関連審決 | 無効2016-800097 |
---|
元本PDF | 裁判所収録の全文PDFを見る |
---|---|
元本PDF | 裁判所収録の別紙1PDFを見る |
元本PDF | 裁判所収録の別紙2PDFを見る |
元本PDF | 裁判所収録の別紙3PDFを見る |
事件 |
平成
29年
(行ケ)
10164号
審決取消請求事件
|
---|---|
当事者の表示 別紙当事者目録記載のとおり | |
裁判所 | 知的財産高等裁判所 |
判決言渡日 | 2018/09/11 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
原告らの請求をいずれも棄却する。 訴訟費用は原告らの負担とする。 |
事実及び理由 | |
---|---|
請求
特許庁が無効2016-800097号について平成29年6月30日にした審決を取り消す。 |
|
事案の概要
1 特許庁における手続の経緯 ? 被告らは,平成17年8月22日,発明の名称を「下肢用衣料」とする発明について特許出願をし(特願2007-514943号),平成20年11月7日,設定登録を受けた(特許第4213194号。請求項の数5。以下「本件特許」という。)。 ? 原告らは,平成28年8月5日,特許庁に対し,本件特許について無効審判請求をし,無効2016-800097号事件として係属した。 ? 特許庁は,平成29年6月30日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との別紙審決書(写し)記載の審決(以下「本件審決」という。)をし,その謄本は,同年7月10日,原告らに送達された。 ? 原告らは,本件審決を不服として,同年8月7日,本件訴えを提起した。 2 特許請求の範囲の記載 本件特許の特許請求の範囲の記載は,以下のとおりである(以下,請求項の順に 1「本件発明1」などといい,本件発明1〜5を併せて「本件各発明」という。なお,各段落先頭のアルファベットは,本件審決において付された分説記号である。)。 その明細書及び図面(甲1)を併せて「本件明細書」という。 【請求項1】 A 大腿部が挿通する開口部の湾曲した足刳りとなる足刳り形成部を備えた前身頃と, B この前身頃に接続され臀部を覆うとともに前記前身頃の足刳り形成部に連続する足刳り形成部を有した後身頃と, C 前記前身頃と前記後身頃の各足刳り形成部に接続され大腿部が挿通する大腿部パーツとを有し, D 前記前身頃の足刳り形成部の湾曲した頂点が腸骨棘点付近に位置し, E 前記後身頃の足刳り形成部の下端縁は臀部の下端付近に位置し, F 前記大腿部パーツの山の高さを前記足刳り形成部の前側の湾曲深さよりも低い形状とし, G 前記足刳り形成部の湾曲部分の幅よりも前記山の幅を広く形成し, H 取り付け状態で筒状の前記大腿部パーツが前記前身頃に対して前方に突出する形状となることを特徴とする I 下肢用衣料。 【請求項2】 J 前記後身頃のウエスト部から股部までの長さは,前記前身頃のウエスト部から股部までの長さよりも長く形成され,前記大腿部パーツに大腿部を挿入した状態において,大腿部が前身頃に対して前方に突出した状態で,前記後身頃に大きな張力が掛からない形状であることを特徴とする請求項1記載の下肢用衣料。 【請求項3】 K 前記足刳り形成部は,身体の転子点付近から腸骨棘点付近を通り股底点脇付近に至る湾曲した足刳り部分と,前記転子点付近から股底点脇まで膨らんだ曲線で 2臀部裾ラインを包み込み,且つ臀部裾部分に密着する形状であることを特徴とする請求項1記載の下肢用衣料。 【請求項4】 L 前記大腿部パーツは,裾部で折り返された1枚の生地の両側縁部が互いに重ねられ,前記前身頃の足刳り形成部と前記後身頃の足刳り形成部とに積層状態で接続され,前記大腿部パーツの折り重ねられた生地同士が相対的に摺動可能に形成されていることを特徴とする請求項1記載の下肢用衣料。 【請求項5】 M 前記大腿部パーツは,股下から踝付近までの間の適宜の長さに形成されていることを特徴とする請求項1記載の下肢用衣料。 3 本件審決の理由の要旨 ? 本件審決の理由は,別紙審決書(写し)記載のとおりである。要するに,本件発明1は,@(i)後記ア〜ウの引用例1〜3に記載された発明(以下「引用発明1」などという。)のいずれでもないから,特許法29条1項2号の規定に該当するとはいえない,(ii)引用発明1〜3のいずれかの発明,甲5,11〜15,22各記載の事項及び従来周知の事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものではないから,同条2項の規定により,特許を受けることができないとはいえない,A(i)後記エの引用例4に記載された発明(以下「引用発明4」という。)ではなく,同条1項3号に該当するとはいえない,(ii)引用発明4,甲2〜5,12〜15,22各記載の事項及び従来周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないから,同条2項の規定により,特許を受けることができないとはいえない,B(i)後記オの引用例5に記載された発明(以下「引用発明5」という。)ではなく,同条1項3号に該当するとはいえない,(ii)引用発明5,甲2〜5,11,12,14,15,22各記載の事項及び従来周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないから,同条2項の規定により,特許を受けることができないとはいえない,C(i) 3後記カの引用例6に記載された発明(以下「引用発明6」という。)ではなく,同条1項3号に該当するとはいえない,(ii)引用発明6,甲2〜5,11〜13,15,22各記載の事項及び従来周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないから,同条2項の規定により,特許を受けることができないとはいえない,D発明の詳細な説明に記載されたものであるから,特許法36条6項1号の規定を満たす,というものである。また,本件発明2〜5については,いずれも,@(i)引用発明1〜6のいずれでもないから,同法29条1項2号又は3号に該当するとはいえない,(ii)引用発明1〜6のうちの1つの発明,甲2〜5,11〜15,22各記載の事項及び従来周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもないから,同条2項の規定により,特許を受けることができないとはいえない,A発明の詳細な説明に記載されたものであるから,特許法36条6項1号の規定を満たす,というものである。 ア 引用例1:先行製品1説明書(甲2)により導かれる製品 イ 引用例2:先行製品2説明書(甲3)により導かれる製品 ウ 引用例3:先行製品3説明書(甲4)により導かれる製品 エ 引用例4:実開昭51-73224号公報(甲11) オ 引用例5:特開昭50-83153号公報(甲13) カ 引用例6:特公昭57-1601号公報(甲14) ? 本件発明1と引用発明1〜3との対比 ア 引用発明1(ア) 引用例1の構造を具体的に特定することはできない。 (イ) 引用例1の縫製情報が引用例2のそれと同一である場合,後記イに同じ。 イ 引用発明2及び3 大腿部が挿通する開口部の湾曲した足刳りとなる足刳り形成部を備えた前身頃12を有し,この前身頃12に接続され臀部を覆うとともに前身頃12の足刳り形成部24に連続する足刳り形成部25を有した後身頃14を有し,前記前身頃12と 4後身頃14の各足刳り形成部24,25に接続され脚が挿通する脚口パーツ18を有し,前身頃12の足刳り形成部24は湾曲した頂点があり,前記後身頃14の足刳り形成部の下端縁は臀部の下端付近に位置し,前記脚口パーツ18は山40aを有し,前記足刳り形成部の湾曲部分の幅よりも前記山40aの幅が広い箇所と狭い箇所を形成し,筒状の前記脚口パーツ18が前記前身頃12に対して突出する形状であるショーツ。 ウ 本件発明1と引用発明2との一致点 大腿部が挿通する開口部の湾曲した足刳りとなる足刳り形成部を備えた前身頃と,この前身頃に接続され臀部を覆うとともに前記前身頃の足刳り形成部に連続する足刳り形成部を有した後身頃と,前記前身頃と前記後身頃の各足刳り形成部に接続され大腿部が挿通する大腿部パーツとを有し,前記前身頃の足刳り形成部の湾曲した頂点を有し,前記後身頃の足刳り形成部の下端縁は臀部の下端付近に位置し,筒状の前記大腿部パーツが前記前身頃に対して突出する形状となることを特徴とする下肢用衣料。 