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追加

関連審決 無効2015-800013
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事件 平成 28年 (行ケ) 10168号 審決取消請求事件

原告 日本電動式遊技機特許株式会社
訴訟代理人弁護士 小松陽一郎
同 山崎道雄
訴訟復代理人弁護士 森本純
被告株式会社三共
訴訟代理人弁理士 重信和男
同 溝渕良一
同 石川好文
同 堅田多恵子
同 大久保岳彦
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2017/06/12
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
請求
特許庁が無効2015-800013号事件について平成28年6月22日 にした審決を取り消す。
事案の概要
1 1 特許庁における手続の経緯等 (1) 被告は,平成13年8月15日に特許出願(特願2001-24667 3号。以下「本件出願」という。)され,平成24年6月8日に設定登録 された,発明の名称を「スロットマシン」とする特許第5008231号 (以下「本件特許」という。設定登録時の請求項の数は5である。)の特 許権者である。
(2) 原告は,平成27年1月19日,本件特許についての無効審判請求をし た。
被告は,平成28年3月4日,本件特許について,特許請求の範囲の減 縮等を目的とする訂正請求をした(以下,この訂正請求に係る訂正を「本 件訂正」という。本件訂正後の請求項の数は3である。。
) 特許庁は,上記無効審判請求を無効2015-800013号事件とし て審理し,平成28年6月22日,本件訂正を認めた上で,「本件審判の請 求は,成り立たない。」とする審決(以下「本件審決」という。)をし,そ の謄本は,同月30日,原告に送達された。
(3) 原告は,平成28年7月28日,本件審決の取消しを求める本件訴訟を 提起した。
2 特許請求の範囲の記載 本件訂正後の本件特許の特許請求の範囲は請求項1,2及び5からなり,そ の記載は,以下のとおりである(甲60。下線部分は本件訂正による訂正箇所 である。便宜上,各構成を分説し,1Aなどの記号を付し,各構成を「構成1 A」などという。また,各請求項を,請求項の番号に応じて「本件請求項1」 などといい,同請求項に記載された発明を,請求項の番号に応じて「本件特許 発明1」などという。さらに,本件訂正後の明細書及び図面(甲60,42) を「本件訂正明細書」という。。
) 【請求項1】 2 1A 1ゲームに対して賭数を設定することによりゲームが開始可能となると ともに,表示状態を変化させることが可能な可変表示装置の表示結果が 導出表示されることにより1ゲームが終了し,前記可変表示装置の表示 結果に応じて所定の入賞が発生可能なスロットマシンにおいて,1B 前面が開口する本体と,1C 前記本体の前面開口を開閉可能に設けられる前面扉と,1D 全体が透光性領域で構成されたカバー部材と,1E 前記カバー部材の後面側に配置され,前記透光性領域に対応する箇所に 装飾が施された化粧部材と,1F 前記化粧部材の後面側に配置され,該化粧部材の後面を被覆する前記カ バー部材と同材質の全体が透光性領域で構成された後部カバー部材と, を備え,1G 前記化粧部材,前記カバー部材及び前記後部カバー部材は,外方形状 が上辺,該上辺を切り欠いた左右傾斜辺,左右辺及び下辺からなる六角 形に形成され,該化粧部材が前記カバー部材及び前記後部カバー部材に より挟持され互いに枠体の後面側に前記カバー部材を突き合わせた後, 前記後部カバー部材の後側から前記上辺の両端部及び前記下辺の両端部 に形成されたネジ挿通孔にネジを挿通し,前記枠体の後面に形成された 雌ネジ部に螺入することにより一体的に組み付けられた状態で前記前面 扉の前面側から該前面扉の一部の領域である所定領域に前記枠体を介し て係止され,前記前面扉を開放して前記前面扉の後面側から前記係止を 解除することにより取り外され,1H? 前記枠体の外方形状が上辺,該上辺を切り欠いた左右傾斜辺,左右 辺及び下辺からなる六角形の環状に形成されており,先端に第1の係 止爪を有する第1の係止片が前記枠体の後端より後ろ向きに突設し前 記枠体の上辺よりも内側に前記枠体の上辺に沿って前記枠体の上辺の 3 両端寄りに2個設けられ,先端に第2の係止爪を有する第2の係止片 が前記枠体の後端より後ろ向きに突設し前記枠体の下辺よりも内側に 前記枠体の下辺に沿って前記枠体の下辺の両端寄りに2個設けられ, 先端に第3の係止爪を有する第3の係止片が前記枠体の左辺に沿って 前記枠体の左辺の略中央に1個設けられ,先端に第4の係止爪を有す る第4の係止片が前記枠体の右辺に沿って前記枠体の右辺の略中央に 1個設けられ,前記枠体の前記左右傾斜辺には係止片は設けられてお らず,前記第1の係止爪と前記第2の係止爪はそれぞれ外向きに形成 され, 前記所定領域には,内周形状が上辺,該上辺を切り欠いた左右傾斜 辺,左右辺及び下辺からなる六角形であり,前記枠体の外方側面が全 周にわたり嵌合する凹部が形成され,前記凹部の内周よりも内側に第 1の挿通口が前記凹部の上辺に沿って前記凹部の上辺の両端寄りに2 個設けられ,前記凹部の内周よりも内側に第2の挿通口が前記凹部の 下辺に沿って前記凹部の下辺の両端寄りに2個設けられ,前記凹部に 第3の挿通口が前記凹部の左辺に沿って前記凹部の左辺の略中央に1 個設けられ,前記凹部に第4の挿通口が前記凹部の右辺に沿って前記 凹部の右辺の略中央に1個設けられ,前記凹部の前記左右傾斜辺には 挿通口が設けられておらず,1H(2) 前記第1の係止片が前記第1の挿通口に挿通されたときには前記第 1の係止爪が前記前面扉の裏面に外向きに係止され,前記第2の係止 片が前記第2の挿通口に挿通されたときには前記第2の係止爪が前記 前面扉の裏面に外向きに係止され,前記第3の係止片は前記第3の挿 通口に挿通され前記第3の係止爪が前記前面扉の裏面に係止され,前 記第4の係止片は前記第4の挿通口に挿通され前記第4の係止爪が前 記前面扉の裏面に係止されることにより,前記枠体の外方側面が全周 4 にわたり前記凹部に嵌合し前記枠体の後端縁の上辺と前記第1の係止 片との間の第1の領域が前記凹部の底面周縁の上辺と前記第1の挿通 口の上辺との間の第2の領域において当接し,前記枠体の後端縁の下 辺と前記第2の係止片との間の第3の領域が前記凹部の底面周縁の下 辺と前記第2の挿通口の下辺との間の第4の領域において当接すると ともに,前記枠体の後端縁の上辺と前記凹部の底面周縁の上辺が左右 方向全幅にわたって当接し,前記枠体の後端縁の下辺と前記凹部の底 面周縁の下辺が左右方向全幅にわたって当接する状態で,一体化した 前記枠体,前記化粧部材,前記カバー部材及び前記後部カバー部材は 前記前面扉に取り付けられ,1H(3) 一体化した前記枠体,前記化粧部材,前記カバー部材及び前記後部 カバー部材が前記前面扉に取り付けられた状態では,前記枠体の後端 縁の上辺と前記第1の係止片との間の第1の領域が前記凹部の底面周 縁の上辺と前記第1の挿通口の上辺との間の第2の領域において当接 し,前記枠体の後端縁の下辺と前記第2の係止片との間の第3の領域 が前記凹部の底面周縁の下辺と前記第2の挿通口の下辺との間の第4 の領域において当接するとともに,前記枠体の後端縁の上辺と前記凹 部の底面周縁の上辺が左右方向全幅にわたって当接し,前記枠体の後 端縁の下辺と前記凹部の底面周縁の下辺が左右方向全幅にわたって当 接する1I ことを特徴とするスロットマシン。
【請求項2】2A 前記後部カバー部材は,透光性部材にて構成され,2B 前記前面扉の所定箇所には,前記後部カバー部材を後側から照らす照 明装置が設けられている2C 請求項1に記載のスロットマシン。
5 【請求項5】 5A 前記化粧部材に,前記スロットマシンの機種名等を表示する機種名表 示部が設けられている 5B 請求項1または2に記載のスロットマシン。
3 本件審決の理由の要旨 (1) 本件審決の理由は,別紙審決書写しのとおりであるが,その要旨は,次 のとおりである。
ア 本件訂正は,特許法134条の2第1項ただし書1号ないし3号に掲げ る事項を目的とし,かつ同法134条の2第9項で準用する同法126条 3項ないし6項の規定に適合する。
イ 後記相違点3及び4に係る本件特許発明1の構成は,下記の甲1に記載 された発明(以下「甲1発明」という。,甲2ないし13に記載された発 ) 明及び周知技術に基づいて当業者が容易になし得たものとはいえないか ら,本件特許発明1は,本件出願前に当業者が甲1発明等に基づいて容易 に発明をすることができたものとはいえない。
記 甲1:特開2001-170248号公報 甲2:特開2000-5378号公報 甲3:特開2001-95973号公報 甲4:特開平11-114132号公報 甲5:登録実用新案第3021969号公報 甲6:特開平11-86110号公報 甲7:特開平8-190662号公報 甲8:実願昭59-123041号(実開昭61-37578号)のマ イクロフィルム 甲9:特開2001-37948号公報 6 甲10:特開2001-161893号公報 甲11:特開平9-220313号公報 甲12:特開平11-276664号公報 甲13:特開平9-687号公報 ウ 本件特許発明2及び5は,本件特許発明1を引用し,これに発明特定事 項を付加するものであるから,本件特許発明1が本件出願前に当業者が甲 1発明等に基づいて容易に発明をすることができたものとはいえない以 上,本件特許発明2及び5についても,本件出願前に当業者が甲1発明等 に基づいて容易に発明をすることができたものとはいえない。
(2) 本件審決が認定した甲1発明の内容,本件特許発明1と甲1発明の一致 点及び相違点は,以下のとおりである。
ア 甲1発明の内容 「賭数が設定された場合にはゲームが開始可能となり,スタートレバー5 39を操作すれば,各リール200a,200b,200cが一斉に回転 (可変表示とも言う。以下,同じ)し始め,各リール200a,200 b,200cには,複数の図柄が描かれており,リールの回転に伴って透 視窓900に現れる図柄の種類が次々と変動し,複数種類の図柄が可変表 示され,遊技者がストップボタン533,534,535のうち,いずれ かを押圧操作すれば,操作されたストップボタンに対応するリールの回転 が停止し,すべてのリールが停止した時点で,透視窓900から視認され る各リール200a,200b,200cの上段,中段,下段の3段の図 柄のうち,賭数に応じて定められる有効なライン上に位置する図柄の組合 わせによって入賞の有無が決定されるスロットマシン1であって, リールユニット15(可変表示装置ともいう)等が収容される収容箱3 と, 収容箱3の前面に開閉自在に設けられる前面扉2と, 7 パネル593と,から構成され, パネル593は,外方形状が上辺,該上辺を切り欠いた左右傾斜辺,左右辺及び下辺からなる六角形に形成され,パネル593の上辺の中央部,左右傾斜辺,及び下辺の中央部と両端部には,取付片594が突設形成され,タイトルパネル枠590の裏面に形成される取付部に取付片594を一致せしめてネジ595を螺着することにより,パネル593をタイトルパネル枠591(判決注:「タイトルパネル枠590」の誤記と考えられる。)に固定することで,タイトルパネル11を構成し, 前面扉2は,前面枠9と,タイトルパネル11とから構成されており, タイトルパネル11は,蛍光灯355を有する反射板354を被覆するよ うに取り付けられるものであり, タイトルパネル11によって前面扉の前面を被覆される領域には,蛍光 灯355から発する熱を放熱する放熱穴391や蛍光灯355の配線を後 方に引き出すための配線通し穴392が形成されると共に,タイトルパネ ル枠590から後ろ向きで外向きに突設する係止爪591を挿入するタイ トルパネル係止爪挿入穴390が4つ形成され,タイトルパネル11は, 係止爪591をタイトルパネル係止爪挿入穴390に前方から挿入するこ とにより前面枠9に着脱自在に装着し得るものであり, タイトルパネル枠590の外方形状が上辺,該上辺を切り欠いた左右傾 斜辺,左右辺及び下辺からなる六角形の環状に形成されており,係止爪5 91がタイトルパネル枠590から後ろ向きで外向きに突設すると共に, タイトルパネル枠590の左右傾斜辺の上辺寄りに1個ずつ,下辺の両端 寄りに2個設けられているスロットマシン1。」イ 本件特許発明1と甲1発明の一致点「1A 1ゲームに対して賭数を設定することによりゲームが開始可能と なるとともに,表示状態を変化させることが可能な可変表示装置の 8 表示結果が導出表示されることにより1ゲームが終了し,前記可変 表示装置の表示結果に応じて所定の入賞が発生可能なスロットマシ ンにおいて, 1B 前面が開口する本体と, 1C 前記本体の前面開口を開閉可能に設けられる前面扉と, 1E’装飾が施された化粧部材と,を備え, 1G’前記化粧部材は,外方形状が上辺,該上辺を切り欠いた左右傾斜 辺,左右辺及び下辺からなる六角形に形成され,前記化粧部材に形 成されたネジ挿通孔にネジを挿通し,前記枠体の後面に形成された 雌ネジ部に螺入することにより一体的に組み付けられた状態で前記 前面扉の前面側から該前面扉の一部の領域である所定領域に前記枠 体を介して係止され,前記前面扉を開放して前記前面扉の後面側か ら前記係止を解除することにより取り外され, 1H(1)’前記枠体の外方形状が上辺,該上辺を切り欠いた左右傾斜辺, 左右辺及び下辺からなる六角形の環状に形成されており,先端に 係止爪を有する係止片が前記枠体に設けられ,前記係止爪はそれ ぞれ外向きに形成され,前記所定領域には挿通口が設けられ, 1H(2)’前記係止片が前記挿通口に挿通されたときには係止爪が前記 前面扉の裏面に外向きに係止されることにより,前記化粧部材は 前面扉に取り付けられる,スロットマシン。」である点。
