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関連審決 不服2016-296
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事件 平成 28年 (行ケ) 10273号 審決取消請求事件

原告株式会社コーアツ
同訴訟代理人弁理士 森治
被告 特許庁長官
同 指定代理人三島木英宏 佐々木芳枝 槙原進 長馬望 板谷玲子
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2017/08/08
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
原告の求めた裁判
特許庁が不服2016-296号事件について平成28年11月16日にした審決を取り消す。
事案の概要
本件は,特許出願に対する拒絶査定不服審判請求を不成立とした審決の取消訴訟である。争点は,進歩性の有無(相違点の判断)である。
1 特許庁における手続の経緯 原告は,名称を「ガス系消火設備用の消音機能を有する噴射ヘッド」とする発明につき,平成22年4月30日を出願日とする特許出願(特願2010-105342号。先の出願に基づく優先権主張[出願日 平成21年11月2日,同月18日])の一部を平成26年2月17日に新たに特許出願したものであり(甲7),平成26年7月14日,平成26年11月28日及び平成27年4月13日に手続補正をした(以下,これらを併せて「本件補正」という。甲8,9,11)が,平成27年9月29日付けで拒絶査定を受けた(甲12)。
原告は,平成28年1月7日,拒絶査定不服審判請求をした(不服2016-296号。甲13)ところ,特許庁は,平成28年11月16日, 「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,同審決謄本は,平成28年11月30日,原告に送達された。
2 本願発明の要旨 本件補正後の特許請求の範囲の請求項1記載の発明(以下「本願発明」といい,本願発明に係る本件補正後の明細書及び図面(甲7〜9,11)を「本願明細書」という。)は,以下のとおりである。
「消火剤ガスを使用するガス系消火設備において消火対象区画に消火剤ガスを放出するために設置される消音手段を備えた噴射ヘッドであって,前記消音手段を,消火剤ガスが供給される配管に螺合して接続された噴射ヘッドの内部にオリフィスを形成するとともに,オリフィスの出口部に消火剤ガスが流通可能な3次元の網目状組織からなる円筒又は円柱形状の金属多孔性の気流の乱れをなくす材料を,前記オリフィスの出口部の反対側の金属多孔性の材料の外面が面状に大気に露出,開放されてなるように配設して構成したことを特徴とするガス系消火設備用の消音機能を有する噴射ヘッド。」 3 審決の理由の要点 (1) 引用発明の認定 欧州特許出願公開第1151800号明細書(以下「引用例1」という。甲1)には,次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。
「消火ガスを使用するガス系消火システムにおいて,工場内に消火ガスを放出するために取付けられる消火ガス放出用消音ノズル200であって,消音手段を,消火ガスが供給される消火ガス分配管に接続された消火ガス放出用消音ノズル200の内部に開口207を形成するとともに,開口207の出口部に,消火ガスが流通可能な金属ワイヤを圧縮して成形した円盤形状の空気変動を抑制する焼結フィルタ32及び31を,前記ガス導入孔7の出口部の反対側の焼結フィルタ31の外面がベースボディ202に形成された孔21を介して大気に開放されてなるように配設して構成した,ガス系消火システムの消火ガス放出用消音ノズル。」 (2) 一致点の認定 本願発明と引用発明とを対比すると,次の点で一致する。
「消火剤ガスを使用するガス系消火設備において消火対象区画に消火剤ガスを放出するために設置される消音手段を備えた噴射ヘッドであって,前記消音手段を,消火剤ガスが供給される配管に接続された噴射ヘッドの内部にオリフィスを形成するとともに,オリフィスの出口部に消火剤ガスが流通可能な3次元の網目状組織からなる円筒又は円柱形状の金属多孔性の気流の乱れをなくす材料を配設して構成したガス系消火設備用の消音機能を有する噴射ヘッド。」 ? 相違点の認定 本願発明と引用発明とを対比すると,次の点が相違する。
