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審判番号(事件番号) データベース 権利
平成28行ケ10269 審決取消請求事件 判例 特許
平成26ネ10080 特許権侵害行為差止等請求控訴事件 平成27ネ10027 同附帯控訴事件 判例 特許
平成29行ケ10072 特許取消決定取消請求事件 判例 特許
平成28行ケ10152 審決取消請求事件 判例 特許
平成27行ケ10167 審決取消請求事件 判例 特許
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事件 平成 29年 (行ケ) 10007号 審決取消請求事件

原告 バイエルクロップサイエンス 株式会社
同訴訟代理人弁護士 城山康文 山内真之 大石裕太
同 弁理士 小野誠 坪倉道明 川嵜洋祐
被告 ビーエーエスエフソシエタス ・ヨーロピア
同訴訟代理人弁護士 田中成志 板井典子 山田徹 沖達也
同 弁理士 江藤聡明 倉脇明子 山口修 主文 1 原告の請求を棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求 特許庁が無効2015−800065号事件について平成28年12月6日にし た審決を取り消す。 第2 事案の概要 1 特許庁における手続の経緯等 (1) 被告は,平成10年8月5日,発明の名称を「2−ベンゾイルシクロヘキサ ン−1,3−ジオン」とする発明について特許出願(優先権主張:平成9年8月7 日,ドイツ連邦共和国。外国語特許出願)をし,平成22年9月24日,特許権の 設定登録を受けた(特許番号第4592183号。請求項の数4。以下「本件特許」 という。甲71)。 (2) 平成25年3月14日,請求項2の削除を含む訂正審決がされ,同審決は確 定した(甲72)。 (3) 原告は,平成27年3月17日,本件特許について無効審判を請求し(甲7 3),特許庁は,上記審判請求を無効2015−800065号事件として審理を 行った。 (4) 原告は,平成28年8月26日,本件特許について訂正を請求した(以下 「本件訂正」という。甲92)。 (5) 特許庁は,平成28年12月6日,本件訂正を認めた上,「本件審判の請求 は,成り立たない。」との別紙審決書(写し)記載の審決(以下「本件審決」とい う。)をし,その謄本は,同月15日,原告に送達された。 (6) 原告は,平成29年1月12日,本件審決の取消しを求める本件訴訟を提起 した。 2 特許請求の範囲の記載 (1) 本件訂正前の特許請求の範囲請求項1,3,4の記載は,別紙1のとおりで ある。以下,これら発明を「本件発明1」などといい,本件発明1,3及び4を総 称して「本件発明」という。また,明細書及び図面(甲72)を併せて「本件明細 書」という。 (2) 本件訂正後の特許請求の範囲請求項1,3,4の記載は,別紙2のとおりで ある。以下,これら発明を「本件訂正発明1」などといい,本件訂正発明1,3及 び4を総称して「本件訂正発明」という。また,明細書及び図面(甲92)を併せ て「本件訂正明細書」という。なお,下線部は,本件訂正に係る部分である。 3 本件審決の理由の要旨 (1) 本件審決の理由は,別紙審決書(写し)記載のとおりである。要するに,本 件訂正を認めた上,@本件訂正発明は,実施可能要件に違反しない,A本件訂正発 明は,サポ−ト要件に違反しない,B本件訂正発明1及び3は,下記アの引用例1 に記載された発明(以下「引用発明1」という。)及び下記イないしエの引用例2 ないし4に記載された発明(以下「引用発明2」などという。)に基づいて,本件 訂正発明4は,引用発明2並びに引用発明1,3及び4に基づいて,当業者が容易 に発明をすることができたものであるとはいえない,C本件訂正発明は,特許法1 84条の18で準用する同法123条1項5号違反(原文新規事項追加)に当たら ない,というものである。 ア 引用例1:特開平8−20554号公報(甲1) イ 引用例2:特開平7−206808号公報(甲2) ウ 引用例3:特開平6−321932号公報(甲3) エ 引用例4:特開平6−271562号公報(甲4) (2) 本件訂正発明と引用発明との対比 本件審決が認定した引用発明1,本件訂正発明1及び3と引用発明1との一致点 及び相違点,引用発明2,本件訂正発明4と引用発明2との一致点及び相違点は, 次のとおりである。 ア 引用発明1 一般式 [式中,R1は水素原子または低級アルキル基を表し,Xは低級アルキル基,低級ア ルケニル基,低級アルコキシ基,低級アルキニルオキシ基,ハロゲン原子,ニトロ 基,トリフルオロメチル基,−COR2基(ただし,基中,R2は低級アルキル基, 低級アルコキシ基または低級アルキルアミノ基を表す。),−NHCOR3基(ただ し,基中,R 3 は低級アルキル基または低級アルキルアミノ基を表す。),−S (O)mR 4 基(ただし,基中,R4 は低級アルキル基を表し,mは0または2を表 す。),−C(CH3)=NOR5基(ただし,基中,R5は低級アルキル基を表す。) または−(CH2)yCN基(ただし,基中,yは0または1を表す。)を表し,nは 0,1または2を表す。]で示されるシクロヘキサンジオン誘導体。 イ 本件訂正発明1及び3と引用発明1との一致点及び相違点 (ア) 一致点 式Ta [但し,R1が,ハロゲンを表し, R3が水素,C1〜C6アルキルを表し, nが1又は2を表し, Qが2位に結合する式U [但し,R 6,R 7,R8,R9,R10及びR 11が,それぞれ水素又はC1〜C 4アル キルを表し,上記CR8R9単位が,C=Oで置き換わっていても良い] で表されるシクロヘキサン−1,3−ジオン環を表し, X1が酸素により中断されたエチレン鎖または−CH2O−を表す] で表される2−ベンゾイルシクロヘキサン−1,3−ジオン又はその農業上有用な 塩 (イ) 相違点1 本件訂正発明1は,R2が,−S(O)nR3であるのに対し,引用発明1において は,対応する基が,ハロゲンの1種であるクロロ(塩素)である点 (ウ) 相違点2(本件訂正発明3においては,下線部を除く。) 本件訂正発明1は,Hetが,オキシラニル,2−オキセタニル,3−オキセタ ニル,2−テトラヒドロフラニル,3−テトラヒドロフラニル,2−テトラヒドロ チエニル,2−ピロリジニル,2−テトラヒドロピラニル,2−ピロリル,5−イ ソオキサゾリル,2−オキサゾリル,5−オキサゾリル,2−チアゾリル,2−ピ リジニル,1−メチル−5−ピラゾリル,1−ピラゾリル,3,5−ジメチル−1 −ピラゾリル,又は4−クロロ−1−ピラゾリルであるのに対し,引用発明1にお いては,対応する基が,特定の基Xを0,1又は2個有するフェニル基である点 ウ 引用発明2 一般式 [式中,R1およびR2は,水素原子または低級アルキル基を表し,R3は,−CH2 CH(OR7)2 基であってそのR7が環構造を形成する低級アルキレン基である 又は を表し,R4は,低級アルキル基を表し,Xは,ハロゲン原子を表す。]で示される シクロヘキサンジオン誘導体の製造方法であって,一般式(2) (式中,R1,R2は前記の意味を表す。)で示されるシクロヘキサンジオン誘導体 と,一般式(3) (式中,R3,R4およびXは,前記の意味を表し,Yは,ハロゲン原子を表す。) で示されるベンゾイルハライド誘導体とを反応させることにより,一般式(4) (式中,R1,R2,R3,R4およびXは前記の意味を表す。)で示される中間体を 得,次いでシアナイド源を触媒として反応させることにより,上記一般式(1)で 示される化合物を製造する方法 エ 本件訂正発明4と引用発明2との一致点及び相違点 (ア) 一致点 式Ta [但し,R1が,ハロゲンを表し, R2が,−S(O)nR3を表し, R3が水素,C1〜C6アルキルを表し, nが1又は2を表し, Qが2位に結合する式U [但し,R 6,R 7,R8,R9,R10及びR 11が,それぞれ水素又はC1〜C 4アル キルを表し,上記CR8R9単位が,C=Oで置き換わっていても良い] で表されるシクロヘキサン−1,3−ジオン環を表す] で表される2−ベンゾイルシクロヘキサン−1,3−ジオンの製造方法であって, 置換又は非置換のシクロヘキサン−1,3−ジオンQを,アシル化剤でアシル化し, 適宜触媒の存在下に,アシル化生成物を転位させて化合物Taを得ることを特徴と する製造方法。 (イ) 相違点3 本件訂正発明4は,X1が,酸素により中断されたエチレン鎖又は−CH2O−で あるのに対し,引用発明2においては,対応する基が,−OCH2−である点 (ウ) 相違点4 本件訂正発明4は,Hetが,オキシラニル,2−オキセタニル,3−オキセタ ニル,2−テトラヒドロフラニル,3−テトラヒドロフラニル,2−テトラヒドロ チエニル,2−ピロリジニル,2−テトラヒドロピラニル,2−ピロリル,5−イ ソオキサゾリル,2−オキサゾリル,5−オキサゾリル,2−チアゾリル,2−ピ リジニル,1−メチル−5−ピラゾリル,1−ピラゾリル,3,5−ジメチル−1 −ピラゾリル,若しくは4−クロロ−1−ピラゾリル,又は上記のうち初めの3つ を除いたものの何れかであるのに対し,引用発明2においては,対応する基が, 又は である点 (エ) 相違点5 本件訂正発明4は,アシル化剤がカルボン酸Vb’ であるのに対し,引用発明2においては,アシル化剤が一般式(3) (本件審決注:Yは,ハロゲン原子である。他の置換基は省略する。)で示される ベンゾイルハライド誘導体,すなわち,カルボン酸ハライドである点 4 取消事由 (1) 本件訂正の可否(取消事由1) (2) 実施可能要件に係る判断の誤り(取消事由2) (3) サポ−ト要件に係る判断の誤り(取消事由3) (4) 本件訂正発明の容易想到性に係る判断の誤り(取消事由4) (5) 原文新規事項追加に係る判断の誤り(取消事由5) 第3 当事者の主張 1 取消事由1(本件訂正の可否)について 〔原告の主張〕 (1) マ−カッシュ・クレ−ムの補正に関する審査基準によれば,補正により選択 肢を削除して特定の選択肢の組合せを請求項に残すことによって,新たな技術的事 項を導入することとなる場合があるから,補正後の選択肢が当初明細書等の記載の 範囲にあるからといって当該補正が許容されるわけではない。訂正についても同様 である。 (2) 請求項1に係る本件訂正は認められない。請求項1に係る本件訂正は,He tにつき「18個の選択肢」に限定するものであるが,本件明細書の【0061】, 表A及び表37によっては,Hetに関する「18個の選択肢」は把握できないし, X1が「酸素により中断されたエチレン鎖または−CH2O−」を表す場合に,He tが「18個の選択肢」であると把握することはできない。審決の予告を受けて, 特定のX1とHetの組合せを選択したという本件訂正に至る経緯(甲90,91) を考慮しても,本件審決の「Hetが(【0061】記載の)12個である場合に式 Taの,Het以外の置換基や部分構造が特定のものに限られるというものでもな い」とした認定は誤りである。特許請求の範囲の減縮だからといって,新規事項の 追加でないとはいえない。 (3) 本件訂正は,本件明細書の方法Cにより生産できないものを含んでいた本件 発明の広範なX1とHetの組合せの中から,上記方法Cにより適宜生産できると被 告が主張し得る範囲のX1とHetの特定の組合せを任意に残したものである。