関連審決 | 無効2015-800174 |
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事件 |
平成
28年
(行ケ)
10236号
審決取消請求事件
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原告幸南食糧株式会社 同訴訟代理人弁理士 井内龍二 高田一 被告東洋ライス株式会社 同訴訟代理人弁護 士平野和宏 同訴訟代理人弁理 士岡健司 |
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裁判所 | 知的財産高等裁判所 |
判決言渡日 | 2017/09/21 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
1 特許庁が無効2015−800174号事件について平成28年10月3日にした審決を取り消す。 2 訴訟費用は被告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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請求
主文同旨 |
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事案の概要
本件は,特許無効審判請求を不成立とした審決の取消訴訟である。争点は,明確性要件の有無である。 1 特許庁における手続の経緯 被告は,平成17年5月11日,発明の名称を「旨み成分と栄養成分を保持した精白米または無洗米の製造装置」とする発明につき,特許を出願し(特願2005-139133号),平成25年7月5日,設定登録(特許第5306571号)を受けた(請求項の数2。甲14。以下「本件特許」という。。 ) 原告は,平成27年9月4日,本件特許の請求項1及び2に係る発明について特許無効審判請求をした(無効2015-800174号。以下, 「本件審判請求」という。甲11。。 ) 特許庁は,平成28年10月3日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,その謄本は,同月14日,原告に送達された。 2 本件発明の要旨 本件特許の請求項1及び2に係る特許請求の範囲の記載は,次のとおりである(甲14。以下,これらの発明をそれぞれ「本件発明1」「本件発明2」といい,これ ,らの発明を併せて「本件発明」という。本件特許の明細書及び図面〔甲14〕を併せて「本件明細書」という。。 )【請求項1】(本件発明1)「 外から順に,表皮(1),果皮(2),種皮(3),糊粉細胞層(4)と,澱粉を含まず食味上もよくない黄茶色の物質の層により表層部が構成され,該表層部の内側は,前記糊粉細胞層(4)に接して,一段深層に位置する薄黄色の一層の亜糊粉細胞層(5)と,該亜糊粉細胞層(5)の更に深層の,純白色の澱粉細胞層(6)により構成された玄米粒において,前記玄米粒を構成する糊粉細胞層(4)と亜糊粉細胞層(5)と澱粉細胞層(6)の中で,搗精により糊粉細胞層(4)までを除去し,該糊粉細胞層(4)と澱粉細胞層(6)の間に位置する亜糊粉細胞層(5)を外面に残して,該一層の,マルトオリゴ糖に生化学変化させる酵素や食物繊維や蛋白質を含有する亜糊粉細胞層(5)を米粒の表面に露出させ,前記精白米には,全米粒の内, 『舌触りの良くない胚芽(7)の表層部や突出部を削り取り,残された基底部である胚盤(9),または『胚芽(7)の表面部を削りとられた胚芽(8) 』』が残った米粒の合計数が,全体の50%以上を占めるように搗精され,前記搗精により亜糊粉細胞層(5)を表面に露出させた白米を,該亜糊粉細胞層(5)が表面に現れた時の白度37前後に仕上げ,更に糊粉細胞層(4)の細胞壁(4’)が破られ,その中の糊粉顆粒が米肌に粘り付けられた状態で白米の表面に付着する『肌ヌカ』を,無洗米機により分離除去する無洗米処理を行うことを特徴とする旨み成分と栄養成分を保持した無洗米の製造装置であって, 全精白行程の終末寄りから少なくとも3分の2以上の行程に摩擦式精米機を用い, 前記摩擦式精米機の精白除糠網筒の内面をほぼ滑面状となし, 且つ精白ロールの回転数を毎分900回以上の高速回転とすること,及び,無洗米機を備えたことを特徴とする旨み成分と栄養成分を保持した無洗米の製造装置。」【請求項2】(本件発明2)「 外から順に,表皮(1),果皮(2),種皮(3),糊粉細胞層(4)と,澱粉を含まず食味上もよくない黄茶色の物質の層により表層部が構成され,該表層部の内側は,前記糊粉細胞層(4)に接して,一段深層に位置する薄黄色の一層の亜糊粉細胞層(5)と,該亜糊粉細胞層(5)の更に深層の,純白色の澱粉細胞層(6)により構成された玄米粒において,前記玄米粒を構成する糊粉細胞層(4)と亜糊粉細胞層(5)と澱粉細胞層(6)の中で,搗精により糊粉細胞層(4)までを除去し,該糊粉細胞層(4)と澱粉細胞層(6)の間に位置する亜糊粉細胞層(5)を外面に残して,該一層の,マルトオリゴ糖に生化学変化させる酵素や食物繊維や蛋白質を含有する亜糊粉細胞層(5)を米粒の表面に露出させ,前記精白米には,全米粒の内, 『舌触りの良くない胚芽(7)の表層部や突出部を削り取り,残された基底部である胚盤(9),または『胚芽(7)の表面部を削りとられた胚芽(8) 』』が残った米粒の合計数が,全体の50%以上を占めるように搗精され,前記搗精により亜糊粉細胞層(5)を表面に露出させた白米を,該亜糊粉細胞層(5)が表面に現れた時の白度37前後に仕上げ,更に糊粉細胞層(4)の細胞壁(4’)が破られ,その中の糊粉顆粒が米肌に粘り付けられた状態で白米の表面に付着する『肌ヌカ』を,無洗米機により分離除去する無洗米処理を行うことを特徴とする旨み成分と栄養成分を保持した無洗米の製造装置であって, 全精白行程を,一本の精白ロールで済ます1回通過式の単機型の1回通過式精米機を用い,前記精白ロールには,円筒状の胴体(31)の外面に縦走する2本の突条(32,32’)が,始点(34)と終点(35)の中ほどの,アールを有する曲点(33)にて,167度前後の角度で回転方向に対して逆への字状に曲がり,かつ突条(32,32’)の始点(34)と終点(35)を結ぶ線が,該精白ロールの軸線方向と平行になっている均圧型の精白ロールとすること,及び,無洗米機を備えたことを特徴とする旨み成分と栄養成分を保持した無洗米の製造装置。」 3 審判における請求人(原告)の主張 (1) 本件特許の請求項1及び2の各記載は,@「無洗米の製造装置」の発明でありながら精米方法又は装置の使用方法若しくは精米装置の製造方法を表す記載でなされており,また,A著しく不明瞭な記載を含んでいるから,特許法36条6項2号に規定する要件を満たしておらず,特許を受けることができないものであり,その特許は同法123条1項4号に該当し,無効とすべきである。 (2) 本件特許の請求項1及び2に係る各発明は,その特許出願前に日本国内又は外国において,頒布された刊行物である甲1〜10の記載に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものであり,その特許は同法123条1項2号に該当し,無効とすべきである。 4 審決の理由の要点 (1) 明確性要件@(方法的記載)について 本件特許請求の範囲請求項1及び2の記載は,請求人の主張した記載によってはその物の製造方法が記載されているとはいえない。 ア 請求項1及び2の@「前記玄米粒を構成する糊粉細胞層(4)と亜糊粉細胞層(5)と澱粉細胞層(6)の中で,搗精により糊粉細胞層(4)までを除去し,, 「該糊粉細胞層 」A (4)と澱粉細胞層(6)の間に位置する亜糊粉細胞層(5)を外面に残して,該一層の,マルトオリゴ糖に生化学変化させる酵素や食物繊維や蛋白質を含有する亜糊粉細胞層(5)を米粒の表面に露出させ, ,B「舌触りの良 」くない胚芽(7)の表層部や突出部を削り取り, ,C「前記搗精により亜糊粉細胞 」層(5)を表面に露出させ」,D「該亜糊粉細胞層(5)が表面に現れた時の白度37前後に仕上げ,」及びE「更に糊粉細胞層(4)の細胞壁(4’)が破られ,その中の糊粉穎粒が米肌に粘り付けられた状態で白米の表面に付着する『肌ヌカ』を,無洗米機により分離除去する無洗米処理を行う」という各記載,並びに,請求項1の「全精白行程を,一本の精白ロールで済ます1回通過式の単機型の1回通過式精米機を用い,」という記載は,本件発明の「製造装置」という物の製造に関する記載とはいえないから,その物の製造方法が記載されているとはいえない。 イ 請求項1の「前記摩擦式精米機の精白除糠網筒の内面をほぼ滑面状となし,」という記載は,本件発明の「製造装置」という物を単に状態を示すことにより構造又は特性を特定しているにすぎないといえるから,その物の製造方法が記載されているとはいえない。 ウ 請求項1の「精白ロールの回転数を毎分900回以上の高速回転とすること,」という記載及び請求項2の「全精白行程を,一本の精白ロールで済ます1回通過式の単機型の1回通過式精米機を用い,という記載は, 」 本件発明の「製造装置」という物の製造に関する記載とはいえないから,その物の製造方法が記載されているとはいえない。 エ 請求項2の「前記精白ロールには,円筒状の胴体(31)の外面に縦走する2本の突条(32,32’)が,始点(34)と終点(35)の中ほどの,アールを有する曲点(33)にて,167度前後の角度で回転方向に対して逆への字状に曲がり,かつ突条(32,32’)の始点(34)と終点(35)を結ぶ線が,該精白ロールの軸線方向と平行になっている均圧型の精白ロールとすること,」という記載は,本件発明の「製造装置」という物を,単に状態を示すことにより構造又は特性を特定しているにすぎないといえるから,その物の製造方法が記載されているとはいえない。 (2) 明確性要件A(著しく不明確な記載)について 本件特許請求の範囲請求項1及び2の記載は,請求人が主張した記載によっては明確性要件を満たしていないとはいえない。 ア 請求項1及び2の「食味上もよくない黄茶色の物質の層」という記載は,「外から順に,表皮(1),果皮(2),種皮(3),糊粉細胞層(4)と」「構成された」 「表層部」についての玄米一般に係る記載といえるから,当該記載により本件発明が不明確になるものではない。 