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関連審決 不服2015-16215
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事件 平成 29年 (行ケ) 10079号 審決取消請求事件

原告X
同訴訟代理人弁理士 龍華明裕 飯山和俊
被告特許庁長官
同 指定代理人松下聡 中村達之 槙原進 長馬望 板谷玲子
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2018/02/28
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
3 この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30日と定める。
事実及び理由
請求
特許庁が不服2015-16215号事件について平成28年12月5日にした審決を取り消す。
事案の概要
本件は,特許出願拒絶査定に対する不服審判請求を不成立とした審決の取消訴訟である。争点は,発明該当性と実施可能要件の有無である。
1 特許庁における手続の経緯 原告は,名称を「空気熱エネルギーを利用して仕事,冷却,および水を出力するための低温状態エンジン」とする発明につき,平成24年(2012年)11月15日を国際出願日として特許出願(請求項の数15)をし(パリ条約による優先権主張 平成23年(2011年)11月16日・ニュージーランド,国際公開番号WO2013/073972。甲1,3),平成27年2月10日,手続補正をした(請求項の数15。甲7。このとき,発明の名称を「空気熱エネルギーを利用して仕事,冷却,および水を出力するための方法および装置」と補正した。)が,平成27年5月8日付けで拒絶査定を受けたので,平成27年9月2日,拒絶査定不服審判請求をする(不服2015-16215号)とともに,手続補正をした(請求項の数15。甲11)。
特許庁は,平成28年12月5日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,その謄本は,同月20日,原告に送達された。
2 本件発明の要旨 平成27年9月2日付けの補正後の本願の特許請求の範囲の請求項1〜15に係る発明(以下,請求項の番号を用いて「本願発明1」〜「本願発明15」といい,これらを総称して「本願発明」という。)は,以下のとおりのものである(甲11)。
【請求項1】 空気熱エネルギーを利用して仕事,冷却,および水を出力するための装置であって,第1サイクルと第2サイクルとを包含し,前記第1サイクルが,気化器と,膨張器と,前記膨張器と前記気化器とを通る巡回路内において極低温作動流体を圧送するように構成された作動流体ポンプとを包含し,前記第2サイクルが,前記気化器と,周囲熱交換器と,前記気化器と前記周囲熱交換器とを通る巡回路内において熱伝達液体を圧送するように構成された循環ポンプとを包含し,前記気化器が,熱 交換器として作用して前記熱伝達液体から前記極低温作動流体へ熱を伝達するように構成され,前記極低温作動流体が前記熱を吸収し,気化して高圧蒸気となり,前記膨張器内で断熱膨張が発生してピストンホイールを推進して回転させ,シャフトの仕事および極低温液体を発生させ,前記周囲熱交換器が,熱交換ユニットとして作用して,外部熱源である周囲空気から前記熱伝達液体へ熱を伝達するとともに冷却能力と凝縮液と乾燥空気とを出力するように構成される,装置。
【請求項2】 前記気化器は,前記高圧蒸気を発生させるために使用され,前記作動流体ポンプと前記膨張器との間に設置され,前記気化器のシェル側が高圧の前記極低温作動流体を流通させて管側が低圧の前記熱伝達液体を流通させる,請求項1に記載の装置。
【請求項3】 前記膨張器は, 前記気化器と前記作動流体ポンプとの間に設置されて前記高圧蒸気を機械的仕事および前記極低温液体に変換し, 前記機械的仕事を出力するシャフトと, 前記シャフトの周りに配置され,複数のピストン室としての巣箱状の室で構成される複数の円環を有し,前記高圧蒸気の前記断熱膨張により回転されるピストンホイールと, 前記複数のピストン室の外周面に配置される帯状シールリングと, 前記複数のピストン室との間に前記帯状シールリングが密着されるように前記ピストンホイールを覆う円筒形ケースと, 前記膨張器の端面に配置されるベアリングおよび端部と, 前記円筒形ケースの外周に設けられ,前記極低温作動流体のための入口および出口を前記円筒形ケースに接面で接続させる複数のベースと, を有し, 前記複数のピストン室の前記複数の円環は,前記複数の円環の一つと前記複数の 円環の他の一つとを接続する直列の接続管により直列接続される,請求項1または2に記載の装置。
【請求項4】 前記ピストンホイールの各ピストン室が開口部を有し,前記帯状シールリングの設置のための溝が設けられ,前記帯状シールリングが,自己シール機能を有するU字形断面の間隙を内周全体に有する,請求項3に記載の装置。
【請求項5】 前記作動流体ポンプが前記膨張器と前記気化器との間に設置され,前記膨張器を出て前記気化器へ再び圧送される前記極低温液体の圧力を上昇させ,前記膨張器,前記作動流体ポンプ,及び前記膨張器と前記作動流体ポンプとの間の接続管の外側はすべて,熱伝達を減少させる少なくとも一つの絶縁層を有する,請求項1から4のいずれか1項に記載の装置。
【請求項6】 自然気体であるN2,空気,CO2が前記第1サイクルの前記極低温作動流体として使用され,前記第2サイクルの前記熱伝達液体として水または低凝固点の不凍液が使用される,請求項1から5のいずれか1項に記載の装置。
【請求項7】 装置を使用して周囲空気の熱エネルギーを変換して機械的仕事,冷却,および水の少なくとも一つを2回のサイクルで出力する方法であって,第1サイクルと第2サイクルとを包含する方法であり,前記第1サイクルにおいて,極低温作動流体が気化器内で高圧蒸気状態まで加熱されてから膨張器に伝達されて断熱膨張し,ピストンホイールを推進して回転させ,シャフトの仕事および極低温液体を出力することで,液化するまで前記高圧蒸気状態の温度を低下させ,結果的に生じる前記極低温液体が次に前記気化器へ再び圧送され,前記第2サイクルにおいて,熱伝達液体が前記気化器から周囲熱交換器へ圧送されて前記周囲空気から熱を受け取って前記周囲空気の温度を低下させるとともに前記熱伝達液体の温度を上昇させ,前記熱伝 達液体が次に,前記気化器へ循環されて前記極低温作動流体へ前記熱を伝達して気化させることにより,前記熱伝達液体の前記温度を低下させる,方法。
【請求項8】 極低温作動流体熱力学的冷却サイクルまたは前記第1サイクルが,接続された三つの熱力学的プロセスである,前記気化器による等圧吸熱(気化)プロセスと,前記膨張器による断熱膨張(仕事)プロセスと,作動流体ポンプによる等エントロピー圧縮プロセス(圧力上昇)とから成る,請求項7に記載の方法。
【請求項9】 使用される技術が作動流体気体液体相変化サイクルであり,気体状の前記作動流体の液化温度(T2)と高い膨張比(前記極低温作動流体がN2の場合,P1:P2=120-150,ここでP1およびP2は,それぞれ,前記断熱膨張の前および前記断熱膨張の後における前記作動流体の圧力を示す)とにしたがって前記第1サイクルの一次圧力パラメータ(P1)が設定される,請求項7または8に記載の方法。
