関連審決 |
無効2015-800085 |
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事件 |
平成
28年
(行ケ)
10173号
審決取消請求事件
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原告X 同訴訟代理人弁理 士田村爾 杉村純子 被告 王子ホールディングス株式会社 同訴訟代理人弁理 士小椋正幸 田部元史 柳井則子 |
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裁判所 | 知的財産高等裁判所 |
判決言渡日 | 2017/08/01 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
1 原告の請求を棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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原告の求めた裁判
特許庁が無効2015-800085号事件について平成28年6月22日にした審決のうち,請求項5に係る部分を取り消す。 |
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事案の概要
本件は,特許無効審判請求に対する一部無効・一部不成立審決のうち一部不成立部分の取消訴訟である。争点は,進歩性判断(相違点の容易想到性の判断)の誤りの有無である。 1 特許庁における手続の経緯 被告は,名称を「静電容量式タッチパネル付き表示装置,静電容量式タッチパネル」とする発明について,平成24年11月7日(以下,「本件出願日」という。)を出願日として特許出願(特願2013-543003号,優先権主張〔優先日・平成23年11月7日(以下,「本件優先日」という。,優先権主張国・日本国〕 ) )をし,平成25年12月27日,その設定登録を受けた(特許第5440747号。 請求項の数5。以下,「本件特許」という。。 )(甲30) 原告が,平成27年3月30日に本件特許の請求項1〜5に係る発明についての特許無効審判請求(無効2015-800085号)をしたところ(甲32,33),被告は,平成28年2月23日付けで特許請求の範囲の訂正を求めて訂正請求をした(以下,「本件訂正」という。甲42)。 特許庁は,平成28年6月22日, 「特許第5440747号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり訂正後の請求項1,2,3,4,5について訂正することを認める。特許第5440747号の請求項1,2,3,4に係る発明についての特許を無効とする。特許第5440747号の請求項5に係る発明についての審判請求は,成り立たない。審判費用は,その5分の1を請求人の負担とし,5分の4を被請求人の負担とする。との審決をし, 」 その謄本は,同年7月5日,原告に送達された。 2 本件訂正発明5の要旨等 本件訂正後の本件特許の請求項5に係る発明(以下, 「本件訂正発明5」という。)及び本件訂正前の本件特許の請求項4及び5に係る発明(以下,請求項の番号に従って「本件発明4」のようにいう。)の特許請求の範囲の記載は,次のとおりである(なお,本件訂正後の本件特許の明細書及び図面を「本件明細書」というが,本件訂正は特許請求の範囲のみを訂正するものであるから,本件明細書の記載は,本件訂正前の明細書及び図面(甲30)の記載と同一である。。 ) (1) 本件訂正発明5(甲42。下線は,訂正箇所を示す。)【請求項5】 表示装置の前面側に,前記表示装置との間に隙間を設けて配置され,外縁部が粘着剤層で前記表示装置に固定される静電容量式タッチパネルであって, 前記静電容量式タッチパネルは,1枚の透明基板と,前記透明基板の前記表示装置側に設けられた導電層と,前記導電層上に粘着剤層を介して積層された第1の保護シートとを備え, 前記第1の保護シートは,前記表示装置と対向する面の表面粗さが1.5nm以上400nm以下であり, さらに,前記透明基板の前記表示装置側とは反対側に設けられた導電層と,前記導電層上に粘着剤層を介して積層された第2の保護シートとを備える,静電容量式タッチパネル。 (2) 本件発明5(甲30,42)【請求項5】 さらに,前記透明基板の前記表示装置側とは反対側に設けられた導電層と,前記導電層上に粘着剤層を介して積層された保護シートとを備える,請求項4に記載の静電容量式タッチパネル。 (3) 本件発明4(甲30,42)【請求項4】 表示装置の前面側に,前記表示装置との間に隙間を設けて配置され,外縁部が粘着剤層で前記表示装置に固定される静電容量式タッチパネルであって, 前記静電容量式タッチパネルは,1枚の透明基板と,前記透明基板の前記表示装置側に設けられた導電層と,前記導電層上に粘着剤層を介して積層された保護シートとを備え, 前記保護シートは,前記表示装置と対向する面の表面粗さが1.5nm以上400nm以下である,静電容量式タッチパネル。 3 審判における請求人(原告)の主張(本件訂正発明5関係) (1) 特許法29条2項を根拠法条とする無効理由 ア 本件訂正発明5は,甲1に記載された発明(以下, 「甲1発明」という。, )甲2に記載された技術事項,及び,甲3に記載された技術事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により,特許を受けることができないものである。 甲1:特開2009-193587号公報 甲2:特開2010-66761号公報 甲3:特開2010-15574号公報 イ 本件訂正発明5は,甲3に記載された発明(以下, 「甲3発明」という。, )甲1に記載された技術事項,及び,甲2に記載された技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により,特許を受けることができないものである。 (2) 特許法36条6項1号を根拠法条とする無効理由 請求項5に係る「静電容量式タッチパネル付き表示装置」又は「静電容量式タッチパネル」の発明,及び,該発明の効果を裏付ける実施例が発明の詳細な説明には記載されていないから,本件訂正発明5は,特許法36条6項1号の規定を満たしていない。 (3) 特許法36条4項1号を根拠法条とする無効理由 ア 実施例に記載される「ハードコートフィルム」による「ニュートンリング」の発生の有無が, 「静電容量式タッチパネル付き表示装置」又は「静電容量式タッチパネル」における「ニュートンリング」の発生の有無と直接関連付けられないため,当業者は本件訂正発明5をその効果が奏するように実施することができない。 したがって,本件訂正発明5は,特許法36条4項1号の規定を満たしていない。 イ 甲2の比較例9が開示する, 「表面粗さ:29nm」の場合にニュートンリングが発生することに接した当業者は,本件訂正発明5を,請求項に規定される「表面粗さが1.5nm以上400nm以下である」の範囲内にある「表面粗さ:29nm」においてはニュートンリングが発生するものであると理解するため,本件訂正発明5をその効果が奏するように実施することができない。 したがって,本件訂正発明5は,特許法36条4項1号の規定を満たしていない。 4 審決の理由の要点(本件訂正発明5関係) (1) 請求項5の訂正の適否 ア 請求項5の訂正事項は,請求項4を引用して記載されていた請求項5を独立形式の記載とし,二つの「保護シート」の区別を明瞭にするために「第1の保護シート」「第2の保護シート」とするものであるから,他の請求項の記載を引用 ,する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること,明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。 イ 上記訂正事項は,願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであり,また,実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもない。 (2) 特許法29条2項を根拠法条とする無効理由について ア 甲1を主引例とする進歩性欠如について (ア) 甲1発明の認定 甲1発明は,次のとおりである。 「表示パネル2の前面側に,前記表示パネル2との間に隙間を設けて配置され,外周部が接着層4で前記表示パネル2に固定された静電容量タッチパネル1であって, 前記静電容量タッチパネル1は,単一基板11と,前記単一基板11の前記表示パネル2側に設けられた導電性電極131と,前記導電性電極131の下面上にコーティングされた保護膜17とを備える, 静電容量タッチパネル1。」 (イ) 一致点の認定 本件訂正発明5と甲1発明とを対比すると,次の点で一致する。 「表示装置の前面側に,前記表示装置との間に隙間を設けて配置され,外縁部が粘着剤層で前記表示装置に固定される静電容量式タッチパネルであって, 前記静電容量式タッチパネルは,1枚の透明基板と,前記透明基板の前記表示装置側に設けられた導電層とを備える,静電容量式タッチパネル。」 (ウ) 相違点の認定 本件訂正発明5と甲1発明とを対比すると,次の点が相違する。 a 相違点1 本件訂正発明5は,「導電層上に粘着剤層を介して積層された第1の保護シート」を備えるのに対し,甲1発明は,導電性電極131の下面上(本件訂正発明5でいう「導電層上」)にコーティングされた保護膜17は備えるものの,「導電層上に粘着剤層を介して積層された第1の保護シート」は備えていない点。 b 相違点2 本件訂正発明5では, 「第1の保護シートは,表示装置と対向する面の表面粗さが1.5nm以上400nm以下である」のに対し,甲1発明では,そのような保護シートは備えていない点。 c 相違点3 本件訂正発明5では, 「さらに,前記透明基板の前記表示装置側とは反対側に設けられた導電層と,前記導電層上に粘着剤層を介して積層された第2の保護シートとを備える」のに対し,甲1発明では,それらを備えていない点。 (エ) 相違点についての判断 a 相違点1,2について (a) 次の@〜Cの点を考慮すると,当業者は,甲1の記載から,甲1発明を,サイズが手のひらサイズよりも大きいタッチ表示パネルとしても実施され得る発明として把握すると考えるのが妥当である。 @ 甲1の【0008】【0009】記載の発明の目的は,タッチパネルのサイ ,ズが手のひらサイズよりも大きいものにも当然に妥当する。 A 甲1の特許請求の範囲には,タッチパネルのサイズが手のひらサイズのものに限定されることを示す記載はない。 B 甲1の【0002】には,背景技術に関する記載として, 「PDA,手のひらサイズのPC,情報機器などの大抵の電子機器は,タッチ表示パネルを有する。」という記載があるが,ここでいう「情報機器」については,手のひらサイズよりも大きいサイズのタッチパネルを利用するものも当然に想定される。 C 特開2008-134489号公報(甲7)の【0009】の「例えば15インチ以上の表示面を有する液晶表示装置に対し,両面粘着テープを用いてタッチパネルを設置する場合」という記載からも明らかなように,手のひらサイズよりも大きいタッチ表示パネルの用途は,本件出願日以前〔判決注・ 「本件優先日以前」の誤記と認める。〕から周知であった。 (b) そして,甲1発明のタッチ表示パネルを,サイズが手のひらサイズよりも大きいタッチ表示パネルとして実施しようとする場合に,ニュートンリングの問題が発生し得ることや,それに対する何らかの対策が望まれることは,次のとおり,当業者が容易に想定し得ることである。 @ 甲1の【0009】記載のように,甲1発明はスリム型のタッチパネルであり,サイズがある程度以上に大きくなると,甲7の【0009】に記載されるような撓みが発生することは,当業者に明らかである。 A 上記の撓みが発生した場合にニュートンリングの問題が生じ得るので,何らかの対策が望まれることも,甲2の【0013】,特開2009-211377号公報(甲6)の【0005】,甲7の【0009】,特開2005-31790号公報(甲8)の【0014】,特開2011-70012号公報(甲9)の【0035】,株式会社きもとの「何となくわかるフィルム加工」に関するウェブページ(甲23〔審判乙3〕)の8-1-4等の記載からみて,当業者に明らかである。 (c) 一方,甲2記載のように,表示部と前面部材との隙間の両側に,表面粗さが0.03μm以上0.15μm以下であるアンチニュートンリングフィルム(ANRフィルム)を,粘着剤層を介して積層し,ニュートンリングの発生を防止することが知られている。 甲1発明における静電容量タッチパネル1は,表示パネル2の前面に設けられているものであるから,表示パネル2に対する前面部材と考えられ,このような甲1発明において,想定し得るニュートンリングの発生を防止しようとするために,甲2記載のニュートンリングの発生を防止する上記技術を適用して,表示パネル2と,その前面の部材である静電容量タッチパネル1との隙間の両側に,表面粗さが0.03μm以上0.15μm以下(30nm以上150nm以下)であるANRフィルムを,粘着剤層を介して積層することは,当業者が容易に想到し得ることであり,そのように構成した場合に,積層したANRフィルムによって,導電性電極131や表示パネル2が保護されることとなる(すなわち,積層したANRフィルムは「保護シート」といえる)のは明らかである。 (d) 以上によると,甲1発明において,甲2記載の技術を適用し, 「導電層上に粘着剤層を介して積層された保護シート」を備え, 「保護シートは,表示装置と対向する面の表面粗さが1.5nm以上400nm以下である」ようにすることは,当業者が容易に想到し得ることである。 b 相違点3について (a) 甲1発明は,単一基板11の表示パネル2側に設けられた導電性電極131を備える。この導電性電極131は,センス回路13に含まれるものであって(【0019】,タッチパネルにおけるタッチを検出するためのものである。 ) このような甲1発明において, 「さらに,前記透明基板の前記表示装置側とは反対側に設けられた導電層と,前記導電層上に粘着剤層を介して積層された保護シートとを備える」ようにすることは,甲1には記載又は示唆はされていない。 甲3には, 「基板32と,前記基板32の前記表示素子180に面する表面とは反対側の前記基板32の表面に設置された透明導電構造体34と,前記透明導電構造体34の上に粘着材によって接着された保護層36とを備える,静電容量方式タッチパネル30」が記載されている。 しかしながら,甲3における「前記基板32の前記表示素子180に面する表面とは反対側の前記基板32の表面に設置された透明導電構造体34」は,タッチパネルにおけるタッチ検出をするためのものであり,タッチを検出するための, 「単一基板11の表示パネル2側に設けられた導電性電極131」を既に備えている甲1発明において,さらに,甲3の,タッチを検出するための透明導電構造体を備える動機付けはない。 (b) また,甲3には, 「基板32の表示素子180に面する表面に設置されたシールド層35と,前記基板32の前記表示素子180に面する表面とは反対側の前記基板32の表面に設置された透明導電構造体34と,前記透明導電構造体34の上に粘着材によって接着された保護層36とを備える,静電容量方式タッチパネル30」が記載されている。 甲1発明の「単一基板11と,前記単一基板11の前記表示パネル2側に設けられた導電性電極131と,前記導電性電極131の下面上にコーティングされた保護膜17とを備える,静電容量タッチパネル1」を,甲3の「基板32の表示素子180に面する表面に設置されたシールド層35と,前記基板32の前記表示素子180に面する表面とは反対側の前記基板32の表面に設置された透明導電構造体34と,前記透明導電構造体34の上に粘着材によって接着された保護層36とを備える,静電容量方式タッチパネル30」に置き換えることは考え得ることではある。 しかしながら,このような置き換えをしたとしても,本件訂正発明5の「1枚の透明基板と,前記透明基板の前記表示装置側に設けられた導電層と,前記導電層上に粘着剤層を介して積層された保護シートとを備え」「さらに,前記透明基板の前 ,記表示装置側とは反対側に設けられた導電層と,前記導電層上に粘着剤層を介して積層された保護シートとを備える」という構成には至らない。 その理由は,本件訂正発明5の「前記透明基板の前記表示装置側に設けられた導電層」 請求項4に記載の静電容量式タッチパネルを構成する導電層, は, すなわち,タッチを検出するための導電層であり,上記のような置き換えをすると,このタッチを検出するための導電層が,タッチを検出するためのものではないシールド層に置き換わってしまうためである。 この点に関し,請求人(原告)は,「本件発明5の導電層(審決注:「表示装置側の導電層」と解される。)は,甲3に開示されている「シールド層」を含む意味で使用されていると解釈するのが妥当である」旨主張するが,以下の理由で採用できない。 すなわち,本件訂正発明5は,本件発明4に,さらなる構成として, 「表示装置側とは反対側に設けられた導電層」と「導電層上に粘着剤層を介して積層された第2の保護シート」を付加したもの(本件訂正により「ヘイズが1%未満である」点が更に付加されたが,この点は,本件訂正発明5の「導電層」の意味内容の理解とは無関係である。)であるから,本件訂正発明5の「表示装置側の導電層」は,本件発明4の「導電層」であり,本件発明4の「導電層」は,「静電容量式タッチパネル」の構成要素としての唯一の導電層であるから,当業者は,この本件発明4の「導電層」を,シールド層ではない「タッチを検出するための導電層」と理解するのが普通である。また,そのような理解は,本件明細書の発明の詳細な説明の記載と整合するものでもある。よって,本件訂正発明5の「導電層」は,シールド層を含まない「タッチを検出するための導電層」と理解するのが妥当である。 (c) 請求人(原告)は,本件明細書の【0003】の記載,及び,甲20を提出して,「透明基板の両面にタッチを検出するための導電層を設けること」は周知の技術であり,この周知技術を考慮して甲1発明に甲3の技術を適用し,透明基板の両面にタッチを検出するための導電層を備える構成を導き出すことに困難性はない旨主張するが,上記周知技術が存在したとしても,上述したように,甲1発明に甲3の技術を適用する動機付けはない,あるいは,甲1発明に甲3の技術を適用したとしても本件訂正発明5の構成には至らないということには変わりはなく,甲1発明に甲3の技術を適用することが当業者に容易であるということを導く根拠とはならない。 (d) 以上のとおりであるから,本件訂正発明5は,甲1発明,甲2に記載された技術事項,及び,甲3に記載された技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。 イ 甲3を主引例とする進歩性欠如について (ア) 甲3発明の認定 甲3発明は,次のとおりである。 