関連審決 |
無効2015-800073 |
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事件 |
平成
29年
(行ケ)
10032号
審決取消請求事件
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原告 日亜化学工業株式会社 同訴訟代理人弁護士 牧野知彦 同 弁理士 鮫島睦 言上惠一 山尾憲人 田村啓 玄番佐奈恵 被告Y 同訴訟代理人弁理士 黒田博道 |
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裁判所 | 知的財産高等裁判所 |
判決言渡日 | 2017/11/07 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
1 特許庁が無効2015−800073事件について平成28年12月14日にした審決中,特許5212364号の請求項9ないし11に係る部分を取り消す。 2 訴訟費用は,被告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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請求
主文同旨 |
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事案の概要
1 特許庁における手続の経緯等 ? 原告は,平成21年1月9日,発明の名称を「導電性材料の製造方法,その方法により得られた導電性材料,その導電性材料を含む電子機器,発光装置,発光装置製造方法」とする発明について特許出願をし,平成25年3月8日,設定の登録を受けた(特許第5212364号。請求項の数22。甲45。以下,この特許を「本件特許」という。。 ) (2) 被告は,平成27年3月24日,本件特許の請求項1ないし20,22に対する無効審判を請求し,特許庁は,これを無効2015-800073号事件として審理した。原告は,平成28年4月1日,本件特許に係る特許請求の範囲の訂正をする旨の訂正請求をした(以下「本件訂正」という。。 ) (3) 特許庁は,平成28年12月14日,特許第5212364号の請求項9ないし11に記載された発明についての本件訂正を認めず,前記各発明に係る特許を無効とするなどとする別紙審決書(写し)記載の審決(以下「本件審決」という。)をし,同月28日,その謄本が原告に送達された。 (4) 原告は,平成29年1月25日,本件審決中,本件特許の請求項9ないし11に係る部分の取消しを求める本件訴訟を提起した。 2 特許請求の範囲の記載 (1) 本件訂正前の特許請求の範囲請求項9ないし11の記載は,以下のとおりである(甲45)。なお,文中の「/」は,原文の改行箇所を示す(以下同じ。。以下, )各請求項に係る発明を「本件発明9」などといい,併せて「本件発明」という。また,その明細書を,図面を含めて「本件明細書」という。 【請求項9】導電性材料の製造方法であって,/前記方法が,/銀の粒子を含む第2導電性材料用組成物であって,前記銀の粒子が,0.1μm〜15μmの平均粒径(メジアン径)を有する銀の粒子からなる第2導電性材料用組成物を,酸素,オゾン又は大気雰囲気下で150℃〜320℃の範囲の温度で焼成して,前記銀の粒子が互いに隣接する部分において融着し,それにより発生する空隙を有する導電性材料を得ることを含む方法。 【請求項10】前記第2導電性材料用組成物が,沸点300℃以下の有機溶剤または水を更に含む請求項9に記載の導電性材料の製造方法。 【請求項11】前記有機溶剤が,低級アルコール,または,低級アルコキシ,アミノおよびハロゲンからなる群から選択される1以上の置換基を有する低級アルコールを含む請求項10に記載の導電性材料の製造方法。 (2) 本件訂正後の特許請求の範囲請求項9ないし11の記載は,以下のとおりである(訂正箇所に下線を付した。。各請求項に係る発明を「本件訂正発明9」などと )いう。 【請求項9】導電性材料の製造方法であって,/前記方法が,/銀の粒子を含む第2導電性材料用組成物であって,前記銀の粒子が,2.0μm〜15μmの平均粒径(メジアン径)を有する銀の粒子からなる第2導電性材料用組成物を,酸素,オゾン又は大気雰囲気下で150℃〜320℃の範囲の温度で焼成して,前記銀の粒子が互いに隣接する部分において融着し(但し,銀フレークがその端部でのみ融着している場合を除く) それにより発生する空隙を有する導電性材料を得ることを含む ,方法。 【請求項10】導電性材料の製造方法であって,/前記方法が,/銀の粒子を含む第2導電性材料用組成物であって,前記銀の粒子が,2.0μm〜15μmの平均粒径(メジアン径)を有する銀の粒子からなる第2導電性材料用組成物を,酸素,オゾン又は大気雰囲気下で150℃〜320℃の範囲の温度で焼成して,前記銀の粒子の一部を局部的に酸化させることにより,前記銀の粒子が互いに隣接する部分において融着し,それにより発生する空隙を有する導電性材料を得ることを含み,/前記第2導電性材料用組成物が,沸点300℃以下の有機溶剤または水を更に含む導電性材料の製造方法。 【請求項11】前記有機溶剤が,低級アルコール,または,低級アルコキシ,アミノおよびハロゲンからなる群から選択される1以上の置換基を有する低級アルコールを含む請求項10に記載の導電性材料の製造方法。 なお,本件訂正の訂正事項のうち,下記アを「訂正事項9-2」,下記イを「訂正事項10-1」という。 ア 訂正事項9-2 特許請求の範囲の請求項9において, 「前記銀の粒子が互いに隣接する部分において融着し,」とあるのを,「前記銀の粒子が互いに隣接する部分において融着し(但し,銀フレークがその端部でのみ融着している場合を除く)」と訂正する。 , イ 訂正事項10-1 特許請求の範囲の請求項10を, 「導電性材料の製造方法であって,/前記方法が,/銀の粒子を含む第2導電性材料用組成物であって,前記銀の粒子が,2.0μm〜15μmの平均粒径(メジアン径)を有する銀の粒子からなる第2導電性材料用組成物を,酸素,オゾン又は大気雰囲気下で150℃〜320℃の範囲の温度で焼成して,前記銀の粒子の一部を局部的に酸化させることにより,前記銀の粒子が互いに隣接する部分において融着し,それにより発生する空隙を有する導電性材料を得ることを含み,/前記第2導電性材料用組成物が,沸点300℃以下の有機溶剤または水を更に含む導電性材料の製造方法。」と訂正する(請求項10の記載を引用する,請求項11も同様に訂正する。。 ) 3 本件審決の理由の要旨 ? 本件審決の理由は,別紙審決書(写し)記載のとおりである。要するに,@訂正事項9-2は,特許法134条の2第1項の規定に適合しない,A訂正事項10-1は,同法134条の2第9項で準用する126条5項及び6項の規定に適合しない,B本件発明9は,当業者が,下記アの引用例1に記載された発明(以下「引用発明1」という。)又は下記イの引用例2に記載された発明(以下「引用発明2」という。)と,下記ウの甲8文献に記載された技術事項(以下「甲8技術」という。)等の周知技術に基づいて,容易に発明をすることができたものである,C本件発明10は,当業者が,引用発明1又は引用発明2と,周知技術に基づいて,容易に発明をすることができたものである,D本件発明11は,当業者が,引用発明1と周知技術に基づいて,容易に発明をすることができたものである,などというものである。 ア 引用例1:特表2005-509293号公報(甲5) イ 引用例2:特表2007-527102号公報(甲4) ウ 甲8文献:特表2003-525974号公報 ? 本件審決が認定した引用発明1,本件発明9と引用発明1との一致点及び相違点は,次のとおりである。 ア 引用発明1 a)有機溶媒,および,端部を有する約0.1μm〜約2μmの厚さ,および約3μm〜約100μmの直径を有す導電性金属フレークを含む導電性ペーストを形成すること,および/b)前記導電性ペーストを前記金属フレークの融点以下の温度に加熱し,それによって前記溶媒を蒸発し,前記金属フレークをその端部でのみ焼結し,このようにして開放孔が少なくとも隣接する前記金属フレーク間に画定されるように隣接する前記金属フレークの端部を融合し,それによって前記金属フレークのネットワークを形成することを含む,多孔質の,可撓性の,弾性のある熱伝導性材料を形成する方法であって,/前記金属フレークが銀フレークであり,/前記銀フレークに対する溶媒の比率が,フレーク50gmに溶媒4mlであり,/前記金属フレークの融点以下の温度が,280℃であり,/前記加熱による焼結が,オーブン中での硬化によるものであり,/前記硬化プロファイルが,2時間で40℃から280℃に上昇,280℃で1時間保持,1時間で280℃から40℃に降下するものであり,/前記熱伝導性材料の体積抵抗率が,0.000010オーム・cmである/多孔質の,可撓性の,弾性のある熱伝導性材料を形成する方法。 イ 本件発明9と引用発明1との一致点 導電性材料の製造方法であって,/前記方法が,/銀の粒子を含む第2導電性材料用組成物であって,前記銀の粒子が,所定の粒径を有する銀の粒子からなる第2導電性材料用組成物を,所定の雰囲気下で150℃〜320℃の範囲の温度で焼成して,前記銀の粒子が互いに隣接する部分において融着し,それにより発生する空隙を有する導電性材料を得ることを含む方法。 ウ 本件発明9と引用発明1との相違点 相違点9-1「銀の粒子」の「所定の粒径」が,本件発明9では, 「0.1μm〜15μmの平均粒径(メジアン径)を有する」と特定されているのに対して,引用発明1では,「約0.1μm〜約2μmの厚さ,および約3μm〜約100μmの直径」と特定されている点。 相違点9-2「所定の雰囲気」が,本件発明9では, 「酸素,オゾン又は大気雰囲気下」と特定されているのに対して,引用発明1では, 「オーブン中」と記載されているだけであって,当該オーブンにおける雰囲気が明記されていない点。 (3) 本件審決が認定した引用発明2,本件発明9と引用発明2との一致点及び相違点は,次のとおりである。 ア 引用発明2 デバイスおよび基板上の接点に位置決めされ,かつこれらの間に挟まれた500nm以下のサイズを有する金属粒子を焼結するステップであって,前記金属粒子から,デバイスおよび基板との電気的な相互接続を実施する金属層を形成する前記焼結ステップ/を含む相互接続の形成方法において,/前記金属粒子は,銀であって,前記銀は,金に比べて低いコストである点,および通常の雰囲気中で焼成され易い点を併せ持っており,はんだリフローの場合に匹敵する温度で処理するが,はんだでは不可能な,後続のより高い温度への曝露に耐えることができるものであり,さらに,適切なナノスケール範囲の金属粒子であるナノ銀粉末(例えば,粒径が500nm未満)は,およそ1ドル/gのコストで,様々なサイズで様々な供給元から市販されているものであり,/前記金属粒子は,前記焼結ステップの前に,前記金属粒子の凝集を減少させまたは防止するのに十分な量で存在する金属粒子に結合した分散剤と,前記金属粒子の焼結温度よりも低い揮発温度を有する結合剤とを含むペーストの形で存在するものであり,/稠密化した金属相互接続を,比較的低い温度での焼結によりかつ低い圧力しか必要とせずにまたは圧力を全く必要とせずに確立する,/相互接続の形成方法。 イ 本件発明9と引用発明2との一致点 導電性材料の製造方法であって,/前記方法が,/銀の粒子を含む第2導電性材料用組成物であって,前記銀の粒子が,所定の粒径を有する銀の粒子からなる第2導電性材料用組成物を,焼成して,前記銀の粒子が互いに隣接する部分において融着し,それにより発生する空隙を有する導電性材料を得ることを含む方法。 ウ 本件発明9と引用発明2との相違点 相違点9-3「銀の粒子」の「所定の粒径」が,本件発明9では, 「0.1μm〜15μmの平均粒径(メジアン径)を有する」と特定されているのに対して,引用発明2では,「500nm以下のサイズを有する」と特定されている点。 相違点9-4 本件発明9では, 「酸素,オゾン又は大気雰囲気下で150℃〜320℃の範囲の温度」で焼成しているのに対して,引用発明2では,特定されていない点。 (4) 本件審決が認定した本件発明10と引用発明1,2との相違点は,上記各相違点に加え,次の点である(相違点10)。 本件発明9に, 「前記第2導電性材料用組成物が,沸点300℃以下の有機溶剤または水を更に含む」ことを,更に特定している点。 4 取消事由 (1) 本件訂正の可否 ア 訂正事項9-2の判断の誤り(取消事由1) イ 訂正事項10-1の判断の誤り(取消事由2) (2) 請求項9に係る発明についての容易想到性判断の誤り ア 引用発明1に基づく容易想到性判断の誤り(取消事由3) イ 引用発明2に基づく容易想到性判断の誤り(取消事由4) (3) 請求項10に係る発明についての容易想到性判断の誤り(取消事由5) (4) 請求項11に係る発明についての容易想到性判断の誤り(取消事由6) |
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当事者の主張
