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追加

関連審決 無効2014-800165
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事件 平成 28年 (行ケ) 10056号 審決取消請求事件

原告 三菱化学株式会社訴訟承継人 三菱ケミカル株式会社 (以下「原告三菱ケミカル」という。)
原告 三菱ケミカルフーズ株式会社 (旧商号:三菱化学フーズ株式会社) (以下「原告三菱フーズ」という。)
原告ら訴訟代理人弁護士 北原潤一
同訴訟代理人弁理士 小林純子
同 丸山智裕
被告理研ビタミン株式会社
訴訟代理人弁理士 岩谷龍
同 勝又政徳
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2017/09/11
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1 原告らの請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。
事実及び理由
請求
特許庁が無効2014-800165号事件について平成28年1月19日 にした審決のうち,「特許第5252873号の請求項1〜4に係る発明につ いての特許を無効とする。」との部分を取り消す。
事案の概要
1 特許庁における手続の経緯等 (1) 三菱化学株式会社(以下「三菱化学」という。)及び原告三菱フーズ は,平成19年10月3日,発明の名称を「コーヒー飲料」とする特許出 願(特願2007-259409号。優先日は平成18年10月4日,優 先権主張国は日本国。)をし,平成25年4月26日,特許権の設定登録を 受けた(特許第5252873号。請求項の数は4。以下,この特許を 「本件特許」という。。
) (2) 被告は,平成26年9月30日,本件特許について無効審判請求をした。
特許庁は,上記無効審判請求を無効2014-800165号事件とし て審理し,平成27年7月17日付けで審決の予告をした。
これを受けて,三菱化学及び原告三菱フーズは,平成27年9月18 日,本件特許について,特許請求の範囲減縮等を目的とする訂正請求を した(以下,この訂正請求に係る訂正を「本件訂正」という。 。
) 特許庁は,平成28年1月19日,本件訂正を認めた上で,「特許第52 52873号の請求項1〜4に係る発明についての特許を無効とする。」と の審決(以下「本件審決」という。)をし,その謄本は,同月28日,三菱 化学及び原告三菱フーズに送達された。
(3) 三菱化学及び原告三菱フーズは,平成28年2月26日,本件訴訟を提 起した。
原告三菱ケミカルは,平成29年4月1日に三菱化学を吸収合併したた め,本件訴訟手続を受継した。
2 2 特許請求の範囲の記載 本件訂正後の本件特許の特許請求の範囲の記載は,以下のとおりである(甲 52。下線部分は本件訂正による訂正箇所である。以下,各請求項に記載され た発明を,請求項の番号に応じて「本件発明1」などといい,これらを総称し て「本件発明」という。また,本件訂正後の明細書及び図面(甲52,41) を「本件明細書」という。 。
) 【請求項1】 重合 度が 3 の トリ グ リセ リン 脂肪 酸エ ス テル を 0 .0 00 1 〜0 .5 重量 % 含有 し, コー ヒー飲 料中 の, マン ナン分 解酵 素で 多糖 類低分 子化 処理 さ れた コー ヒー 抽出物 に由 来す る多 糖類が 次の (A )及 び(B ) の 条件の 少な くと も 1 つを満 足す るこ とを 特徴と する 乳成 分を 含有す るコ ーヒー飲料。
(A) ゲル浸透クロマ トグラフィーで測定した分子量 1000 〜40 0 0に多糖類の分子量ピーク頂を有する。
(B) ゲル浸透クロマトグラフィーで測定した多糖類の重量平均分子量 が1000〜6000である。
【請求項2】 トリグ リセ リン 脂肪 酸エス テル の構 成脂 肪酸が ,ラ ウリ ン酸 ,ミリ ス チン酸 ,パル ミチン 酸,ス テアリ ン酸の 群から 選ばれ る何れ かであ り, 且つ, エステ ル置換 度が 3 0% 以 下であ る請求 項 1 に 記載の コーヒ ー飲 料。
【請求項3】 コーヒ ー抽 出物 を温 度 20 〜 8 0℃ ,p H3. 0 〜 8. 0 の 条件下 , マンナ ン分解 酵素で 15分 以上多 糖類低 分子化 処理し ,次の (A) 及び (B) の条件 の少な くとも 1つを 満足す る多糖 類を含 有する コーヒ ー抽 出物を 得,得 られた コーヒ ー抽出 物に, 乳成分 と,重 合度が 3のト リグ 3 リセリ ン脂肪 酸エス テルを 0.0 001 〜 0. 5 重量 % 添加 するこ とを 特徴とする乳成分を含有するコーヒー飲料の製造方法
(A) ゲル 浸透 クロ マトグ ラフ ィー で測 定し た 分子 量 1 00 0 〜4 00 0に多糖類の分子量ピーク頂を有する。
( B)ゲル浸透クロマ トグラフィーで測定した多糖類の重量平均分子 量 が1000〜6000である。
【請求項4】 トリグリセリン脂肪酸エステルの構成脂肪酸が,ラウリン酸,ミリスチン 酸,パルミチン酸,ステアリン酸の群から選ばれるいずれかであり,且つ,エ ステル置換度が30%以下である請求項3に記載の乳成分を含有するコーヒー 飲料の製造方法
3 本件審決の理由の要旨 本件審決の理由は,別紙審決書写しのとおりであるが,その要旨は,以下の とおりである。なお,本件審決の判断に用いられた引用文献は,下記のとおり である。
記 甲1:特開2002-272375号公報 甲2:特開平7-184546号公報 甲3:特開2003-47406号公報 甲4:特開平10-165152号公報 甲5:特開平11-75683号公報 甲6:特開平11-75684号公報 甲7:特開平11-75685号公報 甲8:特開2004-229566号公報 甲9:缶詰時報, vol.84, no.10(2005 年 10 月) p.34-36 甲10:缶詰時報, vol.85, no.2(2006 年 2 月) p.50 4 甲11:日本缶詰協会第45回技術大会(平成8年11月14・15日)プ ログラム p.7(1) 本件発明1について ア 甲1ないし3記載の発明のいずれかに基づく進歩性欠如 (ア) 本件発明1は,甲1記載の「コーヒー飲料」に係る発明(以下「甲 1発明」という。,甲2記載の「コーヒー飲料」に係る発明(以下「甲 ) 2発明」という。)又は甲3記載の「コーヒー飲料」に係る発明(以下 「甲3発明」という。)のいずれかと甲4及び9ないし11記載の事項 に基づいて,当業者が容易になし得たものであるから,特許法29条2 項の規定により,特許を受けることができない。
(イ) 本件審決が認定した上記各引用発明の内容並びに本件発明1と各引 用発明の一致点及び相違点は,以下のとおりである。
a 各引用発明の内容 (a) 甲1発明 「コーヒー抽出液,牛乳由来の乳原料,及び乳化剤としてのショ糖 脂肪酸エステルを含むコーヒー飲料の原料成分を,ガラクトマンナ ナーゼ活性及び酸性プロテアーゼ活性の両方を有する糸状菌(As pergillus niger)起源の酵素セルロシンGM5P で処理する工程を含む方法により製造されたコーヒー飲料。」 ? 甲2発明 「コーヒー抽出液を,マンナン分解酵素であるガマナーゼ1.5L による処理と,脱脂粉乳,全粉乳,砂糖,乳化剤としてのシュガー エステル,及びアルカリ性ナトリウム塩である炭酸水素ナトリウム 添加による処理に付すことにより製造されたコーヒー飲料。」 ? 甲3発明 「コーヒー液の一部に事前にガラクトマンナン分解酵素セルロシン 5 GM5を溶解してなる酵素液によるコーヒー液の処理工程を含む方 法により製造された,砂糖,牛乳,シュガーエステル及び炭酸水素 ナトリウムを含有するコーヒー飲料。」 b 本件発明1と各引用発明の一致点(いずれの引用発明についても同 じ。) 「乳化剤を含有し,コーヒー飲料中に,マンナン分解酵素で多糖 類低分子化処理されたコーヒー抽出物に由来する多糖類を含む, 乳成分を含有するコーヒー飲料」である点。
c 本件発明1と各引用発明の相違点(いずれの引用発明についても 同じ。) (相違点1) 乳化剤が,本件発明1は「重合度が3のトリグリセリン脂肪酸エ ステルを0.0001〜0.5重量%」であるのに対して,各引用 発明は「ショ糖脂肪酸エステル」である点。
(相違点2) マンナン分解酵素で多糖類低分子化処理されたコーヒー抽出物に由 来する多糖類が,本件発明1は「(A)ゲル浸透クロマトグラフィー で測定した分子量1000〜4000に多糖類の分子量ピーク頂を有 する」 「 , (B)ゲル浸透クロマトグラフィーで測定した多糖類の重量 平均分子量が1000〜6000である」という条件の少なくとも1 つを満足するものであるのに対して,各引用発明はこの点が特定され ていない点。
イ 甲4記載の発明に基づく進歩性欠如 (ア) 本件発明1は,甲4記載の「コーヒー飲料」に係る発明(以下「甲 4発明」という。)と甲1ないし3記載の事項に基づいて,当業者が容 易になし得たものであるから,特許法29条2項の規定により,特許を 6 受けることができない。
(イ) 本件審決が認定した甲4発明の内容並びに本件発明1と甲4発明の 一致点及び相違点は,以下のとおりである。
a 甲4発明の内容 「乳化剤としてのトリグリセリン脂肪酸モノエステルを100〜50 00ppm含有するコーヒー乳飲料。」 b 本件発明1と甲4発明の一致点 「重合度が3のトリグリセリン脂肪酸エステルを0.01〜0.5重 量%含有し,乳成分を含有するコーヒー飲料」である点。
c 本件発明1と甲4発明の相違点 (相違点3) 本件発明1は「マンナン分解酵素で多糖類低分子化処理されたコー ヒー抽出物に由来する多糖類」が「(A)ゲル浸透クロマトグラフィ ーで測定した分子量1000〜4000に多糖類の分子量ピーク頂を 有する」 「 ,(B)ゲル浸透クロマトグラフィーで測定した多糖類の重 量平均分子量が1000〜6000である」という条件の少なくとも 1つを満足するものであるのに対して,甲4発明はこの点が特定され ていない点。
ウ 甲5記載の発明に基づく進歩性欠如 (ア) 本件発明1は,甲5記載の「コーヒー飲料」に係る発明(以下「甲 5発明」という。)と甲1ないし3記載の事項に基づいて,当業者が容 易になし得たものであるから,特許法29条2項の規定により,特許を 受けることができない。
(イ) 本件審決が認定した甲5発明の内容並びに本件発明1と甲5発明の 一致点及び相違点は,以下のとおりである。
a 甲5発明の内容 7 「重合度が2〜4のポリグリセリン脂肪酸エステル0.025%〜 0.3%及びショ糖脂肪酸エステル0.015%〜0.3%を含有す るミルクコーヒー。」 b 本件発明1と甲5発明の一致点 「ポリグリセリン脂肪酸エステルを0.025〜0.3重量%含有 し,乳成分を含有するコーヒー飲料」である点。
c 本件発明1と甲5発明の相違点 (相違点1) ポリグリセリン脂肪酸エステルが,本件発明1は「重合度が3のト リグリセリン脂肪酸エステル」であるのに対して,甲5発明は「重合 度が2〜4のポリグリセリン脂肪酸エステル」である点。
(相違点3) 本件発明1と甲4発明の相違点3(前記イ(イ)c)と同じ。
エ 甲6記載の発明に基づく進歩性欠如 (ア) 本件発明1は,甲6記載の「コーヒー飲料」に係る発明(以下「甲 6発明」という。)と甲1ないし3記載の事項に基づいて,当業者が容 易になし得たものであるから,特許法29条2項の規定により,特許を 受けることができない。
(イ) 本件審決が認定した甲6発明の内容並びに本件発明1と甲6発明の 一致点及び相違点は,以下のとおりである。
a 甲6発明の内容 「重合度が2〜4のポリグリセリン脂肪酸エステル0.02%〜0. 3%及びショ糖脂肪酸エステル0.03%〜0.3%を含有するミル クコーヒー。」 b 本件発明1と甲6発明の一致点 「ポリグリセリン脂肪酸エステルを0.02〜0.3重量%含有し, 8 乳成分を含有するコーヒー飲料」である点。
c 本件発明1と甲6発明の相違点 (相違点1) 本件発明1と甲5発明の相違点1(前記ウ(イ)c)と同じ。
(相違点3) 本件発明1と甲4発明の相違点3(前記イ(イ)c)と同じ。
オ 甲7記載の発明に基づく進歩性欠如 (ア) 本件発明1は,甲7記載の「コーヒー飲料」に係る発明(以下「甲 7発明」という。)と甲1ないし3記載の事項に基づいて,当業者が容 易になし得たものであるから,特許法29条2項の規定により,特許を 受けることができない。
(イ) 本件審決が認定した甲7発明の内容並びに本件発明1と甲7発明の 一致点及び相違点は,以下のとおりである。
a 甲7発明の内容 「重合度が2〜4のポリグリセリン脂肪酸エステル0.025%〜 0.3%及びショ糖脂肪酸エステル0.005%〜0.3%を含有す るミルクコーヒー。」 b 本件発明1と甲7発明の一致点 「ポリグリセリン脂肪酸エステルを0.025〜0.3重量%含有 し,乳成分を含有するコーヒー飲料」である点。
c 本件発明1と甲7発明の相違点 (相違点1) 本件発明1と甲5発明の相違点1(前記ウ(イ)c)と同じ。
(相違点3) 本件発明1と甲4発明の相違点3(前記イ(イ)c)と同じ。
カ 甲8記載の発明に基づく進歩性欠如 9 (ア) 本件発明1は,甲8記載の「コーヒー飲料」に係る発明(以下「甲 8発明」という。)と甲1ないし3記載の事項に基づいて,当業者が容 易になし得たものであるから,特許法29条2項の規定により,特許を 受けることができない。
(イ) 本件審決が認定した甲8発明の内容並びに本件発明1と甲8発明の 一致点及び相違点は,以下のとおりである。