そし て,本件訂正後のX1とHetの組合せであれば方法Cにより生産できることが本件 明細書に開示ないし示唆されているとはいえないから,この点からも,本件訂正後 のX1とHetの特定の組合せを任意に選択することは,新規な技術的事項を追加す るものである。 (4) 請求項3に係る本件訂正は認められない。請求項1と同様,Hetが特定の 「15個の選択肢」であること,X1が「酸素により中断されたエチレン鎖または− CH2O−」のときにHetが特定の「15個の選択肢」であることは記載されてい ない。 〔被告の主張〕 (1) 本件訂正は,本件特許に係る特許侵害訴訟における訂正の再抗弁の予備的主 張及び無効審判事件における審決の予告を受けて行ったものである。X1は審決の予 告で製造可能(例えば,原料化合物を入手できる範囲)とされた5種のうち訂正の再 抗弁に合う2種とした。Hetは,甲62に示されたアルコ−ル原料に由来するH etから,訂正の再抗弁の予備的主張に係るX1の結合の形成には関与しないアルコ −ルに由来するHetを削除し,本件明細書の合成例で用いられたことにより,入 手の可否が既に証明されていたアルコ−ル材料から得られるHetを合わせて18 種類のHetとした。本件訂正は,審査基準に沿うもので,新規事項の追加ではな い。第三者にとって不測の不利益も生じない。 (2) 本件明細書の【0061】,表A及び表37には多くの置換基が挙げられて いるとしても,その中で該当する置換基を参照することは容易である。本件明細書 の【0061】にHetとX1との特定の組合せの記載があるかではなく,方法Cの 説明(【0050】【0051】)と,合成実施例の工程bと,Hetとしての開 示(【0061】,表A及び表37)があれば,請求項1における全ての化合物が 明細書に開示されていると理解できる。 2 取消事由2(実施可能要件に係る判断の誤り)について 〔原告の主張〕 (1) 化合物の生産について ア 本件明細書には,本件発明に該当する1の化学物質の合成例(【0131】 〜【0134】)及び7個の化学物質(【0135】表37)が具体的に記載され てはいるが,これらはごく限られた種類のものである。当該合成例の反応条件,試 薬及び溶媒が,方法Cに関する反応条件として示されている極めて広範囲に記載さ れた【0052】〜【0056】の範囲内であったとしても,本件訂正発明1及び 3に係る化学物質を生産することにつき,当業者に通常期待し得る程度を超える試 行錯誤が要求されるというべきである。 イ X1が「−CH2OCH2−」である化学物質の合成方法(方法C)と,X1が 「−CH2O−」である工程bとを関連付けるべきでない。すなわち,方法Cにおけ るX1,X2,X3の定義「X2が,炭素原子が少なくとも1個で,最大5個の,直鎖 又は分枝アルキレン鎖,…を表し,X3が,最大5個の炭素原子を有する,直鎖又は 分枝アルキレン鎖…を表し,且つX2OX3は基X1を形成する」からは,X3が単結 合(つまり,炭素原子を含まず,且つ鎖でもないもの)ではないことが明確である から,方法Cは,X1が「−CH2OCH2−」等の場合に関するものであって,「− CH2O−」の場合は含まない。 ウ 甲56は出願10年後の実験であり,参酌できない。 (2) 化合物を使用できることについて ア 本件明細書には,化学物質の施与率が非常に広範な数値範囲で示されている だけであり(【0129】),「使用実施例」などとして,除草作用の検証方法の 概要が示されているにすぎず(【0136】〜【0140】),本件明細書には, 実際に試験を行った結果は,何ら記載されていない。そうであるにもかかわらず, 本件審決が,常法に従い除草のために施用できることは明らかであり,施用すれば, 常法に従い除草特性を確認することができることは明らかであるとして,実施可能 要件を満たすとした判断は誤りである。 イ 化学物質発明の有用性をその化学構造だけから予測することは困難であり, 試験してみなければ判明しないことは当業者の広く認識するところである。化学物 質の発明の有用性を知るには,実際に試験を行い,その試験結果から,当業者にそ の有用性が認識できることを要する。 仮に,当業者が「常法に従い除草特性を確認」したとしても,本件明細書にはい かなる実験結果も記載されていないのであるから,当該化学物質を使用するために は,当業者に通常期待し得る程度を超える試行錯誤が要求されるというべきである。 ウ @甲99の「化学物質番号55」は本件共通構造を有するにもかかわらず, 本件訂正明細書に記載の施与量の上限の約1.5倍(4.48kg/ha)で試験され たどの雑草にも除草効果を示さなかった。また,A甲101の本件共通構造を有す る6つの化学物質は,引用例1ないし4よりも多い80g/haの施与量で行った 実験において,いずれの雑草(カラスムギ,ショクヨウガヤツリ,イヌビエ,イチ ビ)に対しても除草活性を示していない。上記@及びAからすれば,「シクロヘキ サン−1,3−ジオンの2位がカルボニル基を介して中央のベンゼン環に結合した 構造」(以下「本件共通構造」という。)上の置換基の種類・組合せが,除草活性 の発現に大きく影響することは明らかであり,本件共通構造を有する化学物質が必 ずしも除草活性を示すものではない。 〔被告の主張〕 (1) 化合物の生産について 化合物の生産については,審決の予告で実施可能要件を充足すると判断された化 合物のみを含むよう訂正した。結合生成ができることについて,−X1−Hetの結 合部分以外は当事者間に争いはない。また,本件審決は,請求項1の18のHet につき,HO−CH2−Hetの化合物が入手できること,請求項1に係る化合物が 製造できることを認定した。X1が−CH2O−,−CH2−O−CH2−の化合物が 合成できることは,本件明細書に開示されている。 (2) 化合物を使用できることについて 本件訂正明細書には,化合物の構造の詳細,製造例(【0130】〜【013 4】),除草剤組成物の調製(【0110】〜【0129】)が十分に開示されており, 本件化合物を除草剤として使用できる。 使用すること(除草特性)について,当業者は,除草作用が認められるベンゾイル シクロヘキサンジオンについて,化合物の開発を試みていた。本件訂正明細書の記 載(使用実施例の記載。【0136】〜【0141】),周知技術(甲2〜4,19, 99)から化合物の除草作用が理解できるし,実験デ−タは不要である。化合物,対 象の全てについてデ−タを揃えることは実務的に不可能である。 3 取消事由3(サポ−ト要件に係る判断の誤り)について 〔原告の主張〕 (1) 本件訂正発明の解決課題について 本件訂正明細書には,除草剤の有効成分の「候補化合物となる化合物」を提供す ることが課題であるとの記載はない。本件訂正発明の課題は,実際に除草作用を有 することにより除草剤の有効成分となる化合物を提供することにあるというべきで ある。 (2) 化合物の除草特性について ア 本件訂正明細書には,本件訂正発明に係る化学物質が除草活性を有すること を裏付ける具体的な記載(試験デ−タ)は何もない。また,被告による実験成績証 明書(甲51,52,63)において,本件訂正発明に係る化学物質の優れた効果 が示されているものの,これらの除草作用の試験をしたのは本件出願日から10年 以上後である。 イ 本件共通構造を持った化合物であれば,必ず除草活性を示すという技術常識 はない(甲99,101)。また,本件訂正発明がサポ−ト要件を満足するとの根 拠(化学構造上の共通性)として本件審決が示した従来技術(引用例1ないし4) は限られた先行技術であって,当業者の技術常識とはいえない。 (3) 化合物の生産について 本件明細書には,本件訂正発明1及び3に係る化合物を当業者が実際に生産し得 る程度の具体的な合成方法ないし合成例が記載されていない。本件明細書記載の方 法Cに準じて適宜生産し得るというだけでは,サポート要件を満たすとはいえない。 〔被告の主張〕 (1) 特許請求の範囲に記載された発明は,発明の詳細な説明に記載された発明で, 「発明の詳細な説明の記載により,出願時の技術常識に照らし」当業者が当該発明 の課題を解決できると認識し得る範囲のものである(本件訂正明細書【0007】 【0008】【0011】及び【0109】)。また,特許請求の範囲に記載され た発明が,発明の課題を解決するに足る有用性を有していることが発明の詳細な説 明に記載されていれば足りるところ,本件訂正明細書【0005】【0109】の 記載から有用性を認識することができ,被告が補足的に提出した実験成績証明書 (甲51,52,63)から,本件訂正明細書【0109】に記載された効果を奏 することが確認できる。 (2) 本件訂正発明の解決課題について 「候補化合物」なる用語は,一般に医薬関係で用いられ,新薬となる以前の化合 物を含む請求項1の化合物全体を表現したにすぎない。本件訂正発明については, 除草特性が改良された化合物の発明であって,除草剤の発明ではない。本件審決は, このことを,「本願発明1及び3の課題は,除草特性が改良された化合物であって, 除草剤の有効成分又はその候補化合物となる化合物を提供することであ」ると認定 判断したものである。また,本件訂正発明は,キラル中心等を発明の課題とするも のでもない。 (3) 化合物の除草特性について 本件訂正発明は,除草特性が改良された化合物の発明であって,除草剤の発明で はない。本件訂正発明の化合物の構造を見れば,当業者は,その化合物の有用性を 認識することができ,これを生産した後は,常法に従い除草特性を確認することが できる。 化学物質発明の効果が直接に示される必要はなく,従来技術(乙1〜4)を参照し て明細書の記載を見ることによって,除草特性が改良されているであろうとの推測 がなされれば,課題を解決することができると認識されるべきである。 (4) 化合物の生産について 前記2〔被告の主張〕(1)記載のとおりである。 4 取消事由4(本件訂正発明の容易想到性に係る判断の誤り)について 〔原告の主張〕 (1) 「化合物が生産できれば,除草特性は常法で確認できる(化合物の構造の共 通性に基礎付けられる)。」という本件審決のサポート要件の理由付け及び論理が, 万が一容認されるのであれば,当業者は,引用例1記載の一般手順中の「(5)フェ ノ−ル」に代えて,甲69等で公知の出発原料を用いることにより,本件訂正発明 1及び3の化合物を生産できることを認識できる。そして,当該化合物も本件共通 構造を有するから,除草特性を常法に従って確認できる。 したがって,本件訂正発明は,引用例1の記載及び甲69等に示される技術常識 に基づいて,容易に想到することができる。 (2) 本件共通構造を有する除草活性化合物の技術分野において,置換基を種々変 更して得られた化合物の除草特性を確認してみることは広く行われていたことであ るから,当業者にはそのような動機付けがある。本件訂正発明の解決課題が単に常 法に従って除草特性を確認できる化合物の提供に止まるのであれば,引用発明1の 発明者も数多くのシクロヘキサンジオン誘導体を合成して除草特性を確認したよう に(引用例1【0010】),中央のベンゼン環の2〜4位を他の基に置き換えるこ とに動機付けがある。 ア 相違点1について 引用例2に記載の化合物は本件共通構造を有し,当該化合物のベンゼン環の4位 (本件訂正発明のR2)は,本件訂正発明と同じアルキルスルホニル基(−S(O) n R3)である。また,引用例2には,当該化合物が比較薬剤とされた化合物よりも 優れた除草特性を有していることが記載されている。したがって,当業者は,相違 点1に係る構成を有する化合物を生産して除草特性を確認することを動機付けられ ている。 イ 相違点2について 引用例2には,Hetの完全飽和ヘテロシクリル基に対応する「1,3−ジオキ ソラン−2−イル」 が開示され(本件明細書の【0061】にも例示されてい る。),当該化合物が優れた除草特性を有していることが記載されている(引用例 2の【0058】ないし【0063】)。したがって,当業者は,引用発明1にお いてHetに対応するフェニル基を,引用例2の置換基である「完全飽和ヘテロシ クリル基」等に変更することを動機付けられている。そして,本件訂正発明1及び 3の具体的なHetに限定することについては,引用例1の一般手順中の対応する 出発物質((5)のフェノール)を完全飽和ヘテロシクリル基に対応する出発物質 に変更してみることが動機付けられている。 (3) 得られた化合物の除草特性を常法に従い確認できるので,本件訂正発明は格 別顕著な効果を奏するものでない。 〔被告の主張〕 (1) 容易想到性の判断の過程において事後分析的思考を用い,先行技術の内容の 検討に本件訂正発明の「解決手段」ないし「解決結果」の要素を意識的にとりこむ,