1 取消事由1(訂正事項9-2の判断の誤り)〔原告の主張〕 (1) 特許請求の範囲の減縮について ア 「フレーク」との用語の意味内容は明確であること 本件審決は, 「フレーク」との用語の意味内容が明確とはいえず, 「端部」との用語は, 「銀フレーク」のどの部分を特定しているのかが明確であるとも認められないから, 「銀フレークがその端部でのみ融着している場合」との文言のみでは,「銀フレーク」の融着箇所が明確に特定されているとは認められず,発明特定事項として明確に把握することができないとする。 しかし, 「フレーク」という用語は,広辞苑第6版に示されるとおり, 「薄片」を意味し, 「薄片」は,文字どおり, 「うすいかけら」を意味するものであるから, 「銀フレーク」とは,銀の薄片(うすいかけら状の銀)を意味する用語として,当業者に明確であり,本件明細書に「銀フレーク」の厚さ及び形状が詳細に特定される必要はない。 「薄片」といえるか否かは,粒子の「厚さ」だけでなく,粒子の全体の形状によっても左右され,銀の粒子の全体の形状と厚さを総合的に考慮して概念されるのであり, 「銀フレーク」という用語それ自体は,そのような考慮の結果として概念される薄片を特定するのに十分なものである。本件訂正発明9においては,銀の粒子が,2.0μm〜15μmの平均粒径(メジアン径)を有する銀の粒子からなるものに限定されており,訂正事項9-2はこの限定された範囲内で, 「銀フレークがその端部でのみ融着している場合を除く」という特定事項を追加するものである。したがって,除く対象となる「銀フレーク」は,2.0μm〜15μmの平均粒径(メジアン径)を有し,その厚さは平均粒径の上限よりも大きくない範囲で,かつ「フレーク」という用語から想到される程度の厚さを有するものであるといえ,その範囲は当業者であれば明確に把握できる。 なお,本件の優先日当時,商業的に入手可能な銀粒子の一形態として「フレーク粉」は既に存在しており(甲43の5〜7),当業者であれば, 「銀フレーク」なるものが, 「フレーク粉」として販売されている銀粒子であると容易に把握できた。フレークの具体的な形状は,例えば,フレーク粉のカタログ(甲43の6・7)に示された顕微鏡写真に現れているとおりである。また,例えば,甲43の6に示された比表面積(0.2m2/g〜0.5m2/g)の中間値(0.35m2/g)と50%平均粒径(6μm〜12μm)の中間値(9μm)とから厚さを算出すると,おおよそ0.62μmとなる 。この値は,粒径(この例では,50%平均粒径の中間値)と比較して十分に小さく,このような形状が「薄片」と呼べる形状である。実際にこのようなフレーク粉が製造販売されているのであるから,明細書に特段,形状及び厚さに関する説明がなくとも,当業者であれば, 「銀フレーク」がどのようなものであるかを観念できる。 イ 「端部」との用語の意味内容は明確であること 「端部」についても,広辞苑第6版によれば,「端」は,「物の末の部分。先端。」「中心から遠い,外に近い所。へり。ふち。」を意味するものであることから,中心から遠い,外に近い部分(へりの部分)を意味することは一義的に明らかである。 引用例1には,銀を含むフレーク,すなわち銀フレークをその端部でのみ融着している導電性材料を製造する方法が記載されているところ,訂正事項9-2は,訂正前の請求項9に記載された特許発明において, 「前記銀の粒子が互いに隣接する部分において融着し」ているという事項に関し, 「銀フレークがその端部でのみ融着している場合を除く」という限定をすることによって,請求項9に記載された発明から,引用例1に記載された事項を除く訂正(いわゆる除くクレームとする訂正)である。 そして, 「銀フレークがその端部でのみ融着している場合」とは,下図(左図は銀フレークが端部でのみ融着している導電性材料を示す平面図,右図はその側面図)に示すように,薄いかけら状の銀がそのへりの部分,より具体的には外縁を含む領域であって,互いに融着可能な程度のごく狭い領域でのみ融着している状態を指すのであるから,当業者に自明である。 (2) 小括 以上のとおり,銀の粒子の互いに隣接する部分における融着について, 「銀フレークがその端部でのみ融着している場合を除く」という,訂正により付加された事項は明確であり,この事項が付加されたことによって,特許請求の範囲が減縮されたことは明らかであるから,特許請求の範囲を減縮する訂正に該当しないとした本件審決の認定判断には明らかな誤りがある。その上で,訂正前の請求項9について無効理由の有無を判断して,本件発明9を無効とした本件審決は取り消されるべきである。 〔被告の主張〕 (1) 特許請求の範囲の減縮について ア 「フレーク」との用語の意味内容が明確でないこと 本件審決も指摘するように,その厚さがどの程度であれば,薄いのかは明らかではない。本件訂正により「除く」とされるのは,「銀の薄片」であるから,「銀の厚片」「銀の中間厚片」は権利範囲に含まれるものと思われるが,どの程度の厚さな ,ら権利範囲に含まれ,どの程度の厚さなら権利範囲から除かれるのかについて,記載自体から明らかではなく,出願時の技術常識を参酌しても一義的に判断をすることができないから,権利範囲の認定を行うことができない。 イ 「端部」との用語の意味内容が明確でないこと 本件訂正発明9には, 「銀粒子が互いに隣接する部分のみが融着する」との記載はあるものの, 「銀フレーク」の「端部」についての記載はないから, 「銀フレーク」の「端部」がどこを指すのか,あるいは端縁からどの程度の位置までを「端部」と呼ぶのかは不明である。 本件訂正により「除く」とされるのは,「端部」であるから,それ以外の「端縁」や「中心側」は権利範囲に含まれるものと思われるが,どこまでの範囲が「端部」として権利範囲から除かれるのかについて,記載自体から明らかではなく,出願時の技術常識を参酌しても一義的に判断をすることができないから,権利範囲の認定を行うことができない。 そして, 「銀フレーク」「端部」の意味内容が不明確であるから, , 「銀フレークがその端部でのみ融着している」の融着箇所も明確ではない。そもそも,請求項9には,「融着」は,「銀粒子」相互の間で生じるものであることは記載されているものの,「銀フレークの融着」についての記載はない。 (2) 小括 以上によれば,訂正事項9-2では, 「除く」部分の権利範囲の特定を行うことができない以上,請求の範囲の減縮には該当しない。 2 取消事由2(訂正事項10-1の判断の誤り)〔原告の主張〕 (1) 新規事項の追加について 本件審決は,本件訂正発明10における「融着」が, 「前記銀の粒子の一部を局部的に酸化させること」に起因して生じるものであることを明示する記載が,願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面にはないとする。 しかし,本件明細書【0020】は,本件発明の導電性材料を製造する方法におけるメカニズムの記載であり, 【0049】の第3文には, 「本発明において,前記第2導電性材料用組成物は,沸点300℃以下の有機溶剤または水を更に含んでもよい。」との記載があるから,本件発明の導電性材料を製造する方法には,沸点300℃以下の有機溶剤又は水を更に含む第2導電性材料用組成物を150℃〜320℃の範囲の温度で焼成した場合を含むことは明らかであり, 【0020】に沸点300℃以下の有機溶剤又は水を更に含むことが明記されていないからといって,【0020】の作用機序が,沸点300℃以下の有機溶剤又は水を含まない条件下のみに限定された記載であるということはできない。 【0020】において,本件発明の作用機序を説明し, 【0138】〜【0140】において,その実施例として,有機溶剤を含んだ第2導電性材料用組成物を200℃で大気雰囲気下において加熱することにより,第2導電性材料用組成物中の銀の粒子が融着することを実証しているのであるから, 【0020】に記載された作用機序が,有機溶剤を含む第2導電性材料用組成物に妥当することは当然である。 【0077】には,基板表面に導電性材料組成物を塗布する方法が列挙されており,導電性材料を塗布する際には有機溶剤を含むことは周知であることからも,当業者が, 【0020】について記載された作用機序を,有機溶剤を含まない第2導電性材料用組成物のみについて記載されたものと理解することはない。 したがって,本件訂正発明10に記載された,300℃以下の有機溶剤又は水を更に含む第2導電性材料用組成物を,酸素,オゾン若しくは大気雰囲気下で150℃〜320℃の範囲の温度で焼成して,銀の粒子が互いに隣接する部分において融着する方法における,当該「融着」が, 「前記銀の粒子の一部を局部的に酸化させること」に起因して生じるものであることは,願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載されているに等しい事項であり,新規事項の追加には該当しない。 (2) 特許請求の範囲の目的の変更について ア 本件発明10に係る発明の目的 本件審決は,本件発明10は,大量の酸素ガスや大量の還元性有機化合物の分解ガスを発生させることなく,導電性材料を得ることを目的としていないと判断した。 しかし,前記のとおり, 【0020】に記載された作用機序は,有機溶剤を含むか否かにかかわらず妥当するから,本件発明10は, 「第2導電性材料用組成物を,酸素,オゾン又は大気中雰囲気下で150℃〜320℃の範囲の温度で焼成して,前記銀の粒子が互いに離接する部分において融着し」という構成により,大量の酸素ガスや大量の還元性有機化合物の分解ガスを発生させることなく,導電性材料を得るという目的を達成している。 従来技術において,値段が高くてもナノ粒子を使用しているのは,ミクロンオーダーの銀粒子と酸化銀を使用すると,大量のガス発生に起因する不規則なボイド形成や,取扱い上の危険性があるという問題(【0004】〜【0007】)を回避するためであるところ,「値段が高い銀ナノ粒子を使用することなく導電性材料を得る」という目的は,従来技術における問題を回避して,かつ,値段が高い銀ナノ粒子を使用することなく導電性材料を得ることを意味するから,本件発明10に係る目的は,値段が高い銀ナノ粒子を使用することなく導電性材料を得ること,及び大量の酸素ガスや大量の還元性有機化合物の分解ガスを発生させることなく,導電性材料を得ることである。その目的を, 「銀の粒子が,0.1μm〜15μmの平均粒径(メジアン径)を有する銀の粒子からなる」という構成と, 第2導電性材料用組成物を, 「酸素,オゾン又は大気雰囲気下で150℃〜320℃の範囲の温度で焼成して,前記銀の粒子が互いに隣接する部分において融着し」という構成を備えることによって達成している。 イ 本件訂正発明10に係る発明の目的 本件審決は,本件訂正発明10が, 「前記銀の粒子の一部を局部的に酸化させることにより,前記銀の粒子が互いに隣接する部分において融着し」という構成を備える発明であって, 「大量の酸素ガスや大量の還元性有機化合物の分解ガスを発生させることなく,導電性材料を得る」ことを目的とした発明であると認定したが, 「銀の粒子が,2.0μm〜15μmの平均粒径(メジアン径)を有する銀の粒子からなる」という構成を備えているにもかかわらず,値段が高い銀ナノ粒子を使用することなく導電性材料を得ることを目的とした発明であるとは認定していない。 訂正事項10-1は,本件訂正発明10が値段の高い銀ナノ粒子を使用することなく導電性材料を得ることを目的としていることを明確にするために, 「0.1μm〜15μmの平均粒径(メジアン径)を有する銀の粒子からなる」を, 「2.0μm〜15μmの平均粒径(メジアン径)を有する銀の粒子からなる」と訂正したものである。 また,本件訂正発明10は, 「大量の酸素ガスや大量の還元性有機化合物の分解ガスを発生させることなく,導電性材料を得る」ことも目的とした発明であり,その目的を達成するために, 「前記銀の粒子の一部を局部的に酸化させることにより,前記銀の粒子が互いに隣接する部分において融着し」という構成を備えるものであることは明らかである。 ウ 以上によれば,本件発明10,本件訂正発明10はいずれも,値段が高い銀ナノ粒子を使用することなく導電性材料を得ることと,大量の酸素ガスや大量の還元性有機化合物の分解ガスを発生させることなく,導電性材料を得ることを目的とする発明である。 したがって,訂正事項10-1による訂正は,本件発明10が達成しようとする目的及び効果を変更するものではなく,訂正事項10-1は実質上特許請求の範囲を変更するものではない。 〔被告の主張〕 (1) 新規事項の追加について 本件明細書【0020】には, 「銀粒子を含む組成物」は焼成すると「酸化」することが記載されている。一方,本件明細書には,焼成する対象として, 「銀粒子を含む組成物」の他に, 「銀粒子と,金属酸化物とを含む第1導電性材料用組成物」「銀 ,粒子を含む第2導電性材料用組成物」 【0020】〜【0022】 ( )の記載があり,「焼成により前記銀粒子が互いに隣接する部分のみが融着する」ことは記載されているものの,「銀粒子を含む第2導電性材料用組成物」に関しては,「銀粒子の一部が局部的に酸化され」と記載されていないので,酸化していないことが想定される。 実施例35(【0140】)では, 「粒子の融着」の記載はあるが, 「銀粒子の一部の局部的酸化」についての記載はない。 以上によれば,本件明細書には, 「銀粒子を含む第2導電性材料用組成物」について「酸化」することの記載や, 「沸点300℃以下の有機溶剤または水を更に含む第2導電性材料用組成物」について「銀粒子の一部が局部的に酸化」することの記載はなく,実施例34,35についても, 「銀粒子の一部が局部的に酸化」するとの記載はないのであるから,「前記銀の粒子の一部を局部的に酸化させることにより,」とする訂正部分は,願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載された範囲のものであるとはいえない。 (2) 特許請求の範囲の目的の変更について 本件発明10は,「銀の粒子が,0.1μm〜15μmの平均粒径(メジアン径)を有する銀の粒子からなる」という構成を備えることによって,値段が高い銀ナノ粒子を使用することなく導電性材料を得ることを目的とした発明と理解される。 一方,本件訂正発明10は, 「前記銀の粒子の一部を局部的に酸化させることにより,前記銀の粒子が互いに隣接する部分において融着し」という構成を備える発明であって, 「大量の酸素ガスや大量の還元性有機化合物の分解ガスを発生させることなく,導電性材料を得る」ことを目的とした発明であるとともに, 「銀の粒子が,2.0μm〜15μmの平均粒径(メジアン径)を有する銀の粒子からなる」という構成を備えているので,値段が高い銀ナノ粒子を使用することなく導電性材料を得ることを目的とした発明でもある。 本件発明10の目的及び効果は, 「値段が高い銀ナノ粒子を使用することなく導電性材料を得る」だけであったが,本件訂正発明10は, 「値段が高い銀ナノ粒子を使用することなく導電性材料を得る」との目的及び効果に, 「大量の酸素ガスや大量の還元性有機化合物の分解ガスを発生させることなく,導電性材料を得る」との目的及び効果が付加されているので,訂正前後における発明の同一性は失われており,訂正事項10-1は,実質上特許請求の範囲を変更するものである。 3 取消事由3(請求項9に係る発明の引用発明1に基づく容易想到性判断の誤り)〔原告の主張〕 (1) 相違点9-2について ア 相違点9-2が実質的相違点であることについて 引用例1の表4は, 「†」を付したものが清浄な乾燥空気(CDA)なしに硬化された結果を示すものであることを説明するにとどまり, 「†」を付していないものの硬化条件(硬化雰囲気)は説明してはいない。引用例1では,表4以外の記載においてCDAに全く言及しておらず,CDAを用いた雰囲気で硬化が実施できることを窺わせる記載もない。よって,相違点9-2は,実質的相違点である。 イ 引用例1と甲8技術を組み合せた進歩性判断について 甲8文献は,微粒状銀粉末と有機液体とからなるペーストを加熱して焼結する方法を開示するものの,微粒状銀粉末がどのような形状及び寸法のものであるかについての記載はなく,引用発明1で用いる「銀フレーク」と有機液体とを含む導電性ペーストを焼結する方法であるといえないから,甲8技術より,引用発明1の「オーブン中での硬化」の際の雰囲気として,「O 2含有雰囲気中,例えば空気中」を採用することを当業者が想到することが,容易であったとはいえない。 甲8技術は, 「微粒状銀粉末」を具体的に特定しておらず,甲8技術で用いられる銀粉末の範疇に引用発明1で用いる銀フレークが含まれるとは直ちにはいえない。 