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事件 平成 15年 (行ケ) 304号 審決取消請求事件
原告 株式会社オシキリ
訴訟代理人弁護士 鈴木修,下田憲雅,弁理士 伊藤茂
被告 株式会社大生機械
訴訟代理人弁理士 石川新
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2004/04/28
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
原告の求めた裁判
「特許庁が無効2001-35381号事件について平成15年6月3日にした審決を取り消す。」との判決。
事案の概要
1 特許庁における手続の経緯 被告が特許権者である本件特許第3106194号の請求項3及び4に係る発明の特許は,平成5年3月26日に特許出願(平成5年特許願第105850号)され,平成12年9月8日に特許権の設定の登録がされた。原告は,平成13年8月29日に,上記請求項3及び4に係る発明の特許を無効にすることについての審判請求をした。その審判手続において,平成13年11月19日に訂正請求があったところ,平成14年3月26日,「訂正を認める。上記請求項3及び4に係る特許を無効とする。」旨の審決(第1次審決,甲第13号証)があった。この審決取消訴訟である当庁平成14年(行ケ)第215号事件の係属中である平成14年7月5日,被告により明細書の訂正に関する審判請求があり(訂正2002-39153号,甲第14号証。この訂正により,請求項4は削除された。なお,平成13年11月19日の訂正請求は,平成15年4月28日に取り下げられた。),平成14年10月30日,この訂正を認める旨の審決があったので(甲第1号証),上記審決取消訴訟において,平成14年12月25日,この訂正により本件発明(請求項3記載の発明)の要旨の認定を結果として誤ったことになるとして,第1次審決を取り消す旨の判決があり,確定した。
そこで,上記無効審判請求事件について再度審理された結果,平成15年6月3日,本件審判請求は成り立たないとの審決があり(甲第8号証),その謄本は同月13日原告に送達された。
2 本件発明の要旨(訂正審判請求によるもの) 互いに近接・離間可能に並列に支持された複数個の受け板の上にスライスされた食パンを載置しスライス食パンの上部を上部押さえで保持した後,相隣る前記受け板の間と,前記上部押さえの間にそれぞれ複数個の隙間を形成させることによって前記受け板の上に載置された食パンの所定枚数毎の間に複数個の隙間を形成させ,前記受け板の上に載置された食パンの前記複数個の隙間に下方から上方へ仕切り板を挿入して所定枚数毎に分割された食パンを押し出して排出することを特徴とするスライスされた食パンの分割供給方法。
3 審判で主張された無効理由 本件発明は,下記審判甲第2号証ないし審判甲第4号証に記載された発明に基づき当業者が容易に発明をすることができたものであって,特許法29条2項の規定に違反して特許されたものである。
審判甲第2号証:米国特許第2,247,696号明細書(本訴甲第2号証) 審判甲第3号証:特開平1-271322号公報(本訴甲第3号証) 審判甲第4号証:特開平2-265815号公報(本訴甲第4号証) 原告は,そのほかに,下記証拠も無効審判請求手続において提出した。
審判甲第5号証:特開平4-8499号公報(本訴甲第5号証) 審判甲第6号証:米国特許第2,211,433号明細書(本訴甲第6号証) 審判甲第7号証:特開平4-223925号公報 4 審決の理由の要点 (1) 審判甲第号各証に記載された発明 (1)-1 審判甲第2号証:米国特許第2,247,696号明細書 (1)-1-1 審判甲第2号証には,次のような事項が記載されている。
ア.「この発明は,スライスされた食パンの分割の方法及び手段に関し,私の1938年11月25日出願で継続中の・・・米国出願第242,432号・・・の主題に関係する。」(1頁左欄1〜6行目) イ.「これから,より詳細に,また,参照番号を使って,私の発明の具体的実施例が示されている図面を参照するが,Aは,好ましくは垂直方向で往復動するナイフタイプの食パンスライス装置を示しており,その食パン排出側部分は搬送コンベアBを構成しており,このコンベアは,好ましくは,複数のクロスバーb,b′と,横断方向で調節可能な斜めに曲げられたサイドガイドs,s′を備えるチェーン駆動フライトタイプのものとされる。」(1頁左欄54行目〜同頁右欄8行目) ウ.「搬送コンベアBの食パン排出端部には,包装機械コンベアCが設けられており,このコンベアは,好ましくは,一般的に用いられている移動ポケットタイプのものとされ,分割された食パンを間欠的に受け入れて動き,包装機械D内に間欠的に進むようにされている。」(1頁右欄11〜16行目) エ.「スライス装置Aは,その食パン排出端部に,横断方向に延びる分割プレート1が設けられ,該分割プレートは,その長手方向において,2つの食パン支持スライド2,3に分けられ,それらスライドは,お互いに離れる方向で斜め下方に延び,かつ,スライス機械Aの食パン排出端部から離れる方向であってかつ搬送コンベアBの側部縁に向かう横断方向において,傾斜が増大するようになっている。
その結果,それらスライド及びスライス機械グリッドプレートgとによって,図3,4,5,6に最もよく示されるように,実質的に同一平面にある交差線4,5が形成されている。
スライス装置Aのフレームに形成されたスリーブ6に調整可能にL型のブラケット7が取り付けられており,このブラケットは前方に延びる水平に設定された脚部8を有し,ホールドダウンプレート9を変位可能に支持している。このホールドダウンプレートは,図2及び5に最もよく示されているように,食パン分割プレート1の上を横断方向に延び,かつ,下方にある同プレートの部分に形状が一致するように曲げられ若しくは湾曲されている。