イ 同「亜糊粉細胞層(5)を外面に残して,該一層の,マルトオリゴ糖に生化学変化させる酵素や食物繊維や蛋白質を含有する亜糊粉細胞層(5)を米粒の表面に露出させ,」という記載は,記載内容自体が明確でないとはいえず,本件発明が不明確になるものではない。なお,仮に実現の可能性が低いとしても,発明が不明確であることにはならない。 ウ 同「前記精白米には,全米粒の内, 『舌触りの良くない胚芽(7)の表層部や突出部を削り取り,残された基底部である胚盤(9),または『胚芽(7)の 』表面部を削りとられた胚芽(8)』が残った米粒の合計数が,全体の50%以上を占めるように搗精され,」という記載は,1粒の米粒に係る記載ではなく,複数の米粒の半数以上のものについての記載と解されるのであって,その記載内容自体が明確でないとまではいえない。 エ 請求項1の「前記摩擦式精米機の精白除糠網筒の内面をほぼ滑面状となし,」という記載は,特に「ほぼ滑面状」という範囲を曖昧にし得る表現があるものの,例えば,本件明細書の「従来の摩擦式精米機では,能率を向上させるために,精白除糠網筒の内面にイボ状,または線状等の突起を設け,糠層を一度に分厚く剥離していたのをなくし,糠層を表面から少しずつ剥離させるために,同網筒の内面を滑面にする」【0029】 ( )との記載,「若干微細な凹凸があるものの,従来のものにくらべ,はるかに凸部が低くなっている」【0031】 ( )との記載,「精白除糠網の内面がほぼ滑面状となっているから, ・・・それらの作用により精白時に,米粒を薄く表面より少しずつ薄皮を剥がす如く剥離させるから,従来の如く,一度に分厚く糠層が削ぎ落とされるために生じる,ムラ剥離されることはない」 (【0033】)という記載,及び,本件出願時の技術常識を考慮すると, 「従来のものにくらべ,はるかに凸部が低くなってい」て「精白時に,米粒を薄く表面より少しずつ薄皮を剥がす如く剥離させる」ことができる精白除糠網筒の内面であることが理解でき,本件発明1が不明確になるものではない。 オ 同「精白ロールの回転数を毎分900回以上の高速回転とする」という記載は,回転数の下限だけを示すような数値範囲限定であって範囲を曖昧にし得る表現があるものの,例えば,本件明細書の「更にこれも常識に逆行して非効率的ではあるが,同精米機の回転数を早めるのである」【0029】 ( )との記載及び本件出願時の技術常識を考慮すると,本件発明1においては回転数の上限値が問題となるのではなく,毎分900回転という下限値未満とならないようにすることに技術的意義を有することが理解でき,本件発明1が不明確になるものではない。 カ 請求項1及び2の「無洗米機を備えた」という記載は,記載内容自体が明確でないとはいえず,本件発明が不明確になるものではない。 (3) 進歩性欠如について 本件発明は,請求人が提出した甲1〜10に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 |
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原告主張の審決取消事由(明確性要件)
1 本件特許の特許請求の範囲請求項1及び2には,無洗米の製造装置の構成が全く記載されていない。 記載されているのは, 「玄米粒の構造」「精米方法」「精米装置の使用方法」又は , ,「精米装置の製造方法」のみであるから,特許法36条6項2号に違反する。 「無洗米の製造装置」の発明を特定するには, 「無洗米の製造装置」の物としての構成を記載しなければならず,玄米粒の構造」 精米方法」 精米装置の使用方法」 「 「 , 「 ,又は「精米装置の製造方法」などでは,発明を特定できない。 いわゆる「プロダクト・バイ・プロセス・クレーム」として,プロダクトを特定するのに,プロセスで特定することが認められるのは,プロダクトとしての構成記載が不可能又は極めて困難な場合だけである。 2(1) 請求項1について ア 「外から順に,表皮(1),果皮(2),種皮(3),糊粉細胞層(4)と,澱粉を含まず食味上もよくない黄茶色の物質の層により表層部が構成され,該表層部の内側は,前記糊粉細胞層(4)に接して,一段深層に位置する薄黄色の一層の亜糊粉細胞層(5)と,該亜糊粉細胞層(5)の更に深層の,純白色の澱粉細胞層(6)により構成された玄米粒において,」では,玄米粒の構造が記載されている。 玄米粒の構造により「無洗米の製造装置」の発明が特定され得るはずはない。 糊粉細胞層は食味に優れるとの文献がある(甲4の5頁24行〜28行)から,糊粉細胞層が「食味上よくない」との表現は,矛盾を含み,不明確になっている。 イ 「前記玄米粒を構成する糊粉細胞層(4)と亜糊粉細胞層(5)と澱粉細胞層(6)の中で,搗精により糊粉細胞層(4)までを除去し,該糊粉細胞層(4)と澱粉細胞層(6)の間に位置する亜糊粉細胞層(5)を外面に残して,該一層の,マルトオリゴ糖に生化学変化させる酵素や食物繊維や蛋白質を含有する亜糊粉細胞層(5)を米粒の表面に露出させ,前記精白米には,全米粒の内, 『舌触りの良くない胚芽(7)の表層部や突出部を削り取り,残された基底部である胚盤(9),ま 』たは『胚芽(7)の表面部を削りとられた胚芽(8)』が残った米粒の合計数が,全体の50%以上を占めるように搗精され,前記搗精により亜糊粉細胞層(5)を表面に露出させた白米を,該亜糊粉細胞層(5)が表面に現れた時の白度37前後に仕上げ,」では,玄米粒に対する精米プロセスが記載されている。精米プロセスにより「無洗米の製造装置」の発明が特定され得るはずはない。 亜糊粉細胞層は,軟弱ではがれやすいので,これを利用して精米が行われるものである(甲4の2頁45行〜46行)。したがって,仮に亜糊粉細胞層が一層であるとすると, 「亜糊粉細胞層(5)を外面に残して,該一層の,マルトオリゴ糖に生化学変化させる酵素や植物繊維や蛋白質を含有する亜糊粉細胞層(5)を米粒の表面に露出させ,」という工程は,実施困難な工程であり,実現のための方法が発明の詳細な説明に十分記載されておらず,単なる課題の提示で終わっている。亜糊粉細胞層(5)を米粒の表面に露出させたとする状態を証明する断面写真なども添付されていない。 また, 「全体の50%以上」の意義が,本件明細書の発明の詳細な説明中に何ら説明されていない。50%以上」 「 といった開放型の広い範囲の記載と,搗精により ・ 「 ・・該一層の, ・・・亜糊粉細胞層(5)を米粒の表面に露出させ」たとする極めて限定的な状態との技術的実現性の整合が取れておらず,不明瞭な記載となっている。 ウ 「更に糊粉細胞層(4)の細胞壁(4’)が破られ,その中の糊粉顆粒が米肌に粘り付けられた状態で白米の表面に付着する『肌ヌカ』を,無洗米機により分離除去する無洗米処理を行うことを特徴とする」では,精米処理後の無洗米プロセスが記載されている。無洗米プロセスにより「無洗米の製造装置」の発明が特定され得るはずはない。 エ 「旨み成分と栄養成分を保持した無洗米の製造装置であって,」では,発明の名称が記載されている。旨み成分と栄養成分を保持した」 「 との記載は,主観的,不明確な記載である。 オ 「全精白行程の終末寄りから少なくとも3分の2以上の行程に摩擦式精米機を用い, では, 」 精米工程に摩擦式精米機を用いて精米するという精米方法が記載されている。精米方法により「無洗米の製造装置」の発明が特定され得るはずはない。 また,精米プロセスの残りの3分の1以下の工程には何が用いられるのかが記載されていない。 カ 「前記摩擦式精米機の精白除糠網筒の内面をほぼ滑面状となし,」では,精白除糠網筒の製造方法が記載されている。精白除糠網筒の製造方法により「無洗米の製造装置」の発明が特定され得るはずはない。 「ほぼ滑面状」との表現は,本件明細書の発明の詳細な説明において何ら説明がされておらず,主観的なあいまいで不正確,不明瞭な表現となっている。 また,精白除糠網筒の製造プロセスの一部が記載されており,いわゆる「プロダクト・バイ・プロセス・クレーム」となっている。 キ 「且つ精白ロールの回転数を毎分900回以上の高速回転とすること,」では,精米機の使用方法が記載されている。精米機の使用方法により「無洗米の製造装置」の発明が特定され得るはずはない。 「毎分900回以上」の開放型表現では,毎分5万回転も入ることとなる。本件明細書の発明の詳細な説明中の記載では,毎分900回転しか示されておらず,技術的妥当性を欠いており,上限も含めた範囲を記載すべきであり,不明瞭な表現となっている。 ク 「及び,無洗米機を備えたことを特徴とする」では,無洗米機の構成が記載されていない。 「無洗米の製造装置」といえば,通常,無洗米機のことを指すが,無洗米機にも種々のものがあり, 「無洗米の製造装置」という物の発明の権利取得には,無洗米機の構成の記載が最重要課題であるが,これが記載されておらず, 「無洗米の製造装置」としての発明が特定されているとはいえない。 ケ 「旨み成分と栄養成分を保持した無洗米の製造装置。」では,発明の名称が記載されている。 「旨み成分と栄養成分を保持した」との記載は,クレーム記載から実証されたものではなく,不明確な記載である。 (2) 請求項2について 請求項2の記載のうち,前記(1)ア〜エと同一の記載部分については,前記(1)ア〜エのとおりである。 コ 「全精白行程を,一本の精白ロールで済ます1回通過式の単機型の1回通過式精米機を用い, では, 」 1回通過式の単機型の1回通過式精米機を用いて精米する精米方法が記載されている。精米方法により「無洗米の製造装置」の発明が特定され得るはずはない。 サ 「前記精白ロールには,円筒状の胴体(31)の外面に縦走する2本の突条(32,32’)が,始点(34)と終点(35)の中ほどの,アールを有する曲点(33)にて,167度前後の角度で回転方向に対して逆への字状に曲がり,かつ突条(32,32’)の始点(34)と終点(35)を結ぶ線が,該精白ロールの軸線方向と平行になっている均圧型の精白ロールとすること, では, 」 精米機の精白ロールを均圧型にするという精白ロールの製造方法が記載されている。精白ロールの製造方法により「無洗米の製造装置」の発明が特定され得るはずはない。 また,精白ロールの製造プロセスが記載されており,精白ロールに関して,いわゆる「プロダクト・バイ・プロセス・クレーム」となっている。 さらに,「前記精白ロールには,」という言葉はどこにも掛かっておらず,この記載が何なのか不明となっている。 シ 「及び,無洗米機を備えたことを特徴とする」については,前記(1)クと同じである。 ス 「旨み成分と栄養成分を保持した無洗米の製造装置。」については,前記(1)ケと同じである。 |