そして,引用発明1は特定の形態の金属粒子(すなわち,金属フレーク)を使用して初めて成り立つものであり,引用例1はフレーク以外の形態の粒子を使用することを示唆するものではないから,粒子の形態について特段の記載のない甲8技術における焼結条件を,特定の形態の粒子の使用を要求する引用発明1での焼結に用いることは,容易なことではない。 さらに,甲8文献に開示された方法は,微粒状銀粉末を焼結した後,焼結された層に接着剤を吸い込ませて,接着剤を硬化させることにより,熱伝導性接着剤継目を完成させるものであるところ(請求項11),接着剤は,焼結体への酸素の後侵入を防止するために用いられる(【0086】。すなわち,甲8技術の銀粉末の焼結条 )件(温度及び雰囲気等)は,焼結後,接着剤を吸い込ませて硬化させない場合には,酸素の後侵入によって構造が変化するような焼結体を与えるものであり,接着剤を要することなく実用可能な導電性材料を与えるものではない。 これに対し,引用発明1は,接着剤の抵抗が高いことを問題点として指摘し(引用例1【0006】,この問題点を回避するために,接着剤を使用せずに,熱界面と )して利用可能な金属フレークのネットワークを形成しようとするものである。したがって,引用例1に接した当業者が,引用発明1での焼結条件が不明であるときに,酸素の後侵入防止のために接着剤の吸い込みが必須である焼結体(すなわち,それだけでは, 【0016】に記載のような物品間の熱伝導性材料層を形成し得ない焼結体)を得る方法を開示するにすぎない甲8技術で採用されている焼結の雰囲気を適用することは,あり得ない。 甲8文献において,「O2含有雰囲気中,例えば空気中で」 「焼結」という反応が ,生じることが開示されているとしても,その焼結は,接着剤を要するものであることから,焼結により得られる材料は,引用例1に記載されているような,銀フレークが端部でのみ融着されていることにより,接着剤を使用せずとも熱伝導性材料として使用可能な材料とは全く異なる。引用例1には,銀フレークを端部でのみ融着させた後,接着剤を吸い込ませることを示唆するものはないこと,甲8文献には微粒状銀粉末の形態が具体的に示されておらず,また,焼結がいずれの部位で生じるのかについての記載もないことからすれば,甲8文献に記載された条件を,引用発明1に適用する動機はない。 そして,金属の接合に際し,その接合面が酸化されてはならず,そのために金属を酸化させない雰囲気が用いられていることは,金属接合の分野では本件特許の優先日当時,広く認識されていた(甲27〜29) 甲27文献等は, 。 引用発明1とは,材料及び接合の機構を異にするものではあるが,金属同士を接合させるという意味では同じ技術分野に属するものであるし,材料及び接合の機構を異にする場合に,金属の酸化が金属間の接合に影響しないことを積極的に示すものでもない。さらに,甲27文献等はそれぞれ互いに材料及び接合の機構を異にするものであるところ,いずれにおいても金属の酸化を生じさせない雰囲気を使用することが説明されており,材料及び接合の機構によらず,金属の酸化が金属同士の接合に不利であるという認識が,当該分野では一般的であったことを示すものである。甲27文献等の記載事項を考慮するなら,引用発明1での焼成雰囲気が大気雰囲気であるとは理解されない。 (2) 本件訂正発明9が引用発明1に基づき容易に想到できないことについて 被告は,仮に訂正事項9-2に係る訂正が認められたとしても,本件訂正発明9は引用発明1に基づき当業者が容易に想到できたものであると主張するが,以下のとおり,容易に想到することはできない。 ア 本件訂正発明9と引用発明1とは,相違点9-2に加えて,少なくとも以下の点でさらに相違する。 相違点9-A:本件訂正発明9では,第2導電性材料用組成物の焼成により,銀の粒子が互いに隣接する部分において融着するが,銀フレークがその端部でのみ融着している場合を除くものであると特定されているのに対し,引用発明1では金属フレークをその端部でのみ焼結して,隣接する金属フレークの端部を融合すると特定されている点。 相違点9-B: 「銀の粒子」の「所定の粒径」が,本件訂正発明9では, 「2.0μm〜15μmの平均粒径(メジアン径)を有する」と特定されているのに対して,引用発明1では, 「約0.1μm〜約2μmの厚さ,および約3μm〜約100μmの直径」と特定されている点。 イ 相違点9-Aについて 引用発明1は,端部を有する銀フレークを端部でのみ焼結し,その他の部分では焼結を生じさせることなく,熱伝導性材料を形成する方法である。 引用発明1の「フレーク」は,約0.1μm〜約2μmの厚さ及び約3μm〜約100μmの直径を有する粒子である(【0012】。金属からなるフレークは,回転 )容器内に金属粉末を球体とともに投入し,回転容器を回転させて金属粉末を球体と圧接させることにより展延させる方法で得ることができ,厚みが薄く表面積が大きい,薄片状の粒子として提供される。 引用例1に開示された熱伝導性材料の製造方法は,そのような薄片状の粒子であって,端部を有する粒子,すなわち, 「端部を有する金属フレーク」を用いることにより, 「端部」と「端部」とが隣接する部分のみで融合させるというものである。 「端部」とは, 【0012】で「中心」と対比して説明されているとおり,フレークの主表面の周縁部分であり,フレークの周縁に沿った極めて狭い領域である。 引用発明1は,特定の形態の粒子,すなわち端部を有する銀フレークを用い,該粒子の限られた部分のみで,粒子同士を融着させる製造方法であり,銀フレーク以外の銀の粒子(端部を有しない形態の銀の粒子)は焼結させることはできず,また,銀フレークの端部と端部以外では,銀フレークを融着させることができない。 これに対し,本件訂正発明9は,球状及び多面体等,特定の形態に限られない任意の形態の銀の粒子を用いた場合でも,銀の粒子を互いに隣接する部分において融着させて,導電性材料を製造する方法である(本件明細書【0045】。銀の粒子と )してフレーク状のものを用いた場合には,融着する部位はフレークの端部同士が隣接する部分に限られず,それ以外のフレークが互いに隣接する部分,例えばフレークの中心同士,又はフレークの端部とフレークの中心との間でも融着が生じて,導電性材料が形成されるのであり,フレークの端部のみが融合した導電性材料は得られない。 このように,本件訂正発明9と引用発明1では,それぞれの製造方法によって得られる導電性材料が異なっており,そうである以上,製造方法も異なる。引用例1は,銀フレークを端部でのみ焼結させて,端部を融合させる方法を開示するにとどまり,焼成の際の雰囲気やその他の条件を選択することによって,銀の粒子の融着する部位が,その端部に限られない導電性材料が得られる可能性を当業者に示すものではない。 したがって,銀フレークの端部のみで融着させる引用発明1に基づいて,相違点9-Aに係る構成を導くことはできない。 ウ 相違点9-Bについて 相違点9-Bは,当業者が容易に想到し得たものではない。 エ よって,本件訂正発明9は,引用発明1を主引用例とした場合に,その進歩性が否定されるものではない。 〔被告の主張〕 (1) 相違点9-2について ア 引用発明1に係る進歩性判断について 銀は,酸素中で熱しても変化しないことや,空気中で熱しても酸化を受けないことは,当業者の技術常識である(乙1の1・2)。 ところで,多くの酸化されやすい金属(代表的には銅)は酸素中で熱すると,表面に酸化物が形成され,接合に支障をきたすことも当業者の技術常識である(甲27〜29,33,34の1)。 また,大気雰囲気中で,銀の粒子を加熱して融着させ,導電性材料を形成できることは,甲8文献等に裏付けられた,当業者の周知技術である。 さらに,銀粒子については大気雰囲気中での加熱焼結が可能であることが周知である(乙2【0035】【0054】。 , ) このような銀粒子の加熱について,当業者が採択する加熱雰囲気は, 「大気雰囲気」であるから,引用発明1のオーブン中での銀粒子の加熱雰囲気が「空気中(大気雰囲気中)」であることは自明であり,相違点9-2は実質的相違点ではない。 仮にそうではないとしても,大気雰囲気中で,銀の粒子を加熱して融着させ,導電性材料を形成できることは周知技術であるので,オーブン中での銀粒子の加熱雰囲気を「大気雰囲気」とすることは,当業者が容易に想到し得たことであるから,一部のサンプルが「乾燥空気(CDA)なしに硬化された」と記載されているときに,他のサンプルが「清浄な乾燥空気(CDA)ありに硬化された」と理解することは,当業者が容易に想到し得たことである。 引用例1表4では, 「†」を付していない,ロット#1の硬化プロファイル1,2の体積抵抗率が, 「†」を付した「清浄な乾燥空気(CDA)なし」の硬化プロファイルの体積抵抗率より低いことから, 「†」を付していないサンプルは,清浄な乾燥空気(CDA)ありでの硬化,すなわち,銀フレークペースト中の銀フレークが清浄な乾燥空気中で硬化,焼結したと解するのが妥当である。 引用例1には,オーブンで硬化すると,銀のスポットめっき面は良好な接着を与えたが,裸の銅面上の接着はやや低かったとの記載がある(【0030】〜【0034】。銅は大気中で加熱すると酸化され,良好な接合が得られないこと,銀粒子は )酸素含有雰囲気(大気雰囲気)での加熱で,良好な接合が得られることは,周知技術であるから,高温で銅が酸化し,したがって表面の焼結の障壁になったということは,該オーブン中での硬化は酸素含有雰囲気での加熱を意味する。同じ実施例1でオーブンを変えるはずがないので, 【0023】に記載の「オーブン中で硬化」も大気雰囲気下での加熱を意味する。 本件発明9の実施例1では,平均粒径2.0μm〜3.2μmの銀粒子を大気中で加熱して, 「融着」であるが(【0085】〜【0088】,比較例1では,窒素中 )で加熱して「融着せず」である。そして,実施例22においても,銀粒子のみからなる導電性材料用組成物を大気雰囲気下で加熱し,低抵抗値の導電性材料が得られたことが記載されている(【0115】。 ) そうすると,低体積抵抗率の銀導電性材料が得られ,銀スポット銅面に対し良好な接着が得られ,ニッケルめっき面及び裸の銅面に対し良好な接着が得られなかったのであるから,引用発明1の実施例1のオーブン内での加熱雰囲気は,少なくとも酸素含有雰囲気と考えざるを得ない。 よって,銀の粒子を加熱して融着させるオーブン中の加熱雰囲気が大気雰囲気であることは,少なくとも当業者が容易に想到し得たことである。 イ 引用発明1に甲8技術を組み合わせた進歩性判断について 引用例1の明細書及び図面の全記載を参照しても, 「薄いかけら状の銀フレ一クがそのへりの部分,より具体的には外縁を含む領域であって,互いに融着可能な程度のごく狭い領城でのみ融着している」旨の記載はなく,原告が主張する「銀フレークがその周縁部分でのみ融着した構造」は,引用例1には記載されていない。 そして,引用例1図2には,銀フレークがその端部でない箇所でも焼結したものが多数存在する。 銀フレークも銀の粒子の一態様であり,銀の粒子を含む組成物を加熱すると,銀の粒子が互いに隣接する部分において融着し,それにより発生する空隙を有する導電性材料が得られることは自明のことである。 よって,引用発明1における「端部」は, 「銀の粒子が互いに隣接する部分」であるから,引用発明1は,本件発明9の「前記銀の粒子が互いに隣接する部分において融着し,それにより発生する空隙を有する導電性材料を得る」方法と一致する。 引用発明1の銀フレークも微粒状銀粉末の一種であり,引用発明1と甲8技術は,微粒状銀粉末と有機液体とからなるペーストを加熱して焼結する方法を開示するものであるので,組合せに阻害要因はない。 甲8技術の「微粒状銀粉末」は,形状を特定しておらず,また,引用発明1の「端部を有する約0.1μm〜約2μmの厚さ,および約3μm〜約100μmの直径を有す導電性金属フレーク」の寸法は,甲8技術の「微粒状銀粉末」の範疇に含まれると解されるから,甲8文献の記載を参酌すれば,引用発明1の「オーブン中での硬化」の際の雰囲気が,大気雰囲気中であったと解することは自然なことと認められる。 原告は,甲8技術の銀粉末の焼結条件(温度及び雰囲気等)は,焼結後,接着剤を吸い込ませて硬化させない場合には,酸素の後侵入によって構造が変化するような焼結体を与えるものであり,接着剤を要することなく実用可能な導電性材料を与えるものではないと主張するが,甲8文献にそのような記載はない。 甲8技術では,空気中での加熱により空隙を有する焼結された層3を形成後,空隙に接着剤4を注入しているが,これは焼結された層3の強度を事後的に高めるためであり,酸素の後侵入は阻止されるので,焼結された層3の構造は高い温度でもはや変化しない。そして,甲8技術と引用発明1は,有機液体と,微粒状銀粉末とを含むペーストを,比較的低い温度で加熱して,空隙(開放孔)を有する銀粒子焼結層を形成する点で一致する。そうである以上,甲8技術における空気中での加熱焼結条件を,実施例1のオーブン中での加熱焼結条件に適用することの阻害要因とはならない。 原告は,金属の接合に際し,その接合面が酸化されてはならず,そのために金属を酸化させない雰囲気が用いられていることは,金属接合の分野では本件特許の優先日当時,広く認識されていたと主張する。 しかし,前記のとおり,多くの酸化されやすい金属(代表的には銅)は酸素中で熱すると,表面に酸化物が形成され,接合に支障をきたすこと,銀は酸素中で熱しても変化しないこと,銀は空気中で熱しても酸化を受けないことは,当業者の技術常識であり,大気雰囲気中で,銀の粒子を加熱して融着させ,導電性材料を形成できることは,甲8文献等に裏付けられた当業者の周知技術である。 多くの酸化されやすい金属が酸化されないように加熱するには,窒素ガス等の不活性ガス雰囲気あるいは真空雰囲気等の酸素が存在しない雰囲気が必要であるが,不活性ガス雰囲気あるいは真空雰囲気等は専用の貯蔵設備や専用の配管設備を設けねばならないのに対し,銀粒子についての大気雰囲気での加熱は,設備を要さず,低コストであることからも,銀粒子について当業者が採択する加熱雰囲気は,大気雰囲気である。 ウ 以上によれば,相違点9-2に係る構成は,容易に想到できるものである。 (2) 本件訂正発明9が引用発明1に基づき容易に想到できることについて 仮に,訂正事項9-2に係る訂正が認められたとしても,以下のとおり,本件訂正発明9は,引用発明1に基づいて容易に想到できたものである。 ア 相違点9-Aについて 原告は, 「端部」がフレークの主表面の周縁部分であるとの解釈を前提に,引用発明1は,かかる周縁部分でのみ銀フレーク同士を融着させる製造方法であり,本件訂正発明9は引用発明1とは異なると主張するが,引用例1にはこれを裏付ける記載はない。引用発明1は,本件審決が認定するとおり,隣接する金属フレークの端部を融合するものであるから,隣接する金属フレークが互いに隣接する部分において融着していることは自明であり,本件訂正発明9の「前記銀の粒子が互いに隣接する部分において融着し,それにより発生する空隙を有する導電性材料を得る」方法と一致する。 