関連審決 | 無効2001-35063 |
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関連ワード | 考案者 / 進歩性(29条2項) / 容易に発明 / 周知技術 / 発明の詳細な説明 / 分割出願 / 参酌 / 置き換え / 容易に想到(容易想到性) / 不存在 / 実施 / 加工 / 交換 / 構成要件 / 設定登録 / 請求の範囲 / 拡張 / 訂正明細書 / |
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事件 |
平成
13年
(行ケ)
508号
審決取消請求事件
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原告 松下電器産業株式会社 訴訟代理人弁護士 松尾和子 同 渡辺光 訴訟代理人弁理士 大塚文昭 同 竹内英人 被告 山洋電気株式会社 訴訟代理人弁護士 大場正成 同 尾崎英男 同 嶋末和秀 訴訟代理人弁理士 西浦嗣晴 |
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裁判所 | 東京高等裁判所 |
判決言渡日 | 2004/05/13 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
1 原告の請求を棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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当事者の求めた裁判
1 原告 (1) 特許庁が無効2001-35063号事件について平成13年10月3日にした審決のうち「特許第2713554号の請求項1に係る発明についての特許を無効とする。」との部分を取り消す。 (2) 訴訟費用は被告の負担とする 2 被告 主文と同旨 |
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当事者間に争いのない事実等
1 特許庁における手続の経緯 原告は,名称を「ヒートシンク装置」とする特許第2713554号の特許(昭和60年8月29日出願の特願昭60-190818号(以下「原出願」という。同出願に係る願書に添付された明細書及び図面を併せて,「原明細書」という。)からの分割出願として出願され(特願平6-268604号。以下「本件出願」という。),平成9年10月31日設定登録。以下「本件特許」という。発明の数も請求項の数も1である。本件出願に係る願書に添付された明細書及び図面を併せて,以下「本件明細書」という。なお,登録後,後記本件訂正請求により,特許請求の範囲及びこれに伴う発明の詳細な説明の訂正がなされている。)の特許権者である。 被告は,平成13年2月15日,本件特許を無効にすることについて,審判を請求した。特許庁は,これを無効2001-35063号事件として審理した。 原告は,審理の過程で,平成13年5月14日,特許請求の範囲の文言の訂正を含む,本件明細書の訂正を請求した(以下,「本件訂正請求」という。本件訂正請求の内容は,甲第3号証(訂正請求書)記載のとおりである。以下,これによる訂正後の明細書を,「訂正明細書」という。その内容は,甲第3号証中の訂正明細書(全文)記載のとおりである。)。特許庁は,審理の結果,平成13年10月3日,「訂正を認める。特許第2713554号の請求項1に係る発明についての特許を無効とする。」との審決をし,同年10月15日,その謄本を原告に送達した。 2 訂正明細書における特許請求の範囲(別紙1参照) 略四辺形状の,一方の面に発熱素子を取り付け可能としたヒートシンク基盤と,前記ヒートシンク基盤の他方の面に, 外端部が前記ヒートシンク基盤の端部まで延在して立設された直線形状の複数の板状のフィンと,前記ヒートシンク基盤のフィンを立設した側に,ファンの半径方向の外端部とフィンの内端部が少なくとも一部において直接対向するように 備えられたファンと,前記ファンを回転する駆動手段を備え,前記複数の板状のフィンは,前記複数の板状フィンの外端部から内端部へ向かう延長線上には前記駆動手段の回転中心が存在しない, 長さの異なるフィンを含んでいるとともに,内端部輪郭形状は円形であり,そして前記ヒートシンク基盤の各辺から空気を放出することを特徴とするヒートシンク装置。 (判決注・下線部が本件訂正請求による追加訂正部分である。) 3 審決の理由 審決の理由は,別紙審決書の写し記載のとおりである。要するに,本件訂正を認めた上,訂正明細書の特許請求の範囲によって特定される発明(以下「本件発明」という。)は,実公昭51-21601号公報(審判甲第2号証・本訴甲第5号証,以下,審決と同じく「引用例1」という。)に記載された発明(以下「引用発明1」という。)と,特開昭57-194600号公報(審判甲第3号証・本訴甲第6号証,以下,審決と同じく「引用例2」という。これに記載されている発明を「引用発明2」という。)等に現れている周知技術とに基づいて,当業者が容易に発明できたものであるから,本件特許は,特許法29条2項に違反し,無効とすべきものである,というものである。 4 審決が認定した,引用発明1の内容,本件発明と引用発明1との一致点・相違点 (1) 引用発明1の内容(別紙2参照) 「(1)引用例記載事項の摘示 <甲第2号証の記載事項> 甲第2号証(以下「引用例1」という。)には,電子機器等に設けられる「放熱ユニット」に関して,第1図〜6図と共に,次の記載がある。 「放熱ユニット2は,大きくはユニット本体と放熱用ファン7から成り,このユニット本体はロッカー外壁の構成要素となる放熱板3及び上枠板4と複数のガイド板5から成るファン支持体を含んで構成されており,ガイド板5は上枠板に対し下枠板と称し得る放熱板3と上枠板4を連結している。上記ユニット本体はその中央にモータ6で駆動される放熱ファン7を回転可能に内蔵している。この場合,ファン風路は上枠板4とガイド板5から成るファン支持体と放熱板3との間に形成される。上下枠板の連結フレームであるガイド板5は夫々ファン7を中心に第3図A或いはBのように放射状に側方に延長し,上枠板の吸込口4aからファン7の回転により流入する風を外側方に放出する案内羽根の機能と共に,下枠板の伝導熱を放出する放熱ファンとしての機能をも併せ有している。下枠板3はその外面に突起体の多数の吸熱フィン3aが突設されている。従ってこの吸熱フィンによる凹凸により下枠板外面はその実表面積が飛躍的に拡張される結果,伝熱効率が極めて大きくなっている。」(第1頁第2欄9〜29行) また,引用例1の第1,2図を参照すると,放熱板3のガイド板5を立設した側に,放熱用ファン7が,ガイド板5とほぼ同じ高さに配置された状態で備えられていることが示されているし,同じく引用例1の第3図(A),(B)には,放熱板3が略四辺形状であることが示されている。 更に,ガイド板5の形状及び配置として,引用例1の第3図(A)では,直線形状であって,ガイド板5の外端部から内端部へ向かう延長線上に放熱ファン7の駆動手段の回転中心が存在すると推測されるものが示され,同じく第3図(B)には,ガイド板5の外端部から内端部へ向かう延長線上にはファン7の駆動手段の回転中心が存在しない,曲線形状のものが示されている。そして,これらいずれの図面に示されるガイド板5も,長さの異なるものが含まれることと,外端部が放熱板3の端部まで延在すると共に,内端部輪郭形状が円形となる配置状態で設けられている点では共通している。」(審決書6頁12行目〜7頁2行目) (2) 本件発明と引用発明1との一致点 「「略四辺形状のヒートシンク基盤と,前記ヒートシンク基盤の一面に,外端部が前記ヒートシンク基盤の端部まで延在して立設された複数の板状フィンと,前記ヒートシンク基盤のフィンを立設した側にファンの半径方向の外端部とフィンの内端部が少なくとも一部において直接対向するように備えられたファンと,前記ファンを回転する駆動手段を備え,前記複数の板状フィンは,長さの異なるフィンを含んでいるとともに,前記内端部輪郭形状は円形であり,そして前記ヒートシンク基盤の各辺から空気を放出するヒートシンク装置」である点。」(審決書8頁5行目〜12行目) (3) 本件発明と引用発明1との相違点 「相違点1:ヒートシンク基盤の一方の面に,本件発明では「発熱素子を取り付け可能とした」のに対し,引用例1記載のものでは「吸熱フィン」が設けられる点。 相違点2:板状フィンの形状及び設置状態に関して,本件発明では,「直線形状」であって,「板状フィンの外端部から内端部へ向かう延長線上には前記駆動手段の回転中心が存在しない」とされるのに対し,引用例1にはこれらの構成について明確な言及がない点。」(甲第1号証8頁13行目〜19行目) (以下,それぞれ「相違点1」,「相違点2」という。) |