ウ 本件特許発明1と甲1発明の相違点 (ア) 相違点1 本件特許発明1では,「全体が透光性領域で構成されたカバー部材 と」(構成1D) 「化粧部材の後面側に配置され,該化粧部材の後面を , 被覆する前記カバー部材と同材質の全体が透光性領域で構成された後部 カバー部材」(構成1F)とを備え,「化粧部材」が「前記カバー部材の 9 後面側に配置され,前記透光性領域に対応する箇所に装飾が施され」 (構成1E)ているのに対し, 甲1発明では,そのような構成でない点。
(イ) 相違点2 本件特許発明1では,「前記化粧部材,前記カバー部材及び前記後部 カバー部材は,外方形状が上辺,該上辺を切り欠いた左右傾斜辺,左右 辺及び下辺からなる六角形に形成され,該化粧部材が前記カバー部材及 び前記後部カバー部材により挟持され互いに枠体の後面側に前記カバー 部材を突き合わせた後,前記後部カバー部材の後側から前記上辺の両端 部及び前記下辺の両端部に形成されたネジ挿通孔にネジを挿通し,前記 枠体の後面に形成された雌ネジ部に螺入することにより一体的に組み付 けられた状態で前記前面扉の前面側から該前面扉の一部の領域である所 定領域に前記枠体を介して係止され,前記前面扉を開放して前記前面扉 の後面側から前記係止を解除することにより取り外され」る(構成1 G)のに対し, 甲1発明では,そのような構成でない点。
(ウ) 相違点3 本件特許発明1では,「前記枠体の外方形状が上辺,該上辺を切り欠 いた左右傾斜辺,左右辺及び下辺からなる六角形の環状に形成されてお り,先端に第1の係止爪を有する第1の係止片が前記枠体の後端より後 ろ向きに突設し前記枠体の上辺よりも内側に前記枠体の上辺に沿って前 記枠体の上辺の両端寄りに2個設けられ,先端に第2の係止爪を有する 第2の係止片が前記枠体の後端より後ろ向きに突設し前記枠体の下辺よ りも内側に前記枠体の下辺に沿って前記枠体の下辺の両端寄りに2個設 けられ,先端に第3の係止爪を有する第3の係止片が前記枠体の左辺に 沿って前記枠体の左辺の略中央に1個設けられ,先端に第4の係止爪を 10 有する第4の係止片が前記枠体の右辺に沿って前記枠体の右辺の略中央 に1個設けられ,前記枠体の前記左右傾斜辺には係止片は設けられてお らず,前記第1の係止爪と前記第2の係止爪はそれぞれ外向きに形成さ れ, 前記所定領域には,内周形状が上辺,該上辺を切り欠いた左右傾斜辺 片,左右辺及び下辺からなる六角形であり,前記枠体の外方側面が全周 にわたり嵌合する凹部が形成され,前記凹部の内周よりも内側に第1の 挿通口が前記凹部の上辺に沿って前記凹部の上辺の両端寄りに2個設け られ,前記凹部の内周よりも内側に第2の挿通口が前記凹部の下辺に沿 って前記凹部の下辺の両端寄りに2個設けられ,前記凹部に第3の挿通 口が前記凹部の左辺に沿って前記凹部の左辺の略中央に1個設けられ, 前記凹部に第4の挿通口が前記凹部の右辺に沿って前記凹部の右辺の略 中央に1個設けられ,前記凹部の前記左右傾斜辺には挿通口が設けられ て」いない(構成1H(1))のに対し, 甲1発明では,そのような構成でない点。
(エ) 相違点4 本件特許発明1では,「前記第1の係止片が前記第1の挿通口に挿通 されたときには前記第1の係止爪が前記前面扉の裏面に外向きに係止さ れ,前記第2の係止片が前記第2の挿通口に挿通されたときには前記第 2の係止爪が前記前面扉の裏面に外向きに係止され,前記第3の係止片 は前記第3の挿通口に挿通され前記第3の係止爪が前記前面扉の裏面に 係止され,前記第4の係止片は前記第4の挿通口に挿通され前記第4の 係止爪が前記前面扉の裏面に係止されることにより,前記枠体の外方側 面が全周にわたり前記凹部に嵌合し前記枠体の後端縁の上辺と前記第1 の係止片との間の第1の領域が前記凹部の底面周縁の上辺と前記第1の 挿通口の上辺との間の第2の領域において当接し,前記枠体の後端縁の 11 下辺と前記第2の係止片との間の第3の領域が前記凹部の底面周縁の下 辺と前記第2の挿通口の下辺との間の第4の領域において当接するとと もに,前記枠体の後端縁の上辺と前記凹部の底面周縁の上辺が左右方向 全幅にわたって当接し,前記枠体の後端縁の下辺と前記凹部の底面周縁 の下辺が左右方向全幅にわたって当接する状態で,一体化した前記枠 体,前記化粧部材,前記カバー部材及び前記後部カバー部材は前記前面 扉に取り付けられ」(構成1H(2)), 「一体化した前記枠体,前記化粧部材,前記カバー部材及び前記後部カ バー部材が前記前面扉に取り付けられた状態では,前記枠体の後端縁の 上辺と前記第1の係止片との間の第1の領域が前記凹部の底面周縁の上 辺と前記第1の挿通口の上辺との間の第2の領域において当接し,前記 枠体の後端縁の下辺と前記第2の係止片との間の第3の領域が前記凹部 の底面周縁の下辺と前記第2の挿通口の下辺との間の第4の領域におい て当接するとともに,前記枠体の後端縁の上辺と前記凹部の底面周縁の 上辺が左右方向全幅にわたって当接し,前記枠体の後端縁の下辺と前記 凹部の底面周縁の下辺が左右方向全幅にわたって当接する」(構成1H (3))のに対し, 甲1発明では,そのような構成でない点。
4 取消事由 (1) 相違点3に係る認定の誤り(取消事由1) (2) 相違点3及び4に係る容易想到性判断の誤り(取消事由2)
取消事由に関する原告の主張
1 取消事由1(相違点3に係る認定の誤り) 本件審決は,甲1発明について,「係止爪591が突設している場所がタイ トルパネル枠590の後端でな」いとし(審決書108頁1行以下),この点 を本件特許発明1と甲1発明の相違点(相違点3の一内容)として認定する。
12 しかし,甲1の【図48】によれば,甲1発明では,タイトパネル枠590の前後の厚さが箇所によって異なっているものの,少なくとも,係止爪591が設けられた箇所において,係止爪591がタイトパネル枠590の後端より後ろ向きに突設している。
他方,本件訂正明細書には,本件特許発明1が「第1(あるいは第2)の係止片が枠体の後端より後ろ向きに突設し」た構成を備えることについての技術的意義や作用効果は何ら記載されていない。また,本件特許発明1の上記構成は,本件訂正前の明細書の【図8】の記載に基づき,本件訂正により追加された構成であるところ,上記【図8】は,係止片が枠体に係合する状態を示すものである。
してみると,本件特許発明1における「第1(あるいは第2)の係止片が枠体の後端より後ろ向きに突設し」た構成についても,係止片が設けられた箇所において,係止片が枠体の後端より後ろ向きに突設していれば足りると解するのが相当である。上記構成について,明細書において何らの技術的意義も記載されていないにもかかわらず,訂正の根拠となった図面の合理的な解釈を超えて,枠体全体の最後端たる位置に係止片が突設していなければならないと特定する根拠はない。
したがって,本件特許発明1と甲1発明とは,「第1(あるいは第2)の係止片が枠体の後端より後ろ向きに突設し」た構成を備える点において一致しているから,この点を相違点とした本件審決の認定は誤りであり,その誤りは審決の結論に直ちに影響するものであるから,本件審決は取り消されるべきである。
2 取消事由2(相違点3及び4に係る容易想到性判断の誤り) (1) 相違点3について 本件審決は,相違点3に係る本件特許発明1の構成のうち,「第1(あ るいは第2)の係止片が枠体の後端より後ろ向きに突設し枠体の上辺(あ 13 るいは下辺)よりも内側に設けられ」るとの構成についての容易想到性を否定する判断をするが,以下に述べるとおり,その判断は誤りである。
ア 甲1発明の枠体の厚みに係る認定判断の誤り 本件審決は,甲1の【図33】及び【図48】の記載に基づき, 甲1発明のタイトルパネル枠590(枠体)の係止片に相当する部 分の取付部及びタイトルパネル枠590(枠体)の後端は,内外方 向の厚みが十分でないから,甲1発明の係止片に相当する部分の取 付部を,タイトルパネル枠590(枠体)の後端で,タイトルパネ ル枠590(枠体)の上辺又は下辺よりも内側に設けることはでき ない旨判断する。
し か し, 本 件審 決が上 記 判断の 根拠 とする 甲 1の 【 図3 3】 及 び 【図48】は,特許を受けようとする発明を説明,サポートするた めに記載される特許図面であり,発明等を現実の製品に具現化する ための設計図面等に求められるほどの精密さを必要とするものでは ないから,明細書に具体的な説明があるなどの事情がない限り,そ の図面の記載から各構成部材の厚み等の相対寸法を読み取ることは できない。この点,甲1では,明細書の発明の詳細な説明にタイト ルパネル枠590(枠体)の厚さや材質を限定する記載はなく,明 細書の記載全体に照らしても,「タイトルパネル枠590(枠体) の後端の内外方向の厚み」を格別に薄くすべき技術的根拠は認めら れないから,甲1の【図33】及び【図48】をもって,タイトル パネル枠590(枠体)の内外方向の厚さを具体的に特定したもの と解すべき理由はなく,その厚みは,通常のスロットマシン製品に 求められる程度の耐久性やコストを満足するものであれば足りると 理解するのが相当である。
ま た, 係止爪を 有する 係止片を挿入 口に挿 入して部材を 係止す る 14 構 成 で は, 当 業 者 は , 取 付 作業 の 容 易 性 ( 周 辺 の他 の 部 材 と の 干渉が な い こと な ど ) , 取 付 け 後の 見 栄 え ( 取 付 け 後に 表 側 か ら 係 止片や 挿 入 口が 見 え な い よ う に する こ と ) を 考 慮 し て , 部 材 を 取 り 付ける た め の係 止 片 を 当 該 部 材 の最 外 周 面 よ り も 少 し内 側 に 設 け る こ とを 検 討 する の が 通 常 で あ り ,こ の よ う な 構 成 は , ス ロ ッ ト マ シ ン の技術分野において周知な構成にすぎない。このことは,@甲1の【図39】(a)に記載された第4ランプカバー423の係止爪424を 有 す る係 止 片 に 相 当 す る 部分 の 構 成 及 び 【 図 49 】 に 記 載 さ れたメ ダ ル 受皿 1 2 の 係 止 爪 6 20 を 有 す る 係 止 片 に相 当 す る 部 分 等の構 成 ( いず れ も 係 止 片 に 相 当す る 部 分 と そ の 取 付け 端 の 境 界 に 実線が 記 載 され て い る こ と か ら ,当 業 者 は , 係 止 片 が部 材 の 最 外 周 面より も 少 し内 側 に 設 け ら れ て いる と 理 解 す る 。 ) ,A 本 件 審 判 に おいて 実 施 され た 検 証 ( 甲 6 1 ) の 対 象 物 で あ る パ チス ロ 機 「 ク ラ ンキー コ ン ドル 」 ( 本 件 審 判 の 検甲 1 ) 及 び 「 フ ロ ーズ ン ナ イ ツ 」 (本件 審 判 の 検 甲 2 。 以 下 , そ れぞ れ を 「 審 判 検 甲 1」 及 び 「 審 判 検 甲2 」 と いう 。 ) に 見 ら れ る 係止 片 の 構 成 , B 特 開 平 6 - 2 9 6 726 号 公 報 ( 甲 6 3 ) に 記 載 され た 遊 技 機 用 表 示 装置 に お け る , カ バー に 一 体形 成 さ れ た フ ッ ク 42 ( 段 落 【 0 0 1 5】 ) の 構 成 ( 取付板 1 0 の挿 通 孔 2 4 の 位 置 を見 れ ば , フ ッ ク 4 2は 明 ら か に カ バー1 1 の 外方 側 面 よ り も 内 側 に設 け ら れ て い る 。 ) か ら み て 明 ら かである。