搬送コンベアBの両側から上方に延びる一対のアーム10の間には,水平にクロスバー11が延び,その両端がこれらアームに取り付けられており,該クロスバーは,下方へ吊り下げられたハンガーアーム13の設けられているスリーブ12を変位可能に支持している。
ハンガーアーム13の両側面には,一対の湾曲デバイダーガイド(divider guide)14,15が,稜線4の後方端部近くで,同稜線の両側に等間隔だけ離して位置決めされており,それぞれが,対応する食パンスライド2,3に対するすべての地点において,同スライドに対して実質的に直角となるような形状とされている。同様に,サイドガイドs,s′は,それらの後端すなわち食パン受入れ端16,16′において,それぞれ,ガイド14,15に対して実質的に平行で均一な間隔をあけた関係になるように曲げられる。ガイド14,15は,搬送コンベアB上を前方に延びる。図3に示され,最も良く分かるように,ガイド14,15は相互に収束するように形成されて,それらの前端において統合されて,単一となって連続してコンベアB上を延びる中間ガイド17となっている。」(1頁右欄19行目〜2頁左欄7行目) オ.「各スライスされた食パンLは,スライス装置Aを通って進められると,分割プレート1上に出て移送されるが,この分割プレートの稜線4は,その食パンが分割されるべき,選択されたスライス切り口(slice cut)と一致するように位置決めされる。従って,食パンLが当該分割プレート1を通って前方へ動くに従い,選択されたスライス切り口の両側の食パンの部分は,スライド2,3の傾斜角度に倣い,その結果,当該食パンは稜線4の周りで,本のように分け拡げられすなわち分割され,2つの分断ローフl,l′とされる。それぞれの分断ローフは,サイドガイド部分16,16′によって落下するのを防止される。分断ローフl,l′が分割プレート1を通って進められるにつれて,それらの間の角度は増大し,同分断ローフl,l′の内向きの,すなわち,対向する面の間の隙間が増大される。
そのようになった地点で,食パン分断ローフl,l′の内向き面は,図5に最もよく示されるように,曲げられたホールドダウンプレート9の下で,デバイダーガイド14,15の前方の端部を越えて進められる。
最終的には,食パン分断ローフl,l′は分割プレート1の後方縁を越えて,搬送コンベアB上に落とされ,図1及び6において最もよく分かるように,フライトb,b′によって一個ごと,包装機械コンベアCに進められる。」(2頁左欄14〜43行) カ.「加えて,私は,私のこの機械が,スライスされた食パンのスライス片のどれにも損傷を与えること無しに,スライスされた食パンを分割すること,並びに,食パンが分割されるべき特定のスライス切り口に対する特定の若しくは慎重な判断を要する,どのような調整も必要でないことが分かった。」(2頁右欄27〜32行目) キ.図3,4,5,6の表示及び上記記載事項エ,オからみて,同図3,4,5,6から,「分割プレート1上の食パンの隙間に一対のデバイダーガイド14,15を挿入して食パンの複数枚からなる2つの分断ローフl,l′に分割された食パンを押し出して排出すること」が看取できる。
(1)-1-2 これらの記載事項によると,審判甲第2号証には,次のとおりの発明が記載されていると認めることができる。
「食パンが分割されるべきスライス切り口と一致するように位置決めされた稜線4のお互いに離れる方向で斜め下方に延び,前方に進むに従って傾斜が増大する食パン支持スライド2,3からなる分割プレート1上をスライスされた食パンLを前方に動かし,食パンの複数枚からなる2つの分断ローフl,l′の対向する面の間に1個の隙間を増大して形成させ,前記分割プレート1上の食パンの前記1個の隙間に側方から一対のデバイダーガイド14,15を挿入して食パンの複数枚からなる2つの分断ローフl,l′に分割された食パンを押し出して排出するスライスされた食パンを分割して次の工程のために供給する方法。」 (1)-2 審判甲第3号証:特開平1-271322号公報 審判甲第3号証には,全体の記載からみて,次のような発明が記載されていると認めることができる。
「分割コンベア(5)のコンベア(6)(7)が本体部に対して近接・離間可能に並列に支持された分割コンベア(5)の上に積載品(2)を載置した後,相隣る前記本体部とコンベア(6)(7)の間に1個の隙間を形成させ,さらに,相隣る前記コンベア(6)(7)の間に1個の隙間を形成することによって前記コンベア(6)(7)の上に載置された積載品(2)の積載品山(21)と(22)の間に隙間を形成させて積載品山(21)と(22)に分割し,分割された積載品山(21)(22)を1山ずつロボット等によりつかみ取り次工程へと移す積載品の分割方法。」 (1)-3 審判甲第4号証:特開平2-265815号公報 審判甲第4号証には,全体の記載からみて,次のような発明が記載されていると認めることができる。
「互いに近接・離間可能に並列に支持された2個の移動台12を筺体10に対して近接・離間可能に並列に支持してそれらの上に多数のICデバイス2を載置した後,相隣る前記移動台12及び筺体10の間に2個の隙間を形成させることによって前記移動台12及び筺体10の上に載置された1個のICデバイス2,他の1個のICデバイス2及び残りのICデバイス2の間に2個の隙間を形成させ,分離された1個のICデバイス2と他の1個のICデバイス2を同時に次工程に移送するICデバイス2を所定ピッチ間隔に分離配置する方法。」 (1)-4 審判甲第5号証:特開平4-8499号公報 (1)-4-1 審判甲第5号証には,次のような事項が記載されている。
ア.「第1図から第3図において,1は・・・細長い食パンBを横にしてスライサー2へ供給するトレイである。
