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関連ワード 進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  周知技術 /  先行技術 /  発明の詳細な説明 /  参酌 /  置き換え /  容易に想到(容易想到性) /  実施 /  設定登録 /  移転登録 /  訂正審判 /  請求の範囲 /  変更 /  訂正明細書 / 
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事件 平成 15年 (行ケ) 310号 審決取消請求事件
原告 株式会社サミット
同訴訟代理人弁護士 谷口達吉
同 向井理佳
同訴訟代理人弁理士 中野収二
被告 特許庁長官今井康夫
同指定代理人 村山 隆
同 瀬津太朗
同 高橋泰史
同 涌井幸一
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2004/05/13
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
請求
特許庁が訂正2003―39072号事件について平成15年6月18日にした審決を取り消す。
争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 日本デベロッパー株式会社(商号変更後の名称・株式会社プロジェクトエーワン)は,特許庁に対し,昭和62年7月16日,発明の名称を「パチンコ台の表示装置」とする発明につき特許出願を行い,平成9年1月29日,設定登録を受けた(特許第2599921号,以下「本件特許」という。)。
原告及び株式会社呉商は,株式会社プロジェクトエーワンから本件特許権の移転を受け,平成11年8月24日,その旨の移転登録を経由した。
ユーエフ産業株式会社ら4名は,平成12年9月12日,本件特許について無効審判の請求をした(無効2000―35497号)ところ,特許庁は,平成14年5月27日,「特許第2599921号の特許請求の範囲第1項に係る発明についての特許を無効とする。」との審決をし,その謄本は,同年6月6日,原告及び株式会社呉商に送達された。原告及び株式会社呉商は,同月28日,上記審決取消の訴えを提起した(当庁平成14年(行ケ)第327号)。
その後,原告は,株式会社呉商の本件特許権持分の移転を受け,平成14年8月27日,その旨の移転登録を経由した。
原告は,平成15年4月14日,本件特許の願書に添付された明細書の特許請求の範囲の請求項1及び発明の詳細な説明の訂正(以下「本件訂正」といい,訂正後の明細書を「訂正明細書」という。)をする訂正審判の請求をした(訂正2003―39072号)ところ,特許庁は,平成15年6月18日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決(以下「本件審決」という。)をし,その謄本は,同月30日,原告に送達された。
2 特許請求の範囲 (1) 本件訂正前の請求項1の記載 パチンコ台毎に取付けられその台の作動状況等を表示するパチンコ台の表示装置において,文字・図形をスクロール表示および固定表示する表示板と,複数のランプとを一つの筐体に取付け,これら表示板とランプとをパチンコ台の作動状況に応じて同時あるいは選択的に作動させることを特徴とするパチンコ台の表示装置。
(2) 本件訂正後の請求項1の記載 パチンコ台毎に取付けられその台の作動状況等を表示するパチンコ台の表示装置において,文字・図形をスクロール表示および固定表示する表示板と,複数のランプと,制御装置とを一つの筐体に取付け,これら表示板とランプとをパチンコ台の作動状況を示す信号の入力に応じて前記制御装置により同時あるいは選択的に作動させる構成とされており,前記制御装置は,フィーバ表示を含む複数の表示プログラムを記憶するメモリと,前記表示プログラムをメモリから読出して表示を行わせるCPUとを備え,前記制御装置は,前記信号の入力がないときに,表示板を作動させることにより営業表示を行わしめ,フィーバ信号が入力されたときに,表示板を作動させることによりフィーバ表示をフィーバ終了まで繰返して行い,フィーバ終了後に,営業表示に戻るように構成されて成ることを特徴とするパチンコ台の表示装置。
(以下,この発明を「本件発明」という。) 3 本件審決の理由の要旨 本件審決は,次のとおり,本件発明は,実願昭60―185906号(実開昭62―92877号)の願書に最初に添付した明細書及び図面を撮影したマイクロフィルム(甲3。以下「第1引用例」という。)及び特開昭61―16768号公報(甲4。以下「第2引用例」という。)に記載された各発明(以下,それぞれ「引用発明1,2」という。)並びに周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法29条2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないから,本件訂正は,平成6年法律第116号による改正前の特許法126条3項の規定に適合しないとした。
(1) 本件発明と引用発明1との一致点及び相違点 (一致点) 「パチンコ台毎に取付けられその台の作動状況等を表示するパチンコ台の表示装置において,表示板と,複数のランプと,制御装置とを一つの筐体に取付け,これら表示板とランプとをパチンコ台の作動状況を示す信号の入力に応じて前記制御装置により同時あるいは選択的に作動させる構成とされており,前記制御装置は,フィーバ信号が入力されたときに,フィーバ表示を行うように構成されて成るパチンコ台の表示装置。」 (相違点1) 表示板が,本件発明では,「文字・図形をスクロール表示および固定表示する」ものであるのに対し,引用発明1では,文字を固定表示するものである点。
(相違点2) 筐体に設ける制御装置の構成として,本件発明では,「フィーバ表示を含む複数の表示プログラムを記憶するメモリと,前記表示プログラムをメモリから読出して表示を行わせるCPUとを備え」ているのに対し,引用発明1では,コンピュータと連動する電子回路とされている点。
(相違点3) 制御装置によるフィーバ表示の態様として,本件発明では「信号の入力がないときに,表示板を作動させることにより営業表示を行わしめ」,「フィーバ信号が入力されたときに,表示板を作動させることによりフィーバ表示をフィーバ終了まで繰返して行い」,且つ,「フィーバ終了後に,営業表示に戻る」のに対して,引用発明1では,フィーバ信号が入力されたときに複数のランプを用いてフィーバ表示を行うように構成している点。