以 上 によれば ,甲1発 明の 「タイ トルパネ ル枠590 (枠体) の後端の内外方向の厚み」について,甲1の【図33】及び【図48 】 の 記 載 のみ か ら , 上 記 周 知 な構 成 を 備 え る た め に必 要 な 程 度の厚 み も な い ほど に 薄 い も の と 限 定し て 解 す べ き 理 由 はな い か ら , 甲1 発 明 に お いて , 係 止 片 に 相 当 する 部 分 の 取 付 部 を タイ ト ル パ ネル 15 枠 5 9 0 ( 枠体 ) の 後 端 で タ イ トル パ ネ ル 枠 5 9 0 (枠 体 ) の 上辺 又 は 下 辺 よ りも 内 側 に 設 け る こ とは 十 分 可 能 で あ る と解 す る の が相 当であって,本件審決の上記判断は誤りである。
イ 審判検甲1及び2の構成に係る認定判断の誤り (ア) 本件審決は,審判検甲1及び2につき,係止片が枠体の後端より 前側かつ内側の部分(後端でない部分)から後方に突設する構成であ って,「係止片が前記枠体の後端より後ろ向きに突設し」た構成を備え るものではないことから,甲1発明に審判検甲1及び2の構成を適用 しても,「係止片が前記枠体の後端より後ろ向きに突設し」た構成とす ることはできない旨判断する。
しかし,本件訂正明細書では,「係止片が前記枠体の後端より後ろ向 きに突設し」た構成,すなわち,係止片を枠体の後端に直接一体的に取 り付ける構成の技術的意義は何ら記載されていない。この点,係止爪を 挿入口に挿入して取り付けるためには,係止爪が当該部材の後端面より も後ろ向きに突出して設けられていることが必要とはいえるものの,更 に,係止片を枠体の後端に直接一体的に取り付けることの技術的意義を 認めることはできない。
このように,係止片を枠体の後端に一体的に取り付けるか,それと も,審判検甲1及び2のように,枠体の正面部の周縁部の裏面に取り付 けるかは,単なる取付位置及び取付方法に係る設計的事項の問題でしか ないから,本件審決の上記判断は誤りである。
(イ) また,本件審決は,審判検甲1及び2の枠体の後端は内外方向の厚 みが十分でなく,係止片の取付部を枠体の後端で枠体の上辺又は下辺よ りも内側に設けることはできないものであることから,甲1発明に審判 検甲1及び2の構成を適用した状態で,「第1(あるいは第2)の係止 片が枠体の後端より後ろ向きに突設し枠体の上辺(あるいは下辺)より 16 も内側に設けられ」る構成とすることはできない旨判断する。
しかし,審判検甲1及び2では,凹部の挿通口が,凹部の内周よりも 略0.5ミリだけ内側に設けられているのであるから,係止片を枠体の 後端から直接一体的に突設させ,かつ,係止片の取付部を枠体の外周側 面より略0.5ミリだけ内側に設ける構成とすることは十分に可能であ る。
したがって,本件審決の上記判断も誤りである。
ウ 甲16及び17に記載された技術に係る判断の誤り 本件審決は,甲16(実開昭60-33379号公報)記載の技術につ いて,1つの透孔20(挿通口)に複数の係止脚13,13(係止片) を挿通させる技術であり,本件特許発明1のような複数の係止片を対応 する複数の挿通口にそれぞれ挿通する技術ではないから,甲1発明のタ イトルパネル枠の後端及び検甲1又は2の枠体の後端に,甲16記載の 技術を適用することはできない旨判断する。
また,本件審決は,甲17(実開平3-73480号公報)記載の技 術についても,L型状取付爪2(係止爪)を内側(内向き)に形成する ものであり,本件特許発明1のような「前記第1の係止爪と前記第2の 係止爪はそれぞれ外向きに形成」する技術ではないから,甲1発明のタ イトルパネル枠の後端及び審判検甲1又は2の枠体の後端に,甲17記 載の技術を適用することはできない旨判断する。
しかし,甲16及び17は,「第1(あるいは第2)の係止片が枠体の 後端より後ろ向きに突設し枠体の上辺(あるいは下辺)よりも内側に設け られ」る構成を開示する証拠であって,同構成は,これらの証拠及び甲1 の【図39】(a)及び【図49】から,先端に係止爪を備える係止片を係 合することにより係止して取り付ける構成として周知と認められるもので あるから,本件審決の上記判断は誤りである。
17 エ まとめ 以上のとおり,甲1発明において,「タイトルパネル枠590(枠体) の係止片に相当する部分の取付部及びタイトルパネル枠590(枠体) の後端の内外方向の厚み」を格別に薄く設けるべき理由は見当たらない ところ,部材を取り付けるための係止片を当該部材の最外周面よりも少 し内側に設ける構成は,甲1(【図39】(a)及び【図49】 ,16,1 ) 7及び63に記載され,審判検甲1及び2が現に有するとおり,スロッ トマシンの技術分野において周知な構成であるから,甲1発明に対し, 上記周知な構成である「部材を取り付けるための係止片を当該部材の最 外周面よりも少し内側に設ける」構成を適用し,相違点3に係る本件特 許発明1の構成のうち,「第1(あるいは第2)の係止片が枠体の後端よ り後ろ向きに突設し枠体の上辺(あるいは下辺)よりも内側に設けら れ」る構成とすることは,当業者が容易に想到し得たことである。
なお,被告は,本件特許発明1において「第1(あるいは第2)の係 止片が枠体の後端より後ろ向きに突設し枠体の上辺(あるいは下辺)よ り内側に設けられ」る構成を採用したのは,針金等による不正行為の防 止のためである旨主張するところ,上記周知な構成である「部材を取り 付けるための係止片を当該部材の最外周面よりも少し内側に設ける構 成」は,取付けにおいて双方部材間に隙間が生じることを防ぐ構成であ ると容易に理解されるから,不正行為の防止がパチスロ機等の技術分野 において周知の課題であるなか(甲19ないし21),上記構成を針金 等による不正行為の防止のために採用することは,当業者において容易 に想到し得たことである。
(2) 相違点4について 本件審決は,相違点4に係る本件特許発明1の構成には「前記第1の係止 片」及び「前記第2の係止片」が含まれ,これらは相違点3に係る構成に含 18 まれるから,相違点3に係る構成につき容易想到性が認められない以上,こ れを含む相違点4に係る構成についても容易想到性が認められない旨判断す る。
しかし,相違点3に係る構成の容易想到性を否定した本件審決の判断が誤 りであることは,上記(1)のとおりであるから,相違点4に係る本件審決の 判断も誤りである。
(3) 小括 以上によれば,本件特許発明1の進歩性を認めた本件審決の認定判断は誤 りである。また,本件特許発明1に進歩性があることを前提に,本件請求項 1の従属項である本件請求項2及び5に係る本件特許発明2及び5の進歩性 を認めた本件審決の認定判断も誤りである。
したがって,本件審決は取り消されるべきである。
被告の反論
1 取消事由1(相違点3に係る認定の誤り)に対し 原告は,本件審決が,甲1発明について「係止爪591が突設している場 所がタイトルパネル枠590の後端ではな」いと認定したことをもって,こ の点を相違点3の一内容として認定したものであるとした上で,その相違点 3の認定に誤りがある旨を主張する。
しかし,原告が指摘する本件審決の判断部分(審決書108頁1行以下) は,本件特許発明1と甲1発明の共通点を述べる部分であり,相違点3を認 定する部分ではないから,この点を相違点の認定の誤りとする原告の主張 は,当を得たものではない。
また,本件審決が述べる「係止爪591の取付部に係止片を有することは 明らかであるが,係止爪591が突設している場所がタイトルパネル枠59 1の後端ではなく」(審決書107頁最終行〜108頁2行)とは,係止爪5 91の取付部に係止片を有すること,すなわち,係止爪591が突設してい 19 る場所は,タイトルパネル枠590の後端ではなく,上記係止片であり,そのため,甲1発明は,「先端に」「係止爪を有する」「係止片が前記枠体」に「設けられ」た構成を有することを述べたものと解されるから,本件審決の当該認定に何ら誤りはない。
そして,本件審決は,係止爪が設けられている辺や数を含む枠体の後端における係止片の取付構成の観点から,本件特許発明1と甲1発明との相違点3を抽出しているのであるから,本件審決の相違点3の認定に誤りはない。
したがって,原告主張の取消事由1は理由がない。
2 取消事由2(相違点3及び4に係る容易想到性判断の誤り)に対し (1) 相違点3について ア 「甲1発明の枠体の厚みに係る認定判断の誤り」に対し (ア) 原告は,甲1の【図33】及び【図48】の記載に基づいて「甲 1発明の係止片に相当する部分の取付部を,タイトルパネル枠59 0(枠体)の後端で,タイトルパネル枠590(枠体)の上辺又は 下辺よりも内側に設けることはできない 」とした本件審決の認定判 断は誤りである旨主張する。
しかし,甲1の【図48】によれば,上辺寄りのタイトルパネル 枠590の係止 片に相当する取付部の外面がタイトルパネル 枠 5 90の外周面と 面一であり ,下辺のタイトルパネル枠590 の 係 止片に相当する 取付部の内面がタイトルパネル枠590の内 周 面 と面一であ って,タイトルパネル枠590の厚みとして ,係止 片 に相当する部分 の取付部をタイトルパネル枠 590の上辺又 は 下 辺よりも内側に 設ける ほどの 厚みが付与されているとは考え ら れ ないから,本件審決の上記認定判断に何ら誤りはない。
原告は,甲1の図面が設計図面等とは異なる特許図面であるこ と を理由に , そ の記載から各構成部材の厚み等の相対寸法を読 み 20 取ることはでき ない などと主張するが, 上記図面は, 特許図面で あっても, 部材間の配置関係 ,各構成部材の相対寸法等 を読み 取 ることができるものである。
したがって,原告の上記主張には理由がない。
(イ) 原告は,係止爪を有する係止片を挿入口に挿入して部材を係止 する構成では,当業者は,取付作業の容易性,取付け後の見栄えを 考慮して,部材を取り付けるための係止片を,当該部材の最外周面 よりも少し内側に設けることを検討するのが通常であ り,このよう な構成は,スロットマシンの技術分野において周知な構成にすぎな い旨主張する。
しかし,本件特許発明1が,「第1(あるいは第2)の係止片が枠体 の後端より後ろ向きに突設し枠体の上辺(あるいは下辺)より内側に設 けられ」る構成を採用したのは,構成1H(2)の「前記枠体の後端縁の 上辺と前記第1の係止片との間の第1の領域が前記凹部の底面周縁の上 辺と前記第1の挿通口の上辺との間の第2の領域において当接し,前記 枠体の後端縁の下辺と前記第2の係止片との間の第3の領域が前記凹部 の底面周縁の下辺と前記第2の挿通口の下辺との間の第4の領域におい て当接する」構成と相まって,針金等が枠体と凹部間に侵入したとして も,その侵入方向を直角内向き方向に変化させることができないように して,針金等を挿通口に到達し難くさせるという機能を奏するためであ り,取付作業の容易性や取付け後の見栄えを考慮したものではないか ら,原告の上記主張は失当である。
また,原告は,「部材を取り付けるための係止片を当該部材の最外周 面よりも少し内側に設けること」が周知な構成である旨主張し,これを 示す各種証拠を挙げる。
しかし,本件審決は,「先端に第1の係止爪を有する第1の係止片が 21 前記枠体の後端より後ろ向きに突設し前記枠体の上辺よりも内側に前記 枠体の上辺に沿って前記枠体の上辺の両端寄りに2個設けられ,先端に 第2の係止爪を有する第2の係止片が前記枠体の後端より後ろ向きに突 設し前記枠体の下辺よりも内側に前記枠体の下辺に沿って前記枠体の下 辺の両端寄りに2個設けられ」「前記第1の係止爪と前記第2の係止爪 , はそれぞれ外向きに形成され」る構成(以下「構成1H(1-1)」と いう。)が周知でない旨を述べているのであって,「部材を取り付けるた めの係止片を当該部材の最外周面よりも少し内側に設けること」が周知 でないと述べているのではない。
