審判番号(事件番号) | データベース | 権利 |
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平成26ワ20319 特許権侵害差止等請求事件 | 判例 | 特許 |
平成27ワ28698 特許権侵害差止請求事件 | 判例 | 特許 |
平成27ワ28468 特許権侵害差止請求事件 | 判例 | 特許 |
平成27ワ22491 損害賠償請求事件 | 判例 | 特許 |
平成27ワ5869 特許権侵害行為差止等請求事件 | 判例 | 特許 |
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事件 |
平成
27年
(ワ)
11434号
特許権侵害行為の差止等請求事件
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原告A 同訴訟代理人弁護士 窪田英一郎 同 乾裕介 同 今井優仁 同 中岡起代子 同 石原一樹 同訴訟代理人弁理士 奥山尚一 同 補佐人弁理士森本聡二 被告株式会社ホムズ技研 同訴訟代理人弁護士 浦中裕孝 同 深沢篤嗣 同 唐澤新 同 千且和也 同 青木晋治 同 補佐人弁理士佐藤雄哉 |
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裁判所 | 東京地方裁判所 |
判決言渡日 | 2017/04/27 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 民事訴訟 |
主文 |
1 原告の請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 3 この判決に対する控訴のための付加期間を30日と定める。 1事 実 及 び 理 由第1 請求1 被告は,別紙物件目録記載の製品を製造し,販売し,譲渡し,貸渡し,輸出し,又は譲渡等の申出をしてはならない。 2 被告は,前項記載の製品を廃棄せよ。 3 被告は,原告に対し,2億0178万6060円及びこれに対する平成27年5月14日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要本件は,発明の名称を「骨折における骨の断片の固定のための固定手段装置」とする発明についての特許権を有する原告が,被告による別紙物件目録記載の各製品 (以下,併せて「被告製品」という。) の製造,販売,譲渡,貸渡し,輸出又は譲渡等の申出が原告の上記特許権を侵害すると主張し,被告に対し,@特許法100条1項に基づき,これらの行為の各差止めを,A同条2項に基づき,被告製品の廃棄を,B不法行為に基づく損害賠償金2億0178万6060円及びこれに対する不法行為後である平成27年5月14日(訴状送達日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。 1 前提事実(当事者間に争いがないか弁論の全趣旨から容易に認定できる事実)(1) 当事者ア 原告は,スウェーデン国に居住する個人である。 イ 被告は,整形外科,形成外科用インプラント及び手術用具の製造販売等を業とする株式会社である。 (2) 原告の特許権原告は,次の特許権(以下「本件特許権」といい,これに係る特許を「本2件特許」という。また,本件特許出願の願書に添付された明細書を「本件明細書」という。)を有している(甲1,2)。 ア 特許番号 第4917731号イ 発明の名称 骨折における骨の断片の固定のための固定手段装置ウ 出 願 日 平成13年7月31日エ 登 録 日 平成24年2月3日(3) 特許請求の範囲の記載本件特許に係る特許請求の範囲の請求項1及び4の記載は,次のとおりである(甲2。以下,請求項1及び4に係る発明をそれぞれ「本件発明1」及び「本件発明4」といい,これらを併せて「本件各発明」という。 。 )ア 請求項1骨折における骨の断片を固定するための固定手段としての装置であって,固定手段(1)は大腿骨頚部の骨折(4)における骨断片(2,3)を固定するための大腿骨頚部用の大釘であり,前記固定手段(1)は作動可能位置(B)にピン(7)を挿入するために後部が開口したスリーブ(5)を備え,前記スリーブ(5)は2つの対向する壁面(8,9),すなわち側面開口部(10)を有する第1縦方向壁面(8)と案内面(12)が斜め前方向に前記側面開口部(10)の先端部(13)まで延在する第2縦方向壁面(9)とにより細長い空間(6)が画定され,前記案内面(12)は,前記ピン(7)が,前記スリーブ(5)に対して前進方向に移動される際に,前記ピン(7)の湾曲前端部(7f)を案内して,前記ピン(7)の前記湾曲前端部(7f)が前記側面開口部(10)を介して出口に押出されるように形成された装置において,前記湾曲前端部(7f)に一番近接する前記ピン(7)は前方部(7a)を含み,前記ピン(7)が前記スリーブ(5)の作動可能位置(B)に存3在する際に前記前方部(7a)は,前記前方部(7a)の縦方向に直線状であり,また前記ピンの後方部(7e)から斜め前方向に方向づけられて前記湾曲前端部(7f)に至り,前記案内面(12)に近接する前記第2壁面(9)の前方部(9a)まで延在することを特徴とする装置。 イ 請求項4前記ピン(7)が前記作動開始位置(B)に存在する際に前記ピン(7)の前記湾曲前端部(7f)は前記側面開口部(10)に嵌め込まれることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の装置。 (4) 本件各発明の構成要件本件各発明を構成要件に分説すると,次のとおりである(以下,分説した構成要件をそれぞれの符号に従い「構成要件A」のようにいう。 。 )ア 本件発明1A 骨折における骨の断片を固定するための固定手段としての装置であって,B 固定手段(1)は大腿骨頚部の骨折(4)における骨断片(2,3)を固定するための大腿骨頚部用の大釘であり,C 前記固定手段(1)は作動可能位置(B)にピン(7)を挿入するために後部が開口したスリーブ(5)を備え,D 前記スリーブ(5)は2つの対向する壁面(8,9),すなわち側面開口部(10)を有する第1縦方向壁面(8)と案内面(12)が斜め前方向に前記側面開口部(10)の先端部(13)まで延在する第2縦方向壁面(9)とにより細長い空間(6)が画定され,E 前記案内面(12)は,前記ピン(7)が,前記スリーブ(5)に対して前進方向に移動される際に,前記ピン(7)の湾曲前端部(7f)を案内して,前記ピン(7)の前記湾曲前端部(7f)が前記側面開口部(10)を介して出口に押出されるように形成された装置に4おいて,F 前記湾曲前端部(7f)に一番近接する前記ピン(7)は前方部(7a)を含み,前記ピン(7)が前記スリーブ(5)の作動可能位置(B)に存在する際に前記前方部(7a)は,前記前方部(7a)の縦方向に直線状であり,また前記ピンの後方部(7e)から斜め前方向に方向づけられて前記湾曲前端部(7f)に至り,前記案内面(12)に近接する前記第2壁面(9)の前方部(9a)まで延在するG ことを特徴とする装置。 イ 本件発明4H 前記ピン(7)が前記作動開始位置(B)に存在する際に前記ピン(7)の前記湾曲前端部(7f)は前記側面開口部(10)に嵌め込まれるI ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の装置。 (5) 被告の行為被告は,遅くとも平成22年9月1日以降,被告製品を業として製造,販売している。 (6) 被告製品の構成要件充足性ア 被告製品の構成は,別紙物件説明書記載のとおりである(ただし,同説明書に記載がない「ピン前方部」の形状の詳細及び「第2壁面」との位置関係については,後述のとおり争いがある。 。 )イ 被告製品は,構成要件AないしE及びGを充足する。 (7) 本件特許の優先日より前に頒布された文献本件特許の優先日より前に,以下の文献が頒布されている。 ア 米国特許第4498468号公報(乙9の1及び2。以下「乙9公報」といい,同公報に開示された発明を,以下「乙9発明」という。)5イ 欧州特許第0064724B1号公報(乙10の1及び2。以下「乙10公報」といい,同公報に開示された発明を,以下「乙10発明」という。)ウ 米国特許第5971986号公報(乙11の1及び2。以下「乙11公報」といい,同公報に記載された発明を,以下「乙11発明」という。)エ 米国特許第3497953号公報(乙12の1及び2。以下「乙12公報」といい,同公報に開示された発明を,以下「乙12発明」という。)オ スウェーデン特許公告第431053号公報(甲20。以下「甲20公報」といい,同公報に開示された発明を,以下「甲20発明」という。)2 争点? 被告製品は本件各発明の技術的範囲に属するか(争点1)ア 文言侵害の成否(争点1−1)(ア) 構成要件Fの充足性(争点1−1@)(イ) 構成要件Hの充足性(争点1−1A)(ウ) 構成要件Iの充足性(争点1−1B)イ 均等侵害の成否(争点1−2)? 本件特許の無効理由の有無(争点2)ア 本件発明1に係る新規性欠如(争点2−1)イ 本件各発明に係る進歩性欠如(争点2−2)ウ 本件各発明に係るサポート要件違反(争点2−3)エ 本件各発明に係る明確性要件違反(争点2−4)オ 本件各発明に係る新規事項追加(争点2−5)? 損害額(争点3)3 争点に関する当事者の主張? 争点1(被告製品は本件各発明の技術的範囲に属するか)についてア 争点1−1(文言侵害の成否)について6(ア) 争点1−1@(構成要件Fの充足性)について≪原告の主張≫a 被告製品の形状(a) 被告製品2点を対象としたX線CT三次元測定機による断面形状測定試験(以下「原告測定試験」という。)の結果(以下「原告測定結果」という。甲16,17,19)によれば,上記対象製品の断面形状のピン前方部の側面の先端は,ピン後方小径部の側面よりも第2壁面側に約0.15ミリメートル寄っている。 (b) これに対し,被告は,写真(乙1ないし4),設計図面,製造工程及び被告の測定結果等によれば,被告製品のピンは後方部から前方部にわたって直線状であるなどと主張する。 