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関連審決 無効2015-800062
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事件 平成 28年 (行ケ) 10183号 審決取消請求事件

原告 X1
原告 X2
被告ソニー株式会社
同訴訟代理人弁理士 杉浦正知 杉浦拓真
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2017/10/03
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1 原告らの請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。
事実及び理由
請求
特許庁が無効2015-800062号事件について平成28年6月29日にした審決を取り消す。
事案の概要
1 特許庁における手続の経緯等 ? 被告は,平成18年3月16日,発明の名称を「負極,二次電池」とする特許出願をし,平成25年4月19日,設定の登録(特許第5245201号)を受けた(請求項の数2。以下,この特許を「本件特許」という。)。
? 原告らは,平成27年3月16日,本件特許について特許無効審判請求をし, 1 無効2015-800062号事件として係属した。
? 特許庁は,平成28年6月29日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との別紙審決書(写し)記載の審決(以下「本件審決」という。)をし,その謄本は,同年7月7日,原告らに送達された。
? 原告らは,平成28年8月8日,本件審決の取消しを求める本件訴訟を提起した。
2 特許請求の範囲の記載 本件特許の特許請求の範囲請求項1及び2の記載は,次のとおりである。以下,請求項1に係る発明を「本件発明1」,請求項2に係る発明を「本件発明2」,両発明を併せて「本件各発明」という。また,本件特許の明細書(甲13)を,図面を含めて「本件明細書」という。なお,「/」は,原文の改行部分を示す(以下同じ。)。
【請求項1】負極集電体と負極活物質とから構成され,/前記負極活物質が,ホストである黒鉛の層間に,リチウムと合金化可能な金属の微粒子からなる金属層がゲストとしてインターカレートされた,黒鉛層間化合物から成り,/前記金属が,Sn,Si,Pb,Al,Gaから選択される金属である/負極。
【請求項2】正極及び負極と共に電解質を備え,/前記負極が負極集電体と負極活物質とから構成され,/前記負極活物質が,ホストである黒鉛の層間に,リチウムと合金化可能な金属の微粒子からなる金属層がゲストとしてインターカレートされた,黒鉛層間化合物から成り,/前記金属が,Sn,Si,Pb,Al,Gaから選択される金属である/二次電池。
3 本件審決の理由の要旨 ? 本件審決の理由は,別紙審決書(写し)のとおりである。要するに,本件各発明は,下記アの引用例1に記載された発明(以下「引用発明1」という。),下記イの引用例2に記載された発明(以下「引用発明2」という。),黒鉛層間化合物に関する周知技術及び周知慣用技術に基づいて,当業者が容易に発明をすること 2 ができたものであるとはいえない,などというものである。
ア 引用例1:特開平9-249407号公報(甲1) イ 引用例2:特開2005-71678号公報(甲2) ? 本件審決が認定した引用発明1,本件各発明と引用発明1との一致点及び相違点は,次のとおりである。
ア 引用発明1 黒鉛粒子,元素微粒子,及び,黒鉛粒子と元素微粒子との層間化合物とが微細に分散したリチウム二次電池の負極材料用黒鉛複合物であって,/前記元素微粒子としての元素は,リチウムと合金を形成する金属又は非金属であり,前記金属は,Al,Sn,Pb,Cd,Ag,Au,Ba,Be,Bi,Ca,Cr,Cu,K,Mn,Mo,Nb,Ni,Na,Pd,Ru,Te,Ti,Pt,Pu,Rb,Zr,Zn,Se,Sr,Sb,Tl又はVであり,前記非金属は,Si,Ge又はSである/リチウム二次電池の負極材料用黒鉛複合物。
イ 本件各発明と引用発明1との一致点 ホストである黒鉛の層間に,リチウムと合金化可能な金属の微粒子がゲストとしてインターカレートされ,/前記金属が,Sn,Si,Pb,Al,Gaから選択される金属である/黒鉛層間化合物。
ウ 本件各発明と引用発明1との相違点(ア) 相違点1 ホストである黒鉛の層間にゲストとしてインターカレートされている金属の微粒子が,本件各発明は金属層であるのに対し,引用発明1は金属層であるか不明である点。
(イ) 相違点2 本件各発明は,負極活物質が,ホストである黒鉛の層間に,リチウムと合金化可能な金属の微粒子がゲストとしてインターカレートされた,黒鉛層間化合物から成るのに対し,引用発明1は,負極活物質として機能するリチウム二次電池の負極材 3 料用黒鉛複合物が,黒鉛粒子,元素微粒子,及び,黒鉛粒子と元素微粒子との層間化合物からなる点。
(ウ) 相違点3 本件各発明は,負極集電体と負極活物質とから構成される負極であるのに対し,引用発明1は,リチウム二次電池の負極材料用黒鉛複合物である点。
4 取消事由 本件各発明の進歩性に係る判断の誤り ? 引用発明1及び相違点の認定の誤り ? 相違点に係る容易想到性の判断の誤り
当事者の主張
1 引用発明1及び相違点の認定の誤りについて 〔原告らの主張〕 ? 本件出願前における周知技術等 本件出願前において,以下のことについては,技術常識ないし周知技術であった(これらを併せて,以下「原告ら主張の周知技術」と総称する)。
@ 黒鉛が,その層間に多種多様なゲストをインターカレートした黒鉛層間化合物を形成すること(技術常識) A 黒鉛の層間にインターカレートされたゲストの層が金属の微粒子である黒鉛層間化合物(周知技術) B 黒鉛層間化合物が,リチウムイオン二次電池の負極活物質として使用可能であること(技術常識,周知技術) C 金属の微粒子をゲストとしてインターカレートした黒鉛層間化合物の作製方法として,ハロゲン化物還元法(特に塩化物還元法)があること(周知技術) D 黒鉛層間化合物が,インターカレートされるゲストの量に応じてステージ構造を形成すること(技術常識,周知技術) ? 引用発明1の認定 4 引用例1にどのような発明が実質的に記載されているかを認定するに際しては,引用例1の記載を表面的,外形的に認定するのではなく,原告ら主張の周知技術を踏まえて行うべきである。原告ら主張の周知技術についての知識を備えた当業者が,引用例1の記載(【0027】,【0028】,【0032】〜【0035】,実施例3)に接すれば,以下の発明(以下「原告ら主張の引用発明1」という。)が実質的に記載されていると理解する。
「リチウムイオン二次電池の負極活物質として使用可能であることが技術常識・周知であった黒鉛層間化合物について,その層間にインターカレートするゲストを「リチウム金属の微粒子」とした新たな負極活物質の発明,並びに,当該新たな活物質を含有する負極及び二次電池の発明」 なお,黒鉛層間化合物とは,黒鉛の層間(黒鉛面内)に,元素,化合物等がゲストとしてインターカレートされている黒鉛化合物一般を指すものであり,ゲストが金属であれば金属層と観念し,黒鉛の面内空間に存在するゲストが当該空間を埋め尽くしていなくとも,当該層を金属層と観念する妨げにはならない。また,原告ら主張の周知技術(前記?C)を踏まえて,引用例1の【請求項5】 【請求項11】 , ,【0003】,(実施例3)等を読めば,引用例1が,黒鉛層間化合物の新たな製造方法として,黒鉛粒子と元素微粒子とを少なくとも2G以上の粉砕加速度で粉砕混合する方法(以下「粉砕法」という。)を提供しようとしていることは,明白である。
? 本件各発明と引用発明との相違点 原告ら主張の引用発明1を前提とすると,同発明と本件各発明との相違点は,以下のとおり認定されるべきである。
ア 相違点A 負極を構成する負極活物質である黒鉛層間化合物について,その層間にインターカレートされたゲストが,本件各発明では「リチウムと合金化可能な金属」である「Sn,Si,Pb,Al,Gaから選択される金属」の微粒子であるのに対し, 5 原告ら主張の引用発明1では「リチウム金属」の微粒子である点 イ 相違点B 黒鉛層間化合物のインターカレート層について,本件各発明では「リチウムと合金化可能な金属」である「Sn,Si,Pb,Al,Gaから選択される金属」の微粒子をゲストとするのに対し,原告ら主張の引用発明1では「リチウム金属」の微粒子をゲストとする層である点 ウ 相違点C 負極を構成する負極活物質について,本件各発明では,@黒鉛層間化合物のみが明文で規定され,A黒鉛層間化合物ではない黒鉛粒子,及びB黒鉛の層間外に存在する金属微粒子を含むか否かが明らかでないのに対し,原告ら主張の引用発明1では上記@ないしBを負極活物質として含む点 ? 相違点1の認定の誤り 本件審決は,本件明細書の実施例1で作製された黒鉛層間化合物のTEM写真(図5)を主たる根拠として,本件各発明に係る「リチウムと合金化可能な金属の微粒子からなる金属層」とは,「金属の微粒子が,黒鉛の層間において,黒鉛面内を埋め尽くしている」ことを表しているものと認められるとした上で,相違点1は実質的な相違点であると認定した。