加えて,原告が挙げる甲63(特開平6-296726号公報)は, 表示装置5のカバー11に関するものであって,本件特許発明1のよう な一体化した枠体,化粧部材,カバー部材及び後部カバー部材が前面扉 に取り付けられるものではないから,構成1H(1-1)が周知である ことの証拠にはなり得ない。
したがって,原告の上記主張も失当である。
イ 「審判検甲1及び2の構成に係る認定判断の誤り」に対し (ア) 原告は,本件訂正明細書には,「係止片が前記枠体の後端より後ろ 向きに突設し」た構成の技術的意義は何ら記載されておらず,係止片 を枠体の後端に一体的に取り付けるか,それとも,審判検甲1及び2 のように,枠体の正面部の周縁部の裏面に取り付けるかは,設計的事 項の問題であるから,甲1発明に審判検甲1及び2の構成を適用して も「係止片が前記枠体の後端より後ろ向きに突設し」た構成とするこ とはできないとした本件審決の判断は誤りである旨主張する。
しかし,本件特許発明1における構成1H(1-1)は,構成1H (2)の「前記枠体の後端縁の上辺と前記第1の係止片との間の第1の領 域が前記凹部の底面周縁の上辺と前記第1の挿通口の上辺との間の第 22 2の領域において当接し,前記枠体の後端縁の下辺と前記第2の係止 片との間の第3の領域が前記凹部の底面周縁の下辺と前記第2の挿通 口の下辺との間の第4の領域において当接する」 との構成と相まっ て,針金等が枠体と凹部間に侵入したとしても,その侵入方向を直角 内向き方向に変化させることができないようにして,針金等を挿通口 に到達し難くさせるという技術的意義を有するものであり,このこと は,本件各請求項及び本件訂正明細書の記載から合理的に理解できる ことであるから,原告の上記主張は失当である。
(イ) また,原告は,審判検甲1及び2では,凹部の挿通口が凹部の内周 よりも略0.5ミリだけ内側に設けられており,係止片を枠体の後端か ら直接一体的に突設させ,かつ,係止片の取付部を枠体の外周側面より 略0.5ミリだけ内側に設ける構成とすることは可能であるから,甲1 発明に審判検甲1及び2の構成を適用した状態で,「第1(あるいは第 2)の係止片が枠体の後端より後ろ向きに突設し枠体の上辺(あるいは 下辺)よりも内側に設けられ」る構成とすることはできないとした本件 審決の判断は誤りである旨主張する。
しかし,審判検甲1及び2に係る検証調書(甲61)の「写真検甲 1(7)」及び「写真検甲2(7)」に見られるように,これらの枠体 の下部後端の厚みは上部後端の厚みより厚いことが読み取れ,厚みが 厚い下部後端では引掛片が一体に形成されて内側に設け られておら ず,厚みが十分でない上部後端では係止片は上部後端を除く場所にネ ジで取り付けられている。このように,厚みが厚い下部後端でさえ引 掛片は内側に設けられていないのであるから,厚みが十分でない上部 後端においては,強度等を勘案すると,枠体の上辺または下辺より内 側に係止片を設けることはできない。
したがって,本件審決の上記判断に何ら誤りはないから,原告の上 23 記主張は失当である。
ウ 「甲16及び17に記載された技術に係る判断の誤り」に対し 原告は,甲16及び17について,「第1(あるいは第2)の係止片が 枠体の後端より後ろ向きに突設し枠体の上辺(あるいは下辺)より内側に 設けられ」る構成を開示する証拠であるとし,これらの証拠等によって当 該構成は周知と認められるものであるから,甲1発明のタイトルパネル枠 の後端及び審判検甲1又は2の枠体の後端に甲16及び17記載の技術を 適用することはできないとした本件審決の判断は誤りである旨主張する。
しかし,上記ア(イ)で述べたとおり,本件審決は,構成1H(1-1) がいずれの証拠にも記載されておらず,周知でもないと述べているので あって,その認定判断に誤りはないから,原告の上記主張は失当である。
(2) 相違点4について 原告は,相違点3に係る構成の容易想到性を否定した本件審決の判断が 誤りであることを前提に,相違点4に係る本件審決の判断も誤りである旨 主張する。
しかし,本件審決の相違点3に係る認定判断に誤りがないことは,上記 ?で述べたとおりであるから,原告の上記主張も失当である。
(3) 小括 以上によれば,相違点3及び4に係る本件特許発明1の構成の容易想到性 を否定し,本件特許発明1,2及び5の進歩性を認めた本件審決の認定判断 に誤りはなく,原告主張の取消事由2は理由がない。
当裁判所の判断
1 本件特許発明1について (1) 本件請求項1の記載は前記第2の2のとおりである。
また,本件訂正明細書(甲60,42)の発明の詳細な説明には,次のよ うな記載がある(以下に引用する図面のうち,図1ないし3及び6ないし8 24 については別紙1参照) 。
ア 発明の属する技術分野 【0001】 本発明は,1ゲームに対して賭数を設定することによりゲームが開始可能となるとともに,表示状態を変化させることが可能な可変表示装置の表示結果が導出表示されることにより1ゲームが終了し,前記可変表示装置の表示結果に応じて所定の入賞が発生可能なスロットマシンに係わり,特に機種変更に対して容易に対応出来るスロットマシンに関する。
イ 従来技術 【0002】 従来,スロットマシンにおける機種変更の際には,ゲーム性が変更され るのに伴い,例えば外観のデザインや内部の各種装置の変更がなされるた め,各種装置が内設された筐体,またはその筐体の前面を開閉自在に閉塞 する前面扉,またはこれら筐体と前面扉とからなる本体ごと回収して交換 するのが一般的であった。
ウ 発明が解決しようとする課題 【0003】 しかしながら,上記のように機種変更の度に筐体や前面扉を交換する場 合,回収の手間やコストが嵩むといった問題を有していた。
【0004】 また,特に近年においては,機種変更のサイクルが短期化する傾向にあ るため,従来のような交換にかかる手間やコストの問題等を考慮すると, 頻繁な機種変更に対応していくことは非常に困難であった。
【0005】 本発明は,このような問題点に着目してなされたもので,機種変更に伴 う各種の変更に容易に対応できるスロットマシンを提供することを目的と 25 する。
エ 課題を解決するための手段 【0006】 上記課題を解決するために,本発明のスロットマシンは, 1ゲームに対して賭数を設定することによりゲームが開始可能となると ともに,表示状態を変化させることが可能な可変表示装置の表示結果が導 出表示されることにより1ゲームが終了し,前記可変表示装置の表示結果 に応じて所定の入賞が発生可能なスロットマシンにおいて, 前面が開口する本体と, 前記本体の前面開口を開閉可能に設けられる前面扉と, 全体が透光性領域で構成されたカバー部材と, 前記カバー部材の後面側に配置され,前記透光性領域に対応する箇所に 装飾が施された化粧部材と, 前記化粧部材の後面側に配置され,該化粧部材の後面を被覆する前記カ バー部材と同材質の全体が透光性領域で構成された後部カバー部材と,を 備え, 前記化粧部材,前記カバー部材及び前記後部カバー部材は,外方形状 が上辺,該上辺を切り欠いた左右傾斜辺,左右辺及び下辺からなる六角 形に形成され,該化粧部材が前記カバー部材及び前記後部カバー部材に より挟持され互いに枠体の後面側に前記カバー部材を突き合わせた後, 前記後部カバー部材の後側から前記上辺の両端部及び前記下辺の両端部 に形成されたネジ挿通孔にネジを挿通し,前記枠体の後面に形成された 雌ネジ部に螺入することにより一体的に組み付けられた状態で前記前面 扉の前面側から該前面扉の一部の領域である所定領域に前記枠体を介し て係止され,前記前面扉を開放して前記前面扉の後面側から前記係止を 解除することにより取り外され, 26 前記枠体の外方形状が上辺,該上辺を切り欠いた左右傾斜辺,左右辺及び下辺からなる六角形の環状に形成されており,先端に第1の係止爪を有する第1の係止片が前記枠体の後端より後ろ向きに突設し前記枠体の上辺よりも内側に前記枠体の上辺に沿って前記枠体の上辺の両端寄りに2個設けられ,先端に第2の係止爪を有する第2の係止片が前記枠体の後端より後ろ向きに突設し前記枠体の下辺よりも内側に前記枠体の下辺に沿って前記枠体の下辺の両端寄りに2個設けられ,先端に第3の係止爪を有する第3の係止片が前記枠体の左辺に沿って前記枠体の左辺の略中央に1個設けられ,先端に第4の係止爪を有する第4の係止片が前記枠体の右辺に沿って前記枠体の右辺の略中央に1個設けられ,前記枠体の前記左右傾斜辺には係止片は設けられておらず,前記第1の係止爪と前記第2の係止爪はそれぞれ外向きに形成され, 前記所定領域には,内周形状が上辺,該上辺を切り欠いた左右傾斜辺,左右辺及び下辺からなる六角形であり,前記枠体の外方側面が全周にわたり嵌合する凹部が形成され,前記凹部の内周よりも内側に第1の挿通口が前記凹部の上辺に沿って前記凹部の上辺の両端寄りに2個設けられ,前記凹部の内周よりも内側に第2の挿通口が前記凹部の下辺に沿って前記凹部の下辺の両端寄りに2個設けられ,前記凹部に第3の挿通口が前記凹部の左辺に沿って前記凹部の左辺の略中央に1個設けられ,前記凹部に第4の挿通口が前記凹部の右辺に沿って前記凹部の右辺の略中央に1個設けられ,前記凹部の前記左右傾斜辺には挿通口が設けられておらず, 前記第1の係止片が前記第1の挿通口に挿通されたときには前記第1の係止爪が前記前面扉の裏面に外向きに係止され,前記第2の係止片が前記第2の挿通口に挿通されたときには前記第2の係止爪が前記前面扉の裏面に外向きに係止され,前記第3の係止片は前記第3の挿通口に挿通され前記第3の係止爪が前記前面扉の裏面に係止され,前記第4の係止片は前記 27 第4の挿通口に挿通され前記第4の係止爪が前記前面扉の裏面に係止されることにより,前記枠体の外方側面が全周にわたり前記凹部に嵌合し前記枠体の後端縁の上辺と前記第1の係止片との間の第1の領域が前記凹部の底面周縁の上辺と前記第1の挿通口の上辺との間の第2の領域において当接し,前記枠体の後端縁の下辺と前記第2の係止片との間の第3の領域が前記凹部の底面周縁の下辺と前記第2の挿通口の下辺との間の第4の領域において当接するとともに,前記枠体の後端縁の上辺と前記凹部の底面周縁の上辺が左右方向全幅にわたって当接し,前記枠体の後端縁の下辺と前記凹部の底面周縁の下辺が左右方向全幅にわたって当接する状態で,一体化した前記枠体,前記化粧部材,前記カバー部材及び前記後部カバー部材は前記前面扉に取り付けられ, 一体化した前記枠体,前記化粧部材,前記カバー部材及び前記後部カバー部材が前記前面扉に取り付けられた状態では,前記枠体の後端縁の上辺と前記第1の係止片との間の第1の領域が前記凹部の底面周縁の上辺と前記第1の挿通口の上辺との間の第2の領域において当接し,前記枠体の後端縁の下辺と前記第2の係止片との間の第3の領域が前記凹部の底面周縁の下辺と前記第2の挿通口の下辺との間の第4の領域において当接するとともに,前記枠体の後端縁の上辺と前記凹部の底面周縁の上辺が左右方向全幅にわたって当接し,前記枠体の後端縁の下辺と前記凹部の底面周縁の下辺が左右方向全幅にわたって当接する,ことを特徴としている。
この特徴によれば,装飾が施された化粧部材を交換することで,前面扉の前面意匠を,前面扉全体を交換することなく容易に変更することが出来るとともに,化粧部材の前面はカバー部材により保護されるため,化粧部材の前面の劣化や損傷が効果的に防止される。
また,カバー部材,化粧部材,後部カバー部材の前面扉への取り付け,取り外しを容易に行うことが出来るばかりか,取り付け時におけるカバー 28 部材と化粧部材と後部カバー部材との位置ずれ等が効果的に防止される。
さらに,カバー部材,化粧部材,後部カバー部材が不正に取り外される ことを防止できる。
なお,前記化粧部材は,前記前面扉に対して交換可能に取り付けられて いれば,前面扉に取り付けられたカバー部材に取り付けられていてもよ い。
【0011】 本発明のスロットマシンは,前記カバー部材は,前記前面扉の後面側か ら取り付けられていることが好ましい。
このようにすれば,前面扉の前方からのカバー部材の取り外しが困難となるため,スロットマシン本体内部の各種装置への不正行為を効果的に防止出来る。
オ 発明の実施の形態 【0022】 まず,本発明の実施例を図面を用いて説明すると,図1には,本発明が適用された遊技機の一例であるスロットマシンの全体正面図,図2及び図3にはスロットマシン1の内部構造図がそれぞれ示されている。スロットマシン1の本体は,前面が開口する筐体2(図2参照)と,この筐体2の側端に回動自在に枢支された前面パネルとしての前面扉4とから構成されており,前面扉4の裏面に設けられた施錠装置3(図3参照)の鍵穴3aに挿入した所定のキーを時計回り方向に回動操作することにより施錠が解除されて前面扉4を開放することが出来るようになっている。
