関連審決 |
忌避2001-97008 除斥2001-96001 再審2000-95001 除斥2001-96002 忌避2001-97006 除斥2001-96003 審判1997-14523 忌避2001-97007 |
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関連ワード | 利害関係人 / 援用権(援用) / 実施 / 疎明 / 実施権 / 拒絶査定不服審判 / 拒絶査定 / 訂正審判 / 拡張 / 審決確定(審決が確定) / 利害関係人 / 除斥 / 忌避 / 不服申立 / 異議申立 / |
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事件 |
平成
14年
(行ケ)
488号
審決取消請求事件
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原告X 被告 特許庁長官今井康夫 指定代理人 城戸博兒 同 高橋泰史 同 牧初 同 伊藤三男 |
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裁判所 | 東京高等裁判所 |
判決言渡日 | 2004/05/19 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
原告の請求を棄却する。 訴訟費用は原告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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請求
特許庁が再審2000-95001号事件について平成14年8月7日にした審決を取り消す。 |
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当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 (1) 原告は,昭和63年11月29日,名称を「電力変換回路と点火回路」(後に「電力変換回路」と補正)とする特許出願(昭和63年特許願第299590号)をしたが,平成9年8月6日,拒絶の査定を受けたので,同年9月1日,これに対する不服の審判の請求をした。特許庁は,上記請求を平成9年審判第14523号事件として審理した上,平成12年4月25日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決(以下「原審決」という。)をし,その謄本は,同年5月22日,原告に送達され,同年6月21日,原審決が確定した。 (2) 原告は,同年8月7日,原審決の取消しを求める再審の請求をしたところ,特許庁は,上記請求を再審2000-95001号事件(以下「本件再審事件」という。)として審理した上,平成14年8月7日,「本件再審の請求を却下する。」との審決(以下「本件審決」という。)をし,その謄本は,同月24日,原告に送達された。 本件審決に関与した審判官は,審判長A審判官(以下「A審判官」という。),B審判官,C審判官(以下「C審判官」という。),D審判官(以下「D審判官」という。)及びE審判官(以下「E審判官」という。)の5名である。 (3) 本件再審事件の係属中,原告は,下記のとおり,3度にわたり,本件再審事件の審理を担当する審判官に対する除斥の申立てをし,さらに,当該各除斥申立事件を担当する審判官に対する忌避の申立てをしたが,いずれも認められなかった。 ア 第1回目の除斥申立事件(以下「第1除斥申立事件」という。) @ 申立日 平成13年1月22日 A 対象審判官 A,E B 事件番号 除斥2001-96001 C 決定日 同年8月17日 D 結 論 本件除斥の申立を認めない。 E 謄本送達日 同月29日 イ 第2回目の除斥申立事件(以下「第2除斥申立事件」という。) @ 申立日 同年2月13日 A 対象審判官 A B 事件番号 除斥2001-96002 C 決定日 同年8月17日 D 結 論 本件除斥の申立を認めない。 E 謄本送達日 同月29日 ウ 第3回目の除斥申立事件(以下「第3除斥申立事件」という。) @ 申立日 同年2月15日 A 対象審判官 A,E B 事件番号 除斥2001-96003 C 決定日 同年8月17日 D 結 論 本件除斥の申立を認めない。 E 謄本送達日 同月29日 エ 第1除斥申立事件における審判官忌避申立事件(以下「第1忌避申立事件」という。) @ 申立日 同年5月28日 A 対象審判官 F,G,H B 事件番号 忌避2001-97006 C 決定日 同年7月2日 D 結 論 本件忌避の申立を却下する。 E 謄本送達日 同月18日 オ 第2除斥申立事件における審判官忌避申立事件(以下「第2忌避申立事件」という。) @ 申立日 同年5月28日 A 対象審判官 F,G,H B 事件番号 忌避2001-97007 C 決定日 同年7月2日 D 結 論 本件忌避の申立を却下する。 