原告は,訂正事項9-2に係る本件訂正により,引用発明1は除かれると主張するが, 「銀フレークがその端部でのみ融着している場合」は,引用発明1に記載されているとはいえないから,かかる訂正によって引用発明1を除くことはできない。 イ 相違点9-Bについて 相違点9-Bは,当業者が容易に想到し得たものである。 ウ よって,本件訂正発明9は,引用発明1に基づき容易に想到できたものである。 4 取消事由4(請求項9に係る発明の引用発明2に基づく容易想到性判断の誤り)〔原告の主張〕 (1) 相違点9-3について メジアン径は,粒子を大きさ(粒径)別に分けてカウントして個数分布を求め,個数分布を体積分布に変換し,体積分布より累積分布を求め,累積分布の50%の粒子径を求める方法で決定されるため,累積分布の50%の粒子径がメジアン径であるところ,ある値を有する平均粒径(メジアン径)の銀の粒子の集合体においては,当該値よりも大きな粒径の銀の粒子が当然に含まれ,平均粒径(メジアン径)が0.1μm〜0.5μmの銀の粒子の集合体の場合,当該集合体には粒径が0.5μm(500nm)よりも大きな銀の粒子も含まれることとなる。したがって,引用発明2を出発点としたときに,当業者が,平均粒径(メジアン径)が0.1μm〜0.5μmのものを選択することはない。 引用例2において, 「500nm」というサイズは,引用例2【0027】に記載されているように,引用発明2を実施できる限界の粒径である。この限界を超える大きな銀の粒子が,銀の粒子の集合体に含まれていると,該大きな銀の粒子は,引用発明2によっては焼結され得ないこととなるため,そのような大きな銀の粒子を使用することには阻害要因があるといえる。そして,当業者であれば,引用発明2においてコストを重視して,トップサイズに近いサイズの粒子を選択しようとする場合でも,トップサイズよりも大きな粒径の粒子が含まれることを除外できない「平均粒径(メジアン径) という尺度を用いて, 」 銀の粒子の平均粒径を0.1μm〜0.5μmの範囲から選択することはない。 以上のとおり, 「平均粒径(メジアン径)」の意味を考慮すれば,相違点9-3は,当業者が容易に想到できるものではない。 (2) 相違点9-4について ア 引用例2【0012】は,銀が通常の雰囲気中で焼成されやすいと述べるにとどまり, 「通常の雰囲気」が何であるのかは具体的に示していない。 「通常」の意味は,金属接合の分野において,何が通常であったのかを考慮すべきところ,金属接合の分野では,大気雰囲気等の金属を酸化する雰囲気は金属の接合を妨げるという認識が一般的であったことを考慮すれば, 「通常」の雰囲気が大気雰囲気であるとはいえない。 イ また,引用例2【0039】は,ピーク処理温度を300℃以下に限定する必要のない適用例として,炭化ケイ素を金又はその合金を使用して,600℃程度の高い温度にて空気中で焼成する例を挙げて,この例で見られる問題点(導体パッドに関する問題点)を指摘するだけであり,それ以上に,銀粒子を用いて, 「ピーク処理温度を300℃以下に限定」した適用例において,空気中で焼成を行うことを説明するものではない。 ウ 銀粒子と有機材料を含むペーストの焼結を大気雰囲気中で行い得ることが「周知」というためには,相当数の文献において,当該技術事項が記載されているべきである。しかしながら,相違点9-2の検討においては,銀粒子と有機材料を含むペーストの焼結が大気雰囲気中で行われることを示す文献として甲8文献が引用されただけであり,この文献のみをもって,銀粒子と有機材料を含むペーストの焼結が大気雰囲気中で行い得ることが「周知」とまではいえない。 また,甲8技術で示された焼結が,接着剤の吸い込みを要するものであるのに対し,引用発明2は,導電性ポリマー接着剤の問題点を指摘した上で(引用例2【0002】,銀粒子を焼結させた電気相互接続(導電性材料)を提供しようとするもの )で,接着剤は使用しない。したがって,接着剤の使用を排除している引用発明2の焼結条件に,焼結後に接着剤の使用を必要とするような焼結条件を適用する動機はなく,引用発明2の焼結の雰囲気を甲8技術の「O2雰囲気中,例えば空気中」とすることを想到することが,当業者にとって容易であるとはいえない。 (3) 本件訂正発明9が引用発明2に基づき容易に想到できないことについて 被告は,仮に訂正事項9-2に係る訂正が認められたとしても,本件訂正発明9は引用発明2に基づき当業者が容易に想到できたものであると主張するが,以下のとおり,容易に想到することはできない。 ア 本件訂正発明9と引用発明2とは,相違点9-4に加えて,少なくとも以下の点でさらに相違する。 相違点9-C: 「銀の粒子」の「所定の粒径」が,本件訂正発明9では, 「2.0μm〜15μmの平均粒径(メジアン径)を有する」と特定されているのに対して,引用発明2では,「500nm以下のサイズを有する」と特定されている点。 イ 相違点9-C及び相違点9-4について 本件訂正発明9は,銀の粒子を含む導電性材料用組成物を焼成(加熱)することによって,銀の粒子が融着した導電性材料を製造するに際し,その焼成温度を低くしようとすると,不安定な酸化銀等の銀化合物の微粒子を主な原料として使用するか,又は高価格な銀ナノ粒子を用いる必要があったという課題に着目し,これを解決するために,2.0μm〜15μmという特定の平均粒径(メジアン径)を有するミクロンオーダーの銀粒子のみを組成物の必須の成分とし,その焼成の雰囲気を酸素,オゾン又は大気雰囲気として,焼成温度を150〜320℃と比較的低い温度としたものである。すなわち,上記課題を解決するためには,安価な材料を単に用意するだけでなく,これを特定の雰囲気及び温度条件で焼成することが必要であり,その組合せによって,上記課題を解決することが可能となる。そして,相違点9-Cと9-4とは相互に関連して,接着剤及び銀化合物を原料として用いずとも,安価な銀粒子を用いて導電性材料を製造できるという効果を奏する(本件明細書【0022】)から,相違点9-Cと相違点9-4は技術的に密接な関係を有するものであり,本件訂正発明9について,引用例2を主引用例としたときの進歩性を検討するにあたっては,これらの相違点相互の関係を考慮する必要がある。 本件訂正発明9は,使用する銀の粒子の寸法の下限を,平均粒径(メジアン径)で2.0μmとするものであり,当該下限は,引用発明2で用いる銀粒子の寸法の上限(トップサイズ)である「500nm」よりも相当に大きい。 引用例2において,トップサイズを500nmとしていることの意義については,「焼結温度が上昇しそれに伴って所望の範囲を超える可能性があるので…この技法の実施限界である。」と説明されているところ(【0027】, )「焼結温度が上昇しそれに伴って所望の範囲を超える」というのは, 「比較的低い温度(例えば300℃程度)」との記載(【0008】)等を考慮すれば, 「300℃を超えること」であると理解される。 よって,引用発明2における銀の粒子のサイズの上限である「500nm」は,300℃を超えない温度で,銀を焼結させることにより相互接続を形成するという引用発明2が成り立つ限界であると理解される 。 相違点9-C及び9-4に係る構成は,平均粒径(メジアン径)が2.0μm〜15μmである,安価に入手可能な大きな銀の粒子を焼成するにあたり,焼成の際の雰囲気を,酸素,オゾン又は大気雰囲気下とすることによって,焼成温度を銀の融点よりも相当に低い150℃〜320℃としても,実用的な導電性材料が得られることを可能にするものである。一方,引用発明2は,300℃以下で焼成できる銀の粒子のトップサイズを500nmと定め,これより大きい粒子の使用を排斥している。したがって,そのような引用発明2に,150℃〜320℃の焼成温度を適用しつつ,平均粒径(メジアン径)が2.0μm〜15μmという,引用発明2の「限界」である500nmよりも有意に大きい銀の粒子を適用することには,阻害要因があるというべきである。 以上のとおり,相違点9-C及び相違点9-4に係る構成は,引用発明2から,又は引用発明2に周知技術を適用しても当業者が容易に想到できるものではない。 〔被告の主張〕 (1) 相違点9-3について 引用例2【0027】には, (粒径が)500nm,すなわち,0.5μmというトップサイズを超えると,焼結温度がはんだの代替例として適当な温度を超える可能性があることが記載されているのであって,かかる大きな銀の粒子は,引用発明2によっては焼結され得ないこととなるとの記載はない。 そして,銀の粒子を含む組成物を加熱して,銀の粒子を融着し,空隙を有する導電性材料を得る点で,引用発明2は本件発明9と一致し,銀の粒子のサイズと関係なく銀の粒子同士の焼結が可能である。 さらに,引用例2の請求項1には, 「500nm以下の粒径の複数の粒子からなる金属または金属合金粉末」と記載されているので,本件発明9で銀の粒子のサイズとして特定する「0.1μm〜15μmの平均粒径(メジアン径)」の範囲に含まれる,「0.1μm〜0.5μmの粒径」の銀の粒子が記載されている。 ところで,粉粒体は必ず大きさの分布を持っていることは,当業者の技術常識であり(乙3),甲43の1にも,粒子径に幅がある粒子の集合体が開示されている。 引用例2の発明者が「粒径0.5μm」の銀粉末を入手すると,その銀粉末は, 「粒径0.5μm」のみの銀粒子からなることはあり得ないから,引用発明2のトップサイズの「粒径500nm,すなわち,0.5μm」は, 「平均粒径0.5μm」であると解される。すなわち,引用例2の発明者が入手可能なトップサイズの「粒径500nm,すなわち,0.5μm」の銀粉末は,粒度分布を有する「平均粒径0.5μm」の銀粉末であり,粒子径は「例えば,平均粒径の1桁下から平均粒径の5倍程度上」まで分布していて,そのような粒径の粒子の集合体で, 「はんだ」の代替例として適当な焼結温度の限界となっているのである。よって,引用発明2のトップサイズの「(平均)粒径0.5μm」は, 「粒径0.5μm」よりも大きい粒子を排斥するものでなく,必然的に含むものであるから,本件発明9において,平均粒径が0.1μm〜0.5μmのものを選択することは,当業者が容易になし得たことである。 (2) 相違点9-4について ア 引用例2には,銅の酸化を防止するために,ナノスケール銀ペーストをスクリーニングし,ステンシル処理し,又は印刷する前に,銅を金又は銀で薄く被覆させること,市販の高性能電子パッケージ内の銅基板が通常は金で被覆されていることの記載があるところ(【0022】,ナノスケール銀ペーストを使用してデバイス )と基板との間の電気的,機械的,又は熱的相互接続を形成する際に,酸素を含有する雰囲気で行うことを意味している。そして,引用発明2の粒子内の好ましい金属は,金に比べて低いコストである点と,通常の雰囲気中で焼成されやすい点とを併せ持っていることから,銀又は銀合金であるとされるところ(【0012】,酸素を )含有する雰囲気で,最も安価であり,専用の配管設備が不要であり,どこでも調達できるのは,空気,大気であるから, 【0012】の「通常の雰囲気中」とは, 「空気中,大気雰囲気中」を意味している。 一方,本件発明9の実施例1(【0085】〜【0088】)では,平均粒径2.0μm〜3.2μmの銀粒子を大気中で加熱して「融着」であるが,比較例1では,窒素中で加熱して「融着せず」である。 引用発明2のナノスケール銀ペーストやマイクロメートルサイズの銀を含むペーストは,ベルトオーブン中での加熱時,及びボックスオーブン/炉内で加熱時の雰囲気が,窒素ガスや酸素不含有ガスであれば,銀粒子が融着,すなわち,焼結しないことになるが,引用例2【0029】,図5a,5bに記載のとおり,ナノスケール銀ペースト,マイクロメートルサイズの銀を含むペーストともによく焼結しており,引用例2表1には,ナノスケール銀ペーストがピーク処理温度280℃で焼結して多孔質の純粋な銀が生成したことが記載されていることから,引用発明2の銀ペースト加熱時の雰囲気は,酸素含有雰囲気ということになる。酸素含有雰囲気で最も安価で,専用の配管設備が不要で,どこでも調達できるのは,空気,大気であるから,空気,大気雰囲気と解すべきである。 イ 原告は,銀粒子と有機材料を含むペーストの焼結を大気雰囲気中で行い得ることが周知といえるには,相当数の文献に記載があることを要すると主張するが,甲20の10,20の7,乙2等にも記載があるので,周知である。 また,甲8技術は,焼結後に接着剤の使用を必須とするものではないことは,前記3において主張したとおりであり,引用発明2との組合せを阻害するものではない。 (3) 本件訂正発明9が引用発明2に基づき容易に想到できることについて 仮に,訂正事項9-2に係る訂正が認められたとしても,以下のとおり,本件訂正発明9は,引用発明2に基づいて容易に想到できたものである。 原告は,相違点9-C,相違点9-4を併せて検討すると主張するが,前者は粒径についての,後者は加熱雰囲気についての相違点であるから,それぞれ別個に検討すべきである。 ア 相違点9-4について 相違点9-4についての主張は,前記(2)のとおりである。 引用発明2では,焼成温度が特定されていないが,引用例2【0023】【002 ,5】【0029】の記載によれば,焼成温度は本件訂正発明9と相違しない。 , イ 相違点9-Cについて 引用発明2は,銀の粒子を含む組成物を加熱して,銀の粒子を融着し,空隙を有する導電性材料を得る点で,本件訂正発明9と一致するところ,これらの発明では,原理上,銀の粒子のサイズと関係なく銀の粒子同士の焼結が可能なことは明らかである。 引用発明2は,ナノサイズ(0.1μm〜0.5μm)の銀粒子が低温で焼結して,良好な電気的特性が得られるという発明であるが,500nm,すなわち,0.5μmよりも大きい銀の粒子が焼結しなくなるとの記載はなく,かかる粒子の焼結も排斥されない。 また,平均粒径(メジアン径)が2.0μm〜15μmの範囲内の銀の粒子を大気中で焼成して焼結させることは,本件特許の優先権主張日前から周知であり(甲20の10・7),上記の範囲内の銀の粒子を採択することは,引用発明2及び周知技術に基づいて当業者が容易に想到できるものである。 本件明細書には,本件訂正発明9における, 「銀の粒子」の平均粒径(メジアン径)の下限値「2.0μm」及び上限値「15μm」という値に臨界的な意義が存在することを示す記載を見いだすことはできない。本件明細書の実施例及び比較例の記載を参酌しても,銀の粒子の平均粒径(メジアン径)が,前記「2.0μm」及び「15μm」という値の前後において,何らかの特性が顕著に変化したことを読み取ることはできない。 