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関連審決 無効2014-800031
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事件 平成 29年 (行ケ) 10194号 審決取消請求事件
平成 29年 (行ケ) 10190号 審決取消請求事件
第1事件原告・第2事件被告(以下,単に「原告」という。) 日本特殊陶業株式会社
同訴訟代理人弁理士 奥田誠 冨田泰久 第1事件被告・第2事件原告(以下,単に「被告」という。) 株式会社デンソー
同訴訟代理人弁理士 碓氷裕彦 中村広希
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2018/09/20
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1 特許庁が無効2014−800031号事件について平成29年9月26日にした審決のうち,「特許第5104744号の請求項1に係る発明についての特許を無効とする。」との部分を取り消す。
2 原告の請求を棄却する。
3 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
請求
1 第1事件 1 特許庁が無効2014-800031号事件について平成29年9月26日 にした審決のうち,「特許第5104744号の明細書及び特許請求の範囲を 訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり,訂正後の請 求項〔1,2〕,3について訂正することを認める。」との部分及び「特許第 5104744号の請求項2,3に係る発明についての審判請求は,成り立た ない」との部分をいずれも取り消す。
2 第2事件 主文第1項と同旨
前提となる事実(争いがない)
1 特許庁における手続の経緯等 (1) 被告は,平成20年12月18日,発明の名称を「ガスセンサ素子及びそ の製造方法」とする特許出願をし,平成24年10月12日,設定の登録(特 許第5104744号)を受けた(以下「本件特許」という。)。
なお,本件特許の設定登録時の請求項の数は4であったが,後記の平成2 7年5月27日付けの審決(以下「前審決」という。)により,特許請求の 範囲の請求項4を削除した訂正が認められ,当該部分については確定したこ とから,現時点での本件特許の請求項の数は3である。
(2) 原告は,平成26年2月26日,本件特許の請求項1ないし4に記載され た発明につき無効審判を請求した(無効2014-800031号)。
被告は,平成27年2月3日付けで,訂正請求をした。
特許庁は,平成27年5月27日,上記訂正を認めた上,「本件審判の請 求は,成り立たない。」との審決をし,その謄本は,原告に送達された。
原告は,平成27年7月1日,知的財産高等裁判所に前審決の取消しを求 めて訴えを提起した(平成27年(行ケ)第10126号)。同裁判所は, 平成28年6月9日,前審決を取り消す旨の判決(以下「前判決」という。) をし,その後,前判決は確定した。
2 (3) 特許庁において,上記無効審判の審理が再開された。
被告は,平成29年5月24日付けで,本件特許の特許請求の範囲及び明 細書について訂正請求(以下「本件訂正」といい,本件訂正後の明細書及び 図面を「本件明細書」という。)をした。
特許庁は,平成29年9月26日,次のとおりの審決(以下「本件審決」 という。)をした。
「特許第5104744号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付 された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり,訂正後の請求項〔1,2〕, 3について訂正することを認める。
特許第5104744号の請求項1に係る発明についての特許を無効とす る。
特許第5104744号の請求項2,3に係る発明についての審判請求は, 成り立たない。」 本件審決の謄本は,平成29年10月5日,原告及び被告に,それぞれ送 達された。
原告は,平成29年11月1日,第1事件を,被告は,同年10月28日, 第2事件をそれぞれ提起した。
2 特許請求の範囲の記載 本件特許につき,本件訂正後の特許請求の範囲の請求項1ないし3の記載は, 次のとおりである(以下,本件訂正後の請求項に記載された発明を,請求項の 番号に従って「本件発明1」,「本件発明2」などといい,これらを総称して 「本件発明」ともいう。なお,「1A)」等の符号は本件審決で付されたもので ある。)。
(1) 請求項1 1A) 固体電解質シートの両表面の互いに対向する位置に一対の電極を設けて なるガスセンサ素子において, 3 1B) 上記固体電解質シートは,電気絶縁性を有するアルミナ材料からなるア ルミナシートに設けた充填用貫通穴内に,酸素イオン導電性を有するジル コニア材料からなるジルコニア充填部を配設してなり, 1C) 上記一対の電極は,上記ジルコニア充填部の両表面に設けてあり, 1D) 上記アルミナシートの両表面には,該アルミナシートよりも薄く,電気 絶縁性を有するアルミナ材料からなる一対の表面アルミナ層が積層してあ り, 1E) 該一対の表面アルミナ層には,上記ジルコニア充填部の配設箇所に対応 して開口用貫通穴が設けてあり, 1F) 該開口用貫通穴は,上記ジルコニア充填部よりも小さく,上記ジルコニ ア充填部における上記電極よりも大きな形状に形成し, 1G) 上記開口用貫通穴の周縁部は,上記ジルコニア充填部の両表面における 外縁部に重なって, 1H) 上記表面アルミナ層によって,上記ジルコニア充填部が上記充填用貫通 穴から抜け出るのを防止し, 1I) 上記ジルコニア充填部に設けた上記電極と上記開口用貫通穴との隙間か ら,上記ジルコニア充填部の表面を露出させることを特徴とする 1K) ガスセンサ素子。
(2) 請求項2 2A) 請求項1において,上記ガスセンサ素子は,上記ジルコニア充填部を配 設した2枚の上記アルミナシートを,電気絶縁性を有するアルミナ材料か らなるスペーサを介して積層してなり, 2B) 該スペーサによって,上記2枚のアルミナシートにおける上記ジルコニ ア充填部に対応する位置に,被測定ガスを導入するためのチャンバーを形 成したことを特徴とする ガスセンサ素子。
4 (3) 請求項3 3A) 固体電解質シートの両表面の互いに対向する位置に一対の電極を設けて なるガスセンサ素子を製造する方法において, 3B) 電気絶縁性を有するアルミナ材料を用いて,充填用貫通穴を有するアル ミナシートを形成し, 3C) 酸素イオン導電性を有するジルコニア材料からなり,上記充填用貫通穴 の形状に沿った形状のジルコニアシートを,上記充填用貫通穴内に配置し, 3D) 上記ジルコニアシートの両表面に電極を配置し, 3E) 上記ジルコニアシートの両表面における外縁部に開口用貫通穴が重なる 状態で,上記アルミナシートの両表面に電気絶縁性を有するアルミナ材料 からなる一対の表面アルミナ層を配置して, 3F) 該開口用貫通穴は,上記充填用貫通穴よりも小さく,上記ジルコニアシ ートにおける上記電極よりも大きな形状に形成し, 3G) 上記開口用貫通穴の周縁部は,上記ジルコニアシートの両表面における 外縁部に重なって,上記表面アルミナ層によって,上記ジルコニアシート が上記充填用貫通穴から抜け出るのを防止し, 3H) 上記ジルコニアシートに設けた電極と上記開口用貫通穴との隙間から, 上記ジルコニアシートの表面を露出させ, 3I) 上記配置によりシート体を形成し, 3J) 2枚の上記シート体を,電気絶縁性を有するアルミナ材料からなるスペ ーサを介して積層して,上記スペーサによって,上記2枚のシート体にお ける上記ジルコニアシートに対応する位置に,チャンバーを形成し, 3K) 該シート体及び上記スペーサを焼成することを特徴とする 3L) ガスセンサの製造方法
3 本件審決の理由 本件審決の理由は,別紙審決書の写しに記載のとおりである。その概要は 5 @ 特許請求の範囲の請求項1ないし3の記載は,サポート要件及び明確性 要件に適合している, A 本件発明1は,特開2007-278941号公報(平成19年10月 25日公開。甲2)記載の発明(2つの発明が記載されており,以下,そ れぞれ「引用発明2の1」及び「引用発明2の2」といい,これらを総称 して「引用発明2」ともいう。)及び特開2004-93207号公報(平 成16年3月25日公開。甲3)記載の技術(2つの技術が記載されてお り,以下,それぞれ「甲3技術1」及び「甲3技術2」といい,これらを 総称して「甲3技術」ともいう。)に基づいて,当業者が容易に想到でき たものである, B 本件発明2及び3は,いずれも引用発明2及び甲3技術に基づいて,当 業者が容易に想到できたものとはいえない, というものである。
4 本件審決が認定した引用発明2及び甲3技術並びに本件発明と引用発明2と の一致点及び相違点 (1) 引用発明2 ア 引用発明2の1 一対の電極である第1電極404と第2電極406とのうち,第1電極 404は絶縁部材405の表面に配置され,第2電極406は絶縁部材4 05の裏面に配置され, 絶縁部材405は絶縁性材料であるアルミナからなり,厚さ方向に貫通 する貫通孔433を有する板型形状に形成されており,部分安定化ジルコ ニア焼結体で構成されている固体電解質体435が,絶縁部材405にお ける貫通孔433の内部に配置されており, 第1電極404は,第1電極部451全体が固体電解質体435の一部 を覆い, 6 第2電極406は,第2電極部447全体が固体電解質体435の一部 を覆い, 絶縁部材405の裏面には,第2電極406を挟み込むようにして,保 護層407が形成されており, 絶縁部材405の表面には,ヒータ500の第2基体403で第1電極 404を挟み込むようにして,ヒータ500が形成されている,センサ素 子4。