原告の主張は誤りである。サポ−ト要件(発明が課題を解決するように記載されてい るかどうか)の判断と,発明の進歩性の判断における動機付けの有無の判断が相関性 を有するという原告の主張の前提は誤りである。 (2) 引用発明1との相違点に引用例2ないし4を組み合わせる動機付けはない。 課題が解決されている引用発明1に,改めて引用発明2を組み合わせる動機はない。 引用例2の比較化合物A及びD(ベンゼン環の4位にアルキルスルホニルが存在す る。)が,他の比較化合物に比して,とりわけ優れているわけでもなく,上記A及 びDの構成を採用する動機付けはない。さらに,引用発明1のベンゼン環4位は塩 素に固定されていて,塩素を他の基に変更する可能性が示されていない。 相違点2についても,引用例2から,引用例1の化合物の除草効果向上又は作物 に対する薬害低下のための示唆は得られず,これを引用発明1に適用する動機付け はない。また,甲69も所定の用途での使用について記載するものではなく,引用 発明1の材料として2−ヒドロキシテトラヒドロフランを用いることを読み取るこ とはできない。 引用例1及び2の製造方法からは,本件訂正発明のX1とHetとの結合を要する 化合物は合成できない。 引用例2ないし4を勘案したとしても,引用例1の化合物に対し,引用例2ない し4のヘテロシクリルを組み込むことは不可能である(X1が−CH2O−の化合物は, 引用例1ないし4から容易に想到することができない。)。 5 取消事由5(原文新規事項追加に係る判断の誤り)について 〔原告の主張〕 本件明細書のX1の定義は,国際出願明細書のX1の定義を個別化したものである。 本件明細書のX1の定義は,国際出願明細書に具体的に示されている8個のX1の記 載から導き出せない。新たな技術的事項を導入するものであるから,このような補 正は許されない。 〔被告の主張〕 本件訂正は「(当初明細書に記載した事項以外の)個別化」には当たらない(取消事 由1と同じ)。 請求項1及び3のX1は,国際出願明細書に含まれ,何ら問題はない。 第4 当裁判所の判断 1 本件訂正発明について (1) 本件訂正発明に係る特許請求の範囲は,前記第2の2(2)のとおりであり, 本件訂正明細書(甲92)には,おおむね以下の記載がある。 ア 背景技術,発明が解決しようとする課題 本発明は,式Tで表される2−ベンゾイルシクロヘキサン−1,3−ジオン又は その農業上有用な塩に関する(【0001】【0002】)。 さらに本発明は,式Tの化合物を製造する方法及びそのための中間体,化合物T を含む組成物,式Tの化合物の使用,並びに有害植物防除用としての化合物Tを含 む組成物に関する(【0003】)。 2−ベンゾイルシクロヘキサン−1,3−ジオンは,文献,例えばEP−A27 8742,EP−A298680,EP−A320864及びWO96/1428 5に開示されている(【0004】)。 しかしながら,従来技術の化合物が示す除草特性及びその栽培植物の安全性は, 完全に満足できるものではない(【0005】)。 本発明の目的は,新規な,特に除草作用において,特性が改良された化学物質を 提供することにある(【0006】)。 本発明者等は,この目的が式Tの2−ベンゾイルシクロヘキサン−1,3−ジオ ン及びその除草作用により達成されることを見出した(【0007】)。 さらに本発明者等は,化合物Tを含み極めて良好な除草作用のある除草剤組成物 を見出した。さらに,本発明者等は,これら組成物を製造する方法及びこの化合物 Tを用いて望ましくない植生を制御する方法を見出した(【0008】)。 イ 式Tの化合物の合成についての一般的な記載 方法C: 適当な置換ヘテロシクリルVUを安息香酸エステルVbで置換して,本発明の安 息香酸エステルVcを得る;(【0050】) (【0051】【化14】) 一般に,出発材料は等モル量で用いられる。しかしながら,過剰量の出発材料又 は他の成分を使用することが有利であろう(【0052】)。 適宜,反応を塩基の存在下で行うことが有利であろう。出発材料及び補助塩基は, 等モル量で用いることが有利である。特定の場合,VUに対して,過剰量の補助塩 基,例えば1.5〜3モル等量用いることが有利であろう(【0053】)。 適当な補助塩基は,第三級アルキルアミン(例えば,トリエチルアミン,ピリジ ン),アルカリ金属炭酸塩(例えば,炭酸ナトリウム,炭酸カリウム),アルカリ 金属水素化物(例えば,水素化ナトリウム)である。トリエチルアミン,ピリジン 及び炭酸カリウムを用いることが好ましい(【0054】)。 適当な溶剤の例としては,塩素化炭化水素(例えば,塩化メチレン,1,2−ジ クロロエタン),芳香族炭化水素(例えば,トルエン,キシレン,クロロベンゼ ン),エ−テル(例えば,ジエチルエ−テル,メチルtert−ブチルエ−テル, テトラヒドロフラン,ジオキサン),非プロトン性極性溶剤(例えば,アセトニト リル,ジメチルホルムアミド,ジメチルスルホキシド),又はエステル(例えば, 酢酸エチル),或いはこれらの混合物である(【0055】)。 一般に反応温度は,0℃〜反応混合物の沸点の間である(【0056】)。 ウ 例示の記載 他の意味の例として,下記のものを挙げることができる:… ヘテロシクリル,及びヘテロシクリルオキシのヘテロシクリル基:酸素,窒素及 び硫黄原子から選ばれる1〜3個のヘテロ原子を有する3〜7員の飽和又部分不飽 和の単環もしくは多環ヘテロシクリル,例えば,オキシラニル,2−テトラヒドロ フラニル,3−テトラヒドロフラニル,2−テトラヒドロチエニル,…,2−ピロ リジニル,…,2−テトラヒドロピラニル,… ヘテロアリ−ル,及びヘテロアリ−ルオキシのヘテロアリ−ル基:炭素環員とは 別に,1〜4個の窒素原子,又は1〜3個の窒素原子と1個の酸素又は硫黄原子, 又は1個の酸素原子,又は1個の硫黄原子をさらに有していても良い芳香族の単環 もしくは多環基,例えば,…2−ピロリル,…,5−イソオキサゾリル,…,2− オキサゾリル,…,5−オキサゾリル,2−チアゾリル,…,2−ピリジニル,… (【0061】)。 エ 式Taの化合物についての記載 以下の式Taで表される化学物質が最も好ましい。即ち, 置換基R1,R2及びQ がそれぞれ上記と同義であり, X1が,1個の他の酸素原子を含むC1〜C2アルキ レン鎖又はC2アルキニレン鎖を表し,そして Hetが,3〜6員,好ましくは5 員又は6員の部分飽和若しくは完全飽和ヘテロシクリル基,又は下記の3個の群: 即ち,窒素,酸素と少なくとも1個の窒素との組み合わせ,又は硫黄と少なくとも 1個の窒素との組み合わせ,特に好ましくは以下の2個の群:即ち,窒素,又は酸 素と少なくとも1個の窒素との組み合わせから選択される3個まで,特に好ましく は1個又は2個のヘテロ原子を有する,3〜6員,好ましくは5員又は6員のヘテ ロ芳香族基を表し,且つこのヘテロシクリル基又はヘテロ芳香族基は,部分的に又 は完全にハロゲン化されていても,及び/又はR5で置換されていても良い(【00 68】)。 さらに,以下の,本発明の式Ta で表される化学物質が極めて最も好ましい。即ち, 置換基R1,R2及びX1がそれぞれ上記と同義であり, Hetが,5員又は6員の 部分飽和若しくは完全飽和ヘテロシクリル基,又は下記の3個の群:即ち,窒素, 酸素と少なくとも1個の窒素との組み合わせ,又は硫黄と少なくとも1個の窒素と の組み合わせ,特に好ましくは以下の2個の群:即ち,窒素,又は酸素と少なくと も1個の窒素との組み合わせから選択される3個まで,特に好ましくは1個又は2 個のヘテロ原子を有する,5員又は6員のヘテロ芳香族基,を表し,且つこのヘテ ロシクリル基又はヘテロ芳香族基は,部分的に又は完全にハロゲン化されていても, 及び/又はR5で置換されていても良い(【0069】)。 オ 表1〜36の式Tbの化合物についての記載 下記の表1〜36の化学物質Tbが特に好ましい(【0070】)。 表A bP〜920まで物質が列挙され,そのうち実施例として,オキシラニル(bP 16),2−オキセタニル(bP18),3−オキセタニル(bP31),2−ピ ロリル(bP46),5−イソオキサゾリル(bP68),2−オキサゾリル( 185),5−オキサゾリル(bP87),2−チアゾリル(bP88),1−メ チル−5−ピラゾリル(bP95),2−ピリジニル(bQ04)が記載されてい る(【0071】)。 下記の表1〜36は,式Tbで表される2−ベンゾイルシクロヘキサン−1,3 −ジオンに基づくものである。 表1:化合物1.1〜1.920 R 1が塩素,R2がメチルスルホニル,R6,R 7,R 8,R9,R10及びR 11がそ れぞれ水素であり,そして個々の化合物について,置換基X1及びHetが表Aの各 行に対応する式Tbで表される化合物(【0072】〜【0074】)。 カ 除草剤用途についての記載 化合物T及びその農業上有用な塩は,異性体混合物,また純粋な異性体の形態で, 除草剤として好適である。Tを含む除草剤組成物は,非栽培領域の植生の制御に, 特に高い施与率で効果的である。これらの組成物は,オオムギ,米,トウモロコシ, 大豆,及び綿花等の作物の中の広葉の雑草及びイネ科の雑草(Unkraeute r undSchadgraeser)に対して,栽培植物に損傷を与えること なく作用する。この効果は,主に低施与率で観察される(【0109】)。 施与方法の相違によるが,化合物T又はこれらを含む組成物は,更に多くの栽培 植物に,望ましくない植物の除去のために使用することができる。適当な作物とし て以下のものを挙げることができる: タマネギ(Allium cepa) パイナップル(Ananas comosus) ナンキンマメ(Arachis hypogaea) …(【0110】)。 直接使用可能な製剤の有効成分Tの濃度は,広い範囲で変更することができる。 一般に,その処方は,少なくとも1種の有効成分を,0.001〜98重量%,好ま しくは0.01〜95重量%の量で含む。有効成分は90〜100%の純度(NMR スペクトルによる)のもの,好ましくは95〜100%の純度のものが使用される (【0118】)。 