そうすると,引用発明2において,銀粒子は,前記「粒径サイズが500nm以下」という特定のもとで,適宜選択し得た設計事項ということができ,さらに,本件訂正発明9における, 「銀の粒子」を, 「2.0μm〜15μmの平均粒径(メジアン径)を有する」こととしたことによる,前記「2.0μm」及び「15μm」に臨界的な意義を認めることもできないから,引用発明2において,銀の粒子の「所定の粒径」として, 「2.0μm〜15μmの平均粒径(メジアン径)を有する」ものとすることは,当業者が適宜なし得たことといえる。 なお,引用発明2には,銀粒子の粒径を特定する指標として, 「メジアン径」が記載されていないが,累積50%粒径(D50)である「メジアン径」は,銀の粒子の粒径を特定する周知の一般的な指標であり,格別の意義を有しないから,平均粒径(メジアン径)の採択は,当業者が容易になし得る単なる限定である。 本件明細書を精査しても,平均粒径(メジアン径)2μm〜15μmの銀粒子が0.5μm以下の銀粒子より効果が顕著に優れているという記載を見出すことができず,平均粒径(メジアン径)2μm〜15μmの銀粒子が0.5μm以下の銀粒子より効果が顕著に優れていることを裏付ける比較例も存在しない。 よって,本件訂正発明9における銀の粒子の平均粒径(メジアン径)が2μm〜15μmという規定は,当業者が容易になし得る単なる限定であり,進歩性を欠如している。 5 取消事由5(請求項10に係る発明についての容易想到性判断の誤り)〔原告の主張〕 (1) 本件発明10と引用発明1との相違点9-2,引用発明2との相違点9-3,9-4に係る構成を当業者が容易に想到できなかったことについては,前記3,4で主張したとおりであるから,相違点10以外の相違点により,本件発明10が進歩性を有するとは認められないとの本件審決の判断には誤りがある。 (2) 本件訂正発明10が引用発明1に基づき容易に想到できないことについて 被告は,仮に訂正事項10-1に係る訂正が認められたとしても,本件訂正発明10は引用発明1に基づき当業者が容易に想到できたものであると主張するが,以下のとおり,容易に想到することはできない。 ア 本件訂正発明10は,訂正前の請求項10を独立請求項の形式に改めたものであり,訂正前の請求項9の特定事項を全て含む。また,本件訂正発明10においては, 「前記銀の粒子の一部を局部的に酸化させることにより」銀の粒子が融着することを特定事項として追加する訂正と銀の粒子の平均粒径の下限を変更する訂正がなされている。したがって,本件訂正発明10と引用発明1とは,相違点9-2,相違点10に加えて,少なくとも以下の点でさらに相違する。 相違点10-A:本件訂正発明10は,銀の粒子の一部を局部的に酸化させることにより,銀の粒子が互いに隣接する部分において融着することが特定されているのに対し,引用発明1ではそのような特定がなされていない点。 相違点10-B: 「銀の粒子」の「所定の粒径」が,本件訂正発明10では, 「2.0μm〜15μmの平均粒径(メジアン径)を有する」と特定されているのに対して,引用発明1では, 「約0.1μm〜約2μmの厚さ,および約3μm〜約100μmの直径」と特定されている点。 イ 相違点10-Aについて 引用発明1は,端部を有する銀フレークを用いて,端部でのみ銀フレークを融合させ,もって熱伝導性材料を形成する方法である。引用例1には,その焼成過程で銀フレークを酸化させることについて,何ら記載されていない。また,引用例1【0013】の「溶媒は金属フレークの融点を下げる働きをすることが好ましい。」との記載によれば,引用発明1では溶媒の蒸発等によりフレークの端部で融点を降下させることによって,銀フレークの端部でのみの融合を可能にしていると解され,銀フレークの一部を局部的に酸化させることによって,銀フレークを焼結させるものではない。 引用例1の表4のうち,硬化プロファイル2で焼結されたロット#1は,CDAなしに硬化されたものではない結果であり,ロット#3は,CDAなしに硬化された結果である。 「†」の符号の有無によって,硬化が互いに異なる条件で行われたものであると理解し,また, 「†」が付されていないものを「CDAあり」で硬化された結果と理解するのであれば, 「CDAなし」は空気を含まない不活性雰囲気であると理解するのが自然である。そして,硬化プロファイル2の結果によれば, 「CDAなし」の硬化結果と「CDAあり」の硬化結果との間には,体積抵抗率において差はあるものの,一方の条件で焼結が生じなかったということはないから,引用発明1の製造方法が,銀フレークを酸化させ得ない雰囲気であるCDA「なし」の雰囲気中でも,銀フレークの焼結を可能とするものであり,銀の粒子の一部の局部的な酸化によって,銀の粒子間を融着させるものではない。 一方,本件訂正発明10は,焼成雰囲気を酸素供給源として用いて,銀の粒子の一部を局部的に酸化させることが必須であり,焼成雰囲気が不活性雰囲気になると,銀の粒子を酸化させることができず,銀の粒子はそもそも融着しない。 このように,本件訂正発明10は,焼成雰囲気を特定のものとし,特定の温度で焼成して,該雰囲気で銀の粒子の一部を局部的に酸化させることにより,銀の粒子間を融着させるのに対し,引用発明1は,銀フレークを酸化し得ない雰囲気中でも,銀の融点よりも低い温度で加熱することにより,銀フレークを焼結させることが可能な方法であるから,両発明は全く異なる製造方法である。 さらに,引用例1【0029】表4のロット#1では,硬化後の体積抵抗率は,より高い温度(280℃)を採用する硬化プロファイル1で処理したものの方が,それよりも低い温度(200℃)を採用する硬化プロファイル2(200℃)より大きくなっているが,本件明細書の参考例においては,得られた導電性材料の抵抗率は焼成温度が上がるにつれて,9.9×10-6Ω・cm(150℃),8.3×10-6 Ω・cm(200℃),4.2×10-6Ω・cm(300℃)と低下する傾向にあり,焼成温度を上昇させたときの抵抗率の変化傾向が全く逆であることも,本件訂正発明10が,引用発明1とは異なることの証左である。 以上のとおり,本件訂正発明10は,銀の粒子を含む第2導電性材料用組成物を,特定の雰囲気中で150℃〜320℃の範囲の温度で焼成して,銀の粒子の一部を局部的に酸化させることにより,銀の粒子間を融着させるのに対し,引用発明1はそのような銀の粒子の酸化によらず,銀フレークを端部でのみ焼結させて,隣接する銀フレークの端部を融合させており,両発明において,その焼成プロセスは全く異なっている。 また,引用例1及び他の証拠には,銀フレークの一部を局部的に酸化させることによって,銀フレークを端部でのみ焼結できるということは記載も示唆もされておらず,引用発明1の焼成プロセスを変えることによって何らかの課題が解決されることも示唆されていないから,引用発明1において銀の粒子の一部を局部的に酸化させる動機はないというべきである。 よって,相違点10-Aに係る構成は,引用発明1から導かれるものではない。 ウ 相違点10-Bについて 相違点10-Bは,当業者が容易に想到し得たものではない。 エ 相違点9-2について 本件訂正発明10に関しても,相違点9-2が容易に想到し得たものでないことは,前記3で主張したとおりである。 (3) 本件訂正発明10が引用発明2に基づき容易に想到できないことについて ア 本件訂正発明10と引用発明2とを対比すると,相違点9-4に加えて,両発明は少なくとも以下の点でさらに相違する。 相違点10-C: 「銀の粒子」の「所定の粒径」が,本件訂正発明10では, 「2.0μm〜15μmの平均粒径(メジアン径)を有する」と特定されているのに対して,引用発明2では,「500nm以下のサイズを有する」と特定されている点。 イ 相違点10-Cは,相違点9-Cと同じであり,相違点9-4は,本件訂正発明9と共通する。これらの相違点が,引用発明2に基づいて,又は引用発明2に周知技術を適用して,当業者が容易に想到できたものではないことは,前記4で主張したとおりである。 〔被告の主張〕 (1) 本件発明10について,相違点9-2,9-3,9-4に係る構成を当業者が想到することが容易であったことについては,前記3,4で主張したとおりであり,本件審決の判断に誤りはない。 (2) 本件訂正発明10が引用発明1に基づき容易に想到できることについて ア 相違点10-Aについて 相違点9-2について検討したとおり,本件訂正発明10と引用発明1は, 「大気雰囲気」で,加熱して,互いに隣接する銀の粒子が融着する点で一致する。よって,「銀の粒子の一部を局部的に酸化させることにより, と本件訂正発明10で特定し 」て,仮に本件訂正発明10でそのような「銀の粒子の一部を局部的に酸化させる」事象が生じるなら,引用発明1,特に実施例1のオーブン中の硬化でも同じ大気雰囲気であるので,そのような「銀の粒子の一部を局部的に酸化させる」事象が生じているはずであり,「銀の粒子の一部を局部的に酸化させることにより,」と特定しても,新たな課題が解決されるものでもなく,新たな作用効果が生じるものでもない。 また,相違点9-2について検討したとおり,引用発明1のオーブン中での加熱雰囲気は大気雰囲気であるから,引用発明1と本件訂正発明10は,加熱雰囲気は大気雰囲気である点で一致し,両者は同じ製造方法である。 焼成温度を上昇させたときの抵抗率も,引用例1【0029】表4のロット#1に示されたプロファイル1と2の差はわずかであり,データも2個のみであるから,誤差範囲の相違というべきである。そして,参考例1ないし3を見ると,抵抗率は,本件訂正発明10と引用発明1とで略同じ値が得られており,変化傾向が異なるものではない。 本件訂正発明10は,銀の粒子を含む第2導電性材料用組成物を,大気雰囲気中で150℃〜320℃の範囲の温度で焼成して,銀の粒子の一部を局部的に酸化させることにより,銀の粒子間を融着させるのに対し,引用発明1は,大気雰囲気中で,銀の粒子を含む組成物を焼成して,銀フレークを隣接する端部でのみ焼結させて,隣接する銀フレークの端部を融合させており,両発明において,その焼成プロセスは全く同じである。両発明は共に焼成雰囲気として,「大気雰囲気」を採択し,本件訂正発明10において,大気雰囲気を選択したことにより,銀の粒子の一部が局部的に酸化されるのであれば,引用発明1においても,銀の粒子の一部が局部的に酸化されるはずである。 イ 相違点10-Bについて 相違点10-Bは,当業者が容易に想到し得たものである。 (3) 本件訂正発明10が引用発明2に基づき容易に想到できることについて 相違点10-Cは,相違点9-Cと同じであり,相違点9-4は,本件訂正発明9と10に共通する相違点であるところ,これらの相違点が,引用発明2に基づき,又は引用発明2に周知技術を適用して,当業者が容易に想到できたものであることは,前記4のとおりである。 6 取消事由6(請求項11に係る発明についての容易想到性判断の誤り)〔原告の主張〕 (1) 本件発明11と引用発明1との相違点9-2,引用発明2との相違点9-3,9-4に係る構成を当業者が容易に想到できなかったことについては,前記3,4のとおりであるから,本件発明11が進歩性を有するとは認められないとの本件審決の判断には誤りがある。 (2) 訂正後の請求項11は,訂正後の請求項10を引用するものであり,本件訂正発明10は,引用例1及び引用例2を主引用例とした場合に,その進歩性が否定されるものではないから,本件訂正発明11は,進歩性欠如を理由に無効とされるものではない。 〔被告の主張〕 (1) 本件発明11について,相違点9-2,9-3,9-4に係る構成を当業者が想到することが容易であったことについては,前記3,4で主張したとおりであり,本件審決の判断に誤りはない。 (2) 訂正後の請求項11は,訂正後の請求項10を引用するものであり,本件訂正発明10が,引用発明1及び2を主引用例とした場合に,その進歩性が否定されることは,前記5で主張したとおりである。 |
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当裁判所の判断
1 本件発明について (1) 本件明細書の記載 本件発明に係る特許請求の範囲は,前記第2の2のとおりであるところ,本件明細書の発明の詳細な説明には,おおむね,以下の記載がある(下記記載中に引用する図1ないし3,表1ないし6は,別紙本件明細書図表目録参照)。 ア 技術分野【0001】本発明は,導電性材料の製造方法,その方法により得られた導電性材料,その導電性材料を含む電子機器,発光装置,発光装置製造方法に関する。 イ 背景技術【0002】従来,銅箔を基板に張り合わせ,エッチングにより銅配線を製造する方法が主流である。しかしながら,この方法ではエッチングをするため,廃液,廃棄物等が大量に生じるという問題があった。 【0003】そこで,エッチングを用いない配線基板としては,粒径がミクロンオーダーの金属(例えば,銀,銅など)粒子と,接着剤(例えば,エポキシ系,アクリル系,シリコーン系など)とを含むペースト状導電性組成物を基板の上に塗布し,150℃〜180℃で加熱して製造する方法が知られている(例えば,非特許文献1参照)。この製造方法によれば,加熱して接着剤が固化する際,導電性ペースト内の金属粒子の間隔が狭まり,その結果金属粒子が密集して電流が流れ,配線が製造される。ただし,この方法では,実用的には得られる電気抵抗値が5×10-5Ωcm程度と高めであり,さらに低い電気抵抗値が望まれていた。 【0004】また,酸化銀等の銀化合物の微粒子を還元性有機溶剤へ分散したペースト状導電性組成物を基板上に塗布し200℃付近で加熱し配線を製造する方法も知られている(例えば,特許文献1参照)。この製造方法によれば,前記組成物を200℃付近で加熱するとペースト中の酸化銀等の銀化合物の微粒子が銀に変化し,その結果,銀粒子が接続されて電流が流れ,配線が製造される。ただし,この製造方法では,酸化銀等の銀化合物の微粒子の定量的還元反応をともなうため還元性有機溶剤と激しく反応し,還元性有機溶剤の分解ガスや銀化合物の還元によって発生する酸素ガス等の大量発生により導電性組成物中に不規則なボイドが形成され応力集中点となり容易に導電性組成物が破壊されやすく,また取り扱い上の危険性があるという問題点があった。これらを解決するためミクロンオーダーの銀粒子を前記組成物へ混在させる方法も知られているが,酸化銀等の銀化合物の微粒子を還元することにより金属接続することを原理とするため程度の差はあれ僅かな改善としかならない。 【0005】また,酸化銀微粒子とこれを還元する還元剤とを含む導電性組成物が知られている(例えば,特許文献2参照)。この導電性組成物も上記と同様に高い反応熱が発生するためガスが発生するという問題点がある。 【0006】炭素原子1〜8の有機化合物が粒子表面に付着されてなる粒子状銀化合物が知られている(例えば,特許文献3参照)。この銀化合物を加熱すると,表面の有機化合物が還元剤として作用し,その結果,粒子状銀化合物を銀に還元することができる。しかしながら,この粒子状銀化合物にも上記と同様に高い反応熱が発生するためガスが発生するという問題点がある。 