a 甲8発明の内容 「平均重合度が2〜3のポリグリセリン脂肪酸エステル0.000 1%〜0.3%を含有するコーヒー乳飲料。」 b 本件発明1と甲8発明の一致点 「ポリグリセリン脂肪酸エステルを0.0001〜0.3重量%含有 し,乳成分を含有するコーヒー飲料」である点。
c 本件発明1と甲8発明の相違点 (相違点1) ポリグリセリン脂肪酸エステルが,本件発明1は「重合度が3のト リグリセリン脂肪酸エステル」であるのに対して,甲8発明は「平均 重合度が2〜3のポリグリセリン脂肪酸エステル」である点。
(相違点3) 本件発明1と甲4発明の相違点3(前記イ(イ)c)と同じ。
キ 甲9記載の発明に基づく進歩性欠如 (ア) 本件発明1は,甲9記載の「コーヒー飲料」に係る発明(以下「甲 9発明」という。)と甲1ないし3記載の事項に基づいて,当業者が容 易になし得たものであるから,特許法29条2項の規定により,特許を 受けることができない。
(イ) 本件審決が認定した甲9発明の内容並びに本件発明1と甲9発明の 一致点及び相違点は,以下のとおりである。
10 a 甲9発明の内容 「牛乳13%及びトリグリセリン脂肪酸エステルである理研ビタミン 製ポエムTRP-97RFを200若しくは300ppm添加したコ ーヒー,又は牛乳25%及びトリグリセリン脂肪酸エステルである理 研ビタミン製ポエムTRP-97RFを300,400若しくは50 0ppm添加したコーヒー飲料。」 b 本件発明1と甲9発明の一致点 「重合度が3のトリグリセリン脂肪酸エステルを0.02〜0.05 重量%含有し,乳成分を含有するコーヒー飲料」である点。
c 本件発明1と甲9発明の相違点 (相違点3) 本件発明1と甲4発明の相違点3(前記イ(イ)c)と同じ。
(2) 本件発明2について ア 甲1発明,甲2発明又は甲3発明のいずれかに基づく進歩性欠如 (ア) 本件発明2は,甲1発明,甲2発明又は甲3発明のいずれかと甲4 及び9ないし11記載の事項に基づいて,当業者が容易になし得たもの であるから,特許法29条2項の規定により,特許を受けることができ ない。
(イ) 本件審決が認定した本件発明2と各引用発明(甲1発明,甲2発明 及び甲3発明)の一致点は,本件発明1の場合(前記(1)ア(イ)b)と同 様である。
また,本件発明2と各引用発明の相違点(いずれの引用発明について も同じ。)は,以下のとおりである。
(相違点2) 本件発明1と各引用発明の相違点2(前記?ア(イ)c)と同じ。
(相違点4) 11 乳化剤が,本件発明2は「構成脂肪酸が,ラウリン酸,ミリスチン 酸,パルミチン酸,ステアリン酸の群から選ばれる何れかであり,且 つ,エステル置換度が30%以下である重合度が3のトリグリセリン脂 肪酸エステルを0.0001〜0.5重量%」であるのに対して,各引 用発明は「ショ糖脂肪酸エステル」である点。
イ 甲4発明又は甲9発明のいずれかに基づく進歩性欠如 (ア) 本件発明2は,甲4発明又は甲9発明のいずれかと甲1ないし3記 載の事項に基づいて,当業者が容易になし得たものであるから,特許法 29条2項の規定により,特許を受けることができない。
(イ) 本件審決が認定した本件発明2と各引用発明(甲4発明及び甲9発 明)の一致点は,本件発明1の場合(前記(1)イ(イ)b及びキ(イ)b)と 同様である。
また,本件発明2と各引用発明の相違点(いずれの引用発明について も同じ。)は,以下のとおりである。
(相違点3) 本件発明1と甲4発明の相違点3(前記?イ(イ)c)と同じ。
(相違点4) 重合度が3のトリグリセリン脂肪酸エステルが,本件発明2は「構成 脂肪酸が,ラウリン酸,ミリスチン酸,パルミチン酸,ステアリン酸の 群から選ばれる何れかであり,且つ,エステル置換度が30%以下であ るトリグリセリン脂肪酸エステル」であるのに対して,甲4発明は「ト リグリセリン脂肪酸モノエステル」であり,甲9発明は「トリグリセリ ン脂肪酸エステルである理研ビタミン製ポエムTRP-97RF」であ る点。
(3) 本件発明3について ア 甲1記載の発明に基づく進歩性欠如 12 (ア) 本件発明3は,甲1記載の「コーヒー飲料の製造方法」に係る発明 (以下「甲1発明の2」という。)と甲4及び9ないし11記載の事項 に基づいて,当業者が容易になし得たものであるから,特許法29条2 項の規定により,特許を受けることができない。
(イ) 本件審決が認定した甲1発明の2の内容並びに本件発明3と甲1発 明の2の一致点及び相違点は,以下のとおりである。
a 甲1発明の2の内容 「コーヒー抽出液,牛乳由来の乳原料,及び乳化剤としてのショ糖脂 肪酸エステルを含むコーヒー飲料の原料成分を,pH3〜6,温度3 0〜60℃及び反応時間30分間以上の条件下,ガラクトマンナナー ゼ活性及び酸性プロテアーゼ活性の両方を有する糸状菌(Asper gillus niger)起源の酵素セルロシンGM5Pで処理す る工程を含むコーヒー飲料の製造方法。」 b 本件発明3と甲1発明の2の一致点 「コーヒー抽出物を温度30〜60℃,pH3〜6の条件下,マン ナン分解酵素で30分以上多糖類低分子化処理された多糖類を含有 するコーヒー抽出物を得る工程と,乳成分と乳化剤を添加する工程 を有する,乳成分を含有するコーヒー飲料の製造方法」である点。
c 本件発明3と甲1発明の2の相違点 (相違点1) 乳化剤が,本件発明3は「重合度が3のトリグリセリン脂肪酸エ ステルを0.0001〜0.5重量%」であるのに対して,甲1発 明の2は「ショ糖脂肪酸エステル」である点。
(相違点2) マンナン分解酵素で多糖類低分子化処理されたコーヒー抽出物に由 来する多糖類が,本件発明3は「(A)ゲル浸透クロマトグラフィー 13 で測定した分子量1000〜4000に多糖類の分子量ピーク頂を有 する」 「 , (B)ゲル浸透クロマトグラフィーで測定した多糖類の重量 平均分子量が1000〜6000である」という条件の少なくとも1 つを満足するものであるのに対して,甲1発明の2はこの点が特定さ れていない点。
(相違点5) 乳成分と乳化剤を,本件発明3はマンナン分解酵素処理後に添加す るのに対し,甲1発明の2はマンナン分解酵素処理前に添加する点。
イ 甲2記載の発明に基づく進歩性欠如 (ア) 本件発明3は,甲2記載の「コーヒー飲料の製造方法」に係る発明 (以下「甲2発明の2」という。)と甲4及び9ないし11記載の事項 に基づいて,当業者が容易になし得たものであるから,特許法29条2 項の規定により,特許を受けることができない。
(イ) 本件審決が認定した甲2発明の2の内容並びに本件発明3と甲2発 明の2の一致点及び相違点は,以下のとおりである。
a 甲2発明の2の内容 「コーヒー抽出液を,温度40〜50℃,pH4.5〜5.5及び反 応時間30分間以上の条件下,マンナン分解酵素であるガマナーゼ 1.5Lにより処理し,その後,脱脂粉乳,全粉乳,砂糖,乳化剤と してのシュガーエステル,及びアルカリ性ナトリウム塩である炭酸水 素ナトリウム添加による処理に付す,コーヒー飲料の製造方法。」 b 本件発明3と甲2発明の2の一致点 「コーヒー抽出物を温度40〜50℃,pH4.5〜5.5の条件 下,マンナン分解酵素で30分以上多糖類低分子化処理された多糖 類を含有するコーヒー抽出物を得,得られたコーヒー抽出物に,乳 成分と乳化剤を添加する,乳成分を含有するコーヒー飲料の製造方 14 法」である点。
c 本件発明3と甲2発明の2の相違点 (相違点1及び2) 本件発明3と甲1発明の2の相違点1及び2(前記ア(イ)c)と同 じ。
ウ 甲3記載の発明に基づく進歩性欠如 (ア) 本件発明3は,甲3記載の「コーヒー飲料の製造方法」に係る発明 (以下「甲3発明の2」という。)と甲4及び9ないし11記載の事項 に基づいて,当業者が容易になし得たものであるから,特許法29条2 項の規定により,特許を受けることができない。
(イ) 本件審決が認定した甲3発明の2の内容並びに本件発明3と甲3発 明の2の一致点及び相違点は,以下のとおりである。
a 甲3発明の2の内容 「コーヒー液の一部に事前にガラクトマンナン分解酵素セルロシンG M5を溶解してなる酵素液により,pH4.5〜5.8,温度30〜 40℃及び反応時間25〜35分でコーヒー液を処理する工程,得ら れたコーヒー液に砂糖,牛乳,シュガーエステル及び炭酸水素ナトリ ウムを加える工程を含むコーヒー飲料の製造方法。」 b 本件発明3と甲3発明の2の一致点 「コーヒー抽出物を温度30〜40℃,pH4.5〜5.8の条件 下,マンナン分解酵素で25〜35分多糖類低分子化処理された多 糖類を含有するコーヒー抽出物を得,得られたコーヒー抽出物に, 乳成分と乳化剤を添加する,乳成分を含有するコーヒー飲料の製造 方法」である点。
c 本件発明3と甲3発明の2の相違点 (相違点1及び2) 15 本件発明3と甲1発明の2の相違点1及び2(前記ア(イ)c)と同 じ。
エ 甲4記載の発明に基づく進歩性欠如 (ア) 本件発明3は,甲4記載の「コーヒー飲料の製造方法」に係る発明 (以下「甲4発明の2」という。)と甲2及び3記載の事項に基づい て,当業者が容易になし得たものであるから,特許法29条2項の規定 により,特許を受けることができない。
(イ) 本件審決が認定した甲4発明の2の内容並びに本件発明3と甲4発 明の2の一致点及び相違点は,以下のとおりである。
a 甲4発明の2の内容 「コーヒー抽出液に牛乳,全脂粉乳,乳化剤としてのトリグリセリン 脂肪酸モノエステルを100〜5000ppm添加するコーヒー乳飲 料の製造方法。」 b 本件発明3と甲4発明の2の一致点 「コーヒー抽出物に,乳成分と,重合度が3のトリグリセリン脂肪酸 エステルを0.01〜0.5重量%添加することを特徴とする乳成分 を含有するコーヒー飲料の製造方法」である点。
c 本件発明3と甲4発明の2の相違点 (相違点6) 本件発明3は,コーヒー抽出物に,乳成分と,重合度が3のトリグ リセリン脂肪酸エステルを添加する前に,「コーヒー抽出物を温度2 0〜80℃,pH3.0〜8.0の条件下,マンナン分解酵素で15 分以上多糖類低分子化処理し,(A)ゲル浸透クロマトグラフィーで 測定した分子量1000〜4000に多糖類の分子量ピーク頂を有す る,(B)ゲル浸透クロマトグラフィーで測定した多糖類の重量平均 分子量が1000〜6000であるという条件の少なくとも1つを満 16 足する多糖類を含有するコーヒー抽出物を得」るものであるのに対し て,甲4発明の2はその点が特定されていない点。
オ 甲5記載の発明に基づく進歩性欠如 (ア) 本件発明3は,甲5記載の「コーヒー飲料の製造方法」に係る発明 (以下「甲5発明の2」という。)と甲2及び3記載の事項に基づい て,当業者が容易になし得たものであるから,特許法29条2項の規定 により,特許を受けることができない。
(イ) 本件審決が認定した甲5発明の2の内容並びに本件発明3と甲5発 明の2の一致点及び相違点は,以下のとおりである。
a 甲5発明の2の内容 「コーヒーエキスに全脂粉乳,重合度が2〜4のポリグリセリン脂肪 酸エステル(0.025%〜0.3%)及びショ糖脂肪酸エステル 0.015%〜0.3%を含有するミルクコーヒーの製造方法。」 b 本件発明3と甲5発明の2の一致点 「コーヒー抽出物に,乳成分と,ポリグリセリン脂肪酸エステルを 0.025〜0.3重量%添加することを特徴とする乳成分を含有す るコーヒー飲料の製造方法」である点。
c 本件発明3と甲5発明の2の相違点 (相違点1) ポリグリセリン脂肪酸エステルが,本件発明3は「重合度が3のト リグリセリン脂肪酸エステル」であるのに対して,甲5発明の2は 「重合度が2〜4のポリグリセリン脂肪酸エステル」である点。
(相違点6) 本件発明3と甲4発明の2の相違点6(前記エ(イ)c)と同じ。
カ 甲6記載の発明に基づく進歩性欠如 (ア) 本件発明3は,甲6記載の「コーヒー飲料の製造方法」に係る発明 17 (以下「甲6発明の2」という。)と甲2及び3記載の事項に基づい て,当業者が容易になし得たものであるから,特許法29条2項の規定 により,特許を受けることができない。
(イ) 本件審決が認定した甲6発明の2の内容並びに本件発明3と甲6発 明の2の一致点及び相違点は,以下のとおりである。
a 甲6発明の2の内容 「コーヒーエキスに全脂粉乳,重合度が2〜4のポリグリセリン脂肪 酸エステル0.02%〜0.3%及びショ糖脂肪酸エステル0.0 3%〜0.3%を含有するミルクコーヒーの製造方法。」 b 本件発明3と甲6発明の2の一致点 「コーヒー抽出物に,乳成分と,ポリグリセリン脂肪酸エステルを 0.02〜0.3重量%添加することを特徴とする乳成分を含有する コーヒー飲料の製造方法」である点。
c 本件発明3と甲6発明の2の相違点 (相違点1) 本件発明3と甲5発明の2の相違点1(前記オ(イ)c)と同じ。
(相違点6) 本件発明3と甲4発明の2の相違点6(前記エ(イ)c)と同じ。
キ 甲7記載の発明に基づく進歩性欠如 (ア) 本件発明3は,甲7記載の「コーヒー飲料の製造方法」に係る発明 (以下「甲7発明の2」という。)と甲2及び3記載の事項に基づい て,当業者が容易になし得たものであるから,特許法29条2項の規定 により,特許を受けることができない。
(イ) 本件審決が認定した甲7発明の2の内容並びに本件発明3と甲7発 明の2の一致点及び相違点は,以下のとおりである。
a 甲7発明の2の内容 18 「コーヒーエキスに全脂粉乳,重合度が2〜4のポリグリセリン脂肪 酸エステル0.025%〜0.3%及びショ糖脂肪酸エステル0.0 05%〜0.3%を含有するミルクコーヒーの製造方法。」 b 本件発明3と甲7発明の2の一致点 「コーヒー抽出物に,乳成分と,ポリグリセリン脂肪酸エステルを 0.025〜0.3重量%添加することを特徴とする乳成分を含有す るコーヒー飲料の製造方法」である点。
