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事件 |
平成
29年
(ワ)
5274号
特許権に基づく損害賠償請求権不存在確認等請求事件
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裁判所のデータが存在しません。 | |
裁判所 | 東京地方裁判所 |
判決言渡日 | 2018/04/26 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 民事訴訟 |
判例全文 | |
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判例全文
平成30年4月26日判決言渡 同日原本交付 裁判所書記官 平成29年 第5274号 特許権に基づく損害賠償請求権不存在確認等請求事件 口頭弁論終結日 平成30年3月15日 判 決 5 当事者の表示 別紙当事者目録記載のとおり 主 文 1 本件訴えを却下する。 2 訴訟費用は原告らの負担とする。 3 原告アップルインコーポレイテッドのために,この判決に対する控訴のため 10 の付加期間を30日と定める。 事 実 及 び 理 由 第1 請求 被告らは,原告らによる別紙物件目録記載の各製品(以下「原告製品」と総 称する。)の生産,譲渡,貸渡し,輸入又はその譲渡若しくは貸渡しの申出 15 (譲渡若しくは貸渡しのための展示を含む。)につき,特許第4685302 号の特許権に基づく損害賠償請求権及び実施料請求権を有しないことを確認す る。 第2 事案の概要 本件は,原告らが,被告らに対し,原告らによる原告製品の生産,譲渡,貸 20 渡し,輸入又はその譲渡若しくは貸渡しの申出(譲渡若しくは貸渡しのための 展示を含む。)につき,被告クアルコム インコーポレイテッド(以下「被告 クアルコム」という。)が保有する特許権の侵害に基づく損害賠償請求権及び 上記特許権に基づく実施料請求権を被告らが有しないことの確認を求める事案 である。 25 1 前提事実(当事者間に争いのない事実並びに後掲の証拠及び弁論の全趣旨に より容易に認められる事実) 1 当事者 ア 原告ら 原告アップルインコーポレイテッド(以下「原告アップル」という。) は,アメリカ合衆国(以下「米国」という。)カルフォルニア州法に基 5 づき設立された法人である。 原告Apple Japan合同会社(以下「原告アップルジャパン」 という。)は,パーソナル・コンピュータの販売等を目的とする合同会 社である。 イ 被告ら 10 被告クアルコムは,米国デラウェア州法に基づき設立された法人であ る。 被告クアルコムジャパン株式会社(以下「被告クアルコムジャパン」 という。)は,情報通信機器及び情報通信サービスについての情報の収 集と提供等を業とする株式会社である。 15 被告クアルコム テクノロジーズ インク(以下「被告QTI」とい う。)は,米国デラウェア州法に基づき設立された法人である。 被告クアルコム シーディーエムエー テクノロジーズ アジア−パ シフィック ピーティーイー エルティーディー(以下「被告QCTA P」という。)は,シンガポール共和国法に基づき設立された法人であ 20 る。 被告クアルコムの特許権 被告クアルコムは,次の特許権(以下「本件特許権」といい,その特許を 「本件特許」という。)の特許権者である(甲1,2)。 特許番号 第4685302号 25 発明の名称 無線通信システムにおける逆方向リンク送信レートを決定 するための方法および装置 2 出 願 日 平成12年6月30日 (特願2001−508101) 登 録 日 平成23年2月18日 優 先 日 平成11年7月2日 5 2 争点 国際裁判管轄の有無 確認の利益の有無 被告らの原告らに対する本件特許権侵害に基づく損害賠償請求権又は本件 特許権に基づく実施料請求権の有無 10 3 争点に関する当事者の主張 争点 (国際裁判管轄の有無)について (原告らの主張) ア 本件訴えは,原告らによる日本国内における原告製品の生産,譲渡等の 行為につき,被告らが原告らに対して本件特許権侵害に基づく損害賠償請 15 求権及び本件特許権に基づく実施料請求権を有しないことの確認を求める 訴えである。 本件のような特許権侵害に基づく損害賠償請求権等の不存在確認請求訴 訟では,不法行為地管轄(民事訴訟法3条の3第8号)が認められるた めに不法行為(特許権侵害)の存在自体を原告が主張立証する必要はな 20 く,特許権を保有する被告が原告の行為によって特許権が侵害されて損 害が生じたとの事実関係を主張しているという事実を主張立証すれば足 りる。