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事件 平成 28年 (ワ) 298号 特許権侵害差止等請求事件
平成 28年 (ワ) 2610号 債務不存在確認等請求事件
第1事件原告兼第2事件被告(以下「原告」という。) トップ産業株式会社
同訴訟代理人弁護士 平山博史
同 林裕悟
同 都筑康一 第1 事件訴訟代理人弁理士森治 第1事件被告兼第2事件原告(以下「被告」という。) 株式会社アーランド
同訴訟代理人弁護士 中村亮介 第1事件訴訟代理人兼第2事件訴訟復代理人弁護士 田中規平
同 網谷拓 第1事件補佐人弁理士 加藤久
裁判所 大阪地方裁判所
判決言渡日 2017/04/20
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 原告は,被告に対し,136万4000円及びこれに対する平成27年12月15日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
13 被告のその余の請求を棄却する。
4 訴訟費用は,第1事件についてはすべて原告の負担とし,第2事件については,これを20分し,その1を原告の負担とし,その余を被告の負担とする。
5 この判決は,第2項に限り,仮に執行することができる。
事実及び理由
請求
1 第1事件 (1) 被告は,別紙被告製品目録記載の製品を製造し,販売し,又は販売の申出をしてはならない。
(2) 被告は,前項の製品及びこれらを製造するための金型を廃棄せよ。
(3) 被告は,原告に対し,2598万5678円及びこれに対する平成28年2月2日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 第2事件 原告は,被告に対し,3488万6850円及びこれに対する平成27年12月15日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
事案の概要等
1 事案の概要 (1) 第1事件 本件の第1事件は,後記本件特許権を有し,その実施品である別紙原告製品目録記載のドラム式洗濯機用使い捨てフィルタ(以下「原告製品」という。)を製造販売する原告が,別紙被告製品目録記載のドラム式洗濯機用使い捨てフィルタ(以下「被告製品」という。)を製造販売等する被告に対し,下記請求をした事案である(ア,イは選択的請求(ただし,各(イ)の損害賠償請求については重複する期間の限度))。
記 ア(ア) 被告による被告製品の製造販売等の行為が本件特許権の侵害であることを 2 理由とする,特許法100条1項に基づく被告製品の製造販売等の差止請求及び同条2項に基づく同製品及び金型の廃棄請求 (イ) 平成27年11月13日から平成28年1月14日までの間の被告製品の製造販売等の行為が本件特許権の侵害行為であることを理由とする,68万8137円(弁護士・弁理士費用7万円を含む。)の損害賠償請求及びこれに対する不法行為の後の日である平成28年2月2日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金請求 イ(ア) 被告製品が原告製品の形態を模倣した商品であり,これを販売等する行為が不正競争防止法2条1項3号の不正競争に該当することを理由する,同法3条1項に基づく被告製品の製造販売等の差止請求及び同条2項に基づく同製品及び金型の廃棄請求 (イ) 平成27年3月1日から平成28年1月14日までの間の被告製品の販売等の行為が不正競争防止法2条1項3号の不正競争であることを理由とする,346万9875円(弁護士・弁理士費用33万円を含む。)の損害賠償請求及びこれに対する不法行為の後の日である平成28年2月2日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金請求 ウ 被告が原告の原告製品販売先に対して原告が不当に権利主張を行っている等の虚偽の事実を流布した不法行為に基づく2251万5803円(弁護士・弁理士費用207万円を含む。 の損害賠償請求及びこれに対する不法行為の後の日である )平成28年2月2日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金請求 (2) 第2事件 本件の第2事件は,原告が被告の取引先に対して被告製品を販売する行為が不正競争防止法2条1項3号の不正競争に該当する旨記載した書面を送付した行為が,被告の営業上の信用を害する虚偽の事実の告知行為として不正競争防止法2条1項14号(平成27年法律第54号による改正前のもの。現行同項15号。以下現行 3 法を指摘する。)の不正競争又は一般不法行為(民法709条)に該当することを理由とする,3488万6850円の損害賠償請求及びこれに対する不法行為の日の後である平成27年12月15日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金請求 2 判断の基礎となる事実(当事者間に争いがない事実又は後掲の各証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実) (1) 当事者 ア 原告は,オリジナル生活実用品(洗剤消耗品,家庭用品,収納用品,寝装寝具,和装用品,レジャー用品,健康用品,スポーツ用品,装飾インテリア用品,他)の企画開発・製造・販売,広告企画・制作等を業とする株式会社である。
イ 被告は,換気扇カバー,レンジフードフィルタ,その他アイデア商品の企画・製造・販売を業とする株式会社である。
(2) 原告の特許権 原告は,次の特許(以下「本件特許」といい,その請求項1に係る発明を「本件発明」という。)に係る権利(以下「本件特許権」という。)を有している(甲1,甲2)。
