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関連審決 不服2002-20794
関連ワード 考案者 /  使用方法 /  新規性 /  進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  周知技術 /  発明の詳細な説明 /  技術情報 /  実質的に同一 /  援用権(援用) /  容易に想到(容易想到性) /  実施 /  属地主義 /  拒絶査定 /  請求の範囲 / 
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事件 平成 15年 (行ケ) 455号 審決取消請求事件
原告X
被告 特許庁長官今井康夫
指定代理人 藤原伸二,木原裕,大野克人,大橋信彦,立川功
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2004/05/12
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 特許庁が不服2002−20794号事件について平成15年8月26日にした審決を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
原告の求めた裁判
主文同旨の判決。
事案の概要
本件は,原告が,後記本願発明の特許出願をしたところ,拒絶査定を受け,これを不服として審判請求をしたところ,審判請求は成り立たないとの審決がされたため,同審決の取消しを求めた事案である。
1 特許庁における手続の経緯 (1) 本願発明 出願人:X(原告) 発明の名称:「舗装道路用ドレン」 出願番号:特願平11-202157号 出願日:平成11年6月11日 (2) 本件手続 手続補正:平成14年3月6日(甲4) 拒絶査定日:平成14年10月8日(発送) 審判請求日:平成14年10月25日(不服2002-20794号) 審決日:平成15年8月26日 審決の結論:「本件審判の請求は,成り立たない。」 審決謄本送達日:平成15年9月17日(原告に対し) 2 本願発明の要旨(上記手続補正後の請求項1の記載に係るもの。以下「本願発明」という。請求項2の記載は省略。) 【請求項1】2本の合成樹脂線を横にダブルに接着結合したものをコイル状に形成した舗装道路用ドレン。
3 審決の理由の要点 (1) 審決は,刊行物1として特開平8-81993号公報(本訴甲1),刊行物2として特公平6-19122号公報(本訴甲2)を摘示した(本判決においては,審決及び当事者の主張等を引用する場合を含め,刊行物1記載の発明を「引用発明1」,刊行物2記載の発明を「引用発明2」という。)。
(2) 審決は,本願発明と引用発明1とを対比して,一致点として,次のとおり認定した。
「本願発明と引用発明1とを対比すると,引用発明1の『道路の舗装部の排水装置に使用する,耐熱性合成繊維製網状管』は本願発明の『舗装道路用ドレン』に相当する。また,引用発明1の『耐熱性を有する合成繊維からなる所要数のたて糸』及び『耐熱性を有する合成繊維からなる複数本のよこ糸』と本願発明の『2本の合成樹脂線』とは,共に,『複数本の合成樹脂線』で共通し,さらに,引用発明1の『編み込んで』と本願発明の『接着結合した』とは共に,『結合した』点で共通している。したがって,両者は,『複数本の合成樹脂線を結合して形成した舗装道路用ドレン。』で一致している。
(3) 審決は,本願発明と引用発明1との相違点を次のように認定した。
「本願発明では,ドレンが,2本の合成樹脂線を横にダブルに接着結合するとともに,コイル状に形成しているのに対して,引用発明1では,そのように形成されていない点で相違している。」 (4) 審決は,上記相違点について,次のとおり判断した。
