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関連審決 無効2014-800157
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事件 平成 29年 (行ケ) 10096号 審決取消請求事件

原告田中 貴金属工業株式会社
同訴訟代理人弁護士 飯村敏明 鈴木修 大平茂 大西千尋 磯田直也
同訴訟代理人弁理士 松山美奈子
被告JX金属株式会社
同訴訟代理人弁護士 高橋雄一郎
同訴訟代理人弁理士 望月尚子
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2018/05/15
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1 特許庁が無効2014−800157号事件について平成29年3月29日にした審決を取り消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
請求
1 主文と同旨
前提となる事実(証拠を掲記した以外の事実は,当事者間に争いがないか,
弁論の全趣旨から認められる。) 1 特許庁における手続の経緯等 被告は,平成18年12月26日,発明の名称を「非磁性材粒子分散型強磁 性材スパッタリングターゲット」とする特許出願(特願2007-55387 1号。優先権主張:平成18年1月13日,日本国)をし,平成24年4月2 0日,特許権の設定の登録(特許第4975647号。請求項の数は6。)を 受けた(以下,この特許を「本件特許」といい,明細書及び図面を併せて「本 件明細書」という。甲16,17)。
原告は,平成26年9月12日,本件特許の請求項1から6に係る発明につ き無効審判を請求した(無効2014-800157号。甲11)。
被告は,平成28年9月26日付けで,本件特許の特許請求の範囲について 訂正請求をした(以下「本件訂正」という。甲13)。
特許庁は,平成29年3月29日,被告の本件訂正請求を認めた上,「本件 審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,その謄本は,同年4月6日, 原告に送達された。
原告は,平成29年5月1日,審決の取消しを求めて,本件訴訟を提起した。
2 特許請求の範囲の記載 本件特許につき,本件訂正後の特許請求の範囲の記載は,後記(1)から(6)の とおりである(以下,本件訂正後の請求項1から6に記載された発明を,請求 項の番号に従って,それぞれ「本件訂正発明1」などといい,これらを総称し て「本件訂正発明」ともいう。なお,本件訂正に係る訂正部分には,下線を付 した。)。
2 (1) 請求項1 Co若しくはFe又は双方を主成分とする材料の強磁性材の中に酸化物,窒化 物,炭化物,珪化物から選択した1成分以上の材料からなる非磁性材の粒子 が分散した材料からなる焼結体スパッタリングターゲットであって,前記非 磁性材は6mol%以上含有され,前記材料の研磨面で観察される組織の非磁性材 の全粒子は,非磁性材料粒子内の任意の点を中心に形成した半径2?の全ての 仮想円よりも小さいか,又は該仮想円と,強磁性材と非磁性材の界面との間 で,少なくとも2点以上の接点又は交点を有する形状及び寸法の粒子とから なり,研磨面で観察される非磁性材の粒子が存在しない領域の最大径が40? 以下であり,直径10?以上40?以下の非磁性材の粒子が存在しない領域の個 数が1000個/mm2以下であることを特徴とする焼結体からなる非磁性材粒子分 散型強磁性材スパッタリングターゲット。
(2) 請求項2 前記材料の研磨面で観察される組織の非磁性材の全粒子は,非磁性材料粒 子内の任意の点を中心に形成した半径1?の全ての仮想円よりも小さいか,又 は仮想円と,強磁性材と非磁性材の界面との間で,少なくとも2点以上の接 点又は交点を有する形状及び寸法の粒子とからなり,研磨面で観察される非 磁性材の粒子が存在しない領域の最大径が40?以下であり,直径が10?以上 40?以下の非磁性材の粒子が存在しない領域の個数が1000個/o2以下である ことを特徴とする請求項1記載の非磁性材粒子分散型強磁性材スパッタリン グターゲット。
(3) 請求項3 前記仮想円と,強磁性材と非磁性材の界面との間で,少なくとも2点以上 の接点又は交点を有する形状及び寸法の粒子は,紐状またはヒトデ状の粒子 3 であることを特徴とする請求項1又は2記載の非磁性材粒子分散型強磁性材 スパッタリングターゲット。
(4) 請求項4 非磁性材料が,真空中もしくは不活性雰囲気中で金属Co若しくは金属Cr又 はその混合物若しくは合金とともに強熱しても還元若しくは分解しない金属 酸化物からなる請求項1〜3のいずれかに記載の非磁性材粒子分散型強磁性 材スパッタリングターゲット。
(5) 請求項5 金属酸化物が,Cr,Ta,V,Si,Ce,Ti,Zr,Al,Mg,Nbから選択した1種 以上の酸化物である請求項4に記載の非磁性粒子分散型強磁性材スパッタリ ングターゲット。
(6) 請求項6 DCスパッタリング用ターゲットであることを特徴とする請求項1〜5のい ずれかに記載の非磁性材粒子分散型強磁性材スパッタリングターゲット。
3 審決の理由 審決の理由は,別紙審決書(写し)記載のとおりである。その概要は, @ 本件訂正は,特許請求の範囲減縮を目的としていると認められ,新規 事項を追加するものにも,実質上特許請求の範囲拡張し,又は変更する ものにも該当しない, A 本件訂正発明は,特願平8-268023号の願書に最初に添付した明 細書及び図面(甲1)によって公知となった発明(以下「甲1発明」とい う。)又は特開平10-88333号公報(甲1による特許出願に係る公 開特許公報。甲2)に記載された発明と同一とはいえない, B 本件訂正発明は,甲1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることが 4 できたものとはいえない, C 本件訂正発明は,特開2006-176810号公報(甲6)に記載さ れた発明と同一とはいえない, D 本件特許の特許請求の範囲の記載は,サポート要件に適合する, というものである。
4 審決が認定した甲1発明の内容並びに本件訂正発明1と甲1発明との一致点 及び相違点 (1) 甲1発明の内容 甲1発明は,次の構成要件a〜fからなる。
a SiO2 粒子がCo82Cr13Ta5 合金中に分散した組織を有する酸化物分散型Co 系合金スパッタリングターゲットであって,SiO2が分散したCo-Cr-Ta合 金粉末を真空中1100℃で300kg/cm2でホットプレスを施して作成されたも のであり, f SiO2粒子の含有量は3重量%であり, b 前記ターゲットの断面組織写真によって観察される組織のSiO2の全粒 子は,非磁性材料粒子内の任意の点を中心に形成した半径1?の全ての仮 想円よりも小さく, c SiO2粒子が存在しない領域の最大径が10?以下であり, d 直径10?以上40?以下のSiO2粒子が存在しない領域の個数が0個/mm 2 である e 酸化物分散型Co系合金スパッタリングターゲット。
(2) 本件訂正発明1と甲1発明との一致点 ア 本件訂正発明1は,次のように分説できる。
1A Co若しくはFe又は双方を主成分とする材料の強磁性材の中に酸化物, 5 窒化物,炭化物,珪化物から選択した1成分以上の材料からなる非磁 性材の粒子が分散した材料からなる焼結体スパッタリングターゲット であって, 1F 前記非磁性材は6mol%以上含有され, 1B 前記材料の研磨面で観察される組織の非磁性材の全粒子は,非磁性 材料粒子内の任意の点を中心に形成した半径2?の全ての仮想円よりも 小さいか,又は該仮想円と,強磁性材と非磁性材の界面との間で,少 なくとも2点以上の接点又は交点を有する形状及び寸法の粒子とから なり, 1C 研磨面で観察される非磁性材の粒子が存在しない領域の最大径が40 ?以下であり, 1D 直径10?以上40?以下の非磁性材の粒子が存在しない領域の個数が 1000個/mm2以下である 1E ことを特徴とする焼結体からなる非磁性材粒子分散型強磁性材スパ ッタリングターゲット。
イ 本件訂正発明1の構成要件1Bに係る事項は択一的であるところ,甲1 発明の構成要件bは,本件訂正発明1の構成要件1Bに規定された「研磨 面で観察される組織の非磁性材の全粒子」についての択一的記載の一方で ある 「非磁性材料粒子内の任意の点を中心に形成した半径2?の全ての仮想 円よりも小さい」との事項に相当する。
したがって,本件訂正発明1と甲1発明とは,以下の点で一致する。
1A Co若しくはFe又は双方を主成分とする材料の強磁性材の中に酸化物, 窒化物,炭化物,珪化物から選択した1成分以上の材料からなる非磁性 材の粒子が分散した材料からなる焼結体スパッタリングターゲットであ 6 って, 1B 前記材料の研磨面で観察される組織の非磁性材の全粒子は,非磁性 材料粒子内の任意の点を中心に形成した半径2?の全ての仮想円よりも小 さいか,又は該仮想円と,強磁性材と非磁性材の界面との間で,少なく とも2点以上の接点又は交点を有する形状及び寸法の粒子とからなり, 1C 研磨面で観察される非磁性材の粒子が存在しない領域の最大径が40 ?以下であり, 1D 直径10?以上40?以下の非磁性材の粒子が存在しない領域の個数が 1000個/mm2以下である 1E ことを特徴とする焼結体からなる非磁性材粒子分散型強磁性材スパ ッタリングターゲット。
(3) 本件訂正発明1と甲1発明との相違点 本件訂正発明1においては,非磁性材の含有量が「6mol%以上」であるのに 対し,甲1発明においては,SiO2粒子(非磁性材)の含有量が「3重量%」で ある点。
原告主張の取消事由
1 取消事由1(手続上の違法) (1) 本件の無効審判手続において,特許庁は,平成28年7月21日付けで, 本件訂正前の本件特許は新規性及び進歩性を欠き無効である旨の審決の予告 をし,被告は,同年9月26日付けで本件訂正請求をした。しかし,その後, 原告に当該訂正請求書等が送られることなく時間が経過し,平成29年3月 3日に至り,同年2月28日付け審理終結通知書の送付とともに,訂正請求 書副本等が原告に送達された。そして,審判合議体は,審判請求人である原 告に対し,本件訂正の当否及び本件訂正後の発明に係る無効理由の存否につ 7 いて,意見の申立ての機会及び証拠提出の機会をいずれも与えないまま,同 年3月29日,本件訂正を認め,本件訂正後の発明に無効理由はないとの判 断をした。
(2) 特許法134条の2第4項は,審決の予告を受けて被請求人から訂正の請 求がされたときは,訂正の請求書等の副本を審判請求人に送達しなければな らないと定めているが,いつ送達すべきかについての規定はない。また,訂 正請求がされたときに,審判請求人に意見を申し立てる機会を与えることが 法律上義務付けられているわけでもない。
しかし,訂正請求を認め,訂正後の発明について無効理由の存在を否定し, 審決の予告における判断を変更する際には,審判請求人に訂正請求書等を送 達した上,審判請求人に意見陳述と新証拠提出の機会を与え,これにより当 事者の衡平を図り,充実した審理の実現に努めるべきである。特許法134 条の2第4項の規定の趣旨は,訂正請求がされたときに,審判請求人に対し, 意見を申し立てたり,新たな証拠を提出する機会を与えたりすることにある のであって,単に書類を送付することを規定しているのにすぎないという解 釈は誤りである。そして,審判請求人に意見を述べる機会を与えるかどうか について,特許庁に全くの自由な裁量があるものではないから,本件のよう に,審決の予告の結論を変更する場合に,審判請求人から意見を申し立てる 機会を奪う結果となるような手続は,許された裁量の範囲を逸脱するものと いわざるを得ない。
(3) また,審決が確定した場合,審判請求人が「同一の事実及び同一の証拠」 に基づいて再度審判請求をすることはできないが,これは審判請求人に十分 な主張及び証拠提出の機会が与えられていることを前提とするものである。
訂正についての意見を述べる機会を奪った上で,遮断効が生じる審決をする 8 ことは,上記前提を欠くものであり,この意味でも本件の無効審判手続にお ける違法性は明らかである。
(4) さらに,本件において,特許庁は,訂正請求書を6か月近くもの間送達し なかったが,これは意図的な不作為であり,手続上の不公平,不公正は明ら かである。
(5) 以上のとおり,審決は,特許法134条の2第4項が規定する手続に違反 してされたものであり,この手続上の違法により,取り消されるべきである。
2 取消事由2(訂正要件適合性に関する判断の誤り) (1) 取消事由2の1(訂正による新規事項追加の禁止に関する判断の誤り) ア 審決は,本件明細書において,実施例1に「94(74Co-10Cr-16Pt)-6SiO2 からなる強磁性体材料のターゲット」(当該ターゲットにおける「非磁性 材であるSiO2粒子」の含有量は6mol%(=6/(94+6))と算出される。)が記載 され,また,実施例3に「94(74Co-10Cr-16Pt)-8Cr2O3 (mol%)からなる強 磁性体材料のターゲット」 (当該ターゲットにおける「非磁性材であるCr2O3 粒子」の含有量は7.84mol%(=8/(94+8))と算出される。)が記載されている と認定した。
しかし,合金の各成分の含有量を表す際,モルパーセントは合計100とな るべきものであるから,強磁性材と非磁性材の合計モル数が100を超えてい る実施例3の含有量に関する記載は明らかに誤っている。
もっとも,当該記載からは,非磁性材の含有量が正しくは6mol%であるの に8mol%とした誤記か,強磁性材の含有量が正しくは92mol%であるのに 94mol%とした誤記か,あるいは他の数字に誤りがあるのかが不明である。
このように,本件明細書の記載から正しい強磁性材及び非磁性材の含有量 が理解できないのであれば,実施例3に開示されている発明の内容は不明 9 確で,実施例としての意味をなさないから,この実施例3の記載がないも のとして各請求項記載の発明と本件明細書の記載とを理解すべきである。
そうすると,本件明細書には,非磁性材を6mol%含有した例(実施例1)が 記載されているだけであり,「非磁性材を6mol%」を「超えて含有する」実 施例は記載されていないから,「明細書等には,ターゲットが非磁性材を 6mol%以上含有することが,実質上記載されていると認められる。」との審 決の認定は誤りである。
したがって,「非磁性材を6mol%以上含有する」との発明は,本件明細書 に開示された発明ではないから,当該事項は明細書に記載のない新規な事 項というべきである。