@ 特許番号 第5835786号 A 出願日 平成27年6月10日 B 基礎とした実用新案登録 実用新案登録第3195843号 C 原出願日 平成26年11月26日 D 新規性喪失の例外の表示 特許法30条2項適用 Q1生活協同組合チラシ(平成26年6月2日) E 登録日 平成27年11月13日 F 特許掲載公報発行日 平成27年12月24日 G 発明の名称 ドラム式洗濯機用使い捨てフィルタ H 特許請求の範囲 4 【請求項1】 ドラム式洗濯機の格子状に形成されたリントフィルタに装着して使用する使い捨てフィルタであって,リントフィルタの内面に沿って装着される矩形の通水性シートからなる本体部を備え,該本体部に,本体部の長手方向に断続するスリットを,本体部の幅方向に複数列形成してなることを特徴とするドラム式洗濯機用使い捨てフィルタ。
I 本件発明の効果 リントフィルタの内面に沿って装着される矩形の通水性シートからなる本体部を備えてなるようにすることにより,糸屑が使い捨てフィルタに捕集されてリントフィルタに絡み付くことがなくなるため,糸屑を捕集した使い捨てフィルタをリントフィルタから離脱させてそのまま廃棄することで,リントフィルタの掃除をすることができ,掃除をする際に手数を要することがなく,使用者の手や衣服を汚すという問題を解消することができる。
また,通水性シートによって,糸屑の捕集性能を向上することができ,糸屑が,捕集されることなく機外に排出されて排水経路を詰まらせたり,循環する洗濯水と共に回転ドラムに供給されるという問題を解消することができる。
そして,本体部に,本体部の長手方向に断続するスリットを,本体部の幅方向に複数列形成してなるようにすることにより,使い捨てフィルタの本体部を,ドラム式洗濯機の機種によって異なる形状をしているリントフィルタの内面に沿って安定して装着することができ,汎用性を高めることができるとともに,フィルタの通水性能を維持することができる。
(3) 本件発明の構成要件 本件発明を構成要件に分説すると次のとおりである。
A ドラム式洗濯機の格子状に形成されたリントフィルタに装着して使用する使い捨てフィルタであって, B リントフィルタの内面に沿って装着される矩形の通水性シートからなる本体 5 部を備え, C 該本体部に,本体部の長手方向に断続するスリットを,本体部の幅方向に複数列形成してなる D ことを特徴とするドラム式洗濯機用使い捨てフィルタ。
(4) 原告製品 原告は,原告製品を開発し,平成26年6月2日にQ1生活協同組合において販売を開始し,その後も,複数の生活協同組合を通して販売を行うなど,継続的に販売している。なお,原告製品の包装外観は,別紙原告製品目録記載の原告製品の包装画像(表側)及び同(裏側)のとおりである。なお,ドラム式洗濯機に装着する使い捨てフィルタは,被告製品が販売される前は原告製品だけであった。
(5) 被告の行為 被告は,遅くとも,平成27年1月頃には,原告製品を参考にして被告製品の製造,販売及び販売の申出を開始した。なお,被告製品の包装外観は,別紙被告製品目録記載の被告製品の包装画像(表側)及び同(裏側)のとおりである(乙30)。
(6) 原告による警告等 ア 原告は,平成27年6月11日頃,被告及び被告の取引先であるP1に対し,被告製品が原告製品の形態を模倣した商品であるとして,被告製品を販売する行為が不正競争防止法2条1項3号に該当するから,被告製品の販売の停止及び廃棄を求める旨を記載した「申入書」を内容証明郵便で送付した(以下,P1に対する送付行為を「本件告知行為」という。甲8,乙9)。
イ P1は,本件告知行為を受けたことを踏まえ,同月16日頃,被告との取引を中止する旨を被告に連絡した(乙12,乙13,乙31)。
ウ 上記アの「申入書」送付行為を認識していた被告の取引先であるP2は,同年7月17日,被告との取引を中止する旨を被告に連絡した(乙15)。
エ 被告は,平成28年2月から,被告製品とは異なる形状の,同種のドラム式洗濯機用使い捨てフィルタを販売するようになった(乙30)。
6 3 争点 (1) 被告製品は本件発明の技術的範囲に属するか(争点1) (2) 本件特許は特許無効審判により無効とされるべきものか(争点2) (3) 被告製品は原告製品の形態を模倣した商品といえるか(争点3) (4) 被告による特許権侵害又は不正競争による原告の損害額(争点4) (5) 被告による虚偽事実の流布による不法行為の成否(争点5) (6) 原告による被告の取引先に対する告知行為が不正競争防止法2条1項15号の不正競争又は不法行為を構成するか(争点6) (7) 被告の損害額(争点7)
争点についての当事者の主張
1 争点1(被告製品は本件発明の技術的範囲に属するか)について (原告の主張) (1) 被告製品の構成 被告製品の構成は以下のとおりである。
a ドラム式洗濯機の格子状に形成されたリントフィルタに装着して使用する使い捨てフィルタであって, b リントフィルタの内面に沿って装着される矩形の通水性シートからなる本体部を備え, c 該本体部に,本体部の長手方向に断続するスリットを,本体部の幅方向に複数列形成してなるとともに,該スリットに直交する横方向のスリットを形成してなる d ことを特徴とするドラム式洗濯機用使い捨てフィルタ。
(2) 本件発明と被告製品との対比 被告製品の構成a,b及びdは,本件発明の構成要件A,B及びDと同一であり,被告製品の構成cは,本件発明の構成要件Cに,単に「スリットに直交する横方向のスリット」を付加したものにすぎないから,これを充足するもので,被告製品の 7 構成は,本件発明の構成要件をすべて充足し,本件発明の技術的範囲に属する。
そして,被告製品は,本件発明と同等の効果を奏するものである。
(3) したがって,被告製品は,本件発明の技術的範囲に属する。
(被告の主張) (1) 被告製品の構成について 構成a,b,dについては認め,cは否認する。
構成cは,本体部の長手方向の上半分にのみ十字状のスリットを複数形成したものである。この形状では,原告製品に設けられたスリットが意図する機能を奏さず,また,そもそも,被告製品のスリットは,別の効果を意図して設けられたものである。
(2) 本件発明と被告製品との対比について 被告製品の構成a,b,dは,本件発明の構成要件A,B及びDとそれぞれ同一であることは認め,その余は否認する。
本件発明の構成要件Cは, 「使い捨てフィルタの本体部を,ドラム式洗濯機の機種によって異なる形状をしているリントフィルタの内面に沿って安定して装着することができ,汎用性を高めることができるとともに,フィルタの通水機能を維持することが出来る」との作用効果を奏するために設けられているものであるが,被告製品には,長手方向の上半分にのみ十字状のスリットが複数形成されており,本件発明とスリットの形状及び位置が異なり,それによって,本件発明の作用効果を奏さない。