イ 引用発明2の2 厚さ方向に貫通する貫通孔が形成された板型形状の絶縁性材料からなる 絶縁部材と,少なくとも一部が貫通孔に配置された固体電解質体と,少な くとも自身の一部が固体電解質体を覆う電極部と,長手方向に延びて電極 部に接続するリード部と,を有し,絶縁部材および固体電解質体の板面上 に配置される一対の電極と,を備えるガスセンサ素子の製造方法であって, アルミナ粉末97質量%の第1原料粉末と可塑剤とを湿式混合により分 散した第1スラリー,アルミナ粉末63質量%の第2原料粉末と可塑剤と を湿式混合により分散した第2スラリー,ジルコニア粉末97質量%の第 3原料粉末と可塑剤とを湿式混合により分散した第3スラリーを用意し, 第1スラリーを用いて,加工焼成後に絶縁部材405となる未焼成絶縁 部用シート117,焼成後に保護層407となる未焼成シート,焼成後に 第2基体403となる未焼成シートである未焼成第2基体403を形成し, 第2スラリーを用いて,加工焼成後に電極保護部441となる未焼成電 極保護部用シートを形成し, 第3スラリーを用いて,加工焼成後に固体電解質体435となる未焼成 固体電解質体用シート113を形成し, 貫通孔形成工程では,パンチ型307を下降させて未焼成絶縁部用シー ト117に貫通孔433を貫設して未焼成絶縁部材405を作成し, 7 打抜配置工程では,未焼成絶縁部材405の上に未焼成固体電解質体用 シート113を配置し,パンチ型307を下降させ,未焼成固体電解質体 用シート113から未焼成固体電解質体435を繰り抜くとともに,未焼 成絶縁部材405の貫通孔433に未焼成固体電解質体435を挿入し, 未焼成固体電解質体435及び未焼成絶縁部材405と同様にして,焼 成後に保護層407となる未焼成シート及び未焼成電極保護部用シートに 対して貫通孔形成工程,打抜配置工程を行うことで,未焼成補強部408 の貫通孔442に未焼成電極保護部441を配置して,未焼成保護層40 7を形成し, 未焼成固体電解質体435および未焼成絶縁部材405の上に,未焼成 固体電解質体435の一部を覆う第1電極部451を備えた未焼成第1電 極404および未焼成固体電解質体435の一部を覆う第2電極部447 を備えた未焼成第2電極406をスクリーン印刷法により形成し, 未焼成第1電極404を挟み込むようにして,未焼成絶縁部材405を 未焼成第2基体403に対して積層し,未焼成第2電極406を挟み込む ようにして,未焼成保護層407を絶縁部材405に対して積層して,下 方から順に,未焼成第2基体403,未焼成第1電極404,未焼成絶縁 部材405,未焼成第2電極406,未焼成保護層407などが積層され た未焼成成型体を形成し, 焼成工程として,樹脂抜きを行う前焼成を実施した後,さらに本焼成し て, 酸素濃度を検出するセンサ素子4を得る方法。
(2) 甲3技術 ア 甲3技術1 ガスセンサ素子の製造方法において,シート上の導体層との間に隙間を 空けることなくその周縁に接するように,かつ,導体層の平坦部と略面一 8 になるように接着剤を塗布し,シート又はスペーサを重ね合わせた状態で 加圧して積層して中間体を作製し,その後焼成する技術。
イ 甲3技術2 未焼成固体電解質シート16(160)の表面の,電極が設けられた部 位に,被測定ガス室11,12を形成する未焼成積層シートとしてのアル ミナ等の絶縁材料よりなる未焼成スペーサ15(150)を積層し,この 未焼成スペーサの表面に未焼成基板としての未焼成固体電解質シート14 (140)を重ね合わせ,積層を行った中間体を焼成しガスセンサ素子を 製造する技術。
(3) 本件発明1と引用発明2の1との対比 ア 一致点 固体電解質シートの両表面の互いに対向する位置に一対の電極を設けて なるガスセンサ素子において, 上記固体電解質シートは,電気絶縁性を有するアルミナ材料からなるア ルミナシートに設けた充填用貫通穴内に,酸素イオン導電性を有するジル コニア材料からなるジルコニア充填部を配設してなり, 上記一対の電極は,上記ジルコニア充填部の両表面に設けてある,ガス センサ素子 イ 相違点 <相違点1> 本件発明1は, 「1D) 上記アルミナシートの両表面には,該アルミナシートよりも薄く, 電気絶縁性を有するアルミナ材料からなる一対の表面アルミナ層が積 層してあり, 1E) 該一対の表面アルミナ層には,上記ジルコニア充填部の配設箇所に 対応して開口用貫通穴が設けてあり, 9 1F) 該開口用貫通穴は,上記ジルコニア充填用貫通穴よりも小さく,上 記ジルコニア充填部における上記電極よりも大きな形状に形成し, 1G) 上記開口用貫通穴の周縁部は,上記ジルコニア充填部の両表面にお ける外縁部に重なって, 1H) 上記表面アルミナ層によって,上記ジルコニア充填部が上記充填用 貫通穴から抜け出るのを防止し, 1I) 上記ジルコニア充填部に設けた上記電極と上記開口用貫通穴との隙 間から,上記ジルコニア充填部の表面を露出させる」のに対して, 引用発明2の1は,そのような表面アルミナ層を備えていない点。
(4) 本件発明2と引用発明2の1との対比 ア 一致点 上記(3)アと同じ。
イ 相違点 上記相違点1に加え,後記相違点2において相違する。
<相違点2> 本件発明2は,ガスセンサ素子が, 「上記ジルコニア充填部を配設した2枚の上記アルミナシートを,電気絶 縁性を有するアルミナ材料からなるスペーサを介して積層してなり, 2B) 該スペーサによって,上記2枚のアルミナシートにおける上記ジル コニア充填部に対応する位置に,被測定ガスを導入するためのチャン バーを形成した」ものであるのに対して, 引用発明2の1は,その点が不明である点。
(5) 本件発明3と引用発明2の2との対比 ア 一致点 固体電解質シートの両表面の互いに対向する位置に一対の電極を設けて なるガスセンサ素子を製造する方法において, 10 電気絶縁性を有するアルミナ材料を用いて,充填用貫通穴を有するアル ミナシートを形成し, 酸素イオン導電性を有するジルコニア材料からなり,上記充填用貫通穴 の形状に沿った形状のジルコニアシートを,上記充填用貫通穴内に配置し, 上記ジルコニアシートの両表面に電極を配置し, 上記配置によりシート体を形成し, 該シート体を焼成する ガスセンサの製造方法
イ 相違点 <相違点3> 本件発明3は, 「3E) 上記ジルコニアシートの両表面における外縁部に開口用貫通穴が重 なる状態で,上記アルミナシートの両表面に電気絶縁性を有するアル ミナ材料からなる一対の表面アルミナ層を配置して, 3F) 該開口用貫通穴は,上記充填用貫通穴よりも小さく,上記ジルコニ アシートにおける上記電極よりも大きな形状に形成し, 3G) 上記開口用貫通穴の周縁部は,上記ジルコニアシートの両表面にお ける外縁部に重なって,上記表面アルミナ層によって,上記ジルコニ アシートが上記充填用貫通穴から抜け出るのを防止し, 3H) 上記ジルコニアシートに設けた電極と上記開口用貫通穴との隙間か ら,上記ジルコニアシートの表面を露出させ」るように構成されたも のであるのに対して, 引用発明2の2は,そのような構成とされていない点。
<相違点4> 本件発明3は,製造されるガスセンサ素子が, 「3J) 2枚の上記シート体を,電気絶縁性を有するアルミナ材料からなる 11 スペーサを介して積層して,上記スペーサによって,上記2枚のシー ト体における上記ジルコニアシートに対応する位置に,チャンバーを 形成し 3K) 該シート体及び上記スペーサを焼成する」ものであるのに対して, 引用発明2の2は,その点が不明である点
原告主張の取消事由
1 取消事由1-1(請求項1及び2に係る明確性要件及びサポート要件適合性 についての判断の誤り) (1) 明確性要件違反の看過 ア 本件審決は,本件訂正後の請求項1では,ガスセンサ素子として必要な 固体電解質シート及び一対の電極を有し,上記一対の電極は,ジルコニア 充填部の両表面に設けられていることが特定されているから,測定対象の ガスと電極とが接触するための構造を把握することができ,請求項1に係 るガスセンサ素子がガスセンサ素子として機能することは明らかであるか ら,ジルコニア充填部が充填用貫通穴から抜け出し得る空間についての特 定がされていないことをもって,請求項1の記載が明確でないということ はできないと判断した。しかし,次のとおり,この判断は誤りである。
イ 本件審決は,上記判断に当たり,その前提として,請求項1記載のガス センサ素子が,ガスセンサ素子として機能することを何ら検討することな く認めているところ,このこと自体が既に誤りである。
請求項1記載のガスセンサ素子の構成では,一方の電極と他方の電極と に同じ被測定ガスが接触する場合を排除していないところ,この場合には, そもそも固体電解質シートの両表面に設けた一対の電極間に電位差が生じ ないから,ガスセンサとして機能しない。すなわち,請求項1記載のガス センサ素子は,ガスセンサ素子として機能しないものも含んでいるから, 請求項1に係るガスセンサ素子がガスセンサ素子として機能することが明 12 らかであるとはいえない。
この点は,請求項2記載のガスセンサ素子についても同様である。
ウ そして,本件発明1及び2は,「ジルコニア充填部の抜出し防止効果」 を奏するガスセンサ素子に関する発明であるから,明確性要件に適合する か否かは,この効果との関係を考慮して判断されなければならない。
請求項1は,構成要件1F),1G)及び1H)によって,表面アルミナ層とジル コニア充填部との関係を規定しているものの,構成要件1F),1G),及びこ れらによって奏する効果である1H)も含め,ジルコニア充填部が充填用貫通 孔から「どこに」抜け出るのを防止しているのかという抜出し先の空間(抜 け出し得る空間)に関する記載がない。そのため,請求項1の記載では, 「抜出し防止効果を奏することのできるガスセンサ素子」を満たす構成の 記載が不明確である。
請求項2についても,構成要件2B)において,ジルコニア充填部に「対応 する位置」にチャンバーを形成する点が規定されているにとどまり,抜出 し先の空間(抜け出し得る空間)とチャンバーとの関係に関する記載はな い。また,2枚のアルミナシートにおけるジルコニア充填部のチャンバー とは逆側への抜出しについては,何も規定されていない。したがって,請 求項2の記載も不明確である。
(2) サポート要件違反の看過 ア 本件審決は,本件明細書の段落【0016】の記載を参酌すれば,ジル コニア充填部が充填用貫通穴から抜け出してしまうことを防止するという 作用効果は,表面アルミナ層がジルコニア充填部の外縁部に重ねて配置さ れることによってもたらされることは明らかであるとした上で,本件訂正 後の請求項1には,「…上記表面アルミナ層によって,上記ジルコニア充 填部が上記充填用貫通穴から抜け出るのを防止」することが特定されてい るから,課題を解決するための手段が反映されており,発明の作用効果を 13 奏しない範囲を含むとはいえないと判断した。しかし,次のとおり,この 判断は誤りである。
イ 本件発明1及び2は,「ジルコニア充填部の抜出し防止効果」を奏する ガスセンサ素子に関する発明であるから,サポート要件に適合するか否か は,この効果との関係を考慮して判断されなければならない。
すなわち,表面アルミナ層によって,ジルコニア充填部が充填用貫通穴 から抜け出してしまうことを防止できるという効果を奏するといえるため には,ガスセンサ素子の形態として,表面アルミナ層がない状態では,ジ ルコニア充填部が抜け出してしまうという不具合が存在することが前提と なる。