仮に,Cr2O3粒子の含有量が正しくは6mol%の誤記であり,実施例3の記 載を意味のあるものと理解したとしても,結局,本件明細書には非磁性材 が6mol%を超えて含有する例は存在しないことになるから,上記の結論に変 わりはない。
イ 本件明細書に開示されている実施例は,ある一定の体積割合で非磁性材 を含有させることにより特定の分散状態を実現するものであって,非磁性 材の含有量が6mol%以上であればよいと解釈する根拠となるものではない。
すなわち,本件訂正は,非磁性材の含有量を実施例1及び実施例3に基 づいて「6mol%以上」とする一方,非磁性材の含有量が3mol%である実施例 2を権利範囲外とするものであるところ,実施例3における強磁性材及び 非磁性材の含有量の記載が不明確で,正しい数値を示していないことは上 記アのとおりである。そして,実施例1及び実施例2として開示されてい るターゲットにおける非磁性材の含有量は,体積パーセントで表すと18.96 ±0.83vol%という狭い範囲となっているから,本件訂正前の発明(以下「訂 10 正前発明」という。)は,ほぼ同一の体積割合で非磁性材を含むスパッタ リングターゲットの発明である,ということができる。
審決が本件訂正発明の進歩性判断に関連して述べているように,セラミ ック相を増加させようとすると,これを均一に分散させることが困難にな るというのであれば,上記の狭い範囲で非磁性材を含有するターゲットが 開示されているにすぎない本件明細書に接した当業者は,これを大幅に超 える量の非磁性材を含有させると均一分散は困難になると理解することに なる。すなわち,本件明細書は非磁性材が18.96±0.83vol%の範囲を超えて 含有することを開示していないといわざるを得ない。
本件訂正にあるように,非磁性材を「6mol%以上」含有するということで あれば,その含有量の範囲は極めて広範なものとなるが,本件明細書には 極めて限定された範囲の非磁性材を含有する実施例が開示されているにす ぎず,上記のような広い範囲に多量の非磁性材を含むスパッタリングター ゲットに関する発明は開示されていない。
ウ 以上のとおり,本件訂正に係る事項のうち,非磁性材の含有量が6mol% を超える部分については,新規事項の追加であり,この点を看過して訂正 を認めた審決の判断は誤りである。
(2) 取消事由2の2(特許請求の範囲拡張ないし変更する訂正を看過した誤 り) ア 審決は,本件訂正は実質上特許請求の範囲拡張し,又は変更するもの には該当しないと判断したが,これは誤りである。
イ まず,本件明細書には,解決課題としても課題解決手段としても,非磁 性材の含有量については全く言及がなく,訂正前発明の解決課題を「『非 磁性材を6mol%以上含有する場合に』磁気記録層としての使用に最適である 11 スパッタリングターゲットを得ること」と理解することは不可能である。
実施例及び比較例の記載に照らしても,「非磁性材を6mol%以上含有する」 との技術思想が本件明細書に開示されていると理解することはできないし, 6mol%の非磁性材を含むことに臨界的意義もないから,訂正前発明が最適な 範囲の非磁性材の含有量を探求した発明と理解することもできない。
すなわち,訂正前発明は,非磁性材の分散形態を特定のものに限定する ことに本質があり,非磁性材の含有量にかかわらず特定の分散形態は同様 に実現されているのであるから,非磁性材を6mol%以上含むことは発明の本 質とは無関係である。
ウ したがって,非磁性材の含有量を「6mol%以上」とする本件訂正は,訂正 前の特許請求の範囲に記載されている発明を実質的に拡張ないし変更する ものであり,この点を看過して訂正を認めた審決の判断は誤りである。
3 取消事由3 (1) 取消事由3の1(新規性に関する判断の誤り) ア 審決は,本件訂正発明1においては,非磁性材の含有量が「6mol%以上」 であるのに対し,甲1発明においては,SiO2粒子(非磁性材)の含有量が 「3重量%」(モルパーセントに換算すると3.2mol%)である点が実質的な相 違点であると判断したが,これは誤りである。
イ 甲1に記載されている実施例は,いずれも非磁性材として3重量%の酸化 物又は窒化物を含有するターゲットに関するものであるところ,使用され ている非磁性材はSiO2,ZrO2など様々である。含有する非磁性材が重量パ ーセントでは同一の量であっても,合金の組成の違いによりモルパーセン トで表すと異なる含有量になることから,その結果として,甲1には非磁 性材のモルパーセントが種々異なるものが開示されている。また,甲1に 12 は,各実施例の組織に関する図や記述があり,これらの開示内容を全般的 に考察すれば,広範な酸化物を含有するターゲットにおいて,非磁性材が 微細に分散したものが得られることが開示されているというべきである。
さらに,ターゲット中の非磁性材の含有量は,ターゲットメーカーでは なく,顧客であるハードディスクメーカーがスパッタによって得られる磁 性膜の磁気特性を勘案して選択するものである。そして,本件特許の優先 日より前に,10mol%以上の酸化物を含有するターゲットも一般的に製造さ れていた。
したがって,甲1の記載に接した当業者は,様々な種類及び量の非磁性 材を含有するターゲットにおいて,非磁性材が微細に分散していることが 開示ないし示唆されていると理解するのであって,非磁性材の含有量が 3.2mol%の場合にのみ,非磁性材が分散した微細混合相が得られると理解す ることはない。
ウ また,特開2004-339586号公報(出願日:平成15年5月1 9日,公開日:平成16年12月2日。甲4)には,酸化物を含有する磁 気記録膜用のスパッタリングターゲットを製造するに当たり,高温火炎加 水分解法で製造され表面処理により疎水性が付与されたシリカ粉末を用い れば,その含有量が10〜26mol%まで2.6倍変化しても,およそ同程度にター ゲット中にシリカが均一に分散した構造が得られることが開示されている。
つまり,本件特許の優先日当時の当業者は,3.2mol%や6mol%といった非磁 性材の含有量のわずかな違いによって,ターゲットの組織構造に大きな変 化は生じないと理解していたと考えるのが合理的である。
エ 以上のとおり,甲1は,様々な量の非磁性材を含有するターゲットを開 示ないし示唆するものである。また,非磁性材の含有量が3.2mol%の場合と 13 6mol%の場合とで組織構造に大きな変化はないと考えられていた。さらに, 当業者は,ハードディスクメーカーの要請に応じて適宜非磁性材の量を選 択するのであり,酸化物の量を6mol%未満としなければならない技術上の要 請は存在しない。
したがって,本件訂正発明における非磁性材の含有量が「6mol%以上」と, 甲1発明におけるSiO2粒子(非磁性材)の含有量が「3重量%」の相違は, 実質的な相違点ではない。
オ よって,本件訂正発明1から本件訂正発明5は,甲1発明又は甲2に記 載された発明と同一であり,特許を受けることができないものである。
なお,本件訂正発明6については,酸化物を均一かつ微細に分散させた 組成のターゲットがDCスパッタリングに用いられることは周知技術であり, これを参酌すれば,甲1発明又は甲2に記載された発明,周知技術及び技 術常識に基づいて,当業者が容易に想到し得る発明である。
(2) 取消事由3の2(進歩性に関する判断の誤り) ア 審決がした本件訂正発明の進歩性に関する判断は,次のとおり,誤りで ある。
(ア) まず,審決は,本件訂正発明の課題解決手段である非磁性材粒子の分 散形態の調整が技術常識であるとは認められないと判断したが,これは 誤りである。
スパッタリングターゲットにおける非磁性材粒子の分散形態の調整は, 特開2001-236643号公報(甲5)に開示されている。すなわ ち,甲5が公開された平成13年8月31日の時点において,酸化物粒 子の粒径を小さくすれば媒体付着異物であるパーティクルが少なくなる こと,及び酸化物粒子の粒径を5?以下にすると,概ねパーティクルがゼ 14 ロになることは当業者に認識されていた。
(イ) また,審決は,甲1に記載された実施例は,いずれも3重量%の酸化物 をセラミック相とするものであり,甲1にはセラミック相の量を6mol% 以上とすることについての記載や示唆は認められないと判断した。しか し,甲1に記載されている実施例は,それぞれ重量パーセントでは同一 であるものの,モルパーセントに換算すると1.46〜3.34mol% (実施例1: 3.2mol%,実施例4:1.46mol%,実施例5:1.85mol%,実施例6:3.19mol%, 実施例7:3.34mol%)の非磁性材を含有するターゲットを開示している のであって,審決はこの点を看過している。
すなわち,甲1に接した当業者は,酸化物の種類,含有量の違いに応 じて,混合時間などの混合条件を適宜選択することにより,所望の酸化 物の分散が得られることを理解できる。
(ウ) さらに,審決は,ターゲットの組成を変化させるとターゲット中のセ ラミック相の分散状態も変化することが推測され,例えば,当該セラミ ック相を増加させようとすれば,均一に分散させることが相対的に困難 になり,ターゲット中のセラミック相粒子の大きさは大きくなる等,分 散の均一性は低下する方向に変化すると考えるのが自然であって,ター ゲット中のSiO2粒子の含有量を実施例1の「3重量%」(3.2mol%)から本件 訂正発明1におけるように「6mol%以上」という2倍近い値まで増加させ た場合に,ターゲットの断面組織写真が甲1の図1と同様のものになる とはいえないと認定しているが,この点も後記エのとおり,誤りである。
イ 本件特許の優先日当時の技術常識 上記(1)ウのとおり,甲4には10〜26mol%のシリカを含有するターゲット が開示されている。また,特開2006-176810号公報(出願日: 15 平成16年12月21日。甲6)の記載からも,本件特許の優先日前であ る甲6の出願日当時,金属に酸化物を混合した複合ターゲットとして,4 〜20mol%の酸化物を含有させることは通常であって,この程度の酸化物を ターゲットに含有させることは技術常識であったことが理解できる。
この点に関し,本件特許の優先日に先立ち,垂直磁気記録方式の磁性膜 に求められる記録密度向上及び磁気的安定性の確保といった課題の解決と の関係で,磁性膜における酸化物の含有割合は6mol%を超えることが望まし いという知見は周知であった。このことは,垂直磁気記録方式のハードデ ィスクドライブメディア用のスパッタリングターゲットに関し,酸化物の 含有量が6mol%を超える組成からなる実施例を含んだ特許出願が多数され, 既に公開されていたことからも明らかである。
被告は,甲1発明は面内磁気記録方式ハードディスクドライブメディア 用のスパッタリングターゲットに関する発明であって,垂直磁気記録方式 ハードディスクドライブメディア用のスパッタリングターゲットの発明と は別物であることを前提とする主張をしている。しかし,甲1に開示され ている,金属相としてCoやFeを主体とし,酸化物としてSiO2を含有するス パッタリングターゲットの技術は,面内磁気記録方式ハードディスクドラ イブメディア用のスパッタリングにも,垂直磁気記録方式ハードディスク ドライブメディア用のスパッタリングにも用いることができるのであるか ら,被告の上記主張は失当である。
ウ 非磁性材の含有量を6mol%超に増加させることの動機付けがあること 上記イのとおり,本件特許の優先日当時,6mol%を超える酸化物を含有す るスパッタリングターゲットが既に技術常識となっており,商業的生産も されていたのであるから,甲1に酸化物の含有量が6mol%未満のものしか記 16 載されておらず,かつ,酸化物を6mol%以上に増加させることについて何ら 記載がなかったとしても,当業者においては,甲1発明に基づいて,酸化 物の含有量を6mol%以上に増加させることについて動機付けがある。
エ 非磁性材を6mol%超に増加させることの阻害要因について 甲1には,実施例4の1.46mol%から実施例7の3.34mol%という2倍以上 の値にまで非磁性材酸化物を増加させた場合に,ターゲットにほぼ同一の 微細均一な相が実現できていることが示されている。また,原告が行った 甲1記載の方法による実験においても,甲1発明の組織とほぼ同様な組織 のものができている。これは,上記(1)ウにおいて主張したとおり,甲4に 開示されている技術常識と同様である。
そもそも,SiO2,Cr2O3,Ta2O3を分散させるに当たり,3mol%の非磁性材を 均一微細に分散させることと,6mol%の非磁性材を均一微細に分散させるこ ととの間の困難性に差はない。甲1には,メカニカルアロイングにより, 酸化物をアトマイズ合金粉中に均一微細に分散させた混合体を製造する工 程が記載されているところ,これはこの工程に96時間という長い時間を掛 けることにより,このような分散が実現できることを示している。
オ 小括 したがって,本件訂正発明は,甲1発明又は甲2に記載された発明及び 技術常識に基づいて,当業者が容易に想到し得る発明にすぎず,特許を受 けることができない。
なお,本件訂正発明6については,酸化物を均一かつ微細に分散させた 組成のターゲットがDCスパッタリングに用いられることは周知技術であり, これを参酌すれば,甲1発明又は甲2に記載された発明,周知技術及び技 術常識に基づいて,当業者が容易に想到し得る発明である。
17 (3) 取消事由3の3(サポート要件適合性に関する判断の誤り) ア 本件においてサポート要件に適合するというためには,ターゲットに非 磁性材が6mol%以上含有されている場合には,いかなる含有量であっても発 明の課題が解決できることが発明の詳細に記載されていなければならず, かつ,その具体的な立証は実施例によってされるべきである。
そして,本件明細書における実施例3については,非磁性材の含有量を 直接的かつ一義的に判断できず,実施例として意味をなさないことは,上 記2(1)アにおいて主張したとおりである。
そうすると,本件明細書には,非磁性材の含有量がそれぞれ6mol%及び 3mol%である実施例1及び実施例2において課題が解決できることが示され ているにすぎず,6mol%以上の非磁性材を含む場合に特定の組織を実現する ことができ,かつ,パーティクル発生の抑制などの所期の効果を奏するこ とができることは明記されていない。
したがって,非磁性材の含有量の上限値を特定していない本件訂正発明 は,発明の詳細な説明において発明の課題が解決できることを当業者が認 識できるように記載された範囲を超えていることが明白である。