(3) したがって,被告製品は,本件発明の技術的範囲に属しない。
2 争点2(本件特許は特許無効審判により無効とされるべきものか)について (被告の主張) (1) 本件発明の実施品である原告製品は,申込み提出日の初日が,本件特許出願の基礎とした実用新案登録された実用新案の出願日(原出願日・平成26年11月26日)より前の平成26年9月22日であるQ2コープ連合のチラシに掲載され 8 ており,そして現実に,被告が同年10月10日に掲載された原告製品を購入していることから,本件発明は,同日以前に公然実施されていたことは明らかである 。
また同様に,同年7月21日以前に発行された生活協同組合連合会Q3のチラシ,同年11月17日に発行された生活協同組合連合会Q4のチラシ,同年9月15日に発行された生活協同組合連合会Q5のチラシにも原告製品が掲載されている。
したがって,本件発明は特許出願前に公然と実施されたものであるから,本件特許は,特許法29条1項2号の無効事由を有し特許無効審判により無効にされるべきものである。
(2) 本件発明の原出願日より前に本件発明の実施品である原告製品をチラシに掲載し販売したQ2コープ連合,生活協同組合連合会Q3,生活協同組合連合会Q4,生活協同組合連合会Q5はそれぞれ独立した法人であり,各生活協同組合によって,取扱商品,及び商品の仕入れルートが異なっている。
したがって,Q1生活協同組合による原告製品の公然実施と,その後の各生活協同組合における原告製品の販売による公然実施はそれぞれ独立したものであって,密接に関連するものとはいえないから,後者の行為につき,特許法30条2項の規定の適用を受けない。
(原告の主張) (1) 被告が主張する公然実施の事実は,本件発明の出願人である原告が本件特許出願の基礎とした実用新案の出願手続の過程で行った実用新案法11条,特許法30条2項の規定に基づく手続によって担保されており,特許法29条1項2号に該当するに至らなかったものとみなされる。
したがって,本件特許には,特許法29条1項2号の無効事由はなく,特許無効審判により無効にされるべき旨の被告主張は失当である。
(2) 被告は,原告がQ1生活協同組合以外の全国の生活協同組合を通して原告製品を販売していること(被告が原告製品を購入したQ2コープ連合もその一つである。)が公然実施に当たる旨を主張しているが,これらの販売行為は,いずれも日本 9 生活協同組合連合会の傘下の生活協同組合を通しての一連の販売行為であって,発明の新規性の喪失の例外の規定の適用を受けるための手続を行った原告製品と実質的に同一の原告製品に係るものであり,かつ,手続を行った販売行為と実質的に同一の範疇にあり,密接に関連するものであるから,原告がした特許法30条2項の規定の適用を受けるための手続によって担保されている。
3 争点3(被告製品は原告製品の形態を模倣した商品といえるか)について (原告の主張) (1) 原告製品の形態及び被告製品の形態は,それぞれ,別紙原告製品目録及び別紙被告製品目録各記載のとおりである。
(2) 原告製品の形態及び被告製品の形態は,ドラム式洗濯機の格子状に形成されたリントフィルタに装着して用いる不織布性の使い捨てフィルタである点,長方形状の本体部と,長手方向の端部に突起部を一体に備えている点で共通している。
他方,両製品の形態は,詳細に観察すると,本体及び突起部の大きさに若干差異があり,さらに,スリットの配置,形状にも差異があるが,以下の事情に照らし,その需要者にとっては両製品を峻別することができる特徴とは到底いえず,また,ドラム式洗濯機用使い捨てフィルタとして,両製品以外の類似製品は存在せず,原告製品は独創的な製品であるといえるから,これらの点で,原告製品と被告製品の形態は実質的に同一といえる。
すなわち突起部の機能について,原告製品では明示されているのに対して,被告製品では具体的に明示されていないし,実際には,被告製品の「突起部」も「つまみ」として機能しているといえる。また両製品は,いずれも通信販売が販売形態の中心であり,@需要者は商品を手にとって詳細に観察することなく,専ら商品の用途のみを見て商品を購入する者もあること,A被告製品は,その説明において,上記差異については両製品を差別化できる明確な記載がなく,また,突起部の形状は,その包装の外観だけでは明確には判別できず,また,スリットの配置,形状については,製品を購入して手にとって詳細に観察してみなければその形態がわからない 10 こと,そして,そもそも,B両製品の上記差異は,両製品を並べて詳細に比較観察して初めて分かる程度の微差にすぎないものであることから,需要者は両製品を区別することなく購入していると考えられる。
(3) 被告は,原告製品に依拠して被告製品を製造したものであり,上記のとおり,被告製品の形態は原告製品の形態と実質的に同一であるから,被告製品は原告製品の形態を模倣した商品といえる。
(被告の主張) (1) 原告製品が,原告主張の商品の形態を有することは認めるが,その形態を概略すると,次のとおりである。
ア 長方形状の本体部を有する。
イ 長手方向の端部に突起部を一体に備えている。
ウ 本体部に多数のスリットが存在する。
(2) 原告製品の形態は,極めてシンプルなものであり,ドラム式洗濯機のリントフィルタに装着するものであるから,これにフィットする形態として本体を長方形にし,またフィルタ奥側の内面の汚れを防ぐために凸部を形成する必要があるものである。さらに,ドラム式洗濯機の排水部に設置するものであるから,水はけを考慮してスリットを形成することも想起されるから,ありふれた形態であるといえる。
したがって,原告製品の形態は,そもそも不正競争防止法2条1項3号により保護されない。
(3) 仮に,原告製品の形態が同号で保護される形態であるとしても,被告製品の形態と原告製品の形態は,実質的に同一とはいえない。
すなわち,原告製品の形態と被告製品の形態とは,次の共通点と相違点がある。
