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関連審決 無効2015-800090
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事件 平成 28年 (行ケ) 10064号 審決取消請求事件

原告 X?
原告 X?
被告株式会社クラレ
訴訟代理人弁理士辻良子 辻邦夫
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2017/06/29
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1 特許庁が無効2015−800090号事件について平成28年2月2日にした審決を取り消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
原告らの求めた裁判
主文同旨
事案の概要
本件は,特許無効審判請求に対する不成立審決の取消訴訟である。争点は,@サポート要件判断の誤りの有無,A実施可能要件判断の誤りの有無,B進歩性判断(相違点1及び2-1の容易想到性の判断)の誤りの有無である。
1 特許庁における手続の経緯 被告は,名称を「ポリビニルアルコール系重合体フィルム」とする発明について, 平成23年4月14日(以下, 「本件出願日」という。)を出願日として特許出願(特願2011-536689号,パリ条約に基づく優先権主張,優先日・平成22年4月20日(以下, 「本件優先日」という。,優先権主張国・日本国)をし,平成2 )6年10月31日,その設定登録を受けた(特許第5638533号。請求項の数14。以下,「本件特許」という。。
)(甲1の1) 原告らが,平成27年3月30日に本件特許の請求項1〜14に係る発明についての特許無効審判請求(無効2015-800090号)をしたところ(甲20),被告は,同年6月18日付けで特許請求の範囲及び明細書の訂正を求めて訂正請求をした(甲25。以下,「本件訂正」という。。
) 特許庁は,平成28年2月2日, 「特許第5638533号の明細書,特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書,特許請求の範囲の記載のとおり,訂正後の請求項1〜14の一群の請求項に係る訂正を認める。特許第5638533号の請求項5,8に係る発明についての請求を却下する。特許第5638533号の請求項1〜4,6,7,9〜14に係る発明についての請求は,成り立たない。」との審決をし,その謄本は,同月12日,原告らに送達された。
2 本件訂正発明及び本件発明の要旨 本件訂正後の本件特許の請求項1〜4,6,7,9〜14に係る発明(以下,請求項の番号に従って「本件訂正発明1」のようにいい,併せて「本件訂正発明」という。 の各特許請求の範囲の記載は, ) 次のとおりである(下線は,訂正箇所を示す。
なお,本件訂正後の本件特許の明細書(甲25)を「本件訂正明細書」という。。
) (1) 本件訂正発明1【請求項1】 ポリビニルアルコール系重合体(A) および当該ポリビニルアルコール系重合体 ,(A)100質量部に対してノニオン系界面活性剤(B)を0.001〜1質量部含むポリビニルアルコール系重合体フィルムであって,水に7質量%の濃度で溶解させた際の20℃におけるpHが2.0〜6.8であるポリビニルアルコール系重 合体フィルム。
(2) 本件訂正発明2【請求項2】 ポリビニルアルコール系重合体(A)のけん化度が90モル%以上である,請求項1に記載のポリビニルアルコール系重合体フィルム。
(3) 本件訂正発明3【請求項3】 酸性物質(C)を用いて得られたものである,請求項1または2に記載のポリビニルアルコール系重合体フィルム。
(4) 本件訂正発明4【請求項4】 酸性物質(C)の25℃におけるpKa(酸解離定数)が3.5以上であり,且つ当該酸性物質(C)の常圧下での沸点が120℃を超える,請求項3に記載のポリビニルアルコール系重合体フィルム。
(5) 本件訂正発明6【請求項6】 ノニオン系界面活性剤(B)がアルカノールアミド型の界面活性剤である,請求項1〜4のいずれか1項に記載のポリビニルアルコール系重合体フィルム。
(6) 本件訂正発明7【請求項7】 酸化防止剤(D)をノニオン系界面活性剤(B)に対して0.01〜3質量%含む,請求項1,2,3,4および6のいずれか1項に記載のポリビニルアルコール系重合体フィルム。
(7) 本件訂正発明9【請求項9】 ポリビニルアルコール系重合体(A)および当該ポリビニルアルコール系重合体 (A)100質量部に対してノニオン系界面活性剤(B)を0.001〜1質量部含む製膜原液を調製する工程と,当該製膜原液を製膜する工程とを含み,上記製膜原液が,ノニオン系界面活性剤(B)を70質量%以上含む混合物を用いて得られたものである,請求項1,2,3,4,6および7のいずれか1項に記載のポリビニルアルコール系重合体フィルムの製造方法
(8) 本件訂正発明10【請求項10】 上記製膜原液が酸性物質(C)を用いて得られたものである,請求項9に記載の製造方法
(9) 本件訂正発明11【請求項11】 上記混合物が,水に0.1質量%の濃度で溶解させた際の20℃におけるpHが8.0以上となるものである,請求項9または10に記載の製造方法
(10) 本件訂正発明12【請求項12】 上記混合物が,・ノニオン系界面活性剤(B),および,・当該ノニオン系界面活性剤(B)を製造する際に使用した原料,触媒,溶媒,当該ノニオン系界面活性剤(B)が分解して生じた分解物,および,安定剤のうちのいずれかを含む,請求項9〜11のいずれか1項に記載の製造方法
(11) 本件訂正発明13【請求項13】 上記混合物が,・アルカノールアミド型のノニオン系界面活性剤,および,・それに対応するアルカノールアミンを含む,請求項9〜11のいずれか1項に記載の製造方法
(12) 本件訂正発明14【請求項14】 請求項1,2,3,4,6および7のいずれか1項に記載のポリビニルアルコール系重合体フィルムを,温度0〜40℃および湿度75%RH以下の条件下に保管することを特徴とする,ポリビニルアルコール系重合体フィルムの保管方法。
3 審判における請求人ら(原告ら)の主張 (1) 無効理由1(新規性欠如) 本件訂正発明1,2,5,6は,甲2に記載された発明(以下, 「甲2発明」という。)であるから,特許法29条1項3号に該当し特許を受けることができない。
また,本件訂正発明1,2は,甲3に記載された発明(以下, 「甲3発明」という。)であるから,特許法29条1項3号に該当し特許を受けることができない。
甲2:特開2001-311828号公報 甲3:特開2006-193694号公報 (2) 無効理由2(サポート要件違反) 本件訂正発明は,特許法36条6項1号により特許を受けることができない。
(3) 無効理由3(実施可能要件違反) 本件訂正発明は,特許法36条4項1号により特許を受けることができない。
(4) 無効理由4-1(進歩性欠如) 本件訂正発明1〜8,14は,甲2を主引用例とし,周知技術又は周知技術及び甲4を副引用例として,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項により特許を受けることができない。
甲4:特開2001-253956号公報 (5) 無効理由4-2(進歩性欠如) 本件訂正発明3及びこれを引用する本件訂正発明4〜8,14は,甲2を主引用例とし,甲8を副引用例として,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項により特許を受けることができない。
甲8:特開昭61-95054号公報 4 審決の理由の要点 (1) 無効理由2(サポート要件違反)について ア 本件訂正発明1に係るサポート要件の充足の有無について (ア) 本件訂正明細書には,本件訂正発明1の必須の構成要件であるポリビニルアルコール系重合体(A)とノニオン性〔判決注・ 「ノニオン系」の誤記と認める。〕界面活性剤(B)のみからなるポリビニルアルコール系重合体フィルムの実施例の記載はないが,当該必須の構成要件以外の成分を含むポリビニルアルコール系重合体フィルムについても,本件訂正発明1のポリビニルアルコール系重合体フィルムといえるから,本件訂正明細書に記載の実施例1〜7,10は,全て本件訂正発明1の実施例といえる。
したがって,請求人ら(原告ら)の主張する実施例がないことに基づく無効理由2は,失当である。
(イ) 本件訂正明細書の【0003】 【0020】 【0021】によると, , ,本件訂正発明1におけるノニオン系界面活性剤として多数のノニオン系界面活性剤を選択可能であり,また, 「ノニオン系」という一群の界面活性剤は,ノニオン性であり,かつ,界面活性作用がある点で技術的特徴が共通するものであって,その性質も類似していると認められる。
また,請求人ら(原告ら)により,ノニオン系界面活性剤であっても本件訂正発明1の課題を解決できないものがあるとする具体的な根拠も何ら示されていない。
そうすると,本件訂正明細書の記載において,ノニオン系界面活性剤として特定の1化合物を利用した実施例しか記載されていないとしても,当業者は,本件訂正発明1は,界面活性剤を配合して製造されたPVA系重合体フィルムをロール状に 「巻いて,これを常温近辺に温度コントロールした倉庫内に数ヶ月間程度保管した時に,ロールの色が著しく黄色味を帯びる問題」【0005】 ( )を解決することを課題としていることが理解でき,「ポリビニルアルコール系重合体(A),および当該ポ リビニルアルコール系重合体(A)100質量部に対してノニオン系界面活性剤(B)を0.001〜1質量部含むポリビニルアルコール系重合体フィルム」において,「水に7質量%の濃度で溶解させた際の20℃におけるpHが2.0〜6.8である」ことを満足することで,前記課題が解決されることが理解できる。
したがって,本件訂正発明1に係る特許請求の範囲の記載は,発明の詳細な説明に記載された発明であって,当業者が本件訂正発明1の課題を解決できると認識できる範囲内のものであるといえるから,サポート要件を満たすものである。
イ 本件訂正発明2,6,7,9〜14に係るサポート要件の充足の有無について 請求人ら(原告ら)の主張する本件訂正発明2,6,7,9〜14に係るサポート要件違反の根拠は,前記アと同じであるから,前記アにおいて検討したとおりであって,当業者は,本件訂正発明2,6,7,9〜14に係る特許請求の範囲の記載は,発明の詳細な説明に記載された発明であって,当業者が本件訂正発明2,6,7,9〜14の課題を解決できると認識できる範囲内のものであるといえるから,サポート要件を満たすものである。
ウ 本件訂正発明3,4に係るサポート要件の充足の有無について (ア) 本件訂正明細書には,本件訂正発明3,4に係る実施例1〜7,10が記載されているところ,当該複数の実施例を総合してみると,これらの実施例が,本件訂正発明3又は4の課題を解決できていることは明らかである。
(イ) 本件訂正明細書の記載によると,本件訂正発明3,4におけるポリビニルアルコール及びノニオン系界面活性剤として,多数のものが選択可能であって,ポリビニルアルコールもノニオン系界面活性剤も,それぞれ,一群の技術的特徴を有するものであるから,その性質も類似していると認められる。
また,請求人ら(原告ら)により,ポリビニルアルコールとノニオン系界面活性剤の組合せとして,課題を解決できないものが具体的に示されているわけでもない。
(ウ) さらに,酸性物質に関し,本件訂正明細書には, 「本発明のPVA系重 合体フィルムについて,水に7質量%の濃度で溶解させた際の20℃におけるpHを2.0〜6.8の範囲内にコントロールする方法は必ずしも限定されないが,コントロールが容易であることからPVA系重合体フィルムの製造過程において酸性物質(C)を適量配合する方法が好適である。( 」【0026】)との記載と共に,酸性物質の具体的な複数の例示もある。
してみると,本件訂正明細書の記載から,本件訂正発明3又は4における酸性物質は,多数の酸性物質から選択可能であり,また,本件訂正発明3又は4の,水に7質量%の濃度で溶解させた際の20℃におけるpHを2.0〜6.8の範囲内にコントロールする手段の一つとして適量配合されるものと理解できる。
また,請求人ら(原告ら)により,他の酸性物質を配合することにより本件訂正発明3又は4の上記課題を解決できないものがあるとする具体的な根拠も何ら示されていない。
(エ) そうすると,本件訂正明細書の記載において,当業者は,本件訂正発明3又は4は,界面活性剤を配合して製造されたPVA系重合体フィルムをロール 「状に巻いて,これを常温近辺に温度コントロールした倉庫内に数ヶ月間程度保管した時に,ロールの色が著しく黄色味を帯びる問題」【0005】 ( )を解決することを課題としていることが理解でき,本件訂正発明3又は4により,前記課題が解決されることが理解できる。
したがって,本件訂正発明3及び4に係る特許請求の範囲の記載は,発明の詳細な説明に記載された発明であって,当業者が本件訂正発明3及び4の課題を解決できると認識できる範囲内のものであるといえるから,サポート要件を満たすものである。
(2) 無効理由3(実施可能要件違反)について ア 前記(1)のとおり,本件訂正明細書には,本件訂正発明1のポリビニルアルコール系重合体フィルムの実施例として,実施例1〜7及び10が具体的に記載されている。
また,実施例以外のものについても,例えば,本件訂正発明1については,ポリビニルアルコール系重合体(A)及びノニオン系界面活性剤(B)を入手し,所定量配合し,pHを調整するために必要に応じて酸性物質を適宜配合することにより,本件訂正発明1のポリビニルアルコール系重合体フィルムを得ることは,当業者であれば実施できるといえる。
したがって,当業者は,本件訂正明細書の記載に基づいて本件訂正発明1を実施できるといえる。
本件訂正発明2〜4,6,7についても同様である。
イ ポリビニルアルコール系重合体フィルムの製造方法については,本件訂正明細書における実施例1〜7において具体的に記載されており,技術常識をも勘案すると,本件訂正発明9〜13についても,当業者は,本件訂正明細書の記載に基づいて実施できるといえる。
ウ 引用する本件訂正発明1〜4,6,7に係るポリビニルアルコール系重合体フィルムが実施できること及び技術常識をも勘案すると,本件訂正発明14の保管方法についても,当業者は,本件訂正明細書の記載に基づいて実施できるといえる。
(3) 無効理由4-1について ア 本件訂正発明1について (ア) 甲2発明の認定 甲2には,次の甲2発明が記載されている。
「ポリビニルアルコール,当該ポリビニルアルコール100重量部に対してノニオン系界面活性剤0.01〜1重量部含み,酢酸ナトリウムの含有量がポリビニルアルコールに対して0.5重量%以下である,偏光フィルム用ポリビニルアルコールフィルム。」 (イ) 一致点の認定 本件訂正発明1と甲2発明とを対比すると,次の点で一致する。
「ポリビニルアルコール系重合体(A) および当該ポリビニルアルコール系重合体 ,(A)100質量部に対してノニオン系界面活性剤(B)を0.001〜1質量部含むポリビニルアルコール系重合体フィルム」である点。
(ウ) 相違点の認定 本件訂正発明1と甲2発明とを対比すると,次の点が相違する。
(相違点1) ポリビニルアルコール系重合体フィルムに関し,本件訂正発明1は「水に7質量%の濃度で溶解させた際の20℃におけるpHが2.0〜6.8である」と特定するのに対して,甲2発明においては,このような特定はされていない点。
(エ) 相違点1についての判断 甲2には,ポリビニルアルコール系フィルム自体のpHについての記載は一切なく,ポリビニルアルコール系フィルムの製造時にpHの調節を行うことについての記載もない。
そうすると,甲7から「ポリビニルアルコールがエステルの一種であるポリ酢酸ビニル(=ポリビニルアセテート)をけん化することにより製造されること,けん化(=エステルの加水分解)は,一般にアルカリを使用して実施されること,ポリ酢酸ビニル(=ポリビニルアセテート)をけん化(=加水分解)すると,酢酸塩(典型的には,酢酸ナトリウム=sodium acetate)が生成すること,エステルの加水分解が,pHが高い場合でなく,これが低い場合においても促進されること」が技術常識であると認められるとしても,甲2発明において,pHの調整を行ってpHを2.0〜6.8とする動機はない。
そして,本件訂正発明1においては,ポリビニルアルコール系フィルムを水に7質量%の濃度で溶解させた際の20℃におけるpHを2.0〜6.8とすることによって,製膜する際におけるダイラインの発生や異物の発生を抑制し,製膜性を改善すると共に,常温近辺に温度コントロールした倉庫内に数ヶ月間程度保管した時に,ロールの色が著しく黄色味を帯びる問題の解決を図ることができるという効果 が奏されるものであって,当該効果は,請求人ら(原告ら)の提示したいずれの文献にも記載されておらず,当業者において自明なものでもないから,当業者が予測し得ない格別の効果といえる。
したがって,相違点1は,当業者が容易に想到し得たものということはできない。
イ 本件訂正発明2〜4,6について 本件訂正発明2〜4,6は,本件訂正発明1を引用し,更に限定する発明であるから,本件訂正発明1が,前記アのとおり,当業者が容易に発明することができたものとすることができない以上,同様な理由で,当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。
ウ 本件訂正発明7について 本件訂正発明7は,本件訂正発明1を引用するか,本件訂正発明1を引用する本件訂正発明2〜4及び6のいずれかを引用すると共に, 「酸化防止剤(D)をノニオン系界面活性剤(B)に対して0.01〜3質量%含む」点を更に限定する発明である。
本件訂正発明7について,甲4の記載を考慮しても,本件訂正発明1が,前記アのとおり,当業者が容易に発明することができたものとすることができない以上,本件訂正発明7は,同様な理由で,当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。
エ 本件訂正発明14について 本件訂正発明14は,本件訂正発明1のポリビニルアルコール系重合体フィルムの保管方法であるから,本件訂正発明1のポリビニルアルコール系重合体フィルムが,前記アのとおり,当業者が容易に発明することができたものとすることができない以上,その保管方法についても当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。
(4) 無効理由4-2について ア 本件訂正発明3について (ア) 本件訂正発明3Aの認定 本件訂正発明1を引用する本件訂正発明3を本件訂正発明3Aとし,他の請求項を引用しない形式で表すと,次のとおりである。
「ポリビニルアルコール系重合体(A) および当該ポリビニルアルコール系重合体 ,(A)100質量部に対してノニオン系界面活性剤(B)を0.001〜1質量部含み,酸性物質(C)を用いて得られたものであるポリビニルアルコール系重合体フィルムであって,水に7質量%の濃度で溶解させた際の20℃におけるpHが2.0〜6.8であるポリビニルアルコール系重合体フィルム。」 (イ) 一致点の認定 本件訂正発明3Aと甲2発明とを対比すると,次の点で一致する。
「ポリビニルアルコール系重合体(A) および当該ポリビニルアルコール系重合体 ,(A)100質量部に対してノニオン系界面活性剤(B)を0.001〜1質量部含むポリビニルアルコール系重合体フィルム」である点。
(ウ) 相違点の認定 本件訂正発明3Aと甲2発明とを対比すると,次の点が相違する。
a 相違点2-1 ポリビニルアルコール系重合体フィルムに関し,本件訂正発明3Aは「水に7質量%の濃度で溶解させた際の20℃におけるpHが2.0〜6.8である」と特定するのに対して,甲2発明においては,このような特定はされていない点。
b 相違点2-2 本件訂正発明3Aは「酸性物質(C)を用いて得られたものである」と特定するのに対して,甲2発明においては,このような特定はされていない点。
(エ) 相違点2-1についての判断 甲8には,酸性物質である「酢酸」と「リン酸二水素ナトリウム」を添加することにより,ポリビニルアルコール系重合体が黄色に着色することを防止することが記載されている。
しかし,甲2発明は,酢酸ナトリウムが少ないほど良いものであるのに対して,甲8においては当該酢酸ナトリウムを必須として添加するものであることから,甲2発明に甲8の技術を適用することに阻害要因がある。