スライサー2においてスライスされた食パンBは,仕切板5によって所定枚数毎区分された状態(図示の場合は3分割)でエンドレスのインフィードコンベア3上へ供給される。」(3頁右上欄15行目〜同頁左下欄4行目) イ.「インフィードコンベア3は仕切バー4の間隔だけ間欠的に駆動され,スライサー2から出る食パンBの後端を仕切バー4に係合させて間欠的に後述のアウトフィードコンベアへと送る。」(3頁左下欄7〜12行目) ウ.第1〜4図の記載及び技術常識参酌すると,同第1〜4図から,「スライスされた食パンの所定枚数毎の複数個の間に側方から仕切板5を挿入すること」が看取できる。
(1)-4-2 これらの記載事項によると,審判甲第5号証には,次のとおりの発明が記載されていると認めることができる。
「スライスされた食パンの所定枚数毎の3つの群の間に側方から2つの仕切板5をそれぞれ挿入して所定枚数毎に分割された食パンを押し出して排出するスライスされた食パンの分割供給方法。」 (1)-5 審判甲第6号証:米国特許第2,211,433号明細書 審判甲第6号証には,全体の記載からみて,次のような発明が記載されていると認めることができる。
「スライス食パンを1個の楔状のブレード24に向けて進行させ,食パンの複数枚からなる2つの分断ローフl,l′に分割し,一対のガイド部材20,22及び21,23により仕切られたスライス食パンを並列に搬送して包装コンベアに供給する方法。」 (1)-6 審判甲第7号証:特開平4-223925号公報 審判甲第7号証には,全体の記載からみて,次のような発明が記載されていると認めることができる。
「成形された容器を成形機の口板(4)からコンベヤ(6)へ取り出すための押出し装置において,プシャフィンガ(20,22,24)が容器のラインの方向に相対的に移動できるように設けられており,押出し装置は,コンベヤ(6)上の容器の間隔が口板(4)上の容器の間隔から変えられるように,プシャフィンガを,口板(4)上の容器に接触する位置と,コンベヤ(6)上に容器を解放する位置との間で移動させるための手段を備えている取出し装置。」 (2) 本件発明と審判甲第2号証記載の発明ないし審判甲第4号証記載の発明との対比 (2)-1 本件発明と審判甲第2号証記載の発明との対比 (2)-1-1 本件発明と審判甲第2号証記載の発明とを対比すると,審判甲第2号証記載の発明の「食パンの複数枚からなる分断ローフl,l′の対向する面の間に隙間を増大して形成させ」は,その技術的意義において,本件発明の「食パンの所定枚数毎の間に隙間を形成させ」に相当し,以下同様に,「食パンの複数枚からなる2つの分断ローフl,l′に分割された食パン」は「所定枚数毎に分割された食パン」に,「スライスされた食パンを分割して次の工程のために供給する方法」は「食パンの分割供給方法」に,それぞれ相当する。
また,本件発明の「互いに近接・離間可能に並列に支持された複数個の受け板」と審判甲第2号証記載の発明の「その上をスライスされた食パンLを前方に動かし,食パンの複数枚からなる2つの分断ローフl,l′の対向する面の間に1個の隙間を増大して形成させる,食パンが分割されるべきスライス切り口と一致するように位置決めされた稜線4のお互いに離れる方向で斜め下方に延び,前方に進むに従って傾斜が増大する食パン支持スライド2,3からなる分割プレート1」とは,「食パンの所定枚数毎の間に隙間を形成することに寄与する底部支持板」の限度において一致し,本件発明の「食パンの複数個の隙間に下方から上方に挿入される仕切り板」と審判甲第2号証記載の発明の「食パンの1個の隙間に側方から挿入される一対のデバイダーガイド14,15」とは,共に少なくとも食パンの分割状態を維持する機能を有するから「介在物」の限度において一致していると認めることができる。
(2)-1-2 してみると,本件発明と審判甲第2号証記載の発明との一致点及び相違点は,次のとおりである。
<一致点> 食パンの所定枚数毎の間に隙間を形成することに寄与する底部支持板の上の食パンの所定枚数毎の間に隙間を形成させ,前記底部支持板上の食パンの前記隙間に介在物を挿入して所定枚数毎に分割された食パンを押し出して排出する食パンの分割供給方法。
<相違点> ア.本件発明では,「互いに近接・離間可能に並列に支持された複数個の受け板の上にスライスされた食パンを載置しスライス食パンの上部を上部押さえで保持した後,相隣る前記受け板の間と,前記上部押さえの間にそれぞれ複数個の隙間を形成させ」及び「前記受け板の上に載置された食パンの前記複数個の隙間に下方より上方に仕切り板を挿入し」となっているのに対し,審判甲第2号証記載の発明では,「食パンが分割されるべきスライス切り口と一致するように位置決めされた稜線4のお互いに離れる方向で斜め下方に延び,前方に進むに従って傾斜が増大する食パン支持スライド2,3からなる分割プレート1上をスライスされた食パンLを前方に動かし,食パンの複数枚からなる2つの分断ローフl,l′の対向する面の間に1個の隙間を増大して形成させ」及び「前記分割プレート1上の食パンの前記1個の隙間に側方から一対のデバイダーガイド14,15を挿入して」となっている点。
(2)-2 本件発明と審判甲第3号証記載の発明との対比 (2)-2-1 本件発明と審判甲第3号証記載の発明とを対比すると,審判甲第3号証記載の発明の「相隣る前記コンベア(6)(7)」は,その技術的意義において,「相隣る受け板」に相当し,以下同様に,「次工程へと移す」は「排出する」に,それぞれ相当する。
また,本件発明の「スライスされた食パン」と審判甲第3号証記載の発明の「積載品(2)」とは,「被供給物」の限度において一致し,本件発明の「食パンの所定枚数毎」と審判甲第3号証記載の発明の「積載品山(21)(22)」とは,「供給単位の被供給物」の限度において一致し,本件発明の「スライスされた食パンの分割供給方法」と審判甲第3号証記載の発明の「積載品の分割方法」とは,「被供給物の分割供給方法」の限度において一致していると認めることができる。
