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関連審決 無効2015-800007
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事件 平成 29年 (行ケ) 10212号 審決取消請求事件

原告 株式会社エヌ・エル・エー
訴訟代理人弁護士 永野周志
訴訟代理人弁理士 森博
被告株式会社東洋新薬
訴訟代理人弁護士 成川弘樹
訴訟代理人弁理士 高津一也
訴訟復代理人弁理士 大崎絵美
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2018/10/11
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
請求
特許庁が無効2015-800007号事件について平成29年10月17 日にした審決中「本件審判の請求は,成り立たない。」との部分を取り消す。
事案の概要
1 特許庁における手続の経緯等 (1) 被告は,平成25年3月26日,発明の名称を「黒ショウガ成分含有組成 物」とする特許出願をし(特願2013-64545号。優先日は平成24 1 年9月13日,優先権主張国は日本国。),平成26年7月4日,特許権の 設定登録を受けた(特許第5569848号。請求項の数は2。以下「本件 特許」という。)。
(2) 原告は,平成27年1月8日,特許庁に対し,本件特許の特許請求の範囲 請求項1及び2に記載された発明について特許無効審判を請求した。
特許庁は,これを無効2015-800007号事件として審理した上, 同年9月25日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし(以 下「第一次審決」という。),その謄本は,同年10月5日,原告に送達さ れた。
(3) 第一次審決に不服のある原告は,その取消しを求める訴えを知的財産高等 裁判所に提起し(平成27年(行ケ)第10231号),同裁判所は,平成 29年2月22日,第一次審決を取り消す旨の判決を言い渡した(以下「前 訴判決」という。)。
(4) 特許庁は,前訴判決の確定を受けて更に上記審判事件の審理を継続し,被 告は,平成29年4月6日,特許請求の範囲の記載を訂正すべく訂正請求を 行った(乙1。以下「本件訂正」という。)。
(5) 特許庁は,平成29年10月17日,本件訂正を認めた上で,「本件審判 の請求は,成り立たない。」との審決をし(以下「本件審決」という。), その謄本は,同月26日,原告に送達された。
(6) 本件審決に不服のある原告は,平成29年11月22日,その取消しを求
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2特許請求の範囲の記載本件訂正後の特許請求の範囲の記載は,次のとおりである(以下,それぞれ「本件訂正発明1」,「本件訂正発明2」といい,併せて「本件訂正発明」という。また,本件訂正発明に係る明細書及び図面〔甲12〕を併せて「本件明細書」という。)。
2 「【請求項1】黒ショウガ成分を含有する粒子を芯材として,その表面の全部を,ナタネ油あるいはパーム油を含むコート剤にて被覆したことを特徴とする組成物。
【請求項2】経口用である請求項1に記載の組成物。」なお,本件訂正は,特許請求の範囲請求項1に「その表面の一部又は全部を,」と記載されているのを「その表面の全部を,」に訂正したものである(従属項である請求項2についても同様である。)。
3本件審決の理由の要旨(1)本件審決の理由は,別紙審決書の写しに記載のとおりである。
要するに,@本件訂正発明は,いずれも本件特許の優先日(平成24年9月13日。以下「本件優先日」という。)前に頒布された刊行物である,以下の甲1ないし甲7に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえないから,いずれも特許法29条2項の規定により,特許を受けることができないとはいえない,A本件明細書の発明の詳細な説明には,原告が指摘する記載上の不備はないから,本件訂正発明に係る特許(本件特許)が特許法36条4項1号の要件(実施可能要件)を満たしていないとはいえない,B本件訂正後の特許請求の範囲には,原告が指摘する記載上の不備はないから,本件訂正発明に係る特許(本件特許)が特許法36条6項1号の要件(サポート要件)及び同項2号の要件(明確性要件)を満たしていないとはいえない,というものである。
甲1特開2009-67731号公報甲2特開2011-236133号公報甲3特開2001-316259号公報甲4特開2009-46438号公報甲5特開2009-1513号公報3 甲6高橋誠「食品素材の『ナノサイズ』カプセル化技術の開発」オレオサイエンス第8巻第4号(2008年)151〜157頁甲7「食品の機能性を評価するために」JFRLニュース第3巻第9号(2009年)1〜4頁(2)本件審決が認定した引用発明(甲3発明),本件訂正発明1と甲3発明との一致点及び相違点は,以下のとおりである。
ア甲3発明「菜種極度硬化油及びポリグリセリン脂肪酸エステルを混合して加熱融解し,ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルを混合し,茶ポリフェノールを加えた油性懸濁液を調製し,これをコボールミルに掛けることによって得られた平均粒子径1.0μmのポリフェノール微細化物を準備する工程,及び水を予め65〜70℃に加温しておき,ホモミキサーで撹拌しながら,デキストリン,酸カゼイン,炭酸ナトリウム,グリセリン脂肪酸有機酸エステル,ポリグリセリン脂肪酸エステルを順次加え,完全に溶解し,引き続きホモミキサーで撹拌し,65〜70℃を保持したまま,予め加熱融解しておいた上記ポリフェノール微細化物を徐々に投入し乳化させ,その後噴霧乾燥にて乾燥粉末化する工程によって得られた,水中油滴分散型油脂被覆ポリフェノール類製剤の粉末品」の発明イ本件訂正発明1と甲3発明との一致点「粒子を芯材として,その表面の全部を,ナタネ油を含むコート剤にて被覆した組成物」である点。
ウ本件訂正発明1と甲3発明との相違点本件訂正発明1では,芯材として「黒ショウガ成分を含有する粒子」が用いられるのに対して,甲3発明では,芯材として茶ポリフェノール類固体粒子が用いられる点。
4取消事由4 (1)進歩性に関する判断の誤り(2)サポート要件に関する判断の誤り第3当事者の主張1取消事由1(進歩性に関する判断の誤り)について(原告の主張)(1)本件審決は,@甲3発明の構成のうち本件訂正発明1と相違する部分(相違点に係る甲3発明の構成)である「茶ポリフェノール粒子」を,甲2に記載された「黒ショウガ粉末を含有するキサンチンオキシダーゼ阻害剤であって,フラボノイドを有効成分とし,当該有効成分を経口摂取するもの」や,甲1に記載された「冷え性改善用の黒ショウガの根茎加工物,抽出物,黒ショウガ搾汁液及び/または黒ショウガ搾汁液の抽出物の乾燥粉末」に置換可能であること自体は当業者が想起し得るとした上で,Aその効果は,甲1ないし7に記載も示唆もされておらず,当業者が予測し得えたものではない格別顕著なものといえるから,本件訂正発明1は甲1ないし7に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえず,本件訂正発明2についても同様であると判断して,本件訂正発明の進歩性を肯定した。
しかし,上記判断のうち,上記@については誤りがないが,上記Aについては明らかに誤りがあるから,進歩性に関する本件審決の判断は取り消されるべきである。
(2)相違点に係る構成の容易想到性についてア引用発明中の示唆の存在ポリフェノールとは,「分子内に複数のフェノール性ヒドロキシ基」(ベンゼン環,ナフタレン環などの芳香環に結合したヒドロキシ基をもつ植物成分の総称)であって,「多価フェノール」ともいう。そして,ポリフェノール(多価フェノール)には,フラボノイド,フェノール酸,エラグ酸,リグナン,クルクミン,クマリンがあり,フラボノイドには,フラバノン,5 フラバン,フラボン,フラバノール,イソフラノン,アントシアニジン,カルコン類,オーロンがある。
また,甲3の【0007】には,「本発明におけるポリフェノール類は人体に摂取可能なものであれば特に限定するものではなく,フラボン,フラボノール,フラバノン,イソフラボン,アントシアニン,フラバノール等のフラバノイド類,その他の非フラバノイド類,これらの誘導体,重合体等,更に前記化合物を含有する植物体及び該植物体抽出物等何れを使用しても差し支えなく」との記載がある。
そうすると,甲3に記載されている「ポリフェノール類」とは,@多価フェノールとしてのフラボン,フラボノール,フラバノン,イソフラボン,アントシアニン,フラバノール等のフラボノイド類,その他の非フラボノイド類,A多価フェノールの誘導体,B多価フェノールの重合体等,C上記@,A,Bの化合物(多価フェノール化合物)を含有する植物体及びD上記Cの植物体抽出物を意味する。