また,甲8においてポリビニルアルコール系重合体が黄色に着色するのは,溶融成形時や熱処理,熱延伸,熱接着,乾燥等,要するに加熱時であって,加熱時ではない,ノニオン系界面活性剤を配合して製造されたPVA系重合体フィルムをロール状に巻いて,これを常温近辺に温度コントロールした倉庫内に数か月間程度保管した時に,ロールの色が著しく黄色味を帯びる点が改善されることについては,一切記載されていない。
そして,加熱時の着色と常温保管時の着色とが同様な原因で起こるものであることが当業者の技術常識であったものとも認められない。
そうすると,相違点2-1に係る前記効果は,甲8及びその余の甲号証のいずれにも記載されておらず,当業者において自明なものとも認められないから,甲8の記載を踏まえても,相違点2-1が当業者が容易に想到し得たものとすることはできない。
(オ) 本件訂正発明3Bについて 本件訂正発明2を引用する本件訂正発明3を本件訂正発明3Bとすると,本件訂正発明3Bは,本件訂正発明3Aを更に限定した発明である。
したがって,本件訂正発明3Aが,前記(ア)〜(エ)のとおり,当業者が容易に発明をすることができたものとすることができない以上,本件訂正発明3Bは,同様な理由で,当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。
イ 本件訂正発明4,6,7について 本件訂正発明4,6,7は,本件訂正発明3を引用し,更に限定する発明であるから,本件訂正発明3が,前記アのとおり,当業者が容易に発明することができたものとすることができない以上,同様な理由で,当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。
ウ 本件訂正発明3,4,6,7を引用する本件訂正発明14について 本件訂正発明3,4,6,7を引用する本件訂正発明14は,本件訂正発明3,4,6,7のポリビニルアルコール系重合体フィルムの保管方法であるから,本件訂正発明3,4,6,7のポリビニルアルコール系重合体フィルムが,前記ア,イのとおり,当業者が容易に発明することができたものとすることができない以上,その保管方法についても当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。
(5) 無効理由1について ア 甲2に基づく無効理由1について 本件訂正発明1と甲2発明とを対比すると,前記(3)アのとおり,実質的な相違点が存在するので,本件訂正発明1は,甲2発明と同一ではない。
本件訂正発明2,6は,本件訂正発明1を引用する発明であるから,同様に甲2発明と同一ではない。
イ 甲3に基づく無効理由1について (ア) 甲3発明の認定 甲3には,次の甲3発明が記載されている。
「ポリビニルアルコール系樹脂,当該ポリビニルアルコール系樹脂に対してアルキルスルホン酸塩系の界面活性剤を50〜1000ppm含むポリビニルアルコール系フィルム。」 (イ) 一致点の認定 本件訂正発明1と甲3発明とを対比すると,次の点で一致する。
「ポリビニルアルコール系重合体(A) および当該ポリビニルアルコール系重合体 ,(A)100質量部に対して界面活性剤(B)を0.001〜1質量部含むポリビニルアルコール系重合体フィルム」である点。
(ウ) 相違点の認定 本件訂正発明1と甲3発明とを対比すると,次の点が相違する。
a 相違点3-1 界面活性剤に関し,本件訂正発明1は「ノニオン系」であるのに対して,甲3発明においては「アルキルスルホン酸塩系」である点。
b 相違点3-2 ポリビニルアルコール系重合体フィルムに関し,本件訂正発明1は「水に7質量%の濃度で溶解させた際の20℃におけるpHが2.0〜6.8である」と特定するのに対して,甲3発明においては,このような特定はされていない点。
(エ) 相違点3-1についての判断 界面活性剤の種類として,アルキルスルホン酸塩系はアニオン系に属するものであって,ノニオン系(非イオン系)とは異なるものであるから,相違点3-1は,実質的な相違点である。
そうすると,相違点3-2を検討するまでもなく,本件訂正発明1は,甲3発明と同一でない。
本件訂正発明2は,本件訂正発明1を引用する発明であるから,同様に甲3発明と同一でない。
原告主張の審決取消事由
1 取消事由1(サポート要件の判断の誤り) 審決は,本件訂正発明1〜4,6,7,9〜14は,いずれも特許法36条6項1号所定のサポート要件を充足すると判断したが,次のとおり,誤りである。
(1) 本件訂正発明1について ア 本件訂正明細書の記載(【0002】【0003】【0005】〜【00 , ,07】【0009】,特に【0006】〜【0008】によると,本件訂正発明が , )「常温近辺に温度コントロールした倉庫内などに数ヶ月間程度保管した後であってもフィルムの色が黄色味を帯びにくい」PVA系重合体フィルムを提供することを,その課題とすることは明らかである。
イ 本件訂正明細書の記載(【0020】〜【0022】)によると,本件訂 正発明1の「ノニオン系界面活性剤(B)」は,学術上の「ノニオン系界面活性剤」のみを指すのではなく,次の@〜Bを含むことが明らかである。
@ 「アルキルエーテル型,アルキルフェニルエーテル型,アルキルエステル型; …」などのノニオン系界面活性剤(学術上のノニオン系界面活性剤) A @の「学術上のノニオン系界面活性剤」と,学術上その他の種類に分類され る任意の「界面活性剤」との併用物(混合物) B @及びAの界面活性剤と, 「ノニオン系界面活性剤(B)を製造する際に使用 した原料,触媒,溶媒;ノニオン系界面活性剤(B)が分解して生じた分解物」 等との混合物 ウ 本件訂正明細書では,すべての実施例で,同一の「ノニオン系界面活性剤(B)」が使用されており,実施例の存在する「ノニオン系界面活性剤(B)」は,1種類のみである。
しかも,この1種類の「ノニオン系界面活性剤(B)は,学術上のノニオン系界面活性剤の純品ではなく, 「界面活性剤を含む混合物(ラウリン酸ジエタノールアミドを95質量%の割合で含有し,且つジエタノールアミンを不純物として含む混合物)」である。
この不純物のジエタノールアミンの水溶液は,強アルカリ性を示すものであるが(甲38),このような強アルカリは,本件訂正発明のいずれについても,その構成要件とされておらず,このような構成要件外の化合物の存在が本件訂正発明の特性にどのような影響を及ぼすか,その予測は困難である。
また,そのような強アルカリ性の化合物を不純物として含む「ノニオン性界面活性剤」を,本件訂正発明の「ノニオン系界面活性剤(B)」として使用すれば,PVA系重合体フィルムのpHは,本件訂正発明1(及び,これに従属する各発明)の要件である「2.0〜6.8」の範囲から外れることになり,当然ながら,そのpHを「2.0〜6.8」の範囲内に戻すことが必要となる。本件訂正明細書記載の実施例では,pHを低下させるため,「酸性物質」が添加されているところ,「酸性 物質」の添加は,本件訂正発明3,4,10等の構成要件ではあるが,本件訂正発明1及び2では,その構成要件に含まれない。
このような構成要件外の強アルカリと酸性物質を含有する実施例が,本件訂正発明の課題の達成について,どのような影響を及ぼすかは, 「発明の構成に基づく効果の予測可能性に乏しい」発明においては,当業者といえども,これを予測することは極めて困難又は不可能である。
このような実施例の記載に接して,本件訂正発明の「ノニオン系界面活性剤(B)」を使用すれば,その種類にかかわらず,前記アの本件訂正発明の課題が達成されると認識する当業者は存在しない。
エ 審決は,「ノニオン系」という一群の界面活性剤は,ノニオン性であり,かつ,界面活性作用がある点で技術的特徴が共通するものであって,その性質も類似していると認定し,これを根拠として,本件訂正明細書に「ノニオン系界面活性剤として特定の1化合物を利用した実施例しか記載されていないとしても」本件訂正発明の課題が解決されることが理解できる旨判断した。
確かに, 「ノニオン系」という一群の界面活性剤は,ノニオン性であり,かつ,界面活性作用がある点で技術的特徴が共通するから,その技術的特徴が共通する限度において,その性質も類似する。
しかしながら,本件訂正発明の課題は, 「疎水性物質を乳化し,水中に分散すること」というように,界面活性剤の属性に係る技術常識に基づいて,実施例の記載がなくても,一群の界面活性剤によりその解決が可能であることを認識できるようなものではなく,常温近辺に温度コントロールした倉庫内などに数ヶ月間程度保管し 「た後であってもフィルムの色が黄色味を帯びにくいPVA系重合体フィルム」を提供することである。
「発明の構成に基づく効果の予測性に乏しい発明」である本件訂正発明において, 「ノニオン系」という「一群の界面活性剤」が,その種類にかかわらず,この課題を解決し得ることは,技術常識としてあり得ない。
しかも,前記イのとおり,本件訂正発明の「ノニオン系界面活性剤(B)」は,学 術用語上の「ノニオン系界面活性剤」のみを指すものではなく,前記イABのような混合物を含むものである。本件訂正明細書実施例記載の「ノニオン系界面活性剤(B)」は,強アルカリ性の不純物を含むものであり,アルカリ性を示すものであるが,中性である学術上の「ノニオン系界面活性剤」を使用した場合と同一の結果を与えるかどうか,当業者がこれを予測することは困難である。
そうすると, 「ノニオン系」という一群の界面活性剤は,界面活性作用がある点で技術的特徴が共通するものであって,その性質も類似しているという審決の認定を前提としても,本件訂正明細書発明の詳細な説明中の,ただ1種類の界面活性剤の実施例の記載に基づいて,本件訂正発明は,前記アの課題を解決し得る,と当業者が認識することはないし,発明の詳細な説明中に記載や示唆はなくとも,当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるということもできない。
この点に関し,被告は,本件訂正発明の目的・効果として, 「PVA系重合体フィルムの製膜時の膜面異常を防止又は低減して,ダイライン(スジ),異物,ムラなどの発生がなく,外観に優れるPVA系重合体フィルムを提供する」という第1の目的・効果と, 「常温近辺で数ヶ月間保管したときに黄色味を帯びないPVA系重合体フィルムを提供する」という第2の目的・効果を挙げ,本件訂正発明により,この二つの目的・効果が同時に達成されることは,本件訂正明細書の記載から明らかであり,当業者は容易に理解することができると主張する。しかしながら,上記第1の目的・効果は,界面活性剤であれば当然に備える特性により達成される効果であるが,上記第2の目的・効果は,これと全く異なり,ノニオン系界面活性剤が共通して有する特性により達成されるなどということはない。ある界面活性剤が,上記第2の目的・効果を達成し得るか否かを,当該界面活性剤の構造に基づいて予測することは,本件出願時の技術をもってしては,当業者といえども不可能であった。
換言すれば,ある界面活性剤がそのような課題を解決し得るものであるか否かは,当業者といえども,実験により確認するまでは,これを認識することはできなかっ た。被告は,なぜ1種類のノニオン系界面活性剤の実施例の効果が,上記第2の目的・効果についても,全てのノニオン系界面活性剤が共通して奏する効果であるといえるか,何ら説明していない。
オ 審決は,『水に7質量%の濃度で溶解させた際の20℃におけるpHが 「2.0〜6.8である』ことを満足することで前記課題が解決されることが理解できる。」と説示しており,「水に7質量%の濃度で溶解させた際の20℃におけるpHが2.0〜6.8である」との数値範囲の特定は,本件訂正発明1を特徴付ける格別の技術的意味を有すると解釈した可能性がある。
しかしながら,本件訂正明細書発明の詳細な説明には, 「ノニオン系界面活性剤(B)」の具体例として,「界面活性剤を含む混合物(ラウリン酸ジエタノールアミドを95質量%の割合で含有し,且つジエタノールアミンを不純物として含む混合物)」を使用した実施例しか記載されていないから,仮に,当該混合物を「ノニオン系界面活性剤(B)」として使用した場合において,pHを「水に7質量%の濃度で溶解させた際の20℃におけるpHが2.0〜6.8である」との数値範囲としたときに,顕著な効果が奏されると仮定しても,当該効果は,当該実施例で使用した「混合物」の効果であって,本件訂正発明1の「ノニオン系界面活性剤(B)」全体の効果ということはできない。
カ 審決は,本件訂正明細書記載の実施例1〜7,10は,全て本件訂正発明1の実施例といえると認定判断し,常温保存(30℃で6ヶ月間)の結果が示されている実施例1(実施例10)も,高温保存(80℃で3日〜8日間)の結果しか示されていない実施例2〜7も,全て本件訂正発明1の実施例であると認定判断した。
しかしながら,審決は,進歩性判断の局面では, 「加熱時の着色」と「常温保管時の着色」を峻別し, 「同様な原因で起こるものであることが当業者の技術常識であったものとも認められない」と正しく認定判断しており,実施例2〜7が本件訂正発明1の実施例であるとすることは,これと矛盾するものである。審決が進歩性判断 の局面で正しく判断するとおり,PVA系重合体フィルムについて,その加熱時の着色と常温保管時の着色が同様な原因で起こるという技術常識は存在しないのであるから,実施例2〜7が加熱時の着色の低減を示すものといえたとしても,これに基づいて,常温保管時の着色も同様に低減されるということはできない。
この点に関し,被告は,PVAは,100℃以下の温度では一般に分解が生じない一方,100℃を超える高温,特に150℃以上の高温に加熱すると熱分解が生じてアセトアルデヒドなどが発生し,このアセトアルデヒドなどがPVAの着色原因となることは,本件優先日前から周知の技術常識であり,本件訂正明細書実施例では,常温で保管したときのPVAフィルムの黄変度の測定に要する試験期間を短縮するために,常温と同様に熱分解が生じない80℃という条件を採用したものであると主張する。しかしながら,仮に被告主張のとおり,PVAが100℃以下の温度で熱分解しないことが技術常識であるとすると,100℃以下の温度におけるPVAの分解について,そのメカニズムや分解速度に関する研究がされることはあり得ないから,当業者は,100℃以下の温度におけるPVAの分解のメカニズム等について,何らの知見も有していないはずである。また,80℃での短期保管テストが常温での長期保管テストの加速試験となるためには,PVAの分解が温度に依存し,100℃以下の温度領域においても温度の上昇に伴ってその分解が加速されることが技術常識であることが前提であるが,これは,PVAが100℃以下の温度で熱分解しないことが技術常識であることと矛盾するものであって,両立し得ないものである。
キ 被告は,後記第4の1(1)カのとおり,アルカノールアミド型のノニオン系界面活性剤を用いた実施例において,ノニオン系界面活性剤中の疎水性基部分の空気中の酸素による酸化が,要件(α) (ノニオン系界面活性剤の含有量を本件訂正発明1の所定の範囲内の量とすること)及び要件(β) (PVA系重合体フィルムのpHを本件訂正発明1の所定の測定法で2.0〜6.8の範囲内とすること)の採用によって防止又は抑制される際の酸化防止機構は,その疎水性基部分が脂肪族炭 化水素基から構成されているアルカノールアミド型のノニオン系界面活性剤以外の他のノニオン系界面活性剤においてもそのまま共通して働く旨主張する。
しかしながら, 「要件(α)及び要件(β)の採用によって防止又は抑制される際の酸化防止機構」とはどのようなものであるかは,本件訂正明細書でも,被告の主張でも全く説明されていないし,予測性の乏しい化学の技術分野において,これが当業者の技術常識であるなどということもあり得ない。被告は,どのような酸化防止機構が,どのようにして他のノニオン系界面活性剤にも「そのまま共通して働く」のか,その理由を全く説明できていない。
また,被告の主張は,界面活性剤の疎水性基部分(=親油性基部分)が,炭化水素基(一般的には炭素数の多い炭化水素基,ほとんどの場合に長鎖脂肪族炭化水素基)から構成される点で化学構造が共通又は近似し,この化学構造の共通性又は近似性に基づき,その化学的特性(具体的には,耐空気酸化特性)が共通することが前提となっているが,そのような前提は成立しない。すなわち,「脂肪族炭化水素」には, 「飽和脂肪族炭化水素」と「不飽和脂肪族炭化水素」が存在するところ,C=C二重結合(官能基)を有する「不飽和脂肪族炭化水素」 (=アルケン)と,官能基を有しない「飽和脂肪族炭化水素」 (=アルカン)とは,その反応性の差が極めて大きいことは,化学分野における技術常識である(甲42〜44,乙4の3)。本件訂正明細書実施例に用いられたラウリン酸ジエタノールアミドの疎水性基部分は,反応性に乏しい「飽和脂肪族炭化水素基」であり,被告は,この反応性に乏しい「飽和脂肪族炭化水素基」を疎水性基部分とする界面活性剤をただ1種類使用した実施例の結果が, 「不飽和脂肪族炭化水素基」を疎水性基部分とするものを含め,全てのノニオン系界面活性剤に敷衍できる旨主張しているが,これは化学分野における上記技術常識から大きく外れるものである。
この点に関し,被告は,不飽和脂肪族炭化水素と飽和脂肪族炭化水素との間の反応性の大小は,相対的な比較における,程度の差にすぎないと主張する。しかしながら,前記イのとおり,本件訂正発明1の「ノニオン系界面活性剤(B)」は,@全 てのノニオン系界面活性剤を包含し,A全てのノニオン系界面活性剤と,ノニオン系界面活性剤以外のその他の界面活性剤との併用物(混合物)を包含し,Bこれら@及びAと「ノニオン系界面活性剤(B)を製造する際の不純物」との混合物を包含する広範な概念であり,その数が膨大であるだけでなく,当該概念に含まれるノニオン系界面活性剤以外の界面活性剤や不純物の存在により,その反応性が大きく変動する可能性を排除できないものである。それにもかかわらず,本件訂正明細書実施例には,「ノニオン系界面活性剤(B)」としてただ1種類(しかも,その純度の高いものではなく,ジエタノールアミンを不純物として多量に含むもの)が記載されているにすぎないし,その黄変防止効果も,実施例5の「80℃-5日後」や実施例6の「80℃-10日後」における黄変度(ΔYI)の数値を「比較参考例」や「比較例」と比較すれば明らかであるとおり,その効果(黄変度)において明確な差異が存在するというにはほど遠く, 「比較参考例」 「比較例」 や と比較して,優れているものもあれば,劣っているものもあるという程度にすぎない。このような実施例の記載をもって,本件訂正発明は, 「相対的な比較における,程度の差」が存在するとしても,全体として発明の構成に基づく効果の予測性があるということはできない。
ク 被告は,後記第4の1(1)カのとおり,ノニオン系界面活性剤を含有するPVA系重合体フィルムを常温付近に温度コントロールした倉庫内などに数か月間保管したときのフィルムの黄変の一番の原因は,フィルムの表面及びその近傍に多く集まったノニオン系界面活性剤の疎水性基部分の酸化である旨主張する。
しかしながら,このような黄変の機序は,本件訴訟に至って唐突に主張されるに至ったものであるところ,次のとおり,本件技術分野における技術常識とも整合しない。
すなわち,PVA系重合体フィルムは,酸素の透過率が極めて低い(=酸素バリア性が極めて高い)ことは,本件技術分野における本件優先日当時の技術常識である(甲45)。したがって,PVA系重合体フィルムを,ロール状に巻いて,常温近 辺に温度コントロールした倉庫内に保管した場合,ロールの外表面又はその近傍に位置するPVA系重合体フィルムがガスバリア層(=酸素遮断層)として機能し,ロールの内部に位置するフィルムを空気中の酸素による酸化から保護する。
そこで,仮に黄変が被告主張の機序によるものであるとすると,ロール状に巻き取られたPVA系重合体フィルムは,ロールの最外層又はその近傍層では空気中の酸素に酸化されるものの,外表面から遠い位置に存在するPVA系重合体フィルムは,当該フィルムの固有の特性(ガスバリア性)に基づいて,黄変が全く起こらないか,少なくとも軽減される。黄変の防止又は軽減の程度は,外表面からの距離に反比例し,その結果,PVA系重合体フィルムのうち,ロールの外表面に存在するものと,その内部に存在するものとでは,着色の程度に有意な差異が生じることになる。
しかしながら,本件訂正明細書参酌しても,本件訂正発明における黄変が,PVA系重合体に配合され,その表面又はその近傍に位置する界面活性剤の空気酸化によるものであることをうかがわせる記載は存在しない。本件訂正明細書の記載(【0002】【0003】【0005】【0006】 , , , )に接した当業者は,本件訂正発明が解決しようとする課題は,ロール状に巻いて保管されたPVA系重合体フィルム全体の黄変の軽減であると理解するのが自然であり,少なくとも,ロール中におけるフィルムの相対的な位置に強く相関する空気酸化による黄変とは理解しない。