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原告の主張の要点
審決は,相違点を看過し,また,相違点1及び2についての判断を誤った。 本件発明の顕著な効果も看過している。これらの誤りはそれぞれ結論に影響することが明らかであるから,審決は,取り消されるべきである。 1 取消事由1(相違点の看過1) (1) 審決は, 「引用例1記載の「下枠板と称し得る放熱板3」は,その図示された形状と吸熱及び放熱機能を備えるところから,本件発明でいう,「略四辺形状の」「ヒートシンク基盤」に相当するものといえる。」(審決書7頁17行目〜19行目) としている。 しかし,引用発明1の放熱板3は,本件発明のヒートシンク基盤に相当するものではない。その他,引用発明1には,上記ヒートシンク基盤に相当するものは存在しない。 (2) 訂正明細書の,「【発明の詳細な説明】【0001】【産業上の利用分野】本発明は,パワートランジスタ等の発熱素子の冷却の為に用いられるヒートシンク装置に関するものである。」(甲第3号証中の訂正明細書1頁13行目〜17行目),「【0008】そこで,本発明は,上記した種々の問題点を解決し,ヒートシンクの冷却能力の向上と省スペース化を実現することを目的とするものである。」(3頁1行目〜3行目),「【0010】【作用】上記構成としたことにより,本発明のヒートシンク装置は,ヒートシンク基盤の大きさが同一の場合にヒートシンクの長さを長くすることができ,ヒートシンクの面積を大きくすることができるので,ヒートシンク装置の形状を大型化することなく冷却能力を向上させることができるとともに,機器内部への実装の際の省スペース化が図れる。」(3頁16行目〜22行目)等の記載から明らかなとおり,本件発明は,発熱素子に取り付けられ,機器の筐体内部に実装されるものである。発熱素子に直接取り付けるとの構成は,訂正明細書の第2図,第3図に開示されている。 このように,本件発明は,機器の外部に設けられて,機器全体の冷却をする,というものではない。その大きさも,せいぜい数センチメートルないし10センチメートル角程度である。 (3) 「ヒートシンク」という言葉は,一般的に,「半導体装置などで,温度上昇を防ぐために取り付ける放熱体。図はパワートランジスタに取り付けたものである。」(甲第11号証・「新版エレクトロニクス用語事典」436頁),「大きな熱容量をもった金属のブロックで,電子部品などの発生熱損失を吸収する作用をするもの。」(甲第12号証・「電気電子用語大事典」1128頁),と定義されている。 ヒートシンクという言葉の定義そのものから,本件発明は,発熱素子に直接取り付けられるものである,ということが明らかである。 ヒートシンクという言葉の有する意味について,被告の挙げる証拠のうち,乙第1号証(新版電気用語辞典)及び第2号証(IEEE電気・電子用語辞典)は,ヒートシンクを,部品の熱を放出するため,その部品に付着させるものである,としている。部品に取り付けられる以上,機器に内蔵されることは明らかである。 (4) これに対し,引用発明1の放熱板3は,発熱素子を直接冷却するものではなく,機器全体を冷却する,大型(数10センチメートル角)のものである。 したがって,本件発明のヒートシンク基盤と,引用発明1の放熱板3とは,大きさ,構造,作用効果がいずれも異なる。後者が前者に相当するということはできない。 2 取消事由2(相違点の看過2) (1) 審決は, 「(判決注・引用発明1の)放熱用ファン7とガイド板5(板状フィン)とをほぼ同じ高さに配置している状態において,ガイド板5の内端部輪郭形状が円形となる配置をとれば,「ファンの半径方向の外端部とフィンの内端部」は当然に「少なくとも一部において直接対向する」ことになる。」(審決書7頁28行目〜31行目) としている。 しかし,引用発明1は,ファンの半径方向の外端部とガイド板の内端部とが直接対向している構成を備えていない。 (2) 引用例1に開示されている構成では,ファンの半径方向の外周にケーシングが配置されている。これでは,放熱用ファンとガイド板(板状フィン)とが,少なくとも一部において同じ高さにあるとしても,ファンの半径方向外端部とガイド板の内端部とは,直接対向することにならない(引用例2も同様。別紙3,4参照)。 引用例1や引用例2に開示されている放熱用ファンの半径方向の外周にはケーシングが配置されている,と考えるべき理由は,次のとおりである。 ア 引用例1や引用例2に示されているような冷却装置では,ファンの半径方向の外端部にケーシングが設けられるのが一般的である。 イ 引用例1の第1図や,引用例2の第3図において,ファンは点線で描かれている。これと,引用例1の第2図の吸気口4aが二重線で描かれていることとを併せ考慮すると,ファンが,ケーシングの向こう側にあって,見えないことを示す作図法で描かれていることが明らかである(なお,同一の考案者,出願人,出願日の出願に係る実開昭51-21603号公報(甲第17号証)参照)。 ウ 引用例1の第1図及び引用例2の第3図では,ファンによる送風の進行状況を示す矢印は,送風が,ファンの真横方向に流れるようには描かれていない。 このことは,ファンの外周方向に遮蔽物があること,すなわち,ケーシングの存在を示すものである。 被告は,引用発明1において,ファンにより惹起された風が,ガイド板を通り抜けることを強調する。しかし,そのことから,当然に,ファンの外端部とガイド板の内端部が直接対向している,ということになるものではない(甲第9号証)。 ファンがケーシングで覆われていても,それにより生み出された風が,ガイド板の間を通り抜けることは可能である(引用例2の第3図,甲第9号証の第4図参照)。引用発明1及び引用発明2において,ファンがケーシングで覆われているということと,ファンにより生み出された風が,ガイド板を通り抜けるということとは,両立し得ることである。 エ 被告は,ガイド板によりファンが隠れて見えないため,点線で描かれている,などと主張する。しかし,このガイド板は,放射状に一定間隔を置いて配置されているのであるから,これによりファンが隠れてしまう,ということはない。 3 取消事由3(相違点1についての判断の誤り) (1) 審決は, 「上に指摘した引用例2(甲第3号証)の記載は,ヒートシンク基盤に相当する「第2の放熱体5」の一方の面に放熱フィン(「第3の放熱体」)を設け,他方の面には発熱素子(「比較的発熱量の大きな電気部品」)を設ける構成を示しており,この他にも,例えば,甲第4号証(判決注・実開昭57-140668公報(本訴甲第7号証),以下「甲7公報」という。)