【0023】 前面扉4の前面における上,中,下段領域には,後述するカバー部材と しての前面カバーパネル303,331,320がそれぞれ設けられてい るとともに,上段の前面カバーパネル303の周囲前面側には上部飾り枠 29 306が,中段の前面カバーパネル331の周囲前面側には中央部飾り枠353が,下段の前面カバーパネル320の周囲前面側には下部飾り枠323がそれぞれ設けられている。
【0104】 次に,本実施例におけるスロットマシン1の本体を構成する筐体2及び筐体2の前面開口を開閉可能とする前面扉4の構造を主に図6〜図10に基づいて説明する。
【0112】 筐体2に向かって左側の側板86には,前述したように前面扉4の一端側が回動自在に枢設されている。詳しくは,図3及び図6(a)に示されるように,前面扉4の一端側の側板内面に固設される上下方向に延びる金属製の固定板154の上下所定箇所には,蝶番155の一端側が固着されている。そして上下の蝶番155の他端側には,筐体2の側板86の内面に当接する金属製の取付板156の上下所定箇所が予め固着されている。
【0116】 次に図7〜図10に基づいて,前面扉4の詳細な構造を説明する。
【0117】 図7に示されるように,前面パネルとしての前面扉4は,主に非透光性の樹脂材等によりパネル状に形成される基体160からなり,前述したようにこの基体160の前面側には各パネル303,320や飾り枠306,353,323等が設けられるとともに,後面側にはパネル331や各種装置が取り付けられることにより構成されている。
【0118】 基体160の前面側には,その上端及び左右側端部に沿って複数設けられる遊技効果LED131を覆うカバー体161が前面側に取り付けられている。このカバー体161は,内部の遊技効果LED131からの光が 30 スロットマシン1の前方,上方,左右側方に向かって透光されるように,透明な樹脂材により正面視下向きコ字状に形成されている。また,このカバー体161により囲まれた領域における略中央位置には,各種ボタンやレバー等が設けられる突出部7を構成する突出パネル162が前方から取り付けられている。
【0119】 基体160におけるカバー体161により囲まれた領域における突出部7よりも上方の領域の上部には,横長長方形状の上開口部163が形成されているとともに,その下部には下開口部164がそれぞれ形成されている。また,カバー体161により囲まれた領域における突出部7よりも下方の領域には,凹部165が形成されている。
【0128】 次に,凹部165には,前述したカバー部材としての前面カバーパネル320と,この前面カバーパネル320の後面側に設けられる化粧部材としての化粧シート321と,さらにこの化粧シート321の後面側に設けられる後部カバー部材としての後面カバーパネル322とが一体化された下部飾り枠323が基体160の前面側から取り付けられるようになっている。
【0129】 前面カバーパネル320,及び後面カバーパネル322は,ポリカーボネイト樹脂等の透光性の樹脂材により全体が透明に形成されている。
【0130】 化粧シート321は,ポリエステル樹脂材等によりシート状に形成されているとともに,その前面には所定の装飾が予め印刷により施されている。この表面は所定の色(例えば青色等)にて着色されているとともに,このスロットマシン1の機種を特定可能なタイトル名(機種名)が印刷さ 31 れており,前述したようなタイトル(機種名)表示部26を構成している。
【0131】 なお,この化粧シート321の前面に施す装飾は,このようなタイトル名に限定されるものではなく,その機種固有の図柄等,種々の内容を表示することが可能である。
【0132】 これら前面カバーパネル320,化粧シート321,後面カバーパネル322は,図7及び図8?に示されるように,化粧シート321を前面カバーパネル320と後面カバーパネル322とで前後方向から挟み込むように互いに重ね合わせて,前面カバーパネル320を下部飾り枠323の後面側に突き合わせた後,後面カバーパネル322の後側から,それぞれの四隅に形成されたネジ挿通孔324,325,326内にネジ327を挿通し,下部飾り枠323の裏面四隅に形成された雌ねじ部328内に螺入することにより,下部飾り枠323に一体的に取り付けることが出来る。
【0133】 一方,凹部165の底面周縁には,基体160の前方から取り付けられる下部飾り枠323の後端縁が当接するとともに,下部飾り枠323の後端周縁所定箇所から後ろ向きに突設される,先端に係止爪329aを有する係止片329を挿通可能なスリット穴330が,各係止片329に対応して形成されている。なお,凹部165の底面略中央には,化粧シート321を後方から照らす蛍光灯138が取り付けられている。
【0134】 よって,前面カバーパネル320,化粧シート321,後面カバーパネル322が一体的に取り付けられた下部飾り枠323は,図7及び図8? 32 に示されるように,基体160の前方側から係止片329をスリット穴330内に差し込むようにして凹部165内に嵌合することにより,係止片329の係止爪329aが底面に係止されるため,この係止作用により凹部165に取り付けることが出来る。なお,取り外す場合には,基体160の後側から係止片329を変形させて,係止爪329aと底面との係止状態を解除することで容易に取り外すことが出来る。
【0152】 以上説明してきたように,本発明実施例のスロットマシン1にあっては,その本体を構成する筐体2の前面に設けられる前面パネルとしての前面扉4の基体160に対して,カバー部材としての前面カバーパネル303,331,320がそれぞれ着脱自在に取り付けられているとともに,この前面カバーパネル303,331,320の後面側には,前面の少なくとも一部に装飾が施された化粧シート304,332,321が,前記基体160に対して交換可能に取り付けられ,この前面カバーパネル303,331,320を通して化粧シート304,332,321に施された装飾が視認可能に構成されているため,装飾が施された化粧シート304,332,321を後述するように交換することで,基体160の前面意匠を,基体160全体を交換することなく容易に変更することが出来るとともに,化粧シート304,332,321の前面は前面カバーパネル303,331,320により保護されるため,化粧シート304,332,321の前面の劣化や損傷が効果的に防止される。
【0154】 また,化粧シート304,332,321のさらに後面側には,前面カバーパネル303,331,320とは別個に形成される後部カバー部材としての後面カバーパネル305,333,322が,基体160に対して着脱自在に取り付けられているので,化粧シート304,332,32 33 1の後面が前面カバーパネル303,331,320により保護され,化粧シート304,332,321の前面の劣化や損傷が効果的に防止されるばかりか,配置された化粧シート304,332,321のよれや位置ずれ等が防止される。
【0157】 また,本実施例においては,前面カバーパネル303と化粧シート304と後面カバーパネル305とは,上部飾り枠306に対して一体的に組み付けられた状態で,また,前面カバーパネル320と化粧シート321と後面カバーパネル322とは,下部飾り枠323に対して一体的に組み付けられた状態で,また,前面カバーパネル331と化粧シート332と後面カバーパネル333とは,クリップ342を介して一体化された状態で,それぞれ基体160に対して着脱自在に取り付けられるため,これらの基体160への取り付け,取り外しを容易に行うことが出来るばかりか,前面及び後面カバーパネルにより挟持された状態で基体160に設けられた化粧シート304,332,321の位置ずれ等が効果的に防止される。
【0203】 前記各実施例における各要素は,本発明に対して以下のように対応している。
【0204】 本発明の請求項1は, 1ゲームに対して賭数を設定することによりゲームが開始可能となるとともに,表示状態を変化させることが可能な可変表示装置(50)の表示結果が導出表示されることにより1ゲームが終了し,前記可変表示装置の表示結果に応じて所定の入賞が発生可能なスロットマシン(1,1a〜1f))において, 34 前面が開口する本体(筐体2)と, 前記本体の前面開口を開閉可能に設けられる前面扉(前面扉4,基体160)と, 全体が透光性領域で構成されたカバー部材(前面カバーパネル320)と, 前記カバー部材の後面側に配置され,前記透光性領域に対応する箇所に装飾が施された化粧部材(化粧シート321)と, 前記化粧部材の後面側に配置され,該化粧部材の後面を被覆する前記カバー部材と同材質の全体が透光性領域で構成された後部カバー部材(後面カバーパネル322)と,を備え, 前記化粧部材,前記カバー部材及び前記後部カバー部材は,外方形状が上辺,該上辺を切り欠いた左右傾斜辺,左右辺及び下辺からなる六角形に形成され,該化粧部材が前記カバー部材及び前記後部カバー部材により挟持され互いに枠体(下部飾り枠323)の後面側に前記カバー部材を突き合わせた後,前記後部カバー部材の後側から前記上辺の両端部及び前記下辺の両端部に形成されたネジ挿通孔にネジを挿通し,前記枠体の後面に形成された雌ネジ部に螺入することにより一体的に組み付けられた状態で前記前面扉の前面側から該前面扉の一部の領域である所定領域に前記枠体を介して係止され,前記前面扉を開放して前記前面扉の後面側から前記係止を解除することにより取り外され(図7,8参照), 前記枠体の外方形状が上辺,該上辺を切り欠いた左右傾斜辺,左右辺及び下辺からなる六角形の環状に形成されており,先端に第1の係止爪を有する第1の係止片が前記枠体の後端より後ろ向きに突設し前記枠体の上辺よりも内側に前記枠体の上辺に沿って前記枠体の上辺の両端寄りに2個設けられ,先端に第2の係止爪を有する第2の係止片が前記枠体の後端より後ろ向きに突設し前記枠体の下辺よりも内側に前記枠体の下辺に沿って前 35 記枠体の下辺の両端寄りに2個設けられ,先端に第3の係止爪を有する第3の係止片が前記枠体の左辺に沿って前記枠体の左辺の略中央に1個設けられ,先端に第4の係止爪を有する第4の係止片が前記枠体の右辺に沿って前記枠体の右辺の略中央に1個設けられ,前記枠体の前記左右傾斜辺には係止片は設けられておらず,前記第1の係止爪と前記第2の係止爪はそれぞれ外向きに形成され, 前記所定領域には,内周形状が上辺,該上辺を切り欠いた左右傾斜辺,左右辺及び下辺からなる六角形であり,前記枠体の外方側面が全周にわたり嵌合する凹部が形成され,前記凹部の内周よりも内側に第1の挿通口が前記凹部の上辺に沿って前記凹部の上辺の両端寄りに2個設けられ,前記凹部の内周よりも内側に第2の挿通口が前記凹部の下辺に沿って前記凹部の下辺の両端寄りに2個設けられ,前記凹部に第3の挿通口が前記凹部の左辺に沿って前記凹部の左辺の略中央に1個設けられ,前記凹部に第4の挿通口が前記凹部の右辺に沿って前記凹部の右辺の略中央に1個設けられ,前記凹部の前記左右傾斜辺には挿通口が設けられておらず, 前記第1の係止片が前記第1の挿通口に挿通されたときには前記第1の係止爪が前記前面扉の裏面に外向きに係止され,前記第2の係止片が前記第2の挿通口に挿通されたときには前記第2の係止爪が前記前面扉の裏面に外向きに係止され,前記第3の係止片は前記第3の挿通口に挿通され前記第3の係止爪が前記前面扉の裏面に係止され,前記第4の係止片は前記第4の挿通口に挿通され前記第4の係止爪が前記前面扉の裏面に係止されることにより,前記枠体の外方側面が全周にわたり前記凹部に嵌合し前記枠体の後端縁の上辺と前記第1の係止片との間の第1の領域が前記凹部の底面周縁の上辺と前記第1の挿通口の上辺との間の第2の領域において当接し,前記枠体の後端縁の下辺と前記第2の係止片との間の第3の領域が前記凹部の底面周縁の下辺と前記第2の挿通口の下辺との間の第4の領域 36 において当接するとともに,前記枠体の後端縁の上辺と前記凹部の底面周 縁の上辺が左右方向全幅にわたって当接し,前記枠体の後端縁の下辺と前 記凹部の底面周縁の下辺が左右方向全幅にわたって当接する状態で,一体 化した前記枠体,前記化粧部材,前記カバー部材及び前記後部カバー部材 は前記前面扉に取り付けられ, 一体化した前記枠体,前記化粧部材,前記カバー部材及び前記後部カバー部材が前記前面扉に取り付けられた状態では,前記枠体の後端縁の上辺と前記第1の係止片との間の第1の領域が前記凹部の底面周縁の上辺と前記第1の挿通口の上辺との間の第2の領域において当接し,前記枠体の後端縁の下辺と前記第2の係止片との間の第3の領域が前記凹部の底面周縁の下辺と前記第2の挿通口の下辺との間の第4の領域において当接するとともに,前記枠体の後端縁の上辺と前記凹部の底面周縁の上辺が左右方向全幅にわたって当接し,前記枠体の後端縁の下辺と前記凹部の底面周縁の下辺が左右方向全幅にわたって当接する。