イ また,本件訂正発明1は,「非磁性材は6mol%以上含有され」という新し い要件を追加したものであって,分散の形態を特定するものではない。し かし,発明の詳細な説明には,「非磁性材を3mol%含む」実施例2のターゲ ットについても,課題を解決することができると記載されている。
すなわち,「非磁性材は6mol%以上含有され」という新たな要件は,課題 を解決するための手段ではないことが実施例及び比較例によって裏付けら れているにもかかわらず,「本件訂正発明1は,課題を解決するための手 段を備えているといえる」とした審決の判断は,自己矛盾を含むものであ 18 る。
ウ さらに,本件訂正発明においては,非磁性材の分散の形態は,非磁性材 粒子が存在しない領域についても最大径が40?以下で,かつ,直径10?以 上40?以下の領域の個数が1000個/mm2以下であることが特定されている。
本件明細書の表1には,実施例1から実施例3,比較例1及び比較例2に ついて,直径10?以上の部分の存在個数が記載されているものの,当該個 数は図面から読み取れる範囲を超えているから,本件訂正発明の「分散の 形態」によって課題を解決できることが記載されているとはいえない。
エ 以上によれば,サポート要件に適合するとした審決の判断が誤りである ことは明らかである。
(4) 取消事由3の4 (明確性要件及び実施可能要件適合性に関する判断の誤り) ア 審決は,サポート要件適合性の判断において,非磁性材の含有量の上限 値が特定されていないことについて,「非磁性材粒子分散型強磁性材スパ ッタリングターゲットにおいて,強磁性材と非磁性材との割合を適宜調整 することにより,DCスパッタリング用ターゲットとできることは明らか」 であると判断している。
これに対し,進歩性の判断においては,「セラミック相を増加させよう とすれば,均一に分散させることが相対的に困難になり,ターゲット中の セラミック相粒子の大きさは大きくなる等,分散の均一性は低下する方向 に変化すると考えるのが自然である。」から,非磁性材の含有量を甲1発 明の3重量%(3.2mol%)から本件訂正発明の6mol%とすることは容易ではない という矛盾した判断をしている。
イ 仮に,非磁性材の含有量が多くなるに従って,本件訂正発明に記載され ている特異な組織構造の実現がより一層難しくなるというのであれば,実 19 施例によって開示されている6mol%を超えて非磁性材の含有量が100%近くに なっても,特異な微細均一な分散形態のターゲットが得られ,「スパッタ 時に発生するパーティクルやノジュールを低減させ,品質のばらつきが少 なく量産性を向上させることができ,かつ結晶粒が微細であり高密度の非 磁性材粒子分散型強磁性材スパッタリングターゲット」が得られるとはい えない。
また,本件明細書には,非磁性材を3mol%含有する実施例2においても, 実施例1と同様の特異な組織構造を有するターゲットが得られ,パーティ クル発生が抑制され課題解決ができると記載されているのであるから,非 磁性材を6mol%以上とすることで初めて課題が解決されるとはいえない。
ウ 逆に,金属相の原材料と6mol%以上上限なしの非磁性材とからなり,本件 訂正発明に記載されている特異な組織構造を有するターゲットにおいても, 上記課題が解決できるのであれば,本件明細書の実施例2と同程度の 3.2mol%の非磁性材を含有する甲1発明においても,上記課題は解決されて いるはずであるから,結局,本件明細書には課題解決の手段たる構成が記 載されていないことになる。
エ したがって,審決には,進歩性に関する判断の誤りか,明確性又は実施 可能要件適合性に関する判断の誤りか,少なくともいずれか一つの誤りが 含まれている。
被告の反論
1 取消事由1(手続上の違法)について (1) 特許法134条の2第4項は,訂正請求書等の副本を審判請求人に送達す べき旨を規定しているが,その際に審判請求人に意見を申し立てる機会を与 えなければならないとか,訂正請求を認め,審決の予告における判断を変更 20 する場合に,審判請求人に意見申立てと新証拠提出の機会を与えなければな らないという規定はない。特許法上,審判長が,審判請求人に意見を申し立 てる機会を与えなければならない場合は,例えば同条5項のように明確に規 定されている。
したがって,審判長は,訂正請求書等の副本を審判請求人に送付すれば足 りる。
(2) また,特許法上,事件の審理が熟したときには,審理の終結を当事者に通 知することになっているところ,審決の予告がされた後に,特許権者から訂 正請求がされた場合も,審判合議体には,特に審判請求人に弁駁の機会を与 えることなく,事件の審理が熟したと判断する裁量権が与えられている。
審判請求人に弁駁の機会を与えるかどうかも,審判合議体の裁量の範囲内 の事項であることは明らかであるから,審判合議体が,審判請求人である原 告に対し,意見を申し立てる機会を与えなかったことに違法性はない。
(3) 仮に,原告が,審判合議体の裁量権の逸脱,濫用について主張していると しても,次のとおり,原告の主張は失当である。
すなわち,行政庁の裁量行為が違法かどうかについては,「その基礎とさ れた重要な事実に誤認があること等により重要な事実の基礎を欠くこととな る場合,又は,事実に対する評価が明らかに合理性を欠くこと,判断の過程 において考慮すべき事情を考慮しないこと等によりその内容が社会通念に照 らし著しく妥当性を欠くものと認められる場合に限り,裁量権の範囲を逸脱 し又はこれを濫用したものとして違法となるとすべきものと解するのが相当 である。」 しかし,本件において,原告は,審判合議体の行為が,上記の判断基準が 指摘する裁量権の逸脱,濫用に当たることを根拠付ける事実を主張立証でき 21 ていない。
(4) なお,審理終結通知が送付された後であっても,審判長は,必要があれば 当事者の申立てにより又は職権で審理を再開することもできる。
本件において,審判請求人である原告は,審理終結後に平成29年3月7 日付け上申書を提出しているが,審判合議体は,当該上申書を参酌しても, 審理の再開は不要と判断したのである。すなわち,原告に無効審判請求書の 補正の機会が実質的に与えられなかったのではなく,補正の機会を与える必 要もなかったことから,審判長は補正の機会を与えなかったというべきであ る。
(5) 以上のとおり,特許庁の手続きに違法性はなく,原告の主張はいずれも失 当である。
2 取消事由2(訂正要件適合性に関する判断の誤り)について (1) 取消事由2の1(訂正による新規事項追加の禁止に関する判断の誤り)に ついて ア @ 本件特許に係る発明は,酸化物や珪化物などの非電導性材料又は非 磁性材材料が多量に含まれる強磁性材ターゲットにおけるパーティクルや ノジュールを低減させることを課題とするものであること,A 実施例1 にSiO2粒子の含有量が6mol%であって,非磁性材の粒子の分散が調整された ターゲットの開示があること,B 実 施 例 3 に Cr2O3 粒 子 の 含 有 量 が 7.84mol%(=8/(94+8))であって,非磁性材の粒子の分散が調整されたターゲ ットの開示があること,に鑑みれば,本件明細書に,ターゲットが非磁性 材を6mol%以上含有する旨が記載されていることは明らかである。
イ 原告は,実施例3における非磁性材の含有量が誤記であると主張するが, 憶測にすぎない。
22 「94(74Co-10Cr-16Pt)-8Cr2O3 (mol%)」との記載に基づいて非磁性材のモ ルパーセントを求める場合は,全量から非磁性材の量を割り出す,すなわ ち , 審 決 が 判 断 し た と お り , 非 磁 性 材 で あ る Cr2O3 の 含 有 量 は 7.84mol%(=8/(94+8))となる。
ウ また,原告は,本件明細書記載の実施例が開示する事項は,ある一定の 体積割合で非磁性材を含有させることにより特定の分散状態を実現するも のであると主張する。
しかし,本件明細書には体積パーセントについて一切記載がない。また, 非磁性材の体積パーセントを求めるには,ターゲット中の金属部分及び非 磁性材粒子それぞれの密度が必要であるが,本件明細書には当該数値も記 載されていない。
原告による非磁性材の体積比率の算出方法自体は否定しないが,本件明 細書に記載されている発明について体積パーセントの観点で理解すべきで あるとの原告の主張は失当である。
(2) 取消事由2の2(特許請求の範囲拡張ないし変更する訂正を看過した誤 り)について ア 本件訂正に係る内容は,訂正前の請求項1に規定されていた含有量に限 定のない非磁性材について,含有量の限定を追加したものであって,審決 が認定したとおり,発明特定事項を直列的に付加するものである。
発明特定事項を直列的に付加するものである以上,訂正前の特許請求の 範囲に含まれない発明が訂正後の特許請求の範囲に含まれることにはなり 得ないから,本件訂正が特許法126条6項の規定に適合することは明ら かである。
イ 原告は,非磁性材を6mol%以上含有するとの技術思想が本件明細書に開示 23 されていないから,特許請求の範囲にこのような限定を追加する訂正は, 特許請求の範囲を実質的に拡張ないし変更するものであると主張する。
訂正前発明は,非磁性材の含有量について限定がなかったため,非磁性 材を3mol%含有するターゲットも,非磁性材を6mol%以上含有するターゲッ トも,発明特定事項により限定されている非磁性材の分散の形態に調整す ることによって,スパッタ時に発生するパーティクルやノジュールの低減 を実現するものであった。これを本件訂正により,非磁性材を6mol%以上含 有するターゲットであっても,発明特定事項により限定されている非磁性 材の分散の形態に調整することで,スパッタ時に発生するパーティクルや ノジュールの低減を実現できる発明に限定した。
したがって,本件訂正に係る内容は,非磁性材を6mol%以上含有すること で何らかの作用効果を狙ったものではないし,非磁性材を6mol%以上含有さ せるというターゲットの組成は,それ自体に臨界的意義があるものでもな い。そのため,本件明細書において,非磁性材を6mol%以上含有することで 何らかの作用効果を狙うという技術思想の開示が存在しないのは当然であ る。
3 取消事由3について (1) 取消事由3の1(新規性に関する判断の誤り)について ア 審決に係る審判請求時の新規性欠如又は進歩性欠如に関する原告の主張 は,甲1記載の実施例1及び3に基づいて認定した甲1発明を基礎とする ものであった。したがって,審決取消訴訟の段階に至って,甲1の実施例 2, 5, 4, 6及び7にそれぞれ記載されている発明を持ち出すこと自体, 審判請求の趣旨及び理由の要旨変更に当たり,許されるべきものではない。
イ そもそも,原告も主張するとおり,甲1において実施例として開示され 24 ているターゲットは,複数の種類の酸化物を含み,かつ,その含有量は約 1.46〜3.34mol%の範囲のものであるから,いずれのターゲットも非磁性材 を6mol%以上含有するものではない。
したがって,本件訂正発明1と甲1発明との相違点が実質的な相違点で あるとした審決の判断に誤りはない。
(2) 取消事由3の2(相違点の容易想到性に関する判断の誤り)について ア 本件訂正発明1及び甲1発明における組織 (ア) 審決の認定によれば,本件訂正発明1と甲1発明とは,組織(本件訂 正発明1の構成要件1B,1C及び1D)の点で一応一致するものの, 非磁性材含有量が本件訂正発明1は6mol%以上,甲1発明は3重量%という 点で相違する。
ここで,甲1発明のように非磁性材の含有量が3重量%と少ない場合に は,ターゲットの組織は「非磁性材料粒子内の任意の点を中心に形成し た半径2?の全ての仮想円よりも小さい」(以下「形状1」という。)と いうものだけで足りる可能性がある。しかし,非磁性材の含有量が6mol% 以上になると,「非磁性材料粒子内の任意の点を中心に形成した半径2 ?の全ての仮想円…と,強磁性材と非磁性材の界面との間で,少なくと も2点以上の接点又は交点を有する形状及び寸法の粒子」(以下「形状 2」という。本件明細書記載の図2及び図3参照。)を許容することが 望ましい。
すなわち,甲1発明は,酸化物や窒化物の含有量を3重量%とするとの 前提のもとで,酸化物等(非磁性材)を微細な黒点の形態で分散させた, あるいは合金粉末の粒界に酸化物を凝集させた組織である。そのため, 非磁性材の含有量が3重量%という前提のもとでは,甲1発明における組 25 織と本件訂正発明1における組織とが,形状1の点でたまたま一致する 可能性があるかもしれないが,甲1発明は形状2を有するものではない。
したがって,組織に関し,本件訂正発明1は「形状1又は形状2」で 特定されるのに対し,甲1発明は「形状1」で特定される点で相違する。
(イ) そもそも,甲1の図1において観察される黒点領域(酸化物領域)の 面積が占める割合(面積比率)は1.8%である。これに対し,甲1のター ゲットの組成から導き出される体積比率は11.5vol%である。一般的に面 積比率の値と体積比率の値とはほぼ一致するところ,上記面積比率は体 積比率の約6分の1にすぎないから,残りの約6分の5に相当する酸化 物が確認できていないことになる。すなわち,非磁性材粒子は黒点以外 の部分にも存在する可能性が高い。
また,甲1の図1は,比較的コントラストの弱いSEM写真のコピーであ り,ピントがずれているものであることは当事者間に争いがないところ, このようなものから「組織」(非磁性材の輪郭)を認定することはでき ない。
したがって,このような甲1の図1のみに依拠して,甲1発明におけ る組織に係る構成である構成要件b,c及びdを認定することは不可能 である。なお,審決は,甲1の図1に基づいて,甲1発明の構成要件b, c及びdを認定しているが,その説示からするとあくまでも非断定的で, 多少の無理が伴った認定であることは明らかである。
イ 本件訂正発明の課題解決手段 上記ア(ア)のとおり,本件訂正発明1は,単に非磁性材の微細化だけを 目標としたものではなく,課題解決手段として非磁性材粒子を形状1又は 形状2という特定の分散の形態に調整することで,パーティクルなどの発 26 生を低減しようというものである。
したがって,酸化物粒子の粒径を小さくすればパーティクルの発生を抑 制できることが知られていたという原告の主張は,容易想到性を肯定する 根拠にはならない。
ウ 非磁性材を増加させることの動機付けの不存在 (ア) 上記ア(イ)のとおり,甲1のターゲットの組成を踏まえて図1を評価 すると,当業者は,@ 甲1の図1は実際の酸化物粒子の大きさが正し く認識できない状態であり,より鮮明なSEM画像にすれば,より多くの非 磁性材の粒子が観察できる可能性がある,A 甲1の図1は,酸化物の 粒子が少なく,分散状態が良いところのみを観察したもので,実際は他 の領域で酸化物の粒子が異常に偏析している可能性がある,B 甲1の 図1に対応する領域とは異なる領域を観察すれば,図1とは異なる組織 が存在する可能性がある,C 甲1の実施例1のターゲットは,明細書 記載の組成のとおりのものではない可能性がある,と考察せざるを得な い。
