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事件 平成 28年 (ネ) 10114号 競業行為差止等請求控訴事件
平成 29年 (ネ) 10021号 同附帯控訴事件

控訴人・附帯被控訴人(一審被告) 有限会社プロスタイル (以下「控訴人」という。)
訴訟代理人弁護士藤井愛彦
被控訴人・附帯控訴人(一審原告) Y (以下「被控訴人」という。)
訴訟代理人弁護士柿沼太一
同 杉浦健二
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2017/06/15
権利種別 その他
訴訟類型 民事訴訟
主文 1 控訴人の本件控訴を棄却する。
2 被控訴人の附帯控訴に基づき,原判決の第2項のうち,控訴人に対するその余の請求を棄却した部分を次のとおり変更する。
? 控訴人は,被控訴人に対し,196万7400円及びこれに対する平成27年2月26日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
? 被控訴人のその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用は,第1,2審を通じてこれを5分し,その3を控訴人の負担とし,その余を被控訴人の負担とする。
-1-4 この判決は,第2項?に限り,仮に執行することができる。
事実及び理由
控訴及び附帯控訴の趣旨
1 控訴の趣旨 ? 原判決のうち控訴人の敗訴部分を取り消す。
? 被控訴人の請求を棄却する。
? 訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人の負担とする。
2 附帯控訴の趣旨 ? 原判決のうち被控訴人の敗訴部分を取り消す。
? 控訴人は,被控訴人に対し,380万円及びこれに対する平成27年2月26日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
? 訴訟費用は,第1,2審とも控訴人の負担とする。
? 仮執行宣言
事案の概要
本件は,被控訴人が,控訴人に対し,控訴人からウェブサイトを利用した婦人用中古衣類の売買を目的とする事業を譲り受けたところ,控訴人が,不正の競争の目的をもって,被控訴人に譲渡した事業と同一の事業を行い,被控訴人に損害を与えたとして,@会社法21条3項に基づき,上記事業の差止めを求めるとともに,A不法行為による損害賠償請求として801万0972円及びこれに対する不法行為の後の日である平成27年2月26日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。
原判決は,控訴人が,不正の競争の目的をもって,被控訴人に対して譲渡した事 業と同一の事業を行ったと認定し,会社法21条3項に基づき,原判決別紙記載の事業の差止請求を認容したが,不法行為による損害賠償請求については棄却した。
これに対し,控訴人は,原判決のうち控訴人の敗訴部分を不服として控訴を提起し,被控訴人は,原審における801万0972円の損害賠償及びこれに対する遅延損害金請求のうち,380万円及びこれに対する遅延損害金の支払を求める限度で,附帯控訴を提起した。
1 前提事実(当事者間に争いのない事実並びに掲記した証拠及び弁論の全趣旨により認定できる事実) 本件の前提事実は,原判決の第2の2に記載のとおりであるから,これを引用する。
2 争点 本件の争点は,原判決の第2の3に記載のとおりであるから,これを引用する。
3 争点に関する当事者の主張 争点に関する当事者の主張は,原判決7頁10行目〜14行目を削除し,以下のとおり当審における補充主張を加えるほかは,原判決の第3に記載のとおりであるから,これを引用する。
? 控訴について (控訴人の主張) ア 控訴人は本件譲渡契約の対象とされた事業と「同一の事業」を行ってい るかについて 本件譲渡契約の対象は,ロリータファッションに限定されていた。