【請求項10】 前記第2サイクルの循環する前記熱伝達液体の流量を調節することにより前記周囲熱交換器の作動温度が達成される,請求項7から9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】 車両,船舶,航空機,および様々な機械に動力供給するのに直接使用されうるか,電気または熱エネルギーに変換されうる前記機械的仕事を前記膨張器が出力し,散逸効果のため大気への排熱となり,前記排熱が再使用されて熱エネルギーの再循環を実現する,請求項7から10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】 前記膨張器が前記極低温液体を出力し,出力された前記極低温液体に対して熱交換を行うことにより,極低温冷却能力の別々の段階を利用した空調用,保管用,冷却用,冷凍用,極低温使用用,または空気液化用の冷却機械が製作される,請求項 7から11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】 前記周囲熱交換器が,収集されて高品質の真水として精製される大量の凝縮液を発生させることにより,前記装置が空気から水を生成するデバイスとなり,生成された前記真水が使用後に環境へ放出されてから大気中へ気化して,有益な水循環を創出する,請求項7から12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】 用途に応じ,前記装置のサイズが要件にしたがって設計され,可搬式発電機,大規模発電所となるように製造されるか,電力,冷却および空調,そして水を供給するため各家庭に装備される発電機となるように製造されうる,請求項7から13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】 前記装置が水域である河川,湖沼,海洋で熱エネルギーを使用して仕事を行うことができ,船舶および潜水艦を駆動する動力デバイスに製作されうる,請求項7から14のいずれか1項に記載の方法。
3 審決の理由の要点 (1) 発明該当性 本願発明1〜7のピストンホイールの作動流体入口ポート(23)から,定容積であるピストン室(31)に封入された高圧蒸気は,ピストンホイールの作動流体出口ポート(24)まで,定容積のままで順次運ばれるのみであって,個々のピストン室(31)内において断熱膨張を行うことはできないから,気化器内で加熱されて高圧蒸気となった極低温作動液体がピストンホイール内で断熱膨張し,その温度を低下させることにより液化することや,定容積のピストン室(31)に封入されて密閉状態となった高圧蒸気が機械的仕事をすることはできない。
したがって,本願発明1〜7によっては,本件の課題を解決することができないことは明らかであって,請求項1を直接的又は間接的に引用する請求項2〜6,請 求項7を引用する請求項8〜15においても同様のことがいえるから,本願発明は,「産業上利用することができる発明」(特許法29条1項柱書)に該当しない。
(2) 実施可能要件 前記(1)のとおりであって,平成27年9月2日付け補正後の明細書及び図面(以下,併せて「本件明細書」という。)におけるピストンホイールにおいて,どのような機序によって,気化器内で加熱されて高圧蒸気となった極低温作動液体がピストンホイール内で断熱膨張し,その温度を低下させることにより液化するのか不明である。
ピストンホイールの作動流体入口(23)及び作動流体出口(24)に相対する位置において開口するピストン室(31)のみは,それぞれ,わずかに高圧蒸気の封入及び放出により動力を発生すると考えられるが,作動流体入口(23)と作動流体出口(24)との間に位置する大多数の定容積のピストン室(31)において,ピストン室(31)に封入されて密閉状態となった高圧蒸気は,定容積のままで順次運ばれるのみであり,技術常識からみて,ピストン室(31)内の壁全体に等しく力を及ぼすものであって,その容積が変化するものではないから,ピストンホイールを推進して回転させる機械的仕事を供給することはできないと認められる。
そうすると,ピストンホイールのシールリンクとケーシング間の摩擦に打ち勝ち,発電機を回転させるために十分な機械的仕事を,どのようにピストンホイールから得るのか,本件明細書の記載において不明である。
仮に,本件明細書に記載された実施例において,動作の初期段階において気化器(1)に液体状態の第1流体(例えば液体窒素)が注入された後,気化器(1)において気化して膨張した第1流体がピストンホイールを推進して回転することができたとしても,作動流体入口(23)と作動流体出口(24)との間に位置する大多数の定容積のピストン室(31)において,ピストン室(31)に封入されて密閉状態となった高圧蒸気は,定容積のままで順次運ばれるのみであり,個々のピストン室(31)内において断熱膨張を行うことはできないから,ピストンホイール においては第1流体は液化せず,ピストンホイールの作動流体出口ポート(24)からは気化したままの第1流体が得られる状態となる。
そうすると,気化器(1)に注入した液体状態の第1流体が残留している限りにおいては,気化して膨張した第1流体がピストンホイールを推進して回転させるが,気化器(1)に注入した第1流体が全て気化した時点で,第1サイクルはほぼ平衡状態となって,第1流体がピストンホイールを推進して回転させることはできないと認められる。
したがって,本願発明は,発明の詳細な説明の記載が,当業者が発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものではないから,実施可能要件(特許法36条4項1号)を満たしていない。
原告主張の審決取消事由
1 発明該当性の判断の誤り (1) ピストンホイールの動作原理 ア 熱力学的解析 本願発明におけるピストンホイール膨張器の動作原理は,周囲とエネルギー及び物質を交換する系として解析され得る。
高圧気体が入口を通って入り,ピストンホイールを押して1サイクル回転させ,その後,出口からで出るときに,エンタルピー,圧力,温度が変化し,高圧気体の圧力エネルギーがシャフトの仕事出力に変換される。
エネルギー保存の法則によると,高圧気体が仕事をした後の圧力低下及びエネルギー消費は,内部エネルギーの変換によって補償され,内部エネルギーの減少は,これに比例した温度の低下をもたらす。
これが,高圧気体が断熱膨張して機械的仕事を供給し,圧力低下及び温度低下するプロセスである。
イ 流体力学的解析 (ア) 入口領域 高圧気体が入口を通ってピストン室に入るとき,高圧気体がもたらすエネルギーはエンタルピーであるから,高圧気体によって系にもたらされるエネルギーは,熱容量,動圧エネルギー,静圧エネルギーに区別され得る。
本願発明のピストンホイール膨張器のピストンホイールに入った高圧気体から変換される機械的仕事は,主に入口領域における動圧エネルギーによるものであるが,エネルギー変換における静圧エネルギーによる割合は,取るに足りないほどとはいえないものと見積もられる。
エネルギー変換に関与する多くの変数,複雑さ及び様々な計算のために,この二つのタイプのエネルギーの割合を決定することは困難であり,正確な結果は,試作品を用いた試験から導出する必要がある, (イ) ピストン室領域 高圧気体は,多数の密閉された室によって形成された完全抵抗路チャネルに入る。
動圧の仕事の方向は,ピストン室の前側の壁に向かう方向であり,主たるエネルギー変換として働く。静圧は,ほとんど何のエネルギー変換も経ない。しかしながら,高圧気体の動圧エネルギーと静圧エネルギーは,エネルギー保存の法則に従って,いかなるときにも互いに変換し合うことができる。
動圧エネルギーが機械的仕事に代わると,エネルギーは低下する。それに応じて,この変換プロセスを継続させるべく,静圧エネルギーが動圧エネルギーに変わる必要がある。これは,静圧エネルギーの低下をもたらし,高圧気体によってもたらされた熱エネルギーが,全圧エネルギーに変わり,その結果,熱エネルギーが消費され,温度が低下し,作動流体が液化温度範囲に到達すると液化する。
高圧気体の圧力エネルギーは,インペラの回転による運動エネルギーよりも大きいので,作動流体がインペラに対して仕事をし,エネルギー変換面は,ピストン室の前側の壁になる。
したがって,ピストン室の後側の壁が作動流体に対してエネルギーを変換し,作動流体が流れるように駆動するという見方は正しくない。
ウ 被告の主張に対する反論 断熱膨張とは,加圧された気体のエネルギーを膨張器によって機械的仕事に変換するとともに,同時に冷却を生成する熱力学的過程のことを指す。
冷却技術が発展するにつれて,体積が大きく膨張しない,定積の動作方法を伴う多くの新たな膨張器が発明された。仕事及び冷却を生成すべく,加圧された気体が使用される場合,「断熱膨張」の概念に当てはまるのであって,「断熱膨張」は,体積の大きな変化を有する膨張を必ずしも指すものではない。