のマイクロフィルムに記載されている「ペルチエ効果素子」は,「一方から他方に電流を流すと,一方の面が吸熱され他方の面が発熱される」ものであって,発熱素子としての機能をも有するものとみることができるところから,甲第4号証においても,「吸熱板16」(ヒートシンク基盤)の一方の面に「複数のフィン18」(放熱フィン)を設け,他方の面に発熱素子を接合したものを開示しているといえるし(第2頁第5〜20行,第1〜3図参照),更に,甲第5号証で言及されている実願昭54-61690号(実開昭55-162954号)(判決注・本訴甲第9号証,以下「甲9公報」という。)のマイクロフィルム(本件特許に係る分割出願のもとの出願についての拒絶理由で引用された刊行物)にも,同様の構成の開示がある。 そうすると,ヒートシンク基盤の一方の面に「発熱素子を取り付け可能」とし,他方の面に放熱手段を設けることは,当該技術分野における常套的な技術事項とみることができ,一方,引用例1記載の「放熱板3」(ヒートシンク基盤)に設けられた吸熱フィン3aも,結局は回路中の素子等から発生する熱を吸収するものであることを考慮すると,当該吸熱フィン3aを設けることに代えて,上記の常套的な技術事項を採用して,「発熱素子」を取り付け可能」とすることは,当業者が容易に想到できる設計事項というべきである。」(審決書8頁22行目〜9頁4行目) としている。 (2) 前記(取消事由1)のとおり,本件発明は,特定の素子の冷却を目的とする,小型のものである。これに対し,引用発明1の放熱板は,電子機器全体の冷却を目的とする大型のものである。後者は,発熱素子を直接冷却するものではない。 ここでは,発熱素子が産出した熱は,機器本体内部の空気に放出され,この空気を介して,吸熱フィンが熱を吸収し,放熱板が熱を外部に放出する。 両者は目的,作用効果,構造が異なる。 (3) 上記のとおり,引用発明1は,機器内部の,温められた空気の熱を吸収する装置である。引用発明1は,換気型の機器を対象とするものではなく,密閉型の機器を対象とするものであるから,効率的な冷却をするためには,空気との接触面積を大きくする,この吸熱フィンが不可欠である。 他方,本件発明においては,ヒートシンク基盤に発熱素子を直接固着する。ヒートシンク基盤も発熱素子も,熱伝導率が高いから,素子との接触面積を大きくする必要はない。かえって,接触面積を大きくするため表面形状を複雑にした上で両者を組み合わせて接合しようとしても,加工精度の問題から,意図したとおりには接触面積は増えない。 引用発明1から,吸熱フィンを取り去ることは不可能であり,発熱素子の取付面に吸熱フィン(のような複雑な形状の部材)を必要としない本件発明に想到することはできない。 (4) 引用発明1は,「ロツカー壁部の構成要素であるため簡単に外部からの取付取替が可能である。従つて保守点検作業が極めて有利になる。」(引用例12頁右欄13行目〜15行目),「ユニツトとして各種の機器に同一形成のものを適用できる」(同欄17行目〜18行目)としている。引用発明1の吸熱フィンに代えて,発熱素子を直接取り付けると,容易な取付け,取替えができなくなる。また,特定の発熱素子を取り付けるとなると,実装上の制約が生じる。 引用発明1の吸熱フィンに代えて,発熱素子を取り付けることが,単なる設計事項ではないことは,以上の点からも明らかである。 (5) 審決は,甲7公報(別紙5参照)及び甲9公報(別紙6参照)に,ヒートシンク基盤の一方の面に複数のフィンを設け,他方の面に発熱素子を設けた構成が開示されている,と指摘する。 これらの公報に記載された発明は,本件発明と同様,発熱素子に直接取り付けるものである。しかし,これらと,引用発明1とを組み合わせる動機付けは存在しない。 (6) 引用例2には,放熱体に発熱素子を取り付ける構成が開示されている。 しかし,引用発明2は,空気吸気孔から吸い込んだ空気により,機器本体内部を冷却するものであるから,引用発明1(密封方式)において必要となる,吸熱フィンが不要となるのである。引用発明2を参酌しても,引用発明1の吸熱フィンを取り去り,その裏面に発熱素子を取り付けることはできない。 4 取消事由4(相違点2についての判断の誤り) (1) 審決は,相違点2につき, 「上記(1)でも指摘したように,引用例1には,板状フィン(「ガイド板5」)について,第3図(A)では直線形状であって,板状フィンの外端部から内端部へ向かう延長線上に放熱用ファンの駆動手段の回転中心が存在すると推測されるものが例示され,同じく第3図(B)には,曲線形状ではあるが,板状フィンの外端部から内端部へ向かう延長線上には前記駆動手段の回転中心が存在しないと推測されるものが例示されている。 この例示の意味について考えると,引用例1には,第3図に関して,「ガイド板5は夫々ファン7を中心に第3図A或はBのように放射状に側方に延長し,・・・風を外側方に放出する案内羽根の機能と共に,下枠板の伝導熱を放出する放熱ファンとしての機能をも併せ有している」(上述のとおり,「放熱ファン」は「放熱フィンの」の誤記)という記載があるだけで,他には格別の言及がないことからみて,引用例1における上記例示の意味するところは,板状フィン(ガイド板5)の形状や配置を第3図の(A)か(B)のいずれかのみに限定しようとするものではなく,板状フィンが放熱ファンに対して放射状に配置されて,上記各機能を有するものであれば,その形状は直線形状であっても曲線形状であってもよいし,また,板状フィンの外端部から内端部へ向かう延長線上に,放熱用ファン駆動手段の回転中心が存在しても,しなくてもよいことを示唆したものと解すべきである。 しかも,上記板状フィンの形状や駆動手段の回転中心の関係としては,上記第3図(A)又は(B)に例示された以外の組み合わせ,例えば,「直線形状であって,内端部へ向かう延長線上に放熱用ファン駆動手段の回転中心が存在しないもの」や,「曲線形状であって,内端部へ向かう延長線上に放熱用ファン駆動手段の回転中心が存在するもの」も当業者であれば容易に想到できるし,そのいずれをとっても,上記各機能を有するものとなることは明らかである。 そうすると,引用例1における板状フィンの形状及び設置状態に関して,「直線形状」であって「板状フィンの外端部から内端部へ向かう延長線上には前記駆動手段の回転中心が存在しない」ものとすることは格別困難とはいえない。」(審決書9頁6行目〜34行目), と説示している。 (2) 引用発明1は,ファンによって起きる風の流れを考慮せず,そのため,ガイド板の形状によって冷却効率に差が出ることを看過している技術である。すなわち,引用例1の第3図(A)の構成では,ガイド板が直線状であるため,その内端部の延長線上にファンの回転中心が存在するために,ガイド板自体が風の流れを妨げ,ガイド板とガイド板との間に風が入っていきにくい構造となっている。第3図(B)の構成は,ガイド板が曲線形状をしているために,ガイド板とガイド板との間に入った風の流れが,ガイド板によって妨げられ,やはり冷却効率が落ちる。第5図の構成に至っては,ガイド板が螺旋形状をとっているため,ガイド板とガイド板の間を通る風の量は著しく落ちる。引用発明1は,電子機器の外部に取り付けられる装置に関するものであり,ファンを,大型の,強力なものにすれば,十分な冷却性能を確保できるから,ガイド板の形状を工夫して冷却効率を高めることなど考慮する必要がないのである。 引用発明1を基に,多数考えられるガイド板の形状の中から,最も冷却効率の高い構成を選び出し,本件発明の構成に想到することは困難である。 (3) ファンの回転により,空気は回転方向のベクトルを与えられ,回転中心を通る放射線から一定の角度をもった方向に流れ出て,その後は直進する。このことは,「空気が基盤に当って放射状に広がる時に,空気はファンの回転によってやや回転方向に偏って流れる」(被告第1準備書面9頁1行目〜2行目)として,被告も認めるところである。 