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事件 平成 28年 (ワ) 2818号 特許権侵害行為差止等請求事件

原告株式会社岡田製作所
同訴訟代理人弁護士 冨宅恵
同 西村啓
同補佐人弁理士 山嘉成
被告 P1
同訴訟代理人弁護士 山本健策
同 草深充彦
同補佐人弁理士 石川大輔
被告 株式会社日本アシスト
同訴訟代理人弁護士 山本彼一郎
裁判所 大阪地方裁判所
判決言渡日 2017/04/27
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1 被告株式会社日本アシストは,別紙物件目録記載の臀部拭き取り装置及びそれを用いた温水洗浄便座を製造してはならない。
2 原告の被告株式会社日本アシストに対するその余の請求及び被告P1に対する請求はいずれも棄却する。
-1-3 原告と被告株式会社日本アシストとの間の訴訟費用は,これを50分し,その47を原告の負担とし,その余を被告株式会社日本アシストの負担とし,原告と被告P1との間の訴訟費用は原告の負担とする。
4 この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。
事実及び理由
請求
1 被告らは,別紙物件目録記載の臀部拭き取り装置及びそれを用いた温水洗浄便座を製造,使用,販売,又は販売の申出をしてはならない。
2 被告らは,前項記載の臀部拭き取り装置を廃棄せよ。
3 被告P1は,原告に対し,1322万7600円及びこれに対する平成28年4月7日から支払済みまで年5%の割合による金員を支払え。
事案の概要
本件は,後記本件特許権を有する原告が,被告ら製造に係る別紙物件目録記載の臀部拭き取り装置が本件特許権に係る特許発明技術的範囲に属するとして,被告らに対し,特許法100条1項に基づき,同臀部拭き取り装置等の製造,販売及び販売の申出(以下「製造,販売等」という。)の差止め,同条2項に基づき同臀部拭き取り装置の廃棄を求めるとともに,被告P1に対し,特許権侵害不法行為に基づき,損害賠償として1322万7600円及びこれに対する不法行為の日の後である平成28年4月7日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年5%の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。
1 判断の前提となる事実(争いのない事実,並びに後掲各証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実) (1) 当事者 ア 原告は,介護・健康用品の製造,販売等を業とする株式会社である。
イ 被告P1は,P2の屋号で介護用の臀部拭き取り装置(ロボット便座)の研究・ 開発を行う者であり,原告の有する特許権のうち後記本件発明の発明者である。
ウ 被告株式会社日本アシスト(以下「被告日本アシスト」という。)は,被告P1と共同して温水洗浄便座を使用した臀部拭き取り装置の製造,販売を計画していた株式会社である。
(2) 本件特許 原告は,次の特許に係る特許権(以下,「本件特許権」といい,該特許の特許請求項1に係る発明を「本件発明1」,同請求項2に係る発明を「本件発明2」,同請求項3に係る発明を「本件発明3」,同請求項4に係る発明を「本件発明4」,同請求項5に係る発明を「本件発明5」といい,併せて「本件発明」という。)を,有している(甲 1,甲2)。
ア 登録番号 特許第5863081号 イ 発明の名称 臀部拭き取り装置 ウ 原出願日 平成22年9月16日 エ 分割出願日 平成27年10月27日 オ 優先日 平成21年9月17日(特願2009-215844) 平成21年12月16日(特願2009-285719) 平成22年3月1日(特願2010-44081) カ 登録日 平成28年1月8日 キ 特許請求の範囲 【請求項1】 トイレットペーパーで臀部を拭く臀部拭き取り装置であって, 前記トイレットペーパーで前記臀部を拭き取るための拭き取りアームと, 前記拭き取りアームを駆動させる拭き取りアーム駆動部とを備え, 前記拭き取りアーム駆動部は, 便器横で,前記拭き取りアームを前後に直線的に移動させるための前後駆動部と, 前記拭き取りアームを回動させて移動させるための回動駆動部とを含むことを特徴とする,臀部拭き取り装置。