「サイトM&Aby GMO」と題するウェブサイト上に掲載された「案件概要」(甲3)には「ゴシックロリータファッションの販売」として,ロリータファッションのみが記載されている。本件譲渡契約書に譲渡対象を限定する旨の記載がないことについては,譲渡の対象外とされたブランドの売上高が少なかったことや,控訴人代表者に競業避止義務についての知識が乏しかったことを考慮すると,不自然とはいえない。
また,控訴人は,ガーリーファッションのブランドであるアクシーズファムをホームページから削除した後,商品の引渡しをしたが,被控訴人からの異議の申出はなかった。これは,被控訴人がガーリーファッションのブランドが本件譲渡契約の対象外であることを認識していたことの証左である。
イ 不正の競争の目的の有無について 本件譲渡契約においては,平成26年6月30日までの約1か月間を引継期間と定め,被控訴人はその間に本件サイトに係る営業を行うことができない旨の規定が置かれていたが,これは,当該営業を行うためには古物営業法の許可が必要であったので,その取得のために必要な期間を見込んだものであり,控訴人に不正の競争の目的があったことを示すものではない。控訴人は,この間に1回しかメールを送信していない。
差止めの対象について 仮に,本件譲渡契約の対象にガーリーファッションが含まれるとしても,譲渡の対象とされたブランドは, 「FairyAngel買取ブランド一覧」と題する書面(甲20。以下「本件ブランド一覧表」という。)に掲げられたものではなく,控訴人の担当者から被控訴人に対して送信された平成26年6月4日付けメールに添付されていた書面(甲23の3の8枚目。以下「本件メール添付書面」という。)に掲げられたものである。本件ブランド一覧表のうち「カテゴリA」及び「カテゴリB」は,本件サイトの買取りブランドが掲載されているページを被控訴人がコピーして,ブランドを付加したものであり,同書面の「カテゴリC」は,被控訴人が独自に作成したものである。控訴人は,これらを作成していない。
(被控訴人の主張) ア 控訴人は本件譲渡契約の対象とされた事業と「同一の事業」を行ってい るかについて 本件譲渡契約書に売買対象を限定する旨の記載がないことが示すとおり,本件譲渡契約はロリータファッションのみならず,ガーリーファッションも含むものであ った。仮に,譲渡の対象から一部のブランドが除外されていたのであれば,その旨の説明がされるのが通常であるが,被控訴人は控訴人代表者からそのような説明を受けていない。
また,アクシーズファムがホームページから削除されたことに被控訴人が気付かなかったのは,本件譲渡契約の対象が限定されているとは思っていなかったからであり,控訴人からの連絡もなかったのであるから,被控訴人が異議を述べなかったとしても不自然ではない。
イ 控訴人が「不正の競争の目的」を有しているかについて 古物営業法の許可は,古物の買取りを行うためには必要であるが,古物の販売には必要がない。また,1か月もの長期間の休止期間を設ける必要もなかった。控訴人が被控訴人に対し1か月もの営業休止期間を設けるように求めたのは,この間に本件サイトの顧客を奪おうと考えたためであり,控訴人には不正の競争の目的があった。
差止めの対象について 被控訴人が控訴人から本件譲渡契約の対象となるブランドの一覧として受領したのは,本件ブランド一覧表である。本件メール添付書面には,本件譲渡契約当時に販売されていたブランドが掲載されておらず,同書面記載のブランドをもって本件譲渡契約の対象と解することはできない。
? 附帯控訴について (被控訴人の主張) ア 損害発生の有無について 控訴人は,平成26年6月30日までの営業休止期間中,本件サイトの多数の顧客に対してメールを送信し,本件サイトの姉妹ショップとして控訴人サイトが新たに開設されたかのような内容の連絡をした。その結果,本件サイトの顧客は控訴人サイトに移ってしまい,本件サイトの売上実績は,被控訴人が本件サイトの事業を開始した直後から急激に減少し,本件譲渡契約の締結前の月額平均売上高の約4分 の1から6分の1程度となった。このように,本件サイトの売上高が急激に減少したのは,その直前に控訴人が巧妙に本件サイトの顧客を奪取したことが原因であり,控訴人の行為と売上高の減少との間には因果関係がある。
