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事件 平成 29年 (ネ) 10105号 特許権侵害差止等請求控訴事件

控訴人塩野義製薬株式会社
同訴訟代理人弁護士 大野聖二 小林英了
同 弁理士 田村啓 品川永敏 落合康 稲井史生
同補佐人弁理士 今野智介 岩崎光隆
被控訴人MSD株式会社
同訴訟代理人弁護士 窪田英一郎 乾裕介 今井優仁 中岡起代子 本阿弥友子 鈴木佑一郎
同補佐人弁理士 矢野恵美子 1主文 本件控訴を棄却する。 控訴費用は控訴人の負担とする。 事実及び理由 第1 控訴の趣旨 1 原判決を取り消す。 2 被控訴人は,控訴人に対し,1000万円及びこれに対する平成27年8月 29日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 3 訴訟費用は第1,2審とも被控訴人の負担とする。 4 仮執行宣言 第2 事案の概要等 1 事案の概要(略称は,特に断らない限り,原判決に従う。) 本件は,名称を「抗ウイルス剤」とする発明に係る特許権(本件特許権)を有す る控訴人が,被控訴人が譲渡,輸入又は譲渡の申出を行っている被告製品は,本件 特許の特許請求の範囲請求項1ないし3の発明(本件発明1ないし3。以下,併せ て「本件各発明」といい,訂正後の各発明を「本件各訂正発明」という。)の技術 的範囲に属すると主張して,被控訴人に対し,@特許法100条1項に基づく被告 製品の譲渡,輸入又は譲渡の申出の差止め,A同条2項に基づく被告製品の廃棄を 求めるとともに,B不法行為に基づく損害賠償金又は不当利得に基づく利得金とし て平成25年3月1日(本件特許の設定登録日)から口頭弁論終結日までの実施料 相当額16億円のうち1000万円及びこれに対する不法行為又は利得の後の日で ある平成27年8月29日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定の年 5分の割合による遅延損害金又は利息の支払を求める事案である。 原判決は,本件各発明に係る特許は特許無効審判により無効にされるべきもので あり,本件訂正によっても無効理由が解消されないとして,控訴人の請求をいずれ も棄却した。 2
控訴人は,原判決を不服として,前記Bの部分についてのみ控訴した。 2 前提事実 原判決「事実及び理由」の第2の2記載のとおりであるから,これを引用する。 ただし,下記(1)のとおり付加するほか,下記(2)のとおり化合物を略称する。 (1) 原判決5頁18行目末尾に,改行の上,次を付加する。 「特許庁は,平成29年8月8日,本件訂正を認めた上で,本件特許を無効とす る旨の審決をし,控訴人は,同年9月8日,同審決の取消請求訴訟を提起した。」 (2) 本件明細書【0004】の【化2】で示される基を,「C環」と略称す る。 本件明細書【0004】の【化3】で示される基を,「X/RB含有基」と略称 する。 本件明細書【0004】の「式:−Z 1 −Z2 −Z3 −R1 」で示される基を, 「Z1−3/R1含有基」と略称する。 本件明細書に記載された化合物A−7,A−12−a,A−17,A−17−c, A−50,A−141−k,A−158,E−8,E−16,F−4,H−7,I −4,J−4,L−4及びM−6の15種の化合物を「A群等試験例化合物」と, 化合物B−6−a,B−6−d,B−12,B−12−b,B−29,B−68, C−22,C−26,C−39,D−5,G−7及びK−4の12種の化合物を 「B群等試験例化合物」という。 3 争点 原判決「事実及び理由」の第2の3記載のとおりであるから,これを引用する。 ただし,原判決6頁14行目「(2) 本件訂正発明2及び3に係る特許権の侵害 (争点(1)と選択的)」とあるのを,「(2) 本件発明2及び3に係る特許権の侵害」 と訂正する。 第3 争点に関する当事者の主張 1 原判決の引用 3争点に関する当事者の主張は,争点(1)ウ(ア)について,下記2のとおり当審に おける当事者の主張を付加し,争点(2)について,下記3のとおり訂正するほかは, 原判決「事実及び理由」の第3記載のとおりであるから,これを引用する。 2 争点(1)ウ(ア)(本件訂正による無効理由の解消の有無) 〔控訴人の主張〕 (1) 実施可能要件 ア 総論 (ア) 本件訂正発明1の化合物は,原出願の特許請求の範囲請求項1に係る発明 (以下「原出願発明」という。)の化合物と共に,本件明細書において,一つの技 術的思想の下に発明された化合物として記載されている。 (イ) 当該技術的思想の下に発明された化合物について,当業者は,インテグラ ーゼ阻害作用を奏するために保持すべき下記@に関する部位(以下「本件キレート 配位子構造」という。)及び分子の末端に位置する4−フルオロベンジル基と,改 変が許容される部位(下記Aに関する部位)があること,分子構造中の部位によっ てインテグラーゼ阻害作用への重要性や影響力に差があること,を理解することが できる。 @ 孤立電子対を他の原子に供与し得るヘテロ原子を含む基が3個存在し,これ らのヘテロ原子は,互いに仮想的に描ける5員環構造又は6員環構造の原子間結合 3つ分又は4つ分の距離に位置すること。 A 式(I)のRAがC環であるか,X/RB含有基であるか,後者であればR B がアリール,ヘテロアリールといった環状構造であるか,アミノであるか。 (ウ) 当業者は,上記理解に基づき,本件明細書の実施例に記載されたA群等試 験例化合物及びB群等試験例化合物の薬理データを参照すれば,本件訂正発明1の 化合物も,同様にインテグラーゼ阻害作用を有することを,合理的に認識する。 イ 本件訂正発明1の技術的思想 本件訂正発明1の化合物は,本件明細書の【課題を解決するための手段】に記載 4されている。また,本件訂正発明1の化合物は,本件明細書の【課題を解決するた めの手段】において具体的に開示されている実施形態,又は本件明細書の【発明を 実施するための形態】において好ましいとされている実施形態に対応している。 一方,原出願発明の化合物は,R Aについて,C環として規定されている,又は X/R B含有基のR Bが「アリール又はヘテロアリール」である基として規定され ているのに対し,本件訂正発明1の化合物は,RAについて,C環として規定され ず,X/R B含有基のR Bがアミノ基として規定されている点で相違するほかは, 本件訂正発明1の化合物と同一又は対応する構成を有する。そして,原出願発明も 本件訂正発明1も,出願当初は,R Aについて,C環又はR Bが「…アミノ,アリ ール,ヘテロアリール…」から選択されるX/R B含有基などと規定されていた。 また,C環及びX/R B含有基は,【0004】の【化2】【化3】として併記さ れ,【0018】においても併記されている。【0020】には,好ましい実施形 態として,RBが「…アミノ,アリール,ヘテロアリール…」である旨ひとまとま りで挙げられている。 そうすると,本件訂正発明1と原出願発明とは,もともと同一の技術的思想の下 に生み出された発明である。A群等試験例化合物及びB群等試験例化合物は,本件 訂正発明1及び原出願発明を包含する技術的思想を代表する化合物として,実施例 に薬理データが開示されたものである。 ウ インテグラーゼ阻害作用を奏するために保持すべき部位と改変が許容される 部位 (ア) 本件キレート配位子構造が先行技術文献に記載されている化合物の一般式 に表されていること 本件明細書の【背景技術】には,インテグラーゼ阻害剤に関する11編の先行技 術文献が記載されている(WO99/50245,WO99/62520,WO9 9/62897,WO99/62513,WO00/39086,WO01/00 578,WO01/17968,WO02/30426,WO02/30930, 5WO02/30931,WO02/36734。以下,各文献を「WO245文献」 などいい,これらを併せて「本件先行技術文献」という。)。 そして,インテグラーゼ阻害剤として本件先行技術文献に記載されている化合物 の一般式は多様であるものの,本件キレート配位子構造は,どの一般式においても 表されている。 本件先行技術文献には,本件訂正発明1と関連性を持ったものが挙げられるので あるから,当業者であれば,本件先行技術文献に記載されている発明同士,また本 件先行技術文献に記載されている発明と本件訂正発明1との間で,様々な共通点及 び相違点に着目し,その技術的な意味を解釈しながら,本件訂正発明1の特徴を理 解することは当然である。 (イ) 先行技術文献に記載されている化合物の一般式の対比 本件先行技術文献においてインテグラーゼ阻害作用を有すると記載されている化 合物の一般式を対比すると,当業者であれば,そのような化合物は共通して,次に よって構成されていることを理解することができる。 (i)「少なくとも2つ,典型的な実施形態においては3つの,酸素原子(O), 窒素原子(N)又は硫黄原子(S),すなわち孤立電子対を他の原子に供与しうる ヘテロ原子を必ず含む基であることが最初から特定されている部位」,あるいは 「そのような基が少数の候補の中から選択され,典型的には=Oまたは−OHで表 される部位」であって,それらの酸素原子(O)等は互いに,仮想的に描ける5員 環構造又は6員環構造の,原子間結合3つ分又は4つ分の距離に位置している構成 (ii)上記(i)以外の部位であって,比較的多数の候補の中から選択される 基を含む構成(例えば,本件先行技術文献の一般式においてRx(xは数字,記号 等)で表されている置換基) (ウ) キレート配位子の特徴 化合物において,金属イオンと配位結合を形成する部位は,原出願日前から,キ レート配位子として知られていた。