E 謄本送達日 同月18日 カ 第3除斥申立事件における審判官忌避申立事件(以下「第3忌避申立事件」という。) @ 申立日 同年5月28日 A 対象審判官 F,G,H B 事件番号 忌避2001-97008 C 決定日 同年7月2日 D 結 論 本件忌避の申立を却下する。 E 謄本送達日 同月18日 2 本件審決の理由 本件審決は,別添審決謄本写し記載のとおり,原審決には判断遺脱があるとする請求人(原告)の再審事由の主張に対し,請求人の主張する事由は,原審決の判断遺脱をいうものではなく,これをもって原審決に判断遺脱が存在するということはできず,また,判断遺脱という再審事由は,特段の事情のない限り,審決謄本送達当時に知り得たものといわざるを得ないものであり,特段の事情のない本件においては,法定の期間内に審決取消しの訴えを提起して主張すべきであって,再審によることは許されないから,原審決には,特許法171条2項において準用する民訴法338条1項9号に該当する再審事由が存在するとは認められないとした。 |
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原告主張の本件審決取消事由
本件審決は,除斥原因のある審判官が審決に関与した(取消事由1)のみならず,第1〜第3除斥申立事件及び第1〜第3忌避申立事件において,申立人である原告の正当な申立てを認めなかったものである(取消事由2)から,違法として取り消されるべきである。 1 取消事由1(除斥原因のある審判官の関与) (1) 除斥原因@ ア 本件審決に関与した審判官5名のうち,A審判官及びE審判官の2名(以下「両審判官」と総称する。)は,「事件の当事者」であるから,除斥原因があり,原審決は,拒絶査定不服審判の確定審決に対する再審について特許法(平成15年法律第47号による改正前のものをいう。以下同じ。)139条1号を準用する同法174条2項の規定に違反する。 イ 原告は,本件再審事件における再審事由として,原審決における「判断の遺脱」を主張していたものであるが,両審判官は,原審決をした審判体の構成員であり,当該「判断の遺脱」をした張本人であるから,その者が本件再審事件において審理を担当することは極めて不公正である。すなわち,本件再審事件において,原審決の担当審判官3名は「実質的な被告」というべき立場にあるということができるから,両審判官は,「事件の当事者」として,本件再審事件における職務の執行から除斥されなければならなかったものである。 この点に関し,審決取消訴訟等における被告を特許庁長官と定めた特許法179条の趣旨は,特許庁編「工業所有権法逐条解説〔第15版〕」(甲60,以下「甲60文献」という。)にあるとおり,「特許庁において現実の審決を行うのは審判官であり,しかも審判官は独立の官庁であると解されているから,行政事件訴訟法の一般原則からすれば被告は審判官ということになる。しかし,行政庁内部の事情から考え特許庁長官を被告とすることが便宜であるので長官を被告とすべきものとした」と解されており,このことからも,本件再審事件における「実質的な被告」が両審判官であることは明らかである。 ウ また,原告は,本件再審事件における再審事由として,平成12年10月11日付け上申書(甲6)により,「原告の関連する審判事件について,特許庁審判部第9部門所属の審判官による『狙い打ち』が行われていること」を追加した。「狙い打ち」や「特許つぶし」という行為は,職権を濫用して,公正な裁判(審判)を受ける権利の行使を妨害する犯罪行為であり,公務員職権濫用罪(刑法193条)に該当する。そうすると,両審判官は,民訴法338条1項4号に規定する「判決(審決)に関与した裁判官(審判官)が事件について職務に関する罪を犯したこと」という再審事由に該当し,この点からも,両審判官は「事件の当事者」に該当する。 (2) 除斥原因A ア 両審判官は,原審決をした審判体の構成員であるから,特許法139条6号を準用する同法174条2項の規定に違反する。 イ これは,特許法が,民訴法における前審関与の除斥原因(民訴法23条1項6号)よりも広い除斥原因を定めていることによるものである。すなわち,特許法174条2項は,拒絶査定不服審判の確定審決に対する再審について,同法139条6号の「審判官が事件について不服を申し立てられた査定に審査官として関与したとき」を準用しているが,当該規定は,準用に当たり,「審判官が事件について不服を申し立てられた審決に審判官として関与したとき」とも読み替えられ,その結果,拒絶査定に対する審判の確定審決に対する再審においては,「審判官が事件について不服を申し立てられた査定に審査官として関与したとき」及び「審判官が事件について不服を申し立てられた(拒絶査定不服審判の)審決に審判官として関与したとき」の双方において除斥されることになる。 上記のように読み替えて解釈すべき理由は次のとおりである。 