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関連審決 無効2002-35326
関連ワード 特許の有効性 /  契約の解除 /  警告 /  権利の濫用(権利濫用) /  信義則 /  実施 /  侵害 /  侵害するおそれ /  販売数量(販売数) /  実施料 /  同意 /  実施権 /  専用実施権 /  通常実施権 /  実施許諾(実施の許諾) /  設定登録 /  対価 /  訂正審判 /  請求の範囲 /  減縮 /  独立特許要件 /  合理的な理由 /  公知事実 / 
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事件 平成 15年 (ワ) 26297号 通常実施権抹消登録請求事件
原告 株式会社林物産
原告 株式会社シンシンブロック
上記両名訴訟代理人弁護士 増田英男
上記両名補佐人弁理士 西良久
被告 株式会社明治ゴム化成
訴訟代理人弁護士 釘澤一郎
同 釘澤知雄
裁判所 東京地方裁判所
判決言渡日 2004/04/28
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1 原告らの請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は,原告らの負担とする。
事実及び理由
請求
1 被告は,原告株式会社林物産(以下「原告林物産」という。)に対し,別紙登録目録記載1の通常実施権について,契約解除を原因とする抹消登録手続をせよ。
2 被告は,原告株式会社シンシンブロック(以下「原告シンシンブロック」という。)に対し,別紙登録目録記載2の通常実施権について,契約解除を原因とする抹消登録手続をせよ。
事案の概要
原告らは,被告に対し後記特許権について通常実施権を設定し,その旨の登録をした。本件は,原告らが,上記通常実施権の設定契約を被告の契約違反により解除したとして,被告に対し,契約解除を原因とする通常実施権設定登録の抹消登録手続を求めた事案である。
1 争いのない事実等 (1) 通常実施権の許諾契約 原告林物産は,特許第1752617号特許(以下「本件特許」といい,その特許権を「本件特許権」という。)の特許権者であり,原告シンシンブロックは,本件特許権の専用実施権者である。
原告らと被告は,平成14年1月16日,原告らが被告に対し,本件特許権について通常実施権を許諾する旨の契約(以下「本件契約」といい,甲2の契約書を「本件契約書」という。)を締結し,被告は,本件契約に基づき,別紙登録目録記載1,2の通常実施権設定登録を受けた。
(2) 本件特許に対する無効審判等 訴外積水化学工業株式会社(以下「積水化学工業」という。)は,本件特許について無効審判請求(無効2002-35326)をし,特許庁は,平成15年5月7日付けで本件特許を無効とする旨の審決をした。
これに対し,原告らは,平成15年6月17日,東京高等裁判所に対し,上記無効審決の取消訴訟を提起した(同庁平成15年(行ケ)第254号)。
(3) 本件契約書の条項 本件契約書には,次の条項が記載されている。なお,以下,本件契約書の条項において,甲は原告林物産を,乙は原告シンシンブロックを,丙は被告をそれぞれ指す。
ア 〔第三者との紛争〕11条1項 甲及び乙は,本施設の秩序ある普及を図るため,本特許(本件特許を指す。)又は甲乙の関係人が出願あるいは所有する工業所有権を第三者が侵害し又は侵害のおそれがあるときは,その排除又は予防に努めるものとし,丙は自らが可能な範囲でこれに協力する(以下,この規定を「本件協力条項」という。)。
イ 〔契約違反〕15条1項 甲,乙及び丙は,いずれかの当事者が本契約の定めに違反した場合は,当該違反者に対して書面によって催告し,催告後30日以内に違反行為が是正されないときは,本契約を解約することができる。ただし,甲,乙及び丙は,合理的な理由がなければ本契約を解約することができず,いずれかの当事者による軽微な過失等を理由に本契約を解約してはならない。
(4) 解除の意思表示 原告らは,被告に対し,平成15年7月23日,申入書を送付し(同月24日到達),同申入書の到達後30日以内に,原告林物産が本件特許の訂正審判請求をすることを承諾する旨の同意書を交付するよう請求し,同意書の交付がない場合は本件契約書15条1項の規定に基づき本件契約を解除する旨の意思表示をした。
これに対し,被告は,原告らに対し,平成15年8月21日付け書面を送付し(そのころ到達),現状の特許請求の範囲で十分に争うことが可能であり,本件契約の前提を崩すような訂正審判には承諾できない旨回答し,同月23日までに,上記同意書を原告に交付しなかった。
2 争点及びこれに関する当事者の主張 (争点) (1) 被告が原告らの訂正審判請求について承諾しなかったことは,本件契約の協力条項に違反するか。
(2) 被告が原告らの訂正審判請求について承諾をしなかったことは,信義則違反又は権利濫用に当たるか。
(原告らの主張) (1) 被告が原告らの訂正審判請求について承諾しなかったことは,本件契約の協力事項に違反する。