しかしながら,上記写真は,本件特許の登録日より前に製造された製品の写真が含まれる上,いずれも不鮮明であってピン前方部とピン後方部の位置関係を読み取ることができない。また,被告が設計図面として提出した資料を見ても,ピンの大半の形状は不明である。さらに,被告の主張する製造工程はごく一部にすぎず,ピン湾曲前端部の立ち上がりの寸法がスリーブの内径よりも大きいため,ピンをスリーブ内に挿入する際に,ピン前方部を変形させて後方部に対して第2壁面方向に傾斜させる工程が存在するはずである。加えて,被告の実施した測定試験(以下「被告測定試験」という。)の結果(以下「被告測定結果」という。乙15)は,測定対象が市販の被告製品の出荷状態でのピンであるか不明であり,測定の前提とされた基準円筒の軸線が正しく定義されているとはいえず,測定精度に疑問もあるから,被告測定結果を信用することはできない。 したがって,被告の主張は理由がない。 b 構成要件Fを充足すること7(a) 本件発明1の作用効果は,@ピンが作動可能位置を離れ意図しない動作をすることを防ぐこと(以下「第1の作用効果」という。)及びAピンの端部において有利な湾曲が得られるようにすること(以下「第2の作用効果」といい,これらの作用効果を併せて「本件各作用効果」と総称する。)であるが,被告製品のピン前方部の第2壁面9への傾斜があれば,その傾斜の程度がわずかであったとしても,本件各作用効果を奏することができる。すなわち,ピン7の前方部7aが第2壁面9に向かって傾斜していれば,傾斜していない場合と比較して,上記前方部の先端から開始する側面開口部10に向かって湾曲するピン7の湾曲前端部7fの立上りの程度を大きく確保することができ,ピンがスリーブ内で回転しにくくなる結果,第1の作用効果を奏することができる。また,上記傾斜があれば,湾曲前端部7fが案内面12に接触する位置を側面開口部10からより遠い位置にすることが可能になり,第2の作用効果を奏することができる。 そして,上記aのとおり,被告製品のピン前方部は,ピン後方部の軸に対して傾斜し,ピン後方部の軸がスリーブの軸とほぼ平行な状態において,ピン前方部の第1壁面に面した平面状の側面および第2壁面に面した曲面状の側面がピンの先端方向に行くに従い,徐々に第2壁面に近付いているから,被告製品は,ピン前方部が「ピンの後方部(7e)から斜め前方向に方向づけられて」を充足する。 (b) また,「延在」は,文言上,「接触」を要求するものでなく,本件特許の特許請求の範囲及び本件明細書では,ピン7の前方部7aが第2縦方向壁面9の前方部9aに接触することを要求する場合には「接触」という文言が使用されている。例えば,請求項2は,請求8項1に「接触」する構成を付加した請求項1の独立項である。また,段落【0012】には,ピン7の前方部7aが第2縦方向壁面9の前方部9aに向かって延在する構成と,ピン7の前方部7aが第2縦方向壁面9の前方部9aと接触する構成が開示され,後者の構成が好適であるとされるにとどまり,「延在 」と「接触」の文言も使い分けられている。さらに,本件各作用効果の点からも,ピン7の前方部7aが第2縦方向壁面9の前方部9aに接触する必要はなく,本件明細書【図1】でも,本件各作用効果を奏する構成として,ピン7の前方部7aが斜め方向に上記前方部9aに向かって延在するにとどまる構成が開示されている。すなわち,ピン7の前方部7aのピン先端側の端が前方部9aの付近に位置していれば,ピン7とスリーブ5との間に存在する遊び等によって,ピン7の湾曲前端部7fが第2縦方向壁面9の側に移動しても,上記前方部7aが第2縦方向壁面9の前方部9aに当たって湾曲前端部7fの第2縦方向壁面9の側への移動が抑制又は軽減され,第1の作用効果は高まる。 また,ピン7は側面開口部10を介してスリーブ5の外に出る前に案内面12に十分接触してその大部分に対して滑ることができ,側面開口部10の外側においてピン7が有利な湾曲を得られ,第2の作用効果を得ることができる(段落【0030】参照)。 したがって,構成要件Fのピンの「前方部(7a)は…第2壁面(9)の前方部(9a)まで延在」とは,ピン7の前方部7aが第2壁面9の前方部9aに接触する必要はなく,ピン先端側の端が上記前方部9a付近に位置していれば足りると解すべきである。 そして,被告製品は,ピンが作動可能位置に位置する際,ピン前方部のピン先端側の端は第2壁面前方部の付近に位置しているから,被告製品は,「前方部(7a)は…第2壁面(9)の前方部(9a)9まで延在する」を充足する。 (c) 以上のとおり,被告製品は,構成要件Fを充足する。 ≪被告の主張≫a 被告製品の形状(a) 被告製品の写真(乙1ないし4)や設計図面(乙13の1ないし4,21の1及び2)によれば,被告製品のピンの湾曲前端部よりも後方側の部位は直線状であり,第2壁面という斜め前方向に方向づけられていない。また,被告製品の製造工程は,概ね,原材料となる円柱型の金属棒に対して外形の加工を行う工程,ピン中間部から前方部にかけて第1壁面側を切削する工程,ピンの湾曲前端部を曲げ加工する工程であるが,ピンの湾曲前端部よりも後方側の部位を第2壁面に向かって傾斜させる工程は含まれていない。さらに,被告が実施した2点の被告製品のピンに関する湾曲前端部より後方側の部位の平行度の測定結果(被告測定結果)によれば,被告製品のピンは,第1壁面方向にわずかに(最大約0.15ミリメートル)傾斜している。 したがって,被告製品のピン前方部は,ピンの湾曲前端部よりも後方側の部位が第2壁面に向かって傾斜していない。 (b) なお,原告測定結果(甲16,17,19)は信用できない。 甲16の測定については,同測定で用いられたX線CT三次元測定機は,被写体を走査して得たスライスデータをソフトウェアで積層して三次元データを取得するものであるが,取得に係る精度を判断する上で非常に重要なスライスデータの積層ピッチの値が不明であり,用いた測定機器やソフトウェアの計測精度も不明であるから,これらの測定をもって,0.15ミリメートルという極めて僅かな値の傾斜が存在したといえるか疑問である。また,甲17の測定は,10被告製品のピン及びスリーブにセロハンテープを貼り付けて固定して測定したものであり,固定方法が粗雑であって,製造誤差ともいえるような0.15ミリメートルという極めて僅かな傾きをも許さない厳密な精度で固定がされていたとはいえない上,ピンの先端部も固定されておらず,ピンとスリーブとの間の遊びにより,ピンがスリーブ内で自重によって傾くことも十分にあり得るなど,測定方法に重大な欠陥がある。さらに,甲19の測定については,用いられた機器の測定精度(約4μm)が被告測定試験で用いた機器の測定精度(最小0.3nm)より低い上,デジタル処理の過程でのデータ取得の正確性も疑問である。 したがって,原告測定結果はいずれも信用できず,これらをもって被告製品のピン前方部の形状を判断するべきではない。 b 構成要件Fを充足しないこと(a) 被告製品の形状は,上記a(a)のとおりであるから,被告製品は,「前記前方部(7a)は,…前記ピンの後方部(7e)から斜め前方向に方向づけられて」を充足しない。 (b) また,「まで」とは「時間・距離・状態・動作が継続し,次第に進み,至る地点・時点を表す」(乙6)ので,ピン7の前方部7aが第2壁面9の前方部9aに接触していない場合には,ピン7の前方部7aが「第2壁面(9)の前方部(9a)まで延在」しているとはいえない。なお,請求項1の構成の従属項である請求項2には,作動開始位置において,ピンの前方部が第2壁面の前方部と接触するという構成が加えられているが,一般に,独立項で記載した文言を従属項において異なる表現を用いて定義することは,出願実務上行われているから,請求項2の記載は,「まで延在」の解釈に影響しない。 11そして,第1の作用効果を奏するためには,通常時において,ピン7の湾曲前端部7fの先端が側面開口部10に達していること,ピン7の湾曲前端部7fが第2縦方向壁面9側に移動した際であっても,ピン7の前方部7aが第2縦方向壁面9の前方部9aに当たってピン7の湾曲前端部7fの先端が側面開口部10に引っかかった状態が維持されることが必要であるが,本件発明1に当該構成は規定されていないから,ピン7の前方部7aのピン先端側が第2壁面9の前方部9aの付近に位置するだけでは,ピン7のスリーブ5内における回転を抑制することができない。また,第2の作用効果を奏するためには,ピン7の外径とスリーブ5の内径の関係,ピン7の湾曲前端部7fの曲率半径や長さ,スリーブの開口部の大きさ,案内面の傾斜角度等他の要素を規定した上で,「案内面12の大部分に対して滑る」必要があるが,単にピン7の前方部7aが第2壁面9の前方部9aに向かって傾斜しているだけでは,「案内面12の大部分に対して滑る」ことはできず,上記前方部が第2壁面9の前方部9aに接触してはじめて,案内面12の大部分に対して滑ることができる。 このように,単にピン7の前方部7aが第2壁面9の前方部9aに向かって傾斜しているだけでは,本件各作用効果を奏することができないから,ピンの「前方部(7a)が…前記第2壁面(9)の前方部(9a)まで延在すること」とは,ピンの前方部が,作動可能位置において第2壁面の前方部に接触していることが必要である。 そして,被告製品は,上記a(a)で述べたとおり,作動可能位置において,ピン前方部が第2壁面の前方部に接触していないから,「前記前方部は(7a)は,…前記第2壁面(9)の前方部(9a)まで延在する」を充足しない。 12(c) なお,仮に,ピン前方部が第2壁面に接触していることが必要ではなく,後方部から第2壁面に向かって傾斜していればよいと解するとしても,「斜め前方向に方向付けられて」とは,本件明細書の実施例に記載されたものと同等の作用効果を奏することができる位置までピンの前方部が至っている必要がある。