審判番号(事件番号) | データベース | 権利 |
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平成25ワ6674 特許権侵害差止等請求事件 | 判例 | 特許 |
平成26ワ34678 特許権侵害行為差止等請求事件 | 判例 | 特許 |
平成26ネ10124 特許権侵害差止等請求控訴事件 | 判例 | 特許 |
元本PDF | 裁判所収録の全文PDFを見る |
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事件 |
平成
27年
(ワ)
556号
特許権侵害差止請求権不存在確認等請求事件
平成 27年 (ワ) 20109号 特許権侵害差止等請求事件 |
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本訴原告・反訴被告 有限会社快成 (以下「原告」という。) 同訴訟代理人弁護士 椙山敬士 同 片山史英 同 補 佐人弁理士開口宗昭 本訴原告・反訴被告補助参加 人AC (以下「補助参加人」という。) 同訴訟代理人弁護士 参田敦 本訴被告・反訴原告 有限会社サンテクノA@ (以下「被告」という。) 同訴訟代理人弁護士 滝口耕司 同 栗田亮 |
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裁判所 | 東京地方裁判所 |
判決言渡日 | 2017/04/27 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 民事訴訟 |
主文 |
1 原告の本訴請求を棄却する。 2 原告は,別紙1物件目録記載の製品を使用し,譲渡し,譲渡若しくは貸渡しのために展示してはならない。 3 原告は,別紙1物件目録記載の製品を廃棄せよ。 4 原告は,被告に対し,16万3354円及びこれに対する平成25年7月31日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 5 被告のその余の反訴請求を棄却する。 6 訴訟費用(補助参加によって生じた費用を除く。)は,本訴及び反訴を通じ1て,これを5分し,その4を原告,その余を被告の各負担とし,補助参加によって生じた費用は,本訴及び反訴を通じて,補助参加人の負担とする。 7 この判決は,第2項及び第4項に限り,仮に執行することができる。 |
事実及び理由 | |
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請求
1 本訴請求 被告は,原告に対し,730万1455円及びうち212万9400円に対する平成26年9月1日から,うち57万3300円に対する同年10月1日から,うち212万755円に対する平成27年1月25日から,うち247万8000円に対する平成28年12月1日から,各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 反訴請求 (1) 主文第2項及び第3項と同旨 (2) 原告は,被告に対し,385万円及びこれに対する平成21年11月27日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 |
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事案の概要等
1 事案の要旨 (1) 原告は,ふぐを仕入れて,皮をはぎ,これをスライスし,刺身として販売する事業(以下「原告事業」という。)を営んでいた者であり,別紙1物件目録記載の製品(ふぐ刺身機)1台を別紙2リース契約目録記載1のリース契約(以下「本件リース契約1」という。)により取得し,これを業として使用していた(以下,原告が本件リース契約1により取得した上記ふぐ刺身機を「本件製品」という。)。 被告は,発明の名称を「切断装置」とする特許第4684812号の特許権(平成17年9月2日出願,平成23年2月18日設定登録。以下「本件特許権」といい,その特許を「本件特許」という。また,本件特許の願書に添付した特許請求 2の範囲〔以下,単に「特許請求の範囲」ということがある。 〕の請求項1及び同2記載の各発明を,それぞれ,請求項の番号に対応して,「本件発明1」及び「本件発明2」といい,これらを併せて「本件各発明」という。)を補助参加人と共に共有する者である。 被告は,平成25年7月16日付け通告書(以下「本件通告書1」といい,これに基づく通告を「本件通告1」という。)及び同月17日付け通告書(以下「本件通告書2」といい,これに基づく通告を「本件通告2」という。また,本件通告1と同2を併せて「本件各通告」という。)により,原告に対し,本件製品が本件特許に抵触している旨主張して,本件製品の使用の停止,本件製品の廃棄及び損害賠償を求めると共に,本件通告書1及び同2の到達後2週間以内に回答するよう求めた。 原告は,原告による本件製品の使用が本件特許権(厳密には,本件特許権の被告持分〔以下,この趣旨で「本件特許権」ということがある。〕。)の侵害となるものではなく,したがって,被告がした本件各通告は,原告に対する不法行為(民法709条)となる旨主張して,下記(2)を要旨とする本訴請求をしている。 他方,被告は,原告が本件製品を使用したことにより本件特許権が侵害されたものであり,また,現在も本件特許権が侵害されるおそれがある旨主張して,下記(3)を要旨とする反訴請求をしている。 (2) 本訴は,原告が,被告に対し,原告による本件製品の使用は本件特許権の侵害とならないから,本件各通告は違法であるところ,被告には故意又は過失があり,原告は,本件各通告を受けたことにより本件製品の使用を停止せざるを得なくなって,原告事業からの撤退を余儀なくされるとともに,本件各通告への対応を迫られ,その結果,本件製品その他原告事業のため使用していた機器の残リース料相当額518万0700円(@本件製品の残リース料247万8000円,A後に定義する本件皮むき機の残リース料57万3300円及びB後に定義する本件フリーザーの残リース料212万9400円の合計),弁護士費用・弁理士費用相当額200万 3円,記録謄写費用相当額2万3595円及び出張費用相当額9万7160円の損害を被ったなどと主張して,不法行為に基づく損害賠償金730万1455円及びうち212万9400円に対する平成26年9月1日(上記Bの最終支払期日の翌日)から,うち57万3300円に対する同年10月1日(上記Aの最終支払期日の翌日)から,うち212万755円(弁護士費用・弁理士費用相当額,記録謄写費用相当額及び出張費用相当額の合計)に対する平成27年1月25日(本訴請求に係る訴状送達の日の翌日)から,うち247万8000円に対する平成28年12月1日(上記@の最終支払期日の翌日)から,各支払済みまでの民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。 (3) 反訴は,被告が,原告に対し,本件製品は本件各発明の技術的範囲に属するから,被告による本件製品の使用,譲渡及び譲渡若しくは貸渡しのための展示(以下,これらの行為を併せて「使用等」という。)は,本件特許権の侵害となるところ,原告は本件製品を使用等するおそれがあるとして,特許法100条1項に基づき本件製品の使用等の差止めを,同条2項に基づき本件製品の廃棄をそれぞれ求めるとともに,原告による平成21年11月から平成25年7月までの間の本件製品の使用について,特許権侵害の不法行為による損害賠償金(主位的主張として,特許法102条2項により算定される損害額350万円と弁護士費用35万円を合計した385万円,予備的主張として,同条3項により算定される損害額143万5000円と弁護士費用14万円を合計した157万5000円)及びこれに対する平成21年11月27日(被告主張に係る不法行為の始期)から支払済みまでの民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。 2 前提事実(当事者間に争いのない事実並びに掲記の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実。なお,書証番号は,特記しない限り,枝番の記載を省略する。) (1) 当事者等 ア 原告は,平成16年7月1日に設立された水産加工品の製造及び販売,飲食 4店経営等を目的とする特例有限会社(会社法の施行に伴う関係法律の整備に関する法律2条1項。以下同じ)である。 イ 被告は,平成16年8月6日に設立された魚介類等の水産物の調理機器,加工機器の開発,製造及び販売等を目的とする特例有限会社であり,A@(以下「A@」又は「被告代表者」という。)は,被告の代表取締役を務める者である。 ウ 補助参加人は,本件各発明の発明者(甲1の1)であり,被告と共に,本件特許権を共有する者である。 (2) 本件特許権及び本件各発明 ア 被告及び補助参加人は,本件特許権の設定登録から今日に至るまで,以下の事項により特定される本件特許権を共有している(甲1)。 特 許 番 号 :第4684812号 登 録 日:平成23年2月18日 出 願 番 号:特願2005-255693 出 願 日:平成17年9月2日 公 開 番 号:特開2007-69274 公 開 日:平成19年3月22日 特許請求の範囲:別紙3特許公報の【特許請求の範囲】欄記載のとおり イ 本件各発明の構成要件の分説 (ア) 本件発明1 本件発明1は,次のとおり構成要件(以下,分説に係る各構成を符号に対応して「構成要件A」などという。)に分説することができる。 A:被切断物を保持する保持ユニットと該保持ユニットに保持された被切断物を切断する切断ユニットとを備え,該保持ユニット及び/又は該切断ユニットが移動して該被切断物を切断する切断装置において, B:上記切断ユニットは,一方の長辺を刃先として略帯状をなし,先端側に係止部が形成された切断刃と, 5 C:複数の上記切断刃の基端部を結束するアダプタと, D:上記アダプタを支持溝で支持するフレームと, E:上記支持溝とAE端が同方向の上記切断刃の先端側が挿入される挿入溝を有し,上記切断刃が該挿入溝に挿入され上記切断刃を支持する支持部材と, F:上記フレームに支持されたアダプタで結束された複数の切断刃の基端側が挿入される係合溝を複数有し,該係合溝に上記切断刃が挿入されることで,上記複数の切断刃を互いに平行に離間させる間隙形成部材と, G:上記フレーム側に設けられ,上記フレーム側から上記アダプタを引っ張り,上記切断刃の先端側に設けられた係止部を上記支持部材に係止させて,上記切断刃に張力を付与する取付機構とを備え, H:上記取付機構は,上記アダプタに一体的に形成されたボルト部と,上記ボルト部に螺合されるナットとを有し, I:該装置は,上記切断ユニットと同じ構成の更なる切断ユニットを備え,上記切断ユニットと上記更なる切断ユニットとは,互いに逆向きに配設され,それぞれの切断ユニットの切断刃が交互に位置するように配置される切断装置。 (イ) 本件発明2 本件発明2は,構成要件Aないし同I(本件発明1の構成要件)と次の構成要件J及び同Kに分説することができる。 J:上記切断刃は,上記アダプタに対して回動可能に取り付けられ, K:上記フレームの支持溝は,交互に第1の高さと第2の高さを有するように形成されていることを特徴とする (3) 被告と補助参加人と間の本件専売契約 ア A@と補助参加人は,別紙4本件専売契約書記載事項を内容とする平成16年5月18日付け契約書(甲10。以下「本件専売契約書」という。)を取り交わし,「刺し身機」,「ハモ用骨切り機」及び「魚に関するその他の機械」など(以下,これらを併せて「水産加工機械」という。)の製造及び販売に関する事業(以 6下「本件水産事業」という。)につき,補助参加人が水産加工機械の開発及び製造を担当し,A@が水産加工機械の総販売元としてその販売事業を担当することを骨子とする契約(以下「本件専売契約」という。)を締結した。 イ A@は,平成16年8月6日,自らが営んでいた本件水産事業を法人成りさせるため,被告を設立した。被告は,これに伴い,本件専売契約におけるA@の地位を承継した。 (4) 原告による本件製品の使用 原告は,原告事業の開始に際し,北銀リース株式会社(以下「北銀リース」という。)との間で,本件リース契約1(別紙2リース契約目録記載1のリース契約)を締結して本件製品を取得したほか,別紙2リース契約目録記載2のリース契約(以下「本件リース契約2」という。)を締結してふぐ皮むき機1台(以下「本件皮むき機」という。)を取得し,同目録記載3のリース契約(以下「本件リース契約3」といい,これと本件リース契約1及び同2とを併せて,「本件各リース契約」という。)を締結してフリーザー1台(以下「本件フリーザー」といい,これと本件製品及び本件皮むき機を併せて「本件製品等」という。)を取得し,平成21年末頃,ふぐの刺身の販売を開始した。 なお,本件製品のリース期間は,平成28年11月末をもって満了したが,原告は,その後も引き続き本件製品を占有している。