関連審決 | 無効2015-800183 |
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事件 |
平成
29年
(行ケ)
10055号
審決取消請求事件
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原告株式会社コーワン 同訴訟代理人弁護士 小松陽一郎 同復代理人弁護士 原悠介 同訴訟代理人弁理士 田中幹人 被告株式会社技研製作所 同訴訟代理人弁護士 増井和夫 橋口尚幸 齋藤誠二郎 |
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裁判所 | 知的財産高等裁判所 |
判決言渡日 | 2018/01/22 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
1 原告の請求を棄却する。 2 訴訟費用は,原告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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請求
特許庁が無効2015-800183号事件について平成29年1月24日にした審決を取り消す。 |
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事案の概要
1 特許庁における手続の経緯等 ? 原告は,平成19年2月8日,発明の名称を「オーガ併用鋼矢板圧入工法」とする発明について特許出願をし,平成22年12月24日,設定の登録を受けた(特許第4653127号。甲61。請求項の数4。以下,この特許を「本件特許」という。。 ) (2) 被告は,平成27年9月24日,これに対する無効審判を請求し,無効2015-800183号事件として係属した。原告は,平成28年9月5日,本件特許に係る特許請求の範囲及び明細書の訂正をする旨の訂正請求をした(甲58の1ないし3。以下「本件訂正」という。。 ) (3) 特許庁は,平成29年1月24日,本件訂正を認め,請求項1ないし4に記載された発明に係る特許を無効とする旨の別紙審決書(写し)記載の審決(以下「本件審決」という。)をし,同年2月2日,その謄本が原告に送達された。 (4) 原告は,同年2月25日,本件審決の取消しを求める本件訴訟を提起した。 2 特許請求の範囲の記載 本件訂正後の特許請求の範囲請求項1ないし4の記載は,以下のとおりである。 以下,各請求項に係る発明を「本件発明1」などといい,併せて「本件発明」という。また,その明細書(甲61。ただし,甲58の3による訂正後のもの。)を,図面を含めて「本件明細書」という。なお,文中の「/」は,原文の改行箇所を示す(以下同じ。。 )【請求項1】下方に反力掴み装置を配設して既設の鋼矢板上に定置される台座と,該台座上にスライド自在に配備されたスライドベースの上方にあって縦軸を中心として回動自在に立設されたガイドフレームと,該ガイドフレームに昇降自在に装着されて杭圧入引抜シリンダが取り付けられた昇降体と,昇降体の下方に配備された旋回自在な杭掴み装置を具備し,既設杭上を自走する静荷重型杭圧入引抜機を使用して,オーガによる掘削と杭圧入引抜シリンダを併用して鋼矢板を地盤内に圧入するオーガ併用鋼矢板圧入工法において,/杭掴み装置に鋼矢板を装備することなく,オーガケーシングを挿通してチャックし,圧入する鋼矢板の両端部の圧入位置及び近傍の地盤を,オーガによって相互に一定の間隔を空けて2つ先行掘削し,その後,圧入する鋼矢板とオーガケーシングを一体として,杭掴み装置に挿通してチャックし,オーガによる掘削が前記2つの先行掘削した地盤と連続するとともに,前記2つの先行掘削と併せて鋼矢板を圧入する地盤の全域となるようにオーガによる掘削と鋼矢板の圧入を同時に行うことによって,圧入する鋼矢板の地盤の全域を少ない面積で掘削することを特徴とするオーガ併用鋼矢板圧入工法。 【請求項2】下方に反力掴み装置を配設して既設の鋼矢板上に定置される台座と,該台座上にスライド自在に配備されたスライドベースの上方にあって縦軸を中心として回動自在に立設されたガイドフレームと,該ガイドフレームに昇降自在に装着されて杭圧入引抜シリンダが取り付けられた昇降体と,昇降体の下方に配備された旋回自在な杭掴み装置を具備し,既設杭上を自走する静荷重型杭圧入引抜機を使用して,オーガによる掘削と杭圧入引抜シリンダを併用して,既設の鋼矢板と継手部を相互に噛合させて鋼矢板を地盤内に順次圧入するオーガ併用鋼矢板圧入工法において,/杭掴み装置に鋼矢板を装備することなく,オーガケーシングを挿通してチャックし,圧入する鋼矢板の開放側の継手部の圧入位置及び近傍の地盤を,圧入する鋼矢板の継手部と噛合する既設の鋼矢板の継手部及び近傍の地盤であって,既設の鋼矢板の圧入時に先行掘削された掘削済みの地盤から一定の間隔を空けてオーガによって先行掘削し,その後,圧入する鋼矢板の継手部を既設の鋼矢板と噛合させてオーガケーシングと一体として杭掴み装置に挿通してチャックし,オーガによる掘削が,圧入する鋼矢板と噛合する既設の鋼矢板の継手部及び近傍の掘削済みの地盤と先行掘削した圧入する鋼矢板の開放側の継手部の圧入位置及び近傍の地盤と連続するとともに,前記掘削済みの地盤と先行掘削した地盤と併せて鋼矢板を圧入する地盤の全域となるようにオーガによる掘削と鋼矢板の圧入を同時に行うことによって,圧入する鋼矢板の地盤の全域を少ない面積で掘削し,以後順次この作業を繰り返すことを特徴とするオーガ併用鋼矢板圧入工法。 【請求項3】鋼矢板を圧入をしつつ行うオーガによる掘削を,オーガケーシングの径より,拡径可能な径大のオーガを使用して行う請求項1又は2記載のオーガ併用鋼矢板圧入工法。 【請求項4】鋼矢板を圧入をしつつ行うオーガによる掘削を,オーガケーシングの径より,拡径可能な径大のオーガを使用して行うとともに,オーガの中心位置を,鋼矢板の幅方向に直交する方向の中心線上に配置して掘削する請求項1又は2記載のオーガ併用鋼矢板圧入工法。 3 本件審決の理由の要旨 ? 本件審決の理由は,別紙審決書(写し)記載のとおりである。要するに,本件発明1ないし4は,下記アの引用例1に記載された発明(以下「引用発明1」という。)及び下記イないしキの周知例1ないし6に記載された事項に基づき,当業者が容易に想到することができた,というものである。 ア 引用例1:「硬質地盤対応広幅型鋼矢板圧入機 TILT PILER CRUSHチルトパイラークラッシュWP100AC」との名称が付されたCD-ROM(以下,このCD-ROMを「甲1媒体」という。)に収録された動画(動画の最終更新日は「2006年10月21日 16:34:13」。甲1の1。。 ) イ 周知例1:特開2005-171733号公報(甲2) ウ 周知例2:特開昭49-89307号公報(甲3) エ 周知例3:特開昭49-89308号公報(甲4) オ 周知例4:特開昭50-30314号公報(甲5) カ 周知例5:実願昭62-121324号(実開昭64-28430号)のマイクロフィルム(甲6) キ 周知例6:平成11年度関西支部年次学術講演会講演概要 VI-3-1頁〜VI-3-2頁「硬質地盤での鋼矢板圧入について」 (社団法人土木学会関西支部,平成11年5月22日発行。甲7) ? 本件審決が認定した引用発明1,本件発明1と引用発明1との一致点及び相違点は,次のとおりである。 ア 引用発明1 下方に反力掴み装置を配設して既設の鋼矢板上に定置される台座と,/該台座上にスライド自在に配備されたスライドベースの上方にあって縦軸を中心として回動自在に立設されたガイドフレームと,/該ガイドフレームに昇降自在に装着されて杭圧入引抜シリンダが取り付けられた昇降体と,/昇降体の下方に配備された旋回自在な杭掴み装置/を具備し,既設杭上を自走する静荷重型杭圧入引抜機を使用して,/オーガによる掘削と杭圧入引抜シリンダを併用して鋼矢板を地盤内に圧入するオーガ併用鋼矢板圧入工法において,/杭掴み装置に鋼矢板を装備することなく,オーガケーシングを挿通してチャックし,圧入する鋼矢板の両端部の圧入位置及び近傍の地盤を,オーガによって相互に一定の間隔を空けて2つ先行掘削し,/その後,圧入する鋼矢板とオーガケーシングを一体として,杭掴み装置に挿通してチャックし,オーガによる掘削が前記2つの先行掘削した地盤と連続するとともに,オーガによる掘削と鋼矢板の圧入を同時に行う/オーガ併用鋼矢板圧入工法。 