それにもかかわらず,酸化物を6mol%以上にまで増加させた場合にも, 甲1の図1と同様の組織が得られるであろうと考える当業者はいない。
むしろ,当業者は,酸化物が更に凝集し,想像もつかない組織が生じる ことになると考えざるを得ない。
(イ) 甲1に開示されているスパッタリングターゲットの非磁性材含有量は 3重量%に固定されている。そうであれば,当業者は,全ての実施例にお いて固定された含有量をわざわざ変更して増加させようと考えない。
また,甲1には,非磁性材である酸化物又は窒化物の含有量を3重量% と固定した条件下で,図1の組織とほぼ同様の組織(なお,実際にどの 27 ような組織をもって,ほぼ同様と評価しているのかは不明である。)を 実現する複数の方法,すなわち,窒化物分散,ボールミル条件変更,メ ルトスピン急冷薄帯,を模索することが記載されているにすぎず,非磁 性材含有量を増やすことを全く視野に入れていない。
(ウ) 甲1発明は,面内磁気記録薄膜用ターゲットに特化して最適化した発 明である。一方,本件訂正発明は,垂直磁気記録薄膜用のターゲットも 想定した発明である。
垂直磁気記録薄膜用ターゲットの場合,薄膜の成り立ちからして酸化 物の含有量は多くなるが,面内磁気記録薄膜用ターゲットの場合,金属 を主たる材料としているため,酸化物の含有量を増やすことを想定して いない。甲1発明の出願日当時は,いまだ面内磁気記録薄膜の時代であ ったから,ターゲットユーザーのニーズとしても,酸化物などの非磁性 材の含有量を増大させる必要はなかった。これらの事実に照らせば,甲 1発明の組織は,飽くまでも面内磁気記録方式の薄膜組成に適用可能な 程度の非磁性材を含有する(例えば非磁性材の含有量はせいぜい3重量% 程度)ターゲットの組織を提案するものといえる。
したがって,当業者は,甲1発明において,酸化物の含有量を6mol% 以上にしようとは考えない。
(エ) 甲4及び甲6に係る発明は,いずれも特有な組織によって非磁性材の 含有量の増加を可能とした発明である。すなわち,これらの発明におい ては,酸化物などの含有量が甲1発明と比べて格段に多いため,甲1発 明のように非磁性材が微細に分散しているものと比較すると,均質・微 細とはいえない組織となっている。これは,@ 当業者は,甲4発明の 出願時(平成15年)以降,甲1発明に係る組織のままで非磁性材の含 28 有量を増加させることは困難であると認識していたこと,A 酸化物の 含有量を増加させる場合には,甲1発明の組織ではなく,甲4や甲6に 係る発明のように粗大なSiO2などからなる非磁性材相を含有する特有な 組織を導入することで,均一性のある組織が実現されること,を示して いる。本件訂正発明も,特定の分散形態を調整することで,非磁性材の 含有量が6mol%以上の場合も均質な組織を実現できるようにしている。
したがって,当業者は,甲4及び甲6の記載を参考にして,甲1発明 の組織を維持したまま酸化物の含有量を6mol%以上にしようとは考えない。
(オ) 特開2009-102707号公報(出願日:平成19年10月24 日。乙7)は,甲1と同一の出願人による特許出願に係る公開公報であ るところ,当該公報に記載されている実施例3の写真からすると,甲1 の出願人ですら,酸化物の含有量を垂直磁気記録薄膜に適した量まで増 加させたターゲットの組織を開発するのに,約11年を要している。当 該事実は,当業者において,甲1発明における酸化物の含有量を6mol% 以上とする動機付けがなく,本件訂正発明に容易に想到することが困難 であることを基礎づけている。
エ 非磁性材を増加させることの阻害要因 (ア) 審決も認定したとおり,仮に,当業者が,甲1において実施例として 開示されているターゲットについて,その組成の変更を試み得るとして も,ターゲットの組成を変化させるとターゲット中のセラミック相の分 散状態も変化することが推測され,例えば,当該セラミック相を増加さ せようとすれば,均一に分散させることが相対的に困難になり,ターゲ ット中のセラミック相粒子の大きさは大きくなる等,分散の均一性は低 下する方向に変化すると考えるのが自然であるから,非磁性材の含有量 29 を6mol%以上とすることには阻害要因がある。
(イ) また,上記ウ(イ)のとおり,甲1には,甲1発明と同様の組織を実現 する実施例のバリエーションとして,窒化物分散,ボールミル条件変更, メルトスピン急冷薄帯があり,それぞれにおいて図1に示した組織とほ ぼ同様であった,との記載がある。
もっとも,「ほぼ同様」というのは,主観的で幅のある概念であって, 少なくとも同一ではないという意味であるから,甲1発明は,酸化物又 は窒化物の含有量を3重量%(モルパーセント換算で1.46〜3.34mol%)に 固定しているにもかかわらず, 「ほぼ同様」としか表現できない程度に, 組織が相違しているということになる。
そうすると,非磁性材の含有量を6mol%以上にした場合も,組織が「ほ ぼ同様」であるかはより一層不明であって,甲1発明の組織が維持され るかどうかも不明である。
(ウ) さらに,証拠として提出された文献のうち,非磁性材の含有量が本件 訂正発明と同じ6mol%以上であり,かつ,ターゲットの組織の写真が掲載 されているものは,甲4及び甲6のみであるが,これらの写真から読み 取れる組織は,いずれも非磁性材粒子が粗大化している。
加えて,甲4には,甲1が従来の技術欄で引用され,甲1の組織のま までは非磁性材の分散は不十分であり,低透磁率にならず,異常放電し たり,スパッタ初期に安定した放電が得られないとの評価が記載されて いる。また,甲4には,非磁性材の含有量を10mol%に増やし,甲1発明 の製造方法と同様の方法で作製したターゲットにおいては,凝集によっ て生じた粗大な非磁性材塊が間隔を空けて配置されるような組織となっ たことも開示されている(段落【0011】,【0012】,【図2】)。
30 これらの事実は,甲1発明において非磁性材の含有量を6mol%以上とし た場合に,酸化物の凝集が生じてしまうことを強く推認させるものであ る。それにもかかわらず,異常放電が生じたり,分散が不十分な組織に なったりすることに目をつぶってもなお,甲1の非磁性材の含有量を敢 えて増やそうと考える当業者はいない。
(エ) メカニカルアロイングには,ボールが摩耗し,その成分(不純物)が 混入して汚染が生ずることで,スパッタ膜の磁気特性が劣化するという 欠点がある。また,メカニカルアロイングに要する時間は生産性を低下 させる要因にもなる。
このように,長期間のメカニカルアロイングには弊害が伴うから,当 業者は,メカニカルアロイングを際限なく行うということはしない。
オ 原告の主張は本件訴訟の審理範囲を逸脱している 原告は,甲1発明に,甲4に示された技術内容を適用するとか,甲6記 載の技術常識を組み合わせると,本件訂正発明1に容易に想到できると主 張している。しかし,そもそも,甲1と甲4との組合せ及び甲1と甲6と の組合せによる無効理由は,無効審判手続において審理判断されていない ものであるから,メリヤス編機事件の最高裁判決の判旨に照らせば,原告 が本件訴訟において上記の主張をすることは許されない。
(3) 取消事由3の3(サポート要件適合性に関する判断の誤り)について ア 原告は,実施例3に係る含有量の記載は誤記であり,実施例としての意 味をなさないとの前提で,特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合し ないと主張するが,上記2(1)において主張したとおり,本件明細書に実施 例3として非磁性材を7.84mol%含有するターゲットが記載されていること は明らかである。
31 イ また,「非磁性材は6mol%以上含有され」という本件訂正に係る事項は, 課題を解決するための手段ではない。当該事項は,本件訂正発明は,非磁 性材を6mol%以上含有するターゲットであっても,発明特定事項で特定され た非磁性材の分散形態により,パーティクルなどの発生を低減するもので あることを明確にするものである。
さらに,審決が,構成要件1Bは実質的に分散の形態を特定するための ものである,と認定したとおり,本件訂正発明は課題解決手段を備えてい る。
ウ 原告は,審決が認定した計数方法に従った場合,本件明細書に記載され ている各図面に基づいて表1記載の存在個数を検証できないから,審決の 認定は誤っていると主張するようであるが,そもそも,明細書に記載され ている測定結果について,それを導くための生データを明細書に記載しな ければサポート要件に適合しないなどという判断はあり得ない。
(4) 取消事由3の4 (明確性要件及び実施可能要件適合性に関する判断の誤り) について ア 原告も自認するとおり,この点についての主張は,審決に係る審判請求 時にされていなかったから,審判請求の趣旨と理由を変更するものに該当 し許されない。
なお,念のため,後記イ及びウのとおり反論する。
イ 審決は,「非磁性材粒子分散型強磁性材スパッタリングターゲットにお いて,強磁性材と非磁性材の割合を適宜調整することにより,DCスパッタ リング用ターゲットとできることは明らかである」ことを理由に,非磁性 材の上限値の特定は不要と判断した。非磁性材全粒子の特異な分散形態が, 6mol%の非磁性材粒子の含有量でのみ実現されたことが開示されているにす 32 ぎないという原告の主張は誤りである。
ウ また,本件訂正発明は,非磁性材を6mol%以上含有させること自体で課題 を解決するものではないから,いわゆる数値限定発明とは異なる。
当裁判所の判断
当裁判所は,原告が主張する取消事由3の2は理由があるから,審決には取 り消されるべき違法があると判断する。その理由は,以下のとおりである。
1 本件訂正発明について (1) 本件訂正発明についての特許請求の範囲は,上記第2の2記載のとおりで ある。
(2) 本件明細書には,概ね以下の記載がある。
ア 技術分野及び背景技術 本発明は,非磁性材粒子分散型強磁性材スパッタリングターゲットに関 し,特にスパッタリングによって膜を形成する際に,安定した直流(DC) スパッタリングが可能で最適な成膜速度が得られ,スパッタ時のアーキン グが少なく,これに起因して発生するパーティクル(発塵)やノジュール を低減でき,且つ高密度で品質のばらつきが少なく量産性を向上させるこ とのできる非磁性材粒子分散型強磁性材スパッタリングターゲットに関す る。(【0001】) 磁気記録の分野では,磁性体薄膜中に非磁性材料を共存させることによ り磁気特性を向上する技術が開発されている。その例として,磁性材薄膜 中に非磁性材料の微粒子を存在させることにより,透磁率などの軟磁気特 性を向上させるものや,磁性体薄膜材料中の金属微粒子間の磁気的相互作 用を非磁性材料により遮断,または弱めることにより保磁力など磁気記録 媒体としての各種特性を向上させるものなどがある。
33 このような薄膜材料は通常スパッタリングにより作製されるが,絶縁性若しくは高抵抗である非磁性材料と低抵抗である金属からなる強磁性材料とを同時にスパッタリングする必要がある。(【0002】) スパッタリング法とは,正の電極となる基板と負の電極となるターゲットを対向させ,不活性ガス雰囲気下で,該基板とターゲット間に高電圧または高周波を印加して電場を発生させるものである。
この時,不活性ガスが電離し,電子と陽イオンからなるプラズマが形成され,このプラズマ中の陽イオンがターゲット(負の電極)表面に衝突してターゲット構成原子を叩き出されるが,この飛び出した原子が対向する基板表面に付着して膜が形成されるという原理を用いたものである。
一般的なスパッタリング法としては,RF(高周波)スパッタリング法とDC(直流)スパッタリング法があるが,上記のように抵抗の大きく異なる材料を同時にスパッタリングするためには,絶縁体がスパッタリングできるRFスパッタリング法が使用される場合が多い。(【0003】) ところが,このRF(高周波)スパッタリング装置は,装置自体が高価であるばかりでなく,スパッタリング効率が悪く,電力消費量が大きく,制御が複雑であり,成膜速度も遅いという多くの欠点がある。また,成膜速度を上げるため,高電力を加えた場合,基板温度が上昇し,基板及び成膜材料の変質を起こすなどの問題がある。
もう一方のDCスパッタリング法は,RFスパッタリング法と比べて,消費電力が少なく,高速成膜が可能であり,装置価格も低いため,量産性に優れるという特徴をもつ。また,プラズマが基板に与える影響が少ないため一般的には高品質の膜が作製できるとされる。
したがって,非磁性材と強磁性材を同時にスパッタリングするためのス 34 パッタリングターゲットにおいても,極力DCスパッタリングが可能となる ような工夫がなされる。DCスパッタリング法を用いる場合,ターゲット自 体が導電性を備えていることが必要となる。(【0004】) ターゲットが導電性を備えていたとしても,酸化物,珪化物等の非導電 性材料が多量に含まれるターゲットは,ターゲットのバルク抵抗値が高く なるため,DCスパッタリングによる成膜が難しくなる。
そのため,酸化物等の非磁性材料を細かく球状に分散させた組織をもつ スパッタリングターゲットの工夫がなされている。しかし,このような工 夫がなされても,パーティクルが大量に発生するという問題があった。
(【0 005】)イ 発明が解決しようとする課題 本発明は,スパッタリングによって膜を形成する際に,DCスパッタによ る高速成膜が可能であり,さらにスパッタ時に発生するパーティクル(発 塵)やノジュールを低減させ,品質のばらつきが少なく量産性を向上させ ることができ,かつ結晶粒が微細であり高密度の非磁性材粒子分散型強磁 性材スパッタリングターゲット,特に磁気記録層としての使用に最適であ るスパッタリングターゲットを得ることを目的とする。(【0007】)ウ 課題を解決するための手段 上記の課題を解決するために,本発明者らは鋭意研究を行った結果,非 磁性材粒子分散の形態を調整し,導電性を保有させてDCスパッタを可能と し,かつ密度を高め,さらにスパッタ時に発生するパーティクルやノジュ ールを大幅に低減できるとの知見を得た。(【0008】) このような知見に基づき,本発明の非磁性材粒子分散型強磁性材スパッ タリングターゲットは,強磁性材の中に非磁性材の粒子が分散した材料の 35 研磨面で観察される組織中の非磁性材全粒子は,非磁性材料粒子内の任意の点を中心に形成した半径2?の全ての仮想円よりも小さいか,又は該仮想円と強磁性材と非磁性材の界面との間で,少なくとも2点以上の接点又は交点を有する形状及び寸法を備えていることを特徴とするものである。