ここで,本件明細書の図4の固体電解質シート2(表面アルミナ層35) の上下に,ジルコニア充填部の外縁部に重なるような大きさのスペーサを 設けたガスセンサ素子についてみると,当該ガスセンサ素子は請求項1の 構成要件1F), 1G)及び1H)を満たすものであるところ,当該ガスセンサ素子 から表面アルミナ層35を除いたとしても,スペーサによってジルコニア 充填部が充填用貫通穴351から上下方の空間に抜け出るのが防止されて いる。そうすると,当該ガスセンサ素子では,表面アルミナ層による「ジ ルコニア充填部の抜出し防止効果」が発揮されているとはいえない。
このように,請求項1は,発明の作用効果を奏しない構成を含んでいる から,本件明細書に記載された範囲内のものとはいえない。
(3) 小括 ア 以上によれば,請求項1の記載は,明確性要件及びサポート要件のいず れにも適合しない。請求項1に従属する請求項2についても同様である。
したがって,この点を看過した本件審決の判断は誤りであり,取り消さ れるべきである。
イ なお,原告は,無効審判において,無効理由1として,請求項1の記載 14 につき,「ガスセンサ素子が機能しない」ことを主張したのではなく,当 該記載では,「抜出し防止効果を奏することのできるガスセンサ素子」を 満たす構成の記載が不明確であるし(明確性要件違反),発明の効果を奏 しないものを含んでいる(サポート要件違反)ことを主張していた。
しかし,本件審決は,原告が無効理由1として挙げた上記の点を全く判 断していないから,実質的判断を遺漏しているものというべきである。
2 取消事由1-2(請求項2に係る明確性要件及びサポート要件適合性につい ての判断の誤り) (1) 明確性要件違反の看過 ア 本件審決は,請求項2の「上記2枚のアルミナシートにおける上記ジル コニア充填部に対応する位置に,被測定ガスを導入するためのチャンバー を形成した」との記載を,「固体電解質であるジルコニア充填部と被測定 ガスを導入するためのチャンバーとが重なるように構成すること」を意味 すると解釈するのが相当であるとして,請求項2の記載が明確でないとま でいうことはできないと判断した。しかし,次のとおり,この判断は誤り である。
イ 請求項2の「上記2枚のアルミナシートにおける上記ジルコニア充填部 に対応する位置に,被測定ガスを導入するためのチャンバーを形成した」 との記載では,ジルコニア充填部に対応する位置がどの位置であるかが分 からない上に,「ジルコニア充填部に対応する位置」とチャンバーとの位 置関係が不明確であることは明らかである。
ウ また,本件審決は,「ガスセンサ素子において,固体電解質と被測定ガ スを導入するためのチャンバーとが重なるように構成すること」が技術常 識であると認定したが,この認定も誤りである。
すなわち,「チャンバーに被測定ガスを導入するタイプのガスセンサ素 子において,固体電解質に設けた(多孔質の)一方の電極(の一部又は全 15 部)が,被測定ガスを導入するためのチャンバーに露出するように構成す ること」は,当業者における技術常識であると解される。しかし,固体電 解質の表面のうち,電極が形成されていない表面は,ガスセンサ素子を機 能させるに当たり,何の作用も機能も果たさないから,電極が形成されて いない表面部分までも含めた固体電解質全体について考察する必要はない。
ましてや,電極との関係を考慮することなく,固体電解質とチャンバーと の配置のみを考慮しても意味がない。
(2) サポート要件違反の看過 上記1(2)において主張したところと同様に,スペーサ等の存在により,ジ ルコニア充填部がチャンバーの上下方の空間に抜け出ることを防止する構成 であっても,請求項2の構成要件2A)及び2B)を満たすものとなるところ,当 該構成は,本件発明2の効果である,表面アルミナ層による「ジルコニア充 填部の抜出し防止効果」が発揮されているものとはいえない。
したがって,請求項2は,発明の作用効果である抜出し防止効果を奏しな い構成を含んでいるから,サポート要件に適合しない。
(3) 小括 以上によれば,請求項2の記載は,明確性要件及びサポート要件のいずれ にも適合しない。したがって,この点を看過した本件審決の判断は誤りであ り,取り消されるべきである。
3 取消事由1-3(本件発明2における相違点1の容易想到性判断の誤り) (1) 本件審決は,本件発明2の相違点1に係る構成につき,引用発明2の1に 甲3技術1を適用することによって,当業者が容易に想到し得るものという ことはできないと判断した。しかし,次のとおり,この判断は誤りである。
(2) まず,本件審決は,上記判断の前提として,本件発明2は,「ジルコニア 充填部が充填用貫通穴から抜け出る」空間である「被測定ガスを導入するた めのチャンバー」を形成したことが特定されているものと認定した。
16 しかし,請求項2の構成要件2A)及び2B)のいずれにも,「ジルコニア充填 部が充填用貫通穴から抜け出る」空間について記載されていない。そして, 上記2(1)において主張したとおり, 「ジルコニア充填部に対応する位置」 この とはどの位置であるのか不明確である。
したがって,本件審決の上記認定は,請求項2の記載に基づかないもので あり,誤りである。
(3) 次に,本件審決は,本件発明2は,構成要件1F),1G)及び1H)により,ジル コニア充填部が抜け出るのを防止するという,引用発明2の1及び甲3技術 1から当業者が予測し得ない格別顕著な作用効果を奏すると認定した。
しかし,引用発明2の1に甲3技術1を適用することによりチャンバーを 形成したガスセンサ素子において,更に構成要件1F)及び1G)に係る構成にも 想到した場合,このように構成された接着剤表面アルミナ層は,必然的に構 成要件1H),すなわち「表面アルミナ層によって,上記ジルコニア充填部が上 記充填用貫通穴から抜け出るのを防止」する構成を満たす。つまり,引用発 明2の1に甲3技術1を適用することによってチャンバーを形成し,更に構 成要件1F)及び1G)に係る構成も採用したガスセンサ素子であれば,表面アル ミナ層がジルコニア充填部から抜け出るのを防止するという作用効果は必然 的に生じるのであるから,このような作用効果が,引用発明2の1及び甲3 技術1から当業者が予測し得ない格別顕著な作用効果であるはずがない。
したがって,この点についての本件審決の認定は誤りである。
4 取消事由1-4(相違点3の容易想到性についての判断の誤り) (1) 本件審決は,本件発明3の相違点3に係る構成は,引用発明2の2に甲3 技術1を適用することによって,当業者が容易に想到し得るものということ はできないと判断した。しかし,次のとおり,この判断は誤りである。
(2) まず,本件審決は,上記判断の前提として,本件発明3は,「ジルコニア シートが充填用貫通穴から抜け出る」空間である「チャンバー」を形成した 17 ことが特定されているものであると認定した。
しかし,請求項3のいずれの構成要件にも,「ジルコニアシートが充填用 貫通穴から抜け出る」空間について記載されていない。そして,上記2(1) において主張したとおり,この「ジルコニアシートに対応する位置」とはど の位置であるのか不明確である。
したがって,本件審決の上記認定は,請求項3の記載に基づかないもので あり,誤りである。
(3) 次に,本件審決は,本件発明3は,構成要件3F)及び3G)により,ジルコニ アシートが抜け出るのを防止するという,引用発明2の2及び甲3技術1か ら当業者が予測し得ない格別顕著な作用効果を奏すると認定した。
しかし,引用発明2の1に甲3技術2を適用することによりチャンバーを 形成した中間体において,更に構成要件3F)及び3G)の前半部分である「上記 開口用貫通穴の周辺部は,上記ジルコニアシートの両表面における外縁部に 重な」るとの構成(以下「構成要件3G)-2」という。)にも想到した場合,こ のように構成された接着剤表面アルミナ層は,必然的に構成要件3G),すなわ ち「上記アルミナ層によって,上記ジルコニアシートが上記充填用貫通穴か ら抜け出るのを防止し,」との構成を満たす。つまり,引用発明2の1に甲 3技術2を適用することによってチャンバーを形成し,更に構成要件3F)及び 3G)-2の構成も採用した中間体であれば,表面アルミナ層がジルコニア充填部 から抜け出るのを防止するという作用効果は,必然的に生じるのであるから, このような作用効果が,引用発明2の2及び甲3技術1から当業者が予測し 得ない格別顕著な作用効果であるはずがない。
したがって,この点についての本件審決の認定は誤りである。
被告主張の取消事由・取消事由2(本件発明1における相違点1の容易想到
性についての判断の誤り) 1 本件審決は,本件発明1における相違点1に係る構成のうち,「1I) 上記ジ 18 ルコニア充填部に設けた上記電極と上記開口用貫通穴との隙間から,上記ジル コニア充填部の表面を露出させる」ことは,当業者が適宜なし得る程度のこと であると判断した。しかし,次のとおり,この判断は誤りである。
2 電極と表面アルミナ層との間に隙間を形成し,電極の側面まで有効活用しよ うと考える動機付けがないこと 甲2の図2によれば,第1電極は第2基体によって全面的に覆われており, 第2電極も電極保護部と保護層とによって全面的に覆われているため,電極は その側面まで覆われていると判断するのが当業者の通常の理解であり,電極の 側面まで活用しようとする発想は一切導き出されない。
そして,甲3技術1は接着剤を塗布して空間を接着剤で充填させて接着剤表 面アルミナ層を形成するものであるから,当業者が,引用発明2の1に甲3技 術1を適用して,第1電極と第2基体との間,及び第2電極と電極保護部・保 護層との間に,接着剤表面アルミナ層を設けることを容易に想到し得るとして も,接着剤表面アルミナ層と電極との間は隙間なく接触していると判断する。
すなわち,引用発明2の1及び甲3技術1のみに接した当業者において,電極 と表面アルミナ層との間に隙間を形成して,電極の側面まで有効活用しようと 考える動機付けは全く存在しない。
3 本件審決の判断について (1) 電極と開口用貫通穴との間に隙間を設けることについて ア 本件審決は,製造誤差により,第1電極404又は第2電極406と接 着剤表面アルミナ層が重複することがあり得るとか,接着剤表面アルミナ 層と導体層の側面とが隙間を空けることなく接することは必須ではないな どと,あたかも接着剤表面アルミナ層の開口用貫通穴の大きさを独自に規 定することが可能であるかのように認定判断しているが,次のとおり,こ の判断は誤りである。
イ 本件発明1の「表面アルミナ層」は,その開口用貫通穴の大きさを特定 19 の大きさに設定することを前提としている。
