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関連審決 無効2015-800023
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事件 平成 29年 (行ケ) 10210号 審決取消請求事件

原告ロート製薬株式会社
同訴訟代理人弁護士 寺下雄介
同訴訟代理人弁理士 長谷川芳樹 清水義憲 吉住和之 坂西俊明 中塚岳
被告Y
同訴訟代理人弁護士 山本健策 草深充彦
同訴訟代理人弁理士 山本秀策 森下夏樹 ?谷剛志
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2018/09/06
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1 特許庁が無効2015−800023号事件について平成29年10月11日にした審決のうち,特許第5403850号の請求項1〜6に係る発明についての特許を無効とした部分を取り消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
1事 実 及び 理 由第1 請求主文同旨第2 事案の概要(後掲証拠及び弁論の全趣旨から認められる事実)1 特許庁における手続の経緯等(1) 原告は,平成17年6月7日(平成16年6月8日優先権主張(日本国) ,)発明の名称を「眼科用清涼組成物」とする特許出願をし(以下,出願日を「本件出願日」,優先日を「本件優先日」という。),平成25年11月8日,設定の登録(特許第5403850号)を受けた(請求項の数6。以下,この特許を「本件特許」という。甲85)。
(2) 被告は,平成27年2月5日,特許庁に対し,本件特許の全ての請求項について特許を無効にすることを求めて審判を請求し,同請求事件は,無効2015−800023号事件として係属した。
(3) 特許庁は,平成27年12月1日,審判請求は成り立たない旨の審決(以下「第一次審決」という。)をしたため,被告は,審決取消訴訟を提起した。
知的財産高等裁判所は,平成29年1月18日,第一次審決を取り消す旨の判決(以下「第一次判決」という。)をし,第一次判決はその後確定した(甲86)。
(4) 原告は,平成29年9月4日付けで本件特許について訂正を請求した(以下「本件訂正」という。甲95)。
(5) 特許庁は,平成29年10月11日,本件訂正を認めた上で,請求項1〜6に係る発明についての特許を無効とする旨の審決(以下「本件審決」という。)をし,その謄本は同月19日に原告に送達された。
(6) 原告は,平成29年11月16日,本件審決の取消しを求めて本件訴訟を提起した。
2 特許請求の範囲の記載2本件訂正後の特許請求の範囲請求項1〜6の記載は,次のとおりである(甲95)。以下,請求項1〜6の発明を,請求項の番号に従い「本件訂正発明1」などという。また,本件訂正後の明細書(甲95) 「本件訂正明細書」を といい,訂正前の明細書(甲85)を「本件明細書」という。
【請求項1】a)メントール,カンフル又はボルネオールから選択される化合物を,それらの総量として0.01w/v%以上0.1w/v%未満,b) 01〜10w/v%の塩化カリウム,0. 塩化カルシウム,塩化ナトリウム,炭酸水素ナトリウム,炭酸ナトリウム,硫酸マグネシウム,リン酸水素二ナトリウム,リン酸二水素ナトリウム,リン酸二水素カリウムから選ばれる少なくとも1種,およびc)平均分子量が2万〜4万のコンドロイチン硫酸或いはその塩を0.001〜10w/v%含有することを特徴とするソフトコンタクトレンズ装用時に清涼感を付与するための眼科用清涼組成物(ただし,局所麻酔剤を含有するものを除く)。
【請求項2】さらに,非イオン性界面活性剤を0.001〜5w/v%含有する請求項1に記載の眼科用清涼組成物。
【請求項3】さらに,エデト酸又はその塩を0.0001〜1w/v%含有する請求項1又は2に記載の眼科用清涼組成物。
【請求項4】さらに,アミノエチルスルホン酸,グルタミン酸,アスパラギン酸カリウム,アスパラギン酸マグネシウム,グルタミン酸ナトリウム,グルコース又はトレハロースから選択される少なくとも1種以上の成分を,それらの総量として0.01〜5w/v%含有する請求項1乃至3に記載の眼科用清涼組成物。
【請求項5】 点眼剤又は洗眼剤である請求項1乃至4に記載の眼科用清涼組成物。
【請求項6】a)メントール,カンフル又はボルネオールから選択される化合3物を,それらの総量として0.01w/v%以上0.1w/v%未満,b) 01〜10w/v%の塩化カリウム,0. 塩化カルシウム,塩化ナトリウム,炭酸水素ナトリウム,炭酸ナトリウム,硫酸マグネシウム,リン酸水素二ナトリウム,リン酸二水素ナトリウム,リン酸二水素カリウムから選ばれる少なくとも1種,およびc)平均分子量が2万〜4万のコンドロイチン硫酸或いはその塩を0.001〜10w/v%含有することを特徴とするソフトコンタクトレンズ常用者用の眼科用清涼組成物(ただし,局所麻酔剤を含有するものを除く)。
3 本件審決の理由の要旨本件審決の理由は,別紙審決書(写し)のとおりである。要するに,本件訂正を認めた上で,当業者の技術常識から合理的に解釈しても,本件訂正後の特許請求の範囲の「平均分子量が2万〜4万のコンドロイチン硫酸或いはその塩」(【請求項1】【請求項6】)における「平均分子量」がいかなる平均分子量を意味するのかが不明であるから,特許請求の範囲の記載は特許法36条6項2号に規定する要件(以下「明確性要件」という。)を満たさず,本件訂正発明1〜6についての特許は無効にすべきであるというものである。
4 取消事由明確性要件に係る認定判断の誤り第3 原告主張の取消事由(明確性要件に係る認定判断の誤り)1 本件訂正後の特許請求の範囲の「平均分子量が2万〜4万のコンドロイチン硫酸或いはその塩」にいう平均分子量は重量平均分子量を意味するものと解されるから,本件訂正後の特許請求の範囲の記載は明確性要件を満たすものであり,本件審決は誤りである。
2 本件訂正明細書の段落【0021】の「平均分子量」の意味について,まずは段落【0016】〜【0020】の「平均分子量」の意味と同じく重量平均分子量であるというのが自然かつ合理的である。そして,本件訂正明細書には4「平均分子量」が重量平均分子量を意味しないと推論する根拠となる記載もないから,本件訂正後の特許請求の範囲の「平均分子量が2万〜4万のコンドロイチン硫酸或いはその塩」にいう平均分子量について当業者は重量平均分子量を意味すると解するというべきである。