金属イオンとキレート配位子との反応によって 6形成されるキレート環は,通常5員環又は6員環が安定である。 (エ) 先行技術文献に記載されている化合物の一般式における環状構造 本件先行技術文献に記載されている化合物の一般式は,環状構造が存在する点で 共通する。 しかし,当該環状構造は,本件キレート配位子構造を含むか,当該環状構造に本 件キレート配位子構造を含まない化合物においては,当該環状構造を異なる構造に してもインテグラーゼ阻害作用を有する。また,薬物分子と酵素との間で働く可能 性のある結合等の中で,キレート結合(配位結合を2つ有する)は,非常に強いか ら,当該環状構造は,本件キレート配位子構造と比較して,インテグラーゼ阻害作 用にほとんど寄与していないと理解するのが自然である。 したがって,当業者であれば,本件先行技術文献に記載されている化合物におい て,インテグラーゼ阻害作用にとって主要となる部位は,環状構造ではなく,本件 キレート配位子構造であると理解する。 (オ) 先行技術文献に薬理データが記載されている化合物の対比 本件先行技術文献に薬理データが記載されている化合物(WO245文献の実施 例1(2)の化合物と実施例67(2)の化合物,WO086文献の化合物I−53と化 合物I−54,同文献の化合物I−54と化合物I−55,同文献の化合物I−4 2,化合物I−97,化合物I−98と化合物I−99,WO968文献の化合物 I−3と化合物I−14,同文献の化合物I−2と化合物I−3,化合物I−24 と化合物I−25,化合物I−46と化合物I−47)を対比すれば,本件キレー ト配位子構造に隣接する基については,次のとおり,様々なバリエーションを採り 得ることを理解できる。 (i)そこを末端とする一価の基としてもよいし,さらにその末端側に置換基を 有する二価の基としてもよい。 (ii)電子供与性を有するヘテロ原子(キレート原子)の位置が保持される関 係,又は,バイオアイソスターの関係にあれば,そのような関係にある基は置換え 7可能である。 (iii)電子供与性を有するヘテロ原子(キレート原子)の位置が保持される 関係にある,又は,バイオアイソスターの関係にある部位(置換基)は,一価の基 としてもよいし二価の基(連結基)としてもよい。 (カ) 先行技術文献に記載されたアミノ基と環状構造の相違 WO426文献,WO930文献,WO931文献,WO734文献に記載され た発明に係る化合物は,全て,酸素原子を含むキレート配位子であるケト基(>C =O)に隣接する位置に,置換されたアミノ基又はベンゼン環,ヘテロ環等の環状 構造を有する。したがって,これらの文献には,このような構造を有する化合物が, インテグラーゼ阻害作用を有する旨開示されている。 また,これらの文献から,特に例えばWO930文献のEXAMPLE129の 化合物とWO734文献のEXAMPLE1の化合物が極めて類似していることか らすれば,キレート配位子であるケト基に隣接する位置に,アミノ基が存在するか, ベンゼン環,ヘテロ環のような環状構造が存在するかは,キレート配位子によるイ ンテグラーゼ阻害活性に対して本質的な影響を与える要素ではないと理解できる。 (キ) インテグラーゼ阻害剤とキレート配位子を有する分子 インテグラーゼが,宿主細胞の2本鎖DNAの切断,及び,これへのウイルス由 来の2本鎖DNAの結合の作用のため,活性中心に2つの金属イオン(Mn 2+又 はMg 2+)を有することは,原出願日時点において,技術常識となっていた(甲 4の5・12〜15,26,28)。そして,キレート配位子を有する化合物を, インテグラーゼの活性中心にある2つの金属イオンと反応させる(配位結合させる) ことで,インテグラーゼの活性を阻害することも,原出願日時点において,提唱さ れていた(甲4の6・7,26,27)。 また,WO968文献には,一般式(I)中のYは,置換されたカルボキシ基で も,置換されたヘテロアリール基でもよいが,それは酸素原子(O),窒素原子 (N)等のヘテロ原子の分子構造中の位置が保持されるからであること,そしてヘ 8テロアリール基を構成するヘテロ原子は(上記のように位置が保持されるカルボキ シ基のヘテロ原子(O)も同様であると解せるが)「孤立電子対を有する」ことが インテグラーゼ阻害活性にとって好ましいということが明示されている。 (ク) 本件明細書の記載 本件明細書【0018】には,本件訂正発明1の化合物の構造式におけるR Aに ついて,C環であってもよいし,X/RB含有基であってもよいこと,さらにX/ RB 含有基中のR Bは,アリール又はヘテロアリールであってもよいし,−NH− であってもよいことが,記載されている。 本件明細書【0020】には,RBについて,「置換されていてもよいアミノ, 置換されていてもよいアリール,置換されていてもよいヘテロアリール」と記載さ れている。 本件明細書【0019】には,好ましいC環の具体例が記載され,構造式(【化 86】)も示されているところ,かかるC環の構造式と,X/R B 含有基の構造式 (アミノ,アリール又はヘテロアリール)を対比すれば,前者の窒素原子と,後者 の酸素原子の分子構造中の位置が実質的に保持される関係にある。また,本件明細 書【0018】には,C環の特徴として「結合手を有する原子に隣接する原子のう ち,少なくとも一つの原子が非置換の窒素原子である含窒素芳香族複素環」である 点を挙げており,これは,本件キレート配位子構造に共通する特徴である。さらに, C環のさらに好ましい実施形態に含まれる化合物の一部は,アミノとバイオアイソ スターの関係にある。 (ケ) A群等試験例化合物とB群等試験例化合物との対比 A群等試験例化合物とB群等試験例化合物の構造式を一覧すれば,これらの化合 物が共に本件キレート配位子構造に対応する部位を有することを理解できる。特に, 化合物A−12−a,化合物A−50,化合物B−29の構造式を比較すれば,R B環及びC環の部分のみが相違し,それ以外の部分は全く同一であるが,インテグ ラーゼ阻害作用を有することが薬理データで示されているから,本件キレート配位 9子構造がインテグラーゼ阻害作用にとって重要であることが分かる。 (コ) インテグラーゼ阻害作用を示さない化合物 a 本件キレート配位子構造(及び4−フルオロベンジル基)によるインテグラ ーゼ阻害作用に対して,その余の分子構造の相違が決定的な影響を及ぼすという技 術常識は存在しない。本件キレート配位子構造を有するものの,インテグラーゼ阻 害作用が一定水準に達しない化合物が少数存在したとしても,当業者は,合理的に 本件訂正発明1の化合物が薬理作用を有することを理解することができる。化合物 間の構造におけるわずかな差異が,常に当該化合物の薬理作用に多大な影響を及ぼ すものではない。 また,IC 50値によって表されるインテグラーゼ阻害活性が多少弱いとしても, 総合的な観点から医薬品の有効成分として使用できる場合がある。単独では抗HI V薬として比較的弱いとしても,併用剤としての使用において有用な医薬品として, 製造,使用できる可能性もある。 b 文献(乙20)において,本件キレート配位子構造を有する化合物(8)は, 目的の水準には達しないが弱いインテグラーゼ阻害作用を有する。また,化合物 (1)と(8)は,分子構造においてキレート配位子となり得る水酸基の数自体が 異なるから,インテグラーゼ阻害作用に差異が生じたものである。 文献(甲4の9)において,本件キレート配位子構造を有する化合物L−73 1・942は,インテグラーゼの「Strand Transfer」に対する阻害作用に関して 一定の水準を満たしている。また,化合物L−731・988,L−708・90 6,L−731・927,L−731・942の相違は,本件訂正発明1の化合物 とA群等試験例化合物及びB群等試験例化合物の分子構造上の相違とは異質である。 文献(甲31)は,原出願日後に発行された文献であって,同文献に記載された 化合物の分析をもって,原出願日時点の技術常識を認定できない。また,化合物R CD−2,RCD−3のIC 50の値は,200以下であり,インテグラーゼ阻害 作用を有さないとはされていない。 10 文献(乙11)は,原出願日後に作成された文献であって,同文献に記載された 化合物の分析をもって,原出願日時点の技術常識を認定できない。また,化合物M erck#1〜15は,いずれも本件訂正発明1の技術的範囲に属さない。化合物 Merck#11は,弱いながらもインテグラーゼ阻害作用を有するし,RBに近 接するR C/R D環上の位置にメチル基等の置換基が存在することによって,イン テグラーゼ阻害作用が例外的に低いものになっているにすぎない。さらに,化合物 Merck#11のような化合物について,インテグラーゼ阻害作用が大きく変動 するのは,背面環(R C/R D 環)における非妨害性置換基の有無の可能性がある こと(本件明細書59頁)を当業者は理解できる。 (サ) 控訴人の社内報告書 本件訂正発明1は,●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● ●●●●● ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● (シ) フルオロベンジル基 甲31,乙43〜49には,●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●これらの文献は, インテグラーゼ阻害作用に対する4−フルオロベンジル基の重要性を前提として, その構造を維持したまま,本件キレート配位子構造を担持する背面環の構造等を 様々に変化させたものであって,4−フルオロベンジル基の重要性が裏付けられて いる。 