損害額について 本件譲渡契約の締結に先立ち控訴人が被控訴人に提示した売上実績表(甲9)によると,平成25年3月から平成26年2月までの本件サイトの売上高は,合計1089万0319円(月額平均90万7527円)であり,同期間の粗利は,合計1035万1262円(月額平均86万2605円)であった。
他方,本件譲渡契約の締結後の本件サイトの売上げに関し,被控訴人は,原審において801万0972円を下回ることはないと主張したが,当審において関連する資料を精査したところ,平成26年8月から同年12月までの売上高は,月額平均22万2397円であり,同期間の粗利は,月額平均17万1230円であることが判明した。
上記のとおり,平成25年3月から平成26年2月までの本件サイトの月額平均粗利高(86万2605円)と平成26年8月から同年12月までの月額平均粗利高(17万1230円)との差額は69万1375円であるところ,同額から平成26年8月から同年12月までの販売管理費の月額平均19万4867円を控除した額が1か月当たりの得べかりし利益となる。控訴人の違法行為と相当因果関係のある期間は12か月分であるので,その合計は595万8098円となる。
これに加えて,控訴人の違法行為と因果関係のある弁護士費用としては60万円が相当である。
被控訴人は,控訴人に対し,上記得べかりし利益相当額595万8098円の内金である320万円及び弁護士費用60万円の合計380万円及びこれに対する遅延損害金の限度で支払を求める。
(控訴人の主張) ア 損害発生の有無について 被控訴人は,控訴人の行為により損害を受けたと主張するが,そもそも,ウェブサイトを利用した婦人用中古衣類の売買は,独占事業ではなく,本件サイトを通じた売買による営業利益は,市場規模に比べて僅少であることから,他業者の参入による影響は小さい。また,この種の事業の売上げは経営者の手腕により大きく左右されるものであるところ,本件サイトの売上げは,控訴人がガーリーファッションの取扱いを中止した後も伸びていないのであり,このことは,被控訴人の営業努力が足りないためであると考えられる。さらに,控訴人が本件サイトの顧客に対して1回メールを送信しただけで顧客が控訴人サイトに移るとも考え難い。以上のとおり,本件サイトの売上高及び粗利の減少と控訴人の行為との間に相当因果関係はない。
損害額について 損害額については争う。
当裁判所の判断
当裁判所は,原判決が原判決別紙記載の事業の差止請求を認容した点については相当であるが,損害賠償請求については,主文第2項?掲記の限度で認容すべきであると判断する。
その理由は,次のとおりである。
1 争点(1)ア(本件譲渡契約は「事業」の譲渡契約か)について 本件譲渡契約は,会社法21条3項にいう「事業」を譲渡するものであったと認めるのが相当である。その理由は,原判決の第4の1に記載のとおりであるから,これを引用する。
2 争点(1)イ(控訴人は本件譲渡契約の対象とされた事業と「同一の事業」を行っているか)について 控訴人は,本件譲渡契約による事業譲渡の後も,同契約の対象とされた事業と「同一の事業」を行っていると認めるのが相当である。その理由は,以下のとおり原判決を補正し,控訴人の補充主張に対する判断を示すほかは,原判決の第4の2に記 載のとおりであるから,これを引用する。
(1) 原判決の補正 ア 原判決11頁15行目〜15頁18行目を,以下のとおり改める。
「 控訴人は,本件サイトは,ロリータファッションの古着販売を取り扱うサイトであり,本件譲渡契約の対象も,ロリータファッションに限定されており,ガーリーファッションは含まれていなかったと主張する。
しかし,証拠(甲31)によると,ガーリーファッションは,平成25年7月の時点において,本サイトの販売する商品の類型の一つとして掲げられており,また,エミリーテンプルキュート,シャーリーテンプル,ジェーンマープル,ミルクなどのガーリーファッションブランドの商品が実際に販売に付されていたとの事実が認められる。その後,本件譲渡契約までに本件サイトにおいてガーリーファッションの商品の販売が中止されたなどの事情はうかがわれないので,本件譲渡契約の締結当時,控訴人は,本件サイトにおいて,ロリータファッションのみならず,ガーリーファッションの商品も販売し,その在庫を相当数保有していたものと認められる。