(2)-2-2 してみると,本件発明と審判甲第3号証記載の発明との一致点及び相違点は,次のとおりである。
<一致点> 近接・離間可能に並列に支持された複数個の受け板の上に被供給物を載置した後,相隣る前記受け板の間に隙間を形成させることによって前記受け板の上に載置された被供給物を供給単位の間に隙間を形成させ,供給単位の分割された被供給物を次の工程のために排出する被供給物の分割供給方法。
<相違点> イ.被供給物の種類及び載置される態様について,本件発明では,「スライスされた食パンの所定枚数毎の間に隙間を形成させ,所定枚数毎に分割された食パンを押し出して排出するスライスされた食パンの分割供給方法」となっているのに対し,審判甲第3号証記載の発明では,「積載品(2)の積載品山(21)と(22)の間に隙間を形成させて積載品山(21)と(22)に分割し,分割された積載品山(21)(22)を取り次工程へと移す積載品の分割方法」となっている点。
ウ.受け板の構成,隙間の数及び分割の態様について,本件発明では,「互いに近接・離間可能に並列に支持された複数個の受け板の上にスライスされた食パンを載置しスライス食パンの上部を上部押さえで保持した後,相隣る前記受け板の間と,前記上部押さえの間にそれぞれ複数個の隙間を形成させることによって前記受け板の上に載置された食パンの所定枚数毎の間に複数個の隙間を形成させ,前記受け板の上に載置された食パンの前記複数個の隙間に下方から上方へ仕切り板を挿入して所定枚数毎に分割された食パンを押し出して排出する」となっているのに対し,審判甲第3号証記載の発明では,「分割コンベア(5)のコンベア(6)(7)が本体部に対して近接・離間可能に並列に支持された分割コンベア(5)の上に積載品(2)を載置した後,相隣る前記本体部とコンベア(6)(7)の間に1個の隙間を形成させ,さらに,相隣る前記コンベア(6)(7)の間に1個の隙間を形成することによって前記コンベア(6)(7)の上に載置された積載品(2)の積載品山(21)と(22)の間に隙間を形成させて積載品山(21)と(22)に分割し,分割された積載品山(21)(22)を1山ずつロボット等によりつかみ取り次工程へと移す」となっている点。
(2)-3 本件発明と審判甲第4号証記載の発明との対比 (2)-3-1 本件発明と審判甲第4号証記載の発明とを対比すると,審判甲第4号証記載の発明の「2個の移動台12及び筺体10」は,その技術的意義において,本件発明の「受け板」に相当し,以下同様に,「所定ピッチ間隔に分離配置する方法」は「分割供給方法」に相当する。
また,本件発明の「スライスされた食パン」と審判甲第4号証記載の発明の「ICデバイス2」とは,「被供給物」の限度において一致し,本件発明の「食パンの所定枚数毎」と審判甲第4号証記載の発明の「1個のICデバイス2,他の1個のICデバイス2」とは,「供給単位の被供給物」の限度において一致していると認めることができる。
(2)-3-2 してみると,本件発明と審判甲第4号証記載の発明との一致点及び相違点は,次のとおりである。
<一致点> 近接・離間可能に並列に支持された複数個の受け板の上に被供給物を載置した後,相隣る前記受け板の間に複数個の隙間を形成させることによって前記受け板の上に載置された2個の供給単位の被供給物と所定の被供給物の間に複数個の隙間を形成させ,分割された被供給物を排出する被供給物の分割供給方法。
<相違点> エ.被供給物の種類及び載置される態様について,本件発明では,「スライスされた食パンの所定枚数毎の間に隙間を形成させ,所定枚数毎に分割された食パンを押し出して排出するスライスされた食パンの分割供給方法」となっているのに対し,審判甲第4号証記載の発明では,「多数のICデバイス2のうちの,1個のICデバイス2,他の1個のICデバイス2及び残りのICデバイス2の間に2個の隙間を形成させ,分離された1個のICデバイス2と他の1個のICデバイス2を同時に次工程に移送するICデバイス2を所定ピッチ間隔に分離配置する方法」となっている点。
オ.受け板の構成,隙間の数及び分割の態様について,本件発明では,「互いに近接・離間可能に並列に支持された複数個の受け板の上にスライスされた食パンを載置しスライス食パンの上部を上部押さえで保持した後,相隣る前記受け板の間と,前記上部押さえの間にそれぞれ複数個の隙間を形成させることによって前記受け板の上に載置された食パンの所定枚数毎の間に複数個の隙間を形成させ,前記受け板の上に載置された食パンの前記複数個の隙間に下方から上方へ仕切り板を挿入して所定枚数毎に分割された食パンを押し出して排出する」となっているのに対し,審判甲第3号証記載の発明では,「互いに近接・離間可能に並列に支持された2個の移動台12を筺体10に対して近接・離間可能に並列に支持してそれらの上に多数のICデバイス2を載置した後,相隣る前記移動台12及び筺体10の間に2個の隙間を形成させることによって前記移動台12及び筺体10の上に載置された1個のICデバイス2,他の1個のICデバイス2及び残りのICデバイス2の間に2個の隙間を形成させ,分離された1個のICデバイス2と他の1個のICデバイス2を同時に次工程に移送する」となっている点。
(2)-4 審判甲第2号証記載の発明に審判甲第3号証記載の発明を適用することについて 請求人(原告)は,「本件発明は,審判甲第2号証記載の発明に審判甲第3号証記載の発明を適用することにより,当業者が容易に発明をすることができたものである。」旨主張しているので,これについて検討する。
(2)-4-1 本件発明と審判甲第2号証記載の発明との対比における相違点アの検討及び判断 相違点アに係る本件発明の構成要件技術的意義は,訂正後の願書に添付された明細書の記載「【従来の技術】 焼き上がった長い食パンをスライスしたのち,1斤,1斤半・・・毎に包装するため分割する必要がある。従来は,スライスした食パンを搬送する通路に,分割する厚さに対応する間隔で,スライス刃に続く薄い仕切り板を設け,スライス後の食パンを分割された状態で包装装置に送っていた(特願平2-109817号など)。