(2) 各相違点についての検討 ア 相違点1,2について 液晶表示板,CRTディスプレイ装置,LEDマトリクス等のような,可変情報を表示する手段(ランプの点灯により固定表示する手段に対するもので,以下,「可変情報表示手段」という。)を用いて,パチンコ台の作動状況を表示することは周知の技術であり,このような可変情報表示手段を各パチンコ台の上方に取付けることも知られていた(下記(A)参照)。
すると,引用発明1における表示板である「開放表示ランプ」が,パチンコ台の作動状況を表示する手段にあたることは当業者において明らかであるから(特開昭59―168867号公報(甲5)の「情報を知らせる表示部分(d)」の例など参照),引用発明1の表示装置に設けられた「開放表示ランプ」を上記の可変情報表示手段に置き換えて表示板とした表示装置を構成することは,当業者が容易に想到し得たことである。
一方,可変情報表示手段を表示板として用いて稼働状況や営業情報など複数の情報を切り換え表示する表示装置は広く一般的に用いられており,こうした表示装置を取り扱う技術分野において,情報の表示をスクロール表示により且つ繰返して行うこと,さらに,そのための手段として,表示する情報に対応した複数の表示プログラムを記憶するメモリと当該表示プログラムをメモリから読出して表示を行わせるCPUとを備えた制御手段を用い,当該制御手段を表示装置の筐体内に取付けておくことは周知の技術にすぎない(下記(B)参照)。
パチンコの分野についてみても,情報を文字又は図形によりスクロール表示したり固定表示したりすることにより多彩且つ強い印象を与えることは周知の事項であり(下記(C)参照),また,各パチンコ台に取付けられその台の作動状況等を表示する表示装置に所謂「マイコン」を搭載することや,同表示装置の筐体内に実質的にCPUに相当する機能を備えた演算部,及び,記憶部などを取付けることも知られている(下記(D)参照)。
すると,可変情報表示手段に表示するパチンコ台の作動状況として,入賞表示を含めることも周知の事項にすぎないから(下記(E)参照),引用発明1の表示板として可変情報表示手段を用い,そこにフィーバ表示を含む作動状況を表示する場合に,その表示を,文字又は図形のスクロール表示により且つ繰返し行うことも,その表示のための制御手段として,フィーバ表示を含む複数の表示プログラムを記憶するメモリと,当該表示プログラムをメモリから読出して表示を行わせるCPUとを,表示装置の筐体内に取付けることも,当業者であれば表示装置に関する上記周知技術を参照して容易に為し得たことである。
(A)可変情報表示手段を用いた作動状況表示に関する周知例 特開昭56―75186号公報(甲6。特に,第3頁右下欄第6―8行,第5頁左上欄第11―13行)参照。パチンコ台の上方に取付ける点は,特公昭56―50991号公報(甲7)の第9図,第10図及び第6欄第14―31行等参照。
(B)表示装置一般に関する周知技術 (a) 実願昭57―103622号(実開昭59―7492号)のマイクロフィルム(甲8)には,スクロール表示について,「流れ表示動作の場合は一定の周期で・・・文字が流れるように表示させる」(明細書第15頁第13―16行)と記載されている。また,制御装置を筐体内に設ける点について,第1図,第5図及びその説明箇所に,停留所表示器1内に表示部5及び制御部3(CPU13,ROM15)が設けられることが説明されている。
(b) 特開昭58―161659号公報(甲9)には,スクロール表示について,「電光ニュース等で見られる様に左の文字から順番に表示場所を右から左へシフトする方法をとる」(第4頁【3頁の誤記】右下欄第2―4行),「文章を構成する全文字が表示を終わったら再び最初の文字に戻り同じ動作を繰り返す」(第4頁左上欄第1―2行)と記載されている。制御装置を筐体内に設ける点について,旅客案内板2はCPU,メッセージメモリ等を備えることが説明されている(第1図,第2図,及び,第3頁左上欄第18行―右上欄第4行)。
(C)パチンコ分野におけるスクロール表示に関する周知例 ザ・タイム12月号,有限会社東京エージェント出版,昭和61年12月,第28号(甲10),P.11など参照。
(D)演算部,記憶部等の表示装置への搭載に関する周知例 「マイコン搭載」について,月刊プレイグラフ臨時増刊号「あすのホール経営‘86」,有限会社プレイグラフ社,昭和61年9月,第22巻9号通巻260号(甲11),P.275参照。筐体内に演算部等を取付けた例について,特開昭54―29230号公報(甲12)参照。
(E)可変情報表示手段への入賞表示に関する周知例 上記特開昭56―75186号公報(甲6。第3頁左上欄第14―18行参照),および,特開昭53―89518号公報(甲13。第3頁左上欄第13―18行参照)。
イ 相違点3について 可変情報表示手段を用いてパチンコ台の作動状況を表示する場合に,パチンコ台の作動状況に応じた信号が入力されないときに当該可変情報表示手段を作動させて営業表示を行うことは,周知の技術である(下記(F)参照)。
また,第2引用例に記載されているように,フィーバ表示の期間をフィーバ終了に至るまでとすることは公知であるから,可変情報表示手段を用いた表示装置によりフィーバ表示をスクロール表示により且つ繰返し行う場合(「相違点1,2について」で検討)において,当該公知の事項を参照して,そのフィーバ表示の期間をフィーバ終了に至るまでとすることは当業者が設計的に為し得たことであり,そのようにすれば結果としてフィーバ表示は,フィーバ終了までスクロール表示により繰返して行われることになる。
そして,上記周知技術(F)により営業表示を行い,パチンコ台の作動状況としてフィーバ表示を行えば,そのフィーバ終了後には,あるいは,その終了時点で他の作動状況に応じて表示を行う場合には更にその終了後には,やはり営業表示が行われることになるから,フィーバ終了後に営業表示に戻るようにすることは,容易に想到し得たことである。ここで,周知例として挙げた特開昭56―31772号公報(甲14)に記載された実施例では,パチンコ台の他の作動状況にあたる「ダイアル4を操作している遊技中の状態」において「第2の表示パターン」を表示するものであるから,映像ゲーム状態の終了後直ちに営業表示に戻らないかもしれないが,表示の対象とする(他の)作動状況は適宜選択し得るものであって,「第2の表示パターン」のようなゲーム案内を表示対象としなければ,映像ゲーム状態の終了後に表示は営業表示に戻ることになる。一方,本件発明の詳細な発明には,表示するパチンコ台の作動状況として「不正」や「呼出」等も挙げられていて,本願発明が,これら他の作動状況を示す信号の入力に拘わらず,フィーバ終了直後に一度は営業表示を行うもの(本件【第5図】のフローチャート参照)であるとしても,そのように構成することは適宜設計的に為し得たことである。