他方,本件譲渡契約書第2条?には,被控訴人が控訴人から「本件譲渡日時点での中古在庫商品」を譲り受ける旨が規定されている(甲4)。本件サイトは婦人用中古衣類の売買を目的とするものであるから,本件譲渡契約の当事者にとって,譲渡対象となる商品の範囲は重要であったと考えられるところ,本件譲渡契約書においては,ガーリーファッションをその譲渡対象から除外することなく,その対象を「本件譲渡日時点での中古在庫商品」としていることは,控訴人と被控訴人が,ガーリーファッションも含め,本件譲渡契約時に存在する全ての中古在庫商品を本件譲渡契約の対象とする旨合意したことを強く推認させる事実というべきである。
また,前記のとおり,本件譲渡契約の交渉過程において,控訴人が被控訴人に対して,平成25年3月から平成26年2月までの本件サイトの売上高等が記載された売上実績表(甲9)を提供したところ,同表の売上実績にはガーリーファッションの商品の売上げも含まれていることが認められる(控訴人代表者)。同表は,本 件譲渡契約の交渉過程において提供されているものであるから,控訴人と被控訴人は,ガーリーファッションの商品を含め,同表に記載された売上実績に含まれる商品を対象とすることを当然の前提として本件譲渡契約を締結したものと認めるのが相当である。
さらに,証拠(甲30,被控訴人本人)によると,被控訴人が控訴人から受領した在庫商品の中には,エミリーテンプルキュート,シャーリーテンプル,ジェーンマープル,ミルク等のガーリーファッションブランドの商品も相当数含まれていたとの事実が認められる。このように実際に送付された在庫にガーリーファッションの商品が含まれていたとの事実も,ガーリーファッションが本件譲渡契約の対象に含まれていたことを示すものということができる。
これに対して,控訴人代表者は,契約の交渉過程において,被控訴人に対し,本件譲渡契約の対象は基本的にゴシックロリータファッションの商品であり,ガーリーファッションの商品は含まれない旨の説明をし,少なくともアクシーズファムなど数点のブランドは除外する旨の説明をし,被控訴人も同意したと供述する。しかし,同供述を裏付けるに足る客観的な証拠はなく,かえって,上記のとおり,本件譲渡契約当時の本サイトの取扱商品,本件譲渡契約書の記載,被控訴人に提供された売上実績表の内容,控訴人から被控訴人に対して実際に送付された商品の内容等に照らすと,控訴人代表者の供述は採用することができない。
以上によると,本件譲渡契約の対象には,ロリータファッションのみならず,ガーリーファッションも含まれていたと認めるのが相当である。」 イ 原判決の16頁13行目〜16行目を削除する。
? 控訴人の補充主張について ア 控訴人は,本件譲渡契約の対象はロリータファッションに限定されていたことの根拠として, 「サイトM&A by GMO」と題するウェブサイト上に掲載された「案件概要」 (甲3)には,ロリータファッションの販売のみが記載されていることを指摘する。
しかし,「案件概要」は,その性質上,販売サイトの概要を紹介するにとどまり,本件サイトに係る事業の売買交渉の契機となるものにすぎないのであって,同概要の記載から直ちに本件譲渡契約の対象はロリータファッションに限定されていたと推認することはできない。前記判示のとおり,本件譲渡契約当時の本サイトの取扱商品,本件譲渡契約書の記載,被控訴人に提供された売上実績表の内容,控訴人から被控訴人に対して実際に送付された商品の内容等に照らすと,本件譲渡契約の対象には,ロリータファッションのみならず,ガーリーファッションも含まれていたと認めるのが相当である。
イ また,控訴人は,本件譲渡契約書に譲渡対象を限定する旨の記載がないことについては,本件譲渡契約の対象外とされたブランドの売上高が少なかったことや,控訴人代表者に競業避止義務についての知識が乏しかったことを考慮すると,不自然とはいえないと主張する。
しかし,前記認定のとおり,本件譲渡契約の締結当時,本件サイトの在庫には相当数のガーリーファッションの商品が含まれていたと認めるのが相当であり,契約書にガーリーファッションを除外する旨の記載をする必要がないほどその売上高が少なかったとは考え難い。