特許法139条6号を確定審判に対する再審について準用する場合,基本的には,同号は,「審判官が事件について不服を申し立てられた査定に審査官として関与したとき」及び「審判官が事件について不服を申し立てられた審決に審判官として関与したとき」の二つの場合について除斥原因を定めたものと解すべきである。その際,例えば,平成5年法律第26号による改正前の特許法122条1項の補正却下不服審判の確定審決に対する再審に関する同法174条2項の場合,補正却下不服審判の段階では,通常,まだ,不服を申し立てられるべき「査定」そのものが存在しないので,同法139条6号の「審判官が事件について不服を申し立てられた査定に審査官として関与したとき」は,「審判官が事件について不服を申し立てられた(補正却下不服審判の)審決に審判官として関与したとき」と読み替えて準用するほかはないことになる。同様に,訂正審判の確定審決に対する再審に関する同法174条4項の場合には,査定自体について不服は申し立てられていないので,同法139条6号の規定は,「審判官が事件について不服を申し立てられた(訂正審判の)審決に審査官として関与したとき」と読み替えて準用されるほかはない。さらに,同法129条1項の訂正無効審判の確定審決に対する再審に関する同法174条3項の場合にも,査定自体について不服は申し立てられていないので,「審判官が事件について不服を申し立てられた(訂正審判又は訂正無効審判の)審決に審査官として関与したとき」と読み替えて準用されるべきである。 加えて,甲60文献には,特許法48条に関し,「139条の規定のうち,6号を準用していないのは,審査官については不服を申し立てられた処分に審査官が関与したときということはあり得ないからである」との記述があり,この記述は,特許法139条6号の「査定」を「処分」に読み替えているから,同様に,特許法174条2項における準用によって,同法139条6号の「査定」が「審決」に読み替えられる根拠となるというべきである。 以上によれば,両審判官は,不服を申し立てられた拒絶査定不服審判に審判官として関与したものであるから,特許法139条6号を準用する同法174条2項により,本件再審事件における職務の執行から除斥されなければならなかったものである。 ウ 被告は,特許法139条6号は,民訴法と同じく前審関与を除斥原因として定めたものであって,準用に当たり,同号を原告主張のように読み替えることは考えられず,他方,両審判官は,「事件について不服を申し立てられた査定に審査官として関与した」審判官ではないから,除斥原因はない旨主張するところ,両審判官が当該査定に審査官として関与した事実がないことは認める。 しかしながら,同号が民訴法と同じく前審関与を除斥原因として定めたものであるとの被告の主張は失当である。すなわち,被告がその主張の根拠として提示する,特許庁編「工業所有権法逐条解説〔第14版〕」(乙1,以下「乙1文献」という。)の該当箇所の記述は,旧法(大正10年法を指す。以下同じ。)において,「審判官カ事件ニ付審査官又ハ審判官トシテ査定又ハ審決ニ関与シタルトキ」と規定し,拒絶査定不服審判の審決をした審判官が,その審決が取消訴訟によって取り消された後の特許庁における審理に審判官として関与できなかったことを改めたという趣旨にすぎず,それ以外の同一審級における審理についてまで及ぶものではない。仮に,被告の主張するように,真実,同号が前審関与を規定したのであれば,民訴法と同様に,「前審に関与したとき」と規定すれば済むことであるのに,実際にはそのように規定されていないのであるから,異なる趣旨の規定であると理解するのは当然である(甲62参照)。また,被告は,特許庁審判部編「審判便覧(改訂第9版)」(乙2,以下「乙2文献」という。)や中山信弘編著「注解特許法(第3版)」(乙3,以下「乙3文献」という。)をも根拠として提示するが,乙2文献は,審判の実務に一定の軌道を与えることに主眼を置くものにすぎない(甲61参照)から,その記述内容が絶対に正しいということはできないし,乙3文献は,その著者の多くが特許庁審判官である(甲62参照)から,その記述が特許庁寄りであることは容易に推察される。 また,原告主張の読み替えを否定する被告の主張も失当である。準用とは,必要に応じて若干の補正をして読むもの(甲56参照)であり,もとより,読み替え規定なしに読み替えを行うこともあり得る(甲57参照)。被告は,読み替えられた規定と原文のままの規定の双方が適用されることはあり得ないとも主張するが,旧法においては,原告主張の二つの場合が除斥原因として規定されていたのであるから,準用に当たり,それと同様に読み替えることは当然のことであり,そのため,読み替え規定が置かれなかったにすぎない。 (3) 除斥原因B ア 両審判官並びにC審判官及びD審判官(以下「本件審判官ら」と総称する。)は,「事件について直接の利害関係を有する」から,除斥原因があり,原審決は,特許法139条7号を準用する同法174条2項の規定に違反する。 イ 「判断の遺脱」とは,「判断しなかったこと」,「判断を示さなかったこと」,「審理すべきことをしなかったこと」,「審理においてすべきことをしなかったこと」であり,「公正な裁判(審判)を受ける権利」を奪うものであって,憲法32条に違反する違法な行為である。