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被告の主張
1 主張の範囲について 審判で審理判断されなかった無効理由を主張することは許されない。 (1) 原告の主張のうち,次のア’,イ’,ウ’,カ’,キ’,ク’,サ’,シ’の下線を付した部分は,本件審判請求において審理判断の対象とされなかったにもかかわらず,本件訴訟において明確性要件違反の理由として初めて主張されるに至ったものである。 したがって,次のイ’,カ’はともかく,少なくとも,次のア’,ウ’,キ’,ク’,サ’,シ’の下線を付した部分は,原告が本件訴訟において審決の取消事由とすることは許されない。 ア’ 請求項1及び2の「前記玄米粒を構成する糊粉細胞層(4)と亜糊粉細胞層(5)と澱粉細胞層(6)の中で,搗精により糊粉細胞層(4)までを除去し,該糊粉細胞層(4)と澱粉細胞層(6)の間に位置する亜糊粉細胞層(5)を外面に残して,該一層の,マルトオリゴ糖に生化学変化させる酵素や食物繊維や蛋白質を含有する亜糊粉細胞層(5)を米粒の表面に露出させ,前記精白米には,全米粒の内, 『舌触りの良くない胚芽(7)の表層部や突出部を削り取り,残された基底部である胚盤(9),または『胚芽(7)の表面部を削りとられた胚芽(8) 』 』が残った米粒の合計数が,全体の50%以上を占めるように搗精され,前記搗精により亜糊粉細胞層(5)を表面に露出させた白米を,該亜糊粉細胞層(5)が表面に現れた時の白度37前後に仕上げ,」 イ’ 請求項1及び2の「更に糊粉細胞層(4)の細胞壁(4’)が破られ,その中の糊粉顆粒が米肌に粘り付けられた状態で白米の表面に付着する『肌ヌカ』を,無洗米機により分離除去する無洗米処理を行うことを特徴とする」 ウ’ 請求項1及び2の「旨み成分と栄養成分を保持した無洗米の製造装置であって,」 カ’ 請求項1の「且つ精白ロールの回転数を毎分900回以上の高速回転とすること,」 キ’ 請求項1の「及び,無洗米機を備えたことを特徴とする」 ク’ 請求項1の「旨み成分と栄養成分を保持した無洗米の製造装置。」 サ’ 請求項2の「及び,無洗米機を備えたことを特徴とする」 シ’ 請求項2の「旨み成分と栄養成分を保持した無洗米の製造装置。」 (2)ア 前記ア’のうち「前記精白米には,全米粒の内, 『舌触りの良くない胚芽(7)の表層部や突出部を削り取り,残された基底部である胚盤(9),または『胚 』芽(7)の表面部を削りとられた胚芽(8) が残った米粒の合計数が, 』 全体の50%以上を占めるように搗精され,」という記載,前記キ’及びサ’のうち「無洗米機を備えた」という記載は,本件審判請求において,無効理由2(著しく不明瞭な記載)として明確性要件に違反する旨主張されていたものであるが,無効理由1(方法的記載)として明確性要件に違反する旨主張されていたものではなく,本件訴訟において無効理由1に関する審決の取消事由とすることは許されない。 イ 請求項1及び2の「外から順に,表皮(1),果皮(2),種皮(3),糊粉細胞層(4)と,澱粉を含まず食味上もよくない黄茶色の物質の層により表層部が構成され,該表層部の内側は,前記糊粉細胞層(4)に接して,一段深層に位置する薄黄色の一層の亜糊粉細胞層(5)と,該亜糊粉細胞層(5)の更に深層の,純白色の澱粉細胞層(6)により構成された玄米粒において,」という記載につき,原告は,玄米粒の構造が単に記載されていると主張しているが,この点も本件審判請求において明確性要件違反の理由として主張されることはなかったものであり,本件訴訟において審決の取消事由とすることは許されない。 2 明確性について (1) 発明特定事項として,作用,機能,性質,特性,方法,用途その他の様々な表現方式を用いることができるので,仮に特許請求の範囲に精米方法の製造方法,装置の使用方法や無洗米化方法の記載があるからといって当然に発明特定事項の記載が不明確になるものではない。 無洗米の製造装置である本件発明における,精米方法の製造方法,装置の使用方法や無洗米化方法に関する記載は,本件発明に係る無洗米の製造装置の作用,機能,性質又は特性を用いて該装置を特定するものであるにすぎない。 (2) 特許を受けようとする発明が明確であるか否かは,特許請求の範囲の記載だけではなく,願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し,また,当業者の出願当時における技術常識を基礎として,特許請求の範囲の記載が,第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきである。 本件審判請求において当該記載が明確性要件違反の理由として主張されることはなかった記載を含め,各請求項に係る本件発明は,いずれも明確性要件に違反していない。 ア 請求項1について 前記第3の2(1)オ〜クの記載は,単に状態を示すことにより構造又は特性を特定しているにすぎない場合に該当するものであって,本件発明1は,このような物の構造の表現形式を用いているほか,作用,機能,性質,特性,方法,用途等の表現方式を用いて,「物の発明」である無洗米の製造装置の発明として特定されており,請求項1及び本件明細書の発明の詳細な説明(【0029】〜【0040】)の記載からすると,発明特定事項の記載は明確である。 (ア) 前記第3の2(1)アにつき,玄米粒の構造の記載自体明確であり,特許請求の範囲に玄米粒の構造が記載されているからといって,当該記載により「無洗米の製造装置」の発明が不明確になるものではない。 糊粉層は栄養価が高いとしても,うまみ成分が豊富で,食感も優れているのは,亜糊粉層である(甲4の3頁2行〜3行)。白米表層には,各種の呈味成分が集積しているところ,糊粉層はぬか層に分類されるものであり(甲1),糊粉層は玄米ゾーンに分類されており(甲7の図),これらの記載からしても,糊粉細胞層は食味が良くなく,亜糊粉細胞層から食味が良くなるものであることは明らかである。 (イ) 同イにつき,「無洗米の製造装置」の作用により「無洗米の製造装置」の構成を特定したものであって,記載自体明確であり,その技術内容も明確であって,本件発明1が不明確になるものではない。 糊粉層と亜糊粉層はよくくっついていて剥がれにくいが,亜糊粉層と澱粉組織の境界が剥がれやすいものである(甲18)。被告の企画部のAから関係従業員に送信した平成23年5月25日メールに添付された営業用ツールである「金芽米早わかり(第二版)(甲19の2)には,本件発明である新技術によって糠皮のみを削 」り取って,亜糊粉層を白米の表面に残していることが記載されており,糠皮がめくれ上がった玄米が撮影された写真2によって,糊粉層と亜糊粉層はよくくっついていて剥がれにくいが,亜糊粉層と澱粉組織の境界が剥がれやすいことが確認できる。なお,甲18の「金芽米とは」の頁には,「厳選した玄米を表面から少しずつヌカ層をとり除き,」との記載があるが,この記載はリーフレットという一般消費者向けの資料であることから技術的な方法を具体的に記載していないだけであり,金芽米の製造において「表面から少しずつヌカ層をとり除」くための具体的な方法は本件明細書の発明の詳細な説明【0029】〜【0033】に記載されている方法を用いるものである。 また,「全体の50%以上」は,本件明細書の発明の詳細な説明【0036】の「全米粒の内,胚芽7の表面部が除去された胚芽8と,胚盤9が残った米粒の合計が少なくとも50%以上を占めている」との記載からも明らかなとおり,搗精され,胚盤9又は表面を除去された胚芽8が残った米粒の合計数が全米粒の数に占める割合を意味するものであり,不明瞭な記載ではない。これに対し,「搗精により・・・該一層の・・・亜糊粉細胞層(5)を米粒の表面に露出させ」たというのは,亜糊粉細胞層(5)が一層からなるものであり,それが米粒の表面に露出している状態をいうものであり,両者の間における技術的実現性の整合性はそもそも問題となるものではない。 (ウ) 同ウにつき,摩擦式精米機による搗精後白米の表面に付着する「糊粉細胞層(4)の細胞壁(4’)が破られ,その中の糊粉顆粒が米肌に粘り付けられた状態で白米の表面に付着する『肌ヌカ』」を,無洗米機により分離除去する無洗米処理という「無洗米の製造装置」の作用により「無洗米の製造装置」の構成を特定したものであり,記載自体明確であり,その技術内容も明確であって,本件発明1が不明確になるものではない。 (エ) 同エにつき,「旨み成分と栄養成分を保持した」との記載は本件発明1によって製造される亜糊粉層と胚盤を残した無洗米の特性に関する記載であるところ,亜糊粉層が旨み成分と栄養成分を有していることは原告提出に係る甲1や甲4にも記載されており,また,胚盤が栄養成分を有していることは技術常識であって,「旨み成分と栄養成分を保持した」との記載が特許請求の範囲に記載されているからといって第三者に不測の不利益を及ぼすものではない。 (オ) 同オの記載は,精米方法の記載ではなく,本件発明1の「無洗米の製造装置」の構成(構造)に関する記載であるとともに,当該「無洗米の製造装置」のうち「全精白行程の終末寄りから少なくとも3分の2以上の行程に摩擦式精米機」が用いられていることを構成要件とするものであって,その余の精白行程(残りの3分の1未満の行程)において用いられるものは「摩擦式精米機」に限定されず,記載自体明確であり,その技術内容も明確であって,第三者に不測の不利益を及ぼすものではない。 (カ) 同カの記載は,精白除糠網筒の製造方法の記載ではなく,本件発明1の「無洗米の製造装置」を構成する摩擦式精米機の精白除糠網筒の内面の状態(構造)に関する記載であって,「無洗米の製造装置」の製造方法が記載されているものではなく,本件発明1は,いわゆる「プロダクト・バイ・プロセスクレーム」に該当するものではなく,記載自体明確であり,その技術内容も明確であって,第三者に不測の不利益を及ぼすものではない。 