c 本件発明3と甲7発明の2の相違点 (相違点1) 本件発明3と甲5発明の2の相違点1(前記オ(イ)c)と同じ。
(相違点6) 本件発明3と甲4発明の2の相違点6(前記エ(イ)c)と同じ。
ク 甲8記載の発明に基づく進歩性欠如 (ア) 本件発明3は,甲8記載の「コーヒー飲料の製造方法」に係る発明 (以下「甲8発明の2」という。)と甲2及び3記載の事項に基づい て,当業者が容易になし得たものであるから,特許法29条2項の規定 により,特許を受けることができない。
(イ) 本件審決が認定した甲8発明の2の内容並びに本件発明3と甲8発 明の2の一致点及び相違点は,以下のとおりである。
a 甲8発明の2の内容 「平均重合度が2〜3のポリグリセリン脂肪酸エステル0.000 1%〜0.3%を含有するコーヒー乳飲料の製造方法。」 b 本件発明3と甲8発明の2の一致点 「乳成分と,ポリグリセリン脂肪酸エステルを0.0001〜0.3 重量%添加することを特徴とする乳成分を含有するコーヒー飲料の製 造方法」である点。
19 c 本件発明3と甲8発明の2の相違点 (相違点1) ポリグリセリン脂肪酸エステルが,本件発明3は「重合度が3のト リグリセリン脂肪酸エステル」であるのに対して,甲8発明の2は 「重合度が2〜3のポリグリセリン脂肪酸エステル」である点。
(相違点6) 本件発明3と甲4発明の2の相違点6(前記エ(イ)c)と同じ。
ケ 甲9記載の発明に基づく進歩性欠如 (ア) 本件発明3は,甲9記載の「コーヒー飲料の製造方法」に係る発明 (以下「甲9発明の2」という。)と甲2及び3記載の事項に基づい て,当業者が容易になし得たものであるから,特許法29条2項の規定 により,特許を受けることができない。
(イ) 本件審決が認定した甲9発明の2の内容並びに本件発明3と甲9発 明の2の一致点及び相違点は,以下のとおりである。
a 甲9発明の2の内容 「牛乳13%及びトリグリセリン脂肪酸エステルである理研ビタミン 製ポエムTRP-97RFを200若しくは300ppm添加したコ ーヒー,又は牛乳25%及びトリグリセリン脂肪酸エステルである理 研ビタミン製ポエムTRP-97RFを300,400若しくは50 0ppm添加したコーヒー飲料の製造方法。」 b 本件発明3と甲9発明の2の一致点 「乳成分と,重合度が3のトリグリセリン脂肪酸エステルを0.01 〜0.05重量%添加することを特徴とする乳成分を含有するコーヒ ー飲料の製造方法」である点。
c 本件発明3と甲9発明の2の相違点 (相違点6) 20 本件発明3と甲4発明の2の相違点6(前記エ(イ)c)と同じ。
(4) 本件発明4について ア 甲1発明の2に基づく進歩性欠如 (ア) 本件発明4は,甲1発明の2と甲4及び9ないし11記載の事項に 基づいて,当業者が容易になし得たものであるから,特許法29条2項 の規定により,特許を受けることができない。
(イ) 本件審決が認定した本件発明4と甲1発明の2の一致点は,本件発 明3の場合(前記(3)ア(イ)b)と同様である。
また,本件発明4と甲1発明の2の相違点は,以下のとおりである。
(相違点2) 本件発明3と甲1発明の2の相違点2(前記?ア(イ)c)と同じ。
(相違点4) 乳化剤が,本件発明4は「構成脂肪酸が,ラウリン酸,ミリスチン 酸,パルミチン酸,ステアリン酸の群から選ばれる何れかであり,且 つ,エステル置換度が30%以下である重合度が3のトリグリセリン脂 肪酸エステルを0.0001〜0.5重量%」であるのに対して,甲1 発明の2は「ショ糖脂肪酸エステル」である点。
(相違点5) 本件発明3と甲1発明の2の相違点5(前記?ア(イ)c)と同じ。
イ 甲2発明の2又は甲3発明の2のいずれかに基づく進歩性欠如 (ア) 本件発明4は,甲2発明の2又は甲3発明の2のいずれかと甲4及 び9ないし11記載の事項に基づいて,当業者が容易になし得たもので あるから,特許法29条2項の規定により,特許を受けることができな い。
(イ) 本件審決が認定した本件発明4と各引用発明(甲2発明の2及び甲 3発明の2)の一致点は,本件発明3の場合(前記(3)イ(イ)b及びウ 21 (イ)b)と同様である。
また,本件発明4と各引用発明の相違点(いずれの引用発明について も同じ。)は,以下のとおりである。
(相違点2) 本件発明3と甲1発明の2の相違点2(前記?ア(イ)c)と同じ。
(相違点4) 本件発明4と甲1発明の2の相違点4(前記ア(イ))と同じ。
ウ 甲4発明の2又は甲9発明の2のいずれかに基づく進歩性欠如 (ア) 本件発明4は,甲4発明の2又は甲9発明の2のいずれかと甲2及 び3記載の事項に基づいて,当業者が容易になし得たものであるから, 特許法29条2項の規定により,特許を受けることができない。
(イ) 本件審決が認定した本件発明4と各引用発明(甲4発明の2及び甲 9発明の2)の一致点は,本件発明3の場合(前記(3)エ(イ)b及びケ (イ)b)と同様である。
また,本件発明4と各引用発明の相違点(いずれの引用発明について も同じ。)は,以下のとおりである。
(相違点4) 重合度が3のトリグリセリン脂肪酸エステルが,本件発明4は「構成 脂肪酸が,ラウリン酸,ミリスチン酸,パルミチン酸,ステアリン酸の 群から選ばれる何れかであり,且つ,エステル置換度が30%以下であ る重合度が3のトリグリセリン脂肪酸エステルを0.0001〜0.5 重量%」であるのに対して,各引用発明は「ショ糖脂肪酸エステル」で ある点。
(相違点6) 本件発明3と甲4発明の2の相違点6(前記?エ(イ)c)と同じ。
4 取消事由 22 (1) 甲1ないし3記載の発明 のい ずれか に基づく 容易 想到性 判断(顕 著 な効果に係る判断)の誤り(取消事由1) (2) 甲4ないし9(本件発明2及び4については,甲4又は9)記載の発明 のいずれかに基づく容易想到性判断(顕著な効果に係る判断)の誤り(取消 事由2)
取消事由に関する原告らの主張
1 取消事由1(甲1ないし3記載の発明のいずれか に基づく容易想到性判 断(顕著な効果に係る判断)の誤り) 本件審決は,本件発明1ないし4について,いずれも甲1ないし3記載の発 明(甲1発明又は甲1発明の2,甲2発明又は甲2発明の2,甲3発明又は甲 3発明の2)と比較して当業者が予想できる程度を超える顕著な効果を奏する とはいえないとした上で,本件発明1ないし4は,いずれも甲1ないし3記載 の発明のいずれかと甲4及び9ないし11記載の事項に基づいて,当業者が容 易になし得たものである旨判断する。
しかしながら,以下に述べるとおり,本件発明1の顕著な効果に係る本件審 決の判断は誤りであり,このことは,本件発明2ないし4についても同様であ るから,本件審決の上記判断は誤りである。
(1) 本件審決は,本件発明1と甲1発明ないし甲3発明(以下「甲1発明 等」という。)との相違点1について,甲 1 発明等において,乳成分を含有 するコーヒー飲料に添加する乳化剤として,ショ糖脂肪酸エステルに代えて トリグリセリン脂肪酸エステルを用いることは当業者が容易に想到し得るこ とであるとした上で,本件発明1に相当するもの(本件明細書の実施例1及 び2)と甲1発明等に相当するもの(本件明細書の参考例1及び2)とで は,官能評価の結果において,前者は「「コーヒー特有の苦み・酸味・渋み は弱い」との意見は多かった(約80%) ,後者は「 」 「コーヒー特有の苦 み・酸味・渋みがある」との意見が多数(約80%)」との差異が示されて 23 いるものの,乳成分を含有するコーヒー飲料に対して,ショ糖脂肪酸エステ ルが苦みを与えるおそれがあることが知られていたこと(甲11)からする と,そのような差異は当業者が予測できる範囲のものである旨判断する。
しかし,本件審決によれば,トリグリセリン脂肪酸エステル(以下「T P」という場合がある。)は飲料風味に影響を与えず(甲9),ショ糖脂肪酸 エステル(以下「SE」という場合がある。)は,乳成分を含有するコーヒ ー飲料に対して苦味を与えるおそれがあるのであるから,甲 1 発明等におい て,乳化剤としてSEに代えてTPを用いる場合に当業者が予測し得る風味 は,TPによっても影響が与えられていない風味,すなわち,乳化剤を含有 しない「マンナン分解酵素で多糖類低分子化処理されたコーヒー抽出物に由 来する多糖類を含む,乳成分を含有するコーヒー飲料」と同じ風味というこ とになる。
ところが,本件明細書の記載によれば,本件発明1の飲料の風味は,「コ ーヒー特有の苦味・酸味・渋み」が弱い点に特徴があるのであり,これは, 乳化剤を含有しない上記コーヒー飲料の風味とは明らかに質的に異なる風味 であって,乳化剤を含有しない「マンナン分解酵素で多糖類低分子化処理さ れたコーヒー抽出物に由来する多糖類を含む,乳成分を含有するコーヒー飲 料」とTPとが揃うことによって初めて達成される効果ということができ る。また,SEが乳成分を含有するコーヒー飲料に対して苦味を与えるおそ れがあることを考慮しても,乳化剤としてSEに代えてTPを用いる場合 に,コーヒー特有の「酸味」及び「渋み」が弱いという風味が生じること は,当業者が予測し得るものではない。
このように,本件発明1と甲1発明等との風味の差異は,当業者が予測で きる範囲のものとはいえないから,本件審決の上記判断は誤りである。
(2) 本件審決は,本件明細書記載の官能評価について,評価段階が不明であ ること及び官能評価の条件(評価者の種類等)が不明であることから,そ 24 のような不明確な評価項目についての効果の差異をもって,本件発明1が 甲 1 発明等と比較して当業者が予想できる程度を越える顕著な効果を奏する と認めることはできない旨判断する。
しかし,本件発明1の効果は,「コーヒー特有の苦味・酸味・渋み」が弱 い風味を有することであり,この効果は本件明細書の実施例に明確に記載 されている(段落【0057】 。そして,コーヒーは,特有の風味を有す ) る飲料として極めて一般的に知られた飲料であり,コーヒーを飲んだこと がある人であれば,「コーヒー特有の苦み・酸味・渋み」を認識できること は明らかである。したがって,当業者であれば,上記実施例に記載された 官能評価(段落【0048】)を実施して,「コーヒー特有の苦味・酸味・ 渋み」が弱いという結果が得られたとの記載から,本件発明1のコーヒー 飲料の「コーヒー特有の苦味・酸味・渋み」が弱いことを明確に把握でき るのであり,当業者にとって,本件明細書における実施例の評価方法及び その結果は明確である。このことは,食品分野の専門家らによる技術鑑定 書(甲54,55及び58)からも裏付けられる。
また,上記(1)のとおり,本件発明1の効果は,甲1発明等及びTPは飲 料風味に影響を与えないという事実から予測される効果とは異質なもので あるから,本件審決が指摘する評価段階等の評価項目に基づく定量的な差 異を詳細に検討するまでもなく,当業者が予想できる程度を越える顕著な 効果であるといえる。
(3) さらに,本件明細書に記載された本件発明1のコーヒー飲料において, 「コーヒー特有の苦味・酸味・渋み」が弱いことが事実であることは,第三 者機関である「一般社団法人おいしさの科学研究所」が実施した官能評価試 験(甲56及び57。以下「甲56試験」という。)の結果からも認められ る。すなわち,甲56試験においては,TPを含有する本件発明1のミルク コーヒー(試料Y)について,SEを含有するミルクコーヒー(試料L)及 25 び乳化剤無添加のミルクコーヒー(試料Q)のいずれと飲み比べても,「コ ーヒー特有の苦み・酸味・渋み」が弱いという結果が得られている。
2 取消事由2(甲4ないし9(本件発明2及び4については,甲4又は9)記載の発明のいずれかに基づく容易想到性判断(顕著な効果に係る判断)の誤り) 本件審決は,本件発明1ないし4について,いずれも甲4ないし9(本件発明2及び4については,甲4又は9)記載の発明(甲4発明又は甲4発明の2,甲5発明又は甲5発明の2,甲6発明又は甲6発明の2,甲7発明又は甲7発明の2,甲8発明又は甲8発明の2,甲9発明又は甲9発明の2)と比較して当業者が予想できる程度を超える顕著な効果を奏するとはいえないとした上で,本件発明1ないし4は,いずれも甲4ないし9(本件発明2及び4については,甲4又は9)記載の発明のいずれかと甲1ないし3(本件発明3及び4については,甲2及び3)記載の事項に基づいて,当業者が容易になし得たものである旨判断する。
しかしながら,以下に述べるとおり,本件発明1の顕著な効果に係る本件審決の判断は誤りであり,このことは,本件発明2ないし4においても同様に当てはまるから,本件審決の上記判断は誤りである。
(1) 本件審決は,本件発明1と甲4発明ないし甲9発明(以下「甲4発明 等」という。)との相違点3について,甲4発明等において,沈殿を防止す るために甲1ないし3に記載されたガラクトマンナン分解酵素処理を行うこ とは当業者が容易に想到し得ることであるとした上で,本件発明1に相当す るもの(本件明細書の実施例1及び2(マンナン分解酵素処理有り))と甲 4発明等に相当するもの(本件明細書の比較例1(マンナン分解酵素処理無 し))とでは,静菌効果において差異はなく,両者の沈殿抑制効果における 差異は,甲1ないし3の記載から当業者が予想できるものであるから,本件 発明1は,甲4発明等と比較して当業者が予想できる程度を超える顕著な効 26 果を奏すると認めることはできない旨判断する。