周知技術技術常識の看過 金属微粒子や金属塩化物をゲストとする黒鉛層間化合物は,本件出願前に周知であった。また,これらの黒鉛層間化合物がドーマエロルドモデルによるステージ構造を有すること,すなわち,その全ての層間にゲストが存在し,各層間に存在するゲストの量が同一であることも,周知であり,技術常識であった。そして,ステージ構造には,第1,第2,第3…第n次のステージ構造があり,第1ステージ構造ではゲストが黒鉛面内の全面に存在し,黒鉛面内を埋め尽くすが,第2ステージ構造では黒鉛面内の2分の1,第3ステージ構造では同3分の1,第nステージ構造では同n分の1にのみゲスト層が存在するので,第1ステージ以外のステージ構造 6 の場合には,黒鉛面内がゲストの粒子で埋め尽くされることはないところ,本件各発明は,黒鉛層間化合物のステージ数について何ら限定していない。
したがって,上記の周知技術技術常識に照らすと,黒鉛面内の一部の領域を撮影したにすぎない実施例1のTEM写真は,「黒鉛面内を埋め尽くしている」との認定の根拠となり得ない。
実施例1の記載中のその余の記載の看過 本件審決が認定の基礎とした本件明細書の実施例1では,まず,「第2ステージと第3ステージの混合ステージ」を有する前駆体(SnCl? をゲストとする黒鉛層間化合物)が作製され,次いで,これを還元処理に付すことにより,Snの微粒子をゲストとする黒鉛層間化合物が作製されている。また,本件明細書には,上記還元処理中にSnが追加供給されたとする記載はない。
そうすると,このようなステージ構造を有する前駆体の還元により生成するSn金属微粒子をゲストとする黒鉛層間化合物(図5,図6)は,せいぜい,第2ステージと第3ステージの混合ステージを有するにすぎないところ,かかるステージ構造を有する黒鉛層間化合物のゲストの金属層が黒鉛面内を埋め尽くすことがあり得ないことは,前記アのとおりである。
ウ 本件明細書中の他の実施例の記載の看過 本件明細書中の実施例4ないし7には,実施例1と同様の方法で作製した前駆体を,Snのディインターカレート(離脱)を伴う還元により作製した,ゲストとしてSn金属の微粒子を黒鉛面内に含む黒鉛層間化合物が記載されている。
前記イのとおり,実施例1で作製された前駆体は第2ステージと第3ステージの混合ステージを有するところ,このようなステージ数を有するSnCl? の黒鉛層間化合物を,ディインターカレートさせながら,すなわち,Snを離脱させながら還元すれば,黒鉛面内に存在するSnの量は当然に減少する。
そうすると,実施例4ないし7で作製された黒鉛層間化合物のステージ構造は,第2ステージと第3ステージの混合ステージよりも高次のステージ構造を有するこ 7 とになり,かかるステージ構造を有する黒鉛層間化合物のゲストの金属層が黒鉛面内を埋め尽くすことがあり得ないことは,前記アのとおりである。
なお,被告は,実施例4ないし7は黒鉛の層間からディインターカレート(離脱)した金属微粒子を黒鉛の層構造の表面に付着させた「複合材料」に関するものであって,黒鉛層間化合物に関するものではなく,本件各発明の実施例ではないと主張する。しかし,本件明細書【0076】【0124】の記載からすると,これらの複合材料が黒鉛層間化合物であることは明らかである。
? 相違点2の認定の誤り 本件審決は,本件各発明は負極活物質が単なる黒鉛を含んでいないのに対して,引用発明1は負極活物質として機能する黒鉛複合物が単なる黒鉛を含んでいる点で実質的に相違していると認定した。
しかし,請求項1及び2の記載は,いずれも「黒鉛層間化合物から成り」という文言を含むものであるところ,「から成り」との用語は,「のみから成り」を意味する場合と,「を含む」を意味する場合とがある。
そして,本件明細書の記載(【0073】,【0074】,【0076】,【0083】,【0087】,【0089】,【0094】,【0124】)によれば,本件各発明における負極活物質は,黒鉛層間化合物のみから成るものだけでなく,金属の微粒子の一部が黒鉛の層間以外に存在するものや,黒鉛層間化合物と黒鉛層間化合物の層間外に存在する金属微粒子の複合材料を包含するものであることは明白であるから,「から成り」との用語は,「を含む」との意味に解される。
したがって,本件各発明は負極活物質が単なる黒鉛を含んでいないとし,相違点2は実質的な相違点であるとした本件審決の認定は,誤りである。
〔被告の主張〕 ? 原告ら主張の周知技術について 原告らは,黒鉛層間化合物をリチウムイオン二次電池の負極活物質として使用可能であることが技術常識周知技術である旨主張する。
8 しかし,原告らが上記主張の根拠とする証拠に開示されているのは,所定のニッケル含有黒鉛層間化合物を二次電池の正極材として用いる技術が公知であることや,リチウムイオンを取り込んだ黒鉛層間化合物を負極として用いる技術が技術常識周知技術であることにすぎず,インターカレートされる金属粒子に制限がないあらゆる黒鉛層間化合物がリチウムイオン電池の負極活物質として使用可能であることが技術常識周知技術である旨を開示するものではない。
? 原告ら主張の引用発明1について 引用例1の図4によれば,黒鉛粒子の間に元素微粒子が点在している様子が看取できるが,これは「層」といえるものではない。引用例1には,黒鉛粒子の間における元素微粒子の他の状態を示す記載はなく,ましてや,層間化合物の黒鉛層間における元素微粒子の状態を示す記載はないことから,引用発明1においては,ホストである黒鉛の層間に金属の微粒子がゲストとしてインターカレートされているかどうかは不明である。なお,引用例1の実施例3には,黒鉛複合物中に含まれる層間化合物の層間距離が3.71nmであったと記載されているが,「3.71nm」は「3.71Å(0.371nm)」の誤記であり,黒鉛の層間距離である3.35Åとほとんど変わらないことから,上記記載は実施例3において金属層が形成されていることを示すものではない。
引用例1に「リチウム微結晶の一部が黒鉛粒子と層間化合物を形成している黒鉛複合物」が記載されている(実施例3)ことは認めるが,ここでいう「層間化合物」は,周知技術としての「黒鉛層間化合物」のゲストとしてリチウム微結晶を混入させたものではなく,粉砕法を用いて作成された黒鉛複合物の一部としての層間化合物にすぎない。
したがって,引用例1から原告ら主張の引用発明1を認定することはできない。
? 本件各発明と引用発明との相違点について 前記?のとおり,引用例1において,リチウム金属の微粒子が黒鉛の層間を埋め尽くして「層」を構成するなどとはいえない。
9 したがって,原告らの主張する相違点Bは誤りである。なお,原告らの主張する相違点A及び相違点Cが存在することは争わない。
? 相違点1の認定に誤りがないこと ア 本件各発明における「金属層」の意義について 本件審決は,本件明細書の実施例1における【0106】の記載に基づき,図5のTEM像から,黒鉛の層間に金属の微粒子がインターカレートされている状態として,多数の金属の微粒子が黒鉛の層間において黒鉛面内を埋め尽くしている状態を見てとることができると認定している。
また,本件明細書の【0069】の記載に接した当業者であれば,黒鉛と金属微粒子との電気的な接触を充分に確保するために,金属微粒子がある程度広がりを持って「黒鉛面内を埋め尽くしている」ことを理解するはずである。
さらに,本件明細書には,本件各発明に係る他の実施例2及び3並びに実施例1で用いられるSn以外の金属(Si,Pb,Al,Ga等)についても,図5のようなTEM画像は示されていないものの,実施例1と同様に,金属微粒子が黒鉛の層間にインターカレートされた金属層が形成され,本件各発明の効果が得られることが示されている(【0117】,【0118】,【0120】,【0121】,【0136】,【0137】)。
以上のとおり,本件明細書を参酌すれば,金属微粒子が黒鉛面内を埋め尽くしていることが看取できることは明らかであり,本件各発明における「金属の微粒子からなる金属層」の意義として,「金属微粒子が黒鉛面内を埋め尽くしている」状態をいうものと解することに何ら不自然な点はない。
実施例4ないし7は本件各発明に係る実施例ではないこと 本件明細書における実施例4ないし7は,黒鉛の層間からディインターカレート(離脱)した金属微粒子を黒鉛の層構造(グラフェンシート)の表面に付着成長させた「複合材料」に関するものであり,「黒鉛の層間に,リチウムと合金可能な金属の微粒子からなる金属層がゲストとしてインターカレートされた」ものである本 10 件各発明の「黒鉛層間化合物」とは明確に異なるものであって,本件各発明の実施例ではない。
本件特許は,その出願時には請求項1ないし14が記載されており,実施例4ないし7は請求項9ないし14に対応するものであったところ,その後の審査過程において,請求項9ないし14は削除され,更に拒絶査定不服審判請求時に,本件特許の特許請求の範囲請求項1及び2に補正されたものである。
実施例4ないし7が本件各発明に含まれないことは,本件特許請求の範囲の文言及び本件明細書の記載 【0075】 【0076】 【0082】 【0085】 ( , , 〜 ,【0087】,【0089】,【0093】,【0123】,【0124】,【0126】,【0127】,【0129】,【0130】,【0136】)に照らし,明らかである。また,本件明細書の上記記載によれば,【0076】における「黒鉛層間化合物」との記載は「複合材料」の誤記であり,【0124】の記載は黒鉛の層構造上に付着成長したSn粒子の黒鉛面内,すなわち黒鉛の表面における平均粒子径に関するものであることが明らかである。
? 相違点2の認定に誤りがないこと 本件各発明では,金属の微粒子は全てが黒鉛の層間に入り込んでいることが望ましいが,一部が黒鉛の層間以外に存在してもよい。また,本件各発明は,負極活物質が黒鉛層間化合物のみから成ることを要するものではなく,本件各発明の作用効果を損なわない程度に,不可避的に混入し得る金属の微粒子や単なる黒鉛を含んでいてもよい。
