関連審決 | 不服2015-10465 |
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事件 |
平成
28年
(行ケ)
10279号
審決取消請求事件
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原告株式会社明治 同訴訟代理人弁理士 葛和清司 矢後知美 被告特許庁長官 同 指定代理人前田佳与子 内藤伸一 尾崎淳史 板谷玲子 |
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裁判所 | 知的財産高等裁判所 |
判決言渡日 | 2017/11/30 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
1 原告の請求を棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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原告の求めた裁判
特許庁が不服2015-10465号事件について平成28年11月22日にした審決を取り消す。 |
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事案の概要
本件は,特許出願の拒絶査定不服審判請求に対する不成立審決の取消訴訟である。 争点は,平成16年法律第79号による改正前の特許法(以下, 「平成16年改正前特許法」という。)41条に基づく優先権主張(いわゆる国内優先権主張)を伴う特許出願について,その先の出願(いわゆる基礎出願)においては平成23年法律第63号による改正前の特許法(以下,「平成23年改正前特許法」という。)30条4項の手続を履践したものの,上記優先権主張を伴う特許出願においては同手続を履践していないときには,同条1項の規定(新規性喪失の例外)の適用を受けることができないとした判断の誤りの有無である。 1 特許庁における手続の経緯 (1) 原告は,名称を「NK細胞活性化剤」とする発明について,平成16年7月9日,特許出願をし(特願2004-203601号,以下, 「出願A」という。特許法41条に基づく優先権主張,優先日・平成15年12月12日,特願2003-414258号[以下, 「基礎出願X」という。甲2]。甲3),平成22年10月13日,出願Aの分割出願として,特許出願をし(特願2010-230889号,以下,「本願の原出願」という。甲4),平成25年3月18日,本願の原出願の分割出願として,特許出願をした(特願2013-55183号,以下, 「本願」という。甲5,7)。 (2) 原告は,基礎出願Xについて,その出願と同時に,平成23年改正前特許法30条4項所定の同条「第1項…の規定の適用を受けようとする…旨を記載した書面」を特許庁長官に提出し(基礎出願Xの願書に【特記事項】として記載した。, )出願日から30日以内に,同条4項所定の同条「第1項…の規定の適用を受けることができる発明であることを証明する書面」(いわゆる新規性の喪失の例外証明書)として,刊行物A(「糖質工学によるアプローチ 炭水化物の多面的利用技術の展開」,ニューフード・クリエイション技術研究組合,2003年11月20日,172頁〜189頁。甲1)を特許庁長官に提出した(甲6)。 原告は,出願Aについては,その出願と同時に,同条4項所定の同条「第1項…の規定の適用を受けようとする…旨を記載した書面」を特許庁長官に提出しなかった。 (3) 原告は,本願について,平成27年2月23日付けで拒絶査定を受けたので,同年6月3日,拒絶査定不服審判請求をするとともに(不服2015-10465号。甲12),特許請求の範囲を補正する手続補正をし(甲13),平成28年7月26日付けで特許請求の範囲を補正する手続補正をした(請求項の数6,以下,「本件補正」という。甲16)。 特許庁は,平成28年11月22日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,その謄本は,同年12月2日,原告に送達された。 2 本願発明の要旨 本件補正後の特許請求の範囲の請求項1記載の発明(以下, 「本願発明」という。)は,次のとおりである。 【請求項1】 酸性多糖類を有効成分として含有することを特徴とするNK細胞活性化剤。 3 審決の理由の要点 (1) 平成23年改正前特許法30条1項の規定の適用の可否 ア 出願Aについて,平成23年改正前特許法30条1項の規定の適用が受けられるかについて検討すると,同条4項には, 「第1項又は前項の規定の適用を受けようとする者は,その旨を記載した書面を特許出願と同時に特許庁長官に提出し,かつ,第29条第1項各号の一に該当するに至った発明が第1項又は前項の規定の適用を受けることができる発明であることを証明する書面を特許出願の日から30日以内に特許庁長官に提出しなければならない。」という手続が規定されている。 同法30条の規定の趣旨は, 「特許出願に係る発明が,同法29条1項各号に該当する場合,その発明は新規性を喪失するが,この原則を貫くと,発明者に対して酷な結果を強いることになり,また,産業の発達を目的とする法の趣旨にそわないことがあるため,この原則に対する例外を認める措置を設けた。」というものである。 そして,具体的に同法30条1項〜3項に規定する理由により公知となったような例外的な場合には,その発明の新規性は喪失されないものとし,他方,同条1項〜3項による救済的措置は,原則に対する例外であるから,同条1項〜3項の適用を受けるために,同条4項に規定される手続要件が定められた。 このような同法30条の規定の趣旨からみると,同条4項に規定される所定の手続が履践されない場合に,新規性喪失の原則に対する例外である同条1項〜3項による救済的措置を受けることはできず,また,特許出願において,同条4項に規定される所定の手続を何ら履践しなかったにもかかわらず,その手続を追完することによって同条1項〜3項の適用を受けることは許されない(東京地方裁判所平成13年(行ウ)第284号同14年5月22日判決参照)。 また,平成16年改正前特許法41条2項には, 「前項の規定による優先権の主張を伴う特許出願に係る発明のうち,当該優先権の主張の基礎とされた先の出願の願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲若しくは実用新案登録請求の範囲又は図面…に記載された発明…についての第29条,第29条の2本文,第30条第1項から第3項まで,第39条第1項から第4項まで…の規定の適用については,当該特許出願は,当該先の出願の時になされたものとみなす。 下線は, 」 ( 審決による。)と規定されているが,同法41条2項には,前記出願Aの出願と同時に履践されるべき平成23年改正前特許法30条4項に規定される所定の手続が基礎出願Xの出願時になされたものとみなすことは,規定されていない。 そうすると,請求人(原告)は,出願Aについて,その出願と同時に同法30条4項所定の「その旨を記載した書面」を特許庁長官に提出せず,同項所定の手続要件を満たさなかったのであるから,出願Aについて同条1項の規定の適用を受けることはできない。 