この点に関し,被告は,PVAフィルムはその巻取り時に空気を巻き込むので,巻き込まれた空気中の酸素によるフィルムの黄変はロール全体で起こる旨主張するが,ロールの外表面とその内部における酸素濃度(=酸素分圧)の差異を無視したものであって,失当である。すなわち,酸素による酸化反応は,酸素原子と他の元素とが衝突することにより発生するが,酸素原子と他の原子とが衝突する確率(=酸化反応が起こる確率)は,酸素原子の数に比例し,酸素原子の数は,酸素の濃度(=酸素分圧)に比例する。酸素濃度が低下すれば,酸素による酸化反応の進行速 度は低下し,酸素濃度がゼロになれば,酸化反応は停止する。これは,一般技術常識である(甲47)。そして,ロールの外表面は,21%の濃度(=分圧)で酸素を含む空気に直接接しているから,保管が長期にわたっても,酸素濃度(=酸素分圧)は全く変化しないのに対し,酸素透過率が極めて低いPVAフィルムのロールの内部(特に,その外表面及び端面のいずれからも遠い領域)では,酸素が供給されないか,その供給量は他の種類の樹脂フィルムのロールと比較して少ないため,酸素の濃度(=分圧)が低下する。したがって,被告主張のようにロール全体で黄変が起こるとしても,酸素透過率が極めて低いPVAフィルムのロールを長期にわたって保管すると,ロールの外表面とその内部とで酸素濃度に差異が生じるから,この差異を反映して,黄変の程度も当然異なることになる。仮に,実際にはロール全体が黄変するとしても,黄変の原因が界面活性剤の酸化とは別にある可能性は排除できない。
(2) 本件訂正発明2〜4,6,7,9〜14について 本件訂正発明2〜4,6,7,9〜14は,いずれも本件訂正発明1に従属する発明であるところ,本件訂正発明1がサポート要件を充足しないことは,前記のとおりである。
そして,本件訂正発明2〜4,6,7,9〜14の構成要件には,本件訂正発明1のサポート要件非充足を治癒するに足る構成は何ら含まれていないから,これらの発明もサポート要件を充足しない。
2 取消事由2(実施可能要件の判断の誤り) 審決は,本件訂正発明1〜4,6,7,9〜14は,いずれも特許法36条4項1号所定の実施可能要件を充足すると判断したが,次のとおり,誤りである。
(1) 本件訂正発明1について ア 本件訂正発明は, 「発明の構成に基づく効果の予測性に乏しい」技術分野に属する発明である。
このような技術分野においては,従前より,発明の実施に当業者に期待し得る程 度を越える試行錯誤(又は,過度の試行錯誤)を要するときは,特許法36条4項1号所定の実施可能要件を充足しないと解されている。
しかるに,本件訂正発明1は,発明の実施に当業者に期待し得る程度を越える試行錯誤(又は,過度の試行錯誤)を要するものである。
というのも,本件訂正発明1は,「ノニオン系界面活性剤(B)」をその構成に含むが,前記1(1)イのとおり,「ノニオン系界面活性剤(B)」には,前記1(1)イ@〜Bが含まれ,その数は膨大である。例えば,前記@には,アルキルエーテル型,アルキルフェニルエーテル型,アルキルエステル型;アルキルアミン型;アルキルアミド型;ポリプロピレングリコールエーテル型;アルカノールアミド型;アリルフェニルエーテル型を含む,多種多様な「型」の界面活性剤が含まれる。しかも,それぞれの「型」のものに,それぞれ,極めて多数の界面活性が含まれる。例えば,アルキルエーテル型には,アルキル基の炭素数が,最小の1のものから数十程度のものまで存在する。炭素数が同一でも,飽和・不飽和のもの,直鎖や分岐鎖,あるいは,置換基を有するものなどがある。さらには,エーテル構造を構成する2個のアルキル基が,対称・非対称いずれの化合物も存在する。このように膨大な数が存在する前記@と,前記Aの「学術上その他の種類に分類される界面活性剤」との併用物(混合物)の数は,より膨大となる。さらには,それらと前記Bの不純物を含む混合物まで考慮すると,本件訂正発明でいう「ノニオン系界面活性剤(B)」の数は,天文学的な数となる。
そして,本件訂正発明を実施するには,このような膨大な数の「ノニオン系界面活性剤(B)」について,「常温近辺に温度コントロールした倉庫内などに数ヶ月間程度保管した後であってもフィルムの色が黄色味を帯びにくい」かどうか,試行錯誤を繰り返すことになる。この試行錯誤には,膨大な時間,人的資源,資金等を要する。このような試行錯誤は,当業者に期待し得る程度を越える,過度の試行錯誤に当たる。
イ 審決は, 「実施例以外のものについても, ・ ・ ・ノニオン系界面活性剤(B) を入手し,所定量配合し, ・・・酸性物質を適宜配合することにより,本件訂正発明1のポリビニルアルコール系重合体フィルムを得ることは,当業者であれば実施できる」と説示し,これをもって,本件訂正発明1が実施可能要件を充足する根拠とする。
しかしながら,審決は,必要な試行錯誤の程度(数)について,全く考慮していない。審決は,試行錯誤それぞれの可否のみを検討し,試行錯誤のそれぞれが実施可能であれば,試行錯誤の必要数がいかに膨大であろうとも実施可能要件は充足されると認定判断したものということができるが,本件訂正発明は, 「発明の構成に基づく効果の予測性に乏しい発明」である。このような発明において, 「試行錯誤のそれぞれ」が実施可能としても,その試行錯誤に膨大な時間,人的資源,資金等を要することは,前記アのとおりである。
ウ 審決は,本件訂正明細書には,本件訂正発明1のポリビニルアルコール系重合体フィルムの実施例として,実施例1〜7及び10が具体的に記載されていると認定判断した。
しかしながら,前記1(1)カのとおり,実施例2〜7は,本件訂正発明1の実施例ということはできないから,審決の認定判断は誤りである。
(2) 本件訂正発明2〜4,6,7,9〜14について 本件訂正発明2〜4,6,7,9〜14は,いずれも本件訂正発明1に従属する発明であるところ,本件訂正発明1が実施可能要件を充足しないことは,前記のとおりである。
そして,本件訂正発明2〜4,6,7,9〜14には,本件訂正発明1の実施可能要件非充足を治癒するに足る構成は何ら含まれていないから,これらの発明も実施可能要件を充足しない。
3 取消事由3-1(相違点1の容易想到性の判断の誤り) 審決は,相違点1は,当業者が容易に想到し得たものということはできないとして,本件訂正発明1〜4,6,7,14は,進歩性があると判断したが,次のとお り,誤りである。
なお,審決認定の相違点1は,単なる公知技術である甲2について「特定」という用語を使用しているが, 「特定」とは, 「特許出願人が特許を受けようとする発明」を特許出願人が自ら定義する際の概念であるから,不適切であり,相違点1は,次のとおり認定されるべきである。
「ポリビニルアルコール系重合体フィルムに関し,本件訂正発明1は「水に7質量%の濃度で溶解させた際の20℃におけるpHが2.0〜6.8である」と特定するのに対して,甲2発明では,フィルムを「水に7質量%の濃度で溶解させた際の20℃におけるpHが2.0〜6.8である」か否かについて,明示の記載が存在しない点。」 (1) 本件訂正発明1について ア 審決は,甲2発明の認定に当たり,技術常識を踏まえることなく,形式的・外形的に甲2発明を認定し,甲2には,ポリビニルアルコール系フィルム自体のpHについての記載は一切ない旨認定したが,これは,引用例記載の発明の認定手法を誤り,その結果,その認定を誤ったものである。
甲2の記載(【発明の名称】【0006】【0007】【0016】 , , , )によると,甲2には, 「水酸化ナトリウム」や「酢酸ナトリウム」などのアルカリ金属を有する化合物の含有量を「0.5重量%以下」 (=0.5〜0重量%)とすることにより不要な着色を少なくした,PVA系重合体フィルムの発明が記載されていることは明らかである。
そして, 「水酸化ナトリウム」や「酢酸ナトリウム」が,いわゆるアルカリ性を示す物質であることは技術常識であり(甲39,40),アルカリ性物質は,その存在量が多いときは,その水溶液のpH値が相対的に高くなり,少ないときは,pH値が相対的に低くなるということも,化学分野における基礎的な技術常識である。
このような技術常識を踏まえると,甲2の上記記載に接した当業者は,甲2には,PVA系重合体フィルムの不要な着色を少なくするために,アルカリ性物質の含有 量を「ポリビニルアルコールに対して0.5重量%以下」とする発明,すなわち,アルカリ性物質の濃度が高く,pH値が高いPVA系フィルムからアルカリ性物質を除去し,そのpHを相対的に低い値とする発明が記載されていると理解する。
このように,技術常識を踏まえると,当業者は,甲2には,PVA系重合体フィルム自体のpHについて実質的に記載されていると理解する。
そうすると,甲2には,ポリビニルアルコール系フィルム自体のpHについての記載は一切ない旨の審決の認定が誤りであることは明らかであり,この誤りは審決の結論に影響し得るものである。
イ 審決は,甲2には,ポリビニルアルコール系フィルムの製造時にpHの調節を行うことについての記載もないと認定し,これを本件訂正発明1が進歩性を備えるとの認定判断の根拠としている。これは, 「ポリビニルアルコール系フィルムの製造時にpHの調節を行うこと」を,本件訂正発明1の構成要件として実質的に認定したものということができるが,本件訂正発明1は, 「フィルムの製造時にpHの調節を行うこと」をその構成要件としておらず,審決は,発明の要旨の認定を誤ったものである。この誤りは,本件訂正発明1の構成要件に含まれないpHを調整する工程を含む実施例を,本件訂正発明1の実施例と誤って認定したことによるものであると推測される。
また,本件訂正発明1の「水に7質量%の濃度で溶解させた際の20℃におけるpHが2.0〜6.8であること」は,pHの調整を行う工程が存在しない場合においても,本件訂正発明1のその余の構成要件について,当業者が,ごく自然で,ごく普通の選択をすれば,自ずと達成されるものにすぎない。すなわち, 「PVA系重合体(A)」として,市販されている代表的な銘柄(pHは,4%水溶液,20℃において5〜7。甲10の2)を選択し,「ノニオン系界面活性剤(B)」として,学術上の分類・定義に該当する中性のノニオン系界面活性剤を選択し,製膜法として,代表的な製膜方法である「流延製膜法」を選択すれば,流延製膜法では,化学反応は起こらず,固形成分の割合はそのまま保持されるから,PVA系重合体(A) のpH値をそのまま反映したフィルムが製造される。このことからも,審決が, 「フィルムの製造時にpHの調節を行うこと」を本件訂正発明1の必須の構成要件としたことが誤りであることは,明らかである。この点に関し,被告は,純度100%の「純品」のノニオン系界面活性剤を工業的に得るにはコストの大幅な上昇を招くことから,工業的に製造されて流通されていたノニオン系界面活性剤は,通常,不純物を含有するものであったと主張するが,本件訂正発明1において,ノニオン系界面活性剤の含有量の最小値は,ポリビニルアルコール系重合体(A)の100分の0.001,すなわち0.001%にすぎず,仮に0.001%のノニオン系界面活性剤が被告主張のような多量の不純物を含む市販品であって,そのpHが7を超えるとしても,本件訂正発明1のポリビニルアルコール系重合体フィルム自体のpHが実質的に左右されるものではない。
なお,仮に,本件訂正発明1が「ポリビニルアルコール系フィルムの製造時にpHの調節を行うこと」をその構成要件に含むと解すると,本件訂正発明1は,物の発明であって特許請求の範囲にその物の製造方法の記載がある,いわゆる「プロダクト・バイ・プロセス・クレーム」の発明ということになる。しかし,最高裁平成24年(受)第1204号同27年6月5日第二小法廷判決は,プロダクト・バイ・プロセス・クレームで定義された発明は,原則として,明確性要件に違反する旨判示した。被告が,審決の上記認定が正当であると主張する場合には,原告らは,審決取消事由として,特許法36条6項2号所定の明確性要件の解釈適用の誤りを追加する。この理由については,無効審判において審理判断されていないが,本件訂正発明1が「ポリビニルアルコール系フィルムの製造時にpHの調節を行うこと」をその構成要件に含むとの解釈は,審決において唐突に示されたものであり,かつ,プロダクト・バイ・プロセス・クレーム発明が明確性要件に違反することは,本件無効審判請求後に最高裁により判示されたものであるから,原告らが,本件無効審判の請求時にその旨の主張をすることは不可能であった。したがって,この取消事由の追加は,許される。
ウ 審決は, 「エステルの加水分解が,pHが高い場合でなく,これが低い場合においても促進されること」が技術常識であると認められるとしても,甲2発明において,pHの調整を行ってpHを2.0〜6.8とする動機はないと判断したが,次のとおり,技術常識を踏まえると,甲2が本件訂正発明1に含まれる範囲のpHを当業者に対し教示・示唆していることは明白であり,このような教示・示唆に従うことに動機がないということはできないから,審決の誤りは明白である。
まず,審決認定の「エステルの加水分解」には, 「ポリ酢酸ビニル」及び「PVA系重合体」の「加水分解」が含まれる。
そして, 「ポリ酢酸ビニル」 「PVA系重合体に含まれるポリ酢酸ビニル単位」 又はを水酸化ナトリウム(NaOH)を用いて加水分解すると,「酢酸ナトリウム」(CH3COONa)が生成する。
他方,甲2には, 「不要な着色が少ないPVAフィルム」に関する発明が記載されており,不要な着色を少なくするにはアルカリ性物質(「水酸化ナトリウム」「酢酸 ,ナトリウム」などのアルカリ金属化合物)の含有量を制限することが好ましいことが,明示されている(【0016】など)。
そうすると, 「ポリ酢酸ビニル」及び「PVA系重合体」の加水分解による「酢酸ナトリウム」の生成に関する技術常識を備えると共に,審決が前提とする「エステルの加水分解が,pHが高い場合でなく,これが低い場合においても促進される」という技術常識をも備える当業者が,甲2の上記記載に接すれば, 「不要な着色を少なくする」ためには,高いpHも,低いpHも避けるべきであると理解する。甲2は,技術常識を踏まえると,高いpHも,低いpHも避けるべきことを,当業者に明確に教示・示唆している。
そして,この「高いpHも,低いpHも避ける」という意味を,技術常識を踏まえて解すると,例えば,下図において×印を付したpHの領域を避けることを意味する。
本件訂正発明1の pH=2.0〜6.8 そうすると,当業者は,上図で×印で示すpHが高い領域やpHが低い領域を避け,中性の7.0やその近辺,あるいは,弱酸性や弱アルカリ性のpH領域(例えば,pH6.0)を選択することを,容易に着想し得る。
甲2には,pHの数値について「2.0〜6.8」という数値そのものは記載されていないが,本件訂正発明1に含まれる範囲のpHを当業者に教示・示唆していることは明白であり,このような教示・示唆に従うことに動機がないということはできない。
エ 審決は,本件訂正発明1の効果を「ポリビニルアルコール系フィルムを7質量%の濃度で溶解させた際の20℃におけるpHを2.0〜6.8とすることによって,製膜する際におけるダイラインの発生や異物の発生を抑制し,製膜性を改善するとともに,常温近辺に温度コントロールした倉庫内に数ヶ月間程度保管した時に,ロールの色が著しく黄色味を帯びる問題の解決を図ることができる」ことと認定した上, 「当該効果は,請求人らの提示したいずれの文献にも記載されておらず,当業者において自明なものでもないから,当業者が予測し得ない格別の効果といえる。」と判断した。
しかし,本件訂正発明は, 「発明の構成に基づく効果の予測性に乏しい発明」であるにもかかわらず,本件訂正明細書には,ただ1種類の「ノニオン系界面活性剤(B)」 である「ラウリン酸ジエタノールアミドを95質量%の割合で含有し,且つジエタノールアミンを不純物として含む混合物」についての実施例が記載されているにすぎない。この実施例は,極めて特殊な「ノニオン系界面活性剤(B)」に係る実施例であり,その効果は,単に,当該実施例の効果にすぎないものであって,本件訂正発明1そのものの効果,あるいは,本件訂正発明1全体の効果ということはできない。
また,本件訂正明細書に記載された実施例には,そのすべてにおいて,本件訂正発明1の構成要件に含まれない「酸性物質C」 (これは,本件訂正発明3等の必須の構成要件である)が含まれており,本件訂正発明1の実施例ではないし,実施例の多くに「酸化防止剤」が含まれているが,これも本件訂正発明1の構成要件に含まれていない。本件訂正明細書には,酸性物質や酸化防止剤を含まず,本件訂正発明1の構成要件のみを充足した実施例は記載されていないから,本件訂正明細書の記載から,本件訂正発明1の構成要件のみを充足することによって,当業者の予測することのできない格別顕著な効果を奏するということを理解することはできない。
この点に関し,被告は,本件訂正発明1は, 「水に7質量%の濃度で溶解させた際の20℃におけるPVA系重合体フィルムのpHが2.0〜6.8である」という要件を満たす限りは,必須成分であるノニオン系界面活性剤(B)と共に,他の添加剤などを必要に応じて含有することを許容するから,本件訂正明細書中の実施例1〜7,10は,いずれも本件訂正発明1の実施例であると主張するが,特許発明技術的範囲(特許法70条)を解釈する局面における論理(判断基準)が,特許発明の有効性について論じる局面に適用されると主張するものであって,失当である。
(2) 本件訂正発明2〜4,6について 審決は,本件訂正発明1が進歩性を有することを前提として,これに依拠して本件訂正発明2〜4,6が進歩性を有する旨判断したが,前記(1)のとおり,本件訂正発明1が進歩性を有するという前提は成立しないから,審決の結論は誤りである。
また,本件訂正発明2〜4,6において追加された構成要件についてみても,次 のとおり,本件訂正発明2〜4,6が進歩性を有することの根拠とはなり得ない。
ア 本件訂正発明2について 本件訂正発明2は,本件訂正発明1のポリビニルアルコール系重合体(A)のけん化度を「90モル%以上」に特定するものである。
しかしながら,甲2発明におけるポリビニルアルコール(PVA)系重合体のけん化度の値は,例えば, 「99.9モル%」【0040】など)であるから,この点 (は,本件訂正発明2と甲2発明との相違点ではない。
したがって,本件訂正発明1のPVA系重合体のけん化度を「90モル%以上」と特定することにより,本件訂正発明2が進歩性を有するものとはいえない。
イ 本件訂正発明3について 本件訂正発明3は,本件訂正発明1又は2におけるポリビニルアルコール系重合体のpHを,本件訂正発明1で特定する範囲内とするために,「酸性物質(C)」を用いるものである。
しかしながら,pHの調節に酸性物質を用いることは,当業者であれば,容易に想到し得ることにすぎない。しかも,酸性物質を添加したPVA系重合体フィルムは,本件出願前に公知であったから(甲8),本件訂正発明3で付加された特定により,本件訂正発明3が進歩性を有するものとはいえない。
ウ 本件訂正発明4について 本件訂正発明4は,ポリビニルアルコール系重合体フィルムのpHを低下させるために添加する「酸性物質(C)」について,そのpKa(酸解離常数)を「3.5以上」,その常圧下での沸点を「120℃を超える」と特定するものである。
しかしながら,pKa(酸解離常数)が「3.5以上」の値というのは,ごく一般的な酸の解離常数にすぎず,その常圧下での沸点が「120℃を超える」という特定は,常温で揮発しない酸という程度の意味でしかない。
また,本件訂正発明4で使用される「酸性物質(C)」には,「酢酸」が含まれるが(例えば,実施例3),当該酸性物質は,甲8において使用されている酸性物質と 同一である。
さらに,本件訂正明細書を精査しても,「酸性物質(C)」が上記特定値を備えることにより,本件訂正発明において,当業者の予測できない格別顕著な効果が奏されるに至るとする根拠となり得る記載は存在しない。
したがって,本件訂正発明4で付加された特定により,本件訂正発明4が進歩性を有するものとはいえない。
エ 本件訂正発明6について 本件訂正発明6は,本件訂正発明1〜4における界面活性剤(B)をアルカノールアミド型の界面活性剤に特定するものである。
しかしながら,甲2には,界面活性剤として「アルカノールアミド型」の界面活性剤を使用することができる旨が明記されている(【0021】。
