運営:アスタミューゼ株式会社
  • ポートフォリオ機能


追加

関連審決 無効2016-800077
元本PDF 裁判所収録の全文PDFを見る pdf
事件 平成 29年 (行ケ) 10066号 審決取消請求事件

原告 日本ドライケミカル株式会社
訴訟代理人弁理士 津国肇 柴田明夫 生川芳徳
被告帝國纎維株式会社
訴訟代理人弁護士 木村和也 水沼淳 復代理人弁護士 日野正実
訴訟代理人弁理士 昼間孝良 境澤正夫
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2018/02/27
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
原告の求めた裁判
1 特許庁が無効2016-800077号事件について平成29年2月7日にした審決を取り消す。
事案の概要
本件は,特許無効審判請求の不成立審決の取消訴訟である。争点は,進歩性の判断の誤り(周知技術の認定の誤り,相違点の判断の誤り)の有無である。
1 特許庁における手続の経緯 被告は,平成26年10月16日,名称を「大容量送水システム」とする特許出願(特願2014-211320号)を行い,平成27年2月13日,設定登録を受けた(特許第5695790号〔請求項の数は9である。。甲19) 〕 。
原告は,平成28年6月27日,上記請求項1ないし9に係る発明(以下,各請求項記載の発明を請求項1ないし9の区分に応じて「本件発明1」ないし「本件発明9」といい,これらを併せて「本件発明」という。)を無効にすることについて特許無効審判を請求した(無効2016-800077号。甲20)。
特許庁は,平成29年2月7日,本件審判の請求は成り立たない旨の審決をした。
その謄本は,同月16日,原告に送達された。
2 本件発明の要旨 本件発明(以下,本件発明に係る特許を「本件特許」といい,本件特許の明細書を「本件明細書」という。)の特許請求の範囲の記載は,次のとおりである。
「【請求項1】(a)取水用水中ポンプ,油圧ホースを介して該取水用水中ポンプを駆動するディーゼルエンジン,該ディーゼルエンジンの燃料を貯蔵するタンクでありかつ該タンク内の燃料残量レベルを常時検知する燃料残量計センサーが付設された燃料タンク,および前記取水用水中ポンプにより取水した水を吐水する吐水機構を少なくとも積載した大容量送水車輌,(b)該大容量送水車輌と別個に設けられた燃料備蓄タンク, 2 (c)該燃料備蓄タンクと前記大容量送水車輌の間に設けられ,かつ,前記燃料残量計センサーによって常時検知されて送られる燃料残量レベル信号に基づいて,前記燃料備蓄タンク内に備蓄されている燃料の前記燃料タンクへの供給と停止をオン・オフ制御により自動的に行う自動供給ポンプ機構,を少なくとも有して構成されてなることを特徴とする大容量送水システム。
【請求項2】 前記大容量送水車輌に積載された燃料タンク内の燃料残量レベル信号が,予め設定されたレベルまでに燃料残量が減少したことを示したときに,前記燃料備蓄タンク内の燃料の該燃料タンクへの供給を開始するように設定されてなることを特徴とする請求項1記載の大容量送水システム。
【請求項3】 前記大容量送水車輌に積載された燃料タンク内の燃料残量レベル信号が,予め設定されたレベルまでに燃料残量が増加したことを示したときに,前記燃料備蓄タンク内の燃料の該燃料タンクへの供給を停止するように設定されてなることを特徴とする請求項1または2記載の大容量送水システム。
【請求項4】 請求項2記載の燃料備蓄タンク内の燃料の前記燃料タンクへの供給開始方式と,請求項3記載の燃料備蓄タンク内の燃料の前記燃料タンクへの供給停止方式を採用するとともに,請求項2記載の燃料備蓄タンク内の燃料の前記燃料タンクへの供給開始からの累積燃料供給量を検知して,予め設定された累積燃料供給量に達したときに,前記燃料備蓄タンク内からの燃料供給を停止するように設定した第二の燃料供給停止方式を採用してなることを特徴とする請求項1記載の大容量送水システム。
【請求項5】 請求項4に記載の予め設定された累積燃料供給量が,前記大容量送水車輌に積載された燃料タンク容量の80%以上100%以下に相当して設定されたものであることを特徴とする請求項4記載の大容量送水システム。
3 【請求項6】 請求項1に記載の大容量送水システムを用いた大容量の送水方法であって,大容量送水車輌に積載された燃料タンク内の燃料残量レベル信号が,該燃料タンク容量100%に対して,残量15%〜45%を含む特定範囲に対応して予め設定されたレベル以下にまで減少したことを示したときに,燃料備蓄タンクからの,該大容量送水車輌に積載された前記燃料タンクへの燃料供給を開始するように構成したことを特徴とする大容量送水方法。
【請求項7】 請求項1に記載の大容量送水システムを用いた大容量の送水方法であって,大容量送水車輌に積載された燃料タンク内の燃料残量レベル信号が,該燃料タンク容量100%に対して,残量80%〜90%を含む特定範囲に対応して予め設定されたレベル以上にまで増加したことを示したときに,燃料備蓄タンクからの,該大容量送水車輌に積載された前記燃料タンクへの燃料供給を停止するように構成したことを特徴とする大容量送水方法。
【請求項8】 請求項6に記載された大容量送水車輌に積載された燃料タンクへの燃料供給開始方法と,請求項7に記載された大容量送水車輌に積載された燃料タンクへの燃料供給停止方法を採用してなることを特徴とする大容量送水方法。
【請求項9】 請求項6に記載された大容量送水車輌に積載された燃料タンクへの燃料供給開始方法と,請求項7に記載された大容量送水車輌に積載された燃料タンクへの燃料供給停止方法を採用し,かつ,請求項6に記載の燃料備蓄タンク内の燃料の燃料タンクへの供給開始を始めたときからの累積燃料供給量を検知して,予め設定された累積燃料供給量に達したときに,前記燃料備蓄タンク内からの燃料供給を停止する第二の燃料供給停止方法を併用してなることを特徴とする大容量送水方法。」 3 審決の理由 4 (1) 審決の判断の概要 ア 審決は,@本件発明1は,下記アの文献に記載された発明(以下「引用発明」という。)に対し,下記イないしカの各文献に記載された事項及び下記キないしコの各文献に記載された周知事実を適用して,当業者が容易に発明をすることができたものではなく,A本件発明2ないし本件発明9は,本件発明1の発明特定事項を全て含むものであって,これに他の発明特定事項を付加したものであるから,本件発明1と同様に,引用発明に対し,下記イないしカの各文献に記載された事項及び下記キないしコの各文献に記載された周知事実を適用して,当業者が容易に発明をすることができたものではなく,本件特許は無効とすべきものではないと判断した。