「表示素子180の前面側に,前記表示素子180との間に隔離部106を設けて配置され,外縁部が支持体108で表示素子180に固定された静電容量方式タッチパネル30であって, 前記静電容量方式タッチパネル30は,基板32と,前記基板32の前記表示素子180に面する表面とは反対側の前記基板32の表面に設置された透明導電構造体34と,前記透明導電構造体34の上に粘着材によって接着された保護層36とを備える, 静電容量方式タッチパネル30。」 (イ) 一致点の認定 本件訂正発明5と甲3発明とを対比すると,次の点で一致する。 「表示装置の前面側に,前記表示装置との間に隙間を設けて配置され,外縁部が粘着剤層で前記表示装置に固定される静電容量式タッチパネルであって, 前記静電容量式タッチパネルは,1枚の透明基板を備える,静電容量式タッチパネルであって, 前記透明基板の前記表示装置側とは反対側に設けられた導電層と,前記導電層上に粘着剤層を介して積層された第2の保護シートとを備える,静電容量式タッチパネル。」 (ウ) 相違点の認定 本件訂正発明5と甲3発明とを対比すると,次の点が相違する。 (相違点4) 本件訂正発明5は, 「前記透明基板の前記表示装置側に設けられた導電層と,前記導電層上に粘着剤層を介して積層された第1の保護シートとを備え,前記第1の保護シートは,前記表示装置と対向する面の表面粗さが1.5nm以上400nm以下であ」るという構成を有しているのに対し,甲3発明は,それに対応する構成を有するものではない点。 (エ) 相違点についての判断 甲3には,上記相違点に係る構成のうち,本件訂正発明5の「前記透明基板の前記表示装置側に設けられた導電層」 (上記ア(エ)bで述べたように, 「タッチを検出するための導電層」)を備えることは記載又は示唆されていない。 また,甲1に記載された技術事項,甲2に記載された技術事項をみても,甲3発明において, 「前記透明基板の前記表示装置側に設けられた導電層」を備えるという構成を採用することを容易想到と考えるべき根拠は見当たらない。 したがって,本件訂正発明5は,甲3発明,甲1に記載された技術事項,及び,甲2に記載された技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。 (3) 特許法36条6項1号を根拠法条とする無効理由について 本件明細書の実施例1に本件訂正発明1,4の「導電層」に対応する層が設けられていないことは,本件訂正発明1,4が所期の効果を奏することの実証の妨げにはならず,そのことをもって,本件訂正発明1,4のサポート要件が満たされていないとはいえない。 タッチパネルの表示装置側とは反対側に保護シートを有するか否か,タッチパネルと表示装置の何れの側の対向面を粗面化するかによって,効果に差異が生じるとも考えられないから,上記実施例1は,本件訂正発明5が所期の効果を奏することも実質的に実証しているといえ,本件訂正発明5に対応する実施例が記載されていないことをもって,本件訂正発明5のサポート要件が満たされていないともいえない。 したがって,特許法36条6項1号を根拠法条とする無効理由は成り立たない。 (4) 特許法36条4項1号を根拠法条とする無効理由について ア 実施例に記載される「ハードコートフィルム」による「ニュートンリング」の発生の有無が, 「静電容量式タッチパネル付き表示装置」又は「静電容量式タッチパネル」における「ニュートンリング」の発生の有無と直接関連付けられないことに基づく実施可能要件違反の無効理由について 前記(3)のとおり,発明の詳細な説明には,本件訂正発明5が所期の効果を奏することを実証する実施例が記載されているといえるから,この無効理由は成り立たない。 イ 甲2の比較例9が開示する, 「表面粗さ:29nm」の場合にニュートンリングが発生することに基づく実施可能要件違反の無効理由について 甲2の比較例9(表面粗さは29nmのフィルム)は, 「表示装置と,前記表示装置の前面側に,前記表示装置との間に隙間を設けて配置され,外縁部が粘着剤層で前記表示装置に固定された静電容量式タッチパネルとを備える静電容量式タッチパネル付き表示装置」に類する構成を具備したものではないから,本件訂正発明5の実施品の特性を表すものとはいえない。 そうすると,この比較例9は,本件訂正発明5の効果を否定するものではない。 したがって,この理由によって,当業者が本件訂正発明5をその効果が奏するように実施することができないとはいえない。 |
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原告主張の審決取消事由
1 取消事由1(本件訂正発明5と甲1発明との相違点3の容易想到性についての判断の誤り) (1) 審決は,相違点3の容易想到性の判断において,本件訂正発明5の「導電層」,特に「表示装置側の導電層」を「タッチを検出するための導電層」と特定の意味に限定解釈を行い,甲1発明に甲3記載の技術事項を適用しても,本件訂正発明5の構成には至らないと判断したが,誤りである。 本件訂正発明5の「導電層」は,以下のとおり, 「タッチを検出するための導電層」だけでなく,甲3記載のような「シールド層」を含むものであり,相違点3に係る本件訂正発明5の構成は,甲1発明に甲3の技術を適用することで当業者が容易に想到し得るものである。 ア 本件訂正発明5の「導電層」は,前記第2の2(1)のとおり,@「静電容量式タッチパネル」に使用される「導電層」であること,A「透明基板」等に対する「導電層」の配置が特定されていることが明記されているだけであり,それ以外の技術的特徴については何ら限定されていない。 本件明細書においても,「導電層2」の説明として,「導電層2は,絶縁性の透明基板1上に形成された導電性の膜である。 と規定されており, 」 その例示として, 「実質的に均一な導電性能を有する均一層」でもよいし, 「導電性能が規則的にパターン化された導電層」であってもよいと記載されているだけである(【0018】。 ) このように,本件訂正発明5に係る特許請求の範囲には, 「導電層」について, 「タッチを検出するための」との特定は記載されておらず,本件明細書の記載においても, 「導電層」の形状について特段の限定もされていないから,審決のように,本件訂正発明5の「導電層」,特に「透明基板の表示装置側に設けられた導電層」は, 「タッチを検出するための導電層」であると限定解釈をする理由は何もない。 イ 従来から,例えば,甲3の図6, 【0053】【0074】に開示されて ,いるように,「静電容量方式タッチパネル30」として,「透明基板32」の「表示素子180」側に「シールド層35」を設けること,前記「シールド層35」は,「透明導電材料」で構成される「導電層」であることが知られている。 当業者にとって, 「静電容量方式タッチパネル」に設けられる「導電層」は,必ずしも「タッチを検出するための導電層」だけではないことは,技術常識ともいえるものであり,本件訂正発明5の「導電層」を, 「タッチを検出するための導電層」だけでなく,甲3記載のような「シールド層」を含むものと解釈することが自然である。 ウ 本件訂正発明5には,「表示装置側とは反対側に設けられた導電層」(本件明細書【図6】の「導電層6」)も存在するところ, 「導電層6についての説明は,導電層2と同様である。( 」【0058】)とされているから,導電層6も表示装置側に設けられた導電層2と同じものである。そこで,仮に,審決のように,本件訂正発明5の「透明基板の表示装置側に設けられた導電層」 (本件明細書【図6】の「導電層2」)が, 「タッチを検出するための導電層」であると限定解釈すると, 「表示装置側とは反対側に設けられた導電層」「導電層6」 ( )も,「導電層2」と同じ「タッチを検出するための導電層」であることになり,本件訂正発明5は, 「タッチを検出するための導電層」が2箇所にあるという技術的意味が不明な発明となってしまう。 審決のように,本件訂正発明5の「表示装置側の導電層」が本件発明4の「導電層」であり,シールド層ではない「タッチを検出するための導電層」であるとしてしまうと,シールド層は透明基板の裏面側(表示装置側)に配置するべきものであり,表面側に配置されないから,透明基板の表面側の導電層について,該当する構成が存在しないことになる。 エ 被告は,本件訂正発明5は, 「透明基板の両面にタッチを検出する導電層を設ける『基板両面構成』の静電容量タッチパネル」であると主張するが,次のとおり,審決の認定とも,本件明細書の記載とも異なるもので,理由がない。 (ア) 審決は,本件訂正発明5の「導電層」は,本件発明4の「タッチを検出するための導電層」である唯一の「導電層」と同じものであるとする以上, 「一層の導電層によって,タッチを検出できるもの」を意味していることになる。 審決のように,各請求項の導電層を「タッチを検出するもの」と理解し,請求項4と請求項5の導電層が同じものであると理解しようとすれば,被告主張のように,位置検知するための導電層が,透明基板の両側に2枚の層として分割されたもの(2層でXY方向の1組のタッチ検出層がある)などと解釈することはできない。すなわち,請求項4のタッチパネルは,導電層2が唯一の導電層であり,他に導電層がないので,導電層2のみでタッチパネルとしての機能を有する必要がある。それにもかかわらず,本件訂正発明5を「基板両面構成」の投影型の静電容量方式のタッチパネルと解釈してしまうと,請求項4のタッチパネルは,Y軸パターン(又はX軸パターン)の電極しか存在しなくなり,本来あるべきX軸パターン(又はY軸パターン)がなくなってしまい,その結果,位置を検出することができなくなり,タッチパネルとしての機能を失うことになる。 仮に,本件訂正発明5には「基板両面構成」の投影型の静電容量方式のタッチパネルが含まれるとの主張が正しければ,導電層2だけでは,Y軸パターン(又はX軸パターン)の電極しかなくなるため,タッチパネル機能を有するためには,導電層2以外の電極が必要となり,導電層2が「唯一の導電層」ではないことになる。 したがって,審決が,導電層2が「唯一の導電層」であることを理由として,タッチを検出する導電層と認定したことが誤りとなり,導電層2は,タッチを検出する導電層に限定されず,シールド層も含むと解釈せざるを得ないことになる。 (イ) 本件明細書の記載(【0018】 【0020】 【0058】 【図1】 , , , ,【図6】)によると,第一の実施形態では,一つの層によってタッチパネルとしての位置検出を可能とするために,本件明細書で公知技術として示されている「実質的に均一な導電性能を有する均一層」による「表面型静電容量式タッチパネル」による実施形態を開示しているものと思われ,請求項1〜4は, 「表面型静電容量式タッチパネル」を用いた表示装置をクレームしているものと理解できる。 そして,請求項5が,本件訂正前は請求項4の従属項であったことから,請求項5のタッチパネルも「表面型静電容量式タッチパネル」の表示装置であると理解するのが自然である。 仮に,第一の実施形態の導電層2が「位置検知のために面内に一部絶縁性部を設け,導電性能が規則的にパターン化された導電層」であった場合であっても,請求項1〜4は,基板の片面にある導電層2のみでタッチパネルとして位置検出が可能な「投影型静電容量式タッチパネル」 (基板片面構成の投影型静電容量式タッチパネル)を開示しているのであり,請求項5も同様と考えるのが自然である。 請求項5のみが「基板両面構成」であるとする主張は,本件明細書の【0058】の「タッチパネル22は,透明基板1の前面側に設けられた導電層6と,導電層6上に粘着剤層7を介して積層された保護シート8をさらに備える以外は,タッチパネル21と同様の構成である。」との記載に照らしても,無理がある。2層の「導電層」のうちの一つは位置検出用であり,他の一つはシールド層であると理解せざるを得ない。 被告は,本件発明4は「表面型」又は「投影型・基板1枚積層構成」に限定した発明であり,本件訂正発明5は「投影型・基板両面構成」に限定した発明であると主張する一方,本件訂正発明5は,本件発明4の構成を全て含むものであるとも主張するが,これらは矛盾した主張であり,一貫していない。 オ 被告は,導電層2がタッチを検出するための導電層である根拠として,本件明細書の【0018】を指摘する。 しかし,【0018】には,「・・・前記導電層の表面抵抗の範囲は,1〜1×105Ω/sqが好ましく,1×102〜1×103Ω/sqがより好ましい。 ・・・実質的に均一な導電層を適用する場合でも,タッチパネルの構成などに応じて,引き出し電極等形成のため,導電層2の外周近傍の一部をパターン化する場合もある。」と記載されており,パターン化していない場合を排除するものではなく,パターン化していない場合も包含される。また,甲48の57頁記載のとおり,シールド層の表面抵抗値は,100Ω/sq程度であり,導電層2のより好ましい範囲内である。 したがって,本件明細書の【0018】を根拠として,導電層からシールド層が除外されるということはできず, 【0018】を参酌しても,導電層2には,シールド層である場合も,「タッチを検出する」導電層である場合も含まれる。 (2) 仮に本件訂正発明5の「導電層」が「タッチを検出するための導電層」であるとしても,以下のとおり,審決の容易想到性の判断は誤りである。 ア 本件訂正発明5は,前記第2の2(1)のとおり,@透明基板の表示装置側に設けられた導電層(本件明細書【図6】の「導電層2」)と,A透明基板の表示装置とは反対側に設けられた導電層(本件明細書【図6】 「導電層6」 の二つの の ) 「導電層」を備えている。 これらの「導電層」が「タッチを検出するための導電層」であると仮定すると,本件明細書の記載(【0018】【0058】 , )から,「導電層2」及び「導電層6」に使用される「導電層」は,次の(ア),(イ)の2種類の「タッチを検出するための導電層」を意味していると理解される。 (ア) 表面型静電容量式タッチパネルなどに用いられる,透明基板1上で面内方向で実質的に均一な導電性能を有する均一層 (イ) 投影型静電容量方式のタッチパネルなどに用いられる,位置検知のために面内に一部絶縁性部を設け,導電性能が規則的にパターン化された導電層 そして, 「導電層2」及び「導電層6」には,これらのいずれかが設けられることになる。つまり,本件訂正発明5の二つの「導電層」を設ける構成は,透明基板の両面に「タッチを検出するための導電層」を別々に二つ配置することにほかならない。 しかるところ,本件訂正発明5は,本件発明4のタッチパネルに「導電層6」を更に追加したものであり,本件発明4のタッチパネルの「導電層2」 (表示装置側の導電層)は,タッチを検出するための「唯一の導電層」であるから,この「導電層2」のみで,タッチパネルとして機能するはずである。 そうすると,本件訂正発明5においては,「導電層6」(透明基板の表示装置とは反対側に設けられた導電層)がなくても, 「導電層2」だけでタッチパネルとしての機能を有することになり,本件訂正発明5の「導電層6」がどのような機能を有するか,その技術的意義は不明である。 本件特許に係る発明が解決しようとする課題は,ニュートンリングが発生しにく 「く,かつタッチ面の明るさも良好な静電容量式タッチパネル付き表示装置及び静電容量式タッチパネルを提供すること」【0007】 ( )であり,その課題に対する解決手段は,「タッチパネルの裏面(表示装置の前面と対向する面),又は表示装置の前面(静電容量式タッチパネルの裏面と対向する面)を,所定の表面粗さを有するものとすること」【0008】 ( )であって,本件訂正発明5と甲1発明の相違点となっている「透明基板の表示装置とは反対側に設けられた導電層」などの「導電層」の配置や数については,本件特許に係る発明にとって本質的な問題ではない。 そのため,本件明細書では,本件訂正発明5における二つの「導電層」に関し,その技術的意義については何も述べられていない。 イ 前記アのとおり,本件訂正発明5の二つの「導電層」を設けることについて,その技術的意義が不明であることを考慮すると,本件訂正発明5の二つの「導電層」に係る構成は,機能・効果とも不明の導電層をただ組み合わせただけのものであり,甲1発明と甲3の技術を単に寄せ集めた程度のものである。何の効果も求めず,ただ単に組み合わせるだけでいいのであれば,動機付けなどを求める必要もないから,当業者において,甲1発明に甲3の技術を組み合わせることに,何の困難性もない。 しかも,甲1の図6には,従来のタッチパネルとして,表示装置の反対側に導電層及び保護膜を積層した静電容量方式のタッチパネルが開示されているから,静電容量方式のタッチパネルとして基板の表示装置の反対側に導電層及び保護膜を積層するという甲3の技術を組み合わせることについて示唆がある。 したがって,本件訂正発明5の二つの「導電層」に係る構成は,甲1発明に甲3の技術を適用することによって,当業者が容易に想到し得るものである。 ウ 「透明基板の両面にタッチを検出するための導電層を設けること」 (すなわち,透明基板の両面に設けた1組の導電層によってタッチを検出すること。)は,本件明細書の【0003】に従来から周知の技術として開示されており,甲20の【0004】及び図7にも,従来例として,基板910の上面にX電極930,下面にY電極920を配置することが開示されている。 「基板両面構成」の投影型の静電容量方式のタッチパネルは,甲47,乙1の1・2にも開示されている。 このように,透明基板の両面にタッチを検出するための導電層を設けること」 「 は,当業者において周知の技術である。 そして, 「透明基板の両面にタッチを検出するための導電層を設けること」を技術常識として認識している当業者は,甲1発明(単一基板11の表示パネル2側に設けられた導電性電極131)と甲3の技術(基板32の表示素子180に面する表面とは反対側に設けられた透明導電構造体34)に基づき,両者を組み合わせて,本件訂正発明5のように二つの導電層を設ける構成を導出するのに,何の困難性もない。 したがって,本件訂正発明5の二つの「導電層」に係る構成は,周知技術を考慮し,甲1発明に甲3の技術を適用することによって,当業者が容易に想到し得るものである。 エ 甲1は,基板の表示装置側にX,Y電極を設けたもの(図4)も,表示装置の反対側にX,Y電極を設けたもの(図6)も開示しており,基板のどちらの面にでも導電層を設けることができることが開示されている。また,X電極とY電極との間に絶縁層を設けることによって2層に分けることも開示されている。 そのため,基板を絶縁層としてX電極,Y電極を分けて構成すること,つまり,基板の両面にそれぞれX電極,Y電極が配置される構成を容易想到できる。 前記ウのとおり,「透明基板の両面にタッチを検出するための導電層を設けること」が技術常識であり,甲1より容易に想到できるから,当業者において,甲1発明(単一基板11の表示パネル2側に設けられた導電性電極131)の導電層と基板を基板両面構成とし,甲3の技術(基板32の表示素子180に面する表面とは反対側に設けられた透明導電構造体34に粘着剤で保護膜36を接着する)を組み合わせて,本件訂正発明5のように二つの導電層に保護シートが積層される構成を導出するのに,何の困難性もない。 