを可能とし,2対の揺動部材で切込みを拡大した後には,一方の揺動部材により切込みの拡大を維持しつつ,閉じられた他方の揺動部材を取り外して,移植物の挿入可能なスペースを15 確保して移植物の挿入を容易にするものである(本件明細書等の段落【0006】〜【0008】,【0012】)。 上記によれば,本件発明において従来技術に見られない特有の技術的思想を構成する特徴的部分は,開閉可能な2対の揺動部材を着脱可能に組み合わせるとともに,揺動部材が組み合わされた状態で一方の部材が20 他方の部材に係合するための係合部を設け,これにより,2対の揺動部材が同時に開くことを可能にするとともに,2対の揺動部材で切込みを拡大した後には,一方の揺動部材によりその拡大状態を維持しつつ,閉じられた他方の揺動部材を取り外して,移植物の挿入可能なスペースを確保して移植物の挿入を容易にする点にあるというべきである。 25 (イ) 他方,被告製品は,@変形性膝関節症患者の変形した大腿骨又は脛骨に形成された切込みに挿入され,当該切込みを拡大して移植物を挿入可36能なスペースを形成する骨切術用開大器であり,A開閉可能な2対の揺動部材を着脱可能に組み合わせるとともに,各揺動部材の上側揺動部に角度調整器のピンを挿通させるためのピン用孔を設け,同各揺動部材の下側揺動部に留め金の突起部をはめ込むための開口部を設けるとの構5 成を備えることにより,B開口部に留め金の突起部がはめ込まれ,ピン用孔に角度調整器の2本のピンを挿通された状態において2対の揺動部材が同時に開くことを可能にし,2対の揺動部材で切込みを拡大した後には,一方の揺動部材により切込みを拡大した状態に維持しつつ,閉じられた他方の揺動部材を取り外して,移植物の挿入可能なスペースを10 確保して移植物の挿入を容易にするものであると認められる。 被告製品の角度調整器のピン及び留め金の突起部は,2対の揺動部材が組み合わされた状態で一方の部材が他方の部材に係合するための係合部に相当すると認められ,これにより,2対の揺動部材が同時に開くことが可能になり,切込みを拡大した後には,その拡大状態を維持しつ15 つ,その1対を取り出して切込みに移植物を挿入可能なスペースを確保することで移植物の挿入を容易にするものであると認められる。そうすると,被告製品は,本件発明とその特徴的な技術的思想を共有し,同様の効果を奏するものであるということができる。 (ウ) 本件発明と被告製品との相違点は,前記のとおり,本件発明では,係20 合部が一方の揺動部材の一部分を構成するものであるのに対し,被告製品では,係合部に相当する角度調整器のピン及び留め金の突起部が揺動部材2とは別部材である点にあるところ,このような相違点は,係合部を揺動部材の一部として設けるか別部材にするかの相違にすぎず,本件発明の技術的思想を構成する特徴的部分には該当しないというべきで25 ある。 ウ これに対し,被告は,本件意見書などを根拠として,本件発明の本質的37部分は「揺動部材の一方に,他方に係合する係合部を備える点」にあると主張する。 しかし,被告の指摘する本件意見書の記載部分は,「端部が回転可能に連結されることにより開閉可能に設けられた一対のジョーを備えた開創5 器アセンブリ」が開示された引用文献1記載の発明との対比において,本件発明の構成を説明するものにすぎず,同記載を根拠として,本件発明の本質的部分が「揺動部材の一方に,他方に係合する係合部を備える点」にあるということはできない。 発明の本質的部分は,特許請求の範囲及び明細書の記載に基づいて,特10 許発明の課題及び解決手段とその効果に照らして認定されるべきところ,本件発明の課題,解決手段及び効果を考慮すると,本件発明の本質的部分は,開閉可能な2対の揺動部材を着脱可能に組み合わせるとともに,揺動部材が組み合わされた状態で一方の部材が他方の部材に係合するための係合部を設けるとの構成にあると認められることは,前記判示のとおりで15 ある。 エ 以上のとおり,本件発明と被告製品の相違点は,本件発明の本質的部分ではないので,被告製品は,第1要件を充足する。 (3) 第2要件(置換可能性)についてア 第2要件は,特許発明のうち対象製品と相違する部分について対象製品20 等における該当部分と置き換えても,特許発明の目的を達することができ,同一の作用効果を奏することを要するというものである。上記(2)イ(イ)のとおり,被告製品の角度調整器のピンと留め金の突起部は,2対の揺動部材が組み合わされた状態で一方の部材が他方の部材に係合するための係合部に相当し,本件発明のように,揺動部材の一部に係合部を設ける構成25 を,被告製品の角度調整器のピンと留め金の突起部に置き換えたとしても同様の効果を奏すると認められる。 38イ これに対し,被告は,揺動部材を閉じる際に,一方の揺動部材を閉じていくと,他方の揺動部材との係合が自動的に解除されるとの点も本件発明の作用効果に含まれるとの解釈を前提に,被告製品の場合,一方の揺動部材を閉じるだけでは,他方の揺動部材との係合は自動的に解除されないこ5 とから,本件発明と同一の作用効果を奏さないと主張する。 しかし,本件明細書等に記載された本件発明の効果は,「本発明によれば,切込みを拡大した状態に維持しつつ,移植物の挿入を容易にすることができる」(段落【0012】)というものである。このような効果は,2対の揺動部材で切込みを拡大した後に1対の揺動部材を取り外すこと10 により実現することが可能であり,係合の解除が自動的に行われることは本件発明の効果に含まれないというべきである。 ウ したがって,被告製品は第2要件を充足する。 (4) 第3要件(置換容易性)についてア 続いて,本件発明の揺動部材の一部に係合部を設ける構成を角度調整器15 のピンと留め金の突起部に置き換えることについて,当業者が,被告製品の製造時において,容易に想到し得たかどうかについて検討する。 本件発明は,2対の揺動部材のうち,一方に係合部(実施例では突起9)を設け,他方にこれと係合する部分(実施例では凹部10)を設けることにより,当該一方の揺動部材から他方の揺動部材に力を伝達して,両揺動20 部材が同時に開くことを可能にするものであるが,一般的に,ある部材から他の部材に力を伝達する際に,2つの部材を直接係合させて力を伝達するか,2つの部材に同時に係合する第3の部材を介して力を伝達するかは,当業者が適宜選択し得る設計的事項であるということができる。 そうすると,本件発明のように2対の揺動部材の一方に他方に係合する25 係合部を設けて直接力を伝達することに代えて,2対の揺動部材に同時に係合する第3の部材(角度調整器及び留め金)を介して力を伝達するよう39にして被告製品のような構成とすることは,被告製品の製造時において当業者が容易に想到することができたと認めるのが相当である。 イ これに対し,被告は,本件発明の係合部材を角度調整器のピンや留め金の突起部に置き換えることは本件明細書等に開示も示唆もされておらず,5 そのような置換をすると部品点数が増え,構造がより複雑になるので,当業者がそのような置換をすることを容易に想到し得たということはできないと主張する。 しかし,本件発明の揺動部材の一部に係合部を設ける構成を角度調整器のピンと留め金の突起部に置き換えることについて本件明細書等に開示10 又は示唆がないとしても,そのことから直ちに被告製品の製造時において当業者が容易に想到し得ないということはできず,前記判示のとおり,一般的に,ある部材から他の部材に力を伝達する際に,2つの部材を直接係合させて力を伝達するか,2つの部材に同時に係合する第3の部材を介して力を伝達するかは,当業者が適宜選択し得る設計的事項であるというこ15 とができる。 また,本件発明の揺動部材の一部に係合部を設ける構成を角度調整器のピンと留め金の突起部に置き換えたとしても,部品点数が大幅に増えるものではなく,構成が複雑になるものではないから,部品点数や構造の複雑化を根拠に,当業者が係る置換を容易に想到し得ないということはできな20 い。 ウ したがって,被告製品は第3要件を充足する。 (5) 第5要件(特段の事情)についてア 第5要件に関し,被告は,構成要件Eは本件補正によって追加されたものであるところ,本件拒絶理由通知に対する本件意見書における「本発明25 は,2組の揺動部材を備える点,および,揺動部材の一方に,他方に係合する係合部を備える点において,引用文献1に記載された発明…と相違し40ています。」