しかし,本件審決は,静菌効果及び沈殿抑制効果における本件発明1と甲 4発明等との差異は検討するものの,飲料風味についての効果の差異を検討 していない。すなわち,前記1(1)で述べたとおり,本件発明1の効果は, 「コーヒー特有の苦味・酸味・渋み」が弱い風味を有することであり,この 効果は,甲4発明等が有する静菌効果及び甲1ないし3の記載から当業者が 予測できる沈殿抑制効果とは質的に異なる効果である。そして,この効果 は,TPがマンナン分解酵素で多糖類低分子化処理されたコーヒー抽出物及 び乳成分を含有するコーヒー飲料に存在する場合に奏される効果であるとこ ろ,甲4ないし9には,TPを含有するコーヒー飲料の味については何ら記 載されておらず,また,甲1ないし3には,マンナン分解酵素による多糖類 低分子化処理(以下「マンナン分解酵素処理」という場合がある。)のコー ヒー飲料の味への影響に関して何ら記載されていない。
したがって,当業者は,甲4等の記載と甲1ないし3の記載を併せて考慮 しても,甲4発明等に基づいて,本件発明1の「コーヒー特有の苦味・酸 味・渋み」が弱いとの効果を予測することはできないから,本件審決の上記 判断は誤りである。
(2) 本件明細書に記載された本件発明1の「コーヒー特有の苦み・酸味・渋 みは弱い」との効果が,TPの含有とマンナン分解酵素処理との組合せによ り発現するものであることは,前記1(3)の甲56試験の結果に加え,次の ような官能評価試験の結果から確認される。
ア 原告三菱フーズが実施した官能評価試験(甲59。以下「甲59試験」 という。)の結果によれば,@本件発明1に相当するTP及びマンナン分 解酵素処理されたコーヒー抽出物を含有するミルクコーヒー(TP・あ り),A乳化剤を含有せず,マンナン分解酵素処理されたコーヒー抽出物 を含有するミルクコーヒー(無・あり)及びBTP及びマンナン分解酵素 27 処理されていないコーヒー抽出物を含有するミルクコーヒー(TP・なし) を比較したところ,@がA及びBのいずれよりも「コーヒー特有の苦み・ 酸味・渋み」が弱いことが示された。この結果は,本件明細書に示された 「コーヒー特有の苦み・酸味・渋みは弱い」という効果が,TPの含有と マンナン分解酵素処理との組合せにより発現するものであることを証明し ている。
被告は,甲59試験の結果について,@ないしBの間のいずれの組合せ においても,15人中12人以上が「弱い」と回答した例はなく,有意差 が認められない旨主張するが,「コーヒー特有の苦味・酸味・渋みは弱 い」という傾向が示されれば,本件発明1が「コーヒー特有の苦味・酸 味・渋みは弱い」という効果を有することは認定できる。
イ また,原告三菱フーズが,官能評価試験結果の確からしさを高めるため に,パネリストの人数を増やし,第三者機関に依頼して,@TPを含有し, マンナン分解酵素処理を行ったミルクコーヒーと,ATPを含有し,マン ナン分解酵素処理を行っていないミルクコーヒーを比較する官能評価試験 (甲68及び69。以下「甲68試験」という。)を実施したところ,1 6名中14名が,@の方が「コーヒー特有の苦味・酸味・渋み」が弱いと 回答しており,この結果は,@がAよりも有意に「コーヒー特有の苦み・ 酸味・渋み」が弱いことを示している。
ウ(ア) 被告は,評価項目に「差がない」を入れ,「弱い」についても3段 階に分けた官能評価試験(乙22。以下「乙22試験」という。)を実 施した結果,@TPを含有し,マンナン分解酵素処理を行ったミルクコ ーヒーと,ATPを含有し,マンナン分解酵素処理を行っていないミル クコーヒーとで,「コーヒー特有の苦み・酸味・渋み」において差がな いとする結果が得られたことを根拠として,甲4発明においてマンナン 分解酵素処理を適用することによって,「コーヒー特有の苦み・酸味・ 28 渋み」が弱くなることはない旨主張する。
しかし,被告の主張によれば,乙22試験では,パネラーには,「コ ーヒー特有の苦み・酸味・渋み」について解釈を与えず,その意味につ いて,パネラーごとに独自の解釈がされたものとされており,これを前 提にすると,乙22試験に当たっては,官能評価試験に当然必要とされ る,パネラーが味の差を認識できるかどうかの試験を行っていないもの と認められる。してみると,乙22試験は,その試験方法に不備がある ものであるから,これに基づく被告の上記主張には理由がない。
(イ) 他方,原告三菱フーズが,第三者機関に依頼して,乙22試験と同 様の試験(甲77。以下「甲77試験」という。)を実施したところ, 乙22試験とは全く異なる結果が得られた。すなわち,甲77試験にお いては,@TPを含有し,マンナン分解酵素処理を行ったミルクコーヒ ー(TP・あり),ATPを含有し,マンナン分解酵素処理を行ってい ないミルクコーヒー(TP・なし)及びB乳化剤を添加せず,マンナン 分解酵素処理を行っていないミルクコーヒー(無添加・なし)をそれぞ れ比較したところ,@とAについて,延べ69名中,13名が「同じく らい」,33名がAよりも@の方が「コーヒー特有の苦み・酸味・渋 み」が「やや弱い〜とても弱い」と評価し,@とBについて,延べ69 名中,16名が「同じくらい」,32名がBよりも@の方が「コーヒー 特有の苦み・酸味・渋み」が「やや弱い〜とても弱い」と評価した。そ して,これらの比較を,本件発明1のコーヒー飲料と本件発明1以外の コーヒー飲料との比較として総合的に評価すれば,延べ138名中,2 9名が「同じくらい」,65名が後者よりも前者の方が「コーヒー特有 の苦み・酸味・渋み」が「やや弱い〜とても弱い」と評価したことにな るところ,この結果は,前者が後者と比較して,「コーヒー特有の苦 み・酸味・渋み」が5%の有意水準で有意に弱いことを示している。
29
被告の反論
1 取消事由1(甲1ないし3記載の発明のいずれかに基づく容易想到性判 断(顕著な効果に係る判断)の誤り)に対し 原告らは,本件発明1の効果は,「コーヒー特有の苦み・酸味・渋み」が弱 いという風味を有することであり,このような効果は,甲1発明等及びTPは 飲料風味に影響を与えないという事実から予測される効果とは質的に異なり, 当業者が予想できる程度を超える顕著な効果であるから,本件発明1が有する 顕著な効果を否定した本件審決の判断は誤りである旨主張する。
しかし,以下に述べるとおり,本件明細書の記載を参酌しても,TPによ り,「コーヒー特有の苦み・酸味・渋み」を弱めるという原告ら主張の本件発 明1の効果を確認することはできず,また,仮にTPが何らかの効果を奏する としても,それは当業者が容易に予測し得る効果にすぎないから,原告らの上 記主張は理由がない。そして,このことは,本件発明2ないし4についても同 様である。
(1)ア 本件明細書には,TPを使用した実施例1及び2について,「コーヒ ー特有の苦み・酸味・渋みが弱い」との評価(段落【0057】)が記載 されている。
しかし,まず,「弱い」という表現は,相対的なものであり,比較対象 がなければ対比できないものであるにもかかわらず,本件明細書では,適 切な比較対象が示されていない。すなわち,実施例1及び2は,乳化剤と してTPを使用したものであるところ,TPにより「コーヒー特有の苦 み・酸味・渋み」が弱くなるというのであれば,TP等の乳化剤の添加の ないコーヒー飲料を比較対象とする必要があるのに,本件明細書では,こ のような比較対象と比べた風味を評価していない。
イ 他方,本件明細書の参考例1及び2は,SEを含むコーヒー飲料につい てのものであり,「コーヒー特有の苦味・酸味・渋みがある」として,風 30 味について一応の評価がされている(段落【0058】。
) しかし,本件明細書には,実施例1及び2の風味の評価を参考例1及び 2の風味と比較して行った旨の記載は全くない。
また,仮に,参考例1及び2が比較対象であるとすれば,実施例1及び 2の風味は,SEを含むコーヒー飲料の風味を基準にして判断したことと なり,原告が主張する「コーヒー特有」の風味を基準として判断していな いことになる。すなわち,SEは,乳成分を含有するコーヒー飲料に対し 苦みを与えるものとされ,とりわけ,参考例1及び2で使用された「リョ ートーシュガーエステルP-1670」(段落【0051】【0052】 , ) は,缶飲料に使用されるSEの中でも,苦味が強いものとして知られてい ること(甲37)からすると,本件明細書では,SEによって苦み等が増 したコーヒー飲料を比較対象としていることとなるが,これでは,「コー ヒー特有」の風味を評価することはできない。
ウ 以上によれば,本件明細書の実施例についての「コーヒー特有の苦み・ 酸味・渋みが弱い」との評価は,何ら根拠のないものであり,信ぴょう性 がない。
(2) また,本件明細書には,上記「コーヒー特有の苦み・酸味・渋みが弱 い」との評価における「コーヒー特有」の意味がどのようなものであるか, また,「コーヒー特有」のものと,そうでないもの(例えば,コーヒー飲料 中において,コーヒー抽出液による苦味と,添加されたSEによる苦味)と を,どのように区別するかについての記載が何もない。
とりわけ,苦味等は,コーヒーの種類や抽出条件等によっても変化するも のであり,例えば,コーヒーの種類によっては,SEやTPの添加とは関係 なく,他のコーヒーに比べて苦味等が強い,あるいは弱いと感じられる場合 もある。しかも,本件発明1は乳成分を必須としており,本件明細書の実施 例でも,牛乳やグラニュー糖を含むコーヒー飲料の味を評価しているところ 31 (段落【0045】,これらの成分は,苦味等を緩和するものであるから, ) 苦味等の認識やその強弱の判定をより困難にすることが容易に理解できる。
さらに,当業者の技術常識によれば,官能評価において,「苦み」 「酸 , 味」 「渋み」という3つの項目をまとめて評価することはできない(乙 , 3)。
このように,明確かつ詳細な判断基準を提示することなく,「コーヒー特 有の苦味・酸味・渋み」を一義的に判断することは困難であるから,この点 からも,本件明細書の実施例についての「コーヒー特有の苦み・酸味・渋み が弱い」との評価には信ぴょう性がない。
(3)ア 原告らは,当業者にとって本件明細書における実施例の評価方法及び その結果が明確であることは,食品分野の専門家らによる技術鑑定書(甲 54,55及び58)からも裏付けられる旨主張する。
しかし,原告ら提出の上記技術鑑定書は,それぞれの比較から明らかな とおり,結論が同じであるばかりでなく,その内容も酷似しており,原告 に都合が良いように鑑定人らに記載させたものと考えざるを得ない。ま た,その内容も,「コーヒー特有の苦み・酸味・渋み」が弱いことをどの ようにして評価できるのかについて何ら説明されていないものであるか ら,信ぴょう性が認められない。
イ また,原告らは,本件明細書に記載された本件発明1のコーヒー飲料に おいて,「コーヒー特有の苦味・酸味・渋み」が弱いことが事実であるこ とは,甲56試験の結果からも認められる旨主張する。
しかし,上記(1)及び(2)で述べたとおり,当業者は,本件明細書の記載 からは,TPにより,コーヒー飲料の「コーヒー特有の苦味・酸味・渋 み」が弱くなることを認識できないというべきである。そして,このよう に本件明細書の記載から認識できない発明の効果を,事後的に実施した官 能評価試験の結果に基づいて主張することは,そもそも許されない。
32 また,「コーヒー特有の苦み・酸味・渋み」を評価するのであれば,これらが「同じ」という評価基準があってしかるべきところ,甲56試験では,「弱い」という評価しかない。すなわち,甲56試験が採用するサーストンの一対比較法では,比較の結果が「同じ」であっても,いずれかを無理に「弱い」と評価せざるを得ないため,結果に多大な誤差が生じ得ることとなり,その評価の妥当性には疑問がある。
しかも,甲56試験では,判定数が「12人」であるから,危険率5%の水準で統計的に有意といえるためには,少なくとも「10人」が「コーヒー特有の苦み・酸味・渋みが弱い」と回答する必要がある(乙14)。
ところが,甲56試験の結果では,TPを含有する本件発明1のミルクコーヒー(試料Y),SEを含有するミルクコーヒー(試料L)及び乳化剤無添加のミルクコーヒー(試料Q)の間のいずれの組合せにおいても,10人以上が「弱い」と回答した例はなく,3つの試料の間に有意差は認められないから,当該試験の結果によって原告ら主張の効果が確認できるものではない。
他方,被告が実施した官能評価試験(甲12。以下「甲12試験」という。)では,TPの添加の有無により,コーヒー飲料における「苦み・酸味・渋み」に進歩性を認め得るような変化はないという結果が示されている。
加えて,被告が第三者機関に依頼して,甲56試験と同様の方法により実施させた官能評価試験(乙4。以下「乙4試験」という。)の結果によれば,TPを含有する本件発明1のミルクコーヒー(試料A)と乳化剤無添加のミルクコーヒー(試料B)の比較で,前者の方が「コーヒー特有の味(苦味,酸味,渋み)」が弱いと評価した者は,14名中8名と評価が拮抗しており,TPの添加により「コーヒー特有の味(苦味,酸味,渋み)」が弱くなるという結果が得られないことが示されている。
33 2 取消事由2(甲4ないし9(本件発明2及び4については,甲4又は9) 記載の発明のいずれかに基づく容易想到性判断(顕著な効果に係る判断)の 誤り)に対し (1) 原告らは,本件発明1の効果は,「コーヒー特有の苦味・酸味・渋み」が 弱い風味を有することであるとした上で,この効果は,甲4発明等が有する 静菌効果及び甲1ないし3の記載から当業者が予測できる沈殿抑制効果とは 質的に異なる効果であり,甲4発明等及び甲1ないし3の記載から当業者が 予測し得るものではないから,本件発明1が有する顕著な効果を否定した本 件審決の判断は誤りである旨主張する。
しかし,前記1で述べたとおり,そもそも本件明細書の記載からは,本件 発明1について,「コーヒー特有の苦み・酸味・渋み」を弱めるという効果 を確認することはできないから,原告らの上記主張は理由がない。そして, このことは,本件発明2ないし4についても同様である。
