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関連審決 異議2002-72245
関連ワード アクセス /  進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  一致点の認定 /  周知技術 /  技術常識 /  参酌 /  実施 /  設定登録 /  請求の範囲 /  取消決定 / 
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事件 平成 15年 (行ケ) 114号 特許取消決定取消請求事件
原告 株式会社ニコン
同訴訟代理人弁理士 永井冬紀
同 大澤圭司
被告 特許庁長官今井康夫
同指定代理人 酒井朋広
同 杉山務
同 小曳満昭
同 涌井幸一
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2004/05/25
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
請求
特許庁が異議2002―72245号事件について平成15年2月10日にした決定を取り消す。
争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 原告は,名称を「電子カメラ」とする発明につき,昭和61年1月28日にした特許出願である特願昭61―14837号の一部を,平成7年3月27日に新たな特許出願とした特願平7―93035号の一部を,平成10年9月11日に新たな特許出願とした特願平10―258524号の一部を,平成11年12月27日に新たな特許出願とし,平成14年1月11日,設定登録を受けた(特許第3267283号,以下「本件特許」という。)。
本件特許について,特許異議の申立てがされた(異議2002―72245号)ところ,原告は,平成15年1月27日,訂正請求を行ったが,特許庁は,同年2月10日,「訂正を認める。特許第3267283号の請求項1及び2に係る特許を取り消す。」との決定(以下「本件決定」という。)を行い,その謄本は,同月26日,原告に送達された。
2 特許請求の範囲 前記訂正後の明細書(以下「本件明細書」という。)の特許請求の範囲の記載は,次のとおりである(以下,各請求項の発明をそれぞれ「本件発明1」等という。)。
【請求項1】 被写体を撮像し,画像信号として出力する撮像手段と, 複数画面分の前記画像信号を一時的に記憶可能な半導体メモリと, 前記画像信号を記録する記録媒体と, 前記記録媒体への画像信号の記録を指示する指示手段と, 前記指示手段による操作がなされている間,前記撮像手段から出力される静止画像信号を連続して記録する連写モードと,前記指示手段による操作がなされる毎に前記撮像手段から出力される単一の静止画像信号を記録する単写モードとを切り換える切換手段と, 前記画像信号を表示する表示手段と, 少なくとも前記撮像手段および前記表示手段に駆動電力を供給する電源スイッチと, 前記電源スイッチのオン動作から前記指示手段による指示が行われるまでの期間は前記撮像手段から出力された前記画像信号を前記表示手段に表示させ,前記指示手段による指示に応じて前記切換手段の切り換え状態に基づく前記連写モードもしくは前記単写モードの撮影を行い,前記撮像手段から出力された画像信号を前記半導体メモリヘ記憶させた後に該半導体メモリに記憶された前記画像信号を前記記録媒体に記録させるよう制御する制御手段と, を有することを特徴とする電子カメラ。
【請求項2】 前記制御手段は,前記指示手段による指示に応じて前記半導体メモリに記憶された前記画像信号を前記記録媒体に記録させるともに前記表示手段へ表示させるよう制御することを特徴とする請求項1に記載の電子カメラ。
3 本件決定の理由の要旨 本件決定は,次のとおり,本件発明1及び2は,特開昭60―217771号公報(甲4。以下「刊行物1」という。),特開昭58-147283号公報(甲3。以下「刊行物2」という。)及び特開昭59-33982号公報(甲2。
以下「刊行物3」という。)に記載された各発明(以下,それぞれ「引用発明1」等という。)に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないとした。
(1) 本件発明1について ア 本件発明1と引用発明1の一致点,相違点 (一致点) 「被写体を撮像し,画像信号として出力する撮像手段と,前記画像信号を一時的に記憶可能な半導体メモリと,前記画像信号を記録する記録媒体と,前記記録媒体への画像信号の記録を指示する指示手段と,前記画像信号を表示する表示手段と,前記指示手段による指示の無い状態では前記撮像手段から出力された前記画像信号を前記表示手段に表示させ,前記指示手段による指示に応じて前記撮像手段から出力された画像信号を前記半導体メモリへ記憶させた後に該半導体メモリに記憶された前記画像信号を前記記録媒体に記録させるよう制御する制御手段と,を有することを特徴とする電子カメラ。」 (相違点) 相違点1:本件発明1では,撮像手段および表示手段に駆動電力を供給する電源スイッチを備え,電源スイッチのオン動作から指示手段による指示が行われるまでの期間は撮像手段から出力された画像信号を表示手段に表示させているのに対し,引用発明1では,撮像手段および表示手段に駆動電力を供給する電源スイッチが明示されておらず,電源スイッチのオン動作から指示手段による指示が行われるまでの期間の具体的タイミングが明示されていない点。 相違点2:本件発明1では,半導体メモリが複数画面分の画像信号を記憶可能であるのに対し,引用発明1では,少なくとも1フレーム分の画像データを格納し得ると表現されている点。
相違点3:本件発明1では,連写モードと単写モードとを切り換える切換手段を有するのに対し,引用発明1では,該手段について記載がない点。 イ 相違点についての検討 相違点1について: 刊行物1の電子カメラを始め,すべての電子機器がエネルギー源として電源を必要とすることは言うまでもないことであり,電源の投入により電子機器は,動作状態又は待機状態に移行することは一般的な技術常識に属する事項である。