【0007】銀と,酸化銀と,酸化銀を還元する性質をもった有機化合物とから構成されている導電性ペーストが知られている(例えば,特許文献4参照)。この導電性ペーストも上記と同様に高い反応熱が発生するためガスが発生するという問題点がある。 【0008】酸化銀(I)Ag2Oより成る組成物を加熱処理することにより酸化銀を銀に変換することにより得た,空隙率20〜60%の多孔質であり,かつ質量に対する有機物の含量が20%以下である導電性材料に,さらにめっき処理を施す,導電性材料の作製方法が知られている(例えば,特許文献5参照)。 【0009】また,粒径がミクロンオーダーの低結晶化銀フィラーと銀ナノ粒子とを含むペースト状導電性組成物を基板の上に塗布し,200℃付近で加熱して配線を製造する方法も知られている(例えば,特許文献6参照)。この製造方法によれば,前記組成物を200℃付近で加熱すると銀ナノ粒子が溶融または焼結し,互いに融着して電流が流れ,配線が製造される。ただしこの製造方法では,銀ナノ粒子の値段が高いという問題点があった。 【0010】これら前記の製造方法は,電気抵抗値を下げることが困難となる接着剤を使用するか,還元反応性に富む不安定な酸化銀等の銀化合物の微粒子を主な原料として使用するか,または高価格な銀ナノ粒子を含む導電性組成物を用いる必要があった。 【0011】また,電子部品にこれら従来技術を部品電極,ダイアタッチ接合材,微細バンプ等の接合材料として適用した場合,例えば発光装置ではリードフレーム又はプリント配線基板などの基板に発光素子をマウントするのに使用される。近年の発光素子は,高電流を投入するため接着剤が熱で変色したり,熱および光による樹脂他の有機成分の劣化による電気抵抗値の経時変化が発生したりする問題があった。とりわけ接合を接着剤の接着力に完全に頼る方法では,電子部品のはんだ実装時に接合材料がはんだ溶融温度下に接着力を失い剥離し,不灯に至る致命的問題の懸念があった。 ウ 発明が解決しようとする課題【0012】本発明は,低い電気抵抗値を生じる導電性材料であって,接着剤を含まない安価かつ安定な導電性材料用組成物を用いて得られる導電性材料を製造する方法を提供することを目的とする。 エ 課題を解決するための手段【0013】銀ナノ粒子が低温で融着することは従来,よく知られていたが,ミクロンオーダーの銀粒子が低温で融着することは知られていなかった。本発明者らは,酸化物または酸素等の酸化条件下で低温加熱すると,ミクロンオーダーの銀粒子が融着することを見出し,この知見に基づき本発明を完成した。 【0014】本発明は,導電性材料の製造方法であって,前記方法が,0.1μm〜15μmの平均粒径(メジアン径)を有する銀粒子と,金属酸化物とを含む第1導電性材料用組成物を焼成して,導電性材料を得ることを含むことを特徴とする。 以下,本明細書中,この製造方法を導電性材料の第1の製造方法と呼ぶ。 【0015】また,本発明は,導電性材料の製造方法であって,前記方法が,0.1μm〜15μmの平均粒径(メジアン径)を有する銀粒子を含む第2導電性材料用組成物を,酸素,オゾン又は大気雰囲気下で150℃〜320℃の範囲の温度で焼成して,導電性材料を得ることを含むことを特徴とする。以下,本明細書中,この製造方法を導電性材料の第2の製造方法と呼ぶ。 オ 発明の効果【0016】本発明の製造方法は,低い電気抵抗値を生じる導電性材料を製造することができるという利点がある。また,本発明の製造方法は,接着剤を含まない安価かつ安定な導電性材料用組成物を用いて得られる導電性材料を製造することができるという利点がある。 カ 発明を実施するための最良の形態【0018】本発明者らは,酸化剤である金属酸化物または酸素,オゾンもしくは大気雰囲気下で,0.1μm〜15μmの平均粒径を有する銀粒子を含む組成物を焼成すると,例えば150℃付近の温度であっても銀粒子が融着して,導電性材料を得ることができることを見出した。一方,窒素雰囲気下では,0.1μm〜15μmの平均粒径を有する銀粒子を含む組成物を焼成しても,150℃付近の低温では導電性材料は得られなかった。このような知見に基づき,本発明者らは,本発明,すなわち,酸化剤である金属酸化物または酸素,オゾンもしくは大気雰囲気下で,0.1μm〜15μmの平均粒径を有する銀粒子を含む組成物を焼成する工程を含む,導電性材料を製造する方法を完成した。 【0019】酸化銀等の銀化合物の微粒子と還元性有機溶剤とを用いる,従来の導電性材料を製造する方法によれば,前記のように,高い反応熱が発生するためガスが発生するという問題点があった。一方,本発明の導電性材料を製造する方法によれば,急激な反応熱による分解ガス発生という問題なく導電性材料を製造することができる。 【0020】本発明の導電性材料を製造する方法において,導電性材料が形成されるメカニズムは明確ではないが,以下のように推測できる。酸化剤である酸素,オゾンもしくは大気雰囲気下で,0.1μm〜15μmの平均粒径を有する銀粒子を含む組成物を焼成すると,銀粒子と銀粒子の一部が局部的に酸化され,その酸化により形成した酸化銀が,銀粒子と接触する部分において,酸素を触媒的にやり取りし,酸化還元反応を繰り返す工程を経て,導電性材料が形成されると推測できる。 酸化剤である金属酸化物存在下で,0.1μm〜15μmの平均粒径を有する銀粒子を含む組成物を焼成する場合には,既に含まれている金属酸化物が,銀粒子と接触する部分において,酸素を触媒的にやり取りし,酸化還元反応を繰り返す工程を経て,導電性材料が形成されると推測できる。このような推測メカニズムにより,導電性材料が製造されるため,本発明の導電性材料を製造する方法によれば,接着剤を含む導電性材料用組成物を用いる必要がなく,安価かつ安定な導電性材料用組成物を用いて,低い電気抵抗値を生じる導電性材料を得ることができるのである。 【0044】また,本発明における銀粒子は,比表面積が0.5m2/g〜3m2/gであり,好ましくは0.6m2/g〜2.5m2/gであり,より好ましくは0.6m2/g〜2m2/gである。これにより隣接する銀粒子の接合面積を大きくすることができる。本発明の導電性材料用組成物の主原料である銀粒子の比表面積は,BETの方法により測定することができる。 【0045】本発明における銀粒子の形態は限定されないが,例えば,球状,扁平な形状,多面体等が挙げられる。前記銀粒子の形態は,平均粒径(メジアン径)が所定の範囲内の銀粒子に関して,均等であるのが好ましい。本発明における銀粒子は,平均粒径(メジアン径)が2種類以上のものを混合する場合,それぞれの平均粒径(メジアン径)の銀粒子の形態は,同一であっても異なっていてもよい。例えば,平均粒径(メジアン径)が3μmである銀粒子と平均粒径(メジアン径)が0.3μmである銀粒子の2種類を混合する場合,平均粒径(メジアン径)が0.3μmである銀粒子は球状であり,平均粒径(メジアン径)が3μmである銀粒子は扁平な形状であってもよい。 【0085】 [実施例1]実施例1〜5および比較例1〜5において,混合粒子の示差走査熱量計(DSC)にて発熱挙動を確認した。/具体的には,混合粒子各5mgとり示差走査熱量計(DSC)にて発熱挙動を確認した。DSC測定は,室温から250℃までの範囲を10℃/分で昇温した。250℃において,前記混合粒子を,アルマイト処理を施したアルミ容器へ入れ,その後に嵌合した。測定に用いた雰囲気は,大気中と窒素雰囲気である。…表1中, 「銀」は,平均粒径2.0μm〜3.2μmの銀粒子(福田金属箔粉工業株式会社製,製品名「AgC-239」)を,「酸化銀(I)」は,平均粒径18.5μmの酸化銀(I)(Ag2O)粒子(和光純薬製,製品名「酸化銀(I))を, 」 「酸化銀(II)」は,平均粒径10.6μmの酸化銀(II) (AgO)粒子(和光純薬製,製品名「酸化銀(II))を意味す 」る。 【0088】前記表1に示すように,実施例1および比較例1の結果から,0.1μm〜15μmの平均粒径(メジアン径)を有する銀粒子を含む第2導電性材料組成物を,大気雰囲気下で加熱すると,融着が生じることを確認できた。 【0089】前記表1に示すように,比較例2〜5の結果から,酸化銀(I)粒子のみか酸化銀(II)粒子のみの粒子を窒素雰囲気または大気雰囲気のいずれで加熱しても,融着が生じないことを確認できた。 【0090】前記表1に示すように,実施例2〜5の結果から,銀粒子と酸化銀(I)粒子とを含む混合粒子,および,銀粒子と酸化銀(II)粒子との混合粒子の場合は,発熱量が比較的大きいことが確認できた。この発熱量は,各酸化銀粒子単独を加熱した際に発生する発熱量よりも,重量換算で数十倍以上の大きな発熱であった。このことより,銀粒子と酸化銀粒子とが,接触部で反応していることが確認できた。また酸素が存在しない窒素雰囲気下でも銀粒子と酸化銀粒子とを含む混合粒子を加熱することにより,融着が発生していることが確認できた。すなわち,酸化銀粒子が銀粒子と反応し,酸素供給源となっていることが推測できる。 (2) 前記(1)の記載によれば,本件発明の特徴は,以下のとおりである。 ア 技術分野本件発明は,導電性材料の製造方法に関する(【0001】。 )イ 課題従来,導電性材料は種々知られているが,それらのいずれにも,廃液,廃棄物等が大量に生じるという問題点(【0002】,金属粒子と接着剤とを含むペースト状導 )電性組成物を加熱するものにおいては電気抵抗値が高いという問題点 【0003】 ( ,【0010】,不安定な原料を使用してガスが大量発生するという問題点( ) 【0004】〜【0007】【0010】,又は高価な銀ナノ粒子を用いる必要があるとい , )う問題点(【0009】【0010】 , )があり,これらの導電性材料を接合材料として適用した場合には,接着剤が熱で変色する問題,有機成分の劣化による電気抵抗値の経時変化が発生する問題,又は電子部品のはんだ実装時に接合材料がはんだ溶融温度下に接着力を失い剥離する問題の懸念があった(【0011】。 )そこで,本件発明は,低い電気抵抗値を生じる導電性材料であって,接着剤を含まない安価かつ安定な導電性材料用組成物を用いて得られる導電性材料を製造する方法を提供することを目的とする(【0012】。 )ウ 課題解決手段本件発明は,課題解決手段として,酸化物または酸素等の酸化条件下で低温加熱すると,ミクロンオーダーの銀粒子が融着することを見出したことから,この知見に基づき完成したものである(【0013】【0018】。 , )第2の製造方法は,0.1μm〜15μmの平均粒径(メジアン径)を有する銀粒子を含む第2導電性材料用組成物を,酸素,オゾン又は大気雰囲気下で150℃〜320℃の範囲の温度で焼成して,導電性材料を得ることを含む(【0015】。 )エ 効果本件発明は,低い電気抵抗値を生じる導電性材料を製造することができ,接着剤を含まない安価かつ安定な導電性材料用組成物を用いて導電性材料を製造することができ(【0016】,急激な反応熱による分解ガス発生という問題なく導電性材料 )を製造することができる(【0019】。 )オ 作用機序本件発明において,導電性材料が形成されるメカニズムは明確ではないが,以下のように推測できる。酸化剤である酸素,オゾンもしくは大気雰囲気下で,0.1μm〜15μmの平均粒径を有する銀粒子を含む組成物を焼成すると,銀粒子と銀粒子の一部が局部的に酸化され,その酸化により形成した酸化銀が,銀粒子と接触する部分において,酸素を触媒的にやり取りし,酸化還元反応を繰り返す工程を経て,導電性材料が形成されると推測できる。酸化剤である金属酸化物存在下で,0.1μm〜15μmの平均粒径を有する銀粒子を含む組成物を焼成する場合には,既に含まれている金属酸化物が,銀粒子と接触する部分において,酸素を触媒的にやり取りし,酸化還元反応を繰り返す工程を経て,導電性材料が形成されると推測できる(【0020】。 )実施例2〜5の結果から,銀粒子と酸化銀(I)粒子とを含む混合粒子,及び,銀粒子と酸化銀(II)粒子との混合粒子の場合は,発熱量が比較的大きいことが確認できた。この発熱量は,各酸化銀粒子単独を加熱した際に発生する発熱量よりも,重量換算で数十倍以上の大きな発熱であった。このことより,銀粒子と酸化銀粒子とが,接触部で反応していることが確認できた。また酸素が存在しない窒素雰囲気下でも銀粒子と酸化銀粒子とを含む混合粒子を加熱することにより,融着が発生していることが確認できた。すなわち,酸化銀粒子が銀粒子と反応し,酸素供給源となっていることが推測できる(【0090】。 )カ 本件明細書が開示する実施例1〜36,比較例1〜10及び参考例1〜8(以下,これらを併せて「実施例等」という。 によれば, ) 以下のことが理解できる (【0085】〜【0161】。 ) 銀粒子について実施例等で用いられた銀粒子は,@福田金属箔粉工業株式会社製,製品名「AgC-239」(実施例1〜5,実施例23〜36,比較例1及び比較例6で使用),A福田金属箔粉工業株式会社製,製品名「AgC-224」 (実施例6〜13,実施例22,参考例1,参考例2及び参考例5〜8で使用) B三井金属鉱業株式会社製, ,製品名「FHD」(実施例14〜21,参考例3及び参考例4で使用)である。 AgC-239の粒径は,2.0〜3.2μmであり,AgC-224の粒径は10μmあるいは6.5〜9.0μmであり,FHDの粒径は0.3μmである。 雰囲気について実施例等で用いられた雰囲気は,大気雰囲気,窒素雰囲気及び非酸化雰囲気の3種である。非酸化雰囲気を用いたのは,実施例36,比較例9及び比較例10であるが,その具体的な組成については開示がない。 融着について実施例等のうち,融着が生じなかったものは,比較例1〜5のみである。実施例1〜33,実施例35,実施例36,比較例6〜10及び参考例1〜8は,融着が生じたものと解される。実施例6〜33,実施例35,実施例36,比較例6〜10及び参考例1〜8については,融着が生じたとの明記はないが,加熱後の状態の記述から融着が生じていると認められる。実施例34は,スタンピング安定性の確認にすぎず,加熱を行っていないため,融着の有無を見るための実施例には当たらないと解される。 融着が生じなかった例のうち,比較例1は銀粒子AgC-239(メジアン径2.0〜3.2μm)のみを窒素雰囲気で250℃まで加熱したものであり,比較例2〜5は,銀粒子を含まず,酸化銀(酸化銀(I)又は酸化銀(II))のみを大気雰囲気及び窒素雰囲気で250℃まで加熱したものである。 2 引用発明1について(1) 引用例1には,おおむね,次の記載がある(下記記載中に引用する図は,別紙引用例1図面目録参照)。 ア 技術分野引用発明1は,集積回路パッケージ用の低貯蔵弾性率の電気的伝導性熱界面に関する。【0001】 ( )イ 課題熱放散装置(ヒートシンクなど)を熱放射素子(集積回路など)に取り付けるために使用される熱的または電気的界面として,従来,金属界面(半田,銀,金など)または導電性充填剤を充填したポリマー接着剤が知られていたが,金属界面は低い抵抗を提供するが貯蔵弾性率が高く,大きなICダイには適さないものであり,ポリマー接着剤は非常に低いモジュラスであるが,それらの抵抗はあまりにも高いという欠点があることが知られていた。