この仕切り板で搬送通路を仕切るやり方だと仕切り板と食パンの間の抵抗のため食パンが歪んだり,抜け出してしまったりする不具合があった。また,分割量を変更する度に仕切り板の位置を変える必要があり,そのときは装置の稼働を停めて作業をやるが,その作業が煩わしい上に,相当の装置稼働停止時間を必要とするという欠点があった。」(段落【0002】),「本発明によって食パン上部押さえを設けた装置としたものでは,底部における受け板による前記作用に加え,受け板上のスライス食パンを食パン上部押さえで保持した状態で分割動作が行われるので,軟らかい食パンでも分割動作中に倒れたりすることなく確実に分割される。また,本発明のスライス食パンの分割供給方法によれば,スライス食パンが載置された受け板と上部押さえを,それぞれ互いに離間させることによって,受け板上に載せられた状態のままでスライス食パンを歪ませたり脱落させることなく分割させることができる。」(段落【0007】),「本発明の分割装置によれば,スライス後の食パンを仕切りなしの通路を搬送してきて,それをその場で確実に分割できるので,従来のもののようにスライス食パンが搬送中に歪んだり脱落したりすることがない。・・・また本発明により,スライス食パンを上下で保持して分割できるものとして構成すれば,軟らかい食パンも確実に分割できる。また,本発明のスライス食パンの分割供給方法によれば,スライス食パンを受け板上に載せた状態のまま,その受け板を互いに離間させることで,歪ませたり脱落させることなく,そのスライス食パンを所定枚数毎に確実に分割させることができる。」(段落【0019】)及び技術常識からみて,該構成要件を具備することにより,「仕切りなしの通路を搬送してきたスライス後のスライス食パンを受け板上に載せた状態のまま,受け板と協動する上部押さえで保持した状態で,スライス食パンを所定枚数毎に複数の隙間ができるように,その受け板を互いに離間させるので,分割動作中に仕切り板と食パンの間の抵抗がなく,それ故,軟らかい食パンでも分割動作中に倒れたり,食パンを歪ませたり脱落させることなく,スライス食パンを所定枚数毎の3つ以上の群に確実に分割させることができる。」といったものと解することができる。
これに対し,上記相違点アに係る審判甲第2号証記載の発明の構成要件では,スライスされた食パンLを食パン支持スライド2,3からなる分割プレート1上を動かすことにより,2つの分断ローフl,l′の対向する面の間に1個の隙間を増大して形成させることを必須とするものであることから,スライス食パンを所定枚数毎の2つの群に分割させるものであって,しかも,分割動作中に食パンと周囲の間の抵抗が不可避なものである。
そして,審判甲第2号証記載の発明は,その構成要件「食パンが分割されるべきスライス切り口と一致するように位置決めされた稜線4のお互いに離れる方向で斜め下方に延び,前方に進むに従って傾斜が増大する食パン支持スライド2,3からなる分割プレート1上をスライスされた食パンLを前方に動かし,食パンの複数枚からなる2つの分断ローフl,l′の対向する面の間に1個の隙間を増大して形成させること」及びそれを実施するための具体的な構成からみて,スライスされた食パンLに複数の隙間を形成して,食パンの複数枚からなる3つ以上の分断ローフとすることが可能ではないので,このように複数の隙間を形成することを妨げる特段の事情があると解することができる。
また,審判甲第3号証記載の発明をみると,「積載品(2)から積載品山(21)(22)の群を分割すること」及び「積載品山(21)(22)の群を2つの積載品山(21)(22)に分割すること」は,いずれも1個の隙間を形成することにより,2つの群に分割するものであって,この点において審判甲第2号証記載の発明と共通するものの,「互いに近接・離間可能に並列に支持された複数個の受け板の上にスライスされた食パンを載置した後,相隣る前記受け板の間に複数個の隙間を形成させることによって前記受け板の上に載置された食パンの所定枚数毎の間に複数個の隙間を形成させること」を構成要件とする本件発明と相違する。
加えて,審判甲第3号証記載の発明は,分割された2つの積載品山(21)と(22)を同時に押し出すような工程を含むものでないことから,2つの積載品山(21)と(22)の隙間に仕切板を挿入する必然性もない。
そうすると,この限りでは,審判甲第3号証記載の発明を審判甲第2号証記載の発明に適用しても,直ちに本件発明の構成要件に至るわけではないし,むしろ,審判甲第3号証記載の発明及び審判甲第2号証記載の発明には,審判甲第3号証記載の発明を審判甲第2号証記載の発明に適用し,さらに,それを上記相違点アに係る本件発明の構成要件のように変更することを妨げる特段の事情があるというべきである。
してみると,上記相違点アは,格別なものであるというほかない。
(2)-4-2 審判甲第2号証記載の発明に審判甲第3号証記載の発明を適用することについてのむすび したがって,上記請求人(原告)の「本件発明は,審判甲第2号証記載の発明に審判甲第3号証記載の発明を適用することにより,当業者が容易に発明をすることができたものである。」旨の主張は,合理性のないものであって,採用することができない。
(2)-5 審判甲第2号証記載の発明に審判甲第4号証記載の発明を適用することについて 請求人(原告)は,「本件発明は,審判甲第2号証記載の発明に審判甲第4号証記載の発明を適用することにより,当業者が容易に発明をすることができたものである。」旨主張しているので,これについて検討する。