(以上につき,甲2ないし4,弁論の全趣旨) (5) 本件製品の構成 本件各発明の構成要件との対比の便宜上, 本件製品の構成(別紙1物件目録の「2 内容」のとおり)は,次のとおり分説することができ(以下,分説に係る各構成を符号に対応して「構成a」などという。),本件製品の構成bないし同iは,それぞれ本件各発明の構成要件Bないし同Iに該当し,本件製品の構成j及び同kは,それぞれ本件発明2の構成要件J及び同Kに該当する(原告も,本件製品が構成要件Bないし同Kを充足することを争っていない。)。 7 a:被切断物たるふぐの半身を保持する保持ユニットと該保持ユニットに保持された上記の半身を切断する切断ユニットとを備え,該保持ユニット及び/又は該切断ユニットが移動してふぐの半身を切断するふぐ刺身機において, b:上記切断ユニットは,一方の長辺を刃先として略帯状をなし,先端側に係止部が形成されたふぐ切断刃と, c:複数の上記ふぐ切断刃の基端部を結束するアダプタと, d:上記アダプタを支持溝で支持するフレームと, e:上記支持溝とAE端が同方向の上記ふぐ切断刃の先端側が挿入される挿入溝を有し,上記ふぐ切断刃が該挿入溝に挿入され上記ふぐ切断刃を支持する支持部材と, f:上記フレームに支持されたアダプタで結束された複数の上記ふぐ切断刃の基端側が挿入される係合溝を複数有し,該係合溝に上記ふぐ切断刃が挿入されることで,上記複数のふぐ切断刃を互いに平行に離間させる間隙形成部材と, g:上記フレーム側に設けられ,上記フレーム側から上記アダプタを引っ張り,上記ふぐ切断刃の先端側に設けられた係止部を上記支持部材に係止させて,上記ふぐ切断刃に張力を付与する取付機構とを備え, h:上記取付機構は,上記アダプタに一体的に形成されたボルト部と,上記ボルト部に螺合されるナットとを有し, i:該ふぐ刺身機は,上記切断ユニットと同じ構成の更なる切断ユニットを備え,上記切断ユニットと上記更なる切断ユニットとは,互いに逆向きに配設され,それぞれの切断ユニットの切断刃が交互に位置するように配置されるふぐ刺身機であって, j:上記ふぐ切断刃は,上記アダプタに対して回動可能に取り付けられ, k:上記フレームの支持溝は,交互に第1の高さと第2の高さを有するように形成されていることを特徴とする。 (6) 被告と補助参加人との間の別件地裁訴訟等 8 被告は,平成23年8月6日,松山地方裁判所西条支部に,補助参加人が,本件専売契約に違反し,被告を通すことなく,同契約の対象たる水産加工機械を販売したとして,債務不履行による損害賠償を求める訴え(同支部平成23年(ワ)第252号)を提起し,2545万5783円及び遅延損害金の支払を求めた(なお,被告が上記訴えで同契約違反を主張した水産加工機械には,本件製品は含まれていない。)。これに対し,本件専売契約を解除したと主張する補助参加人は,個別の販売契約(予備的に本件専売契約)による販売手数料支払を求める反訴(同支部平成24年(ワ)第71号)を提起し,350万1750円及び遅延損害金の支払を求めた(以下,これらの訴訟を「別件地裁訴訟」という。)。同支部は,平成26年12月11日,被告の本訴請求を1510万0250円及び遅延損害金の支払を求める限度で認容し,補助参加人の反訴請求を321万8250円及び遅延損害金の支払を求める限度で認容する旨の判決(以下「別件地裁判決」という。)をした。 被告と補助参加人がそれぞれ別件地裁判決の敗訴部分を不服として高松高等裁判所に控訴したところ(同裁判所平成27年(ネ)第8号),同裁判所は,平成27年6月18日,被告の控訴を棄却するとともに,補助参加人の控訴に基づき別件地裁判決を一部変更して,被告の本訴請求を965万円及び遅延損害金の支払を求める限度で認容し,補助参加人の反訴請求を350万1750円及び遅延損害金の支払を求める限度で認容する旨の判決(以下「別件高裁判決」という。)をした。 (以上につき,甲23,乙3,弁論の全趣旨) (7) 被告の原告に対する本件各通告 被告は,本件通告書1(甲6)及び同2(甲7)により,原告に対し,平成25年7月16日付け及び同月17日付けで,本件製品が本件特許に抵触しているとして,本件製品の使用の停止,本件製品の廃棄及び損害賠償を求めると共に,本件通告書1及び同2の各到達後2週間以内に回答するよう求める通告(本件各通告)をした(なお,本件通告1は,被告代表者〔A@〕自らが行ったものであり,本件通告2は,弁理士AA〔以下「AA弁理士」という。〕らをして行わせたものであ 9る。)。 原告は,本件各通告を受け,同月末までに本件製品の使用を中止した(弁論の全趣旨)。 (8) 訴訟告知 原告は,平成27年11月25日付け訴訟告知書により,補助参加人及びヤマト商工有限会社(以下「ヤマト商工」という。)に訴訟告知をし,補助参加人は,同年12月24日付け補助参加の申出書により,原告を補助するため,本件訴訟に参加する旨の申出をした(当裁判所に顕著)。 3 争点 (1) 本訴請求の争点 ア 本件各通告は違法か(争点(1)ア) (ア) 本件製品は本件各発明の技術的範囲に含まれないか(争点(1)ア(ア)) (イ) 本件特許は特許無効審判により無効とされるべきものか(争点(1)ア(イ)) a 無効理由1(甲29ないし甲32に基づく進歩性欠如)は成立するか(争点(1)ア(イ)a) b 無効理由2(サポート要件違反)は成立するか(争点(1)ア(イ)b) (ウ) 本件製品を補助参加人が製造販売したことにより消尽が成立するか(争点(1)ア(ウ)) (エ) 被告は本件製品をヤマト商工が製造販売することを容認したか(争点(1)ア(エ)) (オ) 本件製品が本件特許権の登録前に販売されたことにより消尽が成立するか(争点(1)ア(オ)) (カ) 被告の原告に対する本件特許権の行使は権利濫用又は信義則違反か(争点(1)ア(カ)) イ 被告に故意又は過失があるか(争点(1)イ) ウ 原告の損害及びその額(争点(1)ウ) 10 (2) 反訴請求の争点 ア 本件製品は本件各発明の技術的範囲に含まれるか(争点(2)ア) イ 被告は原告に対し本件特許権を行使することができないか(争点(2)イ) ウ 差止め及び廃棄の必要性(争点(2)ウ) エ 原告に過失の推定を覆滅させる事情が認められるか(争点(2)エ) オ 被告の損害及びその額(争点(2)オ) |
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争点に対する当事者等の主張
1 本訴請求の争点について (1) 争点(1)ア(本件各通告は違法か)について 【原告の主張(補助参加人の主張を含む。以下同じ。)】 ア 争点(1)ア(ア)(本件製品は本件各発明の技術的範囲に含まれないか)について 本件特許の願書に添付した明細書及び図面(以下,これらを併せて「本件明細書等」という。)は,保持ユニットや切断ユニットの駆動が手動の場合について何ら記載・示唆していないから,本件各発明は,該駆動を手動で実現することを一切想定していないというべきである。そうすると,本件各発明の構成要件Aの「被切断物を保持する保持ユニットと該保持ユニットに保持された被切断物を切断する切断ユニットとを備え,該保持ユニット及び/又は該切断ユニットが移動して該被切断物を切断する切断装置」は,手動駆動式のものを含まないというべきである。 これに対し,本件製品の保持ユニットは,手動で移動させるものである。 したがって,本件製品は,構成要件Aを充足せず,本件各発明の技術的範囲に含まれない。 イ 争点(1)ア(イ)(本件特許は特許無効審判により無効とされるべきものか)について (ア) 争点(1)ア(イ)a(無効理由1〔甲29ないし甲32に基づく進歩性欠如〕は成立するか)について 11 a 本件発明1は,本件特許の出願前に日本国内で頒布された刊行物である実願昭50-98604号(実開昭52-12692号)のマイクロフィルム(甲29。 以下「甲29文献」という。)に記載された発明(以下「甲29発明」という。),特開昭61-241095号公報(甲30。以下「甲30文献」という。)に記載された発明(以下「甲30発明」という。),実願昭55-130977号(実開昭57-53897号)のマイクロフィルム(甲31 。以下「甲31文献」という。)に記載された発明(以下「甲31発明」という。)及び特開平8-57798号公報(甲32。以下「甲32文献」という。)に記載された発明(以下「甲32発明」という。)に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。 (a) 甲29発明は,本件発明1の構成要件A,同B,同E,同G及び同Hに相当する構成を有している。 (b) 甲29発明は,実質的に,本件発明1の構成要件Dに相当する構成を有している。本件発明1と甲29発明とは,前者が構成要件Dの「上記アダプタを支持溝で支持するフレーム」を有するのに対し,後者が「内枠(b)の上面・・・に設けた孔(9)を挿通したボルト(10)´に吊り下げられた支持駒(10)」を有する点において,一応相違するが,甲29発明における上記相違点に係る構成を,甲30発明におけるスリットを用いて係止し保持する構成に置き換えることは,当業者であれば,容易に想到し得るからである。 (c) 甲31発明は,本件発明1の構成要件C及び同Fに相当する構成を開示しており,甲29発明におけるアダプタを上記構成に置き換えることは,当業者であれば,容易に想到し得るものである。 (d) 甲32発明は,本件発明1の構成要件Iに相当する構成を開示しており,甲29発明において,甲32発明における切断ユニットと同じ構成の更なる切断ユニットを備える構成に置き換えることは,当業者であれば,容易に想到し得るものである。すなわち,甲29文献(5頁,6頁)には,本件各発明の構成要件Iのうち, 12「上記切断ユニットと同じ構成のさらなる切断ユニットを備え,」「それぞれの切断ユニットの切断刃が交互に位置するように配置される」ことが記載されており,これに甲32発明の「1本の線部材を2本のガイドロール間で複数の直線走行部の走行方向が1本おきに互いに逆向きとなる点」を加えることにより,本件発明1のそれぞれの切断ユニットの切断刃を交互に逆向きに位置するように配置することは,容易である。 (e) 被告は,甲29発明と甲32発明とが技術分野を異にする旨主張するが,いずれも特許国際分類「B26D3/28」に分類されており,本件各発明と同じ技術分野に属することが明らかである。また,被告は,甲29発明及び甲32発明と本件各発明とが質的にも異なるとも主張するが,甲29文献の記載(4頁,6頁)からすれば,甲29発明に本件各発明の切断刃をユニット化したものに相当するものが開示されていることは明らかである。さらに,甲32発明及び本件各発明は,いずれも対象物の切断という作用効果の発生する要所において,隣り合う複数の刃が逆方向に走行することによりきれいに切断するという同一の技術思想を有するものである。 b 本件発明2は,上記aにおいて主張したところ及び次の理由から進歩性を欠く。 甲29文献には,摺動往復する一対の枠に刃物をそれぞれ備えていること,孔9が枠に対して千鳥状に設けられていること,刃物7の係止部7´は支持駒10に対して回動自在であることが開示されている。そうすると,甲29発明において,本件発明2の構成要件J及び同Kに相当する構成を備えるようにすることは,当業者であれば,容易に想到し得るものである。 (イ) 争点(1)ア(イ)b(無効理由2〔サポート要件違反〕は成立するか)について 本件各発明は,保持ユニット・切断ユニットの駆動が手動である場合を含むとすれば,サポート要件(特許法36条6項1号)を欠く。本件明細書等は,争点(1)ア(ア)(前記イ)において主張したとおり,保持ユニットや切断ユニットの駆動が 13手動の場合について何ら記載・示唆していないからである。 (ウ) 争点(1)ア(イ)のまとめ 以上より,本件特許は特許無効審判により無効とされるべきものであり,被告は,原告に対し,本件特許権を行使することができない。 ウ 争点(1)ア(ウ)(本件製品を補助参加人が製造販売したことにより消尽が成立するか)について (ア) 仮に,本件製品が本件各発明の技術的範囲に属するとしても,本件製品は,本件特許権の共有者である補助参加人が自ら製造販売(自己実施)したものであるから,本件製品については本件特許権の消尽(特許権の設定登録前であるから,厳密には,消尽理論の類推適用。以下同じ。)が認められる。したがって,被告は,原告に対し,本件特許権を行使することができない。 (イ) ヤマト商工は,(以下省略)に工場(以下「ヤマト商工第2工場」という。)を有しているが,同工場で製造された水産加工機械(本件製品を含む。)については,補助参加人の指揮監督のもと,その原材料が仕入れられ,加工,組立て等の製造は補助参加人が行い,販売も補助参加人が行っており,他に提供されたことはない。在庫についてのリスクも補助参加人が負担している。被告自身,別件地裁訴訟において,補助参加人が上記水産加工機械を製造販売した旨主張していた。 また,本件製品には,製造者として,補助参加人の屋号である「エフビック」との表示が付されている。 