) したがって, 「アルカノールアミド型」の界面活性剤を使用することは,当業者が容易に想到可能である。
また,本件訂正明細書を精査しても,界面活性剤が「アルカノールアミド型」である場合には,常に,当業者の予測できない格別顕著な効果が奏されるに至るとすべき根拠となり得る記載は存在しない。
したがって,上記特定により,本件訂正発明6が進歩性を有するものとはいえない。
(3) 本件訂正発明7について 審決は,本件訂正発明1が進歩性を有することを前提として,これに依拠して本件訂正発明7が進歩性を有する旨判断したが,前記(1)のとおり,本件訂正発明1が進歩性を有するという前提は成立しないから,審決の結論は誤りである。
また,審決は,甲4の記載を考慮しても,本件訂正発明7は,当業者が容易に発明をすることができたものということはできないと判断したが,甲4には,PVA系重合体フィルムに界面活性剤を添加すると,酸化劣化により黄変することが記載されており,酸化劣化により黄変することが知られているPVA系重合体フィルム に,酸化防止剤を添加することを想到することは,当業者に容易というほかないから,審決の判断は,この点からも誤りである。
(4) 本件訂正発明14について 審決は,本件訂正発明1が進歩性を有することを前提として,これに全面的に依拠して本件訂正発明14が進歩性を有する旨判断したが,前記(1)のとおり,本件訂正発明1が進歩性を有するという前提は成立しないから,審決の結論は誤りである。
また,本件訂正発明14の保管方法は,PVA系重合体フィルムの保管条件を,「温度0〜40℃および湿度75%RH以下」に特定するものであるが,この条件は,日本国内の通常の倉庫に保管すれば,ごく一部の地域・季節を除き,おのずと達成される条件にすぎない。フィルムの保管について,その条件をこのような値に特定することで,本件訂正発明14が進歩性を有することはない。
4 取消事由3-2(相違点2-1の容易想到性の判断の誤り) 審決は,相違点2-1は,当業者が容易に想到し得たものということはできないとして,本件訂正発明3,4,6,7及び14は,進歩性があると判断したが,次のとおり,誤りである。
なお,審決認定の相違点2-1及び2-2は,単なる公知技術である甲2について「特定」という用語を使用しているが,「特定」とは,「特許出願人が特許を受けようとする発明」を特許出願人が自ら定義する際の概念であるから,不適切であり,相違点2-1及び2-2は,次のとおり認定されるべきである。
(相違点2-1) ポリビニルアルコール系重合体フィルムに関し,本件訂正発明3Aは「水に7質量%の濃度で溶解させた際の20℃におけるpHが2.0〜6.8である」と特定するのに対して,甲2発明では,フィルムを「水に7質量%の濃度で溶解させた際の20℃におけるpHが2.0〜6.8である」か否かについて,明示の記載が存在しない点。
(相違点2-2) 本件訂正発明3Aは「酸性物質(C)を用いて得られたものである」と特定するのに対して,甲2発明では,この点について明示の記載が存在しない点。
(1) 本件訂正発明3Aについて ア 相違点2-1は,相違点1と同一である。
そして,審決の相違点1に関する認定判断が誤りであることは,前記3(1)のとおりである。
したがって,審決の相違点2-1に関する認定判断も,前記3(1)と同様の理由により誤りである。
イ 審決は,甲8記載の発明では, 「酢酸ナトリウム」を「必須として添加するものである」と認定し,これを基礎として, 「甲2発明に甲8の技術を適用することに阻害要因がある」と判断したが,甲8では, 「酢酸ナトリウム」は添加されていないから,重大な誤認があり,その結果,阻害要因があると誤って認定し,進歩性についての判断を誤ったものである。
甲8では, 「無機多塩基酸」と「酢酸」という2種類の酸を,けん化反応後のPVAに積極的に添加し,これら2種類の「酸」により,PVAの黄変が低減されている。甲8の「実施例及び対照例」では,PVA系フィルムに「酸性物質」である「リン酸」と「酢酸」が積極的に添加されているが,けん化工程で使用した水酸化ナトリウム(NaOH)の一部が未反応で残留しており,この残留した水酸化ナトリウムは,積極的に添加された酢酸との中和反応により「酢酸ナトリウム」 (CH 3COONa)が生成するとされているものである。
しかも,甲8の発明において,最終的にポリビニルアルコール(PVA)中に残留する「酢酸ナトリウム」の量は, 「0.0364重量%」であって,限りなくゼロに近い微量まで減少せしめられ,その結果, 「着色は認められず,良好な熱安定性を示した」ことが記載されている。このような甲8記載の発明を,甲2発明に適用することに阻害要因があると考える当業者は存在しない。PVA中に残留する「酢酸ナトリウム」の量を僅少とする点で,本件訂正発明と甲8記載の発明は,軌を一に している。
ウ 相違点2-2について,審決は,実質的な判断を示していないものの,相違点2-1と同様の理由により,当業者に容易である。
(2) 本件訂正発明3Bについて 審決は,本件訂正発明3Bについて,本件訂正発明3Aが当業者が容易に発明できたものといえないことから,本件訂正発明3Aをさらに限定した本件訂正発明3Bについても同様な理由で当業者が容易に発明できたものとすることはできないと判断した。
しかしながら,審決の本件訂正発明3Aに対する認定判断が誤りであることは,前記(1)のとおりである。また,本件訂正発明3Aと本件訂正発明3Bとは,「ポリビニルアルコール系重合体(A)のけん化度」の数値の限定の有無において異なっているにすぎず,この限定は,甲2発明との相違点に何ら反映されないものである。
したがって,本件訂正発明3Bは,本件訂正発明3Aと同一の理由により,進歩性がない。
(3) 本件訂正発明4,6,7について 審決は,本件訂正発明3が進歩性を有することを前提として,これに依拠して本件訂正発明4,6,7が進歩性を有する旨判断したが,前記(1)(2)のとおり,本件訂正発明3が進歩性を有するという前提は成立しないから,審決の結論は誤りである。
(4) 本件訂正発明14について 審決は,本件訂正発明3,4,6,7が進歩性を有することを前提として,これに全面的に依拠して本件訂正発明14が進歩性を有する旨判断したが,前記(1)〜(3)のとおり,本件訂正発明3,4,6,7が進歩性を有するという前提は成立しないから,審決の結論は誤りである。
被告の主張
1 取消事由1(サポート要件の判断の誤り)に対し (1) 本件訂正発明1について ア 原告の取消事由1の主張は, 「本件訂正発明は,PVA系重合体フィルムを常温近辺に温度コントロールした倉庫内などに数か月間程度保管したときに当該フィルムが黄色味を帯びるのを防止するという目的を達成するために,ノニオン系界面活性剤を,いわば『黄色味の発生防止剤』として用いた発明である」とする原告の曲解に基づくものであり,間違っている。
本件訂正発明は,以下のイ,ウのとおり,PVA系重合体フィルムの黄色味の発生防止剤としてノニオン系界面活性剤を用いた発明ではない。
イ 本件訂正発明1の基本をなす目的・効果(以下, 「第1の目的・効果」という。)は,「PVA系重合体フィルムの製膜時の膜面異常を防止又は低減して,ダイライン(スジ),異物,ムラなどの発生がなく,外観に優れるPVA系重合体フィルムを提供すること」にあり,本件訂正発明1では,この第1の目的・効果を達成するために,ノニオン系界面活性剤をPVA系重合体フィルム中に含有させている。
本件訂正発明1では,ノニオン系界面活性剤が,いわば「製膜性向上剤や膜面異常防止剤」として働いて,本件訂正発明1の第1の目的・効果を奏するのである。
このことは,本件訂正明細書の【0003】【0020】【0021】の記載や, , ,【実施例】において, 「常温近辺に数ヶ月間程度保管したときの黄変が小さいという効果」と共に「ダイライン(スジ),異物,ムラなどの発生がなく,外観が優れるという効果」を同時に奏する実施例のPVAフィルムを,本件訂正発明のPVAフィルムとする一方,これら二つの効果のいずれか一方だけを奏するPVAフィルムを,いずれの効果も奏さないPVAフィルムと共に比較参考例又は比較例としていることから,明らかである。
そして,本件訂正明細書実施例で用いているアルカノールアミド系のノニオン系界面活性剤を含む種々のノニオン系界面活性剤,すなわち,本件訂正発明1の「ノニオン系界面活性剤(B)」は,界面活性作用を有し,PVAフィルムの製膜性向上剤や膜面異常防止剤として,本件優先日前から広く用いられていた(甲2,4,1 1)。
当業者であれば,本件訂正明細書の【0020】【0021】等に記載されてい ,る「ノニオン系界面活性剤を用いたPVA系重合体フィルムでは,ノニオン系界面活性剤の製膜性向上剤や膜面異常防止剤としての作用によって,ダイライン(スジ),異物,ムラなどの発生がなく,外観に優れるPVA系重合体フィルムが得られる」という本件優先日前から広く知られていた公知技術を当然熟知しているから,本件訂正明細書実施例で用いたラウリン酸ジエタノールアミドよりなるノニオン系界面活性剤を含めた,上位概念での「ノニオン系界面活性剤(B)」が,その製膜性向上剤や膜面異常防止剤としての作用によって,「ダイライン(スジ),異物,ムラなどの発生がなく,外観に優れるPVA系重合体フィルムを提供する」という本件訂正発明1の基本をなす第1の目的・効果の達成のために,その種類を問わず,共通して有効に用い得ることを,直ちにかつ容易に理解する。
したがって,本件訂正明細書にアルカノールアミド系のノニオン系界面活性剤(ジエタノールアミンを含むラウリン酸ジエタノールアミド混合物)以外の他のノニオン系界面活性剤を用いた実施例が直接記載されていなくても,上位概念での「ノニオン系界面活性剤(B)が本件訂正発明1において共通して有効に用い得ることは, 」当業者にとって明白であり,このような点から,本件訂正発明1は,本件訂正明細書の記載によって十分にサポートされているといえる。
ウ ノニオン系界面活性剤を含有しないPVA系重合体フィルムは,フィルムのpHが6.8以下であるか否かを問わず,常温近辺の温度に数ヶ月間保管したときに黄色味を帯びにくい(本件訂正明細書の比較例1,甲27の1)。
これに対し,ノニオン系界面活性剤を含有するPVA系重合体フィルムは,ノニオン系界面活性剤を含有していることによって,第1の目的・効果を達成できるものの, 「ロール状に巻いて,常温近辺に温度コントロールした倉庫内に数ヶ月間程度保管した時に,ロールの色が著しく黄色味を帯びるという問題があること」 すなわ ,ち, 「ノニオン系界面活性剤は,PVA系重合体フィルムの黄色味の発生防止剤では なく,むしろPVA系重合体フィルムを常温で長期間保管した際の黄色味の発生原因であること」を,本件訂正発明の発明者は,認識し,検討の末,解決した。
すなわち,ノニオン系界面活性剤を含有するPVA系重合体フィルムにおいて,PVA系重合体100質量部に対してノニオン系界面活性剤を0.001〜1質量部の量で含有させ,かつ当該PVA系重合体フィルムのpHを, 「PVA系重合体フィルムを水に7質量%の濃度で溶解させて20℃で測定したときのpHが2.0〜6.8である」という特定のpH条件を満たすことによって,第1の目的・効果をそのまま維持しながら,同時に, 「常温近辺で数ヶ月間程度保管したときに黄色味を帯びないPVA系重合体フィルムを提供する」という目的・効果(以下, 「第2の目的・効果」という。)をも達成したのである。
そして,本件訂正発明1によって,第1の目的・効果及び第2の目的・効果が同時に達成されることは,本件訂正明細書の記載から明らかである。
本件訂正明細書実施例の結果によると,実施例のPVAフィルムは,ノニオン系界面活性剤として,アルカリ性のジエタノールアミン(その水溶液のpHは11。
甲38)を不純物として含有するラウリン酸ジエタノールアミド(ラウリン酸ジエタノールアミド混合物)を含有しているにもかかわらず,当該ノニオン系界面活性剤の含有量をPVA100質量部に対して0.001〜1質量部の範囲内の量とし,かつPVA系重合体フィルムを水に7質量%の濃度で溶解させて20℃で測定したときのPVA系重合体フィルムのpHを2.0〜6.8とすることによって,スジなどの発生がなくて外観に優れ(第1の効果),しかも,常温で6ヶ月間保管したときに黄色味の帯び具合が少ない(第2の効果)という優れた効果を奏している。
他方,本件訂正明細書中の比較参考例1〜2及び比較例1〜6をみると,比較参考例1及び2,比較例2及び3のPVAフィルムは,ノニオン系界面活性剤として,ジエタノールアミンを含有するラウリン酸ジエタノールアミド(ラウリン酸ジエタノールアミド混合物)を,本件訂正発明1で規定しているPVA100質量部に対して0.001〜1質量部の範囲内の量で含有していることにより,スジなどの発 生がなくて外観に優れるという本件訂正発明の第1の効果を奏するが,PVA系重合体フィルムを水に7質量%の濃度で溶解させて20℃で測定したときのpHが,本件訂正発明1で規定する2.0〜6.8の上限値を超えているために(当該pHが,比較参考例1は7.1,比較参考例2は7.0,比較例2は8.3,比較例3は8.2),常温近辺で6か月間保管したときに黄変度(ΔYI)の値が大きく,黄色味を帯び,本件訂正発明1の第2の効果を奏さなかった。また,比較例4のPVAフィルムは,製膜を断念せざるを得ず,比較例5のPVAフィルムは,ノニオン系界面活性剤として,ジエタノールアミンを含有するラウリン酸ジエタノールアミド(ラウリン酸ジエタノールアミド混合物)を,本件訂正発明1で規定しているPVA100質量部に対して0.001〜1質量部の範囲を超えて多量に含有し(3質量部)しかもPVA系重合体フィルムを水に7質量%の濃度で溶解させて20℃ ,で測定したときのpHが,本件訂正発明1で規定する2.0〜6.8の上限値を超える8.8であるため,スジの発生があって外観に劣り,しかも常温近辺で数ヶ月間保管したときに黄色味を帯び,本件訂正発明の第1の効果及び第2の効果のいずれをも奏さなかった。
当業者は,このような本件訂正明細書の記載から,製膜時の膜面異常を防止又は低減して,ダイライン(スジ),異物,ムラなどの発生がなく,外観に優れるPVA系重合体フィルム(第1の目的・効果を奏するPVA系重合体フィルム)を得るために,ジエタノールアミンを含有するラウリン酸ジエタノールアミド(ラウリン酸ジエタノールアミド混合物)以外のノニオン系界面活性剤をPVA系重合体フィルムに含有させた場合においても,当該界面活性剤を含有させたPVA系重合体フィルムのpHを, 「水に7質量%の濃度で溶解させた際の20℃におけるpHが2.0〜6.8」という要件を満たすことによって,本件訂正発明1における第1の目的・効果と共に,常温近辺で数ヶ月間保管したときに黄色味を帯びないPVA系重合体 「フィルムを得る」という本件訂正発明1の第2の目的・効果が同時に達成できることを容易に理解することができる。
エ 原告は,本件訂正明細書には1種類のノニオン系界面活性剤を用いた実施例しか記載されていないから,サポート要件を満たしていないと主張するが,ノニオン系界面活性剤の中に,本件訂正発明1の第1の目的・効果及び第2の目的・効果を同時に達成できないものが存在することを裏付ける具体的な証拠を一切示しておらず,原告の主張を裏付けるに足る合理的な理由及び具体的な根拠を何ら示していない。
オ 原告は,PVA系重合体フィルムについて,その加熱時の着色と常温保管時の着色が同様な原因で起こるという技術常識は存在しないから,実施例2〜7が加熱時の着色の低減を示すものといえたとしても,これに基づいて常温保管時の着色も同様に低減されるとはいえないと主張する。
しかしながら,PVAは,100℃以下の温度では一般に分解が生じない一方,100℃を超える高温,特に150℃以上の高温に加熱すると熱分解が生じてアセトアルデヒドなどを発生し,熱分解によって発生したアセトアルデヒドなどがPVAの着色原因となることは,本件優先日前から周知の技術常識である(甲2,甲27の4〜6)。
本件訂正明細書実施例1〜7で採用した「80℃」という温度は,上記技術常識を踏まえた上での「PVAの分解が生じない温度」であり,この点で,PVAの分解が生じない「常温」と軌を一にするものである。
本件訂正明細書実施例1〜7,比較参考例1,2及び比較例1〜5では,常温で保管したときのPVAフィルムの黄変度の測定に要する試験期間を短縮するために, 「常温」と軌を一にするPVAの熱分解が生じない「80℃」という条件を採用して試験を行った。そして,当該「80℃で3日間放置」という条件に基づく結果が,本件訂正発明の優れた効果を裏付けるものであることは,本件訂正明細書の【0064】の【表1】【0065】の【表2】から明らかである。
, カ(ア) 本件訂正明細書には,ノニオン系界面活性剤としてアルカノールアミド型のノニオン系界面活性剤(ラウリン酸ジエタノールアミド)を用いた実施例及 び比較例が記載されているだけであるが,次のa〜gのとおり,ノニオン系界面活性剤を含有するPVA系重合体フィルムを常温付近に温度コントロールした倉庫内などに数か月間程度保管した時のフィルムの黄色化は,ノニオン系界面活性剤中の疎水性基部分(炭化水素基〔一般的には炭素数の多い炭化水素基,ほとんどの場合に長鎖脂肪族炭化水素基〕から構成されている親油性基部分)の空気中の酸素による酸化によるものであって,アルカノールアミド型のノニオン系界面活性剤以外のノニオン系界面活性剤においても,アルカノールアミド型のノニオン系界面活性剤と同じように,その疎水性基部分(親油性基部分)は炭化水素基(一般的には炭素数の多い炭化水素基,ほとんどの場合に長鎖脂肪族炭化水素基)から構成されていて空気中の酸素による酸化を生ずるから,アルカノールアミド型のノニオン系界面活性剤以外の他のノニオン系界面活性剤を含有するPVA系重合体フィルムにおいても,他のノニオン系界面活性剤を含有する当該PVA系重合体フィルムを常温付 「近に温度コントロールした倉庫内などに数か月間程度保管した時のフィルムの黄色化」の問題は存在するということができる。
a 界面活性剤は,ノニオン系界面活性剤,カチオン系界面活性剤などの界面活性剤の種類を問わず,空気中などに含まれる酸素によって酸化されることが本件優先日前から広く知られていた(乙4の1〜4)。
b 周知のように,界面活性剤では,ノニオン系界面活性剤,カチオン系界面活性剤,アニオン系界面活性剤という界面活性剤の種類の違いに伴って,その親水性基部分は化学構造が大きく異なっているが,他方,疎水性基部分(親油性基部分)は,ノニオン系界面活性剤,カチオン系界面活性剤及びアニオン系界面活性剤のいずれにおいても,炭化水素基(一般的に炭素数の多い炭化水素基,特にほとんどの場合に長鎖脂肪族炭化水素基)から構成されていて,共通又は近似した化学構造を有している。
このような点から,ノニオン系界面活性剤の親水性基部分と,カチオン系界面活性剤の親水性基部分と,アニオン系界面活性剤の親水性基部分は,その化学構造の 違いによって,耐酸化性やその他の化学的性質が異なるが,ノニオン系界面活性剤の疎水性基部分(親油性基部分)と,カチオン系界面活性剤の疎水性基部分(親油性基部分)と,アニオン系界面活性剤の疎水性基部分(親油性基部分)は,その共通又は近似した化学構造により,その化学的性質が共通又は近似しているということができる。
c 前記bの点を,前記a記載の「界面活性剤は,ノニオン系界面活性剤,カチオン系界面活性剤,アニオン系界面活性剤などの界面活性剤の種類を問わず,空気中などに含まれる酸素によって酸化される」という本件優先日前からの周知事実と総合すると,空気中などに含まれる酸素による界面活性剤の酸化は,化学構造の共通又は近似した疎水性基部分(炭化水素基〔一般的には炭素数の多い炭化水素基,ほとんどの場合に長鎖脂肪族炭化水素基〕から構成されている親油性基部分)が酸素によって酸化されることにより生ずると解することができる。
これは,長鎖脂肪酸のグリセリンエステルであって長鎖脂肪族炭化水素基を有する油脂類を空気に接した状態で室温下に保存すると,空気中の酸素によって徐々に酸化されて黄色度が徐々に増すという周知事実,また,炭化水素化合物の集合体であるガソリンや灯油を空気に接した状態で室温下に保存すると,空気中の酸素によって徐々に酸化されて同様に黄色度が増すという周知事実からも裏付けられる。
d フィルムなどのプラスチック成形品(合成樹脂成形品)中に含有させた界面活性剤は,成形品の内部で移動して成形品の表面又はその近傍に多く集まることが,本件優先日前から広く知られていた(乙5)。