一方,引用発明1は,負極活物質として機能する黒鉛複合物中において,少なくとも40原子%以上,好ましくは99原子%以下程度の多量の黒鉛粒子を使用して,粉砕法によって層間化合物を形成するものであることから(【0008】,【0016】),結果として,黒鉛複合物内における単なる黒鉛が存在する比率(含有量)は極めて高い。
したがって,本件審決が,本件各発明は負極活物質が単なる黒鉛を含んでいない 11 のに対して,引用発明1は負極活物質として機能する黒鉛複合物が単なる黒鉛を含んでいる点で実質的に相違していると認められると判断した点に誤りはない。
2 相違点に係る容易想到性の判断の誤りについて 〔原告らの主張〕 ? 相違点1に係る容易想到性の判断の誤り ア 前記1?のとおり,本件出願前において,ドーマエロルドモデルに基づくステージ構造を有する黒鉛層間化合物であって,そのゲスト層として金属微粒子の層を有するものは,周知であった。また,引用例1には,リチウムと合金を形成する金属微粒子をゲストとする黒鉛層間化合物が優れた特性を有する負極活物質である旨,明確に記載されている(【0013】,【0015】,【0038】)。
したがって,周知のドーマエロルドモデルに基づく黒鉛層間化合物のステージ構造に関する知識を具備した当業者が引用例1の上記記載に接すれば,粉砕法により作製された構造を有する黒鉛層間化合物を,周知の塩化物還元法で作製される,周知のドーマエロルドモデルに基づく構造を有するものに置換することを想到することは容易である。
イ 被告は,引用発明1における粉砕法に置換して周知技術である塩化物還元法を適用する動機付けはない旨主張する。
しかし,本件各発明は製造方法に限定のない「物の発明」であるから,特定の製造方法を前提とする被告の主張は,その前提において誤りである。また,リチウムイオン二次電池の分野では,特性のより優れる負極活物質の開発は周知の課題であるところ,前記アのとおり,引用例1は,リチウムと合金を形成する金属微粒子をゲストとする黒鉛層間化合物が優れた特性を有する負極活物質であること,すなわち,これにより上記周知の課題を解決できる旨を教示・示唆しているものであり,周知の課題を解決できることは,強い動機付けとなる。そして,原告ら主張の周知技術を備えた当業者が引用例1に接したときに,粉砕法により黒鉛層間化合物を作成した場合にだけ引用例1が教示・示唆する電池特性の改善効果がみられ,塩化物 12 還元法ではそのような効果は奏しないと考えることはあり得ない。
? 相違点2に係る容易想到性の判断の誤り 引用例1には,リチウムと合金を形成する金属をゲストとしてインターカレートした黒鉛層間化合物をリチウムイオン二次電池の負極活物質として使用することにより,通常の黒鉛を負極活物質として使用する場合よりも,リチウムイオンのインターカレーション量が増加し,電池の特性が向上することが明記されている(【0038】等)。このため,この記載に接した当業者が,負極活物質として,通常の黒鉛ではなく,より優れた特性を奏する,リチウムと合金を形成する金属をゲストとしてインターカレートした黒鉛層間化合物を使用するという,単純な変更を想到することは,当業者の通常の創作能力で十分になし得ることである。そして,その際に,負極活物質として使用されている通常の黒鉛の使用割合をどの程度(0%を含む。)とするかは,電池の製造コストや要求される諸特性等を考慮して適宜設定され得る事項にすぎない。
? 相違点AないしCの容易想到性 前記?及び?のとおり,本件審決における相違点1及び2に係る容易想到性の判断には誤りがある。また,以下のとおり,原告ら主張の引用発明1において,相違点AないしCの構成は,当業者が容易に想到することができたものである。
ア 相違点Aについて 引用例1には,実施例3に,リチウム金属の微粒子をゲストとしてインターカレートした黒鉛層間化合物を作製したことが明記されている。その上で,インターカレートする微粒子として,リチウム及びリチウムと合金を形成する金属を記載し【0 (013】),リチウムと合金を形成する金属の具体例としてAl,Sn,Pb及びSiを明記している(【0014】)。
そうすると,引用例1は,相違点Aのうち,「リチウムと合金を形成する金属」としてSn,Si,Pb及びAlを使用することを教示・示唆しているといえる。
一方,引用例2には,「リチウムと合金を形成可能な金属」として,Al,Sn, 13 Pb,Siに加えてGaが開示され(【0024】),特に好ましいものとして,Si,Sn及びこれらの合金が開示されている(【0025】)。また,引用例2は,それらが「リチウムと合金を形成可能な金属」との属性を有することだけでなく,それらは,「黒鉛に対する軽金属イオンの電気化学的なインターカレーション反応による吸蔵」に使用可能である旨(【0019】等)及び「初期放電容量及び充放電サイクル特性を向上させることができる」旨を開示している(【0007】等)。
また,前記1?のとおり,本件出願前において,黒鉛層間化合物がリチウムイオン二次電池の負極活物質として使用可能であることは技術常識ないし周知技術であり,黒鉛層間化合物として,黒鉛の層間に金属の微粒子の層をインターカレートしたものも周知であった。
これらの技術常識,周知技術を備えた当業者が引用例1及び引用例2に接した場合,これらに記載されたリチウム金属の微粒子を他の金属の微粒子に置き換えることを想到することは,容易である。
イ 相違点Bについて 原告ら主張の周知技術を備えた当業者が,引用例1の【0015】【0013】【0038】の記載に接すれば,引用例1には,原告ら主張の引用発明1におけるゲストである「リチウム金属の微粒子」を「リチウムと合金化可能な金属の微粒子」に置き換える発明が教示・示唆されていると理解する。
したがって,原告ら主張の引用発明1における黒鉛層間化合物の「リチウム金属」の微粒子をゲストとする層を,本件各発明のように「リチウムと合金化可能な金属」の微粒子をゲストとする層に変更することは,当業者にとって容易である。そして,「リチウムと合金化可能な金属」の微粒子をゲストとする黒鉛層間化合物を,原告ら主張の周知技術に従って作製すれば,当該黒鉛層間化合物のゲストの金属微粒子は,自律的に金属層を形成する。
ウ 相違点Cについて 14 本件各発明が「黒鉛層間化合物ではない黒鉛粒子」を負極活物質として含むものを包含することは,被告も認めている。また,「単なる黒鉛」は,負極を構成する負極活物質として従来から広く使用されているため,これを本件各発明において負極活物質として併用することを想到することは,当業者にとって容易である。そして,その混合比の決定は,単なる設計事項である。
したがって,相違点Cは,実質的な相違点ではない。
なお,被告は,本件各発明と引用発明1とは「単なる黒鉛」の含有量が異なる旨主張する。しかし,本件各発明は,「単なる黒鉛」を特定量含有することをその構成要件としていない。被告の主張は,特許請求の範囲に記載の構成要件に基づかないものであり,失当である。
? 引用発明との一致点及び相違点を抽出し,相違点について考究する進歩性に関する判断手法を用いない場合について ア 我が国では,進歩性に関する判断手法として,一致点及び相違点を抽出し,相違点について考究する手法が広く採用されている。
しかし,上記手法は法定されたものではないから,同手法によらずに進歩性欠如の理由を主張することも許されるところ,以下のとおり,本件各発明は当業者にとって容易に想到できる。
イ 本件出願前において,金属微粒子層をゲストとする黒鉛層間化合物,その作製法としての塩化物還元法及び同方法で作製された黒鉛層間化合物がドーマエロルドモデルによるステージ構造を有することは,周知であった。また,黒鉛層間化合物は,化合物それ自体として単に知られていたのではなく,二次電池の電極材料(正極又は負極活物質)として有望であると認識されていた。
このような状況下において,引用例1は,@金属リチウムの微粒子をゲストとする黒鉛層間化合物が優れた特性を有する負極活物資であることを開示するとともに,A金属リチウムの微粒子に換えてリチウムと合金を形成する元素の微粒子をゲストとする黒鉛層間化合物が同様に優れた負極活物質であり得ることを教示・示唆し, 15 かつ,Bリチウムと合金を形成する元素として,Sn,Si,Pb及びAlを含むごく少数(35種)の元素を開示している。
さらに,引用例2は,@リチウムと合金を形成する(金属)元素それ自体の微粒子を負極活物質として使用することにより,リチウムイオン二次電池の充放電特性が向上すること,Aリチウムと合金を形成する元素の具体例として,Sn,Si,Pb及びGaを含むごく少数(18種)の元素,B上記Aのうち,Sn,Siが特に好ましいことを開示している。
以上の事実に照らせば,当業者にとって,引用例1又は引用例2に記載されたごく少数の「リチウムと合金を形成する元素」について,それらの微粒子をゲストとする黒鉛層間化合物を周知の方法に基づいて作製し,その特性を確認することは,ルーティン業務にすぎない。そして,本件各発明では,Sn,Si,Pb,Al及びGaが選択されているが,これらは「リチウムと合金を形成する元素」の具体例として引用例1及び引用例2に記載されているから,当業者にとって,これらを選択することは容易に想到できる。
? 小括 以上のとおり,本件審決の引用発明1及び相違点の認定は誤りであり,本件各発明は,正しく認定した引用例1に記載された発明に基づいて,容易に想到することができたものである。