本発明の化合物Tの製造を,下記の調製例に示す: T:20重量部の化合物Tを,80重量部のアルキル化ベンゼン,10重量部の, オレイン酸N−モノエタノールアミド(1モル)のエチレンオキシド(8〜10モ ル)付加体,5重量部のドデシルベンゼンスルホン酸カルシウム及び5重量部の, ヒマシ油(1モル)のエチレンオキシド(40モル)付加体からなる混合物に溶解 させる。この溶液を100000重量部の水に注ぎ,その中で微細に分散させ,こ れにより0.02重量%の有効成分を含む水性分散液を得る(【0119】)。 有効化合物(物質)の施与率は,施与目的,季節,対象の植物および成長段階に 応じて,1ヘクタ−ルあたり0.001〜3.0kgの有効物質(a.s.)の量, 好ましくは0.01〜1.0kgの量である(【0129】)。 キ 合成実施例の記載 出発材料と生成物の幾つかの合成を,以下に記載する(【0130】)。 {2−クロロ−3−[(1−メチルピラゾール−5−イル)オキシメチル]−4 −メチルスルホニルフェニル}{5,5−ジメチル−1,3−ジオキソ−シクロヘ キサ−2−イル}メタノン 工程 a:2−クロロ−3−ブロモメチル−4−メチルスルホニル安息香酸メチル8 0g(0.3モル)の2−クロロ−3−メチル−4−メチルスルホニル安息香酸メチ ル,54g(0.31モル)のN−ブロモスクシンイミド及び1.5gのアゾイソブ チロニトリルを,76℃で6時間撹拌した。反応混合物をろ過し,そして減圧下に 溶剤を除去した。収量:104g;融点:83〜85℃(【0131】)。 工程b:2−クロロ−[(1−メチルピラゾール−5−イル)オキシメチル]− 4−メチルスルホニル安息香酸メチル4.3g(44ミリモル)の1−メチル−5− ヒドロキシピラゾール,9.1gの炭酸カリウム及び100mlのテトラヒドロフラ ンを,65℃で1時間加熱した。この混合物に,15g(44ミリモル)の2−ク ロロ−3−ブロモメチル−4−メチルスルホニル安息香酸メチル及び150mlの テトラヒドロフランを添加し,40℃で4時間加熱した。この混合物を,12時間 撹拌し,減圧下に溶剤を除去し,酢酸エチルに溶解し,炭酸水素ナトリウム溶液及 び水で洗浄し,乾燥し,そして溶剤を除去した。粗生成物を,シリカゲル上で精製 した(溶離液:シクロヘキサン/酢酸エチル=1/1)。収量:7.6g;融点7 0℃(【0132】)。 工程c:2−クロロ−[(1−メチルピラゾール−5−イル)オキシメチル]− 4−メチルスルホニル安息香酸30mlのテトラヒドロフランと30mlの水との 混合物中の,6.95g(19ミリモル)の2−クロロ−[(1−メチルピラゾール −5−イル)オキシメチル]−4−メチルスルホニル安息香酸メチルを,0.93g の水酸化リチウムを用いて室温で12時間処理した。10%濃度塩酸を用いて反応 混合物のpHを4に調整し,塩化メチレンで抽出した。有機層を乾燥し,溶剤を除 去した。収量:4.3g;融点197℃(【0133】)。 工程d:{2−クロロ−3−[(1−メチルピラゾール−5−イル)オキシメチ ル]−4−メチルスルホニルフェニル}{5,5−ジメチル−1,3−ジオキソ− シクロヘキサ−2−イル}メタノン50mlのアセトニトリル中の,1.0g(2. 9ミリモル)の2−クロロ−3−[(1−メチルピラゾ−ル−5−イル)オキシメ チル]−4−メチルスルホニル安息香酸,0.4g(2.9ミリモル)のジメドン及 び0.72gのN,N−ジシクロヘキシルカルボジイミドを,40℃で4時間加熱し た。反応混合物を室温で12時間撹拌させた後,0.87gのトリエチルアミン及び 0.57gのトリメチルシリルニトリルを添加した。その後,反応混合物を40℃で 6時間加熱し,ろ過し,減圧下に溶剤を除去し,そして残留物をシリカゲル上で精 製した(溶離液:トルエン/テトラヒドロフラン/酢酸:100/0/0〜4/1 /0.1)。収量:0.25g;融点82℃(【0134】)。 ク 表37の化合物についての記載 表37には,bR7.1〜37.7まで7種の物質が列挙され,1−ピラゾリル (bR7.1。以下同じ。),3,5−ジメチル−1−ピラゾリル(37.2,3 7.4,37.6),4−クロロ−1−ピラゾリル(37.3,37.5,37. 7)が記載されている(【0135】)。 ケ 使用実施例の記載 [使用実施例] 式Tで表される置換2−ベンゾイルシクロヘキサン−1,3−ジオンの除草作用 を下記の温室実験で示した(【0136】)。 プラスチック植木鉢を栽培容器として用い,約3.0%の腐葉土を含むロ−ム質砂 を培養基とした。被検植物の種子を種類ごとに播種した(【0137】)。 事前法(pre−emergence treatment)により,水中に懸 濁または乳化させた有効成分を,種子を撒いた後に微細散布ノズルを使用して直接 撒布した。出芽と成長を促進させるために容器を軽く灌水し,次いで植物が根付く まで透明のプラスチックの覆いを被せた。有効成分により害が与えられない限り, この被覆が被検植物の均一な出芽をもたらす(【0138】)。 事後法(post−emergence treatment)により,被検植 物を,発育型によるが,草丈3〜15cmとなった後,水中に懸濁または乳化させ た有効成分で処理することのみを行った。この目的のため,被検植物を直接播種し
同一の容器で栽培することも,当初は別々に苗として植え,処理の行われる2〜3 日前に試験用容器に移植することも可能である(【0139】)。 各被検植物を種類により,10〜25℃または20〜35℃に保持し,実験期間 を2〜4週間とした。この間,被検植物を管理し,個々の処理に対する反応を評価 した(【0140】)。 (2) 前記(1)によれば,本件訂正発明の概要は以下のとおりである。 ア 本件訂正発明は,式Tで表される2−ベンゾイルシクロヘキサン−1,3− ジオン又はその農業上有用な塩に関する(【0001】【0002】)。 イ 本件発明に係る化学物質(安息香酸エステルの一種)は,適当なヘテロシク リル等を安息香酸エステルで置換して得られる(方法C)。下記式Taで表される 化合物が最も好ましい。すなわち,Qがシクロヘキサン−1,3−ジオン環,X1が, 1個の他の酸素原子を含むC1〜C2アルキレン鎖又はC2アルキニレン鎖を表す。そ して,Hetが,3〜6員,好ましくは5員又は6員の部分飽和若しくは完全飽和 ヘテロシクリル基,又は下記の3個の群:すなわち,窒素,酸素と少なくとも1個 の窒素との組合せ,又は硫黄と少なくとも1個の窒素との組合せ,特に好ましくは 以下の2個の群:すなわち,窒素,又は酸素と少なくとも1個の窒素との組合せか ら選択される3個まで,特に好ましくは1個又は2個のヘテロ原子を有する,3〜 6員,好ましくは5員又は6員のヘテロ芳香族基を表し,且つこのヘテロシクリル 基又はヘテロ芳香族基は,部分的に又は完全にハロゲン化されていても,及び/又 はR5で置換されていても良い。(【0050】【0051】【0068】) (本件訂正発明1(又は3)に係る化学物質は,上記式Ta において,R1をハロゲ ン,R2を−S(O)nR3,X1を酸素により中断されたエチレン鎖又は−CH2O−, Hetを特定の18種類(又は15種類)のヘテロ環構造に限定した化学物質であ る。) ウ 本件訂正発明に係る化学物質及びその農業上有用な塩は,異性体混合物,ま た純粋な異性体の形態で,除草剤として好適に用いられ,非栽培領域の植生の制御 に,特に高い施与率で効果的で,オオムギ,米,トウモロコシ,大豆,及び綿花等 の作物の中に広範囲に残った雑草及び牧草に対して,栽培植物に損傷を与えること なく作用する(【0109】)。 2 取消事由1(本件訂正の可否)について (1) 本件訂正は,審決の予告(甲90)において実施可能要件に係る記載不備が 指摘されたことに対して,明細書に明示的に記載されていた置換基X 1及びHetの 選択肢(【0061】,表A及び表37)を,CAS REGISTRY物質レコ ード(甲69)に示されていることから入手できることが確認された原料物質より 合成される化学物質に限定したものである。すなわち,本件訂正発明は,本件発明 のR1を1種類(ハロゲン),R2 を1種類(−S(O) nR3),X1を2種類(酸 素により中断されたエチレン鎖又は−CH2O−),Hetをヘテロシクリル基及び ヘテロ芳香族基(ヘテロアリール)のうちの本件明細書に挙げられている多数の物 質の中から18種類又は15種類の化合物に限定したものである。そして,本件訂 正後の化学物質群は,いずれも本件訂正前の請求項に記載された各選択肢に内包さ れていることが明らかである。したがって,本件訂正は,特許請求の範囲を減縮す るものである。 また,訂正後の化学物質群は,訂正前の基本骨格(シクロヘキサン−1,3−ジ オンの2位がカルボニル基を介して中央のベンゼン環に結合した構造。本件共通構 造)を共通して有するものである。加えて,訂正後の化学物質群について,訂正前 の化学物質群に比して顕著な作用効果を奏するとも認め難い。そうすると,選択肢 を削除することによって,本件明細書の全ての記載を総合することにより導かれる 技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入するものではない。 このように,本件訂正は,特許請求の範囲の減縮を目的とし,また,本件明細書 に開示された技術的事項に新たな技術的事項を導入するものでないから,本件明細 書の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項の範囲内である。 したがって,本件訂正は,特許法134条の2第9項が準用する126条5項の 規定に違反しない。 (2) 原告の主張について ア 原告は,選択肢を削除する訂正が認められるのは,特定の選択肢の組合せを 採用することが当初明細書等に記載されているといえる場合だけであり,本件明細 書の【0061】は,多種多様なヘテロシクリルやヘテロ芳香族基(ヘテロアリー ル)を,単に「列挙」しているにすぎず,本件明細書の他の記載を参酌しても,訂 正後のHetの「18個の選択肢」やそれらと特定のX1(酸素により中断されたエ チレン鎖又は−CH2O−)との組合せは記載されていないことから,本件訂正は新 たな技術的事項を導入するものであり,認められない,特許庁の審査基準において も同旨の考え方が採用されていると主張する。 (ア) 特許庁「特許・実用新案審査基準」の第W部第2章(甲35)には,特許 請求の範囲の補正,特に下位概念化及びマーカッシュ形式のクレームについて,以 下のように記載されている。 「(2) 発明特定事項を下位概念化又は付加する補正の場合 a 請求項の発明特定事項の一部を限定して,当初明細書等に明示的に記載され た事項又は当初明細書等の記載から自明な事項まで下位概念化する補正は,新たな 技術的事項を導入するものではないので許される。 b 請求項の発明特定事項を下位概念化する補正が当初明細書等に明示的に記載 された事項又は当初明細書等の記載から自明な事項までは下位概念化しない補正で あっても,この補正により新たな技術上の意義が追加されないことが明らかな場合 であれば,新たな技術的事項を導入するものではない。したがって,このような補 正は許される。 c 他方,請求項の発明特定事項を下位概念化する補正であっても,この補正に より当初明細書等に記載した事項以外のものが個別化されることになる場合は,そ の補正は,新たな技術的事項を導入するものである。したがって,このような補正 は許されない。」 