イ 本件発明1と引用発明1との一致点 下方に反力掴み装置を配設して既設の鋼矢板上に定置される台座と,/該台座上にスライド自在に配備されたスライドベースの上方にあって縦軸を中心として回動自在に立設されたガイドフレームと,/該ガイドフレームに昇降自在に装着されて杭圧入引抜シリンダが取り付けられた昇降体と,/昇降体の下方に配備された旋回自在な杭掴み装置/を具備し,既設杭上を自走する静荷重型杭圧入引抜機を使用して,/オーガによる掘削と杭圧入引抜シリンダを併用して鋼矢板を地盤内に圧入するオーガ併用鋼矢板圧入工法において,/杭掴み装置に鋼矢板を装備することなく,オーガケーシングを挿通してチャックし,圧入する鋼矢板の両端部の圧入位置及び近傍の地盤を,オーガによって相互に一定の間隔を空けて2つ先行掘削し,/その後,圧入する鋼矢板とオーガケーシングを一体として,杭掴み装置に挿通してチャックし,オーガによる掘削が前記2つの先行掘削した地盤と連続するとともに,オーガによる掘削と鋼矢板の圧入を同時に行うことを特徴とする/オーガ併用鋼矢板圧入工法。 ウ 本件発明1と引用発明1との相違点(相違点1)「オーガによる掘削と鋼矢板の圧入を同時に行う」 (同時圧入)に関して,本件発明1では, 「オーガによる掘削」が「2つの先行掘削と併せて鋼矢板を圧入する地盤の全域」となるようにすることで「圧入する鋼矢板の地盤の全域を少ない面積で掘削する」のに対し,引用発明1では,オーガの直径(掘削範囲)が特定されておらず「鋼矢板を圧入する地盤の全域」が掘削されているか否か明らかでなく(相違点1-1)「圧入する鋼矢板の地盤の全域を少ない面積で掘削」されたか否かも明らか ,でない(相違点1-2)点。 4 取消事由 (1) 本件発明1の進歩性判断の誤り(取消事由1) ア 引用発明1の公知性の判断の誤り イ 引用発明1の認定の誤り ウ 本件発明1と引用発明1の一致点及び相違点の認定の誤り エ 本件発明1の容易想到性判断の誤り (2) 本件発明2ないし4の進歩性判断の誤り(取消事由2) |
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当事者の主張
1 取消事由1(本件発明1の進歩性判断の誤り)について〔原告の主張〕 (1) 引用発明1の公知性の判断の誤りについて 本件審決は,陳述書(甲10の1・3〜6。以下「本件陳述書」という。)に基づき,引用例1が本件出願前に頒布された刊行物であると認定したが,これらの陳述書には,甲10の6を除き,甲1媒体の配布を受けた時期は開示されていないし,甲10の6の陳述書の作成者は,陳述時に甲1媒体を所持しておらず,引用例1の映像の説明もしていない。 「頒布」とは,一般公衆による閲覧,複写可能な状態におかれたものをいうところ,原告による甲1媒体の配布の対象は,特定の者に限られており, 「多数の土木事業者に配布されたもの」ではない。 したがって,甲1媒体は「頒布された刊行物」ではなく,これに収録された引用例1に記載された引用発明1は,本件出願前に頒布された刊行物に記載された発明ではない。 (2) 引用発明1の認定の誤りについて ア 引用例1には引用発明1の開示がないこと(なお,以下においては,引用例1の映像につき,始点及び終点の秒数を(0:01)などと示す。) 引用例1には, (5:56〜6:06) 「先行削孔オーガ位置」(5:43〜5:4 ,4) 「広幅型鋼矢板施工 Driving 600mm U piles」のキャプション, (5:48〜5:52) 「一般的に広幅型鋼矢板では,先行削孔後,矢板を同時圧入」のキャプション, (5:46〜5:55)地上に露出したオーガヘッドの動画, (5:56〜8:10)鋼矢板の同時圧入時の動画が,それぞれ記載されているところ, 「先行削孔オーガ位置」に関係する動画は(5:43〜5:55)までであり,その他の画像は, 「先行削孔オーガ位置」とは無関係である。そして, (5:43〜5:55)の間の動画には,地上に露出したオーガヘッドは記載されているものの,先行削孔そのものの動画は存在しない。したがって,先行削孔を掘削する場所については何ら開示されておらず,場所を変えて複数の先行削孔をすることについての開示もない。 また,引用例1に開示されているオーガヘッドは,オーガケーシングの外径内に収まる固定径のオーガヘッドのみであり,拡径のための拡縮可能な掘削刃を有していないから,拡径可能なオーガヘッドは使用していない。 イ 本件審決の引用発明1の認定は誤りであること 本件審決は,@引用例1の「先行削孔位置」と題する図(以下「先行削孔位置図」という。)において,「2点鎖線の円で囲まれた部分は,オーガによって先行削孔される範囲を示すものと解することができる。 ,A引用発明1は, 」 「圧入する鋼矢板の両端部の圧入位置及び近傍の地盤をオーガによって相互に一定の間隔を空けて2つ先行掘削され」「その後,鋼矢板と圧入時におけるオーガによる掘削が,前記2つ ,の先行掘削した地盤と連続する」ことを認定した。 しかし,引用例1の先行削孔位置図には, 「先行削孔オーガ位置」と明記されているにもかかわらず,本件審決は「先行削孔される範囲」と認定している。広辞苑第6版によれば, 「位置」とは, 「ある…物…が,他との関係もしくは全体との関係で占める場所」であり, 「範囲」とは, 「一定のきまった広がり」であって,全く異なる概念であるにもかかわらず,本件審決は論理をすり替えている。 また,本件審決は,先行削孔位置図の解釈の根拠として,引用例1の(1:54〜5:43)の動画を挙げているが,この画像は400ピッチの鋼矢板の画像であり,600ピッチの鋼矢板に関する「先行削孔オーガ位置」とは無関係である。 本件審決は,甲1の3・4において,オーガヘッドの種類は限定されていないことを理由に,引用発明1ではオーガヘッドの種類は限定されていないと認定するが,甲1の3・4の記載は,引用例1に記載されている技術内容とは関係しない。前記のとおり,引用例1には,固定径のオーガヘッドしか開示されておらず,オーガヘッドの種類は限定されていないことは,どこにも記載がない。拡径(縮径)可能なオーガヘッドを使用するのは,圧入した鋼矢板の存在が障害となって圧入したオーガヘッドを地盤から引き抜くことができないから,羽根をオーガケーシングの径に収まるように縮径させて引き抜く必要があるためであるが,先行掘削では鋼矢板は存在しないため,わざわざ拡径可能なオーガヘッドを使用する必要はないから,拡径可能なオーガヘッドを使用して先行掘削することに合理性はない。 引用例1には固定径のオーガヘッドしか開示されていない以上, 「2点鎖線の円がオーガケーシング(右端の2点鎖線の内側の実線で示されたもの。)の外径より大きいこと」 「拡径オーガヘッドが周知であること」 と を根拠に, 「先行削孔オーガ位置」を示す2点鎖線の円が,オーガケーシング(右端の2点鎖線の内側の実線で示されたもの。)の外径より大きいことは,周知の拡径オーガヘッドを採用することを示すものと解釈することは誤りである。引用発明1では,オーガケーシングより大きい径のオーガヘッドによる鋼矢板圧入時の同時掘削はできない以上,先行削孔位置図は,拡径可能なオーガヘッドを使用した掘削範囲ではない。 機械装置としてのWP100ACが,拡径可能な掘削刃と固定径の掘削刃のいずれについても使用可能であるとしても,そのことと引用例1に開示されている具体的な工法とは,直接関連しない。引用例1に客観的に開示された工法が固定径のオーガヘッドを使用している事実を超えて,引用発明1がどのようなオーガヘッドでも使用することを示していると認定することは,引用発明1を上位概念化・抽象化して認定するものである。 先行削孔位置図は, 「オーガ位置」と明記しており,オーガの中心位置のおおむねの位置を示したにすぎない。仮に,先行掘削の範囲を示すのであれば,広がりを示す「掘削範囲や掘削場所」などと記載したはずである。一般的にも, 「2点鎖線」は,「工具,ジグなどの位置を参考に示すのに用いる。可動部分を,移動中の特定の位置又は移動の限界の位置で表すのに用いる。(日本工業規格JIS 」 B0001機械製図7頁)ものとされており,被告も,発明の名称を「杭圧入装置」とする発明に係る明細書(特開2000-309921)において,円及び2点鎖線の円について,掘削範囲ではなく,オーガの位置を示すものとして用いている(甲62)。 本件審決は,先行削孔位置図において,2点鎖線の円がオーガケーシングの外径よりも大きく図示されていることだけで,引用発明1の構成を推認するが,先行削孔位置図は,製品PR用にわずか8秒程度写し出された図面であり,正確性に劣るものであるから,この図面により引用発明1を推認することは,不合理である。 先行削孔位置図には, 「先行削孔オーガ位置」と記載された2点鎖線が3つ図示されているが,これら3つの円の順序,3つの円の相互の関係を掘削範囲に関する技術情報として得ることはできない。 「先行削孔位置図」の左側2つの円より大きく彩色された円は,いわゆる杭掴み装置を表示しているものにすぎず,先行掘削の掘削範囲を示すことや,掘削範囲相互の関係を明らかにすることを意図していない。むしろ,3つの円が同一場面で並んでいることは,順次掘削と解釈する余地がある。 ウ 小括 以上によれば,本件審決による引用発明1の認定は,誤りである。 (3) 本件発明1と引用発明1との一致点及び相違点の認定の誤りについて 本件審決は,引用発明1の認定を誤り,引用発明1を不当に抽象化・上位概念化した上で,相違点を認定しているが,相違点は,以下のとおり認定されるべきである。 ア 一致点 既設杭上を自走する静荷重型杭圧入引抜機を使用して,オーガによる掘削を併用して鋼矢板を圧入する点。 イ 相違点 (ア) 相違点T 本件発明1では, 「圧入する鋼矢板の両端部の圧入位置及び近傍の地盤を,オーガによって相互に一定の間隔を空けて2つ先行掘削し」ているのに対し,引用発明1では不明であること。 (イ) 相違点U 本件発明1では, 「圧入する鋼矢板とオーガケーシングを一体として,杭掴み装置に挿通してチャックし,オーガによる掘削が前記2つの先行掘削した地盤と連続するとともに,前記2つの先行掘削と併せて鋼矢板を圧入する地盤の全域」となるのに対し,引用発明1では不明であること。 (ウ) 相違点V 本件発明1では, 「圧入する鋼矢板の地盤の全域を少ない面積で掘削すること」が開示されているのに対し,引用発明1ではかかる開示はないこと。 (4) 本件発明1の容易想到性の判断について ア 周知技術について (ア) 周知例5(甲6)について 周知例5に記載された技術は,圧入機の重量から反力を得てシートパイルを圧入しており,既設杭の鋼矢板上に定置されておらず,また,オーガヘッド14aはアースオーガ装置6の自重及びワイヤの巻取りによる引込みにより筒状ケーシング12ともに掘進するものであって,本件発明とは圧入手段及び先行削孔の掘削手段を異にする。また,周知例5に開示された圧入機はクローラを装備しており,自走のために既設杭を必要としないから,「本件全域掘削」(既設杭上を自走する静荷重型杭圧入引抜機を使用して,圧入する鋼矢板の地盤の全域を少ない面積で掘削すること)を開示するものではない。 (イ) 周知例6(甲7)について 周知例6には,鋼矢板の圧入時にオーガケーシングの引抜抵抗力を利用することは記載されているものの,鋼矢板の圧入に際してオーガによる掘削を併用することについては記載されておらず,鋼矢板圧入時にオーガによる掘削を同時に行う工法とは異なるから,「本件全域掘削」についての示唆はない。 (ウ) 周知例1(甲2)について 周知例1には, 「掘削翼による掘削範囲が鋼矢板1a断面をほぼ包含するようにする必要がある」との記載があるが,本件発明1の発明特定要件である「全域」を掘削することについては,記載も示唆もない。掘削する地盤を,鋼矢板を圧入する地盤の「全域」とするか「ほぼ」の範囲とするかの技術的意義は異なる。また,周知例1に開示された圧入機はクローラを装備しており,自走のために既設杭を必要としない。 (エ) 周知例2(甲3)について 周知例2には,鋼矢板の圧入のための反力を既設杭から得ることや,自走するために既設杭が必要であることの記載はなく, 「鋼矢板を圧入する地盤の全域」を掘削するとの記載や示唆は存在しない。 イ 本件発明1の解決課題について 本件発明1は, 「既設杭上を自走する静荷重型杭圧入引抜機」という特定の杭圧入引抜機を使用し,かつ,一定の間隔を空けた2つの先行掘削と鋼矢板の圧入時の同時掘削によって前記2つの先行掘削した地盤と連続するとともに,前記2つの先行掘削と併せて圧入する鋼矢板の地盤の全域を掘削する工法である。本件発明1における静荷重型杭圧入引抜機は,既設杭の上を自走するものであって,鋼矢板を圧入する際の反力については,あくまで既設杭をクランプすることによって得る必要があり,硬質地盤等において,杭掴み装置による圧入力が,既設杭から得られる反力を上回ったときには(反力<圧入力),鋼矢板を圧入できない場合があり,また既設杭をクランプする必要があることからその可動範囲にも制約が生じるという,技術的制約が存在する。 これに対し,一般的に「3点式」と呼ばれる,杭圧入引抜機の重量そのものにより反力を得ることのできる杭圧入引抜機は,既設杭から得られる反力上の制約や,杭圧入引抜機が可動しうる範囲に関する制約を受けることなく,任意の位置に移動し掘削をすることができる。 「3点式圧入機」は,自走のためのクローラを装備しており,走行範囲に制約はなく,既設杭と自走とは無関係であり,既設杭のないところにも自走可能であるから,静荷重型杭圧入引抜機を用いる場合とは工法が異なる。 本件発明1は,既設杭上を自走する静荷重型杭圧入引抜機による制約を前提として,圧入する鋼矢板の地盤の全域を掘削するという従来未解決であった課題について, 「圧入する鋼矢板の地盤の全域を少ない面積で掘削」することを達成するための工法を提供するものであって,単に「全域掘削」を達成することを発明特定要件としているものではない。 本件審決は,本件発明1が「既設杭上を自走する静荷重型杭圧入引抜機」を用いた工法であることを捨象し,およそ「少ない面積で鋼矢板を地盤に圧入すること」を課題として捉えており,解決課題を一般化・抽象化している点で誤りがある。 ウ 本件発明1の容易想到性について 引用例1は,オーガ駆動装置を改良したWP100ACの性能を訴求するための動画であり,引用発明1は, 「本件全域掘削」を解決課題としておらず,先行掘削を利用する方法によって容易に鋼矢板の圧入を行うとの技術思想は見られないのであるから,引用発明1から本件発明を想到することの動機付けはない。 また,周知例1,2,5,6から認められる周知技術は,いずれも「既設杭上を自走する静荷重型杭圧入引抜機」を使用するものではなく,静荷重型杭圧入引抜機による2つの先行掘削と鋼矢板の圧入時の同時掘削によって「圧入する鋼矢板の地盤の全域を掘削する」ための構成を開示も示唆もしていないから,引用発明1に周知技術を適用することはできず,仮に適用したとしても,容易に相違点T〜Vを想到することはできない。 このように,本件審決は,引用発明1は,本件発明1と共通する解決課題が生じ得ず,本件発明1の出発点になり得ないにもかかわらず,後知恵により引用発明1に本件発明1と同様の解決課題を想定し,その解決手段として,抽象化した周知技術を適用することが容易であると判断したものであって,その判断には誤りがある。 〔被告の主張〕 (1) 引用発明1の公知性の判断の誤りについて 原告が,本件陳述書の作成者に対し,甲1媒体を送付したことは,争いがない。原告が特定の顧客に対し,甲1媒体を発送したことは,「カタログ(WP100AC)2006.10.27」の発送記録によっても立証されており,各陳述書において受領日が明らかではないとしても,出願日までに公知になったものと合理的に推認される。 そして,甲1媒体とともに発送された「新製品のご案内」と題する文書(甲1の3。以下「本件案内文書」という。)の宛先が「各位」とされていることからも,甲1媒体は,幅広く周知し,宣伝するために,広範囲の顧客に発送されたことは明らかである。甲1媒体を受け取った顧客が秘密保持義務を負わないことは明らかであり,甲1媒体が発送された事実だけで,「頒布された」と認められる。 したがって,甲1媒体は「頒布された刊行物」であり,これに収録された引用例1に記載された引用発明1は,本件出願前に頒布された刊行物に記載された発明である。 (2) 引用発明1の認定の誤りについてア 引用例1では,先行削孔と同時圧入が,何度も繰り返し強調された上で, 「広幅型鋼矢板施工 Driving 600mm U piles」の章(5:44〜8:12)において, 「一般的に広幅型鋼矢板では,先行削孔後,矢板を同時圧入。」(5:48)との説明があり, 「先行削孔オーガ位置」が図示されている(5:58)。 このような引用例1の流れや文脈に沿って解釈するなら,先行削孔位置図とは先行削孔と同時圧入の具体的な位置関係を示した図であると解される。 先行削孔位置図において,赤色の2点鎖線の円は「先行削孔オーガ位置」と説明されるところ, 「オーガの位置」とは,オーガの構造や使用目的からして,掘削刃の刃先回転軌跡であって,先行削孔の掘削範囲を示すものと認められる。 そして,先行削孔位置図において,オーガケーシング,杭掴み装置,鋼矢板などの装置や器具等については実線で具体的かつ明確に示されるのに対し,2点鎖線の円は明らかに表現方法が異なるから,掘削刃の刃先回転軌跡と理解するのが相当であり,当業者の技術常識(甲2〜7,甲16の1〜5,乙2の1〜10)にも沿う。 原告は,JISB0001機械製図を根拠に,2点鎖線がオーガのおおむねの位置であると主張するが,本件技術分野の当業者は,全く別目的で策定されたJISの機械製図の基準によって判断するとは考え難いし,仮にこれを参考にしても,先行削孔の掘削範囲と理解するから,原告の主張は失当である。 また,甲62の「掘削位置91,92」の2点鎖線の円は,先行削孔における掘削位置を示し,それが掘削範囲を示すことは明らかであり,原告主張は理由がない。 