本件発明は,この点に着目し,フィンを直線形状とし,かつ,フィンの内端部の延長線上にファンの回転中心が存在しない構成をとったため,風の流れが妨げられず,フィンとフィンとの間に風が入りやすいので,より多くの風を効率的に流すことができる。 (4) 本件発明の実施例に係る図1は,フィンの具体的な傾斜角度や内端部の間隔を明らかにすることを意識して描かれたものではない。しかし,そのような具体的な条件は,ヒートシンク基盤の大きさ,フィンの数,ファンの形状等にも関係するものであり,設計事項に属する事項というべきである。 5 取消事由5(本件発明の顕著な作用効果の看過) (1) 前記のとおり,本件発明の構成では,ヒートシンク装置を小型化,薄型化することができ,機器本体に内蔵するに当たり,他の部品の実装に制約を与えない。 このような効果は,電子機器全体の冷却を目的として,その外部に取り付けられる引用発明1,引用発明2には,全くないものである。 (2) 甲7公報記載の装置及び甲9公報記載の装置と比較すると,本件発明は,ファンの半径方向外端部をフィンの内端部に直接対向させたことにより,風の流れが効率的となり,冷却能力が高い。 (3) 以上のとおり,本件発明は,小型化・薄型化と,冷却能力の向上を両立させるという,困難な課題を解決している。 本件発明が,顕著な作用効果を奏していることは明らかである。審決は,「それぞれの相違点に係る構成を組み合わせることによる本件発明の作用効果をみても,上記各引用例の記載事項から容易に予測しうる域を出るものが認められない・・・」(審決書9頁37行目〜39行目)として,上記顕著な作用効果を看過した。 |
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被告の反論の要点
1 取消事由1(相違点の看過1)に対して (1) 原告は,本件発明のヒートシンク基盤が発熱素子に取り付けられ,機器本体に内蔵されるのに対し,引用発明1の放熱板3はそうでないことを理由に,後者は前者に相当しない,と主張する。 本件発明の構成要件上,ヒートシンク基盤が,機器本体内に実装されるとの限定は存しない。 「ヒートシンク」という語が,常に機器内部に実装されるとの意味で用いられる,ということはない。その一般的な意味は,放熱のために熱を吸収する金属体,という程度のものである(乙第1号証ないし第5号証)。 (2) 原告は,本件発明のヒートシンク基盤が,発熱素子に直接取り付けられ,機器本体内部に実装されるものであるから,その大きさは数センチメートルから10センチメートル角程度である,と主張する。 本件発明は,その構成要件上は,「一方の面に発熱素子を取り付け可能としたヒートシンク基盤」である。ヒートシンク基盤が発熱素子に取り付けられるものではない。 もともと,原明細書には,発熱素子に取り付けられる数センチメートル〜10センチメートル角程度のヒートシンク基盤は記載されていない。そのようなヒートシンク装置が登場したのは,平成6,7年にかけてであり,被告製品が初めてのものである(甲第14号証)。 2 取消事由2(相違点の看過2)に対して (1) 原告は,引用例1の第1図において,ファン7が点線で描かれていることを根拠に,引用発明1において,ファンはケーシングで覆われており,ファンの半径方向の外端部とガイド板の内端部は直接対向してはいない,と主張する。 (2) 引用例1の第1図からは,ファンの回転により生み出される空気がガイド板5の間を通って外側に流れ出ることを読み取ることかできる。 考案の詳細な説明の記載にも,「フアン風路は上枠板4とガイド板5から成るフアン支持体と放熱板3との間に形成される。上下枠板の連結フレームであるガイド板5は夫々フアン7を中心に第3図A或はBのように放射状に側方に延長し,上枠板の吸込口4aからフアン7の回転により流入する風を外側方に放出する案内羽根の機能と共に,下枠板の伝導熱を放出する放熱フアンとしての機能をも併せ有している。」(1頁2欄17行目〜25行目),とある。このことからも,空気がガイド板の間を通っていくことは,明らかである。 (3) 引用例1の第1図で,ファン7が点線で描かれているのは,第3図から分かるように,ガイド板5が放射状に配置されているため,第1図の手前方向から見ると,ファン7がガイド板5の陰になっているからである。 もし,原告が主張するとおり,ファン7の側方の周囲がケーシングで覆われているとすれば,ファンの空気がガイド板5の間から側方に流れ出ることはあり得ない。引用例1の第2図の吸気口4a(二重線で書かれているもの)が,ファン7の周囲を完全に覆っていると解すると,そのことはより明らかである。 したがって,引用発明1のファンの半径方向の外端部とガイド板の内端部とが直接対向していることは明らかである。 (4) 原告は,この直接対向により,小型化・薄型化とともに,冷却効率の向上も図ることができる,としている。 前記のとおり,引用発明1も,この直接対向の構成を備えている。原告の主張は,この点において既に失当である。 そもそも,原明細書に,ファンの駆動手段をヒートシンク基盤に取り付けた構成のヒートシンク装置が開示され,上記のような作用効果を持つものと説明されている(乙第6号証)。原告がいう作用効果は,原発明(分割出願後も原出願に残された発明)のものではあっても,本件発明のものではない。 3 取消事由3(相違点1についての判断の誤り)に対して (1) ヒートシンクに発熱素子を取り付けることは,ヒートシンクという言葉の前記のとおりの意味からも,当然のことであり,何ら特別なことではない(甲第11号証ないし第13号証)。原告自身も,このことは認めている(原告第1準備書面5頁23行目〜25行目参照) ヒートシンクの基盤の一方の面に発熱素子を取り付けることを可能とすることは,当業者にとっての常套的な技術事項である,とした,審決の判断は正しい。 (2) 原告は,引用発明1は,密封構造を採用しており,吸熱フィンの存在が必須であり,これを取り除くことは不可能であると,と主張する。 しかし,引用発明1の放熱板3に,吸熱フィンを取り付けるか,発熱素子を直接取り付けるかは,筐体の発熱素子の配置等によって適宜選択できる,設計事項にすぎない。密封構造であるか否かとは,関係がない。 そもそも,ヒートシンクの目的は,放熱のために,熱を吸収することである。引用発明1の吸熱フィンは,機器内の熱を吸収して放熱体3(ヒートシンク)に伝える機能を有する。この吸熱フィンに代えて,発熱素子を直接ヒートシンク基盤に取り付け,接触作用で熱をヒートシンク基盤に伝えるようにすることは,設計事項にすぎない。 (3) 引用発明1は,密封構造の電子機器全体を冷却するという,特殊な課題の解決を目指して,放熱板3に吸熱フィンを接合する構成を採用しているものである。引用発明1が,そのような特徴を持つものであるからといって,その一部を,公知の常套手段で置き換えた本件発明が,進歩性を有することになるものではない。 4 取消事由4(相違点2についての判断の誤り)に対して (1) 原告は,本件発明は最も冷却効率のよい構成を選び出したものであり,そのような構成を選び出すことは容易に想到できない,としている。 しかし,相違点2に係る本件発明の構成要件は,要するに,フィンを直線形状にしてその延長線上に駆動手段の回転中心が存在しないようにする,というだけのものであって,それ以上に,その内容を具体的に特定することはしていない。 訂正明細書にも,最も効率のよいフィンの形状や配置を選択した,ということは,何も記載されていない。 (2) 訂正明細書の図1のフィンの配置は,実際には,ファンの回転により生み出された空気が,円滑にフィンの間を流れることを妨げるような構成である。 すなわち,上図に示された構成では,ファンによって生み出された空気は,実際には,ヒートシンク基盤にいったん衝突した後,ファンの回転方向にやや偏りつつ,ファン側方に放射状に広がって流れるのである。