しかし,原告の主張するように,被告製品のピン前方部が第2壁面に向かって0.15ミリメートル傾斜しているとしても,少なくともこの程度の極めて微細な傾きをもって上記作用効果を奏することができる位置まで至っているとはいえないから, 前方部(7a)は…前記第2壁面「(9)の前方部(9a)まで延在すること」を充足しない。 (イ) 争点1−1A(構成要件Hの充足性)について≪原告の主張≫a 本件明細書には,「ピン7が作動可能位置Bに達した際に前記前端部7fは側面開口部10にきちんと嵌め込まれる。 (段落【001」3】)との記載があり,この状態を図示した図1では,ピン7は,ピン7の湾曲前端部7fが側面開口部10に引っかからない範囲内において,スリーブ5内を前後方向に移動させることができることが記載されていると解される。また,そもそも,作動開始位置Bにおいてピン7の湾曲前端部7fが側面開口部10に嵌め込まれる趣旨は,従来のハンソンピンにおける課題(ピンが側面開口部を通る出口を見つけられず,スリーブ内部で変形する危険性があるという課題)を解決することにあり(段落【0003】 ,同課題を解決する上で,ピン7と)スリーブ5との間に遊びが存在することは問題とならない。 したがって,構成要件Hの「嵌め込まれる」とは,「一切の遊びがなく嵌め込まれる」「身動きならない」状態であると解することにはならない。 13そして,被告製品のピン湾曲前端部はスリーブの側面開口部に引っかかっており,この状態では,ピンをスリーブ内でわずかしか回転させることができず,また,ピンを再度変形させることなくスリーブの後部開口部から引き抜くこともできないから,ピン湾曲前端部はスリーブの側面開口部に嵌め込まれており,被告製品は,構成要件Hを充足する。 b なお,被告は,本件明細書の記載(段落【0015】ないし【0017】)に基づき,「嵌め込まれる」とは「身動きならない」ことを意味すると主張するが,上記各段落から,ピン7はスリーブ5内において駆動器具等による外力を加えない限り「身動きならない」状態であるといったことを読み取ることはできない。 ≪被告の主張≫「嵌める」とは,「くぼみに入れて固定する。ある形のものに,ぴったり入れる,または,かぶせる」ことを意味する(乙8)。 また,本件明細書には,「ピン7が作動可能位置Bに配置されている際には,スリーブ5の外郭を越えた外側には突き出されない。 (段落」【0015】 ,) 「ピン7は,スリーブ5中の空間6に相対して設計されるため作動可能位置Bにおいて,前記スリーブ5に相対する前記空間6の外側へ意図せず移動しない。 (段落【0016】 ,」 ) 「ピン7は駆動あるいは作動器械15によりスリーブ5中を移動するように構成される。」(段落【0017】)との記載がある一方で,ピン湾曲前端部7fが側面開口部10に嵌め込まれた状態において,ピン7の湾曲前端部7fが側面開口部10に引っかからない範囲内においてピン7をスリーブ5内において前後方向に移動させることができるとの記載は存在しない。このように,本件明細書では,ピン湾曲前端部7fが側面開口部10に嵌め込まれた状態においては,ピン7がスリーブ5内において意図せず移14動しない,換言すれば,駆動器具等による外力を加えない限り「身動きならない」状態であると説明されている。 被告製品は,ピンが作動可能位置に位置する場合において,ピンの湾曲前端部はスリーブの開口部に挿入されているだけであり,「身動きならない」状態になっていないから,被告製品は,構成要件Hを充足しない。 (ウ) 争点1−1B(構成要件Iの充足性)について≪原告の主張≫上記(ア)≪原告の主張≫で述べたとおり,被告製品は本件発明1の技術的範囲に属するから,構成要件Iも充足する。 ≪被告の主張≫争う。 イ 争点1−2(均等侵害の成否)について≪原告の主張≫(ア) 構成要件Fについて仮に,構成要件Fの「第2壁面9の前方部9aまで延在する」について,ピン7の前方部7aが第2壁面9の前方部9aに接触する必要があると解するとしても,次のとおり,均等侵害が成立する。 a 第1要件(非本質的部分)について本件発明1は,作動可能位置にあるピンが意図せず動いたり,ピンを押し出すための作動器械の回転部材からの影響を受けてスリーブに対して逆になったり回転したりすることにより,作動可能位置から移動してしまう場合があり,ピンがスリーブの側面開口部から押し出された場合であっても,スリーブの周囲の骨物質に移動するピンの先端部が有利に湾曲した状態にならない場合があるとの課題を解決するために,請求項1記載の構成を採用し,作用効果(ピンが作動可能位置15を離れ意図しない動作をすることを防ぐこと(第1の作用効果)及び,ピンの端部において有利な湾曲が得られるようにすること(第2の作用効果))を奏するというものであるから,本件発明1の本質的部分は,上記各作用効果を奏する上で重要な部分であるピンの前方部が後方部から斜め前方向に方向づけられ,第2縦方向壁面の前方部に向かって延在している点にある。 仮に,構成要件Fの「第2壁面9の前方部9aまで延在する」の文言について,ピンの前方部7aが第2壁面9の前方部9aに接触する必要があると解すると,本件発明1と被告製品の相違点は,ピン7の前方部7aが第2壁面9の前方部9aに接触しているか否か,の点となるが,上記ア(ア)≪原告の主張≫で述べたとおり,上記接触の有無は上記各作用効果を奏するための必須の構成ではなく,上記相違点は,本件発明1の本質的部分ではない。 したがって,被告製品は,均等の第1要件を充足する。 b 第2要件(置換可能性)について上記aのとおり,ピン7の前方部7aが第2壁面9の前方部9aに接触するか否かは,本件発明1の各作用効果に関係せず,接触していない被告製品も,同様の作用効果を奏する。 したがって,被告製品は,均等の第2要件を充足する。 c 第3要件(置換容易性)についてピン7の前方部7aを第2壁面9の前方部9aに接触させるか否かは,当業者が適宜選択し得る事項であり,接触させない構成を採用することに特段の困難はない。 したがって,被告製品は,均等の第3要件を充足する。 d 第4要件(対象製品の容易推考性)について被告製品が,本件特許の優先日当時における公知技術と同一である16か,又は,当該公知技術から当業者が優先日当時に容易に推考できたものであることを示す事情は見当たらない。 したがって,被告製品は,均等の第4要件を充足する。 なお,被告は,被告製品につき,乙9ないし乙11の開示する発明をもって,本件特許の出願時における公知技術と同一又は当業者において容易に推考できたと主張するが,後記?ア・イ≪原告の主張≫のとおり,上記各発明に基づく新規性欠如及び進歩性欠如は理由がない。 e 第5要件(特段の事情)について本件明細書には,ピンの前方部7aが斜め前方向に第2縦方向壁面9の前方部9aに向かって延在する構成も開示されており(段落【0012】 ,出願人が,請求項1の文言から当該構成を特許請求の範囲)から除外したと客観的・外形的に認めることはできず,被告製品が特許請求の範囲から意識的に除外された等の特段の事情は見当たらない。 よって,被告製品は,均等侵害の第5要件を充足する。 (イ) 構成要件Hについて仮に,構成要件Hの「嵌め込まれる」が「身動きならない」状態になっていることと解するとしても,次のとおり,均等侵害が成立する。 a 第1要件(非本質的部分)について本件発明4の作用効果は,本件発明1の作用効果と同じである。 そして,本件発明4は,上記(ア)aで述べた従来技術の課題を解決するために請求項4の構成を採用し,上記各作用効果を奏するというものであり,本件発明4の本質的部分は,本件発明1の本質的部分(上記(ア)a)に加えて,「ピン7の湾曲前端部7fがスリーブ5の側面開口部10に引っかかっており,ピンのスリーブ内での回転が制限され,また,ピンをスリーブの後方開口部から引き抜くことができない状態にある」点にある。 17仮に,構成要件Hの「嵌め込まれる」の文言について,ピン湾曲前端部7fが身動きならない状態である必要があると解すると,本件発明4と被告製品の相違点は,ピン湾曲前端部7fが身動きならない状態である点となるが,ピン7の湾曲前端部7fが身動きならない状態であることは,上記各作用効果を奏する上で必須の構成ではないから,上記相違点は,本件発明4の本質的部分ではない。 よって,被告製品は,均等の第1要件を充足する。 b 第2要件(置換可能性)について上記aのとおり,ピン7の湾曲前端部7fが身動きならない状態であるか否かは,本件発明4の各作用効果に関係せず,被告製品のピン湾曲前端部はスリーブの側面開口部に引っかかっており,この状態は,ピンをスリーブ内でわずかしか回転させることができず,また,ピンを再度変形させることなくスリーブの後部開口部から引き抜くこともできないから,同様の作用効果を奏する。 したがって,被告製品は,均等の第2要件を充足する。 c 第3要件(置換容易性)についてピン7の湾曲前端部7fが身動きならない状態とするか否かは,当業者が適宜選択し得る事項であり,接触させない構成を採用することに特段の困難はない。 したがって,被告製品は,均等の第3要件を充足する。 d 第4要件(対象製品の容易推考性)について被告製品が,本件特許の優先日当時における公知技術と同一であるか,あるいは,かかる公知技術から当業者が優先日当時に容易に推考できたものであることを示す事情は見当たらない。 よって,被告製品は,均等の第4要件を充足する。 e 第5要件(特段の事情)について18被告製品が特許請求の範囲から意識的に除外された等の特段の事情は見当たらないから,被告製品は,均等侵害の第5要件を充足する。 ≪被告の主張≫(ア) 構成要件Fについて原告は,被告製品のピンが,第2壁面方向に傾斜していることを前提に,構成要件Fに関する均等侵害が成立すると主張するが,その前提に誤りがある。また,仮に,被告製品のピンが第2壁面方向に傾斜しているとしても,次のとおり,均等侵害は成立しない。 a 第1要件(非本質的部分)について本件発明1において,ピンの前方部が接触せず,単にピンの前方部が第2壁面に向かって傾いているだけでは,本件発明1の作用効果を奏することできない場合がある。