本件明細書の発明の詳細な説明【0029】【0031】【0033】及び【0 , ,037】の記載からすると,本件発明1は,摩擦式精米機の精白除糠網筒の内面を若干微細な凹凸があっても,ほぼ滑面状とすることにより,精白時に,米粒を薄く表面より少しずつ薄皮を剥がすように剥離させるものであるといえ,ここで「ほぼ滑面状」とは,完全な滑面ではなくとも,「精白時に,米粒を薄く表面より少しずつ薄皮を剥がすように剥離させる」ことができる若干微細な凹凸があるものを含むことを意味することが明確に把握できる。 (キ) 同キの記載は,精米機の使用方法の記載ではなく,本件発明1の「無洗米の製造装置」の構成(構造)に関する記載であって,精米機の使用方法を記載したものではなく,記載自体明確であり,その技術内容も明確であって,第三者に不測の不利益を及ぼすものではない。 本件発明1は,「可能な限り中途精米過程で,全体の米粒において,更には1粒当たりの米粒において,剥離差を生じなくする,つまりむら剥離を無くすと共に,可能なかぎり高栄養・良食味の亜糊粉細胞層5と胚盤9か,または,口当たりの悪い胚芽7の表面部を除去した胚芽8を残るようにする」(本件明細書の発明の詳細な説明【0028】)という問題に対する対策として,「更にこれも常識に逆行して非効率的ではあるが,同精米機の回転数を早める」(本件明細書の発明の詳細な説明【0029】)ものであり,本件発明1においては回転数の上限値が問題となるのではなく,毎分900回転という下限値未満とならないようにすることに技術的意味がある。 なお,精白ロールの回転数には技術的な観点や効率性の観点から事実上上限があるところ,市販されている精白ロールの回転数を考慮しても原告が主張する毎分5万回転という回転数は非現実的であるが,精白ロールの回転数を仮に原告が主張する回転速度毎分5万回転にしても,本件発明の技術的効果を発現させることは理論的には可能である。 (ク) 同クにつき,請求項1に係る「無洗米の製造装置」における無洗米機は,「公知の無洗米機」で足りるため(【0031】【0035】【0036】, , , )無洗米機の構成は限定されないので,第三者に不測の不利益を及ぼすものではない。 (ケ) 同ケにつき,「旨み成分と栄養成分を保持した」との記載は本件発明1によって製造される亜糊粉層と胚盤を残した無洗米の特性に関する記載であるところ,亜糊粉層が旨み成分と栄養成分を有していることは原告提出に係る甲1や甲4にも記載されており,また,胚盤が栄養成分を有していることは技術常識であって,「旨み成分と栄養成分を保持した」との記載が特許請求の範囲に記載されているからといって第三者に不測の不利益を及ぼすものではない。 イ 請求項2について 前記第3の2(2)サの記載は,単に状態を示すことにより構造又は特性を特定しているにすぎない場合に該当するものであって,本件発明2は,このような物の構造の表現形式を用いているほか,作用,機能,性質,特性,方法,用途等の表現方式を用いて「物の発明」である無洗米の製造装置の発明として特定されており,請求項の記載及び発明の詳細な説明の記載(【0029】〜【0040】)からすると,発明特定事項の記載は明確である。 (ア) 前記第3の2(2)コの記載は,精米方法の記載ではなく,本件発明2の「無洗米の製造装置」の構成(構造)に関する記載であって,記載自体明確であり,その技術内容も明確であって,第三者に不測の不利益を及ぼすものではない。 (イ) 同サにつき,「突条(32,32’)の始点(34)と終点(35)を結ぶ線が,該精白ロールの軸線方向と平行になっている均圧型の精白ロール」という記載は,精白ロールの製造方法の記載ではなく,本件発明2の「無洗米の製造装置」を構成する精白ロールの構造に関する記載であって,「無洗米の製造装置」の製造方法が記載されているものではない。本件発明2は,いわゆるプロダクト・バイ・プロセスクレームに該当するものではない。「前記精白ロールには,」という記載は,それに続く「円筒状の胴体(31)の外面に縦走する2本の突条(32,32’)が,始点(34)と終点(35)の中ほどの,アールを有する曲点(33)にて,167度前後の角度で回転方向に対して逆への字状に曲がり,」という記載に係り,精白ロールに設けられる突条の形状を特定するものであって,記載自体明確であり,その技術内容も明確であって,第三者に不測の不利益を及ぼすものではない。 (ウ) 同シにつき,請求項2に係る「無洗米の製造装置」における無洗米機は,「公知の無洗米機」で足りるため(【0031】【0035】【0036】, , , )無洗米機の構成は限定されないので,第三者に不測の不利益を及ぼすものではない。 (エ) 同スにつき,「旨み成分と栄養成分を保持した」という記載は本件発明2によって製造される亜糊粉層と胚盤を残した無洗米の特性に関する記載であるところ,亜糊粉層が旨み成分と栄養成分を有していることは原告提出に係る甲1や甲4にも記載されており,また,胚盤が栄養成分を有していることは技術常識であって,「旨み成分と栄養成分を保持した」との記載が特許請求の範囲に記載されているからといって第三者に不測の不利益を及ぼすものではない。 |
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当裁判所の判断
1 本件発明について (1) 本件発明は,前記第2の2記載のとおりであるところ,本件明細書(甲14)には,本件発明について,次のとおりの記載がある。 「【技術分野】【0001】 この発明は,白米でありながら,米粒の亜糊粉細胞層と胚芽の表面部を除いた部分や胚盤を残して,旨み成分と栄養成分を保持した精白米または無洗米の製造装置に関するものである。 【背景技術】【0002】 ・・・自然の食品から有益な栄養を摂取できればということで,毎日食べるお米について,昔から「玄米」「分搗き米」「胚芽米」などが存在し,最近では「発芽玄米」も世に出回っている。 【0003】 しかし,それらの中で一番食べやすいといわれている「胚芽米」でも米消費量の1%にも満たないのが現状である。その原因は,お米という食材は,精米機によって玄米を 1 分搗きから完全精白米まで自由に精白度を高められるが,高白度になるほど栄養成分が除去されてしまう。かといって玄米に近い,低白度のものほど栄養的に優れてはいるが,それに反比例して,食味が悪いだけでなく,消化吸収性もよくないため,玄米や分搗き米や胚芽米は敬遠される。結局は,少ない栄養成分であっても消化吸収性がよく,且つ,美味な完全精白米が好まれるからである。 【0004】 従って,精米機の歴史は,米粒を「消化吸収性がよく,且つ美味に」という点と,「栄養成分を残す」という相矛盾する点を,いかに両立させるかに苦労を積み重ねてきたと言っても過言ではない。それにもかかわらず,その二律背反の問題はほとんど解決されないままで,今日に至っているのであり,ほとんどの人々は完全精白米を食しているのが現状である。・・・【発明が解決しようとする課題】【0005】 しかし,文献を調べても,これまで玄米の組織について研究されたものはあるが,それらの各組織の食味についての研究や,種々の状態に搗精された,米粒表層部の断面を顕微鏡で見て,表層の糠層などが如何程まで,除去されているかの研究発表等が全く存在しない。本発明は,白米でありながら旨み成分と栄養成分を保持した精白米または無洗米と,その製造方法及びその製造装置を提供するものである。」「【0007】 請求項1においては,外から順に,表皮(1),果皮(2),種皮(3),糊粉細胞層(4)と,澱粉を含まず食味上もよくない黄茶色の物質の層により表層部が構成され,該表層部の内側は,前記糊粉細胞層(4)に接して,一段深層に位置する薄黄色の一層の亜糊粉細胞層(5)と,該亜糊粉細胞層(5)の更に深層の,純白色の澱粉細胞層(6)により構成された玄米粒において,前記玄米粒を構成する糊粉細胞層(4)と亜糊粉細胞層(5)と澱粉細胞層(6)の中で,搗精により糊粉細胞層(4)までを除去し,該糊粉細胞層(4)と澱粉細胞層(6)の間に位置する亜糊粉細胞層(5)を外面に残して,該一層の,マルトオリゴ糖に生化学変化させる酵素や食物繊維や蛋白質を含有する亜糊粉細胞層(5)を米粒の表面に露出させ,前記精白米には,全米粒の内, 『舌触りの良くない胚芽(7)の表層部や突出部を削り取り,残された基底部である胚盤(9),または『胚芽(7)の表面部を削りと 』られた胚芽(8)』が残った米粒の合計数が,全体の50%以上を占めるように搗精され,前記搗精により亜糊粉細胞層(5)を表面に露出させた白米を,該亜糊粉細胞層(5)が表面に現れた時の白度37前後に仕上げ,更に糊粉細胞層(4)の細胞壁(4’)が破られ,その中の糊粉顆粒が米肌に粘り付けられた状態で白米の表面に付着する『肌ヌカ』を,無洗米機により分離除去する無洗米処理を行うことを特徴とする旨み成分と栄養成分を保持した無洗米の製造装置であって, 全精白行程の終末寄りから少なくとも3分の2以上の行程に摩擦式精米機を用い, 前記摩擦式精米機の精白除糠網筒の内面をほぼ滑面状となし, 且つ精白ロールの回転数を毎分900回以上の高速回転とすること,及び,無洗米機を備えたことを特徴とする旨み成分と栄養成分を保持した無洗米の製造装置である。」「【発明の効果】【0010】 本発明の効果は, 1.本発明の精白米及び無洗米は,従来のどのカテゴリーの米よりも甘みがあり美味である。 【0011】 2.従来の高白度分搗き米や完全精白米より,自然のビタミンやミネラルが多く,且つ従来の玄米,分搗き米,胚芽米よりもはるかに食べやすくて消化性も良く,人体に摂取されやすい旨み成分と栄養成分を保持した精白米及び無洗米を提供できる。 【0012】 3.従来の完全精白米及び無洗米よりも除去するものが少ないから,生産工場も省エネで生産でき,また歩留がよく,経済的に有利に生産できる。 【発明を実施するための最良の形態】【0013】 従来では,米粒の「旨み層」は白度39以上または歩留率では約90%(市販品のデータでは歩留率89.3%)に搗精された完全精白米を更に洗米した高白度精白米粒の表層部がその「旨み層」の個所であると考えられてきた。