本願発明のピストンホイール膨張器は,定積断熱膨張仕事過程を有し,温度低下は圧力の低下に比例する。本願発明のピストンホイール膨張器は,動作中の良好な密閉を伴う,多数の室を含む。完全に液化し断熱的に膨張すべく,長い移動量を持つ構造上の特性が,大きな膨張比を実現できる。室温(25℃)で気化する液体窒素の物理特性により,最大圧力は75MPaに到達し得る。理想気体の断熱膨張に対する式に従うと,断熱膨張後の設定された最終的な温度は,液化温度範囲のみにまで低下することができる。
試作品を動作させて得られるデータは,完全な液化及び自己持続的サイクルが実現されたことを示している。
エ 小括 前記ア及びイの二つの手法の解析は,ピストンホイール膨張器が断熱膨張を行うことが可能であり,作動流体が液化するまで圧力と温度が下がり得ることを示す。
本願発明は,変換効率を最大化するため,可能な限り大きな入口配管,可能な限り多くのピストン室を使用し,複数のピストンホイール膨張器を直列に接続して,可能な限り大きな仕事量を得るように設計されている。
審決の「加圧状態の気体はピストン室内の壁全体に等しく力を及ぼすものであり,封入された気体がピストン室内で断熱膨張することによってピストンホイールを推進して回転させる機械的仕事を供給することができない」という見解は,真のエネルギー保存の法則から導かれる動的状態にあるピストン室を解析する代わりに,静的状態 にあるピストン室を解析した結果であり,当業者の技術常識に基づく正しい理解とはいえない。
また,定積過程は,外接ギアモータ,スクリュー膨張器のような流体動力機械において広く使用されている熱力学的プロセスであり,審決で述べられているような「定積過程では断熱膨張を生じ得ない」との主張は,当業者の技術常識に基づく正しい理解とはいえない。
(2) 試作品の動作 本発明に係る試作品は,動作している(甲14)。
(3) まとめ 前記(1)のピストンホイールの動作原理の理解及び前記(2)の試作品の動作事実に基づくと,本件明細書の記載から,本件の課題を解決することができるから,審決の発明該当性の判断は誤りである。
2 実施可能要件の判断の誤り 前記1(3)と同様に,本件明細書における発明の詳細な説明の記載は,当業者が発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであって,審決の実施可能要件の判断は誤りである。
被告の主張
1 取消事由1について (1) ピストンホイールの動作原理について ア 本願発明について 本願発明1は,気化器において極低温作動液体が気化して発生した高圧蒸気が,膨張器で断熱膨張してピストンホイールを回転させるとともに極低温液体になり,この極低温液体は作動流体ポンプで加圧されて気化器に送られるための構成を含むものであり(【請求項1】,本件明細書( ) 【0001】〜【0013】 【0016】 ,〜【0033】)によると,膨張器で断熱膨張し,圧力の低下した流体は,再び作動流体ポンプで圧力を上げられるが,膨張器から出力される流体は液体であり,この 液体は気体を比較して昇圧しやすいことから,作動流体ポンプでのエネルギー消費が少ないと当業者は理解する。
したがって,本願発明1は,少ないエネルギー消費により作動流体の昇圧を可能とし,その結果,システム全体としては,大きなエネルギーを取り出せるようにした発明であるといえる。
このような構成を有することにより,本願発明1は,従来成功しなかった大気熱エネルギー(環境熱エネルギー)を仕事の実施又は電気エネルギーの出力に利用することを課題とした発明であるといえる(本件明細書【0002】〜【0004】参照)。
そうすると,本願発明1における膨張器は,@流入した高圧蒸気に断熱膨張を生じさせ,Aこの断熱膨張によりピストンホイールが推進することで回転するとともに,B断熱膨張により高圧蒸気を極低温液体にするものでなければならない。
イ 熱力学的解析について ピストン室(31)は,内部の流体が漏出しないような一定容積の密閉空間を形成するものであって(本件明細書【0057】〜【0065】【図6】【図9】【図 , , ,10】,周囲とは物質を交換するものではないから,とりわけピストン室領域にお )いては,ピストンホイール膨張器が周囲とエネルギー及び物質を交換する系であるとはいえない。
ガスタービンやロータリーエンジンのような膨張行程を伴う熱機関は,膨張行程において,作動流体の容積が変化することにより,外部に対して仕事を行うことは技術常識であり(乙1,2,4),容積が変わらない場合,気体は,外部に対して仕事をしない。
本願発明のピストンホイールのピストン室(31)は密閉されており,一定容積であるところ,一定容積のままでピストンホイールの作動流体が作動流体入口ポートから出口ポートまで順次運ばれる過程において,ピストン室領域で,高圧蒸気が断熱膨張して機械的仕事を供給し,圧力低下とともに温度低下をすることにより, 作動流体が液化温度領域にまで達することはない。
原告の主張は,作動流体の体積変化について考慮することなく,一定容積のピストン室においても断熱膨張が起きることを前提としたものであるから,失当である。
ウ 流体力学的解析について (ア) ピストン室内の作動流体は,一定容積であり,密閉空間であるピストン室とともに単に移動するのみである以上,ピストン室内の壁全体に等しく力を及ぼすと考えるのが自然であるから,「作動流体入口(23)と作動流体出口(24)との間に位置する大多数の定容積のピストン室(31)において,ピストン室(31)に封入されて密閉状態となった高圧蒸気は,定容積のままで順次運ばれるのみであり,技術常識からみて,ピストン室(31)内の壁全体に等しく力を及ぼすものであって,その容積が変化するものではないから,ピストンホイールを推進して回転させる機械的仕事を供給することができない」 (審決7頁11行〜16行)とした審決の判断に,誤りはない。
また,本願発明1における膨張器は,@流入した高圧蒸気に断熱膨張を生じさせ,Aこの断熱膨張によりピストンホイールが推進することで回転するものでなければならないが,本件明細書に膨張器の構成として記載されたピストンホイールは,流入した高圧蒸気に断熱膨張を生じさせるものではなく,その結果,断熱膨張によりピストンホイールが推進することで回転するものでもないから,少なくとも上記@及びAに示す動作を行うことができる膨張器であるとはいえない。
さらに,ピストンホイールが回転して出力を発生するための第1サイクルを構成するには,ピストン室において,断熱膨張により高圧蒸気を極低温液体にするものでなければならないが,一定容積のピストン室において作動流体の断熱膨張は発生しない。
仮に,動作の初期段階において気化器(1)において液体状態の第1流体(作動流体)が注入された後,気化器(1)において気化して膨張した第1流体がピストンホイールをその作動流体入口において推進して回転させることができたとしても, 作動流体入口(23)と作動流体出口(24)との間に位置する大多数の定容積のピストン室(31)において,ピストン室(31)に封入されて密閉状態となった高圧蒸気は,定容積のままで順次運ばれるのみであり,個々のピストン室(31)内においては断熱膨張を行うことができないから,定容積のピストン室においては外部に対する出力は得られないばかりか,第1流体は液化せず,ピストンホイールの作動流体出口ポート(24)からは気化したままの第1流体が得られる状態となると考えられる。
(イ) また,仮にピストンホイールへの作動流体入口及び出口付近において流体の膨張が生じているとしても,本件明細書には,これによって膨張器出口から極低温液体が得られるようにすることが,当業者が実施できる程度に記載されているものではない。
例えば,断熱膨張により流体の温度を300Kから76Kにまで低下させるためには,膨張器において,体積比にして約31倍の膨張を断熱状態で生じさせる必要があるが,本件明細書から,このような膨張が生じる構成を読み取ることはできない。