本件特許については,積水化学工業が特許庁に無効審判請求し,特許庁が無効審決をしている。このことは,本件特許権に対する「侵害又は侵害のおそれ」ある事柄であると解すべきであるから,被告は,本件協力条項により自らが可能な範囲で原告らの「排除又は予防」に協力する義務がある。
被告の協力義務は,第三者の本件特許権に対する侵害又は侵害のおそれがある場合に,原告らが,これを「排除又は予防」するために,特許権に基づき権利を行使する際に負担するものである。通常,「排除又は予防」は,特許権者が第三者に対し,特許権に基づいて権利行使をすることにより達せられるが,特許権者の権利行使に対して,第三者から,同特許に無効理由があるとして権利濫用の抗弁が提出されることがある。「排除又は予防」には,このような第三者の特許無効や権利濫用の抗弁に対する防御策として訂正審判請求を行うことを含むと解すべきである。したがって,被告には,原告らのする訂正審判請求に対し協力する義務がある。
よって,被告が訂正審判請求の承諾をしないことは,本件協力条項に違反する。
なお,原告らは,訂正審判請求のため,その承諾が必要な関係者に承諾を求めたが,本件特許権の差押債権者である関東信越国税局長及び本件特許権の専用実施権に対する通常実施権者である訴外天昇電気工業株式会社は承諾している。
(2) 被告が訂正審判請求の承諾をしないことは,以下の理由から,信義則違反又は権利濫用となる。
ア 被告製品は,原告らから本件特許権の実施許諾を受けたことにより,平成13年1月26日,社団法人雨水貯留浸透技術協会(以下「雨水協」という。)の技術評価認定を受け,大幅にその販売成績を伸ばすことができた。
イ 近時,本件特許権を侵害する有力な競合品が登場してきており,仮に本件特許が無効とされれば,これらの競合品は自由に販売できることになるから,被告は厳しい価格競争を余儀なくされ,経済上大きな打撃を蒙る可能性が大である。
ウ 本件特許について無効審決がされている以上,特許請求の範囲減縮しなければ,本件特許の無効が確定する蓋然性が極めて高い。被告が訂正審判請求の承諾をしない場合には,原告らにとって存続する可能性の高い本件特許権をすべて失うことになり,その不利益が極めて甚大である。
エ 原告らの訂正審判請求に係る訂正は,無効審判で公知事実として認定された「ニダプラスト」の構造を特許請求の範囲から除外し,独立特許要件を満たすようにするためのものであり,これにより,被告の通常実施権者としての地位には何らの影響を及ぼさず,被告は,従前同様にその製品の販売を継続できる。すなわち,被告にとって,訂正審判請求に対し承諾することは利益になりこそすれ何らの不利益も存在しない。
オ 被告は,訂正内容がどのようなものであっても,訂正審判請求に一切承諾する意思を有しない。このような被告の態度は,訂正審判請求において,通常実施権者の承諾を要件としている制度を濫用して,原告から,無効審判に対する対抗手段に奪おうとするものであって不当である。
(3) 以上のとおりであるから,本件契約は,原告らの前記1(4)の平成15年7月23日付け申入書(同月24日到達)による解除の意思表示後,催告期間である30日を経過した同年8月23日の経過をもって,その効力が消滅した。よって,原告らは被告に対し,本件契約の解除に基づき,別紙登録目録記載の各通常実施権設定登録の抹消登録手続を求める。
(被告の反論) (1) 被告が原告らの訂正審判請求について承諾しなかったことは,以下のとおり,本件契約の協力事項に違反しない。
ア 本件契約書に本件特許権の保全を被告に義務づける記載は存在しない。
本件契約書11条1項の「第三者から本件特許権が侵害又は侵害されるおそれがあるときに,その排除又は予防に努め」る義務を負うのは原告らであって被告ではない。被告に排除又は予防義務がないことは,契約の文言上明白であるから,被告に承諾義務はない。
イ 本件特許は,無効審判及び取消訴訟で無効かどうかが争われているにすぎない。無効審判請求を提起されたこと,無効審決取消訴訟が係属していることは,「第三者から本件特許権が侵害し又は侵害のおそれがある」ことに該当しない。したがって,被告には,本件協力条項にしたがって協力する義務はない。
ウ 本件協力条項では,被告は「自らが可能な範囲でこれに協力する」義務があると規定されている。どのような範囲で協力するかは,被告において自由に決定することができる。したがって,被告が承諾しないことが上記協力義務に違反することにはならない。
(2) 被告が訂正審判請求の承諾をしなかったことは,以下の理由から,信義則に違反しないし,権利濫用にも該当しない。
通常実施権の設定を受けた者が,当該通常実施権の基礎となる特許権の保全に協力しなければならないとする法令上の根拠はない。通常実施権者といえども,経済合理性の観点に照らして,その基礎となる当該特許権等につき無効を争う権利は留保されているのであるから,通常実施権者である被告が本件特許権の保全に協力しなくても信義則に違反しないし,権利濫用にも該当しない。
当裁判所の判断