ア 相違点1 「本願発明においては,消火ガスが供給される配管と噴射ヘッドとを螺合して接続したのに対し,引用発明においては,消火ガスが供給される消火ガス分配管と消火ガス放出用消音ノズル200をどのように接続したか不明である点」 イ 相違点2 「本願発明においては,オリフィスの出口部の反対側の金属多孔性の材料の外面が面状に大気に露出,開放されてなるように配設して構成したのに対し,引用発明においては,ガス導入孔7の出口部の反対側の焼結フィルタ31の外面が,ベースボディ202に形成された孔21を介して大気に開放されている点」 ? 相違点の判断 ア 引用文献に記載された事項 米国特許第3949828号明細書(以下「引用例2」という。甲2)には,次の事項が記載されている。
「接続部8に,排気パイプとの接続のためのねじ山9を設ける技術。」 独国特許出願公開第19719535号明細書(以下「引用例3」という。甲3)には,次の事項が記載されている。
「消音器2の接合管7にねじ山8を設け,排気管1と結合する技術。」 実願昭62-35839号(実開昭63-143715号)のマイクロフィルム(以下「引用例4」という。甲4)には,次の事項が記載されている。
「消音器において,発生音を小さくするように抑えの多孔板の開口面積を設計する技術。(以下「引用例4の記載事項1」という。 及び「消音器の多孔質金属を 」 )抑える多孔板に代えて,フラットバーやアングル材で抑える技術。 (以下「引用例 」4の記載事項2」という。) イ 相違点1について 引用例2又は3に記載された技術等に示されるように,消音器と排気管とを螺合して接続する技術は,本願の優先日前に周知技術であったと認められる。また,引用発明において,消火ガス分配管とノズルとを接続する接続手段を要することは自明の事項である。そうすると,引用発明において,当該接続手段として上記周知技術を採用し,相違点1に係る本願発明の発明特定事項とすることは当業者が容易に想到し得たことと認められる。
ウ 相違点2について 引用例4の記載事項1等に示されるように,発生音を小さくするよう抑え板の開口面積を設計することは,消音器の技術分野において,本願の優先日前に技術常識であったと認められる。そうすると,消音ノズルに係る引用発明において,同技術常識を考慮して,孔21の開口面積を,発生音が小さくなるよう設計することは当然の事項である。その際,焼結フィルタ31の外面は,複数の孔21の開口面積の総和において大気に露出,開放されているということができる。
そして,引用発明において,開口面積を確保するに当たり,開口を複数設けるか,小数あるいは1つの開口として焼結フィルタ31が大気に面状に露出するように形成するかということは,設計上の事項であって,当業者が必要に応じて適宜に定め得るものと認められる。そうすると,引用発明において,上記技術常識を考慮して相違点2に係る本願発明の発明特定事項とすることは当業者が容易に想到し得たことと認められる。
また,仮にそうでないとしても,引用例4の記載事項2等に示されるように,多孔板に代えてフラットバー又はアングル材により多孔質金属を抑える技術は本願の優先日前に周知技術であったと認められる。そして,引用発明において同周知技術を採用し,焼結フィルタ31の外面をフラットバー又はアングル材で抑えるようにし,抑えた部位以外の外面が面状に大気に露出・開放されるようにして相違点2に係る本願発明の発明特定事項とすることは当業者が容易に想到し得たことと認められる。
エ 結論 本願発明は,引用発明,周知技術,技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
審決取消事由(相違点2についての判断の誤り)
1 本願発明は,「オリフィスの出口部に消火剤ガスが流通可能な3次元の網目状組織からなる円筒又は円柱形状の金属多孔性の気流の乱れをなくす材料を,前記オリフィスの出口部の反対側の金属多孔性の材料の外面が面状に大気に露出,開放 されてなるように配設して構成したこと」(以下「本願発明特定事項」という。)を特徴とするものである。
他方,引用文献1(甲1)には,直径約5mmの小さな孔21を複数形成することが記載されているにすぎない。仮に,孔21を複数の小孔からなる集合体としてみても,「金属多孔性の材料の外面が面状に大気に露出,開放されて」いるということはできず,消化剤ガスが孔21を通過する際に大きな風切り音が発生することとなり,本願発明が奏する作用効果も得られない。
また,引用文献1には,直径の大きな孔を小数又は一つを開口として設けることについては,記載も示唆もされていない。引用発明の孔21は,消化剤ガスの放出圧力が直接的にかかる位置関係にあり,フィルタ組立体4が消化剤ガスの放出圧力により破損するおそれが大きいので,直径の大きな孔を小数又は一つを開口として設けることは,当業者が容易に想到し得たものではない。