そうすると,請求項1の「前記前方部(7a)は,・・・第2壁面(9)の前方部(9a)まで延在する」との構成,すなわち,ピン7の前方部7aが第2壁面9の前方部9aに接触する構成が,本件各作用効果を奏する上で必須であるから,上記当該構成が本件各発明1の本質的部分といえる。 したがって,本件発明1と被告製品の相違部分は,本件発明1の本質的部分であるから,被告製品は,均等の第1要件を充足しない。 b 第2要件(置換可能性)について上記aのとおり,ピンの前方部が,第2壁面の前方部に接触せず,単にピンの前方部が第2壁面に向かって傾いているだけでは,本件発明1の作用効果を奏することができない場合がある。また,ピンの前方部が第2壁面の前方部に接触しない被告製品では,ピンの前方部の傾斜によって,本件明細書の実施例と同等の作用効果を奏することはできない。 したがって,被告製品は,均等の第2要件を充足しない。 19c 第4要件(対象製品の容易推考性)について仮に,被告製品のピンが第2壁面に向かってわずかに傾斜しているとしても,後記?ア・イ≪被告の主張≫で述べるとおり,被告製品は,本件各発明に先行する発明(乙9発明,乙10発明及び乙11発明)の内容に照らせば,本件特許出願の出願時における公知技術と同一又は当業者がこれらから容易に推考できたものといえる。 したがって,被告製品は,均等の第4要件を充足しない。 d 第5要件(特段の事情)について本件明細書(段落【0012】)の記載は,@「向かって延在」という方向のみを規定した構成と,A「向かって延在」して「接触」するという「方向」と「終点」を規定した構成の2つを意味すると解される。しかしながら,本件明細書では,上記Aの意味を規定した構成のみが採用されているから,ピンの前方部が接触せず,単にピンの前方部が第2壁面に向かって傾いているだけの構成は,本件発明1の技術的範囲から意識的に除外されたといえる。 したがって,被告製品は,均等の第5要件を充足しない。 (イ) 構成要件Hについて本件発明4は,本件発明1を引用するものであるところ,被告製品は,上記(ア)のとおり,本件発明1の構成要件Fに係る均等侵害が成立しないから,構成要件Hについて,均等侵害が成立する余地はない。 (2) 争点2(本件特許の無効理由の有無)についてア 争点2−1(本件発明1に係る新規性欠如)について≪被告の主張≫仮に,構成要件Fにつき,ピン7の前方部7aが第2壁面9に向かって傾斜しているだけで良いと解すると,本件発明1は,米国特許公報第4498468号(乙9公報)に開示された発明(乙9発明)と同一となる。 20すなわち,乙9公報には,@骨折における骨の断片を固定するための固定手段(“fixing means”)としての装置,A固定手段(“fixing means”)が大腿骨頚部の骨折における骨断片を固定するための大腿骨頚部用の大釘(“spike”)であること,B固定手段(“fixing means”)が,ピン(“pin8”)を挿入するために後部が開口したスリーブ(“sleeve 2”)を備えること,スリーブ(“sleeve 2”)が,側面開口部(“side opening 7”)を有する第1縦方向壁面と,案内面(“inclined limit surface 6”)が斜め前方向に側面開口部(“side opening 7”)の先端部まで延在する第2縦方向壁面とを有し,これら第1縦方向壁面及び第2縦方向壁面により細長い空間 ( passage 3 ” が 画 定 さ れ る こ と , C 案 内 面 ( inclined limit“ ) “surface 6”)が,ピン(“pin 8”)がスリーブ(“sleeve 2”)に対して前進方向に移動される際に,ピン(“pin 8”)の湾曲前端部(“end portion9”)を案内して,ピン(“pin 8”)の湾曲前端部(“end portion 9”)が側面開口部(“side opening 7”)を介して出口に押出されるように形成されることが,開示されている。そして,“fixing means”は,本件発明1の「固定手段」に,“spike”は「大腿骨頚部用の大釘」に,“pin 8”は「ピン」に,“sleeve 2”は「スリーブ」に,“side opening 7”は「側面開口部」に,“inclined limit surface 6”は「案内面」に,“passage 3”は「細長い空間」に,“end portion 9”は「湾曲前端部」に,それぞれ相当する。したがって,乙9公報には,構成要件AないしE及びGが開示されている。 また,乙9公報のFIG.1には,ピン(“pin 8”)の前方部がピンの後方部から斜め前方向に方向づけられて湾曲前端部(“end portion 9”)に至り,案内面(“inclined limit surface 6”)に近接する第2縦方向壁面の前方部の付近に位置すること,及び,ピン(“pin 8”)の湾曲前端部(“end portion 9”)と省略箇所との間に直線状の部位(前方部)が存在21することが開示されている。したがって,乙9公報には,構成要件Fも開示されている。 以上のとおり,乙9発明は,本件発明1のすべての構成要件を備えているから,本件発明1は新規性を欠き,本件特許は,特許法29条1項3号及び123条1項2号に基づき,特許無効審判により無効にされるべきである。 なお,乙9公報に係る米国特許出願において優先権主張の基礎としたスウェーデン特許出願(甲20参照)や同出願を基礎とする優先権主張がされた欧州特許出願(乙10参照)は,いずれも別個独立の特許出願であるから,甲20公報や乙10公報の記載内容は乙9公報の解釈に影響しない。 ≪原告の主張≫本件特許は,乙9公報が主引用例として引用された上で,特許査定が行われている。 また,一般に,特許出願の願書に添付された図面にある技術的事項が開示されているか否かを判断するに際しては,単にその図面のみを見るのでは足りず,@当該技術的事項がどの程度明確に当該図面に描写されているか,A当該図面がどの程度の正確性をもって作成されたものであるか,B当該技術的事項が存在することを裏付ける記載が特許明細書中に存在するか否か,C当該技術的事項が周知技術又は技術常識であるか否か,といった事項を検討する必要がある。 この点,乙9公報のFIG.1では,一見,省略箇所の左側のピンの第2壁面に面した側面は,省略箇所の右側のピンの第2壁面に面した側面より,若干第2壁面側に寄っているように見えなくもないが,@ピンの前方部がピンの後方部よりもスリーブの第2縦方向壁面側に位置していることは,乙9公報のFIG.1に明確に描写されているとはいえず,A乙9公報のFIG.1は,ピン前方部から先端湾曲部にかけての形状を高度な正22確性をもって描写することを意図して作成されたものではなく,Bピンの前方部がピンの後方部よりもスリーブの第2縦方向壁面側に位置しているとの技術的事項の存在を裏付ける記載は乙9公報に存在せず,C当該技術的事項が周知技術又は技術常識であるともいえない。このように,乙9公報には,上記技術的事項,すなわち,構成要件Fの構成は開示されていない。 したがって,乙9発明によって本件発明1の新規性は否定されない。 イ 争点2−2(本件各発明に係る進歩性欠如)について≪被告の主張≫(ア) 本件発明1についてa 乙9発明に基づく進歩性欠如上記ア(被告の主張)で述べたとおり,乙9公報には,本件発明1の構成要件AないしE及びGが開示されている。 仮に,乙9公報のFIG.1において,ピン(“pin 8”)の前方部が「縦方向に直線状」であるか否かが不明であり,この点が本件発明1と乙9発明の相違点になるとしても,ピン(“pin 8”)が直線状の形状を有することは極めて一般的な構成である。 そうすると,乙9発明に接した当業者において,ピン(“pin 8”)の前方部を縦方向に直線状に形成し,構成要件Fの構成とすることは,容易に想起し得る。 したがって,本件発明1は,乙9発明によって進歩性を欠くから,本件特許は,特許法29条2項及び123条1項2号に基づき,特許無効審判により無効にされるべきものである。 b 乙10発明に基づく進歩性欠如(a) 乙10発明欧州特許第0064724号公報(乙10公報)には,@骨折に23おける骨の断片を固定するための固定手段(“fixing means”)としての装置,A固定手段(“fixing means”)が,大腿骨頚部の骨折における骨断片を固定するための大腿骨頚部用の大釘(“spike”)であること,B固定手段(“fixing means”)が,ピン(“pin 8”)を挿入するために後部が開口したスリーブ(“sleeve 2”)を備えること,Cスリーブ(“sleeve 2”)が,側面開口部(“side opening 7”)を有する第1縦方向壁面と,案内面(“inclined limit surface 6”)が斜め前方向に側面開口部(“side opening 7”)の先端部まで延在する第2縦方向壁面とを有し,これら第1縦方向壁面及び第2縦方向壁面により細長い空間(“passage 3”)が画定されること,D案内面(“inclined limit surface 6”)が,ピン(“pin 8”)がスリー ブ ( sleeve 2 ” に 対 し て 前 進 方 向 に 移 動 さ れ る 際 に , ピ ン“ )(“pin 8”)の湾曲前端部(“end portion 9”)を案内して,ピン(“pin 8”)の湾曲前端部(“end portion 9”)が側面開口部(“sideopening 7”)を介して出口に押出されるように形成されること,Eピ ン ( pin 8” の 湾 曲 前 端 部 ( end portion 9 ” が ス リ ー ブ“ ) “ )(“sleeve 2”)の側面開口部(“side opening 7”)に嵌め込まれることが,開示されている。 そして,乙10発明において,“fixing means”は,本件発明1の「固定手段」に,“spike”は「大腿骨頚部用の大釘」に,“pin 8”は「ピン」に,“sleeve 2”は「スリーブ」に,“side opening 7”は「側面開口部」に,“inclined limit surface 6”は「案内面」に,“passage 3”は「細長い空間」に,“end portion 9”は「湾曲前端部」に,それぞれ相当する。 