関連審決 | 無効2014-800168 |
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事件 |
平成
28年
(行ケ)
10187号
審決取消請求事件
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原告 パイロットインキ株式会社 原告 株式会社パイロットコーポレーション 両名訴訟代理人弁護士 近藤惠嗣 吉武賢次 宮嶋学 田泰彦 柏延之 砂山麗 弁理士 永井浩之 中村行孝 堀田幸裕 前川英明 被告三菱鉛筆株式会社 訴訟代理人弁護士 萩尾保繁 山口健司 高橋元弘 末吉亙 弁理士 青木篤 島田哲郎 三橋真二 伊藤健太郎 |
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裁判所 | 知的財産高等裁判所 |
判決言渡日 | 2017/08/30 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
1 原告らの請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用は原告らの負担とする。 |
事実及び理由 | |
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原告らの求めた裁判
特許庁が無効2014-800168号事件について平成28年6月28日にした審決を取り消す。 |
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事案の概要
本件は,特許無効審判請求に基づいて特許を無効とした審決の取消訴訟である。 争点は,明確性要件違反の有無である。 1 特許庁における手続の経緯 原告パイロットインキ株式会社(以下「原告パイロットインキ」という。)は,名称を「可逆熱変色性筆記具用水性インキ組成物及びそれを収容した筆記具」とする発明について,平成17年6月1日,特許出願をし(特願2005-161272。 以下「本件出願」という。 ,平成24年3月30日,その設定登録(特許第496 )1115号,請求項の数7。以下「本件特許」という。)を受けた(甲1)。平成26年9月10日,特定承継による本権の一部移転により,本件特許は,原告パイロットインキと原告株式会社パイロットコーポレーションの共有となった(甲85)。 被告が,平成26年10月16日付けで本件特許の請求項1〜7に係る発明についての無効審判請求(無効2014-800168号。甲68)をしたところ,特許庁は,平成28年6月28日, 「特許第4961115号の請求項1ないし7に係る発明についての特許を無効とする。」との審決をし,その謄本は,同年7月7日,原告らに送達された。 2 本件発明の要旨 本件特許の請求項1〜7の発明に係る特許請求の範囲(以下「本件特許請求の範囲」という。)の記載は,次のとおりである(以下,項番号によって「本件発明1」のようにいい,本件発明1〜本件発明7を併せて「本件発明」という。また,本件特許の特許公報(甲1)記載の明細書及び図面を併せて「本件明細書」という。 。 ) (1) 本件発明1「 可逆熱変色性筆記具用水性インキ組成物を収容したボールペン形態の筆記具で あって, 前記可逆熱変色性筆記具用水性インキ組成物は, (イ)電子供与性呈色性有機化 合物,(ロ)電子受容性化合物,(ハ)前記両者の呈色反応の生起温度を決める反 応媒体からなる可逆熱変色性組成物を内包させた可逆熱変色性マイクロカプセル 顔料と,水を少なくとも含有してなり,ここで,前記可逆熱変色性マイクロカプ セル顔料の平均粒子径は,0.5〜2.0μmの範囲にあり,且つ,4.0μm を超える粒子が全マイクロカプセル顔料中の10体積%未満であり,2.0μm 未満の粒子が全マイクロカプセル顔料中の50体積%以上であり, 前記筆記具のキャップの一部又は軸筒の一部に,弾性体である擦過部材が設け られていることを特徴とする,筆記具。 」 (2) 本件発明2「 前記可逆熱変色性マイクロカプセル顔料が,色濃度-温度曲線に関して完全消 色温度(t4)が50〜90℃である請求項1記載の筆記具。」 (3) 本件発明3「 前記可逆熱変色性マイクロカプセル顔料が,色濃度-温度曲線に関して40℃ 乃至70℃のヒステリシス幅(ΔH)を示し,発色開始温度(t2 )が0℃以下 である請求項1又は2記載の筆記具。」 (4) 本件発明4「 前記可逆熱変色性マイクロカプセル顔料が,前記可逆熱変色性筆記具用水性イ ンキ組成物全量に対して2〜40重量%である請求項1乃至3のいずれかに記載 の筆記具。」 (5) 本件発明5「 前記可逆熱変色性筆記具用水性インキ組成物が,剪断減粘性付与剤を含んでな る請求項1乃至4のいずれかに記載の筆記具。」 (6) 本件発明6「 ボールペンチップを筆記先端部に装着してなり,前記ボールペンチップのボー ルが0.4〜1.0mm径である請求項1乃至5に記載の筆記具。」 (7) 本件発明7「 前記擦過部材がゴム,エラストマー又はプラスチック発泡体である請求項1乃 至6のいずれか記載の筆記具。」 3 審決の理由の要点 平均粒子径を求めるには,個別の粒子の大きさ(以下「粒子径(代表径) という。 」 )を何らかの基準で特定する必要があるが,粒子径(代表径)の定義には種々のものがあり,粒子が非球形の場合は,同じ粒子であっても,その粒子径(代表径)の定義により,平均粒子径の値は異なるものとなる。 本件発明1の「可逆熱変色性マイクロカプセル顔料」の粒子の集合体には,非球形の粒子の集合体や,球形の粒子と非球形の粒子の混合である集合体が含まれていると認められる。原告らは,マイクロカプセル顔料の粒子は略球形であると主張するが, 「前記マイクロカプセル顔料は,円形断面の形態であっても非円形断面の形態であってもよい。( 」【0010】)とのことであり,非円形断面を排除するものではなく,本件明細書の記載を参酌しても,円形断面の粒子と非円形断面の粒子とがどのような割合で調製されるのかとか,その粒子の形状等を認識できる記載は一切ないことから,本件発明において想定しているマイクロカプセル顔料が略球形であると断定することは不可能である。 したがって,抽象的に平均粒子径として特定の数値範囲を示すのみでは,その範囲が具体的に特定できないことになる。他方で,粒子径(代表径)の定義,又はそれと密接に関係している測定方法のいずれかが明らかになれば,特定に欠けることはない。 本件特許請求の範囲及び本件明細書の記載からは,粒子径(代表径)の定義も測定方法も明らかでない。もっとも,本件発明は,平均粒子径として体積平均径を採用したと認められるが,体積を測定する粒子径(代表径)の定義又は測定方法には,電気的検知帯法による等体積球相当径,光散乱法による光散乱相当径,光回折法による光の回折相当径,沈降法によるストークス径があり,その違いにより,平均粒子径の値に差が生じ得る。本件出願当時の特許公開公報を調査しても,様々な測定方法が用いられているから,技術常識を考慮しても,粒子径(代表径)の定義又は測定方法を特定できない。 したがって,本件発明1の「平均粒子径は,0.5〜2.0μmの範囲にあり」との値を有する粒子を特定できないから,特許を受けようとする発明の技術的範囲が明確でなく,本件出願は,特許法36条6項2号に規定する要件を満たしていない。 |
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原告ら主張の審決取消事由
1 マイクロカプセル顔料の形状について 定義による差異が測定誤差ないし測定精度を超えるものでない場合にはそもそも定義は必要でないという考えは,当業者において一般に採られている。そして,以下のとおり,本件発明のマイクロカプセル顔料は,定義による差異がそれぞれの測定誤差を超えない程度の略球形であるから,略球形であると断定することは不可能とした審決は誤りである。 (1) 本件発明では,略球形のマイクロカプセル顔料が想定されていること ア 本件明細書の実施例1及び実施例2には,マイクロカプセル顔料の調製方法が具体的に記載されている。この調製方法は「界面重合法」と呼ばれており,当業者には周知の方法である。 小石真純,近藤保「界面重合法により調整したマイクロプカセルの粒径および粒径分布について」 (色材協会誌,1970,Vol.43,No.7,p.344〜356,甲80。以下「甲80文献」という。)には,「図-1の造粒工程でつくられたエマルション粒子は,通常のかくはん条件下では表面積を最小とするように球形をしている。したがってエマルションを出発点としたマイクロカプセル粒子もすべて球形である」と記載されている。「図-1の造粒工程」は,界面重合法である。 また,写真-3には,水中に分散した球形のポリフェノールエステルマイクロカプセルが示されている。 本件明細書の【0010】には界面重合法以外の調製方法も記載されているが,これらの方法によっても,界面重合法と同様に略球形となる。 このように,マイクロカプセル顔料が本来的に有する形状は,略球形である。 「前記マイクロカプセル顔料は,円形断面の形態であっても非円形断面の形態であってもよい。( 」【0010】)との記載は,マイクロカプセル顔料は本来球形であるものの,何らかの理由で内部が収縮すると壁膜が少しへこみ,空気が少し抜けたビーチボールのように断面がゆがむことがあるので,このようなマイクロカプセル顔料であっても使用可能であることを注意的に記載したものである。