ア 共通点 @ ドラム式洗濯機の格子状に形成されたリントフィルタに装着して用いる不織布性の使い捨てフィルタであること A 長方形状の本体部と,長手方向の端部に突起部を一体に備えていること 11 B (その位置,長さ等はともかく)本体部にスリットが存在すること イ 相違点 @ 本体部の長手方向が,原告製品は170oであるのに対し,被告製品は160oであり,幅も原告製品は80oであるのに対し,被告製品は70oである点 A 突起部が,原告製品は台形状であるのに対し,被告製品は半円形状である点 B 原告製品は,長手方向,幅方向に間隔を置いて6列のスリットが形成され,両外側と中央の2列は同じ形状のスリットで,20oのスリットが長手方向に10oの間隔をおいて五つ形成され,他の2列のスリットは,35oの長さで15oの間隔をおいて三つ形成されているのに対し,被告製品は,スリットが十字状となっており,三段に二つずつ,計6箇所形成されている点 ウ 対比 原告製品と被告製品は,大きさが異なり,さらに突起部の形状が異なるため,被告製品の方が,原告製品よりも,丸みを帯びて柔らかい印象を与えるものとなっている。また,スリットの数,配置,形状も全て異なる。そして,これらの違いは,商品としての機能を高めるために加えた差異であり,その技術的意味,効果が原告製品とは異なる。
かかる差異からすれば,原告製品と被告製品の形態は,実質的に同一とはいえないので,被告製品は,原告製品を模倣した商品とはいえない。
4 争点4(被告による特許権侵害又は不正競争による原告の損害額)について (原告の主張) (1) 原告製品の粗利等 原告は,平成24年6月から10枚入り製品を,平成27年7月からは10枚入りに加えて20枚入り製品を販売している。原告の平成27年3月から同年11月までの10枚入り製品の販売個数合計は29万2187個(292万1870枚)であり,変動経費として仕入を差し引いた粗利は4055万7079円である。他方,平成27年7月から同年11月までの20枚入り製品の販売個数合計は553 12 5個(11万0700枚)であり,粗利合計は176万3836円である。
したがって,これにより計算すると,被告が販売を開始した平成27年3月から同年11月までの原告製品の粗利は1枚当たり13.955円である。
(2) 被告製品の販売数量 被告製品は,1個15枚入りで生活協同組合及びインターネットにて販売がなされているところ,いかに少なく見積もっても,平成27年3月1日から現在まで の被告製品の販売数量は,生活協同組合で1万個,インターネットで5000個の合計1万5000個を下回ることはない。このうち,平成27年3月1日から同年11月12日まで(257日)と同年11月13日から訴え提起日である平成28年1月14日まで(63日)を日割計算すると,前者が1万2047個,後者が2953個となる。
(3) 不正競争防止法5条1項,特許法102条1項の規定に基づく損害 平成27年3月1日から平成28年1月14日までの間の被告の不正競争による原告の損害額は,上記(1)で算出される1枚当たりの粗利13.955円に上記(2)の合計数量に15枚を乗じて得られる販売枚数22万5000枚を乗じて得られる額である313万9875円となる。うち被告の特許権侵害による損害と重複する平成27年11月13日から平成28年1月14日までの間の原告の損害額は,上記(1)で算出される1枚当たりの粗利13.955円に上記(2)の後者の数量2953個に15枚を乗じた販売枚数4万4295枚を乗じて得られる額である61万8137円となる。
(4) 弁護士・弁理士費用 上記被告の不法行為により,原告は原告訴訟代理人を訴訟代理人として委任し,本件訴訟を提起せざるを得なくなったが,かかる弁護士・弁理士費用のうち33万円は,被告の不正競争と因果関係がある損害に当たり,うち7万円は特許権侵害とも重複して因果関係のある損害である。
(5) 損害額合計 13 以上により,被告の不正競争により原告の受けた損害額の合計は346万9875円であり,うち平成27年11月13日から平成28年1月14日までの間の損害額68万8137円は,特許権侵害により原告の受けた損害と重複する。
(被告の主張) 原告の主張は争う。
5 争点5(被告による虚偽事実の流布による不法行為の成否)について (原告の主張) (1) 被告は,原告の有力な販売先であるQ6コープに対し,原告が不当に権利主張を行っている等の虚偽の事実を流布し,その結果,原告製品のみならず,原告の他の製品についても同社からの取引を制限され,売上額が前年同期の3分の1程度にまで取引が減少するに至った。
(2) 原告の主な取引先の一つであるQ6コープにおいては,被告の虚偽の事実の流布により取引を制限されたものであるところ,減少した利益の総合計は2044万5803円である。
(3) 弁護士・弁理士費用 上記被告の不法行為により,原告は原告訴訟代理人を訴訟代理人として委任し,本件訴訟を提起せざるを得なくなったが,かかる弁護士・弁理士費用のうち207万円は,被告の上記不法行為と因果関係がある損害である。
(4) 損害額合計 以上による原告の損害額の合計は2251万5803円である。
(被告の主張) 原告の主張は争う。
6 争点6(原告による被告の取引先に対する告知行為が不正競争防止法2条1項15号の不正競争又は不法行為を構成するか)について (被告の主張) (1) 原告は,平成27年6月9日,被告及び被告の取引先であるP1に対し,被 14 告製品の販売が不正競争防止法2条1項3号の不正競争に該当しないにもかかわらず,同号の不正競争に該当するとして,被告製品の販売停止及び被告製品の廃棄を求めた。
また,原告は,P2が生活協同組合向けに行っている企画の中で,被告製品を取り扱っていることを知るや否や,生活協同組合に対し,被告の権利侵害を理由として,P2の企画中,被告製品の購入はすべきでないとの要望を行い,その結果,P2による被告製品の取扱いを断念させた。
(2) 原告のかかる行為は,被告の「営業上の信用を害する虚偽の事実を告知」する行為(同項15号)に当たり,また,被告の営業上の信用,被告製品の社会的評価という法的保護に値する利益を害する行為として不法行為も構成する。