なお,被告が主張するように,引用文献1(甲1)の図1において,ベースボディ2とカバー3との間から,フィルタ組立体4の側面部の全周が露出し,図6及び8においてフィルタ組立体4の側面部の一部が複数のスロット230を介して露出していることが看取できるが,これは,当該大気に露出,開放されるフィルタ組立体4の側面部がガス導入孔7又は開口207(本願発明における「オリフィスの出口部」に相当する。)とは,消火剤ガスの放出圧力が直接的にかからない直角の位置関係にあり,フィルタ組立体4が消火剤ガスの放出圧力によって破損するおそれが小さいためである。したがって,このフィルタ組立体4の側面部が露出して設けられている構成は,「前期オリフィスの出口部の反対側の金属多孔性の材料の外面が面状に大気に露出,開放されてなるように配設して構成」した本願発明とは同列に扱うことができない。
2 引用文献4の記載事項1は,抑え板として多孔板6を用いることを前提とするものであるから,本願発明特定事項に到るための具体的な動機付けを何ら示すものではない。
多孔板に代えてフラットバー又はアングル材により多孔質金属を抑える技術が本願発明の優先日前に周知技術であったとしても,引用文献4の記載からは,フラットバー又はアングル材により多孔質金属をどのように抑えるのかが明らかでない。
引用文献4の多孔板6の代替材料としてフラットバー又はアングル材を用いるとすると,フラットバーやアングル材はメッシュ状に配設する必要があるが,本願発明特定事項はそのような構成態様を包含しない。なぜなら,メッシュ状のフラットバー又はアングル材が存在すると, 「金属多孔性の材料の外面が面状に大気に露出,開放されてなる」とはいえず,また,消火剤ガスがメッシュ状のフラットバー又はアングル材を通過する際に大きな風切り音が発生することとなり,本願発明が奏する作用効果を得られないからである。
したがって,本願発明特定事項は,引用文献4の記載事項2に基づき,当業者が容易に想到し得たものではない。
3 本願発明は,本願発明特定事項を備えることによって,消火剤ガスの放出経路に消火剤ガスの放出の邪魔となる部材が存在しないため,短時間で極めて大量の消火剤ガスを放出する際に障害や騒音が発生することを防止することにより,本願明細書に記載された「消火剤ガスが放出される際に発生する騒音を低減でき,ガス系消火設備の作動時に消火対象区画内に逃げ遅れた人がいた場合でも,消火剤ガスが放出される際に発生する騒音によってパニックを起こしたり,避難を促す放送が聞こえにくくなることを防止することができ,さらには,噴射ヘッドから消火剤ガスが放出される際に発生する騒音が周囲のいる人に悪影響を及ぼすことなどを防止することができる。」という作用効果を奏するものである。この作用効果は,引用発明,引用文献4の記載事項1及び2に基づき,当業者が予測し得るものではない。
したがって,相違点2についての審決の判断は誤りであるから,審決は取り消されるべきである。
被告の主張
1 本願発明における「面状」「露出」及び「開放」という用語は,本願明細書で ,は用いられていないところ,本願発明の実施例である本願明細書の図7(b)においては,多孔性の気流の乱れをなくす材料7の外面の一部が噴射ヘッド1Jを構成する部材の一部に覆われ,他の一部が開口を介して大気と通気可能に配設されている。
そうすると,本願発明の「面状」とは,ある程度以上の面積を有し,面として認識できるものを意味すると解すべきである。
他方,引用発明は,本願発明と同様,消火ガスが放出される際の騒音を抑えることを目的とするものであり,焼結フィルタ31により,消火ガス放出に起因する空気変動に伴う騒音を低減させている。引用文献1(甲1)を参照すると,焼結フィルタ31は,孔21を介して大気に通気可能となっていることが看取できる。また,引用文献1の図1には,ベースボディ2とカバー3の間から,フィルタ組立体4の側面部の全周が露出していることが看取でき,図6及び8において,フィルタ組立体4の側面部の一部がスロット230を介して露出していることが看取できる。このように,引用文献1においては,開口の個数及び個々の寸法を適宜に設計することが示されている。
引用文献4の記載事項1に示されるように,発生音を小さくするよう抑え板の開口面積を設計することは,技術常識であり,引用発明において,開口面積の総和を発生音が小さくなる面積に設計することは当業者にとって当然の事項である。引用発明において,発生音が小さくなる開口面積の総和を確保するように孔21を設計するに当たり,各孔21の個数及び個々の開口面積を,複数の小孔を開口として設けるか,小数又は一つの孔を開口として設けるかは,設計上の事項であり,当業者が必要に応じて適宜に定め得るものである。