よって,先行削孔位置図について,赤色の「先行削孔オーガ位置」と記載された2点鎖線の円を,先行掘削範囲と認定した審決の判断に誤りはない。 イ 原告は, 「位置」と「範囲」は異なるから, 「先行削孔オーガ位置」から「先行削孔される範囲」を認定できないと主張するが,本件審決は,先行削孔位置図について,赤色の「先行削孔オーガ位置」と記載された2点鎖線の円は先行掘削範囲と理解するのが当業者の技術常識に沿うと認定したのであって, 「位置」の辞書的意味から, 「範囲」を認定したわけではない。2点鎖線の円は「オーガ」の「位置」と説明されるところ,オーガの構造や使用目的からすれば,掘削刃の刃先回転軌跡,すなわち先行削孔の掘削範囲を示すものと解しても, 「位置」との文言の辞書的意味と矛盾しない。 原告は,本件審決が,400mm鋼矢板の映像を根拠に,600mm鋼矢板に関する先行削孔位置図を解釈していると主張するが,本件審決は,引用例1の全体的な流れを指摘した上で,先行削孔位置図を解釈しているのであって,その解釈手法は正当である。 先行削孔位置図においては,オーガケーシング,杭掴み装置,鋼矢板などの装置や器具等については,実線で具体的かつ明確に示されている。装置の構造から言えば,オーガの中心は,実線で記載されたオーガケーシングの内側に位置することは明らかである。他方,赤色の2点鎖線の円は,明らかにオーガケーシングの外側までカバーしており,オーガの中心位置をおおむね示した線でないことは明らかである。 なお,原告は,引用例1の作成時に使用されたのは固定径のオーガであるから,本件審決の認定は誤りであるとも主張するが,先行削孔位置図の解釈について,映像作成時に使用されたオーガヘッドの種類に限定される理由はない。先行削孔位置図の解釈により,赤色の「先行削孔オーガ位置」と記載された2点鎖線の円を先行掘削範囲と認定した審決の判断に誤りはなく,当業者であれば,先行掘削範囲に応じて適宜,拡径可能なオーガを使用することは容易である。 ウ 以上によれば,本件審決の引用発明1の認定に誤りはない。 (3) 本件発明1と引用発明1との一致点及び相違点の認定の誤りについてア 原告は,引用発明1の認定が誤りであるとの主張を前提に,本件発明1と引用発明1との一致点及び相違点の認定が誤りであると主張するが,本件審決の引用発明1の認定に誤りはなく,一致点及び相違点の認定にも誤りはない。 イ 引用発明1の杭圧入引抜機の動作を理解した上で先行削孔位置図をみれば,前回の先行掘削位置が「2つの先行掘削」の1つとなり,今回新たに圧入する鋼矢板の一端が圧入されることは明らかであるから,原告が主張する相違点Tは,相違点とはならない。 (4) 本件発明1の容易想到性の判断についてア 以下のとおり,周知例1,2,5,6は,@鋼矢板の圧入を容易にするために,先行掘削や同時圧入時の掘削などにより,鋼矢板の圧入時の抵抗を小さくするよう極力地盤を掘削しておくことは技術常識であったこと,A拡径可能なオーガの掘削刃は周知であり,鋼矢板の圧入を容易にするために,鋼矢板を圧入する地盤の(ほぼ)全域を掘削するのに使用されていたことが,いずれも周知技術であったことを示している。これらの周知技術は,反力の取り方や自走機能の有無とは無関係に適用できるから,鋼矢板を地盤に圧入する技術分野に属するという共通性があれば,組合せの動機付けはある。 (ア) 周知例5について周知例5は,硬質地盤において鋼矢板の圧入を容易にするために,鋼矢板を圧入する地盤の全域を掘削することを示す周知例であって,鋼矢板の圧入を容易にするという基本的課題において引用発明1と共通性がある。 (イ) 周知例6について周知例6は,鋼矢板圧入時の工法は本件発明1とは異なるものの,圧入時の掘削前に鋼矢板の継手部を先行掘削することを開示している。 (ウ) 周知例1,2について周知例1,2は,鋼矢板を圧入するための地盤の全域を掘削するために,同時圧入時に拡径可能なオーガを使用することが,周知技術であったことを示すものである。 イ 本件審決が正しく認定した引用発明1と相違点1を前提とした場合, 「鋼矢板を圧入する地盤の全域」を掘削することは容易に想到することができる。鋼矢板の継手位置を先行掘削することは,引用例1,周知例6に加えて,甲62にも開示されているし,鋼矢板の圧入を容易にするため,同時圧入により鋼矢板を圧入する地盤の全域を掘削することも,これまでに行われてきたことであるから,強い動機付けが存する。そこで,鋼矢板を圧入する地盤の全域を掘削するため,同時圧入時に拡径可能なオーガを選択した場合,本件発明1の「少ない面積で掘削」する態様と同じになる。そもそも,施工効率を高め,周辺環境への影響に配慮するなら,必要以上に地盤を掘削しないということは,当業者であれば当然に行うことである。 2 取消事由2(本件発明2ないし4の容易想到性)について〔原告の主張〕 本件発明2ないし4は,本件発明1の「2つの先行掘削が相互に一定の間隔を有しており,連続していないこと」「圧入時の掘削によって初めて2ヶ所の先行掘削 ,が連続し,かつ,鋼矢板の圧入地盤の全域が掘削されること」「既設杭上を自走す ,る静荷重型杭圧入引抜機を使用して,圧入する鋼矢板の地盤の全域を少ない面積で掘削するものであること」, 「既設杭上を自走する静荷重型杭圧入引抜機を使用して,圧入する鋼矢板の地盤の全域を少ない面積で掘削するものであること」との構成を備えているから,本件発明1と同様の理由により,容易想到性が否定される。 〔被告の主張〕 本件発明2ないし4が進歩性を欠如し無効であることは,本件審決の摘示するとおりである。 |
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当裁判所の判断
1 本件発明について 本件発明の特徴は,以下のとおりである(本文中に引用する本件明細書の図面は,別紙1本件明細書図面目録記載のとおりである。。 ) 本件発明は,オーガによる掘削を併用して鋼矢板の圧入される地盤の全域を掘削することにより,硬質地盤であっても,静荷重型杭圧入引抜機を使用して,鋼矢板をスムーズに圧入するためのオーガ併用鋼矢板圧入工法に関するものである 【00 (01】。 ) 近年,各種土木基礎工事における鋼矢板の圧入・引抜工事においては,振動,騒音の発生が少ない静荷重型杭圧入引抜機が採用されている。しかし,鋼矢板の有効幅の寸法により,オーガの掘削直径を決定するため,広幅鋼矢板やハット形鋼矢板のように有効幅寸法が大きくなれば,それに伴ってオーガの掘削直径を拡大する必要があるため,オーガ掘削トルクの増大による装置の大型化や,作業能率の低下,或いは地盤を必要以上に掘削することにより,環境負荷が大きくなる等の問題があった(【0002】〜【0009】。 ) そこで,本件発明は,このような従来の鋼矢板の圧入工法が有している課題を解決するため,オーガによる掘削を併用して鋼矢板の圧入される地盤の全域を掘削することにより,硬質地盤であっても,静荷重型杭圧入引抜機を使用して,鋼矢板をスムーズに圧入することのできるオーガ併用鋼矢板圧入工法を提供することを目的とする(【0005】〜【0010】。 ) そのような目的を達成するため,本件発明は,既設杭上を自走する静荷重型杭圧入引抜機を使用して,オーガによる掘削と杭圧入引抜シリンダを併用して鋼矢板を地盤内に圧入するオーガ併用鋼矢板圧入工法において,杭掴み装置に鋼矢板を装備することなく,オーガケーシングを挿通してチャックし,圧入する鋼矢板の両端部の圧入位置及び近傍の地盤を,オーガによって相互に一定の間隔を空けて2つ先行掘削し,その後,圧入する鋼矢板とオーガケーシングを一体として,杭掴み装置に挿通してチャックし,オーガによる掘削が前記2つの先行掘削した地盤と連続するとともに,前記2つの先行掘削と併せて鋼矢板を圧入する地盤の全域となるようにオーガによる掘削と鋼矢板の圧入を同時に行うことによって,圧入する鋼矢板の地盤の全域を少ない面積で掘削する構成を採用した(請求項1,図1)。 このような構成によって,鋼矢板の圧入される地盤の全域をオーガによって掘削することができる。また,静荷重型杭圧入引抜機を使用して,鋼矢板を連続して圧入する際にも,既設の鋼矢板との継手部及び近傍の地盤は,既設の鋼矢板の圧入時にオーガによって先行掘削しているため,圧入する鋼矢板の地盤の全域をオーガによって掘削することができ,硬質地盤であっても,静荷重型杭圧入引抜機を使用して,鋼矢板をスムーズに圧入することができる。更に,鋼矢板を圧入しつつ行うオーガによる掘削をオーガケーシングの径より拡径可能な径大のオーガを使用して行うため,先行掘削時のオーガとの寸法の違いによる取り替え作業等を必要とせず,オーガの中心位置を,鋼矢板の幅方向に直交する方向の中心線上に配置して掘削することができ,オーガの位置を変更する等の煩瑣な操作が必要ないといった効果を奏する(【0014】【0015】。 , ) 2 取消事由1(引用発明1に基づく進歩性判断の誤り)について (1) 引用発明1について 引用例1は,甲1媒体に収録された動画映像であり,おおむね,以下の事項が開示されている(本文中に引用する映像は,別紙2引用例1映像目録記載のとおりである。) ア (0:01〜0:14)(0:13)に「WP100AC 硬質地盤対応鋼矢板圧入機 Press-inMachine for the hard ground」とのタイトルが記載されている(映像@)。 イ (0:15〜1:20)(0:15)に「オーガ組立 Assembling of Auger」と記載されており,続いてそれに係る映像が記載されている(映像A)。 ウ (1:21〜1:53) (ア) (1:21)に「先行削孔 Pre drilling」と記載されており(映像B),続いてそれに係る映像が記載されている。 (イ) (1:25)に「オーガケーシングだけの先行削孔。」との説明が記載されている(映像C)。 エ (1:54〜5:43) (ア) (1:54)に「普通鋼矢板施工 Driving 400mm U piles」と記載されており,続いてそれに係る映像が記載されている(映像D)。 (イ) (2:00)に「地盤によっては先行削孔後,矢板を同時圧入。」と記載(映像E), (ウ) (2:04)に「オーガケーシングに矢板をセット。(映像F) 」 , (エ) (2:30)に「矢板を同時圧入。」との説明が記載されている(映像G)。 (オ) (3:10)に「支持力が十分になったら本体を自走。」との説明があり(映像H)(3:10〜3:40)にWP100ACのスライドベースが前後にスライド ,し,圧入機が自走している様子が記載されている。 (カ) (4:00)に「オーガシリンダーにより先行削孔後,メインシリンダーによる圧入施工。」との説明が記載されている(映像I)。 オ (5:44〜8:12) (ア) (5:44)に「広幅型鋼矢板施工 Driving 600mm U piles」と記載されており(映像J),続いてそれに係る映像が記載されている。 (イ) (5:48) 「一般的に広幅型鋼矢板では, に 先行削孔後,矢板を同時圧入。」との説明がされている(映像K)。 (ウ) (5:58)には「先行削孔位置」と称された図が約10秒程静止映像として示されており,図中の赤の2点鎖線の円について矢印で「先行削孔オーガ位置」と説明されている(映像L)。 (エ) (6:10)に「IIIw 型 10m」との説明があり,(6:08〜6:20)にWP100ACの杭掴み装置が旋回している様子が記載されており,また,(6:20〜8:10)に,昇降体が昇降している様子が記載されている。 カ (8:13〜9:06) (ア) (8:13)に「硬質地盤対応 鋼矢板圧入機仕様」と記載されており,続いてそれに係る映像が記載されている。 (イ) (8:22)に「本体仕様」が記載されており, 「最大圧入力 800kN」「最大引抜力 900kN」「圧入速度 3.0〜36.0m/min」「引抜速度2.4〜28.0m/min」 「適応鋼矢板 IIw〜IVw・VL・VIL(普通鋼矢板も適応可)「移動方法 」 自走式」などと記載されている(映像M)。 (ウ) (8:37)には「オーガ仕様」としてWP100ACにオーガケーシングを取り付けた全体図(以下「オーガ仕様図」という。)が図示されている(映像N)。 キ (9:07〜9:21) WP100ACに関する問合せ先として,原告の連絡先等が記載されている。 (2) 引用発明1の公知性について ア 原告は,引用発明1の公知性について争うので,まず,この点について検討する。 甲1媒体は,その表面に「硬質地盤対応広幅型鋼矢板圧入機 TILT PILER CRUSH チルトパイラークラッシュWP100AC」及び「KOWAN」と記載されたCD-ROMであり,WP100ACを使用したオーガ併用鋼矢板圧入工法に関する動画が収録されている(甲1の1・2)。甲1媒体の最終更新日は,2006年(平成18年)10月21日である(甲1の2)。 また,本件案内文書(甲1の3)には,株式会社コーワンの記名と社印の押捺があり, 「平成18年10月吉日」「各位」「カタログ及び,WP100ACの試験施工 , ,による説明ビデオを同封させていただきますので,ご質問やご不明な点がございましたら,下記までご連絡下さい。」との記載がある。 本件陳述書(甲10の1・3〜6)によれば,株式会社西部工建,北城重機興業有限会社,株式会社伊藤工業及び株式会社石走商会が,いずれも受領日は明らかではないものの,甲1媒体を所持していたこと,勿来建機株式会社が,平成18年の秋から冬にかけて,甲1媒体及び本件案内文書を受領し,その後に原告の営業担当者から説明を受けたことが認められる。 そして,原告は,本件審判において提出した平成27年12月8日付け答弁書において, 「カタログ(WP100AC)2006.10.27」の発送記録があったこと,その記録中の送付先に,株式会社西部工建,北城重機興業有限会社,株式会社伊藤工業,株式会社石走商会及び勿来建機株式会社が含まれていたことを認めている(甲56)。 以上の事実によれば,甲1媒体は,原告により,平成18年10月頃,株式会社西部工建,北城重機興業有限会社,株式会社伊藤工業,株式会社石走商会及び勿来建機株式会社を含む不特定の土木事業者に対し,本件案内文書とともに配布されたものと認められる。 イ 原告の主張について (ア) 原告は,本件陳述書には,本件発明に係る特許出願の前に甲1媒体の頒布を受けたことの記載はないから,頒布の時期は認定できないと主張する。 しかしながら,株式会社西部工建,北城重機興業有限会社,株式会社伊藤工業及び株式会社石走商会の陳述書には,いずれも,原告から甲1媒体の配布を受けたとの記載があること,勿来建機株式会社の陳述書には,原告から資料が届けられ,その後に原告の営業担当から説明を受けたことがあり,その時期が「平成18年の秋から冬にかけて」であったとの記載があること,原告が甲1媒体とともに送付した本件案内文書には, 「平成18年10月吉日」との記載とともに,甲1媒体とカタログを送付するとの記載があること,原告には「2006.10.27」にカタログを発送したとの記録が存在し,記録上,発送先に株式会社西部工建,北城重機興業有限会社,株式会社伊藤工業,株式会社石走商会及び勿来建機株式会社が含まれていたこと,以上の事実によれば,これら5社に甲1媒体が配布された時期は,平成18年10月頃であったものと推認することができる。 (イ) また,原告は,甲1媒体について,原告による配布の対象は,特定の者に限られていたにすぎず, 「多数の土木事業者に配布されたもの」ではないから, 「頒布」ではない旨主張する。 「頒布された刊行物」とは,公衆に対し頒布することにより公開することを目的として複製された文書・図面その他これに類する情報伝達媒体であって,不特定又は特定多数の者に頒布されたものをいう。甲1媒体は,原告の新製品であるWP100ACを宣伝するためのものであるところ,宣伝のためのカタログやビデオ等は,通常,不特定多数の者に配布することを目的とするものであること,本件案内文書の宛先も「各位」とされていること,原告も,甲1媒体の送付先が上記5社のみであったとは主張していないこと,甲1媒体を受け取った上記5社が,引用例1の映像の内容について秘密保持義務を負っていたとは認められないことからすれば,甲1媒体の配布の対象は,特定の者に限られていたとはいえず, 「頒布」に当たることは明らかである。 ウ 小括 以上によれば,引用発明1は,本件出願前に頒布された刊行物に記載された発明であるから,原告の主張は理由がない。 (3) 引用発明1の認定について ア 上記(1)の記載によれば,引用発明1について,引用例1には,以下の開示があるといえる。 引用発明1は,既設杭上を自走する静荷重型杭圧入引抜機を使用して,オーガによる掘削を併用して鋼矢板を圧入する工法に関するものである。 そして,鋼矢板を圧入するに際して, (1:21)に「先行削孔 Pre drilling」と記載され,続いてそれに係る映像が記載されていること, (1:25)に「オーガケーシングだけの先行削孔。 との説明が記載されていることからすれば, 」「先行削孔」するものであり,その後, (1:54)に「普通鋼矢板施工 Driving 400mm U piles」と記載され,続いてそれに係る映像が記載されていること, (2:00) 「地盤によっては先行削孔後, に 矢板を同時圧入。, 」(2:04)に「オーガケーシングに矢板をセット。, 」(2:30)に「矢板を同時圧入。」との説明が記載されていること, (3:10)に「支持力が十分になったら本体を自走。」との説明があり, (3:10〜3:40)にWP100ACのスライドベースが前後にスライドし,圧入機が自走している様子が記載され, (4:00)に「オーガシリンダーにより先行削孔後,メインシリンダーによる圧入施工。」