イ 本願の原出願について,平成23年改正前特許法30条1項の規定の適用が受けられるかについて検討すると,同法44条1項の規定による特許出願(いわゆる分割出願)について,同条4項に「第1項に規定する新たな特許出願をする場合には,もとの特許出願について提出された書面又は書類であって,新たな特許出願について第30条第4項,第41条第4項又は第43条第1項及び第3項(前条第3項において準用する場合を含む。)の規定により提出しなければならないものは,当該新たな特許出願と同時に特許庁長官に提出されたものとみなす。 (下線 」は,審決による。)と規定されているが,前記のとおり出願Aの出願と同時に同法30条4項所定の「その旨を記載した書面」が特許庁長官に提出されなかったのであるから,出願Aの一部を新たな出願としたものである本願の原出願は,同条1項の規定の適用を受けることはできない。 ウ 前記イと同様の理由により,本願の原出願の一部を新たな出願とした特許出願である本願は,平成23年改正前特許法30条1項の規定の適用を受けることはできない。 (2) 引用発明の認定 刊行物Aには,次の発明(以下,「刊行物A発明」という。)が記載されている。 「NK活性上昇作用を有する,Lactbacillus bulgaricus OLL1073R-1 株が産生する酸性多糖体を有効成分とする機能性食品素材」の発明 (3) 一致点の認定 本願発明と刊行物A発明とを対比すると,次の点で一致する。 「NK活性上昇作用を有する酸性多糖類を有効成分とする,生体に対して有用な作用をもたらすもの」の発明である点。 (4) 相違点の認定 本願発明と刊行物A発明とを対比すると,次の点で一応相違する。 「生体に対して有用な作用をもたらすもの」 本願発明では が, 「NK細胞活性化剤」と称されているのに対し,刊行物A発明では「機能性食品素材」と称されている点。 (5) 相違点の判断 ア 刊行物Aの「4)多糖体による免疫賦活…また,これら IL-12,IFN-γによって活性化したマクロファージなどの貧食細胞やNK細胞は」 (下線は,審決による。)との記載,184頁の「図7・19」,及び「2)NK活性 in vivo におけるIFN-γの産生量増加はマクロファージやNK細胞の活性化を誘導し,…NK活性の上昇などの効果が現れる可能性がある。 下線は, ( 」 審決による。との記載からみて, )刊行物A発明で,Lactbacillus bulgaricus OLL1073R-1 株が産生する酸性多糖体が「NK活性上昇作用を有する」ことは,この酸性多糖体が「NK細胞活性化作用を有する」ことを意味している。 そうすると,このような酸性多糖体を有効成分とする機能性食品素材が,生体に対しNK細胞活性化作用をもたらすことは明らかであるから,刊行物A発明の「機能性食品素材」 「NK細胞活性化剤」 は, と同義であると解され,前記(4)の相違点は,実質的な相違点ではない。 イ 仮に,刊行物A発明の「機能性食品素材」が「NK細胞活性化剤」と同義とはいえないとしても,前記アの刊行物Aの記載及び図からみて,刊行物A発明の「機能性食品素材」を「NK細胞活性化剤」に適用することは,当業者が容易に想到し得た事項にすぎない。 そして,本願発明による効果は,刊行物Aの記載から当業者が予測し得た程度のものにすぎない。 (6) 総括 以上によると,本願発明は,本願優先日前に頒布された刊行物Aに記載された発明であるか,あるいは同発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものと認められるから,特許法29条1項3号に該当し,又は同条2項の規定により特許を受けることができない。 したがって,本願は,その余の請求項に係る発明について論及するまでもなく拒絶すべきものである。 |
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原告主張の審決取消事由
審決は,本願について,平成23年改正前特許法30条1項の規定の適用を受けることはできないとして,本願発明は,刊行物A発明であるか,これに基づいて当業者が容易に発明をすることができたと判断したが,以下のとおり,本願発明には,同項が適用されるから,本願発明は,刊行物Aの発表により,特許法29条1項3号に該当するものではないし,同条2項に反するものでもない。 1 平成16年改正前特許法41条に規定される国内優先権制度の趣旨は,基本的な発明の出願の後に,その発明と後の改良発明とを包括的な発明としてまとめた内容で特許出願をすることを可能とし,技術開発の成果が漏れのない形で円滑に特許権として保護されることを容易にするというものであり,先の出願(以下, 「基礎出願」ともいう。)のみなし取下げの規定(特許法42条1項)を設けることによって,先の出願の発明を基本として,この発明に改良発明等を取り込んで新しい出願に乗り換えることを可能とする趣旨の制度である(甲19)。 2 国内優先権制度における優先権の発生時期は,パリ条約4条Bに規定される優先権の発生時期から類推して,先の出願がされた時であると解すべきである。 3 そして,先の出願がされた時に生じた優先権は,平成16年改正前特許法41条1項により優先権を主張し,出願と同時に同条4項所定の書面を特許庁長官に提出することによって,直ちに同条2項の効果,すなわち,優先権の主張を伴う特許出願に係る発明のうち,この優先権の主張の基礎とされた先の出願の願書に最初に添付した明細書等(以下,「当初明細書等」ともいう。)に記載された発明については,特許法29条(新規性等の判断),平成23年改正前特許法30条1項〜3項(新規性喪失の例外の効果),平成16年改正前特許法39条(先後願の判断)等の規定の適用については,先の出願の時にされたものとみなされるという効果が生じる。 4 基礎出願において既に平成23年改正前特許法30条4項所定の手続をした場合の優先権主張を伴う出願については,前記の国内優先権の本質からみて,基礎出願の出願時の当初明細書等に記載された発明について優先権が発生し,基礎出願において,同項所定の手続をした発明については,後の出願において平成16年改正前特許法41条4項所定の手続をすることにより,この発明についての優先権主張の効果,すなわち,特許法29条(新規性等の判断),平成23年改正前特許法30条1項〜3項(新規性喪失の例外の効果)等についての規定の適用については基礎出願の時にされたものとみなされる効果が発生する。前記優先権主張の効果のうち,新規性・進歩性についての規定(特許法29条)の適用に係る前記効果については,基礎出願において平成23年改正前特許法30条4項所定の手続をしている場合には,新規性喪失の例外規定(同法30条1項〜3項)に係る前記効果についても発生しているから,この効果をも含む上記発明の新規性についての優先権の主張の効果が発生するというべきであり,新規性・進歩性についての規定の適用に係る前記効果と新規性喪失の例外規定に係る前記効果とを切り離して取り扱わなければならない理由はない。そして,上記発明については,前記3のとおり,平成16年改正前特許法41条4項の手続をすることにより優先権主張を伴う出願に乗り換えられるから,改めて平成23年改正前特許法30条4項に相当するような特別な手続(その旨を記載した書面の出願と同時の提出や証明する書面の出願の日から30日以内の提出など)を別途要さないのは当然である。