3 生化学工業株式会社製のコンドロイチン硫酸ナトリウムについて生化学工業株式会社製のコンドロイチン硫酸ナトリウムの平均分子量は重量平均分子量で示されており,本件出願時の当業者の理解も同様であった。
すなわち,生化学工業株式会社の回答書(甲100)によれば,同社は,平成16年当時から,ユーザーからの同社製コンドロイチン硫酸ナトリウムの平均分子量についての問合せには重量平均分子量の値を提供しており,また,生化学工業株式会社の回答書(甲84)添付のカタログ(以下「本件カタログ」という。)にもコンドロイチン硫酸ナトリウムの重量平均分子量が記載されている。
さらに,生化学工業株式会社が出願人である公開特許公報等(甲59,70,71及び73)の記載からも,生化学工業株式会社から販売されるコンドロイチン硫酸ナトリウムの平均分子量は重量平均分子量を意味すると理解できる。
なお,公開特許公報(甲71及び甲73)の「グリコサミノグリカンの分子量とは,通常平均分子量を意味し,一般的には極限粘度から算出される重量平均分子量を指称する。」との記載にいう「極限粘度から算出される重量平均分子量」が重量平均分子量を示すことは,複数の文献(甲101〜103)から明らかである。
4 マルハ株式会社の製品について第一次判決において,マルハ株式会社製のコンドロイチン硫酸ナトリウムの平均分子量として当業者に公然知られた数値は粘度平均分子量であったと判断されたが,本件訂正により,本件訂正明細書からマルハ株式会社製のコンドロイチン硫酸ナトリウムに関する記載が削除されたのであるから,本件訂正後の特許請5求の範囲の「平均分子量が2万〜4万のコンドロイチン硫酸或いはその塩」にいう平均分子量が粘度平均分子量と解する余地はなく,本件訂正により特許請求の範囲の記載は明確性要件を充足する。また,本件訂正により特許請求の範囲の実質的な変更があったとはいえない。
第4 被告の反論1 本件訂正後の特許請求の範囲の「平均分子量が2万〜4万のコンドロイチン硫酸或いはその塩」にいう「平均分子量」がいかなる平均分子量を意味するのか不明であり,特許請求の記載が明確性要件を満たさないとした本件審決の判断に誤りはない。
2 仮に,第一次判決の認定するとおり,本件出願日当時,本件訂正明細書に記載された他の高分子化合物については,その平均分子量が重量平均分子量で記載されているものと理解したとしても,本件訂正明細書に製品名が記載されていないコンドロイチン硫酸あるいはその塩に関しては,直ちに重量平均分子量で記載されているものと理解することはできず,その平均分子量がいかなる平均分子量であるか特定することはできない。
3 生化学工業株式会社製のコンドロイチン硫酸ナトリウムについて(1) 生化学工業株式会社においては,次のとおり,重量平均分子量と粘度平均分子量を厳密に区別しないで用いていた可能性があり,生化学工業株式会社が重量平均分子量とする数値には粘度平均分子量が含まれていた可能性がある。
すなわち,生化学工業株式会社が出願人である公開特許公報(甲71及び甲73)には,「グリコサミノグリカンの分子量とは,通常平均分子量を意味し,一般的には極限粘度から算出される重量平均分子量を指称する。」と記載されているが,重量平均分子量は一般に光散乱及び超遠心法で決定され,「極限粘度から算出される」平均分子量は一般には粘度平均分子量である(なお,固有粘度は極限粘度と同義である。)から,「極限粘度から算出される6重量平均分子量」とは,粘度平均分子量を意味すると解される。
文献(甲101〜103)に記載された算出方法はいずれも粘度平均分子量の算出方法であり,この点に関する原告の主張は誤りである。すなわち,粘度平均分子量とは,「分子量をMark-Houwinkの関係式により固有粘度[η]と結びつける」ことで算出される平均分子量であり,「Mark-Houwinkの関係式」とは,固有粘度[η](極限粘度ともいい,測定可能である。)と粘度平均分子量(M)との関係を示す式([η]=KMa)である。「K」と「a」は,対象となる物質ごとに,何らかの平均分子量(例えば重量平均分子量)の測定値を「M」に代入し,固有粘度の測定値を[η]に代入して,複数のプロットを取ることで実験的に得られる定数であり,このようにして定めた「K」と「a」により得られたMark-Houwinkの関係式から,固有粘度[η]と粘度平均分子量(M)との関係が明らかになる。このように,粘度平均分子量とは,予め実験により「K」および「a」の値を決定して導き出したMark-Houwinkの関係式に,固有粘度[η]の測定値を代入することにより求められるものであるところ,甲101〜103には,いずれもこのような算出方法が記載されている。
(2) 本件カタログの「分子量」は,コンドロイチン硫酸ナトリウム中のアルデヒド基(還元末端)の定量によりその全体の分子量を測定したものであるから,数平均分子量である。
すなわち,本件カタログに「分子量」の参照文献として引用されている論文(以下「乙1論文」という。)には,アルドースという「アルデヒド基」(還元末端)を持つ「糖」の還元力を測定することが記載されている。そして,化学大辞典(乙2)等によれば,「糖」の「還元末端」に基づいて平均分子量を測定する方法は「末端基定量」(法)であり,この方法で測定される平均分子量は数平均分子量である。コンドロイチン硫酸あるいはその塩は糖の一種であり,その末端のグルコース中のCHOH基は水中で平衡状態に7なり,還元性のCHOで示されるアルデヒド基を形成するから,コンドロイチン硫酸あるいはその塩は,アルデヒド基を実質的に持つ分子で,「アルデヒド基」(還元末端)を持つ「糖」であると解することができ,乙1論文にいう「アルドース」に該当するのであり,その平均分子量は数平均分子量である。
(3) 生化学工業株式会社自身が出願人である,@ 公開特許公報等(甲71及び甲73)には粘度平均分子量が記載され(上記(1)),A 本件優先日と同年の優先日を有する再公表特許WO2006/068146公報(乙4)には,コンドロイチン硫酸又はその塩の重量平均分子量及び還元性末端基測定法による分子量(数平均分子量)が記載されているから,同社製のコンドロイチン硫酸ナトリウムの平均分子量がいかなる平均分子量であるかは明らかではない。
また,生化学工業株式会社自身が出願人である公開特許公報等にコンドロイチン硫酸又はその塩の重量平均分子量が記載されているとしても,メーカーが出願人である公報にはメーカーが自家調達したものが記載されていると考えるのが自然であるから,「生化学工業株式会社から販売されているコンドロイチン硫酸ナトリウム」(本件訂正明細書段落【0021】)の平均分子量が重量平均分子量で示されていたことの根拠とはならない。