との説明が記載されていること,(5:44)に「広幅型鋼矢板施工 Driving 600mmU piles」と記載され,続いてそれに係る映像が記載されており, (5:48)に「一般的に広幅型鋼矢板では,先行削孔後,矢板を同時圧入。」との説明がされていることによれば,「先行削孔後,矢板を同時圧入する」ものである。 そして, (5:58)には先行削孔位置図が,約10秒間,静止映像として示されていることによれば,静荷重型杭圧入引抜機による「先行削孔」は,先行削孔位置図に基づき行われるものと認められ,先行削孔位置図には, 「先行削孔位置」が示されていると認められる。この先行削孔位置図においては,矢印で「先行削孔オーガ位置」として説明される赤の2点鎖線の円の記載があり,これ以外に「先行削孔位置」を示唆する記載はないから,この赤の2点鎖線の円が「先行削孔位置」に該当する。 そうすると, 「先行削孔位置」と「先行削孔オーガ位置」とが一致することになるところ,先行削孔は,硬質地盤であっても鋼矢板をスムーズに圧入することができるようにすることを目的として,鋼矢板が配置される地盤にオーガで孔を形成するのであるから,先行削孔オーガ位置が鋼矢板を圧入するための先行削孔の位置であると矛盾なく理解できる。 また,赤の2点鎖線の円について,原告は,その中心にオーガケーシングの中心が配置されるものであることを自認している。そして,先行削孔位置図が鋼矢板とオーガを同時に圧入する工法に係る映像の一部であることに照らすと,引用例1中の先行削孔位置図に接した当業者は,鋼矢板を圧入しやすくするべく先行削孔オーガ位置を定めることを理解するものである。 以上のとおり, 「先行削孔位置」は,先行削孔位置図中に赤の2点鎖線の円で示されたものである。 なお,引用例1には,先行削孔そのものの動画はないが, (1:21)に「先行削孔」(1:25)に「オーガケーシングだけの先行削孔」との記載があることからす ,れば,先行削孔することの開示があることは明らかである。そして,上記のとおり,先行削孔位置図には,赤の2点鎖線の円で先行削孔位置が記載されているところ,3つの赤の2点鎖線の円が等間隔に記載されていること,左側と中央の2つの赤の2点鎖線の円の内部に,それぞれ凹型に形成された互いに噛合する鋼矢板の継手部を中心として,それぞれの継手部及びそこから延びる鋼矢板の傾斜部分が収まることの記載があることからすれば,圧入する鋼矢板の両端部の圧入位置及び近傍の地盤を,オーガによって相互に一定の間隔を空けて2つ先行削孔がされることを理解することができるから, 「圧入する鋼矢板の両端部の圧入位置及び近傍の地盤を,オーガによって相互に一定の間隔を空けて2つ先行掘削」する構成が開示されている。 また, (2:00)に「地盤によっては先行削孔後,矢板を同時圧入」(2:04) ,に「オーガケーシングに矢板をセット」との記載があること, (5:58)から約10秒間,先行削孔位置図が表示された後, (6:08〜8:10)に,WP100ACの杭掴み装置が旋回した後,昇降体が昇降し,オーガケーシングにセットされた矢板が,地盤の掘削と同時に圧入されることが開示されていること, (8:37)のオーガ仕様図には,WP100ACに,鋼矢板と一体化したオーガケーシングを取り付けた仕様が開示されていることによれば,圧入する鋼矢板とオーガケーシングを一体として,杭掴み装置に挿通してチャックすることを理解することができるから, 「圧入する鋼矢板とオーガケーシングを一体として,杭掴み装置に挿通してチャック」する構成も開示されている。 他方,赤の2点鎖線の円は「先行削孔位置」を示すものであり,削孔の範囲が赤の2点鎖線の円の全域であることまで明示するものではない。したがって,引用発明1は, 「オーガによる掘削が前記2つの先行掘削した地盤と連続する」構成を備えていると認めることはできない。 そうすると,引用例1には, 「下方に反力掴み装置を配設して既設の鋼矢板上に定置される台座と,/該台座上にスライド自在に配備されたスライドベースの上方にあって縦軸を中心として回動自在に立設されたガイドフレームと,/該ガイドフレームに昇降自在に装着されて杭圧入引抜シリンダが取り付けられた昇降体と,/昇降体の下方に配備された旋回自在な杭掴み装置/を具備し,既設杭上を自走する静荷重型杭圧入引抜機を使用して,/オーガによる掘削と杭圧入引抜シリンダを併用して鋼矢板を地盤内に圧入するオーガ併用鋼矢板圧入工法において,/杭掴み装置に鋼矢板を装備することなく,オーガケーシングを挿通してチャックし,圧入する鋼矢板の両端部の圧入位置及び近傍の地盤を,オーガによって相互に一定の間隔を空けて2つ先行掘削し,/その後,圧入する鋼矢板とオーガケーシングを一体として,杭掴み装置に挿通してチャックし,オーガによる掘削と鋼矢板の圧入を同時に行うことを特徴とする/オーガ併用鋼矢板圧入工法。 との発明 」 (以下「引用発明1’」という。)が開示されていると認められる。 イ 原告の主張について (ア) 原告は,引用例1には,先行削孔そのものの動画は存在しないから,先行削孔を掘削する場所については何ら開示されていない旨主張する。 しかし,前記(1)のとおり,引用例1の画像を順に見ていくと, (1:21〜1:53)において「先行削孔」を行うこと, (1:54〜5:43)において, 「先行削孔後,矢板を同時圧入する」ことがそれぞれ説明され,その後, (5:58)において先行削孔位置図が,約10秒間,静止映像として示され,図中の赤の2点鎖線の円について矢印で「先行削孔オーガ位置」と説明されている。そして,赤の2点鎖線の円について,原告は,その中心にオーガケーシングの中心が配置されるものであることを自認しているから,これらを総合すると,引用例1は,先行削孔することを開示しており,先行削孔位置図の赤い2点鎖線の円は,その中心にオーガケーシングの中心を配置して先行削孔を掘削する場所を開示しているというべきである。 (イ) 原告は,赤の2点鎖線の円が先行掘削位置であると解釈するには,拡径可能なオーガヘッドを使用することが前提となるところ,引用例1には,オーガケーシングに収まる,オーガケーシングの径よりも小さい固定径のオーガヘッドを取り付けたものが開示されるのみで,拡径するオーガヘッドを取り付けたものが開示されていないから,引用発明1’において,拡径するオーガヘッドを取り付けることは想定できず,赤の2点鎖線の円が先行掘削位置であると解釈することはできないと主張する。 しかしながら,先行削孔位置図が鋼矢板とオーガを同時に圧入する工法に係る映像の一部であることに照らすと,引用例1中の先行削孔位置図に接した当業者は,鋼矢板を圧入しやすくするべく先行削孔位置を定めることを理解することができるのであるから,赤の2点鎖線の円が先行掘削位置であるからといって,拡径可能なオーガヘッドを使用することが前提となるわけではない。したがって,引用例1に拡径可能なオーガヘッドの開示がないとしても,二点鎖線の円が先行掘削位置であるとの解釈を左右するものではない。 (ウ) 以上によれば,原告の上記主張はいずれも採用することができない。 (4) 本件発明1と引用発明1’との相違点について 本件発明1と引用発明1’との相違点は,本件審決が認定した相違点1-1,1-2(前記第2の3(2)ウ)に加え,本件発明1では, 「オーガによる掘削が前記2つの先行掘削した地盤と連続する」のに対し,引用発明1’においては,かかる構成を備えているかどうかが明らかでない点(相違点1-3。原告主張の相違点Uの一部)でも相違すると認められる。 (5) 本件発明1の容易想到性について ア 周知技術について (ア) 周知例1(甲2) 周知例1の技術分野(【0001】,背景技術( ) 【0004】,発明が解決しようと )する課題(【0006】,課題を解決するための手段( ) 【0012】【0013】【0 , ,022】,発明を実施するための最良の形態( ) 【0051】【0053】 , )によれば,周知例1には, 「オーガヘッドに掘削刃としての掘削翼が拡縮(拡開,閉刃)する機構を設け,掘削翼を利用して鋼矢板を建て込む部分を掘削しながら,これと並行して鋼矢板を圧入する方法において,掘削翼による掘削範囲が鋼矢板の断面をほぼ包含するように,掘削と同時に鋼材を建て込む工程を順次繰り返し,地盤中に複数の鋼材を壁状に建て込むに際して,後から建て込まれる鋼材を,先に建て込まれた鋼材の建込みの際に掘削された先行掘削範囲と,後から建て込まれる鋼材の建込みの際に掘削される後行掘削範囲とに跨がるように建て込むこと」が記載されていると認められる。 (イ) 周知例2(甲3) 周知例2の特許請求の範囲(1頁左下欄6〜15行),発明の詳細な説明(2頁左下欄1〜8行,12〜18行,右下欄2〜12行,3頁左下欄2〜11行)によれば,周知例2には, 「オーガー先端部に開閉自在の掘削刃を配備してなるアースオーガーを用いて,シートパイル下面の土砂を掘削し,その際に,拡開時における最大回転軌跡がシートパールのジャンクションに接当することのないように少なくとも掘削刃の内径の刃長寸法とし,閉刃時にはシートパイルの凹溝内に完全に隠蔽され,アースオーガーと並行にシートパイルを圧入して所定の深度到達後,アースオーガーを抜杆する施工工法」が記載されていると認められる。 (ウ) 周知例5(甲6) 周知例5の考案の詳細な説明(1頁16〜20行),実施例(9頁11行〜12頁3行)によれば,周知例5には, 「スクリュー式のアースオーガ装置により硬質地層に削孔しながらシートパイルを圧入する際,オーガスクリュー13の軸の下端に筒状ケーシング12より掘削径の大きいオーガヘッド14aを連結して回転させ,大径の孔H1を掘削した後,先行削孔H1と少し離れた位置に大径の孔H2を掘削し,先行削孔H1,H2と一部が重複し,これらに跨る位置に大径の孔H3を掘削した後,大きいオーガヘッド14aを小さいオーガヘッド14bに交換し,先行削孔H3に対峙するようにシートパイルP1をクレーンにより吊り下げ,その下端部の係合部材を筒状ケーシング12の契合部材に係合し,シートパイルP1の上端を保持装置に固定状態で保持し,小径の孔h1を掘削しながらこの小径の削孔h1に沿ってシートパイルを圧入するが,このときシートパイルはそのほぼ全体が大径の先行削孔H3(H1,H2の一部を含む)内に位置し,地盤が攪拌されているので,容易に圧入することができる」ことが記載されていると認められる。 (エ) 周知例6(甲7) 周知例6の「はじめに」の項(VI-3-1頁6〜10行)「施工」の項(VI-3- ,1頁31行〜VI-3-2頁6行)によれば,周知例6には, 「硬質地盤対応圧入機はケーシングチューブ内のオーガースクリューで鋼矢板腹部を先行削孔し,先端抵抗を減じ,ケーシング引抜抵抗力と既打設鋼矢板の反力で鋼矢板を圧入する工法において,施工地盤が非常に固い事もあり,ケーシングオーガー単独で鋼矢板セクション部を先行削孔し,次に鋼矢板を圧入機にセットして削孔・圧入を行う」ことが記載されていると認められる。 (オ) 以上によれば,硬質地盤では鋼矢板を圧入する地盤の全域を掘削すると圧入が容易になることは,本件出願前から当業者にとって周知の技術であったことが認められる。 イ 本件発明1の解決課題について (ア) 前記1によれば,本件発明1の解決課題は,鋼矢板を圧入する場合に,地盤が未掘削であると,硬質地盤において圧入施工ができないことから,オーガによる掘削を併用して鋼矢板の圧入される地盤の全域を掘削することにより,硬質地盤であっても,鋼矢板をスムーズに圧入することのできるオーガ併用鋼矢板圧入工法を提供することにあるとともに,その際に,オーガの掘削直径を拡大すると装置の大型化,作業効率の低下,地盤の必要以上の掘削等の問題が生じることから,掘削する地盤の全域を少ない面積で掘削することにあるものと認められる。 (イ) 原告は,本件審決は,本件発明1の解決課題が「本件全域掘削」(既設杭上を自走する静荷重型杭圧入引抜機を使用して,圧入する鋼矢板の地盤の全域を少ない面積で掘削すること)であることを捨象し,解決課題を一般化・抽象化している点で誤りがあると主張する。 しかし,前記アのとおり,硬質地盤では鋼矢板を圧入する地盤の全域を掘削すると圧入が容易になることは周知技術であるところ,かかる周知技術を勘案するなら,未掘削部分があれば鋼矢板の圧入が困難であることは明らかである。そうすると,掘削範囲を圧入する鋼矢板の地盤の全域とすることは,静荷重型杭圧入引抜機を使用する場合においてのみ課題とされるものではなく,先行掘削を行う場合一般の課題ということができる。 また,鋼矢板を圧入する地盤の全域を掘削する場合に,オーガの掘削直径を拡大すると,装置の大型化,作業効率の低下,地盤の必要以上の掘削等の問題が生じることも自明である。掘削範囲を圧入する鋼矢板の地盤の全域とすることが,静荷重型杭圧入引抜機を使用する場合においてのみ課題とされるものではない以上,全域掘削の範囲を少なくすることも,先行掘削を行う場合一般の課題である。 そうすると,本件発明1の解決課題は,静荷重型杭圧入引抜機を使用することによる課題とはいえず,原告の主張は採用できない。 ウ 相違点1に係る構成の容易想到性について (ア) 「オーガによる掘削が前記2つの先行掘削した地盤と連続する」(相違点1-3)及び「鋼矢板を圧入する地盤の全域」(相違点1-1)について 引用例1の先行削孔位置図には,2つの赤の2点鎖線の円の内部に,それぞれ凹型に形成された互いに噛合する鋼矢板の継手部を中心として,それぞれの継手部及びそこから延びる鋼矢板の傾斜部分が収まることと,この2つの円の間に,オーガケーシングと一体となった鋼矢板の平らな面が位置することが記載されており,先行削孔範囲を赤の2点鎖線の円の全域とするとともに,2つの先行掘削の間をオーガにより掘削して,先行掘削した地盤と連続させ,鋼矢板を圧入する地盤の全域を掘削することが示唆されている。 また,先行削孔位置図に記載された3つの赤の二点鎖線の円のうち,右側の円にはその内部中央に黄色で次の仮想のオーガケーシングが記載されており,先行削孔の径がオーガケーシングの径よりも大きいものを採用し得ることの示唆がある。 そして,前記アのとおり,硬質地盤では鋼矢板を圧入する地盤の全域を掘削すると圧入が容易になることは,周知技術であり,さらに,周知例1(甲2)の「オーガヘッドに掘削刃としての掘削翼が拡縮(拡開,閉刃)する機構」,周知例2(甲3)の「オーガ―先端部に開閉自在の掘削刃を配備してなるアースオーガー」,周知例3(甲4)の「オーガ―先端部に開閉自在の掘削刃を設けてなるアースオーガー」,周知例4(甲5)の「開閉自在に形成せしめて成る掘削刃装備」との記載によれば,鋼矢板の圧入に際して,オーガケーシング径よりも大径なオーガヘッドとして,拡径可能なオーガを使用することも,当業者にとって従来周知の技術であったと認められる。 したがって,引用発明1’において,当業者が,これらの周知技術を適用し,拡径可能なオーガを使用して先行削孔範囲を赤の2点鎖線の円の全域とするとともに,2つの先行削孔の間をオーガにより掘削して「2つの先行掘削した地盤と連続する」ようにし, 「鋼矢板を圧入する地盤の全域」を掘削することは,容易に想到できたものである。 (イ) 「圧入する鋼矢板の地盤の全域を少ない面積で掘削する」(相違点1-2)について 前記(3)のとおり,引用発明1’は,オーガを用いて,先行削孔位置図の先行削孔オーガ位置として示されている位置を先行掘削し,鋼矢板の圧入時にもオーガを用いて掘削し,鋼矢板を圧入する地盤を掘削するものであり,鋼矢板を圧入する地盤の掘削に際しては,鋼矢板周りに1つの大きな円形の孔を掘削するのではなく,2つの小さな円形の先行削孔を行い,その間の部分を掘削するものである。そして,前記(ア)のとおり,引用発明1’に周知技術を適用すれば,先行削孔範囲を赤の2点鎖線の円の全域とする2つの先行削孔と,その間の鋼矢板と同時に掘削される部分は連続して形成され,鋼矢板がちょうど収まるようにその地盤の全域が掘削されるものであると認められる。 他方,本件明細書の図2,3,7〜10には,本件発明について,鋼矢板の継手部及びその近傍をそれぞれ覆う小さな2つの円形の先行掘削孔と,その小さな2つの先行掘削孔をつなげるように設けられたもう1つの小さな円形の掘削孔とが設けられ,2つの先行掘削孔の内部に,それぞれ凹型に形成された互いに噛合する鋼矢板の継手部を中心として,それぞれの継手部及びそこから延びる鋼矢板の傾斜部分が収まり,2つの円の間に,オーガケーシングと一体となった鋼矢板の平らな面が位置しており,2つの先行掘削孔とこれと連続するように設けられた円形の孔は,圧入する鋼矢板の地盤のほぼ全域となるように掘削したものとしたことが記載されている。そして, 「一定の間隔を空けて掘削した先行掘削Aと先行掘削Bとの間を連結掘削Cで連結することにより,圧入するハット形鋼矢板20の地盤の全域を,少ない面積で掘削することができる」 (【0031】 図10) 一度の掘削Eであっても, , , 「既設杭19と圧入するハット形鋼矢板20の掘削した範囲を合わせることにより,ハット形鋼矢板20の地盤の全域を掘削することは可能である。しかしながら,そのためには掘削Eに示すように掘削径を大きくして広い面積を掘削することが必要であり,掘削抵抗が大きくなって,地盤によっては掘削ができなかったり,オーガ掘削機12として高い能力のものを使用する必要が生じる。これに対して,本件発明の工法によれば,圧入するハット形鋼矢板20の地盤の全域を,少ない面積で掘削することができる」【0032】 ( ,図11)との記載によれば,本件発明1の「圧入する鋼矢板の地盤の全域を少ない面積で掘削」するとは,一度の掘削によって鋼矢板の地盤のほぼ全域を掘削することに比べて少ない面積で掘削することを意味すると解される。 