〔被告の主張〕 ? 相違点1に係る容易想到性の判断について 引用発明1は,従来の製造方法によって製造された層間化合物を含む黒鉛複合物の問題点に着目し,粉砕法によって黒鉛複合物を得ることを課題解決手段とするものであり,粉砕法によって黒鉛複合物を形成することが,引用発明1における本質的かつ中核を成す技術思想である。
そして,粉砕法によって黒鉛複合物を形成するという技術的事項に他の技術的事項を適用ないし置換するには強い動機付けが要求されるところ,引用例1には,そ 16 れを許容又は示唆する記載はない。原告らは,塩化物還元法等が周知である旨主張するが,粉砕法によって黒鉛複合物を形成する技術的事項は引用発明1において本質的かつ中核を成す技術思想であるから,これを塩化物還元法等の周知技術置き換える動機付けはない。また,粉砕法によって黒鉛粒子の層間に金属層を形成する点に関しては,原告らが提出したいずれの証拠にも記載,示唆がない。
したがって,本件審決における相違点1に係る容易想到性の判断に誤りはない。
? 相違点2に係る容易想到性の判断について 原告らは,引用発明1において単なる黒鉛でなく黒鉛層間化合物を使用することが単純な変更である旨主張する。
しかし,引用例1には,黒鉛複合物に単なる黒鉛を含ませないようにすることについて,何らの記載も示唆もされておらず,かえって,「黒鉛複合物を構成する黒鉛粒子は40原子%以上である必要がある」(【0016】)と,単なる黒鉛を実質的に含ませないようにすることを阻害する内容が記載されている。また,原告らは,単純な変更と主張するだけであり,粉砕法によって広く分散した単なる黒鉛のみを抽出し,これを黒鉛層間化合物に置き換えることが技術的に容易である点を何ら立証していない。
したがって,本件審決における相違点2に係る容易想到性の判断に誤りはない。
? 相違点AないしCの容易想到性について ア 相違点Aについて 原告ら主張の引用発明1におけるゲストであるリチウム微結晶に換えて,Sn,Si,Pb,Al,Gaから選択される金属の微粒子を適用することが容易である点は認める。
イ 相違点Bについて 前記?と同様に,粉砕法によって黒鉛複合物を形成することが原告ら主張の引用発明1における本質的かつ中核を成す技術思想であるから,粉砕法に置換して原告ら主張の周知技術である塩化物還元法等を適用することについては,動機付けが欠 17 如しており,かつ阻害要因がある。したがって,相違点Bは容易に想到できない。
ウ 相違点Cについて 前記?と同様に,原告ら主張の引用発明1は必須の構成要件として単なる黒鉛粒子が40原子%以上含まれるものであり,引用例1には,単なる黒鉛を実質的に含ませないようにすることを阻害する内容が記載されていることから,相違点Cは容易に想到できない。
? 引用発明との一致点及び相違点を抽出し,相違点について考究する進歩性に関する判断手法を用いない場合について 進歩性の有無の判断は,特許発明と,先行技術のうち特許発明の構成に近似する特定の先行技術(主引用発明)とを対比して,両者の相違する構成を認定し,主引用発明に,その他の先行技術,技術常識ないし周知技術を組み合わせ,特許発明と主引用発明との相違する構成を補完ないし代替させることによって特許発明に到達することが容易であったか否かを基準として行われるべきである。
原告らの主張は,上記手法に沿うことなく,本件各発明は周知技術から容易に想到できる旨を主張するにとどまり,失当である。また,前記1?のとおり,原告らの主張する周知技術は認められないから,本件各発明は,それらを組み合わせることにより当業者が容易に想到できたものではない。
? 小括 以上のとおり,引用例1に記載された発明に基づいて本件各発明を容易に想到することはできない。原告らの主張は失当であって,本件審決に取り消すべき違法はない。
当裁判所の判断
1 本件各発明について ? 本件明細書の記載 本件各発明に係る特許請求の範囲請求項1及び2の記載は,前記第2の2のとおりであるところ,本件明細書(甲13)には,次のような記載がある(下記記載中 18 に引用する【図5】及び【図6】については,別紙本件明細書図面目録を参照。)。
ア 技術分野 本発明は,負極,負極を用いた二次電池に係わる。(【0001】) イ 背景技術 電子機器の小型化に伴い,高エネルギー密度を有する電池の開発が要求されている。この要求に応える電池として,リチウム二次電池がある。しかし,リチウム二次電池では,充電時において負極上にリチウムがデンドライト析出して不活性化するため,サイクル寿命が短いという問題がある。(【0002】) そこで,サイクル寿命を改善した二次電池として,リチウムイオン二次電池が製品化されている。このリチウムイオン二次電池の負極には,黒鉛層間へのリチウムのインターカレーション反応を利用した黒鉛材料,或いは細孔中へのリチウムの吸蔵・放出作用を応用した炭素質材料等の負極活物質が用いられている。そのため,リチウムイオン二次電池では,リチウムがデンドライト析出せず,サイクル寿命が長い。…(【0003】) しかしながら,インターカレーションによる負極容量は,…黒鉛層間化合物の組成によって規定される上限が存在する。一方,細孔を有する炭素質材料においては,微小な細孔構造を制御することが工業的に困難である。(【0004】) このような理由から,…よりいっそうリチウムの吸蔵・放出能力の大きい負極活物質が望まれている。(【0005】) …より高容量を実現可能な負極活物質としては,ある種のリチウム合金が電気化学的かつ可逆的に生成及び分解することを応用した材料が広く研究されてきた。例えば,リチウム-アルミニウム合金やリチウム-ケイ素合金(例えば,特許文献1参照)が提案されている。しかしながら,これらの合金は,電池の負極に用いた場合,サイクル特性を劣化させてしまうという問題があった。その原因の1つとしては,これらの合金は,充放電に伴い膨張収縮するため,充放電を繰り返す度に微粉化することによって,電気的な接触が充分でなくなることが挙げられる。(【00 19 06】) そこで,合金負極の欠点を改善するために,金属又は金属質物と黒鉛質物及び/又は炭素質物(黒鉛構造ではないもの)との複合化が検討されている。この複合化の一例として,金属又は金属質物と,粒子状又は繊維状の黒鉛質物とを,炭素質物で結合又は被覆した複合材料が提案されている(例えば,特許文献2や特許文献3参照)。…複合化の他の例として,シリコン含有粒子と炭素含有粒子とからなる多孔性粒子を,炭素で被覆した負極材料が提案されている(例えば,特許文献4や特許文献5参照)。複合化のさらに他の例として,リチウムと合金化可能な金属,鱗片状黒鉛,並びに炭素質物を含有する複合黒鉛粒子が提案されている(例えば,特許文献6参照)。(【0007】〜【0010】) ウ 発明が解決しようとする課題 上記特許文献2に記載された複合材料は,黒鉛構造ではない炭素質物の含有量の最適値が10%〜30%と比較的多くなっており,特に非晶質の炭素質物の割合が高くなっている。また,上記特許文献3に記載された複合材料も,黒鉛構造ではない炭素質物の含有量が20〜80重量%と多くなっている。そして,黒鉛構造ではない炭素質物は,黒鉛質物に比べて,電解液の分解反応が生じにくくなるが,放電容量が小さくなり,さらに充電されたリチウムイオンが細孔にトラップされて放電されなくなることに起因して,不可逆容量が大きくなってしまう。そのため,炭素質物の絶対含有量が多いと,放電容量及び初期充放電効率の低下が大きくなることがある。(【0012】) 上記特許文献4に記載された複合材料は,シリコン含有量が10〜90重量%と多いため,シリコンの充電膨張及び放電収縮による微粉化に起因するサイクル特性の低下が大きくなる。また,多孔性粒子の外表面を炭素で均一に完全に被覆することが必須であるため,20質量%以上の多量の炭素含有量が必要になり,特許文献2及び特許文献3に記載された複合材料と同様な問題を生じることになる。(【0013】) 20 上記特許文献6に記載された複合黒鉛粒子は,黒鉛構造ではない炭素質物の含有量が1質量%以上20質量%未満と少なくなっているが,やはり合金そのものの微粉化は避けることができないため,微粉化によりサイクル特性が低下する。(【0014】) すなわち,従来提案されている複合材料では,サイクル特性の改善の効果は充分とはいえず,高容量とサイクル特性の改善とを共に実現するまでには至っていない。
上述した問題の解決のために,本発明においては,高容量と長いサイクル寿命とを共に実現することを可能にする負極及びこの負極を用いた二次電池を提供するものである。(【0015】,【0016】) エ 課題を解決するための手段 …本発明の負極の構成によれば,負極活物質が,ホストである黒鉛の層間に,リチウムと合金化可能な金属の微粒子からなる金属層がゲストとしてインターカレートされた,黒鉛層間化合物から成ることにより,リチウムと合金化可能な金属が黒鉛の層間という導電性マトリックス内にある。これにより,金属と黒鉛との電気的な接触が充分になされ電気伝導性を確保することができ,また金属を微粒子化しても,導電性マトリックス内に囲われているので,金属の微粒子によって電解液が分解しないように抑制することができる。そして,負極活物質がリチウムと合金化可能な金属を有するので,負極を備えた電池の容量を高めることが可能になる。 【0 (019】) …本発明の二次電池の構成によれば,負極が上記本発明の負極の構成であることにより,負極において金属と黒鉛との電気的な接触が充分になされ電気伝導性を確保することができるため,充放電に伴う負極活物質の体積の膨張・収縮による電気伝導性の低下を抑制することができる。また,金属の微粒子によって電解液が分解しないよう抑制することができるので,サイクル特性を改善することができる。さらにまた,負極の負極活物質が黒鉛層間化合物であり,ベースが黒鉛であって,黒鉛構造ではない炭素質物を必要としないため,このような炭素質物による放電容量 21 や初期充放電効率の低下を回避することが可能になる。(【0020】) オ 発明の効果 …本発明の負極及び二次電池の構成によれば,金属の微粒子によって電解液が分解しないように抑制することができるので,サイクル特性を改善することができる。