11 4−フルオロベンジル基に代表されるZ 1−3/R 1含有基は,原出願日前から, 分子構造中のまとまった単位として公知であった(甲4の10・11)。4−フル オロベンジル基を,本件訂正発明1は「−CO−NH−」の先に,原出願発明はX /RB含有基又はC環の先に結合させることを要件としている。A群等試験例化合 物及びB群等試験例化合物の多くも同様である。当業者は,4−フルオロベンジル 基の重要性を理解することができる。 エ A群等試験例化合物及びB群等試験例化合物の薬理データの参照 (ア) 本件訂正発明1の化合物,A群等試験例化合物及びB群等試験例化合物の 合成等 本件明細書の実施例【0035】には,多種多様な化合物(A群〜M群)を合成 したことが記載されている。本件訂正発明1の化合物に含まれる化合物C−71も 記載されている(214頁)。 そして,本件明細書の実施例【0036】【表1】のとおり,A群等試験例化合 物及びB群等試験例化合物について,インテグラーゼ阻害作用が酵素アッセイによ り測定されている。なお,インテグラーゼ阻害剤である医薬組成物を製造,使用等 するためには,酵素アッセイの試験結果があれば足り,細胞アッセイの試験結果は 必須のものではない。 (イ) 本件訂正発明1の化合物 インテグラーゼ阻害作用を奏するために保持すべき部位(本件キレート配位子構 造等)と改変が許容される部位があるとの理解に基づき,当業者は,本件訂正発明 1の化合物を,次のとおり理解する。なお,乙20の化合物(8)は背面環を有す るが,3つ目のキレート配位子(R Aの酸素原子(=O))を担持する炭素原子も 環構造を構成しているから,同化合物におけるインテグラーゼ阻害作用は参考にな らない。 (i)本件訂正発明1の化合物の構造式において,Z,Y,R Aの酸素原子(= O)によって特定される部位は,本件キレート配位子構造に該当する。 12 (ii)本件訂正発明1の化合物の構造式における,Z,Yが,背面環に担持さ れる。 (iii)本件訂正発明1の化合物の構造式における,Z 1−3 /R 1含有基が, 4−フルオロベンジル基である。 (iv)本件訂正発明1の化合物の構造式において,−NH−によって特定され る部位は,改変が許容される部位である。 (ウ) A群等試験例化合物からの理解 a インテグラーゼ阻害作用を奏するために保持すべき部位(本件キレート配位 子構造)と改変が許容される部位があるとの理解に基づけば,当業者は,A群等試 験例化合物(ただし,化合物A−7,A−12−a,A−17,A−17−c,A −50,A−158,E−8,F−4,H−7,I−4,J−4,L−4,M−6) と本件訂正発明1の化合物は,X/R B含有基中のR Bの構造が相違するものの, いずれも,酸素原子(O)のキレート配位子としての機能は保持されることを認識 する。 したがって,当業者は,X/R B 含有基中のRBを,フラン,ベンゼン等の環状 化合物由来の2価の連結基から,−NH−やその他の鎖状の置換基に変更しても, 通常,同様にインテグラーゼ阻害活性を有すると理解する。 一方,X/R B含有基中のR B を,−NH−に変更した場合に限って,インテグ ラーゼ阻害作用を,全く失わせてしまうほど,又は全く予想できなくなってしまう ほどの重大な影響が生じることはないと,当業者であれば理解する。 b このような当業者の理解は,化合物の重ね合わせの技法を通じたドラッグデ ザインの考え方に合致する。 c よって,当業者は,A群等試験例化合物の薬理データから,本件訂正発明1 の化合物も,一定のインテグラーゼ阻害作用を有する蓋然性が高いことを,合理的 に認識することができる。 (エ) B群等試験例化合物からの理解 13 a B群等試験例化合物において,Z,Y,C環中の所定の窒素原子(N)によ って特定される部位は,本件キレート配位子構造に該当する。 インテグラーゼ阻害作用を奏するために保持すべき部位(本件キレート配位子構 造)と改変が許容される部位があるとの理解に基づけば,当業者は,B群等試験例 化合物(ただし,化合物B−29,C−26,D−5,K−4)と本件訂正発明1 の化合物は,RAの構造が相違するものの,C環の所定の位置にある窒素原子(N) と本件訂正発明1の化合物のX/RB含有基中の酸素原子(O)は,いずれもキレ ート配位子として機能することを認識する。 b B群等試験例化合物(ただし,上記の各化合物)と本件訂正発明1の化合物 は,RAの構造が相違するものの,C環の所定の位置にある窒素原子(N)と本件 訂正発明1の化合物のX/RB含有基中の酸素原子(O)は,いずれもキレート原 子としてRAの所定の位置に存在させることができる。 そして,アミド(−NHCO−)と1,3,4−オキサジアゾール由来の2価の 連結基を有する化合物はバイオアイソスターの関係にある(甲67)。本件訂正発 明1の化合物のうち化合物C−71と,薬理データの示された化合物C−26とは, 前者がアミドを有し,後者が1,3,4−オキサジアゾールを有するという点にお いてのみ相違している。 したがって,バイオアイソスターを更に考慮することにより,当業者は,化合物 C−26等の薬理データから,本件訂正発明1の化合物も,一定のインテグラーゼ 阻害作用を有する蓋然性が高いことを,合理的に認識することができる。 c キレート原子の位置が保持されることに基づいて,又はバイオアイソスター の概念を利用して,医薬品の有効成分として用いる化合物の構造を改変することは, 原出願日前から行われていたものである。したがって,ピリジン又はオキサジアゾ ール由来の2価の連結基をアミド(−NHCO−)に変更しても,インテグラーゼ 阻害作用を,全く失わせてしまうほど,又は全く予想できなくなってしまうほどの 重大な影響が生じることはないと,当業者であれば理解する。 14 d よって,当業者は,B群等試験例化合物の薬理データから,本件訂正発明1 の化合物も,一定のインテグラーゼ阻害作用を有する蓋然性が高いことを,合理的 に認識することができる。 (オ) 本件訂正発明1の化合物の追試結果等 本件訂正発明1の要件を満たす14種の化合物は,IC 50値に変動はあるもの の,一定のインテグラーゼ阻害作用を有することが,追試により実証されている (甲12,13)。原出願後の学術論文にも,本件訂正発明1の要件を満たす化合 物がインテグラーゼ阻害作用を有することが記載されている(甲31)。このよう な追試結果等は,本件明細書の記載から予測される結果を確認するための資料とし て参酌されるべきである。 また,R C/R D環の構造を完全に満たした化合物同士を対比したとき,A群等 試験例化合物におけるRB環を−NH−に置き換えても,又はB群等試験例化合物 のC環をアミド結合(−CO−NH−)に置き換えても,インテグラーゼ阻害作用 が保持されることが,実証されている(甲11,94)。 オ まとめ 以上によれば,当業者は,本件訂正発明1の化合物がインテグラーゼ阻害作用を 有することは,本件明細書の一般的記載と,A群等試験例化合物及びB群等試験例 化合物が,インテグラーゼ阻害作用を有することを示す薬理データから,十分に理 解することができるというべきである。 よって,本件明細書の発明の詳細な説明は,当業者が本件訂正発明1の医薬組成 物を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものである。本件明細書 の発明の詳細な説明は,実施可能要件に適合する。 (2) サポート要件 本件訂正発明1は,新規なインテグラーゼ阻害剤の開発を課題とする。そして, 前記(1)で主張したとおり,当業者は,本件明細書の発明の詳細な説明に開示され た内容に基づいて,本件訂正発明1の化合物が,インテグラーゼ阻害活性を有する 15 ことを合理的に理解することができる。 よって,本件訂正発明1は,発明の詳細な説明に記載された発明で,発明の詳細 な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のもの である。本件訂正発明1に係る特許請求の範囲の記載は,サポート要件に適合する。 (3) 小括 以上のとおり,本件訂正によって,実施可能要件違反及びサポート要件違反の各 無効理由は解消する。 〔被控訴人の主張〕 (1) 実施可能要件 ア 本件訂正発明1の化合物の薬理データの不存在 医薬発明の医薬用途を裏付けるために,本件明細書は,本件訂正発明1の化合物 (式(I)のRA置換基がアミド基(−NHCO−))の薬理試験結果やそれと同 等の記載を開示していなければならない。 しかし,本件明細書は,化合物C−71以外に本件訂正発明1の化合物の製造方 法を記載していない。 また,本件明細書は,R A置換基がヘテロ環等の環構造となっている化合物に関 する薬理データを開示するのみであり,R A 置換基がアミド基である本件訂正発明 1の化合物については,化合物C−71を含めて,薬理データを開示していない。 さらに,インテグラーゼ阻害剤はHIVに感染した細胞内にて機能できなければ ならない。当業者は,原出願日時点において,インテグラーゼ阻害剤の候補を見出 すためには酵素アッセイを実施するのみでは意味がなく,最低限細胞アッセイが必 要であると理解していたものである。しかし,本件明細書に記載されている他の化 合物の薬理データは,酵素アッセイの試験結果にすぎず,抗ウイルス細胞アッセイ の試験結果ではない。 したがって,当業者は,本件明細書の記載から,本件訂正発明1の化合物がイン テグラーゼ阻害作用を有することを理解し得ない。 16 イ 原出願日時点におけるインテグラーゼ阻害剤に関する技術常識 (ア) 化合物間の構造におけるわずかな差異によって,活性に大きな差異がもた らされること 医薬品分野においては,2つの化学的構造が類似しているようであっても,それ らのわずかな差異が当該化合物に係る活性及び薬理効果に多大な影響を及ぼし得る ことが,当業者に広く知られていた。 