そして,甲3において,ポリフェノール類やポリフェノール類を含有する植物体が特に限定されないとされていることに鑑みると,甲3の請求項1に係る発明は,ナタネ油あるいはパーム油を始め甲3の【0015】に記載されている油脂を含むコート剤によって「多価フェノール」や「多価フェノール化合物」を被覆する発明だけでなく,ナタネ油等の油脂を含むコート剤によって「多価フェノール化合物」を含有する植物体を被覆する発明をも含んでいるといえる。
また,「ナタネ油を含むコート剤により茶ポリフェノール粒子を被覆する発明」という観点から見ると,甲3は,「甲3発明においてナタネ油を含む油脂で被覆される植物体である茶ポリフェノール粒子を,『多価フェノール』を含有する他の植物体に置換することができる」ことを示唆しているということができる(引用発明中の示唆)。
6 そうすると,甲3においては,甲3発明の茶ポリフェノール粒子を,フラボノイド等を含有する他の植物粒子に置換することが示唆されているといえるから,黒ショウガが多価ポリフェノールを含有するものであれば,「甲3発明の茶ポリフェノール粒子を,フラボノイド等を含有する他の植物粒子に置換することができる」との甲3発明中の示唆に基づき,甲3発明において「茶ポリフェノール粒子」「黒ショウガ成分を含有する粒子」をに置換することは当業者が容易に想到するものであるということができる。
イ黒ショウガの含有成分と呈味黒ショウガがポリフェノール(多価フェノール)を含有することは,甲2,甲28(ウェブページ「クラチャイダムの魅力」),甲29(ウェブページ「黒生姜ちゃんねる|黒生姜の口コミと効能」)及び甲30(ウェブページ「まるごと黒生姜粒-伝承美容を化学する*美的生活研究所」)に記載されており,ポリフェノール(多価フェノール)に苦みや渋みがあることは,甲3の【0002】,甲32(特開2001-309763号公報)に記載されている。
また,黒ショウガに苦みや渋みがあることは,甲30及び甲31(ウェブページ「がちゃ通信|中央クリエイト健康食品事業部」)のほか,本件訂正発明の出願日(平成25年3月26日)よりも後に頒布された刊行物であるが,甲34(特開2013-192513号公報)及び甲35(特開2015-29499号公報)にも記載されている。
さらに,甲33(特開2005-58133号公報)には,ショウガ科植物には苦みや渋みがあると記載されており,黒ショウガもショウガ科に属する植物である(甲34)から,黒ショウガが有する苦みや渋みはショウガ科植物の有するそれと同様であると考えられる。
そして,植物体がその含有する成分の味を有することは,経験則に照らして明らかであり,甲3の【0010】には,苦みや渋みのマスキングの7 ために被覆されるべき「ポリフェノール類」として茶などのツバキ科植物を始めとする多数の植物体が記載されているから,苦みや渋みを有するポリフェノール(多価フェノール)を含有する植物がポリフェノールと同様の苦みや渋みを有することを当然の前提としているといえる。
したがって,ポリフェノール(多価フェノール)を含有する植物体は,ポリフェノール(多価ポリフェノール)に由来する苦みや渋みを有すると認めることができる。
ウ以上を踏まえれば,甲3発明においてナタネ油を含む油脂で被覆される植物体である茶ポリフェノール粒子を,「多価フェノール」を含有する他の植物体に置換することができるとの甲3の示唆(引用発明中の示唆)に基づいて,甲3発明に甲1又は甲2に記載されている「黒ショウガ成分を含有する粒子」を適用し,甲3発明における「茶ポリフェノール類固体粒子」を「黒ショウガ成分を含有する粒子」に置換して甲3発明の構成を本件訂正発明1と同一の構成にすることは,当業者が容易に想到し得るものであるといえる。
したがって,相違点に係る構成が容易想到であるとする本件審決の判断は正当であり,この点において誤りがあるとはいえない。
(3)本件訂正発明の効果についてア原告は,本件明細書における「黒ショウガ成分を含有する粒子をナタネ油やパーム油で被覆すると,黒ショウガ成分に含まれるポリフェノールの生体吸収性が向上する」旨の記載を検証するため,ラットを被験動物に用いて,ナタネ油やパーム油で被覆された黒ショウガ原末を経口摂取したラットの血中ポリフェノール濃度の測定実験を行った(甲23。以下「甲23再現実験」という。)。
甲23再現実験では,被験物質におけるコート層の被覆量の種類を,@本件明細書においてコート層の好ましい被覆量の最大値として記載されて8 いる50重量部と,A本件明細書においてコート層の好ましい被覆量の最大値と記載されている50重量部と最小値と記載されている1重量部との中間値である25重量部の二つとして,@ナタネ油25重量部(被験物質2),Aナタネ油50重量部(被験物質3),Bパーム油25重量部(被験物質4)及びCパーム油50重量部(被験物質5)とした。なお,被験物質1は,油脂で被覆されていない黒ショウガ原末である(甲21)。
イ本件明細書において,溶媒に対する溶質の濃度(単位)「mg/mL」はで表されているが,当該単位についての説明がないため,当該単位の分子と分母の意味が分からない。しかし,被験動物であるラットの血中層ポリフェノール濃度を測定するに当たり,同一量の黒ショウガ原末(ポリフェノール)が経口投与されないと各被験物質によるポリフェノール吸収性増進効果を比較することはできないから,甲23再現実験においては,「黒ショウガ原末の重さ」をもって分子(mg)とし,「被覆又は未被覆の黒ショウガ原末とコーン油の合計体積」をもって分母(mL)として,被験物質1ないし5を調製した。
したがって,被験物質1ないし5における黒ショウガ粒子の量(単位はmg),コーティング液組成,黒ショウガ粒子に対する油脂の割合,黒ショウガ濃度は,下記の【表1】に記載のとおりになる。
【表1】9 ウそして,再現実験の結果,被験物質2ないし5を経口摂取した各被験動物の血中ポリフェノール濃度は,被験物質1を経口摂取した被験動物のそれと比較して,被験物質投与後1,4及び8時間の各時点のいずれにおいても有意差は認められなかった(甲23)。
すなわち,被験物質1ないし5の各被験物質を経口摂取したラットの血中ポリフェノール濃度についての「甲23再現実験」の結果を図示すると,次のとおりである。
これによれば,被験物質が黒ショウガ原末100重量部に対してコート剤の被覆量が25重量部である場合における被験動物の血中ポリフェノール濃度は,当該コート剤がナタネ油であるか,パーム油であるかを問わず,黒ショウガ原末が油脂で被覆されていないもの(被験物質1)と比較して,有意差が認められないし,被験物質が黒ショウガ原末100重量部に対してコート剤の被覆量が50重量部である場合における被験動物の血中ポリ10 フェノール濃度も,当該コート剤がナタネ油であるか,パーム油であるかを問わず,黒ショウガ原末が油脂で被覆されていないもの(被験物質1)と比較して,有意差が認められない。
エ仮に,「黒ショウガ成分を含有する粒子」の表面をナタネ油やパーム油で被覆すると,当該油脂で被覆された黒ショウガ成分を含有する粒子を経口摂取した場合における黒ショウガ成分に含まれるポリフェノールの生体吸収性が高まるというのであれば,「黒ショウガ成分を含有する粒子」を被覆するナタネ油やパーム油の被覆量に比例してポリフェノールの体内吸収性も高まるはずであるから,コート剤の被覆量が本件明細書においてコート剤の好ましい被覆量の最大値として記載されている50重量部である被験物質3や被験物質5を経口摂取したラットの血中ポリフェノール濃度は,油脂で被覆されていない被験物質1を経口摂取したラットの血中ポリフェノール濃度と比較して有意差のあるものとなるはずである。
換言すれば,被験物質のコート剤の被覆量が50重量部である場合には,当該被覆量は本件明細書においてコート剤の好ましい被覆量の最大値として記載されている被覆量であるから,当該被覆量の被験物質を経口摂取した被験動物の血中ポリフェノール濃度が,油脂で被覆されていない被験物質を経口摂取した被験動物の血中ポリフェノール濃度に対して有意差のある濃度であることが認められなければ,黒ショウガ成分を含有する粒子」「の表面をナタネ油やパーム油で被覆すると,黒ショウガ成分に含まれるポリフェノールの生体吸収性が高まるとの命題は成り立たない。
しかし,前記ウのとおり,ナタネ油であるコート剤の被覆量が50重量部の被験物質3についての血中ポリフェノール濃度が油脂で被覆されていない被験物質1についての血中ポリフェノール濃度と比較して有意差がある濃度とは認められず,同様に,パーム油であるコート剤の被覆量が50重量部である被験物質5についての血中ポリフェノール濃度も油脂で被覆11 されていない被験物質1についての血中ポリフェノール濃度と比較して有意差がある濃度とは認められない。
オなお,本件審決は,甲23再現実験においては,パーム油やナタネ油による被覆が,黒ショウガ原末の一部にとどまっていた可能性があるから,同実験は本件明細書に記載された実験の結果を否定するものとまではいえないと説示するが,この点ついても前提に誤りがある。