【0209】 本発明は,前記カバー部材(前面カバーパネル303,331,32 0)は,前記前面扉(前面扉4,4a,基体160,160a)の後面側 から取り付けられている。
カ 発明の効果 【0223】 (a) 請求項1項の発明によれば,装飾が施された化粧部材を交換するこ とで,前面扉の前面意匠を,前面扉全体を交換することなく容易に変更す ることが出来るとともに,化粧部材の前面はカバー部材により保護される ため,化粧部材の前面の劣化や損傷が効果的に防止される。
また,カバー部材,化粧部材,後部カバー部材の前面扉への取り付け, 取り外しを容易に行うことが出来るばかりか,取り付け時におけるカバー 37 部材と化粧部材と後部カバー部材との位置ずれ等が効果的に防止される。
さらに,カバー部材,化粧部材,後部カバー部材が不正に取り外される ことを防止できる。
(2) 上記(1)によれば,本件訂正明細書には,本件特許発明1に関し,次のよ うな開示があるものと認められる。
ア 本件特許発明1は,賭数を設定することにより1ゲームが開始可能とな るとともに,表示状態を変化させることが可能な可変表示装置の表示結果 が導出表示されることにより1ゲームが終了し,可変表示装置の表示結果 に応じて所定の入賞が発生可能なスロットマシンに関するものであり,特 に機種変更に容易に対応できるスロットマシンに関するものである(段落 【0001】。
) イ 従来,スロットマシンの機種変更の際には,ゲーム性の変更に伴い,例 えば外観のデザインや内部の各種装置が変更されるため,各種装置が内設 された筐体,その筐体の前面を開閉自在に閉塞する前面扉,又はこれら筐 体と前面扉とからなる本体を回収して交換するのが一般的であったが,機 種変更のたびに筐体や前面扉を交換すると,回収の手間やコストがかさむ という問題があり,特に近年は機種変更のサイクルが短期化する傾向にあ るため,交換にかかる手間やコストの問題等を考慮すると,頻繁な機種変 更への対応が非常に困難であるという問題があった(段落【0002】〜 【0004】。
) ウ そこで,本件特許発明1は,機種変更に伴う各種の変更に容易に対応で きるスロットマシンの提供を目的とし,そのための構成として,本件請求 項1のとおりの構成,特に,装飾が施された化粧部材を,いずれも全体が 透光性領域で構成されたカバー部材と後部カバー部材とで挟持し,これら を,枠体の後面にカバー部材を突き合わせた後,枠体に一体的に組み付 け,これら一体化した枠体等を,スロットマシン本体の前面開口を開閉可 38 能な前面扉に設けられ,枠体の外方側面が全周にわたって嵌合する凹部に 前面扉の前面側から取り付け,その取付けが,枠体の上下辺よりも内側に 設けられ,枠体の後端より後ろ向きに突設する係止片を,凹部の内周より も内側に凹部の上下辺に沿って設けられた挿通口に挿通し,係止片の先端 にそれぞれ外向きに形成された係止爪を前面扉の裏面に係止することによ って行われる構成を採用したものである(段落【0005】 【000 , 6】。
) エ その結果,本件特許発明1は,@装飾が施された化粧部材を交換するこ とで,前面扉の前面意匠を,前面扉全体を交換することなく容易に変更で きる,A化粧部材の前面がカバー部材で保護されるため,化粧部材の前面 の劣化や損傷が効果的に防止される,Bカバー部材,化粧部材,後部カバ ー部材の前面扉への取り付け,取り外しを容易に行うことができるととも に,取付け時にカバー部材と化粧部材と後部カバー部材との位置ずれ等が 効果的に防止される,Cカバー部材,化粧部材,後部カバー部材が不正に 取り外されることを防止できる,D前面扉の前方からのカバー部材の取り 外しが困難になるため,スロットマシン本体内部の各種装置への不正行為 を効果的に防止できる,といった効果を奏するものである(段落【000 6】【0011】【0223】。
, , )2 甲1発明について (1) 甲1(特開2001-170248号公報)の記載 甲1には,次のような記載がある(以下に引用する図面のうち,図1ない し3,33,34及び48については別紙2参照)。
ア 【0010】(1)スロットマシンの概略説明 まず,図1乃至図3を参照してスロットマシンの概略構成について説明す る。図1は,スロットマシン1の正面から見た斜視図であり,図2は,前 面扉2を開放した状態のスロットマシン1の斜視図であり,図3は,スロ 39 ットマシン1の正面図である。
【0011】スロットマシン1は,後述する主基板ボックス14,リールユニット15(可変表示装置ともいう),ホッパーユニット16,電源ボックス17,オーバーフロータンク18が収容される収容箱3と,該収容箱3に固定される連結部材としての上下の多関節蝶番13a,13bを介して収容箱3の前面に開閉自在に設けられる前面扉2と,から構成されている。
【0012】収容箱3は,上部の天板4と左右の側板5,6と下部の底板7と背面の背板8とによって直方体状に組み付けられている。また,前面扉2は,合成樹脂によって一体成形される前面枠9に前面飾り枠10,タイトルパネル11,メダル受皿12を装着して構成される。前面飾り枠10には,その上部に入賞態様等を説明する説明文等が表示される説明パネル434と前記リールユニット15の3つのリール駆動ユニット200a〜200cの一部を視認し得る透視窓900が形成される遊技パネル350が一体的に取り付けられ,更に,その周囲を囲むように内部にランプが収容されるランプカバー(第1ランプカバー406,第2ランプカバー411,第3ランプカバー414,第4ランプカバー423,第5ランプカバー426,第6ランプカバー431)が取り付けられ,またその下部にスタートレバー539,ストップボタン533,534,535,精算ボタン522,1BTEボタン525,MAXBETボタン528,メダル詰まり解消ボタン542,及びメダル投入口530等の操作部が設けられている。
【0013】遊技パネル350には,リール駆動ユニット200a〜200c(以下,リール200a〜200cと略称する)のそれぞれの表面に描かれる複数の図柄(3つの図柄と上下の図柄の半分程度)を視認し得る透視窓900が印刷形成されていると共にその透視窓900には,メダル 40 の賭け数(1ゲームにおける投入枚数)に応じて有効となる5本の有効ライン(上段・中段・下段の3本の水平線と2本の対角線)が印刷形成されている。また,透視窓900の左側には,1枚賭けランプ部901,2枚賭けランプ部902,903,3枚賭けランプ部904,905等の賭けランプ部が印刷形成され,透視窓900の右側には,ゲームオーバーランプ部906,リプレイランプ部907,ウェイトランプ部908,スタートランプ部909,インサートメダルランプ部910等の遊技ランプ部がそれぞれ印刷形成されている。各ランプ部901〜910の後方位置には,後述するようにそれぞれランプが配置され,各ランプ部901〜910を後方から照射するようになっている。更に,透視窓900の下方には,ペイアウト表示器696,ゲームカウント表示器697,クレジット表示器698が臨む透視部が印刷形成されている。
【0018】スタートレバー539は,ゲームを開始する際に操作するレバーである。賭数を設定した後,このスタートレバー539を操作することにより各リール200a,200b,200cが一斉に回転し始める。
各ストップボタン533,534,535は,ゲームが開始した後,回転しているリールを停止させる際に操作するボタンである。…【0022】賭数が設定された場合にはスタートランプ部909が点灯する。これにより,スタートレバー539を操作可能であるスタート状態になった旨が遊技者に報知される。スタートランプ部909が点灯している状態でスタートレバー539を操作すれば,各リール200a,200b,200cが一斉に回転(可変表示とも言う。以下,同じ)し始める。
各リール200a,200b,200cには,複数の図柄が描かれており,リールの回転に伴って透視窓900に現れる図柄の種類が次々と変動し,複数種類の図柄が可変表示される。
【0023】可変表示の開始から所定時間が経過すれば,各ストップボタ 41 ン533,534,535に設けられたランプが点灯する。これにより, 各ストップボタン533,534,535の押圧操作が有効な操作有効状 態になったことが遊技者に報知される。各ストップボタン533,53 4,535は,各リール200a,200b,200cに対応して設けら れており,遊技者は自らの操作によって各リール200a,200b,2 00cを停止させる順序とタイミングとを選択できる。遊技者がストップ ボタン533,534,535のうち,いずれかを押圧操作すれば,対応 するストップボタンに内蔵されるランプが消灯する。その後,所定時間以 内に操作されたストップボタンに対応するリールの回転が停止する。
【0024】一方,遊技者がストップボタン533,534,535を操 作しない場合には,所定の可変表示時間が経過した後に各リール200 a,200b,200cが,例えば,左から順に自動的に停止し,ストッ プボタン533,534,535に内蔵されるランプが左から順に消灯す る。
【0025】すべてのリールが停止した時点で,透視窓900から視認さ れる各リール200a,200b,200cの上段,中段,下段の3段の 図柄のうち,賭数に応じて定められる有効なライン上に位置する図柄の組 合わせによって入賞の有無が決定される。賭数が1の場合には,中段の横 1列の当りラインのみが有効化される。有効化された当りラインを有効ラ インという。賭数が2の場合には,上段,中段,下段の横3列の当りライ ンが有効ラインとなる。賭数が3の場合には,横3列と斜め対角線2列の 合計5本の当りラインが有効ラインとなる。各ゲームにおける有効ライン は,賭数を設定した際に賭数に応じて点灯する賭ランプ部901〜905 の点灯位置により示される。即ち,賭けランプ部901〜905により, 有効ラインを遊技者に報知可能な有効ライン報知手段が構成されている。
イ 【0136】(3)前面扉 42 前面扉2は,図33に示すように,合成樹脂によって一体成形される前面枠9と,該前面枠9の前面に取り付けられる前面飾り枠10,タイトルパネル11,及びメダル受皿12とから構成されている。前面飾り枠10と前面枠9との間に位置決め穴356,357によって位置決めされて遊技パネル350が挟持されている。そして,前面枠9の中程左右に形成されるランプハウス設置部374a,374bに対応してランプハウス351a,351bが設置されている。また,タイトルパネル11は,蛍光灯355を有する反射板354を被覆するように前面飾り枠10の下方に取り付けられる。メダル受皿12は,タイトルパネル11の下方の前面枠9に装着されるものである。更に,前面枠9には,前面飾り枠10の上部左右にスピーカカバー352a,352bが取り付けられ,前面飾り枠10の下部左右にランプカバー353a,353bが取り付けられている。以下,前面扉2を構成する部材について図面を参照して説明する。
【0137】(3-1)前面枠前面枠9の構成について図33及び図34を参照して説明する。図33は,前面扉2を構成する部材と前面枠9との関係を示す斜視図であり,図34は,前面枠9の正面から見た斜視図である。まず,前面枠9の前面側の構成について,主として図34を参照して説明する。
【0149】前記タイトルパネル11によってその前面を被覆される領域には,2つの反射板取付ボス388aと2つの位置決め突起388bが対角位置に突設されると共に左右に一対の電極部逃げ開口389が形成されている。この電極部逃げ開口389は,蛍光灯355の電極の後方突出部を逃げるための開口である。また,蛍光灯355から発する熱を放熱する放熱穴391や蛍光灯355の配線を後方に引き出すための配線通し穴392が形成されている。更に,タイトルパネル11のタイトルパネル枠590の後方四隅から突設される係止爪591(図48参照)を挿入するタ 43 イトルパネル係止爪挿入穴390が4つ形成されている(ただし,左上の 挿入穴390は図示されていない)。… ウ 【0197】(3-5)タイトルパネル 前面飾り枠10の下方に取り付けられるタイトルパネル11について図4 8を参照して説明する。図48は,タイトルパネル11の分解斜視図であ る。