(原告の主張) (1) 原告が,P1に対して被告製品の販売停止及び廃棄を求めたこと,P1が被告製品の納入を取りやめたことは認めるが,その余の行為については,当該生活協同組合が特定されておらず認否できない。
(2) 上記3(原告の主張)のとおり,被告製品は原告製品の形態を模倣した商品であるから,本件告知行為は虚偽の事実の告知ではなく,また不法行為を構成しない。
7 争点7(被告の損害額)について (被告の主張) (1) 原告による被告の取引先に対する虚偽の事実の告知行為により,被告は,P1さらには生活協同組合に製品を納入しているP2からも,被告製品の納入を取り止められ,これによって,被告製品の販売が困難な状態となり損害を被った。
(2) 原告は,被告がQ6コープに被告製品を販売することが決定したことを把握し,自身が各地の生活協同組合におけるドラム式洗濯機用使い捨てフィルタの市場を独占し,競争上優位に立つことを目的として,十分な調査も行わないまま,何ら違法でない被告製品の販売につき, 「申入書」の送付に及んだものであり,その行為 15 には過失が認められる。
(3) 損害額 ア 取引上の損害 (ア) 主位的主張 原告は,平成27年9月からの1年間,1個当たり15枚入りの原告製品を毎月1万1500個販売した。
原告が原告製品を販売することにより受けた利益は1枚当たり13.955円である。
したがって,原告が上記期間に受けた利益の額は,上記期間の販売数量に原告製品1枚当たりの利益13.955円を乗じた2888万6850円であり,不正競争防止法5条2項の適用により,同額が被告の受けた損害の額と推定される。
(イ) 予備的主張の1 原告は,平成27年7月当時の被告の被告製品の在庫2万7742個相当の原告製品を販売した。
原告が原告製品を販売することにより受けた利益は1枚当たり13.955円である。
したがって,原告が上記数量の原告製品を販売することにより受けた利益の額は,上記数量に原告製品1枚当たりの利益13.955円を乗じた580万7094円であり,不正競争防止法5条2項の適用により,同額が被告の受けた損害の額と推定される。
(ウ) 予備的主張の2 原告は,被告が販売を予定していた1万4500個相当の原告製品を販売した。
原告が原告製品を販売することにより受けた利益は1枚当たり13.955円である。
したがって,原告が上記数量の原告製品を販売することにより受けた利益の額は,上記数量に原告製品1枚当たりの利益13.955円を乗じた303万5212円 16 であり,不正競争防止法5条2項の適用により,同額が被告の受けた損害の額と推定される。
(エ) 予備的主張の3 被告は,販売を計画していた1万4500個を原告の行為により販売することができなかったので,同販売により得られたはずの利益の額116万円(80円(被告製品1個当たりの利益)×1万4500個)が損害の額に当たる。
イ 無形損害 被告は,被告製品の開発に要した時間,コストだけでなく,生活協同組合向けの販路開拓のための営業活動も全てが無駄となったばかりか,他の形態の製品開発に多大な労力と時間を要した。また被告は,原告の告知行為により,被告にはほかにも模倣品があるのではないかとの誤解をもたれるなど,被告の商品全体に対する信用が低下し,生活協同組合関係者との取引において以前より多大な労力を要することとなり,新たな製品についても取引業者に権利侵害品でないなどと説明をするなどしてその対応に追われた。
これら無形的な損害を金銭的に評価すれば300万円を下らない。
ウ 弁護士・弁理士費用 被告は,本件訴訟に提起追行のため,弁護士・弁理士に依頼する必要が生じ,その費用として被告に生じた損害は300万円を下らない。
エ 合計 以上により被告の損害額は合計3488万6850円である。
(原告の主張) (1) 被告の主張は否認ないし争う。P1は,独自の判断で被告製品の販売を中止したもので因果関係はない。
(2) 被告は,ドラム式洗濯機用使い捨てフィルタというそれまで誰も商品化しなかった物を商品化した原告製品のアイデア及び機能的長所を模倣しようとして,原告製品に依拠し,原告が原告製品と実質的に同一と考えても無理ないほど似通った 17 被告製品を販売していたものであるから,原告が実用新案の出願を済ませ,その後一旦は特許として登録された経緯がある中においては,原告が本件告知行為等を行った点に故意,過失はない。
(3) 取引上の損害をいう被告主張は争う。
原告製品は,原告が全国の生活協同組合に対して販売活動を行ったことから累積販売数量が多くなっているが,生活協同組合単位でみれば,さほどの量が販売できるものではなく,Q6コープとチラシの配布部数が近いコープQ7で100個程度であり,被告の主張する原告製品の販売数量は,実態からかけ離れた何の根拠もないものである。
当裁判所の判断
1 争点2(本件特許は特許無効審判により無効とされるべきものか)について (1) 証拠(乙2の1ないし4)及び弁論の全趣旨によれば,本件発明の実施品である原告製品は,本件発明の原出願である実用新案の出願日(平成26年11月26日)より前である同年9月22日以前に,Q2コープ連合に対して納品され,またQ2コープ連合においてそのチラシに掲載されて販売され,さらに同年10月10日には,被告において市場で取得された事実が認められるから,本件発明は,出願前に日本国内において公然実施された (特許法29条1項2号)というべきことになる。
(2) 上記(1)の事由は,本件特許を特許無効審判により無効とすべき事由となるが,原告は,本件発明の原出願において原告が行った手続により,特許法30条2項に定める新規性喪失の例外が認められる旨主張する。
そこで検討するに,特許法30条2項による新規性喪失の例外が認められるためには,同条3項により定める,同法29条1項各号のいずれかに該当するに至った発明が,同法30条2項の規定を受けることができる発明であることを証明する書面(以下「証明書」という。)を提出する必要があるところ,証拠(甲3)によれば,原告は,本件発明の原出願(実願2014-6265,出願日:同年11月26日) 18 の手続において,同年12月2日,実用新案法11条,特許法30条2項に定める新規性喪失の例外の適用を受けるための証明書を提出した事実が認められる(特許法46条の2,44条4項の規定により,特許出願と同時に提出されたものとみなされる。 。