上記条件を満たせば,非磁性材料粒子の形状,および大きさに特に制限はない。たとえば,長さが2?以上ある紐状や細かく枝分かれしたような形態であっても,上記条件を満たせば,目的の効果を得る事ができる。(【0009】) 強磁性材の中に分散した非磁性材の粒子は,必ずしも球状である必要はない。球状よりもむしろ紐上(判決注:原文のまま)又はヒトデ状若しくは網目状が望ましいとすら言える。研磨面で観察される大型の球状物は脱粒を起こし易く,かつ脱粒した場合にパーティクル発生量はその影響を強く受けるからである。
表面の研磨で観察される紐状又はヒトデ状若しくは網目状組織は,当然ながらターゲットの厚み方向にも存在している。このように,ターゲットの厚み方向に結合した紐状又はヒトデ状若しくは網目状組織は,脱粒を起こすことが少なくなる。また,強磁性材料と酸化物等の非磁性材料との接触面積の増加は,脱粒防止に効果がある。したがって,紐上(判決注:原文のまま)又は網目状の幅が小さく,かつ分散していることが望ましいと言える。
本願発明の,非磁性材料粒子内の任意の点を中心に形成した半径1?の全ての仮想円よりも小さいか,又は該仮想円と強磁性材と非磁性材の界面との間で,少なくとも2点以上の接点又は交点を有するという規定は,このような紐状又はヒトデ状若しくは網目状組織を包含するものである。 【0 ( 36 010】) 本願発明の非磁性材粒子分散型強磁性材スパッタリングターゲットは, さらに非磁性材料粒子内の任意の点を中心に形成した半径1?の全ての仮想 円よりも小さいか,又は該仮想円と強磁性材と非磁性材の界面との間で, 少なくとも2点以上の接点又は交点を有するのが望ましい。これは,より 微細な組織を狙うものである。
さらに,本願発明の非磁性材粒子分散型強磁性材スパッタリングターゲ ットは,材料の研磨面で観察される非磁性材の粒子が存在しない領域の最 大径が40?以下で,かつ直径10?以上の部分が1000個/mm2以下であること が望ましい。これは,強磁性材のみの部分がターゲット表面に露出して偏 析しないことが望ましいことを意味する。すなわち非磁性材粒子の均一性 確保のためである。(【0011】) 本発明の非磁性材粒子分散型強磁性材スパッタリングターゲットは,強 磁性材がCo若しは(判決注:原文のまま)Fe又は双方を主成分とする材料 に,特に有効である。また,本発明の非磁性材粒子分散型強磁性材スパッ タリングターゲットは,非磁性材が酸化物,窒化物,炭化物,珪化物から 選択した1成分以上の材料である場合に,特に有効であるが,非磁性材料 は,強磁性材料の成分と共存した状態で,不活性雰囲気若しくは真空中で 強熱しても還元または分解しないものが望ましい。これは,ターゲット製 造時に還元または分解することにより,強磁性材の組成に影響を及ぼすも のであってはならないからである。(【0012】)エ 発明の効果 このように,調整したターゲットは,DCスパッタリングが可能となり, そしてDCスパッタリングはRFスパッタリングに比べ,成膜速度が速く,ス 37 パッタリング効率が良いという点で著しく優れている。また,DCスパッタ リング装置は価格が安く,制御が容易であり,電力の消費量も少なくて済 むという利点がある。
したがって,本発明のスパッタリングターゲットを使用することにより, 品質の優れた材料を得ることができ,特に磁性材料を低コストで安定して 製造できるという著しい効果がある。さらに,本発明のスパッタリングタ ーゲットの密度向上は,非磁性材と強磁性材との密着性を高めることによ り,非磁性材の脱粒を抑制することができ,また,空孔を減少させ結晶粒 を微細化し,ターゲットのスパッタ面を均一かつ平滑にすることができる ので,スパッタリング時のパーティクルやノジュールを低減させ,さらに ターゲットライフも長くすることができるという著しい効果を有する。
(【0 014】)オ 発明を実施するための最良の形態 本発明の非磁性材粒子分散型強磁性材スパッタリングターゲットの製造 に際しては,強磁性材として,例えばCo若しくはFe又は双方を主成分とす る材料の1〜5?の微粉と,非磁性材として酸化物,窒化物,炭化物,珪化 物から選択した1成分以上の材料を使用する。これらの1〜5?の微粉を20 〜100時間程度,ボールミル等で混合した後,HP(ホットプレス)法を用い て1000〜1250℃の温度で焼結する。
強磁性材の中に非磁性材の粒子が分散した焼結体の研磨面で観察される 組織中の非磁性材全粒子の形状及び寸法は,上記原料粉の形状,混合時間, 焼結温度によって調節することができるが,この条件は,強磁性材料と非 磁性材料の組合せによっても大きくことなるが,上記条件の範囲により, 任意に選択できる。
38 この製造条件の選択は,非磁性材料粒子内の任意の点を中心に形成した半径1?の全ての仮想円よりも小さいか,又は該仮想円と強磁性材と非磁性材の界面との間で,少なくとも2点以上の接点又は交点を有する形状及び寸法を備えるようにすることである。換言すれば,粒子の形状と寸法をこの条件に適合する条件にすることである。この条件に適合する粒子は,微細な球状の粒子か又は細い紐状あるいはヒトデ状若しくは網目状の粒子である場合が多いと言える。(【0016】) 材料の研磨面で観察される組織の非磁性材の全粒子が,非磁性材料粒子内の任意の点を中心に形成した半径2?の全ての仮想円よりも小さいか,又は該仮想円と強磁性材と非磁性材の界面との間で,少なくとも2点以上の接点又は交点を有する具体例を示すと次の通りである。
例えば,球状の非磁性材の粒子であれば,図1の模式図の通りであり,図1の左は粒子の中に半径1?の仮想円が包含される場合で,粗大化した粒子であり,本願発明には該当しない。図1の右が半径2?の仮想円よりも粒子の半径が2.0?以下である小さいサイズの粒子の場合であり,本願発明に含まれる。
紐状の非磁性材の粒子であれば,図2の模式図の通りである。非磁性材料粒子の断面上任意の点から半径2?以内の仮想円に入っていればその長さや曲がり方に制限は無い。(【0018】) 次に,網目状の粒子の模式図を,図3に示す。(【0019】) その他の形状として,ひょうたん型の粒子形状も考えられる。その模式図を図4に示す。この場合もくびれた部分については特に問題とならないが,膨らんだ部分の半径が2.0?以下とする必要がある。その意味では,球状の粒子と同様のことが言える。
39 さらに,本願発明の非磁性材粒子分散型強磁性材スパッタリングターゲ ットは,材料の研磨面で観察される非磁性材の粒子が存在しない領域にお いては,その領域の直径が10?〜40?の範囲にあり且つその個数が1000個 /mm2以下であることがより望ましい。これは,強磁性材のみがターゲット 表面に偏析せず,すなわち非磁性材粒子が均一に分散していることが,成 膜の条件としても望ましいためである。(【0020】)カ 実施例 (ア) 実施例1 焼結原料粉末として,粒径がそれぞれ5?未満のCo微粉,Cr微粉,Pt 微粉の磁性材料を使用し,これに対して,平均粒径1?のSiO2粉を用いた。
これを94(74Co-10Cr-16Pt)-6SiO2(mol%)となるように秤量し,これら を湿式ボールミルで100時間混合した。次に,この混合粉をカーボン製の 型 に 充 填 し , ホ ッ ト プ レ ス 法 に よ り , 1200 ℃ で 1 時 間 焼 結 し , 94(74Co-10Cr-16Pt)-6SiO2からなる強磁性体材料のターゲットを得た。
このターゲットの相対密度は98%であり,高密度のターゲットが得られ た。この結果を表1に示す。また,このターゲットの研磨面のSEM画像を 図5(判決注:省略。以下同じ。)に示す。図5に示すように,細紐状 の微細なSiO2粒子が分散していた。
この場合の,非磁性材であるSiO2粒子内の任意の点から界面に向けて 垂線を下ろした場合の,界面までの距離は1?以下の範囲内にあった。す なわち,非磁性材料粒子内の任意の点を中心に形成した半径1?の全ての 仮想円よりも小さいか,又は該仮想円と強磁性材と非磁性材の界面との 間で,少なくとも2点以上の接点又は交点を有する形状及び寸法を備え るという本願発明の条件を満たしていた。(【0022】) 40 Co-Cr-Ptからなる強磁性材の中に非磁性材であるSiO2の粒子が分散し た材料において,研磨面で観察されるSiO2の粒子が存在しない領域,す なわち強磁性材のみの領域の直径10?以上の部分は32個/mm2であった。
この結果を表1に示す。この個数は,非常に少ない量であり,偏析が少 なく,均一性に優れたターゲットが得られていることが確認できた。
次に,これを6インチφサイズに加工したターゲットを使用して,スパ ッタリングを行った。スパッタ条件は,DCスパッタ,スパッタパワー1000W, Arガス圧0.5Paとし,目標膜厚500Åで成膜した。パーティクルの発生状 況を同様に表1に示す。表1から明らかなように,パーティクルの発生 は非常に少なかった。(【0023】)(イ) 実施例2 焼結原料粉末として,粒径がそれぞれ5?未満のCo微粉,Cr微粉,Pt 微粉の磁性材料を使用し,これに対して,平均粒径1?のTa2O5粉を用い た。これを97(74Co-10Cr-16Pt)-3Ta2O5(mol%)となるように秤量し,これ らをボールミルで60時間混合した。次に,この混合粉をカーボン製の型 に 充 填 し , ホ ッ ト プ レ ス 法 に よ り , 1200 ℃ で 1 時 間 焼 結 し , 97(74Co-10Cr-16Pt)-3Ta2O5(mol%)からなる強磁性体材料のターゲットを 得た。
このターゲットの相対密度は98%であり,高密度のターゲットが得ら れた。この結果を表1に示す。また,このターゲットの研磨面のSEM画像 を図6(判決注:省略。以下同じ。)に示す。図6に示すように,擬似 球状の微細なTa2O5粒子が分散していた。
この場合の,非磁性材であるTa2O5粒子内の任意の点から界面に向けて 垂線を下ろした場合の,界面までの長さは,2?以下の範囲内にあった。
41 すなわち,非磁性材料粒子内の任意の点を中心に形成した半径2?の全て の仮想円よりも小さいか,又は該仮想円と強磁性材と非磁性材の界面と の間で,少なくとも2点以上の接点又は交点を有する形状及び寸法を備 えるという本願発明の条件を満たしていた。(【0025】) Co-Cr-Ptからなる強磁性材の中に非磁性材であるTa2O5の粒子が分散し た材料において,研磨面で観察されるTa2O5の粒子が存在しない領域,す なわち強磁性材のみの領域の直径10?以上の部分は19個/mm2であった。
この結果を表1に示す。この個数は,非常に少ない量であり,偏析が少 なく,均一性に優れたターゲットが得られていることが確認できた。
次に,これを6インチφサイズに加工したターゲットを使用して,スパ ッタリングを行った。スパッタ条件は,DCスパッタ,スパッタパワー1000W, Arガス圧0.5Paとし,目標膜厚500Åで成膜した。パーティクルの発生状 況を同様に表1に示す。表1から明らかなように,パーティクルの発生 は非常に少なかった。(【0026】)(ウ) 実施例3 焼結原料粉末として,粒径がそれぞれ5?未満のCo微粉,Cr微粉,Pt 微粉の磁性材料を使用し,これに対して,平均粒径1?の市販のCr2O3粉 を用いた。これを94(74Co-10Cr-16Pt)-8Cr2O3 (mol%)となるように秤量 し,これらをボールミルで100時間混合した。次に,この混合粉をカーボ ン製の型に充填し,ホットプレス法により,1200℃で1時間焼結し, 94(74Co-10Cr-16Pt)-8Cr2O3 (mol%)からなる強磁性体材料のターゲット を得た。
このターゲットの相対密度は98%であり,高密度のターゲットが得ら れた。この結果を表1に示す。また,このターゲットの研磨面のSEM画像 42 を図7(判決注:省略。以下同じ。)に示す。図7に示すように,紐状 の微細なCr2O3粒子が分散していた。
この場合の,非磁性材であるCr2O3粒子の任意の点から界面に向けて垂 線を下ろした場合の,界面まで長さは,2?以下の範囲内にあった。すな わち,非磁性材料粒子内の任意の点を中心に形成した半径2?の全ての仮 想円よりも小さいか,又は該仮想円と強磁性材と非磁性材の界面との間 で,少なくとも2点以上の接点又は交点を有する形状及び寸法を備える という本願発明の条件を満たしていた。(【0027】) Co-Cr-Ptからなる強磁性材の中に非磁性材であるCr2O3の粒子が分散し た材料において,研磨面で観察されるCr2O3の粒子が存在しない領域,す なわち強磁性材のみの領域の直径10?以上の部分は20個/mm2であった。
この結果を表1に示す。この個数は,非常に少ない量であり,偏析が少 なく,均一性に優れたターゲットが得られていることが確認できた。
次に,これを6インチφサイズに加工したターゲットを使用して,スパ ッタリングを行った。スパッタ条件は,DCスパッタ,スパッタパワー1000W, Arガス圧0.5Paとし,目標膜厚500Åで成膜した。パーティクルの発生状 況を同様に表1に示す。表1から明らかなように,パーティクルの発生 は非常に少なかった。(【0028】)キ 図表 別紙本件明細書図面記載【表1】(【0024】)及び【図1】〜【図 4】のとおり(3) 上記(2)によれば,本件明細書における本件発明に関する記載の概要は, 以下のとおりである。
本発明は,非磁性材粒子分散型強磁性材スパッタリングターゲットに関す 43 る。(【0001】) 磁気記録に用いる磁性体薄膜材料は,通常,絶縁性又は高抵抗である非磁性材料と低抵抗である金属からなる強磁性材料とを同時にスパッタリングすることにより作製される。一般的なスパッタリング法としては, (高周波) RFスパッタリング法とDC(直流)スパッタリング法がある。DCスパッタリング法は,RFスパッタリング法と比べて,消費電力が少なく,高速成膜が可能であり,装置価格も低いため,量産性に優れ,また,プラズマが基板に与える影響が少ないため,一般的には高品質の膜が作製できるとされる。したがって,非磁性材と強磁性材を同時にスパッタリングするためのスパッタリングターゲットにおいても,極力DCスパッタリングが可能となるような工夫がされる。(【0002】〜【0004】) 酸化物,珪化物等の非導電性材料が多量に含まれるターゲットは,ターゲットのバルク抵抗値が高くなるため,DCスパッタリングによる成膜が難しく,また,パーティクルが大量に発生するという問題があった。本発明は,スパッタリングによって膜を形成する際に,DCスパッタによる高速成膜が可能であり,さらにスパッタ時に発生するパーティクル(発塵)やノジュール(異物)を低減させ,品質のばらつきが少なく量産性を向上させることができ,かつ結晶粒が微細であり高密度の非磁性材粒子分散型強磁性材スパッタリングターゲット,特に磁気記録層としての使用に最適であるスパッタリングターゲットを得ることを目的とする。(【0005】,【0007】) 本発明の非磁性材粒子分散型強磁性材スパッタリングターゲットは,強磁性材の中に非磁性材の粒子が分散した材料の研磨面で観察される組織中の非磁性材全粒子が,非磁性材料粒子内の任意の点を中心に形成した半径2?の全ての仮想円よりも小さいか,又は該仮想円と強磁性材と非磁性材の界面との 44 間で,少なくとも2点以上の接点又は交点を有する形状及び寸法を備えてい ることを特徴とする。非磁性材料粒子の形状,及び大きさに特に制限はない。