したがって,乙10公報には,構成要件AないしE及びGが開示されている。 24(b) 乙11発明米国特許第5971986号公報(乙11公報)には,@ピン(“pin 15”)が前方部を含み,ピン( “pin 15”)がスリーブ(“rod 6”)の作動可能位置に存在する際に,ピン(“pin 15”)の前方部が直線状であること,Aピン( “pin 15”)がスリーブ(“rod 6”)の作動可能位置に存在する際に,開口( “opening12”)を介して導管(“conduit 10”)の外側に突出するものであるため,ピン(“pin 15”)の前方部がピン(“pin 15”)の後方部 か ら 斜 め 前 方 向 に 方 向 づ け ら れ て , 案 内 面 ( “second curvedramp end portion 26”)に近接する第2壁面(“bottom surface23”)の前方部まで延在することが開示されている。 そして,乙11公報のFig.1及び2には,乙11発明において,湾曲前端部に相当するピンの先端部分とスリーブの後端側において延出した部位(ピンの後方部)との間の部位(前方部)は,ピンがスリーブの作動可能位置に存在する際に,縦方向に直線状であり,ピンの後方部から斜め前方向に方向づけられて湾曲前端部に至り,案内面に近接する第2壁面の前方部まで延在することが開示されている。 したがって,乙11公報には,構成要件Fが開示されている。 (c) 容易想到性乙10発明及び乙11発明は,同一の技術分野に属し,かつ,機能及び用途が共通するから,当業者は,乙11発明の構成を考慮して乙10発明のピン(“pin 8”)を斜め前方向に傾斜させ,本件発明1の構成要件Fの構成とすることは容易に想到し得る。 したがって,本件発明1は,乙10発明によって進歩性を欠き,本件特許は,特許法29条2項及び123条1項2号に基づき,特25許無効審判により無効にされるべきものである。 (イ) 本件発明4についてa 乙9発明に基づく進歩性欠如(a) 乙9発明乙9公報に開示された内容は,上記ア(被告の主張)で述べたとおりであり,乙9公報には,構成要件AないしE及びGが開示されているが,作動開始位置において,ピン(“pin 8”)の湾曲前端部( end portion 9 ” が ス リ ー ブ ( sleeve 2 ” の 側 面 開 口 部“ ) “ )(“side opening 7”)に嵌め込まれるか否かが不明であり,この点において,乙9発明と本件発明4は相違している。 (b) 乙10発明乙10公報に開示された内容は,上記(ア)b(a)のとおりであり,ピンの湾曲前端部がスリーブの側面開口部に嵌め込まれる構成,すなわち,構成要件Hが開示されている。 (c) 乙12発明米国特許第3497953号公報(乙12公報)には,ピン(“engaging element 20,22”)が作動可能位置に存在する際に,ピン(“engaging element 20,22”)の湾曲前端部(“free ends20a,22a”)がスリーブ(“cylindrical body 16”)の側面開口部(“exit opening 16e,16f”)に嵌め込まれる構成,すなわち,構成要件Hが記載ないし示唆されている。 (d) 容易想到性作動開始位置において,ピンの湾曲前端部がスリーブの側面開口部に嵌め込まれる構成は,乙10公報や乙12公報に記載されているように,骨折における骨の断片を固定するための固定手段において極めて一般的な構成である。 26そして,乙9発明と乙10発明及び乙12発明とは,いずれも同一の技術分野に属し,かつ,機能及び用途が共通するものである。 そうすると,乙9発明に接した当業者において,乙10発明及び乙12発明に開示されたピンの湾曲前端部をスリーブの側面開口部に嵌め込ませるという構成を容易に想到することができる。 したがって,当業者は,乙9発明,乙10発明及び乙12発明を組み合わせることによって本件発明4の構成を容易に想到することができるから,本件発明4は,乙9発明,乙10発明及び乙12発明によって進歩性を欠き,本件特許は,特許法29条2項及び123条1項2号に基づき,特許無効審判により無効にされるべきものである。 b 乙10発明に基づく進歩性欠如(a) 乙10発明乙10公報に開示された内容は,上記(ア)b(a)のとおりであり,構成要件AないしE,G及びHが開示されている。 (b) 乙11発明乙11公報に開示された内容は,上記(ア)b(b)のとおりであり,構成要件Fが開示されている。 (c) 容易想到性上記(ア)bのとおり,本件発明1が乙10発明及び乙11発明に基づいて容易に想到できるものであり,本件発明4は,請求項1の従属項である請求項4に係る発明である。 したがって,当業者は,乙10発明及び乙11発明に基づいて本件発明4の構成を容易に想到することができるから,本件発明4は,乙10発明によって,進歩性を欠き,本件特許は,特許法29条2項及び123条1項2号に基づき,特許無効審判により無効にされ27るべきものである。 ≪原告の主張≫(ア) 本件発明1についてa 乙9発明に基づく進歩性欠如上記ア≪原告の主張≫で述べたとおり,乙9公報に接した当業者は,乙9公報のFIG.1に,省略箇所の左側のピンの第2壁面に面した側面が省略箇所の右側のピンの第2壁面に面した側面よりも第2壁面側に寄っているという技術的事項が開示されていると認識しないから,乙9公報に上記技術的事項ないし構成,すなわち,構成要件Fは開示されていない。 よって,当業者は,乙9発明に基づいて本件発明1の構成を容易に想到することはできないから,本件発明1は,乙9発明によって進歩性が否定されることはない。 b 乙10発明に基づく進歩性欠如(a) 乙10公報に構成要件Fが開示されていないことは当事者間に争いはない。そして,乙11公報には,「湾曲前端部7f」に相当する構成が開示されていないから,構成要件Fが開示されていない。 (b) また,この点を措くとしても,当業者において,乙10発明と乙11発明を組み合せる動機付けはない。すなわち,乙10発明と乙11発明のピンは,スリーブへの挿入方法,スリーブ内壁面に対して傾斜した箇所の有無,スリーブ内壁への接触の有無,ピン先端における湾曲の有無等,一見して形状が全く異なっているから,両発明を組み合わせることは容易でない。また,仮に,乙10公報に,ピン前端部以外はスリーブの内壁面に平行に構成されているピンが開示されているとしても,当該ピンの一部を傾斜させなくてはならない動機付けは見出せない。 28(c) したがって,本件発明1は,乙10発明及び乙11発明によって進歩性が否定されることはない。 (イ) 本件発明4についてa 乙9発明に基づく進歩性欠如(a) 上記(ア)aのとおり,乙9公報には構成要件Fの構成が開示されていないから,本件発明1を引用する本件発明4は,乙9発明に基づいて進歩性が否定されることはない。 (b) 乙10公報には,ピンの先端がスリーブの側面開口部に達しているように見えなくない描写があるが,当該描写の他に,ピンの先端がスリーブの側面開口部に達していることを示す記載はない。また,乙10公報に係る欧州特許の対応特許である米国特許に係る特許公報(乙9公報)や,これらの特許の優先権主張の基礎とされたスウェーデン特許(甲20公報)を見ても,ピンの先端は,スリーブの側面開口部に達する記載は見当たらない。 そうすると,乙10公報の上記描写は,何ら技術的事項を開示するものとはいえず,乙10公報に接した当業者も同様に理解する。 したがって,乙10公報には,上記技術的事項ないし構成が開示されていない。 また,乙10公報及び乙12公報には,本件各発明の課題や,当該課題を解決するためにピンがスリーブの側面開口部に嵌め込まれるという構成を採用することが,一切開示・示唆されていない。 (c) さらに,乙9発明と乙12発明は,ピンの固定方法という点において全く異なる技術思想を採用するものであるから,これらを組み合わせる動機付けはない。すなわち,乙12公報には,義歯を顎骨に固定するための保持具において,係合要素の後端部が作動部材の頭部18aに接合・固定されていることが開示されている。一方,29乙9公報には,駆動器具がスリーブに取り付けられる前,ピンの後端部は他の部材に接合・固定されていない。そうすると,仮に,上記係合要素が乙9発明におけるピンに対応するとしても,各後端部が駆動器具(乙9発明)ないし作動部材(乙12発明)に接合・固定されているかという点において,大きく相違している。 (d) 以上によれば,本件発明4は,乙9発明,乙10発明及び乙12発明によって,進歩性が否定されることはない。 b 乙10発明に基づく進歩性欠如上記(ア)bのとおり,本件発明1は,乙10発明及び乙11発明に基づいて進歩性が否定されないところ,本件発明4は,請求項1(本件発明1)の従属項である請求項4に係る発明である。 また,上記aで述べたとおり,乙10公報には,構成要件Hは開示されておらず,乙11公報にも構成要件Hは開示されていない。 よって,本件発明4は,乙10発明及び乙11発明に基づいて容易に想到することができるものではなく,これらの発明に基づき進歩性は否定されない。 ウ 争点2−3(本件各発明に係るサポート要件違反)について≪被告の主張≫本件明細書の記載(段落【0001】ないし【0003】及び【0005】)によれば,本件各発明の課題は,側面に開口部を有するスリーブと,スリーブの内部に収容されるピンからなり,ピンをスリーブに対して前進方向に移動させることでピンの湾曲した端部をスリーブの開口部から押し出し,押し出されたピンの湾曲した端部によって骨の断片を固定するタイプの固定手段において,ピンがスリーブの内部において意図せず動いて変形することを防ぎ,これによって,安定した骨の断片の固定を実現することである。