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事件 |
平成
29年
(ネ)
10029号
特許権侵害差止等請求控訴事件
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控訴人 (第1審原告) ウシオ電機株式会社 同訴訟代理人弁護士 松尾和子 相良由里子 松野仁彦 同訴訟代理人弁理士 大塚文昭 越柴絵里 同 補佐人弁理士谷口信行 被控 訴人(第1 審被 告)株式会社ブイ・テクノロジー 同訴訟代理人弁護士 赤尾直人 鈴木一徳 同 補佐人弁理士岩ア孝治 小橋立昌 白坂一 |
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裁判所 | 知的財産高等裁判所 |
判決言渡日 | 2018/06/19 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 民事訴訟 |
主文 |
1 本件控訴を棄却する。 12 控訴費用は控訴人の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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控訴の趣旨
1 原判決を取り消す。 2 被控訴人は,原判決別紙物件目録記載の光配向用偏光光照射装置を製造し, 販売し,又は販売のための展示その他の販売の申出をしてはならない。 3 被控訴人は,前項記載の光配向用偏光光照射装置を廃棄せよ。 4 被控訴人は,控訴人に対し,10億7600万円及びこれに対する平成27 年7月23日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 5 訴訟費用は,第1,2審を通じて,被控訴人の負担とする。 |
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事案の概要(略語は特に断らない限り原判決の例による。)
1 事案の要旨 本件は,発明の名称を「光配向用偏光光照射装置及び光配向用偏光光照射方 法」とする特許第5344105号の特許権(本件特許権)を有する控訴人が, 原判決別紙物件目録記載の光配向用偏光光照射装置(被告製品。なお,その基 本的な構成は,原判決別紙被告製品説明書(平成29年2月10日付け更正決 定による更正後のもの。以下同じ。)記載のとおりである。)の製造,販売及 び販売のための展示その他の販売の申出(製造販売等)をしている被控訴人に 対し,被控訴人が被告製品を製造販売等することは本件特許権を侵害する行為 であると主張して,特許法100条1項に基づく被告製品の製造販売等の差止 め,及び同条2項に基づく被告製品の廃棄を求めるとともに,本件特許権侵害 の不法行為(対象期間・ 行為は,平成26年1月1日以降,本件訴訟の提起の 日である平成27年7月3日までの被告製品の販売。)による損害賠償として 10億7600万円(特許法102条1項により算定される損害額。なお,予 2 備的に同条3項により算定される損害額である2億1980万円)及びこれに 対する不法行為の日以後である同月23日から支払済みまでの民法所定年5分 の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。 原判決は,本件発明1〜4及び本件訂正発明1〜4は,いずれも進歩性を欠 き,これらについての特許は特許無効審判により無効にされるべきものである から,控訴人は,被控訴人に対し,本件特許権を行使することができないとし て,控訴人の請求をいずれも棄却した。 そこで,控訴人は,原判決を不服として,本件控訴を提起した。 2 前提事実 原判決4頁25行目から26行目にかけての「をした(なお,本件口頭弁論 終結の時点において,本件審決は未確定である。)。」を「をしたが,控訴人 は,平成28年11月25日,当裁判所に対し,本件審決の取消しを求めて, 審決取消訴訟を提起した。当該訴訟は,平成28年(行ケ)第10250号とし て審理され,平成30年4月10日,口頭弁論が終結した。 と改めるほかは, 」 原判決「事実及び理由」「第2 事案の概要等」「2 前提事実等」(3頁4 行目から12頁3行目まで)に記載のとおりであるから,これを引用する。 3 争点及びこれに対する当事者の主張 本件の争点及びこれに対する当事者の主張は,後記(1)〜(25)のとおり改め, 後記4及び5のとおり,当審における当事者の補充主張及び新たな追加主張を 付加するほかは,原判決「事実及び理由」「第2 事案の概要等」「3 争点」 及び「第3 争点に対する当事者の主張」(12頁4行目から34頁24行目 まで)に記載のとおりであるから,これを引用する。 (1) 原判決14頁2行目の「第一の各基板搭載位置」 「第一の基板搭載位置」 を と,同行目の「第二の各基板搭載位置」を「第二の基板搭載位置」とそれぞ 3 れ改める。 (2) 原判決14頁6行目及び8行目の「距離相当」をいずれも削除する。 (3) 原判決14頁14行目の「第一の各基板搭載位置」を「第一の基板搭載位 置」と,同行目の「第二の各基板搭載位置」を「第二の基板搭載位置」とそ れぞれ改める。 (4) 原判決14頁18行目の「各ステージは,シフト部19により『基板搭載 位置』に戻るものであること」を「各ステージを『基板搭載位置』に戻すた めには,シフト部19により直交する方向(Y方向)に移動させる工程」と 改める。 (5) 原判決15頁6行目の「台車移動機構」を「台車部移動機構」と改める。 (6) 原判決16頁9行目から10行目にかけての 『甲13公報 「 (審判甲5) 」 』 の後に,「又は『甲13(審判甲5)公報』」を加える。 (7) 原判決16頁11行目の「本件発明1」を「本件各発明」と改める。 (8) 原判決16頁14行目から15行目にかけての『甲10公報 「 (審判甲2)」 』 の後に,「又は『甲10(審判甲2)公報』」を加える。 (9) 原判決17頁3行目及び14行目の「C2」の後に「,C3」をそれぞれ 加える。 (10) 原判決17頁22行目の「A」を「B」と改める。 (11) 原判決18頁2行目及び14行目の「C2」の後に「,C3」を加える。 (12) 原判決18頁24行目の「C2及びC3」を「C2,C3及びC4」と改 める。 (13) 原判決20頁19行目の「特開平2007」 「特開2007」 を と改める。 (14) 原判決20頁20行目の「『甲26公報(参考資料3)』」の後に,「又 は『甲26(参考資料3)公報』」を加える。 4 (15) 原判決24頁23行目の「本件発明3により」を「本件発明3に」と改め る。 (16) 原判決25頁1行目及び4行目の「光軸」 「偏光軸」 を とそれぞれ改める。 (17) 原判決25頁22行目の「光方向」を「偏光方向」と改める。 (18) 原判決27頁4行目の「当業者」を「当業者が」と改める。 (19) 原判決31頁16行目の「同別紙の図2」を「原審被告第3準備書面添付 図面Aの2」と改める。 (20) 原判決31頁24行目の「C´-2」を「C2´-2」と改める。 (21) 原判決31頁25行目の「C´」を「C」と,同行目の「C2´」を「C 2」と,同行目から26行目にかけての「C2-2´」を「C2´-2」と, それぞれ改める。 (22) 原判決33頁22行目の「2(7)ア」を「(7)ア」に改める。 (23) 原判決34頁12行目の「被告による上記アの」を「被控訴人の前記前提 事実(7)アによる」と改める。 (24) 原判決34頁12行目の「11億7800万円」「21億9800万円」 を と改める。 (25) 原判決34頁17行目及び20行目の「1億1780万円」を「2億19 80万円」とそれぞれ改める。 4 当審における当事者の補充主張 (1) 争点3-2(本件訂正により無効理由が解消するか)について 【控訴人の主張】 ア 甲26(参考資料3)発明について (ア) 甲26(参考資料3)発明は,「ワーク50を往復移動させて,光照 射部20B→20A→20A→20Bのように偏光光を照射するように 5 した」構成,すなわち基板を往復移動させる構成を有するものとして認 定されるべきではない。 (イ) 引用文献から認定される引用発明は,本件特許の請求項及び本件明細 書に接していない本件特許出願当時の技術的知識を有する当業者が,当 該発明の課題を念頭に置いたときに,当該引用文献の記載のみから想到 することができるものでなければならない。 (ウ) 甲26(参考資料3)公報に開示されている発明は,ワークの大型化 により複数の偏光素子を並べて使用せざるを得ないことに伴って,偏光 素子間に境界部が生じ,その境界部の照度が低下することによって照度 分布が悪化するという課題を解決するため,搬送方向に沿って光照射部 を複数段配置し,かつ,各段の偏光素子間の境界部が搬送方向に対して 互いに重ならないようずらして配置することで,光配向膜全体に均一な エネルギー分布で偏光光を照射する光配向用偏光光照射装置を提案する ものである。そのため,照射対象のワークについては,単に「光配向膜」 とのみ特定し,これが長尺であるか基板であるか等の態様を発明の構成 として特定していないし,光配向膜の搬送機構の構成についても何ら特 定していない。 確かに,甲26(参考資料3)公報の段落【0017】には,ワーク 50は「矩形状のワークであってもよい」,「ワーク50を往復させて …も良い。」との記載がある。しかし,甲26(参考資料3)公報に開 示されている発明は,上記のとおり,光照射部を多段に構成することに よって課題を解決するものである以上,この課題との関係ではワークを 往復移動させる必要はない。そのため,甲26(参考資料3)公報には, ワークを往復移動させることの利点や,往復移動させないことによる不 6 都合について,開示も示唆も一切されていない。 したがって,甲26(参考資料3)公報の段落【0017】の「往復 させて…も良い」との記載に接した当業者は,甲26(参考資料3)公 報に開示されている発明においてはワークを往復移動することが望まし いという意味ではなく,甲26(参考資料3)公報に開示されている「光 配向膜全体に均一なエネルギー分布で偏光光を照射する」という課題と の関係で,ワークを往復させても不都合はないという程度の意味にすぎ ないと理解する。 (エ) これに対し,甲26(参考資料3)公報の開示に接した当業者が, 「ス ループット向上」との観点で矩形状のワークを搬送する構成を考えた場 合,ワークを往復移動させる構成は,照射済みワークの搬出と未照射の ワークの搬入とに要する時間が全てタクトタイムとして加算され,スル ープットが悪化することが明らかであるから,当業者は,矩形状のワー クの場合には,複数個のワークを片道移動で搬送し続ける構成が最も効 率的であり,往復移動させる構成はむしろ回避すべきであると理解する。 したがって,甲26(参考資料3)公報に記載も示唆もされていない 「スループット向上」という課題を設定した場合に,当業者が,甲26 (参考資料3)公報に基づいて,光配向用偏光光照射装置において矩形 状のワークを往復移動させる構成を採用することはあり得ない。 (オ) 以上のとおり,「スループット向上」との課題に直面した当業者が, 甲26(参考資料3)公報に開示されている発明として認識するのは, 矩形状のワークの場合も,往復移動させずに片道移動で搬送し続ける構 成の発明である。 したがって,往復移動に関する構成は,一致点ではなく相違点と認定 7 されるべきである。 イ 相違点1-1及び1-2に係る構成の容易想到性について 次のとおり,当業者は,甲26(参考資料3)発明及び甲10(審判甲 2)発明に基づいて,後記(本判決第3の2(1)ア(イ))の相違点1-1及 び1-2に係る構成を容易に想到できない。 (ア) 組み合わせる動機付けがないこと a 技術分野及びステージ動作要件の相違 甲26(参考資料3)公報に開示されている発明は,液晶分子を挟 む配向膜を作製する偏光光照射装置に関する発明である。これに対し, 甲10(審判甲2)公報記載の発明は,基板に回路パターンを露光転 写する装置に関する発明であって,対象とする装置が全く異なる。 また,甲26(参考資料3)公報に開示されている装置は,配向膜 に偏光光を一定時間照射して配向を形成するものであるから,配向膜 付きの基板を必ず往復移動させなければならないものではなく,片道 移動でも構わない。そして,基板全体に均一に偏光光を照射する必要 があるものの,基板を連続的に搬送しながら偏光光を照射できるから, 基板一枚当たりの処理時間を短くする構成も想定し得る。 これに対し,甲10(審判甲2)公報に開示されている発明は,回 路基板にマスクパターンを転写する装置であって,基板の進行方向(原 判決が認定した甲10(審判甲2)発明におけるX方向)に垂直な方 向(同Y方向)に複数のマスクを一定の間隔を空けて配置することを 特徴とする。そのため,基板が照射領域を一度通過して回路パターン の露光転写がされただけでは,基板全体に回路パターンが露光転写さ れない。