このため,平成16年改正前特許法41条には,平成23年改正前特許法30条4項に相当するような特別な手続規定が設けられていないのである。 5 平成16年改正前特許法41条に規定される国内優先権主張の手続は,基礎出願の当初明細書等に記載された発明に基づいて優先権を主張し,国内優先権主張出願に係る発明のうちその基礎出願の当初明細書等に記載された発明については,同条2項の規定により,所定の規定の適用について基礎出願の時にされたものとみなされるためにされるものである。より具体的に述べると, 「発明のうち該優先権の主張の基礎とされた先の出願の願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲若しくは実用新案登録請求の範囲又は図面・・・に記載された発明」について,特許法29条1項各号の一に該当するに至った発明が平成23年改正前特許法30条4項の履践により特許法29条1項各号の一に該当するに至らないとみなされる平成23年改正前特許法30条1項の適用については,国内優先権主張出願は,平成16年改正前特許法41条2項の効果(国内優先権主張出願は基礎出願の時にされたものとみなす効果)が与えられるという法文構成になっている。すなわち,基礎出願において平成23年改正前特許法30条4項所定の手続を履践することが,国内優先権主張の手続によって平成16年改正前特許法41条2項を適用するための要件であることは明らかであり,このような国内優先権主張の手続としては同条4項があるのみで,平成23年改正前特許法30条4項のような手続は法文上求められていないし,そのような手続が求められていることを法文解釈上導くこともできない。 例えば,特許法29条の適用について基礎出願の時にされたものとみなされるための手続として,平成16年改正前特許法41条4項の手続をすれば特許法29条の適用を受けるための固有の手続をしなくても十分であることと同様に,平成23年改正前特許法30条1項又は3項の適用についても平成16年改正前特許法41条4項の手続を履践しさえすれば十分であると解するほかない。平成23年改正前特許法30条4項が,基礎出願の際に既に同項所定の手続を履践した国内優先権主張出願に際し,同主張出願における平成16年改正前特許法41条2項に規定の発明について同項で列挙された所定の条項の規定の適用につき,改めてその手続を履践させるための規定でもあるとすると,それは単なる重複手続のための規定であって,法がそのようなことを求めていると解することは到底できない。同項で効果を規定し,その効果を享受するための手続については同条4項の規定で完結している同条の規定ぶりからも,平成23年改正前特許法30条4項の規定は,基礎出願の際に既に同項所定の手続を履践した国内優先権主張出願には適用外の規定である。 これに対し,平成18年法律第55号による改正前の特許法(以下, 「平成18年改正前特許法」という。)44条は,もとの特許出願の一部を新たな特許出願とした場合に,この新たな特許出願はもとの特許出願の時にしたものとみなす旨の効果を生じさせる出願単位の規定であり,平成23年改正前特許法30条又は平成16年改正前特許法41条のように,発明単位で新規性喪失の例外規定を適用し,又は国内優先権主張の効果を生じさせる旨の規定とは異なる。また,平成18年改正前特許法44条には,平成23年改正前特許法30条4項又は平成16年改正前特許法41条4項のように,発明単位で所定の効果を生じさせるための規定がない。 以上によると,平成18年改正前特許法44条2項に規定される特許出願は,もとの特許出願とは別の新たな特許出願であり,この新たな特許出願をもとの特許出願の時に遡及させる制度であるから,もとの特許出願で履践した平成23年改正前特許法30条4項所定の手続はあくまでももとの特許出願のための手続であって,新たな特許出願のための手続ではない。したがって,新たな特許出願において同条1項の適用を受けるためには,当然同条4項所定の手続の履践が新たに求められるのであり,だからこそ平成18年改正前特許法44条4項において,平成23年改正前特許法30条4項により提出しなければならないものが,新たな特許出願と同時に提出されたものとみなす規定が設けられることによって,初めてその履践が免除されるという法文構成になっている。 6 平成23年改正前特許法30条4項は,国内優先権の主張を伴わない通常の出願,あるいは,国内優先権の主張を伴う出願であって,基礎出願において同条1項又は3項の新規性喪失の例外適用を求めた発明以外の発明について,同条1項又は3項の適用を求めようとする場合に適用されるものであり,基礎出願において同条4項所定の手続により同条1項又は3項の適用を求めた発明について優先権を主張する出願には,適用されない。 7 平成23年12月28日経済産業省令第72号による改正前の特許法施行規則(以下,「平成23年改正前特許法施行規則」という。)31条1項は,平成16年改正前特許法41条1項の規定による優先権主張を伴う出願をしようとする場合において,先の出願について提出した証明書であって平成23年改正前特許法30条4項の規定によるものが変更を要しないものであるときは,その旨を願書に表示してその提出を省略することができる旨規定するが,この同規則31条1項は,基礎出願において平成23年改正前特許法30条1項又は3項の新規性喪失の例外適用を求めた発明以外の発明について,同条1項又は3項の適用を求める出願(発表から6月以内に行われる優先権主張を伴う出願)に適用される規定であると解すべきである。 8 基礎出願において新規性喪失の例外規定が適用された発明に基づいて国内優先権を主張する場合,出願人が敢えて,国内優先権主張出願では上記発明について新規性喪失の例外規定の適用を受けないことは通常考えにくい。さもなければ,国内優先権主張出願において審査請求をしても,自ら提出した刊行物等を引用されて新規性又は進歩性違反の拒絶理由が生じる可能性が高まるからである。そのような事情に鑑みると,国内優先権主張出願の際に改めて新規性喪失の例外適用申請の意思を確認する必要はない。 また,平成11年法律第41号による特許法の改正における「分割・変更出願にかかる手続きの簡素化」のための改正趣旨に照らしても,国内優先権主張を伴う出願において,願書には必ず基礎出願の番号を記載しているから,基礎出願における書面及び書類を確認することは可能であるし,仮に新規性喪失の例外適用のための書面等の提出義務を廃止しても,特許権の存続期間が短くなったり,特許要件を判断する基準日が繰り下がることもないので,出願人にとっても第三者にとっても,国内優先権主張を伴う出願において新規性喪失の例外適用のための書面等を再度提出する必要性は存在しない。 9 平成11年法律第41号による特許法の改正において,平成11年法律第41号による改正前の特許法(以下,「平成11年改正前特許法」という。)44条の分割出願制度については,手続簡素化のための規定が新たに検討され,同条4項が新設されたが,平成14年4月17日法律第24号による改正前の特許法(以下,「平成14年改正前特許法」という。)41条の国内優先権制度については,出願人の手続の簡素化を図る趣旨は同様にあてはまるはずであるにもかかわらず,手続規定の見直しも,手続簡素化のための新たな規定の導入などの検討もされなかった。 