また,本件明細書の記載(段落【0012】 【0020】 【0, ,30022】 【0025】 【0026】及び【0030】, , )によれば,上記課題を解決するための手段として,本件明細書【図1】の位置Bにおいてピン7を留まらせ,ピン7の前端部7fが案内面12の大部分に対して滑るようにするために,@ピン7の後方部7eが接触部7cを介して第2縦方向壁9と接触すること,Aピン7の前方部7aと中間部7dの間の接触部7bが第1縦方向壁面8と接触すること,Bピン7の前方部7aが第2縦方向壁面9の前方部9aと接触すること,Cピン7の前端部7fが側面開口部10とかみ合わされるようにすること,Dピン7をスリーブの内部空間の形状に対応したS字形状に形成することが必要とされている。 しかしながら,本件特許の請求項1には,少なくとも上記@,A,C及びDの記載はない。また,本件明細書には,ピンの後方部7eから湾曲前端部7fにわたって前方部7aが斜め前方向に一直線状に延びるというピンの全体形状と,前方部7aが第2壁面9の前方部9aに至る傾斜角度及び長さを有するという具体的な構成は記載されているが,第1縦方向壁面8側に接近することなく後方部7eから湾曲前端部(7f)にわたって一直線状に延びるピン形状については記載されていない。 そして,本件発明4は本件発明1を引用するものであることに照らせば,本件各発明は,発明の詳細な説明に記載された発明とはいえない。 よって,本件発明は,特許法36条6項1号に反するから,本件特許は,同法123条1項4号の規定により無効にされるべきものである。 ≪原告の主張≫従来の固定手段では,作動可能位置にあるピンが意図せず動いたり,ピンを押し出すための作動器械の回転部材からの影響を受けてスリーブに対して逆になったり,回転したりすることにより,作動可能位置から移動してしまう場合があり,ピンがスリーブの側面開口部から押し出された場合であっても,スリーブの周囲の骨物質に移動するピンの先端部が有利に湾31曲した状態にならない場合があるという課題があった。 本件各発明は,上記課題を解決するために,請求項1記載の構成を採用して,ピンが作動可能位置を離れ意図しない動作をすることを防ぎ(第1の作用効果),ピンの端部において有利な湾曲が得られるようにする(第2の作用効果)ものである。そして,当業者は,本件明細書の記載(段落【0012】 【0020】 【0030】, , )から,ピン7の前方部7aが後方部7eから斜め前方向に方向づけられて湾曲前端部7fに至り,案内面12に近接する第2縦方向壁面9の前方部9aまで延在するとの構成を備えることにより,ピン7がスリーブ5内で回転することが抑止されるという作用効果を奏すること,及び,湾曲前端部7fが案内面12に接触する位置が斜め前方向・延在構成を有しない場合と比較して,より側面開口部10から遠い位置(より第2縦方向壁面9に近い位置)となる結果,ピン7は側面開口部10を介してスリーブ5の外に出る前に案内面12に十分接触し,側面開口部10の外側においてピン7が有利な湾曲を得ることができるという作用効果を奏することを容易に理解できる。 したがって,当業者は,本件明細書の記載に基づき,上記課題を解決できると認識できるから,本件各発明はサポート要件に反しない。 エ 争点2−4(本件各発明に係る明確性要件違反)について≪被告の主張≫(ア) 請求項1の「作動可能位置(B)」について本件特許の請求項1には,「ピン(7)が前記スリーブ(5)の作動可能位置(B)に存在する際」を前提とした構成が規定されているが,請求項1では,「作動可能位置(B)」について何ら定義されていないため,「作動可能位置(B)」がどのような「位置」を意味するか不明であり,「ピン(7)」が「作動可能位置(B)」に存在することを前提とした構成を理解することができない。 32このように,本件発明1の範囲は不明確であるから,本件特許の請求項1は,特許法36条6項2号に反する。 (イ) 請求項1の「前記湾曲前端部(7f)に一番近接する前記ピン(7)は前方部(7a)を含み」について本件特許の請求項1には,上記文言が含まれているが,「湾曲前端部(7f)」は「ピン(7)」の一部であるから,「湾曲前端部(7f)に一番近接する前記ピン(7)」の意味は不明確であり,本件発明1の範囲が不明確となっている。 したがって,本件特許の請求項1及びこれを引用する請求項4は,特許法36条6項2号に反する。 (ウ) 請求項1の「前方部(7a)」について請求項1の記載からは,前方部7aが湾曲前端部7fに一番近接する部位であると特定することはできず,仮に,前方部7aが湾曲前端部7fに一番近接する部位であるという構成を特定することができるとしても,後方部7eの具体的な位置及び範囲が不明であり,本件明細書の記載を考慮しても,ピン(7)の前方部(7a)の具体的な位置及び範囲を特定することができず,本件発明1の範囲が不明確となっている。 したがって,本件特許の請求項1及びこれを引用する請求項4は,特許法36条6項第2号に反する。 (エ) 請求項1の 「前方部(7a)は,・・・第2壁面(9)の前方部(9a)まで延在する」について仮に,原告の主張するように,本件特許の請求項1の「前方部(7a)は,・・・第2壁面(9)の前方部(9a)まで延在する」を前方部7aのピン先端側の端が前方部9aの付近に位置していれば足り,前方部9aに接触する必要はないと解すると,第2壁面9の前方部9aに対してどの程度離間した位置までが「第2壁面(9)の前方部(9a)まで」33といえるかが不明確であり,本件各作用効果を奏することが可能な範囲を特定することはできず,本件発明1の範囲が不明確となる。 したがって,本件特許の請求項1及びこれを引用する請求項4は,特許法36条6項2号に反する。 (オ) 請求項4の「作動開始位置(B)」について本件特許の請求項4では,「作動開始位置(B)」について何ら定義されておらず,「作動開始位置(B)」がどのような「位置」を意味しているのかが不明である。この点,原告は,本件明細書における「作動可能位置」及び「作動開始位置」の語は,全て同義に解することができると主張するが,「作動可能」と「作動開始」の意味は明らかに異なるから,「作動可能位置」と「作動開始位置」を同義に解することはできない。 したがって,本件特許の請求項4は,特許法36条6項2号に反する。 ≪原告の主張≫(ア) 請求項1の「作動可能位置(B)」について「作動可能位置B」とは,ピン7の押出し作業を行う前の,当該作業を行うことが可能なピン7のスリーブ5内における位置を意味する,と解され,その意味する内容は明確である。 したがって,この点につき,明確性要件違反はない。 (イ) 請求項1の「前記湾曲前端部(7f)に一番近接する前記ピン(7)は前方部(7a)を含み」について本件明細書には,「前記前端部7fに近接するピン7の前方部7a」(段落【0012】)と記載されており,「湾曲前端部7fに一番近接するピン7は前方部7aを含み」とは,湾曲前端部7fがピン7の一部位であることを考慮すると,ピン7が前方部7aを含んでおり,湾曲前端部7fに一番近接するピン7の部位が前方部7aであることを意味する。 したがって,この点につき,明確性要件違反はない。 34(ウ) 請求項1の「前方部(7a)」について請求項1には,「湾曲前端部7fに一番近接するピン7は前方部7aを含み」と記載されているから,「前方部(7a)」はピン7の一部位であり,かつ,湾曲前端部7fに一番近接する部位であると理解できる。 また,「ピンの後方部7e」との文言は,請求項1にも記載されており,「前方部」及び「後方部」との文言も存することからすれば,前方部7aは後方部7eの前方に位置するピンの部位であると理解できる。 このように,「前方部7a」は,ピン7の一部位であり,湾曲前端部7fに一番近接し,かつ,後方部7eの前方に位置する部位であると解されるから,「前方部7a」が意味する内容は明確であり,この点につき,明確性要件違反はない。 (エ) 請求項1の「前方部(7a)は…第2壁面(9)の前方部(9a)まで延在する」について上記?ア(ア)≪原告の主張≫のとおり,「第2壁面9の前方部9aまで延在」しているとは,ピン7の前方部7aが第2壁面9の前方部9aに接触している必要はなく,ピン7の前方部7aのピン先端側の端が第2壁面9の前方部9aの付近に位置していれば足り,その意味する内容は明確である。 したがって,この点に関して,明確性要件違反はない。 (オ) 請求項4の「作動開始位置(B)」について請求項2には「前記作動開始位置B」との文言が含まれているのに対し,請求項1には「作動可能位置B」との記載があり,いずれにも「(B)」の符号が付されている。また,国際出願(PCT/SE2001/001684。乙5)に係る明細書(以下「PCT明細書」という。)では,「作動可能開始位置」及び「作動可能位置」は,いずれも,「ready position」という語が用いられている。そうすると,「作動開35始位置B」は「作動可能位置B」と同義であり,ピン7の押出し作業を行う前の,当該作業を行うことが可能なピン7のスリーブ5内における位置,すなわち,ピン7の押出し作業を行う前の,当該作業を開始することができるピン7のスリーブ5内における位置を意味すると解され,その内容は明確である。 したがって,この点について,明確性要件違反はない。 オ 争点2−5(本件各発明に係る新規事項追加)について≪被告の主張≫本件特許に係る請求項1及び10,並びに,本件明細書の記載(段落【0012】ないし【0016】)では,【図1】に示される「位置B」を表す用語として「作動可能位置」との用語が用いられているが,請求項2,4,5,7ないし9及び12ないし15並びに本件明細書の別の記載(段落【0020】 【0023】 【0024】及び【0030】, , )では,【図1】に示される「位置B」を表す用語として,「作動開始位置」との用語が用いられている。 この点,国際出願の明細書(PCT明細書)及び請求の範囲(以下,併せて「PCT明細書等」と総称する。)では,本件特許の明細書及び特許請求の範囲において「作動可能位置」及び「作動開始位置」という異なる定義を有する用語に訳出された部分が,いずれも「ready position」という同一の名称及び定義を有する用語で表記されている。