したがって,マイクロカプセル顔料の本来的な形状が球形であることが当業者の常識であることが前提となっており,本件発明のマイクロカプセル顔料が「略球形」であることを間接的に裏付けるものである。 イ 本件発明は,摩擦によって筆跡の剥離や紙面の空白部分の汚染が発生するという課題を,粒子の大きさ(体積)に着目して解決を図るものであるが,課題もその解決手段も,略球形のマイクロカプセル顔料を前提としている。板状や針状のマイクロカプセル顔料は存在しないが,仮に存在した場合,平均粒子径を0.5〜2.0μmという数値範囲にしたとしても,摩擦によって筆跡の剥離や紙面の空白部分の汚染が発生するという課題を解決することはできない。 ウ 原告ら製品「イリュージョン」のマイクロカプセル顔料について,大きく窪んでいるように見える粒子もあるが,窪みを加味した時の体積平均径と,全ての粒子が画像解析ソフトの出力する最大長を直径とする真球であるとみなして計算される真球仮定時の体積平均径との差は,3〜4%にすぎず(甲83),測定誤差の範囲内で,「略球形」といって全く差支えないものである。 エ 以上のとおり,当業者は,本件明細書の記載及び技術常識に基づいて,マイクロカプセル顔料が略球形であると認識できるから,本件発明において想定しているマイクロカプセル顔料が略球形であると断定することは不可能であるとの審決の認定は,誤りである。 (2) 被告の主張に対する反論 被告は,原告パイロットインキの他出願を引用しつつ, 「非円形断面」形状のマイクロカプセル顔料の方が「円形断面」形状よりも効果的である旨主張されていると述べるが,言うまでもなく出願によって技術的課題は異なるのであり,課題が異なればその解決として適した粒子の大きさや形状も当然異なり得るのであるから,それらの記載を基に本件発明に係るマイクロカプセル顔料の形状を議論するのは無意味である。 2 粒子径(代表径)について (1) あえて粒子径(代表径)を定義するのであれば,マイクロカプセル顔料が略球形である以上,幾何学的な球相当径(投影面積円相当径,等表面積球相当径,等体積球相当径)を採用することが合理的であり,本件発明は,粒子の体積を基準として粒度分布を規定している以上,そのうち等体積球相当径を選択する必然性がある。 (2) 審決は,本件発明のマイクロカプセル顔料の粒子が略球形と断定できないことを前提とし,粒子径(代表径)として有効径である光散乱相当径やストークス径の可能性を指摘する。 しかし,本件発明のマイクロカプセル顔料の粒子は略球形であるし,粒子の体積を基準として粒度分布を規定していること自体からも,等体積球相当径が最も粒子径(代表径)の定義として合致する。審決のように,本件明細書に測定方法の記載がないにもかかわらず,特定の測定方法に対応した有効径の定義だと考えるのは無理がある。また,本件発明は,マイクロカプセル顔料の大きさに着目する発明であるから,粒子と同じ光学的特性(光散乱相当径)又は動力学的特性(ストークス径)を持つ球に置き換える必然性はなく,これらの粒子径(代表径)の測定方法には,マイクロカプセル顔料の性状からくる測定の困難性もある。 他方,等体積球相当径は,最も正確かつ精密に粒子の物性,形状を表す径であり,マイクロカプセル顔料が絶縁体であるので,電気的検知帯法は適切な測定方法である。 なお,原告らは,本件無効審判手続において,レーザ回折法によって測定した粒子径が本件発明におけるマイクロカプセル顔料の粒子径である,などと主張したことはない。むしろ,レーザ回折法による測定値を恣意的に操作できることを指摘して,単にレーザ回折法による粒子径ということでは定義として不適格であることを述べてきた。 |
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被告の反論
1 マイクロカプセル顔料の形状について (1) 本件特許請求の範囲及び本件明細書の記載 本件特許請求の範囲の記載においては,マイクロカプセル顔料の形状を限定してない。 本件明細書には「前記マイクロカプセル顔料は,円形断面の形態であっても非円形断面の形態であってもよい。( 」【0010】)と記載されている。原告パイロットインキの出願に係る特開2001-207101号(甲24。以下「甲24文献」という。)には,「非円形断面形状のもの、なかでも窪みを有する断面形状の形態(図1〜図3参照)に特定される」として,図1〜図3が開示されている。 原告パイロットインキの出願に係る特開2003-206432号(甲23。 「以下「甲23文献」という。)及び特開平9-124993号(乙11。以下「乙11文献」という。)等にも同様の記載及び図面がある。 よって, 「非円形断面の形態」に,甲24の図1〜図3が含まれることは明らかである。実際,原告ら製品である「フリクション(黒)」の粒子画像には,多数の「非円形断面」形状のマイクロカプセル顔料が存在していた(乙18)。 