さらに,膨張器の出口から液体が得られるためには,この液体の凝縮する温度以下であって凝固点温度以上の範囲まで,流体が冷却される必要があるが,本件明細書には,膨張器出口で得られる流体の温度をこの範囲にするための構成が示されていない。
本願発明1は,大気から熱エネルギーを取り出すものであるから,膨張器に入る流体の温度は一定の範囲内で変動するものであって,本件明細書においても-30℃から+35℃(約243Kから約308K),さらには-50℃(約223K)の周囲温度から熱エネルギーを取り出すことが想定されており(本件明細書【0037】,膨張器に入る流体も同程度の温度になっていると考えられるが,このよう )な温度幅がある流体に断熱膨張を生じさせて,温度の高い場合にも低い場合にも流体が液体となる温度にまで確実に低下させるには,流体の温度に応じた調整を行う ことが必要となると考えられる。しかし,このような事項は,本件明細書には記載されていない。
エ 小括 以上のとおり,本件明細書に記載されている一定容積のピストン室を有するピストンホイールを用いた膨張器においては作動流体の断熱膨張は成立しないから,第1流体は液化せず,ピストンホイールの作動流体出口ポート(24)からは気化したままの第1流体が得られる状態となるし,仮に,断熱膨張が生じるとしても,本件明細書には,断熱膨張により高圧蒸気を極低温液体にすることを,当業者が容易に実施し得る程度に記載されているとはいえない。
運転開始段階で手作業で気化器(1)に注入した,作動流体として及び始動動力として作用する液体状態の第1流体が残留している限りにおいては,気化して膨張した第1流体がピストンホイールを,その入口領域において推進して回転させることにより一時的に動力を発生し得るとまでは考えられるが,第1流体はピストンホイールにおいて再び液化することなく気化器に戻ることになるから,気化器(1)に運転初期段階で注入した第1流体がすべて気化した時点で第1サイクルはほぼ平衡状態となってピストンホイールをもはや動かすことはできず,ピストンホイールは一時的に回転することはあっても継続的に回転するとまではいえない。
仮に,本願発明1を実施するに当たって,膨張器の下流側に放熱行程を行わせるための構成を設け,極低温液体を得られるようにしたとすると,この放熱行程では大気温度よりもはるかに低い温度への冷却が必要とされることから,この冷却にエネルギーを要してしまい,本件発明の課題が解決できなくなる。
(2) 試作品の動作について 審決は,本願発明に係る装置において,以下ア,イのとおり,実際に起こり得る動作がどのようなものとなるかについても検討しているから,原告が示した試作品(甲14)が本願発明の装置に等しいことを前提とすれば,審決は,試作品の動作について実質的に判断している。
ア ピストンホイールの定容積であるピストン室内の作動流体は,断熱膨張を行うことができないから,ピストン室内の作動流体が断熱膨張することによって機械的仕事を行うとともに温度を低下させて液化することはない。
イ また,仮に,本件明細書に記載された実施例において,動作の初期段階において気化器(1)に液体状態の第1流体(例えば液体窒素)が注入された(本件明細書【0014】【0020】 , )後,気化器(1)において気化して膨張した第1流体がピストンホイールを推進して回転することができたとしても,気化器(1)に注入した液体状態の第1流体が残留している限りにおいては,気化して膨張した第1流体がピストンホイールを推進して回転させるが,気化器(1)に注入した第1流体が全て気化した時点で,第1サイクルはほぼ平衡状態となって,第1流体がピストンホイールを推進して回転させることはできない。
(3) まとめ 以上によると,本願発明1〜7によっては,本件の課題を解決することができないことは明らかであって,本願発明1を直接的又は間接的に引用する本願発明2〜6,本願発明7を引用する本願発明8〜15においても同様のことがいえるから,本願発明1〜15は,「産業上利用することができる発明」に該当しない。
2 取消事由2について 前記1のとおりであって,本件明細書におけるピストンホイールにおいて,どのような機序によって,気化器内で加熱されて高圧蒸気となった極低温作動液体が定容積のピストン室(31)に封入されて密閉状態となったピストンホイール内で断熱膨張し,その温度を低下させることにより液化するのか,不明であり,本件明細書の発明の詳細な説明の記載は,当業者が本願発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものではない。
当裁判所の判断
1 本願発明について (1) 本願発明は,前記第2の2記載のとおりであるところ,本件明細書(甲1, 3,7)には,本願発明について,次のとおりの記載がある。
「【技術分野】【0001】 本発明は,新エネルギー源の分野に関する。これは,特に「極低温作動流体熱力学的冷却サイクル」「防霜二段階熱交換サイクル」 , ,および他の基本的な方法,並びに「高圧膨張器」および他の主要デバイスを包含する,空気熱エネルギーを簡便且つ効率的に使用して仕事,冷却,および水を出力できるタイプの低温状態エンジンまたは装置である。
【背景技術】【0002】 大気は,かなりの大気熱エネルギーを含む低温蓄熱体である。大気熱エネルギーは主として太陽エネルギーから生じ,そして地熱エネルギーと,人間の様々なエネルギー消費活動(石炭,石油,気体,電気等の使用など)からの排熱の大気への散逸がこれに続く。そのため,大気はほぼ無尽蔵の「エネルギーの海」と言われる。
【0003】 しかし,現在の熱力学的理論,方法,およびデバイスは,このエネルギー貯蔵体からの常に存在するかなりの環境熱エネルギーを仕事の実施または電気エネルギーの出力に利用することができない。従来,仕事の実施および動力の出力に環境熱エネルギーを使用しようとする多くの方法および装置が存在した。しかし,いずれも成功しなかった。今までのところ,本発明と類似の方法および装置は報告されていない。本明細書では,文献,作用,または知識項目について引用または記載される場合には,反対のことがらが明記されない限り,この引用または記載は,文献,作用,または知識項目,あるいはその組み合わせが優先日において公衆に利用可能であるか,周知となっているか,共通の一般知識の一部であった,あるいは本明細書の関連する何らかの問題を解決しようとの試みに関係していることが周知であったことを認めるものではない。
発明の概要】【発明が解決しようとする課題】【0004】 周知の技術の短所および制約のいくつかを克服するか実質的に改善する装置および方法を提供するか,少なくとも公衆に有益な選択を提供することが,本発明の目的である。様々な機能上の必要性のいずれかに適用可能である装置および方法を提供することが,本発明の代替的な目的である。
【課題を解決するための手段】【0005】 したがって,第一の態様において,本発明は,第1サイクルと第2サイクルとを包含する低温状態エンジンまたは装置に存在し,第1サイクルが,気化器と,膨張器と,膨張器と気化器とを通る巡回路で極低温作動流体(第1流体)を圧送するように構成されたポンプとを包含するため,第1流体が膨張器の中で断熱膨張して仕事および極低温液体を出力し,第2サイクルが,気化器と,周囲熱交換器と,気化器と周囲熱交換器とを通る巡回路で熱伝達液体(第2液体)を圧送するように構成された循環ポンプとを包含し,気化器が,熱交換器として作用して第2液体から第1流体へ熱を伝達するように構成され,周囲熱交換器が,熱交換ユニットとして作用して,外部エネルギー源(水または周囲空気など)から第2液体へ熱を伝達するように構成される。