したがって,本件製品は,本件特許権の共有者である補助参加人が自ら製造販売(自己実施)したものであることが明らかである。 (ウ) 被告は,本件専売契約が特許法73条2項にいう「別段の定」に当たるから,本件特許権の共有者である補助参加人は,本件製品を適法に販売することができない旨主張する。 しかし,本件専売契約は,補助参加人が本件各発明を自己実施することについて何ら制限しておらず,同項にいう「別段の定」に当たらないというべきである。 14 また,仮に,そうでないとしても,本件専売契約は,対世効がなく,契約当事者(本件特許権の共有者)である被告と補助参加人とを拘束するものにすぎないから,消尽の成立は妨げられない。 エ 争点(1)ア(エ)(被告は本件製品をヤマト商工が製造販売することを容認したか)について 仮に,本件製品が本件各発明の技術的範囲に属し,本件製品を製造販売した者が補助参加人ではなく,ヤマト商工であるとしても,被告は,少なくとも黙示的にヤマト商工による本件製品の製造販売を容認していた。 被告は,補助参加人が関与した水産加工機械の製造をヤマト商工が担うことについて理解し,これを承諾の上,補助参加人と本件専売契約を締結し,利益分配についても合意した。そして,被告は,本件特許の出願後も,補助参加人との間で新たな合意をしていないから,水産加工機械が本件各発明の実施品である場合についても,ヤマト商工による製造販売を容認していたといえる。そうとすると,被告が別件地裁訴訟で主張したように,本件製品が販売された時点において本件専売契約が有効に存続していたというのであれば,本件製品をヤマト商工が製造販売することについても,少なくとも黙示的に容認していたというべきである。 したがって,被告は,原告に対し,本件特許権を行使することができない。 オ 争点(1)ア(オ)(本件製品が本件特許権の登録前に販売されたことにより消尽が成立するか)について 仮に,本件製品が本件各発明の技術的範囲に属するとしても,本件製品が本件特許権の設定登録前に販売されたことにより,同製品については本件特許権の消尽が成立する。 本件製品の販売が特許権侵害とならず,適法に本件製品を使用することができたにもかかわらず,本件特許権が登録されるや,買受人である原告がこれを使用し続けることが違法になるというのは,著しくバランスを欠くからである。 したがって,被告は,原告に対し,本件特許権を行使することができない。 15 カ 争点(1)ア(カ)(被告の原告に対する本件特許権の行使は権利濫用又は信義則違反か)について 原告は,本件製品につき本件特許権に抵触しない旨の信頼を有しており,被告の権利行使が不当な目的にあることからすれば,被告の原告に対する本件特許権の行使としての本件各通告は,権利濫用又は信義則違反として許されない。 本件製品についてリースが開始された当時,本件特許権は未だ登録されておらず,原告が本件製品の使用を止めるべき規範は存在しなかった。また,本件特許権の共有者である被告と補助参加人との内部的な関係である本件専売契約の違反があったか否かという事情も,原告は知らなかった。それゆえ,原告は,本件製品の使用開始に当たり,本件特許権を侵害しないとの信頼を有していた。 他方,被告は,本件製品が被告を通さずに販売されたことにより損害を受けたとしても,補助参加人に対して本件専売契約の不履行を理由とする損害賠償請求をすることによって,当該損害を回復することができる。また,被告は,別件地裁訴訟における自らの主張と相反する同訴訟における補助参加人の主張をあえて引用して,原告に対する本件各通告を行ったものであり,その態度は,極めて不当なものである。被告は,別件地裁訴訟において,補助参加人の立場を不利に貶めて追い詰めるという目的のために,本件各通告をしたものである。 このように,被告の原告に対する本件各通告は,権利行使のあり方として著しく不当であって,これを認めることは正義に反するから,権利濫用又は信義則違反として許されない。 キ 争点(1)アのまとめ 以上より,原告による本件製品の使用は,本件特許権の侵害となるものではなく,本件各通告は,違法にされたものというべきである。 【被告の主張】 ア 争点(1)ア(ア)(本件製品は本件各発明の技術的範囲に含まれないか)について 16 本件製品の構成aは,本件各発明の構成要件Aに該当する。本件製品が本件各発明のその余の構成要件を充足することは,前記前提事実のとおりであるから,本件製品は,本件各発明の技術的範囲に属する。 この点,原告は,本件製品の切断ユニットの駆動が手動で行われるから本件各発明の構成要件Aを充足しない旨主張する。しかし,同構成要件は,保持ユニット・切断ユニットが移動するという構成こそ特定しているものの,その移動手段まで特定しているものではないから,手動か自動かを問わず,保持ユニットが切断ユニットとの関係において移動させ得るものであればよい。本件明細書等の発明の詳細な説明でも,「駆動部5は,例えば,モータなどの駆動源であり」(【0014】)としており,駆動部の駆動源がモータに限定されるものでないことを示している。 イ 争点(1)ア(イ)(本件特許は特許無効審判により無効とされるべきものか)について (ア) 争点(1)ア(イ)a(無効理由1〔甲29ないし甲32に基づく進歩性欠如〕は成立するか)について 原告の主張は,争う。 本件特許は,有効に存続している。 なお,甲32発明は,一方向に走行する1本の線部材を用いて食品を切断するもので,甲29発明及び甲31発明のように複数の切断刃を用いるものとは異なるから,甲29発明及び甲31発明に甲32発明を組み合わせることはできない。また,甲29発明に係る鮮魚の切断装置と甲32発明に係る練り物の切断装置とは,技術分野を異にしている。仮に,組み合わせることができたとしても,本件各発明の構成要件Iを当業者が容易に想起し得るものではない。 (イ) 争点(1)ア(イ)b(無効理由2〔サポート要件違反〕は成立するか)について 原告の主張は,争う。 本件各発明は,保持ユニットが切断ユニットとの関係において移動し得るものであればよく,それにより,発明の課題(「切断刃の着脱を容易に行うことができる」 17【0006】,「被切断物をより薄く切断できる」【0007】)を解決できるものである。そして,本件明細書等の発明の詳細な説明において,例示としてモータなどの駆動源を掲げているところ,当業者であれば,手動であっても保持ユニットが切断ユニットとの関係において移動すればよく,上記の課題を解決できると認識できることは,明らかである。 そうすると,特許請求の範囲と発明の詳細な説明を対比して,特許請求の範囲が発明の詳細な説明に記載された技術的事項の範囲を超えるようなものでなく,サポート要件違反には当たらない。 ウ 争点(1)ア(ウ)(本件製品を補助参加人が製造販売したことにより消尽が成立するか)について (ア) 本件製品は,ヤマト商工が製造販売したものであって,補助参加人が製造販売(自己実施)したものではない。 補助参加人は,本件製品の原材料の仕入れ,製造,運営費等の経費を一切負担しておらず,本件製品の販売の場面でも,ヤマト商工が全ての請求書を発行し,ヤマト商工が代金を受領している。すなわち,本件製品は,ヤマト商工が自己の名義及び計算をもって製造販売していたものであって,補助参加人の計算により製造販売されたものではないといえる。 (イ) 仮に,補助参加人が本件製品を製造販売したと評価されたとしても,本件専売契約は,特許法73条2項にいう「契約で別段の定」に当たり,本件製品は,同契約の対象として,被告のみが販売することができ,補助参加人は,本件製品を適法に販売することができない。別件高裁判決では,平成22年2月に本件専売契約が解約されたと認定されており,本件製品が売却された平成21年11月25日 の時点では,本件専売契約は有効に存続していたものである。 この点,原告は,本件専売契約をもって原告に対抗することはできないとか,同契約は,補助参加人の自己実施を妨げないなどと主張する。 しかし,同契約は,補助参加人が販売に関与することを禁止する趣旨である。 18 また,特許法73条2項の「別段の定」をしても,第三者に対抗できないのであれば,同法があえて同項のような明文の規定をおく必要はないし,同項の「別段の定」が第三者に対抗できないことを定めた規定もないから,同項における「別段の定」は,第三者にも対抗できると解すべきである。 エ 争点(1)ア(エ)(被告は本件製品をヤマト商工が製造販売することを容認したか)について 原告の主張は,否認し又は争う。 被告は,ヤマト商工による本件製品の製造販売につき,直接承諾したことも,間接的に承諾したこともない。被告は,被告が販売する限りにおいて,ヤマト商工が水産加工機械を製造することを容認したにすぎず,これに本件製品は含まれない。 オ 争点(1)ア(オ)(本件製品が本件特許権の登録前に販売されたことにより消尽が成立するか)について 原告の主張は,争う。 消尽が認められる根拠は,流通過程において特許権者 又は専用実施権者(以下「特許権者等」という。)に二重の利得を得ることを認めるべきでないとする点にあり,特許権者等による譲渡がなかったとすれば,消尽は成立しない。特許権者により生産された特許製品であると信じて譲り受けた者であっても,無権利者が譲渡した侵害品であれば,消尽は成立しないのである。 また,本件においては,本件製品が製造され,被告を介さずに販売されたことを被告は知らなかったのであり,被告は何らの利得も得ておらず,補助参加人から賠償金を得たものでもない。このように,被告が二重の利得を得ることになるわけではなく,消尽が成立する基礎を欠いている。 カ 争点(1)ア(カ)(被告の原告に対する本件特許権の行使は権利濫用又は信義則違反か)について 原告の主張は,否認し又は争う。 キ 争点(1)アのまとめ 19 以上のとおり,原告による本件製品の使用が本件特許権の侵害とならないとの原告主張は,いずれも失当であり,原告による本件製品の使用等は,本件特許権の侵害となるものである。被告による本件各通告は正当な権利行使の一環としてされたものであって,何ら違法なものではない。 (2) 争点(1)イ(被告に故意又は過失があるか)について 【原告の主張】 本件製品が本件各発明の技術的範囲に属するか否か,本件特許が特許無効審判により無効とされるべきであるか否かはともかく,被告は,本件製品が本件特許権の共有者である補助参加人が自ら製造販売(自己実施)したものと認識していたか,少なくともヤマト商工による本件製品の製造販売を許諾していたから,原告による本件製品の使用が本件特許権の侵害となるものでないことを十分に認識していたものである。すなわち,被告は,別件地裁訴訟において,本件製品を製造しているのは補助参加人である旨主張しており,本件通告書1で引用した別件地裁訴訟における補助参加人の主張(水産加工機械の製造販売をした者は,ヤマト商工であり,補助参加人ではないとの主張)の主張と,被告の上記主張は相容れないものであることを知っていた。それにもかかわらず,被告は,別件地裁訴訟における自らの主張(水産加工機械を製造した者は補助参加人であるとの主張)を前提とすると,本件特許権の侵害を主張できなくなることを十分理解した上,本件通告書1においては自己の主張に反する補助参加人の主張を引用し,原告が本件製品を使用することは本件特許権を侵害するものであると原告に思わせようとしたものである。 このように被告による本件通告1及び同2は,原告による本件製品の使用につき本件特許権の侵害が成立しないことを知りながら,されたものというべきである。 【被告の主張】 被告は,本件製品が被告や補助参加人から譲渡されたものではないことを示す根拠として,本件通告1において別件地裁訴訟での補助参加人の主張を引用したにすぎず,当該行為をもって,補助参加人が本件製品を製造販売(自己実施)した旨被 20告が認識していたことにはならない。別件地裁訴訟では,補助参加人が本件専売契約に違反して,同契約の対象たる水産加工機械を販売したかどうかが争点であり,被告は,同訴訟において,補助参加人が本件専売契約に違反したと主張していたにすぎず,補助参加人の計算で本件製品が製造販売された旨主張したわけではない。 (3) 争点(1)ウ(原告の損害及びその額)について 【原告の主張】 ア 損害の発生 原告は,本件各通告により,本件製品の使用を中止せざるを得なくなり,平成25年7月をもって,本件製品を使用することを前提とする原告事業からの撤退(廃業)を余儀なくされるとともに,本件各通告への対応を迫られたものであり,その結果,以下のとおり損害を受けた。 イ 損害の額 (ア) 残リース料相当額(518万0700円) 原告は,原告事業を開始するに当たり,本件製品,本件皮むき機及び本件フリーザーについて北銀リースからリースを受けた(本件リース契約1ないし同3)。リース期間の終了は,それぞれ,平成28年11月,平成26年9月及び同年8月であるが,原告は,上記アのとおり,原告事業を廃業し,本件製品等を使用していないにもかかわらず,その残リース料の支払を継続せざるを得なかった。 ここで,原告の支払に係る本件製品の残リース料247万8000円(税込6万1950円×40か月)は,被告がした違法な本件各通告によって「通常生ずべき損害」である。 