そうすると,本件特許の明細書及び特許請求の範囲において「作動可能位置」及び「作動開始位置」という異なる名称及び定義を有する用語に置き換えて訳出することは,原文に存在しない新たな技術的事項を翻訳文に導入するものといえる。 したがって,本件特許の明細書等に記載された「作動可能位置(B)」及び「作動開始位置(B)」という事項は,国際出願の明細書,請求の範36囲又は図面に記載した事項の範囲内にないから,本件特許は,特許法184条の18,123条1項5号の規定により無効にされるべきである。 ≪原告の主張≫上記エ≪原告の主張≫(オ)のとおり,「作動可能位置B」及び「作動開始位置B」は,いずれも,ピン7の押出し作業を行う前の当該作業を行うことが可能なピン7のスリーブ5内における位置を意味する。 したがって,PCT明細書における「ready position」の語を「作動可能位置B」及び「作動開始位置B」の二通りに訳したことは,新規事項の追加に当たらない。 (3) 争点3(損害額)について≪原告の主張≫被告は,早くとも平成22年8月頃から被告製品を販売し,平成27年1月末日までに販売した被告製品の売上高は11億7991万8000円を下らない。そして,本件特許の相当な実施料率は,少なくとも17パーセントを下らない。 よって,被告による本件特許権の侵害により原告が受けた損害額は,法102条3項に基づき,2億0058万6060円を下らない。 また,原告は,被告の不法行為により本件訴訟提起を余儀なくされたのであり,少なくとも120万円の弁護士費用相当額が同不法行為と相当因果関係を有する損害である。 よって,損害額は2億0178万6060円である。 ≪被告の主張≫否認ないし争う。 第3 当裁判所の判断1 争点1(被告製品は本件各発明の技術的範囲に属するか)について? 争点1−1(文言侵害の成否)について37ア 争点1−1@(構成要件Fの充足性)について(ア) 被告製品の形状について原告は,原告測定試験の結果等によれば,被告製品のピン前方部はスリーブの第2壁面方向に傾いている旨主張するのに対し,被告は,被告測定試験の結果等によれば,上記前方部が第2壁面方向に傾いているとはいえず,むしろ第1壁面方向に傾いている旨主張する。 そこで,被告製品のピンの形状につき,以下検討する。 a 後掲各証拠及び弁論の全趣旨によれば,被告製品の形状に関する測定試験の内容及び結果等は,次のとおりである。 (a) 原告測定試験原告から依頼を受けた埼玉県産業技術総合センターは,平成28年1月5日,X線CT三次元測定機「METROTOM 800」を用いて,被告製品2点(型番H801−0090,H801−0085。製造番号は,順に,H125255,H156029〔順に,「原告検体1」 「原告検体2」という。 )のピンの形状を測定, 〕した。具体的には,原告検体1については,スリーブ先端からピンの一部分が出ている状態で,発泡スチロールの箱にセットし,上記測定機内に入れて測定した。原告検体2については,スリーブとピンをセロハンテープで固定して(甲18写真?)発泡スチロールの箱に入れ,上記測定機内に入れて測定した(以上につき,甲16ないし18)。 上記測定で得られた測定データについて,ピン後方小径部を円筒測定した円筒軸を基準軸(X軸,Z=Y=0),ピン前方平坦部を平面測定した面の法線をX軸に直交する平面に投影した線をZ軸方向とする座標系を設定し,STLデータで出力して得られた断面データにより,原告検体1のピン前方部の側面の先端が,ピン後方小38径部の側面よりも約0.15ミリメートル,第2壁面側に寄っているとの結果が得られた(甲19)。 「METROTOM 800」は,主に,樹脂・ゴム・シリコン製品に対して,精密な寸法計測や形状測定を行うことが可能であり,その機械精度は,約4.0μmである(乙18)。また,原告対象品1の測定に係る解像度(積層ピッチ)は,0.050ミリメートルである(甲16)。 (b) 被告測定試験被告の依頼を受けた長野県工業技術総合センターは,平成28年6月22日,万能円筒形状測定器「Talyrond595」を用いて,被告製品2点(SBフィックス インナーピン 90mm。 製造番号は,H10Y29,H147033〔順に,「被告検体1」,「被告検体2」という。 )のピンの形状に関する測定を実施した。 〕具体的には,検体を上記測定機に固定した上で,ピンの円筒軸線(中心軸)を測定した後,当該円筒軸線に対するピン前方部の平行度が測定された(@ピンの後方側の大径部〔後方部から先端部への方向へ1ミリメートルから10ミリメートルのφ3.9円筒部分〕につき,2.25ミリメートル間隔で5か所の真円度を測定してピン後方大径部の円筒軸線を測定し,Aピンの後方側の小径部〔上記方向16ミリメートルから30ミリメートルのφ3.2円筒部分〕について,3.5ミリメートル間隔で5か所の真円度を測定してピン後方小径部の円筒軸線を測定し,Bピン湾曲前端部よりも後方側の平坦な部位の背面に接触式測定子を移動させてピン前方部の真直度を測定し,C上記@又はAの円筒軸線と上記Bの真直度を比較し,ピン後方部大径部又はピン後方小径部の円筒軸線に対するピン前方部の平行度が測定された。 。 )39上記測定の結果,@被告検体1について,ピン後方大径部に対するピン前方部の振れ幅が0.15764ミリメートル,ピン後方小径部に対するピン前方部の振れ幅が0.13689ミリメートル,A被告検体2について,ピン後方大径部に対するピン前方部の振れ幅が0.03434ミリメートル,ピン後方小径部に対するピン前方部の振れ幅が0.03540ミリメートルであり,いずれもスリーブの第1壁面方向に傾いているとの結果が得られた(以上につき,乙15の1及び2,16)。 万能円筒形状測定器は,製品の真円度(丸さ),円筒度,真直度,表面粗さなどを評価する装置であり,検出器分解能は,最小0.3nmである(乙17)。 (c) 設計図面(乙13の3,乙21の2)被告製品の設計図では,被告製品のピンは,ピンの湾曲前端部よりも後方側の部位が湾曲することなく直線状であり,スリーブの後方側の壁面に接触していないものとされていることが図示されている。また,上記設計図には,ピン前方部を第2壁面側に傾斜していることを示す記載は見当たらない。 (d) X線照射画像被告は,被告製品(型番H13Y017)を治具で固定し,ピンの先端がスリーブの案内面に接触した状態において,東芝製マイクロフォーカスX線CT装置(管電圧max225kV)を用いて,被告製品の側方からX線を照射して撮影した。 その結果,スリーブの側面開口部を上方に向けた状態では,ピンの湾曲前端部よりも後方側の部位が湾曲することなく直線状で,スリーブの後方側の壁面に接触することなく湾曲前端部に至っており,また,スリーブの側面開口部を下方に向けた状態では,ピン全体が40側面開口部側の壁面(第1壁面)方向にわずかに傾いていた(以上につき,乙4,7)。 b 上記a(a)及び(b)によれば,原告測定試験と被告測定試験の結果は相違しているため,それらの信用性について検討すると,被告製品のピンの断面形状に関する測定データが得られたのは,原告測定試験では原告検体1のみであるのに対し,被告測定試験では被告検体1及び2の2点である。また,原告測定試験によれば,原告検体2のピン前方部がスリーブの第2壁面の方に傾いているとの結果が得られたものの(甲17),当該測定におけるピン及びスリーブの固定方法はセロハンテープを用いたものであって微細な傾きを正確に判別できるほどの厳密な固定方法であるとは解し難く,上記a(d)のX線照射画像において,スリーブの側面開口部の向きによってピン全体の向きが異なる(特に,側面開口部側を下方にした場合には,当該側面開口部側の壁面(第1壁面)方向にわずかに傾いた)との結果が得られたことによれば,厳密に固定されていなければ,測定結果に自重による影響が生じることも否定できない。さらに,被告測定試験に用いられた測定機の精度は,原告測定試験で用いられた測定機の精度よりも高い。 このような事情に照らせば,被告測定結果の方が,原告測定結果より信用できるというべきであるから,原告測定結果に基づいて,被告製品のピンの形状を認定することはできない。そして,上記 a(c)及び(d)のとおり,被告製品の設計図やX線照射画像においても,被告製品のピンの前方部がスリーブの第2壁面方向に傾斜していることはうかがわれず,他に当該事実を認めるに足りる証拠はない。 以上によれば,被告製品は,ピンの前方部がピンの後方小径部の側面よりも第2壁面側に寄っているとは認められない。 c この点につき,原告は,被告製品の製造工程のうち,ピンをスリー41ブに入れる工程において,ピン前方部を第2壁面方向に塑性変形させ,第2壁面方向に湾曲させる工程が存在する旨を主張する。 しかしながら,被告製品の製造工程に関する報告書(乙14)においては,上記工程が存在することは指摘されていない。また,ピンとスリーブの形状や寸法の差異等の事情から,スリーブへの挿入前のピンの形状が挿入時に弾性変形することはあるが(被告準備書面 (6)別紙1),上記のような変形をもって,被告製品のピン前方部が第2壁面方向に湾曲させられているともいえない。そして,設計図(乙13の3)には塑性変形が生じること(挿入後,変形の一部が元に戻らないほどに変形すること)は示されておらず,他に,上記工程が存在すると認めるに足りる証拠はない。 したがって,原告の上記主張は採用できない。 (イ) 構成要件Fの充足性についてa 被告製品のピンの形状は,上記(ア)で述べたとおりであり,ピンの前方部がピンの後方小径部の側面よりも第2壁面側に寄っているとは認められないから,構成要件Fの「前方部(7a)は…ピンの後方部(7e)から斜め前方向に方向づけられて」を充足しない。 b なお,念のため,仮に,原告測定結果を採用し,被告製品の前方部がピンの後方小径部の側面よりも第2壁面側に約0.15ミリメートル寄っていると解した場合についても検討する。 (a) 本件明細書の記載・ 「本発明は,骨折における骨の断片の固定のための固定手段装置に関するものであり,その固定手段は好適には,大腿骨頚部の骨折における骨の断片の固定のための,大腿骨頚部用の大釘であり,さらにその固定手段は,ピンを作動可能位置に挿入するために後部が開口したスリーブを有しており,そのスリーブは,2つ42の対向する壁面,すなわち,側面に開口部を有した第1の縦方向壁面と案内面が斜め前方向に前記側面開口部の先端部まで延在する第2の縦方向壁面を有する細長い空間で画定され,前記案内面は,前方を,好適には前記ピンがスリーブに対して前進方向に移動される際に前記側面開口部を介して出口に押し出されるようピンの湾曲した端部を案内するように形成される。 (段落【000」1】)・ 「前述したタイプの固定手段は,スウェーデン国特許第431053号明細書(米国特許第4498468号明細書)(特許文献1および特許文献2)により公知であり,長年満足して実施されてきた。 (段落【0002】」 )・ 「しかしながら,ピンが側面開口部を通る出口をみつけられず,スリーブに対して間違った位置を占めたり,あるいは占めそうになると,スリーブ内部で変形する危険性が常にある。これはピンが意図せず動いたり,あるいは例えば駆動もしくは作動器械の回転部材からの影響を受けてスリーブに対し逆になったり,回転したりすることにより,作動可能位置から移動してしまうことに起因する。また,周囲の骨物質に移動するピンの前端部の部分が,有利に曲がった状態へ変形しない危険性がある。このことは,固定手段が意図する機能,すなわち骨の断片がお互いに対して安定して固定されるという機能を得られない危険性があることを意味する。また欠陥の設計によってピンの前端部が押し進む際に骨の断片を貫通する危険性もある。 (段落【0003】」 )・ 「本発明の目的は,この問題点を除去するためのものであり,前述の装置に後述の請求項1の特徴事項を設けることによって達成することができる。 (段落【0005】」 )43・ 「前記特徴事項を有する装置を提供することにより,ピンが作動可能位置を離れ意図しない動作をすることを防ぎ,および/または,ピンの端部において骨の断片の安定した固定が得られ且つ骨の断片を貫通するピンが減るような有利な湾曲状態を得ることができる。 (段落【0006】 。 」 )・ 「ピン7は,好適には湾曲した前端部7fを有する。この前端部7fは,案内面12により案内されるよう構成され,側面開口部10を介して空間6の外側に押し出され,隣接する骨断片3に進められる。 (段落【0011】」 )・ 「前記前端部7fに近接するピン7の前方部7aは斜め前方向に第2縦方向壁面9の前方部9aに向かって延在し,好適には,ピン7が作動可能位置B(図1参照)から,側面開口部10を介して外側に前端部7fを押出すために細長い空間6を更に移動できるような作動可能位置Bにある際に案内面12で前記前方部9aと接触するよう構成される。この作動可能位置Bにおいて,前記前方部7aとピン7の中間部7dの間の接触部7bは,側面開口部10の後方の第1縦方向壁面8と接触する。 (段落【001」2】)・ 「前述した実施態様及び図に示した実施態様により,ピン7はその前端部7fが周囲の骨物質2の中に移動し,押し込まれるまでこのように作動開始位置Bに留まっている。他の利点として,ピン7の前端部7fが移動している間案内面12の大部分に対して滑ることにより,前記ピンは側面開口部10の外側においてピンの全体もしくはほぼ全体の長さに沿って有利に湾曲した形状となることである。 (段落【0030】」 )(b) 本件各発明の意義及び作用効果44上記(a)の本件明細書の記載によれば,本件各発明は,骨折における骨の断片の固定のための固定手段装置に関するものである。従来技術(甲20発明,乙9発明)において,ピンが側面開口部を通る出口を見つけられずにスリーブ内部で変形する危険性,及び,周囲の骨物質に移動するピンの前端部の部分が有利に曲がった状態に変形しない危険性があった。 本件各発明は,これらの問題点を克服するために,請求項1の構成を備えることにより,@ピンが作動可能位置を離れ意図しない動作をすることを防ぎ,及び/又は,Aピンの端部において骨の断片の安定した固定が得られ,かつ,骨の断片を貫通するピンが減るような有利な湾曲状態を得られるとの作用効果を奏することができる。 (c) 「前方部(7a)は…ピンの後方部(7e)から斜め前方向に方向づけられて」の充足性について上記のとおり,本件発明1は,請求項1の構成を採用することによって従来技術の問題点を克服し,上記各作用効果を奏するとされているところ,構成要件Fを除く本件発明1の構成要件(AないしE及びG)の構成は,従来技術である乙9発明に開示されていると解される。そうすると,本件発明1の本質的部分は,構成要件Fであり,上記各作用効果を奏する構成は,構成要件Fに規定された構成であると解される。 上記のとおり,本件明細書(段落【0012】)には,上記各作用効果を奏するためには,ピン7の前方部7aが斜め前方向に第2縦方向壁面9の前方部9aに向かって延在することと記載されている。この点,特許請求の範囲やその他の本件明細書の記載を見ても,具体的な「斜め前方向」の角度や程度に関する記載は見当たらないが,ピン7が作動可能位置にある際に案内面12で第2縦方向壁面459の前方部9aと接触する構成が好適であるとされていること(段落【0012】)や従来技術の内容に照らせば,極めてわずかな程度の傾きがあるだけで,上記各作用効果を奏することできるとは解し難い。そして,原告測定結果における約0.15ミリメートルという傾きの程度は,製造誤差としても生じ得る程度の極めてわずかな程度であり,このような程度の傾きをもって,上記各作用効果を奏するとはいえず,原告もこの点について,積極的な説明をしていない。 したがって,被告製品は,構成要件Fの「前方部(7a)は…ピンの後方部(7e)から斜め前方向に方向づけられて」を充足しない。 イ 以上のとおり,被告製品につき,文言侵害は成立しない。 (なお,被告製品のピン前方部がピン後方部から斜め前方向に方向づけられていない点が,本件発明1と被告製品の相違点になる場合の均等侵害について,原告の主張はないが念のため検討しても,上記ア(イ)bによれば,上記相違点は本件発明1の本質的部分であるから,均等の第1要件を充足せず,均等侵害が成立する余地はない。)? まとめしたがって,被告製品は本件各発明の技術的範囲に属するとは認められない。 2 結論以上によれば,その余の点について検討するまでもなく,原告の請求はいずれも理由がないからこれらを棄却することとして,主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第47部46裁判長裁判官 沖 中 康 人裁判官 村 井 美 喜 子裁判官廣瀬達人は,差支えのため署名押印できない。 裁判長裁判官 沖 中 康 人47(別紙)物 件 目 録製 品 名 SBフィックスカタログ番号 以下の(1)ないし(11)のもの(1) H801−0065(2) H801−0070(3) H801−0075(4) H801−0080(5) H801−0085(6) H801−0090(7) H801−0095(8) H801−0100(9) H801−0105(10)H801−0110(11)H801−0115以上48(別紙)物 件 説 明 書1 被告製品は,大腿骨頚部骨折の治療のために用いる,骨折部位を固定するための医療機器である。 2 被告製品は,細長い金属製の棒であり,骨折した大腿骨に埋め込んで使用する。 被告製品は円筒形状のスリーブ(アウターピン)と,スリーブ内に挿入されている棒状のピン(インナーピン)とからなる。 スリーブ内は中空であり,細長い空間が存在する。スリーブの後部は開いており(後部開口部),被告製品の製造過程において,スリーブの後部開口部からピンをスリーブ内に挿入する。被告製品は,ピンがスリーブ内に挿入された状態で出荷・販売される。 3 出荷状態の被告製品? スリーブ先端付近の側面には,開口部(側面開口部)が存在する。 スリーブの内部では,側面開口部がある壁面(第1壁面)に対向する壁面(第2壁面)のスリーブ先端側の端から,第1壁面の側面開口部のスリーブ先端側の縁まで,傾斜面が形成されている。 ? 出荷状態の被告製品において,スリーブ内に挿入されているピンは,ピンの後方から中程に位置する円柱形状の部分(ピン後方部),中程から先端付近に位置する,円柱の片側を斜めに切り取ったような形状の部分(ピン前方部),および湾曲した前端の部分(ピン湾曲前端部)を有する。 ピン後方部は,スリーブの内径とほぼ同じ大きさの直径を有する円柱形状の部分(ピン後方大径部)と,ピン後方大径部よりもピンの先端寄りに位置し,ピン後方大径部よりも小さな直径を有する円柱形状の部分(ピン後方小径部)とからなる。ピン後方部の軸は,スリーブの軸とほぼ平行である。 ピン前方部は直線形状を有しており,ピン湾曲前端部は,第1壁面の側に湾49曲している。 ? ピンとスリーブとの間には遊びが存在し,ピンは前後左右に若干動くものの,ピン湾曲前端部がスリーブの側面開口部に引っかかるため,ピンはスリーブ内でわずかしか回転させることができず,また,ピンを変形させることなくスリーブの後部開口部から引き抜くこともできない。 4 大腿骨頚部骨折の治療のために被告製品を使用する際には,出荷状態の被告製品を,スリーブ先端が骨折部位を通過して大腿骨頭内に位置するようにスリーブを大腿骨に埋め込んだ上で,被告製品の後部に専用の機器(作動器械)を取り付け,当該機器を用いてピンを後方からスリーブ先端方向に押す。すると,スリーブ内部の傾斜面がピン湾曲前端部を側面開口部の方向に案内し,その結果,ピン湾曲前端部が側面開口部を通ってスリーブの外に押し出される。 図1: 被告製品の斜視図図2: 被告製品のピン(スリーブが無い状態)の斜視図以 上50 |
事実及び理由 | |
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全容
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