エ 本件発明1と引用発明2との相違点 (ア) 相違点1-1 本件発明1は,「前身頃の足刳り形成部の湾曲した頂点」が,「腸骨棘点付近に位置」するものであるのに対し,引用発明2は,「前身頃12の足刳り形成部24は湾曲した頂点」の位置と,腸骨棘点との関係が不明である点。 (イ) 相違点1-2 本件発明1は,「大腿部パーツの山の高さ」を,「足刳り形成部の前側の湾曲深さ」よりも「低い形状」としたものであるのに対し,引用発明2は,「脚口パーツ18」の「山40a」の高さと,「足刳り形成部の湾曲」の深さとの関係が不明である点。 (ウ) 相違点1-3 本件発明1は,「足刳り形成部の湾曲部分の幅」よりも「山の幅」を全ての箇所 5で「広く形成」したものであるのに対し,引用発明2は,「足刳り形成部の湾曲」の幅よりも「脚口パーツ18」の「山40aの幅」が「広い箇所と狭い箇所を形成し」たものである点。 (エ) 相違点1-4 本件発明1は,「前記大腿部パーツ」が「前身頃」に対して「前方」に突出する形状であるのに対し,引用発明2の「筒状の前記脚口パーツ18」が「前身頃12」に対して「突出」する方向が明らかではない点。 (オ) 相違点1-5 本件発明1は,「取り付け状態」で「筒状の前記大腿部パーツが前記前身頃に対して前方に突出する形状となる」ものであるのに対し,引用発明2の「筒状の前記脚口パーツ18が前記前身頃12に対して突出する」のが「取り付け状態」であるかが明らかではない点。 オ 本件発明1と引用発明3との一致点及び相違点は本件発明1と引用発明2との一致点及び相違点と同一である。 また,仮に引用例1の縫製情報が引用例2のそれと同一である場合は,本件発明1と引用発明1との一致点及び相違点も同様である。 ? 本件発明1と引用発明4との対比 ア 引用発明4 大腿部が挿通する開口部の湾曲した足刳りとなる足刳り形成部を備えた腰部主体片1と,この腰部主体片1に接続され臀部を覆うとともに前記腰部主体片1の足刳り形成部に連続する足刳り形成部を有した臀部片4と,前記腰部主体片1と前記臀部片4の各足刳り形成部に接続され大腿部が挿通する脚部片2とを有し,前記腰部主体片1の足刳り形成部を内方に湾曲に切り欠いて谷形に形成し,谷底点dがあり,前記脚部片2は山形に膨出形成し,前記足刳り形成部は湾曲した形状であり,前記臀部片4の足刳り形成部の下端片は臀部の下端付近に位置し,筒状の前記脚部片2が前記腰部主体片1に対して前方に突出する形状となるガードル。 6 イ 一致点 大腿部が挿通する開口部の湾曲した足刳りとなる足刳り形成部を備えた前身頃と,この前身頃に接続され臀部を覆うとともに前記前身頃の足刳り形成部に連続する足刳り形成部を有した後身頃と,前記前身頃と前記後身頃の各足刳り形成部に接続され大腿部が挿通する大腿部パーツとを有し,前記後身頃の足刳り形成部の下端縁は臀部の下端付近に位置し,筒状の前記大腿部パーツが前記前身頃に対して前方に突出する形状となることを特徴とする下肢に着用する衣料。 ウ 相違点(ア) 相違点2-1 本件発明1は,「前身頃の足刳り形成部の湾曲した頂点」が,「腸骨棘点付近に位置」するものであるのに対し,引用発明4は,「腰部主体片1の足刳り形成部の湾曲した谷底点d」の位置と,腸骨棘点との関係が不明である点。 (イ) 相違点2-2 本件発明1は,「大腿部パーツの山の高さ」を,「足刳り形成部の前側の湾曲深さ」よりも「低い形状」としたものであるのに対し,引用発明4は,「脚部片2」の山の高さと「足刳り形成部の前側の湾曲深さ」との関係が不明である点。 (ウ) 相違点2-3 本件発明1は,「足刳り形成部の湾曲部分の幅」よりも「山の幅」を「広く形成」したものであるのに対し,引用発明4は,「足刳り形成部の湾曲した形状」の幅と,「脚部片2」の山の幅との関係が不明である点。 (エ) 相違点2-4 本件発明1は,「取り付け状態」で「筒状の前記大腿部パーツが前記前身頃に対して前方に突出する形状となる」ものであるのに対し,引用発明4の「筒状の前記脚部片2が前記腰部主体片1に対して前方に突出する形状となる」のが「取り付け状態」であるか「着用状態」であるか不明である点。 (オ) 相違点2-5 7 「下肢に着用する衣料」について,本件発明1は,「下肢用衣料」であるが,引用発明4は,「ガードル」である点。 ? 本件発明1と引用発明5との対比 ア 引用発明5 大腿部が挿通する開口部の湾曲した足刳り形成部を備えた腰部布1と,この腰部布1に接続され臀部を覆うとともに前記腰部布1の足刳り形成部に連続する足刳り形成部を有したヒツプアツプ当布3と,前記腰部布1と前記ヒツプアツプ当布3の各足刳り形成部に接続され大腿部が挿通する脚部布2を有し,腰部布1の切替え線(1a)は人体屈曲時に画かれる関節部の線(C)に沿い,前記ヒツプアツプ当布3の足刳り形成部の下端縁は臀部の下端付近に位置し,前記脚部布2の切替え線(2a)が緩いカーブ(R 1 )とされ,前記腰部布1の足刳り形成部は切替え線(1a)が深いカーブ(R)とされ,着用時に筒状の前記脚部布2が前記腰部布1に対して前方に突出する形状となるパンティガードル。 イ 一致点 大腿部が挿通する開口部の湾曲した足刳りとなる足刳り形成部を備えた前身頃と,この前身頃に接続され臀部を覆うとともに前記前身頃の足刳り形成部に連続する足刳り形成部を有した後身頃と,前記前身頃と前記後身頃の各足刳り形成部に接続され大腿部が挿通する大腿部パーツとを有し,前記後身頃の足刳り形成部の下端縁は臀部の下端付近に位置し,筒状の前記大腿部パーツが前記前身頃に対して前方に突出する形状となることを特徴とする下肢に着用する衣料。 ウ 相違点 (ア) 相違点3-1 本件発明1は,「前身頃の足刳り形成部の湾曲した頂点」が,「腸骨棘点付近に位置」するものであるのに対し,引用発明5は,そもそも,「腰部布1」の「切替え線(1a)が深いカーブ(R)」の頂点の位置が不明である点。 (イ) 相違点3-2 8 本件発明1は,「大腿部パーツの山の高さ」を,「足刳り形成部の前側の湾曲深さ」よりも「低い形状」としたものであるのに対し,引用発明5は,「脚部布2」の「切替え線(2a)」の「緩いカーブ(R 1 )」の高さと,「足刳り形成部」の「切替え線(1a)」の「深いカーブ(R)」の深さとの関係が不明である点。 (ウ) 相違点3-3 本件発明1は,「足刳り形成部の湾曲部分の幅」よりも「山の幅」を「広く形成」したものであるのに対し,引用発明5の,「足刳り形成部」の「切替え線(1a)」の「深いカーブ(R)」の幅と,「脚部布2」の「緩いカーブ(R 1 )」の幅との関係が不明である点。 (エ) 相違点3-4 本件発明1は,「取り付け状態」で「筒状の前記大腿部パーツが前記前身頃に対して前方に突出する形状となる」ものであるのに対し,引用発明5の「筒状の前記脚部布2が前記腰部布1に対して前方に突出する形状となる」のが「取り付け状態」であるか「着用状態」であるか明らかではない点。 (オ) 相違点3-5 「下肢に着用する衣料」について,本件発明1は,「下肢用衣料」であるが,引用発明5は,「パンティガードル」である点。 ? 本件発明1と引用発明6との対比 ア 引用発明6 大腿部が挿通する開口部の湾曲した足刳り形成部を備えた腰部布6と,この腰部布6に接続され臀部を覆うとともに前記腰部布6の足刳り形成部に連続する足刳り形成部を有したヒツプ布8と,前記腰部布6と前記ヒツプ布8の各足刳り形成部に接続され大腿部が挿通する脚部布7を有し,腰部布6の下端縁は人体屈曲時に画かれる関節部(C)に沿い,前記ヒツプ布8の足刳り形成部の下端縁は臀部の下端付近に位置し,前記脚部布7の上端縁13は凸状の緩いカーブ14であり,前記腰部布6の下端縁10は凹状の深いカーブ11であり,着用時に筒状の前記脚部布7が 9前記腰部布6に対して前方に突出する形状となるパンティガードル。 イ 一致点 大腿部が挿通する開口部の湾曲した足刳りとなる足刳り形成部を備えた前身頃と,この前身頃に接続され臀部を覆うとともに前記前身頃の足刳り形成部に連続する足刳り形成部を有した後身頃と,前記前身頃と前記後身頃の各足刳り形成部に接続され大腿部が挿通する大腿部パーツとを有し,前記後身頃の足刳り形成部の下端縁は臀部の下端付近に位置し,筒状の前記大腿部パーツが前記前身頃に対して前方に突出する形状となることを特徴とする下肢に着用する衣料。 