カ以上によれば,本件訂正発明の効果が甲1ないし7に記載された発明や技術事項の効果を上回るとは認められないから,本件訂正発明の効果が「格別顕著な効果」であるとして,本件訂正発明の進歩性を肯定した本件審決の判断は誤りである。
(4)したがって,進歩性に関する本件審決の判断は取り消されるべきである。
(被告の主張)(1)本件訂正発明の容易想到性についてそもそも,甲3発明において,茶ポリフェノール粒子を,甲1及び甲2の黒ショウガ粉末に置換する動機付けはなく,置換することが当業者にとって容易想到とはいえない。
すなわち,本件審決が認定する甲3発明の茶ポリフェノール粒子は,ポリフェノール含有量が少なくとも53%という非常に高濃度のものであり,その実施例で用いられているようなポリフェノール含有量の高いポリフェノール製剤は,そのまま口にすることができないような風味(渋みや苦み)を有している(乙13,14)。
これに対し,黒ショウガに含まれるポリフェノールの量はせいぜい1%程度であり(乙5),黒ショウガにおいては,ポリフェノールに起因する苦みはさほど大きくないことが理解できる。黒ショウガの苦みがさほど大きくないことは,甲1,乙6ないし9の文献からも理解できる。
ところで,甲3発明においては,まず,第1工程において,ポリフェノー12 ル類の固体粒子を,多価アルコール脂肪酸エステルを含む油脂中で微細化し,さらに,第2工程において,該微細化されたポリフェノール類を含有する油脂を多価アルコール脂肪酸エステルの存在下で水中油滴型に乳化するといった非常に煩雑な工程を必須とするものであることから,甲3を見た当業者は,通常は,ポリフェノール類由来の渋み,苦みを低減する必要性が極めて高い原料に対してでなければ,このような煩雑な操作を行おうとすることはない。
特に工業的生産を行う場合には,製造効率やコストの面でこのような煩雑な操作は大きな阻害要因となることから,大きなメリットがない限り,かかる煩雑な操作を行おうとはしない。
すなわち,煩雑な工程でコストの高い処理を行う甲3発明においては,当業者は,実質的にはそのまま口にすることができないような非常に高濃度のポリフェノールを含有するポリフェノール製剤(渋みや苦みが非常に強いもの)しか対象としないのであって,このような甲3発明に,ポリフェノール含有量が数%で絶対的な苦みを有するものではない甲1及び甲2の黒ショウガ粉末を用いようとする動機付けはない(甲3で実質的に対象とされている50%を超える高濃度のポリフェノール製剤と,甲1及び甲2のポリフェノールを1%程度しか含まない黒ショウガ粉末との渋み,苦みの差は歴然としたものであり,甲1及び甲2の黒ショウガ粉末にポリフェノールが含まれているからといって,当業者は,甲3発明においてこれを用いようとは考えない。)。
したがって,甲3発明において,茶ポリフェノール粒子を,甲1及び甲2の黒ショウガ粉末に置換すること(本件訂正発明の構成とすること)はそもそも容易想到とはいえない。
(2)本件訂正発明の効果について原告は,甲23再現実験を根拠に,本件明細書の効果に関する記載が客観的事実に裏付けられたものではないとして本件審決の誤りを指摘するが,本13 件訂正発明の効果は,本件明細書の実施例において明確に示されており,誰の目から見ても効果がある(客観的に見て効果がある)と理解できる。
すなわち,本件明細書の図1には,ナタネ油又はパーム油により被覆された黒ショウガ原末(実施例1,2)を摂取することにより,被覆されていない黒ショウガ原末(比較例)を摂取した場合と比べて,ポリフェノールの体内への吸収性が格段に高められたことが示されている。また,その効果が,当業者に予測できない格別な効果であることは,甲3及びその関連特許に係る甲10(特開2001-309763号公報)の記載からも理解できる。
他方で,原告が行った甲23再現実験には,実験に用いた被験物質の調整に不備があるなど,実施例の方法とは異なる点が多々存在することから,同実験は,本件訂正発明の効果を否定する根拠とはならない(効果に影響する一連の操作の一つにでも不備があれば効果が示されず,適切な実験結果が得られないことは明らかである。)。
したがって,本件訂正発明の効果を否定する原告の主張は理由がない。
2取消事由2(サポート要件に関する判断の誤り)について(原告の主張)前訴判決は,本件明細書においては,実施例1の「パーム油でコートした黒ショウガ原末」の被覆の量や程度について具体的な記載がなされておらず,実施例2についても同様であるから,これらの実施例によってコート剤による被覆の量や程度が不十分である場合においても本件発明の課題を解決できることが示されているとはいえないとの事実認定に基づき,本件発明がサポート要件に適合しないと判断した。
ところで,「黒ショウガ成分を含有する粒子」の表面の全部を僅かな量のコート剤で被覆する態様もコート剤による被覆の量が不十分である場合の一態様であることは自明であるから,たとえ前訴判決にこの態様についての記載がなかったとしても,その態様は,発明の詳細な説明に記載されている本件発明の14 課題を解決できると認識できる範囲を超えるものとの判断がなされているといえる。
本件審決は,前訴判決の拘束力が及ぶ上記事実認定に基づかないで本件訂正発明がサポート要件に適合すると判断しているものであるから,取り消されるべきである。
なお,仮に前訴判決の拘束力が上記事実認定に及ばないとしても,本件明細書には,「黒ショウガ成分を含有する粒子」を「ナタネ油あるいはパーム油を含むコート剤」で被覆したことによって黒ショウガ成分に含まれるポリフェノール類の体内吸収性が高まる結果をもたらすはずである当該「コート剤」の量が記載されていないから,本件訂正発明はサポート要件に適合していない。
(被告の主張)原告は,「黒ショウガ成分を含有する粒子」の表面の全部を僅かな量のコート剤で被覆する態様は発明の詳細な説明に記載されている本件発明(本件訂正発明)の課題を解決できると認識できる範囲を超えると主張するが,前訴判決で問題とされているのは,僅かな部分を被覆した状態だけであって,大部分が被覆された場合までは問題とされておらず,ましてや,全部が被覆された場合が問題とされているわけではない。
なお,本件訂正発明においては,粒子の表面全部を被覆することが特定されているのであるから,全部被覆するための最低量は自ずと決まってくるのであり,原告が主張する僅かな量での被覆とはならない。また,このような被覆量は当業者であれば容易に決定できるものである。
したがって,サポート要件に関する原告の主張は理由がない。
第4当裁判所の判断1本件訂正発明について(1)本件明細書の記載事項証拠(甲12)によれば,おおむね次の記載が認められる。
15 ア技術分野【0001】本発明は,黒ショウガ成分を含有する組成物に関する。
イ背景技術【0002】黒ショウガは学名をケンプフェリア・パルビフローラ(Kaempferiaparviflora)といい,黒ウコンあるいはクラチャイダムの別名を有する。東南アジアに分布し,ショウガ科(Zingiberaceae)ケンプフェリア(Kaempferia)属の植物の一種である。タイやラオス等の伝承医学においては健康食品として知られており,精力増進,滋養強壮等の効果があると言われている。
【0003】黒ショウガに含まれる有効成分としては,…例えば,…ポリフェノールがあり,…さらに,ポリフェノールの一種であるアントシアニンやアントシアニジンが豊富に含まれている…。
【0004】ところで,一般に,人体にとって有用な機能成分が含まれる飲食品等の中には,腸管透過吸収が悪く,その本来の機能が十分発揮されないものも多い。…ポリフェノールを含有する素材においても,一般に摂取されたポリフェノールの生体内に取り込まれる量は極めて少ないことが知られている。…【0005】これらの吸収を促進するため,従来,例えば,…吸収促進剤との併用が提案され…また,…生体の腸管から容易に吸収できる程度までに低分子化する方法が示されている…。
ウ発明が解決しようとする課題【0007】しかしながら,上記方法によっても,ポリフェノールの生体内への吸収性はいまだ十分なものとは言えなかった。また,植物由来のポリフェノールはその植物の種類によって構造や性質が大きく異なるため,他の植物由来のポリフェノールについて知られている吸収性の改善方法を,そのまま黒ショウガに転用することはできない。そして,黒ショウガ成分16 に含まれるポリフェノールについては,どのようなものが腸管透過吸収性を効果的に助けるのかは知られていなかった。
【0008】本発明は,黒ショウガ成分を経口で摂取した場合においても,含まれるポリフェノール類を効果的に体内に吸収することができる組成物を提供することを目的とする。
エ課題を解決するための手段【0009】本発明者らは,油脂を含むコート層で,上述の黒ショウガ成分含有コアの表面の一部又は全部を被覆することにより,意外にも,経口で摂取した場合においても,黒ショウガ成分に含まれるポリフェノール類の体内への吸収性が高まることを見出し,本発明を完成するに至った。