) しかし,同証明書は,公開の事実として,平成26年6月2日,原告を公開者,Q1生活協同組合を販売した場所とし,原告が一般消費者にQ1生活協同組合のチラシ記載の「ドラム式洗濯機用使い捨てフィルタ(商品名: 「ドラム式洗濯機の毛ゴミフィルター」 を販売した事実を記載しているだけであって, ) 上記Q2コープ連合における販売の事実については記載されていないものである。
この点,原告は,上記Q2コープ連合における販売につき,実質的に同一の原告製品についての,日本生活協同組合連合会の傘下の生活協同組合を通しての一連の販売行為であるから,新規性喪失の例外規定の適用を受けるために手続を行った販売行為と実質的に同一の範疇にある密接に関連するものであり,原告が提出した上記証明書により要件を満たし,特許法30条2項の適用を受ける旨主張する。
しかし,同項が,新規性喪失の例外を認める手続として特に定められたものであることからすると,権利者の行為に起因して公開された発明が複数存在するような場合には,本来,それぞれにつき同項の適用を受ける手続を行う必要があるが,手続を行った発明の公開行為と実質的に同一とみることができるような密接に関連する公開行為によって公開された場合については,別個の手続を要することなく同項の適用を受けることができるものと解するのが相当であるところ,これにより本件についてみると,証拠(乙16の1,2)によれば,Q2コープ連合及びQ1生活協同組合は,いずれも日本生活協同組合連合会の傘下にあるが,それぞれ別個の法人格を有し,販売地域が異なっているばかりでなく,それぞれが異なる商品を取り扱っていることが認められる。すなわち,上記証明書に記載された原告のQ1生活協同組合における販売行為とQ2コープ連合における販売行為とは,実質的に同一の販売行為とみることができるような密接に関連するものであるということはでき 19 ず,そうであれば,同項により上記Q1生活協同組合における販売行為についての証明書に記載されたものとみることはできないことになる。
(3) そうすると,上記(1)において認定したとおり,本件発明の実施品である原告製品は,その原出願日より前から公然販売されているというべきことになるのであるから,本件特許は新規性を欠く無効事由があるということになり,特許無効審判により無効とされるべきものと認められる。
(4) したがって,特許法104条の3第1項により,原告は被告に対し,本件特許権を行使することができないから,原告の被告に対する本件特許権侵害を理由とする請求は,その余の判断に及ぶまでもなく理由がない。
2 争点3(被告製品は原告製品の形態を模倣した商品といえるか)について (1) 原告製品及び被告製品の形態は,それぞれ別紙原告製品目録及び被告製品目録各記載のとおりであり,その形態の特徴を記載すると,別紙商品形態対比表の各欄記載のとおりである。
(2)不正競争防止法2条 1 項3号にいう「模倣する」とは,他人の商品の形態に依拠して,これと実質的に同一の形態の商品を作り出すことをいうところ(同条5項) 被告が原告製品を参考に被告製品を開発したことは争いがないので, , 本件においては両製品の形態が実質的に同一であるといえるかが問題となるが,両製品の形態が実質的に同一といえるためには,両製品の形態を対比し,全体としての形態が同一といえるか,または実質的に同一であるといえる程度に酷似していることが必要である。
(3) 原告製品と被告製品は,いずれもドラム式洗濯機のリントフィルタに装着して用いる不織布製の使い捨てフィルタであるが,その形態を対比すると,両製品 は@長方形状の本体部と,長手方向の端部に突起部を一体に備えていること,A本体部にスリットが存在することという基本的形態において,形態が同一であるということができる。
その一方,@原告製品は,本体部の長手方向が,170oであるのに対し,被告 20 製品のそれは160oであり,幅も原告製品は80oであるのに対し,被告製品のそれは70oである点,A突起部が,原告製品は台形状であるのに対し,被告製品は半円形状である点,B原告製品は,本体部分全体に,長手方向,幅方向に間隔を置いて6列のスリットが形成され,両外側と中央の2列は同じ形状のスリットで,20oのスリットが長手方向に10oの間隔をおいて五つ形成され,他の2列のスリットは,35oの長さで15oの間隔をおいて三つ形成されているのに対し,被告製品は,本体部分の長手方向の中ほどより上部にスリットが形成されており,当該スリットは十字状となっており,三段に二つずつ,計6箇所形成されている点等の細部において形態が異なることが認められる。
(4) 上記検討した両製品において同一といえる形態的特徴のうち,本体部の形態が長方形であるという点は,ドラム式洗濯機のリントフィルタに装着して用いる商品である原告製品及び被告製品にとっては,リントフィルタの内面に沿って装着するために必然的にもたらされる形態であるといえ,したがってこれは,その機能を確保するために不可欠なことであると認められる。また,もう一つの同一といえる形態的特徴である本体部にスリットが存在するという点も,本件発明の効果をもたらすことに直接関係した形態であることからすると(上記第2の2(2)I),これも両製品に共通する機能を確保するために不可欠な形態であるといえる。
したがって,これらの基本的形態で両製品の形態の同一性が認められたとしても,これによって両製品の形態が実質的に同一ということはできないというべきである(なお被告は,これらの形態の特徴をとらえて原告製品はありふた形態であって保護されないと主張するが,原告製品が市販される以前に,同種の製品が市場に存した事実は認められないから,商品の形態がありふれていることで保護されないわけではなく,機能確保に不可欠な形態として保護の限界が検討されるべきである。 。
) 他方,上記検討したとおり,原告製品と被告製品は,機能確保のため必要とされる形態的特徴以外の部分の細部における特徴的な形態というべき部分において形態の差異が多数あるというのであるから,両製品の形態が酷似しているとはおよそい 21 えず,結局,原告製品と被告製品は形態が実質的に同一であるとはいえないというべきである。