このような事実こそ,平成14年改正前特許法41条については,手続簡素化のための規定の新設などの法改正をするまでもなく,既に手続が簡略化された規定となっていることの証左である。 10 特許庁は,国内優先権制度については,前記9の法改正に基づき分割出願についての運用が変更された後においても,なお平成14年改正前特許法41条を誤って解釈し,優先権主張を伴う出願に対し平成23年改正前特許法30条4項所定の手続を再度求める運用を継続し,国内優先権出願と同時に「その旨を記載した書面」の提出を要求している。 しかし,このような分割出願と国内優先権主張を伴う出願とで全く正反対の運用をすることは,同法30条4項所定の手続の要否について混乱を生じさせるものである。また,前記8のとおり,国内優先権制度についても,基礎出願において提出された書面を確認することは可能であるし,同条の規定が適用されたことは出願公開公報の記載事項であり,広く公示する手段が担保されているといえるから,同条4項所定の手続を再度求めるべき行政上及び公益上の理由は見当たらない。 特許庁の上記運用は違法である。 11 被告は,国内優先権主張の効果を規定する平成16年改正前特許法41条2項は,その対象を平成23年改正前特許法30条1項〜3項に限り,同条4項をその対象としていないが,その趣旨は,平成18年改正前特許法44条2項が平成23年改正前特許法30条4項を適用除外していることと同様であると主張する。 しかし,平成18年改正前特許法44条2項ただし書において平成23年改正前特許法30条4項を適用除外している趣旨は,平成18年改正前特許法44条2項本文によると,新たな特許出願自体がもとの特許出願の時にしたものとみなされ,出願と同時及び出願から所定の期間内にすべき平成23年改正前特許法30条4項所定の手続の履践が事実上不可能となることから,これを回避することにある(乙1)。他方,平成16年改正前特許法41条2項は,そもそも国内優先権主張出願自体を基礎出願の時にしたものとみなす旨の規定ではなく,基礎出願の当初明細書等に記載された発明のうち国内優先権主張出願に係る発明についての同項に列挙された規定の適用については,国内優先権主張出願が基礎出願の時にされたものとみなす旨の規定であるから,出願単位で履践すべき手続について規定する平成23年改正前特許法30条4項は,そもそも平成16年改正前特許法41条2項に規定できる条項ではない。同項が平成23年改正前特許法30条4項を対象としていない趣旨が,平成18年改正前特許法44条2項が平成23年改正前特許法30条4項を適用除外している趣旨と同様である旨の被告の主張は,理由がない。 12 被告は,平成23年改正前特許法施行規則31条1項が国内優先権主張出願の際に,平成23年改正前特許法30条4項所定の証明書面の提出を要することを前提としていることは明らかであるなどと主張する。 しかし,前記6のとおり,国内優先権主張出願において,同項所定の手続を要するのは,基礎出願の当初明細書等に記載された発明以外の発明,すなわち,国内優先権主張の効果を享受できない発明について同条の適用を受けようとするときに限られるのであり,基礎出願の当初明細書等に記載された発明,すなわち,国内優先権主張の効果を享受できる発明について同条の適用を受けようとする出願においては,同条4項は適用外である。したがって,前記7のとおり,上記特許法施行規則31条1項の解釈としても,基礎出願の当初明細書等に記載された発明については,基礎出願において平成23年改正前特許法30条4項所定の手続を履践していれば,国内優先権主張出願において再度そのような手続を行う必要はない。 13 被告は,国内優先権主張出願は,先の出願に対し後の出願において新たな事項を追加することも想定される性質のものであるし,先の出願に係る出願の日から1年3月を経過するまでは国内優先権主張を任意に取り下げることが可能であって,優先権主張の取下げにより通常の出願に戻り得る性質を有しているから,分割出願・変更出願と国内優先権出願とは,その性質を異にし,一律に論じることはできないなどと主張する。 しかし,国内優先権主張出願において,新たな事項を追加することが想定されること,出願後に通常出願に戻り得ることが,なぜ平成11年法律第41号により導入された分割出願に係る手続の簡素化を,国内優先権主張出願にも導入することを困難にするのかについての理由は,実質的に何ら述べられていない。 14 被告は,特許法の規定において,原告主張のように,平成23年改正前特許法施行規則31条1項は,平成23年改正前特許法30条1項又は3項に基づく新規性喪失の例外適用を求める国内優先権主張出願のうち,基礎出願の出願時に同条1項が適用されていない発明についてのみ適用されるとして,峻別して取り扱う根拠は見いだせない旨主張する。 しかし,同条4項の規定について,国内優先権主張出願においては,基礎出願において同条1項又は3項の新規性喪失の例外適用を求めた発明と,それ以外の発明では,既に平成16年改正前特許法41条2項の国内優先権主張の効果が生じているか否かという点で異なるのであるから,自ずとその取扱いも異なることになる。 15 被告は,原告の解釈は,新規性喪失の例外適用を受けるに当たり,公衆に不測の不利益をもたらさないよう平成23年改正前特許法30条4項所定の手続の履践を義務付けた制度の趣旨を損なうなどと主張する。 しかし,基礎出願において新規性喪失の例外規定が適用された発明に基づいて国内優先権を主張する場合,出願人が国内優先権主張出願ではその発明について新規性喪失の例外規定の適用を受けないという不利益行為を敢えてすることは,通常あり得ないし,特許法も一旦新規性喪失の例外規定の適用を受けた出願についてその適用を取り下げることを可能にするような体系にはなっていない。そうすると,第三者も,基礎出願において新規性喪失の例外規定が適用された発明について,国内優先権主張出願において敢えてその適用を受けないことなど予測する必要もないから,その適用の有無は基礎出願において表示されていれば十分であり,国内優先権主張出願においてその表示がないことによる不測の不利益は生じない。 |
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被告の主張
審決が,本願が平成23年改正前特許法30条1項の規定の適用を受けることができない旨認定し,本願の優先日前に頒布された刊行物Aを根拠に,本願発明が特許法29条1項3号に該当し,又は同条2項により特許を受けることができない旨判断し,本願を拒絶したことには,以下のとおり,誤りはない。 1 平成23年改正前特許法30条4項によると,同条1項の規定する新規性喪失の例外適用を受けようとする者は,その旨を記載した書面(以下, 「4項書面」という。 を特許出願と同時に特許庁長官に提出するとともに, ) この新規性喪失の例外適用を受けようとする発明がその適用を受けることができることを証明する書面(以下,「4項証明書」という。)を特許出願の日から30日以内に特許庁長官に提出すべきことが定められているから,出願人がその特許出願に係る発明について同条1項の規定に基づく新規性喪失の例外適用を受けるためには,4項書面を特許出願と同時に提出するとともに,4項証明書を特許出願の日から30日以内に特許庁長官に提出しなければならず(以下,これらの手続を総称して「4項所定の手続」ということもある。,これらの書面の提出がない場合には,同条1項の規定に基づ )く新規性喪失の例外適用を受けることができない。 