(ア) 特開2009-291289号公報(甲1) (イ) 特開平10-141163号公報(甲2。以下「甲2文献」という。) (ウ) 特開2000-97039号公報(甲3。以下「甲3文献」という。) (エ) 特開昭58-107868号公報(甲4。以下「甲4文献」という。) (オ) 特開2006-248492号公報(甲5。 「甲5文献」 以下 という。) (カ) 特開2005-114374号公報(甲6。 「甲6文献」 以下 という。) (キ) ホームページ文書「消防の動き 平成18年1月号 No.418」(甲9。以下「甲9文献」という。) (ク) ホームページ文書「石油コンビナート等防災体制検討会 検討結果報告書」(甲10。以下「甲10文献」という。) (ケ) ホームページ文書「消防の動き 平成21年3月号 No.456」(甲11) (コ) ホームページ文書「朝日新聞DIGITAL」 ・「連続放水13時間半,2400トン放つ 東京消防庁」(甲12。以下「甲12文献」という。) イ 審決が認定した引用発明の内容,本件発明1と引用発明との一致点及び相違点は,次のとおりである。
5 (2) 引用発明の内容「取り外して水中に投入可能な取水ポンプ13,油圧駆動系によって該取水ポンプ13を駆動する車輌エンジン26,該車輌エンジン26の燃料を貯蔵する燃料タンク,および前記取水ポンプ13により取水した水を給送するメインポンプ12およびホース17を搭載した,大量の水を給送することができる消防ポンプ車。」 (3) 本件発明1と引用発明との一致点 本件発明1と引用発明との一致点は,次のとおりである。
「取水用水中ポンプ,油圧駆動系を介して取水用水中ポンプを駆動するエンジン,該エンジンの燃料を貯蔵する燃料タンク,および前記取水用水中ポンプにより取水した水を吐水する吐水機構を積載した大容量送水車輌。」 (4) 本件発明1と引用発明との相違点 ア 相違点1 油圧駆動系を介して取水用水中ポンプを駆動することに関し,本件発明1が, 「油圧ホース」を介して取水用水中ポンプを駆動するのに対して,引用発明では, 「油圧ホース」を介するものであるか否か明らかでない点 イ 相違点2 本件発明1は, 「ディーゼルエンジン」を備えるものであるが,引用発明は,車輌エンジンを備えるものの「ディーゼルエンジン」であるか否かは不明な点 ウ 相違点3 本件発明1は,「該タンク内の燃料残量レベルを常時検知する燃料残量計センサーが付設された燃料タンク」「該大容量送水車輌と別個に設けられた燃料備蓄タン ,ク」及び「該燃料備蓄タンクと前記大容量送水車輌の間に設けられ,かつ,前記燃料残量計センサーによって常時検知されて送られる燃料残量レベル信号に基づいて,前記燃料備蓄タンク内に備蓄されている燃料の前記燃料タンクへの供給と停止をオン・オフ制御により自動的に行う自動供給ポンプ機構」を備えた「大容量送水システム」であるが,引用発明は, 「燃料タンク」は備えるものの,それ以上の構成を備 6 えたシステムではない点 (5) 相違点についての判断 ア 相違点1及び2について 油圧駆動系を構成するために「油圧ホース」を利用すること及び車輌を駆動する車輌エンジンとして「ディーゼルエンジン」を採用することは,いずれも例示するまでもない周知技術であって,発明の具現化の際に当業者が適宜採用し得たものにすぎないから,相違点1及び2に係る本件発明1の発明特定事項は,引用発明においても当業者が容易に想到し得たものである。
イ 相違点3について (ア) 引用発明の課題について 引用発明は,石油コンビナート等の大規模な火災が発生した場合に大量の水を短時間に供給することを念頭においたものである。そして,甲10文献ないし甲12文献に記載された事項によれば,石油コンビナート等の大規模災害現場などにおいて,長時間にわたり給水するためにポンプ車等に燃料を給油することは,周知の課題であるといえる。そうすると,石油コンビナート等の大規模な火災を想定した引用発明において,大量の水を短時間に供給するだけでなく,長時間にわたり給水するためにポンプ車等に燃料を給油することは,周知の課題である。
(イ) 甲2文献について 甲2文献に記載されたものは「ポンプや発電機等の原動力となるエンジンを運転させたままで,燃料タンクに自動補給する」ものであるか明らかでない上,甲2文献のエンジン発電装置は大容量送水車輌とは関係のないものであるから,石油コンビナート等の大規模な火災を想定した引用発明において,大量の水を短時間に供給するだけでなく,長時間にわたり給水するためにポンプ車等に燃料を給油することが周知の課題であるとしても,甲2文献に記載された事項を引用発明に適用することが当業者にとって容易であるとはいえない。
(ウ) 甲3文献について 7 石油コンビナート等の大規模な火災を想定した引用発明において,大量の水を短時間に供給するだけでなく,長時間にわたり給水するためにポンプ車等に燃料を給油することは周知の課題であるから,引用発明に甲3文献に記載された「ポンプや発電機等の原動力となるエンジンを運転させたままで,燃料タンクに自動補給する装置」を適用することは,当業者が容易になし得ることといえる。
しかしながら,甲3文献には「エンジン作業機1において,カバー2の外部に外部燃料タンク43を配設し,該外部燃料タンク43と内部燃料タンク6とを燃料補給用ホース44により連結し,給油ポンプ42を用いて外部燃料タンク43から内部燃料タンク6へ燃料油を補給可能に構成している。( 」【0022】)と記載されているところ,甲3文献の図9によれば,給油ポンプ42(本件発明1の「自動供給ポンプ機構」に相当するもの)がエンジン作業機1内部に設けられているから,給油ポンプ42は外部燃料タンク43(本件発明1の「燃料備蓄タンク」に構造上相当するもの)とエンジン作業機1の間に設けられていない。
すなわち,引用発明の「大量の水を給送することができる消防ポンプ車」 (本件発明1の「大容量送水車輌」に相当するもの)に搭載された燃料タンク(本件発明1の「燃料タンク」に相当するもの)と甲3文献に記載された事項の内部燃料タンク6(本件発明1の「燃料タンク」に相当するもの)を対応させて,給油ポンプ42(本件発明1の「自動供給ポンプ機構」に相当するもの)と外部燃料タンク43(本件発明1の「燃料備蓄タンク」に構造上相当するもの)を適用した場合に,給油ポンプ42(本件発明1の「自動供給ポンプ機構」に相当するもの)はエンジン作業機1内部に設けられているから,給油ポンプ42を外部燃料タンク43(本件発明1の「燃料備蓄タンク」に構造上相当するもの)と大容量送水車輌との間に設けるという構成を導き出すことができない。
また,引用発明に甲3文献に記載された事項を適用する際に,甲3文献のエンジン作業機1内に収容された給油ポンプ42を敢えてエンジン作業機1の外部に設け,外部燃料タンク43とエンジン作業機1の間に設ける積極的な動機付けもなく,ま 8 た,そのようにすることは,当業者が適宜採用できる事項ともいえない。