また,原告の支払に係る本件皮むき機(本件製品を用いてふぐの刺身を作るために必要なふぐの皮をはいだものを作るために用いられるものであって,原告事業に重要な役割を担うものである。)の残リース料57万3300円(税込4万0950円×14か月)及び本件フリーザー(急速冷凍によりふぐを新鮮なまま冷凍保存することができる特殊なフリーザーであって,原告事業に重要な役割を担うもので 21ある。)の残リース料212万9400円(税込16万3800円×13か月)も被告がした違法な本件各通告により原告に生じた損害である。これらは,本件各通告を受けて本件製品の使用を中止せざるを得なくなったため,同様に使用できなくなったものであり,これらの残リース料が原告の損害となることについて,十分予見可能性があったから,損害賠償請求の対象となる「特別の事情によって生じた損害」である。 (イ) 弁護士・弁理士費用(200万円) 原告は,被告からの本件各通告に対する対応のため,特許の専門家である弁理士や弁護士に相談をする必要があり,少なくとも200万円の支払を余儀なくされた。 (ウ) 記録謄写費用相当額(2万3595円)及び出張費用相当額(9万7160円) 原告は,被告が本件通告書1に引用されていた補助参加人の主張等を確認するため,別件地裁訴訟の記録の謄写を行い,その費用として2万3595円を支出した。 また,原告は,弁護士との打合せを行うために東京に出張しなければならず,その費用として9万7160円を支出した。 ウ まとめ 以上より,原告は,被告の本件各通告により,合計730万1455円の損害を被った。なお,遅延損害金の起算日は,212万9400円(本件フリーザーの残リース料相当額)につき平成26年9月1日(同リース料の最終支払期日の翌日),57万3300円(本件皮むき機の残リース料相当額)につき同年10月1日(同リース料の最終支払期日の翌日),212万755円(弁護士費用・弁理士費用相当額,費用相当額及び出張費用相当額の合計)につき平成27年1月25日(本訴請求に係る訴状送達の日の翌日),247万8000円(本件製品のリース料相当額)につき平成28年12月1日(同リース料の最終支払期日の翌日)である。 【被告の主張】 原告の主張は,否認し又は争う。 22 被告は,原告に対し,正当な権利行使の一環として,本件各通告をしたにすぎず,不法行為と因果関係のある損害など生じようがない。 そもそも,原告におけるふぐの刺身の販売は低調であり,被告代表者が原告の工場を訪れた際,原告代表者は,「刺身はもうからなくなったのでやめた」等と発言していた。また,ふぐ刺身は人手で加工することが可能であり,社内での人手作業,刺身職人の雇用又は被告が販売する本件製品を新たに購入等することで解決するのであって,被告は,原告に対し,本件製品を被告から購入するよう提案していた。 以上からすれば,原告は,原告事業を継続することが十分に可能であったのであり,また,仮に,原告が原告事業を廃業したというのであれば,その原因は,市況によるものであり,本件製品が使用できなくなったことにより廃業に追い込まれたということはあり得ない。 2 反訴請求の争点について (1) 争点(2)ア(本件製品は本件各発明の技術的範囲に含まれるか)について 【被告の主張】 前記1(1)における【被告の主張】アのとおり 【原告の主張】 前記1(1)における【原告の主張】アのとおり (2) 争点(2)イ(被告は原告に対し本件特許権を行使することができないか)について 【原告の主張】 前記1(1)における【原告の主張】イないしカのとおり 【被告の主張】 前記1(1)における【被告の主張】イないしカのとおり (3) 争点(2)ウ(差止め及び廃棄の必要性)について 【被告の主張】 原告は,現在も本件製品を所持しており,既に取り下げたとはいえ,本訴請求に 23おいて差止請求権不存在確認請求をしていたこと,本件製品が本件各発明の技術的範囲に属さないとか,被告が原告に本件特許権を行使することができないなどと主張して,反訴請求を争っていることからすれば,原告が本件製品を使用等するおそれがあることは明らかであり,差止め及び廃棄を求める必要がある。なお,本件製品がリース物件であるとしても,原告において,北銀リースの同意を得て,これを廃棄することは,何ら困難ではない。 【原告の主張】 原告は,本件製品の使用を中止し,これを再開する予定はないから,差止め及び廃棄請求は,その必要性を欠く。また,本件製品は,リース物件であるから,原告には処分権限がない。 (4) 争点(2)エ(原告に過失の推定を覆滅させる事情が認められるか)について 【原告の主張】 本件では,本件特許権の共有者である補助参加人が本件製品を製造販売(本件各発明を自己実施)したといえるか否か,また,本件専売契約が特許法73条2項にいう「別段の定」に当たるか否かが問題となっており,過失の推定規定である同法103条の前提とするところ(特許公報が公開されていること)がそのまま当てはまらない。 したがって,被告は,本件特許権の侵害につき,原告に故意又は過失があったことを主張立証すべきところ,この点につき何らの主張立証もしていない。 しかも,原告が本件製品のリースを開始した時点においても,その使用を開始した時点においても,本件特許権は未だ登録されていなかったのであるから,原告において,本件特許権を侵害するなどと想い到ることは,不可能であった。 したがって,原告の過失は否定されるべきである。 【被告の主張】 原告の主張は,争う。 (5) 争点(2)オ(被告の損害及びその額)について 24 【被告の主張】 ア 損害の発生 被告には,原告の本件特許権の侵害行為により,本件製品と同種・同等のふぐ刺身機を販売又は貸与する機会を喪失するという損害が発生した。 イ 損害額 (ア) 主位的主張 被告は,原告の本件特許権の侵害(本件製品の使用)により,以下のとおり,特許法102条2項により算定される損害350万円(原告が本件製品を平成21年11月から平成25年7月までの間使用することにより得た利益)と弁護士費用35万円を合計した385万円の損害を受けた。 まず,原告は,本件製品を使用することにより,ふぐ刺身の売上を得ているところ,本件製品を用いたことによる利益は,月額約8万3300円,年間100万円を下らない。原告は,本件製品を平成21年11月から平成25年7月まで,約3年半にわたり使用してきた。したがって,原告が本件製品の使用により得た利益は,少なくとも350万円であり,特許法102条2項により,被告は,原告による本件特許権の侵害により,これと同額の損害を受けたと推定される。 また,被告は,反訴請求の手続追行を弁護士に依頼しており,弁護士費用のうち35万円は,原告の不法行為と相当因果関係のある損害である。 (イ) 予備的主張 仮に,上記(ア)の主張が認められないとしても,被告は,原告の本件特許権の侵害(本件製品の使用)により,以下のとおり,特許法102条3項により算定される損害143万5000円(原告が本件製品を平成21年11月から平成25年7月までの間使用することに対し被告が受けるべき金銭の額)と弁護士費用14万円を合計した157万5000円の損害を受けた。 本件各発明は切断装置そのものに関するものであるから,本件特許の経済的価値は本件製品(完成品)と同等であるところ,被告は,本件製品と同等の切断装置を 251台410万円で販売しているから,原告が本件製品を使用した期間に相当する本件製品の経済的価値は410万円を下らない。そして,本件製品に関し,本件特許権の実施許諾をする場合,本件製品の法定耐用年数は10年(食料品製造業用機械)であることから,年間41万円(10万円/10年)の使用料を設定することになる。しかるところ,原告は,本件製品を3年6か月間使用したから,被告が受けるべき金銭の額は,143万5000円となる。したがって,特許法102条3項に基づき,これと同額を損害の額として賠償請求することができる。 また,弁護士費用のうち14万円は,原告の不法行為と相当因果関係のある損害である。 【原告の主張】 被告の主張は,争う。 なお,特許法102条2項は,特許権者において,侵害行為がなかった場合に得られる利益が存することを前提としているが,被告は,本件特許権の侵害がなければ被告が得たであろう利益の存在について,主張立証をしてない。 |
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当裁判所の判断
1 本訴請求について (1) 争点(1)ア(本件各通告は違法か)について ア 争点(1)ア(ア)(本件製品は本件各発明の技術的範囲に含まれないか)について (ア) 特許請求の範囲の記載は前記前提事実のとおりであるところ,本件製品の構成aは,「被切断物たるふぐの半身を保持する保持ユニットと該保持ユニットに保持された上記の半身を切断する切断ユニットとを備え,該保持ユニット及び/又は該切断ユニットが移動してふぐの半身を切断するふぐ刺身機」というものであり,切断する対象が「ふぐの半身」である「ふぐ刺身機」とされているだけで,構成要件Aの「被切断物を保持する保持ユニットと該保持ユニットに保持された被切断物を切断する切断ユニットとを備え,該保持ユニット及び/又は該切断ユニットが移 26動して該被切断物を切断する切断装置」に該当することは,明らかである。 原告は,本件明細書等に保持ユニットや切断ユニットの駆動が手動の場合の記載・示唆がないから,本件各発明の構成要件Aは,手動駆動式のものを含まない旨主張するが,特許請求の範囲の記載中,構成要件Aに係る部分は「該保持ユニット及び/又は該切断ユニットが移動して該被切断物を切断する」というものであって,その文言上「移動」が手動以外の手段により行われなければならない旨限定されているわけではない。原告の上記主張は,特許請求の範囲の記載に基づかないものである。 また,本件明細書等では,「駆動部5は,例えば,モータなどの駆動源であり」(【0014】)との記載のとおり,駆動手段の一例として「モータ」が挙げられているのであって,他の駆動手段を用いてもよいことは,当然の前提とされている。 本件各発明は,「魚肉などの被切断物を一度に薄くスライスすることのできる切断装置に関する」(【0001】)ものであり,従来の技術における「切断刃を漬け置き洗浄するための取り外し作業が必要であるが,・・・取付,取り外し作業が面倒である」(【000 ,フグなどの薄造りのように2mm以下にスライスするためには,切断刃の間隔をより狭める必要があり,このような状態で切断刃を固定するには困難を要していた」(【0004】)などの課題を解決し,「切断刃の着脱を容易に行なうことができる切断装置を提供すること」(【0007】)や「被切断物をより薄く切断できる切断装置を提供すること」(【0008】)を目的とするものであるところ,手動駆動方式とするか,電動駆動方式とするかは,上記課題の解決とは直接には関係しない。 機械の分野においては,一般論としては,手動による駆動が力学上可能な場合,自動駆動方式(電動等)と手動駆動方式(ハンドル等を回したり,押し引きしたりするもの)のいずれもが採用可能であることが自明であるし,自動駆動方式を選択する場合であっても,停電などの非常時に備えて,手動駆動方式を併用することなどは,当業者が適宜行うことのできる設計事項というべきである。そして,本件は, 27上述した本件各発明の解決しようとする課題やその解決手段である特許請求の範囲に記載された構成との関係で,上記一般論が妥当しない場合に当たるものでもない。 したがって,原告の上記主張は,採用することができない。 (イ) 上記(ア)及び前記前提事実によれば,本件製品は,本件各発明の構成要件を全て充足し,その技術的範囲に属するといえる。 イ 争点(1)ア(イ)(本件特許は特許無効審判により無効とされるべきものか)について (ア) 争点(1)ア(イ)a(無効理由1〔甲29ないし甲32に基づく進歩性欠如〕は成立するか)について a 甲29文献の記載(【実用新案登録請求の範囲】,第1図ないし第3図などを参照)によれば,同文献には,「材料の送り方向の前後に一対の方形の枠を横枠に垂直に支承させ,かつ,互いにこの枠を逆方向に摺動往復させるとともに,上記一対の枠それぞれに,刃面を同一平面に揃えた多数の薄い刃物の上下を支承させ,該刃物を横方向に等間隔に配列した多列刃型の食品スライサーで,上記一対の方形の枠を,互いに着脱の自在な外枠と内枠との二部材の結合によりそれぞれ構成して,外枠を枠の往復装置に固定的に連結する一方,互いに前記刃物の取付間隔の異なる複数組の内枠を用意して,任意の刃物間隔を有する一組の内枠を前記外枠に対して交換することを特徴とする食品スライサー」(甲29発明)が開示されていることが認められる。 本件発明1と甲29発明とを対比すると,両者は,@本件発明1が「複数の上記切断刃の基端部を結束するアダプタ」を有するのに対し,甲29発明は「各刃一枚ずつの基端部を係止する支持駒(10)」を有する点(以下「相違点@」という。),A本件発明1が「支持溝」を有するのに対し,甲29発明は「孔(9)」を有する点(以下「相違点A」という。),B本件発明1が「間隙形成部材」を有するのに対し,甲29発明はこれを備えていない点(以下「相違点B」という。),C本件1発明が「上記切断ユニットと上記更なる切断ユニットとは,互いに逆向き 28に配設され」ているのに対し,甲29発明はこれを備えていない点(以下「相違点C」という。)