この原則は,この特許出願が,平成18年改正前特許法44条1項の規定による特許出願の分割に係る新たな特許出願(分割出願)である場合や,平成16年改正前特許法41条1項の規定による優先権の主張を伴う特許出願(国内優先権主張出願)においても,何ら変わるものではない。 例えば,分割出願の遡及効を定める平成18年改正前特許法44条2項は,平成23年改正前特許法30条4項の適用を除外しているが,その趣旨は,平成18年改正前特許法44条2項の遡及効を平成23年改正前特許法30条4項にも及ぼすと,その分割出願と同時に4項書面を提出することができなくなり,原出願から30日以上後に分割出願がされた場合には,4項証明書を特許出願の日から30日以内に提出することができないこととなってしまうためである。そして,国内優先権主張の効果を規定する平成16年改正前特許法41条2項も,その対象を平成23年改正前特許法30条1項〜3項に限り,同条4項をその対象としていないが,その趣旨は,平成18年改正前特許法44条2項が平成23年改正前特許法30条4項を適用除外していることと同様である。 また,平成23年改正前特許法施行規則31条1項は, 「特許法第41条第1項の規定による優先権の主張を伴う特許出願をしようとする場合において,先の出願についてした証明であって同法第30条第4項の規定によるものが変更を要しないものであるときは,その旨を願書に表示してその提出を省略することができる。 と規 」定するが,同規定が国内優先権主張出願の際に4項証明書の提出を要することを前提としていることは明らかである。 2 平成11年法律第41号は,パリ条約に基づく優先権若しくは国内優先権を主張する出願又は新規性喪失の例外適用を申請する出願を分割・変更する場合,その分割・変更出願については,もとの出願について提出した書面又は書類が新たな出願時に提出されたものとみなすこととする内容の改正を行うこととして,具体的には平成14年改正前特許法44条4項の規定を新たに創設した。 また,平成11年法律第41号により導入された分割出願に係る手続の簡素化は,その改正の趣旨によると, 「もとの出願」において提出した書面の内容以上の情報が盛り込まれることがないものの提出を省略しようとするものであるから,「もとの出願」に記載されていない新たな事項が追加されるものではない性質の分割・変更出願に限って,その対象としたものと解される。これに対して,国内優先権主張出願は,先の出願に対し後の出願において新たな事項を追加することも想定される性質のものであるし,また,分割・変更出願は,出願後に通常出願に変更することが制度上想定し難い一方,国内優先権主張出願は,先の出願に係る出願の日から1年3月を経過するまでは国内優先権主張を任意に取り下げることが可能であって,優先権主張の取下げにより通常の出願に戻り得る性質を有している。このように,分割出願・変更出願と国内優先権出願とは,その性質を異にするから,これらを一律に論じることはできない。 さらに,平成11年法律第41号の施行に伴い整備された平成11年12月28日通商産業省令第132号により,同省令による改正前の特許法施行規則31条のうち,国内優先権主張出願についての4項証明書の援用を定める1項をそのままに,分割出願についての4項証明書,優先権証明書の援用を定める2項を削除し,変更出願についての書面の援用を定める3項の規定中の4項証明書及び優先権証明書についての規定を削除する改正がされたが,上記改正前の31条においては,国内優先権主張出願,分割出願,変更出願についての4項証明書の援用について同様に定められていたことに照らすと,上記改正前においては,分割出願,変更出願と国内優先権主張出願は,いずれも同様に4項証明書の提出が義務付けられていたところ,平成11年法律第41号により導入された分割出願に係る手続の簡素化により,分割出願・変更出願のみが4項証明書の提出が実質的に省略されることとされたことは明らかである。このような経緯に照らすと,上記手続の簡素化が分割出願及び変更出願のみを対象としたことが裏付けられる。 3 国内優先権主張出願は,平成16年改正前特許法41条2項の効果が生じるという点のみが通常の出願と異なること,そして,先の出願に係る出願の日から1年3か月を経過するまでは国内優先権主張の効果を任意に取り下げることができるので(特許法42条2項) 国内優先権主張を伴う出願はその取下げにより通常の出 ,願に戻り得る性質を有することからすると,国内優先権主張出願を一般的な出願と別異に取り扱うべき根拠はない。 4 原告は,国内優先権制度における優先権は,先の出願がされた時に生じ,平成16年改正前特許法41条1項により優先権を主張し,出願と同時に同条4項所定の書面を特許庁長官に提出することによって直ちに同条2項の効果として,優先権の主張を伴う特許出願に係る発明のうち,この優先権の主張の基礎とされた先の出願の当初明細書等に記載された発明については,特許法29条,平成23年改正前特許法30条1項〜3項,平成16年改正前特許法39条等の適用については,先の出願の時にされたものとみなされるという効果が生じるが,この優先権主張の効果のうち,新規性・進歩性についての規定(特許法29条)の適用に係る前記効果については,基礎出願において平成23年改正前特許法30条4項所定の手続をしている場合には,新規性喪失の例外規定(同法30条1項〜3項)に係る前記効果についても発生しているから,この効果をも含む上記発明の新規性についての優先権の主張の効果が発生するというべきであり,新規性・進歩性についての規定の適用に係る前記効果と新規性喪失の例外規定に係る前記効果とを切り離して取り扱わなければならない理由はないなどと主張する。 しかし,平成16年改正前特許法41条2項の国内優先権主張の効果は,基礎出願に係る発明については,同項に規定する条文(29条,29条の2本文,30条1項〜3項等)の適用について, 「当該特許出願は,当該先の出願の時にされたものとみなす。」というものであり,平成23年改正前特許法30条4項は,平成16年改正前特許法41条2項に規定されていない。 そうすると,平成23年改正前特許法30条1項〜3項の新規性喪失の例外規定に係る国内優先権主張の効果とは,あくまでも同条4項の手続が履践された国内優先権主張出願において,国内優先権主張出願に記載された基礎出願に係る発明について,基礎出願の出願日を基準に「例外適用を受けようとする所定の公開行為から6月以内にした特許出願」であるか否かの判断がなされるという効果に止まるのであって,同項の手続が履践されなかった国内優先権主張出願において,国内優先権主張出願に記載された基礎出願に係る発明について,同項の手続が基礎出願の出願の時にされたものとみなすという効果は生じないのであり,新規性・進歩性に係る規定の適用についての効果と新規性喪失の例外規定についての効果とが同時に生じるものでもない。 以上のように,基礎出願において4項書面及び4項証明書が適法に提出されていたとしても,この基礎出願とは異なる出願である国内優先権主張出願において,4項書面及び4項証明書の提出が国内優先権主張出願の出願時にされているものとみなされる規定や,国内優先権主張出願の出願時に4項書面の提出の省略を可能とする規定は,いずれも特許法関係法令上に存在しない以上,原告の上記主張は根拠がない。 