(4) 生化学工業株式会社から販売される製品に関する当業者の認識を適切に示すのは,製品のユーザーである,同社以外の者による文献であるが,生化学工業株式会社以外の者が出願人である公開特許公報(甲30及び甲31)では,同社製のコンドロイチン硫酸ナトリウム製品についてそれぞれ粘度平均分子量及び数平均分子量で示されている。
(5) 本件カタログ及びその他の生化学工業株式会社製品のカタログ(甲22及び甲78)には「分子量」の記載しかなく,それが平均分子量であることを示す記載がないから,生化学工業株式会社はコンドロイチン硫酸ナトリウム8の平均分子量を記載せずに販売していたと推認され,当業者にとって,同社製のコンドロイチン硫酸ナトリウムの平均分子量がいかなる平均分子量であるかは一義的に確定していなかった。
4 マルハ株式会社の製品について本件出願日当時のコンドロイチン硫酸又はその塩の製造販売の市場はマルハ株式会社と生化学工業株式会社の2社が独占していたから,当業者は両社の製品を利用可能であると認識する。そして,第一次判決の認定するとおり,マルハ株式会社の製品の平均分子量として当業者に公然に知られた数値は粘度平均分子量であるから,当業者は,「平均分子量が2万〜4万のコンドロイチン硫酸或いはその塩」にいう平均分子量が粘度平均分子量でないと判断することはできない。この点は,本件訂正により,本件明細書の段落【0021】からマルハ株式会社製のコンドロイチン硫酸を削除したからといって変わりはないし,このような訂正により明確性要件の治癒を認めることは特許請求の範囲を実質的に変更するに等しく,妥当性を欠く。
5 電気化学工業株式会社が出願人である特開2006−129796号公報(乙5)(出願日平成16年11月8日)には,コンドロイチン硫酸の数平均分子量及び重量平均分子量の双方が記載され,また,同特許出願についての特許法30条1項の適用申請に係る自己公知資料である学会予稿(乙7。平成16年5月1日)にも,コンドロイチン硫酸塩の数平均分子量が記載されている。これは,当業者の間で,コンドロイチン硫酸あるいはその塩の「平均分子量」が多義的に用いられていたことを示す。
第5 当裁判所の判断1 本件各訂正発明について(1) 本件訂正後の特許請求の範囲本件訂正後の特許請求の範囲は,上記第2の2に記載のとおりである。
(2) 本件訂正明細書の記載内容9本件訂正明細書には,おおむね以下の記載がある。
ア 技術分野本発明は,ソフトコンタクトレンズ装用中に眼に適用することで,ソフトコンタクトレンズ装用時においても十分な清涼感を付与することができる眼科用清涼組成物に関する。(段落【0001】)イ 背景技術眼科用清涼組成物においては,メントールに代表される清涼化剤が配合される。清涼化剤の配合は,快適な強さの清涼感を不快な刺激を伴うことなく付与できるよう処方設計することが重要であり,常時起こっている涙液交換,すなわち涙液による希釈と排出を被っても適度な強さの清涼感を付与できるだけの高濃度のメントールの投与が必要になる。しかしながら,過剰に高濃度のメントールは,点眼直後に清涼感を超えた強すぎる不快な刺激を伴うため,眼科用清涼組成物に配合できるメントール量にはおのずと限界がある。(段落【0002】)このように,メントール等の清涼化剤を単に増量することなく,十分な清涼感を持続させるとともにメントールの刺激性を改善する方法が示されている。しかしながら,これらの方法や点眼剤は,専らソフトコンタクトレンズを装用していない使用者,すなわち裸眼或いはハードコンタクトレンズを常用する使用者に対して清涼感を付与することを主目的として開発されており,ソフトコンタクトレンズ装用における特有の課題については何ら考慮されてはいない。(段落【0004】)ところで,ソフトコンタクトレンズ装用においては以下のような特有の課題がある。
角膜は知覚神経に富む組織であり,角膜上皮における神経密度は皮膚の約300〜600倍といわれている。(非特許文献1)。したがって,使用者が清涼感を感じるかどうかは,角膜表面にメントールがどの程度接触10したかに影響される。ハードコンタクトレンズ直径は角膜径よりも小さく,ハードコンタクトレンズを装用しても角膜周縁部が露出しているが,ソフトコンタクトレンズ径は,角膜よりも大きくソフトコンタクトレンズを装用すると角膜表面はソフトコンタクトレンズに覆われてしまう。そのため,ソフトコンタクトレンズ装用者は,裸眼の場合に比して格段に清涼感を感じにくい。
また,ソフトコンタクトレンズを装用中は,レンズ後面(角膜側)とレンズに覆われていない部分(結膜表面)との涙液交換率が極めて低下する。
ハードコンタクトレンズでは,ベストフィッティングでの涙液交換率が健常眼の涙液メニスカスにおける涙液交換率と同程度の高値25.6±11.1(%/分)を示すが,ソフトコンタクトレンズでは,ベストフィッティングでの涙液交換率ですら,16.5±1.1(%/分)と低値を示す(非特許文献2 レンズと涙液交換率の低下)。そのため,メントールがソフトコンタクトレンズと眼表面の間隙にある涙液層を経て角膜中央部に到達するための涙液交換も著しく遅く,清涼感の感度低下を増長してしまう。
(段落【0005】)これまで,ソフトコンタクトレンズ装用中の眼に適用した場合においても,十分な清涼感を付与することができる眼科用清涼組成物は知られていなかった。また,ソフトコンタクトレンズ装用中にレンズ後面の涙液交換を促進する方法も,ほとんど知られていない。このようにソフトコンタクトレンズ装用中に所要の清涼感を一定時間持続させつつ,刺激を緩和することは極めて困難であった。
さらに,メントールなどの清涼化剤や,クロロブタノール等の局所麻酔作用剤,塩化ベンザルコニウム等の第4級アンモニウム塩などの防腐剤等,塩酸テトラヒドロゾリン,塩酸ナファゾリン,硝酸ナファゾリン等の血管収縮剤等のソフトコンタクトレンズに悪影響(吸着や変形)を及ぼすこと11が懸念される成分を含有する場合には,製剤設計が制限される。(段落【0006】)ウ 発明が解決しようとする課題…本発明は,ソフトコンタクトレンズを装用中においても,十分な清涼感を付与できる清涼組成物を提供することを課題とする。 段落( 【0008】)エ 課題を解決するための手段本発明者らは,課題解決のために鋭意検討の結果,a)メントール,カンフル又はボルネオールから選択される化合物を,それらの総量として0.01(w/v)%以上0.1(w/v)%未満,b)無機塩類,およびc)平均分子量が20万〜250万のヒドロキシエチルセルロース,平均分子量が5万〜50万のメチルセルロース,平均分子量が1万〜15万のポリビニルピロリドン,平均分子量が5万〜50万のコンドロイチン硫酸又はその塩,平均分子量が5万〜50万のヒドロキシプロピルメチルセルロース,平均分子量が1万〜30万のポリビニルアルコールから選ばれる少なくとも1種から選ばれる少なくとも1種を含有する眼科用清涼組成物が,ソフトコンタクトレンズ装用時の眼に適用しても刺激を伴うことなく十分な清涼感を付与することができることを見出し,本発明を完成するに至った。(段落【0009】)本発明者は,かかる知見に基づいて開発されたものである。