刊行物1には,電源に関する記載はないが,第1図の入力端子1へは,電子カメラ等の撮像手段から出力される画像信号としてビデオ信号が入力されると記載されており,当然に電源を必要とするものであるから,図示又は説明がないからといって,電源を意図していないとは言えない。 本件明細書においても,第3頁左欄2ないし7行には,「図示しない電源スイッチが「ON」となると…」と記載されているように,電源スイッチ自体を図示しないことは,電源スイッチ自体に創意工夫がある場合や特に説明の必要がある場合を除き,一般には省略することが通常である。 そうすると,刊行物1において,電源スイッチの図示や説明がなくても,「電源スイッチが「ON」となると入力端子1へビデオ信号が入力される」と解釈することに,明細書全体を通じてなんら矛盾することも,またこのように解釈することを阻害する要因があるともいえない。 よって,リアルタイム像を表示する開始タイミングが具体的に記載されていなくても,当業者であれば,技術常識から何ら困難なく開始タイミングを把握できるものであり,当該相違点を格別なものとすることはできない。 相違点2について: 半導体メモリが複数画面分の画像信号を記憶可能である構成は,刊行物1の発明が「少なくとも」と括弧書きではあるが記載されていることからみて,また,刊行物2にも記載されているように当業者に周知な技術であり,複数画面分の画像信号を記憶可能な構成とすることは,当業者が適宜採用しうる設計事項にすぎない。 相違点3について: 電子カメラにおいて連写モードと単写モードとを備え,両者を切り換える切換手段を有する構成は,刊行物3に記載されており,当該技術を刊行物3に示された形式と異なる電子カメラに採用することは当業者が格別困難性を伴うとは認められない。
本件発明1では,単写モードと連写モードの切換を行う具体的な手段については,ただ,「指示手段による指示に応じて前記切換手段の切り換え状態に基づく前記連写モードもしくは前記単写モードの撮影を行い」と記載されているのみで,切換手段が具体的に記載されておらず,引用発明1において,刊行物3に示された連写モードと単写モードの切換手段を採用することは,当業者が必要に応じ適宜実施しうる事項にすぎない。 ウ 本件発明1の課題,効果について 画像信号を一時的に半導体メモリに記憶した上で磁気ディスクに記録する装置において,磁気ディスクへの記録が成功しない場合には,再度半導体メモリの画像信号を磁気ディスクに記録しようとすることは当然のことであり,外乱に弱い磁気ディスクに対して品質よく画像を記録するという本件発明1の課題は当業者に自明なものである。 また,本件発明1の効果は,引用発明1に基づいて,刊行物2,3を参酌することにより,当業者が当然に予測し得るものであって格別のものとすることはできない。
エ 結論 したがって,本件発明1は,引用発明1ないし3に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 (2) 本件発明2について 本件発明2は,本件発明1を引用する形式であり,本件発明1の部分を除いて,引用発明1と対比すると,両者は次の点で一致している。 「指示手段による指示に応じて半導体メモリに記憶された画像信号を記録媒体に記録させるともに表示手段へ表示させる」 そして,両者は,本件発明1についての対比で挙げた点のみで相違し,当該相違点は既に検討済みである。 したがって,本件発明2は,引用発明1ないし3に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
原告主張に係る本件決定の取消事由の要点
本件決定は,本件発明1と引用発明1との一致点を誤認したことにより相違点を看過し(取消事由1),また,相違点2,3についての判断を誤った(取消事由2,3)結果,本件発明1についての進歩性の判断を誤ったものであり,さらに,本件発明2についても進歩性の判断を誤ったものであり(取消事由4),その誤りは本件決定の結論に影響を及ぼすことが明らかであるから,違法として取り消されるべきである。
1 取消事由1(本件発明1についての一致点の誤認,相違点の看過) 本件決定は,本件発明1と引用発明1との一致点として,「前記記録媒体への画像信号の記録を指示する指示手段」及び「前記指示手段による指示に応じて前記撮像手段から出力された画像信号を前記半導体メモリへ記憶させた後に該半導体メモリに記憶された前記画像信号を前記記録媒体に記録させるよう制御する制御手段」を認定したが,誤りである。
すなわち,本件発明1では,記録媒体への画像信号の記録を指示する指示手段の操作により,撮影から記録媒体への画像記録までが行われる。換言すると,本件発明1の電子カメラでは,指示手段が操作されると,制御手段の制御により,画像信号の記録の指示(撮影指示),複数画面分の画像信号の一時記憶,一時記憶画像の記録媒体への最終記録が一連の処理として行われる。
一方,刊行物1には,「レリーズスイッチ2がオン操作されると,…フレームメモリ9へのビデオ信号の1フレーム分の入力が完了した後,…上記フレームメモリ9に記憶された画像がモニタ11に出力表示される」(3頁左下欄9行〜右下欄12行),「このようにして,モニタ11に表示された画像を術者(オペレータ)が観察し,記憶画像が完全であると判断したら確認スイッチ3を押す。…例えば磁気ディスクの所定のトラックに最終的に記録される」(3頁右下欄17行〜4頁左上欄10行)との記載があるから,引用発明1の画像記録装置では,レリーズスイッチ2の操作により,撮影指示,撮影画像の一時記憶,一時記憶画像の表示までが行われ,確認スイッチ3の操作により,一時記憶画像の記録媒体への最終記録が行われるのであって,撮影指示から最終記録までが一連に処理されるのではない。
したがって,刊行物1は,本件発明1の指示手段及び制御手段の構成のうち,上記一致点として認定された部分を開示するものではない。