(2) 原告らは,本件明細書に記載された本件発明1の「コーヒー特有の苦 み・酸味・渋みは弱い」との効果が,TPの含有とマンナン分解酵素処理と の組合せにより発現するものであることは,甲56試験の結果に加え,甲5 9試験及び甲68試験の結果から確認される旨主張する。
しかし,本件明細書には,本件発明1の「コーヒー特有の苦み・酸味・渋 みは弱い」との効果が,TPの含有とマンナン分解酵素処理との組合せによ り発現するものである旨の開示はない。本件明細書の比較例1(酵素処理無 し,TP有り)は,甲4発明に相当するものであるところ,本件明細書で は,比較例1について「沈殿量が多かった」(段落【0059】)と記載され ているだけで,味の評価がされておらず,そもそも甲4発明と本件発明1の 間に味の差があること自体が認識されていない。このように,本件明細書に 記載も示唆もなく,全く想定されていない効果(マンナン分解酵素処理の有 無による味の相違)を,事後的に実施した官能評価試験の結果に基づいて主 34 張することは,そもそも許されない。
また,甲56試験の結果に信ぴょう性がないことは,前記1(3)イで述べたとおりであり,また,以下に述べるとおり,甲59試験及び甲68試験の結果にも信ぴょう性がなく,仮に信ぴょう性があるとしても,これによって本件発明1の上記効果の存在が確認できるものではない。現に,被告が実施した官能評価試験(乙22試験)では,これらと異なる結果が得られている。
ア 甲59試験について (ア) 甲59試験では,甲56試験と同様に,サーストンの一対比較法が 採用されているところ,この方法では,比較の結果が「同じ」であって も,いずれかを無理に「弱い」と評価せざるを得ないため,結果に多大 な誤差が生じ得ることとなり,その評価の妥当性には疑問がある。
(イ) 甲59試験では,判定数が「15人」であるから,危険率5%の水 準で統計的に有意といえるためには,少なくとも「12人」が「コーヒ ー特有の苦み・酸味・渋みが弱い」と回答する必要がある(乙14)。
ところが,甲59試験の結果では,@TP及びマンナン分解酵素処理さ れたコーヒー抽出物を含有するミルクコーヒー(TP・あり),A乳化 剤を含有せず,マンナン分解酵素処理されたコーヒー抽出物を含有する ミルクコーヒー(無・あり)及びBTP及びマンナン分解酵素処理され ていないコーヒー抽出物を含有するミルクコーヒー(TP・なし)の間 のいずれの組合せにおいても,12人以上が「弱い」と回答した例がな く,3つの試料の間に有意差は認められないから,当該試験の結果によ って原告ら主張の効果が確認できるものではない。
イ 甲68試験について 原告らは,甲68試験の結果は,@TPを含有し,マンナン分解酵素処 理を行ったミルクコーヒーが,ATPを含有し,マンナン分解酵素を行っ 35 ていないミルクコーヒーよりも有意に「コーヒー特有の苦み・酸味・渋み」 が弱いことを示している旨主張する。
しかし,甲68試験の結果は,「16人中14人」が,Aよりも@の方 が「コーヒー特有の苦み・酸味・渋み」が弱いと回答したというものであ り,甲59試験の結果(「15人中9人」が,Aよりも@の方が「コーヒ ー特有の苦み・酸味・渋み」が弱いと回答)と大きく解離していることな どからすると,平成29年1月10日付けの被告第3準備書面において, 甲59試験の結果に有意差がない旨を指摘されたことを受けて,有意差が あるとするデータを作出したものであることが疑われる。
したがって,甲68には,証拠としての信頼性がない。
ウ 乙22試験について 他方,被告が,@TPを含有し,マンナン分解酵素処理を行ったミルク コーヒー,ATPを含有し,マンナン分解酵素を行っていないミルクコー ヒー及びB乳化剤を添加せず,マンナン分解酵素を行っていないミルクコ ーヒーについて,評価項目に「差がない」を入れ,「弱い」についても3 段階に分けた官能評価試験(乙22試験)を実施したところ,@とA及び @とBの間で,「コーヒー特有の苦み・酸味・渋み」において差がないと する結果が得られた。
このような試験結果によれば,甲4発明(TPを含有し,マンナン分解 酵素を行っていないミルクコーヒー)にマンナン分解酵素処理を適用する ことにより,「コーヒー特有の苦み・酸味・渋み」が弱くなることはなく, TPの含有とマンナン分解酵素処理との組合せによって「コーヒー特有の 苦み・酸味・渋み」が変化するものではないことが確認できる。
当裁判所の判断
1 本件発明について (1) 本件発明に係る特許請求の範囲請求項1ないし4の記載は前記第2の2 36 のとおりである。
また,本件明細書(甲52,41)の発明の詳細な説明には,次のような記載がある。
ア 技術分野 本発明はコーヒー飲料に関する。(段落【0001】)イ 背景技術 従来より,コーヒー飲料に関し,…例えば,乳成分に由来する沈 殿やリングの発生を防止する方法として,乳タンパクを種々の酵素 で分解処理する方法が提案されている。具体的には,殺菌処理前の コーヒー抽出液をマンナン分解酵素とアルカリ性ナトリウム塩との 併用処理に付す方法が…提案されている。
しかしながら,この方法ではコーヒー豆の繊維質に由来する濁りや沈殿の発生の防止には効果があるが,脂肪分の分離やリングの発生に対する防止効果は充分とはいえない。(段落【0002】,【0003】)ウ 発明が解決しようとする課題 本発明の目的は,製造時の高温殺菌処理や製造後の長期保存によ っても沈殿物や脂肪の分離などが発生せず,すっきり味であり,し かも,静菌力と乳化安定性を兼ね備えたコーヒー飲料を提供するこ とである。(段落【0004】)エ 課題を解決するための手段 すなわち,本発明の第1の要旨は,重合度が3のトリグリセリン 脂肪酸エステルを0.0001〜0.5重量%含有し,コーヒー飲 料中の,マンナン分解酵素で多糖類低分子化処理したコーヒー抽出 物に由来する多糖類が次の(A)〜(C)の条件の少なくとも1つ を満足することを特徴とする乳成分を含有するコーヒー飲料に存す 37 る。
(A)ゲル浸透クロマトグラフィーで測定した多糖類の分子量50 00〜100000に相当するピーク面積の50%以上が多糖類低 分子化処理により減少する。
(B)ゲル浸透クロマトグラフィーで測定した分子量1000〜4 000に多糖類の分子量ピーク頂を有する。
(C)ゲル浸透クロマトグラフィーで測定した多糖類の重量平均分 子量が1000〜6000である。
そして,本発明の第2の要旨は,コーヒー抽出物を温度20〜8 0℃,pH3.0〜8.0の条件下,マンナン分解酵素で15分以 上多糖類低分子化処理し,次の(A)〜(C)の条件の少なくとも 1つを満足する多糖類を含有するコーヒー抽出物を得,得られたコ ーヒー抽出物に,乳成分と,重合度が3のトリグリセリン脂肪酸エ ステルを0.0001〜0.5重量%添加することを特徴とする乳 成分を含有するコーヒー飲料の製造方法に存する。(段落【000 5】〜【0007】)オ 発明の効果 本発明のコーヒー飲料は,すっきりとした飲み口でありながら, 耐熱性芽胞菌の胞子の発芽・増殖を抑制する機能を有しており,自 動販売機などでの加温状態の下で保存しても,耐熱性芽胞菌の胞子 の発芽・増殖が抑制され,フラットサワー変敗が防止され,且つ, 沈殿が生じることがない。(段落【0008】)カ 発明を実施するための最良の形態 (ア) 本 発明 に お い て , コー ヒ ー 抽 出 液 は , 焙煎 豆 か ら 抽 出 し た 液, それを濃縮したエキス,一旦インスタントコーヒーに加工したも のを水(通常は熱水)で溶かした液の何れでも使用可能である 。
38 (段落【0009】)(イ) 本発明の第2の要旨に係るコーヒー飲料においては,上記の コーヒー抽出液として,糖分解酵素で処理したコーヒー抽出液… を使用する。(段落【0012】) 糖分解酵素としては,…各種のものを使用し得るが,マンナン分 解酵素が好ましい。マンナン分解酵素によって分解されるマンナン はマンノースを主構成成分とする多糖類の総称であり,ガラクトー ス,グルコース等を含むマンナンもある。従って,本発明におい て,マンナン分解酵素は,ガラクトースマンナン分解酵素,グルコ ースマンナン分解酵素を含むものとする 。(段落【0024】) マンナン分解酵素は,その起源に制限はなく,マンナナーゼ活 性を有するものであれば精製品でも粗精製品でも使用可能である。
マンナン分解酵素としては,α型またはβ型マンノシダーゼが挙げ られるが,β型マンノシダーゼが好ましい。酵素処理の反応温度, 時間,pH,添加量は,使用する酵素の由来,活性などによって適 した条件を選択すればよい。(段落【0025】) コーヒー抽出液に対する酵素製剤の添加量は,酵素製剤のマン ナナーゼ活性に依存し,…例えば,ノボノルディスク株式会社製 「ガマナーゼ1.5L」( 200単位/ g)の場合であれば,その 添加量は,コーヒー抽出液 1Kg当り,通常0.005 〜5g…で ある。反応温度は,適宜選択可能であり,通常20〜80℃…であ る。pHは,通常pH3.0〜8.0…である。反応時間は適宜選 択可能であり,通常15分間以上である。(段落【0027】〜 【0029】) 添加した酵素は,反応後において特に除去する必要はない。ま た,この酵素反応は,酵素の添加の他に,固定化酵素などによる接 39 触反応によりコーヒー抽出液中に直接酵素が含まれないようにする ことも可能である。(段落【0031】)(ウ) 本発明に使用されるポリグリセリン脂肪酸エステルは,グリ セリンの重合度が2〜5でのものであるが,好ましくは,その構 成脂肪酸が,ラウリン酸,ミリスチン酸,パルミチン酸,ステア リン酸から選ばれる 1種以上であり,エステル置換度が 30%以下 のものである。そして,モノエステルの含量は50%以上が好ま しい。なお,ポリグリセリン脂肪酸エステルは,重合度,エステ ル化度などの異なるエステルが混合した組成物であり,例えば, ジグリセリンエステルとは,平均重合度が2のポリグリセリンエ ステル組成物を意味する。抗菌性の観点からは,ジグリセリンミ リスチン酸モノエステル,トリグリセリンミリスチン酸モノエス テル,ジグリセリンパルミチン酸モノエステル,トリグリセリン パルミチン酸モノエステル,ジグリセリンステアリン酸モノエス テル,トリグリセリンステアリン酸モノエステルを70%以上含 むポリグリセリン脂肪酸エステルが好適である。(段落【003 3】) ポリグリセリン脂肪酸エステルの添加量は,十分な抗菌力を示 す量であることが必要である。この量の最適値は,ポリグリセリン 脂肪酸エステルの種類,コーヒー飲料の種類によっても異なる。添 加量は,通常0.0001〜0.5重量%である。特に,ミルクコ ーヒーの場合のポリグリセリン脂肪酸エステルの添加量は 0.01 〜0.2重量%が好ましく,… ポリグリセリン脂肪酸の添加量が多 いほど抗菌力は高くなるが,添加量が余りに多いと,コストが高く なるばかりでなく,飲料の風味を損ねるので好ましくない。( 段落 【0034】) 40 (エ) 本発明のコーヒー飲料の調製法は特に限定されるものではな い。例えば,ミルクコーヒーの場合を例に挙げると,所定の乳脂 肪分,乳蛋白となる量の乳成分,コーヒーエキス,甘味料,香料 などの飲料成分,ポリグリセリン脂肪酸エステル,水を配合し, ホモジナイザー等により均質化し,レトルト殺菌・UHT殺菌な ど加熱により殺菌し,容器に充填する。 (段落【0036】) (オ ) 本 発明 のコ ーヒ ー飲 料に おい て は, 乳化 剤と して , 重合 度 が 2〜5のポリグリセリン脂肪酸エステルを含有するが,この特徴 や利点を損なわない範囲において,コーヒー飲料に添加される各 種の成分を添加してもよく,また,必要に応じ,他の食品用乳化 剤,安定剤を加えることも出来る。(段落【0037】) 例えば,モノグリセリン脂肪酸エステル,…ショ糖脂肪酸エス テル…等の乳化剤との併用も可能である。また,カゼインナトリウ ム等の乳蛋白との併用も可能である。更には,カラギナン …などの 増粘多糖類との併用も可能である。(段落【0038】) また,乳成分である乳脂肪や乳蛋白を添加することにより,乳 入りコーヒー飲料とすることも出来る。乳成分としては,牛乳,全 脂粉乳,スキムミルクパウダー,フレッシュクリーム等が揚げられ る。(段落【0039】) その他,本発明のコーヒー飲料の効果を妨げない範囲におい て,クエン酸,クエン酸ナトリウム…などの有機酸,無機酸及び/ 又はその塩類,ショ糖,果糖…等の糖類,エリスリトール…等の糖 アルコール類,スクラロース…等の高甘味度甘味料類などを添加す ることが出来る。(段落【0041】)キ 実施例(ア) 実施例1 41 L値20の焙煎コーヒー豆2.5kgを95℃の脱塩水で抽出し,コーヒー抽出液26.4kgを得た。このコーヒー抽出液10kgを40℃に冷却した後,マンナン分解酵素として,ノボ ノルディスク株式会社製「ガマナーゼ1.5L」を1.0g添加し,60分放置した。この酵素処理済コーヒー抽出液 5.4kgに対し,牛乳1.0kg,グラニュー糖0.5kg,及びトリグリセリンパルミチン酸エステル3.0gを脱塩水に50℃で溶解して調製した水溶液を加えて全量を10kgとした。この溶液に重曹を加えて殺菌後のpHが6.4となるように調節し,高圧ホモジナイザーを使用し て 6 0 〜 7 0 ℃ の 温 度 で 1 5 0 k g / 5 0 k g の 圧 力 で 均 質化後,100mlのガラス耐熱瓶に充填し,レトルト殺菌機 …により殺菌温度121℃,殺菌時間40分の条件で殺菌し…,冷却することによりミルクコーヒーを得た。多糖類の重量平均分子量( Mw)3900であった。このコーヒー飲料に関して以下のような評価を行った。