してみると,引用発明1の表示板として可変情報表示手段を採用した場合に,パチンコ台の作動状況に応じた信号の入力がないときに,表示板を作動させることにより営業表示を行うことも,作動状況に応じた信号としてフィーバ信号が入力されたときには,表示板を作動させフィーバ表示をフィーバ終了まで(スクロール表示により)繰返して行うことも,さらに,フィーバ終了後に営業表示に戻るようにすることも,当業者が容易に為し得たことである。
なお,原告が平成15年5月13日付の意見書にて主張している「フィーバのラウンド数に対応してフィーバ表示をサイクル単位で実行することができる」という効果については,フィーバのラウンド(フィーバ状態の更新)に関して訂正明細書又は図面には何ら記載がなく,当該主張は訂正明細書の特許請求の範囲に記載された発明の構成に基づいたものではない。
(F)営業表示に関する周知例 特開昭56―31772号公報(甲14)には,パチンコ台の作動状況に応じた表示を行う表示装置において(第4頁左下欄第13行―右下欄第9行参照),「遊技者が遊技を行っていない状態(いわゆる空状態)を表すもので,簡単な文字や,記号によって例えば「毎度御来店ありがとうございます。○×ホール」のような挨拶文や,その他の遊技勧誘のための情報などを表示する」と記載されている(第2頁右上欄第19行―左下欄第4行)。また,上記特開昭53―89518号公報(甲13)には,テレビジョン放送中,入賞時には割込んで入賞表示を行うこと(第3頁左上欄第15―20行参照),及び,テレビジョン放送に代えて「店内情報」や「コマーシャル」を表示すること(第3頁右上欄第7―11行参照)が記載されている(そのほか,第1頁右下欄第16―20行,第2頁右下欄第14行―第3頁右上欄第3行,第3頁右下欄第1―3行などを参照)。
なお,他の一般的な機器においても,装置に設けられた表示手段を利用して営業表示を行うことは,広く知られた技術である。例えば,特開昭62―43342号公報(甲15),特開昭59―36870号公報(甲16)など参照。
(3) 本件発明の効果について 本件発明の効果は,引用発明1及び2並びに上記の各周知技術から当業者が予測できる範囲のものである。
原告主張に係る本件審決の取消事由の要点
本件審決は,相違点1ないし3についての判断を誤った(取消事由1,2)結果,本件発明についての進歩性の判断を誤ったものであり,その誤りは本件審決の結論に影響を及ぼすことが明らかであるから,違法として取り消されるべきである。
1 取消事由1(相違点1,2の判断の誤り) 本件審決は,相違点1及び2について,「引用発明1の表示板として可変情報表示手段を用い,そこにフィーバ表示を含む作動状況を表示する場合に(周知例A,E参照),その表示を,文字又は図形のスクロール表示により且つ繰返し行うことも(周知例B,C参照),その表示のための制御手段として,フィーバ表示を含む複数の表示プログラムを記憶するメモリと,当該表示プログラムをメモリから読出して表示を行わせるCPUとを,表示装置の筐体内に取付けることも(周知例B,D参照),当業者であれば表示装置に関する上記周知技術を参照して容易に為し得たことである。」旨判断した(9〜10頁)が,上記判断は誤りである。
(1) すなわち,周知例Aとして引用された特開昭56-75186号公報(甲6)及び特公昭56-50991号公報(甲7)には,液晶表示板,CRTディスプレイ装置,LEDマトリクス等のような可変情報を表示する手段(以下「可変情報表示手段」という。)は記載されていても,本件発明の「文字・図形をスクロール表示」する表示板は記載されていないから,周知例Aを参照しても,(相違点2はもちろん)相違点1に係る構成を想到することはできない。
また,周知例Bとして引用された実開昭59-7492号マイクロフィルム(甲8)は,「乗合バス,電車等の車輌に設けられて,その行先を案内表示するための行先表示装置」(1頁末行〜2頁2行)であり,また,特開昭58-161659号公報(甲9)は,「鉄道等の駅に於ける旅客案内装置」(1頁右欄10行)であり,いずれも,本件発明のような「パチンコ台の表示装置」とは技術分野及び目的が相違する。
さらに,周知例Cとして引用された雑誌(甲10)の11頁に記載された「電光表示板『せんでん虫』」は,パチンコホール向けのものであっても,店舗に取付けられる宣伝広告板であるから,本件発明のような「パチンコ台の表示装置」とは技術分野及び目的が相違する。
加えて,周知例Dとして引用された雑誌(甲11)の275頁に掲載された「ステイタスカウンター」は,パチンコ台用の表示ランプであると思われるが,「マイコン搭載」と記載されているだけで,本件発明のように「複数の表示プログラム」をメモリに記憶し,該メモリからCPUにより「表示プログラム」を読出すことにより,該プログラムの実行による表示を行わせるものであるか否かは全く不明である。また,周知例Dの「筐体内に演算部等を取付けた例」として引用された特開昭54-29230号公報(甲12)は,「遊技機1の稼働状況は,各々の情報に対応して設けられた検出器2から電気信号として電子制御装置4に送られて,計数記憶部5で情報の計数,記憶を行い,演算部6で計算,ゲームの打止数の設定数との比較等が行われ,遊技機1の稼働内容がゲームの打止め設定数に達すると打止信号出力部7によって,遊技機1に設けたゲーム打止装置3に電気信号が伝達されて,ゲームの打止操作が行われる。」(3頁右上欄3〜13行)と記載されているとおり,その「演算部」は打止めのための計算を行うものであり,本件発明のメモリ及びCPUのような表示プログラムを読出して表示を実行させるものとは異なる。したがって,これらの周知例Dを参照しても,(相違点1はもちろん)相違点2に係る構成を想到することはできない。
したがって,上記周知技術を参照しても,本件発明の相違点1及び2に係る構成は,容易に想到できるものとはいえない。
(2) そもそも,本件審決の相違点1,2についての判断手法は,本件発明の構成を細分化し,断片的に先行技術と対比する(たとえば,相違点1については,@本件発明のパチンコ台の表示装置に設けられた表示板が「可変情報表示手段」であるのに対し,引用発明1のものは文字を固定表示するランプである点,A本件発明の上記表示板が「スクロール表示」を重要な構成とするのに対し,引用発明1のものはスクロール表示を不可能とする点,という2つの相違点に分断した上,@については周知例Aと,Aについては周知例B及びCと対比している。)ものであり,誤りである。
