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関連審決 無効2010-800231
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事件 平成 29年 (行ケ) 10202号 審決取消請求事件

原告ミノツ鉄工株式会社
同訴訟代理人弁護士 平山博史 林裕悟 都筑康一
同 弁理士 森本聡
被告株式会社光栄鉄工所
同訴訟代理人弁護士 小松陽一郎 原悠介 和田高明
同 弁理士 田中幹人
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2018/04/27
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
請求
特許庁が無効2010-800231号事件について平成29年10月6日にした審決を取り消す。
事案の概要
1 1 特許庁における手続の経緯等 ? 本件特許 被告は,東洋建設株式会社(以下「東洋建設」という。)及びタチバナ工業株式会社(以下「タチバナ工業」という。)と共に,平成16年5月24日,発明の名称を「平底幅広浚渫用グラブバケット」とする特許出願をし,平成18年11月24日,設定の登録を受けた(特許第3884028号。請求項の数4。甲37。以下,この特許を「本件特許」という。)。
? 第1次審決 ア 原告は,平成22年12月14日,本件特許の特許請求の範囲請求項1に係る発明について特許無効審判を請求し(甲38),無効2010-800231号事件として係属した。
イ 被告,東洋建設及びタチバナ工業は,平成23年3月14日付けで,本件特許の特許請求の範囲を訂正する旨の訂正請求(以下「第1次訂正」という。)をした(甲40)。
ウ 特許庁は,平成23年11月4日,第1次訂正を認めるとともに,本件審判請求は成り立たない旨の審決(以下「第1次審決」という。)をした(甲91)。
エ 原告は,第1次審決の取消しを求める訴訟(当庁平成23年(行ケ)第10414号)を提起した。
オ 知的財産高等裁判所は,平成25年1月10日,第1次審決を取り消す旨の判決をし,同判決は,上告不受理の決定により確定した(甲92)。
? 第2次審決 ア 特許庁は,前記?オの判決を受けて,無効2010-800231号事件の審理を再開した。被告は,平成25年7月22日,東洋建設及びタチバナ工業から,本件特許権に係る持分の全てを譲り受け,特定承継を原因とする移転登録をした(甲93)。被告は,同年10月9日付けで,本件特許の特許請求の範囲を訂正する旨の訂正請求(以下「第2次訂正」という。)をした(甲94)。
2 イ 特許庁は,平成26年4月24日,第2次訂正を認めるとともに,請求項1に係る発明についての特許を無効とする旨の審決(以下「第2次審決」という。)をした(甲106)。
ウ 被告は,第2次審決の取消しを求める訴訟(当庁平成26年(行ケ)第10136号)を提起した後,平成26年8月26日付けで,本件特許の特許請求の範囲の訂正を内容とする訂正審判請求(以下「第3次訂正」という。)をした(甲107)。
エ 知的財産高等裁判所は,平成26年11月11日,平成23年法律第63号による改正前の特許法181条2項に基づき,第2次審決を取り消す旨の決定をした。
? 第3次審決 ア 特許庁は,前記?エの決定を受けて,無効2010-800231号事件の審理を再開し,被告に対し,平成23年法律第63号による改正前の特許法第134条の3第2項に規定する訂正を請求するための期間を指定した。指定期間内に訂正の請求がされなかったため,第3次訂正の審判請求書に添付された訂正した特許請求の範囲援用して,指定期間の末日に訂正の請求がされたものとみなされた(同法134条の3第5項。以下「本件訂正」という。)。
イ 特許庁は,平成27年6月26日,本件訂正を認めるとともに,請求項1に係る発明についての特許を無効とする旨の審決(以下「第3次審決」という。)をした。
ウ 被告は,平成27年7月30日,第3次審決の取消しを求める訴訟(当庁平成27年(行ケ)第10149号)を提起した。
エ 知的財産高等裁判所は,平成28年8月10日,第3次審決を取り消す旨の判決(以下「前訴判決」という。)をし,同判決は,上告不受理の決定により確定した(甲112)。
? 本件審決 3 ア 特許庁は,前訴判決を受けて,無効2010-800231号事件の審理を再開した。
イ 特許庁は,平成29年10月6日,本件訂正を認めるとともに,本件審判請求は成り立たない旨の別紙審決書(写し)記載の審決(以下「本件審決」という。)をし,その謄本は,同月16日,原告に送達された。