そして,本件では,被告らは,原告らによる日本国内における原 告製品の生産,譲渡等の行為によって,本件特許権が日本国内で侵害さ れて損害が生じたとの事実関係を主張している。したがって,本件訴え 25 のうち損害賠償請求権の不存在確認請求に係るものは,民事訴訟法3条 の3第8号により日本の裁判所に管轄権が認められる。 3 また,本件訴えのうち,本件特許権侵害に基づく損害賠償請求権の不存 在確認請求と予備的請求の関係にある本件特許権に基づく実施料請求権 の不存在確認請求に係るものも,民事訴訟法3条の6により日本の裁判 所に管轄権が認められる。 5 イ 被告クアルコム,被告QTI及び被告QCTAPは,いずれも被告クア ルコムジャパンを通じて日本において事業を行い,本件特許権に係る発明 を実施しており,本件訴えは,被告らの日本における業務に関するもので あるといえるから,民事訴訟法3条の3第5号により日本の裁判所に管轄 権が認められる。 10 ウ 被告らは,本件には民事訴訟法3条の9の「特別の事情」があるとして 本件訴えを却下するように求めているが,本件訴えは日本の特許権の侵害 に関する訴えであること,本件特許権を対象とする当事者間の訴訟は本件 のみであること,本件訴えを日本国外で訴訟提起したとしても管轄を否定 される可能性が高いこと,原告アップルと被告クアルコムとの間で実際に 15 係属している米国での訴訟においても,裁判所は本件特許権についての審 理を行わないことを明らかにしていること等に鑑みれば,本件訴えには同 条の「特別の事情」は存在しない。 (被告らの主張) ア 被告クアルコム,被告QTI及び被告QCTAPはいずれも外国法人で 20 あり,主たる事務所又は営業所は日本国外にあるから,これらの被告に対 する訴えにつき,日本の裁判所に管轄権は認められない。 イ 原告らは,被告らが原告らによる日本国内における原告製品の生産,譲 渡等の行為により本件特許権が日本国内で侵害されて損害が生じたとの事 実関係を主張しているから本件訴えは民事訴訟法3条の3第8号により日 25 本の裁判所に管轄権が認められると主張するが,後記 の被告らの主張の とおり,被告らはそのような主張をしていない。 4 ウ 原告アップル及び被告クアルコムは,いずれも米国州法に基づき設立さ れた米国法人であり,両社は,全世界における原告製品の生産,譲渡等を めぐり,各国において登録された被告特許権の利用関係を含む両社の事業 上の関係全体について,米国において協議を行ってきたものであり,また, 5 米国においては,原告アップルによって本件訴えと重複する内容の訴訟が 提起され,現在,米国南カリフォルニア地区の連邦地方裁判所に係属中で ある。このような状況において,原告らと被告らとの間の紛争のごく一部 にすぎない本件訴えについて,日本の裁判所が審理及び裁判を行うことは, 当事者間の衡平を害し,適正かつ迅速な審理の実現を妨げる結果となるこ 10 とは明らかである。したがって,仮に,日本の裁判所が管轄権を有する場 合であっても,本件には,民事訴訟法3条の9の「特別の事情」があり, 本件訴えは却下されるべきである。 争点 (確認の利益の有無)について (原告らの主張) 15 ア 本件のような消極的確認訴訟では,原告の法律上の地位に現に危険又は 不安が存在し,その不安が被告に起因し,かつ,確認判決がその不安の除 去のために必要かつ適切である場合には,確認の利益が認められる。そし て,本件では,次のとおり,被告らと原告らとの間には,本件特許権に関 する紛争が存在しており,今後もその紛争が継続する相当の蓋然性が存在 20 し,被告らの行為によって原告の法律上の地位に危険又は不安があるとい えるから,この危険又は不安を除去のために確認判決が必要かつ適切であ るから,本件訴えにつき,確認の利益が認められる。 被告クアルコムと原告アップルは,平成26年頃から,被告クアル コムが保有する,本件特許権を含む3G/UMTS規格及び4G/LT 25 E規格(以下「本件通信規格」と総称する。)に関する全世界的な必須 宣言特許ポートフォリオに関するライセンス交渉(以下「本件ライセン 5 ス交渉」という。)を行っている。そして,被告クアルコムは,平成2 8年,本件ライセンス交渉において,被告クアルコムが本件通信規格の 必須宣言特許を多く保有していることを前提として,原告アップルの製 品が本件通信規格に準拠していることから,被告クアルコムの特許権を 5 侵害していると主張し,その根拠資料として,被告クアルコムが保有す る必須宣言特許をほぼ完全に網羅する約2000頁に及ぶ特許リスト (本件特許権を含む。)や被告クアルコムが保有する必須宣言特許の一 部のクレームチャート(本件特許権を含まない。)を提示した。