において,相違する。 b 相違点@及び同Bについて検討する。 原告は,甲31発明は,本件発明1の構成要件C及び同Fに相当する構成を開示している旨主張する。 甲31文献の記載(【実用新案登録請求の範囲】,第1図及び第2図などを参照)によれば,同文献には,「方形の枠体の上下辺の間に,刃先を同一平面に揃えて互いに平行に多数の薄い刃物(6)を等間隔に縦に取り付けた内枠(2)と,上辺を開放したコ字形を形成して上記内枠(2)を着脱自在に連結する外枠(1)とを有する多列刃型の食品スライサーにおいて,上記内枠(2)と外枠(1)の上辺の両側を左右一対のねじ(3)で固定するとともに,内枠(2)の下辺の裏側(2)´と,外枠(1)の下辺の上面(1)´との間に,内枠(2)の嵌合位置を固定するノックピン(4)を設ける一方,前記内枠(2)の上辺に取り付けられて前記各刃物(6)の上端を緊張状態に保持する各支持駒(8)に,それぞれに刃物(6)の上端を嵌合する複数のスリット(8)´を設けたことを特徴とする食品スライサー」(甲31発明)が開示されていることが認められる。 しかしながら,甲31文献の「このスライサーは,1個の支持駒(8)に刃物(6)を掛止する複数のスリット(8)´を設けているので,刃物を個別の支持駒で掛止するようにした従来の装置に比べて,構造が簡単になり・・・付設数が少なく,内枠(2)a(2)の製作を容易にする」(7頁8行ないし14行)との記載及び第2図などからすれば,甲31発明の「支持駒(8)」が複数の刃物の基端部を支持(掛止)していることは認められるとしても,これを「結束」しているとまでは認め難い。 また,仮に,甲31発明の「支持駒(8)」をもって,本件発明1の「複数の上記切断刃の基端部を結束するアダプタ」に相当するものとみるならば,甲31発明は,本件発明1の「間隙形成部材」に相当するものを有していないことになる。 29 原告の主張は,甲31発明の「支持駒(8)」が本件1発明の「複数の上記切断刃の基端部を結束するアダプタ」と「間隙形成部材」の機能を兼備するという趣旨とも解されるが,本件発明1は,「アダプタ」が複数の切断刃を「結束」,すなわち一か所で束にして保持するものであることから,該「アダプタ」から密着して伸びる複数の切断刃に間隙を与えるために,「間隙形成部材」を必要とするものであると解されるのに対し,甲31発明は,一つの「支持駒(8)」に対する各切断刃の取り付けを,本件発明1のようにアダプタと複数切断刃とを組にして取り扱う方式ではなく,「支持駒(8)」に対し各切断刃を個別に掛止する方式を採用することにより,「支持駒(8)」に「アダプタ」及び「間隙形成部材」の両機能を兼備させるという別の効果を得ようとするもの(その反面,複数切断刃の着脱が個別となるという点で,本件発明1の効果を奏しなくなる。)であって,甲31発明は,複数切断刃をまとめて支持する方式に関し,本件発明1とは異なる解決手段を採用したものというべきである。 そうすると,甲29発明におけるアダプタを甲31発明における上記構成に置き換えたとしても,相違点@及び同Bに係る本件発明1の構成の両者に想到することはできないものというべきであり,この点に関する原告の主張は,採用することができない(なお,被告は,本件特許が有効に存続していると主張しており,原告主張を争う旨を明らかにしていると解される。)。 c 次に,相違点Cについて検討する。 甲32文献の記載(【特許請求の範囲】,図2及び図3などを参照)によれば,同文献には,「二本のガイドロールの間で複数の直線走行部を形成するように略水平面で略平行に間隔をもって配された二本のガイドロールと,二本のガイドロールにより走行案内される複数の直線走行部の走行方向は一本おきに互いに逆向きであること,線部材は上記二本のガイドロールの長手方向に所定ピッチをもって順次ずれた位置にて該二本のガイドロールにより走行案内されて該二本のガイドロールの間で複数の直線走行部を形成される構成が開示され,一対のガイドロールの間に往 30復して架け渡された一本の線部材を,ガイドロールを回転させて巻き取ることで,該線部材の延びる方向に走行させ,隣接して架け渡された該線部材が相互に逆方向に走行する状況を作り出して,それに押し当てた食材をスライスする食品スライスカッタ装置」(甲32発明)が開示されていることが認められる。 ここで,甲29発明及び甲31発明は,帯状の切断刃を複数備え,該複数の切断刃を取り付けた切断ユニットを2つ(以上)備えるものであるのに対し,甲32発明は,1本の線部材を2本のガイドロール間で複数の直線走行部を形成するように往復して張り渡されているものである。すなわち,甲32発明は,上記の点において,甲29発明及び甲31発明とは,技術的に相違するものといえる。 そうすると,一対のガイドロールに一本の線状体を往復して張り渡してなる一組の構造体であって,複数に分離して認識できる「切断ユニット」に相当する要素を備えない甲32発明を,複数の切断ユニットが存在することを前提とする甲29発明に組み合わせる動機付けがあるとはいえない。 したがって,甲29文献に加えて,甲31文献及び甲32文献に接した当業者といえども,相違点Cに係る本件発明1の構成に容易に想到することができたということはできない。 d 以上より,相違点Aについて検討するまでもなく,本件発明1が甲29文献ないし甲32文献に照らして進歩性を欠くという原告主張は,理由がない。 e 本件発明2は,本件発明1の発明特定事項(構成要件Aないし同I)に加え,更に追加的な発明特定事項(構成要件J及び同K)を有するから,本件発明2が甲29文献ないし甲32文献に照らして進歩性を欠くという原告主張も,理由がない。 (イ) 争点(1)ア(イ)b(無効理由2〔サポート要件違反〕は成立するか)について 原告は,本件各発明が保持ユニット・切断ユニットの駆動が手動である場合を含むとすれば,サポート要件を欠く旨の主張もする。 しかし,本件各発明は,保持ユニット・切断ユニットの駆動手段が具体的にいかなるものであるかを発明特定事項としているものでなく,駆動手段を手動とする場 31合に関する具体的な記載が本件明細書等の発明の詳細な説明に記載されていなければならないものではない。また,前記アで説示したところによれば,当業者であれば,保持ユニット・切断ユニットの駆動が手動である場合についても,本件明細書等の発明の詳細な説明に記載されているところに基づいて,当然に理解可能であるといえる。 そうすると,本件特許の特許請求の範囲の記載は,特許法36条6項1号の規定に適合するものであって,サポート要件違反に当たらない。 (ウ) 争点(1)ア(イ)のまとめ 以上より,本件特許(本件各発明についての特許)は特許無効審判により無効とされるべきものであるとの原告主張は,いずれも失当である。 ウ 争点(1)ア(ウ)(本件製品を補助参加人が製造販売したことにより消尽が成立するか)について (ア) 特許権の共有者による実施について 特許法73条2項は,「特許権が共有に係るときは,各共有者は,契約で別段の定をした場合を除き,他の共有者の同意を得ないでその特許発明の実施をすることができる。」と規定している。これは,特許発明のような無体財産は占有を伴うものではないから,共有者の一人による実施が他の共有者の実施を妨げることにならず,共有者が実施し得る範囲を持分に応じて量的に調整する必要がないことに基づくものである。もっとも,このような無体財産としての特許発明の性質は,その 実施について,各共有者が互いに経済的競争関係にあることをも意味する。すなわち,共有に係る特許権の各共有者の持分の財産的価値は,他の共有者の有する経済力や技術力の影響を受けるものであるから,共有者間の利害関係の調整が必要となる。 そこで,同条1項は,「特許権が共有に係るときは,各共有者は,他の共有者の同意を得なければ,その持分を譲渡し,又はその持分を目的として質権を設定することができない。」と規定し,同条3項は,「特許権が共有に係るときは,各共有者は,他の共有者の同意を得なければ,その特許権について専用実施権を設定し,又 32は他人に通常実施権を許諾することができない。」と規定しているのである。 このような特許法の規定の趣旨に鑑みると,共有に係る特許権の共有者が自ら特許発明の実施をしているか否かは,実施行為を形式的,物理的に担っている者が誰かではなく,当該実施行為の法的な帰属主体が誰であるかを規範的に判断すべきものといえる。そして,実施行為の法的な帰属主体であるというためには,通常,当該実施行為を自己の名義及び計算により行っていることが必要であるというべきである。 (イ) 認定事実 上記(ア)を前提として,本件について検討するに,前記前提事実に加え,掲記の証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。 a 補助参加人とヤマト商工との関係 補助参加人は,平成8年頃,自己が経営していたFBエンジニアリング株式会社が倒産したことから,部品の仕入れ関係の取引があり懇意にしていたヤマト商工の代表者であったAB(以下「AB」という。)を頼ることにした。 ヤマト商工は,(以下省略)に建設された工場建屋を借り受けて工場(ヤマト商工第2工場)とし,補助参加人は,同工場に製造機械や設備,設計図面を持ち込み,同年4月頃から,同工場の責任者として,水産加工機械の開発及び製造に携わるようになった。 ヤマト商工第2工場での機械の製造に必要な原材料は,補助参加人の指示に従ってヤマト商工の名義及び費用により仕入れられ,機械の製造(原材料の加工及び組立て)は,同工場において補助参加人が行い,製造された機械の販売は,補助参加人が関与するものの,専らヤマト商工の名義で行われ,代金もヤマト商工に支払われた。なお,補助参加人は,自己が製造に関わった機械につき,販売後のメンテナンスを行っていた。 補助参加人は,ヤマト商工に従業員として雇用されていたものではなかったが,毎月,一定の額の金員(当初は80万円,後に50万円とされた。)がヤマト商工 33から補助参加人に支払われた。すなわち,補助参加人がヤマト商工第2工場の賃料をヤマト商工に支払うことはなく,補助参加人が個々の機械の製作に対する報酬をヤマト商工から受け取ることもなければ,補助参加人がその原材料費をヤマト商工に支払うこともなかった。 補助参加人は,自らがヤマト商工第2工場での製造に関与した機械には,製造者名として「エフビック」との表示を付していたが,その所在地として付記したのは,ヤマト商工第2工場の住所であった。 補助参加人は,営業活動に際して,「ヤマト商工 有限会社 第2工場」の屋号及び住所が記載された名刺を使っていたが,顧客に応じて,「エフビック」との屋号及び補助参加人個人の住所が記載された名刺を用いることもあった。(以上につき,乙23,24,26,39,丙13,14,26,証人AC,被告代表者,弁論の全趣旨) b 本件専売契約等の締結 A@と補助参加人は,従前から取引を通じて付き合いがあったところ,A@は,平成16年3月頃,補助参加人が開発製造した水産加工機械をA@が新たに設立する会社で独占的に販売することを企画した。この時,A@は,補助参加人がヤマト商工第2工場で製造作業をした機械につきヤマト商工名義で販売することにも携わっていたことを知っていた。そこで,A@は,本件専売契約を締結することにつきヤマト商工との関係で問題がない旨を補助参加人に確認した上,平成16年5月18日付けで補助参加人と同契約を締結した。その際,A@と補助参加人は,補助参加人がヤマト商工第2工場において製造に関与し,被告が販売した水産加工機械について,被告の販売先から支払われる販売代金からヤマト商工に支払う仕入代金を控除した金員(以下「本件利益分配合意に基づく金員」という。)をA@と補助参加人が折半して取得する旨の合意(以下「本件利益分配合意」といい,本件専売契約と併せて「本件専売契約等」という。)をした。 その後,同年8月6日に被告が設立されたことに伴い,本件専売契約等における 34A@の地位は,被告に引き継がれた。 本件専売契約等の対象となった水産加工機械については,補助参加人がA@とともに営業活動を行うことも少なくなかったが,補助参加人の出張費は,ヤマト商工が支出していた。(以上につき,甲23,乙3,31ないし34,証人AC,被告代表者,弁論の全趣旨) c 本件専売契約等に基づく事業の展開 被告と補助参加人とは,本件専売契約等の締結後,当初は,本件専売契約等の趣旨に従い,補助参加人が開発製造に関与した水産加工機械を被告が販売し,メンテナンス管理を補助参加人が行っていた。 しかし,平成17年夏頃には,被告が,顧客の評判が悪かったとして,AK-7型スライサーを販売しなかったことがあり,補助参加人は,被告の了解を得て,フィレスタ販売株式会社(旧商号・株式会社ツネザワ・トレーディング。)に販売させたこともあった。 