ウ 相違点(ア) 相違点4-1 本件発明1は,「前身頃の足刳り形成部の湾曲した頂点」が,「腸骨棘点付近に位置」するものであるのに対し,引用発明6は,そもそも,「腰部布6」の「凹状の深いカーブ11」の頂点の位置が不明である点。 (イ) 相違点4-2 本件発明1は,「大腿部パーツの山の高さ」が,「足刳り形成部の前側の湾曲深さ」よりも「低い形状」としたものであるのに対し,引用発明6は,「脚部布7」の「凸状の緩いカーブ14」の高さと,「腰部布6」の「凹状の深いカーブ11」の深さとの関係が不明である点。 (ウ) 相違点4-3 本件発明1は,「足刳り形成部の湾曲部分の幅」よりも,「山の幅」を「広く形成」したものであるのに対し,引用発明6は,「腰部布6」の「凹状の深いカーブ11」の幅と,「足刳り形成部の湾曲した形状」の幅との関係が不明である点。 (エ) 相違点4-4 本件発明1は,「取り付け状態」で「筒状の前記大腿部パーツが前記前身頃に対して前方に突出する形状となる」ものであるのに対し,引用発明6の「筒状の前記脚部布7が前記腰部布6に対して前方に突出する形状となる」のが「取り付け状態」 10であるか「着用状態」であるか不明である点。 (オ) 相違点4-5 「下肢に着用する衣料」について,本件発明1は,「下肢用衣料」であるが,引用発明6は,「パンティガードル」である点。 4 取消事由 ? 取消事由1(引用発明1〜3に基づく新規性及び進歩性判断の誤り) ? 取消事由2(引用発明4に基づく新規性及び進歩性判断の誤り) ? 取消事由3(引用発明5に基づく新規性及び進歩性判断の誤り) ? 取消事由4(引用発明6に基づく新規性及び進歩性判断の誤り) ? 取消事由5(請求項1のサポート要件判断の誤り) ? 取消事由6(本件発明2〜5に係る新規性及び進歩性判断の誤り) ? 取消事由7(請求項3のサポート要件判断の誤り) |
|
当事者の主張
1 取消事由1(引用発明1〜3に基づく新規性及び進歩性判断の誤り) 〔原告らの主張〕 ? 相違点1-3の具体的内容 相違点1-3は,より厳密には「本件発明1は,『足刳り形成部の湾曲部分の幅』よりも『山の幅』を全ての箇所で『広く形成』したものであるのに対し,引用発明2は,『足刳り形成部の湾曲』の幅よりも『脚口パーツ18』の『山40aの幅』が『上部のごく一部でわずかに狭く,それ以外で広く形成し』たものである点。」と認定されるべきである。 ? 構成要件F及びGの技術的意義 ア 本件明細書の記載によれば,足刳り形成部の湾曲部分の幅及び大腿部パーツに設けられる山の幅は,身頃及び大腿部パーツを平面状に展開した状態で特定される。 しかし,人体は複曲面であり非可展面であるため,衣服を平面上の生地から作成 11する限り,その着用状態では,平面上から等長変換されない生地には必ず複雑で不規則な伸びやせん断変形が生じることは,技術常識である。この技術常識に鑑みれば,本件発明1の下肢用衣料において,平面状に展開された身頃及び大腿部パーツを縫製により三次元状に造形し,着用した状態にすると,複雑で不規則に変形することになる。また,身頃の変形の仕方と大腿部パーツの変形の仕方は異なる。 したがって,本件発明1の下肢用衣料が縫製により三次元状に造形され着用された状態となったときに,全ての箇所で構成要件Gに係る広狭関係が有意に維持されるとは限らない。そうである以上,構成要件Gに技術的意義はない。 イ 本件明細書の記載によれば,大腿部パーツに設けられる山の高さ及び足刳り形成部の湾曲深さは,大腿部パーツ及び身頃を平面状に展開した状態で特定される。 しかし,上記と同様の理由から,本件発明1の下肢用衣料が縫製により三次元状に造形され着用された状態となったときに,構成要件Fに係る高低関係が有意に維持されるとは限らない。そうである以上,構成要件Fに技術的意義はない。 ? 相違点1-3に係る本件発明1の構成の技術的意義 ア 本件明細書【0027】については,h1,h2,w1,w2の関係が構成要件F及びGに対応していると捉えた場合,構成要件F及びGの効果として構成要件Hが得られることが記載されているものと理解される。 しかし,構成要件F及びGがいかに作用して構成要件Hが得られるのかという原理の説明は,本件明細書にはない。また,構成要件F及びGの効果として構成要件Hが得られることを示す証拠等も示されていない。しかも,上記のとおり構成要件F及びGに技術的意義はないのであるから,構成要件F及びGの効果として構成要件Hが得られないのも明らかである。 イ 例えば引用例6には,脚部布7の山を腰部布6の下端縁10よりも「ある程度」(三日月形の空間が形成される程度)浅いカーブにすることにより,腰部布6によって構成される脚部4を前方に突出させる,という技術が示されている。この技術は,引用例6及び5のほか,引用例1〜4,甲12,甲15からも把握し得る 12ものであり,周知・慣用技術といえる。本件明細書図3においても,足刳り形成部24,25の湾曲のカーブよりも大腿部パーツ18の山40aのカーブが「ある程度」浅くなっているから大腿部パーツ18が前方に突出するのであって,上記技術は本件発明1にも採用されている。 そして,上記?の技術常識によれば,パターン上におけるカーブの深浅がごくわずかである場合に,着用状態にそのカーブの深浅がそのまま反映されるとは限らず,大腿部パーツの前方への突出に繋がる程度(「ある程度」)カーブの深浅差が設けられている必要がある,と捉えるのが合理的である。 ウ 以上のとおり,本件発明1の構成要件Hが得られるのは,構成要件F及びGによるものではなく,上記周知・慣用技術によるものである。 ? 本件発明1の新規性及び進歩性について 以上より,本件発明1の新規性及び進歩性については,以下のとおりである。 ア 相違点1-1〜1-5のうち,相違点1-3以外については,実質的な相違点ではない。 また,上記のとおり,相違点1-3に係る本件発明1の構成に格別の技術的意義はなく,実質的な相違点とはいえず,又は単なる設計的事項以上のものということはできない。 したがって,本件発明1は,引用発明2であり,又は引用発明2に基づいて容易に想到することができたものというべきである。 イ このことは,以下の点からも裏付けられる。 (ア) 引用例2が構成要件Gの関係を満たさないのは,引用例2では,身頃側の足刳り形成部とこれに縫い合わされる脚口パーツの縁との寸法が同等ではなく大きく異なっているためであるが,脚口パーツの縁の寸法を身頃の足刳り形成部の寸法に近づけていけば,やがて構成要件Gの関係を満たすことになる。そして,衣服分野において,相互に縫い合わせる部分の寸法関係をどのように設定するかは設計的事項にすぎない。 13 (イ) 本件明細書には臀部ダーツ31ないしこれに代わるダーツが示されているのに対し,引用例2には,これらに相当するものは設けられていない。このため,このようなダーツの有無が相違点1-3に関係していると捉えられる。 しかし,曲面形成又は立体化のために,ダーツを設けるか,いせ込み又は伸ばしを行うかは,当業者が適宜選択し得る手法(設計的事項)であり,いせ込み(又は伸ばし)を行う引用例2において,これに代えて,又はこれに加えて,ダーツを設けるようにすることは設計的事項にすぎない。また,下肢用衣料又は引用発明2が属する技術分野又はこれに近接する技術分野において,臀部を覆う部位にダーツを設けて膨らみをもたせることは周知技術である。 そうすると,引用例2に種々の形態の臀部ダーツを設けることは,当業者が容易になし得ることである。このように臀部ダーツを設けた場合,構成要件Gを満たす蓋然性は極めて高い。 (ウ) 引用発明2及び6はともにショーツに係る発明であり,技術分野が同一である。また,足口ないし脚部が前方に突出する点で,両者は,その機能も同一である。 そして,前記のとおり,引用例2において,身頃側の足刳り形成部とこれに縫い合わされる脚口パーツの縁との寸法の前記関係に代えて,引用例6に示されているパターンのように,腰部布6とヒップ布8とを曲線で縫合するようにして立体感を持たせるようにしつつ,身頃側の足刳り形成部とこれに縫い合わされる脚口パーツの縁との寸法を同等となるようにするのは容易であって,この場合,構成要件Gを満たすことになる。 