との記載によれば,原告は,被告製品のように係合部を別部材とする構成を特許発明の対象から意識的に除外したと理解することができるから,均等侵害は成立しないと主張する。 しかし,本件意見書には,「引用文献1には,端部が回転可能に連結さ5 れることにより開閉可能に設けられた一対のジョーを備えた開創器アセンブリが開示されています。」,「このような構成(判決注:本件発明に係る構成)によれば,2組の揺動部材を同時に開かせることにより,骨に形成した切り込みの拡大作業を容易にし,また,切り込みの切断面に局所的に過大な押圧力が作用することを防ぐことができる」,「2つの開創器10 アセンブリを単に着脱可能に組み合わせただけでは本発明の構成を導くことはできません。」「引用発明1には,切り込みの切断面に作用する押圧力を低減するという課題,および,2つの開創器アセンブリを一体で開動作させるという係合部の作用に対する示唆がありません」などの記載がある。 15 上記記載によれば,本件意見書の主旨は,特許庁審査官に対し,引用例1が一対の揺動部材を開示していることを指摘し,それに対し,本件発明は,開閉可能な2対の揺動部材を組み合わせ,一方の揺動部材を他方の揺動部材に係合するための係合部を設けることにより,両揺動部材が同時に開くことを可能にするものであることを説明する点にあるというべきで20 ある。そして,同意見書には,係合部の構成,すなわち,係合部を揺動部材の一部として構成するか,揺動部材とは別の部材により構成をするかを意識又は示唆する記載は存在しない。 そうすると,被告の指摘する「2組の揺動部材を備える点,および,揺動部材の一方に,他方に係合する係合部を備える」との記載は,上記説明25 の文脈において本件発明の構成を説明したものにすぎないというべきであり,同記載をもって,同意見書の提出と同時にされた本件補正により構41成要件Eが追加された際に,原告が,係合部を揺動部材とは別の部材とする構成を特許請求の範囲から意識的に除外したと認めることはできない。 ウ したがって,被告製品は第5要件を充足する。 (6) 小括5 以上によれば,均等侵害の第1,第2,第3及び第5要件を充足し,本件では,第4要件の充足性に争いはないから,被告製品の係合部の構成を,揺動部材の一部分とするものから別部材とするものに置換したとしても,被告製品の構成は,本件発明と均等なものとして,本件発明の技術的範囲に属するということができる。 10 4 争点3(無効の抗弁(サポート要件違反)の成否)について被告は,本件発明に係る特許請求の範囲の記載上,揺動部材2の下側揺動部にのみ突起を有する場合も特許請求の範囲に含まれることとなるから,このような発明の課題が解決されない構成が含まれる本件発明は,サポート要件に違反すると主張する。 15 しかし,本件発明は,「一方の開閉機構のみを操作することにより,2対の揺動部材を同時に開いていくことが可能となり,切込みの拡大作業を容易にすることができる」(本件明細書等の段落【0007】)という作用効果を奏するものであり,この点に技術的意義を有する。被告が作成した樹脂モデル(乙7)のように,揺動部材2の下側揺動部にのみ突起を設けたものは,揺動部材20 1に係合せず,2対の揺動部材を同時に開くことができないので,本件発明の技術的範囲に属さないというべきである。 したがって,被告主張はその前提を欠き,採用できない。 5 結論以上によれば,原告の請求はいずれも理由があるから,これを認容し,主文25 第2項に係る仮執行宣言の申立ては相当ではないのでこれを付さないこととして,主文のとおり判決する。 42東京地方裁判所民事第40部裁判長裁判官5 佐 藤 達 文裁判官三 井 大 有10裁判官今 野 智 紀43別紙物件目録骨切術用開大器「HBT166P」544別紙写真目録454647484950 |
事実及び理由 | |
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全容
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