なお, 当該クレームチャートに含まれる特許に対応する米国特許に係る特許権 10 に関し,原告アップルが提起した米国における債務不存在等の確認を求 める訴訟については,被告クアルコムは「係争性」(controversy)を争 っていない。 被告らは, 被告クアルコムは 原告製品の製造受託業者( Contract Manufacturer。以下「CM」という。)に対し,被告クアルコムが保有 15 する特許の一部(本件特許を含む。)についてライセンス(以下「CM ライセンス」という。)を付与しており,原告アップルはCMライセン スを有するCMから原告製品全ての供給を受けているため,被告クアル コムは原告アップルに対して特許権侵害に基づく損害賠償等を請求する 意思はなく,本件ライセンス交渉はCMライセンスに依拠することに代 20 えて,被告クアルコムが原告アップルに対し,被告クアルコムが保有す る必須宣言特許について,直接ライセンスを付与することを前提とした 交渉であったと主張する。 ●(省略)●このように,被告クアルコムは,本件ライセンス交渉中, CMライセンスの対象特許の範囲を明確にしないばかりか,主張を変遷 25 させており,このような本件ライセンス交渉の事実経緯に照らせば,原 告らは,被告らによる特許権侵害に基づく権利行使の危険にさらされて 6 いることは明らかである。 被告クアルコムは,中国において,携帯通信端末メーカーである Meizu Technology Co.,Ltd.(以下「メイズ社」という。)を被告とし て,本件特許に対応する中国特許に係る特許権の侵害訴訟を提起して 5 いる。 被告クアルコムは,米国での訴訟において,原告アップルに提示し た必須宣言特許ポートフォリオ(本件特許権を含む。)のライセンス案 がFRAND宣言に適合することの確認や,仮にFRAND宣言に適 合しないとする場合のFRAND条件によるロイヤリティの確認を求 10 めている。被告クアルコムがこのような確認請求をすることは,原告 アップルが本件特許権を含む必須宣言特許全てを侵害していると主張 していることにほかならない。これに対し,被告らは,米国での訴訟 において,被告クアルコムはCMライセンスがないと仮定した場合の ライセンス提案がFRAND条件に適合すること等の確認を求めてい 15 ると主張するが,米国での訴訟において,被告クアルコムはそのよう な仮定条件を一切主張していない。また,被告らは,米国での訴訟に おいて,被告クアルコムは本件特許権又はその米国対応特許に係る特 許権侵害に基づく損害賠償請求等をしていないとも主張するが,この ような主張は,被告クアルコムが求める確認請求の前提条件として, 20 自ら負担する主張立証責任を不当に回避するものであって許されない。 上記のとおり,被告クアルコムと原告アップルとの間には本件特許 権に関する紛争が存在しているところ,被告QTIは,事実上,特許 ライセンシング事業を含む,被告クアルコムの製品及びサービスに関 する事業の全てを行っており,また,被告QCTAP及び被告クアル 25 コムジャパンは被告クアルコムの製品の販売等を行っており,同製品 の販売価格には特許に係る実施料が含まれること等からすれば,被告 7 QTI,被告QCTAP及び被告クアルコムジャパンは被告クアルコ ムと一体となって本件特許権の行使を行っているといえるし,ライセ ンス料請求権の侵害に基づき又は本件特許権侵害に基づく権利を代位 行使する現実の危険があり,被告クアルコムだけではなく,被告QT 5 I,被告QCTAP及び被告クアルコムジャパンと原告らの間にも本 件特許権に関する紛争が存在しているというべきである。 イ 被告らは,本件訴訟において,原告らに対し,本件特許権侵害に基づ く損害賠償請求及び本件特許権に基づく実施料請求権を有するものでは ないし,これらの請求権を行使する意思もないと表明した。しかしなが 10 ら,被告らの主張は,現時点において,訴訟物である損害賠償請求等の 不存在又は不行使の意思を一時的に表明するにとどまり,基本的事実関 係に変化がない限り,口頭弁論終結後においても権利主張を行う意思が ない旨を確定的に表明するものではないこと,被告らは,原告らに対し て本件特許権に基づく損害賠償請求権等を有しないことの法的理由を明 15 らかにすることを拒否したこと,被告らは,答弁書においては,本件特 許権に基づく損害賠償請求権等を有しないと主張したのに対し,本件第 1回口頭弁論期日では,本件特許権に基づく損害賠償請求権等を行使す る意思がなく,日本国の法の下において行使できるものとも考えていな いと陳述しており,主張を変遷させていること,被告らは,本件訴訟に 20 おいて,原告らがCMライセンスの契約条件を開示するように求めたに もかかわらず,これを拒否していること等からすれば,被告らによる上 記の一時的な表明のみをもって確認の利益が失われるものではない。 