関連審決 |
無効2015-800110 |
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事件 |
平成
29年
(行ケ)
10097号
審決取消請求事件
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原告 株式会社コーエーテクモゲームス 訴訟代理人弁護士 佐藤安紘 高橋元弘 吉羽真一郎 末吉亙 弁理士 鶴谷裕二 鈴野幹夫 被告株式会社カプコン 訴訟代理人弁護士 金井美智子 重冨貴光 古庄俊哉 長谷部陽平 澤祥雅 弁理士 廣瀬文雄 |
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裁判所 | 知的財産高等裁判所 |
判決言渡日 | 2018/03/29 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
11 原告の請求を棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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原告の求めた裁判
特許庁が無効2015-800110号事件について平成29年3月24日にした審決を取り消す。 |
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事案の概要
本件は,特許無効審判請求の不成立審決の取消訴訟である。争点は,進歩性の判断の誤り(相違点の認定及び判断の誤り)の有無である。 1 特許庁における手続の経緯 被告は,平成6年12月9日,名称を「システム作動方法」とする特許出願(特願平6-306428号)を行い,平成14年9月20日,設定登録を受けた(特許第3350773号〔請求項の数は3である。。甲1) 〕 。 原告は,平成27年4月17日,上記請求項1ないし3に係る発明を無効にすることについて特許無効審判を請求した(無効2015-800110号。以下「本件審判」という。甲34)。 これに対し,被告は,平成28年7月28日,上記請求項3に係る発明を削除するなどの訂正請求をしたところ(甲52) 同年11月22日付けで訂正請求に係る ,拒絶理由通知(甲56)を受けたことから,同年12月5日,訂正請求を補正した(以下, 「本件訂正」といい,本件訂正後の請求項1,2に係る発明をそれぞれ「本件発明1」「本件発明2」といい,これらを併せて「本件発明」という。甲57, ,甲58)。 特許庁は,平成29年3月24日付けで,本件訂正を認めた上で,請求項3についての本件審判の請求は,本件訂正により請求項3が削除されたため,その対象が 2存在せず,不適法であるとして却下するとともに,本件発明についての本件審判の請求は成り立たない旨の審決をした。その謄本は,同年4月4日,原告に送達された。 2 本件発明の要旨 本件発明(以下,本件発明に係る特許を「本件特許」といい,本件特許の本件訂正後の明細書を「本件明細書」という。)の特許請求の範囲の記載は,次のとおりである。なお,本訴では,本件訂正の適否は,争われていない。 (1) 本件発明1 「ゲームプログラムおよび/またはデータを記憶するとともに所定のゲーム装置の作動中に入れ換え可能な記憶媒体(ただし,セーブデータを記憶可能な記憶媒体を除く。)を上記ゲーム装置に装填してゲームシステムを作動させる方法であって, 上記記憶媒体は,少なくとも,所定のゲームプログラムおよび/またはデータと,所定のキーとを包含する第1の記憶媒体と,所定の標準ゲームプログラムおよび/またはデータに加えて所定の拡張ゲームプログラムおよび/またはデータを包含する第2の記憶媒体とが準備されており, 上記拡張ゲームプログラムおよび/またはデータは,上記標準ゲームプログラムおよび/またはデータに加えて,ゲームキャラクタの増加および/またはゲームキャラクタのもつ機能の豊富化および/または場面の拡張および/または音響の豊富化を達成するためのゲームプログラムおよび/またはデータであり, 上記第2の記憶媒体が上記ゲーム装置に装填されるとき,上記ゲーム装置が上記所定のキーを読み込んでいる場合には,上記標準ゲームプログラムおよび/またはデータと上記拡張ゲームプログラムおよび/またはデータの双方によってゲーム装置を作動させ,上記所定のキーを読み込んでいない場合には,上記標準ゲームプログラムおよび/またはデータのみによってゲーム装置を作動させることを特徴とする,ゲームシステム作動方法。」 (2) 本件発明2 3 「ゲームプログラムおよび/またはデータを記憶するとともに所定のゲーム装置の作動中に入れ換え可能な記憶媒体(ただし,半導体ROMカセットを除くとともに,セーブデータを記憶可能な記憶媒体を除く。 を上記ゲーム装置に装填してゲー )ムシステムを作動させる方法であって, 上記記憶媒体は,少なくとも,所定のゲームプログラムおよび/またはデータと,所定のキーとを包含する第1の記憶媒体と,所定の標準ゲームプログラムおよび/またはデータに加えて所定の拡張ゲームプログラムおよび/またはデータを包含するとともに所定の制御プログラムを包含する第2の記憶媒体とが準備されており, 上記拡張ゲームプログラムおよび/またはデータは,上記標準ゲームプログラムおよび/またはデータに加えて,ゲームキャラクタの増加および/またはゲームキャラクタのもつ機能の豊富化および/または場面の拡張および/または音響の豊富化を達成するためのゲームプログラムおよび/またはデータであり, 上記第2の記憶媒体が上記ゲーム装置に装填され,かつ,上記所定のキーが読み込まれていないときのみに,この第2の記憶媒体中の上記制御プログラムは,上記ゲーム装置に他の記憶媒体を装填させるインストラクションを表示させ,このインストラクションにしたがって装填された他の記憶媒体が上記所定のキーを包含する上記第1の記憶媒体である場合には,上記第2の記憶媒体中の上記標準ゲームプログラムおよび/またはデータに加えて上記拡張ゲームプログラムおよび/またはデータの双方によってゲーム装置を作動させ,他の記憶媒体が装填されない場合または装填された記憶媒体が上記所定のキーを包含する上記第1の記憶媒体でない場合には,上記第2の記憶媒体中の上記標準ゲームプログラムおよび/またはデータのみによってゲーム装置を作動させることを特徴とする,ゲームシステム作動方法。」 3 審決の理由の要点 (1) 審決の判断の概要等 ア 審決が認定した公知発明等の内容 審決は,次に掲げる刊行物等に基づき,公知発明1及び2(以下,併せて「公知 4発明」という。)並びに先行技術発明Aを認定した。 (ア) 公知発明 @ 「ゲームシステム」の構成及び表示画面ビデオ録画環境(甲2) A 「魔洞戦紀 ディープダンジョン」のディスクの写真(甲3の1) B 「魔洞戦紀 ディープダンジョン」の情報を示すウェブページ(甲3の2) C 「勇士の紋章ディープダンジョン II」のディスクの写真(甲3の3) D 「勇士の紋章ディープダンジョン II」の情報を示すウェブページ(甲3の4) E 「勇士の紋章ディープダンジョン II」に付属する解説書(甲4の1) F 勇士の紋章の攻略本「Perfect 攻略シリーズ1 勇士の紋章 ディープダンジョン 完全攻略法」(甲4の2) G ファミリーコンピュータの写真(甲5の1) H ファミリーコンピュータの取扱説明書(改訂版4)(甲5の2) I 任天堂株式会社の「会社の沿革」のウェブページ(甲5の3) J ディスクシステムの写真(甲6の1) K ディスクシステムに関する任天堂株式会社のウェブページ(甲6の2) L 「エキサイティングベースボールゲーム」のディスクの写真(甲7) M 公知発明:作動その1(甲8の1) N 公知発明:作動その2(甲8の2) O 公知発明:作動その3(甲8の3) P 公知発明:作動その4(甲8の4) Q 「脱テレビな2次元オタ雑記」のウェブページ(甲9) R 「『FCのゲーム制覇しましょ』まとめ」のウェブページ(甲10) S 勇士の紋章ディープダンジョンディスク2(VideoID:Q0 5404)(DVD-R)(甲13の1) ? 勇士の紋章ディープダンジョンディスク2(VideoID:Q0606)(DVD-R)(甲13の2) ? 勇士の紋章ディープダンジョンディスク2(VideoID:Q1212)(DVD-R)(甲13の3) ? 魔洞戦紀ディープダンジョンディスク1X(VideoID:Q0101)(DVD-R)(甲13の4) ? 魔洞戦紀ディープダンジョンディスク1Y(VideoID:Q0202)(DVD-R)(甲13の5) ? 