2 取消事由2(相違点2についての判断の誤り) 本件決定は,相違点2について,「半導体メモリが複数画面分の画像信号を記憶可能である構成は,刊行物1の発明が「少なくとも」と括弧書きではあるが記載されていることからみて,また,刊行物2にも記載されているように当業者に周知な技術であり,複数画面分の画像信号を記憶可能な構成とすることは,当業者が適宜採用しうる設計事項にすぎない。」と判断したが,誤りである。
(1) 刊行物1の画像記録装置は,第2図に実線で示されるように,レリーズスイッチ2出力のオン状態が継続する期間にかかわらず,パルス発生回路4の出力がレリーズスイッチ2のオンの間に一度だけオン状態となり,このオン信号によって発生する1フレーム分の時間幅のパルス信号によりアンドゲート17が開き,ビデオ信号がフレームメモリ9に一時記憶されるものである。レリーズスイッチ2を押し続けていたとしても,1フレーム分の撮像画面しかフレームメモリ9には一時記憶されない。
また,レリーズスイッチ2の1回の操作でフレームメモリ9に1枚の画像が記録されると,その画像がフレームメモリ9に記録された状態ではレリーズスイッチ2が再び操作されても,フレームメモリ9に2枚目の画像が記録されることがない。
したがって,刊行物1は,一時記憶用フレームメモリ9に複数枚の画像を同時に記憶することを開示も示唆もせず,むしろ,複数画面分の画像信号がフレームメモリ9に記憶されることを禁止する回路を開示するものである。
なお,刊行物1の「フレームメモリ9は(少なくとも)1フレーム分の画像データを格納し得るメモリであり」(2頁左下欄3〜4行)との記載は,単純な誤記(削除忘れ)といわざるを得ないが,あえてこれを解釈すれば,「少なくとも」が「1フレーム分」ではなく「画像データ」に掛かり,画像データ以外の情報も記憶し得ることを示唆したものと解すべきである。
(2) 刊行物2には,撮像フレーム数セレクタ2の毎秒のフレーム数の選択によって,高速で動く被写体を所望の速度で最終記録媒体としてのメモリ部5に記録することが開示されている。このように,刊行物2は,単に,複数枚の画像を記録可能とした最終記録媒体として半導体メモリを利用するメモリ部5を開示するに止まるから,本件発明1の一時記憶用メモリの構成を開示するものとはいえないし,刊行物2の技術事項を一時記憶用メモリである刊行物1記載のフレームメモリ9に適用することはできない。
3 取消事由3(相違点3についての判断の誤り) 本件決定は,相違点3について,「電子カメラにおいて連写モードと単写モードとを備え,両者を切り換える切換手段を有する構成は,刊行物3に記載されており,当該技術を刊行物3に示された形式と異なる電子カメラに採用することは,当業者が格別困難性を伴うとは認められない。本件発明1では,…切換手段が具体的に記載されておらず,引用発明1において,刊行物3に示された連写モードと単写モードの切換手段を採用することは,当業者が必要に応じ適宜実施しうる事項にすぎない。」と判断したが,誤りである。
すなわち,本件発明1の電子カメラは,撮影を行って画像記録を指示する指示手段(刊行物3のシャッタに相当)とは別に,単写モードと連写モードを切り換える切換手段を備える。本件発明1に係る請求項には,指示手段による撮影指示に先立ち,切換手段で単写モードもしくは連写モードを切換えておくことが具体的に記載されている。
一方,刊行物3は,本件発明1のような切換手段を開示しない。すなわち,刊行物3は,シャッタを短時間操作すると単写モードで撮影され,シャッタを長時間操作し続けると連写モードで撮影が行われることを開示する(第3図,第5図)にすぎず,シャッタとは別に単写モードと連写モードを切換えることを開示しない。
したがって,引用発明1に引用発明3を適用しても,本件発明1の構成にならない。
4 取消事由4(本件発明2についての進歩性判断の誤り) (1) 本件発明2は,本件発明1に従属するものであるから,本件発明1についての取消事由1ないし3と同様に,本件決定の本件発明2についての進歩性判断等も誤りである。
(2) また,本件決定は,本件発明1,2と引用発明1との一致点のほかに,本件発明2と引用発明1との一致点として,「指示手段による指示に応じて半導体メモリに記憶された画像信号を記録媒体に記録させる[と]ともに表示手段へ表示させる」ことを認定したが,誤りである。
すなわち,本件発明2では,指示手段が操作されると,撮影指示,撮影画像の一時記憶,一時記憶画像の最終記録とともに,一時記憶画像の表示も一連の処理として行われるが,引用発明1は,そのような構成ではない。したがって,上記一致点の認定は誤りである。
被告の反論の要点
本件決定の判断に誤りはなく,原告の主張する本件決定の取消事由には理由がない。
1 取消事由1(本件発明1についての一致点の誤認,相違点の看過)について 本件発明1に係る請求項の記載によれば,本件発明1は,制御手段が,「電源スイッチのオン動作から指示手段による指示が行われるまでの期間は撮像手段から出力された画像信号を表示手段に表示させる」こと,「指示手段による指示に応じて,撮像手段から出力された画像信号を半導体メモリへ記憶させる」こと,「半導体メモリに記憶させた後,半導体メモリに記憶された前記画像信号を前記記録媒体に記録させる」ことを順次処理するものである。
一方,引用発明1も,本件発明1と同様,「レリーズスイッチがオン操作されていないときは,モニタにはカメラからのリアルタイム像が再生される」こと,「レリーズスイッチがオン操作されると,撮像手段から出力された画像信号がフレームメモリに記憶される」こと,「確認スイッチをオン操作すると,前記フレームメモリに記憶された画像信号が記録媒体に記録される」ことを順次処理するものである。
したがって,刊行物1は,本件発明1の指示手段,制御手段のうち,一致点として認定された構成を開示するものである。なお,「確認スイッチの操作が介在するものは,本件発明1における一連の処理とは相違する。」旨の原告の主張は,特許請求の範囲の記載に基づかない主張であり,失当である。