5 原告は,平成16年改正前特許法41条4項の手続をすることにより優先権主張を伴う出願に乗り換えられるから,改めて平成23年改正前特許法30条4項に相当するような特別な手続を別途要さないのは当然であり,このため,平成16年改正前特許法41条には,平成23年改正前特許法30条4項に相当するような特別な手続規定が設けられていないなどと主張する。 しかし,国内優先権主張について定める平成16年改正前特許法41条において,出願について新規性喪失の例外適用を受けるための手続について規定されていないとしても,平成23年改正前特許法30条4項の手続が不要となるものではない。 むしろ,平成18年改正前特許法44条4項において,分割出願について,その原出願について提出された平成23年改正前特許法30条4項で規定する書面を提出されたものとみなす旨規定することで,それらの書面の提出について省略を可能とすることが定められていることに照らすと,そのような規定が存在しない国内優先権主張出願については,4項所定の手続が必要となると解される。 6 原告は,平成23年改正前特許法30条1項又は3項に基づく新規性喪失の例外適用を求める国内優先権主張出願のうち,基礎出願の出願時に同条1項が適用されていない発明についてのみ,改めて4項書面及び4項証明書の提出が必要であり,平成23年改正前特許法施行規則31条1項は,そのような場合に適用される規定であると主張する。 しかし,特許法の規定において,原告主張の場合についてのみ峻別して取り扱う根拠は見いだせないし,国内優先権主張出願に記載された発明のうち,基礎出願において新規性喪失の例外適用を求めた発明以外の発明について,その公開事実を示す4項証明書が基礎出願の出願時に提出されている事例は想定し難い。 4項所定の手続の履践の有無については,出願を単位として判断されるものであり,出願に記載された発明を単位として判断されるものではない。 原告のいうような解釈を前提とすると,第三者は,基礎出願においてどのような発明について新規性喪失の例外適用申請がされたこととなるのかを確認し,さらに国内優先権主張出願について,基礎出願において適用申請がされた発明以外について包含されているか否かを確認しなければ,4項所定の手続を履践していない国内優先権主張出願に係る発明について新規性喪失の例外の申請がされたのか否かを判断することができないこととなるし,このような基礎出願に係る発明と国内優先権主張出願に係る発明との異同の判断は,微妙な判断となり得ることも想定される。 原告の解釈は,新規性喪失の例外適用を受けるに当たり,公衆に不測の不利益をもたらさないよう4項所定の手続の履践を義務づけた制度の趣旨を損なうものである。 7 原告は,国内優先権主張を伴う出願において,願書には必ず基礎出願の番号を記載しているから,出願人にとっても第三者にとっても,国内優先権主張を伴う出願において新規性喪失の例外適用のための書面等を再度提出する必要性は存在しないなどと主張する。 しかし,原告の主張は,立法論としては傾聴に値すべきものといえても,前記のとおり,特許法の規定によると,国内優先権主張出願についても,4項所定の手続を履践しなければ,その出願に係る発明について平成23年改正前特許法30条1項の新規性喪失の例外適用を受けることができると解釈できる余地はないから,仮に実務上支障がないとしても,特許法の規定上,本願発明が新規性喪失の例外適用を受けることができる余地はない。 8 原告は,国内優先権主張出願については4項書面及び4項証明書の提出を再度求める一方,分割出願・変更出願については再度の提出を不要とする,全く正反対の運用をすることは,無用な混乱を生じさせると主張する。 しかし,審決は,特許法の規定上,国内優先権主張出願については,分割・変更出願のように,原出願において提出された4項書面及び4項証明書について,分割出願と同時に提出したものとみなす旨規定した平成18年改正前特許法44条4項のような規定が存在しないことから,本願発明について,特許法の規定上必要な手続がされていないと解されることを理由とするものであって,原告主張のような特許庁が定める運用を理由とするものではないから,原告の主張は失当である。 |
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当裁判所の判断
当裁判所は,基礎出願Xにおいて,平成23年改正前特許法30条4項所定の手続が履践されているものの,これを基礎出願とする国内優先権主張出願である出願Aにおいて,同項所定の手続が履践されていないから,出願Aの分割出願である本願の原出願をさらに分割出願した本願は,刊行物Aについて同条1項の適用を受けることはできず,本願発明は,刊行物Aに記載された発明であるか,同発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであると判断する。その理由は,以下のとおりである。 1 平成23年改正前特許法30条4項は,同条1項の適用を受けるための手続的要件として,@特許出願と同時に,同条1項の適用を受けようとする旨を記載した書面(4項書面)を特許庁長官に提出するとともに,A特許出願の日から30日以内に,特許法29条1項各号の一に該当するに至った発明が平成23年改正前特許法30条1項の適用を受けることができる発明であることを証明する書面(4項証明書)を特許庁長官に提出すべきことを定めているが,同条4項には,その適用対象となる「特許出願」について,特定の種類の特許出願をその適用対象から除外するなどの格別の定めはない。 また,平成16年改正前特許法41条に基づく優先権主張を伴う特許出願(以下,「国内優先権主張出願」という。)は,同条2項に「前項の規定による優先権の主張を伴う特許出願」と規定されるとおり,基礎出願とは別個独立の特許出願であることが明らかである。 そうすると,国内優先権主張出願について,平成23年改正前特許法30条4項の適用を除外するか,同項所定の手続的要件を履践することを免除する格別の規定がない限り,国内優先権主張出願に係る発明について同条1項の適用を受けるためには,同条4項所定の手続的要件として,所定期間内に4項書面及び4項証明書を提出することが必要である。 2 そこで,国内優先権主張出願について,平成23年改正前特許法30条4項の適用を除外するか,同項所定の手続的要件を履践することを免除する格別の規定があるかどうかについて検討すると,まず,分割出願については,平成18年改正前特許法44条4項が原出願について提出された4項書面及び4項証明書は分割出願と同時に特許庁長官に提出されたものとみなす旨を定めているが,国内優先権主張出願については,これに相当する規定はない。 また,平成16年改正前特許法41条2項は,国内優先権主張出願に係る発明のうち基礎出願の当初明細書等に記載された発明についての平成23年改正前特許法30条1項の適用については,国内優先権主張出願に係る出願は基礎出願の時にされたものとみなす旨を定めているが,これは,同項が適用される場合には,同項中の「その該当するに至った日から6月以内にその者がした特許出願」にいう「特許出願」については,国内優先権主張出願の出願日ではなく,基礎出願の出願日を基準とする旨を規定するに止まるものである。