このことは,引用発明2及び5との関係でも同様である。 ウ 引用例2の改変の動機付け 自ずと制限があるとはいえ,その範囲内で型紙(パターン)の形状はいわば無限に変更可能である。そして,下肢用衣料においては,着心地以外の多種多様な要素も総合的に考慮してパターンが決定されるのが通常である。引用例2の改変に強い 14動機が必要という本件審決の認定は,こうした事情を全く考慮しないものである。 そもそも,構成要件Gには技術的意義がないから,相違点1-3に係る構成に関し,引用例2の改変に動機を必要と判断すること自体が失当である。 ? 小括 以上のように,本件発明1は,引用発明2であり,また,当業者であれば引用発明2に基づいて容易に想到し得るものである。この点に関する本件審決の判断は誤りである。 以上のことは,引用例1及び3に係る本件審決の判断に関しても同様である。 〔被告らの主張〕 ? 相違点1-3の具体的内容について ア 原告らは,裾部36を表す線を上方に平行移動させてなる線を「基準線」と称し,それより上側の部分を「山40a」と,それと縫い合わされる身頃側の部分を「湾曲部分」と特定しているが,「裾部36を表す線を上方に平行移動させる」という操作自体に技術的意味はない。 構成要件Gの「前記足刳り形成部の湾曲部分」とは,構成要件Fの「足刳り形成部の前側の湾曲」を受けた記載であり,両者は同一の部分を指している。そして,本件各発明の目的が股関節の屈伸運動に対する生地の抵抗を軽減し,その円滑性・追従性の向上を図ることにあることに鑑みれば,「足刳り形成部の前側」とは,人体を基準にした前側を意味し,その大部分が人体の前側に位置することになる部分でなければならない。 したがって,原告ら主張に係る方法によって特定された「湾曲部分」及び「山」を前提に本件発明1と引用発明2とを対比判断することは妥当でない。 イ そもそも,引用発明2は,どのような位置で「湾曲部分」及び「山」を特定しても,必ず「足刳り形成部の湾曲部分の幅」<「大腿部パーツの山の幅」との関係を満たさない部分を有する。その技術的思想の理解に当たり特に重要な点は,引用例2では人体の前側にいくほど構成要件Gの大小関係を満たさない部分が拡大し 15ていく点である。これは,人体の前側ほど伸びに対するゆとりがなく,股関節の屈伸運動に対する生地の抵抗が前側ほど大きいことを意味する。 そうすると,本件発明1と引用発明2の技術的思想の相違は明らかである。 ? 構成要件F及びGの技術的意義について ア 人体形状が非可展面であって平面に展開できない曲面であることはそのとおりであるが,そのことを考慮しても,型紙上の寸法設定の意義を否定することはできない。 イ 構成要件F及びGの「湾曲(部分)」によって囲まれる領域及び「山」はいずれも大腿部前面が当接する部分であり,同じ荷重が作用する限り,同じように変形する。また,構成要件F及びGに係る「湾曲(部分)」の高さ及び幅は,仮想線ないし仮想領域として対比の対象とされているにすぎず,最終製品に現れるのは大腿部パーツの「山」の高さ及び幅である。そして,両者はいずれも大腿部前面が当接する部分として対応関係にある。 したがって,「複雑で不規則な伸びやせん断変形」などは,構成要件F及びGに関する限り考慮する必要はない。 ウ 全ての箇所で構成要件Gに係る広狭関係が有意に維持されるといえなくなるのは,着用時の状態が生地の弾性限界を超えるときのみであるが,不適合なサイズのものを着用しない限り,そのような事態は生じない。また,構成要件Gに係る広狭関係が縫合の前後又は着用の前後で変わるなどといったことも考えられない。 したがって,構成要件Gに技術的意義がないとの原告らの主張は失当である。この点は,構成要件Fの技術的意義についても同様である。 ? 相違点1-3に係る本件発明1の構成の技術的意義について ア 構成要件Fの大小関係が顕著になればなるほど,取り付け状態で筒状の大腿部パーツが前身頃に対して前方に突出することになるのは容易に理解できることであり,また,構成要件Gの大小関係が顕著になればなるほど,取り付け状態で筒状の大腿部パーツが前身頃に対して前方に突出することになることも明らかである。 16 イ 引用例6においても,脚部布7の山を腰部布6の下端縁10よりも浅いカーブにしておけば潜在的には「三日月形の空間」が形成されるものであり,カーブの浅さを「ある程度」以上にしなければならないわけではない。他方で,引用例6では,効果を顕在化させるための別の発明特定事項が規定されている。この点は本件発明1も同様であり,本件発明1は,構成要件F,Gだけでなく,構成要件Hを充足することを要求しているものである。 ? 本件発明1の新規性及び進歩性について ア 前記のとおり,相違点1-3に係る本件発明1の構成に技術的意義がないとの原告らの主張は失当であるから,相違点1-3は実質的な相違点であり,また,本件発明1は引用発明2に基づき容易に想到し得るものではない。 イ 身頃側の足刳り形成部の寸法を変えずに脚口パーツの寸法のみを変更するということ自体,相手形状との整合性や完成品の着心地等を考慮しておらず,合理性に欠けるし,引用例1〜3においてこのような改変を行うことには動機付けがないとともに,阻害事由が存在する。 ウ 本件発明1において,臀部ダーツ等は要件になっていない上,引用発明2に臀部ダーツ等を設けたからといって,当然に構成要件Gを充足することになるものではない。また,引用発明2において,現在の構成に更に重ねて臀部ダーツ等を設けるべき理由もない。 エ 仮に引用発明1〜3が前方に突出するものであったとしても,引用発明2に引用発明6を適用すれば当然に構成要件Gを充足することになるわけではない。引用例6に構成要件Gは開示されていないし,上記のとおり,引用発明2の構成の変更に動機付けは存在せず,むしろそのような改変は阻害事由に当たる。 これらの点は,引用発明2に引用発明5を適用する場合も同様である。 オ 原告ら主張のとおり,パターンの決定に当たって様々な事情が考慮されるとしても,だからといって当然に構成要件Gを充足することになるわけではない。むしろ,型紙形状を無限に変更できるのであれば,その中から敢えて本件発明1の構 17成を採択することは困難である。 ? 小括 以上のとおり,相違点1-3に関する原告らの主張はいずれも失当であり,この点に関する本件審決の認定判断に誤りはない。このことは,引用例1及び3を主引用例とする新規性及び進歩性についても同様である。 2 取消事由2(引用発明4に基づく新規性及び進歩性判断の誤り) 〔原告らの主張〕 ? 相違点2-3について ア 本件審決が,相違点2-3に関し,引用発明4は,「足刳り形成部の湾曲した形状」の幅と,「脚部片2」の山の幅との関係が不明であるとする点は争う。 イ 相違点2-3は,本件発明1の構成要件Gに対応するところ,引用例4第2図に示されている腰部主体片1において辺adbで特定される湾曲部分,及び脚部片2においてa’b’を結ぶ直線よりも上側の部分は,それぞれ構成要件Gの「前記足刳り形成部の湾曲部分」及び「前記山」に相当する。 前記のとおり,パターンの形状の工夫によって大腿部パーツを前方に突出させるにあたり,足刳り形成部の湾曲のカーブよりも大腿部パーツの山のカーブを浅くすれば大腿部パーツが前方に突出する,という技術は,本件特許出願時における周知・慣用技術である。そして,引用発明6は構成要件Gを満たし,引用例2は構成要件Gを一部満たさないところ,この違いは,身頃側の足刳り形成部とこれに縫い合わされる脚口パーツの縁との寸法の異同に由来する。引用発明4においては,身頃側の足刳り形成部とこれに縫い合わされる脚口パーツの縁の寸法は同等であることが把握され,引用例2のように大きく異ならせる趣旨の記載もないから,引用発明4は構成要件Gを満たすと考えられる。 したがって,相違点2-3につき実質的な相違点であるとする本件審決の判断は誤りである。 ? 本件発明1の新規性及び進歩性について 18 ア 相違点2-1〜2-5のうち,相違点2-3以外は,実質的な相違点ではない。また,上記のとおり,相違点2-3も実質的な相違点ではない。 イ 仮に相違点2-3が実質的な相違点であるとしても,相違点2-3に係る本件発明1の構成は相違点1-3に係る本件発明1の構成と実質的に同一であるところ,前記のとおり,このような構成に格別の技術的意義はない。