したがって,「判断の遺脱」は,審判における審判官の義務違反に該当し,現実に処分が実行されるかどうかは別として,法律的には国家公務員法の規定する懲戒事由に該当する行為であると解される。そうすると,本件再審事件において「判断の遺脱」という再審事由が認められるか否かは,両審判官にとっては懲戒事由に該当する事実があったか否かに直接関係する問題であり,両審判官は,本件再審事件について「直接の利害関係を有する」ものというべきである。 ウ また,両審判官は,本件と密接に関連する別件の拒絶査定不服審判に対する審決取消訴訟(当庁平成13年(行ケ)第273号事件,以下「別件訴訟」という。)の実質的な被告である。もとより,別件訴訟の被告は特許庁長官であるが,上記(1)イのとおり,特許庁長官は便宜上の被告にすぎず,実質的な被告は審判官であると解される。そして,原告は,別件訴訟において,「判断の遺脱」の点を審決取消事由を裏付ける根拠として用いているので,本件再審事件で,「判断の遺脱」という再審事由が認められると,別件訴訟の実質的被告である両審判官は法律的に不利になる。このことからしても,両審判官は,本件再審事件において「判断の遺脱」という再審事由が認められるか否かについて「直接の利害関係を有する」ものというべきである。 エ さらに,原告は,上記(1)ウのとおり,本件再審事件における再審事由として,「原告の関連する審判事件について,特許庁審判部第9部門所属の審判官による『狙い打ち』が行われていること」を追加した。「狙い打ち」や「特許つぶし」という行為は,国家公務員法上の懲戒事由に該当し,公務員職権濫用罪(刑法193条)に該当する違法行為である。そうすると,本件再審事件において「狙い打ち」という再審事由が認められるか否かは,両審判官にとっては懲戒事由又は犯罪に該当する事実があったか否かに直接関係する問題であり,両審判官は,本件再審事件について「直接の利害関係を有する」ものというべきである。 加えて,本件再審事件の審判体構成員であるC審判官及びD審判官についても,両審判官と同様,自らにも除斥原因があることを知りながら,本件審決に賛成票を投じたのであれば,やはり,公務員職権濫用罪が成立することになるから,本件再審事件について「直接の利害関係を有する」ものというべきである。 オ 以上に関し,被告は,特許法139条7号に規定する「直接の利害関係」とは,「事件の争いの対象となっている権利に関して何らかの法律上の影響を受ける地位にあること」が想定されているものであり,本件審判官らはそれに該当しない旨主張する。 しかしながら,再審における審理の対象は,「再審事由の有無」と「特許権の有無」の二つであるところ,上記審判官らが,「再審事由の有無」について直接の利害関係を有することは明らかである。また,被告はその主張の根拠として乙2文献を提示するが,該当箇所は,再審を対象としない場合について記述するものであって,再審を対象とする場合について記述するものではないから,論拠にはならないというべきである。 (4) 除斥,忌避,回避の制度は,憲法32条の規定に基づいて,「公正な裁判を保障する公正な裁判所」を実現するための手段として定められたものである(甲58参照)。一方,「裁判の公正」を壊す一番の原因は,「裁判官(又は審判官)が自分で自分自身に関係する事柄について審理すること」であることは明らかである。 そして,本件再審事件において,両審判官が審理判断することは,自らが関与した原審決について「判断の遺脱」があるか否かを自分で審理判断することであるから,極めて不公正である。したがって,両審判官に除斥原因があることは,憲法32条の規定自体から明らかであり,仮に,本件について,特許法に該当する規定がないとすれば,それは,特許法が憲法32条に違反しているか,あるいは,条理法,慣習法又は判例法といった不文の法源(甲57,59参照)に基づく除斥原因があり,本件はそれに該当するというだけのことである。 2 取消事由2(除斥申立事件及び忌避申立事件における違法) (1) 上記1のとおり,両審判官には,除斥原因があることが明らかであるから,第1〜第3除斥申立事件においては,除斥の決定がされなければならなかった。にもかかわらず,上記各事件を担当した審判体は,特許法139条1号,6号及び7号を準用する同法174条2項の解釈を誤り,申立人である原告の主張に対する判断を遺脱するなどして,「本件除斥の申立を認めない。」との誤った結論に至ったものであって,違法である。 (2) 第1〜第3忌避申立事件においては,申立人である原告が忌避原因を疎明する上申書を提出したのに,これらを欠落したまま,忌避原因が「疎明されていない」との理由で忌避申立てが却下されているが,これは明らかな「判断の遺脱」である。 また,上記各事件においては,忌避の対象となった審判官を含む審判体により,いわゆる簡易却下決定がされているが,特許法上の審判手続においては簡易却下の手続は認められないと解すべきである上,原告による忌避申立ては忌避申立権の濫用などではないから,違法である。