「刊行物2には,瀝青コンクリート被覆体の中に浸透する水を流し込むドレンとして,つるまきバネからなる(本願発明の『コイル状に形成した』に相当する。)ドレンが記載されており,また,合成樹脂製ドレンの耐圧強度を向上させるために,合成樹脂線同士を重ねて接着結合することは,例えば,実願昭53-139875号(実開昭55-59736号)のマイクロフィルム(本訴甲5)に記載されたストランド等にみられるように周知技術であるから,引用発明1のドレンをコイル状に形成するとともに,コイル状に形成されたドレンの耐圧強度を向上をさせるために,合成樹脂線を横にダブルに接着結合して,上記相違点に係る本願発明の構成とすることは,当業者が容易に想到し得ることである。そして,全体として本願発明によりもたらされる効果も引用発明1,2及び周知技術から当業者であれば当然に予測できる程度のものであって顕著なものではない。したがって,本願発明は,引用発明1,2及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。」 (5) 審決は,本件出願につき,他の請求項について検討するまでもなく,特許法29条2項の規定により拒絶されるべきものであると結論付けた。
原告の主張(審決取消事由)の要点
1 審決は,本願発明と引用発明1との相違点についての判断を誤って,本願発明の進歩性を否定したものであり,違法として取り消されるべきである。
2 審決は,第2,3(4)のとおり,刊行物2につるまきバネからなるドレンが記載されているとし,さらに,甲5を挙げて,合成樹脂製ドレンの耐圧強度を向上させるために,合成樹脂線同士を重ねて接着結合することは,周知技術であるとして,引用発明1のドレンをコイル状に形成するとともに,コイル状に形成されたドレンの耐圧強度を向上をさせるために,合成樹脂線を横にダブルに接着結合して,上記相違点に係る本願発明の構成とすることは,当業者が容易に想到し得ることであるとした。
しかし,甲5に記載されたものは,太い線を交差融合しているのであり,点で接しているにすぎない。よって,「合成樹脂線同士を重ねて接着結合すること」が周知であることを示すものではない。
3 被告は,上記周知技術を裏付けるものとして乙1ないし5を提出するが,いずれも,「合成樹脂線同士を重ねて接着結合すること」が周知であることを示すものではない。
すなわち,乙1は,2本以上の剪断補強筋を並列に巻いただけで,線と線の間に空間があり,強度は1本の剪断補強筋の倍にとどまる。また,乙1のものは,縦にして使用するものであり,本願発明と使用方法が異なるし,本願発明のように4倍の効果は出ない。
乙2は,鉄筋コンクリートパイルにおいて,単なるスパイラル線を鉄筋に巻き付けたもので,溶接又は線で接点を結束したもので,本願発明とは全く異なる。
乙3,4は,電気掃除機に使われるホースの補強用,導電用途として使われる被覆線についてのものである。2本のダブルピッチ状との記載があるが,乙3のものは,2本の金属被覆線を相互に間隔を隔てて絶縁状態とし,その上から一体的に被覆しているのであり,結合しているのではない。乙4のものは,単に導電線を被覆し,これを2本並べてその上から更に被覆をしているのであり,2本の線は離れており,接着結合していない。
乙5は,細い網状管に太い中空ストランドが結合したもので,その接合線は,網状管に接着したもので,線と線の結合ではなく,本願発明のダブルの結合線とは形状において全く異なる。乙5のように,細い網状管に,ただ単に太い中空のストランドを補強用に螺旋状に融着しただけでは,太い中空ストランドの物理的強度が出るだけで飛躍的に強度は上がらない。パイプ状の外形が太い線は,むくの線に比べ強度が格段に落ちるものであり,また,上からの荷重に対しては,細い線に食い込み,細い線の効力はほとんどなく,強度の相乗効果は得られない。
4 本願発明のスパイラルドレンは,同サイズの線を二本接着結合したということにとどまらず,これをコイル状にし,横からの強度を出した特徴を有するものであり,今まで世の中にない形状である。
本願発明のドレンの形状は,現場で使用上の耐荷重を考えた場合,同じ体積で一番経済的で力を発揮する形状が円形をダブルに結合した形状であると判断し,円形の線を二本連続接着結合した。こうすることでコイルの中心に溝ができ,最小の材料で最大の力(耐圧荷重)を発揮する形状を考え出した。
また,二本並べるだけのコイル状のものは,金属,樹脂,共に長さ30cm以上ものを経済的に生産することはこれまで不可能であった。まして,本願発明のドレンのように2.5mのものはできなかった。
以上のように,本願発明の「円を接着結合する」という考えは進歩性がある。
5 審決は,また,第2,3(4)のとおり,全体として本願発明によりもたらされる効果も引用発明1,2及び周知技術から当業者であれば当然に予測できる程度のものであって顕著なものではないとするが,誤りである。