すなわち,甲10(審判甲2)公報に開示されている発明に 8 おいては,基板が必ず二度照射領域を通過する必要がある上に,往路 における照射と復路における照射とは,互いに重ならない異なる領域 に対してされなければならない。また,基板上の所望の位置に精度良 くパターンを形成しなければならないため,マスクの大きさに対応す る領域ごとに基板の搬送を逐次停止し,マスクと基板との位置合わせ を行い,その後に露光光を照射するという動作を必要とし,相当程度 の時間を要することが前提となっている。 このように,甲26(参考資料3)発明と甲10(審判甲2)発明 とでは,装置が全く異なっている上に,ステージ動作に要求される条 件さえも異なっている。 b 技術的課題の相違 甲26(参考資料3)公報に開示されている発明においては,基板 が一度照射部を通過すれば,基板の全面に露光する作業が完了するか ら,基板を往復移動させる構成を採用する必要はない。そのため,基 板を往復移動させる構成を有する甲26(参考資料3)発明も想定し 得るとしても,上記ア(エ)のとおり,「スループット向上」との課題 を念頭に置いた当業者は,矩形状のワークの場合には,往復移動では なく,片道移動で搬送し続ける構成が最も効率的であると理解する。 これに対し,甲10(審判甲2)発明は,マスク保持部及び照射部 の数量を削減しつつ,基板を往復移動させることで,スキャン露光装 置の製造コストを大幅に低減するという効果を実現するものであるか ら,基板の往復移動が必須の構成となっている。すなわち,甲10(審 判甲2)発明における「スループット向上」との課題は,「基板を露 光領域に対して往復させる」という構成が前提となっている。 9 c 往復移動動作の共通性について 被控訴人は,甲26(参考資料3)発明と甲10(審判甲2)発明 とは,基板を「往復移動可能なスキャン露光装置」として共通するか ら,両発明を組み合わせる動機付けがあると主張する。しかし,基板 の「往復移動」は,スペースが存在しさえすれば可能であるから,両 発明の技術分野の共通性を裏付けるものと評価することはできない。 また,甲10(審判甲2)発明におけるステージは,往路移動の後 に,当該移動方向に対して垂直の方向へ移動し,次いで復路移動する という,コの字型の移動を必須としている。これに対し,甲26(参 考資料3)発明におけるステージは,往路移動後,その位置から直ち に復路移動を開始するから,甲10(審判甲2)発明におけるコの字 型の移動とは異なる。 したがって,本件各訂正発明に接していない当業者は,甲26(参 考資料3)発明と甲10(審判甲2)発明において,何ら共通点を見 出すことができない。 (イ) 組合せの阻害要因 甲10(審判甲2)発明においては,マスク保持部及び照射部の数量 を削減した構成を採用したことにより,単に基板を往復移動させるだけ ではなく,復路移動の前にY方向へ移動させることも必須となっている。 すなわち,単なる往復移動(動作B及び動作C)だけではなく,Y方向 への移動(動作A)を含めた一連の動作が必須であることを前提として, スループット向上という甲10(審判甲2)発明の課題が出てくるので あって,スループット向上という目的のために往復移動させているので はない。 10 そうすると,動作Aの存在は,スループット向上との課題を解決しよ うとする当業者が,甲26(参考資料3)公報における実施例と甲10 (審判甲2)発明とに接した場合に,甲26(参考資料3)発明に甲1 0(審判甲2)発明の構成を組み合わせるよりも,甲26(参考資料3) 公報における実施例のように,矩形状のワークの場合も片道移動で搬送 し続ける構成とする方が良いと想到することを基礎付けるものである。 したがって,動作Aの存在は,甲26(参考資料3)発明と甲10(審 判甲2)発明の組合せを阻害する要因である。 (ウ) 甲26(参考資料3)発明に甲10(審判甲2)発明を組み合わせて も本件各訂正発明に至らない a 仮に甲26(参考資料3)発明と甲10(審判甲2)発明とを組み 合わせたとしても,甲10(審判甲2)発明には,本件訂正発明1, 2及び4における「続くように」との構成は開示されていないから, 本件訂正発明1,2及び4に想到することは容易でない。 すなわち,この「続くように」との文言は,「一方のステージの復 路移動の開始後,すぐに(あまり時間を置かずに)他方のステージの 往路移動が開始する」ことを許容するものである。偏光光の照射領域 外の移動速度は,照射領域での移動速度よりも速いから,タクトタイ ムを短くするためには,遅くとも復路移動をしている一方のステージ 上に載置された基板への偏光光の照射が終わる前に,他方のステージ が往路移動を開始しなければならない。 したがって,本件訂正発明1,2及び4における「前記第一(二) のステージの前記第一(二)の側への復路移動に続くように前記第二 (一)のステージの前記照射ユニット方向への往路移動を行わせ」と 11 の記載は,少なくとも復路移動中の一方のステージ上の基板への偏光 光の照射が終わった後に,他方のステージが往路移動を開始する構成 を含むものではない。 b これに対し,甲10(審判甲2)発明が開示しているのは,復路移 動中の基板Wに対する転写露光が終了した後に,基板W´の往路移動 が開始する構成である。すなわち,甲10(審判甲2)発明によって 実現されるスループット向上の効果は,一方の基板の往復移動(すべ ての露光動作)と他方の基板の搬入・搬出動作をオーバーラップさせ る程度のものにすぎない。 c そうすると,甲10(審判甲2)発明には本件訂正発明1,2及び 4の「続くように」に相当する構成は開示されていないから,甲26 (参考資料3)発明に甲10(審判甲2)発明を組み合わせたとして も,本件訂正発明1,2及び4に想到することは困難である。 ウ 相違点4に係る構成の容易想到性について 次のとおり,当業者は,甲26(参考資料3)発明,甲13(審判甲5) 発明及び周知技術に基づいて,後記(第3の2(1)ア(イ))の相違点4に係 る構成を容易に想到できない。 (ア) 甲13(審判甲5)発明を組み合わせることについて a 甲13(審判甲5)発明の走査手段 次のとおり,甲13(審判甲5)発明の走査手段は,本件訂正発明 3及び4の基板アライナーと全く異なるものである。 (a) アライメントの際に利用する情報及びその取得のタイミングの相 違 甲13(審判甲5)発明は,偏光子ホルダの熱膨張や振動に起因 12して石英基板偏光子の位置がずれ,これによって生じる偏光光の偏光方向の回転ずれを,ステージを回転させて相殺するものである。 そのため,甲13(審判甲5)発明において位置調整に用いられる情報は,偏光子を介して照射される偏光光の偏光方向である。 また,甲13(審判甲5)発明は,偏光方向の回転ずれを検出するために,単位偏光子ごとに偏光センサーを備えている。この偏光センサーは,基板が載置されるステージ内,又はステージと同じ高さでステージに隣接した位置に配置される(甲13の図3及び図14参照)。偏光センサーは,偏光光の偏光方向を検出する時には,偏光光照射手段の下方に位置し,単位偏光子を介して照射される偏光光を受けて,偏光方向の情報を検出する。そして,この情報を処理して,偏光方向の回転ずれを相殺するステージの回転角度を算出し,ステージを回転させる。偏光方向についての情報の取得は,複数の基板に照射する場合であっても,照射開始時に一度行うだけである。 一方,本件訂正発明3及び4においては,基板上に設けられたアライメントマークの位置情報に基づいて基板の向きを調整するとされていることからも明らかなように,ステージ上に基板が載置されている時に当該基板の位置情報を取得する。この位置情報は,照射ユニットとは別個に設けられたアライメントセンサによって取得され,基板アライナーは,当該情報に基づいて,照射される偏光光の偏光方向に対して基板を所定の向きに調整する。そして,基板の位置情報は,基板をステージ上に載置する度に取得する必要がある。 このように,本件訂正発明3及び4と甲13(審判甲5)発明と 13 では,アライメントに利用する情報及びこれを取得するタイミング が異なっており,ひいてはその具体的構成も全く異なるものである。 (b) 課題の相違 甲13(審判甲5)発明が解決しようとする課題は,偏光光の偏 光方向に回転ずれが生じているということにあり,偏光センサーに よってこれを検出し,ステージを回転させることで,偏光方向の回 転ずれを相殺している。 これに対し,本件訂正発明3及び4が解決しようとする課題は, 短いタクトタイムで効率の良い処理を可能にすることと,偏光光の 偏光方向に対して基板の向きを精度良く所定の向きに合わせること にある。本件訂正発明3及び4は,これらの課題を解決するために, 2台のステージと,基板に設けられたアライメントマークに基づい て基板の位置情報を検出するアライメントセンサ,及び基板の向き を調整する基板アライナーを備えることで,一方の基板に偏光光を 照射する間に,他方の基板の搭載・回収のみならず,偏光光の偏光 方向に対して基板の向きを精度良く所定の向きに合わせることを可 能とし,タクトタイムを増加させることなく,基板の載置に伴う位 置ずれの解消を可能としている。すなわち,本件訂正発明3及び4 は,2台のステージ,アライメントセンサ及び基板アライナーを併 せ持つことによって,はじめて上記の課題を解決する発明である。 したがって,本件訂正発明3及び4と甲13(審判甲5)発明は, 解決すべき課題,ひいては技術思想においても全く異なるものであ る。 b 組み合わせる動機付けがないこと 14 被控訴人は,光配向膜と光照射部の偏光方向との精度という甲26 (参考資料3)発明が当然に有する課題を解決するために,甲26(参 考資料3)発明に甲13(審判甲5)発明から導出された構成を採用 できると主張する。 しかし,一般的に光配向膜と光照射部の向きとの精度が考慮される としても,基板は無秩序に載置されるのではなく,ロボットなどの基 板載置手段によって一定程度以上の精度で載置される。そうすると, 基板の向きの精度を更に向上させる必要性がある場合にはじめて,基 板を載置する精度の向上という組合せの動機付けとなる課題が存在し 得ることになるところ,甲26(参考資料3)公報は基板と光照射部 の向きの精度について一切言及していないから,当該文献からは上記 課題を認識することができない。 c 組合せの阻害要因 (a) スループットの低下 甲13(審判甲5)発明においては,偏光センサーが偏光光の偏 光方向を検出し,その情報に基づいてステージの調整を行う。その 一方で,基板に偏光光を照射している間は,その偏光方向を偏光セ ンサーで検出することはできない。すなわち,基板に偏光光を照射 する時間とは別に偏光方向の検出時間が必要となるから,スループ ットが低下することになる。 したがって,仮にスループット向上という課題の共通性を動機付 けとして,甲26(参考資料3)発明と甲10(審判甲2)発明を 組み合わせられるとしても,更に甲13(審判甲5)発明を組み合 わせることについては,スループット低下という阻害要因がある。 15 (b) 組み合わせても本件訂正発明3及び4に至らない 甲13(審判甲5)発明における偏光センサーは,照射される偏 光光の偏光方向を検出するものであって,ステージ上に載置された 基板の向きに関する情報を取得するものではないから,偏光光の偏 光方向とステージ上に載置された基板の向きとの関係情報を取得す ることはできない。すなわち,甲13(審判甲5)発明は,ステー ジ上に載置される基板は,常に理想の位置に存在することを前提と する発明である。 したがって,甲26(参考資料3)発明に甲13(審判甲5)発 明を組み合わせたとしても,本件訂正発明3及び4の基板アライナ ーの構成に相当するものに至らないから,両発明を組み合わせるこ とについて阻害要因がある。 (イ) 周知技術を組み合わせることについて a 甲26(参考資料3)発明,甲13(審判甲5)発明及び周知技術 の組合せについて (a) 技術分野の相違 被控訴人が周知技術を開示しているとして挙げた文献は,ラビン グ用の布を回転させて基板をラビングする装置を開示するものか (乙 22の2〜22の4),基板の一部に照射を行い,その後,照射位 置を移動して,別の部分に照射を行う,との動作を繰り返し,最終 的に基板全体に照射するというステップアンドリピート方式によっ て,基板に偏光光を照射する装置を開示するもの(乙22の5), 偏光光の偏光方向を検出することなく,基板とマスクとの位置合わ せを行っているもの(乙22の7)にすぎない。すなわち,これら 16 の文献は,いずれも甲13(審判甲5)発明とは関係のない技術を 開示するものであるから,当該文献に開示されている技術と甲13 (審判甲5)発明とを組み合わせることは困難である。 (b) 組み合わせても本件訂正発明3及び4に至らない 甲13(審判甲5)発明の偏光センサーは偏光光の偏光方向を検 出するものであるのに対し,被控訴人が周知技術と主張する技術は 基板位置を検出するものであるから,両者は置換できるものではな い。 