勇士の紋章ディープダンジョンディスク2(VideoID:R0111)(DVD-R)(甲13の6) ? 勇士の紋章ディープダンジョンディスク2(VideoID:8004b)(CD-R)(甲14の1) ? 勇士の紋章ディープダンジョンディスク2(VideoID:Q0909)(CD-R)(甲14の2) (イ) 先行技術発明A @ 「沙羅曼蛇」ROMのゲームプログラムを単独で作動させた沙羅曼蛇ゲームの動画(甲15の1) A 「沙羅曼蛇」ROMに加えて「グラディウス2」ROMもROMスロットに装填した状態で「沙羅曼蛇」ROMのゲームプログラムを作動させた沙羅曼蛇ゲーム内容の動画(甲15の2) B MSXで動作する「沙羅曼蛇」 (サラマンダ)ゲームの構成及びビデオ録画環境(甲16の1) C 沙羅曼蛇(MSX版)サラマンダ(甲16の2) D GRADIUS 2 (MSX版)グラディウス2(甲16の3) E 「沙羅曼蛇」単独のゲーム作動と, 「沙羅曼蛇」及び「グラディウス 62」とをスロットに装填した場合の作動(甲17の1) F 報告書(甲17の2) G 「MSX Magazine」1986年2月号(甲18の1) H 「MSXマガジン」1988年8月号(甲18の2) イ 審決の判断の概要 審決は,@本件発明1は,公知発明1と同一であるとも,公知発明1,先行技術発明A及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえず,A本件発明2は,公知発明2と同一であるとも,公知発明2,先行技術発明A及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえないから,本件特許を無効とすることはできないと判断した。 (2) 本件発明1に関する審決の判断 ア 公知発明1の認定 公知発明1は,次のとおりである。 「a ファミリーコンピュータとディスクシステムとテレビとから構成され,ディスクを用いてゲームを行うファミコンゲームシステムにおいて,セーブデータなどを記憶可能で,ゲームプログラムおよび/またはデータを記憶するファミコンゲームシステムの作動中に入れ換え可能なディスクをディスクシステムに挿入して,ファミコンゲームシステムを作動させる方法であって, b 上記ディスクは, b-1 魔洞戦紀のゲームプログラムおよび/またはデータと,魔洞戦紀にセーブされたキャラクタのレベルが21であることを示す情報とを包含する魔洞戦紀DDTと, b-2 標準ゲーム機能部分を実行する標準ゲームプログラムおよび/またはデータに加えて,魔洞戦紀DDTから転送されたキャラクタの魔洞戦紀におけるレベルが16以上であるときには,そのキャラクタの勇士の紋章におけるレベルが最初から2となり,神殿で祈ると『ゆうけんしのしそん じゅんくよ。がんばるのだぞ。』 7とのメッセージが表示され,アイテム『くさのつゆ』及び『しろきのこ』が1つ増えるという動作機能を実行する拡張ゲームプログラムおよび/またはデータを包含する勇士の紋章DDUとが準備されており, c 拡張ゲームプログラムおよび/またはデータは,標準ゲームプログラムおよび/またはデータに対して,キャラクタのレベルの増加,またはキャラクタのためのアイテムの増加を達成するように形成されたものであり, d 勇士の紋章DDUがディスクシステムに挿入されるとき, d-1 ファミリーコンピュータが,魔洞戦紀DDTから,キャラクタのレベルが21,すなわち16以上であることを示す情報を読み込んでいる場合には,標準ゲーム機能部分を実行する標準ゲームプログラムおよび/またはデータと拡張ゲーム機能部分を実行する拡張ゲームプログラムおよび/またはデータの双方によってファミリーコンピュータを作動させ, d-2 ファミリーコンピュータが,魔洞戦紀DDTから,キャラクタのレベルが16以上であることを示す情報を読み込んでいない場合には,標準ゲーム機能部分を実行する標準ゲームプログラムおよび/またはデータのみによってファミリーコンピュータを作動させる, e ファミコンゲームシステム作動方法。」 イ 本件発明1と公知発明1との一致点及び相違点 本件発明1と公知発明1との一致点及び相違点は,次のとおりである。 (ア) 一致点 「ゲームプログラムおよび/またはデータを記憶するとともに所定のゲーム装置の作動中に入れ換え可能な記憶媒体を上記ゲーム装置に装填してゲームシステムを作動させる方法であって, 上記記憶媒体は,少なくとも,所定のゲームプログラムおよび/またはデータと,切換キーとを包含する一の記憶媒体と,所定の標準ゲームプログラムおよび/またはデータに加えて所定の拡張ゲームプログラムおよび/またはデータを包含する二 8の記憶媒体とが準備されており, 上記拡張ゲームプログラムおよび/またはデータは,上記標準ゲームプログラムおよび/またはデータに加えて,ゲームキャラクタのもつ機能の豊富化および/または場面の拡張を達成するためのゲームプログラムおよび/またはデータであり, 上記二の記憶媒体が上記ゲーム装置に装填されるとき,上記ゲーム装置が上記切換キーを読み込んでいる場合には,上記標準ゲームプログラムおよび/またはデータと上記拡張ゲームプログラムおよび/またはデータの双方によってゲーム装置を作動させ,上記切換キーを読み込んでいない場合には,上記標準ゲームプログラムおよび/またはデータのみによってゲーム装置を作動させることを特徴とする,ゲームシステム作動方法。」 (イ) 相違点 本件発明1と公知発明1は,次の4つの点において相違する。 @ 相違点1 所定のゲーム装置の作動中に入れ換え可能な記憶媒体に関して,本件発明1の記憶媒体は, 「記憶媒体(ただし,セーブデータを記憶可能な記憶媒体を除く。」であ )るのに対して,公知発明1の記憶媒体はディスクであり, 「記憶媒体(ただし,セーブデータを記憶可能な記憶媒体を除く。」ではない点。 ) A 相違点2 一の記憶媒体に関して,本件発明1の記憶媒体は, 「記憶媒体(ただし,セーブデータを記憶可能な記憶媒体を除く。」であるのに対して,公知発明1の魔洞戦紀D )DTはディスクであり, 「記憶媒体(ただし,セーブデータを記憶可能な記憶媒体を除く。」ではない点。 ) B 相違点3 二の記憶媒体に関して,本件発明1の記憶媒体は, 「記憶媒体(ただし,セーブデータを記憶可能な記憶媒体を除く。」であるのに対して,公知発明1の勇士の紋章 )DDUはディスクであり, 「記憶媒体(ただし,セーブデータを記憶可能な記憶媒体 9を除く。」ではない点。 ) C 相違点4 切換キーが,本件発明1では, 「記憶媒体(ただし,セーブデータを記憶可能な記憶媒体を除く。」 )に包含されていることから,セーブデータ」 「 ではないのに対して,公知発明1では「魔洞戦紀にセーブされたキャラクタのレベルが21であることを示す情報」が,ディスクにセーブされた「セーブデータ」である点。 ウ 先行技術発明A 先行技術発明Aは,次のとおりである。 「MSX本体に「沙羅曼蛇」ROMと「グラディウス2」ROMを装填した状態で「沙羅曼蛇」のゲームをプレイすると, 「グラディウス2」ROMに含まれている所定の情報に基づいて,MSX本体に「沙羅曼蛇」ROMのみを装填してゲームをプレイした場合にはなかったステージX「OPERATION X」が現れるとともに,エンディングが異なったものとなる。」 エ 相違点に対する判断 (ア) 相違点1ないし3に対する判断 公知発明1は,要するに「前作のキャラクタのレベルが16以上であると,後作において拡張ゲームプログラムが楽しめるようにしてゲームを面白くするという発明」であり,具体的には,後作において, 「レベルが最初から2となる」「神殿で祈 ,るとアイテムが1つ増える」 神殿で祈った時に, 「 , 異なるメッセージが表示される」というような拡張ゲームプログラムが楽しめるという発明であるから,公知発明1において, 「前作のキャラクタのレベルが16以上であること」は,拡張ゲームプログラムを楽しむための必須の条件である。このことは,キャラクタのレベルが7の場合には,上記のような拡張ゲームプログラムを楽しむことができないようになっていることからも明らかである。 このように,公知発明1は,少なくとも,前作のキャラクタのレベルが所定値以上となるまで,前作のゲームをプレイしたという,いわば「痕跡」があることが, 10後作において拡張ゲームプログラムを楽しめるようにするための必須の条件であり,そのような「痕跡」を示す情報を前作の記憶媒体にセーブできることが発明の前提であるから,公知発明1において,前作のゲームをプレイしたという「痕跡」の情報をセーブできない記憶媒体を採用することは想定されていない。 