「(5) マ−カッシュ形式等の択一形式のクレ−ムについてする補正の場合 a マ−カッシュ形式等の択一形式で記載された請求項において,一部の選択肢 を削除する補正は,残った発明特定事項で特定されるものが新たな技術的事項を導 入するものではない場合には許される。 b 当初明細書等に化学物質が多数の選択肢群の組合せの形で記載されている場 合に,以下の(@)又は(A)の補正により追加された,又は残された特定の選択 肢の組合せが新たな技術的事項を導入するものではないとは認められない場合があ る。 (@) 当初明細書等に記載された多数の選択肢の範囲で特定の選択肢の組合せを 請求項に追加する補正 (A) 選択肢を削除した結果として特定の選択肢の組合せが請求項に残る補正 例えば,補正の結果,出願当初に複数の選択肢を有していた置換基について選択 肢が唯一となり,選択の余地がなくなる場合には,そのような特定の選択肢の組合 せを採用することが当初明細書等に記載されている場合(下記cの例を参照。)を 除き,その補正は許されない。なぜなら,選択肢としての当初の記載は,特定の選 択肢の採用を意味していたとは認められないからである。 c 他方,選択肢の削除が実施例の記載を伴った選択肢が残るようになされるこ とにより,このようにして残った選択肢が,実施例等の当初明細書等の全体の記載 を基に判断した場合には,新たな技術的事項を導入するものではないと認められる 場合がある。 例えば,当初明細書等に複数の選択肢を有する置換基の組合せの形で化学物質群 が記載されていた場合には,当初明細書等に実施例等で記載されていた「単一の化 学物質」に対応する特定の選択肢の組合せからなる化学物質(群)の記載のみを請 求項に残す補正は許される。」 (イ) また,特許庁が公表している「審査ハンドブック付属書A 新規事項を追 加する補正に関する事例集」(甲102)には,事例35【補正2】として,「補 正後の特許請求の範囲に記載した化学物質は,…という特定の組合せが唯一の選択 肢となるが,このような特定の組合せを採用することは出願当初の明細書等のいず れの箇所にも記載されておらず,また,記載されているのと同然ともいえない。さ らに,この補正が新たな技術的事項を導入するものではないといえる特段の事情も 見いだせない。したがって,【補正2】の場合には,補正後の特許請求の範囲に記 載された化学物質は,当初明細書等に記載した事項の範囲内のものとはいえない。」 と記載されている。 (ウ) しかし,原告がその主張の根拠とする審査基準においても,訂正の結果, 残った発明特定事項で特定されるものが新たな技術的事項を導入するものであるか 否かで判断すべきものとされているところ,本件訂正においては,前記(1)のとおり, 新たな技術的事項は導入されていない。 イ 原告は,本件訂正後のX1とHetの組合せであれば方法Cにより生産できる ことが本件明細書に開示ないし示唆されているとはいえないから,本件訂正後のX 1 とHetの特定の組合せを任意に選択することは,新規な技術的事項を追加するも のであると主張する。 しかし,後記3(2)イのとおり,原料化合物質が入手できれば,X1が「−CH2O −」,「−CH2OCH2−」のいずれの場合についても,本件明細書の記載と出願 時の技術常識に基づいて,当業者に通常期待し得る程度を超える試行錯誤を求める ことなく,当該化学物質を製造することができるから,本件訂正後のX1とHetの 組合せであれば方法Cにより生産できることが本件明細書に開示されているといえ る。 したがって,新たな技術的事項が導入されたということはできない。 ウ よって,原告の上記各主張はいずれも理由がない。 (3) 小括 したがって,本件訂正は特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり,新規事 項の追加には当たらないから,本件訂正を認めた審決の判断に誤りはない。 よって,取消事由1は理由がない。 3 取消事由2(実施可能要件に係る判断の誤り)について (1) 特許法36条4項1号は,明細書の発明の詳細な説明の記載は,「その発明 の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる 程度に明確かつ十分に記載したもの」でなければならないと定めるところ,この規 定にいう「実施」とは,物の発明においては,当該発明に係る物の生産,使用等を いうものであるから,実施可能要件を満たすためには,明細書の発明の詳細な説明 は,当業者が「その物を製造できるように」,また,「その物を使用できるように」 記載されていなければならない。 (2) 本件訂正発明に係る化学物質の製造について ア 本件訂正明細書には,本件訂正発明に係る化学物質の製造について,以下の 記載がある。 【0131】〜【0134】には,本件訂正発明に該当する1の化学物質である {2−クロロ−3−[(1−メチルピラゾール−5−イル)オキシメチル]−4− メチルスルホニルフェニル}{5,5−ジメチル−1,3−ジオキソ−シクロヘキサ −2−イル}メタノン(X1が−CH2O−,Hetが1−メチル−5−ピラゾリル の場合)の合成例が示されている。かかる合成工程において,X1の「−CH2O−」 結合部分は,「工程b」(【0132】)において形成される。(下図) また,同様の合成方法によって得られる7つの化学物質が表37(【0135】) に示されている。 他方,【0050】〜【0057】には,「方法C」として,置換ヘテロシクリ ル(下図のVU)を安息香酸エステル(同Vb)で置換して,本件発明に係る安息 香酸エステル(同Vc)を得る方法が記載され,出発材料,添加する試薬,材料の 添加割合,溶媒,反応温度等について記載されている。 イ 本件訂正発明に係る化学物質の製造に関して,請求項1の式Taにおける「− X1−」の結合部分(すなわち,X1が「−CH2O−」である場合と,「−CH2O CH2−」である場合)に着目して,これら化学物質が製造できるように記載されて いるか否かについて判断する。 (ア) X1が「−CH2O−」である場合 本件明細書における製造実施例(【0131】〜【0134】)で具体的な反応 条件と共に開示されている工程b(【0132】)の記載によれば,当業者は,原 料であるHO−Hetが入手できれば, X1が「−CH2O−」である化合物の製造 を実施することができる。そして,甲69に記載されているとおり,原料となるア ルコ−ルはいずれも入手可能であることから,上記化合物を当業者が容易に製造す ることが可能である。 (イ) X1が「−CH2OCH2−」である場合 前記1(1)キのとおり,本件明細書における製造実施例(【0131】〜【013 4】)では,用いる物質の量,溶媒,塩基,反応温度,反応時間等の諸条件や,各 工程で得られる化学物質の融点や量が,具体的に記載されているほか,前記1(1)イ のとおり,一般的な製造工程である置換安息香酸誘導体Vcを合成するスキ−ム (方法C)に関する記載(【0050】〜【0056】)においても出発材料の構 造の詳細及び使用量,他の使用材料(塩基,補助塩基,溶媒)の種類及び使用量, 並びに反応温度が記載されている。 そして,製造実施例(【0131】〜【0134】)にはX1として「−CH2O −」である化合物に関するものが示されているのみで,X1が「−CH2OCH2−」 である化学物質の製造に関する実施例の記載こそないものの,原料化学物質である HO−CH 2 −Het(甲62,69参照)が入手できれば,上記方法Cの記載 (【0050】〜【0056】)も参考にしつつ,合成例の工程bに示された周知 の反応と同様の合成を行うことにより,X1が「−CH2OCH2−」である化学物質 も当業者が容易に合成することができるものと認められる。 (ウ) そうすると,請求項1の式TaにおけるX1が「−CH2O−」,「−CH2 OCH2−」のいずれの場合についても,本件明細書の記載と出願時の技術常識に基 づけば,当業者に通常期待し得る程度を超える試行錯誤を求めることなく,当該化 学物質を製造することができるものと認められる。 ウ 原告の主張について (ア) 原告は,本件明細書には,本件訂正発明に該当する1の化学物質の合成例 (【0131】〜【0134】)及び7個の化学物質(【0135】表37)が具 体的に記載されてはいるが,これらはごく限られた種類のものである,当該合成例 の反応条件,試薬及び溶媒が,方法Cに関する反応条件として示されている極めて 広範囲に記載された【0052】〜【0056】の範囲内であったとしても,本件 訂正発明1及び3に係る化学物質を生産することにつき,当業者に通常期待し得る 程度を超える試行錯誤が要求されると主張する。 しかし,前記イ(イ)のとおり,当業者であれば,過度の試行錯誤を要することな く,当該物質を製造することができるものと認められる。 (イ) 原告は,X1が「−CH2OCH2−」である化学物質の合成方法(方法C) と,X1が「−CH2O−」である工程bとを関連付けるべきでない,すなわち,方 法CにおけるX1,X2,X3の定義「X2が,炭素原子が少なくとも1個で,最大5 個の,直鎖又は分枝アルキレン鎖,…を表し,X3が,最大5個の炭素原子を有する, 直鎖又は分枝アルキレン鎖…を表し,且つX2OX3は基X1を形成する」からは,X 3が単結合(つまり,炭素原子を含まず,かつ鎖でもないもの)ではないことが明確 であるから,方法Cは,X1が「−CH2OCH2−」等の場合に関するものであって, 「−CH2O−」の場合は含まない旨主張する。 しかし,方法CのX3の定義「最大5個の炭素原子」は,X2の定義「炭素原子が 少なくとも1個で,最大5個の」と異なり,「炭素原子数が零」の場合(すなわち, X3が単結合の場合)を含み得るように書き分けられていると解釈することに,技術 的な矛盾はない。そして,前記イのとおり,本件訂正明細書における化学物質の製 造方法に関する一般的な記載(方法C)及び合成例である工程bの記載に接した当 業者は,X1が「−CH2O−」又は「−CH2OCH2−」である本件訂正発明に係 る化学物質を製造することができる。 (ウ) したがって,原告の上記各主張はいずれも理由がない。 (3) 本件訂正発明に係る化学物質の使用について ア 本件訂正明細書には,以下の記載がある。 本件訂正発明の化学物質は,従来技術の2−ベンゾイルシクロヘキサン−1,3 −ジオンに比べて,稲等の栽培植物には影響を与えずに望ましくない栽培植物に対 して除草作用を示すという除草作用及び安全性において満足できる効果を有する (【0003】〜【0008】)。 作物の中の広葉の雑草及びイネ科の雑草(Unkraeuter und Sc hadgraeser)に対して,栽培植物に損傷を与えることなく作用する (【0109】)。 本件訂正発明に係る化学物質又はこれを含む除草剤組成物を種々の作物に,水性 分散液の噴霧や粒状態の散布等,様々な態様によって施与することができる(【0 112】〜【0129】)。 本件訂正発明に係る化学物質の除草剤としての使用実施例(事前法,事後法によ る温室実験の方法)(【0136】〜【0140】) イ 本件訂正明細書において本件訂正発明に係る化学物質について使用すること ができるように記載されているか否かについて判断する。 前記アの本件訂正明細書の記載から,2−ベンゾイルシクロヘ キサン−1,3−ジオン化合物は,除草作用を有することが従来 から知られていたものと理解される。