また,電気伝導性を確保することができるため,充放電に伴う負極活物質の体積の膨張・収縮による電気伝導性の低下を抑制することができることにより,サイクル特性を改善することができる。これにより,充分なサイクル特性を有し,寿命の長い二次電池を実現することが可能になる。(【0027】) また,…本発明の負極及び二次電池の構成によれば,炭素質物による放電容量や初期充放電効率の低下を回避することが可能になることから,放電容量や初期放電効率を充分に確保することが可能になる。(【0028】) したがって,本発明により,高容量と長いサイクル寿命とを共に実現する二次電池を構成することが可能になる。(【0029】) カ 発明を実施するための最良の形態 本発明の一実施の形態に係る負極の概略構成図(断面図)を,図1に示す。図1に示す負極10は,例えば,一対の対向面を有する負極集電体11と,負極集電体11の片面に設けられた負極活物質層12とを有している。(【0031】) 本実施の形態においては,特に,負極活物質層12の負極活物質として,黒鉛(ホスト)の層間に,リチウムと合金化可能な金属の微粒子(ゲスト)を,インターカレートして成る,金属の黒鉛層間化合物を使用する。そして,上述の黒鉛層間化合物において,ゲストである金属の微粒子は,1μm未満のナノレベル(サブミクロン)の微粒子とする。より好ましくは,金属の微粒子の黒鉛の面内方向の平均粒子径が1nm〜100nmである構成とする。(【0033】,【0034】) リチウムと合金を形成することができる金属としては,Sn,Ca,Sr,Ba,Ir,Ag,Al,Ga,In,Si,Pb,Sb,Bi,Te,Cd,Hg,Bから選択することができる。より好ましくは,Sn,Si,Pb,Al,Gaから 22 選ばれる金属を用いる。(【0035】) …上述の黒鉛層間化合物は,同一ステージの層間化合物のみであっても,複数のステージの層間化合物が混合されたものであってもよい。第1ステージの層間化合物は,ホストの黒鉛層とゲストの金属層とが1層ずつ交互にある構造となっている。
第2ステージの層間化合物は,ゲストの金属層の間に,2層の黒鉛層が入っている構造となっている。第3ステージの層間化合物は,ゲストの金属層の間に,3層の黒鉛層が入っている構造となっている。層間化合物のステージ数が小さいほど,すなわち,第1ステージに近づくほど,金属層の比率が増えるため,容量を大きくすることができると考えられる。(【0037】) ゲストの金属層は,面内方向の擬2次元微粒子構造をもっていることが好ましく,より好ましくは,黒鉛のc軸方向(層に垂直な方向)の平均粒子厚さが0.335nm〜10nmである構成とする。(【0038】) なお,金属の微粒子は,全てが黒鉛の層間に入り込んでいることが望ましいが,本発明では,金属の粒子の一部が黒鉛の層間以外に存在する場合も含むものである。
(【0074】) キ 実施例 (実施例1)負極活物質のベースとなる黒鉛材料として,メソフェーズ系球晶黒鉛を用いた。そして,平均粒子径20μmのメソフェーズ系球晶黒鉛粉末と,平均粒子径20μmのSnCl? 粉末とを,50重量部/50重量部の比でパイレックスアンプル内において混合した後に,アンプル内を真空引きした。続いて,アンプル内に塩素ガスを充填させてから,シールすることにより,塩素ガス雰囲気の密閉アンプルを作製した。さらに,この密閉アンプルを,SnCl? の融点より高い400℃で3日保持した。これにより,SnCl? -メソフェーズ系球晶黒鉛の黒鉛層間化合物から成る前駆体を作製した。続いて,作製した前駆体の構造をXRD(X線回折)により確認した。その結果,SnCl? が黒鉛の層間にインターカレートされており,このときのステージは,第2ステージと第3ステージの混合ステージ 23 であることがわかった。次に,得られた前駆体を還元した。還元方法は,以下のようにして行った。まず,リチウム金属とナフタレンとを,テトラヒドロフラン(THF)溶液に混合し,室温で超音波照射したまま保持した。溶液の色が黒色化したところで超音波照射を停止して,得られた前駆体を溶液に加えて,2日間放置した。
これにより,Sn-メソフェーズ系球晶黒鉛の黒鉛層間化合物を作製した。(【0105】) 得られた黒鉛層間化合物の構造をXRDにより確認したところ,Snが黒鉛の層間にインターカレートされており,ゲスト挿入層の層間距離は1.716nmであり,黒鉛のc軸方向のSn粒子の厚さは3〜4原子層程度であった。また,得られた黒鉛層間化合物をTEM(透過型電子顕微鏡)により観察した。観察されたTEM像を,図5に示す。さらに,得られた黒鉛層間化合物の粒径分布の測定を行った。
粒径分布の測定結果を,図6に示す。観察されたTEM像及び粒径分布により,Sn粒子の黒鉛面内における平均粒子径が6.5nmであり,黒鉛の層間に金属Snの微粒子(ナノパーティクル)がインターカレートされていることが確認された。
(【0106】) ? 本件各発明の特徴 前記?によれば,本件各発明の特徴は,以下のとおりであると認められる。
ア 本件各発明は,負極及び負極を用いた二次電池にかかわるものである。 【0 (001】) イ 電子機器の小型化に伴い,高エネルギー密度を有する電池の開発が要求されている。この要求に応える電池としてリチウム二次電池があり,同電池のサイクル寿命を改善した二次電池としてリチウムイオン二次電池が製品化されているが,より一層リチウムの吸蔵・放出能力の大きい負極活物質が望まれている。そのような負極活物質として,金属又は金属質物と黒鉛質物とを炭素質物で結合又は被覆した複合材料,シリコン含有粒子とから成る多孔性粒子を炭素で被覆した負極材料,リチウムと合金可能な金属,鱗片状黒鉛及び炭素質物を含有する複合黒鉛粒子が提案 24 されている。しかし,これらの複合材料では,炭素質物の絶対含有量が多いと放電容量及び初期充放電効率の低下が大きくなることがある,シリコンや合金の充電膨張及び放電収縮による微粉化に起因するサイクル特性の低下が大きくなるなどするため,サイクル特性の改善の効果は充分とはいえない。(【0002】〜【0004】,【0006】〜【0015】) ウ 本件各発明は,高容量と長いサイクル寿命とを共に実現することを可能にする負極及びこの負極を用いた二次電池を提供することを目的とする。【0016】 ( ) エ 本件発明1の負極の構成によれば,負極活物質が,ホストである黒鉛の層間に,リチウムと合金化可能な金属の微粒子からなる金属層がゲストとしてインターカレートされた,黒鉛層間化合物から成ることにより,リチウムと合金化可能な金属が黒鉛の層間という導電性マトリックス内にある。これにより,金属と黒鉛との電気的な接触が充分になされ電気伝導性を確保することができ,また金属を微粒子化しても,導電性マトリックス内に囲われているので,金属の微粒子によって電解液が分解しないように抑制することができる。そして,負極活物質がリチウムと合金化可能な金属を有するので,負極を備えた電池の容量を高めることが可能になる。
(【0019】) また,本件発明2の二次電池の構成によれば,負極が本件発明1の負極の構成であることにより,充放電に伴う負極活物質の体積の膨張・収縮による電気伝導性の低下を抑制することができ,サイクル特性を改善することができる。そして,負極活物質が黒鉛層間化合物であり,炭素質物を必要としないため,放電容量や初期充放電効率の低下を回避することが可能になる。(【0020】) したがって,本件各発明により,高容量と長いサイクル寿命とを共に実現する二次電池を構成することが可能になる。(【0027】〜【0029】) 2 引用発明1について ? 引用例1(甲1)には,おおむね次の記載がある(下記記載中に引用する【図3】,【図4】及び【図7】については,別紙引用例等図面目録を参照。)。
25 ア 特許請求の範囲 【請求項1】少なくとも2G以上の粉砕加速度で粉砕混合された黒鉛粒子と,固体の元素微粒子と,からなり,/該黒鉛粒子は少なくとも40原子%含まれ,該元素微粒子は900nm以下の粒径であって該黒鉛粒子中に分散して存在していることを特徴とする黒鉛複合物。
【請求項5】前記元素微粒子の少なくとも一部は,前記黒鉛粒子と層間化合物を形成している請求項1記載の黒鉛複合物。
【請求項6】前記元素微粒子はリチウム微結晶粒子である請求項5記載の黒鉛複合物。
【請求項10】リチウム二次電池の電極材料として使用される請求項1記載の黒鉛複合物。