ウ 以上によれば,本件訴えにつき確認の利益がある。 (被告らの主張) 25 ア 被告クアルコムは,CMに対し,被告クアルコムが保有する特許の一部 についてCMライセンスを付与している。CMライセンスの対象には本件 8 特許権も含まれており,原告らはCMから原告製品全ての供給を受けてい る。このような基本的事実関係によれば,本件特許権については,特許権 者と同視すべき者が国外において特許製品を譲渡したことにより,特許権 者が権利行使することが許されなくなるといえるから,被告らは,原告ら 5 による原告製品の生産,譲渡等につき,本件特許権侵害に基づく損害賠償 請求権及び本件特許権に基づく実施料請求権を有するものではない。 そして,被告らは,本件訴訟において,原告らによる原告製品の生産, 譲渡等につき,本件特許権侵害に基づく損害賠償請求権及び本件特許権に 基づく実施料請求権を有するものではなく,これらを行使する意思もない 10 旨を表明している。また,被告クアルコムは原告アップルとの間で,CM とのCMライセンス契約を解除することができないとの合意をしているか ら,上記基本的事実関係が変化する客観的な可能性も乏しい。 被告QTI,被告QCTAP及び被告クアルコムジャパンは,いずれも 本件特許権の特許権者ではないし,ライセンス料を請求する権利も有して 15 いないから,原告らに対する損害賠償請求権等を有するはずがない。 イ 原告らは,被告クアルコムが,@本件ライセンス交渉において,原告ア ップルに対し,原告製品が本件特許権を含む被告クアルコムの保有する多 くの特許権を侵害していると主張したこと,A中国において,メイズ社を 被告として,本件特許の中国対応特許に係る特許権の侵害訴訟を提起した 20 こと,B米国での訴訟において,原告アップルに提示したライセンス案が FRAND宣言に適合すること等の確認を求めていることから,原告らと 被告らの間には,本件特許権に関する紛争が継続していると主張する。 しかしながら,@について,本件ライセンス交渉は,CMライセンスに 依拠することに代えて,被告クアルコムが原告アップルに対して直接ライ 25 センスを付与することを目的とする交渉であり,被告クアルコムは,CM ライセンスが存在するにもかかわらず原告製品が本件特許権を含む被告ク 9 アルコムが保有する特許権を侵害していると主張した事実はない。 Aについて,メイズ社は,原告アップルとは違い,CMライセンスを有 するCMから製造の供給を受けているという事情もないのに,被告クア ルコムからライセンスを受けることなく被告クアルコムが保有する特許 5 の実施品を販売していたことから,被告クアルコムは中国において訴訟 を提起したのであり,本件と事情が異なる。 Bについて,原告アップルは,米国での訴訟において,本件ライセンス 交渉において,被告クアルコムが原告アップルに示したライセンス提案 はFRAND宣言を満たしていないと主張し,FRAND料率の設定等 10 を求めた。そこで,被告クアルコムは,上記原告アップルの請求に対す る反訴として,被告クアルコムのライセンス提案がFRAND宣言に適 合すること等の確認を求めたものであり,被告クアルコムが,CMライ センスが存在するにもかかわらず原告アップルが本件特許権を含む被告 クアルコムが保有する特許権を侵害していると主張した事実はない。ま 15 た,被告クアルコムは,米国での訴訟において,CMライセンスが現在 でも有効に存在することを繰り返し認めているし,本件特許権又は米国 対応特許に係る特許権に基づく損害賠償請求等を行っていない。 ウ 以上によれば,本件訴えは確認の利益を欠く。 争点 (被告らの原告らに対する本件特許権侵害に基づく損害賠償請求権 20 又は本件特許権に基づく実施料請求権の有無)について (被告らの主張) 上記 の被告らの主張アのとおり,被告らは,原告らによる原告製品の生 産,譲渡等につき,本件特許権侵害に基づく損害賠償請求権及び本件特許権 に基づく実施料請求権を有しない。 25 なお,原告らは,被告らがCMに対してチップセットを販売したことによ って本件特許権が消尽したとか,被告らが原告らに対し,本件特許権につき 10 黙示のライセンスを付与していると主張するが,チップセットの販売によっ て本件特許権が消尽することはなく,被告らが黙示のライセンスを付与した という事実もない。 (原告らの主張) 5 原告製品は3G/UMTS規格に準拠した製品であるところ,同規格は, 本件特許の願書に添付した特許請求の範囲の請求項1記載の「前記基地局の 各々により送信される逆方向リンクビジービットに従って発生された結合さ れた逆方向リンクビジー信号に従って逆方向リンク送信レートを決定する」 との構成を必須としないから,原告製品は本件特許に係る発明の技術的範囲 10 に属さず,原告らが原告製品を生産,譲渡等する行為は本件特許権を侵害し ない。 