ウ 原告は,平成29年11月14日,本件審決の取消しを求める本件訴訟を提起した。
2 特許請求の範囲の記載 本件訂正後の本件特許の特許請求の範囲請求項1の記載は,次のとおりである(甲107)。以下,請求項1に係る発明を「本件発明」という。なお,文中の「/」は,原文の改行箇所を示す(以下同じ。)。
【請求項1】吊支ロープを連結する上部フレームに上シーブを軸支し,側面視において両側2ケ所で左右一対のシェルを回動自在に軸支する下部フレームに下シーブを軸支するとともに,左右2本のタイロッドの下端部をそれぞれシェルに,上端部をそれぞれ上部フレームに回動自在に軸支し,上シーブと下シーブとの間に開閉ロープを掛け回してシェルを開閉可能にしたグラブバケットにおいて,/シェルを爪無しの平底幅広構成とし,シェルの上部にシェルカバーを密接配置するとともに,前記シェルカバーの一部に空気抜き孔を形成し,該空気抜き孔に,シェルを左右に広げたまま水中を降下する際には上方に開いて水が上方に抜けるとともに,シェルが掴み物を所定容量以上に掴んだ場合にも内圧の上昇に伴って上方に開き,グラブバケットの水中での移動時には,外圧によって閉じられる開閉式のゴム蓋を有する蓋体を取り付け,正面視におけるシェルを軸支するタイロッドの軸心間の距離を100とした場合,側面視におけるシェルの幅内寸の距離を60以上とし,かつ,側面視においてシェルの両端部がタイロッドの外方に張り出すとともに,側面視においてシェルの両端部が下部フレームの外方に張り出し,更に,側面視においてシェルの両端部が下部フレームとシェルを軸支する軸の外方に張り出してなり,薄層ヘ 4 ドロ浚渫工事に使用することを特徴とする平底幅広浚渫用グラブバケット(なお,前記正面視はシェルと下部フレームを軸支する軸の軸心方向から視たものであり,前記側面視はシェルと下部フレームを軸支する軸を軸心方向の側方から視たものとする)。
3 本件審決の理由の要旨 ? 本件審決の理由は,別紙審決書(写し)記載のとおりである。要するに,@本件発明は,下記アの引用例1に記載された発明(以下「引用発明1」という。)に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものではない,A本件発明は,下記イの引用例2に記載された発明(以下「引用発明2」という。)に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものではない,というものである。
ア 引用例1:特開平9-151075号公報(甲1) イ 引用例2:特開2000-328594号公報(甲5) ? 本件発明と引用発明1との対比 本件審決は,引用発明1及び本件発明との一致点及び相違点を,以下のとおり認定した。
ア 引用発明1 吊支ロープ7で吊下げられる上部フレーム5に上部シーブ11を軸支し,側面視において両側2ケ所で左右一対のシェル部1A,1Bを開閉自在に軸支する下部フレーム2に下部シーブ12を軸支するとともに,左右一対のシェル部1A,1Bをそれぞれ連結する左右2本の連結杆4A,4Bが,上部フレーム5と左右一対のシェル部1A,1Bをそれぞれ連結しており,一方の連結杆4Aの下端部をシェル部1Aに,上端部を上部フレーム5に回動自在に軸支し,他方の連結杆4Bの下端部をシェル部1Bに回動自在に軸支し,該他方の連結杆4Bの上端部を上部フレーム5に固定し,上部シーブ11と下部シーブ12との間には,開閉ロープ8が巻き掛けられており,開閉ロープ8を繰り下ろすとシェル部1A,1Bは開き,開閉ロープ8を引き上げるとシェル部1A,1Bが閉じられるようにしたグラブバケットに 5 おいて,/シェル部1A,1Bを爪無しの平底構成とし,かつ,側面視においてシェル部1A,1Bの両端部が下部フレーム2の外方に張り出している平底浚渫用グラブバケット。
イ 本件発明と引用発明1との一致点及び相違点 (ア) 一致点 「吊支ロープを連結する上部フレームに上シーブを軸支し,側面視において両側2ケ所で左右一対のシェルを回動自在に軸支する下部フレームに下シーブを軸支するとともに,左右2本のタイロッドの下端部をそれぞれシェルに,上端部をそれぞれ上部フレームに連結し,上シーブと下シーブとの間に開閉ロープを掛け回してシェルを開閉可能にしたグラブバケットにおいて,/シェルを爪無しの平底構成とした/平底浚渫用グラブバケット。」である点。