これに対し,甲3技術1の接着剤は,その流動性を利用して固体電解質 シートとスペーサとの間に充填されるものであるから,甲3技術1の「接 着剤表面アルミナ層」では,開口用貫通穴の大きさを独自に設定すること はできない。すなわち,当該「接着剤表面アルミナ層」は,甲3技術1の 接着剤(微細な粒子径のアルミナを有機系バインダ及び溶剤と混錬)を塗 布することにより形成されるものであるところ,この接着剤の塗布は,電 極の平坦面と略面一になるように行われ,存在する空間を接着剤により充 填することで接着剤表面アルミナ層が形成されるから,その結果として, 接着剤表面アルミナ層の開口用貫通穴は電極の外形と同じ形となる。
したがって,本件審決が認定したような製造誤差は生じ得ない。
(2) 隙間を設けて電極の側面を露出させることに基づく作用効果について 本件審決は,隙間を設けたことで電極の側面が露出することに基づく作用 効果は,電極の厚さと,当該電極と開口用貫通穴との間の隙間の大きさとの 関係によって異なるとし,開口用貫通穴が同じ場合において,当該隙間が電 極の厚さよりも大きい場合には,隙間がない場合と比較して電極が測定ガス に接する面積が減少してしまうことになり,電極を効率的に活用するとの作 用効果は得られないと判断した。
しかし,本件発明1において電極表面が有効に活用できているかどうかは, 電極の大きさを一定として,その上面のみしか利用できない状況と,上面に 加え側面まで利用できる状況とで比較すべきである。本件審決は,開口用貫 通穴の大きさを一定として,大きい電極と小さい電極とで被測定ガスに接す る面積を比較しているが,大きい電極であれ,小さい電極であれ,上面のみ しか利用できない態様に比べ,上面と側面の両方が利用できる態様の方が, 電極表面を有効活用できることは明らかである。
また,本件審決は,「隙間」による作用効果に関し,「隙間」の大きさの 20 限定を必要としているが,当該作用効果は,電極の側面が測定ガスに露出す れば足り,隙間の大きさ自体は問題とならない。
原告主張の取消事由に対する被告の反論
1 取消事由1-1(請求項1及び2に係る明確性要件及びサポート要件適合性 についての判断の誤り)について (1) 明確性要件違反の看過について ア 原告は,請求項1記載のガスセンサ素子の構成では,一方の電極と他方 の電極とに同じ被測定ガスが接触する場合を排除していないため,ガスセ ンサ素子として機能しないものも含んでいることとなるのに,「ガスセン サ素子として機能することは明らか」とした本件審決の判断が誤りである と主張する。
そもそも,本件発明は,表面アルミナ層がジルコニア充填部と重なるこ とにより,ガスセンサ素子の強度向上を図るものであるから,本件発明の ガスセンサ素子にとって重要なことは,一対の電極が固体電解質シートの 両表面の互いに対向する位置に設けられていることであるところ,この要 件は請求項1で特定されている。被測定ガスに関する特定がないからとい って,請求項1の記載が不明確となることはない。
イ また,原告は,抜出し先の空間に関する記載がないとか,抜出し先の空 間とチャンバーとの関係に関する記載がないなどと主張する。
しかし,本件発明が有する抜出し防止効果は,ジルコニア充填部とアル ミナシートとの境界部の強度を高めることによって達成されるものである ところ,この作用効果の発揮に重要なのは,表面アルミナ層がジルコニア 充填部と重なることである。
そして,請求項1では,「上記開口用貫通穴の周縁部は,上記ジルコニ ア充填部の両表面における外縁部に重なって」(構成要件1G)),「上記 表面アルミナ層によって,上記ジルコニア充填部が上記充填用貫通穴から 21 抜け出るのを防止し」(構成要件1H))として,上記事項を規定している。
(2) サポート要件違反の看過について 原告は,固体電解質シート2(表面アルミナ層35)の上下に,ジルコニ ア充填部の外縁部に重なるような大きさのスペーサを設けたガスセンサ素子 という仮想事例に基づいて,当該ガスセンサ素子では,表面アルミナ層によ る「ジルコニア充填部の抜出し防止効果」が発揮されているとはいえないと 主張する。
しかし,そのようなガスセンサ素子においても,表面アルミナ層はジルコ ニア充填部とアルミナシートとの境界部に重なっているから,表面アルミナ 層によるガスセンサ素子の強度向上効果が発揮されている。また,スペーサ が加わったとしても,表面アルミナ層によるジルコニア充填部とアルミナシ ートとの境界部保持効果が消滅することはない。
このように,本件発明の抜出し防止効果は,表面アルミナ層がジルコニア 充填部とアルミナシートとの境界部に重なることによって達成されるのであ り,スペーサの有無やスペーサの位置によって,達成できたりできなくなっ たりするものではない。
2 取消事由1-2(請求項2に係る明確性要件及びサポート要件適合性につい ての判断の誤り)について (1) 明確性要件違反の看過について 請求項2の「ジルコニア充填部に対応する位置」とは,少なくともジルコ ニア充填部に設けられた電極(構成要件1C))がその側面まで被測定ガスに 触れることが可能となる(構成要件1I))位置である。
また,原告は,固体電解質(ジルコニア充填部)の表面のうち,電極が形 成されていない表面(固体電解質が露出した表面)は,何の作用も機能も果 たさないとも主張するが,ジルコニア充填部の表面を露出させる(構成要件 1I))のは,電極の表面の有効活用を図るためであるから,この主張も誤り 22 である。
(2) サポート要件違反の看過について 原告が主張する仮想事例においても,表面アルミナ層による抜出し防止 効果は発揮されており,スペーサが存在することによって表面アルミナ 層のジルコニア充填部抜出し防止効果が消滅するものではないことは, 上記1(2)において主張したところと同様である。
3 取消事由1-3(本件発明2における相違点1の容易想到性判断の誤り)に ついて (1) 本件発明2の構成を容易に想到できない 上記第4において主張したとおり,本件発明2が引用する本件発明1の構 成要件1I)は,開口用貫通穴の大きさについて,電極と表面アルミナ層と の間に隙間が形成できるような大きさであると規定し,これにより電極 の側面まで有効活用できるとの作用効果を奏する。
これに対し,当業者が引用発明2の1及び甲3技術1に基づいて想到 し得るのは,接着剤表面アルミナ層と電極とが隙間なく接触しているガ スセンサ素子である。
したがって,引用発明2の1及び甲3技術1のみに接した当業者にお いて,電極と表面アルミナ層との間に隙間を形成し,電極の側面まで有 効活用しようと考える動機付けはない。
よって,当業者は,引用発明2の1及び甲3技術1に基づき,本件発明 2における相違点1に係る構成を容易に想到できない。
(2) 抜出し防止効果について 引用発明2の1では,固体電解質体435に向かい合う位置に保護層40 7や第2基体403が存在しているため,固体電解質体435の抜出しを考 慮する必要はない。また,甲3技術1も,接着剤でスペーサとシートとを接 着する技術であり,やはり抜出しを考慮する余地はない。
23 したがって,引用発明2の1と甲3技術1との組合せが容易で,@引用発 明2の1に接着剤表面アルミナ層を形成すること,A「接着剤表面アルミナ 層の穴」を「固体電解質体435」よりも小さくするとの選択をすること, 更に,Bガスセンサ素子が被測定ガスを導入するチャンバーと共に用いられ ることのいずれもが容易に想到できたとしても,引用発明2の1と甲3技術 1から,固体電解質体435の抜出しを課題として両者を組み合わせる動機 付けは生じ得ない。
4 取消事由1-4(相違点3の容易想到性についての判断の誤り)について 本件発明3は,本件発明2が規定する物についての製造方法の発明であると ころ,本件発明2は進歩性を有するから,本件発明3についても同様である。
被告主張の取消事由に対する原告の反論
1 電極と開口用貫通穴との間に隙間を設けることについて 甲3の図7及び9には,導体層30等の周りを接着剤5で埋める形態が示さ れているものの,甲3には,導体層30等の周りを接着剤5で埋めることにつ いての記載はないから,導体層30等と接着剤5とを隙間なく密着させること までが必要とされているのではない。しかも,甲3において,電極31等及び その周囲の外側にスペーサ等が存在しない場合には,そもそもこの部位におい て接着剤が「空間を充満する」ことや「空間を埋める」ことにはならない。
そして,甲3技術1を引用発明2の1に適用した場合にも,同様のことがい えるから,この点についての被告の主張は誤りである。
2 隙間を設けて電極の側面を露出させることの作用効果について そもそも,本件審決も説示しているとおり,本件発明1の「上記ジルコニア 充填部に設けた上記電極と上記開口用貫通穴との隙間から,上記ジルコニア充 填部の表面を露出させ」ることによる作用効果は,本件明細書に記載されてい ない。
そして,ガスセンサ素子において,電極側面も測定ガスに接する電極構成自 24 体,甲2をはじめ多数の文献に記載されている周知の電極形態であり,当業者 が適宜選択する程度のものである。また,本件発明1の構成に結びついた特有 の作用効果を奏するものでもない。したがって,仮に,被告が主張するように, 「電極側面の有効利用」という作用効果があったとしても,この作用効果は当 業者が容易に推測できた程度のものにすぎず,その程度が技術水準から予測さ れる範囲を超えた顕著なものであるとはいえないから,進歩性が肯定されるこ とにはならない。
当裁判所の判断
当裁判所は,原告が主張する取消事由1-1ないし1-4はいずれも理由がな いが,被告が主張する取消事由2は理由があるから,本件審決にはこれを一部取 り消すべき違法があるものと判断する。その理由は,以下のとおりである。
1 本件発明について (1) 特許請求の範囲 本件発明の特許請求の範囲は,上記第2の2に記載のとおりである。
(2) 本件明細書の記載内容 本件明細書には,概ね以下の記載がある(甲1,8。なお,記載中の図1 〜7については,別紙本件明細書図面目録参照。)。
ア 技術分野 【0001】 本発明は,固体電解質シートの両表面の互いに対向する位置に一対の電 極を設けてなるガスセンサ素子及びその製造方法に関する。
イ 背景技術 【0002】 ガスセンサ素子としては,排ガス中の酸素濃度を検出して空燃比制御を 行うもの,NOx(窒素酸化物),SOx(硫黄酸化物),HC(炭化水 素),CO(一酸化炭素)等の特定ガス成分の濃度を検出するもの等があ 25 る。そして,ガスセンサ素子の形状としては,固体電解質シートの両表面 の互いに対向する位置に一対の電極を設けてなる積層タイプのものがある。