したがって,本件訂正発明5の二つの「導電層」に係る構成は,周知技術を考慮し,甲1発明に甲3の技術を適用することによって,当業者が容易に想到し得るものである。 これに対し,被告は, 「基板1枚積層構成」のX電極,Y電極の間に設ける絶縁層と,静電容量式タッチパネルの基板とは,形状も機能も異なり,単純に置き換え可能な等価な部材ではないと主張するが,原告の上記主張は,投影型の静電容量方式のタッチパネルの技術分野において, 「基板1枚積層構成」や「基板両面構成」はいずれも周知の技術であり,当業者が両者を必要に応じて置換することは通常実施されていることであり,何らの困難性もないことから,甲1発明から「基板両面構成」を想到することが容易であると主張したものであって, 「基板1枚積層構成」の静電容量式タッチパネルの基板を残したまま,X,Y電極間の絶縁層の代わりに別の基板を配置することを主張したものではない。静電容量式タッチパネルでは, 「基板1枚積層構成」と「基板両面構成」とは,当業者が必要に応じて適宜選択できる事項であり,このことは,甲47の61頁の図2.24,乙1の1の25頁の図3,乙1の2の44頁の図5,乙3の33頁の図13のように, 「基板1枚積層構成」 「基 と板両面構成」とが並列して開示されていることからも明らかである。仮に両者の間に性能上や製造工程上の違いがあっても,それらが両者を置換できないとする根拠にはならない。 また,被告は,審判手続において,上記主張を無効理由として主張していなかったと主張するが,原告は,本件訂正発明5の構成が,甲1発明に甲2,3を組み合わせることにより容易想到であることを無効理由として主張しており,審判事件弁駁書(甲44)20頁でも,透明基板の両面に「タッチを検出するための導電層」を配置するという周知技術を考慮すると,当業者において,甲1発明に甲3の技術を適用し,透明基板の両面に「タッチを検出するための導電層」を備える構成を導き出すことには何の困難性もない旨を明確に主張している。 2 取消事由2(本件訂正発明5と甲3発明との相違点4の容易想到性についての判断の誤り) (1) 審決は,本件訂正発明5の「導電層」を「タッチを検出するための導電層」であると限定解釈した上,甲3発明に甲1の技術を適用することが容易想到ではないと判断したが,誤りである。 前記1(1)のとおり,本件訂正発明5の「導電層」は「タッチを検出するための導電層」であると限定して解釈すべきではなく,甲3記載の「シールド層」は本件訂正発明5の「導電層」に相当する。 そうすると,相違点4のうち「前記透明基板の前記表示装置側に設けられた導電層と,前記導電層上に粘着剤層を介して積層された第1の保護シート」は,相違点ではなく,一致点であり,甲3発明に甲1の技術を適用することは,当業者にとって容易に想到し得るものと判断すべきである。 本件訂正発明5の二つの導電層について,それぞれの機能について請求項に限定がない以上,甲3の図5には,本件訂正発明5の構成そのものが開示,示唆されている。 (2) 仮に,本件訂正発明5の「導電層」が「タッチを検出するための導電層」であると考えると,前記1(2)のとおり,本件訂正発明5の二つの「導電層」を設けることの技術的意義は不明であり,透明基板の両面にタッチを検出するための導電 「層を設ける」という周知技術を考慮することにより,甲3発明(基板32の表示素子180に面する表面とは反対側に設けられた透明導電構造体34)に甲1の技術(単一基板11の表示パネル2側に設けられた導電性電極131)を適用することに,何ら困難性はない。 したがって,本件訂正発明5の二つの「導電層」を設ける構成については,甲3発明に甲1の発明を適用して,当業者が容易に想到し得るものである。 |
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被告の主張
1 取消事由1(本件訂正発明5と甲1発明との相違点3の容易想到性についての判断の誤り)に対し (1) 原告は,審決が,本件訂正発明5の「導電層」,特に「表示装置側の導電層」を「タッチを検出するための導電層」と解釈し,甲1発明に甲3記載の技術事項を適用しても,本件訂正発明5の構成には至らないと判断したことが,誤りであると主張するが,以下のとおり,審決の認定判断に誤りはない。 ア 「静電容量式タッチパネル」において位置検知のために形成された導電層は必須の構成であるのに対し,表示装置等からの電磁波を遮断するためのシールド層は必要に応じて設けられるもので必須の構成ではない。 また,本件明細書では,導電層2は,静電容量方式のタッチパネルにおいて位置検知のために形成された導電層のことであって,静電容量方式のタッチパネルが表面型の場合は,透明基板1上で面内方向で実質的に均一な導電性能を有する均一層であり,投影型の場合は,典型的には「基板1枚積層構成」の縦電極と横電極のパターンのようなパターン化された導電層のことであるとされ 【0018】 , ( ) 導電層6も,導電層2と同様に,静電容量方式のタッチパネルにおいて位置検知のために形成された導電層のことであるとされている(【0058】。本件明細書の【000 )2】〜【0003】記載の導電層は,ガラス板(センサガラス)の両面に設けることがあるものとして説明されているから,タッチパネルの裏面に設けられる電磁波を遮断するための導電層のことを説明したものではなく,静電容量方式のタッチパネルにおいて位置検知のために形成された導電層のことである。このように,本件明細書において,導電層は,静電容量式タッチパネルにおいて位置検知のために形成された導電層として説明されており,シールド層としての説明は見当たらない。 特許請求の範囲には, 「導電層」が「タッチを検出するための導電層」とは記載されていないものの,その技術的意義は,本件明細書を参酌して解釈されるべきである。 さらに,本件訂正発明5は,本件発明4の構成をすべて含むものである。 したがって,本件訂正発明5の「表示装置側の導電層」は,本件発明4の「導電層」であり,本件発明4の「導電層」は, 「静電容量式タッチパネル」の構成要素としての唯一の導電層であるから,当業者は,これをシールド層ではない「タッチを検出するための導電層」と理解するのが普通であり,そのような理解は,本件明細書の発明の詳細な説明の記載とも整合する旨の審決の判断は,本件明細書の記載内容及び静電容量式タッチパネルに関する技術常識に照らして,誤りはない。 そして,甲1及び甲3記載の静電容量式タッチパネルは,いずれも,透明基板の両面にタッチを検出する導電層を設ける「基板両面構成」の静電容量式タッチパネルに関するものではないから,甲1及び甲3記載の発明を組み合わせても,本件訂正発明5の「・・・前記透明基板の前記表示装置側に設けられた導電層・・・」「さ ,らに,前記透明基板の前記表示装置側とは反対側に設けられた導電層」という構成には至らないとした審決の判断に誤りはない。 イ 原告は,本件訂正発明5の「表示装置側の導電層」が「タッチを検出するための導電層」であるとすると,本件明細書の【0058】から,本件訂正発明5は, 「タッチを検出するための導電層」が導電層2,6の2箇所にあるという技術的意味が不明なものになると主張する。 しかし,本件明細書の【0058】から,本件訂正発明5は,典型的には,1枚のガラス基板の表面と裏面にそれぞれ縦電極パターン又は横電極パターンを形成する「基板両面構成」の投影型の静電容量方式のタッチパネルであるといえ,技術的意味が不明なものになるわけではない。 静電容量式タッチパネルには, 「表面型」, 「投影型・基板1枚積層構成」, 「投影型・基板両面構成」のタイプがあることは技術常識であり,この技術常識を踏まえても,本件発明4は, 「表面型」又は「投影型・基板1枚積層構成」に限定した発明である一方,本件訂正発明5は, 「投影型・基板両面構成」に限定した発明であると自然に解釈される。 (2) 原告は,仮に本件訂正発明5の「導電層」が「タッチを検出するための導電層」であるとしても,審決の相違点3の容易想到性についての判断は誤りであると主張するが,以下のとおり,審決の判断に誤りはない。 ア 原告は,本件訂正発明5の二つの「導電層」の技術的意義が不明であると主張する。 しかし,本件明細書の【0018】【0058】の記載内容を静電容量方式のタ ,ッチパネルの技術常識に照らして読めば,本件訂正発明5の二つの「導電層」は,1枚の透明基板の表面と裏面にそれぞれ導電層が形成されているから,典型的には,1枚のガラス基板の表面と裏面にそれぞれ縦電極パターン又は横電極パターンを形成する「基板両面構成」の投影型の静電容量方式のタッチパネル等の位置検知のために形成された導電層のことであると理解できる。 イ 原告は,本件訂正発明5の二つの「導電層」に係る構成は,甲1発明と甲3の技術を単に寄せ集めた程度にすぎないから,甲1発明に甲3の技術を適用する動機付けがない旨の審決の判断は,誤りであると主張する。 しかし,審決は,甲1発明の静電容量式タッチパネルは,表示パネル2側にタッチ位置を検出するための導電性電極131を備えたタイプのもので,これで既にタッチ位置を検出できるものであるから,甲3のタッチを検出するための透明導電構造体を更に備えることは,通常行わないから,動機付けはないと判断したものであり,静電容量式タッチパネルの技術常識に照らし,誤りはない。 ウ 原告は,「透明基板の両面にタッチを検出するための導電層を設けること」を技術常識としている当業者において,甲1発明と甲3の技術に基づき,本件訂正発明5の二つの「導電層」に係る構成とすることは容易想到であるから,審決が, 「透明基板の両面にタッチを検出するための導電層を設けること」という周知技術が存在したとしても,甲1発明に甲3の技術を適用することが当業者に容易であるということを導く根拠とはならないと判断したことは,誤りであると主張する。 しかし,審決は,上記周知技術が存在したとしても,無効理由として判断すべきことは,甲1発明と甲3の技術に基づいて本件訂正発明5の構成に至るかどうかであるから,甲1発明に甲3の技術を適用する動機付けがなく,甲1発明に甲3の技術を適用しても本件訂正発明5の構成には至らない以上,甲1発明に甲3の技術を適用して本件訂正発明5の構成に至るという結論は導けないと判断したものであり,誤りはない。 原告の主張は,周知技術を考慮して甲1発明に甲3の技術を適用するというだけで,どのようにして,甲1発明に甲3の技術を適用する動機付けがあり,甲1発明に甲3の技術を適用すれば本件訂正発明5の構成に至るといえるのかが全く分からない。 エ 原告は,甲1発明の導電層と基板を基板両面構成とし,甲3の技術を組み合わせて,本件訂正発明5のように二つの導電層に保護シートが積層される構成を導出するのに,何の困難性もない旨主張する。 しかし,上記主張は,第2回弁論準備手続期日において陳述された平成29年1月18日付け準備書面(3)で初めて主張されたものであるから,取消事由として,時機に後れた主張である。 また,原告は,審判手続において,そのような無効理由は主張しておらず,審決がそのような無効理由を判断しなかったことに誤りはない。 さらに,原告は,甲1発明において,X電極とY電極の間の絶縁層として,静電容量式タッチパネルの基板を用いることは容易想到であると主張するが,次のとおり,甲1発明において,X電極とY電極の間の絶縁層として,静電容量式タッチパネルの基板を用いることは容易想到ではない。 (ア) 静電容量式タッチパネルの基板は,導電層等の積層体を形成する基板のことであり,板状で,ガラス基板,シート基板が普通である(甲1の【0003】,【0023】〜【0028】,乙1の1の25頁)。 他方, 「基板1枚積層構成」の静電容量式タッチパネルのX電極,Y電極の間に設ける絶縁層は,X電極とY電極を絶縁する層であって,必ずしも板状である必要はなく,誘電体(絶縁体)を成膜(塗工)により形成するもので,ガラス基板に比べ明らかに薄いものである(甲1の【0027】,乙1の1の26頁,乙2の8頁右欄第2段落,乙4の【0010】。 ) したがって, 「基板1枚積層構成」のX電極,Y電極の間に設ける絶縁層と,静電容量式タッチパネルの基板とは,形状も機能も異なり,単純に置き換え可能な等価な部材ではなく,甲1発明において,X電極とY電極の間の絶縁層として,静電容量式タッチパネルの基板を用いる理由はない。 (イ) また,甲1の図4のX電極とY電極の間の「絶縁層18a」は,技術常識を踏まえると,塗工によって設けられると考えられ,仮にこの塗工で設けられた絶縁層を基板に置き換えるのであれば,単一レンズ基板11aとの接着層又は粘着層が必要となるはずである。 しかし,甲1の図4のタッチパネルは, 【0022】記載のとおり,レンズとタッチパネル用に別々に使用される基板を削減し,二つの基板のボンディング・ラミネート工程を簡単化し,タッチパネル製造の費用及び時間を削減し,かつ,タッチパネルをスリム型デザインにするものである。 したがって,甲1の図4の発明,すなわち甲1発明において, 「絶縁層18a」を粘着層が必要な基板にわざわざ置き換えることは,単一レンズ基板を再び別々にすることになるから,あり得ない。 (ウ) さらに,甲1記載の単一レンズ基板を共有するタッチパネルは,ウィンドータイプと呼ばれ,カバーガラスの基板のディスプレイ側にX電極とY電極を絶縁層を介して積層するもので,このウィンドータイプのカバーガラスにおいて,表示装置と反対側となる外表面には,タッチパネルのX電極,Y電極は形成されない(乙2の9頁図3)。 このことからも,甲1において,X電極とY電極の間の絶縁層として,タッチパネルの基板を用いることはあり得ない。 (エ) なお, 「基板両面構成」と「基板1枚積層構成」とは,X電極とY電極の間を基板とするか絶縁層とするかによって,位置検知の精度や視認性に差異が生じ,製造工程上も互換性がない。 したがって, 「基板両面構成」 「基板1枚積層構成」 と のタッチパネルは,構造上,製造上も,等価なものとして互換性があるとはいえない。 2 取消事由2(本件訂正発明5と甲3発明との相違点4の容易想到性についての判断の誤り)に対し (1) 原告は,甲3発明の「シールド層」が本件訂正発明5の「前記透明基板の前記表示装置側に設けられた導電層」に相当するから,相違点4のうち「前記透明基板の前記表示装置側に設けられた導電層と,前記導電層上に粘着剤層を介して積層された第1の保護シート」は,一致点であり,また,甲3発明に甲1を適用することで本件訂正発明5は容易想到と判断すべきであると主張する。 しかし,前記1(1)のとおり,本件訂正発明5の「前記透明基板の前記表示装置側に設けられた導電層」は, 「タッチを検出するための導電層」と解釈されるべきものであり, 「シールド層」ではないから,甲3発明の「シールド層」が本件訂正発明5の「前記透明基板の前記表示装置側に設けられた導電層」に相当するとはいえない。 したがって,本件訂正発明5の「前記透明基板の前記表示装置側に設けられた導電層と,前記導電層上に粘着剤層を介して積層された第1の保護シート」を相違点とした審決の認定に誤りはない。 また,甲1及び甲3記載の静電容量タッチパネルは,いずれも,透明基板の両面にタッチを検出する導電層を設ける「基板両面構成」の静電容量タッチパネルに関するものではないから,甲1及び甲3記載の発明を組み合わせても,本件訂正発明5の「・・・前記透明基板の前記表示装置側に設けられた導電層・・・」「さらに, ,前記透明基板の前記表示装置側とは反対側に設けられた導電層」という構成には至らない。 (2) 原告は,周知技術である「透明基板の両面にタッチを検出するための導電層を設けること」を考慮することにより甲3発明に甲1の技術を適用して,本件訂正発明5の2つの「導電層」に係る構成とすることは容易想到であるから,審決が,甲1記載の技術事項,甲2記載の技術事項をみても,甲3発明において, 「前記透明基板の前記表示装置側に設けられた導電層」を備えるという構成を採用することを容易想到と考えるべき根拠は見当たらないと判断したことは,誤りであると主張する。 しかし,審決は,甲3発明は, 「前記基板32の前記表示素子180に面する表面とは反対側の前記基板32の表面に設置された透明導電構造体34」によってタッチ位置を検出するから,更にタッチ位置を検出するための「前記透明基板の前記表示装置側に設けられた導電層」を備えるという構成を採用する理由はないと判断したもので,誤りはない。 |
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当裁判所の判断