すなわち,本発明は,下記(1)〜(12)に掲げる眼科用清涼組成物である。
(1)a)メントール,カンフル又はボルネオールから選択される化合物を,それらの総量として0.01w/v%以上0.1w/v%未満,b)無機塩類,およびc)平均分子量が20万〜250万のヒドロキシエチルセルロース,平均分子量が5万〜50万のメチルセルロース,平均分子量が1万〜15万の12ポリビニルピロリドン,平均分子量が5万〜50万のヒドロキシプロピルメチルセルロース,平均分子量が1万〜30万のポリビニルアルコール,又は平均分子量が0.5万〜50万のコンドロイチン硫酸或いはその塩から選ばれる少なくとも1種を含有することを特徴とするソフトコンタクトレンズ装用時に清涼感を付与するための眼科用清涼組成物,(2) 平均分子量が20万〜250万のヒドロキシエチルセルロースを,0.001〜10w/v%で含有する(1)に記載の眼科用清涼組成物,(3) 平均分子量が5万〜50万のメチルセルロースを,0.001〜10w/v%で含有する(1)に記載の眼科用清涼組成物,(4) 平均分子量が1万〜15万のポリビニルピロリドンを,0.001〜10w/v%で含有する(1)に記載の眼科用清涼組成物,(5) 平均分子量が5万〜50万のヒドロキシプロピルメチルセルロースを,0.001〜10w/v%で含有する(1)に記載の眼科用清涼組成物,(6) 平均分子量が1万〜30万のポリビニルアルコールを,0.001〜10w/v%で含有する(1)に記載の眼科用清涼組成物,(7) 平均分子量が0.5万〜50万のコンドロイチン硫酸或いはその塩を,0.001〜10w/v%で含有する(1)に記載の眼科用清涼組成物,(8) さらに,非イオン性界面活性剤を0.001〜5w/v%含有する(1)乃至(7)に記載の眼科用清涼組成物,(9)さらに,エデト酸又はその塩を0.0001〜1w/v%含有する(1)乃至(8)に記載の眼科用清涼組成物,(10)さらに,アミノエチルスルホン酸,グルタミン酸,アスパラギン酸カリウム,アスパラギン酸マグネシウム,グルタミン酸ナトリウム,グルコース又はトレハロースから選択される少なくとも1種以上の成分を,13それらの総量として0.01〜5w/v%含有する(1)乃至(9)に記載の眼科用清涼組成物,(11)点眼剤又は洗眼剤である(1)乃至(10)に記載の眼科用清涼組成物,(12)a)メントール,カンフル又はボルネオールから選択される化合物を,それらの総量として0.01w/v%以上0.1w/v%未満,b)無機塩類,およびc)平均分子量が20万〜250万のヒドロキシエチルセルロース,平均分子量が5万〜50万のメチルセルロース,平均分子量が1万〜15万のポリビニルピロリドン,平均分子量が5万〜50万のヒドロキシプロピルメチルセルロース,平均分子量が1万〜30万のポリビニルアルコール,又は平均分子量が0.5万〜50万のコンドロイチン硫酸或いはその塩から選ばれる少なくとも1種を含有することを特徴とするソフトコンタクトレンズ常用者用の眼科用清涼組成物。
なお,本明細書中,特に言及しない限り,%はw/v%を意味するものとする。(段落【0010】)オ 発明の効果本発明の眼科用清涼組成物によれば,…ソフトコンタクトレンズ装用時に清涼感を付与するための眼科用清涼組成物を提供することができる。
…本発明の眼科用清涼組成物によれば,眼に組成物を適用した直後から十分な清涼感が得られ,かつ刺激が緩和されているため,ソフトコンタクトレンズ装用者に快い清涼感を付与するための眼科用清涼組成物を提供できる。さらに,本発明によれば,メントールを少量用いても十分な清涼感を付与することができ,刺激がなく安全性が高い眼科用清涼組成物を提供できる。
さらに,本発明の眼科用清涼組成物は,清涼化剤の刺激を伴うことなく14清涼感を感じることができるので,例えばソフトコンタクトレンズ装用によって障害を有する眼となった,ソフトコンタクトレンズ常用者がソフトコンタクトレンズの装用中のみならずソフトコンタクトレンズを外した後の眼に清涼感を付与するためのソフトコンタクトレンズ常用者用の眼科用清涼組成物としても利用できる。(段落【0011】)カ 発明を実施するための最良の形態本発明の眼科用清涼組成物は,メントール,カンフル又はボルネオールから選択される1種又は2種以上の化合物をそれらの総量として0.01%以上0.1%未満で含有する。…(段落【0012】)本発明の眼科用清涼組成物は,無機塩類を必須成分として含有する。かかる無機塩類としては,…塩化カリウム,塩化カルシウム,塩化ナトリウム,炭酸水素ナトリウム,炭酸ナトリウム,硫酸マグネシウム,リン酸水素二ナトリウム,リン酸二水素ナトリウム,リン酸二水素カリウムが好ましく,塩化カリウム,塩化ナトリウムが特に好ましい。
(段落【0013】)本発明において眼科用清涼組成物中のこれらの無機塩類は1種又は2種以上を組み合わせて用いることができ,その含有量は無機塩類の総量として,好ましくは0.01〜10%…程度である。無機塩類が0.01%未満では,組成物を眼に適用した直後に十分な清涼感を感じにくく, (w10/v)%以上では,組成物を眼に適用した直後の清涼感が強くなりすぎる傾向があり使用者によっては刺激を感じる場合がある。 段落( 【0014】)本発明の眼科用清涼組成物では,特定の分子量を有する特定の高分子を組み合わせて含有することが必須の構成となる。すなわち,本発明では,平均分子量が20万〜250万のヒドロキシエチルセルロース,平均分子量が5万〜50万のメチルセルロース,平均分子量が1万〜15万のポリビニルピロリドン,平均分子量が5万〜50万のヒドロキシプロピルメチルセルロース,平均分子量が1万〜30万のポリビニルアルコール,又は15平均分子量が0.5万〜50万のコンドロイチン硫酸或いはその塩から選ばれる少なくとも1種を含有することを特徴とする。