以上によれば,マイクロカプセル顔料の形状が略球形であるとの原告らの主張は,失当である。 (2) 原告らの主張に対する反論 ア 原告らは,本件発明の実施例が界面重合法で調製されていること及び甲80文献から,マイクロカプセル顔料が略球形であると主張する。 しかし,そもそも本件明細書には, 「前記可逆熱変色性組成物のマイクロカプセル化は,界面重合法,界面重縮合法,in Situ重合法,コアセルベート法,液中硬化被覆法,水溶液からの相分離法,有機溶媒からの相分離法,融解分散冷却法,気中懸濁被覆法,スプレードライング法等があり適宜選択される。( 」【0010】)と明記されており,また,本件特許請求の範囲の記載には,製法を界面重合法に限定する記載もないから,本件発明の「可逆熱変色性マイクロカプセル顔料」の調製方法は,界面重合法に限定されていないことが,明らかである。 また,甲23文献等では,界面重合法でマイクロカプセル顔料を調製しているから,界面重合法で調製したことは,マイクロカプセル顔料が非円形断面形状であることを裏付けるものである。原告らが主張の根拠とする甲80文献は, 「可逆熱変色性マイクロカプセル顔料」をマイクロカプセル化したものではないし,重合時に加熱している様子もない一方,本件明細書の実施例は重合時に加熱しているため 【0 (023】, ) 熱履歴による体積変化によって凹みが生じるので,当然,形状が異なる。 以上のとおり,原告らの主張は失当である。 イ 原告らが,球であると仮定して粒子径を測定しても実用上の意味のある誤差を生じないとの主張の根拠とする甲83の解析データは,あくまでも,本件発明の一実施例(イリュージョン)のマイクロカプセル顔料についての解析結果にすぎない。全てのマイクロカプセル顔料が甲24文献の非円形断面形状の粒子である場合も,本件発明の技術的範囲に属することが明らかである。甲24文献の図3の場合,体積差を小さく見積もっても,全てが真球の場合との体積差は60%になり,体積平均径のずれは,約84.3%となる。これが本件特許請求の範囲の「0.5〜2.0μm」との数値範囲との対比において,とても「測定誤差」とは呼べない大きな誤差であることが,明らかである。 (3) 小結 以上のとおり,マイクロカプセル顔料が略球形であるとの原告らの取消事由の主張は失当である。 2 粒子径(代表径)について (1) 原告らは,マイクロカプセル顔料が「略球形」であるから,幾何学的な球相当径が合理的であると主張するが,その理由が不明である。 (2) 原告らは,本件発明が粒度分布の表し方について体積基準を採用していることを粒子径(代表径)が等体積球相当径であることの根拠として主張する。しかし,本件明細書に,本件発明の粒子径(代表径)が等体積球相当径であるとは,どこにも記載されておらず,また,粒度分布が体積基準だからといって,粒子の体積を直接測定しなければならないといった技術常識は存在しない。 さらに,粒度分布として体積基準又は質量基準が通常とられる測定方法から一義的に定まる粒子径(代表径)に限ってみても,審決が指摘するとおり,等体積球相当径(電気的検知帯法),光散乱相当径(レーザ散乱法),光の回折相当径(レーザ回折法),ストークス径(沈降法)などがある。 原告らは,レーザ回折法の問題点を指摘するが,無効審判手続において,原告らは,レーザ回折法が最も一般的な測定方法であり,本件発明の測定方法として合理的である旨を繰り返し強調していた。 一方,原告らが主張する,等体積球相当径が「最も正確かつ精密に粒子の物性・形状を表す径である」という技術常識は存在しないし,電気的検知帯法にも測定レンジが狭いという問題がある。筆記具用インクの分野に属する特許出願公開公報の中で,電気的検知帯法で平均粒子径を測定した旨の記載があるものは,皆無であった(甲20,審決)。 |
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当裁判所の判断
1 明確性要件について (1) 特許法36条6項2号は,特許請求の範囲の記載に関し,特許を受けようとする発明が明確でなければならない旨規定するところ,この趣旨は,特許請求の範囲に記載された発明が明確でない場合には,特許の付与された発明の技術的範囲が不明確となり,第三者に不測の不利益を及ぼすことがあり得るため,そのような不都合な結果を防止することにある。そして,特許を受けようとする発明が明確であるか否かは,特許請求の範囲の記載のみならず,願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し,また,当業者の出願時における技術常識を基礎として,特許請求の範囲の記載が,第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきである。 (2) 原告らは,本件発明のマイクロカプセル顔料の粒子が略球形であるにもかかわらず,審決が,同粒子が略球形と断言できないことを前提として,本件特許請求の範囲にいう「平均粒子径」の意義が特定できないため本件発明が不明確であるとした判断に誤りがあると主張する。そこで,平均粒子径」 「 の意義につき検討する。 ア 本件特許請求の範囲及び本件明細書中に, 「平均粒子径」の意義に関する明示の記載はない。 イ 「平均粒子径」の意義に関して,証拠には,以下の記載がある。 神保元二ほか編,「微粒子ハンドブック」,初版第1刷,株式会社朝倉書店,1991年9月1日(甲18)「2.2.1 粒子径 粒子の大きさを表す場合,次の三つのものが重要となる。@)1個の粒子の大きさをどのように表すか〔代表径のとり方〕,A)粒子の大きさに分布がある粒子群をどのように表すか〔粒度分布(→2.2.2)の表し方〕,および,B)粒子群を代表する平均的な大きさをどのように選ぶか〔平均粒子径(→2. 3) 2. の選び方〕。 1個の粒子(とくに非球形の粒子)の大きさを表すのに種々の表し方があり,それらを代表径という。表1は主な代表径を示したものである(判決注―表1には,幾何学的径として定方向(Feret)径,マーチン径,ふるい径等が,相当径として,投影面積円相当径,等表面積球相当径,等体積球相当径,ストークス径,光散乱径等が記載されている。。代表径には大きく分けて,幾何学的な寸法から定ま )るものと,何らかの物理量と等価な球の直径におきかえた相当径の二つがある。また,代表径は単に粒子径または粒径とよばれることが多いが,その場合にはどの代表径によるものであるのかをあらかじめ明示しておくことが必要である。・・・ 代表径は粒径測定法と密接に関係しており,多くの場合測定法がきまると代表径はきまる。 上で述べた代表径は,球形粒子および非球形粒子について適用できるが,球形粒子の場合には,ふるい径,空気力学的径および光散乱径を除いてすべての代表径は等しくなる。」(52頁左欄1行〜53頁右欄最下行) 「2.2.2 粒度分布 ある粒子群の個々の粒子の大きさがある代表径(→2.2.1)で測定されたとする。・・・ある粒子群の粒度分布を表示する場合,代表径を明示しておくことと,粒子の量がどのような基準―個数,長さ,面積,体積(または質量)―で測定されたかを明確に区別しておくことが必要である。これらによって粒度分布が異なるからである。 (54頁左欄1〜15行) 」 「2.2.3 平均粒子径 ある代表径(→2.2.1)を用いて,ある基準で測定された粒度分布(→2.2.2)が与えられたとき, ・・・種々の平均粒子径が定義できる。 (58頁左欄 」1〜10行) 椿淳一郎,早川修著,「現場で役立つ粒子径計測技術」,初版第1刷,日刊工業新聞社,2001年10月26日(甲22)「1.2 粒子の大きさの決め方 粒子の大きさを一つの数値で表すことは,結構難しいことである。 ・・・球の大きさはと聞かれれば,直径で答えるし,立方体の大きさはと聞かれれば,たいていの人は一辺の長さで答える。では石灰石の大きさはと聞かれると,???となってしまう。石灰石は球や立方体と何が違うか,違いは2つある。1つは形の表現の問題である。 「球」「立方体」といえば,誰もが同じ形を思い浮かべる。形を正確に特定 ,できるから,大きさを表す「直径」「一辺」も正確に特定することができる。それ ,に対して石灰石では,形を一言で表現することはできない。 もう1つの違いは,形の相似性である。 ・・・人間の身長や胴回りのように,粒子の大きさを代表するものを代表粒子径と呼ぶ。 ・・・代表粒子径は幾何学的に定義されたり,粒子の大きさが関与する物理現象を利用して定義される。・・・ 代表粒子径は測定原理に対応して定義されるので,人間の大きさを身長で表した場合と肩幅で表した場合のように,原理的には代表粒子径が異なれば,同じ粒子でも異なる粒子径となる。 (3頁1行〜6頁8行) 」 後藤邦彰, 粉体技術者のための粉体入門講座53 「 入門の予習編―6粒子の大きさの表し方―3」 粉体技術Vol. , 6 No.6 2014年(甲27)「 1つの非球形粒子を測定して得られる粒子径は,それぞれの方法が保証する球と等価な数値,現象が異なるので,方法ごとに異なる値となる。つまり,非球形粒子の大きさは求める方法によって値が異なる。このため,粒子径を測定する方法は,求めた粒子をどのように使うかで決まる。 ・・・一方で,測定方法により測定できる粒子径の範囲も異なる。よって,測りたい非球形粒子の使い方に合致した測定方法がない場合もある。球では理論上,どの方法で測っても同じ直径が求められるので,球に「近似できる」等方的な非球形粒子では,粒子径範囲が合致する方法で「代用」しても粒子径に近い値が得られるはずである。 (61頁左欄下から4行〜右欄11 」行) ウ これらの記載及び弁論の全趣旨を総合すると,「平均粒子径」の意義は,次のとおりであることが認められる。 本件発明のように平均粒子径を規定する場合には,ある粒子径(代表径)の定義を用いて,ある基準で測定された粒度分布が与えられることが必要と解されるところ,粒子径(代表径)の定め方には,定方向径,ふるい径,等体積球相当径,ストークス径,光散乱相当径など,種々の定義がある。そして,粒子の形状に応じて,以下のとおりとなる。 球形粒子(略球形の粒子を含む。 の場合には, ) 直径をもって粒子径(代表径)とするのが一般的であり,同一試料を測定すれば,ふるい径等の一部を除いて,粒子径(代表径)の値は,定義にかかわらず等しくなる。 非球形粒子の場合には,同一試料を測定しても,異なった粒子径(代表径)の定義を採用すれば,異なる粒子径(代表径)の値となり,平均粒子径も,異なってくる。 (3) 以上によれば,本件発明の「平均粒子径」の意義が明確といえるためには,少なくとも,@「可逆熱変色性マイクロカプセル顔料」が球形(略球形を含む。)であって,粒子径(代表径)の定義の違いがあっても測定した値が同一となるか,又はA非球形であっても,粒子径(代表径)の定義が,当業者の出願時における技術常識を踏まえて,本件特許請求の範囲及び本件明細書の記載から特定できる必要がある。 2 マイクロカプセル顔料の形状について 審決が,本件発明において想定しているマイクロカプセル顔料が略球形であると断定することは不可能であると判断したのに対し,原告らは,マイクロカプセル顔料は,粒子径(代表径)の定義による差異が測定誤差を超えない程度の略球形である旨主張する。そこで,以下検討する。 (1) 検討結果 ア 本件明細書の【0010】には, 「マイクロカプセル顔料は,円形断面の形態であっても非円形断面の形態であってもよい。 と記載されているが, 」 それ以外に,本件特許請求の範囲又は本件明細書にマイクロカプセル顔料の形状を限定する記載はない。 原告らは,この記載は,マイクロカプセル顔料は本来球形であるものの,何らかの理由で内部が収縮すると壁膜が少しへこみ,空気が少し抜けたビーチボールのように断面がゆがむことがあるので,このようなマイクロカプセル顔料であっても使用可能であることを注意的に記載したものであると主張する。 しかし,原告パイロットインキの特許出願に係る公開特許公報である甲24文献には, 「本発明に適用される可逆熱変色性微小カプセル顔料は,非円形断面形状のもの,なかでも窪みを有する断面形状の形態(図1〜図3参照)に特定される。( 」【0006】)と記載されている(図1〜図3は,前記「第4 被告の反論」の1(1)参照) また, 。 同じく原告パイロットインキの特許出願に係る公開特許公報である甲23文献及び乙11文献でも, 「非円形断面の形態」 (甲23文献【0006】 又は ) 「表面に窪み(凹部)を有する形状のもの」(乙11文献【0006】)として,甲24文献の図1〜図3と酷似した図面が記載されている。これらの記載に加え, 「円形断面」と「非円形断面」を並列して記載していることからすれば,上記本件明細書の【0010】の記載は,注意的な記載にとどまるものではなく,甲24文献の図1〜図3の形状のように,球形とはいえないマイクロカプセル顔料も,本件発明に含まれることを積極的に意味すると解される(実際,原告ら製品である「フリクション(黒)」の粒子画像(乙18,前記「第4 被告の反論」の1(1)参照)を見ても,球形とはいえない粒子が一定数含まれていると認められる。。 ) さらに,上述した甲24文献の「本発明に適用される可逆熱変色性微小カプセル顔料は,非円形断面形状のもの,なかでも窪みを有する断面形状の形態(図1〜図3参照)に特定される。( 」【0006】)との記載や,乙11文献の「当該方法(判決注―界面重合法,界面重縮合法によるカプセル化方法)によって得られたカプセルの外観形状は,少なくとも1以上の窪み(凹部)を有し,全体的に半球状の偏平性外観を備えている。」との記載によれば,マイクロカプセル顔料粒子の全てが,球形とはいえない形状となる場合もあると認められる。 以上のとおり,本件発明1の「可逆熱変色性マイクロカプセル顔料」の集合体には,球形とはいえないマイクロカプセル顔料が一定数ないし全てを占める集合体も含まれると解される。そして,このような「可逆熱変色性マイクロカプセル顔料」の集合体については,前記1のとおり,粒子径(代表径)の定義の違いが「平均粒子径」の値に影響を及ぼすものと認められる。 イ 原告らは,出願によって技術的課題は異なるのであり,課題が異なればその解決として適した粒子の大きさや形状も当然異なり得るのであるから,前記アの公開特許公報の記載を基に本件発明に係るマイクロカプセル顔料の形状を議論するのは無意味であると主張する。 