この積層タイプのガスセンサ素子においては,酸素イオン導電性を有す るジルコニアによって固体電解質シートを形成し,この固体電解質シート の両表面に一対の電極を設けている。そして,この一対の電極を設けた複 数の固体電解質シートを,電気絶縁性を有するアルミナシートを介して積 層することが行われている。…ウ 発明が解決しようとする課題 【0004】 ところで,アルミナの熱伝導率は,15〜40W/mK程度であるのに 対し,ジルコニアの熱伝導率は,2〜4W/mK程度である。そのため, ガスセンサ素子においてアルミナを多く用いれば,ガスセンサ素子の早期 活性化を図るために有利になる。また,アルミナの曲げ強度は,800M Pa程度であるのに対し,ジルコニアの曲げ強度は,470MPa程度で ある。そのため,ガスセンサ素子においてアルミナを多く用いれば,ガス センサ素子の強度を図るために有利である。
しかしながら,従来のガスセンサ素子においては,一対の電極を設ける 固体電解質シートは,すべてジルコニアから形成している。そのため,ガ スセンサ素子の早期活性化及び強度向上の改善を図るためには更なる工夫 が必要とされる。
【0005】 本発明は,かかる従来の問題点に鑑みてなされたもので,早期活性化を 図ることができると共に強度に優れたガスセンサ素子及びその製造方法を 提供しようとするものである。
エ 課題を解決するための手段 【0006】 26 第1の発明は,固体電解質シートの両表面の互いに対向する位置に一対の電極を設けてなるガスセンサ素子において,上記固体電解質シートは,電気絶縁性を有するアルミナ材料からなるアルミナシートに設けた充填用貫通穴内に,酸素イオン導電性を有するジルコニア材料からなるジルコニア充填部を配設してなり,上記一対の電極は,上記ジルコニア充填部の両表面に設けてあり,上記アルミナシートの両表面には,該アルミナシートよりも薄く,電気絶縁性を有するアルミナ材料からなる一対の表面アルミナ層が積層してあり,該一対の表面アルミナ層には,上記ジルコニア充填部の配設箇所に対応して開口用貫通穴が設けてあり,該開口用貫通穴は,上記ジルコニア充填部よりも小さく,上記ジルコニア充填部における上記電極よりも大きな形状に形成し,上記開口用貫通穴の周縁部は,上記ジルコニア充填部の両表面における外縁部に重なって,上記表面アルミナ層によって,上記ジルコニア充填部が上記充填用貫通穴から抜け出るのを防止し,上記ジルコニア充填部に設けた上記電極と上記開口用貫通穴との隙間から,上記ジルコニア充填部の表面を露出させることを特徴とするガスセンサ素子にある(請求項1)。
【0007】 本発明のガスセンサ素子は,固体電解質シートの形成状態に工夫をすることによって,ガスセンサ素子の早期活性化及び強度向上を図っている。
具体的には,本発明の固体電解質シートは,上記アルミナシートに設けた充填用貫通穴内に上記ジルコニア充填部を配設してなり,ジルコニア充填部に一対の電極を設けている。これにより,固体電解質シートにおいて,ジルコニア材料を用いる部位は,一対の電極の配設箇所に対応する部位だけにすることができ,残りの部位は,熱伝導率及び曲げ強度がジルコニア材料よりも高いアルミナ材料から構成することができる。
27 【0008】 それ故,本発明のガスセンサ素子によれば,早期活性化を図ることができ(ガス濃度の検出が可能になる温度により早く到達させることができ),強度向上(機械的強度,靭性,耐熱強度等の向上)を図ることができる。
【0009】 第2の発明は,固体電解質シートの両表面の互いに対向する位置に一対の電極を設けてなるガスセンサ素子を製造する方法において,電気絶縁性を有するアルミナ材料を用いて,充填用貫通穴を有するアルミナシートを形成し,酸素イオン導電性を有するジルコニア材料からなり,上記充填用貫通穴の形状に沿った形状のジルコニアシートを,上記充填用貫通穴内に配置し,上記ジルコニアシートの両表面に電極を配置し,上記ジルコニアシートの両表面における外縁部に開口用貫通穴が重なる状態で,上記アルミナシートの両表面に電気絶縁性を有するアルミナ材料からなる一対の表面アルミナ層を配置して,該開口用貫通穴は,上記充填用貫通穴よりも小さく,上記ジルコニアシートにおける上記電極よりも大きな形状に形成し,上記開口用貫通穴の周縁部は,上記ジルコニアシートの両表面における外縁部に重なって,上記表面アルミナ層によって,上記ジルコニアシートが上記充填用貫通穴から抜け出るのを防止し,上記ジルコニアシートに設けた電極と上記開口用貫通穴との隙間から,上記ジルコニアシートの表面に露出させ,上記配置によりシート体を形成し,2枚の上記シート体を,電気絶縁性を有するアルミナ材料からなるスペーサを介して積層して,上記スペーサによって,上記2枚のシート体における上記ジルコニアシートに対応する位置に,チャンバーを形成し, 28 該シート体及び上記スペーサを焼成することを特徴とするガスセンサ素子 の製造方法(請求項3)。
【0010】 本発明のガスセンサ素子の製造方法は,上記第1の発明のガスセンサ素 子の製造に適したものである。
具体的には,本発明においては,アルミナシートの充填用貫通穴の形状 に沿った形状のジルコニアシートを形成し,このジルコニアシートを充填 用貫通穴内に配置する。そして,ジルコニアシートの両表面における外縁 部に重なる状態でアルミナシートの両表面に一対の表面アルミナ層を配置 して,シート体を形成することにより,ジルコニアシートが充填用貫通穴 内から抜け出さないようにすることができる。その後,シート体を焼成す ることにより,ガスセンサ素子を製造することができる。
【0011】 それ故,本発明のガスセンサ素子の製造方法によれば,早期活性化を図 ることができると共に強度向上を図ることができるガスセンサ素子を安定 して製造することができる。
オ 発明を実施するための最良の形態 【0015】 上述した第1,第2の発明における好ましい実施の形態につき説明する。
… 上記アルミナ材料は,アルミナ(酸化アルミニウム,Al 2O3)を主成 分とする(例えば90wt%以上含有する)ものとすることができる。ま た,アルミナ材料は,アルミナ以外にも,ジルコニア,イットリア,マグ ネシア,カルシア,シリカ等を含有することができる。
上記ジルコニア材料は,ジルコニア(二酸化ジルコニウム,ZrO2) を主成分とし(例えば85wt%以上含有し),イットリア(Y 2O3)を 29 添加してなるものとすることができる。また,ジルコニア材料は,ジルコニア,イットリア以外にも,アルミナ,シリカ,マグネシア,カルシア等を含有することができる。
【0016】 第1の発明において,上記アルミナシートの両表面には,該アルミナシートよりも薄く,電気絶縁性を有するアルミナ材料からなる一対の表面アルミナ層を積層し,該一対の表面アルミナ層には,上記ジルコニア充填部の配設箇所に対応して開口用貫通穴を設け,該開口用貫通穴の周縁部は,上記ジルコニア充填部の両表面における外縁部に重ねる。
これにより,表面アルミナ層によって,ジルコニア充填部が充填用貫通穴内から抜け出してしまうことを防止することができる。また,ジルコニア充填部に設けた一対の電極は,開口用貫通穴からジルコニア充填部の表面に露出させておくことができる。
なお,開口用貫通穴の周縁部は,その全周をジルコニア充填部の両表面における外縁部に重ねることができる。また,開口用貫通穴の周縁部は,その周方向の適宜箇所をジルコニア充填部の両表面における外縁部に重ねることもできる。
【0017】 また,上記ガスセンサ素子は,上記ジルコニア充填部を配設した2枚の上記アルミナシートを,電気絶縁性を有するアルミナ材料からなるスペーサを介して積層し,該スペーサによって,上記2枚のアルミナシートにおける上記ジルコニア充填部に対応する位置に,被測定ガスを導入するためのチャンバーを形成することが好ましい(請求項2)。
この場合には,ジルコニア充填部を配設した2枚のアルミナシートを,スペーサを介して積層することにより,ジルコニア充填部に設けた被測定ガス側の電極を,スペーサによって形成したチャンバーに露出させること 30 ができる。そして,早期活性化を図ることができると共に強度に優れたガ スセンサ素子を形成することができる。
実施例 【0018】 以下に,本発明のガスセンサ素子及びその製造方法にかかる実施例につ き,図面を参照して説明する。
(実施例1) 本例のガスセンサ素子1は,図1,図2に示すごとく,固体電解質シー ト2の両表面の互いに対向する位置に一対の電極5(被測定ガス側電極5 及び基準ガス側電極5)を設けてなる。本例の固体電解質シート2は,電 気絶縁性を有するアルミナ材料からなるアルミナシート3に設けた充填用 貫通穴31内に,酸素イオン導電性を有するジルコニア材料からなるジル コニア充填部4を配設してなる。そして,一対の電極5は,ジルコニア充 填部4の両表面に設けてある。
【0019】 以下に,本例のガスセンサ素子1及びその製造方法につき,図1〜図3 を参照して詳説する。
本例のガスセンサ素子1は,NOx濃度を測定するガスセンサに用いる。
… 図1に示すごとく,本例のガスセンサ素子1は,ジルコニア充填部4を 配設した2枚のアルミナシート3を,電気絶縁性を有するアルミナ材料か らなるスペーサ6を介して積層してなる。このスペーサ6には,2枚のア ルミナシート3におけるジルコニア充填部4に対応する位置に,被測定ガ スGを導入するためのチャンバー61が形成されている。
【0020】 本例の2枚のアルミナシート3は,ジルコニア充填部4の一方側の表面 31 に被測定ガスGが接触する被測定ガス側電極5を設けると共に,ジルコニア充填部4の他方側の表面に基準ガスA(大気等)が接触する基準ガス側電極5を設けてなる。第1のアルミナシート3Aは,ジルコニア充填部4の一方側の表面に設けた被測定ガス側電極5と,これに対向してジルコニア充填部4の他方側の表面に設けた基準ガス側電極5とによって,被測定ガスG中の酸素濃度を適切な濃度に調整するためのポンプセル21を形成している。また,第2のアルミナシート3Bは,ジルコニア充填部4の一方側の表面に設けた基準ガス側電極5と,これに対向してジルコニア充填部4の他方側の表面に設けた被測定ガス側電極5とによって,被測定ガスG中の酸素濃度を検出するためのモニタセル22を形成すると共に,ジルコニア充填部4の一方側の表面に設けた基準ガス側電極5と,これに対向してジルコニア充填部4の他方側の表面に設けたNOx活性を有する被測定ガス側電極5とによって,被測定ガスG中のNOx濃度を検出するためのセンサセル23を形成してなる。
【0021】 図2は,第1のアルミナシート3Aの平面状態を示し,図3は,第2のアルミナシート3Bの平面状態を示す。
両図に示すごとく,本例の各アルミナシート3においては,ジルコニア充填部4は1箇所に形成してある。本例の充填用貫通穴31(ジルコニア充填部4)は,四角形状の電極5の形状に合わせて四角形状に形成してある。モニタセル22とセンサセル23とは,ジルコニア充填部4において隣接して形成してある(図3参照)。