(2)-5-1 本件発明と審判甲第2号証記載の発明との対比における相違点アの検討及び判断 上記(2)-4-1で検討したように,審判甲第2号証記載の発明は,その構成要件「食パンが分割されるべきスライス切り口と一致するように位置決めされた稜線4のお互いに離れる方向で斜め下方に延び,前方に進むに従って傾斜が増大する食パン支持スライド2,3からなる分割プレート1上をスライスされた食パンLを前方に動かし,食パンの複数枚からなる2つの分断ローフl,l′の対向する面の間に1個の隙間を増大して形成させること」及びそれを実施するための具体的な構成からみて,スライスされた食パンLに複数の隙間を形成して,食パンの複数枚からなる3つ以上の分断ローフとすることが可能ではないので,このように複数の隙間を形成することを妨げる特段の事情があると解することができる。
また,審判甲第4号証記載の発明をみると,本件発明と一致する点を有するものの,相違点エ及びオを有することは,前示のとおりである。
そして,相違点オを検討すると,審判甲第4号証記載の発明においては,「互いに近接・離間可能に並列に支持」されているのは,「2個の移動台12」であって,「筺体10」は,不動のものであるから,「2個の移動台12」との関係は,「互いに近接・離間可能」ではない。また,審判甲第4号証記載の発明においては,「1個のICデバイス2」及び「他の1個のICデバイス2」は,本件発明の「食パンの所定枚数毎」に対応するかもしれないが,「残りのICデバイス2」は分離作業中刻々変化するものであるから,本件発明の「食パンの所定枚数毎」に対応するとはいえない。さらに,審判甲第4号証記載の発明においては,本件発明の「前記受け板の上に載置された食パンの前記複数個の隙間に下方から上方へ仕切り板を挿入して所定枚数毎に分割された食パンを押し出して排出する」ような「隙間への仕切り板の挿入」を具備していないし,また,審判甲第4号証記載の発明の実施例をみても,その構造上,「1個のICデバイス2」,「他の1個のICデバイス2」及び「残りのICデバイス2」の間に「下方から上方へ仕切り板を挿入して」それらを分割することが直ちに容易といえるものではない。
そうすると,この限りでは,審判甲第4号証記載の発明を審判甲第2号証記載の発明に適用しても,直ちに本件発明の構成要件に至るわけではないし,むしろ,審判甲第4号証記載の発明及び審判甲第2号証記載の発明には,審判甲第4号証記載の発明を審判甲第2号証記載の発明に適用し,さらに,それを上記相違点アに係る本件発明の構成要件のように変更することを妨げる特段の事情があるというべきである。
してみると,上記相違点アは,格別なものであるというほかない。
(2)-5-2 審判甲第2号証記載の発明に審判甲第4号証記載の発明を適用することについてのむすび したがって,請求人(原告)の「本件発明は,審判甲第2号証記載の発明に審判甲第4号証記載の発明を適用することにより,当業者が容易に発明をすることができたものである。」旨の主張は,合理性のないものであって,採用することができない。
原告主張の審決取消事由
1 相違点の認定の誤り(審判甲第3号証記載の発明の認定の誤り) 本件発明に係るスライス食パンの分割供給における「主要な特徴」(すなわち,技術的解決課題を達成して所要の効果を生じさせるために必要とされる基本的な特徴)は,「互いに近接・離間可能に並列に支持された複数個の受け板の上にスライスされた食パンを載置した後,相隣る受け板の間に複数個の隙間を形成させることによって前記受け板の上に載置された食パンの所定枚数毎の間に複数個の隙間を形成させ,所定枚数毎に分割する」ようにした分割方法にある。
審判甲第3号証記載の発明は,その目的,構成及び効果において,まさしく,この「主要な特徴」と実質的に同じものを開示している。
審判甲第3号証記載の発明は,「パレット上の積載品を複数の個別駆動可能な分割コンベア上に押し出し,各々のコンベアを分離することにより積載品を分割することを特徴とする積載品の分割方法」とするものであり,「分割された積載品山(21)(22)を1山ずつロボット等によりつかみ取り次工程へと移す」などといった排出方法は,発明としては関知するところでなく,開示内容はそのような排出方法に限定される性質のものではない。
また,上記請求項1では,「複数の個別駆動可能な分割コンベア・・・,各々のコンベアを分離することにより積載品を分割する」ことを特徴とする分割方法を規定するものであり,当然に「2以上の隙間」が形成されることをも含んだ内容として規定されているものであるから,上記<相違点>として規定するように「1個の隙間を形成することによって前記コンベア(6)(7)の上に載置された積載品(2)の積載品山(21)と(22)の間に隙間を形成させて積載品山(21)と(22)に分割し」などという限定を課せられるべきものはない。
2 相違点の判断の誤り (1) 審判甲第3号証3頁上右欄4〜8行には,次の記載がある。
「もちろん,この発明は以上の例によって限定されるものではない。プッシャー(3)の配置,分割コンベア(5)の構造やその分割機構等の細部については,従来公知のものも含めて種々な態様が可能である。」 この記載は,分割コンベアを用いた分割機構については,「従来公知」のものだけでなく,当業者ならば必要に応じ任意適当に設計できる程度のものであったことを示していると解釈される。
さらに,特許請求の範囲の規定では,分割コンベアについての技術事項を実施例として説明したものに限定せずに,極めて広い概念的なものとして規定しながらも,「パレット上の積載品を・・・分割する」方法として,分割対象を極めて狭く限定したものとしている。このような規定の仕方は,審判甲第3号証の上記3頁上右欄4〜8行の記載を考慮した場合,稚拙なクレームドラフティング(請求項作成)によるものではなく,当該出願に係る発明をなるべく広く規定はするが,「パレット上の積載品を・・・分割する」方法に限定しなければ,従来から知られていた分割技術との差別化ができないとの判断があったものと推測せざるを得ない。