そうすると,引用発明1’は,2つの先行削孔とその間の掘削をするものであるから, 「少ない面積で掘削する」構成を実質的に有するものであり,引用発明1’において,相違点1-2に係る本件発明1のように構成することは,容易に想到できたものである。 エ 原告の主張について (ア) 原告は,引用例1には,課題を示す文章や説明はなく,鋼矢板の地盤の全域を掘削するという課題がない旨主張する。 しかしながら,鋼矢板の圧入において,鋼矢板をスムーズに圧入することは,自明な課題であり,鋼矢板圧入に関する発明である引用発明1’にもそのような課題があることは明らかである。 (イ) 原告は,引用発明1’は, 「既設杭上を自走する静荷重型杭圧入引抜機」であり,既設杭から得られる反力上の制約や,杭圧入引抜機が可動しうる範囲に関する制約を受ける点で,クローラ等の移動手段によって既設杭の制約なく自由に移動することができ,かつ,任意の位置を掘削することが可能な周知技術とは,解決課題が異なるから,引用発明1’に周知技術を適用することはできない旨主張する。 しかしながら,引用発明1’は,鋼矢板の地盤への圧入を容易にすることを課題としているところ,前記アのとおり,周知例1,2,5,6にも,硬質地盤では鋼矢板を圧入する地盤の全域を掘削すると圧入が容易になることが記載されており,かかる課題は,静荷重型杭圧入引抜機を使用する場合に限定されるものではないと解されるから,引用発明1’に周知技術を適用することの動機付けはあるというべきである。 (ウ) 原告は, 「本件全域掘削」,すなわち,既設杭上を自走する静荷重型杭圧入引抜機を使用して,圧入する鋼矢板の地盤の全域を少ない面積で掘削することを開示する周知技術はないから,引用発明1’に周知技術を適用しても,本件発明1を想到することはできないと主張する。 しかし,前記ウのとおり, 「少ない面積で掘削する」ことは,引用発明1’が実質的に有する構成であるから,この点については周知技術を適用するまでもなく,当業者が想到できたものと認められる。 (6) 小括 以上によれば,本件発明1は,引用発明1’に周知技術を適用して,当業者が容易に想到することができたものである。本件審決の引用発明の認定及び一致点,相違点の認定には誤りがあるが,容易想到性判断の結論において正当である。 3 取消事由2(本件発明2ないし4の容易想到性判断の誤り)について (1) 本件発明2について ア 本件発明2は,実質的に本件発明1の態様を, 「既設の鋼矢板と継手部を相互に噛合させて鋼矢板を地盤内に順次圧入する」場合に限定したものである。 引用例1の先行削孔位置図には,鋼矢板の継手部を相互に噛合させることが開示されているから,「圧入する鋼矢板の継手部を既設の鋼矢板と噛合させ」ることは,引用発明1’との一致点となる。本件発明2と引用発明1’との相違点は,本件発明1と共通する相違点1-1,1-2に加え,本件発明2では, オーガによる掘削が, 「圧入する鋼矢板の継手部を既設の鋼矢板と噛合する既設の鋼矢板の継手部及び近傍の掘削済みの地盤と先行掘削した圧入する鋼矢板の開放側の継手部の圧入位置及び近傍の地盤と連続する」のに対し,引用発明1’では,かかる構成を備えるかどうかが明らかでない点(相違点1-4)と認められる。 イ 本件発明1と共通する相違点1-1,1-2は,本件発明1と同様の理由により,いずれも当業者が容易に想到できたものである。 そこで,相違点1-4について検討する。 相違点1-4は,オーガによる掘削が, 「圧入する鋼矢板の継手部を既設の鋼矢板と噛合する既設の鋼矢板の継手部及び近傍の掘削済みの地盤」と「先行掘削した圧入する鋼矢板の開放側の継手部の圧入位置及び近傍の地盤」と「連続する」との構成であり,先行掘削した地盤が, 「圧入する鋼矢板の継手部を既設の鋼矢板と噛合する既設の鋼矢板の継手部及び近傍の掘削済みの地盤」及び「先行掘削した圧入する鋼矢板の開放側の継手部の圧入位置及び近傍の地盤」であると特定するものである。 そして,引用例1には,先行削孔位置図において,赤の2点鎖線の円のうち,左側の円で示される部分には,内部に「圧入する鋼矢板の継手部を既設の鋼矢板と噛合する既設の鋼矢板の継手部及び近傍」を含み,中央の円で示される部分には,内部に「圧入する鋼矢板の開放側の継手部の圧入位置及び近傍」を含むことが開示されているから,引用例1の左側の円で示される先行削孔位置は, 「圧入する鋼矢板の継手部を既設の鋼矢板と噛合する既設の鋼矢板の継手部及び近傍」に,中央の円で示される先行削孔位置は, 「圧入する鋼矢板の開放側の継手部の圧入位置及び近傍」にそれぞれ該当する。 そうすると,相違点1-4は,オーガによる掘削が,上記の2つの先行掘削位置において掘削した地盤と連続する構成であり,実質的には相違点1-3と共通するから,本件発明1における相違点1-3と同様の理由により,当業者が容易に想到できたと認められる。 よって,本件発明2は,当業者が容易に想到することができたものである。 (2) 本件発明3について ア 本件発明3は,本件発明1又は2のオーガ併用鋼矢板圧入工法において, 「鋼矢板を圧入をしつつ行うオーガによる掘削」 (同時圧入時の掘削)を「拡径可能なオーガを使用して行う」態様に限定するものである。 本件発明3と引用発明1’とを対比すると,上記相違点1-1,1-2及び1-3又は1-4のほか,本件発明3では「鋼矢板を圧入をしつつ行うオーガによる掘削」(同時圧入時の掘削)を「拡径可能なオーガを使用して行う」のに対し,引用発明1’では,オーガの直径(掘削範囲)が特定されておらず,拡径可能なオーガであるか明らかでない点で相違する(相違点2)。 イ 本件発明1と共通する相違点1-1,1-2,1-3については,本件発明1と同様の理由により,本件発明2と共通する相違点1-1,1-2,1-4については,本件発明2と同様の理由により,いずれも当業者が容易に想到できたものである。 そこで,相違点2について検討する。 前記2(5)ウ(ア)のとおり,引用例1には,先行削孔の径がオーガケーシングの径よりも大きいものを採用し得ることの示唆があること,鋼矢板の圧入に際して,オーガケーシング径よりも大径なオーガヘッドとして,拡径可能なオーガを使用することは,当業者にとって従来周知の技術であることによれば,拡径可能なオーガを採用することも,当業者が容易に想到することができたと認められる。 ウ よって,本件発明3は,当業者が容易に想到することができたものである。 (3) 本件発明4について ア 本件発明4は,本件発明3のオーガ併用鋼矢板圧入工法において, 「鋼矢板を圧入をしつつ行うオーガによる掘削」 (同時圧入時の掘削)を「拡径可能な径大のオーガを使用して行う」際に, 「オーガの中心位置を,鋼矢板の幅方向に直交する方向の中心線上に配置して掘削する」態様に限定するものである。 引用例1の先行削孔位置図には,同時圧入の際に,オーガの中心位置を,鋼矢板の幅方向に直交する方向の中心線上に配置して掘削することが見てとれるから,引用発明1’も, 「オーガの中心位置を,鋼矢板の幅方向に直交する方向の中心線上に配置して掘削する」ものであるといえる。よって,この点は一致点となる。 本件発明4と引用発明1’とを対比すると,上記1-1,1-2及び1-3又は1-4のほか,本件発明4では,「鋼矢板を圧入をしつつ行うオーガによる掘削」(同時圧入時の掘削)を「拡径可能なオーガを使用して行う」のに対し,引用発明1’では,オーガの直径(掘削範囲)が特定されておらず,拡径可能なオーガであるか明らかでない点で相違する(相違点2)。 イ 本件発明1と共通する相違点1-1,1-2,1-3については,本件発明1と同様の理由により,本件発明2と共通する相違点1-1,1-2,1-4については,本件発明2と同様の理由により,本件発明3と共通する相違点2については,本件発明3と同様の理由により,いずれも当業者が容易に想到できたものである。 ウ よって,本件発明4は,当業者が容易に想到することができたものである。 (4) 小括 以上によれば,本件発明2ないし4は,引用発明1’に周知技術を適用して,当業者が容易に想到することができたものである。本件審決の一致点,相違点の認定には誤りがあるが,容易想到性判断の結論において正当である。 4 結論 よって,原告の請求は理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決する。 |
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裁判長裁判官部眞規子裁判官古河謙一裁判官関根澄子別紙1本件明細書図面目録【図1】【図2】【図3】【図7】【図8】【図9】【図10】【図11】別紙2引用例1映像目録@(0:13)映像A(0:15)映像B(1:21)映像C(1:25)映像D(1:54)映像E(2:00)映像F(2:04)映像G(2:30)映像H(3:10)映像I(4:00)映像J(5:44)映像K(5:48)映像L(5:58)映像M(8:22)映像N(8:37)映像 |