チップから放射される熱量が多くなると,高い熱的および電気的伝導性とともに低いモジュラスを有する熱界面が必要となる。 また,それらの界面は約200℃以下などの低温で組み立ておよび加工が可能であることが必要である。引用発明1はこの問題の解決を提供する。【0005】 【0 ( 〜007】)ウ 課題解決手段引用発明1は,銀フレークのネットワークを含む,多孔質の,可撓性の,弾性のある熱伝導性材料を提供するものであって,沸点が約200℃以下の揮発性有機溶媒と,端部を有する厚さ約0.1μm〜約2μm,直径約3μm〜100μmの銀フレークとを含む導電性ペーストを形成し,導電性ペーストを銀フレークの融点以下の温度に加熱し,それによって溶媒が蒸発し,フレークがその端部でのみ焼結することにより隣接するフレークがその端部でのみ焼結して融合し,これによって,少なくともいくつかの隣接するフレークの間に開放孔が画定されて銀フレークのネットワークが形成されるものである。【0007】〜【0009】【0012】【0 ( , ,013】)エ 効果前記ネットワーク構造によって,熱伝導性材料は約10GPa未満の低い貯蔵弾性率を有し,一方で良好な電気的抵抗特性を有することが可能になる。 (【0007】)銀フレークは180℃以上で焼結でき,焼結した材料の体積抵抗率は銀充填エポキシ接着剤よりも低く,銀ガラスおよび半田の伝導性に匹敵した。【0037】 ( )オ 実施例銀フレークを有機溶媒と混合して均質なペーストを4種形成した。4種のペーストの銀フレークと溶媒との比率は,ロット#1及び#2では銀フレーク50gm に対して溶媒4mlであり,ロット#3では銀フレーク51gmに対して溶媒4mlであり,ロット#4では銀フレーク45gmに対して溶媒6mlである。【001 (8】【0019】 , )次いで,ガラススライドに2.5インチ(6.35cm)長のテープの紐を平行に100ミル(2.54mm)離して置き,ガラススライドの一方の端に銀ペーストを置き,スライドの面に約30度の角度に保った剃刀の刃を用いて,銀ペースト材料をスライドの他の端に向かって引いて材料をテープ紐の間に絞り出し,テープを取り除いた後,材料をオーブン中で硬化した。使用した硬化プロファイルは4種であり,硬化プロファイル1は,2時間で40℃から280℃に上昇,280℃で1時間保持,1時間で280℃から40℃に降下するものであり,硬化プロファイル2は,2時間で40℃から200℃に上昇,200℃で1時間保持,1時間で200℃から40℃に降下するものであり,硬化プロファイル3は,2時間で40℃から150℃に上昇,150℃で1時間保持,1時間で150℃から40℃に降下するものであり,硬化プロファイル4は,2時間で40℃から180℃に上昇,180℃で1時間保持,1時間で180℃から40℃に降下するものである。【002 (2】〜【0024】)ロット#3の硬化プロファイル2及び硬化プロファイル4並びにロット#4の硬化プロファイル2は,「清浄な乾燥空気(CDA)なしに硬化された」ものであり,ロット#1の硬化プロファイル1及び硬化プロファイル2は, 「清浄な乾燥空気(CDA)なし」ではない状態で硬化されたものである。【0029】 ( ) 表4に示される結果から,材料は硬化プロファイル3では焼結しなかったことが観察される。これは150℃のピーク温度が銀の焼結には低すぎたためである。 (【0028】) (2) 引用発明1の認定 以上によれば,引用例1には,本件審決が認定したとおりの引用発明1(前記第2の3(2)ア)が記載されていることが認められる。 3 引用発明2について (1) 引用例2には,おおむね,次の記載がある。 ア 技術分野 引用発明2は,使用中に高温を発生するデバイスまたは高温適用例で使用されるデバイスを相互接続するのに使用される材料に関し,ダイ接着などの相互接続の製作中,高圧をかける必要性を低下させまたは除去する製作方法に関する。【000 (1】) イ 従来技術の問題点 半導体チップを基板に固定または取着するために,従来は,はんだ合金,あるいはエポキシなどの導電性ポリマー接着剤が使用される。しかし,これらの材料は熱的性質に乏しく,チップから発生した熱を放散しない。また,電気的性質にも乏しく,電力の損失を効果的に減少させることができず,機械的強度および信頼性に対する堅牢さにも乏しい。さらに,はんだ合金の低融解温度およびエポキシの低分解温度のため,これらの材料は一般に,SiCまたはGaNチップなどのいくつかのチップを高温で機能させるのに適していない。【0002】 ( ) また,マイクロスケールの金属粉末ペーストの焼結は,高処理温度(>600℃)であることが,電子部品を基板と接合する際のその使用を妨げている。一方,低い焼成温度では,アセンブリに高圧をかけるが,圧力をかけることにより,製造の難しさが増すと共に,それに対応して生産コストも増加し,処理中のデバイスに損傷を与える可能性も高くなるので,望ましくない。【0003】【0005】 ( , )ウ 構成500nm程度またはそれ未満(例えば1〜100nm)の銀のナノ粉末を使用することによって,稠密化した金属相互接続を,比較的低い温度(例えば300℃程度)での焼結によりかつ低い圧力しか必要とせずにまたは圧力を全く必要とせずに確立できる。ナノ粉末は,好ましくは分散剤と一緒に,好ましくは所望の焼結温度よりも低い揮発温度を有するポリマー結合剤と組み合わせることができる。【0 (006】〜【0008】)エ 効果引用発明2の微細な粉末およびその組成物で形成された接合の熱的,電機的,および機械的性質は,伝統的な鉛または鉛フリーのはんだ,エポキシ材料,さらにミクロンサイズの粉末(低温で焼結した)よりもはるかに優れている。【0006】 ( )ナノスケール範囲の金属粒子を使用することによって,結合温度(すなわち,焼結温度)を低下させ,かつ高印加圧力の必要性を除去しまたは低下させることが可能である。本発明のナノ粉末は,既知の技法を使用して調製することができ,またはミクロンサイズの粉末の場合に匹敵する価格で直接購入することができる。【0 (007】)700℃または800℃よりも高い温度で融解するような銀粉末および銀合金の場合,例えばSiCまたはGaNパワーチップなど,高温で動作することのできる半導体チップを取着するのに適している。すなわち,はんだならびに導電性エポキシの場合のように,相互接続が融解する危険を冒すことなく,高温で動作することのできる稠密な導電性金属相互接続が実現される。【0008】 ( )(2) 引用発明2の認定以上によれば,引用例2には,本件審決が認定したとおりの引用発明2(前記第2の3(3)ア)が記載されていることが認められる。 4 取消事由1(訂正事項9-2の判断の誤り)について(1) 特許請求の範囲の減縮についてア 訂正事項9-2は,本件訂正前の請求項9における「前記銀の粒子が互いに隣接する部分において融着し,」を,「前記銀の粒子が互いに隣接する部分において融着し(但し,銀フレークがその端部でのみ融着している場合を除く)」とするも ,のである。したがって,本件訂正前の請求項9においては, 「銀の粒子」の形状に限定がなく,融着の態様は, 互いに隣接する部分において融着」 「 とされていたところ,本件訂正後の請求項9においては,訂正事項9-2により, 「但し,銀フレークがその端部でのみ融着している場合を除く」と付加されたことにより, 「銀の粒子」の形状が「銀フレーク」で,その融着箇所が「その端部でのみ融着している」との態様のものが除かれている。 広辞苑第6版によれば, 「フレーク」とは, 「薄片」,すなわち, 「うすい切れ端。うすいかけら」を意味し, 「端」とは,物の末の部分,先端,中心から遠い,外に近い所,へり,ふちを意味するとされるから(甲52)「銀フレークがその端部でのみ ,融着している場合を除く」ことにより,少なくとも,銀フレーク,すなわち銀の薄片が,そのへりの部分でのみ融着する態様のものは除外されることになり,本件訂正後の請求項9は,本件訂正前の請求項9よりも,その範囲が減縮されるというべきである。 イ 被告は,本件明細書において, 「銀フレーク」の厚さ及び形状が特定されていないことから,「銀フレーク」の概念は不明確であり,「端部」についても,その定義が明確でなく, 「銀フレーク」の「端部」として特定される領域が, 「銀フレーク」の表面のどこに当たるのか一義的に特定することができないから,訂正事項9-2は不明確であると主張する。 しかし,銀フレークの厚さ及び形状が具体的に特定されていなくても,「薄片」,「うすいかけら」を観念することは可能であり,また, 「端部」の領域が定量的に示されていなくても,「中心から遠い,外に近い」部分,「へり」の部分を観念することは可能であるから,訂正事項9-2によって除かれる対象となる構成が特定されていないとはいえず,被告の主張は採用できない。 (2) 小括以上によれば,訂正事項9-2は,特許請求の範囲の減縮に該当するというべきであり,特許法134条の2第1項に適合しないとして請求項9に係る訂正を認めなかった本件審決には,誤りがある。 5 取消事由2(訂正事項10-1の判断の誤り)について(1) 新規事項の追加についてア 本件訂正発明10においては, 「前記銀の粒子の一部を局部的に酸化させることにより」銀の粒子が融着することを付加する訂正がされているところ,本件審決は,本件訂正発明10における「融着」が, 「前記銀の粒子の一部を局部的に酸化させること」に起因して生じるものであることを明示する記載が,願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面にはないと判断した。 イ 本件明細書【0020】には, 本発明の導電性材料を製造する方法において, 「導電性材料が形成されるメカニズムは明確ではないが,以下のように推測できる。, 」「酸化剤である酸素,オゾンもしくは大気雰囲気下で,0.1μm〜15μmの平均粒径を有する銀粒子を含む組成物を焼成すると,銀粒子と銀粒子の一部が局部的に酸化され,その酸化により形成した酸化銀が,銀粒子と接触する部分において,酸素を触媒的にやり取りし,酸化還元反応を繰り返す工程を経て,導電性材料が形成されると推測できる。, 」「酸化剤である金属酸化物存在下で,0.1μm〜15μmの平均粒径を有する銀粒子を含む組成物を焼成する場合には,既に含まれている金属酸化物が,銀粒子と接触する部分において,酸素を触媒的にやり取りし,酸化還元反応を繰り返す工程を経て,導電性材料が形成されると推測できる。」との記載があり, 「酸化剤である酸素,オゾンもしくは大気雰囲気下」「酸化剤である金属酸 ,化物存在下」という2つの状況において,いずれも金属酸化物(酸化銀を含む)が銀粒子と接触する部分において,酸素を触媒的にやり取りし,酸化還元反応を繰り返す工程を経て,融着が生じるとの作用機序が推測できることを開示している。 【0020】では, 「銀粒子を含む組成物」を焼成の対象としており,沸点300℃以下の有機溶剤又は水を更に含む組成物が排除されることの記載も示唆もないこと,「本発明において,前記第2導電性材料用組成物は,沸点300℃以下の有機溶剤または水を更に含んでもよい。( 」【0049】)との記載があることからすれば, 【0020】の作用機序は,第2導電性材料用組成物が,沸点300℃以下の有機溶剤又は水を更に含む場合にも妥当すると解釈するのが自然である。 また,本件明細書には,実施例34として,銀粒子(福田金属箔粉工業株式会社製,製品名「AgC-239」,2.5g)と,沸点が300℃以下の243℃である2-エチル-1,3-ヘキサンジオール(0.44g)を含む第2導電性材料用組成物を得て,この組成物をスタンピング法でAg/Niメッキにてパターニングした発光装置用酸化アルミニウム基板上へ塗布し,実施例35では,実施例34で作製した第2導電性材料用組成物を接合塗料として用いて発光素子をマウントした基板において,有機溶剤の沸点である243℃よりも低い200℃で,大気雰囲気下で1時間加熱することにより,接合材料中の粒子の融着が確認できたことが開示されているところ(【0138】〜【0140】,有機溶剤を含んだ第2導電性材料 )用組成物を200℃で大気雰囲気下において加熱することにより銀の粒子が融着するとの実施例について, 0020】 【 の作用機序が妥当しないと見るべき根拠はない。 ウ そうすると,本件訂正発明10における「融着」が「前記銀の粒子の一部を局部的に酸化させること」に起因して生じるものであることを明示する記載は,願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面にないとはいえないから,訂正事項10-1は,新規事項の追加には当たらない。 (2) 特許請求の範囲の変更についてア 本件審決は,本件発明10は,値段が高い銀ナノ粒子を使用することなく導電性材料を得ることを目的とした発明であるのに対し,本件訂正発明10は,大量の酸素ガスや大量の還元性有機化合物の分解ガスを発生させることなく,導電性材料を得ることを目的とするものであり,本件訂正発明10が達成しようとする目的及び効果は,訂正事項10-1による訂正で変更されたと認められるから,訂正の前後における発明の同一性は失われており,訂正事項10-1は,実質上特許請求の範囲を変更するものであると判断した。 イ しかし,本件明細書には,従来技術において,酸化銀等の銀化合物の微粒子を還元性有機溶剤へ分散したペースト状導電性組成物を基板上に塗布して加熱し配線を製造する方法が知られていたが,ミクロンオーダーの銀粒子を使用した場合,高い反応熱によりガスが大量発生し,不規則なボイドが形成されて導電性組成物が破壊されやすくなったり,取扱上の危険性があるという問題点があり(【0004】〜【0007】【0010】,銀ナノ粒子を含む導電性組成物を用いると,銀ナノ , )粒子の値段が高いという問題点があったこと(【0009】【0010】 , )が記載されており,本件発明は,安価かつ安定な導電性材料用組成物を用いて得られる導電性材料を製造する方法を提供することを目的とするとの記載があるのであるから(【0012】,本件発明の目的は,従来技術においてミクロンオーダーの銀粒子を )使用する際にガスが大量発生することによる問題を解消するとともに,値段が高い銀ナノ粒子を使用することなく,導電性材料を製造することにあると認められる。 そして,本件発明10においては,その目的を, 「銀の粒子が,0.1μm〜15μmの平均粒径(メジアン径)を有する銀の粒子からなる」という構成,及び「第2導電性材料用組成物を,酸素,オゾン又は大気雰囲気下で150℃〜320℃の範囲の温度で焼成して,前記銀の粒子が互いに隣接する部分において融着し」という構成を備えることによって達成している。 