平成16年改正前特許法41条2項の文理に照らし,同項を根拠として,基礎出願において平成23年改正前特許法30条4項所定の手続を履践している場合には,国内優先権主張出願において同項所定の手続を履践したか否かにかかわらず,基礎出願の当初明細書等に記載された発明については同条1項が適用されると解釈することはできない。 特許法のその他の規定を検討しても,国内優先権主張出願について,平成23年改正前特許法30条4項の適用を除外するか,同項所定の手続的要件を履践することを免除する格別の規定は,見当たらない。 3 平成16年改正前特許法41条2項は,基本的にパリ条約による優先権の主張の効果(パリ条約4条B)と同等の効果を生じさせる趣旨で定められたものであり,国内優先権主張出願に係る発明のうち基礎出願の当初明細書等に記載された発明について,その発明に関する特許要件(先後願,新規性,進歩性等)の判断の時点については国内優先権主張出願の時ではなく基礎出願の時にされたものとして扱うことにより,基礎出願の日と国内優先権主張出願の日の間にされた他人の出願等を排除し,あるいはその間に公知となった情報によっては特許性を失わないという優先的な取扱いを出願人に認めたものである(甲19)。 そして,平成16年改正前特許法41条2項が,国内優先権主張出願に係る発明のうち,基礎出願の当初明細書等に記載された発明の平成23年改正前特許法30条1項の規定の適用については,上記国内優先権主張出願は,上記基礎出願の時にされたものとみなす旨を規定していることは,上記趣旨(国内優先権主張出願が,基礎出願の日から国内優先権主張出願の日までにされた他人の出願等やその間に公知となった情報によって不利な取扱いを受けないものとすること)を超えるものといえるが,その趣旨は,同条1項が「第29条第1項各号の一に該当するに至った発明は,その該当するに至った日から6月以内にその者がした特許出願に係る発明についての同条第1項及び第2項の規定の適用については, と規定して, 」 特許出願の日を基準として新規性喪失の例外の範囲を定めていることから,国内優先権主張出願の日を基準としたのでは,上記趣旨により基礎出願の日を基準とすることになる新規性の判断に対する例外として認められる範囲が通常の出願に比べて極めて限定されるという不都合が生じることに鑑み,国内優先権主張出願の日ではなく基礎出願の日を基準とすることを定めたものと解するのが相当である。 そうすると,平成16年改正前特許法41条2項が平成23年改正前特許法30条1項の適用について規定していることは,その趣旨に照らしても,上記規定が適用された場合には,国内優先権主張出願の日ではなく基礎出願の日を基準とする旨を規定するに止まり,これをもって,同条1項の適用について,基礎出願の当初明細書等に記載された発明については,基礎出願において手続的要件を具備していれば,国内優先権主張出願において改めて手続的要件を具備しなくても,上記規定の適用が受けられるとすることはできない。 4 以上によると,国内優先権主張出願に係る発明(基礎出願の当初明細書等に記載された発明を含む。 について, ) 平成23年改正前特許法30条1項の適用を受けるためには,同条4項所定の手続的要件として,所定期間内に4項書面及び4項証明書を提出することが必要であり,基礎出願において提出した4項書面及び4項証明書を提出したことをもって,これに代えることはできないというべきである。 5 本願は,出願Aの分割出願である本願の原出願をさらに分割出願したものであるところ,分割出願については,原出願について提出された4項書面及び4項証明書は分割出願と同時に特許庁長官に提出されたものとみなす旨の定めがあるが,原告は,出願Aにおいて,その出願と同時に,4項書面を特許庁長官に提出しなかったのであるから,本願は,平成23年改正前特許法30条1項の適用を受けることはできない。 そして,同条1項が適用されないときには,審決の刊行物A発明の認定並びに本願発明との一致点及び相違点の認定及び判断に争いはないから,本願発明は,刊行物A発明であるか,同発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 そうすると,本願は,その余の請求項について検討するまでもなく拒絶すべきものであるから,これと同旨の審決の判断に誤りはない。 6 これに対して,原告は,国内優先権制度における優先権の発生時期は,パリ条約4条Bに規定される優先権の発生時期から類推して,先の出願がされた時である,基礎出願において平成23年改正前特許法30条4項所定の手続をした場合の国内優先権主張出願については,国内優先権の本質からみて,基礎出願の当初明細書等に記載された発明について優先権が発生し,平成16年改正前特許法41条4項の手続をすることにより,上記発明に係る特許法29条,平成23年改正前特許法30条1項〜3項等の適用については基礎出願の時にされたものとみなされる効果が発生するが,新規性・進歩性についての規定(特許法29条)の適用に係る前記効果については,基礎出願において平成23年改正前特許法30条4項所定の手続をしている場合には,新規性喪失の例外規定(同法30条1項〜3項)に係る前記効果についても発生しているから,この効果をも含む上記発明の新規性についての優先権の主張の効果が発生するというべきであるなどと主張する。 しかし,平成16年改正前特許法41条1項の「優先権」 (国内優先権)の主張の効果は,同条2項に規定されたものであり,パリ条約の規定を類推することによって定まると解することはできない。 また,既に判示した平成16年改正前特許法41条2項の文言及び同項の趣旨に照らすと,同項は,国内優先権主張出願に係る発明のうち,基礎出願の当初明細書等に記載された発明について,特許法29条を適用する際には,同条中の「特許出願前に」にいう「特許出願」は基礎出願時にされたものとみなし,平成23年改正前特許法30条1項を適用する際には,同項中の「その該当するに至った日から6月以内にその者がした出願」にいう「特許出願」は基礎出願時にされたものとみなすことを規定するものであり,新規性喪失の例外規定(同法30条1項)と新規性・進歩性についての規定(同法29条)とを一体として取り扱うべきことは,平成16年改正前特許法41条2項の文理上はもとより,その趣旨からも導くことはできない。 7 原告は,平成16年改正前特許法41条には,同条2項に列挙される各条項が適用されるための手続として,平成23年改正前特許法30条4項のような手続は規定されていないから,そのような手続は不要であり,例えば,特許法29条の適用について基礎出願の時にされたものとみなされるための手続として,平成16年改正前特許法41条4項の手続をすれば十分であるなどと主張する。 しかし,国内優先権主張の効果である平成16年改正前特許法41条2項が,基礎出願において平成23年改正前特許法30条4項所定の手続を履践している場合には,国内優先権主張出願において同項所定の手続を履践したか否かにかかわらず,同条1項が適用されることを定めるものではないことは,前記2,3のとおりである。平成16年改正前特許法41条4項に平成23年改正前特許法30条4項のような手続が定められていないからといって,国内優先権主張出願に係る発明のうち基礎出願の当初明細書等に記載された発明について,平成23年改正前特許法30条1項が適用される手続的要件として,国内優先権主張出願において同条4項所定の手続を履践することを不要とする理由にはならない。 