その後,補助参加人は,被告が本件利益分配合意に基づく金員の一部を補助参加人に支払わないこと等があったため,平成20年夏頃から,被告を通さずに,ヤマト商工の名義で水産加工機械を販売することに関与するようになった。 補助参加人と被告は,平成21年1月頃,上記の件について協議したが,解決に至らず,以後,被告は,補助参加人に対する本件利益分配合意に基づく金員の支払を停止した。また,その後,被告と補助参加人は,本件専売契約を見直し,新たな契約を締結すべく協議したが,合意に至らなかった。 補助参加人は,同年6月3日,A@に対し,「通知書」と題する書面を送付した(同月4日到達)。同書面には,平成17年夏以降,A@がAK-7型スライサーを販売しないようになって補助参加人の資金繰りが厳しくなり,再三販売を要請してもそれをせず,また,補助参加人の事業計画に大きく影響するため,A@に対し,売上予定,販売計画を提出するように要請していたにもかかわらず,A@がそれを履行しないため,補助参加人が,平成18年5月頃,債務不履行を理由として本件 35専売契約を解除したこと,それ以降の取引は,同契約に基づかない取引であったこと,補助参加人が開発製造した機械であるにもかかわらず,A@が従前勤務していた会社の製品として販売し,補助参加人が開発製造した機械であることを隠そうとしたり,機械の販売代金を補助参加人に知らせないなど不誠実極まりない態度をとったりしたため,今後の取引は,新たに補助参加人から提案する契約を締結することが前提であることを通知する旨の記載があった。 補助参加人は,その後も数度にわたって本件利益分配合意に基づく金員の未払分を被告に請求し続けたが,被告が補助参加人に支払うことはなかった。 被告は,補助参加人との関係がうまくいっていないこともあって,それまでの販売してきた機械のメンテナンスのため,平成21年7月,ヤマト商工との間で,製造元をヤマト商工,販売元を被告として販売してきた刺身機,はも骨切機,はもぬめり取り機のそれぞれに対する保守,メンテナンス等について,ヤマト商工と被告との役割分担などを定めた契約書を取り交わした。(以上につき,甲13,23,乙3,10,40,丙24,証人AC,被告代表者,弁論の全趣旨) d 本件製品の製造販売に関する金銭の流れ等 ヤマト商工は,平成21年11月25日付けで,株式会社七宝商事(以下「七宝商事」という。)に対し,「BK-2フグスライサー」を代金310万円(税別)で売り上げた旨の経理処理をするとともに,同代金を七宝商事に請求した。 補助参加人は,平成21年11月27日付けで,七宝商事に対し,「エフビックライサー BK-2 管理費」として,40万円を請求した。 七宝商事は,平成21年11月25日付けでヤマト商工から「BK-2フグスライサー」を仕入金額310万円(税別)で仕入れ,同月27日付けで「エフビック」から「エフビックライサー BK-2 管理費」を仕入金額40万円で仕入れた旨の経理処理をした上,ヤマト商工に310万円(税別)を送金し,補助参加人に40万円(税別)を送金した。(以上につき,甲34ないし38,丙3ないし6,14,23,証人AC,被告代表者) 36 (ウ) 検討 a 上記(イ)の事実関係によれば,補助参加人は,ヤマト商工第2工場の責任者として,水産加工機械の開発,製造に携わっていたが,同製造に要する原材料は,ヤマト商工の名義及び計算により仕入れられていたこと,補助参加人は,ヤマト商工から固定額の金銭を受領しており,水産加工機械の販売実績によってヤマト商工の補助参加人に対する支払額が左右されるものでないこと,顧客に対しても,水産加工機械の販売に伴う責任等を負う主体としてヤマト商工の名が表示されていたことなどが認められ,また,本件製品との関係では,七宝商事がヤマト商工に支払ったのは,ヤマト商工の請求に係る「BK-2フグスライサー」(すなわち,本件製品)の代金310万円(税別)であって,ヤマト商工が同金員の全てを受領していること,七宝商事が補助参加人に支払ったのは,補助参加人の請求に係る「エフビックライサー BK-2 管理費」(すなわち,本件製品のメンテナンス料)40万円(税別)であって,補助参加人が同金員の全てを受領していることが認められるから,本件製品の製造販売は,ヤマト商工の名義及び計算により行われたもの であり,補助参加人の名義及び計算で行われていたものがあるとすれば,それは,本件製品のメンテナンスにとどまり,本件製品の製造販売ではないというべきである。 b この点,原告は,本件製品は補助参加人が自ら製造販売したものであるとして縷々主張するが,既に説示したとおり,補助参加人が形式的,物理的に製造販売に関与したか否かが問題なのではなく,いかなる立場で関与したか,すなわち,ヤマト商工の名義及び計算において行われる製造販売にヤマト商工の手足として関与したのか,補助参加人の名義及び計算において行われる製造販売を自ら行ったかが問題なのであって,原告の上記主張は,的を射ないものである。 原告は,被告の別件地裁訴訟での主張についても縷々指摘するが,同訴訟での被告の主張がいかなるものであったかによって,本件製品の製造販売をめぐる事実関係が左右される性質のものでないことは明らかである。また,当該主張は,補助参加人の行為(なお,同訴訟では本件製品は対象とされておらず,同製品に関する行 37為を直接問題にしたものとはいえない。)が本件専売契約に違反することを指摘するためにされたものであることは明らかであり,その言葉尻をとらえて被告が本件各発明の実施行為としての本件製品の製造販売の主体が補助参加人であることを認めたなどと評価することは,不相当である。 (エ) 争点(1)ア(ウ)のまとめ 以上より,本件製品を補助参加人が製造販売(自己実施)したと評価することはできず,消尽が成立するという原告の主張は,採用することができない。 エ 争点(1)ア(エ)(被告は本件製品をヤマト商工が製造販売することを容認したか)について 原告は,被告が少なくとも黙示的にヤマト商工による本件製品の製造販売を容認していた旨主張する。 しかし,前記認定事実によれば,被告が容認していたのは,本件専売契約に基づき被告を通じて販売されるべき水産加工機械をヤマト商工が製造し,その全てを被告に販売すること,すなわち,ヤマト商工が被告の下請として上記水産加工機械を製造することであって,被告がその販売に関与も関知もしない水産加工機械をヤマト商工が製造販売すること(被告以外の第三者に販売すること)まで容認していたとか,本件特許権につき実施許諾していたなどとは,黙示的にも認められない。そして,本件製品の販売について,被告が関与も関知もしていなかったことも,前記認定のとおりである。 したがって,原告の上記主張は,採用することができない。 オ 争点(1)ア(オ)(本件製品が本件特許権の登録前に販売されたことにより消尽が成立するか)について 原告は,本件製品が補助参加人が製造販売したものといえず,ヤマト商工による本件製品の製造販売につき被告が許諾していたといえない場合であっても,本件製品が本件特許権の登録前に販売されたという事実のみをもって,消尽が成立する旨主張する。 38 しかし,消尽とは,権利者(特許権者・実施権者)が特許製品を適法に拡布(製造・販売)した場合には,当該物に関する限り,特許権は既にその目的を達成したものとして使い尽くされた(消尽した)ものとなり,もはや同一物につき特許権を主張することはできないという法理論であるところ,前記認定説示したところによれば,本件製品は,本件特許権の共有者である補助参加人が製造販売したものでなく,また,被告がヤマト商工による本件製品の被告以外の第三者への販売について容認していたとか,実施を許諾していたなどということもできないのであるから,本件では,消尽が成立する前提を欠くことが明らかである。 この点,原告は,本件特許権の設定登録前には本件製品の使用が適法であった(特許法65条1項に基づく補償金請求を受ける可能性があるか否かは措く。) にもかかわらず,設定登録を境に不適法になる(使用を継続できなくなる)というのは,不合理である旨主張しているものと思われる。 しかしながら,ある特許の出願前から善意でその特許発明を実施していた者の利益を一定の要件の下で保護すること(特許法69条2項2号,79条など)は格別,出願後に当該発明を実施するようになった者を保護することは,原則として,特許法は予定していない。このようなことは,登録制度を採用している産業財産権一般に共通してみられることであって,出願から登録までの間に一定の期間を要する以上,制度的に避け難いことである(例えば,商標権の設定登録を境に,登録商標と同一又は類似の商標を指定商品若しくは指定役務又はこれらと類似する商品若しくは役務に使用することは,不適法になる。)。 したがって,原告の上記主張は,独自の見解というほかはなく,採用することができない。 カ 争点(1)ア(カ)(被告の原告に対する本件特許権の行使は権利濫用又は信義則違反か)について (ア) 侵害の成立について 原告は,被告の原告に対する本件特許権の行使は権利濫用又は信義則違反として 39許されない旨主張する。 しかし,これまで認定説示してきたところによれば,本件特許権の登録日以降の原告による本件製品の使用は,本件特許権の侵害となるというべきであるから, 特段の事情がない限り,被告による本件各通告が権利濫用や信義則違反になるものではない。 (イ) 認定事実 そこで,特段の事情の有無を判断するため,原告と被告との間に生じた事実関係について検討するに,前記前提事実及び前記ウ(イ)の認定事実に加え,掲記の証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。 a 被告代表者は,平成25年頃,本件特許に抵触する製品が出回っていると聞いたことから,AA弁理士に,これを阻止したい旨相談した。AA弁理士は,補助参加人がヤマト商工に本件特許権を実施許諾することについて,被告が容認したことがない旨,被告代表者に確認した上,同年5月30日付け書面により,被告を代理して,ヤマト商工に対し,本件特許権の侵害につき警告をした。 しかし,ヤマト商工からは,本件特許権の設定登録日が平成23年2月18日であることを指摘した上,「当社扱いでは,2009年が最後の取引となっており該当する機械製造販売の実績はございません。」との回答があり,本件特許権の設定登録以降の製造販売がない旨の説明がされていたものの,ヤマト商工は補助参加人が製造販売した製品を買い受けて販売しているにとどまり,製品の製造販売の主体ではない旨の説明がされることはなかった。(以上につき,乙35,証人AA,被告代表者) b その後,被告は,本件製品を現に使用していた原告に特許権侵害を警告することとし,本件各通告をした(前記前提事実)。 c 原告は,被告に対し,平成25年8月頃差し出した書面により,本件通告1及び同2を受け,直ちに本件製品(同書面では,「当社所有のふぐ刺身機(製造元,ヤマト商工)」と記載されている。)の使用を停止したこと,また,併せて本件製 40品を同年9月中頃までには廃棄する旨を書面で申し述べた(乙9)。 d 被告は,原告に対し,平成25年8月17日付け書面により,原告から七宝商事に送付する通告書の案文を送付するとともに,被告も七宝商事に損害賠償請求する予定である旨申し述べた(甲45)。 e 原告の当時の代表者であったADは,平成25年8月22日,富山県の発明協会で発明相談の担当者として待機していた弁理士AE(以下「AE弁理士」という。)に,被告からの本件各通告に対する対応につき相談を持ちかけた。AE弁理士は,対応の方向性として,ライセンス交渉による実施継続,事業撤退,訴訟対抗という選択肢を提示するなどの説明をした。(以上につき,甲41,42,46,証人AE)。 f 原告は,AE弁理士を通じ,七宝商事に対し,平成25年9月6日付け通告書により,原告は,被告から本件製品の使用が本件特許権を侵害する旨の通告を受けたため,既に本件製品の使用を停止し,その廃棄についても同意していること,原告が受けた損害(@刺身機〔本件製品〕の購入代金495万6000円,A被告の請求額350万円,B刺身機〔本件製品〕を停止したことによる損害月額35万円)の補填を同月20日までにするよう求めた(乙1)。 g その後,AA弁理士は,被告の要請に応じて,同じ事務所の2名の弁理士と連名で,本件製品が本件各発明の技術的範囲に属する旨の鑑定意見を記載した平成25年10月31日付け鑑定書を作成し,これを被告に送付するとともに,AE弁理士にも送付した(乙20,証人AA)。 h その後,被告は,北銀リースに対し,平成26年7月14日付け通知書及び同年9月15日付け通告書により,北銀リースによる本件製品の貸渡しが本件特許権の侵害となることなどを通知し,AE弁理士に対し,同月22日付けファクシリミリにより,上記同月15日付け通告書の写しを送信した(甲9)。 (ウ) 検討 上記事実経過によれば,被告代表者は,ヤマト商工に対する警告をした後,ヤマ 41ト商工による製造販売の時期が本件特許権の登録日(平成23年2月18日)より前であって,特許権侵害を問えないことを意識したものであり,被告としては,特許権侵害について警告するとすれば,原告による本件製品の使用行為か,北銀リースによる本件製品の貸与行為を問題にする以外には,選択の余地がなかったといえる。 