ファンにより直接その側方に押し出されるものではない。 そうすると,フィンがファンの回転の接線方向に沿って配置されていると,ヒートシンク基盤に当たった後放射状に流れようとする空気は,フィンとほぼ直角に衝突してしまい,その流れが妨げられることになる。空気の流れを妨げないようなフィンの配置とは,例えば甲第14号証の図5(これは,被告製品のものである。)のようなものである。 原告は,引用例1の第3図(A)の構成は,空気の流れを阻害するという。しかし,上に述べたところから明らかなとおり,訂正明細書の図1のものの方が,はるかに空気の流れが悪い。 5 取消事由5(本件発明の顕著な作用効果の看過)に対して 発明の進歩性は,発明を構成する個々の構成要素の有機的な結合により,個々の構成要素からは予期できない相乗的な作用効果を奏することによって,初めて認められるものである。 フィンの内端部とファンの外端部とが,少なくとも一部において直接対向するなどという抽象的な構成を取り出しても,原告が主張するような顕著な作用効果は生じない。 原告は,フィンを特定の方向に傾斜したことに基づき,一定の作用効果が発生する,ということを主張するようである。しかし,そのようなフィンの傾斜は,本件発明の構成要件には含まれていない。本件発明の構成要件でいっているのは,フィンの内端部とファンの外端部を結んだ直線状に,モーターの回転中心がない,ということだけである。 |
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当裁判所の判断
1 取消事由1(相違点の看過1)について (1) 原告は,引用発明1の放熱板3は,本件発明のヒートシンク基盤には相当せず,この点において,審決には相違点の看過がある,と主張する。 原告の主張の根拠は,両者は,取り付ける対象,大きさ,構造等が全く異なる,というものであり,その中でも,原告が強調するのは,本件発明は機器に内蔵されるもので,比較的小さい(数センチメートルから10センチメートル角程度)のに対し,引用発明1の放熱板は,機器外部に取り付けられるものであって,大きい(数10センチメートル角程度),ということである。 (2) 本件発明のヒートシンク基盤は,その請求項の記載から,取り付け可能とされた発熱素子,板状フィン,ファン及び駆動手段という装置要素を配置する基盤の役割を担うとともに,その一方の面で吸収した熱を他方の面及びこの面に立設した板状フィンに伝導する機能を有するものである,と認められる。 これに対し,引用発明1の放熱板3は,引用例1の記載(特に実用新案登録請求の範囲の記載「ロツカーで密封されている電子機器において;ロツカー1の外壁の一部を構成し且つ少くともロツカー外壁の内側に配位するフイン3aを有する放熱板3,3’,3”及びロツカー外壁の外側に配位する放熱フアン7と該放熱板或いはロツカー外壁に取付けたフアン支持体4,5,4’を有し,フアン風路が該放熱板と該フアン支持体との間に形成された放熱ユニツト2を備えた電子機器」参照)によれば,ロッカー1に頂壁として取り付けられる板(下枠板)であり,吸熱フィン3a,ガイド板5,ファン7及びモータ6を配置する基盤の役割を担うとともに,そのロッカー内部側の面で吸収した吸熱フィン3aの熱を同外部側のガイド板5に伝導するものでもある(甲第5号証)。 以上からは,引用発明1の放熱板3と本件発明のヒートシンク基盤とは,フィン(引用発明1ではガイド板)及びファン等の放熱要素を配置する基盤である点,及び熱の伝導経路となる点の限度において一致し,少なくとも,その限度では,引用発明1の放熱板3は本件発明のヒートシンク基盤に相当する,ということができる。 (3) 本件発明につき,電子機器本体内に内蔵される態様のものに限定されていると理解することはできない。 訂正明細書には上記限定を明示する記載はない。 特許請求の範囲は前記(第2の2)のとおりであり,その文言自体に,そのような限定はない。 発明の詳細な説明には,次のような記載がある。 「【発明が解決しようとする課題】・・・【0007】・・・冷却ファンを併用する場合に於ては,図5に示す様に冷却ファン13を本体14の外箱に取付けるものと,図6に示すように機器本体14の内部に発熱素子と冷却ファンを近接させて配置するものとがあるが,冷却ファンを外箱に取り付けるものに於てはその取付け位置によってはヒートシンク12との距離が離れ,ファンによる風が拡散しヒートシンク12への送風量が減少し冷却効果が悪くなるということがある。・・・ 【0008】そこで,本発明は,上記した種々の問題点を解決し,ヒートシンクの冷却能力の向上と省スペース化を実現することを目的とするものである。・・・ 【0010】 【作用】上記構成(判決注・請求項の記載と同旨)としたことにより,機器の内部への実装の際の省スペース化が図れる。」(訂正明細書2頁16行目〜3頁22行目) 発明の詳細な説明の以上の記載によれば,本件発明は,ファンを外箱に取り付ける構成の問題点をも解決するものであり,しかも,「実装の際の」としていることからすれば,機器本体に内蔵しない場合も想定していると理解するのが合理的である。 (4) 本件発明は,その特許請求の範囲の記載上,発熱素子を取り付けることが可能であるとされている。しかし,発熱素子を取り付けることが可能である,ということは,取り付けるものが発熱素子に限定されていることとは別である。そして,特許請求の範囲中に,取り付けるものを,発熱素子に限定する記載は存在しない。 原告は,この点に関し,ヒートシンクという用語自体により,上記限定が示されていると主張する。 ヒートシンクという用語の定義については,以下のとおり,種々の文献に記載がある。 ア「半導体装置などで,温度上昇を防ぐために取り付ける放熱体。図はパワートランジスタに取り付けたものである。」(甲第11号証の1ないし3・新版エレクトロニクス用語辞典436頁) イ「大きな熱容量をもった金属のブロックで,電子部品などの発生熱損失を吸収する作用をするもの。」(甲第12号証の1ないし3・電気電子用語大辞典1128頁) ウ「発生する熱の放熱を効率よくするための部品,通常,半導体などの素子の裏面そのもの,またはそれらを実装したパッケージ,または基板の裏面に取り付け,素子またはパッケージの熱抵抗を小さくすることができる。」(甲第13号証の1ないし3・半導体用語大辞典920頁) エ「部品が損失のために出る熱で高温に熱せられるとき,その熱を逃がすために部品に付着させる金属の部品」(乙第1号証・新版電気用語辞典687頁) オ「(1)(電気式管加熱システム)熱を吸収する部分。電気式管加熱システムに関連するヒートシンクは,配管,弁,タンク等に直接接続している幾多の物体のうちヒータが発生した熱を吸収し得る物体であり,ヒータの効果を弱める物体である。典型的なヒートシンクは管の吊り具,弁の操作機構等である。 (2)(半導体整流ダイオードシステム) ダイオードよりも大きな熱容量をもち,ダイオードに密着して取りつけられている大きな金属部分で,冷却装置の一部である。ダイオードの熱は熱伝導の作用によってこの金属部に流れ込み,流れ込んだ熱は冷媒によって除去される。 (3)(光起電力システム)熱を吸収できる材料,構成部品あるいはシステムを熱的に保護するために,そのような材料を利用している装置」(乙第2号証・IEEE電気・電子用語辞典583頁) カ「【電子工学】ヒートシンク:回路中の部品から発生する余剰な熱を除くための金属製熱交換器」(乙第4号証・小学館ランダムハウス英和大辞典第2版1238頁) 以上の各文献の各記載からは,ヒートシンクに直接取り付けられるものは,発熱素子に限られず,様々な部品や,さらにはその集合体も含まれることが明らかである。 そうすると,取り付ける対象の大きさ及び位置に応じて,本件発明のヒートシンク装置も,その大きさが異なり,また,必ずしも装置内に内蔵されるものとはいえなくなることは,明らかである。 (5) 仮に,本件発明に取り付けるものが発熱素子に限定されるとしても,その大きさは様々であろうし(訂正明細書は,発熱素子の大きさについて限定していない。),また,すべての発熱素子が,必ず電子機器本体に内蔵されるものとも認められない。 他方,引用例1には,引用発明1の放熱ユニット2が取り付けられるロッカー1の構成やその大きさについて,具体的な記載はない。 そうすると,本件発明と引用発明1とで,その大きさや,機器への内蔵の有無について異なるところがあると決めつけることはできない。 原告が指摘するような相違点の看過はない。 2 取消事由2(相違点の看過2)について (1) 引用例1には,以下の記載がある。 ア「第1図は電子機器を密封するロツカー1の頂面に本考案に係る放熱ユニツト2を取付けた構成を示している。・・・放熱ユニツト2は大きくはユニツト本体と放熱用フアン7から成り,このユニツト本体は・・・放熱板3及び上枠板4と複数のガイド板5から成るフアン支持体を含んで構成されており,ガイド板5は・・・放熱板3と上枠板4を連結している。上記ユニツト本体はその中央にモータ6で駆動される放熱フアン7を回転可能に内蔵している。・・・下枠板3はその外面に突起体の多数の吸熱フイン3aが突設されている。」(甲第5号証1頁2欄5行目〜27行目) イ「以上の構成の放熱ユニツト2は好ましくは第1図のように電子機器を内蔵した密封式ロツカー1の頂壁構成体として取付けるのが望ましい。」(同1頁2欄30行目〜32行目) ウ「本考案に係る放熱ユニツトを取付けた電子機器を示す断面説明図」(同1頁1欄19行目〜20行目)である第1図には,ロッカー1の頂部に放熱ユニット2を取り付けた構造が示され,放熱ユニット2の構成要素として,放熱板3(下枠板3),上枠板4,ガイド板5が実線で示されるとともに,ファン7が点線で示されている。 エ「次に本考案の作用効果を説明すると,ロツカー内に密封された空気は電子機器の熱を奪つて対流し,下枠板の吸熱フインに熱を与える。次にこの熱は吸熱フイン3aにより下枠板及びガイド板5に伝導される。それと平行して(判決注・「並行」の誤記と認める。)放熱フアンの回転により外気は上枠板の吸込口からユニツト本体に流入し,下枠板に衝突してその熱を奪う他,・・・ガイド板の熱も奪いながら放出される」(同1頁2欄37行目〜2頁3欄7行目) (2) 引用例1の上記アないしウの記載によれば,引用発明1の放熱ユニット2は,放熱板3,ガイド板5,吸熱フィン3a,上枠板4,ファン7及びモータ6を構成要素とし,上記エ記載の作用効果を奏するものであると認められる。上記構成要素以外の部品の存在については,引用例1には何も記載されていない。すなわち,ファンの外端部とガイド板の内端部との間に,ケーシング等の介在物が存在することは,全く記載されていない。 上記アの記載から分かるとおり,引用発明1においては,放熱板3及び上枠板4と複数のガイド板5とが,ファン支持体を構成しているから,これとは別にファンを収納するケースは不要である。また,エの記載から分かるように,吸熱フィンからの熱は,ガイド板5にも伝導されるから,冷却のためには,ガイド板全体にファンからの風が当たるようにするのがより効果的である。ファンの側方外周を覆うケースの存在は,この風の流れを阻害しかねないから,有害となる場合もある。 このように,引用発明1において,ファン7の側方外周を覆うケースは,少なくとも不必要であり,しかも,有害ともなり得るものであるから,存在しないと理解するのが,より自然かつ合理的である。引用例1に接した当業者は,このようなケースは存在しないと理解するものと認められる。 (3) 引用例1の第1図において,ファン7は,上下枠板間に位置するように点線で描画されていること,ガイド板5は「上下枠板の連結フレーム」(2欄13行目〜15行目,19行目)であり,上下枠板間に介在していることに照らせば,ファン7とガイド板5とはファンの回転軸方向(第1図の上下方向)について,同じ高さの位置にあることが認められる。 以上から,引用例1には,引用発明1のファンの外端部とガイド板の内端部とが直接対向することが,文言によって記載されているということはないものの,そのような構成のものが記載されていると,すなわち,これに接した当業者はこのような構成のものをそこに読み取る,と認めることができる。 (4) 原告は,ファンの半径方向の外端部にケースが設けられているものを示す,引用例2の第3図を挙げ,この記載も参酌すると,引用例1の第1図ではファン7が点線で描かれ,それが側面からは見えない構造と理解されるものとされているのは,ガイド板5と放熱ファン7との間にケースが存在することを示している,と解するのが合理的である,と主張する。 ア 点線描画が,通常,何かに隠れて見えない状態を表す際に用いられるものであり,かつ,ファンの半径方向の外端部にケースを設けることが珍しくないことであるとしても,本件で,引用発明1のファン7がケーシングで覆われていると解釈することの合理性については,以下のとおり,疑問がある。 (ア) そもそも,引用例1の第1図はロッカーの正面(同図手前)から見たガイド板の内端部の様子を忠実に表現したものとは認めることができないものである。 第1図は,「本考案に係る放熱ユニットを取付けた電子機器を示す断面説明図」(1頁1欄19行目〜20行目)である。同図の放熱ユニットには,5個のガイド板5(正確にはその断面とみるべきである。以下同じ),上下枠板の各端部を結ぶ2本の縦線(ガイド板の端部),下枠板の端部付近の突起様物(下枠板を固定するビスと認められる。)及びファン(点線)が示されている。一方,第3図(A)には,長方形の下枠板3に放射状に延びる計12本の直線のガイド板と4個の小円が示される。小円はビス孔とみるのが相当である。 そうすると,第1図は,第3図(A)において,長辺方向の2個の小円を通る面を切断面とした断面図であるとみるのが合理的である(すなわち,この切断面は,ファンが設置される中心部の円形領域(ガイド板の内端部を結んだ線で形成される円形領域)を通ってはいない。)。この解釈は,ガイド板の切口が5個となる点において,第1図と符合し,正しいものと認められる。しかし,ガイド板の上記切口以外の部分については第1図には表示がない。 このように,ガイド板につき上記切口以外には表示がなされていない以上,どこまでがガイド板なのかを特定することはできない。したがって,この第1図だけからは,ファン7が,ガイド板に隠れているとも,ガイド板の間隔から見えるはずだとも,どちらともいえない。 むしろ,第3図(A)のようにガイド板が配置された構成では,側方から見れば,ケースが存在しなくても,ファンはその大部分がガイド板で隠蔽され,回転軸の付近の一部分しか見えなくなるはずである。 (イ) そこに記載されている考案者,出願人及び出願日がいずれも引用例1に記載されているものと同一である甲第17号証(実開昭51-21603号公報)の第1図(別紙7参照)において,実線で描かれたケース内に,ファン8が点線で描かれている。 しかし,この第1図では,ファン8を覆うケースの存在が明示されている。ファン7については,引用例1のファン7と同様の疑問がある。いずれにしろ,引用発明1の理解の参考になるものではない。 (ウ) 引用例1の第4図は,「図のようにガイド板を省略しても・・・」(2頁3欄23行目〜24行目)との記載から分かるとおり,下枠板のファン側にガイド板がない構成に関するものであり,この図においては,ファンは実線で図示されている。このことと対比すれば,第1図においてファンが側方から見えないものとして図示されているのは,ガイド板が存在するためである,とするのが,むしろ自然な理解であるということができる。 