しかし,本願発明者の調査によって,その考えはほとんどが誤りであることを指摘すると共に, 「旨み層」の実体を開示して,その個所を明確にし,併せてその旨み層を生かした精白米及び無洗米とその製造方法などを開示するものである。 【0014】 そこで先ず,玄米粒の組織について説明する。図1は,1粒の玄米粒の表層部の1部(各細胞が特に整然と並んだ部分)を拡大した略断面図である。その米粒表層部の各構成部の特徴について解説すると,表皮1,果皮2,種皮3,糊粉細胞層4(これは数段堆積している個所もある)までの層は,澱粉を含まないし,食味上もよくない黄茶色の物質である。というよりも,ごはんの美味しさの足を引っ張る物質という方が正しいであろう。 【図 1】【0015】 前述した玄米,分搗き米,胚芽米などの食味がよくないのは,以上述べたようにご飯の美味しさの足を引っ張る上記の物質が米粒表面に残っているせいである。それらが除去されている完全精白米でも,洗米して炊かないと食味が良くないのは,精米過程で発生した糊粉細胞層4の細胞壁4’が破られ,その中の糊粉顆粒が米肌に粘り付けられた状態で米粒の表面に『肌ヌカ』として付着(註,これは「覆っている」のではない)されているからである。糊粉細胞4の内容物である糊粉顆粒はそれほど食味の足を引っ張るものである。一方,これまで文献などにもほとんど示されていないが,糊粉細胞層4に接して,糊粉細胞層4より一段深層に位置して僅かに薄黄色をした亜糊粉細胞層5(これは厚みも薄く1層しかない。 が存在してお )り,それは,黄茶色の糊粉細胞層4や,後述する純白色の澱粉細胞層6とは異質のものである。しかし,従来ではこの亜糊粉細胞層5の存在がほとんど知られていなかったし,もし知っていたとしても,美味しさの足を引っ張る糊粉細胞層4の1部との存在でしかなかった。 【0016】 その亜糊粉細胞層5の成分は澱粉だけではなく,種々の有益成分を含有し,糠層(表皮1〜糊粉細胞層4まで)と,胚乳(澱粉細胞層6)の中間的位置にあるというだけでなく,内容的にも,澱粉細胞6と糊粉細胞4との中間的な一面もあり,我々人間(特に米を主食としてきた日本人)にとって極めて美味しさを感じさせる旨み成分だけでなく,栄養的にも優れたもの,例えば浸漬時や炊飯時に澱粉をマルトオリゴ糖類に生化学変化させる酵素や,食物繊維や,良質の蛋白質などを含有しているのである。その亜糊粉細胞層5に接した深層には,成分がほとんど澱粉で占めている澱粉細胞層6があるが,澱粉細胞層6は米粒の中心部まで多段的に積層され,米粒の大部分を占める構成物である。 【0017】 ・・・米粒の旨み成分や栄養成分が最も多いところは,亜糊粉細胞層5であり,オリンピック的に評価すると,亜糊粉細胞層5は『金層』であり,澱粉細胞層6の第 1 層6’が『銀層』であり,その第2層6’’が『銅層』ということになる。ところがこのように米粒における亜糊粉細胞層5は食味の点からも,栄養的見地からも極めて大切な部分でありながら,これまで,それが注目されたことは全くない。従って,これまで,亜糊粉細胞層5が旨み層であるとの認識をされたこともなければ,この『金層』に相当する亜糊粉細胞層5の特徴を生かして搗精された米も,全く存在しないのである。 【0018】 ・・・亜糊粉細胞層5が,いかに食味に『金層』として価値があっても,その表面に,美味しさの足を引っ張る糊粉細胞層4などが覆っていればその効果が出ないだけでなく,不味となるのである。 要するに本願発明者の調査の結果判明したことは,(1)従来の『完全精白米』の場合は,精米機によって,表皮1,果皮2,種皮3などと共に糊粉細胞層4や,その次の層に位置している薄い厚みで一層しかない亜糊粉細胞層5までが「糠層」として除去され,それより次の深層にある澱粉細胞層6が露出した状態で完全精白米の表面を形成しているのである。即ち,亜糊粉細胞5は第1図に示すような整然と目立って並んでいる個所は少なく,ほとんどは顕微鏡でも確認しにくいほど糊粉細胞層4に複雑に貼り付いた微細な細胞であり,それも平均厚さが約5ミクロン程度の極薄のものであるから,白度39以上の高白度に仕上がっている一般的な完全精白米の場合は,亜糊粉細胞層5は剥離されてしまって,それより深層の澱粉細胞層6が表面に露出しているのである。そのようになる原因は,後述の如く従来の摩擦式精米機(毎時毎馬力当りの能率を高めるために糠層を分厚く剥離する方式)では,そのように仕上るのは当然なのである。 【0019】 また,米粒が浸漬及び炊飯時に澱粉をマルトオリゴ糖類に生化学変化させる酵素が含まれている個所は亜糊粉層の外には胚芽にも含まれているが,完全精白米はその胚芽7も根こそぎ取り去っていて,当然ながら胚芽7の表面部を除去された胚芽8や胚盤9が残った米粒も殆ど存在しない。従って従来の完全精白米では米粒の澱粉をマルトオリゴ糖に生化学変化させて,甘みや旨みを発生させる酵素が含有する亜糊粉細胞層5と,胚芽7の2個所を,搗精時にほとんど糠として除去されているため,炊飯しても味の薄い飯にしかならないのである。 【0020】(2)また『分搗き米』の状態は,玄米に近いものほど脱芽はしていないが,果皮2や種皮3までもが多く残り,食味の悪さも玄米とほとんど同じになる。また分搗き米でも7分搗き以上の高白度になると,胚芽7はほとんど脱落し,完全精白米に近いものほど亜糊粉細胞層5まで剥離された米粒が多くなっている。 【0021】 そして,いずれの分搗き米でも,米粒の表面には多かれ,少なかれ,食味上のマイナス物質の糊粉細胞層4や場合によっては,それより表層の糠物質がかなり残留しているのである。これも従来の精米機では必然的にそうなるのである。それらの分搗き米は精白度の低いものは食味が悪く,精白度の高いものはそれより食べやすいものの,決して美味といえるものではなく,その上,胚芽7の残存がほとんどなくなり,栄養も少ない。 (3)また『胚芽米』の状態は,最も精白されたものでも,その食味は分搗き米の7分搗き程度のものであって,それに胚芽7' がそのままの形状で多く残存しているため,ご飯に炊くと一層口当たりを悪くする。 【0022】・・・玄米粒における胚芽7は,図2のように,先端が円錐状になって米粒の中心部に向けて深く没入し,その頂部が米粒の頭部より盛り上がった状態になっている。 そして『胚芽米』とは,図5に示す如く,玄米の表皮1や果皮2等を除去しても,胚芽米の胚芽7’は,玄米の時より僅かに小さくなっているものの,ほとんどそのまま残したものである。それも全米粒の80%以上残存しているのである。しかしそれら米粒の胚芽7’の表面部,つまり米粒より盛り上がった内部には,幼根や幼芽(鞘葉など)があって,それによって口当たりが悪く,且つ消化性も良くない。 【0023】 しかし,図7の如く, 『胚芽7の表面部を削りとられた胚芽8』になると,そのデメリットがかなり解消される。それを更に削り取ると図6に示す如く,胚芽の胚盤9だけが残ることになる。いずれにしても,この『胚芽7の表面部を除去された胚芽8』や『胚盤9』は消化性も良く,澱粉をマルトオリゴ糖に生化学変化させる酵素も多く含むため,ご飯に甘みもあり,またビタミンE等の栄養成分も多いのである。以上のことから考えると,従来は米の栄養成分は糠層や胚芽全体に目を向けられていたため,気付かなかったが,胚盤9や亜糊粉細胞層5には食味上,マイナス作用がないばかりか,米粒の栄養成分及び旨み成分を多く含有しているのであるから,これを可及的に残すと共に,食味にマイナス作用を与える糊粉細胞層4やそれより表層の物質,いわゆる糠層成分や,胚芽7の表面部を可能なかぎり除去すれば良いことになる。 【図2】 【図5】 【図6】 【図7】【0024】 ・・・特に,その存在の可能性が高いと思われる完全精白米より,僅かに精白度の低い分搗き米でも,そのような米が存在しなかったのである。その理由として考えられるのは, 第一に,亜糊粉細胞層5や,胚芽7の表面部以外の胚芽8や胚盤9の特徴が知られていなかったこと。 第二に,亜糊粉細胞層5の存在が知られていなかったことと,よしんば知っていたとしても,糊粉細胞層の1部と考えられ,更に極めて厚みが薄く,且つ,岩盤的な硬い澱粉細胞層6の外側にある糊粉細胞層4と共に剥離されやすいこと。また胚芽7は根こそぎ脱芽しやすく,表面部以外のみを残しにくかったこと。 第三に,従来から,飯米用の精米手段は摩擦式精米機にて行うことが常識とされていることから,その搗精方法では,必然的にそうなるからであろう。 即ち,この第三の理由について詳述すると,本願発明者の発見によるが,従来の摩擦式精米機では,白度32程度の精白途上のまだ比較的精白度の低い段階から,胚芽が根こそぎ脱落している米粒が多く,またその未精白状態の時に,精米機より排出される糠より微砕粒を除去しても,その糠にかなりの澱粉成分が含まれていることを発見した。 【0025】 それによって,これまでの概念では,摩擦式精米機では発生した糠粉を介在しながら,米粒同士を擦れ合わせて米粒の表面を剥離する方式であるから,球形とは異なる米粒表面の凹凸にかかわらず,表面が均等に剥離されていくものと考えられていたがそれは誤りであることが判明した。何故ならば,米粒の精白度が低いのに,かなりの米粒が根こそぎ脱芽しているだけでなく,米粒の深層部にしか存在しない澱粉成分が糠となって削られるということは,精米過程で一度に剥離される糠層はかなりの厚さで,しかも部分的に『むら剥離』が生じていることになるからである。 従って,完全精白米に精白される直前の高白度分搗き米では全体的に見ても,また1粒当たりで見ても,胚芽7が根こそぎ脱芽しているだけでなく,深層の亜糊粉細胞層5が削ぎ落とされ,更に,澱粉細胞層6の表面も若干削りとられている過精白部分もあれば,未だ糊粉細胞層4が残ったままの未精白部分も多く存在するのである。」 「【0027】 ・・・胚芽米の製造手段の研削式精米機の場合では,砥石などで米粒の表面を削る方式であるために,摩擦式の場合より,米粒の突出部が削られるため一層むら剥離が生じ,高白度になると,澱粉細胞層6も削ぎ落とされている個所もあれば,糊粉細胞層4だけでなく,それより表層の糠層が残ったままの部分もあるという状態になる。特に,胚芽米は主要精米行程を研削式精米機にて仕上げられるため,米粒表面に研削傷があるため一層食味が良くない。また,摩擦式であっても特公平5-21628号公報に記載の技術では,胚盤9が残留したものであるが,精米機で仕上げただけの白度が40の高白度米のため,旨み成分や栄養成分の多い亜糊粉細胞層5はほとんど除去されてしまっている。 