本願発明は,機能的に見て他社の網状樹脂商品と比べ約3倍以上の耐圧強度を発揮し,二本を単に並べたコイル状のものとの比較では,約4倍以上の強度を発揮する。現場において施工する場合,接着結合の溝(形状)効果により,その比較強度は更に増し,4倍以上になると思われる。
このほか,本願発明は,アメリカ合衆国で特許として成立しており(US6527474号),我が国においても,既に国土交通省で新技術の商品として評価され,新規性,進歩性があるとして,新技術情報システム「NETIS」に登録されている。
そして,本願発明に基づく商品は,市場で高い評価を受け,大量に流通しているのであり,経済的な価値もある。
6 以上のように,本願発明は,引用発明1,2及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとした審決の判断は,誤りである。
被告の主張の要点
1 審決では,周知例(甲5)により合成樹脂線相互を接着することが周知であることを指摘して,合成樹脂線を横にダブルに接着結合することが引用例と周知技術から当業者が容易に想到し得ることであると判断したものであって,当該周知例に線材相互が全体にわたり接着結合することが記載されているとするものではないから,原告の主張は妥当でない。
審決で引用した刊行物1(甲1),周知例(甲5)に複数の線材を組み合わせ,それらの線材を編み込んだり(甲1),線材相互を融着結合(甲5)することが記載されていることからも明らかであるが,一般的に線材等の強度を増すために複数の線材を組み合わせて使用すること,そしてまた組み合わせた線材相互を接着結合することは乙1ないし5の例を挙げるまでもなく,周知の事項であって,格別のことではない。
例えば,乙1には,2本の剪断補強筋3a,3b(コイル)を横にダブルに並べて剪断補強筋3(コイル全体)の耐圧強度を向上させることが,乙2にも,2本(2本以上)のスパイラル鉄筋3(コイル)を横,あるいは集束状に並べてスパイラル(コイル全体)の耐圧強度を向上させることが記載されている。また,乙3には,螺旋状の補強線2条を横方向に一体化したものが記載され,乙4には,補強線としての役割を果たす硬質樹脂素材3(リード線2A,2Bの周囲に設けられている)を左右に一体化(図2,図5)したものが記載されている。そして,乙5には,網状管を構成するプラスチックス製の二組の螺旋状ストランドの一方又は両方に平行して,同じくプラスチックス製の中空ストランドを螺旋状に巻回して該網状管と融着一体化する(第1図,第2図)ことで,外圧(土圧)に対する抵抗力を強めること(明細書5頁13行〜14行)が記載されている。 したがって,コイル状に形成されたドレンの耐圧強度を向上させるために,合成樹脂線を横にダブルに設けること,そして接着結合して,本願発明の構成とすることは,当業者が周知技術に基づいて容易に想到し得ることである。
なお,線材を横に並べて接着する場合にこれらを全体にわたり接着することは,乙3,4に見られるように当然のことである。
2 原告は,本願発明の作用効果を主張しているが,2本のコイルを横にダブルに結合あるいは接着結合することが周知なのであるから,原告の主張は,当業者であれば,当然に予測できる範囲のことを主張しているにすぎない。
そもそも,本願発明の明細書には,本願発明の構成を採用することによって,原告が主張するような4倍以上の強度となることの具体的根拠等は示されていない。
原告は,東京都立産業技術研究所の成績書(甲6,7)などを提出するが,被試験体自体の具体的な形状,物性,寸法が不明であることなどの理由により,原告が主張するような本願発明の強度を裏付けるものとはいえない。
また,本願発明において,2本の線の間に溝が形成されていることは特許請求の範囲に規定されていることではなく,また発明の詳細な説明にも溝が形成されていることによる効果が記載されているわけではない。
特許制度は,属地主義となっており,仮にアメリカ合衆国で特許が成立したとしても,我が国で特許が同じように成立するとは限らない。
国土交通省の新技術情報システム「NETIS」に登録されているとしても,登録に際しては,申請された技術について,特許要件があるか否かについて,新規性,進歩性の観点から判断しているわけではない。NETISへの登録と特許性の判断とは別個のものである。