【請求項2】 前記拭き取りアームは,前記トイレットペーパーを掴むための掴み先端部を含むことを特徴とする,請求項1に記載の臀部拭き取り装置。
【請求項3】 前記拭き取りアームは,前記拭き取りアームと前記掴み先端部とを連結する連結部を含み, 前記掴み先端部は,前記連結部の軸方向の中心からずれた位置に取り付けられていることを特徴とする,請求項2に記載の臀部拭き取り装置。
【請求項4】 前記掴み先端部は,取り外しが可能であることを特徴とする,請求項2に記載の臀部拭き取り装置。
【請求項5】 前記前後駆動部は,プーリーとベルトからなり, 前記回転駆動部は,モータからなることを特徴とする,請求項1〜4のいずれかに記載の臀部拭き取り装置。
(3) ロボット便座β ア 被告日本アシストは,厚生労働省障害者自立支援機器等開発促進事業の費用助成を受けて別紙物件目録記載の臀部拭き取り装置(以下「ロボット便座β」という。)を,本件特許が登録される前である平成27年10月頃までに開発し製造した。
イ 本件発明1ないし同5とロボット便座βの構成の対比は,それぞれ別紙対比表(本件発明1)ないし同(本件発明5)のとおりであり,ロボット便座βの構成は,本件発明1ないし同5の構成要件をそれぞれ充足するものであるから(本件発明5との関係においては,本件発明1の構成要件すべてと構成要件K,Lからなる構成要件を充足する。),ロボット便座βは本件発明1ないし同5の技術的範囲に属す る。
(4) ロボット便座βの展示行為 被告らは,本件特許登録前に製造したロボット便座βを,以下のとおり展示等した。
ア 平成27年10月7日から9日にかけて東京ビッグサイトにおいて開催された「国際福祉機器展2015」において,出展者を被告日本アシストとしてロボット便座βが展示された。なお,同展示については,被告日本アシストが開設するウェブサイトの同月13日のブログのページにおいて,同展示時の様子を示すロボット便座βの外観写真とともに,同展示をしてきた旨の記事が掲載されていた(甲10)。
イ 平成28年1月21日,22日,岡山コンベンションセンターにおいて開催された「おかやま健康・介護フェア」において,出展者を被告日本アシストとしてロボット便座βが展示された(甲41,甲42)。
ウ 平成28年2月12日,TOC有明WESTホールにおいて開催された公益財団法人テクノエイド協会主催の「障害者自立支援機器「シーズ・ニーズマッチング交流会2015」」において,被告日本アシストを出展者としてロボット便座βが2台展示された。また,公益財団法人テクノエイド協会のウェブサイトの「障害者自立支援機器「シーズ・ニーズマッチング交流会2015」」のページには,平成28年1月15日以降,同交流会で展示予定の機器としてロボット便座βの外観写真が掲載されていた(甲7,甲8)。
エ 平成28年4月21日から同月23日にかけてインテックス大阪において開催された「バリアフリー2016」において,被告日本アシストが設置したブースにおいては,来客者に対し,タブレット端末を用いてロボット便座βの動作状況を示す動画が示された(甲37ないし甲40)。
2 争点 (1) ロボット便座βの展示による本件特許権侵害の成否(争点1) (原告の主張) 被告らは,上記第2の1(4)のとおり,ロボット便座βを展示したが,いずれの機会においてもロボット便座βが,平成28年8月に販売予定であることを説明等しており,そのほか価格の見込みであるとか,介護機器としての認定を受ける予定等の譲渡を前提とする説明をしている。