(イ) 相違点 a 相違点1 「左右2本のタイロッドの下端部をそれぞれシェルに,上端部をそれぞれ上部フレームに連結し」に関し,本件発明においては,「左右2本のタイロッドの下端部をそれぞれシェルに,上端部をそれぞれ上部フレームに回動自在に軸支し」ているのに対して,引用発明1においては,「左右一対のシェル部1A,1Bをそれぞれ連結する2つの連結杆4A,4Bが,上部フレーム5と左右一対のシェル部1A,1Bをそれぞれ連結しており,一方の連結杆4Aの下端部をシェル部1Aに,上端部を上部フレーム5に回動自在に軸支し,他方の連結杆4Bの下端部をシェル部1Bに回動自在に軸支し,該他方の連結杆4Bの上端部を上部フレーム5に固定し」ている点。
b 相違点2 本件発明においては,「シェルの上部にシェルカバーを密接配置するとともに,前記シェルカバーの一部に空気抜き孔を形成し,該空気抜き孔に,シェルを左右に広げたまま水中を降下する際には上方に開いて水が上方に抜けるとともに,シェル 6 が掴み物を所定容量以上に掴んだ場合にも内圧の上昇に伴って上方に開き,グラブバケットの水中での移動時には,外圧によって閉じられる開閉式のゴム蓋を有する蓋体を取り付け」るのに対して,引用発明1においては,そのように構成されているか否か不明である点。
c 相違点3 本件発明においては,「正面視におけるシェルを軸支するタイロッドの軸心間の距離を100とした場合,側面視におけるシェルの幅内寸の距離を60以上とし」ているのに対して,引用発明1においては,そのように構成されているか否か不明である点。
d 相違点4 本件発明においては,「側面視においてシェルの両端部がタイロッドの外方に張り出すとともに,側面視においてシェルの両端部が下部フレームの外方に張り出し,更に,側面視においてシェルの両端部が下部フレームとシェルを軸支する軸の外方に張り出してなり」であるのに対して,引用発明1においては,側面視においてシェル部1A,1Bの両端部が下部フレーム2の外方に張り出しているものの,「側面視においてシェル部1A,1Bの両端部が連結杆4A,4B(本件発明における「タイロッド」に相当する。)の外方に張り出すとともに,更に,側面視においてシェル部1A,1Bの両端部が下部フレーム2とシェル部1A,1Bを軸支する軸の外方に張り出している」か否か不明である点。
e 相違点5 本件発明においては,「薄層ヘドロ浚渫工事に使用する」ものであるのに対し,引用発明1においては,そのようなものか不明である点。
f 相違点6 「平底構成」及び「平底浚渫用グラブバケット」に関し,本件発明においては,それぞれ,「平底幅広構成」及び「平底幅広浚渫用グラブバケット」であるのに対して,引用発明1においては,それぞれ,「平底構成」及び「平底浚渫用グラブバ 7 ケット」である点。
g 相違点7 本件発明においては,「(なお,前記正面視はシェルと下部フレームを軸支する軸の軸心方向から視たものであり,前記側面視はシェルと下部フレームを軸支する軸を軸心方向の側方から視たものとする)」とされているのに対し,引用発明1においては,そのようにされているか不明な点。
? 本件発明と引用発明2との対比 本件審決は,引用発明2及び本件発明との一致点及び相違点を,以下のとおり認定した。
ア 引用発明2 吊りワイヤ10を連結する機体1に上シーブを軸支し,側面視において両側2ケ所で左右一対の左右バケット4,5を回動自在に軸支する滑車機構9に下シーブを軸支するとともに,左右2本の左右アーム2,3の下端部をそれぞれ左右バケット4,5に,上端部をそれぞれ機体1に回動自在に軸支し,上シーブと下シーブとの間に開閉用ワイヤ11を掛け回して左右バケット4,5を開閉可能にしたクラムシェルバケットにおいて,/左右バケット4,5を爪無しの平底構成とし,左右バケット4,5の上部に左右バケット4,5の上部の面を構成するとともに,左右バケット4,5を箱形に構成する部材を配置するとともに,かつ,側面視において左右バケット4,5の両端部が左右アーム2,3の外方に張り出している,ヘドロ浚渫工事に使用する平底浚渫用クラムシェルバケット。
イ 本件発明と引用発明2との一致点及び相違点(ア) 一致点 「吊支ロープを連結する上部フレームに上シーブを軸支し,側面視において両側2ケ所で左右一対のシェルを回動自在に軸支する下部フレームに下シーブを軸支するとともに,左右2本のタイロッドの下端部をそれぞれシェルに,上端部をそれぞれ上部フレームに回動自在に軸支し,上シーブと下シーブとの間に開閉ロープを掛 8 け回してシェルを開閉可能にしたグラブバケットにおいて,/シェルを爪無しの平底構成とし,シェルの上部にシェルの上部の面を構成する部材を配置するヘドロ浚渫工事に使用する平底浚渫用グラブバケット。」である点。