1 本件発明について (1) 本件明細書には,以下の記載がある(「導電層」の記載に下線を付した)。 ア 技術分野【0001】 本発明は静電容量式タッチパネル付き表示装置及び静電容量式タッチパネルに関する。 本願は2011年11月7日に日本に出願された,特願2011-243796号に基づき優先権を主張し,その内容をここに援用する。 イ 背景技術【0002】 タッチパネルは,位置入力装置として機能する電子部品であり,液晶ディスプレイ等の表示装置と組み合わされ,携帯電話や携帯ゲーム機等において幅広く利用されている。タッチパネルは,操作者が画面表示に基づき,手や入力ペンでタッチパネルの特定位置を指し示すと,装置がその特定位置の情報を感知することで,操作者が望む適切な動作を行なわせることができるインターフェースである。タッチパネルとしては,指し示す位置を検出する動作原理によって種々の方式のものがあるが,抵抗膜式や静電容量式が汎用されている。特に静電容量式は,携帯電話などのモバイル機器を中心として急速に拡大してきた。静電容量式の代表的な検出方式としては,アナログ検出の表面型と,パターニングされた電極を用いた積算検出方式による投影型の2つが挙げられる。 【0003】 静電容量式タッチパネルとしては,片面又は両面に導電層を設けたガラス板(以下,センサガラスということがある)を備えるものが用いられており,通常,センサガラスの前面側(タッチ面側)に,粘着剤層を介してガラス板(以下,カバーガラスということがある)が積層されている。また,カバーガラスの破損や破片の飛散を防止するために,カバーガラスの前面側にさらに保護シートが貼付される。 かかる用途に用いられる保護シートとしては,耐擦傷性に優れることから,ハードコート層を有するものが多い。また,所望により,他の機能,たとえば防汚機能,又は反射防止機能等を有する層を設けたり,ハードコート層にこれらの機能を持たせたりすることが行われている・・・。 【0004】 タッチパネルは,通常,粘着剤を用いて表示装置の前面に取り付けられるが,特に表示装置が大型の場合,コストの点から,タッチパネルの外縁部のみを液晶ディスプレイ等の他の部材に粘着剤で固定することがある。 図9に,従来の静電容量式タッチパネルを外縁部のみ粘着剤で表示装置の前面に固定した静電容量式タッチパネル付き表示装置200の構成を説明する概略断面図を示す。静電容量式タッチパネル付き表示装置200は,最前面に偏光板211が配置された液晶ディスプレイ210と,静電容量式タッチパネル220を備える。 静電容量式タッチパネル220は,ガラス基板221と,ガラス基板221の前面側に設けられた導電層222と,導電層222の前面側に粘着剤層223を介して積層されたカバーガラス224と,カバーガラス224の前面側に粘着剤層226を介して積層された保護シート227とを備え,カバーガラス224の裏面の外縁部には印刷層225が形成されている。静電容量式タッチパネル220は,液晶ディスプレイ210の前面に,液晶ディスプレイ210との間に隙間を設けて配置され,外縁部が粘着剤層230で液晶ディスプレイ210に固定され,これにより,液晶ディスプレイ210の前面と静電容量式タッチパネル220の裏面との間に空間が形成されている。 【図9】従来の静電容量式タッチパネル付き表示装置の構成を説明する概略断面図【0005】 一方,光学フィルムの分野では,フィルム同士,あるいはフィルムと他の部材(たとえばガラス板)が接触した際に,グレアやニュートンリング,又はブロッキングが生じることがある。これらを防止するために,フィルム表面に微細な凹凸形状を設けることが行われている。形成する凹凸の大きさは,要求される性能(アンチグレア,アンチニュートンリング,又はアンチブロッキング)に応じて設定され,アンチグレアの場合が最も大きく,アンチブロッキングの場合が最も小さい。このような凹凸形状の形成方法としては,ハードコート層に粒子を含有させる方法が一般的に用いられている・・・。 ウ 発明が解決しようとする課題【0007】 近年,タッチパネルの軽量化,又は薄型化の要求が高まっている。そのようななか,上述した静電容量式タッチパネルとして,カバーガラスを設けない1枚透明基板タイプのものが用いられるようになっている。1枚透明基板タイプの静電容量式タッチパネルとしては,透明基板の裏面に導電層を設け,前記導電層上に保護シートを積層した構成のものや,ガラス板の前面に導電層を設け,前記導電層上に保護シートを積層した構成のものがある。 しかし,本発明者らの検討によれば,1枚透明基板タイプの静電容量式タッチパネルを,図9に示すように表示装置に取り付けた場合,ニュートンリングが生じる問題がある。この問題は,表示装置が大型化するほど顕著になる。かかる問題が生じる原因としては,前記タッチパネルが備える透明基板が1枚であるため,たわみや歪みが生じやすく,中央付近で表示装置の前面の偏光板に接触したまま戻りにくくなることが考えられる。そこで,アンチニュートンリング性能を有するフィルム(アンチニュートンリングフィルム)をタッチパネルの裏面又は表示装置の前面に配置することが考えられる。しかし,従来用いられているアンチニュートンリングフィルムは,ヘイズが高く透明性が不充分で,タッチ面の明るさを低下させることから,表示装置やタッチパネルに適用するのは好ましくない。一方,クリアタイプのフィルムをタッチパネルの裏面又は表示装置の前面に使用すると対向する面に接触したまま戻りにくくなることがある。付着したまま戻らないと表示装置の画像が歪んで見えるため実用上,問題となる。 本発明は,上記事情に鑑みてなされたものであって,ニュートンリングが発生しにくく,かつタッチ面の明るさも良好な静電容量式タッチパネル付き表示装置及び静電容量式タッチパネルを提供することを目的とする。 エ 課題を解決するための手段【0008】 本発明者らは,鋭意検討の結果,1枚透明基板タイプの静電容量式タッチパネルの裏面と,表示装置の前面とが空間を介して対向した構成において,前記タッチパネルの裏面(前記表示装置の前面と対向する面),又は表示装置の前面(前記静電容量式タッチパネルの裏面と対向する面)を,所定の表面粗さを有するものとすることにより上記課題が解決されることを見出し,本発明を完成させた。 本発明は,以下の態様を有する。 [1] 表示装置と,前記表示装置の前面側に,前記表示装置との間に隙間を設けて配置され,外縁部が粘着剤層で前記表示装置に固定された静電容量式タッチパネルを備える静電容量式タッチパネル付き表示装置であって, 前記静電容量式タッチパネルは,1枚のガラス基板と,前記ガラス基板の前記表示装置側に設けられた導電層と,前記導電層上に粘着剤層を介して積層された保護シートとを備え, 前記保護シートは,前記表示装置と対向する面の表面粗さが1.5nm以上400nm以下であることを特徴とする静電容量式タッチパネル付き表示装置。 [2] 表示装置と,前記表示装置の前面側に,前記表示装置との間に隙間を設けて配置され,外縁部が粘着剤層で前記表示装置に固定された静電容量式タッチパネルとを備える静電容量式タッチパネル付き表示装置であって, 前記静電容量式タッチパネルは,1枚のガラス基板と,前記ガラス基板の前記表示装置側に設けられた導電層と,前記導電層上に粘着剤層を介して積層された保護シートとを備え, 前記表示装置は,前記静電容量式タッチパネルと対向する面の表面粗さが1.5nm以上400nm以下であることを特徴とする静電容量式タッチパネル付き表示装置。 [3] 表示装置と,前記表示装置の前面側に,前記表示装置との間に隙間を設けて配置され,外縁部が粘着剤層で前記表示装置に固定された静電容量式タッチパネルとを備える静電容量式タッチパネル付き表示装置であって, 前記静電容量式タッチパネルは,1枚のガラス基板と,前記ガラス基板の前記表示装置側とは反対側に設けられた導電層と,前記導電層上に粘着剤層を介して積層された保護シートとを備え, 前記表示装置は,前記静電容量式タッチパネルと対向する面の表面粗さが1.5nm以上400nm以下であることを特徴とする静電容量式タッチパネル付き表示装置。 [4] 表示装置の前面側に,前記表示装置との間に隙間を設けて配置され,外縁部が粘着剤層で前記表示装置に固定される静電容量式タッチパネルであって, 1枚のガラス基板と,前記ガラス基板の前記表示装置側に設けられた導電層と,前記導電層上に粘着剤層を介して積層された保護シートとを備え, 前記保護シートは,前記表示装置と対向する面の表面粗さが1.5nm以上400nm以下であることを特徴とする静電容量式タッチパネル。 [5] さらに,前記ガラス基板の前記表示装置側とは反対側に設けられた導電層と,前記導電層上に粘着剤層を介して積層された保護シートとを備える, [4]に記載の静電容量式タッチパネル。 【0010】 すなわち,本発明は以下に関する。 (1)表示装置と,前記表示装置の前面側に,前記表示装置との間に隙間を設けて配置され,外縁部が粘着剤層で前記表示装置に固定された静電容量式タッチパネルとを備える静電容量式タッチパネル付き表示装置であって,前記静電容量式タッチパネルは,1枚の透明基板と,前記透明基板の前記表示装置側に設けられた導電層と,前記導電層上に粘着剤層を介して積層された保護シートとを備え,前記保護シートは,前記表示装置と対向する面の表面粗さが1.5nm以上400nm以下である,静電容量式タッチパネル付き表示装置,(2)表示装置と,前記表示装置の前面側に,前記表示装置との間に隙間を設けて配置され,外縁部が粘着剤層で前記表示装置に固定された静電容量式タッチパネルとを備える静電容量式タッチパネル付き表示装置であって,前記静電容量式タッチパネルは,1枚の透明基板と,前記透明基板の前記表示装置側に設けられた導電層と,前記導電層上に粘着剤層を介して積層された保護シートとを備え,前記表示装置は,前記静電容量式タッチパネルと対向する面の表面粗さが1.5nm以上400nm以下である,静電容量式タッチパネル付き表示装置,(3)表示装置と,前記表示装置の前面側に,前記表示装置との間に隙間を設けて配置され,外縁部が粘着剤層で前記表示装置に固定された静電容量式タッチパネルとを備える静電容量式タッチパネル付き表示装置であって,前記静電容量式タッチパネルは,1枚の透明基板と,前記透明基板の前記表示装置側とは反対側に設けられた導電層と,前記導電層上に粘着剤層を介して積層された保護シートとを備え,前記表示装置は,前記静電容量式タッチパネルと対向する面の表面粗さが1.5nm以上400nm以下である,静電容量式タッチパネル付き表示装置,(4)表示装置の前面側に,前記表示装置との間に隙間を設けて配置され,外縁部が粘着剤層で前記表示装置に固定される静電容量式タッチパネルであって,前記静電容量式タッチパネルは,1枚の透明基板と,前記透明基板の前記表示装置側に設けられた導電層と,前記導電層上に粘着剤層を介して積層された保護シートとを備え,前記保護シートは,前記表示装置と対向する面の表面粗さが1.5nm以上400nm以下である,静電容量式タッチパネル,及び(5)さらに,前記透明基板の前記表示装置側とは反対側に設けられた導電層と,前記導電層上に粘着剤層を介して積層された保護シートとを備える, (4)に記載の静電容量式タッチパネル。 オ 発明の効果【0011】 本発明によれば,ニュートンリングが発生しにくく,かつタッチ面の明るさも良好な静電容量式タッチパネル付き表示装置及び静電容量式タッチパネルを提供できる。 カ 発明を実施するための形態【0014】<第一の実施形態> 図1は,本実施形態の静電容量式タッチパネル付き表示装置101の構成を説明する概略断面図である。 静電容量式タッチパネル付き表示装置101は,最前面に偏光板12が配置された液晶ディスプレイ11と,静電容量式タッチパネル(以下,単に「タッチパネル」という。)21を備え,タッチパネル21は,液晶ディスプレイ11の前面に,偏光板12との間に隙間を設けて配置され,外縁部が粘着剤層31で液晶ディスプレイ11に固定されている。これにより,液晶ディスプレイ11の前面とタッチパネル21の裏面との間に空間が形成されている。 前記外縁部とは主に静電容量式タッチパネル付き表示装置として組み立てられた時に枠印刷が施された部分を指す。 タッチパネル21は,透明基板1と,透明基板1の裏面(液晶ディスプレイ11側)に設けられた導電層2と,導電層2上に粘着剤層3を介して積層された保護シート4とを備え,導電層2の裏面の外縁部には印刷層5が形成されている。 保護シート4は,液晶ディスプレイ11と対向する面が,微細な凹凸を有する凹凸面となっており,前記凹凸面の表面粗さが1.5nm以上400nm以下である。 本明細書及び特許請求の範囲において, 「前面」は,静電容量式タッチパネル又はこれを取り付けた表示装置を使用する際に,使用者が視認,又は操作する側の面を意味し, 「裏面」は,使用者が視認,又は操作する側とは反対側の面を意味する。タッチパネルの前面をタッチ面ということがある。 【図1】本発明の第一の実施形態に係る静電容量式タッチパネル付き表示装置の構成を説明する概略断面図【0017】[タッチパネル21](透明基板1) 透明基板1としては,タッチパネル等に用いられている公知の透明基板が利用できる。 透明基板1は所定強度以上を有する材質であれば特に限定されるものではないが,ポリエチレンテレフタレート(PET),ポリカーボネート(PC),ポリメチルメタクリレート(PMMA),ポリエチレンナフタレート(PEN),ポリエーテルスルホン(PES),環状オレフィン高分子(COC,COP),トリアセチルセルロース(TAC)フィルム,ポリビニルアルコール(Polyvinyl alcohol;PVA)フィルム,ポリイミド(Polyimide;PI)フィルム,ポリスチレン(Polystyrene;PS),2軸配向ポリスチレン(Kレジン含有,biaxially oriented PS;BOPS),ガラス又は強化ガラスなどで形成することが好ましい。また,透明基板1の一面には導電層2が形成されるので,透明基板1と導電層2間の接着力を向上させるために,透明基板1の一面に高周波処理又はプライマー(primer)処理などを行って表面処理層を形成することができる。 透明基板1の厚さは,0.1mm以上が好ましく,0.2mm以上がより好ましい。0.1mm以上であると,タッチパネル11の強度も充分なものとなる。上限は特に限定されないが,3mmを超えるとたわみや歪みがあまり生じず,ニュートンリングが生じにくくなることから,本発明の有用性の点で,また透明性にも優れることから,3mm以下が好ましく,2mm以下がより好ましい。 透明基板1の厚さの範囲は,0.1mm以上3mm以下が好ましく,0.2mm以上2mm以下がより好ましい。 【0018】(導電層2) 導電層2は,絶縁性の透明基板1上に形成された導電性の膜である。 導電層2は,表面型静電容量式タッチパネルなどに用いられる,透明基板1上で面内方向で実質的に均一な導電性能を有する均一層でもよいし,投影型静電容量方式のタッチパネルなどに用いられる,位置検知のために面内に一部絶縁性部を設け,導電性能が規則的にパターン化された導電層であってもよい。 導電層の上に,さらに導電膜の酸化を防ぐための保護膜が形成されていてもよい。 導電層の導電性能は,例えばJIS-K7194に記載の方法にて測定される表面抵抗で示すことが出来,タッチパネル用の電極板とするため,前記表面抵抗は1×105Ω/sq以下が好ましく,1×103Ω/sq以下がより好ましい。また前記表面抵抗は1Ω/sq以上が好ましく,1×102Ω/sq以上がより好ましい。 前記導電層の表面抵抗の範囲は,1〜1×105Ω/sqが好ましく,1×102〜1×103Ω/sqがより好ましい。 一方,絶縁性部は,タッチパネルがより正確な位置検知を行うために,例えばJIS-K6911に記載の方法にて測定される表面抵抗を1×109Ω/sq以上,より好ましくは1×1011Ω/sq以上として,1×1013Ω/sq以下,より好ましくは1×1012Ω/sq以下として,明確に絶縁化すると良い。前記絶縁性部の表面抵抗の範囲は,1×109〜1×1013Ω/sqが好ましく,1×1011〜1×1012Ω/sqがより好ましい。 実質的に均一な導電層を適用する場合でも,タッチパネルの構成などに応じて,引き出し電極等形成のため,導電層2の外周近傍の一部をパターン化する場合もある。 【0019】 導電層2の材質としては,公知の導電性物質を適用できる。前記導電性物質としては,無機系材料を用いてもよく,前記無機系材料としては,例えば,金,銀,銅,アルミニウム,ニッケル,若しくはコバルトなどの金属,又はインジウム-スズ酸化物(Indium Tin Oxide(ITO), ) インジウム-亜鉛酸化物(Indium Zinc Oxide(IZO),酸化亜鉛(Zinc ) Oxide(ZnO), )若しくは亜鉛-スズ酸化物(Zinc Tin Oxide(ZTO), )若しくはアンチモン-スズ酸化物(ATO)などの金属酸化物が例示できる。前記導電性物質としては有機導電体を用いてもよく,前記有機導電体としては,導電性カーボンナノチューブやグラフェンなどの導電性炭素材料,又はポリチオフェン,若しくはポリアニリンなどの導電性高分子などが例示できるが,これらに限定するものではない。 中でも無機系材料としては信頼性の高さと,透明性と導電性に優れるという点で,ITOが最も好適に利用される。また,屈曲性に優れるという特徴と,透明性と導電性にも優れるという特徴を有する点で有機導電性高分子のポリチオフェンの一種であるPEDOT/PSSも好適に利用される。PEDOT/PSSとは,PEDOT(3,4-エチレンジオキシチオフェンのポリマー)とPSS(スチレンスルホン酸のポリマー)を共存させたポリマーコンプレックスを示す。 ITOやPEDOT/PSSのように比較的透明性に優れる導電体に比べ,金属や導電性炭素材料は透明性に劣るため,導電層2の材質として金属や導電性炭素材料を用いる場合は,使用する金属や導電性炭素材料をナノワイヤー化して塗工したり,メッシュ状に加工したりすることで透明性を確保するとよい。中でも,銀は,最も導電性に優れる導電体であることから,好適に利用される。 導電層2の厚みは,適用する導電体の導電性や透明性等を考慮して設定する必要があるが,例えば,金属系の場合で30〜600Å,金属酸化物系や有機系の場合で80〜5000Åの厚さが好ましい。 【0020】 導電層2は公知の方法により形成できる。 例えば導電層2が均一層である場合,真空蒸着法,スパッタリング法,イオンプレーティング法,スプレー熱分解法,化学メッキ法,電気メッキ法,塗布法,あるいはこれらの組合せ法などの薄膜形成法が挙げられる。膜の形成速度や大面積膜の形成性,又は生産性などの点より,真空蒸着法やスパッタリング法が好ましい。 規則的なパターンは,各種印刷方式などにより,透明基板1上に予め部分的に導電層2を設ける方法で形成してもよいし,又は,上記のように均一層を形成した後,その一部をエッチングなどにより除去して形成してもよい。 導電層2の形成に先立ち,透明基板1の表面に,密着性を高めるために,コロナ放電処理,紫外線照射処理,プラズマ処理,スパッタエッチング処理,又はアンダーコート処理等の適宜な前処理を施してもよい。 【0045】 本発明に用いられる保護シートは,上記保護シート4には限定されない。たとえば,基材41の,ハードコート層42を設けた側とは反対側の面に,第二のハードコート層を設けてもよい。この場合,第二のハードコート層の基材側とは反対側の面は,凹凸を有していても有さなくてもよい。 また,保護シートは,所望により,ハードコート層以外の機能層を有していてもよい。ハードコート層以外の機能層としては,たとえば,反射防止層,導電層,ハードコート保護層,防眩層,屈折率調整層(中屈折率層),易接着層,帯電防止層,又は紫外線遮蔽層等の機能層等が挙げられる。これらの機能層は,公知の方法により形成できる。 これらの機能層は,ハードコート層の基材側とは反対側に設けてもよく,基材とハードコート層の間に設けてもよい。 ただし基材側とは反対側に設ける場合,前記機能層の基材側とは反対側の表面粗さが1.5nm以上400nm以下である必要がある。 【0055】 図4に示す保護シート(以下,保護シート4-3)は,基材41の,ハードコート層42が設けられた側とは反対側の面に,さらに,第二のハードコート層44及び導電層45がこの順に積層している以外は,保護シート4と同様である。 かかる保護シート4-3を保護シート4の代わりに用いた場合,タッチパネル21においては,導電層2と導電層45とが粘着剤層3を介して対向する。 第二のハードコート層44は,公知の方法により形成でき,たとえばハードコート層42と同様にして形成できる。ただし第二のハードコート層44の基材側とは反対側の面は,凹凸を有していても有さなくてもよく,前記面上に導電層45を設ける点では,平滑であることが好ましい。基材側とは反対側の面が平滑なハードコート層は,ハードコート層形成用材料として,粒子を含まないか,又は形成するハードコート層の厚みよりも粒子径の小さい粒子を含有するものを用いる方法等により形成できる。 導電層45についての説明は,導電層2と同様である。ただしそれらの材質や厚みは同じでも異なってもよい。 【図4】図2に示す保護シートの変形例を示す概略断面図【0056】 図5に示す保護シート(以下,保護シート4-4)は,基材41の,ハードコート層42及び反射防止層43が設けられた側とは反対側の面に,さらに,第二のハードコート層44及び導電層45がこの順に積層している以外は,保護シート4-2と同様である。 第二のハードコート層44,及び導電層45は,それぞれ,保護シート4-3における第二のハードコート層44,及び導電層45と同様である。 【図5】図2に示す保護シートの変形例を示す概略断面図【0058】<第二の実施形態> 図6は,本発明の第二の実施形態の静電容量式タッチパネル付き表示装置102の構成を説明する概略断面図である。