孔21の具体的設計として,複数の小孔を開口として設けるように設計した場合,孔21の集合が,噴射ノズルの外面全体に面状に広がることとなり,小孔からなる複数の孔21の全体により,焼結フィルタ31は,「出口部の反対側の焼結フィルタ31の外面が面状に大気に露出,開放されてなるよう」に配設されていたというこ とができる。また,孔21の具体的設計として,大径の孔を小数又は単数設けるよう設計した場合,孔21のそれぞれが,ある程度以上の開口面積を備え,孔21の個数が小数又は単数であっても,孔21の開口面積の総和が,発生音が小さくなる面積を確保するよう設計されるため,ある程度以上の開口面積を備える孔21それ自体が面として認識できる程度の開口となる。したがって,焼結フィルタ31は,「出口部の反対側の焼結フィルタ31の外面が面状に大気に露出,開放されてなるよう」に配設されて構成したということができる。
よって,引用発明及び引用文献4の記載事項1に示される技術常識に基づいて,相違点2に係る本願発明の発明特定事項とすることは,当業者が容易に想到することができたものである。
2 原告は,引用発明において引用文献4の記載事項2を採用した場合,フラットバーやアングル材をメッシュ状に配設する必要があると主張するが,引用文献4にはメッシュ状の配設は記載も示唆もされていないし,また,通常そのような配置は採用されない。すなわち,アングル材の場合であれば,多孔質金属の外面の周縁部を抑える部位と,そこから折れ曲がって多孔質金属の側面に沿う部位とでL形を形成した部材を用いて抑え,中央に大きな開口を形成する用法が一般的であり(乙1) ,フラットバーの場合であれば,多孔質金属の周縁を抑える枠及び十字状又は平行に形成された補強用桟をフラットバーで形成するのが一般的である(乙2) 。
そうすると,引用発明において,焼結フィルタ31の抑えとして,多孔板に代えてアングル材又はフラットバーを用いて多孔質金属を抑える周知技術を採用し,当該アングル材又はフラットバーで抑えられる部位以外の部位がある程度以上の面積を備え,面として認識できるものとして大気と通気可能に配置する構成とすることは当業者が容易に想到し得たことである。
3 原告は,本願発明について, 「消火剤ガスの放出経路に消火剤ガスの放出の邪魔となる部材が存在しない」と主張するが,本願発明は,そのような部材の有無については特定しておらず,そのような部材が存在しないものということはできない。
引用発明も騒音を抑えるものであり,引用文献4の記載事項2に示される周知技術も消音器に関する技術分野のものであるから,引用発明及び上記周知技術に接した当業者であれば,本願発明の奏する作用効果は予測し得たものである。
4 したがって,相違点2についての審決の判断に誤りはない。
当裁判所の判断
1 本願発明の概要 (1) 本願明細書(甲7〜9,11)には,以下の記載がある。
【技術分野】 【0001】本発明は,二酸化炭素,窒素,フッ素化合物等の消火剤ガスを使用するガス系消火設備において,消火対象区画に消火剤ガスを放出するために天井や壁面等に設置される噴射ヘッドに関し,特に,消火剤ガスが放出される際に発生する騒音を低減できるようにしたガス系消火設備用の消音機能を有する噴射ヘッドに関するものである。
【背景技術】 【0002】二酸化炭素,窒素,フッ素化合物等の消火剤ガスを使用するガス系消火設備において,消火の際にガス系消火設備が作動すると,約1分間以内(フッ素化合物の消火剤ガスの場合は10秒)で消火対象区画の消火剤ガス濃度が消火濃度に達するように,消火剤ガスが放出される。
【0003】このとき,消火剤ガスは,消火対象区画に消火剤ガスを放出するために天井や壁面等に設置される噴射ヘッドから放出されるが,ガス系消火設備用噴射ヘッドは,図9(a)に示すような,消火剤ガスが供給される配管4に接続された噴射ヘッド10Aの出口部にオリフィス2を備え,オリフィス2から消火剤ガスを直接消火対象区画に放出するようにしたものや,図9(b)に示すような,消火剤ガスが供給される配管4に接続された噴射ヘッド10Bの出口部にオリフィス2及び円錐形状のデフレクタ(偏向部材)5を備え,オリフィス2から放出された消火剤ガスをデフレクタ(偏向部材)5により偏向させて消火対象区画に放出するようにしたもの,さらには,図9(c)に示すような,噴射ヘッド10Cの出口部にオリフィス(図示省略)及び円錐筒形状のホーン(拡散部材)6を備え,オリフィス から放出された消火剤ガスをホーン(拡散部材)6により拡散させて消火対象区画に放出するようにしたもの等が従来から汎用されてきた。
【0004】このように,上記従来のガス系消火設備用噴射ヘッド10A,10B,10Cは,消火対象区画に通常複数個設置される各々の噴射ヘッドから同じ量の消火剤ガスが放出されるようにするために,噴射ヘッドから放出される消火剤ガスの流量をオリフィス2によって制限するようにしているが,このため,噴射ヘッドから消火剤ガスが放出される際に,高レベルの騒音(具体的には,120db以上の騒音)が発生することが知られていた。
発明の概要】【発明が解決しようとする課題】【0005】ところで,ガス系消火設備の作動時には,消火対象区画内に人が存在しないことが前提となっているため,噴射ヘッドから消火剤ガスが放出される際に発生する騒音に対しては,従来全く問題視されず,何の対策も取られていなかった。