たとえば,長さが2?以上ある紐状や細かく枝分かれしたような形態であって も,上記条件を満たせば,目的の効果を得ることができる。球状の場合は, 直径が4.0?以下となる。また,材料の研磨面で観察される非磁性材の粒子が 存在しない領域の最大径が40?以下で,かつ直径10?以上の部分が1000個/mm2 以下であることが望ましい。(【0009】〜【0011】) 本発明のスパッタリングターゲットを使用することにより,スパッタリン グ時のパーティクルやノジュールを低減させ,さらに,ターゲットライフも 長くすることができるという著しい効果を有する。(【0014】)2 引用発明について (1) 審決において引用された甲1に係る特願平8-268023号は,平成8 年9月18日に特許出願され,本件特許出願の優先日前の平成10年4月7 日に出願公開された(特開平10-88333号公報。甲2)のであるから, 同日以降,甲1の内容は,何人も特許庁において閲覧することができる状態 にあり,本件特許出願前に公然知られたものというべきである。
(2) 甲1には,概ね以下の記載がある。
ア 産業上の利用分野 本発明は,ハードディスク用の高密度面内磁気記録媒体をスパッタリン グを用いて製造するのに適したスパッタリングターゲットに関し,特に詳 しくは酸化物分散型Co系合金スパッタリングターゲットおよびその製造方 法に関する。(【0001】) イ 従来の技術 ハードディスク用の高密度面内磁気記録媒体としてCo系合金磁性膜が数 45 多く使用されている。これはCo-Cr-Ta合金,Co-Ni-Cr合金,Co-Cr-Pt合金, Co-Ni-Cr-Pt合金,Co-Cr-Ta-Pt合金などのCo系合金の磁性膜が保持力が高 く,かつ媒体ノイズが少ないからである。(【0002】) これらのCo系合金磁性膜の高保磁力化は,理論的には,磁性膜を構成す る結晶粒子を更に微細化すること,およびその結晶粒界に非磁性相を分散 させること,により達成できる。また,これらのCo系合金磁性膜のノイズ は結晶粒子間に働く交換相互作用の影響により生じるため,Co系合金磁性 膜の結晶粒界に非磁性相を分散させることは各々の結晶粒子間に働く交換 相互作用を弱める作用があり,ノイズ低減につながると考えられる。
したがって,Co系合金磁性膜をスパッタリングにより作製する際に,そ の結晶粒界に非磁性相を均質に分散することができればよい。そのための 非磁性相としては酸化物,窒化物や炭化物などが考えられる。(【000 4】)ウ 発明が解決しようとする課題 本発明の目的は,保磁力に優れ,媒体ノイズの少ないCo系合金磁性膜を スパッタリング法によって形成するために,結晶組織が合金相とセラミッ クス相が均質に分散した微細混合相であるスパッタリングターゲットおよ びその製造方法を提供することにある。
本発明の他の目的は,上記改善された磁性膜を得るための操作,取扱い 易く,スパッタリング特性に優れたスパッタリングターゲットを提供する ことである。(【0009】)エ 課題を解決するための手段 本発明者らは,Co系合金磁性膜の結晶粒界に非磁性相を均質に分散させ れば,保磁力の向上とノイズの低減が改善されたCo系合金磁性膜が得られ 46 ることから,そのような磁性膜を得るためには,使用されるスパッタリン グターゲットの結晶組織が合金相とセラミックス相が均質に分散した微細 混合相であればよいことに着目した。
そして,本発明者らは,セラミックス相として酸化物が均質に分散した Co系合金磁性膜を製造する方法について種々の実験,研究開発を行った。
(【0010】) 本発明者らは結局,下記の事項を見い出すに至った。本発明はこれらの 知見に基づいてなされたものである。
@ アトマイズ法やメルトスピン法などの急冷凝固法を用いることによ りCo系合金粉末が作製できる。また得られたCo系合金粉末は,酸化が 著しく少なく,またこの粉末と酸化物とを混合した後,モールドに入 れてホットプレスすると酸化物が分散したCo系合金ターゲットが製造 できる。(【0012】) A 急冷凝固法で作製したCo系合金粉末と酸化物とをメカニカルアロイ ングすると,酸化物がCo系合金粉末中に均質に分散した組織を有する 複合合金粉末が得られ,この粉末をモールドに入れてホットプレスす ると非常に均質な酸化物分散型Co系合金ターゲットが製造できる。
B 酸化物の代わりに,窒化物や炭化物を用いても同様に,窒化物や炭 化物がCo系合金粉末中に均質に分散した窒化物分散型Co系合金ターゲ ットや炭化物分散型Co系合金ターゲットが製造できる。
(【0013】)オ 実施例 (ア) 実施例1 Co82Cr13Ta5合金1.5kgを…ガスアトマイズ装置でアトマイズすることに より粉末とした。アトマイズはCo-Cr-Ta合金を,底にノズルをもつアル 47 ミナるつぼ中に入れアルゴン雰囲気中で…約1600℃の温度で溶湯した後, その溶湯をノズルより落下して溶湯流とし,その溶湯流にアルゴンガス を…噴射することにより行なった。得られたアトマイズ粉末(150?以下) に酸化物として3重量%のSiO2の粉末を混合した後,ボールミルによりメ カニカルアロイングを施した。メカニカルアロイング条件は,ボールと 試料の重量比を40:1とし,アルゴン雰囲気中で96時間行った。
この酸化物が分散したCo-Cr-Ta合金粉末を直径4インチのカーボン型中 に入れ,真空中1100℃で300kg/cm2でホットプレスを施し,ターゲットを 作製した。(【0015】) このようにして作製したターゲットには,ひびや割れなどは見られな かった。ホットプレスにより作製したターゲットはアルキメデス法で測 定したところ約98%の高い相対密度をもつ。
図1にホットプレスにより作製したターゲットの断面組織写真を示す。
これによれば,微細な黒い点(SiO2)が均質に分布しているのが観察され, また,空孔やひびなどは観察されない。以上の結果より,このターゲッ トの組織はSiO2がCo-Cr-Ta合金中に分散した微細混合相からなっている ことがわかった。(【0016】)(イ) 実施例2 実施例1で使用したと同様のCo82Cr13Ta5合金アトマイズ粉末(150?以 下)1.5kgに酸化物として3重量%のSiO2の粉末を添加し,V型混合器で1時 間混合した後,直径4インチのカーボン型中に入れ,真空中1100℃で 300kg/cm2でホットプレスを施し,ターゲットを作製した。
(【0017】) このようにして作製したターゲットには,大きなひびや割れなどは見 られなかった。ホットプレスにより作製したターゲットはその相対密度 48 をアルキメデス法で測定したところ約96%の高い相対密度である。
図2にホットプレスにより作製したターゲットの断面組織写真を示す。
この断面組織写真は大きな白い球状の組織(Co-Cr-Ta合金)のまわりを黒 い部分(SiO2)が取り囲んで分布しているのが観察され,また空孔やひび などは観察されない。
以上の結果より,Co-Cr-Ta合金粉末と酸化物を混合した後ホットプレ スすることにより作製したターゲットの組織は,酸化物(SiO2)がCo-Cr-Ta 合金粉末の粒界に分散した組織からなっていた。(【0018】)(ウ) 実施例3 実施例1で使用したと同様のCo82Cr13Ta5合金アトマイズ粉末(150?以 下)1.5kgに酸化物として3重量%のSiO2の粉末を混合した後,ボールミル によりメカニカルアロイングを施した。メカニカルアロイング条件は, ボールと試料の重量比を40:1とし,アルゴン雰囲気中で96時間行った。
得られた粉末を電子顕微鏡により組織観察したところ,酸化物が分散し たCo-Cr-Ta合金粉末になっていることがわかった。この酸化物が分散し たCo-Cr-Ta合金粉末を室温でプレスすることにより成形体を作製し,そ れを水素雰囲気中1300℃で1時間焼結することによりターゲットを作製 した。(【0019】) このようにして作製したターゲットには,ひびや割れなどは見られず, その相対密度は約95%であった。また,ターゲットの組織は,図1に示し た組織とほぼ同様であった。このことにより,ホットプレスの代りに, 冷間で成形した後,高温で焼結することによっても酸化物分散型Co系合 金ターゲットを製造するできる(判決注:原文のまま)ことがわかった。
(【0020】) 49 (エ) 実施例4 Co82Cr11Ta4Pt3合金1.8kgをガスアトマイズ装置により実施例1と同様の 方法で粉末とした。アトマイズには60kg/cm2の圧力のアルゴンガスを用 いた。得られたアトマイズ粉末(150?以下)に窒化物として3重量%のSi3N4 の粉末を混合した後,ボールミルによりメカニカルアロイングを施した。
メカニカルアロイング条件は,ボールと試料の重量比を40:1とし,アル ゴン雰囲気中で96時間行った。
得られた粉末の電子顕微鏡による組織観察を行ったところ,窒化物が 分散したCo-Cr-Ta-Pt合金粉末になっていることがわかった。この窒化物 が分散したCo-Cr-Ta-Pt合金粉末を直径3インチのカーボン型中に入れ, 真空中1000〜1100℃で300〜500kg/cm2でホットプレスを施し,ターゲッ トを作製した。(【0021】) このようにして作製したターゲットには,ひびや割れなどは見られず, その相対密度は約98%であった。また,このターゲットの組織は,図1に 示した酸化物(SiO2)が分散した微細混合相とほぼ同様であった。このこ とにより,本製造プロセスで酸化物だけではなく窒化物も分散すること ができ,窒化物分散型Co系合金ターゲットを製造できることがわかった。
(【0022】)(オ) 実施例5 Co77Ni7Cr4Pt12合金1.8kgをガスアトマイズ装置により実施例1と同様の 方法で粉末とした。アトマイズには60kg/cm2の圧力のアルゴンガスを用 いた。得られたアトマイズ粉末(150?以下)に酸化物として3重量%のZrO2 の粉末を混合した後,高エネルギーボールミルによりメカニカルアロイ ングを施した。メカニカルアロイング条件は,ボールと試料の重量比10: 50 1とし,アルゴン雰囲気中で10時間行った。
得られた粉末の電子顕微鏡による組織観察を行ったところ,酸化物が 分散したCo-Ni-Cr-Pt合金粉末になっていることがわかった。この酸化物 が分散したCo-Ni-Cr-Pt合金粉末を直径3インチのカーボン型中に入れ, 真空中1000〜1100℃で300〜500kg/cm2でホットプレスを施し,ターゲッ トを作製した。(【0023】) このようにして作製したターゲットには,ひびや割れなどは見られず, その相対密度は約98%であった。また,このターゲットの組織は,図1に 示した組織とほぼ同様であった。このことにより,ボールミル条件が多 少異なっても酸化物の分散した合金粉末ができれば,微細な酸化物が Co-Ni-Cr-Pt合金中に分散したターゲットが製造できることがわかった。
(【0024】)(カ) 実施例6 Co62Ni20Cr13Ta5 合金1.5kgを…メルトスピナー装置により急冷薄帯とし た。メルトスピンは,母合金を底に直径0.5-1.0mm程度の小さな穴(オリ フィス)をもつ石英るつぼ中に入れアルゴン雰囲気中で高周波溶解によ り約1600℃の温度で溶湯した後,その溶湯をオリフィスよりアルゴンガ スの圧力(0.3kg/cm2)で,高速(50m/s)で回転している銅ロール上に 噴射することにより作製した。メルトスピンにより得られた試料は,幅 約2mm程度,厚さ約20?m(判決注:原文のまま),長さ数mの急冷薄帯で あった。得られた急冷薄帯を乳鉢で約200?程度に粗粉砕した粉末に酸化 物として3重量%のSiO2の粉末を混合した後,高エネルギー型のボールミ ルによりメカニカルアロイングを施した。メカニカルアロイング条件は, ボールと試料の重量比を10 1とし, : アルゴン雰囲気中で10時間行なった。
51 得られた粉末を組織観察したところ,酸化物が分散したCo-Ni-Cr-Ta 合金粉末になっていることがわかった。この酸化物が分散したCo-Ni-Cr-Ta 合金粉末を直径3インチのカーボン型中に入れ,真空中1000〜1100℃で300 〜500kg/cm2でホットプレスを施し,ターゲットを作製した。(【002 5】) このようにして作製したターゲットには,ひびや割れなどは見られず, その相対密度は約97%であった。また,このターゲットの組織は,図1に 示した組織とほぼ同様であった。このことにより,アトマイズ合金粉末 のかわりにメルトスピンで作製した急冷薄帯を原料粉末として使用して も微細な酸化物がCo-Ni-Cr-Pt合金中に分散したターゲットを製造できる ことがわかった。(【0026】)(キ) 実施例7 Co82Cr11Ta4Pt3合金1.8kgを,実施例1と同様の方法により,60kg/cm2の 圧力のアルゴンガスを用いたガスアトマイズ装置により粉末とした。得 られたアトマイズ粉末(150?以下)を直径4インチのカーボン型に入れ, 真空中1100℃で300kg/cm2でホットプレスを施し,ターゲット(T1)を作 製した。また,上記得られたアトマイズ粉末(150?以下)に酸化物とし て3重量%のSiO2の粉末を添加し,V型混合器で1時間混合した粉末を直径 4インチのカーボン型に入れ,真空中1100℃で300kg/cm2でホットプレス を施し,ターゲット(T2)を作製した。さらに,上記得られたアトマイ ズ粉末(150?以下)に3重量%のSiO2の粉末を添加し,ボールミルでメカニ カルアロイングし,次いで真空中1100℃で300kg/cm2でホットプレスを施 し,ターゲット(T3)を作製した。(【0027】) これらのターゲットについてBHトレーサで透磁率を測定した。その結 52 果を,表1(判決注:省略。以下同じ。)に示す。また,比較のため真 空溶解で作ったCo82Cr11Ta4Pt3合金の透磁率を,表1に併記する。(【0 028】) 表1の結果から分るように,真空溶解で作製したCo-Cr-Ta-Pt合金は高 い透磁率の値を示すが,アトマイズ粉末をホットプレスすることにより 作製したCo-Cr-Ta-Pt合金の透磁率は低い。これらの透磁率の相違を調べ るため,その断面組織観察を行なった。その結果を,図3に示す(【0 030】)。