以下に記載する実施形態において,第一実施形態に対応する構成要素には同一の符号を付してその詳細な説明を省略する。 静電容量式タッチパネル付き表示装置102は,タッチパネル21の代わりにタッチパネル22を備える以外は,第一の実施形態の静電容量式タッチパネル付き表示装置101と同様の構成である。 タッチパネル22は,透明基板1の前面側に設けられた導電層6と,導電層6上に粘着剤層7を介して積層された保護シート8をさらに備える以外は,タッチパネル21と同様の構成である。 導電層6についての説明は,導電層2と同様である。ただしそれらの材質や厚みは同じでも異なってもよい。 粘着剤層7についての説明は,粘着剤層3,31と同様である。ただしそれらの材質や厚みは同じでも異なってもよい。 保護シート8についての説明は,保護シート4と同様である。ただしそれらの材質や厚みは同じでも異なってもよい。また,保護シート8は,前面又は裏面に凹凸形状が形成されている必要はなく,前面及び裏面の両面ともに凹凸形状が形成されていない平坦な面であることが好ましい。 【図6】本発明の第二の実施形態に係る静電容量式タッチパネル付き表示装置の構成を説明する概略断面図【0059】<第三の実施形態> 図7は,本発明の第三の実施形態の静電容量式タッチパネル付き表示装置103の構成を説明する概略断面図である。 静電容量式タッチパネル付き表示装置103は,タッチパネルの裏面ではなく,液晶ディスプレイの前面を,1.5nm以上400nm以下の表面粗さとしたものである。 静電容量式タッチパネル付き表示装置103は,液晶ディスプレイ13と,タッチパネル23を備え,タッチパネル23は,液晶ディスプレイ13の前面に,液晶ディスプレイ13との間に隙間を設けて配置され,外縁部が粘着剤層31で液晶ディスプレイ13に固定されている。これにより,液晶ディスプレイ13の前面とタッチパネル23の裏面との間に空間が形成されている。 タッチパネル23は,透明基板1と,透明基板1の前面側に設けられた導電層6と,導電層6上に粘着剤層7を介して積層された保護シート8とを備え,保護シート8の裏面の外縁部には印刷層9が形成されている。 液晶ディスプレイ13においては,偏光板12の前面に粘着剤層14を介して保護シート15が積層されている。保護シート15は,片面が微細な凹凸を有する凹凸面となっており,前記凹凸面の表面粗さが1.5nm以上400nm以下である。 この保護シート15が,凹凸面がタッチパネル23と対向するように配置されていることで,液晶ディスプレイ13のタッチパネル23と対向する面の表面粗さが1.5nm以上400nm以下となっている。 前記凹凸面の表面粗さの範囲は,2nm以上380nm以下が好ましく,3nm以上350nm以下がより好ましい。 印刷層9についての説明は,印刷層5と同様である。 粘着剤層14についての説明は,粘着剤層3,31と同様である。ただしそれらの材質や厚みは同じでも異なってもよい。 保護シート15についての説明は,保護シート4と同様である。 【図7】本発明の第三の実施形態に係る静電容量式タッチパネル付き表示装置の構成を説明する概略断面図【0062】 本発明の別の側面は,表示装置と,前記表示装置の前面側に,前記表示装置との間に隙間を設けて配置され,外縁部が粘着剤層で前記表示装置に固定された静電容量式タッチパネルとを備える静電容量式タッチパネル付き表示装置であって, 前記静電容量式タッチパネルは,1枚の透明基板と,前記透明基板の前記表示装置側に設けられた導電層と,前記導電層上に粘着剤層を介して積層された保護シートとを備え, 前記保護シートは,基材とハードコート層とを備え, 前記ハードコート層は,多官能(メタ)アクリルモノマーを含有するハードコート層形成用組成物を活性エネルギー線で硬化した硬化物であり, 前記保護シートは,前記表示装置と対向する面の表面粗さが1.5nm以上400nm以下である,静電容量式タッチパネル付き表示装置に関する。 【0063】 本発明のまた別の側面は,表示装置と,前記表示装置の前面側に,前記表示装置との間に隙間を設けて配置され,外縁部が粘着剤層で前記表示装置に固定された静電容量式タッチパネルとを備える静電容量式タッチパネル付き表示装置であって, 前記静電容量式タッチパネルは,1枚の透明基板と,前記透明基板の前記表示装置側に設けられた導電層と,前記導電層上に粘着剤層を介して積層された保護シートとを備え, 前記保護シートは,基材とハードコート層とを備え, 前記ハードコート層は,多官能(メタ)アクリルモノマーを含有するハードコート層形成用組成物を活性エネルギー線で硬化した硬化物であり, 前記表示装置は,前記静電容量式タッチパネルと対向する面の表面粗さが1.5nm以上400nm以下である,静電容量式タッチパネル付き表示装置に関する。 【0064】 本発明のまた別の側面は,表示装置と,前記表示装置の前面側に,前記表示装置との間に隙間を設けて配置され,外縁部が粘着剤層で前記表示装置に固定された静電容量式タッチパネルとを備える静電容量式タッチパネル付き表示装置であって, 前記静電容量式タッチパネルは,1枚の透明基板と,前記透明基板の前記表示装置側とは反対側に設けられた導電層と,前記導電層上に粘着剤層を介して積層された保護シートとを備え, 前記保護シートは,基材とハードコート層とを備え, 前記ハードコート層は,多官能(メタ)アクリルモノマーを含有するハードコート層形成用組成物を活性エネルギー線で硬化した硬化物であり, 前記表示装置は,前記静電容量式タッチパネルと対向する面の表面粗さが1.5nm以上400nm以下である,静電容量式タッチパネル付き表示装置に関する。 【0065】 本発明のまた別の側面は,表示装置の前面側に,前記表示装置との間に隙間を設けて配置され,外縁部が粘着剤層で前記表示装置に固定される静電容量式タッチパネルであって, 前記静電容量式タッチパネルは,1枚の透明基板と,前記透明基板の前記表示装置側に設けられた導電層と,前記導電層上に粘着剤層を介して積層された保護シートとを備え, 前記保護シートは,基材とハードコート層とを備え, 前記ハードコート層は,多官能(メタ)アクリルモノマーを含有するハードコート層形成用組成物を活性エネルギー線で硬化した硬化物であり, 前記保護シートは,前記表示装置と対向する面の表面粗さが1.5nm以上400nm以下である,静電容量式タッチパネルに関する。 【0066】 本発明のまた別の側面は,表示装置の前面側に,前記表示装置との間に隙間を設けて配置され,外縁部が粘着剤層で前記表示装置に固定される静電容量式タッチパネルであって, 前記静電容量式タッチパネルは,1枚の透明基板と,前記透明基板の前記表示装置側に設けられた導電層と,前記導電層上に粘着剤層を介して積層された保護シートと,前記透明基板の前記表示装置側とは反対側に設けられた導電層と,前記導電層上に粘着剤層を介して積層された保護シートとを備え, 前記保護シートは,基材とハードコート層とを備え, 前記ハードコート層は,多官能(メタ)アクリルモノマーを含有するハードコート層形成用組成物を活性エネルギー線で硬化した硬化物であり, 前記保護シートは,前記表示装置と対向する面の表面粗さが1.5nm以上400nm以下である,静電容量式タッチパネルに関する。 (2) 前記(1)によると,本件発明について,次のとおり認めることができる。 ア 技術分野 本件発明は,静電容量式タッチパネル付き表示装置及び静電容量式タッチパネルに関する。【0001】 ( ) イ 課題 近年,タッチパネルの軽量化,又は薄型化の要求が高まっており,静電容量式タッチパネルとして,カバーガラスを設けない1枚透明基板タイプのものが用いられるようになっている。1枚透明基板タイプの静電容量式タッチパネルを表示装置に取り付けた場合,ニュートンリングが生じる問題がある。しかし,従来用いられているアンチニュートンリングフィルムは,ヘイズが高く透明性が不充分で,タッチ面の明るさを低下させることから,表示装置やタッチパネルに適用するのは好ましくない。一方,クリアタイプのフィルムをタッチパネルの裏面又は表示装置の前面に使用すると対向する面に接触したまま戻りにくくなることがあり,付着したまま戻らないと表示装置の画像が歪んで見えるため実用上,問題となる。 本件発明は,上記事情に鑑みてされたものであって,ニュートンリングが発生しにくく,かつタッチ面の明るさも良好な静電容量式タッチパネル付き表示装置及び静電容量式タッチパネルを提供することを目的とする。【0007】 ( ) ウ 課題を解決するための手段 1枚透明基板タイプの静電容量式タッチパネルの裏面と,表示装置の前面とが空間を介して対向した構成において,前記タッチパネルの裏面(前記表示装置の前面と対向する面) 又は表示装置の前面 , (前記静電容量式タッチパネルの裏面と対向する面)を,所定の表面粗さを有するものとすることにより上記課題が解決される。 (【0008】) エ 効果 本件発明によれば,ニュートンリングが発生しにくく,かつタッチ面の明るさも良好な静電容量式タッチパネル付き表示装置及び静電容量式タッチパネルを提供できる。【0011】 ( ) オ 第二の実施形態 静電容量式タッチパネル付き表示装置102は,最前面に偏光板12が配置された液晶ディスプレイ11と,静電容量式タッチパネル22を備え,タッチパネル22は,液晶ディスプレイ11の前面に,偏光板12との間に隙間を設けて配置され,外縁部が粘着剤層31で液晶ディスプレイ11に固定されている。 タッチパネル22は,透明基板1と,透明基板1の裏面(液晶ディスプレイ11側)に設けられた導電層2と,導電層2上に粘着剤層3を介して積層された保護シート4と,透明基板1の前面側に設けられた導電層6と,導電層6上に粘着剤層7を介して積層された保護シート8を備え,導電層2の裏面の外縁部には印刷層5が形成されている。 保護シート4は,液晶ディスプレイ11と対向する面が,微細な凹凸を有する凹凸面となっており,前記凹凸面の表面粗さが1.5nm以上400nm以下である。 保護シート8は,前面及び裏面の両面ともに凹凸形状が形成されていない平坦な面であることが好ましい。【0058】【0014】 ( , ) 導電層2及び導電層6は,絶縁性の透明基板1上に形成された導電性の膜であって,表面型静電容量式タッチパネルなどに用いられる,透明基板1上で面内方向で実質的に均一な導電性能を有する均一層でもよいし,投影型静電容量方式のタッチパネルなどに用いられる,位置検知のために面内に一部絶縁性部を設け,導電性能が規則的にパターン化された導電層であってもよい。実質的に均一な導電層を適用する場合でも,タッチパネルの構成などに応じて,引き出し電極等形成のため,導電層の外周近傍の一部をパターン化する場合もある。導電層2及び導電層6の材質や厚みは同じでも異なってもよい。【0058】【0018】 ( , ) 2 静電容量式タッチパネルに関する技術常識について (1) 後掲の証拠及び弁論の全趣旨によると,本件優先日当時,静電容量式タッチパネルに関し,次のとおりの技術常識があったことが認められる。 ア 静電容量式タッチパネルの概要 タッチパネルの種類には,次の@〜Cのように種々の検知方式がある。 @静電容量式(表面型,投影型) A抵抗膜式(アナログ抵抗膜,マトリックス抵抗膜) B光学式(赤外線走査,画像認識) C超音波式(表面弾性波,振動検出・音響パルス認識) 静電容量式は,静電容量の変化を利用し位置の検出を行うものである。静電容量とは,ある導体と導体との間に誘電体が存在すると発生するものである。 (甲47の51頁7行〜9行) 静電容量を変化させる方法として, 「表面型静電容量式」は,一方の導体がITO(酸化インジウムスズ)などの透明電極であり,他方の導体が人体の指となる。透明電極と指との距離が変化することで静電容量が変化する。また, 「投影型静電容量式」は,ITOなどの2つの透明電極の間の静電容量を指などで変化させるものである。(甲47の52頁8行〜10行) イ 表面型静電容量式タッチパネルにおける導電層 (ア) 表面型静電容量式タッチパネルを構成する導電層 表面型静電容量式タッチパネルは,図2.13(甲47の53頁)に示すように,ガラス基板上に一様な「透明導電膜」を形成し,導電膜の4角に「配線用電極」を施したものである。図2.14(甲47の53頁),図2.15(甲47の54頁),図2.16(甲47の54頁)のように,ガラス基板の4角にある電極に電圧をかけてパネル全体に均一な低圧の電界を発生させ,透明導電膜を指でタッチすると,指が触れた際の静電容量の変化が生じ,4角の配線用電極の電流値が変化する。この電流値の変化量は,4角からタッチ点Pまでの距離に反比例するので,これに基づき,指がタッチした座標位置が検出される(甲47の53頁2行〜54頁6行,乙1の3の91頁左欄26行〜右欄2行)。 また,4角の配線用電極だけでは湾曲した面上の位置を検出することとなるため,透明導電膜の周囲に「額縁電極」を設けている(図2.15参照)。 よって,表面型静電容量式タッチパネルを構成する導電層には,一様な「透明導電膜」と「額縁電極」及び4角の「配線用電極」が含まれる。 (イ) 表面型静電容量式タッチパネルにおける導電層の配置位置 表面型静電容量式タッチパネルの導電層は,ガラス基板等の透明基板の表面(指でタッチされる面)側(図2.13参照)又は裏面側のいずれに配置してもよい。 ただし,裏面側に配置する場合には,導電層と指との間に透明基板が介在するため,静電容量の変化が小さくなり検知感度が低下する。 このような検出感度の低下を補う方法として, 「インナー型」と呼ばれる方式がある。これは,表面型静電容量式の一種であり,導電層の構成は変わらないが,図2.18(甲47の56頁)に示すように回路構成に特徴がある。 「インナー型」であっても,透明基板の裏面側に限らず,表面側に導電層を配置することも可能である(図2.19(甲47の57頁)参照)。 ウ 投影型静電容量式タッチパネルの導電層 (ア) 投影型静電容量式タッチパネルを構成する導電層 投影型静電容量式タッチパネルには,「Wire Sensor 方式」と「ITO Grid 方式」がある。 「Wire Sensor 方式」は,図2.20(甲47の58頁)に示すように,複雑な配線パターンを持った導電性ワイヤーにより,X軸方向とY軸方向の信号を検出している。Wire Sensor 方式」 「 は文字通りワイヤーがあり,それが視認されるが,ITO Grid 「方式」では実現できない大画面(20インチ以上)で用いられるものである。 一方,「ITO Grid 方式」は,図2.22(甲47の60頁)に示すように,透明導電膜パターンで形成したX軸方向に対応した検出パターンとY軸方向に対応した検出パターンとを互いに重ねて配置したものである。 ITO Grid 方式では,図2.23(甲47の61頁)のように,X軸検出パターンの透明導電膜とY軸検出パターンの透明導電膜との間に絶縁膜を配置する方法がある。また,X軸検出パターンの透明導電膜とY軸検出パターンの透明導電膜とを,ガラス基板やフィルムの表裏の別々の面に配置する方法もある(甲20の図7は,この形態に対応する。。 ) したがって,投影型静電容量式タッチパネルを構成する導電層には,導電性ワイヤー,又はX軸検出パターンとY軸検出パターンを有する透明導電膜が該当する。 ただし,X軸検出パターンとY軸検出パターンを使用する場合には絶縁膜が使用される場合がある。 (イ) 投影型静電容量式タッチパネルにおける導電層の配置位置 投影型静電容量式タッチパネルの導電層の配置は,導電性ワイヤーを用いる場合(「Wire Sensor 方式」)には,ガラス基板等の透明基板の表面側又は裏面側のいずれか一方に配置される。X軸検出パターンの透明導電膜とY軸検出パターンの透明導電膜とを用いる場合(「ITO Grid 方式」)には,図2.24(甲47の61頁)に示すように,ガラス基板等の透明基板の表面側又は裏面側のいずれか一方に,二つの検出パターンと絶縁膜を含む3層の膜を一緒に配置する方法(図2.24のA参照)や,一つの透明基板の両側に二つの検出パターンを別々に配置する方法(図2.24の@参照)がある。 (2)ア 本件優先日(平成23年11月7日)前に発行された刊行物には,次の記載がある。 (ア) 黒沢理「第5章 静電容量式タッチパネルの最新技術動向」三谷雄二監修『タッチパネル-開発技術の進展-』 (シーエムシー出版,平成21年6月発行)54頁〜64頁(甲48)「2 静電容量式タッチパネルのパネル構成 パネル構成の断面の一例を図1に示した。 一般的にはガラス一枚で構成されており,その表裏に透明導電膜及び保護膜(オーバーコート)が形成されている。以下にタッチ面側からの形成膜などのそれぞれの役割を簡単に解説する。(55頁1行〜5行) 」「F 裏面透明導電膜(シールド層) ディスプレイのノイズからシステムの電子系を保護し,タッチパネルの繰り返し位置精度の向上を目的としている。フロントシールドと共にグランドに接続される。 裏面透明導電膜の抵抗値は表面透明導電膜より低いことが望ましいが,あまり低すぎるとグランドへのリークが大きすぎ表面の平等電界形成が難しくなるため,通常100Ω/□程度で成膜している。(56頁末行〜57頁4行) 」 (イ) 吉田明・谷本一樹「静電容量式タッチパネル」三谷雄二・板倉義雄監修『月刊ディスプレイ別冊《新・タッチパネル実用講座》(テクノタイムズ社,平 』成23年4月発行)24頁〜28頁(乙1の1)「5.3 ノイズ対策 静電容量式タッチパネルはその仕組み上,電気的ノイズがタッチパネルの感度に対し非常に大きな悪影響を及ぼす。特にLCDからのノイズに対しては注意を払う必要があり,製品として使用するLCDとは事前に調整を行っておく必要がある。 このノイズ対策としてはパネルとLCDとの間にエアギャップを設けることや,シールド層を設けるなどの対策を施す必要がある。しかしながら,これらの対策を行った場合に起こりうる光学特性の劣化,組み込む電子機器の総厚についても考慮する必要がある。(27頁右欄31行〜28頁左欄8行) 」 (ウ) 中谷健司「ディスプレイ搭載タッチパネルの光学的諸問題」三谷雄二・板倉義雄監修『月刊ディスプレイ別冊《新・タッチパネル実用講座》(テクノタイ 』ムズ社,平成23年4月発行)90頁〜97頁(乙1の3)「・・・静電容量式では指の接触による数pFの微弱な容量変化に影響を受けることから,ディスプレイから発生する電磁波がノイズとなり,プラズマディスプレイでは利用することはできない。LCDでもタッチパネル裏面にEMI処理を施す必要が生じる場合もある。 EMI処理としては,タッチパネルの裏面に表面のITO層より低抵抗のITO層(100Ω/□以下)を設ける。基板の表裏にITO層をつけた構造でも,中間に空気層が必要な抵抗膜式タッチパネルに比べれば透過率,反射率の点で有利なタッチパネルである。現在ではEMI処理が不要なInner Capacitiveタッチパネルが東プレ(株)より提案されている。また,制御用のICでノイズ処理をすることでEMIを不要にした高透過率タッチパネルがシャープから提案されているが,これは光学的にはさらに有利で,94%以上の透過率が得られている。」