(1)静菌試験: 得られたコーヒー飲料に,100℃30分で活性化したムーレ ラ・サーモアセチカ …の芽胞懸濁液を,濃度 1×10 5 個/ ml と な る よ う に 接 種 し , ガ ラ ス チ ュ ー ブ に 各 2 m l ×5 本 ず つ 採 り,火炎にて開口端を溶封密封した。 これを55℃で4週間保存 した後,変敗の有無を判定した。判定は外観および菌無接種区と のpHの差異により行った。結果を表1に示す。評価結果を表1 に示す。なお,沈殿量の評価基準は以下のとおりである。○:沈 殿なし,△:僅かに沈殿あり,×:沈殿あり(2)沈殿量評価: 得られたコーヒー飲料を 60℃で1週間保存し,内容物を抜き 42 出し底の沈殿量について評価した。
(3)官能評価: 得られたコーヒー飲料を25℃の室内にて常温のまま試飲してア ンケートを実施した(母集団14人)。結果は後述する。(段落 【0045】〜【0048】)(イ) 実施例2 実施例1において,ノボノルディスク株式会社製「ガマナーゼ 1 . 5 L 」 を 三 菱 化 学 フ ー ズ 株 式 会 社 製 「 ス ク ラ ー ゼ A 」 に 変更 し,5.0g添加し,酵素処理を70℃で行い,トリグリセリンパ ルミチン酸エステルの添加量を2.5gにした以外は,実施例1と 同様に行った。このコーヒー飲料中のコーヒー抽出物に由来する多 糖類の重量平均分子量(Mw)3900であった。(段落【004 9】)(ウ) 実施例3 実施例1において ,乳化剤をジグリセリンパルミチン酸エステ ル(理研ビタミン株式会社 商品名「ポエムDP-95RF」) 2.5gとショ糖ステアリン酸エステル(三菱化学フーズ株式会 社「リョートーシュガーエステル S-570」)3.0gに変更 した以外は ,実施例1と同様に行った。評価結果を表1に示す。
(段落【0050】)(エ) 参考例1 実施例1において,トリグリセリンパルミチン酸エステルをシ ョ糖パルミチン酸エステル(三菱化学フーズ株式会社「リョート ーシュガーエステルP-1670」)に変更した以外は ,実施例 1と同様に行った。評価結果を表1に示す。(段落【005 1】) 43 (オ) 参考例2 実施例3において,ジグリセリンパルミチン酸エステルをショ糖 パルミチン酸エステル(三菱化学フーズ株式会社「リョートーシュ ガーエステルP-1670」)に変更した以外は,実施例3と同様 に行った。評価結果を表1に示す。(段落【0052】)(カ) 参考例3 実施例1において,トリグリセリンパルミチン酸エステルを添加 しない以外は,実施例1と同様に行った。評価結果を表1に示す。
(段落【0053】)(キ) 比較例1: 実施例1において,酵素未処理のコーヒー抽出液を使用した以外 は,実施例1と同様に行った。…多糖類の重量平均分子量(Mw) 7400であった。評価結果を表1に示す。 (段落【0054】)(ク) 【表1】 (段落【0055】)(ケ) 官能評価の結果 44 (a)実施例1〜3に関しては,「後味がよく,ごくごく飲め る」,「コーヒーが苦手な人には飲み易い」,「すっき りしていて 飲み易い」等の好意的な意見多く(約 70%)得られた。ただし, 「コーヒー特有の苦味・酸味・渋みは弱い」との意見は多かった (約80%)。
(b)参考例1と2に関しては,「コーヒー特有の苦味・酸味・渋 みがある」との意見が多数(約80%)であった。
(c)比較例1に関しては,沈殿量が多かった。参考例 3は分離し たため実施しなかった。
以上の(a)〜(c)の結果から,本発明の飲料は新しい嗜好 性の高いコーヒー飲料であることは明らかである。本発明に係るコ ーヒー飲料は,今までコーヒーが苦手な人にも愛用されるポテンシ ャルを備えており,現代人の生活に更なる豊かさをもたらすもので あることが期待できる。また,現代の嗜好の多様化に貢献するもの でもあることも期待できる。(段落【0056】〜【0060】)(2) 上記(1)によれば,本件明細書には,本件発明に関し,次のようなことが 開示されているものといえる。
すなわち,本件発明は,コーヒー飲料について,製造時の高温殺菌処理 や製造後の長期保存によっても沈殿物や脂肪の分離などが発生せず,すっ きり味であり,しかも,静菌力と乳化安定性を兼ね備えたものを提供する ことを課題とし(段落【0004】 ,その解決手段として, ) 「重合度が3の トリグリセリン脂肪酸エステルを0.0001〜0.5重量%含有し」, 「コーヒー飲料中の,マンナン分解酵素で多糖類低分子化処理されたコー ヒー抽出物に由来する多糖類が下記の(A)及び(B)の条件の少なくと も 1 つを満足する」ことを特徴とする乳成分を含有するコーヒー飲料及びそ の製造方法を提供するものであり(【請求項1,3】 ,その結果,@すっき ) 45 りとした飲み口でありながら,A耐熱性芽胞菌の胞子の発芽・増殖を抑制 する機能を有し,加温状態の下で保存しても耐熱性芽胞菌の胞子の発芽・ 増殖が抑制され,フラットサワー変敗が防止され,且つ,B沈殿が生じる ことがないという効果を奏するものである(段落【0008】。
) (A)ゲル浸透クロマトグラフィーで測定した分子量1000〜4000 に多糖類の分子量ピーク頂を有する, (B)ゲル浸透クロマトグラフィーで測定した多糖類の重量平均分子量が 1000〜6000である。
2 取消事由2(甲4ないし9(本件発明2及び4については,甲4又は9)記 載の発明のいずれかに基づく容易想到性判断(顕著な効果に係る判断)の誤り) について (1) 事案に鑑み,まずは,原告ら主張の取消事由2のうち,甲4発明に基づ く本件発明1の容易想到性を認めた本件審決の判断の適否について,検討す る。
ア 相違点3に係る本件発明1の構成の容易想到性について (ア) 甲4の記載(本件審決適示の[甲4-1]ないし[甲4-13] (別紙審決書16〜18頁))によれば,甲4には,本件審決認定のと おりの甲4発明が記載され,これと本件発明1とを対比すると,本件 審決認定のとおりの一致点及び相違点3(前記第2の3(1)イ(イ))を 認めることができる(当事者間に争いがない。。
) (イ ) 他 方 , 甲 1 ない し 3の 記載 ( 本 件審 決 適示 の[ 甲 1 - 1 ]な いし[甲1-9],[甲2-1]ないし[甲2-4]及び[甲3 -1]ないし[甲3-5](別紙審決書10〜16頁))によれ ば , コ ー ヒ ー 飲 料 に お い て は , 高 温 処 理 や 長 期 保 存 に よ り そ の成 分に基づく沈殿が発生することが,本件特許の優先日前からの周 知の課題であったことが認められる。
46 また,このような課題に対応し,甲1には, 製造時の高温処理や 製造後の長期保存によっても沈殿物が発生せず,安定性に優れたコ ーヒー飲料を製造するために,コーヒー抽出液にセルロシン GM5 P(ガラクトマンナナーゼ活性:10150単位/g)を加えるこ と(段落【0008】,【0011】,【0051】)が,甲2に は,長期間保存した後でも沈殿発生を防止するために,コーヒー抽 出液にマンナン分解酵素であるガマナーゼ1.5Lを加えること (段落【0003】,【0012】)が,さらに,甲3には,多糖 類などに起因して沈殿の発生しやすいコーヒー飲料において,経時 的な保存における沈殿の発生を防止し,かつ,品質を劣化させない コーヒー飲料を製造するために,コーヒー抽出液にガラクトマンナ ン分解酵素であるセルロシンGM5を加えること(段落【000 3】,【0007】,【0033】〜【0035】)が,それぞれ 記載されている。
してみると,甲1ないし3の記載に接した当業者であれば,コー ヒー飲料を得るためのコーヒー抽出液に対してマンナン分解酵素処 理を行うことにより,コーヒー抽出液に含まれるガラクトマ ンナン 等の多糖類が分解され,その結果,高温処理や長期保存によって生 じる沈殿の発生というコーヒー飲料における周知の課題を解決でき ることを当然に理解するものといえる。(以上については,本件審 決が認定・判断するとおりであり,原告 らも,これを積極的に争う 旨の主張はしていない。)(ウ ) そこで,以 上を踏まえて,甲4発明において,相違点3 に 係 る本件 発明 1の 構成 とする こと の容 易想 到性 に つき 検討 する に, 上記 (イ )のと おり, 高温処 理や長 期保 存 により コーヒ ーの 成 分に 基づく 沈殿 が発 生す る こと は, コー ヒー 飲料全 般に 生じ 得る 課題 47 であり ,同 じく コー ヒー飲 料に 係る 甲4 発明に も当 ては まる 課 題 である から ,当 業者 であれ ば, 甲4 発明 におい ても ,当 該課 題を 解決す るた めに ,コ ーヒー 抽出 物に 対し て甲1 ない し 3 記載 のマ ンナン分解酵素処理を行うことは,容易に想到し得ることであ る。
また,当該酵素処理によってコーヒー抽出物に由来する多糖類が 分解(低分子化)されるに際し,その分子量分布を 適宜好適化し て,相違点3に係る(A)又は(B)の条件を満足するものとする ことも,当業者が容易になし得ることといえる( この点は,原告ら も,本件発明1と甲1発明との相違点2に係る構成(マンナン分解 酵素で多糖類低分子化処理されたコーヒー抽出物に由来する多糖類 が,上記(A)及び(B)の条件の少なくとも1つを満足するもの であること)について,「酵素による低分子化処理に際し,多糖類 の分子量分布を最適化して(A)及び(B)のようにすることは当 業者が適宜なし得ることである。」とした本件審決の判断を認めて いる。)。
してみる と,甲4発明におい て,相違点3に係る 本件発明1の 構成と する こと は, 当該構 成に 着目 する 限り, 当業 者が 容易 に想 到し得たことといえる。
イ 顕著な効果の有無について 原告らは,本件発明1には,「コーヒー特有の苦み・酸味・渋み」が弱いという効果があり,その効果は,TPの含有とマンナン分解酵素処理との組合せにより発現するものであって,甲4発明(TPを含有するものの,マンナン分解酵素処理が行われていないもの)と比較して当業者が予測できない顕著な効果であるといえるから,本件発明1が有する顕著な効果を否定し,その容易想到性を 48 認めた本件審決の判断は誤りである旨主張する。
こ の 点, 甲4 発 明 にお い て相 違点 3 に 係る 本 件発 明1 の 構 成と することが,その構成という観点からは当業者が容易に想到し得たものといえることは,上記アのとおりであるが,その場合でも,本件発明1に引用発明(甲4発明)と比較した有利な効果が認められ,それが本件特許の優先日当時の技術水準から当業者が予測し得る範囲を超えた顕著な効果といえる場合には,本件発明1の進歩性を認める余地があるものといえる。ただし,先願主義を採用し,発明の公開の代償として特許権(独占権)を付与するという特許制度の趣旨に鑑みれば,上記のような顕著な効果は,明細書にその記載があるか,又は,明細書の記載から当業者がその効果を推論できるものでない限り,進歩性判断の考慮要素とすることはできないというべきである。
そ こで , 以下 に おい て は, 上 記の 観 点に 基 づき , 本件 発 明1 に ,原告ら主張のような甲4発明と比較した有利な効果が認められ,かつ,それが当業者の予測し得る範囲を超えた顕著な効果といえるものであるかについて,検討することとする。
(ア) 本件明細書の記載に基づく検討 a 原告らは,本件発明1が有する甲4発明と比較した有利な効果 として,「コーヒー特有の苦み・酸味・渋み」が弱いという効果 が認められる旨主張する。そこで,本件明細書中の本件発明に係 るコーヒー飲料の風味に関する記載をみると,次のような記載が 認められる。
(a) 本 件 発明 の目 的と し て, 「 製 造時 の高 温 殺菌 処理 や製 造後 の長期保存によっても沈殿物や脂肪の分離などが発生」しない こと,「静菌力と乳化安定性を兼ね備え 」ていることに加え, 49 「すっきり味であ」ることが記載されている(段落【000 4】)。
? 本件発明の効果として,「加温状態の下で保存しても,耐熱 性芽胞菌の胞子の発芽・増殖が抑制され,フラットサワー変敗 が防止され」ること,「沈殿が生じることがない」ことに加 え,「すっきりとした飲み口であ」ることが記載されている (段落【0008】)。
? 実施例1,2(いずれもマンナン分解酵素処理を行ったコー ヒー抽出液に,TPの一種であるトリグリセリンパルミチン酸 エステルを加えたミルクコーヒー)及び 実施例3(マンナン分 解酵素処理を行ったコーヒー抽出液に,ジグリセリンパルミチ ン酸エステル及びショ糖ステアリン酸エステルを加えたミルク コーヒー)について,母集団14人が,得られたコーヒー飲料 を25℃の室温にて常温のまま試飲してアンケートを実施する 官能評価を行ったところ,実施例1〜3に関して,「後味がよ く,ごくごく飲める」,「コーヒーが苦手な人には飲み易 い」,「すっきりしていて飲み易い」等の好意的な意見 が多く (約70%)得られたこと,「コーヒー特有の苦味・酸味・渋 みは弱い」との意見 が多かった(約80%)ことが記載されて いる(段落【0045】,【0048】〜【0050】,【0 057】)。
また,参考例1(実施例1において,トリグリセリンパルミ チン酸エステルをショ糖パルミチン酸エステルに変更したもの) 及び参考例2(実施例3において,ジグリセリンパルミチン 酸 エステルをショ糖パルミチン酸エステルに変更したもの)につ いて,実施例1〜3と同様の官能評価を行ったところ, これら 50 に関して,「コーヒー特有の苦味・酸味・渋みがある」との意 見が多数(約80%)であったことが記載されている(段落 【0051】,【0052】,【0058】)。
b そこで,本件明細書のこれらの記載から,本件発明1が有する コーヒー飲料の風味に関する効果についていかなる理解が可能で あるかを検討するに,上記官能評価の結果によれば,マンナン分 解酵素処理されたコーヒー抽出物にTPを加えた本件発明1のミ ルクコーヒー(実施例1及び2)について,「すっきりしていて 飲み易い」等の意見とともに,「コーヒー特有の苦味・酸味・渋 みは弱い」との意見が多かったとされており,このことが,本件 発明が有する「すっきりした飲み口であ」るとの効果を示すもの であることを理解することができる。