2 取消事由2(相違点3の判断の誤り) (1) 本件審決は,相違点3について,「周知例F及び引用発明2等によれば,引用発明1の表示板として可変情報表示手段を採用した場合に,パチンコ台の作動状況に応じた信号の入力がないときに,表示板を作動させることにより営業表示を行うことも,作動状況に応じた信号としてフィーバ信号が入力されたときには,表示板を作動させフィーバ表示をフィーバ終了まで(スクロール表示により)繰返して行うことも,さらに,フィーバ終了後に営業表示に戻るようにすることも,当業者が容易に為し得たことである。」旨判断した(11頁)が,誤りである。
すなわち,周知例F(甲13ないし16。なお,甲15,16は,パチンコ台の表示装置とは無関係の技術である。)は,「営業表示を行う」ことを開示するにすぎず,本件発明の特徴である「@(パチンコ台の作動状況を示す信号の入力がないとき)営業表示を行う→A(フィーバ信号が入力されたとき)表示板を作動させることによりフィーバ表示をフィーバ終了まで繰返して行う→B(フィーバ終了後に)営業表示に戻る」という構成を開示していない。
また,引用発明2は,「フィーバ表示の期間をフィーバ終了に至るまで」としたものということができるものの,フィーバ中に,単に大当たり表示器19を点灯し続けるだけのものであり,本件発明のようにフィーバ表示の表示プログラムを繰返して実行するものではない。
さらに,「フィーバ表示を繰返し行う」点について,本件審決が引用する特開昭58―161659号公報(甲9)や被告が新たに提出した乙1,2はいずれも,パチンコ台の表示装置とは無関係の技術である。
したがって,これらの引用発明や周知技術を参照しても,本件発明の相違点3に係る構成は,容易に想到できるものとはいえない。
(2) なお,本件審決は,「原告が主張する「フィーバのラウンド数に対応してフィーバ表示をサイクル単位で実行することができる」という効果については,フィーバのラウンド(フィーバ状態の更新)に関して訂正明細書又は図面には何ら記載がなく,当該主張は訂正明細書の特許請求の範囲に記載された発明の構成に基づいたものではない。」旨判断した(11〜12頁)が,誤りである。
すなわち,パチンコ台における「フィーバのラウンド(フィーバ状態の更新)」は,引用発明2のように,本件特許出願前に公知の技術水準に属することであるから,この点について,特許請求の範囲に明示的な記載がなくても,当業者であれば,本件発明が,「フィーバのラウンド(フィーバ状態の更新)」を行うものであり,その結果,フィーバ表示の所要時間をフィーバ時間と等しく設定することにより,「フィーバのラウンド数に対応してフィーバ表示をサイクル単位で実行することができる」という効果を有することを十分理解することができるというべきである。
被告の反論の要点
本件審決の判断に誤りはなく,原告の主張する本件審決の取消事由には理由がない。
1 取消事由1(相違点1,2の判断の誤り)について (1) 本件審決は,相違点1について,まず,液晶表示板,CRTディスプレイ装置,LEDマトリクス等の可変情報表示手段を用いることは当業者が容易に想到できたものであることを説示した上,表示板として上記可変情報表示手段を用いるのであれば,本件発明のように「文字・図形をスクロール表示および固定表示する」点は一般的に行われていることであり,設計的事項である旨説示したものであって,相当である。
また,本件審決は,相違点2について,パチンコ分野で行われている表示に関する周知例C〜Eを参照すれば,表示分野で一般的に用いられている周知例Bのような構成を採用し,相違点2に係る本件発明の構成とすることは,当業者が容易に想到することができる(特に,周知例Dは,パチンコ機内部の制御装置やパチンコ機に付帯する表示装置に,CPUや演算部を設ける点が記載されており,この点は表示分野で一般的に用いられている周知例Bのような構成を採用することの契機となるものである。)旨説示したものであって,相当である。
(2) 原告は,「周知例B及びCは,本件発明のような「パチンコ台の表示装置」とは技術分野及び目的が異なる。」旨主張するが,「可変情報表示手段」を用いるのであれば,それを設計する際,その目的に応じて,同じく「可変情報表示装置」に関する一般的な技術である周知例B及びCを参照することは当業者であれば普通に行うことであるから,原告の上記主張は失当である。
(3) 原告は,周知例Dとして引用された特開昭54―29230号公報(甲12)について,「演算部は打ち止めのための計算を行うものであり,本件発明のメモリ及びCPUのような表示プログラムを読み出して表示を実行させるものとは無関係である。」旨主張する。しかしながら,本件発明のパチンコ台の表示装置も,その実施例を見る限り,表示を行うと共にパチンコ台の制御を行っている(甲2の3頁右欄8〜15行,第6図)。また,甲12にも,電子制御装置は,遊技機の稼働状況の表示を行う表示部を設けられると共に,ゲームの打ち止め数の設定及び打ち止めの解除の機能を持つ旨の記載(3頁左上欄4行〜同右上欄2行)があり,中央の管理装置側ではなく,個々のパチンコ機側でパチンコ機の制御及び状態表示を行わせる点で,本件発明のパチンコ台の表示装置と共通している。
(4) 原告は,「本件審決の相違点1,2についての判断手法は,本件発明の構成を細分化し,断片的に先行技術と対比するものであり,誤りである。」旨主張するが,本件審決は,本件発明の容易推考性を判断するに当たり,表示装置一般の周知技術である周知例Bを採用する契機になったパチンコ分野での表示技術がどのようなものであったのか明らかにするものとして,周知例A,CないしEを引用しているものであるから,原告の上記主張は失当である。
2 取消事由2(相違点3の判断の誤り)について (1) 可変情報表示手段を用いてパチンコ台の作動状況を表示する場合に,パチンコ台の作動状況に関する信号が入力されないときに可変情報表示手段を作動させて営業表示を行うことは周知技術(周知例F)であるところ,フィーバも,パチンコ台の作動状況の一種であることは明らかである。また,フィーバの際,その表示を行うこと,及びフィーバ表示の期間をフィーバの終了までとすることは,第2引用例に記載されている。したがって,引用発明2の上記構成を上記周知技術に適用して,表示の内容を,@営業表示を行う,Aパチンコ機の作動状況の表示(フィーバ表示),B営業表示に戻る,という本件発明の構成とすることは,当業者であれば容易に想到し得る事項というべきである(そもそも,表示の内容をどうするかは,技術的要請よりも営業面の要請によることが大きい設計的事項程度のことにすぎない。)。
なお,スクロール表示において,繰り返し表示を行う点が周知であることは,乙1,2からも明らかである。