したがって,各展示会の趣旨が直接には商品の販売会でないとしても,被告らが「譲渡等のための展示」をしていたといえる。
(被告らの主張) 「譲渡等のための展示」とは,あくまでも特許製品の譲渡等(譲渡及び貸渡し)を目的とする展示を指すと解される。
これに対し,上記第2の1(4)の各展示会は,製品を販売する機会でないことはもとより,既に販売している製品を対象とするものではなく,現に展示されたロボット便座βは,まだ改良を要する段階の製品であって譲渡の対象となる製品でもない。
また,たとえば同(4)ウのTOC有明WESTホールにおける展示会の開催趣旨は,「開発や改良を行う機器の展示を行うとともに,障害当事者と企業・研究者,政府系の研究開発支援機関等が一堂に会し,体験や交流を通じて,良質な支援機器の開発,さらにはこの分野への新規参入の促進を図」るなどとされているものであって,このような各展示会への展示は「譲渡等のための展示」といえない。
(2) 差止請求及び廃棄請求の成否(争点2) (原告の主張) 被告らは,展示に用いた製造済みのロボット便座βから部品等を取り外したから,既にロボット便座βは存在しないと主張するが,被告らが取り外した駆動装置の部品は,いずれも市販されているものであり,当該部品を入手して再構成することは,極めて容易である。
さらに,被告らは,厚生労働省障害者自立支援機器等開発促進事業の費用助成を受けてロボット便座βを2台製造したところ,当該助成金返還を回避するために, 各ロボット便座βを廃棄しないと宣言し,現在においても各ロボット便座βが廃棄された状態ではないと主張しているから,被告らが上記助成金受領との関係で,再び,部品を取り外した状態のロボット便座βを,いずれも稼働できる状態,すなわち本件特許権を侵害する製品として製造する可能性がある。
したがって,被告らがなお本件特許権を侵害するおそれがあることは明らかであり,差止請求のみならず,廃棄請求も認められなければならない。
(被告らの主張) 特許権に基づく差止請求が認められるためには,現に(事実審の口頭弁論終結時までに)侵害行為がなされているか,または将来,侵害行為がなされるおそれがなければならない。
しかしながら,原告が問題とするロボット便座βの展示は過去に行われた行為であって現に行われているわけではない。
また,製造していたロボット便座βの2台のうち,1台は回動駆動部並びにこれを駆動させるのに必要なモータ及び配線等が取り外されているし,もう1台についても平成28年12月5日に回動駆動部が取り外されるなど改造が施され,現時点では,もはや「ロボット便座β」は存在しない。
したがって,ロボット便座βの製造,使用,販売及び販売の申出によって現に本件特許権が侵害されているわけではなく,かつ,将来,ロボット便座βの製造,使用,販売及び販売の申出によって本件特許権が侵害されるおそれも存在しない以上,原告の差止請求には理由がなく,またロボット便座βを対象とする廃棄請求にも理由がない。
(3) 原告の損害額(争点3) (原告の主張) ア 原告と被告P1は,本件発明の実施品である2013年型キレット試作品に関する製造委託契約を締結し,当該委託契約に基づき原告は被告P1に対して,平成25年3月11日から同年10月10日にかけて10回に分けて合計1355万 9251円を支払った。
イ 2013年型キレット試作品に関する製造原価は33万1651円であるところ,被告P1が実施品1台を製造するに当たって得る利益は1322万7600円であるから,この被告P1が得る利益は,被告P1による本件特許権の侵害により原告が受ける損害の額と推定される。
(被告P1の主張) ア 原告は,原告が被告P1との間の本件発明の実施品の試作品の製造委託契約に基づき被告P1に対し合計1355万9251円を支払ったこと,及び同試作品の製造原価が33万1651円であることを前提に,被告P1が本件発明の実施品1台を製造するに当たって得る利益は1322万7600円であり,同金額が原告の損害と推定される旨を主張しているが,これが本件特許権侵害による原告の損害と推定される理由は明らかでない。