しかし,これらの原告パイロットインキにより作成された文献は,いずれも筆記具のインキに用いるマイクロカプセル顔料の形状に言及するもので,特に甲23文献及び乙11文献は,ボールペンに関するものであるし,甲24文献も,ボールペンへの適用が不可能である旨の記載はない。粒子の大きさも,最大外径の平均値が1μm〜4μmで(最大外径+中央部の最小外径)/2の値が1〜3μmが好適(甲23【0007】,甲24【0006】,又は実施例において,遠心沈降式自動粒度 )分布測定装置で測定した平均粒子径が2.7μm(乙11【0040】)とされており,本件発明のマイクロカプセル顔料の大きさとそれほど差異はないと考えられる。 よって,用途や粒子の大きさの観点から本件発明への適用が不可能になるとは認められない。 また,これらの発明において,擦過等の外力によるマイクロカプセル壁面の破壊の抑制,マイクロカプセル顔料が被筆記面に対し長径側を密接させて濃密に配向,固着されることによる高濃度の発色性(乙11文献を除く。,インキの流出性ない )し吐出性の改善(甲23文献を除く。)の観点から,非円形断面形状が球形のものより望ましいことが記載されている(甲23【0006】,甲24【0006】,乙11【0016】。 ) 他方,本件発明も, 「本発明は,筆跡を擦過によって簡易に変色させることができると共に,擦過によって筆跡がかすれたり,淡色化することなく,しかも,筆記面の空白部分を汚染することのない良好な筆記性能を示す可逆熱変色性筆記具用水性インキ組成物及びそれを収容した筆記具を提供できる。 ( 」【0005】, )「平均粒子径が2.0μmを越える系では,擦過によってマイクロカプセル顔料が筆跡から剥離し易くなる。一方,0.5μm以下の系では,高濃度の発色性を示し難い。 ・ ・ ・4.0μmを越える粒子が顔料中10体積%を越えると,インキ流通性を損ない易くなり,筆跡がかすれたり,筆跡を形成できなくなる。また,2.0μm未満の粒子が顔料中50体積%未満では,紙面に浸透する粒子が少なく,紙面上に存在する粒子が多くなるため,擦過によって筆跡から剥離したり,空白部分に転移する粒子が多く存在するため,筆跡の明瞭且つ色濃度の維持ができなくなる。 ( 」【0010】)と本件明細書に記載されており,これらの記載によれば,筆跡の擦過を前提とし,高濃度の発色性やインキ流通性も考慮していると認められる。 そうとすれば,本件発明の実施に当たって,更に良好な発色性及びインキの吐出性や,マイクロカプセル壁面の破壊の抑制を考慮して,マイクロカプセル顔料を非円形断面形状とすることは十分考えられることであるし,それを阻害する要因は見当たらない。 よって,原告らの上記主張は,採用することができない。 (2) 原告らの主張について ア 原告らは,界面重合法で調製したマイクロカプセル顔料の本来的な形状は略球形である旨主張する。 しかし,甲23文献,甲24文献及び乙11文献は,いずれも非円形断面又は表面に窪み(凹部)を有する形状のマイクロカプセル顔料を調製する方法として,界面重合法が望ましいとしている(甲23【0009】,甲24【0007】,乙11【0015】。 ) よって,界面重合法で調製したマイクロカプセル顔料が略球形であるとは限らないから,原告らの主張は理由がない。 イ 原告らは,本件発明は,摩擦によって筆跡の剥離や紙面の空白部分の汚染が発生するという課題を,粒子の大きさ(体積)に着目して解決を図るものであるが,課題もその解決手段も,略球形のマイクロカプセル顔料を前提としている旨主張する。 確かに,本件発明の課題及びその解決手段は,原告らが主張するとおりと認められる。しかし,非円形断面形状のマイクロカプセル顔料ではこのような課題が生じない,又はその大きさを限定しても課題を解決できないとは本件明細書に記載されておらず,そのような技術常識を認めるに足りる証拠もない。かえって,本件明細書の【0010】の記載によれば, 「マイクロカプセル顔料は,円形断面の形態であっても非円形断面の形態であってもよい。 とされているのであるから, 」 原告らの主張は,本件明細書の記載と整合しないものといえる。したがって,原告らの主張は採用できない。 ウ 原告らは,原告ら製品「イリュージョン」のマイクロカプセル顔料は,球であると仮定して粒子径(代表径)を測定しても実用上の意味のある差を生じない程度の略球形であると主張する。 しかし, 「イリュージョン」 仮に については測定誤差の範囲内といえるとしても,それは,実際に製造販売された製品である「イリュージョン」のマイクロカプセル顔料の形状が比較的球形に近かったという一事例を示すにとどまるものであり,本件発明におけるマイクロカプセル顔料一般の形状が比較的球形に近いことを裏付けるに足りない(なお,前記「第4 被告の反論」の1(1)のとおり,他の原告ら製品(「フリクション」)には球形とは相当異なった粒子が一定数含まれていたと認められる。。