また,そのような「痕跡」の情報をセーブできない記憶媒体を採用すると, 「前作のキャラクタのレベルが16以上であると,後作において拡張ゲームプログラムが楽しめるようにしてゲームを面白くする」という公知発明1を実現することができなくなることは明らかである。 そうすると,ゲームプログラム及び/又はデータを記憶する媒体としてCD-ROMを用いることが本件特許の出願前において周知の技術であったとしても,公知発明1において,ディスクを,キャラクタのレベルの情報が記憶できない記憶媒体,すなわち, 「記憶媒体(ただし,セーブデータを記憶可能な記憶媒体を除く。」に変 )更する動機付けはなく,むしろ,そのような記憶媒体を採用することには,阻害要因がある。 以上のとおり,公知発明1において,所定のゲーム装置の作動中に入れ換え可能な記憶媒体,一の記憶媒体及び二の記憶媒体を,ディスクから「記憶媒体(ただし,セーブデータを記憶可能な記憶媒体を除く。」に変更すること,すなわち,上記相 )違点1ないし3に係る構成とすることは,当業者が容易になし得たことであるとはいえない。 (イ) 相違点4に対する判断 上記(ア)で検討したように,公知発明1は,少なくとも,前作のキャラクタのレベルが所定値以上となるまで前作のゲームをプレイしたという「痕跡」を用いることによって,後作において拡張ゲームプログラムを楽しめるようにするという発明である。 すなわち,公知発明1は, 「前作のゲームを一定程度プレイしたユーザに対してのみ,後作において拡張ゲームプログラムを楽しめるようにするという発明」であっ 11て,単に「前作を有していれば,誰にでも,後作において拡張ゲームプログラムを楽しめるようにするという発明」ではないから,公知発明1と本件発明1とは,どのような場合に「後作において拡張ゲームプログラムを楽しめるようにする」かという発想の点で異なっている。つまり,本件発明1では,ユーザが前作を所有していることを促す,すなわち, 「ユーザに前作の購入を促す」ことが目的となっているのに対して,公知発明1では, 「ユーザが前作のゲームを一定程度プレイすることを促す」ことが目的となっており,ユーザにどのような行為を促すのかという目的の点で異なっていることから,本件発明1と公知発明1とは,所定のキーを設ける目的が異なるものである。 そうすると, 「ユーザが前作のゲームを一定程度プレイすることを促す」ことを目的としている公知発明1において, 「前作のゲームを一定程度プレイした」という条件を取り除く理由がなく, 「前作のゲームを一定程度プレイした」という条件を取り除いてしまうと,公知発明1の目的を達成することができなくなるのであるから,そのようにすることには,むしろ阻害要因があるといえる。 なお,原告は,先行技術発明Aを示した上,先行技術発明Aは, 「セーブデータではないキー情報」に基づいて拡張ゲームプログラムを楽しめるようにするものであるから,これを公知発明1に適用することで, 「キャラクタのレベルが16以上であることを示す情報」に替えて「セーブデータではないキー情報」に基づいて,拡張ゲームプログラムを楽しめるように構成することは容易である旨主張している。 しかしながら,そもそも公知発明1は, 「前作のキャラクタのレベルが16以上であると,後作において拡張ゲームプログラムが楽しめるようにしてゲームを面白くするという発明」であって,上記(ア)で検討したとおり,「前作のゲームを一定程度プレイした」という条件が必須の発明であるから,この公知発明1において, 「前作のゲームを一定程度プレイした」という条件を撤廃する理由がなく,公知発明1に先行技術発明Aを適用して,「魔洞戦紀にセーブされたキャラクタのレベルが21であることを示す情報」を「セーブデータではないキー情報」に変更することが容 12易であるとはいえない。 以上のとおり,公知発明1において,切換キーを「セーブデータ」ではない「キー情報」に変更することで, 「前作のゲームを一定程度プレイした」という条件を用いないようにすること,すなわち,相違点4に係る構成とすることは,当業者が容易になし得たことであるとはいえない。 オ 小括 以上によれば,本件発明1は,公知発明1と同一であるとも,公知発明1,先行技術発明A及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。 (3) 本件発明2に関する審決の判断 ア 公知発明2の認定 公知発明2は,次のとおりである。 「f ファミリーコンピュータとディスクシステムとテレビとから構成され,ディスクを用いてゲームを行うファミコンゲームシステムにおいて,セーブデータなどを記憶可能で,ゲームプログラムおよび/またはデータを記憶するファミコンゲームシステムの作動中に入れ換え可能なディスクをディスクシステムに挿入して,ファミコンゲームシステムを作動させる方法であって, g 上記ディスクは, g-1 魔洞戦紀のゲームプログラムおよび/またはデータと,魔洞戦紀にセーブされたキャラクタのレベルが21であることを示す情報とを包含する魔洞戦紀DDTと, g-2 標準ゲーム機能部分を実行する標準ゲームプログラムおよび/またはデータに加えて,魔洞戦紀DDTから転送されたキャラクタの魔洞戦紀におけるレベルが16以上であるときには,そのキャラクタの勇士の紋章におけるレベルが最初から2となり,神殿で祈ると『ゆうけんしのしそん じゅんくよ。がんばるのだぞ。』とのメッセージが表示され,アイテム『くさのつゆ』及び『しろきのこ』が1つ増 13えるという動作機能を実行する拡張ゲームプログラムおよび/またはデータを包含するとともにメニュー制御プログラムを包含する勇士の紋章DDUとが準備されており,ここで,魔洞戦紀DDTからは,最大で3人まで,キャラクタを転送できるものとなっており, h 拡張ゲームプログラムおよび/またはデータは,標準ゲームプログラムおよび/またはデータに対して,キャラクタのレベルの増加,またはキャラクタのためのアイテムの増加を達成するように形成されたものであり, i 勇士の紋章DDUがディスクシステムに挿入されるとき,勇士の紋章DDU中のメニュー制御プログラムは, 『まどうせんきのゆうけんし』とのメニュー項目をテレビの画面に表示し,さらにテレビの画面の『まどうせんきのゆうけんし』が選択されたときに, 『まどうせんきのAメンをいれてください』とのインストラクションを表示させ, i-1 『まどうせんきのAメンをいれてください』とのインストラクションにしたがって,勇士の紋章DDUに替えて挿入された他のディスクが,キャラクタのレベルが21,すなわち16以上であることを示す情報を包含する上記魔洞戦紀DDTである場合には,勇士の紋章DDU中の標準ゲーム機能部分を実行する標準ゲームプログラムおよび/またはデータと拡張ゲーム機能部分を実行する拡張ゲームプログラムおよび/またはデータの双方によってファミリーコンピュータを作動させ, i-2 他のディスクが挿入されない場合または勇士の紋章DDUに替えて挿入されたディスクが,魔洞戦紀DDTでない場合には, 『まどうせんきのAメンをいれてください』とのインストラクションまたは, 『DISK ERR 04』が表示されたままとなり,これらの場合には,勇士の紋章DDU中の,標準ゲーム機能部分を実行する標準ゲームプログラムおよび/またはデータのみによってファミリーコンピュータを作動させる, j ファミコンゲームシステム作動方法。」 14 イ 本件発明2と公知発明2との一致点及び相違点 本件発明2と公知発明2との一致点及び相違点は,次のとおりである。 (ア) 一致点 「ゲームプログラムおよび/またはデータを記憶するとともに所定のゲーム装置の作動中に入れ換え可能な記憶媒体を上記ゲーム装置に装填してゲームシステムを作動させる方法であって, 上記記憶媒体は,少なくとも,所定のゲームプログラムおよび/またはデータと,切換キーとを包含する一の記憶媒体と,所定の標準ゲームプログラムおよび/またはデータに加えて所定の拡張ゲームプログラムおよび/またはデータを包含するとともに所定の制御プログラムを包含する二の記憶媒体とが準備されており, 上記拡張ゲームプログラムおよび/またはデータは,上記標準ゲームプログラムおよび/またはデータに加えて,ゲームキャラクタのもつ機能の豊富化および/または場面の拡張を達成するためのゲームプログラムおよび/またはデータであり, 上記二の記憶媒体が上記ゲーム装置に装填されるときに,この二の記憶媒体中の上記制御プログラムは,上記ゲーム装置に他の記憶媒体を装填させるインストラクションを表示させ,このインストラクションにしたがって装填された他の記憶媒体が上記切換キーを包含する上記一の記憶媒体である場合には,上記二の記憶媒体中の上記標準ゲームプログラムおよび/またはデータに加えて上記拡張ゲームプログラムおよび/またはデータの双方によってゲーム装置を作動させ,他の記憶媒体が装填されない場合または装填された記憶媒体が上記切換キーを包含する上記一の記憶媒体でない場合には,上記二の記憶媒体中の上記標準ゲームプログラムおよび/またはデータのみによってゲーム装置を作動させることを特徴とする,ゲームシステム作動方法。」 (イ) 相違点 本件発明2と公知発明2は,次の5つの点において相違する。 @ 相違点5 15 所定のゲーム装置の作動中に入れ換え可能な記憶媒体に関して,本件発明2の記憶媒体は, 「記憶媒体(ただし,半導体ROMカセットを除くとともに,セーブデータを記憶可能な記憶媒体を除く。」であるのに対して,公知発明2の記憶媒体はデ )ィスクであり, 「記憶媒体(ただし,半導体ROMカセットを除くとともに,セーブデータを記憶可能な記憶媒体を除く。」ではない点。 ) A 相違点6 一の記憶媒体に関して,本件発明2の記憶媒体は, 「記憶媒体(ただし,半導体ROMカセットを除くとともに,セーブデータを記憶可能な記憶媒体を除く。」であ )るのに対して,公知発明2の魔洞戦紀DDTはディスクであり,記憶媒体 「 (ただし,半導体ROMカセットを除くとともに,セーブデータを記憶可能な記憶媒体を除く。」ではない点。 ) B 相違点7 二の記憶媒体に関して,本件発明2の記憶媒体は, 「記憶媒体(ただし,半導体ROMカセットを除くとともに,セーブデータを記憶可能な記憶媒体を除く。」であ )るのに対して,公知発明2の勇士の紋章DDUはディスクであり, 「記憶媒体(ただし,半導体ROMカセットを除くとともに,セーブデータを記憶可能な記憶媒体を除く。」ではない点。 ) C 相違点8 切換キーが,本件発明2では, 「記憶媒体(ただし,半導体ROMカセットを除くとともに,セーブデータを記憶可能な記憶媒体を除く。」に包含されていることか )ら, 「セーブデータ」ではないのに対して,公知発明2では「魔洞戦紀にセーブされたキャラクタのレベルが21であることを示す情報」が,ディスクにセーブされた「セーブデータ」である点。 D 相違点9 他の記憶媒体を装填させるインストラクションを表示させるのが,本件発明2では, 「上記所定のキーが読み込まれていないときのみ」であるのに対して,公知発明 162では,勇士の紋章DDUがディスクシステム20に挿入されるとき, 「まどうせんきのゆうけんし」とのメニュー項目をテレビの画面に表示し,さらに,テレビの画面の「まどうせんきのゆうけんし」が選択されたときに, 「まどうせんきのAメンをいれてください」とのインストラクションを表示させている点。 ウ 相違点に対する判断 (ア) 相違点5ないし7 前記(2)エ(ア)で検討したところと同様のことがいえるから,公知発明2において,所定のゲーム装置の作動中に入れ換え可能な記憶媒体,一の記憶媒体及び二の記憶媒体を,ディスクから「記憶媒体(ただし,セーブデータを記憶可能な記憶媒体を除く。」に変更すること,すなわち,上記相違点5ないし7に係る構成とすること )は,当業者が容易になし得たことであるとはいえない。 (イ) 相違点8 前記(2)エ(イ)で検討したところと同様のことがいえるから,公知発明2において,切換キーを「セーブデータ」ではない「キー情報」に変更することで, 「前作のゲームを一定程度プレイした」という条件を用いないようにすること,すなわち,上記相違点8に係る構成とすることは,当業者が容易になし得たことであるとはいえない。 (ウ) 相違点9 本件発明2は, 「上記所定のキーが読み込まれていないときのみ」に,他の記憶媒体を装填させるインストラクションを表示させるものであるところ,この動作を行うために,まず, 「所定のキー」が「読み込まれているか否かの判断」を行い,その「判断」の結果, 「所定のキーが読み込まれていない」 「判断」 と された場合にのみ,他の記憶媒体を装填させるインストラクションを表示させるものである。 一方,公知発明2は,「勇士の紋章DDUがディスクシステムに挿入されるとき,勇士の紋章DDU中のメニュー制御プログラムは, 『まどうせんきのゆうけんし』とのメニュー項目をテレビの画面に表示し,さらにテレビの画面の『まどうせんきの 17ゆうけんし』が選択されたときに, 『まどうせんきのAメンをいれてください』とのインストラクションを表示させ」るものであるから,ユーザが「まどうせんきのゆうけんし」とのメニュー項目を選択することによって, 「魔洞戦紀にセーブされたキャラクタのレベルを示す情報」を読み込ませたいという意思表示をしたときに,当該ユーザに対して, 「魔洞戦紀にセーブされたキャラクタのレベルを示す情報」を読み込ませるために必要な操作の案内をしているものであると認められる。 そうすると,公知発明2の上記インストラクションは,ユーザが「まどうせんきのゆうけんし」とのメニュー項目を選択したときには,必ず表示されるものであって,ユーザが「まどうせんきのゆうけんし」とのメニュー項目を選択したときに,何らかの「判断」を行って,その結果に応じて表示したり表示しなかったりするという性質のものではないから,公知発明2において, 「所定のキー」が「読み込まれているか否かの判断」を行って,その「判断」の結果, 「所定のキーが読み込まれていない」と「判断」された場合にのみ,他の記憶媒体を装填させるインストラクションを表示させるように構成すること,すなわち,上記相違点9に係る構成とすることは,当業者が容易になし得たことであるとはいえない。 エ 小括 以上によれば,本件発明2は,公知発明2と同一であるとも,公知発明2,先行技術発明A及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。 |
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原告主張に係る審決取消事由
1 取消事由1(相違点1ないし3の判断の誤り) 審決は,公知発明1においては,前作のキャラクタのレベルが所定値以上となるまで前作のゲームをプレイしたという「痕跡」となるセーブデータがあることが,後作において拡張ゲームプログラムを楽しめるようにするための必須の条件であるため, 「痕跡」を示す情報を前作の記憶媒体にセーブできることが公知発明1の前提 18となることからすると,公知発明1の記憶媒体について,セーブデータを記憶可能な記憶媒体以外のものにする動機付けはなく,むしろ,阻害要因があるとして,相違点1ないし3は,当業者が容易になし得たことであるとはいえないと判断した。 しかしながら,公知発明1は,魔洞戦紀DDT(前作ゲーム)に記憶された切換キーがゲーム装置に読み込まれている場合に,勇士の紋章DDU(新作ゲーム)で,標準ゲームプログラムに加えて,拡張ゲームプログラムでも,ゲーム装置を作動させるものであり,これによりゲーム内容を豊富化し,もってユーザに前作の購入を促すという技術思想を有するものであるから,公知発明1の技術思想は,本件発明1と同じものである。 そして,上記切換キーには, 「魔洞戦紀DDTが装填された」という条件1に係る情報と「キャラクタのレベルが16以上である」という条件2に係る情報とが含まれているところ,公知発明1の技術思想である「ユーザに前作の購入を促す」ことは,切換キーのうち「魔洞戦紀DDT」が装填されたという条件1に係る情報のみで達成できる。そのため,当業者であれば,公知発明1の目的を達成するために,「キャラクタのレベルが16以上である」という条件2に係る情報を切換キーから除くなどして,記憶媒体についてもセーブデータが記憶可能な記憶媒体としないことは,ユーザに前作の購入を促すという公知発明1の作用効果を失わせるものではないから,容易である。かえって, 「前作のキャラクタのレベルが16以上でなくとも,後作において拡張ゲームプログラムが楽しめるようにしてゲームを面白くする」こととすれば,よりユーザの負担なく拡張ゲームプログラムが楽しめるようになるのであるから,前作の購入を促すことが可能であるともいえる。 そうすると,拡張ゲームプログラムが楽しめるようになるため,前作ゲームソフトに記憶された切換キーとして,セーブデータ以外の情報を用いている技術が多数存在していることからしても,公知発明1の切換キーに「キャラクタのレベルが16以上である」という条件2に係る情報であるセーブデータを含ませるか否かは,当業者が適宜選択できる設計事項であるといえる。 19 したがって,公知発明1の記憶媒体において,セーブデータを記憶可能な記憶媒体以外のものに変更する動機付けはなく,むしろ,阻害要因があるとして,相違点1ないし3に係る構成とすることは,当業者が容易になし得たことであるとはいえないとした審決の判断には,誤りがある。 