【0006】しかしながら,ガス系消火設備の作動時に消火対象区画内に逃げ遅れた人がいた場合の対処,さらには,噴射ヘッドから消火剤ガスが放出される際に発生する騒音が周囲のいる人に悪影響を及ぼすおそれがあることなどの知見に基づき,消火剤ガスが放出される際に発生する騒音を低減する必要があるとの結論に達した。
【0007】本発明は,上記従来のガス系消火設備用噴射ヘッドにおいて全く問題視されず,何の対策も取られていなかった消火剤ガスが放出される際に発生する騒音を低減できるようにしたガス系消火設備用の消音機能を有する噴射ヘッドを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】 【0008】上記目的を達成するため,本発明のガス系消火設備用の消音機能を有する噴射ヘッドは,消火剤ガスを使用するガス系消火設備において消火対象区画に消火剤ガスを放出するために設置される消音手段を備えた噴射ヘッドであって,前記消音手段を,消火剤ガスが供給される配管に螺合して接続された噴射ヘッドの内部にオリフィスを形成するとともに,オリフィスの出口部に消火剤ガスが流通可能な3次元の網目状組織からなる円筒又は円柱形状の金 属多孔性の気流の乱れをなくす材料を,前記オリフィスの出口部の反対側の金属多孔性の材料の外面が面状に大気に露出,開放されてなるように配設して構成したことを特徴とする。
この場合において,前記オリフィスが,噴射ヘッドの配管との螺合した側に形成した空洞部に開口する入口部を備え,該入口部の開口面積を,前記オリフィスの出口部の開口面積より大きく形成するようにすることができる。
【発明の効果】 【0013】本発明のガス系消火設備用の消音機能を有する噴射ヘッドによれば,消火剤ガスを使用するガス系消火設備において消火対象区画に消火剤ガスを放出するために設置される噴射ヘッドに消音手段を備えることにより,消火剤ガスが放出される際に発生する騒音を低減でき,ガス系消火設備の作動時に消火対象区画内に逃げ遅れた人がいた場合でも,消火剤ガスが放出される際に発生する騒音によってパニックを起こしたり,避難を促す放送が聞こえにくくなることを防止することができ,さらには,噴射ヘッドから消火剤ガスが放出される際に発生する騒音が周囲のいる人に悪影響を及ぼすことなどを防止することができる。
【0016】また,前記消音手段を,オリフィスの出口部に配設した気体が流通可能な繊維状又は多孔性材料で構成することにより,消音手段を簡易な構造とし,噴射ヘッドをコンパクトに構成でき,既存の設備にもそのまま適用することができる。
【0050】具体的には,図7に示すように,噴射ヘッド1I,1Jのオリフィス2の出口部に気体が流通可能な繊維状又は多孔性の気流の乱れをなくす材料7を配設することにより,オリフィス2を通過した消火剤ガスが,気体が流通可能な繊維状又は多孔性の気流の乱れをなくす材料7を通過する間に徐々に膨張することによって,大気中に放出される際に急激に膨張することを緩和し,消火剤ガスが膨張することによって生じる衝撃波を弱めて,消火剤ガスが放出される際に発生する騒音を低減することができる。
ここで,…図7(b)に示す噴射ヘッド1Jは,1個のオリフィス2に連なる下方向の開口を備えたものである。
【0054】ところで,オリフィス2の出口部に配設する気体が流通可能な繊維状又は多孔性の気流の乱れをなくす材料7は,全体を均質な材料で構成するほか,図8に示す噴射ヘッド1K,1Lに示すように,繊維状又は多孔性材料の空隙の孔径を気体が流通する方向に変化させた材料,例えば,繊維状又は多孔性材料の空隙の孔径を気体が流通する方向に小さくした材料を用いることができる。
具体的には,図8(a)に示す噴射ヘッド1Kは,複数個のオリフィス2を備え,その出口に,中心部に空隙の孔径が大きな3次元の網目状組織からなる金属多孔性材料7aを,外周部にそれより空隙の孔径が小さな金属多孔性材料7bを層状に配して構成した円板形状の多孔性の気流の乱れをなくす材料7を配設したものであり,図8(b)に示す噴射ヘッド1Lは,複数個のオリフィス2を備え,その出口に,中心部に空隙の孔径が大きな3次元の網目状組織からなる金属多孔性材料7aを,外周部にそれより空隙の孔径が小さな金属多孔性材料7bを層状に配して構成した円筒形状の多孔性の気流の乱れをなくす材料7を配設したものである。
なお,噴射ヘッドやオリフィスの形式,さらに,気体が流通可能な繊維状又は多孔性の気流の乱れをなくす材料7は,本実施例のものに限定されるものではない。