(92頁3行〜19行) イ 前記アによると,本件優先日当時,静電容量式タッチパネルのシールド層に関し,次のとおりの技術常識があったものと認められる。 (ア) 静電容量式タッチパネルでは,指の接触による微弱な容量変化を検出するため,LCD(液晶ディスプレイ)等のディスプレイ(表示装置)から発生する電磁波がノイズとなり,位置検出に悪影響を及ぼすことがある。 そこで,位置検出のために設けられた導電層を,このLCD等のディスプレイ(表示装置)から発生する電磁波から保護すること(EMI処理)を目的として,シールド層が設けられることがある。 シールド層は,位置検出のために設けられた導電層よりも低抵抗の導電層である。 また,シールド層は,その目的に照らし,位置検出のために設けられた導電層とLCD等のディスプレイ(表示装置)との間に設けられるものであり,基板の表示装置側に設けられる。 (イ) この電磁波の対策(EMI処理)としては,LCD等のディスプレイ(表示装置)から発生する電磁波の程度により,タッチパネルとLCDとの間にエアギャップを設けることも知られていたほか,EMI処理を必要としないタッチパネルも複数社から提案されていた。 したがって,シールド層は,本件優先日当時,静電容量式タッチパネルの必須の構成ではなかった。 3 取消事由1(本件訂正発明5と甲1発明との相違点3の容易想到性についての判断の誤り)について (1) 甲1発明について ア 甲1には,以下の記載がある。 (ア) 技術分野【0001】 本発明はタッチパネルに関し,特に表示パネルに組み込まれた静電容量タッチパネルに関する。 (イ) 背景技術【0002】 PDA,手のひらサイズのPC,情報機器などの大抵の電子機器は,タッチ表示パネルを有する。タッチ表示パネルは,レンズと,表示パネルと,及び,前記レンズと表示パネルの間に配置されたタッチパネルとから構成されている。従来技術においては,レンズとタッチパネルは,別々に異なる基板上に形成される。それらの基板は,通常はガラス基板である。そしてレンズとタッチパネルは重ねられてタッチモジュールを形成する。タッチモジュールはさらに,表示パネルと重ねられて貼り付けられ,タッチ表示パネルを形成する。ユーザは,彼又は彼女の指,又はタッチペンで,タッチ表示パネルに表示された対象物を触れて,情報の入力又は操作を行うことができる。 【0003】 図6を参照されたい。図6は,従来のタッチ表示パネルの断面図である。図6で示されているように,従来技術においては,タッチパネル 6 は,表示パネル 2b とレンズ 5 の間に配置されている。ブラック層 51 は,レンズ 5 の下面の外周部に設けられている。ブラック層 51 は,タッチパネル 6 の上面の外周部に貼り付けられている。 図6に示すように,ブラック層 51 とタッチパネル 6 の間に接着層 4c がある。従来のタッチパネル 6 には,ガラス基板 61 の上面に導電層が形成されている。導電層は,少なくとも下部の透明導電層 62 と上部の透明導電層 65 を含む。導電層は,限定するものではないが,インジウム鈴酸化物(ITO)を含んでよい。上部の透明導電層65 と下部の透明導電層 62 の間に透明絶縁層 64 が形成されている。上部の透明導電層 65 と下部の透明導電層 62 の外周部には,それぞれ信号を伝送するためにメタルトレース 63 が形成されている。ブラック層 51 は,メタルトレース 63 を覆い隠すように配置され,メタルトレース 63 はレンズ 5 の上から見たとき露出されず,レンズ5 の外観を美化している。 (窒化ケイ素,二酸化ケイ素などのような)絶縁物質からなる透明な保護膜 66 が,上部透明導電層 65 の上方に形成され,上部導電層 65 が擦られ損傷を受けるのを防いでいる。タッチパネル 6 に触れられた位置の座標は,透明導電層 62,65 と人体間に発生する静電容量に相当する誘起電流の検出に従って得られる。 【図6】従来技術によるタッチ表示パネルの断面図〔判決注・右90°回転させたものである。〕【0006】 上述したように,従来技術では,レンズ 5 とタッチパネル 6 は,別々に個別にガラス基板上に形成され,タッチパネルのガラス基板 61 は,図6では個別に示されている。別々に個別に製造された後,レンズ 5 とタッチパネル 6 は,積層される。レンズ 5 と,タッチパネル 6 のガラス基板 61 の各々は,同じガラス物質であり,タッチパネルの製造ではガラス物質の消費量を増加させている。さらに,組み立て工程は大変複雑で,時間がかかり,積層工程中に不良品が発生し易い。さらにレンズとタッチパネルの両方ともガラス基板を採用しているので,タッチ表示パネルの厚さを減らすのは難しい。 【0007】 上記を考慮すると,上記欠点を排除できる静電容量タッチパネルに対するニーズがある。 (ウ) 発明が解決しようとする課題【0008】 本発明の目的の1つは,低コストの,高い歩留まり率の,簡単化された組み立て工程の一体に形成された静電容量タッチパネルを提供することである。 【0009】 本発明の別の目的は,一体に形成されたスリム型の静電容量タッチパネルを提供することである。 (エ) 課題を解決するための手段【0010】 一体に形成される静電容量タッチパネルの例示的実施形態が開示される。静電容量タッチパネルは,第1表面と第2表面を有する単一(singular)のレンズ基板と,マスク層と,前記単一レンズ基板と一体に結合されたセンス回路とを含む。前記単一レンズ基板,前記マスク層,前記センス回路は一体に形成される。 【0011】 一体に形成されたスリム型の静電容量タッチパネルの例示的実施形態が開示される。この静電容量タッチパネルは,物理的触覚入力を受ける表面,及び底面をもつ単一のレンズ基板と,マスク層と,センス回路とを含むものである。前記マスク層と前記センス回路は前記単一レンズ基板の底面に一体に形成される。 (オ) 発明を実施するための形態【0014】 図1は,本発明の一体に形成された静電容量タッチパネル 1 を有する電子機器を示す斜視図である。静電容量タッチパネル 1 は,図1に示すように,電子機器のシェル 3 に取り付けられる。図2は,本発明の1つの例示的実施形態による,表示パネル 2 上に配置された静電容量タッチパネル 1 を示す断面図である。本発明において,静電容量タッチパネル 1 は,単一基板 11 と,マスク層 12 と,センス回路 13とを含む。単一基板 11,マスク層 12 及びセンス回路 13 は一体に形成される。従って,一体に形成される静電容量タッチパネル 1 用に,他の基板を採用する必要はない。本タッチパネルの組み立てにおいては,従来のタッチモジュールにおいて必要となるラミネート処理を行う必要はない。詳細は以下に説明される。 【図2】本発明の例示的実施形態による静電容量タッチパネルを含むタッチ表示パネルの断面図〔判決注・右90°回転させたものである。〕【0015】 単一基板 11 は,ガラス物質からなり,単一レンズ基板を形成することができる。 単一基板 11 としてはその他に,プラスチック材で構成し,限定するものではないが,ゴムとエボナイトを含んでよい。単一基板 11 は,物理的触覚入力を受ける表面 111と,単一基板 11 の底面 112 とを含む。 【0016】 マスク層 12 は,単一基板 11 の底面 112 上に一体形成されてよく,マスク層 12は,ブラックレジスト又は他の不透明なコーティング層とすることができる。平滑層 15 は,図2に示されているように,単一基板 11 の片側に設けられている。本発明による製造工程においては,平滑層 15 は,マスク層 12 の下面が滑らかになるように,そこに成長させるセンス回路 13 がより平坦になるように,設けられる。従って,タッチパネル 1 の最終製品の歩留まり率を,向上させることができる。平滑層15 は,透明な有機又は無機の物質によって形成されてよい。平滑層 15 は,本発明では任意選択であることに留意されたい。図2に示す構造は例示のためのみである。 【0018】 ・・・本発明の1つの例示的実施形態に従うと,単一基板 11 の底面上にシールド層 16 を設けることができ,マスク層はその上に延びている。シールド層 16 はノイズ信号を防ぐことができる。 【0019】 センス回路 13 はコーティング,露光,現像,エッチングによって形成してよい。 例示的実施形態の1つにおいては,センス回路 13 は導電性電極 131 を含む。センス回路 13 は,さらに図2に示すようにメタルトレース 132 を含むことができる。メタルトレース 132 は,導電性電極 131 の表面に配置できる。図3を参照されたい。図3は,本発明の別の例示的実施形態による静電容量タッチパネルを含むタッチ表示パネルの断面図である。図3に示すように,メタルトレース 133 が,導電性電極 131の底面上に配置されている。図2に示す実施形態のメタルトレース 132 と,図3に示す実施形態のメタルトレース 133 は,両方とも単一基板 11 の上から見ると,マスク層 12 によって“覆い隠されている”。単一基板 11 の上から見ると,メタルトレース 132 と 133 は露出していないので,単一基板 11 の外観は改善される。 【図3】本発明の例示的実施形態による静電容量タッチパネルを含むタッチ表示パネルの断面図〔判決注・右90°回転させたものである。〕【0020】 導電性電極 131 は,通常(インジウム鈴酸化物(ITO)のような)透明な導電物質によって形成されている。(図2に示すような)保護膜 17 が,センス回路 13の下面上にコーティングされている。一体に形成された静電容量タッチパネル 1 と,表示パネル 2 の外周部との間に,接着層 4 が設けられている。図2に示すような1つの例示的実施形態では,接着層 4 は,保護層 17 と表示パネル 2 の間に設けられ,一方,例えば図3に示すように,他の実施形態では,保護層 17 は除外してよく,接着層 4 は,センス回路 13 と表示パネル 2 の間に直接に配置されている。 【0022】 本発明においては,タッチパネルの範囲内で,レンズとセンス回路は同じ単一基板を共有し,一体に形成される。このようにして,従来,レンズとタッチパネル用に別々に使用される基板を削減することができる。従って,従来のタッチパネル製造におけるボンディング・ラミネート工程を簡単化できる。タッチパネルの製造の費用及び時間を削減でき,且つ,タッチパネルはスリム型デザインにすることができる。 【0023】 図4は,本発明の別の実施形態による,表示パネル 2a 上に取り付けられた静電容量タッチパネル 1a を示す断面図である。静電容量タッチパネル 1a は,単一レンズ基板 11a と,マスク層 12a と,第1のセンス回路 13a と,絶縁層 18a と,第2のセンス回路 19a とを含む。本発明によると,前記静電容量タッチパネル 1a の,単一レンズ基板 11a,マスク層 12a,第1のセンス回路 13a,絶縁層 18a,第2のセンス回路 19a は,一体に形成される。 【図4】本発明の例示的実施形態による静電容量タッチパネルを含むタッチ表示パネルの断面図〔判決注・右90°回転させたものである。〕【0025】 マスク層 12a は,単一レンズ基板 11a の底面 112a 上に設けられている。マスク層12a は,ブラックの樹脂又は他の不透明なコーティング材によって形成してよい。 【0026】 第1センス回路 13a は,単一レンズ基板 11a とマスク層 12a 上に延びている。本発明の例示的実施形態のいくつかに於いては,単一レンズ基板 11a 上に,透明な,有機又は無機材質によって形成されている平滑層 15a が設けられており,その上に延びている第1センス回路は,より平坦になっている。平滑層 15a は,本発明においては,任意選択であり,別の実施形態においては,除外してよいことに留意されたい。図4に示すように,第1センス回路 13a の一部は,マスク層 12a の底面上に延びており,従って,単一レンズ基板 11a の上から見ると,第1センス回路 13a のその部分は,マスク層 12a に“覆い隠されている”ように見える。第1センス回路 13aの露出した部分,即ち,マスク層 12a の下には延びていない,第1センス回路の部分が,センシング領域 14a を形成する。物理的触覚入力が,表面 111a によって受け取られると,それに応じて,第1センス回路 13a は,第1の軸方向のセンス信号を出力し,第2のセンス回路 19a は,第2の軸方向のセンス信号を出力することができる。 【0027】 絶縁層 18a が設けられ,第1センス回路 13a と第2センス回路 19a とを絶縁する。 2つのセンス回路 13a と 19a は,互いに直交している。従って,絶縁層 18a は,電気的に第1センス回路 13a と第2センス回路 19a を絶縁するのに使用される。絶縁層 18a は,2つのセンス回路間に全体的に配置してもよいし,又は,交差エリアに於ける第1センス回路 13a と第2センス回路 19a の接触を防ぐいくつかのエリアのみに配置してもよい。 【0028】 本発明の例示的実施形態によると,単一レンズ基板 11a の底面上にシールド層 16aを設けることができ,その上にさらにマスク層 12a を延びている。シールド層 16aは,ノイズ信号の防止を提供することができる。いくつかの例示的実施形態に於いては,シールド層 16a の幅は,マスク層 12a の幅と同じでよい。 【0029】 例示的実施形態の1つに於いては,第1センス回路 13a は,導電性電極 134a を含む。第1センス回路 13a はさらに,導電性電極 134a 上に配置されたメタルトレース132a を含むことができる。図4に示すように,メタルトレース 132a は,導電性電極 134a の表面上に配置してよい。図5を参照されたい。図5は,本発明の別の例示的実施形態による静電容量タッチパネルを含むタッチ表示パネルの断面図である。 図5に示されているように,メタルトレース 133a は,導電性電極 134a の底面上に配置してよい。図4に示されている実施形態のメタルトレース 132a と,図5に示されている実施形態のメタルトレース 133a とは,上から(例えば,単一基板 11a の上から)見ると,両方ともマスク層 12a で“覆い隠されている”。単一基板 11a の上から見ると,メタルトレース 132a と 133a は,露出してはいないので,単一レンズ基板 11a の外観は改善される。 【図5】本発明の例示的実施形態による静電容量タッチパネルを含むタッチ表示パネルの断面図〔判決注・右90°回転させたものである。〕【0030】 第2センス回路 19a は,導電性電極 134b を含む。例示的実施形態の1つにおいては,第2センス回路 19a は,さらに,導電性電極 134b 上に配置されたメタルトレース 132b を含んでよい。図4に示すように,メタルトレース 132b は,導電性電極 134bの表面に配置してよい。図5に示す別の例示的実施形態では,メタルトレース 133bは,導電性電極 134b の底面に配置してよい。同じように,図4に示される実施形態のメタルトレース 132b と,図5に示される実施形態のメタルトレース 133b は,両方とも,単一レンズ基板 11a の上から見ると,マスク層 12a によって“覆い隠されている”。メタルトレース 132b と 133b は,単一レンズ基板 11a の上から見て,視覚的に露出されていない。 【0031】 静電容量タッチパネル 1a と表示パネル 2a の間に接着層 4a が設けられている。図4に示される例示的実施形態に於いては,保護膜 17a が選択的にさらに組み込まれ,第2センス回路の底面上に一体に形成されている。図5に示すように,保護膜 17aは省かれ,接着層 4a は,第2センス回路 19a と表示パネル 2a に直接接合されている。 【0033】 本発明においては,静電容量タッチパネルの範囲内で,レンズ,マスク層,及びセンス回路は,同じ単一基板を共有し,一体に形成されている。本発明の前述の例示的実施形態において示されたように,マスク層とセンス回路は,単一基板の同じ側に形成してよい。しかし,本発明においては,マスク層とセンス回路は,単一基板の反対側に形成することができる。他の実施形態においては,本発明のセンス回路は,単一基板,マスク層の双方と或いはそのいずれかと結合してもよい。さらに,本発明の他の実施形態においては,マスク層とセンス回路は,単一基板の底面上に一体に形成してよい。本発明によれば,従来法でレンズとタッチパネル用に個別に用意される基板を削減することができる。従って,従来のタッチ表示パネルの製造におけるラミネート工程を簡単化することができる。タッチパネル製造の費用と時間を削減することができる。静電容量タッチパネルのサイズを削減することができる。 イ 前記アの記載(特に,図2に示される実施形態)によると,甲1には,審決認定のとおり,以下の甲1発明が記載されていると認められる。 「表示パネル2の前面側に,前記表示パネル2との間に隙間を設けて配置され,外周部が接着層4で前記表示パネル2に固定された静電容量タッチパネル1であって, 前記静電容量タッチパネル1は,単一基板11と,前記単一基板11の前記表示パネル2側に設けられた導電性電極131と,前記導電性電極131の下面上にコーティングされた保護膜17とを備える, 静電容量タッチパネル1。」 (2) 本件訂正発明5と甲1発明の相違点について 前記認定によると,本件訂正発明5と甲1発明とは,審決が認定するとおり,前記第2の4(2)ア(ウ)の相違点1〜3(以下に相違点3を再掲)において相違する。 (相違点3) 本件訂正発明5では, 「さらに,前記透明基板の前記表示装置側とは反対側に設けられた導電層と,前記導電層上に粘着剤層を介して積層された第2の保護シートとを備える」のに対し,甲1発明では,それらを備えていない点。 (3) 相違点3の容易想到性について ア(ア) 相違点3は,本件訂正発明5の「前記透明基板の前記表示装置側とは反対側に設けられた導電層」に係るものであることから,まず,本件訂正発明5の「導電層」の意義を検討する。 本件訂正発明5は,前記第2の2(1)のとおり,特許請求の範囲の記載の文言上,「導電層」が配置される位置について限定しているものの, 「導電層」の機能については,導電性を有すること以外に限定していない。 そして,静電容量式タッチパネルにおいて,導電性を有する層としては,前記2のとおり,タッチを検出するための電極(以下,「検出電極」という。)が必須の構成であるから,静電容量式タッチパネルの発明である本件訂正発明5における「導電層」が検出電極を含むものであることは明らかである。 もっとも,静電容量式タッチパネルにおいて,導電性を有する層としては,検出電極のほか,前記2のとおり,シールド層も考えられることから,本件訂正発明5の「導電層」が検出電極のほか,シールド層を含むとの解釈も成立し得るということができるが,シールド層が必須の構成ではないことからすると,本件訂正発明5の「導電層」にシールド層を含むかどうかは,特許請求の範囲の記載のみでは,一義的に明確に理解することができるとはいい難い。 (イ) そこで,本件訂正発明5における「導電層」の意義について,本件明細書の記載を参酌すると,前記1(1)のとおり,本件明細書において「導電層」に言及している箇所は,@一般的な静電容量式タッチパネルについての説明(【0003】,A従来技術の静電容量式タッチパネルについての説明( ) 【0004】【000 ,7】 ,B請求項1〜5と同様の導電層についての記載( ) 【0008】 【0010】 , ,【0062】〜【0066】,C第一の実施形態の導電層2についての説明( ) 【0014】【0017】〜【0020】,D第一の実施形態における保護シートに設け , )られる導電層についての説明(【0045】【0055】【0056】,E第二の実 , , )施形態の導電層2及び導電層6についての説明 【0058】, ( ) F第三の実施形態の導電層6についての説明 【0059】, ( ) 及び,G符号の説明 【0086】 である。 ( ) (ウ) 第一の実施形態の導電層2についての記載(前記C)を検討する。 「導電層2は,表面型静電容量式タッチパネルなどに用いられる,透明基板1上で面内方向で実質的に均一な導電性能を有する均一層でもよいし,投影型静電容量方式のタッチパネルなどに用いられる,位置検知のために面内に一部絶縁性部を設け,導電性能が規則的にパターン化された導電層であってもよい。( 」【0018】)との記載によると,投影型静電容量式タッチパネルにおける導電層2は, 「位置検知のため」の導電層であるというのであるから,検出電極であることは明らかであり,この点に関する上記の【0018】の記載は,前記2(1)ウ(ア)の投影型静電容量式タッチパネルの「ITO Grid 方式」の検出電極に係る技術常識とも整合する。 また,表面型静電容量式タッチパネルにおける導電層2が「面内方向で実質的に均一な導電性能を有する均一層」であることから,この均一層が表面型静電容量式タッチパネルの検出電極であると解される。なぜなら,前記2(1)イ(ア)のとおり,表面型静電容量式タッチパネルの検出電極は,ガラス基板上に一様な「透明導電膜」を形成し,パネル全体に均一な低圧の電界を発生させるものであるところ,本件明細書の第一の実施形態の導電層2は,そのようなパネル全体に均一な低圧の電界を発生させるために, 「面内方向で実質的に均一な導電性能を有する均一層」となっているものと解されるからである。 さらに, 「実質的に均一な導電層を適用する場合でも,タッチパネルの構成などに応じて,引き出し電極等形成のため,導電層2の外周近傍の一部をパターン化する場合もある。( 」【0018】)との記載は,前記2(1)イ(ア)の表面型静電容量式タッチパネルの検出電極に係る技術常識を踏まえると,タッチパネルの周囲に取り付けられる額縁電極を含む概念を指していると解される。 以上によると,第一の実施形態の導電層2は,表面型静電容量式タッチパネルの検出電極又は投影型静電容量式タッチパネルの検出電極であると解される。 (エ) 第一の実施形態における保護シートに設けられる導電層についての記載(前記D)を検討する。 「保護シートは,所望により,ハードコート層以外の機能層を有していてもよい。 ハードコート層以外の機能層としては,たとえば,反射防止層,導電層,ハードコート保護層,防眩層,屈折率調整層(中屈折率層),易接着層,帯電防止層,又は紫外線遮蔽層等の機能層等が挙げられる。 【0045】 と記載されており, 」 ( ) 「導電層」とは別に「帯電防止層」が記載されている。帯電とは,静止した電荷が蓄積されている状態であり,電荷の移動,すなわち電流は,電気抵抗が小さい導電性の物質に流れやすい性質を有するから,上記「帯電防止層」は,蓄積された電荷を電流として排出して電荷の蓄積を防止するために,導電性の物質から形成された導電性を有する層であると認められる。これとは別に記載されている上記「導電層」は,上記「帯電防止層」とは異なるものを意味すると解される。 また, 「図4に示す保護シート(以下,保護シート4-3)は,基材41の,ハードコート層42が設けられた側とは反対側の面に,さらに,第二のハードコート層44及び導電層45がこの順に積層している以外は,保護シート4と同様である」ところ, 「かかる保護シート4-3を保護シート4の代わりに用いた場合,タッチパネル21においては,導電層2と導電層45とが粘着剤層3を介して対向する」とされ,導電層45についての説明は, 「 導電層2と同様である」と記載されている 【0 (055】。前記(ウ)のとおり,導電層2は投影型静電容量式タッチパネルの検出電極 )を含むものであるから,導電層45と導電層2とが粘着剤層3を挟んで互いに対向することにより投影型静電容量式タッチパネルの2層の検出電極をなしていると理解することができる。 さらに, 【0056】に記載された保護シート4-4については,保護シート4-3に反射防止層43が設けられているに過ぎず,導電層に関しては保護シート4-3と同様である。 以上によると,保護シートに設けられる導電層は,検出電極であると解される。 (オ) 第二の実施形態の導電層2及び導電層6についての記載(前記E)を検討する。 「静電容量式タッチパネル付き表示装置102は,タッチパネル21の代わりにタッチパネル22を備える以外は,第一の実施形態の静電容量式タッチパネル付き表示装置101と同様の構成である。, 」「タッチパネル22は,透明基板1の前面側に設けられた導電層6と,導電層6上に粘着剤層7を介して積層された保護シート8をさらに備える以外は,タッチパネル21と同様の構成である。 とした上で, 」 「導電層6についての説明は,導電層2と同様である。」と記載されているから(【0058】,導電層6は,第一の実施形態の導電層2と同じく検出電極であると解され )る。そして,導電層2及び導電層6の2層の検出電極が存在することは,これらが投影型静電容量式タッチパネルの2層の検出電極を構成していると解釈できるのであって,導電層6を検出電極以外のものであると解釈すべき理由はない。 (カ) 第三の実施形態の導電層6についての記載(前記F)を検討する。 導電層については「タッチパネル23は,透明基板1と,透明基板1の前面側に設けられた導電層6と,導電層6上に粘着剤層7を介して積層された保護シート8とを備え,保護シート8の裏面の外縁部には印刷層9が形成されている。 【005 」 (9】 との記載があるのみで, ) この導電層についてこれ以上の具体的説明は存在しない。しかし,第三の実施形態の導電層6は,第二の実施形態の導電層6と同じ符号が付されていることや第三の実施形態において他に明示された導電層が存在しないことからすると,第三の実施形態の導電層6は検出電極であると解される。 (キ) 以上によると,本件発明の実施形態における導電層は,いずれも検出電極であって,シールド層を含まないものと解される。 この解釈は,一般的な静電容量式タッチパネルについての記載(前記@),従来技術の静電容量式タッチパネルについての記載(前記A) 請求項1〜5と同様の導電 ,層の記載(前記B)及び符号の説明(前記G)とも整合する。 したがって,本件明細書において「導電層」は,検出電極を意味するものであって,シールド層は含まないものであると解釈すべきであって,本件訂正発明5における「導電層」も,検出電極を意味するものであって,シールド層は含まないものと解すべきである。 このことは,本件訂正発明5が,本件訂正前に従属していた本件発明4の発明特定事項には, 「導電層」は一つしか含まれていないから,この「導電層」は,静電容量式タッチパネルにおける必須の構成である検出電極と解するのが自然であり,任意の構成にすぎないシールド層を含むものとは考え難いこととも整合する。 (ク) 原告は,本件訂正発明5に係る特許請求の範囲には, 「導電層」について, 「タッチを検出するための」との特定は記載されておらず,本件明細書の記載においても,導電層」 「 の形状について特段の限定もされていないから,審決のように,本件訂正発明5の「導電層」 特に , 「透明基板の表示装置側に設けられた導電層」は,「タッチを検出するための導電層」であると限定解釈をする理由は何もないと主張する。 しかし,本件明細書の記載を踏まえると,本件訂正発明5における「導電層」は,検出電極を意味するものであって,シールド層は含まないものと解すべきであることは,前記(ア)〜(キ)のとおりである。 (ケ) 原告は,静電容量式タッチパネルに設けられる「導電層」は,必ずしも「タッチを検出するための導電層」だけではなく,シールド層もあることは,技術常識であるから,本件訂正発明5の「導電層」を, 「タッチを検出するための導電層」だけでなく,シールド層を含むものと解釈することが自然であると主張する。 しかし,静電容量式タッチパネルに設けられる導電性を有する層には,シールド層が含まれることが技術常識であることを考慮しても,本件明細書の記載を踏まえると,本件訂正発明5における「導電層」は,検出電極を意味するものであって,シールド層は含まないものと解すべきであることは,前記(ア)〜(キ)のとおりである。 (コ) 原告は,審決のように,本件訂正発明5の「透明基板の表示装置側に設けられた導電層」 (本件明細書【図6】の「導電層2」)が, 「タッチを検出するための導電層」であると限定解釈すると,本件明細書の【0058】により, 「表示装置側とは反対側に設けられた導電層」 (本件明細書【図6】の「導電層6」)も, 「タッチを検出するための導電層」ということになり,本件訂正発明5は, 「タッチを検出するための導電層」が2箇所にあるという技術的意味が不明な発明になると主張する。 しかし,前記(オ)のとおり,導電層2と導電層6の2層の検出電極が存在することは,これらが投影型静電容量式タッチパネルの2層の検出電極を構成するものと解釈することができるから,本件訂正発明5における「導電層」を検出電極と解することは,同発明の技術的意味を何ら不明とするものではない。 また,原告は,審決のように,本件訂正発明5の「表示装置側の導電層」が本件発明4の「導電層」であり,シールド層ではない「タッチを検出するための導電層」であるとしてしまうと,透明基板の表面側の導電層について該当する構成が存在しないこととなると主張する。 しかし,後記(サ)のとおり,本件発明4には,基板両面構成の投影型静電容量式タッチパネルも含まれるから,本件訂正発明5の「表示装置側の導電層」を「タッチを検出するための導電層」と解したとしても,透明基板の表面側の導電層について該当する構成が存在しないことにはならない。 (サ) 原告は,審決は,本件訂正発明5の「導電層」は,本件発明4の「タッチを検出するための導電層」である唯一の「導電層」と同じものであるとする以上, 「一層の導電層によって,タッチを検出できるもの」を意味していることになるから,本件訂正発明5を「基板両面構成」の投影型の静電容量式のタッチパネルであると解釈することはできないと主張する。 しかし,本件発明4の「導電層」を,静電容量式タッチパネルにおける必須の構成である検出電極と解することが,この「導電層」のみによってタッチを検出できることを直ちに意味するものでないことは明らかである。本件発明4は,その発明特定事項のみから構成されることを規定しているものではない。 本件発明4の「導電層」は,検出電極を意味するものであるが,前記(ウ)で認定したところからすると,表面型静電容量式タッチパネルの透明導電膜のほか,投影型静電容量式タッチパネルの「ITO Grid 方式」におけるX軸検出パターン又はY軸検出パターンの透明導電膜の一方又は双方を含むものである。したがって,本件発明4には,基板両面構成の投影型静電容量式タッチパネルも含まれる。 そして,本件発明4の従属項であった本件訂正発明5は,本件発明4の「導電層」に加えて,透明基板の表示装置側とは反対側に設けられた導電層(前記(オ)の導電層6に相当する)を付加することにより,本件発明4のうち,透明基板の両面に導電層を設けた投影型静電容量式タッチパネルに限定したものと理解することができる。 なお,特許権者である被告は,本件発明4は「表面型」又は「投影型・基板1枚積層構成」に限定した発明であると主張するが,上記で判示したとおり,本件発明4には,基板両面構成の投影型静電容量式タッチパネルも含まれるから,被告の上記主張を採用することはできない。 (シ) 原告は,本件明細書の第一の実施形態によると,請求項1〜4は,表面型静電容量式タッチパネル又は基板片面構成の投影型静電容量式タッチパネルを規定したものであり,本件訂正前は請求項4の従属項であった請求項5のタッチパネルも,同様に,表面型静電容量式タッチパネル又は基板片面構成の投影型静電容量式タッチパネルと理解するのが自然であって,基板両面構成の投影型静電容量式タッチパネルであるとするのは無理があり,2層の「導電層」のうちの一つは位置検出用で,他の一つはシールド層であると理解せざるを得ないと主張する。 しかし,本件発明4は,表面型静電容量式タッチパネル及び基板片面構成の投影型静電容量式タッチパネルだけでなく,基板両面構成の投影型静電容量式タッチパネルを含むものであり,本件訂正発明5は,本件発明4のうち,基板両面構成の投影型静電容量式タッチパネルに限定したものということができることは,前記(サ)のとおりである。 (ス) 原告は,本件明細書の【0018】を根拠として,導電層からシールド層が除外されるということはできないと主張する。 しかし,本件明細書の記載を踏まえると,本件訂正発明5における「導電層」は,検出電極を意味するものであって,シールド層は含まないものと解すべきであることは,前記(ア)〜(キ)のとおりであって,本件訂正発明5の「導電層」にシールド層が含まれないとの解釈は,【0018】のみによるものではないし,【0018】の記載をみても,本件訂正発明5の「導電層」にシールド層が含まれることを積極的に基礎付けるようなものとはいえない。 イ 甲1発明は,前記(1)イのとおり,甲1の図2に示される実施形態に基づくものであり,導電性電極131及び保護膜17を有するものである。 そして,甲1の図4,図5に示される実施形態が,2層の導電性電極134a及び134bを備えるものであるのに対し,図2に示される実施形態の導電性電極131が単一の層として示されていることからすると,図2に示される実施形態に基づく甲1発明は,単一層の導電性電極によりタッチを検出する表面型静電容量式タッチパネルであると認められる。 そうすると,甲1発明は,単一基板11の表示パネル2側に設けられた導電性電極131の1層のみでタッチ位置の検出機能を果たすものであるから,甲1発明にこれ以上の検出電極を設ける動機付けは存在しない。 したがって,甲1発明に,相違点3に係る本件訂正発明5の構成である「さらに,前記透明基板の前記表示装置側とは反対側に設けられた導電層」を設ける動機付けはないから,甲1発明を主引用発明として本件訂正発明5には想到し得ない。 ウ 原告は,本件訂正発明5の二つの「導電層」が「タッチを検出するための導電層」を意味するものとすると,この二つの導電層を設ける構成は,一方の導電層のみでタッチパネルとして機能するはずであるから,その技術的意義は不明であり,機能・効果とも不明の導電層をただ組み合わせただけのものであって,甲1発明と甲3の技術を単に寄せ集めた程度のものにすぎないから,動機付けなどを求める必要はなく,当業者において,甲1発明に甲3の技術を組み合わせることに,何の困難性もないと主張する。 しかし,本件訂正発明5の二つの「導電層」がいずれも検出電極を意味するとしても,一方の導電層のみによってタッチを検出できるものと解釈する必要はなく,本件訂正発明5は,透明基板の両面に導電層を設けた投影型静電容量式タッチパネルを規定したものと理解することができることは,前記ア(オ)(コ)(サ)のとおりである。 したがって,本件訂正発明5が,機能・効果とも不明の導電層をただ組み合わせただけのものであって,甲1発明と甲3の技術を単に寄せ集めた程度のものにすぎないなどということはできない。 そして,甲1発明を主引用発明として甲3の技術を組み合わせる動機付けがないことは,前記イのとおりである。 原告の主張は,理由がない。 エ 原告は,甲1の図6には,従来のタッチパネルとして,表示装置の反対側に導電層及び保護膜を積層した静電容量方式のタッチパネルが開示されているから,静電容量方式のタッチパネルとして基板の表示装置の反対側に導電層及び保護膜を積層するという甲3の技術を組み合わせることについて示唆があると主張する。 しかし,甲1発明は,単一基板11の表示パネル2側に設けられた導電性電極131の1層のみでタッチ位置の検出機能を果たすものであるから,甲1発明にこれ以上の検出電極を設ける動機付けは存在しないことは,前記イのとおりである。甲1の図6に,表示装置の反対側に導電層及び保護膜を積層した静電容量方式のタッチパネルの開示があったとしても,導電性電極131により既にタッチ位置の検出機能を有する甲1発明に更に検出電極を設ける動機付けとなるものではないから,甲1発明に甲3の技術を組み合わせる動機付けがないことを左右するものではない。 原告の主張は,理由がない。 オ 原告は,「透明基板の両面にタッチを検出するための導電層を設けること」を技術常識として認識している当業者は,甲1発明(単一基板11の表示パネル2側に設けられた導電性電極131)と甲3の技術(基板32の表示素子180に面する表面とは反対側に設けられた透明導電構造体34)に基づき,両者を組み合わせて,本件訂正発明5のように二つの導電層を設ける構成を導出するのに,何の困難性もないと主張する。 しかし,甲1発明は,単一基板11の表示パネル2側に設けられた導電性電極131の1層のみでタッチ位置の検出機能を果たすものであるから,甲1発明にこれ以上の検出電極を設ける動機付けは存在しないことは,前記イのとおりである。基板両面構成の投影型静電容量式タッチパネルの存在が技術常識であることは,導電性電極131により既にタッチ位置の検出機能を有する甲1発明に更に検出電極を設ける動機付けとなるものではないから,甲1発明に甲3の技術を組み合わせる動機付けがないことを左右するものではない。 原告の主張は,理由がない。 カ 原告は,「透明基板の両面にタッチを検出するための導電層を設けること」が技術常識であり,甲1より容易に想到できるから,当業者において,甲1発明(単一基板11の表示パネル2側に設けられた導電性電極131)の導電層と基板を基板両面構成とし,甲3の技術(基板32の表示素子180に面する表面とは反対側に設けられた透明導電構造体34に粘着剤で保護膜36を接着する)を組み合わせて,本件訂正発明5のように二つの導電層に保護シートが積層される構成を導出するのに,何の困難性もないと主張する。 しかし,前記イのとおり,表面型静電容量式タッチパネルである甲1発明を,投影型静電容量式タッチパネルの基板両面構成に変える動機付けがあるとはいえないことは,次のとおりである。なお,被告は,原告の上記主張は時機に後れた主張であると主張するが,訴訟の完結を遅延させるものとまでいうことはできないので,却下することはしない。 (ア) 前記2(1)のとおり,本件優先日当時,表面型静電容量式タッチパネルと投影型静電容量式タッチパネルは,いずれも周知の技術であり,検知方式による分類においては,ともに静電容量式に分類されるものではあるが,検出原理は異なるものであり,透明導電膜の形状も全く異なるものである。