また,特定の化合物がインテグラーゼ阻害作用を示したとしても,同化合物と構 造が類似する化合物が必ずしもインテグラーゼ阻害作用を示さないということは, 技術常識であった(甲4の9・11,26,31,乙11,15,19,20)。 (イ) インテグラーゼ阻害作用を示さない化合物 原出願日前に発行された文献(乙20)において,化合物(8)は,本件キレー ト配位子構造を有するが,IC 50の値が100μMを超えておりインテグラーゼ 阻害作用を有しない。なお,化合物(1)と(8)は,いずれも本件キレート配位 子構造を有し,1個のヒドロキシル基の有無の違いがあるのみであるが,化合物 (1)のIC50の値は,少なくともMnCl 2の存在下では8μMとなっており, インテグラーゼ阻害作用において大きな差異がある。 原出願日前に発行された文献(甲4の9)において,化合物L−731・942 は,本件キレート配位子構造を有するが,IC 50 の値がインテグラーゼ阻害作用 の閾値として設定された値を超過している。なお,化合物L−731・988,L −708・906,L−731・927,L−731・942は,いずれも本件キ レート配位子構造を有し,末端に環状構造を有する点で類似するが,インテグラー ゼ阻害作用において大きな差異がある。 原出願日後に発行された文献(甲31)において,化合物RCD−2,RCD− 3,RCD−13,RCD−17,RCD−18,RCD−19は,本件キレート 配位子構造を有するが,インテグラーゼ阻害作用を有しない。 原出願日後に作成された文献(乙11)において,化合物Merck#6,#7, 17 #9,#10,#11,#12は,本件キレート配位子構造を有するが,塩化マグ ネシウム(MnCl2)の存在下では,インテグラーゼ阻害作用を有しない。 (ウ) 控訴人の社内報告書 (●省略●) ウ 控訴人の主張について (ア) 先行技術文献の記載 本件先行技術文献は,いずれも,開示された化合物が,本件キレート配位子構造 を有しているからインテグラーゼ阻害作用を備えていること,本件キレート配位子 構造以外の構造はインテグラーゼ阻害作用を失うことなく変更し得ることを,説明 も示唆もしていない。本件先行技術文献でクレームされている化合物を構成してい る全ての構成要素や構造の中から,本件キレート配位子構造のみに当業者が着目し たであろうと考える理由は何もない。 インテグラーゼ阻害作用を有しているとされる化合物に対してわずかな変更を与 えることにより,しばしば,そのインテグラーゼ阻害作用に影響が及ぶという技術 常識に照らし,本件キレート配位子構造がインテグラーゼ阻害剤として機能するた めの十分条件であるとは理解し得ない。 本件先行技術文献からは,せいぜい,インテグラーゼ阻害作用を有すると考えら れる「ある種」のタイプの化合物は,そのキレート配位子によってインテグラーゼ 阻害作用を発現する可能性があるという程度を理解できるのみである。なお,WO 086文献,WO968文献,WO930文献,WO931文献においてインテグ ラーゼ阻害作用を有するとされる化合物のいくつかは4−フルオロベンジル基の構 造を有しているものの,本件キレート配位子構造と同様に,このことは,インテグ ラーゼ阻害剤に関する当業者の理解を検討するに当たり意味がない。 そもそも,本件先行技術文献は,特許文献であって,必ずしも科学的に十分に裏 付けられている発明を開示しておらず,インテグラーゼ阻害作用に関する技術常識 を開示しているとは限らない。 18 (イ) 先行技術文献に記載されている化合物の対比 本件先行技術文献には,関連する化合物が共通して特定の部分構造を有している 限り,両化合物間の構造上の差異はインテグラーゼ阻害作用に影響を与えない旨説 明も示唆もされていない。仮に,特定の化合物の特定の部分構造がインテグラーゼ 阻害作用に影響を与えることなく他の構造に置き換えられることが示唆されている としても,そのような互換性が,インテグラーゼ阻害作用を発現するとされる他の 化合物に一般的に適用できるなどと当業者が理解することはあり得ない。 (ウ) インテグラーゼ阻害剤とキレート配位子を有する分子 原出願日時点における各文献は,せいぜい,インテグラーゼ阻害作用を有すると 目されていた「ある種の」タイプの化合物は,そのキレート配位子によりインテグ ラーゼ阻害作用を発現している可能性があるということを示すに止まる。 (エ) 本件訂正発明1の化合物 当業者は,インテグラーゼ阻害剤という本件訂正発明1の化合物の特徴について, 前記〔控訴人の主張〕(1)エ(イ)のとおり,(i)Z,Y,R A の酸素原子(=O) によって特定される部位が本件キレート配位子構造に該当する,(i)Z1−3/R 1含有基が4−フルオロベンジル基である,(iv)−NH−によって特定される 部位が改変の許容される部位である,ということを理解し得ない。(ii)Z,Y が,背面環に担持されることも,本件明細書には,背面環構造の機能に関する記載 はなく,背面環を有する乙20の化合物(8)もインテグラーゼ阻害作用を有して いないから,本件訂正発明1の化合物の特徴として理解し得ない。 (オ) 本件訂正発明1の化合物の追試結果等 本件訂正発明1の化合物について,本件明細書は薬理データを開示しておらず, また,技術常識に照らしても,インテグラーゼ阻害作用を有するものとは理解し得 ない。このような状況において,本件訂正発明1の化合物の追試結果を考慮しては ならない。 (カ) バイオアイソスター 19
控訴人は,本件訂正発明1の化合物のRAの置換されたアミドと,化合物C−2 6の1,3,4−オキサジアゾールとはバイオアイソスター(生物学的等価体)で あるから(甲67),両者はインテグラーゼ阻害作用の面において互換性があると 主張する。 しかし,甲67は,2価のアミド結合(−NHCO−)又は2価の1,3,4− オキサジアゾール結合について述べたものではない。また,甲67は,バイオアイ ソスターの一般的な考え方を示すものにすぎず,インテグラーゼ阻害剤には当ては まらない。 また,アミドと1,3,4−オキサジアゾールとの相違は,インテグラーゼ阻害 作用に影響に及ぼす。化合物Merck#11(乙11)と本件明細書に薬理デー タが記載された化合物D−9は,かかる相違を有するのみであるが,インテグラー ゼ阻害作用が顕著に異なる。 エ 小括 以上のとおり,本件訂正発明1の化合物について十分な薬理データが開示されて いない状況のもと,当業者においては,たとえ原出願日時点の技術常識を考慮して も,本件明細書の記載から本件訂正発明1の化合物がインテグラーゼ阻害作用を有 するものとは理解し得なかった。 よって,本件明細書の発明の詳細な説明は,実施可能要件に適合しない。 (2) サポート要件 本件訂正発明1の課題であるインテグラーゼ阻害剤が開発されたというためには, インテグラーゼ阻害剤としての機能を確認するための抗ウイルス細胞アッセイが必 要である。しかし,本件明細書には,本件訂正発明1の化合物について,抗ウイル ス細胞アッセイの試験結果は記載されていない。また本件明細書から,当業者が当 該課題を解決できると認識できる範囲は,せいぜい,酵素アッセイの試験結果が開 示されているRA置換基がアミドではない27種類の化合物に限定される。 20 よって,本件訂正発明1に係る特許請求の範囲の記載は,サポート要件に適合し ない。 (3) 小括 以上のとおり,本件訂正によっても,実施可能要件違反及びサポート要件違反の 各無効理由は解消しない。 3 争点(2)(本件発明2及び3に係る特許権の侵害) 〔控訴人の主張〕
被告製品は本件発明2及び3の技術的範囲に属する。被控訴人は本件発明2及び 3に係る特許は無効にされるべきものであると主張するが,原判決第3の2ないし 5の各〔原告の主張〕と同様の理由により,被控訴人の主張は成り立たない。 仮に,本件発明2及び3に係る特許に無効理由が存在したとしても,原判決第3 の6〔原告の主張〕及び前記2〔控訴人の主張〕と同様の理由により,本件訂正に よって無効理由が解消される。そして,被告製品と本件訂正発明2及び3との対比 は原判決別紙「本件訂正発明1〜3と被告製品の対比」の「2 対比」記載のとお りであり,被告製品は本件訂正発明2及び3の技術的範囲に属する。さらに,被控 訴人は,本件訂正発明2及び3に係る特許は,新たな無効理由(明確性要件違反) により無効にされるべきものであると主張するが,原判決第3の8〔原告の主張〕 と同様の理由により,被控訴人の主張は成り立たない。 〔被控訴人の主張〕
被告製品は本件発明2及び3の技術的範囲に属さない。また,原判決第3の2な いし5の各〔被告の主張〕と同様の理由により,本件発明2及び3に係る特許は無 効にされるべきものである。