イ 原告は,吸気口4aが二重線で描かれていること(引用例1の第2図)もケースの存在を示していると主張する。 引用例1の第2図の二重線に対応して,第1図には,上枠板4の上部に突出物の表示がある。これと併せ考えると,この二重線は,吸入口に嵌装した補強枠等としての円筒状枠を図示したものと考えることもでき,かつ,この円筒状枠が下枠板まで貫通する構造であるとする根拠もない。 二重線は,上記のとおりにも解釈できる以上,ケースの存在を示すものとして重視することはできない。 ウ 引用発明2の冷却装置においては,ファンの側面外周を取り囲むケースが存在する。しかし,この証拠から,ファンの側面外周を取り囲むケースを用いることが周知技術であると認めることはできるとしても,引用発明1におけるように,ファンを取り囲むガイド板があり,放熱板及び上枠板とガイド板とがファン支持体を構成するような場合にも,更にケースでファンを取り囲むことが一般的である,ということまでを認めることはできない。 (5) 原告は,引用例1の第1図の矢印は,外気が吸込口から下枠板に衝突することを示すものとして,すなわち,横方向ではなく真下に向けて描かれ,ファンの真横方向に流れるように図示されていないことも,ケースの存在を示すものである,としている(同趣旨のものとして引用例2の3図を挙げている。)。 しかし,引用例1の第1図のような図示が,ケースの存在と矛盾しないからといって,そのことは,ケースの存在を積極的に認定させるものではない。 引用例1の第1図における,風の流れを示す図示は,以下のとおり,むしろ,ケースの不存在を推認させるものである。 ア 引用例1の第1図には,風の動きを示す矢印として,ファン半径方向のものも示されており,しかも,それは,吸込口からの風が,下枠板に衝突するまでにファン半径方向の成分を獲得することを示している。また,本体から放出される風にファン軸方向(流入する風の方向と逆の方向)と同じ方向の成分があることは示されていない。そうだとすれは,ファンとガイド板との間に風路が存在すると考えるのが自然である。 イ 引用例2(別紙4参照)では,ケースと第1の放熱体(風の向きの観点からは,引用発明1の下枠板3に対応)との間に隙間があるとともに,放出される風は流入する風の方向とは反対方向の成分を有する。 甲9公報のもの(別紙6参照)においては,強制空冷ファン20と冷却フィン16が立設される基盤部との間に隙間があるとともに,放出される風も流入する風の方向とは反対方向の成分を有する(4図)。これは,ケースが存在するときは,風が流入するのとは反対方向の成分が,放出される風に生ずることを示唆している。 これに対して,引用例1の第1図には,前記のとおり,ケースの存在を示す表示も,ケースと放熱板との隙間の存在を示す表示もない上に,放出される風が流入する風の方向と逆方向の成分を有することの表示もない。 引用例2及び甲9公報の記載と併せ考慮すると,むしろ,引用発明1には,ファンの側方外周を覆うケースが存在しないと考えることの合理性は,より大きくなるということができるのである。 3 取消事由3(相違点1についての判断の誤り)について (1) 原告は,引用発明1は,電子機器全体の冷却を目的とし,機器内部の温められた空気の熱を吸収するための吸熱フィンを必須の要素とするものであるため,これから,本件発明の,ヒートシンク基盤に発熱素子を直接固着する構成に想到することはできない,と主張する。 (2) 引用例1の,「ロツカーに密封された空気は電子機器の熱を奪つて対流し,下枠板の吸熱フインに熱を与える」(甲第5号証1頁2欄37行目〜2頁3欄1行目),「従つてこの吸熱フインによる凹凸により下枠板外面はその実表面積が飛躍的に拡張される結果,伝熱効率が極めて大きくなつている。」(同1頁2欄27行目〜29行目),及び「第5,6図はガイド板を省略した別の放熱ユニツト例における下枠板としての放熱板3”を示す・・・即ち・・・下枠板の内面から見れば螺旋状の送風案内溝を構成し,外面から見れば,この溝が吸熱フインとしての螺旋状突起体を構成している。」(同2頁3欄26行目〜4欄6行目)の記載から分かるとおり,引用発明1において,吸熱フィンが用いられるのは,同発明が吸熱の対象としているのが,特定の発熱素子ではなく,ロッカー内全体であることから,ロッカー内を対流する空気から熱を効率的に奪おうとしてのことである。すなわち,いわば,放熱のための準備として行われていることにすぎない。この吸熱フィンが,引用発明1における,放熱板における放熱自体の機能に不可欠であるとは認められない。 そして,甲7公報(別紙5参照)には,吸熱板16を介して,ペルチェ素子の発熱面14bが,フィン18に接合されている構成が,開示されている。また,甲9公報(別紙6参照)にも,ファンを用いた強制冷却スタックにおいて,電子部品10をアルミブロック12に直接接合し,熱は,このアルミブロック10から接着剤14を介して冷却フィン16に伝えられる構成が開示されている。 引用発明1,甲7公報の放熱器及び甲9公報の強制冷却スタックは,いずれも吸熱用の部材から放熱用の部材(フィン)に熱を伝え,この放熱用の部材に,ファンからの風を当てて冷却するという構成・用途において共通している。 引用発明1は,「放熱効率が高いので,それだけ小形ですむ」(甲第5号証12頁4欄12行目)というのであるから,そのような特長を持つ引用発明1を,発熱素子に直接取り付け,これを冷却する用途にも用いようとすることには,積極的な動機付けがあることが明らかである。 以上のとおりであるから,引用発明1において,空気を冷やす代わりに発熱素子を直接接合して冷やすことにし,その際,放熱機能において不可欠でなく,発熱素子を取り付けるためにはむしろ邪魔となる吸熱フィンを取り除く程度のことは,当業者が容易に想到し得ることというべきである。 (3) 原告は,引用発明1において発熱素子を直接取り付けることは,引用発明1の作用効果(容易な取替交換,各種機器への同一規格のものの適用)を喪失させてしまうものであり,単なる設計事項ではない,と主張する。 引用例1には,「次に本考案の作用効果を説明すると,ロツカー内に密封された空気は電子機器の熱を奪つて対流し,下枠板の吸熱フインに熱を与える。次にこの熱は吸熱フイン3aにより下枠板及びガイド板5に伝導される。それと平行して放熱フアンの回転により外気は上枠板の吸込口からユニツト本体に流入し,下枠板に衝突してその熱を奪う他,ガイド板に案内されて本体の外に移動する間にガイド板の熱も奪いながら放出されるため,この放熱ユニツトは電子機器に対する冷却効果が極めて高い。」(甲第5号証1頁2欄37行目〜2頁3欄8行目)との記載がある。また,このような放熱効果については,「以上のように本考案に係る放熱ユニツトは放熱効率が高いので,それだけ小形で済む。しかもロツカー壁部の構成要素であるため簡単に外部からの取付取替が可能である。」(同2頁4欄11行目〜14行目)との記載によれば,引用発明1の主位的な効果として把握されていると認めることができる。 相違点1に関して本件で問題となるのは,引用発明1の放熱の機構に着目し,引用発明1における下枠板の下面における吸熱フィンを取り除き,その代わりに,同下面に発熱素子を取り付けることが可能なものとすることの容易推考性である。そして,引用発明1の構成のうち,放熱の機構だけを抜き出しても,優れた放熱効果(と小形化)という重要な作用効果が保持される以上,上記放熱機構だけを取り出して,これに発熱素子に取り付けることにすれば,その他の引用発明1の作用効果(容易な取替交換,各種機器への同一規格のものの適用)が失われることになるとしても,そのことが容易推考性を阻害する事由になるとは認められない。 4 取消事由4(相違点2についての判断の誤り)について (1) 訂正明細書(甲第3号証)には,以下の記載がある。 