オ発明の効果【0011】本発明によれば,黒ショウガ成分を経口で摂取した場合にも,特に黒ショウガ成分に含まれるポリフェノール類の体内への吸収性を高めると共に,摂取前の黒ショウガ成分の酸化を防止して保存安定性も高め,摂取後の胃液等による変性を防止することができる。
カ発明を実施するための形態【0014】本発明の組成物は,黒ショウガ成分を含有する粒子と,その表面の一部又は全部を被覆した油脂を含むコート層と,を含む。本発明の組成物は,経口で摂取した場合においても,黒ショウガ成分の体内への吸収性が高い。…【0015】黒ショウガ成分を含有する粒子とは,黒ショウガに由来する成分を含む粒子のことを言い,黒ショウガに由来する成分を含み,かつ粉末化,粒子化,顆粒化等されていれば,黒ショウガの加工方法について特に制限はない。例えば,黒ショウガの乾燥粉末,黒ショウガ抽出物を粉末化したもの,黒ショウガ中の成分を任意の方法で分画して粉末化したもの等が該当する。また,この粒子は固体である必要は無く,リポソームや17 マイクロカプセル等液体でも良い。
【0016】上記黒ショウガの乾燥粉末としては,例えば,洗浄後,スライスした黒ショウガを天日,あるいは乾燥機を用いて乾燥後,そのままあるいは適当な形状又は大きさに裁断して得た加工品を,粉砕装置を用いて粉砕することで得ることができる。…【0017】上記黒ショウガ抽出物を粉末化したものとしては,例えば,黒ショウガの抽出物をそのままあるいは濃縮して,液状物,濃縮物,ペースト状で,あるいは,さらにこれらを乾燥した乾燥物の形状で用いることができる。…【0018】上記黒ショウガの抽出物は,黒ショウガ又はその加工物を適切な溶媒で抽出することによって得られる。抽出に使用される溶媒としては,エタノール,…等の低級アルコール,酢酸エチル,…等の低級エステル,アセトン,及びこれらと水との混合物が挙げられる。中でも,本発明の組成物はヒトが摂取することを想定しているものであることから,エタノール単独又は水との混合物(いわゆる含水エタノール),あるいは熱水を使用するのが好ましい。
【0019】溶媒として混合物を使用する場合は,例えば,…,エタノール/水(2/8〜8/2,体積比)混合物等を用いることができる。エタノール/水の場合,黒ショウガの根茎に対して,その質量の2〜20倍質量の溶媒を加え,室温又は加熱下で10分〜48時間程度抽出するのが好ましい。
【0020】また,黒ショウガを細切りしたものを95〜100℃の温度で熱水抽出し,最高濃度に達した抽出液を濾過した後,噴霧乾燥する等の方法で抽出物を得ることも可能である。
【0021】これら用いる抽出方法に特に制限はないが,安全性及び利便性の観点から,できるだけ緩やかな条件で行うことが好ましい。…抽出18 作業後,濾過,遠心分離等の分離操作を行い,不溶物を除去する。これに,必要に応じて希釈,濃縮操作を行うことにより,抽出液を得る。…これらの抽出物は,当業者が通常用いる精製方法により,さらに精製して使用してもよい。
【0022】また,黒ショウガ成分を含有する粒子としては,上記の黒ショウガの乾燥粉末,黒ショウガ抽出物を粉末化したもの,黒ショウガ中の成分を任意の方法で分画して粉末化したもの等をそのまま使用しても良いし,適切な結合剤や賦形剤等を添加の上,公知の湿式,乾式等の顆粒造粒法によって顆粒に成形したものを用いても良い。
【0024】黒ショウガ成分を含有する粒子の粒子径としては,特に制限されるものではなく,目的に応じて粉末,粒子,顆粒等を適宜選択することができる。また,黒ショウガ成分を含有する粒子の粒度としては,特に制限されるものではなく,目的に応じて粉末,粒子,顆粒等を適宜選択することができる。
【0025】上記した黒ショウガ成分を含有する粒子を得るための黒ショウガの使用部位は樹皮,根,葉,又は枝等が使用し得る。なかでも,好ましいのは,根茎である。
【0026】上記黒ショウガ成分を含有する粒子表面の一部又は全部を,油脂を含むコート剤にて被覆することにより,経口で摂取した場合においても,特に黒ショウガ成分に含まれるポリフェノール類の体内への吸収性が高まる。
【0027】さらに,上記油脂コートを行うことにより,ポリフェノール類を含め黒ショウガ成分の酸化を防止し,製品の保存安定性を高めることができる。また,黒ショウガの成分は有機溶剤による抽出にも耐えられるほど丈夫で,胃液等への暴露によっても変性しにくいものであるが,油脂を用いてコートすることによって,より変性防止効果を得ることができ19 る。
【0028】油脂の具体例を以下に示すが,これらに限定するものではない。例えば,大豆,米,ナタネ,カカオ,椰子,ごま,べにばな,パーム,棉,落花生,アボガド,カポック,ケシ,ごぼう,小麦,月見草,つばき,とうもろこし,ひまわり等から得られる一般的な植物性油脂及びこれらの硬化物及び牛,乳,豚,いわし,さば,さめ,さんま,たら等から得られる動物性油脂及びこれらの硬化物等が挙げられ,これらの油脂は1種又は2種以上の混合物が使用できる。なかでも,ナタネ油及びパーム油が好ましく使用できる。
【0029】コート剤には,リン脂質,ステロール類,ワックス類等が共存しても一向に差し支えない。コート剤の被膜性能向上のために,その他の可塑剤を用いることも望ましい。…【0031】また,コート剤には,賦形剤が共存しても一向に差し支えない。賦形剤の使用量に特に制限はなく,使用する油脂や芯材となる黒ショウガ成分を含有する粒子に応じて,適宜調整することができる。
【0032】コート剤による被覆は,特に限定されることなく公知の方法を適用することが可能である。例えば,油脂単独で,あるいは,…水難溶性を示す物質と油脂を混合後に,…適切な溶媒に撹拌して溶解させてコーティング液を作成し,このコーティング液を黒ショウガ成分含有コアにノズル又はアトマイザー等の公知の噴霧器により吹き付けて行うことができる。このときの溶媒として,アルコール溶液,酢酸等の酸性溶液等が例示される。使用量は,油脂あるいは水難溶性を示す物質が溶解すればよく,特に限定されないが,通常,これらの物質が5〜50重量%となるように調製したコーティング液を用いることができる。
【0033】コート剤の被覆量は,油脂の含有量に応じて適宜調整することができ,特に制限されることはないが,黒ショウガ成分を含有する粒20 子100重量部に対し,1〜50重量部とすることが好ましい。
【0035】本発明の組成物は,主に経口用として用いるが,その形態としては,飲食品,製剤等を適宜選択することができる。前記飲食品としては,前記組成物をそのまま使用してもよく,単に水(精製水等)で溶解乃至分散して用いてもよい。
【0038】本発明の飲食品に含まれる前記組成物の含有量としては,特に制限はなく,目的に応じて適宜選択することができる。
【0042】本発明の組成物は,黒ショウガに含有される有効成分の奏する効果を利用した用途であれば,特に限定無く適用することができる。
例えば,本発明の組成物を,主に経口で使用される食品,薬剤等であって,抗酸化作用,冷え症改善作用,体重増加軽減作用,内臓脂肪及び皮下脂肪重量低減作用等の効用を目的に使用することが可能である。
実施例【0044】(ポリフェノール吸収性増進効果)被験物質の調製は以下のようにして行った。
【0045】<実施例1>パーム油でコートした黒ショウガの根茎の乾燥粉末(黒ショウガ原末)をコーン油と混合して150mg/mLに調製し,ボルテックスを用いて懸濁した。
【0046】<実施例2>黒ショウガ原末をナタネ油でコートした以外は,実施例1と同様にして被験物質を得た。
【0047】<比較例1>黒ショウガ原末をコーン油と混合して150mg/mLに調製し,ボルテックスを用いて懸濁した。
【0048】上記被験物質を用いて,下記の要領にて経口で黒ショウガ21 を摂取した際の投与1,4,8時間後(コントロールはブランクとして投与1時間後のみ)に採血して,血中の総ポリフェノール量を測定した。その結果を図1に示す。
【0049】(1)実験動物及び飼育方法6週齢のSD雄性ラットを用意し,5日以上の馴化期間をおいた後,実験に使用した。群分けは,試験直前にランダムに行った。馴化期間の飼料は,市販のMF固形飼料を自由摂取させた。また,試験当日は試験終了まで絶食のままとした。
【0050】(2)被験物質の投与方法16時間以上絶食した後,被験物質溶液を10mL/kgとなるように,ゾンデで強制経口投与した。表1に,採血時間,被験物質及びこれを投与した各群の個体数を示す。
【0051】【表1】【0052】(血清前処理方法)Waters社製の固相抽出カートリッジHLB(60mg)にメタノール(5mL),水(5mL),0.1moL/L塩酸(1mL)を順次通液し,プレコンディショニングとした。つづいて,マウス血清1mLに22 水(1mL),0.1moL/L塩酸(1mL)を加え混合し,前述のカートリッジへ通液し非吸着画分を廃棄した。さらに1.5moL/Lのギ酸水溶液(2mL),メタノール水溶液(5体積%)(2mL)を通液し洗浄した。その後0.1%ギ酸メタノール(3mL)を通液し,溶出した画分を15mLの遠沈管に回収した。得られた画分を,遠心エバポレーター(加熱無し)で一晩減圧濃縮して完全に乾固し,そこに水(200μL)を加え超音波で溶解した。遠心分離後(15,000rpm,5分),上澄を1.5mLエッペンに回収し,総ポリフェノール量測定の検体とした。