また,被告らは,原告製品の製造を行うCMに対し,チップセットを販売 したことによって,本件特許権は消尽した。仮に本件特許権が消尽しないと しても,被告らがCMから原告製品の最終価格に基づき算定されたライセン 15 ス料を収受していることからすれば,被告らは,原告らに対し,本件特許権 につき,黙示のライセンスを付与したと評価できる。 したがって,被告らは,原告らに対し,本件特許権侵害に基づく損害賠償 請求権及び本件特許権に基づく実施料請求権を有しない。 また,仮に被告らが原告らに対して上記各権利を有するとしても,被告ク 20 アルコムは,本件特許権につき,FRAND宣言をしており,FRAND宣 言をした特許権者はFRAND条件でのライセンス料相当額を超える額を請 求することはできないから,被告らは,原告らに対し,少なくともFRAN D条件でのライセンス料相当額を超える損害賠償請求権及び実施料請求権を 有しない。 25 第3 当裁判所の判断 1 認定事実 11 前提事実に加え,後掲の証拠及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認めら れる。 被告クアルコムは,同社が保有する特許権の一部につき,原告製品のCM (製造受託業者)である4社(以下「CM4社」ということがある。)に対 5 し,原告製品の生産,譲渡等に関しライセンス(CMライセンス)を付与し ており,原告らは,CM4社から,全ての原告製品の供給を受けている。そ して,CMライセンスの対象には本件特許権も含まれており,CMライセン ス契約は現時点でも有効に存続している。(乙4,弁論の全趣旨) 原告アップルと被告クアルコムは,平成26年頃から,被告クアルコムが 10 保有する本件通信規格に関する全世界的な必須宣言特許ポートフォリオにつ いて,原告アップルが被告クアルコムから直接ライセンスの付与を受けるこ とを目的とした交渉(本件ライセンス交渉)を開始した。本件ライセンス交 渉においては,次のようなやりとりが行われた。 ア 原告アップル担当者は,被告クアルコム担当者に対し,次の記載がある 15 平成28年2月5日付けレターを送付した(甲9)。 ●(省略)● イ 被告クアルコム担当者は,原告アップル担当者に対し,次の記載がある 平成28年2月17日付けレターを送付した(甲10)。 ●(省略)● 20 ウ 被告クアルコム担当者は,原告アップル担当者に対し,平成28年3月 18日付けで,被告クアルコムがETSI(欧州電気通信標準化機構) に開示した多数の特許が記載された一覧表を送付し,同一覧表のうち, 本件通信規格が利用可能な原告アップルの製品が実施していない特許が あれば知らせるよう求めた。同一覧表には,本件特許の米国又は中国対 25 応特許が記載されており,当該特許につき,地理的範囲の欄には,米国, 中国,オーストリアその他の諸国の国名とそれに対応する番号のほか, 12 「日本:4685302」(本件特許の特許番号)と記載されている。 (甲7) エ 原告アップル担当者は,被告クアルコム担当者に対し,次の記載のある 平成28年4月18日付けレターを送付した(甲11)。 5 ●(省略)● オ 被告クアルコム担当者は,原告アップル担当者に対し,次の記載がある 平成28年6月12日付けレターを送付した(甲6)。 ●(省略)● カ 被告クアルコム担当者は,原告アップル担当者に対し,平成28年7月 10 15日付けレターを送付し,被告クアルコムが保有する本件通信規格の 必須宣言特許についてFRAND条件によるライセンスの申入れをする など(甲15),ライセンス提案をした。 キ 被告クアルコムは,平成28年12月頃,原告アップルに対し,クアル コムが保有する特許権の一部について,「クレームチャート一覧サンプル」 15 を提供した(甲14)。当該クレームチャート一覧サンプルには,本件特 許又は本件特許に対応する米国若しくは中国対応特許は記載されていな い。 被告クアルコムは,平成28年6月,中国において,携帯通信端末メーカ ーであるメイズ社を被告として,本件特許に対応する中国特許に係る特許権 20 の侵害訴訟を提起した(甲8)。被告クアルコムは,メイズ社がCMライセ ンスを有するCMから製造の供給を受けているという事情もないのに,被告 クアルコムからライセンスを受けることなく被告クアルコムが保有する特許 の実施品を販売していると考え,上記訴訟を提起するに至った(弁論の全趣 旨)。 