また,本願発明に係る商品に経済的な価値があることと,特許の成立要件の一つである新規性あるいは進歩性とは直接的な関係はない。また,形状,構造,寸法等を異にする製品と対比しても,そのことから直ちに製品の優劣を判断できるわけではない。
当裁判所の判断
1 原告は,審決による周知技術の認定を争い,相違点に関する容易想到性の判断を争うので,以下に検討する。
2 審決の論理を確認しておくと,審決は,まず,本願発明と引用発明1との相違点として,「本願発明では,ドレンが,2本の合成樹脂線を横にダブルに接着結合するとともに,コイル状に形成しているのに対して,引用発明1では,そのように形成されていない点」を認定した。そして,審決は,相違点について,刊行物2には,「瀝青コンクリート被覆体の中に浸透する水を流し込むドレンとして,つるまきバネからなるドレン」が記載されていることを指摘し,甲5(実願昭53-139875号(実開昭55-59736号)のマイクロフィルム)に記載されたストランド等を援用して,「合成樹脂製ドレンの耐圧強度を向上させるために,合成樹脂線同士を重ねて接着結合すること」は,周知技術であると認定した。そして,審決は,「引用発明1のドレンをコイル状に形成する」とともに,コイル状に形成された「ドレンの耐圧強度を向上をさせるために,合成樹脂線を横にダブルに接着結合」して,上記相違点に係る本願発明の構成とすることは,当業者が容易に想到し得ることであると判断した。
そして,被告は,「コイル状に形成されたドレンの耐圧強度を向上させるために,合成樹脂線を横にダブルに設けること,そして接着結合して,本願発明の構成とすることは,当業者が周知技術に基づいて容易に想到し得ることである。」と主張する。
3 上記で引用された刊行物2(甲2)を検討すると,アルミ,ステンレス鋼などの錆びない材料製の単線のつるまきバネからなるドレンが記載されているのみであり,材料として合成樹脂製のものが開示されているわけでもなく,「つるまきバネ」としても,2本を「ダブル」としたものが開示されているわけではない。したがって,審決も,刊行物1に記載された舗装道路用ドレンをコイル状に形成するという点に関して刊行物2を引用しているにすぎない。
審決の認定した刊行物1に開示された内容と上記刊行物2に開示された内容にかんがみれば,これらに周知技術を適用して,「ドレンの耐圧強度を向上をさせるために,合成樹脂線を横にダブルに接着結合」し,本願発明の構成とすることに容易に想到し得ると判断するためには,周知技術として,動機付けの点も含めて上記構成に容易に想到し得るだけの技術が認められることが必要であるというべきである。
4 そこで,審決が明示した周知技術,すなわち,甲5により,「合成樹脂製ドレンの耐圧強度を向上させるために,合成樹脂線同士を重ねて接着結合すること」という周知技術を認定し,容易想到性を肯定したことについて検討する。
甲5には,次のような記載がある。
「内外側とも太いストランドと細いストランドとからなり,これら各内外側のストランドがそれぞれ異方向に螺旋状に配され交差融着結合してなる熱可塑性樹脂製網目円筒管…」(実用新案登録請求の範囲) 「本考案は暗渠排水用に供される屈曲可能な熱可塑性樹脂製網目円筒管に関する。」(1頁下から4〜3行) 「本考案者は前記従来の網目円筒管に屈曲性を具備させるために網目円筒管を構成するストランドのうち,太いストランドを少なくし,且つ各ストランドの長手方向の交差角度を従来より大きくし,各ストランドにより形成される網目を長手方向に短い菱目状にした。」(3頁下から6行〜末行) 「網目円筒管(1)を土中に埋設したとき,土圧に十分耐えるべき耐圧強度を保持するために網目円筒管(1)を構成するストランドの長手方向の交差角度θ(第1図参照)を約120°に設定した。」(5頁下から6〜2行) 「本考案の網目円筒管は従来の網目円筒管と比較して,太いストランドが少なくなっているので,単位長さ当り約20%軽くなっている。それにもかかわらず,耐圧強度は従来の網目円筒管が180kg/mであるのに対し,本考案の網目円筒管は280kg/mと約1.5倍になっている。」(6頁下から2行〜7頁5行) 以上によれば,甲5における「暗渠排水用熱可塑性樹脂製網目円筒管」は,合成樹脂製ドレンに相当し,「ストランドがそれぞれ異方向に螺旋状に配され交差融着結合してなる」ことは,合成樹脂線同士を重ねて接着結合することに相当するものと一応いえるが,甲5には,内外側とも太いストランドと細いストランドとからなり,これら各内外側のストランドがそれぞれ異方向に螺旋状に配され交差融着結合してなる熱可塑性樹脂製網目円筒管において,従来のものより太いストランドの割合を減少させ,交差角度を大きくすることにより,従来より屈曲性を具備させ,耐圧強度が大きくなることが示されているのみである。