イ 本件において,原告は,不法行為による損害賠償請求が認められるための要件である本件特許権侵害による損害の発生も,それが被告P1の本件特許権侵害行為と因果関係があることを主張立証しているわけではないし,仮に本件に特許法102条の各規定を適用してみたとしても,本件において問題とされるのは侵害品の展示行為だけであるから,同規定を適用したとしても損害の額を算定することはできないから,原告の被告P1に対する損害賠償請求は理由がない。
当裁判所の判断
事案に鑑み,争点2から判断する。
1 争点2について (1) ロボット便座βが本件発明の技術的範囲に属すること,被告らがロボット便座βを2台製造したことは当事者間に争いがない。
しかし,被告らが同便座をそれ以外に製造した事実は認められず,また上記第2の1(4)の展示会等で展示したものの,これをそのまま直ちに市販することを計画したり,これにつき介護機器の認定のための手続を進めたりしている事実をうかが わせる証拠はない。
加えて被告らは,本件において,ロボット便座βが本件発明の技術的範囲に属することを認め,今後製造しない旨を原告に対して表明しているくらいであるから,以上のような事実関係のもとでは,被告らが,今後,本件ロボット便座βを製造,使用,販売,又は販売の申出をするなどするおそれを認めることは困難といわなければならない。
(2) ただ被告日本アシストは,ロボット便座βの開発のために厚生労働省障害者自立支援機器等開発促進事業の費用助成を受けた関係で,助成対象となったロボット便座βの保存義務を課せられ(弁論の全趣旨),現に上記製造済み2台のロボット便座βを保管していたが,証拠(乙5,乙6)によれば,それにもかかわらず,本件訴訟係属中に,保存していた上記製造済み2台のロボット便座βにつき,うち1台については回動駆動部並びにこれを駆動させるのに必要なモータ及び配線等を取り外し,もう1台についても,回動駆動部を取り外してしまって,いずれももはやロボット便座βとはいえない状態にしていることが認められる。
被告日本アシストは,このように製造済みのロボット便座βを本件発明の技術的範囲に属しない状態にすることにより,展示等のおそれもないことをいわんとしているように考えられるが,上記状態では上記公法上の保存義務を果たしているといえないことは明らかであるから,むしろ,このことにより被告日本アシストには,関係官庁から保存義務を果たしていることの確認を求められた場合に,上記状態のロボット便座βに取り外した部品を取り付けるなどして製品として完成させるおそれが生じているものといわなければならず,被告日本アシストが部品を取り外した状態のロボット便座βの部品を廃棄せずに所持していることも,そのような事態に備えていることを裏付けているといわなければならない。
そして,被告日本アシストが,上記保存義務を果たしていることをいうためにロボット便座β2台を再度完成させた場合,それは,その事業のためにするものとなるから,部品取り外し済みのロボット便座β2台を再度完成させるという限度で, 被告日本アシストには,ロボット便座βを業として生産するおそれがあるといわなければならない (3) したがって,原告の被告らに対するロボット便座βの製造販売等の差止請求は,被告日本アシストに対する関係で製造の差止めを求める限度で理由があるということになるが,上記(1)に説示したところによれば,同被告の関係では,これより進んで完成したロボット便座βを使用,販売,又は販売の申出をするおそれは認められない。また,上記保存義務を課せられない被告P1の関係では,上記(1)に説示したとおり,同人に対する製造販売等の差止請求には理由がない。
(4) 以上に加え,被告日本アシストに対する関係では廃棄請求も問題となるが,原告が被告日本アシストに求める廃棄請求の対象は,別紙物件目録で構成が特定されるロボット便座βであるところ,当該ロボット便座βは,上述のとおり本件発明の構成要件を充足する要件となる部品が取り外されてしまっているというものである。