(5) これに対して原告は,両製品は主として通信販売されており,需要者が商品を手に取って詳細に観察することがなければ両者の違いを認識し得ないから,両製品の形態の差異は微細な差異で形態が実質的に同一であるということを妨げないように主張するが,不正競争防止法2条4項に「商品の形態」は「需要者が通常の用法に従った使用に際して知覚によって認識することができる商品の外部及び内部の形状並びにその形状に結合した模様,色彩,光沢及び質感をいう。」と定義されていることに明らかなように,本件で問題とすべき原告製品及び被告製品の形態とは,上記検討したような包装袋から取り出された商品そのものの形態であって,これと異なる前提に立つ原告の主張は失当である。
さらに,原告は,両製品の包装におけるチラシが共通することも指摘するが,原告製品及び被告製品は,包装と一体となって切り離し得ないものではないから,原告が指摘する包装のチラシは「商品の形態」とはいえず,原告の指摘は当たらない。
(6) 以上からすると,原告製品と被告製品とは,その形態が実質的に同一とはいえないから,被告製品は原告製品を模倣した商品とはいえず,被告が不正競争防止法2条1項3号の不正競争をしたことを前提とする原告の請求はその余の判断に及ぶまでもなく理由がない。
3 争点5(被告による虚偽事実の流布による不法行為の成否)について 原告は,被告が,原告の販売先であるQ6コープに対し,原告が不当に権利主張を行っている等の虚偽の事実を流布したことが不法行為であると主張する。
しかしながら,被告が流布したという虚偽の事実は具体的に主張されていないし,少なくとも本件で問題とされた原告がしている権利主張である本件特許権に基づく主張,あるいは被告の行為が不正競争防止法2条1項3号の不正競争に該当する旨の主張は,上記1,2で検討してきたところによれば,いずれも不当な権利主張ということができるから,そもそも被告が虚偽の事実を流布したともいえない。
22 したがって,原告の上記主張はいずれの点においても失当であり,これによる被告の不法行為を前提とする原告の被告に対する請求はその余の判断に及ぶまでもなく理由がない。
4 争点6(原告による被告の取引先に対する告知行為が不正競争防止法2条1項15号の不正競争又は不法行為を構成するか)について (1) 原告は,平成27年6月11日頃,被告の取引先であるP1に対し,被告製品は原告製品の形態を模倣した商品であり被告製品を販売する行為は不正競争防止法2条1項3号に該当するとして,被告製品の販売の停止及び廃棄を求める内容を記載した「申入書」と題する書面を内容証明郵便で送付している(本件告知行為)。
上記2のとおり,被告製品は原告製品の模倣商品でないから,上記「申入書」の記載内容は虚偽の事実であるとともに,被告の営業上の信用を害する事実であるというべきである。そして,原告と被告は競争関係にあるから,本件告知行為は, 「競争関係にある他人の営業上の信用を害する虚偽の事実を告知」する行為といえ,不正競争防止法2条1項15号所定の不正競争に該当する。
(2) そのほか被告は,原告がした不正競争防止法2条1項15号該当の不正競争行為として,原告が生活協同組合に対して被告の権利侵害の事実を理由として被告製品の取扱いをすべきでない旨申し入れた旨主張する。
確かに証拠(乙14の1ないし3,乙15,乙30)によれば,被告は,P2から被告製品の販売を中止された事実,及び,P2が被告に対し,被告製品の販売を中止する理由として,原告の営業担当者から被告製品の販売企画を中止した方がよいとの要望を受けたという生活協同組合のバイヤーから,そのことを理由に被告製品の差替えの要望を受けたことを挙げていたことが認められる。
したがって,これらの事実によれば,P2における被告製品の販売中止が,原告の営業担当の従業員がもたらした行為に起因することが認められそうであるが,前掲証拠によれば,原告の営業担当者が生活協同組合のバイヤーに伝えた内容というのは「企画を中止した方が良い的な要望」というにとどまるというのであって,そ 23 れだけでは原告が被告の権利を侵害したといった虚偽の事実が告知されたと認めるに足りないものである。また,そもそも原告の営業担当の従業員が何らかの接触をしたという生活協同組合のバイヤーは,どの生活協同組合であるかを含めて特定されておらず,その生活協同組合のバイヤーが実際に原告の営業担当の従業員から直接働きかけを受けたのかを確かめようがないものである。これらのことからすれば,原告の営業担当者の行為に起因してP2が被告製品の販売を中止したとしても,それをもって原告の不正競争行為を認定することは困難であるといわなければならない。
(3) したがって,被告主張に係る原告がした不正競争防止法2条1項15号該当の不正競争については,原告が,平成27年6月11日頃,被告の取引先である P1に対し,被告製品は原告製品の形態を模倣した商品であり被告製品を販売する行為は不正競争防止法2条1項3号に該当する旨記載した「申入書」と題する書面を内容証明郵便で送付した事実の限度で認めるのが相当であって,それ以外の生活協同組合に対する関係では同号の不正競争のみならず不法行為を構成する事実は認められない。
5 争点7(被告の損害額)について (1) 原告の過失について 原告は,被告の取引先であるP1に対して「申入書」を送付したが,本件訴訟における主張内容に照らしても,原告は,原告製品と被告製品の基本的形態が同一であることをもって安易に被告製品が原告製品の形態を「模倣」したものと断じて上記行為に及んだことが明らかであるから,本件告知行為をするにつき,少なくとも過失が認められる。
原告は,被告製品が原告製品のアイデア及び機能的長所を模倣しようと原告製品に依拠したことが明らかなものであり,原告において実用新案の出願を済ませ,原告製品が実施している本件発明は,一旦は特許として登録された経緯等があることを指摘して原告に故意,過失がない旨主張するが,原告が「申入書」で指摘したの 24 は,不正競争防止法2条1項3号の「商品の形態」の「模倣」である。そして同号では「機能を確保するために不可欠な形態」は保護の対象から除かれているくらいであるから,被告が模倣した対象が原告製品のアイデアであるとか機能的長所であるようにいう原告の主張は,そもそも不正競争防止法2条 1 項3号の趣旨を踏まえないものであって失当であり,かえって本来不正競争防止法2条1項3号で規制した対象でない行為を違法と断じて本件告知行為に及んだという点で原告の過失を根拠づけるものとさえいうことができ,いずれにせよ上記判断を左右するものではない。