また,本件譲渡契約の対象をどのように特定するかは,競業避止義務に関する知識の多寡とは関係がなく,仮に,控訴人代表者に競業避止義務についての知識が乏しかったとしても,本件譲渡契約の対象からガーリーファッションを除外するのであれば,その旨を契約書に明記することが自然であると考えられる。
ウ さらに,控訴人は,ガーリーファッションブランドであるアクシーズファムをホームページから削除した後に商品の引渡しをしたが,被控訴人からの異議はなかったとの事実を指摘する。
しかし,被控訴人が婦人用中古衣類の売買についての知識・経験が浅かったこと(甲26,被控訴人本人)を考えると,譲渡対象であるブランドの一つがホームページから削除されたことに気付かなかったとしても不自然ではない。むしろ,本件 譲渡契約の締結過程において特定のブランドを除外するという説明や交渉が行われたことはなく,被控訴人は在庫商品の全ての送付を受けることを当然の前提としていたことからこそ,ホームページに掲載されたブランドの一つが削除されたことに気付かなかったものと考えるのが自然である。
エ 以上のとおり,控訴人の当審における補充主張はいずれも理由がない。
3 争点(1)ウ(控訴人が「不正の競争の目的」を有しているか)について 控訴人には,会社法21条3項にいう「不正の競争の目的」があったものと認められる。その理由は,以下のとおり原判決を補正し,控訴人の補充主張に対する判断を示すほかは,原判決の第4の3に記載のとおりであるから,これを引用する。
? 原判決の補正 原判決20頁7行目〜18行目を削除する。
? 控訴人の補充主張について 控訴人は,平成26年6月30日までの営業休止期間は,本件サイトに係る営業を行う上で不可欠の古物営業法の許可を取得するために必要な期間であり,本件サイトの顧客を奪取する意図はなかったと主張する。
しかし,本件譲渡契約後,古物営業に関する許可を取得するまでの間にいかなる営業をするか又は営業を休止するかは,本来,譲受人である被控訴人に委ねられるべき事柄であるから,本件譲渡契約書において営業休止期間の定めを設ける必要性はなく,まして1か月間もの営業休止期間を設ける必要があったことをうかがわせる事情が存在したことを認めるに足りる証拠はない。
それにもかかわらず,証拠(甲4,26,27,被控訴人本人)によると,控訴人は,被控訴人に対して,上記営業休止期間を設けることを積極的に求め,本件譲渡契約書にその旨の規定を盛り込んだ上で,同期間中に多数の顧客にメールを送付し,本件サイトの運営主体が変更したことを知らせることなく,新たに控訴人サイトが開設されたことを連絡するなどの顧客誘引行為に及んだものと認められるのであり,同事実によると,控訴人は,上記営業休止期間中に本件サイトの顧客を控訴 人サイトに誘引することを意図して,同期間を設けることを被控訴人に求めたものと認めるのが相当である。
4 争点(1)エ(競業避止義務を負わないとの黙示の合意があったか)について 控訴人と被控訴人との間で,控訴人が競業避止義務を負わないとの黙示の合意があったとは認められない。その理由は,原判決の第4の4に記載のとおりであるから,これを引用する。
5 差止めの対象について 差止めの対象となる事業については,原判決別紙のとおりと認めるのが相当である。その理由は,以下のとおり原判決を補正し,控訴人の補充主張に対する判断を示すほかは,原判決の第4の5に記載のとおりであるから,これを引用する。
? 原判決の補正 原判決21頁8行目「もっとも」から22頁1行末尾までを次のとおり改める。
「被控訴人は,ウェブサイトを利用しての婦人用中古衣類の売買を目的とする事業の差止めを求めているが,会社法21条3項による差止めの対象は,譲渡した事業と「同一の事業」に限られるのであるから,被控訴人が差止めを求めることができる本件サイトに係る事業は,具体的には,本件譲渡契約当時に控訴人が本件サイトで取り扱っていたブランド名の中古衣類の売買を目的とする事業である。
証拠(甲20,被控訴人本人)によると,本件譲渡契約に際し,本件サイトで取り扱っていたブランドを掲載した書面として,被控訴人が控訴人から受け取ったのは本件ブランド一覧表であると認められる。