そうすると,これがロボット便座βに製造され得るものであったとしても,被告日本アシストは,現在,廃棄請求の対象として特定されたロボット便座βを所有しているということはできないことになる。
したがって,原告の被告日本アシストに対するロボット便座βの製造差止請求には理由があるといえるものの,廃棄請求の対象となるロボット便座βを現在所有しているわけではないことから,ロボット便座βの廃棄請求は理由がないといわなければならない。
2 争点3について 原告は,被告らが,上記第2の2(3)のとおり,ロボット便座βを展示した行為を捉え,これが特許法2条3項1号の「譲渡等のための展示」に当たるとして,これによる本件特許権の侵害行為を理由に被告P1に対して損害賠償請求をしている(ロボット便座βが本件特許の技術的範囲に属すること,被告らがロボット便座βを2台製造したことは当事者間に争いがないが,その製造の時期は,本件特許が登 録される前であるから当該製造行為は本件特許権侵害を構成しない。)。
しかしながら,原告が損害と主張するところは,被告P1が原告との本件発明の実施品である2013年型キレット試作品に関する製造委託契約に基づき原告から支払を受けた金額から実施品製造に要した原価を控除した1322万7600円が損害額と推定するものであるが,その推定する根拠は明らかではなく,およそ当該支払がロボット便座βの展示行為と因果関係にある損害と認めることはできない。
そのほか,被告らによる展示が,「譲渡のための展示」であるとしても,被告らがこれにより利益を得た事実は認められず,また原告の営業に影響を及ぼした事実も認められない以上,原告において損害発生について的確な主張立証をなさない 本件において,そもそも原告に損害があったものと認定することはできない。
したがって,争点1の被告らによる本件特許権侵害行為,すなわちロボット便座βの展示が「譲渡のための展示」に該当するかどうかを判断するまでもなく,原告の被告P1に対する損害賠償請求には理由がない。
3 以上によれば,原告の被告日本アシストに対する請求は,ロボット便座β等の製造差止めを求める限度で理由があり,その余の請求はいずれも理由がないから,上記理由のある限度で認容し,その余の請求を棄却することとし,原告の被告P1に対する請求はすべて理由がないから,いずれも棄却することとし,訴訟費用の負担につき民事訴訟法61条,64条を適用して主文のとおり判決する。
追加
(別紙)物件目録製品名ロボット便座β但し,別紙図面に示し下記構成を有する被告ら製造にかかる臀部拭き取り装置1図面の説明図1臀部拭き取り装置1の機能的構成を示すブロック図。
図2上記装置1の動作を示すフローチャート。
図3上記装置1の外観構造を示す斜め左前方からの斜視図。
図4上記装置1の外観構造を示す斜め右前方からの斜視図。
図5上記装置1の外観構造を示す斜め右後方からの斜視図。
図6上記装置1の外観構造を示す斜め左後方からの斜視図。
図7筐体内に収容された内部機構を示す斜視図。
図8筐体内に収容された内部機構を示す平面図。
図9内部機構のみを示す斜め左前方からの斜視図。
図10内部機構のみを示す左側面図。
図11内部機構のみを示す斜め右前方からの斜視図。
図12内部機構のみを示す右側面図。
図13掴み先端部2aが開いているときの様子を示す内部機構の斜視図。
図14掴み先端部2aの近傍の拡大斜視図。
図15開いている掴み先端部2aにトイレットペーパー17aが載置されたときの様子を示す内部機構の斜視図(図2のS101に対応)。
図16拭き取りアーム2がトイレットペーパー17aを掴んだときの様子を示す内部機構の斜視図(図2のS101に対応)。
図17トイレットペーパー17aを掴んだ拭き取りアーム2が第1センサ9aの位置まで移動したときの様子を示す斜視図(図2のS102に対 応)。