このような視点で考えるとき,本件発明は,基本的に,審判甲第3号証と同じ分割技術を「スライス食パン」に用いただけのものである。
(2) 審決においては,「それを実施するための具体的な構成からみて,スライスされた食パンLに複数の隙間を形成して,食パンの複数枚からなる3つ以上の分断ローフとすることが可能ではないので,このように複数の隙間を形成することを妨げる特段の事情があると解することができる」との点を,審判甲第2号証記載の発明を本件発明に対する進歩性判断の基礎とすることに対する妨げであるとしている。
しかしながら,審決も指摘するように,「【従来の技術】焼き上がった長い食パンをスライスしたのち,1斤,1斤半‥‥毎に包装するため分割する必要がある」という,スライス食パン分割包装における技術的背景(これをより具体的にいうならば,一般的に3斤の長さのローフとして焼成されたものを大半の場合,1斤に分割するという技術的背景)があったことを考えるならば,従来,仕切り板をスライス食パンの中に挿入することにより分割していたことにより生じていた「食パンのゆがみ等」の問題を,仕切り板を入れる前にまず,同スライス食パンを分割し,その後に仕切り板を入れることにより,解決するという(従来技術からみれば)極めて斬新なアイデアを示した審判甲第2号証の発明としては,同技術を,スライス食パンを2つの分断ローフにするだけでなく,3以上の分断ローフにすることができるように改良することが,強く求められていたと解釈することの方が自然である。
そもそも,本件発明は,「方法」の発明であり,しかも,出願当初に「装置」の発明として記載されていたものからみて,極めて観念的な若しくは上位概念的な「方法」として規定されているのである。審決での審判甲第3号証記載の発明の適用における認定は,具体例として示された装置としての比較における相違に引きずられたものである。
すなわち,本件発明は,出願当初「スライスされた食パンの分割装置」とされ,いったんは,その装置の発明として特許されたところを,その装置の発明に内在していた「方法」を抽出して発明として概念規定したものである。これに対し,審判甲第2号証記載の発明はスライスされた食パンの分割装置の発明であるが,本件発明におけると同様に,同装置発明に内在されている方法を抽出すれば, 「スライサーから排出された食パンを,まず分割して隙間を形成し,形成された隙間に搬送用ガイドとしての仕切り部材を挿入し(具体的には,仕切り部材が設定されているコンベアの上に落とし),その後,その仕切り部材に沿って,同食パンを押し出して排出する(ことにより,従来技術で問題となっていた「仕切り板と食パンの間の抵抗のため食パンがゆがんだり,抜け出してしまったりする不具合」を解消した)食パンの分割供給方法」 という概念を把握することができ,このような方法発明の概念に上述の審判甲第3号証に開示のものを適用すれば,本件発明は想到容易であった。
審判甲第2号証には,仕切り板による食パンの「ねじれ等の問題」を解消するための方法として,食パンにあらかじめ隙間を形成する,という技術思想が開示され,審判甲第3号証には,同様に,(仕切り板状の)分割器を,搬送されてきた積載品の中に挿入することにより当該積載品を分割していた従来技術においては「積載品の損傷等」が生じるという問題を解決するためのものとして「パレット上の積載品を複数の個別駆動可能な分割コンベア上に押し出し,各々のコンベアを分離することにより積載品を分割することを特徴とする積載品の分割方法」を提示している。分割の対象が,審判甲第2号証記載の発明では搬送過程にある「スライスされた食パン」であるのに対し,他方では搬送過程にある「積載品」であり,それらは完全に同じというものではないが,本件発明では搬送過程において分割されるべき物品という点では同じであり,いずれの場合も,分割の際の仕切り板状のものを挿入することにより分割を行うという従来技術において生じていた問題を解消するための技術であるという点でも一致している。
したがって,このような技術を,(搬送技術に属する)製パン技術分野における搬送技術の技術者が知ったとき,それらを結びつけて考えることが困難であるとするのは不自然である。
当裁判所の判断
1 取消事由1について (1) 審判甲第3号証(本訴甲第3号証)には,必要とされる積載品山の分割を行うこと,特にかみ込みのある積載品山を分割するに際して,荷くずれや損傷が防止できる技術であることが記載されているが(特に,発明の詳細な説明の「作用」の項),積載品として原料,中間製品,製品等についてこれを特定するような記載がないことを考えると,積載品としてスライスされた食パンをも含み得るということができる。しかし,積載品の荷くずれを抑止するための上部押さえ部材を配すること,また,同じく荷くずれを抑止するために仕切り部材を配することについては,審判甲第3号証に記載ないし示唆があると認めることができない。
また,発明の詳細な説明の「課題を解決するための手段」の項に,分割コンベアについて「複数の」と記載されていて,配設基数が1ないし2基に限られず,必要な基数を配置することが意図されているということはできるが,具体的にどのような分割態様を採用するかは,審判甲第3号証中に明らかにされているものとは認められない。実施例の記載においても,二つの山への分割についてだけであり,複数の山にあらかじめ分割することを意図するものは開示されていない。
審判甲第3号証の請求項(1)においては「各々のコンベアを分離することにより積載品を分割する」と記載され,準備されたコンベア基数分の分割が原理的に可能とも考えられるが,同請求項(3)において「押し出し方向に分割した後に横方向に分割する」と記載されるように,一度全体の山から押し出し方向で分割した後に,その分割方向とは異なる方向である横方向にコンベアを分割することが下位概念として明記されていることと対比したときには,請求項(1)において,全体としての山を分割するに際して,必要とされる分割山数が2個を超えるものであった場合に,同時に2個を超える山に分割する具体的作業の態様が特定されているものと解することはできない。