確かに,合成樹脂線同士を重ねる態様としては,交差する形のものも含むとはいえるものの,上記のような甲5の内容を精査すると,「合成樹脂製ドレンの耐圧強度を向上させるために,合成樹脂線同士を重ねて接着結合すること」が開示されているとはいい難く,仮に,この点が開示されていると解されるとしても,甲5に開示された技術は,「ドレンの耐圧強度を向上をさせるために,合成樹脂線を横にダブルに接着結合」させるための動機付けとなり得るものとは認められない。
そうすると,審決の援用する甲5によっては,「ドレンの耐圧強度を向上をさせるために,合成樹脂線を横にダブルに接着結合」して,相違点に係る本願発明の構成とすることは,当業者が容易に想到し得ることであるとの判断を是認することはできない。
5 審決は,周知技術として甲5を例示として説示したことは明らかであり,被告は,本訴において,周知技術を裏付けるものとして,乙1ないし5を提出するので,これらについて検討する。
(1) 乙1には,次のような記載がある。
「主筋の外周を囲繞するようにして剪断補強筋を配置する鉄筋コンクリート柱の配筋構造において,該剪断補強筋をスパイラル形状となすとともに,実質的に同一構造の2本以上の剪断補強筋を並列状態で該主筋に係止することを特徴とする鉄筋コンクリート柱の配筋構造。」(実用新案登録請求の範囲) 「剪断力の補強も2倍の直径(注:「断面積」の誤記と認める。)のものを使用する場合とほぼ同等の補強効果が得られる」(5頁6〜7行) (2) 乙2には,次のような記載がある。
「遠心力成形によって製造される鉄筋コンクリートパイルおよびプレストレストコンクリートパイルにおいて,スパイラル状に巻き付けられた横補強材の横断面が2本以上の鉄筋で構成され,その横断面の鉄筋が帯上(注:「帯状」の誤記と認める。)あるいは集束状に密接,若しくは,ごくわずかのすきまを設けて配置されたことを特徴とする横方向補強を施したコンクリートパイル。」(実用新案登録請求の範囲) 「パイルの破壊靱性およびせん断耐力を積極的に向上させるためには,横補強材の量を増すか,あるいは,横補強材として用いる鉄筋の降伏耐力を大きくすることが必要であり」(2頁13〜16行) 「第1図は,スパイラル鉄筋3を帯状に密接して巻き付けたものである。」(6頁2〜3行) (3) 乙3及び乙4には,電気掃除機用ホースの補強用,導電用途として使われる被覆線に関するものが記載されているが,乙3には,次のような記載がある。
「図7に示した実施例は,二本の金属被覆線2,2を相互に間隔を隔てて絶縁状態にして一体的に樹脂被覆層3で被覆した樹脂被覆線材を横倒れ状にしてシングルピッチ状に,または,ダブルピッチ状に配設し,その外周面上に管壁1を形成する第1層15を形成し,…管壁構造としたものである。」(3頁右欄8〜17行) (4) 乙4には,次のような記載がある。
「図5に示したホースは,…1組の被覆リード線2Aを動力通電用に適した太い銅線または多数本の銅線を導電線Wとして埋設被覆した2本線構造とし,他の1組の被覆リード線2Bをこれよりも細い銅線または少数本の銅線を導電線W’として埋設被覆してある2本線構造の信号線に適した線材とし,これら2組の被覆リード線2A,2Bを用いて,…ダブルピッチ状に巻回して形成したホースである。」(4頁左欄17〜27行) (5) 乙5には,次のような記載がある。