(イ) 相違点 a 相違点8 シェルの上部にシェルの上部の面を構成する部材を配置する点に関し,本件発明においては,「シェルの上部にシェルカバーを密接配置するとともに, 前記シェルカバーの一部に空気抜き孔を形成し,該空気抜き孔に,シェルを左右に広げたまま水中を降下する際には上方に開いて水が上方に抜けるとともに,シェルが掴み物を所定容量以上に掴んだ場合にも内圧の上昇に伴って上方に開き,グラブバケットの水中での移動時には,外圧によって閉じられる開閉式のゴム蓋を有する蓋体を取り付け」るのに対して,引用発明2においては,「バケット4,5の上部にバケット4,5の上部の面を構成するとともに,バケット4,5を箱形に構成する部材を配置する」点。
b 相違点9 本件発明においては,「正面視におけるシェルを軸支するタイロッドの軸心間の距離を100とした場合,側面視におけるシェルの幅内寸の距離を60以上とし」ているのに対して,引用発明2においては,そのように構成されているか否か不明である点。
c 相違点10 本件発明においては,「側面視においてシェルの両端部がタイロッドの外方に張り出すとともに,側面視においてシェルの両端部が下部フレームの外方に張り出し,更に,側面視においてシェルの両端部が下部フレームとシェルを軸支する軸の外方に張り出してなり」であるのに対して,引用発明2においては,側面視において左右バケット4,5の両端部が左右アーム2,3(本件発明における「タイロッド」に相当する。)の外方に張り出しているものの,側面視において左右バケット4, 9 5の両端部が滑車機構9(本件発明における「下部フレーム」に相当する。)の外方に張り出しているとともに,更に,側面視において左右バケット4,5の両端部が滑車機構9と左右バケット4,5を軸支する軸の外方に張り出しているか否か不明である点。
d 相違点11 本件発明においては,「薄層ヘドロ浚渫工事に使用する」ものであるのに対し,引用発明2においては,「ヘドロ浚渫工事に使用する」ものであるものの,「薄層ヘドロ浚渫工事に使用する」ものか不明である点。
e 相違点12 「平底構成」及び「平底浚渫用グラブバケット」に関し,本件発明においては,それぞれ,「平底幅広構成」及び「平底幅広浚渫用グラブバケット」であるのに対して,引用発明2においては,それぞれ,「平底構成」及び「平底浚渫用クラムシェルバケット」である点。
f 相違点13 本件発明においては,「(なお,前記正面視はシェルと下部フレームを軸支する軸の軸心方向から視たものであり,前記側面視はシェルと下部フレームを軸支する軸を軸心方向の側方から視たものとする)」とされているのに対し,引用発明2においては,そのようにされているか不明な点。
4 確定した前訴判決について ? 第3次審決の理由の要旨 第3次審決は,本件訂正を認めた上,本件発明は,@引用発明1に基づいて,当業者が容易に発明をすることができた,A引用発明2に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたとして,本件発明についての特許を無効とするというものである。
? 前訴判決の理由の要旨(甲112) 前訴判決は,第3次審決を取り消したものであり,その理由は,概要,以下のと 10 おりである。なお,前訴判決が認定した引用発明1及び2並びに本件発明と引用発明1及び2との一致点及び相違点は,本件審決の認定(前記3?及び?)と同じである。
ア 取消事由1(引用発明1を主引用例とする容易想到性の判断の誤り)について (ア) 相違点2について a 周知技術 ? 第3次審決は,甲4,甲16及び甲26から,浚渫用グラブバケットにおいてシェルの上部にシェルカバーを密接配置するという周知技術(以下「周知技術1」という。)を認定した。しかし,甲4,甲16及び甲26における各部材が,それぞれ構成及び機能等の技術的意義を異にするから,これらがシェルの上部にシェルカバーを密接配置するという共通の構成を備えるとして同構成を周知技術と認定することはできない。(51頁3行〜52頁11行) ? 甲16及び引用例2から,浚渫用グラブバケットにおいて,シェルの上部に空気抜き孔を形成すること(以下「周知技術2」という。)は,本件特許出願の当時,当業者に周知されていたものと認められる。(56頁19行〜57頁9行) b 相違点2の容易想到性 ? 当業者は,引用発明1において,甲26に開示された構成を適用し,相違点2に係る本件発明の構成のうち,「シェルの上部にシェルカバーを密接配置する」構成については容易に想到し得たものと認められる。(59頁1行〜16行) ? しかし,シェルの上部に空気抜き孔を形成するという周知技術2は,シェルの上部が密閉されていることを前提として,そのような状態においてはシェル内部にたまった水や空気を排出する必要があり,この課題を解決するための手段である。