図18トイレットペーパー17aを掴んだ拭き取りアーム2が回動して露出していくときの途中の様子を示す斜視図(図2のS103に対応)。
図19トイレットペーパー17aを掴んだ拭き取りアーム2が回動して露出した後の様子を示す斜視図(図2のS104に対応)。
図20トイレットペーパー17aを掴んだ拭き取りアーム2が回転して,臀部の前方位置を拭き取るときの様子を示す斜視図(図2のS105に対応)。
図21トイレットペーパー17aを掴んだ拭き取りアーム2が第4センサ9dの位置まで移動したときの様子を示す斜視図(図2のS106に対応)。
図22トイレットペーパー17aを掴んだ拭き取りアーム2の掴み先端部2aが上向きになって,肛門付近を拭き取るときの様子を示す斜視図(図のS109に対応)。
図23拭き取りアーム2の掴み先端部2aが開いて下向きになり,トイレットペーパー17aを捨てるときの様子を示す斜視図(図2のS112に対応)。
図24拭き取りアーム2の掴み先端部2aを水平にしたときの様子を示す斜視図(図2のS114に対応)。
図25拭き取りアーム2を臀部前方位置まで移動させたときの様子を示す斜視図(図2のS115に対応)。
図26拭き取りアーム2を約45度回転させたときの様子を示す斜視図(図2のS116に対応)。
図27図26の状態の後,拭き取りアーム2を収納したときの様子を示す斜視図(図119に対応)。
2符号の説明 1臀部拭き取り装置2拭き取りアーム2a掴み先端部(開閉部)2a-1固定開閉部2a-2可動開閉部2b連結部2cワイヤ2dスプリング3拭き取りアーム駆動部4前後駆動部4aギヤードモータ5第1のサーボモータ(回動駆動部)5aモータ5bエンコーダ5c回転軸6第2のサーボモータ(上下駆動部)6aモータ6bエンコーダ7第3のサーボモータ(ワイヤ牽引部)7aモータ7bエンコーダ7cワイヤ牽引部材8制御部9a第1センサ9c第3センサ9d第4センサ (注釈:第2センサは欠番)11プーリー12ベルト13移動台14回転台15筐体15a穴16嵩上げ部17ロール状のトイレットペーパー17a切断されたトイレットペーパー18便器19温水洗浄便座20パイプ21間隙3構造の説明以下の説明において,前後,上下,左右とは,図3に示す矢印で示した方向を指すものとする。
図3乃至図6に示すように,臀部拭き取り装置1は,筐体15内に,その内部機構を備えており,筐体15から温水洗浄便座19の下部側に伸びている嵩上げ部16を有する。
嵩上げ部19は,便器18と温水洗浄便座19との間に設置されるようになっている。嵩上げ部19は,温水洗浄便座19の後部の温水洗浄装置の下部にのみ設けられており,便座の下部には設けられていない。これによって,便器18と温水洗浄便座19との間に間隙21が形成されることとなる。温水洗浄便座19に使用者が着座すると,温水洗浄便座19は,斜め前方に傾き,温水洗浄便座19の前端は,便器18と当接することとなるが,嵩上げ部19が存在するため, 温水洗浄便座19の後部から中ほどにかけての間隙21は,維持されたままとなる。当該間隙から,拭き取りアーム2が露出することとなる。
筐体15は,ロール状のトイレットペーパー17を載置できるようになっており,筐体15に設けられた穴15aから,筐体15内部に,トイレットペーパー17を送り込むことができるようになっている。
図7及び図8に示すように,筐体15内部には,拭き取りアーム2を駆動させるための内部機構が収容されている。図9乃至図12に,内部機構の構造を示すと共に,図1に示すブロック図にて,内部機構の構成要素を示す。以下,図1及び図7乃至図12を参照しながら,内部機構の詳細を説明する。
臀部拭き取り装置1の内部機構は,拭き取りアーム2と,拭き取りアーム駆動部3と,制御部8と,第1センサ9aと,第3センサ9cと,第4センサ9dとを備える(図1参照)。拭き取りアーム駆動部3は,ギヤードモータ4a・プーリー11及びベルト12からなる前後駆動部4と,第1のサーボモータからなる回動駆動部5と,第2のサーボモータからなる上下駆動部6と,第3のサーボモータからなるワイヤ牽引部7とを備える(図1参照)。