ア「ヒートシンクにより発熱素子の温度をより下げるためには,ヒートシンク表面積を増大させるか,或は放熱効率を高めるため冷却ファンを併用する等の手段が用いられている。」(2頁12行目〜14行目) イ「本発明は,・・・ヒートシンクの冷却能力の向上と省スペース化を実現することを目的とするものである。」(3頁2行目〜3行目) ウ「本発明のヒートシンク装置は,ヒートシンク基盤の大きさが同一の場合にヒートシンクの長さを長くすることができ,ヒートシンクの面積を大きくすることができるので,ヒートシンク装置の形状を大型化することなく冷却能力を向上させることができるとともに,機器内部への実装の際の省スペース化が図れる。」(3頁18行目〜22行目) エ「フィンの表面積を広くすることができ,冷却効率に優れるとともに,大幅な省スペース化が図られると言う優れた効果を奏する。」(5頁15行目〜17行目) オ 図1(甲第2号証の図1と同じ)には,放射状に配置した直線形状の複数の板状のフィンを,駆動手段の回転中心を中心とする放射状方向から一定角度だけ傾けて配置した構成,すなわち,本件発明の「直線形状の複数の板状フィンの外端部から内端部へ向かう延長線上には駆動手段の回転中心が存在しない」構成が示されている。 (2) 上記によれば,本件発明は,ヒートシンクの面積を大きくすれば(ヒートシンクの長さを長くすれば),冷却能率を向上させることができることに着目し,放射状に配置した直線形状の複数の板状フィンを,「延長線上に回転中心が存在しない」構成,すなわち傾けて配置する構成とすることにより,実質的に板状フィンの長さを長くする(板状フィンの表面積を広くする)ことにより,ヒートシンクの面積を大きくしたものであることが認められる。 もっとも,訂正明細書に,「従って,ヒートシンクにより発熱素子の温度をより下げるためには,ヒートシンク表面積を増大させるか,或は放熱効率を高めるため冷却ファン併用する等の手段が用いられている。」(2頁12行目〜14行目)と記載されているとおり,冷却能力を高めるためには,ヒートシンクの面積を大きくすればよいということは,周知の技術であった,と認められる。 (3) 引用例1には,以下の記載がある。 ア「上下枠板の連結フレームであるガイド板5は夫々フアン7を中心に第3図A或はBのように放射状に側方に延長し,上枠板の吸込口4aからフアン7の回転により流入する風を外側方に放出する案内羽根の機能と共に,下枠板の伝導熱を放出する放熱フアンとしての機能をも併せ有している。」(1頁2欄19行目〜25行目) イ「冷却効果,即ち放熱効果は,吸熱フインと放熱フインのサイズと数及びフアンの送風量に左右される。」(2頁3欄9行目〜11行目) ウ 第3図Aには,直線形状のガイド板が回転中心を中心として放射状に配置されていると解される例が,同図Bには,湾曲板状のガイド板が放射状に配置され,そのガイド板の外端部から内端部に向かう延長線上にファンの回転中心が存在しない例が記載されている。 (4) 上記のとおり,引用例1にも,フィンを大きく(長く)することが,冷却能力の向上に有益であるという技術思想が開示されている。そして,引用例1の第3図(B)は,「湾曲形状」とすることにより風と接触する長さを長くして冷却効果を高めたものと認められ,これは,本件発明と同一の考えに基づき,フィンを長くすることによって,冷却能力を高めるという,一つの構成を開示したものというべきである。 また,この第3図(B)の「湾曲形状」は,その形状及び上記「ガイド板5は夫々フアン7を中心に第3図A或はBのように放射状に側方に延長し」の記載に照らせば,第3図(A)のように放射状に配置した直線形状のガイド板を,その内端部の互いの間隔を保ったまま同一周方向に湾曲させるとの配置に基づき,それを変形させた一つの例である,とも認められる。 すなわち,引用例1は,本件発明の構成の一つ(直線形状のガイド板外端部から内端部に向かう延長線が回転中心上に存在しないように配置する)そのものを開示することはしていないものの,そこに開示された配置(第3図(A),(B),さらには第5図)以外にも,種々の変形例があり得ることを開示している,ということができる。 (5) 審決は,引用例1は,「板状フィンが放熱ファンに対して放射状に配置されて,上記各機能を有するものであれば,その形状は直線形状であっても曲線形状であってもよいし,また,板状フィンの外端部から内端部へ向かう延長線上に,放熱用ファン駆動手段の回転中心が存在しても,しなくてもよいことを示唆したものと解するべきである」,と説示している(審決書9頁17行目〜23行目)。 この点,審決は,「第3図(B)には,曲線形状ではあるが,板状フィンの外端部から内端部へ向かう延長線上には前記駆動手段の回転中心が存在しないと推測されるものが例示されている。」と認定している(審決9頁9行目〜11行目)。前記のとおり,この審決の認定は正しい。 (6) もともと,引用例1の第3図(A)のように,ファンの回転中心から放射状に延びる直線状のガイド板を設ける場合,駆動手段の回転中心は,ガイド板の延長線上にあるか,ないかのいずれかしかない。そして,ファンの回転中心がガイド板の延長線上になければならないと考えられていたことは,本件全証拠によっても認めることはできない。しかも,前記のとおり,フィンの長さをできるだけ長くした方が,冷却能力の向上の点で有利であることは周知であった。そうだとすれば,ガイド板(フィン)の長さをより長く取ることができるよう,直線形状のガイド板が,その内端部へ向かう延長線上に放熱用ファンの回転中心が存在しない構成を想到することは,当業者が容易になし得ることと認めることができる(引用例1の第3図(A)の構成,すなわち,直線形状のガイド板の内端部方向からの延長線上にファンの回転中心がある構成から出発して,この延長線上にファンの回転中心がない構成とする場合,大きく分けて,@ガイド板の内端部を中心に回転させるようにしてガイド板の外端部をずらす,Aガイド板の外端部を中心に回転させるようにしてガイド板の内端部をずらす,B両者の中間点を中心に回転させるようにずらす,Cその他の四通りがある。このうち,幾何学上,確実にすべてのガイド板の長さを長くできるのはAであり,当業者がそのようなずらし方を考え付くのは,極めて容易である。)。 審決の,「上記板状フィンの形状や駆動手段の回転中心との関係としては、上記第3図(A)又は(B)に例示された以外の組み合わせ、例えば、「直線形状であって、内端部へ向かう延長線上に放熱用ファン駆動手段の回転中心が存在しないもの」や、「曲線形状であって、内端部へ向かう延長線上に放熱用ファン駆動手段の回転中心が存在するもの」も当業者であれば容易に想到できるし、そのいずれをとっても、上記各機能を有するものとなることは明らかである。 そうすると、引用例1におけるガイド板の形状及び設置状態に関して、 「直線形状」であって「板状フィンの外端部から内端部へ向かう延長線上には前記駆動手段の回転中心が存在しない」ものとすることは格別困難とはいえない。」(審決書9頁24行目〜34行目),という説示は,少なくとも,結論としては正当である。 5 取消事由5(顕著な作用効果の看過)について 原告が主張する本件発明の作用効果は,本件発明の構成の自明の効果にすぎない。このような効果をもって,本件発明の特許性の根拠とすることはできない。 6 結論 以上のとおりであるから,原告主張の取消事由は,いずれも理由がなく,その他,審決には,これを取り消すべき誤りは見当たらない。そこで,原告の本訴請求を棄却することとし,訴訟費用の負担について,行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。 |
裁判長裁判官 | 山下和明 |
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裁判官 | 設樂隆一 |
裁判官 | 高瀬順久 |