25 原告アップルは,平成29年1月20日,被告クアルコムを被告として, 米国南カリフォルニア地区連邦地方裁判所に対して訴訟を提起した(甲1 13 6)。 原告アップルは,上記訴訟において,被告クアルコムによるCMへの被告 クアルコム製ベースバンド・プロセッサ・チップセットの販売行為が,同チ ップセットに包含される特許権に関する被告クアルコムの特許権を消尽させ 5 ることの確認,被告クアルコムが原告アップルに対し,合理的な実施料率及 び合理的な条件による非差別的なライセンスの申出をしていないことの確認, 原告アップルが実施する被告クアルコムが保有する特許について,合理的な 実施料率を用いたFRAND料率の設定等を求めた(乙2)。これに対し, 被告クアルコムは,被告クアルコムが本件ライセンス交渉において原告アッ 10 プルに示したライセンス提案がFRAND条件を充足していることの確認等 を求めた(甲33,弁論の全趣旨)。 被告らは,本件訴訟において,現時点において,被告クアルコムは,原告 製品のCM4社に対して本件特許権を含む特許権のライセンス(CMライセ ンス)を付与しており,原告アップルはCM4社から原告製品全ての供給を 15 受けているから,被告らは,原告らに対し,本件特許権侵害に基づく損害賠 償請求権及び本件特許権に基づく実施請求権を有するものではなく,行使す る意思もない旨表明している。 2 争点 (確認の利益の有無)について 確認の訴えは,現に,原告の有する権利又は法律的地位に危険又は不安が 20 存在し,これを除去するため被告に対し確認判決を得ることが必要かつ適切 な場合に限り許されるものである(最高裁判所昭和27年(オ)第683号 同30年12月26日第三小法廷判決・民集9巻14号2082頁参照)。 ア 原告らは,被告クアルコムが,平成28年,本件ライセンス交渉におい て,原告アップルに対し,原告製品が本件特許権を含む被告クアルコムの 25 保有する多くの特許権を侵害していると主張したと主張する。 本件ライセンス交渉の経過についてみると,本件ライセンス交渉は,原 14 告製品の生産,譲渡等について,原告アップルへの供給をしているCM4 社に被告クアルコムが本件特許を含む特許についてCMライセンスを付与 しているという取引形態を改め,被告クアルコムが原告アップルに対して 直接ライセンスを付与することを目的とした交渉であった(認定事実 5 CMライセンスがなければ原告製品が侵害することになる特許権の特定や 原告製品が同特許権を侵害すると考える理由の説明等を求められた。これ に対し,被告クアルコムは,被告アップルに対し,原告製品が本件通信規 格に準拠しているとの認証を受けていることを述べて,被告クアルコムが 10 ETSI(欧州電気通信標準化機構)に開示した特許の一覧表(そこには 本件特許の特許番号も記載されている。)を送付し,そのうち原告製品に おいて実施されていないものを特定するよう求めるなどし イ,ウ及びオ)。 これらの本件ライセンス交渉の目的及び本件ライセンス交渉におけるや 15 り取りの内容に照らせば,被告クアルコムが,平成28年,本件ライセ ンス交渉において,原告アップルに対し,原告製品が本件特許権を侵害 していると主張したとは認められない。本件ライセンス交渉において, 被告クアルコム担当者は,原告製品が●(省略)●という文言を含むレ ターを送付したが(同オ),これは,上記交渉において,原告アップルが 20 被告クアルコムに対してCMライセンスがない場合に原告製品が侵害し ていると被告クアルコムが考えている特許権の特定を求めるなどしたこ と(同ア)を受けて,被告クアルコムの考えを示す中で上記文言を使用 したものと認められる。また,本件ライセンス交渉において被告クアル コムから本件特許の特許番号の記載を含む一覧表が開示されているが 25 (同ウ),これも,上記交渉過程において,原告製品において実施されて いると考えられる特許権の特定を原告アップルから被告クアルコムが求 15 められたのに対して上記一覧表を開示したといえるものであって,この ことが本件特許権の権利侵害の事実を摘示して権利主張を行うことを予 定した行為であるということはできない。 イ 原告らは,被告クアルコムは本件ライセンス交渉においてCMライセン 5 スの対象範囲を明確にしないばかりか,主張を変遷させており,このよう な事実経緯に照らせば,原告らが本件特許権侵害に基づく被告らによる権 利行使の危険にさらされていると主張する。 しかし,被告クアルコムは,本件訴訟において,一貫して,本件特許権 について,CMライセンスの対象に含まれ,そのことによって,被告ら 10 は原告らによる原告製品の生産,譲渡等につき,本件特許権侵害に基づ く損害賠償請求権及び本件特許権に基づく実施料請求権を有するもので はない旨明確に表明している。