また,上記(ア)c(b)のとおり,甲13(審判甲5)発明の偏光 センサーは,照射される偏光光の偏光方向とステージ上に載置され た基板の向きとの関係情報を取得するものではない。そして,被控 訴人が周知技術を開示しているとして挙げたいずれの文献において も,照射される偏光光の偏光方向とステージ上に載置された基板の 向きとの関係情報を取得する点については一切開示がない。 さらに,甲13(審判甲5)発明と周知技術とを組み合わせたも のがどのような構成を有することになるのかについても,甲13(審 判甲5)公報及び被控訴人が主張する文献からは一切認識すること ができない。 したがって,甲26(参考資料3)発明に,甲13(審判甲5) 発明と被控訴人が周知技術と主張する技術を組み合わせても,上記 の関係情報を前提とする本件訂正発明3及び4の基板アライナーの 構成に相当するものに至らない。 【被控訴人の主張】ア 甲26(参考資料3)発明について 17(ア) 控訴人は,「スループット向上」との課題を設定した場合に,当業者 が,甲26(参考資料3)公報に基づいて,光配向用偏光光照射装置に おいて矩形状のワークを往復移動させる構成を採用することはあり得な いと主張する。 しかし,甲26(参考資料3)公報に開示されている発明において, スループットの更なる向上という課題は,当該発明の実施形態それぞれ について成立するのであって,実施形態の優劣によってその成否が左右 されることはない。 配向処理後所定の長さに切断して使用するフィルム状の長尺ワークと, 液晶パネルの大きさに成形された矩形状のワークとは,本来別製品であ るから,製造工程においてどちらを選択するかは既に特定されており, タクトタイムの長短によって当該選択が左右される訳ではない。 したがって,光配向用偏光光照射装置におけるスループットの向上は, 長尺ワーク及び矩形状ワークのいずれにおいても当然検討すべき技術的 課題にほかならない。 (イ) なお,矩形状ワークの場合であっても,次のとおり,往復移動構成の 方がスループットの向上に資する。 甲26(参考資料3)公報に開示されている発明においては,長尺ワ ークが1個であることを前提としているから,矩形状ワークもまた1個 である。 片道移動構成の場合には,ワークの移動開始位置において未照射のワ ークの搬入を行い,ワーク移動終了位置において照射済みワークの搬出 を行うから,当然の帰結として,搬入及び搬出の作業を同時に進行させ ることはできない。 18 これに対し,往復移動構成の場合には,ワークの移動開始位置と移動 終了位置とが共通するものの,ワークの搬入及び搬出を同時に行うこと ができるから,明らかにタクトタイムを削減し得る。 イ 相違点1-1及び1-2に係る構成の容易想到性について (ア) 動機付けの存在 次のとおり,当業者においては,甲26(参考資料3)発明と甲10 (審判甲2)発明とを組み合わせる動機付けがある。 甲26(参考資料3)発明と甲10(審判甲2)発明とは,往復移動 可能なスキャン露光装置として共通する。また,甲10(審判甲2)発 明に係る装置は,基板上にマスクパターンを露光転写する装置全般を包 含しており,回路基板を作製するための装置に限定されている訳ではな い。さらに,甲26(参考資料3)発明と甲10(審判甲2)発明とは, 偏光光露光装置として使用可能な点においても共通する。 したがって,当業者においては,このような共通性に着目し,スルー プットの向上を目的として,甲26(参考資料3)発明の往復移動構成 にステージを2台備える甲10(審判甲2)発明の構成を組み合わせよ うとする動機付けがあるというべきである。 控訴人は,スループット向上という課題を前提とすると,甲26(参 考資料3)発明と甲10(審判甲2)発明とを組み合わせる動機付けが 生じ得ないと主張する。しかし,上記ア(イ)のとおり,そもそも往復移 動構成がスループットを悪化させるという前提自体誤りであるから,控 訴人の上記主張も失当である。 (イ) 組合せの阻害要因について 控訴人は,甲10(審判甲2)発明における動作Aの存在が組合せを 19 阻害する要因であると主張する。 しかし,この動作Aは,甲10(審判甲2)発明の課題のうち,マス ク保持部等の数量削減による製造コスト低減に寄与するものの,ステー ジを2台備える構成を採用してスループットを向上させるという課題と は無関係である。したがって,マスクパターンや,動作AのようなY方 向への移動を必要としていない甲26(参考資料3)発明に甲10(審 判甲2)発明を組み合わせようとする際には,甲10(審判甲2)発明 から動作Aを捨象した構成を当然に採用し得る。 そして,動作Aはマスクの存在を前提とし,その数量削減を実現する ものであって,マスクの使用と不可分の関係にあるから,甲26(参考 資料3)発明との組合せの際に,動作Aも捨象し得ることは当然である。 さらに,上記のとおり,動作Aは,スループット向上に寄与していな いから,スループット向上を共通の技術的課題として甲26(参考資料 3)発明と甲10(審判甲2)発明との組合せの可否を検討する際の阻 害要因とならない。 ウ 相違点4に係る構成の容易想到性について (ア) 甲13(審判甲5)発明を組み合わせることについて a 甲13(審判甲5)発明から導出する基板アライナーについて (a) 甲26(参考資料3)発明を含む偏光光露光装置を用いて,偏光 光を照射して配向膜を作製する際には,基板上で液晶分子が所定の 配向方向となるように基板のアライメント,すなわち位置調整をす ることが必要不可欠である。この基板アライメントは,「基板の位 置を液晶分子の配向方向に沿った正しい配置となるように調整する 工程」と定義できる。そして,基板アライメントにおけるアライメ 20 ントマーク及びアライメントセンサは,基板の位置と基板における 配向方向を正しい配置関係とするために使用されるものであるとこ ろ,これらは周知の技術である。 この基板アライメントの趣旨及び定義に基づけば,@ ステージ 上に載置された基板の向きを検出すること,A 各基板の向きを, 検出された向きから,一律に配向方向に適合する向きとするために, ステージを回転すること,との構成は,基板アライナーに必要不可 欠なものである。 したがって,甲13(審判甲5)発明から,配向処理を目的とす る偏光光照射装置において,円周方向に調整することにより基板の 位置と液晶の配向方向の調整を行うための基板アライナーの構成を 導出できる。 (b) また,甲26(参考資料3)発明の偏光光照射装置においては, 複数列の偏光素子ユニットの各偏光素子の偏光方向は一致しており, かつ,その偏光方向が確定していることを技術的前提としている。 この偏光方向が一致し,かつ,確定している状態は,偏光センサー によって偏光方向を検出し,その調整をすることで実現可能である。 そして,甲26(参考資料3)発明に甲13(審判甲5)発明を 適用する場合には,各偏光素子の偏光方向が一致しているという甲 26(参考資料3)発明における技術的前提に立脚することができ るから,甲13(審判甲5)発明における各偏光センサーの検出に より「代表角」を算出するプロセスを捨象することが当然に可能で ある。 (c) なお,甲13(審判甲5)発明における基板アライナーの構成は, 21 偏光センサーによって偏光光の偏光方向を検出する構成を包摂して いるが,本件訂正発明3及び4は「搭載された基板の向きを,照射 される偏光光の偏光軸に対して所定の向きに円周方向に調整する基 板アライナー」と規定し,偏光軸が既知の場合と偏光軸を検出する 場合との双方を包摂しており,偏光光の偏光方向の検出の要否を特 定していない。すなわち,偏光方向の測定手段を明示していないこ とによって,偏光方向の検出を不要とする構成が明らかにされてい るにすぎない。 b アライメントの際に利用する情報及びその取得のタイミングの相違 について (a) 控訴人は,本件訂正発明3及び4と甲13(審判甲5)発明とで は,アライメントの際に利用する情報が相違するから,甲13(審 判甲5)発明の走査手段は本件訂正発明3及び4の基板アライナー に相当しないと主張する。 しかし,上記aのとおり,偏光光を照射して配向膜を作製する際 に使用される基板アライメントは,基板の位置を配向方向に沿った 正しい配置となるように調整するためのものである。そうすると, 甲13(審判甲5)発明において,各単位偏光子の偏光方向を検出 し,かつ,当該偏光方向の回転ずれを相殺するような回転角度によ ってステージを回転させているとしても,甲13(審判甲5)発明 から「搭載された基板の向きを,照射される偏光光の偏光軸に対し て所定の向きに円周方向に調整する基板アライナー」との構成が導 出できることに変わりはなく,アライメントの際に利用する情報の 相違は,この点を左右しない。 22 すなわち,甲13(審判甲5)発明から導出した基板アライナー の構成は,基板の位置と配向方向との回転ずれに係る情報を検出す る構成が存在していることを当然の前提としている。 (b) また,控訴人は,本件訂正発明3及び4と甲13(審判甲5)発 明とでは,アライメントの際に利用する情報を取得するタイミング が相違しているとも主張する。 甲13(審判甲5)発明において,偏光方向に関する情報がステ ージを単位として検出されており,個別の基板を単位としていない のは,基板がステージに載置される位置が確定しているからにほか ならない。 これに対し,本件訂正発明3及び4は,ステージ上の個別の基板 の載置位置が必ずしも確定していないことを前提とした上で,個別 の基板を単位としてアライメントマーク及びアライメントセンサを 介して,偏光方向との回転ずれに関する情報を検出している。 しかし,アライメントマーク及びアライメントセンサによって上 記回転ずれの情報を取得することは,前記のとおり周知の技術的事 項である。そうすると,甲13(審判甲5)発明において,アライ メントマーク及びアライメントセンサによる周知の技術構成を採用 し,甲13(審判甲5)発明固有の偏光センサーによる偏光方向に 関する情報及びアライメントセンサによる基板の位置に関する情報 の双方によって,偏光光の偏光方向と基板の位置との間の回転ずれ に関する情報を把握し,基板アライメントを行うことは当然可能で ある。 すなわち,上記周知技術を採用することによって,偏光光の偏光 23 方向と基板の位置との間の回転ずれを調整する場合には,基板の位 置情報をステージに載置する度に取得することになるから,控訴人 の主張は失当である。 c 課題の相違について 本件訂正発明3及び4においてタクトタイムが削減できるのは,一 方のステージで基板アライメントが行われている間に,他方のステー ジの移動及び偏光光の照射を実現するという,ステージを2台備える 方式を採用しているからであって,基板アライメント自体がタクトタ イムの削減に格別寄与する訳ではない。すなわち,アライメントセン サの採用とタクトタイムの削減とは,何ら関係がない。 甲26(参考資料3)発明と甲10(審判甲2)発明とを組み合わ せた場合には,必然的にタクトタイムの削減が実現できるのであるか ら,この構成に甲13(審判甲5)発明から導出される基板アライナ ー構成を適用した場合には,タクトタイムの削減と基板の向きを精度 良く調整するという作用効果を両立させることができる。 (イ) 甲26(参考資料3)発明,甲13(審判甲5)発明及び周知技術の 組合せについて a 動機付けの存在 (a) 甲13(審判甲5)公報の発明の詳細な説明中,発明の効果の欄 に,「基板に対して走査させる紫外線の偏光方向を事前に確認する ことが可能となる」ことが指摘されており,また,「検知された各 単位偏光子の偏光方向に基づいて,単位偏光子の取り付けを手動, あるいは,自動で調整することで,基板に対し良好な配向特性を付 与することが可能となる」(段落【0026】)と記載されている 24 ことからすると,甲13(審判甲5)発明において,偏光センサー が取得した情報に基づいてステージの角度を調整する目的は,基板 の角度の調整にあることが明らかである。すなわち,甲13(審判 甲5)発明は,偏光センサーが偏光光の偏光方向を検出することに よって,偏光方向とステージ上の既知の基板の向きとの回転ずれに よる関係情報を取得しているのである。 (b) 液晶ディスプレイ製造装置の技術分野において,基板にアライメ ントマークを設け,アライメントマークの位置情報によって,基板 の向きとの関係情報を得ることが周知技術であることは明らかであ る。 このうち,乙22の2〜22の4が開示するラビング方式におけ る基板アライメントにおいては,ラビング方向が基板において予定 されている液晶分子の配向方向に当たるから,アライメントマーク から得られる基板の方向とラビングに沿って予定されている配向方 向との回転ずれに基づく基板アライメントが開示されていることに なる。 また,乙22の7には,偏光素子を通過した偏光光をマスクに照 射する一方,ワークステージがX,Y,Z,θ方向にそれぞれ移動 可能とした上で,ワークに設けられたアライメントマークを関係情 報とし,かつ,マスクを介して上記偏光光の偏光方向を基準とする 基板アライナーの構成が開示されている。 