1 本件契約における解除理由の存否 (1) 事実認定 証拠(甲2,乙1),争いのない事実及び弁論の全趣旨によれば,本件契約締結の経緯及び本件契約の内容等について,以下の事実が認められる。
ア 被告は,平成8年ころから,雨水貯留用充填体・アクアトップ(以下「被告製品」という。)の販売を開始した。これに対して,原告林物産は,平成11年9月及び平成12年7月に,被告製品が本件特許権を侵害する旨の警告書を送付した。原告ら及び被告は,特許庁における判定を経由した後,交渉を行ったすえ,本件契約書を締結した。本件契約において,被告は,原告シンシンブロックに対して,和解金として3000万円,通常実施権対価として,所定の実施料(被告製品の販売数量を容積に換算して,1立法メートル当たり1000円)を支払うことが合意された。
イ 本件契約書において,「原告林物産及び原告シンシンブロックは,雨水等の貯留浸透施設の秩序ある普及を図るため,本件特許又は原告林物産,原告シンシンブロックの関係人が出願あるいは所有する工業所有権を第三者が侵害し又は侵害のおそれがあるときは,その排除又は予防に努めるものとし,被告は自らが可能な範囲でこれに協力する。」旨合意された。
(2) 解除理由の存否についての判断 上記の事実経緯を前提として,本件協力条項違反の有無及び信義則違反等の有無について判断する。
ア 本件協力条項違反の有無 (ア) 本件契約書11条1項は,第三者から本件特許権が侵害又は侵害される恐れがあるときに,その排除又は予防に努める旨の義務を原告らが負う旨規定されている。同条項は,原告らにおいて,被告から所定の実施料等の支払を受けるなどの経済的な利益を得る代わりに,被告に対して,通常実施権を付与し,さらに,第三者が本件特許権を侵害し,又は侵害するおそれが発生するなどの事態が生じた場合には,通常実施権者たる被告のために,侵害行為を排除する義務を負う旨を約した規定であることは明らかである。同項は,「被告は,自らが可能な範囲でこれに協力する」旨規定されているが,同記載部分は,原告らが,本件特許権を侵害するなどの第三者を相手として,本件特許権を行使する際に,侵害態様や被害態様の主張,立証等において被告の協力が必要なときに,可能な範囲での被告の協力義務を規定した趣旨である。
(イ) そうすると,本件においては,積水化学工業が本件特許について無効審判を請求したこと及び特許庁が本件特許について無効審決をしたことは,本件協力条項にいう「本件特許権を侵害し又は侵害するおそれがあるとき」に当たらない。また,上記無効審決の確定を阻止するために,本件特許について訂正審判を請求することは,本件特許権の侵害に対する「排除又は予防」行為に含まれるものではない。
(ウ) 以上のとおり,本件協力条項により被告に協力義務を生じさせるための前提となる「本件特許権を侵害し又は侵害するおそれがある」との事実が認められないから,被告には本件協力条項により原告らの訂正審判請求に協力する義務,すなわち承諾義務はない。また,原告らが訂正審判を請求することは本件特許権に対する「排除又は予防」行為に当たらないから,被告には本件協力条項により訂正審判請求に協力する義務,すなわち承諾義務はない。被告が原告らの訂正審判請求について承諾しなかったことは,本件契約の協力事項に違反しない。
信義則違反の有無 原告らは,被告が訂正審判請求の承諾をしないことが信義則違反又は権利濫用になる旨主張する。同主張は,本件契約の解除理由の存否との関係でいかなる意味を有するのか必ずしも明らかでないが,以下のとおり,原告らの主張は理由がない。
(ア) 特許権の通常実施権の設定を受けた者が,当然に実施許諾を受けた特許の有効性を争うことができないとすると,無効理由を含む特許につき実施料の支払等の不利益を甘受しなければならなくなる。したがって,通常実施権者であっても,特許の有効性を争わない等の格別の合意がされない限り,実施許諾の基礎となった特許の有効性を争うことが許される。この理は,実施許諾の基礎となった特許について,第三者から無効審判請求をされた場合であっても同様であり,特許権者が無効理由を解消させる目的で行う訂正請求ないし訂正審判請求をする際,通常実施権者は,特許の有効性を争わない等の格別の合意をした場合でない限り,特許権者に対して,訂正審判請求等の承諾を与えないことは,当然に許される。
(イ) 本件全証拠によっても,第三者からされた無効審判請求における無効審決に対抗するために原告らが行った訂正審判請求について,被告において承諾を拒否したことが信義則違反及び権利濫用に当たると解すべき事情は何ら存在しない(もとより,被告が承諾することを約した事実もない。)。
したがって,原告らの前記主張は理由がない。
ウ 小括 以上のとおり,被告が原告らの訂正審判請求の承諾をしなかったことは,本件契約の違反にならず,また,信義則違反及び権利濫用に該当しない。
3 結語 よって,その余の点について判断するまでもなく,原告らの請求はいずれも理由がない。
裁判長裁判官 飯村敏明
裁判官 榎戸道也
裁判官 佐野信
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