2 取消事由2(相違点2についての判断の誤り)について (1) 原告は,「刊行物1は,一時記憶用フレームメモリ9に複数枚の画像を同時に記憶することを開示も示唆もせず,むしろ,複数画面分の画像信号がフレームメモリ9に記憶されることを禁止する回路を開示するものである。」旨主張する。
しかしながら,引用発明1は,撮影した画像データを一且メモリに記憶させた後に記録媒体へ転送・記録するようにすることにより,確実な記録を可能とすることを目指したものであり,メモリに記憶する画像枚数を1枚に限定しなければ成立し得ない発明ではない。また,引用発明1が用途として想定している内視鏡においても複数枚の画像を撮影したいという要求は当然に存在し,複数枚の画像を撮影する場合には,1枚撮影するごとに確認・記録の操作を行うよりも,複数枚をまとめて撮影し,まとめて確認・記録する方が効率的であることは自明である。なお,刊行物1に実施例として開示されたものは,1枚の画像だけがメモリに記憶されるようになっているが,これはそのような実施の形態もあり得ることを示すにすぎず,複数枚の画像をメモリに記憶させるようにすることができないことを示すものではない。
したがって,引用発明1においても,メモリを複数画面分とすることに対する阻害要因はなく,動機づけはあったというべきである。
(2) 原告は,「刊行物2は,単に,複数枚の画像を記録可能とした最終記録媒体として半導体メモリを利用するメモリ部5を開示するに止まるから,本件発明1の一時記憶用メモリの構成を開示するものとはいえないし,刊行物2の技術事項を刊行物1記載のフレームメモリ9に適用できない。」旨主張する。
しかしながら,本件決定は,「半導体メモリが,一般に複数枚の画像を記録できる」ことが周知であることを示す例として刊行物2を引用するものであって,複数枚の画像を記録できる半導体メモリを「一時記憶用メモリ」に使用する例として引用したものではない。
上記(1)記載のとおり,引用発明1においても,メモリを複数画面分とすることに対する阻害要因はなく,動機づけはあったといえることに加え,「半導体メモリが,一般に複数枚の画像を記録できる」ことが周知であることから,「複数画面分の画像信号を記憶可能な構成とすることは,当業者が適宜採用しうる設計事項にすぎない。」とした本件決定の判断に誤りはない。
3 取消事由3(相違点3についての判断の誤り)について (1) 原告は,「刊行物3には,本件発明1のような「連写モードと単写モードを切り換える切換手段」が開示されていないから,引用発明1に刊行物3の切換手段を採用しても,本件発明1の構成にならない。」旨主張する。しかしながら,引用発明3は,シャッターの操作時間の長短により連写・単写となるのであるから,シャッターに連動した切換手段が内蔵されているのは明らかであり,本件発明1の「指示手段による操作がなされている間,撮像手段から出力される静止画像信号を連続して記録する連写モードと,前記指示手段による操作がなされる毎に前記撮像手段から出力される単一の静止画像信号を記録する単写モードを切り換える切換手段」に対応する構成を有しているものといえる。
(2) 原告は,「本件発明1に係る請求項には,指示手段による撮影に先立ち,切換手段で単写モードもしくは連写モードを切換えておくことが具体的に記載されている。」旨主張するが,そのような記載はない。同請求項には,「指示手段による指示に応じて前記切換手段の切り換え状態に基づく前記連写モードもしくは前記単写モードの撮影を行い」との記載はあるが,それは,必ずしも,「指示手段による撮影に先立ち,切換手段で単写モードもしくは連写モードを切換えておくこと」を意味しない。引用発明3のようにシャッターの操作時間の長短により連写,単写が切り換わるものにおいても,シャッターによる指示に応じて(シャッターに連動する,内蔵された)切換手段の切り換え状態に基づく前記連写モードもしくは前記単写モードの撮影が行われることは明らかである。
4 取消事由4(本件発明2についての進歩性判断の誤り)について (1) 本件発明1についてと同様に,本件決定の本件発明2についての進歩性判断等も誤りがない。
(2) また,本件決定が,本件発明2と引用発明1との一致点として,「指示手段による指示に応じて半導体メモリに記憶された画像信号を記録媒体に記録させる[と]ともに表示手段へ表示させる」ことを認定した点に,誤りはない。
当裁判所の判断
1 取消事由1(本件発明1についての一致点の誤認,相違点の看過)について 原告は,「本件決定は,本件発明1と引用発明1との一致点として,「前記記録媒体への画像信号の記録を指示する指示手段」及び「前記指示手段による指示に応じて前記撮像手段から出力された画像信号を前記半導体メモリへ記憶させた後に該半導体メモリに記憶された前記画像信号を前記記録媒体に記録させるよう制御する制御手段」を認定したが,誤りである。」旨主張するので,検討する。
(1) 本件発明1に係る請求項の記載によれば,本件発明1の「指示手段」及び「制御手段」は,それぞれ「前記記録媒体への画像信号の記録を指示する指示手段」,「(前記電源スイッチのオン動作から前記指示手段による指示が行われるまでの期間は前記撮像手段から出力された前記画像信号を前記表示手段に表示させ,)前記指示手段による指示に応じて(前記切換手段の切り換え状態に基づく前記連写モードもしくは前記単写モードの撮影を行い,)前記撮像手段から出力された画像信号を前記半導体メモリヘ記憶させた後に該半導体メモリに記憶された前記画像信号を前記記録媒体に記録させるよう制御する制御手段」というものである。