なお,乙22の5には,非偏光の紫外レーザー光に対し,偏光素 子によって直線偏光を行う実施形態も開示されており,周知技術が 甲13(審判甲5)発明とは関係ないとする控訴人の主張は前提に 25 おいて誤っている。 上記の周知技術に係る基板アライナーは,ラビング方式による配 向処理の方向又は偏光光の偏光方向が確定しているものの,配向方 向に対する基板の向きが不確定である場合に採用される周知技術で ある。ロボットが基板をステージ上に載置する場合であっても,ロ ボットが作動する前段階における基板の配置の不揃いや,基板がス テージ上に載置された際の衝撃に起因して,基板の向きに偏差が生 じ得る。 そして,甲26(参考資料3)発明においても,甲13(審判甲 5)発明においても,アライメントの対象となる確定した方向(偏 光方向)に対して,基板の向きが不確定である場合に,周知技術で あるアライメントマーク及びアライメントセンサを採用して基板の 向きを調整することは,当然に採用され得る技術的手法にすぎない。 (c) そして,甲26(参考資料3)発明と甲13(審判甲5)発明か ら導出された基板アライナーとは,偏光方向が確定している点にお いて共通している。 (d) 以上のような共通性を考慮すると,甲26(参考資料3)発明に 甲13(審判甲5)発明から導出された基板アライナーを適用した 上で,周知技術であるアライメントマーク及びアライメントセンサ を採用することについて,動機付けがあるといえる。 b 組合せにより本件訂正発明3及び4に至ること 甲13(審判甲5)発明においては,偏光センサーが偏光光の偏光 方向を検出することによって,偏光方向と既知の基板の向きとの回転 ずれに基づく関係情報が得られる。これに対し,上記a(b)において主 26 張した周知技術においては,アライメントセンサがアライメントマー クを設けた基板の向きを検出することによって,配向方向と基板の向 きの関係情報を得ている。 これを前提とすると,双方の関係情報に基づく回転ずれを甲13(審 判甲5)発明の制御部が把握し,かつ当該回転ずれの調整による基板 アライメントを実現する場合には,「アライメントセンサにより検出 されたアライメントマークの位置情報に基づいて,搭載された基板の 向きを,照射される偏光光の偏光軸に対して所定の向きに円周方向に 調整する基板アライナー」という,本件訂正発明3及び4に係る構成 となることは明らかである。 c 阻害要因の不存在 (a) スループットの低下について 上記の基板アライナーに対し,アライメントセンサによって基板 のアライメントマークを検出するという周知の技術的事項を付加し た場合には,基板の移動前及び移動中に基板のアライメントを実現 することが可能であるから,控訴人が主張するようなスループット の低下はあり得ない。 現に,甲13(審判甲5)公報には,移動しながらアライメント を行う構成が開示されている(図14,15,20,21,23)。 (b) 照射領域と基板搭載位置との間のスペースについて 控訴人が主張するように,偏光光照射装置においては,偏光光の 偏光方向と基板の一辺の角度が様々な値となり得ることが技術常識 であるとすると,甲26(参考資料3)発明に甲10(審判甲2) 発明,甲13(審判甲5)発明及び周知技術を付加した構成とした 27 場合においても,このような技術常識に立脚して,照射領域と基板 搭載位置とのスペースを適宜設けることは,当該技術常識に基づい て当業者が容易かつ当然に想到し得る設計事項にすぎない。 (ウ) 控訴人の主張について 控訴人は,甲13(審判甲5)公報においても,被控訴人が周知技術 を開示しているとして挙げたいずれの文献においても,偏光方向と基板 の方向との関係情報を取得する点について何ら開示されていないと主張 する。 しかし,甲13(審判甲5)公報においては,偏光光の代表角を検出 した後,ステージの回転位置の調整を介して,基板の向きも調整されて いるというべきである。ラビング方式に関する文献においても,ラビン グが行われる基板における液晶の配向方向とアライメントマークによっ て検出される基板の向きとの回転ずれに基づく関係情報によって基板ア ライメントが行われていることは明らかである。 仮に,配向方向と基板の方向との関係情報を取得する構成がないとい うのであれば,当該関係情報に基づいて回転ずれを是正するという基板 アライメントを実現すること自体が不可能となるのであるから,そのよ うな帰結をもたらす控訴人の主張が失当であることは明らかである。 5 当審における当事者の新たな追加主張 (1) 争点3-2(本件訂正により無効理由が解消するか)について 【被控訴人の主張】 ア 相違点4に係る構成は,次のとおり,甲26(参考資料3)発明に周知 技術を直接適用することによっても,容易に想到できたものである。 イ 上記4(1)【被控訴人の主張】ウ(ア)a(a)のとおり,甲26(参考資料 28 3)発明において,ステージ上に載置された基板の向きを検出することと, 各基板を一律に配向方向に適合するような向きとするためにステージを回 転すること,という機構を備えた構成は,当然に採用すべき技術事項であ る。 そして,この場合に,アライメントマークを唯一の基準として上記の機 構を備えた基板アライナーを直接適用することは,当然の技術的手法であ る。 ウ したがって,当業者は,甲26(参考資料3)発明に,周知技術である 基板アライナーを直接適用することによっても,相違点4に係る構成に容 易に想到できるというべきである。 【控訴人の主張】ア 仮に,甲13(審判甲5)発明を適用することなく,甲26(参考資料 3)発明に周知技術を直接適用したとしても,次のとおり,当業者は相違 点4に係る構成に容易に想到することはできない。 イ 上記4(1)【控訴人の主張】ウ(ア)bのとおり,当業者は,ロボット等の 基板載置手段によってステージ上に載置された基板の向きの精度を更に向 上させようとする課題を甲26(参考資料3)公報から認識することがで きないから,アライメントマークを利用した基板アライナーを利用する動 機付けも存在しない。 また,本件訂正発明3及び4の基板アライナーは,アライメントセンサ によって,基板上に設けられたアライメントマークを検出して基板の位置 情報を取得し,この位置情報と偏光光の偏光方向についての情報とに基づ いて,偏光方向に対して所定の向きに基板を調整するものである。すなわ ち,本件訂正発明3及び4の基板アライナーは,基板と偏光光の偏光方向 29 との相対的な向きを合わせるものである。 ウ これに対し,被控訴人が周知技術を開示しているとして主張する文献に 開示されている基板アライナーは,そのような構成を有していないから, いずれも本件訂正発明3及び4の基板アライナーとは異なる。 そうすると,周知技術とされる基板アライナーを甲26(参考資料3) 発明に組み合わせても,本件訂正発明3及び4の基板アライナーの構成に 相当するものに至らない。 エ したがって,被控訴人が周知技術を開示しているとして主張する文献に 開示されているアライナーを組み合わせて本件訂正発明3及び4に想到す ることは困難である。 (2) 争点3-4(再訂正の再抗弁の主張は許されるか)について【控訴人の主張】 ア 被控訴人から,甲26(参考資料3)発明に周知技術である基板アライ ナーを直接適用することによっても,相違点4に係る構成に容易に想到で きるとの,当該組合せに基づく無効の抗弁が主張されたことから,これに 係る無効理由を解消するため,本件訂正発明3について,次の訂正(以下 「本件再訂正」という。)を行う再抗弁を主張する(以下,本件再訂正後 の請求項3に係る発明を「本件再訂正発明3」という。なお,本件再訂正 に係る構成には下線を付した。)。 「設定された照射領域に偏光光を照射する照射ユニットと, アライメントマークを有し,光配向用膜材付きの基板が載置されるステー ジと, 照射領域にステージを移動させることでステージ上の基板に偏光光が照射 されるようにするステージ移動機構と, 30前記ステージに載置された前記基板上の前記アライメントマークを検出するアライメントセンサとを備えており,ステージとして第一第二の二つのステージが設けられており,前記第一第二の各ステージには,前記アライメントセンサにより検出された前記アライメントマークの位置情報に基づいて,搭載された基板の向きを,照射される偏光光の偏光軸に対して所定の向きに円周方向に調整する基板アライナーが設けられ,ステージ移動機構は,照射領域の一方の側に設定された第一の基板搭載位置から第一のステージを照射領域に移動させ,前記照射ユニットにより偏光光が照射されている該照射領域を通過させるものであるとともに,照射領域の他方の側に設定された第二の基板搭載位置から第二のステージを照射領域に移動させ,前記照射ユニットにより偏光光が照射されている該照射領域を通過させるものであり,ステージ移動機構は,第一のステージ上の基板が照射領域を通過した後に第一のステージを第一の側に戻すとともに,第二のステージ上の基板が照射領域を通過した後に第二のステージを第二の側に戻すものであり,第一の基板搭載位置に位置した第一のステージと照射領域の間には,第二のステージに搭載された基板の向きを前記基板アライナーにより調整した後の該第二のステージ上の基板が照射領域を通過する分以上のスペースが確保され,第二の基板搭載位置に位置した第二のステージと照射領域の間には,第一のステージに搭載された基板の向きを前記基板アライナーにより調整した後の該第一のステージ上の基板が照射領域を通過する分以上のスペースが確保されており,前記第一のステージが,前記第一の基板搭載位置から照射領域に移動し, 31 前記照射ユニットにより偏光光が照射されている該照射領域を通過し,第 一の基板回収位置に戻る間に,前記第二のステージから照射済みの前記基 板を回収し,前記第二のステージに未照射の前記基板を搭載し,前記第二 のステージに対して前記基板アライナーによるアライメントを行い, 前記第二のステージが,前記第二の基板搭載位置から照射領域に移動し, 前記照射ユニットにより偏光光が照射されている該照射領域を通過し,第 二の基板回収位置に戻る間に,前記第一のステージから照射済みの前記基 板を回収し,前記第一のステージに未照射の前記基板を搭載し,前記第一 のステージに対して前記基板アライナーによるアライメントを行う, シーケンスプログラムを有する制御装置が設けられた ことを特徴とする光配向用偏光光照射装置。」 イ 控訴人は,特許庁に対し,本件再訂正に伴う訂正審判請求又は訂正請求 をする用意があるところ,本件無効審判が請求され,本件審決に対する審 決取消訴訟が係属中であるため,現時点において,いずれの請求も行うこ とができない。 【被控訴人の主張】 ア 特許法104条の3第1項の規定は,判断の対象となる特許について, 特許庁において無効審判手続を経ているか,又は今後無効審判手続が可能 であることを前提としている。 しかし,本件再訂正発明3については,特許庁での無効審判手続を経て いない。また,本件審決に係る審決取消訴訟は,現在も係属中であるから, 控訴人は,現時点において,本件再訂正発明3に訂正するための審判等を 請求することもできない。さらに,将来,本件再訂正に係る訂正の手続を 経ることが可能であることの立証もない。 32 イ 控訴人は,平成29年10月11日の当審第3回口頭弁論期日において, 本件再訂正発明3に基づく権利主張をした。 しかし,控訴人は,平成28年8月4日の原審第5回弁論準備手続期日 において,本件各訂正発明に基づく権利主張を行ったところ,本件訂正請 求の際に,本件再訂正に係る訂正請求をした上で,遅くとも同日までに, 本件再訂正発明3に基づく権利主張をすることが可能であった。仮に,控 訴審において攻撃防御方法を提出できる時機に限ったとしても,控訴人は, 本件再訂正発明3に基づく権利主張を,平成29年6月12日の当審第1 回口頭弁論期日までにすることが可能であった。 したがって,本件再訂正に基づく主張は,故意により時機に後れて提出 された攻撃防御方法であるから,却下されるべきである。 (3) 争点3-5(本件再訂正は訂正要件を満たすか)について【控訴人の主張】 本件再訂正は,特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって,実質上 特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものには該当せず,願書に添付した 明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするもの である。 【被控訴人の主張】 争う。 (4) 争点3-6(本件再訂正により無効理由が解消するか)について【控訴人の主張】 ア 容易に想到できるものではないこと (ア) 甲10(審判甲2)発明においては,基板とマスクとの相対位置の調 整(アライメント)は,転写露光の直前に行われているから,基板とマ 33 スクとの相対位置合わせに要する時間がタクトタイムの増加を招いてい る。すなわち,甲10(審判甲2)公報は,一方の基板とマスクとの相 対位置の調整(アライメント)を,他方の基板が移動している間に行う という,本件再訂正発明3の構成を開示していない。 (イ) また,乙22の5に開示されている装置は,ステップアンドリピート 方式を採用しており,基板が照射領域の下方に位置する際に,基板のア ライメントを行うものであるから,これを組み合わせたとしても,本件 再訂正発明3における,一方の基板をアライメントしている間に他方の 基板に照射する,との構成が実現できない。乙22の7に開示されてい る装置についても同様である。 したがって,乙22の5及び22の7に開示されている基板アライナ ーを組み合わせて,本件再訂正発明3に想到することは,技術的に不可 能である。 イ 本件再訂正発明3の効果 本件再訂正発明3は,一方のステージが,照射領域への移動を含む往復 移動を行う間に,他方のステージにおいて,照射済み基板の回収,未照射 基板の搭載及び基板アライメントを行うことを特定することで,ステージ を2台備える構成と,基板アライナーとの関係を明確にし,基板の回収・ 搭載及びアライメントが,タクトタイムの増加を招かないことを明らかに したものである。 したがって,本件再訂正発明3は,短いタクトタイムと,基板の向きの 高い精度とを両立するとの特段の効果を奏する。 また,上記アライメントは,基板に設けられたアライメントマークをア ライメントセンサが読み取り,照射される偏光光の偏光方向に対する基板 34 の向き,すなわち,基板と偏光方向との相対的な向きを調整することで行 われる。 【被控訴人の主張】 甲10(審判甲2)発明におけるステージを2台備える構成は,一方のス テージが往復移動を行っている間,他方のステージが静止した状態となり, 基板の搬出及び搬入をすることを基本的な技術思想としている。 また,偏光光により配向処理を行う場合,ステージが照射領域に移動する 前の段階である静止した状態で基板アライメントを行うのが技術常識である。 したがって,一方のステージの往復移動の間に,他方のステージにおいて 基板の回収・搭載だけでなく,基板アライメントをも行うことは,当業者が 当然かつ必然的に選択する事柄であって,進歩性を有しない。 (5) 争点3-7(被告製品は本件再訂正発明3の技術的範囲に属するか)につ いて【控訴人の主張】 ア 本件再訂正により新たに追加された構成以外の構成要件は,本件訂正発 明3と同一であるところ,被告製品が本件訂正発明3の構成要件を充足す ることは,従前の主張のとおりである。 イ そして,被告製品は,「ステージ機構15aが,基板搬入搬出口14a に対応する基板搭載位置から照射領域13に移動し,UV偏光光照射光源 50により偏光光が照射されている照射領域13を通過し,基板搬入搬出 口14aに対応する基板回収位置に戻る間に,ステージ機構15bから照 射済みの基板を回収し,ステージ機構15bに未照射の基板を搭載し,ス テージ機構15bに対して基板回転軸20によるアライメントを行い,ス テージ機構15bが,基板搬入搬出口14bに対応する基板搭載位置から 35 照射領域13に移動し,UV偏光光照射光源50により偏光光が照射され ている照射領域13を通過し,基板搬入搬出口14bに対応する基板回収 位置に戻る間に,ステージ機構15aから照射済みの基板を回収し,ステ ージ機構15aに未照射の基板を搭載し,ステージ機構15aに対して基 板回転軸20によるアライメントを行う,シーケンスプログラムを有する 制御装置が設けられている,との構成を有する 」 (別紙被告製品図面参照)。 したがって,被告製品は,本件再訂正発明3に新たに追加された構成を 備えている。 ウ よって,被告製品は,本件再訂正発明3の技術的範囲に属する。 【被控訴人の主張】 従前の主張のとおり,被告製品は,本件再訂正発明3の構成要件のうち, 「ステージ移動機構」,「第一・第二の各基板搭載位置」,「基板アライナ ー」に該当する構成を有していない。 したがって,被告製品は本件再訂正発明3の技術的範囲に属しない。 |
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当裁判所の判断
1 裁判所も,控訴人の請求はいずれも理由がないものと判断する。その理由は, 後記(1)〜(20)のとおり改め,後記2のとおり当審における判断を付加するほか は,原判決「事実及び理由」の第4の1及び2(原判決34頁25行目から7 6頁15行目まで)に記載のとおりであるから,これを引用する。 (1) 原判決46頁25行目の「マスタ」を「マスク」と改める。 (2) 原判決47頁12行目の「マスタ」を「マスク」と改める。 (3) 原判決52頁下から3行目の「51C」を「51c」と改める。 (4) 原判決53頁5行目の「偏光手」を「偏光子」と改める。 (5) 原判決53頁16行目の「対する」を「対比する」と改める。 36 (6) 原判決56頁24行目の「マスタ」を「マスク」と改める。 (7) 原判決58頁20行目の「基板交換領域B1」を「基板保持領域B1」と 改める。 (8) 原判決60頁25行目から26行目にかけての「り,二つのステージをオ ーバーラップさせ」を削除する。 (9) 原判決62頁5行目の「後に続く。」を「後に従う。」と改める。 (10) 原判決62頁21行目の「排除」を「に限定」と改める。 (11) 原判決64頁20行目の「本件訂正発明1」を「本件訂正発明2」と改め る。 (12) 原判決65頁3行目の「訂正発明1」の前に「本件」を加える。 (13) 原判決69頁21行目の「光方向」を「偏光方向」と改める。 (14) 原判決70頁19行目の「アラインメントマーク」を「アライメントマー ク」と改める。 (15) 原判決72頁10行目の「液晶」の後に「基板」を加える。 (16) 原判決72頁18行目の「原点」を「M1」と改める。 (17) 原判決72頁25行目の「偏向光」を「偏光光」と改める。 (18) 原判決73頁19行目の「液晶表示」の後に「装置」を加える。 (19) 原判決74頁15行目の「構成に,」を「構成から,『前記第一第二ステ ージの各々は,基板を吸着するための吸着孔を有する,一体的に移動可能な 複数のピンを含む』との構成を除き,」と改める。 (20) 原判決76頁1行目冒頭の「発明」の後に「,甲13(審判甲5)発明」 を加える。 2 当審における付加判断 当審における当事者の補充主張及び新たな追加主張に鑑み,必要な限度で判 37断を加える。 (1) 争点3-2(本件訂正により無効理由が解消するか)について ア 本件各訂正発明と甲26(参考資料3)発明との対比 (ア) 甲26(参考資料3)発明の認定 控訴人は,甲26(参考資料3)発明を,基板を往復移動させる構成 を有する発明と認定すべきでないと主張する。 しかし,甲26(参考資料3)公報の段落【0017】には,光配向 処理の対象であるワークが,光配向膜が形成された液晶パネルの大きさ に整形された矩形状のワークであっても良く,この場合,ワークはワー クステージ上に載置され,直線移動させて光配向膜の光配向処理が行わ れるところ,一方向だけでなくワークを往復移動させて,例えば光照射 部20B→20A→20A→20Bのように偏光光を照射するようにし ても良いと明確に記載されているのであるから,甲26(参考資料3) 発明として,基板を往復移動させる構成を有する甲26(参考資料3) 発明を認定することに何ら誤りはない。 したがって,この点についての控訴人の主張を採用することはできな い。 なお,控訴人は,甲26(参考資料3)公報には,矩形状のワークに 関し,これを往復移動させることの技術的意義について開示も示唆もな いし,スループットの向上を解決課題とする場合,当業者は,スループ ットを悪化させることになるワークを往復移動させる構成ではなく,複 数個のワークを片道移動で搬送し続ける構成を採用するから,甲26(参 考資料3)発明が基板を往復移動させる構成を有するものとは認定でき ないと主張する。 38 しかし,本件各訂正発明の進歩性の検討をするために引用文献からこ れと対比する発明を認定する際,当該文献において複数の構成が開示さ れている場合には,当該文献に記載されている構成のうち,本件各訂正 発明と対比するための検討対象となる範囲内にあるものを認定すれば足 りるのであって,ある特定の技術的課題との関係で最良の構成を認定し なければならないとはいえない。 上記説示のとおり,甲26(参考資料3)公報の段落【0017】に は,ワークを往復移動させる構成が明確に記載されているから,控訴人 が主張するように,複数個のワークを片道移動で搬送し続ける構成の方 がスループット向上の観点からより優れたものであったとしても,本件 各訂正発明と対比するための検討対象として,ワークを往復移動させる 構成を有するものを認定することができるというべきである。 したがって,この点についての控訴人の主張を採用することはできな い。 (イ) 本件各訂正発明と甲26(参考資料3)発明との相違点 a 本件訂正発明1との相違点 次の相違点1-1,1-2及び相違点2において相違する。 <相違点1-1,1-2> 本件訂正発明1は,「ステージとして第一第二の二つのステージ が設けられて」いることから,「ステージ移動機構は,照射領域の 一方の側に設定された第一の基板搭載位置から第一のステージを照 射領域に移動させ,前記照射ユニットにより偏光光が照射されてい る該照射領域を通過させるものであるとともに,照射領域の他方の 側に設定された第二の基板搭載位置から第二のステージを照射領域 39に移動させ,前記照射ユニットにより偏光光が照射されている該照射領域を通過させるものであり,ステージ移動機構は,第一のステージ上の基板が照射領域を通過した後に第一のステージを第一の側に戻すとともに,第二のステージ上の基板が照射領域を通過した後に第二のステージを第二の側に戻すものであり,かつ,前記第一のステージの前記第一の側への復路移動に続くように前記第二のステージの前記照射ユニット方向への往路移動を行わせ,前記第二のステージの前記第二の側への復路移動に続くように前記第一のステージの前記照射ユニット方向への往路移動を行わせるものであり,第一の基板搭載位置に位置した第一のステージと照射領域の間には,第二のステージ上の基板が照射領域を通過する分以上のスペースが確保され,第二の基板搭載位置に位置した第二のステージと照射領域の間には,第一のステージ上の基板が照射領域を通過する分以上のスペースが確保されて」いるのに対し,甲26(参考資料3)発明では,ステージの個数が一つであることから,@ステージ移動機構は,第一の一のステージ上の基板が照射領域を通過した後に第一のステージを第一の側に戻すとともに,第二のステージ上の基板が照射領域を通過した後に第二のステージを第二の側に戻すものであり,かつ,前記第一のステージの前記第一の側への復路運動に続くように前記第二のステージの前記照射ユニット方向への往路運動を行わせ,前記第二のステージの前記第二の側への復路運動に続くように前記第一のステージの前記照射ユニット方向への往路運動を行わせる構成を有しない点(相違点1-1),及びA第一の基板搭載位置に位置した第一のステージと照射領域の間には,第二のステー 40 ジ上の基板が照射領域を通過する分以上のスペースが確保され,第 二の基板搭載位置に位置した第二のステージと照射領域の間には, 第一のステージ上の基板が照射領域を通過する分以上のスペースが 確保される構成を有していない点(相違点1-2)。 <相違点2> 本件訂正発明1では,「第一第二ステージの各々」は,「基板を 吸着するための吸着孔を有する,一体的に移動可能な複数のピンを 含む」のに対し,甲26(参考資料3)発明では,「ワークステー ジ」が「光配向膜51が形成された矩形状のワーク50」を「ワー クステージ上に載置」するための詳細な構成が特定されていない点。 b 本件訂正発明2との相違点 上記相違点1-1,1-2及び次の相違点3において相違する。 <相違点3> 本件訂正発明2の「照射ユニット」は,「第一第二の各ステージ が往路移動する際と復路移動する際の双方において各ステージ上の 基板に対し,偏光子からの偏光光を直接照射して,往路における照 射による露光量と復路における照射による露光量とが積算されるよ うにする」ものであるのに対し,甲26(参考資料3)発明の光照 射部20A,20Bは,このようなものと特定されない点。 c 本件訂正発明3との相違点 次の相違点1-1´,1-2´及び相違点4において相違する。 <相違点1-1´,1-2´> 本件訂正発明3では,「ステージ移動機構は,照射領域の一方の 側に設定された第一の基板搭載位置から第一のステージを照射領域 41 に移動させ,前記照射ユニットにより偏光光が照射されている該照 射領域を通過させるものであるとともに,照射領域の他方の側に設 定された第二の基板搭載位置から第二のステージを照射領域に移動 させ,前記照射ユニットにより偏光光が照射されている該照射領域 を通過させるものであり,ステージ移動機構は,第一のステージ上 の基板が照射領域を通過した後に第一のステージを第一の側に戻す とともに,第二のステージ上の基板が照射領域を通過した後に第二 のステージを第二の側に戻すものであり,第一の基板搭載位置に位 置した第一のステージと照射領域の間には,第二のステージ上の基 板が照射領域を通過する分以上のスペースが確保され,第二の基板 搭載位置に位置した第二のステージと照射領域の間には,第一のス テージ上の基板が照射領域を通過する分以上のスペースが確保され て」いるのに対し,甲26(参考資料3)発明では,@ステージ移 動機構は,第一の一のステージ上の基板が照射領域を通過した後に 第一のステージを第一の側に戻すとともに,第二のステージ上の基 板が照射領域を通過した後に第二のステージを第二の側に戻す構成 を有しない点(相違点1-1´),及びA第一の基板搭載位置に位 置した第一のステージと照射領域の間には,第二のステージ上の基 板が照射領域を通過する分以上のスペースが確保され,第二の基板 搭載位置に位置した第二のステージと照射領域の間には,第一のス テージ上の基板が照射領域を通過する分以上のスペースが確保され る構成を有していない点(相違点1-2´)。 <相違点4> 本件訂正発明3では,第一第二の各ステージは「アライメントマ 42 ークを有し,」「前記ステージに載置された前記基板上の前記アラ イメントマークを検出するアライメントセンサとを備えており,」 「前記第一第二の各ステージには,前記アライメントセンサにより 検出された前記アライメントマークの位置情報に基づいて,搭載さ れた基板の向きを,照射される偏光光の偏光軸に対して所定の向き に円周方向に調整する基板アライナーが設けられ,」ているのに対 し,甲26(参考資料3)発明では,そのような構成が特定されて いない点。 d 本件訂正発明4との相違点 上記相違点1-1,1-2,相違点4,及び次の相違点5において 相違する。 <相違点5> 本件訂正発明4では,「前記ステージ移動機構は,前記第一第二 のステージの移動方向に沿ってガイド部材を備えており,このガイ ド部材は,前記第一のステージの移動のガイドと前記第二のステー ジの移動のガイドとに兼用され」との構成が開示されているのに対 し,甲26(参考資料3)発明においては,このような構成が開示 されていない点。 イ 相違点1-1及び1-2に係る構成の容易想到性について (ア) 甲10(審判甲2)発明の認定について 甲10(審判甲2)発明の内容は,原判決「事実及び理由」の第4の 1(1)イ(イ)(45頁7行目から47頁12行目まで)に記載のとおりで ある。 (イ) 甲26(参考資料3)発明と甲10(審判甲2)発明との組合せの容 43易性についてa 甲26(参考資料3)発明に甲10(審判甲2)発明を適用する動 機付けの有無 甲26(参考資料3)公報及び甲10(審判甲2)公報の各記載(原 判決35頁4行目から36頁17行目まで及び同37頁4行目から4 5頁6行目まで参照。)によれば,甲26(参考資料3)発明と甲1 0(審判甲2)発明とは,大型の液晶パネル製造用のスキャン照射(露 光)装置である点で技術分野が共通するとともに,ステージ上に基板 を載置し,往復移動させて,当該基板に光を照射(露光)する点で構 成が共通する。 また,産業用の液晶パネル製造装置において,スループットの向上, すなわち単位時間当たりの処理能力(乙29)を向上させることは当 然の技術課題である。 そうすると,液晶パネル製造用のスキャン照射装置である甲26(参 考資料3)発明に接した当業者においては,スループットの向上を課 題として認識し,この観点から甲10(審判甲2)発明の適用を検討 する動機付けがあるといえる。 b 甲10(審判甲2)発明から動作Aを捨象することの可否 (a) 甲10(審判甲2)発明の基板搬送機構は,動作A,動作B及び 動作C,すなわち「所定の距離L(隣接するマスクMのマスクパタ ーン61,62のY方向における中心間距離Dの略1/2)だけ移 動」,「基板Wの往路搬送」,「基板Wを復路搬送」という動作を 有する。 (b) ここで,甲10(審判甲2)発明における上記各動作の役割につ 44いて検討する。 甲10(審判甲2)公報の記載によれば,甲10(審判甲2)発明は,@ マスク保持部等の数量を削減してスキャン露光装置の製造コストの低減を図るとともに,A 露光領域を挟むように2つの基板交換領域等を設け,基板の露光動作と,基板の搬出・搬入動作とを行うタイミングを少なくともオーバーラップさせることで,スループットの向上を図ることを目的とする発明である(段落【0008】 。 ) また,発明を実施するための最良の形態の欄においては,動作A,動作B及び動作Cにより上記@の課題を,動作B及び動作Cにより上記Aの課題をそれぞれ解決するものであることが記載されている(段落【0040】〜【0042】参照)。そうすると,甲10(審判甲2)公報に接した当業者は,甲10(審判甲2)発明の基板搬送機構が有する動作のうち,動作Aは専ら上記@の課題を解決するためのものと理解することができるというべきである。 そして,甲10(審判甲2)公報には,段落【0040】〜【0042】のように,課題解決のためにどのような構成,動作を採用しているのかが課題ごとに分けて記載されていることを考え合わせると,スループットの向上という課題を認識して甲10(審判甲2)公報に接した当業者は,甲10(審判甲2)発明の構成中,この課題を解決するための動作である動作B及び動作Cの組合せに着目して,動作Aを捨象し,甲10(審判甲2)発明から次の構成を有する甲10(審判甲2)′発明を把握することができるというべきである。 「基板Wを上面に載置する第1,2の部材,及び,前記第1,2の 45部材を移動する第1,2の機構を備える基板搬送機構14を有し, 前記基板Wを,少なくとも第1の基板交換領域C1から第1の基板保持領域B1を経て露光領域Aを通過して第2の基板保持領域B2に移動させた後,基板Wの搬送方向をX方向と逆方向に切り替えて,第2の基板保持領域B2から露光領域Aを通過して第1の基板保持領域B1を経て第1の基板交換領域C1に移動させ(動作イ), さらに,基板W´を,少なくとも第2の基板交換領域C2から第2の基板保持領域B2を経て露光領域Aを通過して第1の基板保持領域B1に移動させた後,基板W´の搬送方向を逆方向に切り替えて,第1の基板保持領域B1から露光領域Aを通過して第2の基板保持領域B2を経て第2の基板交換領域C2に移動させ(動作ロ), 前記基板搬送機構14が,第1の部材によって保持された露光済みの基板Wを,第1の基板保持領域B1から第1の基板交換領域C1へ移動し(戻し),第2の部材によって保持された基板W´の露光動作を行っている間に,第1の基板交換領域C1において,露光済みの基板Wの搬出工程及び未露光の基板Wの搬入工程を行い, 上記動作イに続けて動作ロを行い,動作ロに続けて,交換された別の基板にて動作イを行うという動作を行うものであって, 前記第2の基板保持領域B2は,露光領域Aと第2の基板交換領域C2との間の領域であって,露光領域Aを通過した基板Wを保持する領域であり,前記第1の基板保持領域B1は,露光領域Aと第1の基板交換領域C1との間の領域であって,露光領域Aを通過した基板W´を保持する領域であって,前記第2の基板保持領域B2及び前記第1の基板保持領域B1は,それぞれ基板W及び基板W´ 46 が露光領域Aを通過する分以上のスペースを有する液晶装置の製造 に関してマスクパターンを露光転写するスキャン露光装置。」 c 小括 以上によれば,甲26(参考資料3)発明を念頭に置いて,スルー プットの向上という課題を解決しようとする当業者は,甲10(審判 甲2)発明における「基板Wを保持及び搬送する第1,第2のステー ジ及び第1,第2のステージ移動機構」並びに基板の露光動作と基板 の搬出工程及び搬入工程をオーバーラップさせる上記甲10(審判甲 2)′発明を適用し,相違点1に係る構成を容易に想到できたという べきである。 (ウ) 控訴人の主張について a 技術分野及びステージ動作要件の相違について 控訴人は,甲26(参考資料3)発明と甲10(審判甲2)発明と は,対象とする装置が全く異なっているし,ステージ動作に要求され る条件さえ異なっているから,甲26(参考資料3)公報記載の構成 の一部に甲10(審判甲2)公報記載の構成の一部を組み合わせて, 相違点1に係る構成に想到することは,当業者にとって容易でないと 主張する。 しかし,甲26(参考資料3)発明及び甲10(審判甲2)発明は, 上記(イ)aにおいて認定したとおり,技術分野,構成及び課題におい て共通点を有しているのであるから,甲26(参考資料3)発明と甲 10(審判甲2)発明との間に控訴人が指摘するような異なる点があ るとしても,当該事情は,当業者において甲10(審判甲2)発明か ら甲26(参考資料3)発明の課題解決に役立つ構成を見出そうとす 47 ることの妨げになるものとはいえない。 b 技術的課題の相違について 控訴人は,甲26(参考資料3)発明の課題は,「光配向膜全体に 均一なエネルギー分布で偏光光を照射すること」であって,往復移動 を必須としていないのに対し,甲10(審判甲2)発明は,「マスク 保持部及び照射部の数量増による露光装置の製造コスト上昇を削減す る」という課題を往復移動構成の採用により解決しているから,往復 移動を必須としている点において異なっているし,また,仮に往復移 動を含む甲26(参考資料3)発明を前提としても,往復移動はスル ープットを悪化させるから,スループットの向上という課題に直面し た当業者において往復移動を必須とするスキャン露光装置の構成を採 用する動機付けはないと主張する。 しかし,上記ア(ア)において説示したとおり,甲26(参考資料3) 発明は基板を往復移動させる構成を有するものであるから,この構成 を前提として,当業者において,スループットの向上という課題解決 のために,甲10(審判甲2)記載の発明を適用しようとする動機付 けがあるかどうかの検討をすべきである。 そして,甲10(審判甲2)公報の段落【0008】,【0042】 及び【0074】の記載によれば,甲10(審判甲2)公報記載の発 明は,ステージ(基板を上面に載置する部材)を2台備える構成とし, 基板への露光と基板の搬入及び搬出とを同時に進行させることで,ス ループットを向上することができる旨が明記されているところ,その 機序及び効果は,当業者において一応了解可能なものといえる。 したがって,当業者において,甲26(参考資料3)発明に甲10 48 (審判甲2)公報記載の発明を適用する動機付けがあるというべきで ある。 c 阻害要因の存否について 控訴人は,甲10(審判甲2)発明において動作Aを含む一連の動 作が必須とされていることは,スループットの向上という課題を解決 しようとする当業者に対し,甲26(参考資料3)発明に甲10(審 判甲2)発明の構成を組み合わせるよりも,甲26(参考資料3)公 報に開示されている片道移動で搬送し続ける構成とする方が良いこと を示唆するものであるから,動作Aの存在は,甲26(参考資料3) 発明と甲10(審判甲2)発明とを組み合わせる際の阻害要因になる と主張する。 しかし,上記(イ)b(b)において説示したとおり,甲10(審判甲2) 公報の記載から,動作Aは専ら製造コストの低減に資するものであっ て,スループットの向上は,動作B及び動作Cの組合せによって実現 している旨が明確に把握できるし,上記bのとおり,その機序及び効 果は,当業者において一応了解可能なものといえるから,甲10(審 判甲2)発明に動作Aが含まれているとしても,この点が甲26(参 考資料3)発明と甲10(審判甲2)発明を組み合わせる際の阻害要 因になるとはいえない。 d 甲26(参考資料3)発明に甲10(審判甲2)発明を組み合わせ ても本件各訂正発明に至らないとの主張について (a) 控訴人は,甲10(審判甲2)発明には,本件訂正発明1,2及 び4における「続くように」との構成が開示されていないから,甲 26(参考資料3)発明に甲10(審判甲2)発明を組み合わせて 49 も,本件訂正発明1,2及び4に想到することは容易でないと主張 する。 ところで,控訴人は,当該主張の前提として,特許請求の範囲に 記載されている「続くように」との文言の解釈に関連して,本件訂 正発明1,2及び4は,「一方のステージの復路移動の開始後,す ぐに(あまり時間を置かずに)他方のステージの往路移動が開始す る」場合を許容するもので,少なくとも復路移動中の一方のステー ジ上の基板への偏光光の照射が終わった後に,他方のステージが往 路移動を開始する構成を含むものではないと主張する。 (b) しかし,「続く」との語は「後に従う。すぐ後に来る。」という 意味を有するところ(乙20),その時間的間隔についてまで明確 に規定する意味を有するものではない。そして,本件特許の訂正特 許請求の範囲には,「前記第一のステージの前記第一の側への復路 移動に続くように前記第二のステージの前記照射ユニット方向への 往路移動を行わせ,前記第二のステージの前記第二の側への復路移 動に続くように前記第一のステージの前記照射ユニット方向への往 路移動を行わせるものであり」と記載されているにとどまり,一方 のステージが復路移動を開始した後,どの程度の時間的間隔を空け て(又は空けないで)他方のステージの往路移動を開始するのかは 明記されていない。 