このような状況において,被告らがCM ライセンス契約の内容を明らかにしないことによって,原告らが本件特 許権侵害に基づく被告らによる権利行使の危険にさらされていると認め 15 ることはできない。 ウ 原告らは,被告クアルコムがメイズ社に対して本件特許の中国対応特許 に係る特許権の侵害訴訟を提起したことを指摘する。 しかし,認定事実 のとおり,被告クアルコムは,メイズ社がCMライ センスを有するCMから製造の供給を受けているという事情もないのに 20 被告クアルコムからライセンスを受けることなく被告クアルコムが保有 する特許の実施品を販売していると考え,訴訟を提起するに至ったもの で,CM4社から供給を受けている原告製品が問題となる本件とは事情 は異なる。上記訴訟提起をもって,原告らが本件特許権侵害に基づく被 告らによる権利行使の危険にさらされていると認めることはできない。 25 エ 原告らは,被告クアルコムは,米国での訴訟において,原告アップルに 提示した必須宣言特許ポートフォリオ(本件特許権を含む。)のライセン 16 ス案がFRAND宣言に適合すること等の確認を求めており,このような 確認請求をすることは,原告アップルが本件特許権を含む必須宣言特許全 てを侵害していると主張していることにほかならないと主張する 認定事実 のとおり,米国での訴訟において,原告アップルは,被告ク 5 アルコムは合理的な実施料率及び合理的な条件による非差別的なライセ ンスの申出をしていないことの確認や,原告アップルが実施する被告ク アルコムが保有する特許のFRAND料率の設定等を求め,被告クアル コムはこの原告アップルの請求に対する反訴として,被告クアルコムが 本件ライセンス交渉において示したライセンス提案がFRAND宣言に 10 適合すること等の確認を求めた。 これらの訴訟において,被告クアルコムが,CMライセンスが存在する にもかかわらず,本件特許権を含む被告クアルコムが保有する特許権を 原告アップルが侵害していると主張したとは認められないし,同訴訟で 問題となっているライセンス提案は,平成28年に原告アップルと被告 15 クアルコムとの間でされていた本件ライセンス交渉においてされたもの であり(認定事実 認定事実 記米国の訴訟において上記の確認を求めるに至る経緯に照らしても,被 告クアルコムが上記の確認を求めることが,本件特許権を被告アップル が侵害していると被告クアルコムが主張していることになるとは認めら 20 れない。原告らは,被告クアルコムは米国での訴訟において,CMライ センスがないという仮定条件を付した主張はしていないと主張するが, 上記の確認を求める経緯等に照らし,同事実が直ちに上記判断を左右す るものとは認められない。 オ 本件において,原告らは,CM4社から全ての原告製品の供給を受けて 25 いるところ,被告クアルコムとCM4社との間にはCMライセンスが存在 し,本件特許権もその対象である(認定事実 )。 17 被告らは,これらの事実を認めた上で,このことを理由として,本件訴 訟において,一貫して被告らは原告らによる原告製品の生産,譲渡等に つき,本件特許権侵害に基づく損害賠償請求権及び本件特許権に基づく 実施料請求権を有しないことを表明している。 5 そして,上記アないしエのとおり,原告アップルと被告クアルコムとの 従前の交渉において,原告製品が本件特許権を侵害していると被告クア ルコムが主張したことがあるとは認められないし,他の訴訟等において も,被告クアルコムにおいて,被告らによる上記表明を矛盾する行動を とったことがあるとは認められない。その他,被告クアルコムにおいて, 10 原告アップルの有する権利又はその法律上の地位に危険,不安を生じさ せる行動をとったことを認めるに足りる証拠はない。 これらを総合すれば,被告クアルコムとの関係において,原告アップル の有する権利又はその法律上の地位に危険又は不安があるとは認められ ない。 15 原告らは,被告QTI,被告QCTAP及び被告クアルコムジャパンは被 告クアルコムの製品等に関する事業や製品の販売を行っていることから被告 クアルコムと一体となって本件特許権を行使していると主張する。しかし, 本件特許権を有しない者がその実施品に関する事業等を行っていることから 本件特許権自体や実施料請求権を保有又は行使しているということはできな 20 いし,被告QTI,被告QCTAP及び被告クアルコムジャパンがそれらの 権利を具体的に行使した事実を認めるに足りる証拠はない。したがって,こ れらの被告らが本件特許権侵害に基づく損害賠償請求権及び本件特許権に基 づく実施料請求権を行使する具体的なおそれがあるとは認められない。 