【0006】 第二の態様において,本発明は,周囲空気または水熱エネルギーを変換して機械的仕事,冷却,および/または水を二つのサイクルで出力するのに低温状態エンジンまたは装置を使用する方法に存在し,この方法は,第1サイクルと第2サイクルとを包含し,第1サイクルでは,第1流体が気化器で高圧蒸気状態まで加熱されてから膨張器へ移送されてここで断熱膨張し,仕事および/または極低温液体を出力するのに使用されて,液化するまで蒸気の温度低下を生じさせ,結果的に得られる 極低温液体が次に気化器へ再び圧送され,また第2サイクルでは,第2液体が気化器から周囲熱交換器へ圧送されて周囲空気から熱を受け取り,空気の温度を低下させて冷却能力を出力し,冷却機能を付与する。気温が露点まで低下すると,空気中の水分が凝縮し,これが真水として収集されることで真水を発生させる機能を付与する。同時に,これは乾燥空気を発生させて除湿の機能を付与する。空気熱を吸収した後に第2液体の温度が上昇して温まった液体に変化し,これは気化器へ循環されて第1流体に熱を伝達することで,第2液体の温度が低下して低温液体に変化する。」「【発明の効果】【0008】 a)新たな極低温作動流体熱力学的冷却サイクルを創出する。
b)新たな防霜二段階熱交換サイクルを創出する。
c)自然気体を作動流体として,また水または低凝固点不凍液を熱伝達液体として使用する。
d)流体の圧力エネルギーを機械的仕事またはトルクに,また極低温液体に変換できる新たな高圧膨張器を創出する。
e)膨張器が無段変速機である機械的仕事を出力する。
f)気化器が,極低温および高圧作動条件で作動するように設計される。
g)空気熱エネルギーを使用して機械的仕事と冷却能力と真水とを出力する。
h)発生される冷却能力が優れており,多くの冷却分野で使用されうる。
i)新たな熱エネルギー再循環を創出する。
j)除湿機能を有する。 k)空気中水分から真水を生成する方法を創出する。
l)本発明は,すべての季節にわたって,地上,海中,および空中で使用されうる。
m)本発明は,水熱エネルギーも使用できる。
n)本発明は,巨大産業および密閉熱エネルギー再循環に使用されうる。
o)本発明は,電力,水,冷却,および空調を家庭に提供するのにも使用されうる。
p)エネルギー源および水源の不足と汚染の問題を完全に解決する。」「【発明を実施するための形態】【0012】 図1および2に見られるように,第1サイクルは三つの主要区分,すなわち気化器(1)と,高圧膨張器(4)と,少なくとも一つの高圧作動流体ポンプ(6)とを含む。これらの三つの区分は,図1に示されているように配管(2)により動作接続されている。また図1に見られるように,少なくとも一つのバルブ(3)と保管タンク(7)と温度計(11)と圧力計(12)と安全バルブ(13)と放出バルブ(14)と一方向バルブ(15)と発電機(5)など,他の補助装置が設けられる。膨張器(4)と作動流体ポンプ(6)とその間の配管との表面は,絶縁層(16)によりコーティングされる。
【0013】 第2サイクルは,図1に示されているように配管(2)により一緒に動作接続される循環ポンプ(8)と周囲熱交換器(9)と気化器(1)とを主として含む。この第2サイクルの一次的な目的は,周囲熱交換器での霜形成という難題を克服することである。第2サイクルの二次的な目的は,冷却と除湿と水生成能力とを含む。
【0014】 二つのサイクル,すなわち第1サイクルおよび第2サイクルは,気化器(1)を通して一緒に結合されて低温状態エンジンまたは装置を形成する。気化器(1)は,液体窒素,液体空気,または液体二酸化炭素(CO 2)等のような極低温作動流体または第1流体を含有する。液体状態の第1流体または高圧気体は,気化器(1)のポート(14)から第1サイクルへ手作業で注入されて,作動流体および始動動力として作用する。同時に,熱伝達液体または第2液体も,第2サイクルへ手作業で注入される。
【0015】 第1サイクルプロセスは,接続された以下の三つの熱力学的プロセス(図2参照)から成る。
【0016】 IV‐V;等圧吸熱(気化)プロセス: これは,気化器の中で周囲熱エネルギーを高圧蒸気に変換する。気化器の第1流体は第2サイクルの第2液体との熱交換を実行して,第2液体の熱エネルギーを吸収する。これは第1サイクルの熱入力である。
( 温度差により自然発生的に発生する。
そのため熱伝達は仕事を消費しない。)次に,第1流体が気化して蒸気となり,その温度が周囲温度(例えばT1=300k)の付近まで上昇し,その圧力は設定最大作動圧力(例えばP1=12Mpa)まで上昇する。この高圧蒸気は,保管タンクとバルブ(3)までの配管をも満たす。
【0017】 I‐II;断熱膨張(仕事実施)プロセス: これは,膨張器内の高圧蒸気を機械的仕事および/または極低温液体に変換する。
気化器および保管タンクの内側の高圧蒸気(一次状態パラメータ:T 1=300k,P1=12Mpa) 配管を通って高圧膨張器へ流入してピストンホイールを推進 は,して回転させ,機械的仕事および極低温液体を出力する。ここで断熱エンタルピー低下が発生し,その温度低下はその圧力降下に正比例する。蒸気の液化範囲(例えばN2,P2=0.1Mpa,T2=63K〜76K)まで温度が低下すると,気体/液体相変化が発生する。膨張器を出る液体状態作動流体は極低温液体を有するため,膨張器は機械的仕事を出力しながら優れた冷却能力も出力する。
【0018】 II‐III;等エントロピー圧縮(圧力上昇)プロセス: このプロセスは,高圧作動流体ポンプの中で発生して仕事を消費する。第1流体の圧力を上昇させてこれを気化器へ圧送する。第1流体は,配管を通じて高圧作動 流体ポンプに流入する。第1流体は次に気化器へ圧送され,再び等圧吸熱プロセスを受けて気化し高圧蒸気となる。高圧作動流体ポンプはエネルギーを消費して仕事を行う。しかし,液体状態作動流体はほぼ非圧縮性であり,圧力が上昇しやすい。
作動流体ポンプはエネルギーを消費するが,膨張器により出力される仕事の5%に過ぎないと計算される。プロセス全体が繰り返されることで, 「極低温作動流体熱力学的冷却サイクル」(本発明の「第1サイクル」)を形成する。
【0019】 図1および2の左側に見られるように,第2サイクルは防霜二段階熱交換サイクルである。この第2サイクルでは,水であることが好ましく,低凝固点(-50℃)を有する不凍液であるとさらに良い熱伝達液体(第2液体)が,循環ポンプによって循環される。第2液体は第1流体に熱を与える。第2液体の温度は,決定された温度(-20℃)まで低下する。低温の第2液体は空気熱交換器へ流入して空気と熱を交換する。この交換の後に,空気温度は約-20℃まで低下する。この時,空気熱交換器により放出される低温空気は優れた冷却能力を提供し,様々な冷却分野に使用されうる。空気温度が露点まで低下すると,凝縮が発生し,凝縮液が収集されて真水として精製されうる。第2液体が周囲空気熱を吸収すると,その温度は周囲温度(例えば25℃)まで上昇する。この液体は気化器へ流入して熱交換を再び実行し,第1サイクルで熱エネルギーが第1流体へ(第1サイクルの熱入力として)伝達される。それから第2液体がもう一度低温液体となる。このプロセスが繰り返され,第2サイクルを包含する。
【0020】 上で説明されたように,二つのサイクル,すなわち第1サイクルと第2サイクルとは気化器(1)を通して一緒に結合されて, 「防霜二段階サイクル熱力学的冷却システム」,あるいは「低温状態エンジン」または「装置」を形成する。液体状態の極低温作動流体(第1流体)または高圧気体が,気化器(1)のポート(14)から第1サイクル(1)へ手作業で注入されて,作動流体および始動動力として作用す る。同時に,熱伝達流体(第2液体)も第2サイクルへ手作業で注入される。動作安全性のため,使用される第1流体の量は,気化器(1)と保管タンク(7)とバルブ(3)までの配管(2)とを包含する総気化量と,気化温度(熱源の温度)とにより決定されるべきであるため,第1流体が完全に気化および膨張した場合でも,第1サイクルシステムの最大作動圧力にまでしか到達しない。高圧気体が気化器(1)を通して第1サイクルシステムへ注入される場合であっても,依然として第1サイクルシステムの最大作動圧力にまでしか到達しない。第1サイクルシステムに漏出が見られないと仮定すると,最初の第1流体(注入された極低温作動流体または高圧気体)は常に, (冷却剤が冷却機械に長時間残るのと同じように)第1サイクルシステムに残り,これはバルブ(3)を開放して動作を開始することと,バルブ(3)を閉鎖して装置を停止させることに使用されうる。バルブ(3)の開度は第1流体の流動を直接制御することにより,膨張器(4)の回転速度およびシャフトトルクを直接制御する。こうして,無段変速機となり,ギヤボックスの必要がない。