(2) 一方,刊行物1には, 「レリーズスイッチ2は画像記録を指示するスイッチ,確認スイッチ3は記録画像の確認を入力するスイッチであり,この場合,両者共にオン操作によって出力が立上り,オフ操作によって出力が立下がる。」(2頁右上欄10〜14行) 「レリーズスイッチ2および確認スイッチ3が共に押されて(オン操作されて)いないときは,パルス発生回路6の出力はL(ローレベル)であり,フレームメモリ9にはビデオ信号は入力されない。一方,このとき,T-F/F10のQ出力はH(ハイレベル),出力はLであるので,モニタ11にはカメラからのリアルタイム像が再生され,フレームメモリ9からの読出し出力は再生されない。」(3頁右上欄15行〜左下欄3行) 「レリーズスイッチ2がオン 操作 されると ,パルス発生回路4は1フィールド分(1/60sec の時間幅のパルスを発生し出力する。このパルスによりアンドゲート13の出力にも同様のパルスが現われる。このパルス期間(Hとなっている期間)中に分離回路8から発生した垂直同期パルス(負のパルス)に応答して,パルス発生回路6は1フレーム分(1/30sec の時間幅のパルスを出力する。このパルス発生回路6の出力によってアンドゲート17がゲートを開き,フレームメモリ9に1フレーム 分のビデオ 信号 が入力 される 。」(3頁左下欄9〜19行) 「該フレームメモリ 9への 書込 みが 完了 した 後は,ビデオ信号から分離されフレームメモリ9に与えられている垂直同期信号に同期して,上記フレームメモリ9に記憶 された 画像 がモニタ 11 に出力表示 される 。」(3頁右下欄8〜12行) 「このようにして,モニタ 11 に表示 された 画像 (すなわち ,フレームメモリ9に記憶 された 画像 )を術者 (オペレータ )が観察 し,記憶画像 が完全 であると判断 したら 確認 スイッチ 3を押す。この 確認 スイッチ 3のオン 操作 により ,パルス発生回路5は1フィールド分の時間幅のパルスを出力しこのパルス期間内に分離回路8から出力される垂直同期信号に同期して,パルス発生回路7は1フレーム分の時間幅のパルスを出力する。この出力に基づいて,アンドゲート20がゲートを開き,フレームメモリ9から 1フレーム 分のビデオ 信号 が出力端子 12 より 画像記録装置 へ送出 され ,記録媒体 ,例えば 磁気 ディスク の所定 のトラック に最終的 に記録される 。」(3頁右下欄17行〜4頁左上欄10行) との記載がある。
上記各記載に第1図等の図面の記載を併せれば,引用発明1は,レリーズスイッチ及び確認スイッチが,例えば第1図に記載される,パルス発生回路4〜7,ゲート13〜22等からなる構成の電子回路に接続されており,レリーズスイッチによる指示に応じて撮像手段から出力された画像信号をフレームメモリへ記憶させた後に,(該フレームメモリに記憶された前記画像信号をモニタに表示し,)確認スイッチによる指示に応じて該フレームメモリに記憶された前記画像信号を記録媒体に記録させるように制御するものであると認められる。
(3) そうすると,刊行物1のレリーズスイッチは,フレームメモリへの画像信号の記憶を指示するものであって,記録媒体への画像信号の記録を指示するものでないから,本件決定が,「刊行物1のレリーズスイッチが本件発明の指示手段に相当する」(6頁20〜21行)と認定したのは,正確な対比とはいえない。しかしながら,刊行物1では,レリーズスイッチによりフレームメモリへの画像信号の記憶が指示され,確認スイッチによりフレームメモリに記憶された画像信号の記録媒体への記録が指示されるのであるから,刊行物1の「レリーズスイッチと確認スイッチとからなる手段」は,本件発明1の指示手段に相当するものということができる。そうであるならば,引用発明1も,指示手段(レリーズスイッチ及び確認スイッチ)が,記録媒体への画像の記録を指示し,また,制御手段(例えば,第1図に記載される,パルス発生回路6,7,ゲート13〜22等からなる構成)が,指示手段(レリーズスイッチ)による指示に応じて撮像手段から出力された画像信号を半導体メモリ(フレームメモリ)へ記憶させた後に(指示手段(確認スイッチ)による指示に応じて)該半導体メモリに記憶された前記画像信号を前記記録媒体に記録させるように制御するものであるということができる。したがって,本件決定が,「前記記録媒体への画像信号の記録を指示する指示手段」及び「前記指示手段による指示に応じて前記撮像手段から出力された画像信号を前記半導体メモリへ記憶させた後に該半導体メモリに記憶された前記画像信号を前記記録媒体に記録させるよう制御する制御手段」を一致点として認定したことに誤りがあるとはいえない。
なお,例えば,甲1(特開昭57―78285号公報)には,電子カメラについて,「再びボタン1を半押し(第2回目)すると,…撮像素子Iから読出された画像信号は,IB経路で流れ,バッファメモリBに書き込まれる。…メモリBに書込まれた撮影画像信号は,繰り返し読み出されてBD経路を流れ,静止画でモニターDに画像化される。モニターDの撮像画像を記録するつもりならトリガボタン1を全押しする。…メモリBに格納された1フレーム分の生画像信号すなわち撮像画像信号は,BD経路を流れると共にBM経路を通って自動的にアクセスされた記憶系Mのメモリに書込まれる。」(8頁左上欄14行〜右下欄18行)との記載があるように,電子カメラにおいて,画像信号の取り込みと記録媒体への記録を同一スイッチの2つの操作により行うことは技術常識といえるから,上記のようにレリーズスイッチと確認スイッチを一つの指示手段と認定することは,何ら技術常識に反するものではない。
(4) これに対し,原告は,「本件発明1では,記録媒体への画像信号の記録を指示する指示手段の操作により,撮影から記録媒体への画像記録までが一連の処理として行われる。」旨主張する。
しかしながら,前記(1)記載のとおり,本件発明1に係る請求項の「制御手段」に関する記載においては,指示手段の指示に応じて半導体メモリへの一時記憶と記録媒体への最終記録が行われることが特定されているだけであり,これらが単一の操作による一連の処理として行われることは特定されていないから,引用発明1の構成のように,指示手段からの複数の異なる指示により一時記憶と最終記録が行われるものも,本件発明1の「制御手段」に含まれると解すべきである。
また,本件明細書(甲8)には,本件発明1の一実施例として, 「【0019】本実施形態では,フレームメモリ50の記憶容量が記録装置26内の記録媒体の記憶容量と等しくなるように構成されている。次に,本実施形態の動作について説明すると,単写,連写を問わず,図3(A)の矢印FE1,FE2,FE3,…で示すように,一連の撮影による画像信号は制御回路52の制御により順次フレームメモリ50に格納される。