しかしながら,原告ら主張のように,「コーヒー特有の苦味・ 酸味・渋みは弱い」との効果が,TPの含有とマンナン分解酵素 処理との組合せにより発現するものであることについては,本件 明細書中にその旨を説明する記載はなく,また,当業者が上記官 能評価の結果からこれを推論することもできないというべきであ る。すなわち,本件明細書において,上記官能評価の結果として 示されているのは,マンナン分解酵素処理されたコーヒー抽出物 にTPを加えたミルクコーヒー(実施例1及び2)とマンナン分 解酵素処理されたコーヒー抽出物にSEを加えたミルクコーヒー (参考例1及び2)を比較したところ,前者では,「コーヒー特 有の苦味・酸味・渋みは弱い」との意見が多かったのに対し,後 者では,「コーヒー特有の苦味・酸味・渋みがある」との意見が 多かったということにすぎず,このような結果からは,乳化剤と してSEではなくTPを添加したことが,「コーヒー特有の苦 51 味・酸味・渋みは弱い」との風味に寄与することは理解できたと しても,TPの含有にマンナン分解酵素処理を組み合わせること によって上記風味が発現するものであることを直ちに推論するこ とはできない。この点,コーヒー飲料の風味とマンナン分解酵素 処理との関係を確認するのであれば,マンナン分解酵素処理され たコーヒー抽出物にTPを加えたミルクコーヒー(実施例1及び 2)とマンナン分解酵素処理がされていないコーヒー抽出物にT Pを加えたミルクコーヒー(本件明細書の比較例1(段落【00 54】))との風味の比較が行われてしかるべきところ,本件明 細書には,このような比較が行われたことを示す記載はない。ま た,マンナン分解酵素処理を行ったコーヒー抽出液を用いたコー ヒー飲料に係る公知文献(甲1ないし3)をみても,当該処理が コーヒーの風味に与える影響についての記載はなく,技術常識に 照らしても,当該処理を行うことによるコーヒー飲料の風味への 影響を推測することは困難といえる。
してみると,原告らが本件発明1の顕著な効果であると主張す る「コーヒー特有の苦味・酸味・渋みは弱い」との風味に係る効 果が,TPの含有とマンナン分解酵素処理を組み合わせることに より発現するものであることについては,本件明細書にその旨の 記載はなく,本件明細書の記載から当業者がこれを推論すること ができるともいえないから,上記効果をもって,本件発明1が有 する甲4発明(TPを含有するものの,マンナン分解酵素処理が 行われていないもの)と比較した有利な効果 として認めることは できないというべきである。
(イ) 原告らの官能評価試験の結果に基づく主張について a 原告らは,本件訴訟提起後に自らが実施し,又は第 三者機関に 52 実施させた官能評価試験(甲56試験,甲59試験,甲68試験 及び甲77試験)の結果を証拠として提出し,これらによって, 本件発明1の「コーヒー特有の苦味・酸味・渋みは弱い」との効 果がTPの含有とマンナン分解酵素処理の組合せにより発現する ものであることが確認できる旨を主張する。
しかしながら,前記のとおり,引用発明と比較した有利な効果 が発明の進歩性判断の考慮要素となり得るのは,当該効果が明細 書に記載され,又は,明細書の記載から当業者が これを推論でき る場合に限られるところ,本件明細書の記載 からは,本件発明1 の「コーヒー特有の苦味・酸味・渋みは弱い」との効果を甲4発 明と比較した有利な効果として認めることができないことは,上 記(ア)bで述べたとおりである 。これに対し,原告らの上記主張 は,本件明細書の記載を離れ,事後的に実施した官能評価試験の 結果に基づいて,本件発明1が甲4発明と比較した有利な効果を 有する旨を述べようとするものであって,そもそも失当というべ きである。
b さらに,念のため,原告ら主張の官能評価試験の結果を検討し てみても,以下に述べるとおり,これらによって,本件発明1の 「コーヒー特有の苦味・酸味・渋みは弱い」との効果がTPの含 有とマンナン分解酵素処理の組合せにより発現するものであるこ とが確認できると断ずることはできない。
(a) 甲56試験について 甲56試験は,原告三菱フーズの依頼により一般社団法人お いしさの科学研究所が実施した官能評価試験であり,いずれも マンナン分解酵素処理がされたコーヒー抽出液に,@TPを加 えたミルクコーヒー(本件明細書の実施例1に相当する試料 53 Y),A乳化剤を加えていないミルクコーヒー(本件明細書の 参考例3に相当する試料Q)及びBSEを加えたミルクコーヒ ー(本件明細書の参考例1に相当する試料L)について,12 名のパネリストが,「コーヒー特有の味(苦味,酸味,渋み) の弱さ」を一対比較法(2つの比較試料のうち,コーヒー特有 の味(苦味,酸味,渋み)が弱い方を選択するもの)によって それぞれ比較したものである。そして,甲56には,その結果 として,試料Yが,試料L及び試料Qのいずれとの比較におい ても,「コーヒー特有の味(苦み,酸味,渋み)が弱い」を選 んだ人数が多かったことが示されている。
しかし,甲56試験では,マンナン分解酵素処理されたコー ヒー抽出物にTPを加えたものとマンナン分解酵素処理がされ ていないコーヒー抽出物にTPを加えたものとの 味の比較(す なわち,マンナン分解酵素処理の有無に よる味の比較)が行わ れておらず,このような甲56試験の結果からでは,TPの含 有にマンナン分解酵素処理を組み合わせることによって上記風 味が発現するものであることを推論することができないこと は,本件明細書における官能評価の結果の場合と同様である 。
したがって,甲56試験の結果は,本件発明1の「コーヒー 特有の苦味・酸味・渋みは弱い」との効果がTPの含有とマン ナン分解酵素処理の組合せにより発現するものであることを示 すものとはいえない。
? 甲59試験について 甲59試験は,原告三菱フーズが実施した官能評価試験であ り,@マンナン分解酵素処理がされたコーヒー抽出物にTPを 加えたミルクコーヒー(本件明細書の実施例1に相当する実験 54 例1),Aマンナン分解酵素処理がされたコーヒー抽出物に乳化剤を加えていないミルクコーヒー(本件明細書の参考例3に相当する実験例2)及びBマンナン分解酵素処理がされていないコーヒー抽出物にTPを加えたミルクコーヒー(本件明細書の比較例1及び甲4発明に相当する実験例3)について,8名のパネリストが,「コーヒー特有の苦味,酸味,渋みの弱さ」を一対比較法(2つの比較試料のうち,コーヒー特有の苦味,酸味,渋みが弱い方を選択するもの) によってそれぞれ比較したものである。このうち,実験例1と実験例3との比較は,マンナン分解酵素処理の有無による味の比較を行うものといえるところ,甲59には,その結果として,実験例1と実験例3の各2つのサンプルを比較した延べ15名のパネリストのうち,実験例1の方が「コーヒー特有の苦み・酸味・渋みが弱い」とした者が9名であったことが示されており,これをもって,実験例3よりも実験例1の方がコーヒー特有の苦み・酸味・渋みが弱いことが証明されたと結論付けられている。
しかしながら,食品等の官能評価の統計的評価に係る技術常識によれば,上記のような一対比較法による官能評価試験の結果に統計的な有意差があると認められるためには,少なくとも総判定数に対し危険率5%の水準を満たす該当数が得られる必要があり,具体的には,総判定数が15であれば,12以上の該当数が必要とされる(乙14の126,127頁 (表1),乙15の109(表3),110頁)。ところが,甲59試験の結果においては,延べ15名のパネリストのうち,実験例1の方が「コーヒー特有の苦み・酸味・渋みが弱い」とした者は9名にとどまり,上記危険率5%の水準を満たす結果とはなっ 55 ていないのであるから,甲59試験の結果は,実験例3よりも 実験例1の方がコーヒー特有の苦み・酸味・渋みが弱いことを 有意に示すものとはいえない。
これに対し,原告らは,上記試験結果に有意差が認められな いとしても,実験例1の方が「コーヒー特有の苦み,酸味,渋 みは弱い」という傾向が示されていれば足りるなどと主張する が,上記試験結果に有意差が認められないということは,その 結果が偶然である可能性が排除できず,統計的にみて, 「実験 例3よりも実験例1の方がコーヒー特有の苦み・酸味・渋みが 弱い」との結果が示されているとはいえないということである から,このような試験結果によって,「実験例3よりも実験例 1の方がコーヒー特有の苦み・酸味・渋みが弱いことが証明さ れた」などと断ずることはできないというべきであり,原告ら の上記主張は理由がない。
? 甲68試験について 甲68試験は,原告三菱フーズの依頼により一般社団法人お いしさの科学研究所が実施した官能評価試験であり,@マンナ ン分解酵素処理がされたコーヒー抽出物にTPを加えたミルク コーヒー(本件明細書の実施例1に相当する 試料M)とAマン ナン分解酵素処理がされていないコーヒー抽出物にTPを加え たミルクコーヒー(本件明細書の比較例1 及び甲4発明に相当 する試料W)について,16名のパネリストが,「コーヒー特 有の味(苦味,酸味,渋み)の弱さ」を一対比較法(2つの比 較試料のうち,コーヒー特有の味(苦味,酸味,渋み)が弱い 方を選択するもの)によって比較したものである。この比較 は,マンナン分解酵素処理の有無による味の比較を行うものと 56 いえるところ,甲68には,その結果として,16名のパネリ ストのうち,試料Mの方が「コーヒー特有の味(苦み,酸味, 渋み)が弱い」とした者が14名であったことが示されてお り,1%の危険率で有意差がみられるものとされている。
? 乙22試験について 乙22試験は,被告が実施した官能評価試験であり,@マン ナン分解酵素処理がされたコーヒー抽出物にTPを加えたミル クコーヒー(本件明細書の実施例1に相当する 飲料1),Aマ ンナン分解酵素処理がされていないコーヒー抽出 物にTPを加 えたミルクコーヒー(本件明細書の比較例1及び甲4発明に相 当する飲料2)及びBマンナン分解酵素処理がされていないコ ーヒー抽出物に乳化剤を加えていないミルクコーヒー(飲料 3)について,20名のパネラーが,「コーヒー特有の苦味, 酸味,渋み」を一対比較法(「差がない」,どちらかが「わず かに弱い」,「弱い」,「非常に弱い」の 7つの選択肢のいず れかを選択するもの)によってそれぞれ 比較したものである。
このうち,飲料1と飲料2との比較は,マンナン分解酵素処理 の有無による味の比較を行うものといえるところ,乙22に は,その結果として,20名のパネラーのうち,「飲料1と飲 料2とで差がない」とした者が13名,「飲料1の方がわずか に弱い」とした者が2名,「飲料1の方が弱い」とした者が1 名,「飲料2の方がわずかに弱い」とした者が1名,「飲料2 の方が弱い」とした者が3名であったことが示されている。
乙22試験の上記結果は,飲料1と飲料2において, 「コー ヒー特有の苦味,酸味,渋み」に格別の差がないことを示して いるといえる。
57 これに対し,原告らは,乙22試験について,パネラーが味 の差を認識できるかどうかの試験を行っていない ものと認めら れるから,その試験方法には不備があるなどと主張する。しか し,乙22の記載からは,「コーヒー特有の苦味,酸味,渋 み」の識別に関し,パネラーに対して事前にどのような指示や 試験が行われたのかは明らかでなく,このことは,原告三菱フ ーズ等が実施した官能評価試験に係る報告書(甲56,59, 77)においても同様であるから,乙22試験についてのみ試 験方法に不備があるなどと断定することはできない。
(e) 甲77試験について 甲77試験は,原告三菱フーズが実施した官能評価試験であ り,@マンナン分解酵素処理がされたコーヒー抽出物にTPを 加えたミルクコーヒー(本件明細書の実施例1に相当する実験 例1),Aマンナン分解酵素処理がされていないコーヒー抽出 物にTPを加えたミルクコーヒー(本件明細書の比較例1及び 甲4発明に相当する実験例2)及びBマンナン分解酵素処理が されていないコーヒー抽出物に乳化剤を加えていないミルクコ ーヒー(実験例3)について,10名のパネリストからなるパ ネルA及び15名のパネリストからなるパネルBが,「コーヒ ー特有の苦味,酸味,渋み」を一対比較法(「 とても強い」, 「強い」,「やや強い」,「同じくらい」,「やや弱い」, 「弱い」,「とても弱い」の7つの選択肢のいずれかを選択す るもの)によってそれぞれ比較したものである。 このうち,実 験例1と実験例2との比較は,マンナン分解酵素処理の有無に よる味の比較を行うものといえるところ,甲77には,その結 果として,延べ69名のパネラーのうち,実験例1を基準とし 58 た際の実験例2の選択肢につき,「やや強い〜とても強い」 とした者が33名,「同じくらい」とした者が13名,「やや弱い〜とても弱い」とした者が23名であったことが示されている。
そして,総判定数が70の場合の危険率5%の正解数は43であるところ(乙14の127頁(表1)),上記試験結果においては,延べ69名のパネリストのうち,実験例2の方が「コーヒー特有の苦み・酸味・渋みが強い」とした者(すなわち,実験例1の方が「コーヒー特有の苦み・酸味・渋みが弱い」とした者)は33名にとどまるのであり,上記危険率5%の水準を満たす結果とはなっていない のであるから,甲77試験の結果は,実験例2よりも実験例1の方がコーヒー特有の苦み・酸味・渋みが弱いことを有意に示すものとはいえない。