引用例1には,シェルの上部が密閉されていることは開示されておらず,当業者が引用発明1自体について上記課題を認識することは考え難い。「シェルの上部にシェルカバーを密接配置する」という構成を想到した上で,同構成について上記課題 11 を認識し,周知技術2の適用を考えることはいわゆる「容易の容易」に当たる。よって,周知技術2の適用をもって相違点2に係る本件発明の構成のうち,「前記シェルカバーの一部に空気抜き孔を形成」する構成の容易想到性を認めることはできない。(59頁17行〜60頁1行) ? また,引用発明1において,「浚渫用グラブバケットにおいて,シェルの上部開口部に,シェルを左右に広げたまま水中を降下する際には上方に開いて水が上方に抜けるとともに,シェルが掴み物を所定容量以上に掴んだ場合にも内圧の上昇に伴って上方に開き,グラブバケットの水中での移動時には,外圧によって閉じられる開閉式のゴム蓋を有する蓋体を取り付けるという技術」(甲4記載の技術。以下「甲4技術」という。)を適用しても,シェルの上部に上記のように開閉するゴム蓋を有する蓋体をシェルカバーとして取り付ける構成に至るにとどまり,相違点2に係る本件発明の構成には至らない。(60頁2行〜15行) c よって,相違点2が容易に想到できるとした第3次審決の判断には誤りがある。(60頁25行〜26行) (イ) 小括 以上によれば,引用発明1に基づいて容易に想到できるとした第3次審決は誤りであり,被告主張の取消事由1は理由がある。(70頁3行〜4行) イ 取消事由2(引用発明2を主引用例とする容易想到性の判断の誤り)について (ア) 相違点8の容易想到性 a 第3次審決は,引用発明2において,周知技術1及び2並びに甲4技術を適用して相違点8に係る本件発明の構成とすることは,当業者であれば容易に想到し得たことであると判断した。(72頁4行〜7行) b しかし,当業者において,引用発明2に甲4技術を適用する動機付けが存在することは,認めるに足りない。(73頁4行〜24行) c 引用発明2に甲16の構成を適用しても,相違点8に係る本件発明の構成に 12 至らない。また,引用発明2に甲26の構成を適用しても,相違点8に係る本件発明の構成に至らない。周知技術2は,甲16及び引用例2から認定したものであり,引用発明2に甲16の構成を適用しても相違点8に係る本件発明の構成に至らない。
(73頁25行〜74頁10行) d よって,相違点8が容易に想到できるとした第3次審決の判断には誤りがある。(74頁12行〜13行) (イ) 小括 以上によれば,引用発明2に基づいて容易に想到できるとした第3次審決は誤りであり,被告主張の取消事由2は理由がある。(77頁10行〜11行) 5 取消事由 ? 引用発明1に基づく進歩性判断の誤り(取消事由1) ? 引用発明2に基づく進歩性判断の誤り(取消事由2)
当事者の主張
1 取消事由1(引用発明1に基づく進歩性判断の誤り)について〔原告の主張〕 ? 相違点2の容易想到性の判断の誤り 本件審決は,相違点2について,前訴判決と同様の理由により,周知技術1は周知の技術であるとはいえず,引用発明1において,甲26に開示された構成,周知技術2及び甲4技術を適用して,相違点2に係る本件発明の構成とすることは,当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない旨判断した。しかし,以下のとおり,かかる判断は,浚渫用グラブバケットの分野における土砂や濁水等の流出防止技術に関する本件特許出願時の技術常識や技術水準を的確に捉えたものとはいえない。
周知技術1は,甲16のみならず,甲114ないし118(枝番号を含む。以下同じ。)の浚渫用グラブバケット又はシェルカバーに開示若しくは採用された本件特許出願時の周知技術であるから,これを否定する前訴判決の周知技術1について 13 の判断は誤りであり,前訴判決を根拠とする本件審決の判断も誤りである。
同様に,「シェルカバーの一部に空気抜き孔を形成する」ことも甲114ないし118の浚渫用グラブバケット又はシェルカバーに開示若しくは採用された本件特許出願時の周知技術であるから,これを否定する前訴判決の周知技術2についての判断は誤りであり,前訴判決を根拠とする本件審決の判断も誤りである。