したがって,本件発明1は引用発明4であると判断されるべきである。 ウ 仮に相違点2-3が実質的な相違点であるとしても,当該相違点は,単なる設計的事項以上のものということはできないから,本件発明1は引用発明4に基づいて容易に想到することができたものというべきである。 このことは,以下の点からも裏付けられる。すなわち,引用発明4と同6とは技術分野が同一であり,また,その機能も同一であるから,引用発明4に同6を適用すれば,構成要件Gを満たすことになる。このような適用は,当業者が容易になし得るものにすぎない。引用発明4及び5においても同様のことが妥当する。 ? 小括 以上のとおり,本件発明1は,引用発明4であり,また,当業者であれば引用発明4に基づいて容易に想到し得るものである。したがって,この点に関する本件審決の判断は誤りである。 〔被告らの主張〕 ? 前記のとおり,引用例6に構成要件Gは開示されていない。 また,原告らは,あたかも身頃側の足刳り形成部とこれに縫い合わされる脚口パーツの縁との寸法が同等であれば構成要件Gを充足するかのように主張するが,そのような事実はない。また,引用例4には,身頃側の足刳り形成部とこれに縫い合わされる脚口パーツの縁との寸法が同等であることはどこにも記載されていない。 したがって,相違点2-3に関する本件審決の認定判断に誤りはない。 ? 構成要件Gに格別の技術的意義がないとの主張が失当であることは,前記のとおりである。 19 ? 引用発明6が構成要件Gを充足するということはできない以上,引用発明4に同6を適用しても,構成要件Gを充足することにはならない。このことは,引用発明4及び5との関係においても同様である。 ? 小括 以上のとおり,相違点2-3に関する原告らの主張はいずれも失当であり,この点に関する本件審決の認定判断に誤りはない。 3 取消事由3(引用発明5に基づく新規性及び進歩性判断の誤り) 〔原告らの主張〕 ? 相違点3-3について ア 本件審決が,相違点3-3につき,引用発明5の,「足刳り形成部」の「切り替え線(1a)」の「深いカーブ(R)」の幅と,「脚部布2」の「緩いカーブ(R1)」の幅との関係が不明であるとする点は争う。 イ 相違点3-3は,本件発明1の構成要件Gに対応するところ,引用例5の第1図記載のA 1からE 1まで延びる凹状の「深く」「急な」カーブ(R),及びA 2からE 2 まで延びる凸状の「低く」「緩やかな」カーブ(R 1 )は,それぞれ構成要件Gの「前記足刳り形成部の湾曲部分」及び「前記山」に相当すると捉えられる。 又は,前記カーブ(R)及びカーブ(R1 )が,それぞれ構成要件Gの「前記足刳り形成部の湾曲部分」及び「前記山」を含むと捉えることもできる。 そして,引用発明5は構成要件Gを有する。 したがって,相違点3-3は実質的な相違点ではない。 ? 本件発明1の新規性及び進歩性について ア 相違点3-1〜3-5のうち,相違点3-3以外については,実質的な相違点ではない。また,上記のとおり,相違点3-3も実質的な相違点ではない。 イ 仮に相違点3-3が実質的な相違点であるとしても,当該相違点に係る本件発明1の構成は,相違点1-3に係る本件発明1の構成と実質的に同一であるところ,前記のとおり,当該相違点に格別の技術的意義はなく,単なる設計的事項以上 20のものということはできないから,本件発明1は,引用発明5に基づいて容易に想到し得たものというべきである。 ? 小括 以上のとおり,本件発明1は引用発明5であり,また,当業者であれば引用発明5に基づいて容易に想到し得るものである。したがって,この点に関する本件審決の判断は誤りである。 〔被告らの主張〕 ? 引用発明5は本件発明1の構成要件Gを充足しない。また,単に「足刳り形成部」の「切替え線(1a)」を「深いカーブ(R)」とし,「脚部布2」の「切替え線(2a)」を「緩いカーブ(R 1 )」としたからといって当然に構成要件Gを充足することにはならないことは,引用例1〜3に照らして明らかである。 したがって,相違点3-3を実質的な相違点であるとした本件審決の判断に誤りはない。 ? 原告らは,相違点3-3に係る本件発明1の構成である構成要件Gにつき技術的意義がないとの主張を前提として,本件発明1は引用発明5に基づき容易に想到し得る旨主張するけれども,その前提が失当であることは前記のとおりである。 ? 小括 以上のとおり,相違点3-3に関する原告らの主張はいずれも失当であり,この点に関する本件審決の認定判断に誤りはない。 4 取消事由4(引用発明6に基づく新規性及び進歩性判断の誤り) 〔原告らの主張〕 ? 相違点4-3について ア 本件審決が,引用発明6は,「腰部布6」の「凹状の深いカーブ11」の幅と,「足刳り形成部の湾曲した形状」の幅との関係が不明であるとする点は争う。 イ 相違点4-3は本件発明1の構成要件Gに対応するところ,引用例6の第1図記載のA 1 からE 1 まで延びる凹状の深いカーブ11,及びA 2 からE 2 まで延び 21る凸状の緩いカーブ14は,それぞれ構成要件Gの「前記足刳り形成部の湾曲部分」及び「前記山」に相当すると捉えられる。 そして,引用発明6は構成要件Gを有する。 したがって,相違点4-3は実質的な相違点ではない。 ? 本件発明1の新規性及び進歩性について ア 相違点4-1〜4-5のうち,相違点4-3以外については,実質的な相違点ではない。また,上記のとおり,相違点4-3も実質的な相違点ではない。 イ 仮に相違点4-3が実質的な相違点であるとしても,当該相違点に係る本件発明1の構成は,相違点1-3に係る本件発明1の構成と実質的に同一であるところ,当該相違点に格別の技術的意義はなく,単なる設計的事項以上のものということはできないから,本件発明1は,引用発明6に基づいて容易に想到し得たものというべきである。 ? 小括 以上のとおり,本件発明1は引用発明6であり,また,当業者であれば引用発明6に基づいて容易に想到し得るものである。したがって,この点に関する本件審決の判断は誤りである。 〔被告らの主張〕 ? 前記のとおり,引用発明6は本件発明1の構成要件Gを充足しない。また,単に「腰部布6」の下端縁を「凹状の深いカーブ11」とし,「脚部布7」の上端縁を「凸状の緩いカーブ14」としたからといって当然に構成要件Gを充足することにはならないことは,引用例1〜3に照らして明らかである。 したがって,相違点4-3を実質的な相違点であるとした本件審決の判断に誤りはない。 ? 原告らは,相違点4-3に係る本件発明1の構成である構成要件Gにつき技術的意義がないとの主張を前提として,本件発明1は引用発明6に基づき容易に想到し得る旨主張するけれども,その前提が失当であることは前記のとおりである。 22 ? 小括 以上のとおり,相違点4-3に関する原告らの主張はいずれも失当であり,この点に関する本件審決の認定判断に誤りはない。 5 取消事由5(請求項1のサポート要件判断の誤り) 〔原告らの主張〕 ? 「前記足刳り形成部の前側の湾曲深さ」について ア 「前身頃」が人体の後側に位置する領域を備えたり,「後身頃」が人体の前側に位置する領域を備えたりすることがあるとしても,「前身頃」が人体の前の部分のみを覆い,「後身頃」が人体の後ろの部分のみを覆う場合もあるから,本件発明1の「前身頃」と「後身頃」とが直接接続されることのみを理由とする本件審決の解釈は誤りである。そもそも,なぜ,本件発明1の「前身頃」と「後身頃」とが直接接続されると,本件発明1の「前身頃」が人体の後側に位置する領域を備えるか,「後身頃」が人体の前側に位置する領域を備えるかのいずれかの構成をとることになるのか不明である。 イ 本件審決の判断は,「後身頃14」の一部分(「前身頃12」との接続部分)が人体の前側に位置していると認定し,この認定から理解される「後」及び「前」の呼称の意味を「前身頃」及び「後身頃」以外にも一般化しようとするものである。 しかし,「後身頃14」の一部分(「前身頃12」との接続部分)が人体の前側に位置しているとの認定は,本件明細書【0014】の記載に反する。同段落の記載からは,前身頃12は下胴部の前側から両脇までを覆い,後身頃14は下胴部の後ろ側を覆うことを前提とし,又は定義していると捉えられる。 