したがって,本件譲渡契約当時に控訴人が本件サイトで取り扱っていたブランド名は,本件ブランド一覧表記載のとおりであると認められるから,差止めの対象は,ウェブサイトを利用しての婦人用中古衣類の売買を目的とする事業のうち,原判決別紙事業目録記載の事業と認めるのが相当である。」 ? 控訴人の補充主張について 控訴人は,本件譲渡契約に際し,本件サイトで取り扱っていたブランドを記載し た書面を被控訴人に渡したことは自認するものの,その書面は,本件ブランド一覧表ではなく,本件メール添付書面であると主張する。
しかし,本件メール添付書面(甲23の3の8枚目)は,そのメールの他の記載(甲23の3の1枚目〜7枚目,9枚目)本文を見ても,どのような趣旨で添付されていたかが明らかではない上,同書面には,シャーリーテンプル,ジェーンマープル,ミルクなど,本件譲渡契約当時に本件サイトにおいて販売され,被控訴人が受領した在庫商品に含まれていたブランドの記載がない。したがって,同書面に記載されたブランドが本件譲渡契約の対象であると認めることはできない。
他方,控訴人代表者は,本件ブランド一覧表について,これを被控訴人に交付したことは否認するものの,そのカテゴリA及びBは,概ね,本件譲渡契約当時に本件サイトが取り扱っていた商品と一致する旨を自認するところ,同書面のカテゴリA,B及びCに記載されたブランドは,本件メール添付書面に記載のなかった上記各ブランドも包含するものであり,また,本件譲渡契約に際して本件ブランド一覧表を控訴人から受領したとの被控訴人の供述には特に不自然な点は存しない。そうすると,被控訴人は,本件譲渡契約に際し,控訴人から,本件サイトが取り扱っていたブランドであるとして本件ブランド一覧表を受領したものと認めるのが相当である。
なお,控訴人は,本件ブランド一覧表のカテゴリCは被控訴人が独自に作成したものであると主張するが,そのような事実をうかがわせる証拠はなく,かえって,証拠(甲20,30,31)によると,同カテゴリには,ジーザスディアマンテといった,本件サイトに表示され,被控訴人が在庫品を受領したブランドが含まれていると認められることに照らすと,同表のカテゴリCは,同A,Bと一体のものとして作成され,被控訴人に交付されたものと認めるのが相当である。
6 争点(2)イ(損害発生の有無及びその額)について 前記判示のとおり,控訴人は,会社法21条3項の規定に違反し,不正の競争の目的をもって,被控訴人に対して譲渡した事業と同一の事業を行ったものであるか ら,その結果,被控訴人に損害が生じた場合には,民法709条に基づき,その損害を賠償すべき義務を負うこととなる。
そして,証拠(甲1,2,甲5の1〜5,甲6〜10,21,26,27,30,32,控訴人代表者,被控訴人本人)によると,@控訴人は,本件譲渡契約の締結の前に控訴人サイトのドメインを取得し,本件譲渡契約の締結と前後して控訴人サイトにおいて,本件サイトと同様にロリータファッション及びガーリーファッションの商品の売買を目的とする営業を開始したこと,A本件サイトと控訴人サイトの取扱商品は相当程度共通していること,B被控訴人が営業を休止している間に控訴人代表者が自認しているだけでも100名程度の顧客にメールを送付して,運営主体の変更を告知することなく,控訴人サイトの開設を告知したこと,Cその結果,本件サイトと控訴人サイトは姉妹ショップであると誤認する顧客が実際に出現していること,D本件サイトの売上実績は,被控訴人が本件サイトの事業を開始した直後から大幅に減少していることの各事実が認められる。
以上の控訴人サイトの開始時期,控訴人サイトと本件サイトの取扱商品の共通性の程度,控訴人による直接的な顧客誘引行為の存在,本件サイトに係る営業開始後の売上実績の低下の状況等の事情に照らすと,控訴人の違法行為の結果,本件サイトの顧客の一部が失われ,その結果,被控訴人に損害が発生したものと認めるのが相当である。また,控訴人の不法行為相当因果関係のある期間は,被控訴人がロリータファッションの買取りを中止した時期が平成27年6月頃であること(甲16,控訴人代表者)等を考慮し,12か月間であると認めるのが相当である。