加えて,甲114ないし118の浚渫用グラブバケット又はシェルカバーは,「シェルの上部にシェルカバーを密接配置すること」,「シェルカバーの一部に空気抜き孔を形成すること」及び「空気抜き孔に開閉式の蓋体(フラップ弁)を取り付けること」の全ての要素を備えるものとなっているから,シェルカバーを有しない引用発明1を出発点として,上記要素の全てを備える浚渫用グラブバケットに至ることは,「容易の容易」には当たらず,これを「容易の容易」に当たるとした前訴判決の判断は誤りであり,前訴判決を根拠とする本件審決の判断も誤りである。
甲4の「シェルカバー部材」は,その動作,機能,目的に鑑みれば,甲114ないし118の「フラップ弁」に属するものと認定されるべきである。そして,甲114ないし118の浚渫用グラブバケット又はシェルカバーの存在に鑑みれば,フラップ弁に関する甲4技術を周知技術1及び2に適用することは容易である。
したがって,引用発明1に周知技術1及び2並びに甲4技術を適用して,相違点2に係る本件発明の構成とすることは,当業者が容易に想到し得たことである。
? 前訴判決の拘束力との関係 ア 前訴判決は,第3次審決における甲4,甲16及び甲26に基づく周知技術1についての認定に誤りがあるという理由に基づいて審決を取り消したものであるから,前訴判決の拘束力が生じるのは,「甲4,甲16及び甲26に基づく周知技術1についての認定」部分に限られる。したがって,前訴判決における周知技術1の認定に関して,原告が新たな立証をし,裁判所がこれを採用して新たに判断すること及び当該判断に基づいて本件審決を取り消すことは許される。
イ また,確定した取消判決の拘束力が生じる範囲は,少なくとも特許権者と無 14 効審判請求人又は当事者同士が主張立証を尽くした上で確定した争点でなければならない。しかし,周知技術1の認定のプロセスについて当事者同士が主張立証を尽くしたとはいえず,この点から見ても,周知技術1の認定についての結論に前訴判決の拘束力が及ぶと解することは妥当でない。
第3次審決の審判手続において,原告は,「シェルの上部にシェルカバーを密接配置する」を相違点A,「前記シェルカバーの一部に空気抜き孔を形成し」を相違点B及び「該空気抜き孔に,シェルを左右に広げたまま水中を降下する際には上方に開いて水が上方に抜けるとともに,シェルが掴み物を所定容量以上に掴んだ場合にも内圧の上昇に伴って上方に開き,グラブバケットの水中での移動時には,外圧によって閉じられる開閉式のゴム蓋を有する蓋体を取り付け」を相違点Cと認定し,相違点Aについては,引用例2,甲16,甲17及び甲26に開示された構成に基づいて周知技術であると主張し,相違点Bについては,引用例2,甲16及び甲26に開示された構成に基づいて周知技術であると主張し,相違点Cについては,甲4に記載された又は記載されているに等しい事項であると主張した。これに対し,第3次審決は,上記相違点の認定に言及せず,「浚渫用グラブバケットにおいてシェルの上部にシェルカバーを密接配置する」という発明特定事項が,甲4,甲16及び甲26に開示された構成に基づけば周知技術である(周知技術1)との独自の見解を示した。相違点8についても同様であり,原告の主張した相違点の認定には言及せず,当該認定と乖離した,特許庁独自の認識や見解に基づき相違点8を認定した。
前訴判決において取り消されたのは,あくまで相違点2及び8に関する特許庁の独自の見解であり,当事者同士が主張立証を尽くした争点が取り消されたものではないから,前訴判決の拘束力を拡大させて,当該拘束力を原告のオリジナルな相違点の認定や主張にまで及ぼすと解することは妥当でない。また,第3次審決及び前訴判決は,当事者が主張していない事実を審決及び判決の基礎としており,弁論主義にも反する。特許庁が差戻審ですべきことは,本件審決のように前訴判決を引用 15 して,特許庁の独自の見解を否定することではなく,原告のオリジナルな認定や主張の妥当性を判断することである。これらの認定や主張の適否について特許庁が判断しなければ,これらは知財高裁においても判断されることがなく,原告の裁判を受ける権利が否定される。
〔被告の主張〕 原告は,本件訴訟において,本件特許出願時の浚渫用グラブバケットの分野における技術常識や技術水準を示すものとして,新たに甲114ないし118を提出し,かかる証拠に基づく主張を行う。
しかし,前訴判決は,単に第3次審決の相違点2及び8についての容易想到性の判断の誤りをいうにとどまらず,相違点2及び8についての容易想到性を否定する判断を示したものである。