そうすると,当業者が引用発明に甲3文献に記載された事項を適用して,本件発明1の相違点3に係る構成を容易に想到することができるとはいえない。
(エ) 甲4文献について 甲4文献は,台上試験で車両を用いて長時間連続運転を実施する装置において,台上試験車両の運転を中断することなく車両の燃料タンクに燃料を自動補給するものであり,長時間連続運転試験されるのは試験車両を駆動するためのエンジンであって,ポンプや発電機の原動力となるエンジンではないから,石油コンビナート等の大規模な火災を想定した引用発明において,大量の水を短時間に供給するだけでなく,長時間にわたり給水するためにポンプ車等に燃料を給油することが周知の課題であるとしても,甲4文献に記載された事項を引用発明に適用することは,当業者にとって容易とはいえない。
(オ) 甲5文献,甲6文献,甲9文献ないし甲12文献について これらの文献には,引用発明を本件発明1における相違点3に係る構成を備えるものとすることについて,記載も示唆もされていない。また,これらの文献に記載されている構成を,本件発明1の相違点3に係る構成となるように都合良く組み合わせることは,当業者が容易になし得たことともいえない。
原告主張に係る審決取消事由
1 取消事由1(周知技術の認定の誤り) 審決は,甲3文献には,ポンプや発電機等の原動力となるエンジンを運転させたままで燃料タンクに自動補給する装置(以下「燃料自動補給装置」という。)が記載されているといえるものの,甲2文献及び甲4文献には,燃料自動補給装置が記載されているとはいえないから,燃料自動補給装置が出願時において周知であったとはいえないなどと認定する。
しかしながら,甲2文献についてみると,一般的なエンジンは,供給された燃料 9 を燃焼させないで蓄えたりはしないため,停止しているエンジンに燃料が供給されるとは考えられず,燃料小出槽3の油面が低位レベルまで低下したときに,エンジンを停止させるという記載がない以上,メインタンク1から燃料小出槽3への燃料の供給は,エンジンを運転させたままで燃料タンクに自動補給するものである。
また,甲4文献についてみると,同文献にいう「車両の長時間連続運転試験を行うに際して車両の燃料タンクへ燃料を自動補給する装置」は, 「車両」の「原動力となるエンジンを運転させたままで,燃料タンクに自動補給する装置」にほかならないから,同文献にいう「燃料を自動補給する装置」が,燃料自動補給装置であることは,明白である。
そうすると,燃料自動補給装置は,甲3文献のみならず,甲2文献及び甲4文献にも記載されているのであるから,本件特許出願日前の周知技術である。
そして,このような周知の燃料自動補給装置は, 「燃料残量を検出するセンサーが設けられた燃料タンク」「燃料備蓄タンク」及び「自動供給ポンプ機構」の各構成 ,を備えるものであり,当業者は,引用発明の消防用ポンプ装置の連続給水時間を可能な限り長時間にするため,このような周知の燃料自動補給装置の適用を試みるのは当然であるから,本件発明1の構成に容易に想到することができる。
したがって,周知技術についての審決の認定には事実誤認があり,当該事実誤認は,審決の結論に影響を及ぼすものである。
2 取消事由2(相違点3の判断の誤り) (1) 甲2文献について 審決は,甲2文献のエンジン発電装置が大容量送水車輌とは関係のないものであるから,石油コンビナート等の大規模な火災を想定した引用発明において,大量の水を短時間に供給するだけでなく,長時間にわたり給水するためにポンプ車等に燃料を供給することが周知の課題であったとしても,甲2文献に記載された事項を引用発明に適用することが当業者にとって容易とはいえないなどと判断する。
しかしながら,審決の上記の判断は,甲2文献のエンジン発電装置が大容量送水 10 車輌とは関係のないものであるという認定に基づくものであるが,甲2文献の「燃料の供給システム」は,少なくとも液体の「燃料」を燃焼させる「エンジン」を原動力とする装置に適用することができるのであるから(甲2文献【0002】,甲 )2文献の「エンジン発電装置」が, 「エンジン」を原動力とする他の装置と置換可能であることは,当業者にとって容易に理解できる。
しかも,石油コンビナート等の大規模な火災を想定した引用発明において,大量の水を短時間に供給するだけでなく,長時間にわたり給水するためにポンプ車等に燃料を供給することが周知の課題であったのであるから,当業者は,当該周知の課題を解決するために, 「取水ポンプ13」の原動力となる「車輌エンジン26」を備えた引用発明に対し,甲2文献の「燃料の供給システム」を容易に適用することができるといえる。
したがって,相違点3に係る審決の判断には,誤りがある。
(2) 甲3文献について 審決は,引用発明に甲3文献に記載された事項を適用するに当たり,甲3文献のエンジン作業機1内に収容された給油ポンプ42を,敢えてエンジン作業機1の外部に設けて,外部燃料タンク43とエンジン作業機1の間に設ける積極的な動機付けもなく,当業者が適宜採用できる事項ともいえないから,当業者が,引用発明に対し甲3文献に記載された事項を適用して,相違点3に係る構成を容易に想到することができるとはいえないなどと判断する。
しかしながら,甲3文献の「燃料供給装置」を引用発明に適用するに当たり, 「給油ポンプ42」を大容量送水車輌と「外部燃料タンク43」の間に設けることは,単に「給油ポンプ42」を大容量送水車輌に積載しない構成とすることに等しく,当業者が適宜採用し得る設計事項にすぎない。むしろ, 「給油ポンプ42」を大容量送水車輌に積載しない場合には,大容量送水車輌に「給油ポンプ42」を設置するためのスペースを確保する必要がなく,大容量送水車輌の積載重量を考慮する必要がないため, 「給油ポンプ42」を大容量送水車輌に積載しない構成の方が,設計は 11 容易である。
したがって,相違点3に係る審決の判断には,誤りがある。
(3) 甲4文献について 審決は,甲4文献に記載された事項につき,台上試験で車両を用いて長時間連続運転を実施する装置において,台上試験車両の運転を中断することなく車両の燃料タンクに燃料を自動補給するものであり,長時間連続運転試験されるのは,試験車両を駆動するためのエンジンであって,ポンプや発電機の原動力となるエンジンではないから,石油コンビナート等の大規模な火災を想定した引用発明において,大量の水を短時間に供給するだけでなく,長時間にわたり給水するためにポンプ車等に燃料を給油することが周知の課題であったとしても,甲4文献に記載された事項を引用発明に適用することが当業者にとって容易とはいえないと判断する。