【0020】そして,フレームメモリ50に格納された画像情報は,適当な撮影動作の区切り,例えば連写の終了時に再生されて記録装置26内の記録媒体に同図(B)の矢印FFで示すように記録される。この実施形態では,フレームメモリ50が高価であるものの記録装置26内の記録媒体と同様の作用を奏していると考えることができ,フレームメモリ50が画像情報でいっぱいになったときに記録媒体例えば磁気ディスクを装置本体にセットして記録を行なうようにしてもよい。
このとき,電子 ビューファインダー でフレームメモリ 50 内の画像 を確認 し,必要なもののみを 記録媒体 に記録 するようにしてもよい 。」 と記載されている。この実施例の記載は,本件発明1が,半導体メモリへの一時記憶と記録媒体への一時記憶画像の最終記録を一連の処理として行うものに限られないことを示しており,本件発明1に係る請求項の記載についての上記解釈を裏付けるものである。
したがって,原告の上記主張は理由がない。
(5) 以上のとおり,原告の取消事由1の主張は理由がない。
2 取消事由2(相違点2についての判断の誤り)について 原告は,「刊行物1の画像記録装置は,一時記憶用フレームメモリに複数枚の画像を同時に記憶することを開示しておらず,むしろ,複数枚の画像を同時に記憶することを禁止するものである。また,刊行物2は最終記録媒体としてのメモリ部を開示するにすぎず,本件発明1や刊行物1のような一時記憶用メモリの構成を開示しない。したがって,本件決定が,刊行物1,2に基づいて,複数画面分の画像信号を記憶可能な構成とすることは当業者が適宜採用しうる設計事項にすぎないと判断した点は誤りである。」旨主張するので,検討する。
(1)ア 刊行物1には,引用発明1の実施例として,フレームメモリ9に関して, 「フレームメモリ9は(少なくとも )1フレーム 分の画像 データ を格納 し得るメモリ であり 」(2頁左下欄3〜4行) 「レリーズスイッチ2がオン 操作 されると ,パルス発生回路4は1フィールド分(1/60sec の時間幅のパルスを発生し出力する。このパルスによりアンドゲート13の出力にも同様のパルスが現われる。このパルス期間(Hとなっている期間)中に分離回路8から発生した垂直同期パルス(負のパルス)に応答して,パルス発生回路6は1フレーム分(1/30sec の時間幅のパルスを出力する。このパルス発生回路6の出力によってアンドゲート17がゲートを開き,フレームメモリ9に1フレーム 分のビデオ 信号 が入力 される 。」(3頁左下欄9〜19行) 「該フレームメモリ 9への 書込 みが 完了 した 後は,ビデオ信号から分離されフレームメモリ9に与えられている垂直同期信号に同期して,上記フレームメモリ9に記憶された画像がモニタ11に出力表示される。(この状態では,T-F/F10のQ出力によりアンドゲート13がゲートを閉じているので,レリーズスイッチ 2をオン 操作 しても ,フレームメモリ 9への 画像記憶 は行なわれない 。)」(3頁右下欄8〜16行) 「レリーズスイッチ2の操作毎 にフレームメモリ 9に対する 更新記憶 が行なわれるようにしてもよい 。」(4頁右上欄8〜10行) との記載があるから,刊行物1は,引用発明1の実施例として,一時記憶用フレームメモリに単数枚の画像を記憶することしか開示していないと認められる。
イ しかしながら,引用発明1の実施例がそのような構成のものであっても,それはあくまで引用発明1の一実施態様にすぎないのであるから,特段の事情のない限り,引用発明1自体がそのような構成のものに限定されることにはならない。
しかるに,刊行物1を精査しても,引用発明1について,一時記憶用フレームメモリに複数枚の画像を同時に記憶するようにすることについて阻害要因があるとは認められない。むしろ,刊行物1には,引用発明1の目的について,「本発明の目的とするところは,内視鏡像のごとき画像情報の,失敗のない確実な記録を可能とする画像記録装置を提供することにある。」(2頁左上欄12〜14行)と記載され,また,引用発明1の効果について,「本発明によれば,外部操作されるレリーズスイッチに応動して撮像手段からの画像信号を上記記憶手段に記憶させ,この記憶手段に記憶された画像を記憶後直ちに再生表示手段に再生表示させるようにして,この再生表示画像により記録画像の確認を行なえるようにすることにより,内視鏡像のごとき画像情報の,失敗のない確実な記録を可能とする画像記録装置を提供することができる。」(5頁左下欄20行〜右下欄7行)と記載されており,このような引用発明1の目的,効果に照らせば,撮像手段からの画像情報を複数枚のものとし,一時記憶用フレームメモリに複数枚の画像を同時に記憶するようにすることには,何ら妨げがないというべきである。
また,上記の「フレームメモリ9は(少なくとも)1フレーム分の画像データを格納し得るメモリであり」(2頁左下欄3〜4行)との記載は,一時記憶用フレームメモリに複数枚の画像を同時に記憶することを示唆するものというべきである。
ウ したがって,「刊行物1の画像記録装置は,一時記憶用フレームメモリに複数枚の画像を同時に記憶することを開示しておらず,むしろ,複数枚の画像を同時に記憶することを禁止するものである。」ということはできない。
エ なお,原告は,「上記の「フレームメモリ9は(少なくとも)1フレーム分の画像データを格納し得るメモリであり」との記載は,誤記といわざるを得ないが,あえてこれを解釈すれば,「少なくとも」が「1フレーム分」ではなく「画像データ」に掛かり,画像データ以外の情報も記憶し得ることを示唆したものと解すべきである。」旨主張する。しかしながら,上記記載の語順に照らせば,「少なくとも」が「1フレーム分」に掛かるとの解釈の方がより自然であることはいうまでもないところ,上記認定のとおり,引用発明1において,一時記憶用フレームメモリに複数枚の画像を同時に記憶するようにすることについて阻害要因があるとは認められないのであるから,上記記載を誤記と認めることはできないし,また,原告の主張するような不自然な解釈をあえて採用する理由もない。