したがって,本件審決は,相違点2及び8に関する確定した前訴判決の判断に拘束されるものであり,相違点2及び8が容易に想到できないとして進歩性を肯定すべきであって,本件審決の判断が適法であることは明らかである。前訴判決の判断の前提となった主引例及び副引例と,本件審決の判断の前提となったそれは同一であり,原告が,本件訴訟において,前訴判決の拘束力に従った本件審決の相違点2及び8についての判断の誤りを主張立証することが許容される余地はない。
本件訴訟における原告の主張及び立証は,実質的には,前訴判決に係る審決取消訴訟において提出していなかった証拠を提出することによって前訴判決の判断を覆そうとするものにすぎない。
2 取消事由2(引用発明2に基づく進歩性判断の誤り)について 〔原告の主張〕 ? 相違点8の容易想到性の判断の誤り 本件審決は,相違点8について,当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない旨判断した。しかし,以下のとおり,かかる判断は,浚渫用グラブバケットの分野における土砂や濁水等の流出防止技術に関する本件特許出願時の技術常識や技 16 術水準を的確に捉えたものとはいえない。
本件審決において引用する前訴判決では,引用発明2への甲4技術の適用を否定する。しかし,浚渫用グラブバケットの分野において土砂や濁水等の流出防止や空気の排出といった目的を達成するためにシェルの開口に甲4技術のようなフラップ弁を設けることが本件特許出願時の周知技術であったこと,及び当該フラップ弁を設けることが本件特許出願前の60年以上も前からの公知技術(甲114参照)であったことに鑑みれば,本件特許出願前に出願された引用発明2の完成時においても,当業者は,土砂や濁水等の流出防止や空気の排出といった目的はフラップ弁を設けることによってもある程度達成できていたとの認識を持っていたと考えるべきである。
また,シェルが閉じるときに,水が抜けるように開口が開かれるようにすることは本件特許出願の60年以上も前に開示された甲114に明示された事項であるから,水の抵抗やシェルが掴み物を所定量以上に掴んだ場合に関する課題は本件特許出願時の自明の課題であるといえる。
そして,「シェルの上部にシェルカバーを密接配置すること」,「シェルカバーの一部に空気抜き孔を形成すること」,「空気抜き孔に開閉式の蓋体(フラップ弁)を取り付けること」は,いずれも甲114ないし118に開示された本件特許出願時の周知技術であることに鑑みれば,引用発明2の空気抜き扉に代えて,周知技術であり,かつ甲4に開示された開閉式の蓋体(フラップ弁)の構成を採ることは当業者にとって容易なことである。
したがって,引用発明2に甲4技術を適用して,相違点8に係る本件発明の構成とすることは,当業者が容易に想到し得たことである。
? 前訴判決の拘束力との関係 前記1〔原告の主張〕?のとおり 〔被告の主張〕 前記1〔被告の主張〕のとおり 17
当裁判所の判断
1 前訴判決の拘束力について ? 特許無効審判事件についての審決の取消訴訟において審決取消しの判決が確定したときは,審判官は特許法181条2項の規定に従い当該審判事件について更に審理,審決をするが,再度の審理,審決には,行政事件訴訟法33条1項の規定により,取消判決の拘束力が及ぶ。そして,この拘束力は,判決主文が導き出されるのに必要な事実認定及び法律判断にわたるものであるから,審判官は取消判決の認定判断に抵触する認定判断をすることは許されない。したがって,再度の審判手続において,審判官は,取消判決の拘束力の及ぶ判決理由中の認定判断につきこれを誤りであるとして従前と同様の主張を繰り返すこと,あるいは上記主張を裏付けるための新たな立証をすることを許すべきではない。また,特定の引用例から当該発明を特許出願前に当業者が容易に発明することができたとはいえないとの理由により,容易に発明することができたとする審決の認定判断が誤りであるとして審決が取り消されて確定した場合には,再度の審判手続に当該判決の拘束力が及ぶ結果,審判官は同一の引用例から当該発明を特許出願前に当業者が容易に発明することができたと認定判断することは許されない。したがって,再度の審決取消訴訟において,取消判決の拘束力に従ってされた再度の審決の認定判断を誤りであるとして,これを裏付けるための新たな立証をし,更には裁判所がこれを採用して,取消判決の拘束力に従ってされた再度の審決を違法とすることが許されないことは明らかである(最高裁昭和63年(行ツ)第10号平成4年4月28日第三小法廷判決・民集46巻4号245頁参照)。