控訴人は本件訂正によって無効理由が解消されると主張するが,原判決第3の6 〔被告の主張〕及び前記2〔被控訴人の主張〕と同様の理由により,本件訂正によ っても無効理由は解消されない。また,原判決第3の7〔被告の主張〕と同様の理 由により,被告製品は本件訂正発明2及び3の技術的範囲に属さない。さらに,原 21 判決第3の8〔被告の主張〕と同様の理由により,本件訂正発明2及び3に係る特 許は,新たな無効理由(明確性要件違反)により無効にされるべきものである。 第4 当裁判所の判断 当裁判所も,本件各発明に係る特許は特許無効審判により無効にされるべきもの であり,本件訂正によっても無効理由が解消されないから,控訴人の不法行為又は 不当利得に基づく請求はいずれも理由がないと判断する。 その理由は,以下のとおりである。 1 争点(1)イ(本件発明1に係る特許の無効)について 事案に鑑み,サポート要件違反について判断する。 (1) サポート要件について 特許請求の範囲の記載が,サポート要件に適合するか否かは,特許請求の範囲の 記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し,特許請求の範囲に記載された発明が, 発明の詳細な説明に記載された発明で,発明の詳細な説明の記載により当業者が当 該発明の課題を解決できると認識し得る範囲のものであるか否か,また,発明の詳 細な説明に記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課 題を解決できると認識し得る範囲のものであるか否かを検討して判断すべきである。 (2) 特許請求の範囲の記載 本件発明1に係る特許請求の範囲は,原判決第2の2(3)アのとおりである。 (3) 本件明細書の発明の詳細な説明の記載 本件明細書(甲2)には,以下の各事項が,本件発明1の説明として記載されて いることが認められる。なお,本件明細書は,350頁にもわたるものであるとこ ろ,そこには,原出願発明に関する説明も記載されている。 ア 技術分野(【0001】) 本件発明1は,抗ウイルス剤,特にインテグラーゼ阻害剤として使用する医薬組 成物に関するものである。 イ 背景技術(【0002】,【0034】) 22 ヒト免疫不全ウイルス(HIV)は,後天性免疫不全症候群(エイズ)の原因と なることが知られており,その治療薬としては逆転写酵素阻害剤及びプロテアーゼ 阻害剤が主流である。しかし,これらについては腎臓障害等の副作用や耐性ウイル スの出現等の問題があるから,これらとは異なる作用メカニズムを有する抗HIV 薬の開発が求められている。インテグラーゼ阻害剤は,HIV等のレトロウイルス が動物細胞内で増殖するために産出するインテグラーゼの作用を阻害することで, ウイルスの増殖を防ぐものである。本件先行技術文献には,インテグラーゼ阻害剤 として様々な化合物が開示されている。もっとも,原出願日時点において,インテ グラーゼ阻害剤は上市されていなかった。 ウ 発明が解決しようとする課題(【0003】)
上記の状況下,新規なインテグラーゼ阻害剤の開発が要望されていた。 エ 課題解決手段(【0004】【0005】) 発明者らは,新規な抗ウイルス剤として,下記(ア)ないし(ク)の各要件を満たす 化合物を見いだした。 (ア) 式: 【化1】 で示される基。 (イ) RC及びRD RC及びR Dは一緒になって隣接する炭素原子と共に環を形成し,該環は縮合環 であってもよい。 (ウ) Y ヒドロキシ,メルカプト又はアミノ 23 (エ) Z 酸素原子,硫黄原子又はNH (オ) RA 式:【化2】で示される基又は式:【化3】で示される基 a 式:【化2】 C環は,結合手を有する原子に隣接する原子のうち,少なくとも一つの原子が非 置換の窒素原子である含窒素芳香族複素環である。破線は結合の存在又は非存在を 表わす。 b 式:【化3】 Xは酸素原子,硫黄原子又はNHであり,R Bは下記置換基群Aから選択される 置換基である。 (カ) RC及びRDが形成する環,C環又はRB RC 及びRDが形成する環,C環又はRB の少なくとも一つが,下記式:−Z1 − Z2−Z3−R1で示される基で置換されており,さらに,RC及びRDが形成する環, C環又はRBが,式:−Z1−Z2−Z3−R1で示される基で置換されている以外の 位置で,非妨害性置換基により置換されていてもよい。 (キ) 式:−Z1−Z2−Z3−R1 Z1及びZ 3はそれぞれ独立して単結合,置換されていてもよいアルキレン又は 置換されていてもよいアルケニレン;Z 2は単結合,置換されていてもよいアルキ レン,置換されていてもよいアルケニレン,−CH(OH)−,−S−,−SO−, 24 −SO2−,−SO2NR2−,−NR2SO2−,−O−,−NR2−,−NR2CO −,−CONR2−,−C(=O)−O−,−O−C(=O)−又は−CO−;R 2は水素,置換されていてもよいアルキル,置換されていてもよいアルケニル,置 換されていてもよいアリール又は置換されていてもよいヘテロアリール;R 1は置 換されていてもよいアリール,置換されていてもよいヘテロアリール,置換されて いてもよいシクロアルキル,置換されていてもよいシクロアルケニル又は置換され ていてもよいヘテロサイクル (ク) 置換基群A 水素,ハロゲン,アルコキシカルボニル,カルボキシ,アルキル,アルコキシ, アルコキシアルキル,ニトロ,ヒドロキシ,アルケニル,アルキニル,アルキルス ルホニル,置換されていてもよいアミノ,アルキルチオ,アルキルチオアルキル, ハロアルキル,ハロアルコキシ,ハロアルコキシアルキル,置換されていてもよい シクロアルキル,置換されていてもよいシクロアルケニル,置換されていてもよい ヘテロサイクル,ニトロソ,アジド,アミジノ,グアニジノ,シアノ,イソシアノ, メルカプト,置換されていてもよいカルバモイル,スルファモイル,スルホアミノ, ホルミル,アルキルカルボニル,アルキルカルボニルオキシ,ヒドラジノ,モルホ リノ,置換されていてもよいアリール,置換されていてもよいヘテロアリール,置 換されていてもよいアラルキル,置換されていてもよいヘテロアリールアルキル, 置換されていてもよいアリールオキシ,置換されていてもよいヘテロアリールオキ シ,置換されていてもよいアリールチオ,置換されていてもよいヘテロアリールチ オ,置換されていてもよいアラルキルオキシ,置換されていてもよいヘテロアリー ルアルキルオキシ,置換されていてもよいアラルキルチオ,置換されていてもよい ヘテロアリールアルキルチオ,置換されていてもよいアリールオキシアルキル,置 換されていてもよいヘテロアリールオキシアルキル,置換されていてもよいアリー ルチオアルキル,置換されていてもよいヘテロアリールチオアルキル,置換されて いてもよいアリールスルホニル,置換されていてもよいヘテロアリールスルホニル, 25 置換されていてもよいアラルキルスルホニル及び置換されていてもよいヘテロアリ ールアルキルスルホニルからなる群 オ 実施例(【0035】) 本件明細書には,合成した化合物の製造方法及び物性データとして,A群化合物 として33個の化合物及びこれらの一部が置換された化合物が,B群化合物として 26個の化合物及びこれらの一部が置換された化合物が,C群化合物として16個 の化合物及びこれらの一部が置換された化合物が,D群化合物として2個の化合物 が,E群化合物として13個の化合物及びこれらの一部が置換された化合物が,F 群化合物として1個の化合物が,G群化合物として1個の化合物及びこの一部が置 換された化合物が,H群化合物として2個の化合物が,I群化合物として2個の化 合物及びこの一部が置換された化合物が,J群化合物として3個の化合物及びこれ らの一部が置換された化合物が,K,L,M群化合物として各1個の化合物が,そ れぞれ記載されている。また,本件明細書には,上記各化合物と同様に合成するこ とができる化合物として極めて多数の化合物が記載されている。 もっとも,これらの化合物のうち,本件発明1の構造に相当する化合物は,化合 物C−71(214頁)のみである。なお,本件発明2及び本件発明3の構造に相 当する化合物は,本件明細書に記載されていない。 カ 試験例(【0036】) 本件明細書には,別紙試験例【表1】のとおり,27個の化合物(A群等試験例 化合物及びB群等試験例化合物)について,酵素アッセイに基づく阻害率50%に 相当する化合物濃度(IC50)が記載されている。 一方,本件明細書には,上記27個の化合物以外の化合物も,同様あるいはそれ 以上のインテグラーゼ阻害作用を示したと記載されているものの,これを裏付ける 薬理データは示されていない。化合物C−71について,インテグラーゼ阻害作用 を有することを示す薬理データも記載されていない。 キ 効果(【0034】【0037】) 26 本件発明1に係る化合物は,新規なインテグラーゼ阻害剤であり,インテグラー ゼ阻害作用を有し,抗HIV薬等として有用である。 ク 機序 本件発明1に係る化合物がインテグラーゼ阻害作用を示すに至る機序について, 本件明細書には何ら記載されていない。 (4) 本件発明1の課題 本件明細書の発明の詳細な説明の記載によれば,本件発明1の課題は,インテグ ラーゼ阻害作用を有する化合物を含有する医薬組成物を新たに提供するというもの である。 (5) インテグラーゼ阻害剤に関する技術常識 ア インテグラーゼ阻害剤の構造に対する修飾変化 化合物において構造のわずかな修飾変化によって,薬理効果に差異が生じ得るこ とは当業者の技術常識である(甲10,乙17の1〜3,18の1〜3)。 また,インテグラーゼ阻害剤に関しても,アメリカ国立がん研究所・分子薬理学 研究室・Yves Pommier及びNouri Neamati「ヒト免疫不 全ウイルスインテグラーゼの阻害剤」(平成11年。甲26)において,「多数の 阻害剤が,現在までに同定されている。しかし,我々の知る限り,これらの薬剤の うちのどれも,IN(判決注:インテグラーゼタンパク質)について高度に選択的 であり,そして強力な抗ウイルス活性を示すという望ましい特性を有していない。」 (442頁)とされ,「隣接する水酸基のルールは,既知のすべてのIN阻害剤に 適用されるわけではない。…これは,阻害剤における他の部分の結合が,それらの 活性について,そしておそらくは選択性の鍵となることを示唆している。」(44 5頁)とされていたものである。Nouri Neamati教授が平成27年に 作成した宣誓書(甲25の11頁)においても,「2001年までに,いくつかの 特異的モチーフ…がリード化合物の成功のための共通した構成要素であることが認 27 識されていたが,候補化合物への小さな変化は,最初のインビトロアッセイ段階の 結果にさえ顕著な影響を与え得ることも広く理解されていた。」