(段落【0015】)本発明に用いるヒドロキシエチルセルロースは公知の高分子化合物であり,平均分子量が20万〜250万のものが用いられ,より好ましくは50万〜200万,特に好ましくは80万〜150万のヒドロキシエチルセルロースを用いる。かかるヒドロキシエチルセルロースは市販のものを利用することができ,例えば住友精化株式会社から販売されているHEC−CF−G(平均分子量約40万),HEC−CF−H(平均分子量約70万),HEC−CF−V(平均分子量約100万),HEC−CF−W(平均分子量約130万),HEC−CF−X(平均分子量約150万),HEC−CF−Y(平均分子量約180万)等が利用できる。…(段落【0016】)本発明に用いるメチルセルロースは公知の高分子化合物であり,平均分子量が5万〜50万のものが用いられる。さらに好ましくは平均分子量10万〜50万であり,特に好ましくは20万〜50万のメチルセルロースを用いる。かかるメチルセルロースは市販のものを利用することができ,例えば,メトローズSMシリーズとして信越化学工業株式会社から販売されている,SM−15(平均分子量約7万),SM−25(平均分子量約9万),SM−50(平均分子量約11万),SM−100(平均子量約12万),SM−400(平均分子量約17万),SM−1500(平均分子量約29万),SM−4000(平均分子量約36万)等が利用できる。…(段落【0017】)本発明に用いるポリビニルピロリドンは公知の高分子化合物であり,平均分子量が1万〜15万のものが用いられる。さらに好ましくは平均分子量2万〜15万のポリビニルピロリドンを用いる。かかるポリビニルピロリドンは市販のものを利用することができ,例えば,コリドンシリーズと16してBASF株式会社から販売されている,コリドン25(平均分子量約3万),コリドン30(平均子量約5万),コリドン17PF(平均分子量約9万),コリドン90(平均分子量約12万)等が利用できる。…(段落【0018】)本発明に用いるヒドロキシプロピルメチルセルロースは公知の高分子化合物であり,平均分子量が5万〜50万のものが用いられる。さらに好ましくは平均分子量10万〜50万であり,特に好ましくは20万〜50万のヒドロキシプロピルメチルセルロースを用いる。かかるヒドロキシプロピルメチルセルロースは市販のものを利用することができ,例えば,メトローズSHシリーズとして信越化学工業株式会社から販売されている,60SH−15(平均分子量約7万) 60SH−25, (平均分子量約9万),60SH−50(平均分子量約11万),60SH−100(平均分子量約12万),60SH−400(平均分子量約17万),60SH−1500(平均分子量約29万) 60SH−4000, (平均分子量約36万)等が利用できる。…(段落【0019】)本発明に用いるポリビニルアルコールは公知の高分子化合物であり,平均分子量が1万〜30万のものを用いる。さらに好ましくは平均分子量2万〜20万,特に好ましくは平均分子量2万〜15万のポリビニルアルコールを用いる。かかるポリビニルアルコールは市販のものを利用することができ,例えば,ゴーセノールシリーズとして日本合成化学株式会社から販売されている,ゴーセノールEG05(平均分子量約3万),ゴーセノールEG40(平均分子量約12万)等が利用できる。…(段落【0020】)本発明に用いるコンドロイチン硫酸又はその塩は公知の高分子化合物であり,平均分子量が0.5万〜50万のものを用いる。より好ましくは0.5万〜20万,さらに好ましくは平均分子量0.5万〜10万,特に好ま17しくは0.5万〜4万のコンドロイチン硫酸又はその塩を用いる。かかるコンドロイチン硫酸又はその塩は市販のものを利用することができ,例えば,生化学工業株式会社から販売されている,コンドロイチン硫酸ナトリウム(平均分子量約1万,平均分子量約2万,平均分子量約4万等)が利用できる。
本発明において眼科用清涼組成物中のコンドロイチン硫酸又はその塩の含有量は,好ましくは0.001〜10%,より好ましくは0.01〜5%,特に好ましくは0.05〜3%程度である。(段落【0021】)キ 実施例【表6】(段落【0055】)試験の結果,コンドロイチン硫酸ナトリウム(平均分子量約1万)又は/及びコンドイチン硫酸ナトリウム(平均分子量約2万)を塩化ナトリウムと組み合わせて含有する本発明の実施例では眼に組成物を適用した直後から十分な清涼感が得られ,刺激がなく安全性が高いことが示された。ま18た,ソフトコンタクトレンズを常用すると,涙液の減少や角膜表面に何らかの障害を惹起することが知られており,特にソフトコンタクトレンズを外した直後は,メントール等の清涼感に対して極めて過敏になっているが,この極めて過敏な眼に対しても刺激を伴うことなく十分な清涼感を付与することができることが確認された。(段落【0056】)2 取消事由(明確性要件に係る認定判断の誤り)について(1) 明確性要件について特許法36条6項2号は,特許請求の範囲の記載に関し,特許を受けようとする発明が明確でなければならない旨規定する。同号がこのように規定した趣旨は,特許請求の範囲に記載された発明が明確でない場合には,特許が付与された発明の技術的範囲が不明確となり,権利者がどの範囲において独占権を有するのかについて予測可能性を奪うなど第三者の利益が不当に害されることがあり得るので,そのような不都合な結果を防止することにある。
そして,特許を受けようとする発明が明確であるか否かは,特許請求の範囲の記載だけではなく,願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し,また,当業者の出願当時における技術常識を基礎として,特許請求の範囲の記載が,第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきである。
(2) 「平均分子量」の意義ア 「平均分子量」という概念は,一義的なものではなく,測定方法の違い等によって,「重量平均分子量」,「数平均分子量」,「粘度平均分子量」等に区分される。そして,同一の高分子化合物であっても,重量平均分子量,数平均分子量,粘度平均分子量等の各数値は必ずしも一致せず,それぞれ異なるものとなり得る。(甲17,27)イ 本件訂正後の特許請求の範囲及び本件訂正明細書には,コンドロイチン硫酸又はその塩につき単に「平均分子量」と記載されるにとどまり,これ19が重量平均分子量,数平均分子量,粘度平均分子量等のいずれに該当するかを明らかにする記載は存在しない。