? これを本件についてみるに,前記第2の4?のとおり,前訴判決は,@「取消事由1(引用発明1を主引用例とする容易想到性の判断の誤り)について」と題する項目において,引用発明1に周知技術2を適用し相違点2に係る本件発明の構成の容易想到性を認めることはできない,引用発明1に甲4技術を適用しても相違点2に係る本件発明の構成には至らないとし,A「取消事由2(引用発明2を主引 18 用例とする容易想到性の判断の誤り)について」と題する項目において,引用発明2に甲4技術を適用する動機付けが存在することを認めるに足りない,引用発明2に甲16及び甲26の構成を適用しても相違点8に係る本件発明の構成に至らないなどとして,引用例1又は2に基づいて容易に想到できるとした第3次審決を取り消したものである。
したがって,再度の審判手続において,審判官は,前訴判決が認定判断した同一の主引用例(引用例1又は2)をもって本件発明を特許出願前に当業者が容易に発明することができたか否かにつき,前訴判決とは別異の事実を認定して異なる判断を加えることは,取消判決の拘束力により許されないのであるから,本件発明は当業者が引用例1又は2から容易に発明することができたとはいえないとした本件審決は,確定した前訴判決の拘束力に従ったものであり,適法である。
そして,再度の審決取消訴訟たる本件訴訟において,取消判決の拘束力に従ってされた本件審決の認定判断を誤りであるとして,これを裏付けるための新たな立証として甲114ないし118を提出し,更には裁判所がこれを採用して,取消判決の拘束力に従ってされた本件審決を違法とすることも許されないというべきである。
発明の容易想到性については,主引用発明に副引用発明を適用して本件発明に至る動機付けがあるかどうかを判断するとともに,適用を阻害する要因の有無,予測できない顕著な効果の有無等を併せ考慮して判断することとなるところ,原告は,第3次審決に係る審判手続及びその審決取消訴訟において,引用例1又は2に基づく容易想到性を肯定する事実の主張立証を行うことができたものである。これを主張立証することなく前訴判決を確定させた後,再び開始された本件審判手続及びその審決取消訴訟である本件訴訟に至って,原告に,前訴と同一の引用例である引用例1及び2から,前訴と同一の本件発明を,当業者が容易に発明することができたとの主張立証を許すことは,特許庁と裁判所の間で事件が際限なく往復することになりかねず,訴訟経済に反するもので,行政事件訴訟法33条1項の規定の趣旨に照らし,許されない。
19 よって,原告主張の取消事由1及び2は理由がない。
? 原告の主張について ア 原告は,前訴判決の拘束力が生じるのは,「甲4,甲16及び甲26に基づく周知技術1についての認定」の部分に限られる旨主張する。
しかし,前訴判決は,単に周知技術1の認定に誤りがあることをもって第3次審決を取り消したものではなく,引用例1又は2から当業者が本件発明を容易に発明することができたとはいえないとの理由により,第3次審決の認定判断に誤りがあるとしてこれを取り消したものであることについては,前記第2の4?のとおりである。原告の主張は,その前提を誤るものであり,採用できない。
イ 原告は,前訴判決において取り消されたのは,相違点2及び8に関する特許庁独自の見解であって,原告が主張していた相違点AないしCについてのものではないから,前訴判決の拘束力を原告のオリジナルな主張にまで及ぼすと解することは妥当でない旨主張する。
しかし,第3次審決が認定した相違点2は,原告が主張していた相違点AないしCと同様であるところ,原告は,前訴の際には,第3次審決が相違点2を認定したこと並びに甲4,甲16及び甲26により周知技術1を認定したことに誤りはない旨主張していたものである(甲112,乙2)。また,前訴判決は,第3次審決が認定した本件発明と引用発明1との相違点(相違点1ないし7)及び本件発明と引用発明2との相違点(相違点8ないし13)に誤りはないと認定した上で,相違点2及び相違点8について,当業者が容易に想到できたとはいえないことを理由に,本件発明は引用発明1又は2から容易に発明できたものではないと判断したものである。したがって,前訴判決の拘束力は,本件発明と引用発明1及び2との相違点に係る判断に及ぶものであり,再開後の審決において,当事者がこれと異なる相違点を主張立証することが許されないことは明らかである。原告の主張する事情は,本件審決が確定した前訴判決の拘束力に従った適法なものであるとする前記?の認定を左右するものではない。
20 2 結論 以上検討したとおり,原告の請求は理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 高部眞規子
裁判官 古河謙一
裁判官 山門優
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