現に,本件発明の想定する技術的範囲には,甲24の図1〜3に示される )ような形状のマイクロカプセル顔料も含まれることは前記(1)アのとおりであり,例えば全てが甲24文献の図3のような形状のマイクロカプセル顔料の場合には,粒子径(代表径)の規定のし方による差が相当大きくなるものと推認される。 よって,原告らの主張は採用できない。 3 粒子径(代表径)について (1) 前記2のとおり,本件発明には非円形断面形状のマイクロカプセル顔料も含まれると解されるので,本件発明が明確といえるためには,前記1のとおり,粒子径(代表径)の定義が,当業者の出願時における技術常識を踏まえ,本件特許請求の範囲及び本件明細書の記載から特定できる必要がある。 (2) 本件特許請求の範囲及び本件明細書には,粒子径(代表径)の定義に関する明示の記載はない。 当業者の技術常識を検討すると,平成11年11月1日から平成14年10月31日までの間に,筆記具用インクの平均粒子径の測定方法が記載された特許出願の公開特許公報58件のうち,レーザ回折法で測定したものが23件,遠心沈降法で測定したものが6件,画像解析法で測定したものが8件,動的光散乱法で測定したものが22件(うち1件は遠心沈降法と動的光散乱法を併用)であった一方,等体積球相当径を求めることができる電気的検知帯法で測定しているものはなかったこと(甲20) 平成14年6月1日から平成17年5月31日までの間の特許出願に ,ついて,審判官が職権により甲20と同様の調査したところ,原告ら及び被告以外の当業者では,電子顕微鏡法,レーザ回折・散乱法,遠心沈降法により平均粒子径を測定している例があった一方,電気的検知帯法が用いられた例は発見されていないこと(弁論の全趣旨)が認められる。また,種々の測定方法で得た値から,再度計算して,等体積球相当径を粒子径(代表径)とする平均粒子径に換算しているとも考え難い。そうすると,粒子径(代表径)について,等体積球相当径又はそれ以外の特定の定義によることが技術常識となっていたとは認められない。 以上のとおり,技術常識を踏まえて本件特許請求の範囲及び本件明細書の記載を検討しても,粒子径(代表径)を特定することはできない。 (3) 原告らは,本件発明が粒度分布を体積基準で表していること,測定方法の記載がないこと,マイクロカプセル顔料の大きさに着目するという本件発明の特徴,測定の難易から,本件発明の粒子径(代表径)として,光散乱相当径やストークス径は不適当である一方,等体積球相当径は適当である旨主張する。 しかし,粒度分布の表し方を体積基準又はそれと等価である質量基準とするのが通常である粒子径(代表径)には,審決が指摘するとおり,等体積球相当径の他にも,光散乱法による光散乱相当径,光回折法による光の回折相当径,沈降法によるストークス径があると認められる。そして,前記(2)のとおり,筆記具用インキの粒子の大きさの測定に関する公知発明において,これらの粒子径(代表径)又は測定方法が相当程度採用されていたことに照らせば,これらの粒子径(代表径)又は測定方法も,マイクロカプセル顔料の大きさに着目する技術分野において,当業者が採用を検討し得る有用な測定基準であると推認される。なお,原告パイロットインキによる特許出願でも,インキの吐出性を考慮して粒子の大きさを限定するため,遠心沈降式の測定装置を用いて体積基準の粒度分布を求めている例がみられる(乙11【0016】【0040】。 ) また,測定方法の記載がない場合に,特定の測定方法に対応しない粒子径(代表径)の定義を採用したものと考えるという技術常識を認めるに足りる証拠はない。 したがって,原告らの主張は採用できない。 |
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結論
以上のとおり,本件発明1の「平均粒子径」に係る粒子径(代表径)の定義が不明であるため, 「平均粒子径は,0.5〜2.0μmの範囲にあり」の意義を特定することができず,本件発明1の内容は不明確というべきである。また,本件発明1の従属項である本件発明2〜7も,粒子の形状や「平均粒子径」については本件発明1を何ら限定するものではないから,同様に発明の内容が不明確というべきである。 したがって,取消事由は理由がないから,原告らの請求をいずれも棄却することとして,主文のとおり判決する。 |
裁判長裁判官 | 清水節 |
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裁判官 | 中島基至 |
裁判官 | 石神有吾 |