もっとも,本件訂正明細書に記載された他の高分子化合物については,例えば,メチルセルロース(段落【0017】),ポリビニルピロリドン(段落【0018】),ヒドロキシプロピルメチルセルロース(段落【0019】)及びポリビニルアルコール(段落【0020】)の平均分子量として記載されている各社の各製品の各数値は,重量平均分子量の各数値が記載されているものであり,この重量平均分子量の各数値は公知であったから(甲61〜64,67),当業者は,本件出願日当時,これらの高分子化合物の平均分子量は,重量平均分子量を意味するものと解するものと推認される。
ウ 次に掲げる事実によれば,高分子化合物の平均分子量は,本件出願日当時には,一般に重量平均分子量によって明記されていたことが認められる。
(ア) 沢井製薬株式会社が出願人である特開平10−139666号公報(甲58段落【0027】)には,ポリビニルピロリドン(ポビドン)の「平均分子量」が「重量平均分子量」によって明記されている。
(イ) ライオン株式会社が出願人である特開2001−187731号公報(甲61段落【0006】,【0007】)には,ヒドロキシエチルセルロース,メチルセルロース,ポリビニルピロリドン,ヒドロキシプロピルメチルセルロース,ポリビニルアルコールの「平均分子量」が「重量平均分子量」によって明記されている。
(ウ) ライオン株式会社が出願人である特開2002−154989号公報(甲62段落【0014】)には,セルロース系高分子化合物の「平均分子量」が「重量平均分子量」によって明記されている。
(エ) ライオン株式会社が出願人である特開2001−125052号公報(甲63段落【0009】)には,ポリビニル系高分子化合物及びセル20ロース系高分子化合物の「平均分子量」が「重量平均分子量」によって明記されている。
(オ) ロート製薬株式会社が出願人である特開2003−201241号公報(甲64段落【0016】)には,セルロース誘導体の「平均分子量」が「重量平均分子量」によって明記されている。
(カ) 千寿製薬株式会社が出願人である特開2002−345929号公報(甲65【特許請求の範囲】)には,特定の構造を有するカチオンポリマーの「平均分子量」が「重量平均分子量」によって明記されている。
(キ) 参天製薬株式会社が出願人である特開2002−20320号公報(甲66段落【0009】)には,塩基性アミノ酸のポリマーの「平均分子量」が「重量平均分子量」によって明記されている。
(ク) 信越化学工業株式会社作成に係る「医薬品添加剤メトローズ」と題するカタログ(平成6年8月)(甲67の6頁)には,メトローズ(ヒドロキシプロピルメチルセルロース・メチルセルロース) 「平均分子量」のが「重量平均分子量」によって明記されている。
(ケ) 生化学工業株式会社が出願人である特開2002−3384号公報(甲60段落【0017】),特開2003−252906公報(甲82段落【0019】)及び特開2004−210714号公報(甲83段落【0023】)には,多糖類の「平均分子量」は,「重量平均分子量」で示すのが一般的であることが記載されている。
(3) コンドロイチン硫酸又はその塩についてア マルハ株式会社と生化学工業株式会社の2社は,本件出願日当時,コンドロイチン硫酸又はその塩の製造販売を市場において独占していた。(甲11,12)イ 生化学工業株式会社製のコンドロイチン硫酸ナトリウムについて(ア) 生化学工業株式会社は,平成16年より以前から,ユーザーからコン21ドロイチン硫酸ナトリウム製品の平均分子量について問合せがあった場合には,通常,重量平均分子量の数値を提供し,平均分子量約1万,約2万及び約4万とする製品についても重量平均分子量の数値を提供していた(甲100)。これによれば,本件出願日当時,生化学工業株式会社製のコンドロイチン硫酸ナトリウムの平均分子量として同社が提供していたのは重量平均分子量の数値であり,当業者に公然に知られた数値も,重量平均分子量の数値であったと認められる。
(イ) また,生化学工業株式会社が出願人である特許公開公報等には,次の記載がある。
a 特開平9−202731号公報(甲59段落【0026】【0045】)には,硫酸化多糖の「平均分子量」は「重量平均分子量」であることが好ましいこと,生化学工業株式会社製のコンドロイチン硫酸(「平均分子量」1万)を用いることが記載されている。
国際公開01/12675号(甲70・8頁13〜19行,9頁2〜11行)には,GAG(グリコサミノグリカン又はその塩)の「重量平均分子量」につき当該公報中では「分子量」と表記すること,GAGとして生化学工業株式会社製の特定の「分子量」のコンドロイチン硫酸又はコンドロイチン硫酸ナトリウムを用いることが記載されている。
c 特開2003−160498号公報(甲71。以下「甲71公報」という。段落【0010】【0042】)には,コンドロイチン硫酸を含むグリコサミノグリカンの「分子量」は,通常「平均分子量」を意味し,一般的には「極限粘度から算出される重量平均分子量」を指称すること,生化学工業株式会社製の特定の「重量平均分子量」のコンドロイチン硫酸を使用することが記載されている。
d 特開2003−335801号公報(甲73。以下「甲73公報」22という。段落【0008】【0024】【0027】〜【0029】)には,グリコサミノグリカンの「分子量」は,通常「平均分子量」を意味し,一般的には「極限粘度から算出される重量平均分子量」を指称すること,生化学工業株式会社製の特定の「平均分子量」のコンドロイチン硫酸及びコンドロイチン硫酸ナトリウムを使用することが記載されている。
e 特開2000−65837号公報(甲72段落【0038】),国際公開2004/081054号(国際公開日平成16年9月23日)(甲76・13頁11〜12行,17頁12〜13行),特開2004−361144号公報(甲77段落【0062】)には,生化学工業株式会社製の特定の「重量平均分子量」のコンドロイチン硫酸を用いることが記載されている。
ウ マルハ株式会社製のコンドロイチン硫酸ナトリウムについて(ア) マルハ株式会社は,平成15年ないし平成16年頃,コンドロイチン硫酸ナトリウム(Lot.PUC−822,829,844,845,849,850及び855)の平均分子量につき,全て粘度平均分子量で測定してこれを販売しており,それ以外の測定方法によって算出したものは存在しない。また,上記の各製品の粘度平均分子量は6千ないし1万程度のものであった。(甲2)(イ) マルハ株式会社は,過去において,ユーザーからコンドロイチン硫酸ナトリウムの平均分子量について問合せがあった場合には,通常粘度平均分子量の数値を提供していたものであり(甲43),ユーザーには当業者が含まれると推認されるから,本件出願日当時,マルハ株式会社のコンドロイチン硫酸ナトリウムの平均分子量として,当業者に公然に知られた数値は,粘度平均分子量の数値であったものと認められる。