しかしながら,審決の上記の判断は,甲4文献において長時間連続運転試験されるのは,試験車両を駆動するためのエンジンであって,ポンプや発電機の原動力となるエンジンではないという認定に基づくものであるが,引用発明において「取水ポンプ13」の原動力となるのは,大容量送水車輌の「車輌エンジン26」であるから,長時間にわたり給水するためにポンプ車等に燃料を供給するという周知の課題を解決するために, 「取水ポンプ13」の原動力となる「車輌エンジン26」を長時間にわたり連続運転させるために,甲4文献の「車両の燃料タンクへ燃料を自動補給する装置」を適用することは,当業者にとって容易である。
したがって,相違点3に係る審決の判断には,誤りがある。
3 取消事由3(本件発明2ないし9の進歩性判断の誤り) 審決は,本件発明2ないし本件発明9は,本件発明1の発明特定事項を全て含み,更に他の発明特定事項を付加したものであるから,本件発明1と同様に,引用発明,甲2文献ないし甲6文献に記載された事項及び甲9文献ないし甲12文献に記載された周知事実に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものではないと判断する。
12 しかしながら,上記1及び2のとおり,本件発明1の発明特定事項は当業者にとって容易想到であり,また,本件発明2ないし本件発明9に付加された他の発明特定事項も当業者にとって容易想到であるから,本件発明2ないし本件発明9についても,特許法29条2項に基づき,進歩性を欠くものとして特許を受けることができない。
したがって,本件発明2ないし9の進歩性に係る審決の判断には,誤りがある。
被告の反論
1 取消事由1(周知技術の認定の誤り) (1) 甲2文献について 原告は,甲2文献は燃料小出槽の油面が低位レベルまで低下したときに燃料を供給する装置であるところ,燃料小出槽からの燃料の供給先であるエンジンは燃料を燃焼させないで蓄えることはなく,これが燃料自動補給装置であることは明らかであるから,燃料自動補給装置が甲2文献に記載されていないとした審決の周知技術に係る認定には誤りがある旨主張する。
しかしながら,エンジンを運転させた結果,燃料小出槽内の燃料が減少したとしても,そのことをもって燃料小出槽へ燃料を補給する際にもエンジンが運転していることにはならず,原告の主張には論理の飛躍がある。かえって,甲2文献においては燃料の自動補給中にエンジンが運転していることについて一切開示も示唆もされていない上,そもそも,甲2文献に記載された装置は,燃料供給時の異常検出装置に関する発明であり,その性質上,エンジン発電装置等の状態が運転中であることを開示も示唆もするものではない。そうすると,甲2文献に記載された装置が燃料自動補給装置であるか明らかでないとした審決の判断に誤りはない。
したがって,原告の主張は,理由がない。
(2) 甲4文献について 原告は,甲4文献の「車両の長時間連続運転試験を行うに際して車両の燃料タン 13 クへ燃料を自動補給する装置」も車両の燃料自動補給装置にほかならないから,燃料自動補給装置が甲4文献に記載されていないとした審決の周知技術に係る認定には誤りがある旨主張する。
しかしながら,甲4文献の装置は,台上試験を実施するための固定化された屋内装置を構成する一部にすぎず,屋外で可動的に配置される送水車輌のエンジンのようなエンジンに対して燃料を自動補給することは全く想定されておらず,そのような構成は一切開示も示唆もされていない。そのため,甲4文献に記載された発明が燃料を補給する対象について,試験車両を駆動するためのエンジンであって,ポンプや発電機の原動力となるエンジンではないとした審決の判断に誤りはない。
したがって,原告の主張は,理由がない。
(3) まとめ 以上によれば,甲2文献及び甲4文献には燃料自動補給装置が一切開示されていないことからすると,燃料自動補給装置に係る技術が周知のものではないとした審決の判断には,誤りはない。
2 取消事由2(相違点3の判断の誤り) (1) 甲2文献について 原告は,甲2文献にいう燃料の供給システムは,少なくとも,液体の燃料を燃焼させるエンジンを原動力とする装置に適用することができ,これを引用発明に適用することは容易であった旨主張する。
しかしながら,エンジンを原動力とする装置は,その規模,駆動力を提供する対象,装置自体の可動性の有無,設置場所の状況,使用する燃料の種類,燃料供給源の一定性等の観点から多種多様であり,甲2文献の装置では,燃料供給源である地下メインタンクは固定され,位置も一定であり,エンジン発電装置が可動的なものであること及び屋外に設置されること並びに燃料移送ポンプを移動することは全く想定されておらず,この旨の開示や示唆も一切ない。そのため,審決も指摘するとおり,甲2文献に記載された発明は,大容量送水車輌とは全く関係のないものであ 14 り,これを引用発明に適用することは極めて困難である。
したがって,相違点3に係る審決の判断には誤りはなく,原告の主張は理由がない。
(2) 甲3文献について 原告は,給油ポンプ42を大容量送水車輌と外部燃料タンク43の間に設けることは,単に給油ポンプ42を大容量送水車輌に積載しない構成とすることに等しく,当業者が適宜採用し得る設計事項にすぎず,むしろ,積載しない方が設計は容易である旨主張する。
しかしながら,審決も指摘するとおり,甲3文献に開示された発明において,給油ポンプ42を敢えてエンジン作業機1の外部に設けて,外部燃料タンク43とエンジン作業機1の間に設ける積極的な動機付けはなく,当業者が適宜採用し得る設計事項とは到底いえない。また,甲3文献に記載された発明において,給油ポンプ42を大容量送水車輌の外に設ける場合には,当然ながら,大容量送水車輌と同ポンプとを燃料ホース等によりつなぐ必要があるほか,燃料残量計センサーからの信号や動力源をポンプに伝えるためのケーブルもつなぐ必要がある。さらに,大容量送水車輌は現場の状況に応じて移動するものであるから,こうしたホースやケーブル等は相当程度の長さを確保しなければならないし,現場での使用に耐え得る相応の耐久性も必要となる。このように,給油ポンプ42を大容量送水車輌の外に設けるためには種々の技術的課題を解決する必要があり,給油ポンプ42を大容量送水車輌に積載しない方が設計は容易であるとの原告の主張の誤りは,明白である。
したがって,相違点3に係る審決の判断には誤りはなく,原告の主張は理由がない。
(3) 甲4文献について 原告は,甲4文献に記載されたエンジンが「車両を駆動するためのエンジン」であることは,同文献の燃料自動補給装置を引用発明に適用することの容易想到性の判断に影響しないと主張する。
15 しかしながら,甲4文献は,台上試験において長時間連続運転を実施する装置において,運転を中断することなく,固定式の試験車両に燃料を自動補給するものであるのに対し,引用発明は,広範囲に移動する可動型の大容量送水車輌の燃料タンクに対して燃料を自動補給するものである。そうすると,固定された対象に対して燃料を供給する場合と可動型の対象に対して燃料を供給する場合では,ポンプの性能や安全対策,外部環境への耐久性において違いが生じることは,明らかであるから,甲4文献に記載された事項を引用発明に適用することは困難である。