イ 発明の属する技術分野 本発明は,電極材料…等に使用される黒鉛複合物に関する。(【0001】) ウ 従来の技術 黒鉛粒子と,金属あるいは非金属の元素とからなり,黒鉛結晶の層間に金属が入って形成された化合物(以下,層間化合物と称する)を含む黒鉛複合物が知られている。この層間化合物を含む黒鉛複合物を作製する方法としては,金属を加熱して気相で黒鉛と接触反応させ層間化合物を形成する方法…や,電気化学的に電場をかけて黒鉛層間に金属を挿入して層間化合物を形成する方法…が知られている。 【0 (003】) エ 発明が解決しようとする課題 上記金属を加熱して気相で黒鉛と接触反応させて製造された黒鉛複合物や,電気化学的な方法を用いて製造された黒鉛複合物は,黒鉛中に層間化合物と金属とが十分に微細分散されておらず,リチウム二次電池の負極材料として使用した場合に充放電を繰り返すうちに上記金属が剥離して負極活物質として作用しなくなるという不具合があった。(【0005】) 26 オ 発明の実施の形態 本発明の黒鉛粒子は黒鉛を原料とし,純度の高い天然黒鉛や,高配向性熱分解黒鉛(HOPG)のような黒鉛化度の高い人造黒鉛を用いることが望ましい。本発明の元素微粒子としての元素は,LiおよびLiと合金を形成する金属および非金属がある。ここでLiと合金を形成する金属としてはAl,Sn,Pb,Cd,Ag,Au,Ba,Be,Bi,Ca,Cr,Cu,K,Mn,Mo,Nb,Ni,Na,Pd,Ru,Te,Ti,Pt,Pu,Rb,Zr,Zn,Se,Sr,Sb,TlまたはVを挙げることができる。Liと合金を形成する非金属としてはSi,GeおよびSをあげることができる。また,この元素微粒子としての元素としてはLiと合金を形成しない金属または非金属でもよい。(【0013】) 本発明の黒鉛複合物は2G以上の粉砕加速度で粉砕混合されたものである。粉砕加速度が2G未満の場合には微細分散が不十分となり好ましくない。図3に本発明の黒鉛複合物の黒鉛粒子と元素微粒子とが微細に分散した状態を模式的に示す。なお,本発明の黒鉛複合物の元素微粒子は黒鉛と層間化合物を形成しているのがより好ましい。層間化合物を形成している割合は元素微粒子の10原子%以上がより好ましい。この場合,本発明の黒鉛複合物は黒鉛の微結晶層間化合物と元素微粒子と黒鉛粒子とが微細に分散したものとなる。(【0015】) 図4に本発明の黒鉛複合物の黒鉛粒子と元素微粒子とが微細に分散し,かつ一部の元素微粒子が黒鉛粒子と層間化合物を作っている状態を模式的に示す。(【0016】) 本発明の黒鉛複合物は黒鉛と固体元素の粉末とを機械的に粉砕することにより調整することができる。粉砕は2G以上の高い粉砕加速度が得られる粉砕装置を用いる必要がある。粉砕装置としては高い粉砕加速度が得られるボールミルを得ることが望ましい。…(【0017】) カ 作用 本発明の黒鉛複合物は,黒鉛粒子の結晶性が良いためにリチウム二次電池の負極 27 材料として使用されると,黒鉛粒子の層間に多量のリチウムイオンがインターカレートされる。さらに,水素,酸素等の不純物の量が少ないため,黒鉛粒子の末端に形成される水酸基やカルボキシル基が少なくなる。また,微細に分散した金属微粒子により導電性に優れた黒鉛複合物とすることができる。(【0018】) また,黒鉛粒子と層間化合物を形成する処理条件とすることによって,黒鉛粒子よりも層間距離の大きい層間化合物が形成されるため,黒鉛粒子よりもさらに多量のリチウムイオンが層間化合物の層間にインターカレートされる。また,微細に分散した層間化合物により黒鉛複合物の導電性をさらに向上させ,さらには反応性に富んだ黒鉛複合物とすることができる。(【0020】) また,本発明の黒鉛複合物は,黒鉛粒子と元素粒子とをボールミル等で粉砕することにより容易に調整できる。(【0021】) キ 実施例 (実施例1)黒鉛化度0.92の高配向性熱分解黒鉛(HOPG)粉末4.5gと,シリコンウエハーを粉砕し300メッシュで分級したもの1.1692g(黒鉛90原子%)とからなる原料粉末を調製し,これを遊星ボールミル(ステンレス製,容量80cc)に入れ,容器内の空気をアルゴンガスで置換して容器内を不活性雰囲気とし黒鉛の粉砕準備をした。これを150Gの粉砕加速度によって室温で0.5時間粉砕し,黒鉛粒子とシリコン微結晶からなる黒鉛複合物を得た。(【0022】) (実施例3)黒鉛化度0.93の天然黒鉛(中国山東省産)粉末4.504gと,金属リチウム粉末0.868g(黒鉛75原子%)からなる原料粉末を調製し,粉砕加速度を10G,粉砕時間を12時間とする以外は実施例1と同じ条件で粉砕し,黒鉛粒子とリチウム微結晶からなり,リチウム微結晶の一部が黒鉛粒子と層間化合物を形成している黒鉛複合物を得た。得られた黒鉛複合物について,線源をCoKαとしてX線回折を行い,図7に示されるX線回折プロファイルを得た。図7の2θが27.9°で見られる鋭い回折ピークは,層間化合物によるものであり,炭化 28 リチウム等の副生成物が生成しておらず,結晶性の良い層間化合物が形成されていることを示す。この回折ピークより,層間化合物の層間距離を求めた。その結果,黒鉛複合物中に含まれる層間化合物の層間距離は3.71nm(判決注:3.71Å(0.371nm)の誤記であると認める。)であった。これは,リチウムが黒鉛の層間に入って形成された層間化合物の公知の層間距離3.72nm(判決注:3.72Å(0.372nm)の誤記であると認める。)にほぼ一致するものである。この結果より,結晶性の良い黒鉛結晶層間化合物が黒鉛複合物中に形成されていることがわかる。(【0026】〜【0028】) (リチウム二次電池の作製,および電池の放電容量の測定)次に,この黒鉛複合物を4重量%のテフロン(PTFE)と混練した。そして,これら黒鉛複合物をそれぞれ,ニッケルからなる円板状の集電体…上に圧縮成形して黒鉛複合物の圧粉体を集電体上に成形して試料極を形成した。これらの試料極を負極に用い…ボタン形リチウム二次電池…をそれぞれ作製した。(【0032】) ク 発明の効果 元素微粒子と黒鉛粒子とが層間化合物を形成している場合,この黒鉛複合物を,リチウム二次電池の負極材料として使用することにより,多量のリチウムイオンが,黒鉛粒子及び黒鉛結晶層間化合物の層間にインターカレートされるため,さらに放電容量の大きいリチウム二次電池とすることができる。(【0038】) ? 引用例1に記載された発明 ア 前記?の記載 【請求項1】 【請求項5】 【請求項6】 【請求項10】 ( , , , ,【0015】,【0020】,【0026】〜【0028】,【0032】)から,引用例1には,以下の発明(以下「本件引用発明1」という。)が記載されていることが認められる。
「少なくとも2G以上の粉砕加速度で粉砕混合された黒鉛粒子,元素微粒子,及び,黒鉛粒子と元素微粒子との層間化合物とが微細に分散したリチウム二次電池の負極材料用黒鉛複合物であって,前記元素微粒子としての元素は,リチウムである 29 リチウム二次電池の負極材料用黒鉛複合物。」 なお,引用例1には,元素微粒子としての元素は,リチウム並びにリチウムと合金を形成する金属及び非金属があり,リチウムと合金を形成する金属としてAl,Sn,Pbほか29種を挙げることができ,リチウムと合金を形成する非金属としてSiほか2種を挙げることができる旨の記載(【0013】),及び,本発明の元素微粒子は黒鉛と層間化合物を形成しているのがより好ましいとの記載(【0015】)がある。
しかし,これらの元素微粒子のうち,リチウム以外の元素微粒子については,同元素微粒子と黒鉛粒子とを粉砕法により粉砕混合した場合に,元素微粒子の少なくとも一部が黒鉛粒子と層間化合物を形成することについては記載されておらず,むしろ,実施例1及び実施例2には,上記元素微粒子の一種であるSiの粒子と黒鉛とを粉砕法により粉砕混合した場合には,元素微粒子の一部が黒鉛粒子と層間化合物が形成されるものではなく,黒鉛粒子と元素微粒子からなる黒鉛複合物が形成される旨が記載されている。
また,前記?のとおり,引用例1に記載された,元素微粒子の一部が黒鉛粒子と層間化合物を形成している黒鉛複合物は,黒鉛粒子と元素微粒子とを粉砕法により粉砕混合する方法によって形成されるものであることからすると,当該元素微粒子は,単体原子として黒鉛の層間にインターカレートし得るものであることが前提となるところ,証拠(甲6)によれば,本件特許の特許請求の範囲請求項1に記載されたSi及びAlを含む,上記元素微粒子の多くは,単体金属原子としてインターカレートすることはできず,フッ化物,塩化物,臭化物という,他の元素との化合物とすることによりインターカレートすることが可能となるものであることから,これらの元素微粒子と黒鉛粒子とを粉砕法により混合粉砕しても,黒鉛層間化合物を製造することはできないものと認められる。
さらに,原告らも,引用例1には原告ら主張の引用発明1が記載されており,同発明と本件各発明との間に相違点A及びBがあると主張するものであって,引用例 30 1において,リチウム以外の元素微粒子と黒鉛粒子とを粉砕法により混合粉砕することにより,元素微粒子の一部が黒鉛粒子と層間化合物を形成することが開示されているとは主張していない。また,被告も,相違点Aの存在を争わないものであり,引用例1において,リチウム以外の元素微粒子と黒鉛粒子とを粉砕法により混合粉砕することにより,元素微粒子の一部が黒鉛粒子と層間化合物を形成することが開示されていると主張するものではない。
したがって,引用例1には,上記リチウム以外の元素微粒子と黒鉛粒子とを粉砕法により粉砕混合することにより,元素微粒子の一部が黒鉛粒子と層間化合物を形成している物に関する発明が記載されているとは認められず,【0013】 【0 及び015】の上記記載があることは,本件引用発明1の認定を左右するものではない。
イ 本件審決の認定について 本件審決は,引用例1に引用発明1が記載されていると認定した。
しかし,引用例1に,リチウム以外の元素微粒子の一部が黒鉛粒子と層間化合物を形成している物に関する発明が記載されていると認められないこと,引用例1記載の層間化合物は粉砕法により形成されるものであることについては,前記アのとおりである。したがって,本件審決における引用発明1の認定には,上記の点において誤りがある。
ウ 原告らの主張について 原告らは,黒鉛層間化合物をリチウムイオン二次電池の負極活物質として使用可能であることが技術常識周知技術であることを前提として,引用例1には原告ら主張の引用発明1が記載されていると主張する。