【0198】タイトルパネル11は,タイトルパネル枠590と,該タイ トルパネル枠590に止着されるパネル593とから構成される。タイト ルパネル枠590は,その前面にパネル593が臨む開口592が形成さ れると共に,その四隅に係止爪591が後方に向かって突設されている。
一方,パネル593の周囲には,適宜間隔を置いて取付片594が突設形 成され,タイトルパネル枠590の裏面に形成される取付部(図示しな い)に取付片594を一致せしめてネジ595を螺着することにより,パ ネル593をタイトルパネル枠591に固定することができる。… 【0199】上記のように構成されるタイトルパネル11は,係止爪59 1をタイトルパネル係止爪挿入穴390に前方から挿入することにより前 面枠9に着脱自在に装着し得るものである。… (2) 上記(1)によれば,甲1には,本件審決が認定したとおりの甲1発明(前 記第2の3(2)ア)が記載されていることが認められる(この点は,当事者 間に争いがない。。
)3 取消事由1(相違点3に係る認定の誤り)について 原告は,本件審決が,甲1発明について「係止爪591が突設している場所 がタイトルパネル枠590の後端でな」いと認定したこと(以下,この認定を 「認定A」という。)をもって,本件特許発明1と甲1発明の相違点(相違点 3の一内容)を認定したものと捉えた上で,当該相違点の認定に誤りがある旨 を主張するので,以下検討する。
44 (1) 認定Aが本件特許発明1と甲1発明の相違点を認定したものか否かにつ いて 被告は,本件審決による認定Aについて,「本件審決の当該判断部分は, 本件特許発明1と甲1発明の共通点を述べる部分であって,相違点3を認定 する部分ではないこと」及び「認定Aは,係止爪591の取付部に係止片を 有すること,すなわち,係止爪591が突設している場所が,タイトルパネ ル枠590の後端ではなく,上記係止片であることを述べたものにすぎない こと」を理由に挙げ,これをもって,本件特許発明1と甲1発明の相違点を 認定したものと捉えること自体が誤りである旨主張する。
しかし,本件審決は,認定Aに係る判断部分(審決書107頁下から5行 〜108頁6行)において,甲1発明の「タイトルパネル枠590の外方形 状が上辺,該上辺を切り欠いた左右傾斜辺,左右辺及び下辺からなる六角形 の環状に形成されており,係止爪591がタイトルパネル枠590から後ろ 向きで外向きに突設すると共に,タイトルパネル枠590の左右傾斜辺の上 辺寄りに1個ずつ,下辺の両端寄りに2個設けられて」いる構成について, @係止爪591が突設している場所がタイトルパネル枠590の後端でない こと,A係止爪591が設けられている辺や数が異なることを認定した上 で,甲1発明と本件特許発明1とは,「前記枠体の外方形状が上辺,該上辺 を切り欠いた左右傾斜辺,左右辺及び下辺からなる六角形の環状に形成され ており,先端に」「係止爪を有する」「係止片が前記枠体」に「設けられ」, 「係止爪はそれぞれ外向きに形成され」る構成を有する点で共通すると認定 しているのであるから,前記@及びAの点は,甲1発明と本件特許発明1と の共通点には含まれない旨,ひいては,両者の相違点である旨を認定してい るものと理解することができる。加えて,本件審決は,本件特許発明1と甲 1発明の一致点として,「先端に係止爪を有する係止片が前記枠体に設けら れ」る構成を認定する一方,当該係止片が設けられる場所が「枠体の後端」 45 であることは認定しておらず(前記第2の3(2)イ),他方,相違点3の一部 として,本件特許発明1では,「先端に第1の係止爪を有する第1の係止片 が前記枠体の後端より後ろ向きに突設し…先端に第2の係止爪を有する第2 の係止片が前記枠体の後端より後ろ向きに突設」するのに対し,甲1発明で は,そのような構成でない点を認定している(前記第2の3(2)ウ(ウ))ので あるから,これらを総合してみれば,本件審決が,認定Aに係る構成を相違 点3の一内容として認定していることは明らかである。
また,本件審決は,認定Aに係る判断部分において,「係止爪591の取 付部に係止片を有することは明らかであるが,係止爪591が突設している 場所がタイトルパネル枠591の後端ではなく」と認定するところ,当該認 定は,甲1発明において,取付部に係止片を有する「係止爪591」という 構成が,本件特許発明1の「先端に」「係止爪を有する」「係止片」という構 成に相当することを前提に,当該「係止爪591」の突設場所が「タイトル パネル枠591の後端ではな」いことを認定したものと理解するのが相当で あって,係止爪591が突設している場所が係止片であることを認定したも のとはいえない。そして,このことは,本件審決が,甲1発明の内容とし て,「係止爪591」の構成を認定する一方,「係止片」の構成を明示的に認 定していないにもかかわらず,本件特許発明1と甲1発明の一致点として, 「先端に係止爪を有する係止片」の構成を認定していることからも明らかと いえる。
以上によれば,被告の上記主張には理由がなく,本件審決は,認定Aに係 る構成,すなわち,「先端に係止爪を有する係止片が突設する場所につい て,本件特許発明1では,「枠体の後端」であるのに対し,甲1発明では, 「枠体(タイトルパネル枠590)の後端」ではない点」(以下「相違点3 -1」という。)を相違点3の一内容として認定しているものといえる。
(2) 相違点3-1の認定に誤りがあるか否かについて 46 ア 本件特許発明1における「枠体の後端」の意味 本件訂正明細書の【発明の実施の態様】についての段落【0133】に は,本件特許発明1の「枠体」に相当する「下部飾り枠323」及び「第 1の係止片」ないし「第4の係止片」に相当する「係止片329」につい て,「下部飾り枠323の後端周縁所定箇所から後ろ向きに突設される, 先端に係止爪329aを有する係止片329」との記載があるところ,こ の記載によれば,係止片329が突設される場所は,下部飾り枠323の 後端周縁という範囲の中で,所定箇所として特定されていることが認めら れる。そして,本件訂正明細書の図7,図8?を参照すると,その所定箇 所とは,具体的には,下部飾り枠323の上辺に沿って上辺の両端寄りの 2か所,下辺に沿って下辺の両端寄りの2か所,左辺に沿って左辺の略中 央及び右辺に沿って右辺の略中央であることが見て取れる。このように, 本件訂正明細書の【発明の実施の態様】に係る記載において,係止片32 9が突設される場所が,下部飾り枠323の「後端周縁」という範囲の中 で特定されていることからすると,本件特許発明1の「第1の係止片が… 後ろ向きに突設し」「第2の係止片が…後ろ向きに突設」する場所とされ , る「枠体の後端」とは,「枠体」の「後端周縁」を含む概念であると認め ることができる。
しかるところ,本件特許発明1の「枠体」がスロットマシンの前後方向 に所定の寸法を有することからすれば,上記「後端」とは,「枠体」の後 ろ側の端をいうものと理解される。また,「枠体」が枠のように内部を周 りから取り囲む形状であることからすれば,上記「周縁」とは,「枠体」 に沿って一周する縁の部分をいうものと理解される。してみると,「枠 体」の「後端周縁」とは,「枠体」の後ろ側の端を「枠体」に沿って一周 する縁の部分を指すものと解するのが相当である。
イ 甲1発明の係止爪591が突設する場所 47 甲1発明は,「タイトルパネル枠590の外方形状が上辺,該上辺を切り欠いた左右傾斜辺,左右辺及び下辺からなる六角形の環状に形成されており,係止爪591がタイトルパネル枠590から後ろ向きで外向きに突設すると共に,タイトルパネル枠590の左右傾斜辺の上辺寄りに1個ずつ,下辺の両端寄りに2個設けられている」構成を有する。
しかるところ,甲1の図48を参照すると,六角形の環状に形成されたタイトルパネル枠590は,スロットマシン1の前後方向に所定の寸法を有し,かつ,全体として枠のように内部を周りから取り囲む形状であるから,タイトルパネル枠590の後ろ側の端をタイトルパネル枠590に沿って一周する縁の部分,すなわち,「後端周縁」を想定することができ,タイトルパネル枠590の左右傾斜辺の上辺寄りに1個ずつ,下辺の両端寄りに2個設けられている係止爪591は,タイトルパネル枠590の上記「後端周縁」から後ろ向きで外向きに突設するものであることを見て取ることができる。
してみると,甲1発明の係止爪591が突設する場所は,タイトルパネル枠590の後端であると認めることができるから,相違点3-1を本件特許発明1と甲1発明の相違点とした本件審決の認定は誤りといえる。
なお,甲1発明のタイトパネル枠590は,スロットマシン1の前後方向の寸法が一定ではないところ,本件審決は,このような形状のタイトパネル枠590における「後端」とは,タイトルパネル枠590の後ろ側の端をタイトルパネル枠590に沿って一周する縁の部分のうちの最後端となる部位(最も後ろ側に突き出た部位)に限られるとの解釈を前提に,甲1発明について「係止爪591が突設している場所がタイトルパネル枠590の後端でな」いと認定したとも考えられる。しかし,本件訂正明細書の記載をみても,係止片が突設する場所である「枠体の後端」の意義をそのように限定して解釈すべきことを根拠づける記載は認められないから, 48 やはり上記認定は誤りである。
(3) 取消事由1の成否 以上のとおり,本件審決には,本件特許発明1と甲1発明の相違点3の一 内容として相違点3-1を認定した点に誤りがあるものといえる。
しかしながら,後記4で述べるとおり,本件審決認定の相違点3のうち, 相違点3-1以外の部分に係る本件特許発明1の構成についての容易想到性 は否定されるべきであり,そうすると,本件審決の相違点3-1に係る認定 の誤りは,本件特許発明1の進歩性欠如を否定した本件審決の結論に影響を 及ぼすものではない。
したがって,原告主張の取消事由1には理由がない。
4 取消事由2(相違点3及び4に係る容易想到性判断の誤り)について (1) 相違点3について 原告は,相違点3に係る本件特許発明1の構成のうち,「第1(あるいは 第2)の係止片が枠体の後端より後ろ向きに突設し枠体の上辺(あるいは 下辺)よりも内側に設けられ」るとの構成についての容易想到性を否定し た本件審決の判断は誤りである旨主張する。しかるところ,上記構成のう ち,「係止片が枠体の後端より後ろ向きに突設」する構成が本件特許発明1 と甲1発明の相違点といえないことは,上記3(2)で述べたとおりであるか ら,以下では,上記構成のうち,「第1(あるいは第2)の係止片が枠体の 上辺(あるいは下辺)よりも内側に設けられ」るとの構成(以下「相違点 3-2に係る構成」という。)についての容易想到性を否定した本件審決の 判断の適否について検討することとする。
ア 原告は,部材を取り付けるための係止片を当該部材の最外周面よりも 少し内側に設ける構成は,甲1(図39(a)及び図49),16,17及 び63に記載され,審判検甲1及び2が現に有するとおり,スロットマ シンの技術分野において周知な構成であるとした上で,甲1発明に上記 49 周知な構成を適用し,相違点3-2に係る構成とすることは,当業者が容易に想到し得たことである旨主張するので,以下検討する。
(ア) 甲1の図39(a)及び図49について 甲1の図39(a)(別紙2参照)は,スロットマシンの飾り枠本体に 取り付けられる第4ランプカバーの斜視図であるところ,同図に示さ れた第4ランプカバー423は,側方形状L字状に形成され,その一 辺の両サイドから後方に係止爪424が突設されている(甲1の段落 【0158】 。また,甲1の図49(別紙2参照)は,スロットマシ ) ンのメダル受皿の分解斜視図であるところ,同図に示されたメダル受 皿12の両サイドには,係止爪620が後方に向かって突設されてい る(甲1の段落【0205】。
) しかしながら,上記係止爪424と第4ランプカバー423の最外周 面との位置関係及び上記係止爪620とメダル受皿12の最外周面との 位置関係については,甲1には記載されておらず,何らの示唆もされて いない。