【0022】 図1に示すごとく,第1のアルミナシート3Aの他方側の表面には,電気絶縁性を有するアルミナ材料からなるヒータ基板721に,通電により発熱する発熱体722を設けてなるヒータ72が積層してある。ヒータ基 32 板721には,基準ガスAを導入するためのチャンバー61が形成してある。第2のアルミナシート3Bには,被測定ガスGを通過させる通過孔32とを形成し,第2のアルミナシート3Bの一方側の表面には,被測定ガスGを透過させることができる多孔質体からなる拡散抵抗層71を通過孔32を覆う状態で積層することができる。
…【0023】 本例のガスセンサ素子1は,固体電解質シート2の形成状態に工夫をすることによって,ガスセンサ素子1の早期活性化及び強度向上を図っている。
具体的には,本例の固体電解質シート2は,アルミナシート3に設けた充填用貫通穴31内にジルコニア充填部4を配設してなり,ジルコニア充填部4に一対の電極5を設けている。これにより,固体電解質シート2において,ジルコニア材料を用いる部位は,一対の電極5の配設箇所に対応する部位だけにすることができ,残りの部位は,熱伝導率及び曲げ強度がジルコニア材料よりも高いアルミナ材料から構成することができる。
【0024】 それ故,本例のガスセンサ素子1によれば,早期活性化を図ることができ(ガス濃度の検出が可能になる温度により早く到達させることができ),強度向上(機械的強度,靭性,耐熱強度等の向上)を図ることができる。
【0025】(実施例2) 本例は,図4に示すごとく,アルミナシート3の両表面に,アルミナシート3よりも薄く,電気絶縁性を有するアルミナ材料からなる一対の表面アルミナ層35を積層して,固体電解質シート2を形成した例である。
本例においても,アルミナシート3に設けた充填用貫通穴31内にはジ 33 ルコニア充填部4が配設してあり,ジルコニア充填部4の両表面には一対の電極5が設けてある。また,本例の一対の表面アルミナ層35には,ジルコニア充填部4の配設箇所に対応して開口用貫通穴351が設けてある。
開口用貫通穴351の周縁部は,ジルコニア充填部4の両表面における外縁部に重ねてあり,ジルコニア充填部4が充填用貫通穴31内から抜け出さないようにしてある。開口用貫通穴351は,ジルコニア充填部4(充填用貫通穴31)よりも小さく,ジルコニア充填部4における電極5よりも大きな形状に形成してある。そして,ジルコニア充填部4の両表面における外縁部に開口用貫通穴351の周縁部が重なった状態において,一対の電極5を,開口用貫通穴351を介して,ジルコニア充填部4の表面に露出させておく。
【0026】 本例のガスセンサ素子1は,以下のようにして製造することができる。
すなわち,本例においては,まず,図5に示すごとく,電気絶縁性を有するアルミナ材料を用いて,充填用貫通穴31を有するアルミナシート3を形成する。次いで,図6に示すごとく,酸素イオン導電性を有するジルコニア材料からなり,充填用貫通穴31の形状に沿った形状のジルコニア充填部4となるジルコニアシートを,充填用貫通穴31内に配置する。次いで,図7に示すごとく,ジルコニア充填部4の両表面における外縁部に重なる状態で,アルミナシート3の両表面に電気絶縁性を有するアルミナ材料からなる一対の表面アルミナ層35(本例ではシート状のもの)を積層して,シート体20を形成する(図4参照)。ここで,一対の電極5は,ジルコニアシートを充填用貫通穴31内に配置する前にジルコニアシートの両表面に設けておくことができる。また,一対の電極5は,ジルコニアシートを充填用貫通穴31内に配置した後にジルコニアシートの両表面に設けることもできる。
34 なお,表面アルミナ層35は,アルミナシート3とする以外にも,ペー スト,スラリー等を塗布することによって形成することもできる。
【0027】 次いで,2枚のシート体20を,アルミナ材料からなるスペーサ6を介 して積層し,第1のシート体20(上記第1のアルミナシート3A)にヒ ータ72を積層すると共に,第2のシート体20(上記第2のアルミナシ ート3B)に拡散抵抗層71を積層して,積層体を形成する(図1参照)。
スペーサ6は,シート材を用いて形成することができ,ペースト,スラリ ー等をアルミナシート3の表面に塗布して形成することもできる。また, 各構成部品間の積層は,アルミナ材料からなるペースト,スラリー等を塗 布して行うことができる。その後,積層体を焼成してガスセンサ素子1を 製造する。
本例のガスセンサ素子1の製造方法によれば,早期活性化を図ることが できると共に強度向上を図ることができるガスセンサ素子1を安定して製 造することができる。
本例においても,その他の構成は上記実施例1と同様であり,上記実施 例1と同様の作用効果を得ることができる。
2 取消事由2(本件発明1における相違点1の容易想到性についての判断の誤 り)について (1) 事案に鑑み,取消事由2から検討する。
(2) 引用例の記載 ア 甲2には,次の記載がある(なお,記載中の図2については,別紙甲2 図面目録参照。)。
(ア) 技術分野 【0001】 本発明は,厚さ方向に貫通する貫通孔が形成された板型形状の絶縁性 35 材料からなる絶縁部材と,少なくとも一部が貫通孔に配置された固体電 解質体と,少なくとも自身の一部が固体電解質体を覆う電極部と,長手 方向に延びて電極部に接続するリード部と,を有し,絶縁部材および固 体電解質体の板面上に配置される一対の電極と,を備えるガスセンサ素 子およびそのようなガスセンサ素子の製造方法に関する。
(イ) 発明が解決しようとする課題 【0004】 …従来のガスセンサ素子製造方法においては,固体電解質体の厚さ寸 法と絶縁部材の厚さ寸法とに大きな差が生じることがあり,そのような 場合には,固体電解質体と絶縁部材との境界部分に生じる段差によって 電極が断線状態となる虞がある。
【0009】 そこで,本発明は,こうした問題に鑑みなされたものであり,絶縁部 材と固体電解質体との境界部分における電極の断線が生じがたいガスセ ンサ素子,およびそのようなガスセンサ素子の製造方法を提供すること を目的とする。
(ウ) 課題を解決するための手段 【0010】 かかる目的を達成するためになされた請求項1に記載の発明方法は, 厚さ方向に貫通する貫通孔が形成された板型形状の絶縁性材料からなる 絶縁部材と,少なくとも一部が貫通孔内に配置された固体電解質体と, 少なくとも自身の一部が固体電解質体を覆う電極部と,長手方向に延び て電極部に接続するリード部と,を有し,絶縁部材および固体電解質体 の板面上にそれぞれ配置される一対の電極と,を備えるガスセンサ素子 を製造するガスセンサ素子製造方法であって,絶縁部材の貫通孔内に固 体電解質体の少なくとも一部を配置する固体電解質体配置工程と,固体 36 電解質体配置工程の後,固体電解質体および絶縁部材のうち少なくとも 一方に対して厚さ寸法を変更させる外力を印加して,固体電解質体と絶 縁部材との境界部分における段差寸法が電極の厚さ寸法よりも小さくな るまで,固体電解質体および絶縁部材のうち少なくとも一方を変形させ る加圧工程と,加圧工程の後,絶縁部材および固体電解質体における板 面上に電極を配置する電極配置工程と,を有することを特徴とするガス センサ素子製造方法である。
【0015】 …貫通孔内に配置された固体電解質体は,貫通孔に対して全周が当接 するように配置されていることは言うまでもないが,寸法公差等の隙間 があっても良い。
また,電極のうち電極部は,少なくとも一部が固体電解質体を覆う構 成であればよい。具体的には,電極部全体が固体電解質体の一部を覆い, 固体電解質体と絶縁部材との境界部分にリード部が配置された構造や, 電極部の一部が固体電解質体全体を覆い,固体電解質体と絶縁部材との 境界部分に電極部が配置された構造や,電極部の一部が固体電解質体の 一部を覆い,固体電解質体と絶縁部材との境界部分に電極部およびリー ド部が配置された構造であっても良い。
(エ) 発明を実施するための最良の形態 【0037】 ここで,センサ素子4の概略構造を表す分解斜視図を,図2に示す。
…図に示すように,センサ素子4は,センサ部600と,ヒータ500 と,を備えて構成されている。
【0038】 センサ部600は,酸素濃度検出セル430および保護層407を備 えて構成されている。
37 センサ部600の酸素濃度検出セル430は,絶縁性材料(アルミナなど)からなる絶縁部材405と,部分安定化ジルコニア焼結体からなる固体電解質体435と,白金(Pt)からなる第1電極404および第2電極406と,を備えて構成されている。
【0039】 絶縁部材405は,厚さ方向に貫通する貫通孔433を有する板型形状に形成されている。…【0040】 固体電解質体435は,絶縁部材405における貫通孔433の内部に配置されている。この固体電解質体435は,ジルコニア(ZrO 2)に安定化剤としてイットリア(Y2O3)又はカルシア(CaO)を添加してなる部分安定化ジルコニア焼結体で構成されている。
【0041】 第1電極404は,固体電解質体435の一部を覆う第1電極部451と,第1電極部451から絶縁部材405の長手方向の後端側に延びる第1リード部453と,を備えて形成されている。
【0042】 第2電極406は,固体電解質体435の一部を覆う第2電極部447と,第2電極部447から絶縁部材405の長手方向の後端側に延びる第2リード部449と,を備えて形成されている。
【0043】 これら一対の電極(第1電極404,第2電極406)のうち,第1電極404は絶縁部材405の表面(図2における上面(判決注:「下面」の誤記と考えられる。))に配置され,第2電極406は絶縁部材405の裏面(図2における下面(判決注:「上面」の誤記と考えられる。))に配置される。
38 【0045】 また,絶縁部材405の表面には,第2電極406を挟み込むように して,保護層407が形成されている。この保護層407は,多孔質材 料からなる電極保護部441と,絶縁性材料からなる補強部408と, を備えている。
【0046】 電極保護部441は,固体電解質体435との間で第2電極部447 を挟み込むように位置して第2電極部447を被毒から防御するために 備えられる。補強部408は,絶縁部材405との間で第2リード部4 49を挟み込むように位置して,第2リード部449および絶縁部材4 05を保護するために備えられる。
イ 甲3には,次の記載がある(なお,記載中の図2,6〜9については, 別紙甲3図面目録参照。)。
(ア) 技術分野 【0001】 本発明は,被測定ガス中に含まれるNOx等のガス濃度の検出を行う ガスセンサ素子の製造方法に関する。
(イ) 解決しようとする課題 【0003】 ところで,上記ガスセンサ素子としては,…多孔質シート931,遮 蔽シート932,スペーサ933,モニタセル3及びセンサセル4を構 成する固体電解質シート94,スペーサ95,ポンプセル2を構成する 固体電解質シート96,スペーサ97,被覆ヒータシート996及びヒ ータシート995を積層して構成したガスセンサ素子9がある。