【0053】(総ポリフェノール測定方法)各検体100μLを1.5mLエッペンチューブに測り取り,10%(w/w)炭酸ナトリウム(100μL)を加えて10分放置した。さらにFolin-Ciocalteu試薬(100μL)を加え,1時間室温で発色させた。発色したサンプルを遠心分離(15,000rpm,5分)後,上清(200μL)を96-weLLマイクロプレートに移し,730nmの吸光度を測定した。定量用標準には,カテキン一水和物を用いた。
250μg/mLの水溶液を調製し,それを適宜希釈して125,100,75,50,25,12.5μg/mLの標準溶液を調製した。これらを各検体と同様に処理し,測定結果から検量線を作成した。その結果を血清サンプルのデータに適用し,定量結果とした。
【0054】図1から明らかなように,実施例1,2の油脂コートを行った黒ショウガ原末を摂取した群の血中ポリフェノール量は,いずれも黒ショウガ原末を摂取させたものに比べて高い値を示している。特に,ナタネ油でコートを行った実施例2は,血中にとりこまれるポリフェノール量が多く,また,それが長時間にわたり持続することが分かった。
【図1】23 (2)本件訂正発明の技術的意義上記記載によれば,本件訂正発明の技術的意義は,次のとおりであると認められる。
すなわち,黒ショウガは健康食品として知られており,その有効成分はポリフェノールであるものの,一般に飲食品等を通じて摂取されたポリフェノールは腸管透過吸収性が悪く,生体内に取り込まれる量が極めて少ないため,従来は,吸収促進剤との併用等が提案されていた(【0002】〜【0005】)。
しかし,植物由来のポリフェノールは,植物の種類によって構造や性質が大きく異なるため,他の植物由来のポリフェノールについて知られている吸収性の改善方法を,そのまま黒ショウガに転用することはできず,また,黒ショウガ成分に含まれるポリフェノールについても,どのようなものが腸管透過吸収性を効果的に助けるのかは知られていなかった(【0007】)。
本件訂正発明は,「黒ショウガ成分を経口で摂取した場合においても,含まれるポリフェノール類を効果的に体内に吸収することができる組成物を提24 供すること」を課題とするものであり,本件明細書には,当該課題を解決する技術手段として,油脂を含むコート層で,黒ショウガ成分含有コア(黒ショウガ成分を含有する粒子)の表面の全部を被覆することが記載されている(【0008】,【0009】,【0014】)。
本件訂正発明は,この技術手段を備えることで,黒ショウガ成分を経口で摂取した場合の黒ショウガ成分に含まれるポリフェノール類の体内への吸収性を改善できることが,パーム油(実施例1)又はナタネ油(実施例2)で油脂コートを行った黒ショウガ原末と油脂コートを行っていない黒ショウガ原末(比較例1)をラットに摂取させた比較実験の結果により示されている(【0054】,【図1】)。
2引用文献(甲3)の記載事項(1)証拠(甲3)によれば,おおむね次の記載が認められる。
ア特許請求の範囲【請求項1】ポリフェノール類を,多価アルコール脂肪酸エステルを含有する油脂中で微細化する第1工程と,第1工程で得られた該微細化されたポリフェノール類を含有する油脂を,多価アルコール脂肪酸エステルの存在下で水中油滴型に乳化する第2工程により得られるポリフェノール類製剤。
イ従来の技術【0002】ポリフェノール類は特異な生理作用により食品の生理機能付加・増強又は酸化防止剤等に利用される他,医薬品,化粧品,飼料等広範な分野での応用が期待されている。…しかしながら,ポリフェノール類は特異な苦味・渋味を有するため食品用途での利用に制限を受けること及び酸化,熱,光に対して変色しやすく不安定であるという欠点を有する。
ウ発明が解決しようとする課題【0004】本発明の目的は,ポリフェノール類を長期間安定に保ち,25 且つ呈味性,生体吸収性の優れた水系分散可能なポリフェノール類製剤を提供する事にある。
エ課題を解決するための手段【0005】本発明者らは,前記の目的を達成するために鋭意検討を行った結果,ポリフェノール類の固体粒子を多価アルコール脂肪酸エステルを含有する油脂中で微細化する第1工程と,第1工程で得られた該微細化されたポリフェノール類を含有する油脂を多価アルコール脂肪酸エステルの存在下で水中油滴型に乳化する第2工程の処理より,ポリフェノール類特有の渋味・苦味がマスキングされ,且つ優れた安定性が付与されると同時に,従来にない優れた生体吸収性及び生体利用性を有すること,更には本発明ポリフェノール類製剤を含有する食品についても改善がされることを発見し,本発明を完成するに至った。
オ発明の実施の形態【0007】本発明におけるポリフェノール類は人体に摂取可能なものであれば特に限定するものではく,フラボン…等のフラボノイド類,その他の非フラボノイド類,及びこれらの誘導体,重合体等,更に前記化合物を含有する植物体及び該植物体抽出物等何れを使用しても差し支えないが,好ましくは油脂に不溶の固体で且つ物理的破砕によってレーザー回折型粒度分布測定機による平均粒径が3μm以下の微粒子とすることができる性質のものが良い。…【0008】ポリフェノール類の具体例として,カテキン,…エピガロカテキンガレート,…アントシアニン,プロアントシアニジン,…及びこれらの誘導体,重合体,立体異性体から選ばれる少なくとも1種又は2種以上の混合物が挙げられる。
【0009】本発明におけるポリフェノール類を含有する植物体は,特に限定するものではない。即ち,光合成を行う植物はおよそポリフェノー26 ル類を含有するものであり,ポリフェノール類を抽出し得るもの,且つ該抽出物が人体に摂取可能なものであれば良い。植物の具体例を以下に示すがこれらに限定するものではない。
【0010】植物の具体例として,茶等のツバキ科植物,ブドウ等のブドウ科植物,コーヒー等のアカネ科植物,カカオ等のアオギリ科植物,ソバ等のタデ科植物,グーズベリー,…等のユキノシタ科植物,ブルーベリー,…等のツツジ科植物,赤米,…等のイネ科植物,マルベリー等のクワ科植物,エルダーベリー,…等のスイカズラ科植物,プラム,…等のバラ科植物,エンジュ,…等のマメ科植物,紫ヤマイモ等のヤマイモ科植物,カキ等のカキ科植物,ヨモギ,…等のキク科植物,バナナ等のバショウ科植物,ヤマカワラムラサキイモ等のヒルガオ科植物,ローゼル等のアオイ科植物,赤シソ等のシソ科植物,赤キャベツ等のアブラナ科植物等が挙げられ,これらの植物に応じて果実,果皮,花,葉,茎,樹皮,根,塊根,種子,種皮,等の部位が任意に選ばれる。また,該植物体から得られる抽出物の形態としては,固体であり,好ましくは油脂に不溶で且つ物理的破砕によってレーザー回折型粒度分布測定機による平均粒径が3μm以下の微粒子とすることができる性質を有するものが良い。
【0012】本発明のポリフェノール類の含有量は特に限定するものではないが,該微細化物中1〜70重量%である事が好ましく,より好ましくは5〜50重量%であり,更に好ましくは10〜40重量%である。ポリフェノール類の含有量が1重量%より少ない場合は,主剤であるポリフェノール類が微量となりポリフェノール類製剤としての用をなさない。また,ポリフェノール類の含有量が70重量%より多い場合には,該微細化物の構造粘度が極度に高まり流動性を失ってしまうために後の加工特性を著しく狭める事となる。
【0015】本発明第1工程に用いる油脂は特に限定するものではない27 が,常温で液体状態である油脂を用いると,本発明ポリフェノール類製剤の水系分散状態において,固/液分散を維持できず液/液乳化状態となり安定性が低下するため,好ましくは常温で固体を形成するものが良く,通常融点が30℃以上のものを用いる。ポリフェノール類の渋味・苦味のマスキング効果及び本発明ポリフェノール類製剤の水系分散時における物理的応力に対する安定性の面から,より好ましくは融点が35℃以上,更に好ましくは融点が40℃以上,最も好ましくは融点が50℃以上が良い。
油脂の具体例を以下に示すがこれらに限定するものではない。油脂の具体例として,…菜種,…パーム,…とうもろこし,…等から得られる一般的な植物性油脂及びこれらの硬化物…等が挙げられ,これらの油脂は1種または2種以上の混合物が使用できる。また,これらに本来含まれているリン脂質,ステロール類,ワックス類等が共存しても一向に差し支えない。
【0016】本発明第1工程では,微細化されたポリフェノール類固体粒子が多価アルコール脂肪酸エステルを含有する油脂中に均一に分散している状態のもの(以下,微細化物と称す)が得られ,本発明第2工程は,更に多価アルコール脂肪酸エステルを用いて該微細化物を安定に水系分散できる系を構築するものとなる。具体的には,本発明第2工程は該微細化物を該微細化物に含まれる油脂の融点以上の温度で加温することにより液状化し,多価アルコール脂肪酸エステルを用いて水系で乳化後,室温に冷却する。