(2)ア 刊行物2には, 「被写体を所定の毎秒フレーム数で撮像して映像信号を出力する撮像カメラと,前記映像信号をディジタル映像信号に変換するA―D変換器と,前記ディジタル 映像信号 が書込 まれあるいは 読出 される メモリ 部と,このメモリ部の書込みあるいは読出し周期を制御する制御手段と,この制御手段によって読出されたディジタル映像信号をアナログ映像信号に変換するD―A変換器と,前記アナログ映像信号をもとに映像を画像再生する手段とを備えたことを特徴とする高速度撮像装置。」(特許請求の範囲) 「このメモリ 部5は撮像 カメラ 1による 映像 の毎秒 のフレーム 数(コマ数)と書込 み時間 (記録時間 )の積に相当 する メモリ 容量 を有し,メモリコントローラ 6の書込 みあるいは 読出 し制御 に基づいて 書込 みまたは 読出 しを 行なう 。」(2頁左下欄20行〜右上欄4行) との記載があるから,引用発明2のメモリ部5は,一時記憶用のものではなく,最終記録用のものであると認められる。
イ しかしながら,本件決定は,「半導体メモリが複数画面分の画像信号を記憶可能である構成」が当業者に周知である根拠として,引用発明2を引用しているのである(7頁)から,引用発明2のメモリ部5が一時記憶用のものではないことは,本件決定の判断を何ら左右するものではない(そもそも,本件決定は,「画像信号を一時的に記憶可能な半導体メモリ」を一致点として認定している(6頁)から,半導体メモリが一時記憶用か最終記録用かの点は,相違点2の判断には関係がない。)。
(3) 以上のとおり,引用発明1の一時記憶用フレームメモリに複数枚の画像を同時に記憶するようにすることには,何ら阻害要因はなく,むしろ刊行物1には,そのような示唆もあるし,また,引用発明1と引用発明2とは撮像記録装置という共通の技術分野に属するものであるから,当業者であれば,引用発明1の「少なくとも1フレーム分の画像データを格納し得るフレームメモリ(半導体メモリ)」に代えて,共通の技術分野における周知技術である「複数画面分の画像信号を記憶可能である半導体メモリ」を採用することは,容易になし得ることというべきである。これと同旨の本件決定の相違点2についての判断に誤りはなく,原告の取消事由2の主張は理由がない。
3 取消事由3(相違点3についての判断の誤り)について 原告は,「引用発明3は,本件発明1のような単写モードと連写モードの切換手段を含まないから,引用発明1に引用発明3を適用しても,本件発明1の構成にならない。」旨主張するので,検討する。
(1) 刊行物3には,以下の記載がある。
「第2図に本発明による電子カメラの一実施例を,a,b,……で示した各点の波形を第3図に示す。…最初にシャッター10を押すとまずモーター制御回路12によりモーターを回転させる。モーターが一定回転に達した後に光学シャッター7を開閉し,撮像素子8において光電変換をおこなう。次に撮像素子の信号を読み出し,1フレーム分の信号だけを抜き取り,磁気ヘッド3により磁気ディスク4に記録する。」(2頁左下欄6〜20行) 「第3図に,第2図の各点a,b,……の波形を示す。シャッター10を押したパルスaでモーター制御回路12をスタートさせる(b)。cはモーター5のスピードを示したもので,一定スピードとなった瞬間に光学シャッター7を開閉する(d)。光学シャッター開閉後に1フレーム抜取りパルス(e)で信号を抜取り磁気ディスクに記録する。この後に単安定 マルチバイブレータ 等により 一定期間 ONとなる パルス (f) を発生 させる 。もし パルス (f) がON の期間 に再びシャッター が押されない 場合 には モーター の回転 を停止 させる 。((b) の太線 )。 」(2頁右下欄9〜19行) 「もしパルス (f) がON の期間 にシャッター を押した 場合 は点線 で示すように ,すぐに 光学 シャッター を開閉 し1フレーム の信号 を記録 する 。これと 同時 にパルス (f) を再スタート させ ((f) の点線 ), 次のシャッター を受け入れる 状態とする 。」(3頁左上欄12〜16行) 「次にシャッター を押した 状態 で連写 する 場合 のタイミング の例を第5図に示す。シャッター 10 を押した 1枚目 の撮像 は第3図と同じ動作 を行なう 。すなわち,モーターを回転させ(b´),一定の回転数となったことを検出して(c´),光学シャッター7を開閉する(d´)。次に1フレーム分の信号を抜取り磁気ディスクに記録する(c´の1)【「(e´の1)」の誤記と認められる。】。この記録 が完了 したことを 検出 し(g ´), これから 再び光学 シャッターの開閉 ,1フレーム 抜取 り,記録 の動作 を繰り返す(e ´の2〜6)。 但し,この動作 はa´がON の状態 だけに 制限 し,もし a´がOFF の場合 にはこれを 停止 させる 。」(3頁左下欄3〜15行) 以上の記載に第3図,第5図の記載を併せれば,刊行物3記載の電子カメラでは, 〔1〕シャッターを1回ずつ押して撮影を行う場合には,1回目の撮像・記録が完了した後にパルス(f)が一定期間発生し,〔1―1〕パルス(f)の発生期間中に再びシャッターが押されると,回転中のモーターを利用して直ちに撮像・記録が再び行われると共に,パルス(f)の発生期間が延長されるが,〔1―2〕パルス(f)の発生期間中に再びシャッターが押されなければ,パルス(f)の発生が終了することにより,撮像・記録を行わないまま,モーターの回転を停止させるものであり, 〔2〕シャッターを押し続けて撮影を行う場合には,撮像・記録が完了する毎に,記録が完了したことを検出してパルス(g´)が短期間発生し,〔2―1〕パルス(g´)の発生時にシャッターが押し続けられた状態であれば,繰り返し撮像・記録が行われるが,〔2―2〕パルス(g´)の発生時にシャッターが押されていない状態になれば,撮像・記録を行わないまま,直ちにモーターの回転を停止させるものである。