2 取消事由2(相違点4の認定及び判断の誤り) (1) 相違点4の認定の誤り 審決は,前記第2の3(2)イ(イ)Cのとおり,相違点4を認定した。 しかしながら,公知発明1の切換キーには, 「ディスクに記録されたセーブデータではない「「DDT」が装填された」という情報」(条件1)が含まれており,当該情報はセーブデータではないのであるから,相違点4は存在するものではない。 したがって,相違点4を認定した上,相違点4に係る容易想到性を判断した審決は,その前提において誤りがある。 (2) 相違点4の判断の誤り 審決は,公知発明1では, 「ユーザが前作のゲームを一定程度プレイすることを促す」ことが目的となっていることから,切換キーからセーブデータを除くことは公知発明1の目的を達成することができなくなるため,「前作のゲームを一定程度プレイした」という条件を用いない相違点4に係る構成とすることには,阻害要因があると判断した。 しかしながら,前記1のとおり,公知発明1の目的である「ユーザに前作の購入を促す」ことは,切換キーのうち「魔洞戦紀DDT」が装填されたという条件1に係る情報のみで達成できるのであるから,当業者であれば,その目的を達成するために, 「キャラクタのレベルが16以上である」という条件2に係る情報を切換キーから除き,記憶媒体についてもセーブデータが記憶可能な記憶媒体としないことは,容易である。 したがって,公知発明1において, 「前作のゲームを一定程度プレイした」という条件を用いない相違点4に係る構成とすることは,当業者が容易になし得たことで 20あるとはいえないとした審決の判断には,誤りがある。 3 取消事由3(相違点5ないし7の判断の誤り) 取消事由3は,取消事由1において主張したところと同じである。 4 取消事由4(相違点8の認定及び判断の誤り) 取消事由4は,取消事由2において主張したところと同じである。 5 取消事由5(相違点9の判断の誤り) 審決は,公知発明2のインストラクションは,ユーザが「まどうせんきのゆうけんし」とのメニュー項目を選択したときには,必ず表示されるものであって,ユーザが「まどうせんきのゆうけんし」とのメニュー項目を選択したときに,何らかの「判断」を行って,その結果に応じて表示したり表示しなかったりするという性質のものではないから,相違点9に係る構成とすることは,当業者が容易になし得たことであるとはいえないと判断した。 しかしながら,公知発明2について,任意のレベルのキャラクタが3人まで転送されるとインストラクション表示を行わないものであるため,レベル16以上のキャラクタを1人だけ転送できる機能に変更すれば,「所定のキーが読み込まれていないときのみ」に他の記憶媒体を装填させるインストラクションを表示させることになるから,相違点9に係る構成になるといえる。しかも,本件明細書には,このような構成の作用効果については一切記載されていないから,相違点9に係る構成を採用するか否かは,当業者であれば適宜なし得る設計的事項である。現に,必要のない表示はゲーム画面で行わないことは,一般的に行われているから,必要のない表示をゲーム画面で行わないことは,当業者であれば適宜行う設計事項であるといえる。 したがって,公知発明2において, 「所定のキー」が「読み込まれているか否かの判断」を行って,その「判断」の結果, 「所定のキーが読み込まれていない」と「判断」された場合にのみ,他の記憶媒体を装填させるインストラクションを表示させるようにして,相違点9に係る構成とすることは,当業者が容易になし得たことで 21あるとはいえないとした審決の判断には,誤りがある。 |
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被告の反論
1 取消事由1(相違点1ないし3の判断の誤り) 原告は,公知発明1について,魔洞戦紀DDT(前作ゲーム)に記憶された切換キーがゲーム装置に読み込まれている場合に,勇士の紋章DDU(新作ゲーム)で,標準ゲームプログラムに加えて,拡張ゲームプログラムでも,ゲーム装置を作動させるものであり,これによりゲーム内容を豊富化し,もってユーザに前作の購入を促すという技術思想を有するものであるから,公知発明1の技術思想は,本件発明1と同じものであるなどと主張する。 しかしながら,公知発明1は「前作のゲームを一定程度プレイしたユーザに対してのみ,後作において拡張ゲームプログラムを楽しめるようにする」発明であって,本件発明1の「前作を有していれば,誰にでも,後作において拡張ゲームプログラムを楽しめるようにする」発明とは,目的及び技術思想が全く異なるものである。 すなわち,公知発明1は「前作のゲームを一定程度プレイしたユーザに対してのみ,後作において拡張ゲームプログラムを楽しめるようにする」という発明であって,「前作を有していれば,誰にでも,後作において拡張ゲームプログラムを楽しめるようにする」という発明ではない。言い換えれば,公知発明1は,一連のゲームソフトを買い揃えることに対して報奨を付与するのではなく,ゲームを一定程度プレイしたというユーザの技量や努力に対して報奨を付与し,ユーザの技量や努力を評価ないし表彰することによって,ユーザが前作のゲームを一定程度プレイすることを促すことを技術思想とする発明である。そのため,公知発明1は,前作のゲームをプレイしたという「痕跡」を示す情報を切換キーとして前作の記憶媒体にセーブできることを発明の必須の前提条件とするものであるとともに,これを発明の基本的特徴とするものである。そうすると,公知発明1に対し,原告主張の「周知技術」を適用して,公知発明1において,ディスクを, 「痕跡」の情報が記憶できない記憶 22媒体,すなわち, 「記憶媒体(ただし,セーブデータを記憶可能な記憶媒体を除く。」 )に変更する動機付けはなく,むしろ,そのような「痕跡」の情報をセーブできない記憶媒体を採用することには,阻害要因がある。 なお,先行技術発明Aは,本件発明1や公知発明1のように1つのスロットを前提とする技術 「所定のゲーム装置の作動中に入れ替え可能な記憶媒体」 ( をゲーム装置に装填してゲームシステムを作動させる技術をいう。 とは全く異なり, ) ROMスロット1及びROMスロット2という2つのROMスロットを有するMSXにおいて,各ROMスロットに同時にROMカセットを装填してゲームシステムを作動させることを前提とする技術(「所定のゲーム装置の作動中に入れ替えない記憶媒体」をゲーム装置に装填してゲームシステムを作動させる技術をいう。 であるから, ) そもそも公知発明1の記憶媒体を先行技術発明Aの記憶媒体に置き換えても,本件発明1の構成(「所定のゲーム装置の作動中に入れ替え可能な記憶媒体(ただし,セーブデータを記憶可能な記憶媒体を除く。」という構成をいう。 ) )には至らない。 したがって,公知発明1の記憶媒体において,セーブデータを記憶可能な記憶媒体以外のものに変更する動機付けはなく,むしろ,阻害要因があるとして,相違点1ないし3に係る構成とすることは,当業者が容易になし得たことであるとはいえないとした審決の判断には,誤りはなく,取消事由1は,理由がない。 2 取消事由2(相違点4の認定及び判断の誤り) (1) 相違点4の認定の誤り 原告は,公知発明1の切換キーには, 「ディスクに記録されたセーブデータではない「「DDT」が装填された」という情報」(条件1)が含まれており,当該情報はセーブデータではないのであるから,相違点4は存在するものではないと主張する。 しかしながら,公知発明1における特典開放の有無は, 「DDTにセーブされたキャラクタのレベルが16以上である」情報をゲーム装置が読み込んでいるか否かにより分岐するのであって, 「DDTが装填された」情報をゲーム装置が読み込んでいるか否かによっては分岐しないのであるから, 「DDTが装填された」ことを特典開 23放の条件とするものではない。そのため,公知発明1の切換キーに, 「ディスクに記録されたセーブデータではない「「DDT」が装填された」という情報」(条件1)が含まれていると認定すべきではない。 したがって,相違点4を認定した審決には,誤りはない。 (2) 相違点4の判断の誤り 原告は,当業者であれば,公知発明1の目的を達成するために, 「キャラクタのレベルが16以上である」という条件2に係る情報を切換キーから除き,記憶媒体についてもセーブデータが記憶可能な記憶媒体としないことは,容易であると主張する。 しかしながら,相違点4が容易想到ではないことは,前記1のとおり,相違点1ないし3が容易想到ではないと述べたところと同じである。 