実施例【0021】<第1工程>実施例1<ポリフェノール微細化物>菜種極度硬化油(融点65℃)52.5重量部及びポリグリセリン脂肪酸エステル…12.5重量部を混合して加熱融解し,ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル5.0重量部…を混合し,湯煎にて温度を65℃28 〜70℃に保ちながら,茶ポリフェノール30重量部(サンフェノンDCF-1,太陽化学株式会社製)を加えた油性懸濁液を調製し,これをコボールミル…に掛け,レーザー回折型粒度分布測定により茶ポリフェノールの平均粒子径が1.0μmとなったポリフェノール微細化物を得た。
【0024】<第2工程>実施例4<ポリフェノール類製剤>水200重量部を予め65〜70℃に加温しておき,ホモミキサーで撹拌しながら,デキストリン52.7重量部…,酸カゼイン15重量部…,炭酸ナトリウム1重量部,グリセリン脂肪酸有機酸エステル0.6重量部…,ポリグリセリン脂肪酸エステル0.7重量部…を順次加え,完全に溶解し,引き続きホモミキサーで撹拌,65〜70℃を保持したまま,予め加熱融解しておいた実施例1のポリフェノール微細化物30重量部を除々に投入し乳化させ,その後噴霧乾燥にて乾燥粉末化し,水中油滴分散型油脂被覆ポリフェノール類製剤の粉末品を得た。
【0029】試験例1<ポリフェノール類製剤の水系分散性>実施例4記載の本発明ポリフェノール類製剤0.5gを20℃の水100mLに添加後軽く撹拌し,撹拌直後及び室温にて1日経過後の水中での分散状態を確認した。対照として以下に示す比較品1及び実施例1で用いた茶ポリフェノールをそれぞれ茶ポリフェノール含量が同量となる様に用いた。その結果を表1に示す。
<比較品1>菜種極度硬化油(融点65℃)50重量部,ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル10重量部…を加熱溶解する。実施例1で用いた茶ポリフェノールを40重量部添加し混合後,ノズル式噴霧装置にて20℃に保った室内へ噴霧し,粒子径200μm〜500μmの油脂被覆ポリフェノール粒子を得た。
【0030】29 【表1】【0031】表1より,比較品1では,水の着色も全くないことから,水中でのポリフェノール溶出は見られず安定であることが確認できたが,全く水に分散しなかった。しかし,実施例4のポリフェノール類製剤は,比較品1と同様に茶ポリフェノールが椰子硬化油脂に被覆されているにもかかわらず,極めて良好な水分散性を示し,かつ良好な安定性を示した。
【0034】試験例3<ポリフェノール類製剤を用いた渋味の低減効果>実施例4及び実施例5で得られたポリフェノール類製剤の渋味の強さを20人のパネラーを使って,渋味官能評価を行なった。官能評価試験は,実施例4及び実施例5のポリフェノール類製剤の水分散液5mLを口腔内に10秒間含んだ後,嚥下して渋味の評価を行なった。尚,実施例4の比較対照として実施例1で用いた茶ポリフェノール(比較品2)を,実施例5の比較対照として実施例2で用いたブドウ種子ポリフェノール(比較品3)をそれぞれ用いて官能評価した。その結果を表2,図2,表3及び図3に示す。数値は評価点の平均を示す。尚,渋味の評価点は次のように定めた。{0点;渋味を全く感じない,1点;殆ど渋味を感じない,2点;やや渋味を感じる,3点;強く渋味を感じる,4点;非常に強く渋味を感じる。}【0035】30 【表2】【0036】【表3】【0037】表2,図2,表3及び図3より,比較品2及び3では,0.2%の濃度で既に官能評価平均点が2点(やや渋味を感じる点数)以上であるのに対し,実施例4及び実施例5のポリフェノール類製剤をその10倍濃度(茶ポリフェノール含有量及びブドウ種子ポリフェノール含有量として2%)で試験した場合であっても,95%のパネラーが官能評価点を0点(渋味を全く感じない)とした。尚,実施例4及び実施例5のポリフェノール類製剤をそれぞれ水に分散せずそのまま服用した場合であっても,31 官能評価平均点はそれぞれ1.35点,1.20点であった。したがって,本発明ポリフェノール類製剤が完全に水に分散出来るにもかかわらず,渋味を感じさせない製剤であることは明らかである。
【図2】【図3】【0038】試験例4<ポリフェノール類製剤の人工消化試験>実施例4のポリフェノール類製剤を用いて第10改正日本薬局方,溶出試験法の試験液第1液の人工胃液及び第2液の人工腸液を用いて人工消化試験を行なった。人工消化液中に遊離したエピガロカテキンガレート含量を測定し,人工消化液中でのポリフェノール遊離率を算出した。その結果,32 人工胃液中では2.3%の遊離率であったのに対し,人口胃液(判決注:人工腸液の誤記であると認められる。)中では89.8%の遊離率を示した。これはポリフェノール微細粒子の全周囲表面上に均一に被覆された油脂被覆剤層によるマイクロカプセルが,腸管に達するまで極めて安定に存在することを示すものであり,腸管に達した後ポリフェノール類を放出する性質を有することを裏付けるものである。
【0039】試験例5<ポリフェノール類製剤の生体吸収性及び生体利用性>本発明ポリフェノール類製剤は,ポリフェノール類微細粒子の全周囲表面上に均質な油脂被覆剤層を形成したマイクロカプセル構造を有するため,安定性及び渋味マスキング効果に優れた製剤となっている。それ故,実際に生体に経口投与した場合の生体吸収性及び生体利用性について改めて確認する必要がある。生体吸収性及び生体利用性の試験は,Nakagawaらの方法…に準じて行った。即ち,健常な男性(23〜48歳の非喫煙者)30人を対象とし,ポリフェノール類製剤投与前12時間は茶及び茶由来成分を含有する飲食を断ち,半数の15人に対し実施例4の茶ポリフェノールを含有するポリフェノール類製剤を,残り半数の15人に対しては対照品として実施例1で用いた茶ポリフェノールを,それぞれ総カテキン含量254mg(エピガロカテキンガレート含量82mg)となるように経口摂取した。経口摂取直前及び摂取後1時間経過時の血液を採取し,血清を分離後血清中のエピガロカテキンガレート含量及び過酸化リン脂質含量を測定した。血清中のエピガロカテキンガレート含量を表4及び図4に,血清中の過酸化リン脂質含量を表5及び図5に示す。
【0040】【表4】33 【0041】【表5】【0042】表4及び図4より,実施例4の本発明ポリフェノール類製剤は,対照品と比較して同等の生体吸収性があることを確認した。更に表5及び図5より,血清中の過酸化リン脂質の減少が確認された。これは,本発明ポリフェノール類製剤が,ポリフェノール類微細粒子の全周囲表面上に均質な油脂被覆剤層を形成したマイクロカプセル構造を有するにもかかわらず,ポリフェノールの生体吸収性及び生体利用性に対し,本発明にかかるマイクロカプセルが何らの障害にもなっていないことを裏付けるものである。
【図4】34 【図5】キ発明の効果【0043】本発明ポリフェノール類製剤は,ポリフェノール類微細粒子の全周囲表面上に均質な油脂被覆剤層を形成したマイクロカプセル構造を有すると同時に優れた水系分散性を発揮するもので,従来にはない極めて安定でかつ渋味・苦味のない水系分散製剤を提供することを可能とするものである。更に,本発明ポリフェノール類製剤は,ポリフェノール類を食品加工から経口摂取,生体吸収及び生体に利用されるまで安定にデリバリーするシステムを構築するものであり,産業上の意義は非常に大きい。
(2)以上によれば,引用文献(甲3)には,次の技術的事項が記載されているものと認められる。
すなわち,甲3には,ポリフェノール類の有する欠点として,特異な苦みや渋みを有するため食品用途での利用に制限を受けること,酸化,熱,光に対して変色しやすく不安定であることが挙げられており(【0002】),また,ポリフェノール類の固体粒子を,多価アルコール脂肪酸エステルを含有する油脂中で微細化する第1工程と,該微細化されたポリフェノール類を含有する油脂を多価アルコール脂肪酸エステルの存在下で水中油滴型に乳化35 する第2工程の処理により,長期間安定に保ち,かつ呈味性,生体吸収性に優れた水系分散可能なポリフェノール類製剤が得られること【0004】(,【0005】,【0043】),更に第1工程の油脂として菜種極度硬化油(融点65℃)を用いること(【0021】)が記載されている。
また,ポリフェノール類としては,フラボノイド類,非フラボノイド類等に加え,それらを含有する植物体や植物体抽出物が使用できる旨の記載があり(【0007】,【0008】),茶等のツバキ科植物,ブドウ等のブドウ科植物,コーヒー等のアカネ科植物を始めとする多数の植物体が例示され(【0009】,【0010】),ポリフェノール類の含有量が1重量%より少ない場合は,主剤であるポリフェノール類が微量となりポリフェノール類製剤として用をなさないこと(【0012】)が記載されている。