これは,ノニオン系界面活性剤を含有する本件訂正発明1のPVA系重合体フィルム,界面活性剤を含有する甲2,4,11などに記載されているPVA系重合体フィルムにおいても例外ではなく,界面活性剤を含有するPVA系重合体フィルムでは,フィルムの表面及びその近傍に界面活性剤が多く存在することによって,フィルムの表面及びその近傍に多く存在する界面活性剤が,製膜性向上剤や膜面異常防止剤として働いて,製膜機械との間の摩擦や製膜装置による膜面の擦過などを防 いで,ダイライン(スジ),異物,ムラなどの発生がなく,外観に優れるPVA系重合体フィルムが得られるという既知技術からも裏付けられる。
e 前記dの場合に,界面活性剤を含有するPVA系重合体フィルムでは,フィルムを構成するPVA系重合体が分子中に多数の親水性の水酸基を有していて親水性(極性)であることから,PVA系重合体フィルムの表面及びその近傍に存在する界面活性剤の親水性基部分(極性基部分)が親水性(極性)のPVA系重合体との親和性からPVA系重合体の方に向いて配列し,界面活性剤の疎水性基部分(炭化水素基〔一般的には炭素数の多い炭化水素基,ほとんどの場合に長鎖脂肪族炭化水素基〕から構成されている親油性基部分〔非極性基部分〕)が外側を向いて配列する。
これは,金属石鹸(アニオン界面活性剤),多価アルコール脂肪酸エステル(ノニオン界面活性剤),脂肪酸アミド(ノニオン系界面活性剤),高級アルコール,高級脂肪酸などの滑剤について記載した乙6に, 「滑材の樹脂に対する相溶性は,その化学構造により異なる。表4に各種滑材の化学構造(極性基部,非極性基部)を,表5に代表的性状を示す。滑剤は,長鎖の炭化水素鎖を有しているため極性の低いもの(非極性基部)が多い。極性基部は極性ポリマーに対し相溶性を示す。(138 」頁2行〜4行)と記載されていることからも裏付けられる。
その結果,ノニオン系界面活性剤を含有するPVA系重合体フィルムでは,ノニオン系界面活性剤中の疎水性基部分(炭化水素基〔ほとんどの場合に長鎖脂肪族炭化水素基〕から構成されている親油性基部分)がフィルムの外側か又は外側に近い場所に位置することになり,空気中の酸素による酸化を受け易くなっており,このことは,ノニオン系界面活性剤が,本件訂正明細書中の実施例で用いているアルカノールアミド型のノニオン系界面活性剤(ラウリン酸ジエタノールアミド)であっても,それ以外のノニオン系界面活性剤であっても同じである。
f 「常温付近に温度コントロールした倉庫内での保管」は,一般的に光に曝されない状態で保管され,しかも保管時の温度は常温であって加熱を伴わな いから,当該保管状態では,ノニオン系界面活性剤を含有するPVA系重合体フィルムは,光(特に紫外線)による劣化及び加熱による劣化という問題の生じない環境下に保管されているということができ,そのため, 「ノニオン系界面活性剤を含有するPVA系重合体フィルムを常温付近に温度コントロールした倉庫内などに数ヶ月間程度保管した時のフィルムの黄色化」をもたらす一番の原因は,素直に考えれば,空気に含まれる酸素による酸化であるということができる。
g 前記a〜c記載のとおり,界面活性剤は,空気中の酸素によって酸化され,この界面活性剤の酸化は,ノニオン系界面活性剤,カチオン系界面活性剤,アニオン系界面活性剤などの界面活性剤の種類を問わず,界面活性剤中の疎水性基部分(炭化水素基〔一般的には炭素数の多い炭化水素基,ほとんどの場合に長鎖脂肪族炭化水素基〕から構成されている親油性基部分)の空気中の酸素による酸化によって生ずるといえる。
これは,本件訂正明細書の比較例1及び甲27の1のとおり,界面活性剤を含有しないPVA系重合体フィルムは,空気中の酸素によって酸化される界面活性剤を含有せず,そのために酸化の要因である「炭素数の多い炭化水素基部分〔一般的には長鎖脂肪族炭化水素基部分〕よりなる親油性基部分」がフィルム中に存在しないことにより,フィルムのpHが6.8以下であるか否かを問わず,常温近辺の温度に数ヶ月間保管したときに黄色味を帯びにくいという事実からも裏付けられる。
(イ) 本件訂正明細書中の実施例で,アルカノールアミド型のノニオン系界面活性剤を含有するPVA系重合体フィルムにおいて, (α)ノニオン系界面活性剤の含有量を,本件訂正発明1で規定する「PVA系重合体100質量部に対して0.001〜1質量部」の範囲内の量とし,かつ, (β)PVA系重合体フィルムのpHを,PVA系重合体フィルムを水に7質量%の濃度で溶解させた際の20℃におけ 「るpHが2.0〜6.8」となるpHにすることによって,PVA系重合体フィルムを常温付近に温度コントロールした倉庫内などに数か月間程度保管した時のフィルムの黄色化を防止又は抑制できたという事実は,取りも直さず, 「上記の要件(α) 及び要件(β)を満たすことによって,ノニオン系界面活性剤(アルカノールアミド型のノニオン系界面活性剤)中の疎水性基部分(炭化水素基〔一般的には炭素数の多い炭化水素基,ほとんどの場合に長鎖脂肪族炭化水素基〕から構成される親油性基部分)の空気中の酸素による酸化が防止又は抑制され,その結果,ノニオン系界面活性剤(アルカノールアミド型のノニオン系界面活性剤)の酸素による酸化が防止又は抑制され,ひいては,ノニオン系界面活性剤(アルカノールアミド型のノニオン系界面活性剤)を含有するPVA系重合体の空気酸化による黄色化が防止又は抑制されたこと」を開示している。
そして,ノニオン系界面活性剤(アルカノールアミド型のノニオン系界面活性剤)中の疎水性基部分(炭化水素基〔一般的には炭素数の多い炭化水素基,ほとんどの場合に長鎖脂肪族炭化水素基〕から構成される親油性基部分)の空気中の酸素による酸化が,上記の要件(α)及び要件(β),特に,PVA系重合体フィルムを水に7質量%の濃度で溶解させた際の20℃におけるpHを2.0〜6.8にする上記要件(β)の採用によって防止又は抑制される際の酸化防止機構は,アルカノールアミド型のノニオン系界面活性剤と同じように,その疎水性基部分(親油性基部分)が炭化水素基(一般的には炭素数の多い炭化水素基,ほとんどの場合に長鎖脂肪族炭化水素基)から構成されている,アルカノールアミド型のノニオン系界面活性剤以外の他のノニオン系界面活性剤においてもそのまま共通して働くはずである。
そのため,当業者は,本件訂正明細書中にアルカノールアミド型のノニオン系界面活性剤以外の他のノニオン系界面活性剤を用いた実施例が直接記載されていないとしても,本件訂正明細書中の実施例及び比較例の結果から,アルカノールアミド型のノニオン系界面活性剤以外の他のノニオン系界面活性剤を含有するPVA系重合体フィルムにおいても,上記の要件(α)及び要件(β)を満たすことによって,本件訂正明細書中の実施例と同じ酸化防止機構が働いて,常温付近に温度コントロ 「ールした倉庫内などに数か月間程度保管した時のフィルムの黄色化を防止又は抑制される」という本件訂正発明1の効果が奏されることを理解するはずである。
キ 原告は,不飽和脂肪族炭化水素と飽和脂肪族炭化水素とは反応性の差異が極めて大きいから,反応性に乏しい飽和脂肪族炭化水素基を疎水性基部分とするノニオン系界面活性剤の1種類を使用した実施例の結果が,不飽和脂肪族炭化水素基を疎水性基部分とするものを含め,全てのノニオン系界面活性剤に敷衍できるとの主張は,技術常識から外れるものであって,失当であると主張する。
しかしながら,炭素間二重結合を有する不飽和脂肪族炭化水素が,炭素間二重結合の存在によって酸化などの反応が起こり易いのに対し,炭素間二重結合を持たない飽和脂肪族炭化水素は,不飽和脂肪族炭化水素と比べて反応性に乏しいことは,従来から知られているが,不飽和脂肪族炭化水素と飽和脂肪族炭化水素との間の反応性の大小は,相対的な比較における程度の差にすぎない。飽和脂肪族炭化水素が,炭素間二重結合を持っていなくても,反応性を有し,空気中の酸素によって徐々に酸化されることは,周知の技術常識である(乙7〜9)。本件訂正明細書実施例記載の「ラウリン酸ジエタノールアミド」は, 「飽和脂肪族炭化水素基」を有するものであって,原告の主張によると,化学的に極めて安定なものであるはずのところ,本件訂正明細書の比較例2において,その黄変度は極めて高いことが示されており,この事実は,原告の主張に根拠がないことを示しているといえる。
この点に関し,原告は,本件訂正明細書実施例5の「80℃-5日後」や実施例6の「80℃-10日後」における黄変度(ΔYI)の数値を「比較参考例」や「比較例」と比較するなどして,実施例の記載をもって,本件訂正発明は, 「相対的な比較における,程度の差」が存在するとしても,全体として発明の構成に基づく効果の予測性があるということはできないと主張する。しかしながら,本件訂正明細書の【0065】の【表2】記載のとおり,実施例10及び比較例6の結果から,本件訂正発明の奏する効果は明白である。また,実施例1及び比較例3のPVAフィルムを80℃で3日間保管した「80℃-3日後」の黄変度の値と,実施例10及び比較例6の黄変度の値とを比較すると, 【表1】記載の「80℃-3日後」という保管条件は, 「温度30℃・湿度50%RHで6か月間保管」という保管条件より も過酷であることが明らかである。そして, 【表1】には,実施例1〜7の「80℃-3日後」の黄変度の値は,比較参考例1〜2,比較例2,3,5に比べて,有意に小さいことが示されているから, 【表1】の「80℃-3日後」の結果からも,本件訂正発明のPVAフィルムが,常温近辺で数か月間保管したときにフィルムが黄 「色味を帯びにくい」という効果を奏することは明らかである。他方,本件訂正明細書の【表1】には, 「80℃-5日後」の黄変度と「80℃-10日後」の黄変度が併記されているが,これらは, 「常温近辺で数か月間保管」よりも過酷な保管条件である「80℃-3日後」という保管条件よりも更に過酷な条件で保管したときにどのような結果になるかを調査して,その結果を明細書に記載したものであるから,「80℃-3日後」の結果を否定するものではなく,まして本件訂正発明の二つの優れた効果を否定するものでもない。
ク 原告は,PVA系重合体フィルムは,酸素の透過率が極めて低い(酸素バリア性が極めて高い)から,仮に,PVA系重合体フィルムの黄変が,フィルム表面又はその近傍に位置する界面活性剤の疎水性基部分が空気中の酸素による酸化を受けることによるものであるとすると,ロール状に巻き取られたPVA系重合体フィルムは,ロールの最外層又はその近傍層では空気中の酸素に酸化されるものの,外表面から遠い位置に存在するPVA系重合体フィルムは,黄変が全く起こらないか,少なくとも低減されるはずであるが,これは,本件訂正明細書の記載から,本件訂正発明の解決課題がロール状に巻いて保管されたPVA系重合体フィルム全体の黄変の軽減であると理解されることと整合しない旨主張する。
しかしながら,次の(ア)(イ)のとおり,PVA系重合体フィルムの製造業界の技術常識からすると,ロール状に巻き取られたフィルムの全表面が常に空気中の酸素に曝された状態になっているから, 「酸化による黄色着色」という問題は,ロール状に巻き取られたPVA系重合体フィルムの外表面及びその近傍だけでなく,ロールの内部を含め,ロール全体で発生する。したがって,原告の主張は失当である。
(ア) プラスチックフィルムをロール状に巻き取る工程は,一般に空気中(大 気中)で行われ,当該巻き取りは,フィルムの全長にわたって,巻き取られたフィルム層とフィルム層との間に空気を巻き込みながら行われる。
プラスチックフィルムの製造業界では,フィルムをロール状に巻く際のシワの発生の防止,ロール状に巻かれたフィルムの形崩れの防止,ロール状に巻かれたフィルムの巻き戻し性の向上,フィルムの物性の維持などの種々の観点から,フィルムをロール状に巻き取る際の空気の巻き込み量の調節,ロール状に巻かれたフィルムでのフィルム層とフィルム層との間に存在する空気量の調節,フィルム層とフィルム層の間隙の厚さの調節(ひいてはフィルム層とフィルム層の間の空気層の厚さの調節)などが行われており,いずれの場合も,ロール状に巻き取られるフィルム層とフィルム層との間に空気が巻き込まれるという前提の下にされている。
これらは,当業界において周知の技術常識であり,PVA系重合体フィルムにおいても例外ではない(乙10の1〜5)。
(イ) そして,PVA系重合体フィルムも含めて,ロール状に巻かれたプラスチックフィルムは,フィルムの全長にわたってフィルム層とフィルム層との間に空気が巻き込まれた状態で保管されるから,フィルムの保管中,フィルムの全表面が常に空気中の酸素に曝された状態になっている。ロール状に巻かれたプラスチックフィルムでは,フィルムの厚さは一般に数ミクロン〜数十ミクロンという極めて薄いフィルム層が多数積層していて,隣接するフィルム層とフィルム層との間には巻き取り時に巻き込まれた空気の層が必ず存在するから,ロール状に巻き取られたプラスチックフィルムは,その保管中に,フィルムの長さ方向の全表面,すなわちロール状に巻き取られたプラスチックフィルムの外表面及び内部の全てが,フィルム層とフィルム層との間に存在する空気中の酸素に曝された状態になっている。
(2) 本件訂正発明2〜4,6,7,9〜14について 本件訂正発明1がサポート要件を充足しており,審決の認定判断に違法はないことは,前記(1)のとおりである。
そのため,本件訂正発明1の構成を更に限定したものである本件訂正発明2〜4, 6,7及び9〜14がサポート要件を満たしていることは,審決が正しく判断したとおりである。
2 取消事由2(実施可能要件の判断の誤り)に対し (1) 本件訂正発明のPVA系重合体フィルムの製造に用いているPVA系重合体(A)及びノニオン系界面活性剤(B)は,いずれも本件優先日前から当業者が容易に入手可能なものである。また,本件訂正発明では, 「PVA系重合体フィルムを水に7質量%の濃度で溶解させた際の20℃におけるpHが2.0〜6.8」である本件訂正発明のPVA系重合体フィルムを得るために,本件優先日前に知られていない特殊な製法や当業者が実施困難な製法の採用を必要としているわけではない。
そこで,当業者は,本件訂正明細書の記載,本件優先日前の周知技術技術常識などに基づいて,@PVA系重合体及びノニオン系界面活性剤として従来から市販されているもののうちから目的に適するものを適宜選択し,A当該PVA系重合体に,適宜選択したノニオン系界面活性剤を,PVA系重合体100質量部に対して0.001〜1質量部の範囲内の量で配合し,必要に応じて酸化防止剤などの本件訂正明細書の【0034】記載の他の成分を更に配合して,PVA系重合体組成物を調製し,Bその際に,最終的に得られるPVA系重合体フィルムを水に7質量%の濃度で溶解させた際の20℃におけるpHが2.0〜6.8の範囲になるように,必要な場合には本件訂正明細書の【0027】〜【0029】などに基づいて適当な酸性物質(C)を添加して,PVA系重合体組成物のpHを調整し,C前記pHを調整したPVA系重合体組成物を用い,常法にしたがってフィルムに成形することによって,本件訂正発明のPVA系重合体フィルムを容易に製造することができる。上記@〜Cの工程は,いずれも,当業者であれば容易に遂行することができ,過度の試行錯誤を何ら要しない。
当業者は,上記工程を遂行して得られたPVA系重合体フィルムを,本件訂正明細書に記載されている方法に従って評価することによって,本件訂正発明の効果を 容易に確認することができる。
本件訂正明細書の記載は,実施可能要件を満たしているとする審決の認定判断に誤りはない。
(2) 原告は,本件訂正明細書実施例で用いているのとは異なる他のノニオン系界面活性剤を「ノニオン系界面活性剤(B)」として含有する本件発明のPVA系重合体フィルムについては,本件訂正明細書の記載や本件優先日前の技術常識などを勘案しても当業者は実施できないと主張するが,その主張を裏付ける合理的な理由及び証拠を何ら示していない。
3 取消事由3-1(相違点1の容易想到性の判断の誤り)に対し (1) 本件訂正発明1について ア 審決が甲2について「特定」という用語を用いたことは,甲2が公開特許公報であることからすると,適正である。
イ 原告は,技術常識を備えた当業者は,甲2には,PVA系重合体フィルムの不要な着色を少なくするために,アルカリ性物質の含有量を「ポリビニルアルコールに対して0.5重量%以下」とする発明,すなわち,アルカリ性物質の濃度が高く,pH値が高いPVA系重合体フィルムからアルカリ性物質を除去し,そのpHを相対的に低い値とする発明が記載されていると理解するから,甲2には,PVA系重合体フィルム自体のpHについて実質的に記載されていると理解するのであって,甲2にはポリビニルアルコール系フィルム自体のpHについての記載は一切ない旨の審決の認定は誤りであると主張する。
しかしながら,PVAフィルムのpHは,アルカリ金属化合物の含有量だけによって決まるのではなく,PVAフィルム中に含まれるノニオン系界面活性剤の種類,ノニオン系界面活性剤に含まれる不純物の種類や含有量,ノニオン系界面活性剤以外の添加剤の種類や含有量などによっても左右されるものであるから,甲2発明における「アルカリ金属化合物の含有量を0.5重量%以下」と特定することが,甲2のPVAフィルムのpHに直結するわけではない。
むしろ,純度100%の「純品」のノニオン系界面活性剤(原告主張の「学術上」のノニオン系界面活性剤)を工業的に得るには,精製に多くの手間及び時間を要し,コストの大幅な上昇を招くことから,甲2の頒布当時や本件優先日前に,工業的に製造されて,流通,販売,使用されていたノニオン系界面活性剤は,通常,不純物を含有するものであったというのが周知の技術常識であり(甲27の2,乙1,2,乙3の1〜9)甲2発明で用いられているノニオン系界面活性剤も何らかの不純物 ,を含んでいる蓋然性が極めて高い。甲2の実施例1のPVAフィルムは,ノニオン系界面活性剤として「ラウリン酸ジエタノールアミド」を用いているから,本件訂正発明1の実施例と同じように,酢酸ナトリウムだけでなく,当該ノニオン系界面活性剤の出発原料であるアルカリ性の強いジエタノールアミンを不純物として含んでいる可能性が高い(乙3の9)。
このように,PVAフィルムのpHについて何ら記載されていない甲2には,水に7重量%の濃度で溶解させた際の20℃におけるpHが2.0〜6.8であるPVAフィルムは,一切記載されておらず,示唆もされていない。
更にいえば,甲2発明における「PVAフィルムの着色の防止」とは,PVA又はPVAフィルムを,熱分解が生ずる100℃又はそれよりも高い温度に加熱したときに起こる着色の防止であって(【0005】,実施例1及び2),PVA系重合体の熱分解が生じない常温で長期間保管した時の着色の防止ではない。したがって,甲2の着色防止は,本件訂正発明1の着色防止を示唆するものではない。
ウ 原告は,審決は,本件訂正発明1の要旨認定に当たり,発明の要旨に含まれない「ポリビニルアルコール系フィルムの製造時にpHの調節を行うこと」を誤って本件訂正発明1の要旨に読み込んで,進歩性判断を行ったと主張する。
しかしながら,原告指摘の「(甲2には)ポリビニルアルコール系フィルムの製造時にpHの調節を行うことについての記載もない。」という審決の記載は,「甲2にはPVAフィルムの製造時にpHの調節を行うことについて記載されていないから,甲2には,当該製造によって得られたPVAフィルムのpHについて記載されてい ない」という意図で記載されたものであって, 「PVAフィルムの製造時にpHの調節を行うことが本件訂正発明1の構成要件である」と認定したものではない。原告の主張は,上記記載を曲解するものであって,失当である。
また,原告は,pHの調整を行う工程が存在しない場合においても,本件訂正発明1の「水に7質量%の濃度で溶解させた際の20℃におけるpHが2.0〜6.8」であることは,本件訂正発明1の他の構成要件について,当業者が,ごく自然で,ごく普通の選択をすれば,自ずと達成されると主張する。この主張は,無効審判において主張されていない主張である上,原告は,甲2発明では用いられていないPVA系重合体,前記イのとおり,甲2発明で用いられている蓋然性の極めて低い,純度100%のノニオン系界面活性剤,甲2発明の製膜法ではなく,本件訂正明細書記載のPVA系重合体フィルムの製膜法に基づいて主張しているものであるから,失当である。
エ 原告は,技術常識を踏まえると,甲2が本件訂正発明1に含まれる範囲のpHを当業者に対し教示・示唆していることは明白であり,このような教示・示唆に従うことに動機がないということはできないから, 「エステルの加水分解が,pHが高い場合でなく,これが低い場合においても促進されること」が技術常識であるとしても,甲2発明においてpHの調整を行ってpHを2.0〜6.8とする動機はない旨の審決の判断は誤りであると主張する。