図3から分るように,このように真空溶解で作製したCo-Cr-Ta-Pt合金 の組織は典型的な鋳造組織である比較的粗く大きなデンドライト組織(図 3(a))であるのに対し,アトマイズした合金粉末をホットプレスするこ とにより作製したCo-Cr-Ta-Pt合金はアトマイズ(急冷凝固法)を用いて いるため非常に微細で均質な組織(図3(b))になっている。(【003 1】) また,アトマイズで作製した粉末に酸化物を混合した後,ホットプレ スすることにより作製した酸化物分散型Co-Cr-Ta-Pt合金ターゲットや, アトマイズで作製した粉末に酸化物をメカニカルアロイングで分散させ た後,ホットプレスすることにより作製したCo-Cr-Ta-Pt合金ターゲット の透磁率は,酸化物を混合しないでアトマイズ粉末のみをホットプレス することにより作製したターゲットの透磁率よりさらに低い。これは, 合金相のCo-Cr-Ta-Pt合金中にセラミックス相である酸化物が均質に分散 し,磁気的な介在物として働き,磁束の流れを邪魔しているためである と思われる。(【0032】)(ク) 実施例8 53 実施例1で使用したと同様のアトマイズ粉末(150?以下)1.5kgに酸化物として3重量%のSiO2の粉末を混合した後,ボールミルによりメカニカルアロイングを施した。メカニカルアロイング条件としては,ボールと試料の重量比を40:1とし,アルゴン雰囲気中で96時間行なった。(【0033】) 次に,メカニカルアロイングの効果を調べるため,アトマイズで作製した合金粉末とメカニカルアロイングを施した粉末の断面写真を,図4(a)および図4(c)にそれぞれ示す。また,比較のため,アトマイズ粉末(150?以下)に酸化物として3重量%のSiO2の粉末を添加し,V型混合器で1時間混合した粉末の断面写真(図4(b))も示す。(【0034】) 図4の断面写真から,アトマイズ粉末(150?以下)に酸化物として3重量%のSiO2の粉末を添加し,V型混合器で1時間混合した粉末(図4(b))は,元のアトマイズで作製した合金粉末(図4(a))と同様に球状であることがわかる。すなわち,アトマイズ粉末と酸化物を混合しても,アトマイズ粉末自体には変化が見られない。一方,アトマイズ粉末(150?以下)に酸化物として3重量%のSiO2の粉末を混合した後,ボールミル処理した粉末(図4(c))は,もはや元の球状の粉末ではなく機械的に変形した粉末となっている。これは該粉末がメカニカルアロイングにより機械的に粉砕・圧延・混合された結果である。(【0035】) これらの断面写真は粉末の形状の変化を示すため比較的低い倍率で撮影したが,高倍率で撮影した写真ではメカニカルアロイングで作製した粉末にのみ,酸化物が粉末内に分散している様子が観察された。このことにより,添加した酸化物もこのメカニカルアロイングにより同時に粉砕・圧延・混合され,その結果酸化物が合金中に分散した粉末となって 54 いる。(【0036】) また,ターゲットの相対密度が同一の場合,このメカニカルアロイン グで作製した酸化物分散型Co82Cr13Ta5合金粉末は,元のアトマイズ粉末よ りも少し低温でまたは少し低い圧力でホットプレスできること,および 同一温度,圧力であればより相対密度の高いものが得られるという長所 があることがわかった。これは,メカニカルアロイングにより粉末中に 蓄積された機械的なエネルギーの効果によるものであると思われる。
(【0 037】)カ 発明の効果 本発明によれば,酸化物分散型Co系合金ターゲットとスパッタリングで 形成される磁性薄膜との組成差,いわゆる組成ズレが少ない。またこの磁 性薄膜は組成を均一で保磁力が高く,かつ媒体ノイズも少ない。
本発明により得られるターゲットは,Co系合金粉末を母相とした合金相 とセラミックス相が均質に分散した微細混合相からなり,また一枚の板状 体に微細な酸化物が均質に分散した複合ターゲットであるため,従来のオ ンチップ型に比較して生産性に優れ,透磁率が低く,密度が高いので異常 放電がなく,また取扱いも容易である。(【0038】)キ 図面の簡単な説明 【図1】アトマイズにより作製したCo82Cr13Ta5合金粉末(150?以下)と SiO2にメカニカルアロイングを施して酸化物分散型Co82Cr13Ta5合金粉末を作 製した後,真空中1100℃で300kg/cm2でホットプレスを施すことにより得ら れた本発明のターゲットの断面組織写真である。
ク 図面 別紙甲1図面記載【図1】〜【図4】のとおり。
55 なお,上記図1においては,少なくとも次の@及びAの点を観察するこ とができる。
@ 断面においてほぼ均質に分布している「微細な黒い点(SiO2)」(上 記オ(ア)参照)は,粒子状であり,いずれも少なくとも半径2?の仮想 円より小さいこと。
A SiO2粒子が存在しない領域の最大径が10?以下であって,直径10? 以上40?以下のSiO2粒子が存在しない領域はない(0個/mm2である)こ と。
3 背景技術と本件特許の優先日当時の技術常識等 (1) 磁気記録に関する技術(甲1,2,4〜6,26の1〜45,47〜56, 乙3〜6,9,11) ア 磁気記録方式 ハードディスクドライブなどの磁気記録媒体の記録方式として, (水 面内 平,長手)磁気記録方式と垂直磁気記録方式が知られている。両方式の違 いは,記録媒体を構成する磁性粒子の磁気方向にあり,これに伴って書込・ 読取ヘッドの構成などに違いが生じるが,記録に際しての基本的な作用は 変わらない。
垂直磁気記録方式は,昭和50年に発案されていたものの(発表は昭和 52年),パフォーマンスや技術的な理由により,従前の面内磁気記録方 式が使われ続けていた。しかし,記録密度及び記録量の向上,記録単位あ たりのコスト低減,省電力化等のニーズの高まりを受けて,平成17年, 世界初の垂直磁気記録方式を採用したハードディスクドライブの商品化が 発表され,その後,同年から平成18年にかけて,面内磁気記録方式から 垂直磁気記録方式に世代交代した。
56 イ 磁気記録膜等への酸化物の添加 本件特許の優先日当時,垂直磁気記録媒体において,酸化物であるSiO2 を添加することにより,磁気的孤立性に優れた膜構造が得られ,記録密度 の向上やノイズ低減につながる可能性があることは技術常識であった。ま た,媒体にSiO2を11mol%含有させることにより媒体ノイズが最小化できる ことや,酸化物を主体とする非磁性粒界の体積を磁性層全体の体積の15% 以上40%以下とすることにより,結晶粒と粒界偏析を好ましく制御し,優れ た磁気特性と低ノイズ特性を実現できることなどが知られていた。
実際,本件特許の優先日前に,異なる複数の出願人による特許出願に係 る明細書においても,酸化物の含有量が6mol%以上を超えるスパッタリング ターゲットが記載されている。
また,面内磁気記録媒体についても,本件特許の優先日当時,磁気膜に 酸化物を含有させるアイデアが存在していた。
(2) メカニカルアロイング(甲58,59) メカニカルアロイングは,酸化物分散強化型合金の製造において,サブミ クロンの酸化物の微細分散のための粉砕技術で,ボールミル中の撹拌ボール の摩擦運動を用いて,合金化した複合粒子を作る方法である。
メカニカルアロイング中に原料粉末粒子は圧縮,圧延により扁平化し(第 一段階),さらに粉砕,凝着によるニーディング(kneading(折畳み))が 繰り返されて,ラメラ組織が発達し(第二段階),結晶粒は微細化され,酸 化物などの分散粒子を含む場合は,この段階で酸化物粒子が取り込まれ,均 一微細分散が達成される(第三段階)。特定の条件下では,メカニカルアロ イングにより,ナノスケール(粒径100nm以下)の粉末を創生することが可能で ある。
57 したがって,メカニカルアロイングによって,均一微細分散を得るために は,材料の種類や組成等に応じて,少なくとも上記第三段階に達するまでの 時間をかけて粉砕を行うことが必要であるといえる。
なお,メカニカルアロイングは,他の機械的粉末製造法と同様に,撹拌ボ ールや容器を構成する材料等の混入による汚染が伴うものの,粉末と同じ材 料でボールや撹拌棒及び容器を作ることにより,その影響を最小限にするこ とができるとされている。
4 取消事由2の1(訂正による新規事項追加の禁止に関する判断の誤り)につ いて (1) 事案に鑑み,取消事由2の1から検討する。
(2) 原告は,本件明細書の実施例3は,強磁性材と非磁性材の含有量(モルパ ーセント)の値の合計が100を超えており,その開示内容が不明確であるから 実施例として意味がなく,結局,非磁性材の含有量が6mol%を超える部分につ いては明細書に記載がないことになるから,本件訂正は,明細書に記載のな い新規事項を追加するものであると主張する。
この点につき,上記1(2)カ(ウ)のとおり,本件明細書の段落【0027】 には,実施例3として「94(74Co-10Cr-16Pt)-8Cr2O3 (mol%)からなる強磁性 材のターゲット」が,その製造方法とともに記載されており,このような記 載に接した当業者は,実施例3は94:8(モル)の割合で強磁性材と非磁性材 を秤量して混合,焼結して得られたものであると理解すると認めるのが相当 であるから,含有材料のモル数の合計値が100でないことをもって,直ちにい ずれかの値に誤りがあり,実施例3の記載が存在しないものとして扱わなけ ればならないとはいえない。
以上によれば,本件明細書の実施例3には,非磁性材の含有量が 「7.84mol%」 58 のスパッタリングターゲットが開示されていると認められる。
したがって,本件訂正が新規事項を追加するものではないとした審決に誤 りはないというべきであり,この点についての原告の主張を採用することは できない。
5 取消事由2の2 (特許請求の範囲拡張ないし変更する訂正を看過した誤り) について 原告は,本件訂正発明は,非磁性材の分散形態を特定のものに限定すること に本質があり,非磁性材を6mol%以上含むことは発明の本質と無関係であるのに, 非磁性材の含有量を「6mol%以上」とする本件訂正は,訂正前の特許請求の範囲 に記載されている発明を実質的に拡張ないし変更するものであって,この点を 看過して訂正を認めた審決の判断は誤りであると主張する。
しかし,本件明細書には,実施例3として非磁性材の含有量が7.84mol%のス パッタリングターゲットが開示されていることは,上記4において説示したと おりであり,発明特定事項を直列的に付加するにすぎない本件訂正によって, 発明の対象や目的が変更されたものと認めることはできない。
したがって,本件訂正により,実質的に特許請求の範囲拡張ないし変更さ れたということはできないから,本件訂正を認めた審決の判断に誤りはないと いうべきである。
6 取消事由3の1(新規性に関する判断の誤り)について 原告は,甲1には,含有する酸化物の種類や含有量が異なる場合にも,非磁 性材が微細に分散したターゲットが得られることが開示されているところ,本 件特許の優先日当時の当業者は,3.2mol%や6mol%といった非磁性材の含有量の わずかな違いによって,ターゲットの組織構造に大きな変化は生じないと理解 していたと考えられること,当業者は,ハードディスクメーカーの要請に応じ 59 て適宜非磁性材の含有量を選択するのであるから,酸化物の含有量を6mol%未満 としなければならない技術上の要請は存在しないことから,本件訂正発明1に おける非磁性材の含有量が「6mol%以上」であることと,甲1発明におけるSiO2 粒子(非磁性材)の含有量が「3重量%」であることの相違は,実質的な相違点 ではないと主張する。
しかし,特定の強磁性材及び非磁性材からなるスパッタリングターゲットの 発明に関し,非磁性材の含有量が「6mol%以上」のものと「3重量%」(3.2mol%) のものとは,仮にその組織構造に大きな違いがないとしても,物として異なる ことは明らかである。
したがって,当該相違点が実質的な相違点ではないとの原告の主張は採用で きない。
7 取消事由3の2(相違点の容易想到性に関する判断の誤り)について (1) 甲1発明の内容並びに本件訂正発明1と甲1発明との一致点及び相違点 ア 本件訂正発明1と対比すべき甲1発明の内容並びに本件訂正発明1と甲 1発明との一致点及び相違点は,後記イにおいて説示するとおり,構成要 件bを 「b 前記ターゲットの断面組織写真によって観察される組織のSiO2の全粒 子は,非磁性材料粒子内の任意の点を中心に形成した半径2?の全ての 仮想円よりも小さく, 」 と改めるほかは,上記第2の5(1)〜(3)のとおりと認められる。
イ 本件訂正発明及び甲1発明における組織について (ア) 被告は,甲1の図1において観察される黒点(酸化物)の量は,甲1 の明細書に記載されている酸化物の含有量に比べ格段に少ないから(面 積比率で約1.8%にすぎないから,明細書記載の組成に基づく酸化物の含 60 有量(体積比率)と比較すると,その約6分の5に相当する酸化物を確認できていないことになる。),図1のみに依拠して,甲1発明における構成要件b,c及びdからなる組織を有すると認定することは不可能であるし,そもそも比較的コントラストの弱いピントのずれたSEM写真のコピーである図1から非磁性材の組織を認定することはできないと主張する。
確かに,コントラストが弱いSEM写真の画像処理によって算出される面積比率が,画像から黒い部分を抽出する二値化処理の条件によって変動すること(例えば,微細な粒子の存在等の影響によって白黒のコントラストが検出されにくい場合には,黒色部分の割合が小さくなること)は否定できない。
しかし,上記二値化処理によって生じ得る変動を考慮しても,図1において観察される微細な黒い点(SiO2粒子)は,いずれも少なくとも半径2?の仮想円よりも小さいものであると認めるのが相当であり,仮にこれに加えて図1の灰色の下地部分等に非磁性材粒子が存在しているとしても,これらは更に細かいものであると考えるのが自然である。また,原告が実施した甲1の実施例1についての再現試験によっても,研磨面のSEM画像に甲1の図1と同様の組織が確認できているのであるから (甲3),被告が指摘する甲1の図1におけるコントラストの弱さやピントのずれが上記認定を左右するほどのものであるとはいえない。