この点,原告は,これらの図面において,係止片に相当する部分とそ の取付け端の境界に実線が記載されていることから,当業者は,係止片 が部材の最外周面よりも少し内側に設けられていると理解する旨主張す る。しかし,甲1の上記図面は,特許出願の願書に添付された図面であ り,明細書を補完し,特許を受けようとする発明に係る技術内容を当業 者に理解させるための説明図であるから,当該発明の技術内容を理解す るために必要な程度の正確さを備えていれば足り,設計図面に要求され るような正確性をもって描かれているとは限らない。そして,甲1は, 遊技部品を収容する収容箱と収容箱に固定される連結部材を介して収容 箱の前面に開閉自在に設けられる前面扉とから構成されるスロットマシ ンについての発明を開示するものであり(段落【0001】,特に,連 ) 50 結部材を前面扉に取り付ける取付部に載置部及び被載置部を形成するこ とによって前面扉を連結部材に組付ける際の作業性を向上させたスロッ トマシンに係る発明を開示するものであるから(段落【0002】〜 【0008】,甲1の図面において,上記取付部に関係しない部材であ ) る第4ランプカバー423の係止爪424やメダル受皿12の係止爪6 20の詳細な構造についてまで正確に図示されているものと断ずること はできない。してみると,甲1の明細書中に何らの記載がないにもかか わらず,上記図面中の実線の記載のみから,係止片が部材の最外周面よ りも少し内側に設けられている構成の存在を読み取ることはできないと いうべきであり,原告の上記主張は採用できない。
したがって,甲1の図39(a)及び図49には,そもそも,部材を取 り付けるための係止片を当該部材の最外周面よりも少し内側に設ける構 成が記載されているとはいえない。
(イ) 甲16(実開昭60-33379号公報)について a 甲16には,次のような記載がある(以下に引用する図面について は,別紙3参照)。
(a) 本考案は,表示シートと,この表示シートの表面に重合される 化粧板とからなる樹脂製表示板の取付装置に関するものである(1 頁16行〜18行)。
? 10は表示板であって,この表示板10は,透明なる樹脂板で形 成された化粧板11と,この化粧板11の裏面に添設される表示シ ート12とで構成されるものであるが,その化粧板11の裏面にお いては,その左右両端部に,先端に係止爪13’を形成した一対の 係止脚13が,化粧板11と一体となって突設されておりさらにこ れら係止脚13の内側面,即ち対の係止脚13の対向面には,係止 脚13の軸方向に延びる凹溝14が形成されているものである(4 51 頁7行〜16行)。
? 19は上記の表示板10を取付けるべきインストルメントパネル であって,このインストルメントパネル19には,上記係止脚13 が挿入係止される透孔20が形成されているものである。
以上が本実施例の構成であるが,次に上記表示板10をインスト ルメントパネル19に取付ける手順について述べると,まず化粧板 11の裏面に表示シート12を添設して,その化粧板11の裏面に 突設されている係止脚13,13をインストルメントパネル19に 形成されている透孔20内に挿入すると,その係止脚13,13の 先端部に設けた係止爪13’と透孔20の口縁との係合によって表 示板10はインストルメントパネル19に係合される(第3図C参 照)(5頁7行〜6頁2行) 。
b 上記aによれば,甲16には,インストルメントパネル19の凹部 の内周よりも内側に透孔20が形成され,表示板の外方側面よりも内 側に設けられた係止脚13,13が透孔20に挿通されることによ り,表示板10がインストルメントパネル19に係合されることが記 載されている。
しかし,甲16には,係止脚13,13が表示板の外方側面よりも 内側に設けられる理由については記載されておらず,何らの示唆もさ れていない。
(ウ) 甲17(実開平3-73480号公報)について a 甲17には,次のような記載がある(以下に引用する図面について は,別紙4参照)。
(a) 本考案は,各種電子機器に採用されるパネル取付装置に関する ものである(1頁12行〜13行)。
? 以下,本考案の一実施例について図面を参照しながら説明する。
52 第1図はその分解斜視図,第2図は断面図である。同図において 1はパネル,2はL型状取付爪,4はカバー,5はカバー4の開口 3内に,その開口辺から植立された取付爪であり,その先端は遊端 となっている。(3頁1行〜7行) b 上記aによれば,甲17には,カバー4の凹部の内周よりも内側に 開口3が形成され,パネル1の外方側面よりも内側に設けられたL型 状取付爪2が開口3に挿通されることにより,パネル1がカバー4に 係合されることが記載されている。
しかし,甲17には,L型状取付爪2がパネル1の外方側面よりも 内側に設けられる理由については記載されておらず,何らの示唆もさ れていない。
(エ) 甲63(特開平6-296726号公報)について 甲63の図1及び2(別紙5参照)は,スロットマシン等の遊技機 の表示装置の分解斜視図及び外観斜視図であるところ,これらの図に 示されたカバー11にはフック42が一体に形成され,フック42を 取付板10のスリット24に係合させることによって,取付板10と カバー11とが一体に連結されている(甲63の段落【0015】。
) しかしながら,上記フック42とカバー11の最外周面との位置関係 については,甲63には記載されておらず,何らの示唆もされていな い。
この点,原告は,図1において,取付板10の挿通孔24の位置がカ バー11の外方側面よりも内側に設けられていることから,上記フック 42はカバー11の最外周面よりも内側に設けられている旨を主張す る。しかし,甲63の上記図面が,特許出願の願書に添付された図面で あり,設計図面に要求されるような正確性をもって描かれているとは限 らないことは,甲1の場合(上記(ア))と同様である。そして,甲63 53 は,パチンコ機やスロットマシンのように異種の遊技機にも共通して用 いることができ,遊技者に対して種々のゲーム状態を報知することがで きる表示装置についての発明を開示するものであって(段落【000 7】,表示装置の筐体(取付板10やカバー11)についての発明を開 ) 示するものではないから,甲63の図面において,取付板10やカバー 11の詳細な構造についてまで正確に図示されているものと断ずること はできない。してみると,甲63の明細書中に何らの記載がないにもか かわらず,上記図面中の挿通孔24の位置のみから,フック42がカバ ー11の最外周面よりも少し内側に設けられている構成の存在を読み取 ることはできないというべきであり,原告の上記主張は採用できない。
したがって,甲63には,そもそも,部材を取り付けるための係止片 を当該部材の最外周面よりも少し内側に設ける構成が記載されていると はいえない。
(オ) 審判検甲1及び2について 本件審判において,審判検甲1及び2について行われた検証の結果を 記載した検証調書(甲61)によれば,審判検甲1は,1996年(平 成8年)8月に製造された「クランキーコンドル」という型式名のパチ スロ機,審判検甲2は,1997年(平成9年)2月に製造された「フ ローズンナイツ」という型式名のパチスロ機であり,いずれも矩形状で 環状に形成された枠体を有し,その枠体の外方側面より内側に係止片が 設けられていることが認められる(写真検甲1(7),(8),(11),(12), 写真検甲2(7),(8),(13),(14))。
しかし,これらのパチスロ機において,枠体の外方側面より内側に係 止片が設けられている理由については,上記検証の結果によっても明ら かではない。
(カ) 検討 54 以上によれば,原告が,「部材を取り付けるための係止片を当該部材 の最外周面よりも少し内側に設ける構成」が記載されているものとして 挙げる文献のうち,甲1及び63については,そもそもそのような構成 が記載されているとはいえない(なお,仮に,原告主張のとおり,甲1 及び63に上記構成が記載されていることを認めたとしても,これらの 文献には,甲16及び17と同様に当該構成が採用される理由について の記載や示唆はないから,後記の結論に変わりはない。 。
) 他方,甲16及び17には,上記構成が記載され,また,審判検甲1 及び2のパチスロ機も上記構成を有することが認められる。しかしなが ら,これらの文献の記載や本件審判における審判検甲1及び2の検証の 結果によっても,これらの装置等において上記構成が採用されている理 由は明らかではなく,結局のところ,当該構成の目的,これを採用する ことで解決される技術的課題及びこれが奏する作用効果など,当該構成 に係る技術的意義は不明であるというほかはない。
してみると,甲16及び17の記載や審判検甲1及び2の存在から, 上記構成がスロットマシンの分野において周知な構成であるとはいえる としても,その技術的意義が不明である以上,当業者がこのような構成 をあえて甲1発明に設けようと試みる理由はないのであって,甲1発明 に当該周知な構成を適用すべき動機付けの存在を認めることはできない。
したがって,甲1発明に上記周知な構成を適用し,相違点3-2に係 る構成とすることは,当業者が容易に想到し得たこととはいえない。
イ 原告の主張について 原告は,以下のとおり,甲1発明に「部材を取り付けるための係止片を 当該部材の最外周面よりも少し内側に設ける」構成を適用することの動機 付けの存在に関わる主張をするが,いずれも採用の限りではない。
(ア) 原告は,係止爪を有する係止片を挿入口に挿入して部材を係止する 55 構成では,当業者は,取付作業の容易性(周辺の他の部材との干渉がな いことなど),取付け後の見栄え(取付け後に表側から係止片や挿入口 が見えないようにすること)を考慮して,部材を取り付けるための係止 片を当該部材の最外周面よりも少し内側に設けることを検討するのが通 常である旨主張する。
しかし,部材を取り付けるための係止片を当該部材の最外周面よりも 少し内側に設けることにより,取付作業が容易になったり,取付け後の 見栄えがよくなったりすることを認めるに足りる証拠はなく,当業者が そうすることを検討するのが通常であることを示す証拠もない。
したがって,原告の上記主張は採用できない。
(イ) 原告は,「部材を取り付けるための係止片を当該部材の最外周面よ りも少し内側に設ける」構成は,取付けにおいて双方の部材間に隙間が 生じることを防ぐ構成であると容易に理解されるから,不正行為の防止 がパチスロ機等の技術分野において周知の課題であるなか,上記構成を 針金等による不正行為の防止のために採用することは当業者が容易に想 到し得たことである旨主張する。
しかし,前記ア(カ)で述べたとおり,上記構成についての記載が認め られる甲16及び17の記載や上記構成を有する審判検甲1及び2の検 証結果(甲61)によっても,これらの装置等において上記構成が採用 されている理由は明らかではなく,その技術的意義は不明なのであって, 上記構成について,「取付けにおいて双方の部材間に隙間が生じること を防ぐ構成であると容易に理解される」などと断じ得る根拠はなく,針 金等による不正行為の防止のために上記構成を採用することを当業者が 容易に想到し得たものと断ずべき根拠もない。
したがって,原告の上記主張も採用できない。
ウ 小括 56 以上のとおり,相違点3に係る本件特許発明1の構成のうち,相違点3 -2に係る構成は,甲1発明に原告主張の周知な構成を適用することによ り当業者が容易に想到し得たものであるとはいえない。
してみると,本件審決が相違点3に係る本件特許発明1の構成の容易想 到性を否定したことに誤りがあるとはいえない。
(2) 取消事由2の成否 以上によれば,相違点4について検討するまでもなく,本件特許発明1は 本件出願前に当業者が甲1発明等に基づいて容易に発明をすることができた ものとはいえないとした本件審決の判断に誤りがあるとはいえない。
また,そうである以上,本件請求項1を引用し,これに発明特定事項を付 加する本件請求項2及び5に係る本件特許発明2及び5についても,本件出 願前に当業者が甲1発明等に基づいて容易に発明をすることができたものと はいえないとした本件審決の判断に誤りがあるとはいえない。
したがって,原告主張の取消事由2には理由がない。
5 結論 以上によれば,原告主張の取消事由はいずれも理由がなく,本件審決にこれ を取り消すべき違法は認められない。
よって,原告の請求は理由がないから,これを棄却することとし,主文のと おり判決する。
追加
57 裁判官大西勝滋裁判官杉浦正樹58 (別紙1)本件訂正明細書の図面【図1】【図2】【図3】【図6】59 【図7】【図8】60 (別紙2)甲1の図面【図1】【図2】【図3】61 【図33】【図34】62 【図39】【図48】【図49】63 (別紙3)甲16の図面【第3図】64 (別紙4)甲17の図面【第1図】【第2図】65 (別紙5)甲63の図面【図1】【図2】66
裁判長裁判官 鶴岡稔彦