また,「前身頃」及び「後身頃」はその意味が一義的に定まっていない特殊な用語であることに鑑みれば,仮に「後身頃14」の一部分(「前身頃12」との接続部分)が人体の前側に位置していると認定し得るとしても,これをもって「後」及び「前」の呼称の意味を一般化し得るものではなく,また,このような理解が当該技術分野の常識になっているという証拠も示されていない。 23 ウ 本件審決は,本件発明1の「足刳り形成部の前側」とは,前身頃12の足刳り形成部24及び後身頃14の足刳り形成部25が連続して形成された足刳り形成部であって,その大部分が図1に画かれる人体の前側に存在するようなものであると理解できるとするが,【0014】の記載によれば,図1に示されているのは人体の前側のみでなく,後身頃14が覆う部分は後側ということになるから,「その半分程度」が人体の前側に存在することを看取し得るにすぎない。 エ サポート要件の判断基準と「足刳り形成部の前側の湾曲深さ」について (ア) 本件審決は,本件発明1の「前記足刳り形成部の前側の湾曲深さ」の解釈につき,人体の「前側のみ」を対象として「足刳り形成部の湾曲深さ」を特定する場合まで含むことを完全には排除していないとも捉えられるところ,このように人体の「前側のみ」を対象として「足刳り形成部の湾曲深さ」を特定することは,本件明細書に記載も示唆もされていない。 (イ) 本件発明1の「前記足刳り形成部の前側の湾曲深さ」に係る構成要件Fの技術的意義や構成要件Fによる課題解決のための作用機序も,本件明細書に記載も示唆もされておらず,また,前記のとおり,技術常識に照らせば構成要件Fに技術的意義はない。そのため,当業者が,人体の「前側のみ」ではなく「後側」の一部をも対象として「足刳り形成部の湾曲深さ」を特定する本件明細書の開示に接した場合,本件発明1の「下肢用衣料」であれば,人体の「前側のみ」を対象として「足刳り形成部の湾曲深さ」を特定しても本件発明1の課題を解決できることを認識することができるとは認められない。 (ウ) さらに,本件審決は,構成要件Gにつき,大腿部パーツに,周方向の伸びに対してあらかじめ「余裕」ないし「ゆとり」を設けるといった技術的意義が有るとするところ,仮に当業者がこの技術的意義を把握することができるとすれば,この技術的意義との関係で,着用状態の下肢用衣料において大腿部パーツの山の幅も足刳り形成部の湾曲部分の幅も大腿部の周方向に延びる必要があると解される。しかるに,人体の「前側のみ」を対象として構成要件F及びGの「湾曲(部分)」を 24特定した場合には,特定された「湾曲(部分)」の幅は大腿部の周方向に延びず,構成要件Gの上記技術的意義は存在しなくなる。 (エ) したがって,仮に構成要件Gの上記技術的意義が把握され,これに伴い構成要件Fの技術的意義も把握されるとした場合でも,人体の「前側のみ」を対象として「足刳り形成部の湾曲深さ」を特定するとこれらの技術的意義は存在しなくなる。したがって,本件明細書に,人体の「前側のみ」を対象として「足刳り形成部の湾曲深さ」を特定することがサポートされているとはいえない。 オ 小括 以上のとおり,この点に関する本件審決の判断は誤りである。 ? 「足刳り形成部の湾曲部分の幅」について ア 前記のとおり,【0014】の記載からすれば,「足刳り形成部24」と「後身頃14」に形成された「足刳り形成部25」とが連続することにより形成された湾曲部の半分程度が人体の前面側に存在することが看取できるにすぎないのであって,本件審決の認定は誤りである。 また,本件審決は,「足刳り形成部」における「前」「後」は,その大部分が人体の前側あるいは後側に存在することを示すものであるとするけれども,前記のとおり,そのような解釈は誤りである。 イ 本件審決は,本件明細書の「足刳り前部24,25」は,本件発明1の「足刳り形成部の湾曲部分の幅」に係る「足刳り形成部」に対応していると認定しているものと思われるけれども,文言上,本件発明1の「足刳り形成部の湾曲部分の幅」は,「足刳り前部の湾曲部分の幅」ではなく,両者が必ずしも同一であるとは解釈されない。また,前記のとおり,構成要件Gの技術的意義はなく,構成要件Gによる課題解決のための作用機序も,本件明細書に記載も示唆もされていない。 そうすると,当業者が,「足刳り前部24,25の湾曲部分の幅」をw2として特定する本件明細書の開示に接した場合,本件発明1の「下肢用衣料」であれば,「足刳り前部24,25の湾曲部分の幅」である「w2」の範疇に収まらない範囲 25で「足刳り形成部の湾曲部分の幅」を特定しても,本件発明1の課題を解決できることを認識することができるとは認められないから,請求項1の記載はサポート要件に適合しない。 ウ 小括 以上より,この点に関する本件審決の判断は誤りである。 〔被告らの主張〕 ? 「前記足刳り形成部の前側の湾曲深さ」について ア ここでの問題は,「本件発明1における『前』や『後』の呼称は,その全ての構成が人体の前側あるいは図2の背面図に画かれた部分である後側にのみ存在するものを指す呼称」といえるかどうかという点であるが,最終的には本件明細書の記載に照らして解釈するのが妥当である。その上で本件審決は判断したものであり,原告らの主張は失当である。 イ 本件明細書【0014】には,「両脇」とは記載されているが,これが「前後を区画する境界」とはされていない。衣料の分野において「脇」とは漠然とした言葉であり,人体の前後とは直接関係しない。「前身頃」及び「後身頃」の意味内容は,第一義的には,本件明細書の記載に基づいて判断するのが妥当であり,本件審決は,本件明細書の記載に照らして認定判断したものである。 ウ 本件発明1は,股関節の屈伸運動が円滑に行われ,運動に適した下肢用衣料を提供することを目的としており(本件明細書【0006】),主に大腿部の前面での課題の解決を図るものである。 したがって,仮に人体を正確に前後に区画できたと仮定した場合の「前側のみ」を対象として「足刳り形成部の湾曲(部分)」及びそれと対応する「大腿部パーツの山」を特定し,そこで構成要件F及びGを充足する場合,当業者は,発明の課題を解決できることは容易に認識し得る。 エ 原告らは,構成要件Gの技術的意義を誤って理解している。構成要件Gが意味するのは,着用時の伸びた状態で更に大腿部を屈曲した場合の追加的な伸びに対 26する「余裕」ないし「ゆとり」のことである。 ? 「足刳り形成部の湾曲部分の幅」について ア 原告らによる本件明細書【0014】の記載の理解が誤っていることは前記のとおりである。 イ 特許請求の範囲における文言と発明の詳細な説明における文言とが一致していないというだけで,両者を別異に解さなければならない理由にはならない。 また,本件発明1の構成要件Gの技術的意義は存在しないなどとする原告らの主張が失当であること,一部に後側を含む場合に発明の課題を解決できるのであれば,仮に人体を前後に正確に区画できたと仮定した場合の「前側のみ」を対象として「足刳り形成部の湾曲(部分)」及びそれと対応する「大腿部パーツの山」を特定し,そこで構成要件F及びGを充足する場合でも,発明の課題を解決できることを容易に認識できることは,いずれも前記のとおりである。 ウ 小括 以上のとおり,本件発明1の「足刳り形成部の湾曲部分の幅」につきサポート要件違反とする原告らの主張は失当であり,この点に関する本件審決の認定判断に誤りはない。 6 取消事由6(本件発明2〜5に係る新規性及び進歩性判断の誤り) 〔原告らの主張〕 前記1〜4のとおり,本件発明1に新規性・進歩性は認められない。そうすると,本件発明2〜5についても新規性・進歩性はなく,この点に関する本件審決の判断は誤りである。 〔被告らの主張〕 原告らの主張は,取消事由1〜4に理由があることを前提とするところ,これらに理由がないことは前記のとおりである。 したがって,無効理由5〜8についての本件審決の認定判断に誤りはない。 7 取消事由7(請求項3のサポート要件判断の誤り) 27 〔原告らの主張〕 ? 本件審決は,転子点bから足刳り形成部25の「湾曲した位置」までの距離より,転子点bから「足刳り形成部25の人体最側部の位置」までの距離が近いから,足刳り形成部25の湾曲した位置を「転子点b付近」の上方とすれば,足刳り形成部25の人体最側部の位置を「転子点b付近」と呼ぶことができることは,本件明細書から明らかとするけれども,その根拠となる本件明細書の記載を具体的に示していない。また,「付近」の定義も本件明細書には見当たらない。 