さらに,【0005】及び【0043】に記載される効果を裏付けるものとして,試験例1<ポリフェノール類製剤の水系分散性>において,実施例4のポリフェノール類製剤が,1日経過後も変色せず,良好な安定性を示すこと(【0029】〜【0031】),試験例3<ポリフェノール類製剤を用いた渋味の低減効果>において,ポリフェノール類製剤が,渋みを感じさせないこと(【0034】〜【0037】,図2,図3),試験例4<ポリフェノール類製剤の人工消化試験>において,ポリフェノール類製剤が腸管に達するまで極めて安定に存在すること(【0038】),換言すると,生体吸収及び生体に利用されるまで安定にポリフェノールをデリバリーできること,試験例5<ポリフェノール類製剤の生体吸収性及び生体利用性>において,油脂による被覆が生体吸収性及び生体利用性の障害になっていないこと(【0039】〜【0042】,図4,図5)がそれぞれ記載されている。
(3)他方で,引用文献(甲3)には,ポリフェノール類を含有する植物体の具体例として,「黒ショウガ」はもちろん,「ショウガ」や「ウコン」も明示されておらず,また,実施例で使用されているポリフェノールは,茶ポリフ36 ェノール(実施例1),ブドウ種子ポリフェノール(実施例2),エピガロカテキンガレート(実施例3)といった,いずれもポリフェノール含量の高い市販のポリフェノール製剤であることが認められる(各製剤のポリフェノール含量については,甲3の【0023】のほか,乙11の14頁,乙12の【0026】参照)。
3取消事由1(進歩性に関する判断の誤り)について(1)本件審決は,@相違点に係る構成自体は推考容易である(置換可能であること自体は当業者が想起し得る)とした上で,A本件訂正発明の効果は当業者が予測し得ない格別顕著なものであるという理由で,本件訂正発明の進歩性を肯定した。しかし,仮に上記@の容易推考性が認められなければ,上記Aの効果の顕著性について判断するまでもなく,そもそも本件訂正発明について進歩性が認められるべき筋合いのものということになるから,まず,上記@の点の判断,すなわち,相違点に係る構成自体は推考容易であるとの判断の是非について検討する。
(2)呈味に関する技術課題からの検討ア本件審決は,構成が推考容易であることの理由中で,「黒ショウガにはポリフェノールが含まれ,このポリフェノールは一般的には一定程度の苦味を有する」との原告主張を前提とする限り,と説示しており,上記@の判断がかかる原告の主張を前提としていることは明らかである。
したがって,本件優先日における技術常識として,原告主張の前提事実が認められるかどうか,すなわち,本件優先日において,黒ショウガがポリフェノール類特有の(ポリフェノール類に由来する)渋みや苦みを有することを当業者が認識していたといえるか否かが問題になる。
イこの点,甲1(特開2009-67731号公報)には,「黒生姜根茎加工物」を含む冷え性改善用組成物が記載され,当該組成物が飲食品,医薬部外品,医薬品として経口投与されることや,黒ショウガが長期にわた37 り人間に摂取されてきた実績があり,風味に関して難点が少ないことが記載されているが(請求項1〜7,【0013】,【0041】等),黒ショウガがポリフェノール類を含むことは記載されていない。
甲2(特開2011-236133号公報)には,黒ウコンの抽出物及び/又は乾燥粉末が記載されており,黒ウコンが別名で黒ショウガと呼ばれることや,黒ウコンにはポリフェノールが含まれていることも記載されている(請求項1及び4,【0002】,【0024】,【0025】等)。
もっとも,乙5(報告書)によれば,黒ショウガ粉末に含まれる総ポリフェノール量は1%未満とされており(この点について原告の明確な反論はない。),また,黒ウコン(黒ショウガ)が渋みや苦みを有するとの記載は甲2には存在しない。
甲7(「食品の機能性を評価するために」JFRLニュース第3巻第9号〔2009年〕1〜4頁)には,黒ウコンが,古くから長寿・強壮を謳う民間伝統薬として用いられてきたこと,その根茎の切口は濃い紫色で,アントシアニンなどのフラボノイド類を豊富に含むことが記載されている(4頁1〜10行目)。
ほかに本件審決が引用する,(特開2009-46438号公報)甲4,甲5(特開2009-1513号公報)及び甲6(高橋誠「食品素材の『ナノサイズ』カプセル化技術の開発」オレオサイエンス第8巻第4号〔2008年〕151〜157頁)には,そもそも黒ショウガに関する記載自体が存在しない(甲6には,「ウコン」「秋ウコン」に関する記述はあるが,呈味に関する問題は指摘されていない。)。
ウ甲28ないし31(いずれもウェブページの写し)には,「黒生姜,黒ウコンという名前を聞くこともあるかもしれませんが,それはクラチャイダムのことです。」(甲28・1頁),「クラチャイダムにはポリフェノールがたくさん含有している」(甲28・2頁),「黒生姜には,ポリフ38 ェノール…といった命の源となる栄養素が含まれています」(甲29・2頁),「独特の苦味がありますので,かまずにお召し上がりください。」(甲30・4頁),「黒ショウガの苦味と渋みがはちみつでマイルドになったかな?」(甲31・1頁)などといった記載が存在する。
また,甲32(特開2001-309763号公報)には,「ポリフェノール類は特異な苦味・渋味を有するため食品用途での利用に制限を受ける」(【0002】)等の記載が,甲33(特開2005-58133号公報)には,「ウコギ科パナックス属植物である高麗人参…ショウガ科のウコン等…ヤマイモなどの植物体の根茎は…食品原料として広く使用されている」(【0002】)や,「根茎特有の渋みや苦味等」(【0003】)等の記載が,甲34(特開2013-192513号公報)には,「ブラックジンジャー抽出物の有する特有の匂い,苦味,渋味等の不快な呈味を,糖,糖アルコール,可食性酸類,及び人工甘味量の少なくともいずれかである化合物を配合することにより,効果的に抑える」(【0008】)等の記載が,甲35(特開2015-29499号公報)には,「人体によい効果をもたらすと期待されている黒ショウガであるが,効果的に摂取できる経口摂取の上では,独特の刺激的な味や臭いから人によっては経口摂取に抵抗があった」(【0003】)等の記載が存在する。
しかしながら,甲28ないし31については,各ウェブページの作成日や公開日が明記されておらず,各記載が本件優先日より前からウェブサイト上で公開されていたこと,すなわち,各記載内容が本件優先日より前から公知であったことを裏付ける的確な証拠がないから,本件優先日当時の技術常識を示すものとは認められない(もっとも,甲31については,「2010年」や「2011年」に関する記述があることから,本件優先日より前の平成22年や平成23年には公開されていたとみる余地はあるが,その証拠価値が乏しいものであることについては,後記のとおりである。。
)39 また,甲34の公開日は平成25年9月30日,甲35の公開日は平成27年2月16日であり,いずれも本件優先日より後に公開されたものであるから,これらの証拠も本件優先日当時の技術常識を示すものとは認められない。
エ以上からすると,本件優先日当時,黒ショウガにポリフェノールが含まれること(甲2)や,ポリフェノールそれ自体は特異な苦みや渋みを有する物質であること(甲32)は公知であり,また,植物体の根茎が根茎特有の渋みや苦みを有すること(甲33)も公知であって,ウコンと同様に,植物体の根茎の一つである黒ショウガも根茎特有の渋みや苦みを有することは当業者が認識していたと認められる(なお,甲30,31,34,35等が示す黒ショウガの苦みや渋みも,甲33と同様に根茎特有のそれを示していると認められる。したがって,これらの証拠は,仮に参酌するとしても,技術常識として黒ショウガがポリフェノール類特有の渋みや苦みを有するということまで認められることの根拠にはならない。)。
しかしながら,他方で,前記のとおり,黒ショウガに含まれるポリフェノールの量は1%にも満たないとされていることや(乙5),黒ショウガが長期にわたり人間に摂取され,風味に関して難点が少ないと評価されていたこと(甲1)からすると,黒ショウガが,甲3及び甲32に示されるような食品用途での利用に制限を受けるほどの量でポリフェノール類を含んでいるとは認められず,そうだとすれば,本件優先日当時,当業者が,黒ショウガに関し,ポリフェノール類特有の(ポリフェノール類に由来する)特異な苦みや渋みを有するものとまで認識していたとは認められない。
そして,このことは,甲3において,ポリフェノール類を含有する植物体として黒ショウガはもちろん,ショウガやウコンすら例示されていないことや,実施例1及び2において,市販のポリフェノール製剤の原料となっているのは,いずれも黒ショウガ(1%未満)と比べてポリフェノール40 含有量が格段に高い,茶やブドウ種子である(乙28及び29によれば,茶のポリフェノール含有量は10〜18%程度,ブドウ種子のポリフェノール含有量は5%程度であると認められる。)ことからも裏付けられる。