そもそも,本件再審事件においては,忌避申立てに対する決定日から除斥申立てに対する決定日まで1か月半も,さらに,除斥申立てに対する決定日から本件審決まで,ほぼ1年を要しているのであるから,審理の迅速を理由とする簡易却下を認めるべき理由はない。さらに,仮に,簡易却下が認められるとしても,上記各事件において簡易却下決定をした審判体は,忌避の対象とされていない審判官2名を含むところ,その2名については,忌避の対象とはされていないのであるから簡易却下の要件を満たしていない一方,審判官氏名通知書が原告に送達されておらず,特許庁長官による審判官の指定もされていない。審判官の指定がされず,忌避の対象でもない審判官が簡易却下決定に関与する法的根拠はどこにもないから,当該手続は,特許法136条から138条までの規定に違反する。 以上に対し,被告は,忌避申立てに対する決定において,逐一,上申書に言及する必要はない旨主張するが,特許法142条2項は,忌避の原因は,申立ての日から三日以内に疎明しなければならない旨定めており,逆にいえば,三日以内であれば,申立人には疎明する権利があるのであるから,決定において,これに言及しないことは明らかな判断遺脱というほかはない。また,被告は,当該上申書を要約すれば,申立書の記載に尽きるものである旨主張するが,申立人である原告は,「疎明」のために当該上申書を提出したものであって,主張の補充や説明をしたものではないから,被告の主張は当を得ないものである。さらに,被告は,上記各忌避申立事件における申立てが申立権の濫用であることは明らかであったとも主張するが,上申書(甲42)において七つもの証拠が列挙されていることからも明らかなとおり,当該申立ては,申立権の濫用などではない。 |
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被告の反論
本件審決に原告主張の違法はなく,原告の取消事由の主張はいずれも理由がない。 1 取消事由(除斥原因のある審判官の関与)について (1) 除斥原因@について 再審事件における当事者は,再審の請求人又は被請求人であり,再審の請求人でも被請求人でもない両審判官が,特許法174条2項において準用する同法139条1号の「事件の当事者」に該当することはない。 (2) 除斥原因Aについて 特許法139条6号は,民訴法23条1項6号と同様,前審関与を除斥原因として定めた規定であると解されるところ(乙1文献〜乙3文献参照),拒絶査定不服審判とその再審とは同一審級の手続であるから,前審関与には当たらない。 この点について,原告は,準用に当たり,同号の「審判官が事件について不服を申し立てられた査定に審査官として関与したとき」を「再審の審判官が事件について不服を申し立てられた審決に審判官として関与したとき」と読み替えるものであると主張するが,特許法においては,特殊な読み替えを行う場合には読み替え規定を置いており,特許法174条2項における同法139条6号のみを,そのような読み替え規定なしに読み替えることは考えられない。また,再審においても,同法139条6号の文言どおりの「審判官が事件について不服を申し立てられた査定に審査官として関与した」審判官が除斥されるべきであるのは明らかであるところ,原告が主張するように,読み替えられた規定と原文のままの規定との双方が適用されるなどということは考えられない。 そして,両審判官が,本件再審事件に関し,不服を申し立てられた査定に審査官として関与した事実はないから,両審判官には,特許法174条2項において準用する同法139条6号の除斥原因はない。 (3) 除斥原因Bについて 特許法139条7号に規定する「直接の利害関係」とは,法律上の利害関係をいい,経済上の利害関係を含まないものと解すべきであり(乙1文献参照),具体的には,審判官が,事件の争いの対象となっている権利の先取特権者,質権者,実施権者又は物上保証人である場合(乙2文献参照)のように,審判官が,事件の争いの対象となっている権利に関して何らかの法律上の影響を受ける地位にあることが想定されているものというべきである。 したがって,本件再審事件において,請求人である原告が,原審決における判断遺脱や原告に対する「狙い打ち」の点を主張していたからといって,事件の対象となる権利には何の関係もない本件審判官らが,同号に規定する直接の利害関係人に該当することはない。 2 取消事由2(除斥申立事件及び忌避申立事件における違法)について (1) 原告は,第1〜第3除斥申立事件及び第1〜第3忌避申立事件における違法を主張するが,上記1のとおり,そもそも,両審判官には除斥原因が認められないから,原告の取消事由2の主張は理由がない。 (2) なお,原告は,上記各除斥申立事件を担当した審判体は,特許法139条1号,6号及び7号を準用する同法174条2項の解釈を誤ったと主張するが,その主張が失当であることは上記1(2)のとおりである。 