「(1)網状管と該管を構成するストランドより充分に太い中空ストランドとからなり,中空ストランドを網状管に少なくとも一本螺旋状に巻回し網状管と融着一体化してなることを特徴とするプラスチックス製暗渠排水管。(2)網状管が交叉する二組の螺旋状ストランドの組からなり,中空ストランドは該組の一方または両方と平行した螺旋からなる実用新案登録請求の範囲第一項記載のプラスチックス製暗渠排水管。」(実用新案登録請求の範囲) 「中空ストランドは…網状管の外面に巻き回しても良いが…内面に巻き回しても又…内外面に巻き回しても良い。中空ストランドの巻き回しの角度は網状管のストランドと平行である物が最も作り易いが,…必ずしも平行でなくとも良い。」(4頁9〜14行) 「網状管と中空ストランドのプラスチックスとは同一でもよいが,異質のものでも相互に融着可能な素材であれば中空ストランドを剛性の高い樹脂を使用し,網状管を剛性の低い樹脂を使用して作ってもよい。」(5頁2〜6行) 「本考案は上記の通り中空ストランドを網状管に少なくとも一本螺旋状に巻回し接触箇所で網状管と融着一体化してあるので網状管の部分は従来通りの排水機能を発揮し,融着一体化した中空ストランドが土圧による圧壊を防止する為,樹脂の使用量が比較的少なく軽量であるに拘らず円周方向からの外圧に対しては充分強力な抵抗力が付与されている。また中空ストランドは単なる環状ではなく螺旋状であることにより,外圧に対して連鎖して圧力を受止め吸収するため,より強力な抵抗力が付与されているものである。」(5頁8〜18行) (6) 上記乙1及び乙2からは,(これらを引用するまでもないことではあろうが)コイル状の補強材を2本横に並列して密接配置すれば,剪断耐力が向上することが周知であるものと認められる。しかし,2本横に並列して密接配置されたのみで,接着結合することの開示はない。
上記乙3及び乙4に記載されたものは,いずれも,2本の金属線を樹脂で埋設被覆したものである。しかし,2本の線を接着結合したものではない。
結局,乙1ないし4によれば,線材等の強度を増すために複数の線材を組み合わせて使用することは,周知の事項といえるものの,組み合わせた線材相互を接着結合することが周知の事項であることは,認めることができない。
(7) 上記乙5には,「交叉する2組の螺旋状ストランドからなる網状管と,網状管のストランドの一方と平行に螺旋状に巻回した太い中空ストランドとを,融着一体化してなるプラスチックス製暗渠排水管」が記載されており,融着一体化した中空ストランドが土圧による圧壊を防止するため,円周方向からの外圧に対しては充分強力な抵抗力が付与されていること,中空ストランドは螺旋状であることにより,より強力な抵抗力が付与されていることが記載されているものと認められる。
そして,乙5における「プラスチックス製暗渠排水管」は,合成樹脂製ドレンに相当し,網状管の1本の螺旋状ストランドと中空ストランドとを並列に重ねて接着結合しているといえるが,乙5のものでは,網状管に融着一体化された螺旋状の太い中空ストランドが耐圧強度を向上させているのであって,直ちに,「合成樹脂製ドレンの耐圧強度を向上させるために,合成樹脂線同士を重ねて接着結合すること」が開示されているということは困難である。
仮に,乙5が上記周知技術を開示するものと解し得るとしても,乙5において開示された技術は,合成樹脂製ドレンの耐圧強度を向上させるために,網状管を構成する合成樹脂線よりも太い中空の合成樹脂線を網状管の外面又は内面(内外面でもよい)に巻き回して前者の合成樹脂線に接着し,荷重に対抗させることにより,耐圧強度を向上させたというものである。このような上記乙5に記載された発明の内容にかんがみれば,「ドレンの耐圧強度を向上をさせるために,合成樹脂線を横にダブルに接着結合」させるための動機付けとはなり得ないというほかない。
なお,乙1ないし4には,接着結合されてはいないものの横に並列して密接配置されたものが開示されているので,これと乙5の技術を結び付けることができないかとも考えられなくもない。しかし,前認定の乙1ないし5に記載された発明の内容にかんがみ,動機付けの点も含めて検討するならば,これらを周知技術として用いることにより,引用発明1のドレンをコイル状に形成するとともに,コイル状に形成された「ドレンの耐圧強度を向上をさせるために,合成樹脂線を横にダブルに接着結合」して,相違点に係る本願発明の構成とすることが容易に想到し得ることであるとするには足りないというほかない。
6 以上のとおりであるから,審決の判断は,是認することができないというほかない。
7 結論 原告主張の審決取消事由は,上記の点において理由があるので,その余の主張について判断するまでもなく,審決は,取消しを免れない。
裁判長裁判官 塚原朋一
裁判官 田中昌利
裁判官 佐藤達文