(2) 取引上の損害の額について ア 主位的主張,予備的主張の1,及び同2について 被告は,不正競争防止法5条2項の適用を前提に,原告が原告製品の販売により受けた1枚当たりの利益が13.955円であり,原告製品の販売数量について,1か月当たり1万1500個として平成27年9月からの1年分(主位的主張),2万7742個(予備的主張の1),1万4500個(予備的主張の2)であると主張している。
被告は,まず主位的主張として,原告製品を1か月当たり1万1500個として平成27年9月からの1年分販売したことを主張しているが,これを認めるに足りる証拠はない。なお 被告は,平成27年9月以前の被告製品の販売数量が1か月1万1500個であることに加え,原告製品と被告製品以外に競合品はないから,被告製品が販売できたであろう数量を原告が販売していたはずであることをもって原告製品の販売数量の立証としているようであるが,これをもって被告主張に係る期間の原告製品の販売数量と認定することは困難である。
次いで被告は,予備的主張の1として,原告製品の販売数量として2万7742個を主張しているが,これは被告の主張によっても被告製品の在庫数というのであって原告製品の販売数量そのものではないから,これをもって原告製品の販売数量と認定することはできない。
25 さらに被告は,予備的主張の2として,原告製品の販売数量として1万4500個を主張しているが,これは被告製品について販売が計画されていた数量にすぎないというものである。なお,証拠(乙12,乙14の1ないし3)及び弁論の全趣旨によれば,被告がP1との関係では9000個,P2との関係では5500個の販売を計画し,いずれも中止された事実が認められるが,いずれにせよ,この数量は被告製品の計画販売数量であって,これが現実に販売できたであろう数量とは直ちにはいえないから,これからさらに進んで原告製品の販売数量を認定することはできない。
したがって,不正競争防止法2条1項15号の不正競争の場合に同法5条2項損害額の推定規定を直ちに適用することを肯定したとしても,原告の販売数量について的確な立証がされない以上,同項の適用を前提とする主位的主張,予備的主張の1及び同2の損害額の主張はいずれも採用できない。
イ 予備的主張の3について 被告は,販売計画があった1万4500個を販売すれば得られたはずの利益116万円をもって原告の不正競争と因果関係のある損害である旨主張する。
確かに原告の「申入書」の送付がなければ,被告の各生活協同組合との取引は滞りなく行われていたであろうことは否定できず,現に証拠(乙30,乙31)によれば,被告製品の出荷数量は,平成27年5月に決まっていた生活協同組合向けの販売により同年7月に大きく増加しており,他方,P1に続いてP2が取引を中止した影響が現れる同年8月以降に出荷数量が大きく減少し,その傾向が続いていることからすると,原告の不正競争により被告が計画していた被告製品の販売が阻害され被告に逸失利益が生じたことは認められるべきである。
ただ本件においては,原告の不正競争と因果関係があるといえるのはP1との関係だけであるし,また証拠(甲16の1ないし3,乙30)によれば,P1との関係で販売を計画していた9000個についても,全量が販売されていたはずと認めるのは困難であるから,原告が生活協同組合に販売した商品の実際の販売数が,平 26 均して計画数の約30%程度であったこと (甲16の1ないし3)等を参考にして,P1に対する関係で生じた逸失利益は,販売計画数の3分の1である3000個の限度で認定するのが相当である。
そして証拠(甲4,乙22)及び弁論の全趣旨によれば,被告製品1個当たりの被告の利益は80円と認定するのが相当であるから,被告に生じた逸失利益としての損害の額は24万円と認められる。
(3) 無形損害 原告の不正競争の結果,P1が原告製品の販売を中止したことは既に認定したところであるが,直接の不正競争を認定できないP2の関係にしても,結局は被告のP1に対する不正競争の影響が及んできたものと推認されるから,原告の不正競争による被告の営業上の信用の棄損は,広範囲の取引先に対する関係で生じたものと認められる。また証拠(乙30)によれば,被告は,原告の不正競争の影響を回避するため,被告製品とは異なるドラム式洗濯機用使い捨てフィルタの開発を余儀なくされたことも認められるから,これによる営業上の不利益も考慮されるべきであり,これらの事情を総合すると,原告の不正競争により生じた被告の信用棄損等の無形損害の額は100万円の限度で認定するのが相当である。
なお被告は,そのほかの原告の不正競争により,被告の商品全体に対する信用が低下して生活協同組合関係者との取引に労力を要するようになったと主張するが,そのような事実関係を的確に認めるに足りる証拠はないから,これらの事実は損害の額の判断に当たり斟酌できない。
(4) 弁護士・弁理士費用 本件訴訟の内容等を考慮すれば,弁護士・弁理士費用相当の損害として,12万4000円を認めるのが相当である。
6 結論 以上によれば,原告の被告に対する請求はすべて理由がないが,被告の原告に対する請求は,上記5で認定した損害額合計の136万4000円の損害賠償及びこ 27 れに対する平成27年12月15日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり,その余の請求には理由がない。
よって,原告の請求については,いずれも棄却することとし,被告の請求については,上記の理由のある限度で認容し,その余は棄却することとし,訴訟費用の負担につき,民事訴訟法61条,64条本文を,仮執行の宣言につき,同法259 条1項をそれぞれ適用し,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 森崎英二
裁判官 大川潤子
裁判官 田原美奈子
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