(4) 以上を踏まえて本件訂正後の特許請求の範囲の記載の明確性について判断23する。
ア 本件訂正後の特許請求の範囲にいう「平均分子量が2万〜4万のコンドロイチン硫酸或いはその塩」にいう平均分子量が,本件出願日当時,重量平均分子量,粘度平均分子量,数平均分子量等のいずれを示すものであるかについては,本件訂正明細書において,これを明らかにする記載は存在しない。もっとも,このような場合であっても,本件訂正明細書におけるコンドロイチン硫酸又はその塩及びその他の高分子化合物に関する記載を合理的に解釈し,当業者の技術常識参酌して,その平均分子量が何であるかを合理的に推認することができるときには,そのように解釈すべきである。
イ 上記1(2)カのとおり,本件訂正明細書には,「本発明に用いるコンドロイチン硫酸又はその塩は公知の高分子化合物であり,平均分子量が0.5万〜50万のものを用いる。より好ましくは0.5万〜20万,さらに好ましくは平均分子量0.5万〜10万,特に好ましくは0.5万〜4万のコンドロイチン硫酸又はその塩を用いる。かかるコンドロイチン硫酸又はその塩は市販のものを利用することができ,例えば,生化学工業株式会社から販売されている,コンドロイチン硫酸ナトリウム(平均分子量約1万,平均分子量約2万,平均分子量約4万等)が利用できる。」(段落【0021】)と記載されている。
上記の「生化学工業株式会社から販売されているコンドロイチン硫酸ナトリウム(平均分子量約1万,平均分子量約2万,平均分子量約4万等)」については,本件出願日当時,生化学工業株式会社は,同社製のコンドロイチン硫酸ナトリウムの平均分子量について重量平均分子量の数値を提供しており,同社製のコンドロイチン硫酸ナトリウムの平均分子量として当業者に公然に知られた数値は重量平均分子量の数値であったこと(上記(3)イ(ア))からすれば,その「平均分子量」は重量平均分子量であると合理的24に理解することができ,そうだとすると,本件訂正後の特許請求の範囲の「平均分子量が2万〜4万のコンドロイチン硫酸或いはその塩」にいう平均分子量も重量平均分子量を意味するものと推認することができる。加えて,本件訂正明細書の上記段落に先立つ段落に記載された他の高分子化合物の平均分子量は重量平均分子量であると合理的に理解できること(上記(2)イ),高分子化合物の平均分子量につき一般に重量平均分子量によって明記されていたというのが本件出願日当時の技術常識であること(上記(2)ウ)も,本件訂正後の特許請求の範囲の「平均分子量が2万〜4万のコンドロイチン硫酸或いはその塩」にいう平均分子量が重量平均分子量であるという上記の結論を裏付けるに足りる十分な事情であるということができる。
ウ よって,本件訂正後の特許請求の範囲の記載は明確性要件を充足するものと認めるのが相当である。
(5) 被告の主張についてア 被告は,仮に,当業者が本件訂正明細書に記載された他の高分子化合物の平均分子量が重量平均分子量で示されていると理解するとしても,本件訂正明細書にはコンドロイチン硫酸ナトリウムの具体的な製品名の記載がないから,コンドロイチン硫酸ナトリウムについてはその平均分子量がいかなる平均分子量であるか特定することはできないと主張する。
しかし,上記(4)イのとおり,本件訂正明細書にコンドロイチン硫酸ナトリウムの具体的な製品名の記載がなくても,本件訂正明細書におけるコンドロイチン硫酸又はその塩及びその他の高分子化合物に関する記載を合理的に解釈し,当業者の技術常識参酌すれば,コンドロイチン硫酸又はその塩の平均分子量がいかなる平均分子量であるかを理解することができるというべきであり,被告の主張は採用できない。
イ 生化学工業株式会社製のコンドロイチン硫酸ナトリウムについて25被告は,生化学工業株式会社製のコンドロイチン硫酸ナトリウムの平均分子量について,本件出願日当時,それがいかなる平均分子量であるかは確定していなかったと主張するが,その論拠とするところは以下のとおりいずれも採用できない。
(ア) 被告は,生化学工業株式会社を出願人とする甲71公報及び甲73公報中の「極限粘度から算出される重量平均分子量」は粘度平均分子量を意味するから,生化学工業株式会社は重量平均分子量と粘度平均分子量を区別しないで使用していた可能性があり,生化学工業株式会社が重量平均分子量としている数値には粘度平均分子量が含まれていた可能性があると主張する。しかし,重量平均分子量と固有粘度(判決注:極限粘度と同義)の関係式を得て,この関係式と,測定した資料の固有粘度から重量平均分子量を算出する方法は本件出願日当時の技術常識であり(甲101〜103,105),甲71公報及び甲73公報の「極限粘度から算出される重量平均分子量」が重量平均分子量を示すことに疑義はない。
この点に関し,被告は,上記の甲101〜103の各文献は粘度平均分子量の算出方法を記載したものであると主張するが,上記各文献には重量平均分子量(質量平均分子量も同義と解される。)を算出することが明記され,また,一般に固有粘度と重量平均分子量の関係式における定数と,固有粘度と粘度平均分子量の関係式における定数は等しくないから(甲105),上記各文献に記載された算出方法につき粘度平均分子量の算出方法であると理解することはできない。
(イ) 被告は,本件カタログが引用する乙1論文と,化学大辞典(乙2)等の末端基定量(法)に関する記載から,本件カタログの「分子量」は数平均分子量であると理解され,生化学工業株式会社はコンドロイチン硫酸ナトリウムの平均分子量を数平均分子量で示していたと主張する。し26かし,乙1論文にはアルドースの分離及び定量が記載されているに過ぎず,多糖試料の末端基を定量するとの記載もないから,乙1論文から本件カタログの分子量の記載が数平均分子量であると解することは困難である。かえって,本件カタログの作成者である生化学工業株式会社が本件カタログの分子量の記載は重量平均分子量に基づく数値である旨回答しており(甲84),これが虚偽ないし誤りであるというべき理由も見いだせないから,本件カタログの「分子量」の数値が数平均分子量であるとの被告の主張は採用できない。