【0028】・・・従来の精白米は,食べやすいが甘みが少ないし栄養成分が少ない完全精白米か,栄養成分が多いが極めて食味がまずいものしかなかったのである。それを解決するには,精米過程で,これまで気付かなかった,低精白の状態の時に,脱芽したり,排出される糠の中に澱粉が含まれることを可及的に少なくし,つまり,(1)可能な限り中途精米過程で,全体の米粒において,更には1粒当りの米粒において,剥離差を生じなくする,つまりむら剥離を無くすと共に,可能なかぎり高栄養・良食味の亜糊粉細胞層5と胚盤9か,または,口当たりの悪い胚芽7の表面部を除去した胚芽8を残るようにする。 (2)その上で,亜糊粉細胞層5が表面に現れた時に搗精を終わらせることが必要となる。 【0029】 しかし,この(1)の問題は,それに気付けば対策はある。即ち,昔から精米業界で常識として行われてきた方式を,次のように変えることで実現できる(尤もそれによってこれまでのような完全精白米に仕上げるには極めて不都合になる。。先 )ずこれまでの常識として, 「摩擦式精米機では米粒に高圧がかかり,胚芽は根こそぎ脱落するから,それをクリアするには研削式精米機が不可欠」とされてきたことを改め,摩擦式精米機を採用し,更にこれまでの常識として,従来の摩擦式精米機では,能率を向上させるために,精白除糠網筒の内面にイボ状,または線状等の突起を設け,糠層を一度に分厚く剥離していたのをなくし,糠層を表面から少しずつ剥離させるために,同網筒の内面を滑面にするだけでなく更にこれも従来の摩擦式精米方法の常識とは逆行するが,従来の『ヘの字型』搗精,即ち,精米行程の中間行程が,他の行程のところより集中して精白する精米法を変え,全行程で均等に精白し,更にこれも常識に逆行して非効率的ではあるが,同精米機の回転数を早めるのである。また(2)については, (1)の完了後に亜糊粉細胞層5が表面に現れた最適の精白度に仕上げられるよう,後述のように白度計と黄色度計を用いて,試験搗精することで,対処できる。従って,本発明の精米装置は,次のとおり最もポピュラーな完全精白米を製造していた従来の精米装置を若干変更するだけで実現できる。 【0030】 <実施例の説明> 本発明の装置の1実施例を図3に基づき説明する。玄米張込口11より第1昇降機12を経て,供給された玄米を貯蔵する玄米タンク13からの玄米供給を受ける第1精米機14,及び第2昇降機15から低白度中途精白米の供給を受ける第2精米機16,及び第3昇降機17から高白度中途精白米の供給を受ける第3精米機18と,各装置が連設されて精米装置が構成されている。なお,第1精米機14,第2精米機16,第3精米機18はいずれも噴風摩擦式精米機である(但し第1精米機14のみは研削式にする場合もある。 従来は, ) 第2精米機16が第1精米機14及び第3精米機18よりも高馬力のモーターが付設されているが,本装置のモーター(いずれも図示せず)は3台とも同馬力のものを付設している。 【図3】【0031】 また,それらの噴風摩擦式精米機の回転数も毎分900回転以上の高速回転で運転される。更にそれらの噴風摩擦式精米機の精白除糠網筒(図示せず)の内面は,若干微細な凹凸があるものの,従来のものにくらべ,はるかに凸部が低くなっている。そして第3精米機18から排出された精白米は,商品として袋詰めしてもよいし,或いは次行程の公知の無洗米機(図示せず)に送ることも可能となる構成になっている。 【0032】 次に,上記装置の作用説明と,本発明の製造方法を説明する。玄米張込口11に投入された玄米は,第1昇降機12を経て,玄米タンク13に投入される。そして玄米タンク13より流下した玄米は,第1精米機14にて,米粒の表層部を薄く剥離した中途精白米に仕上げられ,第2昇降機15を経て,第2精米機16に供給される。第2精米機16では,その中途精白米の表面を薄く剥離し,更に精白度を高めた中途精白米に仕上げて,第3昇降機17を経て,第3精米機18に供給する。 第3精米機18では,その中途精白米の表面を薄く剥離して最適の白度に仕上げる。 【0033】 ・・・第1精米機14は玄米を僅かに精白するだけであるから,従来のままでも米粒の亜糊粉細胞層5まで削られることはない(但し,研削式の場合は砥石を60番以上にする必要あり) 問題は全精米行程の中ほどを受け持つ, 。 第2精米機16であるが,本装置では,(1)精白除糠網の内面がほとんど,滑面状となっているから,(2)また第2精米機16では第1精米機14や第3精米機18と同状の軽負荷しかかけないから,更に,(3)本装置は毎分900回の高速回転をさせているから, それらの作用により精白時に,米粒を薄く表面より少しずつ薄皮を剥がす如く剥離させるから,従来の如く,一度に分厚く糠層が削ぎ落とされるために生じる,ムラ剥離されることはない。また摩擦式精米機特有の胚芽7が根こそぎ脱落することもない。」「【0035】・・・その最適の白度に仕上げるにはどうするかは,本発明の最重要事項である。 何故ならば米粒における旨み層,即ち亜糊粉細胞層5の個所がわかったとしても,またそれが米粒表面に現すことが出来る精米装置が示されたとしても,他の個所と見境のつかない旨み層が米粒表面に現れた時を狙って搗精を終わらせる手段が示されていなければ無意味だからである。そこでその手段を以下に述べるとすると,上記装置のミニチュア機と,白度計と,炊飯器と,黄色度計を用い,そのロットの玄米はどの白度に仕上げれば良いかを事前に確認しておき,その白度で仕上げるのである。即ち本発明では,糊粉細胞層4が除去され,これまで知られていなかった「旨み層」の個所となる亜糊粉細胞層5が精白米の表面に現れた時の精白度にすることが極めて肝要であるが,そもそも本願発明者の調査では,亜糊粉細胞層5の平均厚みはわずか5ミクロン前後の極薄であるため,僅かの精白度の差が重大な意味をもつ。その精白度の差を搗精歩留率の差にすると,例えば歩留率が91.0%の時に,亜糊粉細胞層5が表面に現れてきた場合に,それより1%歩留り減の90.0%に搗精すると,亜糊粉細胞層5がすっかり剥離されてしまう計算になるのである。従って本発明の精白米に仕上げるには細心の注意を払って搗精をする必要がある。その搗精度の指標となるのは,ロットの原料玄米の1部を上記ミニチュア機で,段階的に白度37前後の各白度の供試米に搗精し,それを一般的な消費者がしているように洗米し,若しくは公知の無洗米機によって通常の無洗化処理(特に強く負荷をかけるわけではない)を行い,そのいずれかを炊飯器によって炊飯したご飯を黄色度計で計り,黄色度11〜18の内の好みの供試米の白度に合わせて本格搗精をすればよいのである。どうして黄色度に巾があるかというと,消費者の好みに応じた精白米を製造すればよいからである。即ち,上記黄色度の高いものは,炊きたてを食べるのに適す(極めて甘みとコクがある)が,冷めると僅かながら糠臭がするのとご飯が硬くなる欠点がある。逆に黄色度の低いものは,おにぎりのように,冷めてから食べるのに適する(炊きたての時は黄色度の高いものより劣るが,冷めても美味である)からである。 【0036】 ・・・いずれの場合でも,その精白度は,従来の第3精米機18より排出された完全精白米の精白度より低いのが特徴である。むしろ本装置にて従来の完全精白米に仕上げることはできないし,3台共にモーター馬力を大きくしてそれを果たそうとしても,米温が極めて上昇するだけでなく,極めて効率の悪いものとなる。しかし,本発明の米を製造するときは従来の場合より,米粒から剥離するものが少ないから,逆に消費電力が少ないのである。また精白米が高歩留率となり経済的に有利でもある。そして注目すべきは,上記のようにして仕上がった精白米は,亜糊粉細胞層5が米粒表面をほとんど覆っていて,且つ,全米粒の内,胚芽7の表面部が除去された胚芽8と,胚盤9が残った米粒の合計数が少なくとも50%以上を占めている。このようにして製造された本発明の精白米はそのまま商品化してもよいし,或いはこの精白米を公知の無洗米機(図示せず)にかけて無洗米として,商品化することが出来る。 【0037】・・・本発明の精米装置では,(1) 全行程,もしくは終末寄りの行程が噴風摩擦式精米機によって構成され,それが全精米行程の少なくとも3分の2以上を占めている。 (2) その噴風摩擦式精米行程の全行程をほぼ均等負荷がかかる負荷配分になっている。 (3) 同精米機の精白除糠網筒の内面はほぼ滑面状となっている。 (4) 同精米機の精白ロールの回転数が毎分900回転以上の高速回転となっている。 との主要な要件を備えたものであるが,それらの(1)〜(4)の全てを満たすことは相乗効果も働き最もよいが,その内の各項目の一つでもそれなりの効果を有するものである。 【0038】 なお,図3の実施例は3台連座式となっているが,これを2台連座式や4台連座式にしても良いし,また単機でもよい。いずれの場合でも上記(1)〜(4)を満たすものであればよい。但し,単機,即ち1台の1回通過式精米機でそれを行うには,従来の精白ロールのままでは出来ない。従って,その場合の精白ロールを第2実施例として,図4に示し,説明する(但し,精米機全体の図示は省略する)。図4は,本発明の1台による1回通過式精米機に用いられる『均圧型』精白ロールを示すものであるが,その特徴は,円筒状の胴体31の外面に縦走する2本の突条32,32' が,始点34と終点35の中ほどの曲点(アールを有す)33にて,167度前後の角度で矢印方向に曲がっていることである。しかも,始点34と終点35を結ぶ線が精白ロールの軸線方向と平行になっている。 【0039】 なお,36・36' ・36''・36''' は,いずれも突条32の背陰部に開口した噴風口である。その精白ロールの作用は,精白室内に回転自在に設けられた精白ロールの右(図)に接続して,一体的に設けられた送米ラセン(図示せず)により,精白室内に送られた玄米は,送米ラセンと共に回転する精白ロールの突条32,32' によって,高圧状で攪拌されるが,精白ロールの突条32,32' は曲点33にて回転方向(矢印)に対して,約167度の角度で曲がっているため,中央部に高圧がかかることがない。 【0040】 また,曲点33から,終点35までは,僅かではあるが米の流れとは逆らう方向になっているため,終点35の近傍にある排出口に設けられた圧迫板(いずれも図示せず)の圧迫力も適圧で済む。