そもそも,足刳り形成部25の「湾曲した位置」と「足刳り形成部25の人体最側部の位置」は,どちらかといえば左右方向に大きく離れ,上下方向にはそれほど大きく離れていないことなどから,前者を「転子点b付近」の上方とすれば,後者も同様に「転子点b付近」の上方と呼ぶ方が「転子点b付近」と呼ぶより自然である。本件審決は,この点について極めて不自然な解釈を行っている。 ? 請求項3の「身体の転子点付近から腸骨棘点付近を通り股底点脇付近に至る湾曲した足刳り部分」における「転子点付近」は,転子点の上方のみではなく,下方も含み得るところ,転子点bの上方を通っている足刳り形成部25を,転子点bの下方を通るようにすると,足刳り形成部25自体やこれに接続される足刳り形成部24等の延び方が大きく変わるものと考えられる。 また,請求項3における「前記足刳り形成部」と「足刳り部分」との関係性は不明であり,本件発明3が解決しようとする課題自体も不明である。 そうすると,当業者が,本件明細書の開示に接した場合,本件発明3の「下肢用衣料」であれば,足刳り形成部25を転子点bの下方に通した場合でも本件発明3の課題を解決できることを認識することができるとは認められず,請求項3の記載はサポート要件に適合しない。 ? 小括 以上より,この点に関する本件審決の判断は誤りである。 〔被告らの主張〕 28 ? 転子点bを基準とした場合,「足刳り形成部25の人体最側部の位置」までの距離が足刳り形成部25の「湾曲した位置」までの距離よりも短いことは明らかであり,これをもって「足刳り形成部25の人体最側部の位置」までの距離を「転子点b付近」と呼んで差支えない。 ? 請求項3の「転子点付近」の語が他の構成要件を充足する範囲に内在的に限定されることは,特許請求の範囲の内的関係から明らかである。そして,請求項3が請求項1を限定するものである以上,他の構成要件を全て充足する範囲で足刳り形成部25を転子点bの下方に通しても,発明の目的の達成に影響しないことは容易に理解し得る。 「前記足刳り形成部」と「足刳り」との関係性については,足刳り形成部のうち,身体の転子点付近から腸骨棘点付近を通り股底点脇付近に至る湾曲した部分を特に足刳り部分と称していることは,本件明細書の記載自体から明らかである。また,請求項3に係る発明が解決しようとする課題については,請求項ごとに解決すべき課題を発明の詳細な説明に記載しなければならないものではない。 ? 以上のとおり,本件発明3についてサポート要件違反とする原告らの主張は失当であり,この点に関する本件審決の認定判断に誤りはない。 |
|
当裁判所の判断
1 本件各発明について ? 本件各発明に係る特許請求の範囲は,前記第2の2のとおりである。また,本件明細書には,以下の記載がある(なお,図面は別紙本件明細書図面目録参照)。 ア 技術分野 この発明は,大腿部を覆う形状のインナーやスポーツウエア等の下肢用衣料に関する。(【0001】) イ 背景技術 従来,市場に出ているスパッツ類の大半は,下胴部と大腿部が一枚の布で繋がっており,運動性は素材の伸びに頼っているものが大半である。その中で,大腿部の 29動きを阻害しない工夫としては,高い伸縮性を有する素材を使用する程度であった。 (【0002】) その他,例えば所定形状のパーツを縫い合わせて着用感を良好なものにするスパッツとして,特許文献1の運動用被服がある。この運動用被服は,着用者のウエスト周辺と脚部等を確実にサポートし,筋肉を保護すると共に運動能力を向上させるものである。(【0003】) ウ 発明が解決しようとする課題 上記従来のスパッツ類は,基本が直立姿勢に合わせたパターンであるため,これら個々の工夫では股関節の屈曲運動への追従は不十分であった。特に,前屈みになる姿勢をとったり,足を前に上げたりしゃがんだりして,股関節を大きく屈伸することが多いスポーツ種目では,より身体の動きに対応した形状が求められていた。 (【0004】) また,従来のスパッツ類は,臀部には生地が伸びて張力が発生して圧力がかかり,大腿部にも押さえられる方向に力がかかり,運動を妨げる抵抗が身体に生じていた。 その他,足刳り部を切り替えて下胴部と大腿部を別々のパーツとし,繋ぎ合わせた製品も提案されているが,伸縮性や運動追従性が十分なものではなかった。同様に,特許文献1の運動用被服も,股関節を大きく屈伸する際の運動追従性等を向上させるものではなかった。(【0005】) この発明は,上記従来の技術の問題点に鑑みてなされたものであり,股関節の屈伸運動が円滑に行われ,運動に適した下肢用衣料を提供することを目的とする。 (【0006】) エ 課題を解決するための手段 本発明は,大腿部が挿通する開口部の湾曲した足刳りとなる足刳り形成部を備えた前身頃と,この前身頃に接続され臀部を覆うとともに前記前身頃の足刳り形成部に連続する足刳り形成部を有した後身頃と,前記前身頃と前記後身頃の各足刳り形成部に接続され大腿部が挿通する大腿部パーツとを有し,前記前身頃の足刳り形成 30部の湾曲した頂点が腸骨棘点付近に位置し,前記後身頃の足刳り形成部の下端縁は臀部の下端付近に位置し,前記大腿部パーツの山の高さを前記足刳り形成部の前側の湾曲深さよりも低い形状とし,前記足刳り形成部の湾曲部分の幅よりも前記山の幅を広く形成し,取り付け状態で筒状の前記大腿部パーツが前記前身頃に対して前方に突出する形状となる下肢用衣料である。(【0007】) オ 発明の効果 本発明の下肢用衣料は,大腿部を屈曲した姿勢に沿う立体形状に作られ,股関節の屈伸運動に対して生地の伸張が少なく,生地にかかる張力が小さい状態で運動を行うことができる。これにより,屈伸運動等の際に生地による抵抗が少なく,体にかかる負担が少なく円滑に運動することができる。(【0011】) ? 本件各発明の特徴 上記?認定に係る記載によれば,本件各発明は,以下のとおりのものであると認められる。 ア 本件各発明は,大腿部を覆う形状のインナーやスポーツウエア等の下肢用衣料に関する(【0001】)。 イ 従来,市場に出ているスパッツ類の大半は,下胴部と大腿部が一枚の布で繋がっており,運動性は素材の伸びに頼っているものが大半である。その中で,大腿部の動きを阻害しない工夫としては,高い伸縮性を有する素材を使用する程度であった(【0002】)。上記従来のスパッツ類は,基本が直立姿勢に合わせたパターンであるため,これら個々の工夫では股関節の屈曲運動への追従は不十分であった。特に,前屈みになる姿勢をとったり,足を前に上げたりしゃがんだりして,股関節を大きく屈伸することが多いスポーツ種目では,より身体の動きに対応した形状が求められていた(【0004】)。また,従来のスパッツ類は,臀部には生地が伸びて張力が発生して圧力がかかり,大腿部にも押さえられる方向に力がかかり,運動を妨げる抵抗が身体に生じていた(【0005】)。本件各発明は,上記従来の技術の問題点に鑑みてなされたものであり,股関節の屈伸運動が円滑に行われ, 31運動に適した下肢用衣料を提供することを目的とする(【0006】)。 ウ 本件各発明は,大腿部が挿通する開口部の湾曲した足刳りとなる足刳り形成部を備えた前身頃と,この前身頃に接続され臀部を覆うとともに前記前身頃の足刳り形成部に連続する足刳り形成部を有した後身頃と,前記前身頃と前記後身頃の各足刳り形成部に接続され大腿部が挿通する大腿部パーツとを有し,前記前身頃の足刳り形成部の湾曲した頂点が腸骨棘点付近に位置し,前記後身頃の足刳り形成部の下端縁は臀部の下端付近に位置し,前記大腿部パーツの山の高さを前記足刳り形成部の前側の湾曲深さよりも低い形状とし,前記足刳り形成部の湾曲部分の幅よりも前記山の幅を広く形成し,取り付け状態で筒状の前記大腿部パーツが前記前身頃に対して前方に突出する形状となる下肢用衣料である(【0007】)。 エ 本件各発明の下肢用衣料は,大腿部を屈曲した姿勢に沿う立体形状に作られ,股関節の屈伸運動に対して生地の伸張が少なく,生地にかかる張力が小さい状態で運動を行うことができる。これにより,屈伸運動等の際に生地による抵抗が少なく,体にかかる負担が少なく円滑に運動することができる(【0011】)。 2 取消事由1(引用発明1〜3に基づく新規性及び進歩性判断の誤り)について ? 引用発明1〜3及びこれと本件発明1との対比 ア 引用発明2並びにこれと本件発明1との一致点及び相違点については,本件審決の認定につき当事者間に争いがない。