(ウ) 被告は,生化学工業株式会社が出願人である甲71公報,甲73公報及び再公表特許WO2006/068146公報(優先日・平成16年12月20日,国際公開日平成18年6月29日)(乙4)には,重量平均分子量以外の分子量が記載されているから,生化学工業株式会社製のコンドロイチン硫酸ナトリウムの平均分子量が重量平均分子量であるとはいえないと主張する。しかし,甲71公報及び甲73公報にはコンドロイチン硫酸ないしコンドロイチン硫酸ナトリウムの重量平均分子量が記載されていることは上記(ア)に認定したとおりである。また,上記再公表特許公報は,分解酵素により低分子化されたコンドロイチン硫酸又はその塩の画分及びその製造方法に関する発明であり,生化学工業株式会社製のコンドロイチン硫酸ナトリウムに言及したものではないから,この記載によって,同社製のコンドロイチン硫酸ナトリウムの平均分子量の意義が左右されるものではない。そして,生化学工業株式会社が出願人である公開特許公報等における同社製のコンドロイチン硫酸ナトリウムの平均分子量に関する記載は,同社から販売されるコンドロイチン硫酸ナトリウムの平均分子量についての記載であると理解すべきであり,同社が公開特許公報等において同社製のコンドロイチン硫酸又はその塩の平均分子量を重量平均分子量で記載していること(上記(3)イ(ウ))は,27同社がコンドロイチン硫酸ナトリウムの平均分子量を重量平均分子量で提供していた事実(上記(3)イ(ア))に沿うものといえる。
(エ) 被告は,生化学工業株式会社から販売されている製品に関する当業者の認識を適切に示すのは,製品のユーザーである生化学工業株式会社以外の者による文献であり,大塚製薬株式会社が出願人である特開2000−191534号公報(甲30)及び富士写真フイルム株式会社が出願人である特開平6−128289号公報(甲31)には同社製のコンドロイチン硫酸ナトリウム製品について粘度平均分子量や数平均分子量が使用されていると主張する。しかし,上記各公報においては,各公報の中で言及されている他の高分子化合物とコンドロイチン硫酸ナトリウムの平均分子量について,各公報ごとに粘度平均分子量又は数平均分子量により統一的に示されており,発明者が公報における使用目的に応じた平均分子量を測定して記載したものと理解することができる。したがって,これらの記載は,本件出願日当時,生化学工業株式会社製のコンドロイチン硫酸ナトリウムの平均分子量として同社が重量平均分子量の数値を提供し,当業者に公然に知られた数値も重量平均分子量の数値であったとの認定(上記(3)イ(ア))を左右するものではない。
(オ) 被告は,生化学工業株式会社のカタログには「分子量」の記載しかなく,同社はコンドロイチン硫酸ナトリウムの平均分子量を記載せずに販売していたと推認され,当業者にとって,生化学工業株式会社製のコンドロイチン硫酸ナトリウムの平均分子量がいかなる平均分子量であるかは一義的に確定していなかったと主張する。
しかし,上記(3)イ(ア)のとおり,生化学工業株式会社は,同社製のコンドロイチン硫酸ナトリウムの平均分子量について問合せを受けた場合には重量平均分子量の数値を提供していたのであり,製品に分子量の記載しかされていなかったとしても,同社製のコンドロイチン硫酸ナトリ28ウムの平均分子量がいかなる平均分子量であるかについての認定を左右するものではない。
ウ 被告は,コンドロイチン硫酸ナトリウムの市場は生化学工業株式会社とマルハ株式会社が独占していたところ,マルハ株式会社製のコンドロイチン硫酸ナトリウムの平均分子量として当業者に公然に知られた数値は粘度平均分子量であるから,当業者は,本件訂正後の特許請求の範囲の「平均分子量が2万〜4万のコンドロイチン硫酸或いはその塩」にいう平均分子量が粘度平均分子量でないと判断することはできないと主張する。しかし,本件訂正明細書には,マルハ株式会社製のコンドロイチン硫酸ナトリウムの記載はなく,ほかにコンドロイチン硫酸又はその塩の平均分子量が粘度平均分子量の意味であることを示唆する記載もないから,上記(4)イに説示したとおり,当業者は,本件訂正明細書におけるコンドロイチン硫酸又はその塩及びその他の高分子化合物に関する記載を合理的に解釈し,当業者の技術常識参酌することによって,コンドロイチン硫酸又はその塩の平均分子量が重量平均分子量であることを合理的に理解できるというべきである。
被告は,マルハ株式会社製の製品に関する記載を削除する本件訂正により明確性要件の充足を認めるのは特許請求の範囲を実質的に変更するに等しく妥当性を欠くと主張する。しかし,本件訂正は,@ 本件明細書の「かかるコンドロイチン硫酸又はその塩は市販のものを利用することができ,例えば,生化学工業株式会社から販売されている,コンドロイチン硫酸ナトリウム(平均分子量約1万,平均分子量約2万,平均分子量約4万等),マルハ株式会社から販売されているコンドロイチン硫酸ナトリウム(平均分子量約0.7万等)等が利用できる。」(段落【0021】)との記載から,「,マルハ株式会社から販売されているコンドロイチン硫酸ナトリウム(平均分子量約0.7万等)等」を除く訂正(訂正事項5),A 請29求項1及び6の「平均分子量が0.5万〜4万のコンドロイチン硫酸或いはその塩」を「平均分子量が2万〜4万のコンドロイチン硫酸或いはその塩」と改める訂正(訂正事項1及び3)を含むものであるところ(甲95),これをもって,実質上特許請求の範囲変更したものということはできず,被告の主張は採用できない。
エ 被告は,電気化学工業株式会社が出願人である特開2006−129796号公報(乙5)及びその自己公知資料である学会予稿(乙7。平成16年5月1日)にコンドロイチン硫酸の数平均分子量が記載されていることから,当業者において,コンドロイチン硫酸の平均分子量が多義的に用いられていたと主張する。しかし,上記記載は,酵素化学的手法によって合成されたコンドロイチン硫酸ナトリウムの数平均分子量の分析結果を記載したものであり(乙5【請求項1】〜【請求項5】,段落【0007】,【0009】,乙7),医薬品等の原料として一般に実用に供されているコンドロイチン硫酸に関する記載ではないから,この記載をもってコンドロイチン硫酸の平均分子量一般の意義に関する当業者の技術常識を示したものと解することはできない。したがって,被告の主張は採用できない。
(6) 小括以上によれば,本件訂正後の特許請求の範囲の記載は明確性要件を満たすものといえるから,本件審決にはこれを取り消すべき違法があり,原告の取消事由には理由がある。
3 結論よって,原告の請求は理由があるからこれを認容することとし,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第3部30裁判長裁判官鶴 岡 稔 彦裁判官高 橋 彩裁判官寺 田 利 彦31
事実及び理由
全容
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