ということは,終点35付近が極めて低圧になり過ぎることもない。以上のとおりであるから,連座型であっても,或いは全精白行程を一本の精白ロールで済ます1回通過式の単機型であっても,その全行程(尤も排出口近傍の低圧部なったところを除いて)はほぼ均等に圧力がかかり,結果として全行程がほぼ均等に負荷がかかる負荷配分が行われ,上記に示す(1)〜(4)が実現される。このようにして,第1実施例でも,第2実施例でも,共に,精米行程の最終行程を経て,適正な白度に仕上げられた精白米及びそれを無洗化処理をした無洗米は,胚盤9や,表面部を除去された胚芽8が多く残存し,しかも亜糊粉細胞層5もほとんど残存し,またその表層にあった糊粉細胞層4を含めて,糠層がほとんど剥離されているのである。」 (2) 前記第2の2の認定事実及び前記(1)の本件明細書の記載によると,本件発明について,次のとおり認められる。 ア 本件発明は,白米でありながら,米粒の亜糊粉細胞層と胚芽の表面部を除いた部分又は胚盤を残して,旨み成分と栄養成分を保持した無洗米を製造する装置に関する。 イ 米粒の糊粉細胞層4に接して,糊粉細胞層4より一段深層に位置して僅かに薄黄色をした亜糊粉細胞層5は,その存在がほとんど知られていなかったが,その成分は,澱粉だけではなく,種々の有益成分を含有し,極めて美味しさを感じさせる旨み成分を含み,栄養的にも優れたものである。 「胚芽7の表面部を除去された胚芽8」や「胚盤9」は,消化性が良く,ご飯に甘みを与え,栄養成分も多い。 これらは,米粒の栄養成分及び旨み成分を多く含有しているのであるから,可及的に残すとともに,食味にマイナス作用を与える糊粉細胞層4やそれより表層の物質,いわゆる糠層成分や,胚芽7の表面部を,可能なかぎり除去すればよい。 ウ 従来の精白米は,食べやすいが甘みが少ないし栄養成分が少ない完全精白米か,栄養成分が多いが極めて食味がまずいものしかなかった。それを解決するには,可能な限り中途精米過程で,全体の米粒において,更には1粒当りの米粒において,剥離差を生じなくするとともに,可能な限り高栄養・良食味の亜糊粉細胞層5と胚盤9か,又は,口当たりの悪い胚芽7の表面部を除去した胚芽8が残るようにし,その上で,亜糊粉細胞層5が表面に現れた時に搗精を終わらせることが必要となる。 エ 本件発明の精米装置は,上記ウの課題を解決したものであり,完全精白米を製造していた従来の精米装置を若干変更するだけで実現できる。また,無洗米機を含み,公知の無洗米機を使用できる。 2 取消事由(明確性要件の存否)について (1) 特許法36条6項2号は,特許請求の範囲の記載に関し,特許を受けようとする発明が明確でなければならない旨規定する。この趣旨は,特許請求の範囲に記載された発明が明確でない場合には,特許の付与された発明の技術的範囲が不明確となり,第三者に不測の不利益を及ぼすことがあり得るため,そのような不都合な結果を防止することにある。そして,特許を受けようとする発明が明確であるか否かは,特許請求の範囲の記載のみならず,願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し,また,当業者の出願時における技術常識を基礎として,特許請求の範囲の記載が,第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきである。 (2)ア 請求項1及び2の「外から順に,表皮(1),果皮(2),種皮(3),糊粉細胞層(4)と,澱粉を含まず食味上もよくない黄茶色の物質の層により表層部が構成され,該表層部の内側は,前記糊粉細胞層(4)に接して,一段深層に位置する薄黄色の一層の亜糊粉細胞層(5)と,該亜糊粉細胞層(5)の更に深層の,純白色の澱粉細胞層(6)により構成された玄米粒において,」の部分(以下「記載事項A」という。)について 記載事項Aは,本件発明の無洗米の製造装置における処理対象である玄米粒の構成について,その表層部から深層部に至る各部分の名称を順に列挙するものであり,上記無洗米の製造装置の構造又は特性に直接関連するものではない。 イ 請求項1及び2の「前記玄米粒を構成する糊粉細胞層(4)と亜糊粉細胞層(5)と澱粉細胞層(6)の中で,搗精により糊粉細胞層(4)までを除去し,該糊粉細胞層(4)と澱粉細胞層(6)の間に位置する亜糊粉細胞層(5)を外面に残して,該一層の,マルトオリゴ糖に生化学変化させる酵素や食物繊維や蛋白質を含有する亜糊粉細胞層(5)を米粒の表面に露出させ,前記精白米には,全米粒の内, 『舌触りの良くない胚芽(7)の表層部や突出部を削り取り,残された基底部である胚盤(9),または『胚芽(7)の表面部を削りとられた胚芽(8) 』 』が残った米粒の合計数が,全体の50%以上を占めるように搗精され,前記搗精により亜糊粉細胞層(5)を表面に露出させた白米を,該亜糊粉細胞層(5)が表面に現れた時の白度37前後に仕上げ,」の部分(以下「記載事項B」という。)について 記載事項Bは,本件発明の無洗米の製造装置を用いた精米方法又は上記無洗米の製造装置により得られる精白米の性状を表したものであり,上記無洗米の製造装置の構造又は特性を直接特定する記載ではない。 ウ 請求項1及び2の「更に糊粉細胞層(4)の細胞壁(4’)が破られ,その中の糊粉顆粒が米肌に粘り付けられた状態で白米の表面に付着する『肌ヌカ』を,無洗米機により分離除去する無洗米処理を行うことを特徴とする」の部分(以下「記載事項 C」という。)について 記載事項 C は,白米の表面に付着する「肌ヌカ」を無洗米機により分離除去する無洗米化処理を行うことを記載したものであり,本件発明の無洗米の製造装置が無洗米機をその構成の一部としていることを表しているが,それ以上に,上記無洗米の製造装置の構造又は特定を直接特定する記載ではない。 エ 請求項1及び2の「旨み成分と栄養成分を保持した無洗米の製造装置であって,」の部分(以下「記載事項D」という。)について 記載事項Dの「無洗米の製造装置であって」という部分は,本件発明が無洗米の製造のための装置の発明であることを示す記載であり,発明のカテゴリーを示して,その技術的範囲を定めるものと解される。 記載事項Dの「旨み成分と栄養成分を保持した」という部分は,本件発明の無洗米の製造装置で製造される無洗米の特性を示したものであり,前記無洗米の製造装置の構造又は特性を直接特定する記載ではない。 オ 請求項1の「全精白行程の終末寄りから少なくとも3分の2以上の行程に摩擦式精米機を用い,」の部分(以下「記載事項E」という。)について 記載事項Eは,それのみでは,これが精米工程,すなわち,方法を表すものなのか,請求項1の無洗米の製造装置に少なくとも摩擦式精米機が含まれているという構造を示すものなのか,必ずしも判然としない。 しかしながら,本件明細書には,実施例として,第1精米機,第2精米機,第3精米機を構成に含み,これらはいずれも噴風摩擦式精米機であるが,第1精米機のみは研削式にする場合もあるという無洗米の製造装置が記載されており(【0030】, ) 玄米は,第1精米機において中途精白米に仕上げられ,第2精米機において,更に精白度を高めた中途精白米に仕上げられ,第3精米機において,最適の白度に仕上げられる(【0032】)のであって,本件発明の精米装置では, 「全行程,もしくは終末寄りの工程が噴風摩擦式精米機によって構成され,それが少なくとも全精米工程の少なくとも3分の2以上を占めている。( 」【0037】)旨が記載されている。 これらの記載を斟酌すると,記載事項Eは,本件発明1に係る無洗米の製造装置の構成につき,摩擦式精米機が全精白工程の少なくとも3分の2以上の工程を占めるように構成されたとの特定をしていると解することができるから,上記無洗米の製造装置の構造を示すものということができる。 カ 請求項1の「前記摩擦式精米機の精白除糠網筒の内面をほぼ滑面状となし,」の部分(以下「記載事項F」という。)について 記載事項Fには, 「精白除糠網筒の内面」を「ほぼ滑面状とな」すという動詞を用いた記載が含まれているが, 「ほぼ滑面状」とされるのは「精白除糠網筒の内面」であり,本件明細書には,本件発明1の無洗米の製造装置が完成した状態において,「精白除糠網筒の内面」 「滑面」 が (【0029】, ほとんど, )「 滑面状」 (【0033】 , )又は「ほぼ滑面状」【0037】 ( )である旨が記載されており,従来の摩擦式精米機の「精白除糠網筒の内面」には「突起」が設けられていたが,本件発明1の無洗米の製造装置では,これを「滑面」にする旨(【0029】)の記載がある一方,精白除糠網筒の製造方法の記載はないから,記載事項 F は,「精白除糠網筒の内面」が「ほぼ滑面状」である「精白除糠網筒」をその構成に含むことを,精白除糠網筒の内面の状態を示すことにより,特定したものと解される。したがって,上記無洗米の製造装置の構造を示すものということができる。 キ 請求項1の「且つ精白ロールの回転数を毎分900回以上の高速回転とすること,」の部分(以下「記載事項G」という。)について 記載事項Gは,本件発明1に係る無洗米の製造装置を構成する精米機が, 「精白ロール」を有するという,前記装置の構成を特定する記載と,その運転条件である回転数に関する記載を含むものであり,後者は,本件明細書の「それらの噴風摩擦式精米機の回転数も毎分900回転以上の高速回転で運転される」 (【0031】, )「本装置は毎分900回の高速回転をさせている」【0033】 ( )との記載に照らすと,本件発明1に係る無洗米の製造装置の構成につき,上記回転数以上で運転するものと特定していると解することができるから,上記無洗米の製造装置の構造又は特性を特定するものということができる。 ク 請求項1及び2の「及び,無洗米機を備えたことを特徴とする」の部分(以下「記載事項H」という。)について 記載事項Hは,本件発明に係る無洗米の製造装置の構成には,無洗米機が含まれることを特定している。 本件明細書には,実施例の説明として,無洗米機は,公知の無洗米機【0031】 ( ,【0036】 と記載されているのみであって, ) 当該無洗米機の構造又は特性についての記載は見当たらないが, 「公知の無洗米機」であるという意味では特定されているということができる。 ケ 請求項1及び2の「旨み成分と栄養成分を保持した無洗米の製造装置。」