よって,それぞれ前記第2の3?のとおりのものと認める(ただし,原告らは,各相違点につき,実質的な相違点ではない旨主張するところ,この点に関しては後述する。)。 なお,原告らは,相違点1-3につき,争いがないといいながら,「上部のごく一部でわずかに狭く,それ以外で広く」として,より厳密な認定がされるべきであると主張する。しかし,原告らの上記主張は,主観的評価の加味された表現であり,必要性も認められないから,上記主張は採用し得ない。 イ 引用発明3並びにこれと本件発明1との一致点及び相違点,引用例1の縫製 32情報が引用例2のそれと同一である場合の引用発明1並びにこれと本件発明1との一致点及び相違点についても,本件審決の認定につき当事者間に争いがないから,いずれも上記アと同様である。 ? 新規性について ア 相違点1-3は,「本件発明1は,『足刳り形成部の湾曲部分の幅』よりも『山の幅』を全ての箇所で『広く形成』したものであるのに対し,引用発明2は,『足刳り形成部の湾曲』の幅よりも『脚口パーツ18』の『山40aの幅』が『広い箇所と狭い箇所を形成し』たものである点」であるところ,これは,本件発明1の構成のうち構成要件Gに関するものである。 イ 原告らは,相違点1-3は実質的な相違点ではなく,本件発明1は引用発明2であり,新規性に関する本件審決の判断は誤りである旨主張する。 しかし,引用発明2は,「足刳り形成部の湾曲部分」の幅よりも「脚口パーツ」の「山の幅」の方が広い箇所と狭い箇所とがそれぞれ形成されている点で,前者よりも後者の方が全ての箇所で「広く形成」されている本件発明1と相違している。 そして,後記のとおり,構成要件Gは周知技術とも設計的事項ともいうことができないことにも鑑みると,相違点1-3は実質的な相違点というべきである。 したがって,本件発明1は引用発明2と同一であるとは認められない。この点は,引用発明1及び3についても同様であるから,原告らの主張は採用し得ない。 ? 相違点1-3の容易想到性について ア 原告が副引用例として主張する甲5,11〜15及び22には,それぞれ以下の記載がある。なお,甲11,13,14(引用例4〜6)の各記載は,それぞれ後記3?ア,4?ア及び5?アのとおりである。 (ア) 甲5 本発明に関するスポーツ用パンツは,着用者の股部から側胴部にかけての骨格による身体の凸凹形状に着目し,主に身体のくぼんだ箇所に沿って位置するように縫製ラインを形成し,前記縫製ラインを中心に生地と身体との隙間がなく,フィット 33性が従来のものよりも向上し,動的状態においてもずり落ちが極端に少ないスポーツ用パンツである。(【0007】) (イ) 甲12 本考案では,上記の問題点を解決するために,前身,脇身,後身中央布,脚部布及び股部布で形成されたガードルにおいて前身及び脇身下辺部の凹状曲線を形成する部位の長さに対して,脚部布上辺の凸状曲線を形成する部位の長さを短くなるようにして太腿の付け根部に生地の余裕を設けるようにしたものである。(【0004】) (ウ) 甲15 本考案によるガードルでは,布パターンとしては,左右のバック布をそれぞれ上部バックピースと下部バックピースとに分け,かつこの両バックピースをつなぎ合わせたときに,両者の縫い合される端縁が互いに他のバックピース上に重なってヒップ部分を形成するように裁断し,この縫い合せ端縁を互いに縫い合せるものである。(【0005】) 更に,左右のフロント布をそれぞれ上部フロントピースと下部フロントピースとに分け,かつこの両フロントピースをつなぎ合わせたときに,布パターンとしては,両者の縫い合される端縁がその中央部では若干間隙を置いて対するように裁断し,この縫い合せ端縁を互いに縫い合せる。(【0007】) (エ) 甲22 本考案になるシヨートガードルまたはボデイスーツに於いては,腹部片1を,その前中心下方部から股部へ向つて舌状に延長させてその延長片を以つて股部片6と成し,腹部片1の両側に接合する側腹部片2から臀部片3にかけての両裾部分を,側腹部片2の前中心下方部から鼠経溝に沿うように斜上方に延びて脇中心に至る切替線a,脇中心から臀部側部の下方部を通るように斜下方に延びて臀部片3の後中心下方部に至る切替線bで切替えて,その各裾部分に,脇中心の接ぎ線cを境にして側腹部寄りと臀部寄りとに区分され且生地を2つ折りに成した2つの裾部片4, 345を,夫々の折り目側の辺が裾線を形成し,互いに重なり合う側の辺が縫合辺と成すように配して,側腹部寄りの裾部片4と側腹部片2とを,夫々緩やかに円弧状に陥んだ形状に形成した縫合片14,15で以つて縫合し,臀部寄りの裾部片5と臀部片3とを,夫々緩やかに円弧状に膨らんだ形状に形成した縫合片12,13で縫合し,且側腹部寄りの裾部片4を,その前中心下方部から股部へ向つて2つ折りのまま延長させてその延長片を以つて股部片6の縁片6aと成したシヨートガードルまたはボデイスーツを特徴としている。(1頁2欄23行目〜2頁3欄19行目) イ もっとも,甲5,11〜15及び22のいずれにも,本件発明1の「足刳り形成部の湾曲部分の幅」と「大腿部パーツ」の「山の幅」との広狭関係に着目した記載に相当する記載も示唆も見当たらない。そうである以上,引用発明2において,甲5,11〜15及び22のいずれかに記載ないし示唆された事項を適用しても,相違点1-3に係る本件発明1の構成(構成要件G)とすることはできない。 また,構成要件Gが周知技術であることを認めるに足りる証拠もない。 さらに,上記のとおり構成要件Gは周知技術と認められず,また,これが技術常識であることをうかがわせるに足りる証拠もない以上,構成要件Gが,当業者が必要に応じて適宜選択し得る選択肢に含まれるとは認められず,引用発明2において,相違点1-3に係る構成(構成要件G)とすることが設計的事項であるということもできない。 ウ 以上より,引用発明2において,相違点1-3に係る本件発明1の構成(構成要件G)とすることは,当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。この点は,引用発明1及び3についても同様である。 エ 原告らの主張について (ア) 原告らは,相違点1-3に係る本件発明1の構成(構成要件G)に技術的意義は存在せず,単なる設計的事項以上のものということはできないのであるから,この点に関する本件審決の判断は誤りであるなどと主張する。 構成要件Gに関し,本件明細書【0020】には,「足付根部40の山40aの 35縁部は,前身頃12の足刳り形成部24と等しい長さに形成され,足刳り形成部24に縫い合わされる部分である。ここで,足付根部40の,足刳り形成部24,25に取り付ける山40aの高さをh1とし,足刳り形成部24,25の湾曲深さをh2とすると,h1はh2よりも低い形状である。また,足付根部40の山の幅をw1とし,足刳り前部24,25の湾曲部分の幅をw2とすると,互いに縫い付けられる同じ位置間で,w1はw2よりも広い形状となっている。」との記載がある。 ここで,h1,h2,w1,w2の相互の関係につき,仮に「h1=h2」とし,互いに縫い付けられる同じ位置間で「w1=w2」として足付根部40と前身頃及び後身頃とを縫い付けた場合,足付根部40は,前身頃12及び後身頃14に対して,下肢用衣料としての外側にも内側にも突出せず,同じ平面になることは,図3を参照すれば明らかである。そうすると,構成要件F及びGが規定するように,「h1 w2」とすれば,足付根部40は,前身頃12及び後身頃14に対して,下肢用衣料としての外側ないし内側のいずれかに突出することも明らかである。そして,そのように縫い付けられた場合に,足付根部40が下肢用衣料としての外側に突出することを特定しているのが,本件発明1の構成要件Hであると理解される。 |
|
追加 | |
58(別紙)当事者目録原告株式会社タカギ原告株式会社名古屋タカギ原告ら訴訟代理人弁護士藤本英二富永夕子金順雅同弁理士藤本英夫西村幸城被告株式会社ゴールドウインテクニカルセンター被告トラタニ株式会社被告ら訴訟代理人弁護士今西康訓宇津呂修渡邉りつ子細場健太同弁理士鈴江正二木村俊之59(別紙)本件明細書図面目録【図1】【図2】【図3】60(別紙)引用例5図面目録第1図61(別紙)引用例6図面目録第1図62 |
裁判長裁判官 | 高部眞規子 |
---|---|
裁判官 | 杉浦正樹 |
裁判官 | 片瀬亮 |