また,原告は,上記各忌避申立事件において,原告が忌避原因を疎明する上申書を提出したのに,これらを欠落したまま,忌避申立てを却下したことは判断の遺脱に当たる旨主張するが,決定において,逐一,上申書について言及しなければならないものではないし,本件の場合,当該上申書の内容を要約すれば申立書の記載に尽きるものである上,申立書の内容からみて,当該忌避の申立てが申立権の濫用に当たることも明らかであることからすれば,当該上申書に言及せずに忌避申立てを却下したことに違法性はない。さらに,原告は,上記各忌避申立事件においては,いわゆる簡易却下決定がされているところ,忌避の対象でなく,かつ,審判官の指定もされていない審判官2名が当該決定に関与していることは違法である旨主張するが,除斥又は忌避申立てにつき申立権の濫用として簡易却下決定をする場合には,除斥や忌避の対象とされた審判官とそれ以外の審判官から成る合議体が決定をすることも想定され,その場合に,審判官の氏名通知が行われないことは遅延防止の趣旨から当然である。 |
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当裁判所の判断
1 取消事由(除斥原因のある審判官の関与)について (1) 除斥原因@について 原告は,本件再審事件において,請求人である原告は,原審決における判断遺脱及び原告に対する「狙い打ち」を再審事由として主張しているから,両審判官は,本件再審事件における「実質的な被告」であり,「事件の当事者」として除斥原因があるとし,本件審決は,拒絶査定不服審判の確定審決に対する再審について特許法139条1号を準用する同法174条2項の規定に違反する旨主張する。 そこで検討すると,特許法174条2項において準用する同法139条1号(なお,原告は,「特許法174条2項において準用する同法139条各号」という表現と,「特許法139条各号を準用する同法174条2項」という表現とでは,特許法139条各号の読み替えの必要性の有無等について差異が生ずるかのように主張するが,いずれの表現であっても,準用に当たり,読み替えが必要であれば読み替えるべきことは当然である。)は,「審判官・・・が事件の当事者,参加人若しくは特許異議申立人・・・であるとき又はあつたとき」を除斥原因として規定するところ,同号と類似の除斥原因の規定である民訴法23条1項1号の「裁判官・・・が事件の当事者であるとき・・・」における「当事者」は,参加人その他の判決の効力を受ける者も含める広義の趣旨であると解されるのに対し,特許法139条1号の規定では,「当事者」のほかに,参加人,特許異議申立人を明文で規定してそれらを書き分けていることからすれば,同号に規定する「事件の当事者」とは,狭義のそれを意味するものと解するのが相当である。そして,特許法第7章に規定する再審事件における「当事者」は,当該再審の請求人又は被請求人であり,両審判官が,本件再審事件の請求人又は被請求人でないことは明らかであるから,原告の上記主張は失当である。 なお,原告が,両審判官を「実質的な被告」であると主張する趣旨は,同号の「事件の当事者」を拡張的に解釈すべきであるとする趣旨であるとも解されるが,特許法が,除斥のほかに,忌避の制度を定めていることからすれば,除斥原因として掲げられた事由が限定列挙の趣旨であることは明らかというべきであり,原告の上記主張は,具体的かつ明確な事由を定型化して除斥原因として限定列挙するという除斥制度の本質に反するというほかはないから,採用の限りではない。 (2) 除斥原因Aについて 原告は,特許法139条6号を同法174条2項で準用すると,「審判官が事件について不服を申し立てられた査定に審査官として関与したとき」及び「審判官が事件について不服を申し立てられた審決に審判官として関与したとき」の双方の場合に除斥されることになるから,両審判官には除斥原因があるとし,本件審決は,同法139条6号を準用する同法174条2項の規定に違反する旨主張する。 確かに,特許法174条2項において,拒絶査定不服審判の確定審決に対する再審について同法139条6号の規定を準用するに当たり,理論的には,「審判官が事件について不服を申し立てられた査定に審査官として関与したとき」と原文どおり準用するか,「審判官が事件について不服を申し立てられた審決に審判官として関与したとき」と読み替えて準用するかという,二つの準用方法が考えられることは,原告の主張するとおりである。 しかしながら,まず,形式的に見ても,特許法の他の規定においては,準用に当たり読み替え規定が置かれていること(例えば,拒絶査定不服審判において不適法な補正がされた場合に関する159条1項)と対比すれば,同一法典における全体の統一性という観点から,後者のような特別な読み替えをするのであれば,特許法174条2項中に読み替え規定を設けることが立法技術上は通例であると考えられるが,同項には,そのような読み替え規定は置かれていない。また,実質的に見ても,乙1文献において,「六号は実体的にも旧法と異なっている。