と記載されている。 そうすると,当業者は,原出願日時点において,インテグラーゼ阻害剤の構造に 対するわずかな修飾変化によって,そのインテグラーゼ阻害作用に大きな差異が生 じ得るとの技術常識を有していたというべきである。 イ キレート配位子を有する分子とインテグラーゼ阻害剤の関係 (ア) 本件発明1に係る化合物の一般式において,【化1】のYはヒドロキシ, Zは酸素原子であり,【化3】にも酸素原子があるから,本件発明1に係る化合物 は,孤立電子対を他の原子に供与し得るヘテロ原子(O)がキレート配位子となり 得る構造を有する。しかし,以下のとおり,原出願日時点における技術常識は,キ レート配位子となり得る構造を有する分子がインテグラーゼ阻害作用を有するとは 限らないというものであったことが認められる。 (イ) すなわち,金属イオンに配位する原子(O,N,S,P,As等)を含む 配位基を,分子内に2つ以上有し,これらの配位基が配位してできるキレート環が 5員環又は6員環を構成する化合物は多数存在することが認められる(甲4の2)。 しかし,このようにキレート配位子となり得る構造を有する化合物が,インテグラ ーゼ阻害作用を有するとは限らないことは明らかであった。 そして,アメリカ国立がん研究所・分子薬理学研究室・Yves Pommie r,Christophe Marchand,Nouri Neamati「総 説 レトロウイルスインテグラーゼ阻害剤2000年:最新状況と展望」(甲4 の6)には,「酵素触媒部位内の二価金属コファクター(Mg 2+またはMn 2+) のキレート化が,水酸化芳香族について提唱されてきている(図4)。しかし,そ のような可能性についての直接的なエビデンスはまだ実証されていない。」(14 1頁)と記載されている。また,ジケト酸誘導体は,インテグラーゼのモノヌクレ オチド結合部位と結合するものであって,DDEモチーフと結合することが見いだ されたにとどまるところ(141頁),「インテグラーゼを選択的にターゲットと 28 するように見受けられる唯一のクラスの阻害剤は,ジケト酸類である…。」(14 4頁)と記載されている。さらに,ジケト酸インテグラーゼ阻害剤の結合部位を説 明するために示された図において,当該化合物はキレート配位子を有するにもかか わらず,金属結合部位との関係は何ら示されていない(142頁図2)。同文献は, キレート配位子となり得る構造を有する分子がインテグラーゼ阻害作用を有するこ とを示すものではない。 また,前記甲26は,「我々は,HIV−1 INの阻害剤における大規模なク ラス,すなわち,水酸化芳香族が,金属キレーターとして機能し得ると仮定してい る(図14.3)。」(435頁)とし,前記のとおり「隣接する水酸基のルール は,既知のすべてのIN阻害剤に適用されるわけではない。…これは,阻害剤にお ける他の部分の結合が,それらの活性について,そしておそらくは選択性の鍵とな ることを示唆している。」(445頁)と説明する。Nouri Neamati 「Expert Opinion on Investigational Dr ugs」(平成13年。甲27)は,「阻害剤の有望なクラスであるヒドロキシル 化芳香族(図2)が,金属キレーターである可能性が明らかとなった。」(283 頁)とし,「ヒドロキシル化芳香族はMg 2+ イオンをキレートでき,恐らく,イ ンテグラーゼの活性部位残基…と三元複合体を形成する。」(284頁)と説明す る。これらの各文献は,キレート配位子の機能を推測するにとどまるものであって, かつ,キレート配位子となり得る構造を有する分子であれば,直ちにインテグラー ゼ阻害作用を有することを否定するものである。 さらに,Nouri Neamati外「Salicylhydrazine− Containing Inhibitors of HIV−1 Integr ase」(平成10年。甲4の7)は,「我々は,HIV−1インテグラーゼ触媒 活性とDNA結合の阻害が厳密にMn 2+ 依存性であったため,この部位が,イン テグラーゼ活性部位中の金属とのキレート化により,HIV−1インテグラーゼと 29 相互作用できるということを提案する。」(3202頁)と説明する。この文献も, キレート配位子の機能を提案するにとどまるものである。 なお,控訴人は,WO968文献(甲4の11)には,特定の位置に孤立電子対 を有することがインテグラーゼ阻害活性にとって好ましい旨開示されていると主張 する。しかし,孤立電子対を有する原子は,酵素阻害剤等の医薬化合物において, ごくありふれて存在しており,その役割も様々に考えられるから,特定の位置に孤 立電子対を有する分子をもって,インテグラーゼ阻害作用を有すると理解すること はできない。 そうすると,当業者は,原出願日時点において,キレート配位子となり得る構造 を有する分子が,何らかの方法により,インテグラーゼ阻害作用に関与する可能性 があることは認識していたものの,キレート配位子となり得る構造を有する分子が インテグラーゼ阻害作用を有するとは限らないとの技術常識を有していたというべ きである。 (6) 当業者が本件発明1の課題を解決できると認識し得るかについて 本件発明1の課題は,インテグラーゼ阻害作用を有する化合物を含有する医薬組 成物を新たに提供するというものである。 しかし,本件明細書には,本件発明1に係る化合物がインテグラーゼ阻害作用を 有することを示す薬理データは,一つも記載されておらず,本件発明1に係る化合 物がインテグラーゼ阻害作用を示すに至る機序についても記載されていない。 また,原出願日時点におけるインテグラーゼ阻害剤の構造に対するわずかな修飾 変化によって,そのインテグラーゼ阻害作用に大きな差異が生じ得るとの前記の技 術常識に照らせば,A群等試験例化合物及びB群等試験例化合物がインテグラーゼ 阻害作用を有することを示す薬理データをもって,当業者が,本件発明1に係る化 合物についてもインテグラーゼ阻害作用を有すると認識することはできない。 さらに,原出願日時点におけるキレート配位子となり得る構造を有する分子がイ ンテグラーゼ阻害作用を有するとは限らないとの前記の技術常識に照らせば,本件 30 発明1に係る化合物がキレート配位子となり得る構造を有することをもって,当業 者が,本件発明1に係る化合物がインテグラーゼ阻害作用を有すると認識すること はできない。 その他,本件発明1に係る化合物がインテグラーゼ阻害作用を有すると当業者に 認識させ得るような原出願日時点における技術常識も見当たらない。 したがって,本件発明1に係る化合物は,当業者がインテグラーゼ阻害作用を有 する化合物を含有する医薬組成物を新たに提供するという本件発明1の課題を解決 できると認識し得る範囲のものとはいえないというべきである。 (7) 控訴人の主張について
控訴人は,原出願日時点の技術常識に照らせば,当業者は,本件明細書に記載さ れた化合物には,本件キレート配位子構造等の保持すべき部位と改変が許容される 部位があることを理解し,かかる理解などに基づけば,本件明細書に記載されたA 群等試験例化合物及びB群等試験例化合物の薬理データから,本件発明1に係る化 合物がインテグラーゼ阻害作用を有することを認識する旨主張する。 しかし,控訴人の主張は採用することはできない。その理由は,以下のとおりで ある。 ア キレート配位子によるインテグラーゼ阻害作用 (ア) 控訴人は,原出願日時点において,キレート配位子を有する分子が,イン テグラーゼの活性中心にある2つの金属イオンと反応することにより,インテグラ ーゼ阻害作用を有することは示されていたと主張する。 (イ) しかし,控訴人が援用する甲4の6は,前記のとおり,金属イオンへのキ レート化によるインテグラーゼ阻害作用が可能性として提唱されていたことを示す にすぎず,インテグラーゼのモノヌクレオチド部位と結合するジケト酸誘導体が唯 一のインテグラーゼ阻害剤であると見受けられる旨の記載によれば,金属結合部位 がインテグラーゼ阻害剤の作用部位となることはいまだ明らかではなかったという べきである。また,甲4の7は,前記のとおり,金属イオンへのキレート化によっ 31 てインテグラーゼ阻害作用が生じるという考え方を提案するにすぎない。さらに, 甲26や甲27も,金属イオンへのキレート化によるインテグラーゼ阻害作用につ いて,留保を付けて,仮定や可能性と表現するにとどまる。 (ウ) 加えて,甲26には,「IN阻害が,空間的近接における,しかし必ずし も同じ環において互いにオルトではない少なくとも2つの水酸基を必要とすること を示唆した。」「これらのタイプの化合物についての1つの可能性のある作用メカ ニズムは,これらがポリヌクレオチド結合およびINの触媒部位をブロックするこ とである…。しかし,フェノール性水酸基が水素結合ドナーとして機能するかもし れないことは排除されない。」(446頁)と記載されており,同文献は,インテ グラーゼ阻害剤において,ヘテロ原子を有する水酸基の位置関係や,その作用機序 について十分に特定できていなかったことを示している。 (エ) なお,WO968文献(甲4の11。12頁,16頁)には,「ヘテロア リールを構成するヘテロ原子の位置に,それぞれ,酸素原子や窒素原子が位置し, 高いインテグラーゼ阻害活性を示すため好ましい。」「該ヘテロ原子が芳香環の共 役に関わらない孤立電子対を有する場合が好ましい。」と記載されているものの,