そうすると,パルス(f)とパルス(g´)は,いずれもモーターの回転を停止させる作用を有する点では共通するものの,〔1〕の場合には,パルス(f)は,1回目の撮像・記録が完了してから,モーターの回転を停止させるまでの一定期間,継続的に発生し,シャッターの再度の押下を受け入れるものであり,パルス(f)の発生が終了すると,必ずモーターの回転を停止させるが,〔2〕の場合には,撮像・記録が完了する毎に,そのことを検出してパルス(g´)が発生し,それぞれのパルス(g´)の発生が終了しても,シャッターが押し続けられた状態であれば,モーターの回転を停止させることはないという違いがあるから,このことによれば,パルス(f)とパルス(g´)とは異なる動作モードの信号であることが明らかである。したがって,刊行物3記載の電子カメラは,〔1〕のシャッターを1回ずつ押して撮影を行う場合と,〔2〕のシャッターを押し続けて撮影を行う場合とで,異なる動作モードの信号を発生させて,撮像・記録,モーターの回転を制御する手段を備えるものであると認められる。すなわち,引用発明3は,本件発明1の相違点3に係る構成,すなわち,連写モードと単写モードとを切り換える切換手段を有するものということができる。
したがって,原告の上記主張は理由がない。
(2) これに対し,原告は,「本件発明1においては,切換手段による連写モードと単写モードとの切換えは,指示手段(刊行物3におけるシャッタに相当)による撮影指示に先立って行われる。」旨主張する。しかしながら,本件発明1に係る請求項の記載のうち,上記主張に関連する部分は,「前記指示手段による指示に応じて前記切換手段の切り換え状態に基づく前記連写モードもしくは前記単写モードの撮影を行い,」というものにすぎないから,原告の主張するような構成を特定しているとはいえない(仮に,刊行物3の構成が,指示手段と連動する切換手段により動作モードが切り換わるものであるとしても,本件発明1が,そのような構成を除外するものとは到底解することができない。)。したがって,原告の上記主張は,特許請求の範囲の記載に基づかないものというべきである。
4 取消事由4(本件発明2についての進歩性判断の誤り)について (1) 原告は,「本件発明2は,本件発明1に従属するものであるから,本件発明1についての取消事由1ないし3と同様に,本件決定の本件発明2についての進歩性判断等も誤りである。」旨主張する。しかしながら,前記1ないし3記載のとおり,本件発明1についての取消事由1ないし3はいずれも理由がないから,原告の上記主張は前提を欠くものであって,理由がない。
(2) また,原告は,「本件決定が,本件発明2と引用発明1との一致点として,「指示手段による指示に応じて半導体メモリに記憶された画像信号を記録媒体に記録させる[と]ともに表示手段へ表示させる」ことを認定したのは,誤りである。」旨主張する。
しかしながら,前記1認定のとおり,引用発明1は,レリーズスイッチ及び確認スイッチが,例えば第1図に記載される,パルス発生回路4〜7,ゲート13〜22等からなる構成の電子回路に接続されており,レリーズスイッチによる指示に応じて撮像手段から出力された画像信号をフレームメモリへ記憶させた後に,該フレームメモリに記憶された前記画像信号をモニタに表示し,確認スイッチによる指示に応じて該フレームメモリに記憶された前記画像信号を記録媒体に記録させるように制御するものであるところ,刊行物1の「レリーズスイッチと確認スイッチとからなる手段」は,本件発明1,2の指示手段に相当するものということができるから,引用発明1も,指示手段(確認スイッチ)による指示に応じて半導体メモリ(フレームメモリ)に記憶された画像情報を記録媒体に記録させるとともに,(指示手段(レリーズスイッチ)による指示に応じて半導体メモリ(フレームメモリ)に記憶された画像情報を)表示手段(モニタ)へ表示させるものであるということができる。したがって,本件決定の上記一致点認定に誤りはない。
(なお,仮に,本件発明2においては,一時記憶画像の最終記録と一時記憶画像の表示とが並行して行われる反面,引用発明1では,フレームメモリに記憶された画像の出力表示と記録媒体への記録とが並行して行われるものではないと解したとしても,甲1(特開昭57―78285号公報)に「本発明は,電子カメラに関する。より詳述すると撮影光学系によって形成された被写体像を撮像手段を用いて画像信号に変換し,該画像信号を表示手段で画像化すると共に記憶手段で記憶する電子カメラに関する。従来,この種のカメラにおいて,撮像手段からの画像信号をビデオテープ,ビデオディスク等の記憶手段で記録し,かつ記録された画像信号を表示手段で画像化できるものは知られている。」(1頁左欄17行〜右欄5行)との記載があるように,「画像の記録と画像の表示とを並行して行う」ことは当業者の技術常識であるから,引用発明1において,フレームメモリに記憶された画像の出力表示と記録媒体への記録とを並行して行うようにして,本件発明2の構成とすることは,当業者が必要に応じて適宜行う設計事項というべきである。したがって,仮に,上記相違点が存在するとしても,本件決定の本件発明2についての進歩性判断の結論に影響はない。) これに対し,原告は,「本件発明2では,指示手段が操作されると,撮影指示,撮影画像の一時記憶,一時記憶画像の最終記録とともに,一時記憶画像の表示(一時記憶画像表示)の処理も一連の処理として行われる。」旨主張するが,前記1認定のとおり,本件発明2が引用する本件発明1に係る請求項では,半導体メモリへの一時記憶と記録媒体への最終記録が,単一の操作による一連の処理として行われることは特定されていないから,原告の上記主張は,その前提を欠き,理由がない。
(3) したがって,原告の取消事由4の主張は理由がない。
5 結論 以上のとおり,原告主張の取消事由はいずれも理由がなく,他に本件決定を取り消すべき瑕疵は見当たらない。
よって,原告の本件請求は理由がないから,これを棄却することとし,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 北山元章
裁判官 青柳馨
裁判官 沖中康人