(2) 原告は,「パチンコ台における「フィーバのラウンド(フィーバ状態の更新)」は,本件特許出願時の公知の技術水準であるから,この点について特許請求の範囲に明示的記載がなくても,当業者であれば,本件発明がフィーバのラウンドを行うものであり,その結果,フィーバ表示の所要時間をフィーバ時間と等しく設定することにより,「フィーバのラウンド数に対応してフィーバ表示をサイクル単位で実行することができる」という効果を有することを理解できる。」旨主張する。しかしながら,「フィーバ表示の所要時間をフィーバ時間と等しく設定する」旨の記載は,訂正明細書の特許請求の範囲にも発明の詳細な説明にもないから,原告の上記主張は失当である。
当裁判所の判断
1 取消事由1(相違点1,2の判断の誤り)について 原告は,「本件審決は,周知例AないしEを参照すれば,本件発明の相違点1及び2に係る構成は容易に想到することができるものである旨判断したが,誤りである。」旨主張するので,検討する。
(1) 周知例Aについて 本件審決が周知例Aとして引用した特開昭56―75186号公報(甲6)には,第1図にパチンコ機1の盤面左上のモニタ表示器37が示されると共に,当該モニタ表示器について,「CPU26は入賞表示プログラムを読出し,ドライバ34を介してモニタ表示器37に表示出力を与え,かくしてモニタ表示器37によって可視表示として例えば「アタリ」の文字表示をさせる」(3頁左上欄14〜18行),「CPU26はドライバ34を介して打止め表示器38を点灯させると共に,打止め表示プログラムを読出してドライバ34を介してモニタ表示器37に表示出力を与え,かくしてモニタ表示器37によって可視表示として例えば「ウチドメ」の文字表示をさせる。」(3頁右下欄3行〜8行),「モニタ表示器37としては,液晶表示器,LED,螢光表示管,CRTデイスプレイ装置等種種のものを適用し得る。」(5頁左欄11〜13行)と記載されている。
また,特公昭56―50991号公報(甲7)には,「パチンコ遊戯者が遊戯中に目視し得るパチンコ遊戯機若しくはその周辺の任意の位置に,一般TV電波受信装置の映像面を備え,かつ,パチンコ遊戯機における入賞装置の作動に応じた映像を前記受信装置の映像面に表示するための映像部を設ける…」(請求項1),「各実施例における受像管7は第9図,第10図のように通常島と称する遊戯機6取付合【取付台の誤記】53に取付けることもできる。」(3頁6欄29行〜31行)と記載され,第1図にはパチンコ機に設けられた受像管7が,第9図,第10図にはパチンコ機の取付台上に設けられた受像管7が示されている。
これらの記載によれば,本件特許出願当時,液晶表示板,CRTディスプレイ装置,LEDマトリクス等のような,可変情報表示手段を用いて,パチンコ台の作動状況を表示することは,周知であったと認められる。
(2) 周知例Bについて ア 本件審決が周知例Bとして引用した実願昭57-103622号(実開昭59-7492号)のマイクロフィルム(甲8)には,乗合バスや電車等のドットマトリックス形式の停留所名表示器に関し,「停留所名表示部5では乗客に対して多くのメッセージを表示させるため,文字数が多い表示については流れ表示にて行うようにした。ステップ17で文字構成数を算出し,表示部5での表示容量以上であれば流れ表示動作に,容量以内であれば固定表示動作に決定して…」(14頁6〜11行),「データの転送方法は流れ表示動作の場合は一定の周期で,しかも高速で読出した文字パターンを順次転送することにより文字が流れるように表示させることができるし,固定の表示であれば同一のパターンを繰返し転送するか,または1回,転送した後は格納メモリ9でのデータにより表示させればよい。」(15頁13〜19行)との記載があり,スクロール表示や固定的表示を選択的に行い得ることについて開示されている。
同様に,特開昭58-161659号公報(甲9)には,列車の運行状況表示器について,「表示器29は…電光ニュース等で見られる様に左の文字から順番に表示場所を右から左へシフトする方法をとる。」(3頁左下欄18行〜右下欄4行),「こゝでは液晶式表示器の場合を述べたが,通常のCRTを用いても,またLED表示器や,ドット式の電光表示盤等を用いても同等の効果を得ることが出来る。」(4頁右上欄12〜15行)と記載され,スクロール表示について開示されている。
これらの記載によれば,本件特許出願当時,電子表示器(可変情報表示手段)に文字等を固定的に表示し,また,スクロール表示することを適宜選択することは周知の技術的事項であったことが認められる。
イ また,上記甲8には,「停留所名表示器1における制御部3の内部構成例を第5図に示す。この例ではマイクロコンピュータにより構成した場合で,プログラムを順次読出して解読実行する中央処理ユニット,いわゆるCPU13の他に,制御用プログラムを格納するメモリROM15,CPU13の各種演算処理に用いる作業用及びデータの編集用に用いる読み書き可能なメモリRAM14,…がバス20に接続される。…入/出力ポート18はメッセージ記憶部8とのインターフェイス用であり,同様にバス20に接続される。」(5頁17行〜6頁14行),「停留所名表示,必要に応じてその他のメッセージを表示するためのデータはメッセージ記憶部8に記憶される。メッセージ記憶部8は第9図に示すように,例として文字パターンメモリROM1の810と,表示コードメモリROM2の820と,運行データメモリROM3の830とで構成させた場合である。」(8頁1〜7行)との記載がある。
同様に,上記甲9には,「旅客案内盤2は第2図に示した構成から成り,CPU21と,メッセージメモリ22,単語メモリ23,文字パターンメモリ24,案内文メモリ25,リフレッシュメモリ26の各種メモリと,RAM27から成るマイコン部分と,入力装置20およびドライバー28により駆動される液晶式表示器29から成っている。メッセージメモリ22は第3図1乃至3のメッセージの固定部分の文字コードを記憶しているメモリ,単語メモリ23は第3図12乃至15の情報で与えられるコードに対応した単語文は【「単語又は」の誤記】句を表示する文字コードを記憶するメモリ,文字パターンメモリ24は表示器29にドット式で文字を画くための文字パターンを文字コードに対応して記憶しているメモリ,案内文メモリ25は第3図1乃至3の如く情報内容をすべて盛り込んだあとの完成された文字をドットマトリックス上に表示する形に作られる書込可能な案内文メモリ,リフレッシュメモリ26は表示器29の表示窓に実際表示させる場所に対応したリフレッシュメモリである。」(3頁左上欄18行〜右上欄18行)との記載がある。
これらの記載によれば,本件特許出願当時,電子表示器(可変情報表示手段)において,表示すべき文字等の複数の表示プログラムを予めメモリーに記憶させておき,これをCPUが読み出して適宜表示することが周知であったと認められる。