すなわち,旧法は『審判官カ事件ニ付審査官又ハ審判官トシテ査定又ハ審決ニ関与シタルトキ』と規定されていたので,拒絶査定に対する審判において審決をした審判官は,その審決に不服で訴が提起された後審決が取り消されて特許庁において再び審理が行われる場合にその事件に審判官として関与することができなかったのである。この点,旧民事訴訟法(注,平成8年法律第109号による改正前の民訴法35条6号)が『前審ノ裁判ニ関与シタルトキ』と規定して同一審級において関与していたことはなんら除斥原因としていないことと著しく違っていたのであるが,現行法においてはこの点を民事訴訟法と同趣旨の規定に改めたのである」(322頁)と記載されていることからすれば,特許法174条2項において同法139条6号を準用する際,同一審級の手続である,拒絶査定不服審判の確定審決とその再審との間において,前者に関与したことを除斥原因として定めたものと解すべき理由は見当たらないというほかはない。したがって,同号は,準用に当たり,原告主張の読み替えをすることなく,「審判官が事件について不服を申し立てられた査定に審査官として関与したとき」との原文のまま準用されるものと解するのが相当である。 この点について,原告は,平成5年法律第26号による改正前の特許法174条2項(補正却下不服審判の確定審決に対する再審における準用),同条3項(訂正無効審判の確定審決に対する再審における準用)及び同条4項(訂正審判の確定審決に対する再審における準用)の各規定が同法139条6号を準用する場合において,「不服を申し立てられた査定」が存在しないときの解釈との均衡を主張するが,そうした場合には,「不服を申し立てられた査定」が存在しない以上,同号は準用の対象を欠く(いわゆる「空振り」になる。)と解すれば足りるというべきであるから,原告の主張は失当である。また,原告は,特許法48条に関する甲60文献の記載を援用するが,注釈書の記載を法文の文言と同視できるものではないから,この点に関する原告の主張は採用の限りではない。 さらに,原告は,@乙1文献の上記記載は,拒絶査定に対する審判の審決をした審判官が,その審決が取消訴訟によって取り消された後の特許庁における審理に審判官として関与できなかったことを改めたという趣旨にすぎず,それ以外の同一審級における審理についてまで及ぶものではない,A真実,同号が前審関与を規定したのであれば,民訴法と同様に,「前審に関与したとき」と規定すれば済むことであるのに,実際にはそのように規定されていない以上,別異に解するのは当然である,B旧法においては,原告主張の二つの場合が除斥原因として規定されていたのであるから,準用に当たり,それと同様に読み替えるのは当然であるなどとも主張する。しかしながら,上記@及びBの主張については,立法者意思を推知させる一つの資料ともいうべき乙1文献に,「現行法においてはこの点を民事訴訟法と同趣旨の規定に改めたのである」と明記されていることを軽視するものといわざるを得ないし,そもそも,現行の特許法が,139条6号において,民訴法における前審関与の除斥原因よりも広い除斥原因を定めたものと解すべき積極的な理由も乏しいというべきであるから,採用の限りではない。また,上記Aの主張については,「審査」が「前審」という語に当てはまるかどうかには疑問もあり得ることからすれば,立法技術上の巧拙はともかく,同号が「前審に関与したとき」と規定しなかったことには相応の理由があるとみられるから,やはり,上記の結論を左右しないというべきである。 以上によれば,特許法174条2項において準用する同法139条6号に規定する除斥原因は,「審判官が事件について不服を申し立てられた査定に審査官として関与したとき」と解すべきところ,両審判官が,本件再審事件に関する査定に審査官として関与した事実がないことは当事者間に争いがないから,同号に該当することを理由とする原告の上記主張は採用することができない。 (3) 除斥原因Bについて 原告は,本件再審事件において,請求人である原告は,原審決における判断遺脱及び原告に対する「狙い打ち」(特許つぶし)を再審事由として主張しているところ,それらの再審事由が認められるか否かは,国家公務員法上の懲戒事由に該当する事実等があったか否かに直接関係する問題であるから,本件審判官らは,本件再審事件について「直接の利害関係を有する」ものとして除斥原因があるとし,本件審決は,特許法139条7号を準用する同法174条2項の規定に違反する旨主張する。 そこで,特許法174条2項において準用する同法139条7号に規定する「直接の利害関係」の意義について検討すると,民訴法23条1項との対比において,同項1号に規定されている「事件について当事者と共同権利者,共同義務者若しくは償還義務者の関係にあるとき」が,特許法139条1号には規定されておらず,他方,同条には,民訴法23条1項にはない,7号の規定が設けられているとの関係があることからすれば,特許法139条7号の「直接の利害関係」とは,民訴法23条1項1号に規定する「事件について当事者と共同権利者,共同義務者若しくは償還義務者の関係にあるとき」に準ずる場合をいうものと解するのが相当であり,典型的には,審判官が,事件において争いの対象となっている権利について,何らかの権利義務関係を有する場合が想定されているものというべきである。 