【0023】 本発明では,膨張器(4)から出力される機械的仕事は高品質エネルギーであり,車両,船舶,航空機,および他の動力機械に動力を供給するのに直接使用され,電気エネルギー,熱エネルギー,または他の使用のための形のエネルギーに変換されうる。散逸効果のため,機械エネルギー,電気エネルギー,熱エネルギー等のような異なるタイプのエネルギーはすべて,使用された後に「排熱」として大気に散逸される。大気熱エネルギーが本発明により回収および使用され,そのため,熱エネルギーの上昇または低下を伴うことなくバランス熱エネルギーを維持する「熱エネルギー再循環方法」を実現する。これは,自由で達成容易な無尽蔵の環境保護エネルギーという新時代を切り拓く。
【0024】 断熱膨張の後,膨張器(4)により生成される液体状態作動流体は極低温であるため,対応する熱交換技術およびデバイスが適用されて, 「別々の段階での冷却能力 の使用」 (例えば,21℃〜25℃での空調,8℃での保管,4℃での冷却,-4℃〜-80℃での冷凍,-120℃〜160℃での極低温使用,-186℃〜-210℃での空気液化等)が得られる。
【0025】 自然発生する気体(窒素および空気など)が作動流体として選択されるので,使用中に発生する漏出は汚染を生じない。そのため,現在の冷却剤が環境に与える有害な作用が解消される。これは事実上,環境保護的な自由冷却技術という新時代を切り拓く。
【0028】 例1:作動流体としての窒素の使用 窒素は,作動流体(図1,2,3参照)として使用されうる。窒素の熱力学的特性表によれば,液化温度範囲について:63.151K〜77.335K 臨界点では:T=126.19K,P=3.3978MPa 点Iでは:T1=300K,P1=12Mpa,h1=291.94Kj/Kg,ρ1=122.88kg/m3 点IIでは:T2=76K,P2=0.1Mpa,h2=-124.86Kj/Kg,ρ2=812.88kg/m3 点IIIでは:T3=82K,P3=12Mpa,h3=-105.82kj/kg,ρ3=810.9kg/m3 点IVでは:熱的特性は点IIIとほぼ等しい。
点Vでは:熱的特性は点Iとほぼ等しい。上記において,T=温度,P=圧力,h=比エンタルピー,ρ=密度。
【0029】 図3は,上記データのグラフ表示である。
【0030】 熱伝達液体(第2液体)は,第2サイクルシステムへ手作業で注入される。同時 に,計算量の液体窒素がポート(14)で気化器(1)から第1サイクルシステムへ注入された後に,液体窒素は,ほぼ周囲温度T1=300Kにおいて気化器(1)で熱を吸収し,次に気化し,P1=12Mpaで膨張して高圧蒸気となる。この高圧蒸気も,保管タンク(7)とバルブ(3)までの配管(2)とを満たす。高圧蒸気は次に,配管(2)に沿ってバルブ(3)を通り高圧膨張器(4)まで流動し,ここで断熱膨張を受け,ピストンホイールを推進して回転させ,シャフトの仕事を出力する。その後,高圧蒸気の圧力が0.1Mp(P2)まで低下するとともに蒸気の温度は比例して76K(T2)まで低下し,これは窒素の液化温度範囲(63.151K〜77.335K)に含まれる。窒素蒸気は液化して極低温液体窒素を形成する。
【0052】 図4から図11に示されたピストンホイール膨張器は,上述した高圧膨張器(4)の一実施形態である。
【0053】 図4から図11は,膨張器の様々な構成要素を示す。膨張器(4)は,外側円筒形ケーシング(17)と,端部(18)と,U字形断面を有するガスケットリング(19)と,ピストンホイール(20)と,帯状シールリング(21,21′)と,シャフト(22)等で構成される。膨張器は,ケーシング(17)の少なくとも一つの作動流体入口(23)および出口(24)と,接続管(25)と,支持体(26)とを含む。作動流体入口(23)および出口(24)はケーシング(17)に接面で接続され,入口(23)および出口(24)のベース(27)の断面積はスラスト面(34)の面積に等しい。ベース(27)にこのように広い断面積を有すると,作動流体がより効果的に出入することが可能となるとともに, 「始動スラストが向上する」。図4および6に示されているように,膨張器(4)の各端部(18)はベアリング(28)およびボルト孔(29)と端部(18)の凸状ベース構造(30)とを有する。端部(18)の凸状ベース構造(30)は,図6に,より明白に 見られる。組立中に,凸状ベース構造(30)は, 「安定的配置」のためケーシング(17)の端部に埋め込まれて「高精度の同心度を保証するためシールされる」。組立中に,ピストンホイール(20)の2つの側面と,膨張器(4)の2つの端部(18)のそれぞれの内部面との間の間隙は,U字形断面を有するガスケットリング(65)でシールされる。ガスケットリング(65)の構造は,図11(a)および(b)に,明白に見られる。
【0054】 ここで,ピストンホイール(図5)を詳細に説明する。図5および6に見られるように,ピストンホイール(20)の外周面は,複数のピストン室(31)からなる3つの円環を有する。しかし,このような円環は,機械本体の小型性の基準と充分な有効排出量とに従って設計されうる。接続管(25)は複数のピストン室(31)からなる3つの円環を直列に接続して, 「高圧膨張器の等圧作動プロセスに充分な有効排出量が得られる」。ピストン室(31)の外周面は,図9および10に示されるような少なくとも一つの帯状シールリング(21,21′)のための,図5および6に見られるようなシールリング溝(33)を有する。
【0055】 全体的な構造強度を保証するため,各単一ピストン室(32)の容積(V)は可能な限り小さくすべきである。すなわち,ピストン室の数量は可能な限り多くすべきで,数量が増加するにつれて各室の容積が比例的に減少する。スラスト面(34)の面積は可能な限り大きくすべきであり,辺の長さ(L)は可能な限り長くする必要がある。
【0057】 図9(a)〜(c)は,各々が方形のスロットまたは孔を有する多数の実質的に方形のシールリンク(35)により形成される第1タイプの帯状シールリング(タイプ1,21)の第1例を示す。シールリンク(35)はジグザグ状に接続されている。ピストン室(31)の外周面は,図5および6に示されているようにシール リング溝(33)を有する。リンク(35)は一つずつ溝(33)に嵌着されて円を形成すべきである。ピストン室(31)の各円環は,多数の成形リンク(35)により形成される帯状シールリング(21)の円形と整合している。図9に示された帯状シールリング(21)の外径(R1)は,図6に示されているように,ケーシング(17)の内径(R2)と実質的に同じである。帯状シールリング(21)の外側は,図6に示されているようにケーシング(17)の内部に密着状態で当接する。同様に,図9に示された帯状シールリング(21)の内径(R3)と図6に示されたピストン室(31)のシールリング溝(33)の周面の直径(R4)とは,実質的に同じである。
【0058】 シールリンク(35)の二つの端部は,ほぞ穴(37) (図5参照)に嵌着することにより帯状シールリング(21)のシールリンク(35)が動作中に外れないことを保証するのに適した固定ほぞ(36)を有する。シールリンク(35)の内側は,図9に見られるように周囲自己シール間隙(38)を有する。
【0059】 図9に見られるように,シールリンク(35)の自己シール間隙(38)の内壁は,若干突出する板ばねまたは薄壁(39,40)である。シールリンクがフープ応力により設置されると,各シールリンク(35)の薄壁(39,40)が,ピストン室(31)のシールリング溝(33)の周面と平らに密着状態で当接する。
【0060】 動作中には,高圧気体が,ピストン室(31)と,帯状リング(21)のシールリンク(35)の各々の自己シール間隙(38)とを充填する。流体圧力を受けて,シールリンク(35)の自己シール間隙(38)の上部,底部,および外側が相互に当接するように押圧されることにより,優れた可撓性自己シールを達成する。