したがって,相違点3に係る審決の判断には誤りはなく,原告の主張は理由がない。
3 取消事由3(本件発明2ないし9の進歩性判断の誤り) 本件発明2ないし9は,いずれも本件発明1の発明特定事項を含むものであって,本件発明1は,引用発明及び甲2文献ないし甲4文献に記載された各事項等から当業者が容易に想到することができたものとは認められない。そうすると,本件発明2ないし9についても,当業者が容易に想到することができたものとはいえないから,当業者が本件発明2ないし9を容易に想到することができたものとはいえないとした審決の判断には,誤りはない。
したがって,原告の主張は,本件発明2ないし9に係る個別の主張の当否をいうまでもなく,失当である。
当裁判所の判断
1 認定事実 (1) 本件発明について 本件発明は,次のとおりのものと認められる(甲19)。
ア 本件発明は,大型機器・設備の冷却や,消火活動などに必要な大量の水を川,海,湖沼などの無限水利ポイントから,無人運転で連続して取水及び送水したり,洪水地帯などから大量の水を排出・送水したりすることが可能な大容量送水 16 システムに関するものである(【0001】【0002】。
, ) イ 近年,大型機器・設備の冷却や,消火活動などに必要な大量の水を川,海,湖沼などの無限水利ポイントから所望の地点に送水することが要請される場合があり,そのための送水装置が提案されている(【0003】。このような送水装置 )には,例えば,原子力関係の大型機器・設備の冷却のように冷却を継続することに重要な意味がある場合など,たとえ短時間であっても途切れることなく,長期間にわたって連続的に送水を行うことが要請される場合がある(【0004】 【000 ,5】。また,近年,局地的な非常に強い豪雨などにより,過去に経験したことがな )いような洪水・冠水状態が発生する場合があり,このような場合にも,大量の水の排出・送水を連続的に行うことが要請されている(【0006】。
) しかしながら,従来の送水装置は,これらの要請に十分に対応できるものではなかった(【0006】。
) ウ 本件発明は,上記の事情に鑑みてなされたものであり,大型機器・設備の冷却や,消火活動などに必要な大量の水の連続的送水を可能にする大容量送水システム,特に取水用のポンプを短時間でも途切れることなく継続して稼働させることができる大容量送水システムの提供及びそのシステムを利用した大容量送水方法の提供を目的とするものである(【0008】。
) エ 本件発明1の大容量送水システムによれば,無限水利ポイントなどから取水する取水用水中ポンプを油圧で駆動するディーゼルエンジンへの燃料供給を自動的に行うことができるため,ディーゼルエンジンの燃料がなくなって取水・送水が停止するという事態に陥ることがなく,大型機器・設備の冷却や,消火活動などに必要な大量の水をたとえ短時間でも途切れることなく連続的に送水することができる(【0012】【0013】。
, ) したがって,本件発明1は,例えば,@原子力関係設備の冷却等を連続的に行うために必要な大量の水の連続的な取水・送水,A消火活動を連続的に行うために必要な大量の水の連続的な取水・送水,B洪水・冠水などの災害の発生前後に必要と 17 される,大量の水の緊急かつ連続的な排出及び輸送など,連続した大容量送水が要請される各種の事態に有効に対応できるという効果を奏するものであり,これらは全て,原子力関係設備の安全な稼働運転の実現,大規模な石油コンビナート火災などの効果的な消火,自然災害の未然防止及び自然災害からの早期の復旧回復などを通じて,自然環境の破壊防止及び回復,二酸化炭素の削減などの効果にもつながるものである(【0014】【0015】。
, ) オ 本件発明2ないし本件発明5によれば,本件発明1の効果を一層確実にかつ大きくすることができる大容量送水システムが提供される【0016】。
( ) また,本件発明6ないし本件発明9によれば,本件発明1の効果を一層確実にかつ大きくすることができる大容量送水方法が実現される(【0017】。
) (2) 引用発明について 引用発明の内容は,次のとおりのものと認められる(甲1)。
ア 引用発明は,石油コンビナートなどで大規模なタンク火災が発生したときに,いち早く現場に駆けつけて,泡消火用の大量の水又は海水を短時間に供給できる消防用ポンプに関するものである(【0001】。
) イ 石油コンビナートや化学コンビナートにおける大規模火災を想定して,大容量の消防用ポンプ装置が要望されており,そのための大容量の水源として,不十分な場合が多い既存の消火栓などに代えて大量に存在する海水や湖水の利用が考慮されるが,消防用ポンプ装置の設置位置から取水面(海面)までの距離が長く,吸水高さが大きくなって呼び水が困難になる場合が多いため,消防用ポンプ装置を何段かに直列に接続して中継運転する方法が提案され,これは,火災現場から水源までの距離が長い場合に効果的であった(【0002】。
) しかしながら,消防用ポンプ装置を中継運転する方法は,火災規模が小さい場合は効果的であるが,石油コンビナートなどで大規模なタンク火災が発生したときに,いち早く現場に駆けつけて,例えば,毎分2万リットルといった大量の水を短時間に供給するには適しておらず,また,@消防用ポンプ装置を複数使用して中継送水 18 するための各消防用ポンプ装置の圧力調整を,緊急性を要する火災現場で行うのは困難であり,A大容量の取水を行う場合には,取水口の管理を適切に行わないと空気を吸い込み,又は吸水管内でキャビテーションが発生してインペラーなどが損傷したりするおそれがあるという問題があった(【0003】。
) ウ 引用発明は,上記の事情に鑑みてなされたものであり,取水口から確実に吸水できるとともに,吸水管内でキャビテーションを発生させることなく,大量の水を短時間に供給できる消防用ポンプ装置の提供を目的とするものである(【0003】。
) エ 引用発明は,メインポンプとホースで接続された取水ポンプを水中に投入し,車輌エンジンで取水ポンプのための油圧駆動系を駆動してメインポンプに給水するので,取水ポンプの取水口から確実に吸水できるとともに,吸水管内でキャビテーションを発生させることなく,大量の水を短時間にメインポンプから給水できるという効果を奏するものである(【0008】。
) 2 取消事由1(周知技術の認定の誤り) 審決は,甲3文献に記載されている発明に係る装置(以下「甲3装置」という。)は燃料自動補給装置であると認められるものの,甲2文献に記載されている発明に係る装置(以下「甲2装置」という。)及び甲4文献に記載されている発明に係る装置(以下「甲4装置」という。 はいずれも燃料自動補給装置とは認められないから, )燃料自動補給装置は本件特許の出願時に周知であったということはできないと認定した。これに対し,原告は,甲2装置及び甲4装置についても燃料自動補給装置であると認められるから,審決の上記認定には誤りがあり,燃料自動補給装置は本件特許の出願日前の周知技術であったと主張する。