【0004】 そして,モニタセル3における電極31,32及びセンサセル4にお 39 ける電極41,42は,それぞれ固体電解質シート94の表面に,ポンプセル2における電極21,22は固体電解質シート96の表面に,金属ペーストをスクリーン印刷することにより形成している。また,ヒータ99における発熱体991も同様に,ヒータシート995の表面にスクリーン印刷を行うことにより形成している。
【0005】 しかしながら,…上記ガスセンサ素子9において,上記スクリーン印刷を行ったヒータシート995における発熱体991の表面は円弧状に突出している。そのため,上記積層を行う際には,発熱体991における円弧状の突出先端部992が,ガスセンサ素子9の長手方向Lに向けて線状に被覆ヒータシート996に当接する。
そのため,上記積層を行う際に,上記各シート931,932,94,96,996,995及び各スペーサ933,95,97を重ねた状態で加圧したときには,ヒータシート995において,上記円弧状の突出先端部992の形成位置に亀裂901を生じることがある。
【0006】 また,この亀裂901の問題点は,上記電極31,32,41,42を形成した固体電解質シート94又は上記電極21,22を形成した固体電解質シート96においても,同様に発生するおそれがある。…【0007】 本発明は,かかる従来の問題点に鑑みてなされたもので,ガスセンサ素子の製造時に,これを構成する各シートに亀裂が生じることを防止するガスセンサ素子を提供しようとするものである。
【0009】 本発明のガスセンサ素子の製造方法においては,上記導体層形成工程として,未焼成基板の表面に導体層を形成する際に,上記平坦部を形成 40 する。そして,上記積層工程において,未焼成基板上の導体層を形成し た表面に未焼成積層シートを積層して中間体を作製する際には,未焼成 積層シートは導体層の平坦部に当接することができる。そのため,この 積層の際に,未焼成基板と未焼成積層シートとの間に過度の局所的な加 重が加わることを防止することができる。それ故,未焼成基板又は未焼 成積層シートに亀裂が発生することを防止することができる。
(ウ) 実施例 【0026】 以下に,図面を用いて本発明のガスセンサ素子の製造方法にかかる実 施例につき説明する。… 【0046】 …未焼成ヒータシート1950に導体層190を,未焼成固体電解質 シート140,160にそれぞれ導体層30,40,20を形成した後 には,積層工程として,図2に示すごとく,未焼成ヒータシート195 0の導体層190の表面に未焼成被覆ヒータシート1960を重ね合わ せる。また,未焼成被覆ヒータシート1960の表面に未焼成積層シー トとしての未焼成スペーサ170を,この未焼成スペーサ170の表面 に未焼成基板としての未焼成固体電解質シート160を重ね合わせる。
【0047】 また,図2に示すごとく,未焼成固体電解質シート160の表面に未 焼成積層シートとしての未焼成スペーサ150を積層し,この未焼成ス ペーサ150の表面に未焼成基板としての未焼成固体電解質シート14 0を重ね合わせる。さらに,未焼成固体電解質シート140の表面に, 未焼成多孔質シート1310及び未焼成積層シートとしての未焼成スペ ーサ1330を積層し,未焼成スペーサ1330の表面に未焼成遮蔽シ ート1320を重ね合わせる。… 41 【0048】 また,図6,図7に示すごとく,上記重ね合わせの際には,各未焼成シート1310,1320,140,160,1950,1960及び各未焼成スペーサ1330,150,170の間には,接着剤5を塗布した。
この接着剤5としては,アルミナ,有機系バインダ及び溶剤を混錬したものがある。…【0049】 本例では,図6に示すごとく,未焼成ヒータシート1950の上記導体層190を形成した側の表面には,上記接着剤5を,導体層190における平坦部199と略面一になるよう塗布した。また,図7に示すごとく,各未焼成固体電解質シート140,160の上記導体層30,40,20を形成した両側の表面にも,上記接着剤5を,導体層30,40,20における平坦部301,401,201と略面一になるよう塗布した。
【0050】 その後,図8,図9に示すごとく,各未焼成シート1310,1320,140,160,1950,1960及び各未焼成スペーサ1330,150,170を重ね合わせた状態で加圧してこれらを積層し,ガスセンサ素子1の中間体を作製した。このとき,図8に示すごとく,未焼成被覆ヒータシート1960は,未焼成ヒータシート1950において上記略面一の状態を形成した導体層20(判決注:「導体層20」は「導体層190」の誤記と考えられる。)の平坦部199と接着剤5とに対して当接することができる。
【0051】 また,図9に示すごとく,未焼成スペーサ1330,150は,未焼 42 成固体電解質シート140の両側の表面において上記略面一の状態を形 成したリード部311,321,411,421の平坦部301,40 1と接着剤5とに対して当接することができる。… 【0052】 また,未焼成スペーサ150,170は,未焼成固体電解質シート1 60の両側の表面において上記略面一の状態を形成したリード部211, 221の平坦部201と接着剤5とに対して当接することができる。… 【0053】 そのため,上記加圧の際に,各未焼成シート140,160,195 0,1960と各未焼成スペーサ1330,150,170との間に, 局所的な加重が加わることを防止することができる。
それ故,各未焼成シート140,160,1950,1960又は各 未焼成スペーサ1330,150,170に亀裂が発生することを防止 することができる。
(3) 本件審決が認定した引用発明2の1及び甲3技術1並びに本件発明1と引 用発明2の1との一致点及び相違点については,当事者間に争いがない。
(4) 本件審決は,本件発明1における相違点1のうち,構成要件1I) の「ジル コニア充填部に設けた電極と開口用貫通穴との隙間から,ジルコニア充填部 の表面を露出させること」に関し,引用発明2の1に甲3技術1を適用して 接着剤表面アルミナ層とするに当たり, @ 甲3の記載から,接着剤表面アルミナ層が,第1電極や第2電極の表面 の周縁部と重複してしまうと,第1電極又は第2電極の他の部分,及び, 接着剤表面アルミナ層の他の部分と比較して厚くなってしまうことから, アルミナからなる接着剤の層を導体層の平坦部と略面一にすることによっ て,各未焼成シート又は各未焼成スペーサに亀裂が発生することを防止す るという目的が果たせなくなることは当業者にとって明らかであるから, 43 アルミナからなる接着剤の層と導体層が略面一であることが必須であるの に対して,アルミナからなる接着剤の層と導体層の側面とが隙間を空ける ことなく接することは必須ではないことは,当業者にとって明らかである, A 第1電極又は第2電極の表面の周縁部に,接着剤表面アルミナ層を隙間 なく接触させるように設計又は製造を行うと,避けることのできない製造 誤差により,第1電極又は第2電極と接着剤表面アルミナ層が重複するこ とがあり得るので,そのような事態を回避するために,第1電極及び第2 電極と接着剤アルミナ層との間に隙間を設けることによって余裕を持たせ, 第1電極及び第2電極と接着剤表面アルミナ層との重複を回避することは, 当業者が適宜なし得ることである, B そして,その隙間をどの程度にするかは,製造誤差の程度等を勘案して 当業者が適宜設定し得るものであって,固体電解質体の表面が露出する程 度の隙間とすることも適宜設定し得る範囲内のものである, と判断した。
(5) そこで検討するに,本件審決が認定したとおり,甲3には,甲3技術1が 記載されており,本件特許に係る出願当時,積層タイプのガスセンサ素子に おいて,これを構成する各未焼成シートをアルミナからなる接着剤を介して 積層することは,当業者にとって周知の技術であったと認められる。しかし, 甲3には,@接着剤が導体層の周縁部に重複すると,亀裂の発生を防止する ことができないから,導体層と接着剤とが隙間なく接することは必須ではな いことや,A避けることのできない製造誤差により,接着剤が導体層の周縁 部に重複すること,また,B製造誤差の程度を勘案して,固体電解質体の表 面が露出する程度の隙間を設定することは,記載も示唆もされていないし, 上記@〜Bの事項が,当業者にとって当然の技術常識であると認めるに足り る証拠も見当たらない。
仮に,「製造誤差」を考慮して接着剤の量を調整することが,当業者の技 44 術常識であるとしても,甲3の段落【0049】及び【0050】の記載, 及び当該段落が引用する図6〜9に接した当業者は,接着剤の量は,導体層 に設けられた平坦部と略面一となるように,すなわち,当該平坦部との間に できるだけ隙間を生じないように調整するものと理解すると認めるのが相当 である。
そうすると,引用発明2の1に甲3技術1を適用するに当たり,当業者が 「電極と接着剤との間に隙間を設ける」構成を採用する動機付けがあると認 めることはできず,構成要件1I)に係る「上記ジルコニア充填部に設けた上記 電極と上記開口用貫通穴との隙間から,上記ジルコニア充填部の表面を露出 させる」構成を,当業者が容易に想到できたということはできない。
(6) 原告の主張について この点に関連して,原告は,甲3に導体層等の周りを接着剤で埋めること についての記載はないから,導体層と接着剤とを隙間なく密着させることま でが必要とされているのではないと主張する。
甲3に,導体層等の周りを接着剤で埋めるとの文言が明記されていないの は原告が主張するとおりであるが,甲3に,上記(5)の@〜Bの事項が記載も 示唆もされていないことは,上記(5)において説示したとおりである。
そして,甲3の段落【0049】には,接着剤を導体層における平坦部と 略面一になるように塗布したと記載されている上に,当該段落が引用する図 6及び7,並びに段落【0050】が引用する図8及び9には,当該接着剤 が導体層に隙間なく接するように塗られている図が描かれていることからす ると,これらの記載に接した当業者は,接着剤を当該平坦部との間にできる だけ隙間を生じないように塗布するものと理解するのが自然というべきであ る。
したがって,この点についての原告の主張を採用することはできない。
(7) 小括 45 以上によれば,本件発明1における相違点1のうち,構成要件1I) の「ジ ルコニア充填部に設けた電極と開口用貫通穴との隙間から,ジルコニア充填 部の表面を露出させる」との構成は,引用発明2の1及び甲3技術1に基づ いて,当業者が容易に想到することができたものであるとはいえない。
したがって,この点についての本件審決の判断には誤りがあり,その誤り が結論に影響を及ぼすものであるから,被告が主張する取消事由2は理由が ある。