他方,本件訂正発明10は,大量のガスを発生させることなく導電性材料を得るという目的を達成するため, 「前記銀の粒子の一部を局部的に酸化させることにより,前記銀の粒子が互いに隣接する部分において融着し」という構成を備えている上,銀の粒子が,0.1μm〜15μmの平均粒径(メジアン径)を有するものから,2.0μm〜15μmの平均粒径(メジアン径)を有するものに訂正されたことにより,訂正前に比べて銀の粒子径がより大となっており,値段が高い銀ナノ粒子を使用することなく導電性材料を得るという目的及び効果について,より限定されたものとなっている。 ウ したがって,訂正事項10-1による訂正は,本件発明10が達成しようとする目的及び効果を変更するものではない。 (3) 小括よって,訂正事項10-1が特許法134条の2第9項で準用する126条5項及び6項に適合しないとして請求項10に係る訂正を認めなかった本件審決の判断には,誤りがある。 6 取消事由3(請求項9に係る発明の引用発明1に基づく容易想到性判断の誤り)について(1) 被告は,請求項9に係る訂正が認められる場合でも,本件訂正発明9は引用発明1に基づき容易に想到できる旨主張し,原告の反論も尽くされているので,進んで,本件訂正発明9の容易想到性について判断する。 (2) 本件訂正発明9と引用発明1との相違点本件訂正発明9と引用発明1とは,本件審決が認定した本件発明9と引用発明1との相違点9-2に加えて,少なくとも以下の点でさらに相違することが認められる。 相違点9-A:本件訂正発明9では,第2導電性材料用組成物の焼成により,銀の粒子が互いに隣接する部分において融着するが,銀フレークがその端部でのみ融着している場合を除くものであると特定されているのに対し,引用発明1では金属フレークをその端部でのみ焼結して,隣接する金属フレークの端部を融合すると特定されている点。 相違点9-B: 「銀の粒子」の「所定の粒径」が,本件訂正発明9では, 「2.0μm〜15μmの平均粒径(メジアン径)を有する」と特定されているのに対して,引用発明1では, 「約0.1μm〜約2μmの厚さ,および約3μm〜約100μmの直径」と特定されている点。 (3) 相違点9-Aについて引用発明1のフレークは, 「好ましくは約0.1μm〜約2μm,より好ましくは約0.1μm〜約1μm,最も好ましくは約0.1μm〜約0.3μmの厚さを有」し, 「好ましくは約3μm〜約100μm,より好ましくは約20μm〜約100μm,最も好ましくは約50μm〜約100μmの直径を有する」 (引用例1【0012】)薄片状の粒子である。また, 「端部」とは, 「最も好ましい実施形態では,各フレークはフレークの中心よりも薄い端部を有する」との記載(【0012】)のとおり, 「中心」と対比して特定される部分であり,フレークのへりを意味する。そして,引用発明1は,かかる端部を有する銀フレークを用い, 「その端部でのみ焼結するように加熱」して「隣接するフレークの端部で融合」して(【0014】,熱伝導性材 )料を形成する方法である。 これに対し,本件訂正発明9における銀粒子の形態は, 限定されないが, 「 例えば,球状,扁平な形状,多面体等が挙げられる」(本件明細書【0045】)とあり,球状,多面体等,特定の形態に限られない任意の形態の銀粒子が用いられ,かかる銀粒子を「酸化銀が,銀粒子と接触する部分」「金属酸化物が,銀粒子と接触する部 ,分」【0020】, ( )「銀粒子が互いに隣接する部分」【0021】 【0022】 ( , )において融着させて,導電性材料を製造する方法である。したがって,本件訂正発明9においては,銀の粒子としてフレーク状のものを用いた場合でも,フレークの端部同士が隣接する部分に限らず,それ以外のフレークが互いに隣接する部分,例えばフレークの中心同士,又はフレークの端部とフレークの中心との間でも融着が生じて,導電性材料が形成される上, 「その端部でのみ融着している場合」は除かれているのであるから,フレークの端部のみが融合した導電性材料は得られない。このように,本件訂正発明9では,引用発明1とは得られる導電性材料が異なっており,引用発明1の製造方法は,本件訂正発明9の「前記銀の粒子が互いに隣接する部分において融着し(但し,銀フレークがその端部でのみ融着している場合を除く),それにより発生する空隙を有する導電性材料を得る方法」とは異なることが明らかである。 そして,引用例1は,銀フレークを端部でのみ焼結させて,端部を融合させる方法を開示するにとどまり,焼成の際の雰囲気やその他の条件を選択することによって,銀の粒子の融着する部位がその端部以外の部分であり,端部でのみ融着する場合は除外された導電性材料が得られることを当業者に示唆するものではないから,引用発明1に基づいて,相違点9-Aに係る構成を想到することはできない。 (4) 小括よって,その余の点について判断するまでもなく,本件訂正発明9は,当業者が,引用発明1に基づき容易に想到できるということはできない。 7 取消事由4(請求項9に係る発明の引用発明2に基づく容易想到性判断の誤り)について(1) 被告は,本件訂正発明9が引用発明2に基づき容易に想到できる旨主張する。 (2) 本件訂正発明9と引用発明2との相違点本件訂正発明9と引用発明2とは,本件審決が認定した本件発明9と引用発明2との相違点9-4に加えて,少なくとも以下の点でさらに相違することが認められる。 相違点9-C: 「銀の粒子」の「所定の粒径」が,本件訂正発明9では, 「2.0μm〜15μmの平均粒径(メジアン径)を有する」と特定されているのに対して,引用発明2では,「500nm以下のサイズを有する」と特定されている点。 (3) 相違点9-4についてア 本件審決は,引用発明2は, 「銀」を, 「通常の雰囲気中で焼成され易い点を併せ持っており」との理由で選択しているのであるから,引用発明2の焼結が「通常の雰囲気中」で行われることが,大気雰囲気中の焼結であることを前提としていることは明らかである旨判断した。 しかし,引用例2には, 「通常の雰囲気中で焼成され易い点を併せ持っている」との記載がある(【0012】)ものの, 「通常の雰囲気」が何であるかは示されておらず, 「通常の雰囲気」が大気雰囲気であることが技術常識であるとも認められないから,引用発明2から相違点9-4に係る「酸素,オゾン又は大気雰囲気」との構成を想到することはできない。 イ また,本件審決は, 「通常の雰囲気」が,大気雰囲気中で焼結することを表していると直ちに理解することができない場合においても,甲8技術を前提とすれば,引用発明2の焼結を大気雰囲気中で行うことは当業者が容易になし得たと判断した。 甲8文献には,2つの工作物の間(IGBTs,MOS-FETs,ダイオード,サイリスタ等の出力構造素子と,冷却体を有している担持体との間)の熱伝導性接着剤継目及び2つの工作物の間の熱伝導性接着剤継目の製造法(【0001】【00 ,02】【0040】 , )との技術分野において,熱伝導性粉末が混合されている,接着剤からなる層を有する継目よりも高い熱伝導率を有する,2つの工作物の間の熱伝導性接着剤継目を提供するため(【0027】,有機液体と微粒状銀粉末とを含むペ )ースト5を100℃〜250℃,有利に150℃〜250℃の低い温度で加熱することによって,空隙32がスポンジ状に散在する銀粉末からなる焼結された層3が形成されること(【0041】【0043】【0048】【0055】【0056】 , , , , ,【0059】【0060】 【0067】【0077】【0078】,工作物1と2 , , , , )との間に配置された焼結された層3の平面状表面31上の開口33は,液状エポキシ樹脂のような硬化可能な液状接着剤で充填され,できるだけ全ての空隙32及び開口33が接着剤で充填されるまで実施されること(【0071】〜【0073】, )銀を250℃未満で焼結させるためには,酸化雰囲気は避けられないこと(【0081】,銀粉末は,O2含有雰囲気中,例えば空気中で150℃からの低い温度で焼結 )を開始することが確認されたこと(【0082】)等が記載されている。よって,甲8技術の焼結温度は,100℃〜250℃,有利に150℃〜250℃である。 これに対し,引用発明2は,500nm程度又はそれ未満(最も好ましくは100nm未満)の銀のナノ粉末を使用することによって,稠密化した金属相互接続を,比較的低い温度(例えば300℃程度)での焼結によりかつ低い圧力しか必要とせずに又は圧力を全く必要とせずに確立できる(【0006】〜【0008】)というものであること,引用例2には,銀粒子のサイズが100nm未満のナノスケール銀ペーストの場合には,100℃程度で稠密化を開始することができるものの,望ましい温度範囲ではないこと(【0026】,多くの適用例では焼結温度が少なくと )も250℃であること(【0023】)の記載があることからすると,引用発明2の焼結温度は,最低でも250℃,望ましくは300℃であると認められる。 このように,甲8技術の焼結温度は,100℃〜250℃,有利に150℃〜250℃とされる(【0077】)のであり,引用発明2の焼結温度は甲8技術よりも高い温度範囲を想定しているから,引用発明2に対して,甲8技術の焼結条件を適用する動機付けは存在しない。 かえって,引用例2は,従来技術であるエポキシ樹脂が低分解温度であるため,SiC又はGaNチップなどのいくつかのチップを高温で機能させるのに適していないとの問題点(【0002】)を挙げた上で,導電性エポキシの場合のように,相互接続が融解する危険を冒すことなく,高温で動作することのできる稠密な導電性金属相互接続が実現される(【0008】)という効果を奏するとしているのであるから,引用発明2は,エポキシ樹脂の分解温度よりも高い温度での使用を想定していると認められるのに対し,甲8技術は,焼結の後にエポキシ樹脂を吸い込ませる工程を有するものであるから(【0071】〜【0073】,引用発明2に対して甲 )8技術を適用することには,阻害要因があるというべきである。 そうすると,当業者が,引用発明2に甲8技術を適用して,相違点9-4に係る構成を想到することもできない。 ウ 以上によれば,引用発明2に基づいて,又は引用発明2と甲8技術に基づいて,相違点9-4に係る構成を容易に想到することはできない。 (4) 小括よって,本件訂正発明9は,当業者が,引用発明2を主引用例として容易に想到できるとはいえない。 8 取消事由5(請求項10に係る発明についての容易想到性判断の誤り)について (1) 引用発明1に基づく容易想到性について ア 被告は,請求項10に係る訂正が認められる場合でも,本件訂正発明10は引用発明1に基づき容易に想到できる旨主張し,原告の反論も尽くされているので,進んで本件訂正発明10の容易想到性について判断する。 イ 本件訂正発明10と引用発明1との相違点 本件訂正発明10と引用発明1との相違点は,本件審決が認定した本件発明10と引用発明1との相違点9-2,相違点10に加えて,少なくとも以下の点である。 相違点10-A:本件訂正発明10は,銀の粒子の一部を局部的に酸化させることにより,銀の粒子が互いに隣接する部分において融着することが特定されているのに対し,引用発明1ではそのような特定がなされていない点。 相違点10-B: 「銀の粒子」の「所定の粒径」が,本件訂正発明10では, 「2.0μm〜15μmの平均粒径(メジアン径)を有する」と特定されているのに対して,引用発明1では, 「約0.1μm〜約2μmの厚さ,および約3μm〜約100μmの直径」と特定されている点。 ウ 相違点10-Aについて 前記2(2)のとおり,引用発明1は,端部を有する銀フレークを用いて,端部でのみ銀フレークを融合させ,もって熱伝導性材料を形成する方法である。 引用例1には,銀フレークの融合について, 「導電性ペーストを金属フレークの融点以下の温度に加熱し,それによって溶媒を蒸発し,フレークをその端部でのみ焼結し,したがって少なくともいくつかの隣接するフレークの間に開放孔が画定されるように隣接するフレークの端部を融合させ,それによって金属フレークのネットワークを形成することを含む,多孔質の,可撓性の,弾性のある熱伝導性材料を形成する方法を提供する。」との記載(【0009】)があり,溶媒の蒸発等によりフレークの端部で融点を降下させることによって,銀フレークの端部でのみの融合を可能にしていることが開示されている一方,焼成過程で銀フレークを酸化させることについての記載はなく,銀フレークの一部を局部的に酸化させることによって,銀フレークを焼結させることの開示があるとはいえない。 引用例1の表4のうち,硬化プロファイル2で焼結されたロット#3には「†」の符号が付されているところ,同表のキャプションによれば,かかる符号の付されたものは, 「サンプルが清浄な乾燥空気(CDA)なしに硬化された結果である。」とあるから,CDAなしに硬化された結果であると認められるところ,これについても焼結して硬化している(【0028】)のであるから,引用発明1の製造方法は,銀フレークを酸化させ得ない雰囲気であるCDAなしの雰囲気中でも,銀フレークの焼結を可能とするものであると認められる。 したがって,引用発明1は,銀の粒子の一部の局部的な酸化によって,銀の粒子間を融着させるものではない。 そして,引用例1には,銀フレークの一部を局部的に酸化させることによって,銀フレークを端部でのみ焼結できるということは記載も示唆もされておらず,引用発明1の焼成プロセスを変えることによって何らかの課題が解決されることも示唆されていないから,引用発明1において銀の粒子の一部を局部的に酸化させる動機付けはない。 エ よって,本件訂正発明10は,当業者が,引用発明1を主引用例として容易に想到できるとはいえない。 (2) 引用発明2に基づく容易想到性について 被告は,さらに,本件訂正発明10が引用発明2に基づき容易に想到できると主張するが,本件訂正発明10は,請求項9を引用する請求項10の記載を,請求項9を引用しない形式に改めたものであり,本件訂正発明9と引用発明2との相違点9-4は,本件訂正発明10と引用発明2との相違点でもあるところ,当業者が,相違点9-4に係る構成を容易に想到できたものではないことは,前記7(3)のとおりである。 (3) 小括 以上の検討によれば,本件訂正発明10は,引用発明1に基づき又は引用発明2に基づき容易に想到できたものとはいえない。 9 取消事由6(請求項11に係る発明についての容易想到性判断の誤り)について 訂正後の請求項11は,訂正後の請求項10を引用するものであり,したがって,本件訂正発明11は,本件訂正発明10で特定される事項を全て含むものである。 本件訂正発明10が,引用例1及び引用例2を主引用例とした場合に,その進歩性が否定されるものではないことは前記8のとおりであるから,本件訂正発明11も同様である。 10 結論 以上の次第で,本件審決を取り消すこととし,主文のとおり判決する。 |
裁判長裁判官 | 部眞規子 |
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裁判官 | 古河謙一 |
裁判官 | 関根澄子 |