同文献は,インテグラーゼ阻害作用を有する化合物が特定の位置に孤立電子対を有 することと,当該孤立電子対が金属イオンへキレート化することによりインテグラ ーゼ阻害作用を有することとを関連付けて説明しているものではない。 (オ) そうすると,インテグラーゼが活性中心に2個の金属イオンを有すること, キレート配位子は金属イオンと配位結合することが知られていたとしても,キレー ト配位子となり得る構造を有する分子が,インテグラーゼの活性中心にある2つの 金属イオンと反応することによりインテグラーゼ阻害作用を有することは,原出願 日時点においては,いまだ推測の域を出るものではなかったというべきである。 したがって,当業者は,インテグラーゼ阻害剤として本件明細書に記載された化 合物において,そのインテグラーゼ阻害作用を奏するために保持すべき部位は,本 32 件キレート配位子構造等であって,その余は改変が許容される部位であることを理 解できるものではない。 イ 本件先行技術文献の記載 (ア) 控訴人は,本件先行技術文献には,本件キレート配位子構造がインテグラ ーゼ阻害作用を有する化合物の一般式において表されていることから,本件先行技 術文献の記載を比較すれば,本件キレート配位子構造が本件明細書に記載された化 合物の特徴であると理解できる旨主張する。 (イ) しかし,まず,前記のとおり,金属イオンに配位する原子を含む配位基を, 分子内に2つ以上有し,これらの配位基が配位してできるキレート環が5員環又は 6員環を構成する化合物に限定しても,このような化合物は多数存在し,このよう な構造を有する化合物はありふれたものであるから,化合物において,酸素原子, 窒素原子等のヘテロ原子を含む基が3個存在し,これらのヘテロ原子が特定の距離 をもって存在することが当該化合物の特徴であると直ちに理解できるものではない。 そして,本件先行技術文献には,本件キレート配位子構造を有する化合物がインテ グラーゼ阻害作用を示すに至る機序は何ら記載されていない。 (ウ) また,本件明細書の【背景技術】に記載された本件先行技術文献11編に インテグラーゼ阻害作用を有する化合物として記載された化合物の全てが,本件キ レート配位子構造を有するものでもない。 すなわち,WO968文献(甲4の11)の特許請求の範囲請求項1には,イン テグラーゼ阻害作用を有する化合物の一般式が記載されているところ,式(I)の Zは「水素,置換されていてもよいアルキルまたは置換されていてもよいアラルキ ル」と定義され,ヘテロ原子を有しているとは限らないから,WO968文献から は,本件キレート配位子構造がインテグラーゼ阻害作用のために不可欠であるとは 理解できない。 WO245文献(甲4の8)は,インテグラーゼ阻害作用を有する化合物を開示 するものであるところ,その特許請求の範囲請求項1の式(I)のYは,「COO 33 R(Rは水素またはエステル残基),置換基を有していてもよいアリール,又は置 換基を有していてもよいヘテロアリールである。」と定義され,ヘテロ原子を有し ているとは限らないこと,また,その実施例96の化合物におけるヘテロ原子(− OHにおける酸素原子,−CO 2Hにおける酸素原子)は,互いに原子間結合5つ 分又は6つ分の距離に位置し,本件キレート配位子構造とは異なることから,WO 245文献からは,本件キレート配位子構造がインテグラーゼ阻害作用のために不 可欠であるとは理解できない。 WO086文献(甲4の10)の特許請求の範囲請求項1には,インテグラーゼ 阻害作用を有する化合物の一般式が記載されているところ,式(I)のYは「CO ORA(R Aは水素又はエステル残基),CONR BR C(R B及びR Cはそれぞれ独 立して水素又はアミド残基),置換されていてもよいアリール,又は置換されてい てもよいヘテロアリール」と定義され,ヘテロ原子を有しているとは限らないから, WO086文献からは,本件キレート配位子構造がインテグラーゼ阻害作用のため に不可欠であるとは理解できない。 そうすると,本件先行技術文献の記載からは,インテグラーゼ阻害作用を有する 化合物の中には,本件キレート配位子構造を有するものがあると理解できるにとど まる。 (エ) したがって,当業者は,インテグラーゼ阻害剤として本件明細書に記載さ れた化合物において,そのインテグラーゼ阻害作用を奏するために保持すべき部位 は,本件キレート配位子構造等であって,その余は改変が許容される部位であるこ とを理解できるものではない。 ウ バイオアイソスター
控訴人は,アミド(−NHCO−)と1,3,4−オキサジアゾール由来の2価 の連結基を有する化合物はバイオアイソスターの関係にあるから,本件発明1に係 る化合物も,本件明細書においてインテグラーゼ阻害作用の薬理データが示された 34 化合物C−26等と同様に,インテグラーゼ阻害作用を有すると理解できる旨主張 する。 本件明細書に記載された化合物のうち,本件発明1の構造に相当する化合物は, 化合物C−71のみである。そして,化合物C−71と上記薬理データが示された 化合物C−26の構造式を対比すれば,次のとおりであり(本件明細書200頁, 214頁),構造式においては,アミド(−NHCO−)と1,3,4−オキサジ アゾール由来の2価の連結基のみが相違する。 しかし,甲67には,「1,2,4−オキサジアゾール(92),1,3,4− オキサジアゾール(93),および1,2,4−トリアゾール(94)のような複 素環式環も,アミドまたはエステル結合の代替物として使用されている。」(31 70頁)と記載されるにとどまり,前者が後者の代替物になったとしても,後者が 前者の代替物になるとは示されていない。また,そもそも,バイオアイソスターに よる置換をして得られた化合物が,元になった医薬と同等の生物活性を必ず示すと いうこともできない(甲67の3165頁)。 そうすると,化合物C−26における1,3,4−オキサジアゾール由来の2価 の連結基を,アミドに代替しても同等の生物活性を示すということはできない。し たがって,本件発明1に係る化合物である化合物C−71が,本件明細書において 酵素アッセイによりインテグラーゼ阻害作用があると示された化合物C−26と比 較して,連結基がアミドに代替されているにすぎないものであったとしても,化合 35 物C−71が,化合物C−26と同様にインテグラーゼ阻害作用を有すると理解す ることはできない。 エ 追試結果
控訴人は,本件発明1に係る化合物がインテグラーゼ阻害作用を有することは追 試により実証されていると主張する。 しかし,前記のとおり,本件明細書には,本件発明1に係る化合物がインテグラ ーゼ阻害作用を有することを示す薬理データは記載されておらず,本件発明1に係 る化合物がインテグラーゼ阻害作用を示すに至る機序についても記載されていない ことに加え,原出願日時点における技術常識に照らせば,本件明細書に記載された 事項から,当業者が本件発明1に係る化合物についてインテグラーゼ阻害作用を有 すると認識することもできない。本件明細書における開示が上記の程度のものであ るにもかかわらず,本件発明1に係る化合物はインテグラーゼ阻害作用を有すると の技術的思想が原出願日時点における発明者の単なる憶測ではなかったということ を明らかにするために,原出願日以後に行われた当該技術的思想を裏付ける実験結 果を用いることはできない。 よって, 本件発明1に係る化合物がインテグラーゼ阻害作用を有するとの追試 結果をもって,本件発明1に係る特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合する ということはできない。 オ ドラッグデザイン
控訴人は,本件明細書に記載された化合物において,保持すべき部位は本件キレ ート配位子構造等であるなどと理解することは,化合物の重ね合わせの技法を通じ たドラッグデザインの考え方に合致すると主張する。 しかし,前記のとおり,化合物における構造のわずかな修飾変化によって,薬理 効果に特異性が生じ得ることは当業者の技術常識であって,インテグラーゼ阻害剤 においても同様であったものである。そうすると,本件明細書及び本件先行技術文 献に記載された化合物を重ね合わせることのみで,これらの化合物においてインテ 36 グラーゼ阻害作用を奏しているのが本件キレート配位子構造等であると理解するこ とはできない。 カ 末端に環構造を有する置換基
控訴人は,本件明細書に記載された化合物の特徴は,末端に環構造を備える置換 基を有することである旨主張する。 しかし,末端に環構造を備える置換基を有する化合物が多数存在することは明ら かであり,このような構造を有する化合物はありふれたものであるから,末端に環 構造を備える置換基を有することが,本件明細書に記載された化合物の特徴である と直ちに理解できるものではない。また,原出願日前において,末端に環構造を備 える置換基を有する化合物がインテグラーゼ阻害作用を示すに至る機序を具体的に 説明する文献は見当たらない。 そうすると,当業者は,末端に環構造を備える置換基を有することが,本件明細 書に記載された化合物の特徴であると理解できるものではない。 キ 背面環(RC/RD環)
控訴人は,本件キレート配位子構造を支える背面環(R C/R D 環)がインテグ ラーゼ阻害作用を奏するために重要である旨主張する。 しかし,原出願日前において,背面環の存在が本件キレート配位子構造を支え, これにより当該構造を有する化合物がインテグラーゼ阻害作用を示すに至ることを 説明する文献は見当たらない。また,本件明細書(59頁)には,背面環(R C/ RD環)は,「非妨害性置換基により置換されていてもよい。…非妨害性置換基と は,インテグラーゼ阻害活性を妨害しない置換基を意味する。」と記載され,背面 環はインテグラーゼ阻害活性を妨害しないもので足りる旨説明されており,本件明 細書の記載から,背面環の機能について,本件キレート配位子構造を支えるという 積極的な意義は見いだせない。 37 そうすると,当業者は,本件明細書に記載された化合物において,本件キレート 配位子構造を支える背面環(R C/R D環)がインテグラーゼ阻害作用を奏するた めに重要であると理解できるものではない。 ク 本件明細書や本件先行技術文献に記載された個々の化合物の類似性