審判甲第3号証記載の発明において同時に2個を超える山に分割を行う場合を想定する際には,分割された山の間に形成される隙間が複数となること自体は自明であるとしても,複数の隙間を同時に形成する態様を具体的に特定しているものと解することはできない。
(2) 審決では,審判甲第3号証記載の発明が,分割に際して相隣る本体部とコンベア(6)(7)の間,あるいはコンベア(6)(7)の間に隙間を1個形成するものであると具体的に認定しているが,審判甲第3号証には,隙間を1個形成するとの明示はないので,審決のこの認定は正確ではない。
しかし,審決がここで認定したのは,審判甲第3号証において,複数の分割コンベアを用いた具体的な分割態様の特定が明確にはなされておらず,実施例記載を参酌した場合,前記のように一度の分割は基本的に二つの山に分割するものしか明らかにされていないことを指摘したものと理解される。複数の隙間を形成する態様の具体的特定がない以上,これを構成要件として含まないものとした審判甲第3号証記載の発明に関する審決の認定に,結論に影響のある誤りがあるということはできない。
2 取消事由2について (1) 本件発明は,産業上の利用分野として「スライスされた食パンを半斤,1斤,1斤半など所要量に分割するスライスされた食パンの分割供給装置及び分割供給方法に関する」ものとされる(本件明細書(訂正明細書=甲第10号証)段落【0001】【産業上の利用分野】)。
そして,本件発明に係る分割供給方法により得られる作用としては,「本発明のスライス食パンの分割供給方法によれば,スライス食パンが載置された受け板と上部押さえを,それぞれ互いに離間させることによって,受け板上に載せられた状態のままでスライス食パンを歪ませたり脱落させることなく分割させることができる。本発明のスライス食パンの分割供給方法においては,前記受け板の上に載置されて所定枚数毎の間に形成された複数個の隙間に下方から上方へ仕切り板を挿入するので,柔軟に焼き上げられた食パンや薄切りにしたスライス食パンを受け板上で確実に分割することができる。」とされる(本件明細書段落【0007】)。
そして,本件発明の構成を分説するに, @「互いに近接・離間可能に並列に支持された複数個の受け板の上にスライスされた食パンを載置し」 A「スライス食パンの上部を上部押さえで保持した後,」 B「相隣る前記受け板の間と,前記上部押さえの間にそれぞれ複数個の隙間を形成させることによって前記受け板の上に載置された食パンの所定枚数毎の間に複数個の隙間を形成させ,」 C「前記受け板の上に載置された食パンの前記複数個の隙間に下方から上方へ仕切り板を挿入して」 D「所定枚数毎に分割された食パンを押し出して排出する」なる@〜Dを特徴として備えるスライスされた食パンの分割供給方法として記載されている。
よって,本件請求項には,前記作用記載にある「スライス食パンが載置された受け板と上部押さえを,それぞれ互いに離間させることによって,受け板上に載せられた状態のままでスライス食パンを歪ませたり脱落させることなく分割させることができる」に相当する構成要件Bと,同じく作用記載にある「前記受け板の上に載置されて所定枚数毎の間に形成された複数個の隙間に下方から上方へ仕切り板を挿入するので,柔軟に焼き上げられた食パンや薄切りにしたスライス食パンを受け板上で確実に分割することができる」に相当する構成要件Cが明確に特定されたものとなっている。
(2) ここで,本件発明は,その構成により,隙間をあらかじめ形成されていない場合に比較して,分割されるスライス食パンの面に仕切り板が接触しないようになし得ることから, a スライス食パンが上部押さえ部材と仕切り板の間で押し潰されることがない,という作用効果とともに, b 同仕切り板が下方から上方へ向かう挿入方向を採用していることで,少なくともスライス食パンの水平方向への移動を生じることのない,という作用効果も期待できるものと理解することができる。
(3) 審判甲第3号証(本訴甲第3号証)には,「積載品の荷くずれを抑止するための上部押さえ部材を配すること」,「荷くずれを抑止するために仕切り部材を配すること」に関する記載又は示唆があるものとは認められず,これらを審判甲第3号証記載の発明に基づいて想到することはできないというべきである。
また,審判甲第2号証記載の食パン分割供給方法においては,「ホールドダウンプレート9」が,「食パン支持スライド2,3」と協働してスライスされた食パンを上下から支持しているので,「ホールドダウンプレート9」を本件発明の「上部押さえ部材」と対比するに,スライスされた食パンを所要枚数毎に分割する機能は,近接・離間の駆動なしに固定状態で徐々に傾斜する形状とされた「食パン支持スライド2,3」により得られているものであって,前記「ホールドダウンプレート9」は,この分割工程中にスライスされた食パンを同一箇所に保持するものではなく,食パンが傾斜するにつれて接触する部位が徐々にずれていく以外の構成は,そこに開示されていない。
他方,本件発明においては,「相隣る前記受け板の間と,前記上部押さえ部材の間にそれぞれ複数個の隙間を形成させる」と特定されているように,「上部押さえ部材」においても分割工程中に「受け板」と同様に複数個の隙間を形成されることから,食パンの同一箇所を保持しているものということができる。
したがって,審判甲第2号証における「ホールドダウンプレート9」は,複数個の隙間を形成されるものでない点で,本件発明の「上部押さえ部材」とは異なるものである。
(4) よって,取消事由2も理由がない。
結論
以上のとおり,原告主張の審決取消事由は理由がないので,原告の請求は棄却されるべきである。
裁判長裁判官 塚原朋一
裁判官 塩月秀平
裁判官 野輝久