の部分(以下「記載事項I」という。)について 記載事項Iは,記載事項Dと同内容であり,前記エのとおりである。 (3) 以上の記載事項A〜Iについての検討を総合すると,本件発明1の無洗米の製造装置は,少なくとも,摩擦式精米機(記載事項F)と無洗米機(記載事項C)をその構成の一部とするものであり,その摩擦式精米機は,全精白構成の終末寄りから少なくとも3分の2以上の工程に用いられているものである(記載事項E)上,精白除糠網筒(記載事項F)と精白ロール(記載事項G)をその構成の一部とするものであり,その精白除糠網筒の内面は,ほぼ滑面状であって(記載事項F),精白ロールの回転数は毎分900回以上の高速回転とするものである(記載事項 G)と認められる。 したがって,上記の無洗米の製造装置の構造又は特性は,記載事項A〜Iから理解することができる。 しかしながら,請求項1の無洗米の製造装置の特定は,上記の装置の構造又は特性にとどまるものではなく,精米機により,亜糊粉細胞層を米粒表面に露出させ,米粒の50%以上について胚盤又は表面部を削り取られた胚芽を残し,白度37前後に仕上がるように搗精し(記載事項B) 白米の表面に付着する肌ヌカを無洗米機 ,により分離除去する無洗米処理を行う(記載事項C)ものであり,旨味成分と栄養成分を保持した無洗米を製造するもの(記載事項D,I)である。 このうち,亜糊粉細胞層を米粒表面に露出させ,米粒の50%以上について胚盤又は表面部を削り取られた胚芽を残し,白度37前後に仕上がるように搗精する(記載事項B)ことについては,本件明細書の発明の詳細な説明において,本件発明に係る無洗米の製造装置のミニチュア機で,白度37前後の各白度に搗精した精米を,洗米するか,公知の無洗米機によって通常の無洗化処理を行い,炊飯器によって炊飯し,その黄色度を黄色度計で計り,黄色度11〜18の内の好みの供試米の白度に合わせて搗精を終わらせる時を調整して,本格搗精をすることにより行うこと(【0035】, ) このようにして仕上がった精白米は,亜糊粉細胞層が米粒表面をほとんど覆っていて,かつ,全米粒のうち,表面が除去された胚芽と胚盤が残った米粒の合計数が,少なくとも50%以上を占めていること(【0036】)が記載されており,結局のところ,ミニチュア機で実際に搗精を行うことにより,本格搗精を終わらせる時を調整することにより実現されるものであることが記載されている。 したがって,本件明細書には,本件発明1の無洗米の製造装置につき,その特定の構造又は特性のみによって,玄米を前記のような精白米に精米することができることは記載されておらず,その運転条件を調整することにより,そのような精米ができるものとされている。そして,その運転条件は,本件明細書において,毎分900回以上の高速回転で精白ロールを回転させること以外の特定はなく,実際に上記のような精米ができる精白ロールの回転数や,精米機に供給される玄米の供給速度,精米機の運転時間などの運転条件の特定はなく,本件出願時の技術常識からして,これが明らかであると認めることもできない。 ところで,本件明細書の発明の詳細な説明において,亜糊粉細胞層(5)については, 「糊粉細胞層4に接して,糊粉細胞層4より一段深層に位置して僅かに薄黄色をした」 厚みも薄く1層しかない」 , 「 ものであり 【0015】, 亜糊粉細胞5は ・ ( )「 ・・整然と目立って並んでいる個所は少なく,ほとんどは顕微鏡でも確認しにくいほど糊粉細胞層4に複雑に貼り付いた微細な細胞であり,それも平均厚さが約5ミクロン程度の極薄のものである」【0018】 ( )と記載され,胚芽(8)及び胚盤(9)については, 「胚芽7の表面部を除去された」ものが胚芽(8)であり,それを更に削り取ると胚盤(9)になる(【0023】)と記載されている。しかるところ,本件明細書の発明の詳細な説明には,米粒に亜糊粉細胞層(5)と胚芽(8)及び胚盤(9)を残し,それより外側の部分を除去することをもって,米粒に「旨み成分と栄養成分を保持」させることができる旨が記載されており(【0017】〜【0023】,玄米をこのような精白米に精米する方法については, ) 「従来から,飯米用の精米手段は摩擦式精米機にて行うことが常識とされている」 その搗精方法では, が,必然的に,米粒から亜糊粉細胞層(5)や胚芽(8)及び胚盤(9)も除去されてしまうこと(【0024】【0025】 , )が記載されている。また,本件明細書の発明の詳細な説明には, 「摩擦式精米機では米粒に高圧がかかり,胚芽は根こそぎ脱落する」から,胚芽を残存させるには,研削式精米機による精米が不可欠とされていた(【0029】)ところ,研削式精米機により精米すると,むらが生じ,高白度になると,亜糊粉細胞層(5)の内側の澱粉細胞層(6)も削ぎ落とされている個所もあれば,糊粉細胞層(4)だけでなく,それより表層の糠層が残ったままの部分もあるという状態になること(【0027】)が記載されている。 そうすると,精米機により,亜糊粉細胞層を米粒表面に露出させ,米粒の50%以上において胚盤又は表面を削り取られた胚芽を残し,白度37前後に仕上がるように搗精することは,従来の技術では容易ではなかったことがうかがわれ,上記のとおり,本件明細書に具体的な記載がない場合に,これを実現することが当業者にとって明らかであると認めることはできない。 本件発明1は,無洗米の製造装置の発明であるが,このような物の発明にあっては,特許請求の範囲において,当該物の構造又は特性を明記して,直接物を特定することが原則であるところ(最高裁判所平成27年6月5日第二小法廷判決・民集69巻4号904頁参照),上記のとおり,本件発明1は,物の構造又は特性から当該物を特定することができず,本件明細書の記載や技術常識を考慮しても,当該物を特定することができないから,特許を受けようとする発明が明確であるということはできない。 (4) 請求項2は,記載事項A〜D,H及びIと, 「全精白行程を,一本の精白ロールで済ます1回通過式の単機型の1回通過式精米機を用い,前記精白ロールには,円筒状の胴体(31)の外面に縦走する2本の突条(32,32’ が, ) 始点(34)と終点(35)の中ほどの,アールを有する曲点(33)にて,167度前後の角度で回転方向に対して逆への字状に曲がり,かつ突条(32,32’ の始点 ) (34)と終点(35)を結ぶ線が,該精白ロールの軸線方向と平行になっている均圧型の精白ロールとすること」(以下「記載事項J」という。)という記載事項からなる。 記載事項Jには,請求項2の無洗米の製造装置につき, 「単機型の1回通過式精米機」をその構成の一部とし,その精米機は均圧型の1本の精白ロールをその構成の一部とし, 「前記精白ロールは均圧型で,円筒状の胴体(31)の外面に縦走する2本の突条(32,32’)があり,その突条は,始点(34)と終点(35)の中ほどの,アールを有する曲点(33)にて,167度前後の角度で回転方向に対して逆への字状に曲がり,かつ突条(32,32’)の始点(34)と終点(35)を結ぶ線が,その精白ロールの軸線方向と平行になっている」という構造であることが記載されているということができる。 しかしながら,本件発明2の無洗米の製造装置も,精米機により,亜糊粉細胞層を米粒表面に露出させ,米粒の50%以上について胚盤又は表面部を削り取られた胚芽を残し,白度37前後に仕上がるように搗精し(記載事項B),白米の表面に付着する肌ヌカを無洗米機により分離除去する無洗米処理を行う(記載事項C)ものであり,旨味成分と栄養成分を保持した無洗米を製造するもの(記載事項D,I)である。 このうち,亜糊粉細胞層を米粒表面に露出させ,米粒の50%以上について胚盤又は表面部を削り取られた胚芽を残し,白度37前後に仕上がるように搗精する(記載事項B)ことについては,ミニチュア機で実際に搗精を行うことにより,本格搗精を終わらせる時を調整することにより実現されるものであって,本件明細書には,本件発明1の無洗米の製造装置につき,その特定の構造又は特性のみによって,玄米を前記のような精白米に精米することができることは記載されておらず,その運転条件が本件出願時の技術常識から明らかであると認めることもできないことは,本件発明1について前記(3)で判示したとおりである。 以上によると,本件発明2は,物の構造又は特性から当該物を特定することができず,本件明細書の記載や技術常識を考慮しても,当該物を特定することができないから,特許を受けようとする発明が明確であるというということはできない。 (5)ア 被告は,原告の主張には,本件審判請求において審理判断されていない部分があり,この部分につき,本件訴訟において審決の取消事由とすることは許されない旨主張する。 しかしながら,原告は,本件審判請求において,本件発明1につき, 「無洗米の製造装置」の発明でありながら,請求項1のほとんどの部分が精米方法あるいは装置の使用方法若しくは精米装置の製造方法を表す記載であり,また,著しく不明瞭な記載を含んでいるから,明確性要件違反となっている旨を主張した上で,請求項1及び2の記載の一部を個別に挙げてその明確性要件違反を主張しており(甲11,乙2,4,5),原告は,請求項1及び2に含まれる特定の記載部分のみを明確でないと主張しているのではなく,請求項1及び2全体を明確でない旨主張しているというべきである。 したがって,被告の上記主張には理由がない。 イ 被告は,発明特定事項として,作用,機能,性質,特性,方法,用途その他の様々な表現方式を用いることができるので,仮に特許請求の範囲に精米方法の製造方法,装置の使用方法や無洗米化方法の記載があるからといって当然に発明特定事項の記載が不明確になるものではない旨主張する。 確かに,発明特定事項として,様々な表現方式を用いることは許容されるが,特許法36条6項2号の明確性要件を欠く場合,特許を受けることはできないとされることに変わりはない。 そして,請求項1及び2の記載が,いずれも明確性要件を欠くことは,前記認定のとおりであるから,被告の上記主張は,前記認定を左右するものではない。 |
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結論
以上の次第で,原告の主張する取消事由には理由がある。 よって,主文のとおり判決する。 |