【0061】 シールリンク(35)の外周面(42)は摩擦面である。装置の長期運転の後に, シールリンク(35)の摩擦面(42)に摩耗が生じると,これは構成要素の高精度測定における偏差を招く。このような事例では,自己シール間隙(38)の薄壁(39,40)の弾性と作動流体圧力との二重作用を受けた円形シールリンク(35)または帯状シールリング(21)は,円筒形ケーシング(17)の内壁とピストン室(31)のシールリング溝(33)の周面とに密着して径方向に膨張することにより,優れた弾性/可撓性シールを創出するとともに,摩耗を自動的に補正する。
【0062】 図9(a)に示されているように,シールリンク(35)の二つの端部はほぞ穴(44)とほぞ(43)とにより接続されて帯状シールリングを形成し,ほぞ穴(44)の内部の二つの側の各々に位置する可撓性ばね(45)が設けられ,これは設置後にほぞ(43)を密着状態で押圧する。これは流体圧力を受けて優れた自己シールを有し,ほぞ穴(44)とほぞ(43)との間の間隙からの漏出を解消する。」「【図1】 【図2】【図3】 【図4】【図5】 【図6】【図7】【図8】 【図9(a)】 【図9(b)】 【図9(c)】 」 (2) 前記2の2の認定事実及び前記(1)の本件明細書の記載によると,本願発明について,次のとおり認められる。
本願発明は,新エネルギー源の分野に関するものであり,特に「極低温作動流体熱力学的冷却サイクル」「防霜二段階熱交換サイクル」及び他の基本的な方法並び ,に「高圧膨張器」及び他の主要デバイスを包含する,空気熱エネルギーを簡便かつ効率的に使用して仕事,冷却,及び水を出力できるタイプの低温状態エンジン又は装置に関するものである(【0001】。
) 従来,仕事の実施及び動力の出力に環境熱エネルギーを使用しようとする多くの方法及び装置が存在したが,いずれも成功しなかった(【0003】。
) 本願発明は,周知の技術の短所及び制約のいくつかを克服するか実質的に改善する装置及び方法を提供するか,少なくとも公衆に有益な選択を提供することを目的とし(【0004】,第1サイクルと第2サイクルとを包含するもので,第1サイク )ルが,気化器と,膨張器と,膨張器と気化器とを通る巡回路で極低温作動流体(第1流体)を圧送するように構成されたポンプとを包含するため,第1流体が膨張器の中で断熱膨張して仕事及び極低温液体を出力し,第2サイクルが,気化器と,周囲熱交換器と,気化器と周囲熱交換器とを通る巡回路で熱伝達液体(第2液体)を圧送するように構成された循環ポンプとを包含し,気化器が,熱交換器として作用して第2液体から第1流体へ熱を伝達するように構成され,周囲熱交換器が,熱交換ユニットとして作用して,外部エネルギー源(水又は周囲空気など)から第2液体へ熱を伝達するように構成したものである(【0005】。
) このように構成したことで,新たな極低温作動流体熱力学的冷却サイクル及び防霜二段階熱交換サイクルを創出し,自然気体を作動流体として,水又は低凝固点不凍液を熱伝達液体として使用し,流体の圧力エネルギーを,機械的仕事又はトルクに,また極低温液体に変換できる新たな高圧膨張器を創出し,膨張器が無段変速機である機械的仕事を出力し,気化器が,極低温及び高圧作動条件で作動するように設計され,発生される冷却能力が優れており,多くの冷却分野で使用され得る,新たな熱エネルギー再循環を創出するものである(【0008】。
) 2 取消事由1(発明該当性の有無)について (1) ピストンホイールの動作原理について ア 前記第2の2の認定事実及び前記(1)の本件明細書の記載によると,本願発明1において, 「第1サイクル」は,気化器,膨張器,膨張器と気化器とを通る巡回路において極低温作動流体を圧送するように構成されたポンプとを包含するものであり,極低温作動流体が,気化器において第2サイクルの熱伝達液体から熱を吸収し,気化して高圧蒸気となり,膨張器内で断熱膨張が発生してピストンホイールを推進して回転させ,シャフトの仕事及び極低温液体を発生させるとされている。
また,本願発明7において, 「第1サイクル」では,極低温作動流体が気化器内で高圧蒸気状態まで加熱されてから膨張器に伝達されて断熱膨張し,ピストンホイールを推進して回転させ,シャフトの仕事及び極低温液体を出力することで,液化するまで高圧蒸気状態の温度を低下させるとされている。
イ 本件明細書(【0052】〜【0055】【0057】〜【0062】 , ,【図4】〜【図9】)によると,本願発明1及び7における膨張器のピストンホイールは,複数のピストン室(31)が周方向に並んだ三つの円環部からなり,個々の円環部において,外周方向に向いた開口部がケーシング(17)によって覆われた,ほぼ定容積の独立した空間であるピストン室(31)がシャフト(22)を中心として周方向に並ぶという構成を備えたものである。
そして,動作中には,作動流体入口(23)からピストンホイール膨張器に入った「高圧気体が,ピストン室(31)と,帯状リング(21)のシールリンク(35)の各々の自己シール間隙(38)とを充?する。流体圧力を受けて,シールリンク(35)の自己シール間隙(38)の上部,底部,および外側が相互に当接するように押圧されることにより,優れた可撓性自己シールを達成する。( 」【0060】)とされているところ, 【図7】及び【図8】によると,作動流体入口(23)からこれに接続しているピストンホイールのピストン室(31)に入った作動流体(気体)は,当該ピストン室がシャフト(22)を中心に反時計回りに回転するに伴って移動し,作動流体出口(24)に接続しているピストン室から作動流体出口を通って,ピストンホイール膨張器から出るものと解される。この間において,作動流体(気体)は,ピストンホイール膨張器のピストンホイールの作動流体入口(23)からこれに相対する位置において開口するピストン室(31)に入り,封入されるので,この段階においては,その圧力が変化する可能性がある。また,作動流体出口(24)に相対する位置において開口するピストン室(31)から出て,放出されることになれば,その段階で,その圧力が変化する可能性もある。しかし,それ以外の段階,すなわち,個々のピストン室に封入された後ピストン室の回転に伴い,運ば れている段階においては,作動流体の容積が変動する機序がない。ピストン室(31)は,個々のピストン室としても,ピストン室全体としても,動作中に容積を変えるわけではなく,定容積であり,作動流体入口(23)から,一旦個々のピストン室の一つに封入された後は,作動流体出口(24)に至るまで,定容積のままで運ばれるのみであって,その容積は変化しない。この段階における作動流体は,前記1(2)記載の本願発明の構成からすると,本願発明において,ピストンホイール膨脹器は断熱状態であることが前提となっているから,容積の変動がなければ,温度及び圧力に変化は生じない。したがって,技術常識からみて,ピストン室内部では,ピストン室(31)壁全体に等しく圧力を及ぼしているだけであり,ピストンホイールを推進して回転させる機械的仕事を供給することはできない。前記の作動流体が作動流体入口(23)からピストンホイール膨張器に入る段階及び作動流体出口(24)から出る段階の容積変化のみによって,ピストンホイールのシールリンクとケーシング間の摩擦に打ち勝ち,更に,仕事を出力することができることを認めるに足りる証拠はなく,また,高圧蒸気の温度を低下させ,それを液化させることができることを認めるに足りる証拠もない。
ウ 以上のとおり,本願発明1又は7によって,極低温作動流体(又はそれが気化した高圧蒸気)が,膨張器内で断熱膨張してピストンホイールを推進して回転させ,シャフトの仕事を出力し,そのことにより,液化するまで高圧蒸気状態の温度を低下させ,極低温作動流体を出力することができるとは考えられない。
このことは,請求項1を直接的又は間接的に引用する請求項2〜6に係る発明,請求項7を引用する請求項8〜15に係る発明においても,同様である。
したがって,本願発明1〜15は,いずれも「産業上利用することができる発明」(特許法29条1項柱書)に該当しない。