しかしながら,審決の「甲7から『ポリビニルアルコールがエステルの一種であるポリ酢酸ビニル(=ポリビニルアセテート)をけん化することにより製造されること,けん化(=エステルの加水分解)は,一般にアルカリを使用して実施されること,ポリ酢酸ビニル(=ポリビニルアセテート)をけん化(=加水分解)すると,酢酸塩(典型的には,酢酸ナトリウム=sodium acetate)が生成すること,エステルの加水分解が,pHが高い場合(領域)でなく,これが低い場合(領域)においても促進されること』が技術常識であると認められるとしても」という説示は,PVAフィルムの原料であるPVA樹脂を製造するためのポリ酢酸ビニルのけん化工程 について記載したものであって,PVAフィルムについて記載したものではないから,ポリ酢酸ビニルのけん化工程を持ち出して主張している原告の主張は,本件訂正発明とは関係がない。
審決認定のとおり,甲2には, 「PVAフィルムを常温で長期間保管したときの着色を防止するために,フィルムのpHを,あえてアルカリ性の領域を避け,弱酸性の領域である,水に7質量%の濃度で溶解させた際の20℃におけるpHが2.0〜6.8とするという動機」は全く存在しない。
オ 原告は,本件訂正明細書実施例には,そのすべてにおいて「酸性物質C」が含まれており,本件訂正発明1の実施例ではない旨主張する。
しかしながら,審決認定のとおり,本件訂正発明1は, 「ポリビニルアルコール系重合体(A)100質量部に対してノニオン系界面活性剤(B)を0.001〜1質量部含むポリビニルアルコール系重合体フィルム」であって, 「ノニオン系界面活性剤(B)のみを含むPVA系重合体フィルム」ではない。本件訂正発明1のPVA系重合体フィルムは,水に7質量%の濃度で溶解させた際の20℃におけるPV 「A系重合体フィルムのpHが2.0〜6.8である」という要件を満たす限りは,必須成分であるノニオン系界面活性剤(B)と共に,他の添加剤などを必要に応じて含有することを許容するから,本件訂正明細書中の実施例1〜7,10はいずれも本件訂正発明1の実施例であり,これを本件訂正発明1の実施例ではないとする原告の主張は失当である。
(2) 本件訂正発明2〜4,6,7,14について ア 本件訂正発明1が当業者が容易になし得たものでない以上,本件訂正発明1を引用し,更に限定したものである本件訂正発明2〜4,6は,当業者が容易になし得たものでない。
イ 本件訂正発明1が当業者が容易になし得たものでない以上,本件訂正発明1を引用するか,本件訂正発明1を引用する本件訂正発明2〜4,6のいずれかを引用し,更に限定したものである本件訂正発明7は,当業者が容易になし得たも のでない。
ウ 本件訂正発明1が当業者が容易になし得たものでない以上,本件訂正発明1のPVA系重合体フィルムの保管方法である本件訂正発明14は,当業者が容易になし得たものでない。
4 取消事由3-2(相違点2-1の容易想到性の判断の誤り)に対し (1) 本件訂正発明3Aについて ア 審決が甲2について「特定」という用語を用いたことは,甲2が公開特許公報であることからすると,適正である。
イ 原告は,甲8では「酢酸ナトリウム」は添加されていないから,甲8記載の発明では「酢酸ナトリウム」を「必須として添加するものである」と認定し,これを基礎として, 「甲2発明に甲8の技術を適用することに阻害要因がある」と判断した審決には,重大な誤認があると主張する。
しかしながら,甲8記載の発明は,酢酸ナトリウムを含有するPVA系重合体に, 「無機多塩基酸を添加して,無機多塩基酸の一部の酸基がアルカリ金属塩となり,残りの酸基が酸基のまま残存する無機多塩基酸の部分アルカリ金属塩を形成させて,無機多塩基酸の部分アルカリ金属塩を必須成分として0.001〜0.5重量%の量で含有し,酢酸ナトリウムを必須成分として0.005〜0.1重量%の量で含有し,更に酢酸を甲8の特許請求の範囲に記載されている特定の数式を満足する量で含有するPVA系重合体の製造方法」である。そのため,甲8記載の発明は,PVA系重合体中に酢酸ナトリウムを必須成分として含有させることを要件としている。審決における「添加」という文言は,甲8記載の発明の要旨を十分理解すれば,「含有」の意味であることは明白である。
他方,甲2発明は, 「酢酸ナトリウムなどのアルカリ金属化合物の含有量が少ないほど良いとする発明」であって,酢酸ナトリウムを含有させることを必須にする,すなわち,酢酸ナトリウムを積極的に含有させることを要件とする甲8の発明とは技術思想が異なる。
ウ 甲2発明は,PVAフィルムを,PVAの熱分解が生じ易い100℃又はそれ以上の高温に加熱したときのPVAフィルムの着色の防止を目的・効果とする発明である。
また,甲8記載の発明は,PVA系重合体をその熱分解が生じ易い100℃を超す高温に加熱したときの着色の防止を目的・効果とする発明であって,甲8では,230℃という極めて高い温度に加熱してPVAの加熱着色試験が行われている。
これに対して,本件訂正発明3Aは,PVAの熱分解が生じない常温で長期間保存したときの黄変の防止を目的・効果とする発明であるから,甲2及び甲8における「PVAの熱分解が生ずる高温加熱時の着色」と,本件訂正発明3Aにおける「PVAの熱分解の生じない常温で保管した時の着色」とは,着色の内容が大きく異なっており,同列に扱うことができない。
エ 甲2にはpHについて一切記載されていないことは,前記3(1)イのとおりであるが,甲8には,同様にPVA系重合体フィルムのpHが記載されていないだけでなく,界面活性剤についても一切記載されていない。
そのような甲2及び甲8には,本件訂正発明3Aが解決しようとする技術的課題については,何ら記載も示唆もされていない。
オ 以上によると,甲2発明及び甲8記載の発明は,本件訂正発明3Aと技術思想が大きく異なっており,本件訂正発明3Aの進歩性を否定し得るものではないから,本件訂正発明3Aが甲2発明及び甲8から容易になし得たものでないとする審決の判断に誤りはない。
(2) 本件訂正発明3B,4,6,7,14について ア 本件訂正発明3Bは,本件訂正発明3Aを更に限定した発明であるから,本件訂正発明3Aが甲2発明及び甲8から容易になし得たものでない以上,甲2発明及び甲8から容易になし得たものでない。
イ 本件訂正発明4,6,7は,本件訂正発明3A及び3Bを更に限定したものであるから,本件訂正発明3A及び3Bが甲2発明及び甲8から容易になし得 たものでない以上,甲2発明及び甲8から容易になし得たものでない。
ウ 本件訂正発明14は,本件訂正発明3,4,6,7のいずれかのPVA系重合体フィルムの保管方法であるから,本件訂正発明3,4,6,7が甲2発明及び甲8から容易になし得たものでない以上,甲2発明及び甲8から容易になし得たものでない。
当裁判所の判断
1 本件発明について (1) 本件訂正明細書(甲25)には,以下の記載がある(下線部は訂正箇所)。
ア 技術分野 【0001】 本発明はポリビニルアルコール(以下, 「ポリビニルアルコール」を「PVA」と略記することがある)系重合体フィルムおよびその製造方法ならびに当該PVA系重合体フィルムの保管方法に関する。
イ 背景技術 【0002】 PVA系重合体を用いて形成されるPVA系重合体フィルムは,水溶性というユニークな特徴とその他の様々な優れた物性を生かして,・・・光学用途,・・・包装用途など,各種の用途に使用されている。
【0003】 ところで,Tダイ等を用いてPVA系重合体フィルムを製膜する際におけるダイラインの発生や異物の発生を抑制し,製膜性を改善する方法としてノニオン系界面活性剤を配合する方法が提案されている・・・。また光学的スジや光学的色ムラ等のない優れた光学特性を有し,耐ブロッキング性に優れた効果を発揮することができるPVA系重合体フィルムを提供する方法として,特定の界面活性剤を複数種配合する方法が提案されている・・・。
ウ 発明が解決しようとする課題 【0005】 しかしながら,界面活性剤を配合して製造されたPVA系重合体フィルムをロール状に巻いて,これを常温近辺に温度コントロールした倉庫内に数ヶ月間程度保管した時に,ロールの色が著しく黄色味を帯びる問題があることが近年明らかになってきた。この黄変はPVA系重合体フィルムの機械的強度・延伸性・ヘイズ等の物性にはほとんど影響を与えないが,包装材料として使用した場合に内容物の色が黄色味を帯びたり,偏光フィルムを製造する際の原料として使用した場合に得られる偏光フィルムを透過した光線が黄色味を帯びたりして,消費者や使用者に対して悪印象を与える可能性があった。
【0006】 本発明は,常温近辺に温度コントロールした倉庫内などに数ヶ月間程度保管した後であってもフィルムの色が黄色味を帯びにくいPVA系重合体フィルムを提供することを目的とする。
エ 課題を解決するための手段 【0007】 本発明者は,上記の目的を達成すべく鋭意検討を重ねた結果,PVA系重合体および界面活性剤を含むPVA系重合体フィルムであって,水に溶解させた際のpHが一定範囲にあるPVA系重合体フィルムにより上記目的が達成されることを見出し,当該知見に基づいてさらに検討を重ねて本発明を完成させた。
オ 発明の効果 【0009】 本発明のPVA系重合体フィルムは,倉庫内などに長期間保管してもフィルムの色が黄色味を帯びにくい。
・・・また,本発明の製造方法によれば,上記のPVA系重合体フィルムを容易に且つ安価に製造することができる。
さらに,本発明の保管方法によりPVA系重合体フィルムを保管すれば,フィルムの黄変をより効果的に抑制することができる。
カ 発明を実施するための形態 【0010】 ・・・ 本発明のPVA系重合体フィルムは,PVA系重合体(A)とノニオン系界面活性剤(B)とを含む。
(ア) PVA系重合体(A) 【0011】 PVA系重合体(A)としては,ビニルエステル系モノマーを重合して得られるビニルエステル系重合体をけん化することにより製造されたものを使用することができる。・・・これらの中でも酢酸ビニルが好ましい。
(イ) ノニオン系界面活性剤(B) 【0020】 本発明で用いるノニオン系界面活性剤(B)としては,例えば,ポリオキシエチレンオレイルエーテル等のアルキルエーテル型;ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル等のアルキルフェニルエーテル型;ポリオキシエチレンラウレート等のアルキルエステル型;ポリオキシエチレンラウリルアミノエーテル等のアルキルアミン型;ポリオキシエチレンラウリン酸アミド等のアルキルアミド型;ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンエーテル等のポリプロピレングリコールエーテル型;ラウリン酸ジエタノールアミド,オレイン酸ジエタノールアミド等のアルカノールアミド型;ポリオキシアルキレンアリルフェニルエーテル等のアリルフェニルエーテル型などが挙げられる。
【0021】 界面活性剤は1種を単独で使用しても,2種以上を併用してもよい。本発明で用いるノニオン系界面活性剤は,製膜時の膜面異常の低減効果に優れており,そのうちでも本発明の効果がより顕著に奏されることから,アルカノールアミド型の界面活性剤がより好ましく,脂肪族カルボン酸(例えば,炭素数8〜30の飽和または 不飽和脂肪族カルボン酸など)のジアルカノールアミド(例えば,ジエタノールアミド等)がさらに好ましい。
【0022】 ノニオン系界面活性剤(B)は,入手が容易であり安価でもあることから,ノニオン系界面活性剤(B)を含む混合物の形態で使用することが好ましい。
・・・当該混合物が含むノニオン系界面活性剤(B)以外の成分に特に制限はないが,例えば,ノニオン系界面活性剤(B)を製造する際に使用した原料,触媒,溶媒;ノニオン系界面活性剤(B)が分解して生じた分解物;ノニオン系界面活性剤(B)の安定性を向上させるために添加される安定剤などが挙げられ,より具体的には,ノニオン系界面活性剤(B)がアルカノールアミド型のノニオン系界面活性剤である場合に,対応するアルカノールアミンが挙げられる。
【0023】 上記のノニオン系界面活性剤(B)を含む混合物は,本発明の効果がより顕著に奏されることから,水に0.1質量%の濃度で溶解させた際の20℃におけるpH(得られる水溶液のpH)が8.0以上となるものであることが好ましく,8.5〜12.0の範囲内となるものであることがより好ましい。・・・ 【0024】 PVA系重合体フィルムにおけるノニオン系界面活性剤(B)の含有率はPVA系重合体100質量部に対して0.001〜1質量部の範囲内であることが必要であり,0.01〜0.7質量部の範囲内であることが好ましく,0.05〜0.5質量部の範囲内であることがより好ましい。上記含有率が0.001質量部より少ないと製膜時の膜面異常の低減効果が現れにくく,1質量部より多いとフィルム表面に溶出してブロッキングの原因になり取り扱い性が低下する。
(ウ) pH 【0025】 本発明のPVA系重合体フィルムは,水に7質量%の濃度で溶解させた際の2 0℃におけるpH(得られる水溶液のpH)が2.0〜6.8の範囲内にあることが,長期保管時のフィルムの黄変を抑制する上で重要である。上記のpHが2.0未満の場合には,PVA系重合体自体の劣化によるものと思われる黄変が生じやすくなる。また上記のpHが2.0未満のフィルムは,製膜の際に防腐加工が施された特殊な製膜設備が必要となる。この観点より,上記のpHは2.5以上であることが好ましく,3.0以上であることがより好ましい。一方,上記のpHが8.0を超える場合には,十分な黄変抑制効果が得られない。この観点より,上記のpHは7.5以下であることが好ましく,7.0以下であることがより好ましく,6.8以下であることがさらに好ましく,6.5以下であることが特に好ましく,6.0以下であることが最も好ましく,本発明ではPVA系重合体フィルムのpHを前記した「さらに好ましい6.8以下」に規定している。
なお,PVA系重合体フィルムを7質量%となるように水に添加して攪拌し(必要に応じてさらに加熱および/または冷却をしてもよい)その後20℃に温度を維 ,持した際に,当該PVA系重合体フィルムに含まれる成分の一部が完全には溶解しておらず分散液の形態になっている場合においても,当該分散液のpHを測定することにより得られる値を上記のpHとみなすことができる。
(エ) 酸性物質(C) 【0026】 本発明のPVA系重合体フィルムについて,水に7質量%の濃度で溶解させた際の20℃におけるpHを2.0〜6.8の範囲内にコントロールする方法は必ずしも限定されないが,コントロールが容易であることからPVA系重合体フィルムの製造過程において酸性物質(C)を適量配合する方法が好適である。
【0027】 酸性物質(C)の種類に特に制限はないが,25℃におけるpKa(酸解離定数)が3.5以上の酸性物質であることが好ましい。・・・ 【0028】 また酸性物質(C)の常圧下(絶対圧力で1atm)での沸点は120℃を超えることが好ましい。・・・ 【0029】 25℃におけるpKaが3.5以上で常圧下の沸点が120℃を超える酸性物質としては,例えば,乳酸,コハク酸,アジピン酸,安息香酸,カプリン酸,クエン酸,ラウリン酸等の有機酸;ホウ酸,リン酸二水素カリウム,リン酸二水素ナトリウム等の無機酸性物質;アスパラギン酸,グルタミン酸等のアミノ酸などを挙げることができるが,必ずしもこれらに限定されない。これらの酸性物質は1種を単独で用いても2種以上を併用してもよい。これらの中でも,揮発による散逸が実質的に無視できることから無機酸性物質が好ましい。
【0030】 本発明のPVA系重合体フィルムの製造過程において好ましく使用される酸性物質(C)の量は,最終的に得られるPVA系重合体フィルムを水に7質量%の濃度で溶解させた際の20℃におけるpHが2.0〜6.8の範囲内となる量である。
PVA系重合体フィルム中における使用された酸性物質(C)の含有率・・・は,使用される酸性物質(C)の種類などによって一概に定めることはできないが,例えば,PVA系重合体(A)100gに対して0.0001〜0.05モルとなる割合が挙げられる。
(オ) 酸化防止剤(D) 【0031】 本発明のPVA系重合体フィルムは・・・,水に7質量%の濃度で溶解させた際の20℃におけるpHが2.0〜6.8の範囲内にあるが, ・・・さらに酸化防止剤(D)を含むと,理由は定かではないが,黄変の抑制効果をより長期間にわたって持続させることができる。・・・ 酸化防止剤(D)の種類に特に制限はないが,フェノール系,ホスファイト系,チオエステル系,ベンゾトリアゾール系,ヒンダードアミン系などの有機系酸化防 止剤が好適な物として例示される。
【0032】 本発明のPVA系重合体フィルムにおける酸化防止剤(D)の含有率は,ノニオン系界面活性剤(B)の質量に基づいて0.01〜3質量%の範囲内であることが好ましく,0.05〜1質量%の範囲内であることがより好ましい。・・・ (カ) 可塑剤(E) 【0033】 PVA系重合体フィルムは可塑剤を含まない状態では他のプラスチックフィルムに比べ剛直であり,衝撃強度等の機械的物性や二次加工時の工程通過性などが問題になることがある。それらの問題を防止するために,本発明のPVA系重合体フィルムには可塑剤(E)を含有させることが好ましい。好ましい可塑剤としては多価アルコールが挙げられ, ・・・本発明のPVA系重合体フィルムを延伸して使用する際における延伸性向上効果などの観点から,エチレングリコールまたはグリセリンが好ましい。・・・ (キ) 他の成分 【0034】 本発明のPVA系重合体フィルムは,PVA系重合体(A)およびノニオン系界面活性剤(B)のみからなっていても,PVA系重合体(A)およびノニオン系界面活性剤(B)と上記した酸性物質(C) (但し,共役塩基の形態になっている場合には当該共役塩基を含む塩を含む),酸化防止剤(D)および可塑剤(E)のうちの少なくとも1種のみからなっていてもよいが,必要に応じて本発明の効果を阻害しない範囲で,PVA(A),ノニオン系界面活性剤(B),酸性物質(C) (但し,共役塩基の形態になっている場合には当該共役塩基を含む塩を含む)酸化防止剤 , (D)および可塑剤(E)以外の他の成分をさらに含んでいてもよい。このような他の成分としては,例えば,水分,紫外線吸収剤,滑剤,着色剤,充填剤,防腐剤,防黴剤,上記した成分以外の他の高分子化合物などが挙げられる。但し,ポリカルボン 酸,ポリアミンに代表されるキレート化剤やそれに金属が配位してなるキレート化合物を含むPVA系重合体フィルムはその製造過程においてゲルを生じやすく,用途によっては当該ゲルが最終製品の品質を低下させる場合があることから,PVA系重合体フィルムはキレート化剤およびキレート化合物のいずれも含まないことが好ましい。
(ク) PVA系重合体フィルムの製造方法 【0037】 PVA系重合体フィルムを製造するための具体的な方法としては,例えば,上記PVA系重合体溶液を使用して,流延製膜法・・・や,押出機などを使用して上記溶融物を得てこれをTダイなどから押出すことにより製膜する溶融押出製膜法など,任意の方法を採用することができる。・・・ 【0038】 上記の製膜原液の揮発分濃度(製膜時などに揮発や蒸発によって除去される溶媒等の揮発性成分の濃度)は50〜90質量%の範囲内であることが好ましく,55〜80質量%の範囲内であることがより好ましい。・・・ 【0039】 上記の製膜原液の調製方法に特に制限はなく,例えば,水にPVA系重合体(A)を溶解させたものに,ノニオン系界面活性剤(B)と,必要に応じてさらに酸性物質(C),酸化防止剤(D),可塑剤(E)および上記した他の成分のうちの少なくとも1種を添加する方法や,押出機を使用して含水状態のPVA系重合体(A)を溶融混練する際に,ノニオン系界面活性剤(B)と,必要に応じてさらに酸性物質(C),酸化防止剤(D),可塑剤(E)および上記した他の成分のうちの少なくとも1種を共に溶融混練する方法などが挙げられる。・・・ 【0040】 また製膜原液の調製時にノニオン系界面活性剤(B)を配合するにあたり,上記したノニオン系界面活性剤(B)を含む混合物の形態で使用すれば,ノニオン系界 面活性剤(B)の煩雑な精製作業をせずに,また,より高価な高純度のノニオン系界面活性剤(B)を使用する必要がなく製膜原液を容易に且つ安価に調製することができることから好ましい。さらに,上記製膜原液が酸性物質(C)を用いて得られたものである場合には,酸性物質(C)の配合時にその配合量を調整することにより得られるPVA系重合体フィルムを水に溶解させた際のpHを容易に上記範囲に調整することができることから好ましい。