(3) 周知例Cについて 本件審決が周知例Cとして引用した雑誌「ザ・タイム第28号」11頁(弁論の全趣旨により,昭和61年12月,有限会社東京エージェント出版発行と認められる。)(甲10)には,パチンコホール用の宣伝用電光表示板「せんでん虫」について,「この「せんでん虫」は,付属のメモリーカードに記憶させた文字やイラストを,1190×202ミリの電光表示板に写し出しプレイするお客にメッセージを送るというもの…。既成の文字形の他に手書き文字や倍角,半角,太字などの文字形が選択でき,さらに“ランニング”や“フラッシュ”など約30種類用意された表示パターン…」と記載されており,同記載によれば,本件特許出願当時,パチンコ店向けの宣伝用表示器においても,電光表示板の“ランニング”表示,すなわち,スクロール表示を行うことが周知の技術であったことが認められる。
(4) 周知例Dについて 本件審決が周知例Dとして引用した月刊プレイグラフ臨時増刊号「あすのホール経営‘86」275頁(昭和61年9月,有限会社プレイグラフ社発行)(甲11)には,「新・発・売 業界初マイコン搭載の押釦スイッチ ステイタスカウンター」と題する広告記事が掲載され,その中には「フィーバー時にランプスイッチを押すと,「しばらくおまちください」と緑色ランプで表示。」,「ステイタスフィーバー フィーバー時はランプがパッシィングします。」(275頁)と記載されている。
また,特開昭54-29230号公報(甲12)には,「遊技機に遊技機の稼働状況を検出する検出器,ゲームの停止を行うゲーム打止装置を設け,各々の遊技機に付帯させた電子制御装置には該検出器からの検出信号を計数して記憶する計数記憶機能,演算機能並びに打止数設定機能,打止数に達すると前記ゲーム打止装置に打止信号を発する打止信号出力機能,記憶内容の表示出力機能を持たせて,各々の遊技機の稼働状況の管理,ゲームの打止制御を行うようにした遊技機の電子管理装置。」(特許請求の範囲)との記載がある。
これらの記載によれば,本件特許出願当時,パチンコ遊技機に対して,外部機器として「マイコン」等を搭載した補助的な電子機器を組み合わせ,遊技機本体との制御信号のやりとりを介して打止制御等の必要な処理を行うことは,当業者に周知の技術的事項であったことが認められる。
(5) 周知例Eについて 本件審決が周知例Eとして引用した特開昭56―75186号公報(甲6)には,パチンコ台のモニタ表示器に関して,「CPU26は入賞表示プログラムを読出し,ドライバ34を介してモニタ表示器37に表示出力を与え,かくしてモニタ表示器によつて可視表示として例えば「アタリ」の文字表示をさせる。」(3頁左上欄14〜18行)との記載があり,また,特開昭53―89518号公報(甲13)には,パチンコ台にセットされた受像機に関して,「この入賞表示信号は信号処理回路25を介して受像機8に供給される。これにより,受像機8に対し入賞時に…入賞表示を行なわせることができる。」(3頁左上欄13〜16行)との記載があり,これらの記載によれば,本件特許出願当時,可変情報表示手段に表示するパチンコ台の作動状況に入賞表示を含めることは,当業者に周知の技術的事項であったことが認められる。
(6) 以上の本件特許出願当時の周知技術によれば,可変情報表示手段を用いてパチンコ台の作動状況を表示すること(周知例A)という周知技術を参照して,引用発明1における表示板である「作動表示ランプ」(ランプによる文字の固定表示)に代えて液晶表示板等の「可変情報表示手段」を採用し,その際,可変情報表示手段に文字等を固定的に表示し,また,スクロール表示することを適宜選択すること(周知例B)という可変情報表示手段の技術分野における周知技術や,パチンコ店向けの宣伝用表示器において電光表示板のスクロール表示を行うこと(周知例C)というパチンコ関連の可変情報表示手段の技術分野における周知技術を参照して,上記採用された可変情報表示手段において,文字や図形等を固定的に表示し,また,スクロール表示するようにすることは,当業者が容易になし得たことというべきである。したがって,当業者は,周知例AないしCの周知技術に基づいて相違点1に係る本件発明の構成を容易に想到することができたものというべきであり,本件審決の同旨の判断に誤りはない。
また,可変情報表示手段を用いてパチンコ台の作動状況を表示すること(周知例A),可変情報表示手段において,表示すべき文字等の複数の表示プログラムを予めメモリーに記憶させておき,これをCPUが読み出して適宜表示すること(周知例B),パチンコ遊技機に対して,外部機器として「マイコン」等を搭載した補助的な電子機器を組み合わせ,遊技機本体との制御信号のやりとりを介して打止制御等の必要な処理を行うこと(周知例D)という周知技術を参照して,引用発明1の制御装置である「コンピュータと連動する電子回路」に代えて「複数の表示プログラムを記憶するメモリと,前記表示プログラムを読出して表示を行わせるCPUを備えた」ものを採用し,その際,可変情報表示手段に表示するパチンコ台の作動状況に入賞表示を含めること(周知例E)という周知技術を参照して,上記「複数の表示プログラム」にフィーバ表示を含めるようにすることは,当業者が容易になし得たことというべきである。したがって,当業者は,周知例A,B及びDの周知技術に基づいて相違点2に係る本件発明の構成を容易に想到することができたものというべきであり,本件審決の同旨の判断に誤りはない。
(7) これに対し,原告は,「周知例Aには,可変情報表示手段は記載されていても,本件発明のように文字・図形をスクロール表示する表示板は記載されていないから,周知例Aを参照しても,それのみでは,相違点1に係る構成を想到することはできない。」旨主張する。確かに,周知例Aは,いずれも「文字・図形のスクロール表示」という構成を開示するものではない。しかしながら,上記構成は,周知例Bに開示されている可変情報表示手段の技術分野における周知技術であり,また,パチンコの分野においても,周知例Cのように,パチンコ店向けの宣伝用表示器において電光表示板のスクロール表示を行うことが周知技術であるから,これらの周知技術の存在を考慮すれば,上記構成が周知例Aに開示されていない点は,上記結論を何ら左右するものではない。