【図7】 【図8】 (2) 以上によると,本願発明は,@消化剤ガスを使用するガス系消火設備において天井や壁面等に設置される噴射ヘッドについての発明であり,A噴射ヘッドから消化剤ガスが放出される際に発生する騒音を低減するという課題を解決するため,B消化剤ガスが供給される配管に螺合して接続された噴射ヘッドの内部にオリフィスを形成するとともに,オリフィスの出口部に消化剤ガスが流通可能な3次元の網目状組織からなる円筒又は円柱形状の金属多孔性の気流の乱れをなくす材料を,前記オリフィスの出口部の反対側の金属多孔性の材料の外面が面状に大気に露出,開放されてなるように配設して構成したことを特徴とするものであると認められる。
2 引用発明等の概要 (1) 引用発明について ア 引用文献1(甲1。なお,訳文は審決に記載されているとおりである。)には,以下の記載がある。
[0001] この発明は消火ガス放出用消音ノズルに関し,特にガス系消火システムへの応用に適する。
[0003] 従来技術では,消火システムの放出ノズルは,深刻な欠点を有する。これら公知の放出ノズルは,高圧消火ガスを放出する際,極めて大きな騒音を発する。
[0004] 従来技術では,ノズルが消火ガスを放出する間,騒音レベルは最大で130ないし140dB辺りにまで達し,平均騒音レベルは100dBを超えるまでに達する。
[0005] 労働環境で測定される騒音の許容最大値は90dBである。 可燃性の製品を扱う工場のような,火災リスクのある労働環境では,消火システムのノズルからのガス放出が,誤って起きるかもしれない;その結果,全ての作業員が,ノズルから発生する耐えられない騒音のため,仕事場を放棄せざるを得なくされる。)[0013] この発明の目的は,従来技術のこれらの欠点をなくすことであり,低騒音,特に放出時の騒音レベルを90dB未満に抑え得る消火ガス放出用ノズルを提供することである。
[0023] ノズル1は,本質的には3つの要素:ベースボディ2,カバー3及びベースボディ2とカバー3の間に含まれる焼結フィルタの組立体4からなる。
[0025] カバー3は,直径約83mmの円筒状のタング5からなり,端部に直径約100mmの円形フランジ6が形成されている。円筒状のタング5の上面には軸方向の孔7が形成され,消火ガスの入口となる。
[0026] 孔7は,消火ガス分配器用アタッチメントの通常のサイズである,30mmという直径を備える。
[0027] 円筒状のタング5の外径より幾分小さい直径に形成され,ガスを拡散させる軸方向の孔8はフランジ6の下面に形成される。この形態では,孔8は円筒状のタング5の内部へも続き,円筒状のタング5の上面のみを占める孔7に連通する。
孔8の直径は,どのような場合であれ,消火ガス導入用の孔7の直径より大きく形成される。
[0032] ベースボディの下面には台座20と連通する消火ガス放出用の複数の孔21(直径およそ5mm,17の孔が例として示される)が形成される。
[0034] フィルタ組立体4は,亜鉛コートした金属ワイヤが金型で好適に圧縮され,カバー3の孔8と等しい直径か,あるいは幾分小さくされた円板形状のフィルタボディとした2つの焼結フィルタ31及び32を備える。フィルタ31及び32は, 拡散熱処理されて高機械抵抗となり,高圧かつ高温(およそ500℃)で用いた場合でも長寿命を保証する。フィルタ31及び32はさらに,とても高いフィルタリングフィールド(10-50 ミクロン)を有し,この場合,消火ガス放出に起因する空気変動に伴う騒音の相当な減衰を保証する。
[0036] バッフル33を間に挟んだ焼結フィルタ31及び32を含むフィルタ組立体4は,カバーの孔8内に配置され,フィルタ31の底の端部はベースボディの台座20に配置される。そして,ボルト11が孔10と22に差し込まれ,ベースボディから下向きに突き出た各ボルト11の軸端にねじって取付けられるナット25で締結される。
[0038] 組み立てられると,ノズル1は消火システムの消火ガス分配器に据付けられ得る。分配器から放たれた消火ガスは,ガス導入孔7をとおってノズル1に導入され,孔8へ拡散してフィルタ組立体4を通過し,ノズル1の上面の放出孔9をとおって上方へ放出され,ノズルの下面の放出孔21をとおって下方へ放出され,カバーされていないフィルタ組立体4の側面から側方へ放出される。
[0042] ノズル200はベースボディ202,カバー203及び第1実施例で説明されたものと実質的に等しいフィルタアセンブリ4からなる。
[0044] 円筒状ボディ205の上面には,外部に開き,ガス分配ラインを受け入れる台座234を有するコップ状の口233が備えられる。台座234は開口207を備え,チャンバ208と連通する。
[0046] 円筒ボディ205の下部は,ベースボディ202に形成された外部ねじ241と結合する内部ねじ240を有する。ベースボディ202は円筒状プレートであり,複数,一例として第1実施例と同様17,の軸方向孔21を備える。
[0047] ノズル200を組み立てるには,カバー203のチャンバ208内にフィルタ組立体4を挿入し,カバー203の底端にベースボディ202をねじ込めばよい。