(ケ) PVA系重合体フィルムの保管方法 【0042】 また本発明は,上記した本発明のPVA系重合体フィルムを温度0〜40℃および湿度75%RH以下の条件下に保管するPVA系重合体フィルムの保管方法を包含する。本発明のPVA系重合体フィルムは,従来のPVA系重合体フィルムに比べて長期間保管した時の黄変が少ない特徴があるが,保管時の温度が高くなるほど黄変しやすくなる傾向があるため,40℃以下の温度で保管するのが好ましい。また保管時の温度が低すぎると,保管場所から使用のために取り出した時にフィルム表面に結露を生じて,それが原因となってフィルムのブロッキングやタルミなどの異常を生じるおそれがある。この観点より,保管時の温度は0℃以上であることが好ましい。同様に,湿度75%RHを超える条件で保管すると,PVA系重合体フィルムの吸湿によりフィルムのブロッキングやタルミなどの異常を生じるおそれがある。PVA系重合体フィルムを保管する際の保管期間に特に限定はないが,あまりに長すぎると,特に高温下に保管した際などにおいて徐々に黄変が進行する可能性があることから,1週間以上2年以内であることが好ましく,1ヶ月以上1.5年以内であることがより好ましく,3ヶ月以上1年以内であることがさらに好ましい。
実施例 【0047】[実施例1] けん化度99.9モル%,重合度2400,酢酸ナトリウム含量2.4質量%のPVA(ポリ酢酸ビニルのけん化物)のチップ100質量部を35℃の蒸留水2500質量部に24時間浸漬した後,遠心脱水を行いPVA含水チップを得た。得られたPVA含水チップ中の酢酸ナトリウム含量はPVAに対して0.1質量%であり,またPVA含水チップ中の揮発分濃度は70質量%であった。
そのPVA含水チップ333質量部(乾燥状態PVA換算で100質量部)に対してグリセリン12質量部,ノニオン系界面活性剤を含む混合物(ラウリン酸ジエタノールアミドを95質量%の割合で含有し,且つジエタノールアミンを不純物として含む混合物。当該混合物を水に0.1質量%の濃度で溶解させた際の20℃におけるpH(PVAフィルムの場合について上記したのと同様の方法により測定)は9.64。)0.3質量部,4,4’-ブチリデンビス(6-t-ブチル-3-メチルフェノール) (フェノール系酸化防止剤)0.003質量部を添加し,さらに1mol/lのリン酸二水素カリウム水溶液をPVA100gに対して10mlとなる割合で添加した後,よく混合して混合物とし,これを最高温度130℃の二軸押出機で加熱溶融した。熱交換機で100℃に冷却した後,95℃の金属ドラム上に溶融押出製膜して乾燥することにより,フィルム幅1.2mで平均厚さ60μmのPVAフィルムを得た。得られたPVAフィルムにスジなどの欠陥は見られず外観が良好であった。得られたPVAフィルムを用いて,水に溶解させた際のpHを上記した方法により測定したところ6.0であった。
【0048】 また得られたPVAフィルムをA4サイズにカットして,まず初期状態での黄色度(YI値)を上記した方法により測定したところ4.6であった。このPVAフィルムを80℃に調整された熱風乾燥機中に吊り下げて放置した。そして放置してから3日後,5日後および10日後のフィルムの黄色度(YI値)を上記した方法により測定したところ,それぞれ7.6,9.0,10.1であった。したがって,黄色度(YI値)の初期値からの増加量である黄変度(ΔYI)は,それぞれ3. 0,4.4,5.5と計算された。
以上の各種評価の結果を表1に示した。なお,240時間連続して上記の製膜を行ったが,スジ状の欠点の発生は認められなかった。
【0049】[実施例2] 実施例1において,1mol/lのリン酸二水素カリウム水溶液をPVA100gに対して10mlとなる割合で添加したことに代えて,1mol/lの乳酸水溶液をPVA100gに対して5mlとなる割合で添加したこと以外は実施例1と同様にして,PVAフィルムを得た。得られたPVAフィルムにスジなどの欠陥は見られず外観が良好であった。
得られたPVAフィルムを用いて実施例1と同様にして各種測定を行った。結果を表1に示した。
【0050】[実施例3] 実施例1において,1mol/lのリン酸二水素カリウム水溶液をPVA100gに対して10mlとなる割合で添加したことに代えて,1mol/lの酢酸水溶液をPVA100gに対して10mlとなる割合で添加したこと以外は実施例1と同様にして,PVAフィルムを得た。得られたPVAフィルムにスジなどの欠陥は見られず外観が良好であった。
得られたPVAフィルムを用いて実施例1と同様にして各種測定を行った。結果を表1に示した。
【0051】[実施例4] 実施例2において,乳酸水溶液の添加量をPVA100gに対して5mlとなる割合からPVA100gに対して2mlとなる割合に変更したこと以外は実施例2と同様にして,PVAフィルムを得た。得られたPVAフィルムにスジなどの欠陥 は見られず外観が良好であった。
得られたPVAフィルムを用いて実施例1と同様にして各種測定を行った。結果を表1に示した。
【0052】[実施例5] PVAのチップとして,けん化度88.0モル%,重合度2400,酢酸ナトリウム含量2.0質量%のPVA(ポリ酢酸ビニルのけん化物)のチップを使用して,実施例1と同様にしてPVA含水チップを得た。得られたPVA含水チップ中の酢酸ナトリウム含量はPVAに対して0.08質量%であり,またPVA含水チップ中の揮発分濃度は86質量%であった。このPVA含水チップを20℃で減圧乾燥して,揮発分濃度を70質量%に調整した。
得られたPVA含水チップを,実施例1において使用された揮発分濃度が70質量%のPVA含水チップの代わりに用いたこと以外は実施例1と同様にしてPVAフィルムを得た。得られたPVAフィルムにスジなどの欠陥は見られず外観が良好であった。
得られたPVAフィルムを用いて実施例1と同様にして各種測定を行った。結果を表1に示した。
【0053】[実施例6] 実施例1において,4,4’-ブチリデンビス(6-t-ブチル-3-メチルフェノール)を添加しなかったこと以外は実施例1と同様にして,PVAフィルムを得た。得られたPVAフィルムにスジなどの欠陥は見られず外観が良好であった。
得られたPVAフィルムを用いて実施例1と同様にして各種測定を行った。結果を表1に示した。
【0054】[実施例7] 実施例1において,4,4’-ブチリデンビス(6-t-ブチル-3-メチルフェノール)の添加量を,PVA含水チップ333質量部(乾燥状態PVA換算で100質量部)に対して0.003質量部から0.018質量部に変更したこと以外は実施例1と同様にして,PVAフィルムを得た。得られたPVAフィルムには実用上の支障になるほどではないが,日光などの強い光の元で観察すると,4,4’-ブチリデンビス(6-t-ブチル-3-メチルフェノール)によって生じたと推定される凝集物状の欠点が薄く見られた。
得られたPVAフィルムを用いて実施例1と同様にして各種測定を行った。結果を表1に示した。
【0055】[比較参考例1] 実施例1において,リン酸二水素カリウム水溶液の添加量をPVA100gに対して10mlとなる割合からPVA100gに対して5mlとなる割合に変更したこと以外は実施例1と同様にして,PVAフィルムを得た。得られたPVAフィルムにスジなどの欠陥は見られず外観が良好であった。
得られたPVAフィルムを用いて実施例1と同様にして各種測定を行った。結果を表1に示した。なお,240時間連続して上記の製膜を行ったところ,スジ状の欠点の発生がわずかに認められた。
【0056】[比較参考例2] 比較参考例1において,4,4’-ブチリデンビス(6-t-ブチル-3-メチルフェノール)を添加しなかったこと以外は比較参考例1と同様にして,PVAフィルムを得た。得られたPVAフィルムにスジなどの欠陥は見られず外観が良好であった。
得られたPVAフィルムを用いて実施例1と同様にして各種測定を行った。結果を表1に示した。
【0057】[比較例1] 実施例1において,グリセリン,ノニオン系界面活性剤を含む混合物,4,4’-ブチリデンビス(6-t-ブチル-3-メチルフェノール) リン酸二水素カリウ ,ム水溶液のいずれも添加しなかったこと以外は実施例1と同様にして,PVAフィルムを得た。得られたPVAフィルムにはスジなどの欠陥が多くて外観が悪かった。
得られたPVAフィルムを用いて実施例1と同様にして各種測定を行った。結果を表1に示した。
【0058】[比較例2] 実施例1において,4,4’-ブチリデンビス(6-t-ブチル-3-メチルフェノール)およびリン酸二水素カリウム水溶液のいずれも添加しなかったこと以外は実施例1と同様にして,PVAフィルムを得た。得られたPVAフィルムにスジなどの欠陥は見られず外観が良好であった。
得られたPVAフィルムを用いて実施例1と同様にして各種測定を行った。結果を表1に示した。
【0059】[比較例3] 実施例1において,リン酸二水素カリウム水溶液を添加しなかったこと以外は実施例1と同様にして,PVAフィルムを得た。得られたPVAフィルムにスジなどの欠陥は見られず外観が良好であった。
得られたPVAフィルムを用いて実施例1と同様にして各種測定を行った。結果を表1に示した。なお,240時間連続して上記の製膜を行ったところ,スジ状の欠点の発生が認められた。
【0060】[比較例4] 実施例2において,1mol/lの乳酸水溶液をPVA100gに対して5mlとなる割合で添加したことに代えて,乳酸を水に希釈せずそのまま用いてそれをPVA100gに対して0.1molとなる割合で添加したこと以外は実施例1と同様にして,PVA含水チップと各種添加物の混合物を得た。この混合物に水を加えることにより固形分濃度7質量%の水溶液を作製した。得られた水溶液のpHをPVAフィルムの場合について上記したのと同様の方法により測定したところ1.7であった。この混合物を押出機を用いて溶融製膜した場合,溶融樹脂流路に施されているメッキが腐食する可能性があるため,製膜を断念した。
【0061】[比較例5] 実施例1において,ノニオン系界面活性剤を含む混合物の添加量を,PVA含水チップ333質量部(乾燥状態PVA換算で100質量部)に対して0.3質量部から3質量部に変更したこと以外は実施例1と同様にして,PVAフィルムを得た。
得られたPVAフィルムにはスジなどの欠陥が多くて外観が悪かった。
得られたPVAフィルムを用いて実施例1と同様にして各種測定を行った。結果を表1に示した。
【0062】[実施例10] 実施例1で得られたPVAフィルムを直径3インチの紙管にロール状に50m巻き取り,温度30℃および湿度50%RHに調整した恒温恒湿機内に保管した。6ヶ月後に取り出してPVAフィルムの黄色度(YI値)を上記した方法により測定したところ,保管開始前の4.6に対して5.4であり,黄変度(ΔYI)は0.8と小さかった。また,膜面は保管前と特に変化なく,良好であった。評価結果を表2に示した。
【0063】[比較例6] 実施例10において,実施例1で得られたPVAフィルムを使用する代わりに比 較例3で得られたPVAフィルムを使用したこと以外は実施例10と同様にしてPVAフィルムを保管した。6ヶ月間後取り出したPVAフィルムの評価結果を表2に示した。
【0064】 【表1】 - 74 - 【0065】 【表2】 (2) 前記(1)によると,本件訂正明細書には,次の内容が記載されているということができる。
本件訂正発明は,ポリビニルアルコール系重合体フィルム(以下, 「PVA系重合体フィルム」という。)並びにその製造方法及び保管方法に関するものである(【0001】。
) 従来から,PVA系重合体フィルムの製膜性等を改善するためにノニオン系界面活性剤を配合する方法が提案され,また,優れた光学特性等を有するPVA系重合体フィルムを提供するために特定の界面活性剤を複数種配合する方法が提案されていたが,界面活性剤を配合して製造されたPVA系重合体フィルムには,ロール状に巻いて常温近辺に温度コントロールした倉庫内に数か月間程度保管すると,ロールの色が著しく黄色味を帯びる問題があった(【0003】 【0005】。
, ) そこで,常温近辺に温度コントロールした倉庫内などに数か月間程度保管した後であってもフィルムの色が黄色味を帯びにくいPVA系重合体フィルムを提供することを目的として 【0006】, ( ) PVA系重合体及び界面活性剤を含むPVA系重合体フィルムであって,水に溶解させた際のpHが一定範囲にあるPVA系重合体フィルム,すなわち,ノニオン系界面活性剤を,PVA系重合体100質量部に対して0.001〜1質量部を含み,また,水に7質量%の濃度で溶解させた際の20℃におけるpHが2.0〜6.8であるPVA系重合体フィルムを見い出して, 本件訂正発明を完成させた(【0007】【0010】【0011】【0020】〜 , , ,【0025】。
) 本件訂正発明は,倉庫内などに長期間保管してもフィルムの色が黄色味を帯びにくく,また,PVA系重合体フィルムを容易にかつ安価に製造することができるという効果を有するものである(【0009】。
) そして,ノニオン系界面活性剤のPVA系重合体100質量部に対する含有量(以下,「ノニオン系界面活性剤の含有量」という。)が本件訂正発明の数値範囲内にあるPVA系重合体フィルムであって,このPVA系重合体フィルムを水に7質量%の濃度で溶解させた際の20℃におけるpH(以下, 「PVA系重合体フィルムのpH」という。 が本件訂正発明の数値範囲内にある実施例1〜7に係るPVA系重合 )体フィルムと,ノニオン系界面活性剤の含有量及びPVA系重合体フィルムのpHの一方又は両方が本件発明の数値範囲内にはない比較参考例1及び2並びに比較例1〜5に係るPVA系重合体フィルムをそれぞれA4サイズにカットして80℃に調整された熱風乾燥機中に吊り下げて放置してから,3日,5日及び10日後の黄変度(ΔYI)を測定した(【0047】〜【0061】【表1】 , 。以下, 「80℃短期保管試験」という。。
) また,実施例10及び比較例6として,それぞれ,実施例1及び比較例3に係る各PVA系重合体フィルムを直径3インチの紙管にロール状に50m巻き取り,温度30℃及び湿度50%RHに調整した恒温恒湿機内に6か月間保管後の黄変度(ΔYI)を測定した(【0062】【0063】【表2】 , , 。以下, 「30℃長期保管試験」という。。
) 上記実施例1〜7,比較参考例1,2,比較例1〜5の組成のうち, 「ポリビニルアルコール系重合体(A) については, 」 実施例5を除き,いずれも「けん化度99.9モル%,重合度2400,酢酸ナトリウム含量2.4質量%のPVA(ポリビニル酢酸ビニルのけん化物)のチップ100質量部を35℃の蒸留水2500質量部に24時間浸漬した後,遠心脱水を行って得られたPVA含水チップ」を用いてお り,実施例5のみ,PVAのチップとして「けん化度88.0モル%,重合度2400,酢酸ナトリウム含量2.0質量%のPVA(ポリ酢酸ビニルのけん化物)のチップ」を用いている(【0047】〜【0061】。
) また,実施例1〜7,比較参考例1,2,比較例1〜5の組成のうち, 「ノニオン系界面活性剤(B)」については,比較例1を除き,いずれも,「ラウリン酸ジエタノールアミドを95質量%の割合で含有し,かつジエタノールアミンを不純物として含む混合物」 (この混合物を水に0.1質量%の濃度で溶解させた際の20℃におけるpHは9.64。以下, 「本件ラウリン酸ジエタノールアミド混合物」という。)が添加されており,比較例1のみ,「ノニオン系界面活性剤(B)」が添加されていない(【0047】〜【0061】。実施例1〜7,比較例2〜4のノニオン系界面 )活性剤の含有量は,いずれも0.3質量部であり,比較例5は,3質量部である 【表 (1】 。本件ラウリン酸ジエタノールアミド混合物以外の「ノニオン系界面活性剤 )(B)」を添加した実施例,比較例は,記載されていない。
さらに,実施例1〜7,比較参考例1,2,比較例1〜5の組成のうち, 「酸性物質(C)」については,実施例1〜7,比較参考例1,2,比較例4,5には,リン酸二水素カリウム,乳酸,酢酸のいずれかが添加され(【表1】参照),比較例1〜3は,「酸性物質(C)」が添加されていない(【0047】〜【0061】。
)「酸性物質(C)」を添加していない実施例は,記載されていない。
加えて,実施例1〜7,比較参考例1,2,比較例1,2の組成のうち, 「酸化防止剤(D) については, 」 実施例1〜5, 比較参考例1, 7, 比較例3〜5には, 「4,4’-ブチリデンビス(6-t-ブチル-3-メチルフェノール) (フェノール系酸化防止剤)」が添加され,実施例6,比較参考例2,比較例1,2は,「酸化防止剤(D)」が添加されていない(【0047】〜【0061】。
) 実施例1〜7のPVA系重合体フィルムのpHは,3.6〜6.2である。
30℃長期保管試験を実施した実施例10(実施例1)及び比較例6(比較例3)の組成は, ポリビニルアルコール系重合体 「 (A) 及び 」 「ノニオン系界面活性剤(B)」 については同じであり,「酸化防止剤(D)」が添加されている点も共通するが,実施例10(実施例1)には「酸性物質(C)」としてリン酸二水素カリウムが添加されているのに対し,比較例6(比較例3)には「酸性物質(C)」が添加されていない点で相違し,PVA系重合体フィルムのpHは,実施例10(実施例1)が6.0であるのに対し,比較例6(比較例3)は8.2である 【0047】 0059】。
( , 【 ) 2 取消事由1(サポート要件の判断の誤り)について (1) 特許請求の範囲の記載が,明細書のサポート要件に適合するか否かは,特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し,特許請求の範囲に記載された発明が,発明の詳細な説明に記載された発明で,発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か,また,その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものであり,明細書のサポート要件の存在は,特許出願人(特許拒絶査定不服審判請求を不成立とした審決の取消訴訟の原告)又は特許権者(特許取消決定取消訴訟又は特許無効審判請求を認容した審決の取消訴訟の原告,特許無効審判請求を不成立とした審決の取消訴訟の被告)が証明責任を負うと解するのが相当である(当庁平成17年(行ケ)第10042号同年11月11日特別部判決・判例タイムズ1192号164頁参照)。
以下,上記の観点に立って,本件について検討することとする。
(2) 本件訂正発明1について ア 前記1(2)のとおり,本件訂正明細書には, 「ノニオン系界面活性剤(B)」として本件ラウリン酸ジエタノールアミド混合物を添加した実施例,比較参考例,比較例しか開示されておらず,本件ラウリン酸ジエタノールアミド混合物以外の「ノニオン系界面活性剤(B)」を添加した実施例,比較例は,開示されていない。
原告は,このような実施例,比較参考例,比較例の記載に接した当業者は,本件訂正発明1の「ノニオン系界面活性剤(B) を使用すれば, 」 その種類にかかわらず, 「常温近辺に温度コントロールした倉庫内などに数か月間程度保管した後であってもフィルムの色が黄色味を帯びにくい」PVA系重合体フィルムを提供するという本件訂正発明1の課題が達成されるものと認識することはできないと主張するので,以下,本件訂正発明1が,本件訂正明細書において当業者が発明の課題が解決できることを認識できるように記載された範囲を超えるものか否かについて,本件出願日当時の技術常識に照らし,本件訂正発明1の範囲まで,本件訂正明細書に開示された内容を拡張又は一般化できるといえるかという観点から,検討する。
イ 前記1(2)のとおり,本件訂正発明1は,従来,製膜性等の改善や光学特性等の向上のために界面活性剤を配合して製造されたPVA系重合体フィルムには,ロール状に巻いて常温近辺に温度コントロールした倉庫内に数か月間程度保管すると,ロールの色が著しく黄色味を帯びる問題(以下, 「常温長期保管時の黄変」という。 があったことから, ) 常温近辺に温度コントロールした倉庫内などに数か月間程度保管した後であってもフィルムの色が黄色味を帯びにくいPVA系重合体フィルムを提供することを目的とするものであり,本件訂正発明1の課題は,常温近辺に温度コントロールした倉庫内などに数ヶ月間程度保管した後であってもフィルムの色が黄色味を帯びにくいPVA系重合体フィルムを提供することであると認められる。
ウ 前記イのとおり,本件訂正発明1の課題が,常温長期保管時の黄変を抑制し得るPVA系重合体フィルムの提供にあることから,まず,常温長期保管時の黄変の機序について検討すると,本件訂正明細書には, 「・・・長期保管時のフィルムの黄変を抑制する上で重要である。上記のpHが2.0未満の場合には,PVA系重合体自体の劣化によるものと思われる黄変が生じやすくなる。という記載【0 」 (025】)はあるものの,これが常温長期保管時の黄変の趣旨であるか,強酸性であることを原因とする別の機序による黄変の趣旨であるかは必ずしも明らかでない上,前者の常温長期保管時の黄変の趣旨であるとしても,「PVA系重合体自体の劣化」が具体的にどのような機序を指すものであるかは,明らかでない。