控訴人は,インテグラーゼ阻害作用を有するものとして本件明細書や本件先行技 術文献に記載された個々の化合物は,本件キレート配位子構造を有する点において 類似すると主張する。 まず,本件明細書の試験例には,本件発明1に係る化合物の一般式と比較して, X/R B含有基のR Bがアミノ基ではなく,「アリール又はヘテロアリール」であ るA群等試験例化合物,及び,RAについてC環であるB群等試験例化合物(ただ し,化合物C−22及びC−39を除く。)について,酵素アッセイによりインテ グラーゼ阻害作用を有したことが記載されている。しかし,前記のとおり,化合物 における構造のわずかな修飾変化によって,薬理効果に特異性が生じ得ることは当 業者の技術常識であって,インテグラーゼ阻害剤においても同様であったものであ る。これらの化合物における共通する部位に着目して,共通しない部位はインテグ ラーゼ阻害作用に影響を及ぼさないと理解することはできない。 また,本件先行技術文献にインテグラーゼ阻害作用を有するものとして薬理デー タとともに記載された多数の化合物は様々な観点から分類することができ,かつ, それぞれに分類した化合物間において共通する構造も様々に抽出することができる。 例えば,本件明細書(【0002】)では,本件先行技術文献に記載された化合物 が,1,3−ジオキソブタン酸類,1,3−プロパンジオン類等,アクリル酸誘導 体,アザ又はポリアザナフタレニルカルボキサミド誘導体等などと分類,整理され ている。加えて,前記と同様に,本件先行技術文献に記載された前記化合物におけ る共通する部位に着目して,共通しない部位はインテグラーゼ阻害作用に影響を及 ぼさないと理解することはできない。 なお,本件明細書や本件先行技術文献に記載された多数の化合物の中から選び出 38 した個々の化合物を対比し,本件キレート配位子構造が共通すると分析できたとし ても,そもそも対比のために個々の化合物を選び出す基準は本件キレート配位子構 造等を前提としなければ不明であり,また,共通する部位のうち本件キレート配位 子構造以外の部位や共通しない部位がインテグラーゼ阻害作用にどのような影響を 与えているかについても不明であるから,上記分析をもって,インテグラーゼ阻害 作用を奏するために保持すべき部位と改変が許容される部位を決定することはでき ない。 したがって,本件明細書や本件先行技術文献に記載された個々の化合物を対比す ることによって,本件キレート配位子構造等以外の部位は改変が許容されると理解 することはできない。 ケ 本件発明1の技術的思想
控訴人は,A群等試験例化合物及びB群等試験例化合物は,本件発明1の技術的 思想を包含する技術的思想を代表する化合物として,薬理データが開示されたもの であると主張する。 しかし,本件明細書において,A群等試験例化合物及びB群等試験例化合物が, 本件発明1の技術的思想を包含する上位概念化された技術的思想を代表する化合物 である旨記載されていたとしても,本件明細書の記載及び原出願日時点の技術常識 から,当業者は,このような上位概念化が原出願日時点における発明者の単なる憶 測ではないと認識することはできない。すなわち,当業者は,本件発明1の技術的 思想がA群等試験例化合物及びB群等試験例化合物に代表される技術的思想に包含 され,かかる上位概念化された技術的思想を具現することによって,インテグラー ゼ阻害作用を有する化合物を含有する医薬組成物を新たに提供するという課題を解 決できると認識することはできない。 (8) 小括 以上によれば,本件発明1に係る特許請求の範囲の記載は,サポート要件に適合 するということはできない。 39 よって,本件発明1に係る特許は特許無効審判により無効にされるべきものであ る。 2 争点(1)ウ(本件訂正による対抗主張の成否)について (1) 訂正の対抗主張について 特許に無効理由が存在する場合であっても,@適法な訂正請求(又は訂正審判請 求)がされ(訂正請求及び訂正審判請求が制限されるためにこれをすることができ ない場合には,訂正請求(又は訂正審判請求)できる時機には,必ずこのような訂 正を請求する予定である旨の主張),A上記訂正により無効理由が解消されるとと もに,B訂正後の特許請求の範囲に対象製品が属するときは,特許法104条の3 第1項により権利行使が制限される場合に当たらない。 (2) 本件訂正による無効理由(サポート要件違反)の解消の有無について ア 本件訂正発明1に係る特許請求の範囲は,原判決別紙「訂正後の特許請求の 範囲」【請求項1】記載のとおりである。また,本件訂正においても,発明の詳細 な説明の記載は訂正されていない。 そうすると,本件訂正発明1の課題は,インテグラーゼ阻害作用を有する化合物 を含有する医薬組成物を新たに提供するというものである。 しかし,本件明細書には,本件訂正発明1に係る化合物がインテグラーゼ阻害作 用を有することを示す薬理データは,一つも記載されておらず,本件訂正発明1に 係る化合物がインテグラーゼ阻害作用を示すに至る機序についても記載されていな い。 また,原出願日時点におけるインテグラーゼ阻害剤の構造に対するわずかな修飾 変化によって,そのインテグラーゼ阻害作用に大きな差異が生じ得るとの前記の技 術常識に照らせば,A群等試験例化合物及びB群等試験例化合物がインテグラーゼ 阻害作用を有することを示す薬理データをもって,当業者が,本件訂正発明1に係 る化合物についてもインテグラーゼ阻害作用を有すると認識することはできない。 40 さらに,原出願日時点におけるキレート配位子となり得る構造を有する分子がイ ンテグラーゼ阻害作用を有するとは限らないとの前記の技術常識に照らせば,本件 訂正発明1に係る化合物がキレート配位子となり得る構造を有することをもって, 当業者が,本件訂正発明1に係る化合物がインテグラーゼ阻害作用を有すると認識 することはできない。 その他,本件訂正発明1に係る化合物がインテグラーゼ阻害作用を有すると当業 者に認識させ得るような原出願日時点における技術常識も見当たらない。 したがって,本件訂正発明1に係る化合物は,当業者がインテグラーゼ阻害作用 を有する化合物を含有する医薬組成物を新たに提供するという本件訂正発明1の課 題を解決できると認識し得る範囲のものとはいえないというべきである。 イ 控訴人の主張について
控訴人の主張は,前記1(7)と同様に採用することはできない。 なお,本件訂正は,本件発明1に係る特許請求の範囲のうち,【化1】のRA中 の式:−Z1−Z 2−Z 3−R 1で示される基が,4−フルオロベンジルであると限 定を加えるものである。そして,控訴人は,当業者は,本件明細書に記載された化 合物におけるフルオロベンジル基の重要性を理解し,フルオロベンジル基が,イン テグラーゼ阻害作用を奏するために保持すべき部位であることを理解する旨主張す る。 しかし,原出願日前において,フルオロベンジル基を有する化合物がインテグラ ーゼ阻害作用を示すに至る機序を具体的に説明する文献は見当たらない。また,イ ンテグラーゼ阻害作用を有するとして原出願発明で開示された化合物の一般式にお いて,X/RB含有基又はC環の先に,フルオロベンジル基を結合させることが必 須の構造とされているわけではない。本件訂正発明1に係る化合物はフルオロベン ジル基を備えるが,訂正前の請求項において,これが必須の構造とされていたわけ でもない。本件明細書には酵素アッセイによりインテグラーゼ阻害作用を有するこ とが確認された化合物としてA群等試験例化合物,B群等試験例化合物が記載され 41 ているものの,これらの化合物には,フルオロベンジル基を備えない化合物が含ま れている(化合物B−6−a,B−6−d,B−12)。 そうすると,当業者は,本件明細書に記載された化合物において,フルオロベン ジル基がインテグラーゼ阻害作用を奏するために保持すべき部位であることを理解 できるものではない。 ウ 以上によれば,本件訂正発明1に係る特許請求の範囲の記載は,サポート要 件に適合するということはできない。 (3) 小括 よって,本件発明1に係る特許は,本件訂正によっても無効理由が解消されない から,その余の点について判断するまでもなく,控訴人の本件訂正による対抗主張 は理由がない。 3 争点(2)(本件発明2及び3に係る特許権の侵害)について 前記1と同様に,本件発明2及び3に係る特許請求の範囲の記載は,サポート要 件に適合するということはできないから,本件発明2及び3に係る特許は特許無効 審判により無効にされるべきものというべきである。 また,前記2と同様に,本件訂正発明2及び3に係る特許請求の範囲の記載は, サポート要件に適合するということはできない。よって,本件発明2及び3に係る 特許は,本件訂正によっても無効理由が解消されないから,その余の点について判 断するまでもなく,控訴人の本件訂正による対抗主張は理由がない。 4 結論 以上によれば,その余の争点について判断するまでもなく,控訴人の請求をいず れも棄却した原判決は相当であるから,本件控訴を棄却することとして,主文のと おり判決する。 知的財産高等裁判所第1部 裁判長裁判官 高部眞規子 42 裁判官 杉浦正樹 裁判官 片瀬亮 43 別紙 試験例【表1】 44
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2018/09/04
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
事実及び理由
全容