他方,本件全証拠によるも,原告に対する本件各通告によって別件地裁訴訟の審理がいかなる理由によりどのような形で被告に有利になったというのかは,不明であるし(なお,別件地裁訴訟では,本件製品は本件専売契約違反の対象として主張されていない。),原告が,本件製品の使用に先立って,被告に照会したとか,別件地裁訴訟について調査したなどの事実関係があるわけでもないことは,原告の主張自体から明らかである。 してみると,原告において本件製品の使用が本件特許権の侵害とならないと信頼したところで,それが,被告との関係で法律上保護されるべきものであると認めるべき事情は,これを見いだし難いし,被告による原告に対する本件特許権の行使が社会的に容認することのできない不当な目的によるものと断ずることも,困難であるというほかはなく,被告による本件各通告が権利濫用や信義則違反になるとすべき特段の事情があるということはできない。 (2) 本訴請求についての小括 以上検討したところによれば,本件製品は本件各発明の技術的範囲に含まれるところ,被告が原告に対し本件特許権を行使することができないとすべき事由があるということもできないから,本件特許の登録日以降,原告が本件製品を使用したことは,本件特許権の侵害となるものである。そうすると,本件各通告が違法なものであったということはできないから,争点(1)イ(被告に故意又は過失があるか)及び争点(1)ウ(原告の損害及びその額)について検討するまでもなく, 本訴請求は理由がない(なお,付言するに,原告は,損害として本件製品等の残リース料相当額を主張するが,被告による本件各通告の有無にかかわらず,原告は,本件各リ 42ース契約に基づき本件製品等のリース料を支払わなければならなかったのであるから,残リース料は,原告の主張に係る被告の不法行為と相当因果関係のある損害とはなり得ない。不法行為による損害とは,当該不法行為がなかったと仮定した場合のあるべき利益状態と,違法行為によって作出された利益状態との差額であるから,原告は,本件製品を使用した場合に得られたであろう利益〔リース料は,売上から差し引くべき経費となることは,いうまでもない。〕を主張すべきところ,あえてこれをしないのであるが,原告事業に本件製品の使用が不可欠とは考え難いこと〔別の製品を使用するとか,職人を雇うなどの代替手段があることは自明である。〕,原告は,特許の専門家であるAE弁理士に相談するに先立って,本件製品の使用を停止していたことなどを併せ考えると,原告事業からの撤退の理由が市況であるとする被告の指摘にも,相応の説得力があるといえる。)。 2 反訴請求について (1) 争点(2)ア(本件製品は本件各発明の技術的範囲に含まれるか)及び争点(2)イ(被告は原告に対し本件特許権を行使することができないか)について 本訴請求について認定判断したとおり,本件製品は本件各発明の技術的範囲に含まれるというべきであり,被告が原告に対し本件特許権を行使することができないとすべき事由があるということもできない。 したがって,原告による本件製品の使用等は,本件特許権の侵害となる。 (2) 争点(2)ウ(差止め及び廃棄の必要性)について 原告は,本件製品についてのリース期間が平成28年11月末をもって満了しているにもかかわらず,その後も引き続き本件製品を占有しているのであり(前記前提事実(4)),原告による本件製品の使用等が本件特許権の侵害となることを争っていることからすれば,原告が本件製品の使用等をするおそれを認めざるを得ない(本件では,原告,被告及び補助参加人の三者の間で,補助参加人が本件製品を原告から有償で買い取ることを骨子とする和解を試みており〔補助参加人の平成28年10月20日付け上申書,原告の提出に係る「本件製品の現状写真(平成28年 4311月11日時点)」と題する書面〕,そのために,当面,原告が本件製品の占有を継続したという側面もあったものと思われるが,原告は,結局,上記和解に応じなかったのであるから,本件製品の占有を継続する合理的理由は,本件製品の使用等以外には,これを見いだすことができない。)。 したがって,被告は,原告に対し,特許法100条1項に基づき本件製品の使用等の差止めを求めるとともに,同条2項に基づき本件製品の廃棄を求めることができる。 なお,原告は,本件製品が北銀リースからリースを受けた物件であることから,これを廃棄する権限がない旨の主張もするが,リース期間は既に満了しており,原告が北銀リースに本件製品の返還義務をなお負っているのか否かは,明らかでない。 また,北銀リースは,被告に対し,平成26年10月20日付け回答書により,原告が廃棄に同意し,リース契約を解約するのであれば,廃棄協力は可能である旨回答しているし(乙8の2),原告が北銀リースに本件製品の返還義務をなお負っているとしても,そのことをもって,直ちに被告による廃棄請求権の行使が妨げられるものではない。 (3) 争点(2)エ(原告に過失の推定を覆滅させる事情が認められるか)について ア 原告は,@本件では,本件特許権の共有者である補助参加人が本件製品を製造販売(本件各発明を自己実施)したといえるか否かや,本件専売契約が特許法73条2項にいう「別段の定」に当たるか否かが争点となっているから,過失の推定規定である特許法103条の前提とするところがそのまま当てはまらないとか, A原告が本件製品のリースを開始した時点においても,その使用を開始した時点においても,本件特許権は未だ登録されていなかったから,原告の過失は否定されるべきであるなどと主張するところ,これらは,過失の推定覆滅事由を主張しようとする趣旨と理解される。 イ 特許法103条は,「他人の特許権・・・を侵害した者は,その侵害の行為について過失があったものと推定する。」と規定している。ここにいう「侵害」と 44は,特許権者又は実施権者以外の第三者が,特許発明を実施することであり(特許法68条参照),物の発明の場合の実施とは,具体的には,その物の生産のみならず使用も含まれる(特許法2条3項1号)。 本件各発明は,「切断装置」に関する発明であるから,本件特許の特許権者でも実施権者でもない原告は,本件各発明の技術的範囲に含まれる切断装置を生産した場合はもちろんのこと,本件各発明の技術的範囲に含まれる切断装置を使用した場合も,被告が原告に対し本件特許権を行使することができないとすべき事由がない限り,本件特許権を侵害したことになる。 そして,既に認定判断したとおり,原告は,本件各発明の技術的範囲に含まれる本件製品を使用していたのであり,被告が原告に対し本件特許権を行使することができないとすべき事由は認められないから,本件特許権の登録日以降の本件製品の使用は,本件特許権の侵害となるものであって,原告には,かかる本件製品の使用行為についての過失が推定されることになる。 ここで,特許法103条により推定される過失とは,特許権侵害の予見義務又は結果回避義務違反のことを指すから,過失推定の覆滅事由としては,特許権の存在を知らなかったことについて相当の理由があるといえる事情,自己の行為が特許発明の技術的範囲に属さないと信じたことについて相当の理由があるといえる事情,特許権者が当該特許権を行使することができないとすべき事由があると信じたことについて相当の理由があるといえる事情などが挙げられる。 ウ 以上を前提に,原告に過失推定の覆滅事由が認められるか検討する。 (ア) まず,原告は,本件において,本件特許権の共有者である補助参加人が本件製品を製造販売(本件各発明を自己実施)したといえるか否かや,本件専売契約が特許法73条2項にいう「別段の定」に当たるか否かがが争点となっていることを主張する。 しかし,原告は,本件製品が本件特許権の共有者である補助参加人によって製造販売されたものであると信じて本件製品を使用したのではなく,本件各通告を受け 45て本件製品の使用を中止した後に,事実関係を調査したにすぎない。 侵害行為に及んだ後,本件製品が補助参加人の製造販売に係るものであった旨信じたとしても,そのことは,およそ原告の本件製品の使用時における過失の推定覆滅事由とはなり得ないのであって,原告の上記主張は,失当である。 (イ) 次に,原告は,原告が本件製品のリースを開始した時点においても,その使用を開始した時点においても,本件特許権は未だ登録されていなかったことを主張する。 しかし,本件特許権の侵害となるのは,本件特許権の登録日以後の原告による本件製品の使用であり,原告による同日より前の本件製品の使用について特許権侵害の予見義務又は結果回避義務違反が問題となるものではない。 そして,特許権の設定登録がされれば,当該設定登録の事実はもとより,特許の内容(特許権の設定登録がされた特許請求の範囲,明細書及び図面の記載を含む。)も知り得る状態になるのである(特許法186条参照)から,原告の上記主張は,過失の推定覆滅事由を指摘するものとはいえず,失当である。 なお,原告は,特許法103条の規定について,特許公報が公開されていることを前提とするものである旨主張しているところ,原告の同主張は,特許公報の発行までの間は,同条に基づく過失の推定が覆滅されるべきであるとの趣旨とも解されるが,@既に述べたとおり,特許権の設定登録がされれば,特許の内容を知り得る状態になること,A登録から特許公報の発行までは,事柄の性質上,ある程度の期間を要すると考えられ,特許権発生後,特許公報が発行されていない期間が生じることは,特許法の規定上,予定されていると解されること,B同法103条は,単に「特許権」を侵害した者はその侵害の行為について過失があったものと推定される旨規定し,特許権の発生時(登録時)から過失による不法行為責任を負うことを原則としており,特許公報の発行を過失の推定の要件と定めてはいないことからすれば,特許公報の発行前であることのみをもって過失の推定が覆されると解することは相当ではない(以上と同旨の結論をいう裁判例として, 東京地裁平成24年 46(ワ)第35757号同27年2月10日判決参照)。 エ 以上によれば,原告について過失推定の覆滅は認められない。 (4) 争点(2)オ(被告の損害及びその額)について ア 損害の発生について 前記(1)で説示したとおり,原告による本件製品の使用は,本件特許権の侵害 となるから,原告が平成23年2月18日(本件特許権の登録日)以降,被告の本件各通告を受けて本件製品の使用を停止した平成25年7月末までの間,本件製品を使用したことは,被告に対する不法行為(本件特許権の被告持分の侵害)となるものであり,これにより被告に損害が発生したものというべきである。 なお,本件特許権の登録日(特許権が発生した日)より前である平成21年11月27日から平成23年2月18日までの間の原告による本件製品の使用は,被告に対する不法行為(本件特許権の被告持分の侵害)とはならない(特許法66条1項)。 イ 損害の額について (ア) 被告の主位的主張について 被告は,原告の本件特許権(被告持分)の侵害(本件製品の使用)による被告の損害について,主位的に,特許法102条2項により算定される損害額350万円(原告が本件製品を平成21年11月から平成25年7月までの間使用することにより得た利益の額)と弁護士費用35万円を合計した385万円となることを主張する。 そこで検討するに,被告は,本件製品の使用により原告が受けた利益として,専ら,ふぐ刺身販売による利益を主張しているところ,仮に,原告の侵害行為がなかった(すなわち,原告が平成23年2月18日〔本件特許権の登録日〕から平成25年7月までの間,本件製品を使用しなかった)とした場合に,原告の当該利益に対応するような利益を,ふぐ刺身販売を行っていない被告が得られたであろうという関係にないことは明らかである。 47 したがって,被告の上記主位的主張は,その前提を欠き,採用することができない。 (イ) 被告の予備的主張について 被告は,原告の本件特許権(被告持分)の侵害(本件製品の使用)による被告の損害について,予備的に,特許法102条3項により算定される損害額143万5000円(原告が本件製品を平成21年11月から平成25年7月までの間使用することに対し被告が受けるべき金銭の額)と弁護士費用14万円を合計した157万5000円となることを主張する。 そこで検討するに,前記前提事実及び前記1で認定した事実(本件各発明の内容,本件製品の構成及び使用態様を含む。)に加え,証拠(甲2)及び弁論の全趣旨を総合すれば,平成23年2月18日(本件特許権の登録日)以降,被告の本件各通告を受けて本件製品の使用を停止した平成25年7月末日までの間,原告が本件製品を使用したことに対し,本件特許権の特許権者が受けるべき金銭の額は,当該期間のリース料173万4178円(平成23年2月18日から同月28日までの11日分については日割計算〔1円未満切捨て〕)の5パーセントに相当する8万6708円(1円未満切捨て)と認めるのが相当というべきである。そして,被告は,本件特許権を補助参加人と共有しており,その持分は2分の1と推定される(民法250条)から,被告が受けるべき金銭の額は,4万3354円と認めるのが相当である(被告は,本件製品の販売代金相当額を耐用年数で除した金額をもって,合理的な実施料〔年額〕とみるべきである旨主張するが,そのような算定方法が合理的であるとは認め難く,同主張は採用することができない。)。 また,本件事案に鑑みると,原告による本件特許権(被告持分)の侵害と相当因果関係のある弁護士費用は,12万円と認めるのが相当である。 (ウ) 以上から,被告は,原告に対し,不法行為(本件特許権〔被告持分〕)の侵害)による損害賠償金16万3354円及びこれに対する平成25年7月31日(侵害行為の末日)から支払済みまでの民法所定年5分の割合による遅延損害金の 48支払を求めることができるが,被告の損害賠償請求のうち,上記金員を超える支払を求める部分は理由がない。 |