しかし,原告らが上記主張の根拠とする証拠(甲3,27〜30)に開示されているのは,リチウムイオンを取り込んだ黒鉛層間化合物を負極として用いる技術が技術常識周知技術であることにすぎず,インターカレートされる金属粒子に制限がない黒鉛層間化合物がリチウムイオン電池の負極活物質として使用可能であることが技術常識周知技術である旨を開示するものではない。
31 したがって,原告らの上記主張は,その前提を欠くものであり,採用できない。
エ 小括 以上のとおり,引用例1から認定することができるのは,本件引用発明1であって,本件審決認定の引用発明1ではない。したがって,本件審決における引用発明1の認定には誤りがある。
3 本件各発明と本件引用発明1との対比 ? 本件各発明と本件引用発明1との一致点及び相違点 本件引用発明1における「黒鉛粒子と元素微粒子との層間化合物」は,本件各発明における「ホストである黒鉛の層間に金属の微粒子からなる金属層がゲストとしてインターカレートされた,黒鉛層間化合物」に対応する。したがって,本件各発明と本件引用発明1との一致点及び相違点は,以下のとおりである。
ア 一致点 ホストである黒鉛の層間に,金属の微粒子がゲストとしてインターカレートされている黒鉛層間化合物 イ 相違点 (ア) 黒鉛層間化合物のゲストとしてインターカレートされる元素微粒子について,本件各発明では,その形成方法に特定がなく,その元素が,リチウムと合金化可能な金属であって,Sn,Si,Pb,Al,Gaから選択される金属であるのに対して,本件引用発明1では,少なくとも2G以上の粉砕加速度で粉砕混合された元素微粒子であって,その元素がリチウムである点(以下「相違点B’ という。 。
」 ) (イ) 本件各発明は,負極集電体と負極活物質とから構成される負極であるのに対し,本件引用発明1は,リチウム二次電池の負極材料用黒鉛複合物である点(相違点3と同じ。)。
? 本件審決が認定した相違点について ア 相違点1について (ア) 「金属の微粒子からなる金属層」の意味について 32 黒鉛層間化合物とは,ホストである黒鉛の層間に,ゲストである物質がインターカレートされたものである。そして,証拠(甲22)によれば,上記物質が黒鉛の層間にインターカレートされることにより,黒鉛層面の間隔を拡げていること,インターカレートされたゲスト層間の距離(以下「層間距離」という。)は黒鉛層間化合物ごとに均一であること,例えば,リチウムをゲストとする黒鉛層間化合物では,ステージ1(黒鉛層間の全てにリチウムが存在するLiC? )における格子定数,すなわち層間距離は0.3706nmとなり,ステージ2(黒鉛層間の2分の1にリチウムがインターカレートされるLiC12)における層間距離は0.7065nmとなることが認められる。
このように,黒鉛層間化合物における層間距離は一定であり,黒鉛層間化合物とはステージ1のものに限られるわけではない。そして,かかる層間距離を保つためには多数のゲスト物質の粒子が必要であることからすると,黒鉛層間化合物は,その黒鉛面内をゲスト物質の粒子が埋め尽くしているものといえる。
本件明細書の実施例においても,「得られた黒鉛層間化合物の構造をXRDにより確認したところ,Snが黒鉛の層間にインターカレートされており,ゲスト挿入層の層間距離は1.716nmであり,黒鉛のc軸方向のSn粒子の厚さは3〜4原子層程度であった。」(【0106】)として,この黒鉛層間化合物の層間距離が一定であることが記載されている。また,本件明細書の図5は,上記黒鉛層間化合物の黒鉛面内の一部分をTEM(透過型電子顕微鏡)により観察したものであるが,ゲスト物質の粒子が密集して,黒鉛面内の当該部分を埋め尽くしている状況を見てとることができる。
したがって,本件審決が,本件各発明におけるリチウムと合金化可能な「金属の微粒子からなる金属層」とは,多数のリチウムと合金化可能な金属の微粒子が,黒鉛の層間において,黒鉛面内を埋め尽くしていることを表していると認定したことについては,誤りがない。
(イ) 本件引用発明1における「層間化合物」について 33 引用例1には,黒鉛粉末とリチウム金属粒子とを混合粉砕することにより,リチウム粒子が微粉末になると同時に,その一部が微粉末化された黒鉛の層間にインターカレートし,リチウム元素微粒子をゲストとする層間化合物を形成すること,実施例3で形成された層間化合物の層間距離が3.71Å(0.371nm)であり,これはリチウムが黒鉛の層間に入って形成された層間化合物の公知の層間距離3.72Å(0.372nm)にほぼ一致するものであることが記載されている(【0026】〜【0028】)。また,証拠(甲22)によれば,リチウムをゲストとするステージ1の黒鉛層間化合物における層間距離は3.706Åであることが認められる。
そうすると,本件引用発明1における「層間化合物」は,ホストである黒鉛の層間に,リチウム元素微粒子からなる金属層がゲストとしてインターカレートされた,黒鉛層間化合物であるといえる。
したがって,本件審決が,引用例1には金属の元素微粒子が金属層となっていることは記載も示唆もされていないとして,相違点1は実質的な相違点であると認定したことについては,誤りがある。
(ウ) 原告らの主張について a 原告らは,本件審決における「金属層」の意味に関する認定は,周知技術技術常識を看過し,本件明細書における実施例1の記載中のその余の記載を看過し,誤りである旨主張する。
しかし,原告らの上記主張は,第1ステージ以外のステージ構造の場合には黒鉛面内がゲストの粒子で埋め尽くされることはないことを前提とするものであるところ,黒鉛層間化合物では,第1ステージ以外のステージにおいても,ゲストである金属微粒子が黒鉛面内を埋め尽くすものであることについては,前記(ア)のとおりである。原告らの上記主張は,前提を誤るものであって,採用できない。
b また,原告らは,本件明細書中の他の実施例(実施例4〜7)の記載を看過したものであると主張するところ,証拠(甲13,31,32)によれば,以下の 34 事実が認められる。
(a) 本件特許は,その出願時には,特許請求の範囲として14の請求項が記載されており,請求項1ないし8は,「ホストである黒鉛の層間に,リチウムと合金化可能な金属の微粒子がゲストとしてインターカレートされた,黒鉛層間化合物」に関するものであり,請求項9ないし14は,「黒鉛とリチウムと合金化可能な金属との複合材料であって,/前記金属が,平均粒子径が10nm〜100nmの微粒子となっており,かつ前記黒鉛の層構造の表面に付着成長している」物に関するものであった。
? また,本件特許の出願時における発明の詳細な説明中の「課題を解決するための手段」には,上記複合材料を負極活物質とする負極の構成によれば,リチウムと合金化可能な金属が黒鉛という導電性マトリックスと共に存在していることにより,金属と黒鉛との電気的な接触が充分になされ電気伝導性を確保することができ,また金属を微粒子化しても,導電性マトリックスと共に存在しているので,金属の微粒子によって電解液が分解しないように抑制することができ,負極活物質がリチウムと合金化可能な金属を有するので,負極を備えた電池の容量を高めることが可能になることなどが記載されていた(【0022】〜【0026】)。
? その後,被告は,請求項9ないし14及び上記【0022】ないし【0026】等を削除し,本件特許の特許請求の範囲を前記第2の2のとおりとするなどの補正を行った。
前記の事実関係によれば,Snと黒鉛との複合材料であり,Snの微粒子が黒鉛の層構造上に付着成長している物について記載している実施例4ないし7は,本件各発明の実施例,すなわち,「ホストである黒鉛の層間に,リチウムと合金化可能な金属の微粒子からなる金属層がゲストとしてインターカレートされた,黒鉛層間化合物から成」る物に関する実施例ではなく,出願当時の請求項9ないし14の発明の実施例であり,本件明細書【0076】における「黒鉛層間化合物」との記載は,「複合材料」の誤記であると認められる。
35 なお,実施例4には,「観察されたTEM像により,Sn粒子の黒鉛面内における平均粒子径が40.5nmであり」と記載されている(【0124】)ところ,原告らは,これは黒鉛面内,すなわち黒鉛層間にSn粒子が存在する旨を記載したものであると主張する。しかし,実施例4には,「得られた複合材料の構造をXRDにより確認したところ,Snが黒鉛の層間からディインターカレートされている(離脱している)ことが確認された。」との記載があること(【0124】)から,同実施例では,ゲストであるSnが黒鉛の層間から離脱しており,Snからなる金属層が存在しないことは明らかである。また,TEM(透過型電子顕微鏡)は,黒鉛の層構造(グラフェンシート)を映すものではないため(乙3),TEMによって,Snがグラフェンシートの上にあるのか,グラフェンシートの間(層間)にあるのかを判定することはできない。したがって,上記記載をもって,黒鉛層間にSn粒子が存在する旨を記載したものであるとは,認められない。
よって,原告らの前記主張は採用できない。
イ 相違点2について 本件特許請求の範囲において「前記負極活物質が,ホストである黒鉛の層間に,リチウムと合金化可能な金属の微粒子からなる金属層がゲストとしてインターカレートされた,黒鉛層間化合物から成り」と規定されているところ,本件明細書には,「本発明では,金属の粒子の一部が黒鉛の層間以外に存在する場合も含む」と記載されており(【0074】),これを負極とした際には,「金属の粒子の一部」は黒鉛層間化合物以外の負極活物質となる。よって,本件各発明における「前記負極活物質が,ホストである黒鉛の層間に,リチウムと合金化可能な金属の微粒子からなる金属層がゲストとしてインターカレートされた,黒鉛層間化合物から成り」とは,他の成分の添加を否定するものではなく,他の成分の添加を許容することを意味するものと解される。