以上によれば,本件訴えのうち原告アップルの被告クアルコムに対する訴 25 え並びに原告アップルと被告QTI,被告QCTAP及び被告クアルコムジ ャパンとの間の訴えは,確認の利益がない。 18 また,被告らが,原告アップルとは別に,原告アップルジャパンに対し, 本件特許権侵害に基づく損害賠償請求権及び本件特許権に基づく実施料請求 権を行使する具体的なおそれがあることを基礎づける事実の主張はなく,原 告アップルジャパンと被告らとの間の訴えについても,確認の利益は認めら 5 れない。 3 結論 よって,その余の争点について判断するまでもなく,本件訴えは確認の利益 を欠き,不適法であるから,これを却下することとし,主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第46部 10 裁判長裁判官 柴 田 義 明 15 裁判官 大 下 良 仁 裁判官萩原孝基は転補のため署名押印できない。 裁判長裁判官 柴 田 義 明 19 (別紙) 当 事 者 目 録 原 告 アップルインコーポレイテッド 5 原 告 Apple Japan合同会社 10 原告ら訴訟代理人弁護士 長 沢 幸 男 同 矢 倉 千 栄 同 稲 瀬 雄 一 同 石 原 尚 子 同 金 子 晋 輔 15 同 雲 居 寛 隆 同 仲 野 覚 成 同訴訟代理人弁理士 大 塚 康 徳 同補佐人弁理士 大 塚 康 弘 同 江 嶋 清 仁 20 同 前 田 浩 次 同 吉 田 晴 人 同 西 守 有 人 被 告 クアルコム インコーポレイテッド 25 20 被 告 クアルコム テクノロジーズ インク 5 被 告 クアルコム シーディーエムエー テクノロジー ズ アジア−パシフィック ピーティーイー エ ルティーディー 10 被 告 クアルコムジャパン株式会社 被告ら訴訟代理人弁護士 早 田 尚 貴 同 城 山 康 文 同 岩 瀬 吉 和 15 同 柴 田 義 人 同 橋 綾 同 村 上 遼 同 小 島 諒 万 同 宗 川 帆 南 20 同訴訟代理人弁理士 市 川 祐 輔 同補佐人弁理士 市 川 英 彦 21 (別紙) 物 件 目 録 1 iPhone 7 Plus 32GB 5 2 iPhone 7 Plus 128GB 3 iPhone 7 Plus 256GB 4 iPhone 7 32GB 5 iPhone 7 128GB 6 iPhone 7 256GB 10 7 iPhone 6S Plus 32GB 8 iPhone 6S Plus 128GB 9 iPhone 6S 32GB 10 iPhone 6S 128GB 11 iPhone SE 16GB 15 12 iPhone SE 64GB 13 12.9インチiPad Pro Wi−Fi 32GB 14 12.9インチiPad Pro Wi−Fi 128GB 15 12.9インチiPad Pro Wi−Fi 256GB 16 12.9インチiPad Pro Wi−Fi+Cellularモデル 20 128GB 17 12.9インチiPad Pro Wi−Fi+Cellularモデル 256GB 18 9.7インチiPad Pro Wi−Fi 32GB 19 9.7インチiPad Pro Wi−Fi 128GB 25 20 9.7インチiPad Pro Wi−Fi 256GB 21 9.7インチiPad Pro Wi−Fi+Cellularモデル 3 22 2GB 22 9.7インチiPad Pro Wi−Fi+Cellularモデル 1 28GB 23 9.7インチiPad Pro Wi−Fi+Cellularモデル 2 5 56GB 24 iPad Air 2 Wi−Fi 32GB 25 iPad Air 2 Wi−Fi 64GB 26 iPad Air 2 Wi−Fi 128GB 27 iPad Air 2 Wi−Fi+Cellularモデル 32GB 10 28 iPad Air 2 Wi−Fi+Cellularモデル 128GB 29 iPad Air Wi−Fi 16GB 30 iPad Air Wi−Fi 32GB 31 iPad mini 4 Wi−Fi 32GB 32 iPad mini 4 Wi−Fi 128GB 15 33 iPad mini 4 Wi−Fi+Cellularモデル 32GB 34 iPad mini 4 Wi−Fi+Cellularモデル 128GB 35 iPad mini 3 Wi−Fi 16GB 36 iPad mini 3 Wi−Fi 64GB 37 iPad mini 2 Wi−Fi 16GB 20 38 iPad mini 2 Wi−Fi 32GB 39 iPad mini 2 Wi−Fi+Cellularモデル 32GB 以 上 23 |