前後駆動部4は,その回転軸がプーリー11と連結している。二つのプーリー11には,ベルト12がかけられている。便器側には,筐体に固定されたパイプ20が設けられており(図8参照),ベルト12がパイプ20の内部を貫通している。前後駆動部4が回転すると,プーリー11にかけられているベルト12が回転する。
回動駆動部5は,移動台13の上に設置されている(図9乃至図12参照)。
移動台13には,パイプ12が貫通している。移動台13は,ベルト12に固定されているため,前後駆動部4の回転に合わせて,パイプ20に沿って,前後に摺動できるようになっている。
回動駆動部5の回転軸5cには,回転台14が固定されている(図12参照)。
回転台14には,上下駆動部6及びワイヤ牽引部7が固定されている。回動駆動 部5が回転すると,回転台14が回動し,合わせて,拭き取りアーム2が回動するようになっている。
拭き取りアーム2は,切断されたトイレットペーパー17aを開閉して掴むための掴み先端部(開閉部)2aと,パイプ状の連結部2bとを有する。掴み先端部2aは,連結部2bの軸方向の中心からずれた位置であって,連結部2bの先端側に,略L字に折れ曲がるようにして取り付けられている。
上下駆動部6には,拭き取りアーム2の連結部2bが取り付けられている。上下駆動部6が回転すると,連結部2bは,その軸中心に回転することとなる。連結部2bが,その軸中心に正逆に回転することにより,軸中心からずれて位置に取り付けられている掴み先端部2aが上下に移動できるようになっている。
図13及び図14に,掴み先端部2aの詳細な構造を示す。図13及び図14に示すように,掴み先端部2aは,固定開閉部2a-1と,可動開閉部2a-2とからなる。固定開閉部2a-1には,可動開閉部2a-2を挿入するための穴が設けられている。当該穴には,スプリング2dが挿入されている。スプリング2dは,常に,可動開閉部2aが開く方向に力を加えている。可動開閉部2a-2には,ワイヤ2cが連結されている。ワイヤ2cは,連結部2d内を貫通している。ワイヤ2cが牽引されることによって,可動開閉部2a-2が閉じて,固定開閉部2a-1と可動開閉部2a-2との隙間が狭くなることとなる。一方,ワイヤ2cの牽引が緩められると,可動開閉部2a-2は,スプリング2dの力によって,開くこととなり,固定開閉部2a-1と可動開閉部2a-2とに隙間ができることとなる。
第1センサ9a,第3センサ9c,及び第4センサ9dによって,移動台13の位置が検出されるようになっている。なお,第1センサ9a,第3センサ9c,及び第4センサ9dについては,図1にのみ示すこととし,図7等では,図示を省略している。
第1センサ9aは,移動台13が臀部前方到着したことを検出できる位置に配 置されている。第3センサ9cは,拭き取りアーム2が肛門付近を拭き取ることができる位置に,移動台13が到着したことを検出できるように配置されている。
第4センサ9dは,第3センサ9cよりも少し後ろの位置であって肛門付近を拭き取ることができる位置に,移動台13が到着したことを検出できるように配置されている。すなわち,前から後にかけて,第1センサ9a,第3センサ9c,第4センサ9dの順に配置されている。
第1センサ9a,第3センサ9c,及び第4センサ9dの検出結果に基づいて,制御部8は,ギヤードモータ4aのオンオフ及び正逆回転を制御する。
第1乃至第3のサーボモータ5乃至7は,それぞれ,モータ5a乃至7aの回転角度を検出するためのエンコーダ5b乃至7bを含んでおり,エンコーダ5b乃至7bが検出した信号に基づいて,制御部8が,モータ5a乃至7aの回転角度を制御できるようになっている。
以下,図2を参照しながら,制御部8の動作を説明すると共に,合わせて,臀部拭き取り装置1全体の動きを図15乃至図27を参照しながら,説明する。なお,図2では,理解を容易にするために,臀部拭き取り装置1の動きを示した図15乃至図27を,ステップ番号と対応させて記載してある。