したがって,本件訂正発明1,2及び4が,少なくとも復路移動 中の一方のステージ上の基板への偏光光の照射が終わった後に,他 方のステージが往路移動を開始する構成を含むものではないとの控 訴人の主張を採用することはできない。 50 (c) そして,控訴人も自認するように,甲10(審判甲2)発明は, 復路移動中の基板に対する転写露光が終了した後に,もう一方の基 板の復路移動を開始する構成を有しているところ,この構成が本件 訂正発明1,2及び4の「続くように」に相当するものであること は,(b)の検討結果に照らし明らかである。 そうすると,甲26(参考資料3)発明に甲10(審判甲2)発 明を組み合わせると,本件訂正発明1,2及び4の「続くように」 に相当する構成に至ることになる。 以上によれば,この点についての控訴人の主張は,採用すること はできない。 (エ) 小括 以上によれば,当業者は,相違点1-1及び1-2に係る構成を容易 に想到することができたと認めるのが相当である。 ウ 相違点4に係る構成の容易想到性について (ア) 甲26(参考資料3)発明と甲13(審判甲5)発明との組合せの容 易性について まず,甲26(参考資料3)発明に甲13(審判甲5)発明を適用す る動機付けの有無について検討する。 甲26(参考資料3)発明と甲13(審判甲5)発明(原判決35頁 4行目から36頁17行目まで及び同47頁14行目から52頁冒頭ま で参照。)は,配向膜を形成しようとする基板を載置したステージを移 動させて,当該基板に偏光光を照射する光配向用偏光光照射装置である 点で共通の技術分野に属する。また,その光源である偏光光照射装置が 複数の偏光子を並べた光照射部を備えているという構成の点でも共通す 51る。 そして,甲13(審判甲5)発明は,複数の偏光子を並べた光照射部を備える偏光装置では,各偏光子から同じ偏光方向を有する偏光光が出射される保証がなく,偏光子ホルダの熱膨張や,装置内外からの振動などにより偏光子の保持位置にずれが生じ得るところ,「偏光方向を変化させるような回転ずれは,製造する液晶表示装置の画像品質において問題となる。具体的には,一部の石英基板からの照射光の偏光方向に回転ずれが生じた場合,その部分では表示する画像がムラとして現れることとなる」(甲13(審判甲5)公報の段落【0008】)との課題を解決するものである。そうすると,同様に複数の偏光素子をフレーム内に並べて配置して構成した光照射部を備えている甲26(参考資料3)発明も(甲26(参考資料3)公報の段落【0006】及び図13参照),上記と同じ課題を内在しているというべきである。 また,液晶パネルは,所定の配向方向が付与された2枚の配向膜で液晶分子を挟み,これを更に偏光板で挟んで平板状の部材とし,電場の作用により当該液晶分子の方向を適宜変化させ,偏光光を透過させたり,又は透過させないこととして画像を表示させるものであるから (乙25),各配向膜に付与された配向方向にずれが生じると,その表示性能が低下することになる。そして,甲26(参考資料3)発明は,配向膜に偏光光を照射して配向性を付与するための光配向用偏光光照射装置であるから,当該配向膜が組み込まれることとなる液晶パネルの表示性能の低下を防止するために,配向膜を形成する基板に照射する偏光光の偏光方向と当該基板の向きとのずれをできるだけ小さくすることは当然の技術課題である。このことは,甲13(審判甲5)公報において,「基板に対 52 して走査させる紫外線の偏光方向を事前に確認することが可能となる」 (【0026】),「設計段階で予め基板9に対して設定されている偏 光方向からのずれによって異常を判定する形態である」 【0052】 ( ) など,基板に対する偏光光の偏光方向を事前に確認することの必要性を 示唆する記載や,基板に対する偏光光の偏光方向が一定の範囲を逸脱す る場合には異常と判定するとの記載によっても裏付けられているといえ る。 以上によれば,甲26(参考資料3)発明に接した当業者においては, 上記の内在する課題及び当然の技術課題を甲26(参考資料3)発明に おける課題として認識し,この観点から,技術分野及び構成において共 通点を有する甲13(審判甲5)発明の適用を検討する動機付けがある というべきである。 (イ) 甲26(参考資料3)発明と甲13(審判甲5)発明の組合せに基板 アライメントを付加することの可否 a 上記(ア)のとおり,光配向用偏光光照射装置において,液晶パネル の表示性能の低下を防止するために,照射する偏光光の偏光方向と配 向膜を形成しようとする基板の向きとのずれができるだけ生じないよ うにすることは当然の技術課題である。 ところで,甲26(参考資料3)発明や甲13(審判甲5)発明の ように,ステージ上に基板を載置するという工程を有する装置におい ては,その際に,基板載置手段に内在する精度や,載置する際の衝撃 などの様々な理由により,載置した基板に所望の位置からのずれが生 じ得ることは自明な技術常識である。したがって,照射する偏光光の 偏光方向と基板の向きとのずれができるだけ生じないようにしなけれ 53ばならないとの課題に直面している当業者は,このような装置の設計を検討する際,偏光光の偏光方向とステージの向きとのずれ,及び,ステージの向きとこれに載置された基板の向きとのずれについても何らかの形で把握し,これらの情報を勘案した上で,偏光光の偏光方向と基板の向きとの調整を図る必要があることを理解しているというべきである(なお,控訴人は,ロボットなどの基板載置手段の存在を指摘するが,このような手段を採用することによって,基板をステージ上の理想の位置に精度良く載置できるというのであれば,これはまさしく,ステージの向きと載置された基板の向きとのずれについての情報を把握し,位置関係を調整できていることにほかならないというべきである。)。 この点に関連して,甲13(審判甲5)公報の段落【0056】,【0057】 【0061】 及び の記載並びに図11及び12によれば,甲13(審判甲5)公報記載の制御部は,ステージを回転させて,ステージの長辺方向と,偏光センサーが検出した偏光方向(代表角の向き)とを合わせているところ,ステージの向きを偏光方向に合わせたとしても,ステージ上に載置された基板とステージの向きとの間にずれが生じている場合には,結局のところ,偏光方向と基板の向きとの間にずれが残るため所望の配向方向が得られず,「液晶表示装置として使用されたときの映像の高品質化を図ることが可能となる。」という効果を実現できないことになる。 そして,上記(ア)のとおり,甲13(審判甲5)発明においても,偏光光の偏光方向と基板の向きとのずれをできるだけ小さくすることは技術的課題であると認識されていたというべきであるから(段落【0 54 026】及び【0052】),甲13(審判甲5)発明は,ステージ の向きとステージ上に載置された基板の向きとの関係が別途把握,調 整できていることを前提としていると解するのが相当である。 b 次に,基板に設けたアライメントマーク及びアライメントセンサを 用いた基板アライメントが周知技術であることは優に認めることがで きる(乙29)。また,乙22の2〜22の4の複数の文献に,ラビ ング方式による配向処理(布を巻き付けたローラーを回転させつつ, 基板を移動させて,表面のポリマー層を強く一方向に擦る処理。甲1 3(審判甲5)公報の段落【0003】,乙25)において,アライ メントマーク及びアライメントセンサを用いてラビング方向(配向方 向)と基板の向きを調整することが示されているから,ラビング方式 による配向処理において,基板に設けたアライメントマーク及びアラ イメントセンサを用いた基板アライメントは周知技術であると認める のが相当である。 そして,いずれも配向膜に配向性を付与するための技術であるラビ ング方式と光配向方式との間で,液晶表示装置として使用されたとき の映像の高品質化を図るために,配向方向と基板の向きとのずれを小 さくし,更にその改善を試みようとすることに違いがあるとはいえな い。また,周知技術である基板アライメントを適用するに当たり,両 方式の間にその構成や技術的困難さに大きな差異があると認めるに足 りる証拠はない。さらに,甲13(審判甲5)公報の段落【0003】 及び【0004】並びに乙25の記載からも明らかなように,本件特 許出願当時,配向処理装置の分野における当業者は,ラビング方式と 光配向方式のいずれについても把握,理解していたと認められる。 55 c そうすると,甲26(参考資料3)発明における「ワークステージ」 を,甲13(審判甲5)発明の機械的駆動部である「ステージ4」, 「可動台55」及び「回転部54」を備えた走査手段のような構成と し,併せて,アライメントマーク及びアライメントセンサを用いて設 定された方向と基板の向きとの関係情報を得るという周知技術を付加 し,甲13(審判甲5)発明の偏光方向確認処理で確認した偏光方向 とアライメントセンサで検出した基板上のアライメントマークの位置 情報とに基づいて偏光光の偏光方向に対して基板の向きを調整するこ とは,当業者が容易に想到できたものと認めるのが相当である。 (ウ) 甲26(参考資料3)発明に直接基板アライメントを付加することの 可否 上記(ア)のとおり,光配向用偏光光照射装置において,液晶パネルの 表示性能の低下を防止するために,照射する偏光光の偏光方向と配向膜 を形成しようとする基板の向きとのずれができるだけ生じないようにす ることは当然の技術課題である。 また,上記(イ)のとおり,ラビング方式による配向処理において,基 板に設けたアライメントマーク及びアライメントセンサを用い,当該基 板を載置したステージを円周方向に回転することができる駆動手段を有 する基板アライメントは周知技術であると認められる(ラビング方向と 基板の向きとのずれを小さくするには,円周方向への回転が不可欠であ る。)。 さらに,いずれも配向膜に配向性を付与するための技術であるラビン グ方式と光配向方式との間で,液晶表示装置として使用されたときの映 像の高品質化を図るために,配向方向と基板の向きとのずれを小さくし, 56 更にその改善を試みようとすることに違いがあるとはいえないこと,周 知技術である基板アライメントを適用するに当たり,両方式の間にその 構成や技術的困難さに大きな差異があると認めるに足りる証拠はないこ と,本件特許出願当時,配向処理装置の分野における当業者は,ラビン グ方式と光配向方式のいずれについても把握,理解していたと認められ ることは,上記(イ)において説示したとおりである。 そうすると,甲26(参考資料3)発明における「ワークステージ」 を,円周方向に回転することができる駆動手段を備えたステージとし, 併せて,アライメントマーク及びアライメントセンサを用いて設定され た方向と基板の向きとの関係情報を得るという周知技術を付加し,照射 する偏光光の偏光方向とアライメントセンサで検出した基板上のアライ メントマークの位置情報とに基づいて偏光光の偏光方向に対して基板の 向きを調整することは,当業者が容易に想到できたものと認めるのが相 当である。 (エ) 控訴人の主張について a 甲13(審判甲5)発明の走査手段と本件訂正発明3及び4の基板 アライナーとは異なるとの主張について (a) 控訴人は,甲13(審判甲5)発明は,偏光方向の回転ずれを検 出するため,単位偏光子ごとに偏光センサーを備えている上に,ア ライメントの際に利用する情報及びその取得のタイミング等につい ても,本件訂正発明3の基板アライナーとは全く異なるものである から,甲26(参考資料3)発明に甲13(審判甲5)発明を適用 しても本件訂正発明3及び4発明の構成に至らないと主張する。 (b) まず,甲13(審判甲5)発明が偏光センサーを備える点につい 57て検討する。 本件訂正発明3及び4の基板アライナーは,「搭載された基板の向き」を「偏光光の偏光軸」に対して調整するものであるから,照射される偏光光の偏光方向が何らかの手段で確認できていることを前提としているというべきである。すなわち,本件訂正発明3及び4は,訂正特許請求の範囲に記載された構成としては明示されていないものの,照射される偏光光の偏光方向を確認するための手段を内在していると解するのが相当である。 これに対し,上記(イ)aのとおり,甲13(審判甲5)発明においては,ステージの向きとステージ上に載置された基板の向きとの位置関係が別途把握,調整できていることを前提としていると解される。そうすると,周知のアライメントマーク及びアライメントセンサを用いた基板アライナーに係る技術を考慮し,この前提に相当する工程ないし構成を包含するものとして,甲13(審判甲5)発明の機械的駆動部である「ステージ4」,「可動台55」及び「回転部54」を備えた走査手段について,アライメントセンサで検出した基板上のアライメントマークの位置情報を利用し,偏光光の偏光方向に対して基板の向きを調整する構成とすることは,何ら妨げられるものではない。 そして,上記の基板アライナーの構成を甲26(参考資料3)発明に適用すると,結局,本件訂正発明3及び4の構成に至るといえる(本件訂正発明3及び4が内在していた偏光光の偏光方向を確認するための手段の存在が明示的なものとなるにすぎない。)