(2) 試作品の動作について ア 甲14は,原告代理人作成の拒絶理由通知に対する意見書であるところ,これには, 「本発明に従った試作品の写真」として,試作品とされる物件の外観写真 1枚,「これにより得られた技術データ」として,「空気熱交換器の空気流量:2.08m3/s 熱交換温度差:±15℃ 作動流体:N2 気化器の体積:0.07m3 気化温度T1:293K 気化圧力P1:12Mpa 膨張比:P1:P2=120 P1=12Mpa,P2=0.1Mpa,T1=293K,T2=76K エンタルピー:291Kj/Kg 作動流体流量:0.0945Kg/s 出力の膨張レート:22Kw 回転速度:1500rpm 発電機レート:20Kw/240V ケトルのヒータ:20Kw」と記載されているものの,試作品とされる物件の構成については,前記写真1枚が存在するだけであり,その内部構造が本件発明の実施品と評価できるものであることを裏付けるに足りる記載はなく,他にこれを裏付けるに足りる証拠はない。
また,甲14には,前記の「これにより得られた技術データ」の原資料は添付されていないし,この数値がどのような計測方法により計測されたのかについての説明も記載されていない。
少なくとも,試作品が,本願発明を実施したものであることを裏付けるためには,液体窒素等の作動流体を投入した初期ではなく,本願発明における第1サイクルが定常状態にあるときの膨張器の入口及び出口における作動流体の温度及び圧力,並びに,気化器入口側の温度及び圧力の実測値が必要であるところ,前記の「これにより得られた技術データ」中にこれらの値が含まれているとは認められない。
そうすると,甲14における試作品が本願発明を実施したものであると判断すること自体が困難である。
イ 仮に,甲14の試作品が本願発明の実施品と評価できる構成を備えたものであり,前記の「これにより得られた技術データ」が,その動作中に得られたとしても,それのみをもって,本願発明が「産業上利用することができる発明」 (特許法29条1項柱書)に該当するということはできない。
本願発明の第1サイクルにおいて,高圧作動流体ポンプの出力を大きくし,膨張器のピストンホイールのピストン室と作動流体入口の構成を,前記ポンプにより作動流体に加えられる運動エネルギーにより,ピストンホイールが回転するように調整すれば,前記第1サイクル内の作動流体を一定の速度でピストンホイールのピストン室を経て循環させることは可能であると考えられる。
また,本件明細書【0014】【0020】には,動作の初期段階において,液 ,体窒素等のような液体状態の第 1 流体又は高圧気体が,気化器(1)のポート(14)から第1サイクルに注入される旨記載されているところ,このような実施例において,第1サイクルの動作の初期段階において気化器(1)に液体状態の第1流体が注入された後,気化器(1)において気化して膨張した第1流体がピストンホイールを推進して回転させることもあり得ると考えられる。
しかし,作動流体入口(23)と作動流体出口(24)との間に位置する大多数の定容積のピストン室(31)において,ピストン室(31)に封入されて密閉状態となった高圧蒸気は,定容積のまま運ばれるのみであり,断熱膨張により仕事が行われると考えられないことは,前記(1)イのとおりであるから,最初に気化器(1)に注入された第1流体が全て気化すると,その時点で,第1サイクルはほぼ平衡状態となり,気化した第 1 流体をポンプの動力により循環させることにより,ピストンホイールが回転することはあっても,第1流体が気化して膨張することによりピストンホイールを推進して回転することはなくなるものと考えられる。
したがって,甲14の試作品が本願発明の実施品と評価できる構成を備えたもの であり,前記の「これにより得られた技術データ」が,その動作中に得られたとしても,ポンプの動力により作動流体が循環していること等によりピストンホイールが回転しているのか,作動流体の断熱膨張によりピストンホイールが回転しているのかは不明であるといわざるを得ず,本願発明が「産業上利用することができる発明」 (特許法29条1項柱書)に該当することが裏付けられていると評価することはできない。
(3) 原告の主張について ア 原告は,本願発明におけるピストンホイール膨張器の動作原理は,周囲とエネルギー及び物質を交換する系として解析され得るとして,これを前提に,高圧気体によって系にもたらされるエネルギーは,熱容量,動圧エネルギー,静圧エネルギーに区別され得るところ,本願発明のピストンホイール膨張器のピストンホイールに入った高圧気体から変換される機械的仕事は,主に入口領域における動圧エネルギーによるものであるが,高圧気体の動圧エネルギーと静圧エネルギーは,いかなるときにも互いに変換し合うことができるのであって,動圧エネルギーが機械的仕事に変わると,静圧エネルギーが動圧エネルギーに変わり,静圧エネルギーの低下をもたらし,高圧気体によってもたらされた熱エネルギーが,全圧エネルギーに変わり,その結果,熱エネルギーが消費され,温度が低下し,作動流体が液化温度範囲に到達すると液化するところ,高圧気体の圧力エネルギーは,インペラの回転による運動エネルギーよりも大きいので,作動流体がインペラに対して仕事をし,エネルギー変換面は,ピストン室の前側の壁になる旨主張する。
しかし,原告の主張は,本願発明のピストンホイール膨張器又は第1サイクルにおいて,どのような物質が,どこに存在するどのような物質と交換されるのかを明示しておらず,本件明細書の記載によっても,その具体的内容は判然としない。前記1(2)認定の本願発明の構成からすると,本願発明において,ピストンホイール膨張器は,断熱状態を前提としており,周囲とエネルギーを交換しているとも,物質を交換としているとも認められないのであって,原告の主張は,その前提を欠く。
また,既に判示したところに照らすと,原告の主張するところによって,前記(1)の判断が左右されるものではない。
イ 原告は,本願発明のピストンホイール膨張器は,定積断熱膨張仕事過程を有するのであり,理想気体の断熱膨張に対する式に従うと,断熱膨張後の設定された最終的な温度は,液化温度範囲のみにまで低下することができる旨主張する。
しかし,「断熱膨張」とは,「物体が熱の出入りを伴うことなしに体積を増大する現象。ふつうは外へ仕事をして行われるため,温度が変わる。理想気体を準静的に断熱膨張させれば,TVγ-1=定数に従って温度が下がる。Tは絶対温度,Vは体積,γは定圧比熱と定積比熱との比。(岩波理化学辞典第5版823頁)と定義されて 」いる(当裁判所に顕著)のであって,体積の増大を伴う。
「定積断熱膨張」という用語は, 「定積」と「膨張」という互いに整合しない概念を含む概念であり,このような概念の存在自体が証拠により裏付けられているとはいえない。
また,断熱状態において作動流体の容積の変化がないとすると,圧力及び温度に変化が生じ得ないから,作動流体を液化温度範囲に到達させることはできないと考えられ,これに反する証拠はない。
したがって,本願発明の第1サイクルのピストンホイール膨張器において,作動流体の温度及び圧力の変化により,作動流体を液化温度範囲に到達させるとは考えられないから,原告の上記主張は,採用することができない。
(4) 小括 以上によると,取消事由1は理由がない。
3 取消事由2(実施可能要件)について 前記1のとおり,本願発明の第1サイクルのピストンホイール膨張器において,作動流体の温度及び圧力の変化により,仕事を出力し,作動流体を液化温度範囲に到達させることはできないのであって,本件明細書における発明の詳細な説明の記載は,当業者が発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されたものであるということはできない。
したがって,取消事由2は理由がない。
結論
よって,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 森義之
裁判官 永田早苗
裁判官 森岡礼子
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