そこで,甲2装置及び甲4装置が燃料自動補給装置に該当するか否かにつき,以下検討する。なお,甲3装置が燃料自動補給装置であることについては,当事者間に争いがない。
(1) 認定事実 19 ア 甲2装置について 甲2文献によれば,甲2装置は,次のとおりのものと認められる(甲2)。
(ア) 甲2装置は,エンジン発電装置などの燃料の供給システムにおける異常検出装置に関するものである(【0001】。
) (イ) 従来の燃料の供給システムにおける異常検出装置は,当初の状態では,地下に設けられて燃料を保存するメインタンク1から,一定量ずつの燃料が小出しされて燃料小出槽3に供給され,燃料小出槽3の油面5が高位レベル(H)に保たれており,燃料小出槽3からエンジン発電装置に所要量の燃料が供給されている。そして,燃料小出槽3からエンジン発電装置への燃料の供給の結果,燃料小出槽3の油面5が低位レベル(L)まで低下すると,油面レベル検出器8の検出信号が制御器10に入るので,燃料移送ポンプ2が作動し,メインタンク1から燃料小出槽3に燃料が供給される。その結果,燃料小出槽3の油面5が高位レベル(H)になると,油面レベル検出器7の検出信号が制御器10に入るので,燃料移送ポンプ2が停止する(【0002】。
) (ウ) 従来の燃料の供給システムにおける異常検出装置は,@燃料小出槽3の油面5が低位レベル(L)になると燃料移送ポンプ2が作動するので,メインタンク1に燃料がない場合でも燃料移送ポンプ2が作動する,A燃料移送用の配管4が破損していると,燃料移送ポンプ2が作動しても燃料小出槽3が燃料で満たされず,しかも,燃料が地面に漏洩したまま燃料移送ポンプ2が作動し続けるので,メインタンク1から大量の燃料を汲み上げてしまうとともに,漏洩した燃料に引火し 20 て大事故につながるおそれがあるという問題があった(【0003】。
) (エ) 甲2装置は,燃料移送ポンプ2の代わりに,燃料の汲上量が時間に比例する特性を有する容積形の燃料移送ポンプ2Aを備え,制御器10の代わりに制御器12を備えること以外は,従来の燃料の供給システムにおける異常検出装置と同じである(【0005】。
) 甲2装置は,従来の燃料の供給システムにおける異常検出装置と同様に,当初の状態では,所定量の燃料を有する地下のメインタンク1から一定量ずつの燃料が小出しされて燃料小出槽3に供給され,燃料小出槽3の油面5が高位レベル(H)に保たれており,燃料小出槽3からエンジン発電装置に所要量の燃料が供給されている。そして,燃料小出槽3からエンジン発電装置への燃料の供給の結果,燃料小出槽3の油面5が低位レベル(L)まで低下すると,油面レベル検出器8がこれを検出して検出信号を制御器12に送り,制御器12から駆動指令が出て燃料移送ポンプ2Aが駆動され,メインタンク1から燃料小出槽3に燃料が補給される。 【0 (006】) 21 (オ) 通常の状態では,燃料の補給を開始してから標準時間が経過すると(すなわち,容積形の燃料移送ポンプ2Aが標準時間相当量の燃料を汲み上げると) 燃料小出槽3の油面5 ,が高位レベル(H)まで回復するので,油面レベル検出器7がこれを検出して検出信号を制御器12に送り,制御器12から停止指令が出て燃料移送ポンプ2Aが停止する。一方,配管4が破損して燃料が漏洩しているため,燃料小出槽3に燃料が十分に補給されない状態又はメインタンク1に燃料がないといった異常事態が発生した状態では,燃料の補給を開始してから標準時間が経過しても,燃料小出槽3の油面5は高位レベル(H)に到達しない。そこで,標準時間より長い設定時間Tsが経過したにもかかわらず(すなわち,容積形の燃料移送ポンプ2Aが標準時間相当量より多い設定時間Ts相当量の燃料を汲み上げたにもかかわらず),燃料小出槽3の油面5が高位レベル(H)に到達しないときは,制御器12から警報指令が出てブザー11が警報を発する(【0006】。
) (カ) 甲2装置は,地下に設けられたメインタンク1を備えており,それ自体,移動することは不可能である。また,甲2装置は,エンジン発電装置に燃料を補給するものであるが,エンジン発電装置が移動可能であることは,甲2文献に記 22 載も示唆もされていない上,燃料小出槽3が配管4で移動不可能なメインタンク1と結合されていることからすると,移動するものとは認められない。そうすると,甲2装置は,甲2文献に記載されている従来装置を含め,それ自体が移動可能なものではなく,移動可能な装置に燃料を補給するものでもないものと認められる。
イ 甲4装置について 甲4文献によれば,甲4装置は,次のとおりのものと認められる(甲4)。
(ア) 甲4装置は,台上試験で車両を用いて長時間連続運転を実施する装置において,台上試験車両の運転を中断することなく車両の燃料タンクに燃料を自動補給するものである(1頁左下欄15行ないし2頁左上欄7行)。
(イ) 甲4装置は,燃料タンク1を備え,燃料タンク1の上部又は側部には,燃料タンク1内の燃料2の液位を検知して電気信号に変換するフュエルゲージ3が設けられ,フュエルゲージ3は,燃料タンク1内の燃料2の液位に追随して上下動するフロート3Aとその上下位置を検知して電気信号に変換する検知素子3Bによって構成されている(2頁右上欄9行ないし18行)。そして,同装置は,管路14,15,補給管8及び接続治具9を介して燃料タンク1に接続された外部の大容量タンク13を備えている(2頁左下欄1行ないし17行)。
(ウ) 甲4装置は,燃料タンク1内の燃料が減少してフロート3Aの位置が下がると電磁ポンプ12が動作して,外部の大容量タンク13から燃料が燃料タンク1内に補給されるとともに,これによって燃料タンク1内の燃料の液位が上昇し,ある一定レベルを超えると電磁ポンプ12が解除される(3頁右上欄9行ないし左 23 下欄11行)。
(エ) 甲4装置は,台上試験中の車両に燃料を補給するものであるから,燃料補給の対象が台の上に固定された車両に限られることは明らかであり,また,甲4装置は,台上試験を行う装置の一部として設置されるものと解されるから,それ自体を移動可能にすることが想定されていないことも明らかである。そうすると,甲4装置は,それ自体が移動可能なものではなく,移動可能な装置に燃料を補給するものでもないものと認められる。
(2) 燃料自動補給装置の該当性について ア 甲2装置について (ア) 前記(1)アの認定事実によれば,甲2装置(甲2文献に記載されている従来装置を含む。以下同じ。)は,燃料小出槽3からエンジン発電装置に燃料を供給した結果,燃料小出槽3の油面5が低位レベル(L)まで低下したときは,油面レベル検出器8がこれを検出して,制御器10又は12が燃料移送ポンプ2又は2Aを作動させてメインタンク1から燃料小出槽3に燃料を補給し,その後,燃料小出槽3の油面5が高位レベル(H)まで回復したときは,油面レベル検出器7がこれを検出して制御器10又は12が燃料移送ポンプ2又は2Aを停止させるものと認められる。