この点,原告らは,実験例1と実験例2の比較の結果及び実験例1と実験例3の比較の結果を合算して総合的に評価すれば,延べ138名のパネリスト中65名が,実験例2又は実験例3(本件発明1以外コーヒー飲料)よりも実験例1(本件発明1のコーヒー飲料)の方が「コーヒー特有の苦み・酸味・渋みが弱い」と評価したことになり,この結果は,後者が前者と比較して,「コーヒー特有の苦み・酸味・渋み」が 5%の有意水準で有意に弱いことを示している旨主張する。
しかし,実験例1と実験例3の比較は,マンナン分解酵素処理の有無のみに着目した味の比較ではなく,その結果を実施例1と実施例2の比較の結果と合算した結果によって,マンナン分解酵素処理の有無による味の差を評価することはできないから,当該合算した結果に上記のとおりの有意差が認められるか 59 らといって,本件発明1の「コーヒー特有の苦味・酸味・渋みは弱い」との効果がTPの含有とマンナン分解酵素処理の組合せにより発現するものであることが示されることにはならない。
? まとめ 以上によれば,原告らがその主張の根拠とする官能評価試験 の結果のうち,甲56試験の結果は,そもそもマンナン分解酵 素処理の有無による味の比較結果を示すものではなく,また, 甲59試験及び甲77試験の結果は,マンナン分解酵素処理の 有無による味の比較結果を含むものではあるものの,マンナン 分解酵素処理がされたコーヒー抽出物にTPを加えたミルクコ ーヒー(本件発明1に相当するもの)の方が,マンナン分解酵 素処理がされていないコーヒー抽出物にTPを加えたミルクコ ーヒー(甲4発明に相当するもの)よりも,「 コーヒー特有の 苦み・酸味・渋みが弱い」ことを有意に示すものとはいえな い。
他方,甲68試験の結果は,マンナン分解酵素処理の有無による味の比較結果を含み,かつ,マンナン分解酵素処理がされたコーヒー抽出物にTPを加えたミルクコーヒー(本件発明1に相当するもの)の方が,マンナン分解酵素処理がされていないコーヒー抽出物にTPを加えたミルクコーヒー(甲4発明に相当するもの)よりも,「コーヒー特有の苦み・酸味・渋みが弱い」ことを有意に示すものということができる。
しかしながら,被告の実施に係る乙22試験の結果では,マンナン分解酵素処理の有無によって「コーヒー特有の苦み・酸味・渋み」に差がないことが示されており,また,上記のとお 60 り,原告三菱フーズ等の実施に係る甲59試験及び甲77試験 の結果でも,マンナン分解酵素処理の有無による「コーヒー特 有の苦み・酸味・渋み」の有意な差が示されていないことを考 慮すれば,甲68試験の結果のみに格別の信頼性を置くことは できないというべきであり,結局のところ,これらの試験結果 を総合してみれば,これらによって,本件発明1の「コーヒー 特有の苦味・酸味・渋みは弱い」との効果がTPの含有とマン ナン分解酵素処理の組合せにより発現するものであることが確 認できると断ずることはできない。
(ウ) 以上によれば,本件発明1について,甲4発明(TPを含有す るものの,マンナン分解酵素処理が行わ れていないもの)と比較し て,「コーヒー特有の苦み・酸味・渋み」が弱いという有利な効果 があると認めることはできない。
ウ 小括 以上の次第であるから,本件発明1について,甲4発明と比較し て当業者が予測できない顕著な効果があるとする原告らの主張は理 由がなく,したがって,本件発明1に甲4発明と比較した顕著な効 果があることを否定し,これを前提に,本件発明1は甲4発明と甲 1ないし3記載の事項に基づいて容易に想到し得るものであるとし た本件審決の判断に誤りはない。
(2) 甲4発明に基づく本件発明2の容易想到 性を認めた本件審決の判断 の適否について ア 相違点3及び4に係る本件発明2の構成の容易想到性について (ア) 甲4発明と本件発明2を対比すると,本件審決認定のとおりの 一致点及び相違点3及び4(前記第2の3(2)イ(イ))を認めること ができる(当事者間に争いがない)。
61 (イ) 相違点3について 甲4発明 において 相違点3に 係る本件発明2の構 成とすること が,当 該構 成に 着目 する限 り, 当業 者が 容易に 想到 し得 たこ とで あることは,本件発明1について述べたとおり(前記 (1)ア)であ る。
(ウ) 相違点4について 甲4の記載(本件審決適示の[甲4-1]及び[甲4-4](別 紙審決書16,17頁))によれば,甲4には,乳化剤である「 ポ リグリセリン脂肪酸モノエステル」を構成する脂肪酸が,ラウリン 酸,ミリスチン酸,パルミチン酸,ステアリン酸であることが記載 され,また,トリグリセリン脂肪酸モノエステルの具体例として, 「トリグリセリンモノラウレート(モノエステル含有量70w t%)」,「トリグリセリンモノミリステート(モノエステル含有 量80wt%)」及び「トリグリセリンモノパルミテート(モノエ ステル含有量83wt%)」が記載されている。
したがって,相違点4に係る本件発明2の構成のうち,「重合度 が 3 の ト リ グ リ セ リ ン 脂 肪 酸 エ ス テ ル の 構 成 脂 肪 酸 が , ラ ウ リン 酸,ミリスチン酸,パルミチン酸,ステアリン酸の群から選ばれる 何れかであ」ることが,本件発明2と甲4発明との実質的な相違点 でないことは明らかである。
また,トリグリセリン脂肪酸エステルがモノエステルである場合 のエステル置換度は20%であり,ジエステル,トリエステルであ る場合のエステル置換度はそれぞれ40%,60%であるから,例 えば,甲4において,トリグリセリン脂肪酸エステルがトリグリセ リンモノパルミテート(モノエステル含有量83wt%)である場 合,モノエステル以外がジエステルであるとき のエステル置換度は 62 「20×0.83+40×0.17=23.4%」となり,モノエ ステル以外がトリエステルであるときのエステル置換度は「20× 0.83+60×0.17=26.8%」となって,いずれも「エ ステル置換度が30%以下」となる。そして,甲4発明において, 乳化剤であるトリグリセリン脂肪酸モノエステルとして,甲4に具 体的に記載された「トリグリセリンモノパルミテート(モノエステ ル含有量83wt%)」を採用することは,当業者が容易になし得 ることである。してみると,相違点4に係る本件発明2の構成のう ち,「重合度が3のトリグリセリン脂肪酸エステルのエステル置換 度を30%以下」とすることは,当業者が容易に想到し得たことと いえる。
以上によれば,甲4発明において相違点4に係る本件発明2の構 成とすることは,当業者が容易に想到し得たことである。 (以上に ついては,本件審決が認定・判断するとおりであり,原告らもこれ を積極的に争う旨の主張はしていない。)イ 顕著な効果の有無について 原告 ら は , 本 件 発 明 2に つ い て も , 相 違 点3 と の 関 係 で , 本 件発 明1の場合と同様に,甲4発明と比較して当業者が予測できない顕 著な効果があるとして,本件審決の容易想到性判断に誤りがある旨 を主張する。
しか し , 原 告 ら の 顕 著な 効 果 に 係 る 主 張 に理 由 が な い こ と は ,本 件発明1について述べたとおり(前記(1)イ)である。
ウ 小括 したがって,本件発明2に甲4発明と比較した顕著な効果がある ことを否定し,これを前提に,本件発明2は甲4発明と甲1ないし 3記載の事項に基づいて容易に想到し得るものであるとした本件審 63 決の判断に誤りはない。
(3) 甲4発明の2に基づく本件発明3の容易想到性を認めた本件審決の 判断の適否について ア 相違点6に係る本件発明3の構成の容易想到性について (ア ) 甲4の記載(本件審決適示の[甲4-1]ないし[甲4-1 3](別紙審決書16〜18頁))によれば,甲4には,本件審 決認定のとおりの甲4発明の2が記載され,これと本件発明3と を対比すると,本件審決認定のとおりの一致点及び相違点 6(前 記第2の3(3)エ(イ))を認めることができる(当事者間に争いがな い)。
(イ ) 他 方 ,甲 1 ない し 3の 記載 ( 本 件審 決 適示 の[ 甲 1 -1 ]な いし[甲1-9],[甲2-1]ないし[甲2-4]及び[甲3 -1]ないし[甲3-5](別紙審決書10〜16頁))によれ ば , コ ー ヒ ー 飲 料 に お い て は , 高 温 処 理 や 長 期 保 存 に よ り そ の成 分に基づく沈殿が発生することが,本件特許の優先日前からの周 知の課題であったことが認められる。
また,このような課題に対応し,甲2には,長期間保存した後で も沈殿発生が防止されているコーヒー飲料を製造するために,コー ヒー抽出液に,乳成分と乳化剤を添加する前に,マンナン分解酵素 であるガマナーゼ1.5Lを加えて45℃,pH5.0で2時間酵 素処理を行うこと(段落【0003】,【0012】) が,甲3に は,多糖類などに起因して沈殿の発生しやすいコーヒー飲料におい て,経時的な保存における沈殿の発生を防止し,かつ,品質を劣化 させないコーヒー飲料を製造するために,コーヒー抽出液に ,乳成 分と乳化剤を添加する前に,ガラクトマンナン分解酵素であるセル ロシンGM5を加えて35℃で30分間酵素処理を行うこと (段落 64 【0003】,【0007】,【0033】〜【0035】) 及び 当該酵素処理をpH4.5〜5.8のコーヒー液のpHを調製せず に(つまり,そのままのpHで)行うこと(段落【0022】) が, それぞれ記載されている。
してみると,甲2及び3の記載に接した当業者であれば,乳成分 を含有するコーヒー飲料を製造する際,コーヒー抽出液に,乳成分 と乳化剤を添加する前に,甲2及び3に記載される マンナン分解酵 素処理を行うことにより,コーヒー抽出液に含まれるガラクトマン ナン等の多糖類が分解され,その結果,高温処理や長期保存によっ て生じる沈殿の発生というコーヒー飲料における周知の課題を解決 できることを当然に理解するものといえる。(以上については,本 件審決が認定・判断するとおりであり,原告らも,これを積極的に 争う旨の主張はしていない。)(ウ ) そこで,以 上を踏まえて,甲4発明 の2において,相違点 6 に係る 本件 発明 3の 構成と する こと の容 易想到 性に つき 検討 する に,上 記 (イ )のとお り, 高 温処理 や長 期 保存に より コ ーヒ ー の成 分に基 づく 沈殿 が発 生する こと は, コー ヒー飲 料全 般に 生じ 得る 課題で あり ,コ ーヒ ー飲料 の製 造方 法 に 係る甲 4発 明 の 2に も当 てはま るも ので ある から, 当業 者で あれ ば,甲 4発 明 の 2に おい ても, 当該 課題 を解 決する ため に, コー ヒー抽 出物 に, 乳成 分と TPを 添加 する 前に , 甲 2 及び 3記 載の マンナ ン分 解酵 素処 理を 行うこ とは ,容 易に 想到し 得る こと であ る。ま た, その 際に ,コ ーヒー抽出物に由来する多糖類が相違点6に係る(A)又は (B) の条 件を 満足 するも のと する こと を当業 者が 容易 にな し得 ることも,前記(1)ア(ウ)で述べたとおりである。
してみる と,甲4発明の2に おいて,相違点6に 係る本件発明 65 3の構 成と する こと は,当 該構 成に 着目 する限 り, 当業 者が 容易 に想到し得たことといえる。
イ 顕著な効果の有無について 原告 ら は , 本 件 発 明 3に つ い て も , 相 違 点6 と の 関 係 で , 本 件発 明1の場合と同様に,甲4発明の2と比較して当業者が予測できな い顕著な効果があるとして,本件審決の容易想到性判断に誤りがあ る旨を主張する。
しか し , 原 告 ら の 顕 著な 効 果 に 係 る 主 張 に理 由 が な い こ と は ,本 件発明1について述べたとおり(前記(1)イ)である。
ウ 小括 したがって,本件発明3に甲4発明の2と比較した顕著な効果が あることを否定し,これを前提に,本件発明3は甲4発明の2と甲 2及び3記載の事項に基づいて容易に想到し得るものであるとした 本件審決の判断に誤りはない。
(4) 甲4発明の2に基づく本件発明4の容 易想到性を認めた本件審決の 判断の適否について ア 相違点4及び6に係る本件発明4の構成の容易想到性について 甲4発明の2と本件発明4を対比すると,本件審決認定のとおり の一致点及び相違点4及び6(前記第2の3(4)ウ(イ))を認めること ができる(当事者間に争いがない)。
そして,甲4発明の2において,これらの相違点に係る本件発明 4の構成とすることが当業者が容易に想到し得たことであること は,前記(2)ア(ウ)(相違点4)並びに(3)ア(イ)及び(ウ)(相違点6) で述べたとおりである。
イ 顕著な効果の有無について 原告 ら は , 本 件 発 明 4に つ い て も , 相 違 点6 と の 関 係 で , 本 件 発 66 明1の場合と同様に,甲4発明の2と比較して当業者が予測できな い顕著な効果があるとして,本件審決の容易想到性判断に誤りがあ る旨を主張する。
しか し , 原 告 ら の 顕 著な 効 果 に 係 る 主 張 に理 由 が な い こ と は ,本 件発明1について述べたとおり(前記(1)イ)である。
ウ 小括 したがって,本件発明4に甲4発明の2と比較した顕著な効果が あることを否定し,これを前提に,本件発明4は甲4発明の2と甲 2及び3記載の事項に基づいて容易に想到し得るものであるとした 本件審決の判断に誤りはない。
3 結論 以上によれば,本件発明1ないし4のいずれについても,甲4記載の発明に 基づく容易想到性を認め,特許法29条2項の規定により特許を受けることが できないものとした本件審決の判断に誤りはないから,その余の取消事由につ いて判断するまでもなく,本件審決は取り消されるべきものとはいえない。
よって,原告らの請求は理由がないから,これを棄却することとし,主文の とおり判決する。
裁判長裁判官 鶴岡稔彦