拭き取り開始が使用者によって指示されると,臀部拭き取り装置1の動作が開始する。
まず,ステップS101において,制御部8は,ワイヤ牽引部7を駆動させて,ワイヤ牽引部材7aを回転させ,ワイヤ2cの牽引を緩める。これによって,図15に示すように,掴み先端部(開閉部)2aが開いた状態となる。掴み先端部(開閉部)2aの上に,切断されたトイレットペーパー17aが載置される。制御部8は,図16に示すように,ワイヤ牽引部7を駆動させて,ワイヤ牽引部材7aを逆方向に回転させ,ワイヤ2cを牽引し,掴み先端部(開閉部)2aを閉じる。これによって,図16に示すように,トイレットペーパー17aが掴み先端部(開閉部)2aに掴まれることとなる。
次に,制御部8は,前後駆動部4を駆動させて,移動台13を,第1センサ9aの位置まで移動させる(ステップS102及び図17)。
第1センサ9aの検出後,制御部8は,回転駆動部5を回転させて,回転台14を回動させ,拭き取りアーム2を,間隙21を介して,温水洗浄便座19の下から,便器18側に露出させる。
(ステップS103並びに図18及び図19)。
次に,制御部8は,上下駆動部6を駆動させて,拭き取りアーム2の連結部2bを軸中心に正逆に反復回転させ,掴み先端部(開閉部)2aを上下させて,臀部の前方位置を拭き取る(ステップS105及び図20)。
臀部の前方位置の拭き取り後,制御部8は,前後駆動部4を駆動させて,掴み先端部(開閉部)2aを上向きにした状態で,移動台13を第4センサ9dの位置まで移動させて,肛門付近を拭き取る(ステップS106及び図21)。
次に,制御部8は,上下駆動部6を駆動させて,掴み先端部(開閉部)2aを下向きにし(ステップS107),前後駆動部4を駆動させて,移動台13を第3センサ9cの位置まで移動させる(ステップS108)。
第3センサ9aの位置まで移動した後,制御部8は,上下駆動部6を駆動させて,拭き取りアーム2の連結部2bを軸中心に正逆に反復回転させ,掴み先端部2aを上下させて,肛門付近を拭き取る(ステップS109及び図22)。
次に,制御部8は,前後駆動部4を駆動させて,掴み先端部(開閉部)2aを上向きにした状態で,移動台13を第4センサ9dの位置まで移動させて,肛門付近を拭き取る(ステップS110)。
肛門付近の拭き取り後,制御部8は,ワイヤ牽引部7を駆動させて,牽引を緩め,掴み先端部(開閉部)2aを開け(ステップS111),上下駆動部6を駆動させて,拭き取りアーム2の連結部2bを軸中心に回転させて,掴み先端部(開閉部)2aを下向きにして,トイレットペーパー17aを捨てる(ステップS112及び図23)。
排紙後,制御部8は,ワイヤ牽引部7を駆動させて,ワイヤ2cを牽引して掴 み先端部(開閉部2a)を閉じ,前後駆動部4を駆動させて,掴み先端部(開閉部)2aを下向きにした状態で,移動台13を第3センサ9cの位置まで移動させ(ステップS113),上下駆動部6を駆動させて,拭き取りアーム2の連結部2bを軸中心に回転させて,掴み先端部(開閉部)2aを水平にする(ステップS114及び図24)。
次に,制御部8は,前後駆動部4を駆動させて,拭き取りアーム2を臀部前方位置まで移動させ(ステップS115及び図25)回動駆動部5を駆動させて,,回転台14を約45度回転させ(ステップS116及び図26),さらに,前後駆動部4を駆動させ(ステップS117),回動駆動部5を駆動させて,回転台14を約45度回転させ,拭き取りアーム2を筐体15内に収納する(ステップS118)。
最後に,制御部8は,前後駆動部4を駆動させて,移動台13を移動させて,次の拭き取り指示までの待機状態となる(ステップS119及び図27)。
掴み先端部2aは,標準では11cmの高さとなっているが,個人差に対応するために,最短で8cm,最長で14cmの高さに変えられるように,取り外し可能となっている。
裁判長裁判官 森崎英二
裁判官 大川潤子
裁判官 田原美奈子