また,引用例1ないし同4 (甲1〜4)には,本件訂正発明と「シクロヘキサン−1,3−ジオンの2位がカ ルボニル基を介して中央のベンゼン環に結合した構造」(本件共通構造。上図)に おいて共通する化合物,つまり2−ベンゾイルシクロヘキサン−1,3−ジオン化 合物が除草剤の有効成分の物質として有用であることが記載されている。 そうすると,当業者は,本件訂正発明に係る,本件共通構造を有する2−ベンゾ イルシクロヘキサン−1,3−ジオン化合物を【0136】〜【0140】に記載 の使用実施例に従って施用すれば,従来技術から除草剤の有効成分とされる2−ベ ンゾイルシクロヘキサン−1,3−ジオン化合物と同様に課題を解決できることを 理解することができるから,実際に除草試験を行った結果の記載の有無にかかわら ず,過度の試行錯誤を要することなく,本件訂正発明に係る新規化学物質を除草剤 として使用することができる。 ウ 原告の主張について (ア) 原告は,実施可能要件を満たすためには,実際に試験を行い,その試験結 果から,当業者にその有用性が認識できることを必要であって,通常,一つ以上の 代表的な実施例が必要である,また,用途発明であれば,通常,用途を裏付ける実 施例が必要であると主張する。 しかし,前記イのとおり,本件共通構造を有する2−ベンゾイルシクロヘキサン −1,3−ジオン化合物は,除草作用を有し,除草剤の有効成分として有用である ことが従来から知られていたことからすれば,本件共通構造を有する2−ベンゾイ ルシクロヘキサン−1,3−ジオン化合物であれば,同様の効果を奏するものと推 認できるから,本件訂正発明については,改めて試験を行うまでもなく,有用性が 認められるというべきである。また,本件訂正発明は,除草剤の有効成分の化学物 質に係る発明であるから,いわゆる用途発明には当たらないし,用途発明に準じて 実施例が必要であるということもできない。 (イ) 原告は,@甲99の「化合物番号55」は本件共通構造を有するにもかか わらず,本件訂正明細書に記載の施与量の上限の約1.5倍(4.48kg/ha) で試験されたどの雑草にも除草効果を示さなかったこと,A甲101の本件共通構 造を有する6つの化学物質は,引用例1ないし4よりも多い80g/haの施与量 で行った実験において,いずれの雑草(カラスムギ,ショクヨウガヤツリ,イヌビ エ,イチビ)に対しても除草活性を示していないこと,以上によれば,本件共通構 造上の置換基の種類・組合せが,除草活性の発現に大きく影響することは明らかで あり,本件共通構造を有する化学物質が必ずしも除草活性を示さないと主張する。 しかし,原告の挙げる上記各物質は,いずれも本件訂正発明の技術的範囲に含ま れないものであるから,上記各物質が除草効果を示さないことをもって,本件訂正 発明が実施可能要件に欠けるということはできない。 また,甲99によれば,本件共通構造を有する93種類の物質で実験を行ったと ころ,「化合物番号55」を除く大半のものについて除草効果が示されているし, 甲101は,4種類の雑草について実験したものにすぎない。したがって,上記各 物質についての実験結果を考慮しても,本件共通構造を有する物質であれば,過度 の試行錯誤を要することなく,本件訂正発明に係る新規化学物質を除草剤として使 用することができる旨の前記イの判断は左右されない。 (ウ) したがって,原告の上記各主張はいずれも理由がない。 (4) 小括 以上のとおり,本件訂正明細書における発明の詳細な説明の記載は,その記載に 基づいて当業者が過度の試行錯誤を要することなく,本件訂正発明に係る化学物質 を製造し,使用することができることが記載されているといえる。 したがって,本件訂正明細書は実施可能要件を満たしている。 4 取消事由3(サポ−ト要件に係る判断の誤り)について (1) 特許請求の範囲の記載が,明細書のサポ−ト要件に適合するか否かは,特許 請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し,特許請求の範囲に記載さ れた発明が,発明の詳細な説明に記載された発明で,発明の詳細な説明の記載によ り当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か,ま た,その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題 を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものであ る。 (2) 発明の課題は,原則として,発明の詳細な説明の記載から把握すべきである ところ,一般に,化学物質に関する発明の課題は,新規かつ有用な化学物質を提供 することにあるものと考えられる。 本件訂正明細書には,前記1(1)のとおりの記載がある。また,本件訂正明細書 【0003】〜【0006】の記載から,本件訂正発明の課題は,従来から優れた 除草活性と作物に対する安全性を示すことが知られている2−ベンゾイルシクロヘ キサン−1,3−ジオン化合物であって,新規かつ有用な化合物を提供することに あると認められる。 (3) 前記(2)のとおり,本件訂正発明の課題は,優れた除草活性と作物に対する 安全性を有する新規な2−ベンゾイルシクロヘキサン−1,3−ジオン化合物を提 供することにあるものと認められる。前記3(3)イで検討したとおり,当業者は,本 件訂正発明の化学物質の化学構造と従来技術の除草化学物質との共通性から,本件 訂正発明に係る化学物質が,従来技術の除草剤の有効成分と同様に課題を解決でき ることを推認することができる。例えば,引用例1ないし4は,いずれも「シクロ ヘキサンジオン誘導体および除草剤」であり,いずれも「優れた除草活性と作物に 対する安全性を有する」とされ,優れた除草活性を示すことが開示されている。 また,サポ−ト要件を満足するために,発明の詳細な説明において発明の効果に 関する実験デ−タの記載が必ず要求されるものではない。特に本件訂正発明は,新 規な化学物質に関する発明であるから,医薬や農薬といった物の用途発明のように 具体的な実験デ−タ,例えば,具体的な除草活性の開示まで求めることは相当でな い。 (4) 原告の主張について ア 原告は,本件訂正明細書には,本件訂正発明に係る化学物質が除草活性を有 することを裏付ける具体的な記載(試験デ−タ)は何もない,また,被告による実 験成績証明書(甲51,52,63)において,本件訂正発明に係る化学物質の優 れた効果が示されているものの,これらの除草作用の試験をしたのは本件出願日か ら10年以上後であると主張する。 しかし,前記(3)のとおり,本件訂正明細書の記載及び出願時の技術常識に基づい て,本件訂正発明に係る化学物質が,従来技術の除草剤の有効成分と同様に課題を 解決できることを推認することができるのであるから,被告が出願後に行った実験 成績証明書の参照の有無にかかわらず,発明の詳細な説明に具体的な実験デ−タが ないことをもってサポ−ト要件違反とする,原告の主張を採用することはできない。 イ 原告は,本件共通構造をもった化合物であれば必ず除草活性を示すという技 術常識はなく(甲99),また,本件訂正発明がサポ−ト要件を満足するとの根拠 (化学構造上の共通性)として本件審決が示した従来技術(引用例1ないし4)は 限られた先行技術であって,当業者の技術常識とはいえない旨主張する。 しかし,2−ベンゾイルシクロヘキサン−1,3−ジオン化合物(本件共通構造 を有する化合物群)が除草活性を示すことが従来から知られていることについては, 本件明細書【0003】〜【0006】に記載されているとおりである。そうする と,発明の詳細な説明において,請求項に係る発明が発明の課題を解決できること を当業者が認識できるように記載されているものと認めるのが相当である。 また,甲99に示された化合物番号55など,仮に,本件訂正発明に係る一般式 と共通構造を有する化学物質に,特定のある植物に対して除草活性を示さないもの が含まれるとしても,前記3(3)ウ(イ)のとおり,共通構造を有する化学物質が除草 活性を示すことを推認できる以上,本件訂正発明に係る化学物質のうち実際に除草 活性を示さない態様を確認し,これを除くように請求項を記載しなければ,サポ− ト要件を満たさないと解することは相当でない。 (5) 小括 以上のとおり,本件訂正発明は,発明の詳細な説明に記載された発明で,発明の 詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲の ものであるといえるから,請求項の記載はサポ−ト要件を満たすものである。 5 取消事由4(本件訂正発明の容易想到性に係る判断の誤り)について (1) 引用例の記載 ア 引用例1(甲1)には,以下の記載があり,これによれば,引用例1には, 前記第2の3(2)ア記載の引用発明1が開示されていることが認められる(当事者間 に争いはない。)。 (ア) 【請求項1】一般式 [式中,R1は水素原子または低級アルキル基を表し,Xは低級アルキル基,低級ア ルケニル基,低級アルコキシ基,低級アルキニルオキシ基,ハロゲン原子,ニトロ 基,トリフルオロメチル基,−COR2基(ただし,基中,R2は低級アルキル基, 低級アルコキシ基または低級アルキルアミノ基を表す。),−NHCOR3基(ただ し,基中,R3は低級アルキル基または低級アルキルアミノ基を表す。),−S(O) R4基(ただし,基中,R4は低級アルキル基を表し,mは0または2を表す。), m −C(CH3)=NOR5基(ただし,基中,R5は低級アルキル基を表す。)または −(CH2)yCN基(ただし,基中,yは0または1を表す。)を表し,nは0, 1または2を表す。]で示されるシクロヘキサンジオン誘導体。 (イ) 産業上の利用分野 本発明は,新規なシクロヘキサンジオン誘導体および該誘導体を活性成分として 含有することを特徴とする除草剤に関する(【0001】)。 (ウ) 発明が解決しようとする課題 これら…文献に記載の化合物は,後記試験例に示すように,除草効力が不十分で あったり,作物に薬害を与えたりすることから,必ずしも満足すべきものとはいい がたい。そのため,このような欠点のない除草剤の開発が望まれている(【000 8】)。 本発明は,これらの化学物質に代わり,優れた除草活性と作物に対する安全性を 有するシクロヘキサンジオン誘導体およびそれを含有する水稲および畑作物用除草 剤を提供することにある(【0009】)。 (エ) 課題を解決するための手段 次に,本発明の一般式(1)の化合物の代表的な具体例を表 1〜表3に示す (【0014】)。 (オ) 実施例 …また,一般式(3)の出発原料は新規の化合物であり,下記の反応式で示すと おり,公知の方法に準じて合成することができ,その製造例を参考製造例に示した (【0031】)。 (X,Yおよびnは前記と同じ意味を表し,Rは炭素数1〜4のアルキル基を表 す。) (【0032】) イ 引用例2には,以下の記載がある。 (ア) 【請求項1】一般式 [式中,R1およびR2は,水素原子または低級アルキル基を表し,R3は,−CH2 OR5基(ただし,基中,R5は,低級アルキル基を表す。),−CH2CH2OCH 2 CH2OR6基(ただし,基中,R6は,低級アルキル基を表す。)または−CH2 CH(OR7)2 基(ただし,基中,R7は,低級アルキル基を表すか,または環構 造を形成する低級アルキレン基を表す。)