したがって,公知発明1において, 「前作のゲームを一定程度プレイした」という条件を用いない相違点4に係る構成とすることは,当業者が容易になし得たことであるとはいえないとした審決の判断には,誤りはない。 3 取消事由3(相違点5ないし7の判断の誤り) 取消事由3に対する被告の反論は,取消事由1において主張したところと同じである。 4 取消事由4(相違点8の認定及び判断の誤り) 取消事由4に対する被告の反論は,取消事由2において主張したところと同じである。 5 取消事由5(相違点9の判断の誤り) 原告は,公知発明2は,最大3人までキャラクタが転送されるとインストラクション表示を行わないものであるから,転送できるキャラクタをレベル16以上のキャラクタ1人に限定するように変更すれば,「所定のキーが読み込まれていないときのみ」に他の記憶媒体を装填させるインストラクションを表示させることになり,相違点9に係る構成になるのであり,しかも,本件明細書には,このような構成の 24作用効果については一切記載されていないから,相違点9に係る構成を採用するか否かは,当業者であれば適宜なし得る設計的事項であるなどと主張する。 しかしながら,レベル16以上のキャラクタを1人だけ転送できる機能を採用することが,ゲームの設計に際して適宜変更し得るというのであれば,そのような設計がなされたゲームが存在するはずであるから,当然に,そのようなゲームが例示されてしかるべきである。それにもかかわらず,そのようなゲームの存在が示されていないことからすれば,レベル16以上のキャラクタを1人だけ転送できる機能を採用することは,ゲームの設計に際して適宜変更し得るものではない。 したがって,公知発明2において, 「所定のキー」が「読み込まれているか否かの判断」を行って,その「判断」の結果, 「所定のキーが読み込まれていない」と「判断」された場合にのみ,他の記憶媒体を装填させるインストラクションを表示させるようにして,相違点9に係る構成とすることは,当業者が容易になし得たことであるとはいえないとした審決の判断には,誤りはない。 |
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当裁判所の判断
1 認定事実 (1) 本件発明の内容等について 証拠(甲1)及び弁論の全趣旨によれば,本件発明は,次のとおりのものと認められる。 ア 発明の属する技術分野 本件発明は,家庭用ゲーム機などの情報処理装置を対象としたシステム作動方法に関し,CD-ROMなどの高密度記憶媒体をソフトウェア供給媒体として使用する場合における好適なシステム作動方法に関するものである(【0001】。 ) イ 発明が解決しようとする課題 従来,ゲーム機の分野においては,ゲーム機本体を所有しているユーザを対象として,半導体ROMカセット等によってゲームソフトを供給していたが(【000 252】,最近では,家庭用ゲーム機本体も32ビットのCPUを搭載した高速型が開 )発され,ゲームソフト供給媒体として,半導体ROMに比較して100倍以上の容量を持つCD-ROMが採用されつつあり,CD-ROMを使用すると,理論上,半導体ROMに比較して100倍以上の内容のゲームソフトを記憶させることができる(【0004】【0005】。 , ) このように膨大な内容のゲームソフトを開発し,CD-ROMに記憶させて供給することが技術的に可能であったとしても,ゲームソフトの開発コストが高騰し,ユーザが1回に支払うことができる価格で供給することが困難となるという問題がある(【0006】。そこで,本件発明は,シリーズ化された一連のゲームソフトを )買い揃えていくことによって,豊富な内容のゲームを楽しむことができるようにすることを課題とするものである(【0007】。 ) ウ 課題を解決するための手段 上記課題を解決するために,本件発明に係るシステム作動方法の構成を採用することにより,第1のCD-ROMと第2のCD-ROMとを所有するユーザは,第2のCD-ROMをゲーム機に装填したとき,第2のCD-ROMに記憶されている標準のゲーム内容に加え,拡張されたゲーム内容を楽しむことが可能となる 【0 (020】。このように,ユーザにとっては,一回の購入金額が適正なシリーズもの )のCD-ROMを買い揃えてゆくことによって,最終的に極めて豊富な内容のゲームソフトを入手したのと同じになり,メーカにとっても,開発コストが相当掛かる膨大な内容のゲームソフトを,ユーザが購入しやすい方法で実質的に提供することができるようになる(【0022】【0040】。 , ) (2) 公知発明の内容等について ア 公知発明1の内容について 証拠(甲2ないし甲10,甲13の1ないし甲14の2)及び弁論の全趣旨によれば,公知発明1の内容は,次のとおりのものと認められる。 「a ファミリーコンピュータとディスクシステムとテレビとから構成され,デ 26ィスクを用いてゲームを行うファミコンゲームシステムにおいて,セーブデータなどを記憶可能で,ゲームプログラムおよび/またはデータを記憶するファミコンゲームシステムの作動中に入れ換え可能なディスクをディスクシステムに挿入して,ファミコンゲームシステムを作動させる方法であって, b 上記ディスクは, b-1 魔洞戦紀のゲームプログラムおよび/またはデータと,魔洞戦紀にセーブされたキャラクタのレベルが21であることを示す情報とを包含する魔洞戦紀DDTと, b-2 標準ゲーム機能部分を実行する標準ゲームプログラムおよび/またはデータに加えて,魔洞戦紀DDTから転送されたキャラクタの魔洞戦紀におけるレベルが16以上であるときには,そのキャラクタの勇士の紋章におけるレベルが最初から2となり,神殿で祈ると『ゆうけんしのしそん じゅんくよ。がんばるのだぞ。』とのメッセージが表示され,アイテム『くさのつゆ』及び『しろきのこ』が1つ増えるという動作機能を実行する拡張ゲームプログラムおよび/またはデータを包含する勇士の紋章DDUとが準備されており, c 拡張ゲームプログラムおよび/またはデータは,標準ゲームプログラムおよび/またはデータに対して,キャラクタのレベルの増加,またはキャラクタのためのアイテムの増加を達成するように形成されたものであり, d 勇士の紋章DDUがディスクシステムに挿入されるとき, d-1 ファミリーコンピュータが,魔洞戦紀DDTから,キャラクタのレベルが21,すなわち16以上であることを示す情報を読み込んでいる場合には,標準ゲーム機能部分を実行する標準ゲームプログラムおよび/またはデータと拡張ゲーム機能部分を実行する拡張ゲームプログラムおよび/またはデータの双方によってファミリーコンピュータを作動させ, d-2 ファミリーコンピュータが,魔洞戦紀DDTから,キャラクタのレベルが16以上であることを示す情報を読み込んでいない場合には,標準ゲーム機能部 27分を実行する標準ゲームプログラムおよび/またはデータのみによってファミリーコンピュータを作動させる, e ファミコンゲームシステム作動方法。」 イ 公知発明2の内容について 証拠(甲2ないし甲10,甲13の1ないし甲14の2)及び弁論の全趣旨によれば,公知発明2の内容は,次のとおりのものと認められる。 「f ファミリーコンピュータとディスクシステムとテレビとから構成され,ディスクを用いてゲームを行うファミコンゲームシステムにおいて,セーブデータなどを記憶可能で,ゲームプログラムおよび/またはデータを記憶するファミコンゲームシステムの作動中に入れ換え可能なディスクをディスクシステムに挿入して,ファミコンゲームシステムを作動させる方法であって, g 上記ディスクは, g-1 魔洞戦紀のゲームプログラムおよび/またはデータと,魔洞戦紀にセーブされたキャラクタのレベルが21であることを示す情報とを包含する魔洞戦紀DDTと, g-2 標準ゲーム機能部分を実行する標準ゲームプログラムおよび/またはデータに加えて,魔洞戦紀DDTから転送されたキャラクタの魔洞戦紀におけるレベルが16以上であるときには,そのキャラクタの勇士の紋章におけるレベルが最初から2となり,神殿で祈ると『ゆうけんしのしそん じゅんくよ。がんばるのだぞ。』