[0048] ガス分配ラインは台座234の口233に配置され,それゆえ,開口207をとおして伝えられたガスは,チャンバ208で膨張し,空気変動がフィルタ4で抑制される。そして,第1実施例と同様,消火ガスは孔9から上方に,スロット230から側方に,そして孔21から下方に,放出される。
イ 以上によると,引用発明は,@工場内に消火ガスを放出するためのガス系消火システムにおける消音ノズルについての発明であり,A消火ガスを放出する際に発生する騒音を軽減するという課題を解決するため,B消音ノズルの内部に開口207を形成するとともに,開口207の出口部に,空気変動を抑制する焼結フィルタ32及び31を配設し,焼結フィルタ31の外面がベースボディ202に形成された孔21を介して大気に開放されるように配設して構成したことを特徴とするものであって,前記第2の3(1)の審決が認定したとおりのものと認められる。
そして,本願発明と引用発明との一致点及び相違点は,前記第2の3(2)及び(3)の審決が認定したとおりであると認められる。
引用文献4について 引用文献4(甲4)には,以下の記載がある。
「本考案はフローダウン用,安全弁用といった蒸気や空気の放風用消音器の改良に関するものである。(1頁16行〜18行) 」 「従来の多孔ディフューザ10では,ディフューザの発生音は開口部を通過する流速で支配され,多孔ディフューザ10での発生音を小さくするためには,十分大きな開口面積をとる必要がある。(2頁11行〜15行) 」「本考案の一実施例を第1図に,第1図の A 部の各種断面図を第2図(a), (c), (b),(d)に示す。
1は消音器,2は排気管,3は消音エレメント,4は弁,5は多孔質金属で,排気管2出口の断面積急拡大部に,流れがその中を通って漸次拡大するように配されている。
多孔質金属としては連通気孔を持った発泡金属やメッシュデミスタのような気孔率の大きなものが良い。また,金属に限らず耐久性の強いものであれば多孔質セラミックも使える。
6は多孔質金属5を抑える抑えの多孔板で,多孔質金属5と抑えの多孔板6で多孔質金属ディフューザを構成する。(4頁7行〜19行) 」 「抑えの多孔板6を通過する流速はできる限り小さくする方が発生音は小さくなり,その開口面積は少なくとも全量放風時のチョーク断面積以上とする必要がある。」(5頁6行〜9行) 「多孔質金属5は一般に抑えの多孔板6で保持されるが,抑えの多孔板6に代ってフラットバーやアングル材等で抑えてもよい。 (5頁12行〜14行) 」 3 取消事由(相違点2についての判断の誤り)について (1) 相違点2は, 「本願発明においては,オリフィスの出口部の反対側の金属多孔性の材料の外面が面状に大気に露出,開放されてなるように配設して構成したのに対し,引用発明においては,ガス導入孔7の出口部の反対側の焼結フィルタ31の外面が,ベースボディ202に形成された孔21を介して大気に開放されている点」であるところ,原告は,当業者が引用発明,周知技術,技術常識に基づき,相違点2に関する構成を容易に想到し得たとの審決の判断は誤りであると主張する。
そこで,検討するに,本願発明事項に係る「面状」「露出」及び「開放」という用 ,語は,本願明細書では用いられていないので,同明細書からは,直ちにこれらの語の意義は明らかにならない。そこで,本願発明の実施例である本願明細書の図7(b),図8(a)及び図8(b)を参照すると,図7(b)においては,オリフィスの出口部の反対側に位置する材料7の外面(底面)の一部が噴射ヘッド1Jを構成する部材の一部に覆われ,他の部分が開口を介して大気と通気可能に配設されていることが図示されている。そうすると,本願発明の「面状」とは,オリフィスの出口部の反対側に位置する材料7の外面の全部を意味するものではなく,ある程度以上の面積をもち,面として認識できるものを意味すると解することができる。
他方,引用発明は,本願発明と同様に,ガス系消火システムの消音ノズルに関する発明であり,消火ガスを放出する際に発生する騒音の軽減を課題とするものであるから,その技術分野及び解決すべき課題は,本願発明と共通しているものと認められる。また,引用発明においては,本願発明の材料7に相当する焼結フィルタ31及び32が配設され,オリフィスに相当する開口207の出口部の反対側に位置する焼結フィルタ31の外面(底面)は,ベースボディ202で押さえられ,複数の孔21により大気に露出,開放されているが,引用発明の孔21は小さなものであり,その開口部が面として認識するに足る面積を備えているとまではいうことはできない。