そして,本件審判官らが,本件再審事件において争いの対象となっている権利について,何らかの権利義務関係を有しているなど,上記判示に係る関係にある事実を認めることができないから,本件審判官らに除斥原因があるとする原告の上記主張は採用することができない。 これに対し,原告は,再審における審理の対象は,「再審事由の有無」と「特許権の有無」の二つであるところ,本件審判官らが,「再審事由の有無」について直接の利害関係を有することは明らかである旨主張する。しかしながら,原告主張の事由が,民訴法上の再審において裁判官の除斥事由とならないことは,民訴法23条1項の規定から明らかであるところ,特許法が,審判官についてそれよりも広い除斥事由を定めたものと解すべき理由に乏しい上,仮に,原告主張のように解するとすれば,請求人が再審事由としてどのような事由を掲げるかによって,除斥の範囲が左右されることとなって,具体的かつ明確な事由を定型化して除斥原因として限定列挙するという除斥制度の本質に反する結果となるというべきであるから,原告の主張は採用の限りではない。 (4) 以上のほか,原告は,除斥,忌避,回避の制度は,憲法32条の規定に基づいて,「公正な裁判を保障する公正な裁判所」を実現するための手段として定められたものであるところ,本件再審事件において,両審判官が審理判断することは,自らが関与した原審決について「判断の遺脱」があるか否かを自分で審理判断することであって,極めて不公正であるから,両審判官に除斥原因があることは,憲法32条の規定自体から明らかであり,仮に,本件について,特許法に該当する規定がないとすれば,それは,特許法が憲法32条に違反しているか,あるいは,条理法,慣習法又は判例法といった不文の法源に基づく除斥原因があり,本件はそれに該当する旨主張する。 原告の上記主張は,自らの判断遺脱の有無を自らが審理判断することは,裁判ないし審判の制度として不公正であるとの前提があるところ,そのような前提は,審級関係のある上訴制度については妥当するにしても,裁判に対する不服申立ての制度としては,原裁判をした裁判所に対する異議の申立て(例えば,民事保全法26条に規定する保全異議の申立て)もあり,原告主張の前提は,裁判制度一般について常に妥当するものであるとは到底考えられない。民訴法においては,再審により不服を申し立てられた確定判決は,再審事件との関係で「前審の裁判」(民訴法23条6号)に当たらないとされている(最高裁昭和39年9月4日第二小法廷判決・裁判集民事75号175頁参照)のであるから,これと同様に,特許法における拒絶査定不服審判の確定審決とそれに対する再審についても,後者を担当する審判官について,前者に関与していたことを除斥事由としないこととしても,立法政策上,何ら問題はないというべきである。また,そもそも,原告が本件で再審事由として主張する点は,本来,法定の期間内に審決取消訴訟を提起することによって主張し得たはずのものであり,原告には,そのような通常の不服申立ての手段によって,異なる判断者による判断を受ける機会が保障されていたのであるから,以上によれば,原告の上記主張のうち,憲法違反を主張する部分は明らかに失当である。そして,原告の主張に係る上記事由が,特許法174条2項において準用する同法139条各号の除斥原因に該当しないことは,上記(1)〜(3)において判示したところから明らかであり,さらに,不文の法源に基づく除斥原因に該当するとの主張については,具体的かつ明確な事由を定型化して除斥原因として限定列挙するという除斥制度の本質に反するというほかはないから,採用の余地がない。したがって,原告の上記主張は,いずれも失当である。 (5) 以上によれば,両審判官又は本件審判官らに除斥原因があるとする原告の主張はいずれも失当であり,原告の取消事由1の主張は理由がない。 2 取消事由2(除斥申立事件及び忌避申立事件における違法)について 原告は,第1〜第3除斥申立事件及び第1〜第3忌避申立事件において申立人である原告の正当な申立てを認めなかったことは違法であるとして,るる主張するが,上記1のとおり,両審判官には除斥原因が認められないから,上記各除斥申立事件に関する主張は失当であり,また,両審判官に除斥原因がない以上,仮に,上記各忌避申立事件において原告主張の手続上の違法があったとしても,本件審決の結論に影響を及ぼすものでないことは明らかである。 以上によれば,その余の点につき検討するまでもなく,原告の取消事由2の主張は理由がない。 3 以上のとおり,原告主張の取消事由はいずれも理由がなく,他に本件審決を取り消すべき瑕疵は見当たらない。 よって,原告の請求は理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決する。 |
裁判長裁判官 | 篠原勝美 |
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裁判官 | 岡本岳 |
裁判官 | 早田尚貴 |