他方,本件引用発明1における「黒鉛複合物」は,ホストである黒鉛の層間に,リチウム元素微粒子からなる金属層がゲストとしてインターカレートされた,黒鉛 36 層間化合物を含むものといえる。
したがって,本件審決が,本件各発明は負極活物質が単なる黒鉛を含んでいないとして,相違点2は実質的な相違点であると認定したことは,誤りである。
なお,被告は,本件各発明は,負極活物質が黒鉛層間化合物のみから成ることを要するものではないが,負極活物質を構成する金属微粒子や単なる黒鉛は,本件発明の作用効果を損なわない程度に,不可避的に混入し得るものにとどまる旨主張する。しかし,前記第2の2のとおり,本件各発明は,負極活物質の構成に関しては,「ホストである黒鉛の層間に,リチウムと合金化可能な金属の微粒子からなる金属層がゲストとしてインターカレートされた,黒鉛層間化合物から成り」と特定しているだけであり,黒鉛層間化合物以外の物質(単なる黒鉛,金属微粒子)の構成比については,本件各発明の内容を成すものではない。被告の上記主張は,特許請求の範囲の記載に基づくものではなく,採用できない。
? 原告の主張について ア 相違点A及び相違点Bについて 本件各発明と本件引用発明1は,いずれも,ホストである黒鉛の層間に,元素微粒子からなる金属層がゲストとしてインターカレートされている黒鉛層間化合物に関するものであることについては,前記?ア及び?ア(イ)のとおりである。また,本件各発明と本件引用発明1は,黒鉛層間化合物のゲストとしてインターカレートされる元素微粒子について,本件各発明では,その形成方法に特定がなく,その元素が,リチウムと合金化可能な金属であって,Sn,Si,Pb,Al,Gaから選択される金属であるのに対して,本件引用発明1では,少なくとも2G以上の粉砕加速度で粉砕混合された元素微粒子であって,その元素がリチウムである点において相違すること(相違点B’)については,前記?イ(ア)のとおりである。
したがって,相違点Bは,相違点B’と実質的に同じものといえる(なお,原告らも,引用例1記載の黒鉛層間化合物が粉砕法により形成されるものであると主張している。)。
37 他方,上記のとおり,本件各発明と本件引用発明1における黒鉛層間化合物は,いずれも,元素微粒子からなる金属層がゲストとしてインターカレートされたものであることから,インターカレート層をなすゲストの元素の相違(相違点B)のほかに,インターカレートされるゲストの元素の相違(相違点A)を相違点として挙げる必要はない。
イ 相違点Cについて 相違点Cは,相違点2と実質的に同じものである。したがって,相違点2が実質的な相違点であると認められないことと同様の理由により,相違点Cについても,実質的な相違点であるとは認められない。
4 相違点の容易想到性について ? 相違点B’の容易想到性について ア 本件各発明は,高容量と長いサイクル寿命とを共に実現することを可能にする負極及びこの負極を用いた二次電池を提供することを目的とし,構成として,負極活物質が,ホストである黒鉛の層間に,リチウムと合金化可能なSn,Si,Pb,Al又はGaから選択される金属の微粒子がゲストとしてインターカレートされた,黒鉛層間化合物から成ることにより,リチウムと合金化可能な金属が黒鉛の層間という導電性マトリックス内にあるようにし,これにより,金属と黒鉛との電気的な接触が充分になされ電気伝導性を確保することができ,また金属を微粒子化しても,導電性マトリックス内に囲われているので,金属の微粒子によって電解液が分解しないように抑制することができ,そして,負極活物質がリチウムと合金化可能な金属を有するので,負極を備えた電池の容量を高めることが可能になる,というものである。
これに対し,本件引用発明1は,従来技術である,金属を加熱して気相で黒鉛と接触反応させる方法や電気化学的な方法を用いて製造された黒鉛複合物には,黒鉛中に層間化合物と金属とが十分に微細分散されておらず,リチウム二次電池の負極材料として使用した場合に,充放電を繰り返すうちに上記金属が剥離して負極活物 38 質として作用しなくなるという不具合があったことから,粉砕法によって,黒鉛粒子,金属微粒子及び層間化合物とが微細に分散した黒鉛複合物を形成し,それにより,層間に多量のリチウムイオンをインターカレート可能な黒鉛粒子を使用可能としたり,微細化により導電性を高めようとしたりするものである。
このように,本件引用発明1においては,粉砕法によって黒鉛複合物を形成することが中核を成す技術的思想ということができる。また,引用例1には,リチウムと合金化可能な金属が黒鉛の層間という導電性マトリックス内にあるようにすることにより,電気伝導性を確保し,金属を微粒子化しても電解液が分解しないように抑制することができ,負極を備えた電池の容量を高めるという,本件各発明の技術思想は開示されていない。
したがって,引用例1に接した当業者が,本件引用発明1におけるゲストとしてインターカレートされる「リチウム金属の微粒子」を「リチウムと合金化可能なSn,Si,Pb,Al又はGaから選択される金属の微粒子」に置き換えた上で,さらに,黒鉛層間化合物の製造方法について,本件引用発明1において中核を成す粉砕法に換えて,微細分散工程のない塩化物還元法や気体法その他の方法を採用することを容易に想到できたということはできない。
イ また, 前記2?のとおり,Si及びAlは,単体金属原子として黒鉛の層間にインターカレートすることはできないことから,これらの元素微粒子と黒鉛粒子とを粉砕法により混合粉砕しても,黒鉛層間化合物を製造することはできないものと認められ,証拠(甲6)によれば,Gaについても,Si及びAlと同様に,この元素微粒子と黒鉛粒子とを粉砕法により混合粉砕しても,黒鉛層間化合物を製造することはできないものと認められる。そして,Sn及びPbについても,本件特許の出願当時,これらを単体金属原子として黒鉛の層間にインターカレートすることができるなど,これらの元素微粒子と黒鉛粒子とを粉砕法により混合粉砕することにより,黒鉛層間化合物を製造することができるとの知見が存在したとは認められない。
39 したがって,引用例1に接した当業者が,本件引用発明1におけるゲストとしてインターカレートされる「リチウム金属の微粒子」を「リチウムと合金化可能なSn,Si,Pb,Al又はGaから選択される金属の微粒子」に置き換えて,これらの金属の微粒子と黒鉛粒子とを粉砕法により混合粉砕することにより,これらの金属をゲストとする黒鉛層間化合物を製造することを容易に想到できたということもできない。
? 原告らの主張について ア 原告らは,リチウムイオン二次電池の分野において,特性のより優れる負極活物質を開発するということは,周知の課題であり,原告ら主張の周知技術を備えた当業者が,引用例1の記載(【0013】,【0015】,【0038】等)に接すれば,引用例1には,原告ら主張の引用発明1におけるゲストである「リチウム金属の微粒子」を「リチウムと合金化可能な金属の微粒子」に置き換える発明が教示・示唆されていると理解することから,「リチウム金属」の微粒子をゲストとする層を,「リチウムと合金化可能な金属」の微粒子をゲストとする層に変更することは,当業者にとって容易であり,「リチウムと合金化可能な金属」の微粒子をゲストとする黒鉛層間化合物を,原告ら主張の周知技術(塩化物還元法等のハロゲン化物還元法)に従って作製すれば,当該黒鉛層間化合物のゲストの金属微粒子は,自律的に金属層を形成する旨主張する。
しかし,リチウムイオン二次電池の分野において,特性のより優れる負極活物質を開発するということが,原告らの主張するように周知の課題であったとしても,その課題を解決するために,引用例1に接した当業者が相違点B’に係る本件各発明の構成を想到するものとは認め難いことについては,前記?アのとおりである。
したがって,原告らの上記主張は採用できない。
イ 原告らは,進歩性に関する判断手法として,本件発明と引用発明との一致点及び相違点を抽出し,相違点について考究する方法を用いなくとも,原告らの主張する周知技術並びに引用例1及び引用例2に開示された内容に照らせば,当業者に 40 とって本件各発明は容易に想到できるとも主張する。
しかし,原告らの主張する周知技術を認めることができないこと,引用例1の記載に接した当業者が相違点B’に係る本件各発明の構成を想到するものとは認め難いことについては,前記2?ウ及び前記?のとおりである。また,引用例2(甲2)には,Sn,Si,Pb,Al及びGaが黒鉛粒子と層間化合物を形成している物に関する記載はない。
したがって,原告らの上記主張は,その前提を欠くものであり,採用できない。
? 以上によれば,当業者が,本件引用発明1において,相違点B’に係る本件各発明の構成を備えようとすることを容易に想到するということはできない。
5 結論 以上によれば,本件審決における引用発明1及び相違点の認定には,誤りがある。
しかし,前記4のとおり,当業者は,本件引用発明1から本件各発明の構成を容易に想到し得るものではないから,上記誤りは,本件審決の結論に影響を及ぼすものではない。
よって,原告らの請求は理由がないからいずれも棄却することとし,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 部眞規子
裁判官 山門優
裁判官 片瀬亮