を表し,R4は,低級アルキル基を表し, Xは,ハロゲン原子を表す。]で示されるシクロヘキサンジオン誘導体。 (イ) 産業上の利用分野 本発明は,新規なシクロヘキサンジオン誘導体および該誘導体を活性成分として 含有することを特徴とする除草剤に関する(【0001】)。 (ウ) 発明が解決しようとする課題 しかしながら,これら…文献に記載の化合物は,後記試験例に示すように,除草 効力が不十分であったり,作物に薬害を与えたりすることから,必ずしも満足すべ きものとはいいがたい。そのため,このような欠点のない除草剤の開発が望まれて いる(【0008】)。本発明は,これらの化合物に代わり,優れた除草活性と作 物に対する安全性を有するシクロヘキサンジオン誘導体およびそれを含有する水稲 および畑作物用除草剤を提供することにある(【0009】)。 (エ) 課題を解決するための手段 次に,本発明の一般式(1)の化合物の代表的な具体例を表1〜2に示す(【0 014】)。 (【0016】【表1】) (【0017】【表2】) ウ 引用例3には,以下の記載がある。 (ア) 【請求項1】一般式 (式中,R1,R2,R3およびR4は,水素原子または低級アルキル基を表し,Xは 塩素原子または臭素原子を表す。)で示されるシクロヘキサンジオン誘導体。 (イ) 産業上の利用分野 本発明は,新規なシクロヘキサンジオン誘導体および該誘導体を活性成分として 含有することを特徴とする除草剤に関する(【0001】)。 (ウ) 発明が解決しようとする課題 しかしながら,これら…文献に記載の化合物は,後記試験例に示すように,除草 効力が不十分であったり,作物に薬害を与えたりすることから,必ずしも満足すべ きものとはいいがたい。そのため,このような欠点のない除草剤の開発が望まれて いる(【0008】)。 本発明は,これらの化合物に代わり,優れた除草活性と作物に対する安全性を有 するシクロヘキサンジオン誘導体およびそれを含有する水稲および畑作物用除草剤 を提供することにある(【0009】)。 (エ) 発明の効果 本発明化合物は,既知の類似化合物に比べ,優れた除草効力を有し,かつ作物と 雑草間に優れた選択性を示す。すなわち,水田の湛水処理において,問題となる種 々の雑草,例えばタイヌビエなどのイネ科雑草,アゼナ,キカシグサ,ミゾハコベ などの広葉雑草,タマガヤツリ,ホタルイ,マツバイ,ミズガヤツリなどのカヤツ リグサ科雑草,コナギ,ウリカワなどに幅広く作用してほぼ完全に除草することが でき,しかも水稲に対しては全く薬害を与えない(【0072】)。 エ 引用例4には,以下の記載がある。 (ア) 【請求項1】一般式 (式中,R1,R2およびR3は水素原子または低級アルキル基を表し,Xは塩素原子 または臭素原子を表し,Yは酸素原子または硫黄原子を表し,Zは低級アルキル基 で置換されてもよい低級アルキレン基を表し,mは1または2の整数を表す。)で 示されるシクロヘキサンジオン誘導体。 (イ) 産業上の利用分野 本発明は,新規なシクロヘキサンジオン誘導体および該誘導体を活性成分として 含有することを特徴とする除草剤に関する(【0001】)。 (ウ) 発明が解決しようとする課題 しかしながら,これら…文献に記載の化合物は,後記試験例に示すように,除草 効力が不十分であったり,作物に薬害を与えたりすることから,必ずしも満足すべ きものとはいいがたい。そのため,このような欠点のない除草剤の開発が望まれて いる(【0008】)。 本発明は,これらの化合物に代わり,優れた除草活性と作物に対する安全性を有 するシクロヘキサンジオン誘導体およびそれを含有する水稲および畑作物用除草剤 を提供することにある(【0009】)。 (エ) 発明の効果 本発明化合物は,既知の類似化合物に比べ,優れた除草効力を有し,かつ作物と 雑草間に優れた選択性を示す。すなわち,水田の湛水処理において,問題となる種 々の雑草,例えばタイヌビエなどのイネ科雑草,アゼナ,キカシグサ,ミゾハコベ などの広葉雑草,タマガヤツリ,ホタルイ,マツバイ,ミズガヤツリなどのカヤツ リグサ科雑草,コナギ,ウリカワなどに幅広く作用してほぼ完全に除草することが でき,しかも水稲に対しては全く薬害を与えない(【0072】)。 (2) 本件訂正発明1の容易想到性 ア 本件訂正発明1と引用発明1との間には,本件審決が認定したとおりの相違 点1及び2が認められる。 イ 相違点1の容易想到性 (ア) 相違点1は,本件訂正発明1は,R2が,−S(O)nR3であるのに対し, 引用発明1においては,対応する基が,ハロゲンの1種であるクロロ(塩素)であ る点である。 (イ) 引用例1では,シクロヘキサンジオン化合物のベンゼン環の3位に直鎖状 の基が結合している化合物(従来技術である比較薬剤AないしD)に対して,同位 置に置換フェニル基を導入することにより優れた除草効果を奏することを見いだし ている。そして,引用例1においては,上記ベンゼン環の4位(本件訂正発明のR2 に相当)に結合する基は塩素に固定されていることから,ベンゼン環の4位にアル キルスルホニル基(−S(O) nR 3)である化合物が開示された引用例2を参酌し ても,引用発明1の上記4位の塩素基をアルキルスルホニル基に変更する動機付け はない。 (ウ) 原告は,引用例2には,引用発明2が,ベンゼン環の4位に引用発明1と
同様に塩素基が結合した(ただし,同3位の置換基は引用発明1と相違する。)比 較薬剤Cよりも除草活性に優れること等が記載されていることから,引用発明1の
同4位の塩素基を,引用発明2の同4位のアルキルスルホニル基(−S(O)nR3) に置換する動機付けがあると主張する(下図参照)。 [参考]引用例2における比較薬剤C(左図)と比較薬剤A(右図) しかし,引用例2における比較薬剤C及びAは,ベンゼン環の3位の置換基が引 用発明1よりも除草活性の劣る,引用発明1の従来技術の置換基と同じであり,引 用発明2との関係においても,引用発明2よりも除草活性の劣るものとして開示さ れているのであるから,引用発明1の同4位の塩素基をアルキルスルホニル基(− S(O)nR3)に置換することによって優れた除草効果が期待される等の動機を見 いだすことはできない。 したがって,引用例2の比較薬剤の記載から,引用発明1のベンゼン環の4位の 置換基の変更を想起することはできない。 (エ) 以上のとおり,相違点1は,容易に想到することができない。 ウ 相違点2の容易想到性 (ア) 相違点2は,本件訂正発明1は,Hetが,オキシラニル,2−オキセタ ニル,3−オキセタニル,2−テトラヒドロフラニル,3−テトラヒドロフラニル, 2−テトラヒドロチエニル,2−ピロリジニル,2−テトラヒドロピラニル,2− ピロリル,5−イソオキサゾリル,2−オキサゾリル,5−オキサゾリル,2−チ アゾリル,2−ピリジニル,1−メチル−5−ピラゾリル,1−ピラゾリル,3,5 −ジメチル−1−ピラゾリル,又は4−クロロ−1−ピラゾリルであるのに対し, 引用発明1においては,対応する基が,特定の基Xを0,1又は2個有するフェニ ル基である点である。 (イ) 引用例2(化学物質16〜18,29〜31),引用例3及び引用例4に は,シクロヘキサンジオンのベンゼン環の3位に,OCH2基やO(CH2)2基を介 して外形上はヘテロ環構造を結合する化合物が記載されているといえる。 しかし,引用例2ないし4のいずれにも前記相違点2に係る特定のHetのいず れかについての開示はない。また,引用例2ないし4のいずれにも,ベンゼン環の 3位を特定のヘテロ環オキシメチルとすることは記載されておらず,3位の基とし てヘテロ環を有する構造が少数記載されているものの,ベンゼン環に結合する部分 の構造はヘテロ環メチルオキシ(−OCH2−ヘテロ環)か,ヘテロ環エチルオキシ (−OCH2CH2−ヘテロ環)であって,ヘテロ環の連結基は本件訂正発明1にお けるX1とは異なる。したがって,引用発明1に,引用例2ないし4に記載された発 明を組み合わせても,3位の構造が,本件訂正発明1に係る特定のヘテロ環オキシ メチル(−CH2O−Het)構造を有する化学物質を得ることはできない。 そうすると,引用発明1に,引用例2ないし4に記載されている事項を組み合わ せても,引用発明1に係る化合物におけるベンゼン環の3位の置換基が本件訂正発 明1に係る特定のHet構造とはならない。そして,上記組合せによって得られる 化合物について,引用発明1の特定のHet構造(相違点2)に置換する動機付け があるともいえない。 エ 小括 以上のとおり,本件訂正発明1は,引用発明1及び引用例2ないし4に記載され た事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものということはできな い。 (3) 本件訂正発明3の容易想到性 前記(2)と同様,引用発明1との間の相違点1及び2を容易に想到することができ たとはいえない。 (4) 本件訂正発明4の容易想到性 ア 本件訂正発明4と引用発明2との間には,本件審決が認定したとおりの相違 点3ないし5が認められる。 イ 相違点3及び4の容易想到性 (ア) 相違点3は,本件訂正発明4は,X1が,酸素により中断されたエチレン鎖 又は−CH2O−であるのに対し,引用発明2においては,対応する基が,−OCH −である点である。 2 相違点4は,本件訂正発明4は,Hetが,オキシラニル,2−オキセタニル, 3−オキセタニル,2−テトラヒドロフラニル,3−テトラヒドロフラニル,2− テトラヒドロチエニル,2−ピロリジニル,2−テトラヒドロピラニル,2−ピロ リル,5−イソオキサゾリル,2−オキサゾリル,5−オキサゾリル,2−チアゾ リル,2−ピリジニル,1−メチル−5−ピラゾリル,1−ピラゾリル,3,5− ジメチル−1−ピラゾリル,若しくは4−クロロ−1−ピラゾリル,又は上記のう ち初めの3つを除いたものの何れかであるのに対し,引用発明2においては,対応 する基が, 又は である点である (イ) 引用発明2の目的化合物は,シクロヘキサン−1,3−ジオンの2位がカ ルボニル基を介して中央のベンゼン環に結合した構造を有する(本件共通構造)点 で,本件訂正発明4の目的化合物と共通するものであり,中央のベンゼン環のカル ボニルが置換した位置を1位とすると,2位及び4位の置換基も共通するが,3位 の置換基は,−OCH2−に続いて 又は であることを,発明を特定する事項とするものである。 引用発明2から出発して本件訂正発明4の構成に至るためには,上記の3位の置 換基を,特定のヘテロ環オキシメチル(−CH2O−Het)に置き換える必要があ る。 しかし,引用発明2は,上記の3位の置換基を必須とする発明であり,引用例2 の全ての記載をみても,上記の3位の置換基は,「−OR3」であって「R3は,− CH2OR5基(ただし,基中,R5は,低級アルキル基を表す。),−CH2 CH 2 OCH2CH2OR6基(ただし,基中,R6は,低級アルキル基を表す。)または− CH2CH(OR 7) 2 基(ただし,基中,R7は,低級アルキル基を表すか,また は環構造を形成する低級アルキレン基を表す。)を表し」というものであるから, 引用発明2の上記の3位の置換基を,本件訂正発明4の目的化合物の特定のヘテロ 環オキシメチルに置き換えることには,阻害要因がある。 (ウ) また,引用例1には,シクロヘキサン−1,3−ジオンの2位がカルボニ ル基を介して中央のベンゼン環に結合した構造を有する,除草剤としての有用性を 有する化合物の発明が記載されており,中央のベンゼン環の3位は,特定のXで置 換していてもよいフェニルオキシメチルである。