オ以上によれば,本件優先日当時,黒ショウガが,甲3発明の技術課題にあるようなポリフェノール類特有の(ポリフェノール類に由来する)渋みや苦みを有する植物体に該当すると当業者に認識されていたとは認められないから,この点をもって技術課題が共通であるとか,引用発明中の示唆があるということはできない。
(3)呈味以外の技術課題からの検討次に,甲3には,呈味以外の技術課題(安定性,生体吸収性)に関する記載もあることから,この点について検討する。
ア安定性に関する技術課題に関し甲3には,従来技術が有する課題として,「ポリフェノール類は…酸化,熱,光に対して変色しやすく不安定であるという欠点を有する」こと【0(002】)が記載されている。
ところで,前記のとおり,黒ショウガはポリフェノールを含むものであるが,その含有量は1%に満たないものである。そして,黒ショウガに関する本件優先日前の刊行物である甲1,甲2及び甲7を参照しても,黒ショウガに含まれるポリフェノールが,酸化,熱,光に対して変色しやすく不安定であることや,腸管に達するまで安定にデリバリーできない等の技術課題を有していることは記載されていない。
そうすると,黒ショウガに含まれるポリフェノールについて,甲3に記載された安定性に係る技術課題が認識されていたとは認められない。
イ生体吸収性に関する技術課題に関し甲3には,「発明の目的は,…生体吸収性の優れた水系分散可能なポリフェノール類製剤を提供する」こと(【0004】),「従来にない優れ41 た生体吸収性及び生体利用性を有すること,更には本発明ポリフェノール類製剤を含有する食品についても改善がされることを発見し,本発明を完成するに至った」こと(【0005】)が記載されている。
しかしながら,試験例5(ポリフェノール類製剤の生体吸収性及び生体利用性)が示す実験結果は,経口摂取直前及び摂取後1時間経過時の血清中のエピガロカテキンガレート含量の比較結果から,ポリフェノール類製剤が,対照品(茶ポリフェノール)と比較して同等の生体吸収性を有するというものであり(【0039】〜【0042】,図4,図5),上記各記載は,甲3に記載される技術的手段,すなわちナタネ油を含むコート剤の被覆により,当該コート剤の被覆がない場合と比べて,生体吸収性を向上させることを意図したものではない。
したがって,甲3に記載される技術的手段(ナタネ油を含むコート剤の被覆)により,本件明細書に記載されるようなポリフェノール類が効果的に体内に吸収できるという効果を奏することが,甲3に記載されているとは認められない。
(4)以上のとおり,本件優先日当時,黒ショウガが,ポリフェノール類特有の渋みや苦みを有し,食品用途での利用に制限を受けるような植物体に該当すると認識されていたとの前提自体が採用できず(したがって,かかる前提に基づく原告の主張も採用できない。),また,黒ショウガに含まれるポリフェノールについて安定性に係る技術課題が存在したとも認められない。さらに,甲3には,ナタネ油を含むコート剤の被覆という技術的手段により,当該コート剤の被覆がない場合と比較して,ポリフェノール類を効果的に体内に吸収できるという効果を奏することも記載されていない。
加えて,前記のとおり,黒ショウガに含まれるポリフェノールの量は1%未満であるから,黒ショウガを甲3発明に適用すると,油脂や多価アルコール脂肪酸エステル等が配合される結果,ポリフェノール類製剤に含まれるポ42 リフェノール類は微量となり,甲3発明にいうポリフェノール類製剤としての用をなさない可能性も考えられる(甲3【0012】参照)。
そうすると,甲3発明の「茶ポリフェノール粒子」に代えて,甲2に記載された「黒ショウガ粉末を含有するキサンチンオキシダーゼ阻害剤であって,フラボノイドを有効成分とし,当該有効成分を経口摂取するもの」や,甲1に記載された「冷え性改善用の黒ショウガの根茎加工物,抽出物,黒ショウガ搾汁液及び/または黒ショウガ搾汁液の抽出物の乾燥粉末」を適用する動機付けがあるとはいえず,本件訂正発明1の構成を,甲3発明及び甲1ないし7に記載された技術的事項並びに本件優先日技術常識に基づき,当業者が容易に想到し得たということはできない(本件訂正発明1の発明特定事項の全てを含む本件訂正発明2についても同様である。)。
したがって,本件訂正発明は,甲3発明との対比の観点からは,そもそも効果の顕著性について検討するまでもなく進歩性が認められるべき筋合いのものであったといえる。
(5)以上によれば,本件訂正発明について,甲3発明との相違点に係る構成自体は推考容易であるとした上で,顕著な効果が認められることを理由に進歩性を認めた本件審決の判断は,その論理構成に誤りがあるものの,結論においては誤りがないというべきであるから,その余の点(効果の点)について検討するまでもなく,原告主張の取消事由1は理由がない。
4取消事由2(サポート要件に関する判断の誤り)について原告は,@前訴判決は,コート剤による被覆の量や程度が不十分である場合においても本件発明の課題を解決できることが示されているとはいえないとして,本件発明がサポート要件に適合しないと判断しているところ,「黒ショウガ成分を含有する粒子」の表面の全部を僅かな量のコート剤で被覆する態様もコート剤による被覆の量が不十分である場合の一態様であることは自明であるから,たとえ前訴判決にこの態様についての記載がなかったとしても,サポー43 ト要件違反を認めた前訴判決の拘束力が及ぶ,A仮に前訴判決の拘束力が及ばないとしても,本件明細書には,「黒ショウガ成分を含有する粒子」を「ナタネ油あるいはパーム油を含むコート剤」で被覆したことによって黒ショウガ成分に含まれるポリフェノール類の体内吸収性が高まる結果をもたらすはずである当該「コート剤」の量が記載されていないから,本件訂正発明はサポート要件に適合していない,などと主張する。
しかしながら,上記@の点について,黒ショウガ成分を含有する粒子が,その表面の全部についてコート剤で被覆されている場合は,表面の一部がコート剤で被覆されている場合と異なり,相当程度の被覆量でコート剤が用いられることは当業者が理解するところである(例えば,乙35の別紙1,2で示される油脂でコーティングされた健康食品では,全体量の17〜22%,別紙8の健康食品では7〜13%で油脂が用いられている。)から,そもそも,表面の全部をコート剤で被覆する態様は,コート剤の被覆の量や程度が不十分である場合には該当しない。したがって,「表面の全部を僅かな量のコート剤で被覆する態様」なるものを想定して,本件訂正発明にも前訴判決の拘束力が及ぶとする原告の主張は,その前提自体が失当である。
上記Aの点についても,表面の全部がコート剤で被覆された黒ショウガ粒子が,本件発明(本件訂正発明)の課題を解決できることは,実施例1及び2,比較例1の結果から明らかであるといえる。
すなわち,本件明細書の実施例(【0044】〜【0054】,表1及び図1)には,実施例1として,パーム油でコートした黒ショウガの根茎の乾燥粉末(黒ショウガ原末)をコーン油と混合して150mg/mLとし,懸濁することにより調製した被験物質(実施例1被験物質),実施例2として,黒ショウガ原末をナタネ油でコートした以外は,実施例1と同様にして調製した被験物質(実施例2被験物質),及び比較例1として,黒ショウガ原末をコートすることなくコーン油と混合して150mg/mLとし,懸濁することにより調44 製した被験物質(比較例1被験物質)を,それぞれ,6週齢のSD雄性ラットに,10mL/kgとなるように,ゾンデで強制経口投与し,投与の1,4,8時間後(コントロールはブランクとして投与1時間後のみ)に採血して,血中の総ポリフェノール量を測定したところ,実施例1被験物質及び実施例2被験物質を摂取した群の血中ポリフェノール量は,いずれも比較例1被験物質を摂取させたものに比べて高い値を示したことが記載されている。
コート剤の被覆量についても,油脂の含有量に応じて適宜調整することができ,特に制限されることはないが,黒ショウガ成分を含有する粒子100重量部に対し,1〜50重量部とすることが好ましい旨が,本件明細書に記載されている(【0033】)。そして,粒子の表面の全部がコート剤で被覆されている場合は,表面の一部がコート剤で被覆されている場合と異なり,相当程度の被覆量でコート剤が用いられることは前記のとおりであり,この点は技術常識であるといえる。
これらの本件明細書の記載や技術常識を踏まえると,当業者は,たとえ本件明細書に具体的な「コート剤」の量が記載されていなかったとしても,本件訂正発明はその課題が解決できると認識するものと認められる。
以上によれば,サポート要件違反の無効理由を認めなかった本件審決の判断に誤りはなく,原告主張の取消事由2は理由がない。
5結論以上の次第であるから,原告主張の取消事由はいずれも理由がなく,本件審決に取り消されるべき違法はない。
よって,原告の請求を棄却することとし,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第3部45 裁判長裁判官鶴岡稔彦裁判官寺田利彦裁判官間明宏充46
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