。 したがって,甲13(審判甲5)発明が偏光光の偏光方向を検出 58 する手段である偏光センサーを備えているとしても,甲26(参考 資料3)発明と甲13(審判甲5)発明とを組み合わせることの阻 害要因になるとはいえない。 (c) また,控訴人は,甲13(審判甲5)発明の偏光センサーが,照 射される偏光光の偏光軸とステージに設置された基板の向きとの関 係情報を取得するものではないと主張する。 しかし,上記(イ)aにおいて説示したとおり,甲13(審判甲5) 発明は,ステージの向きとステージ上に載置された基板の向きとの 関係を別途把握,調整できていることを前提としていると解される から,この関係情報を勘案することにより,照射される偏光光の偏 光方向とステージに設置された基板の向きとの関係についても把握 することが可能なものというべきである。 (d) さらに,控訴人は,偏光光の偏光方向を検出するタイミングにつ いても相違すると主張する。 しかし,上記(イ)aにおいて検討したとおり,ステージ上に基板 を載置し,ステージを移動させて偏光光を照射する装置においては, 偏光光の偏光方向とステージの向きとのずれ,及び,ステージの向 きとこれに載置された基板の向きとのずれについても何らかの形で 把握し,これらの情報を勘案した上で,偏光光の偏光方向と基板の 向きとの調整をしなければならないことは,当業者が当然に理解し ている技術事項である。 そうすると,甲13(審判甲5)発明の走査手段は,ステージ上 の基板の向きとステージの向きとの角度を調整する機能も併せ有し ているものとしても良いところ,その場合には,事前に一度(又は 59 一定の時間間隔を空けて)偏光光の偏光方向を検出し,偏光方向と ステージの向きとを調整した上で,その後,基板をステージ上に載 置する度に,ステージの向きと基板の向きとの間にずれが生じた場 合にはその角度調整を行うことで,偏光光の偏光方向と基板の向き とを合わせることが可能である。 したがって,控訴人が主張する点は,甲26(参考資料3)発明 と甲13(審判甲5)発明との組合せを阻害する事由にはなるとは いえない。 b 課題の相違について 控訴人は,甲13(審判甲5)発明は,基板を載置したステージを 回転させることで,偏光光の偏光方向の回転ずれを相殺するものであ るのに対し,本件訂正発明3及び4は,短いタクトタイムで配向処理 を可能にすることと偏光光の偏光方向に対して基板の向きを精度良く 合わせることを目的とするものであり,両者は,解決課題が全く異な るから,その構成及び技術的思想も全く異なると主張する。 しかし,短いタクトタイムで配向処理を可能にすることを除けば(こ の点は,甲10(審判甲2)発明を組み合わせることにより実現可能 である。),いずれの課題も,最終的には偏光光の偏光方向と基板の 向きを調整するものであることには変わりがない上,これを実現する ために,甲13(審判甲5)発明を甲26(参考資料3)発明,甲1 0(審判甲2)´発明及び周知技術と組み合わせる動機付けがあるこ とは上記イ(イ)並びにウ(ア)及び(イ)において説示したとおりである から,甲13(審判甲5)発明の解決課題が偏光光の偏光方向の回転 ずれを相殺するものであったとしても,直ちに甲13(審判甲5)発 60 明を甲26(参考資料3)発明,甲10(審判甲2)´発明及び周知 技術と組み合わせることの妨げになるものとはいえない。 c 周知技術との組合せについて 控訴人は,被控訴人が周知技術を開示するとして主張した文献は, いずれも光照射部の偏光方向の回転ずれとは関係がなく,また,偏光 光の偏光方向を検出する甲13(審判甲5)発明の偏光センサーと置 換できるものではないから,当該周知技術と甲13(審判甲5)発明 とを組み合せることは困難であるし,これを組み合わせたとしても, 本件訂正発明3及び4の「前記アライメントセンサにより検出された 前記アライメントマークの位置情報に基づいて,搭載された基板の向 きを,照射される偏光光の偏光軸に対して所定の向きに円周方向に調 整する基板アライナー」との構成にはなり得ないと主張する。 しかし,上記(イ)bのとおり,ラビング方式による配向処理におい て,基板上に設けられたアライメントマークをアライメントセンサが 検出し,その位置情報に基づいて,ステージ上に載置された基板の向 きを所定の向きとなるよう円周方向に調整する技術が周知であると認 められるところ,ラビング方式及び光配向方式は,いずれも液晶パネ ルに使用される配向膜に配向性を付与するための技術であって,両方 式の違いが当該周知技術の適用を妨げるほどのものとはいえない。 d スループットの低下について 控訴人が指摘するとおり,偏光センサーが偏光光の偏光方向を検出 する構成を有する装置においては,その検出のために一定の時間を要 する。 もっとも,上記aにおいて検討したとおり,偏光方向の確認は,ス 61 テージ上に基板を載置する度に行わなければならないものではなく, そのタイミングや頻度は,偏光素子ホルダの熱膨張や振動等による偏 光方向の時間変化の程度や,液晶パネルに求められる表示性能,配向 処理作業全体としての処理能力に応じて適宜決められるべき事柄であ る。 したがって,偏光センサーが偏光光の偏光方向を検出する時間を要 するとしても,直ちに甲13(審判甲5)発明を甲26(参考資料3) 発明,甲10(審判甲2)´発明及び周知技術と組み合わせることの 妨げになるものとはいえない。 e 以上のほか,控訴人は種々の主張をするが,いずれも採用すること はできない。 (オ) 小括 以上によれば,当業者は,甲26(参考資料3)発明,甲13(審判 甲5)発明及び周知技術に基づいて,又は,甲26(参考資料3)発明 及び周知技術に基づいて,相違点4に係る構成を容易に想到することが できたと認めるのが相当である。 (2) 争点3-4(再訂正の再抗弁の主張は許されるか)について ア 被控訴人は,本件再訂正に係る訂正審判請求等がされていないし,今後, このような手続が可能であるとはいえないから,本件再訂正がされたこと を前提とする本件再訂正発明3に基づく権利主張はできないと主張する。 この点について検討するに,特許権者が,事実審の口頭弁論終結時まで に訂正の再抗弁を主張しなかったにもかかわらず,その後に訂正審決等が 確定したことを理由に事実審の判断を争うことは,訂正の再抗弁を主張し なかったことについてやむを得ないといえるだけの特段の事情がない限り, 62特許権の侵害に係る紛争の解決を不当に遅延させるものとして,特許法104条の3及び104条の4の各規定の趣旨に照らして許されない。すなわち,特許権侵害訴訟において,特許権者は,原則として,事実審の口頭弁論終結時までに訂正の再抗弁を主張しなければならない。(最高裁平成29年7月10日第二小法廷判決・民集71巻6号861頁参照)。 本件についてみると,被控訴人は,平成29年8月7日の当審第2回口頭弁論期日において,甲26(参考資料3)発明に周知技術である基板アライナーを直接適用することによっても,相違点4に係る構成が容易に想到できるという,新たな組合せに基づく無効の抗弁を主張し,控訴人は,これを踏まえて,同年10月11日の当審第3回口頭弁論期日において,本件再訂正に係る訂正の再抗弁の主張をした(裁判所に顕著な事実)。そして,本件審決に係る審決取消訴訟は当裁判所に係属しており,控訴人は,当審の口頭弁論終結時までに,本件再訂正に係る訂正審判請求等を法律上することができなかった(特許法126条2項,134条の2第1項)。 そうすると,特許権の侵害に係る紛争をできる限り特許権侵害訴訟の手続内で迅速にかつ一回的に解決することを図るという特許法104条の3及び104条の4の各規定の趣旨に照らすと,本件の事実関係及び審理経過の下では,被控訴人による新たな無効の抗弁に対する本件再訂正に係る訂正の再抗弁を主張するために,現に本件再訂正に係る訂正審判請求等をしている必要はないというべきである。 また,仮に,本件審決に係る審決取消訴訟において,本件審決を取り消す旨の判決がされ,これが確定した場合には,本件無効審判手続が再開されるところ,この再開された審判手続等において,控訴人が本件再訂正に係る訂正請求をすることができないとは直ちにいえない。 63 イ さらに,被控訴人は,本件再訂正に基づく主張は,故意により時機に後 れて提出された攻撃防御方法であるから,却下されるべきであるとも主張 する。 しかし,本件の審理経過の下では,控訴人による本件再訂正に基づく主 張は,時機に後れたものとも,訴訟の完結を遅延させることとなるものと も認めることはできない。 ウ したがって,この点についての被控訴人の主張はいずれも採用すること ができない。 よって,控訴人は,本件訴訟において,本件再訂正発明3に基づく権利 主張をすることが許されるというべきである。 (3) 争点3-6(本件再訂正により無効理由が解消するか)について ア 控訴人は,本件再訂正発明3は,当業者において容易に想到することが できたものではないから,本件再訂正により,無効理由が解消すると主張 する。そこで,本件再訂正発明3が,当業者において容易に想到すること ができたものであるかどうかを検討する。 イ 本件再訂正発明3と甲26(参考資料3)発明との対比 本件再訂正発明3と甲26(参考資料3)発明の間には,本件訂正発明 3と甲26(参考資料3)発明との相違点(相違点1-1´,相違点1- 2´,相違点4)に加え,次の相違点6が存在する。 本件再訂正発明3は,「前記第一のステージが,前記第一の基板搭載位 置から照射領域に移動し,前記照射ユニットにより偏光光が照射されてい る該照射領域を通過し,第一の基板回収位置に戻る間に,前記第二のステ ージから照射済みの前記基板を回収し,前記第二のステージに未照射の前 記基板を搭載し,前記第二のステージに対して前記基板アライナーによる 64 アライメントを行い,前記第二のステージが,前記第二の基板搭載位置か ら照射領域に移動し,前記照射ユニットにより偏光光が照射されている該 照射領域を通過し,第二の基板回収位置に戻る間に,前記第一のステージ から照射済みの前記基板を回収し,前記第一のステージに未照射の前記基 板を搭載し,前記第一のステージに対して前記基板アライナーによるアラ イメントを行う,シーケンスプログラムを有する制御装置」を有するのに 対し,甲26(参考資料3)発明は,これを有していない点(相違点6)。 ウ 検討 相違点1-1´,相違点1-2´及び相違点4に係る構成は,上記にお いて説示したとおり,甲26(参考資料3)発明,甲10(審判甲2)発 明,甲13(審判甲5)発明及び乙22の2〜22の4に開示されている 周知技術に基づいて,当業者が容易に想到することができたものである。 相違点6について,甲10(審判甲2)公報の段落【0039】及び図 5,6の記載によれば,第1の基板交換領域C1で,露光済み基板Wの搬 出(本件再訂正発明3の「回収」に相当)と,未露光基板Wの搬入(ステ ップS2a)(本件再訂正発明3の「搭載」に相当),未露光基板Wのプ リアライメント(ステップS3a)(本件再訂正発明3の「アライメント」 に相当)が行われる間に,第2の駆動ユニット51によって保持された基 板W´を往路によるスキャン露光(ステップS6b)を行い,復路によるス キャン露光(ステップS8b)を行うこと,及び,かかる動作が繰り返さ れることが記載されている。そして,機器を定められた順序で動作させる ために,シーケンスプログラムによる制御という一般的な技術的手段を用 いて実現することは当業者が適宜なし得ることである。 そうすると,甲26(参考資料3)発明において,スループットを向上 65 させるという課題を解決しようとする当業者は,甲10(審判甲2)´発 明における「基板Wを上面に載置する第1,2の部材(ステージ)及び当 該第1,2の部材を移動する第1,2の機構を備える基板搬送機構」を採 用するとともに,一方のステージにおいて照射済みの基板の回収,及び, 未照射の基板の搭載とアライメントを行っている間に,他方のステージに おいて往路及び復路の移動中に基板への照射を行うように制御することで, 相違点6に係る構成を得ることを容易に想到することができる。 したがって,本件再訂正発明3は,甲26(参考資料3)発明,甲10 (審判甲2)発明,甲13(審判甲5)発明及び乙22の2〜22の4に 開示されている周知技術に基づいて当業者が容易に想到できたものと認め るのが相当である。 エ 小括 以上によれば,本件再訂正発明3は,当業者が容易に想到することがで きたものというべきであるから,控訴人が主張する本件再訂正が仮に認め られたとしても無効理由が解消するとはいえない。 |
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結論
以上によれば,その余の点について認定,判断するまでもなく,控訴人の請求 をいずれも棄却した原判決は相当であり,本件控訴は理由がないからこれを棄却 することとし,主文のとおり判決する。 |
裁判長裁判官 | 鶴岡稔彦 |
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