また,本件訂正明細書には,界面活性剤の添加が常温長期保管時の黄変の原因であることをうかがわせる記載(【0005】)があり, 「ノニオン系界面活性剤(B)」を添加していない比較例1の80℃短期保管試験の黄変度(ΔYI)の数値が, 「ノニオン系界面活性剤(B)」を添加したその余の実施例1〜7,比較参考例1,2,比較例2,3,5に比し,著しく良好であること(【表1】)も,これに沿うものということができるが,界面活性剤の添加が常温長期保管時の黄変をもたらすに至る機序についての記載はない。本件訂正明細書には, 「酸化防止剤(D)を含むと,理由は定かではないが,黄変の抑制効果をより長期間にわたって持続させることができる。」という記載(【0031】)があるものの,@「酸化防止剤(D)」を含まないことのみが実施例1と相違する実施例6の80℃短期保管試験の黄変度(ΔYI)の数値は,3日後及び5日後においては実施例1とほぼ同じであり,10日後に至って初めて実施例1よりも顕著に黄変が見られたこと(【表1】,A実施例1(実施 )例10)及び比較例3(比較例6)において,80℃短期保管試験における3日後や5日後の黄変度(ΔYI)は,30℃長期保管試験における6か月後の黄変度(ΔYI)よりも黄変が進行していることを示していることを併せて考慮すると,30℃で6か月(又はそれを超える一定期間)保管した場合の黄変度(ΔYI)が,酸化防止作用を有する酸化防止剤の添加の有無にかかわらず,ほぼ同じである可能性が高いから,常温長期保管時の黄変の軽減が酸化防止剤による酸化の抑制を原因とするものかどうかは,本件訂正明細書の記載からは明らかでないというほかない。したがって,本件訂正明細書の記載のみによって,常温長期保管時の黄変の機序を界面活性剤の酸化と認識することはできないものと認められる。
本件訂正明細書には,「保管時の温度が高くなるほど黄変しやすくなる傾向がある」という記載(【0042】)もあるが,この記載を踏まえても,同様であり,上記判断は左右されない。
そうすると,本件訂正明細書の記載のみによって,常温長期保管時の黄変の機序を特定することはできないというべきである。
エ 本件訂正明細書には,常温長期保管時の黄変の抑制の機序に関し,前記ウで引用の記載のほか, 「本発明の重合体フィルムは,水に7質量%の濃度で溶解させた際の20℃におけるpH(得られる水溶液のpH)が2.0〜6.8の範囲内にあることが,長期保管時のフィルムの黄変を抑制する上で重要である。 という記 」載(【0025】)があるが,これらを総合しても,常温長期保管時の黄変の抑制の機序は,明らかではない。
したがって,本件訂正明細書の記載のみによって,常温長期保管時の黄変の抑制の機序を特定することはできないというべきである。
オ そこで,本件訂正明細書の記載に加え,本件出願日当時の技術常識に照らし,当業者が常温長期保管時の黄変の機序を認識することができるかについて検討する。
証拠(乙4の1〜4)によると,本件出願日当時,界面活性剤は,その種類を問わず,空気中の酸素によって酸化することがあることは,技術常識となっていたものと認められる。しかしながら,前記ウのとおり,酸化防止剤の添加の有無のみが異なる実施例1と実施例6の80℃短期保管試験の黄変度(ΔYI)の数値が3日後及び5日後はほぼ同じであり,他に常温長期保管時の黄変の機序を認めるに足りる証拠がないことからすると,上記の界面活性剤が酸化することがあるという技術常識を踏まえても,常温長期保管時の黄変の機序がノニオン系界面活性剤の酸化であると直ちに特定し得るものとは認められない。
また,仮に常温長期保管時の黄変の機序がノニオン系界面活性剤の酸化であると認識したとしても,そのような常温長期保管時の黄変が,ノニオン系界面活性剤の含有量の数値範囲を「0.001〜1質量部」とし,PVA系重合体フィルムのpHの数値範囲を「2.0〜6.8」とすることにより抑制される機序について,当業者が認識し得ることを認めるに足りる証拠はない。
カ 前記1(1)カ(イ)のとおり,本件訂正発明1における「ノニオン系界面活性剤(B)」には,アルキルエーテル型,アルキルフェニルエーテル型,アルキルエス テル型,アルキルアミン型,アルキルアミド型,ポリプロピレングリコールエーテル型,アルカノールアミド型,アリルフェニルエーテル型などのものが含まれるところ(【0020】,証拠(甲42〜44,乙4の3)によると,ノニオン系界面活 )性剤の種類を問わず,酸化反応の反応性が一様であるとはいえないし,前記1(1)カ(イ)のとおり,本件訂正発明1の「ノニオン系界面活性剤(B)」は,学術上のノニオン系界面活性剤に加え,その原料,触媒,溶媒,分解物などを含む混合物を含み(【0022】, )「ノニオン系界面活性剤(B)」の酸化反応の反応性は更に多様であると考えられる。
キ 以上のオ,カで述べたところからすると,当業者が,界面活性剤として本件ラウリン酸ジエタノールアミド混合物を採用し,ノニオン系界面活性剤の含有量の数値範囲を「0.3質量部」とし,PVA系重合体フィルムのpHの数値範囲を「3.6〜6.2」とした実施例において,30℃長期保管試験及び80℃短期保管試験において,黄変の抑制効果が得られたことが開示されていることに接した場合,本件訂正発明1の「ノニオン系界面活性剤(B)」であれば,その種類を問わず,ノニオン系界面活性剤の含有量の数値範囲を「0.001〜1質量部」とし,PVA系重合体フィルムのpHの数値範囲を「2.0〜6.8」とすることにより,常温長期保管時の黄変を抑制し得るPVA系重合体フィルムを提供するという本件訂正発明1の課題が解決できることを認識することができるとは認められない。
そうすると,本件訂正発明1は,本件出願日当時の技術常識を有する当業者が本件訂正明細書において本件訂正発明1の課題が解決できることを認識できるように記載された範囲を超えるものであって,特許法36条6項1号所定のサポート要件に適合するものということはできない。
ク 審決は,本件ラウリン酸ジエタノールアミド混合物による実施例の開示のみによって,請求項で「ノニオン系界面活性剤(B)」への上位概念化をしてもサポート要件に適合する理由として, 「ノニオン系」という一群の界面活性剤が,ノニオン性であり,界面活性作用がある点で技術的特徴が共通し,その性質も類似する ことを主たる理由とするが,前記オのとおり,常温長期保管時における黄変の機序やその抑制の機序が明らかでない以上,ノニオン系界面活性剤に共通するノニオン性であり,界面活性作用があるという技術的特徴と,それに起因する性質の類似性が,本件訂正発明1の課題解決にどのように関連するかは不明であるといわざるを得ないから,実施例の拡張又は一般化がサポート要件に適合する理由付けとして不十分というほかない。したがって,ノニオン系界面活性剤が,ノニオン性であり,界面活性作用がある点で技術的特徴が共通し,その性質も類似するという審決指摘の点は,本件訂正発明1が特許法36条6項1号所定のサポート要件に適合することの理由となるものではなく,本件訂正発明1がサポート要件に適合しない旨の判断を左右するものではない。
ケ 被告は,常温長期保管時の黄変は,ノニオン系界面活性剤中の疎水性基部分(炭化水素基〔一般的には炭素数の多い炭化水素基,ほとんどの場合に長鎖脂肪族炭化水素基〕から構成されている親油性基部分)の空気中の酸素による酸化によるものであるから,本件ラウリン酸ジエタノールアミド混合物において,ノニオン系界面活性剤の含有量の数値範囲を「0.001〜1質量部」とし,PVA系重合体フィルムのpHの数値範囲を「2.0〜6.8」とすることによって,ノニオン系界面活性剤中の疎水性基部分の酸化が防止又は抑制された際の酸化防止機構は,本件ラウリン酸ジエタノールアミド混合物のようなアルカノールアミド型以外のノニオン系界面活性剤に共通して働くはずであるとして,当業者は,本件ラウリン酸ジエタノールアミド混合物を用いた実施例から,「ノニオン系界面活性剤(B)」の種類を問わず,本件訂正発明1の課題を解決できることを認識できると主張する。
しかしながら,本件出願日当時の技術常識を踏まえても,本件訂正明細書の記載に接した当業者において,常温長期保管時の黄変の機序がノニオン系界面活性剤(中の疎水性基部分)の酸化であると特定し得るものではないことは,前記オのとおりである。また,常温長期保管時の黄変が,ノニオン系界面活性剤の含有量の数値範囲を「0.001〜1質量部」とし,PVA系重合体フィルムのpHの数値範囲を 「2.0〜6.8」とすることにより抑制される機序について,当業者が認識し得ないことも,前記オのとおりである。したがって,被告の主張は,本件ラウリン酸ジエタノールアミド混合物を用いた実施例から,当業者がノニオン系界面活性剤中の疎水性基部分の酸化の抑制によるものと認識できるとする点において,失当である。
のみならず,仮に,被告主張のとおり,本件訂正明細書に接した当業者において,本件ラウリン酸ジエタノールアミド混合物を添加したPVA系重合体フィルムの常温長期保管時の黄変が,ノニオン系界面活性剤の含有量の数値範囲を「0.3質量部」とし,PVA系重合体フィルムのpHの数値範囲を「3.6〜6.2」とすることにより抑制される機序について,ノニオン系界面活性剤中の疎水性基部分(炭化水素基〔一般的には炭素数の多い炭化水素基,ほとんどの場合に長鎖脂肪族炭化水素基〕から構成されている親油性基部分)の酸化の抑制によるものと認識し得たとしても,証拠(甲42〜44,乙4の3)によると,脂肪族炭化水素には,官能基を有さず,反応性に乏しい「飽和脂肪族炭化水素」 (=アルカン)と,C=C二重結合(官能基)を有し,二重結合の部分が酸化されやすい「不飽和脂肪族炭化水素」(=アルケン)とがあり,その反応性に差があることは,技術常識であると認められ,学術上のノニオン系界面活性剤だけをとっても,酸化反応の反応性は一様であるとはいえない上,本件訂正発明1の「ノニオン系界面活性剤(B)」には,学術上のノニオン系界面活性剤に加え,その原料,触媒,溶媒,分解物などを含む混合物を含むのであるから,酸化反応の反応性は更に多様であると考えられる。本件ラウリン酸ジエタノールアミド混合物は,反応性に乏しい飽和脂肪族炭化水素基を疎水性基部分に有するラウリン酸ジエタノールアミドを95質量%の割合で含有し,ジエタノールアミンを不純物として含む混合物であるから,本件ラウリン酸ジエタノールアミド混合物を添加したPVA系重合体フィルムの常温長期保管時の黄変が,ノニオン系界面活性剤の含有量の数値範囲を「0.3質量部」とし,PVA系重合体フィルムのpHの数値範囲を「3.6〜6.2」とすることにより抑制される機 序について,ノニオン系界面活性剤中の疎水性基部分の酸化の抑制によるものと認識した当業者であっても,ラウリン酸ジエタノールアミドに比べ酸化しやすい不飽和脂肪族炭化水素基を疎水性基部分とするノニオン系界面活性剤や,不純物を含む「ノニオン系界面活性剤(B)」全般について,ノニオン系界面活性剤の含有量の数値範囲を「0.001〜1質量部」とし,PVA系重合体フィルムのpHを「2.0〜6.8」とすれば,常温長期保管時の黄変を抑制し得るPVA系重合体フィルムが得られると認識することは,困難であるというほかない。被告の主張は,この点においても失当である。
コ 以上によると,本件訂正発明1は,本件出願日当時の技術常識を有する当業者が本件訂正明細書において本件訂正発明1の課題が解決できることを認識できるように記載された範囲を超えるものであって,特許法36条6項1号所定のサポート要件に適合するものということはできないから,これと異なる審決の判断は誤りである。
(3) 本件訂正発明2〜4について 本件訂正発明2〜4は,いずれも請求項1を直接又は間接的に引用するものであり,本件訂正発明1について,本件訂正発明2は「ポリビニルアルコール系重合体(A)のけん化度が90モル%以上である」ことが,本件訂正発明3は「酸性物質(C)を用いて得られたものである」ことが,本件訂正発明4は「酸性物質(C)の25℃におけるpKa(酸解離定数)が3.5以上であり,且つ当該酸性物質(C)の常圧下での沸点が120℃を超える」ことが,更に限定されている。
しかしながら,いずれの限定によっても,前記(2)のとおり,常温長期保管時の黄変の機序やその抑制の機序が明らかでなく,これがノニオン系界面活性剤に共通する性質によるものか否かが明らかでないことや,本件訂正発明1の「ノニオン系界面活性剤(B)」の酸化反応の反応性が一様でないことに変わりはないから,前記(2)と同様の理由により, 「ノニオン系界面活性剤(B) であれば, 」 その種類を問わず,ノニオン系界面活性剤の含有量の数値範囲を「0.001〜1質量部」とし,PV A系重合体フィルムのpHの数値範囲を「2.0〜6.8」とすることにより,常温長期保管時の黄変を抑制し得るPVA系重合体フィルムを提供するという本件訂正発明2〜4の課題が解決できることを認識することができるものとはいえない。
そうすると,本件訂正発明2〜4は,本件出願日当時の技術常識を有する当業者が本件訂正明細書において本件訂正発明2〜4の課題が解決できることを認識できるように記載された範囲を超えるものであって,特許法36条6項1号所定のサポート要件に適合するものということはできない。
(4) 本件訂正発明6について 本件訂正発明6は,本件訂正発明1の「ノニオン系界面活性剤(B)」を「アルカノールアミド型の界面活性剤」に限定した発明である(請求項2〜4を引用する場合には,更にPVA系重合体のけん化度や酸性物質の添加等も限定されているが,前記(3)のとおり,いずれもサポート要件の判断を左右するものではない。。
) 前記1(1)カ(イ)のとおり,本件訂正明細書には,アルカノールアミド型の界面活性剤について, 「本発明で用いるノニオン系界面活性剤は,製膜時の膜面異常の低減効果に優れており,そのうちでも本発明の効果がより顕著に奏されることから,アルカノールアミド型の界面活性剤がより好ましく,脂肪族カルボン酸(例えば,炭素数8〜30の飽和または不飽和脂肪族カルボン酸など)のジアルカノールアミド(例えば,ジエタノールアミド等)がさらに好ましい。( 」【0021】)という記載がある。しかしながら,アルカノールアミド型の界面活性剤が,本件訂正発明の効果をより顕著に奏する理由については記載されておらず,その点に関する技術常識を認めるに足りる証拠もないから,本件訂正発明1の「ノニオン系界面活性剤(B)」を「アルカノールアミド型の界面活性剤」に限定しても,前記(2)と同様に,常温の長期保管時の黄変の機序やその抑制の機序が明らかでなく,これがアルカノールアミド型の界面活性剤に共通する性質によるものか否かが明らかでないことや,アルカノールアミド型の界面活性剤においても,酸化反応の反応性が一様であるといえないこと(甲42〜44)からすると, 「アルカノールアミド型の界面活性剤」であれ ば,その種類を問わず,ノニオン系界面活性剤の含有量の数値範囲を「0.001〜1質量部」とし,PVA系重合体フィルムのpHの数値範囲を「2.0〜6.8」とすることにより,常温長期保管時の黄変を抑制し得るPVA系重合体フィルムを提供するという本件訂正発明6の課題が解決できることを認識することができるものとはいえない。
そうすると,本件訂正発明6は,本件出願日当時の技術常識を有する当業者が本件訂正明細書において本件訂正発明6の課題が解決できることを認識できるように記載された範囲を超えるものであって,特許法36条6項1号所定のサポート要件に適合するものということはできない。
(5) 本件訂正発明7について 本件訂正発明7は,本件訂正発明1〜4,6について, 「酸化防止剤(D)をノニオン系界面活性剤(B)に対して0.01〜3質量%含む」ことが,更に限定されている。
しかしながら,このような限定によっても,前記(2)及び(4)のとおり,常温長期保管時の黄変の機序やその抑制の機序が明らかでなく,これがノニオン系界面活性剤又はアルカノールアミド型の界面活性剤に共通する性質によるものか否かが明らかでないことや,本件訂正発明1の「ノニオン系界面活性剤(B)」又は本件訂正発明6の「アルカノールアミド型の界面活性剤」の酸化反応の反応性が一様でないことに変わりはないから,前記(2)及び(4)と同様の理由により,「ノニオン系界面活性剤(B)」又は「アルカノールアミド型の界面活性剤」であれば,その種類を問わず,ノニオン系界面活性剤の含有量の数値範囲を「0.001〜1質量部」とし,PVA系重合体フィルムのpHの数値範囲を「2.0〜6.8」とすることにより,常温長期保管時の黄変を抑制し得るPVA系重合体フィルムを提供するという本件訂正発明7の課題が解決できることを認識することができるものとはいえない。
そうすると,本件訂正発明7は,本件出願日当時の技術常識を有する当業者が本件訂正明細書において本件訂正発明7の課題が解決できることを認識できるように 記載された範囲を超えるものであって,特許法36条6項1号所定のサポート要件に適合するものということはできない。
(6) 本件訂正発明9について 本件訂正発明9は,本件訂正発明1〜4,6,7のPVA系重合体フィルムの製造方法の発明であり, 「製膜原液が,ノニオン系界面活性剤(B)を70質量%以上含む混合物を用いて得られたものである」ことが特定されている。
しかしながら,このような製造方法の特定によっても,前記(2)〜(5)と同様の理由により,本件訂正発明9の製造方法により常温長期保管時の黄変を抑制し得るPVA系重合体フィルムを製造するという本件訂正発明9の課題が解決できることを認識することができるものとはいえない。
そうすると,本件訂正発明9は,本件出願日当時の技術常識を有する当業者が本件訂正明細書において本件訂正発明9の課題が解決できることを認識できるように記載された範囲を超えるものであって,特許法36条6項1号所定のサポート要件に適合するものとはいえない。
(7) 本件訂正発明10〜13について 本件訂正発明10〜13は,本件訂正発明1〜4,6,7のPVA系重合体フィルムの製造方法の発明である本件訂正発明9について,本件訂正発明10は「製膜原液が酸性物質(C)を用いて得られたものである」ことが,本件訂正発明11は「混合物が,水に0.1質量%の濃度で溶解させた際の20℃におけるpHが8.0以上となるものである」ことが,本件訂正発明12は, 「混合物が,ノニオン系界面活性剤(B),および,当該ノニオン系界面活性剤(B)を製造する際に使用した原料,触媒,溶媒,当該ノニオン系界面活性剤(B)が分解して生じた分解物,および,安定剤のうちのいずれかを含む」ことが,本件訂正発明13は,「混合物が,アルカノールアミド型のノニオン系界面活性剤,および,それに対応するアルカノールアミンを含む」ことが,更に限定されている。
しかしながら,このような製造方法の限定によっても,前記(2)〜(5)と同様の理由 により,本件訂正発明10〜13の製造方法により常温長期保管時の黄変を抑制し得るPVA系重合体フィルムを製造するという本件訂正発明10〜13の課題が解決できることを認識することができるものとはいえない。
そうすると,本件訂正発明10〜13は,本件出願日当時の技術常識を有する当業者が本件訂正明細書において本件訂正発明10〜13の課題が解決できることを認識できるように記載された範囲を超えるものであって,特許法36条6項1号所定のサポート要件に適合するものとはいえない。
(8) 本件訂正発明14について 本件訂正発明14は,本件訂正発明1〜4,6,7のPVA系重合体フィルムの保管方法の発明であり,温度0〜40℃および湿度75%RH以下の条件下に保管 「すること」が特定されている。
しかしながら,このような特定によっても,本件訂正発明1〜4,6,7のPVA系重合体フィルムの組成に変わりはないから,前記(2)〜(5)と同様の理由により,本件訂正発明14の保管方法によりPVA系重合体フィルムの常温長期保管時の黄変をより効果的に抑制できる保管方法の提供という本件訂正発明14の課題が解決できることを認識することができるものとはいえない。
そうすると,本件訂正発明14は,本件出願日当時の技術常識を有する当業者が本件訂正明細書において本件訂正発明14の課題が解決できることを認識できるように記載された範囲を超えるものであって,特許法36条6項1号所定のサポート要件に適合するものとはいえない。
3 結論 以上によると,取消事由1は理由がある。
よって,審決の全部を取り消すこととして,主文のとおり判決する。