また,原告は,「周知例B,Cはいずれも,パチンコ台の表示装置とは技術分野や目的が相違する。」旨主張する。確かに,本件発明や周知例Aは,パチンコ台の表示装置に係るものであるのに対し,周知例Bはいずれも,交通機関の行き先表示等に係るものであり,周知例Cは,パチンコ店舗に取り付けられる宣伝広告板である。しかしながら,周知例B,Cはいずれも,可変情報表示装置を使用したものである点で共通している(さらに,周知例Cは,パチンコ関連のものでもある。)から,当業者であれば,引用発明1の固定表示に代えて可変情報表示手段を採用する際に,周知例B,Cのような可変情報表示手段の技術分野一般における周知技術参酌することは,当然なすことというべきである。したがって,原告の指摘する相違点は,上記結論を左右するものとはいえない。
さらに,原告は,「周知例Dはいずれも,複数の表示プログラムをメモリに記憶し,CPUによりこれを読み出して表示を実行させるという本件発明の構成とは異なる。」旨主張する。確かに,周知例Dは,いずれも,メモリに記憶した複数の表示プログラムをCPUにより読み出して表示を実行させるという構成を開示するものではないが,同構成は,本件審決が引用した周知例Bに開示されている可変情報表示手段の技術分野における周知技術であるから,この周知技術の存在を考慮すれば,同構成が周知例Dに開示されていない点は,上記結論を何ら左右するものではない。
加えて,原告は,「本件審決は,本件発明の構成を細分化し,断片的に先行技術と対比するもの(たとえば,相違点1については,前記第3,1,(2)記載の2つの相違点@Aに分断した上,@については周知例Aと,Aについては周知例B及びCと対比している。)であり,誤りである。」旨主張する。しかしながら,当業者であれば,本件特許出願当時,本件発明の属する技術分野や本件発明が解決しようとする課題に関連した技術分野において一般に知られていた周知技術を適宜参照することは,当然なすべきことというべきであるから,前記各周知技術を参照したからといって,本件審決の判断手法が「発明の構成を細分化し断片的に先行技術と対比するものである。」ということはできない。また,前記の相違点1,2についての判断やこれと同旨の本件審決の判断は,これらの相違点を一体のものとして検討した上で,当業者であれば,周知技術に基づいて同相違点に係る構成のものとすることを容易になし得たとしているのであって,同相違点を分断して判断したわけではない。したがって,原告の上記主張は理由がない。
2 取消事由2(相違点3の判断の誤り)について (1) 原告は,「本件審決は,周知例F及び引用発明2等を参照すれば,本件発明の相違点3に係る構成は容易に想到することができるものである旨判断したが,誤りである。」旨主張するので,検討する。
ア 周知例Fとして引用された特開昭53-89518号公報(甲13)には,パチンコ機にテレビジョン受像機を設置し,テレビジョン放送画像,打止表示,コマーシャル,入賞表示画像等,種々の画像を遊技機の作動状態に合わせて表示することが記載されている(2頁左下欄15行〜3頁左下欄2行,第4図)。
また,特開昭56-31772号公報(甲14)には,「映像表示装置を具え,遊技盤を用いた遊技球による遊技結果に応じて上記映像表示装置を用いて映像ゲームをなし得るパチンコ機において,遊技者が遊技していない状態にあることを表示する第1の表示パターンと,遊技者が遊技球による遊技中であることを表示する第2の表示パターンと,遊技者が映像ゲームによる遊技中であることを表示する第3の表示パターンとを,上記映像表示装置にて次々と表示することを特徴とするパチンコ機。」(請求項1),「パチンコ機1は遊技者が遊技していない状態では,CRT7上に第1の映像パターン(第3図A)を表示している。…遊技者が第5図の操作ダイヤル4に触れると,CPU32はCRT7上の表示を第2の映像パターン(第3図B)に切換える。…この第2の映像パターンを表示している間に遊技球が特定入賞口8に入賞すれば,CRT7の表示は第3の映像パターン(第3図C)に切換わり,CPU7は映像ゲーム状態に入る。」(4頁左下欄10行〜右下欄9行)との記載があり,第3図には,(A)「毎度御来店ありがとうございます。○×ホール」,(B)「このゲームはUFO撃墜ゲームで撃ち落した数だけチューリップが開きます。…」,(C)UFO撃墜ゲームの画像表示,という3つの表示パターンが記載されているから,3つの表示パターンを遊技機の作動状態に応じて切り替えており,特に,パチンコ機からの入力信号がない時には「営業表示」を行っていることが開示されている。
これらの記載によれば,パチンコ機の分野において,遊技機の作動状態に合わせて営業表示を含む様々な画像を可変情報表示手段上に表示すること,特に,パチンコ機からの入力信号がない時に可変情報表示手段上に営業表示を行うことが周知の技術であったと認められる。
イ また,第2引用例には,「大当り表示器19は…パチンコ機10の遊技状態が特定遊技状態になったときに点灯または点滅する。」(4頁左上欄1〜3行),「回転ドラム51a〜51cの表示状態の組合わせが最大価値を付与可能な所定の状態となりかつセグメント表示器502の表示状態が最大価値を付与可能な数値「7」を表示している状態になると,判定回路635は最大価値付与条件の成立したこと,すなわち特定遊技状態であることを表わすハイレベル信号を導出する。」(10頁左下欄3〜9行),「判定回路635からの最大価値付与検出出力は…フリップフロップ652のセット入力として与えられる。フリップフロップ652のセットによって,ハイレベル信号が保たれ,大当たり表示器19が点灯される…。…特定遊技状態になった後,所定の価値が付与され終えたときには,所定価値付与状態検出手段64でそれが検出され,その出力はフリップフロップ652のリセット入力として与えられる。応じてフリップフロップ652がリセットされ,大当たり表示器19は消灯され…。」(11頁右上欄5行〜左下欄6行)と記載され,パチンコ機がフィーバ状態(特定遊技状態)に入ると特定のハイレベル信号を導出し,該信号を受けて大当たり表示器19が点灯し,フィーバ状態が終了すると大当たり表示器19が消灯することが開示されている。
ウ さらに,特開昭58-161659号公報(甲9)には,列車の運行状況表示器について,「文章を構成する全文字が表示を終つたら再び最初の文字に戻り同じ動作を繰り返す。」(4頁左上欄1〜2行)との記載があり,特開昭58―98782号公報(乙1)には,「表示器上に表示されるメッセージを固定表示部と回転表示部とに分け,回転表示部がネオンサイン風に移動しながら繰り返えし表示されるように動作することを特徴とする表示器を備えた装置。」(特許請求の範囲)との記載があり,実開昭59―79893号のマイクロフィルム(乙2)には,乗合バス等に設けられる広告表示装置について,「表示の切換は例えば一定時間毎に順次行い,運行が終るまで繰返し表示を続ければよい。」(6頁8〜10行)との記載がある。これらの記載によれば,本件特許出願当時,可変情報表示手段により情報の表示を繰返し行うことは,周知の技術的事項であったことが認められる。