損害額について,被控訴人は,平成25年3月から平成26年2月までの本件サイトの粗利の月額平均は86万2605円であり,本件サイトの平成26年8月から同年12月までの粗利の月額平均は17万1230円であるから,本件譲渡契約の前後の月額平均粗利の差額69万1375円から平成26年8月から同年12月までの販売管理費の月額平均19万4867円を控除した額(49万6508円)の12か月分に相当する595万8098円が得べかりし利益の合計額であると主 張するところ,証拠(甲9,32)によると,被控訴人の主張するとおり,本件譲渡契約の前後の月額平均粗利の差額から平成26年8月から同年12月までの月平均販売管理費19万4867円を控除した額は49万6508円であると認められる。
しかし,証拠(乙3,22)及び弁論の全趣旨によると,@本件サイトと同様にロリータファッション又はガーリーファッションの商品をウェブサイト上で販売しているサイトは多数存在し,顧客の中には,複数のサイトにアクセスし,そのデザインや値段を対比しながら商品を購入する者が少なくなく,Aそのため,本件のような婦人用中古衣類の販売を行う上では,デザインの流行や顧客の嗜好の変化などを敏感に察知し,商品のデザインや価格設定などを常時見直すとともに,顧客の要望に応じて迅速 適切に対応するなどの営業努力 手腕が販売実績を大きく左右し, ・ ・B同時に,ブログ,ツイッターなどを利用するほか,在庫商品の販売ルートを可能な限り多様化することも必要であると認められる。
これを本件についてみると,証拠(甲26,被控訴人本人)及び弁論の全趣旨によると,@被控訴人は,本件譲渡契約より以前にロリータファッションやガーリーファッションなどの商品を取り扱ったことがなく,この分野に関する商品知識やウェブサイト上での古着売買に関する経験に乏しかったこと,A被控訴人は,本件ウェブページのデザインの変更をせず,ブログやツイッターを利用することもしなかったこと,B被控訴人は,ヤフーオークションの利用による在庫商品の販売も行わなかったことが認められる。そうすると,本件譲渡契約後の本件サイトの販売実績が同契約締結前より低下したことについては,こうした被控訴人の商品知識,経験,広告手段,販売方法等も相当程度影響したものというべきである。
以上のとおり,本件においては,控訴人が競業行為を行った結果,本件サイトの顧客の一部が失われ,被控訴人に損害が発生したと認めることができるが,本件譲渡契約前後の利益額の違いをそのまま損害と認めることはできず,そうすると,事案の性質上,損害額の立証は極めて困難であるということができるから,民訴法2 48条により,口頭弁論の全趣旨及び証拠調べの結果に基づき,損害額を認定することが相当である。
前記認定のとおり,本件サイトに係る本件譲渡契約前の売上げの粗利の月額平均と同契約後の粗利の月額平均との差額から販売管理費の月額平均額を控除した額(49万6508円)の12か月分に相当する金額は595万8096円と認められるものの,本件譲渡契約後の本件サイトの販売実績が同契約締結前より低下したことについては,被控訴人の商品知識,経験,広告手段,販売方法等も相当程度影響したと考えられることを斟酌すると,控訴人の違法行為による逸失利益相当額は,その約3割に相当する178万7400円と認めるのが相当である。
これに加えて,控訴人の違法行為と相当因果関係のある弁護士費用は18万円であると認めるのが相当である。
したがって,被控訴人は,控訴人に対し,得べかりし利益相当額として178万7400円及び弁護士費用18万円の合計196万7400円並びにこれに対する不法行為の後の日である平成27年2月26日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めることができる。
結論
以上の次第で,被控訴人の請求は,原判決別紙記載の事業の差止め並びに損害賠償金196万7400円及びこれに対する平成27年2月26日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり,その余は理由がないから棄却すべきである。
よって,本件控訴は理由がないからこれを棄却し,本件附帯控訴に基づき,原判決を本判決主文第2項のとおり変更することとして,主文のとおり判決する。