ところで,本願発明の図7(b)の噴射ヘッド1Jの底部に設けられた開口部及び引用発明の孔21は,いずれもガスの流路となる開口部である。前記認定のとおり,引用文献4には, 「フローダウン用,安全弁用といった蒸気や空気の放風用消音器の改良に関する考案」が記載されているところ, 「従来の多孔ディフューザ10では,ディフューザの発生音は開口部を通過する流速で支配され,多孔ディフューザ10での発生音を小さくするためには,十分大きな開口面積をとる必要がある。, 」「抑えの多孔板6を通過する流速はできる限り小さくする方が発生音は小さくなり,その開口面積は少なくとも全量放風時のチョーク断面積以上とする必要がある」と記載され,これによると,蒸気や空気のような気体である流体が通過する際の流速が一定であれば,多孔板の開口面積を大きくすることにより,発生する騒音を小さくすることができるとの技術常識が存したことが理解できる。そして,この技術常識は,フローダウンや安全弁等の放風用の消音器に限定されるものではないことも,当業者であれば当然に理解するところであると解される。
そうすると,当業者であれば,こうした技術常識を踏まえ,騒音を低減するという課題を解決するため,引用発明の孔21について一定の開口面積を確保して,発生音が小さくなるように設計するものと考えられ,その際に,ガスの流路となる開口部をどのようなものとするかは設計上の事項にすぎないというべきである。
したがって,当業者が,引用発明の孔21を小数又は1つの孔を開口として,焼結フィルタ31の「外面が面状に大気に露出,開放されてなるように配設して構成」することを容易に想到し得たものということができる。
? 原告の主張について ア これに対し,原告は,引用文献1には,直径の大きな孔を小数又は一つの孔を開口として設けることについては,記載も示唆もされておらず,また,引用発明の孔21は,消化剤ガスの放出圧力が直接的にかかる位置関係にあり,孔21を少数又は一つの孔として構成すると,フィルタ組立体4が消化剤ガスの放出圧力 により破損するおそれが大きいので,そのような構成は当業者が容易に想到し得るものではないと主張する。
しかし,前記のとおり,引用発明は,本願発明と同様に,ガス系消火システムの消音ノズルに関する発明であり,消火ガスを放出する際に発生する騒音の軽減を課題とするものである上,ガスなどの気体が多孔板を通過する際には,その多孔版の開口面積を大きく確保した方が発生音を小さくできることは技術常識であるから,当業者であれば,引用文献1に直接的な記載や示唆がなくても,引用発明と上記技術常識から,引用発明の孔21を小数又は一つの孔として設けることについて動機付けを得ることは容易であったというべきである。
また,消化剤ガスの放出圧力が直接的にかかる位置関係にあるという点については,本願明細書の図7(b)において図示されている開口部についても同様であり,孔21を少数又は一つの孔として構成することから,直ちにフィルタ組立体4が消化剤ガスの放出圧力により破損するおそれが大きいということはできない。消化剤ガスの放出圧力も考慮しつつ,フィルタ組立体4が消化剤ガスの放出圧力により破損することがないように,孔21の開口面積を設計するように工夫することが不可能であるとは認められない。
イ 原告は,引用文献4の記載事項1は,抑え板として多孔板6を用いることを前提とするものであるから,本願発明特定事項に到るための具体的な動機付けを何ら示すものではないと主張する。
しかし,前記のとおり,引用文献4から認められる技術常識は,フローダウンや安全弁等の放風用の消音器に限定されるものではなく,気体である流体が,流路中の障壁となる開口を通過する場合に発生する発生音についての一般的な技術常識を示すものであり,抑え板として多孔板6を用いることを前提とするものではないので,原告の主張は理由がない。
ウ 原告は,本願発明の作用効果は,引用発明,引用文献4の記載事項1及び2に基づき,当業者が予測し得るものではないと主張する。
しかし,引用発明は,低騒音の消火ガス放出用ノズルを提供することを目的とするものであるから,引用発明と前記技術常識に基づいて,引用発明の孔21を面状と認識できる程度の開口面積の大きさとした場合に,本願明細書に記載されている「消火剤ガスが放出される際に発生する騒音を低減でき,ガス系消火設備の作動時に消火対象区画内に逃げ遅れた人がいた場合でも,消火剤ガスが放出される際に発生する騒音によってパニックを起こしたり,避難を促す放送が聞こえにくくなることを防止することができ,さらには,噴射ヘッドから消火剤ガスが放出される際に発生する騒音が周囲のいる人に悪影響を及ぼすことなどを防止する」という効果を奏することは,当業者であれば当然予測し得るというべきである。
結論
よって,審決の判断に誤りはなく,原告の請求には理由がないから,これを棄却することとして,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 森義之
裁判官 佐藤達文
裁判官 森岡礼子