とのメッセージが表示され,アイテム『くさのつゆ』及び『しろきのこ』が1つ増えるという動作機能を実行する拡張ゲームプログラムおよび/またはデータを包含するとともにメニュー制御プログラムを包含する勇士の紋章DDUとが準備されており,ここで,魔洞戦紀DDTからは,最大で3人まで,キャラクタを転送できるものとなっており, h 拡張ゲームプログラムおよび/またはデータは,標準ゲームプログラムおよび/またはデータに対して,キャラクタのレベルの増加,またはキャラクタのため 28のアイテムの増加を達成するように形成されたものであり, i 勇士の紋章DDUがディスクシステムに挿入されるとき,勇士の紋章DDU中のメニュー制御プログラムは, 『まどうせんきのゆうけんし』とのメニュー項目をテレビの画面に表示し,さらにテレビの画面の『まどうせんきのゆうけんし』が選択されたときに, 『まどうせんきのAメンをいれてください』とのインストラクションを表示させ, i-1 『まどうせんきのAメンをいれてください』とのインストラクションにしたがって,勇士の紋章DDUに替えて挿入された他のディスクが,キャラクタのレベルが21,すなわち16以上であることを示す情報を包含する上記魔洞戦紀DDTである場合には,勇士の紋章DDU中の標準ゲーム機能部分を実行する標準ゲームプログラムおよび/またはデータと拡張ゲーム機能部分を実行する拡張ゲームプログラムおよび/またはデータの双方によってファミリーコンピュータを作動させ, i-2 他のディスクが挿入されない場合または勇士の紋章DDUに替えて挿入されたディスクが,魔洞戦紀DDTでない場合には, 『まどうせんきのAメンをいれてください』とのインストラクションまたは, 『DISK ERR 04』が表示されたままとなり,これらの場合には,勇士の紋章DDU中の,標準ゲーム機能部分を実行する標準ゲームプログラムおよび/またはデータのみによってファミリーコンピュータを作動させる, j ファミコンゲームシステム作動方法。」 ウ 公知発明の技術思想について 前記ア及びイの公知発明の内容に加え, (甲4の1及び2, 証拠 甲8の1及び2,甲9,甲10)及び弁論の全趣旨を総合すれば,後作「勇士の紋章」は,前作「魔洞戦紀」の続編であって,両者は,魔洞戦紀において,魔王が勇剣士に倒され平和を取り戻したものの,勇士の紋章において,魔王が復活し,勇剣士が再び冒険するという一連のストーリーを有するゲームであること,前作「魔洞戦紀」の勇剣士の 29キャラクタを,後作「勇士の紋章」に転送することにより,前作「魔洞戦紀」の「勇剣士」を,後作「勇士の紋章」の「勇士」として復活させることができること,さらに, 「魔洞戦紀」において,キャラクタのレベルが16以上であれば,レベル1からではなく,レベル2のキャラクタとして後作「勇士の紋章」でプレイすることができること,このような場合には, 「魔洞戦紀」から転送されたレベル16以上のキャラクタは, 「勇士の紋章」においては「勇剣士の子孫」として復活すること,前作「魔洞戦紀」のキャラクタリストは,前作「魔洞戦紀」において,特定のキャラクタでゲームをプレイしている途中で中断し,その後,中断した場面からゲームを再開してプレイするために,ディスクにセーブされたものと解されること,以上の事実が認められる。 上記認定事実によれば,公知発明は,後作「勇士の紋章」においても,前作「魔洞戦紀」を戦い抜いた愛着のあるキャラクタでプレイすることができ,前作「魔洞戦紀」でのキャラクタのレベルが16以上である場合には,後作「勇士の紋章」において,レベル1ではなく,レベル2のキャラクタとして復活できるという作用効果を奏するものである。 したがって,公知発明は,前作と後作との間でストーリーに連続性を持たせた上,後作のゲームにおいても,前作のゲームのキャラクタでプレイをしたり,前作のゲームのプレイ実績により,後作のゲームのプレイを有利にすることによって,前作のゲームをプレイしたユーザに対し,続編である後作のゲームもプレイしたいという欲求を喚起することにより,後作のゲームの購入を促すという技術思想を有するものと認められる。 (3) 先行技術発明Aの内容について 証拠(甲15の1ないし甲18の2)及び弁論の全趣旨によれば,先行技術発明Aは,次のとおりのものと認められる。 「MSX本体に「沙羅曼蛇」ROMと「グラディウス2」ROMを装填した状態で「沙羅曼蛇」のゲームをプレイすると, 「グラディウス2」ROMに含まれている 30所定の情報に基づいて,MSX本体に「沙羅曼蛇」ROMのみを装填してゲームをプレイした場合にはなかったステージX「OPERATION X」が現れるとともに,エンディングが異なったものとなる。」 2 取消事由1(相違点1ないし3の判断の誤り) (1) 相違点1ないし3について 所定のゲーム装置の作動中に入れ換え可能な記憶媒体又は一の記憶媒体若しくは二の記憶媒体に関して,本件発明1の記憶媒体は, 「記憶媒体(ただし,セーブデータを記憶可能な記憶媒体を除く。」であるのに対して,公知発明1の記憶媒体又は )勇士の紋章DDUはディスクであり, 「記憶媒体(ただし,セーブデータを記憶可能な記憶媒体を除く。」ではない点。 ) (2) 相違点1ないし3の判断について 前記1(1)の認定事実によれば,本件発明は,ユーザがシリーズ化された一連のゲームソフトを買い揃えるだけで,標準のゲーム内容に加え,拡張されたゲーム内容を楽しむことを可能とすることによって,シリーズ化された後作のゲームの購入を促すという技術思想を有するものと認められる。 これに対し,前記1(2)の認定事実によれば,公知発明は,前作と後作との間でストーリーに連続性を持たせた上,後作のゲームにおいても,前作のゲームのキャラクタでプレイをしたり,前作のゲームのプレイ実績により,後作のゲームのプレイを有利にすることによって,前作のゲームをプレイしたユーザに対し,続編である後作のゲームもプレイしたいという欲求を喚起することにより,後作のゲームの購入を促すという技術思想を有するものと認められる。 そうすると,公知発明は,少なくとも,前作において実際にプレイしたキャラクタをセーブするとともに,前作のゲームにおいてキャラクタのレベルが16以上となるまでプレイしたという実績(以下「プレイ実績」という。 をセーブすることが, )その技術思想を実現するための必須条件となる。そのため,前作において実際にプレイしたキャラクタ及びプレイ実績に係る情報をセーブできない記憶媒体を採用し 31た場合には,後作のゲームにおいても,前作のゲームのキャラクタでプレイをしたり,前作のゲームのプレイ実績により,後作のゲームのプレイを有利にすることができなくなる。このことは,前作のゲームをプレイしたユーザに対し,続編のゲームをプレイしたいという欲求を喚起することにより,後作のゲームの購入を促すという公知発明の技術思想に反することになる。 したがって,当業者は,公知発明1のディスクについて,前作において実際にプレイしたゲームのキャラクタ及びプレイ実績をセーブできない記憶媒体,すなわち,「記憶媒体(ただし,セーブデータを記憶可能な記憶媒体を除く。」に変更しよう )とする動機付けはなく,かえって,このような記憶媒体を採用することには,公知発明の技術思想に照らし,阻害要因があるというべきである。 仮に,先行技術発明A等(甲20の1及び2,甲21の1及びの2,甲91,甲92のゲーム等を含む。以下同じ。)のように,2本のゲームのROMカセットを所有し,ゲーム機のスロットに挿入するのみで拡張されたゲーム内容を楽しめるゲームが周知技術であったとしても,これを公知発明1に対して適用するに当たり,公知発明1のディスクを,ゲームのプレイ実績をセーブできない記憶媒体,すなわち,「記憶媒体(ただし,セーブデータを記憶可能な記憶媒体を除く。」 ) に変更すると,上記のとおり,後作のゲームにおいても,前作のゲームのキャラクタでプレイをしたり,前作のゲームのプレイ実績により,後作のゲームのプレイを有利にすることができなくなるから,前作のゲームをプレイしたユーザに対し,後作のゲームの購入を促すという公知発明の技術思想に反することになる。 また,仮に,ゲームに登場するキャラクタをゲームプログラムにプリセットしておき,プレイヤーがキャラクタを適宜選択できるようにすることが,本件特許の出願当時において,技術常識であったとしても,公知発明1の「キャラクタのレベルが16以上である」というゲームのプレイ実績を,プリセットされたキャラクタに係る情報に変えると,後作のゲームにおいても,前作のゲームのキャラクタでプレイをしたり,前作のゲームのプレイ実績により,後作のゲームのプレイを有利にす 32ることができなくなるから,上記と同様に,公知発明の技術思想に反することになる。 以上によれば,公知発明1において,所定のゲーム装置の作動中に入れ換え可能な記憶媒体,一の記憶媒体及び二の記憶媒体を,ディスクから「記憶媒体(ただし,セーブデータを記憶可能な記憶媒体を除く。」に変更して相違点1ないし3に係る )構成とすることは,当業者が容易になし得たことであるとはいえないとした審決の判断に誤りはなく,取消事由1は,理由がない。 (3) 原告の主張について 原告は,公知発明1の技術思想について,魔洞戦紀DDT(前作ゲーム)に記憶された切換キーがゲーム装置で読み込まれている場合に,勇士の紋章DDU(後作ゲーム)で,標準ゲームプログラムに加えて,拡張ゲームプログラムでもゲーム装置を作動させるものであり,これによりゲーム内容を豊富化してユーザに前作の購入を促すというものであるから,本件発明の技術思想と同じであると主張する。そして,原告は,上記主張を前提とした上で,上記切換キーには, 「魔洞戦紀DDTが装填された」という条件1に係る情報と「キャラクタのレベルが16以上である」という条件2に係る情報とが含まれているところ,公知発明1の技術思想である「ユーザに前作の購入を促す」ことは,切換キーのうち「魔洞戦紀DDT」が装填されたという条件1に係る情報のみで達成できるのであるから,当業者であれば,その目的を達成するために, 「キャラクタのレベルが16以上である」という条件2に係る情報を切換キーから除くなどして,記憶媒体についてもセーブデータが記憶可能な記憶媒体としないことは容易であり,かえって,このような場合には,よりユーザの負担なく拡張ゲームプログラムが楽しめるようになるのであるから,前作の購入を促すことが可能であるともいえ,公知発明1の切換キーに「キャラクタのレベルが16以上である」という条件2に係る情報であるセーブデータを含ませるか否かは,当業者が適宜選択できる設計事項であると主張する。 しかしながら,上記(2)のとおり,公知発明は,前作と後作との間でストーリーに 33連続性を持たせた上,後作のゲームにおいても,前作のゲームのキャラクタでプレイをしたり,前作のゲームのプレイ実績により,後作のゲームのプレイを有利にすることによって,前作のゲームをプレイしたユーザに対し,続編である後作のゲームもプレイしたいという欲求を喚起することにより,後作のゲームの購入を促すという技術思想を有するものと認められる。 そうすると,公知発明は,少なくとも,前作のキャラクタをセーブするとともに,キャラクタのプレイ実績をセーブすることが,その技術思想を実現するための必須条件となるから,キャラクタ及びプレイ実績に係る情報をセーブできない記憶媒体を採用した場合には,公知発明の技術思想に反することになる。 したがって, 「キャラクタのレベルが16以上である」という条件2に係る情報を切換キーから除くなどして,記憶媒体についてセーブデータが記憶可能な記憶媒体としないことは,公知発明を都合よく分割してその必須条件を省略しようとするものであるから,上記のとおり,公知発明の技術思想に反することは明らかである。 以上によれば,原告の主張は,その余の点を含め,公知発明の技術思想を正解しないものに帰し,採用することができない。 3 取消事由2(相違点4の認定及び判断の誤り) (1) 相違点4の認定について 原告は,公知発明1の切換キーには, 「ディスクに記録されたセーブデータではない「「DDT」が装填された」という情報」(条件1)が含まれており,当該情報はセーブデータではないのであるから,相違点4(切換キーが,本件発明1では, 「記憶媒体(ただし,セーブデータを記憶可能な記憶媒体を除く。」に包含されている )ことから, 「セーブデータ」ではないのに対して,公知発明1では「魔洞戦紀にセーブされたキャラクタのレベルが21であることを示す情報」が,ディスクにセーブされた「セーブデータ」である点。)は存在するものではないと主張する。 そこで検討するに,証拠(甲13の2)及び弁論の全趣旨によれば,ファミコンゲームシステムにおいて, 「まどうせんきのAメンをいれてください」というインス 34トラクションに基づき, 「魔洞戦紀DDT」を装填し,キャラクタ「じゅんく」を選択した後,再度,「勇士の紋章DDU」を装填した場合には,「勇士の紋章」においてもキャラクタ「じゅんく」でプレイすることができることが認められる。 そうすると,上記において選択して転送されたキャラクタ「じゅんく」の情報は,その後, 「勇士の紋章」においてプレイするため,ファミコンゲームシステム内に残す必要があるものと認められる。これに対し, 「魔洞戦紀DDT」を挿入したという情報は,「勇士の紋章」においてプレイするために必要な情報であるといえない上,これがファミコンゲームシステム内に現に残されていることを裏付ける的確な証拠がない以上, 「魔洞戦紀DDT」においてキャラクタを選択し,これを転送するための条件として設定されているにとどまると解するのが自然である。 したがって, 「魔洞戦紀DDT」を挿入したという情報は,ファミコンゲームシステム内には存在しないと認めるのが相当であるから,相違点4に係る審決の認定には,誤りはない。 (2) 相違点4の判断について 原告は,公知発明1の目的である「ユーザに前作の購入を促す」ことは,切換キーのうち「魔洞戦紀DDT」が装填されたという条件1に係る情報のみで達成できるのであるから,当業者であれば,その目的を達成するために, 「キャラクタのレベルが16以上である」という条件2に係る情報を切換キーから除き,記憶媒体についてもセーブデータが記憶可能な記憶媒体としないことは,容易であるなどと主張する。 しかしながら,前記2で説示したとおり,公知発明は,前作と後作との間でストーリーに連続性を持たせた上,後作のゲームにおいても,前作のゲームのキャラクタでプレイをしたり,前作のゲームのプレイ実績により,後作のゲームのプレイを有利にすることによって,前作のゲームをプレイしたユーザに対し,続編である後作のゲームもプレイしたいという欲求を喚起することにより,後作のゲームの購入を促すという技術思想を有するものと認められる。 35 そうすると,公知発明は,少なくとも,前作のキャラクタをセーブするとともに,キャラクタのプレイ実績をセーブすることが,その技術思想を実現するための必須条件となるから,キャラクタ及びプレイ実績に係る情報をセーブできない記憶媒体を採用した場合には,公知発明の技術思想に反することになる。 したがって, 「キャラクタのレベルが16以上である」という条件2に係る情報を切換キーから除くなどして,記憶媒体についてセーブデータが記憶可能な記憶媒体としないことは,公知発明を都合よく分割してその必須条件を省略しようとするものであるから,上記のとおり,公知発明の技術思想に反することは明らかである。 以上によれば,公知発明1において, 「前作のゲームを一定程度プレイした」という条件を用いない相違点4に係る構成とすることは,当業者が容易になし得たことであるとはいえないとした審決の判断には,誤りがなく,原告の主張は,公知発明の技術思想を正解しないものに帰し,採用することができない。 (3) 小括 以上によれば,審決に係る相違点4の認定及び判断に誤りはないから,取消事由2は理由がない。 4 取消事由3(相違点5ないし7の判断の誤り) 上記2において説示したところと同様に,当業者は,公知発明2において,ディスクを,ゲームのキャラクタ及びプレイ実績をセーブできない記憶媒体,すなわち,「記憶媒体(ただし,セーブデータを記憶可能な記憶媒体を除く。」に変更しよう )とする動機付けはなく,かえって,このような記憶媒体を採用することには,公知発明の技術思想に照らし,阻害要因があるというべきである。 したがって,公知発明2において,所定のゲーム装置の作動中に入れ換え可能な記憶媒体,一の記憶媒体及び二の記憶媒体を,ディスクから「記憶媒体(ただし,セーブデータを記憶可能な記憶媒体を除く。」に変更して相違点5ないし7に係る )構成とすることは,当業者が容易になし得たことであるとはいえないとした審決の判断に誤りはなく,取消事由3は,理由がない。 36 5 取消事由4(相違点8の認定及び判断の誤り) 前記3において説示したところと同様に,相違点8に係る審決の認定には,誤りはなく,公知発明2において, 「前作のゲームを一定程度プレイした」という条件を用いない相違点8に係る構成とすることは,当業者が容易になし得たことであるとはいえないとした審決の判断にも,誤りがなく,取消事由4は,理由がない。 6 まとめ したがって,原告の取消事由1ないし4はいずれも理由がないから,取消事由5を判断するまでもなく,本件発明は,公知発明と同一であるとも,公知発明,先行技術発明A及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえないとした審決の判断には誤りはなく,審決には取り消すべき違法はない。 |
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結論
以上によれば,原告の取消事由1ないし4はいずれも理由がないから,原告の請求を棄却することとして,主文のとおり判決する。 |
裁判長裁判官 | 清水節 |
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