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結語
1 結論 以上によれば,原告の本訴請求は理由がないから,これを棄却し,被告の反訴請求のうち,本件製品の使用等の差止め及び廃棄を求める部分は理由があり,損害賠償を求める部分は主文第4項の限度で理由があるから,これらを認容し,その余は理由がないから,これを棄却することとし,主文のとおり判決する(なお,主文第3項については,仮執行宣言は相当でないから,これを付さない。)。 2 付言 原告は,平成29年1月25日の第15回弁論準備手続期日をもって弁論準備手続が終結された後,人証調べが予定されていた同年2月23日の第2回口頭弁論期日の3日前になって,同月20日付け原告第11準備書面を提出し,@本件特許の出願前に本件製品と同じ製品(以下,原告が主張するところの,本件特許の出願前に販売された当該製品を「1号機」という。)が販売されていたから,(本件製品が本件各発明の技術的範囲に属する場合には)本件特許には新規性欠如(特許法29条1項2号)の無効理由がある旨の主張(以下「追加主張@」という。)及びA被告はそのことを知っていた旨の主張(以下「追加主張A」という。)を予備的に追加しようとした(これらの主張が,弁論準備手続の終結に際して,追加・補充を予定したものでないことは,いうまでもない。)。これに対し,被告は,第2回口頭弁論期日において,原告の追加主張@及び同Aにつき民訴法157条1項に基づく却下を求める旨の申立てをした。そこで,当裁判所は,同期日において,当事者双方から事情及び意見を聴取した上,同項により原告の上記準備書面に基づく主張を却下したものであるが,事案に鑑み,この点について付言する。 まず,本訴請求との関係では,原告の追加主張@及び同Aは,本件各通告の違法性及び被告の故意・過失を基礎付けるものであるから,原告は,平成27年1月1 493日の本訴提起時から,これらを請求原因として主張立証すべき立場にあり,また,反訴請求との関係では,原告の追加主張@は,被告による本件特許権の行使を妨げるものである(特許法104条の3第1項)から,原告は,同年7月23日の反訴係属時から,これを抗弁として主張立証すべき立場にあったといえる。そして,原告は,同年9月2日の第3回弁論準備手続期日において乙第4号証の1(「年月日」欄が「17年」「6月22日」の行の「機械名」欄に「BK-2」,「台数」欄に「1」,「金額」欄に「2,400,000」,「販売店様(敬称略)」欄に「サンウッド」との記載がある。なお,この行の「単価」欄及び「最終ユーザー様」欄には記載がない。)が取り調べられた時点(なお,同期日では,被告が反訴状を陳述し,原告が反訴答弁書を陳述している。)か,遅くとも平成28年3月7日の第7回弁論準備手続期日において補助参加人が同月1日付け準備書面(1)(その6頁に「本件と同製品であるBK-2スライサーの1号機を最初に販売したのは,平成17年6月17日の記載がある。)を陳述した時点において,追加主張@及び同Aをすることが可能であったといえる。 もっとも,補助参加人の上記準備書面(1)における上記記載は,本件製品の製造販売が補助参加人自らによる本件各発明の実施として行われたとの主張や補助参加人に本件専売契約違反がない旨の主張に関連する背景事情を説明する趣旨とみるのが自然であることに加え,原告は,本件製品が本件各発明の技術的範囲に属しないと主張していることを併せ考えれば,補助参加人の上記準備書面(1)において,追加主張@が既にされていたと解することは相当でなく,したがって,被告が上記記載について明示的な認否をしていなかったことをもって,追加主張@を明らかに争っていないとみることも相当でなかったといえる。 その後,原告は,平成28年6月30日の第9回弁論準備手続期日において,受命裁判官の釈明を踏まえ,同年8月5日までに,「本訴請求における故意,過失について,主張を補充した書面」及び「反訴請求に対し抗弁として主張するものを整 50理した書面」を提出する旨陳述した。しかるに,原告は,同年9月2日の第10回弁論準備手続期日に至っても,追加主張@及び同Aをしなかった。他方,被告は,同期日において,原告主張の本件特許の無効理由が甲29文献ないし甲32文献に基づく進歩性欠如及び保持ユニット・切断ユニットの駆動が手動である場合についてのサポート要件違反の2点にとどまることを前提として,「本訴原告の無効主張に対しては,証拠調べを除き,主張立証は尽くした。」旨陳述するに至った(なお,上記被告の陳述にいう「証拠調べ」の対象は,弁論準備手続期日における手続が民訴法170条3項及び民訴規則88条2項に定める方法によって行われたことに鑑みると,取調べが留保された書証を含むものと解される。)。 原告が,その後,弁論準備手続の終結までに追加主張@及び同Aをすることが困難であったとすべき事情はおよそ見当たらないところ,原告は,人証調べが予定されていた第2回口頭弁論期日の3日前になって,突如,原告第11準備書面によりかかる主張をしようとした理由について,弁護士を代理人とし,弁理士を補佐人としているにもかかわらず,(1号機の公然実施による新規性欠如という)法的構成に思い至らなかったというのである。そうとすれば,追加主張@及び同Aは,少なくとも重大な過失により時機に後れて提出されたものといわざるを得ない。 乙第4号証の1は,原告が追加主張@及び同Aの根拠としようとする唯一の書証であるが,原告は,第2回口頭弁論期日において,同号証以外の証拠として,更なる書証は必要なく,人証で足りるとした上,同期日での人証調べにおける尋問事項を増やすことが相当である旨述べた。これに対し,被告は,人証調べの直前に提出された原告の追加主張@及び同Aにつき,事実関係の調査・確認を3日間で行うことは事実上不可能であり,同期日において,その場で認否することは控えざるを得ないし,追加主張@及び同Aに関係する尋問を的確に行うことも困難であるとして,仮に,これらの主張が許される場合には,続行期日が必要であり,更なる尋問が必要になる可能性もある旨述べた。 ところで,乙第4号証の1は,会計帳簿のように法令に基づいて作成された文書 51ではなく,別件訴訟のために作成された文書であることがうかがわれるところであって,客観的証拠とはいい難い。その上,同号証には,「年月日」欄が「21年」「11月25日」の行の「機械名」欄に「BK-2」,「台数」欄に「1」,「金額」欄に「3,100,000」,「販売店様(敬称略)」欄に「サンテクノ A@」,「最終ユーザー様」欄に「七宝商事」との記載があり(なお,この行の「単価」欄には記載がない。),同記載は,本件製品に関するものと解されるから,同号証には,本件製品の販売店が被告である旨記載されていることになるが,実際には,七宝商事に本件製品を譲渡した者は被告ではないのである(補助参加人であるか,ヤマト商工であるかについて争いがあるが,少なくとも被告でないとの限度で当事者間に争いがない。)。このように,同号証の記載の正確性には疑義があるところ,作成者とされるAB(ヤマト商工の元代表者)は,平成26年7月25日をもって既に死亡していること,甲第5号証の「改良の為,一部仕様を変更することがあります。予めご了承ください。」との記載が示唆するところを踏まえると,乙第4号証の1における「機械名」欄の「BK-2」との記載が共通していること(なお,「金額」欄の数字は,相当に開きがある。)のみをもって,直ちに1号機と本件製品とが客観的に同一の構成を備えているとは認め難く,したがって,1号機に係る発明が本件各発明と同一であることが明らかであるともいい難い。 そうすると,仮に,第2回口頭弁論期日において,原告の追加主張@及び同Aを許したとすれば,予定されていた人証調べを延期した上,被告に認否反論をさせる必要が生じたであろうことは明らかであり,その結果,1号機についての公然実施の有無,1号機と本件製品との同一性の有無ないし1号機に係る発明と本件各発明との同一性の有無,これらの点に関する被告代表者の認識等について,更なる争点整理及び証拠調べが必要となった可能性が高いといえる。 本件については,平成27年1月13日の本訴提起以来,既に2年以上を費やして争点整理をしてきたことにも鑑みれば,原告の追加主張@及び同Aについては,これにより訴訟の完結を遅延させることとなると認めるほかはないものというべき 52である。 |
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嶋末和秀53(別紙1)物件目録被疑侵害物件の名称「刺身スライサーBK-2」1製品の概要寸法長さ:1100幅:950高さ:1350電源AC200V/200W本体材質ステンレス最大スライス幅160mmスライス厚み1.4mm又は2mm〜14mm(基本ピッチの倍数ピッチで設定可能)2内容被切断物たるふぐの半身を保持する保持ユニットと該保持ユニットに保持された上記ふぐの半身を切断する切断ユニットとを備え,該保持ユニット及び/又は該切断ユニットが移動してふぐの半身を切断するふぐ刺身機において,上記切断ユニットは,一方の長辺を刃先として略帯状をなし,先端側に係止部が形成されたふぐ切断刃と,複数の上記ふぐ切断刃の基端部を結束するアダプタと,上記アダプタを支持溝で支持するフレームと,上記支持溝とAE端が同方向の上記ふぐ切断刃の先端側が挿入される挿入溝を有し,上記ふぐ切断刃が該挿入溝に挿入され上記ふぐ切断刃を支持する支持部材と,上記フレームに支持されたアダプタで結束された複数の上記ふぐ切断刃の基端側が挿入される係合溝を複数有し,該係合溝に上記ふぐ切断刃が挿入されることで,54上記複数のふぐ切断刃を互いに平行に離間させる間隙形成部材と,上記フレーム側に設けられ,上記フレーム側から上記アダプタを引っ張り,上記ふぐ切断刃の先端側に設けられた係止部を上記支持部材に係止させて,上記ふぐ切断刃に張力を付与する取付機構とを備え,上記取付機構は,上記アダプタに一体的に形成されたボルト部と,上記ボルト部に螺合されるナットとを有し,該ふぐ刺身機は,上記切断ユニットと同じ構成の更なる切断ユニットを備え,上記切断ユニットと上記更なる切断ユニットとは,互いに逆向きに配設され,それぞれの切断ユニットのふぐ切断刃が交互に位置するように配置されるふぐ刺身機であて,上記ふぐ切断刃は,上記アダプタに対して回動可能に取り付けられ,上記フレームの支持溝は,交互に第1の高さと第2の高さを有するように形成されていることを特徴とするふぐ刺身機。 以上55(別紙2)リース契約目録1下記賃貸物件に関する借主と貸主との間のリース契約契約日平成21年11月27日借主有限会社快成(原告)貸主(買主)北銀リース株式会社賃貸物件刺身スライサーBK-2リース期間84か月(7年)開始日平成21年12月1日売主株式会社七宝商事リース料495万6000円(5万9000円×84回)2下記賃貸物件に関する借主と貸主との間のリース契約契約日平成21年9月29日借主有限会社快成(原告)貸主(買主)北銀リース株式会社賃貸物件ふぐ皮むき機HSF-857リース期間60か月(5年)開始日平成21年10月9日売主有限会社サンテクノA@(被告)リース料234万円(3万9000円×60回)3下記賃貸物件に関する借主と貸主との間のリース契約契約日平成21年9月3日借主有限会社快成(原告)56貸主(買主)北銀リース株式会社賃貸物件ユースフル・フリーザーリース期間60か月(5年)開始日平成21年9月24日売主株式会社菱豊フリーズシステムズリース料936万円(15万6000円×60回)以上57(別紙4)本件専売契約書記載事項1.AC(AC,AF)とA@はACの関係する「刺し身機」,「ハモ用骨切り機」および「魚に関するその他の機械」等の製造と販売の水産関係事業(以下,水産事業と言う)についてそれぞれ製造と販売を分担しておこなう。 2.(1)ACは水産事業の製造,開発を行う。 (2)A@は水産事業における総販売元として販売事業を行う。 (ACはA@に水産事業のすべての販売権を与える。)3.ACはA@が水産事業とする法人の役員となることができる。 4.契約期間契約後8年間とし,それ以降はACが水産事業の一切をおこなうことができる。 5.本契約を遵守しなかった場合は,それによってこうむった損害額の一切を支払う。 以上58 |
裁判長裁判官 | 嶋末和秀 |
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裁判官 | 天野研司 |
裁判官 | 鈴木千帆 |