上記認定事実によれば,甲2装置の油面5が低位レベル(L)まで低下する原因は,燃料小出槽3からエンジン発電装置に燃料を供給したことにあるから,エンジン発電装置を運転したままの状態であることは明らかである。そして,制御器10又は12が燃料移送ポンプ2又は2Aを作動させてから,燃料小出槽3の油面5が高位レベル(H)まで回復したことを油面レベル検出器7が検出し,制御器10又は12が燃料移送ポンプ2又は2Aを停止させるまでの期間については,上記のとおり運転したままの状態にあるエンジン発電装置を停止させることが甲2文献に記載も示唆もされておらず,しかも,この期間のいずれかの時点でエンジン発電装置を停止させなければならない理由は見当たらないから,エンジン発電装置を運転し 24 たままの状態であると認めるのが相当である。
もっとも,前記(1)ア(カ)の認定事実によれば,甲2装置は,地下に設けられたメインタンク1を備えているため,それ自体が移動可能なものではなく,移動可能な装置に燃料を補給するものでもない。
したがって,甲2装置は,エンジン発電装置を運転させたままで燃料小出槽3に燃料を自動補給する装置であって,それ自体が移動可能なものではなく,移動可能な装置に燃料を補給するものでもないから,固定された燃料自動補給装置(以下「固定式燃料自動補給装置」という。)であると認めるのが相当である。
(イ) 被告は,甲2文献につき,エンジンを運転させた結果,燃料小出槽内の燃料が減少したとしても,そのことをもって燃料小出槽へ燃料を補給する際にもエンジンが運転していることにはならず,しかも,甲2文献は,燃料供給時の異常検出装置に関する発明であり,その性質上,エンジン発電装置等の状態が運転中であることを開示も示唆もするものではないから,甲2装置が燃料自動補給装置であるかどうか明らかでないとした審決の判断に誤りはないと主張する。
しかしながら,上記(ア)のとおり,燃料小出槽3の油面5が低位レベル(L)まで低下するのは,エンジン発電装置を運転したままの状態であるためであることは明らかであって,その後に運転中のエンジン発電装置を停止させることは,甲2文献に記載も示唆もされておらず,その理由も見当たらないのであるから,燃料小出槽3の油面5が高位レベル(H)まで回復して制御器10又は12が燃料移送ポンプ2又は2Aを停止させるまでについても,エンジン発電装置を運転したままの状態であると認めるのが相当である。
したがって,被告の主張は,採用することができない。
イ 甲4装置について (ア) 前記(1)イの認定事実によれば,甲4装置は,台上試験で車両を用いて長時間連続運転を実施する装置において,台上試験車両の運転を中断することなく車両の燃料タンクに燃料を自動補給するものである。そして,証拠(乙1ないし乙 25 3)及び弁論の全趣旨によれば,台上試験とは,台の上に固定した車両の車輪を実際にエンジンで駆動し,車両の走行時の状態を再現して実施する各種試験をいうものと認められることからすると,台上試験において車両の運転を中断することなく車両の燃料タンクに燃料を自動補給することは,車両のエンジンを運転させたままで燃料タンクに燃料を自動補給することを意味することは明らかである。
もっとも,前記(1)イ(エ)の認定事実によれば,甲4装置は,台上試験を行う装置の一部として設置されるものであり,それ自体が移動可能なものではなく,移動可能な装置に燃料を補給するものでもない。
したがって,甲4装置は,車両のエンジンを運転させたままで車両の燃料タンクに燃料を自動補給する装置であって,それ自体が移動可能なものではなく,移動可能な装置に燃料を補給するものでもないから,甲2装置と同様に,固定式燃料自動補給装置であると認めるのが相当である。
(イ) 被告は,甲4装置につき,台上試験を実施するための固定化された屋内装置を構成する一部にすぎず,屋外で可動的に配置される送水車輌のエンジンのように,台上試験の車両以外のエンジンに対して燃料を自動補給することは全く想定されていないため,甲4装置のエンジンはポンプや発電機の原動力となるエンジンとはいえず,燃料自動補給装置ということはできないと主張する。
しかしながら,燃料自動補給装置は,本件においてはポンプや発電機等の原動力となるエンジンを運転させたままで燃料タンクに自動補給する装置と定義されているところ,甲4装置は,台上試験車両以外のエンジンであっても,固定されたエンジンに対しては燃料を自動補給することが想定されているといえるから,甲4装置は,固定式という限度で燃料自動補給装置であると認定するのが相当である。
したがって,被告の主張は,上記認定の限度においては理由がなく,採用することができない。
(3) 燃料自動補給装置の周知性について 上記(2)によれば,甲2装置及び甲4装置は,いずれも固定式燃料自動補給装置で 26 あるということができる。また,甲3文献によれば,甲3装置は,エンジン作業機に燃料を補給するものであるが( 000 【1】, )「外部燃料タンク43」に固定されている上,エンジン作業機として例示された発電機やポンプ(【0002】)は,いずれも移動を目的としたものではなく,しかも,カバーで被装されたものであるから,甲3装置は,固定して設置されているものと認められる。その他に,甲3装置自体が移動可能であること又はエンジン作業機が移動可能であることは,甲3文献に記載も示唆もされていない。そのため,甲3装置についても,固定式燃料自動補給装置であると認めるのが相当である。そうすると,少なくとも固定式燃料自動補給装置は,甲2文献ないし甲4文献のいずれにも開示されていることが認められることからすれば,本件特許の出願前に当業者に周知であったものと認めるのが相当である。
したがって,燃料自動補給装置が本件特許の出願時において周知であったとはいえないとした審決の認定には,固定式燃料自動補給装置について周知であると認定しなかった限度で誤りがある。
(4) 本件発明1の容易想到性について 前記1(2)の認定事実によれば,引用発明は,石油コンビナートなどで大規模なタンク火災が発生したときに,いち早く現場に駆けつけて,泡消火用の大量の水又は海水を短時間に供給できる消防ポンプ装置を提供するものであるから,所定の待機場所からあらかじめ位置を特定することができない火災現場まで相当の距離を迅速に移動することを前提とする装置であることは明らかである。そのため,引用発明に設ける燃料補給手段は,相当の距離を迅速に移動した結果,あらかじめ特定する 27 ことができない場所に存在することになった装置に対して,燃料を補給できるものでなければならない。