エ 以上の引用発明2及び本件特許出願当時の周知技術によれば,引用発明1の表示板に代えて,「文字・図形をスクロール表示及び固定表示する」可変情報表示手段を採用し,その制御装置として「フィーバ表示を含む複数の表示プログラムを記憶するメモリと,前記表示プログラムをメモリから読出して表示を行わせるCPUとを備え」るものを採用した場合において(相違点1,2において検討済み),制御装置によるフィーバ表示の態様として,「信号の入力がないときに,表示板を作動させることにより営業表示を行わしめ」,「フィーバ信号が入力されたときに,表示板を作動させることによりフィーバ表示をフィーバ終了まで繰返して行い」,かつ,「フィーバ終了後に,営業表示に戻る」という相違点3のような表示態様のものとすることは,当事者が容易に想到することができるものというべきである。
オ これに対し,原告は,「周知例Fは,営業表示を行うことを開示するにすぎず,本件発明のように「@営業表示を行う→A表示板を作動させることによりフィーバ表示をフィーバ終了まで繰返して行う→B営業表示に戻る」ものではない。また,引用発明2は,フィーバ中に大当たり表示器19を点灯し続けるだけのものであり,本件発明のようにフィーバ表示の表示プログラムを繰返して実行するものではない。さらに,「表示を繰返し行う」点についての甲9,乙1,2はいずれも,パチンコ台の表示装置とは無関係の技術である。したがって,本件発明の相違点3に係る構成は,容易に想到できるものとはいえない。」旨主張する。
しかしながら,上記引用発明2や各周知技術それぞれが本件発明の相違点3に係る構成全体を開示するものでなくても,当業者であれば,本件特許出願当時,本件発明の属する技術分野や本件発明が解決しようとする課題に関連した技術分野において一般に知られていた周知技術を適宜参照することは,当然なすべきことというべきであるから,引用発明2にこれらの周知技術を必要に応じて適宜組み合わせることにより上記構成を容易に想到することができたということができる。
また,甲9,乙1,2のものが,パチンコ台とは関係がなくても,当業者であれば,引用発明1の表示板に代えて,可変情報表示手段を採用する際に,甲9,乙1,2のような可変情報表示手段一般における周知技術参酌することは,当然なすことというべきであるから,原告の指摘する点は,上記結論を左右するものとはいえない。
(2) 原告は,「本件発明の「フィーバのラウンド数に対応してフィーバ表示をサイクル単位で実行することができる」という原告主張に係る効果についての本件審決の判断は,誤りである。」旨主張する。
しかしながら,本件発明に係る請求項1の記載のうち,フィーバー表示に関する部分は,「前記信号の入力がないときに,表示板を作動させることにより営業表示を行わしめ,フィーバ信号が入力されたときに,表示板を作動させることによりフィーバ表示をフィーバ終了まで繰返して行い,フィーバ終了後に,営業表示に戻る」というものにすぎず,原告の主張する「フィーバのラウンド数に対応してフィーバ表示をサイクル単位で実行する」というような態様を特定するものということはできない。したがって,原告の上記主張は,特許請求の範囲の記載に基づかないものであるから,失当であり,これと同旨の本件審決の判断は相当である。
(なお,念のため,訂正明細書における発明の詳細な説明を見ても,原告の主張する「フィーバのラウンド数に対応してフィーバ表示をサイクル単位で実行する」というような態様についての記載はない。すなわち,訂正明細書実施例として,フィーバ状態に入ると,フィーバサブルーチンS2が呼び出され,例えば,「表示板14の下段に“フィーバ中”と固定表示すると共に,上段には“ヤッタ!ヤッタ!おめでとうございます”“ジャンジャンお取り下さい”等のメッセージをスクロール表示する。」というようなフィーバ表示がフィーバ終了まで繰り返し実行される旨の記載(訂正明細書(甲17の添付書類)6頁18〜28行)はあるものの,それ以上に,原告の主張するような表示態様についての記載はない。) これに対し,原告は,「パチンコ台におけるフィーバのラウンドは,引用発明2のように,本件特許出願前の公知の技術水準であるから,この点について,特許請求の範囲に明示的な記載がなくても,当業者は,本件発明がフィーバのラウンドを行うものであり,その結果「フィーバのラウンド数に対応してフィーバ表示をサイクル単位で実行することができる」という効果を有することを十分理解できる。」旨主張する。
原告が指摘するように,第2引用例には,たとえば,「最大価値付与可能状態(特定遊技状態)においては,打込玉が可変入賞球装置30の特賞領域32aへ入賞すると,一旦可変入賞球装置30が閉成されて後,再び可変入賞球装置30が一定時間(t1)だけ延長して開成され,特賞領域32aへの入賞玉のあるごとにその動作が繰返されるようになっている。」(11頁左上欄16行〜右上欄2行)との記載があり,一定の条件が与えられるとフィーバー状態が更新されることが開示されている。しかしながら,「フィーバのラウンド数に対応してフィーバ表示をサイクル単位で実行することができる」というためには,フィーバ状態の更新が行われることのみならず,フィーバー状態の継続時間をフィーバー表示の所要時間と一致させる必要があるところ,「フィーバー状態の継続時間をフィーバー表示の所要時間と一致させる」旨の記載は,本件発明に係る請求項1の記載はもちろん,発明の詳細な説明にもないから,仮に,「フィーバのラウンド(フィーバ状態の更新)」が周知の技術的事項であったとしても,そのことから直ちに,当業者が「フィーバのラウンド数に対応してフィーバ表示をサイクル単位で実行することができる」ということはできない。したがって,原告の上記主張は理由がない。
(なお,仮に,「フィーバのラウンド(フィーバ状態の更新)」に加えて,「フィーバー状態の継続時間をフィーバー表示の所要時間と一致させる」ことも周知の技術的事項であるとすれば,原告が主張する「フィーバのラウンド数に対応してフィーバ表示をサイクル単位で実行することができる」という効果自体も,当業者が当然予測することができるものにすぎないということになるから,原告が主張する上記効果が存在したとしても,相違点3についての前記判断を何ら左右するものではない。) 3 結論 以上のとおり,原告主張の取消事由はいずれも理由がなく,他に本件審決を取り消すべき瑕疵は見当たらない。
よって,原告の本件請求は理由がないから,これを棄却することとし,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 北山元章
裁判官 青柳馨
裁判官 沖中康人