また,特許法29条の適用には格別の手続的要件はないから,平成23年改正前特許法30条4項所定の手続の履践を手続的要件とする同条1項の適用と同列に論じることはできない。 8 原告は,平成23年改正前特許法30条4項が,基礎出願の際に既に同項所定の手続を履践した国内優先権主張出願に際し,同主張出願における平成16年改正前特許法41条2項に規定の発明について同項で列挙された所定の条項の規定の適用につき,改めてその手続を履践させるための規定でもあるとすると,それは単なる重複手続のための規定であって,法がそのようなことを求めていると解することはできないなどと主張する。 しかし,平成23年改正前特許法30条4項がその対象となる「特許出願」から,基礎出願において同項所定の手続を履践している国内優先権主張出願において,基礎出願の当初明細書等に記載された発明について同条1項の適用を求める場合の当該国内優先権主張出願を除外していると解することができないことは,前記1〜4のとおりであって,原告の主張は,法令上の根拠がなく,理由がない。 9 原告は,平成23年改正前特許法30条4項は,国内優先権主張を伴わない通常の出願,あるいは,国内優先権主張出願であって,基礎出願において同条1項又は3項の新規性喪失の例外適用を求めた発明以外の発明について,同条1項又は3項の適用を求めようとする場合に適用されるものであり,基礎出願において同条4項所定の手続により同条1項又は3項の適用を求めた発明について優先権を主張する出願には,適用されないと主張する。 しかし,同条4項が,基礎出願において同項所定の手続を履践している国内優先権主張出願について,その対象となる「特許出願」から除外しているとは解釈できないことは,前記1〜4のとおりであって,原告の主張は,理由がない。 10 原告は,平成23年改正前特許法施行規則31条1項は,基礎出願において平成23年改正前特許法30条1項又は3項の新規性喪失の例外適用を求めた発明以外の発明について,同条1項又は3項の適用を求める出願に適用される規定であると主張する。 しかし,同条4項が,基礎出願において同項所定の手続を履践している国内優先権主張出願について,その対象となる「特許出願」から除外しているとは解釈できないことは,前記1〜4のとおりであるから,平成23年改正前特許法施行規則31条1項を原告が主張するように解することはできず,原告の主張は,理由がない。 11 原告は,基礎出願において新規性喪失の例外規定が適用された発明に基づいて国内優先権を主張する場合,出願人が敢えて,国内優先権主張出願では上記発明について新規性喪失の例外規定の適用を受けないことは通常考えにくいから,国内優先権主張出願の際に改めて新規性喪失の例外適用申請の意思を確認する必要はないし,また,国内優先権主張出願の願書には必ず基礎出願の番号を記載していることなどの事情から,出願人にとっても第三者にとっても,国内優先権主張出願において新規性喪失の例外適用のための書面等を再度提出する必要性は何ら存在しないなどと主張する。 しかし,基礎出願において平成23年改正前特許法30条4項所定の手続を履践している国内優先権主張出願において,基礎出願の当初明細書等に記載された発明について同条1項又は3項の適用を求める場合の同条4項所定の手続の履践の必要性について,仮に原告主張のような見方が成り立つとしても,立法論としてはともかく,同項の解釈として,同項がその対象となる「特許出願」から,基礎出願において同項所定の手続を履践している国内優先権主張出願を除外していると解することは,法令上の根拠がなく,できないことは,前記1〜4のとおりである。 12 原告は,平成11年法律第41号による特許法の改正において,平成11年改正前特許法44条の分割出願制度については,手続簡素化のための規定が新たに検討され,同条4項が新設されたが,国内優先権制度については,出願人の手続の簡素化を図る趣旨は同様にあてはまるはずであるにもかかわらず,手続規定の見直しも,手続簡素化のための新たな規定の導入などの検討もされなかったという事実は,国内優先権制度については,法改正をするまでもなく,既に手続が簡略化された規定となっていることの証左であると主張する。 しかし,平成23年改正前特許法30条4項が,基礎出願において同項所定の手続を履践している国内優先権主張出願について,その対象となる「特許出願」から除外しているとは解釈できないことは,前記1〜4のとおりであって,そのことは,平成11年改正において国内優先権制度について改正がされなかったとの原告上記主張事実により左右されるものではない。 13 原告は,国内優先権主張出願に係る発明のうち,基礎出願において平成23年改正前特許法30条4項所定の手続を履践することにより同条1項の適用を受けた発明について,国内優先権主張出願において同項の適用を受けるために同条4項の手続を求めている特許庁の運用は違法であると主張する。 しかし,特許庁の上記運用が違法でないことは,既に説示したところから明らかである。 14 原告は,平成16年改正前特許法41条2項が平成23年改正前特許法30条4項を対象としていない趣旨は,平成18年改正前特許法44条2項が平成23年改正前特許法30条4項を適用除外している趣旨とは異なるなどと主張する。 しかし,同項が,基礎出願において同項所定の手続を履践している国内優先権主張出願について,その対象となる「特許出願」から除外しているとは解釈できないことは,前記1〜4のとおりであって,平成16年改正前特許法41条2項が平成23年改正前特許法30条4項を対象としていない趣旨により左右されるものではない。 15 原告は,被告が国内優先権主張出願において,新たな事項を追加することが想定されること,出願後に通常出願に戻り得ることが,なぜ平成11年法律第41号により導入された分割出願に係る手続の簡素化を,国内優先権主張出願にも導入することを困難にするのかについての理由は,不明であるなどと主張する。 しかし,平成23年改正前特許法30条4項が,基礎出願において同項所定の手続を履践している国内優先権主張出願について,その対象となる「特許出願」から除外しているとは解釈できないことは,前記1〜4のとおりであって,平成11年法律第41号により導入された分割出願に係る手続の簡素化の趣旨が国内優先権主張出願に妥当するかどうかによって上記解釈が左右されるものではない。 16 原告は,第三者は,基礎出願において新規性喪失の例外規定が適用された発明について,国内優先権主張出願において敢えてその適用を受けないことなど予測する必要はないから,その適用の有無は基礎出願において表示されていれば十分であり,国内優先権主張出願においてその表示がないことによる不測の不利益は生じないなどと主張する。 しかし,平成23年改正前特許法30条4項が,基礎出願において同項所定の手続を履践している国内優先権主張出願について,その対象となる「特許出願」から除外しているとは解釈できないことは,前記1〜4のとおりであって,仮に第三者に不測の不利益を与えることがないとしても,それによって上記解釈が左右されるものではない。 17 以上によると,原告の請求は理由がないから,これを棄却することとして,主文のとおり判決する。 |
裁判長裁判官 | 森義之 |
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裁判官 | 森岡礼子 |
裁判官 | 古庄研 |