3 取消事由1-1(請求項1及び2に係る明確性,サポート要件の判断の誤り) について (1) 原告は,請求項1及びこれを引用する請求項2の記載は,ジルコニア充填 部が充填用貫通穴から抜け出し得る空間についての記載がないため不明確で あるから,明確性要件を満たしておらず,また,ジルコニア充填部が充填用 貫通穴から抜け出してしまうことを防止するという作用効果を奏しない範囲 を含むものであるから,サポート要件を満たしていないと主張する。
(2) 明確性要件適合性について ア 特許法36条6項2号の趣旨は,特許請求の範囲に記載された発明が明 確でない場合に,特許の付与された発明の技術的範囲が不明確となること により生じ得る第三者の不測の不利益を防止することにある。そこで,特 許を受けようとする発明が明確であるか否かは,特許請求の範囲の記載の みならず,願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し,また,当業者 の出願時における技術的常識を基礎として,特許請求の範囲の記載が,第 三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるか否かという観点から判 断すべきものと解される。
イ これを本件についてみると,上記第2の2のとおり,請求項1及び2の 記載は,それ自体から請求項1及び2に係るガスセンサ素子の発明特定事 項及びその技術的意味を明確に把握することができるものであるから,第 46 三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるとはいえず,明確性要件 に適合しているというべきである。
ウ これに対し,原告は,請求項1及び2には,抜出し先の空間に関する記 載がないから,「抜出し防止効果を奏することのできるガスセンサ素子」 を満たす構成の記載が不明確であるとして,明確性要件に適合していない と主張する。
しかし,抜出し先の空間に関する記載がないとしても,請求項1(及び 2)に記載された発明は,ジルコニア充填部が抜け出し得るような状況の 下では,その抜出し防止の効果を奏することが明らかであるから,発明の 構成の記載が不明確であるとはいえず,この点についての原告の主張を採 用することはできない。
(3) サポート要件適合性について ア 特許請求の範囲の記載が,サポート要件に適合するか否かは,特許請求 の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し,特許請求の範囲に記 載された発明が,発明の詳細な説明に記載された発明で,発明の詳細な説 明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲の ものであるか否か,また,その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技 術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであ るか否かを検討して判断すべきものと解される。
イ これを本件についてみると,当業者は,請求項1記載のガスセンサ素子 が,固定電解質シートにおける「表面アルミナ層」に関する発明特定事項 である,構成要件1D),1E),1F),1G)及び1H)を備えていることによって, 本件明細書の段落【0016】記載の「表面アルミナ層によって,ジルコ ニア充填部が充填用貫通穴から抜け出してしまうことを防止することがで きる」との課題を解決できるものであることを認識できるというべきであ る。したがって,本件発明1及び2は,発明の詳細な説明に記載された発 47 明で,発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決でき ると認識できる範囲のものであるから,サポート要件に適合しているとい うべきである。
ウ これに対し,原告は,仮想事例を挙げて,請求項1は発明の作用効果を 奏しない構成を含んでいると主張するが,原告が指摘する構成においても, 構成要件1D),1E),1F),1G)及び1H)を備えていることによって,本件明細 書の段落【0016】記載の課題を解決できているものであることに変わ りはない(すなわち,仮想事例において,スペーサが二重の抜出し防止効 果を生んでいるとはいえても,表面アルミナ層自体が抜出し防止効果を有 していることに変わりはない。)から,この点についての原告の主張を採 用することはできない。
4 取消事由1-2(請求項2に係る明確性,サポート要件の判断の誤り)につ いて (1) 原告は,請求項2の記載は,「ジルコニア充填部に対応する位置」がどの ような位置を示しているのかが不明確であり,ジルコニア充填部とチャンバ ーとの位置関係が不明確であるから,明確性要件を満たしておらず,また, ジルコニア充填部が充填用貫通穴から抜け出してしまうことを防止するとい う作用効果を奏しない範囲を含むものであるから,サポート要件を満たして いないと主張する。
(2) 明確性要件適合性について ア 請求項2の「ジルコニア充填部に対応する位置に,被測定ガスを導入す るためのチャンバーを形成した」との記載は,固体電解質(ジルコニア充 填部)を用いて,チャンバー内のガスを検知するガスセンサ素子が当然備 える構成を記載したものであって,第三者に不測の不利益を及ぼすほどに 不明確であるとはいえない。
イ この点に関連して,原告は,本件審決が,請求項2の「ジルコニア充填 48 部に対応する位置に,被測定ガスを導入するためのチャンバーを形成した」 との記載を,「固体電解質であるジルコニア充填部と被測定ガスを導入す るためのチャンバーとが重なるように構成すること」と解釈したことにつ いて,電極がチャンバーに露出するように構成するのはともかく,固体電 解質とチャンバーとの配置のみを考慮するのは誤りであると主張する。
しかし,本件発明において,電極はジルコニア充填部の両表面に設けら れているところ,ガスセンサ素子の動作原理に照らしても,「ジルコニア 充填部に対応する位置に,被測定ガスを導入するためのチャンバーを形成 した」というのは,結局のところ,電極がチャンバーに露出するように構 成することと同義であるというべきである。
したがって,この点についての原告の主張を採用することはできない。
(3) サポート要件適合性について 上記3(3)において説示したとおり,当業者は,請求項2記載のガスセンサ 素子が本件明細書に記載した課題を解決できるものであることを認識できる というべきである。したがって,本件発明2は,発明の詳細な説明に記載さ れた発明で,発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決 できると認識できる範囲のものであるから,サポート要件に適合していると いうべきである。
5 取消事由1-3(本件発明2における相違点1の容易想到性判断の誤り)に ついて (1) 原告は,本件発明2の相違点1に係る構成は,引用発明2の1に甲3技術 1を適用することによって,当業者が容易に想到し得るものということはで きないとした本件審決の判断に誤りがあると主張する。
(2) そこで検討するに,まず,本件審決が認定した本件発明2と引用発明2の 1との一致点及び相違点については,当事者間に争いがない。
そして,本件発明2は,本件発明1に対し,構成要件2A)及び2B)を付加し 49 たものであって,本件発明1における相違点1は,本件発明2と引用発明2 の1との相違点でもあるところ,上記2において説示したとおり,相違点1 に係る構成は,引用発明2の1及び甲3技術1に基づいて,当業者が容易に 想到することができたものであるとはいえない。
そうすると,その余の事実について認定判断するまでもなく,この点につ いての本件審決の判断は結論において相当というべきである。
(3) 原告の主張について 原告は,ジルコニア充填部が抜け出るのを防止するという作用効果に関し, 種々の主張をするが,上記(2)において説示したとおり,当業者は,本件発明 2における相違点1に係る構成そのものにつき,引用発明2の1及び甲3技 術1に基づいて容易に想到することができたとはいえないのであるから,既 にその点において進歩性を肯定し得るものである。
したがって,この点についての原告の主張を採用することはできない。
6 取消事由1-4(相違点3の容易想到性についての判断の誤り)について (1) 原告は,本件発明3の相違点3に係る構成は,引用発明2の2に甲3技術 1を適用することによって,当業者が容易に想到し得るものということはで きないとした本件審決の判断に誤りがあると主張する。
(2) そこで検討するに,まず,本件審決が認定した本件発明3と引用発明2の 2との一致点及び相違点については,当事者間に争いがない。
そして,本件発明3は,実質的には本件発明2に係るガスセンサ素子を焼 成により製造する方法に係る発明であって,本件発明2が引用する本件発明 1が備える構成要件1I) 上記ジルコニア充填部に設けた上記電極と上記開口 「 用貫通穴との隙間から,上記ジルコニア充填部の表面を露出させる」に対応 する,構成要件3H)「上記ジルコニアシートに設けた電極と上記開口用貫通穴 との隙間から,上記ジルコニアシートの表面を露出させ」る構成のガスセン サ素子の製造方法の発明である。
50 上記2において説示したとおり,構成要件1I)を含む相違点1に係る構成は, 引用発明2の1及び甲3技術1に基づいて,当業者が容易に想到することが できたものではなく,また,引用発明2の2は,実質的には引用発明2の1 に係るガスセンサ素子を焼成により製造する方法に係る発明にすぎないから, 構成要件1I)に対応する構成要件3H)を含む本件発明3の相違点3に係る構成 についても,引用発明2の2及び甲3技術1に基づいて,当業者が容易に想 到し得るものとはいえない。
そうすると,その余の事実について認定判断するまでもなく,この点につ いての本件審決の判断は結論において相当というべきである。
(3) 原告の主張について 原告は,取消事由1-3と同様に,ジルコニア充填部が抜け出るのを防止 するという作用効果に関し,種々の主張をするが,この点についての原告の 主張が採用できないことは,上記5(3)において説示したとおりである。
結論
以上によれば,原告が主張する取消事由1-1ないし1-4はいずれも理由 がないが,被告が主張する取消事由2は理由がある。
よって,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 鶴岡稔彦
裁判官 高橋彩
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