そして,表面型静電容量式タッチパネルは,通常は1か所のタッチのみを検出するものであるが(乙1の1の24頁左欄23行〜24行)「高精度・高耐久・高感度」という利点があり(甲 ,47の55頁8行)その信頼性の面から不特定多数がタッチするアーケードゲーム ,機やKIOSK端末などの大型ディスプレイ向けに使用されているとされている(乙1の2の47頁左欄23行〜26行) 他方, 。 投影型静電容量式タッチパネルは,マルチタッチ(複数箇所のタッチ)の認識が可能であり(乙1の1の24頁右欄1行〜2行,25頁左欄8行〜右欄1行,同頁右欄14行〜15行) フリック , (払い)やピンチ(マルチ)といったジェスチャー操作ができ(甲47の59頁12行),マルチタッチ等のユーザーインターフェースにより携帯電話等の小型ディスプレイ向けに市場を拡大しているとされている(乙1の2の47頁左欄26行〜右欄3行)。 このように,表面型静電容量式タッチパネルと投影型静電容量式タッチパネルとは,近接する技術ではあるものの,その機能や性状を異にするものであるから,直ちに置換可能な技術ということはできず,これを置換することには相応の動機付けが必要であるというべきである。 (イ) しかし,甲1には,図2に示される実施形態である甲1発明の表面型静電容量式タッチパネルのほか,図3に示される実施形態である表面型静電容量式タッチパネル,図4及び図5に示される実施形態である基板の表示装置側に2層の検出電極を積層した基板1枚積層構成の投影型静電容量式タッチパネル,図6に示される基板の表示装置と反対側に2層の検出電極を積層した基板1枚積層構成の投影型静電容量式タッチパネル(従来技術)が開示されているものの,基板両面構成の投影型静電容量式タッチパネルは記載されておらず,表面型静電容量式タッチパネルを基板両面構成の投影型静電容量式タッチパネルに置換することは,記載も示唆もされていない。また,特開2010-211647号公報(甲20)は,従来技術として,基板両面構成の投影型静電容量式タッチパネルを開示しているが 【0 (004】,基板両面構成であることが製造プロセスの複雑化を招くとともに,タッ )チパネル装置の薄型化を困難とさせ,X電極,Y電極のそれぞれに保護シートが必要であることからタッチパネル装置を構成する層数が多くなり,光透過性に劣るという課題を生じさせていたことを指摘して(【0006】【0007】,これらの課 , )題を解決するために基板1枚積層構成の投影型静電容量式タッチパネルを採用した(【0010】)というものであって,表面型静電容量式タッチパネルを基板両面構成の投影型静電容量式タッチパネルに置換することは,記載も示唆もされていない。 さらに,甲47,乙1の1・2は,いずれも静電容量式タッチパネルの種々の方式及び構成を列挙するものであるが,表面型静電容量式タッチパネルを基板両面構成の投影型静電容量式タッチパネルに置換することは,記載も示唆もされていない。 (ウ) そうすると,表面型静電容量式タッチパネルである甲1発明を,投影型静電容量式タッチパネルの基板両面構成に変える動機付けがあるということはできないから,原告の主張は,理由がない。 キ 以上によると,相違点3は,当業者が容易に想到し得るものとはいえないから,本件訂正発明5は,甲1発明を主引用発明として容易に発明をすることができたものとは認められない。 取消事由1は,理由がない。 4 取消事由2(本件訂正発明5と甲3発明との相違点4の容易想到性についての判断の誤り)について (1) 甲3発明について ア 甲3には,以下の記載がある。 (ア) 技術分野【0001】 本発明は,パーソナルコンピュータに関し,特にタッチ型パーソナルコンピュータに関するものである。 (イ) 背景技術【0003】 従来のタッチ型パーソナルコンピュータは,一般的に液晶表示素子とパーソナルコンピュータ筐体とが一体化されたパーソナルコンピュータであり,前記液晶表示素子の表面に少なくとも1枚のタッチパネルが設置されている。前記タッチパネルは入力装置として,マウス及びキーボートなどに代わって信号を入力して,タッチ型パーソナルコンピュータの各種機能のオン及びオフを制御し,文字の入力を実現する。 【0005】 しかし,従来の抵抗膜方式タッチパネル及び静電容量方式タッチパネルにおいて,透明導電構造体として,インジウム・スズ酸化物(Indium Tin Oxide,ITO)層を用いる。前記ITO層はスパッタリング法,イオンプレーティング,塗布法などの方法により形成される。 【0006】 前記ITO層の製造過程において,真空環境が必要とされ,且つ200〜300℃まで加熱するので,その製造コストが高くなり,製造方法が複雑になる。また,ITO層は,機械的性能が良好でなく,湾曲し難く,且つ抵抗値の分布の均一性が低い欠点がある。また,ITOは,湿気が存在する空気で透明度が低下する。従って,従来のタッチパネル及びそのタッチパネルを用いるタッチ型パーソナルコンピュータには,耐用性が良好でなく,感度,線形性及び正確性が低い問題が存在する。 (ウ) 発明が解決しようとする課題【0007】 以上の問題点に鑑みて,耐用性が良好で,感度が高く,線形性及び正確性が高いタッチパネル及びそのタッチパネルを用いるタッチ型パーソナルコンピュータを提供することを目的とする。 (エ) 課題を解決するための手段【0008】 上述問題を解決するために,表示面を有する表示素子と,前記表示素子の前記表示面に対向する表面に設置されるパーソナルコンピュータ筐体と,前記表示面に設置される少なくとも1枚のタッチパネルと,を備えるタッチ型パーソナルコンピュータにおいて,前記タッチパネルは少なくとも1つの透明導電構造体を含み,単一の前記透明導電構造体は,カーボンナノチューブ構造体を含む。 (オ) 発明の効果【0009】 上述したように,カーボンナノチューブによるタッチパネルは,操作命令及び他の情報を直接入力することができるので,伝統的なマウス及びキーボード等の設備の機能に代わって(即ち,マウス及びキーボード等を省略可能)パーソナルコンピュータの構造を簡単にし,厚さを薄くして携帯に最も便利する。 【0010】 また,カーボンナノチューブは湿気がある環境でも優れた透明度を保持するので,カーボンナノチューブ構造体をタッチパネルの透明導電構造体にして,前記タッチパネルが優れた透明度を有するようにする。従って,前記タッチパネルを用いるタッチ型パーソナルコンピュータの解像度が向上する。 【0011】 また,カーボンナノチューブが優れた力学性能を有するので,前記カーボンナノチューブによるカーボンナノチューブ構造体は優れた靭性及び機械的強度を有する。 従って,タッチパネルの透明導電構造体としてカーボンナノチューブ構造体を用いることによって前記タッチパネル及びタッチ型パーソナルコンピュータの耐用性を向上させる。 【0012】 また,カーボンナノチューブが優れた導電性能を有し,カーボンナノチューブ構造体におけるカーボンナノチューブが均一に分布されるので,タッチパネルの透明導電構造体としてカーボンナノチューブ構造体を用いることによって前記タッチパネル及びタッチ型パーソナルコンピュータの解像度及び正確度を向上させる。 (カ) 発明を実施するための形態【0052】(実施例2) 図5は,本発明の実施例2に係るタッチ型パーソナルコンピュータ200におけるタッチパネル30の側断面図であり,図6は,本発明の実施例2に係るタッチ型パーソナルコンピュータ200の動作原理を示す図である。本実施例において,前記タッチ型パーソナルコンピュータ200は,表示素子180,パーソナルコンピュータ筐体190及び静電容量方式タッチパネル30を備える。 【図5】本発明の実施例2に係るタッチ型パーソナルコンピュータにおけるタッチパネルの側断面図【0056】 前記静電容量方式タッチパネル30は,基板32,透明導電構造体34,保護層36及び少なくとも2つの電極38を備える。 【0058】 前記透明導電構造体34は,前記表示素子180に面する表面とは反対側の基板32の表面に設置される。即ち,前記基板32の第一表面321に設置される。 【0059】 前記少なくとも2つの電極38は,前記透明導電構造体34の隅部又は外縁に設置され,且つ前記透明導電構造体34に電気的に接続される。前記少なくとも2つの電極38は,前記透明導電構造体34に等電位面を形成させる作用を奏する。 【0062】 前記透明導電構造体34は,カーボンナノチューブ構造体を含む。前記カーボンナノチューブ構造体には,複数のカーボンナノチューブが均一に分散されている。 該複数のカーボンナノチューブは分子間力で接続されている。前記カーボンナノチューブ構造体に,前記複数のカーボンナノチューブが配向し又は配向せずに配列されている。前記複数のカーボンナノチューブの配列方式により,前記カーボンナノチューブ構造体は非配向型のカーボンナノチューブ構造体又は配向型のカーボンナノチューブ構造体の2種に分類される。 【0069】 本実施例おいて,前記基板32は,ガラス基板である。前記4つの電極38は,銀又は銅などのような抵抗値が低い導電金属メッキ層又は金属箔からなるライン状電極38である。前記4つの電極38は,前記透明導電構造体34の同じ表面の4つの周辺に設置されている。また,前記透明導電構造体34に等電位面を形成することができれば,前記4つの電極38を前記透明導電構造体34の異なる表面に設置しても良い。 【0072】 前記透明導電構造体34の使用寿命を延長し,接触部位と透明導電構造体34との間のカップルリング・キャパシタンス(Coupling Capacitance)を制限するために,前記透明導電構造体34及び4つの電極38の上に保護層36をさらに設置することができる。前記保護層36は,窒化ケイ素,酸化ケイ素,ベンゾサイクルロブテン(BCB),ポリエステル又はアクリル樹脂などによって形成されることもできる。前記保護層36は,一定な硬さを有する。また,前記保護膜36は,特別な処理によってグレアや反射を低減させる機能のような付加機能を有することもできる。 【0073】 本実施例おいて,前記透明導電構造体34及び4つの電極38の上に二酸化珪素からなる保護層36形成する。前記保護層36の硬さは7Hに達する。上述したHとは,ロックウェル硬さ試験(Rockwell Hardness Test)において,試験荷重を取り除いた後の最初の基準荷重のみを受けて生じた塑性変形の深みを示す。また,前記保護層36の硬さ及び厚さは実際の必要に従って設定することができる。前記保護層36は,粘着剤によって前記透明導電構造体34に接着されることができる。 【0074】 また,前記タッチパネル30において,電磁干渉(Electromagnetic Interference)を低減してタッチパネル30が間違った信号を出力することを防止するために,前記基板32の第二表面322にシールド層35をさらに設置することができる。前記シールド層35の材料として,インジウム・スズ酸化物(ITO)膜,アンチモン・スズ酸化物(ATO)膜,又はカーボンナノチューブフィルムなどのような透明導電材料を用いることができる。前記カーボンナノチューブフィルムは,カーボンナノチューブが定向配列されたカーボンナノチューブフィルム,又は他の構造を持つカーボンナノチューブフィルムであることができる。本実施例おいて,前記カーボンナノチューブフィルムは,定向配列された複数のカーボンナノチューブを含む。本実施例における前記カーボンナノチューブフィルムの具体的な構造は,上述した透明導電構造体34の構造と同じである。 前記カーボンナノチューブフィルムは,接地素子としてシールド作用を奏して,タッチパネル30が無干渉の環境で作動されるようにする。 【0077】 本実施例の静電容量方式タッチパネル30を利用する場合,前記静電容量方式タッチパネル30の4つの電極38を通して前記透明導電構造体34に5Vの電圧を印加する場合,使用者は表示素子180に表示された情報を読みながら,指又はペンのような接触素子150で前記表示素子180の表面に設置された前記静電容量方式タッチパネル30を接触する。これにより,前記接触素子150と前記透明導電構造体34との間にカップリング・キャパシタンスが形成される。高周波電流においてキャパシタンスは直接的な導体であるので,接触素子150を前記静電容量方式タッチパネル30に接触させれば,前記接触素子150の接触部位151に一部分の電流が流れ込む。該電流は前記4つの電極38から流れ出し,前記4つの電極38で流れる電流は前記接触素子150と各隅部までの距離に正比例〔判決注・「反比例」の誤記と認める。〕する。前記タッチパネル制御器39は前記4つの電極38で流れる電流の比例を精確に計算して,前記接触部位151の座標を得る。その後,前記タッチパネル制御器39は前記接触部位151の座標データ 1 を内部に設置された入力ポートを通して前記パーソナルコンピュータ筐体190に入力する。 前記パーソナルコンピュータ筐体90は収集した座標データに対して処理を実施する。その後,処理されたデータを出力ポートを通して前記表示素子180の表示素子制御器182に出力して,前記表示素子180における所定の場所に,必要な情報を表示する。 イ 前記アの記載によると,甲3には,審決認定のとおり,以下の甲3発明が記載されていると認められる。 「表示素子180の前面側に,前記表示素子180との間に隔離部106を設けて配置され,外縁部が支持体108で表示素子180に固定された静電容量方式タッチパネル30であって, 前記静電容量方式タッチパネル30は,基板32と,前記基板32の前記表示素子180に面する表面とは反対側の前記基板32の表面に設置された透明導電構造体34と,前記透明導電構造体34の上に粘着材によって接着された保護層36とを備える, 静電容量方式タッチパネル30。」 (2) 本件訂正発明5と甲3発明の相違点について ア 前記認定によると,本件訂正発明5と甲3発明とは,審決が認定するとおり,前記第2の4(2)イ(ウ)の相違点4(以下に再掲)において相違する。 (相違点4) 本件訂正発明5は, 「前記透明基板の前記表示装置側に設けられた導電層と,前記導電層上に粘着剤層を介して積層された第1の保護シートとを備え,前記第1の保護シートは,前記表示装置と対向する面の表面粗さが1.5nm以上400nm以下であ」るという構成を有しているのに対し,甲3発明は,それに対応する構成を有するものではない点。 イ 原告は,本件訂正発明5の「導電層」は「タッチを検出するための導電層」であると限定して解釈すべきではなく,甲3記載の「シールド層」は本件訂正発明5の「導電層」に相当するから,相違点4のうち「前記透明基板の前記表示装置側に設けられた導電層と,前記導電層上に粘着剤層を介して積層された第1の保護シート」は,相違点ではなく,一致点であると主張する。 しかし,本件訂正発明5における「導電層」は,検出電極を意味するものであって,シールド層は含まないものと解すべきであることは,前記3(3)ア(ア)〜(キ)のとおりである。 したがって,甲3記載の基板32の表示素子180に面する第二表面322に設置されたシールド層35は,本件訂正発明5における「導電層」に相当するものではないから,相違点4のうち「前記透明基板の前記表示装置側に設けられた導電層と,前記導電層上に粘着剤層を介して積層された第1の保護シート」が一致点であるということはできない。また,甲3の図5には本件訂正発明5の構成そのものが開示,示唆されているということはできない。 (3) 相違点4の容易想到性について ア 甲3の【0077】によると,甲3の実施例2は,次の要領でタッチ位置を検出するものである。すなわち,四つの電極38を通して透明導電構造体34に5Vの電圧を印加し,使用者が指又はペンのような接触素子150で静電容量方式タッチパネル30に接触すると,接触素子150と透明導電構造体34との間にカップリング・キャパシタンスが形成され,接触素子150の接触部位151に一部分の電流が流れ込む。この電流は,四つの電極38から流れ出し,四つの電極38で流れる電流は,接触素子150と各隅部までの距離に反比例するので,四つの電極38で流れる電流の比例を精確に計算することにより,接触部位151の座標を得る。 このようなタッチ位置の検出は,前記2(1)の静電容量式タッチパネルに関する技術常識によると,表面型静電容量式タッチパネルの動作原理にほかならず,投影型静電容量式タッチパネルとは異なるものである。 したがって,甲3の実施例2に基づく甲3発明は,表面型静電容量式タッチパネルであると認められる。 そうすると,甲3発明は,甲1発明と同様に,基板32の表示素子180に面する表面とは反対側の表面に設置された透明導電構造体34の1層のみでタッチ位置の検出機能を果たすものであるから,甲3発明にこれ以上の検出電極を設ける動機付けは存在しない。 よって,甲3発明に,相違点4に係る本件訂正発明5の構成である「前記透明基板の前記表示装置側に設けられた導電層」を設ける動機付けはないから,甲3発明を主引用発明として本件訂正発明5には想到し得ない。 イ 原告は,審決のように,本件訂正発明5の「導電層」が「タッチを検出するための導電層」であると考えると,本件訂正発明5の二つの「導電層」を設けることの技術的意義は不明であり,透明基板の両面にタッチを検出するための導電 「層を設ける」という周知技術を考慮することにより,甲3発明(基板32の表示素子180に面する表面とは反対側に設けられた透明導電構造体34)に甲1の技術(単一基板11の表示パネル2側に設けられた導電性電極131)を適用することに,何ら困難性はないと主張する。 しかし,本件訂正発明5の「導電層」がいずれも検出電極を意味するとしても,一方の導電層のみによってタッチを検出できるものと解釈する必要はなく,本件訂正発明5は,透明基板の両面に導電層を設けた投影型静電容量式タッチパネルを規定したものと理解することができることは,前記3(3)ア(オ)(コ)(サ)のとおりである。 また,甲3発明は,基板32の表示素子180に面する表面とは反対側の表面に設置された透明導電構造体34の1層のみでタッチ位置の検出機能を果たすものであるから,甲3発明にこれ以上の検出電極を設ける動機付けは存在しないことは,前記アのとおりである。基板両面構成の投影型静電容量式タッチパネルの存在が技術常識であることは,透明導電構造体34により既にタッチ位置の検出機能を有する甲3発明に更に検出電極を設ける動機付けとなるものではないから,甲3発明に甲1の技術を組み合わせる動機付けがないことを左右するものではない。 原告の主張は,理由がない。 ウ 以上によると,相違点4は,当業者が容易に想到し得るものとはいえないから,本件訂正発明5は,甲3発明を主引用発明として容易に発明をすることができたものとは認められない。 取消事由2は,理由がない。 5 結論 以上によると,取消事由1及び2は,いずれも理由がなく,原告の請求は,理由がないから,これを棄却することとして,主文のとおり判決する。 |
裁判長裁判官 | 森義之 |
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裁判官 | 片岡早苗 |
裁判官 | 古庄研 |