つまり,引用例1にも,中央のベ ンゼン環の3位を特定のヘテロ環オキシメチルとすることは記載されていない。し たがって,引用発明2に,引用発明1を組み合わせても,3位の構造が,本件訂正 発明4の特定のヘテロ環オキシメチル(−CH2O−Het)となることはなく,そ もそも,引用発明2の3位の化学構造を変化させるために引用発明1を組み合わせ る動機付けとなるものもない。 (エ) さらに,引用例3及び4にも,シクロヘキサン−1,3−ジオンの2位が カルボニル基を介して中央のベンゼン環に結合した構造を有する,除草剤としての 有用性を有する化合物の発明が記載されているが,引用例3及び4のいずれにも, 中央のベンゼン環の3位を特定のヘテロ環オキシメチルとすることは記載されてお らず,3位の基としてヘテロ環を有する構造が少数記載されているとしても,せい ぜい,ヘテロ環メチルオキシ(−OCH 2 −ヘテロ環)か,ヘテロ環エチルオキシ (−OCH2CH2−ヘテロ環)であって,本件訂正発明4におけるX1とは異なる連 結基のものであり,Hetも異なる。 したがって,引用発明2に,引用例3及び4に記載された発明を組み合わせても, 3位の構造が,本件訂正発明4の特定のヘテロ環オキシメチル(−CH2O−Het) とはならない。そして,上記組合せによって得られる化合物について,引用発明4 の特定のHet構造に置換する動機付けがあるともいえない。 (オ) 以上のとおり,引用発明2において,相違点3及び4に係る本件訂正発明 4の構成を備えたものとすることは,当業者が容易に想到し得ることではない。 ウ 小括 したがって,相違点5について検討するまでもなく,本件訂正発明4は,引用発 明2並びに引用例1,3及び4に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明を することができたとはいえない。 (5) 原告の主張について
原告は,本件審決のサポ−ト要件に関する判断に従えば,当業者は引用例1の記 載及び甲69等に示される技術常識に基づいて,本件訂正発明に係る化合物を生産 できることを認識でき,得られた化合物は本件共通構造を有するので,「除草特性 を常法に従って確認」できたことは明らかであるから,本件訂正発明は引用例1の 記載及び甲69等に示される技術常識に基づいて,容易に発明をすることができた と主張する。 しかし,請求項に係る発明が課題を解決し得ること(本件訂正発明の場合は除草 活性を有すること)を理解できるか否かについての判断と,公知技術に基づいて請 求項に係る発明を容易に発明することができたか否かの判断は別異のものであるか ら,サポ−ト要件に関する判断に従って進歩性の判断をすること自体,採用できな い。 また,原告が主張するように,当該技術分野において,本件共通構造を有するシ クロヘキサン−1,3−ジオン化合物に種々の置換基を導入することで除草剤の改 良及びその効果の確認が行われているとしても,当業者が,引用例1ないし4の開 示に基づいて特定の置換基を導入した本件訂正発明に係る化合物を容易に想到し得 るとの理由は見いだせないことは,前記(2)ないし(4)のとおりである。 (6) 小括 したがって,本件訂正発明を容易に想到することができたとはいえない。 6 取消事由5(原文新規事項追加に係る判断の誤り)について (1) 原告は,本件明細書におけるX1の定義は,国際出願日における国際出願の 明細書(以下「国際出願明細書」という。)のX1の定義を個別化したものであるこ とが明らかであり,国際出願明細書(表A及び表37)に具体的に示されている8 個のX1以外のものも含んでおり,当該8個のX1の記載から導き出せないから,新 たな技術的事項を導入するものであると主張する。 (2) 前記2のとおり,本件訂正は適法であり,本件訂正によって,「X1が酸素 により中断されたエチレン鎖または−CH2O−を表し」とされている。そこで,本 件訂正後の上記記載について,原文新規事項追加に当たるかを判断する。 国際出願明細書と同一の内容が記載されている甲8には,X1の具体的な構造とし て,酸素により中断されたエチレン鎖である「−CH2OCH2−」及び「−CH2O −」が示されている。原告は,X1の定義が「個別化」されたと主張するが,かかる X1の定義は,国際出願明細書に記載されているX1の種類(範囲)から減縮された ものであって,かつ,本件訂正発明に係る化学物質が個別のものに特定されるもの ではない。また,明細書の記載を参酌しても,X1の種類を減縮することによって請 求項に係る発明に対して何ら新たな技術的事項を導入するものではない。 (3) 原告は,国際出願明細書における用語“unterbrechen”の解釈 に関連して,当該語が「遮断」(鎖の端部に酸素がつく意)の意味として用いられ ていたことは明らかであると主張する。 しかし,当該用語に「中断」(鎖の中ほどに酸素が挿入される意)の意味もある ことは原告も認めているのであって,訂正後のX1の定義である「酸素により中断さ れたエチレン鎖」である「−CH2OCH2−」が国際出願明細書に記載されていた との判断を左右するものではない。 (4) したがって,本件訂正後の明細書に記載されているX1の定義は,国際出願 日における国際出願の明細書に記載した事項の範囲内であるから,取消事由5に理 由はない。 7 結論 以上のとおり,原告主張の取消事由はいずれも理由がないから,原告の請求を棄 却することとし,主文のとおり判決する。 知的財産高等裁判所第4部 裁判長裁判官 部眞規子 裁判官 古河謙一 裁判官 関根澄子 別紙1(本件訂正前の請求項) 【請求項1】 式Ta [但し,R1が,ニトロ,ハロゲン,シアノ,チオシアナト,C1〜C6アルキル,C 〜C6ハロアルキル,C1〜C6アルコキシC1〜C6アルキル,C2〜C6アルケニル, 1 C2〜C6アルキニル,−OR3又は−S(O)nR3を表し, R2が,水素,又はハロゲン以外のR1で述べた基の1個を表し, R3が水素,C1〜C6アルキルを表し, nが1又は2を表し, Qが2位に結合する式U [但し,R 6,R 7,R8,R9,R10及びR 11が,それぞれ水素又はC1〜C 4アル キルを表し,上記CR8R9単位が,C=Oで置き換わっていても良い] で表されるシクロヘキサン−1,3−ジオン環を表し, X1が酸素により中断された,エチレン,プロピレン,プロぺニレンまたはプロピニ レン鎖,或いは−CH2O−を表し, Hetが, 窒素,酸素及び硫黄から選択される1〜3個のヘテロ原子を有する,3〜6員の部 分飽和若しくは完全飽和ヘテロシクリル基,又は 下記の3個の群:窒素,酸素と少なくとも1個の窒素との組み合わせ,又は硫黄と 少なくとも1個の窒素との組み合わせから選択されるヘテロ原子を3個まで有する, 3〜6員のヘテロ芳香族基,を表し,且つ上述のヘテロシクリル基又はヘテロ芳香 族基は,部分的に又は完全にハロゲン化されていても,及び/又はR5で置換されて いても良く, R5が水素,ヒドロキシル,メルカプト,アミノ,シアノ,ニトロ,ホルミル,C1 〜C4アルキルアミノ,C1〜C4ジアルキルアミノ,C 1〜C4 アルコキシカルボニ ル,C1〜C4アルキルカルボニル,C1〜C4アルキルカルボニルオキシ,C1〜C4 アルキル,C1〜C4ハロアルキル,C1〜C4アルキルチオ,C1〜C4ハロアルキル チオ,C1〜C4アルコキシ,C1〜C4ハロアルコキシを表し,且つ上記アルキル基 は,それぞれ1個以上の下記の基:シアノ,ホルミル,C1〜C4アルキルアミノ, C1〜C4ジアルキルアミノ,C1〜C4アルコキシカルボニル,C1〜C4アルキルカ ルボニル,C1〜C4アルキルカルボニルオキシ,C1〜C4アルキル,C1〜C4ハロ アルキル,C1〜C4アルキルチオ,C1〜C4ハロアルキルチオ,C1〜C4アルコキ シ,C1〜C4ハロアルコキシで置換されていても良い] で表される2−ベンゾイルシクロヘキサン−1,3−ジオン又はその農業上有用な 塩。 【請求項3】 Hetが, 窒素,酸素及び硫黄から選択される1〜3個のヘテロ原子を有する,5員若しくは 6員の部分飽和若しくは完全飽和ヘテロシクリル基,又は 下記の3個の群:窒素,酸素と少なくとも1個の窒素との組み合わせ,又は硫黄と 少なくとも1個の窒素との組み合わせから選択されるヘテロ原子を3個まで有する, 5員若しくは6員のヘテロ芳香族基,を表す請求項1に記載の式Ta で表される2− ベンゾイルシクロヘキサン−1,3−ジオン。 【請求項4】請求項1又は3に記載の式Ta で表される2−ベンゾイルシクロヘキ サン−1,3−ジオンの製造方法であって, 置換又は非置換のシクロヘキサン−1, 3−ジオンQを,カルボン酸Vb’ [但し,置換基R1,R2,X1及びHetが,それぞれ請求項1と同義である] でアシル化し,適宜触媒の存在下に,アシル化生成物を転位させて化合物Ta を得る ことを特徴とする製造方法。 以上 別紙2(本件訂正後の請求項) 【請求項1】 式Ta [但し,R1が,ハロゲンを表し, R2が,−S(O)nR3を表し, R3が水素,C1〜C6アルキルを表し, nが1又は2を表し, Qが2位に結合する式U [但し,R 6,R 7,R8,R9,R10及びR 11が,それぞれ水素又はC1〜C 4アル キルを表し,上記CR8R9単位が,C=Oで置き換わっていても良い] で表されるシクロヘキサン−1,3−ジオン環を表し, X1が酸素により中断されたエチレン鎖または−CH2O−を表し, Hetが, オキシラニル,2−オキセタニル,3−オキセタニル,2−テトラヒドロフラニル, 3−テトラヒドロフラニル,2−テトラヒドロチエニル,2−ピロリジニル,2− テトラヒドロピラニル,2−ピロリル,5−イソオキサゾリル,2−オキサゾリル, 5−オキサゾリル,2−チアゾリル,2−ピリジニル,1−メチル−5−ピラゾリ ル,1−ピラゾリル,3,5−ジメチル−1−ピラゾリル,または4−クロロ−1− ピラゾリルを表す] で表される2−ベンゾイルシクロヘキサン−1,3−ジオン又はその農業上有用な 塩。 【請求項3】 Hetが, 2−テトラヒドロフラニル,3−テトラヒドロフラニル,2−テトラヒドロチエニ ル,2−ピロリジニル,2−テトラヒドロピラニル,2−ピロリル,5−イソオキ サゾリル,2−オキサゾリル,5−オキサゾリル,2−チアゾリル,2−ピリジニ ル,1−メチル−5−ピラゾリル,1−ピラゾリル,3,5−ジメチル−1−ピラゾ リル,または4−クロロ−1−ピラゾリルを表す請求項1に記載の式Taで表され る2−ベンゾイルシクロヘキサン−1,3−ジオン。 【請求項4】請求項1又は3に記載の式Taで表される2−ベンゾイルシクロヘ キサン−1,3−ジオンの製造方法であって, 置換又は非置換のシクロヘキサン− 1,3−ジオンQを,カルボン酸Vb’ [但し,置換基R1,R2,X1及びHetが,それぞれ請求項1と同義である] でアシル化し,適宜触媒の存在下に,アシル化生成物を転位させて化合物Taを得 ることを特徴とする製造方法。 以上
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2018/01/22
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
事実及び理由
全容
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