以上のとおり,甲1の図1には「ターゲットの断面組織写真によって観察される組織のSiO2の全粒子は,非磁性材料粒子内の任意の点を中心に形成した半径2?の全ての仮想円よりも小さく, 2粒子が存在しない SiO領域の最大径が10?以下であり,直径10?以上40?以下のSiO2粒子が存 61 在しない領域の個数が0個/mm2である組織」が開示されていると認めるの が相当である。
(イ) この点に関連して,被告は,本件訂正発明1における組織は,「形状 1」に加えて「形状2」を許容することに特徴があるのに対し,甲1発 明は「形状1」の組織のみで特定される点で相違すると主張する。
しかし,本件特許の請求項1においては,本件訂正発明1に係る組織 は「形状1」又は「形状2」からなると,両形状は択一的に記載されて いる。そうすると,本件訂正発明1における選択肢の一つである「形状 1」を選択し,当該選択肢を発明特定事項とする発明が,甲1発明に基 づいて当業者が容易に想到できる発明である場合には,それを包含する 組織形状を発明特定事項とする本件訂正発明1も進歩性を有しないこと となる。
(ウ) 以上の検討を踏まえ,本件訂正発明1に係る組織のうち「形状1」を 選択した発明と甲1発明とを対比すると,両発明は「形状1」を有する 点において一致し,非磁性材の含有量が,前者の発明は「6mol%以上」で あるのに対し,甲1発明は「3重量%」(3.2mol%)である点において相違す ることになる。
以下,これを前提として,本件訂正発明1の進歩性について検討する こととする 。
(2) 相違点の容易想到性について ア 本件訂正発明1と甲1発明との相違点である,甲1発明におけるSiO2粒 子(非磁性材)の含有量を「3重量%」(3.2mol%)から「6mol%以上」とする ことについて,当業者が容易に想到できるといえるか否かを検討する。
イ 動機付けの有無について 62 (ア) 上記3(1)において認定したとおり,本件特許の優先日当時,垂直磁 気記録媒体において,非磁性材であるSiO2を11mol%あるいは15〜40vol% 含有する磁性膜は,粒子の孤立化が促進され,磁気特性やノイズ特性に 優れていることが知られており,非磁性材を6mol%以上含有するスパッタ リングターゲットは技術常識であった。
そして,本件特許の優先日前に公開されていた甲4(特開2004- 339586号公報)において,従来技術として甲2が引用され,甲2 に開示されている従来のターゲットは「十分にシリカ相がCo基焼結合金 相中に十分に分散されないために,低透磁率にならず,そのために異常 放電したり,スパッタ初期に安定した放電が得られない,という問題点 があった」(段落【0004】)と記載されていることからも,優れた スパッタリングターゲットを得るために,材料やその含有割合,混合条 件,焼結条件等に関し,日々検討が加えられている状況にあったと認め られる。
そうすると,甲1発明に係るスパッタリングターゲットにおいても, 酸化物の含有量を増加させる動機付けがあったというべきである(磁気 記録方式の違いが判断に影響を及ぼさないことについては,後記オ(ア) に説示するとおりである。)。
(イ) 次に,具体的な含有量の点についてみると,被告も,非磁性材の含有 量を「6mol%以上」と特定することで何らかの作用効果を狙ったものでは ないと主張している上,証拠に照らしても,6mol%という境界値に技術的 意義があることは何らうかがわれない。
さらに,本件明細書の段落【0016】及び【0017】に記載され ているスパッタリングターゲットの作製方法は,本件特許の優先日当時, 63 一般的に使用・利用可能であった通常の強磁性材及び非磁性材を用い, 様々な原料粉の形状,粉砕・混合方法,混合時間,焼結方法,焼結温度 を選択することにより,本件訂正発明に係る形状及び寸法を備えるよう にできるというものであるから,甲1発明に基づいて非磁性材である酸 化物の含有量が6mol%以上であるターゲットを製造することに技術的困難 性が伴うものであったともいえない。
そうすると,磁気特性やノイズ特性に優れたスパッタリングターゲッ トの作製を目的として,甲1発明に基づいて,その酸化物の含有量を6mol% 以上に増加させる動機付けがあったと認めるのが相当である。
ウ 阻害要因の有無について (ア) 審決は,ターゲットの組成を変化させるとターゲット中のセラミック 相の分散状態も変化することが推測され,例えば,当該セラミック相を 増加させようとすれば,均一に分散させることが相対的に困難になり, ターゲット中のセラミック相粒子の大きさは大きくなる等,分散の均一 性は低下する方向に変化すると考えるのが自然であって,実施例1の「3 重量%」(3.2mol%)から本件訂正発明1の「6mol%以上」という2倍近い値 まで増加させた場合に,ターゲットの断面組織写真が甲1の図1と同様 のものになるとはいえず,本件訂正発明1における非磁性材の粒子の分 散の形態を変わらず満たすものとなるか不明であると判断した。
被告も,甲1発明において酸化物含有量を「3重量%」(3.2mol%)から 「6mol%以上」に増加させた場合に,組織が維持されると当業者は認識し ない,すなわち,組織が維持されるかどうか不明であることは,甲1発 明において酸化物含有量を増やすことの阻害要因になると主張する。
(イ) この点について,上記2(2)オにおいて認定したとおり,甲1には, 64 実施例4(酸化物の含有量は1.46mol%)について,「このターゲットの組織は,図1に示した酸化物(SiO2)が分散した微細混合相とほぼ同様であった。」(段落【0022】),実施例5(同1.85mol%)及び同6(同3.19mol%)についても「このターゲットの組織は,図1に示した組織とほぼ同様であった。」(段落【0024】及び【0026】)との各記載があるように,非磁性材である酸化物の含有量が1.46mol%(実施例4)から3.19mol%(実施例6)まで2倍以上変化しても,ターゲットの断面組織写真が甲1の図1と同様のものになることが示されている。
さらに,上記3(2)において認定したとおり,メカニカルアロイングにおける混合条件の調整,例えば,十分な混合時間の確保等によってナノスケールの微細な分散状態が得られることも,本件特許の優先日当時の技術常識であった。
そうすると,甲1に接した当業者は,甲1発明において酸化物の含有量を増加させた場合,凝集等によって図1に示されている以上に粒子の肥大化等が生じる傾向が強まるとしても,金属材料(強磁性材)及び酸化物(非磁性材)の粒径,性状,含有量などに応じてメカニカルアロイングにおける混合条件等を調整することによって,甲1発明と同程度の微細な分散状態を得られることが理解できるというべきである。
また,上記イのとおり,甲1発明に基づいて非磁性材である酸化物の含有量が6mol%以上であるターゲットを製造することが,何かしらの技術的困難性を伴うものであると認めることはできない。
したがって,甲1発明において酸化物の含有量を「3重量%」 (3.2 mol%)から「6mol%以上」に増加した場合に,分散状態が変化する可能性があるとか,上記本件組織が維持されるかどうかが不明であることが,直ちに 65 非磁性材の含有量を増やすことの阻害要因になるとはいえない。
エ 有利な効果について 本件明細書には,本件訂正発明に係るターゲットを使用することにより, 「品質の優れた材料を得ることができ,特に磁性材料を低コストで安定し て製造できる」,その「密度向上は,非磁性材と強磁性材との密着性を高 めることにより,非磁性材の脱粒を抑制することができ,また,空孔を減 少させ結晶粒を微細化し,ターゲットのスパッタ面を均一かつ平滑にする ことができるので,スパッタリング時のパーティクルやノジュールを低減 させ,さらにターゲットライフも長くすることができる」という効果を有 する旨記載されている(段落【0014】)。
しかし,上記効果は,ターゲット中の非磁性材が3mol%(本件明細書記載 の実施例2。上記1(2)カ(イ)参照。)という甲1発明と同様のものにおい ても認められるというのであって,他の証拠に照らしても,非磁性材の含 有量を6mol%以上とすることによって格別の効果を奏するものと認めること はできない。
オ 被告の主張について (ア) 磁気記録方式の違いについて 被告は,甲1は面内磁気記録媒体の製造に用いるターゲットに係る文 献であるところ,面内磁気記録媒体の製造に用いるターゲットの場合に は,酸化物の含有量を増やすことは想定されないこと,酸化物を6mol% 以上含有するスパッタリングターゲットが記載されているとして原告が 提出した多数の文献は,いずれも垂直磁気記録方式に関するものである ことを根拠に,甲1発明の酸化物の含有量を増やす動機付けがないと主 張する。
66 しかし,面内磁気記録媒体製造用のターゲットにおいては,酸化物を増やすことが全く想定されていないとの事実を認めるに足りる証拠はなく,かえって現に酸化物を添加した面内磁気記録媒体(甲1発明)が知られていたこと,ターゲットの組成は成膜しようとする磁性層の組成に応じて選択されるところ,面内磁気記録媒体と垂直磁気記録媒体において磁性層を構成する元素が共通していること(甲40 段落 ・ 【0004】,甲42・段落【0004】)等を考慮すれば,面内磁気記録媒体用と垂直磁気記録媒体用の両者のスパッタリングターゲットの作製に当たり,それぞれの特性に応じた調整は必要であるとしても,その骨格となる組成や組織において共通するものを用いることは十分に想定できるというべきである(本件明細書においても,ターゲット中に酸化物等の非磁性材料を細かく分散させた組織を有するスパッタリングターゲットに関する技術として,面内磁気記録媒体製造用のターゲットに関する甲1と,垂直磁気記録媒体製造用のターゲットに関する甲4をそれぞれ引用しているのであるから,この技術分野の当業者は,面内磁気記録媒体と垂直磁気記録媒体とに係る技術を横断的に認識,理解していたことがうかがわれる。)。
そうすると,甲1発明に係るターゲットが面内磁気記録媒体の製造に用いるための物として開示されていたとしても,垂直磁気記録方式に関する文献に接し,かつ,本件特許の優先日当時における技術常識を有する当業者は,甲1発明に係る組成,組織を有するターゲットを出発点として,作製しようとするターゲットの磁気特性等を考慮して非磁性材の含有量を調整し,これを3mol%程度から6mol%以上に増加させることにより,相違点に係る発明特定事項を有する発明とすることは,容易に想到 67 できるというべきである。
(イ) 甲4における従来例の記載について 被告は,甲4には,甲1の実施例1と同様な方法で作成した甲4の従 来例1(Pt粉末:10原子%,Cr粉末:10原子%,シリカ粉砕粉末:10原子% , 残部:Co粉末となるように配合し,ボールミルで96時間乾式混合(メカ ニカルアロイング)し,真空雰囲気中,温度:1100℃,圧力:15MPa,1. 5時間保持の条件でホットプレス(段落【0011】))では,甲4の図 2から観察されるように半径10?以上の粗大な非磁性材が多数生じてし まうことが示されているから,甲1発明においてSiO2含有量を増加する と,上記甲4の従来例1(図2)と同様にSiO2粒子の凝集が生じてしま うことを強く推認させると主張する。
しかし,甲1の実施例1(段落【0015】)のターゲットは,アト マイズ合金粉末(150?以下)に酸化物として3重量%のSiO2の粉末を混合 した後,ボールミルによりメカニカルアロイング(ボールと試料の重量 比を40:1,アルゴン雰囲気中で96時間)を実施し,ホットプレス(真空 中1100℃で300kg/cm2)する方法によって作製されている。すなわち,両 者はSiO2(シリカ)と混合する金属粉が異なる(前者はPt,Cr , Coの金 属粉末であるのに対し,後者はアトマイズCo-Cr-Ta合金粉)上,前者で は混合時のボールミルと試料の重量比が明らかでないから,甲4の従来 例1が,甲1発明においてシリカの含有量を増加させたターゲットを正 しく再現したものと認めることはできない。
したがって,甲4の従来例1についての図2が「形状1」を満たすも のでなかったとしても,当業者が,甲1発明においてSiO2含有量を増や した場合にも同様に「形状1」を満たさないものになると認識するとは 68 いえない。
(ウ) 長時間のメカニカルアロイングについて 被告が指摘するとおり,メカニカルアロイングによる合金製造の際に, ボールや容器を構成する材料等の混入による汚染が伴うことは技術常識 であるものの,その汚染の程度が本件訂正発明1に係るスパッタリング ターゲットの作製を困難にするようなものであると認めるに足りる的確 な証拠はない(なお,汚染の影響を軽減するための方法の一例が知られ ていたことは,上記3(2)のとおりである。)。また,一般論として,メ カニカルアロイングを長時間行うことが生産性の低下につながることも, 被告が指摘するとおりであるが,このような事情が直ちに甲1発明にお いて酸化物の含有量を増やすことの阻害要因になるとはいえない。
したがって,この点についての被告の主張は採用できない。
(エ) 原告の主張が審理範囲を逸脱しているとの主張について 被告は,原告は無効審判において甲1と甲4との組合せや,甲1と甲 6との組合せを無効理由として主張していないから,本件訴訟において 原告がこの点について主張するのは失当である旨の主張をしている。
しかし,原告の主張は,飽くまでも甲4及び甲6の記載内容を技術常 識として主張しているところ,他の証拠にも鑑みれば,原告が主張する 事項が,いわゆる公知事実に止まらず,本件特許の優先日において技術 常識に至っていたことは,上記3において認定したとおりである。
(オ) したがって,上記の被告の主張はいずれも採用できない。
(3) 小括 以上によれば,本件訂正発明1は,甲1発明及び技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものと認められるから,取消事由3の2 69 は理由がある。
なお,この判示は,上記(1)イ(ウ)のとおり,本件訂正発明1における選択 肢の一つである「形状1」を選択し,当該選択肢を発明特定事項とする発明 について検討したものであって,本件訂正発明1に含まれる「形状2」のみ が存在する組織や,「形状1」と「形状2」がいずれも存在する組織を有す るターゲットについても判断したものではない。
8 結論 以上によれば,取消事由3の2には理由があるから,その余の点について判 断するまでもなく,審決は取り消されるべきである。
よって,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 鶴岡稔彦
裁判官 杉浦正樹
裁判官 間明宏充
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