しかしながら,前記(3)のとおり,本件特許の出願時に周知であった固定式燃料自動補給装置は,それ自体が移動可能なものではなく,移動可能な装置に燃料を補給するものでもないから,引用発明に対して,燃料を補給することができるものとはいえない。かえって,固定式燃料自動補給装置をそのまま引用発明に適用したとすれば,引用発明に係る消防ポンプ装置は,その位置が燃料自動補給装置に対して固定されてしまうため,所定の待機場所から火災現場まで相当の距離を迅速に移動することができなくなるから,引用発明の技術思想に反することになる。
そうすると,当業者は,引用発明に周知の固定式燃料自動補給装置を適用して,相違点3に係る本件発明の構成を容易に想到することができたものと認めることはできない。
したがって,当業者が,引用発明に周知技術を適用して,本件発明1の相違点3に係る構成を容易に想到することができるとはいえないとした審決の判断は,結論において誤りはない。
3 取消事由2(相違点3の判断の誤り) (1) 相違点3の容易想到性について 前記2(4)のとおり,引用発明は,石油コンビナートなどで大規模なタンク火災が発生したときに,いち早く現場に駆けつけて,泡消火用の大量の水又は海水を短時間に供給できる消防ポンプ装置を提供するものであるから,所定の待機場所からあらかじめ位置を特定することができない火災現場まで相当の距離を迅速に移動することを前提とする装置であることは明らかである。そのため,引用発明に設ける燃料補給手段は,相当の距離を迅速に移動した結果,あらかじめ特定することができない場所に存在することになった装置に対して,燃料を補給できるものでなければならない。
しかしながら,前記2(1)及び(3)のとおり,甲2装置は「メインタンク1」に, 28 甲3装置は「外部燃料タンク43」に,甲4装置は「大容量タンク13」に,それぞれ固定されており,甲2装置ないし甲4装置は,それ自体が移動可能なものではなく,移動可能な装置に燃料を補給するものでもないから,引用発明に対して,燃料を補給することができるものとはいえない。かえって,甲2装置ないし甲4装置をそのまま引用発明に適用したとすれば,引用発明に係る消防ポンプ装置は,その位置が甲2装置ないし甲4装置に対して固定されてしまうため,所定の待機場所から火災現場まで相当の距離を迅速に移動することができなくなるから,引用発明の技術思想に反することになる。
そうすると,当業者は,引用発明に甲2装置ないし甲4装置を適用して,相違点3に係る本件発明の構成を容易に想到することができたものと認めることはできない。
したがって,当業者が,引用発明に甲2装置ないし甲4装置を適用して,本件発明1の相違点3に係る構成を容易に想到することができるとはいえないとした審決の判断には,誤りはない。
(2) 原告の主張について ア 原告は,甲2装置は少なくとも液体の「燃料」を燃焼させる「エンジン」を原動力とする装置に適用することができるため,甲2文献の「エンジン発電装置」が, 「エンジン」を原動力とする他の装置と置換可能であることは,当業者は容易に理解することができるのであり,しかも,石油コンビナート等の大規模な火災を想定した引用発明において,大量の水を短時間に供給するだけでなく,長時間にわたり給水するためにポンプ車等に燃料を供給することが周知の課題であったことを踏まえると,当業者は,当該課題を解決するために, 「取水ポンプ13」の原動力となる「車輌エンジン26」を備えた引用発明に対し,甲2文献の「燃料の供給システム」を容易に適用することができるなどと主張する。
しかしながら,甲2装置は,それ自体が移動可能なものではなく,移動可能な装置に燃料を補給するものでもないから,仮に,甲2文献の「エンジン発電装置」を 29 引用発明に係る消防ポンプ装置に適用したとすると,消防ポンプ装置は, 「エンジン発電装置」に対して固定されてしまい,所定の待機場所から火災現場まで相当の距離を迅速に移動することができなくなるから,引用発明の技術思想に反することになる。
したがって,原告の主張は,採用することができない。
イ 原告は,甲3装置を引用発明に適用するに当たり, 「給油ポンプ42」を大容量送水車輌と「外部燃料タンク43」の間に設けることは,単に「給油ポンプ42」を大容量送水車輌に積載しない構成とすることに等しく,当業者が適宜採用し得る設計事項にすぎず,むしろ, 「給油ポンプ42」を大容量送水車輌に積載しない場合には,大容量送水車輌に「給油ポンプ42」を設置するためのスペースを確保する必要がなく,大容量送水車輌の積載重量を考慮する必要がないため, 「給油ポンプ42」を大容量送水車輌に積載しない構成の方が,設計は容易であるなどと主張する。
しかしながら,甲3装置は,それ自体が移動可能なものではなく,移動可能な装置に燃料を補給するものでもないから,当業者は,相当の距離を迅速に移動する引用発明には甲3装置を適用することができないと理解するのが自然である。そうすると,当業者にとって,そもそも甲3装置において「給油ポンプ42」をエンジン作業機から取り出して,これを同作業機と「外部燃料タンク43」の間に敢えて設けようとする動機付けを認めることができない。
したがって,原告の主張は,採用することができない。
ウ 原告は,引用発明において「取水ポンプ13」の原動力となるのは,大容量送水車輌の「車輌エンジン26」であるから,長時間にわたり給水するためにポンプ車等に燃料を供給するという周知の課題を解決するために,「取水ポンプ13」の原動力となる「車輌エンジン26」を長時間にわたり連続運転させることを目的として,引用発明に対し,甲4装置を適用することは,当業者にとって容易であるなどと主張する。
30 しかしながら,甲4装置は,それ自体が移動可能なものではなく,移動可能な装置に燃料を補給するものでもないから,台上試験で使用される甲4装置を引用発明に係る消防ポンプ装置に適用したとすると,消防ポンプ装置は,台上試験上の甲4装置に対して固定されてしまい,所定の待機場所から火災現場まで相当の距離を迅速に移動することができなくなるから,引用発明の技術思想に反することになる。
したがって,原告の主張は,採用することができない。
(3) 小括 その他の点を含めて改めて十分検討しても,原告の主張は,甲2装置ないし甲4装置が固定式のものであることを正解しないものに帰し,いずれも前記判断を左右するものではない。
したがって,取消事由2には理由がない。
4 まとめ したがって,原告の取消事由1及び2はいずれも理由がないから,取消事由3を判断するまでもなく,審決には結論において取り消すべき違法はない。
結論
以上によれば,原告の取消事由1及び2はいずれも理由がないから,原告の請求を棄却することとして,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 清水節